(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】結晶化半減期に優れたポリラクチド樹脂組成物、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 67/04 20060101AFI20240517BHJP
C08K 5/3462 20060101ALI20240517BHJP
C08L 101/16 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
C08L67/04
C08K5/3462
C08L101/16
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573656
(86)(22)【出願日】2023-02-27
(85)【翻訳文提出日】2023-11-29
(86)【国際出願番号】 KR2023002704
(87)【国際公開番号】W WO2023182687
(87)【国際公開日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】10-2022-0035553
(32)【優先日】2022-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・フン・チョ
(72)【発明者】
【氏名】ジョンキュ・イ
(72)【発明者】
【氏名】ユジン・アン
(72)【発明者】
【氏名】ヨンジ・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ソン・ジュン・オ
(72)【発明者】
【氏名】ワン・キュ・オ
【テーマコード(参考)】
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4J002CF181
4J002CF182
4J002EH027
4J002EU136
4J002FD202
4J002FD206
4J002FD207
4J200AA04
4J200BA05
4J200BA14
4J200EA10
(57)【要約】
本発明は、特定の核剤を組み合わせて使用するポリラクチド樹脂組成物に関し、結晶化半減期および結晶化度に優れるため、加工性に優れると共に、本発明によるポリラクチド樹脂固有の特性を維持することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリラクチド樹脂;第1核剤;および第2核剤を含む、ポリラクチド樹脂組成物において、
前記ポリラクチド樹脂組成物は、100~130℃の結晶化温度で結晶化半減期が2分以下である、
ポリラクチド樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリラクチド樹脂組成物は、100~130℃の結晶化温度で結晶化半減期が1.3分以下である、
請求項1に記載のポリラクチド樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリラクチド樹脂組成物は、100~130℃の結晶化温度で結晶化度が35%以上である、
請求項1に記載のポリラクチド樹脂組成物。
【請求項4】
前記第1核剤は、ウラシル(uracil)である、
請求項1に記載のポリラクチド樹脂組成物。
【請求項5】
前記第1核剤は、前記ポリラクチド樹脂組成物総重量に対して0.1~5重量%で含む、
請求項1に記載のポリラクチド樹脂組成物。
【請求項6】
前記第2核剤は、ラクチドオリゴマー構造を含む化合物である、
請求項1に記載のポリラクチド樹脂組成物。
【請求項7】
前記第2核剤は、下記の化学式1で表される化合物である、
請求項1に記載のポリラクチド樹脂組成物:
[化学式1]
【化1】
前記化学式1で、
Lは、下記であり、
【化2】
前記で、
n1は、1~30の整数であり、
Rは、下記の化学式2で表される置換基であり、
[化学式2]
【化3】
nは、繰り返し単位数を示し、
R’は、水素、またはアセチルである。
【請求項8】
前記第2核剤は、前記ポリラクチド樹脂組成物総重量に対して3~25重量%で含む、請求項1に記載のポリラクチド樹脂組成物。
【請求項9】
前記第2核剤の重量平均分子量は、1,000~50,000である、
請求項1に記載のポリラクチド樹脂組成物。
【請求項10】
前記ポリラクチド樹脂の重量平均分子量は、70,000~400,000である、
請求項1に記載のポリラクチド樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願(ら)との相互引用
本出願は、2022年3月22日付韓国特許出願第10-2022-0035553号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、結晶化半減期に優れたポリラクチド樹脂組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリラクチド(または、ポリ乳酸;PLA)樹脂は、バイオ原料をベースとして製造されるものであり、製造過程で地球温暖化ガスである二酸化炭素の排出が少なく、また特定の温度と堆肥化設備により分解される特徴を有するエコ素材である。また、最近は、廃プラスチックの使用および炭素排出規制に対する対応案として既存の原油ベースの樹脂を代替できる素材の中の一つとして注目されている。
【0004】
また、ポリラクチド樹脂は、他の生分解性高分子に比べて安価であり、高い引張強度とモジュラス特性を有しているという長所がある。
【0005】
しかし、ポリラクチド樹脂は、リジッドな(rigid)高分子主鎖が短い単位で繰り返され、遅い連鎖(chain)移動性により結晶化速度が遅いため成形サイクルが長く、そのために生産性が落ちるという問題点がある。したがって、このような問題点を改善するために、核剤のような物質を導入して生産性と耐熱性を改善させるための研究が多く行われている。
【0006】
一般的に、前記核剤として使用される物質は、主に無機系核剤であり、タルク(Talc)、マイカ(Mica)、ナノクレイ(nanoclay)のような物質が使用され、これをPLAの成形時に一部を添加して耐熱性と強度を改善することができることが報告されている。しかし、このような核剤を過量で添加すると樹脂比重の増加と透明性が落ちるという問題がある。一方、結晶性と透明性を向上させる物質としてLAK301(aromatic sulfonate drivate)、安息香酸ナトリウム(sodium benzoate)、 N-アミノフタルイミド(N-aminophthalimide)、フタルヒドラジド(phthalhydrazide)、フェニルマロン酸カドミウム(cadmium phenylmalonate)などのような有機系核剤が使用されている。しかし、このような物質は、バイオベースの物質でなく、PLA樹脂と分散の問題が存在する。
【0007】
したがって、エコ製品として製造することができ、同時に透明性を阻害しないバイオベースの有機系核剤を導入する必要がある。また、ポリラクチド樹脂と分散の問題が少ない核剤を導入してポリラクチド樹脂の結晶化半減期および結晶化度を追加的に改善することが必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、特定の核剤を組み合わせて使用して結晶化半減期に優れたポリラクチド樹脂組成物を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、前記ポリラクチド樹脂組成物の製造方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、下記のポリラクチド樹脂組成物を提供する。
【0011】
ポリラクチド樹脂;第1核剤;および第2核剤を含む、ポリラクチド樹脂組成物において、
前記ポリラクチド樹脂組成物は、100~130℃の結晶化温度で結晶化半減期が2分以下である、
ポリラクチド樹脂組成物。
【0012】
本発明で使用する用語「ポリラクチド樹脂」とは、下記の繰り返し単位を含む単一重合体または共重合体を包括して称するものと定義される。
【化1】
【0013】
前記ポリラクチド樹脂は、ラクチド単量体の開環重合により前記繰り返し単位を形成する段階を含んで製造され得、このような開環重合および前記繰り返し単位の形成工程が完了した後の重合体を前記「ポリラクチド樹脂」と称することができる。
【0014】
この時、「ラクチド単量体」は、次のとおり定義され得る。通常、ラクチドは、L-乳酸からなるL-ラクチド、D-乳酸からなるD-ラクチド、L-形態とD-形態がそれぞれ一つずつからなるmesoラクチドに区分され得る。また、L-ラクチドとD-ラクチドが50:50で混合されているものをD、L-ラクチドまたはrac-ラクチドという。これらラクチドのうち、光学的純度が高いL-ラクチドまたはD-ラクチドのみを利用して重合を行う場合、立体規則性が非常に高いL-またはD-ポリラクチド(PLLAまたはPDLA)が得られると知られており、このようなポリラクチドは、光学的純度が低いポリラクチドに比べて結晶化速度が速く、結晶化度も高いと知られている。ただし、本明細書で「ラクチド単量体」とは、各形態によるラクチドの特性の違いおよびこれから形成されたポリラクチド樹脂の特性の違いに関係なく全ての形態のラクチドを含むものと定義される。
【0015】
一方、本発明によるポリラクチド樹脂は、一例として重量平均分子量が70,000~400,000である。
【0016】
本発明は、このようなポリラクチド樹脂に前記第1核剤と第2核剤を共に使用することによって、ポリラクチド樹脂の結晶化半減期を改善することを特徴とする。
【0017】
特に、前記ポリラクチド樹脂組成物は、100~130℃の結晶化温度で結晶化半減期が5分以下であることを特徴とする。好ましくは、前記結晶化半減期が1.9分以下、1.8分以下、1.7分以下、1.6分以下、1.5分以下、1.4分以下、1.3分以下、1.2分以下、1.1分以下、または、1.0分以下である。また、前記結晶化半減期は、0.1分以上、0.2分以上、0.3分以上、0.4分以上、または、0.5分以上である。
【0018】
本発明で使用する用語「結晶化半減期(Crystallization half-time(t
1/2))は、結晶化が50%行われるまでかかる時間(分)を意味し、相対的な結晶化速度を評価するに有用な指標である。結晶化半減期を求めるためには、まず相対結晶化度(Relative crystallinity)を求める。相対結晶化度は、等温結晶化過程での時間に応じた発熱ピークで全体面積(area)に対する時間tが過ぎた時の面積(area)の比率を意味し、時間に応じた相対結晶化度に変換後に相対結晶化度が0.5になる時の時間を結晶化半減期として求めることができる。このような過程を
図1に図式的に示し、より詳細な測定方法は後述する実施例で具体化することができる。
【0019】
本発明で使用する用語「結晶化温度」とは、前記結晶化半減期を測定するためにポリラクチド樹脂を所定の温度に溶融させた後に冷却する時の温度を意味する。例えば、ポリラクチド樹脂を200℃に溶融させた後、40℃/min~100℃/minの冷却速度で120℃まで冷却する時、前記120℃を「結晶化温度」という。本発明では前記結晶化温度は、100~130℃であり、一例として100℃、110℃、120℃、または、130℃である。前記結晶化温度による結晶化半減期の具体的な測定方法は以下の実施例に具体化することができる。
【0020】
好ましくは、本発明による前記ポリラクチド樹脂組成物は、100~130℃の結晶化温度で結晶化度が35%以上である。先に説明したとおり、本発明による前記ポリラクチド樹脂組成物は、結晶化半減期はもちろん、結晶化度も優れるという特徴がある。好ましくは、前記結晶化度が40%以上、45%以上、または、50%以上である。前記結晶化度の測定方法は以下の実施例に具体化することができる。
【0021】
一方、前記第1核剤は、ウラシル(uracil)である。前記第1核剤は、バイオベースの有機系物質であって、ポリラクチド樹脂に添加されて核生成部位(nucleation site)として作用して高い温度で結晶核生成を誘発して結晶化半減期および結晶化度を改善することができる。
【0022】
好ましくは、前記第1核剤は、前記ポリラクチド樹脂組成物総重量に対して0.1~5重量%で含まれる。前記含有量が0.1重量%未満である場合には前記第1核剤の使用効果が微々であり、前記含有量が5重量%を超える場合にはポリラクチド樹脂固有の物性を阻害する恐れがある。より好ましくは、前記第1核剤は、前記ポリラクチド樹脂組成物総重量に対して0.2重量%以上、0.3重量%以上、0.4重量%以上、または、0.5重量%以上であり;4.5重量%以下、4.0重量%以下、または、3.5重量%以下含まれる。
【0023】
前記第2核剤は、ラクチド単量体のオリゴマー構造を含む核剤であって、このようなラクチド単量体のオリゴマー構造によりポリラクチド樹脂と相溶性が高いため、ポリラクチド樹脂に添加されて可塑剤と類似する役割を果たすようになる。そのためにポリラクチド樹脂内で自由体積(free volume)を形成してポリラクチド樹脂の連鎖(chain)移動性を向上させて結晶化半減期および結晶化度を改善することができる。
【0024】
好ましくは、前記第2核剤は、下記の化学式1で表される化合物である。
[化学式1]
【化2】
前記化学式1で、
Lは、下記であり、
【化3】
前記で、
n1は、1~30の整数であり、
Rは、下記の化学式2で表される置換基であり、
[化学式2]
【化4】
nは、繰り返し単位数を示し、
R’は、水素、またはアセチルである。
【0025】
前記第2核剤の重量平均分子量は、各ラクチド繰り返し単位数により調節され得る。好ましくは、前記第2核剤の重量平均分子量は、1,000~50,000である。より好ましくは、前記第2核剤の重量平均分子量は、1,100以上、1,200以上、1,300以上、1,400以上、または、1,500以上であり;40,000以下、30,000以下、20,000以下、10,000以下、9,000以下、または、8,000以下である。
【0026】
好ましくは、前記第2核剤は、前記ポリラクチド樹脂組成物総重量に対して3~25重量%で含まれる。前記含有量が3重量%未満である場合には前記第2核剤の使用効果が微々たるものであり、前記含有量が25重量%を超える場合にはポリラクチド樹脂固有の物性を阻害する恐れがある。より好ましくは、前記第2核剤は、前記ポリラクチド樹脂組成物総重量に対して3.5重量%以上、4.0重量%以上、または、4.5重量%以上であり;24重量%以下、23重量%以下、22重量%以下、または、21重量%以下含まれる。
【0027】
一方、上述の本発明によるポリラクチド樹脂組成物の製造方法は、上述のポリラクチド樹脂、第1核剤、および第2核剤を混合する方法であれば特に制限されない。一例として、前記各成分は、溶融混合(melt blending)方法で製造することができる。
【発明の効果】
【0028】
上述の本発明によるポリラクチド樹脂組成物は、結晶化半減期および結晶化度に優れている。したがって、本発明によるポリラクチド樹脂組成物は、加工性に優れると共に、本発明によるポリラクチド樹脂固有の特性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明による結晶化半減期の意味を図式的に示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を下記の実施例でより詳細に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明の実施形態を例示するものに過ぎず、本発明の内容が下記の実施例により限定されるのではない。
【0031】
製造例:第2核剤(P10-A-002の製造)
PEG-1000(P10)を開始剤として使用してオリゴマー(oligomer)を製造した。具体的には、20mLバイアル(vial)にラクチド(Lactide):P10のモル比が8:1(モル比)で合計4.5gになるようにそれぞれ入れ、Sn(Oct)2触媒を0.1~0.2wt%になるように投入した後、130℃で4時間反応させた。温度を120℃に調節した後、無水酢酸(acetic anhydride)(末端基OH基に対して4当量)を投入し、12時間反応を追加的に行った。反応終了後、真空乾燥で副産物である酢酸(acetic acid)および残留の無水酢酸(acetic anhydride)を除去して末端基がアセチル(acetyl)基で置換された構造を有する第2核剤を製造し、これをP10-A-002と命名し、重量平均分子量は以下表1に示した。
【実施例】
【0032】
実施例および比較例
Haakeミキサ(Mixer)装備を活用して溶融混合(melt blending)を行った。具体的には、PLAペレット(pellet)(NatureWorks社の4032D;重量平均分子量約200,000)65gを入れ、下記表1に記載された第1核剤および第2核剤を各含有量により投入した。パウダー(Powder)形態の核剤はPLAペレット(pellet)と混合して投入し、工程運転温度(180℃)よりも低い融点を有する核剤は混合(blending)5分後(PLAが完全に溶解)、ホッパー(hopper)に投入する方法を取った。運転条件は180℃、60rpmで10分間行った。得られたPLA樹脂は、後述する等温DSC分析を行って各結晶化温度による結晶化挙動を確認した。
【0033】
実験例
前記製造した第1核剤、第2核剤およびポリラクチド樹脂組成物に対して以下の方法で物性を測定した。
【0034】
1)重量平均分子量
GPC(Gel Permeation Chromatography)装備を利用して数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を算出し、オリゴマー(oligomer)分子量分布(Mw/Mn)を測定し、具体的な測定条件は下記のとおりである。
-カラム:PLgel Mixed E x 2
-溶媒:THF
-流速:0.7mL/min
-試料濃度:3.0mg/mL
-注入量:100μl
-カラム温度:40℃
-検出器(Detector):Waters 2414 RID
-スタンダード(Standard):PS(ポリスチレン)
【0035】
2)DSC(differential scanning calorimetry)
実施例と比較例で製造したPLA樹脂のそれぞれを、1次加熱(1st heating)を通じて200℃で20分間完全に溶融させて熱履歴を除去した。次に、各結晶化温度(100~130℃)まで100℃/分で最大限急速に冷却させた後、各結晶化温度で温度を維持してヒートフロー(Heat Flow)を観察して、結晶化半減期を測定した。また、次の式を利用して結晶化度Xcを計算した(100% crystalline PLA ΔHm=93J/g)。
【0036】
-結晶化度:(冷却過程での発熱ピーク(peak)面積、ΔHc)/(100% crystalline PLA ΔHm)
前記結果を下記表1に示した。
【表1】
【0037】
前記表1に示されているように、本発明により第1核剤と第2核剤を同時に使用した実施例の場合、比較例に比べて結晶化度は同等または類似の水準であるが、結晶化半減期が顕著に小さいことを確認することができた。
【国際調査報告】