(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】タンパク質試料中の残存宿主細胞タンパク質の同定及び定量
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20240517BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20240517BHJP
C12Q 1/37 20060101ALN20240517BHJP
C12N 9/76 20060101ALN20240517BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20240517BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N33/68
G01N27/62 X
C12Q1/37 ZNA
C12N9/76
C07K16/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574130
(86)(22)【出願日】2022-06-03
(85)【翻訳文提出日】2024-01-18
(86)【国際出願番号】 US2022032099
(87)【国際公開番号】W WO2022256613
(87)【国際公開日】2022-12-08
(32)【優先日】2021-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】514099673
【氏名又は名称】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】グオ, チア
(72)【発明者】
【氏名】クーフェル, レジーナ
(72)【発明者】
【氏名】リー, デリア
(72)【発明者】
【氏名】ヤン, フェン
(72)【発明者】
【氏名】ユク, イン ファム
(72)【発明者】
【氏名】チャン, チンホア
(72)【発明者】
【氏名】カダン, ランス ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ダイ, ルー
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041FA12
2G041GA09
2G041HA01
2G041JA02
2G041JA10
2G041LA08
2G045AA40
2G045BB04
2G045DA36
2G045FB06
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ30
4B063QQ79
4B063QR16
4B063QS02
4B063QS14
4B063QS17
4B063QS40
4B063QX10
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA89
4H045EA50
4H045GA21
(57)【要約】
本開示は、試料中の1つ以上のタンパク質の同一性及び量を決定するための高感度方法に関する。例えば、本開示は、タンパク質試料中の残存宿主細胞タンパク質の高感度の同定及び定量のための方法を提供し、この方法は、標的化又は標的非依存様式のいずれかでタンパク質を同定及び定量するように適合させることができ、別個の使用事例に適した感度の範囲を達成するように改変することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質産物を含む試料中の1つ以上のタンパク質を同定するための方法であって、
a)前記試料中に存在するタンパク質を消化するのに十分な条件下で前記試料をプロテアーゼと接触させることと、
b)前記消化されたタンパク質を含む前記試料を還元条件及び加熱条件下でデオキシコール酸ナトリウム(SDC)と接触させることと、
c)前記消化されたタンパク質を含む前記試料をクロマトグラフィー支持体に接触させて、未消化タンパク質を除去することと、
d)前記クロマトグラフィー支持体を移動相と接触させ、溶離液を収集することと、
e)LC-MS/MSを使用して前記溶離液を分析して、前記試料中の1つ以上のタンパク質を同定することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記LC-MS/MSが、データ依存型取得(DDA)モードで実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タンパク質が、宿主細胞タンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記宿主細胞タンパク質が、酵素である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記酵素が、加水分解酵素である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記プロテアーゼが、トリプシンである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記試料中のプロテアーゼ対タンパク質産物のw/w比が、約1:2000、約1:800、約1:400、又は約1:200である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記消化されたタンパク質試料を、約1%w/vのSDCと接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記クロマトグラフィー支持体が、固相抽出支持体である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記クロマトグラフィー支持体が、荷電表面ハイブリッド支持体である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
約0.1ppm~約5ppmの検出限界(LOD)を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記タンパク質産物が、抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
タンパク質産物を含む前記試料が、部分的に又は完全に精製された試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記部分的に又は完全に精製された試料が、精製プロセス内プール試料である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記プロセス内プール試料が、限外濾過/透析濾過プール試料である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記プロセス内プール試料が、原薬試料である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記プロセス内プール試料が、製剤試料である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記試料中の前記タンパク質産物の負荷量が、約6μg~約300μgである、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記試料を前記プロテアーゼと接触させる時間が、約2~約4時間である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記試料をプロテアーゼと接触させるための温度が、約37℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記消化されたタンパク質を含む前記試料をSDCと接触させるための温度が、約90℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記消化されたタンパク質を含む前記試料をSDCと接触させる時間が、約10分間である、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
タンパク質産物を含む試料中の1つ以上の標的タンパク質のppmレベルを決定するための方法であって、
a)前記1つ以上の標的タンパク質を消化するのに十分な条件下で、前記試料をプロテアーゼと接触させることと、
b)前記1つ以上の消化された標的タンパク質を含む前記試料を、還元条件及び加熱条件下でSDCと接触させることと、
c)前記1つ以上の消化された標的タンパク質を含む前記試料をクロマトグラフィー支持体に接触させて、未消化タンパク質を除去することと、
d)前記クロマトグラフィー支持体を移動相と接触させ、溶離液を収集することと、
e)LC-MS/MSを使用して前記溶離液を分析して、前記試料中の前記1つ以上の標的タンパク質を同定及び定量することであって、前記分析が、前記1つ以上の標的タンパク質の複数の標準ppmレベルに関連するシグナルを決定することと、それらのシグナルを前記試料中の前記1つ以上の標的タンパク質について検出されたシグナルと比較することとを含む、LC-MS/MSを使用して前記溶離液を分析して、前記試料中の前記1つ以上の標的タンパク質を同定及び定量することと
を含む、方法。
【請求項24】
前記LC-MS/MSが、並行反応モニタリング(PRM)モードで実行される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記1つ以上の標的タンパク質が、宿主細胞タンパク質である、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記宿主細胞タンパク質が、酵素である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記酵素が、加水分解酵素である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記プロテアーゼが、トリプシンである、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記試料中のプロテアーゼ対タンパク質産物のw/w比が、約1:2000、約1:800、約1:400、又は約1:200である、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
前記1つ以上の消化された標的タンパク質試料を、約0.9%w/vのSDCと接触させる、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
前記クロマトグラフィー支持体が、固相抽出支持体である、請求項23に記載の方法。
【請求項32】
前記クロマトグラフィー支持体が、荷電表面ハイブリッド支持体である、請求項23に記載の方法。
【請求項33】
約0.01ppmのLOQを有する、請求項23に記載の方法。
【請求項34】
前記LC-MS/MS分析からのデータの正規化を更に含む、請求項23に記載の方法。
【請求項35】
前記タンパク質産物が、抗体である、請求項23に記載の方法。
【請求項36】
タンパク質産物を含む前記試料が、部分的に又は完全に精製された試料である、請求項23に記載の方法。
【請求項37】
前記部分的に又は完全に精製された試料が、精製プロセス内プール試料である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記プロセス内プール試料が、限外濾過/透析濾過プール試料である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記プロセス内プール試料が、原薬試料である、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記試料中の前記タンパク質産物の負荷量が、約6μg~約300μgである、請求項23に記載の方法。
【請求項41】
前記試料を前記プロテアーゼと接触させる時間が、約2~約4時間である、請求項23に記載の方法。
【請求項42】
前記試料をプロテアーゼと接触させるための温度が、約37℃である、請求項23に記載の方法。
【請求項43】
前記消化されたタンパク質を含む前記試料をSDCと接触させるための温度が、約90℃である、請求項23に記載の方法。
【請求項44】
前記消化されたタンパク質を含む前記試料をSDCと接触させる時間が、約10分間である、請求項23に記載の方法。
【請求項45】
タンパク質産物の試料負荷量を調整して所望の感度を達成することによって、約0.1ppm~約5ppmの所定の感度でタンパク質産物を含む試料中の1つ以上のタンパク質を同定するための方法であって、
a)タンパク質を含む試料を、前記試料中に存在するタンパク質を消化するのに十分な条件下でプロテアーゼと接触させることと、
b)前記消化されたタンパク質を含む前記試料を還元条件及び加熱条件下でSDCと接触させることと、
c)前記消化されたタンパク質を含む前記試料をクロマトグラフィー支持体に接触させて、未消化タンパク質を更に除去することと、
d)前記クロマトグラフィー支持体を移動相と接触させ、溶離液を収集することと、
e)前記溶離液を再懸濁することと、
f)LC-MS/MSを使用して前記再懸濁された溶離液の画分を分析して、前記試料中の1つ以上のタンパク質を同定することと
を含む、方法。
【請求項46】
前記LC-MS/MSが、DDAモードで実行される、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記再懸濁された溶離液の前記画分が、約6μg、約30μg、約60μg、約150μg、又は約300μgのタンパク質産物を含有する、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記タンパク質が、宿主細胞タンパク質である、請求項45に記載の方法。
【請求項49】
前記宿主細胞タンパク質が、酵素である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記酵素が、加水分解酵素である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記プロテアーゼが、トリプシンである、請求項45に記載の方法。
【請求項52】
前記試料中のプロテアーゼ対タンパク質産物のw/w比が、約1:2000、約1:800、約1:400、又は約1:200である、請求項45に記載の方法。
【請求項53】
前記消化されたタンパク質試料又は消化された標的タンパク質試料を、約0.9%w/vのSDCと接触させる、請求項45に記載の方法。
【請求項54】
前記クロマトグラフィー支持体が、固相抽出支持体である、請求項45に記載の方法。
【請求項55】
前記クロマトグラフィー支持体が、荷電表面ハイブリッド支持体である、請求項45に記載の方法。
【請求項56】
前記液体クロマトグラフィー/質量分析からのデータの正規化を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項57】
前記タンパク質産物が、抗体である、請求項45に記載の方法。
【請求項58】
タンパク質産物を含む前記試料が、部分的に又は完全に精製された試料である、請求項45に記載の方法。
【請求項59】
前記部分的に又は完全に精製された試料が、精製プロセス内プール試料である、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記プロセス内プール試料が、抗体限外濾過/透析濾過プール試料である、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記プロセス内プール試料が、原薬試料である、請求項59に記載の方法。
【請求項62】
前記プロセス内プール試料が、製剤試料である、請求項59に記載の方法。
【請求項63】
前記試料を前記プロテアーゼと接触させる時間が、約2~約4時間である、請求項45に記載の方法。
【請求項64】
前記試料を前記プロテアーゼと接触させるための温度が、約37℃である、請求項45に記載の方法。
【請求項65】
前記消化されたタンパク質を含む前記試料をSDCと接触させるための温度が、約90℃である、請求項45に記載の方法。
【請求項66】
前記消化されたタンパク質を含む前記試料をSDCと接触させる時間が、約10分間である、請求項45に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年6月4日に出願された米国仮出願第63/197,052号の優先権を主張し、その内容全体が参照により組み込まれ、その優先権が主張される。
【0002】
発明の分野
本開示は、試料中の1つ以上のタンパク質の同一性及び量を決定するための高感度方法に関する。例えば、本開示は、タンパク質試料中の残存宿主細胞タンパク質の高感度の同定及び定量のための方法を提供し、この方法は、標的化様式又は標的非依存様式のいずれかでタンパク質を同定及び定量するように適合させることができ、別個の使用事例に適した感度の範囲を達成するように改変することができる。
【背景技術】
【0003】
背景
ポリペプチドの大規模で経済的な精製は、バイオテクノロジー産業にとってますます重要な問題である。一般に、ポリペプチドは、そのポリペプチドの遺伝子を含む組換えプラスミドの挿入によって目的のポリペプチドを産生するように操作された哺乳動物細胞株又は細菌細胞株のいずれかを使用して、細胞培養によって産生される。使用される細胞株は生きている生物であるため、目的のポリペプチドを、細胞に供給される化合物の混合物並びに細胞自体によって作られる内因性タンパク質(宿主細胞タンパク質又は「HCP」)から分離することが望ましい。
【0004】
HCPからの目的のポリペプチドの分離は、通常、異なるクロマトグラフィー技術の組み合わせを使用して達成される。バイオテクノロジー産業で使用されるそのような高度な分離戦略は、HCPの非常に効率的な除去が可能であり、それによって目的のポリペプチドの精製調製物を提供するが、極めて低レベルのHCPの定量は依然として非常に望ましい目標である。例えば、最終製品組成物、例えば限外濾過及び透析濾過(UF/DF)プール、原薬(DS)及び/又は製剤(DP)中に存在する残留加水分解酵素(「加水分解酵素」)は、製剤中のポリソルベート(PS)分解を引き起こし、視覚的粒子(VP)及びサブビジブル粒子(SVP)の懸念をもたらす可能性がある。これは、これらの加水分解酵素が極めて低いレベルで存在する場合でも当てはまる。したがって、低レベルのHCPを同定及び定量するための効果的な戦略を有することは、生物製剤の製造を支援するためのプロセス開発又は研究に特に有用である。
【0005】
質量分析による脂肪酸(「FAMS」)分析又は活性に基づくアッセイ等の既存の解決策は、PS分解の特定の態様に対処するのに有効であったが、根本原因、すなわち最終生成物のPS20分解に寄与する加水分解酵素はほとんど知られていない。残留HCPの特定の同一性に関するこの知識の欠如は、特に制限された感度(通常5~10ppm)を示す現在の戦略では、定量化に関して特に扱いにくい問題を提示する。さらに、既存の解決策は、典型的には生物製剤開発に関連するタイムラインには役立たない。FAMSは、例えば、遊離脂肪酸の産生に依存しており、典型的には、検出可能なPS分解が起こるまでに2~4週間を必要とし、プロセス開発又は調査のための障害となり得る。したがって、タンパク質試料中のHCPの高感度定量が可能な方法が当分野で必要とされている。特に、標的化様式(例えば、識別及び定量されるHCPが予め決定されている場合)又は標的非依存様式(例えば、識別及び定量されるHCPが予め決定されていない場合)のいずれかでHCPのレベルを同定及び定量するように適合させることができ、異なるユースケースに適した感度の範囲を達成するように改変することができる方法が強く必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
第1の態様では、本開示は、タンパク質産物を含む試料中の1つ以上のタンパク質を同定するための方法であって、a)試料中に存在するタンパク質を消化するのに十分な条件下で試料をプロテアーゼと接触させることと、b)消化されたタンパク質を含む試料を還元条件及び加熱条件下でデオキシコール酸ナトリウム(SDC)と接触させることと、c)消化されたタンパク質を含む試料をクロマトグラフィー支持体に接触させて、未消化タンパク質を除去することと、d)クロマトグラフィー支持体を移動相と接触させ、溶離液を収集することと、e)LC-MS/MSを使用して溶離液を分析して、試料中の1つ以上のタンパク質を同定することと、を含む、方法に関する。特定の実施形態では、LC-MS/MSは、データ依存型取得(DDA)モードで実行される。
【0007】
特定の実施形態では、タンパク質は、宿主細胞タンパク質である。特定の実施形態では、宿主細胞タンパク質は、酵素である。特定の実施形態では、酵素は、加水分解酵素である。
【0008】
特定の実施形態では、プロテアーゼは、トリプシンである。特定の実施形態では、試料中のプロテアーゼ対タンパク質産物のw/w比は、約1:2000、約1:800、約1:400、又は約1:200である。特定の実施形態では、消化されたタンパク質試料を、約1%w/vのSDCと接触させる。
【0009】
特定の実施形態では、クロマトグラフィー支持体は、固相抽出支持体である。特定の実施形態では、クロマトグラフィー支持体は、帯電表面ハイブリッド支持体である。
【0010】
特定の実施形態では、本方法は、約0.1ppm~約5ppmの検出限界(LOD)を有する。
【0011】
特定の実施形態では、タンパク質産物は、抗体である。特定の実施形態では、タンパク質産物を含む試料は、部分的に又は完全に精製された試料である。特定の実施形態では、部分的に又は完全に精製された試料は、精製プロセス内プール試料である。特定の実施形態では、プロセス内プール試料は、限外濾過/透析濾過プール試料である。特定の実施形態では、プロセス内プール試料は、原薬試料である。特定の実施形態では、プロセス内プール試料は、製剤試料である。
【0012】
特定の実施形態では、試料中のタンパク質産物の負荷量は、約6μg~約300μgである。特定の実施形態では、試料をプロテアーゼと接触させる時間は、約2~約4時間である。特定の実施形態では、試料をプロテアーゼと接触させるための温度は、約37℃である。特定の実施形態では、消化されたタンパク質を含む試料をSDCと接触させるための温度は、約90℃である。特定の実施形態では、消化されたタンパク質を含む試料をSDCと接触させる時間は、約10分間である。
【0013】
別の態様では、本開示は、タンパク質産物を含む試料中の1つ以上の標的タンパク質のppmレベルを決定するための方法であって、a)1つ以上の標的タンパク質を消化するのに十分な条件下で、試料をプロテアーゼと接触させることと、b)1つ以上の消化された標的タンパク質を含む試料を、還元条件及び加熱条件下でSDCと接触させることと、c)1つ以上の消化された標的タンパク質を含む試料をクロマトグラフィー支持体に接触させて、未消化タンパク質を除去することと、d)クロマトグラフィー支持体を移動相と接触させ、溶離液を収集することと、e)LC-MS/MSを使用して溶離液を分析して、試料中の1つ以上の標的タンパク質を同定及び定量することであって、当該分析が、1つ以上の標的タンパク質の複数の標準ppmレベルに関連するシグナルを決定することと、それらのシグナルを試料中の1つ以上の標的タンパク質について検出されたシグナルと比較することとを含む、LC-MS/MSを使用して溶離液を分析して、試料中の1つ以上の標的タンパク質を同定及び定量することと、を含む、方法に関する。特定の実施形態では、LC-MS/MSは、並行反応モニタリング(PRM)モードで行われる。
【0014】
特定の実施形態では、1つ以上の標的タンパク質は、宿主細胞タンパク質である。特定の実施形態では、宿主細胞タンパク質は、酵素である。特定の実施形態では、酵素は、加水分解酵素である。
【0015】
特定の実施形態では、プロテアーゼは、トリプシンである。特定の実施形態では、試料中のプロテアーゼ対タンパク質産物のw/w比は、約1:2000、約1:800、約1:400、又は約1:200である。特定の実施形態では、1つ以上の消化された標的タンパク質試料を、約0.9%w/vでSDCと接触させる。
【0016】
特定の実施形態では、クロマトグラフィー支持体は、固相抽出支持体である。特定の実施形態では、クロマトグラフィー支持体は、帯電表面ハイブリッド支持体である。
【0017】
特定の実施形態では、本方法は、約0.01ppmの検出限界(LOQ)を有する。
【0018】
特定の実施形態では、本方法は、LC-MS/MS分析からのデータの正規化を含む。
【0019】
特定の実施形態では、タンパク質産物は、抗体である。特定の実施形態では、タンパク質産物を含む試料は、部分的に又は完全に精製された試料である。特定の実施形態では、部分的に又は完全に精製された試料は、精製プロセス内プール試料である。特定の実施形態では、プロセス内プール試料は、限外濾過/透析濾過プール試料である。特定の実施形態では、プロセス内プール試料は、原薬試料である。
【0020】
特定の実施形態では、試料中のタンパク質産物の負荷量は、約6μg~約300μgである。特定の実施形態では、試料をプロテアーゼと接触させる時間は、約2~約4時間である。特定の実施形態では、試料をプロテアーゼと接触させるための温度は、約37oCである。特定の実施形態では、消化されたタンパク質を含む試料をSDCと接触させるための温度は、約90℃である。特定の実施形態では、消化されたタンパク質を含む試料をSDCと接触させる時間は、約10分間である。
【0021】
別の態様では、本開示は、タンパク質生成物の試料負荷量を調整して所望の感度を達成することにより、約0.1ppm~約5ppmの所定の感度でタンパク質産物を含む試料中の1つ以上のタンパク質を同定するための方法であって、a)タンパク質を含む試料を、試料中に存在するタンパク質を消化するのに十分な条件下でプロテアーゼと接触させることと、b)消化されたタンパク質を含む試料を還元条件及び加熱条件下でデオキシコール酸ナトリウム(SDC)と接触させることと、c)消化されたタンパク質を含む試料をクロマトグラフィー支持体に接触させて、未消化タンパク質を更に除去することと、d)クロマトグラフィー支持体を移動相と接触させ、溶離液を収集することと、e)溶離液を再懸濁することと、f)LC-MS/MSを使用して再懸濁された溶離液の画分を分析して、試料中の1つ以上のタンパク質を同定することと、を含む、方法に関する。特定の実施形態では、LC-MS/MSは、DDAモードで実行される。
【0022】
特定の実施形態では、再懸濁された溶離液の画分は、約6μg、約30μg、約60μg、約150μg、又は約300μgのタンパク質産物を含有する。
【0023】
特定の実施形態では、タンパク質は、宿主細胞タンパク質である。特定の実施形態では、宿主細胞タンパク質は、酵素である。特定の実施形態では、酵素は、加水分解酵素である。特定の実施形態では、プロテアーゼは、トリプシンである。特定の実施形態では、試料中のプロテアーゼ対タンパク質産物のw/w比は、約1:2000、約1:800、約1:400、又は約1:200である。特定の実施形態では、消化されたタンパク質試料又は消化された標的タンパク質試料を、約0.9%w/vのSDCと接触させる。
【0024】
特定の実施形態では、クロマトグラフィー支持体は、固相抽出支持体である。特定の実施形態では、クロマトグラフィー支持体は、帯電表面ハイブリッド支持体である。
【0025】
特定の実施形態では、本方法は、液体クロマトグラフィー/質量分析からのデータの正規化を含む。
【0026】
特定の実施形態では、タンパク質産物は、抗体である。
【0027】
特定の実施形態では、タンパク質産物を含む試料は、部分的に又は完全に精製された試料である。特定の実施形態では、部分的に又は完全に精製された試料は、精製プロセス内プール試料である。特定の実施形態では、プロセス内プール試料は、抗体限外濾過/透析濾過プール試料である。特定の実施形態では、プロセス内プール試料は、原薬試料である。特定の実施形態では、プロセス内プール試料は、製剤試料である。
【0028】
特定の実施形態では、試料をプロテアーゼと接触させる時間は、約2~約4時間である。特定の実施形態では、試料をプロテアーゼと接触させるための温度は、約37oCである。特定の実施形態では、消化されたタンパク質を含む試料をSDCと接触させるための温度は、約90℃である。特定の実施形態では、消化されたタンパク質を含む試料をSDCと接触させる時間は、約10分間である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、固相抽出(SPE)工程の使用の有無にかかわらず、4つの異なるmAb-2 UF/DFプール組成物において、以下の実施例2に記載される方法を使用して同定されたHCPペプチド及びHCPタンパク質の数を示す図である。4つの異なるUFDFプール組成物をA、B、C及びDで示す。SPEの使用は、方法においてSPEが存在しないことと対比される(例えば、製剤組成物A中のそれぞれ「A_SPE」及び「A」)。
【
図2】
図2A~
図2Cは、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)添加の有無にかかわらず、及びSDC添加のタイミングに関して、以下の実施例3に記載される方法を使用して同定された目的のペプチド及び関連タンパク質の数を示す。
図2Aは、BEHカラムを使用して、5つの組換えヒドロラーゼ(LPL、PLBL2、SMPD1、PPT1及びLipA)のそれぞれに1百万分率(ppm)をスパイクしたmAb-1 UF/DFプールの消化、一晩の消化、1:400トリプシン対タンパク質比の結果を示す。
図2Bは、CSHカラム、2時間の消化物、1:2000のトリプシン対タンパク質比を使用した、8つの組換えヒドロラーゼのそれぞれ0.1ppmをスパイクしたmAb-1 UF/DFプールの消化の結果を示す図である。結果の再現性を評価するために、複製1(Repl.1)及び複製2(Repl.2)で示される2連で試験を実施した。
図2Cは、還元及び加熱工程(「SDC_reduction1」及び「SDC_reduction2」)の間、又は還元及び加熱前の消化(「SDC_digest1」及び「SDC_digest2」)のいずれかに、5ppmの9つの同定されたタンパク質でスパイクしたmAb-2の消化の結果を示す。
【
図3】
図3は、以下の実施例4に記載される方法を使用したmAb-1 UF/DFプール組成物中の目的の4つのHCPの同定を示す図である。実施例4に概説されるように、1:400、1:2000、1:5000及び1:10000のトリプシン対タンパク質比を25g/LのmAb-1タンパク質濃度で使用した。
【
図4】
図4A~
図4Bは、異なるトリプシン消化条件でmAb-1 UF/DFプール組成物にスパイクされた8つの組換えヒドロラーゼの同定を示す。
図4Aは、30μgの試料負荷量(注:30μgの試料負荷量は、2mg mAb-1製剤組成物の出発物質からの100μLの再懸濁消化物から1.5μLを負荷することを指す)でのmAb-1中の約1ppm(0.58~1.22ppm)の8つのスパイクされたヒドロラーゼの結果を示す。
図4Bは、400μgの試料負荷量でのmAb-1中の約0.1ppm(0.058~0.27ppm)の8つのスパイクされたヒドロラーゼの結果を示す。結果の再現性を評価するために、複製1(Repl.1)及び複製2(Repl.2)で示される2連で試験を実施した。
【
図5】
図5は、異なる試料負荷量で同定されたスパイクインタンパク質の数を示す。8つの組換えヒドロラーゼを、0.1~5 ppmの範囲の異なるレベルでスパイクした。予想される感度の必要性に基づいて様々な試料負荷量を選択し、例えば、実施例5に概説されるように、1ppmのスパイク試料に対して30μgの出発物質負荷量を選択した。結果は、試料負荷が消化時にUF/DFプール組成物の10g/Lタンパク質濃度で感受性をうまく調節することを示している。結果の再現性を評価するために、複製1(Repl.1)及び複製2(Repl.2)で示される2連で試験を行い、各試験試料に対するLC-MS/MS注入も(A及びBによって示されるように)2連で行った。
【
図6】
図6A~
図6Bは、実施例6の結果を示し、固有のペプチド数によるスパイクイン組換えヒドロラーゼの同定に対する消化時のトリプシン消化時間及びタンパク質濃度の影響を実証する。低レベル(0.058~0.27ppm)でスパイクされた8つの組換え加水分解酵素の同定の感度及び方法のロバスト性を高めるために、トリプシン消化時間を更に微調整した。
図6Aは、10g/Lタンパク質濃度での2時間、3時間、及び4時間のトリプシン消化の影響を示す。
図6Bは、消化時のタンパク質濃度(10g/L対25g/L)の影響を示す。結果の再現性を評価するために、複製1(Repl.1)及び複製2(Repl.2)で示される2連で試験を実施した。
【
図7】
図7は、25g/Lタンパク質濃度及び4時間の消化で信頼できる0.1ppm感度を示す。タンパク質試料に低レベル(0.058~0.27ppm)でスパイクした8つの組換えヒドロラーゼについて、固有のペプチド数を決定した。この方法の再現性/ロバスト性は、以前に使用されたSPE/nanoLCカラム又は新しいSPE/nanoLCカラムのいずれかを使用して0.1ppm以上のレベルの全てのヒドロラーゼを一貫して同定することによって実証された。
【
図8】
図8は、タンパク質試料中の低レベルの標的化HCPを定量するための標準的な添加ベースの並行反応モニタリング(PRM)ワークフローの概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
詳細な説明
本開示は、試料中の1つ以上のタンパク質の同一性及び量を決定するための高感度方法に関する。例えば、本開示の主題は、生物製剤製造中に産生されたタンパク質試料中の残存宿主細胞タンパク質の高感度の同定及び定量のための方法を提供する。特定の実施形態では、そのような方法は、所定のタンパク質(すなわち、定量のために標的化される特定のタンパク質)、例えば「標的タンパク質」又は「標的化タンパク質」のレベルを同定及び定量するように適合させることができる。特定の実施形態では、そのような方法は、定量のための標的として事前に決定されなかったか又は事前に選択されなかったタンパク質、例えば「非標的化タンパク質」のレベルを同定及び定量するために、標的非依存様式で実行されるように適合させることができる。特定の実施形態では、そのような方法は、別個の使用事例に適した感度の範囲を達成するように修正することができる。
【0031】
明確にするために、ただし限定するものではないが、本発明に開示される主題の詳細な説明は、以下のセクションに分けられる:
1.定義;
2.タンパク質を同定するための標的非依存方法:
3.タンパク質を定量するための標的化方法;及び
4.試料負荷量を変更することによる感度の調節。
【0032】
1.定義
本明細書中で使用される用語は一般に、本開示の文脈内で、かつ、各用語が使用される具体的な文脈においての、当該技術分野における通常の意味を有する。特定の用語を以下で、又は、本明細書の他の箇所にて論じ、本開示の組成物及び方法、並びに、それらの作製及び使用方法について記載する、実践者向けの追加の案内を示す。
【0033】
本明細書で使用される場合、特許請求の範囲、及び/又は明細書内で、「を含む」という用語と共に用いられる場合、語句「a」又は「an」の使用は、「1つ」を意味し得るが、これは「1つ以上の」、「少なくとも1つの」、及び「1つ又は2つ以上」の意味とも一致する。
【0034】
本明細書で使用される場合、「を含む(comprise(s)/include(s))」、「を有する(having/has)」、「することができる」、「を含有する」という用語、及びこれらの変形は、追加の作用又は構造物の可能性を排除しない、オープンエンドの移行句、用語、又は単語であることが意図される。また、本開示では、明示的に記載されているかどうかにかかわらず、本明細書に提示される実施形態又は要素を「含む」、それら「から成る」、及びそれら「から本質的に成る」他の実施形態も企図されている。
【0035】
「約」又は「およそ」という用語は、当業者によって決定される特定の値の許容誤差範囲内であることを意味し、これは、一部には、値を測定又は決定する方法、すなわち、測定システムの制限に依存するものである。例えば、「約」は、当技術分野の慣例によって、3以内又は3を超える標準偏差を意味し得る。代替的に、「約」は、所与の値の、最大20%、好ましくは最大10%、より好ましくは最大5%、更により好ましくは最大1%の範囲を意味することができる。或いは、特に生物学的システム又はプロセスに関して、この用語は、値の1桁以内、好ましくは5倍以内、更に好ましくは2倍以内を意味し得る。
【0036】
細胞を「培養すること」とは、細胞を、細胞の生残及び/又は成長及び/又は増殖に好適な条件下にて、細胞培養培地と接触させることを意味する。
【0037】
本明細書で使用される場合、「細胞」という用語は、任意の適切な原核細胞又は真核細胞を指す。例えば、適切な真核細胞には、動物細胞、例えば哺乳動物細胞が含まれる。特定の実施形態では、適切な細胞は、培養細胞である。特定の実施形態では、適切な細胞は、宿主細胞、組換え細胞、及び組換え宿主細胞である。特定の実施形態では、好適な細胞は、適切な栄養素及び/又は成長因子を含有する培地に配置されたときに、増殖及び生残可能な哺乳動物組織から入手される、又はその組織に由来する細胞株である。
【0038】
「宿主細胞」、「宿主細胞株」及び「宿主細胞培養物」という用語は互換的に使用され、外因性核酸を引き続いて導入して組換え細胞を作製することができる細胞及びその子孫を指す。これらの宿主細胞はまた、特定の内因性宿主細胞タンパク質の発現を変化又は欠失させるように改変(すなわち、操作)されていてもよい。宿主細胞には、「形質転換体」及び「形質転換細胞」が含まれ、これらは、継代数によらず、一次形質転換細胞及びそれに由来する子孫を含む。子孫は、親細胞の核酸含有量と完全に同一である必要はないが、変異を含むことができる。元の形質転換細胞においてスクリーニング又は選択されたのと同じ機能又は生物活性を有する変異子孫が、本明細書に含まれる。これらの宿主細胞への外因性核酸(例えば、トランスフェクションによって)の導入は、元の「宿主細胞」、「宿主細胞株」又は「宿主細胞株」に由来する組換え細胞を作製するであろう。「宿主細胞」、「宿主細胞株」及び「宿主細胞培養物」という用語はまた、そのような組換え細胞及びそれらの子孫を指し得る。
【0039】
「組換え細胞」、「組換え細胞株」及び「組換え細胞培養物」という用語は互換的に使用され、目的の組換え産物の発現を可能にするために外因性核酸が導入された細胞及びその子孫を指す。「宿主細胞」、「宿主細胞株」及び「宿主細胞培養物」という用語はまた、そのような組換え細胞及びそれらの子孫を指し得る。そのような細胞によって発現される組換え産物は、組換えタンパク質、組換えウイルス粒子又は組換えウイルスベクターであり得る。
【0040】
「哺乳動物宿主細胞」又は「哺乳動物細胞」という用語は、適切な栄養素及び成長因子を含有する培地内の、単一層培養液又は懸濁培養液のいずれかに配置したときに、増殖及び生残可能な哺乳動物に由来する細胞株を意味する。特定の細胞株に必要な増殖因子は、例えばMammalian Cell Culture(Mather,J.P.ed.,Plenum Press,N.Y.1984),and Barnes and Sato,(1980)Cell,22:649)に記載されているように、過度な実験をすることなく、実験により速やかに決定される。典型的には、細胞は、目的の、多量の特定のタンパク質、例えば糖タンパク質を、培地中に発現させて分泌させることができる。本開示との関連で好適な哺乳動物宿主細胞の例としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO,Urlaub and Chasin,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:4216 1980);dp12.CHO細胞(1989年3月15日に出版された欧州特許第307,247号);CHO-K1(ATCC,CCL-61);SV40により形質転換したサル腎臓CV1株(COS-7,ATCC CRL 1651);ヒト胎児腎臓株(293細胞、又は、懸濁培養液中での増殖のためにサブクローニングされた293細胞、Graham et al.,J.Gen Virol.,36:59 1977);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK,ATCC CCL 10);マウスセルトリ細胞(TM4,Mather,Biol.Reprod.,23:243-251 1980);サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザルサル腎臓細胞(VERO-76,ATCC CRL-1587);ヒト子宮頚癌細胞(HELA,ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK,ATCC CCL 34);バッファロー系ラット肝臓細胞(BRL 3A,ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138,ATCC CCL 75);ヒト肝臓細胞(Hep G2,HB 8065);マウス乳癌(MMT 060562,ATCC CCL51);TRI細胞(Mather et al.,Annals N.Y.Acad.Sci.,383:44-68 1982);MRC 5細胞;FS4細胞;及びヒト肝癌株(Hep G2)を挙げることができる。特定の実施形態では、哺乳動物細胞は、チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO,Urlaub and Chasin,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:4216 1980);dp12.CHO細胞(1989年3月15日に公開された欧州特許第307,247号)を含む。
【0041】
本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」は、概して、約10より多くのアミノ酸を有するペプチド及びタンパク質を指す。ポリペプチドは、宿主細胞と相同であり得るか、又は好ましくは外因性であってよく、これは、チャイニーズハムスター卵巣細胞によって産生されるヒトタンパク質、又は哺乳動物細胞によって産生される酵母ポリペプチド等、利用されている宿主細胞に対して異種、すなわち外来であることを意味する。ある特定の実施形態では、哺乳動物ポリペプチド(もともと哺乳類生物から誘導されるポリペプチド)が用いられ、より好ましくは、培地に直接分泌されるものが用いられる。
【0042】
「タンパク質」という用語は、鎖長が、より高度の三級及び/又は四級構造を産生するのに十分であるアミノ酸の配列を指すことを意味する。これは、「ペプチド」、又は、このような構造を有しない他の低分子量薬剤から、区別するためのものである。典型的には、本明細書のタンパク質は、少なくとも約15~20kD、好ましくは少なくとも約20kDの分子量を有する。本明細書の定義に包含されるタンパク質の例としては、宿主細胞タンパク質、並びに全ての哺乳動物タンパク質、特に、治療用及び診断用抗体等の治療用及び診断用タンパク質、並びに、1つ以上の鎖間及び/又は鎖内ジスルフィド結合を含む多鎖ポリペプチドを含む、1つ以上のジスルフィド結合を含有する一般的なタンパク質が挙げられる。
【0043】
「抗体」という用語は、本明細書では最も広い意味で用いられ、所望の抗原結合活性を示す限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単一特異性抗体(例えば、単一の重鎖配列と単一の軽鎖配列から成る抗体(そのようなペアリングの多量体を含む))、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び抗体断片を含むがこれらに限定されない、様々な抗体構造を包含する。
【0044】
「宿主細胞タンパク質」 という用語は、本明細書では最も広い意味で使用され、外因性核酸(例えば、目的のポリペプチドを産生するため)の発現に使用される細胞によって産生される内因性タンパク質を包含する。一般に、目的のポリペプチドは、組換え細胞(例えば、そのポリペプチドに対する遺伝子を含む組換えプラスミドの挿入によって目的のポリペプチドを産生するように操作された哺乳動物又は細菌細胞株)を培養することによって産生される。使用される培養細胞は生きている生物であるため、目的の外因的に導入されたポリペプチドに加えて内因性タンパク質も産生する。したがって、細胞培養生産プロセスの終わりに、細胞培養物回収物は、細胞自体によって作製されたタンパク質(宿主細胞タンパク質又は「HCP」)と目的のポリペプチド(例えば、抗体)との複合混合物である。
【0045】
「残存宿主細胞タンパク質」という用語は、細胞培養収穫物が下流処理によって精製され、精製プロセス内プール中及び/又は生物製剤製造プロセス中(例えば、原薬及び/又は製剤中)を超えて残った後に持続する宿主細胞タンパク質を指すために使用される。
【0046】
「産物」、「タンパク質産物」及び「組換えタンパク質産物」という用語は互換的に使用され、組換え技術によって導入された外因性核酸を発現する宿主細胞又は組換え細胞によって産生される組換え産物を指す。そのような細胞によって発現される組換え産物は、組換えタンパク質(例えば、抗体)、組換えウイルス粒子又は組換えウイルスベクターであり得る。
【0047】
2.タンパク質を同定するための標的非依存方法
一態様では、本開示の主題は、例えば同定されたタンパク質が予め決定されていない場合、標的非依存アプローチを使用して、試料中の1つ以上のタンパク質を同定するための方法を提供する。特定の実施形態では、本開示は、液体クロマトグラフィー/質量分析からのデータの正規化を含む、試料中の1つ以上のタンパク質を同定するための標的非依存方法を提供する。
【0048】
特定の実施形態では、本開示は、抗体を含む試料中の1つ以上のタンパク質を同定するための標的非依存方法を提供する。特定の実施形態では、抗体を含む試料は、部分的に精製された試料である。特定の実施形態では、抗体を含む試料は、抗体限外濾過/透析濾過プール試料等の精製プロセス内プール試料である。特定の実施形態では、抗体を含む試料が原薬又は製剤試料である。
【0049】
例えば、限定されないが、試料、例えば組換えタンパク質産物を含む試料中の1つ以上のタンパク質を同定するための本明細書に開示される標的非依存方法は、
a)タンパク質含有試料を、該試料中のタンパク質を消化するのに十分な条件下でプロテアーゼと接触させることと、
b)消化されたタンパク質を含む試料を還元条件及び加熱条件下でSDCと接触させることと、
c)試料からSDC、未消化タンパク質、及び変性タンパク質を分離することと、
d)消化されたタンパク質を含む試料をクロマトグラフィー支持体に接触させて、未消化タンパク質を更に除去することと、
e)クロマトグラフィー支持体を移動相と接触させ、溶離液を収集することと、
f)例えばデータ依存型取得(DDA)モードで、LC-MS/MSを使用して溶離液を分析して、方法検出限界(LOD)レベル以上で提示される試料中の1つ以上のタンパク質を同定することと
を含み得る。
【0050】
LC-MS/MS分析の前に未消化タンパク質をネイティブ消化プロセスから効果的に除去すると、未消化タンパク質を除去しないままにしておくと、カラム詰まりを引き起こし、LCカラムの寿命を低下させる可能性があるため、分析のロバスト性を改善することができる。本開示の主題は、消化されたタンパク質を含む試料をクロマトグラフィー支持体に接触させる工程が、ペプチドからのより効果的なタンパク質除去を可能にし、したがってLC-MS分析のロバスト性の向上を可能にするという発見に少なくとも部分的に基づく。したがって、特定の実施形態では、本開示の方法は、消化されたタンパク質を含む試料をクロマトグラフィー支持体に接触させて、未消化タンパク質を除去する工程を含む。特定の実施形態では、クロマトグラフィー支持体は、帯電表面ハイブリッド支持体である。特定の実施形態では、クロマトグラフィー支持体は、SPE支持体である。
【0051】
しかしながら、ネイティブ消化戦略は、mAb産物等の組換えポリペプチド産物に関連するタンパク質、例えばHCPを見逃す可能性があり、したがって元のタンパク質組成物、例えばmAb製剤組成物中に存在するが、沈殿中に除去される。本開示の主題は、SDC添加が、例えば、組換えポリペプチド、例えばmAb産物に関連するものを含む低存在量HCPについて、本明細書に記載の方法の検出感度を向上させるという発見に少なくとも部分的に基づく。いかなる理論にも従うことなく、SDC添加による改良されたペプチド、例えばHCPペプチドの同定は、タンパク質、例えばHCPと、最終製剤中に存在する残留タンパク質、例えばHCPに寄与し得るmAb産物等の組換えポリペプチド産物との間の強い相互作用を破壊するSDCの能力によって説明され得る。特定の実施形態では、本開示の方法は、消化されたタンパク質産物を含む試料を還元及び加熱条件下でSDCと接触させる工程を含む。
図2Cに示すように、還元及び加熱条件下で、消化されたタンパク質産物を含む試料をSDCと接触させることを含む方法は、還元前のSDCの添加と比較して低レベルのHCPの同定を増加させた。理論に束縛されるものではないが、この改善は、還元及び加熱条件下でSDCを添加すると天然の消化条件が維持されるが、還元前にSDCを添加すると「ネイティブ消化が「変性」消化になるためであり得る。変性消化は、元のネイティブ消化条件と比較して、mAbの消化を増加させ、HCP同定を減少させることができる。特定の実施形態では、SDCは約0.9%w/vである。
【0052】
特定の実施形態では、本開示の方法は、酵素消化のための特に適切な酵素対タンパク質比、例えばプロテアーゼ対タンパク質産物比に関し、タンパク質は、分析される試料中の組換えタンパク質産物、例えばmAb生成物の濃度を指す。例えば、特定の実施形態では、特定の酵素対タンパク質比を使用して、消化のための全体的な試料体積を減少させることができる。特定の実施形態では、消化物中の酵素対タンパク質のw/w比は、約1:200である。特定の実施形態では、消化物中の酵素対タンパク質のw/w比は、約1:400である。特定の実施形態では、試料中の酵素対タンパク質のw/w比は、約1:800である。特定の実施形態では、試料中の酵素対タンパク質のw/w比は、約1:4000である。特定の実施形態では、試料中の酵素対タンパク質のw/w比は、約1:2000である。特定の実施形態では、試料中の酵素対タンパク質のw/w比は、約1:200~約1:4000である。特定の実施形態では、酵素は、プロテアーゼである。特定の実施形態では、プロテアーゼは、トリプシンである。
【0053】
特定の実施形態では、消化されたタンパク質は、試料中の組換えタンパク質産物の2.5g/L~25g/Lの範囲の濃度に希釈される。特定の実施形態では、タンパク質産物を、2.5g/Lの濃度に希釈する。特定の実施形態では、タンパク質産物を、5g/Lの濃度に希釈する。特定の実施形態では、タンパク質産物を、10g/Lの濃度に希釈する。特定の実施形態では、タンパク質産物を、25g/Lの濃度に希釈する。
【0054】
特定の実施形態では、本開示の方法は、酵素消化のための酵素対タンパク質比、例えばプロテアーゼ対タンパク質産物比が、消化時の組換えタンパク質産物濃度に関連することを提供する。特定の実施形態では、対応するトリプシン対タンパク質比での消化時の異なるタンパク質産物濃度は、感度の増加を提供する。特定の実施形態では、試料中の酵素対タンパク質のw/w比は約1:200であり、消化されたタンパク質産物は2.5g/Lの濃度に希釈される。特定の実施形態では、試料中の酵素対タンパク質のw/w比は約1:400であり、タンパク質産物は5g/Lの濃度に希釈される。特定の実施形態では、試料中の酵素対タンパク質のw/w比は約1:800であり、タンパク質産物は10g/Lの濃度に希釈される。特定の実施形態では、試料中の酵素対タンパク質のw/w比は約1:2000であり、タンパク質産物は25g/Lの濃度に希釈される。
【0055】
特定の実施形態では、ここに開示される主題は、タンパク質を約2~約4時間消化するのに十分な条件下でタンパク質含有試料をプロテアーゼと接触させることを含む、試料中の1つ以上のタンパク質を同定するための標的非依存方法を提供する。特定の実施形態では、タンパク質含有試料を、タンパク質を消化するのに十分な条件下でプロテアーゼと約2時間接触させる。特定の実施形態では、タンパク質含有試料を、タンパク質を消化するのに十分な条件下でプロテアーゼと約3時間接触させる。特定の実施形態では、タンパク質含有試料を、タンパク質を消化するのに十分な条件下でプロテアーゼと約4時間接触させる。
【0056】
特定の実施形態では、本開示の主題は、1つ以上のタンパク質を同定するための標的非依存方法であって、約0.1百万分率(ppm)の検出限界(LOD)を有する方法を提供する。特定の実施形態では、本方法は、約0.2 ppmのLODを有する。特定の実施形態では、本方法は、約0.5ppmのLODを有する。特定の実施形態では、本方法は、約1ppmのLODを有する。特定の実施形態では、本方法は、約5ppmのLODを有する。
【0057】
3.タンパク質を定量するための標的化方法
別の態様では、本開示の主題は、試料中の1つ以上の標的化タンパク質を同定及び定量するための方法を提供する。特定の実施形態では、1つ以上の標的化タンパク質の定量は、1つ以上の標的化タンパク質のppmレベルを決定することを含む。
【0058】
特定の実施形態では、試料中の1つ以上の標的化タンパク質は、宿主細胞酵素等の宿主細胞タンパク質である。特定の実施形態では、試料中の1つ以上の標的化タンパク質は、加水分解酵素である。
【0059】
特定の実施形態では、標的化タンパク質は、以下からなる群から選択される:N-アシルスフィンゴシンアミドヒドロラーゼ1(酸性セラミダーゼ)(ASAH1);パルミトイル-タンパク質チオエステラーゼ1(PPT1);スフィンゴミエリンホスホジエステラーゼ(SMPD1);リソソームホスホリパーゼA2(LPLA2);リポタンパク質リパーゼ(LPL);リパーゼA(LIPA);推定ホスホリパーゼB様2(PLBL2);及びホスホリパーゼDファミリーメンバー3(PLD3)。
【0060】
特定の実施形態では、標的化タンパク質は、以下からなる群から選択される:ゲルゾリン;ラクトトランスフェリン;セロトランスフェリン(アポトランスフェリン);血清アルブミン;カタラーゼ;ヒスチジル-tRNAシンテターゼ;抗トロンビン-III;微小管結合タンパク質タウ;クレアチンキナーゼM型;低分子ユビキチン様修飾因子1(SUMO-1);アネキシンA5;NAD(P)Hデヒドロゲナーゼ(キノン)1;炭酸脱水酵素2;炭酸脱水酵素1;リボシルジヒドロニコチンアミドデヒドロゲナーゼ;グルタチオンS-トランスフェラーゼA1(GST A1);グルタチオンS-トランスフェラーゼP(GST-P);C反応性タンパク質;ユビキチン結合酵素E2E1(UbcH6);BH3相互作用ドメイン死アゴニスト(BID);ペルオキシレドキシン1;GTPアーゼHRas(Rasタンパク質);レチノール結合タンパク質;ユビキチン結合酵素E2 C(UbcH10);ペプチジル-プロリルシス-トランスイソメラーゼA;ユビキチン結合酵素E2I(UbcH9);腫瘍壊死因子(TNF-α);ミオグロビンC;インターフェロンガンマ(IFN-ガンマ);レプチン;シトクロムb5;ヘモグロビンベータ鎖;スーパーオキシドジスムターゼ(Cu-Zn);ガンマシヌクレイン;ヘモグロビンアルファ鎖;脂肪酸結合タンパク質;リゾチームC;アルファ-ラクトアルブミン;チオレドキシン;血小板由来増殖因子B鎖;ベータ-2-ミクログロブリン;シトクロムc(アポシトクロムc);ユビキチン;ネジリン(Nedd8);補体C5(補体C5a);インターロイキン-8;インスリン様成長因子II;及び表皮成長因子。
【0061】
特定の実施形態では、本開示は、抗体を含む試料中の1つ以上の標的タンパク質を同定及び定量するための方法を提供する。特定の実施形態では、抗体を含む試料は、部分的に精製された試料である。特定の実施形態では、抗体を含む試料は、抗体限外濾過/透析濾過プール試料等の精製プロセス内プール試料である。特定の実施形態では、抗体を含む試料が原薬又は製剤試料である。
【0062】
特定の実施形態では、本開示は、試料、例えばタンパク質産物を含む試料中の1つ以上の標的タンパク質を同定及び定量するための方法であって、
a)試料中に存在する1つ以上の標的タンパク質を消化するのに十分な条件下で、試料をプロテアーゼと接触させることと、
b)消化された標的タンパク質を含む試料を還元条件及び加熱条件下でSDCと接触させることと、
c)試料からSDC、未消化タンパク質、及び変性タンパク質を分離することと、
d)消化された標的タンパク質を含む試料をクロマトグラフィー支持体に接触させて、未消化タンパク質を更に除去することと、
e)クロマトグラフィー支持体を移動相と接触させ、溶離液を収集することと、
f)LC-MS/MSを使用して、例えば並行反応モニタリング(PRM)モードで溶離液を分析し、そのような分析の結果を1つ以上の標的タンパク質の複数の標準ppmレベルに関連するシグナルと比較し、試料中の1つ以上の標的タンパク質のppmレベルを同定及び定量することと
を含む。
【0063】
特定の実施形態では、本開示の方法は、1つ以上の消化された標的タンパク質を含む試料を、クロマトグラフィー支持体に接触させて、未消化タンパク質を除去する工程を含む。特定の実施形態では、クロマトグラフィー支持体は、帯電表面ハイブリッド支持体である。特定の実施形態では、クロマトグラフィー支持体は、SPE支持体である。
【0064】
特定の実施形態では、1つ以上の消化された標的タンパク質を含む試料を還元及び加熱条件下でSDCと接触させる工程を含む本開示の方法が実施される。特定の実施形態では、SDCは約0.9%w/vである。
【0065】
特定の実施形態では、本開示の方法は、酵素消化及び全体的な感度を改善するための所定の酵素対タンパク質比、例えばプロテアーゼ対タンパク質産物比に関する。例えば、特定の実施形態では、特定の酵素対タンパク質比を使用して、消化のための全体的な試料体積を減少させることができる。特定の実施形態では、試料中の酵素対タンパク質のw/w比は、約1:200である。特定の実施形態では、試料中の酵素対タンパク質のw/w比は、約1:400である。特定の実施形態では、試料中の酵素対タンパク質のw/w比は、約1:800である。特定の実施形態では、試料中の酵素対タンパク質のw/w比は、約1:4000である。特定の実施形態では、試料中の酵素対タンパク質のw/w比は、約1:2000である。特定の実施形態では、酵素は、プロテアーゼである。特定の実施形態では、プロテアーゼは、トリプシンである。
【0066】
特定の実施形態では、本開示の方法は、酵素消化のための酵素対タンパク質比、例えばプロテアーゼ対タンパク質産物比が、消化時の組換えタンパク質産物濃度に関連することを提供する。特定の実施形態では、対応するトリプシン対タンパク質比での消化時の異なるタンパク質産物濃度は、感度の増加を提供する。特定の実施形態では、試料中の酵素対タンパク質のw/w比は約1:200であり、タンパク質産物は2.5g/Lの濃度に希釈される。特定の実施形態では、試料中の酵素対タンパク質のw/w比は約1:400であり、タンパク質産物は5g/Lの濃度に希釈される。特定の実施形態では、試料中の酵素対タンパク質のw/w比は約1:800であり、タンパク質産物は10g/Lの濃度に希釈される。特定の実施形態では、試料中の酵素対タンパク質のw/w比は約1:2000であり、タンパク質産物は25g/Lの濃度に希釈される。
【0067】
特定の実施形態では、本開示の主題は、タンパク質を約2~約4時間消化するのに十分な条件下で組換えタンパク質含有試料をプロテアーゼと接触させることを含む、試料中の1つ以上の標的タンパク質のppmレベルを同定及び定量するための方法を提供する。特定の実施形態では、タンパク質含有試料を、タンパク質を消化するのに十分な条件下でプロテアーゼと約2時間接触させる。特定の実施形態では、タンパク質含有試料を、タンパク質を消化するのに十分な条件下でプロテアーゼと約3時間接触させる。特定の実施形態では、タンパク質含有試料を、タンパク質を消化するのに十分な条件下でプロテアーゼと約4時間接触させる。
【0068】
特定の実施形態では、ここに開示される主題は、1つ以上の標的タンパク質のppmレベルを同定及び定量するための方法であって、約0.01ppmの定量限界(LOQ)を有する方法を提供する。特定の実施形態では、再懸濁された溶離液の画分の分析は、試料中の標的タンパク質のppmレベルを決定するためにPRMモードでLC-MS/MSを使用することを含むことができ、既知の標的タンパク質の複数の標準ppmレベルに関連するシグナルを決定し、それらのシグナルを試料中の既知の標的タンパク質について検出されたシグナルと比較して、それにより0.01ppmの定量感度を達成することを含むことができる。
【0069】
4.試料負荷量を変更することによる感度の調節
別の態様において、本開示の主題は、本明細書に記載の同定及び定量戦略の感度を調節するための方法を提供する。特定の実施形態では、そのような感受性の調節は、本開示の方法に関連して消化される試料中の特定の量のタンパク質、例えば組換えタンパク質産物の量を選択することによって達成することができる。例えば、限定されないが、LC-MS/MS分析のために注入される試料中に存在する組換えタンパク質産物の量は、出発物質の量に基づくことができ、例えば、30μgの試料負荷量は、2mgの出発物質消化物からの100μLの再懸濁消化物から1.5μLを負荷することを意味する。
【0070】
特定の実施形態では、本開示は、約0.1ppm~約5ppmの所定の感度で試料中の1つ以上のタンパク質を同定するための標的非依存方法を提供する。特定の実施形態では、本開示の所定の感度で試料中の1つ以上のタンパク質を同定する標的非依存的方法は、
a)タンパク質を消化するのに十分な条件下で、予め選択されたタンパク質産物濃度のタンパク質含有試料をプロテアーゼと接触させること、
b)消化されたタンパク質を含む試料を還元条件及び加熱条件下でSDCと接触させることと、
c)試料からSDC、未消化タンパク質、及び変性タンパク質を分離することと、
d)消化されたタンパク質を含む試料をクロマトグラフィー支持体に接触させて、未消化タンパク質を更に除去することと、
e)クロマトグラフィー支持体を移動相と接触させ、溶離液を収集することと、
f)LC-MS/MSを、例えばDDAモードで使用して溶離液を分析して、試料中の1つ以上のタンパク質を同定することと
を含む。
【0071】
特定の実施形態では、本開示は、液体クロマトグラフィー/質量分析を介して所定量の組換えタンパク質産物を有する再懸濁された溶離液の画分を分析して、試料中のタンパク質の濃度を決定することにより、約0.1ppm~約5ppmの所定の感度で試料中のタンパク質を同定するための標的非依存方法を提供する。上記のように、LC-MS/MS分析のために注入された試料中に存在する組換えタンパク質産物の量は、出発物質の量に基づいて決定することができ、例えば、30μgの試料負荷量は、2mgの出発物質消化物から100μLの再懸濁消化物から1.5μLを負荷することを意味する。特定の実施形態では、再懸濁された溶離液の画分は、約6μg、約30μg、約60μg、約150μg、又は約300μgのタンパク質産物を含有する。特定の実施形態では、再懸濁された溶離液の画分は、約6μgのタンパク質産物を含有する。特定の実施形態では、再懸濁された溶離液の画分は、約30μgのタンパク質産物を含有する。特定の実施形態では、再懸濁された溶離液の画分は、約60μgのタンパク質産物を含有する。特定の実施形態では、再懸濁された溶離液の画分は、約150μgのタンパク質産物を含有する。特定の実施形態では、再懸濁された溶離液の画分は、約300μgのタンパク質産物を含有する。
【0072】
特定の実施形態では、本開示の主題は、約2~約4時間、タンパク質を消化するのに十分な条件下で、タンパク質含有試料をプロテアーゼと接触させることを含む、約0.1ppm~約5ppmの所定の感度で試料中の1つ以上のタンパク質を同定するための標的非依存方法を提供する。特定の実施形態では、タンパク質含有試料を、タンパク質を消化するのに十分な条件下でプロテアーゼと約2時間接触させる。特定の実施形態では、タンパク質含有試料を、タンパク質を消化するのに十分な条件下でプロテアーゼと約3時間接触させる。特定の実施形態では、タンパク質含有試料を、タンパク質を消化するのに十分な条件下でプロテアーゼと約4時間接触させる。
【0073】
5.例示的な非限定的実施形態
A.特定の実施形態では、本開示は、タンパク質産物を含む試料中の1つ以上のタンパク質を同定するための方法であって、
a)試料中に存在するタンパク質を消化するのに十分な条件下で試料をプロテアーゼと接触させることと、
b)消化されたタンパク質を含む試料を還元条件及び加熱条件下でデオキシコール酸ナトリウム(SDC)と接触させることと、
c)消化されたタンパク質を含む試料をクロマトグラフィー支持体に接触させて、未消化タンパク質を除去することと、
d)クロマトグラフィー支持体を移動相と接触させ、溶離液を収集することと、
e)LC-MS/MSを使用して溶離液を分析して、試料中の1つ以上のタンパク質を同定することと
を含む方法に関する。
【0074】
A1.特定の実施形態では、本開示は、LC-MS/MSがデータ依存型取得(DDA)モードで実行される、Aの方法に関する。
【0075】
A2.特定の実施形態では、本開示は、タンパク質が宿主細胞タンパク質である、Aの方法に関する。
【0076】
A3.特定の実施形態では、本開示は、宿主細胞タンパク質が酵素である、A2の方法に関する。
【0077】
A4.特定の実施形態では、本開示は、酵素が加水分解酵素である、A3の方法に関する。
【0078】
A5.特定の実施形態では、本開示は、プロテアーゼがトリプシンである、Aの方法に関する。
【0079】
A6.特定の実施形態では、本開示は、試料中のプロテアーゼ対タンパク質産物のw/w比が約1:2000、約1:800、約1:400又は約1:200である、Aの方法に関する。
【0080】
A7.特定の実施形態では、本開示は、消化されたタンパク質試料を約1%w/vでSDCと接触させる、Aの方法に関する。
【0081】
A8.特定の実施形態では、本開示は、クロマトグラフィー支持体が固相抽出支持体である、Aの方法に関する。
【0082】
A9.特定の実施形態では、本開示は、クロマトグラフィー支持体が荷電表面ハイブリッド支持体である、Aの方法に関する。
【0083】
A10.特定の実施形態では、本開示は、約0.1 ppm~約5 ppmの検出限界(LOD)を有する、Aの方法に関する。
【0084】
A11.特定の実施形態では、本開示は、タンパク質産物が抗体である、Aの方法に関する。
【0085】
A12.特定の実施形態では、本開示は、タンパク質産物を含む試料が、部分的又は完全に精製された試料である、Aの方法に関する。
【0086】
A13.特定の実施形態では、本開示は、部分的又は完全に精製された試料が、精製プロセス内プール試料である、A12の方法に関する。
【0087】
A14.特定の実施形態では、本開示は、プロセス内プール試料は、限外濾過/透析濾過プール試料である、A13の方法に関する。
【0088】
A15.特定の実施形態では、本開示は、プロセス内プール試料が原薬試料である、A13の方法に関する。
【0089】
A16.特定の実施形態では、本開示は、プロセス内プール試料が製剤試料である、請求項A13に記載の方法に関する。
【0090】
A17.特定の実施形態では、本開示は、試料中のタンパク質産物の負荷量が約6μg~約300μgである、Aの方法に関する。
【0091】
A18.特定の実施形態では、本開示は、試料をプロテアーゼと接触させる時間が約2~約4時間である、Aの方法に関する。
【0092】
A19.特定の実施形態では、本開示は、試料をプロテアーゼと接触させるための温度が約37℃である、Aの方法に関する。
【0093】
A20.特定の実施形態では、本開示は、消化されたタンパク質を含む試料をSDCと接触させるための温度が約90℃である、Aの方法に関する。
【0094】
A21.特定の実施形態では、本開示は、消化されたタンパク質を含む試料をSDCと接触させる時間が約10分間である、Aの方法に関する。
【0095】
B.特定の実施形態では、本開示は、タンパク質産物を含む試料中の1つ以上の標的タンパク質のppmレベルを決定するための方法であって、
a)1つ以上の標的タンパク質を消化するのに十分な条件下で、試料をプロテアーゼと接触させることと、
b)1つ以上の消化された標的タンパク質を含む試料を、還元条件及び加熱条件下でSDCと接触させることと、
c)1つ以上の消化された標的タンパク質を含む試料をクロマトグラフィー支持体に接触させて、未消化タンパク質を除去することと、
d)クロマトグラフィー支持体を移動相と接触させ、溶離液を収集することと、
e)LC-MS/MSを使用して溶離液を分析して、試料中の1つ以上の標的タンパク質を同定及び定量することであって、当該分析が、1つ以上の標的タンパク質の複数の標準ppmレベルに関連するシグナルを決定することと、それらのシグナルを試料中の1つ以上の標的タンパク質について検出されたシグナルと比較することとを含む、LC-MS/MSを使用して溶離液を分析して、試料中の1つ以上の標的タンパク質を同定及び定量することと
を含む、方法に関する。
【0096】
B1.特定の実施形態では、本開示は、LC-MS/MSが並行反応モニタリング(PRM)モードで実行される、Bの方法に関する。
【0097】
B2.特定の実施形態では、本開示は、1つ以上の標的タンパク質が宿主細胞タンパク質である、Bの方法に関する。
【0098】
B3.特定の実施形態では、本開示は、宿主細胞タンパク質が酵素である、B2の方法に関する。
【0099】
B4.特定の実施形態では、本開示は、酵素が加水分解酵素である、B3の方法に関する。
【0100】
B5.特定の実施形態では、本開示は、プロテアーゼがトリプシンである、Bの方法に関する。
【0101】
B6.試料中のプロテアーゼ対タンパク質産物のw/w比が、約1:2000、約1:800、約1:400、又は約1:200である、Bに記載の方法。
【0102】
B7.特定の実施形態では、本開示は、1つ以上の消化された標的タンパク質試料を約0.9%w/vでSDCと接触させる、Bの方法に関する。
【0103】
B8.特定の実施形態では、本開示は、クロマトグラフィー支持体が固相抽出支持体である、Bの方法に関する。
【0104】
B9.特定の実施形態では、本開示は、クロマトグラフィー支持体が荷電表面ハイブリッド支持体である、Bの方法に関する。
【0105】
B10.特定の実施形態では、本開示は、約0.01ppmのLOQを有する、Bの方法に関する。
【0106】
B11.特定の実施形態では、本開示は、LC-MS/MS分析からのデータの正規化を更に含む、Bの方法に関する。
【0107】
B12.特定の実施形態では、本開示は、タンパク質産物が抗体である、Bの方法に関する。
【0108】
B13.特定の実施形態では、本開示は、タンパク質産物を含む試料が、部分的又は完全に精製された試料である、Bの方法に関する。
【0109】
B14.特定の実施形態では、本開示は、部分的又は完全に精製された試料が、精製プロセス内プール試料である、B13の方法に関する。
【0110】
B15.特定の実施形態では、本開示は、プロセス内プール試料は、限外濾過/透析濾過プール試料である、B14の方法に関する。
【0111】
B16.特定の実施形態では、本開示は、プロセス内プール試料が原薬試料である、B14の方法に関する。
【0112】
B17.特定の実施形態では、本開示は、試料中のタンパク質産物の負荷量が約6μg~約300μgである、Bの方法に関する。
【0113】
B18.特定の実施形態では、本開示は、試料をプロテアーゼと接触させる時間が約2~約4時間である、Bの方法に関する。
【0114】
B19.特定の実施形態では、本開示は、試料をプロテアーゼと接触させるための温度が約37℃である、Bの方法に関する。
【0115】
B20.特定の実施形態では、本開示は、消化されたタンパク質を含む試料をSDCと接触させるための温度が約90℃である、Bの方法に関する。
【0116】
B21.特定の実施形態では、本開示は、消化されたタンパク質を含む試料をSDCと接触させる時間が約10分間である、Bの方法に関する。
【0117】
C.特定の実施形態では、本開示は、タンパク質産物の試料負荷量を調整して所望の感度を達成することによって、約0.1ppm~約5ppmの所定の感度でタンパク質産物を含む試料中の1つ以上のタンパク質を同定するための方法であって、
a)タンパク質を含む試料を、試料中に存在するタンパク質を消化するのに十分な条件下でプロテアーゼと接触させることと、
b)消化されたタンパク質を含む試料を還元条件及び加熱条件下でSDCと接触させることと、
c)消化されたタンパク質を含む試料をクロマトグラフィー支持体に接触させて、未消化タンパク質を更に除去することと、
d)クロマトグラフィー支持体を移動相と接触させ、溶離液を収集することと、
e)溶離液を再懸濁することと、
f)LC-MS/MSを使用して再懸濁された溶離液の画分を分析して、試料中の1つ以上のタンパク質を同定することと
を含む、方法に関する。
【0118】
C1.特定の実施形態では、本開示は、LC-MS/MSがDDAモードで行われる、Cの方法に関する。
【0119】
C2.特定の実施形態では、本開示は、Cの方法に関し、その中で、再懸濁された溶離液の画分は、約6μg、約30μg、約60μg、約150μg又は約300μgのタンパク質産物を含有する。
【0120】
C3.特定の実施形態では、本開示は、タンパク質が宿主細胞タンパク質である、Cの方法に関する。
【0121】
C4.特定の実施形態では、本開示は、宿主細胞タンパク質が酵素である、C3の方法に関する。
【0122】
C5.特定の実施形態では、本開示は、酵素が加水分解酵素である、C4の方法に関する。
【0123】
C6.プロテアーゼが、トリプシンである、Cに記載の方法
【0124】
C7.特定の実施形態では、本開示は、試料中のプロテアーゼ対タンパク質産物のw/w比が約1:2000、約1:800、約1:400又は約1:200である、Cの方法に関する。
【0125】
C8.特定の実施形態では、本開示は、消化されたタンパク質試料又は消化された標的タンパク質試料を、約0.9%w/vでSDCと接触させる、Cの方法に関する。
【0126】
C9.特定の実施形態では、本開示は、クロマトグラフィー支持体が固相抽出支持体である、Cの方法に関する。
【0127】
C10.特定の実施形態では、本開示は、クロマトグラフィー支持体が荷電表面ハイブリッド支持体である、Cの方法に関する。
【0128】
C11.特定の実施形態では、本開示は、液体クロマトグラフィー/質量分析からのデータの正規化を含む、Cの方法に関する。
【0129】
C12.特定の実施形態では、本開示は、タンパク質産物が抗体である、Cの方法に関する。
【0130】
C13.特定の実施形態では、本開示は、タンパク質産物を含む試料が、部分的又は完全に精製された試料である、Cの方法に関する。
【0131】
C14.特定の実施形態では、本開示は、部分的又は完全に精製された試料が、精製プロセス内プール試料である、C13の方法に関する。
【0132】
C15.特定の実施形態では、本開示は、プロセス内プール試料は、抗体限外濾過/透析濾過プール試料である、C14の方法に関する。
【0133】
C16.特定の実施形態では、本開示は、プロセス内プール試料が原薬試料である、C14の方法に関する。
【0134】
C17.特定の実施形態では、本開示は、プロセス内プール試料が製剤試料である、C14の方法に関する。
【0135】
C18.特定の実施形態では、本開示は、試料をプロテアーゼと接触させる時間が約2~約4時間である、Cの方法に関する。
【0136】
C19.特定の実施形態では、本開示は、試料をプロテアーゼと接触させるための温度が約37℃である、Cの方法に関する。
【0137】
C20.特定の実施形態では、本開示は、消化されたタンパク質を含む試料をSDCと接触させるための温度が約90℃である、Cの方法に関する。
【0138】
C21.特定の実施形態では、本開示は、消化されたタンパク質を含む試料をSDCと接触させる時間が約10分で間ある、Cの方法に関する。
【実施例】
【0139】
材料及び方法
材料
全長mAb-1(IgG1、全長)、mAb-2(IgG1 Fab)及びmAb-3(IgG1、全長)製剤組成物を社内で製造した。組換えヒトリポタンパク質リパーゼ(LPL)は、R&D Systems(ミネソタ州ミネアポリス)から購入した。他の7つの組換えヒドロラーゼはいずれも、C末端6xHis-又は二重6xHis-Flagエピトープを精製タグとして各ヒドロラーゼに融合することによって産生された。発現コンストラクトをDNA配列決定によって検証し、CHO細胞に一過性にトランスフェクトした。トランスフェクションの10日後に組換え酵素を回収し、Ni-NTA、サイズ排除及び抗Hisアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。7つの組換えヒドロラーゼを組換えLPLと組み合わせて、ヒドロラーゼ標準(STD)を生成した。これらの酵素の社内で製造されたmAb-1製剤組成物(「mAb-1中の内因性レベル」)における、本明細書に記載の任意の添加前の、名称、分子量(MW)、組換え標準の純度、及び百万分率(ppm)で測定されたレベルを表1に列挙する。Universal Proteomic Standard 1(UPS-1)を購入し(Sigma-Aldrich)、これは、既知の等モル濃度及び6.3~82.9kDaの範囲のMWの48の組換えタンパク質の混合物を含有する。ヒト化IgG1κモノクローナル抗体標準RM 8671は、米国国立標準技術研究所(NIST)から購入した。組換えウシトリプシンは、Roche製であった。全ての試薬原液をLCMSグレードの水中で調製した。
【表1】
* 組換えヒトLPLをR&D Systems(ミネソタ州ミネアポリス)から購入し、製造業者によって提供された分析証明書によると約95%純粋であった。他の7つの組換えヒドロラーゼはCHO由来タンパク質であり、それらの純度をサイズ排除クロマトグラフィーによって評価した。
*PPT1、SMPD1、LPLA1、LipA及びPLD3は、mAb-1製剤中に検出されなかった(ND)。
【0140】
機器
試料調製時には、37℃保持可能な水浴(VWR Scientific、Model 1235又は同等品)、90℃保持可能な乾式浴(USA Scientific、Model BSH 200又は同等品)、高速・温調可能な遠心分離機(Eppendorf、Model 5424 R又は同等品)を用いた。
【0141】
HCPモデル試料の調製
製剤中の低レベルHCPのモデルは、ヒドロラーゼSTD又はUPS-1タンパク質標準溶液のいずれかを定義されたppmレベルで特異的mAbにスパイクすることによって調製した(ppmは抗体の重量に対する各タンパク質の重量を表す)。
【0142】
ネイティブ消化
抗体試料の2mgアリコートを水及び1M Tris/HCl緩衝液(pH8.0)で2.5、5、10及び25g/Lの範囲の所望のタンパク質濃度に希釈し、それぞれ37℃で1:200、1:400、1:800及び1:2000の酵素対タンパク質比(w/w)でウシトリプシンで消化し、次いで0.9%w/vデオキシコール酸ナトリウム(SDC)の存在下で11mM TCEP(Thermo Scientific、Bondbreaker(商標)TCEP Solution、77720年)で2時間還元し、90℃乾燥浴で10分間加熱した。試料を室温に冷却し、次いで、7%ギ酸(FA)でpH<2に酸性化して消化をクエンチし、SDCを沈殿させる。SDC沈殿物並びに未消化及び変性タンパク質を、20,000g及び4℃での30分間の遠心分離工程によってペレット化した。遠心分離工程からの上清アリコートを新しい1.5mL低結合微量遠心管(Eppendorf(商標)LoBind 022431081、又は同等品)に移し、20,000g及び4℃で更に10分間遠心分離した。最終上清をOasis HLB μElution Plateによって洗浄し、20μLの50%アセトニトリル(ACN)で溶出し、乾燥させ、水中0.1%ギ酸100μLに再懸濁した。各処理試料を300μLコニカルバイアル(Waters QuanRecovery with MaxPeak、186009186、又は同等品)に移した。LC-MS/MS分析のために注入された試料は、出発物質の量に基づいており、例えば、30μgの試料負荷量は、2mgの出発物質からの100μLの再懸濁消化物から1.5μLを負荷することを意味することに留意されたい。
【0143】
ナノフローRPLC-MS/MS分析
LC-MS/MS分析を、Orbitrap Exploris(商標)480質量分析計(Thermo Fisher Scientific)に連結されたUltiMate 3000 RSLCnanoシステムで行った。CoAnn Technologies(ワシントン州リッチランド)からの特注のCSH C18(130Å、1.7μm、75μm×50cm)カラムを用いてペプチドを分離した。移動相は、水中0.1%FA(移動相A、pH約2.7)及びACN中0.1%FA(移動相B)であった。全ての分離勾配を流速250nL/分及びカラム温度60℃で実行し、試料をオートサンプラー内で6℃に維持した。消化物に0%Bを5μl/分でオンラインWaters NanoEase M/Z Symmetry C18カラム、100Å、5μm、180μm×2cmトラップカラムに負荷し、0%移動相Bで10分間洗浄した後、172分LC勾配(250nL/分):1分で1%から5%B、6分で5%から8%B、42分で8%から15%B、81分で15%から24%B、31分で24%から32%B、5分で32%から40%B、5分で40%から50%、1分で50%から1%Bによって分離した。各LC勾配の後、33分間の1%Bナノカラム平衡化も行う。質量分析計を、12個の最も強いイオンについてデータ依存モードで操作した。60,000の分解能での各フルMSスキャンについて30%の正規化された衝突エネルギー(NCE)、300%の正規化された自動利得制御(AGC)標的、100msの最大注入時間、m/z300~1500、及び正規化されたAGC標的の100%の100msの最大注入時間での15,000の分解能でのMS/MS事象による高エネルギー衝突解離(HCD)フラグメンテーションにペプチドを供した。
【0144】
HCP同定のためのデータ分析
HCP同定のために、LC-MS/MSデータファイルを、関連する生物治療製品の配列、並びにUniprot.orgからのCHO Canonical及びIsoformデータベース(35,256エントリ)、並びに他のヒト汚染物質に連結された全てのスパイクされたタンパク質標準の配列を含むデータベースに対して、Thermo Proteome Discovererソフトウェア(バージョン1.4)をSEQUEST検索と共に使用して検索した。Uniprot.org(2021年2月版;17,068エントリ)からのマウス(mus musculus)Swiss-Protデータベースに連結されたNIST mAb配列を含むデータベースを、NIST mAbにおけるHCP分析に使用した。タンパク質は、陽性同定のために2つの固有のペプチド(デコイデータベース検索で評価したペプチドの偽発見率5%)を有する必要がある。
【0145】
実施例1:1D LC-MS/MSワークフローに基づく高感度でロバストなネイティブ消化の開発
典型的なネイティブ消化ベースのワークフローは、以下の4つの重要な工程を含む:1)非変性条件下でのトリプシン消化、2)還元及び加熱、3)遠心分離による未消化抗体(主にFab及びFcドメイン断片)の除去、並びに4)LC-MS/MS分析のための上清の除去。
【0146】
この研究の下での複数の研究を可能にするために、特に明記しない限り、製剤mAb-1にスパイクされた8つの精製組換えヒドロラーゼタンパク質を使用して、トリプシン消化条件及び高感度でロバストなHCPの同定及び定量に影響を及ぼす他の試料調製工程のパラメータを評価した。これらのタンパク質は異なるレベルの純度を有し、それらの一部は製剤にスパイクされる前に非常に低い内因性レベルで存在するため(表1「内因性レベル」)、スパイクした後のそれらの最終スパイクレベルは、それらが同じ標的レベルでスパイクされた場合でも異なり、8つのヒドロラーゼのうち5つのみが標的化スパイクレベル以上である。例えば、0.1ppmスパイク試料では、8つの加水分解酵素の実際のレベルは0.058~0.267ppmの範囲であり、8つのタンパク質のうち5つのみが目標の0.1ppmスパイクレベル以上である。
【0147】
実施例2:方法のロバスト性のためのオフラインSPEクリーンアップ
未消化mAbをネイティブ消化物から効果的に除去することは、分析のロバスト性を確実にするためにLC-MS/MS分析の前に重要である。LC-MS/MS分析から、20,000gでの2回の反復遠心分離後でさえ、未消化のmAbは依然として完全には除去されず、構築されたカラム圧力又はカラム性能の大幅な低下によって示されるように、カラム詰まり又はカラム寿命の短縮のいずれかを引き起こすことが観察された。分析のロバスト性を高め、試料中に残った未消化mAbを更に除去するために、改善された溶出条件でSPE工程を実施した。80%及び50% ACN溶出条件(n=2)の両方で溶出した試料は透明な溶液であった。しかしながら、ACN除去のための適切な体積まで試料を乾燥させた後、80%ACN溶出を有する試料について少量の沈殿物が観察され、50% ACN溶出試料は透明のままであった。一部の変性mAbは、遠心分離後に溶液中に残存していた可能性があり、80%ACNを含むSPEから溶出し、次いで、SpeedVacによってACNがほとんど除去された後に沈殿した。したがって、より低いレベルのACN(50%)を有する溶出条件をSPE浄化のために選択した。ほとんどのペプチドは通常25%未満のACNでRPカラムから溶出するので、この50%ACNレベルは所望の消化されたHCPペプチドを回収するのに十分であり、それでもなお比較的大きく疎水性の未消化mAbは依然としてSPEに保持され得る。
【0148】
図1に示されるように、全体として、更なるSPE浄化を伴う方法は、mAb-2における4つの異なるUFDFプール試料から一貫して、SPEを伴わないものと同等の数のタンパク質及びわずかにより多くのペプチドを同定した。最も重要なことに、追加のSPE浄化は、長いカラム寿命及び複数の試料負荷の後のより一貫したカラム圧力をもたらし、これらはロバストなアッセイにおける重要な特徴である。
【0149】
実施例3:低レベルHCPの検出感度を向上させるためのSDC付加
図2Aに示されるように、1ppmの7つのHCPでスパイクした全長mAb-1試料について、還元/加熱工程でのSDC(0.9%)の添加は、mAb-1における1ppmの5つでスパイクしたHCP(LPLA2、SMPD1、PPT1、PLD3及びLipA)及び3つの内因性HCP(LPL、PLBL2、ASAH1)について同定されたペプチド(16対11)及びタンパク質(5対3)の総数を増加させた。したがって、SDC添加をネイティブ消化プロトコルに対して実施した。SDCは、タンパク質沈殿のための同じ工程で除去することができる。0.1ppmの低レベル残留HCPを検出するために、SDC添加法の利点を更に評価した。SDC添加は、8スパイク加水分解酵素のペプチド同定を0.058から0.267 ppmのレベルで増加させ(
図2B)、0.1ppm未満でPS分解を引き起こすことが報告されており、したがって検出及び定量するための高感度方法を必要とする追加のタンパク質LPLA2を同定した(n=2)。表2は、SDC添加アプローチが、mAb-3において0.1~1.3ppmレベルでスパイクされたUPS-1タンパク質の全体的なペプチド同定を増加させたことを示す更なる実験を示し、これは、低レベルタンパク質同定のための方法ロバスト性を追加する。
【表2】
【0150】
SDC添加による改善されたHCP/ペプチド同定は、最終製剤中に存在する残留HCPに大きく寄与したHCPとmAbとの間の強い相互作用を破壊するSDCの能力によって説明できる可能性が高い。以前の研究は、どのようにネイティブ消化がmAbと関連し、したがって沈殿中に除去されるHCPを見逃すことができるかを強調しており、これはSDCあり及びなしの本結果によって更に確認された(
図2B)。さらに、SDC追加のタイミングは、低レベルHCPの識別に影響を及ぼし得る。例えば、5ppmの9つのタンパク質をスパイクしたmAb-2を用い、還元及び加熱工程中(「SDC_reduction1」及び「SDC_reduction2」)又は還元及び加熱前の消化物(「SDC_digest1」及び「SDC_digest2」)のいずれかにSDCを添加して、実験を行った。
図2Cに示すように、還元及び加熱条件下でのSDCの添加は、還元前のSDCの添加と比較して低レベルHCPの同定を増加させた。本発明者らの発見は、SDCがネイティブ消化条件下で低レベルHCPの回収を改善するのに驚くほど効果的な役割を果たすことを示している。
【0151】
実施例4:タンパク質濃度及びトリプシン比
トリプシン消化を増強するために、トリプシン対タンパク質比及び消化時間を評価することができる。以前の研究は、5g/Lタンパク質濃度で元のネイティブ消化プロトコルで使用されるトリプシン対タンパク質比1:400での一晩と比較した2時間の消化時間の利点を示した。分析フローLC-MS分析を最初に使用したとき、低レベル(0.1ppm以上)のHCPを検出するために大量の出発物質(約20mg)が必要であった。したがって、消化のための試料体積及び試料負荷量を減少させるために、トリプシン対タンパク質比を、2時間の消化時間で5g/Lの代わりに25g/Lのより高いタンパク質濃度で試験した。
図3は、異なるトリプシン対タンパク質比を有するmAb-1で同定された標的タンパク質(ヒドロラーゼ)のペプチドの数を示す図である。4つの標的タンパク質からのほとんどのペプチドは、トリプシン消化における25g/Lタンパク質濃度について1:2000のトリプシン対タンパク質比で得られた。0.1~1.3ppmのUPS-1スパイクmAb-1を用いた実験により、1:2000のトリプシン対タンパク質比が、25g/Lタンパク質濃度で1:400の比よりも1つ多い(35対34)UPS-1タンパク質及び60個多い(266対206)UPS-1ペプチドを同定したことも確認された。
【0152】
2時間の消化を伴うトリプシン対タンパク質比(25g/Lタンパク質濃度については1:2000比、5g/Lタンパク質濃度については1:400比)は、消化時のタンパク質濃度に関連するようである。仮説を試験するため、また広範囲の濃度を有する代表的な原薬又は製剤試料の予測可能な消化条件を確立するため、消化時の異なるタンパク質濃度(2.5g/L、5g/L、10g/L及び25g/L)とそれらの対応するトリプシン対タンパク質比(1:200、1:400、1:800及び1:2000の比)との組み合わせ、及びHCP同定に対するそれらの影響を評価した。
【0153】
各消化条件下で約1ppmの8つの組換えヒドロラーゼ(実際のレベルは0.584~1.122 ppmの範囲)でスパイクした試料についてデータを生成した(n=2)。
図4Aに示すように、全ての消化条件は、30μgの試料負荷量でこれらの8つのスパイクされたタンパク質全てを同定することができた。これは、タンパク質対トリプシン比が消化時のタンパク質濃度に対して逆直線的に増加する場合、同様の分析感度が達成され得ることを確認する。したがって、試料の元のタンパク質濃度に基づいて1ppmレベルの感度を達成するために、消化時のタンパク質濃度とそれらの対応するトリプシン対タンパク質比との試験された組み合わせを使用して、異なる消化戦略を採用することができる。
【0154】
400μgの試料負荷量で約0.1ppm(実際のレベルは0.058~0.267ppmの範囲であり、5つのタンパク質は0.1ppm又はそれ以上であった)でスパイクした8つの組換えヒドロラーゼについて同じ実験を繰り返した。
図4Bに示すように、全ての条件は、8つの加水分解酵素のうち4~6つを特定した。消化時のより高い(10g/L及び25g/L)タンパク質濃度は、2.5g/L及び5g/L条件と比較して、両方のプロセス複製物においてより多くのペプチドを同定した。両方の実験結果からの結果を考慮して、10g/Lタンパク質濃度を、試料負荷による感受性の調節を試験するために消化時に1:800のトリプシン対タンパク質比で選択した。
【0155】
実施例5:試料負荷変調方法感度
30μgの出発物質分析は1ppmの感度を示したため(
図4A)、LC-MS/MS分析の許容範囲内の試料負荷が感度を比例的に調節することができるという仮説を試験した、すなわち同じ消化物から、6μg負荷量は5ppmの感度を示すと予想され、300μg負荷量は0.1ppmの感度を示すと予想される。0.1~5ppmの範囲の異なるスパイクレベルを有する試料を消化し、予想される感度の必要性に応じて異なる試料負荷量を選択した。例えば、1ppmスパイク試料について30μgの出発物質負荷量を選択した。長さ50cmのナノフローCSHカラムを使用して、分析フローCSHカラムを用いた以前の報告に基づいて、良好なピーク分解能を維持しながら、より高い試料負荷量で感度を高めることができた。
図5に示すように、0.5~5ppmの感度の試料負荷条件(6~60μgの出発物質)で、8つ全てのタンパク質を、2つのプロセス複製物のそれぞれから少なくとも一回同定した。標的感受性レベル以上の5つのタンパク質は全て、両方のプロセス複製物で同定された。予測された0.1ppm及び0.2ppmの感度はまた、試験した試料負荷量で、標的感度レベル以上の5つのヒドロラーゼのうちの4つ、及び合計8つのヒドロラーゼのうちの標的化レベル未満の3つのうちの2つを一貫して同定することによって実証された。
【0156】
LC-MS分析の感度が高いほど、より多くの残留HCPが同定される。各HCPのレベルはまた、関連する安全リスクを評価する前に決定する必要がある。調節された感度は、より標的化された定量化努力がなされる前に、同定されたHCPのレベルを迅速に推定するためのツールを提供する。例えば、タンパク質のX、Y及びZ数が6μg、30μg及び300μgの負荷分析で特定される場合、対応するタンパク質がそれぞれ5ppm、1ppm及び0.1ppm以上で提示される可能性が最も高いことを示唆する。X及びY個のタンパク質が同定された試料では、異なる(すなわち、重なり合わない)タンパク質が1~5ppmで存在する可能性がある。同様に、Y及びZ数のタンパク質が同定された試料の場合、異なるタンパク質は潜在的に0.1~1ppmで存在する。この情報は、同定された各タンパク質のレベルを推定し、正確なHCP測定値を得るための更なる標的化定量の必要性に関する決定を支援する。
【0157】
実施例6:0.1ppmレベルの感度及びロバスト性の改善
低レベル(0.1ppm)の感度を更に微調整し、方法のロバスト性を高めるために、次に10g/Lでのトリプシン消化時間を評価した。4時間の消化時間は、両方のプロセス複製物において最低レベルのスパイクされたタンパク質LipA(0.058ppm)及び少なくとも1回の8つ全てのタンパク質を同定し、したがって最良の条件と考えられた(
図6A)。消化時の25g/Lタンパク質濃度は一貫してLPLA2のより良好な検出を示したため、25g/L及び10g/Lタンパク質濃度の4時間トリプシン消化物を更に比較した。
図6Bは、25g/Lの4時間の条件が、全ての試験条件下で、0.1ppm以上で5つ全てのスパイクされたタンパク質を同定し、0.1ppm未満で3つの添加タンパク質のうち2つを同定したが、10g/Lは0.1ppmでLPLA2を同定することができず、同定されたペプチド及びタンパク質が全体的に少なかったことを示す。
図7は、LipAに対する一貫した0.058ppmの感度及び0.1ppm以上の他のヒドロラーゼを同定するためのロバスト性を実証する(n=3)。この方法によるこれらの結果は、現在の最先端の方法に比べて感度の著しい改善、すなわち、ネイティブ消化法を用いた最近の報告と比較して、以前に報告された方法感度(10ppm)の大部分よりも100倍超の感度向上及び約10倍の感度向上を表す。
【0158】
実施例7:mAb-3にスパイクされたUPS-1タンパク質の同定
タンパク質同定の所望の感度を達成するために試料負荷を調節する有効性を更に確認するため、微量レベルのHCPをシミュレートするために既知レベルの48個のUPS-1タンパク質をスパイクしたmAb-3試料を分析した。0.10~1.34ppmレベルの間でスパイクされたUPS-1タンパク質を有するmAb-3試料を使用して、0.1ppm感受性を確認した。表3は、41(85.4%)以上のUPS-1タンパク質が、300μg試料負荷量で0.1ppm以上(それぞれ約4.8フェムトモル)で一貫して同定されたことを示しており、広いMW範囲のタンパク質(6.3~82.9kDa MW)にわたって予想される感度(n=2)を実証している。同様に、0.16~2.21ppmの範囲でUPS-1タンパク質を含有する別のmAb-3試料を使用して、30μgの出発物質からの消化物を使用して1ppmの感度を確認した。0.59ppm~2.21ppmレベルの16のUPS-1タンパク質が全て同定され(n=2)(表4)、所望の1ppm感度が確認された。
【表3】
【表4】
【0159】
実施例8:RM8671 NIST mAbにおいて同定されたHCP
タンパク質、例えば、残留HCPを同定するための標的非依存方法の感度及びロバスト性を更に実証するために、及び最近の報告との比較を可能にするために、RM8671 NIST抗体について分析を行った。この方法は、これらの試料中のこれらの特定のHCPの存在の先験的な知識に依存しないため、標的非依存的アプローチと考えられる。本明細書に記載の方法に基づいて、平均599.5個のタンパク質及び3589.5個のユニークなペプチド(30μg負荷分析)並びに722個のタンパク質及び4363.5個の固有のペプチド(300μg負荷分析)を同定した(表5)。本分析は、RM8671 NIST抗体におけるHCPについて報告された最良の結果(602のタンパク質について2725のペプチド)よりも多くの固有のペプチド及びタンパク質を同定し、HCP分析のための本方法の高い感度及びロバスト性を更に確認した。さらに、平均90%(30μg負荷)及び88%(300μg負荷)のタンパク質が、プロセス複製分析において一般的であり、分析の高い再現性を示した。予想通り、30μg負荷分析からのタンパク質の93%超が300μg負荷の分析でも見出され、300μg負荷分析のより高い感度を確認した。30μg負荷分析と比較して300μg負荷分析から同定された追加のタンパク質は、0.1~1 ppmのレベルで存在する可能性が高い。
【表5】
【0160】
30μg及び300μgの試料負荷量で、本研究は、元のネイティブ消化法においてRM 8670 NIST mAbについて報告された60のタンパク質のうち58~59を同定した。本開示では、それぞれ30μg及び300μgの負荷分析から、報告された602のタンパク質のうち平均421(約70%)及び466.5(約77%)のタンパク質が同定された。さらに、602のタンパク質の上位199(それぞれ5以上のペプチド数)の95%もまた、本発明者らの300μg負荷分析によって見出された。タンパク質同定の違いは、方法の違いによる可能性があり、以前の報告では、ネイティブ消化条件に追加のプロテインA枯渇及びFAIMS気相分離を適用した。
【0161】
ネイティブ消化LC-MS/MSワークフローの様々な態様の評価を通して、本方法は、DDA法によるHCP検出について最も高い感度(0.1ppm)及びRM8671NIST mAbについて最も高いHCPカバー率(合計845のタンパク質)を示す。消化時に5g/Lタンパク質濃度で酵素比を同定した以前の研究とは対照的に、本研究は、低レベルHCPの同定及び定量においてより高いタンパク質濃度の利点を示した。本研究はまた、予測可能な消化条件が広範囲の濃度(2.5~25g/L)を有する代表的な製剤試料について確立され得ることを示す最初の研究である。この方法を並行反応モニタリング(PRM)と組み合わせると、本研究では、元の精製プロセス(LipA及びSMPD1等)を使用して、mAb-1中0.01ppm(表7)という低いレベルで提示された加水分解酵素を同定及び定量することができたが、これらは極めて低いレベルであるためにDDAからは同定されなかった。標的加水分解酵素のレベルは、元の精製プロセスを改変した後に低下した。精製修飾は、追加の精製工程を追加することによってHCP除去を改善するように設計されたため、結果は、バイオプロセス開発を支援するために既知の標的加水分解酵素のクリアランスを監視するための本方法の有用性を示す。
【表7】
*標準添加ベースのアプローチを使用して、mAb-1の精製プロセスに改変を適用する前後のヒドロラーゼクリアランスを監視した。最初に、0ppm、0.1ppm、0.5ppm及び1ppmの加水分解酵素標準をそれぞれ添加することによって、各試験試料について一連の標準添加試料を作成した。次いで、各標準添加試料を本明細書に記載のネイティブ消化プロトコルに供し、各加水分解酵素について2つのトップ応答ペプチドを用いてPRM分析に供した。Skylineソフトウェアを使用してデータ分析を行い、次いで、Spiked HCPレベル(ppm)をX軸とし、標的化ペプチドの全フラグメントイオンの合計ピーク面積をY軸として、各タンパク質の標的化ペプチドの標準添加プロットを作成した。各関数Y=mX+bについて、試験試料中の標的HCPのppmレベルはb/mに等しく、純度が<100%である場合、元のスパイクされたタンパク質ストック標準の純度パーセントを掛けたものである。タンパク質の2つのペプチドが異なる数を示した場合、HCP定量のために最高レベル(太字)を採用した。ペプチドが検出されなかった場合、それをNDと表記した。
【0162】
本開示は、組換えmAb治療薬の精製プロセス内プール、原薬又は製剤試料中の広範囲のタンパク質サイズにわたって0.1ppm以上の残留HCPを高感度かつロバストに同定するためのネイティブ消化物ベースのワークフローの改善を実証する。本研究では、固相抽出(SPE)工程が、LC-MS分析のロバスト性のためにペプチドから未消化mAbをより確実に除去するために有益であることが見出された。本開示はまた、低レベルの残留HCPの回収、同定、及び定量における消化でのSDC添加、改善されたウシトリプシン対タンパク質比及び高タンパク質濃度(25g/L)の有効性を実証した。この改善されたワークフローにより、最大約300μgの出発物質からのネイティブ消化物を、高感度でロバストなHCP分析に適用することができる。本明細書に記載の方法は、試料負荷の量を比例的に調整することによって、0.1~5ppmの範囲の所望の感度を達成するように調節できることも示された。この調節された戦略は、安全性リスク評価からバイオプロセス開発にまで及ぶ広範囲のHCPアッセイの必要性に対処するための単一の簡単で柔軟なアッセイの使用を可能にする。さらに、ワークフローは、未知のタンパク質同定のためのDDA、又は更に高い感度(0.01ppm)での目的のタンパク質の標的化分析のいずれかで使用することができる。
【0163】
本明細書で引用される全ての公報、特許及び他の参考文献は、参照によりその全体が本開示に組み込まれている。
【国際調査報告】