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特表2024-521957ガドリニア粒子、及びガドリニア粒子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】ガドリニア粒子、及びガドリニア粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 17/224 20200101AFI20240528BHJP
   C01G 39/00 20060101ALN20240528BHJP
【FI】
C01F17/224
C01G39/00 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575707
(86)(22)【出願日】2021-06-11
(85)【翻訳文提出日】2023-12-08
(86)【国際出願番号】 CN2021099881
(87)【国際公開番号】W WO2022257148
(87)【国際公開日】2022-12-15
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】ヤン シャオウェイ
(72)【発明者】
【氏名】田淵 穣
(72)【発明者】
【氏名】袁 建軍
(72)【発明者】
【氏名】ザオ ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】グオ ジェン
【テーマコード(参考)】
4G048
4G076
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB01
4G048AD03
4G048AD04
4G048AE05
4G076AA02
4G076AA18
4G076AB02
4G076BA38
4G076BB05
4G076BF05
4G076CA01
4G076CA02
4G076CA22
4G076CA26
4G076CA40
4G076DA11
(57)【要約】
モリブデンを含むガドリニア粒子。前記ガドリニア粒子の製造方法であって、モリブデン化合物の存在下で、ガドリニウム化合物を焼成することを含む、ガドリニア粒子の製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデンを含むガドリニア粒子。
【請求項2】
前記ガドリニア粒子の、レーザー回折・散乱法により算出されるメディアン径D50が0.1~1000μmである、請求項1に記載のガドリニア粒子。
【請求項3】
前記ガドリニア粒子をXRF分析することによって求められる前記ガドリニア粒子100質量%に対するGd含有率(G)が60~99.95質量%であり、前記ガドリニア粒子をXRF分析することによって求められる前記ガドリニア粒子100質量%に対するMoO含有率(M)が0.05~40質量%である、請求項1又は2に記載のガドリニア粒子。
【請求項4】
前記ガドリニア粒子をXPS表面分析することによって求められる前記ガドリニア粒子の表層100質量%に対するGd含有率(G)が10~98質量%であり、前記ガドリニア粒子をXPS表面分析することによって求められる前記ガドリニア粒子の表層100質量%に対するMoO含有率(M)が2~40質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載のガドリニア粒子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のガドリニア粒子の製造方法であって、
モリブデン化合物の存在下で、ガドリニウム化合物を焼成することを含む、ガドリニア粒子の製造方法。
【請求項6】
前記モリブデン化合物が、三酸化モリブデン、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である、請求項5に記載のガドリニア粒子の製造方法。
【請求項7】
前記焼成温度が900~1600℃である、請求項5又は6に記載のガドリニア粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガドリニア粒子、及びガドリニア粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化ガドリニウム(すなわち、ガドリニア)は、蛍光体ホスト材料、光学ガラス、光アイソレータ基板、レーザー素子、フォトニック結晶などの光学系用途や、メモリ材料などの幅広い用途で、利用や研究が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ガドリニア添加セリア(Gadolinia Doped Ceria,GDC)粉末、及びガドリニア(Gd)粉末を用いて、ガドリニア添加セリア(GDC)/ガドリニア(Gd)顆粒を製造したことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2014-511260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1で示されるのは上記顆粒の製造方法であり、ガドリニア粒子自体を原料から合成するガドリニア粒子の製造方法ではない。このようにガドリニア粒子とその製造方法についての知見は限られており、未だ検討の余地がある。
【0006】
そこで、本発明は、優れた特性を有するガドリニア粒子、及び前記ガドリニア粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を包含するものである。
【0008】
(1) モリブデンを含むガドリニア粒子。
(2) 前記ガドリニア粒子の、レーザー回折・散乱法により算出されるメディアン径D50が0.1~1000μmである、前記(1)に記載のガドリニア粒子。
(3) 前記ガドリニア粒子をXRF分析することによって求められる前記ガドリニア粒子100質量%に対するGd含有率(G)が60~99.95質量%であり、前記ガドリニア粒子をXRF分析することによって求められる前記ガドリニア粒子100質量%に対するMoO含有率(M)が0.05~40質量%である、前記(1)又は(2)に記載のガドリニア粒子。
(4) 前記ガドリニア粒子をXPS表面分析することによって求められる前記ガドリニア粒子の表層100質量%に対するGd含有率(G)が10~98質量%であり、前記ガドリニア粒子をXPS表面分析することによって求められる前記ガドリニア粒子の表層100質量%に対するMoO含有率(M)が2~40質量%である、前記(1)~(3)のいずれか一つに記載のガドリニア粒子。
(5) 前記(1)~(4)のいずれか一つに記載のガドリニア粒子の製造方法であって、
モリブデン化合物の存在下で、ガドリニウム化合物を焼成することを含む、ガドリニア粒子の製造方法。
(6) 前記モリブデン化合物が、三酸化モリブデン、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である、前記(5)に記載のガドリニア粒子の製造方法。
(7) 前記焼成温度が900~1600℃である、前記(5)又は(6)に記載のガドリニア粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた特性を有するガドリニア粒子、及び前記ガドリニア粒子の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1のガドリニア粒子のSEM写真である。
図2】実施例2のガドリニア粒子のSEM写真である。
図3】実施例3のガドリニア粒子のSEM写真である。
図4】実施例4のガドリニア粒子のSEM写真である。
図5】比較例1のガドリニア粒子のSEM写真である。
図6】比較例2のガドリニア粒子のSEM写真である。
図7】実施例及び比較例のガドリニア粒子のXRD測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のガドリニア粒子、及びガドリニア粒子の製造方法の実施形態を説明する。
【0012】
≪ガドリニア粒子≫
実施形態のガドリニア粒子は、モリブデンを含むものである。実施形態のガドリニア粒子は、モリブデンを含んでおり、モリブデンに由来する触媒活性、形状等の優れた特性を有する。
【0013】
実施形態の製造方法により製造された一実施形態のガドリニア粒子は、後述の実施例に示されるように、粒状又は柱状等の特有の自形を有することができる。
【0014】
本明細書において、「柱状」とは、角柱状、円柱状、棒状等を含む。柱状のガドリニア粒子の柱状体の底面の形状は、特に制限されず、円形、楕円形、多角形等を例示できる。柱状体は、長さ方向に真っ直ぐに伸びるもの、傾斜状に伸びるもの、湾曲しながら伸びるもの、枝状に分岐して伸びる形状等も含む。
【0015】
実施形態のガドリニア粒子は、後述する製造方法において、モリブデン化合物の使用量や種類を制御することにより、得られるガドリニア粒子の粒子サイズや、凝集の程度、モリブデン含有量などを制御できる。
【0016】
実施形態のガドリニア粒子の、レーザー回折・散乱法により算出されるメディアン径D50は、0.1~1000μmであることが好ましく、3~100μmであることがより好ましく、5~20μmであることがさらに好ましい。
【0017】
サイズのより大きなガドリニア粒子を提供する観点からは、実施形態のガドリニア粒子の、レーザー回折・散乱法により算出されるメディアン径D50は、25~200μmであることが好ましく、30~100μmであることがより好ましく、40~80μmであることがさらに好ましい。
【0018】
ガドリニア粒子試料の、レーザー回折・散乱法により算出されるメディアン径D50は、レーザー回折式粒度分布計を用いて乾式で測定された粒子径分布において、体積積算%の割合が50%となる粒子径として求めることができる。
【0019】
実施形態のガドリニア粒子の、レーザー回折・散乱法により算出される粒径D10は、0.05~100μmであることが好ましく、0.08~50μmであることがより好ましく、0.1~5μmであることがさらに好ましい。
【0020】
サイズのより大きなガドリニア粒子を提供する観点からは、実施形態のガドリニア粒子の、レーザー回折・散乱法により算出される粒径D10は、6~80μmであることが好ましく、8~50μmであることがより好ましく、10~30μmであることがさらに好ましい。
【0021】
ガドリニア粒子試料の、レーザー回折・散乱法により算出される粒径D10は、レーザー回折式粒度分布計を用いて乾式で測定された粒子径分布において、小粒子側からの体積積算%の割合が10%となる粒子径として求めることができる。
【0022】
実施形態のガドリニア粒子の、レーザー回折・散乱法により算出される粒径D90は、1~1500μmであることが好ましく、2~500μmであることがより好ましく、8~50μmであることがさらに好ましい。
【0023】
サイズのより大きなガドリニア粒子を提供する観点からは、実施形態のガドリニア粒子の、レーザー回折・散乱法により算出される粒径D90は、60~800μmであることが好ましく、80~500μmであることがより好ましく、100~200μmであることがさらに好ましい。
【0024】
ガドリニア粒子試料の、レーザー回折・散乱法により算出される粒径D90は、レーザー回折式粒度分布計を用いて乾式で測定された粒子径分布において、小粒子側からの体積積算%の割合が90%となる粒子径として求めることができる。
【0025】
実施形態のガドリニア粒子は、酸化ガドリニウム(すなわち、ガドリニア)を含むものである。実施形態のガドリニア粒子が含んでもよい酸化ガドリニウムとしては、Gd、及びGdOが挙げられる。
【0026】
実施形態のガドリニア粒子は、前記ガドリニア粒子100質量%に対して、Gdを60~99.95質量%含むことが好ましく、65~99.5質量%含むことがより好ましく、80~98質量%含むことがさらに好ましい。
【0027】
ガドリニア粒子に含まれるガドリニア含有量は、XRF分析により測定できる。実施形態のガドリニア粒子は、前記ガドリニア粒子をXRF分析することによって求められる前記ガドリニア粒子100質量%に対するGd含有率(G)が60~99.95質量%であることが好ましく、65~99.5質量%であることがより好ましく、70~98質量%であることがさらに好ましい。
【0028】
実施形態のガドリニア粒子は、モリブデンを含むものである。実施形態のガドリニア粒子は、前記ガドリニア粒子をXRF分析することによって求められる前記ガドリニア粒子100質量%に対するMoO含有率(M)が0.05~40質量%であることが好ましく、0.1~35質量%であることがより好ましく、1~30質量%であることがさらに好ましい。
【0029】
実施形態のガドリニア粒子における、上記で例示したGd含有率(G)及びMoO含有率(M)の各上限値及び下限値の値は、自由に組み合わせることができる。また、Gd含有率(G)及びMoO含有率(M)の数値同士も、自由に組み合わせることができる
【0030】
実施形態のガドリニア粒子の一例として、Gd含有率(G)が60~99.95質量%であり、MoO含有率(M)が0.05~40質量%であるガドリニア粒子を例示できる。
【0031】
上記のGd含有率(G)及びMoO含有率(M)は、例えば、株式会社リガク製蛍光X線分析装置(PrimusIV)を用いて、XRF分析することにより、測定することができる。
【0032】
ガドリニア粒子の表層に含まれるガドリニア含有量は、XPS(X線光電子分光)表面分析により測定できる。実施形態のガドリニア粒子は、前記ガドリニア粒子をXPS表面分析することによって求められる前記ガドリニア粒子の表層100質量%に対するGd含有率(G)が10~98質量%であることが好ましく、20~80質量%であることがより好ましく、30~65質量%であることがさらに好ましい。
【0033】
本実施形態のガドリニア粒子は、前記ガドリニア粒子をXPS表面分析することによって求められる前記ガドリニア粒子の表層100質量%に対するMoO含有率(M)が2~40質量%であることが好ましく、3~35質量%であることがより好ましく、8~30質量%であることがさらに好ましい。
【0034】
実施形態のガドリニア粒子における、上記で例示したGd含有率(G)及びMoO含有率(M)の各上限値及び下限値の値は、自由に組み合わせることができる。また、Gd含有率(G)及びMoO含有率(M)の数値同士も、自由に組み合わせることができる
【0035】
実施形態のガドリニア粒子の一例として、前記Gd含有率(G)が10~98質量%であり、前記MoO含有率(M)が2~40質量%である、ガドリニア粒子を例示できる。
【0036】
上記のGd含有率(G)は、ガドリニア粒子試料をX線光電子分光法(XPS:XrayPhotoelectron Spectroscopy)により、XPS表面分析することによって、各元素について存在比(atom%)を取得し、ガドリニウム含有量を酸化物換算することにより、ガドリニア粒子の表層100質量%に対するGdの含有率として求めた値を云う。
【0037】
上記のMoO含有率(M)とは、ガドリニア粒子をX線光電子分光法(XPS:XrayPhotoelectron Spectroscopy)により、XPS表面分析することによって、各元素について存在比(atom%)を取得し、モリブデン含有量を酸化物換算することにより、ガドリニア粒子の表層100質量%に対するMoOの含有率として求めた値を云う。
【0038】
実施形態のガドリニア粒子において、前記モリブデンは、前記ガドリニア粒子の表層に偏在していることが好ましい。
【0039】
ここで、本明細書において「表層」とは、実施形態のガドリニア粒子の表面から10nm以内のことをいう。この距離は、実施例において計測に用いたXPSの検出深さに対応する。
【0040】
ここで「表層に偏在」するとは、前記表層における単位体積あたりのモリブデン又はモリブデン化合物の質量が、前記表層以外における単位体積あたりのモリブデン又はモリブデン化合物の質量よりも多い状態をいう。
【0041】
本実施形態のガドリニア粒子において、モリブデンが前記ガドリニア粒子の表層に偏在していることは、後述する実施例において示すように、前記ガドリニア粒子をXPS表面分析することによって求められる前記ガドリニア粒子の表層100質量%に対するMoO含有率(M)が、前記ガドリニア粒子をXRF(蛍光X線)分析することによって求められる前記ガドリニア粒子100質量%に対するMoO含有率(M)よりも多いことで確認することができる。
【0042】
実施形態のガドリニア粒子において、モリブデンが前記ガドリニア粒子の表層に偏在していることの指標として、実施形態のガドリニア粒子は、前記MoO含有率(M)に対する、前記MoO含有率(M)の表層偏在比(M/M)が1超20以下であることが好ましく、1.1~10であることがより好ましく、1.5~5であることがさらに好ましい。
【0043】
モリブデン又はモリブデン化合物を表層に偏在させることで、表層だけでなく表層以外(内層)にも均一にモリブデン又はモリブデン化合物を存在させる場合に比べて、触媒活性等の優れた特性を効率的に付与することができる。
【0044】
本実施形態のガドリニア粒子は、モリブデンの他に、さらに、リチウム、カリウム、又はナトリウムを含んでいてもよい。
【0045】
<ガドリニア粒子の製造方法>
実施形態のガドリニア粒子の製造方法は、モリブデン化合物の存在下で、ガドリニウム化合物を焼成することを含む。より具体的には、本実施形態の製造方法は、前記ガドリニア粒子の製造方法であって、ガドリニウム化合物と、モリブデン化合物と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することを含むものであってよい。
【0046】
実施形態のガドリニア粒子の製造方法によれば、上記で説明した実施形態のガドリニア粒子を製造可能である。
【0047】
ガドリニア粒子の好ましい製造方法は、ガドリニウム化合物と、モリブデン化合物と、を混合して混合物とする工程(混合工程)と、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含む。
【0048】
[混合工程]
混合工程は、ガドリニウム化合物と、モリブデン化合物と、を混合して混合物とする工程である。以下、混合物の内容について説明する。
【0049】
(ガドリニウム化合物)
前記ガドリニウム化合物としては、焼成して酸化ガドリニウム(すなわち、ガドリニア)となり得る化合物であれば限定されない。前記ガドリニウム化合物として、酸化ガドリニウム、水酸化ガドリニウム、炭酸ガドリニウム、塩化ガドリニウム、硝酸ガドリニウム等が挙げられ、酸化ガドリニウムが好ましい。
【0050】
焼成後のガドリニア粒子の形状は、原料のガドリニウム化合物の形状が殆ど反映されていないため、ガドリニウム化合物としては、例えば、球状、無定形、アスペクトのある構造体(ワイヤ、ファイバー、リボン、チューブなど)、シートなどのいずれであっても好適に用いることができる。
【0051】
(モリブデン化合物)
前記モリブデン化合物としては、酸化モリブデン、モリブデン酸塩化合物等が挙げられる。
【0052】
前記酸化モリブデンとしては、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等が挙げられ、三酸化モリブデンが好ましい。
【0053】
前記モリブデン酸塩化合物は、MoO 2-、Mo 2-、Mo10 2-、Mo13 2-、Mo16 2-、Mo19 2-、Mo24 6-、Mo26 4-等のモリブデンオキソアニオンの塩化合物であれば限定されない。モリブデンオキソアニオンのアルカリ金属塩であってもよく、アルカリ土類金属塩であってもよく、アンモニウム塩であってもよい。
【0054】
前記モリブデン酸塩化合物としては、モリブデンオキソアニオンのアルカリ金属塩が好ましく、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム又はモリブデン酸ナトリウムであることがより好ましく、モリブデン酸カリウム又はモリブデン酸ナトリウムであることがさらに好ましい。
【0055】
本実施形態のガドリニア粒子の製造方法において、前記モリブデン酸塩化合物は、水和物であってもよい。
【0056】
モリブデン化合物は、三酸化モリブデン、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム、及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であること好ましく、三酸化モリブデン、モリブデン酸カリウム及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であることがより好ましい。
【0057】
実施形態のガドリニア粒子の製造方法は、モリブデン化合物及びカリウム化合物の存在下、ガドリニウム化合物を焼成する工程を含んでもよい。
【0058】
実施形態のガドリニア粒子の製造方法は、焼成工程に先立ち、ガドリニウム化合物、モリブデン化合物、及びカリウム化合物を混合して混合物とする工程(混合工程)を含むことができ、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含むことができる。
【0059】
実施形態のガドリニア粒子の製造方法は、焼成工程に先立ち、ガドリニウム化合物、及びモリブデンとカリウムとを含有する化合物を混合して混合物とする工程(混合工程)を含むことができ、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含むことができる。
【0060】
フラックス剤として好適な、モリブデンとカリウムとを含有する化合物は、例えば、より安価かつ入手が容易な、モリブデン化合物及びカリウム化合物を原料として焼成の過程で生じさせることができる。ここでは、モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、モリブデンとカリウムとを含有する化合物をフラックス剤として用いる場合、の両者を合わせて、モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、即ち、モリブデン化合物及びカリウム化合物の存在下とみなす。
【0061】
実施形態のガドリニア粒子の製造方法は、モリブデン化合物及びナトリウム化合物の存在下、ガドリニウム化合物を焼成する工程を含んでもよい。
【0062】
実施形態のガドリニア粒子の製造方法は、焼成工程に先立ち、ガドリニウム化合物、モリブデン化合物、及びナトリウム化合物を混合して混合物とする工程(混合工程)を含むことができ、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含むことができる。
【0063】
或いは、実施形態のガドリニア粒子の製造方法は、焼成工程に先立ち、ガドリニウム化合物、及びモリブデンとナトリウムとを含有する化合物を混合して混合物とする工程(混合工程)を含むことができ、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含むことができる。
【0064】
フラックス剤として好適な、モリブデンとナトリウムとを含有する化合物は、例えば、より安価かつ入手が容易な、モリブデン化合物及びナトリウム化合物を原料として焼成の過程で生じさせることができる。ここでは、モリブデン化合物及びナトリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、モリブデンとナトリウムとを含有する化合物をフラックス剤として用いる場合、の両者を合わせて、モリブデン化合物及びナトリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、即ち、モリブデン化合物及びナトリウム化合物の存在下とみなす。
【0065】
モリブデン化合物及びカリウム化合物の存在下、又はモリブデン化合物及びナトリウム化合物の存在下、ガドリニウム化合物を焼成することで、製造されるガドリニア粒子の粒子径の調整が容易であり、例えば、粒子サイズの大きなガドリニア粒子を容易に製造可能である。その理由は明らかではないが、以下の理由が考えられる。例えば、KMoO及びNaMoOは安定な化合物であって焼成工程にて揮発し難いため、揮発過程での急激な反応を伴いにくく、ガドリニア粒子の成長を制御しやすい。また、溶融したKMoO及びNaMoOが溶媒のような機能を発揮し、粒子サイズを大きくできると考えられる。
【0066】
本実施形態のガドリニア粒子の製造方法において、モリブデン化合物はフラックス剤として用いられる。本明細書中では、以下、フラックス剤としてモリブデン化合物を用いたこの製造方法を単に「フラックス法」ということがある。なお、かかる焼成により、モリブデン化合物がガドリニウム化合物と高温で反応し、モリブデン酸ガドリニウムを形成した後、このモリブデン酸ガドリニウムが、さらに、より高温でガドリニウムと酸化モリブデンに分解する際に、モリブデン化合物がガドリニア粒子内に取り込まれるものと考えられる。酸化モリブデンは昇華して、系外に取り除かれるとともに、この過程で、モリブデン化合物とガドリニウム化合物が反応することにより、モリブデン化合物がガドリニア粒子の表層に形成されるものと考えられる。ガドリニア粒子に含まれるモリブデン化合物の生成機構について、より詳しくは、ガドリニア粒子の表層に、モリブデンとGd原子の反応によるMo-O-Gdの形成が起こり、高温焼成することでMoが脱離するとともに、ガドリニア粒子の表層に、酸化モリブデン、又はMo-O-Gd結合を有する化合物等が形成するものと考えられる。
【0067】
ガドリニア粒子に取り込まれない酸化モリブデンは、昇華させることにより回収して、再利用することもできる。こうすることで、ガドリニア粒子の表面に付着する酸化モリブデン量を低減でき、ガドリニア粒子本来の性質を最大限に付与することができる。
【0068】
一方、モリブデンオキソアニオンのアルカリ金属塩は、焼成温度域でも気化することなく、焼成後に洗浄で、容易に回収できるため、モリブデン化合物が焼成炉外へ放出される量も低減され、生産コストとしても大幅に低減することができる。
【0069】
上記フラックス法において、例えばモリブデン化合物とカリウム化合物とを併用すると、まず、モリブデン化合物とカリウム化合物が反応してモリブデン酸カリウムが形成されると考えられる。同時に、モリブデン化合物がガドリニウム化合物と反応してモリブデン酸ガドリニウムを形成すると考えられる。そして、例えば、液相のモリブデン酸カリウムの存在下でモリブデン酸ガドリニウムが分解し、結晶成長させることで、上述のフラックスの蒸発(MoOの昇華)を抑制しつつ、粒子サイズが大きなガドリニア粒子を容易に得ることができると考えられる。
【0070】
上記のメカニズムはモリブデン化合物とカリウム化合物とを併用(例えば、モリブデンとナトリウムとを含有する化合物の使用)する場合においても同様であり、液相のモリブデン酸ナトリウムの存在下でモリブデン酸ガドリニウムが分解し、結晶成長させることで、粒子サイズが大きく、モリブデン含有量の高いガドリニア粒子を容易に得ることができると考えられる。
【0071】
(金属化合物)
金属化合物は所望により焼成時に使用されうる。実施形態のガドリニア粒子の製造方法は、焼成工程に先立ち、ガドリニウム化合物、モリブデン化合物、カリウム化合物、及び金属化合物を混合して混合物とする工程(混合工程)を含むことができ、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含むことができる。
【0072】
金属化合物としては、特に制限されないが、第II族の金属化合物、第III族の金属化合物からなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0073】
前記第II族の金属化合物としては、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、ストロンチウム化合物、バリウム化合物等が挙げられる。
【0074】
前記第III族の金属化合物としては、スカンジウム化合物、イットリウム化合物、ランタン化合物、セリウム化合物等が挙げられる。
【0075】
なお上述の金属化合物は、金属元素の酸化物、水酸化物、炭酸化物、塩化物を意味する。例えば、イットリウム化合物であれば、酸化イットリウム(Y)、水酸化イットリウム、炭酸化イットリウムが挙げられる。これらのうち、金属化合物は金属元素の酸化物であることが好ましい。なお、これらの金属化合物は異性体を含む。
【0076】
これらのうち、第3周期元素の金属化合物、第4周期元素の金属化合物、第5周期元素の金属化合物、第6周期元素の金属化合物であることが好ましく、第4周期元素の金属化合物、第5周期元素の金属化合物であることがより好ましく、第5周期元素の金属化合物であることがさらに好ましい。具体的には、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、イットリウム化合物、ランタン化合物、を用いることが好ましく、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、イットリウム化合物を用いることがより好ましく、イットリウム化合物を用いることが特に好ましい。
【0077】
金属化合物は、混合工程で使用されるガドリニウム化合物の総量に対して、例えば、0~1.2質量%(例えば、0~1モル%)の割合で使用することが好ましい。
【0078】
本実施形態のガドリニア粒子の製造方法において、ガドリニウム化合物、及びモリブデン化合物の配合量は、特に限定されるものではないが、好ましくは、前記混合物100質量%に対して、35質量%以上のガドリニウム化合物と、65質量%以下のモリブデン化合物と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することができる。より好ましくは、前記混合物100質量%に対して、40質量%以上99質量%以下のガドリニウム化合物と、0.5質量%以上60質量%以下のモリブデン化合物と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することができる。さらに好ましくは、前記混合物100質量%に対して、40質量%以上90質量%以下のガドリニウム化合物と、10質量%以上60質量%以下のモリブデン化合物とを混合して混合物とし、前記混合物を焼成することができる。
【0079】
実施形態のガドリニア粒子の製造方法において、モリブデン化合物中のモリブデン原子とガドリニウム化合物中のガドリニウム原子のモル比(モリブデン/ガドリニウム)の値は、0.01以上であることが好ましく、0.03以上であることがより好ましく、0.1以上であることがさらに好ましい。サイズのより大きなガドリニア粒子を得るとの観点からは、前記モリブデン/ガドリニウムの値は0.5以上であることが好ましい。
【0080】
上記のモリブデン化合物中のモリブデン原子とガドリニウム化合物中のガドリニウム原子のモル比の上限値は、適宜定めればよいが、使用するモリブデン化合物の削減と製造効率向上の観点から、例えば、上記モル比(モリブデン/ガドリニウム)の値は、5以下であってもよく、3以下であってもよく、2以下であってもよい。サイズのより小さなガドリニア粒子を得るとの観点からは、前記モリブデン/ガドリニウムの値は0.5未満であることが好ましい。
【0081】
上記モル比(モリブデン/ガドリニウム)の数値範囲の一例としては、例えば、モリブデン/ガドリニウムの値が0.01~5であってもよく、0.03~3であってもよく、0.1~2であってもよい。
【0082】
ガドリニウムに対するモリブデンの使用量を増やすほど、上記粒度分布で示される粒子サイズの大きなガドリニア粒子が得られる傾向にある。
【0083】
また、ガドリニウムに対するモリブデンの使用量を増やすほど、凝集の少ないガドリニア粒子が得られる傾向にある。
【0084】
上記の範囲で各種化合物を使用することで、得られるガドリニア粒子が含むモリブデン化合物の量がより適当なものとなるとともに、粒子サイズの制御されたガドリニア粒子が容易に得られる。
【0085】
上記の範囲で各種化合物を使用することで、得られるガドリニア粒子が含むモリブデン化合物の量がより適当なものとなるとともに、凝集の程度の制御されたガドリニア粒子が容易に得られる。
【0086】
[焼成工程]
焼成工程は、前記混合物を焼成する工程である。実施形態に係る前記ガドリニア粒子は、前記混合物を焼成することで得られる。上記した通り、この製造方法はフラックス法と呼ばれる。
【0087】
フラックス法は、溶液法に分類される。フラックス法とは、より詳細には、結晶-フラックス2成分系状態図が共晶型を示すことを利用した結晶成長の方法である。フラックス法のメカニズムとしては、以下の通りであると推測される。すなわち、溶質およびフラックスの混合物を加熱していくと、溶質およびフラックスは液相となる。この際、フラックスは融剤であるため、換言すれば、溶質-フラックス2成分系状態図が共晶型を示すため、溶質は、その融点よりも低い温度で溶融し、液相を構成することとなる。この状態で、フラックスを蒸発させると、フラックスの濃度は低下し、換言すれば、フラックスによる前記溶質の融点低下効果が低減し、フラックスの蒸発が駆動力となって溶質の結晶成長が起こる(フラックス蒸発法)。なお、溶質およびフラックスは液相を冷却することによっても溶質の結晶成長を起こすことができる(徐冷法)。
【0088】
フラックス法は、融点よりもはるかに低い温度で結晶成長をさせることができる、結晶構造を精密に制御できる、自形をもつ結晶体を形成できる等のメリットを有する。
【0089】
フラックスとしてモリブデン化合物を用いたフラックス法によるガドリニア粒子の製造では、そのメカニズムは必ずしも明らかではないが、例えば、以下のようなメカニズムによるものと推測される。すなわち、モリブデン化合物の存在下でガドリニウム化合物を焼成すると、まず、モリブデン酸ガドリニウムが形成される。この際、当該モリブデン酸ガドリニウムは、上述の説明からも理解されるように、ガドリニアの融点よりも低温でガドリニア結晶を成長させる。そして、例えば、フラックスを蒸発させることで、モリブデン酸ガドリニウムが分解し、結晶成長することでガドリニア粒子を得ることができる。すなわち、モリブデン化合物がフラックスとして機能し、モリブデン酸ガドリニウムという中間体を経由してガドリニア粒子が製造されるのである。
【0090】
上記フラックス法により、モリブデンを含むガドリニア粒子を製造することができる。
【0091】
焼成の方法は、特に限定はなく、公知慣用の方法で行うことができる。焼成温度が800℃を超えると、ガドリニウム化合物と、モリブデン化合物が反応して、モリブデン酸ガドリニウムを形成すると考えられる。さらに、焼成温度が900℃以上になると、モリブデン酸ガドリニウムが分解し、ガドリニア粒子を形成すると考えられる。また、ガドリニア粒子では、モリブデン酸ガドリニウムが分解することで、ガドリニアと酸化モリブデンになる際に、モリブデン化合物がガドリニア粒子内に取り込まれるものと考えられる。
【0092】
また、焼成する時の、ガドリニウム化合物とモリブデン化合物の状態は特に限定されず、モリブデン化合物がガドリニウム化合物に作用できる同一の空間に存在すれば良い。具体的には、モリブデン化合物の粉体とガドリニウム化合物の粉体とを混ぜ合わせる簡便な混合、粉砕機等を用いた機械的な混合、乳鉢等を用いた混合であっても良く、乾式状態、湿式状態での混合であっても良い。
【0093】
焼成温度の条件に特に限定は無く、目的とするガドリニア粒子の粒子サイズ、ガドリニア粒子におけるモリブデン化合物の形成、ガドリニア粒子の形状等を考慮して、適宜、決定される。焼成温度は、モリブデン酸ガドリニウムの分解温度に近い900℃以上であってもよく、1000℃以上であってもよく、1300℃以上であってもよい。
【0094】
焼成温度が高いほど、粒子形状が制御され、且つ粒子サイズの大きな、ガドリニア粒子が得られやすい傾向にある。このようなガドリニア粒子を効率よく製造するとの観点からは、上記焼成温度は、1100℃以上が好ましく、1200℃以上がより好ましく、1300℃以上がさらに好ましい。
【0095】
一般的に、焼成後に得られるガドリニア粒子の形状を制御しようとすると、ガドリニアの反応が進行しやすい2000℃超の高温焼成を行う必要があるが、焼成炉へ負担や燃料コストの点から、産業上利用する為には大きな課題がある。
【0096】
本発明の一実施形態によれば、例えば、ガドリニウム化合物を焼成する最高焼成温度が1600℃以下の条件であっても、ガドリニア粒子の形成を低コストで効率的に行うことができる。
【0097】
また、実施形態のガドリニア粒子の製造方法によれば、焼成温度が1600℃以下というガドリニアの融点よりもはるかに低い温度であっても、前駆体の形状にかかわりなく、自形をもつガドリニア粒子を形成することができる。また、かかる観点からは、上記焼成温度は、1500℃以下が好ましく、1400℃以下がより好ましく、1300℃以下がさらに好ましい。
【0098】
焼成工程における、ガドリニウム化合物を焼成する焼成温度の数値範囲は、一例として、900~1600℃であってもよく、1000~1500℃であってもよく、1100~1400℃、1200~1300℃であってもよい。
【0099】
昇温速度は、製造効率の観点から、20~600℃/hであってもよく、40~500℃/hであってもよく、80~400℃/hであってもよい。
【0100】
焼成の時間については、所定の焼成温度への昇温時間を15分~10時間の範囲で行うことが好ましい。焼成温度における保持時間は、5分以上とすることができ、5分~1000時間の範囲で行うことが好ましく、1~100時間の範囲で行うことがより好ましい。ガドリニア粒子の形成を効率的に行うには、2時間以上の焼成温度保持時間であることが好ましく、2~100時間の焼成温度保持時間であることがより好ましく、2~48時間の焼成温度保持時間であることがさらに好ましい。
【0101】
一例として、焼成温度が900~1600℃、且つ2~100時間の焼成温度保持時間の条件を選択することで、モリブデンを含む実施形態のガドリニア粒子が容易に得られる。
【0102】
焼成の雰囲気としては、本発明の効果が得られるのであれば特に限定されないが、例えば、空気や酸素といった含酸素雰囲気や、窒素やアルゴン、又は二酸化炭素といった不活性雰囲気が好ましく、コストの面を考慮した場合は空気雰囲気がより好ましい。
【0103】
焼成するための装置としても必ずしも限定されず、いわゆる焼成炉を用いることができる。焼成炉は昇華した酸化モリブデンと反応しない材質で構成されていることが好ましく、さらに酸化モリブデンを効率的に利用するように、密閉性の高い焼成炉を用いることが好ましい。
【0104】
[モリブデン除去工程]
本実施形態のガドリニア粒子の製造方法は、焼成工程後、必要に応じてモリブデンの少なくとも一部を除去するモリブデン除去工程をさらに含んでいてもよい。
【0105】
上述のように、焼成時においてモリブデンは昇華を伴うことから、焼成時間、焼成温度等を制御することで、ガドリニア粒子表層に存在するモリブデン含有量を制御することができ、またガドリニア粒子の表層以外(内層)に存在するモリブデン含有量やその存在状態を制御することができる。
【0106】
モリブデンは、ガドリニア粒子の表面に付着しうる。上記昇華以外の手段として、当該モリブデンは水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液などで洗浄することにより除去することができる。
【0107】
この際、使用する水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液の濃度、使用量、及び洗浄部位、洗浄時間等を適宜変更することで、ガドリニア粒子におけるモリブデン含有量を制御することができる。
【0108】
[粉砕工程]
焼成工程を経て得られる焼成物は、ガドリニア粒子が凝集して、検討される用途における好適な粒子径の範囲を満たさない場合がある。そのため、ガドリニア粒子は、必要に応じて、好適な粒子径の範囲を満たすように粉砕してもよい。
【0109】
焼成物の粉砕の方法は特に限定されず、ボールミル、ジョークラッシャー、ジェットミル、ディスクミル、スペクトロミル、グラインダー、ミキサーミル等の従来公知の粉砕方法を適用できる。
【0110】
[分級工程]
焼成工程により得られたガドリニア粒子を含む焼成物は、粒子サイズの範囲の調整のために、適宜、分級処理されてもよい。「分級処理」とは、粒子の大きさによって粒子をグループ分けする操作をいう。
【0111】
分級は湿式、乾式のいずれでも良いが、生産性の観点からは、乾式の分級が好ましい。
乾式の分級には、篩による分級のほか、遠心力と流体抗力の差によって分級する風力分級などがあるが、分級精度の観点からは、風力分級が好ましく、コアンダ効果を利用した気流分級機、旋回気流式分級機、強制渦遠心式分級機、半自由渦遠心式分級機などの分級機を用いて行うことができる。
【0112】
上記した粉砕工程や分級工程は、必要な段階において行うことができる。これら粉砕や分級の有無やそれらの条件選定により、例えば、得られるガドリニア粒子の平均粒径を調整することができる。
【0113】
実施形態のガドリニア粒子、或いは実施形態の製造方法で得られるガドリニア粒子は、凝集が少ないもの或いは凝集していないものが、本来の性質を発揮しやすく、それ自体の取扱性により優れており、また被分散媒体に分散させて用いる場合において、より分散性に優れる観点から、好ましい。
【0114】
なお、上記の実施形態のガドリニア粒子の製造方法によれば、凝集が少ない又は凝集のないガドリニア粒子を容易に製造可能であるので、上記の粉砕工程や分級工程は行わなくとも、目的の優れた性質を有するガドリニア粒子を、生産性高く製造することができるという優れた利点を有する。
【実施例
【0115】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0116】
<ガドリニア粒子の製造>
[比較例1]
市販の酸化ガドリニウムGd2O3(Aladdin (China) 製3.0gを坩堝に入れ、セラミック電気炉にて1100℃で24時間焼成を行なった。降温後、坩堝を取り出し、3.0gの白色粉末を得た。
【0117】
[比較例2]
比較例1において、焼成条件を1300℃で24時間に変更した以外は、比較例1と同様の操作により、3.0gの白色粉末を得た。
【0118】
[実施例1]
酸化ガドリニウムGd2O3(Aladdin (China) 製)3.0gと、三酸化モリブデン(Chengdu Hongbo Industrial(China) 製)0.15gとを乳鉢で混合し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて1100℃で24時間焼成を行い、次いで1500℃で24時間焼成を行った。降温後、坩堝を取り出し、3.15gの白色粉末を得た。続いて、得られた前記白色粉末3.15gをイオン交換水9gに懸濁させ、遠心分離機にて3000rpmで15分間回して沈殿させ、上澄み液を捨てた。この操作を6回繰り返して白色粉末を洗浄して3.07gの白色粉末を得た。
【0119】
[実施例2]
実施例1において、三酸化モリブデンの使用量を表1に記載のとおり変更した以外は、実施例1と同様の操作により、実施例2の粉末を得た。
【0120】
[実施例3]
酸化ガドリニウムGd2O3(Aladdin (China) 製)3.0gと、三酸化モリブデン(Chengdu Hongbo Industrial(China) 製)2.7gと、炭酸カリウム(Aladdin (China) 製)1.3gと酸化イットリウム(Aladdin (China) 製)0.015gを乳鉢で混合し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて1300℃で24時間焼成を行い、次いで1500℃で24時間焼成を行った。降温後、坩堝を取り出し、5.355gの白色粉末を得た。続いて、得られた前記白色粉末5.355gをイオン交換水16gに懸濁させ、遠心分離機にて3000rpmで15分間回して沈殿させ、上澄み液を捨てた。この操作を6回繰り返して白色粉末を洗浄して32.97gの白色粉末を得た。
【0121】
[実施例4]
酸化ガドリニウムGd2O3(Aladdin (China) 製)3.0gと、モリブデン酸ナトリウム二水和物(Aladdin (China) 製)3.6gとを乳鉢で混合し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて1300℃で24時間焼成を行なった。降温後、坩堝を取り出し、6.6gの白色粉末を得た。続いて、得られた前記白色粉末6.55gをイオン交換水16gに懸濁させ、遠心分離機にて3000rpmで15分間回して沈殿させ、上澄み液を捨てた。この操作を6回繰り返して白色粉末を洗浄して2.93gの白色粉末を得た。
【0122】
<評価>
実施例1~4及び比較例1~2で得られた洗浄後の粉末を試料粉末として、下記の評価を行った。
【0123】
[結晶構造解析:XRD(X線回折)法]
試料粉末を0.5mm深さの測定試料用ホルダーに充填し、それを広角X線回折(XRD)装置(株式会社リガク製 UltimaIV)にセットし、Cu/Kα線、40kV/40mA、スキャンスピード2°/min、走査範囲10~70°の条件で測定を行った。
【0124】
[粒度分布測定]
レーザー回折式乾式粒度分布計(株式会社日本レーザー製 HELOS(H3355)&RODOS)を用いて、分散圧3bar、引圧90mbarの条件で、乾式で試料粉末の粒子径分布を測定した。体積積算%の分布曲線が小粒子側から10%の横軸と交差する点の粒子径をD10として、50%の横軸と交差する点の粒子径をD50として、小粒子側から90%の横軸と交差する点の粒子径をD90として、それぞれ求めた。
【0125】
[XRF(蛍光X線)分析]
蛍光X線分析装置PrimusIV(株式会社リガク製)を用い、試料粉末約70mgをろ紙にとり、PPフィルムをかぶせて、次の条件でXRF(蛍光X線)分析を行った。
測定条件
EZスキャンモード
測定元素:F~U
測定時間:標準
測定径:10mm
残分(バランス成分):なし
【0126】
XRF分析によりガドリニア粒子100質量%に対するGd含有率(G)、及び、ガドリニア粒子100質量%に対するMoO含有率(M)の結果を取得した。
【0127】
[XPS表面分析]
試料粉末に対する表面元素分析は、アルバック・ファイ社製QUANTERA SXMを用い、X線源に単色化Al-Kαを使用し、X線光電子分光法(XPS:XrayPhotoelectron Spectroscopy)の測定を行った。1000μm四方のエリア測定で、n=3測定の平均値を各元素についてatom%で取得した。
【0128】
XPS分析により得られたガドリニア粒子の表層のガドリニウム含有量及び表層のモリブデン含有量を酸化物換算することにより、ガドリニア粒子の表層100質量%に対するGd含有率(G)(質量%)及びガドリニア粒子の表層100質量%に対するMoO含有率(M)(質量%)を求めた。
【0129】
<結果>
上記の評価により得られた各値を表1に示す。なお、「N.D.」はnot detectedの略であり、不検出であることを表す。
【0130】
【表1】
【0131】
走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影して得られた、上記の実施例および比較例の粉末のSEMの画像を図1~6に示す。実施例及び比較例の各例で粒状又は柱状の粒子が確認された。
【0132】
XRD分析の結果を図7に示す。酸化ガドリニウム(Gd)に由来する各ピーク(無印のピーク)が、各実施例及び比較例の試料において認められた。
【0133】
上記のSEM観察およびXRD解析の結果から、実施例及び比較例で得られた粉末は、酸化ガドリニウム(ガドリニア)を含むガドリニア粒子であることが確認された。
【0134】
各実施例の結果から、モリブデン化合物の存在下でガドリニウム化合物を焼成することにより、1300℃及び1500℃の比較的低い焼成温度であっても、モリブデンを含む酸化ガドリニア粒子を焼成可能であることが示された。
【0135】
各ガドリニア粒子のSEM観察像から、粒子の凝集の程度を以下の基準にて評価した。
+:粒子同士の凝集が認められる。
-:粒子同士の目立った凝集が認められない。
【0136】
比較例1~2のガドリニア粒子では、粒子同士の凝集融着が認められるのに対し(凝集の程度+)、実施例2~4のガドリニア粒子では目立った凝集が認められなかった(凝集の程度-)。また、実施例1~2の比較では、実施例1のガドリニア粒子で粒子同士の凝集融着が認められるのに対し、実施例2のガドリニア粒子では目立った凝集が認められなかった。
【0137】
これらのことから、モリブデン化合物の存在下でガドリニウム化合物を焼成することにより、凝集性の低いガドリニア粒子を製造可能であること、尚、モリブデンの使用量が増えるほど、凝集の程度の少ない、又は凝集の無い粒子が得られる傾向にあることが示された。
【0138】
また、実施例3~4のガドリニア粒子では、粒子サイズの大きなガドリニア粒子が得られていた。このことから、フラックス剤としてのモリブデンオキソアニオンのアルカリ金属塩の使用により、粒子サイズの大きなガドリニア粒子を容易に得ることが可能であることが示された。
【0139】
上記のGd含有率(G)、MoO含有率(M)、Gd含有率(G)、MoO含有率(M)の値を表1に示す。
【0140】
MoO含有率(M)及びMoO含有率(M)の結果より、実施例1~4のガドリニア粒子は表面にモリブデンを含み、触媒活性など、モリブデンによる種々の作用が発揮されると期待できる。
【0141】
また、MoO含有率(M)に対する、MoO含有率(M)の表層偏在比(M/M)の算出結果を表1に示す。
【0142】
表層偏在比(M/M)の結果より、実施例1及び4のガドリニア粒子では、XPS表面分析により求められるガドリニア粒子の表層の酸化モリブデン含有量が、XRF分析により求められる酸化モリブデン含有量よりも多い。このことから、モリブデンがガドリニア粒子の表面に偏在していることが確認され、モリブデンによる種々の作用が、効果的に発揮されると期待できる。
【0143】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2023-12-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデンを含むガドリニア粒子であって、
前記ガドリニア粒子をXRF分析することによって求められる前記ガドリニア粒子100質量%に対するGd 含有率(G )が70~98質量%であり、前記ガドリニア粒子をXRF分析することによって求められる前記ガドリニア粒子100質量%に対するMoO 含有率(M )が1~30質量%である、ガドリニア粒子
【請求項2】
前記ガドリニア粒子の、レーザー回折・散乱法により算出されるメディアン径D50が0.1~1000μmである、請求項1に記載のガドリニア粒子。
【請求項3】
前記ガドリニア粒子をXPS表面分析することによって求められる前記ガドリニア粒子の表層100質量%に対するGd含有率(G)が10~98質量%であり、前記ガドリニア粒子をXPS表面分析することによって求められる前記ガドリニア粒子の表層100質量%に対するMoO含有率(M)が2~40質量%である、請求項1又は2に記載のガドリニア粒子。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載のガドリニア粒子の製造方法であって、
モリブデン化合物の存在下で、ガドリニウム化合物を焼成することを含む、ガドリニア粒子の製造方法。
【請求項5】
前記モリブデン化合物が、三酸化モリブデン、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である、請求項に記載のガドリニア粒子の製造方法。
【請求項6】
前記焼成温度が900~1600℃である、請求項又はに記載のガドリニア粒子の製造方法。
【国際調査報告】