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特表2024-522319L-イジトールの合成方法、及び触媒のリサイクル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-17
(54)【発明の名称】L-イジトールの合成方法、及び触媒のリサイクル
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/145 20060101AFI20240610BHJP
   C07C 31/26 20060101ALI20240610BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240610BHJP
【FI】
C07C29/145
C07C31/26
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023571867
(86)(22)【出願日】2022-05-10
(85)【翻訳文提出日】2024-01-18
(86)【国際出願番号】 EP2022062551
(87)【国際公開番号】W WO2022243096
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】21174581.5
(32)【優先日】2021-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】シャウプ,トマス
(72)【発明者】
【氏名】マデル,シュテッフェン
(72)【発明者】
【氏名】キンドラー,アロイス
(72)【発明者】
【氏名】ハシュミ,アー.シュテフェン カー.
(72)【発明者】
【氏名】ティンダール,ダニエル ヤメス
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC41
4H006AC81
4H006AD16
4H006BA23
4H006BA48
4H006BA61
4H006BA83
4H006BB11
4H006BB14
4H006BB15
4H006BB17
4H006BB20
4H006BB21
4H006BB22
4H006BB31
4H006BC34
4H006BE20
4H006FE11
4H006FG60
4H039CA60
4H039CB20
(57)【要約】
少なくとも以下の工程:
i)L-ソルボースを含む組成物を、疎水性の立体選択的ルテニウム触媒錯体の存在下、均一溶液中で水素による水素化に供する工程であって、前記ルテニウム触媒錯体が、少なくとも2個のリン原子を含有する少なくとも1つのキラル配位子を含み、前記リン原子が、主生成物としてL-イジトールを含む組成物において、ルテニウムに配位することができる、工程と;
ii)工程i)で製造された反応生成物をルテニウム触媒錯体から分離する工程と;
iii)塩化物源を添加することにより、工程ii)で分離されたルテニウム触媒錯体を再活性化し、再活性化したルテニウム触媒錯体を工程i)で再利用する工程と
を含む、L-イジトールの調製方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下の工程:
i)L-ソルボースを含む組成物を、疎水性の立体選択的ルテニウム触媒錯体の存在下、均一溶液中で水素による水素化に供する工程であって、前記ルテニウム触媒錯体が、ルテニウムに配位することができる少なくとも2個のリン原子を含有する少なくとも1つのキラル配位子を含み、主生成物としてL-イジトールを含む組成物が得られる、工程と;
ii)工程i)で製造された反応生成物をルテニウム触媒錯体から分離する工程と;
iii)塩化物源を添加することにより、工程ii)で分離されたルテニウム触媒錯体を再活性化し、再活性化したルテニウム触媒錯体を工程i)で再利用する工程と
を含む、L-イジトールの調製方法。
【請求項2】
工程ii)における反応生成物の分離が、水での抽出として行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程iii)で添加された前記塩化物源がHClである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ルテニウム触媒錯体のキラル配位子が、式(I)を有し、
【化1】

(式中、R、R、R及びRは、互いに独立して、1~30個の炭素原子を有するアルキル、3~12個の環員炭素を有するシクロアルキル、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール、及び5~14個の環原子を有するヘタリールからなる群から選択され、
アルキルラジカルは、非置換であるか、又は5~8個の環員炭素を有するシクロアルキル、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール、5~14個の環原子を有するヘタリール、1~4個の炭素原子を有するアルコキシ、5~8個の環員炭素を有するシクロアルコキシ、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルコキシ、アリールオキシ、例えばC~C14-アリールオキシ、5~14個の環原子を有するヘタリールオキシ、ヒドロキシ、メルカプト、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンイミン、カルボキシル、SOH、スルホネート、NE、NE3+、ハロゲン、ニトロ、ホルミル、アシル及びシアノから選択される1、2、3、4又は5個の置換基を有してもよく、E、E及びEは、同一又は異なり、水素、アルキル、例えばC~C20-アルキル、3~12個の環員炭素を有するシクロアルキル、アリール、例えばC~C14-アリールから選択され、Xはアニオン等価体であり、
、R、R及びRにおけるラジカルのシクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘタリールは、非置換であるか、又は1~4個の炭素原子を有するアルキル、5~8個の環員炭素を有するシクロアルキル、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール、5~14個の環原子を有するヘタリール、1~10個の炭素原子を有するアルコキシ、5~8個の環員炭素を有するシクロアルコキシ、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルコキシ、アリールオキシ、例えばC~C14-アリールオキシ、5~14個の環原子を有するヘタリールオキシ、ヒドロキシ、メルカプト、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンイミン、カルボキシル、SOH、スルホネート、NE、NE3+、ハロゲン、ニトロ、ホルミル、アシル及びシアノから選択される1、2、3、4又は5個の置換基を有してもよく、又は
及びR、及び/又はR及びRは、P原子、及び存在する場合はそれらが結合している基X、X、X及びXと一緒になって、5員~8員複素環であり、この複素環は、5~8個の環員炭素を有するシクロアルキル、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール、5~14個の環原子を有するヘタリールから選択される1個、2個又は3個の基と任意に縮合しており、複素環、及び存在する場合に縮合した基は、互いに独立して、1~10個の炭素原子を有するアルキル、5~8個の環員炭素を有するシクロアルキル、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール、5~14個の環原子を有するヘタリール、ヒドロキシ、メルカプト、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンイミン、アルコキシ、ハロゲン、カルボキシル、SOH、スルホネート、NE、NE6+、ニトロ、アルコキシカルボニル、例えばC~C20-アルコキシカルボニル、ホルミル、アシル及びシアノから選択される1、2、3又は4個の置換基をそれぞれ有してよく、E、E及びEは、同一又は異なり、水素、アルキル、例えばC~C20-アルキル、3~12個の環員炭素を有するシクロアルキル、及びアリール、例えばC~C14-アリールから選択され、Xはアニオン等価体であり、
、X、X、X、X、X、X、X及びXは、互いに独立して、O、S、CR、SiR又はNRであり、R、R及びRは、互いに独立して、水素、1~4個の炭素原子を有するアルキル、特に5~8個の環員炭素を有するシクロアルキル、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール、又は5~14個の環原子を有するヘタリールであり、
Yは炭素原子を含有する2価の架橋基であり、
a、b、c、d、e及びfは、互いに独立して0又は1である)
ただし、例えば、P原子の少なくとも1つが非対称であり、及び/又は式(I)の配位子が軸性キラリティを有するため、式(I)は少なくとも1つのキラル基を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ルテニウム触媒錯体が、ルテニウムの量が、元素ルテニウムとして計算して、水素化に供されるL-ソルボースの量に基づいて、0.001モル%~50モル%の範囲にあるような量で存在する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記キラル配位子が、存在するルテニウム1モルあたり少なくとも0.5モルの量で存在する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
反応が、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、アミド、尿素、ニトリル、スルホキシド、スルホン、アルコール、エステル、カーボネート、エーテル、水及びそれらの混合物から選択される溶媒の存在下で行われる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
D-ソルビトールとL-イジトールの比が、1:7~1:1.5の範囲、好ましくは1:6.5~1:1.9の範囲である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項4に定義した遷移金属錯体の、L-ソルボース又はその混合物を含む組成物の水素化のための水素化触媒としての使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L-ソルボースを均一触媒による均一反応で水素化することによるL-イジトールの合成方法、及び立体選択的ルテニウム触媒のリサイクル及び再活性化に関する。
【背景技術】
【0002】
L-イジトール(CAS番号488-45-9)は、特定の糖及び炭水化物の変換によって得られる糖アルコールである。L-イジトールは、特に医薬品、ポリマー、大環状化合物の合成の出発点として役立つが、特に商業的に興味深いものである。
【0003】
L-イジトールは自然界に微量しか存在しないため、天然源からの単離は経済的な選択肢ではない。そのため、L-ソルボース(CAS番号:87-79-6)(ビタミンC合成の中間体として大規模に生産される)の水素化が特に注目されている。しかし、先行技術では、L-ソルボースからL-イジトールを得るためのアプローチはほんのわずかしか提案されていない。
【0004】
L-イジトールを製造するための1つの方法は、酵母を用いた発酵によるL-ソルボースの還元であり、M.Ogawaらによって、Applied and Environmental Microbiology,1983,46(4),912-916に記載されている。残念なことに、酵母は発酵条件下で出発原料の糖の大部分を代謝するため、この方法ではL-イジトールの収率は低く、発酵で消費されるL-ソルボースの最大でも33%しか得られない。また、この混合物からのL-イジトールの単離は、最大収率27%の純粋なL-イジトールを得るためには、アセチル保護基をすべて鹸化する必要がある過アセチル化後にのみ可能であり、その結果、保護/脱保護シーケンスから大量の塩廃棄物が生じた。
【0005】
酵母を用いたL-ソルビトールからL-イジトールへの改良発酵は、V.Vongsuvanlert,J.Ferment.Technol.1988,66(5)によって報告された。代謝のための炭素源としてメタノール及びキシロースを用いると、粗発酵混合物中のL-ソルボースの消費量に対してL-イジトールの収率が98%まで増加する。残念なことに、この方法では、大量のFeSO(使用するソルボースの質量の1.12倍の量)、リン酸緩衝液を使用した厳密なpH制御が必要である。L-イジトールを単離するためには発酵混合物から大量の高水溶性塩(廃棄物)から、高水溶性のL-イジトールを分離しなければならないため、これは欠点である。残念なことに、分離のための手段は開示されていない。むしろ、粗発酵混合物だけがHPLCで分析された。
【0006】
原則として、L-ソルボースのL-イジトールへの不均一水素化による発酵の欠点を克服することができるはずである。例えば、EP 0 006 313A1には、微粒子担体上に微微粉化された金属銅含有の銅触媒上でのケト糖の接触水素化による糖アルコールの製造が開示されている。しかし、この方法をソルボースの還元に適用すると、主にD-ソルビトールが得られる。L-イジトールは副産物としてしか得られず、L-ソルボースの100%変換におけるL-イジトールとD-ソルビトールの最大比は38:62である。
【0007】
L-イジトールに向けてより選択的に水素化を実行できることが求められており、プロセス全体がより効率的になり、例えば、D-ソルビトールとの1:1混合物からL-イジトールを単離するのは非常に困難で非効率であるため、その後の発酵はもはや必要ない。
【0008】
Angewandte Chemie,International Edition,2020,DOI:10.1002/anie.202009790では、非対称遷移金属触媒を用いて、L-イジトールへの選択率が80%を超えるL-ソルボースのL-イジトールへの水素化が記載されている。このアプローチは、非酵素的プロセスで初めて、保護基を必要とせずにL-ソルボースから主生成物として直接L-イジトールを得ることができる。しかしながら、効率的な工業的プロセスでは、使用済みの高価な立体選択的遷移金属触媒の簡単なリサイクルが必要であり、この点については本研究では開示されていない。
【0009】
活性及び選択性を著しく損なうことなく立体選択的水素化触媒を再利用することは、通常容易ではなく、ほとんどの非対称変換では触媒は再利用されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】EP 0 006 313A1
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】M.Ogawaら,Applied and Environmental Microbiology,1983,46(4),912-916
【非特許文献2】V.Vongsuvanlert,J.Ferment.Technol.1988,66(5)
【非特許文献3】Angewandte Chemie,International Edition,2020,DOI:10.1002/anie.202009790
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、L-ソルボースを水素化することによりL-イジトールを合成するための立体選択的ルテニウム触媒のリサイクル及び再活性化のための方法を提供することである。この方法により、L-ソルボースの水素化によりL-イジトールをコスト効率よく製造することが可能になるはずである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
驚くべきことに、この問題は、少なくとも以下の工程:
i)L-ソルボースを含む組成物を、疎水性の立体選択的ルテニウム触媒錯体の存在下、均一溶液中で水素による水素化に供する工程であって、前記ルテニウム触媒錯体が、ルテニウムに配位することができる少なくとも2個のリン原子を含有する少なくとも1つのキラル配位子を含み、主生成物としてL-イジトールを含む組成物が得られる、工程と;
ii)工程i)で製造された反応生成物をルテニウム触媒錯体から分離する工程と;
iii)塩化物源を添加することにより、工程ii)で分離されたルテニウム触媒錯体を再活性化し、再活性化したルテニウム触媒錯体を工程i)で再利用する工程と
を含む、L-イジトールの調製方法によって解決されることが見出された。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の概要
本発明は、以下の工程:1)L-ソルボースを含む組成物を、疎水性の立体選択的ルテニウム触媒錯体の存在下、均一溶液中で水素による水素化に供する工程であって、前記遷移金属触媒錯体が、遷移金属に配位することができる少なくとも2個のリン原子を含有する少なくとも1つのキラル配位子を含み、主生成物としてL-イジトールを含む組成物が得られる、工程と;2)L-イジトール及び他のヘキソースを水で抽出する工程と;3)触媒を再活性化するために塩化物源を添加して、L-ソルボースのL-イジトールへの選択的水素化に触媒を再利用する工程とを含む、L-イジトールの調製及び立体選択性触媒の再利用のための方法に関する。
【0015】
発明の詳細な説明
化合物のL-ソルボース、L-イジトール及びD-ソルビトールは、フィッシャー投影図として示される以下の化学構造を有する。
【0016】
【化1】
【0017】
本発明の文脈において、「アルキル」という表現は、直鎖及び分岐状アルキル基を意味する。好ましくは、直鎖又は分岐状のC~C20-アルキル基、より好ましくはC~C12-アルキル基、さらにより好ましくはC~C-アルキル基、特にC~C-アルキル基である。アルキル基の例としては、特にメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、2-ペンチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、1,2-ジメチルプロピル、1,1-ジメチルプロピル、2,2-ジメチルプロピル、1-エチルプロピル、n-ヘキシル、2-ヘキシル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、4-メチルペンチル、1,2-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、2,3-ジメチルブチル、1,1-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、1,1,2-トリメチルプロピル、1,2,2-トリメチルプロピル、1-エチルブチル、2-エチルブチル、1-エチル-2-メチルプロピル、n-ヘプチル、2-ヘプチル、3-ヘプチル、2-エチルペンチル、1-プロピルブチル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、2-プロピルヘプチル、ノニル及びデシルが挙げられる。
【0018】
「アルキル」という表現は、1、2、3、4又は5個の置換基、好ましくは1、2又は3個の置換基、特に好ましくは1個の置換基を有することができる置換アルキル基も含み、ここで、置換基が、シクロアルキル、アリール、ヘタリール、ハロゲン、NE、NE3+、COOH、カルボキシレート、SOH及びスルホネート基から選択される。「アルキル」という表現は、1つ以上の隣接しない酸素原子で中断されたアルキル基、好ましくはアルコキシアルキルも含む。
【0019】
本発明の文脈における「アルコキシ」という表現は、上記で定義したように、酸素を介して結合している、1~4個、1~6個、1~10個、1~20個又は1~30個の炭素原子を有する飽和の直鎖又は分岐状炭化水素ラジカルを表し、例えば、C~C-アルコキシ、例えばメトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、1-メチルエトキシ、ブトキシ、1-メチルプロポキシ、2-メチルプロポキシ又は1,1-ジメチルエトキシ;C~C-アルコキシ:上記で定義したC~C-アルコキシ、及び例えばペントキシ、1-メチルブトキシ、2-メチルブトキシ、3-メチルブトキシ、1,1-ジメチルプロポキシ、1,2-ジメチルプロポキシ、2,2-ジメチルプロポキシ、1-エチルプロポキシ、ヘキソキシ、1-メチルペントキシ、2-メチルペントキシ、3-メチルペントキシ、4-メチルペントキシ、1,1-ジメチルブトキシ、1,2-ジメチルブトキシ、1,3-ジメチルブトキシ、2,2-ジメチルブトキシ、2,3-ジメチルブトキシ、3,3-ジメチルブトキシ、1-エチルブトキシ、2-エチルブトキシ、1,1,2-トリメチルプロポキシ、1,2,2-トリメチルプロポキシ、1-エチル-1-メチルプロポキシ又は1-エチル-2-メチルプロポキシが挙げられる。
【0020】
本発明の文脈における「アルキレン」という表現は、1~25個、好ましくは1~6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐状アルカンジイル基を表す。これらは、-CH-、-(CH-、-(CH-、-(CH-、-(CH-CH(CH)-、(-CH-CH(CH)-)、-CH-CH(CH)-CH-、(CH-、-(CH-、-(CH-、-(CH-、-CH(CH)-CH-CH-CH(CH)-又は-CH(CH)-CH-CH-CH-CH(CH)-などが挙げられる。
【0021】
本発明の文脈における「シクロアルキル」という表現は、3~12個、好ましくは3~6個又は3~8個の環員炭素を有する、単環式、二環式又は三環式の、飽和炭化水素基を表し、例えば、3~8個の環員炭素を有する単環式炭化水素基、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル又はシクロオクチル;5~10個の環員炭素を有する二環式炭化水素基、例えばビシクロ[2.2.1]ヘプト-1-イル、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-7-イル、ビシクロ[2.2.2]オクト-1-イル、ビシクロ[2.2.2]オクト-2-イル、ビシクロ[3.3.0]オクチル及びビシクロ[4.4.0]デシル;6~10個の環員炭素を有する三環式炭化水素基、例えばアダマンチルが挙げられる。
【0022】
本発明の文脈における「シクロアルコキシ」(=シクロアルキルオキシ)という表現は、上記で定義したように、3~12個、好ましくは最大6個、最大8個の環員炭素を有し、酸素原子を介して結合している単環式、二環式又は三環式の飽和炭化水素基を表す。
【0023】
本発明の文脈における「ヘテロシクロアルキル」という表現は、好ましくは4~7個、より好ましくは5又は6個の環原子を有する飽和又は部分的に不飽和の脂環式基を含み、その中で1、2、3又は4個の環原子が、好ましくは酸素、窒素及び硫黄の元素から選択されるヘテロ原子で置換されてもよい。任意に、ヘテロシクロアルキル環は置換されている。置換されている場合、これらのヘテロ脂環式基は、好ましくは1、2又は3個の置換基、より好ましくは1又は2個の置換基、特に1個の置換基を有する。これらの置換基は、好ましくはアルキル、シクロアルキル、アリール、COOR(R=H、アルキル、シクロアルキル、アリール)、COO及びNEから選択され、より好ましくはアルキルである。このようなヘテロ脂環式基の例としては、ピロリジニル、ピペリジニル、2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル、イミダゾリジニル、ピラゾリジニル、オキサゾリジニル、モルホリジニル、チアゾリジニル、イソチアゾリジニル、イソオキサゾリジニル、ピペラジニル、テトラヒドロチオフェニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル及びジオキサニルが挙げられる。
【0024】
本発明の文脈における「アリール」という表現は、通常6~14個、好ましくは6~10個の炭素原子を有する単核又は多核芳香族炭化水素ラジカルを含み、例えばフェニル、トリル、キシリル、メシチル、ナフチル、インデニル、フルオロエニル、アントラセニル又はフェナントレニルである。これらのアリール基が置換されている場合、それらは好ましくは1、2、3、4又は5個の置換基、より好ましくは1、2又は3個の置換基、特に好ましくは1個の置換基を有してもよい。これらの置換基は、好ましくは、アルキル、アルコキシ、カルボキシル、カルボキシレート、トリフルオロメチル、-SOH、スルホネート、NE、アルキレン-NE、ニトロ、シアノ及びハロゲンから選択される。好ましいフッ素化アリール基はペンタフルオロフェニルである。
【0025】
本発明の文脈における「アリールオキシ」という表現は、上記で定義したように、通常6~14個、好ましくは6~10個の炭素原子を有し、酸素原子を介して結合している単核又は多核芳香族炭化水素ラジカルを表す。
【0026】
本発明の文脈における「3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル(=ヘテロシクリル)」という表現は、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個又は12個の環原子を有する飽和、部分的(例えばモノ)不飽和の複素環ラジカルを表し、環原子のうちの1個、2個又は3個が、N、O、S、S(O)及びS(O)から選択され、他の環原子が炭素であり、例えば、3~8員の飽和ヘテロシクリル、例えばオキシラニル、オキセタニル、アジラニル、ピペリジニル、ピペラジニル、モルホリニル、チモルホリニル、ピロリジニル、オキサゾリジニル、テトラヒドロフリル、ジオキソラニル、ジオキサニル、ヘキサヒドロアゼピニル、ヘキシヒドロオキセピニル、及びヘキサヒドロチエピニル;部分的に不飽和の3員、4員、5員、6員、7員又は8員ヘテロシクリル、例えばジ-及びテトラヒドロピリジニル、ピロリニル、オキサゾリニル、ジヒドロフリル、テトラヒドロアゼピニル、テトラヒドロオキセピニル及びテトラヒドロチエピニルが挙げられる。
【0027】
本発明の文脈における「3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルコキシ(=ヘテロシクロアルコキシ)」という表現は、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個又は12個の環原子を有する飽和、部分(例えばモノ)不飽和の複素環ラジカルであり、環原子のうちの1、2又は3個が、N、O、S、S(O)及びS(O)から選択され、他の環原子が、上記で定義したように、酸素を介して結合している炭素である。
【0028】
本発明の文脈における「ヘタリール(=ヘテロアリール)」という表現は、芳香族、単核又は多核の複素環であり、炭素原子に加えて、環員としてO、N又はSの基から1~4個のヘテロ原子を含み、例えば、以下のものが挙げられる、
- 炭素原子に加えて、1~4個の窒素原子又は1~3個の窒素原子、及び1個の硫黄原子又は酸素原子、又は1個の硫黄原子又は酸素原子を環員として含むことができる5員ヘテロアリール、例えばフリル、チエニル、ピロリル、イソオキサゾリル、イソチアゾリル、ピラゾリル、オキサゾリル、チアゾリル、イミダゾリル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、トリアゾリル;
- ベンゾ縮合5員ヘテロアリール:隣接する2個の環員炭素、又は1個の窒素と1個の隣接する環員炭素がブタ-1,3-ジエン-1,4-ジイル基によって架橋されているように、1つ又は2つのベンゼン環と縮合している、上記で定義した5員環ヘテロアリール基、例えばインドリル、イソインドリル、ベンズイミダゾリル、ベンゾフリル、ベンゾチエニル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾイソオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ジベンゾフラニル、ジベンゾチエニル又はカルバゾリル;
- 6員ヘテロアリール:炭素原子に加えて、1~3個又は1~4個の窒素原子を環員として含むことができる、6環ヘテロアリール基、例えばピリジニル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、1,3,5-トリアジン-2-イル及び1,2,4-トリアジン-3-イル;
- ベンゾ縮合6員ヘテロアリール:隣接する2個の環員炭素がブタ-1,3-ジエン-1,4-ジイル基によって架橋されているように、1つ又は2つのベンゼン環と縮合している、上記で定義した6員ヘテロアリール基、例えばキノリニル、イソキノリニル、キナゾリニル、キノオキサリニル、アクリジニル又はフェナジニル。
【0029】
これらのヘテロシクロ芳香族基が置換されている場合、それらは、好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、カルボキシル基、カルボキシレート基、-SOH、スルホネート基、NE、アルキレン-NE、トリフルオロメチル基及びハロゲンから選択される1個、2個又は3個の置換基を有してもよい。
【0030】
本発明の文脈におけるカルボキシレート及びスルホネートは、好ましくは、カルボン酸官能基又はスルホン酸官能基の誘導体、特に金属カルボン酸塩又は金属スルホン酸塩、カルボン酸エステル又はスルホン酸エステル、又はカルボン酸アミド又はスルホン酸アミドを表す。特に好ましくは、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール及びtert-ブタノールのようなC~C-アルカノールとのエステルである。1級アミド及びそれらのN-アルキル誘導体及びN,N-ジアルキル誘導体も好ましい。
【0031】
本発明の文脈における「アシル」という表現は、好ましくは2~11個、より好ましくは2~8個の炭素原子を有するアルカノイル基又はアロイル基、例えばアセチル、プロパノイル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、2-エチルヘキサノイル、2-プロピルヘプタノイル、ベンゾイル及びナフトイルを表す。
【0032】
NE、NE及びNEの基は、好ましくは、N,N-ジメチルアミノ、N,N-ジエチルアミノ、N,N-ジプロピルアミノ、N,N-ジイソプロピルアミノ、N,N-ジ-n-ブチルアミノ、N,N-ジ-tert-ブチルアミノ、N,N-ジシクロヘキシルアミノ及びN,N-ジフェニルアミノから選択される。
【0033】
ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素、好ましくはフッ素、塩素又は臭素を表す。
【0034】
ホルミルはH-C(=O)-である。カルボキシは-C(=O)OHである。スルホは-S(=O)-OHである。
【0035】
ポリアルキレンオキシドは、上記で定義したように、2~100、又は3~50、又は4~25、又は5~10の範囲の重合度(数平均)を有する、同一又は異なるC2~4-オキシアルキレンモノマー構成単位(building blocks)から誘導されるラジカルである。
【0036】
ポリアルキレンイミンは、酸素原子がイミン基で置換されている上記のポリアルキレンオキシドラジカルと構造が類似するラジカルである。
【0037】
は、一価カチオン又は正の単電荷を表す多価カチオンの一部を意味するカチオン等価体(equivalent)を指す。カチオンMは、COO-又はスルホネート基のような負に帯電した置換基を中和し、原則として任意に選択することができる単なる対イオンである。好ましくは、アルカリ金属イオン、特にNa、K及びLiイオン、又はオニウムイオン、例えばアンモニウムイオン、モノ-、ジ-、トリ-、テトラアルキルアンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、テトラアルキルホスホニウムイオン及びテトラアリールホスホニウムイオンである。
【0038】
これは、アンモニウム基のような正に帯電した置換基の単なる対イオンであり、原則として一価のアニオン及び負の単電荷に対応する多価のアニオンの一部から任意に選択することができるアニオン等価体Xにも当てはまる。好ましいのは、ハロゲン化物X、特に塩化物及び臭化物である。また、スルフェート及びスルホネート、特にSO 2-、トシレート、トリフルオロメタンスルホネート及びメチルスルホネートも好ましい。
【0039】
縮合環システムとも呼ばれる凝縮環システムは、アネレーションによって得られる環に縮合した芳香族化合物、複素芳香族化合物、又は環状化合物である。凝縮環システムは、2、3、又は3個以上の環からなる。連結のタイプによって、オルトアネレーションとペリアネレーションに分けられる。オルトアネラシオンの場合、各環は隣接する環と2つの原子を共有する。ペリアネレーションの場合、炭素原子は2つ超の環に属する。凝縮環システムの中で好ましいのは、オルト凝縮環システムである。
【0040】
本発明の文脈において、「キラル配位子」とは、対称軸を持たない配位子である。これらは、特に少なくとも1つのキラリティ中心(すなわち、少なくとも1つの非対称原子、特に少なくとも1つの非対称P原子又はC原子)を有する配位子である。本発明の特定の実施態様では、軸方向のキラリティを示す追加の配位子が採用される。軸性キラリティーは、例えば、C-C単結合を中心とした芳香族化合物の自由回転が強く阻害されるように、オルト位に置換されているBINAPのようなビフェニルでは発生する。その結果、2つの鏡像異性体が生じる。
【0041】
本発明の文脈において、「キラル触媒」という用語は、少なくとも1つのキラル配位子を有する触媒を含む。
【0042】
「アキラル化合物」とは、キラルではない化合物である。
【0043】
「プロキラル化合物」とは、少なくとも1つのプロキラル中心を有する化合物を意味すると理解される。
【0044】
「不斉合成」とは、少なくとも1つのプロキラル中心を有する化合物から、少なくとも1つのキラリティ中心を有する化合物を製造する反応を指し、ここで、立体異性体生成物が不等量で形成される。
【0045】
「立体異性体」とは、構成は同一であるが、3次元空間における原子配列が異なる化合物である。
【0046】
「エナンチオマー」とは、互いに鏡像のように振る舞う立体異性体である。不斉合成時に達成される「エナンチオマー過剰率」(ee)は、ここでは以下の式で与えられる:ee[%]=(RS)/(R+S)×100。R及びSは、2つのエナンチオマーに対するCIPシステムの記述子であり、不斉原子の絶対配置を表す。エナンチオマー的に純粋な化合物(ee=100%)は「ホモキラル化合物」とも呼ばれる。
【0047】
本発明による方法は、特定の立体異性体、特にL-イジトールに関して濃縮された生成物をもたらす。達成された「エナンチオマー過剰率」(ee)は、一般に少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、特に少なくとも80%である。
【0048】
「ジアステレオマー」とは、互いにエナンチオマーではない立体異性体である。
【0049】
出発材料
L-ソルボースは、市販されているか、又は微生物的酸化によってD-ソルビトールから調製することができる。
【0050】
工程i):
触媒
本発明の方法において、L-ソルボースを含む組成物は、遷移金属及金属中心としてのルテニウムびに配位することができる少なくとも2個のリン原子を含有する少なくとも1つのキラル配位子を含む遷移金属触媒錯体の存在下、液体反応媒体中での水素化に供される。このキラル配位子により、遷移金属触媒錯体は立体選択性を有する。換言すれば、立体選択性の遷移金属触媒錯体を適用すると、生成物混合物は主に所望の立体異性体を含む。特に、生成物混合物は所望の立体異性体のみを含む。
【0051】
本発明の方法は、ルテニウム触媒錯体を用いて均一触媒水素化として行われる。すなわち、ルテニウム触媒錯体は、反応条件下で液体反応媒体に溶解している。典型的には、ルテニウム触媒錯体は反応物、すなわちL-ソルボースと同じ相にある。さらに、液体反応媒体は、少なくとも1つのキラル配位子を過剰に含んでもよい。この実施形態では、液体反応物は、ルテニウム錯体に結合していない遊離キラル配位子を含有する。遊離キラル配位子は、以下に定義されるリン含有配位子から選択される。
【0052】
ルテニウム触媒錯体は、遷移金属に配位することができる少なくとも2個のリン原子を含有する少なくとも1つのキラル配位子を含む。通常、キラル配位子の遷移金属に対するモル比は、少なくとも1、例えば1~4、特に1又は2である。キラル配位子は、遷移金属に配位することができる少なくとも2個のリン原子を含有し、特に、ルテニウムに配位することができる2個のリン原子を有するキラル二座配位子である。より詳細には、ルテニウム触媒錯体は、遷移金属に配位することができる2個のリン原子を有する1つ又は2つのキラル二座配位子、特に1つのそのような二座キラル配位子を有する。特に、ルテニウム触媒錯体は、遷移金属に配位することができる2個のリン原子を有する1つ又は2つのキラル二座配位子、特に1つのこのような二座キラル配位子を有する。
【0053】
本発明によれば、遷移金属に配位することができる少なくとも2個のリン原子を含有する配位子は、キラルである、すなわち、不斉である少なくとも1つの基を有する。配位子のキラリティは、例えば、P原子の少なくとも1つが非対称であるため、及び/又は配位子が軸方向のキラリティを有するため、引き起こされる可能性がある。特に、キラル配位子は、軸不斉を引き起こす基を有する。
【0054】
好ましくは、キラル配位子は、式(I)の化合物から選択され、
【化2】
(式中、R、R、R及びRは、互いに独立して、特に1~30個の炭素原子を有するアルキル、特に3~12個の環員炭素を有するシクロアルキル、特に3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール、及び特に5~14個の環原子を有するヘタリールからなる群から選択され、
アルキルラジカルは、非置換であるか、又は特に5~8個の環員炭素を有するシクロアルキル、特に3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール、特に5~14個の環原子を有するヘタリール、特に1~4個の炭素原子を有するアルコキシ、特に5~8個の環員炭素を有するシクロアルコキシ、特に3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルコキシ、アリールオキシ、例えばC~C14-アリールオキシ、特に5~14個の環原子を有するヘタリールオキシ、ヒドロキシ、メルカプト、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンイミン、カルボキシル、SOH、スルホネート、NE、NE3+、ハロゲン、ニトロ、ホルミル、アシル及びシアノから選択される1、2、3、4又は5個の置換基を有してもよく、E、E及びEは、同一又は異なり、水素、アルキル、例えばC~C20-アルキル、特に3~12個の環員炭素を有するシクロアルキル、アリール、例えばC~C14-アリールから選択され、Xはアニオン等価体であり、
、R、R及びRにおけるラジカルのシクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘタリールは、非置換であるか、又は特に1~4個の炭素原子を有するアルキル、特に5~8個の環員炭素を有するシクロアルキル、特に3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール、特に5~14個の環原子を有するヘタリール、特に1~10個の炭素原子を有するアルコキシ、特に5~8個の環員炭素を有するシクロアルコキシ、特に3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルコキシ、アリールオキシ、例えばC~C14-アリールオキシ、特に5~14個の環原子を有するヘタリールオキシ、ヒドロキシ、メルカプト、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンイミン、カルボキシル、SOH、スルホネート、NE、NE3+、ハロゲン、ニトロ、ホルミル、アシル及びシアノから選択される1、2、3、4又は5個の置換基を有してもよく、又は
及びR、及び/又はR及びRは、P原子、及び存在する場合はそれらが結合している基X、X、X及びXと一緒になって、5員~8員複素環であり、この複素環は、特に5~8個の環員炭素を有するシクロアルキル、特に3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール、特に5~14個の環原子を有するヘタリールから選択される1個、2個又は3個の基と任意に縮合しており、複素環、及び存在する場合に縮合した基は、互いに独立して、特に1~10個の炭素原子を有するアルキル、特に5~8個の環員炭素を有するシクロアルキル、特に3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール、特に5~14個の環原子を有するヘタリール、ヒドロキシ、メルカプト、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンイミン、アルコキシ、ハロゲン、カルボキシル、SOH、スルホネート、NE、NE6+、ニトロ、アルコキシカルボニル、例えばC~C20-アルコキシカルボニル、ホルミル、アシル及びシアノから選択される1、2、3又は4個の置換基をそれぞれ有してよく、E、E及びEは、同一又は異なり、水素、アルキル、例えばC~C20-アルキル、特に3~12個の環員炭素を有するシクロアルキル、及びアリール、例えばC~C14-アリールから選択され、Xはアニオン等価体であり、
、X、X、X、X、X、X、X及びXは、互いに独立して、O、S、CR、SiR又はNRであり、R、R及びRは、互いに独立して、水素、特に1~4個の炭素原子を有するアルキル、特に5~8個の環員炭素を有するシクロアルキル、特に3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール、又は特に5~14個の環原子を有するヘタリールであり、
Yは炭素原子を含有する2価の架橋基であり、
a、b、c、d、e及びfは、互いに独立して0又は1である)
ただし、例えば、P原子の少なくとも1つが非対称であり、及び/又は式(I)の配位子が軸性キラリティを有するため、式(I)は少なくとも1つのキラル基を有する。
【0055】
式(I)において、変数R、R、R、R、X、X、X、X、X、X、X、X、X、a、b、c、d、e及びfは、個々に又は特に組み合わせて、好ましくは以下の意味を有し、ただし、例えば、P原子の少なくとも1つが非対称であり、及び/又は式(I)の配位子が軸性キラリティを有するため、式(I)は少なくとも1つのキラル基を有する:
、R、R及びRは、互いに独立して、C~C30-アルキル、C~C12-シクロアルキル、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、C~C14-アリール又は5~14個の環原子を有するヘタリールであり、
ここで、アルキルラジカルは、C~C12-シクロアルキル、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、C~C14-アリール、5~14個の環原子を有するヘタリール、C~C10-アルコキシ、C~C12-シクロアルコキシ、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルコキシ、C~C14-アリールオキシ、5~14個の環原子を有するヘタリールオキシ、ヒドロキシ、メルカプト、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンイミン、カルボキシル、SOH、スルホネート、NE、NE3+、ハロゲン、ニトロ、ホルミル、アシル及びシアノから選択される1、2、3、4又は5個の置換基を有してもよく、E、E及びEは、同一又は異なり、水素、C~C20-アルキル、C~C12-シクロアルキル及びC~C14-アリールから選択され、Xはアニオン等価体であり、
そして、ラジカルのシクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘタリールラジカルは、C~C20-アルキル、及び前にアルキルラジカルR、R、R及びRについて述べた置換基から選択される1、2、3、4又は5個の置換基を有してもよく、又は
及びR、及び/又はR及びRは、P原子、及び存在する場合はそれらが結合している基X、X、X及びXと一緒になって、5員~8員複素環であり、この複素環は、C~C12-シクロアルキル、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、C~C14-アリール及び5~14個の環原子を有するヘテロアリールから選択される1個、2個又は3個の基と任意に縮合しており、複素環、及び存在する場合に縮合した基は、互いに独立して、C~C20-アルキル、C~C12-シクロアルキル、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、C~C14-アリール、5~14個の環原子を有するヘタリール、ヒドロキシ、メルカプト、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンイミン、C~C20-アルコキシ、ハロゲン、カルボキシル、SOH、スルホネート、NE、NE6+、ニトロ、アルコキシカルボニル、例えばC~C20-アルコキシカルボニル、ホルミル、アシル及びシアノから選択される1、2、3又は4個の置換基をそれぞれ有してよく、E、E及びEは、同一又は異なり、水素、C~C20-アルキル、C~C12-シクロアルキル及びC~C14-アリールから選択され、X-はアニオン等価体であり、
、X、X、X、X、X、X、X及びXは、互いに独立して、O、S、CR、SiR又はNRであり、R、R及びRは、互いに独立して、水素、C~C20-アルキル、C~C12-シクロアルキル、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、C~C14-アリール、又は5~14個の環原子を有するヘタリールであり、
Yは炭素原子を含有する2価の架橋基であり、
a、b、c、d、e及びfは、互いに独立して0又は1である。
【0056】
特に、キラル配位子は有機ホスフィンから、特に式(I)の化合物から選択され、式中、a、b、c、d、e及びfは0であるか、又はX1 、X、X、X、X、X、X、X、X及びXは、それぞれの場合に、基CRである。特に、式(I)の整数a、b、c、d、e及びfは0である。
【0057】
式(I)において、変数R、R、R、Rは、特に以下の意味を有する:
、R、R及びRは、互いに独立して、特に1~30個の炭素原子を有するアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール、又は特に5~14個の環原子を有するヘテロアリールからなる群から選択され、ここで、アルキルラジカルは、アルコキシ、例えばC~C-アルコキシ、NE、NE3+から選択される1、2、3、4又は5個の置換基を有してもよく、E、E及びEは、同一又は異なり、水素又はアルキルから選択され、Xはアニオン等価体であり、アリール又はヘテロアリールラジカルは、特に1~8個の炭素原子を有するアルキル、特に1~8個の炭素原子を有するアルコキシ、NE及びNE3+からなる群から選択される1、2、3、4又は5個の置換基を有してもよい。
【0058】
より詳細には、変数R、R、R、Rは、特に以下の意味を有する:
有機ホスフィンは、ホスフィン(ホスファンとも呼ばれる)に由来し、ここで、1つ以上の水素が有機置換基で置換されている。
【0059】
特に、キラル配位子は、式(II)又は(III)の化合物から選択され、
【化3】
(式中、R、R、R及びRは、上記で定義したいずれかの意味を有し、
、R、R及びRは、特に、互いに独立して、特に1~30個の炭素原子を有するアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール又は特に5~14個の環原子を有するヘテロアリールからなる群から選択され、ここで、アルキルラジカルは、アルコキシ、例えばC~C-アルコキシ、NE、NE3+から選択される1、2、3、4又は5個の置換基を有してもよく、E、E及びEは、同一又は異なり、水素又はアルキルから選択され、Xはアニオン等価体であり、アリール又はヘテロアリールラジカルは、特に1~8個の炭素原子を有するアルキル、特に1~8個の炭素原子を有するアルコキシ、NE及びNE3+からなる群から選択される1、2、3、4又は5個の置換基を有してもよく;
Yは炭素原子を含有する2価の架橋基であり、
、Q及びQは、互いに独立して、式(IV)の2価の架橋基である、
【化4】
[式中、#は分子の残りの部分との結合部位を示し、
e1、Re2、Re3、Re4、Re5、Re6、Re7及びRe8は、互いに独立して、水素、各場合に非置換又は置換された、特に1~20個の炭素原子を有するアルキル、特に1~20個の炭素原子を有するアルコキシ、特に3~12個の炭素原子を有するシクロアルキル、特に3~12個の炭素原子を有するシクロアルコキシ、特に3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、特に3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルコキシ、アリール、例えばC~C14-アリール、アリールオキシ、例えばC~C14-アリールオキシ、特に5~14個の環原子を有するヘタリール、特に5~14個の環原子を有するヘタリールオキシ、
ハロゲン、ヒドロキシ、メルカプト、シアノ、ニトロ、ホルミル、アシル、カルボキシ、カルボキシレート、C~C20-アルキルカルボニルオキシ、カルバモイル、SOH、スルホネート又はNEからなる群から選択され、E及びEは、同一又は異なり、水素、アルキル、例えばC~C20-アルキル、特に3~12個の環員炭素を有するシクロアルキル、特に3~12個の環員原子を有するヘテロシクロアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール、及び特に5~14個の環員原子を有するヘタリールから選択され、
2つの隣接するラジカルRe1~Re8は、それらが結合しているベンゼン環の炭素原子と一緒に、1、2又は3個のさらなる環を有する縮合環システムであってもよく、
は、単結合、O、S、NRa31、SiRa32a33、又はC~C-アルキレンであり、このC~C-アルキレンは、二重結合を有してもよく、及び/又はアルキル、例えばC~C20-アルキル、特に3~12個の環員炭素を有するシクロアルキル、特に3~12個の環員原子を有するヘテロシクロアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール、及び特に5~14個の環員原子を有するヘタリールで置換されてもよく、又はO、S、NRa31又はSiRa32a33によって中断されてもよく、ここで、Ra31、Ra32及びRa33は、互いに独立して、水素、アルキル、例えばC~C20-アルキル、特に3~12個の環員炭素を有するシクロアルキル、特に3~12個の環員原子を有するヘテロシクロアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール、及び特に5~14個の環員原子を有するヘタリールである])
ただし、例えば、式(II)及び(III)のP原子の少なくとも1つが非対称であり、及び/又は式(II)及び(III)の配位子が軸性キラリティを有するため、式(II)及び(III)は少なくとも1つのキラル基を有する。
【0060】
より詳細には、キラル配位子は、式(II)又は(III)の化合物から選択され、
【化5】
(式中、R、R、R及びRは、上記で定義したいずれかの意味を有し、
、R、R及びRは、特に、互いに独立して、特に1~30個の炭素原子を有するアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール又は特に5~14個の環原子を有するヘテロアリールからなる群から選択され、ここで、アルキルラジカルは、アルコキシ、例えばC~C-アルコキシ、NE、NE3+から選択される1、2、3、4又は5個の置換基を有してもよく、E、E及びEは、同一又は異なり、水素又はアルキルから選択され、Xはアニオン等価体であり、アリール又はヘテロアリールラジカルは、特に1~8個の炭素原子を有するアルキル、特に1~8個の炭素原子を有するアルコキシ、NE及びNE3+からなる群から選択される1、2、3、4又は5個の置換基を有してもよく;
Yは炭素原子を含有する2価の架橋基であり、
、Q及びQは、互いに独立して、式(IV)の2価の架橋基である、
【化6】
[式中、#は分子の残りの部分との結合部位を示し、
e1、Re2、Re3、Re4、Re5、Re6、Re7及びRe8は、互いに独立して、水素、各場合に非置換又は置換された、C~C20-アルキル、C~C20-アルコキシ、C~C12-シクロアルキル、C~C12-シクロアルコキシ、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルコキシ、C~C14-アリール、C~C14-アリールオキシ、5~14個の環原子を有するヘタリール、5~14個の環原子を有するヘタリールオキシ;
ハロゲン、ヒドロキシ、メルカプト、シアノ、ニトロ、ホルミル、アシル、カルボキシ、カルボキシレート、C~C20-アルキルカルボニルオキシ、カルバモイル、SOH、スルホネート又はNEであり、E及びEは、同一又は異なり、水素、C~C20-アルキル、C~C12-シクロアルキル、3~12個の環員原子を有するヘテロシクロアルキル、C~C14-アリール、及び5~14個の環員原子を有するヘタリールから選択され、
2つの隣接するラジカルRe1~Re8は、それらが結合しているベンゼン環の炭素原子と一緒に、1、2又は3個のさらなる環を有する縮合環システムであってもよく、
は、単結合、O、S、NRa31、SiRa32a33、又は
二重結合を有してもよいC~C-アルキレン、及び/又はC~C20-アルキル、C~C12-シクロアルキル、3~12個の環員原子を有するヘテロシクロアルキル、C~C14-アリール、又は5~14個の環員原子を有するヘタリールで置換されてもよいC~C-アルキレン、又はO、S、NRa31又はSiRa32a33によって中断されてもよいC~C-アルキレンであり、ここで、Ra31、Ra32及びRa33は、互いに独立して、水素、C~C20-アルキル、C~C12-シクロアルキル、3~12個の環員原子を有するヘテロシクロアルキル、C~C14-アリール、又は5~14個の環員原子を有するヘタリールである])
ただし、例えば、式(II)及び(III)のP原子の少なくとも1つが非対称であり、及び/又は式(II)及び(III)の配位子が軸性キラリティを有するため、式(II)及び(III)は少なくとも1つのキラル基を有する。
【0061】
式(IV)において、ラジカルRe1、Re2、Re3、Re4、Re5、Re6、Re7及びRe8は、好ましくは互いに独立して、水素、ハロゲン、それぞれの場合において非置換又は置換されたC~C10-アルキル、C~C10-アルコキシ、C~C14-アリール、5~10個の原子を有するヘタリールからなる群から選択され、又は2つの隣接するラジカルRe1~Re8は、それらが結合しているベンゼン環の炭素原子と一緒、1つのさらなる環を有する縮合環システムであってもよく、そして
式(IV)において、ラジカルAは、特に単結合、O又はSである。
【0062】
非常に好ましい群の実施形態において、遷移金属触媒錯体は、式(I)又は(II)の化合物から選択される少なくとも1つのキラル配位子を含み、ここで、
、R、R及びRは、互いに独立して、特に1~30個の炭素原子を有するアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール又は特に5~14個の環原子を有するヘテロアリールであり、ここで、アルキルラジカルは、アルコキシ、NE、NE3+から選択される1、2、3、4又は5個の置換基を有してもよく、E、E及びEは、同一又は異なり、水素、又は特に1~10個の炭素原子を有するアルキルから選択され、Xはアニオン等価体であり、
Yは炭素原子を含有する2価の架橋基であり、そして
a、b、c、d、e及びfは、互いに独立して0であり、
ただし、例えば、式(I)及び(II)のP原子の少なくとも1つが非対称であり、及び/又は式(I)及び(II)の配位子が軸性キラリティを有するため、式(I)及び(II)は少なくとも1つのキラル基を有する。
【0063】
さらにより好ましくは、遷移金属触媒錯体は、式(I)又は(II)の化合物から選択される少なくとも1つのキラル配位子を含み、ここで、
、R、R及びRは、互いに独立して、C~C10-アルキル、C~C12-アリール又は5~10個の環原子を有するヘテロアリールであり、ここで、アルキルラジカルは、C~C10-アルコキシ、NE、NE3+から選択される1、2、3、4又は5個の置換基を有してもよく、E、E及びEは、同一又は異なり、水素又はC~C10-アルキルから選択され、Xはアニオン等価体であり、
Yは炭素原子を含有する2価の架橋基であり、そして
a、b、c、d、e及びfは、互いに独立して0であり、
ただし、例えば、式(I)及び(II)のP原子の少なくとも1つが非対称であり、及び/又は式(I)及び(II)の配位子が軸性キラリティを有するため、式(I)及び(II)は少なくとも1つのキラル基を有する。
【0064】
特に、遷移金属触媒錯体は、式(I)又は(II)の化合物から選択される少なくとも1つの配位子を含み、ここで、
、R、R及びRは、C~C12-アリール、特にC~C10-アルキル及びC~C10-アルコキシから選択される1、2、3、4又は5個の置換基を有してもよいフェニルであり、
Yは炭素原子を含有する2価の架橋基であり、そして
a、b、c、d、e及びfは、互いに独立して0であり、
ただし、例えば、式(I)及び(II)のP原子の少なくとも1つが非対称であり、及び/又は式(I)及び(II)の配位子が軸性キラリティを有するため、式(I)及び(II)は少なくとも1つのキラル基を有する。
【0065】
上述したように、キラル配位子は、少なくとも1つのキラリティ中心を含むか、又は軸性キラリティを示す。
【0066】
好ましい実施形態では、キラル配位子は軸性キラリティを示す。特に、式(I)、(II)及び(III)の配位子は軸性キラリティを有する。特に、軸性キラリティは架橋基Yによって引き起こされる。
【0067】
好ましくは、式(I)、(II)及び(III)における2価の架橋基Yは、式(V)又は(VI)の群から選択される:
【化7】
(式中、#は分子の残りの部分との結合部位を示し、
、RI’、RII、RII’、RIII、RIII’、RIV、RIV’、R、RV’、RVI、RVI’、RVII、RVIII’、RVIII、RIX、R、RXI及びRXIIはそれぞれ、互いに独立して、水素、特に1~20個の炭素原子を有するアルキル、特に3~12個の環員炭素を有するシクロアルキル、特に3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール、及び特に5~14個の環原子を有するヘタリール、ヒドロキシ、チオール、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンイミン、アルコキシ、ハロゲン、SOH、スルホネート、NE、アルキレン-NE、ニトロ、アルコキシカルボニル、カルボキシル、アシル又はシアノであり、ここで、E及びEは上記で定義したとおりであり、特に水素、特に1~20個の炭素原子を有するアルキル、特に3~12個の環員炭素を有するシクロアルキル、及びアリール、例えばC~C14-アリールからなる群から選択され、
2つの隣接するラジカルRI’、RII’、RIII’、RIV’、RV’、RVI’、RVIII’は、それらが結合しているベンゼン環の炭素原子と一緒に、1、2又は3個のさらなる環を有する縮合環システムであり、ここで、環原子は炭素、酸素及び硫黄から選択され、各々の環は、ハロゲン、C~C-アルキル及びC~C-アルコキシから選択される1、2又は3個の置換基を有してもよく、
2つのラジカルRIV’及びRV’は、それらが結合している2つのベンゼン環の炭素原子と一緒に、縮合環システムであり、ここで、環原子は炭素、酸素及び硫黄から選択され、各々の環はハロゲン、C~C-アルキル及びC~C-アルコキシから選択される1、2又は3個の置換基を有してもよい。
【0068】
より好ましくは、2価の架橋基Yは、式(V)又は(VI)のいずれかの意味を有する、
【化8】
(式中、#は分子の残りの部分との結合部位を示し、
、RI’、RII、RII’、RIII、RIII’、RIV、RIV’、R、RV’、RVI、RVI’、RVII、RVIII’、RVIII、RIX、R、RXI及びRXIIはそれぞれ、互いに独立して、水素、C~C20-アルキル、C~C12-シクロアルキル、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、C~C14-アリール、5~14個の環原子を有するヘタリール、ヒドロキシ、チオール、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンイミン、C~C20-アルコキシ、ハロゲン、SOH、スルホネート、NE、アルキレン-NE、ニトロ、C~C20-アルコキシカルボニル、カルボキシル、アシル又はシアノであり、ここで、E及びEは、同一又は異なり、水素、C~C20-アルキル、C~C12-シクロアルキル及びC~C14-アリールから選択され、
2つの隣接するラジカルRI’、RII’、RIII’、RIV’、RV’、RVI’、RVIII’は、それらが結合しているベンゼン環の炭素原子と一緒に、1、2又は3個のさらなる環を有する縮合環システムであり、ここで、環原子は炭素、酸素及び硫黄から選択され、各々の環は、ハロゲン、C~C-アルキル及びC~C-アルコキシから選択される1、2又は3個の置換基を有してもよく、
2つのラジカルRIV’及びRV’は、それらが結合している2つのベンゼン環の炭素原子と一緒に、縮合環システムであり、ここで、環原子は炭素、酸素及び硫黄から選択され、各々の環はハロゲン、C~C-アルキル及びC~C-アルコキシから選択される1、2又は3個の置換基を有してもよい)。
【0069】
特に、ラジカルR、RI’、RII、RII’、RIII、RIII’、RIV、RIV’、R、RV’、RVI、RVI’、RVII、RVIII’、RVIII、RIX、R、RXI及びRXIIは、それぞれ、互いに独立して、水素、C~C10-アルキル、C~C12-アリール、5~10個の原子を有するヘタリールであり、
ここで、2つの隣接するラジカルRI’、RII’、RIII’、RIV’、RV’、RVI’、RVIII’は、それらが結合しているベンゼン環の炭素原子と一緒に、1、2又は3個のさらなる環を有する縮合環システムであり、ここで、環原子は炭素、酸素及び硫黄から選択され、各々の環は、ハロゲン、C~C-アルキル及びC~C-アルコキシから選択される1、2又は3個の置換基を有してもよく、
2つのラジカルRIV’及びRV’は、それらが結合しているベンゼン環の炭素原子と一緒に、縮合環システムであり、ここで、環原子は炭素、酸素及び硫黄から選択され、各々の環はハロゲン、C~C-アルキル及びC~C-アルコキシから選択される1、2又は3個の置換基を有してもよい。
【0070】
特に、二価の架橋基Yは、式(V)の意味のうちの1つを有し、ここで、R、RI’、RII、RII’、RIII、RIII’、RIV及びRIV’が、それぞれ、互いに独立して、水素、C~C10-アルキル、C~C12-アリール、5~10個の原子を有するヘタリールであり、
2つの隣接するラジカルRI’、RII’、RIII’、RIV’、RV’、RVI’、RVIII’が、それらが結合しているベンゼン環の炭素原子と一緒に、1、2又は3個のさらなる環を有する縮合環システムであり、環原子が炭素、酸素及び硫黄から選択され、各々の環が、ハロゲン、C~C-アルキル及びC~C-アルコキシから選択される1、2又は3個の置換基を有してもよく、
2つのラジカルRIV’及びRV’が、それらが結合しているベンゼン環の炭素原子と一緒に、縮合環システムであり、環原子が炭素、酸素及び硫黄から選択され、各々の環がハロゲン、C~C-アルキル及びC~C-アルコキシから選択される1、2又は3個の置換基を有してもよい。
【0071】
配位子は、水への溶解度が低い触媒が形成されるように選択される。好ましくは、工程3において、分離後の水相中のルテニウム量が100万分の1未満であるように選択する。以下に示す配位子A~Hは、水中でのルテニウム触媒の必要な低い溶解度を提供するルテニウム触媒をもたらす。
【0072】
特に好ましい実施形態において、ルテニウム触媒錯体は、式A~H及びそれらの混合物から選択される少なくとも1つの配位子を含む、
【化9】
(式中、略語:
Me メチル
Ph フェニル
Bu tertブチル
(S)-SEGPHOS (S)-(-)-5,5’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-4,4’-ビ-1,3-ベンゾジオキソール
(R)-BINAP (R)-(+)-(1,1’-ビナフタレン-2,2’-ジイル)ビス(ジフェニルホスフィン)
(S)-SYNPHOS (S)-6,6’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-2,2’,3,3’-テトラヒドロ-5,5’-ビベンゾ[b][1,4]ジオキシン
(S)-DM-SEGPHOS (S)-(-)-5,5’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-4,4’-ビ-1,3-ベンゾジオキソール
(S)-DTBM-SEGPHOS (S)-(+)-5,5’-ビス[ジ(3,5-ジ-tert-ブチル-4-メトキシフェニル)ホスフィノ]-4,4’-ビ-1,3-ベンゾジオキソール
(S)-MeO-BIPHEP (S)-(-)-2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-6,6’-ジメトキシ-1,1’-ビフェニル
(S)-DIFLUORPHOS (S)-(+)-5,5’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-2,2,2’,2’-テトラフルオロ-4,4’-ビ-1,3-ベンゾジオキソール
(S)-C3-TUNEPHOS (S)-ビス(ジフェニルホスフィノ)-7,8-ジヒドロ-6H-ジベンゾ[f,h][1,5]ジオキソニン)。
【0073】
本発明によるルテニウム触媒は、ルテニウム化合物及び1つ以上の配位子を含む予め形成された錯体の形態で採用することができる。あるいは、ルテニウム触媒は、金属化合物(本明細書では前触媒とも呼ばれる)を、1つ以上の好適な配位子と組み合わせて、反応媒体中で触媒的ルテニウム錯体を形成することにより、反応媒体中その場で形成される。また、ルテニウム触媒が、補助配位子の存在下で、金属化合物(本明細書では前触媒とも呼ばれる)を、1つ以上の補助配位子とを組み合わせて、反応媒体中で触媒的ルテニウム錯体を形成することにより、その場で形成されることも可能である。
【0074】
好適な前触媒は、中性ルテニウム錯体、ルテニウムの酸化物及び塩から選択される。
【0075】
前触媒として有用なルテニウム化合物としては、例えば、[Ru(メチルアリル)COD]、[Ru(p-シメン)Cl、[Ru(ベンゼン)Cl、[Ru(CO)Cl、[Ru(CO)Cl、[Ru(COD)(アリル)]、[RuCl・HO]、[Ru(アセチルアセトナート)]、[Ru(DMSO)Cl]、[Ru(PPh(CO)(H)Cl]、[Ru(PPh(CO)Cl]、[Ru(PPh(CO)(H)]、[Ru(PPhCl]、[Ru(Cp)(PPhCl]、[Ru(Cp)(CO)Cl]、[Ru(Cp)(CO)H]、[Ru(Cp)(CO)、[Ru(Cp)(CO)Cl]、[Ru(Cp)(CO)H]、[Ru(Cp)(CO)、[Ru(インデニル)(CO)Cl]、[Ru(インデニル)(CO)H]、[Ru(インデニル)(CO)]、ルテノセン、[Ru(binap)(Cl)]、[Ru(2,2’-ビピリジン)(Cl)・HO]、[Ru(COD)(Cl)H]、[Ru(Cp)(COD)Cl]、[Ru(CO)12]、[Ru(テトラフェニルヒドロキシシクロペンタジエニル)(CO)H]、[Ru(PMe(H)]、[Ru(PEt(H)]、[Ru(Pn-Pr(H)]、[Ru(Pn-Bu(H)]、[Ru(Pn-オクチル(H)]が挙げられ、このうち[Ru(メチルアリル)COD]、[Ru(COD)Cl、[Ru(Pn-Bu(H)]、[Ru(Pn-オクチル(H)]、[Ru(PPh(CO)(H)Cl]及び[Ru(PPh(CO)(H)]が好ましく、特に[Ru(メチルアリル)COD]が好ましい。
【0076】
前記化合物中、名称「COD」は1,5-シクロオクタジエンを表し;「Cp」はシクロペンタジエニルを表し;「Cp」はペンタメチルシクロペンタジエニルを表し;「binap」は2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチルを表す。
【0077】
本発明の方法において、準化学量論量(sub-stoichiometric amount)の触媒は一般に使用され、触媒の量は、L-ソルボースを含む組成物中のL-ソルボースの量に基づいて、一般に50モル%以下、しばしば20モル%以下、特に10モル%以下又は5モル%以下である。L-ソルボースを含む組成物中のL-ソルボースの量に基づいて、0.001~50モル%、しばしば0.001モル%~20モル%、特に0.005~5モル%の触媒の量が、本発明の方法において一般に使用される。好ましくは0.01~2モル%、特に好ましくは0.01モル%~1モル%の触媒の量を使用する。示される触媒の量はすべて、ルテニウム金属として計算され、L-ソルボースを含む組成物中のL-ソルボースの量に基づくものである。
【0078】
典型的には、本発明の方法において存在するキラル配位子の量は、ルテニウム金属1モルあたり少なくとも0.5モル、特に少なくとも0.8モル、特に少なくとも1モルであり、例えば、遷移金属1モルあたり0.5~10モルの範囲、特に0.8~8モルの範囲、特に1.0~5.0モルの範囲である。
【0079】
本発明の方法は、溶媒の存在下で実施することができる。好適な溶媒は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、アミド、尿素、ニトリル、スルホキシド、スルホン、アルコール、エステル、カーボネート、エーテル及びそれらの混合物から選択される。好ましい溶媒は、以下のものが挙げられる:
- 特に5~10個の炭素原子を有する、脂肪族及び脂環式炭化水素、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン及びメチルシクロヘキサン;
- ハロゲン含有芳香族炭化水素を含む芳香族炭化水素、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン又はベンゾトリフルオリド;
- アミド、特に脂肪族カルボン酸のN,N-ジアルキルアミド及びN-アルキルラクタム、例えば、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン又はジメチルアセトアミド;
- 尿素、特にN,N,N’,N’-テトラアルキルウレア及びN,N’-ジアルキル-N,N’-アルキレンウレア、例えば、テトラメチルウレア、N,N-ジメチルイミダゾリノン(DMI)及びN,N-ジメチルプロピレンウレア(DMPU);
- ニトリル、特に脂肪族ニトリル、例えばアセトニトリル又はプロピオニトリル;
- スルホキシド、特にジアルキルスルホキシド、例えばジメチルスルホキシド;
- スルホン、特に脂環式スルホン、例えばスルホラン;
- アルコール、特にアルカノール、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、イソ-ブタノール、1-プロパノール、イソ-プロパノール、1-ヘキサノール;
- エステル、特に脂肪族カルボン酸のアルキルエステル、例えば、メチルアセテート、エチルアセテート、t-ブチルアセテート及びエチルブチレート;
- カーボネート、特にジアルキルカーボネート及びアルキレンカーボネート、例えばジエチルカーボネート、エチレンカーボネート、及びプロピレンカーボネート;
- エーテル、特にジアルキルエーテル及び脂環式エーテル、例えばジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、メチルt-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル又はジエチレングリコールジメチルエーテル。
【0080】
所望により、上記の溶媒の2種以上の混合物を使用することもできる。
【0081】
好ましい実施形態において、好ましい溶媒は、アルコール、特にC~C-アルカノール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、イソ-ブタノール、1-プロパノール、イソ-プロパノール、1-ヘキサノール又はそれらの混合物である。
【0082】
工程i)
原則として、水素化は、L-ソルボースを含む組成物の水素化に好適な、当業者に公知の全ての方法に従って実施することができる。
【0083】
水素化のために使用される水素は、純粋な形態で使用することができるが、所望により、他のもの、好ましくは不活性ガス、例えば窒素又はアルゴンとの混合物の形態でも使用することができる。水素を未希釈の形態で使用することが好ましい。
【0084】
水素化は、典型的に0.1~300バールの範囲、好ましくは1~100バールの範囲、より好ましくは1~50バールの範囲の水素圧力で行われる。
【0085】
水素化は典型的に、-20~300℃の範囲の温度で行われる。水素化は、好ましくは少なくとも50℃、特に少なくとも80℃の温度で行われる。好ましくは、温度は200℃、特に180℃を超えない。水素化は、特に50℃~200℃の範囲、特に好ましくは80℃~180℃の範囲の温度で行われる。最大150℃、例えば50~150℃の範囲、特に80~150℃の範囲の温度が特に有利である。
【0086】
原則として、水素化は、当業者に知られているすべての反応器で行うことができ、したがって、反応のタイプに応じて、反応器を相応に選択する。好適な反応器は、例えば、「Ullmanns Enzyklopaedie der technischen Chemie」、第1巻、第3版、1951年、743ページ以降に記載されている。好適な耐圧反応器も当業者に知られており、例えば、「Ullmanns Enzyklopaedie der technischen Chemie」、第1巻、第3版、1951年、769ページ以降に記載されている。好ましくは、水素化において、内部攪拌機及び内部ライニングを備えるオートクレーブが使用される。
【0087】
本発明による好ましい実施態様において、得られた組成物は、主生成物としてのL-イジトール、及び副生成物としてD-ソルビトールを含む。得られた組成物は、L-イジトールに富み、L-ソルボース、D-マンニトール及びD-ソルビトールが減少している。D-ソルビトールとL-イジトールの比は、1:7~1:1.5の範囲、好ましくは1:6.5~1:1.9の範囲である。L-イジトール及び他のヘキシトールに加えて、反応混合物は、溶媒、及び静止状態(resting state)の立体選択的ルテニウム触媒も含有する。
【0088】
工程ii)
工程i)で得られた反応混合物から、主生成物としてのL-イジトール及び他のヘキソースを触媒システムから分離した。この分離は、好ましくは水による抽出として行われる。使用される水の量は、工程ii)で得られた残留物中に存在するL-イジトールに対して3~100質量当量の範囲であり、好ましくは工程ii)で得られた残留物中に存在するL-イジトールに対して5~15質量当量である。水との混合ギャップを提供する水素化反応(工程i))において溶媒が使用された場合、L-イジトールは、反応混合物から直接に分離することができる。分離は、ミキサーセトラーのような最新の分離装置で行うことができる。生成物を分離する別の方法として、ヘキシトールのみが透過し、ルテニウム触媒は透過しない選択膜を使用することもできる。この分離により、主生成物としてのL-イジトール、及び副生成物としての他のヘキソースは水に溶解するが、上記で定義した配位子を有するルテニウム触媒の静止状態は、水相中のルテニウム濃度が1ppm以下の非極性相に残る。
【0089】
工程i)で使用される溶媒がメタノールのように水との混合ギャップを提供しない場合、生成物は、まず蒸留又は真空で溶媒を除去して残留物を残すことにより分離することができ、そこから主生成物としてのL-イジトール、及び他のヘキソースを水で分離する。この分離は、分離のために当技術分野で使用されているあらゆる装置、例えば攪拌反応器、攪拌タンク、ソックスレー又は濾過装置で行うことができる。この工程では、主生成物としてのL-イジトール、及び副生成物としての他のヘキソースは水に溶解するが、上記で定義した配位子を有するルテニウム触媒の静止状態は、水相中のルテニウム濃度が1ppm以下の不溶性固体として残る。静止状態の残りの固体ルテニウム触媒は、濾過、デカンテーション又は遠心分離のような液体と固体の分離のために当該技術分野で使用されているあらゆる装置によって液体から分離される。
【0090】
分離された水相から、主生成物としてのL-イジトール及び副生成物としての他のヘキソースは、水を蒸発させることによって得られ、得られたまま使用するか、又は必要であれば、最先端の方法でさらに精製することができる。
【0091】
工程iii)
工程ii)で得られた分離した静止状態の触媒は、塩化物源を触媒に添加することによって再活性化される。
【0092】
塩化物源としては、HCl、塩化物塩、股はCl形態のアニオン交換樹脂を使用することができる。
【0093】
好ましい塩化物塩は、LiCl、NaCl、KCl、CaCl、MgCl、AlCl、FeClである。メタノール溶液又はHClガスとしてのHClが好ましい。
【0094】
塩化物の使用量は、再生触媒中のルテニウム量に対して1~50モル当量の範囲であり、好ましくはルテニウム量に対して1~5当量の塩化物である。
【0095】
工程iii)による触媒の再活性化後、触媒は、工程iii)の直後又は貯蔵期間の後に、水素化反応(工程i))で再使用することができる。すべての工程は連続的又は非連続的に実施することができる。
【0096】
塩化物源を添加しないと、リサイクル触媒の活性及び選択性は低い(比較例を参照)。
【0097】
本発明は以下の実施例でより詳細に説明される。
【実施例
【0098】
すべての化学物質及び溶媒は、Sigma-Aldrich、Merck又はABCRから購入し、さらに精製することなく使用した。
【0099】
水素化後の反応混合物の分析:
炭水化物、例えばヘキソース、ペントース、及び適切な水素化後の対応する糖アルコールのサンプルを、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分離の前に、約200mg/mlの質量濃度が得られるように水で希釈した。前記サンプルの組成分析は、屈折率検出を用いたイオン緩和分配クロマトグラフィーによって行った。既知のシグナルは外部標準定量により定量した。分離には、300mm×7.8mmのAminex HPX-87Pカラム(Bio-Rad Laboratories)を2本直列に連結したものを使用した。分離は、脱イオン水を移動相として、カラム温度80℃でHPLCシステムにサンプルを注入した後に行った。
【0100】
実施例1:
最初の水素化:アルゴン充填グローブボックス中で、テフロン製インサートを取り付けた180mLのPremexステンレス製オートクレーブに、L-ソルボース(7.35g、40.8mmol)、[RuCl(ベンゼン)](0.109g、0.217mmol)、配位子E(0.531g、0.450mmol)、MeOH(80mL)、及び撹拌バーを入れた。オートクレーブを閉じた後、反応容器をグローブボックスから取り出した。システムを水素で2回パージし(20バール)、次に水素で加圧し(60バール、約5分)、磁気攪拌プレート上の予熱された加熱ブロック(100℃)に入れた。一晩攪拌し、圧力は反応温度で約55バールに達した。次に、12時間後、オートクレーブを冷水浴に入れ、室温まで冷却した後、減圧した。
【0101】
黄金色の溶液を丸底フラスコに移した。この溶液を真空中で蒸発し、乾燥して、黄褐色の粘着性の残留物を得た。
【0102】
残りの残留物を蒸留水(50mL)と混合し、淡褐色の懸濁液をフリットフィルター(φ3.5cm、孔径4)で濾過し、次にフリットフィルター(φ3.5cm、孔径4)の上に置かれたセライトのパッド(φ3.5cm、高さ7-10mm)で濾過した。石灰っぽい色の溶液のサンプル(1mL)をICP-MS分析に供した。ICP/MSで測定した、この溶液中のルテニウム含有量は1mg/kgであった。
【0103】
褐色の濾過ケーキを蒸留水(2×10mL)で洗浄し、真空中で乾燥させて、静止状態のルテニウム触媒537.7mgを得た。これら2つの組み合わせた水性画分を、フリットフィルター(φ3.5cm、孔径4)の上に置かれたセライトのパッド(φ3.5cm、高さ7-10mm)で濾過し、上記の水性画分に添加した。この溶液をクライオバップ法(OPRD 2020,24,25)用いて乾燥させ、続いて週末に高真空で乾燥させ、高粘度の石灰色の液体(7.80g)を得た。この粘性の高い石灰色の液体のHPLC分析により、L-ソルボースの転化率は99%であり、L-イジトール及びD-ソルビトールに対する全体的な選択性は98%であった。L-イジトールとD-ソルビトールの比は6.7対1であり、したがって、最初の水素化後のL-イジトール収率は84.4%であった。
リサイクル触媒を使用し、HClを添加した2回目の水素化:
アルゴン充填グローブボックス中で、テフロン製インサートを取り付けた60mLのPremexステンレス製オートクレーブに、L-ソルボース(730mg、4.05mmol)、最初の水素化反応からの生成物分離後に得られた触媒(62mg)、MeOH(8mL)、0.5Mのメタノール性塩酸(0.16mL、0.08mmol)、及び攪拌バーを入れた。閉じた後、反応容器をグローブボックスから取り出し、磁気攪拌プレート上の予熱された加熱ブロック(100℃)に入れた。16時間後、オートクレーブを冷水浴に入れ、室温まで冷却した後、減圧した。
【0104】
褐色溶液のサンプル(2mL)の揮発分を蒸発させ、乾燥させた。残留物を蒸留水(2mL)に溶解した。懸濁液をセライトのパッドで濾過し、続いてPTFEシリンジフィルター(0.2μm)を通して濾過し、HPLC分析に供した。HPLCにより、L-ソルボースの転化率は98%であり、L-イジトール及びD-ソルビトールに対する全体的な選択性は96%であった。L-イジトールとD-ソルビトールの比は6.4対1であり、したがって、最初の水素化反応後のL-イジトール収率は84.4%であった。
【0105】
比較例1:
リサイクル触媒を使用し、HClを添加しない2回目の水素化:
アルゴン充填グローブボックス中で、テフロン製インサートを取り付けた60mLのPremexステンレス製オートクレーブに、L-ソルボース(736.2mg、4.09mmol)、実施例1の最初の水素化反応からの生成物分離後の触媒(74.0mg)、MeOH(8mL)、及び攪拌バー(15:05)を入れた。閉じた後、反応容器をグローブボックスから取り出し、磁気攪拌プレート上の予熱された加熱ブロック(100℃)に入れた。16時間後、オートクレーブを冷水浴に入れ、室温まで冷却した後、減圧した。
【0106】
黄褐色溶液の溶媒を蒸発させ、褐色の残留物を蒸留水(8mL)に溶解した。淡褐色の懸濁液を遠心分離(40,000rpm、30分)に供した。上清をPTFEシリンジフィルター(0.2μm)で濾過し、HPLC分析に供した。HPLCにより、L-ソルボースの転化率は88%であり、L-イジトール及びD-ソルビトールに対する全体的な選択性は91%であった。L-イジトールとD-ソルビトールの比は1.8対1であり、したがって、最初の水素化反応後のL-イジトール収率は51.5%であった。この比較実験から、塩化物源を添加しない場合、触媒をリサイクルすると活性及び選択性が著しく低下することがわかる。
【手続補正書】
【提出日】2022-12-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下の工程:
i)L-ソルボースを含む組成物を、疎水性の立体選択的ルテニウム触媒錯体の存在下、均一溶液中で水素による水素化に供する工程であって、前記ルテニウム触媒錯体が、ルテニウムに配位することができる少なくとも2個のリン原子を含有する少なくとも1つのキラル配位子を含み、主生成物としてL-イジトールを含む組成物が得られる、工程と;
ii)工程i)で製造された反応生成物をルテニウム触媒錯体から分離する工程と;
iii)塩化物源を添加することにより、工程ii)で分離されたルテニウム触媒錯体を再活性化し、再活性化したルテニウム触媒錯体を工程i)で再利用する工程と
を含む、L-イジトールの調製方法。
【請求項2】
工程ii)における反応生成物の分離が、水での抽出として行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程iii)で添加された前記塩化物源がHClである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ルテニウム触媒錯体のキラル配位子が、式(I)を有し、
【化1】
(式中、R、R、R及びRは、互いに独立して、1~30個の炭素原子を有するアルキル、3~12個の環員炭素を有するシクロアルキル、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール、及び5~14個の環原子を有するヘタリールからなる群から選択され、
アルキルラジカルは、非置換であるか、又は5~8個の環員炭素を有するシクロアルキル、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール、5~14個の環原子を有するヘタリール、1~4個の炭素原子を有するアルコキシ、5~8個の環員炭素を有するシクロアルコキシ、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルコキシ、アリールオキシ、例えばC~C14-アリールオキシ、5~14個の環原子を有するヘタリールオキシ、ヒドロキシ、メルカプト、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンイミン、カルボキシル、SOH、スルホネート、NE、NE3+、ハロゲン、ニトロ、ホルミル、アシル及びシアノから選択される1、2、3、4又は5個の置換基を有してもよく、E、E及びEは、同一又は異なり、水素、アルキル、例えばC~C20-アルキル、3~12個の環員炭素を有するシクロアルキル、アリール、例えばC~C14-アリールから選択され、Xはアニオン等価体であり、
、R、R及びRにおけるラジカルのシクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘタリールは、非置換であるか、又は1~4個の炭素原子を有するアルキル、5~8個の環員炭素を有するシクロアルキル、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール、5~14個の環原子を有するヘタリール、1~10個の炭素原子を有するアルコキシ、5~8個の環員炭素を有するシクロアルコキシ、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルコキシ、アリールオキシ、例えばC~C14-アリールオキシ、5~14個の環原子を有するヘタリールオキシ、ヒドロキシ、メルカプト、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンイミン、カルボキシル、SOH、スルホネート、NE、NE3+、ハロゲン、ニトロ、ホルミル、アシル及びシアノから選択される1、2、3、4又は5個の置換基を有してもよく、又は
及びR、及び/又はR及びRは、P原子、及び存在する場合はそれらが結合している基X、X、X及びXと一緒になって、5員~8員複素環であり、この複素環は、5~8個の環員炭素を有するシクロアルキル、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール、5~14個の環原子を有するヘタリールから選択される1個、2個又は3個の基と任意に縮合しており、複素環、及び存在する場合に縮合した基は、互いに独立して、1~10個の炭素原子を有するアルキル、5~8個の環員炭素を有するシクロアルキル、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール、5~14個の環原子を有するヘタリール、ヒドロキシ、メルカプト、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンイミン、アルコキシ、ハロゲン、カルボキシル、SOH、スルホネート、NE、NE6+、ニトロ、アルコキシカルボニル、例えばC~C20-アルコキシカルボニル、ホルミル、アシル及びシアノから選択される1、2、3又は4個の置換基をそれぞれ有してよく、E、E及びEは、同一又は異なり、水素、アルキル、例えばC~C20-アルキル、3~12個の環員炭素を有するシクロアルキル、及びアリール、例えばC~C14-アリールから選択され、Xはアニオン等価体であり、
、X、X、X、X、X、X、X及びXは、互いに独立して、O、S、CR、SiR又はNRであり、R、R及びRは、互いに独立して、水素、1~4個の炭素原子を有するアルキル、特に5~8個の環員炭素を有するシクロアルキル、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、アリール、例えばC~C14-アリール、又は5~14個の環原子を有するヘタリールであり、
Yは炭素原子を含有する2価の架橋基であり、
a、b、c、d、e及びfは、互いに独立して0又は1である)
ただし、例えば、P原子の少なくとも1つが非対称であり、及び/又は式(I)の配位子が軸性キラリティを有するため、式(I)は少なくとも1つのキラル基を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
式(I)における前記2価の架橋基Yが、式(V)又は(VI)の群から選択される、
【化2】
(式中、#は分子の残りの部分との結合部位を示し、
、R I’ 、R II 、R II’ 、R III 、R III’ 、R IV 、R IV’ 、R 、R V’ 、R VI 、R VI’ 、R VII 、R VII’ 、R VIII 、R VIII’ 、R IX 、R 、R XI 及びR XII はそれぞれ、互いに独立して、水素、1~20個の炭素原子を有するアルキル、3~12個の環員炭素を有するシクロアルキル、3~12個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、C ~C 14 -アリール、5~14個の環原子を有するヘタリール、ヒドロキシ、チオール、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンイミン、アルコキシ、ハロゲン、SO H、スルホネート、NE 、アルキレン-NE 、ニトロ、アルコキシカルボニル、カルボキシル、アシル又はシアノであり、E 及びE は、水素、C ~C 20 -アルキル、3~12個の環員炭素を有するシクロアルキル、及びアリールからなる群から選択され、
2つの隣接するラジカルR I’ 、R II’ 、R III’ 、R IV’ 、R V’ 、R VI’ 、R VII’ 、R VIII’ は、それらが結合しているベンゼン環の炭素原子と一緒に、1、2又は3個のさらなる環を有する縮合環システムであり、環原子は炭素、酸素及び硫黄から選択され、各々の環は、ハロゲン、C ~C -アルキル及びC ~C -アルコキシから選択される1、2又は3個の置換基を有してもよく、
2つのラジカルR IV’ 及びR V’ は、それらが結合している2つのベンゼン環の炭素原子と一緒に、縮合環システムであり、環原子は炭素、酸素及び硫黄から選択され、各々の環はハロゲン、C ~C -アルキル及びC ~C -アルコキシから選択される1、2又は3個の置換基を有してもよい)
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ルテニウム触媒錯体が、ルテニウムの量が、元素ルテニウムとして計算して、水素化に供されるL-ソルボースの量に基づいて、0.001モル%~50モル%の範囲にあるような量で存在する、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記キラル配位子が、存在するルテニウム1モルあたり少なくとも0.5モルの量で存在する、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
反応が、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、アミド、尿素、ニトリル、スルホキシド、スルホン、アルコール、エステル、カーボネート、エーテル、水及びそれらの混合物から選択される溶媒の存在下で行われる、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
D-ソルビトールとL-イジトールの比が、1:7~1:1.5の範囲、好ましくは1:6.5~1:1.9の範囲である、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項4又は5に定義した遷移金属錯体の、L-ソルボース又はその混合物を含む組成物の水素化のための水素化触媒としての使用方法であって、
i)前記水素化が、均一溶液中で水素を用いて行われること、
ii)工程i)で製造された反応生成物をルテニウム触媒錯体から分離すること、及び
iii)塩化物源を添加することにより、工程ii)で分離されたルテニウム触媒錯体を再活性化し、再活性化したルテニウム触媒錯体を工程i)で再利用すること
を特徴とする、使用方法。
【国際調査報告】