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特表2024-522888回転子の位置を用いたDQ0合成駆動ベクトルを計算するためのシステム及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】回転子の位置を用いたDQ0合成駆動ベクトルを計算するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/00 20160101AFI20240614BHJP
【FI】
H02P21/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579544
(86)(22)【出願日】2022-06-24
(85)【翻訳文提出日】2024-02-26
(86)【国際出願番号】 US2022035026
(87)【国際公開番号】W WO2022272152
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】202121028387
(32)【優先日】2021-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391002340
【氏名又は名称】テクトロニクス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】TEKTRONIX,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】アディガ・パルジャンヤ
(72)【発明者】
【氏名】ヘグデ・ニランジャン・アール
(72)【発明者】
【氏名】スリ・クリシュナ・エヌ・エイチ
(72)【発明者】
【氏名】ワルド・ゲイリー・ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】パイ・ヨゲシュ・エム
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA30
5H505BB07
5H505DD06
5H505EE41
5H505EE49
5H505EE55
5H505GG04
5H505HB02
5H505JJ03
5H505JJ26
5H505KK06
5H505LL10
5H505LL39
5H505LL58
5H505MM12
(57)【要約】
試験測定装置は、アナログ三相信号によって駆動される同期機の機械的位置を測定するように構成された1つ以上のセンサと、測定された上記機械的位置から、瞬間的な電気角を求めるコンバータと、上記瞬間的な電気角に基づいて、DQ0信号を生成するように構成された変換部と、上記DQ0信号から合成ベクトルを生成するように構成されたベクトル生成部とを有している。また、方法についても、説明している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ三相信号によって駆動される同期機の機械的位置を測定するように構成された1つ以上のセンサと、
測定された上記機械的位置から瞬間的な電気角を求めるコンバータと、
上記瞬間的な電気角に基づいてDQ0信号を生成するように構成された変換部と、
上記DQ0信号から合成ベクトルを生成するように構成されたベクトル生成部と
を具える試験測定装置。
【請求項2】
生成された上記DQ0信号及び上記合成ベクトルを視覚的に表示するように構成されたディスプレイを更に具える請求項1による試験測定装置。
【請求項3】
生成された上記DQ0信号と上記合成ベクトルが、フェーザ図で示される請求項2による試験測定装置。
【請求項4】
生成された上記DQ0信号と上記合成ベクトルがスカラー値として示される請求項2による試験測定装置。
【請求項5】
上記同期機からのサンプル・データのセットを記憶するためのメモリを更に具え、上記試験測定装置が、上記サンプル・データのセットから特定のデータ・サンプルをユーザが選択可能とするように構成されたユーザ・インタフェースを有する請求項1による試験測定装置。
【請求項6】
上記ユーザが、上記試験測定装置のカーソル機能の制御に基づいて上記特定のデータ・サンプルを選択する請求項5による試験測定装置。
【請求項7】
ディスプレイを更に具え、上記試験測定装置が、選択された上記データ・サンプルのDQ0信号及び合成ベクトルを上記ディスプレイ上のフェーザ図で表示する請求項1による試験測定装置。
【請求項8】
上記機械的位置を測定するための上記1つ以上のセンサが、ホール・センサ、QEIセンサ又はレゾルバを含む請求項5による試験測定装置。
【請求項9】
ミスアライメント情報を受信するオフセット受信部を更に有する請求項7による試験測定装置。
【請求項10】
上記合成ベクトルの期待値に関連するマスク値をユーザが選択できるようにするユーザ・インタフェースを更に具える請求項1による試験測定装置。
【請求項11】
生成された上記DQ0信号及び上記合成ベクトルを視覚的に表示するように構成されたディスプレイを更に具え、マスク値の突破が上記ディスプレイ上に表される請求項10による試験測定装置。
【請求項12】
上記DQ0信号を生成する前に、信号を通過させるローパス・フィルタを更に具える請求項1による試験測定装置。
【請求項13】
アナログ三相信号によって駆動される同期機の駆動信号を受信するように構成された1つ以上の入力部と、
オフセット角度仕様を受信するためのオフセット受信部と、
受信された上記駆動信号と上記オフセット角度仕様に基づいてDQ0信号を生成するように構成された変換部と、
上記DQ0信号から合成ベクトルを生成するように構成されたベクトル生成部と
を具える試験測定装置。
【請求項14】
生成された上記DQ0信号及び上記合成ベクトルをフェーザ図で視覚的に表示するように構成されたディスプレイを更に具える請求項13による試験測定装置。
【請求項15】
アナログ三相信号によって駆動される同期機の機械的位置を測定する処理と、
測定された上記機械的位置から瞬間的な電気角を求める処理と、
変換を用いて上記瞬間的な電気角に基づいてDQ0信号を生成する処理と、
上記DQ0信号から合成ベクトルを生成する処理と
を具える試験測定装置における方法。
【請求項16】
生成された上記DQ0信号及び上記合成ベクトルの視覚的表現をディスプレイ上に表示する処理を更に具える請求項15による方法。
【請求項17】
生成された上記DQ0信号及び上記合成ベクトルの視覚的表現を表示する処理が、フェーザ図を表示する処理を含む請求項15による方法。
【請求項18】
生成された上記DQ0及び上記合成ベクトル信号の視覚的表現を表示する処理が、スカラー値の表示を提示する処理を含む請求項15による方法。
【請求項19】
上記同期機からのサンプル・データのセットをメモリに格納する処理と、上記サンプル・データのセットから選択されたデータ・サンプルをユーザから受ける処理とを更に具える請求項15による方法。
【請求項20】
選択されたデータ・サンプルを受ける処理が、ユーザによって制御されるカーソル情報を受ける処理を含む請求項19による方法。
【請求項21】
上記選択されたデータ・サンプルのDQ0信号及び合成ベクトルをフェーザ図で表示する処理を更に具える請求項15による方法。
【請求項22】
同期機の機械的位置を測定する処理が、ホール・センサ、QEIセンサ又はレゾルバのうちの1つ以上を使用する処理を含む請求項15による方法。
【請求項23】
ホール・センサ、QEIセンサ又はレゾルバに関するオフセット角度ずれ情報を受信する処理を更に具える請求項22による方法。
【請求項24】
上記合成ベクトルの期待値に関連する選択されたマスク値をユーザから受ける処理を更に具える請求項15による方法。
【請求項25】
上記合成ベクトルによる上記選択されたマスク値の突破を表示する処理を更に具える請求項15による方法。
【請求項26】
上記三相信号又は上記同期機の上記機械的位置を測定している間に生成された信号のいずれかに対してローパス・フィルタ処理を行う処理を更に具える請求項15による方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試験測定システムに関し、より詳細には、電気モータの動作及び他の同期機に関する測定情報を測定及び表示するための試験測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
DQ0(Direct Quadrature Zero)情報を提供することは、ユーザが、モータの動作や他の同期機(synchronous machine)に関する情報を試験及び測定するのに有益である。具体的には、DQ0は、交流(AC)波形の基準座標系(reference frames)を回転させて、直流(DC)信号に変換する変換である。これらDC信号に対して処理を行えば、モータなどの同期機の性能の分析が簡素化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2021/0013818号明細書
【特許文献2】特開2000-102299号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2019/0329817号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「直軸(d軸), 横軸(q軸)」、同頁の英語版も参照、モータ用語集、ニデック株式会社、[online]、[2024年2月22日検索]、インターネット<https://www.nidec.com/jp/technology/motor/glossary/item/direct_axis/>
【非特許文献2】「二軸理論」、モータ用語集、ニデック株式会社、[online]、[2024年2月22日検索]、インターネット<https://www.nidec.com/jp/technology/motor/glossary/item/two-axis_theory/>
【非特許文献3】「三相インバータ/モータ/ドライブ解析」、テクトロニクス、「インバーター/モーター/ドライブ解析(IMDA)ソリューション」に言及、[online]、[2024年2月25日検索]、インターネット<https://www.tek.com/ja/datasheet/inverter-motor-drive-analysis-5series-mso-option-5-imda-application-datasheet>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
DQ0ベクトルの情報を提供することで、ユーザは、DQ0ベクトルについての位置及び他の情報を求めることができるが、現在のシステムでは、DQベクトルがモータ内の回転子の磁石の実際のリアルタイムの位置と関連づけられていないため、モータや同期機のDQ0ベクトルの経時変化、特にダイナミックな負荷による変動を分析する機能がない。
【0006】
本開示技術の実施形態は、従来の試験測定システムのこれら及び他の制約に取り組むものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の種々の実施形態は、回転子(rotor:ロータ)の位置を用いて、DQ0合成駆動ベクトルRDQを決定するためのシステム及び方法を説明する。更に、産業環境において、合成駆動ベクトル表示を表示し、ユーザが合成駆動ベクトル表示をインタラクティブに扱うことを可能にするための改良されたシステム及び方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A図1Aは、本開示の例示的な実施形態による機械的フィードバック用のホール・センサを備えた回転子固定子構造を示す。
図1B図1Bは、本開示の例示的な実施形態による機械的フィードバック用のホール・センサを備えた回転子固定子構造を示す。
図2図2は、本開示の例示的な実施形態によるDQ0を説明するグラフを用いた図を示す。
図3図3は、本開示の例示的な実施形態によるDQ0合成駆動ベクトルを計算するためのシステムの構成要素を示す機能ブロック図である。
図4A図4Aは、本開示の例示的な実施形態による機械的フィードバック用のホール・センサを含む2極対(4極)モータを示す。
図4B図4Bは、本開示の例示的な実施形態による機械的フィードバック用のホール・センサを含む4極対(8極)モータを示す。
図5図5は、本開示の例示的な実施形態によるホール・センサの遷移を描いたグラフである。
図6図6は、本開示の例示的な実施形態によるA-B-C相逆起電力及びホール・センサ信号との比較を描いたグラフィカルな表現である。
図7図7は、本開示の例示的な実施形態によるQEI機能ブロックの光デコーダの構成要素を描いた模式図である。
図8図8は、本開示の例示的な実施形態による図7の光デコーダの構成要素によって生成されたQEI遷移を示すグラフである。
図9図9は、本開示の例示的な実施形態によるQEI遷移についての瞬間的な角度の観測を描いたグラフである。
図10A図10Aは、本開示の例示的な実施形態によるDQ0及び合成ベクトルを示すフェーザ図である。
図10B図10Bは、本開示の例示的な実施形態によるフィルタ処理されたDQ0及び合成ベクトルを示すフェーザ図である。
図11図11は、本開示の例示的な実施形態によるマスク閾値を含むフェーザ図である。
図12図12は、本開示の例示的な実施形態による磁束及びトルク軸を示すフェーザ図である。
図13図13は、本開示の例示的な実施形態によるフェーザ図と波形図を組み合わせを示す。
図14A図14Aは、本開示の例示的な実施形態によるフェーザ図と波形図の組み合わせを示す。
図14B図14Bは、本開示の例示的な実施形態によるフェーザ図と波形図を組み合わせを示す。
図15図15は、本開示の例示的な実施形態によるフェーザ図と波形図を組み合わせを示す。
図16図16は、本開示の例示的な実施形態によるフェーザ図及び波形図に加えて、ユーザに提示されても良いスカラー出力の例である
図17図17は、本開示の例示的な実施形態による回転子の位置を使用してDQ0合成ベクトルを計算するためのシステム及び方法を含む試験測定装置の機能ブロックを示すブロック図である。
図18A図18Aは、本開示の例示的な実施形態によるDQ0合成ベクトルを組み込んだ試験システムをセットアップ及び設定するためにユーザが操作しても良い設定画面の例を示す。
図18B図18Bは、本開示の例示的な実施形態によるDQ0合成ベクトルを組み込んだ試験システムをセットアップ及び設定するためにユーザが操作しても良い設定画面の例を示す。
図19図19は、本開示の例示的な実施形態による試験システムにおけるマスク設定を設定するための設定画面の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の説明では、説明の目的で、本開示の理解を提供するために具体的な詳細を述べる。しかしながら、当業者には、本開示が、これらの詳細なしで実施されても良いことは明らかであろう。当業者であれば、本開示技術の実施形態(その一部は以下に記載される)が、多数のシステムに組み込まれ得ることが理解できよう。
【0010】
しかし、これらシステム及び方法は、本願に記載の特定の実施形態に限定されるものではない。更に、図に示される構造及び装置は、本開示の例示的な実施形態の例示であり、本開示技術が不明確になるのを回避することを意図している。
【0011】
なお、この説明は、本発明の原理を例示するに過ぎない。従って、当業者であれば、本願には明示的に記載されないが、本発明の原理を具体化する種々のアレンジを考案できることが理解できよう。更に、本願に引用される全ての実施例は、主として、読者が本発明の原理及び発明者が当該技術分野の促進に貢献した概念を理解するのを助けるための説明のみを目的として明示的に意図されており、そのような具体的に引用された実施例及び条件に限定されるものではないと解釈されるべきである。更に、本発明の原理、態様及び実施形態、並びにその具体例を列挙する本願の全ての説明は、それらの均等物を包含することを意図する。
【0012】
モータは、固定子(stator:ステータ)の巻線と永久磁石の回転子で構成されている。回転子は、固定子の巻線が静止している一方で、モータ本体に対して回転する。固定子の巻線は、モータを駆動するための電気信号を生成する外部電子装置によって制御(整流)される。駆動信号によって生成された巻線電流は、回転子の永久磁石と相互作用して回転子にトルクを生成し、これにより、モータが動き続ける。
【0013】
図1Aは、インランナー・モータ100の構成要素を示す図であり、一方、図1Bは、本開示技術の実施形態によるアウトランナー・モータ150の構成要素を示す図である。本実施形態では、各モータ100、150には、三相電磁石A、B、Cがあり、各モータは、ホール・センサH1、H2、H3のような3つのセンサがある。固定子も図示されている。電磁石A、B、Cの位置と、これらへの電気的接続は、モータがインランナーかアウトランナーかによって異なる。電磁石Aは、回転の0度にあるとみなされる。
【0014】
A、B、Cは、固定子の三相電磁石を表し、Aは、表現上、0度にあるとみなされる。
【0015】
図2は、モータの動作を解析するためのDQ基準座標系を示している。DQ基準座標系には、直(Direct:D)軸210と横(quadrature:直交、Q)軸220とがあり、モータの回転子に固定されているとみなされる。D軸210は、モータに印加される直流界磁の方向の界磁巻線の軸であり、一方、Q軸220は、D軸から90度ずれている。回転子のA、B及びC相の軸も、軸230、240及び250として図示されている。これらの軸は互いに120度ずれている。後述のDQ0変換を適用することで、モータを駆動する電気信号によって生じるモータの時間で変化するインダクタンスが定数となり、分析に有益である。
【0016】
図3は、以下に説明するDQ0変換を用いて合成ベクトルRDQを生成するためのベクトル生成回路300のブロック図である。駆動回路(ドライバ)310は、モータ320を駆動するためにパルス幅変調(PWM)信号X、Y、Zを送信する。インデックス・パルスZの立ち上がりエッジは、0度の回転子角度を表すA相コイルに揃えられる。PWM信号X、Y及びZは、パーク・クラーク(Park-Clarke)ブロック330内の変換関数332に供給される。PWM信号X、Y及びZは、電流又は電圧のいずれかを表すことができる。以下に説明するように、本開示技術の実施形態では、回転するモータ320の機械的特性に関する情報340は、ホール効果センサ、直交エンコーダ・インタフェース(QEI:Quadrature Encoder Interface)又はレゾルバ(resolver:回転角センサ)のいずれかによって生成されて、モータの回転に関する機械的フィードバックを与えるために提供されても良く、これが、ユーザに付加的情報を提供するために、電気的特性と組み合わせて使用されても良い。
【0017】
概して、DQ0変換ブロックは、駆動回路310から三相電圧信号又は三相電流信号を受信し、行列(マトリックス)変換を適用して直流(DC)DQ0波形を生成する。パーク・クラーク・ブロック330は、DQ0変換を作り出すために、クラーク(Clarke)変換とパーク(Parke)変換の両方を実行する。次に、以下で説明する変換行列は、時間で変化するAC信号を時間不変(時間で変化しない)のDC成分に変換する。パーク・クラーク・ブロック330又はサブ・ブロック332、334及び336のいずれかは、専用ハードウェア又は専用若しくは汎用プロセッサ上で動作するソフトウェアを使用して具現化されても良い。
【0018】
A相、つまり、Aコイルの相をD軸に合わせるには、以下の変換を使用する。
【0019】
【数1】
【0020】
ここで、A、B及びCは、電流(IA,B,C(t))又は電圧(VAN,BN,CN(t))と見なすことができる。これらは、接続線342を介してパーク・クラーク・ブロック330に供給されても良い。
【0021】
これらA(t)、B(t)及びC(t)信号は、駆動回路310からの三相出力信号である。D(t)、Q(t)及び0(t)は、各サンプル点において変換された信号で、このとき、tはサンプル時間で、t=0+Δt...(水平方向の期間)から始まる。また、θeleは、電気角であり、これは、モータ320に由来する3つのホール・センサ、QEI出力信号又はレゾルバ出力信号に基づく入力からブロック334で求められる。
【0022】
その関係する合成ベクトルは、ブロック336において決定され、これは、次のように計算される。
【0023】
【数2】
【0024】
ここで、nは0からN-1までの数値で、Nは、アクイジション(acquisition:取得された波形データ)中のサンプル・ポイントの総数である。
【0025】
本開示に係る実施形態は、モータ320の回転子の角度位置を計算する少なくとも3つの異なる方法、ホール・センサ方法、QEI方法及びセンサ方法を使用しても良い。以下、各方法について、順番に説明する。
【0026】
ホール方法の実施形態では、概して、1つ以上のホール・センサが磁界を検出し、その大きさに比例したアナログ信号を出力する。例えば、2極(2-pole)モータの場合、回転子の磁極に対向する固定子側にホール・センサを120度の間隔で3個配置することによって、60度ごとに回転子の位置を検出することができる。
【0027】
図1A及び図1Bを再度参照すると、図示するモータ100、150の夫々には、3つのホール・センサH1、H2及びH3があり、これらは、互いに120度ずれて(オフセットして)位置すると共に、隣接する三相電磁石A、B及びCの中間に位置する。ホール・センサ(ホール効果センサ)は、ホール効果を使用して磁界とその存在とを検出する。概して、ホール・センサは、センサ自体を取り巻く瞬間的な電界を表す電気信号を生成する。
【0028】
従って、モータ100、150が回転すると、ホール・センサH1、H2、H3は磁界を測定し、磁界の強さを表す電気信号を生成する。
【0029】
図4A及び図4Bは、ホール・センサが、本開示技術の実施形態において、どのように使用できるかを示す。図4Aは、回転方向が時計回りの2極対(4極)モータ400を示す。このモータ400には、N1、N2、S1及びS2の4つの回転子磁界がある。モータ400の固定子巻線は、磁界を発生させる回転子磁石を取り囲んでいる。図4Bに例示されるモータ450は、8つの磁界N1、N2、N3、N4、S1、S2、S3及びS4を有する4極対(8極)モータである。ホール・センサのホールA、ホールB、ホールCは、互いに120度離れて静止状態で配置され、それぞれ0度、120度、240度の角度で取り付けられている。これら回転子磁石の1つがホール軸と交差すると、磁石とホール・センサの位置が揃うことになる。図4Aを参照すると、N1がホール・センサAを横切るときに、N1は、ホール・センサAにおいて、立ち上がりエッジを生成する。120度の機械角の遅延の後、N1は、ホールBセンサを横切る。従って、この交差によってホールBセンサが立ち上がりエッジを生じる場合、回転子の角度位置が0基準点から120度シフトしたことを意味する。図4Bに示されるような8極モータ450では、8つの磁石N1-S1-N2-S2-N3-S3-N4-S4が、同じ機械的速度で動作する場合、4極モータ400と比較して2倍の速さ(2x)でホール・センサを通過する。
【0030】
図5は、図4A及び図4Bのモータ400、450のいずれかのホール・センサ出力H1、H2及びH3の立ち上がり及び立ち下がりエッジ遷移を示すグラフである。表1は、モータが全回転するときの回転子の回転角度を0度から記載したものである。また、表1には、図5に示す、ホールA、ホールB、ホールCセンサの状態と、その関連する整流ステップも示されている。図5と表1を参照すると、6つの整流ステップがある。4極対のモータの場合、モータの1つの機械的回転ごとに、それぞれ6つの整流ステップの4つの電気サイクルがある。これは、ブラシレスDC(BLDC)モータ及び関連するモータ駆動で一般的である。
【0031】
【表1】
【0032】
各ホール・センサ出力からの立ち上がりエッジと立ち下がりエッジを評価することにより、任意の時点でのモータの相対的な機械角を決定することができる。モータ又はモータ駆動回路の各電気サイクルは、360度と見なすことができる。3つのホール・センサ出力により、6ステップの整流が生成される。従って、ホール・センサ出力の任意の2つの連続するエッジ間の回転子の角度は60度である。
【0033】
図5でホール・センサAを基準とすると、ホールA出力の各立ち上がりエッジは、0度の電気角に対応する。これは電気領域であるため、これは回転子の磁石のいずれかに特定のものではない。言い換えれば、ホールAセンサを横切る磁石の夫々は、立ち上がりパルスを生成する。また、モータが動作しているときは、ホール・センサH1の立ち上がりが、どの磁石に対応しているかが分かりにくい。本開示による実施形態は、逆起電力(Back EMF:Back electro-motive-force:BEMF、誘導起電力/逆起電圧/誘起電圧)の測定を用いて、どの極がどのホール・センサと揃っているかを決定する。
【0034】
モータと発電機は非常によく似ており、一般的に同じ構造をしている。発電機は機械エネルギーを電気エネルギーに変換し、モータは電気エネルギーを機械エネルギーに変換する。モータのコイルをオンにすると、磁束が変化し、起電力(EMF)が誘発され、モータが回転する。このため、モータは、回転子が回転するたびに発電機として機能する。これは、シャフトが、ベルト・ドライブなどの外部入力によってか、モータ自体の動作によってかに関係なく、回転すれば発生する。つまり、モータが動作していて、そのシャフトが回転しているときに、起電力(EMF)が発生する。レンツの法則によれば、モータを動作させる起電力が入力されると、これを妨げる方向にモータの自己生成起電力(モータの逆起電力と呼ばれる)が生じることになるが、これは、モータの逆起電力が、モータに入力される起電力を妨げようとするためである。
【0035】
モータに逆起電力を発生させるためには、モータを機械的に回転させれば、制御回路に電気信号が発生する。言い換えれば、ユーザは、回転子を機械的に回転させ、そのような回転によって生成される電気信号を捕捉する。
【0036】
図6は、モータを回転させることによって生じる逆起電力信号を、図1A図1Bの電磁石A、B、Cによってそれぞれ生成されるA-B-C相の形で示している。また、図6は、この逆起電力をホール・センサの出力信号と揃えて示している。A相の逆起電力と揃えられたホール・センサのH1信号を分析すると、この図では、H1信号が、A磁石の位置と揃っている、つまり、0度から始まっていることを示している。
【0037】
どの相が選択されたホール・センサ信号と揃っているかを求めた後、本開示技術の実施形態は、3つのホール・センサ信号から計算して、関係する電気角(つまり、回転子の位置)を求めることがきる。この計算された角度は、電気角θeleを表すが、これは、上述したように、磁極対(pole pairs)を用いて機械角から求めても良い。角度を求めるホール・センサ方法では、図3に示すように、ホールA、B及びCの出力信号が、駆動回路からの3つの電圧又は電流信号とともに捕捉される。ホール・センサ信号の入力から、モータの任意の状態での回転子の位置(電気角)に到達できる。
【0038】
上述したように、モータ内の極対(pole pairs)の数に基づいて、数個の電気サイクルで、1つの機械的サイクルを構成する。例えば、モータが2つの極対で構成されている場合、2つの電気サイクルで1つの機械的サイクルを構成する。つまり、機械角が0度から360度に増加すると、電気角は0度から360度に2回変化する。従って、例えば、250度の機械角の場合、電気角は、機械角にモータ内の極対の個数を掛けることによって求められる。この例では、電気角は、250*2=500度になり、これも140度(500度modulo360)を表す。
【0039】
概して、電気角は、次式で求められる。
【0040】
[数式3]
θele=(極対の個数*θm)%360度
【0041】
ここで、%は、モジュロ(modulo)関数(割り算したときの商ではなくて、余りを答えとする関数)である。
【0042】
図3を再度参照すると、任意のサンプル点におけるモータの機械角は、ブロック334においてか、又は、ブロック334に入る前に、ブロック346において、上述した技術を用いて求められる。回転子の位置を求めるホール効果方法では、ホール・センサの出力信号をブロック346に入力し、モータの機械角を求める。そして、ブロック334の出力は、上記の数式3を使用して求めたエンコーダθ(シータ)出力θeleであり、これは、次いで、上述した数式1を実現するために、変換ブロック332で使用される。
【0043】
ホール・センサの実施形態を使用する場合、角度の分解能は、補間を使用するか又は整流ステップにおけるサンプル数に基づく2次多項式アプローチを使用して、大幅に改善できる。概して、DQ0の回転は、モータの極対の数に基づいている。4極対のモータによって生成されるパルスの速度は、同じモータ速度の2極対のモータよりも高速である。
【0044】
更に、セットアップを簡素化するために、ユーザは、モータの回転方向(時計回り又は反時計回り)を特定しても良く、これにより、回転方向を決定するシステムの計算ステップを省くことができる。
【0045】
ユーザが提供するこの情報は、より良い分解能を生成するのに有益で、ホール・センサのエッジの離れた時点ではなく、各時点で分析を行うことができる。
【0046】
ホール効果方法に代えて、本開示による実施形態は、QEI方法を用いても良く、これは、エンコーダを使用してモータの回転子の位置を求める。QEIエンコーダは、インクリメンタル(incremental:1ずつ増加する)エンコーダ又は光学エンコーダとしても知られている。QEIによるこのタイプの回転子の測定は、永久磁石同期モータ(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)モータで一般的に使用されている。
【0047】
QEI方法の実施形態では、システムは、A相、B相及びインデックス(指標)Zパルスの組み合わせを用いたインクリメンタル符号化を使用して、モータのシャフト位置を求める。この方法では、Zパルス(初期化パルス)が1回転に1回発生し、回転子の絶対位置を確立するための基準として使用される。このインデックス・パルスは、回転子の磁石のゼロ相で位置カウンタをリセットする。その後、パルスA又はBが、1回転あたりの複数のパルスに基づいて、カウントされる。
【0048】
図7に例示されるこのQEIの実施形態では、光学式エンコーダ700が、図8に示されるように、A相、B相及びインデックス・パルス(Z)の3つの信号を生成する。これらのパルスは、QEIシステムによって回転子の瞬間的な位置を決定するために使用される。
【0049】
光学式エンコーダ700の基本的な構成要素は、1つ以上の光源710、エンコーダ・ホイール720によって実現される光シャッター・システム、1つ以上の光センサ730、光センサ730からの出力を受信し、評価のための電気信号を生成する信号調整電子回路740を含む。光学式エンコーダの構成要素(コンポーネント)は、モータの機械的アセンブリに接続されている。特に、エンコーダ・ホイール720は、モータ自体と協調して回転し、その位置は、出力信号を評価することによって決定されても良い。
【0050】
モータ及びエンコーダ・ホイール720が回転すると、光源710からの光は、デコーダ内のスリット722によって変調され、これが光センサ730によって捕捉される。光センサ730によって生成されるA相は、1回転当たりN個のパルスからなる。B相は、A相と同一であるが、光源710及び光センサ730のB相に対する位置の相対的な位置に基づいて、90度ずれている。Z相は、エンコーダ・ホイール720内の異なるスリット・パターンを使用して生成される。具体的には、スリット724は、0度に揃っており、エンコーダ・ホイール720の1回転当たり1パルスのみを生成する。従って、Z相信号は1回転に1回生成され、基準位置として設定される。Z相の正のパルスは、回転子の磁石の位置が0度であることを示す。信号調整電子回路740内の複数のエンコーダは、センサ出力から電気出力を生成し、図7に示すように、A相、B相及びインデックスZの電気パルスを生成する。信号調整電子回路740において生成されるQEIのための典型的な符号化処理には、X1、X2及びX4コーディング(符号化)が含まれる。X4コーディングが最も一般的である。
【0051】
光学式エンコーダ700によって生成されるA相及びB相の信号の分析によって、エンコーダ・ホイールの回転方向が求まり、従って、モータの回転方向も求まる。
【0052】
具体的には、次の通りである。
[数式4]
A相がB相に先行する場合、モータの方向は時計回り又は順方向である。
A相がB相より遅れている場合、モータの方向は反時計回りである。
【0053】
図8は、実施形態によるQEIシステムにおける分析のために光学式エンコーダ700によって生成されたパルスを示す。まず、回転子の位置は、A相信号に揃ったインデックス・パルスを決定することによって決定される。この位置は、0度と見なされる。次に、フェーズ・ロック・ループ(PLL)を使用して、B相のエッジの前に、次の角度を決定しても良い。
【0054】
角度(単位:度)は、次の通りである。
【数5】
【0055】
ここで、PPRは、1回転あたりのパルス数(pulses per revolution)で、数式5の「4」はエンコーダの分解能に相当し、これは、2チャンネル高分解能エンコーダの場合は4である。他のエンコーダの場合、この値は異なる場合がある。Gは、エンコーダ・ホイールとモータのギア比である。多くの場合、Gは、1に等しくなる。
【0056】
[数式6]
汎用な回転位置(RP:rotational position)=360*エッジ・カウント/enc*N
【0057】
ここで、「enc」は、適用されたエンコード方式を表す。繰り返しになるが、2チャンネル・エンコーダの場合、分解能はライン・カウントの4倍である。
【0058】
例えば、PPRを1024とすると、シャフトの1回転あたりにエンコーダが生成するパルス数PPR(カウント)は、各サイクルでのPPRである。これは、動作中のカウントである。従って、角度1は、第1期間において0.70度、角度2は、第2期間において約1.4度など、である。従って、角度1024は、360度である。
【0059】
図9は、全てのサイクル中の動作角度(running Angle)を示している。図9に示すように、角度値は、シャフトを1回転させると(つまり、次のZパルス・インデックスにおいて)、ゼロにリセットされる。
【0060】
QEI方法を使用する実施形態の分解能は、監視されている可動物体の1回転がエンコーダのコード・ディスクのいくつかの回転に対応するように、ステップアップ・ギアの調整を利用することによって改善されても良い。この改善は、モータに対するエンコーダ・ホイール720のギア比に正比例する。これにより、分解能が向上し、ホール・センサ方法を使用する場合、ホール・センサ・エッジの離れた時点ではなく、各時点で連続的に分析を行うことができる。
【0061】
上述したような回転子の位置を求めるホール・センサ方法及びQEI方法に加えて、本開示に係る実施形態は、瞬間的な回転子位置を求める別の方法も用いても良い。例えば、レゾルバ・システムを用いても良い。レゾルバ(resolver:回転角センサ)は、回転する変圧器で、回転子に一次巻線、モータの固定子に2つの二次巻線がある。レゾルバ・システムによって生成される信号には、正弦波(サイン波)、余弦波(コサイン波)及び他の基準信号が含まれる。固定子に対するモータの速度及び角度は、レゾルバからの出力信号を使用して求められ、次いで、図3のブロック346における機械的回転表現として本発明の実施形態において使用されても良い。
【0062】
ホール・センサの実施形態、QEI方法の実施形態又はレゾルバの実施形態のいずれかを用いて、本発明の実施形態は、DQ0オフセットを提供しても良いが、これは、ユーザによって設定されても良い。概して、モータにセンサを取り付ける際に小さな角度誤差が生じる可能性があり、これにより、小さなずれ(ミスアライメント)が生じることがある。これらの誤差は、ベクトルD、Q及び合成ベクトルRDQの計算に影響を与える可能性がある。DQ0ベクトルとRDQベクトルの組み合わせは、DQ0-Rプロットと呼ばれることがある。この誤差を補正するために、ユーザは、オフセット設定に電気角(通常は、小さな角度オフセット)を指定でき、それに応じて測定の初期角度を調整する。オフセットは、オフセット角度補正ブロック348を通じて、ユーザが指定できる。
【0063】
角度信号のフィードバックを使って、その測定値が、計算のために、基準角度に合わせられる。これは、QEIの場合はインデックス・パルスであり、ホール・センサの場合は、ホールAの最初の立ち上がりエッジである。レゾルバ・システムの場合では、信号分析を用いても良い。センサの無い(センサレス)システムの場合、エッジ選定部(edge qualifier:エッジ・クオリファイヤ)の立ち上がりエッジが、ゼロと見なされる。もし立ち上がりエッジに、ユーザが知っている実際の値に対してオフセットがある場合、そのオフセットも、この設定を使用して調整できる。オフセットは、逆起電力方法又は他の方法を使用して計算でき、ユーザ入力348(図3)を使用して入力される。
【0064】
図3を再度参照すると、上述したホール・センサ方法、QEI方法又はレゾルバ方法のいずれかを使用して、ブロック346において、モータの機械角を求めても良い。次に、本開示技術の実施形態は、ブロック334において、電気角θeleを求めるために機械角を使用する。次いで、変換ブロック332は、D及びQベクトルを生成し、ブロック336は、DQ0合成ベクトルRDQを生成する。
【0065】
D及びQの結果として生じるベクトルが変換ブロック332において生成された後、そして、合成ベクトルRDQがブロック336において生成された後に、各サンプル時点に関して、これらの値が、フェーザ図上で、残像効果を伴って、累積的にユーザに表示される。この出力は、試験対象のモータ又は同期システムが、時間の経過とともに、どのように機能するかについての有用な情報をユーザに提供する。説明した試験システムの出力は、更に、時間の進行に伴うモータのリップルの視覚的表示を提供する。これは、機械システムの変動による不安定性を、各回転子の角度位置におけるRDQの変化として、プロットの形で強調して示す。更に、以下に説明するように、本開示による実施形態は、本開示システムのユーザが、試験結果の特定の関心のある点を検討するために、この視覚的表示をインタラクティブに扱うことができるメカニズムを提供する。
【0066】
図10Aは、DQ0-Rフェーザ・プロットの例を示し、これは、DベクトルとQベクトルの両方に加えて、その合成ベクトルRDQを含み、これらは、本発明の実施形態を用いて生成されても良い。図10Aは、上述のようにして生成された合成ベクトルRDQを、図2に例示されたD及びQベクトルとともに、多数のサンプリング点について、経時的にプロットすることによって生成されても良い。例えば、図10Aのフェーザ・プロット1000は、数百、数千又はそれ以上のサンプリング・ポイントをプロットした結果であっても良い。本発明の実施形態では、フェーザ・プロット1000を生成するために使用されるデータは、様々なハードウェア及びプリント回路基板の設計に起因する測定点における高周波歪みの影響を除去するために、1つ以上のローパス・フィルタを通過しても良い。また、高周波スイッチング・コンバータやモータ・コントローラの信号経路に存在する電磁干渉(EMI)により、測定システムに電圧スパイクが発生する可能性もある。図10Bの例示プロット1010は、DQ0-Rフェーザ・プロットを生成するために使用される信号源を1つ以上のローパス・フィルタを通過させる効果を示す。このローパス・フィルタは、DQ0-R出力信号を所望の周波数のみに制限する。ローパス・フィルタは、ユーザが設定又は調整できる。全ての信号源に同じフィルタ処理が適用されるため、信号源間のスキューは発生しないか、非常に小さくなる。プロット1010の例は、ローパス・フィルタを使用する利点を示しており、結果として得られるDQ0-Rフェーザ・プロット1010は、フェーザ・プロット1000よりも、プロットから関連データを特定するのがはるかに容易である。
【0067】
本発明の実施形態は、ローパス・フィルタを使用して所望のデータを無関係なデータから分離することに加えて、回転する合成ベクトルRDQを検証するためにマスキングを使用することもできる。マスキングを使用したフェーザ図を図11に示す。図11では、出力信号の範囲を示すために、外側マスクと内側マスクの2つのマスクが設定されている。図11のフェーザ図は、モータの回転を重ねて示している、即ち、時間の経過に伴う複数のRDQベクトルのトレースを示している。RDQベクトルの変化が、図において、リップル(ripple:波打つような波形)として、どのように現れるかは、モータの動作のばらつきを示していることに注目してほしい。マスクを突破したら、フェーザ図上で、マスク・ヒットとして個別にマーク又は示しても良い。言い換えると、マスクは、閾値検出器として使用され、RDQが内側マスクを下回るか又は外側マスクを超える場合、実施形態による測定システムは、この閾値突破(violation:違反)の視覚的指示を生成しても良い。突破した箇所は、フェーザ図上の他の色とは異なる目立つ色で示されても良い。マスクは、合成ベクトルの範囲を設定するように、ユーザが制御しても良い。図11のフェーザ図に示されているDQ0-Rプロットは、上記のホール・センサ、QEIエンコーダ又はレゾルバ出力に基づいて、モータの回転方向も示している。RDQ合成ベクトルは、回転子の角度から求めたものであるが、図11では、その回転子の角度と一致するようにRDQ合成ベクトルを回転させることで、モータの回転が表される。
【0068】
図12は、D軸とQ軸をフェーザ図で示したもので、それぞれ互いに直交するモータの磁束軸とトルク軸を表している。図12に示す情報は、ユーザが、モータの動作特性や、他の被試験同期システムを調べる際に有益である。
【0069】
図13図16は、DQ0-Rのフェーザ図を示し、これらは、基礎となるセンシング素子からのデータ、計算値、又は、本発明の実施形態で求めた他の値も含む。これらのフェーザ図では、サンプリングされた全てのデータ・ポイントに由来するD、Q及びRDQの値が履歴値(historical values)として表示されるが、プロットの実際のベクトルには、最後のサンプル・ポイントのみが含まれる。図13は、ディスプレイ(表示)1300を示し、これには、3つの主要なセクション、1310、1320及び1330がある。このディスプレイのセクション1310は、グラフを使ったDQ0-Rを示し、これは、Dベクトル、Qベクトル及び合成RDQベクトルを含む。ディスプレイのセクション1320は、モータを駆動するために使用される三相電気信号を示し、オプションとして、ユーザの好みで、上述したような回転子の機械的位置を検出する信号を示す。ディスプレイのセクション1330は、スカラー結果を示すために使用されても良く、その一例を図16に示す。
【0070】
図14A及び図14Bは、ユーザが、測定装置のカーソル又は他のコントロール(操作手段)を使用して、DQ0-R図の履歴データ(historical data)をスクロールする機能を示している。この実施形態では、本開示技術の実施形態が、モータ動作に関するデータの数百、数千又はそれ以上のサンプルを収集し、そのデータを記憶メモリに記憶したと考える。システムがデータを収集したので、図13を参照して説明されたDQ0-Rフェーザ図及び他のデータは、システムが動作しているときに、ディスプレイ(表示)1400上にリアルタイムで表示される。ディスプレイ1400には、ディスプレイ1300のセクションと同じ3つの主要なセクション、即ち、フェーザ図1410、セクション1420の三相信号及びセクション1430のスカラー情報がある。本発明の実施形態は、ユーザが、アクイジション(波形データ取得)停止モードにおいて、以前のデータ・ポイントを通って横断するために利用できるカーソルを提供する。言い換えれば、新しいデータ・サンプルが停止された後も、履歴データは、図14Aに例示されるように、フェーザ図1410上に表示されたままである。測定装置のカーソル操作をオンにすると、カーソルの1つが、DQ0とRDQベクトルにリンクされる。次に、ユーザは、コンピュータのマウスのスクロール・ホイールを使用するか又は画面を表示している装置の入力ノブを回すことによって、カーソルを使用して、波形を通って横断することができる。波形を横断すると、図14Bのように、カーソルの時間位置に基づいて、ユーザが選択したサンプル・ポイントに関するD、Q及びRDQベクトルが、プロット上に表示される。このようにして、様々な時点でのD、Q、RDQの値を強調表示して分析することができ、ユーザはDQ0-Rの回転する座標(frame)を視覚化するのにも有益である。
【0071】
図15は、本発明の実施形態に従って構築され、動作するシステムの実際の結果を示すディスプレイ(表示)1500を示す。
【0072】
図16は、D、Q及びRDQベクトルのスカラー、即ち、グラフを使わないデータ結果のディスプレイ(表示)1600を示す。ディスプレイ1600は、図13図14A図14Bのブロック1330及び1430の一例であってもよく、図15のディスプレイ1500の一部として含まれても良い。
【0073】
図17は、本発明の実施形態が動作しても良い又はその中で動作しても良い試験測定装置1700のブロック図である。モータ又は他の同期装置1780は、評価、測定及び表示のためにモータ1780から信号を受信できるプローブ・インタフェース1710又は他のタイプのインタフェースを介して、試験測定装置に結合される。プローブ・インタフェースは、図3の駆動回路(ドライバ)310からのPWM信号及び上述したホール・センサ、QEIエンコーダ又はレゾルバを参照して説明した任意の信号など、上述した任意の信号を受けても良い。典型的には、プローブ・インタフェース1710は、ケーブルへの1つ以上のコネクタであっても良い。プローブ・インタフェース1710は、三相信号及び他の信号を取得するための適切な回路(図示せず)を含み、これには、当業者に周知の信号調整回路、アナログ・デジタル・コンバータ、メモリ等が含まれても良い。プロセッサ/コントローラ/プロセッシング要素1720は、取得した三相信号に対してDQ0変換を実行してDQ0信号を生成するのに加えて、図3を参照して説明した機械的から電気的への処理を実行する。更に、プロセッサ1720は、D及びQベクトルから合成ベクトルRDQを生成する。プロセッサ1720は、DQ0及びRDQ信号を使用して、被試験デバイスの性能を測定する。装置1700には、プロセッサ1720によって実行されて、プロセッサ1720に変換を実行させ、ベクトルを生成させる命令と、データとの両方を記憶するためのメモリ1730もあって良い。装置1700には、上述したように、この装置が様々な形態でデータを表示できるようにするためのディスプレイ(表示装置)1740もある。装置1700には、ユーザから環境設定を受けると共に、動作制御を受けるためのユーザ・インタフェース1750もある。例えば、この装置は、ユーザ・インタフェース1750を通じて、上述したような、ベクトルを計算するのに利用する方法の選択、マスクの値の指定、変動データの入力をユーザから受けても良い。ユーザが設定値や制御値を入力できる入力画面の例を、以下の図18図19を参照して説明する。更に、ユーザ・インタフェース1750により、ユーザは、上述したように、記憶されたデータをスクロールするためにカーソルを操作できる。図18A図18B及び図19は、様々なセットアップ画面を示し、これらにより、ユーザは、試験システムを設定できる。装置1700は、ユーザ・インタフェース1750を通して、これらの画面を受け入れても良い。図18Aは、モータに三相電流又は電圧信号を供給する測定チャンネルなど、様々な信号源セットアップ設定を示している。加えて、QEI、ホール・センサ、レゾルバなどの機械的なセンサ形式も、このセットアップ画面から選択でき、その他のシステム・パラメータも選択できる。図18Bは、試験システムを設定できる別のセットアップ画面を示している。図19は、ユーザが、どのようにして上述した内側マスクと外側マスクの値を選択できるかを示す。
【0074】
本発明の実施形態は、以前のシステムに比べていくつかの利点を提供し、そのうちのいくつかは上述した。その他の利点としては、実際の回転子の角度位置と比較して、DQ0プロットのアライメント(alignment:整合性)が良好であることが挙げられる。この新しいアプローチでは、電気データに加えて機械的なセンサ・データを使用して、ホール・センサ又はインデックス・パルス出力を備えたQEIエンコーダを使用しているセンサ・データに由来する回転子の角度位置が、DQ0測定と統合される。この機械角は、電気角に変換されると共に、DQ0行列変換に使用される。更に、回転子の角度の統合は、D軸を回転子の0度の永久磁石に揃える(アライメントする)ために重要である。これは、ホール・センサ方法又はQEI方法で実現される。この測定の構成では、電気的入力とともに機械的な回転子の位置(即ち、測定された回転子の位置)のフィードバックを得るオプションがある。

実施例
【0075】
以下では、本願で開示される技術の理解に有益な実施例が提示される。この技術の実施形態は、以下で記述する実施例の1つ以上及び任意の組み合わせを含んでいても良い。
【0076】
実施例1は、試験測定装置であって、アナログ三相信号によって駆動される同期機の機械的位置を測定するように構成された1つ以上のセンサと、測定された上記機械的位置から瞬間的な電気角を求めるコンバータと、上記瞬間的な電気角に基づいてDQ0信号を生成するように構成された変換部と、上記DQ0信号から合成ベクトルを生成するように構成されたベクトル生成部とを具える。
【0077】
実施例2は、実施例1による試験測定装置であって、生成された上記DQ0信号及び上記合成ベクトルを視覚的に表示するように構成されたディスプレイを更に具える。
【0078】
実施例3は、実施例2による試験測定装置であって、生成された上記DQ0信号と上記合成ベクトルが、フェーザ図で示される。
【0079】
実施例4は、実施例2による試験測定装置であって、生成された上記DQ0信号と上記合成ベクトルがスカラー値として示される。
【0080】
実施例5は、上述の実施例のいずれかによる試験測定装置であって、上記同期機からのサンプル・データのセットを記憶するためのメモリを更に具え、上記試験測定装置が、上記サンプル・データのセットから特定のデータ・サンプルをユーザが選択可能とするように構成されたユーザ・インタフェースを有する。
【0081】
実施例6は、実施例5による試験測定装置であって、上記ユーザは、上記試験測定装置のカーソル機能の制御に基づいて上記特定のデータ・サンプルを選択する。
【0082】
実施例7は、先行する実施例のいずれかによる試験測定装置であって、ディスプレイを更に具え、上記試験測定装置が、選択された上記データ・サンプルのDQ0信号及び合成ベクトルを上記ディスプレイ上のフェーザ図で表示する。
【0083】
実施例8は、先行する実施例のいずれかによる試験測定装置であって、上記機械的位置を測定するための上記1つ以上のセンサが、ホール・センサ、QEIセンサ又はレゾルバを含む。
【0084】
実施例9は、先行する実施例のいずれかによる試験測定装置であって、ずれ(ミスアライメント)情報を受信するオフセット受信部を更に有する。
【0085】
実施例10は、先行する実施例のいずれかによる試験測定装置であって、上記合成ベクトルの期待値に関連するマスク値をユーザが選択できるようにするユーザ・インタフェースを更に具える。
【0086】
実施例11は、実施例10による試験測定装置であって、生成された上記DQ0信号及び上記合成ベクトルを視覚的に表示するように構成されたディスプレイを更に具え、マスク値の突破(violations:違反)が上記ディスプレイ上に表される。
【0087】
実施例12は、先行する実施例のいずれかによる試験測定装置であって、上記DQ0信号を生成する前に、信号を通過させるローパス・フィルタを更に具える。
【0088】
実施例13は、試験測定装置であって、アナログ三相信号によって駆動される同期機の駆動信号を受信するように構成された1つ以上の入力部と、オフセット角度仕様を受信するためのオフセット受信部と、受信された上記駆動信号と上記オフセット角度仕様に基づいてDQ0信号を生成するように構成された変換部と、上記DQ0信号から合成ベクトルを生成するように構成されたベクトル生成部とを具える。
【0089】
実施例14は、実施例13による試験測定装置であって、生成された上記DQ0信号及び上記合成ベクトルをフェーザ図で視覚的に表示するように構成されたディスプレイを更に具える。
【0090】
実施例15は、試験測定装置における方法であって、アナログ三相信号によって駆動される同期機の機械的位置を測定する処理と、測定された上記機械的位置から瞬間的な電気角を求める処理と、変換を用いて上記瞬間的な電気角に基づいてDQ0信号を生成する処理と、上記DQ0信号から合成ベクトルを生成する処理とを具える。
【0091】
実施例16は、実施例15による方法であって、生成された上記DQ0信号及び上記合成ベクトルの視覚的表現をディスプレイ上に表示する処理を更に具える。
【0092】
実施例17は、先行する実施例の方法のいずれかによる方法であって、生成された上記DQ0信号及び上記合成ベクトルの視覚的表現を表示する処理が、フェーザ図を表示する処理を含む。
【0093】
実施例18は、先行する実施例の方法のいずれかによる方法であって、生成された上記DQ0及び上記合成ベクトル信号の視覚的表現を表示する処理が、スカラー値の表示を提示する処理を含む。
【0094】
実施例19は、先行する実施例の方法のいずれかによる方法であって、上記同期機からのサンプル・データのセットをメモリに格納する処理と、上記サンプル・データのセットから選択されたデータ・サンプルをユーザから受ける処理とを更に具える。
【0095】
実施例20は、実施例19による方法であって、選択されたデータ・サンプルを受ける処理が、ユーザによって制御されるカーソル情報を受ける処理を含む。
【0096】
実施例21は、先行する実施例の方法のいずれかによる方法であって、上記選択されたデータ・サンプルのDQ0信号及び合成ベクトルをフェーザ図で表示する処理を更に具える。
【0097】
実施例22は、先行する実施例の方法のいずれかによる方法であって、同期機の機械的位置を測定する処理が、ホール・センサ、QEIセンサ又はレゾルバのうちの1つ以上を使用する処理を含む。
【0098】
実施例23は、実施例22による方法であって、ホール・センサ、QEIセンサ又はレゾルバに関するオフセット角度ずれ(ミスアライメント)情報を受信する処理を更に具える。
【0099】
実施例23は、先行する実施例の方法のいずれかによる方法であって、上記合成ベクトルの期待値に関連する選択されたマスク値をユーザから受ける処理を更に具える。
【0100】
実施例24は、実施例23による方法であって、上記合成ベクトルによる上記選択されたマスク値の突破(violations:違反)を表示する処理を更に具える。
【0101】
実施例25は、先行する実施例の方法のいずれかによる方法であって、上記三相信号又は上記同期機の上記機械的位置を測定している間に生成された信号のいずれかに対してローパス・フィルタ処理を行う処理を更に具える。
【0102】
説明の都合上、本発明の具体的な実施例を図示し、説明してきたが、本発明の要旨と範囲から離れることなく、種々の変更が可能なことが理解できよう。従って、本発明は、添付の請求項以外では、限定されるべきではない。
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15
図16
図17
図18A
図18B
図19
【国際調査報告】