(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】非シリコーンサーマルインターフェース材料
(51)【国際特許分類】
C08L 101/10 20060101AFI20240621BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240621BHJP
C09K 5/10 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
C08L101/10
C08K3/04
C09K5/10 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575878
(86)(22)【出願日】2022-06-02
(85)【翻訳文提出日】2024-02-08
(86)【国際出願番号】 US2022031889
(87)【国際公開番号】W WO2022260919
(87)【国際公開日】2022-12-15
(32)【優先日】2021-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391008825
【氏名又は名称】ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
【住所又は居所原語表記】Henkelstrasse 67,D-40589 Duesseldorf,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】ウー、 チュンヨン
(72)【発明者】
【氏名】ティマーマン、 ジョン
(72)【発明者】
【氏名】チェスターフィールド、 レイド ジョン
(72)【発明者】
【氏名】キアン、 ユチャン
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA031
4J002CF111
4J002CH051
4J002CK021
4J002DA026
4J002DE077
4J002DE107
4J002DE147
4J002DF017
4J002DJ007
4J002DJ017
4J002DK007
4J002FD206
4J002FD207
4J002GQ00
4J002HA08
(57)【要約】
熱伝導性組成物は、熱放散経路に沿って適所で硬化可能な非シリコーンポリマー樹脂を含む。この組成物は、少なくとも1.5W/m・Kの熱伝導率を必要とする重量に敏感な用途に特に使用するために低密度を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性組成物であって、
1s
-1および25℃で500cP未満の粘度を有する液体希釈剤と;
前記希釈剤に可溶なシリル変性非シリコーンポリマー樹脂と;
以下を含む粒子状フィラー:
(i)15μm~150μmの平均粒径を有する黒鉛粒子30~70重量%;および
(ii)前記黒鉛の平均粒径の33%未満の平均粒径を有する残りの非黒鉛粒子と
を含み、
前記熱伝導性組成物は、2.4g/cm
3未満の密度および少なくとも1.5W/m・Kの熱伝導率を示す、熱伝導性組成物。
【請求項2】
前記シリル変性非シリコーンポリマーが縮合硬化性であり、任意で前記シリル変性非シリコーンポリマーの縮合硬化を促進するのに有効な触媒を含む、請求項1に記載の熱伝導性組成物。
【請求項3】
前記シリル変性非シリコーンポリマーはアルコキシシラン末端基を含み;および/または
前記シリル変性非シリコーンポリマーは-Si-O-単位を含まず;および/または
前記シリル変性非シリコーンポリマーは2パート組成物である、請求項1または2に記載の熱伝導性組成物。
【請求項4】
前記組成物が、1s
-1および25℃で1000Pa・s未満の粘度から20ショア00~80ショアAの硬化硬度まで25℃で硬化可能である、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項5】
前記黒鉛粒子が熱分解ピッチカーボンで被覆されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項6】
前記非黒鉛粒子が、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、アルミナ、アルミナ三水和物、アルミニウム、炭化ケイ素、ケイ素、シリカ、シリケート、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛およびそれらの混合物から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項7】
前記非黒鉛粒子の少なくとも一部が、3~12個の炭素原子を有するアルキル化合物で表面処理されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項8】
前記非黒鉛粒子が10μm未満の平均粒径を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項9】
前記非黒鉛粒子が多峰性の粒径分布を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項10】
前記多峰性の粒径分布が、0.1μmと1μmの間の第1のピークと、1μmと10μmの間の第2のピークとを含む、請求項9に記載の熱伝導性組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の熱伝導性組成物の硬化反応生成物。
【請求項12】
電池;および
前記電池に熱的に結合された、請求項1~11のいずれか一項に記載の熱伝導性組成物を含む、電池システム。
【請求項13】
前記熱伝導性組成物が、20ショア00~80ショアAの硬度に硬化される、請求項12に記載の電池システム。
【請求項14】
熱伝導性組成物が2.2g/cm
3未満の密度を示す、請求項12または13に記載の電池システム。
【請求項15】
2パート組成物から形成されるサーマルインターフェースであって、
25℃で500cP未満の粘度を有する希釈剤と前記希釈剤に可溶な非シリコーンポリマー樹脂とを含む第1のパート;および
水と、前記非シリコーンポリマー樹脂の縮合硬化反応を促進するのに有効な触媒とを含む第2のパート
を含み、
第1のパートおよび第2のパートの少なくとも一方は、15μm~150μmの平均粒径を有する黒鉛粒子および10μm未満の平均粒径を有する非黒鉛粒子を含み、
前記2パート組成物は、第1のパートおよび第2のパートを周囲温度以上で混合すると硬化し、20ショア00~80ショアAの硬度、少なくとも1.5W/m・Kの熱伝導率、および2.4g/cm
3未満の密度を有するサーマルインターフェースを形成する、サーマルインターフェース。
【請求項16】
前記非シリコーンポリマーは、アルコキシシラン末端基を含むシリル変性ポリマーである、請求項15に記載のサーマルインターフェース。
【請求項17】
前記希釈剤と前記非シリコーンポリマーとが一緒になって有機樹脂組成物を構成し、前記非シリコーンポリマーが前記有機樹脂組成物の10~35重量%を構成する、請求項15または16に記載のサーマルインターフェース。
【請求項18】
前記黒鉛粒子と前記非黒鉛粒子とが一緒になって、前記黒鉛粒子が30~70重量%を占める粒子状フィラー組成物を構成する、請求項15~17のいずれか一項に記載のサーマルインターフェース。
【請求項19】
前記触媒は、有機金属化合物を含む、請求項15~18のいずれか一項に記載のサーマルインターフェース。
【請求項20】
前記第1のパートに水分スカベンジャーを含む、請求項15~19のいずれか一項に記載のサーマルインターフェース。
【請求項21】
サーマルインターフェース材料としての、請求項1に記載の熱伝導性組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して熱伝導性材料に関し、より詳細には、液体でディスペンスでき、その場で硬化して比較的低密度の熱伝導性コーティングになる、非シリコーンポリマーをベースとするサーマルインターフェース材料に関する。
【背景技術】
【0002】
熱伝導性材料は、例えば、発熱する電子部品と放熱器との間の界面として広く採用されており、電子部品から熱的に結合された放熱器への過剰な熱エネルギーの伝達を可能にする。このようなサーマルインターフェースの設計および材料は数多く実施されており、サーマルインターフェースとそれぞれの伝熱面との間の隙間が実質的に回避され、電子部品から放熱器への伝導性熱伝達が促進されたときに最高の性能が達成される。したがって、サーマルインターフェース材料は、それぞれの部品の多少凹凸のある伝熱面に機械的に適合するのが好ましい。したがって、高性能サーマルインターフェース材料の重要な物理的特性は、柔軟性と低硬度である。ディスペンス可能な材料の場合、サーマルインターフェースが伝熱面を濡らすことができること、また、剥離を回避し、想定される耐用年数にわたってインターフェースの形状と機能を維持するために、適切な接着力と凝集力を提供することがさらに重要である。したがって、ディスペンス可能なサーマルインターフェース材料は、ディスペンス後の著しい広がりを避けるために降伏応力を持たせて設計してもよいし、表面に最大限に流動して浸透するように降伏応力を持たせずに設計してもよい。材料の硬化挙動は、粒子の沈降を回避し、再作業および取り扱いに十分な硬化前時間を提供するように調整し得る。
【0003】
電気自動車(EV)は、搭載された電池システムに依存して動作する。顧客のニーズを満たすため、電気自動車に搭載される電池システムは高出力を生み出し、短時間で再充電が可能である。このような特性から、電池システムには大電流を流す必要があり、発熱が大きくなる。そのため、充放電サイクル中の電池システムからの放熱は、電池システム設計の重要な側面となっている。安全な電池動作温度を維持するために、過剰な熱を放散するサーマルインターフェース材料が使用されてきた。
【0004】
電池性能の向上により、サーマルインターフェース材料に対するより高い熱伝導性の要求が高まっている。従来、熱伝導性は、導電性フィラーの配合量を増加させることで達成されてきた。しかし、高配合材料は粘度が高くなる傾向があり、その結果としてディスペンス速度が遅くなり、生産スループットが制限される。さらに、高配合材料は、熱伝導性フィラー粒子の密度が比較的高いため、高い密度を示す。サーマルインターフェース材料の重量が増加すると、車両の性能が低下する可能性がある。また、高配合の熱材料は著しい摩耗性を示す傾向があり、ディスペンス装置に損傷を与える可能性がある。
【0005】
シリコーンオイルおよび樹脂は、低粘度で熱安定性が高いため、サーマルインターフェース材料に広く使用されている。しかし、シリコーンオイルは表面張力が低いため、意図した塗布位置から「ブリードアウト」する傾向があり、そのため基材上に広がり、隣接する表面に影響を与える可能性がある。例えば、シリコーン熱材料は、意図した場所から望ましくない広がりをすることにより、表面の塗装性を阻害する。さらに、ほとんどのシリコーン樹脂には揮発性の環状シリコーンオリゴマーが含まれており、光センサーなどの他の部品の機能に影響を与える可能性がある。
【0006】
サーマルインターフェース用途において、いくつかの非シリコーン材料が提案され、実用化されてきた。しかし、温度安定性、硬化前の粘度、硬化後の硬度の適切な組み合わせを示す非シリコーン系を設計することは困難であった。シリル変性ポリマーの開発は、低硬度、高い使用温度、汎用性などの望ましい機械的特性から有望視されている。サーマルインターフェース用途におけるこれらおよび他の非シリコーンポリマーの使用には、従来、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、アルミニウム、アルミナ三水和物、窒化ホウ素などの周知の熱伝導性粒子状フィラーが用いられてきた。これらのフィラー材料はそれぞれ、高コスト、高い摩耗性、低い加水分解安定性などの欠点を抱えており、特定の用途では使用が制限されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、低密度等の重量に敏感な用途に有用な特性を示す熱伝導性材料を提供することである。
【0008】
本発明の別の課題は、従来のディスペンス装置を介して供給可能な1パートまたは2パート組成物から形成される低密度の熱伝導性材料を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明により、低密度で高熱伝導率の材料が、従来の液体ディスペンス装置を介して硬化性液体コーティングとしてディスペンスするのに適した粘度を示す組成物から形成され得る。該組成物は、非シリコーン配合での摩耗性の低減とともに、このような特性を実現する。該組成物は、概して3つの主要成分、非シリコーンポリマー樹脂、該非シリコーンポリマー樹脂と相溶性のある希釈剤、および配合された熱伝導性粒子状フィラーを含む。硬化前の材料は、液体でディスペンス可能な粘度を示し、硬化して高い熱伝導性を有する柔らかい固体を形成することができる。黒鉛粒子を組み込んだ熱伝導性フィラーの特定の配合により、材料は2.4g/cm3未満の密度を示すことができる。
【0010】
一実施形態では、熱伝導性組成物は、25℃で500cP未満の粘度を有する液体希釈剤と、該希釈剤に可溶なシリル変性非シリコーンポリマー樹脂と、15μm~150μmの平均粒径を有する30~70重量%の黒鉛粒子および該黒鉛の平均粒径の33%未満の平均粒径を有する残りの重量%の非黒鉛粒子とを含む粒子状フィラーとを含む。熱伝導性組成物は、2.4g/cm3未満の密度と少なくとも1.5W/m・Kの熱伝導率を示す。
【0011】
シリル変性非シリコーンポリマー樹脂は縮合硬化性であってもよく、該組成物はシリル変性非シリコーンポリマー樹脂の縮合硬化を促進するのに有効な触媒を含んでもよい。シリル変性非シリコーンポリマー樹脂は、アルコキシシラン末端基を含んでもよい。
【0012】
該組成物は、1s-1および25℃で1000Pa・s未満の粘度から20ショア00~80ショアAの硬化硬度まで周囲温度以上で硬化可能であり得る。
【0013】
黒鉛粒子は、熱分解ピッチカーボンで被覆されていてもよい。非黒鉛粒子は、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、アルミナ、アルミナ三水和物、アルミニウム、炭化ケイ素、ケイ素、シリカ、シリケート、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、およびそれらの混合物から選択してもよい。非黒鉛粒子の少なくとも一部は、3~12個の炭素原子を有するアルキル化合物で表面処理されてもよい。
【0014】
非黒鉛粒子は、10μm未満の平均粒径を有してもよく、粒径は、0.1~1μmの間の第1のピークと1~10μmの間の第2のピークを有する多峰性分布で分布していてもよい。
【0015】
サーマルインターフェースの樹脂組成物は、25℃で500cP未満の粘度を有する希釈剤および希釈剤に可溶な非シリコーンポリマー樹脂を有する第1のパートと、水および該非シリコーンポリマー樹脂の縮合硬化反応を促進するのに有効な触媒を有する第2のパートとを含む2パート組成物から形成されてもよい。第1および第2のパートの少なくとも一方は、15μm~150μmの平均粒径を有する黒鉛粒子と、10μm未満の平均粒径を有する非黒鉛粒子とを含む。2パート組成物は、第1のパートおよび第2のパートを周囲温度以上で混合すると、20ショア00~80ショアAの硬度、少なくとも1.5W/m・Kの熱伝導率、および2.4g/cm3未満の密度を有するサーマルインターフェースまで硬化可能である。
【0016】
非シリコーンポリマー樹脂は、アルコキシシラン末端基を含んでもよく、組成物の10~35重量%を構成してもよい。
【0017】
黒鉛粒子と非黒鉛粒子は一緒になって、該黒鉛粒子は30~70重量%を占める粒子状フィラー組成物を構成(define)する。
【0018】
触媒は有機金属化合物を含んでもよく、水分スカベンジャーが組成物の第1のパートに含まれてもよい。
【0019】
電池システムは、電池と、該電池に熱的に結合された熱伝導性組成物とを含む。熱伝導性組成物は、25℃で500cP未満の粘度を有する液体希釈剤と、該希釈剤に可溶なシリル変性非シリコーンポリマー樹脂と、15μm~150μmの平均粒径を有する30~70重量%の黒鉛粒子および該黒鉛の平均粒径の33%未満の平均粒径を有する残りの重量%の非黒鉛粒子を含む粒子状フィラーと、を含む。この熱伝導性組成物は、2.4g/cm3未満の密度と少なくとも1.5W/m・Kの熱伝導率を示す。
【0020】
熱伝導性組成物は、20ショア00~80ショアAの硬度に硬化させることができ、2.2g/cm3未満の密度を示し得る。
【0021】
好ましい実施形態の詳細な説明
上に列挙した目的および利点を、本発明によって表される他の目的、特徴、および進歩とともに、ここで詳細な実施形態に関して提示する。しかしながら、本発明の他の実施形態および態様は、当業者であれば把握できる範囲内であると認識される。
【0022】
本発明の熱伝導性組成物は、典型的には電気自動車の電池システム等の熱を発生する電子部品から過剰な熱を除去するための熱放散経路に沿って配置するために、表面または自己支持体上にコーティングとして形成されてもよい。熱伝導性組成物は、好ましくは非シリコーンであり、所望の熱伝導率、典型的には少なくとも1.5W/m・Kを達成するために熱伝導性粒子で充填されている。この組成物は、安定した界面を提供するのに十分な柔軟性と凝集力を示すのが好ましい。
【0023】
熱伝導性組成物は、好ましくは、従来の液体ディスペンス装置を介してディスペンス可能であり、その後、硬化して柔らかい固体になる。いくつかの実施形態では、組成物は、材料の硬化が望まれる時点まで、反応性シリル変性ポリマー樹脂を反応触媒および水から分離するために、最初に2つ以上のパートに分離され、少なくとも2つの別々の容器からディスペンスできる。本発明の組成物は、シリルの加水分解および縮合によってディスペンス後にその場で硬化される。他の実施形態では、組成物は、場合によりシリル変性ポリマー樹脂の早期硬化を防ぐために反応抑制剤の存在下または水分の非存在下で、単一の容器に保管され、単一の容器からディスペンスされてもよい。
【0024】
この組成物は、2.4g/cm3未満の密度を含む特有の一連の特性を熱伝導性材料に与える熱伝導性フィラーの複合ブレンドを含む。密度が比較的低いため、本発明のサーマルインターフェース材料を使用したアセンブリの軽量化が可能になる。
【0025】
樹脂
様々なシリル変性樹脂を本発明のマトリックスに使用し得る。縮合硬化性シリル変性樹脂は、好ましくは周囲温度以上での加水分解縮合硬化経路に関与する。樹脂は非シリコーンであることが好ましく、組成物中に含まれるシリコーンは微量以下である。いくつかの実施形態では、組成物中にシリコーンは含まれない。いくつかの実施形態では、非シリコーン樹脂は、その中のポリマー中に-Si-O-単位を実質的に含まない。他の実施形態では、非シリコーン樹脂はポリシロキサン樹脂を除外し、その中に繰り返し-Si-O-単位を有さない。
【0026】
本明細書で使用されるシリル変性反応性ポリマー樹脂は、全組成物の約5~約50重量パーセントの範囲で存在し;いくつかの実施形態において、組成物は、約10~約40重量パーセントの範囲のシリル変性反応性ポリマー樹脂を含み;いくつかの実施形態において、組成物は、15~35重量パーセントの範囲のシリル変性反応性ポリマー樹脂を含み;いくつかの実施形態において、組成物は、18~28重量パーセントの範囲のシリル変性反応性ポリマー樹脂を含む。
【0027】
本発明の反応性樹脂に好適な樹脂の例としては、水で活性化され得る少なくとも1つの結合を含む、少なくとも1つのシリル反応性官能基を有する反応性ポリマー樹脂が挙げられる。例示的なシリル反応性官能基としては、アルコキシシラン、アセトキシシラン、およびケトキシムシランが挙げられる。
【0028】
反応性ポリマー樹脂は、シリル加水分解反応に関与できる任意の非シリコーンポリマーであり得る。例えば、反応性ポリマー樹脂は、反応性シリル基を有するポリマー系として広範囲のポリマーから選択することができ、例えば、シリル変性反応性ポリマーが挙げられる。シリル変性反応性ポリマーは、電子デバイスで使用される場合等、加熱された時のシリコーンの放出を制限または回避するために、非シリコーン骨格を有することが好ましい。好ましくは、シリル変性反応性ポリマーは、弾性率およびガラス転移温度を低くするために柔軟な骨格を有する。好ましくは、シリル変性反応性ポリマーは、ポリエーテル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリスチレン-ブタジエン、ポリイソブチレンまたはポリブチレン-イソプレンの柔軟な骨格を有する。
【0029】
シリル変性反応性ポリマーは、ラジカル開始剤の存在下でポリマーと少なくとも1つのエチレン性不飽和シランとを反応させることによって得ることができ、このエチレン性不飽和シランはケイ素原子上に少なくとも1つの加水分解性基を有する。例えば、シリル変性反応性ポリマーは、ジメトキシシラン変性ポリマー、トリメトキシシラン変性ポリマー、またはトリエトキシシラン変性ポリマーであり得る。例えば、シリル変性反応性ポリマーとしては、シラン変性ポリエーテル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリスチレン-ブタジエン、またはポリブチレン-イソプレンが挙げられ得る。
【0030】
エチレン性不飽和シランは、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルジメトキシメチルシラン、ビニルジエトキシメチルシラン、トランス-β-メチルアクリル酸トリメトキシシリルメチルエステル、およびトランス-β-メチルアクリル酸トリメトキシシリルプロピルエステルからなる群から選択されてもよい。
【0031】
シリル変性反応性ポリマーは、統計的分布でケイ素原子上に少なくとも1つの加水分解性基を有するシリル基を含むことが好ましい。例えば、一般式:
【0032】
【化1】
のシラン変性反応性ポリマーであり得る。ここで、式中、Rは、1価から4価のポリマーラジカルであり、R
1、R
2、R
3は、それぞれ独立して、1から8個の炭素原子を有するアルキル基またはアルコキシ基であり、Aは、カルボキシ、カルバメート、アミド、カーボネート、ウレイド、ウレタン、スルホネート基、酸素原子または共有結合であり、x=1~8およびn=1~4である。いくつかの実施形態では、Rは-Si-O-単位を含まない。
【0033】
シリル変性反応性ポリマーは、水酸基を有するポリマーとイソシアネート基を有するアルコキシシランとを反応させることによっても得ることができる。例えば、シリル変性反応性ポリマーは、ジメトキシシラン変性ポリウレタンポリマー、トリメトキシシラン変性ポリウレタンポリマー、またはトリエトキシシラン変性ポリウレタンポリマーであり得る。さらに、シリル変性反応性ポリマーは、平均的な一般式:
【0034】
【化2】
のα-エトキシシラン変性ポリマーであり得る。ここで、式中、Rは1~4価のポリマー残基であり、式のポリマーに含まれる残基R
1、R
2およびR
3の多くとも3分の1は、独立して1~4個の炭素原子を有するアルキルラジカルであり、式のポリマーに含まれる残基R
1、R
2およびR
3の少なくとも4分の1は、独立してエトキシ残基であり、残りのラジカルR
1、R
2およびR
3は互いに独立してメトキシラジカルであり、n=1~4である。いくつかの実施形態では、Rは、-Si-O-単位を含まない。
【0035】
シリル変性反応性ポリマーは、例えば、カネカ・ベルギーNVのポリエーテル骨格を有するジメトキシシラン変性MSポリマーおよびポリアクリレート骨格を有するXMAP(商標)ポリマー、エボニックのトリメトキシシラン変性STポリマー、エボニックのトリエトキシシラン変性Tegopac(商標)ポリマー、コベストロのシラン変性Desmoseal(商標)ポリマー、またはワッカーのジ-もしくはトリ-メトキシシラン変性Geniosil(商標)ポリマーとして入手可能である。
【0036】
希釈剤
本発明の組成物は、特にせん断下でディスペンスされるものの粘度を調整し、組成物が硬化状態にあるときに柔軟性/柔らかさ特性を維持するために、希釈剤を含むことが好ましい。硬化した組成物は、80ショアA未満の比較的低い弾性率(modulus)または硬度を示し、電子部品組み立て時の応力を緩和し、電子部品のそれぞれの接触面に対する熱材料の適合性を促進する。
【0037】
本発明の組成物において有用な希釈剤は、組成物を構成する凝集物の流動性を促進するのに有効なものである。本発明の希釈剤は、選択された非シリコーン樹脂と相溶性があり、好ましくはその溶媒であり、好ましくは、該組成物が液体ディスペンス装置を通して容易にディスペンス可能であるように、硬化前の組成物全体の粘度を低下させる低揮発性液体であってよい。したがって、希釈剤は、25℃で500cP未満の粘度を示してもよい。別の実施形態では、希釈剤は、25℃で250cP未満の粘度を示してもよい。さらなる実施形態では、希釈剤は25℃で100cP未満の粘度を示してもよい。好ましくは、希釈剤は25℃で1~50cPの粘度を示す。
【0038】
希釈剤は、硬化前のディスペンス性および硬化後の柔らかさのための粘度を適切に調整するのに適した量で組成物に添加されることが好ましい。いくつかの実施形態では、希釈剤は、組成物の約1~50重量パーセントを占めてもよい。いくつかの実施形態では、希釈剤は、組成物の約1~20重量パーセントを占めてもよい。いくつかの実施形態では、希釈剤は、組成物の約5~10重量パーセントを占めてもよい。希釈剤は、好ましくは組成物の20重量%未満で存在してもよい。
【0039】
希釈剤の例としては、ベンゾエート、オレエート、リシノレート、フタレート、トリメリテート、テラフタレート、アジペート、セバケート、アゼレート、マレエート、シトレート、エポキシ化植物油、有機サルフェート、有機ホスフェート、グリコールおよびポリエーテル、エーテルエステル、ポリオレフィン、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0040】
熱伝導性粒子
熱伝導性粒子状フィラーの選択は、低密度、高熱伝導率、低磨耗性、高ディスペンス性、形状安定性および硬化柔軟性を含む本発明の望ましい特性を達成するために重要である。本出願人は、平均粒径、相対平均粒径、および相対配合濃度の臨界範囲内で黒鉛粒子と非黒鉛粒子のブレンドが、驚くことに2.4g/cm3未満の密度を示す高熱伝導性組成物を達成することを見出した。従来技術の組成物は、比較的高密度の熱伝導性粒子の高い配合濃度を必要とし、その結果、全体の材料密度が2.4g/cm3を超えることになる。比較的大きな黒鉛粒子は、ディスペンス可能な組成物の磨耗性を低減させる一方で、高度の熱伝導性を維持することができると理論化されている。
【0041】
本発明の材料に含まれる熱伝導性フィラーの組成物には、黒鉛粒子と非黒鉛粒子の両方が含まれる。フィラー組成物は、30重量%~70重量%の黒鉛粒子を含み;いくつかの実施形態では、フィラー組成物は、40重量%~60重量%の黒鉛粒子を含む。黒鉛粒子は、好ましくは15μm~150μmの平均粒径(d50)を有する。黒鉛粒子は、天然黒鉛、人造黒鉛、および熱分解ピッチ炭素で被覆された黒鉛から選択してもよい。
【0042】
フィラー組成物の残りの重量%(残部)は非黒鉛粒子である。本発明において有用な非黒鉛粒子としては、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、アルミナ、アルミナ三水和物、アルミニウム、炭化ケイ素、ケイ素、シリカ、シリケート、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、およびそれらの混合物が挙げられる。いくつかの実施形態では、非黒鉛粒子は、ポリマー樹脂との相溶性のために3~12個の炭素原子を有するアルキル化合物で表面処理されてもよい。表面処理剤としては、アルコキシシラン、脂肪酸化合物が挙げられる。
【0043】
非黒鉛粒子は、好ましくは、フィラー組成物中の黒鉛の平均粒径の33%未満の平均粒径(d50)を有する。いくつかの実施形態では、非黒鉛粒子の平均粒径(d50)は10μm未満であり;いくつかの実施形態では、非黒鉛粒子の平均粒径(d50)は5μm未満である。非黒鉛粒子は、多峰性の粒径分布で存在してもよい。本明細書において、「多峰性」サイズ分布という用語は、粒子サイズの複数の濃度ピーク(最大値)を有する分布を意味する。いくつかの実施形態では、非黒鉛粒子の二峰性粒径分布は、0.1μmと1μmの間の第1の濃度ピークと、1μmと10μmの間の第2の濃度ピークとを含む。
【0044】
本発明の組成物は、少なくとも1.5W/m・K、より好ましくは少なくとも2W/m・K、さらにより好ましくは少なくとも2.5W/m・Kの熱伝導率を示すことが望ましい。本発明の組成物はまた、好ましくは2.4g/cm3未満、より好ましくは2.2g/cm3未満の密度を示す。
【0045】
黒鉛および非黒鉛熱伝導性粒子の選択は、組成物全体の摩耗性も決める。組成物の摩耗性は、ASTM G75に準拠したスラリー摩耗試験によって評価し得る。臨界範囲の黒鉛および非黒鉛粒子を組み込んだ本発明の組成物は、スラリー試験における6時間の摩耗試験あたりアルミニウム金属損失が3mg未満という望ましい低摩耗性を示すことが判明した。この低摩耗性により、ディスペンス装置を長期間使用しても維持できる。
【0046】
反応触媒
シリル変性反応性樹脂の加水分解-縮合硬化反応をさらに促進するために、反応触媒を使用してもよい。本発明の組成物において有用な反応触媒の例としては、シリル変性反応性樹脂の湿気硬化を促進する有機スズおよび有機亜鉛および有機チタン化合物(本明細書ではこれらをまとめて「有機金属触媒」と呼ぶ)が挙げられる。
【0047】
本発明の組成物に使用される反応触媒は、約0~約1重量パーセントの反応触媒の範囲で存在する。いくつかの実施形態では、組成物は、0.1~約0.5重量パーセントの範囲の反応触媒を含む。いくつかの実施形態では、組成物は、0.5重量パーセント未満の反応触媒、より好ましくは0.3重量パーセント未満の反応触媒を含む。本明細書において、特定の量「未満」の濃度には、ゼロが含まれてもよい。
【0048】
本発明の熱伝導性組成物は、好ましくは、周囲温度以上で水の存在下で硬化可能(湿気硬化可能)である。用途に応じて、水分は周囲環境から、または反応物中に供給される水から利用可能であり得る。好ましくは、組成物自体に必要な水の量は、熱材料の機能特性を妨げないように少量である。いくつかの実施形態では、水は、本発明の組成物中に、組成物の0~2重量パーセントの範囲で存在する。いくつかの実施形態では、組成物は0.1~1重量パーセントまでの範囲の水を含む。いくつかの実施形態では、組成物は、2重量パーセント未満の範囲の水、より好ましくは1重量パーセント未満の水を含む。
【0049】
本明細書において、「周囲温度」という用語は、反応が起こる環境の温度であり、15~30℃、好ましくは25℃の温度範囲内であることを意味することを意図する。熱伝導性組成物は、周囲温度で72時間以内、好ましくは24時間以内に硬化可能である。熱伝導性組成物はまた、高温で硬化可能であってもよい。本明細書において、「硬化性(curable)」という用語は、組成物が適切な条件下で反応でき、反応生成物が不可逆的な固体形態を有することを意味することを意図する。
【0050】
水スカベンジャー
本発明の組成物は、好ましくは、貯蔵寿命を延長するように、ディスペンス前の樹脂含有成分の反応を回避するために、水スカベンジャーを含む。水スカベンジャーは、例えば、アルキルトリメトキシシラン、オキサゾリジン、ゼオライト粉末、p-トルエンスルホニルイソシアネート、オキソカルシウム、およびオルトギ酸エチルであってよい。水スカベンジャーは、好ましくはビニルトリメトキシシランである。水スカベンジャーが組成物中に多すぎると硬化が遅くなる。水スカベンジャーは、組成物の約0.05重量%超かつ約5重量%未満、例えば約0.5重量%の量で存在してもよい。
【0051】
任意の添加物
本発明のいくつかの実施形態に従って、本明細書に記載の組成物は、フィラー、安定剤、酸化防止剤、接着促進剤、溶媒、顔料、湿潤剤、分散剤、難燃剤、増量剤、および腐食防止剤から選択される1つ以上の添加剤をさらに含んでもよい。他の実施形態では、組成物は添加剤のいずれかまたはすべてを含まなくてもよい。
【0052】
特性
本発明の硬化性組成物は、周囲温度以上、例えば25℃以上で硬化可能であることが好ましい。硬化性組成物は、好ましくは、25℃で1s-1のせん断速度で平行平板レオメーターで測定して1000Pa・s未満の粘度を示し、より好ましくは、25℃で1s-1のせん断速度で500Pa・s未満の粘度を示す。硬化性組成物は、25℃で90psiの圧力下で3.175mmのオリフィスを通して少なくとも100g/分のディスペンス速度を示すことが好ましく、少なくとも200g/分がより好ましい。ポリマー樹脂の硬化後、組成物は、25℃でデュロメータにより測定して、20ショア00~80ショアAの硬度を示すことが好ましい。
【実施例】
【0053】
本明細書に記載される例は、例示的な組成物を提供するものであり、これは本発明によって企図される様々な組成物に限定することを意図するものではない。
【0054】
例1
以下の表1aおよび1bの組成物1-1~1-6は、単一成分配合物の例を表す。
【0055】
【0056】
【0057】
例2
以下の表2Aの組成物2-1および2-2は、2成分配合物の例を表し、各配合物の第1のパートはパート「A」として指定され、各配合物の第2のパートはパート「B」として指定される。
【0058】
【0059】
組成物2-1および2-1のそれぞれについて、それぞれのパートAおよびBを混合した後の例2の硬化した組成物の特性を以下の表2Bに示す。
【0060】
【0061】
例3
組成物3-1、3-2、および3-3は、本発明の熱伝導性フィラーブレンドを有さない対照配合物を表す。対照配合物は良好な熱伝導率を示すが、その密度は本発明の意図する用途には不適切である。
【0062】
【0063】
例4
組成物4-1および4-2は、本発明に沿った配合例を表し、組成物4-3、4-4、および4-5は、比較的大きな非黒鉛粒子サイズを含む先行技術の熱伝導性粒子ブレンドを表す。以下の表4に示すように、組成物4-1および4-2は、組成物4-3、4-4、および4-5と比較して、有意に低減した摩耗性を示す。摩耗性は、ASTM G75に基づいて、ミラースラリー摩耗試験機で試験した。この材料を等量の希釈剤(この例4のすべての組成物に同じオイルを使用した)で希釈して、スラリーを形成した。アルミニウム摩耗ブロックを使用し、6時間の摩耗後に金属の損失を測定した。
【0064】
【国際調査報告】