(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】多能性幹細胞からナチュラルキラー細胞を産生するための方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0783 20100101AFI20240621BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240621BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240621BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240621BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240621BHJP
【FI】
C12N5/0783
C12N5/10
A61P35/00
A61P35/02
A61K35/17
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577490
(86)(22)【出願日】2022-06-14
(85)【翻訳文提出日】2024-02-13
(86)【国際出願番号】 IB2022055504
(87)【国際公開番号】W WO2022264033
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】カオ、ラン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、フイ-シン
(72)【発明者】
【氏名】フー、ジャンシン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ユ
(72)【発明者】
【氏名】シ、シ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BB02
4B065BB19
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA03
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4C087MA13
4C087MA16
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4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZB27
(57)【要約】
本開示は、とりわけ、人工多能性細胞からナチュラルキラー細胞(NK細胞)で濃縮した細胞集団を効率的に産生するための方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
NK細胞で濃縮した細胞集団を産生する方法であって、
(A)少なくとも20%のCD34+HPC(HPCバルク)を含む細胞集団をもたらす第1の条件セット下で多能性幹細胞集団を培養するステップと、
(B)前記第1の条件セットを第2の条件セットに変更し、それによって少なくとも5%のCD4-細胞を含む細胞集団をもたらすステップと、
(C)前記第2の条件セットを第3の条件セットに変更し、それによってNK細胞で濃縮した細胞集団をもたらすステップと、を含む、前記方法。
【請求項2】
前記方法が、単離ステップを伴わずに行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(B)の後にCD4-細胞を単離してから、前記単離した細胞をステップ(C)における前記第3の条件セットと接触させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
CD4-細胞を前記単離することが、前記細胞集団からCD4+細胞を除去することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
NK細胞で濃縮した細胞集団を産生する方法であって、前記方法が、
(A)少なくとも20%のCD34+HPC(HPCバルク)を含む細胞集団をもたらす第1の条件セット下で多能性幹細胞集団を培養するステップと、
(B)前記第1の条件セットを第2の条件セットに変更し、それによって少なくとも5%のCD4-細胞を含む細胞集団をもたらすステップと、
(C)前記第2の条件セットを第3の条件セットに変更し、それによってNK細胞で濃縮した細胞集団をもたらすステップと、を含み、前記方法が、単離ステップを伴わずに行われる、前記方法。
【請求項6】
少なくとも5%のCD4-細胞を含む前記細胞集団が、少なくとも5%のCD4+細胞を更に含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
NK細胞で濃縮した前記細胞集団が、少なくとも30%のNK細胞を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(B)における前記もたらされた細胞集団が、少なくとも10%、15%、または20%のCD4-細胞を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(B)における前記CD4-細胞が、CD8+細胞である、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(B)における前記CD4-細胞が、CD8-細胞である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(B)における前記もたらされた細胞集団が、20~55%のCD4-/CD8+細胞を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記もたらされた細胞集団が、25~55%のCD4-/CD8-細胞を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記NK細胞が、CD56+/CD3-細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記多能性幹細胞が、人工多能性幹細胞(iPSC)である、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の条件セットが、骨形成タンパク質-4(BMP4)、血管内皮成長因子(VEGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、アスコルビン酸、Flt3リガンド(Flt3L)、トロンボポエチン(TPO)、及びTGFβ阻害剤から選択される少なくとも1つの化合物を含む培養培地を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の条件セットが、BMP4を5ng/mL~500ng/mLの濃度で含む培養培地を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記BMP4が、50ng/mLの濃度である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第1の条件セットが、VEGFを5ng/mL~500ng/mLの濃度で含む培養培地を含む、請求項15~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記VEGFが、約50ng/mLの濃度である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記第1の条件セットが、bFGFを5ng/mL~500ng/mLの濃度で含む培養培地を含む、請求項15~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記bFGFが、50ng/mLの濃度である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第1の条件セットが、アスコルビン酸を5μg/mL~500μg/mLの濃度で含む培養培地を含む、請求項15~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記アスコルビン酸が、50μg/mLの濃度である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記第1の条件セットが、Flt3Lを1ng/mL~100ng/mLの濃度で含む培養培地を含む、請求項15~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記Flt3Lが、50ng/mLの濃度である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記第1の条件セットが、TPOを1ng/mL~200ng/mLの濃度で含む培養培地を含む、請求項15~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記TPOが、100ng/mLの濃度である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記第2の条件セットが、アスコルビン酸、幹細胞因子(SCF)、IL-7、Flt3L、トロンボポエチン(TPO)、p38阻害剤、及びSDF-1からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む培養培地を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記第2の条件セットが、アスコルビン酸を5μg/mL~500μg/mLの濃度で含む培養培地を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記アスコルビン酸が、50μg/mLの濃度である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記第2の条件セットが、SCFを5ng/mL~100ng/mLの濃度で含む培養培地を含む、請求項28~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記SCFが、50ng/mLの濃度である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記第2の条件セットが、IL-7を1ng/mL~100ng/mLの濃度で含む培養培地を含む、請求項28~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記IL-7が、50ng/mLの濃度である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記第2の条件セットが、Flt3Lを1ng/mL~100ng/mLの濃度で含む培養培地を含む、請求項28~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記Flt3Lが、50ng/mLの濃度である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記第2の条件セットが、TPOを1ng/mL~200ng/mLの濃度で含む培養培地を含む、請求項28~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記TPOが、100ng/mLの濃度である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記第2の条件セットが、p38阻害剤を0.5μM~100μMの濃度で含む培養培地を含む、請求項28~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記p38阻害剤が、SB203580である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記SB203580が、15μMの濃度である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記第2の条件セットが、SDF-1を10ng/mL~100ng/mLの濃度で含む培養培地を含む、請求項28~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記SDF-1が、30nMの濃度である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記第3の条件セットが、CD3活性化因子、IL-2、及びIL-7からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む培養培地を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記第3の条件セットが、IL-2を1ng/mL~100ng/mLの濃度で含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記IL-2が、10ng/mLの濃度である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記第3の条件セットが、IL-7を1ng/mL~100ng/mLの濃度で含む培養培地を含む、請求項44~46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記IL-7が、10ng/mLの濃度である、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記培養するステップの各々が、約5%の酸素で行われる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
前記培養するステップの各々が、14%超の酸素で行われる、請求項1~48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
前記培養するステップの各々が、大気中酸素で行われる、請求項1~48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】
前記培養するステップの各々が、5%未満の酸素で行われる、請求項1~48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項53】
前記第1の条件セットで多能性幹細胞を培養してHPCバルクを得ることが、10日を超えて持続する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項54】
前記第1の条件セットで多能性幹細胞を培養してHPCバルクを得ることが、11~15日間持続する、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記第1の条件セットで多能性幹細胞を培養してHPCバルクを得ることが、14日間持続する、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記iPSCが、末梢血単核細胞から得られる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
産生された細胞の少なくとも約50%、55%、60%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、またはそれ以上が、濃縮のステップを伴わないCD56+/CD3-NK細胞である、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項58】
産生された細胞の約25%未満が、CD3+細胞である、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
産生された細胞のパーセンテージが、フローサイトメトリーによって決定される、請求項57または58に記載の方法。
【請求項60】
産生された細胞のパーセンテージが、単一細胞RNA配列決定(scRNAseq)によって決定される、請求項57または58に記載の方法。
【請求項61】
CD56+/CD3-細胞を単離することを更に含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項62】
前記単離することが、蛍光活性化細胞選別(FACS)または磁気選別を含む、請求項3、4、及び61のいずれか1項に記載の方法。
【請求項63】
前記NK細胞が、1つ以上のキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように遺伝子改変されている、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項64】
抗原が、CD19である、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記NK細胞が、IL-15Rα/IL-15複合体を発現するように更に遺伝子改変されている、請求項63または64に記載の方法。
【請求項66】
人工多能性幹細胞(iPSC)由来NK細胞を産生する方法であって、以下の、
(1)iPSCを、血管内皮成長因子(VEGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、及びアスコルビン酸から選択される少なくとも1つの化合物を含む培地を含む第1の条件セットで培養して、少なくとも20%のCD34+HPC(HPCバルク)を含む集団を得るステップと、
(2)(1)で得られた前記HPCバルクを、アスコルビン酸、p38阻害剤、及びSDF-1のうちの1つ以上を含む培養培地を含む第2の条件セットで培養して、少なくとも5%のCD4-細胞を含む細胞集団を得るステップと、
(3)(2)からの前記細胞集団を、CD3活性化因子、IL-2、及びIL-7からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む培養培地を含む第3の条件セットで培養するステップと、を含む、前記方法。
【請求項67】
人工多能性幹細胞(iPSC)由来NK細胞を産生する方法であって、以下の、
(1)造血前駆細胞(HPCバルク)を含むバルク細胞集団を、アスコルビン酸、p38阻害剤、及びSDF-1のうちの1つ以上を含む培養培地を含む第2の条件セットで培養して、少なくとも5%のCD4-細胞を含む細胞集団を得るステップと、
(2)(1)からの前記CD4-細胞を単離するステップと、
(3)前記単離したCD4-細胞を、CD3活性化因子、IL-2、及びIL-7からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含むNK誘導培地で培養するステップと、を含む、前記方法。
【請求項68】
ステップ(1)で得られた前記細胞集団における約15~30%の前記細胞が、CD4-細胞である、請求項66または67に記載の方法。
【請求項69】
ステップ(1)で得られた前記細胞集団における約20%の前記細胞が、CD4-細胞である、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
CD4-細胞を含む前記細胞集団が、CD4-/CD8-細胞及びCD4-/CD8+細胞を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項71】
先行請求項のいずれか1項に記載の方法を使用して産生された、NK細胞集団。
【請求項72】
前記NK細胞集団が、凍結保存媒体中に凍結保存される、請求項71に記載のNK細胞集団。
【請求項73】
多能性幹細胞由来CD56+/CD3-細胞を、全多能性幹細胞由来CD56+細胞の60%以上の比率で含む、未選別細胞集団。
【請求項74】
前記未選別細胞集団における25%未満の細胞が、CD3+細胞である、請求項73に記載の未選別細胞集団。
【請求項75】
前記未選別細胞集団における5%未満の細胞が、単球である、請求項73または74に記載の未選別細胞集団。
【請求項76】
前記未選別細胞集団における5%未満の細胞が、B細胞である、請求項73または74に記載の未選別細胞集団。
【請求項77】
前記未選別細胞集団における細胞のパーセンテージが、フローサイトメトリーによって決定される、請求項73~76のいずれか1項に記載の未選別集団。
【請求項78】
細胞のパーセンテージが、単一細胞RNA配列決定(scRNAseq)によって決定される、請求項73~76のいずれか1項に記載の未選別集団。
【請求項79】
細胞療法を必要とする対象を治療する方法であって、前記対象に先行請求項のいずれか1項に記載のNK細胞を投与することを含む、前記方法。
【請求項80】
前記対象が、がんを有する、請求項79に記載の方法。
【請求項81】
前記がんが、白血病またはリンパ腫である、請求項80に記載の方法。
【請求項82】
CD34+造血前駆細胞(HPC)を含む細胞集団を産生する方法であって、多能性幹細胞の集団を、血管内皮成長因子(VEGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、及びアスコルビン酸から選択される少なくとも1つの化合物を含む培地を含む第1の条件セットで培養して、CD34+HPC(HPCバルク)を含む集団を得ることを含む、前記方法。
【請求項83】
請求項82に記載の方法によって産生されたHPCを含む、細胞集団。
【請求項84】
前記細胞集団が、少なくとも20%のCD34+細胞を含む、請求項83に記載の細胞集団。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年6月15日に出願された米国仮出願第63/210,683号の優先権を主張し、その内容は参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
ナチュラルキラー(NK)細胞は、免疫系の細胞傷害性リンパ球である。NK細胞は、がん性、病原体感染、その他の損傷を受けた細胞に対して細胞傷害性である。NK細胞は、自然リンパ球(ILC)であり、特に免疫応答の自然アームと適応アームとを架橋する大きい顆粒状の細胞傷害性リンパ球である。それらは、末梢血中の循環リンパ球の10~15%を構成する。NK細胞はまた、免疫系内で最高レベルの細胞傷害性活性を呈する。したがって、NK細胞の機能及び数の変化は、感染及びがんに対する免疫系の機能に影響を与える。
【0003】
NK細胞は、特定の細胞表面抗原受容体を含まない。このため、NK細胞は、事前の感作なく、がん性の病原体感染細胞を死滅させ得、自然免疫応答の一部にし得る。それらはまた、適応免疫応答に直接影響を与えることにより、腫瘍免疫監視においてある役割を有する。これらの特徴及び他の特徴により、NK細胞は、養子細胞療法で使用するために、特に魅力的な細胞種となる。
【0004】
多能性幹細胞(例えば、人工多能性幹細胞(iPSC))または前駆細胞からNK細胞を得るための様々なプロトコルが報告されている。しかし、既に報告されているプロトコルは、労力を要し、細胞単離のステップなど、時間を要する複数のステップを必要とし、NK細胞を産生するための製造/産生時間及び財政上のコストの増大となる。
【0005】
NK細胞ベースの療法の開発が勢いを増し始めており、かかる細胞療法を製造するためのより効率的で堅牢な方法が必要である。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、とりわけ、NK細胞を産生する改善された方法を提供する。NK細胞は、一般に、CD56+/CD3-細胞であることを特徴とする。本開示は、多能性幹細胞(例えば、人工多能性幹細胞(iPSC))に由来するバルク細胞集団からのNK細胞の効率的で堅牢な産生の驚くべき発見に少なくとも部分的に基づいている。NK細胞の産生のための本明細書で提供される方法は、単離ステップを伴わずに行われる方法、ならびに1つ以上の単離ステップが行われる方法を含む。本明細書に記載されるように、本開示は、系統に基づいた任意の細胞種の単離を必要とすることなく、バルク細胞集団からNK細胞を首尾よく誘導することができることを予想外に示す。代替的に、いくつかの実施形態では、方法は、1つ以上の単離ステップを使用して行うことができる。本開示は、単に培養条件を変更することによるか、またはNK細胞に分化する中間体としてCD4-細胞を含む細胞集団を単離するいずれかによって、NK細胞で濃縮した細胞集団をiPSCまたは造血前駆細胞(HPC)バルクから誘導することができるという、予期せぬ驚くべき発見に基づいている。本明細書に記載の方法は、例えば、コスト及び時間の効率的手段で大量のNK細胞をスケールアップ及び産生する能力を含む、NK細胞を産生する既存の方法を超える多くの利点を有する。したがって、本明細書に記載の方法は、NK細胞ベースの療法のための効率的で堅牢な製造プロセスを示す。
【0007】
本明細書に記載の方法によって産生されるiPSC由来NK細胞(本明細書では「iNK細胞」とも称される)は、機能的であり、特定の細胞集団を標的とするCARの導入などを通じて、更に遺伝子改変することができる。
【0008】
いくつかの態様では、NK細胞で濃縮した細胞集団を産生する方法が提供され、方法は、
(A)少なくとも20%のCD34+HPC(HPCバルク)を含む細胞集団をもたらす第1の条件セット下で多能性幹細胞集団を培養するステップと、
(B)第1の条件セットを第2の条件セットに変更し、それによって少なくとも5%のCD4-細胞を含む細胞集団をもたらすステップと、
(C)第2の条件セットを第3の条件セットに変更し、それによって、NK細胞で濃縮した細胞集団をもたらすステップと、を含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、方法は、単離ステップを伴わずに行われる。
【0010】
いくつかの実施形態では、方法は、ステップ(B)の後にCD4-細胞を単離してから、単離した細胞をステップ(C)における第3の条件セットと接触させることを含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、CD4-細胞を単離するステップは、細胞集団からCD4+細胞を除去するか、または残りの細胞からCD4+細胞を分離し、CD4表面マーカーを本質的に欠く残存細胞をNK細胞に分化させることを含む。
【0012】
いくつかの態様では、NK細胞で濃縮した細胞集団を産生する方法が提供され、方法は、
(A)少なくとも20%のCD34+HPC(HPCバルク)を含む細胞集団をもたらす第1の条件セット下で多能性幹細胞集団を培養するステップと、
(B)第1の条件セットを第2の条件セットに変更し、それによって少なくとも5%のCD4-細胞ならびに少なくとも5%のCD4+細胞を含む細胞集団をもたらすステップと、
(C)第2の条件セットを第3の条件セットに変更し、それによって、NK細胞で濃縮した細胞集団をもたらすステップと、を含み、方法は、単離ステップを伴わずに行われる。
【0013】
いくつかの実施形態では、NK細胞で濃縮した細胞集団は、少なくとも30%のNK細胞を含む。例えば、NK細胞で濃縮した細胞集団は、30%、35%、40%、45%、50%、または50%超のNK細胞を含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、ステップ(B)でもたらされる細胞集団は、少なくとも10%、15%、または20%のCD4-細胞を含む。したがって、いくつかの実施形態では、ステップ(B)でもたらされる細胞集団は、少なくとも10%のCD4-細胞を含む。いくつかの実施形態では、ステップ(B)でもたらされる細胞集団は、少なくとも15%のCD4-細胞を含む。いくつかの実施形態では、ステップ(B)でもたらされる細胞集団は、少なくとも20%のCD4-細胞を含む。いくつかの実施形態では、ステップ(B)でもたらされる細胞集団はまた、CD4+細胞を含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、ステップ(B)におけるCD4-細胞は、CD8+細胞である。
【0016】
いくつかの実施形態では、ステップ(B)におけるCD4-細胞は、CD8-である。
【0017】
いくつかの実施形態では、ステップ(B)でもたらされる細胞集団は、20~55%のCD4-/CD8+細胞を含む。例えば、いくつかの実施形態では、ステップ(B)でもたらされる細胞集団は、20%のCD4-/CD8+細胞を含む。いくつかの実施形態では、ステップ(B)でもたらされる細胞集団は、25%のCD4-/CD8+細胞を含む。いくつかの実施形態では、ステップ(B)でもたらされる細胞集団は、30%のCD4-/CD8+細胞を含む。いくつかの実施形態では、ステップ(B)でもたらされる細胞集団は、35%のCD4-/CD8+細胞を含む。いくつかの実施形態では、ステップ(B)でもたらされる細胞集団は、40%のCD4-/CD8+細胞を含む。いくつかの実施形態では、ステップ(B)でもたらされる細胞集団は、45%のCD4-/CD8+細胞を含む。いくつかの実施形態では、ステップ(B)でもたらされる細胞集団は、50%のCD4-/CD8+細胞を含む。いくつかの実施形態では、ステップ(B)でもたらされる細胞集団は、55%のCD4-/CD8+細胞を含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、ステップ(B)でもたらされる細胞集団は、25~55%のCD4-/CD8-細胞を含む。例えば、いくつかの実施形態では、ステップ(B)でもたらされる細胞集団は、約25%のCD4-/CD8-細胞を含む。いくつかの実施形態では、ステップ(B)でもたらされる細胞集団は、約30%のCD4-/CD8-細胞を含む。いくつかの実施形態では、ステップ(B)でもたらされる細胞集団は、約35%のCD4-/CD8-細胞を含む。いくつかの実施形態では、ステップ(B)でもたらされる細胞集団は、約40%のCD4-/CD8-細胞を含む。いくつかの実施形態では、ステップ(B)でもたらされる細胞集団は、約45%のCD4-/CD8-細胞を含む。いくつかの実施形態では、ステップ(B)でもたらされる細胞集団は、約50%のCD4-/CD8-細胞を含む。いくつかの実施形態では、ステップ(B)でもたらされる細胞集団は、約55%のCD4-/CD8-細胞を含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、ステップ(B)でもたらされる細胞集団は、CD4-/CD8-細胞及びCD4-/CD8+細胞の組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、ステップ(B)でもたらされる細胞集団は、CD4+/CD8+細胞及び/またはCD4+/CD8-細胞である少なくとも5%の細胞を更に含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、NK細胞は、CD56+/CD3-細胞である。
【0021】
いくつかの実施形態では、多能性幹細胞は、人工多能性幹細胞(iPSC)である。
【0022】
いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、骨形成タンパク質-4(BMP4)、血管内皮成長因子(VEGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、アスコルビン酸、Flt3リガンド(Flt3L)、トロンボポエチン(TPO)、及びTGFβ阻害剤から選択される少なくとも1つの化合物を含む培養培地を含む。したがって、いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、BMP4を含む培養培地を含む。いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、VEGFを含む培養培地を含む。いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、bFGFを含む培養培地を含む。いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、アスコルビン酸を含む培養培地を含む。いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、Flt3Lを含む培養培地を含む。いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、TPOを含む培養培地を含む。いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、TGFβ阻害剤を含む培養培地を含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、BMP4を5ng/mL~500ng/mLの濃度で含む培養培地を含む。例えば、第1の条件セットは、BMP4を5ng/mL~25ng/mL、25ng/mL~50ng/mL、25ng/mL~75ng/mL、25ng/mL~100ng/mL、100ng/mL~125ng/mL、100ng/mL~250ng/mL、または250ng/mL~500ng/mLの濃度で含む培養培地を含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、BMP4は、50ng/mLの濃度である。
【0025】
いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、VEGFを5ng/mL~500ng/mLの濃度で含む培養培地を含む。例えば、いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、VEGFを5ng/mL~25ng/mL、25ng/mL~50ng/mL、25ng/mL~75ng/mL、25ng/mL~100ng/mL、100ng/mL~125ng/mL、100ng/mL~250ng/mL、または250ng/mL~500ng/mLの濃度で含む培養培地を含む。
【0026】
いくつかの実施形態では、VEGFは、約50ng/mLの濃度である。
【0027】
いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、bFGFを5ng/mL~500ng/mLの濃度で含む培養培地を含む。例えば、いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、bFGFを5ng/mL~25ng/mL、25ng/mL~50ng/mL、25ng/mL~75ng/mL、25ng/mL~100ng/mL、100ng/mL~125ng/mL、100ng/mL~250ng/mL、または250ng/mL~500ng/mLの濃度で含む培養培地を含む。
【0028】
いくつかの実施形態では、bFGFは、50ng/mLの濃度である。
【0029】
いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、アスコルビン酸を5μg/mL~500μg/mLの濃度で含む培養培地を含む。例えば、いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、アスコルビン酸を5ng/mL~25ng/mL、25ng/mL~50ng/mL、25ng/mL~75ng/mL、25ng/mL~100ng/mL、100ng/mL~125ng/mL、100ng/mL~250ng/mL、または250ng/mL~500ng/mLの濃度で含む培養培地を含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、アスコルビン酸は、50μg/mLの濃度である。
【0031】
いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、Flt3Lを1ng/mL~100ng/mLの濃度で含む培養培地を含む。例えば、いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、Flt3Lを5ng/mL~25ng/mL、25ng/mL~50ng/mL、25ng/mL~75ng/mL、または25ng/mL~100ng/mLの濃度で含む培養培地を含む。
【0032】
いくつかの実施形態では、Flt3Lは、50ng/mLの濃度である。
【0033】
いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、TPOを1ng/mL~200ng/mLの濃度で含む培養培地を含む。例えば、いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、TPOを5ng/mL~25ng/mL、25ng/mL~50ng/mL、25ng/mL~75ng/mL、25ng/mL~100ng/mL、100ng/mL~125ng/mL、または100ng/mL~200ng/mLの濃度で含む培養培地を含む。
【0034】
いくつかの実施形態では、TPOは、100ng/mLの濃度である。
【0035】
いくつかの実施形態では、第2の条件セットは、アスコルビン酸、幹細胞因子(SCF)、IL-7、Flt3L、トロンボポエチン(TPO)、p38阻害剤、及びSDF-1からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む培養培地を含む。したがって、いくつかの実施形態では、第2の条件セットは、アスコルビン酸を含む培養培地を含む。いくつかの実施形態では、第2の条件セットは、SCFを含む培養培地を含む。いくつかの実施形態では、第2の条件セットは、IL-7を含む培養培地を含む。いくつかの実施形態では、第2の条件セットは、Flt3Lを含む培養培地を含む。いくつかの実施形態では、第2の条件セットは、TPOを含む培養培地を含む。いくつかの実施形態では、第2の条件セットは、p38阻害剤を含む培養培地を含む。いくつかの実施形態では、第2の条件セットは、SDF-1を含む培養培地を含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、第2の条件セットは、アスコルビン酸を5μg/mL~500μg/mLの濃度で含む培養培地を含む。例えば、いくつかの実施形態では、第2の条件セットは、アスコルビン酸を5ng/mL~25ng/mL、25ng/mL~50ng/mL、25ng/mL~75ng/mL、25ng/mL~100ng/mL、100ng/mL~125ng/mL、100ng/mL~250ng/mL、または250ng/mL~500ng/mLの濃度で含む培養培地を含む。
【0037】
いくつかの実施形態では、アスコルビン酸は、50μg/mLの濃度である。
【0038】
いくつかの実施形態では、第2の条件セットは、SCFを5ng/mL~100ng/mLの濃度で含む培養培地を含む。例えば、いくつかの実施形態では、第2の条件セットは、SCFを5ng/mL~25ng/mL、25ng/mL~50ng/mL、25ng/mL~75ng/mL、または25ng/mL~100ng/mLの濃度で含む培養培地を含む。
【0039】
いくつかの実施形態では、SCFは、50ng/mLの濃度である。
【0040】
いくつかの実施形態では、第2の条件セットは、IL-7を1ng/mL~100ng/mLの濃度で含む培養培地を含む。例えば、いくつかの実施形態では、第2の条件セットは、IL-7を1ng/mL~25ng/mL、25ng/mL~50ng/mL、25ng/mL~75ng/mL、または25ng/mL~100ng/mLの濃度で含む培養培地を含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、IL-7は、50ng/mLの濃度である。
【0042】
いくつかの実施形態では、第2の条件セットは、Flt3Lを1ng/mL~100ng/mLの濃度で含む培養培地を含む。例えば、いくつかの実施形態では、第2の条件セットは、1ng/mL~25ng/mL、25ng/mL~50ng/mL、25ng/mL~75ng/mL、または25ng/mL~100ng/mLを含む培養培地を含む。
【0043】
いくつかの実施形態では、Flt3Lは、50ng/mlのFlt3Lの濃度である。
【0044】
いくつかの実施形態では、第2の条件セットは、TPOを1ng/mL~200ng/mLの濃度で含む培養培地を含む。例えば、いくつかの実施形態では、第2の条件セットは、TPOを1ng/mL~25ng/mL、25ng/mL~50ng/mL、25ng/mL~75ng/mL、25ng/mL~100ng/mL、100ng/mL~125ng/mL、または100ng/mL~200ng/mLの濃度で含む培養培地を含む。
【0045】
いくつかの実施形態では、TPOは、100ng/mLの濃度である。
【0046】
いくつかの実施形態では、第2の条件セットは、p38阻害剤を0.5μM~100μMの濃度で含む培養培地を含む。例えば、いくつかの実施形態では、第2の条件セットは、p38阻害剤を0.5μM~25μM、0.5μM~50μM、0.5μM~100μMの濃度で含む培養培地を含む。
【0047】
いくつかの実施形態では、p38阻害剤は、SB203580である。
【0048】
いくつかの実施形態では、SB203580は、濃度15μMである。
【0049】
いくつかの実施形態では、第2の条件セットは、SDF-1を10ng/mL~100ng/mLの濃度で含む培養培地を含む。例えば、いくつかの実施形態では、第2の条件セットは、SDF-1を1ng/mL~25ng/mL、25ng/mL~50ng/mL、25ng/mL~75ng/mL、または25ng/mL~100ng/mLの濃度で含む培養培地を含む。
【0050】
いくつかの実施形態では、SDF-1は、30nMの濃度である。
【0051】
いくつかの実施形態では、第3の条件セットは、CD3活性化因子、IL-2、及びIL-7からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む培養培地を含む。したがって、いくつかの実施形態では、第3の条件セットは、CD3活性化因子を含む培養培地を含む。いくつかの実施形態では、第3の条件セットは、IL-2を含む培養培地を含む。いくつかの実施形態では、第3の条件セットは、IL-7を含む。
【0052】
いくつかの実施形態では、第3の条件セットは、IL-2を1ng/mL~100ng/mLの濃度で含む。例えば、いくつかの実施形態では、第3の条件セットは、IL-2を1ng/mL~25ng/mL、25ng/mL~50ng/mL、25ng/mL~75ng/mL、または25ng/mL~100ng/mLの濃度で含む。
【0053】
いくつかの実施形態では、IL-2は、10ng/mLの濃度である。
【0054】
いくつかの実施形態では、第3の条件セットは、IL-7を1ng/mL~100ng/mLの濃度で含む培養培地を含む。例えば、いくつかの実施形態では、第3の条件セットは、IL-7を1ng/mL~25ng/mL、25ng/mL~50ng/mL、25ng/mL~75ng/mL、または25ng/mL~100ng/mLの濃度で含む。
【0055】
いくつかの実施形態では、IL-7は、10ng/mLの濃度である。
【0056】
いくつかの実施形態では、培養するステップの各々は、約5%の酸素で行われる。
【0057】
いくつかの実施形態では、培養するステップの各々は、14%超の酸素で行われる。
【0058】
いくつかの実施形態では、培養するステップの各々は、大気中酸素で行われる。
【0059】
いくつかの実施形態では、培養するステップの各々は、5%未満の酸素で行われる。例えば、いくつかの実施形態では、培養するステップは、5%未満の酸素、4%未満の酸素、3%未満の酸素、2%未満の酸素、または1%未満の酸素で行われる。
【0060】
いくつかの実施形態では、第1の条件セットで多能性幹細胞を培養してHPCバルクを得ることは、10日を超えて持続する。
【0061】
いくつかの実施形態では、第1の条件セットで多能性幹細胞を培養してHPCバルクを得ることは、11~15日間持続する。
【0062】
いくつかの実施形態では、第1の条件セットで多能性幹細胞を培養してHPCバルクを得ることは、14日間持続する。
【0063】
いくつかの実施形態では、iPSCは、末梢血単核細胞から得られる。
【0064】
いくつかの実施形態では、産生された細胞集団における少なくとも約50%、55%、60%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、またはそれ以上の細胞は、濃縮のステップを伴わないCD56+/CD3-NK細胞である。
【0065】
いくつかの実施形態では、産生された細胞集団における約25%未満の細胞が、CD3+細胞である。
【0066】
いくつかの実施形態では、産生された細胞集団における細胞のパーセンテージは、フローサイトメトリーによって決定される。
【0067】
いくつかの実施形態では、産生された細胞集団における細胞のパーセンテージは、単一細胞RNA配列決定(scRNAseq)によって決定される。
【0068】
いくつかの実施形態では、方法は、CD56+/CD3-細胞を単離することを更に含む。
【0069】
いくつかの実施形態では、単離することは、蛍光活性化細胞選別(FACS)または磁気選別を含む。
【0070】
いくつかの実施形態では、NK細胞は、1つ以上のキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように遺伝子改変される。
【0071】
いくつかの実施形態では、CARは、CD19 CARである。
【0072】
いくつかの実施形態では、NK細胞は、IL-15Rα/IL-15複合体を発現するように更に遺伝子改変される。
【0073】
いくつかの態様では、人工多能性幹細胞(iPSC)由来NK細胞を産生する方法が提供され、方法は、以下の、
(1)iPSCを、血管内皮成長因子(VEGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、及びアスコルビン酸から選択される少なくとも1つの化合物を含む培地を含む第1の条件セットで培養して、少なくとも20%のCD34+HPC(HPCバルク)を含む集団を得るステップと、
(2)(1)で得られたHPCバルクを、アスコルビン酸、p38阻害剤、及びSDF-1のうちの1つ以上を含む培養培地を含む第2の条件セットで培養して、少なくとも5%のCD4-細胞を含む細胞集団を得るステップと、
(3)(2)からの細胞集団を、CD3活性化因子、IL-2、及びIL-7からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む培養培地を含む第3の条件セットで培養するステップと、を含む。
【0074】
いくつかの態様では、人工多能性幹細胞(iPSC)由来NK細胞を産生する方法が提供され、本方法は、以下の、
(1)造血前駆細胞(HPCバルク)を含むバルク細胞集団を、アスコルビン酸、p38阻害剤、及びSDF-1のうちの1つ以上を含む培養培地を含む第2の条件セットで培養して、少なくとも5%のCD4-細胞を含む細胞集団を得るステップと、
(2)(1)からCD4-細胞を単離するステップと、
(3)単離したCD4-細胞を、CD3活性化因子、IL-2、及びIL-7からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含むNK誘導培地で培養するステップと、を含む。
【0075】
いくつかの実施形態では、ステップ(1)で得られた細胞集団における約15~30%の細胞は、CD4-細胞である。
【0076】
いくつかの実施形態では、ステップ(1)で得られた細胞集団における約20%の細胞は、CD4-細胞である。
【0077】
いくつかの実施形態では、CD4-細胞を含む細胞集団は、CD4-/CD8-細胞及びCD4-/CD8+細胞を含む。
【0078】
いくつかの態様では、本明細書に開示される方法を使用して産生されたNK細胞集団が提供される。
【0079】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される方法を使用して産生されたNK細胞集団は、凍結保存媒体中に凍結保存される。
【0080】
いくつかの態様では、多能性幹細胞由来CD56+/CD3-細胞を含む未選別細胞集団が提供され、本明細書に記載の方法に従って得られた全多能性幹細胞由来CD56+細胞の少なくとも60%の比率で存在する。
【0081】
いくつかの実施形態では、未選別細胞集団における25%未満の細胞が、CD3+細胞である。
【0082】
いくらかの実施形態では、未選別細胞集団における5%未満の細胞が、単球である。
【0083】
いくつかの実施形態では、未選別細胞集団における5%未満の細胞が、B細胞である。
【0084】
いくつかの実施形態では、未選別細胞集団における細胞のパーセンテージは、フローサイトメトリーによって決定される。
【0085】
いくつかの実施形態では、細胞のパーセンテージは、単一細胞RNA配列決定(scRNAseq)によって決定される。
【0086】
いくつかの態様では、細胞療法を必要とする対象を治療する方法が提供され、方法は、対象に先行請求項のいずれか1項に記載のNK細胞を投与することを含む。
【0087】
いくつかの実施形態では、対象は、がんを有する。
【0088】
いくつかの実施形態では、がんは、白血病またはリンパ腫である。
【0089】
いくつかの態様では、CD34+造血前駆細胞(HPC)を含む細胞集団を産生する方法が提供され、方法は、多能性幹細胞の集団を、血管内皮成長因子(VEGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、及びアスコルビン酸から選択される少なくとも1つの化合物を含む培地を含む第1の条件セットで培養して、CD34+HPC(HPCバルク)を含む集団を得ることを含む。
【0090】
いくつかの態様では、本明細書に記載される方法によって産生されたHPCを含む細胞集団が提供される。
【0091】
いくつかの実施形態では、細胞集団は、少なくとも20%のCD34+細胞を含む。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【
図1】本明細書に記載の方法を使用して得られたNK細胞バルク集団のフローサイトメトリー分析の結果を示す一連のフローサイトメトリープロットである。簡潔に述べると、iPS細胞は、中間の単離ステップなく、本明細書に記載の通り培養された。フローサイトメトリーグラフは、CD56
highであるCD3陰性細胞の集団(NK細胞バルク集団のおよそ63.5%)及びCD56
dimであるCD3陰性細胞の集団(NK細胞バルク集団のおよそ26.7%)の存在を示している。これらの集団は両方とも、NK細胞である。したがって、得られたCD56陽性、CD3陰性のNK細胞集団の合計は、細胞集団全体の90%を超えている。
【
図2】本明細書に記載の方法を使用して得られたNK細胞バルク集団のscRNA分析の結果を示す。簡潔に述べると、iPSCは、中間の単離ステップなく、本明細書に記載の通り培養された。細胞は、単球、B細胞、NK細胞、及びT細胞の4つの細胞集団に分類した。NK細胞バルク集団中の細胞のおよそ75%が、NK細胞として同定され(CD56+/CD3-細胞)、バルク細胞集団中の細胞の約25%が、T細胞として同定された。本明細書に記載のT細胞は、NKT細胞(CD56+/CD3+細胞)を含み得る。
【
図3】ルシフェラーゼ発現性Nalm6細胞を投与され、続いてiNK-CAR19細胞が投与されたNSG(NOD/Shi-scid、IL-2Rガンマヌル)マウスにおける抗腫瘍活性アッセイの結果を示す一連の写真を示す。Nalm6細胞移植NSGマウスを(a)PBS緩衝液(b)iNK-CAR細胞で処理し、これらの処理の抗腫瘍有効性を観察した。データは、iNK-CAR細胞がNalm6細胞の増殖を減少させたことを示す。
【0093】
定義
投与すること:本明細書で使用される場合、「投与する」、「投与すること」、「投与」、「導入すること」、または「導入」という用語は、治療細胞、例えば、iPSCまたはHPC由来NK細胞(例えば、CD56+/CD3-細胞)を、かかる細胞の送達をもたらす方法または経路によって、対象に送達する文脈において互換的に使用される。例えば、静脈内、局所、経口、筋肉内、腹腔内、髄腔内、皮下または経皮など、細胞を投与するための様々な方法が当技術分野で知られている。細胞は、担体とともに、または伴わずに投与することができる。
【0094】
養子細胞療法:本明細書で互換的に使用される場合、「養子細胞療法」または「養子細胞移植」または「細胞療法」または「ACT」という用語は、細胞、例えば、本明細書に記載の方法を使用して生成され、それを必要とする対象または患者に投与されるCD56+/CD3-細胞の集団を移植することを指す。いくつかの実施形態では、細胞は、本明細書に記載の方法を使用して作製され、加えてCARを発現するCD56+/CD3-免疫細胞である。
【0095】
動物:本明細書で使用される場合、「動物」という用語は、動物界の任意のメンバーを指す。いくつかの実施形態では、「動物」は、発達の任意の段階にあるヒトを指す。いくつかの実施形態では、「動物」は、発達の任意の段階にある非ヒト動物を指す。ある特定の実施形態では、非ヒト動物は、哺乳動物(例えば、げっ歯類、マウス、ラット、ウサギ、サル、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、霊長類、及び/またはブタ)である。いくつかの実施形態では、動物には、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚、昆虫、及び/またはワームが含まれるがこれらに限定されない。いくつかの実施形態では、動物は、トランスジェニック動物、遺伝子操作動物及び/またはクローンであり得る。
【0096】
抗原特異的標的化ドメイン:「抗原特異的標的化ドメイン」は、目的の標的抗原に結合する能力をCARに提供する。いくつかの実施形態では、抗原特異的標的化ドメインは、腫瘍死滅をもたらすエフェクター免疫応答を誘発することが望ましいであろう、臨床的に関心のある抗原を標的とする。抗原特異的標的化ドメインは、生体分子(例えば、細胞表面受容体もしくは腫瘍タンパク質、またはそれらの成分)を特異的に認識して結合する能力を有する任意のタンパク質またはペプチドであり得る。抗原特異的標的化ドメインには、目的の生体分子に対する、任意の天然に存在するか、合成か、半合成か、または組換えで産生された結合パートナーが含まれる。
【0097】
例示的な抗原特異的標的化ドメインとしては、例えば、抗体もしくは抗体断片もしくは誘導体、受容体の細胞外ドメイン、細胞表面分子/受容体のリガンド、またはその受容体結合ドメイン、及び腫瘍結合タンパク質が挙げられる。
【0098】
いくつかの実施形態では、抗原特異的標的化ドメインは、抗体であるか、または抗体に由来する。抗体由来標的化ドメインは、抗体の断片、または抗体の1つ以上の断片の遺伝子操作産物であり得、この断片は、抗原との結合に関与している。例としては、可変領域(Fv)、相補性決定領域(CDR)、Fab、一本鎖抗体(scFv)、重鎖可変領域(VH)、軽鎖可変領域(VL)、及びラクダ科抗体(VHH)が挙げられる。
【0099】
いくつかの実施形態では、結合ドメインは、一本鎖抗体(scFv)である。scFvは、マウス、ヒト、またはヒト化scFvであり得る。
【0100】
同種異系:本明細書で使用される「同種異系」は、材料が導入される個体と同じ種の異なる動物に由来する任意の材料を指す。2つ以上の個体は、1つ以上の遺伝子座における遺伝子が同一でない場合、互いに同種異系であると言われる。いくつかの態様では、同じ種の個体からの同種異系材料は、抗原的に相互作用するように遺伝的に十分に異なり得る。
【0101】
およそまたは約:本明細書で使用される場合、1つ以上の目的の値に適用されるとき、「およそ」または「約」という用語は、明言された言及値と同様な値を指す。ある特定の実施形態では、「およそ」または「約」という用語は、別途記載のない限り、さもなければ文脈から明白な場合を除いて、明言された言及値をいずれかの向き(上回るかまたは下回る)で25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、またはそれ未満に含まれる値の範囲を指す(この数値が可能な値の100%を超える場合を除く)。「約」または「およそ」という用語が、明言された言及値を修飾するために使用される場合、明言された言及値自体は、明言された言及値のいずれかの側で明言された言及値に近い値とともに網羅されることが理解される。
【0102】
アスコルビン酸またはビタミンC:本明細書で使用される場合、「アスコルビン酸」または「ビタミンC」は、L-アスコルビン酸及びその誘導体を意味し、「L-アスコルビン酸誘導体」は、生体内で酵素反応によってビタミンCになる誘導体を意味する。L-アスコルビン酸の誘導体の例としては、ビタミンCホスフェート、アスコルビン酸グルコシド、アスコルビルエチル、ビタミンCエステル、アスコルビルテトラヘキシルデカノエート、アスコルビルステアレート、及びアスコルビル2-ホスフェート6-パルミテートが挙げられる。ビタミンCホスフェートの例としては、L-アスコルビン酸ホスフェートの塩、例えば、L-アスコルビン酸ホスフェートNa及びL-アスコルビン酸ホスフェートMgなどが挙げられる。一実施形態では、ビタミンCは、アスコルビン酸2-ホスフェートであることができる。
【0103】
バルク細胞集団:「バルク細胞集団」、「バルク細胞」などという用語は、細胞の異種集団を指す。いくつかの実施形態では、バルク細胞集団は、造血細胞を含む。いくつかの実施形態では、バルク細胞集団は、多能性細胞(例えば、人工多能性幹細胞(iPSC))から得られ得る。いくつかの実施形態では、バルク細胞集団は、ドナー組織、例えば、血液などから得られる。
【0104】
CD4-誘導培地または第2の条件セット:CD4-誘導培地という用語は、「第2の条件セット」と互換的に使用される。本明細書で使用されるこれらの用語は、CD4-細胞を含む細胞集団を得るために使用される細胞培養培地を指す。いくつかの実施形態では、この培地は、HP細胞バルクを、CD4-細胞を含む細胞集団に分化させるために使用される。いくつかの実施形態では、CD4-誘導培地は、アスコルビン酸、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、Flt3L、IL-7、SB203580などのp38阻害剤、及びSDF-1αなどのSDF1のうちの1つ以上、または全てを含む。
【0105】
キメラ抗原受容体(CAR):本明細書で使用される場合、「キメラ抗原受容体」または「CAR」という用語は、細胞(例えば、NK細胞などの免疫細胞、ナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、またはそれらの組み合わせなどのT細胞)に抗原特異性を付与することができる、操作された受容体である。CARは、人工T細胞受容体、キメラT細胞受容体、またはキメラ免疫受容体としても知られている。いくつかの実施形態では、本発明のCARは、抗原特異的標的化ドメイン、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、任意選択的に1つ以上の共刺激ドメイン、及び細胞内シグナル伝達ドメインを含む。本明細書に記載のいくつかの実施形態では、CARは、所望の細胞表面抗原またはMHC-ペプチド複合体に対する特異性を再指示するように、本明細書に記載の方法を使用して作製されたNK細胞(例えば、CD56+/CD3-細胞)に導入される。これらの合成受容体は、通常、単一の融合分子内の柔軟なリンカーを介して1つ以上のシグナル伝達ドメインに関連する標的結合ドメインを含む。標的結合ドメインは、NK細胞を病理学的細胞(例えば、がん細胞)の表面上の特定の標的に向けるために使用され、シグナル伝達ドメインは、NK細胞の活性化及び増殖のための分子機構を含む。通常、NK細胞膜を通過する(すなわち、膜貫通ドメインを形成する)可撓性リンカーは、CARの標的結合ドメインの細胞膜ディスプレイを可能にする。CARは、リンパ腫及び固形腫瘍を含む、様々な悪性腫瘍からの腫瘍細胞の表面に発現された抗原に対して免疫細胞を首尾よく再指向させることを可能にしている(Gross et al.,(1989)Transplant Proc.,21(1 Pt 1):127-30、Jena et al.,(2010)Blood,116(7):1035-44)。CARの細胞外結合ドメインは、マウスまたはヒト化モノクローナル抗体の可変重鎖領域と軽鎖領域との融合に由来する一本鎖可変断片(scFv)で構成されていてもよい。いくつかの実施形態では、細胞外結合ドメインは、単一ドメイン抗体を含む。あるいは、(例えば、Fabライブラリから得られた抗体由来ではなく)Fabに由来するscFvを使用してもよい。様々な実施形態では、このscFvは、膜貫通ドメインに融合され、次に細胞内シグナル伝達ドメインに融合される。少なくとも3世代のCARが開発されている。第1世代のCARは、CD3ゼータの細胞質領域またはFc受容体ガンマ鎖に由来するシグナル伝達ドメインに付着した標的結合ドメインで構成させた。第1世代のCARは、免疫細胞を選択された標的に首尾よく再指向することが示されたが、インビボでの長期拡張及び抗腫瘍活性を提供することはできなかった。第2世代及び第3世代のCARでは、CD28、OX-40(CD134)、及び4-1BB(CD137)などの共刺激分子を含めることにより、改変細胞の生存率を高め、増殖を増加させることに重点を置いている。
【0106】
培養:「培養」または「細胞培養」または「培養すること」という用語は、インビトロ環境における細胞の維持、成長、及び/または分化を指す。本明細書に記載の様々な方法において、細胞は、ある種の細胞の異なる種の細胞への成長または分化を容易にするかまたは促進する特定の細胞培養培地(複数可)で培養される。例えば、本明細書に記載のある特定の実施形態では、細胞培養培地中でiPSCを培養することは、細胞集団全体の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、または80%の細胞が、CD34+細胞(すなわち、HPC)になることをもたらす。本明細書に記載のいくつかの実施形態では、少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、または80%のHPCを含む細胞集団を培養することは、CD4-細胞を含む細胞集団をもたらす。更に他の実施形態では、CD4-細胞を含む細胞の細胞集団を培養することは、濃縮したCD56+/CD3-細胞集団をもたらす(すなわち、全細胞集団における少なくとも50%の細胞がCD56+/CD3-である)。細胞培養培地は、栄養素、ホルモン、及び/または細胞の増殖及び/または維持に役立つ他の因子の供給源として作用する。
【0107】
分化すること:「分化すること」、「誘導すること」、「変換すること」、「由来すること」などという用語は、ある表現型の細胞が別の表現型の細胞に変化するプロセスを指す。
【0108】
操作された:本明細書で使用されるとき、「操作された」という用語は、設計もしくは改変されており、及び/または存在及び産生が介入及び/または活性を必要とする、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、または細胞を説明する。例えば、操作された細胞は、特定の効果を引き出すように意図的に設計されており、かつ同じ種の天然に存在する細胞の効果とは異なる。いくつかの実施形態では、操作された細胞は、本明細書に記載の方法を使用するiPSCまたはHPC由来のCD56+/CD3-細胞であり、キメラ抗原受容体を更に発現する。
【0109】
濃縮:特定の細胞種に関して本明細書で使用される「濃縮」という用語は、フローサイトメトリーまたは他の分析方法によって決定されたとき、細胞集団内に少なくとも20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、または90%の特定の細胞種を有する細胞集団を意味する。
【0110】
エクスビボ:本明細書で使用される場合、「エクスビボ」という用語は、細胞が生きた生物から取り出され、生物の外部で増殖されるプロセスを意味する(例えば、試験管内、培養バッグ内、バイオリアクター内)。
【0111】
機能的同等物または誘導体:本明細書で使用される場合、「機能的同等物」または「機能的誘導体」という用語は、アミノ酸配列の機能的誘導体の文脈において、元の配列と実質的に類似している生物学的活性(機能または構造のいずれか)を保持している分子を意味する。機能的誘導体または同等物は、天然の誘導体であり得るか、または合成的に調製される。例示的な機能的誘導体としては、タンパク質の生物学的活性が保存されているという条件で、1つ以上のアミノ酸の置換、欠失、または付加を有するアミノ酸配列が挙げられる。置換するアミノ酸は、置換されるアミノ酸と類似の化学的物理的特性を有することが望ましい。望ましい類似の化学的物理的特性としては、電荷の類似性、かさ高さ、疎水性、親水性などが挙げられる。
【0112】
造血前駆細胞:「造血前駆細胞(複数可)」または「HPC(複数可)」という用語は、造血系統に関与しているが、更なる造血分化が可能であり、造血幹細胞、多分化能造血幹細胞、骨髄球性共通前駆細胞、巨核球前駆細胞、赤血球前駆細胞、及びリンパ系前駆細胞を含むCD34+細胞を指す。
【0113】
HPCバルク:「HPCバルク」、「造血前駆細胞バルク」、または「HP細胞バルク」という用語は、造血前駆細胞を含む異種細胞集団を意味する。いくつかの実施形態では、HPCバルクは、iPSCに由来する。いくつかの実施形態では、HPCバルクは、血液に由来する。
【0114】
HPC由来NK細胞:「HPC由来NK細胞」という用語は、細胞培養培地中で培養した後にHPCバルク集団から得られるCD56+/CD3-細胞(例えば、NKまたはNK様細胞)を意味する。
【0115】
HPC誘導培地及び第1の条件セット:本明細書で使用されるHPC誘導培地または「第1の条件セット」という用語は、出発細胞集団から造血細胞を含む細胞集団を生成するために使用される培養培地を指す。いくつかの実施形態では、出発細胞集団は、iPSCを含む。いくつかの実施形態では、HPC誘導培地は、BMP4、VEGF、bFGF、アスコルビン酸、TGFβ阻害剤、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、及びFlt3Lのうちの1つ以上を含む。
【0116】
免疫細胞:本明細書で使用される場合、「免疫細胞(複数可)」という用語は、T細胞、NK細胞、T/NK細胞、樹状細胞、マクロファージ、B細胞、好中球、赤血球、単球、好塩基球、好中球、肥満細胞、好酸球、及びそれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されない、免疫系の細胞を指す。様々な実施形態では、本明細書に記載の方法を使用して産生される免疫細胞は、NK細胞であり、CD56+/CD3-細胞を特徴とする。
【0117】
人工多能性幹細胞(iPSC):本明細書で使用される場合、「人工多能性幹細胞」または「iPSC」という用語は、例えば、1つ以上の遺伝子(限定されないが、SOX2(遺伝子ID:6657)、KLF4(遺伝子ID:9314)、cMYC(遺伝子ID:4609)、NANOG(遺伝子ID:79923)、LIN28/LIN28A(遺伝子ID:79727)と組み合わせた(POU4F1/OCT4(遺伝子ID:5460)を含む)の発現を誘導することによって、非多能性細胞、典型的には成体細胞から人工的に引き出された(例えば、誘導された)多能性幹細胞を指す。幹細胞は、マーカーまたは遺伝子が培養の任意の段階まで保持されるように、マーカーまたは遺伝子を用いて任意の段階で遺伝子改変させ得る。マーカーは、培養の任意の段階で、分化したまたは未分化の幹細胞集団を精製または濃縮するために使用され得る。
【0118】
誘導培地:「誘導培地」という用語は、一般に、細胞集団を第1の細胞表現型から第2の細胞表現型に分化させるために使用される細胞培養培地を指す。いくつかの実施形態では、第1の細胞表現型及び第2の細胞表現型は、異種細胞集団を含む。いくつかの実施形態では、第1の細胞表現型は、異種細胞集団を含む。いくつかの実施形態では、第2の細胞表現型は、異種細胞集団を含む。いくつかの実施形態では、誘導培地は、異種細胞集団を実質的に同種である細胞の集団に分化させるために使用される。
【0119】
インビトロ:本明細書で使用される場合、「インビトロ」という用語は、多細胞生物の内部ではなく人工環境、例えば、試験管内または反応容器内、細胞培養内などで生じる事象を指す。
【0120】
インビボ:本明細書で使用される場合、「インビボ」という用語は、ヒト及び非ヒト動物などの多細胞生物内で生じる事象を指す。細胞ベース系の文脈では、用語は、(例えば、インビトロ系とは対照的に)生細胞内で生じる事象を指すために使用され得る。
【0121】
単離ステップ:本明細書で使用される「単離すること」、「単離するステップ」、「単離」、「単離ステップ」、または「細胞単離ステップ」という用語は、細胞の混合物から特定の細胞種を分離することを意味する。いくつかの実施形態では、細胞種は、特定の細胞種の細胞表面で存在、または非存在のいずれかである1つ以上のマーカーによって定義することができる。細胞の混合物から特定の細胞種を分離する様々な方法が当技術分野で知られており、例えば、蛍光活性化細胞選別(FACS)及び磁気活性化細胞選別(MACS)などの磁気ビーズベースの選別戦略が挙げられる。
【0122】
ナチュラルキラー(NK)細胞:本明細書で使用される場合、「ナチュラルキラー細胞」またはNK細胞は、そのマーカー発現及び機能/活性によって定義されるリンパ系細胞である。例えば、ヒトでは、NK細胞は、CD56を発現する(CD56+)。更なる実施形態では、かかるNK細胞は、CD56及びCD16を発現し得る(CD56+/CD16+)。別の例では、かかるNK細胞は、CD56を発現し得るが、CD3を発現しない(CD56+/CD3-)。NK細胞は、様々なレベルのCD56を発現し得る。例えば、NK細胞は、「CD56high」であり得、これは、当技術分野の方法によって評価されたときに、例えばフローサイトメトリーによって評価されたときに、NK細胞が高レベルのCD56を発現することを意味する。別の例として、NK細胞は「CD56dim」であり得、これは、当技術分野の方法によって評価されたときに、例えばフローサイトメトリーによって評価されたときに、NK細胞が低いが検出可能なレベルのCD56を発現することを意味する。
【0123】
NK誘導培地または第3の条件セット:いくつかの実施形態では、「NK誘導培地」または「第3の条件セット」という用語は、CD56+/CD3-細胞を含む細胞の集団を生成するために使用される細胞培養培地を指す。いくつかの実施形態では、NK細胞誘導培地は、IL-7、IL-2、及びCD3活性化因子(例えば、抗CD3抗体)のうちの1つ以上を含む。
【0124】
iPS NK細胞:本明細書で使用される場合、「iPS NK細胞」は、iPSC由来NK細胞、例えば、出発物質としてのiPSCに由来するNK細胞である。かかるiPS NK細胞は、CD56(CD56+)を発現する。更なる実施形態では、かかるiPS NK細胞は、CD56及びCD16を発現し得る(CD56+/CD16+)。別の例では、かかるiPS NK細胞は、CD56を発現し得、CD3を発現し得ない(CD56+/CD3-)。iPS NK細胞は、本明細書では「iNK細胞」とも称される。
【0125】
T細胞:本明細書で使用される場合、「T細胞」は、そのマーカー発現及び機能/活性によって定義されるリンパ系細胞である。例えば、ヒトでは、T細胞は、CD3を発現する。CD56+/CD3+細胞は、NKT細胞として知られている。
【0126】
「単鎖Fv抗体」または「scFv」は、直接的に、またはペプチドリンカー配列を介して、互いに接続されている軽鎖可変領域及び重鎖可変領域を含む操作された抗体を指す。
【0127】
対象:本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、ヒトまたは任意の非ヒト動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、または霊長類)を指す。ヒトには、出生前及び出生後の形態が含まれる。多くの実施形態では、対象は、ヒトである。対象は、患者であり得、患者は、疾患の診断または治療のために医療提供者を訪れるヒトを指す。「対象」という用語は、本明細書で「個体」または「患者」と互換的に使用される。対象は、疾患もしくは障害に罹患しているか、またはそれに対して感受性であるが、疾患もしくは障害の症状を示し得るか、または示し得ない。
【0128】
罹患している:疾患、障害、及び/または状態に「罹患している」個体は、疾患、障害、及び/または状態の1つ以上の症状を有すると診断されているか、またはそれらを示す。疾患は、がん、例えばリンパ腫及び白血病を含み得る。
【0129】
治療有効量:本明細書で使用される場合、治療剤(例えば、細胞療法)の「治療有効量」という用語は、疾患、障害、及び/または状態に罹患しているかまたはそれらに感受性である対象へ投与するときに、疾患、障害、及び/または状態の症状(複数可)の発現を治療、診断、予防、及び/または遅延させるために十分な量(例えば、特定の細胞(複数可)の種(複数可)の特定のパーセンテージで濃縮された特定の数の細胞または細胞集団)を意味する。治療有効量は典型的に、少なくとも1単位用量を含む投与計画によって投与されるものであることが当業者によって認識されるであろう。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のCD56+/CD3-細胞は、1つ以上の導入遺伝子を発現するように改変される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のCD56+/CD3-細胞は、例えばCD19などのキメラ抗原受容体を発現するように改変される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の約1億~9億個のCD56+/CD3-細胞が、それを必要とする対象に投与される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の約1億~7億個のCD56+/CD3-細胞が、それを必要とする対象に投与される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の約1億~5億個のCD56+/CD3-細胞が、それを必要とする対象に投与される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の約2億~9億個のCD56+/CD3-細胞が、それを必要とする対象に投与される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の約2億~7億個のCD56+/CD3-細胞が、それを必要とする対象に投与される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の約2億~5億個のCD56+/CD3-細胞が、それを必要とする対象に投与される。
【0130】
治療すること:本明細書で使用される場合、「治療する」、「治療」、または「治療すること」という用語は、特定の疾患、障害、及び/または状態の1つ以上の症状もしくは特徴を部分的にまたは完全に軽減、改善、緩和、阻害、予防、それらの発症を遅延、それらの重症度を軽減、及び/またはそれらの発生率を低減するために使用される任意の方法を指す。治療は、疾患に関連する病状の発症リスクを低下させる目的で、疾患の兆候を示さない及び/または疾患の初期兆候のみを示す対象へも施され得る。
【0131】
本明細書での端点による数値範囲の列挙には、その範囲内に含まれる全ての数値及び分数が含まれる(例えば、1~5には、1、1.5、2、2.75、3、3.9、4、及び5が含まれる)。全ての数字及びその分数は、「約」という用語によって修飾されると推定されることも理解されるべきである。
【0132】
本発明の様々な態様は、以下のセクションにおいて詳細に記載される。セクションの使用は、本発明を限定することは意味しない。各セクションは、本発明の任意の態様に適用できる。本出願において、「または」の使用は、別途記載のない限り、「及び/または」を意味する。本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が別途明確に示さない限り、単数及び複数の両方の指示対象を含む。
【0133】
本発明の様々な態様は、以下のセクションにおいて詳細に記載される。セクションの使用は、本発明を限定することは意味しない。各セクションは、本発明の任意の態様に適用できる。本出願において、「または」の使用は、別途記載のない限り、「及び/または」を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0134】
本開示は、iPS細胞などの多能性細胞または造血前駆細胞(HPC)バルクからNK細胞で濃縮した細胞集団を産生する方法を提供する。iPSCから産生されたNK細胞は、本明細書では、iPS由来NK細胞、iPS NK細胞、またはiNK細胞と称される。本開示は、単離ステップを必要とせずに、iPSCなどの多能性細胞またはHPCなどの前駆細胞をNK細胞またはiPS NK細胞に高効率で分化させることができる細胞培養方法を提供する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法は、単離ステップを含む。単離ステップにおいて、CD4-(例えば、CD4-/CD8+及び/またはCD4-/CD8-を含むなど、CD4+細胞以外の細胞集団)である細胞は単離され得、その後、NK細胞に分化される。本開示はまた、本明細書に記載の方法を使用して得られたiPS NK細胞が機能的であり、例えば、がんなどの様々な疾患または障害の治療に有用なキメラ抗原受容体(CAR)の導入を通じて、更に遺伝子改変することができることを実証する。
【0135】
CD56+/CD3-細胞(NK細胞)の様々な産生方法については、以下に更に詳述する。
【0136】
NKまたはiPSC由来NK細胞を産生する方法
培養方法の概説
いくつかの実施形態では、NK細胞で濃縮した細胞集団を産生する方法が提供され、方法は、(A)少なくとも20%のCD34+HPC(HPCバルク)を含む細胞集団をもたらす第1の条件セット下で多能性幹細胞の集団を培養するステップと、(B)第1の条件セットを第2の条件セットに変更し、それによって少なくとも5%のCD4-細胞を含む細胞集団をもたらすステップと、(C)第2の条件セットを第3の条件セットに変更し、それによってNK細胞で濃縮した細胞集団をもたらすステップと、を含む。
【0137】
いくつかの実施形態では、方法は、単離ステップを伴わずに行われる。このシナリオでは、ステップ(B)の後にCD4-細胞の単離はない。例えば、いくつかの実施形態では、NK細胞で濃縮された細胞集団を産生する方法が提供され、方法は、(A)少なくとも20%のCD34+HPC(HPCバルク)を含む細胞集団をもたらす第1の条件セット下で多能性幹細胞の集団を培養するステップと、(B)第1の条件セットを第2の条件セットに変更し、それによって少なくとも5%のCD4-細胞を含む細胞集団をもたらすステップと、(C)第2の条件セットを第3の条件セットに変更し、それによってNK細胞で濃縮された細胞集団をもたらすステップと、を含み、方法は、単離ステップを伴わずに行われる。
【0138】
CD4-細胞を含む細胞集団はまた、CD4+細胞を含み得ることに留意されたい。例えば、いくつかの実施形態では、少なくとも5%のCD4-細胞を含む細胞集団はまた、少なくとも5%のCD4+細胞を含む。
【0139】
本明細書に記載の方法は、単離ステップを伴うかまたは伴わないいずれかで、NK細胞の濃縮した集団をもたらす。いくつかの実施形態では、濃縮した細胞の集団は、少なくとも30%のNK細胞、少なくとも40%のNK細胞、または少なくとも50%のNK細胞を含む。いくつかの実施形態では、NK細胞は、CD56+/CD3-である。
【0140】
いくつかの実施形態では、ステップ(B)からもたらされる細胞集団は、CD4-細胞の集団を含む。例えば、いくつかの実施形態では、ステップ(B)からもたらされる細胞集団は、少なくとも10%、15%、または20%のCD4-細胞を含む。いくつかの実施形態では、ステップ(B)からもたらされる集団は、CD8+細胞を含む。いくつかの実施形態では、CD4-細胞は、CD8+である。ステップ(B)からもたらされる細胞集団は、約20~55%のCD4-/CD8+である。
【0141】
いくつかの実施形態では、CD4-細胞は、CD8-である。いくつかの実施形態では、ステップ(B)からもたらされる細胞集団は、約20~55%のCD4-/CD8-細胞である。
【0142】
いくつかの実施形態では、方法における多能性幹細胞は、人工多能性幹細胞(iPSC)または胚性幹細胞(ESC)から得られる。
【0143】
HPCバルクを得る第1の条件セットは、骨形成タンパク質-4(BMP4)、血管内皮成長因子(VEGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、アスコルビン酸、Flt3リガンド(Flt3L)、トロンボポエチン(TPO)、及びTGFβ阻害剤から選択される少なくとも1つの化合物を含む培養培地を含む。
【0144】
CD4-細胞を含む集団を得る第2の条件セットは、アスコルビン酸、幹細胞因子(SCF)、IL-7、Flt3L、トロンボポエチン(TPO)、p38阻害剤、及びSDF-1からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む培養培地を含む。
【0145】
ステップ(B)に続いて、方法は、細胞単離ステップを伴うか、または細胞単離ステップを伴わない、いずれかで進め得る。したがって、いくつかの実施形態では、方法は、1つ以上の細胞単離ステップを含む。例えば、いくつかの実施形態では、CD4-細胞を含む集団は、ステップ(B)の後に単離される。続いて、ステップ(B)から単離されたCD4-細胞を第3の条件セットに配置して、NK細胞で濃縮した細胞集団を産生する。
【0146】
NK細胞を産生する方法の期間中に、方法のステップの各々に存在する細胞表現型を決定することができる。細胞分化プロセスは、当該技術分野で既知の様々な手段によって評価することができる。例えば、いくつかの実施形態では、培養した細胞の細胞分化は、培養した細胞の試料を得、その培養した細胞の試料を1つ以上の分析方法に供して、細胞の細胞表現型を確認することによって評価することができる。細胞表現型を確認する既知の方法として、例えば、フローサイトメトリー及び免疫蛍光イメージングが挙げられる。任意の好適なサンプリング及び表現型アッセイを、本明細書に記載の細胞培養方法とともに使用して、細胞分化プロセスの進行を確認することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法は、細胞表現型を所与の時期に決定するための1つ以上のサンプリングステップを含む。
【0147】
iPSCからHPCバルクへの概要
いくつかの実施形態では、iPSCなどの多能性細胞は、第1の条件セットで培養され、HPCバルクを含む集団を産生する。いくつかの実施形態では、HPCバルクを得るために、第1の条件セットでiPSCを培養することは、HPC誘導培地中でiPSCを培養することを含む。第1の条件セットは、HP細胞バルクの産生を可能にする様々な成分を含むことができる。いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、骨形成タンパク質-4(BMP4)、血管内皮成長因子(VEGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、アスコルビン酸、ROCK阻害剤、GSK3阻害剤、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、Flt3L、及びTGFβ阻害剤から選択される少なくとも1つ以上の化合物を含む。したがって、いくつかの実施形態では、iPSCからHPCを誘導する第1の条件セットは、BMP4を含む。いくつかの実施形態では、iPSCからHPCを誘導する第1の条件セットは、VEGFを含む。いくつかの実施形態では、iPSCからHPCを誘導する第1の条件セットは、bFGFを含む。いくつかの実施形態では、iPSCからHPCを誘導する第1の条件セットは、TGFβを含む。
【0148】
iPSCは、第1の条件セットで、HPCバルクを生成するのに十分な期間培養される。いくつかの実施形態では、iPSCは、第1の条件セットで、約7~21日、または10~18日、または大体14日の期間培養される。いくつかの実施形態では、iPSCは、第1の条件セットで、約13日の期間培養される。
【0149】
いくつかの実施形態では、細胞は、例えば、約3%、4%、5%、または6%O2などの低酸素条件で培養される。したがって、いくつかの実施形態では、細胞は、約3%O2で培養される。いくつかの実施形態では、細胞は、約4%O2で培養される。いくつかの実施形態では、細胞は、約5%O2で培養される。いくつかの実施形態では、細胞は、約6%O2で培養される。
【0150】
HPCバルクからCD4-細胞集団を得る概要
いくつかの実施形態では、HPCバルク、またはそれ以外で得られたHPC、例えば、ヒトドナーから単離された一次HPC、または胚性幹細胞由来などの他の幹細胞源/種から分化したHPCを、培地中でいかなる介在する単離ステップを伴わずに更に培養して、CD4-細胞を含む細胞の集団(CD4-細胞集団)を得る。ステップ(B)の後に本方法によって得られた細胞集団は、例えば、CD4-/CD8-細胞、及びCD4-/CD8+細胞を含む、CD4-細胞を含むことを理解されたい。ステップ(B)の後に得られた集団はまた、CD4+/CD8-細胞、及びCD4+/CD8+細胞を含むCD4+細胞を含み得る。細胞集団には、例えば、リンパ球が含まれる。いくつかの実施形態では、HPCバルクは、アスコルビン酸、幹細胞因子(SCF)、IL-7、Flt3L、TPO、フィブロネクチンまたはそのバリアント、ノッチリガンド(例えば、Jag-1、Jag-2、DLL-1、DLL-3、DLL-4)、p38阻害剤、及びSDF-1からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を有する培地を含む第2の条件セットで培養し、CD4-細胞を含む集団を得る。したがって、いくつかの実施形態では、HPCバルクは、アスコルビン酸を含む第2の条件セットで培養され、CD4-細胞を含む集団を得る。いくつかの実施形態では、HPCバルクは、SCFを含む第2の条件セットで培養し、CD4-細胞を含む集団を得る。いくつかの実施形態では、HPCバルクは、IL-7を含む第2の条件セットで培養し、CD4-細胞を含む集団を得る。いくつかの実施形態では、HPCバルクは、Flt3Lを含む第2の条件セットで培養し、CD4-細胞を含む集団を得る。いくつかの実施形態では、HPCバルクは、p38阻害剤を含む第2の条件セットで培養し、CD4-細胞を含む集団を得る。いくつかの実施形態では、HPCバルクは、SDF-1を含む第2の条件セットで培養し、CD4-細胞を含む集団を得る。
【0151】
培養期間は、CD4-細胞を含む細胞集団を得るのに好適な期間である。いくつかの実施形態では、CD4-細胞を含む細胞の集団を得るためのHPCバルクの培養は、約2~6週間、3~5週間、または大体3週間である。したがって、いくつかの実施形態では、細胞培養期間は、約2~6週間である。いくつかの実施形態では、細胞培養期間は、約3~5週間である。いくつかの実施形態では、細胞培養期間は、約3週間である。
【0152】
いくつかの実施形態では、もたらされる細胞集団におけるCD4-細胞のパーセンテージが少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または90%超であるとき、第2の条件セットは第3の条件セットに変更される。
【0153】
いくつかの実施形態では、もたらされる細胞集団におけるCD4+細胞のパーセンテージが少なくとも約1%、5%、10%、15%、20%、または20%超であるとき、第2の条件セットは第3の条件セットに変更される。
【0154】
いくつかの実施形態では、もたらされる細胞集団におけるCD4-/CD8+細胞のパーセンテージが少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、または55%超であるとき、第2の条件セットは第3の条件セットに変更される。
【0155】
いくつかの実施形態では、もたらされる細胞集団におけるCD4-/CD8-細胞のパーセンテージが少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、または55%超であるとき、第2の条件セットは第3の条件セットに変更される。
【0156】
いくつかの実施形態では、もたらされる細胞集団におけるCD4+/CD8-細胞のパーセンテージが少なくとも約1%、3%、5%、10%、15%、または15%超であるとき、第2の条件セットは第3の条件セットに変更される。
【0157】
いくつかの実施形態では、もたらされる細胞集団におけるCD4+/CD8+細胞のパーセンテージが少なくとも約1%、3%、5%、10%、または10%超であるとき、第2の条件セットは第3の条件セットに変更される。
【0158】
CD4-細胞、CD4+細胞、CD4-/CD8+細胞、CD4-/CD8-細胞、CD4+/CD8-細胞、及びCD4+/CD8+細胞のパーセンテージは、フローサイトメトリーなどの当該技術分野における既知の方法によって、ステップ(B)中または後に当業者によって容易に決定することができる。
【0159】
いくつかの実施形態では、細胞は、例えば、約3%、4%、5%、または6%O2などの低酸素条件で培養される。したがって、いくつかの実施形態では、細胞は、例えば、約3%O2などの低酸素条件で培養される。いくつかの実施形態では、細胞は、例えば、約4%O2などの低酸素条件で培養される。いくつかの実施形態では、細胞は、例えば、約5%O2などの低酸素条件で培養される。いくつかの実施形態では、細胞は、例えば、約6%O2などの低酸素条件で培養される。
【0160】
CD4-細胞からCD56+/CD3-細胞への概要
上述のCD4-細胞を含む細胞集団は、細胞培養培地中で更に培養して、NK細胞の集団を得ることができる。いくつかの実施形態では、CD4-細胞を含む細胞集団は、ステップ(B)後に本方法から単離される。任意の単離形態は、蛍光活性化細胞選別(FACS)及び/または磁気ベースの細胞選別(MACS)を含む、これらの方法を用いて使用することができる。いくつかの実施形態では、方法は、細胞単離ステップを含まない。いくつかの実施形態では、NK細胞を得る培養培地は、第3の条件セットを含む。いくつかの実施形態では、第3の条件セットは、IL-7、IL-2、及びCD3活性化因子、例えば、抗CD3抗体のうちの1つ以上を含む。
【0161】
いくつかの実施形態では、CD4-細胞を含む細胞集団を、介在する単離ステップを伴わず、培養培地中で更に培養して、CD56+/CD3-細胞で濃縮した細胞集団を得る。かかるCD56+細胞には、例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。いくつかの実施形態では、CD4-細胞を含む集団は、CD3活性化因子、IL-2、及び/またはIL-7を含む培地で培養される。したがって、いくつかの実施形態では、CD4-細胞を含む集団は、CD3活性化因子を含む培地で培養される。CD3活性化因子には、当技術分野で既知であり、例えば、CD3及び/またはCD28表面リガンドに結合する抗体複合体が含まれる。CD3活性化因子には、例えば、抗CD3抗体またはそれに結合した断片が含まれ、使用することができる。いくつかの実施形態では、抗CD3抗体が使用される場合、抗CD3抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であることができる。いくつかの実施形態では、抗CD3抗体は、ポリクローナル抗体である。いくつかの実施形態では、抗CD3抗体は、モノクローナル抗体である。抗体は、IgG、IgA、IgM、IgD、IgE、またはIgGの任意の免疫グロブリンクラスに属していてもよい。様々な種類の抗CD3抗体を使用することができ、例えば、OKT3クローンまたはUCHT1クローンから産生された抗体を使用することができる。培地中の抗CD3抗体の濃度は、例えば、10ng/ml~1000ng/mlである。
【0162】
いくつかの実施形態では、CD4-細胞を含む集団は、IL-2を含む培地で培養される。いくつかの実施形態では、CD4-細胞を含む集団は、IL-7を含む培地で培養される。いくつかの実施形態では、細胞は、例えば、約3%、4%、5%、または6%O2などの低酸素条件で培養される。したがって、いくつかの実施形態では、細胞は、約3%O2で培養される。いくつかの実施形態では、細胞は、約4%O2で培養される。いくつかの実施形態では、細胞は、約5%O2で培養される。いくつかの実施形態では、細胞は、約6%O2で培養される。
【0163】
CD56+細胞を含む細胞集団は、第3の条件セットで更に培養して、CD56+/CD3-細胞の集団を濃縮することができる。いくつかの実施形態では、CD56+細胞を含む細胞集団は、IL-7及び/またはIL-15を含む第3の条件セットで培養して、CD56+細胞を更に濃縮することができる。したがって、いくつかの実施形態では、CD56+細胞を含む細胞集団は、IL-7を含む第3の条件セットで培養される。いくつかの実施形態では、CD56+細胞を含む細胞集団は、IL-15を含む第3の条件セットで培養される。いくつかの実施形態では、細胞は、例えば、約3%、4%、5%、または6%O2などの低酸素条件で培養される。いくつかの実施形態では、産生されたCD56+/CD3-細胞は、NK細胞である。産生された細胞集団におけるCD56+/CD3-NK細胞のパーセンテージは、少なくとも約50%、55%、60%、75%、80%、85%、90%、95%、または95%超である。したがって、いくつかの実施形態では、方法は、少なくとも約50%のCD56+/CD3-NK細胞をもたらす。いくつかの実施形態では、方法は、少なくとも約55%のCD56+/CD3-NK細胞をもたらす。いくつかの実施形態では、方法は、少なくとも約60%のCD56+/CD3-NK細胞をもたらす。いくつかの実施形態では、方法は、少なくとも約65%のCD56+/CD3-NK細胞をもたらす。いくつかの実施形態では、方法は、少なくとも約70%のCD56+/CD3-NK細胞をもたらす。いくつかの実施形態では、方法は、少なくとも約75%のCD56+/CD3-NK細胞をもたらす。いくつかの実施形態では、方法は、少なくとも約80%のCD56+/CD3-NK細胞をもたらす。いくつかの実施形態では、方法は、少なくとも約85%のCD56+/CD3-NK細胞をもたらす。いくつかの実施形態では、方法は、少なくとも約90%のCD56+/CD3-NK細胞をもたらす。いくつかの実施形態では、方法は、少なくとも約95%のCD56+/CD3-NK細胞をもたらす。いくつかの実施形態では、方法は、95%超のCD56+/CD3-NK細胞をもたらす。
【0164】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法を使用して得られた濃縮NK細胞集団はまた、CD3+T細胞を含み得る。いくつかの実施形態では、この培養方法によって産生された細胞の約5%、10%、15%、20%、25%、または約30%は、CD3+T細胞である。いくつかの実施形態では、産生された細胞の5%未満が、CD3+T細胞である。いくつかの実施形態では、産生された細胞の約5%が、CD3+T細胞である。いくつかの実施形態では、産生された細胞の約10%が、CD3+T細胞である。いくつかの実施形態では、産生された細胞の約15%が、CD3+T細胞である。いくつかの実施形態では、産生された細胞の約20%が、CD3+T細胞である。いくつかの実施形態では、産生された細胞の約25%が、CD3+T細胞である。いくつかの実施形態では、産生された細胞の約30%が、CD3+T細胞である。
【0165】
いくつかの実施形態では、CD56+/CD3-細胞で濃縮した集団は、当技術分野で既知の方法によって単離される。かかる方法には、例えば、フローサイトメトリー(FACS)ベースの選別方法及び磁気ベースの選別方法(MACS)が含まれる。
【0166】
いくつかの実施形態では、CD4-細胞を含む集団からCD56+/CD3-NK細胞を得るために培養する期間は、約4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、または18日である。いくつかの実施形態では、培養する期間は、約7日である。
【0167】
いくつかの実施形態では、濃縮されたCD56+細胞集団は、NK細胞を含む。いくつかの実施形態では、濃縮されたCD56+細胞は、CD3-細胞を含む。いくつかの実施形態では、濃縮されたCD56+細胞は、CD3+細胞を含む。
【0168】
CD56+/CD3-細胞への分化にとって好適である多能性細胞
いくつかの実施形態では、任意の多能性、多分化能、またはドナー由来HPCは、本明細書に記載の方法とともに使用することができる。例えば、いくつかの実施形態では、細胞は、胚性幹細胞である。いくつかの実施形態では、細胞は、成体幹細胞である。様々な成体幹細胞が当技術分野で既知であり、例えば、間葉系幹細胞、造血幹細胞、臍帯由来細胞、骨髄幹細胞、脂肪幹細胞などが挙げられる。いくつかの実施形態では、細胞は、人工多能性幹細胞(iPSC)である。したがって、本明細書に記載の方法に従って産生されるNK細胞は、任意の多能性、多分化能、またはドナーに直接由来する一次HPCなどの患者由来のHPCから作製することができる。
【0169】
いくつかの実施形態では、多能性細胞は、例えば、胚性幹(ES)細胞、核移植によって得られたクローン化胚に由来する胚性幹細胞(ntES細胞)、生殖幹細胞(「GS細胞」)、胚性生殖細胞(「EG細胞」)、iPS細胞、及び培養線維芽細胞または骨髄幹細胞(ミューズ細胞)に由来する多能性細胞が挙げられる。いくつかの実施形態では、iPS細胞は、健康な個体の末梢血単核細胞に由来することができる。iPS細胞を産生するための方法は、当該技術分野で既知である。これらの細胞は、任意の体細胞に再プログラミング因子を導入することによって産生することができる。本明細書における再プログラミング因子の例としては、Oct3/4、Sox2、Soxl、Sox3、Sox15、Soxl 7、Kif 4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tel1、ベータカテニン、Lin28b、Salll、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3、及びGlislなどの遺伝子、及びそれらの遺伝子産物が挙げられる。これらの再プログラミング因子は、個別に使用することも、2つ以上を組み合わせて使用することもできる。再プログラミング因子の組み合わせの例としては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO2010/111409、WO2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangfu D et al.(2008),Nat.Biotechnol.,26:795-797、Shi Y,et al.(2008),Cell Stem Cell,2:525-528、Eminli S,et al.(2008),Stem Cells. 26:2467-2474、Eluangfu D,et al.(2008),Nat.Biotechnol. 26:1269-1275、Shi Y,et al.(2008),Cell Stem Cell,3,568-574、Zhao Y,et al.(2008),Cell Stem Cell,3:475-479、Marson A,(2008),Cell Stem Cell,3,132-135、Feng B,et al.(2009),Nat.Cell Biol.11:197-203、R.L.Judson et al.,(2009),Nat.Biotechnol.,27:459-461、Lyssiotis CA,et al.(2009),Proc Natl Acad Sci US A.106:8912-8917、Kim J,et al.(2009),Nature. 461:649-643、Ichida J K,et al.(2009),Cell Stem Cell.5:491-503、Heng JC,et al.(2010),Cell Stem Cell.6:167-74、Han J,et al.(2010),Nature.463:1096-100、Mali P,et al.(2010),Stem Cells.28:713-720、及びMaekawa M,et al.(2011),Nature.474:225-9に記載されているものが挙げられる。
【0170】
iPSCは、任意の好適な組織から得ることができる。いくつかの実施形態では、iPSCは、末梢血単核細胞から得られる。
【0171】
造血前駆細胞(HPC)は、リンパ球、好酸球、好中球、好塩基球、赤血球、及び巨核球などの血液細胞に分化できる細胞である。造血前駆細胞または造血幹細胞は、例えば、CD34及び/またはCD43表面抗原の存在に基づいて、同定することができる。
【0172】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のCD56+/CD3-NK細胞を産生するために使用される細胞は、細胞分化の任意の段階で、遺伝子改変されている。いくつかの実施形態では、CD56+/CD3-NK細胞は、所望のキメラ抗原受容体(CAR)、外因性T細胞受容体(TCR)、または他の操作したタンパク質を含むように遺伝子改変される。
【0173】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のCD56+/CD3-NK細胞を産生するために使用される細胞は、多能性、多分化能、または単能性の段階で遺伝子改変されている。例えば、いくつかの実施形態では、本明細書に記載のCD56+/CD3-NK細胞を産生するために使用される細胞は、多能性段階で遺伝子改変される。例えば、細胞は、胚性幹細胞段階またはiPSC幹細胞段階で遺伝子改変することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のCD56+/CD3-NK細胞を産生するために使用される細胞は、多分化能段階で遺伝子改変される。例えば、細胞は、造血幹細胞(HSC)段階で遺伝子改変することができる。
【0174】
培養条件-iPSCからHPCバルクへ
いくつかの実施形態では、iPSCから造血前駆細胞を産生するための培地(すなわち、HPC誘導培地)は、動物細胞の培養に使用される基礎培地にビタミンCを添加することによって調製され得る。基礎培地の例としては、イスコーブ改変ダルベッコ培地(IMDM)、培地199、イーグル最小必須培地(EMEM)、αMEM培地、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ハムF12培地、RPMI 1640培地、フィッシャー培地、及び神経基礎培地(Life Technologies)、及びこれらの培地のうちの2つ以上の混合物が挙げられる。いくつかの実施形態では、培地は、血清を含有する。いくつかの実施形態では、培地は、無血清である。
【0175】
いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、StemPro(商標)-34を含み得る。StemPro(商標)-34は、培養中のヒト造血細胞の発達を支持するために処方される無血清培地である。
【0176】
必要に応じて、いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、アルブミン、ヒトインスリン、ヒトトランスフェリン、セレンまたはセレン酸ナトリウム、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオールグリセロール、α-モノチオグリセロール、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、非必須アミノ酸、ビタミン、成長因子、低分子量化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩、及びサイトカインなどの1つ以上物質を含み得る。
【0177】
いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、血清、インスリン、トランスフェリン、セレン、チオールグリセロールまたはα-モノチオグリセロール、L-グルタミン、及びアスコルビン酸を含有するIMDM培地を含む。
【0178】
いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、骨形成タンパク質4(BMP4)シグナル伝達経路のシグナル伝達を引き起こす1つ以上の物質を含む。かかる物質には、BMP4が含まれるが、これに限定されない。
【0179】
いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、血管上皮成長因子(VEGF)シグナル伝達経路のシグナル伝達を引き起こす1つ以上の物質を含む。かかる物質には、VEGFが含まれるが、これに限定されない。
【0180】
いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、線維芽細胞成長因子(FGF)経路のシグナル伝達を引き起こす1つ以上の物質を含む。かかる物質には、bFGF及びFGF2が含まれるが、これらに限定されない。
【0181】
いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、幹細胞因子/kitシグナル伝達経路のシグナル伝達を引き起こす1つ以上の物質を含む。かかる物質には、SCFが含まれるが、これに限定されない。
【0182】
いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、Flt3リガンドシグナル経路のシグナル伝達を引き起こす1つ以上の物質を含む。かかる物質には、Flt3リガンド(Flt3L)が含まれるが、これに限定されない)。
【0183】
いくつかの実施形態では、第1の条件セットは、トロンボポエチンシグナル伝達経路のシグナル伝達を引き起こす1つ以上の物質を含む。かかる物質には、TPOが含まれるが、これに限定されない。
【0184】
TGFβ阻害剤は、TGFβファミリーのシグナル伝達を妨げる低分子阻害剤であり、例えば、SB431542、SB202190(両方ともR.K.Lindemann et al.,Mol.Cancer 2:20(2003))、SB505124(GlaxoSmithKline)、NPC30345、SD093、SD908、SD208(Scios)、LY2109761、LY364947、LY580276(Lilly Research Laboratories)などが挙げられる。
【0185】
SB431542は、形質転換成長因子ベータ(TGFβ)スーパーファミリーI型アクチビン受容体様キナーゼ(ALK)受容体ALK4、ALK5、及びALK7の強力かつ特異的な阻害剤である。
【0186】
例えば、TGFβ阻害剤が、SB431542である場合、培地中のその濃度は、好ましくは、0.5μM~100μMである。
【0187】
HP細胞バルク集団の産生のための第1の条件セットは、BMP4(骨形成タンパク質4)、VEGF(血管内皮成長因子)、bFGF(塩基性線維芽細胞成長因子)、SCF(幹細胞因子)、TPO(トロンボポエチン)、及びFlt3L(Flt3リガンド)からなる群から選択されるサイトカイン(複数可)で更に補充され得る。
【0188】
一実施形態では、第1の条件セットは、ヒトインスリン(約10μg/ml)、ヒトトランスフェリン(約5.5μg/ml)、セレン酸ナトリウム(約6.7ng/ml)、L-グルタミン(約2mM)、α-モノチオグリセロール(約0.4mM)、及びSB431542(約6μM)を補充したStemPro34を含み得る。
【0189】
いくつかの実施形態では、ビタミンCは、培養期間中、4日ごと、3日ごと、2日ごと、または毎日添加することができる。培地へのビタミンCの添加は、約5μg/ml~約500μg/mlに対応する量で実行することができる。いくつかの実施形態では、ビタミンCは、培地中に約5μg/ml、10μg/ml、25μg/ml、50μg/ml、100μg/ml、200μg/ml、300μg/ml、400μg/ml、または500μg/mlで存在する。
【0190】
本明細書では、「ビタミンC」とは、L-アスコルビン酸及びその誘導体を意味し、「L-アスコルビン酸誘導体」とは、生体内で酵素反応によりビタミンCとなる誘導体を意味する。L-アスコルビン酸の誘導体の例としては、ビタミンCホスフェート(例えば、アスコルビン酸2-ホスフェート)、アスコルビン酸グルコシド、アスコルビルエチル、ビタミンCエステル、アスコルビルテトラヘキシルデカノエート、アスコルビルステアレート、及びアスコルビル2-ホスフェート6-パルミテートが挙げられる。好ましいのは、ビタミンCホスフェートである。ビタミンCホスフェート(例えば、アスコルビン酸2-ホスフェート)の例としては、L-アスコルビン酸ホスフェートNa及びL-アスコルビン酸ホスフェートMgなどのL-アスコルビン酸ホスフェートの塩が挙げられる。
【0191】
いくつかの実施形態では、骨形成タンパク質4(BMP4)シグナル伝達経路のシグナル伝達を引き起こす物質がBMP4である場合、造血前駆細胞の産生のためのHPC誘導培地中のBMP4の濃度は、約5ng/mL~500ng/mL、例えば、5ng/mL、10ng/mL、20ng/mL、30ng/mL、40ng/mL、50ng/mL、60ng/mL、70ng/mL、80ng/mL、90ng/mL、100ng/mL、150ng/mL、200ng/mL、250ng/mL、300ng/mL、350ng/mL、400ng/mL、450ng/mL、または500ng/mLである。
【0192】
いくつかの実施形態では、血管上皮成長因子(VEGF)シグナル伝達経路のシグナル伝達を引き起こす物質がVEGFである場合、造血前駆細胞の産生のためのHPC誘導培地中のVEGFの濃度は、約5ng/mL~500ng/mL、例えば、約5ng/mL、10ng/mL、20ng/mL、30ng/mL、40ng/mL、50ng/mL、60ng/mL、70ng/mL、80ng/mL、90ng/mL、100ng/mL、150ng/mL、200ng/mL、250ng/mL、300ng/mL、350ng/mL、400ng/mL、450ng/mL、または500ng/mLである。
【0193】
いくつかの実施形態では、線維芽細胞成長因子(FGF)経路のシグナル伝達を引き起こす物質がbFGFである場合、造血前駆細胞の産生のためのHPC誘導培地中のbFGFの濃度は、約5ng/mL~500ng/mL、例えば、5ng/mL、10ng/mL、20ng/mL、30ng/mL、40ng/mL、50ng/mL、60ng/mL、70ng/mL、80ng/mL、90ng/mL、100ng/mL、150ng/mL、200ng/mL、250ng/mL、300ng/mL、350ng/mL、400ng/mL、450ng/mL、または500ng/mLである。
【0194】
いくつかの実施形態では、幹細胞因子/kitシグナル伝達経路のシグナル伝達を引き起こす物質がSCRである場合、造血前駆細胞の産生のためのHPC誘導培地中のSCFの濃度は、約5ng/mL~100ng/mL、例えば、5ng/mL、10ng/mL、20ng/mL、30ng/mL、40ng/mL、50ng/mL、60ng/mL、70ng/mL、80ng/mL、90ng/mL、または100ng/mLである。
【0195】
いくつかの実施形態では、Flt3リガンドシグナル伝達経路のシグナル伝達を引き起こす物質がFlt3Lである場合、造血前駆細胞の産生のためのHPC誘導培地中のFlt3Lの濃度は、約1ng/mL~100ng/mL、例えば、1ng/mL、2ng/mL、3ng/mL、4ng/mL、5ng/mL、6ng/mL、7ng/mL、8ng/mL、9ng/mL、10ng/mL、20ng/mL、50ng/mL、または100ng/mLである。
【0196】
いくつかの実施形態では、トロンボポエチンシグナル伝達経路のシグナル伝達を引き起こす物質がTPOである場合、造血前駆細胞の産生のためのHPC誘導培地中のTPOの濃度は、約1ng/mL~200ng/mL、例えば、1ng/mL、2ng/mL、3ng/mL、4ng/mL、5ng/mL、6ng/mL、7ng/mL、8ng/mL、9ng/mL、10ng/mL、20ng/mL、30ng/mL、40ng/mL、50ng/mL、60ng/mL、70ng/mL、80ng/mL、90ng/mL、100ng/mL、125ng/mL、150ng/mL、175ng/mL、または200ng/mLである。
【0197】
いくつかの実施形態では、多能性幹細胞は、付着培養または浮遊培養によって培養され得る。付着培養の場合、培養は、コーティング剤でコーティングされた培養容器内で実行してもよく、及び/または他の細胞と共培養してもよい。共培養のための他の細胞の例としては、C3H10Tl/2(Takayama N.,et al.J Exp Med.2817-2830,2010)及び異なる種に由来する間質細胞(Niwa A et al.J Cell Physiol.2009 Nov;221(2):367-77)が挙げられる。コーティング剤の例としては、Matrigel(Nivea A,et al.PLoS One.6(7):e22261,2011))、iMatrix511(Miyazaki T,et al.Nature Communication 2012;3:1236)、ゼラチン、コラーゲン、エラスチンなど、ヒアルロン酸、硫酸コンドロイチンなどのグルコサミノグリカン及びプロテオグリカン、フィブロネクチンまたはそのバリアント、ビトロネクチン、ラミニンなどの細胞付着タンパク質などが挙げられる。浮遊培養の方法の例としては、Chadwick et al.Blood 2003,102:906-15、Vijayaragavan et al.Cell Stem Cell 2009,4:248-62、及びSaeki et al.Stem Cells 2009,27:59-67に記載の方法が挙げられる。
【0198】
いくつかの実施形態では、HP細胞バルクはまた、多能性幹細胞の培養によって得られたネット様構造(これは、ES-sacまたはiPS-sacとも呼ばれる)から調製され得る。本明細書における「ネット様構造」は、多能性幹細胞に由来する三次元の嚢状構造(内部に空間を有する)である。この構造は、内皮細胞集団内で形成されており、内部に造血前駆細胞を含む。
【0199】
いくつかの実施形態では、HP細胞バルクの産生のための培養での温度条件は、約37℃~約42℃である。いくつかの実施形態では、温度は、例えば、約37℃~約42℃、好ましくは約37~約39℃である。培養期間は、造血前駆細胞及び/または類似細胞の数などを監視することによって、表現型分析のために細胞培養から試料を得ることによって、当業者によって適切に決定され得る。細胞試料の表現型分析に関連する様々な種類の方法が当技術分野で知られており、例えば、フローサイトメトリー及び免疫蛍光法が挙げられる。
【0200】
HP細胞バルクを得るための培養期間は異なり得、例えば、6~14日間を含む。培養期間の例としては、少なくとも6日、7日以上、8日以上、9日以上、10日以上、11日以上、12日以上、13日以上、及び14日以上が挙げられる。いくつかの実施形態では、この培養期間は、6日間である。いくつかの実施形態では、この培養期間は、7日間である。いくつかの実施形態では、この培養期間は、8日間である。いくつかの実施形態では、この培養期間は、9日間である。いくつかの実施形態では、この培養期間は、10日間である。いくつかの実施形態では、この培養期間は、10日間である。いくつかの実施形態では、この培養期間は、11日間である。いくつかの実施形態では、この培養期間は、12日間である。いくつかの実施形態では、この培養期間は、13日間である。いくつかの実施形態では、この培養期間は、14日間である。いくつかの実施形態では、培養期間は、14日間を超える。培養は、低酸素条件下で実行され得る。低酸素条件の例としては、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%またはそれ以下が挙げられる。培地交換の頻度は、当業者によって決定することができる。いくつかの実施形態では、培地は、2日ごとに交換できる。いくつかの他の実施形態では、培地は、3日ごとに交換できる。いくつかの実施形態では、培地は、毎日交換される。
【0201】
いくつかの実施形態では、HP細胞バルクを産生するための培養は、上記の条件のうちの1つ以上を組み合わせることによって実行される。例えば、いくつかの実施形態では、iPSCからHP細胞バルクを得る方法は、(i)多能性幹細胞を低酸素条件下でビタミンCを補充した基礎培地においてC3H10Tl/2で培養することと、(ii)(i)の培養液にVEGF、SCF、及びFlt3Lを更に添加して、通常の酸素条件下で細胞を培養することと、を含む。ステップ(i)が実行される期間は、少なくとも6日以上、好ましくは7日以上、より好ましくは7日である。ステップ(ii)が実行される期間は、少なくとも6日以上、好ましくは7日以上、より好ましくは7日である。
【0202】
いくつかの実施形態では、HP細胞バルク中で得られた造血前駆細胞は、更なる使用前に単離され得る。いくつかの他の実施形態では、得られた造血前駆細胞は、他の細胞種も含む細胞集団(HP細胞バルク)として使用され得る。HP細胞バルク集団は、未分離細胞調製物である。いくつかの実施形態では、方法は、単離ステップを含まない。
【0203】
培養条件-HP細胞バルクからCD4-細胞集団まで
いくつかの実施形態では、第2の条件セットは、例えば、CD4-/CD8-細胞、CD4-/CD8+細胞などのCD4-細胞を含む細胞集団をもたらす。いくつかの実施形態では、ステップ(B)の後にもたらされる細胞集団はまた、CD4+細胞を含む。
【0204】
いくつかの実施形態では、CD4-細胞を含む細胞集団は、CD56+/CD3-細胞に分化するように誘導することができる。
【0205】
いくつかの実施形態では、他の細胞の中でも、CD4-細胞を含む細胞集団は、ビタミンCを補充した培地で造血前駆細胞またはHP細胞バルクを培養するステップを含む方法によって産生することができる。基礎培地に添加されるビタミンCは、HP細胞バルクの上記の誘導におけるものと同じである。
【0206】
いくつかの実施形態では、HP細胞バルクからCD4-細胞を含む細胞集団を産生するために使用される培地は、第2の条件セットである。いくつかの実施形態では、第2の条件セットは、動物細胞の培養に使用される基礎培地にビタミンCを添加することによって調製され得る。基礎培地の例としては、イスコーブ改変ダルベッコ培地(IMDM)、培地199、イーグル最小必須培地(EMEM)、αMEM培地(Thermo Fisher Scientific(Gibco))、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ハムF12培地、RPMI1640培地、フィッシャー培地、及び神経基礎培地(Life Technologies)、及びこれらの培地のうちの2つ以上の混合物が挙げられる。培地は、血清を含めてもよく、無血清を含まなくてもよい。
【0207】
必要に応じて、基礎培地はまた、アルブミン、ヒトインスリン、ヒトトランスフェリン、セレンまたはセレン酸ナトリウム、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオールグリセロール、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、非必須アミノ酸、ビタミン、成長因子、低分子量化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝液、無機塩、及びサイトカインなどの物質のうちの1つ以上を含み得る。
【0208】
他の細胞の中でも、CD4-細胞を含む細胞集団の産生のための第2の条件セットは、アスコルビン酸、SCF、IL-7、Flt3L、TPO、フィブロネクチンまたはそのバリアント、ノッチリガンド、p38阻害剤、及びSDF-1からなる群から選択されるサイトカイン(複数可)で更に補充され得る。
【0209】
いくつかの実施形態では、ビタミンCは、培養期間中、4日ごと、3日ごと、2日ごと、または毎日添加することができる。培地へのビタミンCの添加は、約5μg/mL~約500μg/mLに相当する量で実行することができる。いくつかの実施形態では、ビタミンCは、培地中に約5μg/mL、10μg/mL、25μg/mL、50μg/mL、100μg/mL、200μg/mL、300μg/mL、400μg/mL、または500μg/mLで存在する。
【0210】
いくつかの実施形態では、基礎培地は、幹細胞因子/kitシグナル伝達経路のシグナル伝達を引き起こす1つ以上の物質を含む。かかる物質には、SCFが含まれるが、これに限定されない。
【0211】
いくつかの実施形態では、基礎培地は、Flt3リガンドのシグナル伝達経路のシグナル伝達を引き起こす1つ以上の物質を含む。かかる物質には、Flt3リガンド(Flt3L)が含まれるが、これに限定されない。
【0212】
いくつかの実施形態では、基礎培地は、トロンボポエチンのシグナル伝達経路のシグナル伝達を引き起こす1つ以上の物質を含む。かかる物質には、TPOが含まれるが、これに限定されない。
【0213】
いくつかの実施形態では、基礎培地は、p38α及びp38βの阻害剤である1つ以上のp38阻害剤を含み、これは、MAPKAPキナーゼ-2及び熱ショックタンパク質27の下流の活性化を抑制する。本発明で使用されるp38の化学的阻害剤の例としては、SB203580(4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-メチルスルホニルフェニル)-5-(4-ピリジル)-1H-イミダゾール)、及びその誘導体、SB202190(4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-ヒドロキシフェニル)-5-(4-ピリジル)-1H-イミダゾール)及びその誘導体、SB239063(トランス-4-[4-(4-フルオロフェニル)-5-(2-メトキシ-4-ピリミジニル)-1H-イミダゾール-1-イル]シクロヘキサノール)及びその誘導体、SB220025及びその誘導体、PD169316、RPR200765A、AMG-548、BIRB-796、SClO-469、SCIO-323、VX-702及びFR167653が挙げられるが、これらに限定されない。これらの化合物は市販されており、例えば、SB203580、SB202190、SC239063、SB220025及びPD169316は、Calbiochemから入手可能であり、SClO-469及びSCIO-323は、Sciosなどから入手可能である。p38阻害剤の他の例としては、p38のDNA結合領域に位置する180位スレオニンのアラニンへの点突然変異によって得られるp38T180A、ヒト及びマウスにおけるp38の182位チロシンのフェニルアラニンへの点突然変異によって得られるp38Y182Fなどを含むp38のドミナント陰性突然変異体が含まれる。p38阻害剤は、例えば、約0.5μM~約50μMで培地に含有される。
【0214】
いくつかの実施形態では、基礎培地は、SDF-1を含む。
【0215】
いくつかの実施形態では、SDF-1は、SDF-1αまたはその成熟形態のみだけでなく、SDF-1β、SDF-1γ、SDF-1δ、SDF-1ε、SDF-1φなどのアイソフォームもしくはそれらの成熟形態、またはそれらの任意の比率での混合物であり得る。好ましくは、SDF-1αが使用される。SDF-1は、CXCL-12またはPBSFと称されることもある。
【0216】
いくつかの実施形態では、SDF-1のアミノ酸配列中の1つまたはいくつかのアミノ酸は、ケモカインとしての活性を有する限り、置換され、欠失され、及び/または付加され得る。同様に糖鎖は、置換され、欠失され、及び/または付加され得る。少なくとも4つのシステイン残基(ヒトSDF-1αにおけるCys30、Cys32、Cys55、及びCys71)が維持され、天然物質のアミノ酸配列と90%以上の同一性が示される限り、アミノ酸突然変異は許容される。SDF-1は、哺乳動物、例えば、ヒト、またはサル、ヒツジ、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウスなどの非ヒト哺乳動物から得ることができる。例えば、GenBankアクセッション番号NP_954637として登録されているタンパク質は、ヒトSDF-1αとして使用でき、GenBankアクセッション番号:NP_000600として登録されているタンパク質は、SDF-1βとして使用できる。いくつかの実施形態では、Flt3リガンドシグナル伝達経路のシグナル伝達を引き起こす物質がFlt3Lである場合、CD4-細胞を含む細胞集団の産生のための培地中のFlt3Lの濃度は、約1ng/mL~100ng/mL、例えば、1ng/mL、2ng/mL、3ng/mL、4ng/mL、5ng/mL、6ng/mL、7ng/mL、8ng/mL、9ng/mL、10ng/mL、20ng/mL、30ng/mL、40ng/mL、50ng/mL、60ng/mL、70ng/mL、80ng/mL、90ng/mL、または100ng/mLである。いくつかの実施形態では、幹細胞因子/kitシグナル伝達経路のシグナル伝達を引き起こす物質がSCFである場合、SCFは、上記と同じ条件下で、CD4-細胞を含む細胞集団の産生に使用される。
【0217】
いくつかの実施形態では、トロンボポエチンシグナル伝達経路のシグナル伝達を引き起こす物質がTPOである場合、TPOは、上記と同じ条件下で、CD4-細胞を含む産生細胞集団のために使用される。
【0218】
本発明で使用されるフィブロネクチンまたはそのバリアントは、それがCD3陽性細胞に結合することができる分子である限り、特に限定されない。フィブロネクチンのバリアントは、それがCD3陽性細胞の表面で、VLA-5及びVLA-4に結合できる分子である限り、特に限定されず、その例としては、RetroNectinが挙げられる。フィブロネクチン及びそのバリアントは、培地中に任意の形態で存在し得る。例えば、それらは、培養中に培地に含有され得るか、または培養容器に固定化され得、好ましくは培養容器に固定化される。
【0219】
フィブロネクチンまたはそのバリアントが培地中に含有される場合、フィブロネクチンまたはそのバリアントの濃度の下限は、10ng/ml以上、好ましくは、100ng/ml以上であり得、上限は、10000μg/ml以下、好ましくは、1000μg/ml以下であり得る。
【0220】
いくつかの実施形態では、CD4-細胞を含む細胞集団の産生に使用される培地中のIL-7の濃度は、約1ng/mL~100ng/mL、例えば、1ng/mL、2ng/mL、3ng/mL、4ng/mL、5ng/mL、6ng/mL、7ng/mL、8ng/mL、9ng/mL、10ng/mL、20ng/mL、30ng/mL、40ng/mL、50ng/mL、60ng/mL、70ng/mL、80ng/mL、90ng/mL、または100ng/mLである。
【0221】
SDF-1は、市販され得る、自然界から精製され得る、またはペプチド合成もしくは遺伝子工学技術によって産生され得る。SDF-1は、例えば、約10ng/mL~約100ng/mLの範囲内で培地に含有される。加えて、SDF-1のような活性を有するSDF-1代替物も、SDF-1の代わりに使用することができる。かかるSDF-1代替物の例としては、CXCR4アゴニストが挙げられ、CXCR4アゴニスト活性などを有する低分子量化合物を、SDF-1の代わりに培地に添加し得る。
【0222】
いくつかの実施形態では、SDF-1がSDF1αである場合、CD4-細胞を含む細胞集団の産生のための培地中のSDF-1αの濃度は、約1nM~100nM、例えば、1nM、2nM、3nM、4nM、5nM、6nM、7nM、8nM、9nM、10nM、20nM、30nM、40nM、50nM、60nM、70nM、80nM、90nM、または100nMである。
【0223】
いくつかの実施形態では、p38阻害剤がSB203580である場合、CD4-細胞を含む細胞集団の産生のための培地中のSB203580の濃度は、約0.5μM~100μM、例えば、0.5μM、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、15μM、20μM、30μM、40μM、または50μM、60μM、70μM、80μM、90μM、または100μMである。
【0224】
いくつかの実施形態では、CD4-細胞を含む細胞集団の産生のための基礎培地には、約15%のFBS、約4mMのL-グルタミン、約100U/mLのペニシリン、約100μg/mLのストレプトマイシン、約55μMの2-メルカプトエタノール、約50μg/mLのアスコルビン酸2-ホスフェート、約10μg/mLのヒトインスリン、約5.5μg/mLのヒトトランスフェリン、約6.7ng/mLのセレン酸ナトリウム、約50ng/mLのSCF、約50ng/mLのIL-7、約50ng/mLのFlt3L、約100ng/mLのTPO、約15μMのSB203580、約30nMのSDF-1αを補充したαMEM培地が含まれる。
【0225】
CD4-細胞を含む細胞集団の産生において、造血前駆細胞は、付着培養または浮遊培養によって培養され得る。いくつかの実施形態では、培養培地または培養容器/ディッシュは、ノッチ活性化剤を含む。ノッチ活性化剤には、ノッチ受容体のアゴニストが含まれるが、これに限定されない。ノッチアゴニストは、ノッチ受容体に結合し、同様に、例えば、ノッチの細胞内ドメインを切断して核に移動させるなど、ノッチ受容体に関連するシグナル伝達事象を開始または媒介する。ノッチ活性化剤は、Jagl、Jag2、DLL1、DLL3、及びDLL4を含むが、これらに限定されない1つ以上のノッチリガンドを含む。いくつかの実施形態では、ノッチリガンド(複数可)のうちの1つ以上は、可溶性ペプチドとして導入するか、または固体材料上に固定することができる。固体材料には、ポリスチレンプレート、またはビーズが含まれ得るが、これらに限定されない。ノッチリガンド固定化のための例示的なビーズとしては、アガロースビーズ、磁性ビーズ、及びラテックスビーズが挙げられる。いくつかの実施形態では、ノッチリガンドペプチドは、ビーズにコンジュゲート化/固定化される。いくつかの他の実施形態では、ノッチリガンドペプチドは、ポリスチレンプレートの表面にコンジュゲート化/固定化される。いくつかの実施形態では、ノッチリガンドの固定化は、非共有結合である。いくつかの他の実施形態では、ノッチリガンドペプチドは、細胞によって提示される。更に他の実施形態では、培養容器/ディッシュは、ノッチリガンドでコーティングされる。
【0226】
いくつかの実施形態では、培養容器/ディッシュは、DLL1もしくはDLL4、またはDLL4もしくはDLL1の融合タンパク質、及びFcなどでコーティングされている。DLL1またはDLL4は、組換えヒト(rh)-DLL1またはrh-DLL4であり得る。いくつかの実施形態では、培養容器/ディッシュは、rh-DLL4/Fc キメラ(Sino Biological)及びRetroNectin(Takara Bio Inc)でコーティングされている。付着培養の場合、コーティングされた培養容器を使用してもよく、及び/または造血前駆細胞は、フィーダー細胞などと共培養してもよい。共培養用のフィーダー細胞の例としては、骨髄間質細胞株、OP9細胞(Riken BioResource Centerから入手可能)が挙げられる。OP9細胞は、好ましくは、Dlllを絶えず発現するOP-DL1細胞(Holmes R I and Zuniga-Pflucker JC.Cold Spring Harb Protoc.2009(2))であり得る。いくつかの実施形態では、OP9細胞が、フィーダー細胞、別々に調製されたDlllまたはDlllとFcなどとの融合タンパク質として使用される場合、培地に添加されて、共培養を行い得る。いくつかの実施形態では、Dlllは、ヒトの場合、NCBIアクセッション番号NM#005618、マウスの場合、NCBIアクセッション番号NM#007865のヌクレオチド配列を有する遺伝子によってコードされるタンパク質及びこれらのタンパク質に対して高い配列同一性(例えば、90%以上の配列同一性を有する)を有し、同等の機能を有する天然に存在する突然変異体を含むことができる。フィーダー細胞がCD4-細胞を含む細胞集団の産生に使用される場合、フィーダー細胞は、培養期間中に適切に置き換えることができる。フィーダー細胞の交換は、培養されている対象細胞を、予備的にプレーティングされたフィーダー細胞に移すことによって実行することができる。交換は、5日ごと、4日ごと、3日ごと、または2日ごとに実行することができる。
【0227】
いくつかの実施形態では、CD4-細胞を含む細胞集団の産生のためのHP細胞バルクの培養での培養温度条件は、約37℃~約42℃、及び約37℃~約39℃である。いくつかの実施形態では、培養は、低酸素条件下で実行され得る。低酸素状態の例としては、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、及びこれらより低い酸素濃度が挙げられる。培養期間は、CD4-細胞及び/または類似細胞を含む異なる種の細胞の数を監視することによって、当業者によって適切に決定され得る。培養期間の例としては、10日以上、12日以上、14日以上、16日以上、18日以上、20日以上、21日以上、23日以上、25日以上、28日以上、30日以上、35日以上、または42日以上が挙げられる。
【0228】
ステップ(B)の後の細胞集団からの特定の細胞種(例えば、CD4-細胞)の集団が単離される場合、単離される細胞種に応じて、CD4、CD8、CD3、及びCD45を含むがこれらに限定されない任意の1つの指標を使用して単離を実行し得る。単離方法は、当業者に周知の方法、例えば、細胞を特定の抗体(例えば、CD4、CD8、CD3、またはCD45抗体)で標識し、次いで、フローサイトメータを用いて単離する方法、または所望の抗原を固定化するアフィニティーカラムなどを使用して細胞を精製する方法であり得る。
【0229】
CD4-細胞を含む細胞集団からCD56+/CD3-細胞を誘導するステップ
いくつかの実施形態では、NK細胞は、CD56+/CD3-細胞である。
【0230】
いくつかの実施形態では、NK細胞は、ビタミンCを補充した培地中でCD4-細胞を含む細胞集団を培養するステップを含む方法によって産生される。いくつかの実施形態では、第3の条件セットを使用して、NK細胞を産生する。
【0231】
いくつかの実施形態では、培地は、動物細胞の培養に使用される基礎培地にビタミンCを添加することによって調製する。基礎培地の例としては、イスコーブ改変ダルベッコ培地(IMDM)、培地199、イーグル最小必須培地(EMEM)、αMEM培地、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ハムF12培地、RPMI 1640培地、フィッシャー培地、及び神経基礎培地(Life Technologies)、及びこれらの培地のうちの2つ以上の混合物が挙げられる。いくつかの実施形態では、培地は、血清を含む。いくつかの実施形態では、培地は、無血清である。必要に応じて、基礎培地はまた、アルブミン、ヒトインスリン、ヒトトランスフェリン、セレンまたはセレン酸ナトリウム、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオールグリセロール、脂質、アミノ酸、グルタミン、非必須アミノ酸、ビタミン、成長因子、低分子量化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝液、無機塩、及びサイトカインなどの物質のうちの1つ以上を含み得る。
【0232】
いくつかの実施形態では、CD56陽性NK細胞の産生に使用される培地は、抗CD3抗体(UCHT1)及びサイトカインを更に含む。好適なサイトカインの例としては、IL-2及びIL-7が挙げられる。
【0233】
CD3抗体は、CD3を特異的に認識する限り制限されない。いくつかの実施形態では、第3の条件セットにおけるCD3抗体の濃度は、約10ng/mL~1000ng/mL、例えば、10ng/mL、50ng/mL、100ng/mL、200ng/mL、300ng/mL、400ng/mL、500ng/mL、600ng/mL、700ng/mL、800ng/mL、900ng/mL、または1000ng/mLである。
【0234】
いくつかの実施形態では、ビタミンCは、上記と同じ条件下でCD56陽性K細胞を産生するために使用される。
【0235】
いくつかの実施形態では、NK細胞の産生のための第3の条件セットにおけるIL-2の濃度は、約1U/mL~1000U/mL、例えば、約1U/mL、5U/mL、10U/mL、20U/mL、30U/mL、40U/mL、50U/mL、60U/mL、70U/mL、80U/mL、90U/mL、100U/mL、500U/mL、または1000U/mLである。いくつかの実施形態では、CD56陽性NK細胞の産生のためのNK誘導培地中のIL-2の濃度は、約1ng/mL~100ng/mL、例えば、1ng/mL、5ng/mL、10ng/mL、20ng/mL、30ng/mL、40ng/mL、50ng/mL、60ng/mL、70ng/mL、80ng/mL、90ng/mL、または100ng/mLである。
【0236】
いくつかの実施形態では、NK細胞の産生のための第3の条件セットにおけるIL-7の濃度は、約1ng/mL~100ng/mL、例えば、1ng/mL、5ng/mL、10ng/mL、20ng/mL、30ng/mL、40ng/mL、50ng/mL、60ng/mL、70ng/mL、80ng/mL、90ng/mL、または100ng/mLである。
【0237】
いくつかの実施形態では、NK細胞の産生のためのCD4-細胞を含む集団の培養での培養温度条件は、約37℃~約42℃、または約37~約39℃である。培養期間は、CD56陽性NK細胞及び/または類似細胞の数を監視することによって、当業者によって適切に決定され得る。培養の日数は、NK細胞を得ることができる限り制限されない。培養期間の例としては、少なくとも1日以上、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、または7日以上が挙げられる。
【0238】
いくつかの実施形態では、得られたNK細胞は、更なる使用の前に単離され得る。いくつかの他の実施形態では、得られたCD56陽性NK細胞は、T細胞(NK細胞バルク)など、他の細胞種も含む細胞集団として使用され得る。
【0239】
いくつかの実施形態では、第3の条件セットまたはNK細胞バルクにおいてCD4-細胞を含む細胞集団を培養することによって得られるもたらされる細胞集団は、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、75%、80%、85%、90%、または90%超のNK細胞を含み得る。いくつかの実施形態では、NK細胞バルクは、約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%のT細胞を含む。いくつかの実施形態では、NK細胞バルクは、約75%のCD56+/CD3-NK細胞及び約25%のCD56+/CD3+T細胞を含む。いくつかの実施形態では、NK細胞バルクはまた、B細胞及び単球を含み得る。
【0240】
CD56+NK細胞が単離される場合、単離方法は、当技術分野で周知の方法、例えば、細胞を抗CD56抗体及び抗CD3抗体で標識し、次に、フローサイトメータ(蛍光活性化細胞選別)を使用して単離する方法、または所望の抗原を固定化するアフィニティーカラムなどを使用して細胞を精製する方法であり得る。
【0241】
いくつかの実施形態では、CD56陽性NK細胞は、CD56+/CD3+である。いくつかの実施形態では、CD56陽性NK細胞は、CD56+/CD3-である。
【0242】
CAR-NK細胞の調製
いくつかの実施形態では、NK細胞は、1つ以上の導入遺伝子を含むように操作される。例えば、NK細胞は、腫瘍指向性キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように遺伝子操作することができ、それによって抗腫瘍エフェクター細胞を産生する。一例では、NK細胞またはiPS NK細胞は、CARを発現するように操作することができる。いくつかの実施形態では、NK細胞への細胞前駆体は、CARを発現するように操作される。例えば、いくつかの実施形態では、iPS細胞は、CARを発現するように操作される。いくつかの実施形態では、HP細胞バルク中の細胞は、CARを発現するように操作される。いくつかの実施形態では、NK細胞は、CARを発現するように操作される。更に、いくつかの実施形態では、これらのトランスジェニック受容体は、タンパク質由来ではない腫瘍関連抗原に指向させることができる。ある特定の実施形態では、NK細胞またはiPS NK細胞は、少なくとも1つのCARを含むように改変される。いくつかの実施形態では、単一のCARは、2つ以上の抗原を標的とする。
【0243】
いくつかの実施形態では、iNK細胞は、キメラであり、非天然であり、操作された受容体を含む。いくつかの実施形態では、操作されたキメラ抗原受容体(CAR)は、1つ、2つ、3つ、4つ、またはそれ以上の成分を有し、いくつかの実施形態では、1つ以上の成分は、1つ以上の腫瘍抗原含有がん細胞へのリンパ球の標的化または結合を促進する。
【0244】
いくつかの実施形態では、CARは、一般に、少なくとも1つの細胞外リガンド結合ドメインを含む少なくとも1つの膜貫通ポリペプチド及び少なくとも1つの細胞内シグナル伝達ドメインを含む1つの膜貫通ポリペプチドを含み、これにより、ポリペプチドが互いに集合して、キメラ抗原受容体を形成する。
【0245】
本明細書で使用される「細胞外リガンド結合ドメイン」という用語は、リガンドに結合することができるオリゴまたはポリペプチドとして定義される。好ましくは、ドメインは、細胞表面分子と相互作用することができるであろう。例えば、細胞外リガンド結合ドメインは、特定の疾患状態に関連する標的細胞で細胞表面マーカーとして作用するリガンドを認識するように選択され得る。
【0246】
特に、細胞外リガンド結合ドメインは、標的の抗原に対する抗体に由来する抗原結合ドメインを含むことができる。
【0247】
いくつかの実施形態では、NK細胞またはiPS NK細胞は、1つ以上のキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように遺伝子改変させ得る。いくつかの実施形態では、CARは、以下のうちの1つ以上から選択される腫瘍抗原を標的とする細胞外リガンド結合ドメインを含む:CD44、CD19、CD20、CD22、CD23、CD30、CD89、CD123、CS-1、ROR1、メソテリン、c-Met、PSMA、Her2、GD-2、CEA、MAGE A3 TCR、EGFR、HER2/ERBB2/neu、EPCAM、EphA2、CEA、BCMA。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原は、CD19である。
【0248】
いくつかの実施形態では、細胞外リガンド結合ドメインは、柔軟なリンカーによって結合された標的抗原特異的モノクローナル抗体の軽鎖(VL)可変断片及び重鎖(VH)可変断片を含む一本鎖抗体断片(scFv)である。
【0249】
いくつかの実施形態では、CARは、膜貫通ドメインを含む。いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインは、細胞外リガンド結合ドメインと膜貫通ドメインとの間にストーク領域を更に含む。本明細書で使用される「ストーク領域」という用語は、一般に、膜貫通ドメインを細胞外リガンド結合ドメインに連結するように機能する任意のオリゴまたはポリペプチドを意味する。特に、ストーク領域は、細胞外リガンド結合ドメインにより多くの柔軟性及びアクセス可能性を付与するために使用される。ストーク領域は、最大300アミノ酸、10~100アミノ酸、及び/または25~50アミノ酸を含み得る。ストーク領域は、CD8、CD4、またはCD28の細胞外領域の全部または一部、あるいは抗体定常領域の全部または一部など、天然に存在する分子の全部または一部に由来し得る。代替的に、ストーク領域は、天然に存在するストーク配列に対応する合成配列であり得るか、または完全に合成のストーク配列であり得る。好ましい実施形態では、上記ストーク領域は、ヒトCD8アルファ鎖の一部である。
【0250】
いくつかの実施形態では、CARは、細胞外リガンド結合ドメインの標的への結合後の細胞内シグナル伝達に寄与し、iPS NK細胞の活性化及び免疫応答をもたらすシグナル伝達ドメインまたは細胞内シグナル伝達ドメインを含む。「シグナル伝達ドメイン」という用語は、エフェクターシグナル機能シグナルを伝達し、細胞に特殊な機能を行うように指示するタンパク質の部分を指す。いくつかの実施形態では、iPS NK細胞は、シグナル伝達ドメインを含むCARを有する。
【0251】
いくつかの実施形態では、iPS NK細胞は、IL-15Rα/IL-15複合体を発現するように遺伝子改変されている。
【0252】
いくつかの実施形態では、膜貫通ポリペプチドは、免疫細胞の表面に、例えば、iPS NK細胞上に発現し、予め定義された標的細胞に対する免疫細胞の細胞応答を指示するために合わせて相互作用する能力を含む。細胞外リガンド結合ドメイン及び/またはシグナル伝達ドメインを含むCARの異なる膜貫通ポリペプチドは、一緒に相互作用して、標的リガンドとの結合後にシグナル伝達に関与し、免疫応答を誘導する。膜貫通ドメインは、天然源または合成源のいずれかに由来し得る。膜貫通ドメインは、任意の膜結合タンパク質または膜貫通タンパク質に由来し得る。
【0253】
いくつかの実施形態では、CARを発現するためのNK細胞の遺伝子改変は、(1)特定のCARに対応する遺伝子を合成するステップと、(2)CARに対応する遺伝子を含むベクターを調製するステップと、(3)CAR遺伝子を含むベクターでCD56+NK細胞を形質導入するステップと、を含むことができる。
【0254】
CARをコードする発現ベクターは、1つ以上のDNA分子または構築物として導入することができ、構築物(複数可)を含む宿主細胞の選択を可能にするであろう少なくとも1つのマーカーが存在し得る。
【0255】
構築物は、遺伝子及び調節領域を適宜、単離し、ライゲートし、適切なクローニング宿主にクローン化し、制限もしくは配列決定、または他の簡便な手段によって分析し得る従来の方法で調製することができる。特に、PCRを使用して、機能ユニットの全部または一部を含む個々の断片を単離することができ、必要に応じて、「プライマー修復」、ライゲーション、インビトロ突然変異誘発などを使用して、1つ以上の突然変異を導入することができる。完成し、適切な配列を有することが実証された構築物(複数可)は、その後、任意の簡便な手段によってCTLに導入することができる。構築物は、感染または細胞への形質導入のために、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、または単純ヘルペスウイルス(HSV)または他のもの(レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターなど)のような非複製欠陥ウイルスゲノムに組み込み、パッケージ化され得る。構築物は、所望に応じて、トランスフェクションのためのウイルス配列を含み得る。あるいは、構築物は、融合、エレクトロポレーション、バイオリスティック、トランスフェクション、リポフェクションなどによって導入され得る。宿主細胞は、構築物(複数可)の導入前に培養物中で成長及び拡大され得、その後、構築物(複数可)の導入及び構築物(複数可)の組み込みのための適切な処理を行う。次に、細胞は、構築物中に存在するマーカーによって拡大され、スクリーニングされる。上手く使用できる様々なマーカーには、hprt、ネオマイシン耐性、チミジンキナーゼ、ハイグロマイシン耐性などが含まれる。
【0256】
場合によっては、構築物が特定の遺伝子座に組み込まれることが望ましい、相同組換えの標的部位を有し得る。例えば、これは、内因性遺伝子をノックアウトし、それを相同組換えについて当技術分野で知られている物質及び方法を使用して、構築物によってコードされる遺伝子に(同じ遺伝子座または他の場所で)置き換えることができる。相同組換えのために、OMEGAまたはO-ベクターのいずれかを使用することができる。
【0257】
構築物は、少なくともCAR及び任意選択的に別の遺伝子をコードする単一のDNA分子、または1つ以上の遺伝子を有する異なるDNA分子として導入することができる。他の遺伝子としては、例えば、治療用分子または自殺遺伝子をコードする遺伝子が挙げられる。構築物は、それぞれ、同じまたは異なるマーカーで、同時にまたは連続して導入することができる。
【0258】
構築物DNAのストックを調製するために、及びトランスフェクションを実行するために使用され得る、細菌または酵母の複製起点、選択可能及び/または増幅可能なマーカー、原核生物または真核生物での発現のためのプロモーター/エンハンサーエレメントなど、有用なエレメントを含むベクターは、当技術分野で周知であり、多くは市販されている。
【0259】
使用方法
本発明による細胞は、がん、ウイルス感染または自己免疫障害の治療を必要とする患者において、がん、ウイルス感染または自己免疫障害を治療するために使用することができる。別の実施形態では、本発明による上記単離された細胞は、がん、自己免疫障害のウイルス感染症の治療を必要とする患者における、それらの治療のための医薬品の製造において使用することができる。
【0260】
本発明は、治療を必要とする患者を治療するための方法に依存し、上記方法は、以下の、(a)本発明によるキメラ抗原受容体細胞を提供するステップ、及び(b)上記患者に細胞を投与するステップの少なくとも1つを含む。
【0261】
上記治療は、改善、治癒、または予防的であり得る。それは、自己免疫療法の一部または同種免疫療法治療の一部のいずれかであり得る。自己とは、患者の治療に使用される細胞、細胞株、または細胞集団が、上記患者またはヒト白血球抗原(HLA)適合ドナーに由来することを意味する。同種異系とは、患者の治療に使用される細胞または細胞集団が、上記患者に由来するのではなく、ドナーに由来することを意味する。
【0262】
いくつかの実施形態では、記載された細胞は同種異系である。いくつかの実施形態では、記載された細胞は、自己由来である。
【0263】
治療は、がん、ウイルス感染症、自己免疫障害、または移植片対宿主病(GvHD)と診断された患者を治療するために使用できる。治療され得るがんとしては、血管新生されていない、または実質的に血管新生されていない腫瘍、ならびに血管新生された腫瘍が挙げられる。がんは、非固形腫瘍(例えば、白血病及びリンパ腫などの血液腫瘍)を含めてもよく、または固形腫瘍を含めてもよい。本発明のCARで治療されるがんの種類としては、これらに限定されないが、がん腫、芽細胞腫、及び肉腫、ならびに特定の白血病またはリンパ性悪性腫瘍、良性及び悪性腫瘍、ならびに肉腫、がん腫、及び黒色腫などの悪性腫瘍が挙げられる。成人腫瘍/がん及び小児腫瘍/がんも含まれる。
【0264】
いくつかの実施形態では、治療は、抗体療法、化学療法、サイトカイン療法、樹状細胞療法、遺伝子療法、ホルモン療法、レーザー光療法及び放射線療法の群から選択される、がんに対する1つ以上の療法と組み合わせる。
【0265】
いくつかの実施形態では、上記治療は、免疫抑制治療を受けている患者に投与することができる。
【0266】
更なる実施形態では、細胞組成物は、1つ以上の追加の療法と組み合わせて患者に投与される。例えば、いくつかの実施形態では、細胞組成物は、骨髄移植、フルダラビンなどの化学療法剤、体外照射療法(XRT)、シクロホスファミド、またはOKT3もしくはCAMPATHなどの抗体のいずれかを使用するT細胞除去療法と組み合わせて(例えば、前に、同時に、または後に)患者に投与される。別の実施形態では、本発明の細胞組成物は、CD20と反応する薬剤、例えばリツキサンなどのB細胞除去療法後に投与される。例えば、一実施形態では、対象は、高用量化学療法及びその後の末梢血幹細胞移植による標準治療を受けることができる。ある特定の実施形態では、移植後、対象は、本発明の増殖免疫細胞の注入を受ける。追加の実施形態では、増殖した細胞は、外科手術の前または後に投与される。本明細書に記載の方法のうちのいずれか1つによって得られる上記改変細胞は、宿主対移植片(HvG)拒絶及び移植片対宿主病(GvHD)に対して、それを必要とする患者を治療するための本発明の特定の態様において使用することができる。したがって、本発明の範囲は、宿主対移植片(HvG)拒絶及び移植片対宿主病(GvHD)に対してそれを必要とする患者を治療する方法であり、本方法は、不活化TCRアルファ遺伝子及び/またはTCRベータ遺伝子を含む有効量の改変細胞を上記患者に投与することによって上記患者を治療することを含む。
【0267】
細胞の投与
いくつかの実施形態では、細胞は、多種多様な方法で、宿主生物、例えば、哺乳動物に導入することができる。細胞は、特定の実施形態では、腫瘍の部位に導入され得るが、代替の実施形態では、細胞はがんに進行するか、またはがんに進行するように改変される。使用される細胞の数は、複数の状況、導入の目的、細胞の寿命、使用されるプロトコル、例えば、投与回数、細胞が増殖する能力、組換え構築物などの安定性に依存する。細胞は、分散液として適用してもよく、一般に、目的の部位またはその近くに注入される。細胞は、生理学的に許容される培地中にあり得る。一例では、本発明のNK細胞またはiPS NK細胞は、1つ以上のCAR、TCR、または高親和性CD16など、任意の他の操作されたタンパク質もしくはポリペプチドドメインを発現し得る。いくつかの実施形態では、細胞は、免疫認識を阻害するために内包化され、腫瘍の部位に配置される。
【0268】
細胞は、必要に応じて投与することができる。所望の応答、投与方法、細胞の寿命、存在する細胞の数に応じて、様々なプロトコルが用いられ得る。投与回数は、少なくとも部分的に上記の要因に依存する。
【0269】
本発明による細胞または細胞集団の投与は、エアロゾル吸入、注射、摂取、輸血、移植(implantation)または移植(transplantation)など、任意の簡便な方法で実行され得る。本明細書に記載の組成物は、患者に、皮下、皮内、腫瘍内、結節内、髄内、筋肉内、静脈内またはリンパ内注射による、または腹腔内での投与が可能である。一実施形態では、本発明の細胞組成物は、好ましくは静脈内注射によって投与される。
【0270】
核酸ベースの発現系
いくつかの実施形態では、本発明のNK細胞またはiPS NK細胞は、1つ以上のCAR、TCR、または高親和性CD16またはCD19などの任意の他の操作されたタンパク質またはポリペプチドドメインを発現するように操作される。これらのポリペプチドを含む発現ベクターを生成するための組換え技術は、当技術分野で周知であり、以下に一般的に記載される。
【0271】
ベクター
「ベクター」という用語は、複製することができる細胞に導入するために核酸配列を挿入することができる担体核酸分子を指すために使用される。核酸配列は「外因性」であり得、これは、ベクターが導入されている細胞にとって外来性であるか、または配列が細胞内の配列と相同であるが、通常、配列が発見されない宿主細胞の核酸内の任意の位置にあることを意味する。ベクターとしては、プラスミド、コスミド、及びウイルス(例えば、バクテリオファージ、動物ウイルス、及び植物ウイルス)、ならびに人工染色体(例えば、YAC)を挙げられる。当技術分野の技術のうちの1つは、標準的な組換え技術を介してベクターを構築するために十分に装備されている(例えば、Maniatis et al.、1988及びAusubel et al.,1994を参照、これらは、両方とも参照により本明細書に組み込まれる)。
【0272】
「発現ベクター」という用語は、転写可能なRNAをコードする核酸を含む任意の型の遺伝子構築物を指す。場合によっては、RNA分子は、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドに翻訳される。他の場合、例えば、アンチセンス分子またはリボザイムの産生においては、これらの配列は翻訳されない。発現ベクターは、様々な「制御配列」を含むことができ、これは、特定の宿主細胞における操作可能に連結されたコード配列の転写及びおそらく翻訳に必要な核酸配列を指す。転写及び翻訳を支配する制御配列に加えて、ベクター及び発現ベクターは、他の機能にも役立つ核酸配列を含み得、以下に記載される。
【0273】
プロモーター及びエンハンサー
「プロモーター」は、その場所で転写の開始及び速度が制御される核酸配列の領域である制御配列である。この配列は、RNAポリメラーゼ及び他の転写因子などの調節タンパク質及び分子が結合して、核酸配列の特定の転写を開始し得る遺伝子エレメントを含み得る。「操作可能に位置付けられた」、「操作可能に連結された」、「制御下にある」、及び「転写制御下にある」という句は、プロモーターが正しい機能的場所、及び/または転写開始及び/またはその配列の発現を制御するために、核酸配列に関連する配向にあることを意味する。
【0274】
プロモーターは一般に、RNA合成の開始部位を位置付けるように機能する配列を含む。この最もよく知られている例は、TATAボックスであるが、TATAボックスを含まない一部のプロモーター、例えば、哺乳動物の末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ遺伝子のプロモーター及びSV40後期遺伝子のプロモーターなどでは、開始部位に重なる個別のエレメント自体が、開始場所の固定に役立つ。追加のプロモーターエレメントは、転写開始の頻度を調節する。典型的には、これらは開始部位の30 110bp上流の領域に位置するが、複数のプロモーターが、開始部位の下流にも機能エレメントを含むことが示されている。プロモーターの「制御下にある」コード配列をもたらすために、選択されたプロモーターの「下流」(すなわち、3’)の転写リーディングフレームの転写開始部位の5’末端を位置付ける。「上流」プロモーターは、DNAの転写を刺激し、コードされたRNAの発現を促す。
【0275】
プロモーターエレメント間の間隔は、多くの場合、順応性があるため、エレメントが互いに反転する、または移動したときにプロモーター機能が保持されるようになる。tkプロモーターでは、活性が低下し始める前に、プロモーターエレメント間の間隔を長くして、50bp離すことができる。プロモーターに応じて、個々のエレメントが協調してまたは独立して機能し、転写を活性化できると考えられる。プロモーターは、核酸配列の転写活性化に関与するシス作用性調節配列を指す「エンハンサー」と組み合わせて使用されてもされなくてもよい。
【0276】
プロモーターは、コードセグメント及び/またはエクソンの上流に位置する5プライム’非コード配列を単離することによって得ることができるので、核酸配列に自然に関連するものであり得る。このようなプロモーターは、「内因性」と呼ばれ得る。同様に、エンハンサーは、その配列の下流または上流のいずれかに位置する、核酸配列に自然に関連するものであり得る。あるいは、特定の利点は、組換えまたは異種プロモーターの制御下にコード核酸セグメントを位置付けることによって得られる。これは、通常、その自然環境では核酸配列と関連しないプロモーターを指す。組換えまたは異種エンハンサーはまた、その自然環境において、核酸配列に通常は関連しないエンハンサーを指す。このようなプロモーターまたはエンハンサーには、他の遺伝子のプロモーターもしくはエンハンサー、及び他のウイルス、または原核生物もしくは真核生物細胞から単離されたプロモーターもしくはエンハンサー、及び「天然に存在しない」、すなわち、異なる転写調節領域の異なるエレメントを含むプロモーターもしくはエンハンサー、及び/または発現を変える突然変異が含まれ得る。例えば、組換えDNA構築物で最も一般的に使用されるプロモーターとして、ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)、ラクトース、及びトリプトファン(trp)プロモーター系が挙げられる。プロモーター及びエンハンサーの核酸配列を合成で産生することに加えて、配列は、本明細書に開示の組成物に関連する組換えクローニング及び/またはPCR(商標)などの核酸増幅技術を使用して産生され得る(各々が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第4,683,202号及び同第5,928,906号を参照)。更に、ミトコンドリア、葉緑体などの非核細胞小器官内の配列の転写及び/または発現を指示する制御配列も同様に使用できることが企図されている。
【0277】
当然のことながら、発現のために選択された細胞小器官、細胞種、組織、器官、または生物におけるDNAセグメントの発現を効果的に指示するプロモーター及び/またはエンハンサーを使用することが重要であろう。分子生物学の当業者であれば、一般に、タンパク質発現のためのプロモーター、エンハンサー、及び細胞種の組み合わせの使用を認識している(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Sambrook et al.1989を参照のこと)。使用されるプロモーターは、構成的、組織特異的、誘導性であり、及び/または組換えタンパク質及び/またはペプチドの大規模生産において有利であるような、導入されたDNAセグメントの高レベル発現を指示するために、適切な条件下で有用であり得る。プロモーターは、異種または内因性であり得る。
【0278】
更に、任意のプロモーター/エンハンサーの組み合わせを使用して、発現を駆動することもできる。T3、T7またはSP6細胞質発現系の使用は、別の可能な実施形態である。真核生物細胞は、適切な細菌ポリメラーゼが送達複合体の一部として、または追加の遺伝子発現構築物として提供される場合、特定の細菌プロモーターからの細胞質転写をサポートすることができる。
【0279】
組織特異的プロモーターまたはエレメントの同一性、ならびにそれらの活性の特徴を明らかにするためのアッセイは、当業者に周知である。
【0280】
コード配列の効率的な翻訳には、特定の開始シグナルも必要になり得る。これらのシグナルには、ATG開始コドンまたは隣接配列が含められる。ATG開始コドンなどの外因性翻訳制御シグナルを提供する必要があり得る。当業者であれば、これを容易に決定し、必要なシグナルを提供することができるであろう。
【0281】
本発明のある特定の実施形態では、内部リボソーム侵入部位(IRES)エレメントの使用は、多遺伝子またはポリシストロン性のメッセージを創出するために使用され、これらは、本発明において使用され得る。
【0282】
ベクターは、複数の制限酵素部位を含む核酸領域であるマルチクローニング部位(MCS)を含むことができ、これらのいずれも、ベクターを消化するための標準的組換え技術と併用して使用することができる。「制限酵素消化」とは、核酸分子内の特定の位置でのみ機能する酵素による核酸分子の触媒的切断を指す。これらの制限酵素の多くは、市販されている。かかる酵素の使用は、当業者によって広く理解されている。多くの場合、ベクターは、MCS内で切断する制限酵素を使用して、線形化または断片化され、外因性配列をベクターにライゲーションすることができる。「ライゲーション」とは、2つの核酸断片間にホスホジエステル結合を形成するプロセスを指し、これは、互いに隣接している場合と隣接していない場合とがある。制限酵素及びライゲーション反応を伴う技術は、組換え技術の当業者によく知られている。
【0283】
スプライシング部位、終結シグナル、複製起点、及び選択可能なマーカーも使用することができる。
【0284】
プラスミドベクター
ある特定の実施形態では、プラスミドベクターは、宿主細胞を形質転換するための使用が企図される。一般に、宿主細胞と適合性のある種由来のレプリコン及び制御配列を含有するプラスミドベクターが、これらの宿主に関連して使用される。このベクターは、通常、複製部位、及び形質転換細胞において表現型選択を提供することができるマーキング配列を有する。非限定的な例では、E.coliは、多くの場合、E.coli種に由来するプラスミドであるpBR322の誘導体を使用して形質転換される。pBR322には、アンピシリン及びテトラサイクリンの耐性遺伝子が含まれているため、形質転換細胞を容易に同定する手段をもたらす。pBRプラスミド、または他の微生物プラスミドまたはファージもまた、例えば、微生物がそれ自体のタンパク質の発現のために使用することができるプロモーターを含むか、または含むように改変される必要がある。
【0285】
加えて、宿主微生物と適合性のあるレプリコン及び制御配列を含有するファージベクターは、これらの宿主に関連して形質転換ベクターとして使用され得る。例えば、ファージラムダGEM(商標)11が、例えば、E.coli LE392などの宿主細胞を形質転換するために使用することができる組換えファージベクターを作製する際に利用され得る。
【0286】
更に有用なプラスミドベクターとしては、その後の精製及び分離または切断のために、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)可溶性融合タンパク質の生成に使用するためのpINベクター(Inouye et al.,1985)及びpGEXベクターが挙げられる。他の適切な融合タンパク質は、ガラクトシダーゼ、ユビキチンなどを有するものである。
【0287】
発現ベクターを含む細菌宿主細胞、例えば、E.coliは、複数の好適な培地のいずれか、例えば、LBで成長させる。特定のベクターにおける組換えタンパク質の発現は、当業者によって理解されるように、宿主細胞を特定のプロモーターに特異的な剤と接触させることによって、例えば、培地にIPTGを加えることによって、またはインキュベーションを高温に切り替えることによって誘導され得る。細菌を更に一定期間(通常は2~24時間)培養後、細胞を遠心分離によって収集し、洗浄して、残留培地を除去する。
【0288】
ウイルスベクター
特定のウイルスが受容体媒介エンドサイトーシスを介して細胞に感染するかまたは細胞に侵入し、宿主細胞のゲノムに組み込まれて、ウイルス遺伝子を安定的かつ効率的に発現する能力により、外来核酸を細胞(例えば、哺乳動物細胞)に移すための魅力的な候補となっている。本発明の成分は、1つ以上のCAR、TCR、または本発明の高親和性CD16などの他の任意の操作されたタンパク質またはポリペプチドドメインをコードするウイルスベクターであり得る。本発明の核酸を送達するために使用され得るウイルスベクターの非限定的な例を以下に記載する。
【0289】
アデノウイルスベクター
核酸を送達するための特定の方法は、アデノウイルス発現ベクターを使用することを含む。アデノウイルスベクターは、ゲノムDNAに組み込むには、能力が低いことが知られているが、この特徴は、これらのベクターによってもたらされる高効率の遺伝子導入によって相殺される。「アデノウイルス発現ベクター」は、(a)構築物のパッケージングをサポートする、及び(b)クローン化された組織または細胞特異的構築物を最終的に発現するのに十分なアデノウイルス配列を含む構築物を含むものを意味する。遺伝子構成またはアデノウイルス、36kb、直鎖、二本鎖DNAウイルスに関する知識により、大きな片のアデノウイルスDNAを最大7kbの外来配列に置換できる(Grunhaus and Horwitz,1992)。
【0290】
AAVベクター
核酸は、アデノウイルス支援トランスフェクションを用いて、細胞に導入させ得る。アデノウイルス連結系を使用した細胞系では、トランスフェクション効率の向上が報告されている(Kelleher and Vos,1994;Cotten et al.,1992;Curiel,1994)。アデノ随伴ウイルス(AAV)は、高い組み込み頻度を有し、非分裂細胞に感染し得るため、本発明の細胞内で使用するための魅力的なベクター系であり、したがって、例えば、組織培養(Muzyczka,1992)またはin vivoにおいて、哺乳動物細胞への遺伝子の送達に有用である。AAVは、感染性について広い宿主範囲を有する(Tratschin et al.,1984;Laughlin et al.,1986;Lebkowski et al.,1988;McLaughlin et al.,1988)。rAAVベクターの生成及び使用に関する詳細は、米国特許第5,139,941号及び同第4,797,368号に記載されており、各々が参照により本明細書に組み込まれる。
【0291】
レトロウイルスベクター
レトロウイルスは、遺伝子を宿主ゲノムに組み込み、大量の外来遺伝物質を移し、広範囲の種及び細胞種に感染させ、特殊な細胞株にパッケージングするその能力により、送達ベクターとして有用である(Miller,1992)。
【0292】
レトロウイルスベクターを構築するために、特定のウイルス配列の代わりに、核酸(例えば、所望の配列をコードするもの)をウイルスゲノムに挿入して、複製に欠陥のあるウイルスを産生させる。ビリオンを産生するために、gag遺伝子、pol遺伝子、及びenv遺伝子を含むが、LTR及びパッケージング成分を含まないパッケージング細胞株が構築される(Mann et al.,1983)。レトロウイルスLTR及びパッケージング配列とともに、cDNAを含む組換えプラスミドが特別な細胞株に導入されたときに(例えば、リン酸カルシウム沈殿によって)、パッケージング配列により、組換えプラスミドのRNA転写物は、ウイルス粒子にパッケージングさせ得、次いで、培養培地に分泌される(Nicolas and Rubenstein,1988;Temin,1986;Mann et al.,1983)。次に、組換えレトロウイルスを含む培地を収集し、任意により濃縮し、遺伝子導入のために使用される。レトロウイルスベクターは、多種多様な細胞種に感染し得る。しかし、組み込み及び安定した発現には、宿主細胞の分裂が必要である(Paskind et al.,1975)。
【0293】
レンチウイルスは、複雑なレトロウイルスであり、一般的なレトロウイルス遺伝子であるgag、pol、及びenvに加えて、調節機能または構造機能を含む他の遺伝子を含む。レンチウイルスベクターは、当技術分野において周知である(例えば、Naldini et al.,1996、Zufferey et al.,1997、Blomer et al.,1997、米国特許第6,013,516号及び同第5,994,136号を参照)。レンチウイルスのいくつかの例には、ヒト免疫不全ウイルス:HIV-1、HIV-2、及びサル免疫不全ウイルス:SIVが含まれる。レンチウイルスベクターは、HIV病原性遺伝子を多重に弱毒化することによって生成され、例えば、遺伝子env、vif、vpr、vpu、nefが欠失し、これにより、ベクターが生物学的に安全になる。
【0294】
組換えレンチウイルスベクターは、非分裂細胞に感染することができ、in vivo及びex vivoの両方での遺伝子導入及び核酸配列の発現に使用可能である。例えば、非分裂細胞に感染することができる組換えレンチウイルスでは、好適な宿主細胞が、パッケージング機能、すなわち、gag、pol、及びenv、ならびにrev及びtatを担持する2つ以上のベクターでトランスフェクトされることが、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,994,136号に記載されている。特定の細胞種の受容体を標的とするために、エンベロープタンパク質を抗体または特定のリガンドと連結させることによって、組換えウイルスを標的にすることができる。特定の標的細胞上の受容体のリガンドをコードする別の遺伝子とともに、目的の配列(調節領域を含む)をウイルスベクターに挿入することにより、例えば、ここでは、ベクターは、標的特異的となる。
【0295】
組み合わせ療法
本発明のある特定の実施形態では、臨床的態様のための本発明の方法は、抗がん剤など、過剰増殖性疾患の治療において有効な他の剤と組み合わされる。「抗がん剤」剤は、例えば、がん細胞を死滅させること、がん細胞にアポトーシスを誘導すること、がん細胞の成長速度を低下させること、転移の発生率または数を減少させること、腫瘍サイズを減少させること、腫瘍成長を阻害すること、腫瘍またはがん細胞への血液供給を減少させること、がん細胞または腫瘍に対する免疫応答を促進すること、がんの進行を予防することもしくは阻害すること、またはがんを有する対象の寿命を延長させることにより、対象において、がんに悪影響を与え得る。より一般的には、これらの他の組成物は、細胞を死滅させるまたは細胞の増殖を阻害するのに有効な組み合わせ量で提供されるであろう。このプロセスは、がん細胞を発現構築物及び剤(複数可)または複数の因子と同時に接触させることを含み得る。これは、細胞を単一の組成物または両方の剤を含む薬理学的製剤と接触させることによって、または細胞を2つの別個の組成物もしくは製剤と同時に接触させることによって達成することができ、ここで、一方の組成物は、発現構築物を含み、他方の組成物は、第2の剤(複数可)を含む。
【0296】
化学療法剤及び放射線療法剤に対する腫瘍細胞の耐性は、臨床腫瘍学において主要な問題である。現在のがん研究の1つの目標は、1つの治療法を他の治療法と組み合わせることにより、化学療法及び放射線療法の有効性を改善する方法を見つけることである。本発明の文脈において、細胞療法は、化学療法、放射線療法、または免疫療法の介入の併用、ならびにアポトーシス促進剤または細胞周期調節剤と同様に使用することができると考えている。
【0297】
あるいは、治療法は、数分から数週間の範囲の間隔で、他の剤治療の前にまたは後に行うことができる。他の剤及び本発明が個体に別々に適用される実施形態では、確実に、それぞれの送達時間の間に、有意な期間が終了することがなく、これにより、剤及び本発明の治療法は、依然として、細胞に対して有利に組み合わされた効果を発揮できるようになる。このような場合、これらが、両方のモダリティで、互いに約12~24時間以内に、より好ましくは、互いに約6~12時間以内に、細胞に接触し得ることを企図している。状況によっては、治療期間を有意に延長させることが望ましい場合があり得るが、この場合、それぞれの投与と投与の間に、数日(2、3、4、5、6、または7日)から数週間(1、2、3、4、5、6、7または8週)経過する。
【0298】
いくつかの実施形態では、治療サイクルは、必要に応じて繰り返される。様々な標準治療、ならびに外科的介入が、本発明の細胞療法と組み合わせて適用され得ることもまた企図される。
【0299】
化学療法
がん治療には、化学療法剤及び放射線治療の両方をベースにした治療との様々な組み合わせ療法も含む。組み合わせ化学療法としては、例えば、アブラキサン、アルトレタミン、ドセタキセル、ハーセプチン、メトトレキサート、ノバントロン、ゾラデックス、シスプラチン(CDDP)、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、カンプトテシン、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ブスルファン、ニトロソウレア、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリコマイシン(plicomycin)、マイトマイシン、エトポシド(VP16)、タモキシフェン、ラロキシフェン、エストロゲン受容体結合剤、タキソール、ゲムシタビエン、ナベルビン、ファルネシルタンパク質タンスフェラーゼ阻害剤、トランスプラチナ、5-フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン及びメトトレキサート、またはそれらの任意の類似物または誘導バリアント及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0300】
特定の実施形態では、個体のための化学療法は、本発明と併用して、例えば、本発明の投与前、本発明の投与中、及び/または本発明の投与後に、使用される。
【0301】
放射線療法
DNA損傷を引き起こし、かつ広く使用されている他の因子としては、一般に、ガンマ線、X線、及び/または腫瘍細胞への放射性同位元素の直接送達である。マイクロ波及び紫外線照射など、他の形態のDNA損傷因子も考えられる。これらの因子は全て、DNA、DNAの前駆体、DNAの複製及び修復、ならびに染色体のアセンブリング及び維持に対して、広範囲の損傷を与える可能性が最も高い。X線の線量範囲は、長期間(3~4週間)では1日線量50~200レントゲン、単回線量では2000~6000レントゲンの範囲である。放射性同位元素の線量範囲は、幅広く異なり、同位体の半減期、放出される放射線の強度及び種類、ならびに新生物細胞による取り込みに依存する。
【0302】
用語「接触させる」及び「曝露させる」は、細胞に適用されるときに、治療用構築物及び化学療法剤または放射線療法剤が標的細胞に送達されるか、もしくは標的細胞と直接並置される処理を説明するために本明細書で使用される。細胞死滅または停滞を達成するために、例えば、両方の剤が、細胞を死滅させる、または細胞の分裂を防ぐために有効な組み合わせ量で、細胞に送達される。
【0303】
免疫療法
免疫療法は一般に、免疫エフェクター細胞及び分子の使用に依存して、がん細胞を標的として破壊する。免疫エフェクターは、例えば、腫瘍細胞の表面上にあるいくつかのマーカーに特異的な抗体であり得る。抗体のみが治療のエフェクターとして作用し得る、または他の細胞を動員させて、実際に細胞を死滅させ得る。抗体はまた、薬物または毒素(化学療法剤、放射性核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素など)に結合させて、単に標的剤として作用し得る。あるいは、エフェクターは、腫瘍細胞標的と直接的または間接的に相互作用する表面分子を担持するリンパ球であり得る。様々なエフェクター細胞には、細胞傷害性T細胞及びNK細胞が含まれる。
【0304】
したがって、本明細書に記載の本発明の療法以外の免疫療法は、本細胞療法と併用して、組み合わせ療法の一部として使用できる。組み合わせ療法の一般的なアプローチについては、以下に論ずる。一般に、腫瘍細胞は、標的化に対応する、すなわち他の細胞の大部分には存在しない多少のマーカーを保持している必要がある。多くの腫瘍マーカーが存在し、これらのいずれも、本発明の文脈において、標的化に好適であり得る。一般的な腫瘍マーカーとしては、PD-1、PD-L1、CTLA4、がん胚性抗原、前立腺特異抗原、尿路腫瘍関連抗原、胎児抗原、チロシナーゼ(p97)、gp68、TAG-72、HMFG、シアリルルイス抗原、MucA、MucB、PLAP、エストロゲン受容体、ラミニン受容体、erb B及びp155が挙げられる。
【0305】
遺伝子
更に別の実施形態では、二次治療は、治療用ポリヌクレオチドが、本発明の臨床実施形態の前、後、または同時に投与される遺伝子療法である。細胞増殖の誘導物質、細胞増殖の阻害剤、またはプログラム細胞死の調節因子など、様々な発現産物が本発明に含まれる。
【0306】
外科手術
がん患者のおよそ60%は、予防的、診断的または病期分類、治癒的及び姑息的手術など、ある種の外科手術を受ける。治癒的手術は、本発明の治療、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子療法、免疫療法及び/または代替療法などの他の療法と併用して使用され得るがん治療である。
【0307】
治癒的手術としては、がん性組織の全部または一部を物理的に除去する、摘出すること、及び/または破壊すること、切除することを含む。腫瘍切除とは、腫瘍の少なくとも一部を物理的に除去することを指す。外科手術による治療としては、腫瘍の切除に加えて、レーザー手術、凍結手術、電気外科、及び顕微鏡制御手術(モース術)が挙げられる。更に、本発明は、表在性がん、前がん、または付随的な量の正常組織の除去と併用して、使用され得ることが企図される。
【0308】
全てのがん性細胞、組織、または腫瘍の一部を切除したときに、身体内に空洞が形成され得る。治療は、灌流、直接注射、または追加の抗がん療法を伴うその領域の局所適用によって達成することができる。このような治療は、例えば、1日、2日、3日、4日、5日、6日、または7日ごと、または1週、2週、3週、4週、及び5週ごと、または1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、または12ヶ月ごとに繰り返してもよい。これらの治療は、投薬量も変動し得る。
【0309】
NK細胞及びCAR-NK細胞の凍結保存
本明細書に開示されるNK細胞及びCAR-NK細胞は、凍結保存して、解凍後に細胞表現型を維持することができる。
【0310】
細胞の凍結保存のための組成物
免疫細胞のための任意の好適な凍結保存媒体には、限定されないが、参照により本明細書に組み込まれる、出願第PCT/US21/13591号に記載されるものを使用することができる。いくつかの態様では、凍結保存媒体は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、二糖、サイトカインを含む。いくつかの態様では、凍結保存媒体はまた、ヒト血清アルブミンまたはヒト血清を含む。
【0311】
NK細胞及びCAR-NK細胞の使用
本明細書に記載される方法で産生されるNK細胞は、様々な適用に使用することができる。例えば、本明細書に記載の凍結保存媒体内に含有されるCAR-NK細胞組成物を含む、本明細書に記載の組成物は、養子細胞療法に好適である。養子細胞療法は、例えば、がんを含む様々な疾患を治療するために使用することができる。ある特定の実施形態では、本明細書に記載される凍結保存媒体内に含有されるCAR-NK細胞組成物は、がんまたは腫瘍の治療に有用である。ある特定の実施形態では、がんは、乳房、心臓、肺、小腸、結腸、脾臓、腎臓、膀胱、頭部、頸部、卵巣、前立腺、脳、膵臓、皮膚、骨、骨髄、血液、胸腺、子宮、精巣、及び肝臓の腫瘍を含む。いくつかの実施形態では、がんは、血液がんである。いくつかの実施形態では、血液がんは、B細胞悪性腫瘍(例えば、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)である。
【0312】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の凍結保存媒体を使用して、養子細胞療法に使用される細胞を懸濁させる。したがって、いくつかの実施形態では、CAR-NK細胞組成物は、本明細書に記載の凍結保存媒体に懸濁される。
【0313】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の凍結保存媒体に懸濁したCAR-NK細胞組成物を使用して、がんを有する対象を治療する。いくつかの実施形態では、対象は本明細書に記載の凍結保存媒体内にCAR-NK細胞を含む組成物を投与される。いくつかの実施形態では、CAR-NK細胞は、抗CD19 CAR遺伝子及びIL-15遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、CAR-NK細胞は、抗CD19 CAR遺伝子、IL-15遺伝子、及びiカスパーゼ9を含む。いくつかの実施形態では、CAR-NK細胞は、それを必要とする対象に投与する前に洗浄されない。いくつかの実施形態では、CAR-NK細胞は、それを必要とする対象に投与する前に、凍結保存媒体で洗浄される。いくつかの実施形態では、解凍した細胞は、それを必要とする患者に、細胞を解凍してから約30分及び2時間以内に投与される。いくつかの実施形態では、対象への静脈内注入の速度は、約2~3分である。
【0314】
いくつかの実施形態では、養子細胞療法は、1つ以上の追加のがん治療、例えば、リンパ枯渇化学療法と組み合わせて使用される。したがって、いくつかの実施形態では、がんを有する対象は、本明細書に記載の凍結保存媒体に製剤化されたCAR-NK細胞療法生成物の投与前にリンパ枯渇化学療法を受ける。
【0315】
いくつかの実施形態では、CAR-NK細胞療法生成物は、本明細書に記載されるように凍結保存され、その後解凍され、それからそれを必要とする患者に投与される。例えば、本明細書に記載のCAR-NK細胞療法生成物は、凍結保存され、輸送され、解凍され、本明細書に記載のように、それを必要とする患者に投与される。したがって、いくつかの実施形態では、CAR-NK細胞療法生成物は、本明細書に記載のように製剤中に凍結保存され、その後解凍され、それからB細胞悪性腫瘍の治療のために患者に投与される。
【0316】
いくつかの実施形態では、凍結したCAR-NK細胞療法生成物は、本明細書に記載の凍結保存媒体中で、本明細書に記載の方法を使用して、バイアル(例えば、50mlのATバイアル)中に凍結され、-140℃~-196℃の範囲の温度で同じバイアル内で患者が位置する場所に輸送または出荷され、その結果、患者が位置する場所で細胞を解凍し、バイアルアダプタでバイアルに接続されたシリンジ(すなわち、バイアルから静脈への移送)を使用して患者に直接無菌的に投与することができる。例えば、いくらかの実施形態では、細胞療法生成物を輸送する方法は、(a)本明細書に記載の凍結保存媒体中にCAR-NK細胞を提供することと、(b)CAR-NK細胞を-80℃の温度に冷却し、それによって哺乳動物細胞を凍結保存することと、(c)凍結保存した哺乳動物細胞を、約-20℃~約-140℃以下の温度で異なる場所に輸送することと、を含む。したがって、いくつかの実施形態では、凍結保存した哺乳動物細胞は、-140℃以下の温度で維持された容器中で、異なる場所に輸送される。いくつかの実施形態では、凍結保存した哺乳動物細胞は、-140℃~-196℃の温度で維持された容器中で、異なる場所に輸送される。いくつかの実施形態では、凍結保存した哺乳動物細胞は、クライオシッパー内で異なる場所に輸送される。いくつかの実施形態では、輸送された細胞は、患者への投与までクライオシッパーに保存され得る。いくつかの実施形態では、輸送された細胞は、-140℃以下の温度で異なる場所に保存される。いくつかの実施形態では、輸送された細胞は、-140℃~-196℃の温度で異なる場所に保存される。いくつかの実施形態では、輸送された細胞は、異なる場所で受領時から将来の使用時まで液体窒素気相で保存される。したがって、保存は、臨床サイト冷凍庫または液体窒素の気相中で-140℃以下の温度を維持するタンクを使用して達成することができる。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、IL-15及びiカスパーゼ9を更に含むCD19-CAR-NK細胞の集団である。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、1ミリリットル当たり約600万~1億2000万個の細胞の濃度で容器内に凍結保存される。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、1ミリリットル当たり約600万~1億2000万個の細胞の濃度で50mL容器内に凍結保存される。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、1ミリリットル当たり約300万~1億5000万個の細胞の濃度で50mL容器内に凍結保存される。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、1ミリリットル当たり約100万~2億5000万個の細胞の濃度で50mL容器内に凍結保存される。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、1ミリリットル当たり約100万~3億5000万個の細胞の濃度で50mL容器内に凍結保存される。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、1ミリリットル当たり約100万~5億個の細胞の濃度で50mL容器内に凍結保存される。
【0317】
いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、50mL容器に、約20×106~100×107個の細胞を含む。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、50mL容器に、約100×106~900×106個の細胞を含む。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、50mL容器に、約50×106個の細胞を含む。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、50mL容器に、約100×106個の細胞を含む。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、50mL容器に、約200×106個の細胞を含む。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、50mL容器に、約200×106個の細胞を含む。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、50mL容器に、約300×106個の細胞を含む。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、50mL容器に、約400×106個の細胞を含む。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、50mL容器に、約500×106個の細胞を含む。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、50mL容器に、約600×106個の細胞を含む。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、50mL容器に、約700×106個の細胞を含む。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、50mL容器に、約800×106個の細胞を含む。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、50mL容器に、約900×106個の細胞を含む。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、50mL容器に、約1000×106個の細胞を含む。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、50mL容器に、約1500×106個の細胞を含む。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、50mL容器に、約2000×106個の細胞を含む。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、50mL容器に、約2500×106個の細胞を含む。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、50mL容器に、約3000×106個の細胞を含む。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、50mL容器に、約3500×106個の細胞を含む。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、50mL容器に、約4000×106個の細胞を含む。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、50mL容器に、約4500×106個の細胞を含む。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、50mL容器に、約5000×106個の細胞を含む。
【0318】
いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、50mL容器に、約20~45mLの充填体積で含まれる。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、50mL容器に、約36mLの充填体積で含まれる。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、NK細胞、T細胞、またはB細胞などの免疫細胞である。いくつかの実施形態では、免疫細胞は、1つ以上の導入遺伝子、例えば、キメラ抗原受容体(CAR)を含むように操作される。いくつかの実施形態では、細胞はCAR-NK+細胞である。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、CD19-CAR、IL-15導入遺伝子、及びiカスパーゼ9を含む。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、50ml容器に、約100×106~900×106個のCAR-NK+細胞を含む。いくつかの実施形態では、存在する細胞療法生成物は、50ml容器に、200×106個のCAR-NK+細胞である。いくつかの実施形態では、存在する細胞療法生成物は、50ml容器に、300×106個のCAR-NK+細胞である。いくつかの実施形態では、存在する細胞療法生成物は、50ml容器に、400×106個のCAR-NK+細胞である。いくつかの実施形態では、存在する細胞療法生成物は、50ml容器に、500×106個のCAR-NK+細胞である。いくつかの実施形態では、存在する細胞療法生成物は、50ml容器に、600×106個のCAR-NK+細胞である。いくつかの実施形態では、存在する細胞療法生成物は、50ml容器に、700×106個のCAR-NK+細胞である。いくつかの実施形態では、存在する細胞療法生成物は、50ml容器に、800×106個のCAR-NK+細胞である。いくつかの実施形態では、存在する細胞療法生成物は、50ml容器に、900×106個のCAR-NK+細胞である。
【0319】
輸送された細胞療法生成物を、本明細書に記載されるように解凍し、続いてそれを必要とする患者に投与することができる。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、患者のベッドサイドで解凍される。いくつかの実施形態では、細胞療法生成物は、それを必要とする患者への投与前に洗浄されない。
【0320】
いくつかの実施形態では、輸送された細胞療法生成物は、異なる場所での更なる保存のために凍結されたままである。いくつかの実施形態では、解凍した細胞は、細胞と凍結保存溶液とを分離することなく、それを必要とする対象に導入される。したがって、いくつかの実施形態では、解凍した細胞は、使用前に洗浄されない。解凍した細胞及び付随する凍結保存溶液は、好ましくは、対象への導入前に、体温(すなわち、約37℃)まで加温される。かかる状況では、細胞の用量は、凍結前細胞数に基づく。
【0321】
いくつかの実施形態では、解凍した細胞は更に培養される。いくつかの実施形態では、培養することは、細胞をインキュベーターに配置することと、緩衝溶液を除去することと、緩衝溶液を、細胞の増殖及び/または分化のために設計された培養培地で置き換えることと、を含む。いくつかの実施形態では、細胞は、インキュベーター内で約6~7時間インキュベートされる。いくつかの実施形態では、細胞の増殖及び/または分化のために設計された培養培地は、クボタの培地及び/または細胞の分化のためのホルモンによって定義された培地(HDM)を含む。
【0322】
解凍した細胞の生存率は、当該技術分野で既知の様々な方法を使用して、インビトロならびにインビボで評価することができる。いくつかの実施形態では、インビトロ細胞生存率試験は、トリパンブルー除外アッセイを含む。いくつかの実施形態では、他の分析方法、例えば、RT-qPCRなどの使用を介した遺伝子発現を使用して、異なる凍結保存媒体で凍結されていて解凍された細胞の細胞生存率を評価することができる。当業者であれば、他の新鮮な細胞の細胞生存率を評価するために適用することができる、解凍した細胞の生存率を評価するための任意の分析方法を選択することができる。
【0323】
一般に、インビボでの細胞の生存率は、インビボで投与された細胞の機能特性を評価することによって評価することができる。いくつかの実施形態では、細胞のインビボ生存率は、必要とする対象に導入されている細胞の細胞数を評価することによって評価することができる。細胞を追跡し、投与された細胞の生存率を決定するための様々な方法が、当該技術分野で知られている。
【0324】
本明細書に記載の凍結保存媒体を使用して凍結保存及び解凍した細胞は、一次細胞または新鮮な細胞単離物が有することができる任意の目的のために細胞を使用することを可能にする。凍結保存及び解凍した細胞は、高い生存率(例えば、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または95%超)を保持し、それらの天然状態の生理学的特性を保持し、細胞の遺伝子操作のため、及び例えば、養子細胞療法用途などの細胞療法目的のためなど、様々な用途に使用することを可能にする。
【0325】
CAR-NK細胞の投与
本発明のCAR改変NK細胞は、単独で、あるいは希釈剤及び/またはIL-2もしくは他のサイトカインなどの他の成分または細胞集団と組み合わせた医薬組成物としてのいずれかで投与され得る。本発明の医薬組成物は、本明細書に記載の標的細胞集団を、1つ以上の薬学的もしくは生理学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤と組み合わせて含み得る。そのような組成物は、緩衝液、例えば、中性緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水など、炭水化物、例えば、グルコース、マンノース、スクロースまたはデキストラン、マンニトールなど、タンパク質、ポリペプチドまたはグリシンなどのアミノ酸、抗酸化剤、キレート剤、例えば、EDTAまたはグルタチオンなど、アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム)、及び防腐剤を含んでよい。いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、静脈内投与のために製剤化される。
【0326】
本発明の医薬組成物は、治療(または予防)される疾患に適した手法で投与されてよい。投与の量及び頻度は、患者の状態、ならびに患者の疾患の種類及び重症度などの要因によって決定されるが、適切な投与量は、臨床試験によって決定され得る。
【0327】
「免疫学的有効量」、「抗腫瘍有効量」、「腫瘍阻害有効量」、または「治療量」が示される場合、投与される本発明の組成物の正確な量は、患者(対象)の年齢、体重、腫瘍サイズ、感染または転移の範囲、及び状態における個体差を考慮して、医師によって決定することができる。本明細書に記載されるNK細胞を含む医薬組成物は、細胞約104~109個/kg体重、例えば、細胞約105~106個/kg体重の投与量で投与され得ると一般に明言することができる。NK細胞組成物も、これらの投与量で複数回投与され得る。細胞は、免疫療法で一般的に知られている注入技法を使用することによって投与することができる。特定の患者に最適な投与量及び治療レジーム(regime)は、患者を疾患の兆候について監視し、適宜に治療を調整することによって、医学分野の技術者によって容易に決定され得る。
【0328】
対象組成物の投与は、エアロゾル吸入、注射、摂取、注入、移植、または移植によるなど、任意の簡便な方法で実行され得る。本明細書に記載の組成物は、患者に、皮下で、皮内で、腫瘍内で、結節内で、髄内で、筋肉内で、静脈内(i.v.)注射によって、または腹腔内で、投与され得る。一実施形態では、本発明のNK細胞組成物は、患者に、皮内または皮下注射によって投与される。別の実施形態では、本発明のNK細胞組成物は、好ましくはi.v.注射によって投与される。NK細胞の組成物は、腫瘍、リンパ節、または感染部位に直接注射され得る。
【0329】
本発明のある特定の実施形態では、本明細書に記載の方法を使用して活性化及び増殖された細胞は、患者に、抗ウイルス療法、シドフォビル及びインターロイキン-2、シタラビン(ARA-Cとしても知られる)またはナタリジトマブ(natalizitmab)治療もしくはエファイイズマブ(efaiizumab)治療などの薬剤による治療を含むが、これらに限定されない、任意の数の関連する治療モダリティと併せて(例えば、前、同時、または後のいずれか)投与される。更なる実施形態では、本発明のNK細胞は、化学療法、放射線、シクロスポリン、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノール酸塩、及びFK506などの免疫抑制剤、抗体、またはCAM PATH、抗CD3抗体もしくは他の抗体療法、サイトキシン(cytoxin)、フリイダリビン(fliidaribine)、シクロスポリン、FK506、ラパマイシン、ミコフェノール酸、ステロイド、FR901228、サイトカイン、及び照射などの他の免疫除去剤と組み合わせて使用され得る。いくつかの実施形態では、本発明の細胞組成物は、患者に、骨髄移植、フルダラビンなどの化学療法剤、体外照射療法(XRT)、シクロホスファミド、またはOKT3もしくはCAMPATHなどのいずれかを使用するT細胞除去療法と組み合わせて(例えば、前に、同時に、または後に)投与される。いくつかの実施形態では、本発明の細胞組成物は、CD20と反応する薬剤、例えばリツキサンなどのB細胞除去療法後に投与される。例えば、いくつかの実施形態では、対象は、高用量化学療法及びその後の末梢血幹細胞移植による標準治療を受け得る。ある特定の実施形態では、移植後、対象は、本発明の増殖免疫細胞の注入を受ける。追加の実施形態では、増殖した細胞は、外科手術の前または後に投与される。
【0330】
患者に投与される上記治療の投与量は、治療される状態の正確な性質及び治療のレシピエントによって異なるであろう。ヒト投与のための投与量の増減は、当技術分野で認められている慣行に従って行うことができる。いくつかの実施形態では、約1~約100mgの用量が、成人患者に投与される。いくつかの実施形態では、CAR-NK細胞療法は、1~30日の期間、毎日投与される。いくつかの実施形態では、1日当たり1~10mgが、毎日投与される。いくつかの実施形態では、1日当たり約40mgが投与される。
【実施例】
【0331】
本発明の他の特徴、目的、及び利点は、以下の実施例において明らかである。しかしながら、本発明の実施形態を示しながら、実施例が、限定ではなく、例示としてのみ、与えられることを理解するべきである。実施例から、本発明の範囲内での様々な変更及び修正が、当業者に明らかになるであろう。
【0332】
実施例1.iPS細胞のHP細胞バルクへの分化
iPS細胞株であるFfI-01s04株は、健康な個体の末梢血単核細胞に由来した。StemFit完全培地に分散したFfI-01s04細胞を、低酸素(5%O2)条件下で、超低接着処理した6ウェルプレートに細胞6×105個/ウェルで播種した(「0日目」)。StemFit完全培地は、10μM CHIR99021及び50μM Y-27632を含んだ。翌日(すなわち、1日目)に、FfI-01s04細胞を、BMP4(50ng/mL)、VEGF(50ng/mL)、bFGF(50ng/mL)、及びアスコルビン酸2-ホスフェート(50μg/mL)を含有する造血前駆細胞(HPC)分化培地に分散させた。HPC誘導培地は、ヒトインスリン(10μg/mL)、ヒトトランスフェリン(5.5μg/mL)、セレン酸ナトリウム(6.7ng/mL)、L-グルタミン(2mM)、及びα-モノチオグリセロール(0.4mM)を補充したStemPro34を含んだ。2日目に、SB431542(培地中6μM)を培養培地(すなわち、細胞を含むHPC分化培地)に添加し、細胞を2日間培養した。4日目に、細胞を、VEGF(50ng/mL)、bFGF(50ng/mL)、SCF(50ng/mL)、及びアスコルビン酸2-ホスフェート(50μg/mL)を含有する別の培地中に再分散させ、更に3日間培養した。7日目に、細胞を、VEGF(50ng/mL)、bFGF(50ng/mL)、SCF(50ng/mL)、アスコルビン酸2-ホスフェート(50μg/mL)、TPO(30ng/mL)、及びFlt3L(10ng/mL)を含有する別の培地に曝露し、この培地を使用して更に7日間培養した。この7日間の培養期間中、培地は、2~3日ごとに交換した。
【0333】
実施例2.CD4-細胞を含む集団へのHP細胞バルクの分化
14日目に、実施例1から得られた細胞集団をいかなる細胞単離も行うことなく(「HP細胞バルク」)、15cmディッシュに細胞3.12×106個/ディッシュで播種し、5%O2下、37℃で培養した。様々な播種密度を使用してよく、前述の播種密度は、一実施形態であることに留意されたい。各15cmディッシュは、rh-DLL4/Fc キメラ(Sino Biological)及びRetroNectin(Takara Bio Inc)でコーティングした。この培養期間中、培地は2~3日ごとに交換した。15%のFBS、4mMのL-グルタミン、100U/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシン、55μMの2-メルカプトエタノール、50μg/mLのアスコルビン酸2-ホスフェート、10μg/mLのヒトインスリン、5.5μg/mLのヒトトランスフェリン、6.7ng/mLのセレン酸ナトリウム、50ng/mLのSCF、50ng/mLのIL-7、50ng/mLのFlt3L、100ng/mLのTPO、15μMのSB203580、30nMのSDF-1αを補充したMEMα(Thermo Fisher Scientific(Gibco))を、これらの細胞を培養する培地として使用した。21日目に、新たにhDLL4/RetroNectinをコーティングした新しい15cmディッシュに細胞を継代させた。28日目に、新たにhDLL4/RetroNectinをコーティングした新しい15cmディッシュに細胞を更に継代させた。35日目に、とりわけ、CD4-細胞を含む全ての細胞を回収した。
【0334】
実施例3.NK細胞バルクへのバルクの分化
35日目に、CD4-細胞、すなわち、いかなる細胞単離も行わずに実施例2から得られた細胞を含む集団を、48ウェルプレートに細胞1×106個/ウェルで播種し、5%CO2下、37℃で3日間培養した。15%のFBS、4mMのL-グルタミン、100U/mLのペニシリン、100ng/mLのストレプトマイシン、50μg/mLのアスコルビン酸2-ホスフェート、10μg/mLのヒトインスリン、5.5μg/mLのヒトトランスフェリン、6.7ng/mLのセレン酸ナトリウム、500ng/mLの抗CD3抗体(UCHT1)、10ng/mLのIL-2、及び10ng/mLのIL-7を補充したMEMα培地を培地として使用した。38日目に、細胞を、15%FBS、4mMのL-グルタミン、100U/mLのペニシリン、100ng/mLのストレプトマイシン、50μg/mLのアスコルビン酸2-ホスフェート、10μg/mLのヒトインスリン、5.5μg/mLのヒトトランスフェリン、6.7ng/mLの亜セレン酸ナトリウム、10ng/mLのIL-2、及び10ng/mLのIL-7を補充した別のMEMα培地に分散させ、培養培地として使用した。42日目に、NK細胞を含む全ての細胞(「NK細胞バルク」)を回収した。
【0335】
実施例4.NK細胞バルクへのバルクの分化-CD4-細胞濃縮
いくつかの実施形態では、実施例2から得られた細胞の集団は、CD4-である細胞について濃縮するように処理される。これは、例えば、CD4+細胞を枯渇させる方法(すなわち、CD4+細胞枯渇)で行うことができる。例示的な方法について後述する。
【0336】
CD4+細胞枯渇
いくつかの実施形態では、35日目に、実施例2で得られた集団は、CD4抗原を発現する細胞を枯渇させる。具体的には、実施例2から得られた細胞集団を、蛍光活性化細胞選別(FACS)または磁気ベースの選別方法(MACS)などの細胞枯渇方法に供して、CD4抗原を発現する集団中の細胞を枯渇させ、それによって、実施例2から得られた細胞集団におけるCD4+細胞を枯渇させる。この手段で、細胞は、CD4-細胞について濃縮したものが得られる。
【0337】
CD4+細胞枯渇後、濃縮したCD4-細胞を48ウェルプレートに細胞1×106個/ウェルで播種し、5%CO2下、37℃で3日間培養する。15%FBS、4mMのL-グルタミン、100U/mLのペニシリン、100ng/mLのストレプトマイシン、50μg/mLのアスコルビン酸2-ホスフェート、10μg/mLのヒトインスリン、5.5μg/mLのヒトトランスフェリン、6.7ng/mLのセレン酸ナトリウム、500ng/mLの抗CD3抗体(UCHT1)、10ng/mLのIL-2、及び10ng/mLのIL-7を補充したMEMα培地を培養培地として使用する。38日目に、細胞を、15%FBS、4mMのL-グルタミン、100U/mLのペニシリン、100ng/mLのストレプトマイシン、50μg/mLのアスコルビン酸2-ホスフェート、10μg/mLのヒトインスリン、5.5μg/mLのヒトトランスフェリン、6.7ng/mLの亜セレン酸ナトリウム、10ng/mLのIL-2、及び10ng/mLのIL-7を補充した別のMEMα培地に分散させ、培養培地として使用する。42日目に、NK細胞を含む全ての細胞(「NK細胞バルク」)を回収する。
【0338】
実施例5.フローサイトメトリー分析
次に、NK細胞バルクを表1に列挙した抗体のセットで染色し、フローサイトメトリーによって分析した。
図1に示されるように、CD3陰性NK細胞バルクの一部は、CD56を発現した(「CD56+/CD3-細胞」)。CD56+/CD3-細胞は、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)である。したがって、CD56+/CD3-細胞は、iPSC(FfI-01s04株)から誘導されたHPCバルクから調製した。上記のプロセスで得られたCD56を発現する細胞は、iPS NK細胞と呼ばれることもある。フローサイトメトリーに使用した抗体を表1に示す。
【0339】
【0340】
実施例6.単一細胞RNA配列(scRNAseq)分析
NK細胞バルク集団(すなわち、実施例3または実施例4で得られた細胞)における異なる細胞種を特定するために、非線形次元削減技法(単一細胞RNA-seq(scRNAseq)に基づく均一多様体近似及び投影(UMAP))を適用した。
【0341】
GenewizのIIumina NextSeq 500で、NK細胞バルクの1万個の細胞に対して、単一細胞RNA配列決定を行った。SingleRアルゴリズム及び手動クラスターラベリングを使用して、事象を4つの幅広い細胞集団(PBMCサンプル中の単球、B細胞、NK細胞、及びT細胞)に分類した。10X Genomicsから無料で入手できるPBMCのデータセットを、データ分析の対照として使用した。
【0342】
図2に示されるように、NK細胞バルク中の約75%の細胞が、NK細胞として特定され、NK細胞バルク中の約25%の細胞が、T細胞として特定された。したがって、NK細胞バルクには、単一細胞RNA配列決定によるmRNAプロファイリングに基づいて、NK細胞及びT細胞の両方が含まれていた。
【0343】
実施例7.CAR-NK細胞調製
NK細胞は、1つ以上のCARを発現するように更に改変させた。NK細胞の改変は、(1)抗CD19 CAR遺伝子及びIL-15Rα/IL-15遺伝子を合成するステップと、(2)抗CD19 CAR遺伝子及びIL-15Rα/IL-15遺伝子を含むレトロウイルスベクターを調製するステップと、(3)抗CD19 CAR遺伝子及びIL-15Rα/IL-15遺伝子を含むレトロウイルスベクターでNK細胞を形質導入するステップと、を含む。
【0344】
CAR/IL15-NK細胞の調製
抗CD19 CAR遺伝子は、表2に示されるように、N末端から配置されるように設計されるオリゴペプチドを合成することによって調製した。
【0345】
【0346】
抗CD19 CARは、WO2014/153270(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に従って構築した。
【0347】
IL-15Rα/IL-15遺伝子の調製
IL-15Rα/IL-15遺伝子は、N末端から配置されるように設計されるオリゴペプチドを合成することによって調製した。IL-15Rα/IL-15は、Mortier et al.,2006,The Journal of Biological Chemistry,Vol 281,No 3,pages 1612-1619,January 20,2006、Chertova et al.,The Journal of Biological Chemistry,Vol.288,No.25,Pages 18093-18103,June 21,2013、及びRowley et al.,Eur J Immunol,2009 February;39(2):491-506(各々が参照により本明細書に組み込まれる)に従って構築した。
【0348】
【0349】
抗CD19 CAR遺伝子を含むレトロウイルスベクターの調製
抗CD19 CAR遺伝子は、pMYレトロウイルスベクターのマルチクローニング部位に組み込ませた。レトロウイルスベクターは、レトロウイルスベクターを産生するために、FRY-RD18細胞を使用して生成した。
【0350】
IL-15Rα/IL-15遺伝子を含むレトロウイルスベクターの調製
IL-15Rα/IL-15遺伝子は、別のpMYレトロウイルスベクターのマルチクローニング部位に組み込ませた。レトロウイルスベクターは、レトロウイルスベクターを生産するために、FRY-RD18細胞を使用して生成した。
【0351】
抗CD19CAR遺伝子及びIL-15Rα/IL-15遺伝子のiPS NK細胞への形質導入
iPS NK細胞は、抗CD19 CAR遺伝子を含むレトロウイルスベクター、及びIL-15Rα/IL-15遺伝子を含むレトロウイルスベクターで形質導入させて、抗CD19 CAR発現iPS NK細胞(「iNK-CAR19」)を生成した。
【0352】
実施例8.iNK-CAR19のインビボ抗腫瘍活性
ルシフェラーゼ発現性Nalm6細胞(ATCC、がん細胞)(5×105細胞)を、尾静脈を介して、NOD/Shi-scid、IL-2Rガンマヌルマウス(「NSGマウス」)に移植した。NSGマウス(雄、4~5週齢)は、Jackson Laboratoryから入手した。Nalm6細胞移植の4日後、0.2mlのPBSまたは細胞を含まないわずか0.2mlのPBSに分散させたiNK-CAR19(1×107細胞)を、尾静脈を介してNalm6移植NSGマウスに投与した。iNK-CAR19細胞またはPBSを投与後、尾静脈を介してルシフェリンをマウスに投与した。ルシフェラーゼ活性は、IVISイメージングシステム(PerkinElmer)を使用して、70日以上測定した。
【0353】
図3は、未処置(緩衝液のみで処置)及びiNK-CAR19細胞処置したNalm6移植NSGマウスの抗腫瘍効果を示す。3日後、D-PBS緩衝液で処理した全てのマウスにおいて、発光が検出された。対照的に、他のマウス(初代CAR T細胞またはiNK-CAR細胞のいずれかで処理)では、投与後28日まで、発光は検出されず、また、処理後70日目でも、iNK-CAR19細胞で処理された1匹のマウスでは、発光は検出されなかった。したがって、iNK-CAR19細胞は、Nalm6がん細胞に対する増強した毒性を明確に実証した。
【0354】
等価物及び範囲
当業者は、ほんの日常的な実験を使用して、本明細書に記載される本発明の特定の実施形態に対する多くの同等物を認識するか、または確認することができるであろう。本発明の範囲は、上記説明に限定されることを意図するものではなく、むしろ以下の特許請求の範囲に記載される通りである。
【国際調査報告】