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特表2024-523347薬物送達デバイスおよび薬物送達デバイスを動作させるための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】薬物送達デバイスおよび薬物送達デバイスを動作させるための方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/315 20060101AFI20240621BHJP
【FI】
A61M5/315 550R
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577591
(86)(22)【出願日】2022-06-15
(85)【翻訳文提出日】2024-01-18
(86)【国際出願番号】 EP2022066312
(87)【国際公開番号】W WO2022263514
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】21315096.4
(32)【優先日】2021-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】オリバー・チャールズ・ガゼレイ
(72)【発明者】
【氏名】マシュー・メレディス・ジョーンズ
(72)【発明者】
【氏名】プラサンナー・ナナヤッカラ
【テーマコード(参考)】
4C066
【Fターム(参考)】
4C066BB01
4C066CC01
4C066QQ48
4C066QQ52
4C066QQ55
4C066QQ82
4C066QQ84
(57)【要約】
本発明は、薬物送達デバイス(1)およびこれを動作させる方法に言及する。薬物送達デバイス(1)は、ハウジング(10;32)と、薬物送達デバイス(1)によって送達される個々の用量を設定するために、使用者が手動で操作可能なダイヤルグリップ(12)と、ダイヤルグリップ(12)の操作に応答して用量設定動作を実行するように構成され、設定用量を送達する用量送達動作を実行するように構成された用量設定および駆動機構と、ダイヤルグリップ(12)をハウジング(10;32)ならびに/または用量設定および駆動機構に回転可能に連結および連結解除するために2つのクラッチ部材(21、22;31、33;43、44)を含むクラッチ(20)と、少なくとも1つのプロセッサと、少なくとも1つのプロセッサに連結され、用量設定動作を示す測定データを生成するように動作可能であるセンサ装置(29、30)と、少なくとも1つのプロセッサに連結された電源(28)とを含む。薬物送達デバイス(1)は、クラッチ(20)の状態の切り替えをトリガするために、少なくとも1つのプロセッサによって動作可能なクラッチアクチュエータ(23、24;23;39、23、42)をさらに含む。少なくとも1つのプロセッサは、センサ装置(29、30)によって生成された測定データが閾値に達した場合に、クラッチアクチュエータ(23、24;23;39、23、42)を動作させるように構成される。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物送達デバイス(1)であって、
ハウジング(10;32)と、
該薬物送達デバイス(1)によって送達される個々の用量を設定するために、使用者が手動で操作可能なダイヤルグリップ(12)と、
該ダイヤルグリップ(12)の操作に応答して用量設定動作を実行するように構成され、設定用量を送達する用量送達動作を実行するように構成された用量設定および駆動機構と、
2つのクラッチ部材(21、22;31、33;43、44)を含み、ダイヤルグリップ(12)をハウジング(10;32)ならびに/または用量設定および駆動機構に回転可能に連結する状態から、ダイヤルグリップ(12)をハウジング(10;32)ならびに/または用量設定および駆動機構から連結解除する状態への切り替え、またはその逆の切り替えを実行するように適用されたクラッチ(20)と、
少なくとも1つのプロセッサと、
該少なくとも1つのプロセッサに連結され、用量設定動作を示す測定データを生成するように動作可能であるセンサ装置(29、30)と、
少なくとも1つのプロセッサに連結された電源(28)と
を含み、
該薬物送達デバイス(1)は、クラッチ(20)の状態の切り替えをトリガするために、少なくとも1つのプロセッサによって動作可能なクラッチアクチュエータ(23、24;23;39、23、42)をさらに含み、
少なくとも1つのプロセッサは、センサ装置(29、30)によって生成された測定データが閾値に達した場合に、クラッチアクチュエータ(23、24;23;39、23、42)を動作させるように構成されることを特徴とする、前記薬物送達デバイス。
【請求項2】
クラッチアクチュエータ(23、24;23;39、23、42)は、クラッチ部材(21、22;31、33;43、44)のうちの少なくとも1つを並進させるまたはロックする電気駆動部を含む、請求項1に記載の薬物送達デバイス(1)。
【請求項3】
クラッチアクチュエータ(23、24;23;39、23、42)は、少なくとも1つの電磁コイル(23)およびアクチュエータピン(24;39;42)を含むソレノイドアクチュエータである、請求項2に記載の薬物送達デバイス(1)。
【請求項4】
アクチュエータピン(24;39;42)はクラッチ部材(22;43)のうちの1つに固定されている、請求項3に記載の薬物送達デバイス(1)。
【請求項5】
少なくとも1つの電磁コイル(23)は、該少なくとも1つの電磁コイル(23)を第1の極性で充電すると、アクチュエータピン(24;39;42)を第1の方向に付勢する力が生じる一方、少なくとも1つの電磁コイル(23)を第2の極性で充電すると、アクチュエータピン(24;39;42)を第1の方向とは反対の第2の方向に付勢する力が生じるように、アクチュエータピン(24;39;42)を少なくとも部分的に取り囲む、請求項3または4に記載の薬物送達デバイス(1)。
【請求項6】
クラッチアクチュエータ(23、24;23;39、23、42)は、クラッチ部材(21)のうちの少なくとも1つに固定された永久磁石(25)をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の薬物送達デバイス(1)。
【請求項7】
永久磁石(25)は、クラッチ部材(21、22)を接触するように付勢するアクチュエータピン(24)に磁力を及ぼすように配置される、請求項6に記載の薬物送達デバイス(1)。
【請求項8】
クラッチアクチュエータ(23、24;23;39、23、42)は、クラッチ部材(21、22)を両方向に付勢するばね(26)をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の薬物送達デバイス(1)。
【請求項9】
用量設定および駆動機構は、第1のクラッチ部材(21)を形成する第1の歯のリングに回転不能に固定され、
ダイヤルグリップ(12)は、第2のクラッチ部材(22)を形成する第2の歯のリングに回転不能に固定され、
アクチュエータピン(24)は、第2の歯のリング(22)に軸方向に固定されるため、
ダイヤルグリップ(12)から用量設定および駆動機構へのトルクの伝達は、第1の歯のリング(21)と第2の歯のリング(22)との係合によってクラッチ(20)が連結された状態で行われ、一方、ダイヤルグリップ(12)から用量設定および駆動機構へのトルクの伝達は、第1の歯のリング(21)と第2の歯のリング(22)との係合が解除されることによってクラッチ(20)が連結解除された状態で防止される、請求項3~8のいずれか一項に記載の薬物送達デバイス(1)。
【請求項10】
第1のクラッチ部材を形成するスプライン(33)を有する固定内部ハウジング(32)と、
ダイヤルグリップ(12)に回転不能に固定されたダイヤルクリッカ(31)であって、内部ハウジング(32)のスプライン(33)に係合するための少なくとも1つの弾性的に偏向可能なアームを含み、クリッカ(31)の該アームは、第2のクラッチ部材を形成する、ダイヤルクリッカ(31)と、
設定用量を送達するための用量送達動作を実行するために、ダイヤルクリッカ(31)に対して軸方向に変位可能なボタン(35)と
を含み、該ボタン(35)は、トリガ部分(38)および係合部分(37)を含み、該係合部分(37)は、弾性的に偏向可能なアームを受けるための凹部(34)と、該凹部(34)から軸方向に離間して、弾性的に偏向可能なアームの偏向を防止するブロック機能(36)とを含み、ここで、アクチュエータピン(39)は係合部分(37)に軸方向に固定され、
その結果、弾性的に偏向可能なアームの偏向が可能になるように凹部(34)を位置決めすることにより、クラッチが連結解除された状態でダイヤルグリップ(12)の用量設定動作が可能になり、一方、弾性的に偏向可能なアームの偏向を防止することによって、クラッチが連結された状態でダイヤルグリップ(12)の用量設定動作が阻止される、請求項3~8のいずれか一項に記載の薬物送達デバイス(1)。
【請求項11】
ボタン(35)は、トリガ部分(38)がアクチュエータピン(39)によって係合部分(37)に対して軸方向に変位可能な多部品部材である、請求項10に記載の薬物送達デバイス(1)。
【請求項12】
ハウジング(10)は、第2のクラッチ部材(43)を形成する第1の歯のリングに回転不能に固定され、
ダイヤルグリップ(12)は、第1のクラッチ部材(44)を形成する第2の歯のリングに回転不能に固定され、
アクチュエータピン(42)は、第2の歯のリング(44)に軸方向に固定され、
その結果、ダイヤルグリップ(12)の用量設定動作は、第1の歯のリング(43)と第2の歯のリング(44)との係合解除することによってクラッチの連結解除した状態で可能になり、一方、ダイヤルグリップ(12)の用量設定動作は、第1の歯のリング(43)を第2の歯のリング(44)と係合することによってクラッチが連結された状態で阻止される、請求項3~8のいずれか一項に記載の薬物送達デバイス(1)。
【請求項13】
クラッチアクチュエータ(23、24;23;39、23、42)は追加の電源に連結される、請求項1~12のいずれか一項に記載の薬物送達デバイス(1)。
【請求項14】
用量設定および駆動機構に恒久的に、または解放可能に連結され、薬剤を収容する容器を受けるように適用された容器レセプタクル(14)をさらに含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の薬物送達デバイス(1)。
【請求項15】
薬物送達デバイス(1)を動作させるための方法であって、薬物送達デバイス(1)は、
ハウジング(10)と、
薬物送達デバイス(1)によって送達される個々の用量を設定するために、使用者が手動で操作可能なダイヤルグリップ(12)と、
該ダイヤルグリップ(12)の操作に応答して用量設定動作を実行するように構成され、設定用量を送達する用量送達動作を実行するように構成された用量設定および駆動機構と、
ダイヤルグリップ(12)をハウジング(10)ならびに/または用量設定および駆動機構に回転可能に連結および連結解除するために2つのクラッチ部材(21、22;31、33;43、44)を含むクラッチ(20)と、
少なくとも1つのプロセッサと、
該少なくとも1つのプロセッサに連結され、用量設定動作を示す測定データを生成するように動作可能であるセンサ装置(29、30)と、
少なくとも1つのプロセッサに連結された電源(28)と
クラッチ(20)の状態の切り替えをトリガするために、少なくとも1つのプロセッサによって動作可能なクラッチアクチュエータ(23、24;23;39、23、42)と
を含み、
前記方法は、
a)ダイヤルグリップ(12)の手動操作による個々の用量を設定する工程と、
b)センサ装置(29、30)によって、用量設定動作を示す測定データを生成する工程と、
c)センサ装置(29、30)によって生成された測定データが閾値に達した場合に、クラッチアクチュエータ(23、24;23;39、23、42)を動作させ、それによって、ダイヤルグリップ(12)をロックするか、または該ダイヤルグリップ(12)を用量設定および駆動機構から係合解除する工程と、
d)設定用量を送達するための用量送達動作を実行する工程と
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に薬物送達デバイスに関する。より詳細には、本発明は、ダイヤル設定されたおよび/または投薬される投与量を検出するのに適した、および/またはスイッチもしくはクラッチの動作に適した電子モジュールを含む、手動操作式の可変用量薬物送達デバイスに関する。さらに、本発明は、このような薬物送達デバイスを動作させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペン型薬物送達デバイスは、正式な医療訓練を受けていない人による定期的な注射が行われるという用途を有する。これは、糖尿病を患う患者の間でますます一般的になり得、自己治療によって、そのような患者は自身の疾患の効果的な管理を行うことができる。実際には、そのような薬物送達デバイスにより、使用者は、薬剤の使用者が変えられる複数の用量を個々に選択し、投薬できる。
【0003】
基本的に2つのタイプの薬物送達デバイス、すなわち、リセット可能なデバイス(すなわち、再使用可能)およびリセット不能なデバイス(すなわち、使い捨て)がある。たとえば、使い捨てペン送達デバイスは、自給式デバイスとして供給される。このような自給式デバイスは、取り外し可能な充填済みカートリッジを有していない。むしろ、充填済みカートリッジは、デバイス自体を破壊することなく、これらのデバイスから取り外したり交換したりすることができない。結果として、このような使い捨てデバイスは、リセット可能な用量設定機構を有する必要はない。本発明は、使い捨てデバイスおよび再利用可能なデバイスに適用可能である。
【0004】
このようなデバイスには、ペンからダイヤル設定および/または送達された用量を記録する機能は、記憶補助として、または用量履歴の詳細な記録をサポートするために、幅広いデバイスの使用者にとって価値があり得る。このように、電子機器を使用した薬物送達デバイスは、製薬業界だけでなく、使用者または患者にもますます普及している。
【0005】
たとえば、薬物送達デバイスは、電子クリップ式モジュールを含む特許文献1から知られている。このクリップ式モジュールは、プロセッサに電力を供給するバッテリと、光源、光度計、音響センサ、音響信号発生器のようなプロセッサによって制御されるさらなるコンポーネントと、無線で他のデバイスとの間で情報を送信および/または受信するように構成されたBluetooth(登録商標)トランシーバのような無線ユニットとを含む。薬物送達デバイスに取り付けることができる、用量設定を検出するためのモジュールの別の例は、特許文献2から知られている。それに対して、特許文献3は、薬物送達デバイスに組み込まれたモジュールを開示している。このモジュールは、投薬のために選択された用量を検出するためのロータリエンコーダシステムを含む。
【0006】
本発明は、ダイヤル延長部を有する薬物送達デバイス、たとえば、用量設定動作が、デバイスの螺合インタフェースによって、ハウジングから巻き取られる、またはねじられることにより、デバイスの全長を増加させるダイヤルグリップの回転を必要とし、用量投薬が、デバイスの一部分をハウジングに押し込むことを必要とする特許文献4または特許文献5に開示されているような薬物送達デバイス、ならびにダイヤル延長部のない薬物送達装デバイス、たとえば、特許文献6に開示されるようなばね駆動式薬物送達デバイスを含むが、これに限定されないさまざまなタイプの薬物送達デバイスに適用可能である。
【0007】
注射可能な医薬製品を投薬する一般的な手段は、可変用量注射デバイスを有する薬物送達デバイスである。このような可変用量注射デバイスは、使用者によって選択され、投薬される最大用量値を有する。しかしながら、可変用量注射デバイスは、最大用量値まで投薬される薬剤の個々の用量を選択することを可能にする。典型的には、使用者は、投薬方式に起因して、かつ/または健康状態、たとえば血糖値に応じて、必要とされる個々の用量を選択する。薬物送達デバイスのプラットフォームが複数の注射可能な医薬製品に使用される場合、プラットフォームデバイスの設計された最大用量は、送達される薬物それぞれに対して適切でないことがある。一例として、異なる量の最大用量を要する長時間作用型インスリンおよび短時間作用型インスリンであり得る。別の例は、異なる最大用量を要する成人用または小児用のデバイスの使用であり得る。したがって、いくつかの用途では、ペンからダイヤル設定して送達することができる最大用量を制限する目的で、適切に構成されたペン型注射器の設計を変更することが有利であり得る。この機能は、用量選択の負担およびリスクを軽減するために、広範なデバイスの使用者にとって重要である場合がある。
【0008】
用量制限機構を有する薬物送達デバイスは、特許文献7に開示されている。さらに、最大用量値を低減された最大用量に機械的に制限する例が特許文献8に開示されている。この可変用量デバイスの最大設定可能用量は、予め選択された用量値を超える用量を選択することを防止する最大用量制限スリーブを挿入することによって、より小さい値に制限される。さらに、可変用量デバイスとは対照的に、固定用量値を1つだけ選択することを可能にする固定用量デバイスが知られている。これらの固定用量デバイスおよび機械的に制限される用量デバイスは、現在、当技術分野で知られているが、製造中に設定された用量サイズに制限される。したがって、使用者は、通常、限界量を変更することができない。対照的に、可変用量注射デバイスは、使用者にとって優れた柔軟性を提供するが、かなりの関与を必要とし、毎用量にエラーの機会が生じる。完全自動デバイスであれば、このようなリスクを取り除くことができるが、デバイスの複雑さ、大きさ、およびコストを大幅に増加させる必要がある。このような薬物送達デバイスは、通常、大規模に製造されるため、効率的で単純な組み立ては、製造コストを合理的に低く抑えるための重要な課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許公開第2 814 545A1号
【特許文献2】国際公開第2020/035406A1号
【特許文献3】国際公開第2019/101962A1号
【特許文献4】欧州特許第2 890 434B1号
【特許文献5】欧州特許第2 890 435B1号
【特許文献6】国際公開第2016/055619A1号
【特許文献7】国際公開第2018/046734A1号
【特許文献8】欧州特許第2 512 563B1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本開示の目的は、完全自動化の利点の多くを提供しながらも、デバイス設計に対してはるかに小さい影響を必要とする薬物送達デバイスおよび薬物送達を動作させるための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、たとえば、独立クレームに定義された主題によって解決される。有利な実施形態および改良は、従属クレームに従う。しかし、本開示は、添付の特許請求の範囲に定義された主題に限定されないことに留意すべきである。むしろ、本開示は、以下の説明から明らかになるように、独立クレームに定義されたものに追加して、またはその代替として改良を含むことができる。
【0012】
本開示の一態様は、ハウジングと、薬物送達デバイスによって送達されるべき個々の用量を設定するために使用者によって手動で操作可能なダイヤルグリップと、ダイヤルグリップの操作に応答して用量設定動作を実行するように構成され、設定された用量を送達するための用量送達動作を実行するように構成された用量設定および駆動機構と、ダイヤルグリップをハウジングならびに/または用量設定および駆動機構に回転可能に結合および結合解除するための2つのクラッチ部材を含むクラッチと、少なくとも1つのプロセッサと、少なくとも1つのプロセッサに連結され、用量設定動作を示す測定データを生成するように動作可能なセンサ装置、たとえば、ダイヤルエンコーダと、少なくとも1つのプロセッサに連結された電源と、クラッチの状態の切り替えをトリガするように少なくとも1つのプロセッサによって動作可能なクラッチアクチュエータとを含む薬物送達デバイスに関する。クラッチの状態の切り替えは、ダイヤルグリップをハウジングならびに/または用量設定および駆動機構に連結している状態から、ダイヤルグリップをハウジングならびに/または用量設定および駆動機構から連結解除する切り替え、またはその逆の切り替えであると理解される。換言すれば、クラッチは、ダイヤルグリップをハウジングならびに/または用量設定および駆動機構に回転可能に連結する状態から、ダイヤルグリップをハウジングならびに/または用量設定および駆動機構から連結解除する状態への切り替え、またはその逆の切り替えを実行するように適用される。少なくとも1つのプロセッサは、センサ装置によって生成された測定データが、たとえば予め選択された閾値に達した場合に、クラッチアクチュエータを動作させるように構成される。このような閾値は、薬物送達デバイスの使用者によって選択される最大用量値であってもよい。これは、可変用量薬物送達デバイスに動的制限を適用する効果がある。
【0013】
本開示の任意の独立した態様は、クラッチの作動を介して薬物送達デバイスの用量ダイヤルグリップを薬物送達デバイスの固定構成要素部材にロックするか、またはクラッチの作動を介して薬物送達デバイスの用量ダイヤルグリップを用量設定および駆動機構のさらなる構成要素から連結解除することによって、最大設定可能用量を制限するための、可変用量タイプの手動操作式薬物送達デバイスにおける電子動作式クラッチの提供である。電子動作式クラッチは、電磁コイルと、クラッチを動作させるための、すなわち、連結または連結解除のような異なるクラッチ状態の間でクラッチを切り替えるアクチュエータピンとを含むソレノイド動作式クラッチであってもよい。電子動作式クラッチのさらなる代替案としては、クラッチの状態を切り替えるためのピエゾモータまたは電気モータを含むクラッチアクティベータを挙げることができる。さらに別の代替案としては、空気圧または油圧駆動式のクラッチアクチュエータを挙げることができ、このクラッチアクチュエータの動作は、少なくとも1つのプロセッサによって電子的に制御される。したがって、本開示は電気駆動部を有するクラッチアクチュエータに限定されない。
【0014】
換言すれば、使用者は、最小限の関与または思考プロセスで、所定のまたは予め選択された用量値にダイヤル設定することができる。使用者は、ダイヤルエンコーダによって決定された限界用量に達するまで通常通り用量をダイヤル設定することができ、限界用量に達すると、用量選択機構をロックおよび/または係合解除することによって、それ以上のダイヤル設定が防止される。これは、用量のダイヤル設定には、内部機構、すなわち、ダイヤルグリップならびに/または用量設定および駆動機構を、ハウジング、たとえば、外部本体に対して回転させる必要がある薬物送達デバイスにおいて特に有用である。この回転は、使用者がペンのハウジングを握り、ダイヤルグリップを介して用量設定および駆動機構にトルクを加えることによって生じる。ダイヤル設定は、ダイヤルグリップを用量設定機構および駆動機構から切り離すか、またはダイヤルグリップをハウジングに(直接または間接的に)ロックすることにより防止することができる。使用者は続いて、通常通り用量を投薬し、機構をリセットして後続する用量をダイヤル設定できる。
【0015】
したがって、選択された用量がある値に達したときに用量選択機構をロックまたは係合解除することは、本開示の独立した態様である。ロックおよび係合解除の好ましい方法は、ベースデバイスのアーキテクチャによって駆動されるが、このアプローチは、任意の可変用量注射デバイス、特に欧州特許第2 890 434B1号、欧州特許第2 890 435B1号または国際公開第2016/055619A1号に開示される薬物送達デバイスに適用され得るが、これらに限定されない。
【0016】
クラッチアクチュエータは、クラッチ部材のうちの少なくとも1つを並進させる電気駆動部を含むことができる。このようなクラッチアクチュエータの例は、少なくとも1つの電磁コイルと、強磁性材料を含み得る、または強磁性材料からなるアクチュエータピンとを含むソレノイドアクチュエータである。一例では、アクチュエータピンは、たとえば、アクチュエータピンの移動がクラッチの状態の切り替えを引き起こすか、またはトリガするようにクラッチ部材のうちの1つに固定される。たとえば、少なくとも1つの電磁コイルは、少なくとも1つの電磁コイルを第1の極性で充電すると、アクチュエータピンを第1の方向に付勢する力が生じる一方、少なくとも1つの電磁コイルを第2の極性で充電すると、アクチュエータピンを第1の方向とは反対の第2の方向に付勢する力が生じるように、アクチュエータピンを少なくとも部分的に取り囲むことができる。
【0017】
薬物送達デバイスのクラッチは双安定クラッチであり得る。このような双安定クラッチは、この状態を維持するために使用者によって加えられる力を必要とすることなく、2つの異なる状態、すなわち連結または連結解除状態に保持される。クラッチを安定状態に保持する例としては、ばねおよび/または磁石を設けることが挙げられる。たとえば、クラッチアクチュエータは、クラッチ部材のうちの少なくとも1つに固定された永久磁石をさらに含むことができる。より詳細には、永久磁石は、クラッチ部材を接触するように付勢するアクチュエータピンに磁力を及ぼすように配置される。代替例では、永久磁石はクラッチ部材を強制的に引き離すために使用される。加えて、または代替案として、クラッチアクチュエータはクラッチ部材をたとえば両方向に付勢するばねをさらに含んでいてもよい。さらに別の代替案として、クラッチ部材を接触するように付勢するばねが設けられる。
【0018】
本開示のさらなる態様によれば、薬物送達デバイスは、たとえば欧州特許第2 890 434B1号または欧州特許第2 890 435B1号に開示される動作原理に基づいていてもよい。このようなデバイスまたはたとえばダイヤル延長部を有するさらなる薬物送達デバイスは、第1のクラッチ部材を形成する第1の歯のリングに回転不能に固定されたダイヤルグリップを有していてもよい。さらに、アクチュエータピンは、第1の歯のリングに軸方向に固定される。さらに、用量設定および駆動機構は、第2のクラッチ部材を形成する第2の歯のリングに回転不能に固定される。この例では、ダイヤルグリップから用量設定および駆動機構へのトルクの伝達は、第1の歯のリングと第2の歯のリングとの係合によってクラッチが連結された状態で起こり得るが、ダイヤルグリップから用量設定および駆動機構へのトルクの伝達は、第1の歯のリングと第2の歯のリングとの係合が解除されることによってクラッチが連結解除された状態で防止される。
【0019】
換言すれば、薬物送達デバイスのこの構成では、用量設定は、用量設定および駆動機構からダイヤルグリップを連結解除することによって、所定の閾値で防止される。この閾値までは通常通りに用量設定が可能であるが、クラッチの状態を切り替えた後は、トルクは用量設定および駆動機構に伝達することができないため、使用者は、設定用量をそれ以上増加させることなく、スリップするクラッチによりダイヤルグリップを回転させ続けることができる。
【0020】
より詳細には、一例では、薬物送達デバイスは、ダイヤルグリップを用量設定および駆動機構に連結する双安定磁気スリップクラッチを含むことができる。このクラッチは、用量設定および駆動機構のプレートの形態の第1のクラッチ部材と、ダイヤルグリップまたはその一部に連結されたプレートの形態の第2のクラッチ部材とを含むことができる。クラッチは、開位置または閉位置の2つの位置のうちの1つにロックすることができる。用量設定および駆動機構のプレートは、ハウジングに対して安定した軸方向位置に保持される。ダイヤルグリップのプレート(第2のクラッチ部材)は、用量設定および駆動機構にトルクを伝達する閉位置と、2つのプレート(クラッチ部材)が互いに自由にスリップする開位置との間で軸方向に移動することができる。したがって、ダイヤルグリップを回転させると、クラッチの状態に応じて、ダイヤル設定またはスリップのいずれかにつながる。
【0021】
クラッチは、掛止ソレノイドクラッチアクチュエータに電力を供給することによって2つの状態間を切り替えられる。このクラッチアクチュエータは電磁コイルをいずれかの極性で短時間充電して磁界を発生させることで動作する。この磁界は、ダイヤルグリップのプレート(第2のクラッチ部材)が取り付けられているアクチュエータピンをいずれかの方向に動かすように作用する。例示的な実施形態では、掛止挙動は、用量設定および駆動機構(第1のクラッチ部材)のプレート内に位置する永久磁石によって発生する。ばねは、クラッチプレートを離したまま保持することができるが、磁石および金属アクチュエータピンはクラッチプレートを引き寄せる。ばねの力は直線的であり、磁力は逆二乗則で変化するため、切り替えポイントを有する双安定システムが作られる。クラッチプレート同士が接近して位置していれば、磁力はばね力より大きくなり、プレートは近くに引き寄せられる。しかし、クラッチプレートが切り替えポイントより離れた位置にあれば、ばねによって引き離される。電磁石は、永久磁石をいずれの方向からでも切り替えポイントを横切って移動させるのに十分な強さを有する。
【0022】
クラッチ状態の閉状態から開状態への切り替えは、以下の工程を含むことができる:電磁コイルは電力が供給されて磁界を発生させ、アクチュエータピンに力を与えて永久磁石から引き離す。ばね力が永久磁石の磁力より大きくなるように、十分な分離が達成される。その後、コイルが無力化される。ばねは、クラッチの歯が係合解除される、または部分的に係合解除されて、スリップが可能になるように、クラッチプレートを開位置へと押す。一方、クラッチ状態の開状態から閉状態への切り替えは、以下の工程を含むことができる:電磁コイルが電力供給されて磁界を発生させ、アクチュエータピンに力を与え、永久磁石の方へと押す。ばね力が永久磁石の磁力より小さくなるように、十分な分離が達成される。その後、コイルが無力化される。永久磁石は、クラッチ歯が完全に係合し、すべてのトルクがダイヤルグリップから用量設定および駆動機構に伝達されるように、アクチュエータピンを接触するように引き寄せる。
【0023】
代替案では、永久磁石は、ソレノイドが両方向に打ち勝ち、2つの安定位置を提供するデテントで置き換えることもできる。
【0024】
この例では、エンコーダは、ダイヤルグリップと、ハウジングまたはハウジングに回転可能にスプライン連結された任意の構成要素部材、たとえば、用量送達のために使用者によって押されるボタンとの間の相対回転を検出するために使用される。このエンコーダは、光センサおよび/または電気センサを用いて、たとえば前記相対回転中の電気接点の開閉を用いて機能することができる。
【0025】
本開示のさらなる態様によれば、さらに、検出スイッチが、第2のクラッチ部材、たとえばダイヤルグリップのプレートの位置を監視するために使用される。このスイッチは、スイッチが閉じなければクラッチ歯が互いにすれ違うことができないように配置される。ダイヤルグリップが回転し、検出スイッチが開いている場合、これはダイヤル設定された単位としてカウントされる。ダイヤルグリップが回転しているが検出スイッチが閉じていれば、プロセッサはクラッチがスリップしていると推測する。このエンコーダ情報により、プロセッサは必要なときにクラッチ状態の切り替えをトリガすることができる。最大用量限度未満でスリップが検出された場合、電磁石を充電して掛止クラッチに係合することができる。最大用量限度に達すると、電磁石が充電されて掛止が解除され、クラッチがスリップできるようになる。
【0026】
さらに、ダイヤル設定された用量カウントをリセットする(かつ、用量記録をメモリに渡す)ために、0Uスイッチが設けられる。これは、たとえば、すべての導電性ストリップを0U(ボタンが押された)位置で短絡させることによって達成される。
【0027】
薬物送達デバイスが、たとえば欧州特許第2 890 434B1号または欧州特許第2 890 435B1号に開示されているような動作原理に再び基づくことができる本開示のさらなる態様によれば、薬物送達デバイスは、第1のクラッチ部材を形成するスプラインを有する固定内部ハウジングと、ダイヤルグリップに回転不能に固定されたダイヤルクリッカであって、クリッカアームが第2のクラッチ部材を形成する内部ハウジングのスプラインに係合するための弾性的に偏向可能なアームを含むダイヤルクリッカと、設定用量を送達するための用量送達動作を実行するためにダイヤルクリッカに対して軸方向に変位可能なボタンとを含むことができる。ボタンは、トリガ部分と係合部分とを含むことができ、係合部分は、弾性的に偏向可能なアームを受けるための凹部と、凹部から軸方向に離間して、弾性的に偏向可能なアームの偏向を防止するブロック機能とを含むことができる。アクチュエータピンは、係合部分に軸方向に固定される。この構成により、弾性的に偏向可能なアームの偏向が可能になるように凹部を位置決めし、それによりダイヤルグリップの相対回転が可能になることにより、クラッチが連結解除された状態でダイヤルグリップの用量設定動作が可能になり、一方、弾性的に偏向可能なアームの偏向を防止し、それによりダイヤルグリップの相対回転が阻止されることによって、クラッチが連結された状態でダイヤルグリップの用量設定動作が阻止される。たとえば、ボタンは、トリガ部分がアクチュエータピンによって係合部分に対して軸方向に変位可能な多部品部材であってもよい。
【0028】
換言すれば、薬物送達デバイスのこの構成では、用量設定は、ハウジングに対してダイヤルグリップを直接または間接的にロックすることによって、所定の閾値で防止される。この閾値までは通常通りに用量設定が可能であるが、クラッチの状態を切り替えた後は、設定用量を増加させる方向へのダイヤルグリップのさらなる回転は防止される。
【0029】
より詳細には、一例において、薬物送達デバイスは、ダイヤルクリッカ、すなわち、用量設定中にクリック音および/または触覚フィードバックを発生させるのに適した1つまたは複数の構成要素部材を含むことができる。本実施形態では、ダイヤルグリップは、用量設定および駆動機構に機械的にスプライン連結される。動作モードは、ダイヤルクリッカを介して、ダイヤルグリップならびに/または用量設定および駆動機構を、ハウジング、たとえば固定内部ハウジングに直接または間接的にロックすることである。通常の使用において、1つまたは複数のダイヤルクリッカアームが、ダイヤル設定される薬物の単位ごとに内部ハウジングのスプライン上で内側に偏向し、相対回転を可能にする。偏向は、アームが偏向したときに凹部に入ることにより可能になる。クリッカアームは、ボタンが押し下げられると、凹部がボタンの移動中にアームに対して軸方向に移動するため、偏向が阻止されるように設計されている。本実施形態では、ボタン構成要素は、下部を上部より先にブロック位置に移動できるように分割される。すなわち、用量ボタンが押される前に、ダイヤル設定を阻止することができる。上記のものと同様の双安定ソレノイドアクチュエータは、ボタンサブアセンブリに含めることができる。このようにして、ボタンは、事実上2つの長さを有する。短い方の構成では、ボタンは未改造のデバイスと同じように機能し、使用者は通常通りダイヤル設定し、投薬することができる。長い方の構成では、使用者はダイヤル設定することができず、用量の投薬に進まなければならない。
【0030】
使用中、ソレノイドは短い方の構成で始まり、エンコーダが限界用量に達したことを観測するまでそのまま維持する。この時点でソレノイドは切り替わり、ボタンは長い状態になる。ボタンのトリガ部分は上方への移動が阻止され、これは、ボタンの係合部分が下方に移動し、ダイヤルクリッカアームを阻止することを意味する。ダイヤルグリップは使用者にとってロックされたように感じられる。ボタンを押し下げると、用量が投薬され、ソレノイドがつぶれて短い状態に戻る。したがって、投薬が完了し、ボタンが解放されると、ダイヤルクリッカアームのブロックがもう一度解除され、さらに用量をダイヤル設定することができる。
【0031】
本開示のさらに別の態様によれば、ダイヤルグリップは、第1のクラッチ部材(たとえば、軸方向に変位可能なカラー)を形成する第1の歯のリングに回転不能に固定され、アクチュエータピンは、第1の歯のリングに軸方向に固定され、ハウジングは、第2のクラッチ部材を形成する第2の歯のリングに回転不能に固定される。この構成では、ダイヤルグリップの用量設定動作は、第1の歯のリングと第2の歯のリングとの係合解除することによってクラッチの連結解除した状態で可能になり、一方、ダイヤルグリップの用量設定動作は、第1の歯のリングを第2の歯のリングと係合することによってクラッチが連結された状態で阻止される。
【0032】
ここでも、薬物送達デバイスのこの構成では、用量設定は、ハウジングに対してダイヤルグリップを直接または間接的にロックすることによって、所定の閾値で防止される。この閾値までは通常通りに用量設定が可能であるが、クラッチの状態を切り替えた後は、設定用量を増加させる方向へのダイヤルグリップのさらなる回転は防止される。このような薬物送達デバイスは、国際公開第2016/055619A1号に開示される動作原理に基づいていてもよい。
【0033】
換言すれば、前述の実施形態と同様に、ダイヤルグリップは、用量設定および駆動機構に機械的にスプライン連結される。動作モードは、摺動カラーを使用して、用量設定および駆動機構とハウジングとの間のロッククラッチを係合または係合解除することであることができる。本実施形態は、ボタンおよびハウジングが、ダイヤル設定中、固定された分離状態のままであるように、国際公開第2016/055619A1号に開示されているようなダイヤル拡張部のないデバイスに適用するのが最良である。ここでも、最大エンコーダ値が読み取られると、双安定ソレノイドが、ボタンサブアセンブリの構成を切り替える動作を提供するために採用される。
【0034】
使用中、ソレノイドは短い方の構成で始まり、カラー(第1のクラッチ部材)をハウジングによって、またはハウジング上に形成された第2のクラッチ部材とのクリアランスに保持する。この構成では、ダイヤル設定は未改造のデバイスと同様に進行する。エンコーダが限界用量に達したことを読み取ると、ソレノイドが切り替わり、カラーがハウジングに接触するように駆動される。クラッチの歯はそれ以上のダイヤル設定を防止するが、ダイヤル設定を戻すことができるように、非対称に傾斜している。この傾斜は、ソレノイドの双安定点に打ち勝つ役割を果たし、ダイヤル設定を下げるときに短い方の構成に切り替わる。ここでも、ボタンを押し下げると、用量が投薬され、ソレノイドがつぶれて短い状態に戻る。したがって、投薬が完了し、ボタンが解放されると、クラッチが開き、さらに用量をダイヤル設定することができる。
【0035】
少なくとも1つのプロセッサ、センサ装置またはダイヤルエンコーダ、および少なくとも1つのプロセッサに連結された電源は、薬物送達デバイスと共に、および/または薬物送達デバイスにおいて使用するのに適した電子モジュールの一部であってもよい。換言すれば、このようなモジュールは、デバイスに一体化されているか、またはデバイスに解放可能に取り付け可能であってもよい。電子モジュールは、好ましくは、プロセッサとしてマイクロコントローラを含み、無線通信インタフェースを有する通信ユニット、少なくとも1つの電子ユーザフィードバック生成器、および/または測定データを記憶するメモリをさらに含むことができる。
【0036】
電子モジュールに小型で非充電式の使用者による交換ができないコイン電池が装着されている場合、デバイスの寿命を通じて利用できる全体的な電力は制限される。したがって、クラッチアクチュエータは追加の電源に連結することができる。代替案として、クラッチアクチュエータはプロセッサと同じ電源に連結することもできる。
【0037】
センサ装置は、少なくとも1つのプロセッサに連結され、用量設定動作および/または用量送達動作を示す測定データを生成するように動作可能であり得る。センサ装置は、1つまたは複数の電気スイッチを含むことができ、かつ/または薬物送達デバイスの用量設定および駆動機構の1つまたは複数の構成部材の動きを検出するための光センサおよび/または容量センサおよび/または音響センサを備えることができる。一例では、センサ装置は、少なくとも1つの光源、たとえばLED、および少なくとも1つの光センサ、たとえば光検出器を含む。センサ装置は、これらの開示は参照により本明細書に組み込まれる未公開の欧州特許出願第20315066.9号および欧州特許出願第20315357.2号に記載されているように設計され、動作するエンコードまたは動作検知ユニットの一部であってもよい。
【0038】
他のデバイスと通信するための通信ユニットは、Wi-FiまたはBluetooth(登録商標)などの無線ネットワークを介して他のデバイスと通信するための無線通信インタフェースを含んでいてもよい。さらに、通信ユニットは、ユニバーサルシリーズバス(USB)、ミニUSB、またはマイクロUSBコネクタを受けるためのソケットなど、有線通信リンク用のインタフェースを含むことができる。好ましくは、電子システムは、通信ユニットとしてRF、WiFiおよび/またはBluetooth(登録商標)ユニットを含む。通信ユニットは、モジュールまたは薬物送達デバイスと、他の電子デバイス、たとえば携帯電話、パーソナルコンピュータ、ラップトップなどの外部との間の通信インタフェースとして提供される。たとえば、測定データ、すなわち用量データは、通信ユニットによって外部デバイスに送信される。用量データは、外部デバイスで確立された用量ログまたは用量履歴のために使用される。
【0039】
測定データ、たとえば用量データを記憶するメモリは、別個のメモリであっても、または電子モジュールのメインメモリの一部であってもよい。これらは、たとえば、少なくとも1つのマイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサ(DSP)、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)などであり得るプロセッサによって制御される。本開示の一態様によれば、プロセッサは、プログラムメモリに記憶されたプログラムコード(たとえば、ソフトウェアまたはファームウェア)を実行し、たとえば、用量データのような中間結果を記憶するためにメインメモリを使用する。メインメモリはまた、測定データに基づいて実行された駆出/注射に関するログブックを記憶するためにも使用される。プログラムメモリは、たとえば読み取り専用メモリ(ROM)であってもよく、メインメモリは、たとえばランダムアクセスメモリ(RAM)であってもよい。
【0040】
本開示のさらなる態様によれば、薬物送達デバイスを動作させる方法が提供される。薬物送達デバイスは、本開示の上記態様のうちの1つに記載される薬物送達デバイスであってもよい。たとえば、薬物送達デバイスは、ハウジングと、薬物送達デバイスによって送達されるべき個々の用量を設定するために使用者によって手動で操作可能なダイヤルグリップと、ダイヤルグリップの操作に応答して用量設定動作を実行するように構成され、設定された用量を送達するための用量送達動作を実行するように構成された用量設定および駆動機構と、ダイヤルグリップをハウジングならびに/または用量設定および駆動機構に回転可能に結合および結合解除するための2つのクラッチ部材を含むクラッチと、少なくとも1つのプロセッサと、少なくとも1つのプロセッサに連結され、用量設定動作を示す測定データを生成するように動作可能なセンサ装置と、少なくとも1つのプロセッサに連結された電源と、クラッチの状態の切り替えをトリガするように少なくとも1つのプロセッサによって動作可能なクラッチアクチュエータとを含むことができる。たとえば、本方法は:
a)ダイヤルグリップの手動操作による個々の用量を設定する工程と、
b)センサ装置によって、用量設定動作を示す測定データを生成する工程と、
c)センサ装置によって生成された測定データが閾値に達した場合に、クラッチアクチュエータを動作させ、それによって、ダイヤルグリップをロックするか、またはダイヤルグリップを用量設定および駆動機構から係合解除する工程と、
d)設定用量を送達するための用量送達動作を実行する工程と
を含む。
【0041】
この方法に関して、設定用量を送達するための用量送達動作を実行する工程は、用量設定および駆動機構によって、カートリッジなど、リザーバから薬物送達デバイスの出口端を通して、典型的には液体薬物を投薬することとして理解されるべきである。
【0042】
さらなる態様によれば、本開示は、電子モジュール、たとえば上記電子モジュールのプロセッサに実装されたときに上記方法を実行するように適用されたコンピュータプログラムであって、コンピュータプログラムは、センサ装置によって、用量設定動作を示す測定データを生成し、センサ装置によって生成された測定データが閾値に達した場合に、クラッチアクチュエータを動作させ、それによって、ダイヤルグリップをロックするか、またはダイヤルグリップを用量設定および駆動機構から係合解除するコンピュータプログラム手段を含む、コンピュータプログラムに関する。
【0043】
薬物送達デバイスは、用量設定および駆動機構に解放可能に取り付けられる容器レセプタクルを含むことができる。代替案として、容器レセプタクルは、用量設定および駆動機構に恒久的に取り付けられる。容器レセプタクルは、薬剤を含む容器、たとえばカートリッジを受けるように適用される。
【0044】
「薬物」または「薬剤」という用語は、本明細書では同義的に用いられ、1つもしくはそれ以上の活性医薬成分またはそれらの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物と、場合により薬学的に許容可能な担体と、を含む医薬製剤を記述する。活性医薬成分(「API」)とは、最広義には、ヒトまたは動物に対して生物学的効果を有する化学構造体のことである。薬理学では、薬剤または医薬は、疾患の治療、治癒、予防、または診断に使用されるか、さもなければ身体的または精神的なウェルビーイングを向上させるために使用される。薬物または薬剤は、限定された継続期間で、または慢性障害では定期的に使用可能である。
【0045】
以下に記載されるように、薬物または薬剤は、1つもしくはそれ以上の疾患の治療のために各種タイプの製剤中に少なくとも1つのAPIまたはその組合せを含み得る。APIの例としては、500Da以下の分子量を有する低分子、ポリペプチド、ペプチド、およびタンパク質(たとえば、ホルモン、成長因子、抗体、抗体フラグメント、および酵素)、炭水化物および多糖、ならびに核酸、二本鎖または一本鎖DNA(ネイキッドおよびcDNAを含む)、RNA、アンチセンス核酸たとえばアンチセンスDNAおよびRNA、低分子干渉RNA(siRNA)、リボザイム、遺伝子、およびオリゴヌクレオチドが挙げられ得る。核酸は、ベクター、プラスミド、またはリポソームなどの分子送達システムに取り込み可能である。1つまたはそれ以上の薬物の混合物も企図される。
【0046】
薬物または薬剤は、薬物送達デバイスでの使用に適合化された一次パッケージまたは「薬物容器」に包含可能である。薬物容器は、たとえば、1つもしくはそれ以上の薬物の収納(たとえば、短期または長期の収納)に好適なチャンバを提供するように構成されたカートリッジ、シリンジ、リザーバ、または他の硬性もしくは可撓性のベッセルであり得る。たとえば、いくつかの場合には、チャンバは、少なくとも1日間(たとえば、1日間~少なくとも30日間)にわたり薬物を収納するように設計可能である。いくつかの場合には、チャンバは、約1カ月~約2年間にわたり薬物を収納するように設計可能である。収納は、室温(たとえば、約20℃)または冷蔵温度(たとえば、約-4℃~約4℃)で行うことが可能である。いくつかの場合には、薬物容器は、投与される医薬製剤の2つ以上の成分(たとえば、APIと希釈剤、または2つの異なる薬物)を各チャンバに1つずつ個別に収納するように構成されたデュアルチャンバカートリッジであり得るか、またはそれを含み得る。かかる場合には、デュアルチャンバカートリッジの2つのチャンバは、人体もしくは動物体への投薬前および/または投薬中に2つ以上の成分間の混合が可能になるように構成可能である。たとえば、2つのチャンバは、互いに流体連通するように(たとえば、2つのチャンバ間の導管を介して)かつ所望により投薬前にユーザによる2つの成分の混合が可能になるように構成可能である。代替的または追加的に、2つのチャンバは、人体または動物体への成分の投薬時に混合が可能になるように構成可能である。
【0047】
本明細書に記載の薬物送達デバイスに含まれる薬物または薬剤は、多くの異なるタイプの医学的障害の治療および/または予防のために使用可能である。障害の例としては、たとえば、糖尿病または糖尿病に伴う合併症たとえば糖尿病性網膜症、血栓塞栓障害たとえば深部静脈血栓塞栓症または肺血栓塞栓症が挙げられる。障害のさらなる例は、急性冠症候群(ACS)、アンギナ、心筋梗塞、癌、黄斑変性、炎症、枯草熱、アテローム硬化症および/または関節リウマチである。APIおよび薬物の例は、ローテリステ2014年(Rote Liste 2014)(たとえば、限定されるものではないがメイングループ12(抗糖尿病薬剤)または86(オンコロジー薬剤))やメルク・インデックス第15版(Merck Index,15th edition)などのハンドブックに記載されているものである。
【0048】
1型もしくは2型糖尿病または1型もしくは2型糖尿病に伴う合併症の治療および/または予防のためのAPIの例としては、インスリン、たとえば、ヒトインスリン、もしくはヒトインスリンアナログもしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)、GLP-1アナログもしくはGLP-1レセプターアゴニスト、はそのアナログもしくは誘導体、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤、またはそれらの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、またはそれらのいずれかの混合物が挙げられる。本明細書で用いられる場合、「アナログ」および「誘導体」という用語は、天然に存在するペプチドに存在する少なくとも1つのアミノ酸残基の欠失および/または交換によりおよび/または少なくとも1つのアミノ酸残基の付加により天然に存在するペプチドの構造たとえばヒトインスリンの構造から形式的に誘導可能な分子構造を有するポリペプチドを指す。付加および/または交換アミノ酸残基は、コード可能アミノ酸残基または他の天然に存在する残基または純合成アミノ酸残基のどれかであり得る。インスリンアナログは、「インスリンレセプターリガンド」とも呼ばれる。特に、「誘導体」という用語は、天然に存在するペプチドの構造から形式的に誘導可能な分子構造、たとえば、1つまたはそれ以上の有機置換基(たとえば脂肪酸)がアミノ酸の1つまたはそれ以上に結合したヒトインスリンの分子構造を有するポリペプチドを指す。場合により、天然に存在するペプチドに存在する1つまたはそれ以上のアミノ酸が、欠失し、および/または非コード可能アミノ酸を含めて他のアミノ酸によって置き換えられ、または天然に存在するペプチドに非コード可能なものを含めてアミノ酸が付加される。
【0049】
インスリンアナログの例は、Gly(A21)、Arg(B31)、Arg(B32)ヒトインスリン(インスリングラルギン);Lys(B3)、Glu(B29)ヒトインスリン(インスリングルリジン);Lys(B28)、Pro(B29)ヒトインスリン(インスリンリスプロ);Asp(B28)ヒトインスリン(インスリンアスパルト);位置B28のプロリンがAsp、Lys、Leu、ValまたはAlaに置き換えられたうえに位置B29のLysがProに置き換えられていてもよいヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28~B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリンおよびDes(B30)ヒトインスリンである。
【0050】
インスリン誘導体の例は、たとえば、B29-N-ミリストイル-des(B30)ヒトインスリン、Lys(B29)(N-テトラデカノイル)-des(B30)ヒトインスリン(インスリンデテミル、レベミル(Levemir)(登録商標));B29-N-パルミトイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ミリストイルヒトインスリン;B29-N-パルミトイルヒトインスリン;B28-N-ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28-N-パルミトイル-LysB28ProB29ヒトインスリン;B30-N-ミリストイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30-N-パルミトイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29-N-(N-パルミトイル-ガンマ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン、B29-N-オメガ-カルボキシペンタデカノイル-ガンマ-L-グルタミル-des(B30)ヒトインスリン(インスリンデグルデク、トレシーバ(Tresiba)(登録商標));B29-N-(N-リトコリル-ガンマ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)-des(B30)ヒトインスリンおよびB29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンである。
【0051】
GLP-1、GLP-1アナログおよびGLP-1レセプターアゴニストの例は、たとえば、リキシセナチド(リキスミア(Lyxumia)(登録商標))、エキセナチド(エキセンジン-4、バイエッタ(Byetta)(登録商標)、ビデュリオン(Bydureon)(登録商標)、ヒラモンスターの唾液腺により産生される39アミノ酸ペプチド)、リラグルチド(ビクトーザ(Victoza)(登録商標))、セマグルチド、タスポグルチド、アルビグルチド(シンクリア(Syncria)(登録商標))、デュラグルチド(トルリシティ(Trulicity)(登録商標))、rエキセンジン-4、CJC-1134-PC、PB-1023、TTP-054、ラングレナチド/HM-11260C(エフペグレナチド)、HM-15211、CM-3、GLP-1エリゲン、ORMD-0901、NN-9423、NN-9709、NN-9924、NN-9926、NN-9927、ノデキセン、ビアドール-GLP-1、CVX-096、ZYOG-1、ZYD-1、GSK-2374697、DA-3091、MAR-701、MAR709、ZP-2929、ZP-3022、ZP-DI-70、TT-401(ペガパモドチド(Pegapamodtide))、BHM-034、MOD-6030、CAM-2036、DA-15864、ARI-2651、ARI-2255、チルゼパチド(LY3298176)、バマドゥチド(Bamadutide)(SAR425899)、エキセナチド-XTENおよびグルカゴン-Xtenである。
【0052】
オリゴヌクレオチドの例は、たとえば、家族性高コレステロール血症の治療のためのコレステロール低下アンチセンス治療剤ミポメルセンナトリウム(キナムロ(Kynamro)(登録商標))、またはアルポート症候群の治療のためのRG012である。
【0053】
DPP4阻害剤の例は、リナグリプチン、ビダグリプチン、シタグリプチン、デナグリプチン、サキサグリプチン、ベルベリンである。
【0054】
ホルモンの例としては、脳下垂体ホルモンもしくは視床下部ホルモンまたはレギュラトリー活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニスト、たとえば、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(Somatropine)(ソマトロピン(Somatropin))、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、リュープロレリン、ブセレリン、ナファレリン、およびゴセレリンが挙げられる。
【0055】
多糖の例としては、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリンもしくは超低分子量ヘパリンもしくはそれらの誘導体、もしくは硫酸化多糖たとえばポリ硫酸化形の上述した多糖、および/またはそれらの薬学的に許容可能な塩が挙げられる。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容可能な塩の例は、エノキサパリンナトリウムである。ヒアルロン酸誘導体の例は、ハイランG-F20(シンビスク(Synvisc)(登録商標))、ヒアルロン酸ナトリウムである。
【0056】
本明細書で用いられる「抗体」という用語は、イムノグロブリン分子またはその抗原結合部分を指す。イムノグロブリン分子の抗原結合部分の例としては、抗原への結合能を保持するF(ab)およびF(ab’)2フラグメントが挙げられる。抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体、キメラ抗体、脱免疫化もしくはヒト化抗体、完全ヒト抗体、非ヒト(たとえばネズミ)抗体、または一本鎖抗体であり得る。いくつかの実施形態では、抗体は、エフェクター機能を有するとともに補体を固定可能である。いくつかの実施形態では、抗体は、Fcレセプターへの結合能が低減されているか、または結合能がない。たとえば、抗体は、Fcレセプターへの結合を支援しない、たとえば、Fcレセプター結合領域の突然変異もしくは欠失を有するアイソタイプもしくはサブタイプ、抗体フラグメントまたは突然変異体であり得る。抗体という用語は、4価二重特異的タンデムイムノグロブリン(TBTI)および/またはクロスオーバー結合領域配向を有する二重可変領域抗体様結合タンパク質(CODV)に基づく抗原結合分子も含む。
【0057】
「フラグメント」または「抗体フラグメント」という用語は、完全長抗体ポリペプチドを含まないが依然として抗原に結合可能な完全長抗体ポリペプチドの少なくとも一部分を含む抗体ポリペプチド分子由来のポリペプチド(たとえば、抗体重鎖および/または軽鎖ポリペプチド)を指す。抗体フラグメントは、完全長抗体ポリペプチドの切断部分を含み得るが、この用語は、かかる切断フラグメントに限定されるものではない。本発明に有用な抗体フラグメントとしては、たとえば、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、scFv(一本鎖Fv)フラグメント、線状抗体、単一特異的または多重特異的な抗体フラグメント、たとえば、二重特異的、三重特異的、四重特異的および多重特異的抗体(たとえば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)、1価または多価抗体フラグメント、たとえば、2価、3価、4価および多価の抗体、ミニボディ、キレート化組換え抗体、トリボディまたはビボディ、イントラボディ、ナノボディ、小モジュール免疫医薬(SMIP)、結合ドメインイムノグロブリン融合タンパク質、ラクダ化抗体、およびVHH含有抗体が挙げられる。抗原結合抗体フラグメントの追加の例は当技術分野で公知である。
【0058】
「相補性決定領域」または「CDR」という用語は、特異的抗原認識を媒介する役割を主に担う、重鎖および軽鎖の両方のポリペプチドの可変領域内の短いポリペプチド配列を指す。「フレームワーク領域」という用語は、CDR配列でないかつ抗原結合が可能になるようにCDR配列の適正配置を維持する役割を主に担う、重鎖および軽鎖の両方のポリペプチドの可変領域内のアミノ酸配列を指す。フレームワーク領域自体は、典型的には抗原結合に直接関与しないが、当技術分野で公知のように、ある特定の抗体のフレームワーク領域内のある特定の残基は、抗原結合に直接関与し得るか、またはCDR内の1つもしくはそれ以上のアミノ酸と抗原との相互作用能に影響を及ぼし得る。
【0059】
抗体の例は、抗PCSK-9 mAb(たとえば、アリロクマブ)、抗IL-6 mAb(たとえば、サリルマブ)、および抗IL-4 mAb(たとえば、デュピルマブ)である。
【0060】
本明細書に記載のいずれのAPIの薬学的に許容可能な塩も、薬物送達デバイスで薬物または薬剤に使用することが企図される。薬学的に許容可能な塩は、たとえば、酸付加塩および塩基性塩である。
【0061】
当業者であれば、本明細書に記載されるAPI、製剤、装置、方法、システム、および実施形態の種々の構成要素の改変(追加および/または除去)は、そのような改変およびそのあらゆる均等物を包含する本発明の全範囲および趣旨から逸脱することなくなされてもよいことを理解するであろう。
【0062】
例示的な薬物送達デバイスは、ISO11608-1:2014(E)のセクション5.2の表1に記載されている針ベースの注射システムを含むことができる。ISO11608-1:2014(E)に記載されているように、針ベースの注射システムは、多用量容器システムと単回用量(部分的または完全な排出を伴う)容器システムとに広く区別することができる。容器は、交換可能な容器であってもよく、または一体化された交換不能な容器であってもよい。
【0063】
ISO11608-1:2014(E)にさらに記載されているように、多用量容器システムは、交換可能な容器を備えた針ベースの注射デバイスを含むことができる。そのようなシステムでは、各容器は、複数用量を保持し、そのサイズは、固定されても、または可変であって(使用者によって予め設定される)もよい。別の多用量容器システムは、一体化された交換不能な容器を備えた針ベースの注射デバイスを含むことができる。そのようなシステムでは、各容器は、複数用量を保持し、そのサイズは、固定されても、または可変であって(使用者によって予め設定される)もよい。
【0064】
ISO11608-1:2014(E)にさらに記載されているように、単回用量容器システムは、交換可能な容器を備えた針ベースの注射デバイスを含むことができる。そのようなシステムの一例では、各容器は単回用量を保持し、それによって、送達可能な容量すべてが排出される(完全排出)。さらなる例では、各容器は単回用量を保持し、それによって、送達可能な容量の一部が排出される(部分的排出)。ISO11608-1:2014(E)にさらに記載されているように、単回用量容器システムは、一体化された交換不能な容器を備える針ベースの注射デバイスを含むことができる。そのようなシステムの一例では、各容器は単回用量を保持し、それによって、送達可能な容量すべてが排出される(完全排出)。さらなる例では、各容器は単回用量を保持し、それによって、送達可能な容量の一部が排出される(部分的排出)。
【0065】
本明細書中で使用される用語「軸方向」、「半径方向」または「円周方向」は、デバイス、カートリッジ、ハウジングまたはカートリッジホルダの主な長手方向軸、たとえば、カートリッジ、カートリッジホルダまたは薬物送達デバイスの近位端および遠位端を通って延びる軸に関して使用される。
【0066】
ここで、添付図面を参照して、本発明の非限定的な例示的実施形態について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1】薬物送達デバイスの実施形態を示す図である。
図2】使用者がハウジングに対してダイヤルグリップにトルクを加える様子を模式的に示す図である。
図3a】2つの異なるクラッチ状態における第1の実施形態の詳細を模式的に示す図である。
図3b】2つの異なるクラッチ状態における第1の実施形態の詳細を模式的に示す図である。
図4】ダイヤルエンコーダを模式的に示す図である。
図5a】異なる状態のクラッチを模式的に示す図である。
図5b】異なる状態のクラッチを模式的に示す図である。
図5c】異なる状態のクラッチを模式的に示す図である。
図6】第2の実施形態の詳細を模式的に示す図である。
図7a】2つの異なるクラッチ状態の図6の薬物送達デバイスの半断面図である。
図7b】2つの異なるクラッチ状態の図6の薬物送達デバイスの半断面図である。
図8a図6の薬物送達デバイスの詳細を模式的に示す図である。
図8b図6の薬物送達デバイスの詳細を模式的に示す図である。
図8c図6の薬物送達デバイスの詳細を模式的に示す図である。
図9a】2つの異なるクラッチ状態における第3の実施形態の詳細を模式的に示す図である。
図9b】2つの異なるクラッチ状態における第3の実施形態の詳細を模式的に示す図である。
図10a図9のデバイスの2つの異なるクラッチ状態を模式的に示す図である。
図10b図9のデバイスの2つの異なるクラッチ状態を模式的に示す図である。
図11】第3の実施形態の詳細を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0068】
図面において、同一の要素、同一に作用する要素、または同じ種類の要素には、同じ参照符号が与えられる。
【0069】
以下では、いくつかの実施形態は、インスリン注射デバイスを参照して説明される。しかしながら、本開示は、そのような用途に限定されず、他の薬物を駆出するように構成された注射デバイス、または一般には薬物送達デバイス、好ましくはペン型デバイスおよび/もしくは注射デバイスと共に同様に展開される。
【0070】
実施形態は、注射デバイス、特に、注射デバイスによって送達される用量に関する測定データを記録および/または追跡する可変用量注射デバイスに関連して提供される。これらのデータには、選択された用量のサイズおよび/または実際に送達された用量のサイズ、投与日時、投与持続時間などを含むことができる。本明細書に記載される機能は、(たとえば、小型バッテリを容易にする、かつ/または効率的な電力使用を可能にする)電力管理技術を含む。
【0071】
本明細書における特定の実施形態は、注射ボタンとグリップ(用量設定部材または用量設定器)とが組み合わされた欧州特許第2 890 435B1号に開示された注射デバイスに関して示されている。注射ボタンは、薬物送達デバイスの用量送達動作を開始および/または実行するための使用者インタフェース部材を提供することができる。グリップまたはノブは、用量設定動作を開始および/または実行する使用者インタフェース部材を提供することができる。これらのデバイスは、ダイヤル延長型であり、すなわち、用量設定中にその長さが増加する。用量設定および用量駆出動作モード中のダイヤル延長部およびボタンの同じ運動学的挙動を有する他の注射デバイスは、たとえば、Eli Lillyによって販売されているKwikpen(登録商標)デバイスおよびNovo Nordiskによって販売されているNovopen(登録商標)4デバイスとして知られている。したがって、これらのデバイスへの一般原理の適用は簡単であると思われるため、これ以上の説明は省略する。しかしながら、本開示の一般原理はその運動学的挙動に限定されない。特定の他の実施形態は、注射ボタンとグリップ構成要素/用量設定部材が別個に存在するSanofiのSoloSTAR(登録商標)注射デバイスへの適用が考えられる。したがって、2つの別個の使用者インタフェース部材、そのうち1つは用量設定動作用であり、もう1つは用量送達動作用であってもよい。ダイヤルグリップおよび別個のボタンを有するこのようなデバイスのさらなる例は、国際公開第2016/055619A1号に開示されている。
【0072】
本明細書では、「遠位」は、薬物送達デバイスまたはその構成要素の投薬端に面しているかもしくは投薬端の方向を指すように構成されているか、もしくは構成されるようになる、かつ/または近位端から離れる方向を指し、かつ/もしくは近位端から離れる方向を指す、近位端から離れる方向に面するように構成されている、もしくは近位端から離れる方向に面する方向、端部または表面を特定するために使用される。一方、「近位」は、薬物送達デバイスまたはその構成要素の投薬端および/または遠位端から離れる方向に面する、またはそれから離れる方向を指すように構成される、または構成されるようになる方向、端部または表面を特定するために使用される。遠位端は、投薬端に最も近い端部および/または近位端から最も離れた端部であってもよく、近位端は、投薬端から最も離れた端部であってもよい。近位面は、遠位端から離れた方向、および/または近位端に向かう方向に面していてもよい。遠位面は、遠位端に向かう方向、および/または近位端から離れた方向に面していてもよい。投薬端は、たとえば、針ユニットがデバイスに取り付けられている、または取り付けられる針端部であってもよい。
【0073】
図1は、薬剤送達デバイスまたは薬物送達デバイスの分解図である。この例では、薬物送達デバイスは注射デバイス1であり、たとえば、欧州特許第2 890 435B1号または欧州特許第2 890 434B1号に開示されている注射ペンのようなペン型注射器である。
【0074】
図1の注射デバイス1は、ハウジング10を含み、容器14、たとえばインスリン容器またはそのような容器用のレセプタクルを収容する注射ペンである。容器は薬物を収容できる。針15は、容器またはレセプタクルに取り付けられる。容器はカートリッジであってもよく、レセプタクルはカートリッジホルダであってもよい。針は、内針キャップ16と、外針キャップ17または別のキャップ18によって保護される。注射デバイス1から駆出されるインスリン用量は、ダイヤルグリップ12を回すことによって設定、プログラム、または「ダイヤル設定」することができ、現在プログラムまたは設定された用量は、次に投与量窓13を介して、たとえば単位の倍数で表示される。窓に表示される印は、数字スリーブまたはダイヤルスリーブに設けられる。たとえば、注射デバイス1がヒトインスリンを投与するように構成されている場合、投与量は、いわゆる国際単位(IU)で表示することができ、ここで、1IUは、純粋な結晶インスリンの約45.5μg(1/22mg)の生物学的同等製剤である。他の単位は、インスリンアナログまたは他の薬剤を送達するための注射デバイスで採用することができる。選択された用量も同様に、図1の投与量窓に示すのとは異なるように表示されることに留意すべきである。
【0075】
投与量窓13は、使用者が、ダイヤルグリップ12が回されたときに動くように構成されたダイヤルスリーブアセンブリの限られた部分を見ることを可能にし、現在設定されている用量の視覚的標示を提供するハウジング10のアパーチャの形態であってもよい。ダイヤルグリップ12は、用量の設定時にハウジング10に対して螺旋経路を回転する。図2に示すように、用量設定には、使用者がハウジング10に対してダイヤルグリップ12にトルクを加えることが必要とされる。以下により詳細に説明されるように、ある用量値が選択された後、使用者がダイヤル設定を増やすのを防止できる。
【0076】
この例では、ダイヤルグリップ12は、データ収集デバイスの取り付けを容易にするための1つまたは複数の形成を含む。特に、ダイヤルグリップ12は、電子(ボタン)モジュール11をダイヤルグリップ12に取り付ける、または一体化するように配置される。代替案として、ダイヤルグリップは、電子システムのそのようなボタンモジュールを含むことができる。
【0077】
注射デバイス1は、ダイヤルグリップ12を回すと機械的なクリック音が生じ、使用者に音響フィードバックを与えるように構成される。本実施形態では、ダイヤルグリップ12は注射ボタンとしても機能する。針15が患者の皮膚部分に刺さった後、ダイヤルグリップ12および/または取り付けられたモジュール11が軸方向に押されると、投与量窓13に表示されたインスリン用量が注射デバイス1から駆出される。ダイヤルグリップ12が押された後、注射デバイス1の針15が皮膚部分に一定時間留まると、用量が患者の体内に注入される。また、インスリン用量の駆出は、用量のダイヤル設定中にダイヤルグリップ12を回転させるときに発生する音とは異なり得る機械的なクリック音を発生させ得る。
【0078】
本実施形態では、インスリン用量の送達中、ダイヤルグリップ12は、軸方向運動で、すなわち回転することなく、その初期位置まで戻されるが、ダイヤルスリーブアセンブリは、その初期位置に戻るように、たとえば、ゼロ単位の用量を表示するように回転される。図1は、この0Uにダイヤル設定された状態の注射デバイス1を示す。既に述べたように、本開示はインスリンに限定されるものではなく、薬物容器14内のすべての薬物、特に液体薬物または薬物製剤を包含すべきである。
【0079】
注射デバイス1は、インスリン容器14が空になるか、または注射デバイス1内の薬剤の有効期限(たとえば、初回の使用から28日後)に達するまで、数回の注射プロセスに使用することができる。再使用可能なデバイスの場合、インスリン容器を交換することが可能である。
【0080】
さらに、注射デバイス1を初めて使用する前に、たとえば、2単位のインスリンを選択し、注射デバイス1を注射針15を上にして保持しながらダイヤルグリップ12を押すことによって、インスリン容器14および針15から空気を除去するために、いわゆる「プライムショット」を実行することが必要な場合がある。表現を簡単にするため、以下では、たとえば、注射デバイス1から駆出される薬剤の量が、使用者が受ける用量に等しくなるように、駆出される量は実質的に注射される用量に対応すると仮定する。それにもかかわらず、駆出量と注入量との間の差異(たとえば損失)を考慮する必要がある場合がある。
【0081】
上記で説明したように、ダイヤルグリップ12は、注射ボタンとしても機能するため、用量のダイヤル設定/設定および用量の投薬/送達のために同じ構成要素が使用される。代替案(図示せず)として、ダイヤルグリップ12に対して少なくとも限定された距離だけ軸方向に変位可能な別個の注射ボタンを用いて、用量の投薬を実行またはトリガすることもできる。
【0082】
図1では、電子モジュール11は、注射デバイス1の近位端に一体化され、特にダイヤルグリップ/用量ボタン12に一体化されているように描かれている。代替案として、電子モジュール11は、注射デバイス1、たとえばグリップ/用量ボタン12に恒久的または解放可能に取り付けられる別個の構成要素部材であってもよい。
【0083】
以下では、例示的な実施形態に関して、図1図11を参照しながら、薬物送達デバイス用のクラッチ、およびそのような薬物送達デバイスを動作させる方法の実施形態の詳細について説明する。本開示は、使用者が、最小限の関与または思考プロセスで、所定の値にダイヤル設定できるように努めるものである。使用者は、(ダイヤルエンコーダによって決定された)限界用量に達し、その時点でそれ以上のダイヤル設定が防止される(図2)まで通常通り用量をダイヤル設定することができる。用量のダイヤル設定には、内部機構を、ハウジング、すなわち外部本体に対して回転させる必要がある。この回転は、使用者がペンのハウジング10を握り、ダイヤルグリップ12を介して機構にトルクを加えることによって生じる。図2に描かれているように、ある用量値が選択された後、使用者がダイヤル設定を増やすのを防止できる。ダイヤル設定は、ダイヤルグリップ12を機構から連結解除するか、かつ/またはダイヤルグリップ12をハウジング10にロックすることにより防止することができる。使用者は続いて、通常通り用量を投薬し、機構をリセットして後続する用量をダイヤル設定できる。
【0084】
磁気スリップクラッチの第1の例示的実施形態が、図3a~図5cに描かれている。欧州特許第2 890 435B1号において注射ペンのために開示されている用量設定および駆動機構を使用する本実施形態では、ダイヤルグリップ12は、双安定クラッチ20を使用して機構に連結されている。このクラッチは、機構のプレートの形態の第1のクラッチ部材21と、ダイヤルプレートの形態の第2のクラッチ部材22とから形成される。図5a~図5cに示すように、クラッチ部材21、22は両方ともそれぞれクラッチ歯のリング、たとえば図に描かれているように互いに軸方向に向かい合うクラッチ歯から構成される。クラッチ20は、2つの位置またはクラッチ状態、すなわち開位置または閉位置のうちの1つにロックすることができる。第1のクラッチ部材21は、用量設定および駆動機構の少なくとも1つの構成要素部材に回転不能に拘束され、第2のクラッチ部材22は、ダイヤルグリップ12に回転不能に拘束される。
【0085】
第1のクラッチ部材21(機構プレート)は、ペンハウジング10に対して軸方向に安定した位置に保持される。第2のクラッチ部材22(ダイヤルプレート)は、機構にトルクを伝達する閉位置と、2つのプレートが互いに自由にすれ違うようにスリップする開位置との間で軸方向に移動することができる。したがって、ダイヤルグリップ12を回転させると、クラッチの状態に応じて、ダイヤル設定またはスリップにつながる。換言すれば、クラッチ20が閉じていれば、トルクは、ダイヤルグリップ12から用量設定および駆動機構に伝達されるが、クラッチ20が開いていれば合、ダイヤルグリップ12は、トルクを伝達することなく、用量設定および駆動機構に対して相対的に回転される。
【0086】
クラッチ20は、掛止ソレノイドアクチュエータ(図2)に電力を供給することにより、2つの状態間を切り替えられる。このアクチュエータは電磁コイル23をいずれかの極性で短時間充電して磁界を発生させることで動作する。この磁界は、ダイヤルプレート(第2のクラッチ部材22)が取り付けられているアクチュエータピン24をいずれかの方向に動かすように作用する。
【0087】
図3aおよび図3bに示す実施形態では、掛止挙動は、機構プレート(第1のクラッチ部材21)内に位置する永久磁石25によって生じる。ばね26は、クラッチプレート21、22を離したまま保持することができるが、磁石25および磁気アクチュエータピン24がクラッチプレート21、22を引き寄せる。ばねの力は直線的であり、磁力は逆二乗則で変化するため、切り替えポイントを有する双安定システムが作成される。クラッチ部材21、22が近くに位置していれば、磁石25の磁力はばね力より大きくなり、クラッチ部材21、22は近くに引き寄せられる。しかし、クラッチプレートが切り替えポイントより離れた位置にあれば、ばね26によって離して保持される。電磁石23は、永久磁石25をいずれの方向からでも切り替えポイントを横切って移動させるのに十分な強さを有する。
【0088】
また、図3aおよび図3bには、クラッチ位置を確認する検出スイッチ27が示されている。また、電磁コイル23用の別個のバッテリ28も示されている。検出スイッチ27は第2のクラッチ部材22(ダイヤルプレート)の位置を監視するために使用される。このスイッチ27は、スイッチ27が閉じなければクラッチ歯が互いにすれ違うことができないように位置する。ダイヤルグリップ12が回転し、検出スイッチ27が開いている場合、これはダイヤル設定された単位としてカウントされる。ダイヤルグリップ12が回転しているが検出スイッチ27が閉じていれば、プロセッサはクラッチ20がスリップしていると推測する。
【0089】
代替的実施形態(図示せず)では、永久磁石25は、ソレノイド23が両方向に打ち勝ち、2つの安定位置を提供するデテントまたはスナップ機能で置き換えることもできる。
【0090】
クラッチ20は、以下の工程を行うことにより、閉状態(図3b)から開状態(図3a)に切り替えられる:まず、コイル25はプロセッサによってバッテリ28からエネルギーを供給され、磁界を発生させ、アクチュエータピン24に力を与えて永久磁石25から引き離す。ばね26力が永久磁石25の磁力を超えるように十分な分離が達成されれば、コイル23は無力化される。すると、ばね26は、クラッチの歯が完全に係合解除(または部分的に係合)して、クラッチ20のスリップが可能になるように、クラッチプレート22を開位置へと押す。クラッチ20は、以下の工程を行うことにより、開状態(図3a)から開状態(図3b)に切り替えられる:まず、コイル23は反対の極性で電力供給されて磁界を発生させ、アクチュエータピン24に力を与え、永久磁石25の方へと押す。十分な分離が達成されれば、ばね力が永久磁石の磁力より小さくなり、コイル23は無力化される。すると、磁石25は、クラッチ歯が完全に係合し、すべてのトルクがダイヤルグリップ12から機構に伝達されるように、アクチュエータピン24を接触するように引き寄せる。
【0091】
本実施形態では、エンコーダは、ダイヤルグリップ12とハウジング10に回転可能にスプライン連結されたボタンアセンブリの一部との間の相対回転を検出するセンサとして使用される。ダイヤルエンコーダは、ボタンアセンブリの前記部分に設けられたばね付きPCB接点29および導電性ストリップ30で形成される。相対運動により、ストリップ30は異なる組合せのPCB接点29を連結する。このエンコーダ情報により、プロセッサは、必要なとき、すなわち、予め選択されたまたは所定の最大用量値がダイヤル設定された場合に、クラッチ20の状態の切り替えをトリガすることができる。
【0092】
最大用量限度未満でスイッチ27によりスリップが検出された場合、電磁石23を充電して掛止クラッチ20に係合することができる。最大用量限度に達すると、電磁石23が充電されて掛止が解除され、クラッチ20がスリップするようになる。
【0093】
図5a~図5cにおいて、クラッチは、ダイヤル設定開始時に係合されていることが示されており(図5a)、限界用量がエンコードされるまで係合されたままであり(図5b)、限界用量がエンコードされた時点でクラッチ20はスリップを可能にする(図5c)。図5はさらに、ダイヤル延長部、すなわち用量が増加するにつれてハウジング10から離れて移動するダイヤルグリップ12を示す。
【0094】
ダイヤル設定された用量カウントをリセットし、用量記録をメモリに渡すために、0Uスイッチも必要とされる。これは、たとえば、すべての導電性ストリップ30を0U(ボタンが押された)位置で短絡させることによって達成される。
【0095】
ダイヤルクリッカ31をロックする磁気クラッチの第2の例示的実施形態が、図6図8cに描かれている。欧州特許第2 890 435B1号または欧州特許第2 890 434B1号において注射ペンのために開示されている用量設定および駆動機構をここでも使用する本実施形態では、ダイヤルグリップ12は、機構に機械的にスプライン連結されている。動作モードは、固定ハウジング10に回転不能に拘束された内部ハウジング32にダイヤルクリッカ31を介して機構をロックすることである。ダイヤルクリッカ31は、半径方向に偏向することができる1つまたは複数のアーム(図6は2つのアームを示す)によって形成される。内部ハウジング32は、内部ハウジング32の内面に一連の軸方向に延びるスプライン33を備える。
【0096】
ダイヤルクリッカ31のアームは、内部ハウジング32のスプライン33に係合するが、ダイヤルクリッカ31と内部ハウジング32との間で相対回転が生じると、内側に偏向することによって、あるスプライン33から次のスプライン33に飛び移ることがある。この偏向は、ボタン構成要素35(図6および図7a)の凹部34によって可能になる。換言すれば、通常の使用において、ダイヤルクリッカ31アームが、ダイヤル設定される薬物の単位ごとに内部ハウジング32のスプライン33上で内側に偏向し、相対回転を可能にする。ボタン構成要素35およびクリッカ31アームは、ボタン構成要素35が押し下げられると、たとえば用量投薬中に、ボタン構成要素35のブロック部分36がアームの半径方向内側に位置するように、アームが偏向するのを阻止するように設計される(図7b)。換言すれば、クリッカ31のアームに対する凹部34またはボタン構成要素35のブロック部分36の相対的な軸方向位置に応じて、内部ハウジング32に対するクリッカ31の相対回転が可能になる、または阻止される。
【0097】
本実施形態では、ボタン構成要素35は、クラッチアクチュエータによって互いに限られた距離だけ軸方向に移動可能な、係合部分37である下側部分とトリガ部分38である上側部分とに分割されている。より詳細には、下側部分37は、上側部分38に先行してブロック位置へと下方に移動させることができる。すなわち、ボタンが押される前にダイヤル設定を阻止することができる。
【0098】
第1の実施形態で説明したものと同様の双安定ソレノイドアクチュエータ(電磁コイル23およびアクチュエータピン39)が、ボタンサブアセンブリ(図8a~図8c)に含まれる。たとえば、ボタンサブアセンブリの断面(図8a)は、充電式バッテリ28、ソレノイドコイル23、ボタン構成要素35の上側部分38、アクチュエータピン39、およびボタン構成要素35の下側部分37を示す。このようにして、ボタンは、事実上2つの長さを有する。短い方の構成では、ボタンは未改造のデバイスと同じように機能し、使用者は通常通りダイヤル設定し、投薬することができる。長い方の構成では、使用者はダイヤル設定することができず、用量の投薬に進まなければならない。
【0099】
使用中、ソレノイドクラッチアクチュエータ23、39は短い方の構成(図8b)で始まり、エンコーダが限界用量に達したことを観測するまでそのまま維持する。この時点でソレノイドクラッチアクチュエータ23、39は切り替わり、ボタン35は長い方の状態に駆動される(図8c)。ボタン構成要素35のトリガ部分38は上方への移動が防止され、これは、図7bに示すように、ボタン構成要素35の下側部分37が下方に移動し、ダイヤルクリッカ31アームを阻害しなければならないことを意味する。ダイヤルグリップ12は使用者にとってロックされたように感じられる。ボタンを押し下げると、用量が投薬され、ソレノイドがつぶれて短い状態に戻る。したがって、投薬が完了し、ボタンが解放されると、ダイヤルクリッカ31アームのブロックがもう一度解除され、さらに用量をダイヤル設定することができる。
【0100】
用量ボタン40をロックする磁気クラッチの第3の例示的実施形態が、図9a~図11に描かれている。国際公開第2016/055619A1号において注射ペンのために開示されている用量設定および駆動機構を使用する本実施形態では、ダイヤルグリップ12は、機構に機械的にスプライン連結されている。摺動カラー41が、アクチュエータピン42に軸方向に拘束され、ボタン40に回転不能に拘束されて設けられている。動作モードは、摺動カラー41を使用して、機構とハウジング10との間のロッククラッチ20を係合または係合解除することである。この目的のために、第1のクラッチ部材43および第2のクラッチ部材44が、それぞれの歯のリングの形態で摺動カラー41およびハウジング10に設けられている。
【0101】
本実施形態は、ボタン40およびハウジング10が、ダイヤル設定中、固定された分離状態のままであるように、(国際公開第2016/055619A1号に開示されているような)ダイヤル拡張部のないデバイスに適用するのが最良である。ここでも、最大エンコーダ値が読み取られると、双安定ソレノイドクラッチアクチュエータ(電磁コイル23、アクチュエータピン42)が、ボタンサブアセンブリの構成を切り替える動作を提供するために採用される。図9aおよび図10aは、ボタン40とハウジング10との間の回転を可能にする開状態のクラッチを示すのに対して、図9bおよび図10bは、ボタン40とハウジング10間の回転を防止する閉状態のクラッチを示す。
【0102】
使用中、ソレノイドクラッチアクチュエータ23、42は短い方の構成で始まり、カラー41をハウジング10とのクリアランスに保持する。この構成では、ダイヤル設定は未改造のデバイスと同様に進行する。エンコーダが限界用量に達したことを読み取ると、ソレノイドクラッチアクチュエータ23、42が切り替わり、カラー41がハウジング10に接触するように駆動される。
【0103】
クラッチの歯はそれ以上のダイヤル設定を防止するが、ダイヤル設定を戻すことができるように、非対称に傾斜している(図11)。この傾斜は、ソレノイドクラッチアクチュエータ23、42の双安定点に打ち勝つ役割を果たし、ダイヤル設定を下げるときに短い方の構成に切り替わる。換言すれば、傾斜したクラッチ歯が下方向へのダイヤル設定を可能にし、クラッチ/ソレノイドの位置をリセットする。
【0104】
第2の実施形態と同様に、ボタン40を押し下げると、用量が投薬され、ソレノイドクラッチアクチュエータ23、42がつぶれて短い状態に戻る。したがって、投薬が完了し、ボタン40が解放されると、クラッチが開き、さらに用量をダイヤル設定することができる。
【0105】
主に、欧州特許第2 890 435B1号、欧州特許第2 890 434B1号または国際公開第2016/055619A1号に開示されたデバイスと同様の動作原理を有する薬物送達デバイスに関して記載されているが、電子クラッチは、定義された条件または状態において相対的な軸方向運動および/または回転運動を行う構成部材を有する任意の他のタイプの薬物送達デバイスに適用可能である。
【符号の説明】
【0106】
1 薬物送達デバイス
10 ハウジング
11 ボタンモジュール
12 ダイヤルグリップ
13 投与量窓
14 容器/容器レセプタクル
15 針
16 内側針キャップ
17 外側針キャップ
18 キャップ
20 クラッチ
21 第1のクラッチ部材(機構プレート)
22 第2のクラッチ部材(ダイヤルプレート)
23 電磁コイル
24 アクチュエータピン
25 永久磁石
26 ばね
27 スイッチ
28 電源(バッテリ)
29 接点
30 導電性ストリップ
31 アーム付きダイヤルクリッカ
32 内部ハウジング
33 スプライン
34 凹部
35 ボタン
36 ブロック機能
37 下側または係合部分
38 上側またはトリガ部分
39 アクチュエータピン
40 ボタン
41 クラッチカラー
42 アクチュエータピン
43 第1のクラッチ部材
44 第2のクラッチ部材
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5a-5b】
図5c
図6
図7a
図7b
図8a
図8b
図8c
図9a
図9b
図10a
図10b
図11
【国際調査報告】