(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池材料のリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20240628BHJP
C22B 26/12 20060101ALI20240628BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20240628BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B26/12
C22B3/04
C22B3/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504179
(86)(22)【出願日】2022-07-22
(85)【翻訳文提出日】2024-03-19
(86)【国際出願番号】 EP2022070700
(87)【国際公開番号】W WO2023002048
(87)【国際公開日】2023-01-26
(32)【優先日】2021-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ローデ,ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】フォン ディーク,ディーター ジー
(72)【発明者】
【氏名】ゲルケ,ビルギット
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA10
4K001AA16
4K001AA19
4K001AA34
4K001AA42
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA02
4K001CA09
4K001CA16
4K001DB04
4K001DB35
4K001DB38
(57)【要約】
本明細書で開示されているのは、電池材料を、次亜塩素酸カルシウムの塩を含む水性媒体と接触させて混合物を形成する工程、及び混合物中で液体から固体を分離してリチウムイオンを含む水溶液を得る工程を含む、電池材料からリチウムを取り出す方法である。また、リチウムイオン電池材料をリサイクルする方法も開示されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池材料を、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸リチウム、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1種の塩を含む水性媒体と接触させて、混合物を形成する工程、及び
前記混合物中で液体から固体を分離して、リチウムイオンを含む水溶液を得る工程
を含む、電池材料からリチウムを取り出す方法。
【請求項2】
前記電池材料が、リチウム化ニッケルコバルトマンガン酸化物、リチウム化ニッケルコバルトアルミニウム酸化物、リチウム金属リン酸塩、リチウムイオン電池スクラップ、及びリチウムイオン電池由来の黒色塊から選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電池材料が、式Li
xMPO
4(式中、xは1以上の整数であり、Mは金属、遷移金属、希土類金属、及びそれらの組み合わせから選択される)のリチウム金属リン酸塩を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記電池材料が、式Li
1+x(Ni
aCo
bMn
cM
1
d)
1-xO
2
(式中、M
1は、Mg、Ca、Ba、Al、Ti、Zr、Zn、Mo、V及びFeから選択され、
0≦x≦0.2であり、
0.1≦a≦0.95であり、
0≦b≦0.9、又は0.05<b≦0.5であり、
0≦c≦0.6であり、
0≦d≦0.1であり、
a+b+c+d=1である)
のリチウム化ニッケルコバルトマンガン酸化物を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記電池材料が、式Li[Ni
hCo
iAl
j]O
2+r
(式中、hは0.8~0.90の範囲であり、
iは0.1~0.3の範囲であり、
jは0.01~0.10の範囲であり、
rは0~0.4の範囲である)
のリチウム化ニッケルコバルトアルミニウム酸化物を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記電池材料が、ニッケル、コバルト、マンガン、銅、アルミニウム、鉄、リン、又はそれらの組み合わせを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記電池材料が、0.01~10、0.01~5、0.01~2、又は0.01~1の範囲の、ニッケル、コバルト、マンガン、銅、アルミニウム、鉄、及びリンの総質量に対するリチウムの質量比を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
接触工程において、次亜塩素酸カルシウムの、前記電池材料の総質量に対する質量比が、0.1~100の範囲である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
接触工程が、20℃~100℃の範囲の温度で行われ、持続時間が10分~10時間の範囲である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
分離工程が、液体から固体を分離するために、濾過、デカンテーション、遠心分離、沈降、凝集及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つのプロセスを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
吸着、イオン交換、沈殿、結晶化、ナノ濾過、水除去による濃縮、溺出結晶化、有機溶媒へのリチウム塩の再溶解、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つのプロセスによって、リチウムイオンを含む水溶液を精製することをさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
リチウムイオンを含む水溶液を塩素-アルカリ-電解プロセスに供して、水酸化リチウム及び塩素ガスを得ることをさらに含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記塩素ガスを使用して、塩素化石灰及び/又は次亜塩素酸リチウムを製造する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
水酸化カルシウムが固体から回収される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記水酸化カルシウムを使用して、塩素化石灰を製造する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
リチウムイオン電池、リチウムイオン電池廃棄物、リチウムイオン電池製造スクラップ、リチウムイオンセル製造スクラップ、リチウムイオンカソード活物質、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つを機械的に粉砕して、黒色塊を得る工程、
前記黒色塊を、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸リチウム、及びこれらの組み合わせから選択される少なくとも1種の塩を含む水性媒体と接触させる工程、及び
液体から固体を分離して、リチウムイオンを含む水溶液を得る工程
を含む、リチウムイオン電池材料をリサイクルする方法。
【請求項17】
少なくとも1種の塩が次亜塩素酸カルシウムである、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
塩素-アルカリ-電解から得られた塩素ガスから製造された塩素化石灰及び/又は次亜塩素酸リチウムが、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法に従って電池材料からリチウムを取り出すために使用される、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
混合物の接触工程における初期pHが11未満である、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
混合物の接触工程における最終pHが10未満である、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
混合物の接触工程中のpHが5~11未満の範囲である、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
電池材料及び/又は黒色塊が、電池材料及び/又は黒色塊の総質量に対して、5質量%未満の炭酸リチウムLi
2CO
3を含む、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
電池材料及び/又は黒色塊が、電池材料及び/又は黒色塊の総質量に対して、5質量%未満のリン酸鉄リチウム及びリン酸鉄を含む、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願につながるプロジェクトは、欧州連合(EU)の研究・革新プログラム「Horizon 2020」の特定助成契約No EIT/RAW MATERIALS/SGA2020/1、プロジェクト契約番号19211の助成を受けている。
【0002】
本明細書で開示されているのは、電池材料を、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸リチウム、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1種の塩を含む水性媒体と接触させて混合物を形成する工程、及び混合物中で液体から固体を分離してリチウムイオンを含む水溶液を得る工程を含む、電池材料からリチウムを取り出す方法である。また、リチウムイオン電池材料をリサイクルする方法も開示されている。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池材料は貴重なリチウム源である。電池材料からリチウムを取り出すことは、リチウムイオン電池材料をリサイクルするための重要な工程である。リチウムイオン電池材料は様々な元素及び化合物の複雑な混合物であり、様々な非リチウム不純物を分離することが望ましい場合がある。次亜塩素酸ナトリウムなどを用いて電池材料からリチウムを取り出すと、自己失活によってpHが上昇し、満足のいくリチウム回収率及び/又は満足のいくリチウム純度が得られない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、電池材料からリチウムを取り出す方法、及びリチウムイオン電池材料をリサイクルする方法が必要とされている。例えば、高いリチウム回収率及び高いリチウム純度を有する経済的な方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書で開示されているのは、電池材料を、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸リチウム、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1種の塩を含む水性媒体と接触させて混合物を形成する工程、及び混合物中で液体から固体を分離して、リチウムイオンを含む水溶液を得る工程を含む、電池材料からリチウムを取り出す方法である。
【0006】
いくつかの実施形態において、電池材料は、リチウム化ニッケルコバルトマンガン酸化物、リチウム化ニッケルコバルトアルミニウム酸化物、リチウム金属リン酸塩、リチウムイオン電池スクラップ、及びリチウムイオン電池由来の黒色塊から選択される少なくとも1つを含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、電池材料は、式LixMPO4のリチウム金属リン酸塩を含み、式中、xは1以上の整数であり、Mは金属、遷移金属、希土類金属、及びそれらの組み合わせから選択される。
【0008】
いくつかの実施形態において、電池材料は、式Li1+x(NiaCobMncM1
d)1-xO2のリチウム化ニッケルコバルトマンガン酸化物を含み、式中、M1は、Mg、Ca、Ba、Al、Ti、Zr、Zn、Mo、V及びFeから選択され、0≦x≦0.2であり、0.1≦a≦0.95であり、0≦b≦0.9(例えば0.05<b≦0.5)であり、0≦c≦0.6であり、0≦d≦0.1であり、a+b+c+d=1である。
【0009】
いくつかの実施形態において、電池材料は、式Li[NihCoiAlj]O2+rのリチウム化ニッケルコバルトアルミニウム酸化物を含み、式中、hは0.8~0.90の範囲であり、iは0.1~0.3の範囲であり、jは0.01~0.10の範囲であり、rは0~0.4の範囲である。
【0010】
いくつかの実施形態において、電池材料は、ニッケル、コバルト、マンガン、銅、アルミニウム、鉄、リン、又はそれらの組み合わせを含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、電池材料は、ニッケル、コバルト、マンガン、銅、アルミニウム、鉄、及びリンの総質量に対するリチウムの質量比が0.01~10である。いくつかの実施形態において、電池材料は、ニッケル、コバルト、マンガン、銅、アルミニウム、鉄、及びリンの総質量に対するリチウムの質量比が0.01~5の範囲である。いくつかの実施形態において、電池材料が、ニッケル、コバルト、マンガン、銅、アルミニウム、鉄、及びリンの総質量に対するリチウムの質量比が0.01~2の範囲である。いくつかの実施形態において、電池材料は、ニッケル、コバルト、マンガン、銅、アルミニウム、鉄、及びリンの総質量に対するリチウムの質量比が0.01~1の範囲である。
【0012】
いくつかの実施形態では、接触工程において、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸リチウム、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1種の塩の、電池材料の総質量に対する質量比は、0.1~100の範囲である。
【0013】
いくつかの実施形態において、接触工程は、20℃~100℃の範囲の温度で行われ、持続時間が10分~10時間の範囲である。
【0014】
いくつかの実施形態において、分離工程は、液体から固体を分離するために、濾過、デカンテーション、遠心分離、沈降及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つのプロセスを含む。
【0015】
いくつかの実施形態において、方法は、吸着、イオン交換、沈殿、結晶化、ナノ濾過、水除去による濃縮、溺出(drowning-out)結晶化、有機溶媒へのリチウム塩の再溶解、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つのプロセスによって、リチウムイオンを含む水溶液を精製することをさらに含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、方法は、リチウムイオンを含む水溶液を塩素-アルカリ-電解プロセスに供して、水酸化リチウム及び塩素ガスを得ることをさらに含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、塩素ガスは塩素化石灰及び/又は次亜塩素酸リチウムを製造するために使用される。
【0018】
いくつかの実施形態において、塩素-アルカリ-電解から得られた塩素ガスから生成された塩素化石灰及び/又は次亜塩素酸リチウムは、電池材料からリチウムを取り出すために使用される。
【0019】
いくつかの実施形態において、水酸化カルシウムは固体から回収される。
【0020】
いくつかの実施形態において、水酸化カルシウムは塩素化石灰の製造に使用される。
【0021】
また、本明細書に開示されるのは、リチウムイオン電池、リチウムイオン電池廃棄物、リチウムイオン電池製造スクラップ、リチウムイオンセル製造スクラップ、リチウムイオンカソード活物質、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つを機械的に粉砕して、黒色塊を得る工程、この黒色塊を、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸リチウム、及びこれらの組み合わせから選択される少なくとも1種の塩を含む水性媒体と接触させる工程、及び液体から固体を分離して、リチウムイオンを含む水溶液を得る工程を含む、リチウムイオン電池材料をリサイクルする方法である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、電池材料からリチウムを取り出すための例示的な方法、及び/又はリチウムイオン電池材料をリサイクルするための例示的な方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義
本明細書で使用される「a」又は「an」の実体は、その実体の1つ以上を指し、例えば、「a」「化合物」は、特に明記しない限り、1つ以上の化合物又は少なくとも1つの化合物を指す。このように、用語「a」(又は「an」)、「1つ以上」、及び「少なくとも1つ」は、本明細書において互換的に使用される。
【0024】
本明細書で使用される「材料」という用語は、何かを構成する、又は作ることができる要素、構成要素、及び/又は物質を指す。
【0025】
本明細書で使用される「約」という用語は、記載された数値の±5%を指す。特に明記しない限り、すべての数値は「訳」で修飾されているものとする。
【0026】
本明細書で使用される「電気分解」という用語は、イオンを含む液体又は溶液に電流を流すことによって生じる化学分解を指す。
【0027】
本明細書で使用される「塩素-アルカリ-電解」という用語は、塩化物イオンを含む液体又は溶液から、電気分解によって塩素ガスを製造するプロセスを指す。
【0028】
本明細書で使用される「電気分解」という用語は、イオンを含む液体又は溶液に電流を流すことによって生じる化学分解を指す。
【0029】
本明細書で使用される「塩素化石灰」という用語は、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、及び次亜塩素酸カルシウムの混合物を指す。
【0030】
黒色塊
「黒色塊」とは、例えば、リチウムイオン電池、リチウムイオン電池廃棄物、リチウムイオン電池製造スクラップ、リチウムイオンセル製造スクラップ、リチウムイオンカソード活物質、及び/又はこれらの組み合わせから、機械的粉砕などの機械的処理によって得られるリチウムを含む材料を指す。例えば、黒色塊は、グラファイト及びカソード活物質などの電極の活性成分を得るために電池スクラップを機械的に処理することによって電池スクラップから得られ、ケーシング、電極ホイル、ケーブル、セパレータ、及び電解質からの不純物を含んでもよい。いくつかの例では、電池スクラップは、有機物(例えば、電解質)及びポリマー物質(例えば、セパレータ及びバインダ)を熱分解するための熱処理に供されてもよい。このような熱処理は、電池材料の機械的粉砕の前又は後に行うことができる。
【0031】
リチウムイオン電池は、分解、打ち抜き、例えばハンマーミルで粉砕、及び/又は例えば工業用シュレッダーで破砕されてもよい。このような機械的処理により、電池電極の活物質が得られる。有機プラスチック及びアルミニウムホイル又は銅ホイルから作られたハウジング部品のような軽い画分は、例えば、ガスの強制流、空気分離又は分級で除去することができる。
【0032】
電池スクラップは、例えば、使用済み電池、又は規格外材料のような製造廃棄物から生じることができる。いくつかの実施形態において、電池材料は、機械的に処理された電池スクラップ、例えばハンマーミル又は工業用シュレッダーで処理された電池スクラップから得られる。このような材料は、1μm~1cm、例えば1~500μm、さらに例えば3~250μmの範囲の平均粒径(D50)を有することができる。
【0033】
ハウジング、配線、及び電極キャリアフィルムのような電池スクラップの大きな部分は、対応する材料がプロセスで採用される電池材料から除外されるように、機械的に分離することができる。
【0034】
機械的に処理された電池スクラップは、遷移金属酸化物を集電体フィルムに結合させるため、又は例えばグラファイトを集電体フィルムに結合させるために使用されるポリマーバインダーを溶解及び分離するために、溶媒処理に供されてもよい。好適な溶媒としては、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-エチルピロリドン、及びジメチルスルホキシドが、純粋な形態で、前述の少なくとも2種の混合物、又は1質量%~99質量%の水との混合物として挙げられる。
【0035】
機械的に処理された電池スクラップは、異なる雰囲気下、幅広い温度範囲での熱処理に供することができる。温度範囲は通常100℃~900℃の範囲である。300℃未満のより低い温度は、電池電解質から残留の溶媒を蒸発させることに役立ち、より高い温度ではバインダーポリマーが分解する可能性があり、400℃を超える温度では、一部の遷移金属酸化物がスクラップ材料に含有される炭素、又は還元性ガスの導入により還元されるため、無機材料の組成が変化する可能性がある。いくつかの実施形態では、温度を400℃未満に保つこと、及び/又は熱処理前に炭素質材料を除去することによって、リチウム金属酸化物の還元を回避することができる。
【0036】
いくつかの実施形態において、電池材料は、リチウム化ニッケルコバルトマンガンオキシド、リチウム化ニッケルコバルトアルミニウムオキシド、リチウム金属リン酸塩、リチウムイオン電池スクラップ、リチウムイオン電池由来の黒色塊、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つを含む。
【0037】
いくつかの実施形態では、電池材料は、式LixMPO4のリチウム金属リン酸塩を含み、式中、xは1以上の整数であり、Mは金属、遷移金属、希土類金属、及びそれらの組み合わせから選択される。
【0038】
いくつかの実施形態において、電池材料は、式Li1+x(NiaCobMncM1
d)1-xO2のリチウム化ニッケルコバルトマンガンオキシドを含み、式中、M1は、Mg、Ca、Ba、Al、Ti、Zr、Zn、Mo、V及びFeから選択され、0≦x≦0.2であり、0.1≦a≦0.95であり、0≦b≦0.9(例えば0.05<b≦0.5)であり、0≦c≦0.6であり、0≦d≦0.1であり、そしてa+b+c+d=1である。例示的なリチウム化ニッケルコバルトマンガンオキシドには、Li(1+x)[Ni0.33Co0.33Mn0.33](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.5Co0.2Mn0.3](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.6Co0.2Mn0.2](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.7Co0.2Mn0.3](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.8Co0.1Mn0.1](1-x)O2(それぞれ、xは上記で定義した通りである)、及びLi[Ni0.85Co0.13Al0.02]O2が含まれる。
【0039】
いくつかの実施形態では、電池材料は、式Li[NihCoiAlj]O2+rのリチウム化ニッケルコバルトアルミニウムオキシドを含み、式中、hは0.8~0.90の範囲であり、iは0.1~0.3の範囲であり、jは0.01~0.10の範囲であり、rは0~0.4の範囲である。
【0040】
いくつかの実施形態では、電池材料は、ニッケル、コバルト、マンガン、銅、アルミニウム、鉄、リン、又はそれらの組み合わせを含む。
【0041】
いくつかの実施形態において、電池材料は、ニッケル、コバルト、マンガン、銅、アルミニウム、鉄、及びリンの総質量に対するリチウムの質量比が0.01~10の範囲である。いくつかの実施形態では、電池材料が、ニッケル、コバルト、マンガン、銅、アルミニウム、鉄、及びリンの総質量に対するリチウムの質量比が0.01~5の範囲である。いくつかの実施形態では、電池材料が、ニッケル、コバルト、マンガン、銅、アルミニウム、鉄、及びリンの総質量に対するリチウムの質量比が0.01~2の範囲である。いくつかの実施形態では、電池材料が、ニッケル、コバルト、マンガン、銅、アルミニウム、鉄、及びリンの総質量に対するリチウムの質量比が0.01~1の範囲である。
【0042】
いくつかの実施形態では、電池材料はLixMO2を含み、式中、xは1以上の整数であり、Mは金属、遷移金属、希土類金属、及びそれらの組み合わせから選択される。
【0043】
いくつかの実施形態において、リチウムイオン電池材料をリサイクルする方法は、リチウムイオン電池、リチウムイオン電池廃棄物、リチウムイオン電池製造スクラップ、リチウムイオンセル製造スクラップ、リチウムイオンカソード活物質、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つを機械的に粉砕して黒色塊を得る工程を含む。
【0044】
浸出:
いくつかの実施形態において、電池材料からリチウムを取り出す方法は、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸リチウム、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1種の塩を含む水性媒体と電池材料を接触させて混合物を形成することを含む。いくつかの実施形態において、リチウムイオン電池材料をリサイクルする方法は、リチウムイオン電池、リチウムイオン電池廃棄物、リチウムイオン電池製造スクラップ、リチウムイオンセル製造スクラップ、リチウムイオンカソード活物質、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つを機械的に粉砕して黒色塊を得る工程、及びこの黒色塊を、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸リチウム、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1種の塩を含む水性媒体と接触させる工程を含む。
【0045】
理論に拘束されることを望まないが、次亜塩素酸カルシウムは、LiMO2のような例示的なリチウム金属酸化物を酸化して、リチウムを塩化リチウムとして放出することができる:4LiMO2+Ca(ClO)2+H2O→2LiCl+4MO2+Ca(OH)2+2LiOH。式3CaCl(OCl)・Ca(OH)2・5H2Oの塩素化石灰を使用し、2LiOH+CaCl2⇔2LiCl+Ca(OH)の平衡の可能性に注目すると、塩素化石灰とリチウム金属酸化物の反応は次の式で表される:6LiMO2+[3CaCl(OCl)・Ca(OH)2・5H2O]→6LiCl+6MO2+4Ca(OH)2+2H2O。
【0046】
あるいは、次亜塩素酸ナトリウムの使用は、次の式に従って進めることもできる:2LiMO2+NaClO+H2O→LiCl+LiOH+MO2+NaOH。水酸化ナトリウムは最終的にpHを上昇させ、次亜塩素酸塩の酸化電位が下がりすぎて反応を継続できなくなる可能性があるため、pHを下げるために酸が必要になる場合がある。
【0047】
次亜塩素酸リチウムの使用は、次の式に従って進めることができる:2LiMO2+LiClO+H2O→LiCl+2LiOH+MO2。水酸化リチウムは最終的にpHを上昇させ、次亜塩素酸塩の酸化電位が下がりすぎて反応を継続できなくなる可能性があるため、pHを下げるために酸を添加してもよい。
【0048】
対照的に、次亜塩素酸カルシウムを使用する場合、水酸化カルシウムの溶解度が低いため、pH値が準緩衝される可能性がある。このように、リチウムを含む材料と塩素化石灰を反応させる場合、リチウムは塩化リチウムとして回収されるが、相当量のカルシウムは溶解性の低い水酸化カルシウムとして存在する可能性がある。
【0049】
いくつかの実施形態において、接触工程は、20℃~100℃の範囲の温度、10分~10時間の範囲の持続時間で行われる。いくつかの実施形態において、接触工程は、100℃、3時間~5時間の範囲の持続時間で行われる。いくつかの実施形態において、接触工程は、60℃、3時間~5時間の範囲の持続時間で行われる。いくつかの実施形態において、接触工程は、25℃、3時間~5時間の範囲の持続時間で行われる。
【0050】
固液分離:
いくつかの実施形態において、電池材料からリチウムを取り出す方法は、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸リチウム、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1種の塩を含む水性媒体と電池材料を接触させて混合物を形成する工程、及び混合物中で液体から固体を分離して、リチウムイオンを含む水溶液を得る工程を含む。いくつかの実施形態において、リチウムイオン電池材料をリサイクルする方法は、リチウムイオン電池、リチウムイオン電池廃棄物、リチウムイオン電池製造スクラップ、リチウムイオンセル製造スクラップ、リチウムイオンカソード活物質から選択される少なくとも1つを機械的に粉砕して、黒色塊を得る工程、この黒色塊を、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸リチウム、及びこれらの組み合わせから選択される少なくとも1種の塩を含む水性媒体と接触させる工程、及び液体から固体を分離して、リチウムイオンを含む水溶液を得る工程を含む。
【0051】
黒色塊からの不溶性残留物、例えば、グラファイトなどの炭素、及び浸出工程から得られた固体の水酸化カルシウムを含有する反応スラリーは、固液分離によって液体溶液と固体残留物に分離されてもよい。いくつかの実施形態では、リチウム欠乏固体残留物を回収してもよい。いくつかの実施形態では、水酸化カルシウムを使用して、塩素化石灰を製造する。
【0052】
いくつかの実施形態において、分離工程は、液体から固体を分離するために、濾過、デカンテーション、遠心分離、凝集、沈降及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つのプロセスを含む。
【0053】
Li/Ca分離:
いくつかの実施形態において、電池材料からリチウムを取り出す方法は、吸着、イオン交換、沈殿、結晶化、ナノ濾過、水除去による濃縮、溺出結晶化、有機溶媒へのリチウム塩の再溶解、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つのプロセスによって、リチウムイオンを含む水溶液を精製することをさらに含む。いくつかの実施形態では、リチウムイオン電池材料をリサイクルする方法は、吸着、イオン交換、沈殿、結晶化、ナノ濾過、水除去による濃縮、溺出結晶化、有機溶媒へのリチウム塩の再溶解、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つのプロセスによって、リチウムイオンを含む水溶液を精製することをさらに含む。
【0054】
塩化リチウム、溶解した水酸化カルシウム、及び一部の不純物、例えばアルミン酸塩、リン酸塩、フッ化物、ケイ酸塩などを含む濾液は、アルミン酸カルシウム、フッ化カルシウム、ケイ酸カルシウムのような溶解性の低いカルシウム塩を沈殿させることができる水の蒸発によって濃縮されてもよい。
【0055】
塩化リチウム溶液は、例えば、沈殿、イオン交換、吸着反応、ナノ濾過、塩化リチウムの結晶化による精製、及び/又は塩化リチウムの溶解に選択的な1種以上の溶媒を用いた溶媒交換によってさらに精製することができる。このような溶媒は、アルコール、例えばメタノール及びエタノールである。塩化リチウム水溶液は、エタノール、プロパノール、及び/又はイソプロパノールなどの極性の低い溶媒を水溶液に添加することによる溺出結晶化によって精製されてもよい。溺出結晶化プロセスは、例えば、Taboada,Mariea Elisaら,「Process design for drowning-out crystallization of lithium hydroxide monohydrate.」Chemical engineering research and design 85.9(2007):1325-1330に記載されている。
【0056】
リチウム/カルシウム分離は、ナノ濾過、シュウ酸塩、フッ化物、リン酸塩、炭酸塩及び/又は水酸化物としてのカルシウム沈殿、水及び/又はメタノール中での結晶化、溶媒交換、及び/又はイオン交換を含んでもよい。
【0057】
いくつかの実施形態では、水酸化カルシウムを使用して、塩素化石灰を製造する。
【0058】
Li/Na分離:
いくつかの実施形態において、電池材料からリチウムを取り出す方法は、ナトリウムイオンからリチウムイオンを分離することをさらに含む。いくつかの実施形態において、リチウムイオン電池材料をリサイクルする方法は、ナトリウムイオンからリチウムイオンを分離することをさらに含む。
【0059】
カルシウムイオンからリチウムイオンを分離するプロセスは、ナトリウムイオンからリチウムイオンを分離するプロセスとしても機能することができる。同様に、ナトリウムイオンからリチウムイオンを分離するプロセスは、カルシウムイオンからリチウムイオンを分離するプロセスとしても機能することができる。
【0060】
いくつかの実施形態において、ナトリウムイオンからリチウムイオンを分離するためのプロセスは、例えば炭酸塩としてのリチウム沈殿、リチウム溶媒抽出、リチウム吸着、リチウムイオン交換及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つである。
【0061】
Li塩からLiOHへの変換:
いくつかの実施形態では、リチウム塩は、水酸化物形態(LiOH)に変換されてもよい。例えば、Li2CO3は、Ca(OH)2との反応によってLiOHに変換することができる。
【0062】
いくつかの実施形態において、電池材料からリチウムを取り出す方法は、リチウムイオンを含む水溶液を、水酸化物との反応、LiCl電解、電気透析、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つに供することをさらに含む。いくつかの実施形態において、リチウムイオン電池材料をリサイクルする方法は、リチウムイオンを含む水溶液を、水酸化物による処理、LiCl電解、電気透析、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つに供することをさらに含む。
【0063】
いくつかの実施形態において、電池材料からリチウムを取り出す方法は、リチウムイオンを含む水溶液を塩素-アルカリ-電解プロセスに供して、水酸化リチウム及び塩素ガスを得ることをさらに含む。いくつかの実施形態において、リチウムイオン電池材料をリサイクルする方法は、リチウムイオンを含む水溶液を、塩素-アルカリ-電解プロセスに供して、水酸化リチウム及び塩素ガスを得ることをさらに含む。
【0064】
塩化リチウム溶液を塩素-アルカリ-電解に供して、水酸化リチウム及び塩素ガスを得ることができる。いくつかの電解プロセスは、例えばRU2713360及びEP3589762に記載されている。得られた水酸化リチウムを回収し、必要に応じてさらに精製することができる。塩素ガスを回収することができ、好ましい実施形態では、塩素ガスは塩素化石灰を製造するために使用される。別の好ましい実施形態では、回収した水酸化カルシウムを塩素化石灰の製造に使用する。水酸化カルシウムは、グラファイト浮選、担体浮選、及び/又は担体磁気分離のような技術によって固体残留物から分離することができる。
【0065】
LiOH・H2O結晶化:
いくつかの実施形態において、水酸化リチウムは結晶化によってさらに精製することができる。
【0066】
例示的な方法:
図1は、電池材料からリチウムを除去するための例示的な方法、及び/又はリチウムイオン電池材料をリサイクルするための例示的な方法(100)を示す。材料は、次亜塩素酸カルシウム(101)を用いて水性媒体中で処理することができる。濾過、デカンテーション、遠心分離、及び/又は沈降凝集などの固液分離を引き続いて行ってもよい(102)。リチウム欠乏の固体残留物が回収されてもよく(108)、水酸化カルシウムなどのカルシウム塩を含んでもよい。リチウムを含む液体部分は、Li/Ca分離に供され(103)、カルシウム塩が回収されてもよい(109)。例えば、ナノ濾過、カルシウム沈殿、水及び/又はメタノール中での結晶化、溶媒交換、及び/又はイオン交換を用いて、リチウム種及びカルシウム種を分離してもよい。カルシウム種は、シュウ酸塩、フッ化物、リン酸塩、炭酸塩、及び/又は水酸化物として沈殿させてもよい。カルシウム種は、例えば、LiOH、NaOH、及び/又はKOHで処理することにより、水酸化物として沈殿させてもよい。リチウム塩溶液は、例えば炭酸塩としてのリチウム沈殿、溶媒抽出、リチウム吸収、リチウムイオン交換などのLi/Na分離(104)にさらに供されてもよい。リチウム塩は、例えば、Ca(OH)
2との反応、LiCl電解、及び/又は電気透析によって、LiOH(105)に変換されてもよい。任意に、LiCl電解からのCl
2をリサイクルして、次亜塩素酸カルシウムを製造することができる。続いて、水酸化リチウムを結晶化して(106)、LiOH・H
2Oなどのリチウム塩を得る(107)ことができる。
【0067】
実施形態
限定するものではないが、本開示のいくつかの実施形態には以下のものが含まれる。
【0068】
1.電池材料を、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸リチウム、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1種の塩を含む水性媒体と接触させて混合物を形成する工程、及び混合物中で液体から固体を分離して、リチウムイオンを含む水溶液を得る工程を含む、電池材料からリチウムを取り出す方法。
【0069】
2.前記電池材料が、リチウム化ニッケルコバルトマンガン酸化物、リチウム化ニッケルコバルトアルミニウム酸化物、リチウム金属リン酸塩、リチウムイオン電池スクラップ、及びリチウムイオン電池由来の黒色塊から選択される少なくとも1つを含む、実施形態1に記載の方法。
【0070】
3.前記電池材料が、式LixMPO4のリチウム金属リン酸塩を含み、式中、xは1以上の整数であり、Mは金属、遷移金属、希土類金属、及びそれらの組み合わせから選択される、実施形態1又は2に記載の方法。
【0071】
4.前記電池材料が、式Li1+x(NiaCobMncM1
d)1-xO2のリチウム化ニッケルコバルトマンガン酸化物を含み、式中、M1は、Mg、Ca、Ba、Al、Ti、Zr、Zn、Mo、V及びFeから選択され、0≦x≦0.2であり、0.1≦a≦0.95であり、0≦b≦0.9(例えば0.05<b≦0.5)であり、0≦c≦0.6であり、0≦d≦0.1であり、a+b+c+d=1である、実施形態1から3のいずれか一項に記載の方法。
【0072】
5.前記電池材料が、式Li[NihCoiAlj]O2+rのリチウム化ニッケルコバルトアルミニウム酸化物を含み、式中、hは0.8~0.90の範囲であり、iは0.1~0.3の範囲であり、jは0.01~0.10の範囲であり、rは0~0.4の範囲である、実施形態1から4のいずれか一項に記載の方法。
【0073】
6.前記電池材料が、ニッケル、コバルト、マンガン、銅、アルミニウム、鉄、リン、又はそれらの組み合わせを含む、実施形態1から5のいずれか一項に記載の方法。
【0074】
7.前記電池材料が、0.01~10、0.01~5、0.01~2、又は0.01~1の範囲の、ニッケル、コバルト、マンガン、銅、アルミニウム、鉄、及びリンの総質量に対するリチウムの質量比を有する、実施形態1から6のいずれか一項に記載の方法。
【0075】
8.接触工程において、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸リチウム、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1種の塩の、前記電池材料の総質量に対する質量比が、0.1~100、0.1~70、0.1~50、0.1~30、1~100、10~100、30~100、又は50~100の範囲である、実施形態1から7のいずれか一項に記載の方法。
【0076】
9.接触工程が、20℃~100℃の範囲の温度で行われ、持続時間が10分~10時間の範囲である、実施形態1から8のいずれか一項に記載の方法。
【0077】
10.分離工程が、液体から固体を分離するために、濾過、デカンテーション、遠心分離、沈降及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つのプロセスを含む、実施形態1から9のいずれか一項に記載の方法。
【0078】
11.吸着、イオン交換、沈殿、結晶化、ナノ濾過、水除去による濃縮、溺出結晶化、有機溶媒へのリチウム塩の再溶解、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つのプロセスによって、リチウムイオンを含む水溶液を精製することをさらに含む、実施形態1から10のいずれか一項に記載の方法。
【0079】
12.リチウムイオンを含む水溶液を塩素-アルカリ-電解プロセスに供して、水酸化リチウム及び塩素ガスを得ることをさらに含む、実施形態1から11のいずれか一項に記載の方法。
【0080】
13.前記塩素ガスを使用して、塩素化石灰及び/又は次亜塩素酸リチウムを製造する、実施形態12に記載の方法。
【0081】
14.水酸化カルシウムが固体から回収される、実施形態1から13のいずれか一項に記載の方法。
【0082】
15.前記水酸化カルシウムを使用して、塩素化石灰を製造する、実施形態14に記載の方法。
【0083】
16.リチウムイオン電池、リチウムイオン電池廃棄物、リチウムイオン電池製造スクラップ、リチウムイオンセル製造スクラップ、リチウムイオンカソード活物質、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つを機械的に粉砕して、黒色塊を得る工程、この黒色塊を、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸リチウム、及びこれらの組み合わせから選択される少なくとも1種の塩を含む水性媒体と接触させる工程、及び液体から固体を分離して、リチウムイオンを含む水溶液を得る工程を含む、リチウムイオン電池材料をリサイクルする方法。
【0084】
17.前記少なくとも1種の塩が次亜塩素酸カルシウムである、実施形態1から16のいずれか一項に記載の方法。
【0085】
18.塩素-アルカリ-電解から得られた塩素ガスから製造された塩素化石灰及び/又は次亜塩素酸リチウムが、実施形態1から17のいずれか一項に記載の方法に従って電池材料からリチウムを取り出すために使用される、実施形態13に記載の方法。
【0086】
19.混合物の接触工程における初期pHが、11未満、10.9未満、10.8未満、10.7未満、又は10.6未満である、実施形態1から18のいずれか一項に記載の方法。
【0087】
20.混合物の接触工程における最終pHが、10未満、9未満、又は8未満である、実施形態1から19のいずれか一項に記載の方法。
【0088】
21.混合物の接触工程中のpHが、5から、11未満、10.9未満、10.8未満、10.7未満、又は10.6未満までの範囲である、実施形態1から20のいずれか一項に記載の方法。
【0089】
22.前記電池材料及び/又は黒色塊が、前記電池材料及び/又は黒色塊の総質量に対して、5質量%未満、1質量%未満、又は0.1質量%未満の炭酸リチウムLi2CO3を含む、実施形態1から21のいずれか一項に記載の方法。
【0090】
23.前記電池材料及び/又は黒色塊が、前記電池材料及び/又は黒色塊の総質量に対して、5質量%未満、1質量%未満、又は0.1質量%未満のリン酸鉄リチウム及びリン酸鉄を含む、実施形態1から22のいずれか一項に記載の方法。
【0091】
グループの少なくとも1つのメンバーの間に「又は」又は「及び/又は」を含む請求項又は説明は、反対の指示がない限り、又は文脈から明らかでない限り、グループのメンバーの1つ、2つ以上、又はすべてが、所定の製品又は方法に存在するか、採用されるか、又はそうでなければ関連する。本開示は、グループの正確に1つのメンバーが、所定の製品又は方法に存在するか、採用されるか、又はそうでなければ関連する実施形態を含む。本開示は、1つ超、又は全てのグループメンバーが、所定の製品又は方法に存在するか、採用されるか、又はそうでなければ関連する実施形態を含む。
【0092】
さらに、本開示は、記載された請求項の少なくとも1つからの少なくとも1つの限定、要素、条項、及び記述用語が別の請求項に導入される全ての変形、組み合わせ、及び変更を包含する。例えば、他の請求項に従属する請求項は、同じ基礎となる請求項に従属する他の請求項に見出される少なくとも1つの限定を含むように修正することができる。要素が、例えば、マークーシュグループ形式などのリストとして存在する場合、要素の各サブグループも開示され、任意の要素(単数又は複数)をグループから削除することができる。一般的には、本開示又は本開示の態様が特定の要素及び/又は特徴を含むと言及される場合、本開示又は本開示の態様の実施形態は、そのような要素及び/又は特徴からなるか、又は本質的にそのような要素及び/又は特徴からなることを理解されたい。簡略化のため、それらの実施形態は、本明細書において具体的に記載されていない。範囲が与えられる場合、エンドポイントが含まれる。さらに、他に示されない限り、又は文脈及び当業者の理解から明らかでない限り、範囲として表される値は、文脈が明確に指示しない限り、本開示の異なる実施形態において、記載された範囲内の任意の特定の値又はサブ範囲を想定することができる。
【0093】
当業者であれば、本明細書に記載された本開示の具体的な実施形態に相当する多くの同等物を、日常的な実験以上のことを行わずに認識するか、又は確認することができるであろう。このような同等物は、以下の特許請求の範囲に包含されることが意図される。
【実施例】
【0094】
以下の実施例は例示を意図したものであり、本開示の範囲を限定するものでは決して意図したものではない。
【0095】
略語
% パーセント
K2CO3 炭酸カリウム
Na2CO3 炭酸ナトリウム
Na2B4O7 四ホウ酸ナトリウム
P.A.グレード プロ分析グレード
n.d. 未決定
Na2S2O8 過硫酸ナトリウム
質量% 質量パーセント
(NH4)2S4O8 過硫酸アンモニウム
Ca(ClO)2 次亜塩素酸カルシウム
NaClO 次亜塩素酸ナトリウム
NaOH 水酸化ナトリウム
Li リチウム
Ni ニッケル
Co コバルト
Mn マンガン
Cu 銅
Al アルミニウム
Fe 鉄
P リン
F フッ素
Ca カルシウム。
【0096】
元素分析
リチウム、カルシウム、マンガンの元素分析は、以下のプロセスに従って行った。
【0097】
使用した試薬は、脱イオン水、塩酸(36%)、K2CO3-Na2CO3混合物(乾燥)、Na2B4O7(乾燥)、塩酸50体積%(脱イオン水と塩酸(36%)の1:1の混合物)であった。すべての試薬はp.a.グレードであった。
【0098】
0.2~0.25gの黒色塊をPtるつぼ中に秤量し、K2CO3-Na2CO3/Na2B4O7融合物を加えて、サンプルを調製した。サンプルを遮蔽のない炎で燃焼させ、その後600℃のマッフル炉で灰化した。残った灰をK2CO3-Na2CO3/Na2B4O7(0.8g/0.2g)と混合し、透明な溶融物が得られるまで溶融した。冷却した溶融ケーキを30mLの水に溶解し、12mLの50体積%の塩酸を添加した。100mLの規定量まで溶液を満たした。サンプルを3つずつ調製し、参照用にブランクサンプルを調製した。
【0099】
誘導結合プラズマ(ICP-OES)を用いて光学発光分光法により、得られたサンプル溶液中のLi、Ca、及びMnを決定した。ICP-OES Agilent 5100 SVDVを以下の特性で使用した:波長:Liが670.783nm;Caが396.847nm;Mnが257.610nm;内部標準:Scが361.383nm;希釈倍率:Liが100、Caが10、Mnが100;校正:外部。
【0100】
フッ素及びフッ化物の元素分析は、全体的なフッ素含有量決定のためのサンプル調製(廃棄物サンプル)に関してDIN EN 14582:2016-12に従って実施した;検出方法はイオン選択電極測定であった。DIN 38405-D4-2:1985-07(水サンプル;無機固体の分解、その後の酸支持蒸留、及びイオン選択電極を用いたフッ化物の決定)。
【0101】
その他の金属不純物及びリンは、ICP-OES(誘導結合プラズマ-光学発光分光法)又はICP-MS(誘導結合プラズマ-質量分析法)を用いて元素分析によって同様に決定した。全炭素は、燃焼後に熱伝導度検出器で決定した。
【0102】
黒色塊
黒色塊は、リチウムイオン電池を機械的に粉砕し、その後、黒色塊を微粉末としてリチウムイオン電池の他の成分から分離することによって得られた。黒色塊は、元素分析によって決定された表1による元素組成を有していた。
【0103】
【0104】
実施例1
黒色塊(30g)を脱イオン水(200g)に懸濁し、これに65%の活性塩素を含有する次亜塩素酸カルシウム(Merck 211389)(30g)を攪拌下で部分的に添加した。添加後、反応器内容物を所望の温度に加熱した。反応時間後、反応器内容物を室温まで冷却し、濾過した。濾過残留物を脱イオン水で洗浄して、組み合わせた濾液及び濾過残留物を得、続いて70℃で一晩真空乾燥した。濾液と濾過残留物の両方を元素分析によって分析した。分析データから元素の回収率を計算した。結果を表2にまとめた。
【0105】
【0106】
使用したLiとClのモル比は0.1~0.4であった。得られた濾液中には卑金属イオンは検出されなかった。実験2c中に、pH値をモニターした。次亜塩素酸カルシウムの添加後、pHは直ちに6~10.5に上昇した。次亜塩素酸塩の添加から数分後、pH値は7となり、さらに反応中に最終値6.3まで低下した。これらのpH値の変化は、上記の考察で示された式よりも複雑な反応スキームを示している。
【0107】
実施例2
15質量%のNaClO水溶液1066gに、100gの黒色塊3を添加した(モル比Li/Clが0.4~2.1)。混合物を攪拌下50℃に加熱し、6Mの塩酸83gを添加した。pH値は9から5に低下し、その後溶液のpH値は5に留まった。塩酸の添加から5時間後に実験を中止した。懸濁液を濾過し、固形残留物を脱イオン水で洗浄し、乾燥させた。濾液と固形残留物の元素分析は、71%のリチウム回収率を示した。濾液中は微量のNi、Co、Cu及びFeを検出した。
【0108】
実施例3
表3に示す試薬及び反応条件を用いて、実施例2と同様の手順で次亜塩素酸ナトリウムの代わりに過硫酸ナトリウムを使用した。Liと過硫酸塩のモル比は0.1~0.07であった。水酸化ナトリウムを使用しない実験の濾液でも、0.36%のNi及び0.03%のCoを検出した。水酸化ナトリウムを添加した実験では、卑金属イオンは検出されなかった。
【0109】
【0110】
実施例4
表4に示す試薬及び反応条件を用いて、実施例2と同様の手順で次亜塩素酸ナトリウムの代わりに過硫酸アンモニウムを使用した。Liと過硫酸塩のモル比は0.1~0.07であった。濾液からは、0.36%のNi及び0.03%のCoを検出した。
【0111】
【0112】
次亜塩素酸カルシウムは、次亜塩素酸ナトリウム又は過硫酸アンモニウムに比べてより高いリチウム回収率を示すことが観察された。さらに、形成した水酸化カルシウムは、反応溶液のpH値を、卑金属の溶解を避けるのに十分高く、反応を継続させるのに十分低いレベルに維持した。
【国際調査報告】