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特表2024-525387充電式リチウムイオン電池用の正極活物質としてのリチウムニッケル系複合酸化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】充電式リチウムイオン電池用の正極活物質としてのリチウムニッケル系複合酸化物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240705BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240705BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023578977
(86)(22)【出願日】2022-06-24
(85)【翻訳文提出日】2023-12-21
(86)【国際出願番号】 EP2022067323
(87)【国際公開番号】W WO2023274867
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】21182023.8
(32)【優先日】2021-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】キョンセ・ソン
(72)【発明者】
【氏名】ヒソク・ク
(72)【発明者】
【氏名】オレシア・カラクリナ
(72)【発明者】
【氏名】マキシム・ブランジェロ
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AA07
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA14
(57)【要約】
本発明は、電動ビークル(EV)及びハイブリッド電動ビークル(HEV)用途に適した正極活物質であって、当該物質は、可溶性S含有分を含みかつ高い比表面積を有する、リチウム遷移金属系酸化物粒子を構成する、正極活物質に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電式リチウムイオン電池に適した正極活物質であって、前記正極活物質は、Li、M’及び酸素を含み、M’は、
M’に対して60.0mol%~95.0mol%の含有量xのNi、
M’に対して0≦y≦40.0mol%の含有量yのCo、
M’に対して0≦z≦70.0mol%の含有量zのMn、
M’に対して0≦a≦2.0mol%の含有量aの、Li、O、Ni、Co、Mn、S、B、Zr、及びAl以外の元素、並びに
M’に対して0.1mol%~0.8mol%の含有量bの可溶性S、
M’に対して0≦c≦2.0mol%の含有量cのB、
M’に対して0≦d≦2.0mol%の含有量dのZr、
M’に対して0≦e≦2.0mol%の含有量eのAl、を含み、
x、y、z、a、b、c、d及びeは、ICPによって測定され、
x+y+z+a+b+c+d+eは、100.0mol%であり、
前記正極活物質は、BET測定によって決定したときに、0.6m/g~1.1m/gの表面積を有する、正極活物質。
【請求項2】
前記B含有量cは、M’に対して0.01mol%~2.0mol%である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記Zr含有量dは、M’に対して0.01mol%~2.0mol%である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記可溶性S含有量bは、M’に対してb≦0.7mol%、好ましくはM’に対してb≦0.6mol%である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記表面積は、BETによって決定したときに、多くとも1.05m/g、好ましくは多くとも1.00m/gである、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項6】
前記表面積は、BETによって決定したときに、少なくとも0.65m/g、好ましくは少なくとも0.7m/g、更により好ましくは少なくとも0.75m/g、更により好ましくは少なくとも0.8m/gである、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項7】
前記Al含有量eは、M’に対して0.01mol%~2.0mol%である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項8】
前記Ni含有量xは、M’に対してx≧70.0mol%、好ましくはM’に対してx≧75.0mol%かつx≦91.0mol%である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項9】
前記Co含有量yは、M’に対して0mol%~20mol%であり、好ましくは、前記Mn含有量zは、M’に対して0mol%~20mol%である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項10】
二次粒子メジアン径D50が、レーザー回折粒子径分析によって決定したときに、少なくとも2.0μmかつ多くとも15.0μmである、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法であって、
前記方法は、
工程1)リチウム遷移金属酸化物粉末を水と混合してスラリーを得、濾過した後、前記スラリーを乾燥させて乾燥粉末を得る工程と、
工程2)前記乾燥粉末を、Al(SOを含む水溶液と混合して、混合物を得る工程であって、前記溶液は、前記乾燥粉末の重量に対して300ppm~3000ppmの量のSを含む、混合物を得る工程と、
工程3)混合物を酸化性雰囲気下にて250℃~500℃未満の温度で加熱し、前記正極活物質を得る工程と、の連続工程を含む、方法。
【請求項12】
工程3)において、前記混合物は、250℃~450℃の温度で加熱される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工程2)において、B含有化合物は、100ppm~2000ppmのBの量で前記溶液に添加され、好ましくは、前記B含有化合物は、ホウ酸、酸化ホウ素、及び/又はリチウムホウ素酸化物から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか一項に記載の正極活物質を含む、電池。
【請求項15】
電動ビークル又はハイブリッド電動ビークルにおける、請求項14に記載の電池の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ビークル(EV)及びハイブリッド電動ビークル(HEV)用途に適した正極活物質であって、当該物質は、可溶性S含有分を含みかつ高い(比)表面積を有する、リチウム遷移金属系酸化物粒子を構成する、正極活物質に関する。
【0002】
正極活物質は、正極において電気化学的に活性である物質として定義される。活物質とは、所定の時間にわたって電圧変化にさらされたときにLiイオンを捕捉及び放出することができる物質であると理解されたい。
【0003】
正極活物質及びその製造方法は公知である。例えば、国際公開第2011/071068(A1)号の実施例7には、Al(SOで洗浄した後、水ですすぎ、600℃で加熱することが開示されている。国際公開第2011/071068(A1)号の表1が示すように、国際公開第2011/071068(A1)号の実施例7の比表面積は、0.45m/gである。
【0004】
しかしながら、更なる改善された正極活物質を提供する必要性が依然としてある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、例えば、BETによって測定される比表面積重量の増加によって、電気化学セルにおいて、初回充電容量(DQ1)及び容量低下率(QF)などの1つ以上の改善された電気化学特性を有する、正極活物質を提供することである。特に、本発明の目的は、好ましくは電気化学セルにおいて、少なくとも212mAh/gの改善された初回充電容量(DQ1)及び多くとも20%/100サイクルの容量低下率(QF)を有する、正極活物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、電気化学セルに適した正極活物質であって、正極活物質は、Li、M’及び酸素を含み、M’は、
M’に対して60.0mol%~95.0mol%の含有量xのNi、
M’に対して0≦y≦40.0mol%の含有量yのCo、
M’に対して0≦z≦70.0mol%の含有量zのMn、
M’に対して0≦a≦2.0mol%の含有量aの、Li、O、Ni、Co、Mn、S、B、Zr、及びAl以外の元素、並びに
M’に対して0.1mol%~0.8mol%の含有量bの可溶性S、
M’に対して0≦c≦2.0mol%の含有量cのB、
M’に対して0≦d≦2.0mol%の含有量dのZr、
M’に対して0≦e≦2.0mol%の含有量eのAl、を含み、
x、y、z、a、b、c、d及びeは、ICPによって測定され、
x+y+z+a+b+c+d+eは、100.0mol%であり、
正極活物質は、BET測定によって決定したときに、0.6m/g~1.1m/gの(比)表面積を有する、正極活物質を提供することによって達成することができる。
【0007】
本発明は、以下の実施形態に関する。
【0008】
実施形態1
第1の態様において、本発明は、電気化学セルに適した正極活物質であって、当該正極活物質は、Li、M’及び酸素を含み、M’は、
M’に対して60.0mol%~95.0mol%の含有量xのNi、
M’に対して0≦y≦40.0mol%の含有量yのCo、
M’に対して0≦z≦70.0mol%の含有量zのMn、
M’に対して0≦a≦2.0mol%の含有量aの、Li、O、Ni、Co、Mn、S、B、Zr、及びAl以外の元素、並びに
M’に対して0.1mol%~0.8mol%の含有量bの可溶性S、
M’に対して0≦c≦2.0mol%の含有量cのB、
M’に対して0≦d≦2.0mol%の含有量dのZr、
M’に対して0≦e≦2.0mol%の含有量eのAl、を含み、
x、y、z、a、b、c、d及びeは、ICPによって測定され、
x+y+z+a+b+c+d+eは、100.0mol%であり、
当該正極活物質は、BET測定によって決定したときに、0.6m/g~1.1m/gの(比)表面積を有する、正極活物質に関する。
【0009】
好ましくは、可溶性S含有量bは、M’に対してb≦0.7mol%、より好ましくはM’に対してb≦0.6mol%である。
【0010】
好ましくは、可溶性S含有量bは、M’に対してb≧0.2mol%より好ましくはM’に対してb≧0.3mol%である。
【0011】
好ましくは、Ni含有量xは、M’に対してx≧70.0mol%、より好ましくはM’に対してx≧80.0mol%、更により好ましくはM’に対してx≧81.0mol%である。
【0012】
好ましくは、Ni含有量xは、M’に対してx≦93.0mol%、より好ましくはM’に対してx≦91.0mol%である。
【0013】
好ましくは、Co含有量yは、M’に対してy>0mol%、より好ましくはM’に対してy≧1.0mol%、更により好ましくはM’に対してy≧5.0mol%である。
【0014】
好ましくは、Co含有量yは、M’に対してy≦30mol%、より好ましくはM’に対してy≦20.0mol%、更により好ましくはM’に対してy≦10.0mol%である。
【0015】
好ましくは、Mn含有量zは、M’に対してz>0mol%、より好ましくはM’に対してz≧1.0mol%、更により好ましくはM’に対してz≧5.0mol%である。
【0016】
好ましくは、Mn含有量zは、M’に対してz≦60mol%、より好ましくはM’に対してz≦50.0mol%、更により好ましくはM’に対してz≦40.0mol%であり、最も好ましくはM’に対してz≦20.0mol%である。
【0017】
別の実施形態では、含有量xの当該Niは、M’に対して70mol%~91mol%であり、含有量yの当該Coは、M’に対して0.0mol%~20.0mol%であり、含有量zの当該Mnは、M’に対して0.0mol%~20.0mol%である。
【0018】
好ましくは、可溶性Sは、M’に対して0.2mol%~0.7mol%の含有量b、より好ましくはM’に対して0.3mol%~0.6mol%の含有量bを有する。
【0019】
可溶性硫黄含有量は、本発明の正極活物質を水で洗浄した後、ICP分析によって容易に決定される。例えば、可溶性硫黄は、発明を実施するための形態のセクションA)ICP分析に従って決定することができる。
【0020】
本発明の枠組みにおいて、ppmは、濃度の単位についての百万分率を意味し、1ppm=0.0001重量%を表す。
【0021】
更に、本発明の枠組みにおいて、「硫黄」という用語は、特許請求される正極活物質における硫黄原子又は硫黄元素の存在を指す。
【0022】
実施形態2
第2の実施形態において、好ましくは実施形態1に従って、B含有量cは、M’に対して0.01mol%~2.0mol%である。
【0023】
好ましくは、B含有量cは、M’に対してc≦1.5mol%、より好ましくはM’に対してc≦1.0mol%である。
【0024】
実施形態3
第3の実施形態において、好ましくは実施形態1又は実施形態2に従って、Zr含有量dは、M’に対して0.01mol%~2.0mol%である。
【0025】
好ましくは、Zr含有量dは、M’に対してd≦1.0mol%、より好ましくはd≦0.5mol%である。
【0026】
好ましくは、Zr含有量dは、M’に対してd≧0.02mol%、より好ましくはd≧0.05mol%である。
【0027】
好ましくは、Al含有量eは、M’に対して0.01mol%~2.0mol%である。
【0028】
好ましくは、Al含有量eは、M’に対してe≦1.0mol%、より好ましくはe≦0.5mol%である。
【0029】
好ましくは、Al含有量eは、M’に対してe≧0.02mol%、より好ましくはe≧0.05mol%である。
【0030】
好ましくは、元素含有量aは、M’に対して0.01mol%~2.0mol%である。
【0031】
好ましくは、元素含有量aは、M’に対してa≦1.0mol%、より好ましくはa≦0.5mol%である。
【0032】
好ましくは、元素含有量aは、M’に対してa≧0.02mol%、より好ましくはa≧0.05mol%である。
【0033】
好ましくは、Li、O、Ni、Co、Mn、S、B、Zr及びAl以外の元素は、Ba、Ca、Cr、Fe、Mg、Mo、Nb、Si、Sr、Ti、Y、V、W及びZnからなる群から選択される。
【0034】
実施形態4
第4の実施形態において、好ましくは実施形態1に従って、当該物質は、BET測定によって決定したときに、0.65m/g~1.10m/gの(比)表面積を有する。
【0035】
好ましくは、当該物質は、少なくとも0.70m/g、より好ましくは少なくとも0.75m/g、更により好ましくは少なくとも0.80m/gの(比)表面積を有する。
【0036】
好ましくは、当該物質は、多くとも1.05m/g、より好ましくは多くとも1.00m/gの(比)表面積を有する。
【0037】
実施形態5
第5の実施形態において、実施形態1又は実施形態2に従って、当該物質は、レーザー回折粒子径分析によって決定したときに、少なくとも2μm、好ましくは少なくとも3μmの二次粒子メジアン径D50を有する。
【0038】
好ましくは、当該物質は、レーザー回折粒子径分析によって決定したときに、多くとも15μm、好ましくは多くとも10μmの二次粒子メジアン径D50を有する。
【0039】
本発明は、電池における、上述の実施形態1~実施形態5のいずれか1つに記載の正極活物質の使用に関する。
【0040】
当該電池は、カソード、アノード、セパレータ、及び電解質を含む、充電式リチウムイオン電池である。好ましくは、電解質は非水性液体電解質である。本発明の正極活物質は、正極に用いられる。
【0041】
本発明はまた、電動ビークル又はハイブリッド電動ビークルにおける、本発明による電池の使用に関する。
【0042】
実施形態6
第2の態様において、本発明はまた、正極活物質を製造するプロセスであって、
工程1)リチウム遷移金属酸化物粉末を水と混合してスラリーを得、濾過した後、スラリーを乾燥させて乾燥粉末を得る工程と、
工程2)乾燥粉末を、S含有化合物を含む溶液と混合し、混合物を得る工程であって、溶液は、乾燥粉末の重量に対して300ppm~3000ppmの量のSを含む、混合物を得る工程と、
工程3)混合物を酸化性雰囲気下にて250℃~500℃未満の温度で加熱し、正極活物質を得る工程と、を含む、プロセスを含む。
【0043】
好ましくは、工程1を有利に使用し、炭酸リチウムなどの不純物を除去し、改善された特性を有する正極物質を得ることができる。これは、当該リチウム化合物の存在が、例えば、高温貯蔵中にガスを発生させ得るので、望ましくないからである。
【0044】
好ましくは、工程1)において、スラリー中の固形分含有量は、多くとも80重量%、より好ましくは多くとも70重量%である。
【0045】
好ましくは、工程1)において、使用されるリチウム遷移金属酸化物粉末はまた、典型的には、リチオ化プロセス、すなわち遷移金属前駆体とリチウム源との混合物を好ましくは少なくとも500℃の温度で加熱するプロセスに従って調製される。典型的には、遷移金属前駆体は、アルカリ化合物、例えばアルカリ水酸化物、例えば水酸化ナトリウム及び/又はアンモニアの存在下で、1種以上の遷移金属源、例えばM’元素Ni、Mn及び/又はCoの塩、好ましくは硫酸塩の共沈によって調製される。
【0046】
工程1)の一実施形態において、リチウム遷移金属酸化物粉末は、ドーパントとしてZrを含む。このようなリチウム遷移金属酸化物粉末は、リチオ化プロセスにおいて、遷移金属酸化物前駆体にリチウム源と共にZr含有化合物を添加し、リチウム遷移金属酸化物を調製することによって得ることができる。あるいは、リチオ化プロセスの前に、Zr含有化合物を遷移金属酸化物前駆体と共に混合してもよい。
【0047】
好ましくは、当該Zr含有化合物は、酸化ジルコニウムを含む。
【0048】
Zrをドーパントとして添加する利点は、本発明による正極活物質の電気化学的特性を改善することである。
【0049】
任意選択で、元素含有化合物を、工程1)においてドーパントとして正極物質に添加することもできる。好ましくは、当該元素含有化合物は、リチオ化プロセスにおいて、リチウム源と共に遷移金属酸化物前駆体に添加され、リチウム遷移金属酸化物を調製する。あるいは、当該元素含有化合物は、リチオ化プロセスの前に遷移金属酸化物前駆体と共に混合してもよい。
【0050】
典型的には、元素含有化合物の元素は、Li、O、Ni、Co、Mn、S、B、Zr及びAl以外の元素である。好ましくは、当該元素は、Ba、Ca、Cr、Fe、Mg、Mo、Nb、Si、Sr、Ti、Y、V、W及びZnからなる群から選択される。
【0051】
当該元素をドーパントとして添加する利点は、例えば、本発明による正極活物質の電気化学的特性を改善することである。
【0052】
工程2)において、好ましくは、S含有化合物を含む溶液は、乾燥粉末の重量に対して500ppm~2700ppmの量で、より好ましくは乾燥粉末の重量に対して600ppm~2800ppmの量で、最も好ましくは乾燥粉末の重量に対して800ppm~2500ppmの量でSを含む。
【0053】
好ましくは、工程2)において、S含有化合物は、Al(SOを含む。
【0054】
工程2)の別の実施形態において、使用されるS含有化合物は、Al(SOに加えて、又はその代わりに、硫酸及び/又は硫酸塩を含んでもよい。
【0055】
工程3)において、好ましくは、当該加熱温度は、少なくとも250℃、より好ましくは少なくとも280℃、最も好ましくは少なくとも300℃である。
【0056】
工程3)において、好ましくは、当該加熱温度は、高くとも450℃、より好ましくは高くとも420℃、最も好ましくは高くとも400℃である。
【0057】
好ましくは、工程3)において、当該加熱時間は、1時間~20時間である。
【0058】
実施形態7
第7の実施形態において、実施形態6に従って、工程2)は、任意選択でS含有化合物と共に、B含有化合物を溶液に添加することを含む。好ましくは、添加されるB含有化合物は、粉末の形態である。
【0059】
好ましくは、工程2)において、溶液は、100ppm~2000ppmの量で、より好ましくは200ppm~1800ppmの量で、最も好ましくは500ppm~1500ppmの量でBを含むB化合物を更に含む。
【0060】
好ましくは、工程1)において溶液に添加されるB含有化合物は、ホウ酸、酸化ホウ素、及び/又はリチウムホウ素酸化物を含み得るが、これらに限定されない。
【0061】
実施形態8
第8の実施形態において、実施形態6~7に従って、工程3)で得られる正極活物質は、好ましくは、上記の実施形態1~5のいずれかに記載の本発明の正極活物質である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下の発明を実施するための形態では、本発明の実施を可能にするために、好ましい実施形態を記載している。本発明は、これらの特定の好ましい実施形態を参照して記載されているが、本発明は、これらの好ましい実施形態に限定されないことが理解されよう。本発明は、以下の発明を実施するための形態の考察から明らかである多くの代替、改変、及び同等物を含む。
【0063】
A)ICP分析
A1)ICP測定
正極活物質粉末中のLi、Ni、Mn、Co、S、B及びZrの量は、Agillent ICP720-ES(Agilent Technologies)を使用して誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma、ICP)法で測定される。2グラムの粉末サンプルを、三角フラスコ中で10mLの高純度塩酸(溶液の総重量に対して少なくとも37重量%のHCl)に溶解させる。前駆体を完全に溶解させるまで、フラスコをガラスでカバーし、380℃のホットプレート上で加熱する。室温まで冷却した後、三角フラスコの溶液を250mLメスフラスコに注ぐ。その後、メスフラスコの250mLの標線まで脱イオン水を充填し、続いて、完全に均質化する。ピペットで適切な量の溶液を取り出し、2回目の希釈のために250mLメスフラスコに移し、メスフラスコの250mLの標線まで内部標準物質及び10%塩酸を充填した後、均質化させる。最後に、この50mL溶液をICP測定に使用する。この工程から得られたS量は、総Sと名付けられ、これは可溶性S量及び不溶性S量の両方を含む。
【0064】
A2)可溶性硫黄測定
本発明によるリチウム遷移金属系酸化物粒子における可溶性S含有量を調べるために、洗浄及び濾過プロセスが実施される。5グラムの正極活物質粉末及び100グラムの超純水を、ビーカーに測り分ける。電極活物質粉末を、磁気撹拌器を使用して25℃で5分間水に分散させる。分散液を真空濾過し、乾燥粉末を上記のICP測定によって分析し、化合物中に残存するSの量を決定する。洗浄前の正極物質粉末に含まれるS量と洗浄前の正極物質粉末に含まれるS量との差を、Ni、Mn及びCoのモル含有量に対する不溶性S(mol%)として定義する。
【0065】
可溶性硫黄の量は、以下の式1に従って計算され、
可溶性S=洗浄前の正極物質粉末中のS(総S)-洗浄後の正極物質粉末中のS(不溶性S) (式1)
総Sの量(mol%)は、Ni、Mn及びCoの総量に対して、ICPによって測定される。
【0066】
B)粒子径
正極活物質粉末の粒子径分布(particle size distribution、PSD)は、各々の粉末サンプルを水性媒体中に分散させた後、Hydro MV湿式分散付属品を備えたMalvern Mastersizer3000を使用してレーザー回折粒子径分析により測定される。粉末の分散を改善するために、十分な超音波照射及び撹拌を適用し、適切な界面活性剤を導入する。D50は、Hydro MV測定値によるMalvern Mastersizer 3000から得られた累積体積%分布の50%における粒子径として定義される。
【0067】
C)コインセル試験
C1)コインセルの調製
正極の調製では、溶媒(NMP、Mitsubishi)中に、正極活物質粉末、導電剤(Super P、Timcal)、バインダー(KF#9305、Kureha)を重量比96.5:1.5:2.0の配合で含有するスラリーを、高速ホモジナイザーによって調製する。均質化したスラリーを、ギャップが170μmであるドクターブレードコータを用いて、アルミニウム箔の片面上に塗り広げる。スラリーでコーティングした箔をオーブン内で、120℃で乾燥させ、次いでカレンダーツールを使用してプレスする。次いで、これを真空オーブン内で再び乾燥させて、電極フィルム内の残留溶媒を完全に除去する。コインセルは、アルゴンを充填させたグローブボックス中で組み立てられる。セパレータ(Celgard 2320)を、正極と、負極として使用するリチウム箔片との間に配置する。EC/DMC(1:2)中の1M LiPFを電解質として使用し、かつセパレータと電極との間に滴下する。次いで、コインセルを完全に密封して、電解質の漏れを防止する。
【0068】
C2)試験方法
試験方法は、従来の「一定のカットオフ電圧」試験である。本発明における従来のコインセル試験は表2に示したスケジュールに従う。各セルを、Toscat-3100コンピュータ制御定電流サイクリングステーション(galvanostatic cycling station)(Toyo製)を使用して、25℃でサイクル試験する。
【0069】
スケジュールは、4.3V~3.0V/Li金属窓範囲における220mA/gの1C電流定義を使用した。容量低下率(QF)は、以下の式2によって得られる。
QF(%/100サイクル)=100×(1-DQ34/DQ)×1/27×100 式2
式中、DQ1は1サイクル目の放電容量であり、DQ25は25サイクル目の放電容量である。
【0070】
【表1】
【0071】
D)比表面積分析
正極活物質の比表面積(又は表面積)を、Micromeritics TristarII3020を使用することによってBrunauer-Emmett-Teller(BET)法により測定する。吸着された化学種を除去するために、測定前に、粉末サンプルを窒素(N)ガス下で300℃にて1時間加熱する。乾燥粉末をサンプル管に入れる。次いで、サンプルを、30℃で10分間脱気する。この装置では、77Kで窒素吸着試験を行う。窒素等温吸/脱着曲線を得ることにより、m/gの単位でサンプルの総比表面積が導き出される。
【0072】
本発明を以下の(非限定的な)実施例によって更に説明する。
【0073】
比較例1
比較例1(CEX1)を、以下のように行われる、リチウム源と遷移金属系源との間の固相反応によって得る。
1)共沈:混合ニッケル-マンガン-コバルトサルフェート、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを入れた大型連続撹拌槽反応器(CSTR)内での共沈プロセスにより、金属組成Ni0.83Mn0.05Co0.12を有する遷移金属系酸化水酸化物前駆体を調製する。
2)第1の混合:遷移金属系酸化水酸化物前駆体と、ZrOからの2000ppmのZrとを、工業用ブレンド装置において均質に混合し、第1の混合物を得る。
3)第2の混合:工程2)からの第1の混合物と、リチウム源としてのLiOHとを、工業用ブレンド装置において1.04のリチウム対金属M’(Li/M’)比で均質に混合し、第2の混合物を得る。
4)加熱:工程3)からの混合物を、酸素雰囲気下にて765℃で12時間加熱し、続いて破砕し、選り分け、篩にかけることにより、加熱生成物を得る。
5)洗浄:工程4)からの加熱生成物を、1:1の粉末対水比で、15℃で10分間、水で洗浄する。粉末を濾過し、真空下、140℃で乾燥させ、続いて篩にかける。このプロセスの生成物は、ICPによって得られるように、0.83:0.05:0.012のNi:Mn:Co比でNi、Mn、及びCoを含むM’を有するCEX1である。CEX1は10.2μmのD50を有する。
【0074】
実施例1.1
実施例1.1(EX1.1)は、以下の工程によって得られる。
1)硫酸アルミニウム溶液の調製:7.01グラムのAl(SO・16HO粉末を、30グラムの脱イオン水と混合する。
2)混合:1kgの比較例1を工程1で調製した硫酸アルミニウム溶液と混合し、湿潤混合物を得る。
3)加熱:工程1)から得られた混合物を、酸素雰囲気下にて385℃で8時間加熱し、続いて、摩砕及び篩い分けすることにより、EX1.1を得る。
【0075】
実施例1.2
実施例1.2(EX1.2)を、11.68グラムのAl(SO・16HOを用いた以外は、EX1.1と同じ方法に従って調製する。
【0076】
比較例2
比較例2(CEX2)は、工程5)洗浄が含まれないことを除いて、CEX1に従って調製される。更に、工程4)からの1kgの加熱粉末を、加熱粉末の重量に対して30グラムの脱イオン水に7.01グラムのAl(SO・16HO粉末を溶解させることによって調製される、硫酸アルミニウム溶液と混合する。混合物を、酸素雰囲気下にて385℃で8時間再加熱し、続いて、磨砕し、篩い分けすることにより、CEX2を得る。
【0077】
実施例2.1
実施例2.1(EX2.1)は、Al(SO・16HO粉末量が5.84グラムであり、更に2.86グラムのHBO粉末が工程1)から得られた湿潤粉末に添加されることを除いて、EX1と同じ方法に従って調製される。混合物を、酸素雰囲気下にて300℃で8時間加熱し、続いて、磨砕し、篩い分けすることにより、EX1.1を得る。
【0078】
実施例2.2
実施例2.2(EX2.2)を、加熱温度が385℃であることを除いて、EX2.1と同じ方法に従って調製する。
【0079】
【表2】
【0080】
Ni、Mn、Co、Al、B、可溶性S、及びZrのモル含有量に対して
【0081】
表2では、実施例及び比較例の組成、(比)表面積、及び対応する電気化学的特性をまとめる。
【0082】
CEX1は、1.2m/gの表面積を有する、中国特許第111422916(A)号による洗浄された物質である。CEX1は、212mAh/gより低いDQ1、及び20%/100サイクルより高いQFを示す。本発明による正極物質の特徴を有するEX1.1及びEX1.2は、電気化学セルにおいて、少なくとも212mAh/gの改善された初回充電容量(DQ1)、及び多くとも20%/100サイクルの容量低下率(QF)を有する物質をもたらす。更に、EX2.1及びEX2.2におけるBの添加は、EX1.1及びEX1.2の正極物質と比較して、より改善された電気化学的特性を有する本発明による正極物質をもたらす。
【0083】
一実施形態において、本発明による正極活物質の(比)表面積は、本発明の方法の工程3)の温度を上昇させることによって減少する。
【0084】
0.45m2/gという国際公開第2011/071068(A1)号の実施例7のより低い比表面積は、本発明と比較してより高い最終加熱温度に由来する。
【国際調査報告】