(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】板状酸化鉄粒子、及び板状酸化鉄粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 49/06 20060101AFI20240705BHJP
【FI】
C01G49/06 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580647
(86)(22)【出願日】2021-07-02
(85)【翻訳文提出日】2023-12-28
(86)【国際出願番号】 CN2021104340
(87)【国際公開番号】W WO2023272732
(87)【国際公開日】2023-01-05
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【氏名又は名称】成田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】リ メン
(72)【発明者】
【氏名】矢木 直人
(72)【発明者】
【氏名】袁 建軍
(72)【発明者】
【氏名】ヤン シャオウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ザオ ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】グオ ジェン
(72)【発明者】
【氏名】リ シュアン
【テーマコード(参考)】
4G002
【Fターム(参考)】
4G002AA03
4G002AB02
4G002AE01
4G002AE03
4G002AE05
(57)【要約】
本発明は、モリブデンと形状制御剤由来の原子とを含む板状酸化鉄粒子に関する。本発明は、モリブデン化合物、及び形状制御剤の存在下で、鉄化合物を焼成する焼成工程を含む、板状酸化鉄粒子の製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデンと形状制御剤由来の原子とを含む板状酸化鉄粒子。
【請求項2】
前記板状酸化鉄粒子の、動的光散乱法により算出されるメディアン径D
50が0.01~0.5μmである、請求項1に記載の板状酸化鉄粒子。
【請求項3】
一次粒子の平均粒子径を厚さで除したアスペクト比が5~500である、請求項1又は2に記載の板状酸化鉄粒子。
【請求項4】
一次粒子の平均粒子径が0.01~0.5μmであり、厚さが0.05μm未満である、請求項1~3のいずれか一項に記載の板状酸化鉄粒子。
【請求項5】
前記板状酸化鉄粒子をXRF分析することによって求められる前記板状酸化鉄粒子100質量%に対するFe
2O
3含有率(F
1)が85.0~99.5質量%であり、前記板状酸化鉄粒子をXRF分析することによって求められる前記板状酸化鉄粒子100質量%に対するMoO
3含有率(M
1)が0.01~5.0質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の板状酸化鉄粒子。
【請求項6】
前記形状制御剤由来の原子が、珪素、ゲルマニウム及びリンからなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1~5のいずれか一項に記載の板状酸化鉄粒子。
【請求項7】
前記形状制御剤由来の原子が、前記板状酸化鉄粒子の表層に偏在している、請求項1~6のいずれか一項に記載の板状酸化鉄粒子。
【請求項8】
前記形状制御剤由来の原子が珪素である、請求項1~7のいずれか一項に記載の板状酸化鉄粒子。
【請求項9】
前記板状酸化鉄粒子をXRF分析することによって求められる前記板状酸化鉄粒子100質量%に対するFe
2O
3含有率(F
1)が85.0~99.5質量%であり、前記板状酸化鉄粒子をXRF分析することによって求められる前記板状酸化鉄粒子100質量%に対するMoO
3含有率(M
1)が0.01~5.0質量%であり、前記板状酸化鉄粒子をXRF分析することによって求められる前記板状酸化鉄粒子100質量%に対するSiO
2含有率(S
1)が0.001~10質量%である、請求項8に記載の板状酸化鉄粒子。
【請求項10】
前記板状酸化鉄粒子をXRF分析することによって求められる前記板状酸化鉄粒子100質量%に対するSiO
2含有率(S
1)に対する、前記板状酸化鉄粒子をXPS表面分析することによって求められる前記板状酸化鉄粒子の表層100質量%に対するSiO
2含有率(S
2)の表層偏在比(S
2/S
1)が1超20以下である、請求項8又は9に記載の板状酸化鉄粒子。
【請求項11】
BET法により求められる比表面積が、0.5m
2/g以上である、請求項1~10のいずれか一項に記載の板状酸化鉄粒子。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の板状酸化鉄粒子の製造方法であって、
モリブデン化合物、及び形状制御剤の存在下で、鉄化合物を焼成する焼成工程を含む、板状酸化鉄粒子の製造方法。
【請求項13】
前記形状制御剤が、珪素又は珪素化合物である、請求項12に記載の板状酸化鉄粒子の製造方法。
【請求項14】
前記焼成工程に先立ち、ナノサイズの前記鉄化合物の粒子を得る前駆体製造工程を含む、請求項12又は13に記載の板状酸化鉄粒子の製造方法。
【請求項15】
前記焼成工程における前記モリブデン化合物が、三酸化モリブデン、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である、請求項12~14のいずれか一項に記載の板状酸化鉄粒子の製造方法。
【請求項16】
前記鉄化合物を焼成する焼成温度が400℃以上1000℃未満である、請求項12~15のいずれか一項に記載の板状酸化鉄粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状酸化鉄粒子、及び板状酸化鉄粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化鉄は、結晶構造の違いにより、ヘマタイト(α-Fe2O3)が赤色系を示し、マグネタイト(Fe3O4)が黒色系を示し、マグヘマイト(γ-Fe2O3)が茶褐色系を示すことが知られており、顔料用材料として広く使用されている。また、マグネタイト及びマグヘマイトは、顔料用材料としての用途の他に、その磁気特性を活かして、電波吸収体用、ノイズ抑制用、高透磁率材料用、磁性トナー用及び磁気記録用等の材料にも使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、珪素及びマグネシウムを添加した鉄水酸化物含有水溶液を水熱反応することにより、珪素及びマグネシウムを含有し、粒子径が0.01~100μm、アスペクト比が3~200である薄片状酸化鉄微粒子が得られることが開示されている。
【0004】
特許文献2には、鉄原料を消費アノード電極として、直流アークプラズマ法で製造したγ-Fe2O3の結晶構造を有する赤褐色酸化鉄微粒子を製造した後、該酸化鉄微粒子を還元性雰囲気中で焼成することにより、平均粒径が50~120nmであって、Fe3O4の結晶構造を有する酸化鉄微粒子黒色顔料が得られることが開示されている。
【0005】
特許文献3には、β-FeO(OH)ナノ微粒子をシリコン酸化物で被覆した後、当該シリコン酸化物で被覆したβ-FeO(OH)ナノ微粒子を酸化性雰囲気下で熱処理することにより、単相ε-Fe2O3であって、平均粒径が15nm以下である酸化鉄ナノ磁性粒子が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-254969号公報
【特許文献2】特開2002-104828号公報
【特許文献3】特開2014-224027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、板状の酸化鉄粒子とその製造方法について、未だ検討の余地がある。
【0008】
そこで、本発明は、優れた特性を有する板状酸化鉄粒子、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を包含するものである。
(1) モリブデンと形状制御剤由来の原子とを含む板状酸化鉄粒子。
(2) 前記板状酸化鉄粒子の、動的光散乱法により算出されるメディアン径D50が0.01~0.5μmである、前記(1)に記載の板状酸化鉄粒子。
(3) 一次粒子の平均粒子径を厚さで除したアスペクト比が5~500である、前記(1)又は(2)に記載の板状酸化鉄粒子。
(4) 一次粒子の平均粒子径が0.01~0.5μmであり、厚さが0.05μm未満である、前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の板状酸化鉄粒子。
(5) 前記板状酸化鉄粒子をXRF分析することによって求められる前記板状酸化鉄粒子100質量%に対するFe2O3含有率(F1)が85.0~99.5質量%であり、前記板状酸化鉄粒子をXRF分析することによって求められる前記板状酸化鉄粒子100質量%に対するMoO3含有率(M1)が0.01~5.0質量%である、前記(1)~(4)のいずれか一つに記載の板状酸化鉄粒子。
(6) 前記形状制御剤由来の原子が、珪素、ゲルマニウム及びリンからなる群から選ばれる少なくとも一種である、前記(1)~(5)のいずれか一つに記載の板状酸化鉄粒子。
(7) 前記形状制御剤由来の原子が、前記板状酸化鉄粒子の表層に偏在している、前記(1)~(6)のいずれか一つに記載の板状酸化鉄粒子。
(8) 前記形状制御剤由来の原子が珪素である、前記(1)~(7)のいずれか一つに記載の板状酸化鉄粒子。
(9) 前記板状酸化鉄粒子をXRF分析することによって求められる前記板状酸化鉄粒子100質量%に対するFe2O3含有率(F1)が85.0~99.5質量%であり、前記板状酸化鉄粒子をXRF分析することによって求められる前記板状酸化鉄粒子100質量%に対するMoO3含有率(M1)が0.01~5.0質量%であり、前記板状酸化鉄粒子をXRF分析することによって求められる前記板状酸化鉄粒子100質量%に対するSiO2含有率(S1)が0.001~10質量%である、前記(8)に記載の板状酸化鉄粒子。
(10) 前記板状酸化鉄粒子をXRF分析することによって求められる前記板状酸化鉄粒子100質量%に対するSiO2含有率(S1)に対する、前記板状酸化鉄粒子をXPS表面分析することによって求められる前記板状酸化鉄粒子の表層100質量%に対するSiO2含有率(S2)の表層偏在比(S2/S1)が1超20以下である、前記(8)又は(9)に記載の板状酸化鉄粒子。
(11) BET法により求められる比表面積が、0.5m2/g以上である、前記(1)~(10)のいずれか一つに記載の板状酸化鉄粒子。
(12) 前記(1)~(11)のいずれか一つに記載の板状酸化鉄粒子の製造方法であって、
モリブデン化合物、及び形状制御剤の存在下で、鉄化合物を焼成する焼成工程を含む、板状酸化鉄粒子の製造方法。
(13) 前記形状制御剤が、珪素又は珪素化合物である、前記(12)に記載の板状酸化鉄粒子の製造方法。
(14) 前記焼成工程に先立ち、ナノサイズの前記鉄化合物の粒子を得る前駆体製造工程を含む、前記(12)又は(13)に記載の板状酸化鉄粒子の製造方法。
(15) 前記焼成工程における前記モリブデン化合物が、三酸化モリブデン、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である、前記(12)~(14)のいずれか一つに記載の板状酸化鉄粒子の製造方法。
(16) 前記鉄化合物を焼成する焼成温度が400℃以上1000℃未満である、前記(12)~(15)のいずれか一つに記載の板状酸化鉄粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた特性を有する板状酸化鉄粒子、及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1の板状酸化鉄粒子のSEM写真である。
【
図2】実施例2の板状酸化鉄粒子のSEM写真である。
【
図3】実施例3の板状酸化鉄粒子のSEM写真である。
【
図4】参考例1の板状酸化鉄粒子のSEM写真である。
【
図5】実施例1の板状酸化鉄粒子のTEM写真である。
【
図6】実施例2の板状酸化鉄粒子のTEM写真である。
【
図7】実施例3の板状酸化鉄粒子のTEM写真である。
【
図8】実施例の板状酸化鉄粒子のX線回折(XRD)パターンである。
【
図9】本発明の一実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法の一例を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の板状酸化鉄粒子、及び板状酸化鉄粒子の製造方法の実施形態を説明する。
≪板状酸化鉄粒子≫
【0013】
実施形態の板状酸化鉄粒子は、モリブデンと形状制御剤由来の原子とを含む板状酸化鉄粒子である。実施形態の板状酸化鉄粒子は、モリブデンを含んでおり、モリブデンに由来する触媒活性等の優れた特性を有する。
【0014】
実施形態の板状酸化鉄粒子は、後述する製造方法において用いられるモリブデン化合物由来のモリブデンを含むことができる。
【0015】
実施形態の板状酸化鉄粒子は、さらに形状制御剤由来の原子を含んでいてもよい。板状酸化鉄粒子は、後述する製造方法において、形状制御剤由来の原子を含むことができる。形状制御剤は板状結晶成長に重要な役割を果たす。
【0016】
実施形態の板状酸化鉄粒子の、動的光散乱法により算出されるメディアン径D50は、0.01~0.5μmであることが好ましく、0.05~0.45μmであることがより好ましく、0.1~0.4μmであることがさらに好ましい。
【0017】
実施形態の板状酸化鉄粒子の、動的光散乱法により算出される粒子径D10は、0.005~0.3μmであることが好ましく、0.01~0.25μmであることがより好ましく、0.05~0.3μmであることがさらに好ましい。
【0018】
実施形態の板状酸化鉄粒子の、動的光散乱法により算出される粒子径D90は、0.1~5μmであることが好ましく、0.3~4.5μmであることがより好ましく、0.4~4μmであることがさらに好ましい。
【0019】
実施形態の板状酸化鉄粒子の前記メディアン径D50、粒子径D10及び粒子径D90は、動的光散乱法により算出される。具体的には、例えば、動的光散乱式粒子径測定装置(例えば、NANOTRAC WAVE II,マイクロトラック・ベル株式会社製)を用い、分散媒として水を用いた湿式で粒子径分布を測定して求めることができる。
【0020】
板状酸化鉄粒子試料の、動的光散乱法により算出されるメディアン径D50は、動的光散乱式粒子径測定装置を用いて湿式で測定された粒子径分布において、体積積算%の割合が50%となる粒子径として求めることができ、粒子径D10は体積積算%の割合が小粒子側から10%となる粒子径として求めることができ、粒子径D90は体積積算%の割合が小粒子側から90%となる粒子径として求めることができる。
【0021】
後述の実施例に示されるように、実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法によれば、モリブデンを含むナノサイズの板状酸化鉄粒子を容易に製造できる。本明細書において、「ナノサイズ」とは、上記D50が1μm未満の粒子サイズをいい、一例として0.01~0.5μmである。
【0022】
実施形態の板状酸化鉄粒子の一次粒子の平均粒子径は、0.01~0.5μmであってもよく、0.05~0.45μmであってもよく、0.1~0.4μmであってもよい。
【0023】
板状酸化鉄粒子の一次粒子の平均粒子径とは、酸化鉄粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、二次元画像上の凝集体を構成する最小単位の粒子(すなわち、一次粒子)について、ランダムに選ばれた50個の一次粒子の輪郭線上の2点間の距離のうち、最大の長さの平均値を云う。
【0024】
実施形態の板状酸化鉄粒子の一次粒子の厚さは、0.05μm未満であってもよく、0.001~0.05μmであってもよく、0.002~0.025μmであってもよく、0.003~0.01μmであってもよい。
【0025】
板状酸化鉄粒子の一次粒子の厚さとは、酸化鉄粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、二次元画像上の凝集体を構成する最小単位の粒子(すなわち、一次粒子)について、ランダムに選ばれた50個の一次粒子の厚さを測定した平均値を採用するものとする。
【0026】
本明細書において、「板状」とは、酸化鉄粒子の一次粒子の平均粒子径を厚さで除したアスペクト比が3以上であることを指す。板状酸化鉄粒子の一次粒子の前記アスペクト比は、5~500が好ましく、20~300であることがより好ましく、30~100であることがさらに好ましい。
【0027】
アスペクト比が上記下限値以上であると、2次元の配合特性が良好に発揮し得ることから好ましい。アスペクト比が上記上限値以下であると機械的強度に優れることから好ましい。
【0028】
実施形態の板状酸化鉄粒子は、酸化鉄を含むものである。実施形態の板状酸化鉄粒子が含んでもよい酸化鉄としては、例えば、Fe2O3、Fe3O4及びFeOが挙げられる。前記酸化鉄はヘマタイト(α-Fe2O3)であってもよく、マグネタイト(Fe3O4)であってもよく、マグヘマイト(γ-Fe2O3)であってもよい。
【0029】
板状酸化鉄粒子に含まれる鉄含有量は、XRF分析により測定できる。実施形態の板状酸化鉄粒子は、前記板状酸化鉄粒子をXRF分析することによって求められる前記板状酸化鉄粒子100質量%に対するFe2O3含有率(F1)が85.0~99.5質量%であることが好ましく、87.0~99.3質量%であることがより好ましく、89.0~99.0質量%であることがさらに好ましい。
【0030】
実施形態の板状酸化鉄粒子は、モリブデンを含むものである。実施形態の板状酸化鉄粒子は、前記板状酸化鉄粒子をXRF分析することによって求められる前記板状酸化鉄粒子100質量%に対するMoO3含有率(M1)が0.01~5.0質量%であることが好ましく、0.05~3.0質量%であることがより好ましく、0.1~2.0質量%であることがさらに好ましい。
【0031】
実施形態の板状酸化鉄粒子における、上記で例示したFe2O3含有率(F1)及びMoO3含有率(M1)の各上限値及び下限値の値は、自由に組み合わせることができる。また、Fe2O3含有率(F1)及びMoO3含有率(M1)の数値同士も、自由に組み合わせることができる。
【0032】
実施形態の板状酸化鉄粒子の一例として、Fe2O3含有率(F1)が85.0~99.5質量%であり、MoO3含有率(M1)が0.01~5.0質量%である板状酸化鉄粒子を例示できる。
【0033】
実施形態の板状酸化鉄粒子は、形状制御剤由来の原子を含む。前記形状制御剤由来の原子が、珪素、ゲルマニウム及びリンからなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、前記形状制御剤由来の原子が、珪素であることがより好ましい。
【0034】
実施形態の板状酸化鉄粒子は、珪素を含んでいてもよい。実施形態の板状酸化鉄粒子の珪素含有量は、前記板状酸化鉄粒子をXRF分析することによって求められる前記板状酸化鉄粒子100質量%に対するSiO2含有率(S1)が10質量%以下であることが好ましく、0.001~10質量%であることがより好ましく、0.01~7質量%であることがさらに好ましく、0.1~5質量%であることが特に好ましい。
【0035】
実施形態の板状酸化鉄粒子における、上記で例示したFe2O3含有率(F1)、MoO3含有率(M1)、及びSiO2含有率(S1)の各上限値及び下限値の値は、自由に組み合わせることができる。また、Fe2O3含有率(F1)、MoO3含有率(M1)、及びSiO2含有率(S1)の数値同士も、自由に組み合わせることができる。
【0036】
実施形態の板状酸化鉄粒子の一例として、Fe2O3含有率(F1)が85.0~99.5質量%であり、MoO3含有率(M1)が0.01~5.0質量%であり、SiO2含有率(S1)が0.001~10質量%である板状酸化鉄粒子を例示できる。
【0037】
上記のFe2O3含有率(F1)、MoO3含有率(M1)及びSiO2含有率(S1)は、蛍光X線分析装置(例えば、株式会社リガク製、PrimusIV)を用いて、XRF分析することにより、測定することができる。
【0038】
板状酸化鉄粒子の表層に含まれる鉄含有量は、XPS(X線光電子分光)表面分析により測定できる。実施形態の板状酸化鉄粒子は、前記板状酸化鉄粒子をXPS表面分析することによって求められる前記板状酸化鉄粒子の表層100質量%に対するFe2O3含有率(F2)が60~95質量%であることが好ましく、65~93質量%であることがより好ましく、70~90質量%であることがさらに好ましい。
【0039】
実施形態の板状酸化鉄粒子は、前記板状酸化鉄粒子をXPS表面分析することによって求められる前記板状酸化鉄粒子の表層100質量%に対するMoO3含有率(M2)が0.05~20質量%であることが好ましく、0.1~15質量%であることがより好ましく、0.5~10質量%であることがさらに好ましい。
【0040】
実施形態の板状酸化鉄粒子における、上記で例示したFe2O3含有率(F2)、及びMoO3含有率(M2)の各上限値及び下限値の値は、自由に組み合わせることができる。また、Fe2O3含有率(F2)、及びMoO3含有率(M2)の数値同士も、自由に組み合わせることができる。
【0041】
実施形態の板状酸化鉄粒子の一例として、前記Fe2O3含有率(F2)が、60~95質量%であり、前記MoO3含有率(M2)が、0.05~20質量%である、板状酸化鉄粒子を例示できる。
【0042】
実施形態の板状酸化鉄粒子は、表層に珪素を含んでいてもよい。珪素を含むことで、実施形態の板状酸化鉄粒子の分散性を向上させることができる。実施形態の板状酸化鉄粒子は、前記板状酸化鉄粒子をXPS表面分析することによって求められる前記板状酸化鉄粒子の表層100質量%に対するSiO2含有率(S2)が0.1~20質量%であることが好ましく、0.5~18質量%であることがより好ましく、1~15質量%であることがさらに好ましい。
【0043】
実施形態の板状酸化鉄粒子における、上記で例示したFe2O3含有率(F2)、MoO3含有率(M2)、及びSiO2含有率(S2)の各上限値及び下限値の値は、自由に組み合わせることができる。また、Fe2O3含有率(F2)、MoO3含有率(M2)、及びSiO2含有率(S2)の数値同士も、自由に組み合わせることができる。
【0044】
実施形態の板状酸化鉄粒子の一例として、Fe2O3含有率(F2)が60~95質量%であり、MoO3含有率(M2)が0.05~20質量%であり、SiO2含有率(S2)が0.1~20質量%である板状酸化鉄粒子を例示できる。
【0045】
上記のFe2O3含有率(F2)は、板状酸化鉄粒子試料をX線光電子分光法(XPS:XrayPhotoelectron Spectroscopy)により、XPS表面分析することによって、各元素について存在比(atom%)を取得し、鉄含有量を酸化物換算することにより、板状酸化鉄粒子の表層100質量%に対するFe2O3の含有率として求めた値を云う。
【0046】
上記のMoO3含有率(M2)とは、板状酸化鉄粒子試料をX線光電子分光法により、XPS表面分析することによって、各元素について存在比(atom%)を取得し、モリブデン含有量を酸化物換算することにより、板状酸化鉄粒子の表層100質量%に対するMoO3の含有率として求めた値を云う。
【0047】
上記のSiO2含有率(S2)とは、板状酸化鉄粒子試料をX線光電子分光法により、XPS表面分析することによって、各元素について存在比(atom%)を取得し、珪素含有量を酸化物換算することにより、板状酸化鉄粒子の表層100質量%に対するSiO2の含有率として求めた値を云う。
【0048】
実施形態の板状酸化鉄粒子において、前記モリブデンは、前記板状酸化鉄粒子の表層に偏在していることが好ましい。
【0049】
ここで、本明細書において「表層」とは、実施形態の板状酸化鉄粒子の表面から10nm以内のことをいう。この距離は、実施例において計測に用いたXPSの検出深さに対応する。
【0050】
ここで「表層に偏在」するとは、例えばモリブデンであれば、前記表層における単位体積あたりのモリブデン又はモリブデン化合物の質量が、前記表層以外における単位体積あたりのモリブデン又はモリブデン化合物の質量よりも多い状態をいう。
【0051】
本実施形態の板状酸化鉄粒子において、モリブデンが前記板状酸化鉄粒子の表層に偏在していることは、後述する実施例において示すように、前記板状酸化鉄粒子をXPS表面分析することによって求められる前記板状酸化鉄粒子の表層100質量%に対するMoO3含有率(M2)が、前記板状酸化鉄粒子をXRF(蛍光X線)分析することによって求められる前記板状酸化鉄粒子100質量%に対するMoO3含有率(M1)よりも多いことで確認することができる。
【0052】
実施形態の板状酸化鉄粒子において、モリブデンが前記板状酸化鉄粒子の表層に偏在していることの指標として、実施形態の板状酸化鉄粒子は、前記MoO3含有率(M1)に対する、前記MoO3含有率(M2)の表層偏在比(M2/M1)が1超20以下であることが好ましく、1.1~10であることがより好ましく、1.5~5であることがさらに好ましい。
【0053】
モリブデン又はモリブデン化合物を表層に偏在させることで、表層だけでなく表層以外(内層)にも均一にモリブデン又はモリブデン化合物を存在させる場合に比べて、触媒活性等の優れた特性を効率的に付与することができる。
【0054】
実施形態の板状酸化鉄粒子において、前記形状制御剤由来の原子が、前記板状酸化鉄粒子の表層に偏在していることが好ましく、珪素又は珪素化合物が前記板状酸化鉄粒子の表層に偏在していることがより好ましい。
【0055】
実施形態の板状酸化鉄粒子において、珪素又は珪素化合物が前記板状酸化鉄粒子の表層に偏在していることの指標として、実施形態の板状酸化鉄粒子は、前記SiO2含有率(S1)に対する、前記SiO2含有率(S2)の表層偏在比(S2/S1)が、1超20以下であることが好ましく、1.1~10であることがより好ましく、1.5~5であることがさらに好ましい。
【0056】
珪素又は珪素化合物を表層に偏在させることで、表層だけでなく表層以外(内層)にも均一に珪素又は珪素化合物を存在させる場合に比べて、水への分散性の向上等の優れた特性を効率的に付与することができる。
【0057】
本実施形態の板状酸化鉄粒子は、モリブデン及び上記で挙げた形状制御剤由来の原子の他に、さらに、リチウム、カリウム、又はナトリウムを含んでいてもよい。
【0058】
本実施形態の板状酸化鉄粒子は、通常の板状酸化鉄粒子に比べて、モリブデンが酸化鉄粒子の表層に偏在することで、ゼータ電位測定により、電位が0(ゼロ)となる等電点のpHがより酸性側にシフトしている。
【0059】
本実施形態の板状酸化鉄粒子の電位が0(ゼロ)となる等電点のpHは、例えば2~5の範囲であり、2.3~4.5の範囲であることが好ましく、2.5~4の範囲であることがより好ましい。等電点のpHが上記範囲内にある板状酸化鉄粒子は、静電反発力が高く、それ自体で被分散媒体へ配合した際の分散安定性を高めることができる。
【0060】
本実施形態の板状酸化鉄粒子の、BET(Brunauer-Emmett-Teller)法により求められる比表面積は、0.5m2/g以上であってもよく、1m2/g以上であってもよく、5m2/g以上であってもよく、10m2/g以上であってもよい。
【0061】
本実施形態の板状酸化鉄粒子の、BET法により求められる比表面積は、150m2/g以下であってもよく、100m2/g以下であってもよく、75m2/g以下であってもよく、50m2/g以下であってもよい。
【0062】
本実施形態の板状酸化鉄粒子の、BET法により求められる比表面積は、0.5~150m2/gであってもよく、1~100m2/gであってもよく、5~75m2/gであってもよく、10~50m2/gであってもよい。
【0063】
実施形態の板状酸化鉄粒子は、モリブデンを含んでおり、モリブデンに由来する触媒活性等の優れた特性を有する。
【0064】
なかでも、上記のメディアン径D50又は平均粒子径の値を例示した、粒子サイズが極めて小さな実施形態の板状酸化鉄粒子は、分散液中での分散性に優れるという特性を有する。更に、上記のアスペクト比及びBET比表面積の値を例示した、アスペクト比が高く、BET比表面積が大きいという特性によっても、実施形態の板状酸化鉄粒子の分散性が向上する。かかる板状酸化鉄粒子によれば、当該板状酸化鉄粒子が均一に分散された組成物を得ることができる。
≪板状酸化鉄粒子の製造方法≫
【0065】
実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法は、モリブデン化合物、及び形状制御剤の存在下で、鉄化合物を焼成する焼成工程を含む。より具体的には、鉄化合物と、モリブデン化合物と、形状制御剤とを混合して混合物とする混合工程と、前記混合物を焼成する焼成工程とを含むものであってよい。
【0066】
前記形状制御剤としては、珪素(珪素原子及び/又は珪素化合物)、ゲルマニウム(ゲルマニウム原子及び/又はゲルマニウム化合物)及びリン(リン原子及び/又はリン化合物)からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、前記形状制御剤が、珪素又は珪素化合物であることがより好ましい。
【0067】
アスペクト比が高く、且つ粒子サイズの小さい板状酸化鉄粒子を、容易に製造可能であるとの観点から、焼成対象の鉄化合物としては、ナノサイズの前記鉄化合物の粒子であることが好ましく、ナノサイズの酸化鉄の粒子であることがより好ましい。ナノサイズの前記鉄化合物の粒子は、例えば、下記の前駆体製造工程で得ることができる。
【0068】
前記鉄化合物の場合と同様、焼成対象のモリブデン化合物としては、ナノサイズの前記モリブデン化合物の粒子であることが好ましく、ナノサイズの酸化モリブデンの粒子であることがより好ましい。ナノサイズのモリブデン化合物の粒子は、例えば、下記の前駆体製造工程で得ることができる。
【0069】
前記形状制御剤の形状は、特に制限されないが、鉄化合物との混合状態が均一になり、酸化鉄粒子の板状形状の制御に効果的であることから、ナノサイズの粒子であることが好ましい。
【0070】
前記形状制御剤が、珪素又は珪素化合物である場合、珪素又はケイ素化合物の形状は、特に制限されないが、鉄化合物との混合状態が均一になり、酸化鉄粒子の板状形状の制御に効果的であることから、ナノサイズの珪素又はケイ素化合物の粒子であることが好ましく、ナノサイズの酸化珪素の粒子であることがより好ましい。
【0071】
実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法は、モリブデン化合物、及び形状制御剤の存在下で、ナノサイズの鉄化合物を焼成する焼成工程を含むことが好ましい。
【0072】
実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法は、モリブデン化合物、及び珪素又は珪素化合物の存在下で、ナノサイズの鉄化合物を焼成する焼成工程を含むことが好ましい。
【0073】
実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法は、ナノサイズのモリブデン化合物、及びナノサイズの珪素又は珪素化合物の存在下で、ナノサイズの鉄化合物を焼成する焼成工程を含むことがより好ましい。
【0074】
ナノサイズの鉄化合物の粒子、モリブデン化合物の粒子、及び形状制御剤の粒子の粒子サイズとしては、一例として、実施形態の板状酸化鉄粒子のメディアン径D50として例示した数値が挙げられる。
【0075】
実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法によれば、板状に形状が制御された実施形態の板状酸化鉄粒子を製造可能である。
[前駆体製造工程]
【0076】
本発明者らは、以下の前駆体製造工程によってナノサイズの鉄化合物の粒子を得て、それを焼成対象の鉄化合物として用いることで、アスペクト比が高く、且つ粒子サイズの小さい板状酸化鉄粒子を、容易に製造可能であることを見出だした。
【0077】
実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法は、前記焼成工程に先立ち、ナノサイズの前記鉄化合物の粒子を得る前駆体製造工程を含むことが好ましい。
【0078】
実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法は、前記焼成工程に先立ち、鉄塩の溶液を酸性溶液へ混合し、前記鉄化合物の粒子を得る前駆体製造工程を含むことが好ましい。
【0079】
実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法は、前記焼成工程に先立ち、鉄塩の溶液を酸性溶液へ混合し、モリブデン酸塩の溶液を酸性溶液へ混合し、前記鉄化合物の粒子、及びモリブデン化合物の粒子を得る前駆体製造工程を含むことが好ましい。製造されたモリブデン化合物の粒子は、後の焼成工程でのフラックス剤原料として使用できる。
【0080】
前記鉄塩としては、ハロゲン化鉄、硫化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄等が挙げられ、ハロゲン化鉄が好ましい。ハロゲン化鉄としては、塩化鉄(III)(FeCl3)、塩化鉄(II)(FeCl2)、臭化鉄(III)(FeBr3)、臭化鉄(II)(FeBr2)、フッ化鉄(III)(FeF3)、フッ化鉄(II)(FeF2)、ヨウ化鉄(III)(FeI3)、ヨウ化鉄(II)(FeI2)等が挙げられる。前記鉄塩は水和物であってもよい。
【0081】
前記モリブデン酸塩としては、MoO4
2-、Mo2O7
2-、Mo3O10
2-、Mo4O13
2-、Mo5O16
2-、Mo6O19
2-、Mo7O24
6-、Mo8O26
4-等のモリブデンオキソアニオンの塩化合物を例示できる。モリブデンオキソアニオンのアルカリ金属塩であってもよく、アルカリ土類金属塩であってもよく、アンモニウム塩であってもよい。
【0082】
前記モリブデン酸塩としては、モリブデンオキソアニオンのアルカリ金属塩が好ましく、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム又はモリブデン酸ナトリウムであることがより好ましく、モリブデン酸カリウム又はモリブデン酸ナトリウムであることがさらに好ましい。前記モリブデン酸塩は水和物であってもよい。
【0083】
前駆体製造工程では、上記の鉄塩及びモリブデン酸塩の組み合わせの例として、ハロゲン化鉄の溶液とモリブデンオキソアニオンのアルカリ金属塩の溶液とを用いることが好ましく、ハロゲン化鉄の溶液とモリブデン酸カリウム又はモリブデン酸ナトリウムの溶液とを用いることがより好ましく、塩化鉄の溶液とモリブデン酸ナトリウムの溶液とを用いることがさらに好ましい。
【0084】
上記酸性溶液への鉄塩の溶液及びモリブデン酸塩の溶液の混合の方法は、特に制限されるものではないが、酸性溶液へ鉄塩の溶液及びモリブデン酸塩の溶液を滴下することが好ましい。
【0085】
鉄化合物の粒子及びモリブデン化合物の粒子の凝集を防止する観点から、鉄塩の溶液及び/又はモリブデン酸塩の溶液が滴下される上記酸性溶液を攪拌することが好ましい。前記撹拌の程度は、例えば50~1000rpmを例示できる。
【0086】
上記酸性溶液のpHは、pH7未満であってよく、pH1~5であってよく、pH2~4であってよい。
【0087】
上記の酸性溶液と鉄塩の溶液との混合物、及び/又は酸性溶液とモリブデン酸塩の溶液の混合物を乾燥させて、揮発成分を除去することで、前記鉄化合物の粒子、及び/又はモリブデン化合物の粒子を容易に回収できる。
【0088】
上記の鉄塩の溶液を酸性溶液へ混合することで、おそらく、鉄塩溶液の鉄塩が加水分解されて水酸化鉄となり、乾燥を経ることで酸化鉄となり、ナノサイズの鉄化合物の粒子が析出される。また、上記のモリブデン酸塩の溶液を酸性溶液へ混合することで、おそらく、モリブデン酸塩溶液におけるモリブデン酸塩が加水分解され三酸化モリブデンとなり、ナノサイズのモリブデン化合物の粒子が析出される。当該ナノサイズの鉄化合物の粒子としては、例えば、酸化鉄の粒子が挙げられる。当該ナノサイズのモリブデン化合物の粒子としては、三酸化モリブデンの粒子が挙げられる。
【0089】
図9は、実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法の一例を説明する模式図である。ここでは、前記鉄塩としてFeCl
3を、前記モリブデン酸塩としてNa
2MoO
4を用い、ナノサイズのFe
2O
3粒子(鉄化合物の粒子)及びMoO
3粒子(モリブデン化合物の粒子)を得ている。なお、前駆体製造工程で得られるナノサイズの鉄化合物の粒子及びモリブデン化合物の粒子は、板状の形状を有さなくともよい。
[混合工程]
【0090】
板状酸化鉄粒子の好ましい製造方法は、鉄化合物と、モリブデン化合物と、形状制御剤とを混合して混合物とする工程(混合工程)と、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含む。
【0091】
板状酸化鉄粒子のより好ましい製造方法は、鉄化合物と、モリブデン化合物と、珪素又は珪素化合物とを混合して混合物とする工程(混合工程)と、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含む。
【0092】
図9に示す製造方法の一例では、上記の前駆体製造工程により、ナノサイズのFe
2O
3粒子(鉄化合物)及びナノサイズのMoO
3粒子(モリブデン化合物)の混合物が得られる。この混合物に形状制御剤(例えば、珪素又は珪素化合物)を添加し、その後の焼成工程にて、MoO
3粒子(モリブデン化合物)、及び珪素又は珪素化合物の存在下でFe
2O
3粒子(鉄化合物)を焼成することで、Fe
2O
3粒子が板状に結晶成長し、ナノサイズの板状Fe
2O
3粒子(板状酸化鉄粒子)が得られる。
(鉄化合物)
【0093】
前記鉄化合物としては、焼成して酸化鉄となり得る化合物であれば限定されない。前記鉄化合物としては、酸化鉄であってもよく、オキシ水酸化鉄であってもよく、水酸化鉄であってもよく、これらに限られない。酸化鉄としては、いわゆるウスタイトと呼ばれる酸化鉄(II)(FeO)、黒色系の酸化鉄(II,III)(Fe3O4)、及び、赤色系ないし茶褐色系の酸化鉄(III)(Fe2O3)が挙げられる。酸化鉄(III)としては、α-Fe2O3、β-Fe2O3、γ-Fe2O3、及びε-Fe2O3が挙げられる。オキシ水酸化鉄としては、α-オキシ水酸化鉄、β-オキシ水酸化鉄、γ-オキシ水酸化鉄、δ-オキシ水酸化鉄、等が挙げられる。水酸化鉄としては、水酸化鉄(II)(Fe(OH)2)及び水酸化鉄(III)(Fe(OH)3)が挙げられる。酸化鉄として、酸化鉄(III)(Fe2O3)が好ましい。
(モリブデン化合物)
【0094】
前記モリブデン化合物としては、酸化モリブデン、モリブデン酸塩化合物等が挙げられる。
【0095】
前記酸化モリブデンとしては、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等が挙げられ、三酸化モリブデンが好ましい。
【0096】
前記モリブデン酸塩化合物は、MoO4
2-、Mo2O7
2-、Mo3O10
2-、Mo4O13
2-、Mo5O16
2-、Mo6O19
2-、Mo7O24
6-、Mo8O26
4-等のモリブデンオキソアニオンの塩化合物であれば限定されない。モリブデンオキソアニオンのアルカリ金属塩であってもよく、アルカリ土類金属塩であってもよく、アンモニウム塩であってもよい。
【0097】
前記モリブデン酸塩化合物としては、モリブデンオキソアニオンのアルカリ金属塩が好ましく、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム又はモリブデン酸ナトリウムであることがより好ましく、モリブデン酸カリウム又はモリブデン酸ナトリウムであることがさらに好ましい。
【0098】
本実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法において、前記モリブデン酸塩化合物は、水和物であってもよい。
【0099】
前記焼成工程における前記モリブデン化合物は、三酸化モリブデン、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム、及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であること好ましく、三酸化モリブデン、モリブデン酸カリウム及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であることがより好ましい。
【0100】
実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法は、モリブデン化合物、形状制御剤及びナトリウム化合物の存在下、鉄化合物を焼成することを含んでもよい。
【0101】
実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法は、モリブデン化合物、珪素又は珪素化合物及びナトリウム化合物の存在下、鉄化合物を焼成することを含んでもよい。
【0102】
実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法は、焼成工程に先立ち、鉄化合物、モリブデン化合物、形状制御剤及びナトリウム化合物を混合して混合物とする工程(混合工程)を含むことができ、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含むことができる。
【0103】
より好ましくは、実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法は、焼成工程に先立ち、鉄化合物、モリブデン化合物、珪素又は珪素化合物及びナトリウム化合物を混合して混合物とする工程(混合工程)を含むことができ、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含むことができる。
【0104】
或いは、実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法は、焼成工程に先立ち、鉄化合物、形状制御剤、及びモリブデンとナトリウムとを含有する化合物を混合して混合物とする工程(混合工程)を有含むことができ、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含むことができる。
【0105】
より好ましくは、実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法は、焼成工程に先立ち、鉄化合物、珪素又は珪素化合物、及びモリブデンとナトリウムとを含有する化合物を混合して混合物とする工程(混合工程)を有含むことができ、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含むことができる。
【0106】
フラックス剤として好適な、モリブデンとナトリウムとを含有する化合物は、例えば、より安価かつ入手が容易な、モリブデン化合物及びナトリウム化合物を原料として焼成の過程で生じさせることができる。ここでは、モリブデン化合物及びナトリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、モリブデンとナトリウムとを含有する化合物をフラックス剤として用いる場合、の両者を合わせて、モリブデン化合物及びナトリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、即ち、モリブデン化合物及びナトリウム化合物の存在下とみなす。
【0107】
実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法は、モリブデン化合物、形状制御剤及びカリウム化合物の存在下、鉄化合物を焼成することを含んでもよい。
【0108】
実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法は、モリブデン化合物、珪素又は珪素化合物及びカリウム化合物の存在下、鉄化合物を焼成することを含んでもよい。
【0109】
実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法は、焼成工程に先立ち、鉄化合物、モリブデン化合物、形状制御剤及びカリウム化合物を混合して混合物とする工程(混合工程)を含むことができ、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含むことができる。
【0110】
より好ましくは、実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法は、焼成工程に先立ち、鉄化合物、モリブデン化合物、珪素又は珪素化合物及びカリウム化合物を混合して混合物とする工程(混合工程)を含むことができ、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含むことができる。
【0111】
或いは、実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法は、焼成工程に先立ち、鉄化合物、形状制御剤、及びモリブデンとカリウムとを含有する化合物を混合して混合物とする工程(混合工程)を有含むことができ、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含むことができる。
【0112】
より好ましくは、実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法は、焼成工程に先立ち、鉄化合物、珪素又は珪素化合物、及びモリブデンとカリウムとを含有する化合物を混合して混合物とする工程(混合工程)を有含むことができ、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含むことができる。
【0113】
フラックス剤として好適な、モリブデンとカリウムとを含有する化合物は、例えば、より安価かつ入手が容易な、モリブデン化合物及びカリウム化合物を原料として焼成の過程で生じさせることができる。ここでは、モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、モリブデンとカリウムとを含有する化合物をフラックス剤として用いる場合、の両者を合わせて、モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、即ち、モリブデン化合物及びカリウム化合物の存在下とみなす。
【0114】
モリブデン化合物及びカリウム化合物の存在下、又はモリブデン化合物及びナトリウム化合物の存在下、鉄化合物を焼成することで、製造される板状酸化鉄粒子の結晶成長の制御が容易である。その理由は明らかではないが、例えば、K2MoO4及びNa2MoO4は安定な化合物であって焼成工程にて揮発し難いため、揮発過程での急激な反応を伴いにくく、板状酸化鉄粒子の成長を制御しやすいと考えられる。
【0115】
本実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法において、モリブデン化合物はフラックス剤として用いられる。本明細書中では、以下、フラックス剤としてモリブデン化合物を用いたこの製造方法を単に「フラックス法」ということがある。なお、かかる焼成により、モリブデン化合物が鉄化合物と高温で反応し、モリブデン酸鉄を形成した後、このモリブデン酸鉄が、さらに、より高温で酸化鉄と酸化モリブデンに分解する際に、モリブデン化合物が酸化鉄粒子内に取り込まれるものと考えられる。酸化モリブデンは昇華して、系外に取り除かれるとともに、この過程で、モリブデン化合物と鉄化合物が反応することにより、モリブデン化合物が板状酸化鉄粒子の表層に形成されるものと考えられる。板状酸化鉄粒子に含まれるモリブデン化合物の生成機構について、より詳しくは、板状酸化鉄粒子の表層に、モリブデンとFe原子の反応によるMo-O-Feの形成が起こり、高温焼成することでMoが脱離するとともに、板状酸化鉄粒子の表層に、酸化モリブデン、又はMo-O-Fe結合を有する化合物等が形成するものと考えられる。
【0116】
板状酸化鉄粒子に取り込まれない酸化モリブデンは、昇華させることにより回収して、再利用することもできる。こうすることで、板状酸化鉄粒子の表面に付着する酸化モリブデン量を低減でき、酸化鉄粒子本来の性質を最大限に付与することができる。
【0117】
一方、モリブデンオキソアニオンのアルカリ金属塩は、焼成温度域でも気化することなく、焼成後に洗浄で、容易に回収できるため、モリブデン化合物が焼成炉外へ放出される量も低減され、生産コストとしても大幅に低減することができる。
(ナトリウム化合物)
【0118】
ナトリウム化合物としては、特に制限されず、公知のものが使用されうる。これらの具体例としては、炭酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム、金属ナトリウム等が挙げられる。これらのうち、工業的に容易入手と取扱いし易さの観点から炭酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、酸化ナトリウム、硫酸ナトリウムを用いることが好ましい。ナトリウム化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(カリウム化合物)
【0119】
カリウム化合物としては、特に制限されないが、塩化カリウム、亜塩素酸カリウム、塩素酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酢酸カリウム、酸化カリウム、臭化カリウム、臭素酸カリウム、水酸化カリウム、珪酸カリウム、燐酸カリウム、燐酸水素カリウム、硫化カリウム、硫化水素カリウム、モリブデン酸カリウム、タングステン酸カリウム等が挙げられる。この際、前記カリウム化合物は、モリブデン化合物の場合と同様に、異性体を含む。これらのうち、カリウム化合物としては、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酸化カリウム、水酸化カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、及びモリブデン酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、及びモリブデン酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種であることがより好ましい。カリウム化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
<形状制御剤>
【0120】
実施形態に係る板状酸化鉄粒子を形成するために、形状制御剤を用いることができる。形状制御剤はモリブデン化合物の存在下での酸化鉄粒子の板状結晶成長を引き起こす又は促進する役割を果たす。形状制御剤としては、珪素(珪素原子及び/又は珪素化合物)、ゲルマニウム(ゲルマニウム原子及び/又はゲルマニウム化合物)及びリン(リン原子及び/又はリン化合物)からなる群から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
(珪素又はケイ素化合物)
【0121】
珪素又はケイ素化合物としては、特に制限されず、公知のものが使用されうる。珪素又はケイ素化合物の具体例としては、金属シリコン、有機シラン、シリコン樹脂、シリカ微粒子、シリカゲル、メソポーラスシリカ、SiC、ムライト等の人工合成シリコン化合物;バイオシリカ等の天然シリコン化合物等が挙げられる。これらのうち、アルミニウム化合物との複合、混合がより均一的に形成できる観点から、有機シラン、シリコン樹脂、シリカ微粒子を用いることが好ましい。なお、珪素又はケイ素化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物)
【0122】
ゲルマニウム化合物としては、特に制限されず、公知のものが使用されうる。ゲルマニウム化合物の具体例としては、ゲルマニウム金属、二酸化ゲルマニウム、一酸化ゲルマニウム、四塩化ゲルマニウム、Ge-C結合を有する有機ゲルマニウム化合物等が挙げられる。なお、ゲルマニウム化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(リン又はリン化合物)
【0123】
リン化合物としては、特に制限されず、公知のものが使用されうる。リン化合物の具体例としては、五酸化二リン、リンモリブデン酸、リン酸アルミニウム、リン酸二水素アルミニウム、ポリリン酸、ホスフィン、ホスフィン酸、ホスホニウム塩等が挙げられる。なお、リン化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0124】
形状制御剤として珪素又はケイ素化合物を用いる場合、本実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法において、焼成工程における焼成対象の鉄化合物、モリブデン化合物、及び珪素又は珪素化合物の配合量は、特に限定されるものではないが、好ましくは、前記混合物100質量%に対して、50質量%以上の鉄化合物と、30質量%以下のモリブデン化合物と、20質量%以下の珪素又は珪素化合物と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することができる。より好ましくは、前記混合物100質量%に対して、50質量%以上98質量%以下の鉄化合物と、1質量%以上30質量%以下のモリブデン化合物と、0.01質量%以上10質量%以下の珪素又は珪素化合物とを混合して混合物とし、前記混合物を焼成することができる。さらに好ましくは、前記混合物100質量%に対して、65質量%以上90質量%以下の鉄化合物と、5質量%以上25質量%以下のモリブデン化合物と、0.1質量%以上5質量%以下の珪素又は珪素化合物とを混合して混合物とし、前記混合物を焼成することができる。
【0125】
実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法において、焼成工程における焼成対象の鉄化合物中の鉄原子と、モリブデン化合物中のモリブデン原子とのモル比(Fe/Mo)の値は、1以上20以下であってよく、2以上15以下であってよく、3以上10以下であることが好ましい。
【0126】
例えば、焼成工程における焼成対象の前記混合物において、鉄化合物100質量部に対して珪素又は珪素化合物を0.5~20質量部配合してよく、1~15質量部配合してよく、3~10質量部配合してよい。
【0127】
例えば、焼成工程における焼成対象の前記混合物において、モリブデン化合物100モルに対してナトリウム化合物を0.5~50モル配合してよく、0.7~40モル配合してよく、1~10モル配合してよい。
【0128】
上記の範囲で各種化合物を使用することで、得られる板状酸化鉄粒子が含むモリブデン化合物の量がより適当なものとなるとともに、粒子サイズ及び粒子形状の制御された板状酸化鉄粒子が容易に得られる。
[焼成工程]
【0129】
焼成工程は、前記混合物を焼成する工程である。実施形態に係る前記板状酸化鉄粒子は、前記混合物を焼成することで得られる。上記した通り、この製造方法はフラックス法と呼ばれる。
【0130】
フラックス法は、溶液法に分類される。フラックス法とは、より詳細には、結晶-フラックス2成分系状態図が共晶型を示すことを利用した結晶成長の方法である。フラックス法のメカニズムとしては、以下の通りであると推測される。すなわち、溶質およびフラックスの混合物を加熱していくと、溶質およびフラックスは液相となる。この際、フラックスは融剤であるため、換言すれば、溶質-フラックス2成分系状態図が共晶型を示すため、溶質は、その融点よりも低い温度で溶融し、液相を構成することとなる。この状態で、フラックスを蒸発させると、フラックスの濃度は低下し、換言すれば、フラックスによる前記溶質の融点低下効果が低減し、フラックスの蒸発が駆動力となって溶質の結晶成長が起こる(フラックス蒸発法)。なお、溶質およびフラックスは液相を冷却することによっても溶質の結晶成長を起こすことができる(徐冷法)。
【0131】
フラックス法は、融点よりもはるかに低い温度で結晶成長をさせることができる、結晶構造を精密に制御できる、自形をもつ結晶体を形成できる等のメリットを有する。
【0132】
フラックスとしてモリブデン化合物を用いたフラックス法による板状酸化鉄粒子の製造では、そのメカニズムは必ずしも明らかではないが、例えば、以下のようなメカニズムによるものと推測される。すなわち、モリブデン化合物の存在下で鉄化合物を焼成すると、まず、モリブデン酸鉄が形成される。この際、当該モリブデン酸鉄は、上述の説明からも理解されるように、酸化鉄の融点よりも低温で酸化鉄結晶を成長させる。そして、例えば、フラックスを蒸発させることで、モリブデン酸鉄が分解し、結晶成長することで酸化鉄粒子を得ることができる。すなわち、モリブデン化合物がフラックスとして機能し、モリブデン酸鉄という中間体を経由して酸化鉄粒子が製造されるのである。
【0133】
形状制御剤は板状結晶成長に重要な役割を果たす。酸化モリブデンフラックス法では、酸化モリブデンが鉄化合物と反応することでモリブデン酸鉄を形成させ、次いで、このモリブデン酸鉄が分解する過程における化学ポテンシャルの変化が結晶化の駆動力となって酸化鉄粒子が形成する。実施形態の製造方法においては、形状制御剤が、酸化鉄の成長過程において粒子表面近傍に局在化することで、相対的に面方向の結晶方位の生長が速くなり、アスペクト比の大きな板状形態を形成することができると考えられる。モリブデン化合物をフラックス剤として用いることで、モリブデンを含む板状酸化鉄粒子をより容易に形成できる。
【0134】
なお、上記メカニズムはあくまで推測のものであり、上記メカニズムと異なるメカニズムによって本発明の効果が得られる場合であっても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0135】
上記フラックス法により、モリブデンを含む板状酸化鉄粒子を容易に製造することができる。
【0136】
焼成の方法は、特に限定はなく、公知慣用の方法で行うことができる。一般的には、焼成温度が650℃を超えると、鉄化合物と、モリブデン化合物が反応して、モリブデン酸鉄を形成すると考えられる。さらに、焼成温度が800℃以上になると、モリブデン酸鉄が分解し、酸化鉄粒子を形成すると考えられる。また、酸化鉄粒子では、モリブデン酸鉄が分解することで、鉄と酸化モリブデンになる際に、モリブデン化合物が酸化鉄粒子内に取り込まれるものと考えられる。
【0137】
また、焼成する時の、鉄化合物と、モリブデン化合物と、形状制御剤との状態は特に限定されず、モリブデン化合物と形状制御剤が鉄化合物に作用できる同一の空間に存在すれば良い。具体的には、鉄化合物の粉体と、モリブデン化合物の粉体と、形状制御剤の粉体と、を混ぜ合わせる簡便な混合、粉砕機等を用いた機械的な混合、乳鉢等を用いた混合であっても良く、乾式状態、湿式状態での混合であっても良い。
【0138】
焼成温度の条件に特に限定は無く、目的とする板状酸化鉄粒子の粒子サイズ、板状酸化鉄粒子におけるモリブデン化合物の形成、板状酸化鉄粒子の形状等を考慮して、適宜、決定される。焼成温度は、モリブデン酸鉄の分解温度に近い800℃以上であってもよい。
【0139】
ナノサイズの前記鉄化合物の粒子を焼成に用いる場合には、焼成温度は、400℃以上であってもよく、500℃以上であってもよく、600℃以上であってもよい。
【0140】
一般的に、焼成後に得られる板状酸化鉄粒子の形状を制御しようとすると、鉄の反応が進行しやすい1500℃超の高温焼成を行う必要があるが、焼成炉へ負担や燃料コストの点から、産業上利用する為には大きな課題がある。
【0141】
本発明の一実施形態によれば、例えば、鉄化合物を焼成する最高焼成温度が1300℃以下の条件であっても、板状酸化鉄粒子の形成を低コストで効率的に行うことができる。
【0142】
また、焼成温度が高いほど結晶成長が速く進むため、粒子サイズの制御を容易とし、粒子サイズの小さい板状酸化鉄粒子が容易に得られるとの観点からは、上記焼成温度は、1000℃未満が好ましく、900℃以下がより好ましく、800℃以下がさらに好ましい。
【0143】
焼成工程における、鉄化合物を焼成する焼成温度の数値範囲は、一例として、400℃以上1000℃未満であってもよく、500~900℃であってもよく、600~800℃であってもよい。
【0144】
昇温速度は、製造効率の観点から、20~600℃/hであってもよく、40~500℃/hであってもよく、80~400℃/hであってもよい。
【0145】
焼成の時間については、所定の焼成温度への昇温時間を15分~10時間の範囲で行うことが好ましい。焼成温度における保持時間は、5分以上とすることができ、5分~1000時間の範囲で行うことが好ましく、10分~100時間の範囲で行うことがより好ましい。板状酸化鉄粒子の形成を効率的に行うには、2時間以上の焼成温度保持時間であることが好ましく、2~48時間の焼成温度保持時間であることがより好ましく、2~24時間の焼成温度保持時間であることがさらに好ましい。
【0146】
一例として、前記焼成温度が400℃以上1000℃未満、且つ2~48時間の焼成温度保持時間の条件を選択することで、モリブデンを含む実施形態の板状酸化鉄粒子が容易に得られる。
【0147】
一例として、前記鉄化合物として、前記前駆体製造工程で得られた前記鉄化合物の粒子を使用し、前記焼成温度が400℃以上1000℃未満、且つ2~48時間の焼成温度保持時間の条件を選択することで、アスペクト比が高く且つ粒子サイズの小さな、実施形態の板状酸化鉄粒子が容易に得られる。
【0148】
焼成の雰囲気としては、本発明の効果が得られるのであれば特に限定されないが、例えば、空気や酸素といった含酸素雰囲気や、窒素やアルゴン、又は二酸化炭素といった不活性雰囲気が好ましく、コストの面を考慮した場合は空気雰囲気がより好ましい。
【0149】
焼成するための装置としても必ずしも限定されず、いわゆる焼成炉を用いることができる。焼成炉は昇華した酸化モリブデンと反応しない材質で構成されていることが好ましく、さらに酸化モリブデンを効率的に利用するように、密閉性の高い焼成炉を用いることが好ましい。
[モリブデン除去工程]
【0150】
本実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法は、焼成工程後、必要に応じてモリブデンの少なくとも一部を除去するモリブデン除去工程をさらに含んでいてもよい。
【0151】
上述のように、焼成時においてモリブデンは昇華を伴うことから、焼成時間、焼成温度等を制御することで、板状酸化鉄粒子表層に存在するモリブデン含有量を制御することができ、また板状酸化鉄粒子の表層以外(内層)に存在するモリブデン含有量やその存在状態を制御することができる。
【0152】
モリブデンは、板状酸化鉄粒子の表面に付着しうる。上記昇華以外の手段として、当該モリブデンは水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、酸性水溶液などで洗浄することにより除去することができる。
【0153】
この際、使用する水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、酸性水溶液の濃度、使用量、及び洗浄部位、洗浄時間等を適宜変更することで、板状酸化鉄粒子におけるモリブデン含有量を制御することができる。
[粉砕工程]
【0154】
焼成工程を経て得られる焼成物は、板状酸化鉄粒子が凝集して、検討される用途における好適な粒子径の範囲を満たさない場合がある。そのため、板状酸化鉄粒子は、必要に応じて、好適な粒子径の範囲を満たすように粉砕してもよい。
【0155】
焼成物の粉砕の方法は特に限定されず、ボールミル、ジョークラッシャー、ジェットミル、ディスクミル、スペクトロミル、グラインダー、ミキサーミル等の従来公知の粉砕方法を適用できる。
[分級工程]
【0156】
焼成工程により得られた板状酸化鉄粒子を含む焼成物は、粒子サイズの範囲の調整のために、適宜、分級処理されてもよい。「分級処理」とは、粒子の大きさによって粒子をグループ分けする操作をいう。
【0157】
分級は湿式、乾式のいずれでも良いが、生産性の観点からは、乾式の分級が好ましい。
乾式の分級には、篩による分級のほか、遠心力と流体抗力の差によって分級する風力分級などがあるが、分級精度の観点からは、風力分級が好ましく、コアンダ効果を利用した気流分級機、旋回気流式分級機、強制渦遠心式分級機、半自由渦遠心式分級機などの分級機を用いて行うことができる。
【0158】
上記した粉砕工程や分級工程は、必要な段階において行うことができる。これら粉砕や分級の有無やそれらの条件選定により、例えば、得られる板状酸化鉄粒子の平均粒子径を調整することができる。
【0159】
実施形態の板状酸化鉄粒子、或いは実施形態の製造方法で得られる板状酸化鉄粒子は、凝集が少ないもの或いは凝集していないものが、本来の性質を発揮しやすく、それ自体の取扱性により優れており、また被分散媒体に分散させて用いる場合において、より分散性に優れる観点から、好ましい。
【0160】
なお、上記の実施形態の板状酸化鉄粒子の製造方法によれば、凝集が少ない又は凝集のない板状酸化鉄粒子を容易に製造可能であるので、上記の粉砕工程や分級工程は行わなくとも、目的の優れた性質を有する板状酸化鉄粒子を、生産性高く製造することができるという優れた利点を有する。
【実施例】
【0161】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[合成例1]
・前駆体-1の合成
【0162】
2Lの4つ口フラスコに600gのイオン交換水を入れ、1M HCl溶液により溶液のpHを2.8に調整し、回転数200rpmで攪拌しながら75℃に加熱した。この4つ口フラスコに、10質量%のNa2MoO4・2H2O(富士フィルム和光純薬株式会社製)水溶液60gを1g/minの滴下スピードで、13.7質量%のFeCl3・6H2O(富士フィルム和光純薬株式会社製)水溶液26.4gを0.44g/minの滴下スピードで、それぞれ別の口より1時間かけて添加した。滴下完了後、75℃で1時間攪拌を継続した。さらにこの4つ口フラスコに、13.7質量%のFeCl3・6H2O水溶液418.8gを4.65g/minの滴下スピードで、5質量%のNaOH水溶液430gを、溶液のpHが2.8を維持するようにそれぞれ別々の口から1.5時間かけて滴下した。滴下完了後、75℃で3時間攪拌を継続した。3時間後、フラスコ内に生じた微粒子を濾過により回収し、110℃で15時間乾燥することにより、23.5gのFe2O3とMoO3の微粒子の混合物(前駆体-1)を得た。
[実施例1]
【0163】
上記で得たFe2O3とMoO3の微粒子の混合物(前駆体-1)7gと、R-972(疎水性フュームドシリカ、SiO2含有率99.8質量%、日本アエロジル株式会社製)0.29g、Na2CO3(富士フィルム和光純薬株式会社製)1.04gを混合し、坩堝に投入した。この坩堝を毎分5℃の昇温速度で600℃まで加熱し、600℃で5時間保持し焼成した後、毎分3℃の降温速度で降温し、7.23gのFe2O3を得た。得られたFe2O3を2.5%酢酸水溶液40gに投入し、30分間攪拌後、遠心分離により酢酸水溶液を除去した。得られた沈殿物に2%アンモニア水溶液40gを加え30分間攪拌後、遠心分離を行い、アンモニア水溶液を除去した。得られた沈殿物にイオン交換水40gを投入し30分間攪拌し、遠心分離によりイオン交換水を除去した。さらに得られた沈殿物にイオン交換水40gを投入し、30分間攪拌し、遠心分離によりイオン交換水を除去する洗浄を行った。得られた沈殿を110℃で6時間乾燥することにより、実施例1のFe2O3の粉末5.63gを得た。
[実施例2]
【0164】
Na2CO3の使用量を1.25gとした以外は上記実施例1と同様の方法により、実施例2のFe2O3の粉末5.51gを得た。
[実施例3]
【0165】
Na2CO3の使用量を1.67gとした以外は上記実施例1と同様の方法により、実施例3のFe2O3の粉末5.59gを得た。
[参考例1]
【0166】
酸化鉄(Fe2O3、関東化学株式会社製試薬)10g、三酸化モリブデン(MoO3、太陽鉱工株式会社製試薬)5.8g、炭酸ナトリウム(Na2CO3、関東化学株式会社製試薬)6g、及び、二酸化ケイ素(SiO2、関東化学株式会社製試薬)0.5gを乳鉢で混合し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて1100℃で10時間焼成を行なった。降温後、得られた固体を坩堝から取り出し、22gの黒色粉末を得た。この粉末の洗浄方法については実施例1と同様に行い、参考例1の粉末を得た。
<評価>
【0167】
実施例1~3及び参考例1の洗浄後の粉末を試料粉末として、下記の評価を行った。
[粒度分布測定]
【0168】
実施例1~3については動的光散乱式粒度分布計(マイクロトラック・ベル株式会社製 NANOTRAC WAVE II)を用いて、水を分散媒として、湿式で粒子径分布を測定した。体積積算%の分布曲線が小粒子側から10%の横軸と交差する点の粒子径をD10として、50%の横軸と交差する点の粒子径をD50として、小粒子側から90%の横軸と交差する点の粒子径をD90として、それぞれ求めた。
【0169】
参考例1についてはレーザー回折式乾式粒度分布計(株式会社日本レーザー製 HELOS(H3355)&RODOS)を用いて、分散圧3bar、引圧90mbarの条件で、乾式で試料粉末の粒子径分布を測定した。体積積算%の分布曲線が小粒子側から10%の横軸と交差する点の粒子径をD10として、50%の横軸と交差する点の粒子径をD50として、小粒子側から90%の横軸と交差する点の粒子径をD90として、それぞれ求めた。
[酸化鉄粒子の一次粒子の平均粒子径の計測]
【0170】
試料粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、二次元画像上の凝集体を構成する最小単位の粒子(すなわち、一次粒子)について、ランダムに選ばれた50個の一次粒子の輪郭線上の2点間の距離のうち、最大の長さの平均値を、酸化鉄粒子の平均粒子径とした。
[酸化鉄粒子の厚さの計測]
【0171】
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、50個の酸化鉄粒子の一次粒子の厚さを測定した平均値を採用し、厚さとした。
[アスペクト比]
【0172】
アスペクト比は下記の式を用いて求めた。
アスペクト比 = 酸化鉄粒子の平均粒子径/酸化鉄粒子の厚さ
[酸化鉄粒子の比表面積測定]
【0173】
酸化鉄粒子の比表面積を、比表面積計(マイクロトラック・ベル株式会社製、BELSORP-mini)にて測定し、BET法による窒素ガスの吸着量から測定された試料1g当たりの表面積を、比表面積(m2/g)として算出した。
[結晶構造解析:XRD(X線回折)法]
【0174】
試料粉末を0.5mm深さの測定試料用ホルダーに充填し、それを広角X線回折(XRD)装置(株式会社リガク製 UltimaIV)にセットし、Cu/Kα線、40kV/40mA、スキャンスピード2°/min、走査範囲10~70°の条件で測定を行った。
[XRF(蛍光X線)分析]
【0175】
蛍光X線分析装置PrimusIV(株式会社リガク製)を用い、試料粉末約70mgをろ紙にとり、PPフィルムをかぶせて、次の条件でXRF(蛍光X線)分析を行った。
測定条件
EZスキャンモード
測定元素:F~U
測定時間:標準
測定径:10mm
残分(バランス成分):なし
【0176】
XRF分析により酸化鉄粒子100質量%に対するFe2O3含有率(F1)、酸化鉄粒子100質量%に対するMoO3含有率(M1)、及び酸化鉄粒子100質量%に対するSiO2含有率(S1)の結果を取得した。
[XPS表面分析]
【0177】
試料粉末に対する表面元素分析は、アルバック・ファイ社製QUANTERA SXMを用い、X線源に単色化Al-Kαを使用し、X線光電子分光法(XPS:XrayPhotoelectron Spectroscopy)の測定を行った。1000μm四方のエリア測定で、n=3測定の平均値を各元素についてatom%で取得した。
【0178】
XPS分析により得られた酸化鉄粒子の表層の鉄含有量、表層のモリブデン含有量、及び表層のケイ素含有量を酸化物換算することにより、酸化鉄粒子の表層100質量%に対するFe2O3含有率(F2)(質量%)、酸化鉄粒子の表層100質量%に対するMoO3含有率(M2)(質量%)、及び酸化鉄粒子の表層100質量%に対するSiO2含有率(S2)を求めた。
[酸化鉄粒子の分散性]
【0179】
各実施例及び参考例の酸化鉄粒子0.01質量部を、100質量部の水に分散させた分散液を調製し、粒子の分散性を以下の基準にて評価した。
A:分散液の調製から24時間後の時点で、酸化鉄粒子の沈降が認められなかった。
B:分散液の調製から24時間後の時点で、酸化鉄粒子の沈降が認められた。
<結果>
【0180】
上記の評価により得られた各値を表1に示す。
【0181】
【0182】
走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影して得られた、上記の実施例1~3の粉末のSEMの画像を
図1~3に示す。参考例1の粉末のSEMの画像を
図4に示す。
透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影して得られた、上記の実施例1~3の粉末のTEMの画像を
図5~7に示す。
実施例1~3の各例で、ナノサイズの板状粒子の存在が確認された。
【0183】
XRD分析の結果を
図8に示す。2θ=35.6°付近にヘマタイト(α-Fe
2O
3)の[110]面の結晶ピークが観測され、2θ=33.2°付近にヘマタイト(α-Fe
2O
3)の[104]面の結晶ピークが観測され、2θ=24.1°付近にヘマタイト(α-Fe
2O
3)の[012]面の結晶ピークが観測された。
【0184】
上記のSEM観察、TEM観察およびXRD解析の結果から、実施例で得られた粉末は、酸化鉄を含む板状酸化鉄粒子であることが確認された。
【0185】
各実施例の結果から、600℃という比較的低い温度での焼成で、板状酸化鉄粒子を製造可能であることが示された。
【0186】
また、上記で合成した前駆体-1を鉄化合物及びモリブデン化合物として使用することで、上記表1に記載のD50、平均粒子径、厚さ、アスペクト比を有するナノサイズの板状酸化鉄粒子が得られた。これは、前駆体-1が、ナノサイズのFe2O3粒子及びナノサイズのMoO3を含有しており、それを焼成対象の原料として使用したことで、アスペクト比が高く且つ粒子サイズの小さい板状酸化鉄粒子を容易に得ることができたと考えられる。
【0187】
上記のFe2O3含有率(F1)、MoO3含有率(M1)、SiO2含有率(S1)、Fe2O3含有率(F2)、MoO3含有率(M2)、SiO2含有率(S2)、の値を表1に示す。
【0188】
MoO3含有率(M1)及びMoO3含有率(M2)の結果より、実施例1~3の板状酸化鉄粒子は表面にモリブデンを含み、触媒活性など、モリブデンによる種々の作用が発揮されると期待できる。
【0189】
また、MoO3含有率(M1)に対する、MoO3含有率(M2)の表層偏在比(M2/M1)、及びSiO2含有率(S1)に対する、SiO2含有率(S2)の表層偏在比(S2/S1)の算出結果を表1に示す。
【0190】
表層偏在比(M2/M1)の結果より、実施例1~3の板状酸化鉄粒子では、XPS表面分析により求められる板状酸化鉄粒子の表層の酸化モリブデン含有量が、XRF分析により求められる酸化モリブデン含有量よりも多い。このことから、モリブデンが板状酸化鉄粒子の表面に偏在していることが確認され、モリブデンによる種々の作用が、効果的に発揮されると期待できる。
【0191】
表層偏在比(S2/S1)の結果より、実施例1~3の板状酸化鉄粒子では、XPS表面分析により求められる板状酸化鉄粒子の表層のシリカ含有量が、XRF分析により求められるシリカ含有量よりも多い。このことから、珪素が板状酸化鉄粒子の表面に偏在していることが確認され、珪素による水への分散性の向上の作用が、効果的に発揮されたと期待できる。
【0192】
また、上記実施例1~3、及び参考例1で得られた粉末は、上記表1に記載のBET比表面積を有するものであることを確認した。
【0193】
各実施例及び参考例の酸化鉄粒の分散性を評価した。その結果、参考例1の酸化鉄粒子では、粒子の沈降が認められたのに対し(分散性B)、実施例1~3の板状酸化鉄粒子では、粒子の目立った沈降が認めらず(分散性A)、分散性に優れていた。
【0194】
このことは、参考例1の酸化鉄粒子よりも、実施例1~3の板状酸化鉄粒子のほうが、粒子サイズが極めて小さく、且つアスペクト比が高く、BET比表面積が大きい板状粒子であることに起因するものと考えられる。
【0195】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。
【国際調査報告】