IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアの特許一覧 ▶ カールスルーエ インスティチュート フューア テクノロジーの特許一覧

特表2024-525478コーティングされたカソード活物質の製造方法、及びコーティングされたカソード活物質
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】コーティングされたカソード活物質の製造方法、及びコーティングされたカソード活物質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240705BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240705BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240705BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240705BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20240705BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
H01M4/131
C01G53/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023580710
(86)(22)【出願日】2022-06-14
(85)【翻訳文提出日】2024-02-27
(86)【国際出願番号】 EP2022066240
(87)【国際公開番号】W WO2023274723
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】21181932.1
(32)【優先日】2021-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(71)【出願人】
【識別番号】516141989
【氏名又は名称】カールスルーエ インスティチュート フューア テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ビアンチーニ,マッテオ
(72)【発明者】
【氏名】ハルトマン,パスカル
(72)【発明者】
【氏名】ブレツェジンスキー,トルシュテン
(72)【発明者】
【氏名】クレチェマー,カチャ ラモナ
(72)【発明者】
【氏名】ドライアー,ゼレン ルーカス
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AB04
4G048AB06
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
4G048AE07
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050DA09
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA14
5H050EA23
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
コーティングされた電極活物質の製造方法であって、前記方法が以下の工程:
(a)一般式Li1+xTM1-xによる電極活物質を提供する工程であって、TMが、Ni、又は式(I)による金属の組み合わせであり、xが0~0.2の範囲であり、含水量が500~1500ppmの範囲である、
(NiaCobMnc)1-dMd (I)
(式中、aは、0.3~0.4の範囲であり、
bは、0~0.1の範囲であり、
cは、0.6~0.7の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Al又はTi又はZr又はMgであり、
a+b+c=1である)工程と、
(b)1つ以上のサブ工程で、前記電極活物質をシリコンアルコキシド及びアルキルアルミニウム化合物と反応させる工程と、
(c)このようにして得られた材料を、酸素含有雰囲気中、100~400℃の範囲の温度で10分~4時間熱処理する工程と
を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(a)一般式Li1+xTM1-xによる電極活物質を提供する工程であって、TMが、式(I)による金属の組み合わせであり、xが0~0.2の範囲であり、含水量が500~1500ppmの範囲である、
(NiaCobMnc)1-dMd (I)
(式中、aは、0.3~0.4の範囲であり、
bは、0~0.1の範囲であり、
cは、0.6~0.7の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Al又はTi又はZr又はMgであり、
a+b+c=1である)工程と、
(b)1つ以上のサブ工程で、前記電極活物質をシリコンアルコキシド及びアルキルアルミニウム化合物と反応させる工程と、
(c)このようにして得られた材料を、酸素含有雰囲気中、100~400℃の範囲の温度で10分~4時間熱処理する工程と
を含む、コーティングされた電極活物質を製造する方法。
【請求項2】
前記シリコンアルコキシドがテトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(b)におけるアルキル金属化合物がトリメチルアルミニウム及びトリエチルアルミニウムから選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(b)におけるシリコンとアルミニウムのモル比が1:10~10:1の範囲である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(b)が少なくとも1種の有機溶媒の存在下で行われる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(b)において、又は工程(b)の前又は後のサブ工程において、コバルトのカルボニル化合物又は有機金属化合物が、工程(a)で提供された、又は工程(b)から得られた電極活物質に適用される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
一般式Li1+xTM1-xによるコア材を含む粒子状のカソード活物質であって、TMが式(I)による金属の組み合わせであり、xが0~0.2の範囲であり、前記コア材の外表面が均一な組成のアルミニウムとシリコンの混合酸化物で非均質にコーティングされている
(NiaCobMnc)1-dMd (I)
(式中、aは、0.3~0.4の範囲であり、
bは、0~0.1の範囲であり、
cは、0.6~0.7の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Al又はTi又はZr又はMgであり、
a+b+c=1である)、粒子状物質。
【請求項8】
前記コーティングが、LiAlSiO及びLiAlSiから選択される化合物、及びLiSiO、LiSiO及びLiSiから選択される化合物を含む、請求項7に記載の粒子状物質。
【請求項9】
シリコンとアルミニウムのモル比が1:20~1:1の範囲である、請求項7又は8に記載の粒子状物質。
【請求項10】
(A)少なくとも1種の、請求項7から92のいずれか一項に記載の粒子状物質、
(B)導電状態の炭素、及び
(C)バインダーポリマー
を含む、カソード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティングされた電極活物質の製造方法に関し、前記方法が以下の工程:
(a)一般式Li1+xTM1-xによる電極活物質を提供する工程であって、TMが、Ni、又は式(I)による金属の組み合わせであり、xが0~0.2の範囲であり、含水量が500~1500ppmの範囲である、
(NiaCobMnc)1-dMd (I)
(式中、aは、0.3~0.4の範囲であり、
bは、0~0.1の範囲であり、
cは、0.6~0.7の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Al又はTi又はZr又はMgであり、
a+b+c=1である)工程と、
(b)1つ以上のサブ工程で、前記電極活物質をシリコンアルコキシド及びアルキルアルミニウム化合物と反応させる工程と、
(c)このようにして得られた材料を、酸素含有雰囲気中、100~400℃の範囲の温度で10分~4時間熱処理する工程と
を含む。
【0002】
さらに、本発明は、Niリッチ電極活物質に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン二次電池は、エネルギーを貯蔵するための最新の装置である。携帯電話及びラップトップコンピュータなどの小型の装置からカーバッテリー及び他のE-モビリティ(e-mobility)用バッテリーまで、多くの応用分野が考えられてきた。電解質、電極材料及びセパレータなどの様々な電池の構成要素は、電池の性能に関して重要な役割を有する。カソード材料は特に注目されている。いくつかの材料、例えばリチウム鉄ホスフェート、リチウムコバルトオキシド、及びリチウムニッケルコバルトマンガンオキシドが提案されてきた。広範な研究調査が行われてきているが、これまでに見出された解決策は未だに改善の余地がある。
【0004】
現在、いわゆるNiリッチ(Niの量が多い)電極活物質、例えば、TM総含有量に対して75モル%以上のNiを含有する電極活物質への特定の関心が観察される。
【0005】
リチウムイオン電池、特にNiリッチ電極活物質の1つの問題は、電極活物質の表面での望ましくない反応に起因する。このような反応は、電解質又は溶媒又はその両方の分解であり得る。したがって、充電及び放電中のリチウム交換を妨げることなく、表面を保護することが試みられた。例は、例えばアルミニウムオキシド又はカルシウムオキシドで電極活物質をコーティングする試みである(例えば、US 8,993,051参照)。
【0006】
他の理論では、表面の遊離LiOH又はLiCOに望ましくない反応が割り当てられる。電極活物質を水で洗浄することにより、そのような遊離のLiOH又はLiCOを除去する試みがなされてきた(例えば、JP 4,789,066 B、JP 5,139,024 B、及びUS2015/0372300参照)。しかしながら、場合によっては、得られた電極活物質の特性が改善されないことが観察された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US 8,993,051
【特許文献2】JP 4,789,066 B
【特許文献3】JP 5,139,024 B
【特許文献4】US2015/0372300
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、優れた電気化学特性を有する電極活物質の製造方法を提供することであった。また、本発明の目的は、特に、優れた電気化学特性を有するいわゆるNiリッチ電極活物質を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、以下で「本発明の方法」とも呼ばれる、冒頭で定義された方法が見出された。本発明の方法は、少なくとも3つの工程、すなわち、工程(a)、工程(b)及び工程(c)を含む。これらの工程については、以下でより詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
工程(a)は一般式Li1+xTM1-xによる電極活物質を提供することを含み、ここで、TMが、Ni、又は式(I)による金属の組み合わせ、
(NiaCobMnc)1-dMd (I)
(式中、aは、0.3~0.4の範囲であり、
bは、0~0.1の範囲であり、
cは、0.6~0.7の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Al又はTi又はZr又はMgであり、
a+b+c=1である)
例えばNiとMnの組み合わせ、好ましくはNi、及びCoとMnの組み合わせ、及び任意にMg、Ti及びZrから選択される少なくとも1種の金属であり、xが、0~0.2、好ましくは0.01~0.05の範囲であり、含水量が、500~1500ppm、好ましくは1000~1200ppmの範囲である。TMの少なくとも60モル%がマンガンである。
【0011】
含水量は、カールフィッシャー滴定によって決定することができる。
【0012】
本発明の一実施態様において、粒子状物質は、3~20μm、好ましくは5~16μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。平均粒径は、例えば光散乱又はレーザー回折によって決定することができる。粒子は通常、一次粒子からの凝集体から構成され、上記の粒径は二次粒子の粒径を指す。
【0013】
本発明の一実施態様において、粒子状物質は、0.1~1.5m/gの範囲の比表面積(BET)(以下で「BET表面積」とも呼ばれる)を有する。BET表面積は、DIN ISO 9277:2010に従って、200℃で30分、及びこれを超えてサンプルをガス放出した後の窒素吸着によって決定することができる。
【0014】
Li1+xTM1-x及び式(I)に対応するTMにおける変数xは、好ましくは0.05~0.2、より好ましくは0.1~0.15の範囲である。
【0015】
工程(a)で提供される電極活物質は、通常、導電性炭素を含まない、つまり、出発物質の導電性炭素含有量が、前記出発物質に対して、1質量%未満、好ましくは0.001~1.0質量%、さらにより好ましくは検出レベル未満である。
【0016】
一部の元素は遍在するものである。本発明の文脈において、不純物としての微量のナトリウム、カルシウム、鉄又は亜鉛などの遍在金属は、本発明の明細書において考慮されない。この文脈における微量とは、出発物質の全金属含有量に対して0.02モル%以下の量を意味する。微量の硫酸塩も無視する。
【0017】
工程(a)で提供される電極活物質は、500~1500ppm、好ましくは1000~1200ppmの範囲の含水量を有し、ppmが100万分の1(質量)である。このような水分は、電極材料を含水溶媒で処理することによって導入することができる。好ましくは、前記溶媒は100℃未満の沸点を有する。例としては、含水C~C-アルカノール、例えばイソプロパノール、エタノール、n-プロパノール、特にメタノールが挙げられる。
【0018】
本発明の一実施態様において、前記含水溶媒は、0.05~5体積%、好ましくは0.1~0.5体積%の範囲の含水率を有する。
【0019】
本発明の一実施態様において、含水溶媒と、工程(a)で提供される電極活物質との体積比は、1:1~1:10の範囲である。溶媒の量が多いほど、溶媒を除去するのにより多くの労力がかかる。溶媒の量が少なすぎると、水分による処理が不均衡になり、工程(a)で提供される電極活物質の一部が水分を含まず、工程(a)で提供される他の電極活物質が水分で処理されたままになる可能性がある。
【0020】
溶媒は処理後、例えば濾過又は蒸発によって除去される。蒸発の過程では、120℃での乾燥のような過酷な条件を避けるのが有利である。減圧、例えば1~200ミリバール(abs)で蒸発させるのが好ましい。
【0021】
他の実施態様において、含水率は湿った雰囲気での保存によって達成される。
【0022】
工程(b)では、前記電極活物質が、1つ以上のサブ工程で、好ましくは1つの工程で、シリコンアルコキシド及びアルキルアルミニウム化合物と反応される。
【0023】
シリコンアルコキシドの例としては、C~C-アルコキシド、例えばSi(OCH、Si(OC、Si(O-n-C、Si(O-イソ-C、Si(O-n-C、及び前述の少なくとも2種の組み合わせが挙げられ、Si(OCH及びSi(OCが好ましい。前述のシリコンのC~C-アルコキシドのいずれかの部分加水分解によって形成される中間体、例えば、(CHO)Si-O-Si(OCH及び(CO)Si-O-Si(OCのようなジシリコン化合物(これらに限定されない)も、電極活物質と反応することができる。
【0024】
アルキルアルミニウム化合物の例としては、Alのトリ-C~C-アルキル化合物、例えばメチルジイソプロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、dトリ-n-ブチルアルミニウム、エチルジメチルアルミニウム、トリメチルアルミニウム及びトリエチルアルミニウム、特にトリメチルアルミニウムが挙げられる。中間体として形成する可能性のあるメチルアルモキサンも可能な反応相手である。
【0025】
本発明の一実施態様において、工程(b)おけるシリコンアルコキシド及びトリアルキルアルミニウム化合物中のシリコンとアルミニウムとのモル比は、1:10~10:1、好ましくは1:3~3:1の範囲である。この比は、工程(b)で採用されるシリコンアルコキシドとトリアルキルアルミニウム化合物の比に対応する。トリアルキルアルミニウム化合物は、多くの場合、シリコンアルコキシドよりも反応性が高いことが観察され、未反応のシリコンアルコキシドは、工程(b)の反応が明らかに完了した後に除去されてもよい。
【0026】
本発明の一実施態様において、シリコンアルコキシド及びアルキルアルミニウム化合物の量は、それぞれ工程(a)で提供される電極活物質の1kgあたり1~30の範囲である。
【0027】
本発明の好ましい実施態様において、工程(b)の持続時間は1秒~2時間、好ましくは1秒~10分の範囲である。
【0028】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、5℃~85℃、好ましくは15~40℃の範囲の温度で行われる。
【0029】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、溶媒なしで行われ、シリコンアルコキシド及びトリアルキルアルミニウムが蒸発され、次いで工程(a)で提供された電極材料が、蒸発したシリコンアルコキシド及びトリアルキルアルミニウムに曝露される。
【0030】
本発明の好ましい実施態様において、工程(b)は、少なくとも1種の有機溶媒の存在下で行われる。反応物の性質により、このような有機溶媒は、非プロトン性でハロゲンを含まないものが望ましい。好ましくは、炭化水素、例えばアルカン、シクロアルカン、又は芳香族炭化水素、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、イソオクタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、特に芳香族炭化水素、例えばトルエン、エチルベンゼン、オルト-キシレン、メタ-キシレン、及び3種のキシレンのうちの少なくとも2種の異性体混合物が溶媒として選択される。
【0031】
本発明の一実施態様において、溶媒の、工程(a)で提供される電極活物質に対する比は、0.1~4ml/gの範囲である。
【0032】
工程(b)は、1つの工程で、又は2つ以上のサブ工程で行われてもよく、1つの工程が好ましい。サブ工程には、シリコンアルコキシドで処理する第1サブ工程、及びトリアルキルアルミニウムで処理する第2サブ工程を含んでもよい。別の実施態様において、トリアルキルアルミニウムで処理する第1サブ工程を行い、シリコンアルコキシドで処理する第2サブステップを行う。しかしながら、好ましくは、シリコンアルコキシド及びトリメチルアルミニウム化合物による処理を同時に行う。
【0033】
特に溶媒の存在下で行う場合、工程(b)を行う圧力は重要ではない。実用的には、常圧が好ましい。
【0034】
工程(b)の後、溶媒(存在する場合)、及びアルコール及びアルカンなどの副生成物は、好ましくは蒸発によって除去される。このような溶媒を蒸発させる条件は、その揮発性に依存する。温度は50~150℃の範囲であってよく、圧力は1ミリバール~500ミリバールの範囲であってよい。
【0035】
得られる物質は、その後、工程(c)に供される。
【0036】
本発明の方法の工程(c)では、このようにして得られた物質が、酸素含有雰囲気中、100~400℃の範囲の温度で10分~4時間熱処理される。
【0037】
工程(c)は、任意のタイプのオーブン、例えばローラーハースキルン、プッシャーキルン、ロータリーキルン、振り子キルン、又は実験室規模の試験の場合にマッフルオーブンで行うことができる。
【0038】
工程(c)による熱処理の温度は、100~400℃、好ましくは250~350℃の範囲であり得る。前記温度は工程(c)の最高温度を指す。
【0039】
本発明の一実施態様において、100℃~400℃の所望の温度に達する前に温度を上昇させる。例えば、まず工程(b)で得られた物質を75~90℃に加熱し、10分~0.5時間一定に保持した後、100~400℃に昇温する。
【0040】
本発明の一実施態様において、工程(c)における加熱速度は、0.1~10℃/分の範囲である。
【0041】
本発明の一実施態様において、工程(c)は、ローラーハースキルン、プッシャーキルン又はロータリーキルン、又は前記の少なくとも2つの組み合わせで行われる。ロータリーキルンは、そこで製造される材料の均質化が非常に良好であるという利点を有する。ローラーハースキルン及びプッシャーキルンでは、異なる工程に関する異なる反応条件を非常に容易に設定することができる。実験室規模の実験では、箱型炉、管状炉、及び分割管状炉も使用可能である。
【0042】
本発明の一実施態様において、工程(c)は、酸素含有雰囲気、例えば、窒素-空気混合物、希ガス-酸素混合物、空気、酸素、酸素富化空気、又は純酸素中で行われる。好ましい実施態様において、工程(c)の雰囲気は、空気、酸素及び酸素富化空気から選択される。酸素富化空気は、例えば、空気と酸素の体積比50:50の混合物であってもよい。他の選択肢は、空気と酸素の体積比1:2の混合物、空気と酸素の体積比1:3の混合物、空気と酸素の体積比2:1の混合物、空気と酸素の体積比3:1の混合物である。純酸素がさらにより好ましい。
【0043】
本発明の一実施態様において、工程(c)は、10分~4時間の範囲の持続時間を有する。60分~3時間が好ましい。冷却時間はこの文脈では無視される。
【0044】
本発明の方法を行うことにより、優れた電気化学的特性を有するコーティングされた電極活物質が得られる。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、シリコンのアルコキシ化合物及びトリアルキルアルミニウム化合物の分解生成物が、HFを捕捉できる化合物の層を形成し、電極活物質の表面に堆積すると仮定する。本発明の文脈で得られるコーティングされた電極活物質とは、粒子状のカソード活物質のバッチの粒子の少なくとも80%がコーティングされており、各粒子の表面の少なくとも75%、例えば75~99.99%、好ましくは80~90%がコーティングされていることを指す。
【0045】
それらは優れた電気化学特性を示す。
【0046】
本発明の特別な実施態様において、工程(b)において、又は工程(b)の前又は後のサブ工程において、コバルトのカルボニル化合物又は有機金属化合物が、工程(a)で提供された、又は工程(b)から得られた電極活物質に適用される。「コバルトのカルボニル化合物」という用語は、コバルトのCO錯体である化合物を指し、追加の配位子があってもなくてもよい。そのようなコバルトのカルボニル化合物の例としては、Co(CO)、Co(CO)NO、Co(CO)CF、[Co(CO)](Co-C~C-アルキル)、及びHCo(CO)が挙げられる。コバルトの有機金属化合物の例としては、[(η-Cp)Co](式中、Cpがシクロペンタジエニルである)、η-CpCo(CO)、[Co(η-アリル)(CO)]、及びη-Cp-Co-ビスアミジネートが挙げられる。η-CpCo(CO)のような一部の化合物は、カルボニル化合物としてもコバルトの有機金属化合物としても適格である。
【0047】
配位子のタイプによって、コバルトはCo(0)として、又はゼロより高い酸化状態で析出することができる。
【0048】
本発明の一実施態様において、場合により、工程(a)で提供された電極活物質又は工程(b)から得られた電極活物質に対して、1~5質量%のCoが析出される。
【0049】
本発明のさらなる態様は、以下で本発明のカソード活物質又は本発明の粒子状物質又は本発明のコーティングされた粒子状物質とも呼ばれる、コーティングされた粒子状物質に関する。
【0050】
本発明の文脈における本発明のコーティングされた粒子状物質とは、粒子状物質のバッチの粒子の少なくとも80%がコーティングされ、各粒子の表面の少なくとも75%、例えば75~99.99%、好ましくは80~90%がコーティングされていることを指す。
【0051】
このようなコーティングの厚さは非常に薄く、例えば0.1~5nmであってもよい。他の実施態様において、厚さは6~15nmの範囲であってもよい。さらなる実施態様において、そのようなコーティングの厚さは、16~50nmの範囲である。この文脈における厚さとは、粒子表面あたりの金属アルコキシド及びアルキル金属化合物の量をmで計算し、工程(b)において100%転化すると仮定することによって数学的に決定される平均厚さを指す。
【0052】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、粒子のコーティングされていない部分は、粒子の特定の化学的性質、例えば、ヒドロキシル基(これに限定されない)のような化学的に反応性の基の密度、化学的制約を有する酸化物部分、又は吸着水により、反応しないと考えられる。
【0053】
本発明の一実施態様において、本発明のコーティングされた粒子状物質は、3~20μm、好ましくは5~16μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。平均粒径は、例えば光散乱又はレーザー回折によって決定することができる。粒子は通常、一次粒子からの凝集体から構成され、上記の粒径は二次粒子の粒径を指す。
【0054】
本発明の一実施態様において、本発明のコーティングされた粒子状物質は、0.1~1.5m/gの範囲の比表面積(BET)(以下で「BET表面積」とも呼ばれる)を有する。BET表面積は、DIN ISO 9277:2010に従って、200℃で30分、及びこれを超えてサンプルをガス放出した後の窒素吸着によって決定することができる。
【0055】
本発明のコーティングされた粒子状物質は、一般式Li1+xTM1-xによるコア材を含み、ここで、TMが式(I)による金属の組み合わせであり、xが、0~0.2、好ましくは0.05~0.2、より好ましくは0.1~0.15の範囲であり、コア材の外表面が均一な組成のアルミニウムとシリコンの混合酸化物で非均質にコーティングされている。
【0056】
「均一な組成」という用語は、異なる層に配置されているのではなく、例えばEDX(エネルギー分散型X線分光法)マッピングで見たときに、それぞれの粒子全体にわたって組成の変化がなくコーティングが現れることを示すものとする。「均一な組成」は、均一な比を有する2種又は複数種の化合物の混合物を含むものとする。
【0057】
本発明の一実施態様において、前記コーティングは、LiSiO、LiSiO及びLiSiから選択される化合物、及びLiAlSiO及びLiAlSiから選択される化合物を含む。
【0058】
本発明の一実施態様において、前記コーティングは、Al、SiO、LiSiO、LiSiO、LiSi、LiAlSiO及びLiAlSiから選択される少なくとも2種の化合物の組み合わせを含み、そのうちの少なくとも1つはリチウムを含有する。このような組み合わせでは、少なくとも1つの化合物がAlを含有し、少なくとも1つがSiを含有する。
【0059】
TMは、式(I)、
(NiaCobMnc)1-dMd (I)
(式中、aは、0.3~0.4の範囲であり、
bは、0~0.1の範囲であり、
cは、0.6~0.7の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Al又はTi又はZr又はMgであり、
a+b+c=1である)
による金属の組み合わせである。
【0060】
本発明の一実施態様において、コーティング中のシリコンとアルミニウムのモル比は、1:20~1:1、好ましくは1:20~1:5の範囲である。
【0061】
本発明のカソード活物質は、本発明の方法によって得ることができる。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、工程(a)で提供されるような水分含有電極活物質に対するシリコンアルコキシド及びアルキルアルミニウム化合物の異なる反応性により、より高い割合のトリアルキルアルミニウムが析出し、より高い割合の未反応のシリコンアルコキシドが失われて除去されることが想定される。
【0062】
本発明のカソード活物質は、特にサイクル安定性と低い容量フェードに関して優れた特性を示す。
【0063】
本発明のさらなる態様は、少なくとも1つの本発明による電極活物質を含む電極を指す。これらは特にリチウムイオン電池に有用である。少なくとも1つの本発明による電極を含むリチウムイオン電池は、良好な放電挙動を示す。少なくとも1つの本発明による電極活物質を含む電極は、以下、本発明のカソード又は本発明によるカソードとも呼ばれる。
【0064】
特に、本発明のカソードは、
(A)少なくとも1つの、本発明の電極活物質、
(B)導電状態の炭素、
(C)バインダー又はバインダー(C)又は(C)とも呼ばれるバインダーポリマー、及び好ましくは、
(D)集電器
を含有する。
【0065】
好ましい実施態様において、本発明のカソードは、(A)、(B)及び(C)の合計に基づいて、
(A)80~98質量%の本発明の電極活物質、
(B)1~17質量%の炭素、
(C)1~15質量%のバインダーポリマー
を含有する。
【0066】
本発明によるカソードは、さらなる構成要素を含むことができる。それらは、集電器、例えばアルミホイル(これに限定していない)を含むことができる。それらは、導電性炭素及びバインダーをさらに含むことができる。
【0067】
本発明によるカソードは、簡潔に炭素(B)とも呼ばれる、導電性修飾の炭素を含有する。炭素(B)は、すす、活性炭、カーボンナノチューブ、グラフェン、及びグラファイト、及び上記の少なくとも2つの組み合わせから選択することができる。
【0068】
好適なバインダー(C)は、好ましくは、有機(コ)ポリマーから選択される。好適な(コ)ポリマー、すなわち、ホモポリマー又はコポリマーは、例えば、アニオン(共)重合、触媒(共)重合又はフリーラジカル(共)重合により得ることができる(コ)ポリマーから、特にポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリスチレン、並びに、エチレン、プロピレン、スチレン、(メタ)アクリロニトリル及び1,3-ブタジエンから選択された少なくとも2種のコモノマーのコポリマーから選択することができる。ポリプロピレンも適する。ポリイソプレン及びポリアクリレートはさらに適している。ポリアクリロニトリルが特に好ましい。
【0069】
本発明の文脈において、ポリアクリロニトリルは、ポリアクリロニトリルホモポリマーだけでなく、アクリロニトリルと1,3-ブタジエン又はスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。ポリアクリロニトリルホモポリマーが好ましい。
【0070】
本発明の文脈において、ポリエチレンは、ホモポリエチレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合されたエチレン、及び50モル%以下の少なくとも1つのさらなるコモノマー、例えばα-オレフィン、例えばプロピレン、ブチレン(1-ブテン)、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ペンテン、及びまたイソブテン、ビニル芳香族のもの、例えばスチレン、及びまた(メタ)アクリル酸、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、(メタ)アクリル酸のC~C10-アルキルエステル、特にメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、及びまたマレイン酸、無水マレイン酸及び無水イタコン酸を含むエチレンのコポリマーも意味すると理解される。ポリエチレンはHDPE又はLDPEであり得る。
【0071】
本発明の文脈において、ポリプロピレンは、ホモポリプロピレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合されたプロピレン、及び50モル%以下の少なくとも1つのさらなるコモノマー、例えばエチレン、及びα-オレフィン、例えばブチレン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン及び1-ペンテンを含むプロピレンのコポリマーも意味すると理解される。ポリプロピレンは、好ましくはイソタクチックポリプロピレン又は本質的にイソタクチックポリプロピレンである。
【0072】
本発明の文脈において、ポリスチレンは、スチレンのホモポリマーだけでなく、アクリロニトリル、1,3-ブタジエン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のC~C10-アルキルエステル、ジビニルベンゼン、特に1,3-ジビニルベンゼン、1,2-ジフェニルエチレン及びα-メチルスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。
【0073】
別の好ましいバインダー(C)は、ポリブタジエンである。
【0074】
他の好適なバインダー(C)は、ポリエチレンオキシド(PEO)、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリイミド及びポリビニルアルコールから選択される。
【0075】
本発明の一実施態様において、バインダー(C)は、50,000g/molから、1,000,000g/molまで、好ましくは500,000g/molまでの範囲の平均分子量Mを有する(コ)ポリマーから選択される。
【0076】
バインダー(C)は、架橋された又は架橋されていない(コ)ポリマーであり得る。
【0077】
本発明の特に好ましい実施態様において、バインダー(C)は、ハロゲン化(コ)ポリマー、特にフッ素化(コ)ポリマーから選択される。ハロゲン化又はフッ素化(コ)ポリマーは、1個の分子当たり少なくとも1個のハロゲン原子又は少なくとも1個のフッ素原子、より好ましくは1個の分子当たり少なくとも2個のハロゲン原子又は少なくとも2個のフッ素原子を有する少なくとも1つの(共)重合された(コ)モノマーを含む(コ)ポリマーを意味すると理解される。例としては、ポリビニルクロリド、ポリビニリデンクロリド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオリド(PVdF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVdF-HFP)、ビニリデンフルオリド-テトラフルオロエチレンコポリマー、ペルフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、ビニリデンフルオリド-クロロトリフルオロエチレンコポリマー、及びエチレン-クロロフルオロエチレンコポリマーが挙げられる。
【0078】
好適なバインダー(C)は、特に、ポリビニルアルコール及びハロゲン化(コ)ポリマー、例えばポリビニルクロリド又はポリビニリデンクロリド、特にフッ素化(コ)ポリマー、例えばポリビニルフルオリド及び特にポリビニリデンフルオリド及びポリテトラフルオロエチレンである。
【0079】
本発明のカソードは、電極活物質に対して1~15質量%のバインダー(単数又は複数)を含んでもよい。別の実施態様において、本発明のカソードは0.1~1質量%未満のバインダー(単数又は複数)を含んでもよい。
【0080】
本発明のさらなる態様はは、本発明の電極活物質、炭素、及びバインダーを含む少なくとも1つのカソード、少なくとも1つのアノード、及び少なくとも1種の電解質を含有する電池である。
【0081】
本発明のカソードの実施態様は、すでに上記で詳細に記載されている。
【0082】
前記アノードは、少なくとも1種のアノード活物質、例えばカーボン(グラファイト)、TiO、酸化リチウムチタン、シリコン又はスズを含有してもよい。前記アノードは、集電器、例えば銅ホイルなどの金属ホイルをさらに含有してもよい。
【0083】
前記電解質は、少なくとも1種の非水性溶媒、少なくとも1種の電解質塩、及び任意に添加剤を含んでもよい。
【0084】
電解質のための非水性溶媒は、室温で液体又は固体であり得、好ましくは、ポリマー、環状又は非環状エーテル、環状及び非環状アセタール、及び環状又は非環状有機カーボネートから選択される。
【0085】
好適なポリマーの例は、特に、ポリアルキレングリコール、好ましくはポリ-C~C-アルキレングリコール、及び特にポリエチレングリコールである。ここでは、ポリエチレングリコールは、20モル%以下の1種以上のC~C-アルキレングリコールを含むことができる。ポリアルキレングリコールは、好ましくは、2個のメチル又はエチル末端キャップを有するポリアルキレングリコールである。
【0086】
好適なポリアルキレングリコール、特に好適なポリエチレングリコールの分子量Mは、少なくとも400g/molであり得る。
【0087】
好適なポリアルキレングリコール、特に好適なポリエチレングリコールの分子量Mは、最大5000000g/mol、好ましくは最大2000000g/molであり得る。
【0088】
好適な非環状エーテルの例は、例えば、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンであり、1,2-ジメトキシエタンが好ましい。
【0089】
好適な環状エーテルの例は、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサンである。
【0090】
好適な非環状アセタールの例は、例えば、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、1,1-ジメトキシエタン及び1,1-ジエトキシエタンである。
【0091】
好適な環状アセタールの例は、1,3-ジオキサン、及び特に1,3-ジオキソランである。
【0092】
好適な非環状有機カーボネートの例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートである。
【0093】
好適な環状有機カーボネートの例は、一般式(II)及び(III)による化合物である
【化1】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なることができ、水素及びC~C-アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル及びtert-ブチルから選択され、好ましくは、R及びRの両方ともがtert-ブチルであることはない)。
【0094】
特に好ましい実施態様において、Rはメチルであり、R及びRはそれぞれ水素であるか、又はR、R及びRはそれぞれ水素である。
【0095】
別の好ましい環状有機カーボネートは、式(IV)のビニレンカーボネートである。
【0096】
【化2】
【0097】
好ましくは、溶媒又は複数の溶媒は、水を含まない状態で、すなわち、例えば、カールフィッシャー滴定によって決定することができる1ppm~0.1質量%の範囲の含水量で使用される。
【0098】
電解質は、少なくとも1種の電解質塩をさらに含む。好適な電解質塩は、特にリチウム塩である。好適なリチウム塩の例は、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiC(C2n+1SO、リチウムイミド、例えばLiN(C2n+1SO(式中、nは1~20の範囲の整数である)、LiN(SOF)、LiSiF、LiSbF、LiAlCl、及び一般式(C2n+1SOYLiの塩である
(式中、Yが酸素及び硫黄から選択される場合、t=1であり、
Yが窒素及びリンから選択される場合、t=2であり、
Yが炭素及びケイ素から選択される場合、t=3である)。
【0099】
好ましい電解質塩は、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiPF、LiBF、LiClOから選択され、LiPF及びLiN(CFSOが特に好ましい。
【0100】
本発明の一実施態様において、本発明による電池は、それによって電極が機械的に分離される1つ以上のセパレータを含む。好適なセパレータは、金属リチウムに対して反応しないポリマーフィルム、特に多孔性ポリマーフィルムである。セパレータのための特に好適な材料は、ポリオレフィン、特にフィルム形成の多孔性ポリエチレン及びフィルム形成の多孔性ポリプロピレンである。
【0101】
ポリオレフィン、特にポリエチレン又はポリプロピレンから構成されるセパレータは、35~45%の範囲の多孔率を有することができる。好適な細孔径は、例えば30~500nmの範囲である。
【0102】
本発明の他の実施態様において、セパレータは、無機粒子で充填したPET不織布から選択することができる。このようなセパレータは40~55%の範囲の多孔率を有し得る。好適な細孔径は、例えば80~750nmの範囲である。
【0103】
本発明による電池は、任意の形状、例えば、立方体、又は円筒形ディスク又は円筒形カンの形状を有することができるハウジングをさらに含むことができる。一変形態様において、ポーチとして構成された金属ホイルをハウジングとして使用する。
【0104】
本発明による電池は、例えば低温(0℃以下、例えば-10℃又はそれ未満まで)で良好な放電挙動、非常に良好な放電及びサイクル挙動を示す。
【0105】
本発明による電池は、互いに組み合わされている、例えば直列に接続するか、又は並列に接続することができる2つ以上の電気化学セルを含むことができる。直列接続が好ましい。本発明による電池において、少なくとも1つの電気化学セルは少なくとも1つの本発明によるカソードを含有する。好ましくは、本発明による電気化学セルにおいて、電気化学セルの大部分は本発明によるカソードを含有する。さらにより好ましくは、本発明による電池において、すべての電気化学セルは本発明によるカソードを含有する。
【0106】
本発明はさらに、本発明による電池を機器、特にモバイル機器に使用する方法を提供する。モバイル機器の例は、車両、例えば自動車、自転車、航空機、又は水上乗り物、例えばボート又は船である。モバイル機器の他の例は、手動で動くもの、例えばコンピューター、特にラップトップ、電話、又は例えば建築部門における電動手工具、特にドリル、バッテリー式ドライバー又はバッテリー式ステープラーである。
【0107】
以下の実施例によって、本発明をさらに説明する。
【実施例
【0108】
平均粒径(D50)は動的光散乱法(「DLS」)により決定した。パーセンテージは、特に明記しない限り、質量%である。
【0109】
LiOH・OHはRockwood Lithiumから購入した。
【0110】
ベース電極活物質の製造は、Linn High Term製のタイプ: VMK-80-Sのボックス型炉で行った。
【0111】
メタノール及びトルエンは、標準的な実験室の方法に従って予備乾燥した。
【0112】
特に明記しない限り、すべての合成工程はアルゴン雰囲気下、グローブボックス(MB200B、MBraun)内で行い、酸素及び水の濃度は0.1ppm未満であった。
【0113】
Al(CHは、トルエン中の2M溶液として使用し、Sigma-Aldrichから購入した。
【0114】
Si(OC(「Si(OEt)」)は、バルクで使用し、Merck KGaAから購入した。
【0115】
I.ベース電極活物質の製造
I.1 前駆体P-CAM.1の製造
水酸化ニッケルの沈殿は、2.3lの容積を有する連続攪拌タンク反応器を用いて、窒素雰囲気下55℃で行った。硫酸ニッケル、アンモニア及び水酸化ナトリウムの水溶液を反応器に供給した。各流量は、pH値が12.6(プラス/マイナス0.2)、ニッケルとアンモニアのモル比が0.8、滞留時間が約8時間になるように調整した。得られた固体をろ過で取り出し、脱イオン水で12時間洗浄し、120℃で16時間乾燥させた。得られたNi(OH)(「P-CAM.1」)は10μmの平均粒径D50を有していた。
【0116】
I.2 ベース電極活物質B-CAM.1(LiNiO)の製造
P-CAM.1(12.981g、0.140モル、1.00当量)とLiOH・HO(5.933g、0.141モル、1.01当量)を十分に混合し、得られた混合物を酸素気流下(5.00L・h-1、1時間あたり約0.65反応器容積の交換に等しい)、700℃で6時間、3℃・分-1の加熱及び冷却速度で焼成した。焼成した生成物をグローブボックスに移し、45μmの金属ふるいでふるい、13.272gのB-CAM.1を得た。カールフィッシャー滴定により、50ppmの検出レベル未満の含水量を示した。
【0117】
I.3 前駆体P-CAM.2の製造、TM=Ni0.85Co0.10Mn0.5
沈殿反応は、2.3lの容積を有する連続攪拌タンク反応器を用いて、窒素雰囲気下55℃で行った。
【0118】
連続攪拌タンク反応器に上記の(NHSOの水溶液1.5lを入れた。次に、水酸化ナトリウムの25質量%水溶液を用いて溶液のpH値を11.5に調整した。NiSO、CoSO及びMnSO(モル比85:10:5、全金属濃度:1.65mol/kg)を含有する金属水溶液、水酸化ナトリウム水溶液(25質量%のNaOH)、アンモニア水溶液(25質量%のアンモニア)を同時に容器に導入した。アンモニアと金属のモル比を0.265に調整した。体積流量の合計は、平均滞留時間を5時間に調整するように設定した。NaOHの流量は、容器内のpH値を11.58の一定値に保つようにpH調整回路で調整した。装置は容器内の液面を一定に保ちながら連続運転した。Ni、Co及びMnの混合水酸化物を容器からフリーオーバーフローで回収した。得られた生成物スラリーは、10.5μmの平均粒径(D50)を有するNi、Co及びMnの混合水酸化物、P-CAM.2を約120g/l含んでいた。P-CAM.2をろ過により取り出し、脱イオン水で12時間洗浄し、120℃で16時間乾燥させた。
【0119】
I.4 B-CAM.2の製造
その後、P-CAM.2をLiOH・HOと1.02:1のLi:TMのモル比で混合し、純酸素気流中で10時間の滞留時間、780℃で焼成した。加熱速度は3℃/分であった。粒子状のB-CAM.2が得られ、32μmのメッシュサイズで篩分けした。カールフィッシャー滴定により、50ppmの検出レベル未満の含水量を示した。
【0120】
I.5 水分含有電極活物質の製造
I.5.1 水分含有B-CAM.1の製造、工程(a.1)
3.5gの量のB-CAM.1を、5mlの予備乾燥したメタノール中の脱イオン水溶液15μlでスラリー化し、5分間振とうした。上澄み液相をシリンジで取り出し、次に水分含有B-CAM.1をシュレンクライン上で常温及び1・10-3ミリバールの圧力で2時間乾燥させた。湿潤はカールフィッシャー滴定により確認され、1,150ppmの含水量を示した。
【0121】
II.本発明のカソード活物質の合成
II.1 B-CAM.1をベースとする本発明のカソード活物質の合成
一般的な手順
工程(b.1):磁気攪拌棒を備えるオーブン乾燥したシュレンクフラスコに、7mLの予備乾燥したトルエンを入れた。次に、表1に従って、トルエン中のAl(CHとSi(OCの組み合わせを添加した。次に、水分含有B-CAM.1を2.5g添加した。得られたスラリーを撹拌しながら、常温で2時間反応させ、その後、シュレンクフラスコを、ラインとフラスコの間にコールドトラップを備えたシュレンクラインに移し、その中に溶媒及び過剰の試薬を真空中で除去した。液相が見えなくなったところで、フラスコを直接シュレンクラインに取り付け、得られた物質を常温及び1・10-3ミリバールの圧力で15時間乾燥させた。
【0122】
工程(c.1):工程(b.1)で得られた材料を、管状炉(P330、Nabertherm)で酸素気流下(1.00l・h-1、1時間当たり1.5反応器体積の交換に等しい)、300℃で1時間アニールした。加熱及び冷却速度は2.3℃/分であった。CAM.1.1が得られた。
【0123】
工程(b.2)は工程(b.1)とほぼ同じであるが、水分含有B-CAM.1の代わりに水分含有B-CAM.2を出発物質として使用した。CAM.2.1が得られた。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
N-メチル-2-ピロリドン(NMP、≧99.5%、Merck KGaA)中のポリビニリデンジフルオリド(PVDF、Solef 5130、Solvay)の7.5質量%のバインダー溶液を導電性カーボンブラック(Super C65、TIMCAL Ltd.)及びNMPを遊星遠心ミキサー(ARE-250、Thinky)で、まず2000rpmで3分間、続いて400rpmで3分間混合することにより、カソードの調製に必要なカソードスラリーを調製した。最初の混合後、それぞれのCAMをスラリーに添加した。B-CAM.1をベースとするカソード活物質においては、密閉可能なスクリューキャップ式ミキシングカップを使用し、それぞれのカソード活物質をグローブボックス内で添加した。B-CAM.2をベースとするカソード活物質においては、オープンミキシングカップを使用した。その後、混合物を2000rpmで3分間、400rpmで3分間再度撹拌し、均質な深黒のスラリーを得た。電動フィルムアプリケーター(Erichsen Coatmaster 510)を使用することで、CAM.2.1又はB-CAM.2の場合は120μm、CAM.1.1又はC-CAM.1の場合は140μmのスリット高さを有するブレードフィルムアプリケーターを使用し、厚さ0.03mmのアルミニウムホイル上にスラリーを直接にコーティングして、~10mgCAM・cm-2の面積担持量が得られた。得られたテープは真空中120℃で12時間乾燥させ、その後、ラボ用カレンダー(Sumet Messtechnik)で15N・mm-1のライン圧下で2本のスチールロール間にカレンダー加工した。
【0127】
III.2 パウチセルの製造
50・30mmの微多孔性ポリプロピレンセパレータ(Celgard 2500)、3:7のEC:DEC質量比中の1.0MのLiPF及び2%のビニレンカーボネート添加剤からなる電解質500μL、及び42・22mmグラファイトアノードを用いて、乾燥室(露点<-55℃)で単層パウチセルを組み立てた。
【0128】
試験プロトコル:
一般に、すべての実験において、少なくとも3つのセルを正常にサイクルさせ、結果はこれらのセルの平均値として表示した。これらは、電池試験システム(Series 4000,MACCOR)を用いて、25℃(B-CAM.1をベースとする物質)又は45℃(B-CAM.2をベースとする物質)でサイクルした。最初の2サイクルは、0.1Cのレートで4.2Vまで定電流充電を行い、B-CAM.2及びCAM.2.1では1C=195mA・g-1、B-CAM.1及びCAM.1.1では225mA・g-1であった。電圧限界に達した後、どちらの条件が先に満たされたかによって、1時間又は電流が0.02C未満に下がるまで充電を続けた。5分間の休息後、0.1Cのレートで2.8Vまで放電し、その後、5分間休息した。これらの初期サイクルの後、充電レートを0.5Cに設定した。放電レートは10サイクルの間1Cとし、その後0.5C、1C、2C、3Cで各2サイクルのレートテストを行った。長期のサイクルでは、それぞれ1Cで100サイクル後にレートテストを繰り返した。
【0129】
【表3】
【手続補正書】
【提出日】2022-10-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(a)一般式Li1+xTM1-xによる電極活物質を提供する工程であって、TMが、式(I)による金属の組み合わせであり、xが0~0.2の範囲であり、含水量が500~1500ppmの範囲である、
(NiaCobMnc)1-dMd (I)
(式中、aは、0.3~0.4の範囲であり、
bは、0~0.1の範囲であり、
cは、0.6~0.7の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Al又はTi又はZr又はMgであり、
a+b+c=1である)工程と、
(b)1つ以上のサブ工程で、前記電極活物質をシリコンアルコキシド及びアルキルアルミニウム化合物と反応させる工程と、
(c)このようにして得られた材料を、酸素含有雰囲気中、100~400℃の範囲の温度で10分~4時間熱処理する工程と
を含む、コーティングされたカソード活物質を製造する方法。
【請求項2】
前記シリコンアルコキシドがテトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(b)におけるアルキル金属化合物がトリメチルアルミニウム及びトリエチルアルミニウムから選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(b)におけるシリコンとアルミニウムのモル比が1:10~10:1の範囲である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(b)が少なくとも1種の有機溶媒の存在下で行われる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(b)において、又は工程(b)の前又は後のサブ工程において、コバルトのカルボニル化合物又は有機金属化合物が、工程(a)で提供された、又は工程(b)から得られた電極活物質に適用される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
一般式Li1+xTM1-xによるコア材を含む粒子状のカソード活物質であって、TMが式(I)による金属の組み合わせであり、xが0~0.2の範囲であり、前記コア材の外表面が均一な組成のアルミニウムとシリコンの混合酸化物で非均質にコーティングされている
(NiaCobMnc)1-dMd (I)
(式中、aは、0.3~0.4の範囲であり、
bは、0~0.1の範囲であり、
cは、0.6~0.7の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Al又はTi又はZr又はMgであり、
a+b+c=1である)、粒子状物質。
【請求項8】
前記コーティングが、LiAlSiO及びLiAlSiから選択される化合物、及びLiSiO、LiSiO及びLiSiから選択される化合物を含む、請求項7に記載の粒子状物質。
【請求項9】
シリコンとアルミニウムのモル比が1:20~1:1の範囲である、請求項7又は8に記載の粒子状物質。
【請求項10】
(A)少なくとも1種の、請求項7からのいずれか一項に記載の粒子状物質、
(B)導電状態の炭素、及び
(C)バインダーポリマー
を含む、カソード。
【国際調査報告】