(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(54)【発明の名称】ニラパリブ(NIRAPARIB)による転移性去勢抵抗性前立腺癌の治療
(51)【国際特許分類】
A61K 31/454 20060101AFI20240705BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240705BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20240705BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20240705BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
A61K31/454
A61P35/00
A61P35/04
A61P13/08
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024503407
(86)(22)【出願日】2022-07-18
(85)【翻訳文提出日】2024-01-26
(86)【国際出願番号】 EP2022070026
(87)【国際公開番号】W WO2023001746
(87)【国際公開日】2023-01-26
(32)【優先日】2021-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397060175
【氏名又は名称】ヤンセン ファーマシューティカ エヌ.ベー.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149010
【氏名又は名称】星川 亮
(72)【発明者】
【氏名】フランシス,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ロペス-ジトリツ,エンジェラ メニケ
(72)【発明者】
【氏名】ハトニック,ナタリ エー
(72)【発明者】
【氏名】メイソン,ギャリー エドワード
(72)【発明者】
【氏名】ズォー,シン
(72)【発明者】
【氏名】ゴームリー,マイケル ピー
(72)【発明者】
【氏名】ジュー,ユアンゲン
(72)【発明者】
【氏名】ウルティシャク,カレン アン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス,シブ
(72)【発明者】
【氏名】デル コラール,アダム エー
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC37
4C086GA07
4C086GA13
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA81
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明は、ヒト男性における二対立遺伝子DNA修復異常を有するライン2+転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)の治療の有効性を改善する方法であって、当該二対立遺伝子DNA修復異常が、i)BRCA(BRCA1、BRCA2、又はこれらの組合せ)、ii)非BRCA(ATM、FANCA、PALB2、CHEK2、BRIP1、HDAC2、又はこれらの任意の組合せ)、あるいはiii)これらの任意の組合せから選択され、ヒト男性が、事前にタキサン系の化学療法及びアンドロゲン受容体(Androgen Receptor、AR)標的療法を受けてきており、治療の有効性を改善する当該方法が、当該ヒト男性に、300mgのニラパリブの1日1回の経口投薬を投与することを含む、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト男性における二対立遺伝子DNA修復異常を有するライン2+転移性去勢抵抗性前立腺癌(metastatic Castration-Resistant Prostate Cancer、mCRPC)の治療の有効性を改善する方法に使用するための、300mgのニラパリブの1日1回の経口投薬であって、前記二対立遺伝子DNA修復異常が、i)BRCA(BRCA1、BRCA2、又はこれらの組合せ)、ii)非BRCA(ATM、FANCA、PALB2、CHEK2、BRIP1、HDAC2、又はこれらの任意の組合せ)、あるいはiii)これらの任意の組合せから選択され、前記ヒト男性が、事前にタキサン系の化学療法及びアンドロゲン受容体(Androgen Receptor、AR)標的療法を受けてきた、300mgのニラパリブの1日1回の経口投薬。
【請求項2】
前記改善された有効性が、95%の信頼区間(95%のConfidence Interval、CI)で約12ヶ月の全生存期間(Overall Survival、OS)中央値である、請求項1に記載の、使用のための300mgのニラパリブの1日1回の経口投薬。
【請求項3】
前記ヒト男性がBRCA DNA修復異常を有し、前記OS中央値が約13ヶ月(95%のCI)である、請求項2に記載の、使用のための300mgのニラパリブの1日1回の経口投薬。
【請求項4】
前記ヒト男性が非BRCA DNA修復異常を有し、前記OS中央値が約10ヶ月(95%のCI)である、請求項2に記載の、使用のための300mgのニラパリブの1日1回の経口投薬。
【請求項5】
前記改善された有効性が、約5.6ヶ月(95%のCI)の放射線学的無増悪生存期間(radiographic Progression-Free Survival、rPFS)中央値である、請求項1~4のいずれか一項に記載の、使用のための300mgのニラパリブの1日1回の経口投薬。
【請求項6】
前記ヒト男性がBRCA DNA修復異常を有し、前記rPFSが約8.1ヶ月(95%のCI)である、請求項5に記載の、使用のための300mgのニラパリブの1日1回の経口投薬。
【請求項7】
前記ヒト男性がBRCA DNA修復異常を有し、前記改善された有効性が約34.2%(95%のCI)の客観的奏効率(Objective Response Rate、ORR)である、請求項1、3、又は6に記載の、使用のための300mgのニラパリブの1日1回の経口投薬。
【請求項8】
前記改善された有効性が、約5.55ヶ月(95%のCI)の客観的奏効の期間中央値である、請求項1~7のいずれか一項に記載の、使用のための300mgのニラパリブの1日1回の経口投薬。
【請求項9】
前記改善された有効性が、約5.8ヶ月(95%のCI)の放射線学的増悪までの時間(中央値)である、請求項1~8のいずれか一項に記載の、使用のための300mgのニラパリブの1日1回の経口投薬。
【請求項10】
前記ヒト男性がBRCA DNA修復異常を有し、放射線学的増悪までの前記時間(中央値)が約8.08ヶ月(95%のCI)である、請求項9に記載の、使用のための300mgのニラパリブの1日1回の経口投薬。
【請求項11】
前記改善された有効性が、約4.6ヶ月(95%のCI)のPSA進行までの時間中央値である、請求項1~10のいずれか一項に記載の、使用のための300mgのニラパリブの1日1回の経口投薬。
【請求項12】
前記改善された有効性が、約13ヶ月(95%のCI)の症候性骨関連事象までの時間中央値である、請求項1~11のいずれか一項に記載の、使用のための300mgのニラパリブの1日1回の経口投薬。
【請求項13】
前記改善された有効性が、約18%(95%のCI)の循環腫瘍細胞(Circulating Tumor Cells、CTC)奏効率である、請求項1~12のいずれか一項に記載の、使用のための300mgのニラパリブの1日1回の経口投薬。
【請求項14】
前記ヒト男性がBRCA DNA修復異常を有し、前記CTC奏効率が約24%(95%のCI)である、請求項13に記載の、使用のための300mgのニラパリブの1日1回の経口投薬。
【請求項15】
前記ヒト男性が非BRCA DNA修復異常を有し、前記CTC奏効率が約9%(95%のCI)である、請求項13に記載の、使用のための300mgのニラパリブの1日1回の経口投薬。
【請求項16】
前記タキサン系の化学療法が、ドセタキセル、パクリタキセル、又はカバジタキセルである、請求項1~15のいずれか一項に記載の、使用のための300mgのニラパリブの1日1回の経口投薬。
【請求項17】
前記AR標的療法が、i)外科的去勢(睾丸摘出術)、又はii)黄体形成ホルモン放出ホルモン(Luteinizing Hormone-Releasing Hormone、LHRH)作用薬、例えば、リュープロレリン又はロイプロリド、ゴセレリン、トリプトレリン、ヒストレリン、ナファレリン、ゴナドレリン、ブセレリン等と、デガレリクス、レルゴリクス等などのLHRH拮抗薬と、アビラテロン酢酸エステル(Zytiga(登録商標))と、ケトコナゾールと、抗アンドロゲン剤、例えば、フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、エンザルタミド、アパルタミド、ダロルタミド等、及びその他のアンドロゲン抑制薬剤、例えば、エストロゲン、ジエチルスチルベストロール等と、からなる群から選択される内科的去勢である、請求項1~16のいずれか一項に記載の、使用のための300mgのニラパリブの1日1回の経口投薬。
【請求項18】
ニラパリブが、トシル酸塩一水和物、硫酸塩、ベンゼン硫酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、樟脳酸塩、マンデル酸塩、カンシル酸塩、ラウリル硫酸塩、又はトシル酸塩一水和物とラウリル硫酸塩との混合物の、塩形態である、請求項1~17のいずれか一項に記載の、使用のための300mgのニラパリブの1日1回の経口投薬。
【請求項19】
ヒト男性における二対立遺伝子DNA修復異常を有するライン2+転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)の治療の有効性を改善する方法であって、前記二対立遺伝子DNA修復異常が、i)BRCA(BRCA1、BRCA2、又はこれらの組合せ)、ii)非BRCA(ATM、FANCA、PALB2、CHEK2、BRIP1、HDAC2、又はこれらの任意の組合せ)、あるいはiii)これらの任意の組合せから選択され、前記ヒト男性が、事前にタキサン系の化学療法及びアンドロゲン受容体(AR)標的療法を受けてきており、治療の有効性を改善する前記方法が、前記ヒト男性に、300mgのニラパリブの1日1回の経口投薬を投与することを含む、方法。
【請求項20】
前記改善された有効性が、約12ヶ月(95%のCI)の全生存期間(OS)中央値である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ヒト男性がBRCA DNA修復異常を有し、前記OS中央値が約13ヶ月(95%のCI)である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ヒト男性が非BRCA DNA修復異常を有し、前記OS中央値が約10ヶ月(95%のCI)である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記改善された有効性が、約5.6ヶ月(95%のCI)の放射線学的無増悪生存期間(rPFS)中央値である、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記ヒト男性がBRCA DNA修復異常を有し、前記rPFSが約8.1ヶ月(95%のCI)である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ヒト男性がBRCA DNA修復異常を有し、前記改善された有効性が、約34.2%(95%のCI)の客観的奏効率(ORR)である、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
前記改善された有効性が、約5.55ヶ月(95%のCI)の客観的奏効の期間中央値である、請求項19に記載の方法。
【請求項27】
前記改善された有効性が、約5.8ヶ月(95%のCI)の放射線学的増悪までの時間である、請求項19に記載の方法。
【請求項28】
前記ヒト男性がBRCA DNA修復異常を有し、放射線学的増悪までの前記時間が約8.08ヶ月(95%のCI)である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記改善された有効性が、約4.6ヶ月(95%のCI)のPSA進行までの時間中央値である、請求項19に記載の方法。
【請求項30】
前記改善された有効性が、約13ヶ月(95%のCI)の症候性骨関連事象までの時間中央値である、請求項19に記載の方法。
【請求項31】
前記改善された有効性が、約18%(95%のCI)の循環腫瘍細胞(CTC)奏効率である、請求項19に記載の方法。
【請求項32】
前記ヒト男性がBRCA DNA修復異常を有し、前記CTC奏効率が約24%(95%のCI)である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記ヒト男性が非BRCA DNA修復異常を有し、前記CTC奏効率が約9%(95%のCI)である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記タキサン系の化学療法が、ドセタキセル、パクリタキセル、又はカバジタキセルである、請求項19~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記AR標的療法が、i)外科的去勢(睾丸摘出術)、又はii)黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)作用薬、例えば、リュープロレリン又はロイプロリド、ゴセレリン、トリプトレリン、ヒストレリン、ナファレリン、ゴナドレリン、ブセレリン等と、デガレリクス、レルゴリクス等などのLHRH拮抗薬と、アビラテロン酢酸エステル(Zytiga(登録商標))と、ケトコナゾールと、抗アンドロゲン剤、例えば、フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、エンザルタミド、アパルタミド、ダロルタミド等、及びその他のアンドロゲン抑制薬剤、例えば、エストロゲン、ジエチルスチルベストロール等と、からなる群から選択される内科的去勢である、請求項19~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
ニラパリブが、トシル酸塩一水和物、硫酸塩、ベンゼン硫酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、樟脳酸塩、マンデル酸塩、カンシル酸塩、ラウリル硫酸塩、又はトシル酸塩一水和物とラウリル硫酸塩との混合物の、塩形態である、請求項19~35のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本開示は、転移性去勢抵抗性前立腺癌を有する患者における治療有効性を、改善する方法に関する。
【0002】
発明の背景
前立腺癌は、男性における最も一般的な非皮膚悪性腫瘍であり、西欧諸国における男性の癌死因の第2位となっている。
【0003】
前立腺癌は、前立腺の異常細胞の制御されない増殖により生じる。前立腺癌の腫瘍が発生すると、テストステロンなどのアンドロゲン(精巣からの男性ホルモン)が、前立腺癌の増殖を促進してしまう。その初期段階において、局在性の前立腺癌は、例えば、前立腺の外科的除去及び放射線治療を含む局所的療法によって、治療可能である場合が多い。しかしながら、男性の少なくとも1/3でそうであるように、局所的療法により前立腺癌が治癒できない場合、疾患は、治癒不能な転移性疾患(すなわち、身体の1つの部分からその他の部分へと、癌が転移する疾患)に進行してしまう。
【0004】
転移性去勢抵抗性前立腺癌(metastatic Castration-Resistant Prostate Ccancer、mCRPC)の男性に対する、生存期間を改善し、進行を制限する、現在の治療選択肢としては、タキサン系の化学療法、及びアビラテロン酢酸エステル+プレドニゾン、エンザルタミド、又はラジウム-223などの、アンドロゲン受容体標的剤が挙げられる。
【0005】
白金系の化学療法は、限定された結果及び有意な毒性を有する、分子的に選択されていない前立腺癌患者における多数の臨床研究で、試験されてきた。
【0006】
ニラパリブ(Niraparib)は、PARP-1及びPARP-2デオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid、DNA)修復ポリマーに対する活性を有する、経口利用可能な高選択性ポリ(アデノシン二リン酸[ADP]-リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害因子である。
【0007】
PARPは、塩基除去修復と呼ばれるプロセスを介したDNA一本鎖切断(Single-Strand Breaks、SSB)の修復に関与する酵素である。PARP阻害は、修復されていないSSBの蓄積をもたらし、複製フォークの行き詰まり及び崩壊につながり、ひいては、二本鎖切断(Double-Stranded Breaks、DSB)をもたらす。通常、DSBは、相同組み換え(Homologous Recombination、HR)によって修復される。修復されていない場合、DSBは、細胞死をもたらす。HR経路を伴うDNA修復欠陥を有する腫瘍細胞(例えば、乳癌遺伝子[BRCA]-1/2)をPARP阻害因子で治療した場合、それらは、DSBを効率的かつ正確に修復することができず、合成致死状態が生じる。転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)を有する男性においては、DNA修復異常を有する腫瘍は、約20%~30%の散発性癌を占める。
【0008】
最初に応答しないか、又は既存の治療に対して治療不応性になるか、のいずれかである患者における、前立腺癌の治療の改善された方法が、必要である。
【0009】
発明の概要
本発明の目的は、i)BRCA(BRCA1、BRCA2、又はこれらの組合せ)、ii)非BRCA(ATM、FANCA、PALB2、CHEK2、BRIP1、HDAC2、又はこれらの任意の組合せ)、あるいはiii)これらの任意の組合せ、から選択される二対立遺伝子DNA修復異常を有するライン2+mCRPCの治療の有効性を、事前にタキサン系の化学療法及びAR標的療法を受けてきたヒト男性において、改善することである。
【0010】
本発明の目的は、より進行した段階の疾患又は重度の疾患負荷、例えば、内臓疾患(優勢な肺及び肝臓の関与を伴うmCRPCの臨床症状)を有する患者における、mCRPCの治療の有効性を改善することであり、これは特に、不穏な予後をもたらす。
【0011】
本発明の目的は、重度に前治療されており、利用可能なその他の有効な治療選択肢を全く有さないか又はほとんど有さない患者、例えば、第3の治療ライン、第4の治療ライン又は第5の治療ラインあるいはそれ以降の患者におけるmCRPCの治療の有効性を改善することである。
【0012】
本発明の目的は、患者における健康関連生活の質(Health Related Quality of Life(HRQoL))に安定な向上をもたらすmCRPCの改善された治療を提供することであるが、これは、治療が困難な集団における並外れた成果である。
【0013】
本発明は、ヒト男性における二対立遺伝子DNA修復異常を有するライン2+転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)の治療の有効性を改善する方法であって、当該二対立遺伝子DNA修復異常が、i)BRCA(BRCA1、BRCA2、又はこれらの組合せ)、ii)非BRCA(ATM、FANCA、PALB2、CHEK2、BRIP1、HDAC2、又はこれらの任意の組合せ)、あるいはiii)これらの任意の組合せから選択され、ヒト男性が、事前にタキサン系の化学療法及びアンドロゲン受容体(Androgen Receptor、AR)標的療法を受けてきており、治療の有効性を改善する当該方法が、当該ヒト男性に、300mgのニラパリブの1日1回の経口投薬を投与することを含む、方法に関する。
【0014】
改善された有効性は、95%の信頼区間(95%のConfidence Interval、CI)で、約12ヶ月の全生存期間(Overall Survival、OS)中央値である。
【0015】
一実施形態では、ヒト男性はBRCA DNA修復異常を有し、OS中央値は、約13ヶ月(95%のCI)である。
【0016】
一実施形態では、ヒト男性は非BRCA DNA修復異常を有し、OS中央値は、約10ヶ月(95%のCI)である。
【0017】
改善された有効性はまた、約5.6ヶ月(95%のCI)の放射線学的無増悪生存期間(radiographic Progression-Free Survival、rPFS)中央値である。
【0018】
一実施形態では、ヒト男性は、BRCA DNA修復異常を有し、rPFSは、約8.1ヶ月(95%のCI)である。
【0019】
一実施形態では、ヒト男性は、BRCA DNA修復異常を有し、改善された有効性は、約34.2%(95%のCI)の客観的奏効率(Objective Response Rate、ORR)である。
【0020】
改善された有効性はまた、約5.55ヶ月(95%のCI)の客観的奏効の期間中央値である。
【0021】
改善された有効性はまた、約5.8ヶ月(95%のCI)の放射線学的増悪までの時間である。
【0022】
一実施形態では、ヒト男性は、BRCA DNA修復異常を有し、放射線学的増悪までの時間は、約8.08ヶ月(95%のCI)である。
【0023】
改善された有効性はまた、約4.6ヶ月(95%のCI)のPSA進行までの時間中央値である。
【0024】
改善された有効性はまた、約13ヶ月(95%のCI)の症候性骨関連事象までの時間中央値である。
【0025】
改善された有効性はまた、約18%(95%のCI)の循環腫瘍細胞(Circulating Tumor Cells、CTC)奏効率である。
【0026】
一実施形態では、ヒト男性は、BRCA DNA修復異常を有し、CTC奏効率は、約24%(95%のCI)である。
【0027】
一実施形態では、ヒト男性は、非BRCA DNA修復異常を有し、CTC奏効率は、約9%(95%のCI)である。
【0028】
本明細書に提示される方法のいずれか1つにおいて、タキサン系の化学療法は、ドセタキセル、パクリタキセル、又はカバジタキセルである。
【0029】
本明細書に提示される方法のいずれか1つにおいて、AR標的療法は、i)外科的去勢(睾丸摘出術)と、及び/又はii)黄体形成ホルモン放出ホルモン(Luteinizing Hormone-Releasing Hormone、LHRH)作用薬、例えば、リュープロレリン又はロイプロリド、ゴセレリン、トリプトレリン、ヒストレリン、ナファレリン、ゴナドレリン、ブセレリン等からなる群から選択される内科的去勢と、デガレリクス、レルゴリクス等などのLHRH拮抗薬と、アビラテロン酢酸エステル(Zytiga(登録商標))と、ケトコナゾールと、抗アンドロゲン剤、例えば、フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、エンザルタミド、アパルタミド、ダロルタミド等、及びその他のアンドロゲン抑制薬剤、例えば、エストロゲン、ジエチルスチルベストロール等と、を包含する。
【0030】
本明細書に提示される方法のいずれか1つにおいて、ニラパリブは、トシル酸塩一水和物、硫酸塩、ベンゼン硫酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、樟脳酸塩、マンデル酸塩、カンシル酸塩、ラウリル硫酸塩、又はトシル酸塩一水和物とラウリル硫酸塩との混合物の、塩形態である。
【0031】
本発明は、同様に、ヒト男性における二対立遺伝子DNA修復異常を有するライン2+転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)の治療の有効性を改善する、本明細書に提示される方法のいずれか1つに使用するための、300mgのニラパリブの、1日1回の経口投薬の投与に関し、当該二対立遺伝子DNA修復異常が、i)BRCA(BRCA1、BRCA2、又はこれらの組合せ)、ii)非BRCA(ATM、FANCA、PALB2、CHEK2、BRIP1、HDAC2、又はこれらの任意の組合せ)、あるいはiii)これらの任意の組合せから選択され、ヒト男性が、事前にタキサン系の化学療法及びアンドロゲン受容体(AR)標的療法を受けてきている、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】全生存期間のカプラン-マイヤープロット(Kaplan-Meier Plot)を示し、ITTは、分析被検者集団である。ITT:BRCA被検者又は非BRCA被検者であり、BRCA:二対立遺伝子BRCA1又はBRCA2又は生殖系列BRCAであり、非BRCAであり、ATM、FANCA、PALB2、CHEK2、BRIP1又はHDAC2における二対立遺伝子である。
【
図2】rPFSのカプラン-マイヤープロットを示し、ITTは、分析被検者集団である。ITT:BRCA被検者又は非BRCA被検者であり、BRCA:二対立遺伝子BRCA1又はBRCA2又は生殖系列BRCAであり、非BRCAであり、ATM、FANCA、PALB2、CHEK2、BRIP1又はHDAC2における二対立遺伝子である。
【
図3】放射線進行までの時間のカプラン-マイヤープロットを示し、ITTは、分析被検者集団である。ITT:BRCA被検者又は非BRCA被検者であり、BRCA:二対立遺伝子BRCA1又はBRCA2又は生殖系列BRCAであり、非BRCAであり、ATM、FANCA、PALB2、CHEK2、BRIP1又はHDAC2における二対立遺伝子である。
【
図4】試験の任意の時間における、ベースラインからのPSAの最大変化のウォーターフォールプロットを示し、ITTは、分析被検者集団である。ベースラインは、50%の減少を表す。100%以上の増減を、100%とする。B=BRCAであり、N=非BRCAである。ITT:BRCA被検者又は非BRCA被検者であり、BRCA:二対立遺伝子BRCA1又はBRCA2又は生殖系列BRCAであり、非BRCAであり、ATM、FANCA、PALB2、CHEK2、BRIP1又はHDAC2における二対立遺伝子である。
【0033】
発明の詳細な記述
本発明は、以下の詳細な説明を参照することによって、より容易に理解されてもよい。これらの発明は、本明細書に記載する、かつ/又は示す特定の製品、方法、条件、又はパラメータに限定されるものではなく、本明細書で使用される専門用語は、ほんの一例として具体的な実施形態を記載する目的のためのものであり、特許請求した発明を制限することを意図するものではないことを、理解されたい。
【0034】
本明細書に引用又は説明されている各特許、特許出願、及び刊行物の全開示は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0035】
上記で用いられる際に、また本開示全体を通して、以下の用語及び略語は、特に指示のない限り、以下の意味を有するものと、理解されたい。
【0036】
本開示では、特に明示しない限り、単数形「a」、「an」、及び「the」は、複数形の言及を包含し、所与の数値への言及は、少なくともその所与の値を包含する。したがって、例えば、「材料(an ingredient)」に対する参照は、1種以上のこのような材料、及び当業者に周知であるその等価物等に対する参照である。更に、特定の要素が、X、Y、又はZで「あってもよい(may be)」ことを示す場合、このような使用は、全ての場合において、その要素に関するその他の選択肢を除外することを、意図するものではない。
【0037】
値が、先行詞「約」を用いて近似値として表現される場合、その特定の値は、別の実施形態を形成すると、理解されたい。本明細書で使用される場合、「約X(about X)」(ここで、Xは、数値である)とは、好ましくは、記載の値の±10%を包括的に指す。例えば、「約8」という語句は、包括的に、7.2~8.8の値を指し、別の例として、「約8%」という語句は、包括的に、7.2%~8.8%の値を指す。
【0038】
存在する場合、全ての範囲は、包括的であり、組合せ可能である。例えば、「1~5」の範囲を列挙する場合、列挙した範囲は「1~4」、「1~3」、「1~2」、「1~2及び4~5」、「1~3及び5」等の範囲を含むと解釈すべきである。なお、代替物のリストが明確に提供される場合、このようなリストはまた、代替物のいずれかが除外されてもよい実施形態を含み得る。例えば、「1~5」の範囲が説明されている場合、このような説明は、1、2、3、4、又は5のいずれかが除外される状況を支持し得る。したがって、「1~5」という記述は、「1及び3~5であるが、2ではない」又は単に「2は含まれない」を支持してもよい。
【0039】
用語の略語の一覧
【0040】
【0041】
【0042】
「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」及び「治療(treatment)」とは、癌の進行の阻害、遅延、速度の遅延、又は停止による、癌の改善を目的とする介入を指す。別途記載のない限り、「治療する」、及び「治療」という用語は、記載される効果の全体を指すが、その他の実施形態では、これらの用語はまた、記載される効果のうちのいずれか1つを指す場合もある、又は少なくとも1つの効果を除外したものを指す場合もある。
【0043】
「有効性を改善する」とは、患者及び疾患の臨床病期の同じ又は比較可能なコホートについて、標準治療(Standard Of Care、SOC)又は当該技術分野で利用可能なその他の療法で治療した場合の同じ尺度と比較した場合に、有効性に関連する臨床結果又はエンドポイントの1つ以上においてより良好な尺度を達成することを意味する。
【0044】
「治療有効量(therapeutically effective amount)」又は「有効量(effective amount)」とは、前立腺癌を治療するために有効な治療薬の量を意味する。
【0045】
「安全な治療薬(safe therapeutic)」とは、前立腺癌を治療するために安全である治療薬の量を意味する。
【0046】
「1日1回(once-daily)」とは、2つ以上の剤形が1日1回(q.d.)、すなわち、1日の短い期間内に投与される投薬措置を意味する。例えば、2種、3種、又は4種のニラパリブ剤形は、1日1回投与される場合、それらは、同時に、又は1分以内、2分以内、5分以内、1時間以内、あるいは本発明の臨床試験被検者で達成されるニラパリブの薬物動態及び薬力学を損なわない最大期間内に、投与される。「1日1回」とは、「1日複数回(multiple-daily)」と対照的に使用され、後者は、1日2回(bid)、1日3回(tid)、1日4回(qid)等で投与される2つ以上の剤形を指す。
【0047】
「薬学的に許容される(pharmaceutically acceptable)」という用語は、一般に安全で、非毒性であり、生物学的にもその他の点でも望ましくないものではないことを意味し、ヒトへの薬学的使用並びに獣医学的使用に許容されるものを含む。
【0048】
「アンドロゲン受容体(androgen receptor)」という用語は、野生型アンドロゲン受容体、並びに去勢抵抗性前立腺癌に関連するアンドロゲン抵抗性AR及び/又はAR突然変異体を含む。
【0049】
「タキサン系の化学療法(taxane-based chemotherapy)」という用語は、ドセタキセル、パクリタキセル、及びカバジタキセルを含むが、これらに限定されない。
【0050】
「AR標的療法(AR-targeted therapy)」という用語は、ホルモン治療を意味し、その目標は、体内のアンドロゲンと呼ばれる男性ホルモンのレベルを低下させること、又はそれらが前立腺癌増殖を支持するのを停止させることである。AR標的療法は、i)外科的去勢(睾丸摘出術)、又はii)限定されないが、リュープロレリン又はロイプロリド、ゴセレリン、トリプトレリン、ヒストレリン、ナファレリン、ゴナドレリン、ブセレリン等などの黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)作用薬(LHRH類似体又はGnRH類似体とも呼ばれる)と、デガレリクス、レルゴリクス等などのLHRH拮抗薬と、アビラテロン酢酸エステル(Zytiga(登録商標))と、ケトコナゾールと、抗アンドロゲン剤、例えば、フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、エンザルタミド、アパルタミド、ダロルタミド等、及びその他のアンドロゲン抑制薬剤、例えば、エストロゲン、ジエチルスチルベストロール等と、の投与による、内科的去勢であってもよい。
【0051】
「ライン2+」という用語は、ニラパリブの投与に先立って、前立腺癌を治療するための少なくとも2つの異なる療法:タキサン系の化学療法及びアンドロゲン受容体(AR)標的療法を既に受けたmCRPCを有する患者を意味する。本用語はまた、ニラパリブの投与前に第2の治療ライン、第3の治療ライン、第4の治療ライン、又は第5の治療ラインの治療を受けたmCRPCを有する患者を含む。
【0052】
「客観的奏効率」又は「ORR」という用語は、BRCA DNA修復異常及び測定可能な疾患を有し、その最良の奏効がRECIST 1.1(Eisenhauerら、2009年)によって定義される完全奏効又は部分奏効のいずれかであり、PCWG3基準(Scherら、2016年)に従って骨進行の証拠を有さない被検者又は患者(「被検者(subject)」及び「患者(patient)」という両方の用語は、互換的に使用される)の割合を意味する。
【0053】
「非BRCA分析被検者集団における客観的奏効率(Objective response rate in Non-BRCA Analysis Set)」という用語は、測定可能なmCRPC、及びATM FANCA、PALB2、CHEK2、BRIP1、又はHDAC2におけるDNA修復異常を有する被検者においてPCWG3基準に従って骨進行の証拠がない、RECIST 1.1によって定義される軟組織の客観的奏効率(内臓疾患又は結節性疾患)を意味する。
【0054】
「CTC奏効率」という用語は、ベースラインの8週後に、血液7.5mL当たりのCTC=0であるベースラインCTC>0を有する被検者の割合を意味する。
【0055】
「全生存期間」又は「Overall Survival、OS」という用語は、登録から何らかの原因で死亡する日までの時間を指す。分析時に生存している被検者は、被検者が生存していることが周知となった最終日に打ち切られる。
【0056】
「放射線学的増悪(radiographic progression)」という用語は、治験責任医師によって評価される進行の最初の発生によって、決定される。以下のように、軟部組織疾患についてはRECIST 1.1に従って、骨疾患についてはPCWG3に従って、放射線学的増悪及び骨進行を評価した。
●RECIST 1.1で定義されるCT又はMRIによって測定される、軟組織病変の進行。
●骨スキャンによって観察され、PCWG3に基づく、骨病変による進行。骨進行は、8週目のスキャンで観察されたもの、及び確認スキャン(≧6週後に実施された)で観察されたものに応じて、以下のうちの1つとして定義された。
1)8週目のスキャンで、ベースラインスキャンと比較して≧2の新しい骨病変を有することが観察された被検者は、以下の2つのカテゴリのうちの1つに分類された:
a)確認スキャンで8週目のスキャンと比較して≧2の新たな病変(すなわち、ベースラインスキャンと比較して、合計≧4の新たな病変)が示された被験者は、8週目に骨スキャンの進行があるとみなされた。
b)確認スキャンで8週目のスキャンと比較して≧2の新たな病変が示されなかった被験者は、骨スキャンの進行があるとはみなされなかった。8週目のスキャンは、後続のスキャンが比較された骨スキャンとみなされた。8週目のスキャンと比較して≧2の新しい病変を示した最初のスキャン時点は、これらの新しい病変が≧6週後の後続のスキャンによって確認された場合に、骨スキャン進行時点とみなされた。
2)8週目のスキャンがベースラインスキャンと比較して≧2の新しい骨病変を有しなかった被検者については、8週目のスキャンと比較して≧2の新しい病変を示した第1のスキャン時点は、これらの新しい病変が≧6週後の後続のスキャンによって確認された場合に、骨スキャン進行時点とみなされた。
【0057】
放射線学的増悪又は死亡がない被検者は、その後の抗癌療法を開始しなかった場合、最後の疾患評価日に打ち切られる。その後の抗癌治療を開始した被検者は、新たな抗癌療法を開始する前の最後の評価日に打ち切られる。
【0058】
「無増悪生存期間(Progression-Free Survival)」又は「PFS(Progression-Free Survival)」という用語は、抗癌剤治療中、又はその後の抗癌剤治療開始前の死亡(何らかの原因による)のいずれか先に起った方の、治療登録から治験責任医師が評価した疾患の進行までの時間を意味する(PSA、放射線学的(rPFS)、症候性、又はこれらの組合せ)。
【0059】
「放射線学的増悪までの時間(time to radiographic progression)」という用語は、登録から疾患進行に起因する放射線学的増悪(治験責任医師によって決定される)までの時間を意味する。
【0060】
「PSA進行までの時間(time to PSA progression)」という用語は、登録から、PCWG3基準に基づくPSA進行が記録された最初の日までの時間を意味する。分析時にPSA進行がない被検者は、進行がないことが周知となった最後の日に打ち切られる。ベースラインPSAを有さない被検者又はベースライン後値を有さない被検者は、登録日に打ち切られる。
【0061】
「症候性骨関連事象までの時間(time to symptomatic skeletal event)」又は「SSEまでの時間(time to SSE)」という用語は、登録から以下の症候性骨関連事象のうちの1つの最初の発生までの時間を意味する:i)腫瘍関連の脊髄圧迫症、ii)骨関連症状を軽減するための、骨への放射線照射、iii)骨への手術又は腫瘍関連整形外科的介入の必要性、iv)症候性骨折又は病態。分析時に症候性骨関連事象を有さない被検者は、最後の処置日+30日に打ち切られる。死亡は、SSEの事象であるとはみなされない。
【0062】
「客観的奏効の持続期間(duration of objective response)」という用語は、完全奏効又は部分奏効から、疾患の放射線学的増悪、明白な臨床的進行又は死亡のいずれか先に起った方までの時間を意味する。
【0063】
「循環腫瘍細胞(CTC)奏効率(circulating tumor cells(CTC)response rate)」という用語は、ベースライン8週後の血液7.5mL当たりのCTC=0であるベースラインCTC>0を有する被検者の割合を意味する。
【0064】
去勢抵抗性前立腺癌
内因性ホルモン(例えばテストステロン)の作用を阻害する剤(抗アンドロゲン剤)は極めて効果的であり、前立腺癌の治療に日常的に用いられている(アンドロゲン除去療法)。これらのアンドロゲン除去療法は、初期には腫瘍増殖の抑制に効果的であるが、ほとんど全ての症例で最終的には効果を失い、CRPCにつながる。全てではないが大部分の前立腺癌細胞は、初期には、ビカルタミドのようなアンドロゲン除去療法に応答するが、この奏効は、新規ホルモン剤で治療された患者でははるかに小さい。しかしながら、前立腺癌細胞はアンドロゲン除去療法によって作り出される選択圧に奏効してきており、その時点で治療に応答しなくなっているため、時間の経過と共に前立腺癌細胞の生存集団が生じる。原発癌は用いられる療法に応答しなくなっているばかりか、癌細胞が原発腫瘍から分離し血流中を移動して、疾患を離れた部位(特に骨)に転移させ得る。これは、転移性去勢抵抗性前立腺癌(「mCRPC」)として周知である。その他の作用の中でも、これは、患者に顕著な痛み、更に骨の脆弱性を生じる。
【0065】
DNA修復遺伝子
ライン2+mCRPCの改善された治療から恩恵を受ける被検者又は患者は、それらのDNA修復遺伝子に「二対立遺伝子DNA修復異常」とも呼ばれる二対立遺伝子異常を有する18歳超のヒト男性である。これらの異常は、体細胞又は生殖系列であってもよい。これらのDNA修復遺伝子としては、BRCA1(乳ガン遺伝子1)、BRCA2(乳ガン遺伝子2)、ATM(毛細血管拡張性運動失調症変異)、FANCA(ファンコーニ貧血相補群A遺伝子)、PALB2(BRCA2遺伝子のパートナ及びローカライザ)、CHEK2(チェックポイントキナーゼ2遺伝子)、BRIP1(BRCA1相互作用タンパク質C末端ヘリカーゼ1遺伝子)、及びHDAC2(ヒストンデアセチラーゼ2)が挙げられる。
【0066】
ニラパリブ
ニラパリブ、又は2-[4-[(3S)-ピペリジン-3-イル]フェニル]-2H-インダゾール-7-カルボキサミドは、PARP-1及びPARP-2デオキシリボ核酸(DNA)修復ポリマーに対する活性を有する、経口利用可能な高選択性ポリ(アデノシン二リン酸[ADP]-リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害因子である。ニラパリブの調製は、米国特許第8,071,623号及び同第8,436,185号に記載されており、これらの両方が参照により本明細書に組み込まれる。
【0067】
本明細書で使用される場合、「ニラパリブ(niraparib)」という用語は、遊離塩基化合物(2-[4-[(3S)-ピペリジン-3-イル]フェニル]-2H-インダゾール-7-カルボキサミド)、2-[4-[(3S)-ピペリジン-3-イル]フェニル]-2H-インダゾール-7-カルボキサミドの薬学的に許容される塩を含む塩形態(例えば、4-メチルベンゼンスルホン酸、2-[4-[(3S)-ピペリジン-3-イル]フェニル]-2H-インダゾール-7-カルボキサミド)、及び/又はその水和形態を含む溶媒和形態(例えば、2-[4-[(3S)-ピペリジン-3-イル]フェニル]-2H-インダゾール-7-カルボキサミドトシル酸塩一水和物)のいずれかを意味する。このような形態は、個々に、それぞれ、「ニラパリブ遊離塩基」、「ニラパリブトシル酸塩」及び「ニラパリブトシル酸塩一水和物」と称されてもよい。別途記載のない限り、「ニラパリブ」という用語は、適用可能な場合、化合物2-[4-[(3S)-ピペリジン-3-イル]フェニル]-2H-インダゾール-7-カルボキサミドの全ての結晶、多形体、偽多形体、水和物、一水和物、無水形態、溶媒和物、塩形態、及びこれらの組合せを含む。塩の例としては、限定されるものではないが、トシル酸塩又は4-メチルベンゼンスルホン酸塩、硫酸塩、ベンゼン硫酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、樟脳酸塩、マンデル酸塩、カンシル酸塩、及びラウリル硫酸塩が挙げられる。特定の態様において、「ニラパリブ」という用語は、ニラパリブトシル酸一水和物を指す。
【0068】
「ニラパリブ」という用語はまた、本化合物の非晶質及び結晶多形、並びにその水和物、非溶媒和物、及び溶媒和物を包含する。多形体の実施例は、国際公開第2018/183354(A1)号に記載されており、これは、参照により本明細書に組み込まれる。2-[4-[(3S)-ピペリジン-3-イル]フェニル]-2H-インダゾール-7-カルボキサミドトシル酸塩一水和物の結晶形態Iは、9.5±0.2、12.4±0.2、13.2±0.2、17.4±0.2、18.4±0.2、21.0±0.2、24.9±0.2、25.6±0.2、26.0±0.2及び26.9±0.2の2θ値から選択される少なくとも1つのX線回折パターン反射によって、特徴付けられる。2-[4-[(3S)-ピペリジン-3-イル]フェニル]-2H-インダゾール-7-カルボキサミドトシル酸塩非化学量論的水和物の結晶形態IIは、9.7±0.3、12.8±0.3、17.9±0.3、19.7±0.3、及び21.8±0.3の2θ値から選択される少なくとも1つのX線回折パターン反射によって、特徴付けられる。2-[4-[(3S)-ピペリジン-3-イル]フェニル]-2H-インダゾール-7-カルボキサミドトシル酸塩無水形態の結晶形態IIIは、17.8±0.2、19.0±0.2、又は22.8±0.2の2θ値から選択される少なくとも1つのX線回折パターン反射によって、特徴付けられる。結晶形Iが、好ましい。多形体の更なる実施例は、国際公開第2020/072797(A1)号に記載されており、これは、参照により本明細書に組み込まれる。
【0069】
「ニラパリブ当量(niraparib eq.)」又は「ニラパリブ当量(niraparib equivalent)」という用語は、ニラパリブの遊離塩基用量を指す。
【0070】
本発明は、ニラパリブ及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物もまた提供する。有効成分を含む医薬組成物は、例えば、錠剤、トローチ剤、ロゼンジ剤、水性懸濁液若しくは油性懸濁液、分散性の粉末若しくは顆粒、エマルション、硬質カプセル若しくは軟質カプセル、又はシロップ剤若しくはエリキシル剤などの、経口使用に適した形態であってもよい。
【0071】
経口使用を目的とした組成物は、医薬組成物の製造の技術分野では周知のいずれかの方法に従って調製されてもよく、このような組成物は、医薬的に洗練された、味のよい製剤を提供するために甘味剤、香味剤、着色剤、及び防腐剤からなる群から選択される1種以上の薬剤を含有してもよい。錠剤は、有効成分を、錠剤の製造に適した無毒性の薬学的に許容される賦形剤と混合された状態で、含有する。これらの賦形剤は、例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム、又はリン酸ナトリウムなどの不活性希釈剤と、例えば、微結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウム、コーンスターチ、又はアルギン酸などの顆粒化剤及び崩壊剤と、例えば、デンプン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン又はアカシアなどの結合剤、及び、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、又はタルクなどの潤滑剤と、であってもよい。錠剤はコーティングされていなくてもよい、又は薬剤の不快な味を隠すための、若しくは消化管における崩壊及び吸収を遅らせ、それによって、長期にわたって持続する作用を提供するための、周知の技術により、コーティングされていてもよい。例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース若しくはヒドロキヒプロピルセルロースなどの水溶性味覚マスキング材料、又はエチルセルロース、酢酸酪酸セルロースなどの時間遅延材料を用いてもよい。
【0072】
経口使用のための製剤はまた、有効成分が、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、又はカオリンなどの不活性の固体希釈剤と混合されたハードゼラチンカプセルとして、あるいは有効成分が、例えば、ポリエチレングリコールなどの水溶性担体、又は例えば、ピーナッツ油、流動パラフィン、若しくはオリーブ油などの油性媒体と混合されたソフトゼラチンカプセルとして、提供されてもよい。
【0073】
水性懸濁液は、活性物質を、水性懸濁液の製造に適した賦形剤と混合された状態で含有する。このような賦形剤は、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル-セルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントガム、及びアカシアガムなどの懸濁化剤であり、分散剤又は湿潤剤は、例えば、レシチンなどの天然に存在するホスファチド、又はアルキレンオキシドと脂肪酸との縮合生成物(例えば、ステアリン酸ポリオキシエチレン)、又はエチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物(例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタナール)、又はエチレンオキシドと脂肪酸及びヘキシトールから誘導された部分エステルとの縮合生成物(例えば、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトール)、又はエチレンオキシドと脂肪酸及びヘキシトール無水物から誘導された部分エステルとの縮合生成物(例えば、モノオレイン酸ポリエチレンソルビタン)であってもよい。水性懸濁液は、例えば、p-ヒドロキシ安息香酸エチル又はp-ヒドロキシ安息香酸n-プロピルなどの1種類以上の防腐剤、1種類以上の着色剤、1種類以上の香味剤、及びスクロース、サッカリン又はアスパルテームなどの1種類以上の甘味剤もまた含有してもよい。
【0074】
油性懸濁液は、有効成分を、例えば、アラキス油、オリーブ油、ごま油若しくはココナッツ油などの植物油、又は流動パラフィンなどの鉱物油中に懸濁することによって、配合されてもよい。油性懸濁液は、例えば、蜜蝋、硬質パラフィン、又はセチルアルコールなどの増粘剤を含んでもよい。上記に記載したもののような甘味剤及び香味剤を添加することで、味のよい経口製剤を得ることができる。これらの組成物は、ブチル化ヒドロキシアニソール又はαートコフェロルなどの酸化防止剤の添加によって、保存されてもよい。
【0075】
水を加えることによる水性懸濁液の調製に適した分散性の粉末及び顆粒によって、分散剤又は湿潤剤、懸濁化剤、及び1種類以上の防腐剤と混合された有効成分が得られる。好適な分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤は、既に上記に述べたものに例示される。例えば、甘味剤、香味剤、及び着色剤などの更なる賦形剤が存在してもよい。これらの組成物は、アルコルビン酸などの酸化防止剤の添加によって、保存されてもよい。
【0076】
本発明の医薬組成物はまた、水中油型エマルションの形態であってもよい。油相は、例えばオリーブ油又は落花生油などの植物油、又は例えば、流動パラフィンなどの鉱物油、又はこれらの混合物であってもよい。好適な乳化剤は、天然に存在するホスファチド(例えば、大豆レシチン)、及び脂肪酸とヘキシトール無水物とから誘導されたエステル又は部分エステル(例えば、モノオレイン酸ソルビタン)、及び当該部分エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物(例えば、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン)であってもよい。エマルションは、甘味剤、香味剤、防腐剤、及び酸化防止剤を更に含有してもよい。
【0077】
シロップ剤及びエリキシル剤は、例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール、又はスクロースなどの甘味剤と配合されてもよい。このような配合物は、粘滑剤、防腐剤、香味剤及び着色剤、並びに酸化防止剤を更に含有してもよい。医薬組成物は、滅菌注射水溶液の形態であってもよい。用いられてもよい許容される溶剤及び溶媒としては、水、リンゲル液、及び等張塩化ナトリウム溶液がある。
【0078】
滅菌注射製剤は、有効成分が油相中に溶解された滅菌注射水中油型マイクロエマルションであってもよい。例えば、有効成分を、最初に大豆油とレシチンとの混合物中に溶解してもよい。次に、この油性溶液を、水とグリセロールとの混合物中に導入し、処理してマイクロエマルションを形成する。
【0079】
注射溶液又はマイクロエマルションは、局所ボーラス注射によって、患者の血流中へと導入されてもよい。あるいは、溶液又はマイクロエマルションを、本化合物の一定の循環濃度が維持されるような形で投与することが、有利となる場合もある。このような一定濃度を維持するために、連続的な静脈内送達装置を利用してもよい。このような装置の一実施例は、Deltec CADD-PLUS(商標)モデル5400静脈内ポンプである。
【0080】
医薬組成物は、筋肉内投与用及び皮下投与用の滅菌注射水性懸濁液又は滅菌注射油脂性懸濁液の形態であってもよい。本懸濁液は、前述の好適な分散剤又は湿潤剤及び懸濁剤を使用して、周知の技術に従って、配合されてもよい。滅菌注射製剤はまた、無毒性の非経口的に許容される希釈剤又は溶媒中の滅菌注射溶液又は滅菌注射懸濁液、例えば、1,3-ブタンジオール溶液であってもよい。更に、滅菌不揮発性油が、溶媒又は懸濁媒体として、従来的に用いられる。この目的では、合成モノグリセリド又はジグリセリドを含む任意の無菌性不揮発性油が用いられてもよい。なお、オレイン酸などの脂肪酸が、注射製剤の調製に使用することができる。
【0081】
ニラパリブはまた、薬剤の直腸投与用の坐剤の形態で、投与されてもよい。これらの組成物は、薬剤を、通常の温度では固体であるが直腸内の温度で液体であり、したがって、直腸内で溶けて薬剤を放出する好適な非刺激性賦形剤と混合することにより、調製され得る。このような材料としては、カカオ脂、グリセリン化ゼラチン、硬化植物油、分子量の異なるポリエチレングリコールとポリエチレングリコールの脂肪酸エステルとの混合物が挙げられる。
【0082】
局所的使用には、本化合物を含有するクリーム、軟膏、ゼリー、溶液又は懸濁液等が用いられる。(本出願の目的では、局所適用は、マウスウオッシュ及びうがい薬を含む。)
【0083】
ニラパリブは、適当な鼻腔内溶剤及び送達装置の局所的使用により鼻腔内形態で、又は当業者に周知の経皮パッチの形態を用いて経皮的経路により、投与され得る。経皮的送達系の形態で投与するために、用量投与は、当然のことながら、投与措置全体を通じて、間欠的ではなく連続的に行われる。ニラパリブはまた、カカオ脂、グリセリン化ゼラチン、硬化植物油、分子量の異なるポリエチレングリコールとポリエチレングリコールの脂肪酸エステルとの混合物などの基剤を用いた坐剤として送達されてもよい。
【実施例】
【0084】
これらの実施例は、あくまで例示を目的として示されるものであって、本明細書で提供される特許請求の範囲の範囲を限定するためのものではない。
【0085】
実施例1:転移性去勢抵抗性前立腺癌及びDNA修復異常を有する男性における、ニラパリブの二段階の有効性及び安全性試験-Galahad試験
試験センター:被検者は、15の国にわたって登録された:オーストラリア(8地点)、ベルギー(9地点)、ブラジル(8地点)、カナダ(5地点)、デンマーク(1地点)、フランス(9地点)、イスラエル(4地点)、オランダ(4地点)、韓国(3地点)、ロシア(3地点)、スペイン(10地点)、スウェーデン(4地点)、台湾(4地点)、英国(7地点)、米国(14地点)。
【0086】
目的:
【0087】
【0088】
方法論:これは、事前にタキサン系の化学療法及びAR標的療法を受けてきた、mCRPC及びDNA修復異常を有する18歳超の男性被検者における、300mgのニラパリブの1日1回の投与の有効性及び安全性を評価するための、二段階の多施設臨床治験非盲検であった。計画された試料規模は、バイオマーカ陽性である測定可能な疾患を有する約120人の被検者(BRCA[BRCA1又はBRCA2]においてDNA修復異常を有する、約75人の被検者、及び非BRCA[ATM、FANCA、PALB2、CHEK2、BRIP1、又はHDAC2]において二対立遺伝子DNA修復異常を有する、約45人の被検者)であった。
【0089】
更に、DNA異常(すなわち、BRCA又は非BRCA)にかかわらず、測定不可能な疾患(すなわち、骨疾患のみ)を有する少なくとも90人の被検者を、本集団におけるニラパリブの活性を評価するために含めた。有効性目標を、プロトコルに記載されたバイオマーカ選択基準を満たす被検者について評価した。全ての被験者を、試験期間中、及び試験薬の最後の投与の30日後まで、安全性について監視した。治療を、疾患の進行、許容不可能な毒性、死亡、又は治験依頼者による試験の終了まで継続した。
【0090】
試験母集団
(計画された及び分析された)被検者の数:測定可能な疾患を有する120人のバイオマーカ陽性被検者の登録を、本試験のために計画した。なお、測定不可能な疾患(すなわち、骨疾患のみ)を有する少なくとも90人の被検者も、同様に含めた。
【0091】
本分析では、試験に登録し、少なくとも1用量のニラパリブを受けた合計289人の被検者が、安全性集団に含まれた。有効性分析に使用した二対立遺伝子/生殖系列集団は、二対立遺伝子DRD喪失を有する223人の被検者からなる。223人の被検者のうち、142人がBRCA DRDを有し、81人が非BRCA DRDを有する。
【0092】
診断及び包含のための主要基準:標的集団は、少なくとも1回の事前のタキサン系の化学療法及び少なくとも1回の事前のAR標的療法(第二世代又はそれ以降)を受けた、mCRPC及びDNA修復異常(BRCA1又はBRCA2突然変異のみについての二対立遺伝子突然変異及び生殖系列病原性突然変異)を有する、18歳超の男性被検者からなっていた。被検者に、(入手可能な場合、保管又は最近収集された)腫瘍組織試料、及び治験依頼者認証アッセイを使用したDNA修復異常の分析のための血液試料を提供するように、依頼した。
【0093】
被検者は、タキサン系の化学療法及び転移性前立腺癌のための第二世代AR標的療法による治療の際又はその後に、疾患進行の証拠を実証していなければならない、又はAEに起因して、タキサン系の化学療法を中止していなければならない。
【0094】
GnRHaを受けている被検者又は両側睾丸摘出術に起因する被検者におけるテストステロンの去勢レベルの設定において、転移性前立腺ガンの進行は、PSA進行、又はRECIST 1.1による軟組織の放射線学的増悪、又はPCWG3基準による骨疾患によって、実証されなければならなかった。
【0095】
被検者は、外科的に去勢されない場合に、試験の過程の間、ゴナドトロピン放出ホルモン類似体を継続することを要求された。
【0096】
予備審査適格基準
●署名された予備審査ICF。
●治験依頼者認証アッセイを使用したDNA修復異常の分析のために、(保管又は最近収集された)腫瘍組織試料及び血液試料を提供する意思がある。
●転移性前立腺癌のための少なくとも1回のタキサン系の化学療法及び少なくとも1回のAR標的(第二世代又はそれ以降の)療法を受けたか、又は受けていなければならない。
【0097】
組み入れ基準
本試験で組み入れられた被験者は、以下の重要な受諾基準を満たすことが必要とされた:
●組織学的に確認された前立腺癌(除外された小細胞の純粋な表現型を除いて、混合組織像は許容可能であった)。
●治療の際又は治療後に疾患進行の証拠を有する転移性前立腺癌の治療のためにタキサン系の化学療法を受けてきているか、又は有害事象に起因してタキサン系の化学療法を中止したことがある。
●疾患の進行の証拠を有する転移性前立腺ガン、その後の転移の証拠を有する非mCRPCの治療のために、第二世代又はそれ以降のAR標的療法(例えば、アビラテロン酢酸エステル+プレドニゾン、エンザルタミド、アパルタミド)を受けてきている。
●以下の基準の少なくとも1つによるバイオマーカ陽性:
○治験依頼者認証血液アッセイ又は組織アッセイに基づく、二対立遺伝子DNA修復異常。
○いずれかの試験による生殖系列病原性BRCA1又はBRCA2(体細胞局所結果は、投与前に、治験依頼者認証アッセイによって陽性として確認されていなければならない)。
●GnRHa上のテストステロン≦50ng/dLの去勢レベルの設定における転移性前立腺ガンの進行、又はプロトコルに定義されるような試験開始時の両側睾丸摘出術の病歴。
●外科的に去勢されない場合、試験の過程の間、GnRHaを継続することが可能である。
【0098】
除外基準
被験者は、予備試験時に、以下の重要な基準を満たすと判定された場合、試験に組み入れられなかった:
●PARP阻害因子による事前の治療。
●前立腺癌の治療のための事前の白金系の化学療法。
●MDS/AMLの周知の病歴又は現在の診断。
●被検者がこれに対する決定的な治療を受け、臨床的に安定な疾患の証拠を示した場合を除いて、症候性の又は切迫した脊髄圧迫。
●症候性脳転移。
●ニラパリブ又はその賦形剤に対する周知のアレルギー、過敏症、又は不耐性がある。
【0099】
【0100】
【0101】
用量及び投与
試験製品、用量及び投与様式:被検者は、1日1回の経口投与のために、3×100mgのカプセルとして、300mgのニラパリブを受けた。
【0102】
治療期間:治療を、治療段階のサイクル1の1日目に開始し、試験薬が中止されるまで、28日サイクルで継続した。
【0103】
【0104】
試験評価
評価基準:有効性評価は、客観的奏効及び疾患進行を評価するために、胸部、腹部、及び骨盤CT又はMRIスキャン並びに全身骨スキャン(99mTc)を含んだ。血清PSA、CTC、生存状態、SSEもまた、収集した。PROは、BPI-SF、FACT-P、及びEQ-5D-5L質問事項を含んだ。安全性評価は、AE、身体検査、バイタルサイン、ECG、及びECOGパフォーマンスステータスの記録を含んでいた。臨床検査試験は、血液学、血液化学、及び肝機能パラメータを含んでいた。血液試料もまた、薬物動態評価及びバイオマーカ分析のために採取した。バイオマーカ同定に同意した被検者から、保管用又は最近採取した腫瘍組織試料を得た。
【0105】
統計的方法:有効性分析を、少なくとも1用量の試験薬を投与され、BRCA(二対立遺伝子又は生殖系列DNA修復異常)又は非BRCA(二対立遺伝子DNA修復異常)を有する被検者を含むITT集団に対して実行した。主要エンドポイントはORRであり、95%の両側正確CIと共に、BRCA分析被検者集団について要約した。なお、各奏効カテゴリ(CR、PR等)の被検者の数及び割合を、表にまとめた。非BRCA被検者におけるORRを、同じ方法で分析した。
【0106】
CTC奏効の説明的概要を、BRCA及び非BRCA分析被検者集団、測定可能な及び測定不可能なサブグループについて作成し、その両側95%正確CIと共に、表にまとめた。CTCのパーセント変化のウォーターフォールプロットもまた提示し、ベースラインから8週目までのCTC数のパーセント変化、並びに最大CTC数減少を示した。事象までの全時間の副次的エンドポイントを、BRCA及び非BRCA分析被検者集団について、カプラン-マイヤー法を使用して、評価した。事象までの時間中央値及び対応する95%のCIを提供した。BRCA及び非BRCA分析被検者集団について、説明的概要を提供した。なお、PSAについてのウォーターフォールプロットを提示して、ベースラインから12週目(又は治療を中止した者についてはより早期)までのPSAの変化率、並びにPSAの最大低下を実証した。
【0107】
BPI-SF、FACT-P及びEQ-5D-5Lの各構成成分について、記述統計(N、平均値、標準偏差、中央値、観察された最小値、最大値、及びベースラインからの変化)を提供した。分解までの時間を、以下の有意な変化閾値を使用して決定した:FACT-P総計(ベースラインから10点減少)、EQ-5D-5L指標(ベースラインから0.09点減少)、EQ-5D-5L VAS(ベースラインから10点減少)、及びBPI SF最悪疼痛強度項目(ベースラインから30%減少)。
【0108】
最初の投与日以降、試験薬の最後の投与の30日後(両端を含む)までに報告された全てのAEは、治療下で発生したとみなされ、要約された。AE発生率は、別途記載のない限り、全ての被検者を分母として、SOC及び優先期間による頻度及びパーセンテージで要約した。なお、AE発生率もまた、重症度及び試験薬との関係によって要約した。治療関連AEは、治験責任医師によって、少なくともおそらく試験薬に関連していると判断されたものであった。事象の複数の発生を有する被検者は、各好ましいチーム、SOC、及び全体について、試験薬に対する最大重症度で1回のみカウントされた。試験薬の最後の投与後30日以内に起った死亡を、試験中の死亡と定義した。安全性データを分析する際に、推測統計分析は行わなかった。
【0109】
主要エンドポイント
主要エンドポイントは、BRCA DNA修復異常及び測定可能な疾患を有し、その最良の奏効がRECIST 1.1(Eisenhauerら、2009年)によって定義されるCR又はPRのいずれかであり、PCWG3基準(Scherら、2016年)に従って骨進行の証拠がなかった被検者の割合として定義されるORRであった。
【0110】
本試験において推定される目的の主要な臨床量である主要推定量は、以下の4つの構成成分によって定義された。
●集団:BRCA分析被検者集団において計測可能な疾患を有する全ての被検者
●変数:治験責任医師の評価に基づくORR
●併発事象及び指針:
【0111】
【表6】
●集団レベルの概要:ORRは、95%の両側正確CI値と共にBRCA分析被検者集団について要約された。
【0112】
ORR最終分析を、BRCA DNA修復異常及び測定可能な疾患を有する最後の被検者のサイクル1の1日目から約6ヶ月後に、実施した。治験責任医師の評価によって決定される客観的奏効を、主要分析とみなした。
【0113】
更に、非BRCA DNA修復異常及びRECIST 1.1(Eisenhauerら、2009年)によって定義される測定可能な疾患を有する全ての登録被検者を、客観的奏効について分析した。
【0114】
奏効評価なしで試験を中止した被検者は、分析において非奏効者とみなされた。客観的奏効率を計算し、その両側95%正確CIを示した。なお、各奏効カテゴリ(CR、PR等)の被検者の数及び割合を、表にまとめた。
【0115】
副次的エンドポイント
副次的エンドポイントは、非BRCA分析被検者集団におけるORR、CTC奏効率、OS、rPFS、放射線学的増悪までの期間、PSA進行までの期間、SSEまでの期間、及び客観的奏効の持続期間を含んだ。
【0116】
副次的エンドポイント分析法:
BRCA及び非BRCA被検者におけるORRを、同じ方法で分析した。
【0117】
CTC奏効の以下の分析を、BRCA及び非BRCA分析被検者集団、測定可能な及び測定不可能なサブグループについて、実施した。
●説明的概要
●CTC奏効率を、その両側95%正確CI値で、表にまとめた。
【0118】
CTCのパーセント変化のウォーターフォールプロットもまた提示し、ベースラインから8週目までのCTC数のパーセント変化、並びに最大CTC数減少を示した。
【0119】
事象までの全時間の副次的エンドポイントを、BRCA及び非BRCA分析被検者集団について、カプラン-マイヤー法を使用して、評価した。事象までの時間中央値及び対応する95%のCIを提供した。BRCA及び非BRCA分析被検者集団について、説明的概要を提供した。なお、PSAについてのウォーターフォールプロットを提示して、ベースラインから12週目(又は治療を中止した者についてはより早期)までのPSAの変化率、並びにPSAの最大低下を実証した。
【0120】
結果
試験母集団
試験に登録された289人の被検者の全て(100%)は、300mgのニラパリブで治療され、安全性集団に含まれた。追跡期間の中央値は、登録された分析集団において10ヶ月(0.3~47ヶ月の範囲)であった。臨床データカットオフ時(2021年1月26日)に、被検者の94%が、ニラパリブ治療を時期尚早に中止した。治療中止の最も一般的な理由は、進行性疾患(71%)、続いて有害事象(14%)であった。治療中止後、被検者は、生存、疾患評価及びSSEについての試験を継続した。分析の時点で、被検者の6%が依然として試験中であり(長期延長に入った被検者を含む)、被検者の94%が試験参加を早期に終了した。死亡が早期試験中止の主な理由であった(被検者の72%)。
【0121】
被検者の大部分は白人(70%)であり、年齢中央値は69歳(46~88歳の範囲)であった。主要有効性分析集団(測定可能なBRCA ITT)における被検者は、わずかに若く、年齢中央値は66歳(47~86歳の範囲)であった。登録されたBRCA ITT集団、及び非BRCA ITT集団における個体群統計は、ITT集団と同等であった。
【0122】
全ての被検者は、試験開始時に疾患進行の証拠を有していた。被検者の74%が、開始時にPSA及び放射線学的増悪の両方を有した。ほとんどの被検者は、ベースラインで0(30%)又は1(56%)のいずれかのECOGパフォーマンスステータスのスコアを有した。被検者の大部分(69%)は、8以上のグリソンスコアを有した。ほとんど全ての被検者(92%)が骨転移を有し、被検者の24%が、主に肝転移によって引き起こされる内臓疾患を有した。測定可能な疾患及びBRCA DRDを有する被検者では、内臓疾患の発生率は更に高かった(76人の被検者のうち30人[40%])。全てのその他のベースライン疾患特徴は、分析集団にわたって同等であった。
【0123】
結果
●300mgのニラパリブによる治療は、測定可能な疾患を有するBRCA被検者において、34.2%のORR(95%のCI:23.7~46.0)をもたらした。
●測定可能な疾患を有する2人のBRCA被検者において、完全奏効が観察され、1人の被験者では、奏効は9.7ヶ月間維持され、他方の被験者では、奏効は合計9.5ヶ月間続いた。
●CTC奏効率は、非BRCA被検者における9%の率と比較して、BRCA被検者において24%であり、合わせた群において18%であった。
●OS中央値は、全ITT集団において12ヶ月であり、153の事象が起った(ITT被検者の69%)。より好ましい生存率が、非BRCA被検者(10ヶ月)と比較して、BRCA被検者(13ヶ月)において観察された。
●rPFS中央値は、ITT集団全体で5.6ヶ月であり、144の事象が被検者の65%において起った。142人のBRCA被検者において、中央値rPFSは8.1ヶ月でより長く、87の事象がBRCA被検者の61%において起った。
●放射線学的増悪までの時間は、ITT集団において5.8ヶ月であり、134の事象が被検者の60%において起った。放射線学的増悪までの時間は、BRCA被検者においてわずかに長く、BRCA被検者の57%においては81の事象であった。
●PSA進行までの時間中央値は、ITT集団において4.6ヶ月で到達し(124の事象、被検者の56%)、BRCA被検者において同様であった(85の事象、被検者の60%)。
●被検者の29%における65の事象が、ITT集団において記録された。症候性骨関連事象の発生率は、BRCA被検者において同等であり、被検者の32%において46の事象であった。症候性骨関連事象までの時間中央値は、全ITT集団及びBRCA ITT集団において約13ヶ月であった。
●ニラパリブ治療に奏効した測定可能な疾患を有する31人の被検者において、客観的奏効の持続期間中央値は、5.55ヶ月(範囲:3.91~7.20)であった。奏効持続期間は、遺伝子突然変異にかかわらず、同様であった。
●PRO評価の遵守が高かった。FACT-P、及びEQ-5D-5LのVAS及び指標スコアは、経時的に安定であり、群間で類似しているようであった。
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
安全性の結果
●1人を除く全ての被検者が、少なくとも1回のAE(99.7%)を経験し、被検者の90%が、関連AEを報告した。
●SAEは、被検者の46.4%によって報告された。
●被検者の22.8%では、AEによる治療中止をもたらした。
●1人の被検者が、COVID-19に関連するAEを報告したが、これは重篤ではないと考えられた。COVID-19に起因する1人の死亡が起ったが、これは、治療下で発現したAEの報告期間外であった。
●グレード3又はグレード4のAEが、被検者の75.1%に起った。最も一般的なものは、貧血(32.9%)、血小板減少(16.3%)、及び好中球減少(9.7%)、疲労(6.6%)、及び悪心(5.2%)であった。最も一般的なグレード4のAEは、23人(8.0%)の被検者における血小板減少症であった。
●データカットオフ日の時点で、被検者の26人(9%)が、試験薬の最後の投薬の30日以内に死亡した。これらの死亡の大部分は、進行性疾患によるものであった(17人[6%]の被検者)。
●治療下で発現したAEによる死亡は、16人(5.5%)の被検者で起った。
●臨床的重要性のある有害事象(全てのグレード)は、以下の通りである:貧血(54.0%)、血小板減少(34.3%)、好中球減少(19.4%)、発熱性好中球減少症(1.0%)及び好中球減少性敗血症(0.3%)。
●試験中に報告された最も頻度が高い(≧2.5%)グレード3又はグレード4の臨床化学値は、GGTの増加(5.0%)、アルカリホスファターゼの増加及び高カリウム血症(それぞれ2.5%)、並びに低ナトリウム血症(3.2%)であった。
●報告された最も頻度が高い(≧10%の被検者)グレード3又はグレード4の血液学値は、リンパ球数の減少(被検者の18.4%)及び貧血(被検者の17.0%)であった。
【0135】
結論
2021年1月26日の臨床カットオフ日時点で、主要有効性集団(測定可能なBRCA)についての追跡期間中央値は、10.0ヶ月であった。彼らの年齢中央値は66歳であり、試験開始時に57.9%が1のECOGパフォーマンスステータスを有し、9.2%が2のECOGパフォーマンスステータスを有していた。ほとんどの被検者は、ベースラインで有意な疾患負荷を有し、80%が骨疾患を有し、重要なことに40%が内臓疾患を有していた。51人の被検者(67.1%)が1回のAR標的療法を受け、そのうちの37人が1回のタキサン系の化学療法を受け、14人が2回のタキサン系の化学療法を受けた。25人の被検者(32.9%)が2回のAR標的療法を受け、そのうちの14人が1回のタキサン系の化学療法を受け、11人の被検者が2回のタキサン系の化学療法を受けた。ほとんどの被検者は、mCRPC設定において、少なくとも1回のタキサン系の化学療法を受けた。
【0136】
ニラパリブ単剤療法の開始用量は、経口で1日300mgであった。治療持続期間の中央値は、BRCA群(N=142)で6.47ヶ月、非BRCA群(N=81)で3.55ヶ月と推定された。
【0137】
GALAHADは、転移性前立腺癌におけるニラパリブを評価するための最初の試験であり、2種のコホート(BRCA及び非BRCA)においてDRDを有する患者を強化するために、複数のアッセイを利用した。少なくとも第2ライン治療後のmCRPC患者におけるPARP阻害因子のその他の試験と比較してより進行した病期を有する、より重度に前治療された被検者集団における、ニラパリブによる治療は、BRCA被検者において34.2%のORRをもたらした。本知見は、ベースラインにおいて残りの治療選択肢がほとんどなく、内臓転移の有病率が高い(患者のほぼ40%)患者集団において、注目に値するものである。放射線学的無増悪生存期間及び全生存期間もまた、BRCAコホートにおいてより長くなる傾向があり、rPFS中央値は、非BRCAコホートにおけるものの約2倍であった。
【0138】
この重度に前治療された前立腺癌集団におけるニラパリブ安全性プロファイルは、管理可能であった。例えば、患者は、貧血を治療し、血球数を維持するために、輸血又はエリスロポエチンを受けた。観察された有害事象は、ニラパリブの周知の安全性プロファイルと一致している。客観的奏効を達成した主要有効性集団における被検者は、非奏効者と比較して、より高い相対用量強度及びより少ない中断を有した。
【0139】
総合すると、これらの結果は、DRDを有するmCRPC患者及び事前の治療で疾患が進行しているmCRPC患者におけるPARP阻害因子の有効性についての証拠を拡大し、同様に、更に、精密医療がこの状況において、特にBRCA1/2突然変異を有する患者において有意な利益を提供し得るという観察を支持する。
【国際調査報告】