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特表2024-526250電池の負極で使用するための粉末及びそのような粉末を含む電池
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  • 特表-電池の負極で使用するための粉末及びそのような粉末を含む電池 図1
  • 特表-電池の負極で使用するための粉末及びそのような粉末を含む電池 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-17
(54)【発明の名称】電池の負極で使用するための粉末及びそのような粉末を含む電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20240709BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240709BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20240709BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01M4/48
H01M4/36 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580571
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(85)【翻訳文提出日】2023-12-27
(86)【国際出願番号】 EP2022068029
(87)【国際公開番号】W WO2023275223
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】21183474.2
(32)【優先日】2021-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クン・フェン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-セバスチャン・ブライデル
(72)【発明者】
【氏名】ボアズ・ムーレマンス
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA07
5H050CB02
5H050CB11
5H050GA02
5H050GA05
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA14
(57)【要約】
電池の負極で使用するための粉末であって、粉末が粒子を含み、粒子が、マトリックス材料と、マトリックス材料中に分散されたケイ素系粒子とを含み、粉末が、少なくとも0.005cm/gに等しく、最大でも0.05cm/gに等しい開放気孔率の総比容積と、少なくとも0.01cm/gに等しく、最大でも0.1cm/gに等しい閉鎖気孔率の総比容積と、少なくとも0.01に等しく、最大でも0.99に等しい閉鎖気孔率の総比容積に対する開放気孔率の総比容積の比とを有する、粉末。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の負極で使用するための粉末であって、前記粉末が、粒子を含み、前記粒子が、マトリックス材料と前記マトリックス材料中に分散されたケイ素系粒子とを含み、前記粉末が、cm/gで表され、窒素吸着/脱着測定によって測定される開放気孔率の総比容積を有し、前記粉末が、cm/gで表され、ヘリウムピクノメトリーを使用する真密度測定から測定される閉鎖気孔率の総比容積を有し、
前記粉末が、
-その開放気孔率の総比容積が、少なくとも0.005cm/gに等しく、最大でも0.05cm/gに等しく、
-その閉鎖気孔率の総比容積が、少なくとも0.01cm/gに等しく、最大でも0.1cm/gに等しく、
-その閉鎖気孔率の総比容積に対するその開放気孔率の総比容積の比が、少なくとも0.01に等しく、最大でも0.99に等しい
ことを特徴とする、粉末。
【請求項2】
その開放気孔率の総比容積が、少なくとも0.01cm/gに等しく、最大でも0.04cm/gに等しく、
その閉鎖気孔率の総比容積が、少なくとも0.015cm/gに等しく、最大でも0.06cm/gに等しく、
その閉鎖気孔率の総比容積に対するその開放気孔率の総比容積の比が、少なくとも0.2に等しく、最大でも0.9に等しい、請求項1に記載の粉末。
【請求項3】
その開放気孔率の総比容積が、少なくとも0.015cm/gに等しく、最大でも0.03cm/gに等しく、
その閉鎖気孔率の総比容積が、少なくとも0.02cm/gに等しく、最大でも0.04cm/gに等しく、
その閉鎖気孔率の総比容積に対するその開放気孔率の総比容積の比が、少なくとも0.38に等しく、最大でも0.79に等しい、請求項1に記載の粉末。
【請求項4】
前記ケイ素系粒子が、d50を有する個数基準粒径分布を特徴とし、前記d50が、40nm以上かつ150nm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項5】
前記ケイ素系粒子が、少なくとも70重量%のSiを有する化学組成を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項6】
重量パーセント(重量%)で表されるケイ素含有量Aを有し、10重量%≦A≦60重量%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項7】
Si含有量A及び酸素含有量Bを有し、両方とも重量パーセント(重量%)で表され、B≦0.3×Aである、請求項6に記載の粉末。
【請求項8】
前記粉末の前記粒子が、D10、D50及びD90を有する体積基準粒径分布を有し、1μm≦D10≦10μm、8μm≦D50≦25μm、かつ10μm≦D90≦40μmである、請求項1~7のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項9】
最大でも10m/gのBET表面積を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項10】
前記マトリックス材料が炭素であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項11】
重量パーセント(重量%)で表される炭素含有量Cを有し、22重量%≦C≦88.5重量%である、請求項10に記載の粉末。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の粉末を含む、電池。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の粉末を調製するための方法であって、
-工程A:ケイ素系粒子を提供する工程と、
-工程B:熱硬化性ポリマーを適切な溶媒に溶解させて溶液を得て、前記ケイ素系粒子を前記溶液に分散させて分散液を得る工程と、
-工程C:前記分散液から前記溶媒を除去して、熱硬化性ポリマーで被覆されたケイ素系粒子の粉末を得て、前記粉末を硬化させて硬化粉末を得る工程と、
-工程D:前記硬化粉末を粉砕して、サブミクロン硬化粉末を得る工程と、
-工程E:前記サブミクロン硬化粉末を炭素前駆体と混合して混合物を得て、前記混合物を熱処理し、前記炭素前駆体の熱分解を行う工程と、
-工程F:工程Eで得られた前記粉末を粉砕し、続いてそれをふるいにかけて最終粉末を得る工程と、を含む、方法。
【請求項14】
前記熱硬化性ポリマーが、メラミン系ポリマー、フェノール系ポリマー、ウレタン系ポリマー、エステル系ポリマー、エポキシ系ポリマー及びそれらの誘導体のうちの1つ又は組合せである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
最大でも200℃の温度で工程Cにおける前記硬化が行われる、請求項13又は14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の負極で使用するための粉末及びそのような粉末を含む電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン(Liイオン)電池は、現在、最も高性能の電池であり、既に携帯型電子デバイスの標準となっている。加えて、これらの電池は、自動車及び蓄電などの他の産業において既に浸透しかつ急激に普及している。かかる電池の実現可能な利点は、良好な電力性能と組み合わされた高エネルギー密度である。
【0003】
Liイオン電池は、典型的には、いくつかのいわゆるLiイオンセルを含み、そのセルは、カソードとも称される正極と、アノードとも称される負極と、セパレータとを含み、それらは電解質に浸漬されている。携帯用途に最も頻繁に使用されるLiイオンセルは、カソードにリチウムコバルト酸化物又はリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物などの電気化学的活物質を使用し、アノードに天然又は人工のグラファイトを使用して、開発されている。
【0004】
電池の性能、特に電池のエネルギー密度に影響を及ぼす重要な制限因子のうちの1つが、アノードにおける活物質であることが知られている。そのため、エネルギー密度を改善するために、負極にケイ素を含む電気化学的に活性な材料を使用することが長年にわたって研究されてきた。
【0005】
本書の全体を通して、ケイ素は、そのゼロ価の状態の元素Siを意味することを意図する。用語Siは、その酸化状態、ゼロ価又は酸化されているかに無関係に、元素Siを示すために使用される。
【0006】
アノードにケイ素系の電気化学的活物質を使用することの欠点は、充電中のその大きな体積膨張であり、例えば、合金化又は挿入によって、リチウムイオンが、アノードの活物質中に完全に組み込まれる(リチオ化と呼ばれることが多いプロセス)とき、体積膨張は300%にもなる。Li組み込み中のケイ素系材料の大きな体積膨張によって、ケイ素系粒子中に応力を誘発することがあり、それによりケイ素系材料の機械的な劣化が生じる場合がある。Liイオン電池の充電及び放電中に周期的に繰り返されることで、ケイ素系電気化学的活物質の繰り返される機械的な劣化により、電池の寿命は、許容できないレベルにまで低下し得る。
【0007】
更に、ケイ素と関連のある悪影響は、厚いSEI、すなわち固体電解質界面が、アノード上に形成され得ることである。SEIは、電解質とリチウムの複合反応生成物であり、したがって、電気化学反応のためのリチウムの利用可能性が失われるため、サイクル性能が悪化し、充電-放電サイクルあたりの容量が失われる。更に、厚いSEIは、電池の電気抵抗を大きくしてしまうことがあり、それによって、達成可能な充電及び放電の速度が制限されることがある。
【0008】
原理的に、SEI形成は、「不動態化層」がケイ素系材料の表面上に形成されるとすぐに停止する自己終結プロセスである。しかし、ケイ素系粒子の体積膨張のため、放電(リチオ化)及び充電(脱リチオ化)の際にケイ素系粒子とSEIの両方が損傷を受ける場合があり、それによって、新しいケイ素表面があらわになり、新しいSEI生成が始まる。
【0009】
上記の欠点を解決するために、通常、電解質の分解からケイ素系粒子を保護し、体積変化に対応するため、ケイ素系粒子が少なくとも1つの成分と混合された、活物質粉末が使用される。このような成分は、炭素系材料であり得、好ましくはマトリックスを形成する。
【0010】
このような活物質粉末を使用しているにもかかわらず、Si系アノード材料を含む電池の性能にはまだ改善の余地がある。
【0011】
当技術分野では、ケイ素系アノード材料を含む電池の性能は、概ね、いわゆるフルセルのサイクル寿命で定量化され、これは、そのような材料を含むセルが初期放電容量の80%に達するまで充放電できる回数又はサイクル数として定義される。そのため、ケイ素系アノード材料に関するほとんどの研究が、サイクル寿命の改善に焦点を当てている。
【0012】
本発明の目的は、安定なアノード材料を提供することであり、このアノード材料は、電池の負極に使用されると、高い第1サイクルクーロン効率を維持しながら、サイクリング中の電池の膨張を低減することができるという点で有利である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、請求項1に記載の粉末を提供することによって達成され、粉末を電池の負極に使用することにより、比容量を損なうことなく、高い第1サイクルクーロン効率を維持しながら、サイクリング中の電池の膨張を低減することを可能にする。「高い第1サイクルクーロン効率」とは、ここでは、フルセルにおいて少なくとも82%に等しい第1サイクルでのクーロン効率を意味する。
【0014】
本発明は、以下の実施形態に関する。
【0015】
実施形態1
第1の態様では、本発明は、電池の負極で使用するための粉末であって、粉末が、粒子を含み、粒子が、マトリックス材料とマトリックス材料中に分散されたケイ素系粒子とを含み、粉末が、cm/gで表され、粉末の窒素吸着/脱着測定によって測定される開放気孔率の総比容積を有し、粉末が、cm/gで表され、ヘリウムピクノメトリーを使用する粉末の真密度測定から測定される閉鎖気孔率の総比容積を有し、粉末が、
-その開放気孔率の総比容積が、少なくとも0.005cm/gに等しく、最大でも0.05cm/gに等しく、
-その閉鎖気孔率の総比容積が、少なくとも0.01cm/gに等しく、最大でも0.1cm/gに等しく、
-その閉鎖気孔率の総比容積に対するその開放気孔率の総比容積の比が、少なくとも0.01に等しく、最大でも0.99に等しい、
粉末に関する。
【0016】
「マトリックス材料と、マトリックス材料中に分散されたケイ素系粒子とを含む粒子」とは、粒子がケイ素系粒子を含むので、粉末中に含まれる粒子が、平均して、ケイ素系粒子よりもサイズが大きいことを意味する。粉末中に含まれる粒子は、典型的にはマイクロメートルサイズであり、ケイ素系粒子は、典型的にはナノメートルサイズである。
【0017】
ケイ素系粒子は、その大部分が、好ましくはその全体がマトリックス材料によって覆われている。したがって、実施形態1による粉末において、ケイ素系粒子は、好ましくは互いに接触している、及び/又はマトリックス材料と接触しているのみである。マトリックス材料は、好ましくは連続相マトリックスである。
【0018】
ケイ素系粒子は、任意の形状、例えば実質的に球状であるがまた、不規則な形状、棒状、板状などを有してもよい。ケイ素系粒子では、Siはその大部分がケイ素金属として存在し、それに対して、特性を改善するために少量の他の元素が添加されている場合があり、又は酸素や微量の金属などのいくらかの不純物を含有している場合がある。酸素以外の全ての元素を考慮すると、かかるケイ素系粒子における平均Si含有量は、ケイ素系粒子の総重量に対して、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。
【0019】
電池の負極で使用するための粉末とは、電池の負極のリチオ化及び脱リチオ化の際にそれぞれリチウムイオンを貯蔵及び放出することができる、電気化学的に活性な粒子を含む電気化学的に活性な粉末を意味している。このような粉末は、同等に「活性な粉末」と呼ばれることがある。
【0020】
cm/gで表される粉末の開放気孔率の総比容積は、ここでは、粉末の質量に対する、粒子中に存在する全ての細孔の比容積の合計として理解されるべきであり、これらの細孔は、粒子の外部表面に接続されており、したがって、例えば、ガス(例えば、N、CO又はヘリウム)又は液体にアクセス可能である。それらは、例えば、合成中に放出されるガスによって形成された表面の窪み、亀裂、空洞などであり得、これは、構造中の亀裂又は不均一な表面となる。
【0021】
粉末の開放気孔率の総比容積は、窒素吸着/脱着測定によって測定される。同様に、水銀ポロシメトリーによっても測定することができる。
【0022】
cm/gで表される粉末の閉鎖多孔性の総比容積は、ここでは、粉末の質量に対する、粒子中に存在する全ての細孔の比容積の合計として理解されるべきであり、これらの細孔は、粒子の外部表面に接続されておらず、したがって、例えば、ガス又は液体にアクセス可能ではない。それらは、例えば、構造内の内部応力、歪み発生及び亀裂、又は合成中に放出されたガス、細孔内に捕捉されたままであるガスによって形成され得る。
【0023】
粉末の閉鎖気孔率の容積は、ヘリウムピクノメトリーを用いた粉末の真密度測定に基づいて測定される。以下の式(1)を用いる。
【数1】
式中、nは粉末中に存在する異なる化学種を表す。粉末がケイ素、SiO、マトリックス材料及びグラファイトからなる場合、閉鎖気孔率の体積の測定を非限定的に例示する目的で、粉末の閉鎖気孔率は以下のように計算される:
【数2】
ここで、Vは「比容積」を表し(cm/g単位)、dは「密度」を表し(g/cm単位)、分率は重量分率である。
【0024】
式(1)は、いかなる化学組成であっても、任意の粉末の閉鎖気孔率を計算することを可能にする。ケイ素、SiO、マトリックス材料及びグラファイトである異なる化学種の密度は、例えばヘリウムピクノメトリーを用いて別々に測定されてもよく、又は文献で見出されてもよい。
【0025】
非限定的な方法で、閉鎖気孔率の総比容積の測定を例示することを目的として、例を以下に提供する。この例示的実施例では、粉末は、44重量%のSi、49重量%の炭素、及び7重量%の酸素を含む。49重量%の炭素は、この例ではマトリックス材料である44重量%の軟質炭素、及び5重量%のグラファイトに相当する。全ての酸素がケイ素に結合し、二酸化ケイ素SiOを形成する。粉末中のケイ素の分率は0.3786であり、SiOの分率は0.1314であり、マトリックス材料(ソフトカーボン)の分率は0.44であり、グラファイトの分率は0.05である。ヘリウムピクノメトリーで測定した粉末の真密度は2.05g/cmであり、ケイ素、SiO、ソフトカーボン及びグラファイトの理論密度は、それぞれ2.33g/cm、2.65g/cm、1.97g/cm及び2.26g/cmである。式(1)を適用すると、0.030cm/gの閉鎖気孔率の総比容積が得られる。
【0026】
更に、窒素吸着/脱着によって測定される粉末の開放気孔率の総比容積は0.025cm/gに等しく、その閉鎖気孔率の総比容積に対するその開放気孔率の総比容積の比は0.826に等しい。
【0027】
粉末が、少なくとも0.005cm/gに等しい、好ましくは少なくとも0.01cm/gに等しい、より好ましくは少なくとも0.015cm/gに等しい開放気孔率の総比容積を有することが重要であり、なぜなら、開放気孔率の比容積が低すぎると、電池内の電解質による粒子の濡れが制限され、したがってリチウムイオンの拡散が制限され、これにより、特に高い充電/放電電流が低下する可能性があるからである。
【0028】
また、開放気孔率の総比容積は、最大でも0.05cm/gに等しく、好ましくは最大でも0.04cm/gに等しく、より好ましくは最大でも0.03cm/gに等しいことが重要であり、なぜなら、開放気孔率の比容積が高すぎると、電池内の電解質に曝露される粒子の表面が高すぎることになり、したがって、より厚い固体電解質界面層が形成され、初期サイクルにおけるクーロン効率が低下するからである。
【0029】
粉末が、少なくとも0.01cm/gに等しい、好ましくは少なくとも0.015cm/gに等しい、より好ましくは少なくとも0.020cm/gに等しい閉鎖気孔率の総比容積を有することが重要であり、なぜなら、閉鎖気孔率の総比容積が小さすぎると、サイクリング中の電極の膨潤に対する効果が制限されすぎるからである。粒子内部に存在する閉鎖気孔率は、十分な特定の体積で存在する場合、ケイ素系粒子のリチオ化による膨潤を部分的に吸収し、それによって電極膨潤を制限する。
【0030】
閉鎖気孔率の総比容積が最大でも0.1cm/gに等しく、好ましくは最大でも0.06cm/gに等しく、より好ましくは最大でも0.04cm/gに等しいことも重要であり、なぜなら、閉鎖気孔率の比容積が高すぎると、粒子構造が脆くなりすぎて、リチオ化/脱リチオ化時に大きな亀裂が形成され、最終的に粒子が破壊されて、ケイ素系粒子が電解質に曝露され、追加のSEIが形成され、したがって容量維持率が低下するからである。
【0031】
加えて、閉鎖気孔率の存在の利益が開放気孔率の存在の利益よりも高いので、粉末の閉鎖気孔率の総比容積が開放気孔率の総比容積よりも大きいことが重要である。したがって、粉末の開放気孔率の総比容積の、その閉鎖気孔率の総比容積に対する比は、1未満、好ましくは0.01以上かつ0.99以下、より好ましくは0.2以上かつ0.9以下、更により好ましくは0.38以上かつ0.79以下であるべきである。
【0032】
最後に、本発明による粉末が、開放気孔率の総比容積の必要な範囲を、閉鎖気孔率の総比容積の必要な範囲及び閉鎖気孔率の総比容積に対する開放気孔率の総比容積の必要な範囲と組み合わせることが特に好ましい。これらの3つの条件が満たされる場合にのみ、高い第1サイクルクーロン効率を維持しながら、サイクル中の電池の膨張が低減されるという技術的効果を得ることができる。
【0033】
実施形態2
実施形態1による第2の実施形態では、粉末は、
-その開放気孔率の総比容積が、少なくとも0.01cm/gに等しく、最大でも0.04cm/gに等しく、
-その閉鎖気孔率の総比容積が、少なくとも0.015cm/gに等しく、最大でも0.06cm/gに等しく、
-その閉鎖気孔率の総比容積に対するその開放気孔率の総比容積の比が、少なくとも0.2に等しく、最大でも0.9に等しい。
【0034】
実施形態3
実施形態1又は2による第3の実施形態では、粉末は、
-その開放気孔率の総比容積が、少なくとも0.015cm/gに等しく、最大でも0.03cm/gに等しく、
-その閉鎖気孔率の総比容積が、少なくとも0.02cm/gに等しく、最大でも0.04cm/gに等しく、
-その閉鎖気孔率の総比容積に対するその開放気孔率の総比容積の比が、少なくとも0.38に等しく、最大でも0.79に等しい。
【0035】
実施形態4
実施形態1~3のいずれか1つによる第4の実施形態では、ケイ素系粒子は、d50を有する個数基準粒径分布を特徴とする粒子中に含まれ、d50は40nm以上及び150nm以下である。
【0036】
個数基準粒径分布は、粉末又は複合粉末に含まれるケイ素系粒子の最小数に関する視覚的分析(画像解析プログラムの支援を伴う又は伴わない)に基づく。ケイ素系粒子のこの最小数は、少なくとも1000個の粒子である。粒子の個数基準分率の測定の例は、「分析方法」セクションで示す。
【0037】
明確にするために、例えば100nmのd50は、ここでは、少なくとも1000個のケイ素系粒子の数の50%が100nmより小さいサイズを有し、少なくとも1000個のケイ素系粒子の数の50%が100nmより大きいサイズを有することを意味する。
【0038】
40nm未満のd50を有する個数基準粒径分布を有するケイ素系粒子は、マトリックス材料中で効率的に分散することが非常に困難であり、これは粉末の電子伝導率を低下させ得る。
【0039】
150nmを超えるd50を有する個数基準粒径分布を有するケイ素系粒子は、それらのリチオ化中に破損しやすく、かかる粉末を含有する電池のサイクル寿命の劇的な低下を引き起こす。
【0040】
d50は、粉末又は複合粉末を作製するためのプロセスによって影響を受けないと考えられ、これは、プロセスにおいて前駆体として使用されるケイ素系粉末のd50値が、粉末に含まれるケイ素系粒子のd50値と同じであることを意味する。
【0041】
実施形態5
実施形態1から4のいずれか1つによる第5の実施形態では、粒子に含まれるケイ素系粒子は、少なくとも70重量%のSi、好ましくは少なくとも80重量%のSiを有する化学組成を有する。好ましくは、ケイ素系粒子は、ケイ素系粒子の低すぎる比容量を回避するために、Si及びO以外の元素を含まない。
【0042】
実施形態6
実施形態1~5のいずれか1つによる第6の実施形態では、粉末は、重量パーセント(重量%)で表されるSi含有量Aを有し、10重量%≦A≦60重量%である。
【0043】
Si含有量が低すぎると、比容量があまりにも制限され、したがって電池の高エネルギー密度に達することができない。Si含有量が高すぎると、マトリックス材料内にケイ素系粒子を効果的に分散させることが困難になり、リチオ化/脱リチオ化時に電極の膨潤が大きくなりすぎる。
【0044】
実施形態7
実施形態1~6のいずれか1つによる第7の実施形態では、粉末は、Si含有量A及び酸素含有量Bを有し、両方とも重量パーセント(wt%)で表され、B≦0.3×A、好ましくはB≦0.2×A、より好ましくはB≦0.15×A、特により好ましくはB≦0.1×Aである。
【0045】
高すぎる酸素含有量を有する粉末は、粉末の最初のリチオ化中に酸化リチウム(LiO)が形成されることによって、追加の不可逆的なリチウムの消費を受け、それによってこのような粉末を含有する電池の初期クーロン効率を低下させる。
【0046】
実施形態8
実施形態1~7のいずれか1つによる第8の実施形態では、粒子は、D10、D50及びD90を有する体積基準粒径分布を有し、1μm≦D10≦10μm、8μm≦D50≦25μm、かつ10μm≦D90≦40μmである。
【0047】
実施形態9
実施形態1~8のいずれか1つによる第9の実施形態では、粉末は、最大でも10m/g、好ましくは最大でも5m/gのBET表面積を有する。
【0048】
リチウムを消費する固体電解質界面(Solid Electrolyte Interphase、SEI)の形成を制限して、粉末を含有する電池の容量の不可逆的な損失を制限するために、低いBET比表面積を粉末が有して、電解質と接触する電気化学的に活性な粒子の表面を減少させることは、重要である。
【0049】
実施形態10
実施形態1~9のいずれか1つによる第10の実施形態では、マトリックス材料は炭素である。
【0050】
炭素は、好ましくは、以下の材料、すなわち、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、スクロース、コールタールピッチ、石油ピッチ、リグニン、及び樹脂のうちの少なくとも1つの熱分解から得られる。
【0051】
実施形態11
実施形態10による第11の実施形態では、粉末は、重量パーセント(重量%)で表される炭素含有量Cを有し、22重量%≦C≦88.5重量%である。
【0052】
粉末中の炭素含有量が22重量%未満である場合、炭素質マトリックス材料は、ケイ素系粒子を完全に被覆するのに十分な量では存在せず、したがって、ケイ素系粒子の表面における電解質分解の増加、したがってSEI形成の増加をもたらす。粉末中の炭素含有量が88.5重量%より高い場合、粉末の比容量は低すぎる。
【0053】
実施形態12
実施形態1~11のいずれか1つによる第12の実施形態では、本発明は更に、上記で定義された粉末の変形のいずれかを含み、好ましくは、負極を有し、粉末が負極に存在する、電池に関する。
【0054】
実施形態13
実施形態1~11のいずれか1つによる第13実施形態では、本発明は、最後に、上で定義された粉末の変形型のいずれかを調製するための方法に関する。方法は、以下の工程を含む。
【0055】
工程Aにおいて、ケイ素系粒子が提供される。工程Bでは、熱硬化性ポリマーを適当な溶媒に溶解させて溶液を得て、この溶液にケイ素系粒子を分散させて分散液を得る。熱硬化性ポリマーは、犠牲材料の役割を果たし、犠牲材料は、後続の熱処理工程中に完全に又はほぼ完全に分解され、それによって気孔率を作り出す。好ましくは、工程Bにおける溶媒はイソブタノールであり、なぜなら、それは、ケイ素系粒子の非常に安定な分散液を得ることを可能にするからである。工程Cでは、分散液から溶媒を除去して熱硬化性ポリマーで被覆されたケイ素系粒子の粉末を得た後、粉末を硬化させて硬化粉末を得る。工程Dでは、硬化した粉末を粉砕して、サブミクロンの硬化粉末を得る。工程Eでは、サブミクロンの硬化粉末を炭素前駆体と混合して混合物を得た後、混合物を熱処理し、それによって炭素前駆体の熱分解を行う。炭素前駆体は、好ましくは、以下の材料、すなわち、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、スクロース、コールタールピッチ、石油ピッチ、リグニン、及び樹脂のうちの少なくとも1つである。工程Fでは、工程Eで得られた粉末を粉砕し、続いてふるいにかけて最終粉末を得る。
【0056】
実施形態14
実施形態13による第14の実施形態では、熱硬化性ポリマーは、メラミン系ポリマー、フェノール系ポリマー、ウレタン系ポリマー、エステル系ポリマー、エポキシ系ポリマー及びそれらの誘導体のうちの1つ又は組合せである。好ましくは、熱硬化性ポリマーはフェノールホルムアルデヒド樹脂である。
【0057】
実施形態15
実施形態13又は14による第15の実施形態では、工程Cにおける硬化は、ケイ素系粒子の酸化を防止するために、最大でも200℃の温度、好ましくは最大でも150℃の温度で行われる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】粉末中に含まれる粒子の概略図である。粒子(1)、ケイ素系粒子(2)、マトリックス材料(3)、開放気孔率(4)、閉鎖気孔率(5)。
図2】電池の膨潤を測定するために使用されるセットアップの概略図である。1.パウチセルから電池試験機への接続部 2.測定デバイス 3.スタンド 4.変位センサ 5.パウチセル 6.金属製プレート
【発明を実施するための形態】
【0059】
本発明の実行を可能にするために、図面及び以下の発明を実施するための形態において、好ましい実施形態を詳細に記載する。本発明は、これらの特定の好ましい実施形態を参照して記載されているが、本発明は、これらの好ましい実施形態に限定されないことが理解されよう。しかし、反対に、本発明は、以下の発明を実施するための形態及び添付の図面を考慮することで明らかになるように、多数の代替物、修正及び等価物を含む。
【0060】
使用した分析方法
開放気孔率の総比容積の測定
実施例及び比較例における粉末の真密度は、窒素吸着/脱着分析(Micromeritics Tristar 3020)を使用して、以下の方法によって測定される。粉末を試料管に導入し、調製(加熱、真空又はNガスフラッシング)を行って、粉末表面及び試料管から全ての外来分子を除去する。
【0061】
次いで、それを液体N温度まで冷却し、ここでN吸着が粉末粒子上で起こる。この吸着は、0.10~0.99の相対圧力(P/P)で測定される。次いで、N脱着が粉末粒子上で起こるように、相対圧力が低下する。これは、0.99~0.10の相対圧力(P/P)で測定される。
【0062】
このようにして、BJH細孔径分布曲線が得られる。最後に、開放気孔率の総比容積を計算する。
【0063】
あるいは、開放気孔率の総比容積は、水銀ポロシメータ(Micromeritics Autopore IV,Micromeritics,Georgia,USA)を用いて測定することができる。加えられた圧力に対する水銀の侵入容積の測定値を得て、ウォッシュバーンの方程式を用いて圧力を細孔径に変換する。
【0064】
真密度の測定
実施例及び比較例における粉末の真密度は、ヘリウムピクノメトリー分析(Micromeritics AccPyc 1340)を使用して、以下の方法によって測定される。不活性ガス、この場合はヘリウムが置換媒体として使用される。試料を既知容積の密封カップに入れる。次いで、このカップを試料チャンバ内に配置する。ヘリウムが試料チャンバ内に導入され、次いで、既知の容積を有する第2の空のチャンバ内に膨張される。試料セルを満たした後に観察された圧力と、膨張チャンバ内に放出された圧力とを測定し、次いで、対応する体積を計算する。真密度は、試料重量を計算された体積で割ることによって測定される。ヘリウムは閉鎖気孔率にアクセスすることができないので、粉末の総比容積に含まれる。したがって、マトリックス材料中に埋め込まれたケイ素系粒子を含む粉末の比体積を測定する式は、以下の通りである。
【数3】
式中、nは粉末中に存在する異なる化学種を表す。粉末がケイ素、SiO、マトリックス材料及びグラファイトからなる場合、閉鎖気孔率の体積の測定を非限定的に例示する目的で、粉末の閉鎖気孔率は以下のように計算される:
【数4】
【0065】
Si含有量の測定
実施例及び比較例の粉末のSi含有量は、エネルギー分散型分光器を用いた蛍光X線(X-Ray Fluorescence、XRF)によって測定される。この方法のSiの確率的実験誤差は、±0.3重量%である。
【0066】
酸素含有量の測定
実施例及び比較例中の粉末の酸素含有量を、Leco TC600酸素-窒素分析装置を用い、以下の方法によって測定される。粉末の試料を閉じたスズ製カプセルに入れ、これそのものをニッケル製バスケットに入れる。そのバスケットをグラファイト製るつぼに入れ、キャリアガスとしてのヘリウム下で、2000℃超まで加熱する。これにより試料は溶融し、酸素がるつぼからのグラファイトと反応して、COガス又はCOガスになる。これらのガスを赤外測定セルに導く。観察されたシグナルを再計算し酸素含有量を得る。
【0067】
炭素含有量の測定
実施例及び比較例における粉末の炭素含有量は、Leco CS230炭素-硫黄分析装置を用い、以下の方法によって測定される。試料を高周波炉内のセラミックるつぼにて、一定酸素流で溶融する。試料中の炭素は酸素ガスと反応し、CO又はCOとしてるつぼから出る。最終的に存在するCOをCOに変換した後、全ての生成されたCOは、最終的に赤外線検出器によって検出される。シグナルは最終的に炭素含有量に変換される。
【0068】
比表面積(BET)の測定
比表面積を測定するには、Micromeritics Tristar3000を使用し、ブルナウアー-エメット-テラー(BET)法による。最初に、分析対象の粉末2gを120℃のオーブン内で2時間乾燥した後、Nパージする。次いで、吸着種を除去するために、粉末を120℃にて真空下で1時間脱気した後、測定する。
【0069】
電気化学的性能の測定
実施例及び比較例における粉末の電気化学的性能は、以下の方法で測定される。
【0070】
評価する粉末を、45μmのふるいを用いてふるいにかけて、カーボンブラック、炭素繊維及び水中のナトリウムカルボメチルセルロースバインダー(2.5重量%)と混合する。使用した比率は、活物質粉末89重量部/カーボンブラック(C65)1重量部/炭素繊維(VGCF)2重量部及びカルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose、CMC)8重量部である。これらの成分を、250rpmで30分間、Pulverisette7遊星ボールミル内で混合する。
【0071】
エタノールで洗浄した銅箔を負極の集電体として使用する。混合成分の厚さ200μmの層を銅箔上にコーティングする。コーティングを70℃にて真空中で45分間乾燥させる。乾燥させたコーティング銅箔から13.86cmの長方形の電極を打ち抜き、110℃の真空下で一晩乾燥させ、パウチセルの負極として使用する。
【0072】
正極は、以下のようにして作製する:市販のLiNi3/5Mn1/5Co1/5(NMC 622)粉末を、カーボンブラック(C65)、炭素繊維(VGCF)、及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中8重量%ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のバインダーの溶液と混合する。使用した比率は、市販のNMC 622粉末92重量部/カーボンブラック1重量部/炭素繊維3重量部/PVDF 4重量部である。これらの成分をPulverisette 7遊星ボールミル内で、250rpmで30分間混合する。エタノールで洗浄したアルミ箔を正極の集電体として使用する。混合成分の層を、正極容量に対する負極容量の比が1.1になるような厚さで、アルミ箔上にコーティングする。コーティングを70℃にて真空中で45分間乾燥させる。乾燥させたコーティングアルミ箔から11.02cmの長方形の電極を打ち抜き、真空下110℃で一晩乾燥させ、パウチセルの正極として使用する。
【0073】
使用した電解液は、EC/DEC溶媒(体積比で1/1)に溶解した1MのLiPFと、2重量%のVCと、10重量%のFEC添加剤とである。
【0074】
次に、組み立てたパウチセルを、以下の手順で試験する。第1のサイクルは電池のコンディショニングに相当し、「CC」は「定電流(constant current)」を表し、「CCCV」は「定電流定電圧(constant current constant voltage)」を表す。
【0075】
● サイクル1:
○ 休止4時間(初期休止)
○ 理論上のセル容量の15%までC/40で充電
○ 休止12時間
○ C/20V~4.2VでのCC充電
○ C/20V~2.7VでのCC放電
● サイクル2以降:
○ C/2V~4.2VでCC充電、その後C/50までCV充電
○ C/2V~2.7VでのCC放電
【0076】
パウチセルのクーロン効率(coulombic efficiency、CE)は、所与のサイクルにおける放電時の容量の、充電時の容量に対する比であり、初期サイクルについて計算する。SEI形成の反応がCEに大きな影響を与えるため、クーロン効率の観点からは初期サイクルが最も重要である。産業用途では、パウチセルは、少なくとも82%に等しい第1サイクルでのクーロン効率に達する必要がある。
【0077】
更に、商業用途を考慮すると、約1300mAh/gの比容量を有するアノード材料には、かかるパウチセルで少なくとも150サイクルのサイクル寿命が必要であることが十分に認識されている。これらの高容量の粉末は、負極調製中に、例えば、グラファイトで600mAh/g~700mAh/gの容量に更に希釈されて、300サイクルを超えるサイクル寿命を達成し得る。
【0078】
電池膨潤の判定
以下、「電池」「セル」「パウチセル」は全て同義語である。
【0079】
電池、又はアノードの膨潤、若しくは容積変化とは、充電と放電のサイクル中、電池又はアノードの厚さが変化することを意味する。カソードの膨潤は非常に限定されており、この現在の用途で開示されている全ての電池で同じカソードが使用されているため、電池の膨潤はアノードの膨潤と直接相関している。その結果、電池の充電終了時にはアノードの最大リチオ化に対応して膨潤の最大状態(電池の厚みが最大)となり、電池の放電終了時にはアノードの最大脱リチオ化に対応して膨潤の最小状態(組み立て後の初期状態を除いて電池の厚みが最小)となる。
【0080】
実施例及び比較例の粉末をアノード材料として含む電池の膨潤を、以下の方法で判定する。
【0081】
評価対象となる様々な粉末を含むパウチセルは、前述の方法に従って組み立てられる。全てのアノードは、粉末、又は粉末とグラファイトとの混合物を、同様の比容量、すなわち約1300mAh/gで含む。全てのアノードの担持量及び密度はほぼ同様、すなわちそれぞれ約5.5mg/cm及び1.4g/cmである。これらのパウチセルでは、アノードの粉末の性質だけが変化する。
【0082】
各パウチセル(5)の厚さは、図2で説明されているようにセットアップに導入される前にまず測定される。金属製プレート(6)は、測定全体を通して、パウチセルに均一で一定の外部圧力がかかるようにし、全ての測定において、適用される圧力は7psiであった。変位センサ(4)を上部の金属製プレートに接触させ、測定デバイス(2)の変位値を0μmに設定する。測定デバイス(2)の精度は0.1μmである。パウチセルを、ワニ口クランプ(1)を使って電池試験機に接続する。その後、以下に説明する手順でパウチセルをサイクルする。ここで、「CC」は「定電流」を表し、「CV」は「定電圧」を表す。
【0083】
● 安定した厚さの値を得るための24時間の休止段階
● サイクル1(コンディショニング)
○ 理論上のセル容量の15%に達するまで0.025CでCC充電
○ 休止12時間
○ 4.2Vまで0.05CでCC充電、次いで0.02CまでCV充電
○ 休止5分
○ 2.7Vまで0.05CでCC放電
● サイクル2
○ 休止5分
○ 4.2Vまで0.1CでCC充電、次いで0.02CまでCV充電
○ 休止5分
○ 2.7Vまで0.1CでCC放電
● サイクル3及び4
○ 休止5分
○ 4.2Vまで0.2CでCC充電、次いで0.02CまでCV充電
○ 休止5分
○ 2.7Vまで0.2CでCC放電
● サイクル5
○ 休止5分
○ 4.2Vまで0.1CでCC充電、次いで0.02CまでCV充電
○ 休止5分
○ 2.7Vまで0.1CでCC放電
【0084】
次に、記録されたデータを抽出し、処理することで、時間の関数でパウチセルの膨潤の変転をプロットする。5サイクル目の充電終了時に測定された変位(膨潤)は、アノードに含まれる粉末の性能を比較するために使用される。例として、サイクル前の電池の厚さが50μmで、5サイクル目の充電終了時の厚さが70μmの場合、電池の膨潤は40%になる。
【0085】
ケイ素系粒子の個数基準粒径分布の測定
本発明による粉末に含まれる、ケイ素系粒子の個数基準粒径分布は、画像分析と組み合わせた、好ましくは画像分析プログラムによって支援された、粉末の断面の電子顕微鏡分析(SEM又はTEM)によって、測定する。
【0086】
SEM機器を使用して分析を実行するために、試料調製を次のように行う。分析対象の粉末500mgを、エポキシ樹脂(20-3430-128)4部とエポキシ硬化剤(20-3432-032)1部との混合物からなる樹脂(Buehler EpoxiCure 2)7gに埋め込む。得られた直径1インチ(25.4mm)の試料を、少なくとも8時間乾燥させる。次いで、それを、最大5mmの厚さに達するまでStruers Tegramin-30を使用して最初に機械的に研磨し、次いで、6kVで約6時間、イオンビーム研磨(Cross Section Polisher Jeol SM-09010)によって更に研磨して、研磨された表面を得る。最後に、この研磨された表面上に、Cressington208カーボンコーターを使用して12秒間カーボンスパッタリングすることによって、カーボンコーティングを適用して、SEMで分析される「断面」とも呼ばれる試料を得る。
【0087】
粉末中に含まれるケイ素系粒子の粒径分布の測定を非限定的に説明するために、SEMに基づく手順を以下に示す。
1. ケイ素系粒子の複数の断面を含む粉末の断面の複数のSEM画像を取得する。
2. 粒子の異なる構成成分、すなわち、特にマトリックス材料及びケイ素系粒子の断面を容易に視覚化するために、画像のコントラストと輝度の設定を調整する。それらの化学組成が異なるため、輝度の違いにより、それらを容易に区別することができる。
3. 好適な画像分析プログラムを使用して、取得したSEM画像の1つ以上から、ケイ素系粒子の別の断面と重ならない、ケイ素系粒子の少なくとも100個の個別の断面を選択する。これらの個別の断面は、粒子を含む粉末の1つ以上の断面から選択することができる。
4.ケイ素系粒子の少なくとも100個の別個の断面の、ケイ素系粒子の断面の外周上の2つの最も離れた点間の直線距離に対応するdmax値を測定する。
【0088】
次いで、上述の方法を使用して測定された、ケイ素系粒子の個数基準粒径分布のd10、d50及びd90値を計算する。これらの個数基準粒径分布は、周知の数式により重量基準粒径分布又は体積基準粒径分布に容易に変換することができる。
【0089】
粉末の粒子径の測定
粉末の体積基準粒径分布を、レーザー回折粒径分析器のMalvern Mastersizer 2000で測定する。以下の測定条件を選択する:
圧縮範囲、活性ビーム長2.4mm、測定範囲:300RF、0.01μm~900μm。製造者の説明書に従って、試料の調製及び測定を行う。
【0090】
比較例及び実施例の実験的調製
本発明によらない比較例1(CE1)
プラズマガスとしてアルゴンを使用して60kW無線周波数(RF)誘導結合プラズマ(ICP)を適用することによって、ケイ素系粉末を得て、それに対して、ミクロンサイズのケイ素粉末前駆体を約50g/時の速度で注入し、2000Kを超える行きわたった(すなわち、反応ゾーンにおける)温度を得る。この第1のプロセス工程において、前駆体は、完全に気化する。第2のプロセス工程において、ガスの温度を1600K未満まで下げるために、18Nm/時のアルゴン流を、反応ゾーンのすぐ下流で急冷ガスとして使用し、核生成させて金属性でサブミクロンのケイ素粉末とする。最後に、1モル%の酸素を含有するN/O混合物を100L/時で添加することによって、100℃の温度で5分間、不動態化工程を行う。
【0091】
得られたケイ素系粉末の比表面積(BET)を測定すると、83m/gである。得られたケイ素系粉末の酸素含有量を測定すると、8.6重量%である。ケイ素系粉末の体積基準粒径分布を測定すると、d10=61nm、d50=113nm及びd90=199nmである。
【0092】
次いで、26gの得られたケイ素系粉末及び軟化点180℃を有する40gの石油系ピッチ粉末から乾燥ブレンドを作製する。ブレンドを、窒素流下、500g/時の供給速度で、230℃の温度で操作される二軸スクリュー押出機に供給する。
【0093】
このようにして得られたピッチ中のケイ素系粉末の混合物を、N下で室温まで冷却し、固化してから、粉砕し、400メッシュのふるいでふるいにかけて、中間粉末を生成する。
【0094】
次に、中間粉末20gを、グラファイト7gとローラーベンチで3時間混合した後、得られた混合物をミルに通して解凝集させる。これらの条件では良好な混合が得られるが、グラファイト粒子はピッチ中には埋め込まれない。
【0095】
中間物粉末とグラファイトとの得られた混合物に更に熱後処理を以下のように施す。すなわち、生成物を管状炉内の石英るつぼに入れ、3℃/分の加熱速度で1000℃まで加熱し、その温度で2時間保持し、次いで室温に冷却する。これらは全てアルゴン雰囲気下で行われる。
【0096】
焼成された生成物を、最後に乳鉢で手粉砕し、325メッシュのふるいでふるいにかけて、最終粉末CE1を形成する。
【0097】
粉末CE1中の総Si含有量は、XRFにより34.2重量%と測定され、実験誤差は+/-0.3重量%である。これは、加熱時のピッチの重量損失約35重量%及び他の成分の加熱時のわずかな重量損失に基づいて計算された値に対応している。Siに対するピッチ分解に由来する炭素の重量比は、約1である。粉末CE1の酸素含有量は、3.3重量%と測定される。粉末CE1の比表面積(BET)は4.0m/gと測定される。粉末CE1の体積基準粒径分布は、4.1μmに等しいD10、13.4μmに等しいD50、及び28.9μmに等しいD90を有する。粉末CE1の追加の物理化学的特性も表1に示す。
【0098】
粉末CE1の断面を作製し、SEMによって分析するが、得られた顕微鏡画像では明らかな気孔率は検出できない。
【0099】
本発明によらない比較例2(CE2)
粉末CE2の合成には、粉末CE1と同じケイ素系粉末を使用する。粉末CE2を製造するために、26gの上述のケイ素系粉末と熱硬化性ポリマーとのブレンドを作製する。Siに対する熱硬化性ポリマーの重量比は、0.3である。使用されるポリマーはフェノール-ホルムアルデヒド樹脂である。ブレンドを更に通気オーブンに入れ、ここで熱硬化性ポリマーを150℃の温度で硬化させる。得られた硬化粉末は、続いて、サブミクロン粒子にビーズミル粉砕される。粉砕されたケイ素-ポリマー粒子を、180℃の軟化点を有する石油系ピッチ粉末40gと更にブレンドする。ブレンドを、窒素流下、500g/時の供給速度で、230℃の温度で操作される二軸スクリュー押出機に供給する。
【0100】
このようにして得られたピッチ中のケイ素系粉末の混合物を、N下で室温まで冷却し、固化してから、粉砕し、400メッシュのふるいでふるいにかけて、中間粉末を生成する。
【0101】
次に、中間粉末20gを、グラファイト4.5gとローラーベンチで3時間混合した後、得られた混合物をミルに通して解凝集させる。これらの条件では良好な混合が得られるが、グラファイト粒子はピッチ中には埋め込まれない。
【0102】
中間物粉末とグラファイトとの得られた混合物に更に熱後処理を以下のように施す。すなわち、生成物を管状炉内の石英るつぼに入れ、3℃/分の加熱速度で1000℃まで加熱し、その温度で2時間保持し、次いで室温に冷却する。これらは全てアルゴン雰囲気下で行われる。混合物中に存在する熱硬化性ポリマーは、実際の溶融工程を経ることなく分解し、その結果、熱処理中に形成された炭素マトリックス内に細孔を残す。熱硬化性ポリマーは、多孔性を作り出すために犠牲材料の役割を果たす。
【0103】
焼成された生成物を、最後に乳鉢で手粉砕し、325メッシュのふるいでふるいにかけて、最終粉末CE2を形成する。
【0104】
粉末CE2の総Si含有量をXRFにより測定すると、34.1重量%である。これは、加熱時のピッチの重量損失約35重量%及びフェノール-ホルムアルデヒド樹脂の約40重量%の重量損失に基づいて計算された値に対応している。Siに対するピッチ分解に由来する炭素の重量比は、約1である。粉末CE2の追加の物理化学的特性も表1に示す。
【0105】
本発明によらない比較例3(CE3)
粉末CE2の製造と同様の方法を使用して、粉末CE3を製造する。違いは、Siに対する熱硬化性ポリマーの重量比が(0.3の代わりに)0.9に増加し、中間粉末に添加されるグラファイトの量が(4.5gの代わりに)1gに減少していることである。この粉末CE3の総Si含有量をXRFにより測定すると、34.3重量%である。粉末CE3の追加の物理化学的特性も表1に示す。
【0106】
本発明による実施例1(E1)
粉末E1の合成には、粉末CE1と同じケイ素系粉末を使用する。粉末E1を製造するために、イソブタノール中に溶解した26gの上述のケイ素系粉末と熱硬化性ポリマーとの分散液を作製する。Siに対する熱硬化性ポリマーの重量比は、0.3である。使用されるポリマーはフェノール-ホルムアルデヒド樹脂である。良好な分散液が得られたら、噴霧乾燥工程を行って溶媒を除去する。得られた乾燥粉末は、熱硬化性ポリマーによって被覆されたケイ素系ナノ粒子からなる。
【0107】
乾燥粉末を更に通気オーブンに入れ、ここで熱硬化性ポリマーを150℃の温度で硬化させる。得られた硬化粉末は、続いて、サブミクロン粒子にビーズミル粉砕される。粉砕されたケイ素-ポリマー粒子を40gの石油系ピッチ粉末と更にブレンドする。
【0108】
残りの工程、すなわちピッチの溶融、中間粉末の製造、グラファイトとの混合、熱処理及び最終粉砕は、粉末CE1と全く同様に実施する。
【0109】
粉末E1の総Si含有量をXRFにより測定すると、34.1重量%である。Siに対するピッチ分解に由来する炭素の重量比は、約1である。粉末E1の追加の物理化学的特性も表1に示す。
【0110】
本発明による実施例2(E2)
粉末E1の製造と同様の方法を使用して、粉末E2を製造する。違いは、Siに対する熱硬化性ポリマーの重量比が(0.3の代わりに)0.5に増加し、中間粉末に添加されるグラファイトの量が(4.5gの代わりに)3gに減少していることである。
【0111】
この粉末E2の総Si含有量をXRFにより測定すると、34.4重量%である。Siに対するピッチ分解に由来する炭素の重量比は、約1である。粉末E2の追加の物理化学的特性も表1に示す。
【0112】
本発明による実施例3(E3)
粉末E1の製造と同様の方法を使用して、粉末E3を製造する。違いは、Siに対する熱硬化性ポリマーの重量比が(0.3の代わりに)0.7に増加し、中間粉末に添加されるグラファイトの量が(4.5gの代わりに)2gに減少していることである。
【0113】
この粉末E2の総Si含有量をXRFにより測定すると、34.3重量%である。Siに対するピッチ分解に由来する炭素の重量比は、約1である。粉末E3の追加の物理化学的特性も表1に示す。
【0114】
本発明による実施例4(E4)
粉末E1の製造と同様の方法を使用して、粉末E4を製造する。違いは、Siに対する熱硬化性ポリマーの重量比が(0.3の代わりに)0.9に増加し、中間粉末に添加されるグラファイトの量が(4.5gの代わりに)1gに減少していることである。
【0115】
この粉末E2の総Si含有量をXRFにより測定すると、34.3重量%である。Siに対するピッチ分解に由来する炭素の重量比は、約1である。粉末E3の追加の物理化学的特性も表1に示す。
【表1】
【表2】
【0116】
粉末CE2、CE3、E1、E2、E3及びE4の粒径分布、酸素含有量及びBET値は、粉末CE1のものと同等である。
【0117】
前述の手順を適用して、第1サイクルでのクーロン効率及び電池の膨張の両方を測定するために、全粉末をフルセルで更に評価する。試験した全ての粉末が、1300mAh/g±20mAh/gの比容量を有する。結果を表3に報告する。
【表3】
【0118】
第1サイクルでのクーロン効率に関しては、開放気孔率の最小総比容積を有する粉末(すなわち、CE1)を含むセルが最良の性能を示す。それでもなお、本発明による粉末E1~E4を含むセルは、それらが全て、少なくとも82%に等しい第1のサイクルにおけるクーロン効率を有するので、その点においても良好に機能する。
【0119】
サイクル5での充電終了時の電池の膨潤に関しては、本発明による粉末E1~E4について最も良好な結果が得られる。膨潤は、本発明によらない粉末で得られた膨潤と比較してかなり減少している。例えば、粉末E1が粉末CE2よりもはるかに低い電池の膨潤をもたらすという事実は、それらが両方とも同じ量の熱硬化性ポリマーを使用して製造されるにもかかわらず、おそらく、熱硬化性ポリマーがケイ素系粉末と混合される方法、すなわち、粉末E1についての分散体として対粉末CE2についての単純なブレンドとしての方法に起因する。これには2つの効果がある。
【0120】
まず、既に述べたように、熱硬化性ポリマーを分散液として混合した場合、得られる乾燥粉末は、熱硬化性ポリマーで被覆されたケイ素系粒子からなる。そのため、熱処理時にケイ素系粒子の周囲に細孔が形成され、ケイ素粒子による膨潤がより効率的に吸収されるが、単に熱硬化性ポリマーを配合した場合には、粒子内に細孔がランダムに形成され、膨潤の吸収効率が低下する。
【0121】
第二に、熱硬化性ポリマーが分散液として混合されるとき、マトリックス材料中に埋め込まれたケイ素粒子の周りに細孔が形成されるので、生じるのは主に閉鎖気孔率である。一方、熱硬化性ポリマーが単にブレンドされ、細孔が粒子中にランダムに形成される場合、それはまた、より多くの開放気孔率及びより少ない閉鎖気孔率の形成をもたらし、したがって、膨潤のより低い効率の吸収をもたらす。
【0122】
最後に、膨潤が閉鎖気孔率の総比容積の増加とともに直線的に減少しないことが観察されることは驚くべきことであろう。その理由は、閉鎖気孔率のある特定の体積を超えると、既に前述したように、粒子内の亀裂の形成のために、粒子の構造的不安定性が支配的な要因になることであり得る。
【0123】
全体として、電池の性能に関する最良な妥協点は、粉末E1及びE2について得られる。
図1
図2
【国際調査報告】