(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-17
(54)【発明の名称】抗PROTAC抗体および複合体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/00 20060101AFI20240709BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240709BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240709BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240709BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240709BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240709BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240709BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240709BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20240709BHJP
【FI】
C07K16/00 ZNA
C07K16/46
A61K39/395 N
A61K47/68
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/00
G01N33/53 D
C07K16/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580720
(86)(22)【出願日】2022-07-01
(85)【翻訳文提出日】2024-02-27
(86)【国際出願番号】 EP2022068347
(87)【国際公開番号】W WO2023275394
(87)【国際公開日】2023-01-05
(32)【優先日】2021-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】リーカー,マルセル
(72)【発明者】
【氏名】イェーガー,セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ラッシュ,ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】コーニング,ドリーン
(72)【発明者】
【氏名】シュローダー,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー,ヘンドリック
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF68
4C084AA19
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4C084ZC752
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB36
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA22
4H045EA28
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、標的タンパク質分解キメラ(PROTAC)のVHLリガンド分解部分(デグロン)に、任意選択で、標的タンパク質に結合可能な、単一特異性または二重特異性抗体またはその抗体断片または融合タンパク質に関する。本発明はまた、このような抗体またはその抗体断片または融合タンパク質とPROTACの複合体(PAX)ならびにそれらの生成方法、ならびにその各々の医学的ならびに非医学的使用にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PROTACのVHLリガンドデグロンに結合可能な単離抗体。
【請求項2】
単一特異性抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
IgG型の全長抗体またはその断片または単一ドメイン抗体または単鎖抗体である、請求項1または2に記載の抗体。
【請求項4】
前記全長抗体が、IgG1またはIgG4型のものである、請求項3に記載の抗体。
【請求項5】
前記単一ドメイン抗体が、VHH抗体である、請求項3に記載の抗体。
【請求項6】
前記単鎖抗体が、単一特異性の一価単鎖抗体(scFv)である、請求項3に記載の抗体。
【請求項7】
二重特異性抗体であり、第2の結合可能性が標的タンパク質に対してである、請求項1または3から6のいずれかに記載の抗体。
【請求項8】
a)2つの全長抗体重鎖および2つの全長抗体軽鎖からなる単一特異性二価抗体であって、各鎖は1つのみの可変ドメインを含む、単一特異性二価抗体、
b)各々、抗体重鎖可変ドメイン、抗体軽鎖可変ドメインおよび前記抗体重鎖可変ドメインと前記抗体軽鎖可変ドメインの間の単鎖-リンカーからなる、2つの単一特異性一価単鎖抗体(scFv)、ならびに任意選択で、
c)(a)部分のC末端と(b)部分のN末端を接続するペプチド-リンカー
を含む、請求項7に記載の抗体。
【請求項9】
a)2つの全長抗体重鎖および2つの全長抗体軽鎖からなり、それによって、各鎖は1つのみの可変ドメインを含む、単一特異性二価抗体、
b)各々、1つの抗体可変ドメインからなる、2つの可変2つの重鎖単一ドメイン(VHH)抗体、ならびに任意選択で、
c)(a)部分のC末端と(b)部分のN末端を接続するペプチド-リンカー
を含む、請求項7に記載の抗体。
【請求項10】
(b)部分の前記2つの重鎖単一ドメイン(VHH)抗体の前記N末端および(a)部分の前記単一特異性二価抗体の前記C末端が、ペプチドリンカーを介して接続される、請求項9に記載の抗体。
【請求項11】
(a)部分の前記可変ドメインが、前記標的タンパク質に結合可能であり、(b)部分の前記可変ドメインが、前記PROTACの前記VHLリガンドデグロンに結合可能である、請求項8から10のいずれかに記載の抗体。
【請求項12】
(b)部分の前記可変ドメインが前記標的タンパク質に結合可能であり、(a)部分の前記可変ドメインが前記PROTACの前記デグロンに結合可能である、請求項8から10のいずれかに記載の抗体。
【請求項13】
前記PROTACの前記デグロンが、式I:
【化1】
[式中、
R
1またはR
2の一方は、弾頭に接続されたリンカーであり、ただし、
R
2がリンカーである場合には、R
1はアセチルであり、および
R
1がリンカーである場合には、R
2はメチルであり、
R
3は、H、OH、シアノ、F、Cl、アミノまたはメチルであり、
R
4は、Hまたはメチルであり、
R
5、R
6は、HまたはOHであり、ただし、
R
6がHである場合には、R
5はOHであり、および
R
5がHである場合には、R
6はOHである]
のVH032誘導体である、請求項11または12に記載の抗体。
【請求項14】
R
1が、PB-Q-(CH
2-CH
2-O)
n-(CH
2-CH
2-CH
2-O)
m-(CH
2)
p-(C=O)-であり、
式中、
PBは、タンパク質結合性弾頭であり、
Qは、NH、C=Oまたは存在せず、
n、mは独立に、0、1、2、3または4であり、
pは、0~10であり、
R
2は、メチルであり、
R
3、R
4、R
5およびR
6は、請求項13に記載される通りである、請求項13に記載の抗体。
【請求項15】
R
1が、PB-Q-(CH
2-CH
2-O)
n-(CH
2-CH
2-CH
2-O)
m-(CH
2)
p-(C=O)-であり、
式中、
PBは、タンパク質結合性弾頭であり、
Qは、NH、C=Oまたは存在せず、
(xi)n、m、pは1であり、または
(xii)nは3もしくは4であり、mは0であり、pは1である、または
(xiii)nは1であり、mは0であり、pは2である、または
(xiv)nは2であり、mは0であり、pは2である、または
(xv)n、mは0であり、pは6、7、8、9もしくは10であり、
R
2はメチルであり、
R
3、R
4、R
5およびR
6は、請求項13に記載の通りである、請求項14に記載の抗体。
【請求項16】
R
1がアセチルであり、
R
2が、PB-NH-(CH
2)
p-S-であり、式中、PBは、タンパク質結合性弾頭であり、pは、1、2、3、4、5または6であり、
R
3、R
4、R
5およびR
6が、請求項13に記載の通りである、請求項13に記載の抗体。
【請求項17】
前記PROTACが、
図8(a)および8(b)に示される前記PROTACから選択される、請求項13に記載の抗体。
【請求項18】
前記標的タンパク質が、細胞表面タンパク質である、請求項1、3から17のいずれかに記載の抗体。
【請求項19】
前記細胞表面タンパク質が腫瘍抗原である、請求項18に記載の抗体。
【請求項20】
前記細胞表面タンパク質が、Her2、CD33、CLL1、TROP2、NAPI2B、B7H3またはEGFRである、請求項19に記載の抗体。
【請求項21】
前記PROTACの前記デグロンに結合可能な前記可変ドメインが、全長抗体のものであり、以下のCDR配列:
HC CDR1: G Y S X
1 T X
2 X
3 Y (配列番号1);
HC CDR2: I T Y S G X
4 T (配列番号2);
HC CDR3: X
5 X
6 Y X
7 X
8 X
9 X
10 X
11 X
12 X
13 X
14 X
15 (配列番号3);
LC CDR1: Q X
16 X
17 X
18 X
19 X
20 X
21 X
22 X
23 X
24 Y (配列番号4);
LC CDR2: X
25 X
26 X
27 (配列番号5);
LC CDR3: X
28 Q X
29 X
30 X
31 X
32 P Y T (配列番号6);
を含み、
ここで、X
1は、IまたはAであり、X
2は、GまたはNであり、X
3は、DまたはNであり、X
4は、GまたはAであり、X
5は、AまたはGであり、X
6は、KまたはYであり、X
7は、GまたはYであり、X
8は、存在しないかまたはAであり、X
9は、存在しないかまたはVであり、X
10は、存在しないかまたはPであり、X
11は、DまたはYであり、X
12は、GまたはYであり、X
13は、GまたはFであり、X
14は、RまたはAであり、X
15は、DまたはHであり、X
16は、SまたはGであり、X
17は、LまたはIであり、X
18は、Sであるかまたは存在せず、X
19は、Yであるかまたは存在せず、X
20は、Sであるかまたは存在せず、X
21は、Dであるかまたは存在せず、X
22は、Gであるかまたは存在せず、X
23は、NまたはGであり、X
24は、TまたはNであり、X
25は、LまたはYであり、X
26は、VまたはAであり、X
27は、SまたはTであり、X
28は、VまたはLであり、X
29は、SまたはYであり、X
30は、IまたはDであり、X
31は、HまたはEであり、X
32は、VまたはYである、請求項1から20のいずれかに記載の抗体。
【請求項22】
前記PROTACの前記デグロンに結合可能な前記可変ドメインが、VHH抗体のものであり、以下のCDR配列:
CDR1: G X
1 X
2 X
3 X
4 X
5 X
6 X
7 (配列番号17);
CDR2: X
8 X
9 X
10 X
11 X
12 X
13 X
14 X
15 (配列番号18);
CDR3: X
16 X
17 X
18 X
19 X
20 X
21 X
22 X
23 X
24 X
25 X
26 X
27 X
28 X
29 X
30 X
31 X
32 X
33 X
34 X
35 X
36 (配列番号19);
を含み、
ここで、X
1は、FまたはRであり、X
2は、T、A、SまたはRであり、X
3は、LまたはFであり、X
4は、DまたはNであり、X
5は、DまたはTであり、X
6は、YまたはLであり、X7は、AまたはTであり、X
8は、I、NまたはLであり、X
9は、SまたはTであり、X
10は、SまたはWであり、X
11は、SまたはNであり、X
12は、DまたはGであり、X
13は、GまたはDであり、X
14は、SまたはNであり、X
15は、AまたはTであり、X
16は、A、SまたはTであり、X
17は、A、VまたはIであり、X
18は、S、A、IまたはDであり、X
19は、T、Y、RまたはAであり、X
20は、R、YまたはGであり、X
21は、V、S、LまたはTであり、X
22は、L、G、SまたはCであり、X
23は、S、A、CまたはPであり、X
24は、T、A、SまたはNであり、X
25は、P、I、VまたはDであり、X
26は、存在しないかまたはVまたはAであり、X
27は、D、S、Rまたは存在せず、X
28は、V、GまたはPであり、X
29は、D、T、GまたはRであり、X
30は、Q、I、TまたはRであり、X
31は、V、KまたはRであり、X
32は、R、IまたはYであり、X
33は、Y、Q、FまたはAであり、X
34は、VまたはLであり、X
35は、E、PまたはDであり、X
36は、V、YまたはAである、請求項1から20のいずれかに記載の抗体。
【請求項23】
X
1がFであり、X
2がTまたはSであり、X
3がLまたはFであり、X
4がDであり、X
5がDであり、X
6がYであり、X
7がAまたはTであり、X
8がIであり、X
9がSまたはTであり、X
10がSであり、X
11がSであり、X
12がDであり、X
13がGであり、X
14がSであり、X
15がAまたはTであり、X
16がAまたはSであり、X
17がVまたはAであり、X
18がAまたはIであり、X
19がTまたはYであり、X
20がGまたはRであり、X
21がLまたはSであり、X
22がCまたはSであり、X
23がPまたはCであり、X
24がAまたはSであり、X
25がVまたはDであり、X
26が存在しないかまたはVであり、X
27がRであるかまたは存在せず、X
28がGまたはPであり、X
29がTまたはGであり、X
30がQまたはIであり、X
31がKまたはRであり、X
32がR、IまたはYであり、X
33がFまたはAであり、X
34がLであり、X
35がEまたはDであり、X
36がVまたはYである、請求項22に記載の抗体。
【請求項24】
CDR1がGFSFDDYA(配列番号21)であり、
CDR2がISSSDGST(配列番号22)であり、
CDR3がSAIYRLSCSVVRPTIRYALDY(配列番号23)である、請求項23に記載の抗体。
【請求項25】
CDR1がGFTFDDYA(配列番号25)であり、
CDR2がISSSDGSA(配列番号26)であり、
CDR3がAVATGSCPADGGQKIFLEV(配列番号27)である、請求項23に記載の抗体。
【請求項26】
PROTACを検出、定量化または精製するための、前記の請求項のいずれかに記載の単一特異性抗体のin vitro使用。
【請求項27】
前記二重特異性抗体が前記PROTACの前記デグロンに結合する、請求項1、3から25のいずれかに記載の二重特異性抗体およびPROTACの複合体(PAX)。
【請求項28】
前記PROTACの前記デグロンおよび前記リンカーが、請求項13から17のいずれかに記載される通りである、請求項26に記載の複合体(PAX)。
【請求項29】
請求項27または28に記載の複合体と、1つまたは複数のさらなる薬学的に許容される成分とを含む医薬組成物。
【請求項30】
分解標的タンパク質を発現する標的細胞にPROTACを送達するための、請求項27または28に記載の複合体の使用。
【請求項31】
請求項27または28に記載の複合体を、それを必要とする患者に投与することによって疾患を処置する方法であって、前記疾患が、前記PROTACの前記分解標的タンパク質の分解から恩恵を受ける、方法。
【請求項32】
前記PROTACの前記分解標的タンパク質の前記分解から恩恵を受ける疾患の処置において使用するための、請求項27または28に記載の複合体(PAX)。
【請求項33】
前記複合体(PAX)がまず投与され、続いて、前記PAXのPROTAC構成成分単独がその後投与される、前記PROTACの前記分解標的タンパク質の前記分解から恩恵を受ける疾患の処置において使用するための請求項27または28に記載の複合体(PAX)。
【請求項34】
前記PAXの抗体構成成分がまず投与され、前記PAXのPROTAC構成成分がその後投与される、前記PROTACの前記分解標的タンパク質の前記分解から恩恵を受ける疾患の処置において使用するための請求項27または28に記載の複合体(PAX)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.技術分野
本発明は、標的タンパク質分解キメラ(PROTAC)のVHLリガンド分解部分(デグロン)に、任意選択で、標的タンパク質に結合可能な、単一特異性または二重特異性抗体またはその抗体断片または融合タンパク質に関する。本発明はまた、このような抗体またはその抗体断片または融合タンパク質とPROTACの複合体(PAX)ならびにそれらの生成方法、ならびにその各々の医学的ならびに非医学的使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
2.背景
2.1 不必要なタンパク質の分解 - PROTAC
細胞維持および正常な機能には、細胞性タンパク質の制御された分解が必要である。例えば、調節タンパク質の分解は、DNA複製、染色体分離などといった細胞周期中の事象を引き起こす。したがって、タンパク質のこのような分解は、細胞の増殖、分化および死滅に影響を及ぼす。タンパク質の阻害剤は、細胞においてタンパク質活性を遮断または低減することができるが、タンパク質分解は、標的タンパク質の活性を低減する、または完全に除去するもう1つの可能性である。したがって、細胞のタンパク質分解経路を使用することで、タンパク質活性を低減または除去する手段が提供できる。細胞主要分解経路の1つは、ユビキチン-プロテアソームシステムとして知られている。このシステムでは、タンパク質は、タンパク質に結合し、そのタンパク質にユビキチン分子を転移するE3ユビキチンリガーゼによるプロテアソーム分解のためにマークされる。E3ユビキチンリガーゼは、E1およびE2ユビキチンリガーゼを含む経路の一部であり、これは、ユビキチンを、E3ユビキチンリガーゼによって触媒されるタンパク質への転移にとって利用可能にする。所望のタンパク質のためにこの分解経路を利用するために、PROTACが開発された。PROTACは、E3ユビキチンリガーゼを所望のタンパク質と近接させることができ、その結果、ユビキチン化され、分解のためにマークされる。PROTACは、E3ユビキチンリガーゼに結合する構造モチーフと、分解することが望まれるタンパク質に結合する別のモチーフを含むヘテロ二機能性分子である。これらの基は通常、リンカーを用いて接続される。
【0003】
約600のE3リガーゼの小さい割合のみ、すなわちMDM2、アポトーシスタンパク質の阻害剤(IAP)、HECTおよびRBRファミリーメンバー、RNF4、DCAF16、EAP1-Nrf2、フォンヒッペル・リンダウ(VHL)およびセレブロン(CRBN)が成功裏に標的化タンパク質分解に適用されており、最後の2つが最大の役割を果たしている。VHLは、ヒドロキシル化HIF-1αに堅固に結合する、十分に確立されたE3リガーゼ基質受容体である。HIF-1αのヒドロキシルプロリル結合部位の周囲のペプチド構造に基づいて、より薬物様の小分子リガンドが誘導され、キメラタンパク質分解剤を作出するために成功裏に適用されてきた(Shanique, A. and Crews, C., J. Biol. Chem 296 (2021) 100647)。
【0004】
広く適用されたリガンドとして、VH032(
図1A)があり、これは、強い親和性でVHLに結合するVHLリガンドである(Galdeano, C. et al. J. Med. Chem. 57 (2014) 8657-8663)。VH032は特にアセチル基の置換を許容するので(Ciulli, A and Ishida, T. SLAS 7Discovery 26 (2021) 484-502)、VH298のようなさらなるVHLリガンドの開発の道を開いた(Soares, P. et al. J. Med. Chem. 61 (2018) 599-618)。
【0005】
CRBNリガンドとしてのサリドマイドの作用様式が解明されると、CRBNは、標的化タンパク質分解における適用に利用できるようになった。CRBNの会合によって、種々の標的タンパク質がすでに分解されている(Shanique, A. and Crews, C., J. Biol. Chem. 296 (2021) 100647)。
【0006】
キメラ分解剤を使用する前記のE3リガーゼの会合によって、標的化タンパク質分解はすでに大量のタンパク質について達成されている。例として、CRBN、VHL、Tau、DHODH、FKBP12、AR、ERα、RAR、CRABP-II、ALK、CK2、CDK8およびCDK9、BTK、PI3K、TBK1、FLT3、BTK、RTK、例えば、EGFR、HER2およびcMET、ERK1およびERK2、BCR-ABL、RIPK2、BCL6、PCAF/GCN5、BRD4およびHDAC6、TRIM24、SIRT2、BRD9が挙げられる(Scheepstra, M., Comput. Struct. Biotec. 17 (2019) 160-176;米国特許出願公開第2018/0125821号明細書;同2015/0291562号明細書;同2017/0065719号明細書)。
【0007】
合成する場合、ヘテロ二機能性分解剤の組み立てには多数の戦略がある。一例では(米国特許出願公開第2017/0065719号明細書)、分解剤は主に、活性化されたカルボキシル官能基のアミドとの縮合反応によって合成された。したがって、VHLリガンドVH032およびその誘導体を、リンカー構造を含有する活性化されたカルボン酸と反応させた。リンカー構造は、末端アミンを保持しており、これを脱保護後、タンパク質結合剤の活性化されたカルボン酸官能基と反応させた。しかし、合成戦略は、改変されなければならないリガンドの化学的性質に高度に依存している。別の例では、7-ヒドロキシ-サリドマイドのヒドロキシル基は、プロパルギルブロミドまたはプロパルギルトシラートを使用するアルキル化反応を使用して改変された。得られた化合物は、クリックケミストリーハンドルを保持しており、その後これを使用し、銅(I)によって触媒されたアジドアルキン環化反応によって完全分解剤を得た(Wurz, R. P. et al. J. Med. Chem. 61 (2018) 453-461)。
【0008】
ARV-110を分解するアンドロゲン受容体およびARV-471を分解するエストロゲン受容体(Arvinas, Inc.)は、最近第II相に到達した臨床開発における2つの最も進歩したPROTACである。しかし、いくつかのヘテロ二機能性分解剤が、さまざまな標的について第I相臨床開発にすでに達している、例えば、BCL-XLのPROTACであるDT2216分解剤(Dialectic, Inc.)およびIRAK4分解剤KT474(Kymera/Sanofi S.A.)。
【0009】
数多くの報告されたPROTACは、高度に効率的な分解剤であるが、それらは、広い発現プロファイルを有するE3リガーゼを利用するので全般的に非組織特異的である。組織特異的分解は、広域性スペクトルPROTACの、薬物または化学ツールとしてのその可能性を増大しながら、治療ウィンドウの最適化を可能にし、副作用を最小にする可能性がある。しかし、組織分布が制限されたE3リガーゼを利用するPROTACは今までのところ報告されておらず、新規E3リガーゼリガンドの開発は、依然として重大な課題である(Maneiro, M. et al. ACS Chemical Biology 5 (2020) 1306-1312)。PROTAC開発におけるもう1つの課題は、マウスにおいて数時間の範囲のその短い循環半減期である(Pillow, T. H. et al., ChemMedChem 15 (2020) 17-25; Burslem, G. M. et al., J. Am. Chem. Soc. 140 (2018) 16428-16432)。
【0010】
さらに、PROTACの有効性は、その低い透過性によって妨げられることが多く(Klein, V. G. et al., ACS Med. Chem. Lett. 11 (2020) 1732-1738)、これによって、細胞に入り、タンパク質分解を誘導する能力が制限される。
【0011】
したがって、分解されるべきタンパク質標的を含有する細胞へのPROTACの増強された、標的化された送達が当技術分野で現在必要である。
【0012】
この必要性に対処するために、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)と同様の共有結合性の抗体-PROTACコンジュゲートを使用することによる特定の細胞へのPROTACの送達を増強する試みが行われてきた。このような構築物は、細胞標的選択的結合および抗体によって付与される増強された薬物動態を利用する。
【0013】
2.2 標的化薬物送達 - 抗体-薬物コンジュゲート(ADC)
ADCの基本的概念は、かなり単純である。必要条件は、例えば、がんと健康な細胞の間を分子ベースで区別することを可能にする抗原である。これは、例えば、腫瘍細胞において重度に上方制御されるある特定の細胞表面受容体であり得る。このような抗原に対する抗体は、細胞傷害性薬剤、つまり「ペイロード」の高度に強力な標的化媒体として働くことができる。ADCを形成するために、細胞傷害性薬剤は、ペイロードの早期放出を避けるために循環において安定であるリンカーを介して抗体に共有結合によって付着される必要がある。投与後、ADCは患者の身体中に分布し、腫瘍細胞の表面上のその抗原に結合する。次いで、抗体-抗原複合体は細胞によって内部移行され、内因性細胞内輸送経路によってリソソームへと方向付けられる。リソソームに到達した後、ADCは、分解され、それによって、その毒性カーゴを放出する。次いで、遊離毒素は、その細胞内標的に結合し、したがって、アポトーシスおよびがん細胞の死滅を誘導できる。一部の場合には、毒素は、がん細胞から離れ、隣接する、理想的には、がん性の細胞に同様に作用できる。このプロセスはバイスタンダー効果と呼ばれ、その程度は、適用されるリンカーおよび薬物に応じて変わる。他方、抗体は、抗原を発現するがん細胞にのみ結合し、毒素を送達するはずであるので、健康な細胞は、主に温存される。
【0014】
がんの処置のために承認されているADCとして、HER2標的化DM1コンジュゲートカドサイラ、アドセトリス、チュブリン阻害剤MMAEを保持する抗CD30 ADCおよびCD33標的化カリケアマイシンADCマイロターグが挙げられる。
【0015】
ADCの設計は、それらがバイオテクノロジーによって生成された生体分子と、化学的に合成された高度に強力な小分子分子薬物から構成されるので集学的取り組みである。両実体は、別個に生成され、その後、高度に複雑なハイブリッド分子に組み合わされる。したがって、個々の構成成分の設計から出発して、コンジュゲートの最終生成までのADC開発の全プロセスは、重大な技術的課題を伴ってくる。「抗体-薬物コンジュゲート」という用語によれば、ADCの主構成成分は、薬物および抗体である。しかしこれらの実体をカップリングするには、mAbを薬物と接続するリンカーが必要である。mAbとペイロードの両方を考慮した、このリンカーの注意深い選択が、最終ADCの有効性および安全性にとって重大である。血流中では、リンカーは、そうでなければ全身のオフターゲット毒性を引き起こす可能性がある早期ペイロード放出を防ぐためにできる限り安定であるべきである。しかし、ひとたびADCが標的細胞に到達すると、ペイロードは、付着しているリンカーによって妨げられることなく活性でなくてはならない。さらに、リンカーの長さおよび化学的性質が、ADCの薬物動態学および動力学に対して強い影響を有する場合がある。ADCに利用されるリンカーは、非切断可能なものおよび切断可能なものに主に分類される。非切断可能なリンカーは、循環中および細胞中の両方で安定であるが、切断可能なリンカーは、標的細胞内の特定の細胞内機序によって分解されるように設計されている。上記から、所与のADCにとって適切なリンカーを操作することは、それ自体が課題であるということが明確になる。
【0016】
ADCの3つの部分、つまり抗体、リンカーおよび細胞傷害性ペイロードすべてが、最終コンジュゲートの重要な特性を決定するが、同様に重要なパラメータは、これらの構成成分が組み立てられる方法である。リンカーおよびペイロードは、mAbに直接コンジュゲートされる、組み合わされたリンカー-ペイロード構造として、またはADC作製の際に連続的に組み立てられる個々の構成成分として化学合成によって生成される。両場合において、小分子は、その好都合な特性を損なうことなくmAbにコンジュゲートされる必要があり、これは大きな技術的課題である。ADC作製の際に制御される必要がある主要なパラメータは、薬物抗体比(DAR)と呼ばれる、各抗体にコンジュゲートされるリンカー-薬物の数および構造が付着される抗体表面の位置(コンジュゲーション部位)である。両パラメータは、その安定性および薬物動態挙動、および最終的にその毒性および有効性プロファイルも含むADCのいくつかの特性に決定的に影響を及ぼし得る。他方、ADCに使用される弾頭は、大部分は疎水性であり、DARが増大することは、全体的な疎水性を大幅に変更し、最終コンジュゲートのタンパク質安定性を著しく乱す場合がある。他方、十分に活性なADCに到達するには、その効力に応じてある特定の量の薬物が必要である。しかし、DARだけでなくコンジュゲーション部位および化学も、これらのパラメータに重大な影響を及ぼす。例えば、いくつかの研究が、ある特定の部位は困難なペイロードに対して優れた許容性を示し、抗体表面で好都合な微小環境および立体遮蔽を提供することによって他のものよりもより安定なコンジュゲートをもたらすということを示している。したがって、個々の構成成分であるリンカー、薬物およびmAbの好都合な組合せならびに適したDAR、コンジュゲーション戦略およびコンジュゲーション部位を見出すことが、効率的な、安全な治療薬の開発の鍵である(Dickgiesser, S. et al., Introduction to Antibody Engineering, Springer (2021) 189-214)。
【0017】
2.3 ペイロードとしてPROTACを有するADC
ADCの特別な形状として、薬物がタンパク質分解剤によって表される分解剤-ADCがある。これでは、リンカーは、抗体へのコンジュゲーションを容易にするために分解剤に付着される必要がある。正しいリンカーを選択することに加え、分解剤上の適した付着部位(弾頭、デグロンまたはリンカー部分中のいずれか)を同定することも重大である。いくつかの刊行物が、この概念の実現可能性を証明している。
【0018】
一例として、操作されたシステインへのコンジュゲーションを介してHER2標的化抗体に共有結合によって付着されるエストロゲン受容体α(ERα)分解剤がある。したがって、分解剤は、ERα標的化部分上またはXIAP結合剤上のいずれかでプロテアーゼ切断可能なリンカーを用いて化学的に改変されなければならなかった。リンカーが弾頭で付着された分解剤-ADCの場合には、ERα分解は、HER2過剰発現性MCF7細胞において達成されたが、親のMCF7細胞では有意に少ない分解が観察された。さらなるリンカー選択肢が試験された。VHLリガンドのヒドロキシプロリル残基のヒドロキシル基は、炭酸エステルリンカーを用いて改変され、これはHER2抗体へ活性化されたジスルフィドを介してコンジュゲートされた。さらに、二リン酸塩を含有するリンカーが、VHLリガンドのヒドロキシプロリル残基に付着された。両場合において、コンジュゲートは、選択性を欠いていた(Dragovich, P. S. et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 30 (2020) 126907)。
【0019】
分解剤-ADCの細胞内PROTAC標的としてのERαに加え、BRD4も、標的タンパク質として集中的に研究された。一例は、BRD4分解剤のHER2陽性細胞への選択的送達を示し、HER2標的化抗体を介したBRD4分解につながった。分解剤は、VHLリガンドのヒドロキシプロリル残基で、システインコンジュゲーションと、酸切断可能なエステル結合を使用するクリックケミストリーの組合せを介してコンジュゲートされた(Maneiro, M. et al. ACS Chemical Biology 5 (2020) 1306-1312)。別の例では、BRD4分解剤GNE987は、CLL1標的化抗体の操作されたシステインにコンジュゲートされ、6のDARに到達した。したがって、PROTACは、コンジュゲーションのために活性化されたジスルフィドを含む酸切断可能な炭酸エステルリンカーで改変された。コンジュゲートは、耐容性良好でありながら、マウス異種移植モデルにおいてPROTACの薬物動態プロファイルおよびin vivo有効性を有意に改善した(Pillow, T. H. et al., ChemMedChem 15 (2020) 17-25)。
【0020】
BRD4分解剤コンジュゲートは、2つのさらなる刊行物においてこのグループによって徹底的に調査されている(Dragovich, P. S. et al., J. Med. Chem. 64 (2021) 2534-2575;Dragovich, P. S. et al., J. Med. Chem. 64 (2021) 2576-2607)。STEAP1およびHER2抗体に基づいてBRD4分解剤の複数のコンジュゲートが調製されている。研究の焦点は、ADCと分解剤を接続する理想的なリンカー、ならびに標的タンパク質リガンド、E3リガーゼリガンドまたは標的タンパク質リガンドとE3リガーゼリガンドの間のリンカーのいずれかにおけるこのリンカーの理想的な結合点の調査であった。したがって、リンカー付着のための適した化学ハンドルを組み込んでいるJQ1誘導体を含むいくつかの標的タンパク質リガンドが評価された。標的タンパク質とE3リガーゼリガンドの間のリンカーの場合には、PEGおよび脂肪鎖ならびにリンカー付着のための化学ハンドルを組み込んだバージョンを含む複数のバリアントが試験された。さらに、リンカー付着を可能にするように化学的に改変されたVHLリガンドの誘導体が評価された。コンジュゲートは、受容体選択的タンパク質分解を誘導できたが、2、3種のみが、選択的細胞傷害性を呈した。それらの刊行物は、キメラ分解剤の抗体へのコンジュゲーションの複雑性を強調する。記載された分解剤コンジュゲートについて、2つの特許出願が出願された(国際公開第2020/086858号パンフレット、国際公開第2017/201449号パンフレット)。
【0021】
それに加えて、BRD4分解剤コンジュゲートも、HER2に標的化された特許文献において見出され(国際公開第2019/140003号パンフレット)、CD33標的化抗体のペイロードとしてBRD4およびPLK1の二重分解剤が調べられた(国際公開第2020/073930号パンフレット)。さらに、TGFβR2分解剤は、標的化送達のためにHER2およびTROP2抗体にコンジュゲートされている(国際公開第2018/227018号パンフレット、国際公開第2018/227023号パンフレット)。
【0022】
2.4 標的細胞に薬物を送達する非共有結合的アプローチ
抗体に結合するか、または抗体の結合を受け得るリガンドまたはハプテンに、薬物が常に化学的に接続される必要がある非共有結合的薬物送達のために複数のアプローチが記載されている。
【0023】
例えば、ゲムシタビンは、抗体上のいくつかの部位に結合する親和性リガンドである4-メルカプトエチルピリジンを用いて化学的に改変された。抗体を親和性リガンドで改変されたゲムシタビンと混合することによって、標的陽性がん細胞に対する選択毒性を誘導でき、未改変抗体と同等の薬物動態プロファイルを有するADCが組み立てられた。マウス異種移植モデルにおいてゲムシタビンADCの腫瘍退縮が観察された(Gupta, N. et al., Nat. Biomed. Eng. 3 (2019) 917-929)。
【0024】
さらに、細胞への薬物送達を容易にするために、いくつかのアプローチが、ハプテンであるジゴキシゲニンを用いる、抗がん薬物ドキソルビシンまたはフルオロフォアCy5、siRNA、GFPのようなタンパク質およびサポリンなどの小分子の改変を使用した(Metz, S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 108 (2011) 8194-8199;Schneider, B. et al., Mol. Ther. - Nucleic Acids 1 (2012) e46;Mayer, K. et al., Int. J. Mol. Sci. 16, (2015) 27497-27507)。
【0025】
さらに、細胞傷害性薬物であるデュオカルマイシン(Duocarymcin)DMは、EGFRへの、および同時にコチニンへの二重特異性抗体結合を使用してEGFR陽性細胞に送達される可能性がある。デュオカルマイシンDMを標的細胞に送達するために、C末端およびN末端にコチニンを保持するペプチドが合成され、切断可能なバリン-シトルリンリンカーを介してペプチドに4つのデュオカルマイシンDM分子が付着された。構築物は、マウスEGFR発現A549異種移植モデルにおいて試験され、アイソタイプ対照構築物の抗腫瘍効果を上回った(Jin, J. et al., Exp. Mol. Med. 50 (2018), 67)。同様の構築物を使用して、デュオカルマイシンをmPDGFRβ陽性細胞に送達した(Kim, S. et al., Methods 154 (2019) 125-135)。
【0026】
種々の他の刊行物は、ハプテン改変された化合物および抗ハプテン抗体を使用する複合体形成の概念について詳述している(Yu, B. et al., Angew. Chemie - Int. Ed. 58 (2019) 2005-2010;Kim, H. et al., Mol. Pharm. 16 (2019) 165-172;Kilian, T. et al., Nucleic Acids Res., 47 (2019) e55)。
【0027】
同等のアプローチは、チューブリシンAの、プロテインAまたはGのようなFc結合性タンパク質への共有結合的コンジュゲーションを使用して、標的化薬物送達のための抗体との複合体を組み立てる(Maso, K. et al., Eur J Pharm Biopharm 142 (2019) 49-60)。
【0028】
ハプテン化化合物を抗ハプテン抗体または抗体に結合する親和性リガンド/タンパク質と一緒に使用する非共有結合的薬物送達の多数の例があるが、未改変薬物を使用する非共有結合的薬物送達の例はまれである。
【0029】
すべてのこれらの試みにかかわらず、広く適用することができる、標的でのペイロードの有効な放出を有する、PROTACの十分に定義された効率的な特異的送達プラットフォームが依然として必要である。
【発明の概要】
【0030】
3 発明の概要
本発明は、標的タンパク質分解キメラ(PROTAC)のVHLリガンド分解部分(デグロン)に、および二重特異性抗体の場合には、標的タンパク質に結合可能な単一特異性または二重特異性抗体またはその抗体断片または融合タンパク質に関する。本発明はまた、このような抗体またはその抗体断片または融合タンパク質と、PROTACの複合体、それらの生成方法、ならびにその各々の医学的および非医学的使用に関する。このようなPROTAC-抗体複合体は、本明細書において以下、「PAX」と呼ばれる。
【0031】
一実施形態では、標的タンパク質は、PROTACが送達される標的細胞上の細胞表面抗原である。送達されると、PROTACが標的細胞のサイトゾル中に放出され、ここで、分解標的タンパク質に結合し、それによって細胞のプロテアソームを介して分解を開始する。
【0032】
共有結合によって連結された抗体薬物コンジュゲート(ADC)と比較したPAXの利点は、PROTACを抗体に連結するために特定の製造ステップが必要ではないということである。別の利点は、PAXがそのPROTACペイロードを放出すると、PROTAC結合、および例えば、以前にそれに向けて送達された標的細胞から離れたPROTAC分子の標的化送達の新規サイクルのための準備が整っていることである。
【0033】
さらに別の利点は、PAXにおけるPROTAC複合体形成が、患者の身体におけるPROTACの半減期を延長すると予測される改善された薬物動態プロファイルである。PROTACの抗PROTAC抗体との複合体形成のために、複合体安定性がPROTACのクリアランスを決定する。PROTACが抗体によって複合体形成される限り、抗体の高分子量のために腎性に除去され得ない。
【0034】
一実施形態では、二重特異性抗体は、a)2つの全長抗体重鎖および2つの全長抗体軽鎖からなり、それによって各鎖が1つのみの可変ドメインを含む単一特異性二価抗体、b)各々が抗体重鎖可変ドメイン、抗体軽鎖可変ドメインおよび前記抗体重鎖可変ドメインと前記抗体軽鎖可変ドメインの間の単鎖リンカーからなる2つの単一特異性一価単鎖抗体(scFv)、任意選択で、c)前記scFvに融合された、scFv(b)の2つまたはそれより多いさらなるコピー、ならびに任意選択で、d)a)、b)および/またはc)を接続するペプチドリンカーを含む。
【0035】
一実施形態では、二重特異性抗体は、a)2つの全長抗体重鎖および2つの全長抗体軽鎖からなり、それによって、各鎖が、1つのみの可変ドメインを含む単一特異性二価抗体、b)各々1つの抗体可変ドメインからなる2つの重鎖単一ドメイン(VHH)抗体、任意選択で、c)前記VHHに融合されたVHH(b)の2つまたはそれより多いさらなるコピー、ならびに任意選択で、d)a)、b)および/またはc)を接続するペプチドリンカーを含む。
【0036】
当業者は、ペプチドリンカーの存在またはその長さは、本発明の性能に影響を及ぼさないことを理解する。しかし、一実施形態では、ペプチドリンカーは1~50個のアミノ酸、好ましくは、1~35個のアミノ酸、より好ましくは、3~20個のアミノ酸、さらにより好ましくは、12~18個のアミノ酸、例えば、15個のアミノ酸からなる。
【0037】
一実施形態では、ペプチドリンカーは、抗体の重鎖および/または軽鎖のC末端をscFvまたはVHHのN末端と接続する。
【0038】
一実施形態では、scFvまたはVHHは、抗体の重鎖のC末端に融合される。
【0039】
一実施形態では、抗体は、scFvまたはVHHのさらなるコピーを含まない。
【0040】
一実施形態では、単一特異性二価抗体の可変領域は、標的タンパク質に結合し、scFvまたはVHHは、PROTACに結合する。
【0041】
代替実施形態では、単一特異性二価抗体の可変領域は、PROTACに結合し、scFvまたはVHHは、標的タンパク質に結合する。
【0042】
一実施形態では、VHLリガンドは、VH032またはその誘導体である。
【0043】
一実施形態では、二重特異性抗体は、標的タンパク質が、細胞表面抗原、例えば、腫瘍抗原であることを特徴とする。好ましい実施形態では、標的タンパク質は、HER2、CD33、CLL1、EGFR、CD19、CD20、CD22、B7H3(CD276)、CD30、CD37、CEACAM5、cMET、MUC1、ROR1、CLDN18.2、TROP2、BCMA、CD25、CD70、CD74、CD79b、TROP2、cMET、STEAP1、NaPi2b、PSMA、インテグリンアルファ-V、FRα、MUC16、Mesothelin、CEACAM5、CanAg-MUC1グリコフォーム、EpCAM、HER3またはTNCである。より好ましい実施形態では、標的タンパク質はHER2、CD33、CLL1またはEGFRである。
【0044】
しかし、当業者は、本発明は、患者の身体中に存在する任意の細胞と比較して、標的化PROTAC送達のための細胞のサブセットを確立する任意の標的タンパク質と共に働くことを理解する。
【0045】
本発明の別の態様は、ある特定の標的タンパク質の分解が疑われる疾患を処置する方法であって、PAXがそれを必要とする患者に投与される方法である。
【0046】
本明細書で開示されるPAXを、種々の疾患または障害を処置するために使用できるということが企図される。例示的過剰増殖性障害として、良性または悪性固形腫瘍および血液障害、例えば、白血病およびリンパ系腫瘍が挙げられる。他のものとして、ニューロンの、グリアの、アストロサイトの(astrocytal)、視床下部の、腺性、マクロファージの(macrophagal)、上皮性、間質性、胞胚腔の(blastocoelic)、炎症性、血管新生性および自己免疫性を含む免疫学的障害が挙げられる。
【0047】
本発明の別の態様は、本発明に従うPAXを含む医薬組成物である。さらに別の態様では、前記医薬組成物は、標的化されたがん療法において使用される。
【0048】
さらに他の態様では、本発明の抗体は、PROTACを検出および/または定量化するために、または目的のPROTACを不純物/製造プロセスの副生成物から精製するために働く。
4 図の表
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】
図1は、VHLリガンドVH032および誘導体の化学構造を示す図である。(A)VH032の構造。(B)VH032をベースとするVHL-リガンドのMarkush構造。(C)MZ1、AT1およびACBl1弾頭について例示的に示される異なる弾頭にVH032ベースのデグロンを接続するリンカーの異なる出口ベクター(R1、R2、R3)を示す表現。MIC2抗体は、出口ベクターR1およびR2を許容し、PROTACであるMZ1およびAT1の結合をもたらす。
【
図2-1】
図2は、細胞表面抗原およびPROTACに対する二重特異性融合タンパク質のアミノ酸配列を示す図である。太字:抗PROTAC抗体MIC2の配列、CDR配列に下線が引かれている;イタリック体:リンカー配列;下線が引かれているもの:抗体断片配列(抗EGFR VHH配列または抗HER2 scFv。
【
図2-2】
図2は、細胞表面抗原およびPROTACに対する二重特異性融合タンパク質のアミノ酸配列を示す図である。太字:抗PROTAC抗体MIC2の配列、CDR配列に下線が引かれている;イタリック体:リンカー配列;下線が引かれているもの:抗体断片配列(抗EGFR VHH配列または抗HER2 scFv。
【
図3】
図3は、本発明に従う可能性のあるBsAbバリアントの範囲の図面での描写である。
【
図4】
図4は、VH032をベースとするハプテンの化学構造を示す図である。
【
図5】
図5は、MALDI-MS測定から導かれた、cBSAおよびhuFcならびに対応する個々のハプテンのハプテン対担体タンパク質比を示す図である。
【
図6】
図6は、抗VH032抗体を同定するためのハイブリドーマスクリーニングの研究プランを示す図である。
【
図7】
図7は、親和性決定のアッセイ原理を示す図である。A)MIC2は、SPRチップ上に固定化されている。分析物は、抗体を通過して流れ、捕捉される。PROTACが捕捉された後、緩衝液が交換され、PROTACは、再度解離することができる。B)PROTACの抗体との会合は、シグナルの増大として観察され、一方、解離はシグナルの減少につながる。これは、MIC2の、PROTACであるMZ1への結合について例示的に示されている。
【
図8-1】
図8(a)および(b)は、SPRアッセイにおける結合について試験されたVH032をベースとするPROTACを示す図である。
【
図8-2】
図8(a)および(b)は、SPRアッセイにおける結合について試験されたVH032をベースとするPROTACを示す図である。
【
図9】
図9は、親抗体MIC2に対して比較した二重特異性抗体aEGFRxMIC2、aHER2xMIC2の、いくつかのPROTACへの結合評価を示す図である。親和性パラメータは、結合速度および解離速度ならびに親和性によって分類された。
【
図10】
図10は、SE-HPLCによって分析されたローディング依存性複合体形成を示す図である。ピーク分布は、複合体形成されていない抗体(0%ローディング)(左)のピークから、半分ローディングされた(50%ローディング;抗体:PROTACモル比=1:1)抗体、完全ローディングされた(100%ローディング;抗体:PROTACモル比=1:2)抗体のピークへと理論上のローディングが増大するにつれて移動する。
【
図11】
図11は、未精製および精製aEGFRxMIC2+GNE987複合体のSE-HPLCプロファイルを示す図である。青紫色:未精製試料;青色:脱塩試料。
【
図12】
図12は、未精製および精製aEGFRxMIC2+GNE987複合体のピーク分布を示す図である。
【
図13】
図13は、経時的なaEGFRxMIC2+GNE987複合体のピーク分布を示す図である。
【
図14】
図14は、リンカーによって改変されたGNE987の化学構造を示す図である。
【
図15】
図15は、BRD4レベルの例示的蛍光画像を示す図である。高い緑色蛍光は、高いBRD4存在量と相関する。未処置細胞は、最も強い蛍光を有していたが、蛍光は、4nMのGNE987ならびにEGFR標的化C225-L328C-GNE987およびGNE987がローディングされたaEGFRxMIC2を用いて処置された細胞については低減した。蛍光は、4nMの、GNE987がローディングされた非結合性aHER2xMIC2を用いる処置の場合にはEGFR標的化複合体と比較して増大した。緑色蛍光は、灰色の陰影で表されている。
【
図16】
図16は、BRD4レベル定量化を示す図である。A)GNE987、C225-L328C-GNE987およびaEGFRxMIC2+GNE987は、調査した濃度範囲全体にわたってBRD4レベルに対して同等の効果を有していたが、aHER2xMIC2+GNE987は、BRD4をより小さい程度に分解した。B)BRD4分解は、4nMの濃度のすべての分析物で誘導された。
【
図17】
図17は、aEGFRxMIC2+GNE987および対照の用量反応曲線プロットを示す図である。試験化合物の段階希釈をMDAMB468細胞に添加し、インキュベーションの3日後、個々の化合物各々の細胞生存率に対する影響を評価した。50%(1:1)ローディングのEGFR標的化aEGFRxMIC2+GNE987ならびにベンチマークC225-L328C-GNE987およびGNE987は、同等の効力を有していたが、非結合性対照MIC2+GNE987および50%(1:1)ローディングのaHER2xMIC2+GNE987は、低減した効力を有していた。
【
図18】
図18は、aEGFRxMIC2+GNE987および対照の用量反応曲線プロットを示す図である。PROTACであるGNE987は、最高の効力を有し、25%ローディングのaEGFRxMIC2+GNE987がそれに続く。非結合性対照MIC2+GNE987および50%(1:1)ローディングのaHER2xMIC2+GNE987は、細胞生存率に対して低減した効果を有していた。
【
図19】
図19は、N=3の生物学的複製物における調査された分子のIC50値プロットを示す図である。
【
図20】
図20は、PROTAC-ADCおよびPROTACシャトルで処置されたHEPG2細胞の用量反応曲線を示す図である。
【
図21】
図21は、PEGリンカーを保持するBRD4分解性GNE987およびその類似体GNE987Pの分子構造を示す図である。
【
図22】
図22は、GNE987P単独と比較して、複合体形成されたaEGFRxMIC2+GNE987Pは、0.1~10nMの範囲の濃度でEGFR発現性MDAMB468細胞に対する細胞傷害性効果の増大を示し、標的化送達を示すことを示す図である。非標的化MIC2+GNE987Pとの複合体形成は、GNE987Pの細胞傷害性を完全に低減する。
【
図23】
図23は、72時間にわたるGNE987単独の、またはaEGFRxMIC2との複合体でのマウス血漿安定性を示す図である。
【
図24】
図24は、96時間にわたるGNE987と複合体形成された二重特異性抗体aEGFRxMIC2のマウス血漿安定性を示す図である。
【
図25】
図25は、マウス血漿における96時間にわたる、50%ローディングの複合体aEGFRxMIC2+GNE987の安定性評価を示す図である。aEGFRxMIC2+GNE987複合体は、ビーズ上に捕捉され、上清が未結合GNE987のLC-MS分析のために収集された。その後、ビーズに結合したaEGFRxMIC2+GNE987複合体が、ビーズから溶出され、LC-MSを使用するGNE987定量化に供された。
【
図26】
図26は、抗ハプテン抗体を生成するための新世界ラクダ類免疫化の免疫化スケジュールを示す図である。
【
図27】
図27は、ファージディスプレイによる抗体発見のためのビオチン化VH032を示す図である。
【
図28】
図28は、VHH融合タンパク質対未改変親抗体の発現率を示す図である。
【
図29】
図29は、VHH MIC5を欠く親抗体と比較した、それぞれ、CD33xMIC5またはEGFRxMIC5のMV411およびMDAMB468への細胞結合のフローサイトメトリー分析を示す図である。
【
図30】
図30は、PROTACであるGNE987がローディングされた、およびローディングされていないCD33結合性CD33xMIC7の、CD33発現性細胞株への細胞結合の比較を示す図である。
【
図31】
図31は、pH応答性VH032-pHAb色素の構造を示す図である。
【
図32】
図32は、6時間にわたる、CD33xMIC7の、CD33陽性細胞MOLM13、MV411およびU937ならびにCD33陰性RAMOS細胞への内部移行のフローサイトメトリー分析を示す図である。
【
図33】
図33は、CD33陽性MV411細胞でのCD33xMIC7+GNE987(1:1)およびDIGxMIC7+GNE987(1:1)のウエスタンブロットを示す図である。プロットの上の濃度は、mol/Lで示されている。マーカーのサイズ(右)は、kDaで示されている。
【
図34】
図34は、MV411細胞でのCD33xMIC7+GNE987(1:1)およびDIGxMIC7+GNE987(1:1)の分解パターンのウエスタンブロット分析を示す図である。
【
図35】
図35は、CD33受容体発現レベルに依存する細胞生存率データの比較を示す図である。50%ローディングのCD33xMIC5+GNE987は、CD33陽性MV411およびMOLM13細胞に対して細胞傷害性を誘導したが、CD33を欠くRAMOS細胞に対してはわずかな効果しか有さなかった。
【
図36】
図36は、CD33陽性MV411細胞に対するGNE987の細胞傷害性と比較した、25、50および75%の、PROTACであるGNE987をローディングしたCD33xMIC5の細胞傷害性を示す図である。
【
図37】
図37は、PROTACであるGNE987P単独と比較した、抗体あたり種々の量のPROTACであるGNE987PがローディングされたCD33xMIC5抗体の細胞生存率データを示す図である。
【
図38】
図38は、PROTACであるGNE987P単独と比較した、抗体あたり、PROTACであるFLT3d1がローディングされたCD33xMIC5抗体の細胞生存率データを示す図である。細胞生存率は処置の6日後に分析した。
【
図39】
図39は、CD33陽性MV411およびCD33陰性RAMOS細胞に対する、事前に複合体形成された、または事前に複合体形成されていない75%ローディング(1:1.5)のCD33xMIC5+GNE987の細胞生存率アッセイを示す図である。事前に複合体形成されていない試料の場合には、抗体(CD33xMIC5)およびPROTAC(GNE987)は、処置として細胞懸濁液に別個に添加した。PROTACであるGNE987は、参照のために細胞に対して試験した。
【
図40】
図40は、CLL1陽性MOLM13およびU937に対する、ならびにCLL1陰性K562細胞に対する75%ローディング(1:1.5)のCLL1xMIC7+GNE987PおよびDIGxMIC7+GNE987Pの細胞生存率アッセイを示す図である。PROTACであるGNE987単独は、参照のために細胞に対して試験した。
【
図41】
図41は、CLL1陽性MV411およびU937細胞に対する、ならびにCLL1陰性RAMOSおよびK562細胞に対する75%ローディング(1:1.5)のCLL1xMIC7+GNE987、CLL1xMIC7+GNE987PおよびCLL1xMIC7+SIM1の細胞生存率アッセイを示す図である。PROTACであるGNE987、GNE987PおよびSIM1を、参照のために細胞に対して試験した。
【
図42】
図42は、B7H3陽性MV411およびU937細胞に対する、ならびにB7H3陰性RAMOS細胞に対する75%ローディング(1:1.5)のB7H3xMIC7+GNE987PまたはB7H3xMIC7+SIM1の細胞生存率アッセイを示す図である。PROTAC単独(GNE987PおよびSIM1)を、参照のために細胞に対して試験した。
【
図43】
図43は、B7H3陽性MV411およびU937細胞に対する、ならびにB7H3陰性RAMOS細胞に対する75%ローディング(1:1.5)のB7H3xMIC7+GNE987およびDIGxMIC7+GNE987の細胞生存率アッセイを示す図である。PROTACであるGNE987を、参照のために細胞に対して試験した。
【
図44】
図44は、NAPI2B陽性OVCAR3およびNAPI2B陰性SKOV3細胞に対する、50%ローディング(1:1)でGNE987、GNE987PまたはSIM1がローディングされたNAPI2BxMIC7およびDIGxMIC7の細胞生存率アッセイを示す図である。PROTACであるGNE987、GNE987PおよびSIM1を参照として細胞に対して試験した。
【
図45】
図45は、EGFR陰性HEPG2およびEGFR陽性MDAMB468細胞に対する、50%のPROTACがローディングされたEGFRxMIC5+GNE987およびセツキシマブベースのEGFR結合性PROTAC-ADC(DAR=1.62)の細胞傷害性の比較を示す図である。
【
図46】
図46は、IV投与後の雌のSCIDベージュマウスにおけるGNE987および81.3%のローディングのMIC2+GNE987複合体のPK研究を示す図である。
【
図47】
図47は、30mg/kgのIV投与後のC57BL/6Nマウスの、100%の理論上のローディングを有するCD33xMIC5+GNE987およびCD33xMIC7+GNE987 PROTAC-抗体複合体のPK研究を示す図である。GNE987の検出された濃度が示されている。
【
図48】
図48は、比較した未改変抗体CD33 Ab、抗体-VHH融合タンパク質CD33xMIC5およびCD33xMIC7ならびにCD33xMIC5およびGNE987がローディングされたCD33xMIC7のクリアランスを示す図である。
【
図49】
図49は、雌のCB17 SCIDマウスにおけるCD33xMIC7+GNE987のMV411異種移植有効性研究を示す図である。30mg/kgのCD33xMIC7+GNE987は、1回または2回与えられた(1日目および8日目)0.38mg/kgのGNE987と比較して、1回または2回与えられた。さらに、1回(1日目)与えられた30mg/kgのCD33xMIC5+GNE987の有効性を評価し、対照として抗体単独(30mg/kg CD33xMIC7)の効果を評価した。
【
図50-1】
図50(a~e)は、新世界ラクダ類の免疫化およびファージディスプレイスクリーニングから得られた抗体VHH配列を示す図である。
【
図50-2】
図50(a~e)は、新世界ラクダ類の免疫化およびファージディスプレイスクリーニングから得られた抗体VHH配列を示す図である。
【
図50-3】
図50(a~e)は、新世界ラクダ類の免疫化およびファージディスプレイスクリーニングから得られた抗体VHH配列を示す図である。
【
図50-4】
図50(a~e)は、新世界ラクダ類の免疫化およびファージディスプレイスクリーニングから得られた抗体VHH配列を示す図である。
【
図50-5】
図50(a~e)は、新世界ラクダ類の免疫化およびファージディスプレイスクリーニングから得られた抗体VHH配列を示す図である。
【
図51】
図51は、抗CLL1抗体6E7L4Hleの配列を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
5 表の表
表1:本発明の抗体の結合エピトープ。
【0051】
表2:MIC2の1:1動態学結合モデルおよび定常状態モデルから導かれたPROTACのMIC1への結合のKDを使用して得られた、MIC2およびPROTACの組合せ(構造、
図8を参照されたい)の親和性パラメータKD、会合速度kon、解離速度koffに関する概要。NM=測定されていない;NB=結合なし。
【0052】
表3:所望のローディングを達成するための必要な最終PROTAC濃度に関する概要。
【0053】
表4:25および50%のローディングでGNE987と複合体形成された、EGFR結合性aEGFRxMIC2および非結合性対照MIC2のIC50値。
【0054】
表5:MDAMB468に対するEGFR結合性aEGFRxMIC2+GNE987複合体および対照のIC50値。効力および標準偏差は、3つの独立実験から導かれた。
【0055】
表6:PBS pH6.8、5%のDMSO最終における抗体-PROTAC複合体の保存安定性評価。
【0056】
表7:ファージディスプレイを使用する抗体ヒット発見キャンペーンのライブラリー特徴。
【0057】
表8:SPRを使用して決定されたVHHクローンのPROTACに対する親和性(KD)。VHHは、抗CD33または抗CLL1抗体のいずれかの重鎖へのC末端付加による抗体融合タンパク質として研究された。N/D - 検出されていない(完全PROTAC構造は、
図8に見出すことができる)。
【0058】
表9:VHH抗体断片との融合のためのIgG型抗体骨格。
【0059】
表10:PAX標的化CD33の命名法。
【0060】
表11:EGFR陽性MDAMB468細胞およびMDAMB468陰性HEPG2細胞での、PROTACであるGNE987と組み合わせた、CD33結合性ゲムツズマブ(G)-およびEGFR-結合性セツキシマブ(c)-ベースのVHH融合タンパク質の細胞プロファイリング。IC50値を使用して、選択性指数を算出した。
【0061】
表12:ウエスタンブロット分析のために使用された一次抗体。
【0062】
表13:CD33陽性MV411細胞およびCD33陰性RAMOS細胞での、PROTACであるGNE987およびGNE987Pと組み合わせた種々のCD33xMIC7またはPROTAC単独の細胞プロファイリング。IC50値は、Mで表されている。
【0063】
表14:PROTACであるARV771、GNE987、GNE987PおよびEGFR陽性細胞およびEGFR陰性HEPG2細胞の細胞プロファイリング。IC50値は、Mで表されている。
【0064】
表15:EGFR陽性細胞およびEGFR陰性HEPG2細胞での、50%のローディングの、PROTACであるGNE987、GNE987PおよびSIM1と組み合わせたEGFRxMIC7の細胞プロファイリング。非内部移行対照として、ジゴキシゲニン結合性DIGxMIC7融合タンパク質を利用した。IC50値は、Mで表されている。
【0065】
表16:EGFR陽性細胞およびEGFR陰性HEPG2およびEGFR-低MCF7細胞での、75%のローディングの、PROTACであるARV771、GNE987、GNE987PおよびSIM1と組み合わせたEGFRxMIC7の細胞プロファイリング。非内部移行対照として、ジゴキシゲニン結合性DIGxMIC7融合タンパク質を利用した。
【0066】
表17:HER2陽性細胞およびHER2陰性MDAMB468細胞での、75%のローディングの、PROTACであるGNE987、GNE987PおよびSIM1と組み合わせたHER2xMIC7の細胞プロファイリング。
【0067】
表18:TROP2陽性細胞およびTROP2陰性SW620細胞での、75%のローディングの、PROTACであるGNE987と組み合わせたTROP2xMIC7の細胞プロファイリング。
【0068】
表19:PROTACであるGNE987がローディングされた、およびローディングされていないMIC5およびMIC7とのCD33ベースのVHH融合物および親抗体CD33 Abの薬物動態パラメータの概要。分析物は30mg/kgで投与され、定量化総抗体(tAntibody)およびPROTACであるGNE987のPKパラメータが表されている。略語:t1/2:半減期;Cmax:最大血清濃度;AUC0-inf:無限時間までの曲線下面積;Cl:クリアランス;Vss:定常状態分布容積。SD:標準偏差。
【0069】
表20:この研究の範囲の概要。調査された組合せは、表形式で表されている。
【0070】
6 発明の詳細な説明
6.1 定義
「PROTAC」(標的タンパク質分解キメラ)は、特定の不必要なタンパク質を除去可能な、2つの活性ドメインおよびリンカーから構成されるヘテロ二機能性小分子である。PROTACは、従来の酵素阻害剤として作用するよりも、選択的タンパク質分解を誘導することによって働く。PROTACは、2つの共有結合によって連結されたタンパク質結合分子:1つは、会合可能であるもの(多くの場合において)、および分解に向けられた標的タンパク質に結合するもう1つのものからなる。標的タンパク質へのE3リガーゼの補充は、ユビキチン化およびその後のプロテアソームによる標的タンパク質の分解をもたらす。この概念は、Deshaies and coworkers in 2001 (Skamoto, K.M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98 (2001) 8554-8559)によって最初に記載された。
【0071】
「抗体」という用語は、モノクローナル抗体(免疫グロブリンFc領域を有する全長抗体を含む)、ポリエピトープ(poly-epitopic)特異性を有する抗体組成物、多特異性抗体、特に、二重特異性抗体、ダイアボディーおよび単鎖分子(例えば、scFv)、単一ドメイン抗体(ナノボディー、例えば、新世界ラクダ類の種、例えば、ラマに由来するVHH)ならびに抗体断片(例えば、Fab、F(ab’)2およびFv)を含む。
【0072】
「免疫グロブリン」(Ig)という用語は、本明細書において「抗体」と互換的に使用される。基本的な4鎖抗体ユニットは、2つの同一の軽(L)鎖および2つの同一の重(H)鎖から構成されたヘテロ四量体糖タンパク質である。IgM抗体は、5つの基本的なヘテロ四量体ユニットと、J鎖と呼ばれる追加のポリペプチドとからなり、10の抗原結合部位を含有するが、IgA抗体は、2~5の基本的な4鎖ユニットを含み、これは、重合し、J鎖と組み合わせて多価集合体を形成できる。IgGの場合には、4鎖ユニットは一般に、約150,000ダルトンである。各L鎖は、1つの共有結合ジスルフィド結合によってH鎖に連結され、一方、2つのH鎖は、H鎖アイソタイプに応じて1つまたは複数のジスルフィド結合によって互いに連結される。各HおよびL鎖はまた、一定間隔の鎖内ジスルフィド橋を有する。各H鎖は、N末端に、可変ドメイン(VH)と、続いて、アルファおよびガンマ重鎖アイソタイプの各々については3つの定常ドメイン(CH)ならびにミューおよびイプシロン重鎖アイソタイプについては4つのCHドメインを有する。各L鎖は、N末端に、可変ドメイン(VL)と、続いて、もう一方の末端に定常ドメインを有する。VLは、VHとアラインされ、CLは、重鎖(CH1)の第1の定常ドメインとアラインされる。特定のアミノ酸残基は、軽鎖と重鎖可変ドメインの間の界面を形成すると考えられる。VHおよびVLの対形成は、単一の抗原結合部位を一緒に形成する。種々のクラスの抗体の構造および特性については、例えば、Schroeder, H., Cavacini, L., J. Allergy Clin. Immunol. 125 (2010), S41-S52を参照されたい。任意の脊椎動物種に由来するL鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパおよびラムダと呼ばれる2つの明確に別個の種類のうちの1つに割り当てることができる。免疫グロブリンは、その重鎖の定常ドメイン(CH)のアミノ酸配列に応じて、異なるクラスまたはアイソタイプに割り当てることができる。5つのクラスの免疫グロブリンがある:それぞれアルファ、デルタ、イプシロン、ガンマおよびミューと名付けられた重鎖を有するIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM。ガンマおよびアルファクラスは、CH配列中の相対的に微量の相違および機能に基づいてサブクラスにさらに分けられる、例えば、ヒトは、以下のサブクラスを発現する:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2。
【0073】
抗体の「可変領域」または「可変ドメイン」とは、抗体の重鎖または軽鎖のアミノ末端ドメインを指す。重鎖および軽鎖の可変ドメインは、それぞれ「VH」および「VL」と呼ばれる場合もある。これらのドメインは一般に、抗体の最も可変部分であり(同一クラスの他の抗体に対して)、抗原結合部位を含有する。
【0074】
「可変」という用語は、可変ドメインのある特定のセグメントが抗体の間で配列において大きく異なるという事実を指す。Vドメインは、抗原結合を媒介し、その抗原に対する抗体の特異性を規定する。しかし、可変性は、可変ドメインのスパン全体にわたって均一に分布しているわけではない。代わりに、軽鎖および重鎖可変ドメインの両方中の超可変領域(HVR)と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然重鎖および軽鎖の可変ドメインは各々、大部分はベータシート配置をとり、3つのHVRによって接続される4つのFR領域を含み、HVRは、ベータシート構造を接続するループを形成し、一部の場合には、ベータシートの一部を形成する。各鎖中のHVRは、他の鎖に由来するHVRとFR領域によって極めて近接して一緒に保持され、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al.,Sequences of Immunological Interest, Fifth Edition, National Institute of Health, Bethesda, MD (1991)を参照されたい)。定常ドメインは、抗体の抗原への結合に直接的に関与しないが、種々のエフェクター機能、例えば、抗体依存性細胞性毒性における抗体の関与を示す。
【0075】
「CDR」という用語は、本明細書で使用される場合、配列において超可変であり、および/または構造的に規定されたループを形成する、抗体可変ドメインの相補性決定領域を指す。一般に、抗体は、6つのCDR;VH中の3つ(H1、H2、H3)およびVL中の3つ(L1、L2、L3)を含む。天然抗体では、H3およびL3は、6つのCDRのうち最も多様性を示し、H3は特に、抗体に微細な特異性を付与する独特の役割を果たすと考えられている。例えば、Xu et al., Immunity 13 (2000) 37-45; Johnson and Wu, Methods Mol. Biol. 248 (2003) 1-25 (Lo, ed., Human Press, Totowa, NJ, 2003)を参照されたい。実際、重鎖のみからなる天然に存在するラクダ類抗体は、軽鎖の非存在下で機能的であり、安定している。例えば、Hamers- Casterman et al., Nature 363 (1993) 446-448;Sheriff et al., Nature Struct. Biol. 3 (1996) 733-736を参照されたい。いくつかのCDR描写が使用されている。ImMunGeneTics(IMGT)特有のLefranc番号付け(IMGT番号付け)(Lefranc, M.-P. et al., Dev. Comp. Immunol. 27 (2003) 55-77)では、FRおよびHVRを規定するために、配列保存、X線回折研究からの構造データおよび超可変ループの特性決定を考慮する。Kabat CDRは、配列可変性に基づいており、これも一般に使用される(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991))。Chothiaは、代わりに構造的ループの位置に言及する(Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196 (1987) 901-917)。本明細書において使用されるCDR描写は、IMGT番号付けに従う。
【0076】
「フレームワーク」または「FR」残基は、本明細書で定義されるようなCDR残基以外の可変ドメイン残基である。
【0077】
「全長抗体」、「無傷の抗体」または「全抗体」という用語は、抗体断片とは対照的にその実質的に無傷の形態の抗体を指すために互換的に使用される。具体的には、全抗体は、Fc領域を含む重鎖および軽鎖を有するもの含む。定常ドメインは、天然配列定常ドメイン(例えば、ヒト天然配列定常ドメイン)またはそのアミノ酸配列バリアントであり得る。一部の場合には、無傷の抗体は、1つまたは複数のエフェクター機能を有し得る。
【0078】
「抗体断片」は、無傷の抗体の一部分、好ましくは、無傷の抗体の抗原結合および/または可変領域を含む。抗体断片の例として、Fab、Fab’、F(ab’)2およびFv断片、ダイアボディー、線形抗体、単鎖抗体分子および抗体断片から形成される多特異性抗体が挙げられる。抗体のパパイン消化によって、「Fab」断片と呼ばれる2つの同一抗原結合断片および残りの「Fc」断片、容易に結晶化する能力を反映する名称が生成される。Fab断片は、全L鎖と、H鎖の可変領域ドメイン(VH)および1つの重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)とからなる。各Fab断片は、抗原結合に関して一価である、すなわち、単一の抗原結合部位を有する。抗体のペプシン処置は、異なる抗原結合活性を有し、依然として、抗原を架橋することが可能である、2つのジスルフィドによって連結されたFab断片に大まかに対応する単一の大きなF(ab’)2断片をもたらす。Fab’断片は、CH1ドメインのカルボキシ末端に抗体ヒンジ領域由来の1個または複数のシステインを含む2、3の追加の残基を有することでFab断片とは異なる。Fab’-SHは、定常ドメインのシステイン残基(複数可)が、遊離チオール基を有するFab’の本明細書における名称である。F(ab’)2抗体断片は元々、それらの間にヒンジシステインを有するFab’断片の対として生成された。抗体断片の他の化学的カップリングも公知である。
【0079】
「scFv」(単鎖Fv)は、ペプチドをコードするリンカーによって連結されたVHおよびVLをコードする遺伝子を含む遺伝子融合物から普通発現される、共有結合によって連結されたVH::VLヘテロ二量体である。本発明のヒトscFv断片は、例えば、遺伝子組換え技術を使用することによって適当なコンフォメーションで保持されるCDRを含む。二価および多価抗体断片は、一価scFvの会合によって自発的に形成される場合も、ペプチドリンカーによって一価scFvをカップリングすることによって生じる場合もある、例えば、二価sc(Fv)2。「dsFv」は、ジスルフィド結合によって安定化されたVH::VLヘテロ二量体である。「(dsFv)2」は、ペプチドリンカーによってカップリングされた2つのdsFvを表す。
【0080】
「二重特異性抗体」または「BsAb」という用語は、2つの異なる抗原結合部位を含む抗体を表す。したがって、BsAbは、2つの異なる抗原と同時に結合できる。例えば、欧州特許出願公開第2050764号明細書に記載されるような、結合特性およびエフェクター機能の所望のセットを有する抗体または抗体誘導体を設計する、改変するおよび生成する頻度が増大するにつれ、遺伝子工学が使用されてきた。
【0081】
「多特異性抗体」という用語は、2つまたはそれより多い異なる抗原結合部位を含む抗体を表す。
【0082】
「ハイブリドーマ」という用語は、抗原特異性を有する所望のモノクローナル抗体を生成する、非ヒト哺乳動物を抗原を用いて免疫化することによって調製されたB細胞を、マウスに由来する骨髄腫細胞などとの細胞融合に供することによって得られる細胞を表す。
【0083】
「ダイアボディー」という用語は、Vドメインの鎖内ではなく鎖間対形成が達成され、それによって、二価断片、すなわち、2つの抗原結合部位を有する断片をもたらすようにVHとVLドメインの間に短いリンカー(約5~10の)残基)を用いてscFv断片(前段落を参照されたい)を構築することによって調製された小さい抗体断片を指す。二重特異性ダイアボディーは、2つの抗体のVHおよびVLドメインが、異なるポリペプチド鎖上に存在する2つの「乗換え」scFv断片のヘテロ二量体である。ダイアボディーは、例えば、欧州特許第0404097号明細書、国際公開第93/11161号パンフレット;Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (1993) 6444-6448により詳細に記載されている。
【0084】
本明細書において、モノクローナル抗体は、重鎖および/または軽鎖の一部分が、特定の種に由来する、または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体における対応する配列と同一であるか、または相同であり、一方、鎖(複数可)の残部が、別の種に由来する、または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体における対応する配列と同一であるか、または相同である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)ならびにそれらが所望の生物活性を示す限り、このような抗体の断片を具体的に含む。
【0085】
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有するキメラ抗体である。一実施形態では、ヒト化抗体は、レシピエントのHVR(本明細書において以下で定義される)に由来する残基が、所望の特異性、親和性および/または能力を有する非ヒト種(ドナー抗体)、例えば、マウス、ラット、ウサギまたは非ヒト霊長類のHVRに由来する残基によって置き換えられているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。一部の場合には、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク(「FR」)残基は、対応する非ヒト残基によって置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、またはドナー抗体にも見出されない残基を含む場合がある。これらの改変は、抗体性能、例えば、結合親和性をさらに精密にするために行われる場合がある。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つの、通常、2つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、これでは、超可変ループのすべてまたは実質的にすべてが、非ヒト免疫グロブリン配列のものに対応し、FR領域のすべてまたは実質的にすべてが、ヒト免疫グロブリン配列のものであるが、FR領域は、抗体性能、例えば、結合親和性、異性化、免疫原性等を改善する1つまたは複数の個々のFR残基置換を含む場合がある。FR中のこれらのアミノ酸置換の数は、通常、H鎖において6以下であり、およびL鎖において3以下である。ヒト化抗体は任意選択で、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部分、通常、ヒト免疫グロブリンのものも含む。さらなる詳細については、例えば、Jones et al., Nature 321 (1986) 522-525;Riechmann et al., Nature 332 (1988) 323-329;およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2 (1992) 593-596を参照されたい。また、例えば、Vaswani and Hamilton, Ann. Allergy, Asthma and Immunol. 1 (1998) 105-115;Harris, Biochem. Soc. Transactions 23 (1995) 1035-1038; Hurle and Gross, Curr. Op. Biotech. 5 (1994) 428-433;および米国特許第6,982,321号明細書および同7,087,409号明細書も参照されたい。
【0086】
「ヒト抗体」は、ヒトによって産生された、および/または本明細書において開示されるようなヒト抗体を作製するための技術のいずれかを使用して作製された抗体のものに対応するアミノ酸配列を有する抗体である。ヒト抗体のこの定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を具体的に排除する。ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリーを含む当技術分野で公知の種々の技術を使用して生成できる。Hoogenboom and Winter, J. Mol. Biol. 227 (1991) 381;Marks et al., J. Mol. Biol., 222 (1991) 581。また、ヒトモノクローナル抗体の調製のために利用可能であるものとして、Dijk and van de Winkel, Curr. Opin. Pharmacol. 5 (2001) 368-74に記載される方法がある。ヒト抗体は、抗原投与に応じて部分または完全ヒト抗体を産生するように遺伝子改変されているが、その内因性遺伝子座が無能にされているトランスジェニック動物に抗原を投与することによって調製できる、例えば、OmniAb治療用抗体プラットフォーム(Ligand Pharmaceuticals)、免疫化したゼノマウス(xenomice)(ゼノマウス(Xenomouse)技術については例えば、米国特許第6,075,181号明細書および同6,150,584号明細書を参照されたい)など。例えば、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術によって作製されたヒト抗体に関しては、Li et al., Proc. Natl. Acad. Set USA 103 (2006) 3557-3562も参照されたい。
【0087】
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、実質的に均一な抗体の集団から得られた抗体を指す、すなわち、集団を構成する個々の抗体は、微量で存在する可能性がある潜在的な天然に存在する突然変異および/または翻訳後修飾(例えば、異性化、アミド化)を除いて同一である。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原部位に対して方向付けられる。各モノクローナル抗体は、通常、異なる決定基(エピトープ)に対して方向付けられる異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、抗原上の単一の決定基に対して方向付けられる。モノクローナル抗体は、その特異性に加えて、それらが他の免疫グロブリンによって汚染されていないハイブリドーマ培養によって合成されるという点で有利である。修飾因子「モノクローナル」とは、抗体の実質的に均一な集団から得られているというような抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の生成を必要とすると解釈されてはならない。例えば、本発明に従って使用されるべきモノクローナル抗体は、例えば、ハイブリドーマ法(例えば、Kohler and Milstein, Nature 256 (1975) 495- 497;Hongo et al., Hybridoma 14 (1995) 253-260、Harlow et al., Antibodies: A Laboratory Manual, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2nd ed. 1988);Hammerling et al., in: Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas 563-681 (Elsevier, N.Y., 1981))、組換え型DNA法(例えば、米国特許第4,816,567号明細書を参照されたい)、ファージディスプレイ技術(例えば、Sidhu et al., J. Mol. Biol. 338 (2004) 299-310;Lee et al., J. Mol. Biol. 340 (2004) 1073-1093;Fellouse, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101 (2004) 12467- 12472;およびLee et al., J. Immunol. Methods 284 (2004) 119-132を参照されたい)、およびヒト免疫グロブリン遺伝子座またはヒト免疫グロブリン配列をコードする遺伝子の部分もしくはすべてを有する動物においてヒトまたはヒト様抗体を生成するための技術(例えば、Jakobovits et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (1993) 2551;Jakobovits et al., Nature 362 (1993) 255-258;Bruggemann et al., Year in Immunol. 7 (1993) 33;Fishwild et al., Nature Biotechnol. 14: (1996) 845-851;Neuberger, Nature Biotechnol. 14 (1996) 826;およびLonberg and Huszar, Intern. Rev. Immunol. 13 (1995) 65-93を参照されたい)を含む、さまざまな技術によって作製され得る。
【0088】
「親和性成熟した」抗体とは、その1つまたは複数のHVR中に1つまたは複数の変更を有し、その結果、それらの変更(複数可)を有さない親抗体と比較して、抗原に対する抗体の親和性が改善するものである。一実施形態では、親和性成熟した抗体は、標的抗原に対してナノモルのまたはさらにはピコモルの親和性を有する。親和性成熟した抗体は、当技術分野で公知の手順によって生成される。例えば、Marks et al., Biotechnology 10 (1992) 779-783には、VH-およびVL-ドメインシャッフリングによる親和性成熟が記載されている。HVRおよび/またはフレームワーク残基のランダム突然変異誘発は、例えば、Barbas et al. Proc Nat. Acad. Sci. USA 91 (1994) 3809-3813;Schier et al. Gene 169 (1995) 147-155;Yelton et al. J. Immunol. 155 (1995) 1994-2004;Jackson et al, J. Immunol. 154 (1995) 3310-9;およびHawkins et al, J. Mol. Biol. 226 (1992) 889-896によって記載されている。
【0089】
本明細書で使用される場合、「に特異的に結合する」または「に特異的な」という用語は、測定可能な、再現可能な相互作用、例えば、生体分子を含む分子の不均一な集団の存在下で標的の存在を決定するものである、標的と抗体の間の結合を指す。例えば、標的(エピトープであり得る)に特異的に結合する抗体は、他の標的に結合するよりもより大きな親和性、アビディティーで、より容易に、および/またはより長い期間この標的に結合する抗体である。
【0090】
「結合親和性」は、一般に、分子の(例えば、抗体の)単一結合部位と、その結合パートナー(例えば、抗原)の間の非共有結合相互作用の総和の強さを指す。別に示されない限り、本明細書で使用される場合、「結合親和性」、「に結合する(bind to)」、「に結合する(binds to)」または「への結合」とは、結合対のメンバー(例えば、抗体Fab断片と抗原)間の1対1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、一般に、解離定数(KD)によって表すことができる。親和性は、本明細書に記載されるものを含む当技術分野で公知の一般的な方法によって測定できる。低親和性抗体は、一般に、抗原にゆっくりと結合し、容易に解離する傾向があるが、高親和性抗体は一般に、抗原により速く結合し、より長く結合したままである傾向がある。結合親和性を測定するさまざまな方法が当技術分野で公知であり、それらのいずれも本発明の目的のために使用できる。結合親和性、すなわち、結合力を測定するための特定の例証的および例示的実施形態が以下に記載されている。
【0091】
本発明に従う「KD」または「KD値」は、抗体のFabバージョンおよび抗原分子を用いて実施される放射標識抗原結合アッセイ(RIA)によって、またはBIACORE機器(BIAcore、Inc.、ニュージャージー州、ピスカタウェイ)を使用する表面プラズモン共鳴アッセイを使用することによって、またはOctet機器(Forte bio、カリフォルニア州、フリーモント)を使用する生体層干渉法アッセイを使用することによって測定できる。
【0092】
本明細書で使用される場合、「コンジュゲート」という用語は、抗体の可変領域(CDR)が非共有結合によって結合した化学的(非生物学的)治療薬を意味する「複合体」とは対照的に、抗体に共有結合によって連結した化学的(非生物学的)治療薬を指す。
【0093】
「精製された」または「単離された」とは、ポリペプチド(例えば、抗体)またはヌクレオチド配列を指す場合には、示された分子が、同種の他の生体高分子の実質的非存在下で存在することを意味する。「精製された」という用語は、本明細書で使用される場合、同一種類の生体高分子の少なくとも75重量%、85重量%、95重量%、96重量%、97重量%または98重量%が存在することを意味する。特定のポリペプチドをコードする「単離された」核酸分子とは、対象ポリペプチドをコードしない他の核酸分子を実質的に含まない核酸分子を指すが、分子は、組成物の基本的特徴に有害に影響を及ぼさない、一部の追加の塩基または部分を含む場合がある。
【0094】
「デグロン」という用語は、本明細書で使用される場合、フォンヒッペル・リンダウ(VHL)リガンドであるPROTACの分解性部分を指す。
【0095】
「弾頭」という用語は、本明細書で使用される場合、分解されるべきタンパク質(例えば、阻害剤またはこのような標的タンパク質)に結合するPROTACの部分を指す。弾頭部分は、本明細書において以下、「標的タンパク質結合剤」または「タンパク質結合剤」または「PB」とも呼ばれる。
【0096】
6.2 本発明の抗体および抗体-PROTAC複合体(PAX)
本発明者らは、特異的抗PROTAC抗体、特に抗VHL-リガンド抗体を作製し、選択することに成功し、これでは、抗体はPROTACのVHLリガンドデグロンに特異的に結合する。
【0097】
したがって、一態様では、本発明は、VHLリガンド、例えば、VH032またはその誘導体に結合する抗体に関する。
【0098】
本発明者らによって作製された抗PROTAC抗体は、MIC1-およびMIC2-由来抗体について
図1および表1によって概説されるような種々の改変を許容しながら、VHLリガンドVH032に結合できる。抗体は、VH032と標的タンパク質結合剤を接続するいくつかの別個のリンカー構造を含む位置R
1およびR
2において、すべての調査された置換を許容する。R
3では、水素およびヒドロキシル置換が許容されるが、標的タンパク質結合部分がリンカーを介してR
3に接続された場合には、抗体結合は抑制された。R
4は、メチルの水素であり得る。R
5およびR
6は両方とも、それぞれ他の位置が水素であると仮定するとヒドロキシル基を含有し得る。位置R
1、R
2、R
5およびR
6では、許容されなかった置換は同定されなかった。
【0099】
文献の概説に基づいた構造分析によって、VHLに会合するPROTACの49.2%がVHLリガンドVH032に基づいているということが明らかになった。VHLに基づくPROTACの29.5%は、追加のメチル基(R
4=Me、
図1)を保持するVH032の近い誘導体を利用する。弾頭付着のためのリンカーはここでは位置R
1において付着される(
図1)。残りのVHLに基づくPROTACは、弾頭への接続がR
3へのリンカー付着によって実行されるか、またはR
4中にヒドロキシメチルのような他の改変を保持する異なるビルドアップのいずれかを使用する。まとめると、本発明において開示される抗PROTAC抗体は、現在公的に知られているVHLに基づくPROTACの少なくとも79%に結合できる。
【0100】
【0101】
したがって、一実施形態では、VH032誘導体は、式Iによって記載でき、
【0102】
【化1】
式中、
R
1またはR
2のうち一方は、弾頭(標的タンパク質結合剤、PB)に接続されたリンカーであり、ただし、
R
2が弾頭-リンカーである場合には、R
1はアセチルであり、および
R
1が弾頭-リンカーである場合には、R
2はメチルであり、
R
3は、H、OH、シアノ、F、Cl、アミノまたはメチルであり、
R
4は、Hまたはメチルであり、
R
5、R
6は、HまたはOHであり、ただし、
R
6がHである場合には、R
5はOHであり、および
R
5がHである場合には、R
6はOHである。
【0103】
より特定の実施形態では、
R1は、PB-Q-(CH2-CH2-O)n-(CH2-CH2-CH2-O)m-(CH2)p-(C=O)-であり、
式中、
PBは、タンパク質結合性弾頭であり、
Qは、NH、C=Oまたは存在せず、
n、mは独立に、0、1、2、3または4であり、
pは、0~10であり、
R2は、メチルであり、
R3、R4、R5およびR6は、上記の通りである。
【0104】
さらにより特定の実施形態では、
R1は、PB-Q-(CH2-CH2-O)n-(CH2-CH2-CH2-O)m-(CH2)p-(C=O)-であり、
式中、
PBは、タンパク質結合性弾頭であり、
Qは、NH、C=Oまたは存在せず、
(i)n、m、pは1であり、または
(ii)nは3もしくは4であり、mは0であり、pは1である、または
(iii)nは1であり、mは0であり、pは2である、または
(iv)nは2であり、mは0であり、pは2である、または
(v)n、mは0であり、pは6、7、8、9もしくは10であり、
R2はメチルであり、
R3、R4、R5およびR6は、上記の通りである。
【0105】
極めて特定の実施形態では、
R1は、PB-NH-(CH2-CH2-O)n-(CH2-CH2-CH2-O)m-(CH2)p-(C=O)-であり、
式中、
PBは、タンパク質結合性弾頭であり、
(vi)QはNHであり、n、m、pは1である、または
(vii)QはNHであり、nは3もしくは4であり、mは0であり、pは1である、または
(viii)Qは存在せず、nは1であり、mは0であり、pは2である、または
(ix)Qは存在せず、nは2であり、mは0であり、pは2である、または
(x)Qは、NHもしくはC=Oであり、n、mは0であり、pは、6、7、8、9もしくは10であり、
R2はメチルであり、
R3、R4、R5およびR6は、上記の通りである。
【0106】
別のより特定の実施形態では、
R1はアセチルであり、
R2は、PB-NH-(CH2)p-S-であり、式中、PBは、タンパク質結合性弾頭であり、pは、1、2、3、4、5または6であり、
R3、R4、R5およびR6は、上記の通りである。
【0107】
実施形態(A)では、抗体は、可変領域がPROTAC結合に関与するCDRを含む全長抗体であり、以下の配列:
HC CDR1: G Y S X1 T X2 X3 Y (配列番号1);
HC CDR2: I T Y S G X4 T (配列番号2);
HC CDR3: X5 X6 Y X7 X8 X9 X10 X11 X12 X13 X14 X15 (配列番号3);
LC CDR1: Q X16 X17 X18 X19 X20 X21 X22 X23 X24 Y (配列番号4);
LC CDR2: X25 X26 X27 (配列番号5);
LC CDR3: X28 Q X29 X30 X31 X32 P Y T (配列番号6);
を有し、
ここで、X1は、IまたはAであり、X2は、GまたはNであり、X3は、DまたはNであり、X4は、GまたはAであり、X5は、AまたはGであり、X6は、KまたはYであり、X7は、GまたはYであり、X8は、存在しないかまたはAであり、X9は、存在しないかまたはVであり、X10は、存在しないかまたはPであり、X11は、DまたはYであり、X12は、GまたはYであり、X13は、GまたはFであり、X14は、RまたはAであり、X15は、DまたはHであり、X16は、SまたはGであり、X17は、LまたはIであり、X18は、Sであるかまたは存在せず、X19は、Yであるかまたは存在せず、X20は、Sであるかまたは存在せず、X21は、Dであるかまたは存在せず、X22は、Gであるかまたは存在せず、X23は、NまたはGであり、X24は、TまたはNであり、X25は、LまたはYであり、X26は、VまたはAであり、X27は、SまたはTであり、X28は、VまたはLであり、X29は、SまたはYであり、X30は、IまたはDであり、X31は、HまたはEであり、X32は、VまたはYである。
【0108】
好ましい実施形態では、CDR配列は、
HC CDR1: G Y S I T G D Y (配列番号7);
HC CDR2: I T Y S G G T (配列番号8);
HC CDR3: A K Y G D G G R D (配列番号9);
LC CDR1: Q S L S Y S D G N T Y (配列番号10);
LC CDR2: L V S (配列番号11);
LC CDR3: V Q S I H V P Y T (配列番号12)
である。
【0109】
極めて特定の実施形態では、抗体は、
図2に示される、MIC 2配列配列番号13および14から選択される軽鎖および重鎖配列の対に対応する。
【0110】
別の極めて特定の実施形態では、抗体は、
図2(a)に示されるように重鎖および軽鎖配列配列番号13および15または13および16を有するBsAbであり、その重鎖に、それぞれHER2結合性VHHまたはEGFR結合性scFvが、
図2(a)および(b)に示されるようにペプチドリンカーを介して融合される。
【0111】
実施形態(B)では、抗体は、PROTAC結合に関与するCDRを含むVHHであり、以下の配列:
CDR1: G X1 X2 X3 X4 X5 X6 X7 (配列番号17);
CDR2: X8 X9 X10 X11 X12 X13 X14 X15 (配列番号18);
CDR3: X16 X17 X18 X19 X20 X21 X22 X23 X24 X25 X26 X27 X28 X29 X30 X31 X32 X33 X34 X35 X36 (配列番号19);
を有し、
ここで、X1は、FまたはRであり、X2は、T、A、SまたはRであり、X3は、LまたはFであり、X4は、DまたはNであり、X5は、DまたはTであり、X6は、YまたはLであり、X7は、AまたはTであり、X8は、I、NまたはLであり、X9は、SまたはTであり、X10は、SまたはWであり、X11は、SまたはNであり、X12は、DまたはGであり、X13は、GまたはDであり、X14は、SまたはNであり、X15は、AまたはTであり、X16は、A、SまたはTであり、X17は、A、VまたはIであり、X18は、S、A、IまたはDであり、X19は、T、Y、RまたはAであり、X20は、R、YまたはGであり、X21は、V、S、LまたはTであり、X22は、L、G、SまたはCであり、X23は、S、A、CまたはPであり、X24は、T、A、SまたはNであり、X25は、P、I、VまたはDであり、X26は、存在しないかまたはVまたはAであり、X27は、D、S、Rまたは存在せず、X28は、V、GまたはPであり、X29は、D、T、GまたはRであり、X30は、Q、I、TまたはRであり、X31は、V、KまたはRであり、X32は、R、IまたはYであり、X33は、Y、Q、FまたはAであり、X34は、VまたはLであり、X35は、E、PまたはDであり、X36は、V、YまたはAである。
ここで、より詳しくは、X1はFであり、X2はTまたはSであり、X3はLまたはFであり、X4はDであり、X5はDであり、X6はYであり、X7はAまたはTであり、X8はIであり、X9はSまたはTであり、X10はSであり、X11はSであり、X12はDであり、X13はGであり、X14はSであり、X15はAまたはTであり、X16はAまたはSであり、X17はVまたはAであり、X18はAまたはIであり、X19はTまたはYであり、X20はGまたはRであり、X21はLまたはSであり、X22はCまたはSであり、X23はPまたはCであり、X24はAまたはSであり、X25はVまたはDであり、X26は存在しないかまたはVであり、X27はRであるかまたは存在せず、X28はGまたはPであり、X29はTまたはGであり、X30はQまたはIであり、X31はKまたはRであり、X32はR、IまたはYであり、X33はFまたはAであり、X34はLであり、X35はEまたはDであり、X36はVまたはYである。
【0112】
好ましい実施形態では、CDR配列は、
図50(a)に示される抗体YU734-F06(MIC7)のもの(配列番号20)
CDR1: G F T L D D Y A (配列番号21)
CDR2: I S S S D G S T (配列番号22)
CDR3: S A I Y R L S C S V V R P T I R Y A L D Y (配列番号23)
または
図50(a)に示された抗体YU733-G10(MIC5)のもの(配列番号24)
CDR1: G F T F D D Y A (配列番号25)
CDR2: I S S S D G S A (配列番号26)
CDR3: A V A T G S C P A D G G Q K I F L E V (配列番号27)
である。
【0113】
極めて特定の実施形態では、VHHは、
図50(a~e)に示された配列から選択された配列に対応する。
【0114】
好ましい特定の実施形態では、VHHは、
図50(a)に示される配列YU734-F06(MIC7、配列番号20)またはYU733-G10(MIC5、配列番号24)に対応する。
【0115】
一実施形態では、実施形態(B)について上記で記載された配列は、BsAbの一部であり、前記配列のN末端は、任意選択で、ペプチドリンカーを介して、標的タンパク質に結合可能である全長抗体のC末端に融合される。
【0116】
好ましい実施形態では、BsAbは、ペプチドリンカーを含む。より好ましい実施形態では、ペプチドリンカーは各々、GSGGGSGGSGGGGSG(配列番号28)の1、2または3回の反復からなる。さらにより好ましい実施形態では、ペプチドリンカーは各々、GSGGGSGGSGGGGSG(配列番号28)の1回の反復からなる。
【0117】
全長抗体の場合には、抗体は、好ましくは、FcRn受容体結合を可能にするIgG1またはIgG4型のものである。
【0118】
一実施形態では、抗体は、単一特異性であり、PROTACにのみ結合する。抗体はまた、二重特異性抗体(BsAb)である場合があり、これでは、第2の特異性は、標的タンパク質に対してである。
【0119】
BsAbの場合には、PROTAC結合は、全長抗体の重鎖または軽鎖のいずれかの、または両鎖のC末端またはN末端のいずれか、または両端に融合された単鎖抗体によって達成され得るが、標的タンパク質結合は、全長抗体の可変領域の6つのCDRによって達成される。
【0120】
あるいは、標的タンパク質結合は、全長抗体の重鎖または軽鎖のいずれかの、または両鎖のC末端またはN末端のいずれか、または両端に融合された単鎖抗体によって達成され、PROTAC結合は、全長抗体の可変領域の6つのCDRによって達成される。
【0121】
本発明に従うBsAbバリアントの例は、
図3に示されている。
【0122】
好ましい実施形態では、本発明に従うBsAbの標的タンパク質は、細胞表面タンパク質、例えば、腫瘍抗原、例えば、HER2またはEGFRである。
【0123】
6.3 核酸、ベクターおよび宿主細胞
本発明の別の態様は、上記で定義されるような本発明の抗体をコードする核酸配列を含む、またはそれからなる単離核酸に関する。
【0124】
通常、前記核酸は、DNAまたはRNA分子であり、任意の適したベクター、例えば、プラスミド、コスミド、エピソーム、人工染色体、ファージまたはウイルスベクター中に含まれる場合がある。
【0125】
「ベクター」、「クローニングベクター」および「発現ベクター」という用語は、宿主を形質転換し、導入された配列の発現(例えば、転写および翻訳)を促進するために、それによってDNAまたはRNA配列(例えば、外来遺伝子)を宿主細胞中に導入することができる媒体を意味する。したがって、本発明のさらなる態様は、上記で定義されるような本発明の核酸を含むベクターに関する。このようなベクターは、対象への投与の際に前記ポリペプチドの発現を引き起こす、または指示するために、調節エレメント、例えば、プロモーター、エンハンサー、ターミネーターなどを含み得る。
【0126】
本発明のさらなる態様は、本発明に従う核酸および/またはベクターをトランスフェクトされている、感染しているまたは形質転換されている宿主細胞に関する。
【0127】
「形質転換」という用語は、宿主細胞が導入された遺伝子または配列を発現して、導入された遺伝子または配列によってコードされる所望の物質、通常、タンパク質または酵素を産生するような、宿主細胞への「外来」(すなわち、外因性)遺伝子、DNAまたはRNA配列の導入を意味する。導入されたDNAまたはRNAを受け取り、発現する宿主細胞は、「形質転換」されている。
【0128】
本発明の核酸は、適した発現系において本発明の抗体を生成するために使用され得る。「発現系」という用語は、例えば、ベクターによって保持される、および宿主細胞に導入された外来DNAによってコードされるタンパク質の発現のための、適した条件下での宿主細胞および適合したベクターを意味する。
【0129】
一般的な発現系として、大腸菌(E. coli)宿主細胞およびプラスミドベクター、昆虫宿主細胞およびバキュロウイルスベクターならびに哺乳動物宿主細胞およびベクターが挙げられる。宿主細胞の他の例として、制限するものではないが、原核細胞(例えば、細菌)および真核細胞(例えば、酵母細胞、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞など)が挙げられる。特定の例として、大腸菌(E. coli)、クリベロマイセス属(Kluyveromyces)またはサッカロミセス属(Saccharomyces)の酵母、哺乳動物細胞株(例えば、ベロ細胞、CHO細胞、HEK細胞、3T3細胞、COS細胞など)が挙げられる。
【0130】
6.4 本発明の抗体を生成する方法
本発明の抗体は、当技術分野で公知の任意の技術、例えば、制限するものではないが、単独または組み合わせた、任意の化学的、生物学的、遺伝学的または酵素的技術によって生成され得る。
【0131】
所望の抗体のアミノ酸配列を知ることで、当業者は、ポリペプチドの生成のための標準技術を使用して前記抗体または免疫グロブリン鎖を容易に生成できる。例えば、市販のペプチド合成装置(例えば、Applied Biosystems、カリフォルニア州、フォスターシティーによって製造されたもの)を使用し、製造業者の使用説明書に従って周知の固相法を使用してそれらを合成できる。あるいは、本発明の抗体および免疫グロブリン鎖を、当技術分野で周知であるような組換えDNA技術によって生成できる。例えば、これらのポリペプチド(例えば、抗体)は、発現ベクターへ所望のポリペプチドをコードするDNA配列を組み込み、適した真核生物または原核生物宿主へ、所望のポリペプチドを発現するこのようなベクターを導入した後に、DNA発現生成物として得ることができ、適した真核生物または原核生物宿主から周知の技術を使用してそれらを後に単離できる。
【0132】
さらなる態様にでは、本発明は、本発明の抗体を生成する方法に関し、方法は、(i)本発明に従う形質転換された宿主細胞を培養すること、(ii)抗体を発現させること、および(iii)発現された抗体を回収することからなるステップを含む。
【0133】
本発明の抗体は、従来の免疫グロブリン精製手順、例えば、プロテインA-セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析またはアフィニティークロマトグラフィーなどによって培養培地から適宜分離できる。
【0134】
本発明のFabは、本発明の抗体(例えば、IgG)をプロテアーゼ、例えば、パパインで処置することによって得ることができる。また、Fabは、抗体のFabの両鎖をコードするDNA配列を、原核生物発現用または真核生物発現用のベクター中に挿入することおよびFabを発現させるためにベクターを原核細胞または真核細胞(必要に応じて)中に導入することによって生成できる。
【0135】
本発明のF(ab’)2は、本発明の抗体(例えば、IgG)をプロテアーゼ、ペプシンで処置して得ることができる。また、F(ab’)2は、以下に記載されるFab’をチオエーテル結合またはジスルフィド結合によって結合することによって生成できる。
【0136】
本発明のFab’は、本発明のF(ab’)2を還元剤、例えば、ジチオトレイトールで処置することによって得ることができる。また、Fab’は、抗体のFab’鎖をコードするDNA配列を原核生物発現用のベクターまたは真核生物発現用のベクター中に挿入することおよびその発現を実施するためにベクターを原核細胞または真核細胞(必要に応じて)中に導入することによって生成できる。
【0137】
6.5 PROTACを可溶化および安定化すること
PROTACは疎水性であることが多く、これがそのin vivo適用性を制限するが、抗体は一般に十分に可溶性である。したがって、本発明の抗PROTAC抗体のPROTACのデグロン部分への結合は、周囲の溶媒からPROTACを部分的にマスクする。これの正味の結果は、抗体結合の可溶化効果、すなわち、溶解度の改善であり、これは、in vivo投与および異種移植研究にとって有利である。
【0138】
さらに、PROTACは、弾頭、リンカーおよびデグロン部分にいくつかの代謝ソフトスポットを有し(Goracci, L. et al., J. Med. Chem. 63 (2020) 11615-11638)、これがその代謝安定性を制限する。PROTACの本発明の抗体との複合体形成によって、PROTACの代謝酵素への立体的到達性が制限され、代謝的安定性の改善につながる。
【0139】
6.6 医薬組成物
本発明のPAXは、薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤と、任意選択で、それだけには限らないが、生分解性ポリマー、非生分解性ポリマー、脂質または糖のクラスを含む徐放性マトリックスと組み合わせて、医薬組成物を形成することができる。
【0140】
したがって、本発明の別の態様は、本発明のPAXおよび薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤を含む医薬組成物に関する。
【0141】
「医薬品」または「薬学的に許容される」とは、必要に応じて哺乳動物、特にヒトに投与された場合に有害な、アレルギー性またはその他の不必要な反応をもたらさない分子実体および組成物を指す。薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤とは、非毒性固体、半固体または液体増量剤、希釈剤、カプセル化剤または任意の種類の製剤化助剤を指す。
【0142】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」には、生理学的に適合しているありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤などが含まれる。適した担体、希釈剤および/または賦形剤の例として、それだけには限らないが、水、アミノ酸、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、緩衝液リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩;アミノ酸および誘導体、例えば、ヒスチジン、アルギニン、グリシン、プロリン、グリシルグリシン;無機塩、例えば、ナトリウムまたは塩化カルシウム;糖または多価アルコール、例えば、デキストロース、グリセロール、エタノール、スクロース、トレハロース、マンニトール;界面活性剤、例えば、ポリソルベート80、ポリソルベート20、ポロキサマー188などのうち1つまたは複数ならびにそれらの組合せが挙げられる。多くの場合、医薬組成物中に等張性剤、例えば、糖、多価アルコールまたは塩化ナトリウムを含むことは有用であり、製剤はまた、抗酸化物質、例えば、トリプタミンおよび/または分解防止剤、例えば、Tween 20を含有する場合がある。
【0143】
医薬組成物の形態、投与の経路、投与量およびレジメンは、当然、処置されるべき状態、疾病の重症度、患者の年齢、体重および性別などに応じて変わる。
【0144】
本発明の医薬組成物は、非経口、静脈内、筋肉内または皮下投与などのために製剤化できる。
【0145】
一実施形態では、医薬組成物は、注射用の製剤のために薬学的に許容される媒体を含有する。これらは、等張性で、無菌の生理食塩水溶液(リン酸一ナトリウムまたは二ナトリウム、塩化ナトリウム、カリウム、カルシウムまたはマグネシウムなどまたはこのような塩の混合物)または場合に応じて、滅菌水もしくは生理食塩水を添加すると、注射用溶液の構成が可能になる乾燥、特に凍結乾燥組成物であり得る。
【0146】
医薬組成物は、薬物組合せデバイスによって投与できる。
【0147】
投与のために使用される用量は、種々のパラメータの関数として、例えば、使用される投与の様式の、関連する病態の、あるいは所望の処置期間の関数として適応させることができる。
【0148】
医薬組成物を調製するために、本発明のPAXの有効量を、薬学的に許容される担体または水性培地に溶解または分散させることができる。
【0149】
注射用使用に適した医薬品形態として、滅菌水溶液または分散物;ゴマ油、ピーナッツ油または水性プロピレングリコールを含む製剤;および滅菌注射用溶液または分散物の即時調製用の滅菌粉末が挙げられ、すべてのこのような場合において、形態は、分解を伴わない送達のための適当なデバイスまたはシステムを備えた無菌で、注射用でなくてはならず、製造および保存の条件下で安定でなくてはならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保存されなければならない。
【0150】
無菌注射用溶液は、必要な量の活性化合物を必要に応じて上記で列挙された他の成分のいずれかとともに適当な溶媒中に組み込むこと、続いて、滅菌濾過することによって調製できる。一般に、分散物は、種々の滅菌有効成分を、基本分散媒および上記で列挙されたものから必要な他の成分を含有する滅菌媒体に組み込むことによって調製できる。滅菌注射用溶液の調製のための滅菌粉末の場合には、調製方法は、その事前に滅菌濾過された溶液から有効成分および任意の追加の所望の成分の粉末が得られる真空乾燥および凍結乾燥技術を含む。
【0151】
水溶液中の非経口投与用には、例えば、溶液を必要な場合には適宜緩衝させ、液体希釈剤をまず、十分な生理食塩水またはグルコースを用いて等張性にできる。これらの水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下および腹腔内投与に特に適している。これに関連して、使用できる滅菌水性媒介物は、本開示を踏まえて当業者に公知である。例えば、1投与量を1mlの等張性NaCl溶液に溶解し、1000mlの皮下点滴療法液に添加するか、または提案された注入部位に注射できる(例えば、"Remington’s Pharmaceutical Sciences" 15th Edition, pages 1035-1038 and 1570-1580を参照されたい)。投与量の幾分かの変動は、処置されている対象の状態に応じて必然的に生じる。いずれにしても、投与責任者は、個々の対象に適切な用量を決定する。
【0152】
本発明のPAXは、例えば、用量あたり約0.01~100ミリグラムなどを含むように治療用混合物内に製剤化され得る。
【0153】
特定の態様では、第1の医薬組成物はPAXを含み、第2の医薬組成物は、前記PAXのPROTAC構成成分のみを含む。
【0154】
別の特定の態様では、第1の医薬組成物は、PAXの抗体構成成分のみを含み、第2の医薬組成物は、前記PAXのPROTAC構成成分のみを含む。
【0155】
6.7 治療方法および使用
上記および下記のように、本発明者らは、本発明のPAXは、所与のPROTACを標的細胞に効果的に送達できるということを見出した。さらに、彼らは、前記PAXが、そのPROTACペイロードを標的細胞のサイトゾル中に放出し、そこでPROTACがその標的タンパク質の分解を媒介することを示した。
【0156】
したがって、一実施形態では、本発明は、医薬として使用するためのPAXまたはその医薬組成物を提供する。
【0157】
別の態様では、本発明は、PROTACの標的タンパク質の分解から恩恵を受ける疾患、例えば、がんを処置する方法であって、本発明のPAXまたは医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法を提供する。
【0158】
特定の実施形態では、PAXまたは前記PAXを含む医薬組成物がまず投与され、PAXのPROTAC構成成分単独または前記PROTACを含む医薬組成物のその後の投与が続き、そのPROTACペイロードを放出した抗体が、さらなるPROTAC構成成分に結合し、それらを標的細胞に送達することを可能にする。
【0159】
別の特定の実施形態では、PAXの抗体構成成分または前記抗体を含む医薬組成物がまず投与され、その後、PAXのPROTAC構成成分または前記PROTACを含む医薬組成物が投与され、in vivoで抗体がそのPROTAC「抗原」に結合し、それらを標的細胞に送達することが可能になる。
【0160】
さらなる態様では、PAXの抗体構成成分は、(i)PROTACのin vivo半減期を増大するために(すなわち、分解を減速するために)、(ii)PROTACの持続放出製剤(すなわち、より長い期間にわたって有効であることを可能にする)として、または(iii)それらを一時的に中和し、その結果、毒性閾値が低下することによってPROTACの毒性効果に対抗する解毒薬として使用される。
【0161】
一実施形態では、PAXの抗体構成成分は、抗体断片、例えば、Fc断片である。
【0162】
6.8 非治療的使用
本発明の抗PROTAC抗体、好ましくは、単一特異性抗体はまた、非治療的適用、例えば、PROTACを検出、定量化または精製するために使用され得る。
【0163】
一実施形態では、このような使用のために、抗体はクロマトグラフィーカラムまたはいくつかの他の固相支持体上に固定化される。
【0164】
6.9 キット
最後に、本発明はまた、少なくとも1つの本発明の抗体またはPAXを含むキットを提供する。
【0165】
本発明のPAXを含有するキットは、単剤療法である場合も併用療法である場合もある治療目的で使用されることがあり、この場合には、それらは追加の医薬成分を含む1つまたは複数のさらなる医薬組成物を含有する。治療用キットはまた、投与指示を有する添付文書を含有することもある。
【0166】
本発明の抗体を含有するキットはまた、診断目的または検出目的のために使用され得る。このようなキットでは、抗体は通常、固相支持体、例えば、組織培養プレートまたはビーズ(例えば、セファロースビーズ)にカップリングされ、in vitroで、例えば、ELISAまたはウエスタンブロットにおいてPROTACを検出および/または定量化するために使用される。検出のために有用なこのような抗体には、標識、例えば、蛍光または放射標識が提供される場合がある。
【実施例】
【0167】
7 実施例
7.1 抗PROTAC抗体MIC1およびMIC2
7.1.1 ハプテンコンジュゲーション
免疫原の調製および化合物をスクリーニングするために、VH032をベースとするハプテン(VHL-1、VHL-6、VHL-7、VHL-c(
図4)を、コンジュゲーション緩衝液(0.1M MES、0.9M NaCl、0.02%のナトリウムアジド;pH4.7)中に4mg/mLの最終濃度に別個に溶解し、10mg/mLのウシ血清アルブミン(BSA)または10mg/mLのキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、10mg/mLのカチオン性BSA(cBSA)および7mg/mLのヒトFc(huFc)の溶液のいずれかと混合した(1:100の最終タンパク質:ハプテンモル比)。
【0168】
この混合物に、10mg/mLの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)の水溶液を添加し(最終タンパク質EDCモル比1:1750)、反応物を一晩インキュベートした。反応混合物を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、0.137MのNaCl、0.0027MのKCl、0.01MのNa
2HPO
4、0.0018MのKH
2PO
4、pH7.4)(7K MWCO、Thermo Scientific)中で事前に平衡化されたZeba Spin脱塩カラムで精製した。タンパク質濃度を、Bradford試薬を用い、標準としてコンジュゲートされていないKLHまたはBSAを使用して決定した。MALDI-MSによってBSAおよびhuFcコンジュゲートについてコンジュゲーション効率を試験した。個々のコンジュゲーション各々について、おおよそのハプテン対担体タンパク質比を導き出すことができる(
図5)。
【0169】
7.1.2 免疫化およびハイブリドーマスクリーニング
BALB/cおよびCD-1マウスならびにSDラットを、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)にコンジュゲートされたハプテンVHL-1、VHL-6およびVHL-7の等モル混合物(
図4)を免疫原担体タンパク質として用いて免疫化した。免疫原の注射後、すべての動物の血清を、ELISAを使用してBSA-ハプテンコンジュゲートを用いて瞬時に抗体応答について調べた。動物は免疫応答を示し、ハイブリドーマスクリーニングを使用するVHL-リガンド結合性抗体についての免疫レパートリースクリーニングにつながった。
図6は、詳細な作業計画を示す。
【0170】
7.2 MIC抗体の製造
Life Technologies製の対応するトランスフェクションキットおよび培地を使用し、製造業者の使用説明書に従って、Expi293F細胞における重鎖および軽鎖の一時的トランスフェクションによって単一特異性抗体を発現させた。重鎖については50μgのプラスミドDNAおよび軽鎖については100μgのプラスミドDNAを、10mLのOptiMEM培地で希釈した。536μLのExpiFectamineを10mLのOptiMEMに添加し、続いて、5分間室温でインキュベートした。次いで、プラスミド希釈物を添加した。室温で20分間インキュベートした後、mLあたり2.9×106個の生存細胞の細胞密度で混合物を180mLのExpi293細胞に添加した。細胞懸濁液を37℃、5%のCO2、80rpmで、湿性雰囲気下でインキュベートした。18~22時間後、1mLのエンハンサー1および10mLのエンハンサー2を添加した。37℃で5%のCO2を用い、振盪しながら、湿性雰囲気下で4日間さらにインキュベートした後、抗体を遠心分離(3000rpmで30分)によって回収し、0.22μmのボトルトップフィルターを用いて滅菌濾過した。
【0171】
AktaXpressシステムを使用するプロテインAアフィニティークロマトグラフィー、続いて、分取SEC(HiLoad 16/60 Superdex 200 prep grade)によって上清を精製して、凝集体を除去した。超遠心フィルターユニット(30k MWCO、Amicon)を使用して抗体を濃縮し、滅菌濾過し、280nmでのUV-VIS分光法によってタンパク質濃度を決定した。抗体を同一性に関して分析的SEC、SDS-PAGEおよびLC-MSによって特性決定した。
【0172】
7.3 PROTACに結合する抗体の多用途性
ヒット抗体MIC1およびMIC2のVH032をベースとするPROTACの多様なセットに対する結合親和性(
図8)を、Biacore T200機器において表面プラズモン共鳴(SPR)によって決定した。ランニング緩衝液は、PBS、0.05%のTween-20、2%のDMSOからなり、温度および流速はそれぞれ30℃および30μL/分に設定した。アッセイ設定は、
図7に例示的に表されている。CM5センサーチップを抗体(=リガンド;2500RU)を用い、標準EDC/NHS化学を使用してコーティングした。PROTAC(=分析物)をランニング緩衝液で段階希釈し(1μM~1.9nM)、連続実行で機器に注入し、抗体によって捕捉し、その結果、対応するSPR応答が増大した。会合ステップ(300秒)後、ランニング緩衝液を600秒間注射し、抗体から解離したPROTACはシグナル減少につながった。各実行の後、2×30秒間の10mMのグリシン/HCl、pH1.5の注入によって固定化抗体から残存する結合しているPROTACを除去し、次の会合および解離サイクルのために抗体を再生した。マトリックス効果を補償するために、測定されたSPR応答シグナルは、リガンドを省略した不活性化(EDC/NHS、エタノールアミン)参照表面に対する分析物応答によって差し引かれた。さらに、DMSO溶媒補正を実施し、分析物応答は、ランニング緩衝液シグナルによって差し引かれた。補正された応答を1:1動態学的結合モデルによってフィッティングし、PROTACの結合速度(k
on)および解離速度(k
off)ならびにその解離定数(K
D)を得た。
【0173】
16の別個のPROTACと組み合わせたMIC2について、親和性パラメータが、対応するKD、会合速度konおよび解離速度koffを用いて表形式(表2)でまとめられている。16のうち13(81.3%)のPROTACが、ナノモルのKDでMIC2の結合を受けた。表2はまた、MIC2の結合を受けなかった1つのPROTACに結合できたMIC1の親和性データも含有する。
【0174】
【0175】
7.4 MIC2およびPROTACを使用するPAXの製造
抗体MIC2を、グリシン-セリンリンカー配列、続いて抗EGFR VHH抗体配列または抗HER2 scFv配列をMIC2の重鎖にC末端に遺伝子的に融合することによって二重特異性形式に再編成した。生成は、単一特異性抗体について先に記載したように行った。EGFRおよびHER2が細胞の細胞表面で発現される腫瘍関連抗原であり、したがって抗体結合に到達できるのでそれらを選択した。さらに、それらは、抗体-薬物コンジュゲートの開発においてすでに適用されており、これは、腫瘍モデルの利用可能性、十分な発現および内部移行に関する標的としてのそれらの有用性を裏付ける。
【0176】
複合体形成は以下の通りに実施した:10μM(最終)aEGFRxMIC2またはaHER2xMIC2を、PBS pH7.4中で、DMSO中のGNE987と混合して、所望のローディング(表3)を達成した。PBS pH7.4溶液中、5%のTween-20を0.3%の最終濃度に添加した。試料を、650rpmで振盪しながらThermoMixerで25℃で3時間インキュベートした。水性Tween-20は、サイズ排除クロマトグラフィーを使用する複合体調査のために添加しなかった。
【0177】
【0178】
PROTACのセットに対する親和性を再度評価して、PROTAC結合を確認した。全体として、二重特異性抗体の親和性は、MIC2の親和性と同等であった(
図9)。
【0179】
7.4.1 ローディング依存性複合体形成
aEGFRxMIC2に0、10、25、50、75および100%のGNE987 PROTACをローディングし、SECシステム中に直ちに注入した。抗体aEGFRxMIC2は3.15分で溶出した。第2のピークはローディングが増大した3.48分で現れ、1つのPROTAC分子がローディングされた抗体aEGFRxMIC2に対応した。ローディングのさらなる増大は、4.04分での第3のピーク(抗体あたり2つのPROTAC)の出現につながる。全体的に、ピーク分布は、ローディングが増大するにつれ遅い溶出時間に移動する(
図10)。
【0180】
7.4.2 十分にローディングされた複合体の精製および複合体安定性
aEGFRxMIC2抗体に200%のGNE987をローディングした。試料を半分に分け、一方の部分をZeba Spin脱塩カラム、40K MWCO、75μLを製造業者の使用説明書に従って使用してPBS pH7.4中で脱塩した。クロマトグラムは、DMSOの除去およびおよそ5.7分で溶出するPROTACを示す(
図11)。
【0181】
未精製および精製抗体-PROTAC複合体について、
図11からのピークを積分し、ピーク分布をプロットした(
図12)。ピーク分布は、脱塩プロセスによって影響を受けないままであり、PAXをPROTACローディングに全く影響を及ぼさずに過剰のPROTACまたは他の小分子から精製できるということを示す。
【0182】
aEGFRxMIC2+GNE987複合体を10μMのタンパク質濃度で室温で70時間の経過にわたって研究して、PBS pH7.4中で複合体安定性を経時的に評価した。ピーク分布は、インキュベーション時間の増大によって影響を受けず(
図13)、70時間にわたる複合体安定性を示す。
【0183】
7.5 PAXアプローチの機能性
7.5.1 共有結合PROTAC-ADC
対照PROTAC-ADCを、1(
図14)の、L328C突然変異を保持していた抗EGFR抗体セツキシマブ(C225)へのコンジュゲーションによって国際公開第2020086858号パンフレットに従って調製した。最終コンジュゲートは、97.0%の単量体含量を有しながら、質量スペクトルによれば1.62の薬物抗体比を有していた。
【0184】
7.5.2 BRD4分解
BRD4の分解の際に誘導される強い薬理学的効果(細胞死)のために、BRD4を開示された本発明のためのモデルタンパク質として選択した。標的化BRD4分解の評価のために、MDA-MB-468細胞を黒色96ウェル透明底プレートに播種し(10,000個細胞/ウェル)、続いて湿性チャンバー中で一晩インキュベートした(37℃、5%のCO2)。D300eデジタルディスペンサー(Tecan)を使用して試験化合物を添加し、43時間インキュベートした(37℃、5%のCO2、湿性チャンバー)。細胞をPBSで3回洗浄し、2%(v/v)ホルムアルデヒド中で、室温で15分間固定し、再度洗浄した(3回)。細胞を透過処理するために、0.2%(v/v)のTriton-X-100を添加し室温で10分間おき、PBSで洗浄すること(3回)によって除去した。PBS中、3%(w/v)のBSAを用い、室温で60分間ウェルをブロッキングし、瞬時に洗浄し、細胞を3%のBSA/PBSで希釈した2.3μg/mLのウサギ抗BRD4抗体(Abcam)とともに4℃で60分間一晩インキュベートした。PBSで洗浄した(3回)後、細胞を、二次標識性AF488ヤギ抗ウサギ抗体(3%のBSA/PBS中、5μg/mL)とともに暗所、室温で120分間インキュベートし、瞬時に洗浄し、核をHoechst 33342(5μg/mL 3%のBSA/PBS)を用いて暗所、室温で90分間染色した。最終洗浄ステップ後、細胞を0.1%(w/v)のナトリウムアジド中で保存し、Cytation 5細胞イメージングリーダー(Biotek)に移した。DAPI(核)および緑色蛍光タンパク質(BRD4)フィルターキューブを適用して撮像し、BioTek gen5データ分析ソフトウェアを用いて処理した。核BRD4レベルの定量的分析のために、DAPI染色と共存する緑色蛍光(AF488)のみをカウントした。緑色蛍光は細胞数に対して正規化され、未処置細胞に対して表された。
【0185】
図15は、BRD4レベルの例示的画像を示す。より高い蛍光は、MDAMB468細胞におけるBRD4のより高い利用可能性を示すことに留意することは重要である。未処置細胞は、最も強い緑色蛍光を示し、これは、GNE987、抗EGFR PROTAC-抗体-薬物コンジュゲート、EGFR抗体セツキシマブ(短いC225)をベースとするC225-L328C-GNE987および50%のGNE987がローディングされたaEGFRxMIC2によって媒介されるBRD4分解によって抑制され得る。それらの分子は、BRD4分解に対して同等の効果を有する。GNE987による分解の誘導は、MDAMB468細胞に結合しないaHER2xMIC2との複合体形成によって低減され得る。
【0186】
核中の蛍光を使用して、分析物の分解効果を定量化できる(
図16)。蛍光画像においてすでに観察された傾向が、濃度の全範囲にわたって再度可視できるようになる(
図16A)。より簡単な比較を容易にするために、4nMの処置濃度でのBRD4値の拡大表示を作製した(
図16B)。GNE987は、最強の分解効果を有しており、39.0%の残存するBRD4まで到達した。GNE987をローディングしたaEGFRxMIC2およびC225-L328C-GNE987は、ほぼ同一の方法でBRD4を分解した(それぞれ44.0%および44.2%)。GNE987がローディングされたaHER2xMIC2によって誘導される分解は、57.3%になり、これは、対応するaEGFRxMIC2+GNE987複合体と比較して13.3%低かった。
【0187】
結論
GNE987と複合体形成されたaEGFRxMIC2は、PROTACであるGNE987およびPROTAC-抗体-薬物コンジュゲート、C225-L328C-GNE987と同様にEGFR発現性MDAMB468細胞においてBRD4分解を誘導した。aHER2xMIC2+GNE987複合体は、HER2発現を欠くためにMDAMB468細胞に入ることができないので、GNE987と複合体形成されたaHER2xMIC2についてはBRD4分解の減少が観察された。
【0188】
7.5.3 BRD4分解性PROTACの抗体媒介性送達による選択的細胞死滅
BRD4分解は、いくつかの細胞株で強力な細胞死滅を誘導すると示されており、ナノモル~ナノモル未満の範囲で効力を有する(Pillow, T. H. et al., ChemMedChem 15 (2020) 17-25)。
【0189】
ウェルあたり2000個の細胞を白色-不透明の384ウェルプレート中に播種し、続いて、湿性チャンバー中、37℃および5%のCO2で一晩インキュベートした。複合体形成は、7.4章に記載されるように実施した。
【0190】
Tecan D300eディスペンサーを使用し、抗体濃度に基づいて溶液を細胞に添加し、すべてのウェルを、PBS pH7.4中、0.3%のTW20およびDMSOを使用して同一容量に標準化した。このアッセイは、CellTiter-Glo Luminescent細胞生存率アッセイを製造業者のプロトコールに記載されるように使用して、別段の記載がない場合には3日後に行った。手短には、プレートを室温に30分間平衡化した。100mLのCellTiter-Glo緩衝液をCellTiter-Glo基質フラスコに添加し、十分に混合した。30μLの試薬を各ウェルに移した。550rpmで振盪しながら室温で3分間インキュベートした後、プレートを室温でさらに10分間インキュベートした。発光をEnvisionリーダーで読み取った。試料で処置した細胞を未処置細胞に対して正規化することによってGraphPad Prism 8を使用して評価を実施した。データを4点ロジスティック曲線を用いてフィッティングして、IC50値を決定した。
【0191】
EGFR高発現MDAMB468細胞で、BRD4分解性PROTACであるGNE987ならびにEGFR-結合性PROTAC-抗体コンジュゲーションC225-L328C-GNE987(DAR=1.62)および50%のGNE987と複合体形成されたEGFR標的化二重特異性抗体aEGFRxMIC2(1:1)は、同等の効力を有していた。GNE987の細胞傷害性効果は、VH032-結合性抗体MIC2ならびに非結合性aHER2xMIC2+GNE987(1:1)ととものインキュベーションによって抑制された(
図17)。PROTACを伴わない二重特異性抗体は、試験された濃度の範囲で細胞生存率に対して効果を有さなかった。
【0192】
二重特異性抗体および抗VH032抗体MIC2のローディングの25%への低減は、EGFR標的化複合体aEGFRxMIC2+GNE987(1:0.5)の効力を低減した。同時に、非結合性対照aHER2xMIC2およびMIC2の細胞生存率に対する影響も、より低いローディングで低減された(
図18)。
【0193】
非結合性対照複合体MIC2+GNE987およびEGFR標的化aEGFRxMIC2+GNE987の効力は、複合体のローディングに応じて変わる(表4)。
【0194】
【0195】
選択指数は、各それぞれのローディングについて非結合性対照複合体の効力をEGFR標的化aEGFRxMIC2+GNE987複合体によって除することによって算出できる。選択指数は、50%(1:1)ローディングについては12.9になり、25%(1:0.5)ローディングについては29.4になる。
【0196】
実験は生物学的3連物で実施した。分子の効力は、表5にまとめられ、
図19で図によって表されている。
【0197】
【0198】
GNE987のEGFR結合性aEGFRxMIC2との複合体形成は、非結合性aHER2xMIC2のGNE987との複合体と比較して42倍高い効力に、また、非結合性MIC2抗体のGNE987との複合体と比較して21倍高い効力につながる。
【0199】
さらに、50%のGNE987と複合体形成されたaEGFRxMIC2ならびにaHER2xMIC2を、PROTACであるGNE987単独、非標的化MIC2+GNE987複合体およびEGFRを標的化するPROTAC-ADC(C225_L328C-GNE987)を含むいくつかのベンチマークと一緒にEGFR陰性細胞株HEPG2で調査した(
図20)。PROTAC自体はHEPG2細胞に対して強い抗増殖性効果を有し、3.1nMのIC
50値を有するが、すべての抗体ベースの構築物は、>100nMのIC
50値を有していた。GNE987と複合体形成されたaEGFRxMIC2およびMIC2は、GNE987の毒性を最も強く抑制し、100nMで最初の毒性(約10%)しか誘導しなかった。
【0200】
結論
細胞生存率アッセイデータは、BRD4分解データを裏付ける。A)aEGFRxMIC2+GNE987(50%)複合体は、PROTAC-ADC C225-L328C-GNE987およびPROTACであるGNE987と比較してEGFR発現性MDAMB468細胞に対して同様の細胞傷害性効果を示す。B)それらが標的化部分を完全に欠くので(MIC2+GNE987(50%))、または抗体の標的受容体がMDAMB468上で発現されないので(aHER2xMIC2+GNE987(50%))細胞に入ることができない抗体複合体は、抗増殖性効果を減少させた。さらに、EGFRを発現しないHEPG2細胞で、すべての抗体をベースとする複合体およびコンジュゲートの細胞傷害性は、標的化部分を欠くPROTAC単独と比較して減少した。
【0201】
7.5.4 さらなるPROTACの標的化送達
別のPROTACの標的化送達を実証するために、親水性PEGリンカーを有するGNE987類似体、GNE987P(
図21)を、MIC2またはaEGFRxMIC2と複合体形成し、EGFR発現性MDAMB468細胞でインキュベートした(
図22)。aEGFRxMIC2+GNE987Pは、0.1~10nMの濃度範囲でGNE987P単独と比較して細胞傷害性の増大を媒介し、aEGFRxMIC2によるGNE987Pの標的化細胞内送達を示したが、非結合性対照構築物MIC2+GNE987Pの毒性は有意に低かった。
【0202】
7.6 マウス血清安定性
抗体aEGFRxMIC2をGNE987と、最終濃度が各々40μMであるように混合した。混合物を650rpmで振盪しながら室温で2時間インキュベートした。15%(vol/vol)の2M HEPES緩衝液pH7.55をBiowest製のマウス血清(ロット番号S18169S2160)に添加し、続いて、滅菌濾過した。
【0203】
aEGFRxMIC2+GNE987およびGNE987を、マウス血清-HEPES混合物を使用して5μMに希釈し、37℃および5%のCO2で0、2、4、6、24、48、72および96時間インキュベートした。-20℃で凍結することによってインキュベーションを停止した。
【0204】
PROTACであるGNE987の濃度をLC-MSを使用して定量化した。GNE987およびaEGFRxMIC2との複合体中のGNE987は、72時間にわたって安定であった(
図23)。
【0205】
さらに、マウス血清中で96時間インキュベートされた試料中の無傷のaEGFRxMIC2抗体の濃度を定量化した。定量化は総抗体ELISAを使用して実施した(
図24)。無傷の抗体の濃度は影響を受けず、これによって二重特異性抗体の高い血漿安定性が実証された。
【0206】
さらに、GNE987との複合体中のaEGFRxMIC2を、マウス血清中で0および96時間インキュベートし、試料をその後、親和性捕捉アッセイに供した。したがって、ビーズをボルテックス処理し、1.5mLのLoBindチューブ中に移し、続いて、500μLのHBS-E緩衝液で3回洗浄した。0.2μg/μLのビオチン-SP(ロングスペーサー)AffiniPureヤギ抗ヒトIgG(Fcγ断片特異的)をビーズに添加し、それを回転板上で2時間インキュベートした。ビーズを500μLのHBS-E緩衝液で3回洗浄した。20μLの0.5μg/μL試料をHBS-E緩衝液を用いて0.1μg/μLに希釈し、ビーズに添加し、回転板上で2時間インキュベートした。上清を収集した。100μLのアセトニトリルをビーズに添加し、続いて、1000rpmで30分間インキュベートし、溶出液を収集した。LC-MS/MSを使用してGNE987を上清および溶出液から定量化した。
【0207】
血清上清中ではGNE987は検出されなかったが、溶出液は依然として、抗体に結合した96.7%の無傷のGNE987を含んでいた。驚くべきことに、抗体が結合しているGNE987は、溶出液中で96時間後に依然として検出でき、高い安定性を示した(
図25)。
【0208】
7.7 保存安定性
抗体-PROTAC複合体の保存安定性を、4℃の冷蔵庫中で96時間にわたるインキュベーションならびに複合体を瞬間凍結することおよび-80℃で24時間または-20℃で96時間の保存によって複合体形成(6mg/mL、650rpm、3時間、室温)後に評価した。その後、試料を目に見える変化について調べ、DLS測定を使用して多分散を評価し、SE-HPLCによってローディングを測定した(表6)。15%までの多分散を有する試料は単分散と考えられる。
【0209】
【0210】
データは、多分散ならびにローディングが大きく変化しないままであったことから複合体の高い保存安定性を示しただけでなく、疎水性GNE987がMIC2の存在下で沈殿しなかったのでPROTAC疎水性に対する遮蔽効果も観察された。
【0211】
7.8 VHHベースの抗体およびPAX
7.8.1 免疫化
新世界ラクダ類(NWC)を交互のKLHベースのおよびcBSAベースの免疫原を用いて免疫化した(スケジュール
図26)。huFc-ハプテンコンジュゲートを用いて血清ELISAアッセイを実施して、VHLリガンド特異的免疫応答をモニタリングした。すべての動物は、免疫化後に免疫応答を示した。
【0212】
7.8.2 抗体遺伝子ライブラリー
VHLリガンド特異的抗体の選択のために3個体の免疫化されたNWCの免疫レパートリーから免疫ライブラリーを作製した。動物の血液から末梢血単核細胞(PBMC)を単離した。RNAを抽出し、精製し、cDNA合成のために使用した。次いで、cDNAプールをPCRによるVHH遺伝子配列の増幅のために使用し、VHH抗体-ファージディスプレイベクター中にクローニングし、大腸菌(E. coli)の形質転換のために使用した。段階希釈によって抗体-遺伝子ライブラリーのサイズを決定し、コロニーをカウントした。さらに、cPCRによって挿入率を決定し、機能的ORFを有するクローン数を、DNA-配列分析によって決定した。その後、形質転換された細菌を増殖させ、抗体-ファージ粒子のパッケージングのために使用した。抗体-ファージ粒子の精製後、抗体-ファージ粒子のSDS-PAGE、ウエスタンブロッティングおよび抗pIIIイムノブロット染色によって、抗体-pIII融合タンパク質の存在を調べた。ライブラリー特徴の概要は、以下に示されている(表7):
【0213】
【0214】
7.8.3 抗体発見
第1に、ライブラリーを、非特異的または交差反応性抗体-ファージからクリアにした。その目的のために、ライブラリーを、固定化されたストレプトアビジン、磁性ストレプトアビジンビーズおよびBSAの存在下でインキュベートした。陰性抗原に結合した抗体-ファージをさらなる選択から除去した。
【0215】
その後、クリアにしたライブラリーを、標的抗原特異的抗体について選択した。その目的のために、VH032およびペンダントアミンを有するPEG化架橋剤のコンジュゲートを獲得し(Sigma-Aldrich;
図27)、ビオチン-NHS-エステルカップリングによってビオチン化した。ビオチン化VH032を精製し、HPLCによって分析した。第1に、ビオチン化VH032をクリアにしたライブラリー調製物に添加した。ビオチン化標的抗原に結合した抗体-ファージを捕捉し、磁性ストレプトアビジンビーズを使用して溶液から回収した。ビーズを、BSA溶液(0.05%のTween20を含有する)およびPBSを用いて複数回洗浄して、非特異的なまたは弱く結合した抗体-ファージ粒子を除去した。抗原特異的抗体ファージを、トリプシン処置によってビーズから溶出し、大腸菌(E. coli)感染によってレスキューした。短期間増殖させた後、細菌にM13K07ヘルパーファージと同時感染させ、抗体-ファージ増幅を誘導した。上記のような2回のさらなる選択サイクルのために免疫ライブラリーに起因する増幅したファージを使用した。
【0216】
7.8.4 抗体スクリーニング
抗体-ファージ選択後、モノクローナル抗体クローンの結合特徴をELISAによって分析した。免疫ライブラリーのために、選択サイクル2および3後の選択アウトプットを使用した。細菌におけるVHH抗体発現のために384のシングルクローンを選び取った。
・ストレプトアビジン+ビオチン化VH032
・ストレプトアビジン
・ヒトFc-VHL-1
・ヒトFc
でのELISAによってその結合特異性について生成物を試験した。
【0217】
以下の場合に、抗体クローンを抗原特異的と同定した:
陽性抗原に対するELISA結合シグナルが≧0.1であった
陰性抗原に対するELISA結合シグナルが≦0.1であった
陽性と陰性抗原間のシグナル対ノイズ(S/N)比が≧10であった。
【0218】
DNA-配列分析のためにすべての562ヒットを使用して、独特の抗体配列(CDR中、≧1のアミノ酸相違)を有する抗体を同定した。NWCライブラリーから113の独特のクローンが同定された。
【0219】
最良の結合親和性を有するクローンを同定するために、BLI解離速度測定を実施した。第1に、独特のクローンのVHH含有培養上清を生成した。その後、抗体断片の、BLIストレプトアビジンセンサー上に固定化されたビオチン化VHLへの会合および解離を測定した。結合曲線を1:1結合モデルとフィッティングし、解離速度を算出した。
【0220】
解離速度および抗体配列情報に基づいて、最終形式への変換のために10のリードクローン(MIC5~MIC14と名付けられた)を選択した。
【0221】
7.8.5 抗体変換
VHH遺伝子を、PCRによってファージミドDNAから増幅し、2つの異なるIgG発現ベクター中にクローニングした。一方の発現ベクターは、EGFR標的化セツキシマブIgG抗体をコードしていた。もう一方の発現ベクターは、CD33標的化ゲムツズマブIgG抗体をコードしていた。VHH抗体断片を発現ベクター中に挿入するために、IgG抗体の重鎖のC末端に遺伝子融合した。抗体断片は、短いGSリンカー(GSGGGSGGSGGGGSG(配列番号28))によってIgG重鎖から離れており、以下の形式:HC-リンカー-VHHをもたらした。
【0222】
トランスフェクション等級のDNAの配列検証および調製後、1つのVHHクローンの発現ベクターをHEK細胞に一過性にトランスフェクトした。抗体は、7日間、HEK細胞によって産生され、培養培地中に分泌された。遠心分離による細胞からの培養上清のクリアランス後、IgG抗体をプロテインAアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。緩衝液のPBSへの調整後、抗体のタンパク質濃度をUV/VIS分光法によって決定した。還元条件下でのSDS-PAGEによって抗体の完全性および純度を評価した。抗体の標的抗原への機能的結合活性をELISAによって測定した。
【0223】
さらに、親抗体は、親抗体対融合タンパク質の発現率を比較することができるように同一手順を使用して生成した。データは、セツキシマブおよびゲムツズマブへのVHH融合物について
図28に例示的に表されており、VHH融合物の生産性に対して大きな影響がないことを実証する。
【0224】
7.8.6 PROTACへのVHH結合の多用途性
タンパク質-PROTAC相互作用の動態学的および親和性パラメータを、SPRによって評価した。抗PROTAC VHHクローンMIC5~MIC14を、25℃で標準アミンカップリング手順によってCM5(シリーズS)センサーチップ上にCD33またはCLL1抗体融合物として固定化した(融合タンパク質の製造および使用されたリンカーは、7.9章に記載されている)。固定化の前に、チップのカルボキシメチル化表面を、400mMの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミドおよび100mMのN-ヒドロキシスクシンイミドを用いて7分間活性化した。3,000~6,000応答単位(RU)に達するために、CD33およびCLL1抗体融合物としてのヒット抗PROTAC VHHを、pH4.5の10mMの酢酸塩で10μg/mLに希釈し、活性化された表面チップ上に7分間固定化した。残存する活性化されたカルボキシメチル化基を、1MのエタノールアミンpH8の10分の注射でブロックした。10mMのHEPES pH7.4および150mMのNaClからなるHBS-Nを、固定化の際にバックグラウンド緩衝液として使用した。
【0225】
PROTACをDMSOで事前希釈し、ランニング緩衝液(12mMのリン酸塩pH7.4、137mMのNaCl、2.7mMのKCl、0.05%のTween20、2%のDMSO)で1:50希釈し、2倍希釈シリーズを使用して、1μM~0.002μMの10の異なる濃度で注入した。DMSO溶媒補正(1%~3%)を実施して、バルクシグナルの変動を考慮して高品質データを達成した。相互作用分析サイクルは、300秒の試料注入(30μL/分;会合相)、続いて、900秒の緩衝液フロー(解離相)からなるものであった。
【0226】
すべてのセンサーグラムを、対照表面(参照フロー-チャネル)から記録された結合応答をまず差し引くこと、続いて、活性フロー-チャネル(固定化された標的タンパク質)から緩衝液ブランク注入を差し引くことによって処理した。すべてのデータセットを単純な1:1ラングミュア相互作用モデルにフィッティングして、動態学的速度定数を決定した。実験は25℃でBiacore 8k+(Cytiva、スウェーデン、ウプサラ)で実施し、相互作用を、提供されたBiacore Insight評価ソフトウェアを使用して評価した。
【0227】
結果は表8にまとめられている。この研究のPROTACは、できる限り多様な分子のセットを試験するためにその化学構造に基づいて選択した。一般に、すべての抗体がナノモル未満~3桁のナノモルの親和性でさまざまなPROTACに結合した。
【0228】
試験されたすべてのバリアントから、MIC7抗PROTAC VHHは、1桁のナノモル~ナノモル未満でさえの親和性で大部分のPROTACに結合する最も好都合な結合プロファイルを有していた。MIC7クローンは、タンパク質結合部分へのリンカーが、R1およびR2において出るが、R3においては出ない、すべてのPROTACを許容する。リンカー化学に関しては、いかなる種類のMIC7-PROTAC結合に対しても負の影響は観察されなかった。さらに、MIC7は、R4における共通のメチル基を許容する。最後に、CD33結合性抗体融合物の代わりにCLL1-結合性抗体MIC7 VHH融合物(CLL1xMIC7)を用いるSPR PROTAC結合測定値は、結合親和性が影響を受けなかったので、PROTAC結合が他の抗体への融合によって影響を受けないことを示す(表8)。
【0229】
【0230】
7.9 VHHベースのPAXの製造
VHH抗体断片をIgG型抗体の重鎖および軽鎖に融合して、種々の疾患関連細胞株へのPROTACの送達を可能にした。融合物は以下の通りに作製した。抗体の重鎖または軽鎖または重鎖および軽鎖を、リンカー(GSGGGSGGSGGGGSG(配列番号28))、続いて、VHHの配列(例えば、YU734-F06(MIC7))によってC末端に伸長した。このように、細胞表面受容体を認識でき、同時にPROTACのVHL-リガンドに結合できる二重特異性抗体は、
図3に記載されるように作製できる。リンカー-VHH(リンカー:GSGGGSGGSGGGGSG(配列番号28))配列を、反復単位としてHC、LCまたは両方に複数回融合できる(例えば、リンカー-VHH-リンカー-VHH、すなわち、2つの反復)。鎖あたり最大3つのリンカー-VHHをHC、LCまたは両方のいずれかに融合した。命名法は以下の通りである:1つのMIC7 VHHが、上記のリンカーを介して各重鎖のC末端に融合されたCD33標的化抗体は、CD33xMIC7と名付けられている。これは、すべての他の構築物に使用された以下の命名法の唯一の例外である:ここで、一般化された式:CD33xMIC7
NHMLが適用され、式中、NおよびMは2、4、6である。「H」は、融合物が重鎖で作製されることを示し、「L」は、LCへの融合物を示す。VHHがHCにもLCにも融合されない場合には、それぞれの文字は消失する。例えば、2つのMIC7 VHH(リンカー-VHH-リンカー-VHH、すなわち、2つの反復)が各重鎖のC末端ならびに各軽鎖のC末端に融合されるCD33標的化抗体は、CD33xMIC7
4H4Lと呼ばれる。二重特異性融合タンパク質を作製するために使用される抗体骨格および骨格変更は、表9に表されている。表10は、例として、CD33を標的化するPAXの命名法を示す。
【0231】
【0232】
抗体生成は、7.2章に記載されるように実施した。PAXを作出するための複合体形成は、以下の通りに実施した:10μM(最終)の抗体-VHH融合物を、PBS pH7.4中で、DMSO中のVHLベースのPROTACと混合して、所望のローディングを達成した(表3)。in vivo適用のために決定されたPAXは、68.8μMの抗体濃度で複合体形成された。
【0233】
分配のために、PBS pH7.4溶液中、5%のTween-20を、0.3%の最終濃度まで添加した。試料を、650rpmで振盪しながらThermoMixer上で25℃で3時間インキュベートした。
【0234】
【0235】
7.10 VHHベースのPAXの細胞特性決定
7.10.1 セツキシマブおよびゲムツズマブの融合物としてのVHLベースのPROTAC結合性抗体断片の細胞プロファイリング
7.9章に記載されるように、VHHを、リンカー(GSGGGSGGSGGGGSG(配列番号28))を介してそれぞれの抗体のHCにC末端に遺伝子的に付着することによって、ゲムツズマブ-およびセツキシマブ-ベースのVHH融合物を作出した。発現および精製後、抗体融合タンパク質にGNE987を1:1比でローディングした(50%ローディング)。このように、10のVHH抗体断片を、標的陽性細胞で細胞死滅を誘導する、または非標的化細胞への非選択的取り込みを防ぐその能力に関して特性決定できた(7.10.5章に記載されるように)。結果は、表11に表されている。選択性の測定基準として、選択性指数を導入した。第1に、ゲムツズマブベースの構築物の効力をセツキシマブベースの構築物の効力によって除すことによって、同じ細胞状況における構築物の比較を可能にする選択性指数が得られる。この場合には、クローンMIC5~MIC8は最高の選択性指数を有し、これは、それらの構築物が細胞培地中での3日のインキュベーション時間の間PROTACに結合することを証明する。第2に、EGFR陰性HEPG2細胞に対するセツキシマブベースの構築物の効力を、受容体発現依存性取り込みによって媒介される選択性の尺度であるEGFR陽性MDAMB468細胞に対する同一構築物の効力によって除した。この場合には、構築物MIC7~MIC10は、最高の選択性指数をもたらした。高選択性を示す1つのさらなるパラメータは、細胞傷害性が予測されなかった、HEPG2細胞に対するPROTACがローディングされた融合タンパク質の効力である。PROTAC単独は、HEPG2で2.6nMのIC50値を有する。これは、PROTACが細胞の外側にすでに放出され、強力な細胞死滅につながることを示す。それとは対照的に、VHHベースの構築物は、>100nMの効力を有する強い解毒効果につながった。全体的に、クローンMIC5、MIC7およびMIC10は、特に親和性(7.8.6章)を考慮した場合に有望なプロファイルを示した。
【0236】
【0237】
7.10.2 骨格抗体の細胞結合は、VHH融合物およびPROTACでのPAXのローディングによって影響を受けない
7.9章に記載されるリンカー(GSGGGSGGSGGGGSG(配列番号28))を介したVHH融合物の、CD33結合性抗体ゲムツズマブ(IgG4-PG-SPLE)またはEGFR結合性抗体セツキシマブのいずれかへの細胞結合に対する影響を、フローサイトメトリーを使用して調査した。したがって、VHH MIC5融合を伴わないCD33xMIC5およびCD33 Abの、CD33発現性MV411細胞への結合を評価した。1×10
5個のMV411またはMDAMB468細胞を、丸底96ウェルプレートに播種し、1%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA)を含有するPBS pH7.4で3回洗浄し、続いて、それぞれの抗体とともに氷上で30分間インキュベートした。その後、細胞をPBS、pH7.4、1%(w/v)BSAを用いて3回洗浄し、蛍光標識された二次抗体Alexa Fluor 488 AffiniPure Fab断片ヤギ抗ヒトIgG(H+L)とともに氷上で30分間インキュベートした。その後、細胞をPBS、pH7.4、1%(w/v)BSAを用いて3回洗浄した。細胞を、Intellicyt iQue3 Screenerでフローサイトメトリーによって分析し、IntelliCyt ForeCyt Enterprise Client Edition 8.0(R3)ソフトウェアを介して分析した。細胞をRPMI-1640+10%のFCSで培養した。直接比較によって、VHH MIC5の添加が細胞結合に影響を及ぼさなかったことが実証された(
図29)。
【0238】
その後、抗体-VHH融合物のPROTACでのローディングが、細胞結合挙動にどの程度影響を及ぼすかを調査した。したがって、HL60、MOLM13、MV411、RAMOSおよびU937への細胞結合が、CD33結合性抗体-VHH融合物CD33xMIC7について決定された。90%のGNE987がローディングされた同一分子の結合を評価した。アイソタイプ非結合性対照として、ジゴキシゲニン結合性抗体を使用した。CD33xMIC7を、細胞染色のために使用する前に、1%のFCSを有する、1.8倍モル過剰で5%のDMSOに溶解したGNE987を有するPBS中で650rpmで振盪しながら25℃で3時間インキュベートした。5%のDMSOととものインキュベーションの際にアイソタイプ非結合性対照を分析した。各細胞株から、条件あたり200,000個細胞を採取し、遠心分離し、それぞれの抗体、抗体-VHH融合物またはPAX条件とともに、200μlの、1%のFCSを有するPBS中で、10μg/mlの濃度で、4℃で45分間インキュベートした。クエンチすることおよび1%のFCSを有するPBSでの1回の洗浄ステップの後、試料をフルオレセイン標識抗ヒト抗体607番(1:50)でその後さらに45分間処置した。1%のFCSを有するPBSでクエンチした後、細胞を、Becton Dickinson FACSCaliburフローサイトメーターで実施される分析の際に排除されるべき死細胞を染色する1μg/mLのプロピジウムヨウ素(PI)染色を含有するPBSに再懸濁した。Turku Bioscience製のFlowingソフトウェアを使用して定量的分析を行った。細胞をRPMI-1640+10%のFCS中で培養した。
【0239】
図30に実証されるように、PROTACを用いる抗体-VHH融合物のローディングは、結合に対して影響を有さなかった。アイソタイプ対照抗体は、細胞株パネルへの強く低減された結合を示した。
【0240】
7.10.3 CD33 PAX(pHAb色素を有する)は、CD33陽性細胞中に内部移行する
PAX取り込みが、受容体媒介性エンドサイトーシスによって媒介されるか否かを解明するために、CD33xMIC7にpH応答性VH032-pHAb色素をローディングした(
図31)。VH032-pHAb色素は、pH>7では最小の蛍光だけを示すが、酸性pHでは有意に増強された蛍光を示すpHセンサーである。したがって、受容体媒介性内部移行の際に、CD33xMIC7+VH032-pHAb色素を酸性エンドソームおよびリソソーム小胞に輸送することが、蛍光シグナルの増強をもたらすはずである。細胞染色のための使用の前に、CD33xMIC7を25℃で、650rpmで、1.8倍モル過剰で5%のDMSOに溶解されたVH032-pHAb色素を有するPBS中、暗所で2時間インキュベートした。CD33陽性MOLM13、MV411、U937および受容体陰性RAMOS細胞を、得られたPAXで、または対照としてVH032-pHAb色素単独で処置した。各細胞株から、条件当たり200,000個細胞を採取し、遠心分離し、200μLの、1%のFCSを有するPBS中で、10μg/mlの濃度で37℃で6時間、650rpmで振盪しながら、暗所でPAXとともにインキュベートした。対照として、細胞を、等モル濃度のVH032-pHAb色素単独で処置した。1%のFCSを有するPBSでの1回の洗浄ステップの後、細胞を、400μlの、1%のFCSを有するPBSに再懸濁し、サイトメトリー分析をBecton Dickinson FACSCaliburフローサイトメーターで実施した。VHL-pHAb色素への干渉を取り除くために、プロピジウムヨウ素(PI)を用いる死細胞の染色は実施しなかった。BD biosciences製のFlowJoを使用して定量的分析を実施した。細胞をRPMI-1640+10%のFCS中で培養した。
【0241】
CD33xMIC7+VH032-pHAb色素で処置された細胞の、対照と比較して増強された蛍光シグナルは、すべてのCD33陽性細胞株で見出されたが、受容体陰性RAMOS細胞については、増強された平均蛍光強度は、見出されなかった(
図32)。これらの結果は、PAXが、受容体媒介性抗体内部移行を介して取り込まれることを実証した。
【0242】
7.10.4 CD33xMIC7+GNE987 PAXは、標的化細胞においてBRD4分解を誘導する
PAXが、標的化細胞において標的タンパク質の分解を媒介できることを実証するために、BRD4ウエスタンブロット分解アッセイを実施した(
図33および
図34)。したがって、CD33陽性MV411細胞を、CD33xMIC7+GNE987で、または非結合性PAX対照としてDIGxMIC7+GNE987で異なる濃度で、および対照としてGNE987単独で処置した。MV411細胞を、10%のFCSおよびペニシリン-ストレプトマイシンを補給したRPMI-1640培地において培養した。MV411細胞を、12ウェルプレートに、2mlの培養培地中、100万個細胞/mlで播種し、細胞インキュベーター中、37℃および5%のCO
2で一晩培養した。複合体形成を7.4章に記載された通りに実施した。GNE987のみは、同一条件下であるが、抗体の非存在下でプレインキュベートした。その後、細胞を、それぞれの濃度のCD33xMIC7+GNE987(1:1)、DIGxMIC7+GNE987(1:1)またはGNE987のいずれかを用い、Tecanディスペンサーを使用してナノドロップ分注物(dispension)によって処置した。すべての条件は0.0005%(v/v)DMSOおよび3.0E-5%のTween20に標準化した。細胞を、細胞インキュベーター中、37℃および5%のCO
2で24時間インキュベートした。処置された細胞を収集し、PBSで洗浄し、細胞ペレットを、Roche cOmpleteプロテアーゼ阻害剤混合物を補給した細胞溶解緩衝液(20mMのTRIS pH7.4、100mMのNaCl、1mMのEDTA、0.5%のTriton-100)中で溶解した。氷上で10分間インキュベートした後、粗溶解物を15,000xg、4℃での遠心分離によってクリアにし、クリアにした溶解物をアセトンによって沈殿させた。乾燥ペレットをSDS-ローディング緩衝液に溶解した。タンパク質濃度を、Mettler Toledo UV5Nano光度計によって決定した。試料(50μg/レーン)を4~12%のBis-Tris SDS-PAGEゲル(Thermo Fisher Scientific)に適用した。ゲルを流した後、試料をニトロセルロースメンブレン(Sigma Aldrich)に移し、メンブレンを、0.1%のTBS-Tween20中、5%の脱脂乳を用いてブロッキングし、示された一次抗体(表12)とともにインキュベートした。
【0243】
【0244】
1:10,000希釈の対応するHRP標識抗ウサギ/マウス二次抗体(GE-Healthcare)とともにインキュベートした後、ECL溶液(Advansta)およびX線フィルム(GE-Healthcare)を使用してブロットを検出した。ImageJソフトウェア(version 1.53K、NIH)を用いて結果を分析した。バックグラウンドを差し引いたBRD4シグナルを、対応するアクチンシグナルに対して正規化し、溶媒対照の正規化されたBRD4シグナルを100%に設定した。
【0245】
予測されたように、GNE987単独での処置についてBRD4分解が見出された。さらに、CD33xMIC7+GNE987について濃度依存性BRD4分解が観察されたが、非結合性PAX対照DIGxMIC7+GNE987については、すべての濃度で分解が観察されなかった(
図33および
図34)。これらの結果は、PAXが目的の細胞内タンパク質の濃度依存性、細胞種(標的受容体)選択的分解を媒介できることを実証した。
【0246】
7.10.5 CD33xMIC5+GNE987 PAXは、受容体発現およびPAXローディングに依存する細胞傷害性効果を誘導する
以下に記載される手順に従って、いくつかの細胞生存率実験を実施した。
【0247】
細胞を白色細胞培養処置された平板の透明底マルチウェルプレート中の種々の培地に播種し、続いて、湿性チャンバー中、37℃および5%のCO2で一晩インキュベートした。複合体形成は、7.4章に記載された通りに実施した。
【0248】
溶液を、Tecan D300eデジタルディスペンサーを使用し、ナノドロップ分注物を使用して抗体濃度に基づいて細胞に添加し、すべてのウェルを、PBS pH7.4中、0.3%のTW20およびDMSOを使用して同一容量に、0.05%のDMSOおよび0.003%のTW20の最終溶媒濃度に標準化した。インキュベーションを培地に応じて37℃で、5%または10%のCO2で実施した。アッセイは、CellTiter-Glo Luminescent細胞生存率アッセイを製造業者のプロトコールに記載されるように使用して、別段の記載がない場合には3日後に行った。手短には、プレートを室温に30分間平衡化した。100mLのCellTiter-Glo緩衝液をCellTiter-Glo基質フラスコに添加し、十分に混合した。30μLの試薬を各ウェルに移した。550rpmで振盪しながら室温で3分間インキュベートした後、プレートを室温でさらに10分間インキュベートした。発光をPerkin Elmer製のEnvisionリーダーで読み取った。溶媒単独およびボルテゾミブ(1.0E-05M)は、それぞれ高対照(100%生存率)および低対照(0%生存率)として働いた。生データを、それぞれ100%および0%に設定した高および低対照に対する細胞生存率パーセントに変換した。GraphPad Prismソフトウェアを使用し、下部制約として0%生存率を、上部制約として100%生存率を使用する可変傾斜シグモイド応答フィッティングモデルを用いてIC50算出を実施した。濃度は、PAX中のPROTACの濃度に対応する。
【0249】
PAX技術が、その細胞表面受容体発現に基づいて細胞の細胞選択的標的化を媒介できるか否か、またどの程度媒介できるかを調査した。したがって、MIC5をHCに遺伝子的に融合すること、続いて、PROTACであるGNE987をローディングすることによって、CD33標的化PAXを作出した。次いで、PAXをCD33陽性およびCD33陰性細胞で試験した。
【0250】
CD33陽性MV411およびMOLM13細胞およびCD33陰性RAMOS細胞の、50%のGNE987が事前ローディングされたCD33xMIC5の段階希釈物での処置は、MV411およびMOLM13細胞の場合には3日のインキュベーション後に生存細胞の減少につながったが、RAMOS細胞ではそうではなかった(
図35)。これは、CD33xMIC5はGNE987 PROTACの受容体陽性細胞への取り込みを媒介するが、受容体陰性細胞への取り込みを妨げ、したがって、PAXはPROTACを標的化細胞へ選択的に送達できたということを実証する。
【0251】
CD33xMIC5構築物の細胞傷害性は、PROTACであるGNE987でのローディングを増大または減少させることによってモジュレートできる可能性がある(
図36)。MV411細胞に対する、GNE987と組み合わせたCD33xMIC5の細胞傷害性は、ローディングが25%から50%に、またはさらに75%に増大する場合には増大する場合がある。これは、ローディングされるPROTACの量を希望に応じて調整することによって、PAXの細胞死滅特性を目的に合わせることが可能であることを実証する。
【0252】
7.10.6 CD33xMIC5のGNE987Pとの複合体形成は、PROTACであるGNE987P単独の細胞死滅効力を改善できる
これまで、PAX技術は、PROTACであるGNE987を標的細胞に送達するために活用され得ることがわかり、他のPROTACにも適しているか否かは明らかではなかった。したがって、さらなる研究のために別のPROTAC、すなわちGNE987Pを選択し、PAX技術が、このPROTACへの選択性も媒介できるか否かを調査した。
【0253】
したがって、CD33陽性MV411およびMOLM13ならびにCD33陰性RAMOS細胞を、25~75%ローディングを有するCD33xMIC5+GNE987PおよびPROTACであるGNE987P単独を用いて処置した(
図37)。両CD33陽性細胞株に対して、CD33xMIC5+GNE987Pの組合せは、PROTACであるGNE987P単独よりも強力であり、CD33xMIC5+GNE987Pの効力は、ローディングに応じて変わり、ローディングが高いほど、より高い効力につながった。全体的に、CD33陰性細胞に対しては、150nMまで毒性は観察されなかった。抗体-複合体形成を使用してPROTACの標的化送達を促進するという概念は、第2のPROTACがCD33発現性細胞に選択的に送達されたので、より一般化できる可能性があると結論付けることができる。さらに、この技術は、細胞への標的化送達によってある特定のPROTACの効力をさらに改善する可能性を提供することが観察された。
【0254】
7.10.7 CD33xMIC5は、FLT3分解剤をCD33陽性細胞に送達するために使用できる
PAXアプローチを別の細胞内標的に拡大するために、FLT3分解剤を抗体-PROTAC複合体を使用してCD33発現性細胞に特異的に送達できるか否かを調査した。したがって、CD33陽性MOLM13およびCD33陰性RAMOS細胞を、75%のローディングを有するCD33xMIC5+FLT3d1および対照としてPROTACであるFLT3d1単独を用いて処置した(
図38)。CD33陽性MOLM13細胞では、CD33xMIC5+FLT3d1について細胞傷害性が観察された。CD33受容体陰性RAMOS細胞では、細胞傷害性は観察されなかった。これは、CD33xMIC5を使用して、FLT3分解剤をCD33陽性細胞に送達できる可能性があることを実証した。細胞をPROTACまたはPAXで6日間処置したというわずかな改変を加えて7.10.5章に記載された手順に従ってアッセイを実施した。実験は、PAXが受容体の状態に応じてPROTACを標的細胞に送達できることをやはり実証した。さらに、実験は、PAX技術を別のPROTAC分解性FLT3に移すことができることを実証して、PAXアプローチの多用途性をさらに裏付けた。
【0255】
7.10.8 PROTACであるGNE987のCD33xMIC5による複合体形成は、細胞での抗体およびPROTACの別個の適用によって達成できる
別の実験では、CD33xMIC5の、PROTACであるGNE987との事前複合体形成が、細胞標的受容体依存性細胞死滅にとって必要であるか否かを調査した。したがって、CD33xMIC5を、GNE987と3時間複合体形成して、75%のローディングに到達し、CD33陽性MV411およびCD33陰性RAMOS細胞に添加した。さらに、CD33xMIC5を前記の細胞に添加し、75%のローディングが到達されるようにその後、別個にGNE987を添加した。興味深いことに、CD33xMIC5およびGNE987の別個の添加は、同一ローディングを有する事前複合体形成されたCD33xMIC5+GNE987 PAXと同一の結果をもたらした(
図39)。
【0256】
これらの結果は、PAXの事前複合体形成が、PAXによる細胞表面受容体依存性細胞死滅の必要条件ではないことを実証した。
【0257】
7.10.9 PAXのPROTACローディングを、標的化抗体へ融合されるVHH PROTAC結合剤の数を増大することによって増大することができる
単一PAX分子によって標的細胞中に送達できるPROTACの数を増大するために、IgGを標的化する細胞に付着された、融合されたPROATC結合性VHH単位の数を増大した。より詳細には、MIC7 PROATC結合性VHHを、重鎖、軽鎖のいずれか、または両者の組合せ上のCD33標的化抗体のC末端に異なる数で融合した。抗体断片は、短いリンカーによってIgG重鎖から、および任意のさらなる断片から離れている。さらなる詳細については、7.9章を参照されたい。次いで、VHH断片の、標的化抗体の種々の部位への遺伝的融合が、得られたPAXの効力をどのようにもたらすかを調査した。
【0258】
表13に表された複合体形成比の、GNE987またはGNE987Pと複合体形成されたVHH-抗体融合物を、7.10.5において記載された細胞生存率アッセイ手順に従って、CD33陽性MV411およびCD33陰性RAMOS細胞で調査した。GNE987Pとの組合せの場合には、同一抗体は、異なる比率のGNE987Pがローディングされ、したがって、処置濃度は、抗体濃度と関連していた。すべての融合物は、細胞表面受容体依存性細胞傷害性を示した。GNE987Pをローディングしている一部のVHH-抗体融合物でさえ、PROTAC単独と比較して、陽性MV411細胞で増強された効力および受容体陰性RAMOS細胞で低減された細胞傷害性を示した。これは複雑な特性を有する複数のPAXを生成するこのアプローチの多用途性をさらに実証した。
【0259】
【0260】
7.10.10 CLL1xMIC7-PROTAC複合体は、CLL1媒介性取り込みに依存して選択的細胞傷害性を誘導する
本発明の範囲は、これまでCD33標的化抗体に制限されており、したがって、CD33標的化抗体以外の他の抗体を使用して、PROTACを細胞選択的方法で送達することが可能であるか否かを調査した。
【0261】
PROTACをCLL1を発現する細胞に標的化するために、CLL1結合性抗体およびPROTAC結合性クローンMIC7を使用して融合タンパク質を構築した。したがって、CLL1結合性抗体のHCを、リンカー、続いて、CLL1xMIC7をもたらすMIC7の配列によってC末端に伸長した。さらに、ジゴキシゲニン抗体を同じ方法で改変して、アイソタイプ対照を得た。CLL1陽性MOLM13およびU937細胞ならびにCLL1陰性K562細胞を、75%ローディングを有するCLL1xMIC7+GNE987PもしくはDIGxMIC7+GNE987Pまたは対照としてPROTACであるGNE987P単独を用いて処置した。アッセイを上記の手順に従って実施した。両CLL1陽性細胞株で、CLL1xMIC7+GNE987Pについて細胞傷害性が観察されたが、DIGxMIC7+GNE987Pについては、細胞傷害性は観察されなかった(
図40)。これは、PAXを所望の細胞に標的化することによって受容体陽性細胞における取り込みが媒介されることをやはり実証した。さらに、これは、この技術が、異なる抗体骨格に適用される可能性があることを実証し、このアプローチの多用途性を強調する。
【0262】
追加の実験では、CLL1陽性MV411およびU937またはCLL1陰性RAMOSおよびK562細胞を、75%のローディングを有する、CLL1xMIC7+GNE987、CLL1xMIC7+GNE987PもしくはCLL1xMIC7+SIM1を用いて、または対照としてGNE987、GNE987PもしくはSIM1単独を用いて処置した。上記の手順に従ってアッセイを実施した。CLL1xMIC7 PROTAC組合せについて、両CLL1陽性細胞株で細胞傷害性が観察されたが、CLL1陰性K562およびRAMOS細胞では、有意に少ない細胞傷害性が観察された、ないし観察されなかった(
図41)。これは、受容体陽性細胞への取り込みは、所望の細胞にPAXを標的化することによって媒介されるということをやはり実証した。さらに、これは、この技術が異なる抗体骨格に適用され得ることを実証し、本発明の多用途性を裏付けた。さらに、PAXアプローチを使用して合計3つの異なるPROTACが、CLL1発現細胞に送達されたので、PROTACの選択は極めて柔軟であるということが実証された。
【0263】
7.10.11 B7H3xMIC7-PROTAC複合体は、B7H3媒介性取り込みに依存して選択的細胞傷害性を誘導する
本発明の範囲をさらに広げるために、B7H3標的化抗体を使用して細胞選択的方法でPROTACを送達することが可能であるか否かを調査した。PROTACをB7H3を発現する細胞に標的化するために、B7H3結合性抗体およびPROTAC結合性クローンMIC7を使用して融合タンパク質を構築した。したがって、B7H3結合性抗体のHCを、リンカー、続いて、B7H3xMIC7をもたらすMIC7の配列によってC末端に伸長した。B7H3陽性MV411、U937およびMOLM13ならびにB7H3陰性RAMOS細胞を、75%のローディングを有するB7H3xMIC7+GNE987PおよびB7H3xMIC7+SIM1ならびに対照としてPROTACであるGNE987PおよびSIM1単独を用いて処置した。上記の手順に従ってアッセイを実施した。すべてのB7H3陽性細胞株で、すべてのB7H3xMIC7 PROTAC組合せについて細胞傷害性が観察された(
図42)。B7H3受容体陰性RAMOS細胞で、すべてのB7H3xMIC7 PROTAC組合せについて細胞傷害性は見出されなかったが、PROTAC単独を用いる処置は、最高であるが細胞種特異的ではない細胞傷害性をもたらした。これは、B7H3xMIC7がGNE987PおよびSIM1の受容体陽性細胞への取り込みを媒介したが、受容体陰性細胞へのその取り込みは妨げられたことを実証した。実験は、PAXが受容体の状態に応じてPROTACを標的細胞に送達できることをやはり実証した。さらに、実験は、PAX技術を別の抗体骨格に移すことができる可能性があることを実証して、このアプローチの多用途性をさらに強調した。
【0264】
別の実験では、B7H3陽性MV411、U937およびMOLM13ならびにB7H3陰性RAMOS細胞を、75%のローディングを有するB7H3xMIC7+GNE987またはDIGxMIC7+GNE987および対照としてPROTACであるGNE987単独を用いて処置した。アッセイは、上記の手順に従って実施した。すべてのB7H3陽性細胞株で、すべてのB7H3xMIC7+GNE987構築物について細胞傷害性が観察されたが、アイソタイプ対照DIGxMIC7+GNE987について有意に少ない毒性が見出された(
図43)。B7H3受容体陰性RAMOS細胞で、PROTAC単独と比較してB7H3xMIC7+GNE987について少ない細胞傷害性が見出された。これは、B7H3xMIC7がGNE987PおよびSIM1 PROTACの受容体陽性細胞への取り込みを媒介したが、受容体陰性細胞への取り込みを妨げることをさらに実証した。
【0265】
7.10.12 EGFRxMIC7-PROTAC複合体は、PROTACローディング依存性およびEGFR媒介性細胞種選択的細胞傷害性を誘導する
PROTACを、EGFRを発現する細胞に標的化するために、EGFR結合性抗体セツキシマブおよびPROTAC結合性クローンMIC7を使用して融合タンパク質を構築した。したがって、セツキシマブのHCを、リンカー、続いて、EGFRxMIC7をもたらすMIC7の配列によってC末端に伸長した。さらに、ジゴキシゲニン抗体を、アイソタイプ対照を得るために同一の方法で改変した。EGFR高発現性OVCAR3およびSKOV3ならびにEGFR低発現性HEPG2を、上記のように50%のPROTAC、GNE987、GNE987PまたはSIM1がローディングされたEGFRxMIC7およびDIGxMIC7で処置して、それらの構築物の効力を決定した(表14)。PROTAC単独の効力は、表14にまとめられている。すべてのDIGxMIC7+PROTAC組合せがIC50>100nMを有していたが、PROTACであるGNE987およびSIM1と組み合わせたEGFRxMIC7は、細胞死滅を誘導し、1桁のnM範囲のIC50値を有していた。EGFR低発現性HEPG2でのすべてのPROTACと組み合わせたEGFRxMIC7の毒性は、EGFR高発現性OVCAR3およびSKOV3と比較してすべての構築物について低減した(2桁~3桁のnMの範囲)。全体として、GNE987P組合せは、不活性であった。この実験は、PAXがPROTACを受容体の状態に応じて標的細胞に送達できることをやはり実証した。
【0266】
【0267】
【0268】
別の実験では、EGFRxMIC7に75%のローディングで、PROTACであるARV771、GNE987、GNE987PおよびSIM1を別個にローディングし、変動するEGFR発現レベルを有するさまざまな細胞を処置した(表16)。全体的に、75%のGNE987、GNE987PおよびSIM1がローディングしている非結合性対照DIGxMIC7は、同じPROTACがローディングしているEGFR結合性EGFRxMIC7ほど強力ではなかった。
【0269】
【0270】
結論として、PAXはまた、PROTACを固形腫瘍細胞に標的化できることが実証された。取り込みはEGFR受容体発現レベルに応じて変わり、したがって、EGFRxMIC7+PROTAC複合体によるEGFRの結合を介した活性取り込み、続いて、内部移行およびPROTAC放出によって駆動されるということもわかった。有意に少ない細胞傷害性を示した非結合性アイソタイプ対照PAXを試験することによって、活性EGFR媒介性取り込みによって駆動される細胞選択性も示された。
【0271】
7.10.13 GNE987、GNE987PおよびSIM1とのNAPI2BxMIC7複合体は、細胞選択的細胞傷害性を示す
PROTACを、NAPI2Bを発現する細胞に標的化するために、NAPI2B結合性抗体XMT1535およびPROTAC結合性クローンMIC7を使用して融合タンパク質を構築した。したがって、NAPI2B結合性抗体のHCを、リンカー、続いて、NAPI2BxMIC7をもたらすMIC7の配列によってC末端に伸長した。NAPI2B陽性OVCAR3およびNAPI2B陰性SKOV3細胞を、50%のローディングを有する、NAPI2BxMIC7+GNE987、NAPI2BxMIC7+GNE987P、NAPI2BxMIC7+SIM1またはDIGxMIC7+GNE987、DIGxMIC7+GNE987PまたはDIGxMIC7+SIM1ならびに対照としてPROTACであるGNE987、GNE987PおよびSIM1単独を用いて処置した。アッセイは、上記の手順に従って実施した。NAPI2B陽性OVCAR3で、すべてのNAPI2BxMIC7 PROTAC組合せについて細胞傷害性が観察された(
図44)。NAPI2B受容体陰性SKOV3細胞で、すべてのNAPI2BxMIC7 PROTAC組合せについて細胞傷害性は見出されなかったが、PROTAC単独を用いる処置は、NAPI2B受容体発現状態とは独立してすべての細胞株で最高の観察された細胞傷害性をもたらした。これは、NAPI2BxMIC7が、GNE987、GNE987PおよびSIM1の受容体陽性細胞への取り込みを媒介したが、受容体陰性細胞へのその取り込みは妨げられたことを実証した。この実験は、PAXが、受容体状態に応じてPROTACを標的細胞に送達できることをやはり実証した。さらに、この実験は、PAX技術を別の抗体骨格に移すことができる可能性があることを実証して、このアプローチの多用途性をさらに強調した。
【0272】
7.10.14 PROTACであるGNE987、GNE987PおよびSIM1と組み合わせたHER2xMIC7は、HER2依存性細胞傷害性を示す
PROTACを、HER2を発現する細胞に標的化するために、HER2結合性抗体トラスツズマブおよびPROTAC結合性クローンMIC7を使用して融合タンパク質を構築した。したがって、HER2結合性抗体のHCを、リンカー、続いて、HER2xMIC7をもたらすMIC7の配列によってC末端に伸長した。HER2陽性SKBR3およびNCIN87細胞およびHER2陰性MDAMB468細胞を、75%のローディングを有するHER2xMIC7+GNE987、HER2BxMIC7+GNE987P、HER2xMIC7+SIM1ならびに対照としてPROTACであるGNE987、GNE987PおよびSIM1単独を用いて処置した。アッセイは、上記の手順に従って実施した。HER2陽性SKBR3およびNCIN87で、すべてのHER2xMIC7 PROTAC組合せについて細胞傷害性が観察された(表17)。HER2受容体陰性MDAMB468細胞では、すべてのHER2xMIC7 PROTAC組合せについて細胞傷害性は見出されなかったが、PROTAC単独を用いる処置は、HER2受容体発現状態とは独立にすべての細胞株で明白な細胞傷害性をもたらした。これは、HER2xMIC7が、受容体陽性細胞へのGNE987、GNE987PおよびSIM1の取り込みを媒介したが、受容体陰性細胞へのその取り込みは妨げられたことを実証した。この実験は、PAXが、受容体発現状態に応じてPROTACを標的細胞に送達できることをやはり実証した。さらに、実験は、PAX技術を別の抗体骨格に移すことができる可能性を実証し、このアプローチの多用途性をさらに強調した。
【0273】
【0274】
7.10.15 TROP2xMIC7+GNE987はTROP2依存性細胞傷害性を媒介する
本発明の範囲をさらに広げるために、TROP2標的化抗体を使用して細胞選択的方法でPROTACを送達することが可能であるか否かを調査した。PROTACを、TROP2を発現する細胞に標的化するために、TROP2結合性抗体サシツズマブおよびPROTAC結合性クローンMIC7を使用して融合タンパク質を構築した。したがって、TROP2結合性抗体のHCを、リンカー、続いて、TROP2xMIC7をもたらすMIC7の配列によってC末端に伸長した。TROP2陽性A431、SKBR3、MDAMB468、NCIN87、SKOV3細胞およびTROP2陰性SW620細胞を、75%のローディングを有するTROP2xMIC7+GNE987または対照としてPROTACであるGNE987単独を用いて処置した。アッセイは、7.10.5章に記載される手順に従って実施した。すべてのTROP2陽性A431、SKBR3、MDAMB468、NCIN87およびSKOV3細胞で、TROP2xMIC7+GNE987について細胞傷害性が観察された(表18)。低減した細胞傷害性が、GNE987単独と比較してTROP2xMIC7+GNE987についてTROP2陰性SW620細胞で見出された。これらの結果は、TROP2xMIC7がGNE987の受容体陽性細胞への取り込みを媒介したが、受容体陰性細胞へのその取り込みが低減されたことを実証した。この実験は、PAXが、受容体発現状態に応じてPROTACを標的細胞に送達できることをやはり実証した。さらに、この実験は、PAX技術を別の抗体骨格に移すことができる可能性があることを実証して、このアプローチの多用途性をさらに強調した。
【0275】
【0276】
7.10.16 PAXおよびPROTAC-ADCの同等の細胞傷害性
PAX技術が、共有結合によって連結されたPROTAC-ADCに匹敵する程度を理解するために、7.5.1章に記載されたEGFR-IgG1-L328C-GNE987 PROTAC-ADC(DAR 1.62)を、EGFR陽性MDAMB468およびEGFR陰性HEPG2細胞で50%のGNE987がローディングされたEGFRxMIC5と一緒に調査した。より良好な比較のために、処置濃度を、抗体濃度と関連付けた。両構築物がMDAMB468細胞で同一効力を有し、HEPG2細胞に対して少ないが同等の細胞傷害性効果を示したことが観察された(
図45)。これは、PROTACは非共有結合によって会合されるだけであるが、PAXは、共有結合PROTAC-ADCの効果と同等の選択的細胞死滅を可能にできることを実証した。さらにこの効果は、PROTAC-ADCと比較して低いDARで達成できる。
【0277】
7.11 PROTACの抗PROTAC抗体との複合体形成は、薬物動態プロファイルを有意に改善できる
PROTACであるGNE987のPROTAC結合性抗体MIC2との複合体形成が、PROTACの全体的な薬物動態プロファイルに影響を及ぼすか否かおよびどの程度であるかを調査した。したがって、薬物動態研究を以下の通りに実施した。
【0278】
雌のSCIDベージュ(n=9、複合プロファイル)に、水中、2%(v/v)DMSO/20%(v/v)(ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン)クレプトース(Kleptose)中、0.4mg/kgのPROTAC単独(GNE987)の単回尾静脈静脈内(i.v.)ボーラス注射を5mL/kgの投薬容量で与えた。MIC2+GNE987(1:2の抗体薬物比)については、雌のSCIDベージュ(n=12、複合プロファイル)に、PBS中、5%(v/v)DMSO中の0.4mg/kgのGNE987および30mg/kgのMIC2の等価用量でPROTACシャトルの単回尾静脈静脈内(i.v.)ボーラス注射を5mL/kgの投薬容量で与えた。
【0279】
PROTAC単独については、舌下でイソフルラン麻酔下で、抗凝固剤としてエチレンジアミン四酢酸(K3-EDTA)を用いて、i.v.投与の0.1(G(群)1)、0.5(G2)、1(G3)、2(G1)、4(G3)、6(G2)および24時間(G3)後に連続血液試料を採取し(n=3)、さらに処理して血漿を得た。
【0280】
MIC2+GNE987については、上記のように、i.v.投与の0.1(G(群)1)、0.5(G2)、1(G3)、2(G4)、6(G2)、24時間(G1、G3)、30(G3)、48(G3、G4))、72(G1、G2)および96時間(G2)後に連続血液試料を採取し(n=3)、さらに処理して血漿を得た。
【0281】
試料調製のために、LowBind(タンパク質)プレート中で、10μLの血漿を10μLのメタノールで希釈し、80μLのラベタロールsの内部標準(2.5μg/mL)を含有するアセトニトリルを用いて沈殿させた。1分間振盪/ボルテックス処理した後、試料を濾過し(ポリプロピレンフィルター、0.45μmの孔径でのCaptiva濾過)、濾液に120μLのメタノール:水(1:1、v/v)を添加し、分析まで4℃で保存し、注射の前にオートサンプラーに入れた。分析はQTRAP 6500+(Sciex)質量分析計と連結されたUPLCからなるLC-MS/MSシステムで実施した。移動相Aは、0.1%ギ酸を有する水とし、移動相Bは、0.1%ギ酸を有するメタノールとした。10%のBで勾配を開始し、1.5分で95%のBとし、95%のBで2分間維持し、次いで、0.5分で10%のBまで低下させ、10%のBで2分間維持した。クロマトグラフィーは、Agilent Technologies製のPoroshell 120 EC-C18カラム、2.7μm粒子、3×50mmで実施した。流速は、0.6mL/分とし、サイクル時間(注射から注射)は、およそ6分とした。試料注射容量は、10μLとした。GNE987のMRM遷移は、ラベタロール(IS)について、548.788(m/z、z=2)→779.2(m/z、z=1)および329.101(m/z、z=1)→91(m/z、z=1)であった。定量化のための較正曲線は、0.5(定量化の下限)~10000(定量化の上限)ng/mLの範囲の標準に基づいており、最小5つの較正点を有し、較正標準の最小75%がその公称値の±20%以内であるようにした。
【0282】
総抗体濃度は、メソスケール診断技術(MSD、LLC.、メリーランド州、ロックビル)に基づくリガンド結合アッセイ(LBA)によって決定した。すべてのインキュベーションステップは、22℃で穏やかに撹拌しながら実施した。すべての洗浄ステップ(200μL/ウェル)は、PBS pH7.4および0.01%のTween 20を含有するPBS-Tで、プレートウォッシャーELx405(BioTek instruments Inc.、バーモント州、ウィヌースキ)を使用して実施した。第1に、2.5μg/mLのビオチン-SPがコンジュゲートされたAffiniPureヤギ抗ヒトIgG、Fcy断片特異的(Jackson ImmunoResearch Europe Ltd.、JIR、ケンブリッジシャー、英国、109-065-098番)を、MSD GOLD 96ウェルストレプトアビジンQUICKPLEXプレート(MSD、L55SA番)上に2時間コーティングした。その後、プレートを3回洗浄した。血漿試料、標準および品質対照を、PBS pH7.4、0.05%のTween 20および3.0%(w/v)BSAからなる希釈緩衝液で段階希釈し、プレート上で1時間インキュベートした。プレートを再度洗浄し、製造手順に従って、MSD GOLG SULFO-タグ(MSD、R31AA-1番)で事前に標識された、0.6μg/mLのマウス抗ヒトIgG、F(ab’)2断片特異的(JIR、209-005-097番)とともに1時間インキュベートした。最終洗浄ステップの後、各ウェルに150μLの、界面活性剤(MSD、R92TC番)を有する2x MSD Read緩衝液Tを添加し、プレートをMESO Quickplex SQ120プレートリーダー(MSD)で読み取った。Software Watson LIMS(バージョン7.5、ThermoFisher Scientific Inc.)を使用し、5PL(Marquart)方程式、重み係数1/Y2で標準曲線をフィッティングして、血漿試料の総mAb濃度を算出した。定量化の下限(LLOQ)は、50ng/mLであった。
【0283】
PROTACであるGNE987の半減期は、文献で報告された半減期(2.8時間、Pillow, T. H. et al., ChemMedChem 15 (2020) 17-25)と同一範囲内である5.8時間であると決定された。MIC2による、PROTACであるGNE987の複合体形成は、マウスにおいて14.7時間の、PROTACであるGNE987の半減期につながり、これは、2.5倍の半減期改善に相当する。
【0284】
さらに、100%の理論上のローディングを有するPAX CD33xMIC5+GNE987およびCD33xMIC7+GNE987を作製し、Charles River Laboratories Italia、イタリア、カルコによって提供されたC57BL/6N近交系マウス(各群についてN=2の雄および雌)において実施されたPK研究において調査した。7~8週齢のマウスに、30mg/kg(0.38mg/kgのPROTACに相当する)のCD33xMIC5+GNE987およびCD33xMIC7+GNE987、CD33抗体単独、CD33xMIC5またはCD33xMIC7を、尾静脈中に静脈内注射された単回用量として与えた。マイクロサンプリング技術を使用してすべての動物から試料を連続的に収集した(各採血について20mL)。投与後、1日目に2つの血液試料を採取し、後の3週間の間に7つを採取した。各試料を予冷した(0~4℃)Minivette POCT EDTAチューブ中に収集し、Microvette CB300 EDTA中に移し、4℃で2500×gで10分間遠心分離した。得られた血漿を新たなバイアル中に移し、さらなる分析まで-80℃で直ちに保存した。PK研究、動物取り扱いおよび実験法は、イタリアのD.Lvo. 2014/26および指令2010/63/EUに従って実施した。研究は、Instituto di Ricerche Biomediche Antoine Marxer、イタリア、コッレレット・ジャコーザで実施した。この研究所はイタリア保健省から完全に認可されている。
【0285】
総抗体濃度は、メソスケール診断技術(MSD、LLC.、メリーランド州、ロックビル)に基づくリガンド結合アッセイ(LBA)によって決定した。すべてのインキュベーションステップは、22℃で穏やかに撹拌しながら実施した。すべての洗浄ステップ(200μL/ウェル)は、PBS pH7.4および0.01%のTween 20を含有するPBS-Tで、プレートウォッシャーELx405(BioTek instruments Inc.、バーモント州、ウィヌースキ)を使用して実施した。第1に、2.5μg/mLのビオチン-SPがコンジュゲートされたAffiniPureヤギ抗ヒトIgG、Fcy断片特異的(Jackson ImmunoResearch Europe Ltd.、JIR、ケンブリッジシャー、英国、109-065-098番)を、MSD GOLD 96ウェルストレプトアビジンQUICKPLEXプレート(MSD、L55SA番)上に2時間コーティングした。その後、プレートを3回洗浄した。血漿試料、標準および品質対照を、PBS pH7.4、0.05%のTween 20および3.0%(w/v)BSAからなる希釈緩衝液で段階希釈し、プレート上で1時間インキュベートした。プレートを再度洗浄し、製造手順に従ってMSD GOLG SULFO-タグ(MSD、R31AA-1番)で事前に標識された、0.6μg/mLのマウス抗ヒトIgG、F(ab’)2断片特異的(JIR、209-005-097番)とともに1時間インキュベートした。最終洗浄ステップの後、各ウェルに150μLの、界面活性剤(MSD、R92TC番)を有する2x MSD Read緩衝液Tを添加し、プレートをMESO Quickplex SQ120プレートリーダー(MSD)で読み取った。Software Watson LIMS(バージョン7.5、ThermoFisher Scientific Inc.)を使用し、5PL(Marquart)方程式、重み係数1/Y2で標準曲線をフィッティングして、血漿試料の総mAb濃度を算出した。定量化の下限(LLOQ)は、50ng/mLであった。
【0286】
MSC2734242の濃度は、ポジティブモダリティでTurboイオンスプレー源(ITS)を備えたSCIEX 5500三連四重極型(SCIEX、米国、カリフォルニア州、レッドウッドシティ)を使用して液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)によって決定した。クロマトグラフィー分離は、100μLの拡張ループで構成されたWaters ACQUITY I-クラスUPLCシステム(米国、マサチューセッツ州、ミルフォード)に取り付けられたWaters ACQUITY UPLC BEH(C18、2.1×50mm、1.7μm)カラムを使用して達成した。流速0.350mL/分で、相A(H2O:ACN 95:5、0.1%ギ酸)およびB(ACN:H2O 95:5、0.1%ギ酸)について使用したクロマトグラフィー勾配は、0.25分の100%のAの均一濃度、続いて、100%のBまで2.25分の勾配および100%のBでのその後の0.75分の洗浄ステップおよび初期条件で2.5分の再調整であった。
【0287】
C57BL/6Nマウス血漿試料からのMSC2734242の抽出は、タンパク質沈殿技術によって実施した。Phenomenex Impactタンパク質沈殿プレート(Phenomenex、米国、カリフォルニア州、トーランス、CE0-7565)上で、3μLの血漿試料を、内部標準として使用される50ng/mLのMSC2737500を含有する100μLのアセトニトリル中で沈殿させた。5分振盪(900rpm)した後、真空によってすべてのウェルを濾過し、清潔な96ウェルプレート中に収集し、次いで、100μLの2.5%ギ酸を含有する水溶液を用いて希釈し、LC-MS/MS分析に提供した。すべての試薬は、LC-MS等級または等価物であった。
【0288】
Software Watson LIMS(バージョン7.5、ThermoFisher Scientific Inc.)を使用して、線形回帰、重み係数1/X2で、面積比(分析物シグナル/内部標準シグナル)で標準曲線をフィッティングして、血漿試料の総MSC2734242濃度を算出した。定量化の下限(LLOQ)は、5ng/mLであり、定量化の完全範囲は、5~2000ng/mLであった。
【0289】
主要PKパラメータは、Phoenix WinNonlinバージョン8.3.4(Pharsight Corporation、米国)を使用する非コンパートメント分析(NCA)によって推定した。薬物動態パラメータは、投与後時間に対する総抗体およびMSC2734242分析物の個々の血漿中濃度から取得または算出した。
【0290】
パラメータ推定のために個々の血漿中濃度-時間プロファイルを使用した。定量化限界未満(BQL)で算出されたすべてのPK試料の濃度は、AUC0-inf、クリアランス、および分布容積をより良好に推定するために欠損値と考えた。終末半減期(t1/2)およびλz(曲線の終末対数-線形部分と関連する一次速度定数)の値は、線形回帰の終末相において少なくとも3つの時点が定量可能であった場合にのみ算出された。BQL未満の値は、記述統計学のために0ng/mLと考えた。全体に、GNE987のCD33xMIC5およびCD33xMIC7のいずれかとの複合体形成は、マウスにおけるPROTACの有意に長い半減期につながり、それぞれ29.6時間および105時間であった(
図47)。印象的なことに、GNE987の濃度は、CD33xMIC7+GNE987を与えられた群において21日(504時間)後でさえマウス血漿における平均で依然として69ng/mLであったが、PROTACであるGNE987濃度は、25時間後にはLLOQ未満にすでに低下した。この結果は、抗体-複合体形成が、例えば、PROTACの抗体との複合体形成によってPROTACに対する腫瘍細胞の曝露を強力に増大する可能性があることを例証する。
【0291】
結論を導き出すためにPK研究の抗体クリアランスを比較して、VHH融合物の作製およびそれぞれの融合タンパク質の、PROTACであるGNE987でのローディングが、クリアランス速度を変更したか否かを結論付けた(
図48)。未改変CD33抗体ならびに同抗体のVHL-PROTAC結合性VHH MIC5およびMIC7との融合物(CD33xMIC5/7)のクリアランスは同様であり、これが示唆するものは、クリアランスに対するVHH融合物のわずかな影響である。さらに、抗体-VHH融合タンパク質CD33xMIC5およびCD33xMIC7の、PROTACであるGNE987でのローディングは、抗体クリアランスに影響を及ぼさなかった。結論として、VHL-PROTAC結合性VHHの付加およびPROTACとの複合体形成は、PKプロファイルに影響を及ぼさなかった。
【0292】
後者の研究の薬物動態パラメータは、表19にまとめられている。
【0293】
【0294】
7.12 CD33xMIC7+GNE987 PROTAC-抗体複合体は、MV411マウス異種移植モデルにおいて有効である
ヒト白血病MV411細胞を、免疫不全マウスに異種移植した。300万個のMV411細胞を未処置の雌CB17 SCIDマウスの左側腹部に皮下注射した。種々の処置群における動物の無作為化および処置の開始は、平均腫瘍サイズが45mm
2に到達した後に開始した。対照群は媒体で処置した。試験群は、0.38mg/kgのGNE987および30mg/kgのCD33xMIC7+GNE987(0.38mg/kgのGNE987がローディングされた)を用いて1回(1日目)処置した。さらに、2つの群は、1日目での30mg/kgのCD33xMIC7+GNE987(0.38mg/kgのGNE987がローディングされた)、続いて、8日目での0.38mg/kgのGNE987での処置または1および8日目での0.38mg/kgのGNE987のいずれかで2回処置した。さらに、1つの群には、30mg/kgのCD33xMIC5+GNE987(0.38mg/kgのGNE987がローディングされた)を1回(1日目)与え、別の群には、抗体対照30mg/kgのPROTACを伴わないCD33xMIC7を1回与えた(1日目)。個々の群を、腫瘍が最大腫瘍サイズ(225mm
2)に到達する前に停止させた(
図49)。
【0295】
抗体単独は、媒体対照に対して有意な関連効果を有さなかったが、PROTACであるGNE987は抗腫瘍効果を誘導した。しかし、約4日目に、腫瘍は、再度進行し始め、媒体対照と同じ成長速度を示した。1および8日目にGNE987を投薬した群では、GNE987の再投薬は、再投薬後約3日目まで抗増殖性効果を再度誘導し、これでは、腫瘍は再度増殖を開始した。CD33xMIC7+GNE987の単回用量は、15日目まで腫瘍増殖阻害につながり、その後、腫瘍が進行した。1日目に30mg/kgのCD33xMIC7+GNE987(0.38mg/kgのGNE987がローディングされた)を用いて、続いて、8日目に0.38mg/kgのGNE987での処置が投薬された群では、再投薬は、約23日までの持続性腫瘍増殖阻害につながった。CD33xMIC5+GNE987を用いる処置は、媒体と比較して腫瘍増殖遅延を誘導したが、効果はCD33xMIC7+GNE987と比較してかなり明白ではなかった。
【0296】
全体として、GNE987がローディングされたCD33xMIC7の抗腫瘍効果は、同等のPROTAC用量でPROTAC単独よりも優れていた。興味深いことに、CD33xMIC7+GNE987の抗腫瘍効果は、8日目にGNE987を単純に再投薬することによってさらに増強できる可能性がある。これは、CD33xMIC7+GNE987を与えた群へのGNE987単独のさらなる投薬の明確な利益があることおよびCD33xMIC7が血清から、PROTACであるGNE987を捕捉し、それを腫瘍部位で蓄積する可能性があることを実証する。これらの結果は、腫瘍特異的抗原に、ならびにPROTACに結合する二重特異性抗体の投与、続いて、複合体形成されていないPROTAC(例えば、経口適用可能なもの)の投与によって腫瘍を事前標的化する道を開く。このアプローチを用いると、ex vivoでPAXを事前に製造する必要なく、所望の組織に別個に投与されたPROTACを標的化できる。
【0297】
抗PROTACクローンMIC5およびMIC7を比較すると、CD33xMIC7+GNE987がCD33xMIC5+GNE987よりも強力な抗腫瘍効果を誘導することが明らかになる。CD33の結合は、CD33xMIC7を用いる処置によって実証されるように腫瘍増殖に影響を及ぼさず、これは、抗腫瘍効果がCD33xMIC7に、PROTACであるGNE987をローディングすることによって駆動されることを裏付ける。
【0298】
8 まとめ
本発明は、非共有結合PROTAC抗体複合体(PAX)によるPROTACの標的化送達を可能にする前例のない送達技術を開示する。PAX技術は、活性原薬が普通ハプテンで改変される、非共有結合薬物送達の分野における他の方法とは異なり、未改変活性PROTACの標的化送達を可能にすることに留意することが重要である。この発明は、その細胞表面受容体発現に応じたPROTACの複数の細胞種への送達を包含する。それらの受容体として、それだけには限らないが、CD33、CLL1、TROP2、HER2、EGFR、NAPI2BおよびB7H3が挙げられる。PROTACに関して、本発明の多用途性は、さまざまな構造的に異なるPROTAC(GNE987、ARV771、SIM1、GNE987P、SIM1およびFLT3d1)の選択的送達によって実証される。また、プラットフォームは、モジュラー抗体操作戦略を活用することによって1つの抗体を使用して最大12のPROTAC分子を送達する可能性を提供するということも実証された。さらに、本発明は、抗体-複合体形成が、PROTACに対する標的細胞の曝露を有意に改善できることを実証する。最後に、本発明者らは、in vivo異種移植モデルにおいてPAX技術を検証できた。表20は概要を示す。
【0299】
【国際調査報告】