IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユミコアの特許一覧

<>
  • 特表-金属を分離するための結晶化方法 図1
  • 特表-金属を分離するための結晶化方法 図2
  • 特表-金属を分離するための結晶化方法 図3
  • 特表-金属を分離するための結晶化方法 図4
  • 特表-金属を分離するための結晶化方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】金属を分離するための結晶化方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/44 20060101AFI20240711BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20240711BHJP
   C22B 26/12 20060101ALI20240711BHJP
   C22B 47/00 20060101ALI20240711BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
C22B3/44 101B
C22B7/00 C
C22B26/12
C22B47/00
C22B23/00 102
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505135
(86)(22)【出願日】2022-07-27
(85)【翻訳文提出日】2024-01-26
(86)【国際出願番号】 EP2022071100
(87)【国際公開番号】W WO2023006826
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】21188417.6
(32)【優先日】2021-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ピーテル・フェルヘース
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA16
4K001AA19
4K001AA34
4K001BA22
4K001DB24
(57)【要約】
本開示は、Ni及びLiを含む出発原料から金属を回収するための結晶化方法に関する。水性溶液又は固体形態の出発原料を、少なくとも45℃の温度で、好ましくは少なくとも500g/L硫酸の酸性度に達する水性溶液と反応させる。反応生成物の固/液分離後、水和硫酸塩としてNiの大部分を含む固体残留物、及びLiの大部分を含む流出溶液が得られる。この方法は、特にリチウムイオン充電式電池の再生利用に適している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性溶液の出発原料からNiを含む遷移金属Mを選択的に回収するための方法であって、前記溶液はLiも含有し、
- Tが45℃と前記溶液の沸点の間である、式A≧1100-6.7*Tに従って、摂氏度で表される温度Tにおいて、硫酸のg/Lで表される酸性度Aに達するように前記溶液を調整することによってNiを結晶化させ、それにより固体及び液体の反応生成物の混合物が得られる工程;並びに
- 前記反応生成物を固/液分離し、それにより前記方法に投入するNiの大部分を含む固体残留物が水和硫酸ニッケルとして得られ、且つ前記方法に投入するLiの大部分を含む流出溶液が得られる工程
を含む、方法。
【請求項2】
固体形態の出発原料からNiを含む遷移金属Mを選択的に回収するための方法であって、前記固体はLiも含有し、
- Tが45℃と水性媒体の沸点の間である、式A≧1100-6.7*Tに従って、摂氏度で表される温度Tにおいて、硫酸のg/Lで表される酸性度Aに達するように調整された前記水性媒体と前記固体を接触させることによってNiを結晶化させ、それにより固体及び液体の反応生成物の混合物が得られる工程;並びに
- 前記反応生成物を固/液分離し、それにより前記方法に投入するNiの大部分を含む固体残留物が水和硫酸ニッケルとして得られ、且つ前記方法に投入するLiの大部分を含む流出溶液が得られる工程
を含む、方法。
【請求項3】
Tが50℃と前記溶液の沸点の間である、式A≧1250-6.7*Tに従って、硫酸のg/Lで表される前記溶液の酸性度A及び摂氏度で表される前記溶液の温度Tが選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記Liの大部分が、前記方法に投入するLiの少なくとも80質量%、好ましくは少なくとも90質量%である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記Niの大部分が、前記方法に投入するNiの少なくとも60質量%、好ましくは少なくとも80質量%である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
固/液分離の工程で得られた前記固体残留物が式NiSO.xHO、(式中、xは平均水和係数であり、x<5、好ましくはx<2である)に従う水和硫酸塩を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記出発原料が少なくとも0.15のNi:Li質量比を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記出発原料がCoをさらに含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
Ni:Coモル比が少なくとも1である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
NiとCoの合計が前記遷移金属Mの大部分を形成する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記出発原料がMnをさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記出発原料が充電式電池、特にリチウムイオン電池由来である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
Niが前記遷移金属Mの大部分を形成する、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、Ni及びLiの金属を含む、水性溶液又は固体形態の出発原料から、これら金属を分離するための結晶化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Ni及びLiは、現在、いくつかの材料、特に充電式リチウムイオン電池の製造又は再生利用と関連がある材料中に一緒に存在することが多い。現在一般的な電池化学物質は、金属Li、Ni、Mn、及びCoを含有する正極粉末(NMC)を含む。他の多用される化学物質は、Li、Ni、Co、及びAlを含有する正極粉末(NCA)、又はLi、Ni、Co、Mn、及びAlを含有する正極粉末(NMCA)を利用する。将来可能性のある化学物質において、NaがLiに取って代わり得る。
【0003】
製造廃棄物及び寿命に達した電池の両方を含む、リチウムイオン電池の再生利用がますます必要とされている。これは、リチウムイオン電池とその全ての構成要素、例えば電極箔、電解質、セパレーター、外装材及び電子部品を主に含むが、場合によりある量の非リチウム電池、例えばニッケル-カドミウム電池、ニッケル-金属-水素化物電池及び亜鉛系電池も含む、複雑な廃棄物の流れの処理をもたらす。これらの製造廃棄物及び寿命に達した電池の派生物も、機械的前処理及び/又は熱による前処理の結果である黒色塊などの粉末画分の形態で再生利用に使用可能である。
【0004】
製品に加えられる成分が増えるにつれて、関与する材料の化学的な複雑さは製造サイクルの終わりに向かって増していく。したがって、電池セル及びモジュールは、膨大な数の異なる元素、例えば正極ではNi、Co、Mn、Li、Na、Fe、Al、V、P、F、C、Ti及びMg、負極ではLi、Ti、Si、C、Al及びCu、電解質ではLi、F、P及び揮発性有機化合物、ケーシングではAl、Fe、Cu、Ni、Cr、Sb並びにCl及びBrを含むプラスチックを含有する場合がある。
【0005】
使用済み電池の量は、世界中で進行中の自動車産業の電化に主に起因して、今後10年間で年間100.000メートルトンを超えると予想される。電池の再生利用ビジネスはそれに応じて成長すると予想される。再生利用プロセスの共通点は、LiをNiから分離する必要があること、また任意選択でMn及びCoが存在する場合にそれらから分離する必要があることである。Ni、Mn、及びCoを互いから分離することは、他方では、これらの3金属を一緒に含有する化合物が新しい電池のための正極材料を製造するのに適した起点を形成する可能性があるので、必ずしも必要ではない。
【0006】
US2019152797に記載されている1つの従来の電池スクラップ再生利用方法では、溶媒抽出を使用して、Ni、Co、Liなどを含有する精製した浸出溶液からCo及びNiを抽出し、Liが低減されたNi及びCo生成物が得られる。この操作では、NaOH又はNHOHなどの塩基が、回収されたNiの量に応じて化学量論的に消費される。結果として、かなりの運転コスト及び相当な塩の排出が続く。
【0007】
他の方法は、溶液中にLiを残して浸出溶液から硫酸Niを結晶化させることに基づいている。しかしながら、電池中、したがって浸出溶液中でもLi含有量が比較的高いことにより、Liは、Niと共結晶化する傾向がある。その後のLiの損失及び硫酸Niの汚染を最小限にするために、結晶化の前に溶液からLiを抽出する。これは、CN108439438に例示されている:焼成したリチウム含有電池廃棄物を酸浸出させ、Li、Co、Ni、Mn、Al、Fe及びCuを含有する溶液を生成して、ここから最初にCu、Fe及びAlを除去し、その後Liを抽出剤を用いて除去し、続いて混合した硫酸Ni、Co、Mnを結晶化させる。同様の方法は、CN107768763でも知られている:電池廃棄物を酸中で浸出させ、その後得られた溶液からCu、Fe及びAlを沈殿によって除去する。次いでフッ化水素を使用してLiをLiFとして除去し、混合した硫酸Ni、Co、及びMnを結晶化させる。
【0008】
US10995014は、酸性溶液からの金属硫酸塩の結晶化を含む方法を教示している。これは特に、Liも含有する溶液からのNMC(Ni、Mn、Co)の結晶化を扱っている。結晶化は、終点のpHが約1で水除去によって行われる。Liに対する一定の選択性が得られながら、結晶化液は依然として溶解したNMCを高レベルで含有する。
【0009】
これらの公知の方法は、硫酸Ni、並びに任意選択で硫酸Co及び硫酸Mnも回収する前に、追加のLi除去工程を必要とする。これにはいくつかの欠点が存在する。何よりもまず、両方の方法では、試薬は、依然として抽出されたLiに関して化学量論的に消費される。また、抽出工程は、通常、高価な抽出剤、並びに追加の方法工程、例えば除去すべき(1つ又は複数の)金属を抽出剤に担持させる工程及び抽出剤を取り除く工程を必要とするので、費用がかかる。さらに、フッ化水素は毒性の高い試薬であり、追加の安全投資及び運転コストがかかることになる。また、システムへのフッ化物の導入により、後で廃水処理が複雑になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開2019/152797号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開108439438号明細書
【特許文献3】中国特許出願公開107768763号明細書
【特許文献4】米国特許第10995014号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、予備的なLi除去工程の必要性を回避しながら、Ni及びLiを含有する出発溶液又は固体からNiを回収するための結晶化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の実施形態によれば、水性溶液の出発原料からNiを含む遷移金属Mを選択的に回収するための方法であって、前記溶液はLiも含有し、
- Tが45℃と溶液の沸点の間である、式A≧1100-6.7*Tに従って、摂氏度で表される温度Tにおいて、硫酸のg/Lで表される酸性度Aに達するように溶液を調整することによってNiを結晶化させ、それにより固体及び液体の反応生成物の混合物が得られる工程;並びに
- 反応生成物を固/液分離し、それにより、方法に投入するNiの大部分を含む固体残留物が水和硫酸ニッケルとして得られ、且つ方法に投入するLiの大部分を含む流出溶液が得られる工程
を含む、方法が明らかにされる。
【0013】
「大部分」とは、少なくとも50質量%を意味する。「流出溶液」とは、ろ液と洗浄水の合計を意味する。
【0014】
典型的な供給源の流れは、リチウムイオン電池又はそれらの派生製品を操作する酸性浸出方法からの浸出液である。別の例は、標準的な硫酸Ni又は硫酸NMC結晶化方法のパージ又はブリードである。更なる例は、Cu電解抽出プラントのパージ又はブリードである。このようなブリード流れは、リチウムイオン電池をある種の方法工程の上流に供給した場合、実際にNi及びLiを含有しうる。
【0015】
第2の実施形態によれば、固体形態の出発原料からNiを含む遷移金属Mを選択的に回収するための方法であって、前記固体はLiも含有し、
- Tが45℃と水性媒体の沸点の間である、式A≧1100-6.7*Tに従って、摂氏度で表される温度Tにおいて、硫酸のg/Lで表される酸性度Aに達するように調整された水性媒体と固体を接触させることによってNiを結晶化させ、それにより固体及び液体の反応生成物の混合物が得られる工程;並びに
- 反応生成物を固/液分離し、それにより、方法に投入するNiの大部分を含む固体残留物が水和硫酸ニッケルとして得られ、且つ方法に投入するLiの大部分を含む流出溶液が得られる工程
を含む、方法が明らかにされる。
【0016】
Ni及びLiを含有する固体形態の出発原料の典型的な供給源は、スクラップ又は廃棄物、例えば黒色塊を含む正極材料であり、これはリチウムイオン電池の再生利用において周知の廃棄物流れである。
【0017】
この第2の実施形態では、水和硫酸ニッケル沈殿物は、溶液から出発するのではなく固体から出発して形成される。本方法の全般的な進歩的概念は、しかしながら、水性溶液から出発しても固体から出発しても同じである。特定の反応機構に縛られるものではないが、固体は溶解し、続いて液相から容易に結晶化すると仮定することができる。
【0018】
両方の実施形態は、高い硫酸濃度及び高温に達したときのNi及びLiの溶解度の急な変化に依存している:Niの溶解度は急激に低下するが、Liの溶解度は増大する。これにより、Niの選択的な結晶化が可能になり、すなわち、かなりの濃度のLiを含有する溶液でも、Liの共沈なしで可能になる。予備的なLi除去工程は、したがって、ほとんどの実際的な場合に必要ではない。
【0019】
水性媒体又は溶液を「調整すること」とは、外部手段を使用した加熱によって、又は高濃度の硫酸を加えたときの希釈エンタルピーによって必要な温度が得られることを意味する。必要な酸濃度は、高濃度の硫酸を加えることによって、又は水の蒸発によって得られうる。蒸発は、部分真空下で行うことが有利である。酸の添加及び水の蒸発は、組み合わせてもよい。明らかに、Liの溶解限度を超えて水を蒸発させることは回避しなくてはならない。方法工程の上流からの強酸性のNi及びLi含有溶液は、追加の酸性化をほとんど又は全くしないで直接使用されうる。酸性浸出又は電解抽出からの溶液を処理する場合にこのようになりうる。
【0020】
上記の式は、十分な選択性を保証するのに必要な酸性度と温度との関係を定義している。実際に酸性度が低下する場合、結晶化温度がより高いと有利であることがわかった。これらの条件は実際により低いNi水和物、例えば硫酸Ni一水和物の形成を促進し、より高いNi水和物、例えば硫酸Ni六水和物の形成を抑制する。上記で定義した酸性度及び温度の条件と組み合わせて、低いNi残留溶解度が達成され、母液中のNi損失が少なくなる。
【0021】
45℃未満の溶液温度は十分ではない。少なくとも50℃の温度が好ましく、少なくとも60℃の温度がさらにより好ましい。濃酸を加えることによって必要な酸性度のレベルに達した場合、希釈エンタルピーにより、典型的には必要とされる最低値を超えて溶液が加熱されることになる。酸性度が水の蒸発によって達せられた場合に最低温度も有用である:高価な高真空技術を適用しない限り、より低温では蒸発が遅すぎる。温度に関係なく、少なくとも500g/L、又はさらに少なくとも600g/Lの硫酸を含む溶液が好ましい。
【0022】
より高い酸化状態のNi、Mn又はCoを含む固体から出発する場合、Ni、Mn及びCoの酸化状態をより簡単に2に還元するために、還元剤を添加することを選んでもよい。価数がより高いカチオンはわずかに溶解するのみであるが、二価のカチオンは確かに可溶性である。これにより、上に提案された溶解-結晶化機構が起こることが可能になる。還元剤の不在下において、Mnは、特に不溶性酸化物を形成しやすくなる。それにもかかわらず、MnをNi及びCoから分離したい場合には、これが利点に変わる可能性がある:Ni及びCoは、水溶性水和硫酸塩を形成することになるが、Mnは、不溶性酸化物のままである。
【0023】
固/液分離の工程は、結晶化をより高温で実施する場合でも、60℃未満の温度で有利に行われうる。一旦形成されると、結晶化した種の著しい再溶解は確かに起こらないようである。より低い操作温度により、分離装置の腐食が少なくなる。関連がある固/液分離装置は、デカンター、遠心分離機及び全ての種類のフィルターである。この固/液分離の工程には、通常洗浄工程も含まれる。洗浄は水を使用して行われうる。
【0024】
Li含有流出液は、非常に酸性であり、以下の例示的な実験例によって:
- リチウムイオン電池又はそれらの派生製品の酸性浸出のための再生利用流れとして;
- リチア輝石などのリチウム鉱石を加工する操作において浸出剤又は中和剤として;
- 例えば硫酸溶媒抽出ユニット又は酸精製システムを使用して酸を分離した後に硫酸供給源として;且つ
- 例えば溶媒置換を使用してLiを回収するために
有利に使用されうる。
【0025】
上述の実施形態のいずれかによる更なる実施形態では、Tが50℃と溶液の沸点の間である、式A≧1250-6.7*Tに従って、硫酸のg/Lで表される溶液の酸性度A及び摂氏度で表される溶液の温度Tが選択される。これにより、Liの溶解度をさらに高くしながら、Niの残留溶解度を確実により低くすることができる。当業者は、Liの溶解限度を超えないようにしながら、水和硫酸ニッケルに対するNi収率を最大化することによって、操作条件を簡単に最適化するだろう。
【0026】
上記処理条件はNi及びNaの分離にも適していることに留意されたい。Naは、実際にNiとの複塩として沈殿する傾向があり、本開示で定義された条件で作業する場合に軽減又は回避できる問題である。
【0027】
上述の実施形態のいずれかによる更なる実施形態では、Liの大部分が、方法に投入するLiの少なくとも80質量%、又は好ましくは少なくとも90質量%に達する。
【0028】
上述の実施形態のいずれかによる更なる実施形態では、Niの大部分が、方法に投入するNiの少なくとも60質量%、又は好ましくは少なくとも80質量%に達する。
【0029】
上述の実施形態のいずれかによる更なる実施形態では、固/液分離の工程で得られた固体残留物は、式NiSO.xHO、(式中、xは平均水和係数であり、x<5、好ましくはx<2である)に従う水和硫酸塩を含む。
【0030】
これらの特徴は、残留物における水和係数の制限又は低下を反映している。溶解度の低い化合物だけが形成されるのが好ましい。この結果は、上記実施形態のいずれかにおいて特徴付けられた酸性度レベル及び温度制約を適用することによって得られる。酸性度及び温度がより高いと水和係数がより低くなる。50℃で24時間の乾燥工程により、残留物からほとんどの自由水(水分)が除去される。実験例に例示されているように、250℃におけるさらなる加熱工程により、硫酸ニッケル一水和物(x=1)が形成されるが、400℃まで加熱するとほとんどの水和水が除去される(x=0)。250℃における質量損失は、このようにNiSO塩の水和係数を計算するのに使用されうる。残留物中の他の金属塩の脱水も、250℃で測定された質量損失に寄与する可能性があり、NiSOの水和係数を計算するときに考慮すべきである。
【0031】
上述の実施形態のいずれかによる更なる実施形態では、出発原料が少なくとも0.15のNi:Li質量比を有する。この比では、望ましくないLiの沈殿を回避しながら、Ni濃度が低くても少なくとも60%の収率で結晶化が可能である。
【0032】
後の実施形態は、Niに富む濃縮物を得ることが好ましいことを表している。この結果は、硫酸Ni一水和物などのより低い水和物の形成のおかげで達成されている。これは、通常硫酸Ni六水和物の形成をもたらす先行技術の結晶化スキームと対照的である。
【0033】
純粋な硫酸Ni六水和物はNi含量が22質量%であるが、純粋な硫酸Ni一水和物はNi含量が34質量%である。反応条件に応じて、異なるNi水和物種が互いに隣接して存在する可能性がある。これにより、実際に硫酸Ni一水和物の正確な量を決定するのがより難しくなる。遡及的に計算された値は、異なる全ての水和物種の平均となる。しかしながら、硫酸Ni一水和物の形成は、上記の理論上の最大値である34%に達しなくても有益なままである。
【0034】
上述の実施形態のいずれかによる更なる実施形態では、出発原料は、Coをさらに含む。CoはNiと一緒に沈殿可能であり、このことは有利である。そのような実施形態では、Ni:Coモル比は少なくとも1であることが好ましい。この比は、Niをほとんど又は少しも含まない同じ溶液と比較して、Coの溶解度が低下したことを保証する。Coが最も貴重な金属であるので、固体残留物中のCoの優れた収率を確実にすることが重要である。実験例ではNiとCoとの間の驚くべき相乗効果が実証されている。
【0035】
上述の実施形態のいずれかによる更なる実施形態では、NiとCoの合計が前記遷移金属Mの大部分を形成する。
【0036】
上述の実施形態のいずれかによる更なる実施形態では、出発原料は、Mnをさらに含む。
【0037】
上述の実施形態のいずれかによる更なる実施形態では、出発原料は、充電式電池、特にリチウムイオン電池由来である。「充電式電池由来である」とは、元の又は使用済み充電式電池、製造廃棄物、スクラップ、浸出液及び黒色塊などの、二次リチウムイオン電池又はそれらの派生製品の製造又は再生利用に関連する液体又は固体製品を意味する。現在の充電式リチウムイオン電池は通常、Li、Ni、Mn及びCoを均質混合物として含有する。将来の充電式電池では、LiがNaに置き換わるかもしれない。電池は、他の多くの元素を含有していてよく、それは再生利用処理では避けられない不純物とみなされている。LiがNi、Mn及びCoから分離されるため、開示された方法は、このような電池又はそれらのスクラップの処理に適している。充電式電池の前駆物質を調製するための多くの方法はちょうどこれら3種の金属を含有する出発化合物を含むので、これらの3種の金属が一緒に結晶化する特徴は有利である。3種の金属の比は、所望の組成に達するように沈殿の前後に調整してもよい。
【0038】
上述の実施形態のいずれかによる更なる実施形態では、Niは、前記遷移金属Mの大部分を形成する。
【0039】
本発明は、実験例1から実験例7に例示されている。
【0040】
Li及びNiの溶解限度を実験例1から実験例3で調査した。その結果を図1から図4に示す。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】Li及びNiの溶解度を90℃における酸性度の関数として示す図である。
図2】Li及びNiの溶解度を50℃における酸性度の関数として示す図である。
図3】Niの存在下でLi及びCoの溶解度を80℃における酸性度の関数として示す図である。
図4】Niの不在下でLi及びCoの溶解度を80℃における酸性度の関数として示す図である(比較)。
図5】250℃における部分脱水及び400℃における完全脱水を例示する、関連する金属水和物のTGAを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
実験例1:90℃におけるHSO濃度の関数としてのNi-Li系
Table 1(表1)に従って調製した異なる溶液について結晶化試験を行う。
【0043】
【表1】
【0044】
各溶液を撹拌し、90℃まで加熱する。全体積が半分になるまで水を蒸発させる。この蒸発中、Ni及びLiは飽和し、水和したNiSO及びLiSOとして結晶化する。次いでスラリーをブフナー漏斗でろ過する。溶液をNi及びLiについて分析し、滴定によってHSO濃度を測定する。結果を図1に示す。
【0045】
これらの結晶化実験は、NiSOの濃度が90℃において500g/L超から急激に低下するが、LiSOの溶解度は増加することを示す。これは、高いNi結晶化の収率及び選択性が得られることを裏付ける。
【0046】
実験例2:50℃におけるHSO濃度の関数としてのNi-Li挙動
Table 2(表2)に従って調製した異なる溶液について結晶化試験を行う。
【0047】
【表2】
【0048】
これらの溶液は、実験例1のものと同様に処理する。しかしながら、90℃の代わりに50℃の温度を選択した。結果を図2に示す。
【0049】
これらの結晶化実験は、90℃と比較して、50℃でNi溶解性を完全に抑制するにはより高い酸濃度が必要であることを示す。Liに対して優れたNi収率及び選択性を保証するには、50℃において少なくとも750g/Lの酸濃度が好ましい。
【0050】
実験例3:Coの結晶化に対するNiの影響
Table 3(表3)及びTable 4(表4)に従って調製した異なる溶液について結晶化試験を行う。
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
これらの溶液は、実験例1のものと同様に処理する。しかしながら、90℃の代わりに80℃の温度を選択した。結果を図3及び図4に示す。
【0054】
これらの結果は、Niが存在するとCoの結晶化が促進されることを裏付ける。系にNiSOが存在しない場合は、ほぼ2倍の量のCoが結晶化流出液中に依然として存在する。
【0055】
選択的な分離方法を実験例4から実験例7にさらに例示する。
【0056】
実験例4:Ni-Li溶液から出発する方法
110g/LのNi、11.4g/LのLiを硫酸塩として、且つ250g/LのHSOを含有する溶液1Lを2Lビーカーに加える。この溶液を撹拌し、95℃の温度まで加熱する。スラリー全体積500mLが得られるまで水を蒸発させる。蒸発を大気圧で3時間行う。
【0057】
スラリーを予熱したブフナー漏斗でろ過する。11.8g/LのNi及び32g/LのLiを含有するろ液300mLを回収する。最終ろ液のHSO濃度を滴定によって710g/L HSOとして決定する。残留物を水430mLで洗浄する。産業的な実施においては、洗浄水を再生利用し、損失とみなさない。したがって、この実験例及び以下の実験例では、洗浄水の内容物を収量に加える。25%Niとたった0.3%のLiを含有する結晶392gが得られる。残留物は、硫酸塩及び水和水をさらに含有する。洗浄後、残留物を50℃で24時間乾燥させて、含浸された水を全て除去する。真空炉で乾燥させた後、N雰囲気下に250℃で1時間の乾燥による質量損失は、26%である。硫酸ニッケル塩が一水和物塩に転換される場合には、この質量損失はHOの除去に相当する。26%の質量損失は、Ni 1mol当たり3.4molのHOに相当する。したがって、結晶化した硫酸ニッケル塩の平均水和係数xは4.4であり、通常の水和係数6よりも著しく低い値である。
【0058】
【表5】
【0059】
この実験は、高い直接NiSO結晶化収率が得られることを示す:Niの89%が結晶化している。Ni収率は、洗浄水を再生利用して結晶化方法に戻すことによってさらに高められうる。結晶には少量のLiの汚染があるだけである。Liは、流出液(ろ液と洗浄水の合計)を介して回収され、収率は95%である。
【0060】
実験例5:NMC-Li溶液から出発する方法
68g/LのNi、23g/LのMn、24g/LのCo、14g/LのLi、11g/LのNa、及び10g/LのAlを硫酸塩として含有する溶液1Lを2Lビーカーに加える。
【0061】
濃度が1740g/Lの濃HSO 400mLを加えている間、溶液を撹拌する。混合物を加熱プレート上で95℃まで加熱する。スラリー全体積950mLが得られるまで水を蒸発させる。スラリーを、加熱したブフナー漏斗でろ過する。6.2g/LのNi、0.02g/LのMn、0.01g/LのCo、16g/LのLi、13g/LのNa、及び11g/LのAlを含有するろ液810mLを回収する。滴定によって決定したHSO濃度は830g/Lである。残留物を水670mLで洗浄する。18.8%Ni、7%Mn、7.1%Co、0.2%Li、及び0.01%Naを含有する乾燥残留物320gが得られる。残留物は、硫酸塩、水和水、及び微量不純物をさらに含有する。洗浄後、残留物を50℃で24時間乾燥させて、含浸された水を全て除去する。乾燥後、乾燥結晶についてN下で熱重量分析(TGA)を行う。このTGAの結果を図5に示す。TGA中のN雰囲気下、250℃での乾燥による質量損失(図5の工程A)は、2.6%である。これは、NiとCoの合計1モル当たり0.3モルのHOの質量損失に相当し、これは平均水和係数xの1.3に相当する。MnSOは、結晶化後にその一水和物塩として存在すると仮定され、250℃ではさらに脱水することはない。250℃での脱水後、塩を400℃までさらに加熱して、水和水を全て除去する(x=0)。250℃から400℃まで加熱することによって10%の質量損失が測定される(図5の工程B)。この質量損失は、250℃でNi、Co及びMnが一水和物硫酸塩(x=1)として存在していたことを裏付ける。
【0062】
【表6】
【0063】
この実験例は、結晶中のNi、Mn及びCoの高い回収収率を例示する。結晶中のLi汚染がわずか0.2%である、高いNMC結晶化収率、すなわち91%が達成される。Liは、流出液(ろ液と洗浄水の合計)を介して回収し、回収収率は96%である。Na及びAlなどの不純物の大部分は溶液中に残っている。Ni、Mn及びCo収率は、洗浄水を再生利用して結晶化方法に戻すことによってさらに高めることができる。
【0064】
実験例6:NMC-Li固体から出発する方法
25%Ni、15%Mn、15%Co、及び5.2%Liの組成のNMC正極粉末300gを、水200mLと混合し、2Lビーカーに加える。ビーカーを加熱プレート上に置き、撹拌して正極粉末を懸濁状態に維持する。温度を95℃まで上げている間、濃度が1740g/Lの濃HSO 1Lを加える。Ni、Mn、及びCoが二価であることを確実にするために、30%H溶液775mLを還元剤として混合物に9時間半にわたって加える。混合物を、加熱したブフナー漏斗でろ過する。ろ液1.6Lを回収する。ろ液には、3.8g/LのNi、6.5g/LのMn、2.2g/LのCo、及び8.4g/LのLiが含まれている。HSO濃度を滴定によって775g/Lとして決定する。
【0065】
残留物を水850mLで洗浄する。12%Ni、6.3%Mn、7.4%Co、及び0.3%Liを含有する乾燥残留物567gが得られる。残留物は、硫酸塩、及び水和水をさらに含有する。
【0066】
【表7】
【0067】
この実験例は、高い酸性度で処理されたNi及びLiを含有する固体のin-situ反応を示す。固体原料中のNi酸化物は、硫酸塩に変換されるが、Liの大部分は溶解する。Mn及びCoはNiと同様に振る舞う。Ni、Mn及びCoの全収率83%が達成される。Ni、Mn及びCo収率は、洗浄水を再生利用して結晶化方法に戻すことによってさらに高められうる。Liの90%は、流出液(ろ液と洗浄水の合計)中で回収される。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】