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特表2024-527512Mn-PNN錯体存在下でのエステルからアルコールへの水素化反応
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-25
(54)【発明の名称】Mn-PNN錯体存在下でのエステルからアルコールへの水素化反応
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/149 20060101AFI20240718BHJP
   C07C 35/36 20060101ALI20240718BHJP
   C07C 33/26 20060101ALI20240718BHJP
   C07C 33/22 20060101ALI20240718BHJP
   C07C 31/20 20060101ALI20240718BHJP
   C07C 31/125 20060101ALI20240718BHJP
   C07F 19/00 20060101ALI20240718BHJP
   B01J 31/24 20060101ALI20240718BHJP
   C07D 213/36 20060101ALI20240718BHJP
   C07D 307/44 20060101ALI20240718BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240718BHJP
   C07F 13/00 20060101ALN20240718BHJP
   C07F 9/58 20060101ALN20240718BHJP
【FI】
C07C29/149
C07C35/36
C07C33/26
C07C33/22
C07C31/20 Z
C07C31/125
C07F19/00
B01J31/24 Z
C07D213/36
C07D307/44
C07B61/00 300
C07F13/00 A
C07F9/58 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023578714
(86)(22)【出願日】2022-06-10
(85)【翻訳文提出日】2024-02-13
(86)【国際出願番号】 EP2022065787
(87)【国際公開番号】W WO2022268525
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】21180529.6
(32)【優先日】2021-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャウブ,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】シェルヴィース,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ズバール,ビクトリア
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
4H050
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC62A
4G169BC62B
4G169BD13A
4G169BD13B
4G169BE07A
4G169BE07B
4G169BE14A
4G169BE14B
4G169BE16A
4G169BE16B
4G169BE26A
4G169BE26B
4G169BE27A
4G169BE27B
4G169BE36A
4G169BE36B
4G169BE42A
4G169BE42B
4G169BE45A
4G169BE45B
4G169CB02
4G169CB70
4H006AA02
4H006AB14
4H006AC41
4H006BA16
4H006BA48
4H006BA81
4H006BB14
4H006BC10
4H006BC11
4H006BC34
4H006BE90
4H006FC32
4H006FC50
4H006FE11
4H006FE12
4H006FG29
4H039CA60
4H039CB20
4H050AA02
4H050AA03
4H050AB40
4H050BA16
4H050BA48
4H050WB14
4H050WB16
(57)【要約】
一般式(II)の三座配位子L及び少なくとも2個のカルボニル配位子を含むマンガン(I)錯体の存在下、50~200℃の温度及び0.1~20MPa absの圧力で、一般式(III)のエステルを水素分子によって水素化して、アルコール(a)及び(b)とするプロセス。
【化1】
【化2】
【化3】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(III)
【化1】
(式中、基R及びRは、それぞれ独立して、炭素含有有機、直鎖状若しくは分枝状、非環状若しくは環状、飽和若しくは不飽和、脂肪族、芳香族若しくは芳香脂肪族基であり、非置換であるか、又はヘテロ原子若しくは官能基によって中断若しくは置換されており、15~10,000g/molのモル質量を有し、ここで、2個の基R及びRは互いに結合していてもよい)のエステルを
水素分子と反応させて水素化し、アルコール
【化2】
を、マンガン(I)錯体の存在下、50~200℃の温度及び0.1~20MPa absの圧力で生成する方法であって、前記マンガン(I)錯体が、一般式(II)
【化3】
の三座配位子Lを含み、且つ少なくとも2個のカルボニル配位子を含み、式中、
、Rは、それぞれ独立して、1~8個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、6個若しくは10個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基、又は7~12個の炭素原子を有する芳香脂肪族炭化水素基であり、ここで特定される前記炭化水素基は、非置換であるか、又は1~3個のメトキシ基、チオメトキシ基若しくはジメチルアミノ基によって置換されており、前記2個の基R及びRは、互いに結合して、リン原子を含む5~10員環を形成してもよく、
、R、R、R、R10、R11は、それぞれ独立して、水素、直鎖状C~C-アルキル、分枝状C~C-アルキル、メトキシ、ヒドロキシル、トリフルオロメチル、ニトリル又はジアルキルアミノであり、それぞれ独立して、アルキル基1個あたり1~4個の炭素原子を有し、
、R、Rは、それぞれ独立して、水素、直鎖状C~C-アルキル、又は分枝状C~C-アルキルであり、n、mは、それぞれ独立して、0又は1であり、且つ実線-破線二重線は、単結合又は二重結合であるが、ただし、
n=1の場合、実線-破線二重線は両方とも単結合であり、
且つmは1であり、そして
n=0の場合、一方の実線-破線二重線は単結合であり、且つ他方の実線-破線二重線は二重結合であり、
フェニル環に面する側面で二重結合の場合、m=1、
ピリジル環に面する側面で二重結合の場合、m=0、又は両方の実線-破線二重線は単結合であり、且つmは1に等しい、方法。
【請求項2】
前記マンガン錯体が、
一般式(I)
[Mn(L)(CO)2+n1-n]Z(n) (I)
(式中、
Xは、「-1」の電荷を有するアニオン性単座配位子であり、
Zは、「-1」の電荷を有するアニオン性対イオンであり、
nは0又は1である)を有することを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記エステルと前記マンガン(I)錯体Iとのモル比が100~100,000であることを特徴とする、請求項1及び2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記反応が、共触媒として塩基の存在下で実施されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
使用される前記エステルIIIが、対応するジオールに水素化されるスクラレオリドであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
請求項5に従って、第1のステップ(i)において、スクラレオリドを水素化してAmbrox-1,4-ジオールとし、次いで、第2のステップ(ii)において、得られたアンブロックス-1,4-ジオールを環化して(-)Ambroxとすることを特徴とする、(-)Ambroxの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三座PNN配位子を有するマンガン錯体の存在下、水素分子を用いてエステルを水素化し、対応するアルコールを得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコールは重要な溶媒であるのみならず、例えば、医薬品、植物保護剤又は香料の製造のための重要な中間体及び合成単位でもある。所望のアルコールの種類、及び対応する出発原料の入手可能性次第で、対応するエステルを水素で直接水素化すること、又は還元剤で還元することが方法の選択肢であることが多い。
【0003】
エステルからのアルコール合成は通常、LiAlH若しくはNaBHなどの水素化金属を用いるか、水素を用いた不均一系触媒水素化、又は水素を用いた均一系触媒水素化によって行われる。水素を用いた均一系触媒水素化反応によって、それほど激しくない反応条件と、同時に良好な選択性が可能となることが多い。特に、多座リン、硫黄及び窒素含有配位子を有するルテニウム錯体の使用は、従来技術によって、この点で成功していることが証明されたが、近年、活性金属としてマンガンを含む代替物も開発されている。
【0004】
例えば、Bellerらは、Angewandte Chemie International Edition 2016,Vol.55,pages15364-15368に、エステルからアルコールへの水素化のためのPNP型の、いわゆるピンサー配位子を有するMn錯体の使用について記載している。ここでは、NH単位を中心に有し、そこに2個のエチルジアルキルホスフィン単位が結合している配位子が使用されている。マンガン原子は酸化状態+Iで存在し、少なくとも2個のカルボニル配位子も有する。これらの触媒を用いると、一連のエステル及びラクトンを対応するアルコール又はジオールへと水素化することができる。
【0005】
これらの触媒の欠点は、2モル%という比較的高い触媒担持量、及び不可欠な助触媒としての10モル%のKOtBuであり、これは水素化での高い転化率を得るために使用されなければならない。
【0006】
Milsteinらは、Chemistry,a European Journal 2017,Vol.23,pages5934-5938に、エステルからアルコールへの水素化のためのPNN型の、いわゆるピンサー配位子を有するMn錯体の使用について記載している。記載されている三座ピンサー配位子は、骨格としてピリジル基を有し、ドナー基としてホスフィノ基、及びアルキル基を有するNHR基を有する。これらの触媒を用いると、一連のエステル及びラクトンを対応するアルコール又はジオールへと水素化することができる。
【0007】
前述のPNN型のピンサー配位子を使用する欠点は、2,6-ジメチルピリジンから出発して、n-ブチリチウムなどの難易度の高い試薬を使用する、複雑な多段階合成である。また、これらの触媒の欠点は、少なくとも1モル%という比較的高い触媒担持量、及び不可欠な助触媒としての高価で取り扱いが困難なKHの使用であり、これは水素化での高い転化率を得るために使用されなければならない。より単純で安価なアルコキシド塩基では、このマンガン触媒を用いて低い転化率のみ達成される。
【0008】
Pidkoらは、Angewandte Chemie International Edition 2017,Vol.56,pages7531-7534に、エステルからアルコールへの水素化のための単純な二座PN配位子を有するMn錯体の使用について記載している。ここで使用される配位子は、NH単位、エチレン架橋、及びPR(R=アルキル、アリール)基を有する。マンガン原子は酸化状態+Iで存在し、少なくとも2個のカルボニル配位子も有する。ここでの利点は、配位子が製造しやすいことである。
【0009】
しかしながら、これらの触媒を用いたのは非環状エステルの水素化のみであり、ラクトンの水素化は記載されていない。これらの触媒のさらなる欠点は、1モル%という比較的高い触媒担持量、及び不可欠な助触媒として10~75モル%のKOtBuの非常に高い触媒担持量が必要とされることであり、これは水素化での高い転化率を得るために使用されなければならない。90%を超えるエステル転化率は、少なくとも50モル%の塩基担持量でのみ達成可能であり、経済的なプロセスとしては不利である。
【0010】
Clarkらは、Organic Letters 2018,第20巻,第2654-2658頁に、エステルからアルコールへの水素化のためのPNN型の、いわゆるピンサー配位子を有するMn錯体の使用について記載している。記載されている三座ピンサー配位子は、骨格としてNH基を有し、ドナー基としてピリジル基、及びフェロセンを介して架橋されたPPh2基を有する。マンガン原子は酸化状態+Iで存在し、また3個のカルボニル配位子を有する。ここでの利点は、配位子が製造しやすいことである。この触媒を用いると、一連のエステル及びラクトンを対応するアルコール又はジオールへと水素化することができる。
【0011】
この触媒の利点は、0.1モル%のみという低い触媒担持量であり、これは、例えば、ラクトンスクラレオリドを75%という中程度の収率で対応するジオールへと水素化するために必要とされる。
【0012】
このようなPNN型のピンサー配位子を使用することの欠点は、n-ブチリチウムなどの難易度の高い試薬を使用する、それらの非常に複雑な多段階合成である。
【0013】
この触媒のもう一つの欠点は、良好な転化率を達成するために、ラクトンスクラレオリドと同様に、共触媒としての10モル%の塩基という比較的高い担持量が必要とされることである。
【0014】
国際公開第2021/001240A1号パンフレットには、容易に調製されるPNN配位子の使用が記載されており、この配位子を用いて、共触媒としてごくわずかのみの塩基を必要とするか、又は塩基を添加しなくても共触媒を活性化することも可能な、エステルの水素化用の高活性ルテニウム触媒を製造することができる。しかしながら、活性マンガン触媒の配位子としての適性についてはこれまで何も知られておらず、構造的にもエステル水素化において上記されたマンガン触媒の配位子とは異なるため、この配位子を用いて高活性のマンガン触媒が製造できるとは予想されていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、エステルを対応するアルコールへと均一触媒水素化する方法であって、従来技術に記載された欠点を有さないか、又はわずかな程度しか有さず、必要な装置及び反応条件に関して、実施が容易であり、可能な限り高い空時収率を可能にする方法を見出すことである。
【0016】
特に、触媒活性錯体は、容易に入手可能な原料から直接調製可能であるべきであり、エステルからアルコールへの水素化反応において高い活性を有するべきであり、且つ可能な限り助触媒が必要とされないべきであり、最終的には過度の努力なしに使い捨てできるものであるべきである。このような観点から、可能な限り容易に製造することができるが、高い活性を有するマンガン触媒を生成する全ての錯体形成配位子が特に重要である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
驚くべきことに、一般式(III)
【化1】
(式中、基R及びRは、それぞれ独立して、炭素含有有機、直鎖状若しくは分枝状、非環状若しくは環状、飽和若しくは不飽和、脂肪族、芳香族若しくは芳香脂肪族基であり、非置換であるか、又はヘテロ原子若しくは官能基によって中断若しくは置換されており、15~10,000g/molのモル質量を有し、ここで、2個の基R及びRは互いに結合していてもよい)のエステルを水素分子と反応させて水素化し、アルコール
【化2】
を、マンガン(I)錯体(I)の存在下、50~200℃の温度及び0.1~20MPa absの圧力で生成する方法が見出された。ここで、マンガン(I)錯体は、一般式(II)
【化3】
の三座配位子Lを含み、且つ少なくとも2個のカルボニル配位子を含み、式中、
、Rは、それぞれ独立して、1~8個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、6個若しくは10個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基、又は7~12個の炭素原子を有する芳香脂肪族炭化水素基であり、ここで特定される炭化水素基は、非置換であるか、又は1~3個のメトキシ基、チオメトキシ基若しくはジメチルアミノ基によって置換されており、2個の基R及びRは、互いに結合して、リン原子を含む5~10員環を形成してもよく、
、R、R、R、R10、R11は、それぞれ独立して、水素、直鎖状C~C-アルキル、分枝状C~C-アルキル、メトキシ、ヒドロキシル、トリフルオロメチル、ニトリル又はジアルキルアミノであり、それぞれ独立して、アルキル基1個あたり1~4個の炭素原子を有し、
、R、Rは、それぞれ独立して、水素、直鎖状C~C-アルキル、又は分枝状C~C-アルキルであり、
n、mは、それぞれ独立して、0又は1であり、且つ
実線-破線二重線は、単結合又は二重結合であるが、ただし、
n=1の場合、実線-破線二重線は両方とも単結合であり、
且つmは1であり、そして
n=0の場合、一方の実線-破線二重線は単結合を表し、且つ他方の実線-破線二重線は二重結合を表し、フェニル環に面する側面で二重結合の場合、m=1、ピリジル環に面する側面で二重結合の場合、m=0、又は両方の実線-破線二重線は単結合を表し、且つmは1に等しい。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による方法の核心は、一般式(II)の三座配位子L及び少なくとも2個のカルボニル配位子を含むマンガン(I)錯体を、水素分子によるエステルの水素化反応において使用し、対応するアルコールを得ることである。
【0019】
三座配位子Lは、一般式(II)
【化4】
(式中、
、Rは、それぞれ独立して、1~8個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、6個若しくは10個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基、又は7~12個の炭素原子を有する芳香脂肪族炭化水素基であり、ここで特定される炭化水素基は、非置換であるか、又は1~3個のメトキシ基、チオメトキシ基若しくはジメチルアミノ基によって置換されており、2個の基R及びRは、互いに結合して、リン原子を含む5~10員環を形成してもよく、
、R、R、R、R10、R11は、それぞれ独立して、水素、直鎖状C~C-アルキル、分枝状C~C-アルキル、メトキシ、ヒドロキシル、トリフルオロメチル、ニトリル又はジアルキルアミノであり、それぞれ独立して、アルキル基1個あたり1~4個の炭素原子を有し、
、R、Rは、それぞれ独立して、水素、直鎖状C~C-アルキル、又は分枝状C~C-アルキルであり、
n、mは、それぞれ独立して、0又は1であり、且つ
実線-破線二重線は、単結合又は二重結合であるが、ただし、
n=1の場合、実線-破線二重線は両方とも単結合であり、
且つmは1であり、そして
n=0の場合、一方の実線-破線二重線は単結合を表し、且つ他方の実線-破線二重線は二重結合を表し、フェニル環に面する側面で二重結合の場合、m=1、ピリジル環に面する側面で二重結合の場合、m=0、又は両方の実線-破線二重線は単結合を表し、且つm=1である)の、いわゆるPNN配位子である。
【0020】
三座配位子とは、配位子L(II)がマンガン(I)錯体(I)の3個の配位部位を占めることを意味する。3個の配位子ドナー原子は、P原子及び2個のN原子であり、PNN配位子という名称はこれに由来する。
【0021】
中心ドナー原子の環境に関して、配位子は原理的に4種の異なる部分構造を有することができ、以下に詳しく説明する。
【0022】
(1)n=1の場合、実線-破線二重線は両方とも単結合を表し、mは1である。この結果、一般式(IIa)となる。配位子(IIa)は中性なので、電荷は「0」である。
【化5】
【0023】
n=0の場合、全部で3種の異なる部分構造がある。
【0024】
(2)n=0であり、フェニル環に面する実線-破線二重線が二重結合、ピリジル環に面する実線-破線二重線が単結合である場合、mは1に等しい。この結果、一般式(IIb)となる。配位子(IIb)は中性なので、電荷は「0」である。
【化6】
【0025】
(3)n=0であり、ピリジル環に面する実線-破線二重線が二重結合、フェニル環に面する実線-破線二重線が単結合の場合、mは0に等しい。この結果、一般式(IIc)となる。配位子(IIc)は中性なので、電荷は「0」である。
【化7】
【0026】
(4)第4の変形において、n=0でもあるが、実線-破線二重線は両方とも単結合であり、mは1である。したがって、N原子は負の電荷を有する。この結果、一般式(IId)となる。したがって、配位子(IId)は「-1」の電荷を有する。
【化8】
【0027】
配位子(II)の基R及びRは、広範囲に変動し得、それぞれ独立して、1~8個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、6個若しくは10個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基、又は7~12個の炭素原子を有する芳香脂肪族炭化水素基である、ここで特定された炭化水素基は、非置換であるか、又は1~3個のメトキシ基、チオメトキシ基又はジメチルアミノ基で置換されていてもよく、2個の基R及びRは、互いに結合して、リン原子を含む5~10員環を形成してもよい。
【0028】
脂肪族炭化水素基の場合、これは非分枝状又は分枝状又は直鎖状又は環状であってよい。脂肪族炭化水素基は、好ましくは1~6個の炭素原子、特に好ましくは1~4個の炭素原子、特に好ましくは1~2個の炭素原子を有する。具体例としては、メチル、エチル、イソプロピル、n-プロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル(tBuとも記載される)、シクロヘキシル(Cyとも記載される)が挙げられる。
【0029】
芳香族炭化水素基の場合、これはフェニル(Phとも記載される)、1-ナフチル又は2-ナフチルである。
【0030】
芳香脂肪族炭化水素基は、これらが脂肪族基又は芳香族基を介して配位子L中のリン原子に結合しているか否かにかかわらず、芳香族元素及び脂肪族元素を含む。芳香脂肪族炭化水素基は、好ましくは7~10個の炭素原子を有し、特に好ましくは7~9個の炭素原子を有する。具体例としては、o-トリル、m-トリル、p-トリル及びベンジルが挙げられる。
【0031】
リン原子を含む環の場合、好ましくはリン原子を含む5~6個の原子を有する環である。例としては、ブタン-1,4-ジイル、ペンタン-1,5-ジイル及び2,4-ジメチルペンタン-1,5-ジイルが挙げられる。
【0032】
上記の脂肪族、芳香族及び芳香脂肪族炭化水素基は、互いに結合してリン原子を含む環を形成してもよく、非置換であっても、又は1~3個のメトキシ基、チオメトキシ基又はジメチルアミノ基によって置換されていてもよい。上記で特定された個々の炭化水素基の炭素原子数は、メトキシ基、チオメトキシ基又はジメチルアミノ基の炭素原子を含むものと理解される。具体例としては、3,5-ジメチルフェニル、3,5-ジメチル-4-メトキシフェニル、3,5-ジメチル-4-チオメトキシフェニル及び3,5-ジメチル-4-(ジメチルアミノ)フェニルが挙げられる。
【0033】
基R及びRは、特に好ましくは、フェニル、p-トリル、o-トリル、4-メトキシフェニル、2-メトキシフェニル、シクロヘキシル、イソブチル、tert-ブチル、3,5-ジメチル-4-メトキシフェニル、3,5-tert-ブチル-4-メトキシフェニル及び3,5-ジメチルフェニルであり、特に好ましくは、フェニル、p-トリル、3,5-ジメチル-4-メトキシフェニル、イソブチル及びシクロヘキシルであり、ここで好ましくは両方の基が同一である。
【0034】
基R、R、R、R、R10及びR11は、それぞれ独立して、水素、直鎖状C~C-アルキル、分枝状C~C-アルキル、メトキシ、ヒドロキシル、トリフルオロメチル、ニトリル又はジアルキルアミノであり、それぞれ独立して、アルキル基1個あたり1~4個の炭素原子を有する。直鎖状C~C-アルキルとしては、メチル、エチル、n-プロピル及びn-ブチルが挙げられ、分枝状C~C-アルキルとしては、イソプロピル、sec-ブチル及びtert-ブチルが挙げられる。ジアルキルアミノとしては、特に同一のアルキル基を有するアミノ基、特にジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジ-n-プロピルアミノ及びジ-n-ブチルアミノが挙げられる。
【0035】
基R及びRは、好ましくは、それぞれ独立して、水素又はメチルであり、特に好ましくは水素である。
【0036】
基Rは、好ましくは、水素、メチル、イソプロピル、sec-ブチル、tert-ブチル、メトキシ、ヒドロキシル又はジアルキルアミノであり、特に好ましくは、水素、メチル又はヒドロキシルであり、特に好ましくは水素である。
【0037】
基Rは、好ましくは、水素である。
【0038】
基R10は、好ましくは、水素、メチル、イソプロピル、sec-ブチル、tert-ブチル又はメトキシであり、特に好ましくは、水素、メチル又はtert-ブチルであり、特に好ましくは、水素である。
【0039】
基R11は、好ましくは、水素、メチル、エチル、メトキシ、エトキシ又はイソプロピルオキシであり、特に好ましくは、水素、メチル又はメトキシである。
【0040】
特に好ましいものは、
- R、R、R、R、R10及びR11が水素である、
- R、R、R、R及びR10が水素であり、R11がメチルである、
- R、R、R、R及びR10が水素であり、R11がメトキシである、
- R、R、R、R10及びR11が水素であり、Rがメチルである、
- R、R、R、R10及びR11が水素であり、Rがtert-ブチルである、
- R、R、R、R及びR11が水素であり、R10がメチルである、
- R、R、R、R及びR11が水素であり、R10がtert-ブチルである、及び
- R、R、R及びRが水素であり、R10及びR11がメチルである、配位子(II)である。
【0041】
基R、R及びRは、それぞれ独立して、水素、直鎖状C~C-アルキル又は分枝状C~C-アルキルである。直鎖状C~C-アルキルとしては、メチル、エチル、n-プロピル及びn-ブチルが挙げられ、分枝状C~C-アルキルとしては、イソプロピル、sec-ブチル及びtert-ブチルが挙げられる。
【0042】
基R、R及びRは、好ましくは、それぞれ独立して、水素、メチル、エチル又はn-プロピルであり、特に好ましくは、水素又はメチルであり、特に好ましくは水素である。
【0043】
特に好ましいものは、
- R、R及びRが水素である、
- R及びRが水素であり、Rがメチルである、
- Rが水素であり、R及びRがメチルである、
- Rがメチルであり、R及びRが水素である、及び
- R及びRがメチルであり、Rが水素である、配位子(II)である。
【0044】
本発明による方法において特に有利なものは、
(i)n及びmがそれぞれ1であり、2本の実線-破線二重線が単結合を表す(構造(IIa))、又は
(ii)nが0であり、mが1であり、フェニル環に面する実線-破線二重線が二重結合を表し、ピリジル環に面する実線-破線二重線が単結合を表す(構造(IIb))、
並びに
- 基R及びRの両方が、フェニル、p-トリル、3,5-ジメチル-4-メトキシフェニル、イソブチル又はシクロヘキシルである、
- 基R、R4及びRが水素である、
- 基R及びR10が、水素、メチル又はtert-ブチルである、
- 基R11が、水素、メチル又はメトキシである、及び
- 基R、R及びRが水素又はメチルである、配位子(II)の使用である。
【0045】
したがって、本発明による方法において、配位子L1、L2、L3、L4、L5が特に適切である。
【化9】
【0046】
配位子(II)は、対応するアミンと対応するアルデヒド又はケトンとの縮合(配位子(IIb)及び(IIc))と、それに続く可能性のある還元(配位子(IIa))と、それに続く可能性のある塩基性条件下での脱プロトン化(配位子(IId))によって、簡単な方法で得ることができる。
【0047】
縮合には原理的に2つの異なる可能性がある。第一に、アミン成分として2-ピコリルアミン又はその対応する誘導体、及びアルデヒド又はケトン成分として適切に置換されたホスファニルベンズアルデヒド又は対応するケトンを使用することが可能である。
【化10】
配位子(IIb)
【0048】
第二に、アミン成分として適切に置換されたホスファニルフェニルメタンアミン、及びアルデヒド又はケトン成分としてピコリルアルアルデヒド又はその対応する誘導体を使用することも可能である。
【化11】
配位子(IIc)
【0049】
対応する出発化合物(アミン、ケトン又はアルデヒド)は、一般に市販品として入手可能であるか、又は一般に知られている方法を使用して合成することができる。配位子(IIb)及び(IIc)の合成は、通常、保護ガス雰囲気下で行われる。2種の成分を、典型的に、溶媒中、50~200℃の温度で互いに反応させる。適切な溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール又はイソプロパノールなどの脂肪族アルコール、及びトルエン又はキシレンなどの芳香族炭化水素が挙げられる。2種の出発化合物は化学量論的量で使用され得る。しかし、例えば、他成分の転化率を高めるために、2種の成分の一方を過剰量で使用することも可能である。これは、他成分の入手が困難な場合に特に有用である。過剰量で使用する場合、2種の出発化合物のモル比は一般に>1から≦2の範囲である。反応時間は、通常、数分から数時間の範囲である。典型的な反応時間は10分~5時間、好ましくは30分~3時間である。反応混合物は、慣用の方法で精製し、配位子を単離することができる。しかし、添加した溶媒及び水を減圧下で除去することが有利である。
【0050】
配位子(IIb)及び(IIc)を用いてマンガン(I)錯体(I)を調製することができる。
【0051】
配位子(IIb)又は(IIc)を水素化ホウ素ナトリウム、水素化リチウムアルミニウムなどの還元剤で還元するか、水素で触媒的に還元することにより、配位子(IIb)及び(IIc)から配位子(IIa)を簡単な方法で得ることができる。この反応は、当業者の公知の方法で実施することができる。
【0052】
特に有利な合成法では、配位子(IIb)及び(IIc)を予め単離することなく、ワンポット反応で、上記の縮合及び配位子(IIa)への還元を互いに直後に行う。このため、縮合終了後、還元剤を反応混合物に直接添加し、さらに一定時間反応させることができる。ここでは、通常、数分から数時間で十分である。典型的な反応時間は10分~5時間、好ましくは30分~3時間である。その後、慣用の方法で反応混合物を精製し、配位子を単離することができる。配位子(IIb)及び(IIc)の精製及び単離に関する情報を参照されたい。
【0053】
配位子(IIa)は、供給された水素で水素化することにより、反応条件下でマンガン(I)錯体(I)に結合した配位子(IIb)及び(IIc)から形成されてもよい。
【0054】
アニオン性配位子(IId)は、強塩基との反応により、窒素上の水素原子がプロトンとして脱離する結果、配位子(IIa)から形成される。適切な強塩基は、例えば、NaOMe、NaOEt、KOEt、KOt-Bu又はKOMeである。通常、この反応は遊離配位子(IIa)では特に行われない。むしろ、配位子(IId)は、強塩基の存在下、水素化条件下でマンガン(I)錯体(I)中に形成される。
【0055】
本発明による方法で使用されるマンガン(I)錯体は、配位子IIに加えて、少なくとも2個のカルボニル配位子(=CO)を有する。
【0056】
本発明による方法において、マンガンの酸化状態は+1である。
【0057】
本発明による方法で好ましく使用されるマンガン(I)錯体(I)は、一般式(I)
[Mn(L)(CO)2+n1-n]Z(n) (I)
(式中、
Xは、「-1」の電荷を有するアニオン性単座配位子であり、
Zは、「-1」の電荷を有するアニオン性対イオンであり、
nは0又は1である)を有する。
【0058】
指数nは、マンガン(I)錯体(I)が2個のCO配位子を有する(n=0)のか、又は3個のCO配位子を有する(n=1)のかを示す。n=0の場合、アニオン性配位子がマンガン上にある。n=1の場合、マンガン錯体はカチオン性であり、電荷はアニオン性の対イオンZによって釣り合いが取られる。
【0059】
本発明による方法において好ましいマンガン(I)錯体(I)は、
Xが、H、F、Cl、Br、I、OH、C~C-アルコキシ、C~C-カルボキシ、メチルアリル、アセチルアセトナト、RSO 、CFSO 、CN及び
BH の群から選択されるアニオン性配位子、好ましくはBr又はClであり、
Zが、F、Cl、Br、I、OH、C~C-アルコキシ、C~C-カルボキシ、メチルアリル、アセチルアセトナト、RSO 、CFSO 、CN、BH 、BF 、PF 、ClO 、NO 、BPh 、好ましくはBr、Cl、C~C-アルコキシ及びC~C-カルボキシの群から選択されるアニオン性対イオンである、ルテニウム錯体である。
【0060】
マンガン(I)錯体(I)の好ましい例としては、[Mn(L)(CO)Br]、[Mn(L)(CO)Cl]、[Mn(L)(CO)I]、[Mn(L)(CO)OMe]、[Mn(L)(CO)CN]、[Mn(L)(CO)OH]、[Mn(L)(CO)H]、[Mn(L)(CO)][Br]、[Mn(L)(CO)][Cl]、[Mn(L)(CO)][I]、[Mn(L)(CO)][OtBu]、[Mn(L)(CO)][CN]、[Mn(L)(CO)][NO]、[Mn(L)(CO)][ClO]、[Mn(L)(CO)][BF]、[Mn(L)(CO)][PF](式中、Lはそれぞれの場合、中性配位子(IIa)、(IIb)又は(IIc)である)が挙げられる。
【0061】
本発明による方法は、特に好ましくは、
- 配位子(II)が、配位子(IIa)、(IIb)又は(IIc)であり、
- 基R、Rが、それぞれの場合、フェニル、p-トリル、3,5-ジメチル-4-メトキシフェニル、イソブチル又はシクロヘキシルであり、
- 基R及びR10が、それぞれ独立して、水素、メチル又はtert-ブチルであり、
- 基R11が、それぞれ独立して、水素、メチル又はメトキシであり、
- 基R、R及びRが、それぞれ独立して、水素又はメチルである、マンガン(I)錯体(I)の存在下で実施される。
【0062】
したがって、本発明による方法では、マンガン(I)錯体(I)K1、K2、K3、K4及びK5が特に適切である。
【化12】
【0063】
本発明による方法で使用されるマンガン(I)錯体(I)は、様々な方法で得ることができる。マンガン含有出発物質として、マンガンが錯体の形で既に存在する化合物(以下、Mn前駆錯体(IV)と記載する)を用い、これを配位子Lと反応させることが1つの好ましい選択肢である。したがって、配位子(II)をMn前駆錯体(IV)と反応させることによってマンガン(I)錯体(I)を得る方法が好ましい。
【0064】
原則として、非常に多様なMn錯体をMn前駆錯体(IV)として使用することができる。多くの場合、Mn前駆錯体(IV)が、所望のマンガン錯体(I)の配位子X又はカルボニル、及び任意選択的に非配位性アニオンZを既に含んでいる必要はない。配位子X、CO及び非配位性アニオンZは、多くの場合、合成バッチに別々に添加することもできる。合成の手間を低く抑えるために、容易にアクセス可能な、又は容易に入手可能な錯体が、Mn前駆錯体(IV)として有利に使用される。このような錯体は当業者によく知られている。当業者は、マンガン含有錯体上の配位子の交換にも精通している。
【0065】
原則的に、Mn前駆錯体(IV)中のアニオン性配位子としては、配位子Xで既に記載された全てのアニオン性配位子が対象となる。
【0066】
Mn前駆錯体(IV)と配位子Lとの反応は、典型的に、0.8~20、好ましくは0.9~10、特に好ましくは0.9~1.1のMn/Lモル比で行われる。可能な限り高い転化率を達成するためには、三座配位子Lの錯形成効果を利用するために、一座配位子及び二座配位子のみを有するMn前駆錯体(IV)を使用することが有利である。反応は、通常、無水であるが、溶媒の存在下及び保護ガス雰囲気下で行われる。適切な溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール又はイソプロパノールなどの脂肪族アルコール、及びトルエン又はキシレンなどの芳香族炭化水素が挙げられる。一般に、Mn前駆錯体(IV)中のマンガンは、後続のマンガン(I)錯体(I)と同一酸化状態、すなわち、酸化状態+Iを有する。
【0067】
適切なMn前駆錯体(IV)としては、例えば、[Mn(CO)Br]、[Mn(CO)Cl]、[Mn(CO)I]、[Mn(CO)F]、[Mn(CO)10]、MnCl、Mn(OAc)、Mn(OAc)、Mn(acac)、Mn(acac)、MnBr、MnI、MnCO、Mn(NO3)及びMn(ClOが挙げられる。(acac=アセチルアセトナート)
【0068】
マンガン錯体(I)は、例えば、沈殿又は結晶化によって、得られた反応混合物から単離することができる。
【0069】
しかしながら、本発明による水素化を実施するためには、一般に、マンガン(I)錯体(I)の調製後に、最初にマンガン(I)錯体(I)を単離する必要はない。むしろ、Mn前駆錯体(IV)及び配位子Lから、溶媒の存在下で上記のようにマンガン(I)錯体(I)を調製し、得られた反応混合物中で直接、本発明による水素化を実施することが、簡略化された手順の意味で有利である。
【0070】
本発明による方法では、異なるマンガン(I)錯体(I)、特に同一配位子L(II)を含むカチオン性及び中性マンガン(I)錯体(I)の混合物であってもよい。
【0071】
本発明による方法で使用されるエステルは、多様な性質のものであることができる。したがって、原則として、低分子量から高分子量までの異なるモル量の、非置換又はヘテロ原子若しくは官能基で中断された、直鎖状又は分枝状、非環状又は環状、飽和又は不飽和、脂肪族、芳香族又は芳香脂肪族エステルを使用することができる。
【0072】
使用されるエステルは、好ましくは、一般式(III)
【化13】
(式中、基R及びRは、それぞれ独立して、炭素含有有機、直鎖状若しくは分枝状、非環状若しくは環状、飽和若しくは不飽和、脂肪族、芳香族若しくは芳香脂肪族基であり、非置換であるか、又はヘテロ原子若しくは官能基によって中断若しくは置換されており、15~10,000g/molのモル質量を有し、ここで、2個の基R及びRは互いに結合していることが可能である)のエステルである。
【0073】
分岐基R及びRの場合、これらは1回又は複数回分岐していてもよい。同様に、環式基の場合、これらは単環式であっても多環式であってもよい。同様に、不飽和基の場合、これらは一価又は多価不飽和であってもよく、ここでは二重結合及び三重結合の両方が可能である。ヘテロ原子は、炭素でも水素でもない原子として理解される。ヘテロ原子の好ましい例としては、酸素、窒素、硫黄、リン、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素が挙げられ、特に好ましい例は、酸素、窒素、フッ素、塩素及び臭素である。官能基は、少なくとも1個のヘテロ原子を含む基の別の説明である。例えば、-O-で中断された炭化水素鎖は、酸素ヘテロ原子で中断された炭化水素鎖としても、エーテル基で中断された炭化水素鎖としても考えることができる。他の非限定的な例としては、アミノ基(-NH、-NH-、-N<)、アルデヒド基(-CHO)、カルボキシル基(-COOH)、アミド基(-CONH、-CONH-、-CON<)、ニトリル基(-CN)、イソニトリル基(-NC)、ニトロ基(-NO)、スルホン酸基(-SO)、ケト基(>CO)、イミノ基(>CNH、>CN-)、エステル基(-CO-O-)、無水物基(-CO-O-CO-)及びイミド基(-CO-NH-CO-、-CO-NR-CO-)が挙げられる。もちろん、2個以上の、いわゆる官能基が存在してもよい。一例として、脂肪が挙げられる。
【0074】
基R及びRが互いに結合している場合、これらは環状エステルであり、ラクトンとも記載される。
【0075】
基R及びRのモル質量は、一般に15~10000g/mol、好ましくは15~5000g/mol、特に好ましくは15~2000g/molである。
【0076】
本発明による方法では、74~20000g/mol、特に好ましくは74~10000g/mol、非常に特に好ましくは74~5000g/mol、特に好ましくは74~2000g/mol、特に好ましくは74~1000g/molのモル質量を有するエステルを使用することが好ましい。
【0077】
本発明による方法で使用される水素分子(H)は、希釈されずに、又は不活性ガス、例えば窒素で希釈された状態で供給することができる。水素含有ガスは、可能な限り高い水素含有量で供給することが有利である。≧80体積%、特に好ましくは、≧90体積%、特に好ましくは、≧95体積%、特に好ましくは、≧99体積%の水素含有量が好ましい。
【0078】
本発明による方法の非常に一般的な実施形態において、マンガン(I)錯体(I)、水素化されるエステル及び水素を適切な反応装置に供給し、混合物を所望の反応条件下で反応させる。
【0079】
本発明による方法において使用される反応装置は、原則として、所定の温度及び所定の圧力下での気体/液体反応に原理的に適切な、いずれの反応装置であってもよい。気体/液体及び液体/液体反応系に適切な標準反応器は、例えば、K.D.Henkel,“Reactor Types and Their Industrial Applications”,Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,2005,Wiley-VCH Verlag GmbH & Co.KGaA,DOI:10.1002/14356007.b04_087,Chapter 3.3 “Reactors for gas-liquid reaction”に記載されている。例として、撹拌槽反応器、管状反応器又は気泡塔反応器が挙げられる。耐圧撹拌槽は、通常、オートクレーブとも記載される。
【0080】
マンガン(I)錯体(I)は、事前に合成されたマンガン(I)錯体(I)の形態で直接、反応装置に供給することができる。
【0081】
Mn前駆錯体(IV)及び配位子L(II)からマンガン(I)錯体(I)をその場(in situ)で形成する方がはるかに簡単である。その場(in situ)とは、Mn前駆錯体(IV)及び配位子L(II)を反応装置に供給することによってマンガン(I)錯体(I)を形成することを意味する。この目的のために有利には、0.5~5、好ましくは≧0.8、特に好ましくは≧1、好ましくは≦3、特に好ましくは≦2、特に好ましくは≦1.5のマンガンに対する配位子L(II)のモル比が使用される。このような、その場(in situ)変法は、マンガン(I)錯体(I)の事前の単離を免除する。
【0082】
本発明による方法は、溶媒の存在下でも非存在下でも実施することができる。溶媒を使用する場合、これは、例えば、マンガン(I)錯体(I)又はMn前駆錯体(IV)及び配位子Lを溶解するために役立つが、任意選択的に、水素化されるエステルを溶解するためにも役立つ。特に低分子量エステルの場合、前記エステルは溶媒としても機能し得る。
【0083】
溶媒を使用する場合、反応条件下でそれ自体が水素化されない、多かれ少なかれ顕著な極性特性を有する溶媒が好ましい。好ましい例としては、メタノール、エタノール又はイソプロパノールなどの脂肪族アルコール、トルエン又はキシレンなどの芳香族炭化水素、及びテトラヒドロフラン又は1,4-ジオキサンなどのエーテルが挙げられる。使用される溶媒の量は幅広く変動可能である。しかし、水素化されるエステル1gあたり0.1~20gの溶媒、好ましくは、水素化されるエステル1gあたり0.5~10gの溶媒、特に好ましくは、水素化されるエステル1gあたり1~5gの溶媒の範囲の量が慣用的である。
【0084】
水素化されるエステルは、純粋な、希釈されていないエステルの形態で直接供給されてもよいが、溶媒中に希釈された又は溶解された形態で供給されてもよい。水素化されるエステルをどのような形態で添加するかという基準は、一般に、例えば、存在するエステルの性質及びその取り扱いなど、純粋に実用的な性質のものであることが多い。例えば、その目的は、反応混合物中のエステルが反応条件下で液体であることである。
【0085】
水素化されるエステルとマンガン錯体(I)との間のモル比は、本発明による方法において広い範囲内で変動し得る。一般に、水素化される反応混合物で規定されるモル比は、1~100000、好ましくは10~25000、特に好ましくは100~5000、特に好ましくは500~20000である。
【0086】
本発明による方法は、50~200℃、好ましくは≦170℃、特に好ましくは≦150℃の温度で実施される。この場合の圧力は、0.1~20MPa abs、好ましくは≧1MPa abs、特に好ましくは≧5MPa abs、好ましくは≦15MPa abs、特に好ましくは≦10MPa absである。
【0087】
反応条件下で反応混合物が存在する反応時間又は平均滞留時間も大きく変動し得るが、典型的には0.1~100時間の範囲であり、好ましくは≧1時間、特に好ましくは≧2時間であり、好ましくは≦80時間、特に好ましくは≦60時間である。
【0088】
さらに、本発明による水素化は、一般に塩基の存在によってプラスの影響を受け、その結果、最終的に著しく高い転化率が可能になることが示されている。したがって、ほとんどの場合、塩基の存在下で水素化を実施することが有利である。原則として、塩基は反応混合物中に固体として存在してもよいが、反応混合物中に溶解した形態で存在する塩基が好ましい。可能な塩基の例としては、アルコキシド、水酸化物、アルカリ金属及びアルカリ土類金属炭酸塩、アミド、塩基性アルミニウム及びケイ素化合物、並びに水素化物が挙げられる。使用される塩基は、特に好ましくはアルコキシド又はアミドであり、好ましくはナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、水酸化ナトリウム、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、カリウムtert-ブトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、水素化ホウ素ナトリウム又は水素化ナトリウムである。
【0089】
本発明による方法が塩基の存在下で実施される場合、これは一般にマンガン(I)錯体(I)に対して過剰量で使用される。1~1000、好ましくは2~20、特に好ましくは1~10のルテニウム錯体(I)に対する塩基のモル比を使用することが好ましい。
【0090】
本発明による方法は、連続的に、セミバッチモードで、不連続的に、溶媒として製品中で逆混合して、又は逆混合せずにシングルパスで実施することができる。マンガン(I)錯体、水素化されるエステル、水素、任意選択的に溶媒及び任意選択的に塩基は、同時に又は互いに別々に供給されることができる。
【0091】
不連続操作モードでは、マンガン錯体(I)又はMn前駆錯体(IV)及び配位子L(II)、水素化されるエステル、任意選択的に溶媒及び塩基は、典型的に、反応装置内に最初に装入され、水素の添加による混合によって所望の反応条件下で所望の反応圧力が設定される。その後、反応混合物を所望の反応条件下で所望の反応時間放置する。任意選択的に、さらに水素を計量添加する。所望の反応時間が経過した後、反応混合物を冷却又は減圧する。その後の精製によって、対応するアルコールを反応生成物として得ることができる。不連続反応は、好ましくは撹拌タンク中で行われる。
【0092】
連続操作モードでは、マンガン(I)錯体(I)又はMn前駆錯体(IV)及び配位子L(II)、水素化されるエステル、任意選択的に溶媒及び塩基を反応装置に連続的に供給し、生成した対応するアルコールの精製及び単離のために適量を連続的に抜き出す。
【0093】
連続反応は、好ましくは撹拌タンク又は撹拌タンクカスケードで行われる。
【0094】
水素化生成物は、蒸留及び/又はフラッシュ蒸発などの当業者にそれ自体公知のプロセスによって水素化混合物から分離され得、残りの触媒はさらなる反応に関連して利用され得る。好ましい実施形態に関して、溶媒の添加を省略し、転化される基質中又は生成物中、任意選択的に溶解媒体として高沸点副生成物中で引用された反応を実施することが有利である。特に好ましいのは、均一系触媒の再使用又はリサイクルを伴う連続反応体制である。
【0095】
本発明によるエステル水素化では、-CO-O-エステル基から末端-CHOH及び末端-OH基が形成される。したがって、エステル(III)の場合、以下の反応式に対応して、2種の対応するアルコールR-CHOH及びR-OHが形成される。
【化14】
【0096】
環状エステル、いわゆる、ラクトンを使用する場合、2種の基R及びRが互いに結合し、対応するジオールが形成される。
【0097】
本発明による方法は、エステルの均一触媒水素化により、高収率及び選択性でアルコールを調製することを可能にする。水素化は、水素化反応のための従来の実験室設備で技術的に実施することができ、基質として多種多様なエステルを使用することができる。
【0098】
本発明のさらなる実施形態は、重要な香料(-)Ambroxの前駆体であるアンブロキシドール(アンブロキシ-1,4-ジオール)へのスクラレオリドの転化である。アンブロキシドールは、例えば、国際公開第2017/140909号パンフレットに記載されているように、環化により(-)Ambroxに転化することができる。
【0099】
本発明による方法の特別な利点は、特異的な三座PNN配位子に基づく。その三座の性質により、配位子はマンガンに強固に配位するが、調製が容易であり、対応するマンガン(I)錯体の形成後に高い水素化活性を有する触媒をもたらす。さらに、本発明による配位子は酸化に対して比較的鈍感であるため、取り扱いの面でも有利であり、保存安定性も高い。
【0100】
本発明による配位子の特に重要な利点は、入手が容易であること、そして水素原子を様々な有機基で置換することによって基本構造を変化させることが容易であることが挙げられる。配位子は、一般に、容易に入手可能な原料から簡単なワンポット合成で調製することができる。マンガン含有原料としては、容易に入手可能であり、且つ大量に市販されているマンガン前駆錯体を使用してもよい。
【実施例
【0101】
一般情報
特に断りのない限り、全ての反応は、いわゆる、「シュレンク(Schlenk)」及び高真空技術、或いはMBraun Inert Atmosphereグローブボックスを使用して、アルゴン雰囲気下、室温で調製した。有機溶媒は、Aldrich又はAcrosから入手した。市販品として入手可能な出発化合物は、Aldrich、ABCR又はTCIから入手し、受け取ったまま使用した。NMRスペクトルは、Bruker AVANCE III 300、Bruker AVANCE III 400及びBruker AVANCE III 500スペクトロメーターで測定し、溶媒のプロトン(H)又は炭素(13C)共鳴シグナルを参照とした。化学シフト(δ)はppmで表す。31P-NMRスペクトルは、Organic Chemistry Institute of the University of Heidelbergの外部標準物質(アンプルDPO)を参照とした。GC分析は、FID検出器を備えたAgilent Technologies 6890Nガスクロマトグラフで実行した;使用カラム:DB-FFAP(30m×0.32mm×0.25μm)。初期温度:55℃;保持時間1分;上昇:25℃/分で250℃まで;保持時間8分。
【0102】
実施例1では、代表的な配位子IIの調製について説明する。他の配位子は本明細書に準じて調製した。
【0103】
実施例1:配位子L1の調製
【化15】
(2-(ジフェニルホスファニル)フェニル)メタンアミン(1.00g、3.43mmol)を、エタノール(10mL)中のピコリンアルデヒド(368mg、3.43mmol)の溶液に室温で添加し、得られた混合物を室温で2時間撹拌した。NaBH(208mg、5.49mmol)を添加し、混合物を室温でさらに2時間撹拌した。その後、飽和NaHCO水溶液(15ml)及びCHCl(25mL)を添加した。相分離後、水相をCHCl(2×25ml)で抽出した。組み合わせた有機相を乾燥させ(NaSO)、真空下で濃縮した。粗生成物をシリカゲル上カラムクロマトグラフィー(ヘキサン/EtOAc/NEt、9:1から1:1;EtOAc中10%NEtの混合物を使用した)によって精製し、N-(2-(ジフェニルホスファニル)ベンジル)-1-(ピリジン-2-イル)メタンアミン(L1)を無色油状物として得た(600mg、収率46%)。
H NMR(500MHz,CDCl)δ 8.48-8.46(m,1H),7.57(td,J=7.7,1.8Hz,1H),7.54-7.51(m,1H),7.36-7.30(m,7H),7.28-7.24(m,4H),7.19-7.10(m,4H),6.91(ddd,J=7.7,4.5,1.4Hz,1H),4.02(d,J=1.7Hz,2H),3.79(s,2H).
31P NMR(203MHz,CDCl)δ -15.94.
HRMS(ESI)C2523P([M]):計算値:382.1599;実測値:382.1611。
【0104】
実施例2では、配位子IIを有する代表的なマンガン(I)触媒錯体(I)の調製について説明する。
【0105】
実施例2:触媒K1の調製
【化16】
トルエン15ml中の[Mn(CO)Br](720mg、2.62mmol)の溶液を、アルゴン雰囲気下、トルエン15ml中の配位子L1(1g、2.62mmol)の溶液に添加する。反応混合物を60~80℃で30分間、目に見えるCOの発生が観察されなくなるまで撹拌する。その後、混合物を110℃でさらに16時間撹拌し、黄色の沈殿物を生成させる。室温まで冷却した後、減圧下で反応混合物からトルエンを除去する。黄色の残渣を10mlの無水ヘキサンで洗浄し、次いでアルゴン雰囲気下で10mlの無水ジエチルエーテルで洗浄し、濾過する。濾過ケーキを高真空中で乾燥させ、触媒K1を収率80%(1.2g)で黄色粉末として得る。触媒複合体は遮光下、0℃で保存する。
H NMR(500MHz,CDCl)δ 9.09(d,J=5.5Hz,1H),8.07(s,2H),7.67(t,J=7.1Hz,1H),7.57 - 7.22(m,11H),7.05(t,J=8.5Hz,2H),6.81(t,J=8.2Hz,1H),4.59 - 3.59(m,5H).
13C NMR(126MHz,CDCl)δ 154.62,151.77,135.76(d,J=16.5Hz),133.55 - 133.09(m),129.76,129.56,129.00,128.79(d,J=3.2Hz),128.70,127.93(d,J=8.4Hz),127.18(dd,J=7.9,2.2Hz),126.13(d,J=5.2Hz),125.92(d,J=2.0Hz),124.93(d,J=9.0Hz),124.63(d,J=9.5Hz),120.93,117.01,56.86(d,J=2.6Hz),55.71(d,J=8.1Hz).
31P-NMR(203MHz,CDCl)δ 68.39.
【0106】
実施例3:触媒K2の調製
【化17】
トルエン10ml中の[Mn(CO)Br](85mg、0.31mmol)の溶液を、アルゴン雰囲気下、トルエン10ml中の配位子L2(0.155g、0.31mmol)の溶液に添加する。反応混合物を60~80℃で30分間、目に見えるCOの発生が観察されなくなるまで撹拌する。その後、混合物を110℃でさらに16時間撹拌し、黄色の沈殿物を生成させる。室温まで冷却した後、減圧下で反応混合物からトルエンを除去する。黄色の残渣を10mlの無水ヘキサンで洗浄し、次いでアルゴン雰囲気下で10mlの無水ジエチルエーテルで洗浄し、濾過する。濾過ケーキを高真空中で乾燥させ、触媒K2を収率75%(0.16g)で黄色粉末として得る。触媒複合体は遮光下、0℃で保存する。
【0107】
実施例4:触媒K3の調製
【化18】
トルエン10ml中の[Mn(CO)Br](97mg、0.35mmol)の溶液を、アルゴン雰囲気下、トルエン10ml中の配位子L3(0.14g、0.35mmol)の溶液に添加する。反応混合物を60~80℃で30分間、目に見えるCOの発生が観察されなくなるまで撹拌する。その後、混合物を110℃でさらに16時間撹拌し、黄色の沈殿物を生成させる。室温まで冷却した後、減圧下で反応混合物からトルエンを除去する。黄色の残渣を10mlの無水ヘキサンで洗浄し、次いでアルゴン雰囲気下で10mlの無水ジエチルエーテルで洗浄し、濾過する。濾過ケーキを高真空中で乾燥させ、触媒K2を収率56%(0.115g)で黄色粉末として得る。触媒複合体は遮光下、0℃で保存する。
【0108】
実施例5:触媒K4の調製
【化19】
トルエン10ml中の[Mn(CO)Br](0.36g、1.31mmol)の溶液を、アルゴン雰囲気下、トルエン10ml中の配位子L4(0.54g、1.31mmol)の溶液に添加する。反応混合物を60~80℃で30分間、目に見えるCOの発生が観察されなくなるまで撹拌する。その後、混合物を110℃でさらに16時間撹拌し、黄色の沈殿物を生成させる。室温まで冷却した後、減圧下で反応混合物からトルエンを除去する。黄色の残渣を10mlの無水ヘキサンで洗浄し、次いでアルゴン雰囲気下で10mlの無水ジエチルエーテルで洗浄し、濾過する。濾過ケーキを高真空中で乾燥させ、触媒K2を収率82%(0.65g)で黄色粉末として得る。触媒複合体は遮光下、0℃で保存する。
【0109】
実施例5:触媒K5の調製
【化20】
トルエン10ml中の[Mn(CO)Br](0.236g、0.86mmol)の溶液を、アルゴン雰囲気下、トルエン10ml中の配位子L5(0.34g、0.86mmol)の溶液に添加する。反応混合物を60~80℃で30分間、目に見えるCOの発生が観察されなくなるまで撹拌する。その後、混合物を110℃でさらに16時間撹拌し、黄色の沈殿物を生成させる。室温まで冷却した後、減圧下で反応混合物からトルエンを除去する。黄色の残渣を10mlの無水ヘキサンで洗浄し、次いでアルゴン雰囲気下で10mlの無水ジエチルエーテルで洗浄し、濾過する。濾過ケーキを高真空中で乾燥させ、触媒K2を収率75%(0.38g)で黄色粉末として得る。触媒複合体は遮光下、0℃で保存する。
【0110】
実施例6、7、8及び9:スクラレオリドの水素化
アルゴン充填グローブボックス中、クリンプキャップ及びPTFEコーティングされたマグネチックスターラーバーを備えた10mLバイアルに、スクラレオライド(375mg、1.5mmol)、マンガン触媒(0.1mol%)、KOtBu(3.36mg、2mol%)及び乾燥エタノール(2ml)を充填する。ゴム製セプタムから構成されるクリンプキャップによってバイアルを密封し、セプタムをカニューレで穿孔し、バイアルをHEL CAT-7オートクレーブに入れる。オートクレーブを密閉し、グローブボックスから取り出し、不活性条件下で50バールHまで加圧し、予熱したアルミニウムブロック中にオートクレーブを挿入する。反応混合物を100℃で20時間撹拌し、氷浴中で冷却し、残留H圧力を注意深く放出する。その後、内部標準としてメシチレンをそれぞれのバッチに添加し、反応混合物をガスクロマトグラフィーで分析する。
【化21】
【0111】
【表1】
【0112】
実施例10:スクラレオリドの水素化
【化22】
不活性条件下のアルゴン充填グローブボックス中、Teflonインサート及びマグネチックスターラーバーを備えた100mlのPremexオートクレーブ中に、スクラレオライド(750mg、3mmol)、K1(1.7mg、0.003mmol)、カリウムtert-ブトキシド(3.36mg、0.003mmol)及び乾燥エタノール4mlを秤量する。オートクレーブを密閉し、排気する。窒素で3回、次いで、水素で3回フラッシュし、水素で40バールの冷圧(cold pressure)まで加圧する。その後、20時間、撹拌しながら、反応混合物をオートクレーブで90℃で加熱する。室温まで冷却した後、残留水素を放出し、反応混合物をGCで分析する。スクラレオリド転化率:98%、ジオールの収率:92%。
【0113】
(2R,8aS)-1-(2-ヒドロキシエチル)-2,5,5,8a-テトラメチルデカヒドロナフタレン-2-オール
H NMR(400MHz,CDCl)δ 3.78(dt,J=10.2,4.4Hz,1H),3.46(ddd,J=10.2,8.2,5.7Hz,1H),3.08(s,2H),1.90(dt,J=12.3,3.3Hz,1H),1.72 - 1.21(m,10H),1.19(s,3H),1.13(dd,J=13.4,4.4Hz,1H),0.99 - 0.91(m,2H),0.88(s,3H),0.79(s,6H).
13C-NMR(101MHz,CDCl)δ 73.03,64.09,59.18,56.04,44.29,41.91,39.36,38.98,33.41,33.28,27.89,24.64,21.48,20.47,18.42,15.31.
【0114】
実施例11:スクラレオリドの水素化
【化23】
アルゴン充填グローブボックス中、クリンプキャップ及びPTFEコーティングされたマグネチックスターラーバーを備えた10mlバイアルに、スクラレオリド(375mg、1.5mmol)、マンガン触媒K1(0.1mol%)、KOtBu(3.36mg、2mol%)及び乾燥エタノール(2ml)を充填する。ゴム製セプタムから構成されるクリンプキャップによってバイアルを密封し、セプタムをカニューレで穿孔し、バイアルをHEL CAT-7オートクレーブに入れる。オートクレーブを密閉し、グローブボックスから取り出し、50バールHまで加圧し、予熱したアルミニウムブロック中にオートクレーブを挿入する。反応混合物を90℃で16時間撹拌し、氷浴中で冷却し、残留H圧力を注意深く放出する。反応混合物をシリカ上で濾過し、シリカをエタノールで数回洗浄する。組み合わせた濾液からエタノールを真空乾燥で除去し、生成物をNMRで分析する。スクラレオリドジオールの単離収率は定量的であり(収率>99%)、H-NMRスペクトルから物質は純粋である。
【0115】
実施例12:スクラレオリドの水素化
【化24】
不活性条件下のアルゴン充填グローブボックス中、Teflonインサート及びマグネチックスターラーバーを備えた30mlのPremexオートクレーブ中に、スクラレオライド(375mg、1.5mmol)、K1(0.88mg、0.1mol%)、カリウムエトキシド(2.52mg、2mol%)及び乾燥エタノール2mlを秤量する。オートクレーブを密閉し、排気する。窒素で3回、次いで、水素で3回フラッシュし、水素で40バールの冷圧(cold pressure)まで加圧する。その後、16時間、撹拌しながら、反応混合物をオートクレーブで90℃で加熱する。室温まで冷却した後、残留水素を放出し、反応混合物をGCで分析する。スクラレオリド転化率:>99%、ジオールの収率:98%。
【0116】
実施例11、12、13、14及び15:触媒K1を用いた他のエステルの水素化反応
アルゴン充填グローブボックス中、クリンプキャップ及びPTFEコーティングされたマグネチックスターラーバーを備えた10mLバイアルに、それぞれのエステル(3mmol)、マンガン触媒K1(1.72mg、0.1mol%)、KOtBu(6.72mg、2mol%)及び乾燥エタノール(4ml)を充填する。ゴム製セプタムから構成されるクリンプキャップによってバイアルを密封し、セプタムをカニューレで穿孔し、バイアルをHEL CAT-7オートクレーブに入れる。オートクレーブを密閉し、グローブボックスから取り出し、50バールHまで加圧し、予熱したアルミニウムブロック中にオートクレーブを挿入する。反応混合物を100℃で20時間撹拌し、氷浴中で冷却し、残留H圧力を注意深く放出する。反応混合物をシリカ上で濾過し、シリカをエタノールで数回洗浄する。組み合わせた濾液からエタノールを真空乾燥で除去し、生成物をNMRで分析する。
【化25】
【0117】
フェニルメタノール、2a
H NMR(301MHz,CDCl)δ 7.39 - 7.26(m,5H),4.66(s,2H),1.98(s,1H).13C NMR(76MHz,CDCl)δ 140.89,128.58,127.66,127.02,65.34.
【0118】
ドデカン-1-オール、2b
H NMR(301MHz,CDCl)δ 3.64(t,J=6.6Hz,2H),1.55(q,J=7.1Hz,2H),1.37-1.26(m,18H),0.93 - 0.83(m,3H).
13C NMR(76MHz,CDCl)δ 63.09,32.82,31.92,29.67,29.64,29.62,29.61,29.45,29.35,25.75,22.69,14.11.
【0119】
1,4-フェニレンジメタノール、2c
H NMR(301MHz,CDCl)δ 7.37(s,4H),4.70(s,4H),1.64(s,2H).13C NMR(76MHz,CDCl)δ 127.25,88.96.
【0120】
フラン-2-イルメタノール、2d
H NMR(301MHz,CDCl)δ 7.39(s,1H),6.31(d,J=15.0Hz,2H),4.58(s,2H),2.27(s,1H).13C NMR(76MHz,CDCl)δ 154.03,142.57,110.36,107.76,57.42.
【0121】
ペンタン-1,4-ジオール、2e
H NMR(301MHz,CDCl)δ 3.94 - 3.78(m,1H),3.77 - 3.58(m,2H),2.72(s,2H),1.76 - 1.39(m,4H),1.21(d,J=6.2Hz,3H).
13C NMR(76MHz,CDCl)δ 67.95,62.89,36.26,29.14,23.60.
【手続補正書】
【提出日】2024-02-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三座PNN配位子を有するマンガン錯体の存在下、水素分子を用いてエステルを水素化し、対応するアルコールを得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコールは重要な溶媒であるのみならず、例えば、医薬品、植物保護剤又は香料の製造のための重要な中間体及び合成単位でもある。所望のアルコールの種類、及び対応する出発原料の入手可能性次第で、対応するエステルを水素で直接水素化すること、又は還元剤で還元することが方法の選択肢であることが多い。
【0003】
エステルからのアルコール合成は通常、LiAlH若しくはNaBHなどの水素化金属を用いるか、水素を用いた不均一系触媒水素化、又は水素を用いた均一系触媒水素化によって行われる。水素を用いた均一系触媒水素化反応によって、それほど激しくない反応条件と、同時に良好な選択性が可能となることが多い。特に、多座リン、硫黄及び窒素含有配位子を有するルテニウム錯体の使用は、従来技術によって、この点で成功していることが証明されたが、近年、活性金属としてマンガンを含む代替物も開発されている。
【0004】
例えば、Bellerらは、Angewandte Chemie International Edition 2016,Vol.55,pages15364-15368に、エステルからアルコールへの水素化のためのPNP型の、いわゆるピンサー配位子を有するMn錯体の使用について記載している。ここでは、NH単位を中心に有し、そこに2個のエチルジアルキルホスフィン単位が結合している配位子が使用されている。マンガン原子は酸化状態+Iで存在し、少なくとも2個のカルボニル配位子も有する。これらの触媒を用いると、一連のエステル及びラクトンを対応するアルコール又はジオールへと水素化することができる。
【0005】
これらの触媒の欠点は、2モル%という比較的高い触媒担持量、及び不可欠な助触媒としての10モル%のKOtBuであり、これは水素化での高い転化率を得るために使用されなければならない。
【0006】
Milsteinらは、Chemistry,a European Journal 2017,Vol.23,pages5934-5938に、エステルからアルコールへの水素化のためのPNN型の、いわゆるピンサー配位子を有するMn錯体の使用について記載している。記載されている三座ピンサー配位子は、骨格としてピリジル基を有し、ドナー基としてホスフィノ基、及びアルキル基を有するNHR基を有する。これらの触媒を用いると、一連のエステル及びラクトンを対応するアルコール又はジオールへと水素化することができる。
【0007】
前述のPNN型のピンサー配位子を使用する欠点は、2,6-ジメチルピリジンから出発して、n-ブチリチウムなどの難易度の高い試薬を使用する、複雑な多段階合成である。また、これらの触媒の欠点は、少なくとも1モル%という比較的高い触媒担持量、及び不可欠な助触媒としての高価で取り扱いが困難なKHの使用であり、これは水素化での高い転化率を得るために使用されなければならない。より単純で安価なアルコキシド塩基では、このマンガン触媒を用いて低い転化率のみ達成される。
【0008】
Pidkoらは、Angewandte Chemie International Edition 2017,Vol.56,pages7531-7534に、エステルからアルコールへの水素化のための単純な二座PN配位子を有するMn錯体の使用について記載している。ここで使用される配位子は、NH単位、エチレン架橋、及びPR(R=アルキル、アリール)基を有する。マンガン原子は酸化状態+Iで存在し、少なくとも2個のカルボニル配位子も有する。ここでの利点は、配位子が製造しやすいことである。
【0009】
しかしながら、これらの触媒を用いたのは非環状エステルの水素化のみであり、ラクトンの水素化は記載されていない。これらの触媒のさらなる欠点は、1モル%という比較的高い触媒担持量、及び不可欠な助触媒として10~75モル%のKOtBuの非常に高い触媒担持量が必要とされることであり、これは水素化での高い転化率を得るために使用されなければならない。90%を超えるエステル転化率は、少なくとも50モル%の塩基担持量でのみ達成可能であり、経済的なプロセスとしては不利である。
【0010】
Clarkらは、Organic Letters 2018,第20巻,第2654-2658頁に、エステルからアルコールへの水素化のためのPNN型の、いわゆるピンサー配位子を有するMn錯体の使用について記載している。記載されている三座ピンサー配位子は、骨格としてNH基を有し、ドナー基としてピリジル基、及びフェロセンを介して架橋されたPPh2基を有する。マンガン原子は酸化状態+Iで存在し、また3個のカルボニル配位子を有する。ここでの利点は、配位子が製造しやすいことである。この触媒を用いると、一連のエステル及びラクトンを対応するアルコール又はジオールへと水素化することができる。
【0011】
この触媒の利点は、0.1モル%のみという低い触媒担持量であり、これは、例えば、ラクトンスクラレオリドを75%という中程度の収率で対応するジオールへと水素化するために必要とされる。
【0012】
このようなPNN型のピンサー配位子を使用することの欠点は、n-ブチリチウムなどの難易度の高い試薬を使用する、それらの非常に複雑な多段階合成である。
【0013】
この触媒のもう一つの欠点は、良好な転化率を達成するために、ラクトンスクラレオリドと同様に、共触媒としての10モル%の塩基という比較的高い担持量が必要とされることである。
【0014】
国際公開第2021/001240A1号パンフレットには、容易に調製されるPNN配位子の使用が記載されており、この配位子を用いて、共触媒としてごくわずかのみの塩基を必要とするか、又は塩基を添加しなくても共触媒を活性化することも可能な、エステルの水素化用の高活性ルテニウム触媒を製造することができる。しかしながら、活性マンガン触媒の配位子としての適性についてはこれまで何も知られておらず、構造的にもエステル水素化において上記されたマンガン触媒の配位子とは異なるため、この配位子を用いて高活性のマンガン触媒が製造できるとは予想されていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、エステルを対応するアルコールへと均一触媒水素化する方法であって、従来技術に記載された欠点を有さないか、又はわずかな程度しか有さず、必要な装置及び反応条件に関して、実施が容易であり、可能な限り高い空時収率を可能にする方法を見出すことである。
【0016】
特に、触媒活性錯体は、容易に入手可能な原料から直接調製可能であるべきであり、エステルからアルコールへの水素化反応において高い活性を有するべきであり、且つ可能な限り助触媒が必要とされないべきであり、最終的には過度の努力なしに使い捨てできるものであるべきである。このような観点から、可能な限り容易に製造することができるが、高い活性を有するマンガン触媒を生成する全ての錯体形成配位子が特に重要である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
驚くべきことに、一般式(III)
【化1】
(式中、基R及びRは、それぞれ独立して、炭素含有有機、直鎖状若しくは分枝状、非環状若しくは環状、飽和若しくは不飽和、脂肪族、芳香族若しくは芳香脂肪族基であり、非置換であるか、又はヘテロ原子若しくは官能基によって中断若しくは置換されており、15~10,000g/molのモル質量を有し、ここで、2個の基R及びRは互いに結合していてもよい)のエステルを水素分子と反応させて水素化し、アルコール
【化2】
を、マンガン(I)錯体(I)の存在下、50~200℃の温度及び0.1~20MPa absの圧力で生成する方法が見出された。ここで、マンガン(I)錯体は、一般式(II)
【化3】
の三座配位子Lを含み、且つ少なくとも2個のカルボニル配位子を含み、式中、
、Rは、それぞれ独立して、1~8個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、6個若しくは10個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基、又は7~12個の炭素原子を有する芳香脂肪族炭化水素基であり、ここで特定される炭化水素基は、非置換であるか、又は1~3個のメトキシ基、チオメトキシ基若しくはジメチルアミノ基によって置換されており、2個の基R及びRは、互いに結合して、リン原子を含む5~10員環を形成してもよく、
、R、R、R、R10、R11は、それぞれ独立して、水素、直鎖状C~C-アルキル、分枝状C~C-アルキル、メトキシ、ヒドロキシル、トリフルオロメチル、ニトリル又はジアルキルアミノであり、それぞれ独立して、アルキル基1個あたり1~4個の炭素原子を有し、
、R、Rは、それぞれ独立して、水素、直鎖状C~C-アルキル、又は分枝状C~C-アルキルであり、
n、mは、それぞれ独立して、0又は1であり、且つ
実線-破線二重線は、単結合又は二重結合であるが、ただし、
n=1の場合、実線-破線二重線は両方とも単結合であり、
且つmは1であり、そして
n=0の場合、一方の実線-破線二重線は単結合を表し、且つ他方の実線-破線二重線は二重結合を表し、フェニル環に面する側面で二重結合の場合、m=1、ピリジル環に面する側面で二重結合の場合、m=0、又は両方の実線-破線二重線は単結合を表し、且つmは1に等しい。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による方法の核心は、一般式(II)の三座配位子L及び少なくとも2個のカルボニル配位子を含むマンガン(I)錯体を、水素分子によるエステルの水素化反応において使用し、対応するアルコールを得ることである。
【0019】
三座配位子Lは、一般式(II)
【化4】
(式中、
、Rは、それぞれ独立して、1~8個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、6個若しくは10個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基、又は7~12個の炭素原子を有する芳香脂肪族炭化水素基であり、ここで特定される炭化水素基は、非置換であるか、又は1~3個のメトキシ基、チオメトキシ基若しくはジメチルアミノ基によって置換されており、2個の基R及びRは、互いに結合して、リン原子を含む5~10員環を形成してもよく、
、R、R、R、R10、R11は、それぞれ独立して、水素、直鎖状C~C-アルキル、分枝状C~C-アルキル、メトキシ、ヒドロキシル、トリフルオロメチル、ニトリル又はジアルキルアミノであり、それぞれ独立して、アルキル基1個あたり1~4個の炭素原子を有し、
、R、Rは、それぞれ独立して、水素、直鎖状C~C-アルキル、又は分枝状C~C-アルキルであり、
n、mは、それぞれ独立して、0又は1であり、且つ
実線-破線二重線は、単結合又は二重結合であるが、ただし、
n=1の場合、実線-破線二重線は両方とも単結合であり、
且つmは1であり、そして
n=0の場合、一方の実線-破線二重線は単結合を表し、且つ他方の実線-破線二重線は二重結合を表し、フェニル環に面する側面で二重結合の場合、m=1、ピリジル環に面する側面で二重結合の場合、m=0、又は両方の実線-破線二重線は単結合を表し、且つm=1である)の、いわゆるPNN配位子である。
【0020】
三座配位子とは、配位子L(II)がマンガン(I)錯体(I)の3個の配位部位を占めることを意味する。3個の配位子ドナー原子は、P原子及び2個のN原子であり、PNN配位子という名称はこれに由来する。
【0021】
中心ドナー原子の環境に関して、配位子は原理的に4種の異なる部分構造を有することができ、以下に詳しく説明する。
【0022】
(1)n=1の場合、実線-破線二重線は両方とも単結合を表し、mは1である。この結果、一般式(IIa)となる。配位子(IIa)は中性なので、電荷は「0」である。
【化5】
【0023】
n=0の場合、全部で3種の異なる部分構造がある。
【0024】
(2)n=0であり、フェニル環に面する実線-破線二重線が二重結合、ピリジル環に面する実線-破線二重線が単結合である場合、mは1に等しい。この結果、一般式(IIb)となる。配位子(IIb)は中性なので、電荷は「0」である。
【化6】
【0025】
(3)n=0であり、ピリジル環に面する実線-破線二重線が二重結合、フェニル環に面する実線-破線二重線が単結合の場合、mは0に等しい。この結果、一般式(IIc)となる。配位子(IIc)は中性なので、電荷は「0」である。
【化7】
【0026】
(4)第4の変形において、n=0でもあるが、実線-破線二重線は両方とも単結合であり、mは1である。したがって、N原子は負の電荷を有する。この結果、一般式(IId)となる。したがって、配位子(IId)は「-1」の電荷を有する。
【化8】
【0027】
配位子(II)の基R及びRは、広範囲に変動し得、それぞれ独立して、1~8個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、6個若しくは10個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基、又は7~12個の炭素原子を有する芳香脂肪族炭化水素基である、ここで特定された炭化水素基は、非置換であるか、又は1~3個のメトキシ基、チオメトキシ基又はジメチルアミノ基で置換されていてもよく、2個の基R及びRは、互いに結合して、リン原子を含む5~10員環を形成してもよい。
【0028】
脂肪族炭化水素基の場合、これは非分枝状又は分枝状又は直鎖状又は環状であってよい。脂肪族炭化水素基は、好ましくは1~6個の炭素原子、特に好ましくは1~4個の炭素原子、特に好ましくは1~2個の炭素原子を有する。具体例としては、メチル、エチル、イソプロピル、n-プロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル(tBuとも記載される)、シクロヘキシル(Cyとも記載される)が挙げられる。
【0029】
芳香族炭化水素基の場合、これはフェニル(Phとも記載される)、1-ナフチル又は2-ナフチルである。
【0030】
芳香脂肪族炭化水素基は、これらが脂肪族基又は芳香族基を介して配位子L中のリン原子に結合しているか否かにかかわらず、芳香族元素及び脂肪族元素を含む。芳香脂肪族炭化水素基は、好ましくは7~10個の炭素原子を有し、特に好ましくは7~9個の炭素原子を有する。具体例としては、o-トリル、m-トリル、p-トリル及びベンジルが挙げられる。
【0031】
リン原子を含む環の場合、好ましくはリン原子を含む5~6個の原子を有する環である。例としては、ブタン-1,4-ジイル、ペンタン-1,5-ジイル及び2,4-ジメチルペンタン-1,5-ジイルが挙げられる。
【0032】
上記の脂肪族、芳香族及び芳香脂肪族炭化水素基は、互いに結合してリン原子を含む環を形成してもよく、非置換であっても、又は1~3個のメトキシ基、チオメトキシ基又はジメチルアミノ基によって置換されていてもよい。上記で特定された個々の炭化水素基の炭素原子数は、メトキシ基、チオメトキシ基又はジメチルアミノ基の炭素原子を含むものと理解される。具体例としては、3,5-ジメチルフェニル、3,5-ジメチル-4-メトキシフェニル、3,5-ジメチル-4-チオメトキシフェニル及び3,5-ジメチル-4-(ジメチルアミノ)フェニルが挙げられる。
【0033】
基R及びRは、特に好ましくは、フェニル、p-トリル、o-トリル、4-メトキシフェニル、2-メトキシフェニル、シクロヘキシル、イソブチル、tert-ブチル、3,5-ジメチル-4-メトキシフェニル、3,5-tert-ブチル-4-メトキシフェニル及び3,5-ジメチルフェニルであり、特に好ましくは、フェニル、p-トリル、3,5-ジメチル-4-メトキシフェニル、イソブチル及びシクロヘキシルであり、ここで好ましくは両方の基が同一である。
【0034】
基R、R、R、R、R10及びR11は、それぞれ独立して、水素、直鎖状C~C-アルキル、分枝状C~C-アルキル、メトキシ、ヒドロキシル、トリフルオロメチル、ニトリル又はジアルキルアミノであり、それぞれ独立して、アルキル基1個あたり1~4個の炭素原子を有する。直鎖状C~C-アルキルとしては、メチル、エチル、n-プロピル及びn-ブチルが挙げられ、分枝状C~C-アルキルとしては、イソプロピル、sec-ブチル及びtert-ブチルが挙げられる。ジアルキルアミノとしては、特に同一のアルキル基を有するアミノ基、特にジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジ-n-プロピルアミノ及びジ-n-ブチルアミノが挙げられる。
【0035】
基R及びRは、好ましくは、それぞれ独立して、水素又はメチルであり、特に好ましくは水素である。
【0036】
基Rは、好ましくは、水素、メチル、イソプロピル、sec-ブチル、tert-ブチル、メトキシ、ヒドロキシル又はジアルキルアミノであり、特に好ましくは、水素、メチル又はヒドロキシルであり、特に好ましくは水素である。
【0037】
基Rは、好ましくは、水素である。
【0038】
基R10は、好ましくは、水素、メチル、イソプロピル、sec-ブチル、tert-ブチル又はメトキシであり、特に好ましくは、水素、メチル又はtert-ブチルであり、特に好ましくは、水素である。
【0039】
基R11は、好ましくは、水素、メチル、エチル、メトキシ、エトキシ又はイソプロピルオキシであり、特に好ましくは、水素、メチル又はメトキシである。
【0040】
特に好ましいものは、
- R、R、R、R、R10及びR11が水素である、
- R、R、R、R及びR10が水素であり、R11がメチルである、
- R、R、R、R及びR10が水素であり、R11がメトキシである、
- R、R、R、R10及びR11が水素であり、Rがメチルである、
- R、R、R、R10及びR11が水素であり、Rがtert-ブチルである、
- R、R、R、R及びR11が水素であり、R10がメチルである、
- R、R、R、R及びR11が水素であり、R10がtert-ブチルである、及び
- R、R、R及びRが水素であり、R10及びR11がメチルである、配位子(II)である。
【0041】
基R、R及びRは、それぞれ独立して、水素、直鎖状C~C-アルキル又は分枝状C~C-アルキルである。直鎖状C~C-アルキルとしては、メチル、エチル、n-プロピル及びn-ブチルが挙げられ、分枝状C~C-アルキルとしては、イソプロピル、sec-ブチル及びtert-ブチルが挙げられる。
【0042】
基R、R及びRは、好ましくは、それぞれ独立して、水素、メチル、エチル又はn-プロピルであり、特に好ましくは、水素又はメチルであり、特に好ましくは水素である。
【0043】
特に好ましいものは、
- R、R及びRが水素である、
- R及びRが水素であり、Rがメチルである、
- Rが水素であり、R及びRがメチルである、
- Rがメチルであり、R及びRが水素である、及び
- R及びRがメチルであり、Rが水素である、配位子(II)である。
【0044】
本発明による方法において特に有利なものは、
(i)n及びmがそれぞれ1であり、2本の実線-破線二重線が単結合を表す(構造(IIa))、又は
(ii)nが0であり、mが1であり、フェニル環に面する実線-破線二重線が二重結合を表し、ピリジル環に面する実線-破線二重線が単結合を表す(構造(IIb))、
並びに
- 基R及びRの両方が、フェニル、p-トリル、3,5-ジメチル-4-メトキシフェニル、イソブチル又はシクロヘキシルである、
- 基R、R4及びRが水素である、
- 基R及びR10が、水素、メチル又はtert-ブチルである、
- 基R11が、水素、メチル又はメトキシである、及び
- 基R、R及びRが水素又はメチルである、配位子(II)の使用である。
【0045】
したがって、本発明による方法において、配位子L1、L2、L3、L4、L5が特に適切である。
【化9】
【0046】
配位子(II)は、対応するアミンと対応するアルデヒド又はケトンとの縮合(配位子(IIb)及び(IIc))と、それに続く可能性のある還元(配位子(IIa))と、それに続く可能性のある塩基性条件下での脱プロトン化(配位子(IId))によって、簡単な方法で得ることができる。
【0047】
縮合には原理的に2つの異なる可能性がある。第一に、アミン成分として2-ピコリルアミン又はその対応する誘導体、及びアルデヒド又はケトン成分として適切に置換されたホスファニルベンズアルデヒド又は対応するケトンを使用することが可能である。
【化10】
配位子(IIb)
【0048】
第二に、アミン成分として適切に置換されたホスファニルフェニルメタンアミン、及びアルデヒド又はケトン成分としてピコリルアルアルデヒド又はその対応する誘導体を使用することも可能である。
【化11】
配位子(IIc)
【0049】
対応する出発化合物(アミン、ケトン又はアルデヒド)は、一般に市販品として入手可能であるか、又は一般に知られている方法を使用して合成することができる。配位子(IIb)及び(IIc)の合成は、通常、保護ガス雰囲気下で行われる。2種の成分を、典型的に、溶媒中、50~200℃の温度で互いに反応させる。適切な溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール又はイソプロパノールなどの脂肪族アルコール、及びトルエン又はキシレンなどの芳香族炭化水素が挙げられる。2種の出発化合物は化学量論的量で使用され得る。しかし、例えば、他成分の転化率を高めるために、2種の成分の一方を過剰量で使用することも可能である。これは、他成分の入手が困難な場合に特に有用である。過剰量で使用する場合、2種の出発化合物のモル比は一般に>1から≦2の範囲である。反応時間は、通常、数分から数時間の範囲である。典型的な反応時間は10分~5時間、好ましくは30分~3時間である。反応混合物は、慣用の方法で精製し、配位子を単離することができる。しかし、添加した溶媒及び水を減圧下で除去することが有利である。
【0050】
配位子(IIb)及び(IIc)を用いてマンガン(I)錯体(I)を調製することができる。
【0051】
配位子(IIb)又は(IIc)を水素化ホウ素ナトリウム、水素化リチウムアルミニウムなどの還元剤で還元するか、水素で触媒的に還元することにより、配位子(IIb)及び(IIc)から配位子(IIa)を簡単な方法で得ることができる。この反応は、当業者の公知の方法で実施することができる。
【0052】
特に有利な合成法では、配位子(IIb)及び(IIc)を予め単離することなく、ワンポット反応で、上記の縮合及び配位子(IIa)への還元を互いに直後に行う。このため、縮合終了後、還元剤を反応混合物に直接添加し、さらに一定時間反応させることができる。ここでは、通常、数分から数時間で十分である。典型的な反応時間は10分~5時間、好ましくは30分~3時間である。その後、慣用の方法で反応混合物を精製し、配位子を単離することができる。配位子(IIb)及び(IIc)の精製及び単離に関する情報を参照されたい。
【0053】
配位子(IIa)は、供給された水素で水素化することにより、反応条件下でマンガン(I)錯体(I)に結合した配位子(IIb)及び(IIc)から形成されてもよい。
【0054】
アニオン性配位子(IId)は、強塩基との反応により、窒素上の水素原子がプロトンとして脱離する結果、配位子(IIa)から形成される。適切な強塩基は、例えば、NaOMe、NaOEt、KOEt、KOt-Bu又はKOMeである。通常、この反応は遊離配位子(IIa)では特に行われない。むしろ、配位子(IId)は、強塩基の存在下、水素化条件下でマンガン(I)錯体(I)中に形成される。
【0055】
本発明による方法で使用されるマンガン(I)錯体は、配位子IIに加えて、少なくとも2個のカルボニル配位子(=CO)を有する。
【0056】
本発明による方法において、マンガンの酸化状態は+1である。
【0057】
本発明による方法で好ましく使用されるマンガン(I)錯体(I)は、一般式(I)
[Mn(L)(CO)2+n1-n]Z(n) (I)
(式中、
Xは、「-1」の電荷を有するアニオン性単座配位子であり、
Zは、「-1」の電荷を有するアニオン性対イオンであり、
nは0又は1である)を有する。
【0058】
指数nは、マンガン(I)錯体(I)が2個のCO配位子を有する(n=0)のか、又は3個のCO配位子を有する(n=1)のかを示す。n=0の場合、アニオン性配位子がマンガン上にある。n=1の場合、マンガン錯体はカチオン性であり、電荷はアニオン性の対イオンZによって釣り合いが取られる。
【0059】
本発明による方法において好ましいマンガン(I)錯体(I)は、
Xが、H、F、Cl、Br、I、OH、C~C-アルコキシ、C~C-カルボキシ、メチルアリル、アセチルアセトナト、RSO 、CFSO 、CN及び
BH の群から選択されるアニオン性配位子、好ましくはBr又はClであり、
Zが、F、Cl、Br、I、OH、C~C-アルコキシ、C~C-カルボキシ、メチルアリル、アセチルアセトナト、RSO 、CFSO 、CN、BH 、BF 、PF 、ClO 、NO 、BPh 、好ましくはBr、Cl、C~C-アルコキシ及びC~C-カルボキシの群から選択されるアニオン性対イオンである、マンガン錯体である。
【0060】
マンガン(I)錯体(I)の好ましい例としては、[Mn(L)(CO)Br]、[Mn(L)(CO)Cl]、[Mn(L)(CO)I]、[Mn(L)(CO)OMe]、[Mn(L)(CO)CN]、[Mn(L)(CO)OH]、[Mn(L)(CO)H]、[Mn(L)(CO)][Br]、[Mn(L)(CO)][Cl]、[Mn(L)(CO)][I]、[Mn(L)(CO)][OtBu]、[Mn(L)(CO)][CN]、[Mn(L)(CO)][NO]、[Mn(L)(CO)][ClO]、[Mn(L)(CO)][BF]、[Mn(L)(CO)][PF](式中、Lはそれぞれの場合、中性配位子(IIa)、(IIb)又は(IIc)である)が挙げられる。
【0061】
本発明による方法は、特に好ましくは、
- 配位子(II)が、配位子(IIa)、(IIb)又は(IIc)であり、
- 基R、Rが、それぞれの場合、フェニル、p-トリル、3,5-ジメチル-4-メトキシフェニル、イソブチル又はシクロヘキシルであり、
- 基R及びR10が、それぞれ独立して、水素、メチル又はtert-ブチルであり、
- 基R11が、それぞれ独立して、水素、メチル又はメトキシであり、
- 基R、R及びRが、それぞれ独立して、水素又はメチルである、マンガン(I)錯体(I)の存在下で実施される。
【0062】
したがって、本発明による方法では、マンガン(I)錯体(I)K1、K2、K3、K4及びK5が特に適切である。
【化12】
【0063】
本発明による方法で使用されるマンガン(I)錯体(I)は、様々な方法で得ることができる。マンガン含有出発物質として、マンガンが錯体の形で既に存在する化合物(以下、Mn前駆錯体(IV)と記載する)を用い、これを配位子Lと反応させることが1つの好ましい選択肢である。したがって、配位子(II)をMn前駆錯体(IV)と反応させることによってマンガン(I)錯体(I)を得る方法が好ましい。
【0064】
原則として、非常に多様なMn錯体をMn前駆錯体(IV)として使用することができる。多くの場合、Mn前駆錯体(IV)が、所望のマンガン錯体(I)の配位子X又はカルボニル、及び任意選択的に非配位性アニオンZを既に含んでいる必要はない。配位子X、CO及び非配位性アニオンZは、多くの場合、合成バッチに別々に添加することもできる。合成の手間を低く抑えるために、容易にアクセス可能な、又は容易に入手可能な錯体が、Mn前駆錯体(IV)として有利に使用される。このような錯体は当業者によく知られている。当業者は、マンガン含有錯体上の配位子の交換にも精通している。
【0065】
原則的に、Mn前駆錯体(IV)中のアニオン性配位子としては、配位子Xで既に記載された全てのアニオン性配位子が対象となる。
【0066】
Mn前駆錯体(IV)と配位子Lとの反応は、典型的に、0.8~20、好ましくは0.9~10、特に好ましくは0.9~1.1のMn/Lモル比で行われる。可能な限り高い転化率を達成するためには、三座配位子Lの錯形成効果を利用するために、一座配位子及び二座配位子のみを有するMn前駆錯体(IV)を使用することが有利である。反応は、通常、無水であるが、溶媒の存在下及び保護ガス雰囲気下で行われる。適切な溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール又はイソプロパノールなどの脂肪族アルコール、及びトルエン又はキシレンなどの芳香族炭化水素が挙げられる。一般に、Mn前駆錯体(IV)中のマンガンは、後続のマンガン(I)錯体(I)と同一酸化状態、すなわち、酸化状態+Iを有する。
【0067】
適切なMn前駆錯体(IV)としては、例えば、[Mn(CO)Br]、[Mn(CO)Cl]、[Mn(CO)I]、[Mn(CO)F]、[Mn(CO)10]、MnCl、Mn(OAc)、Mn(OAc)、Mn(acac)、Mn(acac)、MnBr、MnI、MnCO、Mn(NO3)及びMn(ClOが挙げられる。(acac=アセチルアセトナート)
【0068】
マンガン(I)錯体(I)は、例えば、沈殿又は結晶化によって、得られた反応混合物から単離することができる。
【0069】
しかしながら、本発明による水素化を実施するためには、一般に、マンガン(I)錯体(I)の調製後に、最初にマンガン(I)錯体(I)を単離する必要はない。むしろ、Mn前駆錯体(IV)及び配位子Lから、溶媒の存在下で上記のようにマンガン(I)錯体(I)を調製し、得られた反応混合物中で直接、本発明による水素化を実施することが、簡略化された手順の意味で有利である。
【0070】
本発明による方法では、異なるマンガン(I)錯体(I)、特に同一配位子L(II)を含むカチオン性及び中性マンガン(I)錯体(I)の混合物を使用してもよい。
【0071】
本発明による方法で使用されるエステルは、多様な性質のものであることができる。したがって、原則として、低分子量から高分子量までの異なるモル量の、非置換又はヘテロ原子若しくは官能基で中断された、直鎖状又は分枝状、非環状又は環状、飽和又は不飽和、脂肪族、芳香族又は芳香脂肪族エステルを使用することができる。
【0072】
使用されるエステルは、好ましくは、一般式(III)
【化13】
(式中、基R及びRは、それぞれ独立して、炭素含有有機、直鎖状若しくは分枝状、非環状若しくは環状、飽和若しくは不飽和、脂肪族、芳香族若しくは芳香脂肪族基であり、非置換であるか、又はヘテロ原子若しくは官能基によって中断若しくは置換されており、15~10,000g/molのモル質量を有し、ここで、2個の基R及びRは互いに結合していることが可能である)のエステルである。
【0073】
分岐基R及びRの場合、これらは1回又は複数回分岐していてもよい。同様に、環式基の場合、これらは単環式であっても多環式であってもよい。同様に、不飽和基の場合、これらは一価又は多価不飽和であってもよく、ここでは二重結合及び三重結合の両方が可能である。ヘテロ原子は、炭素でも水素でもない原子として理解される。ヘテロ原子の好ましい例としては、酸素、窒素、硫黄、リン、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素が挙げられ、特に好ましい例は、酸素、窒素、フッ素、塩素及び臭素である。官能基は、少なくとも1個のヘテロ原子を含む基の別の説明である。例えば、-O-で中断された炭化水素鎖は、酸素ヘテロ原子で中断された炭化水素鎖としても、エーテル基で中断された炭化水素鎖としても考えることができる。他の非限定的な例としては、アミノ基(-NH、-NH-、-N<)、アルデヒド基(-CHO)、カルボキシル基(-COOH)、アミド基(-CONH、-CONH-、-CON<)、ニトリル基(-CN)、イソニトリル基(-NC)、ニトロ基(-NO)、スルホン酸基(-SO)、ケト基(>CO)、イミノ基(>CNH、>CN-)、エステル基(-CO-O-)、無水物基(-CO-O-CO-)及びイミド基(-CO-NH-CO-、-CO-NR-CO-)が挙げられる。もちろん、2個以上の、いわゆる官能基が存在してもよい。一例として、脂肪が挙げられる。
【0074】
基R及びRが互いに結合している場合、これらは環状エステルであり、ラクトンとも記載される。
【0075】
基R及びRのモル質量は、一般に15~10000g/mol、好ましくは15~5000g/mol、特に好ましくは15~2000g/molである。
【0076】
本発明による方法では、74~20000g/mol、特に好ましくは74~10000g/mol、非常に特に好ましくは74~5000g/mol、特に好ましくは74~2000g/mol、特に好ましくは74~1000g/molのモル質量を有するエステルを使用することが好ましい。
【0077】
本発明による方法で使用される水素分子(H)は、希釈されずに、又は不活性ガス、例えば窒素で希釈された状態で供給することができる。水素含有ガスは、可能な限り高い水素含有量で供給することが有利である。≧80体積%、特に好ましくは、≧90体積%、特に好ましくは、≧95体積%、特に好ましくは、≧99体積%の水素含有量が好ましい。
【0078】
本発明による方法の非常に一般的な実施形態において、マンガン(I)錯体(I)、水素化されるエステル及び水素を適切な反応装置に供給し、混合物を所望の反応条件下で反応させる。
【0079】
本発明による方法において使用される反応装置は、原則として、所定の温度及び所定の圧力下での気体/液体反応に原理的に適切な、いずれの反応装置であってもよい。気体/液体及び液体/液体反応系に適切な標準反応器は、例えば、K.D.Henkel,“Reactor Types and Their Industrial Applications”,Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,2005,Wiley-VCH Verlag GmbH & Co.KGaA,DOI:10.1002/14356007.b04_087,Chapter 3.3 “Reactors for gas-liquid reaction”に記載されている。例として、撹拌槽反応器、管状反応器又は気泡塔反応器が挙げられる。耐圧撹拌槽は、通常、オートクレーブとも記載される。
【0080】
マンガン(I)錯体(I)は、事前に合成されたマンガン(I)錯体(I)の形態で直接、反応装置に供給することができる。
【0081】
Mn前駆錯体(IV)及び配位子L(II)からマンガン(I)錯体(I)をその場(in situ)で形成する方がはるかに簡単である。その場(in situ)とは、Mn前駆錯体(IV)及び配位子L(II)を反応装置に供給することによってマンガン(I)錯体(I)を形成することを意味する。この目的のために有利には、0.5~5、好ましくは≧0.8、特に好ましくは≧1、好ましくは≦3、特に好ましくは≦2、特に好ましくは≦1.5のマンガンに対する配位子L(II)のモル比が使用される。このような、その場(in situ)変法は、マンガン(I)錯体(I)の事前の単離を免除する。
【0082】
本発明による方法は、溶媒の存在下でも非存在下でも実施することができる。溶媒を使用する場合、これは、例えば、マンガン(I)錯体(I)又はMn前駆錯体(IV)及び配位子Lを溶解するために役立つが、任意選択的に、水素化されるエステルを溶解するためにも役立つ。特に低分子量エステルの場合、前記エステルは溶媒としても機能し得る。
【0083】
溶媒を使用する場合、反応条件下でそれ自体が水素化されない、多かれ少なかれ顕著な極性特性を有する溶媒が好ましい。好ましい例としては、メタノール、エタノール又はイソプロパノールなどの脂肪族アルコール、トルエン又はキシレンなどの芳香族炭化水素、及びテトラヒドロフラン又は1,4-ジオキサンなどのエーテルが挙げられる。使用される溶媒の量は幅広く変動可能である。しかし、水素化されるエステル1gあたり0.1~20gの溶媒、好ましくは、水素化されるエステル1gあたり0.5~10gの溶媒、特に好ましくは、水素化されるエステル1gあたり1~5gの溶媒の範囲の量が慣用的である。
【0084】
水素化されるエステルは、純粋な、希釈されていないエステルの形態で直接供給されてもよいが、溶媒中に希釈された又は溶解された形態で供給されてもよい。水素化されるエステルをどのような形態で添加するかという基準は、一般に、例えば、存在するエステルの性質及びその取り扱いなど、純粋に実用的な性質のものであることが多い。例えば、その目的は、反応混合物中のエステルが反応条件下で液体であることである。
【0085】
水素化されるエステルとマンガン(I)錯体(I)との間のモル比は、本発明による方法において広い範囲内で変動し得る。一般に、水素化される反応混合物で規定されるモル比は、1~100000、好ましくは10~25000、特に好ましくは100~5000、特に好ましくは500~20000である。
【0086】
本発明による方法は、50~200℃、好ましくは≦170℃、特に好ましくは≦150℃の温度で実施される。この場合の圧力は、0.1~20MPa abs、好ましくは≧1MPa abs、特に好ましくは≧5MPa abs、好ましくは≦15MPa abs、特に好ましくは≦10MPa absである。
【0087】
反応条件下で反応混合物が存在する反応時間又は平均滞留時間も大きく変動し得るが、典型的には0.1~100時間の範囲であり、好ましくは≧1時間、特に好ましくは≧2時間であり、好ましくは≦80時間、特に好ましくは≦60時間である。
【0088】
さらに、本発明による水素化は、一般に塩基の存在によってプラスの影響を受け、その結果、最終的に著しく高い転化率が可能になることが示されている。したがって、ほとんどの場合、塩基の存在下で水素化を実施することが有利である。原則として、塩基は反応混合物中に固体として存在してもよいが、反応混合物中に溶解した形態で存在する塩基が好ましい。可能な塩基の例としては、アルコキシド、水酸化物、アルカリ金属及びアルカリ土類金属炭酸塩、アミド、塩基性アルミニウム及びケイ素化合物、並びに水素化物が挙げられる。使用される塩基は、特に好ましくはアルコキシド又はアミドであり、好ましくはナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、水酸化ナトリウム、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、カリウムtert-ブトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、水素化ホウ素ナトリウム又は水素化ナトリウムである。
【0089】
本発明による方法が塩基の存在下で実施される場合、これは一般にマンガン(I)錯体(I)に対して過剰量で使用される。1~1000、好ましくは2~20、特に好ましくは1~10のマンガン錯体(I)に対する塩基のモル比を使用することが好ましい。
【0090】
本発明による方法は、連続的に、セミバッチモードで、不連続的に、溶媒として製品中で逆混合して、又は逆混合せずにシングルパスで実施することができる。マンガン(I)錯体、水素化されるエステル、水素、任意選択的に溶媒及び任意選択的に塩基は、同時に又は互いに別々に供給されることができる。
【0091】
不連続操作モードでは、マンガン(I)錯体(I)又はMn前駆錯体(IV)及び配位子L(II)、水素化されるエステル、任意選択的に溶媒及び塩基は、典型的に、反応装置内に最初に装入され、水素の添加による混合によって所望の反応条件下で所望の反応圧力が設定される。その後、反応混合物を所望の反応条件下で所望の反応時間放置する。任意選択的に、さらに水素を計量添加する。所望の反応時間が経過した後、反応混合物を冷却又は減圧する。その後の精製によって、対応するアルコールを反応生成物として得ることができる。不連続反応は、好ましくは撹拌タンク中で行われる。
【0092】
連続操作モードでは、マンガン(I)錯体(I)又はMn前駆錯体(IV)及び配位子L(II)、水素化されるエステル、任意選択的に溶媒及び塩基を反応装置に連続的に供給し、生成した対応するアルコールの精製及び単離のために適量を連続的に抜き出す。
【0093】
連続反応は、好ましくは撹拌タンク又は撹拌タンクカスケードで行われる。
【0094】
水素化生成物は、蒸留及び/又はフラッシュ蒸発などの当業者にそれ自体公知のプロセスによって水素化混合物から分離され得、残りの触媒はさらなる反応に関連して利用され得る。好ましい実施形態に関して、溶媒の添加を省略し、転化される基質中又は生成物中、任意選択的に溶解媒体として高沸点副生成物中で引用された反応を実施することが有利である。特に好ましいのは、均一系触媒の再使用又はリサイクルを伴う連続反応体制である。
【0095】
本発明によるエステル水素化では、-CO-O-エステル基から末端-CHOH及び末端-OH基が形成される。したがって、エステル(III)の場合、以下の反応式に対応して、2種の対応するアルコールR-CHOH及びR-OHが形成される。
【化14】
【0096】
環状エステル、いわゆる、ラクトンを使用する場合、2種の基R及びRが互いに結合し、対応するジオールが形成される。
【0097】
本発明による方法は、エステルの均一触媒水素化により、高収率及び選択性でアルコールを調製することを可能にする。水素化は、水素化反応のための従来の実験室設備で技術的に実施することができ、基質として多種多様なエステルを使用することができる。
【0098】
本発明のさらなる実施形態は、重要な香料(-)Ambroxの前駆体であるアンブロキシドール(アンブロキシ-1,4-ジオール)へのスクラレオリドの転化である。アンブロキシドールは、例えば、国際公開第2017/140909号パンフレットに記載されているように、環化により(-)Ambroxに転化することができる。
【0099】
本発明による方法の特別な利点は、特異的な三座PNN配位子に基づく。その三座の性質により、配位子はマンガンに強固に配位するが、調製が容易であり、対応するマンガン(I)錯体の形成後に高い水素化活性を有する触媒をもたらす。さらに、本発明による配位子は酸化に対して比較的鈍感であるため、取り扱いの面でも有利であり、保存安定性も高い。
【0100】
本発明による配位子の特に重要な利点は、入手が容易であること、そして水素原子を様々な有機基で置換することによって基本構造を変化させることが容易であることが挙げられる。配位子は、一般に、容易に入手可能な原料から簡単なワンポット合成で調製することができる。マンガン含有原料としては、容易に入手可能であり、且つ大量に市販されているマンガン前駆錯体を使用してもよい。
【実施例
【0101】
一般情報
特に断りのない限り、全ての反応は、いわゆる、「シュレンク(Schlenk)」及び高真空技術、或いはMBraun Inert Atmosphereグローブボックスを使用して、アルゴン雰囲気下、室温で調製した。有機溶媒は、Aldrich又はAcrosから入手した。市販品として入手可能な出発化合物は、Aldrich、ABCR又はTCIから入手し、受け取ったまま使用した。NMRスペクトルは、Bruker AVANCE III 300、Bruker AVANCE III 400及びBruker AVANCE III 500スペクトロメーターで測定し、溶媒のプロトン(H)又は炭素(13C)共鳴シグナルを参照とした。化学シフト(δ)はppmで表す。31P-NMRスペクトルは、Organic Chemistry Institute of the University of Heidelbergの外部標準物質(アンプルDPO)を参照とした。GC分析は、FID検出器を備えたAgilent Technologies 6890Nガスクロマトグラフで実行した;使用カラム:DB-FFAP(30m×0.32mm×0.25μm)。初期温度:55℃;保持時間1分;上昇:25℃/分で250℃まで;保持時間8分。
【0102】
実施例1では、代表的な配位子IIの調製について説明する。他の配位子は本明細書に準じて調製した。
【0103】
実施例1:配位子L1の調製
【化15】
(2-(ジフェニルホスファニル)フェニル)メタンアミン(1.00g、3.43mmol)を、エタノール(10mL)中のピコリンアルデヒド(368mg、3.43mmol)の溶液に室温で添加し、得られた混合物を室温で2時間撹拌した。NaBH(208mg、5.49mmol)を添加し、混合物を室温でさらに2時間撹拌した。その後、飽和NaHCO水溶液(15ml)及びCHCl(25mL)を添加した。相分離後、水相をCHCl(2×25ml)で抽出した。組み合わせた有機相を乾燥させ(NaSO)、真空下で濃縮した。粗生成物をシリカゲル上カラムクロマトグラフィー(ヘキサン/EtOAc/NEt、9:1から1:1;EtOAc中10%NEtの混合物を使用した)によって精製し、N-(2-(ジフェニルホスファニル)ベンジル)-1-(ピリジン-2-イル)メタンアミン(L1)を無色油状物として得た(600mg、収率46%)。
H NMR(500MHz,CDCl)δ 8.48-8.46(m,1H),7.57(td,J=7.7,1.8Hz,1H),7.54-7.51(m,1H),7.36-7.30(m,7H),7.28-7.24(m,4H),7.19-7.10(m,4H),6.91(ddd,J=7.7,4.5,1.4Hz,1H),4.02(d,J=1.7Hz,2H),3.79(s,2H).
31P NMR(203MHz,CDCl)δ -15.94.
HRMS(ESI)C2523P([M]):計算値:382.1599;実測値:382.1611。
【0104】
実施例2では、配位子IIを有する代表的なマンガン(I)触媒錯体(I)の調製について説明する。
【0105】
実施例2:触媒K1の調製
【化16】
トルエン15ml中の[Mn(CO)Br](720mg、2.62mmol)の溶液を、アルゴン雰囲気下、トルエン15ml中の配位子L1(1g、2.62mmol)の溶液に添加する。反応混合物を60~80℃で30分間、目に見えるCOの発生が観察されなくなるまで撹拌する。その後、混合物を110℃でさらに16時間撹拌し、黄色の沈殿物を生成させる。室温まで冷却した後、減圧下で反応混合物からトルエンを除去する。黄色の残渣を10mlの無水ヘキサンで洗浄し、次いでアルゴン雰囲気下で10mlの無水ジエチルエーテルで洗浄し、濾過する。濾過ケーキを高真空中で乾燥させ、触媒K1を収率80%(1.2g)で黄色粉末として得る。触媒複合体は遮光下、0℃で保存する。
H NMR(500MHz,CDCl)δ 9.09(d,J=5.5Hz,1H),8.07(s,2H),7.67(t,J=7.1Hz,1H),7.57 - 7.22(m,11H),7.05(t,J=8.5Hz,2H),6.81(t,J=8.2Hz,1H),4.59 - 3.59(m,5H).
13C NMR(126MHz,CDCl)δ 154.62,151.77,135.76(d,J=16.5Hz),133.55 - 133.09(m),129.76,129.56,129.00,128.79(d,J=3.2Hz),128.70,127.93(d,J=8.4Hz),127.18(dd,J=7.9,2.2Hz),126.13(d,J=5.2Hz),125.92(d,J=2.0Hz),124.93(d,J=9.0Hz),124.63(d,J=9.5Hz),120.93,117.01,56.86(d,J=2.6Hz),55.71(d,J=8.1Hz).
31P-NMR(203MHz,CDCl)δ 68.39.
【0106】
実施例3:触媒K2の調製
【化17】
トルエン10ml中の[Mn(CO)Br](85mg、0.31mmol)の溶液を、アルゴン雰囲気下、トルエン10ml中の配位子L2(0.155g、0.31mmol)の溶液に添加する。反応混合物を60~80℃で30分間、目に見えるCOの発生が観察されなくなるまで撹拌する。その後、混合物を110℃でさらに16時間撹拌し、黄色の沈殿物を生成させる。室温まで冷却した後、減圧下で反応混合物からトルエンを除去する。黄色の残渣を10mlの無水ヘキサンで洗浄し、次いでアルゴン雰囲気下で10mlの無水ジエチルエーテルで洗浄し、濾過する。濾過ケーキを高真空中で乾燥させ、触媒K2を収率75%(0.16g)で黄色粉末として得る。触媒複合体は遮光下、0℃で保存する。
【0107】
実施例4:触媒K3の調製
【化18】
トルエン10ml中の[Mn(CO)Br](97mg、0.35mmol)の溶液を、アルゴン雰囲気下、トルエン10ml中の配位子L3(0.14g、0.35mmol)の溶液に添加する。反応混合物を60~80℃で30分間、目に見えるCOの発生が観察されなくなるまで撹拌する。その後、混合物を110℃でさらに16時間撹拌し、黄色の沈殿物を生成させる。室温まで冷却した後、減圧下で反応混合物からトルエンを除去する。黄色の残渣を10mlの無水ヘキサンで洗浄し、次いでアルゴン雰囲気下で10mlの無水ジエチルエーテルで洗浄し、濾過する。濾過ケーキを高真空中で乾燥させ、触媒Kを収率56%(0.115g)で黄色粉末として得る。触媒複合体は遮光下、0℃で保存する。
【0108】
実施例5:触媒K4の調製
【化19】
トルエン10ml中の[Mn(CO)Br](0.36g、1.31mmol)の溶液を、アルゴン雰囲気下、トルエン10ml中の配位子L4(0.54g、1.31mmol)の溶液に添加する。反応混合物を60~80℃で30分間、目に見えるCOの発生が観察されなくなるまで撹拌する。その後、混合物を110℃でさらに16時間撹拌し、黄色の沈殿物を生成させる。室温まで冷却した後、減圧下で反応混合物からトルエンを除去する。黄色の残渣を10mlの無水ヘキサンで洗浄し、次いでアルゴン雰囲気下で10mlの無水ジエチルエーテルで洗浄し、濾過する。濾過ケーキを高真空中で乾燥させ、触媒Kを収率82%(0.65g)で黄色粉末として得る。触媒複合体は遮光下、0℃で保存する。
【0109】
実施例5:触媒K5の調製
【化20】
トルエン10ml中の[Mn(CO)Br](0.236g、0.86mmol)の溶液を、アルゴン雰囲気下、トルエン10ml中の配位子L5(0.34g、0.86mmol)の溶液に添加する。反応混合物を60~80℃で30分間、目に見えるCOの発生が観察されなくなるまで撹拌する。その後、混合物を110℃でさらに16時間撹拌し、黄色の沈殿物を生成させる。室温まで冷却した後、減圧下で反応混合物からトルエンを除去する。黄色の残渣を10mlの無水ヘキサンで洗浄し、次いでアルゴン雰囲気下で10mlの無水ジエチルエーテルで洗浄し、濾過する。濾過ケーキを高真空中で乾燥させ、触媒Kを収率75%(0.38g)で黄色粉末として得る。触媒複合体は遮光下、0℃で保存する。
【0110】
実施例6、7、8及び9:スクラレオリドの水素化
アルゴン充填グローブボックス中、クリンプキャップ及びPTFEコーティングされたマグネチックスターラーバーを備えた10mLバイアルに、スクラレオライド(375mg、1.5mmol)、マンガン触媒(0.1mol%)、KOtBu(3.36mg、2mol%)及び乾燥エタノール(2ml)を充填する。ゴム製セプタムから構成されるクリンプキャップによってバイアルを密封し、セプタムをカニューレで穿孔し、バイアルをHEL CAT-7オートクレーブに入れる。オートクレーブを密閉し、グローブボックスから取り出し、不活性条件下で50バールHまで加圧し、予熱したアルミニウムブロック中にオートクレーブを挿入する。反応混合物を100℃で20時間撹拌し、氷浴中で冷却し、残留H圧力を注意深く放出する。その後、内部標準としてメシチレンをそれぞれのバッチに添加し、反応混合物をガスクロマトグラフィーで分析する。
【化21】
【0111】
【表1】
【0112】
実施例10:スクラレオリドの水素化
【化22】
不活性条件下のアルゴン充填グローブボックス中、Teflonインサート及びマグネチックスターラーバーを備えた100mlのPremexオートクレーブ中に、スクラレオライド(750mg、3mmol)、K1(1.7mg、0.003mmol)、カリウムtert-ブトキシド(3.36mg、0.003mmol)及び乾燥エタノール4mlを秤量する。オートクレーブを密閉し、排気する。窒素で3回、次いで、水素で3回フラッシュし、水素で40バールの冷圧(cold pressure)まで加圧する。その後、20時間、撹拌しながら、反応混合物をオートクレーブで90℃で加熱する。室温まで冷却した後、残留水素を放出し、反応混合物をGCで分析する。スクラレオリド転化率:98%、ジオールの収率:92%。
【0113】
(2R,8aS)-1-(2-ヒドロキシエチル)-2,5,5,8a-テトラメチルデカヒドロナフタレン-2-オール
H NMR(400MHz,CDCl)δ 3.78(dt,J=10.2,4.4Hz,1H),3.46(ddd,J=10.2,8.2,5.7Hz,1H),3.08(s,2H),1.90(dt,J=12.3,3.3Hz,1H),1.72 - 1.21(m,10H),1.19(s,3H),1.13(dd,J=13.4,4.4Hz,1H),0.99 - 0.91(m,2H),0.88(s,3H),0.79(s,6H).
13C-NMR(101MHz,CDCl)δ 73.03,64.09,59.18,56.04,44.29,41.91,39.36,38.98,33.41,33.28,27.89,24.64,21.48,20.47,18.42,15.31.
【0114】
実施例11:スクラレオリドの水素化
【化23】
アルゴン充填グローブボックス中、クリンプキャップ及びPTFEコーティングされたマグネチックスターラーバーを備えた10mlバイアルに、スクラレオリド(375mg、1.5mmol)、マンガン触媒K1(0.1mol%)、KOtBu(3.36mg、2mol%)及び乾燥エタノール(2ml)を充填する。ゴム製セプタムから構成されるクリンプキャップによってバイアルを密封し、セプタムをカニューレで穿孔し、バイアルをHEL CAT-7オートクレーブに入れる。オートクレーブを密閉し、グローブボックスから取り出し、50バールHまで加圧し、予熱したアルミニウムブロック中にオートクレーブを挿入する。反応混合物を90℃で16時間撹拌し、氷浴中で冷却し、残留H圧力を注意深く放出する。反応混合物をシリカ上で濾過し、シリカをエタノールで数回洗浄する。組み合わせた濾液からエタノールを真空乾燥で除去し、生成物をNMRで分析する。スクラレオリドジオールの単離収率は定量的であり(収率>99%)、H-NMRスペクトルから物質は純粋である。
【0115】
実施例12:スクラレオリドの水素化
【化24】
不活性条件下のアルゴン充填グローブボックス中、Teflonインサート及びマグネチックスターラーバーを備えた30mlのPremexオートクレーブ中に、スクラレオライド(375mg、1.5mmol)、K1(0.88mg、0.1mol%)、カリウムエトキシド(2.52mg、2mol%)及び乾燥エタノール2mlを秤量する。オートクレーブを密閉し、排気する。窒素で3回、次いで、水素で3回フラッシュし、水素で40バールの冷圧(cold pressure)まで加圧する。その後、16時間、撹拌しながら、反応混合物をオートクレーブで90℃で加熱する。室温まで冷却した後、残留水素を放出し、反応混合物をGCで分析する。スクラレオリド転化率:>99%、ジオールの収率:98%。
【0116】
実施例11、12、13、14及び15:触媒K1を用いた他のエステルの水素化反応
アルゴン充填グローブボックス中、クリンプキャップ及びPTFEコーティングされたマグネチックスターラーバーを備えた10mLバイアルに、それぞれのエステル(3mmol)、マンガン触媒K1(1.72mg、0.1mol%)、KOtBu(6.72mg、2mol%)及び乾燥エタノール(4ml)を充填する。ゴム製セプタムから構成されるクリンプキャップによってバイアルを密封し、セプタムをカニューレで穿孔し、バイアルをHEL CAT-7オートクレーブに入れる。オートクレーブを密閉し、グローブボックスから取り出し、50バールHまで加圧し、予熱したアルミニウムブロック中にオートクレーブを挿入する。反応混合物を100℃で20時間撹拌し、氷浴中で冷却し、残留H圧力を注意深く放出する。反応混合物をシリカ上で濾過し、シリカをエタノールで数回洗浄する。組み合わせた濾液からエタノールを真空乾燥で除去し、生成物をNMRで分析する。
【化25】
【0117】
フェニルメタノール、2a
H NMR(301MHz,CDCl)δ 7.39 - 7.26(m,5H),4.66(s,2H),1.98(s,1H).13C NMR(76MHz,CDCl)δ 140.89,128.58,127.66,127.02,65.34.
【0118】
ドデカン-1-オール、2b
H NMR(301MHz,CDCl)δ 3.64(t,J=6.6Hz,2H),1.55(q,J=7.1Hz,2H),1.37-1.26(m,18H),0.93 - 0.83(m,3H).
13C NMR(76MHz,CDCl)δ 63.09,32.82,31.92,29.67,29.64,29.62,29.61,29.45,29.35,25.75,22.69,14.11.
【0119】
1,4-フェニレンジメタノール、2c
H NMR(301MHz,CDCl)δ 7.37(s,4H),4.70(s,4H),1.64(s,2H).13C NMR(76MHz,CDCl)δ 127.25,88.96.
【0120】
フラン-2-イルメタノール、2d
H NMR(301MHz,CDCl)δ 7.39(s,1H),6.31(d,J=15.0Hz,2H),4.58(s,2H),2.27(s,1H).13C NMR(76MHz,CDCl)δ 154.03,142.57,110.36,107.76,57.42.
【0121】
ペンタン-1,4-ジオール、2e
H NMR(301MHz,CDCl)δ 3.94 - 3.78(m,1H),3.77 - 3.58(m,2H),2.72(s,2H),1.76 - 1.39(m,4H),1.21(d,J=6.2Hz,3H).
13C NMR(76MHz,CDCl)δ 67.95,62.89,36.26,29.14,23.60.
【国際調査報告】