(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】抗菌性SAN樹脂、これの製造方法およびこれを含む抗菌性ABS樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 220/30 20060101AFI20240719BHJP
C08L 33/04 20060101ALI20240719BHJP
C08L 55/02 20060101ALI20240719BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240719BHJP
A01N 61/00 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
C08F220/30
C08L33/04
C08L55/02
A01P3/00
A01N61/00 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503473
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(85)【翻訳文提出日】2024-01-18
(86)【国際出願番号】 KR2022009387
(87)【国際公開番号】W WO2023008754
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】10-2021-0098134
(32)【優先日】2021-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0079972
(32)【優先日】2022-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】スンヒ・カン
(72)【発明者】
【氏名】ソンジュン・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】イヒョン・ペク
(72)【発明者】
【氏名】ヒュンサム・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ユン・ヒョン・ホ
【テーマコード(参考)】
4H011
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011BB19
4H011DH02
4J002BG07W
4J002BG10W
4J002BN15X
4J002GB00
4J002GC00
4J002GE00
4J002GN00
4J002GQ00
4J100AB02Q
4J100AL11P
4J100AM02R
4J100BA16P
4J100CA05
4J100DA01
4J100DA71
4J100FA28
4J100JA28
4J100JA43
4J100JA50
4J100JA57
(57)【要約】
本発明は、抗菌性SAN樹脂、これの製造方法およびこれを含む抗菌性ABS樹脂組成物に関するものであって、抗菌物質の流出がないため、持続的な抗菌特性を示すことができる抗菌性SAN樹脂、これの製造方法およびこれを含む抗菌性ABS樹脂組成物を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式1で表される単量体由来の繰り返し単位と、スチレン系単量体由来の繰り返し単位と、アクリロニトリル系単量体由来の繰り返し単位とを含む、
抗菌性SAN樹脂。
【化1】
前記化学式1において、
R
1ないしR
3は、それぞれ独立して、水素、または炭素数1ないし4のアルキルであり、
Aは、非置換されるか、または炭素数1ないし10のアルキル、炭素数1ないし10のアルコキシ、重水素、ハロゲン、ヒドロキシおよびカルボキシ基の中から選択される1つ以上の置換基で置換された炭素数6ないし60の芳香族環である。
【請求項2】
前記化学式1で表される単量体由来の繰り返し単位は、前記抗菌性SAN樹脂1モルを基準に0.01ないし0.7モルで含まれる、
請求項1に記載の抗菌性SAN樹脂。
【請求項3】
前記化学式1において、
Aは、非置換されるか、または炭素数1ないし4のアルキル、ヒドロキシおよびカルボキシ基の中から選択される1つ以上の置換基で置換されたベンゼン環である、
請求項1に記載の抗菌性SAN樹脂。
【請求項4】
前記化学式1で表される単量体は、下記の中から選択されるいずれか一つである、
請求項1に記載の抗菌性SAN樹脂。
【化2】
【請求項5】
前記スチレン系単量体は、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、o-ブロモスチレン、o-クロロスチレン、m-ブロモスチレン、m-クロロスチレン、p-ブロモスチレンおよびp-クロロスチレンの中から選択される1種以上である、
請求項1に記載の抗菌性SAN樹脂。
【請求項6】
前記アクリロニトリル系単量体は、アクリロニトリル、メタクリロニトリルおよびエタクリロニトリルの中から選択される1種以上である、
請求項1に記載の抗菌性SAN樹脂。
【請求項7】
前記スチレン系単量体由来の繰り返し単位およびアクリロニトリル系単量体由来の繰り返し単位は、5:5ないし9:1のモル比で含まれる、
請求項1に記載の抗菌性SAN樹脂。
【請求項8】
前記抗菌性SAN樹脂は、グラム陰性菌およびグラム陽性菌の少なくとも一つに抗菌性を示す、
請求項1に記載の抗菌性SAN樹脂。
【請求項9】
前記グラム陰性菌は、プロテウスミラビリス(Proteus mirabilis)、または大腸菌(Escherichia coli)であり、
前記グラム陽性菌は、エンテロコッカスフェカリス(Enterococcus faecalis)、または黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)である、
請求項8に記載の抗菌性SAN樹脂。
【請求項10】
前記抗菌性SAN樹脂は、重量平均分子量が20,000ないし100,000g/molである、
請求項1に記載の抗菌性SAN樹脂。
【請求項11】
重合開始剤の存在下で、下記の化学式1で表される単量体と、スチレン系単量体と、アクリロニトリル系単量体とを、60℃ないし90℃の温度で3時間ないし8時間重合するステップを含む、
抗菌性SAN樹脂の製造方法。
【化3】
前記化学式1において、
R
1ないしR
3は、それぞれ独立して、水素、または炭素数1ないし4のアルキルであり、
Aは、非置換されるか、または炭素数1ないし10のアルキル、炭素数1ないし10のアルコキシ、重水素、ハロゲン、ヒドロキシおよびカルボキシ基の中から選択される1つ以上の置換基で置換された炭素数6ないし60の芳香族環である。
【請求項12】
前記重合は、重合転換率が50ないし90%である時点まで行われる、
請求項11に記載の抗菌性SAN樹脂の製造方法。
【請求項13】
請求項1ないし請求項10のいずれか一項に記載の抗菌性SAN樹脂と、
ABS樹脂とを含む、
抗菌性ABS樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願(等)の相互引用
本出願は、2021年7月26日付の韓国特許出願第10-2021-0098134号および2022年6月29日付の韓国特許出願第10-2022-0079972号に基づいた優先権の利益を主張して、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、持続的な抗菌特性を示す抗菌性SAN樹脂、これの製造方法およびこれを含む抗菌性ABS樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0003】
SAN樹脂(Styrene-Acrylonitrile Resin)とは、スチレン系単量体由来の繰り返し単位と、アクリロニトリル系単量体由来の繰り返し単位とを含む共重合体を総称するものであって、このようなSAN樹脂は、流動性に優れながら耐熱性、耐薬品性および機械的強度に優れ、電気電子用、家庭用、事務用、自動車部品、医療機系などに幅広く用いられている。
【0004】
特に、SAN樹脂は、ABS樹脂(acrylonitrile butadiene styrene resin)と混合され、自動車の内/外装材、冷蔵庫および掃除機のような家電製品、玩具類などの日常生活に密接に用いられる物品に製造することができ、抗菌性に対する要求が大きい状況である。
【0005】
そこで、以前からSAN樹脂などに多様なバクテリア増殖抑制成分や、消臭または抗菌剤を導入しようとする試みが行われた。具体的には、抗菌剤としては有機系および無機系抗菌剤があるが、有機系抗菌剤は相対的に安価で経済的で、かつ抗菌即効性に優れているが、抗菌持続性、人体安全性および熱安定性が低いというデメリットがある。また、無機系抗菌剤は、単価が高いだけでなく、抗菌即効性が低く、空気、光、水分などに露出される場合、酸化して物品の変色を起こすことがあり、射出時に組成物の物理的な特性を急激に低下させるという問題があった。
【0006】
これにより、バクテリア増殖を抑制する抗菌剤などをSAN樹脂に導入することによって、SAN樹脂の基本的物性が低下することなく、優れたバクテリアの増殖を抑制できるSAN樹脂関連技術の開発が継続的に要請されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、抗菌物質の流出がないため有害でなく、かつ持続的な抗菌特性を示すことができる抗菌性SAN樹脂、これの製造方法およびこれを含む抗菌性ABS樹脂組成物を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一具現例によると、
下記の化学式1で表される単量体由来の繰り返し単位と、スチレン系単量体由来の繰り返し単位と、アクリロニトリル系単量体由来の繰り返し単位とを含む、抗菌性SAN樹脂を提供する。
【化1】
前記化学式1において、
R
1ないしR
3は、それぞれ独立して、水素、または炭素数1ないし4のアルキルであり、
Aは、非置換されるか、または炭素数1ないし10のアルキル、炭素数1ないし10のアルコキシ、重水素、ハロゲン、ヒドロキシおよびカルボキシ基の中から選択される1つ以上の置換基で置換された炭素数6ないし60の芳香族環である。
【0009】
本発明のまた他の具現例によると、
重合開始剤の存在下で、下記の化学式1で表される単量体と、スチレン系単量体と、アクリロニトリル系単量体とを、60℃ないし90℃の温度で3時間ないし8時間重合するステップを含む、抗菌性SAN樹脂の製造方法を提供する。
【0010】
さらに、本発明のまた他の一具現例によると、前述の抗菌性SAN樹脂およびABS樹脂を含む抗菌性ABS樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抗菌性SAN樹脂は、抗菌剤の溶出なくバクテリアを増殖抑制する抗菌特性を持続的に示すことができる。
【0012】
具体的には、前記抗菌性SAN樹脂は、特定の構造の重合性抗菌単量体が別途に混合されるものではなく、スチレン系単量体およびアクリロニトリル系単量体とともに共重合されて製造されることによって、時間が経過した後にも抗菌物質が流出しないため、有害でなく、かつグラム陽性菌(Gram-positive bacteria)およびグラム陰性菌(Gram-negative bacteria)の少なくとも一つに対して優れた抗菌特性を持続的に示すことができる。
【0013】
したがって、前記抗菌性SAN樹脂は、ABS樹脂と混合され、耐久性および熱安定が要求される多様な工業用品および日常生活用品などに好ましく用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、製造例1で製造した重合性抗菌単量体1-1の
1H NMRスペクトルを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書で使用される用語は、単に例示的な実施例を説明するために使用されたものであって、発明を限定しようとする意図ではない。単数の表現は、文脈上明白に異なって意味しない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」、「備える」または「有する」などの用語は、実施された特徴、ステップ、構成要素またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、一つまたはその以上の他の特徴やステップ、構成要素、またはこれらを組み合わせたものの存在または付加可能性を予め排除しないものと理解されるべきである。
【0016】
また、本発明において、各層または要素が各層または要素の「上に」または「の上に」形成されるものと言及される場合には、各層または要素が直接各層または要素の上に形成されることを意味するか、他の層または要素が各層の間、対象体、基材上に追加的に形成可能なことを意味する。
【0017】
本発明は、多様な変更を加えることができ、色々な形態を有することができるので、特定の実施例を例示し、下記で詳細に説明する。しかし、これは、本発明を特定の開示形態に対して限定しようとするものではなく、本発明の思想および技術範囲で含まれる全ての変更、均等物または代替物を含むものと理解されるべきである。
【0018】
また、本明細書で使用される専門用語は、単に特定の具現例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。そして、ここで使用される単数形態は、文面がこれと明確に反対の意味を示さない限り複数形態も含む。
【0019】
一方、本明細書で使用する用語「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートをいずれも含む。
【0020】
また、本明細書において、前記アルキル基は、直鎖または分枝鎖であってもよく、炭素数は特に限定されないが、1ないし10であることが好ましい。また一つの実施状態によると、前記アルキル基の炭素数は1ないし6である。前記アルキル基の具体的な例としては、メチル、エチル、プロピル、n-プロピル、イソプロピル、ブチル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、sec-ブチル、1-メチル-ブチル、1-エチルブチル、ペンチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、1-エチル-プロピル、1,1-ジメチルプロピル、ヘキシル、n-ヘキシル、1-メチルペンチル、2-メチルペンチル、4-メチル-2-ペンチル、3,3-ジメチルブチル、2-エチルブチル、ヘプチル、n-ヘプチル、イソヘキシル、1-メチルヘキシル、2-メチルヘキシル、3-メチルヘキシル、4-メチルヘキシル、5-メチルヘキシル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、オクチル、n-オクチル、tert-オクチル、1-メチルヘプチル、2-エチルヘキシル、2,4,4-トリメチル-1-ペンチル、2,4,4-トリメチル-2-ペンチル、2-プロピルペンチル、n-ノニル、2,2-ジメチルヘプチルなどがあるが、これらに限定されない。
【0021】
また、本明細書において、アルコキシ基は直鎖または分枝鎖であってもよく、炭素数は特に限定されないが、1ないし10であることが好ましい。また一つの実施状態によると、前記アルコキシ基の炭素数は1ないし6である。前記アルコキシ基の具体的な例としては、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシなどがあるが、これらに限定されない。
【0022】
従来、SAN樹脂のようなプラスチックでの抗菌および消臭特性の確保のために抗菌機能を有する金属化合物や、陽イオンまたはアルコール官能基を含有した有機化合物を添加剤形態で導入した。しかし、この場合、SAN樹脂の安全性低下、または抗菌特性の持続性および抗菌物質流出などの問題があった。
【0023】
一例としては、銀、銅、亜鉛などの抗菌性金属イオンを含有した抗菌剤成分をプラスチック樹脂に混合する試みが行われた。このような抗菌性金属イオン含有成分は、バクテリアなど微生物の細胞壁を破壊して抗菌特性を示すことができるが、人体に有益な微生物まで死滅させる殺生物剤(BIOCIDE)物質に分類されている。また、プラスチック樹脂の製造以降、抗菌剤成分を混合することになる場合、時間が経過するにつれて、最終物品から抗菌剤が溶出して抗菌性が持続しないという問題があった。しかも、溶出する抗菌剤は、人体にも良くない影響を及ぼすことになるので、前記のように製造された抗菌特性を示すプラスチック樹脂は、人体安全性も低下するというデメリットも存在した。
【0024】
また、バクテリア(細菌)は確認されたことだけ5千種を超えるほど多様な種類が存在する。具体的には、バクテリアは、球状、棒状、螺旋状などで、その細胞形状が多様で、酸素を要求する程度も菌ごとに異なっており、好気性菌、通性菌および嫌気性細菌に分かれる。したがって、普通、一種類の抗菌剤が多様なバクテリアの細胞膜/細胞壁を損傷させるか蛋白質を変成させることができる物理/化学的メカニズムを有することは容易ではなかった 。
【0025】
しかし、特定の構造を有するカルボキシ基を含む単量体をスチレン系単量体およびアクリロニトリル系単量体などとともに重合してSAN樹脂を製造する場合、グラム陽性菌(Gram-positive bacteria)およびグラム陰性菌(Gram-negative bacteria)の少なくとも一つに抗菌性を示すことができるとともに、抗菌物質が溶出しないため、人体安全性に優れ、抗菌効果が持続できることを確認して、本発明を完成した。
【0026】
より具体的には、前記化学式1で表される重合性抗菌単量体がバクテリアと接触する場合、A環に置換されたカルボキシ基(COOH)の解離(dissociation)によって酸性条件(acidic condition)を形成することになる。このような酸性条件下で、バクテリアは細胞膜の構造および機能に影響を受けることになって、これによりバクテリアの成長が低下する可能性がある。したがって、前記化学式1で表される重合性抗菌単量体によって形成された共重合体を含むSAN樹脂は、グラム陽性菌およびグラム陰性菌の少なくとも一つに対して抗菌性を示すことができる。
【0027】
以下、発明の具体的な具現例によって、SAN樹脂、これの製造方法およびこれを含むABS樹脂組成物についてより詳しく説明する。
【0028】
SAN樹脂
一具現例に係るSAN樹脂は、下記の化学式1で表される単量体由来の繰り返し単位と、スチレン系単量体由来の繰り返し単位と、アクリロニトリル系単量体由来の繰り返し単位とを含むことを特徴とする。
【化2】
前記化学式1において、
R
1ないしR
3は、それぞれ独立して、水素、または炭素数1ないし4のアルキルであり、
Aは、非置換されるか、または炭素数1ないし10のアルキル、炭素数1ないし10のアルコキシ、重水素、ハロゲン、ヒドロキシおよびカルボキシ基の中から選択される1つ以上、例えば、1個ないし5個の置換基で置換された炭素数6ないし60の芳香族環である。
【0029】
より具体的には、前記SAN樹脂は、前記化学式1で表される単量体、スチレン系単量体およびアクリロニトリル系単量体の共重合によって製造された共重合体であって、繰り返し単位が長い鎖で配列された構造を有する1次元の線状高分子(linear polymer)形態を有する。また、前記SAN樹脂は、前記化学式1で表される単量体由来の繰り返し単位、前記スチレン系単量体由来の繰り返し単位、および前記アクリロニトリル系単量体由来の繰り返し単位が規則的に交互に配列する交互共重合体であるか、あるいは、前記繰り返し単位がランダムに配列されているランダム共重合体であってもよい。
【0030】
このとき、SAN樹脂の抗菌性は、前述したものと同様に、前記化学式1で表される単量体由来の繰り返し単位に含まれているカルボキシ基によって示されるものであって、前記化学式1で表される単量体が、前記SAN樹脂内で別個の化合物として存在せず、主鎖を構成する繰り返し単位として存在するので、時間が経過しても流出しないため、前記SAN樹脂の抗菌特性を持続的に維持することができる。
【0031】
さらに、前記化学式1で表される単量体由来の繰り返し単位は、前記抗菌性SAN樹脂内に前記抗菌性SAN樹脂1モルを基準に0.01ないし0.7モルで含まれてもよい。前記化学式1で表される単量体由来の繰り返し単位が過度に低く含まれる場合、十分な抗菌効果を示し難く、前記化学式1で表される単量体由来の繰り返し単位が過度に高く含まれる場合、SAN樹脂のガラス転移温度が高くなって加工性が低くなることがある。
【0032】
具体的には、前記化学式1で表される単量体由来の繰り返し単位は、前記抗菌性SAN樹脂1モルを基準に0.02モル以上、0.03モル以上、0.04モル以上、または0.05モル以上で、かつ0.65モル以下、0.6モル以下、0.55モル以下、0.5モル以下、または0.45モル以下で含まれてもよい。
【0033】
また、前記化学式1において、Aは、非置換されるか、または炭素数1ないし4のアルキル、ヒドロキシおよびカルボキシ基の中から選択される1つ以上の置換基で置換された炭素数6ないし60の芳香族環であってもよい。
【0034】
一具現例で、R1ないしR3は、それぞれ独立して、水素またはメチルであってもよい。
【0035】
また、一具現例で、Aは、非置換されるか、または炭素数1ないし4のアルキル、ヒドロキシおよびカルボキシ基の中から選択される1つ以上、例えば、1個ないし5個の置換基で置換された炭素数6ないし10の芳香族環であってもよい。
【0036】
具体的には、Aは、非置換されるか、または炭素数1ないし4のアルキル、ヒドロキシおよびカルボキシ基の中から選択される1つ以上、例えば、1個ないし5個の置換基で置換されたベンゼン環であってもよい。
【0037】
一例として、前記重合性抗菌単量体は、下記の中から選択されるいずれか一つであってもよい。
【化3】
【0038】
一方、前記スチレン系単量体は、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、o-ブロモスチレン、o-クロロスチレン、m-ブロモスチレン、m-クロロスチレン、p-ブロモスチレンおよびp-クロロスチレンの中から選択される1種以上であってもよい。このような前記スチレン系単量体由来の繰り返し単位は、SAN樹脂の耐熱性を高めながら重合時の重合転換率を高める役割を果たすことができる。
【0039】
また、前記アクリロニトリル系単量体は、アクリロニトリル、メタクリロニトリルおよびエタクリロニトリルの中から選択される1種以上であってもよい。このようなアクリロニトリル系単量体の由来の繰り返し単位は、SAN樹脂の強度、耐熱性および耐クラック性を高める役割を果たすことができる。
【0040】
このとき、前記抗菌性SAN樹脂内に前記スチレン系単量体由来の繰り返し単位およびアクリロニトリル系単量体由来の繰り返し単位は、5:5ないし9:1のモル比で含まれてもよい。前記SAN樹脂内に前記スチレン系単量体由来の繰り返し単位およびアクリロニトリル系単量体由来の繰り返し単位のモル比が5:5未満の場合、前記アクリロニトリル系単量体由来の繰り返し単位が、前記スチレン系単量体由来の繰り返し単位に対して過度に多く含まれ、溶媒に溶けないゲル重合体を形成することができるが、このようなゲル重合体は、熱に非常に弱いため、加熱時に赤色または黒色の異物として現れ、製品の外形を損傷させるという問題があり得る。また、前記SAN樹脂内に前記スチレン系単量体由来の繰り返し単位およびアクリロニトリル系単量体由来の繰り返し単位のモル比が9:1を超える場合、前記アクリロニトリル系単量体由来の繰り返し単位の含有量が過度に少なく、重合転換率および分子量が低下するだけでなく、スチレン系単量体由来の繰り返し単位の含有量が過度に高く、耐熱度が低下するという問題があり得る。
【0041】
具体的には、前記抗菌性SAN樹脂内に前記スチレン系単量体由来の繰り返し単位およびアクリロニトリル系単量体由来の繰り返し単位は、5.2:4.8以上、5.3:4.7以上、5.4:4.6以上、5.5:4.5以上、5.6:4.4以上、5.7:4.3以上、5.8:4.2以上、または5.9:4.1以上で、かつ8:2以下、7:3以下、6.5:3.5以下、または6:4以下のモル比で含まれてもよい。
【0042】
一方、前記抗菌性SAN樹脂は、前記スチレン系単量体としてスチレンを用い、前記アクリロニトリル系単量体としてアクリロニトリルを用いる場合、下記の化学式2のようで表されてもよい。
【化4】
前記化学式2において、
Aは、前記化学式1で定義した通りであり、
x+yは、0.3ないし0.99の実数であり、
zは、0.01ないし0.7の実数であり、
x+y+zは、1である。
【0043】
言い換えると、前記化学式2において、x、yおよびzは、それぞれスチレン由来の繰り返し単位、アクリロニトリル由来の繰り返し単位および前記化学式1で表される単量体由来の繰り返し単位のモル数を意味する。
【0044】
また、前記SAN樹脂は、前述のようにグラム陰性菌およびグラム陽性菌の少なくとも一つに抗菌性を示すことができる。より具体的には、前記SAN樹脂は、グラム陽性菌に分類されるバクテリア1種以上に対して抗菌性を示すことができる。または、前記SAN樹脂は、グラム陰性菌に分類されるバクテリア1種以上に対して抗菌性を示すことができる。または、前記SAN樹脂は、グラム陰性菌に分類されるバクテリア1種以上およびグラム陽性菌に分類されるバクテリア1種以上に対して抗菌性を示すことができる
【0045】
また、前記グラム陽性菌は、グラム染色法で染色すると、紫色で染色されるバクテリアを総称するものであって、グラム陽性菌の細胞壁は幾重のペプチドグリカンで構成されており、クリスタルバイオレットのような塩基性染料で染色した後、エタノールを処理しても脱色されず、紫色を示すことになる。このようなグラム陽性菌に分類されるバクテリアとしては、エンテロコッカスフェカリス(Enterococcus faecalis)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)、腸球菌(Enterococcus faecium)または乳酸レンサ球菌(Lactobacillus lactis)などがある。
【0046】
また、前記グラム陰性菌は、グラム染色法で染色すると、赤色で染色されるバクテリアを総称するものであって、グラム陽性菌に比べて相対的に少量のペプチドグリカンを有する細胞壁を有する代わりに、脂質多糖質、脂質蛋白質、および他の複雑な重合体物質から構成された外膜を有する。これにより、クリスタルバイオレットのような塩基性染料で染色した後、エタノールを処理すると脱色が起き、サフラニンのように赤色の染料で対比染色をすると、赤色を示すことになる。このようなグラム陰性菌に分類されるバクテリアとしては、プロテウスミラビリス(Proteus mirabilis)、大腸菌(Escherichia coli)、チフス菌(Salmonella typhi)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)またはコレラ菌(Vibrio cholerae)などが挙げられる。
【0047】
したがって、前記グラム陽性菌およびグラム陰性菌は、接触時に多様な病気を誘発するだけでなく、免疫力が落ちた重症患者には2次感染も起こすことがあるので、一つの抗菌剤を使用して前記グラム陽性菌およびグラム陰性菌の両方に対して抗菌性を示すことが好ましい。
【0048】
好ましくは、前記SAN樹脂は、前記グラム陰性菌および前記グラム陽性菌の両方に抗菌性を示すことができる。このとき、前記SAN樹脂が抗菌性を示すグラム陰性菌は、プロテウスミラビリス(Proteus mirabilis)、または大腸菌(Escherichia coli)であり、前記グラム陽性菌は、エンテロコッカスフェカリス(Enterococcus faecalis)、または黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0049】
ここで、前記SAN樹脂の抗菌性評価は、JIS Z 2801(プラスチックおよび非多孔性表面で抗菌活性測定)またはASTM E2149(Determining the Antimicrobial Activity of Immobilized Antimicrobial Agents Under Dynamic Contact Conditions;Shake Flask Method)に基づいて測定することができる。
【0050】
より具体的には、前記SAN樹脂は、ASTM E2149規格に基づいて、下記の数学式1によって測定した静菌率が、38%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、98.1%以上、99%以上、99.3%以上、または99.9%以上で、かつ100%以下であってもよい。
[数学式1]
静菌率(%)=[1-(試験群の菌数/対照群の菌数)]×100
【0051】
前記静菌率測定方法は、後述する実験例でより具体的に説明される。
【0052】
また、前記SAN樹脂は、重量平均分子量が、20,000ないし100,000g/molであってもよい。前記SAN樹脂の重量平均分子量が20,000g/mol未満の場合、高分子の形態ではなく、単量体の形態で存在して容易に溶出することなく、低い分子量により人体に吸収されるという問題が発生し得るだけでなく、樹脂の割れが発生して加工に困難性があり、前記SAN樹脂の重量平均分子量が100,000g/molを超える場合、強度および耐薬品性が低下して射出成形時に成形不良が起こり得る。
【0053】
より具体的には、前記SAN樹脂の重量平均分子量(Mw、g/mol)は、20,000以上、25,000以上、25,187以上、30,000以上、31,468以上、40,000以上、50,000以上、または60,000以上で、かつ95,000以下、93,000以下、91,000以下、90,403以下、85,000以下、80,000以下、78,568以下、または75,000以下であってもよい。
【0054】
このとき、前記SAN樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン(PS)をキャリブレーション用標準試料に用いたゲル透過クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。より具体的には、前記SAN樹脂をテトラヒドロフラン(Tetrahydrofuran;THF)溶媒に2mg/mLの濃度に希釈して製造した後、Agilent Technologies社のAgilent 1200 series GPC機器を用い、1.0mL/min FlowでRI detectorを通じて重量平均分子量を測定することができる。より具体的な測定方法は、後述する実験例を参照する。
【0055】
また、前記SAN樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が90℃ないし160℃であってもよい。前述の範囲のガラス転移温度を有するSAN樹脂が耐熱性および強度とのバランスに優れる。このとき、SAN樹脂のガラス転移温度は、TA Instruments社のDSC(Differential Scanning Calorimeters、示差走査熱量計)を用いて測定することができる。
【0056】
また、前記SAN樹脂は、バルク密度が0.6ないし0.7g/ccであってもよい。前述の範囲のバルク密度を有するSAN樹脂が、保管および運搬に容易であるとのメリットがある。このとき、前記SAN樹脂のバルク密度は、100ccカップ内に粉末状のSAN樹脂を満たした後、その重量(g)を100で割る値で測定することができる。
【0057】
SAN樹脂の製造方法
一方、前記SAN樹脂は、重合開始剤の存在下で、前記化学式1で表される単量体と、スチレン系単量体と、アクリロニトリル系単量体とを、60℃ないし90℃の温度で3時間ないし8時間重合するステップを含んで製造されてもよい。より具体的には、前記SAN樹脂は、前記3種の単量体を、60℃以上、または70℃以上で、かつ90℃以下、または、80℃以下の温度範囲で、3時間以上、または3時間30分以上で、かつ8時間以下、7時間以下、6時間以下、5時間以下、または4時間以下の時間重合して製造されてもよい。
【0058】
より具体的には、前記共重合は、乳化重合、懸濁重合、または塊状重合などの方法によって行われてもよく、最終用途によって適した重合方法を選択してもよい。
【0059】
また、重合安定性および重合反応を進行させる重合開始剤としてアゾ系開始剤を用いることができる。例えば、アゾ(Azo)系開始剤として、アゾビスイソブチロニトリル(Azobisisobutyronitrile:AIBN)、2-アゾビス-(2-アミジノプロパン)二塩酸塩(2,2-azobis(2-amidinopropane)dihydrochloride)、2,2-アゾビス-(N,N-ジメチレン)イソブチラミジンジヒドロクロリド(2,2-azobis-(N,N-dimethylene)isobutyramidine dihydrochloride)、2-(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル(2-(carbamoylazo)isobutylonitril)、2,2-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド(2,2-azobis[2-(2-imidazolin-2-yl)propane]dihydrochloride)、4,4-アゾビス-(4-シアノバレリン酸)4,4-azobis-(4-cyanovaleric acid))などがある。
【0060】
前記重合開始剤は、前記単量体の総合100重量部に対して、0.01ないし5重量部で用いられてもよい。このような重合開始剤の含有量が0.01重量部未満であると、重合開始剤の追加による効果が微小であり、重合開始剤の含有量が5重量部を超過すると、SAN樹脂の分子量が小さく、物性が低下することがある。より具体的には、前記重合開始剤は、前記単量体の総合100重量部に対して、0.05重量部以上、または0.1重量部以上、0.5重量部以上、または1.2重量部以上で、かつ4重量部以下、2重量部以下、または1.85重量部以下の量で用いられてもよい。
【0061】
また、前記単量体および重合開始剤は、溶媒に溶解した溶液の形態で準備されてもよい。
【0062】
このときに用いられる前記溶媒は、前述の成分を溶解することができれば、その構成に限定されることなく用いることができ、例えば、水、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、アセトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、トルエン、キシレン、ブチロラクトン、カルビトール、メチルセロソルブアセテート、N,N-ジメチルホルムアミドおよびN,N-ジメチルアセトアミドなどから選択された1種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
また、重合時に追加的にメルカプタン化合物のような分子量調節剤を用いてもよく、乳化重合で重合反応を行う場合、脂肪酸カリウム塩のような乳化剤を用いてもよい。
【0064】
そして、前記重合は、一例として重合転換率が50%以上、より具体的には50ないし90%である時点まで行うことができる。例えば、前記重合は、重合転換率が60%以上、70%以上、または、80%以上で、かつ90%以下、または、85%以下である時点まで行うことができる。前述の重合転換率範囲で重合が行われる時に、工程が容易で、かつ優れた生産性を示すことができる。
【0065】
また、前記重合ステップ以降、重合物を抽出および真空乾燥するステップを行い、最終的に所望のSAN樹脂を得ることができる。特に、真空乾燥工程を通じて重合反応以降に残っている未反応の単量体および溶媒を揮発させることによって、最終SAN樹脂の透明度を改善して耐熱性を高めることができる。
【0066】
ABS樹脂組成物
一方、他の具現例として、前述の抗菌性SAN樹脂と、ABS樹脂とを含む、抗菌性ABS樹脂組成物が提供される。
【0067】
前記ABS樹脂は、一例としてアクリロニトリル系単量体、共役ジエン単量体、およびビニル芳香族単量体の共重合体であってもよい。
【0068】
ここで、前記アクリロニトリル系単量体は、前述の通りである。
【0069】
また、前記共役ジエン単量体は、1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンおよびイソプレンの中から選択した1種以上であってもよい。
【0070】
また、ビニル芳香族単量体は、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、クロロスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレンおよびジビニルベンゼンの中から選択される1種以上であってもよい。
【0071】
より具体的には、前記ABS樹脂は、共役ジエン単量体が重合されたゴム質重合体にビニル芳香族単量体およびアクリロニトリル系単量体がグラフトされたグラフト共重合体であってもよい。ここで、前記ゴム質重合体の含有量は、前記グラフト共重合体の総重量を基準に、30ないし75重量%が好ましい。前記範囲内でグラフト率が高いだけでなく、最終製造される成形品の衝撃強度および耐薬品性も優れる。また、ゴム質重合体とのグラフト率を高めるという面で、前記ビニル芳香族単量体の含有量は、前記グラフト共重合体樹脂の総重量を基準に、20ないし65重量%が好ましく、前記アクリロニトリル系単量体の含有量は、前記グラフト共重合体樹脂の総重量を基準に5ないし30重量%が好ましい。
【0072】
また、前記ABS樹脂組成物は、前記抗菌性SAN樹脂60ないし90重量%と、ABS樹脂10ないし40重量%とを含んでもよい。
【0073】
また、前記ABS樹脂組成物は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などのような酸化防止剤をさらに含んでもよい。
【0074】
一方、また他の具現例として、前述したABS樹脂組成物で製造される成形品が提供される。前記成形品は、一例として、自動車の内/外装材、家電製品ハウジング、玩具類、食品容器、医療用物品の中から選択される1種以上であってもよい。
【0075】
以下、発明の理解のために好ましい実施例が提示される。しかし、下記の実施例は、発明を例示するためのものであるだけで、発明をこれらのみで限定するものではない。
【実施例】
【0076】
製造例1:重合性抗菌単量体1-13-(アクリロイロキシ)安息香酸(1-13-(acryloyloxy)benzoic acid;A-BA))の製造
【化5】
100mLの水に3-ヒドロキシ安息香酸26.67gおよびNaOH15.63gを溶解した溶液を250mLの丸い底フラスコに入れた後、ここに50mLの1,4-ジオキサンにアクリロイルクロリド19.39gを溶解した溶液を添加した。このとき、添加は0℃で滴下漏斗を用いてゆっくり一滴ずつ行われた。アクリロイルクロリドが溶解された1,4-ジオキサン、溶液の添加が完了すると、常温でこれを4時間撹拌しながら反応を行い、反応が終了した溶液がpHが2-3水準になるまで塩酸を添加して液状生成物を得た。得られた液状生成物をメチレンクロリド(MC)溶媒に溶解した後、水を添加して抽出を行った。以降、水で再結晶して固状の表題化合物重合性抗菌単量体1-1を得た。一方、得られた重合性抗菌単量体1-1の
1H NMRスペクトルを
図1に示した。
MS[M+H]
+=193
1H NMR(500MHz、DMSO-d
6、δ[ppm]):6.1(dd、1H、CH
2=CH)、6.3(dd、1H、CH
2=CH)、6.5(dd、1H、CH
2=CH)、7.4(d、1H、Ar-H)、7.5(d、1H、Ar-H)、7.6(d、1H、Ar-H)、7.8(d、1H、Ar-H)、13.1(s、1H、COOH)。
【0077】
製造例2:重合性抗菌単量体1-22-(アクリロイロキシ)安息香酸(1-22-(acryloyloxy)benzoic acid;2-A-BA))の製造
【化6】
100mLの水にサリチル酸(salicylic acid)26.67g(0.2mol)およびKOH 22.4g(0.4mol)を溶解した溶液を250mLの丸い底フラスコに入れた後、ここに50mLの1,4-ジオキサンにアクリロイルクロリド19.39gを溶解した溶液を添加した。このとき、添加は0℃で滴下漏斗を用いてゆっくり一滴ずつ行われた。アクリロイルクロリドが溶解された1,4-ジオキサン溶液の添加が完了すると、40℃でこれを8時間撹拌しながら反応を行い、反応が終了した溶液がpHが2-3水準になるまで塩酸を添加して液状生成物を得た。得られた液状生成物をジエチルエーテル溶媒に溶解した後、水を添加して抽出を行った。以降、水で再結晶して純度高い固状の表題化合物重合性抗菌単量体1-2を得た。
MS[M+H]
+=193
1H NMR(500MHz、DMSO-d
6、δ[ppm]):5.7(dd、1H、CH
2=CH)、6.1(dd、1H、CH
2=CH)、6.2(dd、1H、CH
2=CH)、7.8(d、1H、Ar-H)、7.9(d、1H、Ar-H)、7.96(d、1H、Ar-H)、8.2(d、1H、Ar-H)、12.0(s、1H、COOH)。
【0078】
実施例-SAN樹脂の製造
実施例1
【化7】
スチレン4.878g、アクリロニトリル1.657g、前記製造例1で製造した重合性抗菌単量体1-1 15gおよび重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.26gを、溶媒のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)35.89mLに溶解した後、80℃および大気(air)条件でマグネチックバーを用いて4時間重合を行い、重合転換率が80%である時点で反応を終了した。以降、反応が終了した溶液を常温で冷却した後、十分な量の水に沈殿させた後、真空乾燥して固体粉末状の共重合体SAN-co-(A-BA)樹脂を得た。
【0079】
製造されたSAN-co-(A-BA)樹脂は、重量平均分子量が90,403g/molであり、スチレン由来の繰り返し単位、アクリロニトリル由来の繰り返し単位および重合性抗菌単量体由来の繰り返し単位のモル比(x:y:z)は、0.3:0.2:0.5であった。
【0080】
このとき、SAN-co-(A-BA)樹脂の重量平均分子量は、テトラヒドロフラン(Tetrahydrofuran;THF)に製造された共重合体を溶解してGPC(機器名:Agilent 1200 series GPC、Agilent Technologies社製)を用いて測定された。具体的には、重量平均分子量の測定のための試料準備方法および測定条件は、下記の通りである。
【0081】
(1)試料準備
1000mLの(BHTにより安定化された)THFを溶媒浄化装置(solvent clarification system)でろ過して移動床Aを準備した。そして、測定しようとする試料を(BHTにより安定化された)THFに2mg/mLの濃度に希釈して製造した後、50℃の温度で6時間溶解した後、これをPVDF フィルター(孔径:0.45μm)でろ過して試料溶液として準備した。
【0082】
(2)GPC測定条件
-固定床:3x Agilent PLgel MIXED-C、7.5x300mm、5μm
-移動床A:(BHTにより安定化された)THF=100(w/v、%)
-流れ速度:1.0mL/min
-固定床温度:40℃
-注入量:100μl(0.45μm フィルター)
-分析時間:35分
-Standard:ポリスチレン
【0083】
実施例2
【化8】
スチレン61.36g、アクリロニトリル20.84g、前記製造例1で製造した重合性抗菌単量体1-1 10gおよび重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.70gを、溶媒のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)153.66mLに溶解した後、80℃および大気(air)条件でマグネチックバーを用いて4時間重合を行い、重合転換率が80%である時点で反応を終了した。以降、反応が終了した溶液を常温で冷却した後、十分な量の水に沈殿させた後、真空乾燥して固体粉末状の共重合体SAN-co-(A-BA)樹脂を得た。
【0084】
製造されたSAN-co-(A-BA)樹脂の重量平均分子量は、実施例1に記載された方法の通りに測定した時に31,468g/molであり、スチレン由来の繰り返し単位、アクリロニトリル由来の繰り返し単位および重合性抗菌単量体由来の繰り返し単位のモル比(x:y:z)は、0.57:0.38:0.05であった。
【0085】
実施例3
【化9】
スチレン4.878g、アクリロニトリル1.657g、前記製造例2で製造した重合性抗菌単量体1-2 15gおよび重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.26gを、溶媒のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)35.89mLに溶解した後、80℃および大気(air)条件でマグネチックバーを用いて4時間重合を行い、重合転換率が80%である時点で反応を終了した。以降、反応が終了した溶液を常温で冷却した後、十分な量の水に沈殿させた後、真空乾燥して固体粉末状の共重合体SAN-co-(2-A-BA)樹脂を得た。
【0086】
製造されたSAN-co-(2-A-BA)樹脂の重量平均分子量は、実施例1に記載された方法の通りに測定した時に78,568g/molであり、スチレン由来の繰り返し単位、アクリロニトリル由来の繰り返し単位および重合性抗菌単量体由来の繰り返し単位のモル比(x:y:z)は、0.32:0.23:0.45であった。
【0087】
実施例4
【化10】
スチレン61.36g、アクリロニトリル20.84g、前記製造例2で製造した重合性抗菌単量体1-2 10gおよび重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.70gを、溶媒のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)153.66mLに溶解した後、80℃および大気(air)条件でマグネチックバーを用いて4時間重合を行い、重合転換率が80%である時点で反応を終了した。以降、反応が終了した溶液を常温で冷却した後、十分な量の水に沈殿させた後、真空乾燥して固体粉末状の共重合体SAN-co-(2-A-BA)樹脂を得た。
【0088】
製造されたSAN-co-(2-A-BA)樹脂の重量平均分子量は、実施例1に記載された方法の通りに測定した時に25,187g/molであり、スチレン由来の繰り返し単位、アクリロニトリル由来の繰り返し単位および重合性抗菌単量体由来の繰り返し単位のモル比(x:y:z)は、0.58:0.39:0.03であった。
【0089】
比較例1
【化11】
スチレン6g、アクリロニトリル2.038g、および重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.158gを、溶媒のN,N-ジメチルジメチルホルムアミド(DMF)10.047mLに溶解した後、80℃および大気(air)条件でマグネチックバーを用いて4時間重合を行い、重合転換率が80%である時点で反応を終了した。以降、反応が終了した溶液を常温で冷却した後、十分な量の水に沈殿させた後、真空乾燥して固体粉末状の共重合体SAN樹脂を得た。
【0090】
製造されたSAN樹脂の重量平均分子量は、実施例1に記載された方法の通りに測定した時に37、266g/molであり、スチレン由来の繰り返し単位およびアクリロニトリル由来の繰り返し単位のモル比(x:y)は、0.6:0.4であった。
【0091】
比較例2
実施例で製造されたSAN樹脂との抗菌特性の比較のために、商用化したABS樹脂であるABS HF380(LG化学社製)を比較例2に用いた。
【0092】
比較例3
【化12】
スチレン2.109g、アクリロニトリル0.716g、4-ビニル安息香酸5gおよび重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.11gを、溶媒のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)40mLに溶解した後、80℃および大気(air)条件でマグネチックバーを用いて4時間重合を行い、重合転換率が80%である時点で反応を終了した。以降、反応が終了した溶液を常温で冷却した後、十分な量の水に沈殿させた後、真空乾燥して固体粉末状の共重合体SAN-co-(4-VBA)樹脂を得た。
【0093】
製造されたSAN-co-(4-VBA)樹脂の重量平均分子量は、実施例1に記載された方法の通りに測定した時に147、822g/molであり、スチレン由来の繰り返し単位、アクリロニトリル由来の繰り返し単位および重合性抗菌単量体由来の繰り返し単位のモル比(x:y:z)は、0.3:0.2:0.5であった。
【0094】
実験例1
前記実施例および比較例で製造したSAN樹脂それぞれの大腸菌(E.coli、ATCC25922)に対する抗菌特性をASTM E2149(Shake Flask Method)に基づいて、次のような方法で測定した。
【0095】
具体的には、菌をテストする試料に一定の時間接触させた後、回収して培地に培養した後、対照群(Control;比較例1のSAN樹脂)とのCFU(colony forming unit)を比較して静菌率を計算した。抗菌試験に必要な培地および試験群製造法と抗菌試験の詳細な方法は、次の通りである。
【0096】
[培地製造]
液体培地の場合、NB broth 8g、蒸溜水1Lを2L容器に入れ、十分に溶解した後、高温高圧滅菌機に103kPAの蒸気圧力と(120±2)℃で20分間の滅菌した。
【0097】
固体培地の場合、NB broth 8gと寒天粉末(agar powder) 25g、蒸溜水1Lを2L容器に入れてスプーンでかき混ぜるか加熱して溶解した。壁面に付いた寒天粉末は、滅菌過程中の高温でも溶けないために振って溶解させないようにした。そして、液体培地と同一な条件で滅菌した。NB brothは40℃で固まるので、滅菌後、60℃まで温度が下がった時、溶液を25mLずつ直径90mmペトリ皿に注いで固めた。
【0098】
[試験群培養]
(1)ループを用いて所蔵している菌株の一部を10mLの液体培地に移植し、(37±1)℃で18時間ないし24時間振とうインキュベーター(shaking incubator)を用いて懸濁培養した。
(2)液状に培養した菌を、2000rpmで3分間遠心分離して培地から菌だけ分離した後、600nm波長でOD値(optical density)が1となるように、1X PBSを用いて希釈した。大腸菌のOD 600nm=0.45でのCFU値は2*108CFU/mLであった。
【0099】
[静菌率測定]
(1)50mLのコニカルチューブに粉末または液状の抗菌試料0.5g、105CFU濃度の菌25mL(1X PBS 25mL、OD 600nm=0.45値の菌250uL)を添加した。対照試験片は、抗菌試料を除いた残りの(菌、PBS)を50mLのコニカルチューブに準備した。
(2)準備されたサンプルは、振とうインキュベーター(shaking incubator)を用いて(37±1)℃で18時間ないし24時間懸濁培養した。
(3)菌培養が終わった試料を1倍、10倍、100倍に希釈して、寒天固体培地に100ulずつ接種した後、スプレッダーまたはガラス玉を用いて培地に吸収されるまで塗抹した。
(4)固体培地を(37±1)℃で24時間ないし48時間静置培養した。
(5)1倍、10倍、100倍の希釈サンプルのうち、30~300個菌のコロニー(colony)があるペトリ皿のコロニーを数えて記録した。その後、対照群に対する試料のCFU数が何パーセント減少したのかを、下記の数学式1によって計算して静菌率(%)を求め、3回繰り返し試験した後、求められた平均値を下記の表1に示した。
[数学式1]
静菌率(%)=[1-(試験群の菌数/対照群の菌数)]×100
前記数学式1において、
試験群の菌数は、各実施例および比較例の樹脂での抗菌試験菌数
対照群の菌数は、比較例1の樹脂での抗菌試験後菌数
【0100】
【0101】
前記表1を参照すると、実施例のSAN-co-(A-BA)およびSAN-co-(2-A-BA)樹脂は、前記化学式1で表される重合性抗菌単量体由来の繰り返し単位を含んでいない比較例の樹脂に対して、グラム陰性菌の一つである大腸菌に対して優れた抗菌特性を示すことが確認できる。
【0102】
特に、製造例1および2で製造した重合性抗菌単量体の代わりに、4-ビニル安息香酸を用いて製造された比較例3のSAN-co-(4-VBA)樹脂の場合、実施例の樹脂に対して顕著に低い抗菌特性を示すことが分かる。
【0103】
これにより、SAN樹脂がスチレン系単量体由来の繰り返し単位およびアクリロニトリル系単量体由来の繰り返し単位以外に、前記化学式1で表される重合性抗菌単量体由来の繰り返し単位をさらに含む場合、4-ビニル安息香酸のように他のカルボキシ基を有する単量体由来の繰り返し単位をさらに含む場合に対して、抗菌性に優れていることが分かる。
【国際調査報告】