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特表2024-528521重水素化されたオルガノスズ化合物、合成方法、及び放射線によるパターン形成
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  • 特表-重水素化されたオルガノスズ化合物、合成方法、及び放射線によるパターン形成 図1A
  • 特表-重水素化されたオルガノスズ化合物、合成方法、及び放射線によるパターン形成 図1B
  • 特表-重水素化されたオルガノスズ化合物、合成方法、及び放射線によるパターン形成 図1C
  • 特表-重水素化されたオルガノスズ化合物、合成方法、及び放射線によるパターン形成 図2A
  • 特表-重水素化されたオルガノスズ化合物、合成方法、及び放射線によるパターン形成 図2B
  • 特表-重水素化されたオルガノスズ化合物、合成方法、及び放射線によるパターン形成 図3A
  • 特表-重水素化されたオルガノスズ化合物、合成方法、及び放射線によるパターン形成 図3B
  • 特表-重水素化されたオルガノスズ化合物、合成方法、及び放射線によるパターン形成 図4
  • 特表-重水素化されたオルガノスズ化合物、合成方法、及び放射線によるパターン形成 図5
  • 特表-重水素化されたオルガノスズ化合物、合成方法、及び放射線によるパターン形成 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-30
(54)【発明の名称】重水素化されたオルガノスズ化合物、合成方法、及び放射線によるパターン形成
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/22 20060101AFI20240723BHJP
   G03F 7/004 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C07F7/22 H CSP
G03F7/004 531
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580532
(86)(22)【出願日】2022-06-08
(85)【翻訳文提出日】2023-12-27
(86)【国際出願番号】 US2022032614
(87)【国際公開番号】W WO2023278109
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】63/215,720
(32)【優先日】2021-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/682,586
(32)【優先日】2022-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511130955
【氏名又は名称】インプリア・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】Inpria Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】ジレク,ロバート イー
(72)【発明者】
【氏名】カルディノー,ブライアン ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】フイフイ-ジスト,キエラ
(72)【発明者】
【氏名】マイヤーズ,スティーブン ティ
【テーマコード(参考)】
2H225
4H049
【Fターム(参考)】
2H225AN11P
2H225AN80P
2H225CA12
2H225CB14
2H225CC01
2H225CC03
2H225CC20
2H225CD05
4H049VN03
4H049VP01
4H049VQ21
4H049VR21
4H049VR24
4H049VR43
4H049VS21
4H049VT03
4H049VT05
4H049VT25
4H049VU29
4H049VV06
4H049VW02
(57)【要約】
式RSnL(式中、Rは、重水素化されたヒドロカルビル基であり、Lは加水分解可能なリガンドである)によって表される、オルガノスズ化合物が提供される。それらの組成物を合成するための異なった2種の合成方法が記載されている。第一の方法には、一級ハライドヒドロカルビル化合物(R-X、ここでXはハライド原子である)を、金属カチオンMを伴うSnL残基を含む有機金属組成物(ここで、Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び/又は擬似アルカリ土類金属(Zn、Cd、又はHg)であり、そしてLは、アルカリ金属スズトリアミド化合物を与えるアミドリガンドか又はアルカリ金属スズトリアセチリドを与えるアセチリドリガンドのいずれかである)と反応させて、相当するモノヒドロカルビルスズトリアミド(RSn(NR’)又はモノヒドロカルビルスズトリアセチリド(RSn(C≡CR)を形成させることが含まれる。また別のアプローチ方法には、有機溶媒を含む溶液の中で、グリニャール試薬RMgXをSnLと反応させて、モノオルガノスズトリアルキルアミド、モノオルガノスズトリアルコキシド、モノオルガノスズトリアセチリド、又はモノオルガノスズトリカルボキシレートを形成させることが含まれる。それらの組成物は、放射線、特にEUV照射によるパターン形成において有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式RSnLで表されるオルガノスズ化合物あって、Rが、重水素化されたヒドロカルビル基であり、そしてLが、加水分解可能なリガンドである、オルガノスズ化合物。
【請求項2】
Rが、重水素を用いて置換された少なくとも1個の水素原子を有する、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、又はアリール基を含む、請求項1に記載のオルガノスズ化合物。
【請求項3】
Rが、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、又はアリールを含む過重水素化された基を含む、請求項1に記載のオルガノスズ化合物。
【請求項4】
Rが、分岐状のアルキル基を含む、請求項1に記載のオルガノスズ化合物。
【請求項5】
Rが、シアノ、チオ、エーテル、ケト、エステル、ハロゲン化基、又はそれらの組合せを含む、請求項1に記載のオルガノスズ化合物。
【請求項6】
Rが、(CDC-である、請求項1に記載のオルガノスズ化合物。
【請求項7】
Rが、CD-である、請求項1に記載のオルガノスズ化合物。
【請求項8】
Rが、(CDCD-である、請求項1に記載のオルガノスズ化合物。
【請求項9】
Lが、-NR’、-OR’、-R’COO,-CC(R’)、-CC(SiR’)(式中R’は、30個以下の炭素原子を有するヒドロカルビル基である)を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のオルガノスズ化合物。
【請求項10】
Lが、-NMe、-NEt、-OiPr、-OtBu、-Otアミル、-CC(Si(CH)、-CC(C)、又はそれらの組合せを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のオルガノスズ化合物。
【請求項11】
前記オルガノスズ化合物が、過重水素化されている、請求項1~10のいずれか1項に記載のオルガノスズ化合物。
【請求項12】
前記オルガノスズ化合物が、ノナ重水素化-tert-ブチルスズトリス(tert-ブトキシド)、トリ重水素化メチルスズトリス(フェニルアセチリド)、又はトリ重水素化メチルスズトリス(tert-ペントキシド)を含む、請求項1に記載のオルガノスズ化合物。
【請求項13】
有機溶媒、及び請求項1~12のいずれか1項に記載のオルガノスズ化合物を含む前駆物質溶液。
【請求項14】
式RSnX4-n(式中、nは、2、3、又は4であり、Rは、ヒドロカルビル基であり、そしてXは、加水分解可能なリガンドである)を有する、1種又は複数種のオルガノスズ組成物をさらに含む、請求項13に記載の前駆物質溶液。
【請求項15】
前記有機溶媒が、アルコール、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、エステル、エーテル、ケトン、又はそれらの組合せを含み、そして前記溶液が、スズの濃度を基準にして、約0.005M~約1.4Mの濃度を有する、請求項13又は請求項14に記載の前駆物質溶液。
【請求項16】
前記有機溶媒が、4-メチル-2-ペンタノールを含む、請求項13又は請求項14に記載の前駆物質溶液。
【請求項17】
重水素化されたオルガノスズ組成物を合成するための方法であって、前記方法が、アルカリ金属スズ組成物を形成させるために、一級ハライドヒドロカルビル化合物(R-X、ここでXは、ハライド原子である)を、金属カチオンMを伴うSnL残基を含む有機金属組成物(ここで、Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び/又は擬似アルカリ土類金属(Zn、Cd、又はHg)であり、そしてLは、アルカリ金属スズトリアミド化合物を与えるアミドリガンドか又はアルカリ金属スズトリアセチリドを与えるアセチリドリガンドのいずれかである)と反応させて、相当するモノヒドロカルビルスズトリアミド(RSn(NR’)又はモノヒドロカルビルスズトリアセチリド(RSn(C≡CR)を形成させることを含むが、ここで前記モノヒドロカルビルリガンド(R)が、1~31個の炭素原子並びに任意成分の不飽和炭素-炭素結合、任意成分の芳香族基、及び任意成分のヘテロ原子を有する重水素化されたヒドロカルビル基であり、Rが、SiR’’又はR’であるが、その3個のR’’は独立して、H又はR’であり、そして前記R’が独立して、1~31個の炭素原子並びに任意成分の不飽和炭素-炭素結合、任意成分の芳香族基、及び任意成分のヘテロ原子を有する、ヒドロカルビル基である、方法。
【請求項18】
前記アルカリ金属スズ組成物を形成させるために、有機溶媒中で、M’L、スズ(II)ハライド(SnX、X=F、Cl、B、I、又はそれらの混合物)、及び場合によってはM’’OR[式中、M’は、Li、Na、K、Cs、又はそれらの組合せであり、M’’はNa、K、Cs、又はそれらの組合せであり、そしてLは、ジアルキルアミド(-NR’)又はアセチリド(-C≡CL)である]を反応させて、相当する残基SnLを有する有機金属組成物を形成するが、それは、金属カチオンMを伴って存在するスズトリアミド(MSn(NR’)又はスズトリアセチリド(MSn(C≡CL)であるが、ここで、Mは、M’’が存在すればM’’であるか、又はM’’が存在しなければM’であり、Lは、SiR’’又はR’であるがここで3個のR’’は独立して、H又はR’であり、そして、R及びR’は独立して、1~31個の炭素原子並びに任意成分の不飽和炭素-炭素結合、任意成分の芳香族基、及び任意成分のヘテロ原子を有するヒドロカルビル基であることを含む方法によって、金属カチオンMを伴うSnL残基を含む前記有機金属組成物が合成されることを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
MLが、モノアルキルアルカリ金属を、ジヒドロカルビルアミン(HNR’)又はヒドロカルビルアセチリド(HC≡CL)と反応させることを含む方法により合成される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
金属カチオンMを伴うSnL残基を含む前記有機金属組成物を、精製することなく使用する、請求項17~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
RXと、金属カチオンMを伴うSnL残基を含む前記有機金属組成物との反応が、約-78.5℃~約10℃の温度で反応させることを含む、請求項17~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
M=Liであり、そして前記一級ハライドヒドロカルビル化合物と金属カチオンMを伴うSnL残基を含む前記有機金属組成物とが、約1:1~約3:1のモル比で供給される、請求項17~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記重水素化されたオルガノスズ組成物をアルコールと反応させて、重水素化されたモノヒドロカルビルスズトリアルコキシドを形成させることをさらに含む、請求項17~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記アルコールと反応させる前に、前記重水素化されたオルガノスズ組成物を精製しない、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
Rが、過重水素化されている、請求項17~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
Rが、重水素を用いて置換された少なくとも1個の水素原子を有する、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、又はアリール基を含む、請求項17~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
Rが、分岐状のアルキル基を含む、請求項17~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
Rが、シアノ、チオ、エーテル、ケト、エステル、ハロゲン化基、又はそれらの組合せを含む、請求項17~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
重水素化されたモノオルガノスズトリアミド化合物を合成するための方法であって、前記方法が、有機溶媒を含む溶液中で、グリニャールアルキル化剤のRMgXをSn(NR’(式中、Rは、1~31個の炭素原子及び少なくとも1個の重水素原子を有するヒドロカルビル基であり、そしてここでXは、ハロゲンであり、そしてここでR’は、1~10個の炭素原子を有するヒドロカルビル基である)と反応させることを含む、方法。
【請求項30】
Rが、重水素を用いて置換された少なくとも1個の水素原子を有する、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、又はアリール基を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
Rが、過重水素化されている、請求項29又は請求項30に記載の方法。
【請求項32】
Rが、分岐状のアルキル基を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
Rが、シアノ、チオ、エーテル、ケト、エステル、ハロゲン化基、又はそれらの組合せを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
R’が、メチル又はエチルである、請求項29~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
RMgXとSn(NR’とが、ほぼ1:1のモル比にある、請求項29~34のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、同時係属出願の米国特許出願第17/682,586号(Jilek et.al.、出願日:2022年2月28日、タイトル「Deuterated Organotin Compounds,Methods of Synthesis and Radiation Patterning」)(この出願は、同時係属出願の米国仮特許出願第63/215,720号(Jilek et.al.、出願日:2021年6月28日、タイトル「Deuterated Organotin Compounds」)に対する優先権を主張している)に対する優先権を主張する(これらの出願を、参考として引用し本明細書に組み入れたものとする)。
【0002】
本発明は、モノ-オルガノスズトリアミド、モノ-オルガノスズトリアセチリド、モノ-オルガノカルボキシレート、又はモノ-オルガノスズトリオキシドの組成物に関するが、ここでその有機基は、重水素化された残基を含むヒドロカルビルと定義される。本発明はさらに、加水分解反応生成物、それらの組成物の合成、及び、放射線によるパターン形成を実施するための方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
半導体の製作においては、一般的に、チップの上にデバイスを集積させるために、多くの反復プロセスが必要とされる。半導体デバイスの製作においてキーとなるプロセスは、リソグラフィプロセスであり、そこでは、感光性物質(フォトレジストと呼ばれる)を、基板の上にデポジットさせ、次いで、放射線を用いてパターン形成させる。デバイスの高性能化が要求されるにつれて、より良好なフォトレジストの必要性も高くなる。
【0004】
フォトレジストは、一般的には、放射線源、たとえば紫外(UV)光、極紫外(EUV)光、及び電子ビームに露光された領域において化学変化することにより、機能する。その化学変化が、そのフォトレジストの露光領域と非露光領域との間で、差別的な現像速度をもたらす。従来技術の半導体デバイス製作では、現在のところEUV照射が採用されているが、そのため、リソグラフィプロセスの経済性を最大化させる新規なフォトレジスト物質が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの態様は、式RSnLで表されるオルガノスズ化合物に関連するが、ここでRは、重水素化された炭化水素基である。
【0006】
また別の態様においては、本発明は、式(CDCSnLで表されるオルガノスズ化合物に関連するが、ここでLは、加水分解可能なリガンドである。
【0007】
また別の態様においては、本発明は、式CDSnLで表されるオルガノスズ化合物に関連するが、ここでLは、加水分解可能なリガンドである。
【0008】
また別の態様においては、本発明は、重水素化されたオルガノスズ化合物の放射線でパターン形成可能なコーティングを調製するための方法に関連する。特には、その合成及びコーティングの形成が、考慮されている。
【0009】
また別の態様においては、本発明は、少なくとも1種の重水素化されたオルガノスズ組成物を含む、放射線感受性のコーティングをパターン形成させるための方法に関連する。EUV照射を用いたパターン形成には、特に関心が寄せられている。本発明はさらに、そのようにして得られたパターン形成させた構造物にも関連する可能性がある。
【0010】
いくつかの態様においては、本発明は、式RSnLで表されるオルガノスズ化合物に関連するが、ここで、Rは、重水素化されたヒドロカルビル基であり、そしてLは、加水分解可能なリガンドである。
【0011】
さらなる態様においては、本発明は、重水素化されたオルガノスズ組成物を合成するための方法に関連するが、その方法には、次のことが含まれる:アルカリ金属スズ組成物を形成させるために、一級ハライドヒドロカルビル化合物(R-X、ここでXは、ハライド原子である)を、金属カチオンMを伴うSnL残基を含む有機金属組成物(ここで、Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び/又は擬似アルカリ土類金属(Zn、Cd、又はHg)であり、そしてLは、アルカリ金属スズトリアミド化合物を与えるアミドリガンドか又はアルカリ金属スズトリアセチリドを与えるアセチリドリガンドのいずれかである)と反応させて、相当するモノヒドロカルビルスズトリアミド(RSn(NR’)又はモノヒドロカルビルスズトリアセチリド(RSn(C≡CR)を形成させるが、ここでそのモノヒドロカルビルリガンド(R)は、1~31個の炭素原子並びに任意成分の不飽和炭素-炭素結合、任意成分の芳香族基、及び任意成分のヘテロ原子を有する重水素化されたヒドロカルビル基であり、Rは、SiR’’又はR’であるが、その3個のR’’は独立して、H又はR’であり、そしてそのR’は独立して、1~31個の炭素原子並びに任意成分の不飽和炭素-炭素結合、任意成分の芳香族基、及び任意成分のヘテロ原子を有する、ヒドロカルビル基である。
【0012】
その金属カチオンMを伴うSnL残基を含む有機金属組成物は、以下を含む方法により合成することができる:アルカリ金属スズ組成物を形成させるために、M’L、スズ(II)ハライド(SnX、X=F、Cl、B、I、又はそれらの混合物)、及び任意成分のM’’OR(ここで、M’は、Li、Na、K、Cs、又はそれらの組合せであり、M’’は、Na、K、Cs、又はそれらの組合せであり、そしてLは、ジアルキルアミド(-NR’)又はアセチリド(-C≡CL)である)を有機溶媒の中で反応させて、相当する残基SnLを有する有機金属組成物を形成させるが、それは、金属カチオンMを伴って存在するスズトリアミド(MSn(NR’)又はスズトリアセチリド(MSn(C≡CL)であるが、ここで、Mは、M’’が存在すればM’’であるか、又はM’’が存在しなければM’であり、Lは、SiR’’又はR’であるが、ここで3個のR’’は独立して、H又はR’であり、そして、R及びR’は独立して、1~31個の炭素原子並びに任意成分の不飽和炭素-炭素結合、任意成分の芳香族基、及び任意成分のヘテロ原子を有するヒドロカルビル基である。
【0013】
また別の態様においては、本発明は、モノオルガノスズトリアミド化合物を形成させるための方法に関連し、その方法には、有機溶媒を含む溶液の中でグリニャールアルキル化剤のRMgXをSn(NR’と反応させることが含まれるが、ここで、Rは、1~31個の炭素原子及び少なくとも1個の重水素原子を有するヒドロカルビル基であり、ここでXは、ハロゲンであり、そしてここでR’は、1~10個の炭素原子を有するヒドロカルビル基である。
【0014】
他の態様においては、本発明は、モノオルガノスズトリアルコキシド、モノオルガノスズトリアセチリド、又はモノオルガノスズトリカルボキシレートを合成するための方法に関し、その方法には、有機溶媒を含む溶液の中で、グリニャールアルキル化剤のRMgXをSnLと反応させることが含まれるが、ここで、Rは、1~31個の炭素原子を有するヒドロカルビル基であり、ここでXは、ハロゲンであり、そしてここでR’は、1~10個の炭素原子を有するヒドロカルビル基であり、そしてLは、R’COO、CCR’、又はOR’であるが、ここでR’は、1~10個の炭素原子及び任意成分のヘテロ原子を有している。これらの反応では、Rは、重水素化されていても、又はされていなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】C中での、d9-tBuSn(O-t-Bu)H NMRスペクトルである。
図1B】C中での、d9-tBuSn(O-t-Bu)13C NMRスペクトルである。
図1C】C中での、d9-tBuSn(O-t-Bu)119Sn NMRスペクトルである。
図2A】C中での、DMeSn(CCPh)H NMRスペクトルである。
図2B】C中での、DMeSn(CCPh)119Sn NMRスペクトルである。
図3A】C中での、DMeSn(t-ペントキシド)119Sn NMRスペクトルである。
図3B】C中での、DMeSn(t-ペントキシド)H NMRスペクトルである。
図4】選択された露光後ベーク温度で加工されたd9-tBuSn(O-t-アミル)レジストについての、ラインスペースパターンの一連の電子顕微鏡画像である。
図5】2種の異なったd9-tBuSn(O-t-Bu)調製物を用いて調製し、デポジット後の選択された加熱条件にかけたフィルムの、一連の積重ねFTIRスペクトルである。
図6】非重水素化のtBuSn(O-t-Bu)の調製物、及び2種の異なったd9-tBuSn(O-t-Bu)の調製物を使用して生成させた、一連のコントラスト曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
同位体効果の潜在的有益性を生かす、重水素化されたリガンドを組み入れた有機金属フォトレジストが開発された。具体的には、複数の水素原子が複数の重水素原子で置換された、過重水素化されたリガンドが開示される。2種の異なった代替可能な合成経路を記述し、例示する。例示された重水素化された有機金属レジストを使用してパターン形成させると、高精細パターン形成レジストとして有望であるという、望ましい結果が得られる。水素原子を重水素に置換させることによって、反応速度同位体効果からの結果として、異なった反応速度で、異なった性能を与えることが可能となり、それと同時に、異なった分析特性も与えて、それは、精製及び/又はキャラクタリゼーションで有用となり得る。重水素の富化は、特定の部位とすることもできるし、或いは、その組成物の中の全部の水素原子を置換(過重水素化)することもできる。スズベースの有機金属のパターン形成組成物は、高精細なEUVパターン形成をもたらすための重要なパターン形成組成物である。重水素化されたフォトレジストを用いた、望ましいパターン形成結果を記述する。
【0017】
有機金属フォトレジスト、特にオルガノスズ物質をベースとするものが、高忠実度且つ高精細なパターンのパターン形成を可能とする、高性能な放射線によるパターン形成組成物として、特にはEUVフォトレジストとして機能することが見出された。これらの物質は、一般的には、現像プロセス又は溶媒を適切に選択することによって、ポジ型のフォトレジスト(この場合には、現像の際に、露光された領域が選択的に除去される)、又はネガ型のフォトレジスト(この場合、現像の後に露光された領域が残る)として機能させることができる。
【0018】
オルガノスズ物質をUV又はEUV照射に露光させ、次いで加工することによって、Sn-C結合の開裂が起こり、その露光された領域に、Sn-O-Sn及びSn-OH結合を含む、縮合されたネットワークが形成されると考えられる。それらの結合の濃度が高くなると、出発物質よりも濃縮され親水性の高い物質となり、そのため、露光領域と非露光領域との間で、大きな化学的及び現像コントラストが生じる。
【0019】
高精細及び高感度なフォトレジストとして有用である放射線感受性のオルガノスズ組成物は、Meyers et.alによる次の特許に記載されている:米国特許第9,310,684号明細書(タイトル「Organometallic Solution Based High Resolution Patterning Composition」)、及び米国特許第10,228,618号明細書(以後、’618特許と呼ぶ)(タイトル「Organotin oxide hydroxide patterning compositions,precursors,and patterning」)(これら2件の特許を、参考として引用し本明細書に組み入れたものとする)。一般的に、放射線感受性のオルガノスズ組成物には、Sn-C及び/又はSn-カルボキシレート結合を介してSn原子に結合された有機リガンドが含まれる。本開示には、富化されていないオルガノスズ組成物よりも、改良されたパターン形成性を示すことが可能であることが見出された、新規な重水素富化されたオルガノスズ組成物が記載されている。
【0020】
いくつかの実施態様においては、その重水素富化されたオルガノスズ組成物が、式RSnLとして表すことができるが、ここで、Rは、少なくとも1個の水素原子が、重水素を用いて置換されたヒドロカルビル基(アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール)である。さらなる実施態様においては、Rが、全部の水素(H)原子が、重水素(H)を用いて置換されたヒドロカルビル基である。たとえばRが、-CD、-CD(CD、又は-C(CDCであってよいが、ここでDは、重水素であり、-は、Snに対する結合である。以下においてさらに詳しく説明するが、そのヒドロカルビル基には、他のヘテロ原子をさらに含んでいてもよい。本出願人は、加水分解可能なリガンドを有する重水素化されたオルガノスズ化合物のための、複数の合成経路を開発したが、これについては、以下においてさらに詳しく説明する。
【0021】
理論に束縛されることは望まないが、重水素原子、たとえばHを、放射線感受性のオルガノスズ組成物の中に置換させることは、その重原子の反応速度同位体効果のために、有利であると考えられる。たとえばHを含むいくつかの反応経路は、Hを含む反応経路よりは、反応速度論的には不利となる傾向がある。したがって、たとえば以下のような反応ベースの経路及びプロセスを改良するためには、放射線感受性のオルガノスズ組成物が、H原子を置換させたH原子を含んでいるのが望ましいことになり得る:Sn-C結合の熱分解、帯域外放射線及び/又は光子ショットノイズに対する感度、欠陥の生成、エッチング速度、及び/又は地汚れ(これは、パターン形成後に残る残留物を挿している)。下記の実施例において、H富化されたオルガノスズフォトレジストのEUV露光を示す。
【0022】
重水素富化された物質は、数多くの分析法、特に質量又は原子核スピンに基づいて判別する方法、たとえば、クロマトグラフィー、赤外分光法、質量分光測定、核磁気共鳴などで、有用となり得る。当業者ならば、非重水素化の類似体に比較して、重水素富化された物質の分析上での利点は認識するであろう。
【0023】
本明細書の中に記載されている組成物は、放射線によるパターン形成可能なコーティングを形成させるための前駆物質として、さらには、その前駆物質を、他の有用な組成物たとえば、異なった加水分解可能なリガンドを有する組成物、又はSn-O-Sn結合及び/若しくはSn-OH基を有するクラスター状の組成物に転換させるために、有用である。上でも述べたように、オルガノスズ物質の感光性は、Sn-C結合の性質に由来しており、そのため一般的には、前駆物質からコーティングへの加工の際に、Sn-C結合が、そっくりそのまま残っているのが望ましい。加水分解可能なリガンドは、感光性にはほとんど効果がないが、その理由は、それらが、一般的に、照射より前に加水分解されるからであり、そして一般的に、たとえば、さらなる精製、デポジットのモード、安定性、取扱い性など、所望される加工のために選択される。
【0024】
本明細書中に記載されているように、その加水分解可能なリガンドは、水とオルガノスズ分子との反応を促進させて、次式の反応に示されている、有機酸化スズ水酸化物組成物を与えるリガンドである:
RSnL+2HO → RSnOOH+3HL (1)。
【0025】
本開示、上述の反応、及び以下の説明の目的では、RとRとは、置換え可能であると受け取られたい。RSnOOH組成物は、一般的には、放射線によるパターン形成のために使用されるが、このことは、その加水分解可能なリガンドのLが、加工の際に、加水分解によって除去されてしまっていることを意味している。好適な加水分解可能なリガンドのいくつかの例は、-NR’、-OR’、-R’COO、及び-CC(R’)であるが、ここでR’は、30個以下の炭素原子を有するシリル基又はヒドロカルビル基、たとえば、メチル、エチル、n-プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、tert-ブチル、tert-アミル、--(Si(CH)、-Ph(C)などである。
【0026】
上述のRSnL組成物の加水分解は、一般的には、水酸化物及び酸化物リッチな反応生成物を与えるが、ここで、2個以上のRSn残基が縮合して、Sn-O及びSn-OH結合、たとえばよく知られている「フットボール」クラスターの[(RSn)1214(OH)](OH)を形成する。以下でも延べるように、即座的なRSnL組成物の加水分解を使用して、放射線によるパターン形成可能なコーティングを調製することができる。コーティングにおいては、RSnOOH組成物が、一般的に、Sn-OH残基及びSn-O-Sn残基の両方と、オキソ/ヒドロキソネットワークを形成すると考えられる。放射線によるパターン形成可能なコーティングを形成させるためには、その加水分解を、コーティングの形成の途中又は後で、しかも一般的には照射の前に、起こさせることができる。そのコーティングは、溶液法又は気相的方法を使用してデポジットさせることができる。
【0027】
Rは、炭素-スズ結合を形成するが、ここで、スズに結合された炭素は、sp又はsp混成軌道を形成し、そしてRには、少なくとも1個の重水素原子が含まれ、そして場合によっては、不飽和若しくは芳香族の炭素-炭素残基、及び/又は炭素若しくは水素/重水素ではない他のヘテロ原子を含むこともできる。上述したように、当技術分野において利便性さらには整合性のためには、Rは、相当する置換基及び結合構造を有する、アルキルリガンド、オルガノリガンド、又はヒドロカルビルリガンドを、相互に言い換え可能に呼ぶことができる。
【0028】
いくつかの実施態様においては、いくつかのパターン形成組成物のために、ヒドロカルビルのRリガンドが望ましいものとなり得るが、ここで、その化合物(加水分解可能なリガンドの加水分解を行うもの)は、一般的に、RCSnO(2-(z/2)-(x/2))(OH)として表すことができるが、ここでR、R、及びRは独立して、水素/重水素、又は1~10個の炭素原子を有するヒドロカルビル基であるが、R、R、及びRのひとまとめに、少なくとも1個の重水素原子が含まれる。いくつかの実施態様においては、Rが過重水素化されている、すなわち、全部の水素原子が重水素によって置換されているのが望ましいことがあり得るが、その一方で他の実施態様においては、水素原子のほんの一部が重水素によって置換されている。ヒドロカルビルリガンドRのこの表示が、他の実施態様にも同様に適用可能であり、一般的にRCSn(L)であり、Lが、加水分解可能なリガンド、たとえばアルコキシド(ヒドロカルビルオキシド)、カルボキシレート、アセチリド、又はアミド残基に相当する。いくつかの実施態様においては、RとRとで環状アルキル残基を形成することが可能であり、そしてRがさらに、環状残基の中の他の基に参加することもまた可能である。好適な分岐状のアルキルリガンドとしては、たとえば以下のものが挙げられる:イソプロピル(R及びRがメチルであり、Rが水素又は重水素である)、tert-ブチル(R、R、及びRがメチルである)、tert-アミル(R及びRがメチルであり、そしてRが-CHCHである)、sec-ブチル(Rがメチルであり、Rが-CHCHであり、そしてRが水素又は重水素である)、ネオペンチル(R及びRが水素又は重水素であり、そしてRが-C(CHである)、シクロヘキシル、シクロペンチル、シクロブチル、及びシクロプロピル。それらの分岐状のアルキルリガンドの中の1個又は複数の水素原子が、重水素で置換されていてもよい。他の実施態様においては、ヒドロカルビル基に、アリール、又はアルケニル基、たとえばベンジル若しくはアリル、又はアルキニル基が含まれていてもよい。さらなる実施態様においては、好適なR基として、ヘテロ原子官能基たとえば、シアノ、チオ、エーテル、ケト、エステル、又はハロゲン化基、又はそれらの組合せを用いて置換された、ヒドロカルビル基が含まれていてもよい。当業界の慣例として、その基が不飽和結合、アリール基、ヘテロ原子などを含んでいるような場合であても、ヒドロカルビル基が、アルキル基と呼ばれることもあり得る。いくつかの実施態様においては、全部の水素原子を重水素で置換させて、過重水素化された基を形成させることも可能である。
【0029】
溶液デポジットされたパターン形成組成物で使用するためには、トリアルキルアミド、トリアセチリド、又はその他の加水分解可能なリガンドを含む反応生成物を、オルガノスズトリアルコキシドに転換させるのが望ましい。以下においてさらに詳しく説明するように、この反応は、一般的には、蒸留を用いた精製に続けて、相当するアルコールを用いた反応により実施されはするが、そのアルコールとの反応は、そのトリアルキルアミド/トリアルキルアセチリド反応剤を最初に精製することなしで実施することも可能である。アルコールに加えての追加の溶媒は、使用しても、又は使用しなくてもよい。反応生成物のオルガノスズトリアルコキシドは、一般的には、油状物又は低融点の固形物であり、蒸留により精製することができる。これらのステップについては、以下でさらに記述し、以下の実施例において、特定の反応生成物について説明する。前駆物質組成物からトリアルコキシドへの転換で、コーティング前駆物質が形成される必要はないが、オルガノスズトリアルコキシドは、デポジットのために好都合な前駆物質となり得るが、その理由は、加水分解及びコーティングの形成の後での反応生成物、たとえばアルコールが、温和な揮発性を有しているからである。
【0030】
所望のオルガノスズ前駆物質を調製した後で、その前駆物質を、適切な溶媒、たとえば有機溶媒、たとえば、アルコール、芳香族及び脂肪族炭化水素、エステル、又はそれらの組合せの中に溶解させて、前駆物質の溶液を調製することができる。特に、好適な溶媒としては、たとえば以下のものが挙げられる:芳香族化合物(たとえば、キシレン、トルエン)、エーテル(アニソール、テトラヒドロフラン)、エステル(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸エチル、乳酸エチル)、アルコール(たとえば、4-メチル-2-ペンタノール、1-ブタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール)、ケトン(たとえば、メチルエチルケトン)、それらの混合物など。一般的に、有機溶媒の選択には、溶解性パラメーター、揮発性、引火性、毒性、粘性、及び他の加工物質との間の化学的な相互作用の可能性などが影響する可能性がある。溶液の成分を溶解させ、組み合わせた後に、その化学種の特性を、部分的なインサイチュー加水分解、水和、及び/又は縮合の結果として、変化させてもよい。
【0031】
そのオルガノスズ前駆物質を溶媒の中に溶解させて、加工に適した厚みのコーティングを形成させるのに適した、Snの濃縮物を得ることができる。前駆体溶液中の化学種の濃度を選択して、溶液で、所望の物理的性質が得られるようにすることができる。特に、全体的に濃度が低いと、ある種のコーティングアプローチ方法、たとえばスピンコーティング(それは、理にかなったコーティングパラメーターを使用して、より薄いコーティングを達成することができる)のための溶液に望ましい性質を与えることができる。超微細パターン形成を達成するため、さらには物質コストを低減させるためには、より薄いコーティングを使用するのが望ましい。一般的に、濃度を選択することにより、選択されたコーティングアプローチ方法を最適化することができる。コーティング性能については、以下においてさらに詳しく説明する。スズ濃縮物は、一般的には約0.005M~約1.4M、さらなる実施態様においては約0.02M~約1.2M、そしてさらに次の実施態様においては約0.1M~約1.0Mの濃度からなっている。当業者のよく認識していることであろうが、上で明示された範囲内のスズ濃度のさらなる範囲も考えられ、それらも本開示に含まれる。
【0032】
いくつかの実施態様においては、改良された感光性前駆物質組成物を、1種又は複数種のオルガノスズ組成物、たとえばRSnX4-n及びその加水分解物を含むブレンド溶液の形で存在させることができるが、ここでRは、本明細書中に詳しく記述し、上で明示的に詳述した、各種の残基から選択される。そのようなブレンド溶液は、各種の性能、たとえば溶液の安定性、コーティングの均質性、及びパターン形成性能を考慮した上での、最適化のために調節することができる。ブレンドされた組成物は、2種以上のオルガノスズ組成物たとえば、RSnL4-n(ここで、Lは、加水分解可能なリガンドである)を、溶媒の存在下又は非存在下にコーミング(combing)することにより、得ることができる。たとえば、ニートなRSnLをニートなR’SnLと組み合わせて、ブレンドされた前駆物質を形成させることができる。所望により、次いでそのブレンドされた組成物を、溶媒の中へ希釈させることも可能である。別な方法として、それぞれ個別のオルガノスズ組成物を所望の溶媒の中で希釈して、個々のオルガノスズ溶液を形成させ、次いで、そのそれぞれ個々のオルガノスズ溶液を組み合わせて、ブレンド溶液を形成させることもできる。一般的には、ブレンドされた組成物全体の中のそれぞれのオルガノスズ成分で、その加水分解可能なリガンドが同一であっても、或いは異なっていてもよい。いくつかの実施態様においては、その改良された感光性組成物には、そのブレンド溶液の中に少なくとも1mol%のSnの所望される成分、さらなる実施態様においてはそのブレンド溶液の少なくとも10mol%のSn、さらなる実施態様においてはそのブレンド溶液の少なくとも20mol%のSn、そしてさらなる実施態様においては、そのブレンド溶液の少なくとも50mol%のSnの特定の所望される成分を含むことができる。そのブレンド溶液の明示された範囲の内部での、改良された感光性組成物のmol%のさらなる範囲も考えられ、本開示の範囲内である。
【0033】
一般的に、それらの蒸気圧が高いために、本明細書に記載されたオルガノスズ組成物は、蒸着を介してコーティングを形成させるための前駆物質として有用となり得る。蒸着方法としては、一般的には、化学蒸着法(CVD)、物理蒸着法(PVD)、原子層蒸着法(ALD)、及びそれらの改良法が挙げられる。典型的な蒸着プロセスにおいては、そのオルガノスズ組成物を、小分子の気相反応剤たとえば、HO、O、H、O、CHOH、HCOOH、CHCOOHなどと反応させることができるが、それらは、放射線感受性の有機酸化スズ及び酸化物水酸化物コーティング(oxide hydroxide coating)を製造するための、O及びHの源として機能する。加水分解可能なリガンドとして、アルキルアミド又はアルコキシドを含むオルガノスズ組成物は、有機酸化スズ/水酸化物コーティングを形成させるための蒸着方法において使用するのに、特に望ましい可能性がある。放射線によるパターン形成可能なオルガノスズコーティングの蒸着は、公開PCT出願の国際公開第2019/217749号パンフレット(Wu et.al、タイトル「Methods for Making EUV Patternable Hard Masks」)(参考として引用し本明細書に組み入れたものとする)、及びさらには、先に引用した’618特許に記載されている。放射線感受性のオルガノスズコーティングの製造は、一般的には、揮発性のオルガノスズ前駆物質のRSnLを小さな気相分子と反応させることにより、達成させることができる。その反応には、オルガノスズ前駆物質の加水分解/縮合が、加水分解可能なリガンドを加水分解させることが含まれるが、その間も、Sn-C結合は、実質的にそっくりそのままで残っている。
【0034】
放射線ベースのパターン形成のための代表的プロセス、たとえば極紫外(EUV)リソグラフィプロセスの概略に関連させると、フォトレジスト物質を基板の上に薄膜としてデポジット又はコーティングし、露光前ベークをし、放射線のパターンを用いて露光させて潜像を作成し、露光後ベークをし、次いで液体、典型的には有機溶媒を用いるか、又はドライ現像法を用いて現像して、そのレジストの現像されたパターンを作成する。所望により、より少ないステップを使用することも可能であるし、追加のステップを使用して、残留物を除去して、パターンの忠実度を改良することもできる。
【0035】
放射線によるパターン形成可能なコーティングの厚みは、所望されるプロセスに依存させることができる。シングルパターン形成EUVリソグラフィで使用する場合には、一般的には、欠陥が少なく、パターン形成の再現性がよいパターンが得られるように、コーティングの厚みを選択する。いくつかの実施態様においては、好適なコーティングの厚みは、0.5nm~100nmの間、さらなる実施態様においては約1nm~50nm、さらなる実施態様においては約2nm~25nmとするのがよい。当業者のよく理解していることであろうが、追加の範囲のコーティングの厚みも考えることができ、それらも本発明の開示に含まれる。蒸着法により調製される、放射線によるパターン形成可能なコーティングの場合のコーティングの厚みは、一般的に、そのプロセスの反応時間又はサイクル数を適切に選択することによって、制御することが可能である。
【0036】
基板は、一般的には、その上にコーティング物質をデポジットさせることを可能とする表面を提供するが、それが、複数の層で構成されていてもよいが、その中でも、表面は、最上層に関わっている。基板は、特には制限はなく、各種の適切な物質たとえば、シリコン、シリカ、その他の無機物質、たとえばセラミックス、及びポリマー物質などが含まれていてよい。
【0037】
デポジットさせて、放射線によるパターン形成可能なコーティングが形成された後で、放射線を用いた露光の前に、さらなる加工を採用することも可能である。いくつかの実施態様においては、そのコーティングを、30℃~300℃の間、さらなる実施態様においては50℃~200℃の間、さらなる実施態様においては80℃~150℃の間で加熱することもできる。その加熱は、いくつかの実施態様においては約10秒間~約10分間、さらなる実施態様においては約30秒間~約5分間、さらなる実施態様においては約45秒間~約2分間実施するのがよい。上記の明示された範囲の中で、温度及び加熱時間のさらなる範囲も予期され、想定される。
【0038】
重水素富化された組成物の合成
本出願人は、重質原子(重水素)富化されたオルガノスズ組成物を合成するのに適した、いくつかの好適な合成方法を開発した。その方法は、実用面、たとえば、各種の方法によって得られる純度、収率、その手順の利便性、及び使いやすい出発物質の入手可能性などを基準にして選択するのがよい。たとえば、モノアルキルスズトリアルキルアミドの一般的合成では、そのアルキル化剤が、グリニャール試薬、ジオルガノ亜鉛反応剤、又はモノオルガノ亜鉛アミドであるような場合に、望ましい結果が得られた。これらの合成法では、ポリアルキル不純物が少ない、モノアルキルスズトリアミドを作成することができるが、それらは、レジストを形成させるために使用することもできるし、或いは、さらに精製して、不純物レベルをさらに一段と低くすることもできる。本出願人によって開発されたさらなる方法においては、そのアルキル化剤が、アルキルハライドであり、それが、アルカリ、アルカリ性、及び/又は擬似アルカリ性金属イオンを用いて錯化されたスズ組成物と反応する。
【0039】
重水素化されたスズ組成物の合成を、以下で例示する。1つのアプローチ方法においては、そのアルキル化剤がグリニャール試薬である。グリニャール試薬は、オルガノマグネシウムハライドである。特には、記述される反応におけるグリニャール試薬がRMgXであってよく、ここで、Xは、ハライド、一般的にCl、Br、又はIであり、そしてRは、先に定義されたものである。グリニャール試薬は、市場で入手することも可能であるし、あるは公知の方法を使用して合成することもできる。市場での入手先としては、American Elements Company、Sigma-Aldrich、及びその他多くの供給業者が挙げられる。
【0040】
グリニャール反応剤によるアプローチ方法においては、そのアルキル化剤が、次の反応に従って、そのアルキル基を用いて、スズテトラアミドのアミド基を選択的に置換する。
RMgX+Sn(NR’ → RSn(NR’+副生物 (2)
[式中、R及びR’は、先に定義されたものである]。同様にして、スズテトラカルボキシレート及びスズテトラアルコキシドも、それぞれ、次の反応に従って、モノアルキルスズカルボキシレート及びモノアルキルスズアルコキシドを形成させるための反応剤として使用することができる:
RMgX+Sn(R’COO) → RSn(R’COO)+副生物 (3)
RMgX+Sn(OR’) → RSn(OR’)+副生物 (4)
RMgX+Sn(CCR’) → RSn(CCR’)+副生物 (5)
[式中、R及びR’は、先に定義されたものである]。いくつかの実施態様においては、そのグリニャール試薬を、ほぼ1:1のモル比で添加して、その反応が選択的に、ポリアルキルスズ不純物の少ない、モノアルキルスズトリアミド/トリカルボキシレート/トリアルコキシドを生成するようにすることができる。上述の合成方法は、ジアルキルスズ副生物の生成を抑制することによって、モノアルキルスズトリアミド/トリカルボキシレート/トリアルコキシドの選択率及び収率を改良する。グリニャール反応剤によるアプローチ方法は、二級及び三級のSn-C結合、たとえば分岐状のアルキルR基を形成させる場合、特に有用となり得る。ポリアルキル不純物を少量含むモノアルキルスズトリアミドをさらに加工して、ポリアルキル不純物含量の少ないモノアルキルスズトリアルコキシドを形成させることができる。これらの改良された合成方法は、公開された、米国特許出願公開第2019/0315781号明細書(Edson et al.、タイトル「Monoalkyl Tin Compounds With Low Polyalkyl Contamination,Their Compositions and Methods」)(以後、’781出願と呼ぶ)にさらに記載されている(参考として引用し本明細書に組み入れたものとする)。
【0041】
重水素化された有機ハライドを使用する直接的合成に関しては、その富化組成物は、次の総括反応で表される反応により、合成することができる:
3HNR’+3MR’’(+M’Z)+SnX+RX’ → RSn(NR’+副生物 (6)又は
3R’CCH+3MR’’(+M’Z)+SnX+RX’ → RSn(CCR’)+副生物 (7)
[式中、X及びX’は独立して、ハライドであり、そしてR’’は、一般的には、10個以下の炭素原子を有するヒドロカルビル基である]。R’’は、副生物、一般的にHR’’の中に組み入れられることになるので、一般的には、その素性が制限を受けたり重要になったりすることはなく、そして、一般的な入手可能性、低コスト、副生物除去の容易性、及び良好な反応性に基づいて選択することができる。R’’の幾つかの好適な例は、n-ブチル及びtert-ブチルである。R’基は、反応生成物の組成物の相当する加水分解可能なリガンドのための置換基を与える。これらの反応において、Mは、一般的にはリチウムであるが、リチウムを他のアルカリ金属、すなわち、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウムで置き換えることも可能である。括弧をつけたM’Zは、任意成分の反応剤M’’OR’’又はM’’’Xを表すが、ここでM’’は、アルカリ金属イオンであり、OR’’は、不動的に留まっているアルコキシドであり、そしてM’’’は、アルカリ土類/擬似アルカリ土類金属イオンであり、ハライドイオンであるXと共にハライドを与えている。そのRX化合物は、モノ-オルガノスズ反応生成物のための所望のオルガノリガンドが得られるように選択される。以下における実施例及びここまでの説明に記載されているように、Rの具体例としては、以下のものが挙げられる:重水素化された炭化水素、たとえば、-CD(d3-メチル)、-C(CD,(d9-tBu)、及び-CD(CD(d7-iPr)。反応剤としてのRX化合物の入手可能性が広く、さらには相当する反応におけるそれらの化合物の反応性が広いことにより、反応生成物のモノ-オルガノスズ反応生成物の中に広く各種のオルガノリガンドを導入する可能性が与えられる。これらの反応については、同時係属出願の米国特許出願第17/410,316号明細書(Edson et.al、タイトル「Methods To Produce Organotin Compositions With Convenient Ligand Providing Reactants」)にさらなる記載がある(参考として引用し本明細書に組み入れたものとする)。
【0042】
現在のところ、アルカリ金属スズトリアミド又はアルカリ金属スズトリアセチリドの単離は、達成されていない。これら改良された合成方法は、中間体の正確な素性から、あいまいなものではなく、本明細書における一般的な議論は、総合的な出発物質、及び単離及び同定が可能な最終的な反応生成物に焦点をあてている。それにも関わらず、たとえばKSn(TMSA)のような中間体の、想定される素性は、存在している化学種に従った強力な推定に基づいている。使用した特定の溶媒の中では、金属イオンは、十分な溶媒和はしないと想定される。それでもなお、その組成物は溶液内に留まっており、大きなクラスターの生成及びゲル化は観察されない。理論に束縛されることは望まないが、有機金属の反応剤、たとえばアルキルリチウム、アルキルマグネシウム(グリニャール試薬)、及びカリウムtert-ブトキシドが、金属-金属結合を有するクラスター、たとえばテトラマー、ヘキサマー、及びキュバンを形成することが公知であり、そのため、類似の化学種が、溶液の中に、今のところ同定を拒んでいる、おそらくは錯体平衡混合物として形成されているとしても、理屈に合っている。公知の化学種の相対的な安定性から、どのような中間体化学種の存在が期待し得るかということが示唆されるが、反応におけるそれらの基本的な化学的関与を理解するための、正確な構造的キャラクタリゼーションは必要ない。化学種の反応性は、化学種を単離するための溶媒の除去が不可能であることと矛盾しないであろう。
【0043】
上に総括反応を示したが、これらの反応は、複数のステップで実施することができる。それらの反応剤の1つが、スズジハライドたとえば二塩化スズであるので、溶媒の選択の考慮には、スズジハライドに対する適切な溶解性が含まれるのがよい。その他の開始時の反応剤、たとえばジヒドロカルビルアミン及びモノアルキルリチウム(又は一般的に、モノアルキルアルカリ金属)は、異なった溶媒の中に可溶性であることもあり得る。いくつかの実施態様においては、反応剤が難溶性であるのなら、それらの反応剤を、最初はスラリーの形態とすることも可能である。それらの反応は、一般的に、無水の有機溶媒中、酸素フリー又は酸素枯渇雰囲気下、たとえば、窒素パージ雰囲気、アルゴン又はその他の不活性雰囲気の下で実施される。溶媒を選択して、各種の成分が溶解状態にあるようにする。溶媒と金属イオンとの間に相互作用があるため、溶媒の選択は、少なくとも部分的には、選択された溶媒中での反応速度を基準にするのがよいが、これは、実験的に評価することができる。複数の異なった溶媒を選択する場合には、それらは、一般的に、混和性である。一般的に、非プロトン性極性溶媒、たとえばエーテル(たとえばジメチルエーテル、ジエチルエーテル)、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、及びそれらの混合物が有用である。それらの溶媒は、一般的に、反応剤、中間体、及び反応生成物に対して不活性であるように選択するべきである。たとえば個別の反応剤を導入するために、複数の溶媒を使用するのなら、それらの溶媒は、一般的に、相互に混和性を有しているようにするべきである。第一の反応は、MSnL中間体の合成と考えられ、ここでLは、ジアルキルアミド(ジヒドロカルビルアミド)又はアルキルアセチリド(ヒドロカルビルアセチリド)であるが、特定の構造が立証された訳ではない。その反応剤及び反応条件から、状況証拠がスズ-リガンド結合の生成を示唆しており、そのため、残基SnLの存在も同様に考えられ、そして金属カチオンも同様に、安定化のためにスズ残基に付随していると考えられるが、特定の構造物が、錯体平衡混合物中に存在している可能性もある。この第一の反応は、必要なら、以下の2つの個別の反応と考えることが可能である:金属リガンド組成物(ML)の生成を目的とした、第一のサブ反応(MR+HL → ML+HR)と、それに続く、SnCl又はその他のスズジハライドとのサブ反応(3ML(+M’OR’)+SnX → (MSnL)+副生物(ここで、M’OP’は、任意成分であり、そしてMSnLの構造は、公式にはまだ確定していない))。詳しく説明したように、Mは、アルカリ金属、並びにアルカリ土類金属及び/又は擬似アルカリ土類金属であってよい。一般的には、その第一の反応においては、その溶液を、いくつかの実施態様においては10℃未満、さらなる実施態様においては0℃(これは、氷浴を使用するには都合のよい温度である)に冷却するが、非水溶液でも、ほぼこの温度で特に問題はない。もっと低い温度にまで冷却することも可能であるが、その温度を、反応時間の間ずっと保つ必要はない。冷却によって、妥当な反応速度を維持しながら、反応を望むように制御することが可能になる。その第一のサブ反応は、実用で許される長さの時間で実施することが可能であり、特段の制限はない。第一のサブ反応は、少なくとも約30秒間、他の実施態様においては少なくとも約2分間、いくつかの実施態様においては1分~5時間、そしていくつかの実施態様においては、約2分~約3時間続けさせることが可能である。いくつかの実施態様においては、それら2つのサブ反応を組み合わせて、実質的に単一の反応として進行させることができるが、このことは、実質的に、第一のサブ反応で時間ゼロ、又は第一のサブ反応で短時間ということである。リチウムではないアルカリ金属のアルコキシド及び/又はアルカリ土類(又は擬似アルカリ土類)のジハライドを反応剤として導入する場合には、その化合物を、概念的には、第一のサブ反応又は第二のサブ反応の一部として、或いはひょっとすると、第一のサブ反応と第二のサブ反応との間の第三のサブ反応の文脈で、添加することもできる。当業者のよく認識していることであろうが、上で明示された範囲内の時間及び温度のさらなる範囲も考えられ、それらも本発明の開示に含まれる。
【0044】
一般的に、アルキルのアルカリ金属(たとえば、リチウム)反応剤及びアミン/アセチレン反応剤は、概ね化学量論的な量とするが、ただし一般的には、小~中程度に過剰のアミン/アセチレン反応剤が使用され、たとえば、約1モルパーセント(mol%)~約50mol%のアミン/アセチレン反応剤を使用することができる。リチウムではないアルキルアルカリ金属化合物を使用する場合には、類似の化学量論的量のリガンド前駆物質(ジアルキルアミン又はアルキルアセチレン)を使用することができる。一般的に、3種のリガンドをそれぞれのスズに対して添加するためには、Snのモル量に対して、ML組成物を3:1の比率にするのが望ましい。リチウムではない金属のアルコキシアルカリ金属化合物を、アルキルリチウムと並行して使用する場合には、アルキルリチウムが、アミン/アセチレン反応剤でのモル当量を基準にした量を有するようにし、その一方で、アルカリ金属ではない化合物が、添加されるスズ化合物に対して等モル当量を有するようにすることができるが、所望により、それらの金属(アルカリ金属又はアルカリ土類金属又は擬似アルカリ土類金属)を、追加の量のMLが生成しない限りにおいて、より多量に使用することも可能である。相当する実施態様においては、それぞれのスズ原子で3種のリガンドスズ結合が形成されるように、スズ反応剤をMLリガンド寄与反応剤に、ほぼ等モル当量(1:3)で添加するのがよい。1個、2個、又は4個のリガンドを有するスズ副生物からの不純物の量が少ないことは、スズ対ML反応剤のモル比の制御の有効性を証明している。反応剤溶液の中の金属濃度は、一般的には約0.025M~約2M、さらなる実施態様においては約0.5~約1.5Mである。当業者のよく認識していることであろうが、上で明示された範囲内の濃度範囲及び許容される化学量論比も考えられ、それらも本発明の開示に含まれる。
【0045】
その第二の反応には、スズに結合されたオルガノリガンドの生成に随伴する炭素-スズ結合の導入が含まれる。概念的には、炭素-スズ結合が金属-スズ結合にとって変わるが、その金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び/又は擬似アルカリ土類金属である。スズに結合されたオルガノリガンドは、有機ハライドであるRXとの反応から生じたものである。炭素-スズ結合を形成させるためには、一般的に、少なくともほぼ化学量論的量の有機ハライドが導入されるが、有機ハライドを過剰に導入することも可能である。いくつかの実施態様においては、その反応において、3倍過剰モルの有機ハライドが使用できるが、さらなる実施態様においては、Snのモルに対して、約1~約2モル当量のRXを使用することができる。その溶媒は、第一の反応で使用したのと、同じであってもよいし、或いは、同じように利用可能な溶媒及びそれらの混合物から選択することもできる。第一の反応の反応生成物は、一般的には、第二の反応の実施前に精製されることはないが、都合によっては副生物を除去してもよい。金属の濃度は、一般的には、第一の反応ステップの濃度と同程度であるが、通常は、希釈のために、やや低くなる。その反応の発熱特性に対処するために、第二の反応は、一般的に(必須という訳ではない)、低温たとえば約0℃、又はより一般的には、約-78.5℃~約10℃で開始させるのがよいが、いくつかの実施態様においては、それらの反応剤を室温で組み合わせることも可能である。第二の反応のための反応剤を混合した後で、その反応を、同じ温度で続けさせてもよいし、或いは放置して、約20℃~約50℃、又は室温(20~24℃)にまで次第に昇温させてもよい。その反応は、少なくとも約15分間、いくつかの実施態様においては約15分間~約24時間、そしていくつかの実施態様においては約30分間~約15時間かけて進行させてよいが、所望により、さらに長い反応時間を使用してもよい。当業者のよく認識していることであろうが、第二の反応のための上述の濃度、モル比、温度、及び時間のさらなる範囲も考えられ、それらも本発明の開示に含まれる。
【0046】
ここで記述した反応の発熱特性のために、たとえば反応剤の量、反応温度、反応剤の添加時間、反応時間など、各種の合成パラメーターを修正することも、有利となり得る。そのような考え方は、当業者には公知である。反応を解析し、そして作業者に好適なプロセス条件の情報を提供するために有用な分析法は、反応の熱量測定である。熱量的データは、所定の反応についての、有用な熱力学的変数を与えることができる。具体的には、スケール依存性変数(たとえば、エンタルピー熱)を、所望の反応について測定することが可能であり、より大きなスケールでの反応を適切に実施するために使用することができる。このようにすることで、異なったスケールの反応でも、プロセス変数を適切に制御することが可能となる。反応の熱量的データは、’316出願の中のいくつかの実施例にも含まれている。上で提示されたガイドラインの内と、以下での実施例のガイダンスとを合わせて、当業者のよく認識していることであろうが、特定の反応のための特定のパラメーターを調節することで、所望の結果を得ることができる。ルーチン的な実験を使用した最適化は、これらの教示に基づいて、当業者によって広い範囲の製品組成物で実施することができる。例示された反応は、良好な収率及び反応生成物の組成における高い特異性をもたらす。
【0047】
反応生成物が生成した、そのオルガノスズトリ(ジヒドロカルビルアミド/ヒドロカルビルアセチリド)を精製することができる。その精製は、その反応生成物の特性に依存するが、一般的には、副生物及び潜在的に存在する各種の未反応反応剤から、所望の反応生成物を分離することが含まれる。精製にはさらに、反応生成物の混合物から、乾燥法又は真空への暴露による、溶媒も含めて各種の揮発性化合物を除去することもまた含まれ得る。かなりの蒸気圧を有する反応生成物では、その反応生成物を、真空蒸留を介するか、又は、所望により、高純度が達成されるように設計された分別蒸留により精製するのが望ましい。次の公開特許を参照されたい:米国特許出願公開第2020/0241413号明細書(Clark et al.、タイトル「Monoalkyl Tin Trialkoxides and/or Monoalkyl Tin Triamides With Low Metal Contamination and/or Particulate Contamination and Corresponding Methods」)(参考として引用し本明細書に組み入れたものとする)。
【0048】
反応生成物は、前もって精製されているか否かに関わらず、さらに反応させて、誘導体たとえば、オルガノスズトリアルコキシドを形成させることができるが、これは、前述の方法又は当技術分野において公知の他の手段によって、さらに精製することもできる。トリアルコキシド組成物を調製した後で、所望により、その組成物のさらなる精製を実施することができる。いくつかの実施態様においては、次の特許に記載されているような分別蒸留法を使用することも可能である:米国特許第10,787,466号明細書(Edson et al、タイトル「Monoalkyl tin compounds with low polyalkyl contamination,their compositions and methods」)(参考として引用し本明細書に組み入れたものとする)。
【0049】
いくつかの実施態様においては、光によるパターン形成可能な前駆物質組成物の加水分解可能なリガンドが、アルコキシドである。アルコキシドは、溶液加工又は蒸気加工いずれでも、酸化物水酸化物コーティングの加工のための、加水分解可能なリガンドとして特に好適であるが、その理由は、それらの貯蔵性、加水分解感受性、及び比較的に穏やかな加水分解反応生成物、たとえばアルコール、さらには蒸着のための蒸気圧にある。オルガノスズのアミド及びアセチリドの、オルガノスズアルコキシドへの転換は、一般的には、次の反応で表される、アルコール分解を介して達成させることができる:
RSn(NR’+3R’’OH → RSn(OR’’)+3HNR’、又は
RSn(CCR’)+3R’’OH → RSn(OR’’)+3HCCR’
[式中、R’及びR’’は、同一であるか、又は異なっていて、一般的には、10個以下の炭素原子を有するアルキル基である]。特に好適なR’及びR’’基は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル(アミル)、そして適用可能であれば、それらそれぞれの異性体たとえば、tert-アミルである。
【0050】
いくつかの実施態様においては、その感光性組成物を溶媒の中に希釈して、改良されたフォトレジスト溶液を調製する。言うまでもないことであるが、好適な溶媒は、その改良された感光性組成物がその中に適切に可溶性であるものを含んでいなければならないが、それらの物理的性質たとえば、引火性、粘度、毒性、揮発度などを基準にして選択するのがよい。好適な溶媒について考慮すべき他の点は、コスト、及び他の加工助剤との相互作用の可能性であろう。好適な溶媒のいくつかの例として、以下のものが挙げられる:アルコール(たとえば、4-メチル-2-ペンタノール、1-ブタノール、シクロヘキサノール)、エステル(たとえば、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチル)、エーテル(たとえば、プロピレングリコールモノメチルエーテル)、ケトン(たとえば、2-ヘプタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、1-ブタノン、4-メチル-2-ペンタノン)、それらの混合物など。当業者のよく理解していることであろうが、ここに明示的に列記されていない好適な溶媒も想定される。その改良されたフォトレジストの溶液を使用して、以下において記載される、放射線によるパターン形成可能なコーティングを形成させることができる。
【0051】
いくつかの実施態様においては、その重原子富化された感光性組成物を、上で述べたような好適な溶媒の中に溶解させるより前に、部分的又は全面的に加水分解させることも可能である。そのような加水分解された組成物の中では、その重原子富化された感光性組成物の加水分解可能なリガンドが、Sn-C結合、並びにSn-O及び/又はSn-OH結合を含む縮合されたクラスターの中で、O又はOHリガンドによって部分的又は全面的に置換される。
【0052】
いくつかの実施態様においては、その重水素富化された感光性組成物は、ブレンド溶液の中で、1種又は複数種の、異なったR基を含むモノアルキルスズ化合物、及び/又は他のオルガノスズ組成物、たとえばRSnL4-n(ここで、nは2、3、又は4であり、そしてRは、先に定義されたものである)及びその加水分解物と共に存在させることができる。そのようなブレンド溶液は、各種の性能、たとえば溶液の安定性、コーティングの均質性、及びパターン形成性能を考慮した上での、最適化のために調節することができる。ブレンドされた組成物は、2種以上のオルガノスズ組成物たとえば、RSnL4-n(ここで、Lは、加水分解可能なリガンドである)を、溶媒の存在下又は非存在下にコーミング(combing)することにより、得ることができる。たとえば、ニートなRSnLをニートなR’SnLと組み合わせて、ブレンドされた前駆物質を形成させることができる。所望により、次いでそのブレンドされた組成物を、溶媒の中へ希釈させることも可能である。別な方法として、それぞれ個別のオルガノスズ組成物を所望の溶媒の中で希釈して、個々のオルガノスズ溶液を形成させ、次いで、そのそれぞれ個々のオルガノスズ溶液を組み合わせて、ブレンド溶液を形成させることもできる。一般的には、ブレンドされた組成物全体の中のそれぞれのオルガノスズ成分で、その加水分解可能なリガンドが同一であっても、或いは異なっていてもよい。いくつかの実施態様においては、その重水素富化された感光性組成物には、そのブレンド溶液の中に少なくとも1mol%のSn、さらなる実施態様においてはそのブレンド溶液の少なくとも10mol%のSn、さらなる実施態様においてはそのブレンド溶液の少なくとも25mol%のSn、そしてさらなる実施態様においては、そのブレンド溶液の少なくとも75mol%のSnを含むことができる。そのブレンド溶液の明示された範囲の内部での、重原子富化された感光性組成物のmol%のさらなる範囲も考えられ、本開示の範囲内である。他の実施態様においては、前駆物質溶液、たとえばブレンド物のスズ化合物の全部が重水素化されており、それには、単一の組成物、又は複数の重水素化された成分のブレンド物が含まれる。
【0053】
重水素の天然存在度は、水素の約0.016%である。したがって、重水素富化は、天然存在度よりも多いことを指しており、富化では、水素の大部分を重水素で置換、たとえば99%を超える重水素富化をすることができる。さらには、重水素化は、(過重水素化される)リガンドの水素全部にも関連させることもできるし、或いは、重水素化を、部位限定とすることもできる。高度に過重水素化された富化(99mole%超)が、重水素化の効果を増大させるのに望ましく、より少ない量の重水素化では、部位限定になるか、或いは重水素化の程度が低いかのいずれかが考えられる。一般的に、重水素化の程度は、特定部位のため、又は過重水素化のためには、少なくとも約50mole%である。当業者のよく理解していることであろうが、リガンドの組成に依存して、取扱い、加工、及び貯蔵時に、HからHへ、又はその逆の交換が同様に起き得る。たとえば、RSnL組成物の加水分解では、Sn-OD結合及びSn-OH結合の両方が生成する可能性がある。本開示の目的では、加水分解された反応生成物の重水素化が期待され、本開示の範囲内である。
【0054】
放射線によるパターン形成可能なコーティング
放射線によるパターン形成可能なコーティングは、デポジション、及びそれに続けて選択された基板の上へその感光性組成物を加工することにより形成させることができる。放射線によるパターン形成可能なコーティングのデポジットは、当業者公知の各種の手段によって達成することができる。
【0055】
放射線によるパターン形成可能なコーティングの中への放射線感受性のオルガノスズ組成物のデポジットは、一般的に、加水分解及び縮合プロセスを介して達成される。たとえば、放射線によるパターン形成可能なオルガノスズコーティングの溶液法デポジットが、上記Meyers文献に記載されている。加水分解/縮合ベースの反応を採用する蒸着法もまた、公開PCT特許の国際公開第2019/217749号パンフレット(Wu et.al、タイトル「Methods for Making EUV Patternable Hard Masks」)(参考として引用)、さらには先に引用した’618特許にすでに記載されている。いずれの場合においても、その放射線感受性のオルガノスズ組成物は、オルガノスズ水酸化物酸化物に顕著に転換させることができるが、ここで、Sn原子に対するSn-C結合を有する放射線感受性の有機リガンドは、Sn-O-Sn及びSn-OHの結合のゆるやかに連結されたネットワークの中に組み入れられる。組み入れられた有機リガンドのために、そのようにして得られたコーティングは、疎水性であると考えることができる。
【0056】
溶液法デポジットが所望されるのなら、特に有用な溶液法デポジット方法は、スピンコート法である。スピンコート法は当技術分野において公知であり、半導体製作におけるフォトレジスト加工では特に有用となり得る。典型的なスピンコート方法においては、フォトレジスト溶液を、基板、たとえばSiウェーハの表面に送達し、その基板を高速で回転させて、コーティングを形成させる。そのスピンコート法プロセスの間に、オルガノスズ組成物の加水分解可能なリガンドが、周囲の水分と反応し、顕著な加水分解及び縮合が起きて、基板の上にコーティングを形成させることになるが、そのコーティングには、放射線感受性のSn-C結合と共に、Sn-O-Sn及びSn-OHのネットワークが含まれる。いくつかの実施態様においては、その改良されたフォトレジスト溶液が、500~3000rpmの間のスピン速度で、スピン塗布される。使用されるrpmには特に制限はないが、一般的には、所望のコーティングの厚みが得られるように調節される。一般的には、所定のフォトレジスト溶液では、スピン速度が遅い方が、スピン速度が早い場合よりは、より厚いコーティングが得られる。当業者は、スピン速度とコーティングの厚みとの間の関係は、理解しているであろう。
【0057】
コーティングの厚みは、そのフォトレジスト溶液の中のSnの濃度にも依存する可能性がある。いくつかの実施態様においては、好適な溶媒の中での[Sn]濃度は、0.005~約1.0M、さらなる実施態様においては約0.01M~約0.5M、さらなる実施態様においては約0.05M~約0.1Mである。当業者のよく理解していることであろうが、追加の範囲の[Sn]濃度も考えることができ、それらも本発明の開示に含まれる。
【0058】
放射線によるパターン形成可能なコーティングの厚みは、所望されるプロセスに依存させることができる。シングルパターン形成EUVリソグラフィで使用する場合には、一般的には、欠陥が少なく、パターン形成の再現性がよいパターンが得られるように、コーティングの厚みを選択する。いくつかの実施態様においては、好適なコーティングの厚みは、0.5nm~100nmの間、さらなる実施態様においては約1nm~50nm、さらなる実施態様においては約2nm~25nmとするのがよい。当業者のよく理解していることであろうが、追加の範囲のコーティングの厚みも考えることができ、それらも本発明の開示に含まれる。
【0059】
他の実施態様においては、その放射線によるパターン形成可能なコーティングを、各種の蒸着方法、たとえば原子層蒸着法(ALD)、化学蒸着法(CVD)、物理蒸着法(PVD)などを介して、形成させることができる。典型的な気相デポジション法においては、一般的には、1種又は複数種の金属含有前駆体を、小分子の気相反応剤たとえば、HO、H、O、O、又はCHOHの1種又は複数種と反応させるが、それらは、オキシド及びオキシドヒドロキシドを作るためのO源及びH源として機能する。したがって、加水分解性の化合物を気相加水分解により直接デポジットさせて、相当するアルキルスズオキシドヒドロキシドコーティングとすることが可能で、次いでそれを適切にパターン化させることもできる。
【0060】
CVD法においては、2種以上の反応ガスを、一般的には、チャンバー中、基板表面の近傍で混合させる。したがって、望ましくない気相反応及び核生成を制御できる反応条件になるように、十分な安定性が設計されている。反応チャンバーに別途に、且つ順次に導入される、ALD前駆体は、典型的には、基板表面を飽和させている、化学吸着された共前駆体又は分解反応生成物と反応する。RSnL前駆体の望ましい特徴としては、たとえば、系に気相輸送するための十分な揮発性、早まった分解を防止するための熱安定性、及び所定のプロセス条件下で目標の反応生成物を生成させるための共前駆体との適切な反応性が挙げられる。反応チャンバーの中の圧力及び温度を選択して、その反応プロセスを制御することができる。
【0061】
蒸着法により調製される、放射線によるパターン形成可能なコーティングの場合のコーティングの厚みは、一般的に、そのプロセスの反応時間又はサイクル数を適切に選択することによって、制御することが可能である。放射線によるパターン形成可能なコーティングの厚みは、所望されるプロセスに依存させることができる。シングルパターン形成EUVリソグラフィで使用する場合には、一般的には、欠陥の少なく、パターン形成の再現性がよいパターンが得られるように、コーティングの厚みを選択する。いくつかの実施態様においては、好適なコーティングの厚みは、0.5nm~100nmの間、さらなる実施態様においては約1nm~50nm、さらなる実施態様においては約2nm~25nmとするのがよい。当業者のよく理解していることであろうが、追加の範囲のコーティングの厚みも考えることができ、それらも本発明の開示に含まれる。
【0062】
基板は、一般的には、その上にコーティング物質をデポジットさせることを可能とする表面を提供するが、それが、複数の層で構成されていてもよいが、その中でも、表面は、最上層に関わっている。基板は、特には制限はなく、各種の適切な物質たとえば、シリコン、シリカ、その他の無機物質、たとえばセラミックス、及びポリマー物質などが含まれていてよい。
【0063】
デポジットさせて、放射線によるパターン形成可能なコーティングが形成された後で、放射線を用いた露光の前に、さらなる加工を採用することも可能である。いくつかの実施態様においては、そのコーティングを、30℃~300℃の間、さらなる実施態様においては50℃~200℃の間、さらなる実施態様においては80℃~150℃の間で加熱することもできる。その加熱は、いくつかの実施態様においては約10秒間~約10分間、さらなる実施態様においては約30秒間~約5分間、さらなる実施態様においては約45秒間~約2分間実施するのがよい。上記の明示された範囲の中で、温度及び加熱時間のさらなる範囲も予期され、想定される。
【0064】
組成物のパターン形成:
放射線は、一般的には、マスクを通してコーティングされた基板に直射することもできるし、或いは、放射線ビームを、調節可能な方法で、基板の上でスキャンさせることもできる。一般的に、放射線としては、電磁照射線、電子線(ベータ線)、又はその他好適な放射線を挙げることができる。一般的に、電磁照射線は、所望の波長又は波長範囲、たとえば可視光線、紫外光線、又はX線を有することができる。放射線パターンで達成可能な解像度は、一般的には、放射線の波長に依存し、一般的には、より短い波長の放射線を用いれば、より高い解像度パターンを得ることができる。したがって、特に高い解像度パターンを得るためには、紫外光、X線、又は電子線を使用するのが望ましい。
【0065】
国際標準のISO 21348(2007)(引用することにより本明細書に組み入れたものとする)によれば、紫外光とは、100nm以上から400nm未満までの間の波長を指している。クリプトンフルオリドレーザーは、248nmの紫外光のための光源として使用することができる。紫外光の範囲は、受理された標準では、いくつかの方法でさらに細分することも可能で、たとえば10nm以上から121nm未満までは極端紫外(EUV)、そして122nm以上から200nm未満までは遠紫外(FUV)である。アルゴンフルオリドレーザーからの193nm線は、FUVのための放射線源として使用可能である。13.5nmのEUV光が、リソグラフィのために使用されてきたが、この光は、高エネルギーレーザー又は放電パルスを使用して励起させたXe又はSnプラズマ源で発生させる。軟X線は、0.1nm以上から10nm未満までと定義することができる。
【0066】
電磁照射の量は、フルエンス又は線量によって特性決定することができるが、それは、暴露時間の間の積分した放射束によって得られる。いくつかの実施態様においては、好適な放射フルエンスは、約1mJ/cm~約200mJ/cm、さらなる実施態様においては約2mJ/cm~約150mJ/cm、さらなる実施態様においては約3mJ/cm~約100mJ/cmとすることができる。1つの実施態様においては、EUV照射を、約150mJ/cm以下の線量で、又は30kVで、約2mC/cm相当又はそれを超えない線量での電子ビームで実施することができる。当業者のよく認識していることであろうが、上で明示された範囲内の放射フルエンスのさらなる範囲も考えられ、それらも本発明の開示に含まれる。
【0067】
放射線、たとえば紫外(UV)、極紫外(EUV)、及び電子ビームへの露光、及びそれに続く加工の間に、Sn-C及び/又はSn-カルボキシレート結合が解離されて、より濃密で親水性の酸化物水酸化物ネットワークとなる。露光された領域における有機リガンドの相対濃度が低下するにつれて、露光された領域の極性が高くなり、そして露光された領域の親水性が高くなる。
【0068】
コーティング物質の設計に基づいて、照射された領域(コーティング物質が縮合されている)と、照射されなかった領域(実質的にSn-C結合が変化していないコーティング物質)との間で、物質の性質に大きなコントラストがあるようにすることができる。照射後に加熱処理を使用する実施態様では、その照射の後の加熱処理を、約45℃~約250℃、さらなる実施態様においては約50℃~約190℃、さらに次の実施態様においては約60℃~約175℃の温度で実施することができる。暴露後の加熱は、一般的には少なくとも約0.1分間、さらなる実施態様においては約0.5分間~約30分間、さらに次の実施態様においては約0.75分間~約10分間かけて実施することができる。当業者のよく認識していることであろうが、上で明示された範囲内の照射後の加熱温度及び時間のさらなる範囲も考えられ、それらも本発明の開示に含まれる。この、物質の中での高いコントラストの性能によって、そのパターンに、スムーズなエッジを有する高い解像度の線を形成させることが容易となるが、これについては、次のセクションで説明する。
【0069】
ネガ調の画像形成の場合には、その現像剤が、有機溶媒、たとえば前駆体溶液を形成させるときに使用した溶媒であってよい。一般的に、現像剤の選択に影響を与えるのは、以下の項目である:照射された場合と照射されていない場合との両方のコーティング物質に関する溶解性パラメーター、さらには現像剤の揮発性、引火性、毒性、粘性、及び他のプロセス物質との化学的な相互作用の可能性。具体的には、好適な現像剤としては、たとえば、以下のものが挙げられる:アルコール(たとえば、4-メチル-2-ペンタノール、1-ブタノール、イソプロパノール、1-プロパノール、メタノール)、乳酸エチル、エーテル(たとえば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール)、ケトン(ペンタノン、ヘキサノン、2-ヘプタノン、オクタノン)など。現像は、約5秒間~約30分間、さらなる実施態様においては約8秒間~約15分間、追加の実施態様においては約10秒間~約10分間で実施することができる。当業者のよく認識していることであろうが、上で明示された範囲内のさらなる範囲も考えられ、それらも本発明の開示に含まれる。主たる現像剤組成物に加えて、現像剤には、現像プロセスを容易とするための追加の組成物を含むことができる。好適な添加剤としては、たとえば粘度調節剤、可溶化助剤、又はその他の加工助剤が挙げられる。任意成分の添加剤を存在させる場合には、その現像剤には、約10重量パーセント以下の添加剤、さらなる実施態様においては約5重量パーセント以下の添加剤を含むことができる。当業者のよく認識していることであろうが、上で明示された範囲内の添加剤濃度のさらなる範囲も考えられ、それらも本発明の開示に含まれる。現像剤のブレンド物及び添加剤はさらに、米国特許出願公開第2020/0326627号明細書(Jiang et al.、タイトル「Organometallic Photoresist Developer Compositions and Processing Methods」)にも記載されている(参考として引用し本明細書に組み入れたものとする)。
【0070】
より弱い現像剤、たとえば希釈した有機現像剤、又はその中ではコーティング現像速度が遅いような組成物を用いる場合、加工速度を高めるために、より高温の現像プロセスを使用することができる。より強い現像剤の場合には、現像プロセスの温度を下げることにより、速度を低下させたり、及び/又は現像の動力学を調節したりすることができる。一般的に、現像の温度は、溶媒の揮発性に見合う適切な数値の間に調節するのがよい。さらには、現像剤-コーティングの界面近くでコーティング物質を溶解させる現像剤は、現像の際に超音波を用いて分散させることができる。現像剤は、各種の理にかなったアプローチ方法を使用して、パターン化させたコーティング物質に適用することができる。たとえば、パターン化させたコーティング物質の上に現像剤をスプレーすることができる。スピンコーティングを使用することもまた可能である。自動化された加工では、パドル法を使用することが可能で、一定の形態にある(in a stationary format)コーティング物質の上に現像剤を注ぐ。所望により、スピンリンシング及び/又は乾燥を用いて、現像プロセスを完了させることができる。好適なリンス溶液としては、たとえば、以下のものが挙げられる:超純水、水性水酸化テトラアルキルアンモニウム、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、及びそれらの組合せ。画像が現像できた後では、そのコーティング物質は、基板の上にパターンとして配置されている。
【0071】
いくつかの実施態様においては、無溶媒(ドライ)現像プロセスが、次の公開PCT特許に記載されているような、適切な熱現像又はプラズマ現像プロセスを使用して実施することができる:国際公開第2020/264158号パンフレット(Tan et al.、タイトル「Photoresist Development With Halide Chemistries」)(参考として引用し本明細書に組み入れたものとする)。オルガノスズフォトレジストコーティングでは、ドライ現像法は、ハロゲン含有プラズマ及びガス、たとえばHBr及びBClを使用して実施することができる。いくつかの場合においては、ドライ現像法の方が、たとえばパターン崩壊の抑制、スカムの低下、及び現像剤組成物、すなわちプラズマ及び/又はエッチガスの精密制御などの点で、ウェット現像法よりも有利である。
【0072】
現像工程が完了した後では、コーティング物質を熱処理することが可能で、物質をさらに縮合させ、さらに脱水し、高密度化するか、又は残存している現像剤を物質から除去する。この加熱処理は、その中で、オキシドコーティング物質が究極的なデバイスの中に組み込まれるような実施態様では、特に望ましいものとなり得るが、さらなるパターン形成を容易にするために、コーティング物質の安定化が望ましいのであれば、その中で、コーティング物質がレジストとして使用され、究極的には除去されるいくつかの実施態様では、加熱処理を実施するのが望ましい。特に、パターン化させたコーティング物質が所望のレベルのエッチ選択性を示すような条件下で、パターン化させたコーティング物質のベーキングを実施することができる。いくつかの実施態様においては、パターン化させたコーティング物質を、約100℃~約600℃、さらなる実施態様においては約175℃~約500℃、さらなる次の実施態様においては約200℃~約400℃の温度に加熱することができる。加熱は、少なくとも約1分間、他の実施態様においては約2分間~約1時間、さらなる実施態様においては約2.5分間~約25分間かけて実施することができる。加熱は、空気中、真空、又は不活性ガス雰囲気、たとえばAr若しくはN中で実施するのがよい。当業者のよく認識していることであろうが、上で明示された範囲内の加熱処理のための温度及び時間のさらなる範囲も考えられ、それらも本発明の開示に含まれる。同様にして、非加熱処理、たとえば、ブランケットUV暴露、又はOのような酸化性プラズマへの暴露もまた、同様のプロセスで採用してもよい。
【0073】
いくつかの実施態様においては、近接した構造の隣り合う線形セグメントが、約60nm以下(ハーフピッチで30nm以下)、いくつかの実施態様においては約50nm以下(ハーフピッチで25nm以下)、さらなる実施態様においては約34nm以下(ハーフピッチで17nm以下)の平均ピッチ(ハーフピッチ)を有することが可能である。ピッチは、設計から評価し、走査型電子顕微鏡法(SEM)、たとえばトップダウン画像を用いて確認することができる。本明細書で使用するとき、ピッチとは、繰り返されている構造素子の空間周期(spatial period)又は中心-中心距離を指しており、当技術分野において一般的に使用されているように、ハーフピッチは、ピッチの半分である。パターンのフィーチャー寸法もまた、フィーチャーの平均幅に関連させて記述することができるが、それは一般的には、コーナーなどから評価される。さらに、フィーチャー(feature)は、物質素子の間及び/又は物質素子までのギャップを指すことができる。平均幅は、いくつかの実施態様においては約25nm以下、さらなる実施態様においては約20nm以下、さらに次の実施態様においては約15nm以下とすることができる。当業者のよく認識していることであろうが、上で明示された範囲内のピッチ及び平均幅のさらなる範囲も考えられ、それらも本発明の開示に含まれる。
【0074】
いくつかの実施態様においては、平均線幅粗さを、約5.5nm以下、いくつかの実施態様においては約5nm以下、さらなる実施態様においては約4.5nm以下とすることができる。トップダウンSEM画像を解析して、平均線幅から3σの偏差を導き出すことによって実施される。その平均には、高周波数の粗さ及び低周波数の粗さ、すなわち、それぞれ短相関距離及び長相関距離が含まれる。有機レジストの線幅粗さは、主として長相関距離によって特徴づけられるが、それに対して本発明の有機金属コーティング物質は、顕著に短い相関距離を示す。パターン転写プロセスにおいては、エッチングプロセスの際に短相関粗さを均して、より高い忠実度のパターンを得ることができる。当業者のよく認識していることであろうが、上で明示された範囲内の線幅粗さのさらなる範囲も考えられ、それらも本発明の開示に含まれる。米国特許出願公開第2020/0124970号明細書(Kocsis et al.、タイトル「Patterned Organometallic Photoresists and Methods of Patterning」)に記載されているようにして、リンスを実施して、いくつかのパターン形成欠陥をさらに除去し、パターン忠実度を改良することが可能となる(参考として引用し本明細書に組み入れたものとする)。
【実施例
【0075】
実施例1:酸化的スタンニル化を介するノナ重水素化-tert-ブチルスズトリス(tert-ブトキシド)の調製:
この実施例では、アルキルハライドとして重水素化されたリガンドを導入する酸化的スタンニル化反応を使用した重水素化されたモノアルキルスズトリアルコキシドの合成を示す。
【0076】
nブチルリチウム(1.03mL、2.53mmol、ヘキサン中2.45M)を、ジエチルエーテル(4mL)中ジエチルアミン(0.262g、2.53mmol)の冷却溶液(-50℃)の中に添加した。数分後に、THF(4mL)中、塩化スズ(II)(0.160g、0.845mmol)及びカリウムtert-ブトキシド(0.095g、0.845mmol)のスラリーを添加した。その内容物を温めて0℃とし、2時間攪拌した。そのフラスコを再冷却して-50℃とし、THF中のノナ重水素化ヨウ化-tert-ブチルの溶液を滴下により添加した。16時間攪拌してから、tert-ブタノール(3.1当量)を添加した。0.25時間後に、真空下に溶媒を除去し、ペンタンを添加した。濾過により塩を除去し、真空下にペンタンを除去すると、ノナ重水素化-tert-ブチルスズトリス(tert-ブトキシド)が、無色の液状物として得られた。その化合物を分別蒸留によりさらに精製し、d9-tBuSn(O-t-Bu)の、C中でのH、13C、及び119Sn NMRスペクトルを測定し、それぞれ図1A、1B、及び1Cに示した。
【0077】
実施例2:グリニャール反応を介するノナ重水素化-tert-ブチルスズトリス(tert-ブトキシド)の調製:
パート1.d9-t-BuSn(NMeの合成。アルゴンを充満させたグローブボックスの中で、5Lの3口丸底フラスコに、Sn(NMe(827.5g、2805mmol、Sigma)を仕込んだ。そのフラスコに、脱水エーテル(2000mL)を添加した。所定量の重水素化されたt-BuMgCl(1500mL、2.06M(フレッシュに滴定)、3090mmol)を、別の2Lの2口丸底フラスコに添加した。それらのフラスコに蓋をして、シュレンクラインに取り付けた。Sn(NMeの溶液を、5Lのジャケット付き反応器に移し、240RPMで攪拌した。自動シリンジポンプを使用して、重水素化されたt-BuMgCl溶液を、5Lのジャケット付き反応器に、50mL・min-1の速度で送った。そのジャケット付き反応器の中の混合物の温度は、20℃に保持した。d9-t-BuMgCl溶液を完全に添加してから、その反応液を一夜攪拌した。
【0078】
そのようにして得られた混合物を、10Lの濾過反応器を通過させて、攪拌バーを備えた5Lの3口丸底フラスコの中へ移した。その5Lのジャケット付き反応器及び濾過反応器の中の固形物を、ペンタンを用いてリンスした(2×1L)。その洗液を、攪拌バーを備えた5Lの3口丸底フラスコの中に集め、真空下で揮発物を除去した。揮発物の除去が終わったら、粗反応生成物に相当する淡黄色の油状懸濁物が観察された。そのフラスコをグローブボックスの中に取り入れ、その粗反応生成物を、目の粗いフリット漏斗を通して濾過した。その濾液を、攪拌バーを備えた2Lの2口丸底フラスコの中に移し、それの栓をし、シュレンクラインに移した。その粗反応生成物を、ショートパス真空蒸留(500mTorr、65℃~75℃)により精製して1Lの受器フラスコに移すと、323~604g、37~70%の無色の油状物が得られ、d9-t-BuSn(NMeと同定された。
【0079】
パート2.d9-t-BuSn(NMeからのd9-t-BuSn(O-t-Bu)の合成。グローブボックスの中で、2-Lの2口-RBFに、約500-mLのペンタン及びパート1からのd9-t-BuSn(NMe(329.4g、1.07mol)を仕込んだ。そのフラスコを天秤上で風袋引きし、トリス(2-アミノエチル)アミン(3.91g、26.7mmol)を、注射器を介して、その反応混合物の中に直接添加した。マグネチックスターラーバーを加えてから、その反応物を密封し、シュレンクラインに接続した。ドライアイス/イソプロパノール浴の中で、そのフラスコを冷却した。別途に、1Lのシュレンクフラスコに、tert-ブタノール(292.2g、3.315mol)及び少量のペンタンを仕込んでから、シュレンクラインに接続した。シュレンクフラスコの中のアルコール/ペンタン溶液を、カニューレを介して、排ガスとして生成するNMeHのための酸トラップ溶液に配管で接続されている鉱油バブラーへの出口パージを備えた反応フラスコに移した。アルコールの添加が完了した後、その反応液を放置して室温とし、1時間攪拌した。1時間反応させてから、真空中で溶媒を除去し、その反応生成物を、真空蒸留(95~97℃、500mtorr)すると、435g(93%)の無色の油状物が得られた。
【0080】
実施例3:トリ重水素化メチルスズトリス(フェニルアセチリド)及びトリ重水素化メチルスズトリス(tert-ペントキシド)の調製:
この実施例では、重水素化されたスズトリス(フェニルアセチリド)及び相当するトリアルコキシドの合成を示す。
【0081】
nブチルリチウム(300mmol/ヘキサン中1.6M)を、ジエチルエーテル(500mL)中ジエチルアミン(350mmol)の冷溶液(-78℃)に添加した。数分後に、塩化スズ(II)(100mLテトラヒドロフラン中100mmol)を滴下により添加した。その内容物を温めて室温とし、2時間攪拌した。そのフラスコを再冷却して-78℃とし、トリ重水素化-ヨードメタン(120mmol)を添加した。そのようにして得られた反応混合物を放置して、16時間かけてRTとし、その時点で、真空中で溶媒を除去した。その内容物をジエチルエーテルの中に再溶解させ、シリカプラグ上で濾過した。次いで揮発物を除去すると、粗反応生成物(低融点の固形物)であるd3-MeSn(CCPh)が得られた。C中の反応生成物のH及び119NMRスペクトルを測定したが、それらのスペクトルを、それぞれ図2A及び2Bに示す。
【0082】
その粗反応生成物のd3-MeSn(CCPh)を2-メチル-2-ブタノール(100mL)の中に溶解させ、アリコートをNMRでモニターしながら、1週間加熱した。その揮発物を除去したが、転化が不十分であることが見出されたので、追加の2-メチル-2-ブタノール(100mL)を加え、さらに1週間反応させた。その揮発物を除去したが、それでもまだ転化が不十分であることが見出されたので、追加の2-メチル-2-ブタノール(300mL)を加え、さらに1週間反応させた。揮発物を除去してから、d3-MeSn(t-ペントキシド)反応生成物を、分別蒸留すると、透明な油状物が得られた。その反応生成物について、C中で119Sn及びH NMRを測定したが、それらのスペクトルを、それぞれ図3A及び3Bに示す。
【0083】
実施例4:ノナ重水素化-tert-ブチルスズトリス(tert-ブトキシド)のEUVによるパターン形成:
実施例1に従って調製されたノナ重水素化-tert-ブチルスズトリス(tert-ブトキシド)物質を、適切な量の4-メチル-2-ペンタノールの中に溶解させて、0.05M[Sn]溶液を形成させた。それに続けて、先に記述したようにして、スピン-コーティングにより、デポジットを実施した。
【0084】
SOGコーティングされたシリコンウェーハの上に、23.4±0.8nmのフィルム厚みで、一連のフィルムをデポジットさせた。それらのフィルムを、16P32(16nm線幅、32nmピッチ)パターンがプリントされるように設計されたマスクを採用した、NXE3400C EUVスキャナーを用いて、露光させた。その露光させたフィルムを各種の温度でベークし、次いでPGME+5%酢酸の現像剤を用いて現像した。現像の後で、それらのフィルムを250℃で60秒間ベークして、現像剤の残留物を除去した。
【0085】
そのようにして得られたパターンについて、Hitachi CG5000 CD-SEM(測長走査電子顕微鏡)を使用し、ビーム電圧800V、ビーム電流8.0pAで画像測定した。図4に、選択した画像及びそれぞれのパターンでの線量(mJ/cm2)、線幅(CD、nm)、及び線幅粗さ(LWR、nm)をまとめる。それぞれの画像の上にある見出しは、露光後のベーク温度を示している。それぞれのパターンは、目標の線幅(16nm)に最も近いCDを示している。
【0086】
実施例5:重水素化された化合物の比較
この実施例では、実施例1及び実施例2に従って調製された重水素化された化合物を比較する。
【0087】
パート1.FTIR分析:実施例1に従って調製されたノナ重水素化-tert-ブチルスズトリス(tert-ブトキシド)物質(「D1」)を、適切な量の4-メチル-2-ペンタノールの中に溶解させて、0.05M[Sn]溶液を形成させた。それに続けて、スピン-コーティングによるデポジットを実施して、SOGコーティングされたシリコンウェーハの上に、一連のフィルム(「F1」)を形成させた。それらのフィルムは、ベーク前の状態で、約28nmのフィルム厚みとなるようにデポジットされた。実施例2に従って調製されたノナ重水素化-tert-ブチルスズトリス(tert-ブトキシド)物質(「D2」)も同様に、適切な量の4-メチル-2-ペンタノールの中に溶解させて、0.05Mの[Sn]溶液を形成させ、それをSOGコーティングされたシリコンウェーハの上にスピン-コーティングさせて、第二のセットのフィルム(「F2」)を形成させた。それらのフィルムは、フィルムF1の場合と同一の条件でデポジットさせて、約28nmのフィルム厚みを得た。F1及びF2からのフィルムの試料のペアを、選択された加熱条件にかけた。コーティングの形成の結果、実質的に完全に加水分解され、加水分解可能なリガンドが除去されたので、それらは、さらなる分析は必要ないと考えられる。
【0088】
選択された加熱条件が完了したら、それぞれのフィルムをFTIRで分析した。図5で、加熱条件を変えた、フィルム試料F1及びF2の積重ねFTIRスペクトルを比較している:(A)ベークなし、(B)50℃ベーク、(C)100℃ベーク、(D)150℃ベーク、(E)180℃ベーク、(F)200℃ベーク、(G)240℃ベーク。それぞれのベーク時間は、120秒であった。C-H伸縮振動、CO吸収振動、及びC-D伸縮振動が、それぞれ、ボックス110、ボックス112、及びボックス114に示されている。そのFTIR測定を周囲雰囲気で実施したために、CO吸収領域が不明瞭であり、分析では無視した。
【0089】
(A)のスペクトルを見ると、F1からのフィルム試料は、C-H吸収ピークを示したが、それに対してF2からのフィルム試料には存在しなかった。F1及びF2からのフィルム試料は、類似のC-D吸収ピークを示した。この結果は、D1物質の中に非重水素化化合物が存在しているということを示唆している。非重水素化化合物は不純物であり、それはD2物質の中には存在していないが、このことは、グリニャール合成により調製された物質の純度は、酸化的スタンニル化合成により調製された物質よりも、有機化合物に関しては、より高い純度を有しているということを示唆している。重水素化された物質は、反応生成物と不純物との間での改良されたコントラストを示すという、分析的な利点を与える。(B)~(G)のスペクトルを見ると、F1からのフィルム試料は、50℃での加熱の後では、強度の低いC-H吸収ピークを示したが、100℃以上で加熱されたフィルムではそれらのピークが存在しない。この結果は、その不純物がポリマー性の化合物であり、高温では分解してしまったと考えられる。
【0090】
パート2.EUV露光による溶解度のコントラスト:パート1での記載と同様にして、シリコンウェーハの上にフィルムをデポジットさせた。D1、D2、及び非重水素化tert-ブチルスズトリス(tert-ブトキシド)(「P1」)の前駆物質溶液を、D1、D2、及びP2それぞれのフィルム(それぞれのフィルムの厚みはほぼ20nm)をデポジットさせるの適した濃度で調製した。その非重水素化組成物は、先に引用した’781出願の実施例5の記述に従って調製したが、t-アミルアルコールをt-ブチルアルコールに置き換えた。図6に示したコントラスト曲線では、フィルムの厚みは、18.3nm~18.5nmの間の範囲であった。
【0091】
フィルムは、Lawrence Berkeley National Laboratoryで、EUV Direct Contrast Toolを使用して露光させた。フィルムは、露光させる前に、100℃で2分間ベークさせた。直径約500μmの50本の円形露光領域のリニアアレイに、EUVの露光線量を上げながら、ウェーハの上に投射した。露光の後で、それらのフィルムを180℃で1分間ベークしてから、PGMEA中5容量%酢酸の溶液を用いて現像した。それぞれの露光されたパッドの厚みは、J.A.Woollam M-2000分光エリプソメータを用いて評価した。それぞれのパッドの厚みを、EUV線量の関数として、図6にプロットしている。コントラスト曲線120、124、及び128はそれぞれ、P1、D1、及びD2のフィルムに相当している。非露光及び低線量領域では、フィルム厚みが約8.6~8.8nmであったが、これは、SOGコーティングの厚みに相当する。曲線は、18.3nm~18.5nmの範囲の最大厚みにまで上昇する。コントラスト曲線120(物質P1)及びコントラスト曲線128(物質D2)の最大厚みは、ほぼ同じであるが、コントラスト曲線128(物質D1)は、わずかに低めの最大厚みを示している。表1に、それぞれの物質での、プロセス条件、現像剤組成物、及び得られた結果(D、D、及びコントラスト)をまとめる。
【0092】
【表1】
【0093】
それらの結果は、重水素化された物質D1及びD2は、非重水素化物質とは異なる放射線感度を有していることを示している。D1及びD2は、P1の場合のゲル化線量(dose-to-gel)よりも、約50%高いゲル化線量を有していた。同等の加工条件で反応がより遅いということは、重原子に期待されていた結果であった。しかしながら、D1及びD2は、P1と同等の溶解度コントラストを示した。物性においてこのようにコントラストが高いことによって、実施例4で示されたように、パターンにおけるスムーズなエッジを有する高精細ラインの生成が容易となる。重水素化された2つの物質を比較すると、D2の方が、D1よりもやや低いゲル化線量を示し、さらにはD1よりも良好な溶解度コントラストを示した。それらの結果は、重水素化された物質での放射線感度は、パート1のFTIR分析で確認し説明したように、不純物の存在に関連し、そのため、合成経路に依存し、グリニャール法が、より低いDを有する物質を与えるということを示唆している。改良されたEUVコントラスト。パート1の結果は、D2でのコントラストの改良は、不純物の低減と関係があるということを示唆している。
【0094】
この実施例では、重水素化されたオルガノスズ物質と非重水素化オルガノスズ物質との間の違いを示す。重水素化されたオルガノスズ物質は、非重水素化オルガノスズ物質よりも、分析面で有利であり、パターン形成性能を調節するのに使用することができる。
【0095】
さらなる本発明のコンセプト:
A. モノオルガノスズトリアルコキシド、モノオルガノスズトリアセチリド、又はモノオルガノスズトリカルボキシレートを合成するための方法であって、方法が、有機溶媒を含む溶液の中で、グリニャールアルキル化剤のRMgXをSnLと[ここで、Rは、1~31個の炭素原子を有するヒドロカルビル基であり、ここでXは、ハロゲンであり、そしてここでR’は、1~10個の炭素原子を有するヒドロカルビル基であり、そしてLは、R’COO、CCR’、又はOR’であるが、ここでR’は、1~10個の炭素原子及び任意成分のヘテロ原子を有している]反応させることを含む、方法。
A1. Rが、少なくとも1個の重水素原子を含む、本発明のコンセプトAに記載の方法。
A2. Rが、重水素を用いて置換された少なくとも1個の水素原子を有する、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、又はアリール基を含む、本発明のコンセプトAに記載の方法。
A3. Rが、過重水素化されている、本発明のコンセプトA又はA2に記載の方法。
A4. Rが、スズに対して、二級又は三級炭素のところで結合されている、本発明のコンセプトA~A3のいずれか1項に記載の方法。
A5. Rが、シアノ、チオ、エーテル、ケト、エステル、ハロゲン化基、又はそれらの組合せを含む、本発明のコンセプトA、A1、又はA3に記載の方法。
A6. R’が、メチル又はエチルである、本発明のコンセプトA~A6のいずれか1項に記載の方法。
A7. RMgXとSn(L)とが、ほぼ1:1のモル比にある、本発明のコンセプトA~A7のいずれか1項に記載の方法。
【0096】
上記の実施態様は、説明することを目的としており、本明細書を限定するものではない。追加の実施態様が、特許請求項の中にも存在する。それに加えて、特定の実施態様に関連して本発明を説明してきたが、当業者ならばよく認識するであろうが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、形態及び詳細に変化をもたらすことが可能である。上に参照した文献の組み込みはいずれも限定されていて、本明細書における明白な開示に反するいかなる主題も組み込まれてはいない。特定の構造物、組成物及び/又はプロセスが、成分(components)、素子(elements)、構成要素(ingredients)又はその他のパーティション(partitions)を用いて本明細書に記載されている限りにおいては、そうではないと特に断らない限り、本明細書における開示が、特定の実施態様においては、特定の成分、素子、構成要素、その他のパーティション、又はそれらの組合せを含む実施態様においては、さらには説明において示唆してきたような主題の基本的な本質を変化させない追加の特徴を含む、そのような特定の成分、構成要素、その他のパーティション、又はそれらの組合せから実質的になる実施態様をカバーしているものと理解されたい。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
【国際調査報告】