(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-30
(54)【発明の名称】ヘテロ二量体Fcドメイン抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/30 20060101AFI20240723BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240723BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240723BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240723BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240723BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240723BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240723BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240723BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240723BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240723BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240723BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240723BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20240723BHJP
【FI】
C07K16/30 ZNA
C07K16/46
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61P35/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K35/17
C12N5/0783
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502038
(86)(22)【出願日】2022-07-20
(85)【翻訳文提出日】2024-01-24
(86)【国際出願番号】 EP2022070338
(87)【国際公開番号】W WO2023001884
(87)【国際公開日】2023-01-26
(32)【優先日】2021-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514099673
【氏名又は名称】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ダロフスキ, ダイアナ
(72)【発明者】
【氏名】フライモサー-グルントショーバー, アン
(72)【発明者】
【氏名】クライン, クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】メスナー, エッケハルト
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA13
4C085BB01
4C085BB36
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4C085EE01
4C087BB65
4C087NA14
4C087ZB26
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA22
4H045EA28
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は一般に、ヘテロ二量体Fcドメイン抗体、並びにEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むそのような抗体に特異的に結合することができる抗原結合受容体との組み合わせに関する。本発明はまた、そのような抗原結合受容体で形質導入されたT細胞、及び形質導入されたT細胞とそのようなヘテロ二量体Fcドメインを含む腫瘍標的化抗体とを含むキットに関する。
【選択図】
図7A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるヘテロ二量体Fcドメインを含む抗体であって、ここで、第1のサブユニットは、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含み、第2のサブユニットは、EU番号付けによる329位にプロリン(P)を含む、抗体。
【請求項2】
前記FcドメインがIgG、特にIgG
1、Fcドメインである、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記FcドメインがヒトFcドメインである、請求項1又は2に記載の抗体。
【請求項4】
前記Fcドメインが、前記Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促進する修飾を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項5】
抗体が脱フコシル化されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項6】
ヘテロ二量体Fcドメインが、天然IgG
1 Fcドメインと比較して、Fc受容体に対する結合親和性の増加及び/又はエフェクター機能の増加を示し、特にエフェクター機能がADCCである、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項7】
ヘテロ二量体Fcドメインが、Fc受容体への結合及び/又はエフェクター機能を増加させる1つ又は複数のアミノ酸変異を含み、特にエフェクター機能がADCCである、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項8】
抗体が、標的細胞上の抗原に特異的に結合することができる少なくとも1つの抗原結合部分を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項9】
標的細胞が、がん細胞である、請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項10】
抗原が、FAP、CEA、p95 HER2、BCMA、EpCAM、MSLN、MCSP、HER-1、HER-2、HER-3、CD19、CD20、CD22、CD33、CD38、CD52Flt3、EpCAM、IGF-1R、FOLR1、Trop-2、CA-12-5、HLA-DR、MUC-1(ムチン)、GD2、A33抗原、PSMA、PSCA、トランスフェリン受容体、TNC(テネイシン)及びCA-IXからなる群から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項11】
抗原結合部分が、scFv、Fab、crossFab、又はscFabである、請求項8~10のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項12】
ヒト抗体、ヒト化抗体、又はキメラ抗体である、請求項1~11のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項13】
抗体が、多重特異性抗体である、請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の抗体をコードする単離されたポリヌクレオチド。
【請求項15】
請求項14に記載の単離されたポリヌクレオチドを含む宿主細胞。
【請求項16】
(a)抗体の発現に適した条件下で請求項15に記載の宿主細胞を培養する工程と、任意選択的に(b)抗体を回収する工程とを含む、抗体を産生する方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法によって産生される抗体。
【請求項18】
請求項1~13又は17のいずれか一項に記載の抗体及び薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物。
【請求項19】
がんの治療において組み合わせて使用するための、請求項1~13のいずれか一項に記載の抗体、及び形質導入されたT細胞であって、第1のサブユニットに特異的に結合できる抗原結合受容体を発現する、形質導入されたT細胞。
【請求項20】
抗原結合受容体が、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインサブユニットに特異的に結合することができる、請求項19に記載の使用のための抗体及び形質導入されたT細胞。
【請求項21】
抗原結合受容体が、
(a)RYWMN(配列番号1)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)EITPDSSTINYAPSLKG(配列番号2)又はEITPDSSTINYTPSLKG(配列番号40)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)PYDYGAWFAS(配列番号3)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変ドメイン(VH)と、
(d)RSSTGAVTTSNYAN(配列番号4)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)GTNKRAP(配列番号5)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)ALWYSNHWV(配列番号6)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変ドメイン(VL)と
を含む、請求項20に記載の使用のための抗体及び形質導入されたT細胞。
【請求項22】
抗原結合受容体が、
(i)CD8、CD3z、FCGR3A、NKG2D、CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10若しくはDAP12膜貫通ドメインからなる群から選択される膜貫通ドメイン若しくはその断片、特にCD28膜貫通ドメイン若しくはその断片、
(ii)CD3z、FCGR3A及びNKG2Dの細胞内ドメイン、若しくはそれらの断片からなる群から選択される少なくとも1つの刺激シグナル伝達ドメイン、特にCD3z細胞内ドメイン若しくはその断片である該少なくとも1つの刺激シグナル伝達ドメイン、並びに/又は
(iii)CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10及びDAP12の細胞内ドメイン、若しくはそれらの断片からなる群から個別に選択される少なくとも1つの共刺激シグナル伝達ドメイン、特にCD28細胞内ドメイン若しくはその断片である該少なくとも1つの共刺激シグナル伝達ドメイン
を含む、請求項19~21のいずれか一項に記載の使用のための抗体及び形質導入されたT細胞。
【請求項23】
形質導入されたT細胞が、抗体の投与前、投与と同時、又は投与後に投与される、請求項19~22に記載の使用のための抗体及び形質導入されたT細胞。
【請求項24】
個体におけるがんを治療する又は進行を遅延させる方法であって、有効量の抗体及び形質導入されたT細胞を前記個体に投与することを含み、ここで、抗体は、第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるヘテロ二量体Fcドメインを含み、第1のサブユニットは、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含み、第2のサブユニットは、EU番号付けによる329位にプロリン(P)を含み、形質導入されたT細胞は、第1のサブユニットに特異的に結合することができる抗原結合受容体を発現する、方法。
【請求項25】
抗原結合受容体が、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインサブユニットに特異的に結合することができる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
抗原結合受容体が、
(g)RYWMN(配列番号1)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(h)EITPDSSTINYAPSLKG(配列番号2)又はEITPDSSTINYTPSLKG(配列番号40)のCDR H2アミノ酸配列;
(i)PYDYGAWFAS(配列番号3)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変ドメイン(VH)と、
(j)RSSTGAVTTSNYAN(配列番号4)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(k)GTNKRAP(配列番号5)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(l)ALWYSNHWV(配列番号6)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変ドメイン(VL)と
を含む、請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
抗原結合受容体が、
(i)CD8、CD3z、FCGR3A、NKG2D、CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10若しくはDAP12膜貫通ドメインからなる群から選択される膜貫通ドメイン若しくはその断片、特にCD28膜貫通ドメイン若しくはその断片、
(ii)CD3z、FCGR3A及びNKG2Dの細胞内ドメイン、若しくはそれらの断片からなる群から選択される少なくとも1つの刺激シグナル伝達ドメイン、特にCD3z細胞内ドメイン若しくはその断片である該少なくとも1つの刺激シグナル伝達ドメイン、並びに/又は
(iii)CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10及びDAP12の細胞内ドメイン、若しくはそれらの断片からなる群から個別に選択される少なくとも1つの共刺激シグナル伝達ドメイン、特にCD28細胞内ドメイン若しくはその断片である該少なくとも1つの共刺激シグナル伝達ドメイン
を含む、請求項24~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
形質導入されたT細胞が、抗体の投与前、投与と同時、又は投与後に投与される、請求項24~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
がんの治療において形質導入されたT細胞と組み合わせて使用するための医薬の製造における抗体の使用であって、ここで、抗体は、第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるヘテロメリック(hetereomeric)Fcドメインを含み、第1のサブユニットは、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含み、第2のサブユニットは、EU番号付けによる329位にプロリン(P)を含み、形質導入されたT細胞は、第1のサブユニットに特異的に結合することができる抗原結合受容体を発現する、使用。
【請求項30】
抗原結合受容体が、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインサブユニットに特異的に結合することができる、請求項29に記載の使用。
【請求項31】
抗原結合受容体が、
(g)RYWMN(配列番号1)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(h)EITPDSSTINYAPSLKG(配列番号2)又はEITPDSSTINYTPSLKG(配列番号40)のCDR H2アミノ酸配列;
(i)PYDYGAWFAS(配列番号3)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変ドメイン(VH)と、
(j)RSSTGAVTTSNYAN(配列番号4)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(k)GTNKRAP(配列番号5)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(l)ALWYSNHWV(配列番号6)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変ドメイン(VL)と
を含む、請求項29又は30に記載の使用。
【請求項32】
抗原結合受容体が、
(i)CD8、CD3z、FCGR3A、NKG2D、CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10若しくはDAP12膜貫通ドメインからなる群から選択される膜貫通ドメイン若しくはその断片、特にCD28膜貫通ドメイン若しくはその断片、
(ii)CD3z、FCGR3A及びNKG2Dの細胞内ドメイン、若しくはそれらの断片からなる群から選択される少なくとも1つの刺激シグナル伝達ドメイン、特にCD3z細胞内ドメイン若しくはその断片である該少なくとも1つの刺激シグナル伝達ドメイン、並びに/又は
(iii)CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10及びDAP12の細胞内ドメイン、若しくはそれらの断片からなる群から個別に選択される少なくとも1つの共刺激シグナル伝達ドメイン、特にCD28細胞内ドメイン若しくはその断片である該少なくとも1つの共刺激シグナル伝達ドメイン
を含む、請求項29~31のいずれか一項に記載の使用。
【請求項33】
形質導入されたT細胞が、抗体の投与前、投与と同時、又は投与後に投与される、請求項29~32のいずれか一項に記載の使用。
【請求項34】
(a)第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるヘテロ二量体Fcドメインを含む抗体であって、ここで、第1のサブユニットは、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含み、第2のサブユニットは、EU番号付けによる329位にプロリン(P)を含む、抗体と、
(b)第1のサブユニットに特異的に結合することができる抗原結合受容体を発現することができる形質導入されたT細胞と、
を含むキット。
【請求項35】
(a)第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるヘテロ二量体Fcドメインを含む抗体であって、ここで、第1のサブユニットは、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含み、第2のサブユニットは、EU番号付けによる329位にプロリン(P)を含む、抗体と、
(b)第1のサブユニットに特異的に結合することができる抗原結合受容体をコードする単離されたポリヌクレオチドと、
を含むキット。
【請求項36】
実施例のいずれか又は添付の図面のいずれか1つを参照して実質的に上記に記載されたヘテロ二量体Fcドメイン及び抗原結合受容体を含む抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、ヘテロ二量体Fcドメイン抗体、並びにEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むそのような抗体に特異的に結合することができる抗原結合受容体との組み合わせに関する。本発明はまた、そのような抗原結合受容体で形質導入されたT細胞、及び形質導入されたT細胞とそのようなヘテロ二量体Fcドメインを含む腫瘍標的化抗体とを含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
養子T細胞療法(ACT)は、がん特異的T細胞を使用する強力な治療手法である(Rosenberg and Restifo,Science 348(6230)(2015),62-68)。ACTは、天然に存在する腫瘍特異的細胞、又はT細胞若しくはキメラ抗原受容体を使用した遺伝子操作によって特異的にされたT細胞を使用し得る(Rosenberg and Restifo,Science 348(6230)(2015),62-68)。ACTは、進行性及び他の治療抵抗性疾患、例えば、急性リンパ性白血病、非ホジキンリンパ腫又は黒色腫に罹患している患者でさえも、治療に成功し、寛解を誘導することができる(Dudley et al.,J Clin Oncol 26(32)(2008),5233-5239;Grupp et al.,N Engl J Med 368(16)(2013),1509-1518;Kochenderfer et al.,J Clin Oncol.(2015)33(6):540-549,doi:10.1200/JCO.2014.56.2025.Epub 2014 Aug 25)。
【0003】
しかし、ACTは、顕著な臨床有効性にもかかわらず、治療関連毒性によって制限される。ACTで使用される操作されたT細胞の特異性並びに結果として生じるオンターゲット及びオフターゲット効果は、主に、抗原結合受容体に実装された腫瘍標的化抗原結合部分によって駆動される。腫瘍抗原の非排他的発現又は発現レベルの時間差は重篤な副作用を引き起こしたり、治療の許容できない毒性のためにACTの中止に至ることさえある。
【0004】
さらに、効率的な腫瘍細胞溶解のための腫瘍特異的T細胞の利用可能性は、工学的に操作されたT細胞のin vivoでの長期生存と増殖能力に依存している。一方、T細胞のin vivoでの生存及び増殖はまた、健常組織の損傷をもたらし得る制御されないT細胞応答の持続に起因する望ましくない長期効果をもたらし得る(Grupp et al.2013 N Engl J Med 368(16):1509-18,Maude et al.2014 2014 N Engl J Med 371(16):1507-17)。
【0005】
重篤な治療関連毒性を抑制し、ACTの安全性を向上させるための手法の一つは、免疫シナプスにアダプター分子を導入することによってT細胞の活性化及び増殖を制限することである。そのようなアダプター分子は、例えば最近記載された葉酸-FITCスイッチ(Kim et al.J Am Chem Soc 2015;137:2832-2835)のような小分子二峰性スイッチを含む。さらなる手法には、T細胞の特異性を誘導して腫瘍細胞を標的化するタグを含む人工的に改変された抗体が含まれた(Ma et al.PNAS 2016;113(4):E450-458,Cao et al.Angew Chem 2016;128:1-6,Rogers et al.PNAS 2016;113(4):E459-468,Tamada et al.Clin Cancer Res 2012;18(23):6436-6445)。
【0006】
しかし、既存の手法にはいくつかの限界がある。分子スイッチに依存する免疫シナプスには、免疫応答を誘発したり非特異的なオフターゲット効果をもたらす可能性のあるエレメントを追加的に導入する必要がある。さらに、そのような多成分システムの複雑さは、治療有効性及び忍容性を制限する可能性がある。一方、既存の治療用モノクローナル抗体にタグ構造を導入することで、これらの構築物の有効性及び安全性プロファイルに影響を与える可能性がある。さらに、タグを付加することにより、当該抗体の製造をより複雑にする追加の改変工程及び精製工程が必要となるうえに、追加の安全性試験も必要となる。
【0007】
さらに、Fc受容体結合が低下した変異ドメインに特異的に結合することができる抗原結合受容体は、本発明者らによって以前に記載されている(国際公開第2018/177966号)。
【0008】
がん患者の治療における安全性及び/又は有効性を改善する可能性を有する改良された養子T細胞療法が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本明細書において提供されるのは、第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるヘテロ二量体Fcドメインを含む抗体であり、ここで、第1のサブユニットは、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含み、第2のサブユニットは、EU番号付けによる329位にプロリン(P)を含む。本発明による抗体は、死滅させるために抗P329G CAR-T細胞を効率的に動員することができる。さらに、本発明による抗体は、非特異的な交差活性化を伴わずに、FcgR依存性ADCCのために、NK細胞又は単球などの自然免疫細胞を効率的に動員することができる。
【0010】
CAR-T細胞と同時に自然免疫細胞を動員することは、とりわけ、最初に抗体を投与し、抗体がすでにADCC媒介の抗腫瘍効果とデバルキングを誘導した後の時点でのみCAR-T細胞を注入することによって、有害事象(サイトカイン放出症候群など)の軽減に役立つ可能性がある。さらに、CAR-T細胞と同時に自然免疫細胞を動員することは、腫瘍微小環境においてFcgR発現単球、マクロファージ、及び樹状細胞などの抗原提示細胞を活性化することにより、二次免疫応答の生成に特に役立つ可能性がある。
【0011】
したがって、第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるヘテロ二量体Fcドメインを含む抗体が提供され、ここで、第1のサブユニットは、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含み、第2のサブユニットは、EU番号付けによる329位にプロリン(P)を含む。
【0012】
一態様では、FcドメインはIgG、特にIgG1、Fcドメインである。
【0013】
一態様では、FcドメインはヒトFcドメインである。
【0014】
一態様では、Fcドメインは、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促進する修飾を含む。
【0015】
一態様では、抗体は脱フコシル化されている。
【0016】
一態様では、ヘテロ二量体Fcドメインは、天然IgG1 Fcドメインと比較して、Fc受容体に対する結合親和性の増加及び/又はエフェクター機能の増加を示し、特にエフェクター機能はADCCである。
【0017】
一態様では、ヘテロ二量体Fcドメインは、Fc受容体への結合及び/又はエフェクター機能を増加させる1つ又は複数のアミノ酸変異を含み、特にエフェクター機能はADCCである。
【0018】
一態様では、抗体は、標的細胞上の抗原に特異的に結合することができる少なくとも1つの抗原結合部分を含む。
【0019】
一態様では、上記標的細胞はがん細胞である。
【0020】
一態様では、抗原は、FAP、CEA、p95 HER2、BCMA、EpCAM、MSLN、MCSP、HER-1、HER-2、HER-3、CD19、CD20、CD22、CD33、CD38、CD52Flt3、EpCAM、IGF-1R、FOLR1、Trop-2、CA-12-5、HLA-DR、MUC-1(ムチン)、GD2、A33抗原、PSMA、PSCA、トランスフェリン受容体、TNC(テネイシン)及びCA-IXからなる群から選択される。
【0021】
一態様では、抗原結合部分は、scFv、Fab、crossFab、又はscFabである。
【0022】
一態様では、抗体はヒト抗体、ヒト化抗体、又はキメラ抗体である。
【0023】
一態様では、抗体は、多重特異性抗体である。
【0024】
さらに、本明細書に記載の抗体をコードする単離されたポリヌクレオチドが提供される。
【0025】
さらに、本明細書に記載の単離されたポリヌクレオチドを含む宿主細胞が提供される。
【0026】
さらに、(a)抗体の発現に適した条件下で本明細書に記載の宿主細胞を培養する工程と、任意選択的に(b)抗体を回収する工程とを含む、抗体を産生する方法が提供される。
【0027】
さらに、本明細書に記載の方法によって産生される抗体が提供される。
【0028】
さらに、本明細書に記載の抗体及び薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物が提供される。
【0029】
さらに、がんの治療において組み合わせて使用するための本明細書に記載の抗体及び形質導入されたT細胞が提供され、ここで、形質導入されたT細胞は、第1のサブユニットに特異的に結合できる抗原結合受容体を発現する。
【0030】
一態様では、抗原結合受容体は、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインサブユニットに特異的に結合することができる。
【0031】
一態様では、抗原結合受容体は、
(a)RYWMN(配列番号1)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)EITPDSSTINYAPSLKG(配列番号2)又はEITPDSSTINYTPSLKG(配列番号40)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)PYDYGAWFAS(配列番号3)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変ドメイン(VH)と、
(d)RSSTGAVTTSNYAN(配列番号4)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)GTNKRAP(配列番号5)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)ALWYSNHWV(配列番号6)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変ドメイン(VL)と
を含む。
【0032】
一態様では、抗原結合受容体は、
(i)CD8、CD3z、FCGR3A、NKG2D、CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10若しくはDAP12膜貫通ドメインからなる群から選択される膜貫通ドメイン若しくはその断片、特にCD28膜貫通ドメイン若しくはその断片、
(ii)CD3z、FCGR3A及びNKG2Dの細胞内ドメイン、若しくはそれらの断片からなる群から選択される少なくとも1つの刺激シグナル伝達ドメイン、特にCD3z細胞内ドメイン若しくはその断片である該少なくとも1つの刺激シグナル伝達ドメイン、並びに/又は
(iii)CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10及びDAP12の細胞内ドメイン、若しくはそれらの断片からなる群から個別に選択される少なくとも1つの共刺激シグナル伝達ドメイン、特にCD28細胞内ドメイン若しくはその断片である該少なくとも1つの共刺激シグナル伝達ドメイン
を含む。
【0033】
一態様では、形質導入されたT細胞は、抗体の投与前、投与と同時、又は投与後に投与される。
【0034】
さらに、個体におけるがんを治療する又は進行を遅延させる方法であって、有効量の抗体及び形質導入されたT細胞を前記個体に投与することを含む方法が提供され、ここで、抗体は、第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるヘテロ二量体Fcドメインを含み、第1のサブユニットは、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含み、第2のサブユニットは、EU番号付けによる329位にプロリン(P)を含み、形質導入されたT細胞は、第1のサブユニットに特異的に結合することができる抗原結合受容体を発現する。
【0035】
本方法の一態様では、抗原結合受容体は、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインサブユニットに特異的に結合することができる。
【0036】
本方法の一態様では、抗原結合受容体は、
(a)RYWMN(配列番号1)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)EITPDSSTINYAPSLKG(配列番号2)又はEITPDSSTINYTPSLKG(配列番号40)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)PYDYGAWFAS(配列番号3)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変ドメイン(VH)と、
(d)RSSTGAVTTSNYAN(配列番号4)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)GTNKRAP(配列番号5)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)ALWYSNHWV(配列番号6)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変ドメイン(VL)と
を含む。
【0037】
本方法の一態様では、抗原結合受容体は、
(i)CD8、CD3z、FCGR3A、NKG2D、CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10若しくはDAP12膜貫通ドメインからなる群から選択される膜貫通ドメイン若しくはその断片、特にCD28膜貫通ドメイン若しくはその断片、
(ii)CD3z、FCGR3A及びNKG2Dの細胞内ドメイン、若しくはそれらの断片からなる群から選択される少なくとも1つの刺激シグナル伝達ドメイン、特にCD3z細胞内ドメイン若しくはその断片である該少なくとも1つの刺激シグナル伝達ドメイン、並びに/又は
(iii)CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10及びDAP12の細胞内ドメイン、若しくはそれらの断片からなる群から個別に選択される少なくとも1つの共刺激シグナル伝達ドメイン、特にCD28細胞内ドメイン若しくはその断片である該少なくとも1つの共刺激シグナル伝達ドメイン
を含む。
【0038】
一態様では、形質導入されたT細胞は、抗体の投与前、投与と同時、又は投与後に投与される。
【0039】
さらに、がんの治療において形質導入されたT細胞と組み合わせて使用するための医薬の製造における抗体の使用が提供され、ここで、抗体は、第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるヘテロメリック(hetereomeric)Fcドメインを含み、第1のサブユニットは、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含み、第2のサブユニットは、EU番号付けによる329位にプロリン(P)を含み、形質導入されたT細胞は、第1のサブユニットに特異的に結合することができる抗原結合受容体を発現する。
【0040】
該使用の一態様では、抗原結合受容体は、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインサブユニットに特異的に結合することができる。
【0041】
一態様では、抗原結合受容体は、
(a)RYWMN(配列番号1)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)EITPDSSTINYAPSLKG(配列番号2)又はEITPDSSTINYTPSLKG(配列番号40)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)PYDYGAWFAS(配列番号3)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変ドメイン(VH)と、
(d)RSSTGAVTTSNYAN(配列番号4)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)GTNKRAP(配列番号5)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)ALWYSNHWV(配列番号6)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変ドメイン(VL)と
を含む。
【0042】
該使用の一態様では、抗原結合受容体は、
(i)CD8、CD3z、FCGR3A、NKG2D、CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10若しくはDAP12膜貫通ドメインからなる群から選択される膜貫通ドメイン若しくはその断片、特にCD28膜貫通ドメイン若しくはその断片、
(ii)CD3z、FCGR3A及びNKG2Dの細胞内ドメイン、若しくはそれらの断片からなる群から選択される少なくとも1つの刺激シグナル伝達ドメイン、特にCD3z細胞内ドメイン若しくはその断片である該少なくとも1つの刺激シグナル伝達ドメイン、並びに/又は
(iii)CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10及びDAP12の細胞内ドメイン、若しくはそれらの断片からなる群から個別に選択される少なくとも1つの共刺激シグナル伝達ドメイン、特にCD28細胞内ドメイン若しくはその断片である該少なくとも1つの共刺激シグナル伝達ドメイン
を含む。
【0043】
一態様では、形質導入されたT細胞は、抗体の投与前、投与と同時、又は投与後に投与される。
【0044】
さらに提供されるのは、
(a)第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるヘテロ二量体Fcドメインを含む抗体であって、ここで、第1のサブユニットは、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含み、第2のサブユニットは、EU番号付けによる329位にプロリン(P)を含む、抗体と、
(b)第1のサブユニットに特異的に結合することができる抗原結合受容体を発現することができる形質導入されたT細胞と、
を含むキットである。
【0045】
さらに提供されるのは、
(a)第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるヘテロ二量体Fcドメインを含む抗体であって、ここで、第1のサブユニットは、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含み、第2のサブユニットは、EU番号付けによる329位にプロリン(P)を含む、抗体と、
(b)第1のサブユニットに特異的に結合することができる抗原結合受容体をコードする単離されたポリヌクレオチドと、
を含むキットである。
【0046】
さらに、実施例のいずれか又は添付の図面のいずれか1つを参照して実質的に上記に記載されるようなヘテロ二量体Fcドメイン及び抗原結合受容体を含む抗体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1A-B】scFvフォーマットの抗P329G結合部分を有する第2世代キメラ抗原結合受容体の概略図。VH×VL scFv(
図1A)配向及びVL×VH(
図1B)配向。
【
図2】異なるヒト化scFvバリアントのCAR表面発現(
図2A)及び形質導入対照としての役割を果たす相関するGFP発現(
図2B)を示す。
【
図3A-C】結合部分としてP329Gバインダーの異なるヒト化バージョンを使用する抗P329G CAR JurkatレポーターT細胞の非特異的シグナル伝達の評価。活性化は、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、異なるFcバリアントを有する抗体の存在下での、又はP329G Fcバリアントを含むが標的細胞がない抗体の存在下での、CD3下流シグナル伝達の強度を定量化することにより評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図3D-F】結合部分としてP329Gバインダーの異なるヒト化バージョンを使用する抗P329G CAR JurkatレポーターT細胞の非特異的シグナル伝達の評価。活性化は、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、異なるFcバリアントを有する抗体の存在下での、又はP329G Fcバリアントを含むが標的細胞がない抗体の存在下での、CD3下流シグナル伝達の強度を定量化することにより評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図4A-C】FolR1に対する高い(16D5)、中程度(16D5 W96Y)又は低い(16D5 G49S/K53A)親和性を有する抗体と組み合わせて、高い(HeLa-FolR1)、中程度(Skov3)及び低い(HT29)標的発現レベルを有するFolR1
+標的細胞の存在下で異なるヒト化バージョンのP329Gバインダーを使用する抗P 329G CAR JurkatレポーターT細胞の活性化。活性化は、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、CD3下流シグナル伝達の強度の定量化によって評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図4D-F】FolR1に対する高い(16D5)、中程度(16D5 W96Y)又は低い(16D5 G49S/K53A)親和性を有する抗体と組み合わせて、高い(HeLa-FolR1)、中程度(Skov3)及び低い(HT29)標的発現レベルを有するFolR1
+標的細胞の存在下で異なるヒト化バージョンのP329Gバインダーを使用する抗P 329G CAR JurkatレポーターT細胞の活性化。活性化は、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、CD3下流シグナル伝達の強度の定量化によって評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図4G-I】FolR1に対する高い(16D5)、中程度(16D5 W96Y)又は低い(16D5 G49S/K53A)親和性を有する抗体と組み合わせて、高い(HeLa-FolR1)、中程度(Skov3)及び低い(HT29)標的発現レベルを有するFolR1
+標的細胞の存在下で異なるヒト化バージョンのP329Gバインダーを使用する抗P 329G CAR JurkatレポーターT細胞の活性化。活性化は、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、CD3下流シグナル伝達の強度の定量化によって評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図5】結合部分としてP329Gバインダーの異なるヒト化バージョンを使用する抗P329G CAR Jurkat NFATレポーターT細胞の活性化。レポーター細胞の活性を、IgG及びHeLa(FolR1
+)標的細胞を標的とする抗FolR1(16D5)P329G IgG1の存在下で評価した(
図5A)。抗体の用量依存性活性化を、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用したCD3下流シグナル伝達の強度の定量化によって評価し、曲線下面積を計算した(
図5B)。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図6】結合部分としてP329Gバインダーの異なるヒト化バージョンを使用する抗P329G CAR Jurkat NFATレポーターT細胞の活性化。レポーター細胞の活性を、IgG及びHeLa(HER2
+)標的細胞を標的とする抗HER2(ペルツズマブ)P329G IgG1の存在下で評価した(
図6A)。抗体の用量依存性活性化を、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用したCD3下流シグナル伝達の強度の定量化によって評価し、曲線下面積を計算した(
図6B)。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図7A】ノブ・イントゥ・ホール技術を用いて生成されたヘテロ二量体IgGが描かれている。
図7A:本発明によるIgG型抗体。一方の重鎖は、329位(Kabatによる番号付け)にプロリンを含み、これはこの位置の野生型アミノ酸である。もう一方の重鎖には、P329G(Eu命名法に従った番号付け)が存在する。この変異は、FcγR相互作用を破壊することが知られている。
【
図7B】ノブ・イントゥ・ホール技術を用いて生成されたヘテロ二量体IgGが描かれている。
図7B:さらなる実施態様では、抗体はさらに、変化したグリコシル化パターンを有する。発現細胞株のため、Fc領域のアスパラギン297に非フコシル化オリゴ糖が存在する(アフコシル化Fc)。この糖鎖操作されたバリアントは、増加した親和性でFcgRIIIに結合する。
【
図8】ヘテロ二量体IgGのP329G変異に結合する、scFvフォーマットの抗P329G結合部分を有する第2世代キメラ抗原結合受容体の概略図(
図8A)。ヘテロ二量体IgGに存在する非フコシル化オリゴ糖に結合するCD16細胞外部分を有する第二世代キメラ抗原結合受容体の概略図(
図8B)。
【
図9】WSUDLCL2 CD20
+標的細胞及び様々な濃度の抗CD20ヘテロ二量体IgG1、抗CD20 P329G LALA IgG1、抗CD20糖修飾IgG1又は抗CD20野生型IgG1の存在下での、ADCCレポーター細胞株として使用されるCD16-CARJurkatレポーターT細胞(
図9A)及び抗P329GCARJurkatレポーターT細胞(
図9B)の活性化。活性化は、CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、CD3下流シグナル伝達の強度の定量化によって評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図10】抗CD20ヘテロ二量体IgG1、抗CD20 P329G LALA IgG1、又は抗CD20糖鎖修飾IgG1の存在下でのCD16 CAR T細胞によるWSUDLCL2標的細胞の溶解が描かれている。描かれているのは技術的な重複であり、エラーバーはSDを示す。
【
図11】描かれているのは、抗CD20ヘテロ二量体IgG1、抗CD20 P329G LALA IgG1、抗CD20脱フコシル化IgG1及び野生型IgG1の、WSUDLCL2(CD20
+)とPBMCの共培養物におけるADCCを誘導する能力を示す棒グラフである。値は技術的トリプリケートから計算され、エラーバーは%SDを示す。
【
図12】抗CD20ヘテロ二量体IgG1、抗CD20 P329G LALA IgG、抗CD20脱フコシル化IgG1、及び野生型IgG1の存在下でのNK細胞の活性化。NK細胞の活性化は、CD107aの上方制御及びCD16受容体の下方制御によって実証された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図13A】抗CD20ヘテロ二量体GA101、抗CD20 P329G LALA GA101、抗CD20脱フコシル化GA101、又は抗CD20野生型GA101(野生型Fc)による治療後の、ドナー1(
図13A)の全血アッセイにおけるIFN-γ、IL-2、TNF-α、IL-6、IL-8及びMCP-1のレベル。新鮮な全血を、段階的に濃度を上げながら異なる抗CD20抗体とともにインキュベートする。24時間後に、技術的複製からの血清をプールし、サイトカインのレベルをLuminexによって測定した。
【
図13B】抗CD20ヘテロ二量体GA101、抗CD20 P329G LALA GA101、抗CD20脱フコシル化GA101、又は抗CD20野生型GA101(野生型Fc)による治療後の、ドナー2(
図13B)の全血アッセイにおけるIFN-γ、IL-2、TNF-α、IL-6、IL-8及びMCP-1のレベル。新鮮な全血を、段階的に濃度を上げながら異なる抗CD20抗体とともにインキュベートする。24時間後に、技術的複製からの血清をプールし、サイトカインのレベルをLuminexによって測定した。
【発明を実施するための形態】
【0048】
定義
以下で別途定義されない限り、用語は当該技術分野で一般的に使用されるように本明細書で使用される。
【0049】
本明細書の目的では、「アクセプターヒトフレームワーク」とは、以下に定義するように、ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークに由来する軽鎖可変ドメイン(VL)フレームワーク又は重鎖可変ドメイン(VH)フレームワークのアミノ酸配列を含むフレームワークである。ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークに「由来する」アクセプターヒトフレームワークは、その同じアミノ酸配列を含んでいてもよいし、アミノ酸配列の変化を含んでいてもよい。いくつかの態様では、アミノ酸変化の数は、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、又は2以下である。いくつかの態様では、VLアクセプターヒトフレームワークは、VLヒト免疫グロブリンフレームワーク配列又はヒトコンセンサスフレームワーク配列と配列が同一である。
【0050】
「活性化Fc受容体」は、抗体のFcドメインの結合に続いて、受容体保有細胞を刺激してエフェクター機能を実行するシグナル伝達事象を誘発するFc受容体である。ヒト活性化Fc受容体には、FcγRIIIa(CD16a)、FcγRI(CD64)、FcγRIIa(CD32)及びFcαRI(CD89)が含まれる。
【0051】
「親和性」は、分子(例えば、抗体)とその結合パートナー(例えば、抗原)との単一の結合部位の間の非共有性相互作用の合計の強度を指す。別途示されない限り、本明細書で使用される場合、「結合親和性」は、結合対のメンバー(例えば、抗体及び抗原)間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、通常、解離定数(KD)によって表すことができる。親和性は、本明細書に記載のものを含む、当技術分野で公知の一般的な方法により測定することができる。結合親和性を測定するための具体的な例示的方法を以下に記載する。
【0052】
「親和性成熟」抗体とは、1つ以上の相補性決定領域(CDR)において1つ以上の改変を有する抗体を指し、そのような改変を有しない親抗体と比較して、そのような改変は、抗原に対する抗体の親和性の改善をもたらす。
【0053】
「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」(「ADCC」)は、抗体でコートした標的細胞の免疫エフェクター細胞による溶解につながる免疫機構である。該標的細胞は、通常Fc領域に対するN末端であるタンパク質部分を介してFc領域を含む抗体又はその誘導体が特異的に結合する細胞である。本明細書で使用される場合、「ADCCの低減」という用語は、上で定義したADCCの機構により、標的細胞を取り囲む培地中の所定の抗体濃度で、所定の時間内に溶解される標的細胞の数の減少、及び/又はADCCの機構により、所定の時間内に所定の数の標的細胞の溶解を達成するために必要な、標的細胞を取り囲む培地中の抗体濃度の上昇のいずれかとして定義される。ADCCの低減は、同じ標準的な生産、精製、製剤化及び保存方法(これらは当業者には既知である)を用いて、同じタイプの宿主細胞によって生産された同じ抗体であるが操作されていない抗体によって媒介されるADCCと比較している。例えば、FcドメインにADCCを低減させるアミノ酸置換を含む抗体により媒介されるADCCの低減は、Fcドメインにこのアミノ酸置換をFcドメインに含まない同じ抗体によって媒介されるADCCと比較している。DCCを測定するための適切なアッセイは、当技術分野で周知である(例えば、PCT公開番号WO2006/082515又はPCT公開番号WO2012/130831を参照)。
【0054】
薬剤、例えば、薬学的組成物の「有効量」は、所望の治療結果又は予防結果を達成するために必要な投与量及び期間で有効な量を指す。
【0055】
「アミノ酸」とは、天然に存在するアミノ酸及び合成アミノ酸、並びに天然に存在するアミノ酸と同様に機能するアミノ酸アナログ及びアミノ模倣物を指す。天然に存在するアミノ酸とは、遺伝暗号によってコードされているアミノ酸と、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、O-ホスホセリンなど、後に修飾されるアミノ酸のことである。アミノ酸アナログとは、天然に存在するアミノ酸と同じ基本的な化学構造、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基及びR基に結合したα炭素を有する化合物、例えばホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを指す。このようなアナログは、修飾されたR基(例えばノルロイシン)又は修飾されたペプチド骨格を有するが、天然に存在するアミノ酸と同じ基本化学構造を保持している。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を持ちながら、天然に存在するアミノ酸と同様に機能する化合物を指す。アミノ酸は、一般に知られている3文字記号又はIUPAC-IUB生化学命名委員会が推奨する1文字記号のいずれかで称される。
【0056】
本明細書で使用される用語「アミノ酸変異」は、アミノ酸の置換、欠失、挿入、及び修飾を包含することを意味する。最終構築物が所望の特徴(例えば、Fc受容体への結合の低減又は別のペプチドとの会合の増加)を有することを条件として、置換、欠失、挿入及び修飾の任意の組み合わせを行って最終構築物に到達することができる。アミノ酸配列の欠失及び挿入には、アミノ酸のアミノ末端及び/又はカルボキシ末端の欠失及び挿入が含まれる。特定のアミノ酸変異はアミノ酸置換である。例えばFc領域の結合特性を変化させるためには、非保存的アミノ酸置換、すなわち1つのアミノ酸を異なる構造的及び/又は化学的特性を有する別のアミノ酸で置き換えることが特に好ましい。アミノ酸置換には、天然に存在しないアミノ酸による、又は20種類の標準アミノ酸(例えば、4-ヒドロキシプロリン、3-メチルヒスチジン、オルニチン、ホモセリン、5-ヒドロキシリジン)の天然に存在するアミノ酸誘導体による置き換えが含まれる。アミノ酸変異は、当技術分野で周知の遺伝学的方法又は化学的方法を用いて生成することができる。遺伝学的方法は、部位特異的変異誘発、PCR、遺伝子合成等を含み得る。化学修飾などの遺伝子工学以外の方法によってアミノ酸の側鎖基を改変する方法も有用であり得ることが考えられる。本明細書では、同じアミノ酸変異を示すために様々な名称が使用され得る。例えば、Fcドメインの329位におけるプロリンからグリシンへの置換は、329G、G329、G329、P329G又はPro329Glyと示され得る。
【0057】
「抗体」という用語は、本明細書では最も広い意味で用いられ、限定はしないが、それらが所望の抗原結合活性を呈する限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び抗体断片を含めた、様々な抗体構造を包含する。
【0058】
「抗体断片」とは、インタクトな抗体が結合する抗原に結合するインタクトな抗体の一部を含む、インタクトな抗体以外の分子を指す。抗体断片の例としては、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2;ダイアボディ;直鎖状抗体;一本鎖抗体分子(例えばscFv、及びscFab);単一ドメイン抗体(dAb)、及び抗体断片から形成された多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。特定の抗体断片の総説としては、Holliger and Hudson、Nature Biotechnology 23:1126-1136(2005)を参照。
【0059】
「抗原結合ドメイン」という用語は、抗原の一部又は全部に特異的に結合し、且つ抗原の一部又は全部に相補的な領域を含む抗体の部分を指す。抗原結合ドメインは、例えば、1つ以上の抗体可変ドメイン(抗体可変領域とも呼ばれる)によって提供されてもよい。特に、抗原結合ドメインは、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)及び抗体重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0060】
本明細書で使用される場合、「抗原結合分子」という用語は、その最も広い意味で、抗原決定基に特異的に結合する分子を指す。抗原結合分子の例は、免疫グロブリン及びその誘導体、例えばその断片、並びに抗原結合受容体及びその誘導体である。
【0061】
本明細書で使用される場合、「抗原結合部分」という用語は、抗原決定基に特異的に結合するポリペプチド分子を指す。一実施態様では、抗原結合部分は、それが結合する実体(例えば、該抗原結合部分を含む抗原結合受容体を発現している細胞)を標的部位へ、例えば特定の型の腫瘍細胞又は抗原決定基を有する腫瘍間質へと誘導することができる。抗原結合部分には、本明細書でさらに定義する抗体及びその断片が含まれる。特定の抗原結合部分は、抗体重鎖可変領域及び抗体軽鎖可変領域を含む、抗体の抗原結合ドメイン(例えば、scFv断片)を含む。特定の実施態様では、該抗原結合部分は、本明細書でさらに定義され、且つ当技術分野において公知の抗体定常領域を含み得る。有用な重鎖定常領域は、α、δ、ε、γ又はμの5種類のアイソタイプのいずれかを含む。有用な軽鎖定常領域は、2つのアイソタイプ:κ及びλのいずれかを含む。
【0062】
本発明の文脈において、「抗原結合受容体」という用語は、アンカー膜貫通ドメインと、少なくとも1つの抗原結合部分を含む細胞外ドメインとを含む抗原結合分子に関する。抗原結合受容体は、異なる供給源からのポリペプチド部分から作ることができる。したがって、抗原結合受容体は、「融合タンパク質」及び/又は「キメラタンパク質」としても理解され得る。通常、融合タンパク質は、もともと別々のタンパク質をコードしていた2つ以上の遺伝子(好ましくはcDNA)を結合して作られるタンパク質である。この融合遺伝子(又は融合cDNA)を翻訳すると、好ましくは、元のタンパク質のそれぞれに由来する機能特性を持つ単一のポリペプチドが得られる。組換え融合タンパク質は、生物学的研究又は治療における使用のために、組換えDNA技術によって人工的に作られる。本発明の抗原結合受容体のさらなる詳細は、本明細書において後述する。本発明の文脈において、CAR(キメラ抗原受容体)は、それ自体が細胞内シグナル伝達ドメインに融合しているアンカー膜貫通ドメインにスペーサー配列によって融合された抗原結合部分を含む細胞外部分を含む抗原結合受容体であると理解される。
【0063】
「抗原結合部位」とは、抗原との相互作用を提供する抗原結合分子の部位、すなわち1つ又は複数のアミノ酸残基を指す。例えば、抗体の抗原結合部位は、相補性決定領域(CDR)のアミノ酸残基を含む。天然の免疫グロブリン分子は、典型的には2つの抗原結合部位を有し、Fab分子は、典型的には単一の抗原結合部位を有する。
【0064】
用語「抗原結合ドメイン」は、抗原の一部又は全部に特異的に結合し、且つ抗原の一部又は全部に相補的な領域を含む抗体又は抗原結合受容体の部分を指す。抗原結合ドメインは、例えば、1つ又は複数の免疫グロブリン可変ドメイン(可変領域とも呼ばれる)により提供され得る。特に、抗原結合ドメインは、免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL)及び免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0065】
本明細書で使用される場合、「抗原決定基」という用語は、「抗原」及び「エピトープ」と同義であり、抗原結合部分が結合して抗原結合部分-抗原複合体を形成する、ポリペプチド高分子上の部位(例えばアミノ酸の連続ストレッチ又は非連続アミノ酸の異なる領域から構成される立体構造(conformational configuration)を指す。有用な抗原決定基は、例えば、腫瘍細胞の表面上に、ウイルス感染した細胞の表面上に、他の疾患細胞の表面上に、免疫細胞の表面上に、血清中で遊離して、及び/又は細胞外マトリックス(ECM)中に認めることができる。特に断らない限り、本明細書において抗原と呼ばれるタンパク質は、霊長類(例えばヒト)及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)などの哺乳動物を含む任意の脊椎動物源由来のタンパク質の天然型を指す。特定の実施態様では、抗原は、ヒトタンパク質である。本明細書において特定のタンパク質が言及される場合、その用語は、「完全長」、未処理のタンパク質だけではなく、細胞内でのプロセシングから生じる任意の型のタンパク質を包含する。この用語はまた、天然に存在するタンパク質バリアント、例えば、スプライスバリアント又は対立遺伝子バリアントを包含する。
【0066】
本発明による「ヘテロ二量体Fcドメインを含む抗体」は、1つ、2つ、3つ又はそれ以上の結合ドメインを有し得、単一特異性、二重特異性又は多重特異性であり得る。該抗体は、単一種からの完全長であっても、キメラ化若しくはヒト化されていてもよい。2つを超える抗原結合ドメインを持つ抗体の場合、一部の結合ドメインが同一であり、且つ/又は同じ特異性を有する場合がある。
【0067】
本明細書で使用される「ATD」という用語は、細胞の1つ又は複数の細胞膜に組み込むことができるポリペプチドストレッチを画定する「アンカー膜貫通ドメイン」を指す。ATMは細胞外及び/又は細胞内ポリペプチドドメインに融合することができ、これらの細胞外及び/又は細胞内ポリペプチドドメインは、細胞膜に限局している。本発明の抗原結合受容体の場合、ATMは、本発明の抗原結合受容体の膜付着及び限局を付与する。本発明の抗原結合受容体は、少なくとも1つのATMと、抗原結合部分を含む細胞外ドメインとを含む。また、ATMは細胞内シグナル伝達ドメインに融合している場合もある。
【0068】
「特異的結合」とは、結合が抗原に対して選択的であり、望ましくない相互作用又は非特異的相互作用から区別できることを意味する。抗原結合部分が特定の抗原決定基に結合する能力は、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)又は当業者には知られている他の技術、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)技術(BIAcore機器で分析される)(Liljeblad et al.,Glyco J 17,323-329(2000))、及び従来の結合アッセイ(Heeley,Endocr Res 28,217-229(2002))のいずれかによって測定することができる。一実施態様では、無関係なタンパク質に対する抗原結合部分の結合の程度は、例えばSPRによって測定される抗原に対する抗原結合部分の結合の約10%未満である。特定の実施態様では、抗原に結合する抗原結合部分、又は抗原結合部分を含む抗原結合分子は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、又は≦0.001nM(例えば、10-8M以下、例えば10-8M~10-13M、例えば、10-9M~10-13M)の解離定数(KD)を有する。
【0069】
本明細書で使用される「CDR」という用語は、当技術分野で周知の「相補性決定領域」に関する。CDRは、免疫グロブリン又は抗原結合受容体の一部であり、前記分子の特異性を決定し、特定のリガンドと接触させるものである。CDRは該分子の最も可変的な部分であり、このような分子の抗原結合多様性に寄与している。各Vドメインには、3つのCDR領域CDR1、CDR2及びCDR3が存在する。CDR-Hは可変重鎖のCDR領域を表し、CDR-Lは可変軽鎖のCDR領域を表す。VHは可変重鎖を意味し、VLは可変軽鎖を意味する。Ig由来領域のCDR領域は、「Kabat」(Sequences of Proteins of Immunological Interest”,第5版,NIH Publication no.91-3242 U.S.Department of Health and Human Services(1991)、Chothia J.Mol.Biol.196(1987),901-917)又は「Chothia」(Nature 342(1989),877-883)において説明されるように決定されることができる。
【0070】
「CD3z」は、T細胞表面糖タンパク質CD3ゼータ鎖を指し、「T細胞受容体T3ゼータ鎖」や「CD247」としても知られる。
【0071】
「キメラ抗体」という用語は、重鎖及び/又は軽鎖の一部が特定の供給源又は種に由来し、重鎖及び/又は軽鎖の残りの部分が異なる供給源又は種に由来する抗体を指す。
【0072】
「キメラ抗原受容体」又は「キメラ受容体」又は「CAR」という用語は、スペーサー配列によって細胞内シグナル伝達ドメイン/共シグナル伝達ドメイン(例えば、CD3z及びCD28の)に融合された、抗原結合部分の細胞外部分(例えば一本鎖抗体ドメイン)から構成された抗原結合受容体を指す。
【0073】
抗体の「クラス」は、その重鎖によって保有される定常ドメイン又は定常領域のタイプを指す。抗体の5つの主なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMがあり、これらのいくつかは、さらにサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2に分けることができる。特定の態様では、抗体は、IgG1アイソタイプのものである。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2つのタイプのいずれかに割り当てることができる。
【0074】
本出願で使用される「ヒト起源の定常領域」又は「ヒト定常領域」という用語は、サブクラスIgG1、IgG2、IgG3若しくはIgG4のヒト抗体の定常重鎖領域及び/又は定常軽鎖カッパ若しくはラムダ領域を意味する。そのような定常領域は当技術分野で公知であり、例えば、Kabat,E.A.,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)に記載されている(例えば、Johnson,G.,and Wu,T.T.,Nucleic Acids Res.28(2000)214-218;Kabat,E.A.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 72(1975)2785-2788も参照)。本明細書で特に明記されない限り、定常領域におけるアミノ酸残基の番号付けは、Kabat,E.A.et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991),NIH Publication 91-3242に記載されるような、EU番号付けシステム(KabatのEUインデックスとも呼ばれる)に従う。
【0075】
「クロスオーバー」Fab分子(「Crossfab」とも称される)とは、Fab重鎖の可変ドメインとFab軽鎖の可変ドメインが交換されている(すなわち互いによって置き換えられている)Fab分子を意味し、すなわちクロスオーバーFab分子は、軽鎖可変ドメインVL及び重鎖定常ドメイン1 CH1(VL-CH1、N末端からC末端の方向に)から構成されるペプチド鎖と、重鎖可変ドメインVH及び軽鎖定常ドメインCL(VH-CL、N末端からC末端の方向に)から構成されるペプチド鎖とを含む。明確にするために本明細書では、Fab軽鎖の可変ドメインとFab重鎖の可変ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子において、重鎖定常ドメイン1 CH1 を含むペプチド鎖をクロスオーバーFab分子の「重鎖」と呼ぶ。
【0076】
本明細書で使用される「CSD」という用語は、共刺激シグナル伝達ドメインを指す。
【0077】
「エフェクター機能」とは、抗体のアイソタイプによって異なる、抗体のFc領域に起因する生物学的活性を指す。抗体エフェクター機能の例としては:C1q結合及び補体依存性細胞傷害性(CDC)、Fc受容体結合、抗体依存性細胞媒介細胞傷害性(ADCC)、食作用、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)のダウンレギュレーション、並びにB細胞活性化が挙げられる。
【0078】
本明細書で使用される場合、「操作する、操作された、操作」という用語は、ペプチド骨格の任意の操作、又は天然に存在するポリペプチド若しくは組み換えポリペプチド又はその断片の翻訳後修飾を含むと考えられる。工学的操作には、アミノ酸配列の修飾、グリコシル化パターンの修飾又は個々のアミノ酸の側鎖基の修飾と、これらの手法の組み合わせとが含まれる。
【0079】
「発現カセット」という用語は、標的細胞における特定の核酸の転写を可能にする一連の特定の核酸エレメントを有する、組換え的又は合成的に生成されたポリヌクレオチドを指す。組換え発現カセットは、プラスミド、染色体、ミトコンドリアDNA、プラスチドDNA、ウイルス、又は核酸断片に組み込むことができる。典型的には、発現ベクターの組換え発現カセット部分には、他の配列の中でも特に、転写される核酸配列及びプロモーターが含まれる。特定の実施態様では、本発明の発現カセットは、本発明の二重特異性抗原結合分子をコードするポリヌクレオチド配列又はその断片を含む。
【0080】
「Fab分子」は、免疫グロブリンの重鎖のVH及びCH1ドメイン(「Fab重鎖」)と、軽鎖のVL及びCLドメイン(「Fab軽鎖」)とからなるタンパク質を指す。
【0081】
本明細書の「Fcドメイン」又は「Fc領域」という用語は、定常領域の少なくとも一部を含有する免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。この用語には、天然配列Fc領域及び変異Fc領域が含まれる。一態様では、ヒトIgG重鎖Fc領域は、Cys226から、又はPro230から、重鎖のカルボキシル末端までに及ぶ。しかしながら、宿主細胞によって産生された抗体は、重鎖のC末端から1つ又は複数、特に1つ又は2つのアミノ酸の翻訳後切断を受けることがある。したがって、完全長重鎖をコードする特定の核酸分子の発現により宿主細胞によって産生された抗体は、完全長重鎖を含んでいても、完全長重鎖の切断されたバリアントを含んでいてもよい。これは、重鎖の最後の2つのC末端アミノ酸がグリシン(G446)とリジン(K447、EU番号付けシステム)である場合に当てはまる。したがって、Fc領域のC末端リジン(Lys447)、又はC末端グリシン(Gly446)及びリジン(Lys447)が存在してもよく、又は存在していなくてもよい。Fc領域を含む重鎖のアミノ酸配列は、本明細書においては、特に示されない限り、C末端グリシン-リジンジペプチドなしで示される。一態様では、本発明による抗体に含まれる、本明細書に明記されたFc領域を含む重鎖は、追加のC末端グリシン-リジンジペプチド(G446及びK447、EU番号付けシステム)を含む。一態様では、本発明による抗体に含まれる、本明細書に明記されるFc領域を含む重鎖は、追加のC末端グリシン残基(G446、EUインデックスによる番号付け)を含む。本明細書中で特に指定しない限り、Fc領域又は定常領域におけるアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991に記載されているような、EU番号付けシステム(EUインデックスとも呼ばれる)に従う。
【0082】
「フレームワーク」又は「FR」は、相補性決定領域(CDR)以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、一般に、4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3及びFR4からなる。したがって、CDR及びFR配列は、一般的に、VH(又はVL)中において以下の配列で現れる:FR1-CDR-H1(CDR-L1)-FR2-CDR-H2(CDR-L2)-FR3-CDR-H3(CDR-L3)-FR4。
【0083】
「全長抗体」、「インタクトな抗体」、及び「全抗体」という用語は、本明細書では互換的に使用され、天然の抗体構造と実質的に同様の構造を有する抗体、又は本明細書で定義されるFc領域を含む重鎖を有する抗体を指す。
【0084】
「融合した」とは、成分同士(例えば、Fab及び膜貫通ドメイン)が、ペプチド結合により、直接的に又は1つ若しくは複数のペプチドリンカーを介して結合されていることを意味する。
【0085】
「宿主細胞」、「宿主細胞株」、及び「宿主細胞培養物」という用語は互換的に使用され、外因性核酸が導入された細胞(そのような細胞の子孫を含む)を指す。宿主細胞には、「形質転換体」及び「形質転換細胞」が含まれ、これらには、初代形質転換細胞と、継代の数に関係なく、それに由来する子孫とが含まれる。子孫は、核酸の含有量が親細胞と完全に同一でなくてもよく、変異を含んでいてもよい。元の形質転換細胞においてスクリーニング又は選択されたものと同じ機能又は生物活性を有する変異子孫が、本明細書に含まれる。
【0086】
本明細書に記載の「ヘテロ二量体」Fcドメインとは、2つの非同一サブユニットから構成されるFcドメインを指す。例えば、Fcドメインサブユニットの一方が変異を含んでいてもよく、他方のFcドメインサブユニットは(同じ)変異を含んでいない。
【0087】
「ヒト抗体」は、ヒト若しくはヒト細胞により産生された抗体の、又はヒト抗体レパートリーを利用する非ヒト源に由来する抗体のアミノ酸配列、あるいは他のヒト抗体をコードする配列に対応するアミノ酸配列を有する抗体である。このヒト抗体の定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を明確に除外する。
【0088】
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVL又はVHフレームワーク配列の選択において最も一般的に生じるアミノ酸残基を表すフレームワークである。一般に、ヒト免疫グロブリンVL又はVH配列の選択は、可変ドメイン配列のサブグループからである。一般的には、配列のサブグループは、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,NIH Publication 91-3242,Bethesda MD(1991),vols.1-3におけるようなサブグループである。一態様では、VLについて、該サブグループは上掲のKabatらにあるようなサブグループカッパIである。一態様では、VHについて、該サブグループは上掲のKabatらにあるようなサブグループIIIである。
【0089】
「ヒト化」抗体とは、非ヒトCDR由来のアミノ酸残基及びヒトFR由来のアミノ酸残基を含むキメラ抗体を指す。特定の態様では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、CDRの全て又は実質的に全てが非ヒト抗体のCDRに対応し、FRの全て又は実質的に全てがヒト抗体のFRに対応する。ヒト化抗体は、任意選択的に、ヒト抗体由来の抗体定常領域の少なくとも一部を含んでもよい。抗体、例えば、非ヒト抗体の「ヒト化形態」は、ヒト化を受けた抗体を指す。
【0090】
本明細書で使用される「超可変領域」又は「HVR」という用語は、配列内で超可変であり、抗原結合特異性を決定する、抗体可変ドメインの領域、例えば「相補性決定領域」(CDR)のそれぞれを意味する。
【0091】
一般に、抗体は6つのCDRを含み、3つがVHにあり(CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3)、3つがVLにある(CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3)。本明細書の例示的なCDRには、以下が含まれる:
(a)アミノ酸残基26~32(L1)、50~52(L2)、91~96(L3)、26~32(H1)、53~55(H2)、及び96~101(H3)に存在する超可変ループ(Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.196:901-917(1987))、
(b)アミノ酸残基24~34(L1)、50~56(L2)、89~97(L3)、31~35b(H1)、50~65(H2)、及び95~102(H3)に存在するCDR(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991))、並びに
(c)アミノ酸残基27c~36(L1)、46~55(L2)、89~96(L3)、30~35b(H1)、47~58(H2)、及び93~101(H3)に存在する抗原接触部位(MacCallum et al.J.Mol.Biol.262:732-745(1996))。
【0092】
特に指示がない限り、CDRは、上掲のKabatらに従い決定される。当業者は、CDRの表記は、上掲のChothia、上掲のMcCallum、又は任意の他の科学的に認められた命名システムに従い決定することもできることを理解するであろう。
【0093】
「イムノコンジュゲート」とは、細胞傷害性剤を含むがそれに限定されない、1つ又は複数の異種分子にコンジュゲートされた抗体である。
【0094】
「個体」又は「対象」は、哺乳動物である。哺乳動物には、限定されないが、家畜動物(例えばウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ及びウマ)、霊長類(例えばヒト、及びサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、及びげっ歯類(例えばマウス及びラット)が含まれる。特定の態様では、個体又は対象は、ヒトである。
【0095】
「単離された」抗体は、その天然環境の成分から分離された抗体である。いくつかの態様では、抗体は、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点(IEF)、キャピラリー電気泳動)又はクロマトグラフィー(例えば、イオン交換又は逆相HPLC)法によって決定される場合、純度が95%又は99%より高くなるまで精製される。抗体純度の評価のための方法の総説については、例えば、Flatman et al.,J.Chromatogr.B 848:79-87(2007)を参照されたい。
【0096】
「免疫グロブリン分子」という用語は、天然に存在する抗体の構造を有するタンパク質を指す。例えば、IgGクラスの免疫グロブリンは、ジスルフィド結合している2つの軽鎖及び2つの重鎖から構成される約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端まで、各重鎖は可変重鎖ドメイン又は重鎖可変領域とも呼ばれる可変ドメイン(VH)を有し、それに続いて重鎖定常領域とも呼ばれる3つの定常ドメイン(CH1、CH2、及びCH3)を有する。同様に、N末端からC末端まで、各軽鎖は可変軽鎖ドメイン又は軽鎖可変領域とも呼ばれる可変ドメイン(VL)を有し、それに続いて軽鎖定常領域とも呼ばれる定常軽鎖(CL)ドメインを有する。免疫グロブリンの重鎖は、α(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)又はμ(IgM)と呼ばれる5種類のうちの1つに割り当てることができ、そのうちのいくつかはサブタイプ、例えばγ1(IgG1)、γ2(IgG2)、γ3(IgG3)、γ4(IgG4)、α1(IgA1)及びα2(IgA2)にさらに分類することできる。免疫グロブリンの軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2種類の1つに割り当てられてもよい。免疫グロブリンは、本質的に、免疫グロブリンのヒンジ領域を介して結合された2つのFab分子とFcドメインからなる。
【0097】
「単離された核酸」とは、自然環境の構成要素から切り離されている核酸分子のことである。単離された核酸には、通常核酸分子を含む細胞内に含まれる核酸分子が含まれるが、核酸分子は、染色体外又は天然の染色体位置とは異なる染色体位置に存在する。
【0098】
本発明の参照ヌクレオチド配列と、例えば、少なくとも95%「同一」であるヌクレオチド配列を有する核酸又はポリヌクレオチドとは、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が、参照ヌクレオチド配列の各100ヌクレオチドあたり5つまでの点突然変異を含み得ること以外は、参照配列と同一であることを意味する。言い換えれば、参照ヌクレオチド配列と少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを得るために、参照配列中最大5%のヌクレオチドが欠失しているか又は別のヌクレオチドで置換されていてもよく、あるいは参照配列中の全ヌクレオチドの最大5%の数のヌクレオチドが参照配列に挿入されていてもよい。参照配列のこのような改変は、参照ヌクレオチド配列の5’若しくは3’末端位置で発生しても、これらの末端位置の間の任意の位置で発生してもよく、参照配列内の残基間に個別に散在しているか又は参照配列内に1つ若しくは複数の連続したグループで散在しているかのいずれかである。実際問題として、任意の特定のポリヌクレオチド配列が、本発明のヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるかどうかは、ポリペプチドについて後で考察するもの(例えば、ALIGN-2)のような公知のコンピュータプログラムを用いて、従来通りに決定することができる。
【0099】
「単離された」ポリペプチド若しくはバリアント又はその誘導体とは、その自然の環境にないポリペプチドの意味である。特定のレベルの精製は、必要とされない。例えば、単離されたポリペプチドは、その天然又は自然の環境から取り出すことができる。宿主細胞で発現した組換え生産ポリペプチド及びタンパク質は、任意の適切な技術により分離、断片化又は部分的若しくは実質的に精製された天然又は組換えポリペプチドと同様に、本発明のために単離されたものと見なされる。
【0100】
「Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットと会合を促進する修飾」は、Fcドメインサブユニットを含むポリペプチドと同一のポリペプチドとの会合によるホモ二量体の形成を低減又は防止する、ペプチド骨格の操作又はFcドメインサブユニットの翻訳後修飾である。本明細書で使用される会合を促進する修飾は、会合することが望ましい2つのFcドメインサブユニット(すなわちFcドメインの第1及び第2のサブユニット)の各々に対して行われる別々の修飾を特に含み、この修飾は2つのFcドメインサブユニットの会合を促進するために互いに対して相補的である。例えば、会合を促進する修飾は、Fcドメインサブユニットの一方又は両方の構造又は電荷を変化させて、それらの会合をそれぞれ立体的又は静電的に有利にすることができる。したがって、(ヘテロ)二量体化は、第1のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドと第2のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドとの間に起こり、これらは、サブユニットの各々に融合したさらなる構成成分(例えば抗原結合部分)が同じでないという意味で同一ではない可能性がある。いくつかの実施態様では、会合を促進する修飾は、Fcドメイン内のアミノ酸変異、具体的にはアミノ酸置換を含む。特定の実施態様では、会合を促進する修飾は、Fcドメインの2つのサブユニットの各々における別々のアミノ酸変異、具体的にはアミノ酸置換を含む。
【0101】
本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を意味し、すなわち該集団を構成する個々の抗体が、可能性のあるバリアント抗体(これらは例えば天然に存在する変異を含むか又はモノクローナル抗体調製物の製造中に生じ、そのようなバリアントは通常少量存在する)を除き、同一であり且つ/又は同じエピトープに結合する。モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、種々の決定基(エピトープ)に対する種々の抗体を通常含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、抗原上の単一の決定基に対するものである。したがって、修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の製造を必要とするものとして解釈されるべきではない。例えば、本発明によるモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、及びヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部又は一部を含有するトランスジェニック動物を利用する方法を含むがこれらに限定されない様々な技術によって製造することができ、これらの方法及びモノクローナル抗体を製造するためのその他の例示的な方法は本明細書に記載されている。
【0102】
「ネイキッド抗体」とは、異種部分(例えば、細胞傷害性部分)又は放射標識にコンジュゲートされていない抗体のことを指す。ネイキッド抗体は、薬学的組成物中に存在し得る。
【0103】
「天然抗体」とは、様々な構造を持つ、天然の免疫グロブリン分子を指す。例えば、天然IgG抗体は、ジスルフィド結合した2つの同一の軽鎖と2つの同一の重鎖から構成される、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端まで、各重鎖は、可変重鎖ドメイン又は重鎖可変領域とも呼ばれる可変ドメイン(VH)を有し、それに続いて3つの定常重鎖ドメイン(CH1、CH2及びCH3)を有する。同様に、N末端からC末端まで、各軽鎖は、可変軽鎖ドメイン又は軽鎖可変領域とも呼ばれる可変ドメイン(VL)を有し、それに続いて定常軽鎖(CL)ドメインを有する。
【0104】
参照ポリペプチド配列に対する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」とは、配列を整列させ、最大の配列同一性パーセントを得るために必要ならばギャップを導入した後、アライメントのためにいかなる保存的置換も配列同一性の一部として考慮しない場合の、参照ポリペプチドのアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージであると定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定するためのアラインメントは、当技術分野の技術の範囲内にある種々の方法で、例えば、公的に入手可能なコンピュータソフトウェア、例えば、BLAST、BLAST-2、ClustalW、Megalign(DNASTAR)ソフトウェア又はFASTAプログラムパッケージを使用して達成することができる。当業者は、比較される配列の完全長に対して最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列アラインメントを行うための適切なパラメータを決定することができる。あるいは、同一性パーセント値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使用して生成することができる。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムはジェネンテック社によって作成されたもので、そのソースコードは、利用者向け文書と共に米国著作権庁(ワシントンD.C.,20559)に提出されており、そこで米国著作権登録番号TXU510087として登録され、国際公開第2001/007611号に記載されている。
【0105】
特に明記しない限り、本明細書中の目的のために、アミノ酸配列同一性パーセント値は、FASTAパッケージバージョン36.3.8cのggsearchプログラム又はその後のBLOSUM50比較行列を使用して生成される。FASTAプログラムパッケージは、W.R.Pearson及びD.J.Lipman(1988),「Improved Tools for Biological Sequence Analysis」,PNAS 85:2444-2448;W.R.Pearson(1996)「Effective protein sequence comparison」Meth.Enzymol.266:227-258;及びPearson et.al.(1997)Genomics 46:24-36によって記載されており、www.fasta.bioch.virginia.edu/fasta_www2/fasta_down.shtml.又はwww.ebi.ac.uk/Tools/sss/fasta。代替的に、fasta.bioch.virginia.edu/fasta_www2/index.cgiでアクセス可能な公的なサーバーを使用して、ggsearch(global protein:protein)プログラム及びデフォルトオプション(BLOSUM50;オープン:-10;ext:-2;Ktup=2)を用い、ローカルではなくグローバルのアラインメントを確実に行い、配列を比較することができる。アミノ酸同一性パーセントは、出力アラインメントヘッダ中に与えられる。
【0106】
「核酸分子」又は「ポリヌクレオチド」という用語は、ヌクレオチドのポリマーを含む任意の化合物及び/又は物質を含む。各ヌクレオチドは、塩基、具体的には、プリン塩基又はピリミジン塩基(すなわち、シトシン(C)、グアニン(G)、アデニン(A)、チミン(T)又はウラシル(U))、糖(すなわち、デオキシリボース又はリボース)、及びリン酸基から構成されている。多くの場合、核酸分子は塩基の配列によって記述され、前記塩基は核酸分子の一次構造(線状構造)を表す。塩基の配列は、典型的には、5’から3’に向かって表される。本明細書において、核酸分子という用語は、デオキシリボ核酸(DNA)、例えば、相補性DNA(cDNA)及びゲノムDNA、リボ核酸(RNA)、特に、メッセンジャーRNA(mRNA)、DNA又はRNAの合成形態、及びこれらの分子の2つ以上を含む混合ポリマーを包含する。核酸分子は線状又は環状であり得る。さらに、核酸分子という用語は、センス鎖及びアンチセンス鎖、並びに一本鎖形態及び二本鎖形態の両方を含む。さらに、本明細書で記載される核酸分子は、天然に存在するヌクレオチド又は天然に存在しないヌクレオチドを含むことができる。天然に存在しないヌクレオチドの例としては、誘導体化された糖又はリン酸骨格結合又は化学的に修飾された残基を有する修飾ヌクレオチド塩基が挙げられる。核酸分子は、in vitro、及び/又は例えば宿主若しくは患者におけるin vivoにおいて、本発明の抗体の直接的な発現のためのベクターとして適したDNA分子及びRNA分子も包含する。そのようなDNA(例えば、cDNA)又はRNA(例えば、mRNA)ベクターは、修飾されていなくてもよく、又は修飾されていてもよい。例えば、mRNAは、in vivoにおいて抗体を産生するために対象にmRNAを注入することができるように、RNAベクターの安定性及び/又はコードされる分子の発現を高めるように化学修飾され得る(例えば、Stadler ert al,Nature Medicine 2017,2017年6月12日にオンライン公開,doi:10.1038/nm.4356又はEP2101823B1を参照のこと)。
【0107】
「添付文書」という用語は、治療用製品の市販パッケージに通例含まれる説明書であって、そのような治療用製品の使用に関する適応症、用法、用量、投与、併用療法、禁忌及び/又は警告についての情報を含む説明書を指すために使用される。
【0108】
「薬学的組成物」又は「薬学的製剤」という用語は、調製物に含まれる有効成分の生物活性が有効になるような形態をしており、また薬学的組成物が投与されるであろう対象に対して容認できないほど毒性のある追加の成分を含まない、調製物を指す。
【0109】
「薬学的に許容される担体」とは、薬学的組成物又は製剤中の、有効成分以外の、対象に対して非毒性の成分を指す。薬学的に許容される担体には、緩衝剤、添加物、安定剤、又は防腐剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0110】
「ポリペプチド」という用語は、2つ以上のアミノ酸の任意の鎖を指し、産物の特定の長さを指すものではない。したがって、ペプチド、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」又は2つ以上のアミノ酸の鎖を指す他のいずれの用語も「ポリペプチド」の定義の範囲内に含まれ、用語「ポリペプチド」は、これら用語の代わりに、又はこれらと互換的に、使用され得る。「ポリペプチド」という用語は、ポリペプチドの発現後修飾の産物を指すことも意図されており、このような産物には、限定されないが、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、既知の保護基/ブロッキング基による誘導体化、タンパク質切断、又は天然に存在しないアミノ酸による修飾が含まれる。ポリペプチドは、天然の生物学的供給源から得られるものでも組換え技術により生産されるものでもよいが、必ずしも指定された核酸配列から翻訳されたものであるとは限らない。ポリペプチドは、化学合成を含む任意の方法で生成され得る。本発明のポリペプチドは、約3以上、5以上、10以上、20以上、25以上、50以上、75以上、100以上、200以上、500以上、1000以上又は2000以上のアミノ酸からなる大きさのものであってよい。ポリペプチドは、明確に定義された三次元構造を有する場合もあるが、必ずしもそのような構造を有するとは限らない。明確に定義された三次元構造を有するポリペプチドは、「フォールディングされた」と言われ、明確に定義された三次元構造を有せずに多数の異なるコンフォメーションを採りうるポリペプチドは、「フォールディングされていない」といわれる。
【0111】
「ポリヌクレオチド」という用語は、単離された核酸分子又は構築物、例えばメッセンジャーRNA(mRNA)、ウイルス由来のRNA、又はプラスミドDNA(pDNA)を指す。ポリヌクレオチドは、一般的なホスホジエステル結合又は一般的ではない結合(例えば、ペプチド核酸(PNA)に見られるようなアミド結合)を含み得る。核酸分子という用語は、ポリヌクレオチド中に存在する任意の1つ又は複数の核酸セグメント、例えばDNA又はRNA断片を指す。
【0112】
「結合の低減」、例えばFc受容体への結合の減少は、例えばSPRによって測定される、それぞれの相互作用に対する親和性の減少を指す。明確にするために、この用語には、親和性がゼロ(又は分析法の検出限界未満)に低下すること、つまり相互作用が完全に消失することも含まれる。逆に、「結合の増加」とは、それぞれの相互作用に対する結合親和性の増加を指す。
【0113】
「調節配列」という用語は、連結されるコード配列の発現を効果的にするために必要なDNA配列を指す。このような調節配列の性質は、宿主生物によって異なる。原核生物において、調節配列にはプロモーター、リボソーム結合部位及びターミネーターが通常含まれる。真核生物においては、調節配列にはプロモーター、ターミネーター、場合によってはエンハンサー、トランス活性化因子又は転写因子が通常含まれる。「調節配列」という用語は、発現に必要な全ての構成要素を最低限含むことを意図しており、且つ追加の有利な構成要素も含み得る。
【0114】
本明細書において使用される用語「一本鎖」は、ペプチド結合により直線状に結合したアミノ酸単量体を含む分子を指す。特定の実施態様では、抗原結合部分の一方は、一本鎖Fab分子、すなわちFab軽鎖とFab重鎖がペプチドリンカーにより連結されて一本のペプチド鎖を形成しているFab分子である。このような特定の実施態様では、一本鎖Fab分子においてFab軽鎖のC末端がFab重鎖のN末端に連結している。好ましい実施態様では、抗原結合部分はscFv断片である。
【0115】
本明細書で使用される「SSD」という用語は、「共刺激シグナル伝達ドメイン」を指す。
【0116】
本明細書で使用される場合、「治療」(treatment)(及びその文法上の変化形、「治療する」(treat)又は「治療すること」(treating))は、治療される対象における疾患の自然経過を変えるための臨床的介入を指し、予防のために又は臨床病理の経過中に実施することができる。治療の所望の効果としては、限定されないが、疾患の発症又は再発を予防すること、症候の軽減、疾患の任意の直接的又は間接的な病理学的結果の減弱、転移を予防すること、疾患進行速度を低下させること、病状の寛解又は緩和、及び回復又は予後の改善が挙げられる。いくつかの態様では、本発明の抗体は、疾患の発症を遅延させるために、又は疾患の進行を遅らせるために使用される。
【0117】
本明細書で使用する「T細胞活性化」は、Tリンパ球、特に細胞傷害性Tリンパ球の、増殖、分化、サイトカイン分泌、細胞傷害性エフェクター分子の放出、細胞傷害性活性、及び活性化マーカーの発現から選択される1つ又は複数の細胞応答を指す。本発明の免疫活性化Fcドメイン抗原結合分子は、T細胞活性化を誘導することができる。T細胞活性化を測定するための適切なアッセイは、当技術分野で公知であり、本明細書に記載されている。
【0118】
薬剤、例えば薬学的組成物の「治療的有効量」とは、所望の治療的又は予防的結果を得るのに必要な用量及び期間での有効な量を指す。薬剤の治療的有効量は、例えば、疾患の副作用を除去し、低下させ、遅延させ、最小限にし、又は予防する。
【0119】
本明細書で使用される用語「価」は、特定数の抗原結合部位が抗原結合分子内に存在することを示すものである。したがって、「抗原への一価の結合」という用語は、その抗原に特異的な1つ(且つ1つを超えない)の抗原結合部位が抗原結合分子内に存在することを示すものである。
【0120】
「可変領域」又は「可変ドメイン」という用語は、抗体の抗原への結合に関与する抗体の重鎖又は軽鎖のドメインを指す。天然の抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれVH及びVL)は、一般的に、類似の構造を有し、各ドメインは、4つの保存されたフレームワーク領域(FR)及び3つの相補性決定領域(CDR)を含む。(例えば、Kindt et al.Kuby Immunology,6th ed.,W.H.Freeman and Co.,91頁(2007)を参照)。単一のVH又はVLドメインは、抗原結合特異性を付与するために十分であり得る。さらに、特定の抗原に結合する抗体を、その抗原に結合する抗体のVHドメイン又はVLドメインを用いて単離し、相補的なVLドメイン又はVHドメインそれぞれのライブラリーをスクリーニングすることができる。例えば、Portolano et al.,J.Immunol.150:880-887(1993);Clarkson et al.,Nature 352:624-628(1991)を参照。
【0121】
本明細書で使用される「ベクター」という用語は、それが結合している別の核酸を増殖させることができる核酸分子を指す。この用語は、自己複製核酸構造体としてのベクター、及びそれが導入された宿主細胞のゲノムに組み込まれたベクターを含む。一部のベクターは、それが作動可能に連結されている核酸の発現を誘導することができる。そのようなベクターは、本明細書中で「発現ベクター」と称される。
【0122】
組成物及び方法
一態様では、本発明は、ヘテロ二量体Fcドメインを含む抗体に部分的に基づく。特定の態様では、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含む抗体が提供される。特に、本発明は、2つのFcドメインサブユニットのうちの1つにEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含む抗体を提供した。本発明の抗体は、例えばがんの治療に有用である。
【0123】
CAR-T細胞と同時に自然免疫細胞を動員することは、とりわけ、最初に抗体を投与し、抗体がすでにADCC媒介の抗腫瘍効果とデバルキングを誘導した後の時点でのみCAR-T細胞を注入することによって、有害事象(サイトカイン放出症候群など)の軽減に役立つ可能性がある。さらに、CAR-T細胞と同時に自然免疫細胞を動員することは、腫瘍微小環境においてFcgR発現単球、マクロファージ、樹状細胞などの抗原提示細胞を活性化することにより、二次免疫応答の生成に特に役立つ可能性がある。
【0124】
本明細書で提供される抗体は、EU番号付けに従ってP329G変異を含むヘテロ二量体Fcドメイン(例えばヒトIgG1)Fc領域を含む。
【0125】
P329G変異は、Fcγ受容体への結合とそれに伴うエフェクター機能を低下させる。P329G変異を含む変異Fcドメインは、特に両方のFcドメインサブユニットにおいて、非変異Fcドメインと比較して減少又は消失した親和性でFcγ受容体に結合する。しかしながら、本明細書において上述したように、Fcγ受容体媒介受容体機能が望まれる可能性がある。
【0126】
本発明によれば、第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるヘテロ二量体Fcドメインを含む抗体が提供され、ここで、第1のサブユニットは、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含み、第2のサブユニットは、EU番号付けによる329位にプロリン(P)を含む。一実施態様では、FcドメインはIgG、特にIgG1、Fcドメインである。一実施態様では、FcドメインはヒトFcドメインである。
【0127】
本発明によるヘテロ二量体Fcドメインを含む抗体は、Fcドメインの異なるサブユニットを含み、したがって、Fcドメインの2つのサブユニットは、典型的には2つの非同一ポリペプチド鎖に含まれる。これらのポリペプチドの組換え共発現及びその後の二量体化により、2つのポリペプチドのいくつかの可能な組み合わせが生じる。したがって、組換え生産における(多重特異性、例えば二重特異性)抗体の収量と純度を向上させるために、(多重特異性、例えば二重特異性)抗体のヘテロ二量体Fcドメインに、所望のポリペプチドの会合を促進するさらなる修飾を導入することが有利であろう。
【0128】
したがって、好ましい態様では、本発明による(多重特異性、例えば、二重特異性)抗体のFcドメインは、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促進する修飾を含む。ヒトIgG Fcドメインの2つのサブユニット間のタンパク質間相互作用が最も広範囲に及ぶ部位は、FcドメインのCH3ドメインにある。したがって、一態様では、前記修飾はFcドメインのCH3ドメイン内にある。
【0129】
ヘテロ二量体化を強制するために、FcドメインのCH3ドメインを修飾するためのいくつかの手法が存在し、例えば、国際公開第96/27011号、国際公開第98/050431号、EP1870459号、国際公開第2007/110205号、国際公開第2007/147901号、国際公開第2009/089004号、国際公開第2010/129304号、国際公開第2011/90754号、国際公開第2011/143545号、国際公開第2012058768号、国際公開第2013157954号、国際公開第2013096291号に十分説明されている。典型的には、そのような全ての手法において、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインとFcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインは両方とも相補的に設計され、それにより、各CH3ドメイン(又はそれを構成する重鎖)は、それ自体でホモ二量体化できなくなるが、(第1及び第2のCH3ドメインがヘテロ二量体化し、2つの第1又は2つの第2のCH3ドメイン間にホモ二量体が形成されないように)相補的に操作された他のCH3ドメインと強制的にヘテロ二量体化される。重鎖ヘテロ二量体化を改善するためのこれらの異なる手法は、重鎖/軽鎖の誤対合とベンス・ジョーンズ型の副産物を減少させる(多重特異性、例えば、二重特異性)抗体において、重鎖-軽鎖修飾(例えば、1つの結合アームでのVHとVLの交換/置換、及びCH1/CL界面での反対の電荷を有する荷電アミノ酸の置換の導入)と組み合わせた異なる選択肢として企図される。
【0130】
具体的な態様では、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促進する修飾は、いわゆる「ノブ・イントゥ・ホール」修飾であり、Fcドメインの2つのサブユニットの一方に「ノブ(knob)」修飾及びFcドメインの2つのサブユニットの他方に「ホール(hole)」修飾を含む。
【0131】
ノブ・イントゥ・ホール技術は、例えば、米国特許第5,731,168号、米国特許第7,695,936号、Ridgway et al.,Prot Eng 9,617-621(1996)及びCarter,J Immunol Meth 248,7-15(2001)に記載される。一般に、この方法は、第1のポリペプチドの界面に突起(「ノブ」)を導入し、第2のポリペプチドの界面に対応する空洞(「ホール」)を導入することを含み、その結果、突起が空洞内に配置され、ヘテロ二量体形成を促進し、ホモ二量体形成を妨げる。突起は、最初のポリペプチドの界面にある小さなアミノ酸側鎖をより大きな側鎖(例えば、チロシン又はトリプトファン)と置き換えることによって構築される。突起に対して同一又は同様のサイズの代償空洞は、大きなアミノ酸側鎖を小さなアミノ酸側鎖(例えば、アラニン又はスレオニン)に置き換えることによって、第2のポリペプチドの界面に作り出される。
【0132】
このように、好ましい態様では、(多重特異性、例えば二重特異性)抗体のFcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおいて、アミノ酸残基がそれよりも大きな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第1のサブユニットのCH3ドメイン内部に、第2のサブユニットのCH3ドメイン内部の空洞内に配置可能な突起が生成され、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおいて、アミノ酸残基がそれよりも小さな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第2のサブユニットのCH3ドメイン内部に、第1のサブユニットのCH3ドメイン内部の突起を配置可能な空洞が生成される。
【0133】
好ましくは、より大きな側鎖体積を有する前記アミノ酸残基は、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、及びトリプトファン(W)からなる群から選択される。
【0134】
好ましくは、より小さな側鎖体積を有する前記アミノ酸残基は、アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T)、及びバリン(V)からなる群から選択される。
【0135】
突起及び空洞は、ポリペプチドをコードする核酸を改変することによって、例えば、部位特異的突然変異誘発によって、又はペプチド合成によって作製することができる。
【0136】
特定の態様では、Fcドメインの第1のサブユニット(「ノブ」サブユニット)のCH3ドメインにおいて、366位のスレオニン残基がトリプトファン残基で置き換えられ(T366W)、Fcドメインの第2のサブユニット(「ホール」サブユニット)のCH3ドメインにおいて、407位のチロシン残基がバリン残基で置き換えられる(Y407V)。一態様では、Fcドメインの第2のサブユニットにおいてさらに、366位のスレオニン残基がセリン残基で置き換えられ(T366S)、368位のロイシン残基がアラニン残基で置き換えられる(L368A)(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0137】
またさらなる態様では、Fcドメインの第1のサブユニットにおいてさらに、354位のセリン残基がシステイン残基で置き換えられる(S354C)か、又は356位のグルタミン酸残基がシステイン残基で置き換えられ(E356C)(特に354位のセリン残基がシステイン残基で置き換えられる)、Fcドメインの第2のサブユニットにおいてさらに、349位のチロシン残基がシステイン残基によって置き換えられる(Y349C)(Kabat EUインデックスによる番号付け)。これら2つのシステイン残基の導入によって、Fcドメインの2つのサブユニットの間にジスルフィド架橋が生成し、二量体をさらに安定化する(Carter,J Immunol Methods 248,7-15(2001))。
【0138】
好ましい態様では、Fcドメインの第1のサブユニットは、アミノ酸置換S354C及びT366Wを含み、Fcドメインの第2のサブユニットは、アミノ酸置換Y349C、T366S、L368A及びY407Vを含む(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0139】
好ましい態様では、CD3に結合する抗原結合ドメインは、(任意選択的に、第2の抗原(すなわち、FolR1)に結合する第2の抗原結合ドメイン、及び/又はペプチドリンカーを介して)Fcドメインの第1のサブユニットに(「ノブ」修飾を含む)に融合している。理論に縛られることを望むものではないが、CD3に結合する抗原結合ドメインをFcドメインのノブ含有サブユニットに融合させると、CD3に結合する2つの抗原結合ドメインを含む抗体の生成が(さらに)最小限に抑えられる(2つのノブ含有ポリペプチドの立体衝突)。
【0140】
ヘテロ二量体化を実施するためのCH3修飾の他の技術が、本発明による代替法として考慮されており、例えば国際公開第96/27011号、国際公開第98/050431号、EP1870459、国際公開第2007/110205号、国際公開第2007/147901号、国際公開第2009/089004号、国際公開第2010/129304号、国際公開第2011/90754号、国際公開第2011/143545号、国際公開第2012/058768号、国際公開第2013/157954号、国際公開第2013/096291号に記載されている。
【0141】
一態様では、EP1870459に記載されているヘテロ二量体化手法が代わりに使用される。この手法は、Fcドメインの2つのサブユニット間のCH3/CH3ドメイン界面の特定のアミノ酸位置に反対の電荷を有する荷電アミノ酸を導入することに基づいている。本発明の(多重特異性)抗体の特定の態様は、(Fcドメインの)2つのCH3ドメインのうちの1つにアミノ酸変異R409D;K370E、並びにFcドメインのCH3ドメインのもう一方におけるアミノ酸変異D399K;E357Kである(KabatEUインデックスによる番号付け)。
【0142】
別の態様では、本発明の(多重特異性、例えば二重特異性)抗体は、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異T366W、並びにFcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異T366S、L368A、Y407Vを含み、さらに、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異R409D;K370E、及びFcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異D399K;E357Kを含む(KabatEUインデックスに基づく番号付け)。
【0143】
別の態様では、本発明の(多重特異性、例えば二重特異性)抗体は、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異S354C、T366W、及びFcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異Y349C、T366S、L368A、Y407Vを含むか、あるいは前記(多重特異性、例えば二重特異性)抗体は、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異Y349C、T366W、及びFcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異S354C、T366S、L368A、Y407Vを含み、さらにFcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異R409D;K370E、及びFcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異D399K;E357Kを含む(全ての番号付けはKabat EUインデックスによる)。
【0144】
一態様では、国際公開第2013/157953号に記載されているヘテロ二量体化手法が代わりに使用される。一態様では、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異T366Kを含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸変異L351Dを含む(Kabat EUインデックスによる番号付け)。さらなる態様では、第1のCH3ドメインはさらなるアミノ酸変異L351Kを含む。さらなる態様では、第2のCH3ドメインは、Y349E、Y349D及びL368E(特にL368E)から選択されるアミノ酸変異をさらに含む(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0145】
一態様では、国際公開第2012/058768号に記載されているヘテロ二量体化手法が代わりに使用される。一態様では、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異L351Y、Y407Aを含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸変異T366A、K409Fを含む。さらなる態様では、第2のCH3ドメインは、位置T411、D399、S400、F405、N390、又はK392にさらなるアミノ酸変異を含み、例えばa)T411N、T411R、T411Q、T411K、T411D、T411E又はT411W、b)D399R、D399W、D399Y又はD399K、c)S400E、S400D、S400R、又はS400K、d)F405I、F405M、F405T、F405S、F405V又はF405W、e)N390R、N390K又はN390D、f)K392V、K392M、K392R、K392L、K392F、又はK392E(Kabat EUインデックスによる番号付け)から選択される。さらなる態様では、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異L351Y、Y407Aを含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸変異T366V、K409Fを含む。さらなる態様では、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異Y407Aを含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸変異T366A、K409Fを含む。さらなる態様では、第2のCH3ドメインは、アミノ酸変異K392E、T411E、D399R及びS400R(Kabat EUインデックスによる番号付け)をさらに含む。
【0146】
一態様では、国際公開第2011/143545号に記載されているヘテロ二量体化手法が、例えば368及び409(Kabat EUインデックスに基づく番号付け)からなる群から選択される位置でのアミノ酸修飾を用いて代替的に使用される。
【0147】
一態様では、上述のノブ・イントゥ・ホール技術も使用する国際公開第2011/090762号に記載のヘテロ二量体化手法が代替的に使用される。一態様では、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異T366Wを含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸変異Y407Aを含む。一態様では、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異T366Yを含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸変異Y407Tを含む(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0148】
一態様では、(多重特異性、例えば二重特異性)抗体又はそのFcドメインはIgG2サブクラスのものであり、国際公開第2010/129304号に記載のヘテロ二量体化手法が代替的に使用される。
【0149】
代替的な態様では、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促進する修飾は、例えば、国際公開第2009/089004号に記載されているような静電ステアリング効果(electrostatic steering effect)を媒介する修飾を含む。通常、この方法は、ホモ二量体形成が静電的に望ましくなくなり、ヘテロ二量体化が静電的に望ましくなるような、荷電アミノ酸残基による2つのFcドメインサブユニットの接触面における1つ又は複数のアミノ酸残基の置き換えを伴う。そのような一態様では、第1のCH3ドメインは、負荷電アミノ酸(例えば、グルタミン酸(E)、又はアスパラギン酸(D)、特にK392D又はN392D)によるK392又はN392のアミノ酸置換を含み、第2のCH3ドメインは、正荷電アミノ酸(例えば、リジン(K)又はアルギニン(R)、特にD399K、E356K、D356K、又はE357K、より具体的にはD399K及びE356K)によるD399、E356、D356、又はE357のアミノ酸置換を含む。さらなる態様では、第1のCH3ドメインは、K409又はR409の負荷電アミノ酸(例えば、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)、特にK409D又はR409D)によるアミノ酸置換をさらに含む。さらなる態様では、第1のCH3ドメインは、負に荷電したアミノ酸(例えば、グルタミン酸(E)、又はアスパラギン酸(D))によるK439及び/又はK370のアミノ酸置換をさらに、又は代替的に含む(全ての番号付けはKabat EUインデックスによる)。
【0150】
さらなる態様では、国際公開第2007/147901号に記載されているヘテロ二量体化手法が代わりに使用される。一態様では、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異K253E、D282K、及びK322Dを含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸変異D239K、E240K、及びK292D(Kabat EUインデックスによる番号付け)を含む。
【0151】
さらに別の態様では、国際公開第2007/110205号に記載されたヘテロ二量体化手法を代替的に使用することができる。
【0152】
一態様では、Fcドメインの第1のサブユニットはアミノ酸置換K392D及びK409Dを含み、Fcドメインの第2のサブユニットはアミノ酸置換D356K及びD399K(Kabat EUインデックスによる番号付け)を含む。
【0153】
特定の態様では、本明細書で提供される抗体は、抗体がグリコシル化される程度を増加又は減少させるために改変される。抗体へのグリコシル化部位の付加又は欠失は、1つ又は複数のグリコシル化部位が作り出されるか、又は除去されるようにアミノ酸配列を変更させることにより達成され得る。
【0154】
哺乳類細胞によって産生される天然抗体は、通常、Fc領域のCH2ドメインのAsn297にN結合によって結合している分岐状の二分岐オリゴ糖を含んでいる。例えばWright et al.TIBTECH 15:26-32(1997)を参照。オリゴ糖には、マンノース、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、ガラクトース、及びシアル酸などの様々な炭水化物のほか、二分岐オリゴ糖構造の「幹」でGlcNAcに結合したフコースが含まれる場合がある。いくつかの態様では、本発明の抗体におけるオリゴ糖の修飾は、特定の改善された特性を有する抗体バリアントを作製するために行われ得る。
【0155】
一態様では、非フコシル化オリゴ糖、すなわちFc領域に(直接的又は間接的に)結合したフコースを欠くオリゴ糖構造を有する抗体バリアントが提供される。このような非フコシル化オリゴ糖(「アフコシル化」オリゴ糖とも呼ばれる)は特に、二分岐オリゴ糖構造の幹に第1のGlcNAcが結合したフコース残基を欠く、N結合オリゴ糖である。一態様では、天然抗体又は親抗体と比較して、Fc領域における非フコシル化オリゴ糖の割合が増加した抗体バリアントが提供される。例えば、非フコシル化オリゴ糖の割合は、少なくとも約20%、少なくとも約40%、少なくとも約60%、少なくとも約80%又はさらには約100%(すなわち、フコシル化オリゴ糖が存在しない)であってもよい。非フコシル化オリゴ糖の割合は、例えば、国際公開第2006/082515号に記載のMALDI-TOF質量分析法により測定した、Asn297に結合した全てのオリゴ糖の合計(例えば、複合体、ハイブリッド、及びハイマンノース構造)に対する、フコース残基を欠くオリゴ糖の(平均)量である。Asn297は、Fc領域のおよそ297位に位置するアスパラギン残基を指す(Fc領域残基のEU番号付け)。ただし、抗体のわずかな配列の変化により、Asn297は、297位の約±3アミノ酸上流又は下流、すなわち294位と300位の間に位置することもある。Fc領域において非フコシル化オリゴ糖の割合が増加したそのような抗体は、改善されたFcγRIIIa受容体結合及び/又は改善されたエフェクター機能、特に改善されたADCC機能を有し得る。例えば、米国特許出願公開第2003/0157108;米国特許出願公開第2004/0093621を参照。
【0156】
フコシル化が低下した抗体を産生可能な細胞株の例としては、タンパク質フコシル化が欠損しているLec13CHO細胞(Ripka et al.Arch.Biochem.Biophys.249:533-545(1986);米国特許出願公開第2003/0157108号;及び国際公開第2004/056312号、特に実施例11)、及びノックアウト細胞株、例えばアルファ-1,6-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子のFUT8ノックアウトCHO細胞(例えば、Yamane-Ohnuki et al.Biotech.Bioeng.87:614-622(2004);Kanda,Y.et al.,Biotechnol.Bioeng.,94(4):680-688(2006);及び国際公開第2003/085107号を参照)、又はGDP-フコース合成若しくはトランスポータータンパク質の活性が低下若しくは消滅した細胞(例えば、米国特許出願公開第2004259150号、同第2005031613号、同第2004132140号、同第2004110282号を参照)が挙げられる。
【0157】
さらなる態様では、二分されたオリゴ糖を有する抗体バリアント、例えば、抗体のFc領域に結合した二分岐オリゴ糖がGlcNAcによって二分されている、抗体バリアントが提供される。そのような抗体バリアントは、上に記載されたように、フコシル化が低下している及び/又はADCC機能が改善されていることがある。このような抗体バリアントの例は、例えばUmana et al.,Nat Biotechnol 17,176-180(1999);Ferrara et al.,Biotechn Bioeng 93,851-861(2006);国際公開第99/54342号、国際公開第2004/065540号、国際公開第2003/011878号に記載されている。
【0158】
Fc領域に結合したオリゴ糖中に少なくとも1つのガラクトース残基を有する抗体バリアントも提供される。このような抗体バリアントは、改善されたCDC機能を有し得る。このような抗体バリアントの例は、例えば、国際公開第1997/30087号;同第1998/58964号;及び同第1999/22764号に記載されている。
【0159】
本明細書で提供される抗体は、EU番号付けに従ってP329G変異を含むFcドメイン(例えば、ヒトIgG1)Fc領域を含む。特定の態様では、1つ又は複数の追加のアミノ酸修飾が、本明細書で提供される抗体のFc領域に導入され得る。Fc領域バリアントは、1つ又は複数のアミノ酸位置にアミノ酸修飾(例えば、置換)を含むヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1 Fc領域)を含み得る。
【0160】
特定の態様では、ヘテロ二量体抗体バリアントは、FcRn結合を増加させる1つ又は複数のアミノ酸置換を有するFc領域を含む。一実施態様では、変異Fcドメインは、天然のIgG1 Fcドメインと比較して、Fc受容体に対する結合親和性の増加及び/又はエフェクター機能の低下を示す。一実施態様では、Fcドメインは、Fc受容体への結合及び/又はエフェクター機能を増加させる1つ又は複数のアミノ酸変異を含む。
【0161】
特定の態様では、抗体バリアントは、ADCCを改善する1つ又は複数のアミノ酸置換、例えば、Fc領域の298、333、及び/又は334位(残基のEU番号付け)における置換を有するFc領域を含む。CDC及び/又はADCC活性の増加を確認するために、in vitro及び/又in vivoの細胞毒性アッセイを実施することができる。例えば、Fc受容体(FcR)結合アッセイを実施して、抗体のFcγR結合が改善された(したがってADCC活性が改善された可能性がある)ことを確認することができる。ADCCを媒介する主要な細胞であるNK細胞がFcγRIIIのみを発現させるのに対し、単球はFcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIを発現させる。造血細胞上のFcRの発現は、Ravetch及びKinet、Annu.Rev.Immunol.9:457-492(1991)の464頁の表3に要約されている。目的の分子のADCC活性を評価するためのin vitroアッセイの非限定的な例は、米国特許第5500362号(例えばHellstrom,I et al.Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 83:7059-7063(1986)を参照)及びHellstrom,I et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 82:1499-1502(1985);5,821,337(Bruggemann,M.et al.,J.Exp.Med.166:1351-1361(1987)を参照)に記載されている。あるいは、非放射性アッセイ方法を使用してもよい(例えば、フローサイトメトリー(CellTechnology、Inc.Mountain View、CA)のためのACTI(商標)非放射性細胞傷害性アッセイ、及びCytoTox96(登録商標)非放射性細胞傷害性アッセイ(Promega、Madison、WI))。そのようなアッセイに有用なエフェクター細胞としては、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられる。代替的又は追加的に、目的の分子のADCC活性は、in vivoで、例えば、Clynes et al.Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 95:652-656(1998)に開示されているような動物モデルにおいて評価してもよい。また、抗体がC1qに結合することができず、それ故CDC活性を欠いていることを確認するために、C1q結合アッセイを実施してもよい。例えば、国際公開第2006/029879号及び国際公開第2005/100402号における、C1q及びC3c結合ELISAを参照。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを行うことができる(例えば、Gazzano-Santoro et al.,J.Immunol.Methods 202:163(1996);Cragg,M.S.et al.,Blood 101:1045-1052(2003);及びCragg,M.S.and M.J.Glennie,Blood 103:2738-2743(2004)を参照)。FcRn結合及びin vivoクリアランス/半減期の決定も、当技術分野で公知の方法を使用して行うことができる(Petkova,S.B.et al.,Int’l.Immunol.18(12):1759-1769(2006);国際公開第2013/120929号を参照)。
【0162】
FcRへの結合が改善又は減少した特定の抗体バリアントが記載されている。(例えば、米国特許第6,737,056号;国際公開第2004/056312号,及びShields et al.,J.Biol.Chem.9(2):6591-6604(2001)を参照)。いくつかの態様では、例えば、米国特許第6194551号、国際公開第99/51642号、及びIdusogie et al.J.Immunol.164:4178-4184(2000)に記載されているように、C1q結合及び/又は補体依存性細胞傷害(CDC)の変化(すなわち、改善又は減少のいずれか)をもたらす改変がFc領域内において行われる。
【0163】
半減期が延長され、胎児への母性IgGの移動を担う(Guyer et al.,J.Immunol.117:587(1976)及びKim et al.,J.Immunol.24:249(1994))新生児Fc受容体(FcRn)への結合性が改善された抗体が、米国特許出願公開第2005/0014934号(Hintonら)に記述されている。それらの抗体は、FcRnへのFc領域の結合を改善する1つ又は複数の置換をFc領域内に有するFc領域を含む。このようなFcバリアントとしては、Fc領域残基:238、252、254、256、265、272、286、303、305、307、311、312、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424、又は434のうちの1つ又は複数において置換、例えば、Fc領域残基434の置換を有するものが挙げられる(例えば、米国特許第7,371,826号;Dall’Acqua,W.F.,et al.J.Biol.Chem.281(2006)23514-23524を参照)。
【0164】
マウスFc-マウスFcRn相互作用に重要なFc領域残基は、部位特異的突然変異誘発によって同定されている(例えばDall’Acqua,W.F.,et al.J.Immunol 169(2002)5171-5180を参照)。残基I253、H310、H433、N434、及びH435(残基のEU番号付け)が、相互作用に関与している(Medesan,C.,et al.,Eur.J.Immunol.26(1996)2533;Firan,M.,et al.,Int.Immunol.13(2001)993;Kim,J.K.,et al.,Eur.J.Immunol.24(1994)542)。残基I253、H310及びH435は、ヒトFcとマウスFcRnとの相互作用にとって決定的であることが見出された(Kim,J.K.,et al.,Eur.J.Immunol.29(1999)2819)。ヒトFc-ヒトFcRn複合体の研究により、この相互作用には残基I253、S254、H435及びY436が重要であることが示されている(Firan,M.,et al.,Int.Immunol.13(2001)993;Shields,R.L.,et al.,J.Biol.Chem.276(2001)6591-6604)。Yeung,Y.A.,et al.(J.Immunol.182(2009)7667-7671)では、残基248~259及び301~317及び376~382及び424~437の様々な変異体が報告され、調査されている。
【0165】
特定の態様では、抗体バリアントは、FcRn結合を増加させる1つ又は複数のアミノ酸置換、例えば、Fc領域の252位及び/又は254位及び/又は256位(残基のEU番号付け)に置換を有するFc領域を含む。ある特定の態様では、抗体バリアントは、252、254及び256位にアミノ酸置換を有するFc領域を含む。一態様では、それらの置換は、ヒトIgG1Fc領域に由来するFc領域におけるM252Y、S254T及びT256Eである。Fc領域バリアントの他の例に関しては、Duncan&Winter,Nature 322:738-40(1988)、米国特許第5,648,260号、米国特許第5,624,821号、及び国際公開第94/29351号も参照されたい。
【0166】
本明細書中に報告されるような抗体の重鎖のC末端は、アミノ酸残基PGKで終わる完全なC末端であり得る。重鎖のC末端は、C末端アミノ酸残基の1つ又は2つが除去された短縮されたC末端であり得る。1つの好ましい態様では、重鎖のC末端は、短縮されたC末端で終わるPGである。本明細書で報告される全ての態様のうちの一態様では、本明細書で特定されるC末端CH3ドメインを含む重鎖を含む抗体は、C末端グリシン-リジンジペプチド(G446及びK447、アミノ酸位置のEUインデックス番号付け)を含む。本明細書で報告される全ての態様のうちの一態様では、本明細書で特定されるC末端CH3ドメインを含む重鎖を含む抗体は、C末端グリシン残基(G446、アミノ酸位置のEUインデックス番号付け)を含む。
【0167】
抗原結合部分
一態様では、抗原結合部分は、scFv、Fab、crossFab又はscFab、特にFab断片である。インタクトな抗体のパパイン消化により、重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれ順にVH及びVL)に加えて、軽鎖の定常ドメイン(CL)及び重鎖の第1定常ドメイン(CH1)もそれぞれが含む、2つの同一の抗原結合断片(いわゆる「Fab」断片)を生成する。よって「Fab断片」とは、VLドメイン及びCLドメインを含む軽鎖と、VHドメイン及びCH1ドメインを含む重鎖断片を有する抗体断片のことである。さらなる態様では、抗体断片は一本鎖Fab断片である。「一本鎖Fab断片」又は「scFab」は、抗体重鎖可変ドメイン(VH)、抗体重鎖定常ドメイン1(CH1)、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、抗体軽鎖定常ドメイン(CL)、及びリンカーからなるポリペプチドであり、当該抗体ドメイン及び当該リンカーは、N末端からC末端方向に、以下の順序:a)VH-CH1-リンカー-VL-CL、b)VL-CL-リンカー-VH-CH1、c)VH-CL-リンカー-VL-CH1、又はd)VL-CH1-リンカー-VH-CLのうちの1つを有する。特に、当該リンカーは、少なくとも30個のアミノ酸、好ましくは32~50個のアミノ酸のポリペプチドである。前記一本鎖Fab断片は、CLドメインとCH1ドメインとの間の天然のジスルフィド結合を介して安定化される。加えて、これらの一本鎖Fab断片は、システイン残基の挿入(例えば、Kabat番号付けによると、可変重鎖の44位及び可変軽鎖の100位)を介した鎖間ジスルフィド結合の生成によってさらに安定化される可能性がある。
【0168】
別の態様では、抗原結合部分断片は一本鎖可変断片(scFv)である。「一本鎖可変断片」又は「scFv」は、リンカーにより連結された、抗体の重鎖(VH)及び軽鎖(VL)の可変ドメインの融合タンパク質である。特に、リンカーは10~25個のアミノ酸の短いポリペプチドであり、通常、柔軟性のためにグリシンが豊富であり、溶解性のためにセリン又はスレオニンが豊富であり、VHのN末端をVLのC末端に連結することも、その逆も可能である。このタンパク質は、定常領域の除去及びリンカーの導入にも関わらず、元の抗体の特異性を保持している。scFv断片の総説としては、例えば、Pluckthun,The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.,(Springer-Verlag,New York),pp.269-315(1994)を参照されたい。また、国際公開第93/16185号及び米国特許第5,571,894号及び同第5,587,458号を参照。
【0169】
別の態様では、抗原結合部分は単一ドメイン抗体である。「単一ドメイン抗体」は、抗体の重鎖可変ドメインの全部若しくは一部、又は軽鎖可変ドメインの全部若しくは一部を含む抗体断片である。特定の態様では、単一ドメイン抗体はヒト単一ドメイン抗体である(Domantis,Inc.,Waltham,MA;例えば、米国特許第6,248,516B1号を参照)。
【0170】
抗体断片は、本明細書に記載のように、インタクトな抗体のタンパク質分解消化、並びに組換え宿主細胞(例えば、大腸菌)による組換え産生を含むがこれらに限定されない様々な技術によって作製することができる。
【0171】
別の態様では、抗原結合部分はcrossFabである。「クロスオーバーFab分子」(「crossFab」又は「クロスオーバーFab断片」とも称される)は、Fab重鎖及び軽鎖の可変領域又は定常領域のいずれかが交換されているFab分子を意味し、すなわちcrossFab断片は、軽鎖可変領域と重鎖定常領域とからなるペプチド鎖及び重鎖可変領域と軽鎖定常領域とからなるペプチド鎖を含む。したがって、crossFab断片は、重鎖可変領域及び軽鎖定常領域(VH-CL)から構成されたポリペプチドと、軽鎖可変領域及び重鎖定常領域(VL-CH1)から構成されたポリペプチドとを含む。明確にするために、重鎖定常領域を含むポリペプチド鎖を本明細書では重鎖と呼び、軽鎖定常領域を含むポリペプチド鎖を本明細書ではcrossFab断片の軽鎖と呼ぶ。
【0172】
標的細胞抗原
本明細書で提供される抗原結合部分は、標的細胞表面分子、例えば腫瘍細胞の表面に天然に存在する腫瘍特異的抗原に対する特異性を有する。本発明の文脈において、そのような抗原結合部分を含むそのような抗体は、本明細書に記載の形質導入されたT細胞を標的細胞(例えば、腫瘍細胞)と物理的に接触させ、そこで細胞は活性化される。本発明の形質導入されたT細胞の活性化は、本明細書に記載のとおり、標的細胞の溶解を優先的にもたらす。
【0173】
標的(例えば、腫瘍)細胞の表面に天然に存在する標的細胞抗原(例えば、腫瘍マーカー)の例を本明細書において以下に示し、制限されるものではないが以下が含まれる:FAP(線維芽細胞活性化タンパク質)、CEA(癌胎児性抗原)、p95(p95HER2)、BCMA(B細胞成熟抗原)、EpCAM(上皮細胞接着分子)、MSLN(メソテリン)、MCSP(メラノーマコンドロイチン硫酸プロテオグリカン)、HER-1(ヒト上皮成長因子1)、HER-2(ヒト上皮成長因子2)、HER-3(ヒト上皮成長因子3)、CD19、CD20、CD22、CD33、CD38、CD52Flt3、葉酸受容体1(FOLR1)、ヒト栄養膜細胞表面抗原2(Trop-2)がん抗原12-5(CA-12-5)、ヒト白血球抗原-D関連(HLA-DR)、MUC-1(ムチン-1)、A33抗原、PSMA(前立腺特異的膜抗原)、FMS様チロシンキナーゼ3(FLT-3)、PSMA(前立腺特異的膜抗原)、PSCA(前立腺幹細胞抗原)、トランスフェリン受容体、TNC(テネイシン)、カーボンアンヒドラーゼIX(CA-IX)、及び/又はヒト主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の分子に結合したペプチド。
【0174】
上記の抗原の配列はUniProtKB/Swiss-Protデータベースで入手でき、http://www.uniprot.org/uniprot/?query=reviewed%3Ayesから検索できる。これらの(タンパク質)配列は、アノテーション付きの改変配列にも関連している。また、本発明は、本明細書で提供される短い配列の相同配列、また遺伝的対立遺伝子バリアントなどが使用される技術及び方法も提供する。好ましくは、本明細書中の短い配列の該バリアントなどが用いられる。好ましくは、該バリアントは遺伝子バリアントである。当業者は、これらのデータバンクエントリーの中から、これらの(タンパク質)配列の適切なコード化領域を容易に推測することができ、また、これらのデータバンクのエントリーはゲノムDNA及びmRNA/cDNAも含んでいる場合がある。(ヒト)FAP(線維芽細胞活性化タンパク質)の1つ又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーQ12884(エントリーバージョン168、配列バージョン5)から取得することができる;(ヒト)CEA(がん胎児性抗原)の1つ又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP06731(エントリーバージョン171、配列バージョン3)から取得することができる;(ヒト)EpCAM(上皮細胞接着分子)の1つ又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP16422(エントリーバージョン117、配列バージョン2)から取得することができる;(ヒト)MSLN(メソテリン)の1つ又は複数の配列は、UniProtエントリー番号Q13421(バージョン番号132;配列バージョン2)から取得することができる;(ヒト)FMS様チロシンキナーゼ3(FLT-3)の1つ又は複数の配列は、バージョン番号165及び配列バージョン2のSwiss-ProtデータベースエントリーP36888(引用可能なプライマリアクセッション番号)又はQ13414(セカンダリアクセッション番号)から取得することができる;(ヒト)MCSP(メラノーマコンドロイチン硫酸プロテオグリカン)の配列は、UniProtエントリー番号Q6UVK1(バージョン番号118;配列バージョン2)から取得することができる;(ヒト)葉酸受容体1(FOLR1)の1つ又は複数の配列は、バージョン番号153及び配列バージョン3のUniProtエントリー番号P15328(引用可能なプライマリアクセッション番号)又はQ53EW2(セカンダリアクセッション番号)から取得することができる;(ヒト)栄養膜細胞表面抗原2(Trop-2)の1又は複数の配列は、バージョン番号172及び配列バージョン3のUniProtエントリー番号P09758(引用可能なプライマリアクセッション番号)又はQ15658(セカンダリアクセッション番号)から取得することができる;(ヒト)PSCA(前立腺幹細胞抗原)の1つ又は複数の配列は、バージョン番号134及び配列バージョン1のUniProtエントリー番号O43653(引用可能なプライマリアクセッション番号)又はQ6UW92(セカンダリアクセッション番号)から取得することができる;(ヒト)HER-1(上皮増殖因子受容体)の1つ又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP00533(エントリーバージョン177、配列バージョン2)から取得することができる;(ヒト)HER-2(受容体型チロシンタンパク質キナーゼerbB-2)の1つ又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP04626(エントリーバージョン161、配列バージョン1)から取得することができる;(ヒト)HER-3(受容体型チロシンタンパク質キナーゼerbB-3)の1つ又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP21860(エントリーバージョン140、配列バージョン1)から取得することができる;(ヒト)CD20(Bリンパ球抗原CD20)の1つ又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP11836(エントリーバージョン117、配列バージョン1)から取得することができる;(ヒト)CD22(Bリンパ球抗原CD22)の1つ又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP20273(エントリーバージョン135、配列バージョン2)から取得することができる;(ヒト)CD33(Bリンパ球抗原CD33)の1つ又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP20138(エントリーバージョン129、配列バージョン2)から取得することができる;(ヒト)CA-12-5(ムチン16)の1つ又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーQ8WXI7(エントリーバージョン66、配列バージョン2)から取得することができる;(ヒト)HLA-DRの1つ又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーQ29900(エントリーバージョン59、配列バージョン1)から取得することができる;ヒト)MUC-1(ムチン-1)の1つ又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP15941(エントリーバージョン135、配列バージョン3)から取得することができる;(ヒト)A33(細胞表面A33抗原)の1つ又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーQ99795(エントリーバージョン104、配列バージョン1)から取得することができる;(ヒト)PSMA(グルタメートカルボキシペプチダーゼ2)の1つ又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーQ04609(エントリーバージョン133、配列バージョン1)から取得することができる;(ヒト)トランスフェリン受容体の1つ又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーQ9UP52(エントリーバージョン99、配列バージョン1)及びP02786(エントリーバージョン152、配列バージョン2)から取得することができる;(ヒト)TNC(テネイシン)の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP24821(エントリーバージョン141、配列バージョン3)から取得することができる;あるいは(ヒト)CA-IX(炭酸脱水酵素IX)の1つ又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーQ16790(エントリーバージョン115、配列バージョン2)から取得することができる。
【0175】
好ましい実施態様では、標的細胞抗原は、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、がん胎児性抗原(CEA)、メソテリン(MSLN)、CD20、葉酸受容体1(FOLR1)及びテネイシン(TNC)からなる群から選択される。
【0176】
上記の標的細胞抗原のいずれかと特異的に結合できる抗原結合部分(例えば、scFv、Fab、crossFab、又はscFab)は、哺乳類の免疫系を免疫する方法及び/又は組換えライブラリーを用いるファージディスプレイなど、当技術分野で周知の方法を用いて生成することができる。
【0177】
ライブラリー由来の抗原結合部分
特定の態様では、本明細書で提供される抗原結合部分はライブラリーに由来する。本発明の抗原結合部分は、所望の活性(複数可)を有する抗体についてコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって単離することができる。コンビナトリアルライブラリーをスクリーニングするための方法は、例えば、Nature Reviews 16:498-508(2016)におけるLernerらにおいて総説されている。例えば、ファージディスプレイライブラリーを作成して所望の結合特性を有する抗原結合部分の当該ライブラリーをスクリーニングするための様々な方法が、当技術分野で公知である。かかる方法は、例えば、FrenzelらのmAbs 8:1177-1194(2016);Bazan et al.のHuman Vaccines and Immunotherapeutics 8:1817-1828(2012)、及びZhaoらのCritical Reviews in Biotechnology 36:276-289(2016)、並びに、HoogenboomらのMethods in Molecular Biology 178:1-37(O’Brien et al.,ed.,Human Press,Totowa,NJ,2001)、及びMarks and BradburyのMethods in Molecular Biology 248:161-175(Lo,ed.,Human Press,Totowa,NJ,2003)に見られる。
【0178】
ある特定のファージディスプレイ法において、VH遺伝子及びVL遺伝子のレパートリーは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって個別にクローニングされ、ファージライブラリーにおいて無作為に組換えられており、次いで、Annual Review of Immunology 12:433-455(1994)におけるWinterらにおいて説明されたように、抗原結合ファージについてスクリーニングすることができる。ファージは、典型的には、抗体断片を、一本鎖Fv(scFv)断片として、又はFab断片としてのいずれかで抗体断片を表示する。免疫化された供給源からのライブラリーは、ハイブリドーマを構築する必要なく、免疫原に対する高親和性抗原結合部分を提供する。あるいは、GriffithsらのEMBO Journal12:725-734(1993)によって記載されているように、ナイーブレパートリーを(例えばヒトから)クローニングして、免疫化を行わずに広範囲の非自己抗原及び自己抗原に対する抗原結合部分の単一供給源を提供することができる。さらに、Hoogenboom and Winter,Journal of Molecular Biology 227:381-388(1992)によって記載されているように、幹細胞由来の再配列されていないV遺伝子セグメントをクローニングし、ランダム配列を含むPCRプライマーを用いて可変性に富むCDR3領域をコードし、in vitroでの再配列を達成することにより、ナイーブライブラリーを合成的に作成することもできる。ヒト抗体ファージライブラリーを記載する特許刊行物としては、例えば、以下のものが挙げられる。米国特許第5,750,373号、同第7,985,840号、同第7,785,903号及び同第8,679,490号、並びに米国特許出願公開第2005/0079574号、同第2007/0117126号、同第2007/0237764号及び同第2007/0292936号。
【0179】
コンビナトリアルライブラリーを1つ又は複数の所望の活性を有する抗原結合部分についてスクリーニングするための当技術分野で公知の方法のさらなる例には、リボソーム及びmRNAディスプレイ、並びに細菌、哺乳動物細胞、昆虫細胞又は酵母細胞での抗体の提示及び選択のための方法が含まれる。酵母表面ディスプレイのための方法は、例えば、Scholler et al.in Methods in Molecular Biology 503:135-56(2012)及びCherf et al.in Methods in Molecular biology 1319:155-175(2015)並びにZhao et al.in Methods in Molecular Biology 889:73-84(2012)に概説がある。リボソームディスプレイのための方法は、例えば、HeらのNucleic Acids Research 25:5132-5134(1997)及びHanesらのPNAS 94:4937-4942(1997)に記載されている。
【0180】
ヒト抗体ライブラリーから単離された抗原結合部分又は抗体断片は、本明細書ではヒト抗体又はヒト抗体断片と見なされる。
【0181】
親和性
特定の態様では、本明細書で提供される抗原結合部分は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM又は≦0.001nM(例えば、10-8M以下、例えば10-8M~10-13M、例えば10-9M~10-13M)の解離定数(KD)を有する。
【0182】
一態様では、KDは、BIACORE(登録商標)表面プラズモン共鳴アッセイを使用して測定される。例えば、BIACORE(登録商標)-2000又はBIACORE(登録商標)-3000(BIAcore,Inc.,Piscataway,NJ)を使用するアッセイを、約10の反応単位(RU)で、固定化された抗原CM5チップによって25℃で実行する。一態様では、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5,BIACORE,Inc.)を、供給業者の指示に従ってN-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を用いて活性化する。抗原を、10mMの酢酸ナトリウム(pH4.8)で5μg/ml(約0.2μM)に希釈した後、およそ10反応単位(RU)の結合タンパク質を得るように、5μl/分の流速で注入する。抗原を注入した後、1Mのエタノールアミンを注入して、未反応基をブロックする。カイネティクス測定のために、Fabの2倍の段階希釈(0.78nMから500nM)を、0.05%のポリソルベート20(TWEEN-20(商標))界面活性剤(PBST)を含むPBSに、25℃、約25μl/分の流速で注入する。単純1対1ラングミュア結合モデル(BIACORE(登録商標)評価ソフトウェアバージョン3.2)を使用して、会合センサグラムと解離センサグラムを同時に当てはめることによって会合速度(kon)及び解離速度(koff)を計算する。平衡解離定数(KD)は、koff/kon比として計算される。例えば、Chen et al.,J.Mol.Biol.293:865-881(1999)を参照。上記表面プラズモン共鳴アッセイによるオンレートが106M-1s-1を超える場合、オンレートは、ストップトフローを備えた分光光度計(Aviv Instruments)、又は撹拌キュベットを備えた8000シリーズSLM-AMINCO(商標)分光光度計(ThermoSpectronic)等の分光計で測定される場合に、増加する抗原濃度の存在下で、25℃で、PBS中20nMの抗-抗原抗体(Fab型)(pH7.2)の蛍光発光強度(励起=295nm;発光=340nm、16nm帯域通過)の増加又は減少を測定する蛍光消光技法を使用して決定することができる。
【0183】
別の方法では、KDは、放射標識抗原結合アッセイ(RIA)によって測定される。一態様では、RIAは、目的の抗体及びその抗原のFabバージョンを用いて実施される。例えば、抗原に対するFabの溶液結合親和性は、標識されていない抗原の滴定系列の存在下で、最小濃度の(125I)標識された抗原でFabを平衡化し、次いで、抗Fab抗体でコーティングされたプレートで結合した抗原を捕捉することによって測定される(例えば、Chen et al.,J.Mol.Biol.293:865-881(1999)を参照)。アッセイの条件を確立するために、MICROTITER(登録商標)マルチウェルプレート(Thermo Scientific)を、50mMの炭酸ナトリウム(pH9.6)中の5μg/mLの捕捉用抗Fab抗体(Cappel Labs)で一晩コーティングし、その後、PBS中の2%(w/v)ウシ血清アルブミンで2~5時間にわたって室温(およそ23℃)でブロッキングする。非吸着性プレート(Nunc#269620)中で、100pM又は26pMの[125I]-抗原を、目的のFabの段階希釈物と混合する(例えば、Presta et al.,Cancer Res.57:4593-4599(1997)における抗VEGF抗体Fab-12の評価と一致する)。その後、目的のFabを一晩インキュベートするが、インキュベーションをより長い期間(例えば、約65時間)続けて、平衡に達することを確実にすることができる。その後、室温でのインキュベーション(例えば、1時間)のために混合物を捕捉プレートに移す。次に、溶液を除去し、プレートを、PBS中0.1%のポリソルベート20(TWEEN-20(登録商標))で8回洗浄する。プレートが乾燥したら、150μl/ウェルの閃光物質(MICROSCINT-20(商標);Packard)を加え、そのプレートをTOPCOUNT(商標)ガンマカウンター(Packard)で10分間カウントする。最大結合の20%以下をもたらす各Fabの濃度を、競合結合アッセイでの使用のために選択する。
【0184】
キメラ抗体及びヒト化抗体
特定の態様では、本明細書で提供されるヘテロ二量体抗体はキメラ抗体である。特定のキメラ抗体は、例えば、米国特許第4816567号;及びMorrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851-6855(1984))に記載されている。一例では、キメラ抗体は、非ヒト可変領域(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ又は非ヒト霊長類(サルなど)に由来する可変領域)とヒト定常領域とを含む。さらなる例において、キメラ抗体は、クラス又はサブクラスが親抗体のクラス又はサブクラスから変更された「クラススイッチ」抗体である。キメラ抗体は、その抗原結合断片を含む。
【0185】
特定の態様では、キメラ抗体はヒト化抗体である。典型的には、非ヒト抗体は、親の非ヒト抗体の特異性と親和性を保持したまま、ヒトに対する免疫原性を低減するためにヒト化される。一般に、ヒト化抗体は、CDR(又はその一部)が非ヒト抗体に由来し、FR(又はその一部)がヒト抗体配列に由来する1つ又は複数の可変ドメインを含む。ヒト化抗体はまた、任意選択的にヒト定常領域の少なくとも一部を含む。いくつかの態様では、ヒト化抗体のいくつかのFR残基は、例えば、抗体の特異性又は親和性を回復又は改善するために、非ヒト抗体(例えば、CDR残基が由来する抗体)からの対応する残基で置換される。
【0186】
ヒト化抗体及びその作製方法については、Almagro and Fransson,Front.Biosci.13:1619-1633(2008)で総説されており、さらに、例えばRiechmann et al.,Nature 332:323-329(1988)、Queen et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 86:10029-10033(1989)、米国特許第5821337号、同第7527791号、同第6982321号及び同第7087409号、Kashmiri et al.,Methods 36:25-34(2005)(特異性決定領域(SDR)移植法を記載)、Padlan,Mol.Immunol.28:489-498(1991)(リサーフェシングを記載)、Dall’Acqua et al.,Methods 36:43-60(2005)(「FRシャッフリング」を記載)、並びにOsbourn et al.,Methods 36:61-68(2005)及びKlimka et al.,Br.J.Cancer,83:252-260(2000)(FRシャッフリングの「ガイド付き選択」手法を記載)で説明されている。
【0187】
ヒト化に使用可能なフレームワーク領域としては、限定されないが、「ベストフィット」方法を用いて選択されるフレームワーク領域(例えば、Sims et al.J.Immunol.151:2296(1993)を参照);軽鎖又は重鎖可変領域の特定のサブグループのヒト抗体のコンセンサス配列から誘導されるフレームワーク領域(例えば、Carter et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89:4285(1992);及びPresta et al.J.Immunol.,151:2623(1993)を参照);ヒト成熟(体細胞性変異を受けた)フレームワーク領域又はヒト生殖系フレームワーク領域(例えば、Almagro and Fransson、Front.Biosci.13:1619-1633(2008)を参照);及びFRライブラリーのスクリーニングから誘導されるフレームワーク領域(例えば、Baca et al.,J.Biol.Chem.272:10678-10684(1997)及びRosok et al.,J.Biol.Chem.271:22611-22618(1996)を参照)が挙げられる。
【0188】
ヒト抗体
特定の態様では、本明細書で提供されるヘテロ二量体抗体はヒト抗体である。ヒト抗体は、当技術分野で公知の様々な技術を使用して製造することができる。ヒト抗体は、van Dijk and van de Winkel,Curr.Opin.Pharmacol.5:368-74(2001)及びLonberg,Curr.Opin.Immunol.20:450-459(2008)に一般的に記載されている。
【0189】
ヒト抗体は、抗原チャレンジに応答してインタクトなヒト抗体又はヒト可変領域を有するインタクトな抗体を産生するように改変されたトランスジェニック動物に免疫原を投与することによって調製してもよい。このような動物は、典型的には、内因性免疫グロブリン遺伝子座に取って代わるか、又は染色体外に存在するか、又は動物の染色体にランダムに組み込まれるヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部又は一部を含有する。このようなトランスジェニックマウスでは、内因性免疫グロブリン遺伝子座は、一般に不活性化されている。トランスジェニック動物からヒト抗体を得るための方法の総説については、Lonberg,Nat.Biotech.23:1117-1125(2005)を参照されたい。また、例えば、XENOMOUSE(商標)技術を記載する米国特許第6,075,181号及び米国特許第6,150,584号、HuMab(登録商標)技術を記載する米国特許第5,770,429号、K-M MOUSE(登録商標)技術を記載する米国特許第7,041,870号、及び、VelociMouse(登録商標)技術を記載する米国特許出願公開第2007/0061900号も参照されたい。このような動物によって生成されたインタクトな抗体からのヒト可変領域は、例えば、異なるヒト定常領域と組み合わせることによってさらに修飾され得る。
【0190】
ヒト抗体は、ハイブリドーマに基づく方法によっても作製することができる。ヒトモノクローナル抗体を産生するためのヒト骨髄腫細胞株及びマウス-ヒト異種骨髄腫細胞株が記載されている。(例えば、Kozbor J.Immunol.,133:3001(1984)、Brodeur et al.,Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,pp.51-63(Marcel Dekker,Inc.,New York,1987)及びBoerner et al.,J.Immunol.,147:86(1991)を参照)。ヒトB細胞ハイブリドーマ技術を介して生成されたヒト抗体もまた、Li et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,103:3557-3562(2006)に記載されている。追加の方法としては、例えば、米国特許第7189826号(ハイブリドーマ細胞株由来のモノクローナルヒトIgM抗体の生産を記載)及びNi,Xiandai Mianyixue,26(4):265-268(2006)(ヒト-ヒトハイブリドーマを記載)が挙げられる。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)はまた、Vollmers and Brandlein,Histology and Histopathology,20(3):927-937(2005)及びVollmers and Brandlein,Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology,27(3):185-91(2005)にも記載されている。
【0191】
ヒト抗体はまた、ヒト由来のファージディスプレイライブラリーから選択される可変ドメイン配列を単離することによって生成され得る。その後、そのような可変ドメイン配列は、所望のヒト定常ドメインと組み合わせられ得る。抗体ライブラリーからヒト抗体を選択するための技術を以下に記載する。
【0192】
多重特異性抗体
特定の態様では、本明細書で提供される抗体は、多重特異性抗体、例えば、二重特異性抗体である。「多重特異性抗体」は、少なくとも2つの異なる部位、すなわち、異なる抗原上の異なるエピトープ又は同じ抗原上の異なるエピトープに対して結合特異性を有するモノクローナル抗体である。特定の態様では、多重特異性抗体は3つ以上の結合特異性を有する。多重特異性抗体は、完全長抗体又は抗体断片として調製され得る。
【0193】
多重特異性抗体を作製するための手法としては、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の組換え同時発現(Milstein and Cuello,Nature 305:537(1983)を参照)及び「ノブ・イン・ホール」操作(例えば、米国特許第5,731,168号、及びAtwell et al.,J.Mol.Biol.270:26(1997)を参照)が挙げられるが、これらに限定されない。多重特異性抗体はまた、抗体Fc-ヘテロ二量体分子を作製するための静電ステアリング効果の操作(例えば、国際公開第2009/089004号を参照);2種以上の抗体又は断片の架橋(例えば、米国特許第4,676,980号及びBrennan et al.,Science,229:81(1985)を参照);ロイシンジッパーを使用した二重特異性抗体の産生(例えば、Kostelny et al.,J.Immunol.,148(5):1547-1553(1992)及び国際公開第2011/034605号を参照);軽鎖の誤対合問題を回避するための一般的な軽鎖技術の使用(例えば、国際公開第98/50431号を参照);二重特異性抗体断片を作製するための「ダイアボディ」技術の使用(例えば、Hollinger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444-6448(1993)を参照)、及び一本鎖Fv(sFv)二量体の使用(例えば、Gruber et al.,J.Immunol.,152:5368(1994)を参照);並びに例えばTutt et al.J.Immunol.147:60(1991)に記載されているような三重特異性抗体の調製によっても作製され得る。
【0194】
例えば、「オクトパス(Octopus)抗体」を含む3つ以上の抗原結合部位を有する操作された抗体、又はDVD-Igも本明細書に含まれる(例えば、国際公開第2001/77342号及び国際公開第2008/024715号を参照)。3つ以上の抗原結合部位を有する多重特異性抗体の他の例は、国際公開第2010/115589号、国際公開第2010/112193号、国際公開第2010/136172号、国際公開第2010/145792号、及び国際公開第2013/026831号に見出すことができる。二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、「二重作用Fab」又は「DAF」もまた含む(例えば、米国特許出願公開第2008/0069820号及び国際公開第2015/095539号を参照)。
【0195】
多重特異性抗体は、同じ抗原特異性の1つ以上の結合アームにドメインクロスオーバーを持つ非対称の形態で、すなわちVH/VLドメイン(例えば国際公開第2009/080252号及び同第2015/150447号を参照)、CH1/CLドメイン(例えば国際公開第2009/080253号を参照)、又は完全なFabアーム(例えば国際公開第2009/080251号、同第2016/016299号を参照、また、Schaefer et al,PNAS,108(2011)1187-1191及びKlein at al.,MAbs 8(2016)1010-20も参照)を交換することによっても提供され得る。一態様では、多重特異性抗体は、cross-Fab断片を含む。「cross-Fab断片」又は「xFab断片」又は「クロスオーバーFab断片」という用語は、重鎖及び軽鎖の可変領域又は定常領域のいずれかが交換されたFab断片を指す。cross-Fab断片は、軽鎖可変領域(VL)及び重鎖定常領域1(CH1)から構成されるポリペプチド鎖、並びに重鎖可変領域(VH)及び軽鎖定常領域(CL)から構成されるポリペプチド鎖を含む。非対称Fabアームは、荷電又は非荷電アミノ酸変異をドメイン界面に導入して、正しいFab対合を誘導することによっても操作され得る。例えば、国際公開第2016/172485号を参照。
【0196】
多重特異性抗体のさらなる様々な分子フォーマットが当技術分野で知られており、本明細書に含まれる(例えば、Spiess et al.,Mol Immunol 67(2015)95-106を参照)。
【0197】
本明細書に同様に含まれる特定のタイプの多重特異性抗体は、標的細胞、例えば腫瘍細胞上の表面抗原と、T細胞受容体(TCR)複合体の活性型不変構成成分、例えば、T細胞を再標的化して標的細胞を死滅させるためのCD3とに同時に結合するように設計された二重特異性抗体である。したがって、特定の態様では、本明細書で提供される抗体は多重特異性抗体、特に二重特異性抗体である。
【0198】
この目的のために有用であり得る二重特異性抗体フォーマットの例には、2つのscFv分子が柔軟なリンカーによって融合されている、いわゆる「BiTE」(二重特異性T細胞エンゲージャー(engager))分子(例えば、国際公開第2004/106381号、同第2005/061547号、同第2007/042261号及び同第2008/119567号、Nagorsen and Baeuerle,Exp Cell Res 317,1255-1260(2011)参照);ダイアボディ(Holliger et al.,Prot Eng 9,299-305(1996))及びその誘導体、例えばタンデムダイアボディ(「TandAb」;Kipriyanov et al.,J Mol Biol 293,41-56(1999));ダイアボディフォーマットに基づくが、安定化付加のためのC末端ジスルフィド架橋を特徴とする「DART」(二重親和性再標的化)分子(Johnson et al.,J Mol Biol 399,436-449(2010))、並びに全ハイブリッドマウス/ラットIgG分子であるいわゆるトリオマブ(triomab)(Seimetz et al.,Cancer Treat Rev 36,458-467 (2010)に概説)が含まれるが、これらに限定されない。本明細書に含まれる、特定のT細胞二重特異性抗体フォーマットは、国際公開第2013/026833号、国際公開第2013/026839号、国際公開第2016/020309号;Bacac et al.,Oncoimmunology 5(8)(2016)e1203498に記載されている。
【0199】
抗体バリアント
特定の態様では、本明細書に提供される抗体のアミノ酸配列バリアントが企図される。例えば、その抗体の結合親和性及び/又は他の生物学的特性を変更することが望ましい場合がある。抗体のアミノ酸配列バリアントは、抗体をコードするヌクレオチド配列中に適正な修飾を導入することによって、又はペプチド合成によって調製され得る。このような修飾としては、例えば、抗体のアミノ酸配列内の残基からの欠失、及び/又は抗体のアミノ酸配列内の残基への挿入、及び/又は抗体のアミノ酸配列内の残基の置換が挙げられる。最終構築物が所望の特性、例えば、抗原結合を有していることを条件として、欠失、挿入、及び置換の任意の組み合わせが、最終構築物に到達させるように作成され得る。
【0200】
置換、挿入及び欠失バリアント
特定の態様では、1つ又は複数のアミノ酸置換を有する抗体バリアントが提供される。置換変異誘発の対象部位には、CDR及びFRが含まれる。保存的置換は、表1において「好ましい置換」の見出しの下に示される。より実質的な変化は、表1において、「例示的な置換」の見出しの下に提供され、またアミノ酸側鎖クラスを参照して以下にさらに記載されるとおりである。アミノ酸置換が目的とする抗体に導入され、その生成物は、所望の活性、例えば、抗原結合の保持/改善、免疫原性の低減、又はADCC又はCDCの改善についてスクリーニングされ得る。
アミノ酸は、共通する側鎖の特性に従って以下のように分類することができる。
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖配向に影響を及ぼす残基:Gly、Pro;
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
【0201】
非保存的置換は、これらのクラスのうちの1つのメンバーを別のクラスのメンバーと交換することを伴うことになる。
【0202】
ある種の置換バリアントは、親抗体(例えば、ヒト化抗体又はヒト抗体)の1つ又は複数の超可変領域残基を置換することを含む。一般に、さらなる研究のために選択される、得られるバリアントは、親抗体と比較してある特定の生物学的特性(例えば、親和性の増加、免疫原性の低下)において改変(例えば、改善)を有し、且つ/又は親抗体のある特定の生物学的特性を実質的に保持しているだろう。例示的な置換バリアントは、親和性成熟した抗体であり、例えば本明細書に記載されているような、ファージディスプレイに基づく親和性成熟法を使用して簡便に生成することができる。簡潔には、1つ又は複数のCDR残基が変異され、バリアント抗体がファージにディスプレイされ、特定の生物活性(例えば、結合親和性)についてスクリーニングされる。
【0203】
例えば、抗体親和性を改善するために、CDRにおいて改変(例えば、置換)が行われ得る。そのような改変は、CDR「ホットスポット」、すなわち、体細胞成熟プロセス(例えば、Chowdhury,Methods Mol.Biol.207:179-196(2008)を参照されたい)中に高頻度で変異を受けるコドンによってコードされる残基、及び/又は抗原に接触する残基で行われてもよく、結果として生じるバリアントVH又はVLは、結合親和性について試験される。二次ライブラリーの構築及びそこからの再選択による親和性成熟は、例えば、Hoogenboom et al.in Methods in Molecular Biology 178:1-37(O’Brien et al.,ed.,Human Press,Totowa,NJ,(2001))に記載されている。親和性成熟のいくつかの態様では、様々な方法(例えば、エラープローンPCR、鎖シャッフリング、又はオリゴヌクレオチド指向性変異誘発)のいずれかによって、成熟のために選択される可変遺伝子に多様性が導入される。次いで、二次ライブラリーが作成される。次いで、このライブラリーがスクリーニングされて、所望の親和性を有する任意の抗体バリアントを同定する。多様性を導入するための別の方法には、いくつかのCDR残基(例えば、一度に4~6残基)をランダム化する、CDR指向性手法が含まれる。抗原結合に関与するCDR残基は、例えば、アラニンスキャニング変異誘発又はモデリングを使用して、特異的に同定することができる。特にCDR-H3及びCDR-L3が標的とされることが多い。
【0204】
特定の態様では、置換、挿入、又は欠失は、そのような改変が抗体の抗原に結合する能力を実質的に低減させない限り、1つ又は複数のCDR内で生じ得る。例えば、結合親和性を実質的に低下させない保存的改変(例えば、本明細書で提供される保存的置換)をCDR内で行うことができる。そのような改変は、例えば、CDR中の抗原接触残基の外側であってもよい。上述の特定のバリアントVH及びVL配列において、各CDRは、改変されていないか、又は1つ、2つ、又は3つ以下のアミノ酸置換を有するかのいずれかである。
【0205】
変異導入の標的となり得る抗体の残基又は領域を同定するための有用な方法は、Cunningham and Wells(1989)Science,244:1081-1085に記載されているように「アラニン・スキャニング突然変異誘発」と呼ばれる。この方法では、標的残基(例えば、arg、asp、his、lys、及びgluなどの荷電残基)の残基又はグループを同定し、中性又は負に荷電したアミノ酸(例えば、アラニン又はポリアラニン)で置換して、抗体と抗原との相互作用が影響を受けるかどうかを決定する。さらなる置換が、最初の置換に対する機能的感受性を示すアミノ酸位置に導入されてもよい。代替的又は追加的に、抗原-抗体複合体の結晶構造を使用して、抗体と抗原との間の接触点が特定され得る。このような接触残基及び隣接残基は、置換の候補として標的にしても排除してもよい。バリアントが、所望の特性を有するか否かを決定するためにスクリーニングされてもよい。
【0206】
アミノ酸配列挿入物には、1個の残基から100個以上の残基を含むポリペプチドまでの長さの範囲のアミノ末端及び/又はカルボキシル末端融合体、並びに単一又は多数のアミノ酸残基の配列内挿入物が含まれる。末端挿入物の例には、N末端メチオニル残基を有する抗体が含まれる。抗体分子の他の挿入バリアントとしては、酵素(例えば、ADEPT(抗体指向性酵素プロドラッグ療法)の場合)への、又は抗体の血清半減期を延長するポリペプチドへの、抗体のN末端又はC末端の融合が含まれる。
【0207】
システイン操作抗体バリアント
特定の態様では、抗体の1つ又は複数の残基がシステイン残基で置換されている、システイン操作抗体、例えばTHIOMAB(商標)抗体を作製することが望ましい場合がある。特定の態様では、その置換される残基は、抗体の接近可能な部位に存在する。これらの残基をシステインで置換することにより、反応性チオール基が、抗体の接近可能な部位に配置され、その反応性チオール基を用いることにより、本明細書中にさらに記載されるように抗体が薬物部分又はリンカー薬物部分などの他の部分にコンジュゲートされて、イムノコンジュゲートが作製され得る。システイン操作抗体は、例えば、米国特許第7,521,541号、同第8,30,930号、同第7,855,275号、同第9,000,130号又は国際公開第2016040856号に記載されているように作製され得る。
【0208】
抗体誘導体
特定の態様では、本明細書に提供されるヘテロ二量体抗体は、当技術分野で公知であり容易に入手可能なさらなる非タンパク質性部分を含むようにさらに修飾され得る。抗体の誘導体化に適した部位としては、水溶性ポリマーが挙げられるが、これに限定されない。水溶性ポリマーの非限定的な例としては、限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマー又はランダムコポリマーのいずれか)、及びデキストラン又はポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロピレングリコールホモポリマー、プロリプロピレン(prolypropylene)オキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えば、グリセロール)、ポリビニルアルコール、並びにそれらの混合物が挙げられる。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドはその水中での安定性のために製造上の利点を有し得る。ポリマーは、任意の分子量のものであってよく、分岐していてもしていなくてもよい。抗体に結合するポリマーの数は変化してもよく、1を超えるポリマーが結合する場合、それらは同じ分子でも異なる分子でもよい。一般に、誘導体化に使用されるポリマーの数及び/又は種類は、限定されないが、改善すべき抗体の特定の特性又は機能、抗体誘導体が規定の条件下での治療に使用されるかどうかなどを含む考慮事項に基づいて決定することができる。
【0209】
例示的なヘテロ二量体抗体
一態様では、本発明は、CD20に結合するヘテロ二量体抗体を提供する。一態様では、CD20に結合する単離されたヘテロ二量体抗体が提供される。一態様では、本発明は、CD20に特異的に結合するヘテロ二量体抗体を提供する。一態様では、ヘテロ二量体抗CD20抗体はヒト化されている。本発明のさらなる態様では、上記態様のいずれかによるヘテロ二量体抗CD20抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体を含むモノクローナル抗体である。一実施態様では、ヘテロ二量体抗CD20抗体は、配列番号129と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列、配列番号130と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列、及び配列番号131と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列を含む。
【0210】
別の態様では、上記の例示的なヘテロ二量体抗体のいずれか1つは完全長抗体である。一態様では、さらにC末端グリシン(Gly446)が存在する。一態様では、さらにC末端グリシン(Gly446)及びC末端リジン(Lys447)が存在する。
【0211】
組換え方法及び組成物
抗体は、例えば、米国特許第4,816,567号に記載されているように、組換え方法及び組成物を使用して産生することができる。これらの方法のために、抗体をコードする1つ又は複数の単離された核酸が提供される。
【0212】
天然抗体又は天然抗体断片の場合、2つの核酸が必要であり、1つは軽鎖又はその断片用で、もう1つは重鎖又はその断片用である。このような核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列及び/又はVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗体の軽鎖及び/又は重鎖)をコードする。これらの核酸は、同じ発現ベクター上又は異なる発現ベクター上に存在し得る。
【0213】
ヘテロ二量体重鎖を持つ二重特異性抗体の場合、4つの核酸が必要であり、1つは第1の軽鎖用、1つは第1のヘテロ単量体Fc領域ポリペプチドを含む第1の重鎖用、1つは第2の軽鎖用、1つは第2のヘテロ単量体Fc領域ポリペプチドを含む第2の重鎖用である。4つの核酸は、1つ又は複数の核酸分子又は発現ベクターの中に含まれ得る。このような核酸(複数可)は、抗体の第1のVLを含むアミノ酸配列、及び/又は第1のヘテロ単量体Fc領域を含む第1のVHを含むアミノ酸配列、及び/又は第2のVLを含むアミノ酸配列、及び/又は第2のヘテロ単量体Fc領域を含む第2のVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗体の第1及び/若しくは第2の軽鎖、並びに/又は第1及び/若しくは第2の重鎖)をコードする。これらの核酸は、同じ発現ベクター上又は異なる発現ベクター上に存在し得、通常、これらの核酸は、2つ又は3つの発現ベクター上に位置しており、すなわち1つのベクターがこれらの核酸の2つ以上を含み得る。これらの二重特異性抗体の例は、CrossMabである(例えば、Schaefer,W.et al,PNAS,108(2011)11187-1191を参照)。例えば、EUインデックス番号付けによれば、ヘテロ単量体重鎖の1つは、いわゆる「ノブ変異」(T366Wと、場合により、S354C又はY349Cのうち1つ)を含み、他方は、いわゆる「ホール変異」(T366S、L368A及びY407Vと、場合により、Y349C又はS354C)を含む(例えば、Carter,P.et al.,Immunotechnol.2(1996)73を参照)。
【0214】
一態様では、本明細書で報告される方法で使用される抗体をコードする単離された核酸が提供される。
【0215】
一態様では、ヘテロ二量体Fcドメインを含む抗体を作製する方法が提供され、ここで、方法は、上で提供される抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を、抗体の発現に適した条件下で培養すること、及び任意に宿主細胞(又は宿主細胞培養培地)から抗体を回収することを含む。
【0216】
ヘテロ二量体Fcドメインを含む抗体の組換え産生のために、例えば上記のように、抗体をコードする核酸が単離され、さらなるクローニング及び/又は宿主細胞内での発現のために1つ又は複数のベクターに挿入される。このような核酸は、容易に単離することができ、一般的な手順を用いて(例えば、抗体の重鎖と軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)配列決定することができる。
【0217】
抗体をコードするベクターのクローニング又は発現のための適切な宿主細胞には、本明細書に記載の原核細胞又は真核細胞が含まれる。例えば、抗体は、特に、グリコシル化及びFcエフェクター機能が必要とされていない場合には、細菌中で産生されてもよい。細菌内での抗体断片及びポリペプチドの発現については、例えば米国特許第5648237号、同第5789199号、及び同第5840523号を参照。(また、大腸菌における抗体断片の発現を記載しているCharlton,K.A.,Methods in Molecular Biology,Vol.248,Lo,B.K.C.(ed.),Humana Press,Totowa,NJ(2003),p.245-254も参照)。発現の後、抗体は、可溶型画分中の細菌細胞ペーストから単離され、さらに精製され得る。
【0218】
原核生物に加えて、グリコシル化経路が「ヒト化」されていて、部分的又は完全なヒトのグリコシル化パターンを有する抗体の産生をもたらす、真菌株及び酵母株を含めた糸状菌類又は酵母などの有用真核微生物も、抗体をコードするベクターのための適切なクローニング宿主又は発現宿主である。Gerngross,T.U.、Nat.Biotech.22(2004)1409-1414;及びLi,H.et al.,Nat.Biotech.24(2006)210-215を参照。
【0219】
(グリコシル化)抗体の発現に適した宿主細胞は、多細胞生物(無脊椎動物及び脊椎動物)からも得られる。無脊椎動物細胞の例としては、植物細胞及び昆虫細胞が挙げられる。多数のバキュロウイルス株が同定されており、これらは特にヨトウガ(Spodoptera frugiperda)細胞のトランスフェクションのために、昆虫細胞と併せて使用することができる。
【0220】
植物細胞培養物も宿主として利用することができる。例えば、米国特許第5,959,177号、米国特許第6,040,498号、米国特許第6,420,548号、米国特許第7,125,978号及び米国特許第6,417,429号(トランスジェニック植物において抗体を産生するためのPLANTIBODIES(商標)技術を記載している)を参照。
【0221】
脊椎動物細胞も宿主として使用され得る。例えば、懸濁液中で増殖するように適合されている哺乳動物細胞株は有用であり得る。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40(COS-7)によって形質転換されたサル腎臓CV1株、ヒト胚腎臓株(例えば、Graham,F.L.et al.,J.Gen Virol.36(1977)59-74に記載されるような293細胞又は293T細胞、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、マウスセルトリ細胞(例えば、Mather,J.P.,Biol.Reprod.23(1980)243-252に記載されるようなTM4細胞)、サル腎臓細胞(CV1)、アフリカミドリサル腎臓細胞(VERO-76)、ヒト頸部癌腫細胞(HELA)、イヌ腎臓細胞(MDCK)、バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A)、ヒト肺細胞(W138)、ヒト肝臓細胞(Hep G2)、マウス乳房腫瘍(MMT 060562)、TRI細胞(例えば、Mather,J.P.et al.,Annals N.Y.Acad.Sci.383(1982)44-68に記載)、MRC5細胞及びFS4細胞である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株としては、DHFR-CHO細胞(Urlaub,G.etal.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA77(1980)4216-4220)を含む、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞;並びに骨髄腫細胞株、例えば、Y0、NS0及びSp2/0が挙げられる。抗体産生に適した特定の哺乳動物宿主細胞の総説については、例えば、Yazaki,P.及びWu,A.M.、Methods in Molecular Biology、第248巻、Lo,B.K.C.(編.)、Humana Press、Totowa、NJ(2004)、255-268頁を参照。
【0222】
一態様では、宿主細胞は、真核生物、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞又はリンパ球細胞(例えば、Y0、NS0、Sp20細胞)である。
【0223】
薬学的組成物
さらなる態様では、例えば以下の治療方法のいずれかで使用するための、本明細書で提供される抗体のいずれかを含む薬学的組成物が提供される。一態様では、薬学的組成物は、本明細書に提供される抗体のいずれか及び薬学的に許容される担体を含む。別の態様では、薬学的組成物は、本明細書に提供される抗体のいずれかと、例えば以下に記載されるような少なくとも1つの追加の治療剤とを含む。
【0224】
本明細書で記載される抗体の薬学的組成物は、所望の純度を有するこのような抗体を、1つ又は複数の任意選択の薬学的に許容される担体(Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980))と、凍結乾燥組成物又は水溶液の形態で混合することにより調製され得る。薬学的に許容される担体は、一般に、用いられる投与量及び濃度においてレシピエントに対して無毒性であり、それらとしては、緩衝剤、例えば、ヒスチジン、リン酸、クエン酸、酢酸及び他の有機酸;アスコルビン酸及びメチオニンを含む酸化防止剤;保存剤(例えば、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル若しくはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチルパラベン若しくはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン若しくは免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン若しくはリジン;単糖類、二糖類、及びグルコース、マンノース若しくはデキストリンを含む他の炭水化物;キレート剤、例えば、EDTA;糖類、例えば、スクロース、マンニトール、トレハロース若しくはソルビトール;塩形成対イオン、例えば、ナトリウム;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質複合体);並びに/又は非イオン性界面活性物質、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書における例示的な薬学的に許容される担体には、可溶性中性活性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)どの間質性薬物分散剤、例えば、rHuPH20(HYLENEX(登録商標)、Halozyme,Inc.)などのヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質がさらに含まれる。rHuPH20を含む、ある特定の例示的なsHASEGP及び使用方法は、米国特許出願公開第2005/0260186号及び同第2006/0104968号に記載される。一態様では、sHASEGPを、コンドロイチナーゼなど、1つ又は複数のさらなるグリコサミノグリカナーゼと組み合わせる。
【0225】
例示的な凍結乾燥抗体組成物については、米国特許第6,267,958号において記載されている。水性抗体組成物には、米国特許第6,171,586号及び国際公開第2006/044908号において記載されているものが含まれ、後者の組成物にはヒスチジン-酢酸緩衝液が含まれる。
【0226】
本明細書における薬学的組成物は、治療されている特定の適応症に必要な2つ以上の有効成分、好ましくは互いに悪影響を及ぼさない相補的活性を有する有効成分も含み得る。かかる有効成分は、意図される目的に有効な量で組み合わせて好適に存在する。
【0227】
活性成分は、コロイド薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)又はマクロエマルジョンにおいて、例えば、コアセルベーション法又は界面重合によって調製されたマイクロカプセル、例えば、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンマイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセルに封入され得る。このような技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980)に開示されている。
【0228】
徐放用の薬学的組成物が調製され得る。徐放調製物の好適な例としては、抗体を含む固体疎水性ポリマーの半透性マトリクスが挙げられ、これらのマトリクスは、成形物、例えば、フィルム、又はマイクロカプセルの形態である。
【0229】
in vivoでの投与に用いられる薬学的組成物は、一般に滅菌されている。滅菌は、例えば、滅菌濾過膜を通した濾過によって容易に達成され得る。
【0230】
治療方法及び投与経路
本明細書で提供されるヘテロ二量体抗体のいずれも、治療方法に使用することができる。本発明のヘテロ二量体抗体は、本明細書に記載されるように、変異Fcドメインに特異的に結合することができる抗原結合受容体と組み合わされる。
【0231】
一態様では、医薬として使用するためのヘテロ二量体抗体が提供される。さらなる態様では、がんの治療において使用するためのヘテロ二量体抗体が提供される。特定の態様では、治療方法において使用するためのヘテロ二量体抗体が提供される。特定の態様では、本発明は、個体に有効量のヘテロ二量体抗体を投与することを含む、がんを有する個体を治療する方法において使用するためのヘテロ二量体抗体を提供する。そのような1つの態様では、その方法は、例えば下記に記載されるような、有効量の少なくとも1種の追加の治療剤(例えば、1、2、3、4、5又は6種の追加の治療剤)を個体に投与することをさらに含む。さらなる態様では、本発明は、がん、特に上皮、内皮又は中皮起源のがん及び血液のがんの治療において使用するためのヘテロ二量体抗体を提供する。特定の態様では、本発明は、がんを治療するために有効量のヘテロ二量体抗体を個体に投与することを含む、個体におけるがん、特に上皮、内皮又は中皮起源のがん及び血液のがんを治療する方法において使用するためのヘテロ二量体抗体を提供する。上記の態様のいずれかによる「個体」は、好ましくはヒトである。
【0232】
さらなる態様では、本発明は、医薬の製造又は調製におけるヘテロ二量体抗体の使用を提供する。一態様では、医薬は、がんの治療のためのものである。さらなる態様では、医薬は、がんを治療する方法であって、がんを有する個体に有効量の医薬を投与することを含む、方法において使用するためのものである。そのような1つの態様では、その方法は、例えば、下記に記載されるような、有効量の少なくとも1つの追加の治療剤を個体に投与することをさらに含む。さらなる態様では、本発明は、がん、特に上皮、内皮又は中皮起源のがん及び血液のがんの治療のためのものである。さらなる態様では、医薬は、がんを治療するために有効量の医薬を個体に投与することを含む、個体におけるがん、特に上皮、内皮又は中皮起源のがん及び血液のがんを治療する方法において使用するためのものである。上記の態様のいずれかによる「個体」は、ヒトであってもよい。
【0233】
さらなる態様では、本発明は、がんを治療するための方法を提供する。一態様では、本方法は、そのようながんを有する個体に有効量のヘテロ二量体抗体を投与することを含む。そのような1つの態様では、その方法は、下記に記載されるように、有効量の少なくとも1つの追加の治療剤を個体に投与することをさらに含む。
【0234】
上記の態様のいずれかによる「個体」は、ヒトであってもよい。
【0235】
さらなる態様では、本開示は、例えば、上記治療方法のいずれかにおいて使用するための、本明細書に提供される抗体のいずれかを含む薬学的組成物を提供する。一態様では、薬学的組成物は、本明細書に提供されるヘテロ二量体抗体のいずれか及び薬学的に許容される担体を含む。別の態様では、薬学的組成物は、本明細書に提供されるヘテロ二量体抗体のいずれかと、例えば以下に記載されるような少なくとも1つの追加の治療剤とを含む。
【0236】
本発明の抗体(及び任意の追加の治療剤)は、非経口、肺内、及び鼻腔内、並びに局所治療のために望まれる場合、病変内投与を含む、任意の適切な手段によって投与することができる。非経口注入には、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内又は皮下投与が含まれる。投薬は、その投与が短期か又は長期かに部分的に依存して、任意の適切な経路、例えば、静脈内注射又は皮下注射等の注射により行うことができる。本明細書では、単回投与又は様々な時点にわたる複数回投与、ボーラス投与、及びパルス注入を含むがこれらに限定されない種々の投薬スケジュールが企図される。
【0237】
本発明の抗体は、良好な医療行為と一貫する様式で、製剤化され、投薬され、投与されるだろう。これに関連して考慮すべき要因としては、治療される特定の障害、治療される特定の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、障害の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与スケジュール、及び医療従事者に既知である他の要因が挙げられる。抗体は、必ずしもそうである必要はないが、任意選択的に、問題の障害を予防又は治療するために現在使用されている1つ又は複数の薬剤とともに製剤化される。このような他の薬剤の有効量は、薬学的組成物中に存在する抗体の量、障害又は治療の種類、及び上述した他の要因に依存する。これらは、一般に、本明細書に記載されるのものと同じ投薬量及び投与経路で、又は本明細書に記載される投薬量の約1から99%で、又は適切であると経験的/臨床的に決定される任意の投薬量及び任意の経路で使用される。
【0238】
疾患の予防又は治療について、本発明の抗体の適切な投薬量は(単独で、又は1つ以上の他の追加の治療剤と組み合わせて使用される場合)、治療される疾患の種類、抗体の種類、疾患の重症度及び経過、抗体が予防目的又は治療目的で投与されるかどうか、以前の療法、患者の病歴及び抗体への応答、並びに主治医の裁量に依存するだろう。抗体は、患者に一度に又は一連の治療にわたって適切に投与される。疾患の種類及び重症度に応じて、約1μg/kg~15mg/kg(例えば、0.1mg/kg~10mg/kg)の抗体が、例えば、1回以上の別個の投与によるか、又は連続注入によるかにかかわらず、患者への投与のための初期候補投薬量であり得る。上記の要因に応じて、典型的な1日あたりの投薬量は、約1μg/kg~100mg/kg又はそれ以上の範囲である可能性がある。数日間又はそれ以上にわたる反復投与の場合、治療は通常、状態に応じて、疾患症状の所望の抑制が生じるまで続けられる。抗体の1つの例示的な投薬量は、約0.05mg/kg~約10mg/kgの範囲である。したがって、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kg、又は10mg/kg(又はこれらの任意の組み合わせ)のうちの1つ以上の用量が、患者に投与され得る。かかる用量は、間欠的に、例えば、毎週又は3週間に1回(例えば、患者が約2~約20回、又は例えば約6回用量の抗体を受けるように)投与され得る。最初のより高い負荷用量、続いて1回以上のより低い用量を投与することができる。この治療法の進行は、従来の技術及びアッセイによって容易にモニターされる。
【0239】
製造品
本発明の別の態様では、上述の障害の治療、予防及び/又は診断に有用な材料を含む製造品が提供される。製造品は、容器と、容器に貼られているか又は付随しているラベル又は添付文書とを備える。好適な容器には、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、IV溶液バッグ等が含まれる。容器は、ガラス又はプラスチック等の多様な材料から形成され得る。容器は、症状を治療、予防、及び/又は診断するのに有効な別の組成物と単独で又は組み合わせて使用される組成物を保持し、無菌アクセスポートを有していてもよい(例えば、容器は、静脈内溶液バッグ又は皮下注射針によって穿孔可能なストッパーを有するバイアルであってもよい)。組成物中の少なくとも1つの活性剤は、本発明の抗体である。ラベル又は添付文書は、組成物が選択された状態の治療のために使用されることを示している。さらに、製造品は、(a)本発明の抗体を含む組成物が中に収容されている第1の容器;及び(b)さらなる細胞傷害性剤又はその他の治療剤を含む組成物が中に収容されている第2の容器を備えてもよい。本発明のこの態様における製造品は、組成物が特定の状態を治療するために使用できることを示す添付文書をさらに備えてもよい。これに代えて、又はこれに加えて、製造品は、薬学的に許容され得る緩衝液、例えば、注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝化生理食塩水、Ringer溶液及びデキストロース溶液を含む第2の(又は第3の)容器をさらに備えていてもよい。製造品は、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針及びシリンジを含む、商業的及びユーザーの観点から望ましい他の材料をさらに備えてもよい。
【0240】
抗原結合受容体との組み合わせ
本発明によるヘテロ二量体抗体は、薬理学的活性を高めるために、変異Fcサブユニット(例えば、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gからなる)に特異的に結合することができる抗原結合受容体を発現する細胞と組み合わせることができる(以下にもさらに記載)。上記のこのような併用療法は、併用投与(ヘテロ二量体抗体及び細胞が同じ又は別個の薬学的組成物に含まれる場合)を包含し、この場合、本発明のヘテロ二量体抗体の投与は、以下に記載する抗原結合受容体を発現する細胞の投与の前、同時、及び/又は後に行うことができる。
【0241】
本明細書に記載されるように、本発明による抗体は、死滅させるために抗P329G CAR-T細胞を効率的に動員することができる。さらに、本発明による抗体は、非特異的な交差活性化を伴わずに、FcgR依存性ADCCのために、NK細胞又は単球などの自然免疫細胞を効率的に動員することができる。
【0242】
CAR-T細胞と同時に自然免疫細胞を動員することは、とりわけ、最初に抗体を投与し、抗体がすでにADCC媒介の抗腫瘍効果とデバルキングを誘導した後の時点でのみCAR-T細胞を注入することによって、有害事象(サイトカイン放出症候群など)の軽減に役立つ可能性がある。さらに、CAR-T細胞と同時に自然免疫細胞を動員することは、腫瘍微小環境においてFcgR発現単球、マクロファージ、樹状細胞などの抗原提示細胞を活性化することにより、二次免疫応答の生成に特に役立つ可能性がある。
【0243】
一態様では、ヘテロ二量体抗体の投与と細胞の投与は、互いに約1ヶ月以内、又は約1、2若しくは3週間以内、又は約1、2、3、4、5若しくは6日以内に行われる。一態様では、ヘテロ二量体抗体及び細胞は、治療の1日目に患者に投与される。
【0244】
本発明の抗原結合受容体は、変異Fcドメインに特異的に結合することはできるが、親非変異Fcドメインには特異的に結合することができない少なくとも1つの抗原結合部分を含む細胞外ドメインを含む。好ましい実施態様では、抗原結合受容体の抗原結合部分は、ヒト化又はヒト抗原結合部分、例えばヒト化又はヒトscFvである。
【0245】
本発明はさらに、本明細書で提供される抗原結合受容体を有するCD8+ T細胞、CD4+ T細胞、CD3+ T細胞、γδT細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞などのT細胞、好ましくはCD8+ T細胞の、本明細書で提供される抗体による標的化された動員、例えば腫瘍への形質導入に関する。
【0246】
添付の実施例に示すように、治療用抗体(配列番号129の重鎖(P329G変異を含む)、配列番号130の重鎖、及び配列番号131の2つの軽鎖を含むヘテロ二量体抗CD20抗体によって表される)に特異的に結合することができる、本発明によるアンカー膜貫通ドメイン及びヒト化細胞外ドメインを含む抗原結合受容体(配列番号20に示されるDNA配列によってコードされる配列番号7)を構築した。VH3VL1-CD8ATD-CD137CSD-CD3zSSD融合タンパク質(配列番号20に示されるDNA配列によってコードされる配列番号7)を発現する形質導入されたT細胞(Jurkat NFAT T細胞)は、FcドメインにP329G変異を含む抗CD20抗体とCD20陽性腫瘍細胞との共インキュベーションによって強く活性化することができた(例えば
図9Bを参照)。さらに、驚くべきことに、CD16-CAR活性化によって証明されるADCCエフェクター機能(例えば
図9Aを参照)は、ヘテロ二量体抗CD20抗体によって強く活性化され得る。
【0247】
さらに、P329G変異を含む腫瘍抗原に対する抗体と、VH3VL1-CD8ATD-CD137CSD-CD3zSSD融合タンパク質(配列番号20に示されるDNA配列によってコードされる配列番号7)を発現する形質導入されたT細胞との組み合わせによる腫瘍細胞の治療は、驚くべきことに、VL1VH3-CD8ATD-CD137CSD-CD3zSSD(配列番号33に示されるDNA配列によってコードされる配列番号31)を発現する形質導入されたT細胞と比較して、形質導入されたT細胞のより強い活性化をもたらす。
【0248】
VH3VL1-CD8ATD-CD137CSD-CD3zSSD融合タンパク質において、VHドメイン(VH3)は、そのC末端において、ペプチドリンカーを介してVLドメイン(VL1)のN末端に融合され、scFvを形成する。scFvは、そのC末端(VLドメインのC末端)において、ペプチドリンカーを介してアンカー膜貫通ドメイン(ATD)に融合される。一方、VL1VH3-CD8ATD-CD137CSD-CD3zSSD融合タンパク質において、VLドメイン(VL1)は、そのC末端において、ペプチドリンカーを介してVHドメイン(VH3)のN末端に融合され、scFvを形成する。scFvは、そのC末端(VHドメインのC末端)において、ペプチドリンカーを介してアンカー膜貫通ドメイン(ATD)に融合される。理論に拘束されるものではないが、VH3VL1-CD8ATD-CD137CSD-CD3zSSD融合タンパク質が、VL1VH3-CD28ATD-CD137CSD-CD3zSSDと比較して、形質導入されたT細胞のより強い活性化をもたらすという観察結果は、VLドメインとアンカードメインとの(ペプチドリンカーを介した)融合が、より強力な抗原結合受容体をもたらすことを示唆している。これは予想外であり、驚くべきことである。
【0249】
VHドメインVH3とVLドメインVL1との組み合わせ(両方とも本発明者らによって同定された)は、これらの可変ドメインがヒト化抗体ドメインであるため、特に好ましい。理論に拘束されるものではないが、ヒト化抗体ドメインは、そのようなヒト化抗体ドメインを含む抗原結合部分をヒト患者に適用する場合、副作用が少ない(例えば、抗薬物抗体(ADA)の形成がより少ない)と予想され得るので好ましい。しかしながら、ヒト化は、抗原結合部分(例えば、非ヒト源に由来するもの)の結合の喪失をもたらし得る。添付の実施例に示すように、ヒト化VH3及びVL1ドメインは、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインへの結合を保持する。この結果は、例えば、他のヒト化VH及びVLドメインが、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインと同等の結合を保持できないことによって示されるように予想外である。
【0250】
したがって、本発明の好ましい実施態様では、ヘテロ二量体抗体は、ヒト化抗原結合部分を含む抗原結合受容体と組み合わされる。
【0251】
ヘテロ二量体Fcドメイン(例えば、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含む)を含む腫瘍特異的抗体、すなわち抗体と、変異Fcドメインに特異的に結合することができる抗原結合部分を含む細胞外ドメインを含む/からなる抗原結合受容体を形質導入されたT細胞との対合により、T細胞特異的活性化及びその後の腫瘍細胞の溶解が得られる。この手法は、変異Fcドメインを含む抗体の非存在下ではT細胞は不活性であるため、従来のT細胞ベースの手法に比べて安全性に大きな利点がある。したがって、本発明は、IgG型抗体が、T細胞のためのガイダンスとして腫瘍細胞をマーク又は標識するために使用され、形質導入されたT細胞が、IgG型抗体の変異Fcドメインに対する特異性を提供することによって腫瘍細胞に対して特異的に標的化される、汎用的な治療プラットフォームを提供する。腫瘍細胞の表面上の抗体の変異Fcドメインに結合した後、本明細書に記載の形質導入されたT細胞は活性化され、腫瘍細胞はその後溶解される。
【0252】
抗原結合受容体の抗原結合部分
本発明の例示的な一実施態様では、概念実証として、アミノ酸変異P329Gを含む変異Fcドメインに特異的に結合することができるヒト化抗原結合受容体及び該抗原結合受容体を発現するエフェクター細胞が提供される。P329G変異は、Fcγ受容体への結合とそれに伴うエフェクター機能を低下させる。したがって、P329G変異を含む変異Fcドメインは、非変異Fcドメインと比較して低下した又は消失した親和性でcγ受容体に結合する。
【0253】
一実施態様では、抗原結合部分は、安定な会合が可能な第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成される変異Fcドメインに特異的に結合することができる。一実施態様では、FcドメインはIgG、特にIgG1ドメインである。一実施態様では、FcドメインはヒトFcドメインである。
【0254】
好ましい実施態様では、FcドメインはP329G変異を含む。
【0255】
一実施態様では、抗原結合受容体は、抗原結合部分を含む細胞外ドメインを含む。一実施態様では、抗原結合部分は、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインに特異的に結合することができる。
一実施態様では、抗原結合部分は、
(a)RYWMN(配列番号1)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)EITPDSSTINYAPSLKG(配列番号2)又はEITPDSSTINYTPSLKG(配列番号40)のCDR H2アミノ酸配列;及び
(c)PYDYGAWFAS(配列番号3)のCDR H3アミノ酸配列
のうちの少なくとも1つを含む重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0256】
一実施態様では、抗原結合部分は、
(d)RSSTGAVTTSNYAN(配列番号4)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)GTNKRAP(配列番号5)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)ALWYSNHWV(配列番号6)のCDR L3アミノ酸配列
のうちの少なくとも1つを含む軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0257】
好ましい実施態様では、抗原結合部分は、
(a)RYWMN(配列番号1)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)EITPDSSTINYAPSLKG(配列番号2)又はEITPDSSTINYTPSLKG(配列番号40)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)PYDYGAWFAS(配列番号3)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変ドメイン(VH)と、
(d)RSSTGAVTTSNYAN(配列番号4)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)GTNKRAP(配列番号5)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)ALWYSNHWV(配列番号6)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変ドメイン(VL)と
を含む。
【0258】
好ましい実施態様では、抗原結合部分は、
(a)RYWMN(配列番号1)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)EITPDSSTINYAPSLKG(配列番号2);
(c)PYDYGAWFAS(配列番号3)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変ドメイン(VH)と、
(d)RSSTGAVTTSNYAN(配列番号4)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)GTNKRAP(配列番号5)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)ALWYSNHWV(配列番号6)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変ドメイン(VL)と
を含む。
【0259】
別の特定の実施態様では、抗原結合部分は、
(a)RYWMN(配列番号1)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)EITPDSSTINYTPSLKG(配列番号40)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)PYDYGAWFAS(配列番号3)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変ドメイン(VH)と、
(d)RSSTGAVTTSNYAN(配列番号4)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)GTNKRAP(配列番号5)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)ALWYSNHWV(配列番号6)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変ドメイン(VL)と
を含む。
【0260】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号8、配列番号41及び配列番号44からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0261】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号8のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0262】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号41のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0263】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号44のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0264】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号9のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0265】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号8のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)と、配列番号9のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む。
【0266】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号41のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)と、配列番号9のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む。
【0267】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号44のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)と、配列番号9のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む。
【0268】
好ましい実施態様では、抗原結合部分は、配列番号8のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)、及び配列番号9のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0269】
一実施態様では、抗原結合部分はscFv又はscFabである。好ましい実施態様では、抗原結合部分はscFvである。
【0270】
一実施態様では、抗原結合部分は、重鎖可変ドメイン(VH)及び軽鎖可変ドメイン(VL)を含み、VHドメインは、特にペプチドリンカーを介してVLドメインに連結されている。一実施態様では、VLドメインのC末端は、特にペプチドリンカーを介してVHドメインのN末端に連結されている。好ましい実施態様では、VHドメインのC末端は、特にペプチドリンカーを介してVLドメインのN末端に連結されている。一実施態様では、ペプチドリンカーは、アミノ酸配列GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号16)を含む。
【0271】
一実施態様では、抗原結合部分は、重鎖可変ドメイン(VH)、軽鎖可変ドメイン(VL)及びリンカーからなるポリペプチドであるscFvであり、ここで、前記可変ドメイン及び前記リンカーは、N末端からC末端の方向に以下の構成:a)VH-リンカー-VL又はb)VL-リンカー-VHの1つを有する。好ましい実施態様では、scFvは、VH-リンカー-VLの構成を有する。
【0272】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号10、配列番号126及び配列番号128からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0273】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号10のアミノ酸配列を含む。
【0274】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号126のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号126のアミノ酸配列を含む。
【0275】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号128のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号128のアミノ酸配列を含む。
【0276】
重鎖可変ドメイン(VH)及び軽鎖可変ドメイン(VL)を含む抗原結合部分、例えば本明細書に記載のscFv及びscFab断片は、VHドメインとVLドメインとの間に鎖間ジスルフィド架橋を導入することによってさらに安定化され得る。したがって、一実施態様では、本発明による抗原結合受容体に含まれるscFv断片(複数可)及び/又はscFab断片(複数可)は、システイン残基(例えば、Kabatの番号付けによれば、可変重鎖の44位及び可変軽鎖の100位)の挿入を介した鎖間ジスルフィド結合の生成によってさらに安定化される。一実施態様では、提供されるのは、システインによるアミノ酸の少なくとも1つの置換(特に、Kabat番号付けによる、可変重鎖の44位及び/又は可変軽鎖の100位における)を含む、上記のVH配列及び/又はVL配列のいずれか1つである。
【0277】
アンカー膜貫通ドメイン(ATD)
本発明の文脈において、抗原結合受容体のアンカー膜貫通ドメインは、哺乳動物プロテアーゼに対する切断部位を有しないことを特徴とすることができる。本発明の文脈において、プロテアーゼとは、プロテアーゼの切断部位を含む膜貫通ドメインのアミノ酸配列を加水分解できるタンパク質分解酵素のことをいう。プロテアーゼという用語には、エンドペプチダーゼとエキソペプチダーゼの両方が含まれる。本発明の文脈において、CD命名法で特に規定されているような、膜貫通タンパク質の任意のアンカー膜貫通ドメインが本発明の抗原結合受容体を生成するために使用され得る。
【0278】
したがって、本発明の文脈において、アンカー膜貫通ドメインは、マウス(murine/mouse)の膜貫通ドメインの一部、又は好ましくはヒトの膜貫通ドメインの一部を含み得る。このようなアンカー膜貫通ドメインの例は、例えば本明細書において配列番号11に示されるアミノ酸配列(配列番号24に示されるDNA配列によってコードされている)を有するCD8の膜貫通ドメインである。本発明の文脈において、本発明の抗原結合受容体のアンカー膜貫通ドメインは、配列番号11に示されるアミノ酸配列(配列番号24に示されるDNA配列によってコードされている)を含み得る/から構成され得る。
【0279】
別の実施態様では、本明細書で提供される抗原結合受容体は、配列番号61に示されるヒト全長CD28タンパク質のアミノ酸153~179、154~179、155~179、156~179、157~179、158~179、159~179、160~179、161~179、162~179、163~179、164~179、165~179、166~179、167~179、168~179、169~179、170~179、171~179、172~179、173~179、174~179、175~179、176~179、177~179又は178~179(配列番号70に示されるcDNAによってコードされている)に位置するCD28の膜貫通ドメインを含み得る。
【0280】
あるいは、特にCD命名法によって提供される膜貫通ドメインを有する任意のタンパク質を、本発明の抗原結合受容体タンパク質のアンカー膜貫通ドメインとして使用することができる。
【0281】
いくつかの実施態様では、アンカー膜貫通ドメインは、抗原結合受容体を当該膜に固定する能力を保持する、CD27(配列番号58によってコードされる配列番号59)、CD137(配列番号66によってコードされる配列番号67)、OX40(配列番号70によってコードされる配列番号71)、ICOS(配列番号74によってコードされる配列番号75)、DAP10(配列番号79によってコードされる配列番号80)、DAP12(配列番号82によってコードされる配列番号83)、CD3z(配列番号87によってコードされる配列番号88)、FCGR3A(配列番号91によってコードされる配列番号90)、NKG2D(配列番号95によってコードされる配列番号94)、CD8(配列番号124によってコードされる配列番号123)からなる群のうちのいずれか1つの膜貫通ドメイン又はその膜貫通部の断片を含む。
【0282】
ヒト配列は、例えば、アンカー膜貫通ドメイン(の一部)が細胞外空間からアクセス可能であり、したがって患者の免疫系にアクセス可能である可能性があるため、一般的な発明の文脈において有益である可能性がある。好ましい実施態様では、アンカー膜貫通ドメインはヒト配列を含む。そのような実施態様では、アンカー膜貫通ドメインは、抗原結合受容体を当該膜に固定する能力を保持する、ヒトCD27(配列番号56によってコードされる配列番号57)、ヒトCD137(配列番号64によってコードされる配列番号65)、ヒトOX40(配列番号68によってコードされる配列番号69)、ヒトICOS(配列番号72によってコードされる配列番号73)、ヒトDAP10(配列番号77によってコードされる配列番号78)、ヒトDAP12(配列番号80によってコードされる配列番号81)、ヒトCD3z(配列番号85によってコードされる配列番号86)、ヒトFCGR3A(配列番号89によってコードされる配列番号88)、ヒトNKG2D(配列番号93によってコードされる配列番号92)、ヒトCD8(配列番号122によってコードされる配列番号121)からなる群のうちのいずれか1つの膜貫通ドメイン又はその膜貫通部の断片を含む。
【0283】
刺激シグナル伝達ドメイン(SSD)及び共刺激シグナル伝達ドメイン(CSD)
好ましくは、抗原結合受容体は、少なくとも1つの刺激シグナル伝達ドメイン及び/又は少なくとも1つの共刺激シグナル伝達ドメインを含む。したがって、本明細書で提供される抗原結合受容体は、好ましくは、T細胞活性化をもたらす刺激シグナル伝達ドメインを含む。本明細書で提供される抗原結合受容体は、マウス(murine/mouse)又は
ヒトCD3z(ヒトCD3zのUniProtエントリーはP20963(バージョン番号177、配列番号2)であり;マウスCD3zのUniProtエントリーはP24161(引用可能なプライマリアクセッション番号)又はQ9D3G3(引用可能なセカンダリアクセッション番号)、バージョン番号143、配列番号1)である)、FCGR3A(ヒトFCGR3AのUniProtエントリーはP08637(バージョン番号178、配列番号2)である、又はNKG2D(ヒトNKG2DのUniProtエントリーはP26718(バージョン番号151、配列番号1)であり;マウスNKG2DのUniProtエントリーはO54709(バージョン番号132、配列番号2)である)の断片/ポリペプチド部分である刺激シグナル伝達ドメインを含み得る。
【0284】
したがって、本明細書において提供される抗原結合受容体において含まれる刺激シグナル伝達ドメインは、CD3z、FCGR3A又はNKG2Dの完全長の断片/ポリペプチド部分であってもよい。マウス(murine/mouse)完全長CD3z又はNKG2Dのアミノ酸配列は、本明細書において配列番号86(CD3z)、90(Fcgr3A)又は94(NKG2D)として示される(マウス(murine/mouse)は、配列番号87(CD3z)、91(FCGR3A)又は95(NKG2D)に示されるDNA配列によってコードされている)。ヒト完全長CD3z、FCGR3A又はNKG2Dのアミノ酸配列は、本明細書において配列番号84(CD3z)、88(FCGR3A)又は92(NKG2D)として示される(ヒトは、配列番号85(CD3z)、89(FCGR3A)又は93(NKG2D)に示されるDNA配列によってコードされている)。本発明の抗原結合受容体は、CD3z、FCGR3A又はNKG2Dの断片を刺激ドメインとして含んでもよく、ただし、少なくとも1つのシグナル伝達ドメインが含まれることを条件とする。特に、CD3z、FCGR3A、又はNKG2Dの任意の部分/断片は、少なくとも1つのシグナル伝達モチーフが含まれる限り、刺激ドメインとして適切である。しかし、より好ましくは、本発明の抗原結合受容体は、ヒト起源から得られるポリペプチドを含む。したがって、本明細書で提供される抗原結合受容体は、本明細書において配列番号84(CD3z)、88(FCGR3A)又は92(NKG2D)として示されるアミノ酸配列を含む(ヒトは配列番号85(CD3z)、89(FCGR3A)又は93(NKG2D)に示されるDNA配列によってコードされている)。一実施態様では、本発明の抗原結合受容体は、配列番号13に示されるアミノ酸配列(配列番号26に示されるDNA配列によってコードされている)を含み得るか、又はそれからなり得る。さらなる実施態様では、抗原結合受容体は、配列番号13に示される配列を含むか、又は配列番号13と比較して最大1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30の置換、欠失若しくは挿入を有し、且つ刺激シグナル伝達活性を有することを特徴とする配列を含む。刺激シグナル伝達ドメイン(SSD)を含む抗原結合受容体の具体的な構成は、本明細書では以下及び実施例と図面に示されている。刺激シグナル伝達活性は、例えばELISAによって測定されるようなサイトカイン(IL-2、IFNγ、TNFα)放出の増強、(細胞数の増加によって測定されるような)増殖活性の増強、又はLDH放出アッセイによって測定されるような溶解活性の増強によって決定することができる。
【0285】
さらに、本明細書で提供される抗原結合受容体は、好ましくは、T細胞にさらなる活性を提供する少なくとも1つの共刺激シグナル伝達ドメインを含む。本明細書で提供される抗原結合受容体は、マウス(murine/mouse)又はヒトCD28(ヒトCD28のUniProtエントリーはP10747(バージョン番号173、配列番号1であり;マウスCD28のUniProtエントリーはP31041(バージョン番号134、配列番号2)である)、CD137(ヒトCD137のUniProtエントリーはQ07011(バージョン番号145、配列番号1)であり;マウスCD137のUniProtエントリーはP20334(バージョン番号139、配列番号1)である)、OX40(ヒトOX40のUniProtエントリーはP23510(バージョン番号138、配列番号1)であり;マウスOX40のUniProtエントリーはP43488(バージョン番号119、配列番号1)である)、ICOS(ヒトICOSのUniProtエントリーはQ9Y6W8(配列番号1、バージョン番号126)であり;マウスICOSのUniProtエントリーはQ9WV40(引用可能なプライマリアクセッション番号)又はQ9JL17(引用可能なセカンダリアクセッション番号)、バージョン番号102、配列番号2)である)、CD27(ヒトCD27のUniProtエントリーはP26842(バージョン番号160、配列番号2)であり;マウスCD27のUniProtエントリーはP41272(バージョン番号137、配列番号1)である)、4-1-BB(マウス4-1-BBのUniProtエントリーはP20334(バージョン番号140、配列番号1)であり;ヒト4-1-BBのUniProtエントリーはQ07011(バージョン番号146、配列番号)である)、DAP10(ヒトDAP10のUniProtエントリーはQ9UBJ5(バージョン番号25、配列番号2)であり;マウスDAP10のUniProtエントリーはQ9QUJ0(引用可能なプライマリアクセッション番号)又はQ9R1E7(引用可能なセカンダリアクセッション番号)、バージョン番号101、配列番号1)である)又はDAP12(ヒトDAP12のUniProtエントリーはO43914(バージョン番号146、配列番号1)であり;マウスDAP12のUniProtエントリーはO054885(引用可能なプライマリアクセッション番号)又はQ9R1E7(引用可能なセカンダリアクセッション番号)、バージョン番号123、配列番号1)である)の断片/ポリペプチド部分である共刺激シグナル伝達ドメインを含み得る。本発明の特定の実施態様では、本発明の抗原結合受容体は、本明細書に記載の1つ又は複数、すなわち1、2、3、4、5、6又は7つの共刺激シグナル伝達ドメインを含み得る。したがって、本発明の文脈において、本発明の抗原結合受容体は、第1の共刺激シグナル伝達ドメインとして、マウス(murine/mouse)CD137の断片/ポリペプチド部分、又は、好ましくはヒトCD137の断片/ポリペプチド部分を含み得、第2の共刺激シグナル伝達ドメインは、マウス若しくは好ましくはヒトCD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10及びDAP12又はそれらの断片からなる群から選択される。好ましくは、本発明の抗原結合受容体は、ヒト起源から得られる共刺激シグナル伝達ドメインを含む。したがって、より好ましくは、本発明の抗原結合受容体に含まれている1つ又は複数の刺激シグナル伝達ドメインは、配列番号12に示されるアミノ酸配列(配列番号25に示されるDNA配列によってコードされている)を含み得るか又はそれからなり得る。
【0286】
したがって、本明細書で提供される抗原結合受容体に任意選択で含まれる共刺激シグナル伝達ドメインは、完全長CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10又はDAP12の断片/ポリペプチド部分である。マウス(murine/mouse)完全長CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP12、DAP10及びDAP12のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号59(CD3z)、63(CD28)、67(CD137)、71(OX40)、75(ICOS)、79(DAP10)又は83(DAP12)として示される(マウスは、配列番号58(CD27)、62(CD28)、66(CD137)、70(OX40)、74(ICOS)、78(DAP10)又は82(DAP12)に示されるDNA配列によってコードされている)。しかし、本発明の文脈ではヒト配列が最も好ましいため、本明細書で提供される抗原結合受容体タンパク質に任意選択で含まれ得る共刺激シグナル伝達ドメインは、ヒト完全長CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10又はDAP12の断片/ポリペプチド部分である。ヒト完全長CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10又はDAP12のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号57(CD27)、61(CD28)、65(CD137)、69(OX40)、73(ICOS)、77(DAP10)又は81(DAP12)として示される(ヒトは配列番号56(CD27)、60(CD28)、64(CD137)、68(OX40)、72(ICOS)、76(DAP10)又は80(DAP12)に示されるDNA配列によってコードされている)。
【0287】
1つの好ましい実施態様では、抗原結合受容体は、共刺激シグナル伝達ドメインとしてCD28又はその断片を含む。本明細書で提供される抗原結合受容体は、CD28の少なくとも1つのシグナル伝達ドメインが含まれるという条件で、共刺激シグナル伝達ドメインとしてCD28の断片を含み得る。特に、CD28のシグナル伝達モチーフの少なくとも1つが含まれる限り、CD28の任意の部分/断片が本発明の抗原結合受容体に適している。共刺激シグナル伝達ドメインPYAP(CD28のAA208から211)及びYMNM(CD28のAA191から194)は、CD28ポリペプチドの機能及び上に列挙した機能効果にとって有益である。YMNMドメインのアミノ酸配列は配列番号96に示されており、PYAPドメインのアミノ酸配列は配列番号97に示されている。したがって、本発明の抗原結合受容体において、CD28ポリペプチドは、好ましくは、配列YMNM(配列番号96)及び/又はPYAP(配列番号97)を有するCD28ポリペプチドの細胞内ドメイン由来の配列を含む。他の実施態様では、本発明の抗原結合受容体において、これらのドメインの一方又は両方が、それぞれFMNM(配列番号98)及び/又はAYAA(配列番号99)に変異している。これらの変異のいずれも、抗原結合受容体を含む形質導入された細胞の、自身の増殖能力に影響を与えずにサイトカインを放出する能力を低下させ、且つ、有利には、形質導入された細胞の生存を延長させ、ひいてはその治療能力を高めるために使用することができる。すなわち、言い換えれば、このような非機能性変異は、好ましくは、本明細書で提供される抗原結合受容体がin vivoで形質導入された細胞の持続性を高めるものである。しかしながら、これらのシグナル伝達モチーフは、本明細書で提供される抗原結合受容体の細胞内ドメイン内の任意の部位に存在し得る。
【0288】
別の好ましい実施態様では、抗原結合受容体は、共刺激シグナル伝達ドメインとしてCD137又はその断片を含む。本明細書で提供される抗原結合受容体は、CD137の少なくとも1つのシグナル伝達ドメインが含まれるという条件で、共刺激シグナル伝達ドメインとしてCD137の断片を含み得る。特に、CD137のシグナル伝達モチーフの少なくとも1つが含まれる限り、CD137の任意の部分/断片が本発明の抗原結合受容体に適している。好ましい実施態様では、本発明の抗原結合受容体タンパク質に含まれるCD137ポリペプチドは、配列番号12に示されるアミノ酸配列(配列番号25に示されるDNA配列によってコードされるもの)を含むか、又はそれからなる。
【0289】
共刺激シグナル伝達ドメイン(CSD)を含む抗原結合受容体の具体的な構成は、本明細書の以下及び実施例及び図面に提供される。共刺激シグナル伝達活性は、例えばELISAによって測定されるようなサイトカイン(IL-2、IFNγ、TNFα)放出の増強、(細胞数の増加によって測定されるような)増殖活性の増強、又はLDH放出アッセイによって測定されるような溶解活性の増強によって決定することができる。上述のように、本発明の実施態様では、抗原結合受容体の共刺激シグナル伝達ドメインは、形質導入されたT細胞のような、本明細書に記載の形質導入された細胞のサイトカイン産生、増殖及び溶解活性であると定義されるヒトCD28及び/又はCD137遺伝子T細胞活性に由来してもよい。CD28及び/又はCD137活性は、インターフェロン-γ(IFN-□□又はインターロイキン2(IL-2)などのサイトカインのELISA又はフローサイトメトリーによるサイトカインの放出、ki67測定などによるT細胞の増殖、フローサイトメトリーによる細胞の定量、又は標的細胞のリアルタイムインピーダンス測定によって評価される溶解活性(例えば、Thakur et al.,Biosens Bioelectron.35(1)(2012),503506;Krutzik et al.,Methods Mol Biol.699(2011),179202;Ekkens et al.,Infect Immun.75(5)(2007),22912296;Ge et al.,Proc Natl Acad Sci USA.99(5)(2002),29832988;Duwell et al.,Cell Death Differ.21(12)(2014),18251837,Erratum in:Cell Death Differ.21(12)(2014),161)に記載されるICELLligence機器の使用による)によって測定することができる。
【0290】
リンカー及びシグナルペプチド
さらに、本明細書において提供される抗原結合受容体は、少なくとも1つのリンカー(又は「スペーサー」)を含み得る。リンカーは通常、20アミノ酸までの長さを有するペプチドである。したがって、本発明の文脈において、該リンカーは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20アミノ酸の長さを有し得る。例えば、本明細書で提供される抗原結合受容体は、変異Fcドメインに特異的に結合することができる少なくとも1つの抗原結合部分を含む細胞外ドメイン、アンカー膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達ドメイン及び/又は刺激シグナル伝達ドメイン間にリンカーを含み得る。さらに、本明細書で提供される抗原結合受容体は、抗原結合部分に、特に抗原結合部分の免疫グロブリンドメイン間(例えば、scFvのVHドメインとVLドメインの間)にリンカーを含み得る。このようなリンカーには、抗原結合受容体の異なるポリペプチド(すなわち、少なくとも1つの抗原結合部分を含む細胞外ドメイン、アンカー膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達ドメイン及び/又は刺激シグナル伝達ドメイン)が独立してフォールディングされ、予想通りに動作する確率が高まるという利点がある。したがって、本発明の文脈において、少なくとも1つの抗原結合部分を含む細胞外ドメイン、アンカー膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達ドメイン及び刺激シグナル伝達ドメインは、一本鎖多機能ポリペプチドに含まれ得る。一本鎖融合構築物は、例えば、少なくとも1つの抗原結合部分を含む(1つ又は複数の)細胞外ドメイン、(1つ又は複数の)アンカー膜貫通ドメイン、(1つ又は複数の)共刺激シグナル伝達ドメイン、及び/又は(1つ又は複数の)刺激シグナル伝達ドメインから構成され得る。したがって、抗原結合部分、アンカー膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達ドメイン及び刺激シグナル伝達ドメインは、本明細書に記載されるように、1つ又は複数の同一又は異なるペプチドリンカーによって連結され得る。例えば、本明細書で提供される抗原結合受容体において、少なくとも1つの抗原結合部分を含む細胞外ドメインとアンカー膜貫通ドメインとの間のリンカーは、配列番号17に示されるアミノ酸及びアミノ酸配列を含むか、又はそれらから構成され得る。別の実施態様では、抗原結合部分とアンカー膜貫通ドメインとの間のリンカーは、配列番号19に示されるアミノ酸配列を含むか、又はそれらからなる。したがって、アンカー膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達ドメイン及び/又は刺激ドメインは、ペプチドリンカーによって、あるいはドメインの直接融合によって互いに連結され得る。
【0291】
本発明による好ましい実施態様では、細胞外ドメインに含まれる抗原結合部分は一本鎖可変断片(scFv)であって、これは、抗体の重鎖可変ドメイン(VH)と軽鎖可変ドメイン(VL)を10~約25アミノ酸の短いリンカーペプチドで連結された融合タンパク質である。リンカーは通常、柔軟性を高めるためのグリシンと、溶解性を高めるためのセリン又はスレオニンを豊富に含んでおり、VHのN末端とVLのC末端を連結したり、その逆を連結したりすることができる。好ましい実施態様では、リンカーは、VLドメインのN末端をVHドメインのC末端に連結する。例えば、本明細書で提供される抗原結合受容体において、リンカーは、配列番号16に示されるアミノ酸及びアミノ酸配列を有し得る。scFv抗体は、例えば、Houston,J.S.,Methods in Enzymol.203(1991)46-96)に記載されている。
【0292】
本発明によるいくつかの実施態様では、細胞外ドメインに含まれる抗原結合部分は、重鎖可変ドメイン(VH)、抗体定常ドメイン1(CH1)、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、抗体軽鎖定常ドメイン(CL)及びリンカーからなるポリペプチドである一本鎖Fab断片又はscFabであり、前記抗体ドメイン及び前記リンカーは、N末端からC末端方向に、以下の順序:a)VH-CH1-リンカー-VL-CL、b)VL-CL-リンカー-VH-CH1、c)VH-CL-リンカー-VL-CH1、又はd)VL-CH1-リンカー-VH-CLのうちの1つを有し;ここで前記リンカーは、少なくとも30アミノ酸、好ましくは32~50アミノ酸のポリペプチドである。前記一本鎖Fab断片は、CLドメインとCH1ドメインとの間の天然のジスルフィド結合を介して安定化される。
【0293】
本明細書で提供される抗原結合受容体又はその一部は、シグナルペプチドを含み得る。このようなシグナルペプチドは、タンパク質をT細胞膜の表面に運ぶことになる。例えば、本明細書で提供される抗原結合受容体において、シグナルペプチドは、配列番号100に示されるアミノ酸及びアミノ酸配列(配列番号101に示されるDNA配列によってコードされている)を有し得る。
【0294】
抗原結合受容体の特異的な構造
本明細書に記載の抗原結合受容体の構成要素は、様々な構成で互いに融合して、T細胞活性化抗原結合受容体を生成することができる。
【0295】
いくつかの実施態様では、抗原結合受容体は、アンカー膜貫通ドメインに連結された重鎖可変ドメイン(VH)及び軽鎖可変ドメイン(VL)から構成される細胞外ドメインを含む。好ましい実施態様では、VHドメインは、C末端で該VLドメインのN末端に、任意選択でペプチドリンカーを介して融合される。他の実施態様では、抗原結合受容体は、刺激シグナル伝達ドメイン及び/又は共刺激シグナル伝達ドメインをさらに含む。特定のそのような実施態様では、抗原結合受容体は、本質的に、1つ又は複数のペプチドリンカーによって連結されたVHドメイン及びVLドメイン、アンカー膜貫通ドメイン、及び任意選択で、刺激シグナル伝達ドメインからなり、ここで、VHドメインは、C末端で、VLドメインのN末端に融合しており、VLドメインは、C末端で、アンカー膜貫通ドメインのN末端に融合しており、アンカリー膜貫通ドメインは、C末端で刺激シグナル伝達ドメインのN末端に融合している。任意選択で、抗原結合受容体は、共刺激シグナル伝達ドメインをさらに含む。そのような特定の実施態様の1つでは、抗原結合受容体は、本質的に、1つ又は複数のペプチドリンカーによって連結されたVHドメイン及びVLドメイン、アンカー膜貫通ドメイン、刺激シグナル伝達ドメイン及び共刺激シグナル伝達ドメインからなり、ここで、VHドメインは、C末端で、VLドメインのN末端に融合しており、VLドメインは、C末端で、アンカー膜貫通ドメインのN末端に融合しており、アンカー膜貫通ドメインは、C末端で、刺激シグナル伝達ドメインのN末端に融合しており、刺激シグナル伝達ドメインは、C末端で、共刺激シグナル伝達ドメインのN末端に融合している。別の実施態様では、共刺激シグナル伝達ドメインは、刺激シグナル伝達ドメインの代わりにアンカー膜貫通ドメインに連結される。好ましい実施態様では、抗原結合受容体は、本質的に、1つ又は複数のペプチドリンカーによって連結されたVHドメイン及びVLドメイン、アンカー膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達ドメイン、及び刺激シグナル伝達ドメインからなり、ここで、VHドメインは、C末端で、VLドメインのN末端に融合しており、VLドメインは、C末端で、アンカー膜貫通ドメインのN末端に融合しており、アンカー膜貫通ドメインは、C末端で、共刺激シグナル伝達ドメインのN末端に融合しており、共刺激シグナル伝達ドメインは、C末端で、刺激シグナル伝達ドメインのN末端に融合している。
【0296】
抗原結合部分、アンカー膜貫通ドメイン、並びに刺激シグナル伝達及び/又は共刺激シグナル伝達ドメインは、互いに直接融合されてもよく、又は1つ若しくは複数のアミノ酸、典型的には約2~20アミノ酸を含む1つ又は複数のペプチドリンカーを介して融合していてもよい。ペプチドリンカーは当技術分野において公知であり、本明細書に記載される。適切な非免疫原性ペプチドリンカーには、例えば、(G4S)n、(SG4)n、(G4S)n又はG4(SG4)nペプチドリンカーが含まれ、ここで「n」は通常1~10、典型的には2~4の数である。抗原結合部分とアンカー膜貫通部分を連結するのに好ましいペプチドリンカーは、配列番号17によるGGGGS(G4S)である。抗原結合部分とアンカー膜貫通部分を連結するための別の好ましいペプチドリンカーは、配列番号19によるKPTTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACD(CD8stalk)である。可変重鎖ドメイン(VH)と可変軽鎖ドメイン(VL)を連結するのに適した例示的なペプチドリンカーは、配列番号16によるGGGSGGGSGGGSGGGS(G4S)4である。
【0297】
さらに、リンカーは、免疫グロブリンヒンジ領域(の一部)を含み得る。特に、抗原結合部分がアンカー膜貫通ドメインのN末端に融合される場合、追加のペプチドリンカーの有無にかかわらず、免疫グロブリンヒンジ領域又はその一部を介して融合され得る。
【0298】
本明細書に記載のとおり、本発明の抗原結合受容体は、少なくとも1つの抗原結合部分を含む細胞外ドメインを含む。標的細胞抗原に特異的に結合することができる単一の抗原結合部分を有する抗原結合受容体は、特に抗原結合受容体の高発現が必要な場合に有用であり、好ましい。そのような場合、標的細胞抗原に特異的な2つ以上の抗原結合部分の存在は、抗原結合受容体の発現効率を制限し得る。しかしながら、他の場合には、例えば、標的部位への標的化を最適化するため、又は標的細胞抗原の架橋を可能にするために、標的細胞抗原に特異的な2つ以上の抗原結合部分を含む抗原結合受容体を有することが有利であろう。
【0299】
特定の一実施態様では、抗原結合受容体は、P329G変異(EU番号付けによる)を含む変異Fcドメイン、特にIgG1 Fcドメインに特異的に結合することができる1つの抗原結合部分を含む。一実施態様では、変異Fcドメインに特異的に結合することができるが、非変異親Fcドメインに特異的に結合することができない抗原結合部分は、scFvである。
【0300】
一実施態様では、抗原結合部分は、scFv断片のC末端において、アンカー膜貫通ドメインのN末端に、任意にペプチドリンカーを介して融合されている。一実施態様では、ペプチドリンカーは、アミノ酸配列KPTTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACD(配列番号19)を含む。一実施態様では、アンカー膜貫通ドメインは、CD8、CD4、CD3z、FCGR3A、NKG2D、CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10若しくはDAP12膜貫通ドメインからなる群から選択される膜貫通ドメイン又はその断片である。好ましい実施態様では、アンカー膜貫通ドメインは、CD8膜貫通ドメイン又はその断片である。特定の実施態様では、アンカー膜貫通ドメインは、IYIWAPLAGTCGVLLLSLVIT(配列番号11)のアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる。一実施態様では、抗原結合受容体は、共刺激シグナル伝達ドメイン(CSD)をさらに含む。一実施態様では、抗原結合受容体のアンカー膜貫通ドメインは、C末端で、共刺激シグナル伝達ドメインのN末端に融合している。一実施態様では、共刺激シグナル伝達ドメインは、本明細書で前述したような、CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10、及びDAP12の細胞内ドメイン、又はそれらの断片からなる群から個別に選択される。好ましい実施態様では、共刺激シグナル伝達ドメインはCD28の細胞内ドメイン又はその断片である。好ましい一実施態様では、共刺激シグナル伝達ドメインは、CD28の細胞内ドメイン、又はCD28シグナル伝達を保持するその断片を含む。別の好ましい実施態様では、共刺激シグナル伝達ドメインは、CD137の細胞内ドメイン、又はCD137シグナル伝達を保持するその断片を含む。特定の実施態様では、共刺激シグナル伝達ドメインは配列番号12を含むか、又は配列番号12からなる。一実施態様では、抗原結合受容体は、刺激シグナル伝達ドメインをさらに含む。一実施態様では、抗原結合受容体の共刺激シグナル伝達ドメインは、C末端で、刺激シグナル伝達ドメインのN末端に融合している。一実施態様では、少なくとも1つの刺激シグナル伝達ドメインは、CD3z、FCGR3A及びNKG2Dの細胞内ドメイン、又はそれらの断片からなる群から個別に選択される。好ましい実施態様では、共刺激シグナル伝達ドメインは、CD3zの細胞内ドメイン、又はCD3zシグナル伝達を保持するその断片である。特定の実施態様では、共刺激シグナル伝達ドメインは配列番号13を含むか、又は配列番号13からなる。
【0301】
一実施態様では、抗原結合受容体は、レポータータンパク質、特にGFP又はその増強されたアナログに融合している。一実施態様では、抗原結合受容体は、C末端で、eGFP(増強緑色蛍光タンパク質)のN末端に、任意選択で本明細書に記載のペプチドリンカーを介して、融合している。好ましい実施態様では、ペプチドリンカーは、配列番号18によるGEGRGSLLTCGDVEENPGP(T2A)である。
【0302】
特定の実施態様では、抗原結合受容体は、アンカー膜貫通ドメインと、少なくとも1つの抗原結合部分を含む細胞外ドメインとを含み、ここで、少なくとも1つの抗原結合部分は、変異Fcドメインに特異的に結合することができるが、非変異親Fcドメインに特異的に結合することはできないscFvであり、変異FcドメインはP329G変異を含む(EU番号付けによる)。P329G変異はFcγ受容体の結合を減少させる。一実施態様では、本発明の抗原結合受容体は、アンカー膜貫通ドメイン(ATD)、共刺激シグナル伝達ドメイン(CSD)、及び刺激シグナル伝達ドメイン(SSD)を含む。このような一実施態様では、抗原結合受容体はscFv-ATD-CSD-SSDという構成を有する。好ましい実施態様では、抗原結合受容体はVH-VL-ATD-CSD-SSDという構成を有する。より具体的なそのような実施態様では、抗原結合受容体は、VH-リンカー-VL-リンカー-ATD-CSD-SSDという構成を有する。
【0303】
特定の実施態様では、抗原結合部分は、P329G変異を含む変異Fcドメインに特異的に結合することができるscFvであり、ここで、抗原結合部分は、配列番号1、配列番号2、及び配列番号3からなる群から選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号4、配列番号5、及び配列番号6からなる群から選択される少なくとも1つの軽鎖CDRを含む。
【0304】
別の特定の実施態様では、抗原結合部分は、P329G変異を含む変異Fcドメインに特異的に結合することができるscFvであり、ここで、抗原結合部分は、配列番号1、配列番号40、及び配列番号3からなる群から選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号4、配列番号5、及び配列番号6からなる群から選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含む。
【0305】
好ましい実施態様では、抗原結合部分は、P329G変異を含む変異Fcドメインに特異的に結合することができるscFvであり、ここで、抗原結合部分は、相補性決定領域(CDR H)1のアミノ酸配列RYWMN(配列番号1)、CDR H2のアミノ酸配列EITPDSSTINYAPSLKG(配列番号2)、CDR H3のアミノ酸配列PYDYGAWFAS(配列番号3)、軽鎖相補決定領域(CDR L)1のアミノ酸配列RSSTGAVTTSNYAN(配列番号4)、CDR L2のアミノ酸配列GTNKRAP(配列番号5)、及びCDR L3のアミノ酸配列ALWYSNHWV(配列番号6)を含む。
【0306】
好ましい実施態様では、抗原結合受容体は、N末端からC末端まで順に、
(i)配列番号1の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号2の重鎖CDR2、配列番号3の重鎖CDR3を含む重鎖可変ドメイン(VH)、
(ii)ペプチドリンカー、特に配列番号16のペプチドリンカー、
(iii)配列番号4の軽鎖CDR1、配列番号5の軽鎖CDR2、及び配列番号6の軽鎖CDR3を含む軽鎖可変ドメイン(VL)、
(iv)ペプチドリンカー、特に配列番号19のペプチドリンカー、
(v)アンカー膜貫通ドメイン、特に配列番号11のアンカー膜貫通ドメイン、
(vi)共刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号12の共刺激シグナル伝達ドメイン、及び
(vii)刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号13の刺激シグナル伝達ドメイン
を含む。
【0307】
一実施態様では、抗原結合受容体は、N末端からC末端まで順に、
(i)配列番号1の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号40の重鎖CDR2、配列番号3の重鎖CDR3を含む重鎖可変ドメイン(VH)、
(ii)ペプチドリンカー、特に配列番号16のペプチドリンカー、
(iii)配列番号4の軽鎖CDR1、配列番号5の軽鎖CDR2、及び配列番号6の軽鎖CDR3を含む軽鎖可変ドメイン(VL)、
(iv)ペプチドリンカー、特に配列番号19のペプチドリンカー、
(v)アンカー膜貫通ドメイン、特に配列番号11のアンカー膜貫通ドメイン、
(vi)共刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号12の共刺激シグナル伝達ドメイン、及び
(vii)刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号13の刺激シグナル伝達ドメイン
を含む。
【0308】
一実施態様では、抗原結合受容体は、N末端からC末端まで順に、
(i)重鎖可変ドメイン(VH)、
(ii)ペプチドリンカー、特に配列番号16のペプチドリンカー、
(iii)配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変ドメイン(VL)、
ここで、VH及びVLドメインは、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインに結合する抗原結合部分を形成することができ、
(iv)ペプチドリンカー、特に配列番号19のペプチドリンカー、
(v)アンカー膜貫通ドメイン、特に配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアンカー膜貫通ドメイン、
(vi)共刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である共刺激シグナル伝達ドメイン、及び
(vii)刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である刺激シグナル伝達ドメイン
を含む。
【0309】
一実施態様では、抗原結合受容体は、N末端からC末端まで順に、
(i)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変ドメイン(VH)、
(ii)ペプチドリンカー、特に配列番号16のペプチドリンカー、
(iii)配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変ドメイン(VL)、
(iv)ペプチドリンカー、特に配列番号19のペプチドリンカー、
(v)アンカー膜貫通ドメイン、特に配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアンカー膜貫通ドメイン、
(vi)共刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である共刺激シグナル伝達ドメイン、及び
(vii)刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である刺激シグナル伝達ドメイン
を含む。
【0310】
一実施態様では、抗原結合受容体は、N末端からC末端まで順に、
(i)配列番号41のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変ドメイン(VH)、
(ii)ペプチドリンカー、特に配列番号16のペプチドリンカー、
(iii)配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変ドメイン(VL)、
(iv)ペプチドリンカー、特に配列番号19のペプチドリンカー、
(v)アンカー膜貫通ドメイン、特に配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアンカー膜貫通ドメイン、
(vi)共刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である共刺激シグナル伝達ドメイン、及び
(vii)刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である刺激シグナル伝達ドメイン
を含む。
【0311】
一実施態様では、抗原結合受容体は、N末端からC末端まで順に、
(i)配列番号44のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変ドメイン(VH)、
(ii)ペプチドリンカー、特に配列番号16のペプチドリンカー、
(iii)配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変ドメイン(VL)、
(iv)ペプチドリンカー、特に配列番号19のペプチドリンカー、
(v)アンカー膜貫通ドメイン、特に配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアンカー膜貫通ドメイン、
(vi)共刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である共刺激シグナル伝達ドメイン、及び
(vii)刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である刺激シグナル伝達ドメイン
を含む。
【0312】
一実施態様では、抗原結合受容体は、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。一実施態様では、抗原結合受容体は、配列番号7のアミノ酸配列を含む。
【0313】
一実施態様では、抗原結合受容体は、配列番号125のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。一実施態様では、抗原結合受容体は、配列番号125のアミノ酸配列を含む。
【0314】
一実施態様では、抗原結合受容体は、配列番号127のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。一実施態様では、配列番号127のアミノ酸配列を含む抗原結合受容体が提供される。
【0315】
一実施態様では、抗原結合受容体は、レポータータンパク質、特にGFP又はその増強されたアナログに融合している。一実施態様では、抗原結合受容体は、C末端で、eGFP(増強緑色蛍光タンパク質)のN末端に、任意選択で本明細書に記載のペプチドリンカーを介して、融合している。好ましい実施態様では、ペプチドリンカーは配列番号18のGEGRGSLLTCGDVEENPGP(T2A)である。
【0316】
抗原結合受容体を発現することができる形質導入された細胞
本発明のさらなる態様は、本明細書に記載の抗原結合受容体を発現することができる形質導入されたT細胞である。これらの抗原結合受容体は、天然にはT細胞内及び/又はT細胞表面上には含まれず、正常な(非形質導入)T細胞内又は表面上で(内因的に)発現されない分子に関する。したがって、T細胞内及び/又はT細胞上の抗原結合受容体は、T細胞に人工的に導入される。本発明の文脈において、前記T細胞、好ましくはCD8+T細胞は、本明細書に定義されるように治療される対象から単離/入手され得る。したがって、人工的に導入され、続いて前記T細胞内及び/又は表面上に提示される本明細書に記載の抗原結合受容体は、(Ig由来)免疫グロブリン、好ましくは抗体、特に抗体のFcドメインに(in vitro又はin vivoで)アクセス可能な1つ又は複数の抗原結合部分を含むドメインを含む。本発明の文脈において、これらの人工的に導入された分子は、本明細書において以下に記載されるように(レトロウイルス、レンチウイルス又は非ウイルス)形質導入後に前記T細胞内及び/又は表面上に提示される。したがって、形質導入後、本発明によるT細胞は、免疫グロブリン、好ましくは本明細書に記載のFcドメインに特異的変異を含む抗体によって、標的細胞の存在下で活性化され得る。
【0317】
本発明はまた、本発明の抗原結合受容体をコードする核酸分子によってコードされる抗原結合受容体を発現する形質導入されたT細胞に関する。したがって、本発明の文脈において、形質導入された細胞は、本発明の抗原結合受容体をコードする核酸分子、又は本発明の抗原結合受容体を発現する本発明のベクターを含み得る。
【0318】
本発明の文脈において、「形質導入されたT細胞」という用語は、遺伝子改変されたT細胞(すなわち、核酸分子が意図的に導入されたT細胞)に関する。本明細書で提供される形質導入されたT細胞は、本発明のベクターを含み得る。好ましくは、本明細書で提供される形質導入されたT細胞は、本発明の抗原結合受容体をコードする核酸分子及び/又は本発明のベクターを含む。本発明の形質導入されたT細胞は、外来DNA(すなわち、T細胞に導入された核酸分子)を一過性に又は安定的に発現するT細胞であり得る。特に、本発明の抗原結合受容体をコードする核酸分子は、レトロウイルス又はレンチウイルス形質導入を使用することにより、T細胞のゲノムに安定的に組み込むことができる。mRNAトランスフェクションを使用することにより、本発明の抗原結合受容体をコードする核酸分子を一過性に発現させることができる。好ましくは、本明細書で提供される形質導入されたT細胞は、ウイルスベクター(例えば、レトロウイルスベクター又はレンチウイルスベクター)を介してT細胞に核酸分子を導入することによって遺伝子改変されている。したがって、抗原結合受容体の発現は構成的である可能性があり、抗原結合受容体の細胞外ドメインが細胞表面上で検出可能である可能性がある。抗原結合受容体のこの細胞外ドメインは、本明細書で定義される抗原結合受容体の完全な細胞外ドメインを含み得るが、その一部も含み得る。抗原結合受容体における抗原結合部分の大きさは、必要最小限の大きさである。
【0319】
抗原結合受容体が誘導性又は抑制性プロモーターの制御下でT細胞に導入される場合、発現は条件的又は誘導性であってもよい。このような誘導性又は抑制性プロモーターの例としては、アルコールデヒドロゲナーゼI(alcA)遺伝子プロモーターとトランス活性化因子タンパク質AlcRとを含む転写系を挙げることができる。alcAプロモーターに結合した目的の遺伝子の発現を制御するために、異なる農業用アルコールベースの製剤が使用される。さらに、テトラサイクリン応答性プロモーター系は、テトラサイクリン存在下で遺伝子発現系を活性化するか又は抑制するかのいずれかの機能を有し得る。これらの系のエレメントとしては、テトラサイクリンリプレッサータンパク質(TetR)、テトラサイクリンオペレーター配列(tetO)、及びTetRと単純ヘルペスウイルスタンパク質16(VP16)活性化配列との融合体であるテトラサイクリントランス活性化因子融合タンパク質(tTA)などがある。さらに、ステロイド応答性プロモーター、金属調節プロモーター又は病原性関連(PR)タンパク質関連プロモーターを使用することができる。
【0320】
この発現は、使用する系によって、恒常的又は構成的であり得る。本発明の抗原結合受容体は、本明細書で提供される形質導入されたT細胞の表面に発現させることができる。抗原結合受容体の細胞外部分(すなわち抗原結合受容体の細胞外ドメイン)は細胞表面で検出可能であり得るが、一方、細胞内部分(すなわち共刺激シグナル伝達ドメイン(1つ又は複数)及び刺激シグナル伝達ドメイン)は細胞表面で検出不可能である。抗原結合受容体の細胞外ドメインの検出は、この細胞外ドメインに特異的に結合する抗体を使用することによって、又は細胞外ドメインが結合することができる変異Fcドメインによって行うことができる。細胞外ドメインは、これらの抗体又はFcドメインを使用して、フローサイトメトリー又は顕微鏡法によって検出することができる。
【0321】
他の細胞も本発明の抗原結合受容体で形質導入され、それによって標的細胞に向けられることができる。これらのさらなる細胞には、B細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、自然リンパ球系細胞、マクロファージ、単球、樹状細胞又は好中球が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、前記免疫細胞はリンパ球であろう。白血球の表面上で本発明の抗原結合受容体がトリガーとなり、細胞が由来する系統に関係なく、ヘテロ二量体Fcドメインを含む抗体と組み合わせて、細胞が標的細胞に対して細胞傷害性になる。細胞傷害性は、抗原結合受容体として選択された刺激シグナル伝達ドメイン又は共刺激シグナル伝達ドメインに関係なく起こり、追加のサイトカインの外因性供給には依存しない。したがって、本発明の形質導入された細胞は、例えば、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、γδT細胞、ナチュラルキラー(NK)T細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、ミエロイド細胞又は間葉系幹細胞であってもよい。好ましくは、本明細書で提供される形質導入された細胞はT細胞(例えば、自己T細胞)であり、より好ましくは、形質導入された細胞はCD8+ T細胞である。したがって、本発明の文脈において、形質導入された細胞はCD8+ T細胞である。さらに、本発明の文脈において、形質導入された細胞は自己T細胞である。したがって、本発明の文脈において、形質導入された細胞は、好ましくは自己CD8+ T細胞である。対象から分離した自己細胞(例えば、T細胞)の使用に加えて、本発明は、同種異系細胞の使用も包含する。したがって、本発明の文脈において、形質導入された細胞は、同種異系CD8+ T細胞などの同種異系細胞であってもよい。同種異系という用語は、例えば本明細書に記載の抗原結合受容体発現型の形質導入された細胞によって治療される個体/対象とヒト白血球抗原(HLA)が適合する非血縁ドナー個体/対象に由来する細胞を指す。自己細胞とは、本明細書に記載の形質導入された細胞で治療される対象から上記のように単離/取得された細胞を指す。
【0322】
本発明の形質導入された細胞は、さらなる核酸分子、例えばサイトカインをコードする核酸分子を共形質導入され得る。
【0323】
本発明はまた、本発明の抗原結合受容体を発現する形質導入されたT細胞の製造方法であって、T細胞に本発明のベクターを形質導入する工程と、前記形質導入された細胞の中又は上での抗原結合受容体の発現を可能にする条件下で前記形質導入されたT細胞を培養する工程と、前記形質導入されたT細胞を回収する工程とを含む方法に関する。
【0324】
本発明の文脈において、本発明の形質導入された細胞は、好ましくは対象(好ましくはヒト患者)から細胞(例えば、T細胞、好ましくはCD8+ T細胞)を単離することによって製造される。患者から又はドナーから細胞(例えばT細胞、好ましくはCD8+ T細胞)を単離/取得する方法は当技術分野において周知であり、患者から又はドナーからの本細胞(例えばT細胞、好ましくはCD8+ T細胞)の文脈では、例えば細胞は採血又は骨髄の除去によって単離されてもよい。患者の試料として細胞を単離/取得した後、細胞(例えばT細胞)を試料の他の成分から分離する。試料から細胞(例えばT細胞)を分離するいくつかの方法が知られており、限定されないが、例えば、患者又はドナーの末梢血試料から細胞を得るための白血球搬出法、FACS細胞選別装置を使用することにより細胞を単離/取得する方法などが挙げられる。単離/取得された細胞T細胞は、その後、例えば、抗CD3抗体を使用することによって、抗CD3及び抗CD28モノクローナル抗体を使用することによって、且つ/又は抗CD3抗体、抗CD28抗体及びインターロイキン2(IL-2)を使用することによって培養及び増殖される(例えば、Dudley,Immunother.26(2003),332-342又はDudley,Clin.Oncol.26(2008),5233-5239を参照)。
【0325】
その後の工程において、細胞(例えば、T細胞)は、当技術分野で公知の方法(例えば、Lemoine,J Gene Med 6(2004),374-386を参照)によって人工的/遺伝子的に改変/形質導入される。細胞(例えばT細胞)に形質導入する方法は当技術分野で公知であり、限定されないが、核酸又は組換え核酸を形質導入する場合、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、カチオン性脂質法又はリポソーム法などが挙げられる。導入する核酸は、市販のトランスフェクション試薬、例えばリポフェクタミン(Invitrogen社製、カタログ番号:11668027)を使用することにより、従来通りに高効率で形質導入することができる。ベクターを使用する場合、ベクターは、プラスミドベクター(すなわち、ウイルスベクターではないベクター)である限り、上述の核酸と同様に形質導入することができる。本発明の文脈において、細胞(例えば、T細胞)に形質導入する方法としては、レトロウイルス又はレンチウイルスT細胞形質導入、非ウイルスベクター(例えば、sleeping beautyミニサークルベクトル)、並びにmRNAトランスフェクションが挙げられる。「mRNAトランスフェクション」とは、形質導入される細胞内で目的のタンパク質、例えば本発明の抗原結合受容体を一過性に発現させる当業者に周知の方法を指す。簡単に言えば、細胞は、エレクトロポレーションシステム(例えば、Gene Pulser、Bio-Rad)を使用することによって、本発明の抗原結合受容体をコードするmRNAでエレクトロポレーションされ、その後、上記の標準的な細胞(例えば、T細胞)培養プロトコールによって培養され得る(Zhao et al.,Mol Ther.13(1)(2006),151-159を参照)。本発明の形質導入された細胞は、レンチウイルス形質導入、又は最も好ましくはレトロウイルス形質導入によって生成することができる。
【0326】
この文脈において、細胞に形質導入するのに適したレトロウイルスベクターは当技術分野で公知であり、例えば、SAMEN CMV/SRa(Clay et al.,J.Immunol.163(1999),507-513)、LZRS-id3-IHRES(Heemskerk et al.,J.Exp.Med.186(1997),1597-1602)、FeLV(Neil et al.,Nature 308(1984),814-820)、SAX(Kantoff et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83(1986),6563-6567)、pDOL(Desiderio,J.Exp.Med.167(1988),372-388)、N2(Kasid et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87(1990),473-477)、LNL6(Tiberghien et al.,Blood 84(1994),1333-1341)、pZipNEO(Chen et al.,J.Immunol.153(1994),3630-3638)、LASN(Mullen et al.,Hum.Gene Ther.7(1996),1123-1129)、pG1XsNa(Taylor et al.,J.Exp.Med.184(1996),2031-2036)、LCNX(Sun et al.,Hum.Gene Ther.8(1997),1041-1048)、SFG(Gallardo et al.,Blood 90(1997)、及びLXSN(Sun et al.,Hum.Gene Ther.8(1997),1041-1048)、SFG(Gallardo et al.,Blood 90(1997),952-957)、HMB-Hb-Hu(Vieillard et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94(1997),11595-11600)、pMV7(Cochlovius et al.,Cancer Immunol.Immunother.46(1998),61-66)、pSTITCH(Weitjens et al.,Gene Ther 5(1998),1195-1203)、pLZR(Yang et al.,Hum.Gene Ther.10(1999),123-132)、pBAG(Wu et al.,Hum.Gene Ther.10(1999),977-982)、rKat.43.267bn(Gilham et al.,J.Immunother.25(2002),139-151)、pLGSN(Engels et al.,Hum.Gene Ther.14(2003),1155-1168)、pMP71(Engels et al.,Hum.Gene Ther.14(2003),1155-1168)、pGCSAM(Morgan et al.,J.Immunol.171(2003),3287-3295)、pMSGV(Zhao et al.,J.Immunol.174(2005),4415-4423)、又はpMX(de Witte et al.,J.Immunol.181(2008),5128-5136)である。本発明の文脈において、細胞(例えば、T細胞)に形質導入するための適切なレンチウイルスベクターは、例えば、PL-SINレンチウイルスベクター(Hotta et al.,Nat Methods.6(5)(2009),370-376)、p156RRL-sinPPT-CMV-GFP-PRE/NheI(Campeau et al.,PLoS One 4(8)(2009),e6529)、pCMVR8.74(Addgeneカタログ番号:22036)、FUGW(Lois et al.,Science 295(5556)(2002),868-872、pLVX-EF1(Addgeneカタログ番号:64368)、pLVE(Brunger et al.,Proc Natl Acad Sci USA 111(9)(2014),E798-806)、pCDH1-MCS1-EF1(Hu et al.,Mol Cancer Res.7(11)(2009),1756-1770)、pSLIK(Wang et al.,Nat Cell Biol.16(4)(2014),345-356)、pLJM1(Solomon et al.,Nat Genet.45(12)(2013),1428-30)、pLX302(Kang et al.,Sci Signal.6(287)(2013),rs13)、pHR-IG(Xie et al.,J Cereb Blood Flow Metab.33(12)(2013),1875-85)、pRRLSIN(Addgeneカタログ番号:62053)、pLS(Miyoshi et al.,J Virol.72(10)(1998),8150-8157)、pLL3.7(Lazebnik et al.,J Biol Chem.283(7)(2008),11078-82)、FRIG(Raissi et al.,Mol Cell Neurosci.57(2013),23-32)、pWPT(Ritz-Laser et al.,Diabetologia.46(6)(2003),810-821)、pBOB(Marr et al.,J Mol Neurosci.22(1-2)(2004),5-11)、又はpLEX(Addgeneカタログ番号:27976)である。
【0327】
本発明の形質導入された細胞は、好ましくは、それらの自然環境外の制御された条件下で増殖される。特に、「培養する」という用語は、多細胞真核生物(好ましくはヒト患者由来)に由来する細胞(例えば、本発明の形質導入された細胞)をin vitroで増殖させることを意味する。細胞を培養することは、元の組織源から分離された細胞を生きた状態に保つための実験技術である。ここで、本発明の形質導入された細胞は、前記形質導入された細胞内又は上で本発明の抗原結合受容体の発現を可能にする条件下で培養される。この発現又は導入遺伝子(すなわち、本発明の抗原結合受容体のもの)を可能にする条件は、当技術分野において一般に知られており、例えば、アゴニスト抗CD3及び抗CD28抗体、並びにサイトカイン(インターロイキン2(IL-2)、インターロイキン7(IL-7)、インターロイキン12(IL-12)及び/又はインターロイキン15(IL-15)など)の添加が含まれる。培養された形質導入細胞(例えば、CD8+ T)における本発明の抗原結合受容体の発現後、形質導入細胞は培養物(すなわち培地)から回収(すなわち再抽出)される。
【0328】
したがって、本発明の方法によって得られる本発明の核酸分子によってコードされる抗原結合受容体を発現する、形質導入された細胞、好ましくはT細胞、特にCD8+ Tも本発明に包含される。
【0329】
核酸分子
本発明のさらなる態様は、本明細書に記載の1つ又はいくつかの抗原結合受容体をコードする核酸及びベクターである。抗原結合受容体をコードする例示的な核酸分子を配列番号20に示す。核酸分子は、調節配列の制御下にあり得る。例えば、本発明の抗原結合受容体の誘導発現を可能にするプロモーター、転写エンハンサー及び/又は配列が用いられ得る。本発明の文脈において、核酸分子は、構成的プロモーター又は誘導性プロモーターの制御下で発現される。好適なプロモーターには、例えば、CMVプロモーター(Qin et al.,PLoS One 5(5)(2010),e10611)、UBCプロモーター(Qin et al.,PLoS One 5(5)(2010),e10611)、PGK(Qin et al.,PLoS One 5(5)(2010),e10611)、EF1Aプロモーター(Qin et al.,PLoS One 5(5)(2010),e10611)、CAGGプロモーター(Qin et al.,PLoS One 5(5)(2010),e10611)、SV40プロモーター(Qin et al.,PLoS One 5(5)(2010),e10611)、COPIAプロモーター(Qin et al.,PLoS One 5(5)(2010),e10611)、ACT5Cプロモーター(Qin et al.,PLoS One 5(5)(2010),e10611)、TREプロモーター(Qin et al.,PLoS One.5(5)(2010),e10611)、Oct3/4プロモーター(Chang et al.,Molecular Therapy 9(2004),S367-S367(doi:10.1016/j.ymthe.2004.06.904))又はNanogプロモーター(Wu et al.,Cell Res.15(5)(2005),317-24)がある。したがって、本発明は、本発明に記載の1つ又は複数の核酸分子を含む1つ又は複数のベクターに関するものでもある。ここでのベクターという用語は、それが導入された細胞内で自律的に複製することができる環状又は直鎖状の核酸分子を指す。多くの適切なベクターが分子生物学の当業者に知られており、その選択は所望の機能に依存し、プラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ、及び遺伝子工学で従来から使用されている他のベクターが含まれる。当業者に周知の方法を使用して、様々なプラスミド及びベクターを構築することができる。例えば、Sambrook et al.(loc cit.)and Ausubel,Current Protocols in Molecular Biology,Green Publishing Associates and Wiley Interscience,N.Y.(1989),(1994)に記載の技術を参照。あるいは、本発明のポリヌクレオチド及びベクターは、標的細胞に送達するためにリポソームに再構成することができる。以下でさらに詳細に説明するように、個々のDNA配列を単離するためにクローニングベクターが使用された。特定のポリペプチドの発現が必要な場合、適切な配列を発現ベクターに導入することができる。典型的なクローニングベクターには、pBluescript SK、pGEM、pUC9、pBR322、pGA18及びpGBT9が含まれる。代表的な発現ベクターには、pTRE、pCAL-n-EK、pESP-1、pOP13CATが含まれる。
【0330】
本発明はまた、本明細書に定義される抗原結合受容体をコードする前記核酸分子(複数可)に作動可能に連結された調節配列である核酸分子(複数可)を含むベクター(複数可)にも関する。本発明の文脈において、ベクターはポリシストロン性であり得る。このような調節配列(制御エレメント)は当業者に公知であり、プロモーター、スプライスカセット、翻訳開始コドン、ベクター(複数可)に挿入物を導入するための翻訳及び挿入部位を含み得る。本発明の文脈において、前記核酸分子(複数可)は、真核細胞又は原核細胞における発現を可能にする前記発現制御配列に作動可能に連結されている。前記ベクター(複数可)が、本明細書に記載の抗原結合受容体をコードする核酸分子(複数可)を含む発現ベクター(複数可)であることが想定される。動作可能に連結するとは、そのように記載された構成要素が、それらが意図された方法で機能することを可能にする関係にある並置を指す。コード配列に作動可能に連結された制御配列は、コード配列の発現が制御配列と適合する条件下で達成されるような方法で連結される。制御配列がプロモーターである場合、二本鎖核酸が好ましく使用されることは当業者にとって明らかである。
【0331】
本発明の文脈において、記載されたベクター(複数可)は発現ベクターである。発現ベクターは、選択された細胞を形質転換するために使用することができ、選択された細胞内でコード配列の発現を提供する構築物である。発現ベクターは、例えば、クローニングベクター(複数可)、バイナリーベクター(複数可)、又は組み込みベクター(複数可)であり得る。発現は、好ましくは翻訳可能なmRNAへの核酸分子の転写を含む。原核生物及び/又は真核生物細胞における発現を確実にする調節エレメントは、当業者に周知である。調節エレメントは、真核細胞の場合、転写の開始を確実にするプロモーターを通常含み、さらに任意選択で転写の終了と転写物の安定化を確実にするポリAシグナルを含む。原核生物宿主細胞内での発現を可能にする調節エレメントの候補は、例えば、大腸菌のPL、lac、trp又はtacプロモーターを含み、真核生物宿主細胞内での発現を可能にする調節エレメントの例は、酵母のAOX1若しくはGAL1プロモーター又は哺乳動物細胞及びその他の動物細胞のCMVプロモーター、SV40プロモーター、RSVプロモーター(ラウス肉腫ウイルス)、CMVエンハンサー、SV40エンハンサー若しくはグロビンイントロンである。
【0332】
転写の開始に関与するエレメントに加えて、そのような調節エレメントはまた、ポリヌクレオチドの下流にあるSV40-ポリ-A部位又はtk-ポリ-A部位などの転写終結シグナルを含み得る。さらに、使用される発現系に応じて、ポリペプチドを細胞内コンパートメントに向けることができるか又はそれを培地に分泌することができるシグナルペプチドをコードするリーダー配列は、列挙される核酸配列のコード配列に添加されてもよく、当技術分野でよく知られている;例えば、添付の実施例も参照。
【0333】
リーダー配列(複数可)は、翻訳、開始及び終止配列と適切な段階で組み合わされ、好ましくは、翻訳されたタンパク質又はその一部を細胞周辺腔又は細胞外培地に分泌するように指示することができるリーダー配列である。任意選択で、異種配列は、所望の特性、例えば、発現された組換え産物の安定化又は精製の簡略化を付与するN末端識別ペプチドを含む抗原結合受容体をコードすることができる;前掲書参照。この脈絡において、適切な発現ベクターは、Okayama-Berg cDNA expression vector pcDV1(Pharmacia)、pCDM8、pRc/CMV、pcDNA1、pcDNA3(Invitrogene)、pEF-DHFR、pEF-ADA若しくはpEF-neo(Raum et al.Cancer Immunol Immunother 50(2001),141-150)又はpSPORT1(GIBCO BRL)など、当技術分野で公知である。
【0334】
本発明の文脈において、発現制御配列は、真核細胞を形質転換又はトランスフェクトできるベクター中の真核プロモーターシステムであるが、原核細胞用の制御配列も使用することができる。ベクターが適切な細胞に組み込まれると、その細胞は、ヌクレオチド配列の高レベル発現に適した条件下で、所望のように維持される。追加の調節エレメントには、転写エンハンサー及び翻訳エンハンサーが含まれる場合がある。有利には、本発明の上記ベクターは、選択可能及び/又はスコア化可能なマーカーを含んでいる。形質転換細胞、例えば植物組織及び植物の選択に有用な選択マーカー遺伝子は、当業者に周知であり、例えば、メトトレキサートに対する耐性を付与するdhfr(Reiss,Plant Physiol.(Life Sci.Adv.)13(1994),143-149)、アミノグリコシドであるネオマイシン、カナマイシン及びパラマイシンに対する耐性を付与するnpt(Herrera-Estrella,EMBO J.2(1983),987-995)、及びハイグロマイシンに対する耐性を付与するhygro(Marsh,Gene 32(1984),481-485)に対する選択の基礎として代謝拮抗薬耐性を含む。さらなる選択可能な遺伝子、すなわち細胞がトリプトファンの代わりにインドールを利用することを可能にするtrpB、ヒスチジンの代わりにヒスチノールを利用することを可能にするhisD(Hartman、Proc.Natl.Acad.Sci.USA85(1988)、8047)、マンノースを細胞が利用することを可能にするマンノース-6-ホスフェート(国際公開第94/20627号)及びオルニチンデカルボキシラーゼ阻害剤、2-(ジフルオロメチル)-DL-オルニチン、DFMOに対する耐性を付与するODC(オルニチンデカルボキシラーゼ)(McConlogue,1987,In:Current Communications in Molecular Biology,Cold Spring Harbor Laboratory ed.)又はブラストサイジンSに対する耐性を付与するアスペルギルス・テレウス由来のデアミナーゼ(Tamura,Biosci.Biotechnol.Biochem.59(1995)、2336-2338)が記載されている。
【0335】
有用なスコア化可能なマーカーも当業者に知られており、市販されている。有利には、前記マーカーは、ルシフェラーゼ(Giacomin,Pl.Sci.116(1996),59-72;Scikantha,J.Bact.178(1996),121)、緑色蛍光タンパク質(Gerdes,FEBS Lett.389(1996),44-47)又はβ-グルクロニダーゼ(Jefferson,EMBO J.6(1987),3901-3907)である。この実施態様は、言及したベクターを含む細胞、組織及び生物の簡単且つ迅速なスクリーニングに特に有用である。
【0336】
上記のように、言及した核酸分子(複数可)は、例えば、養子T細胞療法のためだけでなく、遺伝子治療の目的のために、細胞内で本発明の抗原結合受容体を発現させるために、単独で、又はベクター(複数可)の一部として使用することができる。本明細書に記載の抗原結合受容体のいずれか1つをコードするDNA配列(複数可)を含む核酸分子又はベクター(複数可)は細胞に導入され、次いで目的のポリペプチドを産生する。遺伝子治療は、ex vivo法又はin vivo法による細胞への治療用遺伝子の導入に基づいており、遺伝子導入の最も重要な応用の一つである。in vitro又はin vivo遺伝子治療のための方法又は遺伝子送達系に適したベクター、方法又は遺伝子送達系は文献に記載されており、当業者に知られている。例えば、Giordano,Nature Medicine 2(1996),534-539;Schaper,Circ.Res.79(1996),911-919;Anderson,Science 256(1992),808-813;Verma,Nature 389(1994),239;Isner,Lancet 348(1996),370-374;Muhlhauser,Circ.Res.77(1995),1077-1086;Onodera,Blood 91(1998),30-36;Verma,Gene Ther.5(1998),692-699;Nabel,Ann.N.Y.Acad.Sci.811(1997),289-292;Verzeletti,Hum.Gene Ther.9(1998),2243-51;Wang,Nature Medicine 2(1996),714-716;国際公開第94/29469号;国際公開第97/00957号;米国特許第5,580,859号;米国特許第5,589,466号;又はSchaper,Current Opinion in Biotechnology 7(1996),635-640を参照されたい。言及した核酸分子(複数可)及びベクター(複数可)は、細胞への直接導入のために、又はリポソーム若しくはウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス)を介した導入のために設計され得る。本発明の文脈において、前記細胞は、CD8+ T細胞、CD4+ T細胞、CD3+ T細胞、γδT細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞などのT細胞であり、好ましくはCD8+ T細胞である。
【0337】
以上により、本発明は、本明細書に記載の抗原結合受容体のポリペプチド配列をコードする核酸分子を含むベクター、特に遺伝子工学において従来から用いられているプラスミド、コスミド、バクテリオファージを得る方法に関する。本発明の文脈において、前記ベクターは、発現ベクター及び/又は遺伝子導入ベクター若しくは標的化ベクターである。レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、又はウシ乳頭腫ウイルスなどのウイルスに由来する発現ベクターが、言及したポリヌクレオチド又はベクターを標的細胞集団に送達するために使用され得る。
【0338】
当業者に周知の方法を用いて1つ又は複数の組換えベクターを構築することができる。例えば、Sambrook et al.(loc cit.),Ausubel(1989,loc cit.)又は他の標準的な教科書に記載の技術を参照されたい。あるいは、言及した核酸分子及びベクターは、標的細胞への送達のためのリポソームに再構成することができる。本発明の核酸分子を含むベクターを周知の方法によって宿主細胞内に導入することができるが、但しそれは細胞宿主の種類によって異なる。例えば、原核細胞には塩化カルシウムトランスフェクションがよく利用されるが、その他の細胞宿主にはリン酸カルシウム処理又はエレクトロポレーションが利用され得る。Sambrook前掲書を参照されたい。言及したベクターは、特に、pEF-DHFR、pEF-ADA又はpEF-neoであってもよい。ベクターpEF-DHFR、pEF-ADA及びpEF-neoは、当技術分野において、例えばMack et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92(1995),7021-7025及びRaum et al.Cancer Immunol Immunother 50(2001),141-150に記載されている。
【0339】
本発明は、本明細書に記載のベクターを形質導入されたT細胞も提供する。前記T細胞は、上述したベクターの少なくとも1つ又は上述した核酸分子の少なくとも1つをT細胞又はその前駆細胞に導入することによって製造することができる。T細胞における前記少なくとも1つのベクター又は少なくとも1つの核酸分子の存在は、変異Fcドメインに特異的に結合することができる抗原結合部分を含む細胞外ドメインを含む上記の抗原結合受容体をコードする遺伝子の発現を媒介するものである。本発明のベクターは多シストロン性とすることができる。
【0340】
T細胞又はその前駆細胞に導入される記載の核酸分子(複数可)又はベクター(複数可)は、細胞のゲノムに組み込まれるか、又は染色体外に維持され得る。
【0341】
キット
本発明のさらなる態様は、本発明によるヘテロ二量体Fcドメインを含む抗体/抗体(複数)、及び本発明による抗原結合受容体をコードする核酸(複数可)、及び/又は前記抗原結合受容体による形質導入のための細胞/前記抗原結合受容体で形質導入された細胞、好ましくはT細胞を含むか、又はこれらからなるキットである。
【0342】
したがって、
(a)第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるヘテロ二量体Fcドメインを含む抗体であって、ここで、第1のサブユニットは、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含み、第2のサブユニットは、EU番号付けによる329位にプロリン(P)を含む、抗体と、
(b)第1のサブユニットに特異的に結合することができる抗原結合受容体を発現することができる形質導入されたT細胞と、
を含むキットが提供される。
【0343】
さらに、
(a)第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるヘテロ二量体Fcドメインを含む抗体であって、ここで、第1のサブユニットは、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含み、第2のサブユニットは、EU番号付けによる329位にプロリン(P)を含む、抗体と、
(b)第1のサブユニットに特異的に結合することができる抗原結合受容体をコードする単離されたポリヌクレオチドと、
を含むキットが提供される。
【0344】
好ましい実施態様では、本発明のキットは、形質導入されたT細胞と、単離されたポリヌクレオチド及び/又はベクターと、第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるヘテロ二量体Fcドメインを含む1つ又は複数の抗体であって、ここで、第1のサブユニットは、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含み、第2のサブユニットは、EU番号付けによる329位にプロリン(P)を含む抗体とを含む。特定の実施態様では、本抗体は、治療用抗体、例えば、本明細書に記載の腫瘍特異的抗体である。腫瘍特異的抗原は、当技術分野で公知であり、本明細書で上に記載されている。本発明の文脈において、本抗体は、本発明の抗原結合受容体を発現する形質導入されたT細胞の投与前、投与と同時又は投与後に投与される。本発明によるキットは、形質導入されたT細胞、又は形質導入されたT細胞を生成するためのポリヌクレオチド/ベクターを含む。この文脈では、形質導入されたT細胞は、所定の腫瘍に特異的ではないが、ヘテロ二量体Fcドメインを含む抗体の使用によって任意の腫瘍を標的とすることができるため、ユニバーサルT細胞である。本明細書では、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むヘテロ二量体Fcドメインを含む抗体の例(例えば、配列番号129~131)が提供されるが、第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるヘテロ二量体Fcドメインを含む任意の抗体であって、ここで、第1のサブユニットは、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含み、第2のサブユニットは、EU番号付けによる329位にプロリン(P)を含む、任意の抗体が提供される。
【0345】
本発明のキットの部品は、バイアル又はボトルに個別包装されていても、容器又はマルチコンテナユニットにまとめて包装されていてもよい。さらに、本発明のキットは、患者細胞、好ましくは本明細書に記載のT細胞を本発明の1つ又は複数の抗原結合受容体で形質導入し、GMP(欧州委員会がhttp://ec.europa.eu/health/documents/eudralex/index_en.htmに掲載している優良製造所基準)条件下でインキュベートすることができる細胞培養バッグ(クローズド)システム((closed)bag cell incubation system)を含んでもよい。さらに、本発明のキットは、単離した/入手した患者T細胞を本発明の抗原結合受容体で形質導入し、GMP下でインキュベートすることができる細胞培養バッグ(クローズド)システムを含む。さらに、本発明の文脈において、本キットは、本明細書に記載の1つ又は複数の抗原結合受容体をコードするベクターを含んでいてもよい。本発明のキットは、特に、本発明の方法を実施するために有利に使用することができ、本明細書で言及する様々な用途、例えば、研究ツール又は医療ツールとして採用することができる。本キットの製造は、好ましくは、当業者に既知の標準的な手順に従う。
【0346】
この文脈において、患者由来細胞、好ましくはT細胞は、上記のEU番号付けに従って、アミノ酸変異P329Gを含むヘテロ二量体Fcドメインに特異的に結合することができる本発明の抗原結合受容体で形質導入され得る。変異ヘテロ二量体Fcドメインに特異的に結合できる抗原結合部分を含む細胞外ドメインは、T細胞内又はT細胞上に天然には存在しないしたがって、本発明のキットで形質導入された患者由来細胞は、本発明によるヘテロ二量体Fcドメインを含む抗体、例えば治療用抗体への特異的結合能力を獲得し、前記抗体との相互作用を介して標的細胞の除去/溶解を誘導することができるようになり、前記抗体は、腫瘍細胞の表面に天然に存在する(すなわち、内因的に発現される)腫瘍特異的抗原に結合することができる。本明細書に記載の抗原結合受容体の細胞外ドメインの結合は、そのT細胞を活性化し、ヘテロ二量体Fcドメインを含む抗体を介してそれを腫瘍細胞と物理的に接触させる。非形質導入T細胞又は内因性T細胞(例えば、CD8+ T細胞)は、変異Fcドメインを含む抗体のヘテロ二量体Fcドメインに結合することができない。本明細書に記載の抗原結合受容体を発現する形質導入されたT細胞は、本明細書に記載のFcドメインに変異を含まない治療用抗体による影響を受けない状態である。したがって、本明細書に記載の抗原結合受容体分子を発現するT細胞は、ヘテロ二量体Fcドメインを含む本明細書に記載の抗体の存在下で、in vivo及び/又はin vitroで標的細胞を溶解する能力を有する。対応する標的細胞は、本明細書に記載の抗体の少なくとも1つ、好ましくは2つの結合ドメインによって認識される表面分子、すなわち腫瘍細胞の表面上に天然に存在する腫瘍特異的抗原を発現する細胞を含む。
【0347】
標的細胞の溶解は、当技術分野で公知の方法によって検出することができる。したがって、このような方法は、特に生理学的なin vitroアッセイを含む。このような生理学的アッセイは、例えば細胞膜の完全性の喪失による細胞死をモニターすることができる(例えば、FACSベースのヨウ化プロピジウムアッセイ、トリパンブルー流入アッセイ、測光酵素放出定(photometric enzyme release)アッセイ(LDH)、放射性51Cr放出(radiometric 51Cr release)アッセイ、蛍光定量ユーロピウム放出(fluorometric Europium release)アッセイ及びカルセインAM放出アッセイ)。さらなるアッセイは、例えば、測光MTT、XTT、WST-1及びアラマーブルーアッセイ、放射性3H-Thd取り込みアッセイ、細胞分裂活性を測定するクローン形成アッセイ、及びミトコンドリア膜貫通勾配を測定する蛍光ローダミン123アッセイによる細胞生存能力のモニターを含む。さらに、アポトーシスは、例えば、FACSベースのホスファチジルセリン曝露アッセイ、ELISAベースのTUNEL試験、カスパーゼ活性アッセイ(測光、蛍光測定又はELISAベース)によって、又は変化した細胞形態(収縮、膜小疱形成)を分析することによってモニターすることができる。
【0348】
併用療法
本明細書で提供される分子又は構築物(例えば、抗体、抗原結合受容体、形質導入されたT細胞及びキット)は、特にがんの治療のために医療現場で特に有用である。例えば、腫瘍は、腫瘍細胞上の標的抗原に結合し、ヘテロ二量体Fcドメインを含む治療用抗体と併せて、本発明による抗原結合受容体を発現する形質導入されたT細胞で治療され得る。したがって、特定の実施態様では、抗体、抗原結合受容体、形質導入されたT細胞又はキットは、がん、特に上皮、内皮又は中皮由来のがん及び血液のがんの治療において使用される。
【0349】
治療の腫瘍特異性は、ヘテロ二量体Fcドメインと標的細胞抗原に結合する特異性を持つ抗体によってもたらされる。抗体は、本発明の抗原結合受容体を発現する形質導入されたT細胞の投与前、投与と同時、又は投与後に投与することができる。この文脈では、形質導入されたT細胞は、所定の腫瘍に特異的ではないが、本発明に従って使用される抗体の特異性に応じて任意の腫瘍を標的とすることができるため、ユニバーサルT細胞である。
【0350】
上記がんは、上皮、内皮又は中皮由来のがん/癌であっても、血液のがんであってもよい。一実施態様では、上記がん/癌は、胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、口腔がん、胃がん、子宮頸管がん、B及びT細胞リンパ腫、骨髄性白血病、卵巣がん、白血病、リンパ性白血病、上咽頭癌、結腸がん、前立腺がん、腎細胞がん、頭頚部がん、皮膚がん(メラノーマ)、尿生殖器管のがん、例えば精巣がん、卵巣がん、内皮がん、子宮頸がん、及び腎臓がん、胆管のがん、食道がん、唾液腺のがん、及び甲状腺のがん、又は血液腫瘍、神経膠腫、肉腫若しくは骨肉腫などの他の腫瘍性疾患からなる群から選択される。
【0351】
例えば、腫瘍性疾患及び/又はリンパ腫は、これらの医学的適応症を対象とする特定の構築物を用いて治療され得る。例えば、胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、及び/又は口腔がんは、(腫瘍細胞の表面に天然に存在する腫瘍特異抗原としての)(ヒト)EpCAMに対して向けられる抗体で治療することができる。
【0352】
胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、及び/又は口腔がんは、ヘテロ二量体Fcドメインを含み、HER1、好ましくはヒトHER1に対して向けられる抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療され得る。さらに、胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、膠芽細胞腫、及び/又は口腔がんは、ヘテロ二量体Fcドメインを含み、MCSP、好ましくはヒトMCSPに対して向けられる抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療され得る。胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、膠芽細胞腫、及び/又は口腔がんは、ヘテロ二量体Fcドメインを含み、FOLR1、好ましくはヒトFOLR1に対して向けられる抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療され得る。胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、膠芽細胞腫、及び/又は口腔がんは、ヘテロ二量体Fcドメインを含み、Trop-2、好ましくはヒトTrop-2に対して向けられる抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療され得る。胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、膠芽細胞腫、及び/又は口腔がんは、ヘテロ二量体Fcドメインを含み、PSCA、好ましくはヒトPSCAに対して向けられる抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療され得る。胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、膠芽細胞腫、及び/又は口腔がんは、ヘテロ二量体Fcドメインを含み、EGFRvIII、好ましくはヒトEGFRvIIIに対して向けられる抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療され得る。胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、膠芽細胞腫、及び/又は口腔がんは、ヘテロ二量体Fcドメインを含み、MSLN、好ましくはヒトMSLNに対して向けられる抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療され得る。胃がん、乳がん、及び/又は子宮頸がんは、ヘテロ二量体Fcドメインを含み、HER2、好ましくはヒトHER2に対して向けられる抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療され得る。胃がん及び/又は肺がんは、ヘテロ二量体Fcドメインを含み、HER3、好ましくはヒトHER3に対して向けられる抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療され得る。B細胞リンパ腫及び/又はT細胞リンパ腫は、ヘテロ二量体Fcドメインを含み、CD20、好ましくはヒトCD20に対して向けられる抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療され得る。B細胞リンパ腫及び/又はT細胞リンパ腫は、ヘテロ二量体Fcドメインを含み、CD22、好ましくはヒトCD22に対して向けられる抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療され得る。骨髄性白血病は、ヘテロ二量体Fcドメインを含み、CD33、好ましくはヒトCD33に対して向けられる抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療され得る。卵巣がん、肺がん、乳がん、及び/又は胃腸がんは、ヘテロ二量体Fcドメインを含み、CA12-5、好ましくはヒトCA12-5に対して向けられる抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療され得る。胃腸がん、白血病、及び/又は上咽頭癌は、ヘテロ二量体Fcドメインを含み、HLA-DR、好ましくはヒトHLA-DRに対して向けられる抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療され得る。結腸がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、及び/又は膵臓がんは、MUC-1、好ましくはヒトMUC-1に対して向けられる抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療され得る。結腸がんは、ヘテロ二量体Fcドメインを含み、A33、好ましくはヒトA33に対して向けられる抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療され得る。前立腺がんは、ヘテロ二量体Fcドメインを含み、PSMA、好ましくはヒトPSMAに対して向けられる抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療され得る。胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、及び/又は口腔がんは、ヘテロ二量体Fcドメインを含み、トランスフェリン受容体、好ましくはヒトトランスフェリン受容体に対して向けられる抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療され得る。膵臓がん、肺がん、及び/又は乳がんは、ヘテロ二量体Fcドメインを含み、トランスフェリン受容体、好ましくはヒト受容体に対して向けられる抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療され得る。腎臓がんは、ヘテロ二量体Fcドメインを含み、CA-IX、好ましくはヒトCA-IXに対して向けられる抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療され得る。
【0353】
また、本発明は、疾患、例えば上皮、内皮若しくは中皮由来のがん及び/又は血液のがんなどの悪性疾患の治療方法に関するものでもある。本発明の文脈において、前記対象はヒトである。
【0354】
本発明の文脈において、疾患の治療のための特定の方法は、
(a)対象からT細胞、好ましくはCD8+ T細胞を単離する工程;
(b)前記単離されたT細胞、好ましくはCD8+ T細胞に、本明細書に記載の抗原結合受容体を形質導入する工程;及び
(c)形質導入されたT細胞、好ましくはCD8+ T細胞を前記対象に投与する工程
を含む。
【0355】
本発明の文脈において、前記形質導入されたT細胞、好ましくはCD8+ T細胞、及び/又はヘテロ二量体抗体/抗体(複数)は、静脈内注入によって前記対象に同時投与される。
【0356】
さらに、本発明の文脈において、本発明は、
(a)対象からT細胞、好ましくはCD8+ T細胞を単離する工程;
(b)前記単離されたT細胞、好ましくはCD8+ T細胞に、本明細書に記載の抗原結合受容体を形質導入する工程;
(c)任意選択的に、前記単離されたT細胞、好ましくはCD8+ T細胞にT細胞受容体を同時形質導入する工程;
(d)抗CD3抗体及び抗CD28抗体によってT細胞、好ましくはCD8+ T細胞を増殖させる工程;及び
(e)形質導入されたT細胞、好ましくはCD8+ T細胞を前記対象に投与する工程
を含む疾患の治療方法を提供する。
【0357】
上述の工程(d)(抗CD3抗体及び/又は抗CD28抗体によるTILなどのT細胞の増殖工程を指す)は、インターロイキン2及び/又はインターロイキン15(IL-15)などの(刺激性)サイトカインの存在下で実施することもできる。本発明の文脈において、上述の工程(d)(抗CD3抗体及び/又は抗CD28抗体によるTILなどのT細胞の増殖工程を指す)は、インターロイキン12(IL-12)、インターロイキン7(IL-7)及び/又はインターロイキン21(IL-21)の存在下で実施することもできる。
【0358】
治療方法は、さらに、本発明に従って使用される抗体の投与を含む。前記抗体は、形質導入されたT細胞の投与前、投与と同時又は投与後に投与され得る。本発明の文脈において、形質導入されたT細胞の投与は、静脈内注入によって行われるであろう。本発明の文脈において、その形質導入されたT細胞は、治療対象から単離/取得される。
【0359】
本発明はさらに、他の化合物、例えば、免疫エフェクター細胞、細胞増殖又は細胞刺激のための活性化シグナルを提供することができる分子との同時投与プロトコールを想定している。前記分子は、例えば、T細胞のさらなる一次活性化シグナル(例えば、さらなる共刺激分子:B7ファミリーの分子、Ox40L、4.1BBL、CD40L、抗CTLA-4、抗PD-1)、又はさらなるサイトカインインターロイキン(例えば、IL-2)であってもよい。
【0360】
また、上記のような本発明の組成物は、任意選択で検出のための手段及び方法をさらに含む、診断用組成物であってもよい。
【0361】
これら及びその他の実施態様は、本発明の説明及び実施例によって開示され、包含される。本発明に従って採用される抗体、細胞、方法、使用及び化合物のいずれか1つに関するさらなる文献は、例えば電子機器を使用して公共の図書館及びデータベースから検索することができる。例えばhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/PubMed/medline.htmlから、例えばインターネット上で公開されている公共データベース「Medline」を利用することができる。さらなるデータベース及びアドレス、例えば、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/、http://www.tigr.org/、http://www.infobiogen.fr/、及びhttp://www.fmi.ch/biology/research_tools.htmlなどが当業者に知られており、例えばhttp://www.lycos.comを使用して取得することもできる。
【0362】
【実施例】
【0363】
以下は、本発明の方法及び組成物の実施例である。上に提供された一般的な説明を前提として、他の様々な実施態様が実施され得ることが理解される。
【0364】
組換えDNA技術
標準的な方法を使用して、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A laboratory manual;Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,1989に記載されるように、DNAを操作した。分子生物学的試薬を、製造者の指示書に従って使用した。ヒト免疫グロブリンの軽鎖及び重鎖のヌクレオチド配列に関連する一般的な情報は、Kabat,E.A.et al.,(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,NIH Publication No.91-3242に示される。
【0365】
DNA配列決定
DNA配列は、二本鎖配列決定によって決定した。
【0366】
遺伝子合成
所望の遺伝子セグメントは、必要に応じて、適切なテンプレートを用いてPCRによって生成するか、又は自動化された遺伝子合成による合成オリゴヌクレオチド及びPCR生成物からGeneart AG(Regensburg,Germany)により合成した。正確な遺伝子配列が入手できない場合は、最も近い相同体からの配列に基づいてオリゴヌクレオチドプライマーを設計し、適切な組織に由来するRNAからRT-PCRによって遺伝子を単離した。特異的な制限エンドヌクレアーゼ切断部位に隣接する遺伝子セグメントを、標準的なクローニング/配列決定ベクター中にクローニングした。プラスミドDNAを形質転換細菌から精製し、濃度をUV分光法によって測定した。サブクローニングされた遺伝子断片のDNA配列を、DNA配列決定によって確認した。遺伝子セグメントは、それぞれの発現ベクター中へのサブクローニングを可能にする適切な制限部位を用いて設計された。全ての構築物は、真核細胞における分泌のためのタンパク質を標的とするリーダーペプチドをコードする、5’末端DNA配列を用いて設計された。
【0367】
HEK293 EBNA又はCHO EBNA細胞におけるIgG様タンパク質の製造
抗体及び二重特異性抗体を、HEK293 EBNA細胞又はCHO EBNA細胞への一過性トランスフェクションにより作製した。細胞を遠心分離し、培地を予め温めたCD CHO培地(Thermo Fisher、カタログ番号10743029)に置き換えた。CD CHO培地中で発現ベクターを混合し、PEI(ポリエチレンイミン、Polysciences,Inc,カタログ番号23966-1)を添加し、溶液をボルテックスして室温で10分間インキュベートした。その後、細胞(2Mio/mL)をベクター/PEI溶液と混合して、フラスコに移し、5%CO2雰囲気の振盪インキュベーター内で、3時間37℃でインキュベートした。インキュベーションの後、補充物(全体積の80%)を含むExcell培地を加えた(W.Zhou and A.Kantardjieff,Mammalian Cell Cultures for Biologics Manufacturing,DOI:10.1007/978-3-642-54050-9;2014)。トランスフェクションの1日後に、補充物(Feed、全体積の12%)を加えた。7日後、遠心分離及びその後の濾過(0.2μmフィルター)により細胞上清を回収し、以下に示す標準的な方法により、回収した上清からタンパク質を精製した。
【0368】
CHO K1細胞におけるIgG様タンパク質の製造
代替的に、本明細書に記載の抗体及び二重特異性抗体は、Evitria社により、独自のベクター系と従来の(非PCRベースの)クローニング技術を使用し、懸濁適応CHO K1細胞(もともとATCCから譲り受け、Evitria社で懸濁培養液中での無血清培養に適応させたもの)を用いて調製された。製造のために、Evitria社は、独自の動物成分非含有無血清培地(eviGrow及びeviMake2)と独自のトランスフェクション試薬(eviFect)を使用した。遠心分離及びその後の濾過(0.2μmフィルター)により上清を回収し、標準的な方法により、回収した上清からタンパク質を精製した。
【0369】
IgG様タンパク質の精製
標準的なプロトコールを参照して、濾過された細胞培養上清からタンパク質を精製した。簡潔には、Fc含有タンパク質を、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー(平衡化緩衝液:20mMクエン酸ナトリウム、20mMリン酸ナトリウム、pH7.5;溶出緩衝液:20mMクエン酸ナトリウム、pH3.0)によって細胞培養上清から精製した。溶出はpH3.0で達成され、続いて直ちに試料のpHが中和された。タンパク質を遠心分離(Millipore Amicon(登録商標)ULTRA-15(Art.Nr.:UFC903096))によって濃縮し、20mMヒスチジン、140mM塩化ナトリウム、pH6.0中でのサイズ排除クロマトグラフィーによって、凝集したタンパク質を単量体タンパク質から分離した。
【0370】
IgG様タンパク質の分析
精製タンパク質の濃度は、Pace,et al.,Protein Science,1995,4,2411-1423に従ってアミノ酸配列に基づいて計算された質量吸光係数を使用して280nmでの吸収を測定することによって決定した。タンパク質の純度及び分子量を、LabChipGXII又はLabChip GX Touch(Perkin Elmer)(Perkin Elmer)を使用して、還元剤の存在下及び非存在下でCE-SDSによって分析した。凝集物含有量の決定を、ランニングバッファー(200mM KH2PO4、250mM KCl pH6.2、0.02%NaN3)中で平衡化した分析用サイズ排除カラム(TSKgel G3000 SW XL又はUP-SW3000)を使用して、25℃でHPLCクロマトグラフィーにより実施した。
【0371】
レンチウイルス上清の調製とJurkat-NFAT細胞への形質導入
約80%コンフルエントなHek293T細胞(ATCC CRL3216)及びCARをコードする移入ベクター並びにパッケージングベクターpCAG-VSVG及びpsPAX2を2:2:1のモル比で使用して、リポフェクタミンLTX(商標)に基づくトランスフェクションを行った(Giry-Laterriere M,et al Methods Mol Biol.2011;737:183-209,Myburgh R,et al Mol Ther Nucleic Acids.2014)。66時間後、上清を回収し、350×gで5分間遠心分離し、0.45μmポリエーテルスルホンフィルターで濾過してウイルス粒子を回収し、精製した。ウイルス粒子は、そのまま使用するか、又は濃縮して(Lenti-x-Concentrator、Takara)、Jurkat NFAT T細胞のスピンフェクション(GloResponse Jurkat NFAT-RE-luc2P、Promega #CS176501、900×g、2時間、31℃)に使用した。
【0372】
Jurkat NFAT活性化アッセイ
Jurkat NFAT活性化アッセイは、ヒト急性リンパ性白血病レポーター細胞株(GloResponse Jurkat NFAT-RE-luc2P、Promega #CS176501)のT細胞活性化を測定するものである。この不死化T細胞株は、NFAT応答エレメント(NFAT-RE)により駆動されるルシフェラーゼレポーターを安定的に発現するように遺伝子操作されている。さらに、該細胞株は、CD3zシグナル伝達メインを有するキメラ抗原受容体(CAR)構築物を発現する。CARと固定化されたアダプター分子(腫瘍抗原結合アダプター分子など)との結合により、CARの架橋が起こり、T細胞活性化とルシフェラーゼの発現に至る。基質の添加後、NFAT活性の細胞変化を相対光単位として測定することができる(Darowski et al.Protein Engineering,Design and Selection,Volume 32,Issue 5,May 2019,Pages 207-218,https://doi.org/10.1093/protein/gzz027)。一般に、このアッセイは384プレート(Falcon #353963 白色、透明底)で実施された。標的細胞(CAR-Jurkat-NFAT細胞)とエフェクター細胞を1:5の比率(標的細胞2000個、エフェクター細胞10000個)で10μlずつ、RPMI-1640+10%FCS+1%Glutamax(増殖培地)に3連で播種した。増殖培地でさらに、目的の抗体の段階希釈液を、アッセイプレートで最終濃度が67nMから0.000067nM、最終体積が1ウェルあたり合計30μlとなるように調製した。384ウェルプレートを300g、室温で1分間遠心分離し、37℃、5%CO2で、湿度雰囲気中インキュベートした。7時間のインキュベーション後、最終容量の20%のONE-Glo(商標)LuciferaseAssay(E6120,Promega)を加え、プレートを350×gで1分間遠心分離した。その後、直ちにTecan社製マイクロプレートリーダーを使用して、1秒/ウェルあたりの相対発光単位(RLU)を測定した。GraphPadPrism バージョン7を用いて、濃度反応曲線をフィッティングさせ、EC50値を算出した。p値として、GraphPadPrism 7に記載されているNew England Journal of Medicineスタイルを使用した。*はP≦0,033;**はP≦0,002;***はP≦0,001を意味する。
【0373】
実施例1
ヒト化抗P329G抗体の生成及び特性評価
親抗P329G抗体及びヒト化抗P329G抗体はHEK細胞で産生され、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー及びサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。全ての抗体は、高品質で精製された(表2)。
【0374】
【0375】
抗P329GバインダーM-1.7.24の親及び6つのヒト化バリアントのヒトFc(P329G)への結合
器具類:Biacore T200
チップ:CM5(#772)
Fc1~4:抗ヒトFab特異的(GE Healthcare 28-9583-25)
捕捉:50nM IgG、60秒
分析物:ヒトFc(P329G)(P1AD9000-004)
ランニングバッファー:HBS-EP
T°:25℃
希釈:HBS-EPで2倍希釈 0.59~37.5nM
流速:30μl/分
会合:240秒
解離:800秒
再生:10mM グリシン pH2.1 2x60秒
【0376】
SPR実験は、Biacore T200で、HBS-EP+をランニングバッファーとして(0.01M HEPES pH7.4、0.15M NaCl、0.005% Surfactant P20(BR-1006-69、GE Healthcare))を使用して実施された。抗ヒトFab特異性抗体(GE Healthcare 28-9583-25)を、CM5チップ(GE Healthcare)上にアミンカップリングにより直接固定化した。IgGを、50nMで60秒間捕捉した。ヒトFc(P329G)の2倍希釈系列を、30μl/分で240秒間リガンド上を通過させ、会合相を記録した。解離相を、800秒間モニターし、試料溶液からHBS-EP+へと切り替えることによってトリガーした。チップ表面は、10mMグリシン、pH2.1を60秒間2回注入することにより、サイクルごとに再生された。バルク屈折率の差は、参照フローセル1で得られた応答を差し引くことで補正された。親和定数を、Biaevalソフトウェア(GE Healthcare)を使用して、1:1ラングミュア結合へのフィッティングによって速度定数から導出した。測定は、独立した希釈系列でトリプリケートで行われた。
【0377】
以下の試料について、ヒトFc(P329G)との結合を解析した(表3)。
【0378】
【0379】
ヒトFc(P329G)は、ヒトIgG1のプラスミン消化と、続いてプロテインAによるアフィニティー精製及びサイズ排除クロマトグラフィーによって調製された。
【0380】
抗P329GバインダーM-1.7.24の親及び6つのヒト化バリアントのヒトFc(P329G)への結合
解離相を1本の曲線に当てはめ、オフレートを特徴づけるのに役立てた。結合と捕捉反応レベルの比率を算出した。(表4)
【0381】
【0382】
抗P329GバインダーM-1.7.24の親及び3つのヒト化バリアントのヒトFc(P329G)に対する親和性
親と同様の結合パターンを持つ3種類のヒト化バリアントを、より詳細に評価した。1:1のラングミュア結合の速度定数を表5にまとめた。
【0383】
【0384】
結論
6つのヒト化バリアントが生成された。それらのうちの3つ(VH4VL1、VH1VL2、VH1VL3)は、親M-1.7.24と比較して、ヒトFc(P329G)への結合の減少を示した。他の3つのヒト化バリアント(VH1VL1、VH2VL1、VH3VL1)は、親バインダーと非常に似た結合反応速度を示し、ヒト化によって親和性が失われることはなかった。
【0385】
実施例2
ヒト化抗P329G抗原結合受容体の調製
ヒト化P329Gバリアントの機能性を評価するために、P329G Fc変異に特異的なバインダーをコードする重鎖(VH)と軽鎖(VL)の異なる可変ドメインDNA配列を一本鎖可変断片(scFv)結合部分としてクローニングし、第二世代キメラ抗原受容体(CAR)の抗原結合ドメインとして使用した。
【0386】
P329Gバインダーの異なるヒト化バリアントは、Ig重鎖可変メインドメイン(VL)とIg軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。VHとVLは(G4S)4リンカーを介して連結されている。scFv抗原結合ドメインは、アンカー膜貫通ドメイン(ATD)CD8a(Uniprot P01732[183-203])に融合され、これが細胞内共刺激シグナル伝達ドメイン(CSD)CD137(Uniprot Q07011AA 214-255)に融合され、さらに刺激シグナル伝達ドメイン(SSD)CD3ζ(Uniprot P20963 AA 52-164)に融合される。抗P329G CARのscFvは、VHxVL(
図1A)又はVLxVH(
図1B)の2つの異なる方向で構築された。VHVL構成についての例示的な発現構築物(GFPレポーターを含む)のグラフ表示を
図1Cに示し、VLVH構成について
図1Dに示す。
【0387】
実施例3
Jurkat-NFAT細胞における抗P329G抗原結合受容体の発現
異なるヒト化抗P329G抗原結合受容体をJurkat(GloResponse Jurkat NFAT-RE-luc2P、Promega #CS176501)細胞へウイルス形質導入した。
【0388】
抗P329G抗原結受容体の発現をフローサイトメトリーで評価した。異なるヒト化抗P329G抗原結合受容体を使用するJurkat細胞を収集し、PBSで洗浄し、96ウェル平底プレートにウェル当たり50,000細胞で播種した。異なる濃度(1:5の500nM~0nM連続希釈)のFcドメインにP329G変異を含む抗体で暗所及び冷蔵庫(4~8℃)で45分間染色した後、試料をFACS緩衝液(2% FBS、10%の0.5M EDTA、pH8及び0.5g/L NaN3を含有するPBS)で3回洗浄した。その後、試料を2.5μg/mLポリクローナル抗ヒトIgG Fcγ断片特異的且つPEコンジュゲートAffiniPure F(ab’)2ヤギ断片抗体で30分間、暗所冷蔵庫内で染色し、フローサイトメトリー(Fortessa BD)で分析した。さらに、抗P329G抗原結合受容体には細胞内GFPレポーターが含まれていた(
図1Cを参照)。
【0389】
P329Gバインダーのヒト化バージョン(VH1VL1、VH2VL1、及びVH3VL1)と比較して、元の非ヒト化バインダーは細胞表面で弱いCAR標識化を示すが(
図2A)、GFP発現は同等である。興味深いことに、VL1VH1構築物(
図1Dを参照)は高いGFP発現を示すが、細胞表面での弱いCAR標識化も示し、これはバインダーの好ましくないコンフォメーション(confirmation)であることを示している。
【0390】
全体として、予想外に、VH3VL1バージョンが最も高いGFP発現とCAR表面発現を示す。さらに、VHVLコンフォメーション(confirmation)の試験された全ての構築物(VH1VL1、VH2VL1、及びVH3VL1)は、Jurkat T細胞に形質導入すると、元の非ヒト化P329G抗原結合受容体、さらには興味深いことにVLVHコンフォメーション(confirmation)の構築物(VL1VH3)と比較して、増強されたGFPシグナルを示す。
【0391】
結論として、VHVLコンフォメーション(confirmation)は、抗原結合受容体の発現レベル及び細胞表面への正確な標的化に有利であると思われる。
【0392】
さらに、ヒト化抗P329G抗原結合受容体の選択性、特異性及び安全性を特徴づけるために、様々な試験を実施した。
【0393】
実施例4
FcドメインにP329G変異を含む標的化抗体の存在下での特異的なT細胞活性化
様々なヒト化抗P329G-scFvバリアントの非特異的結合を除外するために、これらのバリアントを含む抗原結合受容体を発現するJurkat NFAT細胞の活性化を、CD20陽性WSUDLCL2標的細胞及び様々なFcバリアント(Fc野生型、Fc P329G変異、LALA変異、D246A変異又はそれらの組み合わせ)を有する抗CD20(GA101)抗体の存在下で評価した。CAR-Jurkat NFAT活性化アッセイを上記のように行い、抗CD20(GA101)野生型IgG1(
図3A、抗CD20(GA101)P329G LALA IgG1(
図3B)、抗CD20(GA101)LALA IgG1(
図3D)、抗CD20(GA101)D246A P329G IgG1(
図3F)又は非特異的DP-47 P329G LALA IgG1(
図3E)を使用して、非特異的結合の可能性を評価した。抗CD20(GA101)野生型IgG1(
図3A)、抗CD20(GA101)LALA IgG1(
図3D)又は非特異的DP-47 P329G LALA IgG1(
図3E)については、非特異的抗P329G CAR活性化を検出することができなかった。
【0394】
特異的な抗P329G CAR活性化を、抗CD20(GA101)P329G LALA IgG1(
図3B)及び抗CD20(GA101)D246A P329G IgG1(
図3F)の存在下で検出することができた。評価されたEC
50は、全てのヒト化抗P329Gバリアント間で同等であり、元のバインダーのEC
50と異なることはなかった。
【0395】
興味深いことに、VHVLコンフォメーションのscFvバインダーを含む抗原結合受容体は、元の非ヒト化バインダー及びVLVHコンフォメーションのヒト化バインダーと比較して、Jurkat NFAT T細胞の強い活性化をもたらす。より高いプラトー(例えば
図3F参照)は、発現レベルの向上及び/又は抗原結合受容体による細胞表面への輸送の向上により、より強い活性化がもたらされたためと考えられる。さらに、このコンフォメーションはP329G変異への結合に影響を与え得る。
【0396】
T細胞のトニックシグナル伝達又は非特異的な活性化をもたらす抗原結合ドメインクラスター化のリスクを調べるため、Jurkat NFAT活性化アッセイを上記のように実施したが、使用する初期抗体濃度を上げ、100nMのGA101 P329G LALA IgG1で段階希釈を開始し、さらに標的細胞は播種しなかった。
【0397】
図3Cに描かれているように、試験した全てのヒト化P329Gバリアントで活性化が検出されなかったことは、標的細胞の非存在下で検出可能な受容体クラスタリング又は非特異的な活性化を示している。
【0398】
実施例5
異なるレベルの抗原を発現する標的細胞に対するT細胞活性化によって評価される、異なるヒト化P329G抗原結合受容体バリアントの感受性
さらに、ヒト化抗P329G抗原結合受容体の感受性及び選択性を特徴づけるために、上記のようにJurkat NFAT活性化アッセイを実施した。
【0399】
異なるヒト化抗P329G-scFvバリアント抗原結合受容体を発現するJurkat NFATレポーター細胞を、高(HeLa-FolR1)、中(Skov3)、低(HT29)FolR1陽性標的細胞を識別する能力について評価した。Jurkat-Reporter細胞株において、抗P329G結合体の様々なバリアントをscFv抗原認識足場として、FolR1に対して高親和性(16D5)(
図4A、D、G)、中親和性(16D5 W96Y)(
図4B、E、H)又は低親和性(16D5 G49S/K53A)(
図4C、F、I)を呈する抗体と組み合わせて使用した。高発現標的細胞であるHeLa-FolR1は、高親和性抗FolR1 16D5(
図4A)、中程度親和性抗FolR1 16D5 W96Y(
図4B)及び低親和性アダプター-IgG抗FolR1 G49S K53A(
図4C)と組み合わせて、用量依存的活性化を示した。中程度発現標的細胞であるSkov3は、高親和性抗FolR1 16D5(
図4D)、中程度親和性抗FolR1 16D5 W96Y(
図4E)、低親和性アダプター-IgG抗FolR1 G49S K53A(
図4F)と組み合わせて、用量依存的活性化を示した。低発現標的細胞であるHT29については、異なる親和性バインダー抗FolR1 16D5(
図4G)、抗FolR1 16D5 W96Y(
図4H)又は低親和性アダプター-IgG抗FolR1 G49S K53A(
図4I)と組み合わせて、シグナルは全く検出されなかった。さらに、興味深いことに、VHVLフォーマットの抗原結合受容体は、元の非ヒト化バインダー及びVLVHフォーマットのヒト化バインダーと比較して強いJurkat NFAT T細胞の活性化をもたらす。ヒト化バリアントVH3VL1 scFvバインダーは、全ての構築物の中で最も高いシグナル強度をもたらす(
図4A-F)。
【0400】
さらに、抗FolR1 16D5 P329G LALA IgG1(
図5)又は抗HER2 P329G LALA IgG1(
図6)のいずれかと組み合わせて使用したHeLa(FolR1
+及びHER2
+)細胞について、Jurkat NFAT活性化アッセイを実施した。いずれも、VLVH配向よりもVHVL配向の方が優れているという知見を確かめるものである。ヒト化バリアントVH3VL1が、Jurkat NFAT T細胞の最も強い活性化をもたらす。
【0401】
実施例6
Fcドメインの1つのサブユニットにP329G変異を含むヘテロ二量体標的化抗体の存在下での特異的T細胞活性化
ヘテロ二量体抗CD20 IgG(配列番号129~131)が抗P329G CAR(配列番号7)JurkatレポーターT細胞又はCD16-CAR JurkatレポーターT細胞を選択的に動員する能力を、それぞれのJurkatレポーターT細胞とWSUDLCL2(CD20+)標的細胞の共培養によって評価した。CAR-Jurkat NFAT活性化アッセイを上記のように実施し、抗CD20(GA101)野生型IgG1、抗CD20(GA101)P329G LALA IgG1、抗CD20(GA101)脱フコシル化IgG1、及び抗CD20(GA101)ヘテロ二量体IgGを滴定した。CD16-CAR Jurkat NFAT T細胞については、抗CD20(GA101)野生型IgG1、抗CD20(GA101)脱フコシル化IgG1、又は抗CD20(GA101)ヘテロ二量体IgG1を使用した場合、特異的な用量依存的な活性化が観察される可能性がある(
図9A)。抗P329G CAR Jurkat T細胞については、抗CD20(GA101)P329G LALA IgG1又は抗CD20(GA101)ヘテロ二量体IgG1を使用した場合、特異的な用量依存的な活性化が観察される可能性がある(
図9B)。
【0402】
実施例7
ヘテロ二量体IgG1で動員されたCD16-CAR T細胞による特異的標的細胞溶解
ヘテロ二量体IgGがCD16-CAR T細胞を選択的に動員し、腫瘍細胞溶解を誘導する能力を、それぞれのJurkatレポーターT細胞とWSUDLCL2(CD20+)標的細胞の共培養によって評価した。CAR-Jurkat NFAT活性化アッセイを上記のように実施し、抗CD20(GA101)野生型IgG1、抗CD20(GA101)P329G LALA IgG1、抗CD20(GA101)脱フコシル化IgG1、及び抗CD20(GA101)ヘテロ二量体IgGを滴定した。CD16-CAR Jurkat NFAT T細胞については、抗CD20(GA101)P329G LALA IgG1又は抗CD20(GA101)ヘテロ二量体IgG1を使用した場合、特異的な用量依存的な活性化が観察される可能性がある(
図10A)。抗P329G CAR Jurkat T細胞については、抗CD20(GA101)野生型IgG1、抗CD20(GA101)脱フコシル化IgG1、又は抗CD20(GA101)ヘテロ二量体IgG1を使用した場合、特異的な用量依存的な活性化が観察される可能性がある(
図10B)。
【0403】
実施例8
ヘテロ二量体IgG1のADCCを誘導する能力
ヘテロ二量体IgG1がADCCを誘導する能力を評価するために、健康なドナーからのPBMCとWSUDLCLS(CD20+)の共培養物中で抗体を滴定した。4.5時間後、LDH放出を測定した。アッセイを実施するために、PBMCをHistopaque-1077(シグマ)を使用して密度勾配遠心分離法によって単離した。50μl/ウェル(0.625Mio細胞/ウェル)の単離されたPBMCを96丸底ウェルプレートに播種した。WSUDLCL2標的細胞を回収し、計数して生存率を確認し、0.025Mio細胞/ウェルを50μl/ウェルでPBMCに播種した。異なる濃度の抗CD20(GA101)ヘテロ二量体IgG1、抗CD20(GA101)脱フコシル化、抗CD20(GA101)野生型IgG1、又は抗CD20(GA101)P329G LALAのいずれかを加えた。細胞を抗CD107a-PEで直接染色し、37℃、5% CO2、加湿雰囲気のインキュベーター内で4.5時間インキュベートした。読み出しの1時間前に、50μl/ウェルの4% TritonX-100を最大放出ウェルに加えた(標的細胞のみ)。最終インキュベーション時間の後、50μlの上清を平底TPPプレートに移し、製造業者の指示に従って調製した50μlのLDH基質(LDHキット;Roche)を加えた。吸収度は直ちにTecan-reader(490nm-650nm)で10分間測定した。
【0404】
棒グラフはテクニカルトリプリケートから算出した平均値を示す。興味深いことに、ヘテロ二量体IgGは、脱フコシル化IgG1バリアントと同じ程度までADCCを誘導できることが示された(
図11A及び11B)。
【0405】
そのアッセイ中のNK細胞の活性化を評価するために、残りの細胞をFACS分析に使用した。そこで、細胞をPBSで2回洗浄し、50μl/ウェルで4℃、暗所で30分間染色した。FACS ab染色は、ライブデッド染色として、400μl CD3-PE/Cy7+400μl CD56-APC+400μl CD16-FITC+18800μl PBS緩衝液+eF 450を混合する。染色後、細胞をFACS緩衝液で3回洗浄した。試料はFACSFortessa(FACSDivaソフトウェア)で最終容量150μlで取得された。抗CD20ヘテロ二量体IgG1、抗CD20 P329G LALA IgG、抗CD20脱フコシル化IgG1、及び野生型IgG1の存在下でのNK細胞の活性化を評価した。NK細胞の活性化は、脱フコシル化バリアント、ヘテロ二量体バリアント及び野生型バリアントの存在下でのCD107aの上方制御及びCD16受容体の下方制御によって実証することができた(
図12A及び12B)。興味深いことに、ヘテロ二量体IgGは脱フコシル化IgG1と同じ程度にNK細胞を活性化した。
【0406】
実施例9
抗CD20抗体の異なるFcバリアントがサイトカイン放出とB細胞枯渇に及ぼす影響。
抗CD20抗体(GA101)の異なるFcバリアント(Fc野生型、Fc P329G変異、脱フコシル化、又は脱フコシル化とP329G変異の組み合わせ)がB細胞の枯渇とサイトカイン放出に及ぼす影響を評価するために、異なる抗CD20抗体の濃度を上昇させながら新鮮な全血中でインキュベートした。24時間後に血清を採取し、Luminex技術を用いてサイトカインを測定した。48時間後、CD45+細胞中のCD19+B細胞の割合をフローサイトメトリーで測定した。
【0407】
IFN-γ、TNF-α、IL-2、IL-6、IL-8及びMCP-1のレベルは、ドナー1(
図14A)及びドナー2(
図14B)については、GE GA101(脱フコシル化Fc)及びヘテロ二量体GA101(P329G及び脱フコシル化)で同程度であり、WT GA101(野生型Fc)及びPGLALA GA101(P329GLALA変異)で観察されたものよりも高かった。このことは、ヘテロ二量体GA101と脱フコシル化GA101のサイトカイン放出活性は同等であることを示している。さらに、CD45+細胞中のCD19+ B細胞の割合は、脱フコシル化GA101及びヘテロ二量体GA101では同程度であり、野生型GA101又はP329G LALA GA101で観察されたものよりも低かった(図示せず)。CD45+細胞中のCD19+ B細胞の割合は、野生型GA101、脱フコシル化GA101とは対照的に、P329G LALA GA101の方がはるかに高かった。予想通り、P329G LALA変異は、B細胞枯渇という点で、抗CD20抗体の活性をはるかに低下させる。このデータは、抗CD20抗体のFcにおける脱フコシル化とP329G LALA変異の組み合わせが、脱フコシル化単独よりも同等の活性をもたらし、野生型GA101よりも優れた活性をもたらすことを示唆している。
【0408】
全体として、この実験は、ヘテロ二量体がB細胞の枯渇とサイトカイン放出を損なわないことを示唆している。さらに、それは、WT GA101(野生型Fc)又はPGLALA GA101(Fc P329G、LALA変異)とは対照的に、B細胞の枯渇とサイトカイン放出の増強をもたらす。
【配列表】
【国際調査報告】