(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-08
(54)【発明の名称】非線形光学結晶向け保護被覆
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20240801BHJP
G02B 21/16 20060101ALI20240801BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
G03F7/20 502
G03F7/20 521
G02B21/16
H01L21/66 J
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572654
(86)(22)【出願日】2022-07-28
(85)【翻訳文提出日】2023-11-22
(86)【国際出願番号】 US2022038603
(87)【国際公開番号】W WO2023009684
(87)【国際公開日】2023-02-02
(32)【優先日】2021-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500049141
【氏名又は名称】ケーエルエー コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フィールデン ジョン
(72)【発明者】
【氏名】チュアン ユン-ホ アレックス
【テーマコード(参考)】
2H052
2H197
4M106
【Fターム(参考)】
2H052AB01
2H052AC04
2H052AC06
2H052AC07
2H052AC12
2H052AC18
2H052AC34
2H052AD20
2H052AD21
2H052AD22
2H052AD35
2H052AF14
2H197CA06
2H197CA17
2H197CA20
2H197HA03
4M106AA01
4M106AA09
4M106BA05
4M106BA07
4M106CA38
4M106DB02
4M106DB07
4M106DB08
4M106DB09
4M106DB12
(57)【要約】
アモルファス層を吸湿性非線形光学結晶向けの保護被覆として用いる。そのアモルファス層を、一種類又は複数種類のアルカリ金属硼酸塩及び/又はアルカリ土類金属硼酸塩で構成する。そのアモルファス層により、その吸湿性非線形光学結晶内への水及び/又は酸素の拡散を低速化させ又は防止することで、ハンドリング、貯蔵及び動作環境上の要請を単純化させる。1個又は複数個の付加的被覆層であり、従来型光学素材を含有している付加的被覆層を、そのアモルファス層の頂部上に配置してもよい。そのアモルファス層及び/又は付加層の厚みを、一通り又は複数通りの特定波長におけるその光学部材の反射率が低下するよう選定するとよい。この被覆付非線形光学結晶は、半導体検査システム、計量システム又はリソグラフィシステムにて利用される照明源内で用いられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムであって、
100nm~300nmの範囲内の波長を有する入射光を生成するよう構成された光源と、
センサと、
前記入射光をサンプル上へと差し向けそのサンプルからの光を前記センサに差し向けるよう構成された光学システムと、
を有し、
前記光源が非線形光学結晶を有し、その非線形光学結晶が、
吸湿性非線形光学素材を備える基板であって300nm超の波長を有する入射光を100nm~300nmの波長を有する出射光に変換するよう構成されている基板と、
前記基板上に配設された第1アモルファス素材層と、
を備え、
前記第1アモルファス素材層が、前記基板の外面を包囲する連続的封入構造を形成し、
前記第1アモルファス素材層が一種類又は複数種類のアルカリ金属硼酸塩により主として構成されているシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムであって、前記吸湿性非線形光学素材がセシウムリチウム硼酸塩(CLBO)結晶及び三硼酸セシウム(CBO)結晶のうち少なくとも一方を備えるシステム。
【請求項3】
請求項1に記載のシステムであって、前記一種類又は複数種類のアルカリ金属硼酸塩に三硼酸リチウム(LBO)、四硼酸リチウム(LB4)、セシウムリチウム硼酸塩(CLBO)、三硼酸セシウム(CBO)及び四硼酸セシウム(CB4)のうち少なくとも一種類が含まれるシステム。
【請求項4】
請求項1に記載のシステムであって、前記第1アモルファス素材層が、前記入射光の波長並びに前記出射光の波長のうち一方又は双方にて前記非線形光学結晶の少なくとも一面の反射率を最小化させるよう、構成されているシステム。
【請求項5】
請求項1に記載のシステムであって、前記第1アモルファス素材層が30nm~200nmの範囲内の厚みを有するシステム。
【請求項6】
請求項1に記載のシステムであって、前記第1アモルファス素材層が前記基板の表面上に直に形成されているシステム。
【請求項7】
請求項1に記載のシステムであって、前記光源が更に、前記第1アモルファス素材層の上方に配設された少なくとも1個の光学素材層を備え、前記第1アモルファス層と前記少なくとも1個の光学素材層とが、前記入射光及び前記出射光のうち少なくとも一方が前記第1アモルファス素材層、前記少なくとも1個の光学素材層、並びに前記基板の前記表面を通り抜けるように構成されているシステム。
【請求項8】
請求項7に記載のシステムであって、前記少なくとも1個の光学素材層が、前記アモルファス素材層の屈折率よりも低い屈折率を有する光学素材を備えるシステム。
【請求項9】
請求項7に記載のシステムであって、前記少なくとも1個の光学素材層が弗化マグネシウム、弗化カルシウム、弗化アルミニウム及び二酸化シリコンのうち少なくとも一種類を備えるシステム。
【請求項10】
請求項1に記載のシステムであって、半導体検査システム及び半導体計量システムのうち少なくとも一方を備えるシステム。
【請求項11】
請求項1に記載のシステムであって、リソグラフィックシステムを備えるシステムであり、前記サンプル上にパターンを露光形成するよう構成されているシステム。
【請求項12】
システムであって、
100nm~300nmの範囲内の波長を有する入射光を生成するよう構成された光源と、
前記入射光をサンプル上へと差し向けるよう構成された光学システムと、
を有し、
前記光源が少なくとも1個の非線形光学結晶を有し、その非線形光学結晶が、
吸湿性非線形光学素材を備える基板であって300nm超の波長を有する入射光を100nm~300nmの波長を有する出射光に変換するよう構成されている基板と、
前記基板上に配設された第1アモルファス素材層と、
前記第1アモルファス素材層の頂面上に配設された第2光学素材層と、
を備え、
前記第1アモルファス素材層が、前記基板の外面を包囲する連続的封入構造を形成し、
前記第1アモルファス素材層が一種類又は複数種類のアルカリ金属硼酸塩により主として構成されており、
前記第2光学素材層が、前記アモルファス素材層の屈折率よりも低い屈折率を有する第2光学素材を備え、
前記第1アモルファス層と前記第2光学素材層とが、前記出射光のうち一部分がそれら第1及び第2光学素材層の双方を通り抜け前記基板の前記頂面に至るように構成されているシステム。
【請求項13】
請求項12に記載のシステムであって、半導体検査システム及び半導体計量システムのうち少なくとも一方を備えるシステム。
【請求項14】
請求項12に記載のシステムであって、リソグラフィックシステムを備えるシステムであり、前記サンプル上にパターンを露光形成するよう構成されているシステム。
【請求項15】
結晶アセンブリであって、
非線形光学結晶を備え、その非線形光学結晶が、吸湿性非線形光学素材を備える基板であって300nm超の波長を有する入射光を100nm~300nmの波長を有する出射光に変換するよう構成されている基板と、
前記非線形光学結晶の前記基板上に配設された第1アモルファス素材層と、
を備え、
前記第1アモルファス素材層が、前記基板の外面を包囲する連続的封入構造を形成し、
前記第1アモルファス素材層が一種類又は複数種類のアルカリ金属硼酸塩により主として構成されている結晶アセンブリ。
【請求項16】
結晶アセンブリであって、
非線形光学結晶を備え、その非線形光学結晶が、吸湿性非線形光学素材を備える基板であって300nm超の波長を有する入射光を100nm~300nmの波長を有する出射光に変換するよう構成されている基板と、
前記基板上に配設された第1アモルファス素材層と、
前記第1アモルファス素材層の頂面上に配設された第2光学素材層と、
を備え、
前記第1アモルファス素材層が、前記基板の外面を包囲する連続的封入構造を形成し、
前記第1アモルファス素材層が一種類又は複数種類のアルカリ金属硼酸塩により主として構成されており、
前記第2光学素材層が、前記アモルファス素材層の屈折率よりも低い屈折率を有する第2光学素材を備え、
前記第1アモルファス層と前記第2光学素材層とが、前記出射光のうち一部分がそれら第1及び第2光学素材層の双方を通り抜け前記基板の前記頂面に至るように構成されている結晶アセンブリ。
【請求項17】
方法であって、
非線形光学結晶を準備し、
前記非線形光学結晶をアニーリングし、
前記非線形光学結晶を液体上方の不活性環境内に配置し、
前記液体の温度を第1所望温度Tlに設定し、
前記非線形光学結晶の温度を所望温度T
Cに設定し、
前記非線形光学結晶を前記液体内へと下降させ、
前記非線形結晶上にアモルファス層を形成し、且つ
前記非線形光学結晶を所定時間後に前記液体から取り出す方法であり、
前記非線形光学結晶がCLBO結晶及びCBO結晶のうち少なくとも一方を備え、且つ前記液体がアルカリ金属硼酸塩及びアルカリ土類金属硼酸塩のうち少なくとも一種類により主として構成されている方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法であって、前記所定時間が、指定波長における前記非線形結晶の反射率が低下する厚みの前記アモルファス層がもたらされるよう選択される方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、前記指定波長が130nm~550nmの間にある方法。
【請求項20】
請求項18に記載の方法であって、前記厚みが30nm~200nmの範囲内にある方法。
【請求項21】
請求項17に記載の方法であって、更に、前記非線形光学結晶を前記液体内へと下降させた後にその液体の温度を調整する方法。
【請求項22】
請求項17に記載の方法であって、更に第2被覆工程を有し、その第2被覆工程にて第2層が前記アモルファス層上に形成される方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法であって、前記第2層が弗化マグネシウム、弗化カルシウム、弗化アルミニウム及び二酸化シリコンのうち少なくとも一種類を備える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件開示は、一般に、半導体製造にて(例.フォトマスク、レティクル及び半導体ウェハを検査及び/又は計測するのに)用いられる非線形光学結晶に関する。具体的には、本件開示は、高調波変換により深UV波長を生成するのに適した非線形光学結晶と、その非線形光学結晶を保護するための光学被覆(コーティング)素材及び被覆プロセスとに関する。
【背景技術】
【0002】
関連出願への相互参照
本願では2021年7月30日付米国仮特許出願第63/227,342号の利益を主張し、その全容を参照により本願に繰り入れる。
【0003】
集積回路産業では、ますます小さくなっておりそのサイズが数十ナノメートル(nm)以下にもなりうる欠陥及び粒子を検出するため、より一層高い感度を有する検査ツールが求められている。フォトマスク、レティクル又はウェハの面積のうち大部分、更には100%を短時間で検査するには、それら検査ツールを高速で動作させねばならない。例えば、検査時間は、生産時検査では1時間以下がよく、R&Dやトラブルシューティングでは最長でも数時間がよい。こうした速やかさで検査するため、検査ツールでは、注目欠陥又は粒子の寸法よりも大きなサイズの画素又はスポットを用いつつ、欠陥又は粒子により引き起こされるほんの小さな信号変化が検出されている。小さな信号変化を検出するには、光レベルが高いこととノイズレベルが低いこととが求められる。高速検査は、最も一般的には、紫外(UV)光で以て動作する検査ツールを用い生産時に実行される。R&Dでの検査はUV光又は電子で実行してもよい。
【0004】
集積回路産業では、半導体ウェハ上にあり数ナノメートル以下にも及ぶ小さなフィーチャ(外形特徴)の寸法を正確に計測するため、高精度計量ツールも求められている。計量プロセスを、半導体製造プロセス内の様々な点でウェハを対象に実行することで、それらウェハの多様な特性、例えばそのウェハ上のパターン化構造の幅、そのウェハ上に形成された膜の厚み、並びにそのウェハの他層上のパターン化構造に対するそのウェハ上のある層上のパターン化構造のオーバレイを、計測することができる。それらの計測結果を用い、半導体ダイの製造時にプロセス制御を実行し及び/又は効率性をもたらすことができる。計量は、可視光及びUV光でも(走査型電子顕微鏡での如く)電子でも実行されうるが、高輝度光源によって、電子顕微鏡と比べ計測時間を短くし且つウェハ1枚当たり計測回数を多くすることができるため、一般的には光が好まれている。
【0005】
光学的周波数変換、例えば高調波生成及び周波数総和は、より長波長な(例えば赤外又は緑色の)レーザ輻射から短波長なDUV及びVUV輻射を生成する、従来手法である。相応な非線形光学結晶であれば、既知技術、例えばクリティカル位相整合、ノンクリティカル位相整合及び疑似位相整合を用い入射波長・出射波長間が位相整合するよう構成することができる。透明度、光屈折率、非線形係数及び損傷閾値を含め、必要な光学特性を有していてDUV又はVUV輻射を生成するのに役立つ非線形光学結晶は、ほんの数種類しかない。DUV波長向けに最も用いられている二種類の非線形光学素材が、ベータ型硼酸バリウム(BBO)とセシウムリチウム硼酸塩(CLBO)である。これら二種類のうちCLBOは、損傷閾値が高めであることで、ハイパワーDUV光源向けにひときわ有用となっている。CLBOは、下は約184nmなる波長まで透明であるので、VUVスペクトルの長波長端にて光を生成するのにもCLBOが役立つ。
【0006】
しかしながら、CLBOには、非常に吸湿性であるという短所がある。例えば非特許文献1を参照されたい。大気への露出の直後から、CLBO結晶は湿気を吸い始める。空気に対する数週間の露出の間に、結晶によって十分な湿気が吸われてしまい、不均一膨張によりクラックすることがありうる。周知な通り、DUV波長を有する光を生成する非線形光学素子として用いる際には、CLBOを低湿環境内に置き続けねばならない。空気へのほんの数分の露出であったとしても、またそれが非動作時であったとしても、十分な湿気が吸われうるので、より低いDUVパワー強度であればその結晶がまだまだ良好に動作するにもかかわらず、DUV波長にて高いパワー密度に対し追って曝されたときに、その結晶の安定度及び寿命が損なわれることがありうる。従って、そうした結晶が組み込まれているレーザ又は機器をハンドリング、出荷、輸送、製造及び運用している間、常時、その結晶を極低湿環境内に置き続けることが必要とされる。例えば、貯蔵容器からの取り出し及びレーザ内への実装の最中に結晶を保護するため、制御低湿環境を伴うグローブボックスが必要とされよう。完成品のレーザにおいては、非動作時、並びにある場所から別の場所への輸送時を含め、低湿ガス例えば乾燥空気又は窒素により継続的にパージを受けることが必要とされよう。これによって、その製造及び運用プロセスにかなりのコスト及び時間が付加され、且つ結晶及びレーザの輸送及び貯蔵用の専用機器及び設備への投資が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第10921261号明細書
【特許文献2】米国特許第11360032号明細書
【特許文献3】米国特許第7705331号明細書
【特許文献4】米国特許第9723703号明細書
【特許文献5】米国特許第9865447号明細書
【特許文献6】米国特許第9255887号明細書
【特許文献7】米国特許第9645287号明細書
【特許文献8】米国特許第9709510号明細書
【特許文献9】米国特許第9726617号明細書
【特許文献10】米国特許第9891177号明細書
【特許文献11】米国特許第9279774号明細書
【特許文献12】米国特許第7957066号明細書
【特許文献13】米国特許第7817260号明細書
【特許文献14】米国特許第5999310号明細書
【特許文献15】米国特許第7525649号明細書
【特許文献16】米国特許第9080971号明細書
【特許文献17】米国特許第7474461号明細書
【特許文献18】米国特許第9470639号明細書
【特許文献19】米国特許第9228943号明細書
【特許文献20】米国特許第5608526号明細書
【特許文献21】米国特許第6297880号明細書
【特許文献22】米国特許第8873596号明細書
【特許文献23】米国特許第9097683号明細書
【特許文献24】米国特許第9413134号明細書
【特許文献25】米国特許第9250178号明細書
【特許文献26】米国特許第9459215号明細書
【特許文献27】米国特許第10283366号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】L.Isaenko et al. “CsLiB6O10crystals with Cs deficit: structure and properties,” J. Crystal Growth, 282, 407-413 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、必要とされているのは、より単純及び/又はより安価なCLBO結晶保護方法であり、従前手法の制約事項のうち一部又は全てを克服するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本件開示の1個又は複数個の実施形態に従い特性解明システムが開示される。諸実施形態では、その特性解明システムが、100nm~300nmの範囲内の波長を有する入射光を生成するよう構成された光源と、センサと、その入射光をサンプル上へと差し向けそのサンプルからの光をそのセンサに差し向けるよう構成された光学システムと、を有する。諸実施形態ではその光源が非線形光学結晶を有し、その非線形光学結晶が、吸湿性非線形光学素材を備える基板であって300nm超の波長を有する入射光を100nm~300nmの波長を有する出射光に変換するよう構成されている基板と、その基板上に配設された第1アモルファス素材層と、を備え、その第1アモルファス素材層が、その基板の外面を包囲する連続的封入構造を形成し、その第1アモルファス素材層が、一種類又は複数種類のアルカリ金属硼酸塩により主として構成される。
【0011】
本件開示の1個又は複数個の付加的及び/代替的実施形態に従い特性解明システムが開示される。諸実施形態では、その特性解明システムが、100nm~300nmの範囲内の波長を有する入射光を生成するよう構成された光源と、その入射光をサンプル上へと差し向けるよう構成された光学システムと、を有する。諸実施形態ではその光源が少なくとも1個の非線形光学結晶を有し、その非線形光学結晶が、吸湿性非線形光学素材を備える基板であって300nm超の波長を有する入射光を100nm~300nmの波長を有する出射光に変換するよう構成されている基板と、その基板上に配設された第1アモルファス素材層と、その第1アモルファス素材層の頂面上に配設された第2光学素材層と、を備える。諸実施形態では、その第1アモルファス素材層が、その基板の外面を包囲する連続的封入構造を形成し、その第1アモルファス素材層が一種類又は複数種類のアルカリ金属硼酸塩により主として構成される。諸実施形態では、その第2光学素材層が、そのアモルファス素材層の屈折率よりも低い屈折率を有する第2光学素材を備え、それら第1アモルファス層及び第2光学素材層が、その出射光のうち一部分がそれら第1及び第2光学素材層の双方を通り抜けその基板の頂面に至るように構成される。
【0012】
本件開示の1個又は複数個の実施形態に従い非線形光学結晶を作成し被覆する方法が開示される。諸実施形態の方法では非線形光学結晶が準備され、その非線形光学結晶がアニーリングされ、その非線形光学結晶が液体上方の不活性環境内に配置され、その液体の温度が第1所望温度Tlに設定され、その非線形光学結晶の温度が所望温度TCに設定され、その非線形光学結晶がその液体内へと下降され、その非線形結晶上にアモルファス層が形成され、且つその非線形光学結晶が所定時間後にその液体から取り出され、但しその非線形光学結晶がCLBO結晶及びCBO結晶のうち少なくとも一方を備えるものとされ、その液体がアルカリ金属硼酸塩及びアルカリ土類金属硼酸塩のうち少なくとも一種類により主として構成される。
【0013】
理解し得る通り、前掲の概略記述及び後掲の詳細記述の双方は、専ら例示的且つ説明的なものであり、本件開示を必ずしも限定するものではない。添付図面は、本明細書に組み込まれ且つその一部を構成し、本件開示の主題を描出するものである。それら記述及び図面は、相俟って、本件開示の諸原理を説明する役に立つものである。
【0014】
添付図面を参照することによって、技術分野に習熟した者(いわゆる当業者)には本件開示の数ある長所をより良く理解し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本件開示の1個又は複数個の実施形態に係り、半導体製造関連サンプルを検査又は計測しうるよう構成されている特性解明システムが描かれている図である。
【
図2A】本件開示の1個又は複数個の実施形態に係り、アモルファス素材層で以て被覆された硼酸塩非線形光学結晶を有する光学部材が描かれている図である。
【
図2B】本件開示の1個又は複数個の実施形態に係り、アモルファス素材層で以て被覆された硼酸塩非線形光学結晶を有する光学部材が描かれている図である。
【
図2C】本件開示の1個又は複数個の実施形態に係り、アモルファス素材層で以て被覆された硼酸塩非線形光学結晶を有する光学部材が描かれている図である。
【
図3】本件開示の1個又は複数個の実施形態に係り、基板上に被覆アモルファス層を付着させる装置が描かれている図である。
【
図4】本件開示の1個又は複数個の実施形態に係り、非線形光学結晶を作成し被覆する方法が示されているフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
添付図面に描かれている開示主題を、以下、詳細に参照する。本件開示を、特定の諸実施形態及びその個別的諸特徴との関連で具体的に図示及び記述してある。本願にて説明される諸実施形態は、限定ではなく例証として把握されるべきである。いわゆる当業者には直ちに明察される通り、本件開示の神髄及び技術的範囲から離隔することなく形態及び細部に様々な改変及び修正を施すことができる。
【0017】
本件開示の諸実施形態は、アモルファスなアルカリ金属硼酸塩又はアルカリ土類金属硼酸塩被覆の使用によって、CLBOその他の硼酸塩の吸湿性非線形光学結晶による水の吸収を低速化させることにより、数パーセント以上の相対湿度を有する環境に対し数分又は数時間に亘りその結晶を露出させうるようにすることを、指向している。本件開示は、更に、アルカリ金属硼酸塩又はアルカリ土類金属硼酸塩のアモルファス層で以てCLBOその他の吸湿性非線形光学結晶を被覆する方法を、指向している。ある実施形態では、そのアルカリ金属硼酸塩を、三硼酸リチウム(LiB3O5,LBO)、四硼酸リチウム(Li2B4O7,LB4)、セシウムリチウム硼酸塩(Cs2LiB6O10,CLBO)、三硼酸セシウム(CsB3O5,CBO)及び四硼酸セシウム(Cs2B4O7,CB4)のうち一種類又は複数種類で構成することができる。別の実施形態では、そのアルカリ土類金属硼酸塩を四硼酸ストロンチウム(SrB4O7,SBO)で構成することができる。
【0018】
光学被覆としての四硼酸ストロンチウムの使用が、2021年2月16日付で発行された特許文献1、並びに2022年6月14日付で発行された特許文献2にて論ぜられているので、参照によりその全容を本願に繰り入れることにする。
【0019】
図1には、半導体製造関連サンプル108、例えばシリコンウェハ、レティクル又はフォトマスクを検査又は計測しうるよう構成された、特性解明システム100が描かれている。本特性解明システム100は検査システム又は計量システムを備えるものとすることもできる。システム100は、大略、照明源(光源)102と、センサ106が入っている検出器アセンブリ104と、ステージ112とを有している。
【0020】
照明源102は、100nm~300nmの範囲内の波長を有する深UV(DUV)及び/又は真空UV(VUV)入射光(輻射)Linを生成(放射)するよう構成することができるが、300nm超の波長を有する光を生成するよう構成してもよい。ある種の実施形態では、照明源102にて、1個又は複数個のレーザと1個又は複数個の光学部材(例.周波数変換器200-0)とを利用し入射光Linが生成される。ある実施形態では、照明源102を、連続光源を有するもの、例えばアークランプ、レーザ励起プラズマ光源又は連続波(CW)レーザを有するものと、することができる。別の実施形態では、照明源102を、パルス光源を有するもの、例えばモード同期(ロック)レーザ、Qスイッチレーザ、或いはモード同期又はQスイッチレーザにより励起(ポンピング)されるプラズマ光源とすることができる。照明源102に組み込める好適な光源が、「その試料を対象にして実行されるプロセス向けに試料の照明を提供する方法及びシステム」(Methods and systems for providing illumination of a specimen for a process performed on the specimen)と題するKirk et al.名義の特許文献3、「レーザ維持プラズマの横ポンピングシステム及び方法」(System and method for transverse pumping of laser-sustained plasma)と題するBezel et al.名義の特許文献4、並びに「高輝度レーザ維持プラズマ広帯域光源」(High brightness laser-sustained plasma broadband source)と題するChuang et al.名義の特許文献5に記載されているので、参照によりそれらを本願に繰り入れることにする。
【0021】
ステージ112は、サンプル108を受け止めるよう、且つ光学システム103に対するサンプル108の移動を容易に実行するよう(即ち光学システム103により入射光Linがサンプル108の様々な領域上に合焦されるよう)、構成されている。ステージ112はX-Yステージ又はR-θステージを備えるものとすることができる。ある実施形態では、ステージ112により、検査の最中にサンプル108の高さを調整して焦点を合わせ続けることができる。別の実施形態では、光学系103を調整して焦点を合わせ続けることができる。
【0022】
光学システム(光学系)103は、入射光L
inをサンプル108上へと差し向け合焦させるよう構成され、且つそのサンプル108からの反射又は散乱光L
r/sをセンサ106へと差し向けるよう構成された、複数個の光学部材を備えている。例えば、
図1に描かれている光学システム103の光学部材のなかには、これに限られるものではないが、照明チューブレンズ132、対物レンズ150、集光チューブレンズ122、コンデンサレンズ133及びビームスプリッタ140が含まれている。
【0023】
システム100の動作中には、照明源102に発する入射光Linがコンデンサレンズ133及び照明チューブレンズ132によりビームスプリッタ140へと差し向けられ、それにより入射光Linが対物レンズ150を経てサンプル108上へと下向きに差し向けられる。反射光Lr/sは、入射光Linのうち、サンプル108の表面フィーチャにより対物レンズ150内へと上方向に反射及び/又は散乱された部分を表しており、対物レンズ150及び集光チューブレンズ122によりセンサ106へと差し向けられている。センサ106は、サンプル108から受光した反射光Lr/sに基づき出力信号/データを生成する。センサ106の出力はコントローラ114に接続されており、そこでその出力が分析される。そのコントローラ114に備わる1個又は複数個のプロセッサ115は、キャリア媒体116上に格納されうるプログラム命令118により構成設定される。ある実施形態では、コントローラ114により特性解明システム100及び検出器アセンブリ104を制御することで、サンプル108上の構造が検査又は計測される。ある実施形態では、システム100が、サンプル108上にラインを照射するよう、且つ1個又は複数個の暗視野及び/又は明視野集光チャネルにて反射/散乱光を集光するよう、構成される。この実施形態では、検出器アセンブリ104を、時間遅延積分(TDI)センサ、ラインセンサ又は電子衝撃ラインセンサを有するものにするとよい。
【0024】
ある実施形態では、照明チューブレンズ132が、照明瞳アパーチャ131を対物レンズ150内の瞳絞りへとイメージングするよう構成される(即ち、照明チューブレンズ132が、照明瞳アパーチャ131と瞳絞りとが互いに共役となるよう構成される)。照明瞳アパーチャ131は、例えば、照明瞳アパーチャ131の所在個所に様々なアパーチャを切換挿入することによって、或いは照明瞳アパーチャ131の開口の直径又は形状を調整することによって、構成設定可能なものとすることができる。こうすることで、サンプル108を、コントローラ114の制御下で、実行される計測又は検査によって異なる角度範囲で以て照明することができる。
図1には、対物レンズ150を経てサンプル108へと差し向けられるかのように照明が描かれているが、実施形態によっては、照明が対物レンズ150外を通りサンプル108へと差し向けられることもある。
【0025】
ある実施形態では、集光チューブレンズ122が、対物レンズ150内の瞳絞りを集光瞳アパーチャ121へとイメージングするよう構成される(即ち、集光チューブレンズ122が、集光瞳アパーチャ121と対物レンズ150内の瞳絞りとが互いに共役となるよう構成される)。集光瞳アパーチャ121は、例えば、集光瞳アパーチャ121の所在個所に様々なアパーチャを切換挿入することによって、或いは集光瞳アパーチャ121の開口の直径又は形状を調整することによって、構成設定可能なものとすることができる。こうすることで、サンプル108から反射又は散乱されてきた光のうち様々な角度範囲の光を、コントローラ114の制御下で、検出器アセンブリ104へと差し向けることができる。
【0026】
照明瞳アパーチャ131及び集光瞳アパーチャ121のうち一方又は双方を、プログラマブルアパーチャが備わるものとすること、例えば「2Dプログラマブルアパーチャ機構」(2D programmable aperture mechanism)と題するBrunner名義の特許文献6に記載されているそれや「フレキシブル光学アパーチャ機構」(Flexible optical aperture mechanisms)と題するBrunner名義の特許文献7に記載されているそれを備えるものと、することができる。ウェハ検査向けにアパーチャ構成を選択する方法が、「ウェハ検査中に集光アパーチャ内に配置される光学素子向けの構成の決定」(Determining a configuration for an optical element positioned in a collection aperture during wafer inspection)と題するKolchin et al.名義の特許文献8、並びに「最良なアパーチャ及びモードを探し欠陥検出を増強する装置及び方法」(Apparatus and methods for finding a best aperture and mode to enhance defect detection)と題するKolchin et al.名義の特許文献9に記載されているので、参照によりそれらを本願に繰り入れることにする。
【0027】
諸実施形態では、照明源102にて利用される少なくとも1個の硼酸塩製非線形光学部材に、その部材の基板構造の複数面上に形成されたアモルファス層が備わる。このアモルファス層は、アルカリ金属硼酸塩、アルカリ金属硼酸塩の混合物又はアルカリ土類金属硼酸塩で、主として構成される。ある実施形態では、照明源102の周波数変換器200-0を、三硼酸リチウム又はセシウムリチウム硼酸塩のアモルファス素材層を有するものとすることができる。別の実施形態では、照明源102の周波数変換器200-0を、連続的封入構造を形成するアルカリ金属硼酸塩素材層を有していて、その構造によりその非線形光学部材の基板構造が丸ごと包囲されるものとすることができる。その構造については、
図2A及び
図2Bを参照し付加的に詳述することにする。硼酸塩製非線形光学部材の寿命は、その硼酸塩非線形光学結晶内への水及び/又は酸素の浸透がアモルファス層により低速化されるので、そのアモルファス層により改善することができる。システム100及び/又は照明源102を製造、運用、輸送及び貯蔵するプロセスを、そのアモルファス層を用い周波数変換器200-0内の硼酸塩製非線形光学部材を保護することで、単純化又は低廉化することができる。
【0028】
検査又は計量システム100の様々な実施形態の付加的な詳細が、「暗視野システム内TDIセンサ」(TDI Sensor in a Darkfield System)と題するVazhaeparambil et al.名義の特許文献10、「ウェハ検査」(Wafer inspection)と題するRomanovsky et al.名義の特許文献11、「小型カタディオプトリック対物系を用いるスプリット視野検査システム」(Split field inspection system using small catadioptric objectives)と題するArmstrong et al.名義の特許文献12、「カタディオプトリック光学システム内レーザ暗視野照明用ビーム配給システム」(Beam delivery system for laser dark-field illumination in a catadioptric optical system)と題するChuang et al.名義の特許文献13、「広範囲ズーム能力を有する超広帯域UV顕微鏡イメージングシステム」(Ultra-broadband UV microscope imaging system with wide range zoom capability)と題するShafer et al.名義の特許文献14、「レーザライン照明を二次元イメージングと併用する表面検査システム」(Surface inspection system using laser line illumination with two dimensional imaging)と題するLeong et al.名義の特許文献15、「計量システム及び方法」(Metrology systems and methods)と題するKandel et al.名義の特許文献16、「横色性能が改善された広帯域対物系」(Broad band objective having improved lateral color performance)と題するChuang et al.名義の特許文献17、「格子異常に対する敏感性が低減された光学計量」(Optical metrology with reduced sensitivity to grating anomalies)と題するZhuang et al.名義の特許文献18、「動的可調半導体計量システム」(Dynamically Adjustable Semiconductor Metrology System)と題するWang et al.名義の特許文献19、「集束ビーム分光エリプソメトリ方法及びシステム」(Focused Beam Spectroscopic Ellipsometry Method and System)と題し1997年3月4日付で発行されたPiwonka-Corle et al.名義の特許文献20、並びに「半導体上の多層薄膜スタックを分析する装置」(Apparatus for Analysing Multi-Layer Thin Film Stacks on Semiconductors)と題し2001年10月2日付で発行されたRosencwaig et al.名義の特許文献21に記載されているので、参照によりそれらを本願に繰り入れることにする。
【0029】
図2A~
図2Cには、その外周面全体に亘りアモルファス素材層(本願ではときとしてアモルファス層又はアモルファス被覆と称する)で以て被覆された硼酸塩非線形光学結晶(基板)201を有する光学部材200が、描かれている。
図2Aにはその光学部材の斜視外観が示されており、
図2Bには
図2A中の2-2に対応しておりその光学部材内を過っている長手方向断面200Aが示されている。
図2Cには、そのアモルファス素材層の頂部上(その外部)が1個又は複数個の付加的な層で被覆された実施形態での、長手方向断面200Cが示されている。
図1に示されている特性解明システム100のある実施形態では、照明源102が深UV波長、例えば300nm未満の波長を生成するレーザを、有するものとされる。例えば、照明源102に、固体又はファイバレーザにより生成された約1064nm波長の光の4次高調波を生成することによって266nm付近の波長を生成するよう構成されたレーザを、組み込めばよい。そのレーザを、適宜構成された三硼酸リチウム(LBO)結晶を用いその1064nm光の2次高調波を生成するものとすればよい。LBOは吸湿性ではなく、数十ワット以上のレーザパワーレベルが用いられるときでさえも、空気中で動作させることができる。4次高調波は、その2次高調波光の周波数を倍加するよう構成されたCLBO結晶を用い、生成すればよい。CLBOは吸湿性であり、そのレーザが動作中か否かを問わず常時、極低湿環境内に置かれ続けねばならない。ハイパワー動作、例えば4次高調波のパワーが約10W以上のそれでは、その結晶に対する表面損傷を最小化するため、その結晶の環境の酸素レベルを大気のそれよりずっと下まで低下させることが、望ましかろう。別の例によれば、照明源102を、周波数変換結晶(光学部材)200-0により表されている通り、複数個の非線形光学結晶における高調波生成及び周波数総和を用いて213nm付近又は193nm付近の波長を生成するよう構成されたレーザを、有するものとすることができる。CLBO及びCBOはそうした波長における周波数変換向けに最も役立つ素材であるが、どちらの素材も吸湿性である。
図2A~
図2Cに描かれている周波数変換結晶200は、CLBO及びCBOのうち一方で構成され且つ深UV波長を生成するよう構成された基板201、例えば532nm付近の波長を有する光の波長を倍加するよう構成されたそれか、266nm付近の波長及び1064nm付近の波長を有する光の周波数を総和することで213nm付近の波長を有する光を生成するよう構成されたそれを備えている。
【0030】
図2A~
図2Cに示されている通り、非線形結晶(例.CLBO又はCBO)基板201の周面全体が、アルカリ金属硼酸塩、アルカリ土類金属硼酸塩又はそれらの混合物のうち一種類又は複数種類で主として構成されるアモルファス層202により、被覆(例.封入)されている。図示例では、結晶基板201が方形プリズム(例.直方体)形状を有しており、互いに逆側にある頂面201T及び底面201Bと、互いに逆側にある側面201S1及び201S2と、互いに逆側にあり順に周波数変換結晶200の光入射面,光出射面を形成している端面201E1及び201E2とが、それに備わっている。本例ではアモルファス層202が不断直方体構造を有しており、その構造の諸部分が全6面201T、201B、201S1、201S2、201E1及び201E2に亘り延びている。
図2Aには周波数変換結晶例を過る断面200Aが示されており、この例ではアモルファス層202により基板201の周面(例.頂面201T及び底面201Bと端面201E1及び201E2)上に直に単層被覆が形成されている。他の諸実施形態では、そのアモルファス層が、
図2Cに描かれている通りそのアモルファス層の上(即ち外部)に配設された1個又は複数個の従来型光学素材層203を有する多層封入構造の、一部分とされることもある。どちらの実施形態でも、アモルファス層202の厚みは、結晶基板201内への少なくとも水の浸透が低速化又は防止されるように選定される。アモルファス層202の厚みは、約10nm以上としても、約100nmとしてもよい。アモルファス層202の厚みは、少なくとも水の拡散を低速化又は防止されるのに十分なほど厚手である限り、且つその層がピンホールのないものである限り、均一である必要はない。入射面201E1及び出射面201E2上でのアモルファス層の厚みは、更に、周波数変換にて使用又は生成される一通り又は複数通りの波長での反射率が低下するよう選定すればよく、例えば、アモルファス層202の屈折率が基板201のそれよりも低いのなら、その厚み(光伝搬方向に沿い計測されたそれ)を、周波数変換にて使用又は生成される波長の四分波長の奇数倍にほぼ等しく設定することで、これを行うことができる。また例えば、アモルファス層202の屈折率が基板201のそれよりも高いのなら、その反射率を、周波数変換にて使用又は生成される波長の半波長の奇数倍にほぼ等しく設定すればよい。
図2Cに描かれている実施形態では、その1個又は複数個の従来型光学素材層203の厚み及び屈折率を、注目波長における反射率が更に低下するよう選定することができる。端面201E1及び201E2上における被覆の均一性を制御することで、それらの面の指定光学特性、例えば反射率の過大な変動を、回避することができる。そのアモルファス被覆が水及び酸素に対し完全には不浸透性でない場合でさえも、それによりそれらの分子の拡散が存分に低速化されるならば、被覆無しの結晶よりも水及び酸素の含有量が高い環境における吸湿性非線形結晶の貯蔵及び/又は動作が可能になりうるので、貯蔵及び動作コストが低減されうる。
【0031】
アモルファス層202は、一種類又は複数種類のアルカリ金属硼酸塩、アルカリ土類金属硼酸塩又はそれらの混合物で主として構成されている。アモルファス層202にて用いられる素材の例には、三硼酸リチウム(LiB3O5,LBO)、四硼酸リチウム(Li2B4O7,LB4)、セシウムリチウム硼酸塩(CsLiB6O10,CLBO)、三硼酸セシウム(CsB3O5,CBO)、四硼酸セシウム(Cs2B4O7,CB4)及び四硼酸ストロンチウム(SrB4O7,SBO)がある。硼酸塩素材は、その化学的組成が類似しているため互いに強く接着するので、それにより硼酸塩基板上を被覆した場合、従来の光学素材、例えばSiO2による被覆よりも、硼酸塩被覆の方が、水及び/又は酸素の浸透についてより不浸透なものとなりうる。第1の実施形態ではアモルファス層202がLBOで主として構成される。LBOは吸湿性ではなく、赤外(IR)に属する約2.6μmからVUVに属する約160nmまで広がる波長域に亘り良好な光伝達性を呈する。LBOにより、半導体検査及び計量アプリケーションにて最も重要な波長を伝達させつつ、吸湿性結晶をその環境に対し効果的に封止することができる。第2の実施形態ではアモルファス層202がCLBOで主として構成される。アモルファスCLBOは僅かに吸湿性となりうるが、そのアモルファス構造故に、結晶質CLBOに比べ水及び/又は酸素が浸透しにくいため、非線形光学結晶の貯蔵及び/又は動作に関わる環境的要請を緩和することができる。例えば、被覆無しのCLBO結晶の貯蔵にはかなり低い湿度が必要とされるのに対し、アモルファスCLBO被覆付のCLBO非線形光学結晶であれば、約1%又は約0.1%湿度の環境での貯蔵が可能となりうる。ある実施形態では、アモルファス層202がアルカリ金属硼酸塩及び/又はアルカリ土類金属硼酸塩の混合物、例えば上述のアルカリ金属硼酸塩及びアルカリ土類金属硼酸塩のうち二種類以上の混合物で、主として構成されよう。ご理解頂けるように、アモルファス層202は、とりわけ非光学面例えば201T、201B、201S1及び201S2上に、ある種の結晶質又は多結晶質アルカリ金属硼酸塩及び/又はアルカリ土類金属硼酸塩素材が備わるものと、することができる。多結晶素材内の結晶間境界では光が散乱されうるので、ある実施形態では、面201E1及び201E2上のアモルファス層202の何れの多結晶質領域も、それらの面の表面エリアの約10%以下に保たれる。
【0032】
アモルファス層202は、
図3との関連で後に説明される通り、そのアモルファス層の素材が溶融状態で又は溶媒中に入っている槽内に、その結晶を浸漬させることによって、基板201に付着させることができる。これに代え、スパッタリング、蒸着その他の既知被覆技術により、アモルファス層202を基板201に付着させてもよい。
図2Cに描かれている実施形態では、スパッタリング、蒸着その他の既知被覆技術により、1個又は複数個の光学素材層203を層202に付着させることができる。
【0033】
図3には、本件開示の1個又は複数個の実施形態に従い基板201上に被覆アモルファス層202を付着させる装置が描かれている。諸実施形態では、非線形光学結晶基板301(例.
図2中の基板201)が、その基板301の下側を通る2本以上のワイヤ302A及び302Bにより支持される。ワイヤ302A及び302Bは不活性な高融点素材、例えばプラチナで作成すればよい。ある代替的実施形態(図示せず)では、基板301がワイヤ302A及び302Bに代えワイヤメッシュにより支持される。諸実施形態では、るつぼ310内に、基板301上に被覆させるべき素材を含有する液体320が入れられる。例えば、液体320に、そのアモルファス層の想定組成と同じアルカリ金属硼酸塩、アルカリ土類金属硼酸塩又はそれらの混合物を含有させるとよい。諸実施形態では、液体320が溶融状態のアモルファス層向け素材で構成される。別の実施形態では、液体320の組成が、そのアモルファス層のそれと異なるものとされることがある。例えば、液体320に、そのアモルファス層の想定組成よりも多く又は少なく、ある成分を含有させてもよい。また例えば、液体320に、そのアモルファス層内に存在しない付加的成分を含有させてもよい。液体320の組成を、物理特性例えば粘度が修正されるよう、或いは化学特性、例えばその液体からのOH除去が修正されるよう、選定してもよい。るつぼ310は不活性な高融点素材、例えばプラチナで作成すればよい。
【0034】
ある実施形態では、液体320が、そのアモルファス層の素材の融点付近の温度、例えばその融点に対し±5℃以内に保持される。基板301を、そのアモルファス層の素材の融点のすぐ下の温度、例えばその溶融素材より約5℃又は約10℃下の温度に予熱するとよい。その上で基板301を液体320内に下降させればよい。基板301の温度故に、素材が基板301上に堆積し始めることとなる。その堆積速度は、基板301の初期温度によって、また液体320の温度によって、制御することができる。基板301を液体320内へと下降させた後に液体320の温度を更に調整することで、そのアモルファス層につき所望の成長速度を達成し又は維持することができる。そのアモルファス層が所望厚まで成長しうる所定時間の後に、例えばワイヤ302A及び302Bを上昇させることで基板301を液体320から引き上げる。
【0035】
被覆プロセスの間は(例えばワイヤ302A及び302Bにより)結晶基板301を保持しなければならないので、ある実施形態では、基板301上にあり1回目の被覆作業中にワイヤ302A及び302Bが触れていた個所が2回目の被覆作業の間は露わになるよう、2回目の被覆作業に先立ちそれらワイヤが基板301に対し動かされる態で、2回の被覆作業を用いその表面全体が被覆される。それら2回の被覆作業の合計時間は、それらの光学面(例.
図2A~
図2Cに描かれている201E1及び201E2)上に生成されるアモルファス層の最終厚みが所望厚になるよう選定される。
【0036】
図4には、本件開示の1個又は複数個の実施形態に従い非線形光学結晶を作成し被覆する方法400を示すフロー図が描かれている。工程401では、例えば、チョクラルスキ法又はキロプロス法といった既知結晶成長技術によって、その非線形光学結晶のブールを成長させる。1個又は複数個の非線形光学結晶が、そのブールから、結晶軸を基準にして所望の形状、サイズ及び向きにて、想定されている周波数変換アプリケーション向けに切り出される。その1個又は複数個の非線形光学結晶の光学面(例えば
図2A及び
図2Bに示されている201E1及び201E2)が、所望の平滑度に至るまで研磨され、それによりそれらの面からの光散乱が最少化される。この研磨プロセスには、通常、複数個の研磨工程、例えば粗研磨工程とそれに後続する精細研磨工程が組み込まれる。ブールは不活性な極低湿環境内又は真空中で成長させるけれども、その後の切出し及び研磨工程は、数パーセント湿度の環境内で行うこともできる。これらの工程を完了させるのに多くの時間がかかりうるため、通常はその1個又は複数個の非線形光学結晶にて幾ばくかの湿気が吸収されることとなる。工程401にて、そのプロセスの途上にある1個又は複数個の非線形光学結晶をアニーリングすることで、それら切出し及び研磨工程中に吸収された少なくとも幾ばくかの湿気を除去してもよい。例えば、アニーリング工程を、粗研磨工程の完了から精細研磨工程の開始までの間に、実行してもよい。
【0037】
工程402では、工程401で得られた1個又は複数個の研磨済非線形光学結晶のうち少なくとも1個をアニーリングすることで、その結晶の湿気量が低減され及び/又はその結晶における欠陥の個数が低減される。アニーリングプロセスの例が、何れも「出力ビームが高品質で安定なレーザ及び長寿命高変換効率非線形結晶」(Laser with high quality, stable output beam, and long life high conversion efficiency non-linear crystal)と題し何れもDribinski et al.名義の特許文献22及び特許文献23、「周波数変換結晶用多段階ランプアップアニーリング」(Multi-stage ramp-up annealing for frequency-conversion crystals)と題するDribinski et al.名義の特許文献24、並びに何れも「非線形光学結晶のパッシベーション」(Passivation of nonlinear optical crystals)と題するChuang et al.名義の特許文献25、特許文献26及び特許文献27に記載されているので、参照によりそれらを本願に繰り入れることにする。
【0038】
工程403では、その少なくとも1個のアニーリング済非線形光学結晶が、乾燥環境(例.乾燥した不活性ガス例えばアルゴンのみを含有している環境か真空環境)内で、液体が入っているバット、例えば
図3に描かれているそれの上方にて懸架される。諸実施形態では、アニーリングプロセス後にその非線形結晶により吸収されるあらゆる湿気を最少にすべく、工程402・403間の時間が最短に保たれる。諸実施形態では、工程402から工程403へと移動され又は工程間にて貯蔵されている間、その少なくとも1個の非線形光学結晶が乾燥した不活性環境内に置かれ続ける。そうした環境の湿度は0.1%未満、好ましくは0.01%未満とするとよい。
【0039】
工程404では、その少なくとも1個の非線形光学結晶の温度がTCなる値に設定され、その液体の温度がTLなる値に設定される。諸実施形態では、TCが、その非線形結晶上を覆うべきアモルファス層の融点の数℃下とされる。例えば、TCをその融点の約1℃下、その融点の約1℃~5℃下、或いはその融点の約5℃~10℃下にするとよい。諸実施形態では、TCが、そのアモルファス層の融点の数℃上とされる。例えば、TCをその融点の約1℃上、或いはその融点の約1℃~5℃上にするとよい。ある実施形態では、TLが、そのアモルファス層の融点の数℃上とされる。例えば、TLをその融点の約1℃上、或いはその融点の約1℃~5℃上にするとよい。別の実施形態では、TLが、そのアモルファス層の融点の数℃下とされる。例えば、TLをそのアモルファス層の融点の約1℃下にするとよい。
【0040】
工程405では、その少なくとも1個の非線形光学結晶が、そのアモルファス層の成長を開始させるべくその液体内に下降される。
【0041】
オプション的な工程406では、その液体の温度を調整することで、その少なくとも1個の非線形結晶上でのそのアモルファス層の成長速度が制御される。諸実施形態では、その液体の温度が、その融点のすぐ下の温度、例えばその融点の約1℃下、その融点の約1℃~5℃下、或いはその融点の約5℃~10℃下まで低下される。工程405にて設定された温度TLが所望の成長速度を達成及び維持するのに十分なものであるなら、工程406を省略してもよい。
【0042】
工程407では、所定時間後に、その少なくとも1個の非線形光学結晶がその液体から取り出される。その所定時間は、その少なくとも1個の非線形光学結晶上のアモルファス層につき所望厚みが達成されるよう選択される。
【0043】
工程408では、その少なくとも1個の被覆済非線形光学結晶が室温まで除熱される。
【0044】
なお、
図4では被覆プロセス内の重要な基本工程を描出することを目論んでいる。工程付加、工程結合、工程省略及び工程順序替えが取り入れられた多くの変形例でも類似した結果を得ることができ、それらは本件開示の技術的範囲内にある。各工程の継続時間や、ある工程とその次の工程との間の何らかの時間間隔を、所望の結果を達成すべく調整してもよい。非線形光学結晶をいちどきに1個ずつ処理してもよいし、各工程で複数個の結晶が実質同時に処理されるようバッチで処理してもよい。
【0045】
本願開示の被覆素材及びプロセスは、半導体検査及び計量システムにてとりわけ役立つことが期待されるものの、これらの被覆及び素材が、VUV及びDUV輻射が存する他の用途、例えば光リソグラフィシステムや、高強度可視又はIR輻射が存する他の用途、例えばIRシステムでも役立ちうることも、予期されている。
【0046】
本願記載の被覆素材及び方法は、図示及び記述されている具体的な諸実施形態に限定されることを意図してのものではなく、寧ろ本願開示の諸原理及び新規特徴と符合する最大限の技術的範囲に紐づけされるべきものである。即ち、本件開示は、添付する特許請求の範囲及びその合理的解釈によってのみ限定されるものと考量される。
【0047】
いわゆる当業者には認識し得るように、本願記載の諸部材、諸動作、諸デバイス、諸物体及びそれらに付随する議論は、概念的明瞭性さに資する例として用いられており、様々な構成上の修正が熟慮されている。従って、本願での用法によれば、説明されている具体的な手本及びそれに付随する議論には、それらのより一般的な分類を代表する意図がある。一般に、何れの具体的手本の使用にもその分類を代表する意図があり、具体的な諸部材、諸動作、諸デバイス及び諸物体が含まれていないことを限定として捉えるべきではない。
【0048】
本願における実質全ての複数形語及び/又は単数形語の使用に関し、いわゆる当業者は、複数形から単数形へ及び/又は単数形から複数形へと、その文脈及び/又は用途に相応しく読み替えることができる。明瞭さに鑑み、本願では、様々な単数形/複数形読み替えについて明示的に説明していない。
【0049】
以上の記述を提示したのは、いわゆる当業者が、ある具体的な用途及びその諸要請の文脈に従い提示される如く本件開示を作成及び使用することができるようにするためである。本願で用いられている方向指示語、例えば「頂」、「底」、「上方」、「下方」、「上寄り」、「上向き」、「下寄り」、「下降」及び「下向き」は、記述目的で相対位置を提示することを意図しており、絶対的な基準座標系を指定することを意図していない。好適実施形態に対する様々な修正はいわゆる当業者に明察されるし、本願にて規定されている一般的諸原理は他の諸実施形態にも適用できる。従って、本件開示は、図示及び記述されている具体的諸実施形態に限定される意図のものではなく、寧ろ本願開示の諸原理及び新規特徴と符合する最大限の技術的範囲に紐づけされるべきものである。
【0050】
更に、理解し得るように、本発明は別項の特許請求の範囲によって定義される。いわゆる当業者には理解し得るように、総じて、本願特に別項の特許請求の範囲(例.別項の特許請求の範囲の本文)にて用いられる語は概ね「開放」語たる趣旨のものである(例.語「~を含んでいる」は「~を含んでいるが~に限られない」、語「~を有している」は「少なくとも~を有している」、語「~を含む」は「~を含むが~に限られない」等々と解されるべきである)。いわゆる当業者にはやはり理解し得るように、ある具体的個数の請求項内導入要件を意図しているのであれば、その意図がその請求項に明示されるので、そうした要件記載がなければそうした意図がないということである。例えば、理解の助けとして、後掲の添付諸請求項のなかには、導入句「少なくとも1個」及び「1個又は複数個」の使用による請求項内要件の導入が組み込まれているものがある。しかしながら、不定冠詞「a」又は「an」による請求項内導入要件の導入によりその請求項内導入要件を含む個別請求項全てがその構成要件を1個しか含まない発明に限定される、といった含蓄があるかのように、そうした語句の使用を解釈すべきではないし、まさにその請求項に導入句「1個又は複数個」又は「少なくとも1個」と不定冠詞例えば「a」又は「an」が併存している場合でもそう解釈すべきではないし(例えば「a」及び/又は「an」は、通常、「少なくとも1個」又は「1個又は複数個」を意味するものと解されるべきである)、またこれと同じことが定冠詞の使用による請求項内要件の導入に関しても成り立つ。加えて、ある請求項内導入要件につき具体的な個数が明示されている場合でも、いわゆる当業者には認識し得るように、通常は、少なくともその明示個数、という意味にその個数記載を解すべきである(例.他の修飾語句を欠く「2個の構成要件」なる抜き身的表現は、通常、少なくとも2個の要件或いは2個以上の要件という意味になる)。更に、「A、B及びCのうち少なくとも1個等々」に類する規約が用いられている例では、総じて、そうした構文に、いわゆる当業者がその規約を理解するであろう感覚に従う意図がある(例.「A、B及びCのうち少なくとも一つを有するシステム」には、これに限られるものではないが、Aのみ、Bのみ、Cのみ、A・B双方、A・C双方、B・C双方、及び/又は、A・B・C三者を有するシステム等々が包含されよう)。「A、B又はCのうち少なくとも1個等々」に類する規約が用いられている例では、総じて、そうした構文に、いわゆる当業者がその規約を理解するであろう感覚に従う意図がある(例.「A、B又はCのうち少なくとも一つを有するシステム」には、これに限られるものではないが、Aのみ、Bのみ、Cのみ、A・B双方、A・C双方、B・C双方、及び/又は、A・B・C三者を有するシステム等々が包含されよう)。やはりいわゆる当業者には理解し得るように、2個以上の代替的な語を提示する分離接続詞及び/又は分離接続句はほぼ全て、明細書、特許請求の範囲及び図面の何れにあるのかを問わず、一方の語、何れかの語、或いは双方の語を包含する可能性が考慮されているものと理解されるべきである。例えば、語句「A又はB」は、「A」又は「B」又は「A及びB」の可能性を包含するものと解されることとなる。
【0051】
本件開示及びそれに付随する長所の多くについては前掲の記述により理解できるであろうし、開示されている主題から離隔することなく或いはその主要な長所全てを損なうことなく諸部材の形態、構成及び配置に様々な改変を施せることも明らかとなろう。述べられている形態は単なる説明用のものであり、後掲の特許請求の範囲の意図はそうした改変を包括、包含することにある。更に、本発明を定義しているのは別項の特許請求の範囲である。
【国際調査報告】