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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-08
(54)【発明の名称】金属粉末の電解製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25C 5/02 20060101AFI20240801BHJP
【FI】
C25C5/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508366
(86)(22)【出願日】2022-08-03
(85)【翻訳文提出日】2024-02-09
(86)【国際出願番号】 EP2022071854
(87)【国際公開番号】W WO2023016896
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2021/112443
(32)【優先日】2021-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュ,シ ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ジン ボ
(72)【発明者】
【氏名】シア,ジン チェン
【テーマコード(参考)】
4K058
【Fターム(参考)】
4K058BA21
4K058BA23
4K058BA37
4K058BB03
4K058CA03
4K058EB16
4K058FA30
(57)【要約】
本発明は、金属から製造されるアノードと、カソードと、電解質溶液とを含む電解セル内での金属の粉末の製造方法であって、a)電解質溶液中に金属のイオンを形成するアノードの溶解及び電解質溶液からの金属粒子のカソードへの堆積と、b)カソードから電解質溶液中への金属粒子の移動と、c)電解質溶液からの金属粒子の単離とを含む方法に関し、ここで、金属が銅又は銀であり、並びに電解質溶液が(i)アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸と(ii)アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸の可溶性金属塩とを含む。また、本発明は、方法によって得られた又は得ることができる銅又は銀粉末、並びに電解堆積による銀又は銅粉末の製造のための電解質溶液中でのアルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属から製造されるアノードと、カソードと、電解質溶液とを含む電解セル内での金属の粉末の製造方法であって、
a)電解質溶液中に金属のイオンを形成するアノードの溶解及び前記電解質溶液からの金属粒子のカソードへの堆積と、
b)前記カソードから前記電解質溶液中への金属粒子の移動と、
c)前記電解質溶液からの前記金属粒子の単離と
を含む方法において、
- 前記金属が銅又は銀であり、
- 前記電解質溶液が(i)アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸と(ii)アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸の可溶性金属塩とを含む、方法。
【請求項2】
前記アルカンスルホン酸が、C~C12-アルカンスルホン酸、好ましくはC~C-アルカンスルホン酸から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルカノールスルホン酸が、C~C12-アルカノールスルホン酸、好ましくはC~C-アルカノールスルホン酸から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アルカンスルホン酸が、メタンスルホン酸、1-エタンスルホン酸、1-プロパンスルホン酸、2-プロパンスルホン酸、1-ブタンスルホン酸、2-ブタンスルホン酸、1-ペンタンスルホン酸、1-ヘキサンスルホン酸、1-デカンスルホン酸、1-ドデカンスルホン酸、メタンジスルホン酸、1,1-エタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、1,1-プロパンジスルホン酸、1,3-プロパンジスルホン酸、1,1-ブタンジスルホン酸、1,4-ブテンジスルホン酸、及びそれらの任意の組合せから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
工程a)が、20℃~70℃、好ましくは30℃~60℃、より好ましくは40~50℃の範囲の温度で実施される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
銀粉末が製造され、工程a)が、40~50℃、好ましくは45~50℃の範囲の温度で実施される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
銅粉末が製造され、工程a)が、40~50℃の範囲の温度で実施される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記金属粒子の酸化防止の工程、好ましくは水素の雰囲気下での還元の工程を更に含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法によって得られた又は得ることができる銅又は銀粉末。
【請求項10】
電解堆積による銀又は銅粉末の製造のための電解質溶液中でのアルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸の使用。
【請求項11】
アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸が、請求項2~4のいずれか一項に規定される通りである、請求項10に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉末の電解製造方法及び同方法から得られた金属粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
銅粉末及び銀粉末などの金属細粉は、様々な用途において、例えば電子ペースト、潤滑剤、触媒、医薬品及びバイオフィルターにおいて広範囲に使用される。金属粉末の電解堆積は、この方法が緩い条件下で高品質の金属粉末をもたらすことができ、出発原料に高要件を課さないので、常に重要な工業的方法であった。
【0003】
電解堆積によって銅粉末を製造する従来の方法において、硫酸を含む硫酸銅水溶液が一般的に採択される。この方法は、特に、高い加工温度下で、電解質溶液から環境中への腐蝕性硫酸の放出に対する保護のための特定の処置を要とする。電解堆積によって銀粉末を製造する従来の方法において、硝酸を含む硝酸銀電解質水溶液が一般的に採択される。この方法もまた、高い加工温度下で電解質溶液から環境中への硝酸の放出の問題がある。
【0004】
更に、硝酸銀電解質溶液を使用する従来の方法においてカソード上の銀粒子の堆積は、特にカソードの隅に樹枝状凝結体の急速な成長を伴なうことを本発明の発明者は見出した。樹枝状凝結体はアノードにまで広がることがあり、したがって短絡のリスクを増大させる。
【0005】
電解堆積によって銅粉末及び銀粉末を製造する代替方法が更に必要とされている。方法は、同等の又はそれらの従来の方法から得られたものよりも更に改良された品質を有する金属粉末を提供することができることが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高い電気分解温度下で環境中に放出し得る任意の腐蝕性酸を含む電解質溶液を使用しない、銅粉末及び/又は銀粉末の製造方法を提供することである。本発明のさらなる目的は、望ましいか又は更に小さな粒径を有する銅粉末又は銀粉末の製造方法を提供することである。
【0007】
本発明の目的は、金属スルホン酸塩とスルホン酸とを含む電解質溶液を使用することによって達成できることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、一態様では、本発明は、金属から製造されるアノードと、カソードと、電解質溶液とを含む電解セル内での金属の粉末の製造方法であって、
a)電解質溶液中に金属のイオンを形成するアノードの溶解及び電解質溶液からの金属粒子のカソードへの堆積と、
b)カソードから電解質溶液中への金属粒子の移動と、
c)電解質溶液からの金属粒子の単離と
を含む方法を提供し、
- 金属が銅又は銀であり、
- 電解質溶液が(i)アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸と(ii)アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸の可溶性金属塩とを含む。
【0009】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載される方法によって得られた又は得ることができる銅又は銀粉末を提供する。
【0010】
さらなる態様では、本発明は、電解堆積による銀又は銅粉末の製造のための電解質溶液中でのアルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1.1に記載される、本発明による方法によって製造された銅粉末のSEM画像を示す。
図2】比較例1.1に記載される、本発明によらない方法によって製造された銅粉末のSEM画像を示す。
図3】実施例2.1に記載される、本発明による方法によって製造された銀粉末のSEM画像を示す。
図4】実施例2.1に記載される、本発明による方法によって製造されたカソード上の銀堆積物のモルフォロジー画像を示す。
図5】比較例2.1に記載される、本発明によらない方法によって製造された銀粉末のSEM画像を示す。
図6】比較例2.1に記載される、本発明によらない方法によって製造された、カソード上の銀堆積物のモルフォロジー画像を示す。
図7】実施例2.1~2.3に記載される本発明による方法及び比較例2.1~2.3に記載される本発明によらない方法によって製造された銀粉末の粒径D50を示す。
図8】実施例2.1~2.3に記載される本発明による方法及び比較例2.1~2.3に記載されるような本発明によらない方法によって製造された銀粉末の粒径D90を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明はここで、以下に詳細に説明される。本発明は、多くの異なった方法で具体化することができ且つ本明細書に示される実施形態に限定されるとして解釈されないと理解されるべきである。他に言及しない限り、本明細書中で使用する全ての技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者が一般に理解する意味と同義である。
【0013】
本明細書中で用いられる場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈が明確にそうでないことを示さない限り、複数の指示物を含む。
【0014】
本明細書中で用いられる場合、用語「含む(comprise)」、「含む(comprising)」等は、「含有する(contain)」、「含有する(containing)」等と互いに交換可能に使用され、非限定的な、開いた方法で解釈されるべきである。すなわち、例えば、さらなる成分又は要素が存在していることができる。「からなる(consists of)」又は「本質的に~からなる(consists essentially of)」等の表現は、「含む(comprises)」等に包含され得る。
【0015】
本明細書中で用いられる場合、用語「水性の」は、電解質溶液が少なくとも50%の水を含有する溶剤を含むことを意味する。好ましくは、溶剤の少なくとも75%、より好ましくは90%が水である。電解質溶液の溶剤は、任意の意図的に添加される有機溶剤なしに本質的に水からなることを予想することができる。任意の種類の水を使用することができるが、蒸留水又は脱イオン水が優先的に使用される。
【0016】
第1の態様では、本発明は、金属から製造されるアノードと、カソードと、電解質溶液とを含む電解セル内での金属の粉末の製造方法であって、
a)電解質溶液中に金属のイオンを形成するアノードの溶解及び電解質溶液からの金属粒子のカソードへの堆積と、
b)カソードから電解質溶液中への金属粒子の移動と、
c)電解質溶液からの金属粒子の単離とを含む方法を提供し、
- 金属が銅又は銀であり、並びに
- 電解質溶液が(i)アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸と(ii)アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸の可溶性金属塩とを含む。
【0017】
公知であるように、アノードはカソード上に堆積される金属から製造され、したがって電解セルの運転中に金属イオンを電解質溶液中に連続的に供給する。一般的に、アノードは、少なくとも95%、例えば少なくとも98%又は少なくとも99%の純度を有する金属から製造することができる。本発明による方法において、アノードは、上記の範囲内の純度を有する銅又は銀から製造される。
【0018】
カソードの材料に対する特定の制限はない。本発明による方法のために有用なカソードは、例えば、ステンレス鋼又はチタンから製造することができる。
【0019】
アノードとカソードを1cm~10cm、好ましくは3cm~6cm、例えば3cm~5.5cmの距離に配置することができる。
【0020】
(i)アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸と(ii)アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸の可溶性金属塩とを含む電解質溶液は、環境中への酸の放出の問題なしに高い電気分解温度下で、銀及び銅粉末を製造するために有効であることを本発明の発明者を見出した。
【0021】
成分(i)として有用なアルカンスルホン酸はC~C12-アルカンスルホン酸、好ましくはC~C-アルカンスルホン酸であり得る。アルカンスルホン酸は、モノスルホン酸及びジスルホン酸であり得る。アルカンモノスルホン酸の例としては、メタンスルホン酸、1-エタンスルホン酸、1-プロパンスルホン酸、2-プロパンスルホン酸、1-ブタンスルホン酸、2-ブタンスルホン酸、1-ペンタンスルホン酸、1-ヘキサンスルホン酸、1-デカンスルホン酸及び1-ドデカンスルホン酸などが挙げられるがそれらに限定されない。アルカンジスルホン酸の例としては、メタンジスルホン酸、1,1-エタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、1,1-プロパンジスルホン酸、1,3-プロパンジスルホン酸、1,1-ブタンジスルホン酸及び1,4-ブタンジスルホン酸などが挙げられるがそれらに限定されない。1つのアルカンスルホン酸又は2つ以上のアルカンスルホン酸の任意の混合物を本発明による方法において電解質溶液において使用することができる。
【0022】
成分(i)として有用なアルカノールスルホン酸は、C~C12-アルカノールスルホン酸、好ましくはC~C-アルカノールスルホン酸、すなわち、ヒドロキシ置換C~C12-、好ましくはC~C-アルカンスルホン酸であり得る。ヒドロキシは、アルカンスルホン酸のアルキル鎖の末端又は内部の炭素上にあり得る。有用なアルカノールスルホン酸としては、2-ヒドロキシ-1-エタンスルホン酸、1-ヒドロキシ-2-プロパンスルホン酸、2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸、3-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸、2-ヒドロキシ-1-ブタンスルホン酸、4-ヒドロキシ-1-ブタンスルホン酸、4-ヒドロキシ-2-ブタンスルホン酸、2-ヒドロキシ-1-ペンタンスルホン酸、4-ヒドロキシ-1-ペンタンスルホン酸、2-ヒドロキシ-1-ヘキサンスルホン酸、2-ヒドロキシ-1-デカンスルホン酸及び2-ヒドロキシ-1-ドデカンスルホン酸などが挙げられるがそれらに限定されない。1つのアルカノールスルホン酸又は2つ以上のアルカノールスルホン酸の任意の混合物を本発明による方法において電解質溶液において使用することができる。
【0023】
アルカンスルホン酸及びアルカノールスルホン酸は、特定の制限なしに当該技術分野に公知の任意の方法によって調製されるものであるか又は市販品であり得る。
【0024】
成分(i)としてのアルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸が1~200グラム/リットル(g/L)電解質溶液、特に5~180g/L、好ましくは10~150g/Lの範囲の濃度で電解質溶液中に含まれ得る。
【0025】
本明細書中で、成分(ii)としてアルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸の可溶性金属塩は、アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸の可溶性銀又は銅塩を意味する。アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸の可溶性銀又は銅塩はまた、下記に可溶性金属スルホン酸塩と称される。
【0026】
可溶性金属スルホン酸塩が由来するアルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸は、成分(i)としてのアルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸と同じであるか又は異なり得、成分(i)について上に記載されたものから選択され得る。
【0027】
好ましくは、可溶性金属スルホン酸塩は、成分(i)としてのアルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸の可溶性銀又は銅塩である。
【0028】
例えば、電解質溶液は、成分(i)としてメタンスルホン酸及び成分(ii)として銅又は銀メタンスルホネートを含むことができる。
【0029】
成分(ii)として可溶性金属スルホン酸塩が金属イオンとして計算される、1~200g/L電解質溶液、特に5~150g/L、好ましくは5~120g/Lの範囲の濃度で電解質溶液中に含まれ得る。
【0030】
電解質溶液は、任意の公知の方法によって、例えば、上記のようにアルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸の溶液中に金属(すなわち、銅又は銀)、金属の酸化物、金属の水酸化物、又は金属の炭酸塩を溶解して、所望の濃度の金属イオンとスルホン酸とを有する溶液をもたらすことによって調製することができる。
【0031】
電解質溶液は、当該技術分野に有用な公知の1つ以上の添加剤、例えば、コラーゲン(例えば、動物グルー)、グルコース、尿素に由来するゼラチンを任意選択的に含むことができる。電気導電率を改良するための又は銅粉末製造において電解質溶液のpHを調節するためのいくつかの無機添加剤、例えば塩化第二銅に言及することもできる。添加剤は、存在している場合、20g/Lまで、より好ましくは10g/Lまでの濃度で電解質溶液中に含まれ得る。
【0032】
いくつかの実施形態において、本発明は、銀から製造されるアノードと、カソードと、電解質溶液とを含む電解セル内での銀粉末の製造方法を提供し、ここで、電解質溶液は、(i)アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸と(ii)可溶性銀アルカンスルホン酸塩又はアルカノールスルホン酸塩とを含む。
【0033】
銀粉末の製造方法のそれらの実施形態では、成分(i)としてのアルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸は好ましくは、1~50グラム/リットル(g/L)電解質溶液、特に5~30g/L、好ましくは10~20g/Lの範囲の濃度で電解質溶液中に含まれる。更に又は代わりに、成分(ii)としての可溶性銀アルカンスルホン酸塩又はアルカノールスルホン酸塩は好ましくは、銀イオンとして計算される、50~200g/L電解質溶液、特に60~150g/L、好ましくは80~120g/Lの範囲の濃度で電解質溶液中に含まれる。
【0034】
いくつかの他の実施形態では、本発明は、銅から製造されるアノードと、カソードと、電解質溶液とを含む電解セル内での銅粉末の製造方法を提供し、ここで、電解質溶液は、(i)アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸と(ii)可溶性銅アルカンスルホン酸塩又はアルカノールスルホン酸塩とを含む。
【0035】
銅粉末の製造方法のそれらの実施形態では、成分(i)としてのアルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸は好ましくは、50~200グラム/リットル(g/L)電解質溶液、特に80~200g/L、好ましくは100~160g/Lの範囲の濃度で電解質溶液中に含まれる。更に又は代わりに、成分(ii)としての可溶性銅アルカンスルホン酸塩又はアルカノールスルホン酸塩は好ましくは、銅イオンとして計算される、1~50g/L電解質溶液、特に5~30g/L、好ましくは5~15g/Lの範囲の濃度で電解質溶液中に含まれる。
【0036】
工程a)において、アノードの溶解及びカソードへの堆積は、電解質溶液の温度に応じて、周囲温度又は高温で実施することができる。例えば、方法は、20℃~70℃、好ましくは30℃~60℃、より好ましくは40~50℃の範囲の温度で実施することができる。
【0037】
電解質溶液を工程a)の間に約5~20リットル/分(L/分)の流量でポンプで送ることができる。電解質溶液は、リザーバから電解セル内に頂部からポンプで送られ、電解セルの底部から出ることができるか、又は電解セル内に底部からポンプで送られ、電解セルの頂部のから出ることができる。
【0038】
工程a)は、銀粉末の製造のために2~20A/dm(ASD)、特に3~15A/dm、例えば3~10A/dm、銅粉末の製造のために8~15A/dmの範囲の電流密度で実施することができる。
【0039】
工程a)においてアノードの溶解及びカソードへの堆積を一般的に10~60分間、例えば10~30分間の時間実施してから、工程b)においてカソード上に堆積された金属粒子を除去する。
【0040】
工程b)において、一切の制限なしに当該技術分野に公知の任意の機械的手段によって金属粒子をカソードから電解質溶液中に移動させることができる。
【0041】
工程c)において、工程b)から得られた金属粒子を含む電解質溶液を単離に供して、金属粉末をもたらす。任意選択的に、単離された金属(meal)粉末を洗浄、乾燥及び/又は酸化防止処理などの後処理に更に供することができる。後処理を任意の従来の手段で実施することができる。例えば、単離された金属(meal)粉末を脱イオン水で洗浄し、真空下で乾燥させ、水素の雰囲気下で還元することができる。
【0042】
したがって、本発明による方法は、下記の工程:
d)工程c)から単離された金属粒子の、好ましくは脱イオン水による洗浄、
e)真空乾燥、及び
f)金属粒子の酸化防止、好ましくは水素の雰囲気下での還元
を更に含むことができる。
【0043】
いくつかの例示的な実施形態では、本発明は、銀から製造されるアノードと、カソードと、電解質溶液とを含む電解セル内での銀粉末の製造方法であって、
a)電解質溶液中に銀イオンを形成するアノードの溶解及び電解質溶液からの銀粒子のカソードへの堆積と、
b)カソードから電解質溶液中への銀粒子の移動と、
c)電解質溶液からの銀粒子の単離と
を含む方法を提供し、
ここで、電解質溶液は、(i)C~C-アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸と(ii)可溶性銀C~C-アルカンスルホン酸塩又はC~C-アルカノールスルホン酸塩とを含む。
【0044】
好ましくは、銀粉末の製造方法の例示的な実施形態では、電解質溶液は、(i)1~50g/L電解質溶液の範囲の濃度のC~C-アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸と、(ii)50~200g/L電解質溶液の濃度の可溶性銀C~C-アルカンスルホン酸塩又はC~C-アルカノールスルホン酸塩とを含む。
【0045】
より好ましくは、銀粉末の製造方法の例示的な実施形態では、電解質溶液は、(i)5~30g/L、好ましくは10~20g/L電解質溶液の範囲の濃度のC~C-アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸と、(ii)銀イオンとして計算される、60~150g/L電解質溶液の濃度の可溶性銀C~C-アルカンスルホン酸塩又はC~C-アルカノールスルホン酸塩とを含む。
【0046】
最も好ましくは、銀粉末の製造方法の例示的な実施形態では、電解質溶液は、(i)5~30g/L、好ましくは10~20g/L電解質溶液の範囲の濃度のC~C-アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸と、(ii)銀イオンとして計算される、80~120g/L電解質溶液の濃度の可溶性銀C~C-アルカンスルホン酸塩又はC~C-アルカノールスルホン酸塩とを含む。
【0047】
銀粉末の製造方法の例示的な実施形態のいずれかでは、工程a)は、40~50℃、好ましくは45~50℃の範囲の温度で実施される。
【0048】
いくつかの他の実施形態では、本発明は、銅から製造されるアノードと、カソードと、電解質溶液とを含む電解セル内での銅粉末の製造方法であって
a)電解質溶液中に銅イオンを形成するアノードの溶解及び電解質溶液からの銅粒子のカソードへの堆積と、
b)カソードから電解質溶液中への銅粒子の移動と、
c)電解質溶液からの銅粒子の単離と
を含む方法を提供し、
ここで、電解質溶液は、(i)C~C-アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸と(ii)可溶性銅C~C-アルカンスルホン酸塩又はC~C-アルカノールスルホン酸塩とを含む。
【0049】
好ましくは、銅粉末の製造方法の例示的な実施形態において、電解質溶液は、(i)50~200g/L電解質溶液の範囲の濃度のC~C-アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸と、(ii)1~50g/L電解質溶液の濃度の可溶性銀C~C-アルカンスルホン酸塩又はC~C-アルカノールスルホン酸塩とを含む。
【0050】
より好ましくは、銅粉末の製造方法の例示的な実施形態において、電解質溶液は、(i)80~200g/L、好ましくは100~160g/L電解質溶液の範囲の濃度のC~C-アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸と、(ii)銅イオンとして計算される、5~30g/L電解質溶液の濃度の可溶性銀C~C-アルカンスルホン酸塩又はC~C-アルカノールスルホン酸塩とを含む。
【0051】
最も好ましくは、銅粉末の製造方法の例示的な実施形態において、電解質溶液は、(i)80~200g/L、好ましくは100~160g/L電解質溶液の範囲の濃度のC~C-アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸と、(ii)銅イオンとして計算される、5~15g/L電解質溶液の濃度の可溶性銀C~C-アルカンスルホン酸塩又はC~C-アルカノールスルホン酸塩とを含む。
【0052】
銅粉末の製造方法の例示的な実施形態のいずれかでは、工程a)は、40~50℃の範囲の温度で実施される。
【0053】
第2の態様では、本発明は、本明細書に記載される本発明による方法によって得られた又は得ることができる銅又は銀粉末を提供する。
【0054】
本発明による方法によって得られた又は得ることができる銅粉末は、20~120ミクロン(μm)、好ましくは30~100μm、より好ましくは40~90μm、最も好ましくは40~80μmの範囲の粒径D50を有する。
【0055】
本発明による方法によって得られた又は得ることができる銀粉末は、100~600ミクロン(μm)、好ましくは150~500μm、より好ましくは200~400μmの範囲の粒径D50を有する。代わりに又は更に、本発明による方法によって得られた又は得ることができる銀粉末は、200~1,000ミクロン(μm)、好ましくは400~800μmの粒径D90を有する。
【0056】
50は、粒径レーザー分析器によって測定される場合、特性決定される粒子の総数の50%がこの値より小さい直径を有する粒子からなる直径の値である。
【0057】
90は、粒径レーザー分析器によって測定される場合、特性決定される粒子の総数の90%がこの値より小さい直径を有する粒子からなる直径である。
【0058】
第3の態様において、本発明は、電解堆積による銀又は銅粉末の製造のための電解質溶液中でのアルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸の使用を提供する。
【実施例
【0059】
実施例における測定の説明:
走査電子顕微鏡法(SEM):Carl Zeiss AG製のZeiss Supra(登録商標)55。
粒径の測定:Malvern Mastersizer 2000G。
【0060】
各実施例において、電流効率(η)を以下の式に従って計算した:
【数1】

式中、
ηは、%単位で表される、電流効率を表し、
mは、g単位で表される、tの時間にわたってセル1個あたり堆積された金属粉末の質量を表し、
Iは、A単位で表される、電流の強さを表し、
tは、h単位で表される、電気めっきの時間を表し、
qは、銅について1.186g/(A・h)及び銀について4.025g/(A・h)である、金属の電気化学当量を表す。
【0061】
電気エネルギー消費量(W)を以下の式に従って計算した:
【数2】

式中、
Wは、kW・h/t単位で表される、エネルギー消費量を表し、
ηは、%単位で表される、電流効率を表し、
Uは、V単位で表される、平均浴電圧を表す。
【0062】
実施例1 銅粉末の製造
実施例1.1
ブラックCuOをメタンスルホン酸(MSA)の稀釈水溶液中に溶解して、電解質溶液として12g/Lの銅イオンと140g/Lの遊離メタンスルホン酸とを含有する溶液をもたらした。溶液を電解セル内に流し込み、40℃の温度に維持した。リン銅板のアノードとチタン板のカソードとを5cmの距離で電解セル内に配置した。電解堆積は、15分間13A/dmの電流密度で直流を印加することによって実施された。次いで、得られた銅粒子をカソードから除去し、電解質溶液から単離した。集められた銅粒子を真空濾過で濾過し、脱イオン水によって洗浄し、真空乾燥炉内で60℃の温度で乾燥させ、次いで水素の還元雰囲気中で500℃に加熱することによって還元処理に供した。
【0063】
浴電圧は、Kocour電源によって測定されるとき、2.3Vであり、電流効率(η)は89.32%であり、及び電気エネルギー消費量(W)は2171kW・h/tである。図1に示されるように、疎らな且つ薄い樹枝状結晶は銅粉末についてSEMによって観察された。
銅粉末は、79.5μmの粒径D50を有する。
【0064】
実施例1.2
電解質溶液を25℃の温度に維持したことを除いて、実施例1.1に記載されるのと同じ方法でプロセスを実施した。
【0065】
浴電圧は2.8Vであり、電流効率(η)は82.7%であり、電気エネルギー消費量(W)は2854kW・h/tである。
【0066】
銅粉末の粒径D50は81.6μmである。
【0067】
実施例1.3
電解質溶液を30℃の温度に維持したことを除いて、実施例1.1に記載されるのと同じ方法でプロセスを実施した。
【0068】
浴電圧は2.5Vであり、電流効率(η)は85.1%であり、電気エネルギー消費量(W)は2476kW・h/tである。
【0069】
銅粉末の粒径D50は89.2μmである。
【0070】
実施例1.4
電解質溶液を35℃の温度に維持したことを除いて、実施例1.1に記載されるのと同じ方法でプロセスを実施した。
【0071】
浴電圧は2.6Vであり、電流効率(η)は87.8%であり、電気エネルギー消費量(W)は2496kW・h/tである。
【0072】
銅粉末の粒径D50は100.9μmである。
【0073】
実施例1.5
電解質溶液を45℃の温度に維持したことを除いて、実施例1.1に記載されるのと同じ方法でプロセスを実施した。
【0074】
浴電圧は2.35Vであり、電流効率(η)は89.16%であり、電気エネルギー消費量(W)は2222kW・h/tである。
【0075】
銅粉末の粒径D50は78.4μmである。
【0076】
実施例1.6
電解質溶液を50℃の温度に維持したことを除いて、実施例1.1に記載されるのと同じ方法でプロセスを実施した。
【0077】
浴電圧は2.2Vであり、電流効率(η)は91.53%であり、電気エネルギー消費量(W)は2026kW・h/tである。
【0078】
銅粉末の粒径D50は46.3μmである。
【0079】
比較例1.1
硫酸銅五水和物を硫酸水溶液中に溶解して、電解質溶液として12g/Lの銅イオンと142g/Lの遊離硫酸とを含有する溶液を得た。溶液を電解セル内に流し込み、25℃の温度に維持した。リン銅板のアノードとチタン板のカソードとを5cmの距離で電解セル内に配置した。電解堆積は、15分間13A/dmの電流密度で直流を印加することによって実施された。次いで、得られた銅粒子をカソードから除去し、電解質溶液から単離した。集められた銅粒子を真空濾過で濾過し、脱イオン水によって洗浄し、真空乾燥炉内で60℃の温度で乾燥させ、次いで、水素の還元雰囲気中で500℃に加熱することによって還元処理に供した。
【0080】
浴電圧は、Kocour電源によって測定されるとき、2.3Vであり、電流効率(η)は79.86%であり、電気エネルギー消費量(W)は2428kW・h/tである。図2に示されるように、銅粉末について厚い樹枝状結晶がSEMによって観察された。
【0081】
銅粉末は、99.3μmの粒径D50を有する。
【0082】
実施例2 銀粉末の製造
実施例2.1
ブラックAgOをメタンスルホン酸(MSA)の稀釈水溶液中に溶解して、電解質溶液として108g/Lの銀イオンと15.25g/Lの遊離メタンスルホン酸とを含有する溶液をもたらした。溶液を電解セル内に流し込み、50℃の温度に維持した。高純度銀板のアノードとステンレス鋼板のカソードとを電解セル内に3.5cmの距離に配置した。電解堆積は、15分間5A/dmの電流密度で直流を印加することによって実施された。次いで、得られた銀粒子をカソードから除去し、電解質溶液から単離した。集められた銀粒子を真空濾過で濾過し、脱イオン水によって洗浄し、真空乾燥炉内で60℃の温度で乾燥させた。
【0083】
浴電圧は、Kocour電源によって測定されるとき、1.23Vであり、電流効率(η)は98%であり、電気エネルギー消費量(W)は312kW・h/tである。図3に示されるように、銀粉末について粒状結晶がSEMによって観察された。
【0084】
銀粉末の粒径D50は328.8μmであり、D90は525.4μmである。
【0085】
図4に示されるように、銀粒子が緩慢な且つわずかな樹枝状成長によってカソード上に堆積されることが観察された。
【0086】
実施例2.2
電解質溶液を25℃の温度に維持したことを除いて、実施例2.1に記載されるのと同じ方法でプロセスを実施した。
【0087】
浴電圧は1.5Vであり、電流効率(η)は95%であり、電気エネルギー消費量(W)は392kW・h/tである。
【0088】
銀粉末の粒径D50は545.1μmであり、D90は966.9μmである。
【0089】
実施例2.3
電解質溶液を40℃の温度に維持したことを除いて、実施例2.1に記載されるのと同じ方法でプロセスを実施した。
【0090】
浴電圧は1.26Vであり、電流効率(η)は96%であり、電気エネルギー消費量(W)は326kW・h/tである。
【0091】
銀粉末の粒径D50は571.5μmであり、D90は920.1μmである。
【0092】
比較例2.1
ブラックAgOを硝酸(HNO)の稀釈水溶液中に溶解して、電解質溶液として108g/L銀イオンと10g/Lの遊離硝酸とを含有する溶液をもたらした。溶液を電解セル内に流し込み、25℃の温度に維持した。高純度銀板のアノードとステンレス鋼板のカソードとを電解セル内に3.5cmの距離に配置した。電解堆積は、15分間5A/dmの電流密度で直流を印加することによって実施された。次いで、得られた銀粒子をカソードから除去し、電解質溶液から単離した。集められた銀粒子を真空濾過で濾過し、脱イオン水によって洗浄し、真空乾燥炉内で60℃の温度で乾燥させた。
【0093】
浴電圧は、1.4Vであり、電流効率(η)は95.04%であり、電気エネルギー消費量(W)は366kW・h/tである。図5に示されるように、銀粉末について粒状結晶がSEMによって観察された。銀粉末の粒径D50は78.7μmであり、D90は758.6μmである。
【0094】
図6に示されるように、銀粒子が急速且つ極度な樹枝状成長によってカソード上に、特にカソードの隅に堆積されることが観察された。
【0095】
比較例2.2
電解質溶液を40℃の温度に維持したことを除いて、比較例2.1に記載されるのと同じ方法でプロセスを実施した。
【0096】
浴電圧は、1.11Vであり、電流効率(η)は96%であり、電気エネルギー消費量(W)は287kW・h/tである。
【0097】
銀粉末の粒径D50は395.2μmであり、D90は648.1μmである。
【0098】
比較例2.3
電解質溶液を50℃の温度に維持したことを除いて、比較例2.1に記載されるのと同じ方法でプロセスを実施した。
【0099】
浴電圧は、1.04Vであり、電流効率(η)は98%であり、電気エネルギー消費量(W)は264kW・h/tである。
【0100】
銀粉末の粒径D50は340.3μmであり、D90は1167.3μmである。
【0101】
図7及び図8に示されるように、40℃超の温度で本発明に従って製造される銀粉末は、硝酸電解質系で慣例的に製造される銀粉末の粒径と少なくとも同等の粒径を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】