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特表2024-531994アマ(Linum usitatissimum)種子の抽出物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-03
(54)【発明の名称】アマ(Linum usitatissimum)種子の抽出物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20240827BHJP
   A61Q 5/06 20060101ALI20240827BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240827BHJP
   A61Q 5/12 20060101ALI20240827BHJP
   A61Q 17/00 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q5/06
A61Q19/00
A61Q5/12
A61Q17/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024515603
(86)(22)【出願日】2022-09-09
(85)【翻訳文提出日】2024-03-11
(86)【国際出願番号】 EP2022075126
(87)【国際公開番号】W WO2023041437
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】21196495.2
(32)【優先日】2021-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マック,サンドラ
(72)【発明者】
【氏名】グレアム,デヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイセネッガー,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ファルコフスキー,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】ズィムニー,アンティエ
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083AA122
4C083AB051
4C083AB052
4C083AC011
4C083AC101
4C083AC102
4C083AC342
4C083AC372
4C083AC542
4C083AC642
4C083AC711
4C083AC781
4C083AD022
4C083AD072
4C083AD092
4C083AD131
4C083AD391
4C083BB01
4C083BB44
4C083BB51
4C083BB53
4C083CC19
4C083CC32
4C083CC33
4C083DD27
4C083DD41
4C083EE12
4C083EE17
4C083EE25
4C083EE28
4C083FF01
(57)【要約】
本発明は、アマ(Linum usitatissimum)種子の抽出物を製造するプロセスに関する。さらに、本発明は、この抽出物自体及びこの抽出物を含む化粧品組成物に関する。さらに、本発明は、ヘアスタイリング、又はコンディショニング、又はUV照射に対する保護のための、この抽出物又はこの抽出物を含む化粧品組成物の使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アマ(Linum usitatissimum)種子の抽出物を製造するプロセスであって、
a)脱脂アマ(Linum usitatissimum)種子材料を提供する工程、
b1)任意選択的に、前記材料をエタノールで洗浄して、前記材料に依然として含有されている残留脂肪の一部を除去する工程、又は
b2)任意選択的に、前記脱脂アマ(Linum usitatissimum)種子材料を100~200℃、好ましくは135~190℃、好ましくは150~180℃の温度で熱処理する工程、
c)工程a)又は任意選択的に工程b1)若しくはb2)の一方からの前記材料を、0~20℃、好ましくは0~15℃、好ましくは10~15℃の温度及び6未満、好ましくは1~5.5、好ましくは3~5のpH値の水による第1の抽出で抽出する工程であって、それにより、第1の液体及び第1の固体が得られる、工程、
d)前記第1の液体と前記第1の固体とを分離する工程、
e)工程d)で得られた前記第1の固体を、0~25℃、好ましくは0~15℃、好ましくは10~15℃の温度及び7超、好ましくは7.5~14、好ましくは7.5~8.5のpH値の水による第2の抽出で抽出する工程であって、それにより、第2の液体及び第2の固体が得られる、工程、
f)前記第2の液体と前記第2の固体とを分離する工程、
g)工程f)で得られた前記第2の液体を80℃以上の温度、好ましくは80~100℃の温度まで加熱する工程、
h)工程g)からの前記加熱された第2の液体を60℃以下、好ましくは0~60℃、好ましくは50~60℃の温度まで冷却する工程であって、それにより、沈殿物が形成される、工程、又は
i)工程f)で得られた前記第2の液体から水を除去する工程であって、それにより、沈殿物が形成される、工程、
j)工程h)又はi)からの前記沈殿物を除去する工程であって、それにより、第3の液体が得られる、工程
を含むプロセス。
【請求項2】
k)工程j)で得られた前記第3の液体から水を除去する工程であって、それにより、0~5重量%、好ましくは0~2重量%、より好ましくは0~1重量%の含水量を有する第3の固体が得られる、工程
をさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記第1の抽出での前記水は、クエン酸、乳酸、酢酸、ギ酸、酒石酸及びこれらの混合物からなる群から選択される酸で酸性化される、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記第2の抽出での前記水の前記pH値は、KOH、NaOH、アミノメチルプロパノール(AMP)、トリエタノールアミン及びこれらの混合物からなる群から選択される塩基を前記水に添加することによって得られる、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
工程d)における前記第1の液体と前記第1の固体との前記分離は、遠心分離機で行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
工程f)における前記第2の液体と前記第2の固体との前記分離は、遠心分離機で行われる、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
工程i)での前記第2の液体からの水の前記除去は、蒸留塔で行われる、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
工程k)での前記第3の液体からの水の前記除去は、凍結乾燥機又は噴霧乾燥機で行われる、請求項2~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記第1の抽出及び前記第2の抽出で使用される水の量は、提供された前記脱脂アマ(Linum usitatissimum)種子材料の量の5~20倍、好ましくは8~12倍である、請求項1~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のプロセスに従って得ることができる第3の液体。
【請求項11】
請求項2~9のいずれか一項に記載のプロセスに従って得ることができる第3の固体。
【請求項12】
3~15重量%、好ましくは5~10重量%のタンパク種と、1~15重量%、好ましくは2~10重量%のデンプンとを含む、請求項10に記載の第3の液体又は請求項11に記載の第3の固体。
【請求項13】
請求項10に記載の第3の液体又は請求項11に記載の第3の固体と、水、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、n-ペンタン及びこれらの組み合わせからなる群から選択される溶媒とを含み、且つ任意選択的に少なくとも1種の乳化剤をさらに含み、且つ任意選択的に少なくとも1種のpH調整剤をさらに含む化粧品組成物。
【請求項14】
デシルグルコシド、ヤシ油アルキルグルコシド、ポリクオタニウム-77、ヤシ油アルキルグルコシドクエン酸2Na、ヤシ油アルキルグルコシドメチル、(ヒドロキシプロピルスルホン酸Na/ヤシ油アルキルグルコシド)クロスポリマー、ラウレス硫酸アンモニウム、ココアンホ酢酸ナトリウム及びラウレス硫酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤を含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
ヘアスタイリングのための、請求項10に記載の第3の液体、又は請求項11に記載の第3の固体、又は請求項13若しくは14に記載の化粧品組成物の使用。
【請求項16】
毛髪又は皮膚のコンディショニングのための、請求項10に記載の第3の液体、又は請求項11に記載の第3の固体、又は請求項13若しくは14に記載の化粧品組成物の使用。
【請求項17】
UV照射に対して毛髪又は皮膚を保護する処置での使用のための、請求項10に記載の第3の液体、又は請求項11に記載の第3の固体、又は請求項13若しくは14に記載の化粧品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アマ(Linum usitatissimum)種子の抽出物を製造するプロセスに関する。さらに、本発明は、この抽出物自体及びこの抽出物を含む化粧品組成物に関する。さらに、本発明は、ヘアスタイリング、又はコンディショニング、又はUV照射に対する保護のための、この抽出物又はこの抽出物を含む化粧品組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アマ(Linum usitatissimum)の種子は、この種子に含まれる油である亜麻仁油(以下では亜麻仁油又は亜麻仁油油脂と同義的に称される)を得るために商業的に使用されている。この亜麻仁油は、オメガ-3-脂肪酸に富んでいる。例えば、圧搾又は溶媒抽出によってこの油を得る方法に応じて、残りの脱脂種子は、全脱脂種子、圧搾された脱脂種子、細断された脱脂種子又は粉砕された脱脂種子であり得る。以下では、脱脂種子は、全脱脂種子であるか、圧搾された脱脂種子であるか、細断された脱脂種子であるか、又は粉砕された脱脂種子であるかにかかわらず、「脱脂アマ(Linum usitatissimum)種子材料」と称される。種子から油を取り出すプロセスがどの程度有効であるかに応じて、脱脂アマ(Linum usitatissimum)種子材料は、多かれ少なかれ残留脂肪を含有する。少なくとも微量の脂肪が常に存在する。
【0003】
以下では、亜麻(flax)、アマ(common flax)及び亜麻仁(linseed)は、アマ(Linum usitatissimum)という植物の名称と同義的に使用される。
【0004】
様々な用途での使用のための亜麻仁からの材料の抽出に関する文献が広範囲に存在する。
【0005】
Chen,Shanqiao(2011).China Oils and Fats,36(11),58-63は、英語で利用可能な要約によると、亜麻仁の油抽出からの残留生成物を、ミリグラムスケールではあるが、さらに利用し得ることを証明するために、脱脂された亜麻仁の粗挽き粉からのリグナンのエタノール抽出及びその後のアルカリ抽出のプロセスを記載している。
【0006】
国際公開第2014/174220A1号パンフレットは、亜麻仁自体を溶媒で抽出することによって得られる亜麻仁粘液の酸性加水分解を記載している。次いで、酸性化溶液を塩基で中和し、一連の限外ろ過を実施して、中性オリゴ糖の混合物を得、次いでこの混合物を使用して、ヒトの皮膚の修復プロセスを刺激し、皮膚の強度及び柔軟性を改善し、且つ外的要因に対して皮膚を保護し得る。
【0007】
国際公開第2002/062812A1号パンフレットは、低温で圧搾された粉砕亜麻仁に含まれる様々な成分(例えば、脂肪及び脂溶性化合物、最終的にセコイソラリシレシノールジグルコシド)を抽出するプロセスを記載している。
【0008】
露国特許第2437552C1号明細書は、英語への翻訳によると、食品産業用非粘着性亜麻仁ケーキから食用タンパク質を抽出するプロセスを記載している。
【0009】
Mueller,Klaus et al.,Functional properties and chemical composition of fractionated brown and yellow linseed meal(Linum usitatissium L.),Journal of Food Engineering 98(2010)p.453-460は、脱油された亜麻仁の粗挽き粉から可溶性食物繊維の抽出物を調製するプロセスを記載しており、このプロセスでは、第1の工程において、脱油された亜麻仁の粗挽き粉をpH4.0、15℃での酸抽出で抽出し、残留固体を第2の工程においてpH8.0、35℃の高温でのアルカリ抽出でさらに抽出する。次いで、前記第2の工程の上清をpH4.0、35℃の高温で沈殿させ、遠心分離に供する。次いで、上清を中和し、噴霧乾燥させて可溶性食物繊維を得る。可溶性食物繊維には、かなり高い15.6~32.3重量%のタンパク質含有量及び0.5~0.6重量%の脂肪含有量並びに特に低温でのかなり高い粘度という欠点がある。
【0010】
化粧品業界では、より持続可能で環境に優しい製品への傾向がある。現在まで、難分解性で非生分解性の合成ポリマーは、化粧品用途で最も重要な性能付与材料の1つであり、レオロジー、皮膜形成、毛髪及び材料の両方の表面への固定並びに不均一系での成分の安定化をもたらす。現在、合成ポリマーの代わりに天然及び/又は生分解性ポリマーが提供されているが、これらは、合成材料と同等のレベルの性能をもたらさない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の根底にある問題は、有利な化粧品特性を有するバイオベースの材料を提供することである。好ましくは、この材料は、生分解性であるものとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この問題は、本発明に係る抽出物によって解決される。この抽出物は、本発明係るプロセスによって得ることができる。
【0013】
本発明の第1の主題である本発明に係るプロセスは、アマ(Linum usitatissimum)種子の抽出物を製造するプロセスであって、
a)脱脂アマ(Linum usitatissimum)種子材料を提供する工程、
b1)任意選択的に、この材料をエタノールで洗浄して、この材料に依然として含有されている残留脂肪の一部を除去する工程、又は
b2)任意選択的に、前記脱脂アマ(Linum usitatissimum)種子材料を100~200℃、好ましくは135~190℃、好ましくは150~180℃の温度で熱処理する工程、
c)工程a)又は任意選択的に工程b1)若しくはb2)の一方からの材料を、0~20℃、好ましくは0~15℃、好ましくは10~15℃の温度及び6未満、好ましくは1~5.5、好ましくは3~5のpH値の水による第1の抽出で抽出する工程であって、それにより、第1の液体及び第1の固体が得られる、工程、
d)第1の液体と第1の固体とを分離する工程、
e)工程d)で得られた第1の固体を、0~25℃、好ましくは0~15℃、好ましくは10~15℃の温度及び7超、好ましくは7.5~14、好ましくは7.5~8.5のpH値の水による第2の抽出で抽出する工程であって、それにより、第2の液体及び第2の固体が得られる、工程、
f)第2の液体と第2の固体とを分離する工程、
g)工程f)で得られた第2の液体を80℃以上の温度、好ましくは80~100℃の温度まで加熱する工程、
h)工程g)からの加熱された第2の液体を60℃以下、好ましくは0~60℃、好ましくは50~60℃の温度まで冷却する工程であって、それにより、沈殿物が形成される、工程、又は
i)工程f)で得られた第2の液体から水を除去する工程であって、それにより、沈殿物が形成される、工程、
j)工程h)又はi)から沈殿物を除去する工程であって、それにより、第3の液体が得られる、工程
を含むプロセスである。
【0014】
プロセスの従属請求項の主題は、本発明の具体的な実施形態である。
【0015】
本発明のプロセスでは、脱脂アマ(Linum usitatissimum)種子材料は、第1の抽出工程c)に直接使用され得る。
【0016】
代替実施形態では、任意選択的に、脱脂アマ(Linum usitatissimum)種子材料を任意選択的な工程b1)においてエタノールで洗浄して、第1の抽出工程c)前にこの原料に依然として含有されている残留脂肪の一部を除去し得る。
【0017】
第2の代替実施形態では、脱脂アマ(Linum usitatissimum)種子材料を、第1の抽出工程c)前の任意選択的な工程b2)において、任意選択的に100~200℃、好ましくは135~190℃、好ましくは150~180℃の温度で熱処理し得る。前記任意選択的な熱処理工程は、好ましくは、乾燥環境下で行われ、そのため、この任意選択的な熱処理工程は、任意選択的な焙煎工程とも称され得る。任意選択的な熱処理工程、好ましくは任意選択的な焙煎工程は、好ましくは、15分~10時間、好ましくは30分~7時間、好ましくは1時間~6時間、好ましくは2時間~5時間にわたって行われる。
【0018】
エタノールによる洗浄及熱処理の任意選択的な代替実施形態は、両方とも脱脂アマ(Linum usitatissimum)種子材料中の微生物バラストを減少させ、それにより任意選択的な熱処理がより効果的であることが判明した。
【0019】
さらに、任意選択的な熱処理により、液体及び固体の両方の最終抽出物の分子量Mwが減少し、そのため、この任意選択的な熱処理を使用して、所定の分子量Mwを有する液体及び固体の両方の最終抽出物を得ることができる。液体及び固体の両方の最終抽出物の分子量を調整することにより、液体及び固体の両方の最終抽出物の性能を微調整し得る。
【0020】
本発明に係るプロセスは、第1の固体を得るための、0~20℃、好ましくは0~15℃、好ましくは10~15℃の低温での、6未満、好ましくは1~5.5、好ましくは3~5のpHの酸性条件下での第1の抽出工程c)及び第2の液体を得るための、0~25℃、好ましくは0~15℃、好ましくは10~15℃の低温での、7超、好ましくは7.5~14、好ましくは7.5~8.5のpH値のアルカリ性条件下での、前記第1の抽出工程から得られた第1の固体の第2の抽出工程e)を特徴とする。
【0021】
前記第2の液体は、工程g)で第2の液体を80℃以上、好ましくは80℃~100℃の温度まで加熱し、次いで工程h)において、前記加熱された第2の液体を60℃以下、好ましくは0~60℃、好ましくは50~60℃の温度まで冷却することによって沈殿されるか、又は代わりに工程i)において、好ましくは蒸留塔で第2の液体から水を除去することによって沈殿される。次いで、前記沈殿物を工程j)で除去して、第3の液体を得る。
【0022】
それにより、工程g)及びh)又は代わりに工程i)の第2の液体から第3の液体に移す工程中、液体のpHを適応させないことが好ましい。
【0023】
本発明のプロセスは、
k)工程j)で得られた第3の液体から水を除去する工程であって、それにより、0~5重量%、好ましくは0~2重量%、より好ましくは0~1重量%の含水量を有する第3の固体が得られる、工程
をさらに含み得る。
【0024】
本発明の別の主題は、本発明に係るプロセスによって得ることができる抽出物である。この抽出物は、液体(本明細書の特許請求の範囲では第3の液体と呼ばれる)であり得るか、又は特定の実施形態では固体(本明細書の特許請求の範囲では第3の固体と呼ばれる)であり得る。
【0025】
本発明のさらなる主題は、化粧品組成物(これは、主題又は請求項13であり;請求項14は、具外的な実施形態である)及び本発明に係る抽出物又は本発明に係る化粧品組成物(これは、請求項15~17の主題である)の使用である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下の実施形態は、本発明のさらなる実施形態である。
・キサンタンガム、デヒドロキソキサンタンガム、ヒドロキシプロピルキサンタンガム、セルロースガム、アルギン、デュータンガム、タラガム、トラガカントガム、アラビアゴムノキガム抽出物、アクリルアミド/アクリロイルジメチルタウリン酸ナトリウムコポリマー、アクリレート/ベヘネス-25コポリマー、カルボマー、グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド及びキサンタンヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドからなる群から選択される、レオロジー改質のための少なくとも1種のポリマーをさらに含む、請求項13又は14に記載の化粧品組成物であって、このレオロジー改質のための少なくとも1種のポリマーは、好ましくは、0.1~4.0重量%の量で存在する、化粧品組成物。
・乳酸、アジピン酸、クエン酸、アスコルビン酸、アミノメチルプロパンジオール、アミノメチルプロパノール、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、ガラクツロン酸、グルクロン酸、グルタル酸、クエン酸一ナトリウム、コハク酸、コハク酸ナトリウム及びクエン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種の緩衝剤をさらに含む、請求項13若しくは14に記載の化粧品組成物又は前述の実施形態に係る化粧品組成物であって、この緩衝剤は、好ましくは、4~9のpH値に達するのに必要な量で存在する、化粧品組成物。
・請求項10に記載の第3の液体又は請求項11に記載の第3の固体は、0.1~5.0重量%、好ましくは0.3~3.0重量%の量で存在する、請求項13若しくは14に記載の化粧品組成物又は前述の実施形態のいずれかに記載に組成物。
・請求項10に記載の第3の液体又は請求項11に記載の第3の固体は、0.3~3.0重量%の量で存在し、少なくとも1種の界面活性は、0.5~5.0重量%の量で存在する、請求項14に記載の化粧品組成物又は請求項14を参照する前述の実施形態のいずれかに記載の化粧品組成物。
【0027】
本発明の特定の実施形態では、本発明に係る抽出物(請求項10に係る液体形態又は請求項11に係る固体形態)は、3~15重量%、好ましくは5~12重量%のタンパク質と、1~15重量%、好ましくは2~10重量%のデンプンとを含む。
【実施例
【0028】
実施例1:アルカリ性抽出物(X)の調製
抽出物を、以下の工程を含む方法によって製造した。
1)圧搾/細断されたアマ(Linum usitatissimum)の塊0.1kgの水1kgへの分散液を提供すること;
2)この分散液を10~15℃まで冷却すること;
3)この分散液を酢酸で酸性化(pH4まで)すること;
4)pH及び温度を継続的に調整しつつ撹拌して、pH4及び温度15℃を一定に維持すること。この混合物を15分にわたって撹拌し、さらなる調整を必要とすることなくpHが4で一定となった;
5)この分散液を遠心分離機に移し、10分にわたって4000rpmで遠心分離して、固相と液相とを分離すること。液体部分(約0.7kg)を廃棄し、固形物(約0.3kg)を保持した;
6)単離した(乾燥していない)固形物をスターラー付きの容器に移し、水1kgに分散させ、15℃まで冷却すること;
7)温度15℃を一定に維持しつつ、pH8が達成されるまで撹拌しつつ50%KOH溶液を添加すること;
8)いかなるさらなるpH調整も行うことなく、この混合物を1時間にわたって15℃で撹拌すること;
9)この混合物を遠心分離機に移し、10分にわたって4000rpmで遠心分離すること;
10)上清液を、撹拌及び加熱された容器にデカントし、固体層を廃棄すること;
11)この上清を10分にわたって90℃で撹拌すること;
12)この混合物を55℃まで冷却し、加熱及び撹拌中に沈殿物が生じた後に遠心分離機に移すこと;
13)この混合物を10分にわたって4000rpmで遠心分離すること;
14)ゲル状の固形物を廃棄し、上清液(0.7kg)を保持すること;
15)この上清液0.7kgを蒸留装置に移し、重量測定法で5%の固形分が決定されるまで濃縮すること。これにより、安定したオフホワイトの分散液が得られた;
16)この分散液を凍結乾燥機に移して乾燥させて、オフホワイトの粉末(X)0.01~0.02kgを得ること。
【0029】
実施例2:酸性抽出物(Y)の調製
抽出物を、以下の工程を含む方法によって製造した。
1)圧搾/細断されたアマ(Linum usitatissimum)の塊0.1kgの水1kgへの分散液を提供すること;
2)10~15℃まで冷却すること;
3)この膨大/分散された塊を酢酸で酸性化(pH4まで)すること;
4)pH及び温度を継続的に調整しつつ撹拌して、pH4及び温度15℃を一定に維持すること。この混合物を15分にわたって撹拌し、さらなる調整を必要とすることなくpHが4で一定となった;
5)この分散液を遠心分離機に移し、10分にわたって4000rpmで遠心分離して、固相と液相とを分離すること。液体部分(0.7kg)を保持し、蒸溜装置に移すこと;
6)蒸留装置中において、液体0.7kgを5%の固形分まで濃縮し、続いて10分にわたって4000rpmで遠心分離して、あらゆる沈殿物から液体を分離すること;
7)残存する液体を凍結乾燥機に移し、99.5%の活性含有量まで乾燥させ、オフホワイト/黄色の粉末(Y)0.02kgを単離した。
【0030】
実施例3:VOC製剤の調製
以下の表に従ってVOC10製剤を調製した。
【0031】
【表1】
【0032】
実施例4:カール保持試験でのVOC製剤の性能
本発明に係る組成物Xのカール保持を、標準化されたVOC10ポンプスプレー製剤において、代替の酸性抽出物Y並びに2種の合成ポリマー、ビニルピロリドン/酢酸ビニル(VP/VA)コポリマー及びポリビニルピロリドン(PVP)と比較して試験した。
【0033】
これらの製剤のカール保持を以下の通りに測定した。2gの自由毛髪の暗褐色の毛髪束(長さ15cm)を長さ1cmの円形のレースでまとめた。この毛髪束を、5%過酸化水素で漂白した後に使用した。各ポリマーをVOC含有量50%(別途明記されない限り)のエタノール及び水の溶液で製剤化し、これらの製剤のpHを、乳酸又はアミノメチルプロパノール(AMP)を使用して6~9に調整した(アミン又は酸官能基を含まない比較ポリマー例は、このように中和する必要がなく、酸官能基を有する比較例をAMPで中和した)。毛髪束を15分にわたって脱イオン水に浸し、続いて2本の指間でこの束から過剰な水を搾り出す。濡れた毛髪束をガイド付きテフロンカーラーに巻き付けて、束全体を一貫してカールさせた。次いで、毛髪束付きのカーラーを少なくとも3時間にわたって70℃で乾燥させ、続いて一晩冷却した。各毛髪束をほどいてラボ用撹拌機に取り付け、毛髪束を70rpmで回転させつつ、ポンプスプレー装置から20cmの距離からポリマー溶液約2gを噴霧した。1つのポリマーサンプル当たり5つのそのような束を調製した。次いで、これらの束を、ろ紙上において周囲条件下で1時間にわたって乾燥させた後、スケールを備えたラックに吊して、25℃及び90%rhで人工気候室に入れ、束の初期長並びに5時間及び24時間後の長さを適宜記録した。
【0034】
カール保持(CR)を、以下の式:
CR(%)=[(L-L)/(L-L)]×100
(式中、L=毛髪の長さ(15cm)
=毛髪カールの長さ、開始時
=毛髪のカールの長さ、所定期間(5時間/24時間)後)
を使用して算出した。
【0035】
【表2】
【0036】
製剤C中の本発明に係る組成物Xは、同量の活性物質(0.7%)を使用しつつ、30%の領域でカール保持を付与する合成ポリマーと比較して、わずか0.7%の活性物質を使用して70%超のカール保持という顕著に高い性能を示す。酸性抽出物Y(製剤D中)は、合成ポリマーと同等のレベルの性能を示した。
【0037】
実施例5:ゲル製剤の調製
合成レオロジー改質剤を含むゲル製剤を以下の表に従って調製した。
【0038】
【表3】
【0039】
実施例6:曲げ剛性試験でのゲル製剤の性能
説明されている製剤を以下の方法に従って曲げ剛性に関して毛髪で試験した。この試験では、レースで円形に成形されて接着長が1cmである白人の暗褐色の毛髪束(重量2g及び長さ15cm)を使用した。この毛髪を試験手順前に5%過酸化水素で中程度に漂白した。試験する1つの生成物当たり7つのそのような毛髪束を使用した。ポンプスプレータイプの製剤を試験するために、乳酸を使用して、利用可能なアミン官能基の30重量%を中和して、ポリマー含有量が3%であるポリマー溶液を調製した。試験溶液の所望のVOC含有量に達するために、エタノール又は水による希釈が必要であった。それぞれの毛髪束をポリマー溶液に浸し、この溶液から取り出して、それぞれの毛髪束を円形状に再形成し、余分な毛髪を、圧力をかけることなく束を指間に通すことによってまとめた。このプロセスをもう一度繰り返した。次いで、この束をもう一度浸し、特別に設計されたテフロンフォームに毛髪束を(上から下に)通して引っ張ることにより、余分なものを除去し、この毛髪束を、浸す工程をさらに行うことなくテフロンフォームに3回通して引っ張った。次いで、形成された毛髪束をラックに垂直に吊るし、通常の実験室条件下で少なくとも1時間にわたって毛髪束を乾燥させた。乾燥後、このラック及び束を一晩65%相対湿度及び21℃で人工気候室に入れた。次いで、毛髪束を切断するのに必要な最大力を、切断点までに必要な力を測定し得る3点曲げ剛性試験機構を備えた装置を使用して測定した(cN)。このプロセスを残りの毛髪束に関して繰り返して、破断前の最大力の平均値を得た。次いで、この値を以下の式によって百分率に換算した。
%BS=(BS/1000)×100
【0040】
ゲル製剤G、H、I及びJの曲げ剛性試験の結果を以下の表で説明する。
【0041】
【表4】
【0042】
3%の合成スタイリングポリマーを含むゲル(G及びH)は、曲げ剛性の点で下限及び上限の性能を示したが、製剤Iに含まれる本発明に係る組成物Xは、合成ポリマーと同じレベルの使用でスケールの上限に近い性能を示した。(製剤Jにおいて)酸性抽出経路を介して得られた組成物Yは、合成例で定義されたスケールの下限を下回る性能を示した。
【0043】
先の2つの例は、本発明の組成物が、a)天然原料に基づく組成物であり、及びb)生分解性/非永続性であるにもかかわらず、合成ポリマーの性能に匹敵し得、さらにより優れていることを実証している。
【0044】
実施例7:UV保護/UVダメージの軽減
生成物のUV光の有害な影響に対して保護する能力を評価するために、抽出物X及びYを12cmの自由毛髪長、2cmの幅のフラットブロンドの毛髪束に塗布し、X及びYの3%溶液の0.7g、0.5gの重量をピペットによって前述の毛髪束の10本にそれぞれ塗布し、従来の毛髪染色ブラシを使用して広げた。次いで、この毛髪を、制御された温度(21℃)及び湿度(40%RH)条件下で一晩乾燥させた。UV光によって毛髪束に生じたダメージの量を、“Wortmann,Deutz,J.Appl.Polym.Sci.48(1993)137;Wortmann et al.,J.Cosmet.Sci.53(2002)219;Istrate et al.,Macromol.Biosci.9(2009)805”で説明されているようなDSC測定により、結果として生じる毛髪タンパク質の変性温度(典型的にはダメージのレベルに応じて130~150℃)を決定することによって定量した。次いで、乾燥した毛髪束を、制御された温度(30℃)及び湿度(40%RH)条件下において、常に対で24時間又は48時間にわたって80W/mでUV光(300~400nm)に曝露した。曝露後、この束を、典型的な界面活性剤溶液及び温水で洗浄した後に乾燥させた。次いで、それぞれの毛髪束のサンプルをDSCによってタンパク質変性温度に関して分析した。
【0045】
UV保護試験の結果の概要を以下の表にまとめる。
【0046】
【表5】
【0047】
未処理毛髪の変性温度に対する変性温度の低下は、24時間及び48時間のそれぞれに関して説明されているように、UV光への曝露後に有意に減少した。
【0048】
これは、プラセボと比較した、抽出物Xを使用した場合のUVダメージの軽減又はUV保護の増加の40%超の改善と等しく、抽出物Yも未処理毛髪に対して改善を示したが、抽出物Xほど顕著ではなかった。
【0049】
【表6】
【0050】
実施例8:高温でのアルカリ抽出
比較例8では、工程7)及び8)において、pHをさらに調整することなく、50℃の一定温度を維持し、且つ1時間にわたって50℃で混合物を撹拌する点で相違しつつ、実施例1のプロセスを繰り返した。
【0051】
それにより、高温でのアルカリ抽出工程は、以下の表7及び8において実施例8及び実施例1の分離性能を比較することによって分かるように、実施例1に対する粘度の増加に起因して、性能生成物を他の成分から明確に分離することに重大な障害をもたらす。
【0052】
【表7】
【0053】
結果として得られた粉末(Z)を、粘度及び噴霧粒径に関して、実施例1から得られた粉末(X)と比較した。そのため、1%水溶液及び2%水溶液並びにVOC15製剤(10%エタノールの代わりに15%エタノールを含む表1を参照されたい)を使用した。結果を表8に示す。
【0054】
【表8】
【0055】
温かい抽出物質は、粘度がより高く、1%水溶液として適切な容器から噴霧される場合、はるかに大きい粒子となり、即ち化粧品スプレーから予想される望ましい微細な噴霧特性が達成され得ず、この影響は、揮発性成分が市販のポンプスプレー用途に典型的なエタノールである典型的なVOC(揮発性有機物含有量)15製剤でより顕著である。
【0056】
実施例9:抽出前での圧搾された亜麻仁の粗挽き粉の焙煎
抽出物(X1)~(X5)を、以下の工程を含む方法によって製造した。
1)焙煎、圧搾/細断されたアマ(Linum usitatissimum)の塊0.1kgの水1kgへの分散液を提供すること;
2)この分散液を10~15℃まで冷却すること;
3)この分散液を酢酸で酸性化(pH4まで)すること;
4)pH及び温度を継続的に調整しつつ撹拌して、pH4及び温度15℃を一定に維持すること。この混合物を15分にわたって撹拌し、さらなる調整を必要とすることなくpHが4で一定となった;
5)この分散液を遠心分離機に移し、10分にわたって4000rpmで遠心分離して、固相と液相とを分離すること。液体部分(約0.7kg)を廃棄し、固形物(約0.3kg)を保持した;
6)単離した(乾燥していない)固形物をスターラー付きの容器に移し、水1kgに分散させ、15℃まで冷却すること;
7)温度15℃を一定に維持しつつ、pH8が達成されるまで撹拌しつつ50%KOH溶液を添加すること;
8)いかなるさらなるpH調整も行うことなく、この混合物を1時間にわたって15℃で撹拌すること;
9)この混合物を遠心分離機に移し、10分にわたって4000rpmで遠心分離すること;
10)上清液をデカントし、固体層を廃棄すること;
11)この上清液0.7kgを蒸留装置に移し、重量測定法で5%の固形分が決定されるまで濃縮すること。これにより、安定したオフホワイトの分散液が得られた;
12)この分散液を遠心分離機に移し、10分にわたって4000rpmで遠心分離した;
13)上清液を凍結乾燥機に移して乾燥させて、オフホワイトの粉末(X)0.01~0.02kgを得た。
【0057】
これに関して、抽出物(X1)~(X5)の場合、表9に示すように、焙煎温度を150℃~180℃で変化させ、且つ焙煎時間を1時間~3時間で変化させることによって焙煎手順を変更した。
【0058】
【表9】
【0059】
実施例10:抽出物の微生物バラストの決定
抽出物(X1)を、圧搾された亜麻仁の粗挽き粉を別に前処理した、実施例9で説明されているプロセスに従って調製された抽出物と比較した。このサンプルの好気性菌数は、このサンプル中の微生物バラストを示す。結果を表10に示す。
【0060】
【表10】
【0061】
新たに開封して焙煎した、圧搾された亜麻仁の粗挽き粉又は焙煎工程の7ヶ月前に開封した、圧搾された亜麻仁の粗挽き粉のいずれかに関する、2時間にわたる150℃での焙煎工程による前処理は、両方とも例外的に低い好気性菌数を示す。4時間にわたる120℃での焙煎工程により、未処理の圧搾された亜麻仁の粗挽き粉と比較して、既に好気性菌数が有意に減少する。圧搾された亜麻仁の粗挽き粉を殺菌するための既知の方法であるエタノールによる前処理は、焙煎する前処理ほど有効ではない。
【0062】
実施例11:前処理された抽出物(X1)~(X5)の特性
実施例9のプロセスから得られた抽出物(X1)~(X5)の分子量Mwを測定した。加えて、抽出物(X1)~(X5)を、実施例6で説明されている曲げ剛性試験に供した。結果を表11に示す。
【0063】
【表11】
【0064】
抽出物の分子量は、焙煎工程の条件によって調節され得ることが分かる。焙煎条件が厳しいほど、分子量が低くなる。
【0065】
そのため、分子量は、抽出物の曲げ剛性に直接影響を及ぼす。分子量が低いほど、曲げ剛性が低くなる。そのため、前処理工程を抽出物の性能の微調整に使用し得る。
【国際調査報告】