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特表2024-532897ミネラルバインダー組成物からの熱流を制御するための混和剤、ミネラルバインダー組成物、及びその生成プロセス
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  • 特表-ミネラルバインダー組成物からの熱流を制御するための混和剤、ミネラルバインダー組成物、及びその生成プロセス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-10
(54)【発明の名称】ミネラルバインダー組成物からの熱流を制御するための混和剤、ミネラルバインダー組成物、及びその生成プロセス
(51)【国際特許分類】
   C04B 24/06 20060101AFI20240903BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20240903BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20240903BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20240903BHJP
   C04B 22/12 20060101ALI20240903BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20240903BHJP
   C04B 24/02 20060101ALI20240903BHJP
   C04B 7/52 20060101ALI20240903BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C04B24/06 A
C04B22/06 Z
C04B22/08 B
C04B22/14 Z
C04B22/12
C04B22/10
C04B22/08 A
C04B22/14 A
C04B24/02
C04B7/52
C04B28/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513486
(86)(22)【出願日】2022-08-31
(85)【翻訳文提出日】2024-02-28
(86)【国際出願番号】 EP2022074198
(87)【国際公開番号】W WO2023031273
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】21194931.8
(32)【優先日】2021-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.スタイロフォーム
2.STYROFOAM
(71)【出願人】
【識別番号】506416400
【氏名又は名称】シーカ テクノロジー アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100227352
【弁理士】
【氏名又は名称】白倉 加苗
(72)【発明者】
【氏名】アルント エーベルハルト
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ミュラー
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンネス ウンセルド
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス フルンツ
(72)【発明者】
【氏名】エマニュエル ガルーチ
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ユイラント
(72)【発明者】
【氏名】ドゥニーズ シェーネンベルガー
(72)【発明者】
【氏名】ルイス ペガド
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MA00
4G112MB02
4G112MB04
4G112MB06
4G112MB08
4G112MB11
4G112MB13
4G112PB06
4G112PB07
4G112PB08
4G112PB09
4G112PB10
4G112PB15
4G112PB17
4G112PC04
4G112PC05
4G112PE01
(57)【要約】
本発明は、ミネラルバインダー組成物のための、特にコンクリートのための混和剤に関し、前述の混和剤は、a)ヒドロキシカルボン酸のエステル、特にクエン酸エステル、酒石酸エステル、乳酸エステル、グルコン酸エステル、リンゴ酸エステル、グリコール酸エステル、及び/又はマンデル酸エステルから選択される少なくとも1つの速度調節剤と、b)任意選択的にセメントの水和のための促進剤と、c)任意選択的に水と、を含む、又はこれらからなる。本発明の混和剤は、ミネラルバインダー組成物、特にコンクリートからの最大熱流を、その凝結及び/又は硬化を過度に遅らせることなく低減する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ヒドロキシカルボン酸のエステルから選択される少なくとも1つの速度調節剤と、
b)任意選択的にセメントの水和のための促進剤と、
c)任意選択的に水と、
を含む、又はこれらからなる、ミネラルバインダー組成物のための混和剤。
【請求項2】
a)ヒドロキシカルボン酸のエステルから選択される1~99重量%の少なくとも1つの速度調節剤と、
b)セメントの水和のための1~99重量%の促進剤と、
c)任意選択的に水と、
を含むこと(それぞれの場合で、前記混和剤の総重量に対して)を特徴とする、請求項1に記載の混和剤。
【請求項3】
前記少なくとも1つの速度調節剤は、クエン酸エステル、酒石酸エステル、乳酸エステル、グルコン酸エステル、リンゴ酸エステル、グリコール酸エステル、及び/又はマンデル酸エステルから選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の混和剤。
【請求項4】
前記少なくとも1つの速度調節剤は、クエン酸のモノ及び/又はジグリセリド、酒石酸のモノ及び/又はジグリセリド、乳酸のモノグリセリド、グルコン酸のモノグリセリド、リンゴ酸のモノ及び/又はジグリセリド、グリコール酸のモノグリセリド、マンデル酸のモノグリセリドから選択されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の混和剤。
【請求項5】
促進剤が存在し、前記促進剤は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、硝酸塩、亜硝酸塩、チオシアン酸塩、塩化物、炭酸塩、重炭酸塩、又はケイ酸塩、又はアルミニウム塩、好ましくは、ケイ酸ナトリウム、チオシアン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、又は硫酸アルミニウムから選択されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の混和剤。
【請求項6】
前記速度調節剤は、ASTM C136/C136Mに従って測定される、0~2000μm、好ましくは0~1000μm、より好ましくは0~500μm、更により好ましくは250~500μmの粒子サイズを有することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の混和剤。
【請求項7】
前記少なくとも1つの速度調節剤は、一般構造(IV):
【化1】
(式中、
各R’’は、互いに独立して、H又はC(O)-R’’’’であり、但し、少なくとも1つのR’’は、Hでないという条件であり、
R’’’’は、非分岐C2~C30アルキル鎖又は非分岐C2~C30アルケニル鎖であり、前記アルケニル鎖は、1~6の二重結合を含み得る、
各R’’’は、互いに独立して、Mが、H又はアルカリ金属又はアルカリ土類金属イオンであるOMであり、又は以下の一般構造(V)の部位であり、
【化2】
各R’’は、互いに独立して、H又はC(O)-R’’’’であり、R’’’’は、非分岐C2~C30アルキル鎖又は非分岐C2~C30アルケニル鎖であり、前記アルケニル鎖は、1~6の二重結合を含み得る)のクエン酸エステルから選択されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の混和剤。
【請求項8】
a)少なくとも1つのセメントと、
b)ヒドロキシカルボン酸のエステル、特にクエン酸エステル、酒石酸エステル、乳酸エステル、グルコン酸エステル、リンゴ酸エステル、グリコール酸エステル、及び/又はマンデル酸エステルから選択される少なくとも1つの速度調節剤と、
c)任意選択的に凝集材と、
d)任意選択的に更なる添加剤と、
e)任意選択的に水と、
を含む、セメント質組成物、特にセメント又はコンクリート。
【請求項9】
前記速度調節剤は、それぞれの場合で、セメントの総乾燥重量に対して、0.01~10重量%、好ましくは0.05~5重量%、より好ましくは0.1~2重量%、更により好ましくは0.25~1重量%の量で存在することを特徴とする、請求項8に記載のセメント質組成物。
【請求項10】
前記セメントは、ポルトランドセメント、アルミン酸カルシウムセメント、及び/又はスルホアルミン酸カルシウムセメント、好ましくは、規格EN 197-1に記載のタイプCEM I、CEM II、CEM III、CEM IV、又はCEM Vのポルトランドセメント、或いは規格DIN EN 197-5に記載のタイプCEM VIのポルトランドセメント、或いは規格ASTM C140-05によるポルトランドセメントを含む、又はこれらからなることを特徴とする、請求項8又は9に記載のセメント質組成物。
【請求項11】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、硝酸塩、亜硝酸塩、チオシアン酸塩、塩化物、炭酸塩、重炭酸塩、又はケイ酸塩、又はアルミニウム塩、好ましくは、ケイ酸ナトリウム、チオシアン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、又は硫酸アルミニウムから選択される促進剤を、更に含むことを特徴とする、請求項8~10のいずれか一項に記載のセメント質組成物。
【請求項12】
a1)セメント又はセメントクリンカーを、請求項1~7のいずれか一項に記載の混和剤と相互粉砕する工程、又は
a2)ミネラルバインダー組成物を、請求項1~7のいずれか一項に記載の混和剤と相互混合する工程、
を含む、請求項8~11のいずれか一項に記載のセメント質組成物を製造するプロセス。
【請求項13】
前記セメント又はセメントクリンカーは、規格EN 197-1に記載のタイプCEM I、CEM II、CEM III、CEM IV、又はCEM Vのポルトランドセメント、或いは規格DIN EN 197-5に記載のタイプCEM VIのポルトランドセメント、或いは規格ASTM C140-05によるポルトランドセメントを含み、特に好ましくは、前記セメント又はセメントクリンカーは、本質的に規格EN 197-1に記載のタイプCEM I、CEM II、CEM III、CEM IV、又はCEM Vのポルトランドセメント、或いは規格DIN EN 197-5に記載のタイプCEM VIのポルトランドセメント、或いは規格ASTM C140-05によるポルトランドセメントからなることを特徴とする、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
工程a1又はa2で得られた組成物を、凝集材、更なる添加剤、及び水のうちの少なくとも1つと混合する工程を更に含むことを特徴とする、請求項12又は13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記セメントに対する前記速度調節剤の重量比が、0.01~10重量%、好ましくは0.05~5重量%、より好ましくは0.1~2重量%、更により好ましくは0.25~1重量%である量で、前記混和剤が添加されることを特徴とする、請求項12~14のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項16】
請求項1~7のいずれか一項に記載の混和剤を、ミネラルバインダー組成物に添加する工程を含む、前記ミネラルバインダー組成物の最大熱流を低減させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミネラルバインダー組成物(鉱物バインダー組成物)のための、特にコンクリートのための混和剤の分野に関する。本発明の混和剤は、ミネラルバインダー組成物、特にコンクリートからの最大熱流(maximum heat flow)を、その凝結及び/又は硬化を過度に遅らせることなく低減する。
【背景技術】
【0002】
セメント質材料は、水和すると発熱し熱を放出することはよく知られた現象である。特に、セメントの水和反応は、発熱性であり、多くの場合、水和熱と呼ばれるかなりの量のエネルギーが、セメントの水和時に放出される。特にマスコンクリートの製造中に、この水和熱が、問題となる可能性がある。
【0003】
マスコンクリートは、コンクリートの非常に厚い構造物を指し、典型的には厚さが80cmを超える。このような構造物は、容積が大きいことが多く、一般にこのような構造物を製造するには短時間に大量のコンクリートを設置する必要がある。マスコンクリートの取り付けの間、典型的な現象は、凝結及び硬化の間におけるコンクリートの内層と外層の間の大きな温度差である。この温度差は、コンクリートの内層からコンクリートの外層及び表面を介して周囲への水和熱の移動及び放散によるものである。又、コンクリートの中心温度が、60℃を超える、又は80℃を超えるなど、非常に高い温度になる可能性があり、準安定な水和物相の形成につながる可能性がある。その結果、マスコンクリートにはひび割れの危険性が増加し、強度の向上は予測しにくく、場合によっては予想よりも低くなる可能性がある。ひび割れたマスコンクリートは、耐久性が低くなり、場合によってはひび割れが、構造破壊にさえつながる可能性がある。
【0004】
この問題に対処するための現在の対策には、低発熱の特殊セメントの使用、凝集材の冷却、いくつかの下部層へのコンクリートの配置、断熱材による硬化、能動的な冷却、及び熱放出を促進する接合部及び区画の設計が含まれる。これらの対策全てには、更なる工程が必要であるが、これは、現場で実現するのは困難であり得、特定のプロジェクトの複雑さと費用が大幅に増加する。
【0005】
セメント質材料の水和反応のための遅延剤が知られている。しかしながら、このような遅延剤は、典型的には、水和反応を少なくともしばらくの間抑制する、又は水和反応を遅くするかのいずれかである。典型的には、抑制は、熱放出のバランスをとらず、最終的に水和が始まると、水和の熱が全て放出される。水和反応が遅くなると、長時間にわたって水和熱の放出のバランスがとれるが、所望の硬化度、多くの場合所望の強度に達するまでの時間も長くなり、そのため、建設プロセス全体が遅くなる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
必要とされているのは、硬化時間に渡る熱放出を制御する又はバランスをとることができるセメント質材料のための速度調節剤(kinetic regulator)である。このような速度調節剤は、セメントの水和の開始を著しく抑制しないことが理想的である。加えて、このような速度調節剤は、セメント質材料の硬化を過度に長くさせることはない。このような速度調節剤は、厚いセメント質材料、例えば、マスコンクリートの中心部の温度上昇を回避するのに、及び/又は厚いセメント質材料、例えば、マスコンクリートの内層と外層の間の温度差を回避するのにも非常に有用である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、硬化時間に渡る熱放出を制御する又はバランスをとることができる、ミネラルバインダー組成物、特にコンクリートのための混和剤を提供することである。このような混和剤は、実用上許容できる程度にのみセメントの水和の開始を長くすることが好ましい。このような混和剤は、セメント質材料の硬化を過度に長くしないことが更に好ましい。本発明の更なる目的は、このような混和剤を含むミネラルバインダー組成物、特にコンクリートを提供することである。本発明の更なる別の目的は、硬化時間に渡る熱放出が制御された又はバランスのとれたセメント質材料、特にコンクリートの生成プロセスを提供することである。
【0008】
驚くほどに、この目的は、独立請求項に記載の混和剤、ミネラルバインダー組成物、及びミネラルバインダー組成物を製造するプロセスによって解決することができるであろう。
【0009】
ヒドロキシカルボン酸のエステル、特にクエン酸エステル、酒石酸エステル、乳酸エステル、グルコン酸エステル、リンゴ酸エステル、グリコール酸エステル、及び/又はマンデル酸エステルから選択される速度調節剤が、ミネラルバインダー組成物、特にコンクリートの硬化時間に渡る熱放出を制御する又はバランスをとることができることが見出された。これにより、例えば、前述の速度調節剤を含むセメント質組成物からの熱流のピーク、又は最大熱流は、前述の速度調節剤を含まない同じセメント質組成物と比較して、10~90%低減されることができる。
【0010】
例えば、本発明の速度調節剤を含むコンクリートの鋳造後に測定されたコンクリート中心温度は、前述の速度調節剤を含まない同じ鋳造コンクリートと比較して最大40%低下したことも見出された。
【0011】
本発明の有利な実施形態は、従属請求項の主題である。
【0012】
発明を実施する方法
本文脈において、「含む(comprising)」という用語は、列挙された成分を少なくとも有する組成物を表し、加えて任意の更なる成分を有し得る。従って、「含む」という用語は、組成物を列挙された成分に限定することを意味するものではない。一方、「からなる(consisting of)」という用語は、組成物が列挙された成分のみを有し、それ以上の必須成分を有さないことに限定されることを意味する。列挙された成分からなる組成物は、前述の組成物の機能にとって完全に不必要な他の成分のみを含むことができる。
【0013】
第1の態様では、本発明は、ミネラルバインダー組成物のための混和剤に関し、前述の混和剤は、
a)ヒドロキシカルボン酸のエステルから選択される少なくとも1つの速度調節剤と、
b)任意選択的にセメントの水和のための促進剤と、
c)任意選択的に水と、
を含む、又はこれらからなる。
【0014】
本文脈におけるヒドロキシカルボン酸は、少なくとも1つのカルボン酸基と、少なくとも1つのヒドロキシ基とを含む有機分子である。ヒドロキシカルボン酸の好ましいエステルは、クエン酸エステル、酒石酸エステル、乳酸エステル、グルコン酸エステル、リンゴ酸エステル、グリコール酸エステル、及び/又はマンデル酸エステルから選択される。
【0015】
本文脈におけるミネラルバインダー組成物は、少なくとも1つのミネラルバインダーを含む組成物である。又、ミネラルバインダー組成物は、少なくとも1つのミネラルバインダーからなることができる。
【0016】
本文脈において、ミネラルバインダーは、
a)水圧反応にて水と反応して水和物相を形成することができる、又は
b)大気ガス、特に二酸化炭素と反応して硬い固相を形成することができる、又は
c)乾燥により硬い固相を形成することができるバインダーである。
【0017】
好ましくは、ミネラルバインダーは、セメント、石灰、マグネシア、アルミナ、潜在的水硬性バインダー、及び/又はポゾランから選択され、特に好ましくはセメントから選択される。好ましくは、本文脈におけるミネラルバインダーは、水硬性バインダーである。
【0018】
セメントは、特に、規格EN197-1に記載のタイプCEM I、CEM II、CEM III、CEM IV、及びCEM Vのポルトランドセメント、規格DIN EN197-5に記載のタイプCEM VIのポルトランドセメント、規格EN14647に記載のアルミン酸カルシウムセメント、及び/又はスルホアルミン酸カルシウムセメントであり得る。他の規格によるセメント、例えば、規格ASTM C140-05によるポルトランドセメント、或いは中国、日本、インド又は他の規格によるセメントも同様に包含される。「石灰」という用語は、規格EN459-1:2015に記載の天然水硬性石灰、配合石灰、水硬性石灰、及び空気石灰(air lime)を包含することを意味する。「アルミナ」という用語は、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、及び/又はギブサイト及びベーマイトなどのオキシ水酸化アルミニウム、焼成又は瞬間焼成(flash calcined)アルミナ、バイヤー法から得られるアルミナ、非晶質メソフェーズアルミナ及びロー相アルミナ(rho phase alumina)などの水和性アルミナを表す。ポゾラン及び潜在水硬性材料は、好ましくは、スラグ、粘土、焼成粘土、特にメタカオリン、キルンダスト、マイクロシリカ、フライアッシュ、熱分解法シリカ、沈降シリカ、シリカフューム、ゼオライト、もみ殻灰、焼成オイルシェール、並びに軽石、トラス、及び細かく粉砕した石灰石などの天然ポゾランからなる群から選択される。
【0019】
実施形態によれば、少なくとも1つのミネラルバインダーは、上述のタイプのいずれかのポルトランドセメントを含む、又は本質的にこれらからなる。特に、ミネラルバインダーは、少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも20重量%、より好ましくは少なくとも35重量%、更により好ましくは少なくとも65重量%、特に少なくとも80重量%、特に少なくとも95重量%の普通ポルトランドセメント(OPC)を含む。
【0020】
硫酸カルシウム(CaSO)は、例えば、石膏の形態で、例えば、セメントの一部としてミネラルバインダーに存在し得る。しかしながら、ミネラルバインダーは、硫酸カルシウムからならなくてもよい。
【0021】
好ましくは、本発明のミネラルバインダー組成物は、ミネラルバインダー組成物の総乾燥重量に対して、少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも25重量%、より好ましくは少なくとも33重量%、更により好ましくは少なくとも66重量%、更により好ましくは少なくとも80重量%、特に少なくとも90重量%、特に少なくとも99重量%のミネラルバインダーを含む。
【0022】
ミネラルバインダー組成物は、凝集材、更なる添加剤、及び/又は水を更に含み得る。凝集材及び更なる添加剤は、以下に記載される通りである。
【0023】
本発明の実施形態によれば、ミネラルバインダー組成物は、コンクリート又はモルタル又はセメント、特にコンクリートである。好ましい実施形態によれば、ミネラルバインダー組成物は、規格EN197-1に記載のタイプCEM I、CEM II、CEM III、CEM IV、又はCEM Vのポルトランドセメント、或いは規格DIN EN197-5に記載のタイプCEM VIのポルトランドセメント、或いは規格ASTM C140-05によるポルトランドセメントを含むコンクリートである。
【0024】
速度調節剤は、ヒドロキシカルボン酸のエステルから選択される。特に好ましくは、少なくとも1つの速度調節剤は、クエン酸エステル、酒石酸エステル、乳酸エステル、グルコン酸エステル、リンゴ酸エステル、グリコール酸エステル、及び/又はマンデル酸エステルから選択される。
【0025】
実施形態によれば、速度調節剤は、クエン酸エステルである。特に、速度調節剤は、クエン酸と多価アルコールとのエステルである。更に好ましいのは、クエン酸及び脂肪酸と多価アルコールとの混合エステルである。
【0026】
本文脈におけるクエン酸は、イソクエン酸も包含することを意味する。
【0027】
実施形態によれば、速度調節剤は、以下の一般構造(I)
【化1】
(式中、各Rは、互いに独立して、H、或いは分岐又は非分岐C2~C30アルキル鎖、或いは分岐又は非分岐C3~C30アルケニル鎖であり、アルケニル鎖は、1~6の二重結合、又はシクロヘキシル基、又は5~10のC原子を有する芳香族基を含み得る、但し、Rの少なくとも1つは、Hでないという条件である)によるクエン酸のエステルである。
【0028】
一般構造(I)の、少なくとも1つの疎水性部位Rを有する速度調節剤が、本発明の文脈において特に適していることが見出されている。一般構造(I)の適切な速度調節剤は、クエン酸モノブチル、クエン酸ジブチル、クエン酸トリブチル、クエン酸モノペンチル、クエン酸ジペンチル、クエン酸トリペンチル、クエン酸モノヘキシル、クエン酸ジヘキシル、クエン酸トリヘキシル、クエン酸モノオレイル、クエン酸ジオレイル、クエン酸トリオレイル、クエン酸モノステアリル、クエン酸ジステアリル、クエン酸トリステアリル、クエン酸モノラウリル、クエン酸ジラウリル、クエン酸トリラウリル、クエン酸モノプレニル、クエン酸ジプレニル、クエン酸トリプレニル、クエン酸モノシクロヘキシル、クエン酸ジシクロヘキシル、クエン酸トリシクロヘキシル、クエン酸モノフェニル、クエン酸ジフェニル、クエン酸トリフェニルである。
【0029】
更なる実施形態によれば、速度調節剤は、クエン酸と多価アルコールのエステルである。このようなエステルは、以下の一般構造(II):
【化2】
(式中、qは、0~4、好ましくは1又は2の整数であり、R’は、互いに独立して、H、又はC(O)-R’’’’、又は一般構造(III)の部位であり、但し、R’の少なくとも1つは、一般構造(III)の部位であるという条件であり、R’’’’は、非分岐C2~C30アルキル鎖又は非分岐C2~C30アルケニル鎖であり、アルケニル鎖は、1~6の二重結合を含み得る、一般構造(III)は
【化3】
(式中、各Mは、互いに独立して、H又はアルカリ金属又はアルカリ土類金属イオンである)である)を有する。
【0030】
一般構造(II)の適切な速度調節剤は、クエン酸と、エチレングリコール、グリセロール又はエリスリトールとのエステルである。このようなエステルは、クエン酸のモノ、ジ又はトリエステルであり得る。このようなエステルは、モノマー、オリゴマー、又はポリマーであり得る。
【0031】
本明細書において、クエン酸と多価アルコールのエステルが、クエン酸とは異なる酸で形成された更なるエステル基を含むことが可能である。このような酸は、特に、酢酸、プロピオン酸、及び脂肪酸である。従って、一般構造(II)の適切な速度調節剤には、エチレングリコール、グリセロール、又はエリスリトールと、クエン酸、並びに酢酸、プロピオン酸、及び脂肪酸の少なくとも1つとのコエステルも含まれる。
【0032】
特に好ましい実施形態によれば、速度調節剤は、クエン酸のモノ及び/又はジグリセリドから選択される。クエン酸のモノ及び/又はジグリセリドは、以下の一般式(IV)の化学構造を有する。従って、好ましい実施形態によれば、本発明の速度調節剤は、一般構造(IV):
【化4】
(式中、
各R’’は、互いに独立して、H又はC(O)-R’’’’であり、但し、少なくとも1つのR’’は、Hでないという条件であり、
R’’’’は、非分岐C2~C30アルキル鎖又は非分岐C2~C30アルケニル鎖であり、アルケニル鎖は、1~6の二重結合を含み得る、
各R’’’は、互いに独立して、Mが、H又はアルカリ金属又はアルカリ土類金属イオンであるOMであり、又は以下の一般構造(V)の部位であり、
【化5】
各R’’は、互いに独立して、H又はC(O)-R’’’’であり、R’’’’は、非分岐C2~C30アルキル鎖又は非分岐C2~C30アルケニル鎖であり、アルケニル鎖は、1~6の二重結合を含み得る)を有する。
【0033】
本発明の速度調節剤は、クエン酸のモノグリセリド、又はクエン酸の異なるモノグリセリドの混合物であり得る。本発明の速度調節剤は、クエン酸のジグリセリド、又はクエン酸の異なるジグリセリドの混合物であり得る。本発明の速度調節剤はまた、クエン酸の1つ以上のモノグリセリドと1つ以上のジグリセリドの混合物であり得る。本発明の速度調節剤は、クエン酸のモノグリセリドとジグリセリドの混合物であることが好ましい。
【0034】
クエン酸のこのようなモノ及び/又はジグリセリドは、Citremとしても知られている。これらは、市販されており、食品産業で一般的に使用されている。
【0035】
上記の一般構造(IV)及び(V)における部位C(O)-R’’’’は、好ましくは脂肪酸に由来する。一般構造(IV)及び(V)においてエステルとして存在する好ましい脂肪酸は、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノエライジン酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸、及びドコサヘキサン酸である。
【0036】
実施形態によれば、速度調節剤は、酒石酸エステルである。特に、速度調節剤は、酒石酸と多価アルコールのエステルである。更に好ましいのは、酒石酸及び脂肪酸と多価アルコールとの混合エステルである。
【0037】
実施形態によれば、速度調節剤は、以下の一般構造(VI)
【化6】
(式中、各Rは、互いに独立して、H、或いは分岐又は非分岐C2~C30アルキル鎖、或いは分岐又は非分岐C3~C30アルケニル鎖であり、アルケニル鎖は、1~6の二重結合、又はシクロヘキシル基、又は5~10のC原子を有する芳香族基を含み得る、但し、Rの少なくとも1つは、Hでないという条件である)による酒石酸のエステルである。
【0038】
一般構造(VI)の、少なくとも1つの疎水性部位Rを有する速度調節剤が、本発明の文脈において特に適していることが見出されている。一般構造(VI)の適切な速度調節剤は、酒石酸モノブチル、酒石酸ジブチル、酒石酸モノペンチル、酒石酸ジペンチル、酒石酸モノヘキシル、酒石酸ジヘキシル、酒石酸モノオレイル、酒石酸ジオレイル、酒石酸モノステアリル、酒石酸ジステアリル、酒石酸モノラウリル、酒石酸ジラウリル、酒石酸モノプレニル、酒石酸ジプレニル、酒石酸モノシクロヘキシル、酒石酸ジシクロヘキシル、酒石酸モノフェニル、酒石酸ジフェニルである。
【0039】
更なる実施形態によれば、速度調節剤は、酒石酸と多価アルコールのエステルである。このようなエステルは、以下の一般構造(VII):
【化7】
(式中、qは、0~4、好ましくは1又は2の整数であり、R’は、互いに独立して、H、又はC(O)-R’’’’、又は一般構造(VIII)の部位であり、但し、R’の少なくとも1つは、一般構造(VIII)の部位であるという条件であり、R’’’’は、非分岐C2~C30アルキル鎖又は非分岐C2~C30アルケニル鎖であり、アルケニル鎖は、1~6の二重結合を含み得る、一般構造(VIII)は、
【化8】
(式中、各Mは、互いに独立して、H、又はアルカリ金属、又はアルカリ土類金属イオンである)である)を有する。
【0040】
一般構造(VII)の適切な速度調節剤は、酒石酸と、エチレングリコール、グリセロール、又はエリスリトールとのエステルである。このようなエステルは、酒石酸のモノエステル、又はジエステルであり得る。このようなエステルは、モノマー、オリゴマー、又はポリマーであり得る。
【0041】
本文脈において、酒石酸と多価アルコールのエステルが、酒石酸とは異なる酸で形成された更なるエステル基を含むことが可能である。このような酸は、特に、酢酸、プロピオン酸、及び脂肪酸である。従って、一般構造(VII)の適切な速度調節剤には、エチレングリコール、グリセロール、又はエリスリトールと、酒石酸、並びに酢酸、プロピオン酸、及び脂肪酸の少なくとも1つとのコエステルも含まれる。
【0042】
特に好ましい実施形態によれば、速度調節剤は、酒石酸のモノ及び/又はジグリセリドから選択される。酒石酸のモノ及び/又はジグリセリドは、以下の一般式(IX)の化学構造を有する。従って、好ましい実施形態によれば、本発明の速度調節剤は、一般構造(IX):
【化9】
(式中、
各R’’は、互いに独立して、H又はC(O)-R’’’’であり、但し、少なくとも1つのR’’は、Hでないという条件であり、
R’’’’は、非分岐C2~C30アルキル鎖又は非分岐C2~C30アルケニル鎖であり、アルケニル鎖は、1~6の二重結合を含み得る、
各R’’’は、互いに独立して、MがH又はアルカリ金属又はアルカリ土類金属イオンであるOMである、又は以下の一般構造(X)の部位であり、
【化10】
各R’’は、互いに独立して、H又はC(O)-R’’’’であり、R’’’’は、非分岐C2~C30アルキル鎖又は非分岐C2~C30アルケニル鎖であり、アルケニル鎖は、1~6の二重結合を含み得る)を有する。
【0043】
本発明の速度調節剤は、酒石酸のモノグリセリド又は酒石酸の異なるモノグリセリドの混合物であり得る。本発明の速度調節剤は、酒石酸のジグリセリド又は酒石酸の異なるジグリセリドの混合物であり得る。本発明の速度調節剤は又、酒石酸の1つ以上のモノグリセリド及び酒石酸の1つ以上のジグリセリドの混合物であり得る。本発明の速度調節剤は、酒石酸のモノ及びジグリセリドの混合物であることが好ましい。
【0044】
上記の一般構造(IX)及び(X)における部位C(O)-R’’’’は、好ましくは脂肪酸に由来する。一般構造(IX)及び(X)においてエステルとして存在する好ましい脂肪酸は、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、ワセン酸、リノール酸、リノエライジン酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタイノイン酸、エルカ酸、及びドコサヘキサン酸である。
【0045】
好ましい速度調節剤の例は、酒石酸のジアセチル化モノ及びジグリセリドである。
【0046】
実施形態によれば、速度調節剤は、乳酸エステルである。特に、速度調節剤は、乳酸と多価アルコールのエステルである。更に好ましいのは、乳酸及び脂肪酸と多価アルコールとの混合エステルである。
【0047】
実施形態によれば、速度調節剤は、以下の一般構造(XI)
【化11】
(式中、Rは、分岐又は非分岐C2~C30アルキル鎖、或いは分岐又は非分岐C3~C30アルケニル鎖であり、アルケニル鎖は、1~6の二重結合、又はシクロヘキシル基、又は5~10のC原子を有する芳香族基を含み得る)による乳酸のエステルである。
【0048】
一般構造(XI)の適切な速度調節剤は、乳酸ブチル、乳酸ペンチル、乳酸ヘキシル、乳酸オレイル、乳酸ステアリル、乳酸ラウリル、乳酸プレニル、乳酸シクロヘキシル、乳酸フェニルである。
【0049】
更なる実施形態によれば、速度調節剤は、乳酸と多価アルコールのエステルである。このようなエステルは、以下の一般構造(XII):
【化12】
(式中、qは、0~4、好ましくは1又は2の整数であり、R’は、互いに独立して、H、又はC(O)-R’’’’、又は一般構造(XIII)の部位であり、但し、R’の少なくとも1つは、一般構造(XIII)の部位であるという条件であり、R’’’’は、非分岐C2~C30アルキル鎖又は非分岐C2~C30アルケニル鎖であり、アルケニル鎖は、1~6の二重結合を含み得る、一般構造(XIII)は、
【化13】
である)を有する。
【0050】
一般構造(XII)の適切な速度調節剤は、乳酸と、エチレングリコール、グリセロール、又はエリスリトールとのエステルである。
【0051】
本明細書において、乳酸と多価アルコールのエステルが、乳酸とは異なる酸で形成された更なるエステル基を含むことが可能である。このような酸は、特に、酢酸、プロピオン酸、及び脂肪酸である。従って、一般構造(XII)の適切な速度調節剤には、エチレングリコール、グリセロール、又はエリスリトールと、乳酸、並びに酢酸、プロピオン酸、及び脂肪酸の少なくとも1つとのコエステルも含まれる。
【0052】
特に好ましい実施形態によれば、速度調節剤は、乳酸のモノグリセリドから選択される。乳酸のモノグリセリドは、以下の一般式(XIV)の化学構造を有する。従って、好ましい実施形態によれば、本発明の速度調節剤は、一般構造(XIV):
【化14】
(式中、
各R’’は、互いに独立して、H又はC(O)-R’’’’であり、但し、少なくとも1つのR’’は、Hでないという条件であり、
R’’’’は、非分岐C2~C30アルキル鎖又は非分岐C2~C30アルケニル鎖であり、アルケニル鎖は、1~6の二重結合を含み得る)を有する。
【0053】
本発明の速度調節剤は、乳酸のモノグリセリド又は乳酸の異なるモノグリセリドの混合物であり得る。
【0054】
上記の一般構造(XIV)における部位C(O)-R’’’’は、好ましくは脂肪酸に由来する。一般構造(XIV)におけるエステルとして存在する好ましい脂肪酸は、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、ワクセン酸、リノール酸、リノエライジン酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタイノイン酸、エルカ酸、及びドコサヘキサン酸である。
【0055】
実施形態によれば、速度調節剤は、グルコン酸エステルである。特に、速度調節剤は、グルコン酸と多価アルコールのエステルである。更に好ましいのは、グルコン酸及び脂肪酸と多価アルコールとの混合エステルである。
【0056】
実施形態によれば、速度調節剤は、以下の一般構造(XV)
【化15】
(式中、Rは、分岐又は非分岐C2~C30アルキル鎖、或いは分岐又は非分岐C3~C30アルケニル鎖であり、アルケニル鎖は、1~6の二重結合、又はシクロヘキシル基、又は5~10のC原子を有する芳香族基を含み得る)によるグルコン酸のエステルである。
【0057】
一般構造(XV)の適切な速度調節剤は、グルコン酸ブチル、グルコン酸ペンチル、グルコン酸ヘキシル、グルコン酸オレイル、グルコン酸ステアリル、グルコン酸ラウリル、グルコン酸プレニル、グルコン酸シクロヘキシル、グルコン酸フェニルである。
【0058】
更なる実施形態によれば、速度調節剤は、グルコン酸と多価アルコールのエステルである。このようなエステルは、以下の一般構造(XVI):
【化16】
(式中、qは、0~4の整数、好ましくは1又は2であり、R’は、互いに独立して、H、又はC(O)-R’’’’、又は一般構造(XVII)の部位であり、但し、R’の少なくとも1つは、一般構造(XVII)の部位であり、R’’’’は、非分岐C2~C30アルキル鎖又は非分岐C2~C30アルケニル鎖であり、アルケニル鎖は、1~6の二重結合を含み得る、一般構造(XVII)は、
【化17】
である)を有する。
【0059】
一般構造(XVI)の適切な速度調節剤は、グルコン酸と、エチレングリコール、グリセロール、又はエリスリトールとのエステルである。
【0060】
本文脈において、グルコン酸と多価アルコールのエステルが、グルコン酸とは異なる酸で形成された更なるエステル基を含むことが可能である。このような酸は、特に、酢酸、プロピオン酸、及び脂肪酸である。従って、一般構造(XVI)の適切な速度調節剤には、エチレングリコール、グリセロール、又はエリスリトールと、グルコン酸、並びに酢酸、プロピオン酸、及び脂肪酸の少なくとも1つとのコエステルも含まれる。
【0061】
特に好ましい実施形態によれば、速度調節剤は、グルコン酸のモノグリセリドから選択される。グルコン酸のモノグリセリドは、以下の一般式(XVIII)の化学構造を有する。従って、好ましい実施形態によれば、本発明の速度調節剤は、一般構造(XVIII):
【化18】
(式中、各R’’は、互いに独立して、H又はC(O)-R’’’’であり、但し、少なくとも1つのR’’は、Hでないという条件であり、R’’’’は、非分岐C2~C30アルキル鎖又は非分岐C2~C30アルケニル鎖であり、アルケニル鎖は、1~6の二重結合を含み得る)を有する。
【0062】
本発明の速度調節剤は、グルコン酸のモノグリセリド、又はグルコン酸の異なるモノグリセリドの混合物であり得る。
【0063】
上記の一般構造(XVIII)における部位C(O)-R’’’’は、好ましくは脂肪酸に由来する。一般構造(XVIII)のエステルとして存在する好ましい脂肪酸は、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、ワセン酸、リノール酸、リノエライジン酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタイノイン酸、エルカ酸、及びドコサヘキサン酸である。
【0064】
実施形態によれば、速度調節剤は、リンゴ酸エステルである。特に、速度調節剤は、リンゴ酸と多価アルコールのエステルである。更に好ましいのは、リンゴ酸及び脂肪酸と多価アルコールとの混合エステルである。
【0065】
実施形態によれば、速度調節剤は、以下の一般構造(IXX)
【化19】
(式中、各Rは、互いに独立して、H、或いは分岐又は非分岐C2~C30アルキル鎖、或いは分岐又は非分岐C3~C30アルケニル鎖であり、アルケニル鎖は、1~6の二重結合、又はシクロヘキシル基、又は5~10のC原子を有する芳香族基を含み得る、但し、Rの少なくとも1つは、Hでないという条件である)によるリンゴ酸のエステルである。
【0066】
少なくとも1つの疎水性部位Rを有する一般構造(IXX)の速度調節剤が、本発明の文脈において特に適していることが見出されている。一般構造(IXX)の適切な速度調節剤は、モノブチルマレート、ジブチルマレート、モノペンチルマレート、ジペンチルマレート、モノヘキシルマレート、ジヘキシルマレート、モノオレイルマレート、ジオレイルマレート、モノステアリルマレート、ジステアリルマレート、モノラウリルマレート、ジラウリルマレート、モノプレニルマレート、ジプレニルマレート、モノシクロヘキシルマレート、ジシクロヘキシルマレート、モノフェニルマレート、ジフェニルマレートである。
【0067】
更なる実施形態によれば、速度調節剤は、リンゴ酸と多価アルコールのエステルである。このようなエステルは、以下の一般構造(XX):
【化20】
(式中、qは、0~4の整数、好ましくは1又は2であり、R’は、互いに独立して、H、又はC(O)-R’’’’、或いは一般構造(XXIa)又は(XXIb)の部位であり、但し、R’の少なくとも1つは、一般構造(XXIa)又は(XXIb)の部位であるという条件であり、R’’’’は、非分岐C2~C30アルキル鎖又は非分岐C2~C30アルケニル鎖であり、アルケニル鎖は、1~6の二重結合を含み得る、一般構造(XXIa)及び(XXIb)は、
【化21】
(式中、各Mは、互いに独立して、H、アルカリ金属、又はアルカリ土類金属イオンである)である)を有する。
【0068】
一般構造(XX)の適切な速度調節剤は、リンゴ酸と、エチレングリコール、グリセロール、又はエリスリトールとのエステルである。このようなエステルは、リンゴ酸のモノエステル又はジエステルであり得る。このようなエステルは、モノマー、オリゴマー、又はポリマーであり得る。
【0069】
本文脈の範囲において、リンゴ酸と多価アルコールのエステルが、リンゴ酸とは異なる酸で形成された更なるエステル基を含むことが可能である。このような酸は、特に、酢酸、プロピオン酸、及び脂肪酸である。従って、一般構造(XX)の適切な速度調節剤には、エチレングリコール、グリセロール、又はエリスリトールと、リンゴ酸、並びに酢酸、プロピオン酸、及び脂肪酸の少なくとも1つとのコエステルも含まれる。
【0070】
特に好ましい実施形態によれば、速度調節剤は、リンゴ酸のモノ及び/又はジグリセリドから選択される。リンゴ酸のモノ及び/又はジグリセリドは、以下の一般式(XXIIa)又は(XXIIb)の化学構造を有する。従って、好ましい実施形態によれば、本発明の速度調節剤は、一般構造(XXIIa)又は(XXIIb):
【化22】
(式中、
各R’’は、互いに独立して、H又はC(O)-R’’’’であり、但し、少なくとも1つのR’’は、Hでないという条件であり、
R’’’’は、非分岐C2~C30アルキル鎖又は非分岐C2~C30アルケニル鎖であり、アルケニル鎖は、1~6の二重結合を含み得る、
各R’’’は、互いに独立して、MがH又はアルカリ金属又はアルカリ土類金属イオンであるOMである、又は以下の一般構造(XXIII)の部位であり、
【化23】
各R’’は、互いに独立して、H又はC(O)-R’’’’であり、R’’’’は、非分岐C2~C30アルキル鎖又は非分岐C2~C30アルケニル鎖であり、アルケニル鎖は、1~6の二重結合を含み得る)を有する。
【0071】
本発明の速度調節剤は、リンゴ酸のモノグリセリド、又はリンゴ酸の異なるモノグリセリドの混合物であり得る。本発明の速度調節剤は、リンゴ酸のジグリセリド又はリンゴ酸の異なるジグリセリドの混合物であり得る。本発明の速度調節剤は又、リンゴ酸の1つ以上のモノグリセリドとリンゴ酸の1つ以上のジグリセリドの混合物であり得る。本発明の速度調節剤は、リンゴ酸のモノグリセリドとリンゴ酸のジグリセリドの混合物であることが好ましい。
【0072】
上記の一般構造(XXII)及び(XXIII)における部位C(O)-R’’’’は、好ましくは脂肪酸に由来する。一般構造(XXII)及び(XXIII)において、エステルとして存在する好ましい脂肪酸は、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸セロチン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バセン酸、リノール酸、リノエライジン酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタイノイン酸、エルカ酸、及びドコサヘキサン酸である。
【0073】
実施形態によれば、速度調節剤は、グリコール酸エステルである。特に、速度調節剤は、グリコール酸と多価アルコールのエステルである。更に好ましいのは、グリコール酸及び脂肪酸と多価アルコールとの混合エステルである。
【0074】
実施形態によれば、速度調節剤は、以下の一般構造(XXIV)
【化24】
(式中、Rは、分岐又は非分岐C2~C30アルキル鎖、或いは分岐又は非分岐C3~C30アルケニル鎖であり、アルケニル鎖は、1~6の二重結合、又はシクロヘキシル基、又は5~10のC原子を有する芳香族基を含み得る)によるグリコール酸のエステルである。
【0075】
一般構造(XXIV)の適切な速度調節剤は、ブチルグリコレート、ペンチルグリコレート、ヘキシルグリコレート、オレイルグリコレート、ステアリルグリコレート、ラウリルグリコレート、プレニルグリコレート、シクロヘキシルグリコレート、フェニルグリコレートである。
【0076】
更なる実施形態によれば、速度調節剤は、グリコール酸と多価アルコールのエステルである。このようなエステルは、以下の一般構造(XXV):
【化25】
(式中、qは、0~4の整数であり、好ましくは1又は2であり、R’は、互いに独立して、H、又はC(O)-R’’’’、又は一般構造(XXVI)の部位であり、但し、R’の少なくとも1つは、一般構造(XXVI)の部位であるという条件であり、R’’’’は、非分岐C2~C30アルキル鎖又は非分岐C2~C30アルケニル鎖であり、アルケニル鎖は、1~6の二重結合を含み得る、一般構造(XXVI)は、
【化26】
である)を有する。
【0077】
一般構造(XXV)の適切な速度調節剤は、グリコール酸と、エチレングリコール、グリセロール、又はエリスリトールとのエステルである。
【0078】
本文脈において、グリコール酸と多価アルコールのエステルが、グリコール酸とは異なる酸で形成された更なるエステル基を含むことが可能である。このような酸は、特に、酢酸、プロピオン酸、及び脂肪酸である。従って、一般構造(XXV)の適切な速度調節剤には、エチレングリコール、グリセロール、又はエリスリトールと、グリコール酸、並びに酢酸、プロピオン酸、及び脂肪酸の少なくとも1つとのコエステルも含まれる。
【0079】
特に好ましい実施形態によれば、速度調節剤は、グリコール酸のモノグリセリドから選択される。グリコール酸のモノグリセリドは、以下の一般式(XXVII)の化学構造を有する。従って、好ましい実施形態によれば、本発明の速度調節剤は、一般構造(XXVII):
【化27】
(式中、各R’’は、互いに独立して、H又はC(O)-R’’’’であり、但し、少なくとも1つのR’’は、Hでないという条件であり、R’’’’は、非分岐C2~C30アルキル鎖又は非分岐C2~C30アルケニル鎖であり、アルケニル鎖は、1~6の二重結合を含み得る)を有する。
【0080】
本発明の速度調節剤は、グリコール酸のモノグリセリド又はグリコール酸の異なるモノグリセリドの混合物であり得る。
【0081】
上記の一般構造(XXVII)における部位C(O)-R’’’’は、好ましくは脂肪酸に由来する。一般構造(XXVII)にエステルとして存在する好ましい脂肪酸は、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バセン酸、リノール酸、リノエライジン酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタイノイン酸、エルカ酸、及びドコサヘキサン酸である。
【0082】
実施形態によれば、速度調節剤は、マンデル酸エステルである。特に、速度調節剤は、マンデル酸と多価アルコールのエステルである。更に好ましいのは、マンデル酸及び脂肪酸と多価アルコールとの混合エステルである。
【0083】
実施形態によれば、速度調節剤は、以下の一般構造(XXVIII)
【化28】
(式中、Rは、分岐又は非分岐C2~C30アルキル鎖、或いは分岐又は非分岐C3~C30アルケニル鎖であり、アルケニル鎖は、1~6の二重結合、又はシクロヘキシル基、又は5~10のC原子を有する芳香族基を含み得る)によるマンデル酸のエステルである。
【0084】
一般構造(XXVIII)の適切な速度調節剤は、ブチルマンデレート、ペンチルマンデレート、ヘキシルマンデレート、オレイルマンデレート、ステアリルマンデレート、ラウリルマンデレート、プレニルマンデレート、シクロヘキシルマンデレート、フェニルマンデレートである。
【0085】
更なる実施形態によれば、速度調節剤は、マンデル酸と多価アルコールのエステルである。このようなエステルは、以下の一般構造(XXIX):
【化29】
(式中、qは、0~4、好ましくは1又は2の整数であり、R’は、互いに独立して、H、又はC(O)-R’’’’、又は一般構造(XXX)の部位であり、但し、R’の少なくとも1つは、一般構造(XXX)の部位であるという条件であり、R’’’’は、非分岐C2~C30アルキル鎖又は非分岐C2~C30アルケニル鎖であり、アルケニル鎖は、1~6の二重結合を含み得る、一般構造(XXX)は、
【化30】
である)を有する。
【0086】
一般構造(XXIX)の適切な速度調節剤は、マンデル酸と、エチレングリコール、グリセロール、又はエリスリトールとのエステルである。
【0087】
本文脈において、マンデル酸と多価アルコールのエステルが、マンデル酸とは異なる酸で形成された更なるエステル基を含むことが可能である。このような酸は、特に、酢酸、プロピオン酸、及び脂肪酸である。従って、一般構造(XXIX)の適切な速度調節剤には、エチレングリコール、グリセロール、又はエリスリトールと、マンデル酸、並びに酢酸、プロピオン酸、及び脂肪酸の少なくとも1つとのコエステルも含まれる。
【0088】
特に好ましい実施形態によれば、速度調節剤は、マンデル酸のモノグリセリドから選択される。マンデル酸のモノグリセリドは、以下の一般式(XXXI)の化学構造を有する。従って、好ましい実施形態によれば、本発明の速度調節剤は、一般構造(XXXI):
【化31】
(式中、各R’’は、互いに独立して、H又はC(O)-R’’’’であり、但し、少なくとも1つのR’’は、Hでないという条件であり、R’’’’は、非分岐C2~C30アルキル鎖又は非分岐C2~C30アルケニル鎖であり、アルケニル鎖は、1~6の二重結合を含み得る)を有する。
【0089】
本発明の速度調節剤は、マンデル酸のモノグリセリド、又はマンデル酸の異なるモノグリセリドの混合物であり得る。
【0090】
上記の一般構造(XXXI)における部位C(O)-R’’’’は、好ましくは脂肪酸に由来する。一般構造(XXXI)のエステルとして存在する好ましい脂肪酸は、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノエライジン酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸、及びドコサヘキサン酸である。
【0091】
実施形態によれば、本発明の速度調節剤は、また、クエン酸エステル、酒石酸エステル、乳酸エステル、グルコン酸エステル、リンゴ酸エステル、グリコール酸エステル、及び/又はマンデル酸エステルのうちの2つ以上の混合物であり得る。2つ以上の混合物は、同じ酸であるが化学的に異なるエステルにも適用され得る。
【0092】
本発明の速度調節剤は、固体であることが好ましい。実施形態によれば、本発明の速度調節剤は、0~2000μm、好ましくは250~1000μm、より好ましくは250~500μmの範囲の粒子サイズを有する固体である。粒子サイズが小さすぎる速度調節剤を使用すると、凝結時間、即ち、ミネラルバインダー組成物の開放時間が過度に長くなる可能性があることが見出されている。2000μmを超える粒子サイズを有する速度調節剤は、ミネラルバインダー組成物内で速度調節剤の不完全な反応を引き起こし、これより効率が低下する可能性があることも見出されている。
【0093】
粒子サイズは、規格ASTM C136/C136Mによるふるい分析によって測定できる。このプロセスでは、材料を異なるメッシュサイズのいくつかのふるいに通すことによって、細かい粒子と粗い粒子を分離する。分析対象の材料は、単一の動き、或いは水平、垂直、又は回転の動きの組み合わせを使用して、一連の連続的に減少するふるいを通して振動させられる。その結果、所定のサイズのふるいを通過する粒子の質量パーセントが求められる。本文脈において、粒子サイズの範囲が与えられる場合、より低い数値は、>90重量%、好ましくは>99重量%の粒子が保持されるふるいメッシュサイズを指し、一方、より高い数値は、>90、好ましくは>99重量%の粒子が依然として通過することができるふるいメッシュサイズを指す。
【0094】
従って、本発明の混和剤に存在する速度調節剤は、ASTM C136/C136Mに従って測定される、0~2000μm、好ましくは250~1000μm、より好ましくは250~500μmの粒子サイズを有することが好ましい。
【0095】
理論に束縛されることを望まないが、本発明者らは、ヒドロキシカルボン酸のエステルは、水と混合されたミネラルバインダーのアルカリ環境においてゆっくりと加水分解されると考えている。ヒドロキシカルボン酸はゆっくりと放出され、ミネラルバインダーの水和、硬化、及び/又は乾燥における遅延剤として機能する。
【0096】
本発明の混和剤は、任意選択的に促進剤も含む。本文脈において、促進剤は、ミネラルバインダーの水との反応のための促進剤を指す。最も好ましくは、促進剤は、セメントの水和のための促進剤である。本文脈における適切な促進剤は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、硝酸塩、亜硝酸塩、チオシアン酸塩、塩化物、炭酸塩、重炭酸塩、又はケイ酸塩から選択される。適切な促進剤はまた、アルミニウム塩又はアルミン酸塩である。好ましい促進剤は、ケイ酸ナトリウム、チオシアン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、又は硫酸アルミニウムである。実施形態によれば、本発明の混和剤に促進剤が存在し、前述の促進剤は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、硝酸塩、亜硝酸塩、チオシアン酸塩、塩化物、炭酸塩、重炭酸塩、ケイ酸塩、又はアルミニウム塩から選択され、好ましくは、ケイ酸ナトリウム、チオシアン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、又は硫酸アルミニウムから選択される。
【0097】
実施形態によれば、本発明の混和剤は、クエン酸エステル、酒石酸エステル、乳酸エステル、グルコン酸エステル、リンゴ酸エステル、グリコール酸エステル、及び/又はマンデル酸エステルから選択される少なくとも1つの速度調節剤からなる。
【0098】
更なる実施形態によれば、本発明の混和剤は、クエン酸エステル、酒石酸エステル、乳酸エステル、グルコン酸エステル、リンゴ酸エステル、グリコール酸エステル、及び/又はマンデル酸エステルから選択される少なくとも1つの速度調節剤、並びに溶媒、好ましくは水からなる。
【0099】
更に別の実施形態によれば、本発明の混和剤は、(それぞれの場合で、混和剤の総重量に対して)
a)ヒドロキシカルボン酸のエステルから選択される1~99重量%の少なくとも1つの速度調節剤と、
b)セメントの水和のための1~99重量%の促進剤と、
c)任意選択的に水と、
を含む。
【0100】
ヒドロキシカルボン酸の好ましいエステルは、クエン酸エステル、酒石酸エステル、乳酸エステル、グルコン酸エステル、リンゴ酸エステル、グリコール酸エステル、及び/又はマンデル酸エステルである。
【0101】
本発明の混和剤は、水を含まないことが好ましい。水を含まないとは、水含有量が、混和剤の総重量に対して、5重量%未満、好ましくは1重量%未満であることを意味する。
【0102】
実施形態によれば、本発明の混和剤は、液体の形態である。液体の形態は、液体における、好ましくは水における、少なくとも1つの速度調節剤と、任意選択的に促進剤との溶液又は懸濁液であり得る。更なる実施形態によれば、本発明の混和剤は、固体の形態である。本明細書において固体の形態は、粉末状物質を指す。従って、本発明の混和剤は、粉末であり得る。固体である本発明の混和剤は、担体に吸着された少なくとも1つの速度調節剤及び/又は任意選択的に促進剤を含むことが可能であり、特定の場合に好ましい。適切な担体は、例えばシリカである。
【0103】
実施形態によれば、本発明の混和剤は、単一成分の混和剤である。これは、混和剤の全ての内容物が、1つの成分に存在することを意味する。通常、1つの成分は、1つの空間区分(spatial compartment)である。単一成分の混和剤は、特に取り扱い及び投与が容易である。他の実施形態によれば、本発明の混和剤は、多成分混和剤、好ましくは2成分混和剤である。多成分混和剤では、混和剤の内容物が、異なる空間区分に分散されている。従って、本発明の2成分混和剤は、2つの空間的に分離された区分に内容物が分離されている。少なくとも1つの速度調節剤を促進剤及び任意選択的に水から空間的に分離することが特に好ましくあり得る。これにより、混和剤の保存安定性が向上することができる。多成分混和剤は、保存安定性が向上するという利点を有し得、単一内容物の個別投与が容易になる。
【0104】
更なる態様では、本発明は、ミネラルバインダー組成物の最大熱流を低減する方法にも関し、前述の方法は、前述のミネラルバインダー組成物に上述の混和剤を添加する工程を含む。
【0105】
ミネラルバインダー組成物は、上記の通りである。
【0106】
上述の好ましい実施形態は、このような方法にも適用されるものとする。
【0107】
更なる態様では、本発明は、
a)少なくとも1つのセメントと、
b)ヒドロキシカルボン酸のエステル、特に、クエン酸エステル、酒石酸エステル、乳酸エステル、グルコン酸エステル、リンゴ酸エステル、グリコール酸エステル、及び/又はマンデル酸エステルから選択される少なくとも1つの速度調節剤と、
c)任意選択的に凝集材と、
d)任意選択的に更なる添加剤と、
e)任意選択的に水と、
を含む、セメント質組成物、特にセメント又はコンクリートに関する。
【0108】
ヒドロキシカルボン酸の好ましいエステルは、クエン酸エステル、酒石酸エステル、乳酸エステル、グルコン酸エステル、リンゴ酸エステル、グリコール酸エステル、及び/又はマンデル酸エステルである。
【0109】
実施形態によれば、少なくとも1つのセメントは、本発明のセメント質組成物に、50~600kg/m、好ましくは100~500kg/m、更により好ましくは150~400kg/mの量で存在する。速度調節剤は、それぞれの場合で、セメントの総乾燥重量に対して、0.01~10重量%、好ましくは0.05~5重量%、より好ましくは0.1~2重量%、更により好ましくは0.25~1重量%の量で存在する。凝集材は、任意選択的に500~3500kg/m、好ましくは800~3000kg/mの量で存在する。更なる添加剤は、任意選択的に、セメントの総乾燥重量に対して0.1~10重量%の量で存在する。水は、任意選択的に、水のセメントに対する重量比で、0.1~0.8、好ましくは0.2~0.6、より好ましくは0.25~0.5で存在する。
【0110】
更なる実施形態によれば、少なくとも1つのセメントは、セメント質組成物の総乾燥重量に対して、5~95重量%、好ましくは10~60重量%の量で本発明のセメント質組成物に存在する。速度調節剤は、それぞれの場合で、セメントの総乾燥重量に対して、0.01~10重量%、好ましくは0.05~5重量%、より好ましくは0.1~2重量%、更により好ましくは0.25~1重量%の量で存在する。凝集材は、セメント質組成物の総乾燥重量に対して、5~85重量%、好ましくは20~80重量%の量で存在する。更なる添加剤は、任意選択的に、セメントの総乾燥重量に対して0.1~10重量%の量で存在する。水は、任意選択的に、水の粉末に対する重量比で、0.1~0.6、好ましくは0.2~0.5、より好ましくは0.2~0.4で存在する。
【0111】
更なる実施形態によれば、少なくとも1つのセメントは、セメント質組成物の総乾燥重量に対して、20~75重量%、好ましくは30~50重量%の量で本発明のセメント質組成物に存在する。速度調節剤は、それぞれの場合で、セメントの総乾燥重量に対して、0.01~10重量%、好ましくは0.05~5重量%、より好ましくは0.1~2重量%、更により好ましくは0.25~1重量%の量で存在する。凝集材は、セメント質組成物の総乾燥重量に対して、24~75重量%、好ましくは30~60重量%の量で存在する。更なる添加剤は、任意選択的に、セメントの総乾燥重量に対して0.1~10重量%の量で存在する。水は、任意選択的に、水の粉末に対する重量比で、0.1~0.6、好ましくは0.2~0.5、より好ましくは0.2~0.4で存在する。
【0112】
本発明のセメント質組成物は、乾燥セメント質組成物であり得る。乾燥組成物は、このような組成物に存在する水の量が、セメント質組成物の総重量に対して、5重量%未満、好ましくは1重量%未満であることを意味する。乾燥セメント質組成物は、セメント、乾燥モルタル、又は乾燥コンクリート、特に乾燥コンクリートであり得る。本発明のセメント質組成物はまた、水を含み得る。従って、セメント質組成物は又、湿潤セメント質組成物であり得る。湿潤セメント質組成物は、モルタル、グラウト、スクリード、接着剤、レベリング(levelling)化合物、又はコンクリート、特にコンクリートであり得る。好ましくは、本発明の湿潤セメント質組成物は、乾燥セメント質組成物を水と混合することによって得られる。このような混合は、特にセメント質組成物の適用前に行われる。セメント質組成物の硬化は、水と混合すると開始する。実施形態によれば、本発明の乾燥セメント質組成物に添加される水の量は、水のセメントに対する重量比が、0.1~1.0、好ましくは0.2~0.6、より好ましくは0.25~0.4となる量である。
【0113】
本発明のセメント質組成物におけるクエン酸エステル、酒石酸エステル、乳酸エステル、グルコン酸エステル、リンゴ酸エステル、グリコール酸エステル、及び/又はマンデル酸エステルから選択される少なくとも1つの速度調節剤は、上記の通りである。
【0114】
少なくとも1つのセメントは、特に、規格EN197-1に記載のタイプCEM I、CEM II、CEM III、CEM IV、及びCEM Vのポルトランドセメント、規格DIN EN197-5に記載のタイプCEM VIのポルトランドセメント、規格EN 14647に記載のアルミン酸カルシウムセメント、及び/又はスルホアルミン酸カルシウムセメントであり得る。他の規格によるセメント、例えば、規格ASTM C140-05によるポルトランドセメント、或いは中国、日本、インド又は他の規格によるセメントも同様に包含される。これらのセメントのいずれか2つ以上の混合物も可能である。少なくとも1つのセメントは、規格EN197-1に記載のタイプCEM I、CEM II、CEM III、CEM IV、又はCEM Vのポルトランドセメント、或いは規格EN197-5に記載のタイプCEM VIのポルトランドセメント、或いは規格ASTM C140-05によるポルトランドセメントを含むことが特に好ましい。同様に、少なくとも1つのセメントは、規格EN197-1に記載のタイプCEM I、CEM II、CEM III、CEM IV、又はCEM Vのポルトランドセメント、或いは規格DIN EN197-5に記載のタイプCEM VIのポルトランドセメント、或いは規格ASTM C140-05によるポルトランドセメントから本質的になることが特に好ましい。任意選択的に、ポルトランドセメントは、セメントの総乾燥重量に対して、20重量%以下、好ましくは10重量%以下の量の硫酸カルシウムを更に含む。
【0115】
凝集材は、建設材料に典型的に使用される任意の凝集材であり得る。典型的な凝集材は、例えば、岩石、砕石、砂利、砂、特に珪砂、川砂及び/又は加工砂、スラグ、マイクロシリカ、フライアッシュ、再生コンクリート、ガラス、膨張ガラス、中空ガラスビーズ、ガラスセラミックス、火山岩、岩石、軽石、パーライト、バーミキュライト、採石場廃棄物、原料のままの、焼成した又は溶融した土又は粘土、磁器、電融又は焼結研磨材、焼成支持体、シリカキセロゲルである。凝集材はまた、例えば、麻繊維などの生物由来の凝集材であり得る。本文脈において、凝集材には、例えば、細かく粉砕された石灰石などの充填剤も含まれる。本発明に有用な凝集材は、このような凝集材に典型的に見られる任意の形状及びサイズを有することができる。特に好ましい凝集材は、砂及び/又は砂利である。砂及び砂利は、細かく分割された岩石又はミネラル粒子で構成される天然の粒状材料である。典型的には、砂及び砂利は、珪質及び/又は石灰質の材料で構成される。砂及び砂利は、様々な形態及びサイズで入手できる。本文脈における適切な砂は、0.063~2mmの粒子サイズを有し得る。適切な砂利の粒子サイズは、2~32mmであり得る。しかしながら、他の粒子サイズも可能である。適切な砂の例は、珪砂、石灰岩砂、川砂、又は粉砕された凝集材である。適切な凝集材は、例えば、規格EN 12620:2013に記載されている。当然ながら、凝集材の混合物も可能である。
【0116】
更なる添加剤は、モルタル及びコンクリート産業に一般的な任意の添加剤であり得る。特に、更なる添加剤は、可塑剤、高流動化剤(superplasticizer)、収縮低減剤、空気連行剤(air entrainer)、脱気剤、安定剤、粘度調整剤、増粘剤、減水剤、遅延剤、促進剤、耐水剤、繊維、発泡剤、消泡剤、再分散性ポリマー粉末、除塵剤、クロム酸塩還元剤、顔料、殺生剤、腐食防止剤、及び鋼不動態化剤から選択することができる。当然ながら、これらの添加剤のうちの2つ以上の混合物も可能である。
【0117】
好ましい実施形態によれば、本発明のセメント質組成物は、リグノスルホネート、メラミンホルムアルデヒドスルホネート、及びポリカルボキシレートエーテルから選択される少なくとも1つの可塑剤又は高流動化剤を含む。
【0118】
更に好ましい実施形態によれば、本発明のセメント質組成物は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、硝酸塩、亜硝酸塩、チオシアン酸塩、塩化物、炭酸塩、重炭酸塩、又はケイ酸塩、又はアルミニウム塩、好ましくは、ケイ酸ナトリウム、チオシアン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、又は硫酸アルミニウムから選択される少なくとも1つの促進剤を更に含む。
【0119】
好ましい実施形態によれば、本発明のセメント質組成物中の少なくとも1つの速度調節剤は、クエン酸のモノ及び/又はジグリセリドから選択される。クエン酸のモノ及び/又はジグリセリドは、上記の一般構造(IV)によって記載される通りである。他の好ましい実施形態によれば、本発明のセメント質組成物中の少なくとも1つの速度調節剤は、酒石酸のモノ及び/又はジグリセリドから選択される。更に他の好ましい実施形態によれば、本発明のセメント質組成物中の少なくとも1つの速度調節剤は、乳酸エステル及び/又はグルコン酸エステルから選択される。
【0120】
更に好ましい実施形態によれば、速度調節剤は、それぞれの場合で、セメントの総乾燥重量に対して、0.01~10重量%、好ましくは0.05~5重量%、より好ましくは0.1~2重量%、更により好ましくは0.25~1重量%の量で本発明のセメント質組成物に存在する。
【0121】
従って、本発明の好ましいセメント質組成物は、
a)ポルトランドセメント、アルミン酸カルシウムセメント、及び/又はスルホアルミン酸カルシウムセメントから選択される少なくとも1つのセメント、好ましくはポルトランドセメント、
b)セメントの総乾燥重量に対して、0.01~10重量%、好ましくは0.05~5重量%、より好ましくは0.1~2重量%、更により好ましくは0.25~1重量%の量の、一般構造(IV)のクエン酸のモノ及び/又はジグリセリドから選択される少なくとも1つの速度調節剤、並びに
c)任意選択的に、セメントの総乾燥重量に対して、0.01~5重量%、好ましくは0.1~4重量%、より好ましくは0.2~3重量%の、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、硝酸塩、亜硝酸塩、チオシアン酸塩、塩化物、炭酸塩、重炭酸塩、又はケイ酸塩、又はアルミニウム塩、好ましくは、ケイ酸ナトリウム、チオシアン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、又は硫酸アルミニウムから選択される少なくとも1つの促進剤からなる。
【0122】
本発明の別の好ましいセメント質組成物は、
a)セメント質組成物の総乾燥重量に対して、5~95重量%の、ポルトランドセメント、アルミン酸カルシウムセメント、及び/又はスルホアルミン酸カルシウムセメントから選択される少なくとも1つのセメント、好ましくはポルトランドセメントと、
b)セメントの総乾燥重量に対して、0.01~10重量%、好ましくは0.05~5重量%、より好ましくは0.1~2重量%、更により好ましくは0.25~1重量%の量の、一般構造(IV)のクエン酸のモノ及び/又はジグリセリドから選択される少なくとも1つの速度調節剤と、
c)任意選択的に、セメント質組成物の総乾燥重量に対して、5~95重量%の砂及び/又は砂利と、
d1)任意選択的に、セメントの総乾燥重量に対して、0.01~3重量%の少なくとも1つの可塑剤又は高流動化剤と、
d2)任意選択的に、セメントの総乾燥重量に対して、0.01~5重量%、好ましくは0.1~4重量%、より好ましくは0.2~3重量%の、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、硝酸塩、亜硝酸塩、チオシアン酸塩、塩化物、炭酸塩、重炭酸塩、又はケイ酸塩、又はアルミニウム塩、好ましくは、ケイ酸ナトリウム、チオシアン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、又は硫酸アルミニウムから選択される少なくとも1つの促進剤と、
e)任意選択的に、0.1~1.0、好ましくは0.2~0.6、より好ましくは0.25~0.4の水のセメントに対する重量比の水と、
を含む、又は本質的にこれらからなる。
【0123】
好ましい実施形態によれば、本発明によるセメント質組成物は、最大発熱量が3mW/g以下であり、開放時間が60時間以下であることを特徴とする。
【0124】
本文脈において、「遅延」という用語は、ミネラルバインダー組成物の凝結の遅延(本明細書では開放時間の増加として測定される、水硬性バインダーの水和の開始の抑制に相当する)、及び/又はミネラルバインダー組成物の硬化の遅延(本明細書では所定の時間後の引張り強度の減少として測定される)を指す。
【0125】
本発明のセメント質組成物は、上記のミネラルバインダー組成物を上記の混和剤と相互粉砕及び/又は相互混合することによって得ることができる。
【0126】
従って、更なる態様では、本発明は、セメント質組成物を製造するプロセスに関し、前述のプロセスは、
a1)セメント又はセメントクリンカーを上記の混和剤と相互粉砕する工程、又は
a2)ミネラルバインダー組成物を上記の混和剤と相互混合する工程を含む。
【0127】
セメント質組成物、セメント、及びミネラルバインダー組成物は、上記の通りである。特に、セメント質組成物及びミネラルバインダー組成物は、セメント、乾燥モルタル、乾燥コンクリート、モルタル、グラウト、スクリード、接着剤、レベリング化合物、又はコンクリート、特に乾燥コンクリート又はコンクリートであり得る。
【0128】
好ましくは、セメント又はセメントクリンカーは、ポルトランドセメント、アルミン酸カルシウムセメント、及び/又はスルホアルミン酸カルシウムセメントを含み、好ましくは、規格EN197-1に記載のタイプCEM I、CEM II、CEM III、CEM IV、又はCEM Vのポルトランドセメント、或いは規格DIN EN197-5に記載のタイプCEM VIのポルトランドセメント、或いは規格ASTM C140-05によるポルトランドセメントを含み、特に好ましくは、セメント又はセメントクリンカーは、本質的にポルトランドセメント、アルミン酸カルシウムセメント、及び/又はスルホアルミン酸カルシウムセメントからなり、好ましくは、本質的に規格EN197-1に記載のタイプCEM I、CEM II、CEM III、CEM IV、又はCEM Vのポルトランドセメント、或いは規格DIN EN197-5に記載のタイプCEM VIのポルトランドセメント、或いは規格ASTM C140-05によるポルトランドセメントからなる。セメントクリンカーは、セメントキルンからの、まだ粉砕されておらず、又は任意の他の成分とまだ混合されていない原料のままのセメントである。本文脈におけるセメントクリンカーは、上記と同じタイプのセメントであるが、粉砕される前のセメントを指す。
【0129】
工程a1)は、存在する場合、セメントの生成中に行われることが好ましい。好ましくは、本発明の混和剤は、セメントクリンカー、特に好ましくはポルトランドセメントクリンカーと相互粉砕される。これは、セメントクリンカーは、典型的には、セメントの生成中に所望の細かさまで粉砕されるためである。従って、セメントクリンカーとの本発明の混和剤の相互粉砕は、プロセス工程を節約することができる。しかしながら、本発明の混和剤を、上述のセメント、特に、すでに粉砕され、任意選択的にセメントの他の成分とブレンドされたポルトランドセメントと相互粉砕することも可能である。
【0130】
セメントクリンカー又はセメントを混和剤と相互粉砕する方法は、それ自体当業者に知られており、特に限定されない。例えば、工程a1)の相互粉砕をボールミル又は垂直ローラーミルにて行うことが可能である。
【0131】
工程a2)は、存在する場合、上記のミネラルバインダー組成物に関する。本発明の実施形態によれば、ミネラルバインダー組成物は、コンクリート又はモルタル又はセメント、特にコンクリートである。好ましい実施形態によれば、ミネラルバインダー組成物は、ポルトランドセメントを含むコンクリートである。
【0132】
実施形態によれば、本発明のセメント質組成物を製造するプロセスは、工程a1又はa2で得られた組成物を、凝集材、更なる添加剤、及び水のうちの少なくとも1つと混和する工程を更に含む。
【0133】
実施形態によれば、本発明のセメント質組成物を製造するプロセスは、セメントに対する速度調節剤の量が、0.01~10重量%、好ましくは0.05~5重量%、より好ましくは0.1~2重量%、更により好ましくは0.25~1重量%となる量で混和剤が添加されることを特徴とする。
【0134】
実施形態によれば、本発明のセメント質組成物を製造するプロセスであって、少なくとも水が更に混和されるプロセスは、ミネラルバインダー組成物を硬化する工程を更に含む。
【0135】
別の態様では、本発明は、ミネラルバインダー組成物、特にセメント又はセメント質組成物の製造における、上記の混和剤の使用に関する。特に、ミネラルバインダー組成物、セメント、又はセメント質組成物は、上記の通りである。
【0136】
特に、本発明は、ミネラルバインダー組成物の製造における混和剤の使用に関し、前述の混和剤は、
a)ヒドロキシカルボン酸のエステルから選択される少なくとも1つの速度調節剤と、
b)任意選択的にセメントの水和のための促進剤と、
c)任意選択的に水と、
を含む、又はこれらからなり、
この場合、少なくとも1つの速度調節剤は、クエン酸のモノ及び/又はジグリセリド、酒石酸のモノ及び/又はジグリセリド、乳酸のモノグリセリド、グルコン酸のモノグリセリド、リンゴ酸のモノ及び/又はジグリセリド、グリコール酸のモノグリセリド、マンデル酸のモノグリセリドから選択される。
【0137】
特に好ましくは、このような使用において、少なくとも1つの速度調節剤は、一般構造(IV)のクエン酸エステルから選択される。
【図面の簡単な説明】
【0138】
図1】実施例2~6について測定されたヒートフロー曲線(heat flow curve)を示す。図1には、最大熱流及び60時間での熱流を決定するために使用された熱流曲線の地点が示されている。図1には開放時間が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0139】
図1からわかるように、開放時間は、混合開始から、熱流曲線が初めて増加し始める時間まで測定される。最大熱流は、熱流曲線の全体的な最大値に対応する(混合後最初の15分以内に検出された初期ピークは、混合に関連しているため無視される)。
【実施例
【0140】
熱流曲線は、規格ASTM C1702-17に記載の等温プロセスにおいて測定された。実施例は、Calmetrixの機器i-CAL8000を使用して測定された。
【0141】
以下の表に報告されている最大熱流は、熱流曲線の全体的な最大値であり、水と混合してから60時間での熱流が、以下の表に示されており、以下の表に示されている開放時間は、熱流曲線が増加し始める時間である。最大熱流と開放時間の決定において、混合後最初の約15分以内に発生する熱流の初期ピークは、この熱流の方が混合プロセスにより関連しているため無視される。
【0142】
引張り強度は、規格DIN EN196-1:2005-05に従って測定された。
【0143】
実施例1
セメント(CEM III/B42.5N)1質量部、EN196-1によるCEN規格砂3質量部、及び水0.5質量部を混合することにより、20℃でモルタル試料を調製した。混合するために、水とセメントをミキサーボウルに加えた。低速で30秒間混合した後、砂を30秒間に渡り添加した。砂の添加が完了した後、より高速で更に30秒間混合を続けた。次いで、混合を90秒間停止し、モルタルを混合ボウルの壁からこすり落とした。次いで、混合を高速で更に60秒間続けた。以下の表1に示されるタイプのそれぞれの遅延剤を、セメントの乾燥重量に対して0.125重量%の量で混合水とともに添加した。以下の表1は、実施例1-1~1-5の概要を示す(実施例1-1~1-5はいずれも比較の例であり、本発明によるものではない)。
【0144】
結果は、上記の通り測定された。
【0145】
【表1】
【0146】
上記の表1の結果から、最新技術の遅延剤は、最大熱流を望ましい程度まで低減できないことがわかる。又、最新技術の遅延剤は、自然に凝結の開始を大幅に遅らせる(即ち、開放時間を長くする)。
【0147】
実施例2
セメント(CEM III/B42.5N)1質量部、EN196-1によるCEN規格砂3質量部、及び水0.5質量部を混合することにより20℃でモルタル試料を調製した。混合するために、水とセメントをミキサーボウルに加えた。低速で30秒間混合した後、砂を30秒間に渡り添加した。砂の添加が完了した後、混合をより高速で更に30秒間続けた。次いで、混合を90秒間停止し、モルタルを混合ボウルの壁からこすり落とした。次いで、混合を高速で更に60秒間続けた。速度調節剤及び促進剤(存在する場合)を混合水とともに添加した。以下の表2及び表3は、実施例2-1~2-10の概要を示す(実施例2-1は、本発明によらない参照例、実施例2-2~2-10は、本発明による)。表2及び表3では、使用された速度調節剤の種類と量は、乾燥セメント重量に対する重量%で示される。
【0148】
結果は、上記の通り測定された。
【0149】
【表2】
【0150】
異なる粒子サイズのモノ及びジグリセリドのクエン酸エステルを、実施例2-2~2-4で使用した(粒子サイズは「速度調節剤」の欄に報告)。表2の結果から、全ての速度調節剤は、最大熱流を著しく低減させたことがわかる。同時に、遅延効果は、依然として実用上許容できるものであった。しかしながら、中間の画分(実施例2-3)は、最大熱流を53%低減させ、特に良好な結果を示した。モノ及びジグリセリドのクエン酸エステルが非常に微細な場合(実施例2-2)、開放時間が長くなり、最大熱流の低減が少なくなる結果となった。これは、速度調節剤がかなり早く消費されるためと推測される。一方、モノ及びジグリセリドのクエン酸エステルがかなり粗い場合(実施例2-4)、最大熱流の低減は良好であったが、硬化遅延も強くなる結果となった(引張り強度の値から明らかである)。
【0151】
従って、以下では、モノ及びジグリセリドのクエン酸エステルを使用した全ての実験は、粒子サイズ250~500μmの中間の画分を用いて実施した。
【0152】
以下の表3は、粒子サイズ250~500μmのモノ及びジグリセリドのクエン酸エステルを異なる投与量で使用した実施例2~5-2-10の結果を示す。
【0153】
【表3】
【0154】
表3の全ての実施例は、最大熱流が大幅に低減し、同時に、開放時間が増加するが、これは、依然として実用上許容可能であることを示している。実施例2-5~2-10は、投与量の増加が最大熱流の低減の増加につながることを示している。しかしながら、実施例2-10は、2.0重量%の投与量で遅延が顕著になり始めることを示している。
【0155】
実施例3
実施例3-1~3-4は、実施例2-2~2-10と同様の方法で調製した。粒子サイズ250~500μmのモノ及びジグリセリドのクエン酸エステル(E472c乳化剤としても知られる)を、全ての実施例の速度調節剤として使用した。全ての実施例で促進剤として硝酸カルシウムを使用した。促進剤は、速度調節剤とともに添加された。以下の表4は、乾燥セメント重量に対する重量%での速度調節剤及び促進剤の投与量を示している。実施例3-1~3-4は本発明によるものである。測定は上記で説明したように実行された。また、測定結果を表4に示す。
【0156】
【表4】
【0157】
表4の結果からわかるように、速度調節剤と促進剤を組み合わせて使用すると、最大熱流が大幅に低減する(実施例3-1~3-4と実施例2-1を参照)。促進剤を更に使用すると、速度調節剤の所定の投与量で開放時間が短縮される(実施例3-2及び3-3と実施例2-3、並びに実施例3-4と実施例2-8を参照)。また、引張り強度は、促進剤の更なる使用によって増加させることができる(実施例3-2及び3-3と実施例2-3の2d引張り強度、並びに実施例3-4と2-8の2d及び7d引張り強度を参照)。
【0158】
実施例4
実施例4-1~4-3の調製のために、ポルトランドセメントCEM I 42.5Nを、視覚的に均一になるまで激しく振盪することにより、それぞれの速度調節剤と乾式混合した。添加された速度調節剤の種類と量は下記の表5で示される通りであった。重量%は、セメントの総乾燥重量に対する速度調節剤の重量%を指す。次いで、0.35の水/セメント比を実現する量の水を加えた。次いで、Heidolphプロペラミキサーにて1000rpmで1分間混合を続けた。全ての混合手順は、23℃及び相対湿度50%で行われた。
【0159】
実施例4-2及び4-3は、本発明によるものである。実施例4-1は、参照例であり、本発明によるものではない。
【0160】
【表5】
【0161】
表4の結果から、モノ及びジグリセリドのクエン酸エステル、モノ及びジグリセリドのジアセチル酒石酸エステルのいずれも、最大熱流を低減させることがわかる。同時に、遅延は、依然として実用上許容可能である。
【0162】
実施例5
マイクロコンクリートの実施例5-1~5-7を調製するために、750gのセメントと3890gの凝集材(粒子サイズ0~8mm)を乾式混合した。以下の表6に示される種類及び量の速度調節剤を、得られた乾燥混合物に添加し、視覚的に均一になるまで相互混合した。315gの水を添加し、次いで混合をHeidolphプロペラミキサーにて1000rpmで1分間続けた。全ての混合手順は、25℃及び相対湿度50%で行われた。こうして調製したマイクロコンクリートを、スタイロフォーム(Styrofoam)製の隔離ボックス(isolated box)内に角柱形状(12×12×13.5cm)で注入した。Ni/CrNi熱電対を備えたEltek Squirrel 1000シリーズデータロガー(DIN IEC584タイプK、直径0.22mm、4.5オーム/mレジスト)を、半断熱条件下での中心温度測定に使用した。このため、プローブをマイクロコンクリートキューブに注入し、スタイロフォームの断熱ボックスの取り付け穴を通してデータロガーユニットに接続した。最大コンクリート中心温度、並びに最大中心温度に達するまでの時間及び中心温度が25℃に低下するまでの時間を記録した。
【0163】
以下の表6は、実施例5-1~5-7及び測定結果を示している。実施例5-1は、参照例であり、本発明によるものではない。実施例5-2~5-7は、本発明によるものである。
【0164】
【表6】
【0165】
異なる粒子サイズのモノ及びジグリセリドのクエン酸エステルを、それぞれ実施例5-2~5-4及び5-5~5-7に使用した(粒子サイズは「速度調節剤」欄に報告)。結果は、鋳造マイクロコンクリートの最大中心温度が全ての場合で大幅に低下したことを示している。モノ及びジグリセリドのクエン酸エステルの粒子サイズが1~2mmと大きくなると、粒子サイズがわずか0.5~1mmの場合と比較して、更に低下する。全ての試料の遅延(中心温度が最大に達するまでに必要な時間と、25℃に冷却されるまでに必要な時間の増加として測定)は、依然として実用上許容可能であった。速度調節剤の投与量が多いほど、遅延が強くなることが見出された。
図1
【国際調査報告】