(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】接着性が向上した膨張性一成分型熱硬化性エポキシ接着剤
(51)【国際特許分類】
C09J 163/00 20060101AFI20240905BHJP
C09J 163/02 20060101ALI20240905BHJP
C09J 5/08 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
C09J163/00
C09J163/02
C09J5/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024515123
(86)(22)【出願日】2022-09-06
(85)【翻訳文提出日】2024-03-07
(86)【国際出願番号】 EP2022074664
(87)【国際公開番号】W WO2023036748
(87)【国際公開日】2023-03-16
(32)【優先日】2021-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506416400
【氏名又は名称】シーカ テクノロジー アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100227352
【氏名又は名称】白倉 加苗
(72)【発明者】
【氏名】コン リン
(72)【発明者】
【氏名】ブランカ プロコ
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040EC001
4J040EC061
4J040EC071
4J040EF002
4J040EF332
4J040GA11
4J040GA14
4J040GA20
4J040HC16
4J040HC23
4J040HC25
4J040KA14
4J040KA16
4J040KA30
4J040KA37
4J040KA42
4J040LA06
4J040MA02
4J040MA10
4J040PA30
4J040PB05
(57)【要約】
本発明は、膨張開始温度(Ts)が90℃~115℃、及び、平均粒径D(0.5)が30~75μmである熱膨張性微小球、少なくとも、少なくとも1つの靭性改良剤を含み、及び、粘度が25℃で500~5000Pasである一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤に関する。室温でポンプ可能な膨張性接着剤は、金属基材に対して良好な接着性と、充分な膨張率と、硬化した発泡材料の開口を有さない表面とを有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤であって、
a)好ましくは液体エポキシ樹脂である、1分子当り平均で1を超えるエポキシド基を有する少なくとも1つのエポキシ樹脂Aであって、前記エポキシ樹脂Aの割合が、前記一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の総重量に基づいて30~80重量%であるエポキシ樹脂A;
b)膨張開始温度(T
s)が90℃~115℃、及び、平均粒径D(0.5)が30~75μmである、前記一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の総重量に基づいて1.25~2.5重量%の熱膨張性微小球HEM;
c)エポキシ樹脂用の少なくとも1つの潜在性硬化剤B;
d)好ましくは、エポキシ樹脂用の少なくとも1つの加速剤C;並びに
e)少なくとも1つの靭性改良剤Dであって、前記靭性改良剤Dの割合が、前記一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の総重量に基づいて5~40重量%である靭性改良剤Dを含み、
25℃で500~5000Pas、500~2000Pas、500~1500Pas、好ましくは500~1300Pasの粘度を有し、前記粘度は、加熱可能なプレートを備えたレオメーター(MCR 301、AntonPaar)(スロット 1000μm、計測プレート直径:25mm(プレート/プレート)、5Hzで変形0.01、温度:25℃)を用いてオシログラフィーにより測定される、一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤。
【請求項2】
前記熱膨張性微小球HEMの最大膨張温度(T
max)は130℃~170℃である、請求項1に記載の一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤。
【請求項3】
前記熱膨張性微小球HEMの量は、前記一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の総重量に基づいて、1.5~2.5重量%、より好ましくは1.75~2.25重量%である、請求項1又は2に記載の一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤。
【請求項4】
前記平均粒径D(0.5)は30~60μm、好ましくは35~50μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤。
【請求項5】
前記熱膨張性微小球HEMの前記膨張開始温度(T
s)は、95℃~115℃、好ましくは、100℃~115℃である、請求項1~4のいずれか一項に記載の一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤。
【請求項6】
前記少なくとも1つのエポキシ樹脂Aは、式(II)の液体エポキシ樹脂A
【化1】
(式中、置換基R’’’及びR’’’’は、互いに独立して、H又はCH
3であり、インデックスrは0~1であり、好ましくは、rは0.2未満である)
である、請求項1~5のいずれか一項に記載の一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤。
【請求項7】
前記潜在性硬化剤は、ジシアンジアミド、グアナミン、グアニジン、アミノグアニジン及びその誘導体、置換尿素、イミダゾール並びにアミン錯体、好ましくはジシアンジアミドから選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤。
【請求項8】
エポキシ樹脂用の前記加速剤Cは、置換尿素、イミダゾール、イミダゾリン及びブロックされたアミン、好ましくは置換尿素からなるリストから選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤。
【請求項9】
少なくとも1つのエポキシ含有反応性希釈剤Gをさらに含み、好ましくは、前記エポキシ含有反応性希釈剤Gの割合は、前記一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の総重量に基づいて、1~10重量%、1.5~7.5重量%、2~5重量%、より好ましくは2~3重量%である、請求項1~8のいずれか一項に記載の一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤。
【請求項10】
少なくとも1つの充填材Fをさらに含み、好ましくは、少なくとも1つの充填材Fの割合は、前記一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の総重量に基づいて、5~40重量%である、請求項1~9のいずれか一項に記載の一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤。
【請求項11】
前記靭性改良剤Dは、末端封止ポリウレタンポリマーD1、液体ゴムD2及びコアシェルポリマーD3、好ましくは末端封止ポリウレタンポリマーD1からなる群から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤。
【請求項12】
熱安定性基材を接着接合する方法であって:
i)熱安定性基材S1の表面、特に金属の表面に、請求項1~11のいずれか一項に記載の熱硬化性エポキシ樹脂接着剤を適用するステップ;
ii)前記適用された熱硬化性エポキシ樹脂接着剤と、さらなる熱安定性基材S2の表面、特に金属の表面とを接触させるステップ;
iii)前記熱硬化性エポキシ樹脂接着剤を、100~220℃、特に120~210℃、好ましくは130~190℃、140~180℃、より好ましくは150~170℃の温度に加熱するステップ
を含み、前記基材S2は、前記基材S1と同一の材料又は異なる材料からなる、方法。
【請求項13】
iii)前記組成物を、100~220℃、特に120~210℃、好ましくは130~190℃、140~180℃、より好ましくは150~170℃の温度に加熱し、前記組成物を、前述の温度に、10分間~6時間、10分間~2時間、10分間~60分間、10分間~30分間、10分間~20分間、より好ましくは10分間~15分間供するステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
金属構造の接着接合若しくは強化のため、又は、車両構造若しくはサンドイッチパネル構造における空隙の充填を強化するための、請求項1~11のいずれか一項に記載の熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の使用方法。
【請求項15】
請求項1~11のいずれか一項に記載の熱膨張性微小球HEMとしての熱膨張性微小球HEMの使用方法であって、一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤、特に車両構造及びサンドイッチパネル構造中の熱硬化性エポキシ樹脂接着剤、より好ましくは、請求項1~11のいずれか一項に記載の一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の、SAE J1523に準拠して測定された重ね剪断強度、及び、ASTM D1876に準拠して測定された剥離強度を高めるための、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張性一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の分野に関するもの、及び、その使用であって、特に車両構造におけるものに関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性である膨張性一成分型エポキシ樹脂接着剤は、既に相当の期間にわたって、車体構造において接着剤として使用されている。
【0003】
中国特許出願公開第 105 694 790号明細書には、エポキシ樹脂、エポキシ希釈剤、フラン-マレイミド付加生成物を含有する混合物、硬化剤、アミド変性カーボンナノチューブ及び熱で膨張する微小球を含有する、金属同士の接合に用いられる二液型室温硬化エポキシ接着剤が記載されている。この接着剤は、室温で高い結合強度を示すと共に、中度の温度で除去が容易である。
【0004】
中国特許出願公開第 111 139 010号明細書は、優れた低温衝撃剥離強度を有する構造用接着剤、及び、その調製方法に関する。この構造用接着剤は、エポキシ樹脂、強化剤、ジシアンジアミド、反応促進剤、充填材及び物理的発泡剤を含有する。この接着剤は、良好な低温耐衝撃性を得ることが可能であると共に、寒冷な気候での自動車に係る性能要求を満たす。
【0005】
中国特許出願公開第 101 679 828号明細書には、ビスフェノールを含有するゴム変性エポキシ樹脂を含有するエポキシ接着性組成物が記載されている。ビスフェノールは、ゴム変性エポキシ樹脂と予め反応させることで樹脂を改良することが可能である。この接着剤は、接着剤が長時間にわたって高温に加熱される、いわゆる「オーバーベイク」条件で生じる熱劣化に耐性を示す。加えて、所望の破壊モードを促進するために、エポキシ構造用接着剤には膨張したマイクロバルーンが含まれている。
【0006】
従って、膨張性一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の重要な使用分野の一つは、典型的には、特に接着結合に関連して、鋼板及びアルミニウムなどの金属基材が存在する、車両構造におけるものである。エポキシ樹脂組成物を適用した後、車体はCEC(陰極電着塗装)オーブン中において加熱され、これにより、熱硬化性エポキシ樹脂組成物も硬化される。
【0007】
このような膨張性構造用接着剤は、特に油分を含む鋼板といった鋼板及びアルミニウムなどの金属基材における良好な接着性と、充分な膨張率と、好ましくは、硬化した発泡材料の、開口を有さない(closed)表面とを含む多様な要件を満たす必要がある。これらの要件を、低い硬化温度が必要である場合であって、特に、これらの組成物が室温で500~5000Pasの粘度を有する場合には、満足することは特に困難である。
【0008】
しかしながら、市場においては、堅牢な塗布が容易であるために、ポンプ可能な形態の膨張性構造用接着剤を提供するための試みが現在進行中である。それ故、鋼板などの金属基材における良好な接着性と充分な膨張率とを有すると共に、好ましくは、硬化した発泡材料の開口を有さない表面を有する、500~5000Pasの粘度を有する膨張性一成分型エポキシ樹脂接着剤に対して、市場において、大きな需用が存在している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従って、金属基材に対する良好な接着性と充分な膨張率とを有すると共に、好ましくは、硬化した発泡材料の開口を有さない表面を有する、500~5000Pasの粘度を有する、室温でポンプ可能であり、膨張性一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
意外なことに、この目的は、請求項1に定義されている一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤により達成可能であることが見出された。
【0011】
本発明のさらなる態様は、さらなる独立請求項の主題である。本発明の特に好ましい実施形態は、従属請求項の主題である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は従って、一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤であって、
a)好ましくは液体エポキシ樹脂である、1分子当り平均で1を超えるエポキシド基を有する少なくとも1つのエポキシ樹脂Aであって、エポキシ樹脂Aの割合が、一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の総重量に基づいて30~80重量%であるエポキシ樹脂A;
b)膨張開始温度(Ts)が90℃~115℃、及び、平均粒径D(0.5)が30~75μmである、一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の総重量に基づいて1.25~2.5重量%の熱膨張性微小球HEM;
c)エポキシ樹脂用の少なくとも1つの潜在性硬化剤B;
d)好ましくは、エポキシ樹脂用の少なくとも1つの加速剤C;並びに
e)少なくとも1つの靭性改良剤Dであって、靭性改良剤Dの割合が、一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の総重量に基づいて5~40重量%である靭性改良剤D;
を含む一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤に関し、エポキシ樹脂接着剤は、25℃で500~5000Pas、500~2000Pas、500~1500Pas、好ましくは500~1300Pasの粘度を有し、粘度は、加熱可能なプレートを備えたレオメーター(MCR 301、AntonPaar)(スロット 1000μm、計測プレート直径:25mm(プレート/プレート)、5Hzで変形0.01、温度:25℃)を用いてオシログラフィーにより測定される。
【0013】
エポキシ樹脂接着剤は一成分型であり、これは、エポキシ樹脂接着剤、特にエポキシ樹脂及び硬化剤の構成成分は、通常の周囲温度又は室温で硬化を生じることなく、1つの成分で存在することを意味する。一成分型エポキシ樹脂接着剤は、従って、保管-安定性である。従って、これはこの形態で取り扱いが可能であるが、その一方で、二液型系では、成分は使用直前まで混合することができない。
【0014】
一成分型エポキシ樹脂接着剤の硬化は、加熱により、典型的には、例えば100~220℃の範囲内といった70℃超の温度で達成される。
【0015】
ポリオール又はポリイソシアネートなどの表記における「ポリ」という接頭辞は、化合物が記載の基を2つ以上有することを示す。ポリイソシアネートは、例えば、2つ以上のイソシアネート基を有する化合物である。
【0016】
以下において用いられる「互いに独立して」という表記は、同一の分子において、2つ以上の同等に記載された置換基が、定義に従って、同等又は異なる意味を有し得ることを意味する。
【0017】
本明細書において、式中の破線は、各事例において、対象となる置換基と、付随する分子の残部との間における結合を表す。
【0018】
本明細書において、室温は、別段の定めがある場合を除き、23℃の温度を指す。
【0019】
熱硬化性一成分型エポキシ樹脂接着剤は、1分子当り平均で1を超えるエポキシド基を有する少なくとも1種のエポキシ樹脂Aを含む。
【0020】
好ましくは、1分子当り平均で1を超えるエポキシド基を有する少なくとも1種のエポキシ樹脂Aは液体エポキシ樹脂である。
【0021】
液体エポキシ樹脂Aとは対照的に、1分子当り平均で1を超えるエポキシド基を有する固体エポキシ樹脂は、室温で固体である。固体樹脂のガラス転移温度は室温より高いため、これらを室温で流動性のある粉末に粉末化することが可能である。
【0022】
1分子当り平均で1を超えるエポキシド基を有する好ましい液体エポキシ樹脂Aは、式(II)
【化1】
を有する。
【0023】
この式において、置換基R’’’及びR’’’’は、互いに独立して、H又はCH3である。それに加えて、インデックスrは0~1である。好ましくは、rは0.2未満である。
【0024】
対象の樹脂は従って、好ましくは、ビスフェノール-A(DGEBA)、ビスフェノール-F及びビスフェノール-A/Fのジグリシジルエーテルである。これらの種の液体樹脂は、例えば、Araldite(登録商標)GY 250、Araldite(登録商標)PY 304、Araldite(登録商標)GY 282(Huntsman)又はD.E.R.(商標)331又はD.E.R.(商標)330(Dow)又はEpikote 828(Hexion)として入手可能である。
【0025】
また、液体エポキシ樹脂Aとしてはノボラックと呼ばれるものが好適である。これらの樹脂は特に以下の式を有する。
【化2】
(式中、R2=
【化3】
又はCH
2、R1=H又はメチル、及び、z=0~7である)。
【0026】
特に、これらは、フェノール又はクレゾールノボラック(R2=CH2)である。
【0027】
これらの種のエポキシ樹脂は、商品名EPN若しくはECN、並びに、Tactix(登録商標)556でHuntsmanから、又は、Dow Chemical製のD.E.N.(商標)製品シリーズから商業的に入手可能である。
【0028】
エポキシ樹脂Aの割合は、一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の総重量に基づいて、30~80重量%、好ましくは40~70重量%、もっとも好ましくは50~60重量%である。
【0029】
一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤は、一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の総重量に基づいて、1.25~2.5重量%の熱膨張性微小球HEMを含む。
【0030】
好ましくは、熱膨張性微小球HEMの量は、一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の総重量に基づいて、1.5~2.5重量%、もっとも好ましくは1.75~2.25重量%である。
【0031】
このような特性を有する熱膨張性微小球が加熱されると、含有する物質の体積が膨張し、アウターシェルを構成する樹脂材料が軟化し、これにより、内圧によって膨張したカプセル(膨張したカプセル)を入手可能である。
【0032】
好ましくは、熱膨張性微小球HEMは、樹脂材料(樹脂組成物)製のアウターシェルの内部に液体化合物を含有する。
【0033】
熱膨張性微小球を構成する内包物質である液体化合物は、好ましくは、熱膨張性微小球のアウターシェルを構成する樹脂材料の軟化温度以下の沸点を有する(大気圧条件)。
【0034】
好ましくは、液体化合物は、n-ブタン、イソペンタン、シクロブタン、n-ペンタン、シクロペンタン、n-ヘキサン、2-メチルペンタン、2,2-ジメチルブタン、シクロヘキサン、n-ヘプタン、シクロヘプタン、n-オクタン、シクロオクタン及び炭化水素、好ましくは炭化水素、より好ましくは、1~5個の炭素原子を有する炭化水素、もっとも好ましくは、4~5個の炭素原子を有する炭化水素からなるリストから選択される。
【0035】
液体化合物は、1種のみ、又は、2種以上であってもよい。液体化合物は、好ましくは炭化水素であり、特に好ましくは、4~5個の炭素原子を有する低沸点炭化水素を含有する。
【0036】
アウターシェルを構成する樹脂材料は、好ましくは熱可塑性を有する。好ましくは、樹脂材料は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル及び芳香族ビニル化合物、好ましくはアクリロニトリルからなるリスト由来の構造ユニットを含有する。より好ましくは、樹脂材料はアクリロニトリル系コポリマーである。
【0037】
好ましくは、熱膨張性微小球HEMの形状は球状又は楕円形である。
【0038】
熱膨張性微小球HEMは、30~75μm、好ましくは30~60μm、もっとも好ましくは35~50μmの平均粒径D(0.5)を有する。
【0039】
本明細書において、「平均粒径」という用語は、好ましくは累積体積分布曲線のD(0.5)値に関し、粒子の50体積%がこの値よりも小さな粒径を有する。平均粒径又はD(0.5)値は、好ましくはレーザ回折により測定される。
【0040】
熱膨張性微小球HEMの膨張開始温度(Ts)は、90℃~115℃、好ましくは95℃~115℃、もっとも好ましくは100℃~115℃である。
【0041】
好ましくは、熱膨張性微小球HEMの最大膨張温度(Tmax)は、130℃~170℃、好ましくは140℃~165℃、もっとも好ましくは150℃~165℃である。
【0042】
好ましくは、膨張開始温度(Ts)及び最大膨張温度(Tmax)は、動的機械分析(DMA Q800、TA Instruments製)で、より好ましくは以下のとおり測定される。
【0043】
深さ4.8mm及び直径6.0mm(内径5.65mm)のアルミニウムカップに、0.5mgの熱膨張性微小球を入れ、このカップを厚さ0.1mm及び直径の5.6mmのアルミニウムキャップで覆ってサンプルを調製する。
【0044】
サンプルをデバイスの圧縮ユニットで0.01Nの圧力に供し、サンプルの高さを計測する。次いで、サンプルを、圧縮ユニットで0.01Nの圧力を加えながら、20~300℃の温度範囲で10℃/minの速度で昇温する温度で加熱し、垂直方向における圧縮ユニットの位置変化を計測する。圧縮ユニットが正方向に位置変化を開始する温度を膨張開始温度(Ts)として測定し、圧縮ユニットが最大の変化を示す温度を最大膨張温度(Tmax)として測定する。
【0045】
好ましい熱膨張性微小球HEMは、「FN-78D」(炭化水素含有微小球(アクリロニトリル系コポリマーシェルタイプ)、製品名:Matsumoto Microsphere FN-78D(松本油脂製薬株式会社製)、平均粒径:35~50mm、膨張開始温度(Ts):100~115℃、最大膨張温度(Tmax):150~165℃)として市販されている。
【0046】
好ましくは、熱硬化性一成分型エポキシ樹脂接着剤は、少なくとも1つのエポキシ含有反応性希釈剤Gをさらに含む。このような反応性希釈剤は当業者に公知である。エポキシ含有反応性希釈剤の好ましい例は以下のとおりである:
- 単官能性飽和又は不飽和、分岐又は非分岐、環式又は開鎖C4~C30アルコールのグリシジルエーテル、例えばブタノールグリシジルエーテル、ヘキサノールグリシジルエーテル、2-エチルヘキサノールグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、テトラヒドロフルフリル及びフルフリルグリシジルエーテル、トリメトキシシリルグリシジルエーテル等;
- 二官能性飽和又は不飽和、分岐又は非分岐、環式又は開鎖C2~C30アルコールのグリシジルエーテル、例えばエチレングリコールグリシジルエーテル、ブタンジオールグリシジルエーテル、ヘキサンジオールグリシジルエーテル、オクタンジオールグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル等;
- エポキシ化ひまし油、エポキシ化トリメチロールプロパン、エポキシ化ペンタエリスリトールなどの三若しくは多官能、飽和若しくは不飽和、分岐若しくは非分岐、環式若しくは開鎖アルコールのグリシジルエーテル、又は、ソルビトール、グリセロール若しくはトリメチロールプロパンなどの脂肪族ポリオールのポリグリシジルエーテル等;
- フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、p-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、ノニルフェノールグリシジルエーテル、3-n-ペンタデセニルグリシジルエーテル(カシューナッツシェルオイル由来)、N,N-ジグリシジルアニリン等などのフェノール化合物及びアニリン化合物のグリシジルエーテル;
- N,N-ジグリシジルシクロヘキシルアミン等などのエポキシ化アミン;
- グリシジルネオデカノエート、グリシジルメタクリレート、グリシジル安息香酸塩、ジグリシジルフタレート、テトラヒドロフタレート及びヘキサヒドロフタレートなどのエポキシ化モノ-又はジカルボン酸、二量体脂肪酸のジグリシジルエステル
等;
- ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルなどのエポキシ化二-又は三官能性、低分子量~高分子量ポリエーテルポリオール等。
【0047】
ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、p-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテルが特に好ましい。
【0048】
好ましくは、エポキシ含有反応性希釈剤Gの割合は、一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の総重量に基づいて、1~10重量%、1.5~7.5重量%、2~5重量%、より好ましくは2~3重量%である。
【0049】
一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤は、エポキシ樹脂用の少なくとも1つの潜在性硬化剤Bをさらに含む。潜在性硬化剤は実質的に室温で不活性であると共に、典型的には70℃以上の温度といった高温で活性化され、これにより、硬化反応が開始される。従来のエポキシ樹脂用の潜在性硬化剤を使用可能である。窒素を含有する潜在性エポキシ樹脂硬化剤Bが好ましい。
【0050】
潜在性硬化剤Bは、好ましくは、ジシアンジアミド、グアナミン、グアニジン、アミノグアニジン及びその誘導体、置換尿素、イミダゾール並びにアミン錯体、好ましくはジシアンジアミドから選択される。
【0051】
潜在性硬化剤Bは、好ましくは、組成物中のエポキシ基に基づく理論量で用いられる。潜在性硬化剤Bの活性水素に対するエポキシ基のモル比は、好ましくは、0.8~1.2、特に0.9~1.1、好ましくは0.95~1.05である。
【0052】
潜在性硬化剤Bの割合は、エポキシ樹脂接着剤の総重量に基づいて、好ましくは0.5~12重量%、より好ましくは1~8重量%、特に2~6重量%である。
【0053】
一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤は、好ましくは、エポキシ樹脂用の少なくとも1つの加速剤Cをさらに含む。
【0054】
このような加速硬化剤は、好ましくは、置換尿素、例えば3-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-1,1-ジメチルウレア(クロロトルロン)又はフェニルジメチルウレア、特に、p-クロロフェニル-N,N-ジメチルウレア(モヌロン)、3-フェニル-1,1-ジメチルウレア(フェヌロン)又は3,4-ジクロロフェニル-N,N-ジメチルウレア(ジウロン)である。加えて、2-イロプロセスイミダゾール又は2-ヒドロキシ-N-(2-(2-(2-ヒドロキシフェニル)-4,5-ジヒドロイミダゾール-1-イル)エチル)ベンズアミド、イミダゾリン、トリハライド錯体、好ましくはBF3錯体、ブロックアミン及びカプセル化されたアミンなどのイミダゾール類の化合物を用いることが可能である。
【0055】
好ましくは、エポキシ樹脂用の加速剤Cは、置換尿素、イミダゾール、イミダゾリン及びブロックされたアミン、好ましくは置換尿素からなるリストから選択される。
【0056】
より好ましくは、エポキシ樹脂用の加速剤Cは、置換尿素及びブロックされたアミンからなるリストから選択され、特に、潜在性硬化剤Bがグアニジンである場合、特にジシアンジアミドである。
【0057】
もっとも好ましくは、潜在性硬化剤Bはグアニジン、特にジシアンジアミドであり、一成分型熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、追加で、置換尿素及びブロックされたアミンからなるリスト、特に置換尿素から選択されるエポキシ樹脂用の加速剤Cを含む。
【0058】
好ましくは、エポキシ樹脂用の加速剤Cの割合は、一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の総重量に基づいて、0.05~2重量%、0.1~1重量%、0.15~0.5重量%、より好ましくは0.2~0.3重量%である。
【0059】
一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤は、少なくとも1つの靭性改良剤Dを含む。靭性改良剤Dは固体又は液体であり得る。
【0060】
靭性改良剤Dの割合は、エポキシ樹脂接着剤の総重量に基づいて、5~40重量%、好ましくは7.5~35重量%、10~30重量%、より好ましくは15~25重量%である。
【0061】
特に、靭性改良剤Dは、末端封止ポリウレタンポリマーD1、液体ゴムD2及びコアシェルポリマーD3からなる群から選択される。好ましくは、靭性改良剤Dは、末端封止ポリウレタンポリマーD1及び液体ゴムD2、もっとも好ましくは末端封止ポリウレタンポリマーD1からなる群から選択される。
【0062】
靭性改良剤Dが末端封止ポリウレタンポリマーD1である場合、好ましくは、式(I)の末端封止ポリウレタンプレポリマーである。
【化4】
【0063】
この式において、R1は、末端イソシアネート基が除去された後のイソシアネート基で末端封止された直鎖又は分岐鎖ポリウレタンプレポリマーのp価の基であって、pは2~8の値を有する。
【0064】
さらに、R
2は、各出現において独立して、以下からなる群から選択される置換基である。
【化5】
【0065】
これらの式において、R5、R6、R7及びR8は、各々互いに独立して、アルキル若しくはシクロアルキル若しくはアラルキル若しくはアリールアルキル基であり、又は、R5はR6と一緒になって、若しくは、R7はR8と一緒になって、任意に置換されていてもよい4~7員環の一部を形成する。
【0066】
さらに、R9’及びR10は、各々互いに独立して、アルキル若しくはアラルキル若しくはアリールアルキル基であり、又は、アルキルオキシ若しくはアリールオキシ若しくはアラルキルオキシ基であり、及び、R11はアルキル基である。
【0067】
R12、R13及びR14は、各々互いに独立して、任意に二重結合を有するか若しくは置換されている2~5個の炭素原子を有するアルキレン基であるか、又は、フェニレン基、又は、水素化フェニレン基である。
【0068】
R15、R16及びR17は、各々互いに独立して、H、又は、アルキル基、又は、アリール基、又は、アラルキル基であり、及び、R18は、アラルキル基、又は、任意に芳香族水酸基を有する、単環式若しくは多環式、置換若しくは無置換の芳香族基である。
【0069】
最後に、R4は、ヒドロキシル及びエポキシド基の除去後に第1級若しくは第2級水酸基を含有する、脂肪族、脂環式、芳香族又は芳香脂肪族(araliphatic)エポキシドの基であって、並びに、mは1、2又は3の値を有する。
【0070】
R18は、水酸基の除去後に、特に、一方では、フェノール又はポリフェノール、特にビスフェノールを含むと考えるべきである。このようなフェノール及びビスフェノールの好ましい例は、特に、フェノール、クレゾール、レソルシノール、ピロカテコール、カルダノール(3-ペンタデセニルフェノール(カシューナッツシェルオイル由来))、ノニルフェノール、スチレン又はジシクロペンタジエンと反応したフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF及び2,2’-ジアリルビスフェノールAである。R18は、他方で、水酸基の除去後に、特に、ヒドロキシベンジルアルコール及びベンジルアルコールを含むと考えるべきである。
【0071】
R5、R6、R7、R8、R9、R9’、R10、R11、R15、R16又はR17がアルキル基である場合、この基は、特に、直鎖又は分岐鎖C1~C20アルキル基である。
【0072】
R5、R6、R7、R8、R9、R9’、R10、R15、R16、R17又はR18がアラルキル基である場合、この部分は、特に、メチレンを介して結合した芳香族基、特にベンジル基である。
【0073】
R5、R6、R7、R8、R9、R9’又はR10がアルキルアリール基である場合、この基は、特に、例えば、トリル又はキシリルなどの、フェニレンを介して結合したC1~C20アルキル基である。
【0074】
ラジカル基R
2は、好ましくは、式
【化6】
の置換基である。
【0075】
式
【化7】
の好ましい置換基は、NHプロトンの除去後、ε-カプロラクタムである。
【0076】
式
【化8】
の好ましい置換基は、フェノール系水素原子の除去後、モノフェノール又はポリフェノール、特にビスフェノールである。このような基R
2の特に好ましい例は、
【化9】
からなる群から選択される基である。
【0077】
これらの式中の基Yは、1~20個の炭素原子、特に1~15個の炭素原子を有する飽和、芳香族又はオレフィン性不飽和ヒドロカルビル基である。Yとしては、特に、アリル、メチル、ノニル、ドデシル、フェニル、アルキルエーテル、カルボン酸エステル、又は、1~3個の二重結合を有する不飽和C15アルキル基が好ましい。
【0078】
【0079】
式(I)の末端封止ポリウレタンプレポリマーは、イソシアネート基で末端封止された直鎖又は分岐鎖ポリウレタンプレポリマーから、1種以上のイソシアネート反応性化合物R2Hを伴って調製される。2種以上のこのようなイソシアネート反応性化合物が用いられる場合、この反応は順次に、又は、これらの化合物の混合物で行われ得る。
【0080】
この反応は、好ましくは、NCO基のすべてが確実に反応に供されるよう、1種以上のイソシアネート反応性化合物R2Hが化学量論的に、又は、化学量論的過剰量で用いられるよう行われる。
【0081】
R1が基づくイソシアネート末端基を有するポリウレタンプレポリマーは少なくとも1つのジイソシアネート又はトリイソシアネートから、並びに、末端アミノ、チオール又は水酸基を有するポリマーQPMから、及び/又は、任意に置換されていてもよいポリフェノールQPPから調製され得る。
【0082】
好適なジイソシアネートは、脂肪族、脂環式、芳香族又は芳香脂肪族ジイソシアネート、特に、メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、2,5-又は2,6-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、ナフタレン1,5-ジイソシアネート(NDI)、ジシクロヘキシルメチルジイソシアネート(H12MDI)、p-フェニレンジイソシアネート(PPDI)、m-テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等、及び、これらの二量体などの市販の製品である。HDI、IPDI、MDI又はTDIが好ましい。
【0083】
好適なトリイソシアネートは、脂肪族、脂環式、芳香族又は芳香脂肪族ジイソシアネートの三量体又はビウレット、特に、イソシアヌレート、及び、上記段落に記載のジイソシアネートのビウレットである。ジ-又はトリイソシアネートの好適な混合物を使用することも当然に可能である。
【0084】
末端アミノ、チオール又は水酸基を有するポリマーQPMとしては、2つ又は3つの末端アミノ、チオール又は水酸基を有するポリマーQPMが特に好適である。
【0085】
有利には、ポリマーQPMは、300~6000、特に600~4000、好ましくは700~2200g/NCO反応性基当量の換算重量を有する。
【0086】
好ましいポリマーQPMは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールブロックポリマー、ポリブチレングリコール、ヒドロキシル末端封止ポリブタジエン、ヒドロキシル末端封止ブタジエン-アクリロニトリルコポリマー、及び、これらの混合物からなる群から選択される、600~6000ダルトンの平均分子量を有するポリオールである。
【0087】
ポリマーQPMとしては、C2~C6アルキレン基を有する、又は、混合C2~C6アルキレン基を有するα,ω-ジヒドロキシポリアルキレングリコールであって、アミノ、チオール又は、好ましくは、水酸基で末端封止されているものが特に好ましい。ポリプロピレングリコール又はポリブチレングリコールが特に好ましい。ヒドロキシル基末端封止ポリオキシブチレンがさらに特に好ましい。
【0088】
ポリフェノールQPPとしては、ビス-、トリス-及びテトラフェノールが特に好適である。この用語は、純粋なフェノールのみならず、代わりに、適切な場合には、置換フェノールをも指す。置換の性質は非常に多様であることが可能である。特にこれにより、フェノール系OH基が結合している芳香族環系に対する直接的な置換であることが理解される。しかも、フェノールは、単環式芳香族化合物だけではなく、芳香族又は芳香族複素環部分に直接フェノール系OH基を有する、多環式又は縮合芳香族又は複素環式芳香族化合物でもある。
【0089】
好ましい一実施形態において、ポリウレタンプレポリマーは、少なくとも1種のジイソシアネート又はトリイソシアネートから、及び、末端アミノ、チオール又は水酸基を有する1種のポリマーQPMから調製される。ポリウレタンプレポリマーは、ポリウレタンの技術分野における当業者に公知の方法であって、特に、ポリマーQPMのアミノ、チオール又は水酸基を基準として化学量論的過剰量でジイソシアネート又はトリイソシアネートを用いることで調製される。
【0090】
イソシアネート末端基を有するポリウレタンプレポリマーは、好ましくは、弾性の性質を有する。好ましくは、0℃未満のガラス転移温度Tgを示す。
【0091】
靭性改良剤Dは液体ゴムD2であり得る。これは、例えば、カルボキシル-末端封止又はエポキシド-末端封止ポリマーであり得る。
【0092】
第1の実施形態において、この液体ゴムは、カルボキシル-若しくはエポキシド-末端封止アクリロニトリル/ブタジエンコポリマー、又は、その誘導体であり得る。この種の液体ゴムは、例えば、Hypro/Hypox(登録商標)CTBN及びCTBNX及びETBNの名称で、Emerald Performance Materialsから商業的に入手可能である。好適な誘導体は、Struktol(登録商標)(Schill+Seilacher Group,Germany)社製の、特に製品系統Polydis(登録商標)36…といった製品系統Polydis(登録商標)、又は、製品系統Albipox(Evonik,Germany)で市販されている種類のものである、特に、エポキシド基を含有するエラストマー変性プレポリマーである。
【0093】
第2の実施形態において、この液体ゴムは、液体エポキシ樹脂と完全に混和性であると共に、エポキシ樹脂マトリックスが硬化された場合にのみ分離して微小液滴を形成するポリアクリレート液体ゴムであり得る。この種の液体ポリアクリレートゴムは、例えば、Dow製の20208-XPAの名称で入手可能である。
【0094】
液体ゴムの混合物、特に、カルボキシル-若しくはエポキシド-末端封止アクリロニトリル/ブタジエンコポリマーの混合物、又は、その誘導体の混合物を用いることも当然可能である。
【0095】
第3の実施形態における靭性改良剤DはコアシェルポリマーD3であり得る。コアシェルポリマーは、弾性コアポリマー及び剛性シェルポリマーから構成される。特に好適なコアシェルポリマーは、剛性熱可塑性ポリマー製の剛性シェルで覆われた弾性アクリレートポリマー又はブタジエンポリマー製のコアから組成される。このコアシェル構造は、ブロックコポリマーの分離によって自然に形成されるか、又は、その後のグラフト化を伴うラテックス又は懸濁重合といった重合レジームにより定められる。好ましいコアシェルポリマーは、Arkema製Clearstrength(商標)、Dow製Paraloid(商標)又はZeon製F-351(商標)の商品名で市販されている、MBSポリマーとして公知であるものである。
【0096】
一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤は、末端封止ポリウレタンポリマーD1、もっとも好ましくは末端封止ポリウレタンポリマーD1のみを含むことが特に好ましい。
【0097】
好ましい一実施形態において、一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤は、少なくとも1つの充填材Fをさらに含む。ここでは、雲母、タルク、カオリン、珪灰石、長石、閃長岩、緑泥石、ベントナイト、モンモリロナイト、炭酸カルシウム(沈降又は粉砕)、苦灰石、石英、シリカ(ヒュームド又は沈降)、クリストバライト、酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、中空セラミックビーズ、中空ガラスビーズ、中空有機ビーズ、ガラスビーズ、着色顔料が好ましい。炭酸カルシウム、酸化カルシウム及びヒュームドシリカからなる群から選択される充填材が特に好ましい。
【0098】
有利には、充填材F全体の合計割合は、エポキシ樹脂接着剤の総重量に基づいて、5~40重量%、好ましくは10~30重量%、10~25重量%、もっとも好ましくは10~20重量%である。
【0099】
一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤は、特に安定剤、特に熱及び/又は光安定剤、可塑剤、溶剤、染料及び顔料、腐食阻害剤、界面活性剤、脱泡剤及び粘着促進剤といったさらなる構成成分を含み得る。
【0100】
一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤は、25℃で500~5000Pasの粘度を有する。好ましくは、粘度は、25℃で、500~2000Pas、500~1500Pas、好ましくは500~1300Pasである。粘度は、加熱可能なプレートを備えたレオメーター(MCR 301、AntonPaar)(スロット 1000μm、計測プレート直径:25mm(プレート/プレート)、5Hzで変形0.01、温度:25℃)を用いてオシログラフィーにより測定される。
【0101】
特に好ましい熱硬化性一成分型エポキシ樹脂接着剤は以下を含む:
- 一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の総重量に基づいて40~70重量%、好ましくは50~60重量%の1分子当り平均で1を超えるエポキシド基を有する少なくとも1種のエポキシ樹脂A、好ましくは液体エポキシ樹脂;
- 95℃~115℃、好ましくは100℃~115℃の膨張開始温度(Ts)、及び、30~60μm、好ましくは35~50μmの平均粒径D(0.5)を有する、一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の総重量に基づいて、1.5~2.5重量%、好ましくは1.75~2.25重量%の熱膨張性微小球HEM;
- 一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の総重量に基づいて、好ましくは2~5重量%、より好ましくは2~3重量%の少なくとも1つのエポキシ含有反応性希釈剤G;
- 一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の総重量に基づいて、1~8重量%、好ましくは2~6重量%のエポキシ樹脂用の少なくとも1つの潜在性硬化剤B、特にジシアンジアミド;
- 一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の総重量に基づいて、好ましくは0.05~2重量%、より好ましくは0.2~0.3重量%のエポキシ樹脂用の少なくとも1つの加速剤C;
- 一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の総重量に基づいて、7.5~35重量%、好ましくは15~25重量%の少なくとも1つの靭性改良剤D、好ましくは末端封止ポリウレタンポリマーD1;
- 一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の総重量に基づいて、好ましくは5~40重量%、より好ましくは10~20重量%の、炭酸カルシウム、酸化カルシウム及びヒュームドシリカからなる群から選択される充填材F。
【0102】
好ましくは、熱硬化性一成分型エポキシ樹脂接着剤は、25℃で、500~2000Pas、500~1500Pas、好ましくは500~1300Pasの粘度を有する。
【0103】
好ましい一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤が、エポキシ樹脂接着剤の総重量に基づいて、80重量%超、好ましくは90重量%超、特に95重量%超、特に好ましくは98重量%超、もっとも好ましくは99重量%超の範囲の前述の構成成分から構成されている場合がさらに有利であり得る。
【0104】
硬化した本発明の一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤は:
- 好ましくは実験セクションで記載されているとおりSAE J1523に準拠して測定された重ね剪断強度:≧5.5MPa、好ましくは≧6.0MPa、もっとも好ましくは≧6.25MPa(180℃で30分間の硬化後);及び
- 好ましくは実験セクションで記載されているとおりASTM D1876に準拠して測定されたT型剥離強度:≧1.4MPa、好ましくは≧1.5MPa、もっとも好ましくは≧1.6MPa(180℃で30分間の硬化後);及び
- 好ましくは実験セクションで記載されているとおり測定された膨張率:100~400%、好ましくは150~350%、もっとも好ましくは200~300%(180℃で30分間の硬化後)
といった特性を有していることが有利であり、並びに、この種の接着剤が、熱安定性材料の接合に必要である。熱安定性材料とは、100~220℃、好ましくは120~200℃の硬化温度で、少なくとも硬化時間の間は寸法的に安定である材料を意味する。これらは、特に、金属、並びに、ABS、ポリアミド、ポリフェニレンエーテルや、SMC、不飽和ポリエステルGRP及び複合体エポキシド又はアクリレート材料などの複合材料、などのプラスチックである。さらに、特に熱安定性であるプラスチックは、ポリスルホン又はポリエーテルスルホンである。
【0105】
好ましい適用は、少なくとも1種の材料が金属である場合である。
【0106】
特に好ましい用途と考えられるのは、特に、自動車産業における車体構造中の同等又は異なる金属間の接着結合である。好ましい金属は、特に、鋼であって、特に電解亜鉛めっき鋼、溶融亜鉛めっき鋼、油が付着した鋼、Bonazinc被覆鋼、及び、その後リン酸塩処理された鋼、並びに、アルミニウム、特に車の製造で典型的に遭遇する形態のものである。
【0107】
このような接着剤は、特に、被接合材料と先ず、10℃~80℃、特に10℃~60℃の温度で接触させられ、及び、その後、典型的には130~220℃、好ましくは140~180℃、より好ましくは150~170℃の温度で硬化される。
【0108】
さらなる本発明の態様は:
i)熱安定性基材S1の表面、特に金属の表面に、上記に詳述された熱硬化性エポキシ樹脂組成物を適用するステップ;
ii)適用された熱硬化性エポキシ樹脂組成物と、さらなる熱安定性基材S2の表面、特に金属の表面とを接触させるステップ;
iii)組成物を、100~220℃、特に120~210℃、好ましくは130~190℃、140~180℃、より好ましくは150~170℃の温度に加熱するステップ
を含む、熱安定性基材の接合方法に関する。
【0109】
ここで、基材S2は、基材S1と同一の材料又は異なる材料で構成されている。
【0110】
基材S1及び/又はS2は、特に、前述の金属及びプラスチックである。
【0111】
好ましくは、ステップiii)においては、組成物は、100~220℃、特に120~210℃、好ましくは130~190℃、140~180℃、より好ましくは150~170℃の温度に加熱され、組成物は、前述の温度に、10分間~6時間、10分間~2時間、10分間~60分間、10分間~30分間、10分間~20分間、より好ましくは10分間~15分間供される。
【0112】
このような熱安定性材料の接合方法により、接着剤-接合物品が得られる。このような物品は、自動車又は自動車の一部であることが好ましい。
【0113】
さらなる本発明の態様は、従って、前述の方法で得られる接着剤-接合物品である。加えて、本発明の組成物は、自動車の構造のみならず、他の分野における使用についても好適である。船舶、トラック、バス若しくは鉄道車両などの輸送分野、又は、例えば洗濯機といった消費財の構造における関連する用途についても言及すべきである。
【0114】
本発明の組成物により接着剤-接合された材料は、典型的には120℃~-40℃、好ましくは100℃~-40℃、特に80℃~-40℃の温度で使用される。
【0115】
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の特に好ましい使用は、車両構造における熱硬化性車体構造接着剤としてのその使用である。
【0116】
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂接着剤のさらなる特に好ましい使用は、金属構造を接着接合するためのその使用である。
【0117】
さらなる本発明の態様は従って、上記に詳述した熱硬化性エポキシ樹脂接着剤を100~220℃、好ましくは120~210℃の温度に加熱することで得られる硬化したエポキシ樹脂接着剤に関する。
【0118】
CEC浴に通した後、車体はCECオーブンに入り、ここで、CECコーティング材料が典型的には160~190℃の温度で焼成される。ここで、熱硬化性組成物は架橋を伴って化学的に反応して、接着剤の硬化をもたらす。
【0119】
本発明はさらに、車両構造及びサンドイッチパネル構造における、一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤、特に一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤の、好ましくは実験セクションで記載されているSAE J1523に準拠して測定された重ね剪断強度及びASTM D1876に準拠して測定された剥離強度を高めるための既述の熱膨張性微小球HEMの使用を包含する。これは、好ましくは、上記の熱硬化性エポキシ樹脂接着剤である。重ね剪断強度及びT型剥離強度の増加は、熱膨張性微小球HEMを含有する一成分型熱硬化性エポキシ樹脂接着剤との比較に関連するが、前述の熱膨張性微小球HEMの種のものではない。用いられる熱膨張性微小球HEMの性質及び量は、好ましくは上記のとおりであり、特に、好ましいとされる上記の性質及び量もまた好ましく使用される。
【0120】
本発明を実施例によって以下の文章でさらに明らかにするが、しかしながら、これらは、本発明を如何様にも限定することは意図されていない。
【実施例】
【0121】
耐衝撃性改良剤D1及び参照組成物R1~13及び本発明の組成物E1~2の調製に用いた原料は以下のとおりであった。
【0122】
【0123】
靭性改良剤(D1)の調製
容器中において、300.0gのPolyTHF(登録商標)2000(BASF)及び56.7gのヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を、0.04gのジブチル錫ジラウレート(DBTL)と共に混合した。減圧下に60℃で2時間混合した後、4.1%のNCO含有量が計測された。このようにして形成したNCO-末端封止ポリウレタンポリマーを39.3gのフェノール(Aldrich)と混合し、減圧下に100℃で3時間さらに撹拌し、70℃で12時間保管した。その後、NCO含有量は0%と計測された。
【0124】
【0125】
表2に示した組成物をベース配合物として用い、表3に示した量の微小球を添加した。表3に示した量は、最終組成物E1~2、それぞれ、R1~13中の微小球の量である。例えば、E2において、2重量%の微小球を上記の98重量%のベース組成物に添加して、組成物E2を得た。
【0126】
粘度
参照組成物及び実施例1~3の粘度を計測したところ、25℃で500~1300Pasであった。粘度は、加熱可能なプレートを備えたレオメーター(MCR 301、AntonPaar)(スロット 1000μm、計測プレート直径:25mm(プレート/プレート)、5Hzで変形0.01、温度:25℃)を用いてオシログラフィーにより測定した。
【0127】
接着強度(重ね剪断強度)
重ね剪断強度を、0.8mm厚の溶融亜鉛めっき鋼(HDG)試験片、0.25mmの接着結合ライン厚さ、13mmの重なり長、13mm/minの引張速度で、SAE J1523に準拠して測定した。サンプルを180℃で30分間硬化した。
【0128】
T型剥離テスト
T型剥離強度を、90度に曲げた0.8mm厚、25mm×100mmの高強度溶融亜鉛めっき鋼(HDG)試験片、0.25mmの接着結合ライン厚さ、76.2mmの重なり長、127mm/minの引張速度で、ASTM D1876に準拠して測定した。サンプルを180℃で30分間硬化した。
【0129】
膨張
およそ5mmの半径及び50mmの長さを有するテスト材ビーズの密度を膨張の前後に計測することにより、膨張を各サンプルについて定量化する。脱イオン水中における水浸漬法(アルキメデスの原理)及び精密天秤を用いて質量を計測して、DIN EN ISO 1183に準拠して密度を測定した。テスト材を180℃で15分間膨張させた。
【0130】
割れ形成
上記の膨張した材料における割れ形成の程度を、硬化した膨張した材料の表面構造を以下の評価体系を用いて評価することにより、各サンプルについて定量化した。
「-」:表面構造に開放孔はなく、表面に割れは視認されない
「-/+」:表面構造にいくつかの開放孔があり、表面に割れは視認されない
「+」:表面に割れが視認される
【0131】
テスト例
エポキシ樹脂接着剤に用いたベース配合物は以下に記載の配合であった。
【0132】
組成物R1~13及びE1~2の粘度を計測したところ、25℃で500~1300Pasであった。粘度は、加熱可能なプレートを備えたレオメーター(MCR 301、AntonPaar)(スロット 1000μm、計測プレート直径:25mm(プレート/プレート)、5Hzで変形0.01、温度:25℃)を用いてオシログラフィーにより測定した。
【0133】
【国際調査報告】