(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】正極活物質およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240905BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240905BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240905BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024515920
(86)(22)【出願日】2023-05-22
(85)【翻訳文提出日】2024-03-12
(86)【国際出願番号】 KR2023006946
(87)【国際公開番号】W WO2023224450
(87)【国際公開日】2023-11-23
(31)【優先権主張番号】10-2022-0062249
(32)【優先日】2022-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ウン・ジュ・イ
(72)【発明者】
【氏名】ヒョン・フイ・ベク
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ソク・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ピル・キム
(72)【発明者】
【氏名】ウォン・シグ・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】テ・ヨン・リ
(72)【発明者】
【氏名】ファン・ヨン・チェ
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050EA12
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA07
5H050HA13
5H050HA14
(57)【要約】
本発明は、表面部およびコアを有する単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物を含み、前記表面部の外側に形成されているコバルトコーティングを含み、前記表面部は、層状型(R-3m)構造を有し、+2.36~+3.00の平均酸化数を有するニッケルを含む正極活物質およびその製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面部およびコアに分けられる単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物と、
前記表面部上に形成されたコバルトを含むコーティング部とを含み、
前記表面部は、層状型(R-3m)構造を有し、前記表面部が含むニッケルは、+2.36~+3.00の平均酸化数を有する、正極活物質。
【請求項2】
前記表面部は、前記単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物の最外側から中心方向に、深さ1nm~50nmまでの領域である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記表面部およびコーティング部の全体を基準に、前記コバルトおよびニッケルは、Co/Ni値(mol/mol)が0.10~0.80を満たす、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記コーティング部は、前記表面部の外側に、前記表面部の外側の総面積を基準に、10%~100%に形成されている、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記コーティング部は、前記表面部の外側にアイランド状に位置する、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項6】
前記コーティング部は、LiCoO
2の組成を含む、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項7】
前記単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物は、50個以下の結晶粒を含む、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項8】
前記表面部は、NiO層から変換されたニッケルコバルトマンガン酸化物の層状構造を含む、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項9】
前記リチウム遷移金属酸化物は、ニッケル、コバルトおよびマンガンを含むリチウム複合遷移金属酸化物である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項10】
前記リチウム遷移金属酸化物は、下記化学式1で表されるリチウム複合遷移金属酸化物である、請求項1に記載の正極活物質。
[化学式1]
Li
aNi
xCo
yM
1
zM
2
1-x-y-zO
2
前記化学式1中、M
1は、MnおよびAlからなる群から選択される1種以上であり、M
2は、B、Ba、Ce、Cr、F、Mg、V、Ti、Fe、Zr、Zn、Si、Y、Nb、Ga、Sn、Mo、W、P、S、Sr、Ta、LaおよびHfからなる群から選択される1種以上であり、1.0≦a≦1.3、0.6≦x<1.0、0≦y≦0.4、0≦z≦0.4である。
【請求項11】
前記リチウム遷移金属酸化物は、下記化学式2で表されるリチウム複合遷移金属酸化物である、請求項1に記載の正極活物質。
[化学式2]
Li
aNi
bCo
cMn
dM
1
eO
2
前記化学式2中、M
1は、Al、Zr、B、W、Mo、Cr、Nb、Mg、Hf、Ta、La、Ti、Sr、Ba、Ce、Sn、Y、Zn、F、PおよびSからなる群から選択される1種以上であり、0.9≦a≦1.1、0.8≦b<1、0<c<0.2、0<d<0.2、0≦e<0.1、b+c+d+e=1である。
【請求項12】
1)単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物粒子およびコバルトソースを混合するステップと、
2)前記ステップ1)の混合物を熱処理するステップとを含む、正極活物質の製造方法。
【請求項13】
前記ステップ1)において、追加金属ソースをさらに混合する、請求項12に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項14】
前記ステップ2)における熱処理は、500~800℃で行われる、請求項12に記載の正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2022年5月20日付けの韓国特許出願第10-2022-0062249号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、正極活物質およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
最近、電気自動車などの技術の発展につれて、高容量二次電池に対する需要が増加しており、これに伴い、容量特性に優れたハイニッケル(High Ni)正極活物質を用いた正極に関する研究が活発に行われている。
【0004】
ハイニッケル正極活物質は、これを製造するために共沈法(Co-precipitation)が使用され、製造されたハイニッケル正極活物質は、一次粒子が凝集した二次粒子の形態を有する。しかし、二次粒子の形態を有する活物質は、長期間の充放電過程で、二次粒子に微細な亀裂が発生して副反応を引き起こし、また、二次粒子は、エネルギー密度の向上のために電極の密度を増加させる場合、二次粒子の構造の崩壊を引き起こし、活物質と電解液の減少によるエネルギー密度の低下および寿命特性の低下が発生する欠点がある。
【0005】
このような二次粒子形態のハイニッケル正極活物質が有する問題を解決するために、最近、単粒子型のニッケル系正極活物質の開発が行われている。単粒子型のニッケル系正極活物質は、高いエネルギー密度のために電極の密度を増加させる場合にも、粒子の崩壊が生じない利点を有する。しかし、単粒子型のニッケル系正極活物質は、これを製造するために相対的に高い焼成温度を要し、R-3mの層状構造がまともに維持されず、リチウムが結晶構造の外部に離脱して、NiOのようなFm-3m岩塩(rock-salt)構造に相変化が行われ、正極活物質の結晶性が低下して、製造された単粒子の表面部においてNiOの比率が増加し、NiOの増加によって抵抗が増加し、エネルギー密度および出力の低下が発生する問題がある。また、焼成温度が低くなる場合には、過焼成の二次粒子の形態で存在して、寿命およびガス発生の改善効果が単粒子から期待していた水準に及ばないという問題がある。
【0006】
したがって、高い電極密度を有し、且つ優れた寿命特性および出力特性を示す正極活物質に対する開発が依然として求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】KR 2019-0094529 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、高い電極密度を有し、且つ優れた寿命特性および出力特性を示す正極活物質を提供することである。
【0009】
本発明の他の解決しようとする課題は、高い電極密度を有し、且つ優れた寿命特性および出力特性を示す正極活物質の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は正極活物質を提供する。
【0011】
(1)本発明は、表面部およびコアに分けられる単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物と、前記表面部上に形成されたコバルトを含むコーティング部とを含み、前記表面部は、層状型(R-3m)構造を有し、前記表面部が含むニッケルは、+2.36~+3.00の平均酸化数を有する正極活物質を提供する。
【0012】
(2)本発明は、前記(1)において、前記表面部は、前記単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物の最外側から中心方向に、深さ1nm~50nmまでの領域である正極活物質を提供する。
【0013】
(3)本発明は、前記(1)または(2)において、前記表面部およびコーティング部の全体を基準に、前記コバルトおよびニッケルは、Co/Ni値(mol/mol)が0.10~0.80を満たす正極活物質を提供する。
【0014】
(4)本発明は、前記(1)~(3)のいずれか一つにおいて、前記コーティング部は、前記表面部の外側に、前記表面部の外側の総面積を基準に、10%~100%に形成されている正極活物質を提供する。
【0015】
(5)本発明は、前記(1)~(4)のいずれか一つにおいて、前記コーティング部は、前記表面部の外側にアイランド状に位置する正極活物質を提供する。
【0016】
(6)本発明は、前記(1)~(5)のいずれか一つにおいて、前記コーティング部は、LiCoO2の組成を含む正極活物質を提供する。
【0017】
(7)本発明は、前記(1)~(6)のいずれか一つにおいて、前記単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物は、50個以下の結晶粒を含む正極活物質を提供する。
【0018】
(8)本発明は、前記(1)~(7)のいずれか一つにおいて、前記表面部は、NiO層から変換されたニッケルコバルトマンガン酸化物の層状構造を含む正極活物質を提供する。
【0019】
(9)本発明は、前記(1)~(8)のいずれか一つにおいて、前記リチウム遷移金属酸化物は、ニッケル、コバルトおよびマンガンを含むリチウム複合遷移金属酸化物である正極活物質を提供する。
【0020】
(10)本発明は、前記(1)~(9)のいずれか一つにおいて、前記リチウム遷移金属酸化物は、下記化学式1で表されるリチウム複合遷移金属酸化物である正極活物質を提供する。
[化学式1]
LiaNixCoyM1
zM2
1-x-y-zO2
前記化学式1中、M1は、MnおよびAlからなる群から選択される1種以上であり、M2は、B、Ba、Ce、Cr、F、Mg、V、Ti、Fe、Zr、Zn、Si、Y、Nb、Ga、Sn、Mo、W、P、S、Sr、Ta、LaおよびHfからなる群から選択される1種以上であり、1.0≦a≦1.3、0.6≦x<1.0、0≦y≦0.4、0≦z≦0.4である。
【0021】
(11)本発明は、前記(1)~(10)のいずれか一つにおいて、前記リチウム遷移金属酸化物は、下記化学式2で表されるリチウム複合遷移金属酸化物である正極活物質を提供する。
[化学式2]
LiaNibCocMndM1
eO2
前記化学式2中、M1は、Al、Zr、B、W、Mo、Cr、Nb、Mg、Hf、Ta、La、Ti、Sr、Ba、Ce、Sn、Y、Zn、F、PおよびSからなる群から選択される1種以上であり、0.9≦a≦1.1、0.8≦b<1、0<c<0.2、0<d<0.2、0≦e<0.1、b+c+d+e=1である。
【0022】
また、前記他の課題を解決するために、本発明は正極活物質の製造方法を提供する。
【0023】
(12)本発明は、1)単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物粒子およびコバルトソースを混合するステップと、2)前記ステップ1)の混合物を熱処理するステップとを含む正極活物質の製造方法を提供する。
【0024】
(14)本発明は、前記(12)において、前記ステップ1)において、追加金属ソースをさらに混合する正極活物質の製造方法を提供する。
【0025】
(15)本発明は、前記(12)または(13)において、前記ステップ2)における熱処理は、500~800℃で行われる正極活物質の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明の正極活物質は、単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物を含む正極活物質であって、コバルトを含むコーティング部を含み、且つNiO層が減少した表面部を有することから、高い電極密度を有し、且つ優れた寿命特性および出力特性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施例1~3および比較例1に対するEELS測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に関する理解を容易にするために、本発明をさらに詳細に説明する。
【0029】
本発明の説明および特許請求の範囲にて使用されている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適宜定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念に解釈すべきである。
【0030】
本発明において、用語「一次粒子」は、走査電子顕微鏡(SEM)を介して正極活物質の断面を観察したときに、1つの塊として区別される最小粒子の単位を意味し、複数個の結晶粒からなることができる。
【0031】
本発明において、用語「二次粒子」は、複数個の一次粒子が凝集して形成される二次構造体を意味する。前記二次粒子の平均粒径は、粒度分析装置を用いて測定されることができる。
【0032】
本発明において、用語「単粒子形態」の代わりに、用語「単粒子型」が使用されることができ、従来の方法により製造された数百個の一次粒子が凝集して形成される二次粒子の形態と対比する形態を意味する。また、本発明において、用語「単粒子型の正極活物質」または「単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物」は、従来の方法により製造された数百個の一次粒子が凝集して形成される二次粒子の形態の正極活物質と対比する概念であり、1個~50個以下の粒子、1個~40個以下の粒子、1個~30個以下の粒子、1個~20個以下の粒子、1個~15個以下の粒子、1個~10個以下の粒子、または1個~5個以下の粒子からなる正極活物質またはリチウム遷移金属活物質を意味する。
【0033】
本発明において、用語「単結晶」の代わりに、用語「単結晶性」が使用されることができ、50個以下、具体的には1個~30個の結晶粒を含む正極活物質またはリチウム遷移金属酸化物を意味する。通常、単結晶粒子は全試料がただ一つの結晶粒(grain)またはグレーン領域からなる粒子を示す。本発明において、単粒子型の正極活物質または単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物は、少数の結晶粒を含むことから一つの単結晶粒子と類似の特性を示すことができる。
【0034】
前記「単粒子」は、走査電子顕微鏡を介して正極活物質を観測したときに認識される粒子の最小の単位を意味し、前記「結晶粒(grain)」または「グレーン領域」は、試料内の原子が一方向に、連続的、周期的に配列された領域を意味する。前記結晶粒は、電子後方散乱回折(ESBD)分析装置を用いて分析することができる。
【0035】
本発明において、用語「平均粒径(D50)」は、粒径による体積累積分布の50%地点での粒径を意味する。前記平均粒径は、測定対象粉末を分散媒中に分散させた後、市販のレーザ回折粒度測定装置(例えば、Microtrac社製のS3500)に導入して、粒子がレーザビームを通過するときに粒子径による回折パターンの差を測定して粒度分布を算出し、測定装置における粒径による体積累積分布の50%になる地点での粒子直径を算出することにより、D50を測定することができる。
【0036】
本発明の正極活物質は、表面部およびコアに分けられる単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物と、前記表面部上に形成されたコバルトを含むコーティング部とを含み、前記表面部は、層状型(R-3m)構造を有し、前記表面部が含むニッケルは、+2.36~+3.00の平均酸化数を有する。
【0037】
前記単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物の表面部は、層状型(R-3m)構造を有し、前記コバルトを含むコーティング部が表面部上に形成される前には、高いNiO含量を有しており、前記単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物の製造時に求められる高い焼成温度によって、前記NiOの形成が誘導される。前記単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物の表面部に含まれたNiOは、抵抗の増加、エネルギー密度および出力の低下などの原因になり得る。
【0038】
本発明の正極活物質は、前記単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物とコバルトソース(原料物質)を混合した後、熱処理する過程により形成されたコバルトを含むコーティング部を含み、前記コーティング部は、前記熱処理過程で、前記コバルトが単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物の表面から中心方向に拡散して形成された層であることができる。本発明の正極活物質は、前記コーティング部を形成する過程で、表面部のNiO層がニッケルコバルトマンガン(NCM)酸化物の層状構造に変換されることで、抵抗の増加、エネルギー密度の低下および出力の低下などの原因が減少および除去され、優れた電気化学的特性を示すことができる。
【0039】
前記単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物は、表面部およびコアに分けられる。前記表面部は、単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物の外側を指し、前記単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物の最外側から中心方向に所定の厚さを有する領域を意味し、具体的には、前記単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物の最外側から中心方向に、深さ1nm~50nm、具体的には5~30nmまでの領域を意味する。
【0040】
また、前記コアは、前記単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物から前記表面部を除いた内部を意味する。
【0041】
前記表面部に含まれたニッケルの平均酸化数は、具体的には、+2.36~+2.95、+2.36~+2.91、+2.37~+2.95、さらに具体的には、+2.37~+2.91であることができる。前記表面部に含まれたニッケルの平均酸化数は、コーティング部を形成するコバルトのコーティング量に応じて変化することができ、前記範囲を満たすときに、表面に適正量のコーティング部が形成されて、リチウム遷移金属酸化物のNiO劣化層(退化層)がニッケルコバルトマンガン(NCM)酸化物の層状構造に十分に変換されることにより、NiO劣化層の層状構造の崩壊などによる陽イオン混合(cation mixing)と構造的な不安定性の問題が生じないようにすることができる。これにより、前記表面部は、NiO層から変換されたニッケルコバルトマンガン酸化物の層状構造を含むことができる。
【0042】
前記単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物の最外側から中心方向に、深さ10nmまでのニッケル(Ni)の平均酸化数は、+2.50~+3.00であることができ、具体的には、+2.50~+2.95、+2.50~+2.90、+2.50~+2.88、+2.52~+2.95、+2.52~+2.90、+2.52~+2.88であることができ、さらに具体的には、+2.54~+2.86であることがある。前記ニッケルの平均酸化数が前記10nmまでの平均酸化数の範囲を満たす場合、前記単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物のNiO劣化層に対する適切な減少効果を得ることができる。
【0043】
前記コーティング部は、前記表面部の外側、すなわち、前記単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物の最外側の表面に形成されていてもよく、前記表面部の外側の一部または全部に形成されていてもよく、前記表面部の外側の全面積を基準に10%~100%(面積%)に形成されていてもよい。具体的には、前記コーティング部は、前記表面部の外側の一部に形成されていてもよく、前記表面部の外側の総面積を基準に30%~90%に形成されていてもよい。
【0044】
前記コーティング部は、前記表面部の外側にアイランド状に形成されていてもよい。前記アイランド状は、前記表面部の外側に不連続に形成されている形態を意味し、すなわち、前記コーティング部は、前記単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物の最外側の表面に部分的に分散して分布されていてもよい。
【0045】
前記コーティング部は、LiCoO2の組成を含むことができ、具体的には、前記コーティング部は、前記表面部の外側にアイランド状のLiCoO2として含まれることができる。
【0046】
前記表面部およびコーティング部の全体を基準に、前記コバルトおよびニッケルは、Co/Ni値(mol/mol)が0.10~0.80、具体的には、0.15~0.80、0.20~0.80、0.10~0.75、0.15~0.75、さらに具体的には、0.20~0.75を満たすことができる。前記Co/Ni値が前記範囲に比べて小さすぎる場合には、コバルトが単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物粒子の内部に過剰に拡散(diffusion)して表面層のコバルト濃度が低くなり、コバルトを含むコーティング部の形成の効果を発揮することが難しく、コバルトが粒子の内部に過剰に拡散する過程で、前記粒子の表面にNiO劣化層が再度形成され得る。また、Co/Ni値が前記範囲に比べて大きすぎる場合には、コーティングされたコバルトがCo3O4またはリチウムコバルト酸化物(LixCOyOz)形態の別の酸化物として粒子の表面に存在することができ、この場合、単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物のNiO劣化層がニッケルコバルトマンガン(NCM)酸化物の層状構造に十分に変換されず、前記リチウム遷移金属酸化物の表面に形成された不要な量のコーティング部が抵抗として作用するか、容量減少の原因になり得る。
【0047】
前記単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)を含むリチウム複合遷移金属酸化物であることができる。
【0048】
具体的には、前記単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物は、下記化学式1で表されるリチウム複合遷移金属酸化物であることができる。
【0049】
[化学式1]
LiaNixCoyM1
zM2
1-x-y-zO2
【0050】
前記化学式1中、M1は、MnおよびAlからなる群から選択される1種以上であり、M2は、B、Ba、Ce、Cr、F、Mg、V、Ti、Fe、Zr、Zn、Si、Y、Nb、Ga、Sn、Mo、W、P、S、Sr、Ta、LaおよびHfからなる群から選択される1種以上であり、1.0≦a≦1.3、0.6≦x<1.0、0≦y≦0.4、0≦z≦0.4である。
【0051】
前記aは、リチウム遷移金属酸化物内のリチウムのモル比を示し、1.0≦a≦1.3、具体的には1.0≦a≦1.25、さらに具体的には1.0≦a≦1.20であることができる。
【0052】
前記xは、全体の遷移金属のうちニッケルのモル比を示し、0.6≦x<1.0、具体的には0.6≦x≦0.99または0.70≦x≦0.99、さらに具体的には0.8≦x≦0.95であることができる。ニッケル含有量が前記範囲を満たす場合、優れた容量特性を実現することができる。
【0053】
前記yは、全体の遷移金属のうちコバルトのモル比を示し、0≦y≦0.40、具体的には0≦y≦0.35、さらに具体的には0.01≦y≦0.30であることができる。
【0054】
前記zは、全体の遷移金属のうち元素M1のモル比を示し、0≦z≦0.40、具体的には0≦z<0.35、さらに具体的には0.01≦z≦0.30であることができる。
【0055】
前記1-x-y-zは、全体の遷移金属のうちM2のモル比を示し、0≦1-x-y-z≦0.4、具体的には0≦1-x-y-z≦0.35、さらに具体的には0≦1-x-y-z≦0.30であることができる。
【0056】
また、具体的には、前記リチウム遷移金属酸化物は、下記化学式2で表されるリチウム複合遷移金属酸化物であることができる。
【0057】
[化学式2]
LibNicCodMneM1
fO2
【0058】
前記化学式2中、M1は、Al、Zr、B、W、Mo、Cr、Nb、Mg、Hf、Ta、La、Ti、Sr、Ba、Ce、Sn、Y、Zn、F、PおよびSからなる群から選択される1種以上であり、0.9≦b≦1.1、0.8≦c<1、0<d<0.2、0<e<0.2、0≦f<0.1、c+d+e+f=1である。
【0059】
また、具体的には、前記リチウム遷移金属酸化物は、下記化学式3で表されるリチウム複合遷移金属酸化物であることができる。
【0060】
[化学式3]
LigNihCoiMnjO2
【0061】
前記化学式2中、0.9≦g≦1.1、0.8≦h<1、0<i<0.2、0<j<0.2、h+i+j=1である。
【0062】
前記正極活物質は、比表面積および正極合材の密度を考慮して、1~50μmの平均粒径(D50)を有することができ、具体的には、2~20μmの平均粒径(D50)を有することができる。本発明の一例による正極活物質は、平均粒径(D50)が0.1μm~10μmである粒子が凝集して形成された単粒子型の正極活物質であることができる。前記粒子の平均粒径が前記範囲を満たす場合、圧延率、電極の空隙などにおいて利点を有することができ、平均粒径が前記範囲に比べて小さすぎるか大きすぎる場合、電極容量、寿命特性、抵抗などにおいて性能が低下し得る。
【0063】
本発明は、また、前記正極活物質の製造方法を提供する。
【0064】
前記正極活物質は、1)単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物粒子およびコバルト(Co)ソースを混合するステップと、2)前記ステップ1)の混合物を熱処理するステップとを含む製造方法により製造されることができる。
【0065】
前記ステップ1)において、前記コバルトソースは、前記正極活物質を基準に、0.1モル%~10モル%、具体的には0.5モル%~5モル%、さらに具体的には1モル%~3モル%の量で使用されることができる。前記コバルトソースが前記範囲に比べて小さすぎる量で使用される場合、前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面部の外側に十分なコーティング部を形成することができず、前記コバルトソースが前記範囲に比べて大きすぎる量で使用される場合、必要以上のコーティング部が形成されるか、未反応のコバルト化合物が粒子の表面に残って抵抗の増加および容量の減少などの欠点をもたらし得る。
【0066】
前記ステップ1)では、追加金属ソースをさらに混合する過程が行われることができる。前記追加金属ソースは、前記コバルトソースとともに使用され、以降のステップを経て、前記単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物の表面部にコーティングされることができる。前記追加金属ソースが形成するコーティングは、前記コバルトソースが前記単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物粒子の表面部の外側に形成するコーティング部に混合されてともにコーティングされるか、もしくは、別のコーティングにより形成されることができる。前記追加金属ソースは、前記単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物の表面部にコーティングされて、金属酸化物、リチウム金属酸化物、コバルト金属酸化物、またはリチウムコバルト金属酸化物の形態に形成されることができる。
【0067】
前記ステップ1)の混合は、乾式混合であることができ、例えば、溶媒なしに、単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物にパウダー状のコバルトソース物質を混合することであり得る。このような乾式混合は、単純混合過程であることができ、工程の単純化により、コストダウンおよび品質安定化の利点を発揮することができる。
【0068】
2)前記ステップ1)の混合物を熱処理するステップでは、単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物の表面から中心方向にコバルトが拡散してコーティング部が形成される。前記コーティング部が形成されるときに、リチウム遷移金属酸化物の表面にアイランド状のコーティング部が不連続に形成されることができる。本発明の一実施形態による正極活物質の製造方法では、前記単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物粒子とコバルト(Co)ソースが乾式混合された後、熱処理が行われることから、前記コーティング部がアイランド状に形成されることができる。
【0069】
前記ステップ2)における熱処理は、500℃~800℃で行われることができ、具体的には600℃~800℃、さらに具体的には650℃~750℃で行われることができる。
【0070】
前記熱処理温度が前記範囲を満たす場合、熱処理のための昇温過程で、単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物の表面に存在したコバルト、具体的には、リチウム遷移金属酸化物の表面にアイランド状に形成されてLiCoO2相として存在していたコバルトがリチウム遷移金属酸化物の内部に適切な深さで浸透し、劣化層であるNiO層を適切にニッケルコバルトマンガン(NCM)酸化物の層状構造に変化させることができ、これにより、前記単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物の表面部が層状型(R-3m)構造を有し、且つ前記表面部に最外側方向にニッケルの酸化数が増加する酸化数勾配層が含まれるようにして、充放電容量、初期効率、初期抵抗など、セル性能において優れた効果を発揮することができる。前記ステップ2)の熱処理温度が低い場合、コーティング部の厚さが厚くなり、コーティング部が過剰に多く形成されて、上述のコーティング部の形成による利点を発揮することが難しく、前記ステップ2)の熱処理温度が高い場合、コバルトが単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物の内部に深くドーピングされて、前記表面部にコーティング部が適切に形成されない可能性がある。
【0071】
前記ステップ2)における熱処理は、2時間~12時間、具体的には、2時間~9時間、さらに具体的には、2時間~6時間行われることができる。前記熱処理が前記時間範囲内で行われる場合、優れた生産性を示すことができ、且つ、均一な焼成が行われることができる。
【0072】
前記コバルトソースは、コバルトを含む酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、ハライド、硫化物、酢酸塩、硝酸塩、カルボン酸塩またはこれらの組み合わせなどであることができ、例えば、Co(OH)2、CoOOH、Co(OCOCH3)2・4H2O、Co(NO3)2・6H2OまたはCo(SO4)2・7H2Oなどが挙げられ、これらのいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用されることができ、具体的には、Co(OH)2が使用されることができる。
【0073】
前記追加金属ソースは、例えば、Al、Ti、W、B、F、P、Mg、Fe、Cr、V、Cu、Ca、Zn、Zr、Nb、Mo、Sr、Sb、Bi、Si、Cr、Hf、Ta、La、Ba、Ce、Sn、YおよびSからなる群から選択される1種以上の元素を含む酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、ハライド、硫化物、酢酸塩、硝酸塩、カルボン酸塩またはこれらの組み合わせなどであることができ、具体的には、ZnO、Al2O3、Al(OH)3、AlSO4、AlCl3、Al-イソプロポキシド(Al-isopropoxide)、AlNO3、TiO2、WO3、AlF、H2BO3、HBO2、H3BO3、H2B4O7、B2O3、C6H5B(OH)2、(C6H5O)3B、(CH3(CH2)3O)3B、C3H9B3O6、(C3H7O3)B、Li3WO4、(NH4)10W12O41・5H2O、NH4H2PO4などが挙げられるが、これに制限されるものではない。
【0074】
前記追加金属ソースは、前記追加金属が正極活物質内の全体の金属モル数を基準に、100ppm~50,000ppm、具体的には、200ppm~10,000ppmになるようにする量で使用されることができる。前記追加金属が前記範囲で含まれる場合、電解液との副反応が効果的に抑制される効果を期待することができ、電気化学的特性がより向上することができる。
【0075】
本発明の一例において、前記単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物粒子は、遷移金属酸化物前駆体とリチウム原料物質を混合して一次焼成し、一次焼成により製造された仮焼成品を解砕した後、二次焼成して製造されるができる。
【0076】
本発明のさらに他の一実施形態によると、上記の正極活物質を含む正極を提供する。
【0077】
具体的には、前記正極は、正極集電体、および前記正極集電体上に形成され、上記の正極活物質を含む正極活物質層を含む。
【0078】
前記正極集電体は、電池に化学的変化を引き起こさず、導電性を有するものであれば特に制限されず、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素またはアルミニウムやステンレス鋼の表面に、炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したものなどが使用されることができる。また、前記正極集電体は、通常、3~500μmの厚さを有することができ、前記集電体の表面上に微細な凹凸を形成して、正極活物質の接着力を高めることもできる。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体など様々な形態で使用されることができる。
【0079】
前記正極活物質層は、上述の正極活物質とともに、導電材およびバインダーを含むことができる。
【0080】
この際、前記導電材は、電極に導電性を付与するために使用されるものであり、構成される電池において、化学変化を引き起こさず、電子伝導性を有するものであれば、特に制限なく使用可能である。具体的な例としては、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体などの伝導性高分子などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用されることができる。前記導電材は、通常、正極活物質層の全重量に対して1~30重量%含まれることができる。
【0081】
前記バインダーは、正極活物質粒子間の付着および正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割を果たす。具体的な例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの様々な共重合体などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用されることができる。前記バインダーは、正極活物質層の全重量に対して1~30重量%含まれることができる。
【0082】
前記正極は、上記の正極活物質を用いる以外は、通常の正極の製造方法により製造されることができる。具体的には、上記の正極活物質および選択的に、バインダーおよび導電材を溶媒中に混合または分散させて製造した正極活物質層形成用組成物を正極集電体上に塗布した後、乾燥および圧延することで製造されることができる。ここで、前記正極活物質、バインダー、導電材の種類および含量は、上述のとおりである。
【0083】
前記溶媒としては、当該技術分野において一般的に使用される溶媒であることができ、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)または水などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用されることができる。前記溶媒の使容量は、スラリーの塗布厚さ、製造歩留まりを考慮して、前記正極活物質、導電材およびバインダーを溶解または分散させ、以降、正極の製造のための塗布時に、優れた厚さ均一度を示すことができる粘度を有するようにする程度であれば十分である。
【0084】
また、他の方法として、前記正極は、前記正極活物質層形成用組成物を別の支持体上にキャストした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを正極集電体上にラミネートすることで製造されることもできる。
【0085】
本発明のさらに他の一例によると、前記正極を含む電気化学素子が提供される。前記電気化学素子は、具体的には、電池、キャパシタなどであることができ、より具体的には、リチウム二次電池であることができる。
【0086】
前記リチウム二次電池は、具体的には、正極と、前記正極と対向して位置する負極と、前記正極と負極との間に介在されるセパレータと、電解質とを含み、前記正極は、上述のとおりである。また、前記リチウム二次電池は、前記正極、負極、セパレータの電極組立体を収納する電池容器、および前記電池容器を密封する密封部材を選択的にさらに含むことができる。
【0087】
前記リチウム二次電池において、前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に位置する負極活物質層とを含む。
【0088】
前記負極集電体は、電池に化学的変化を引き起こさず、高い導電性を有するものであれば、特に制限されず、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面に、炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したもの、アルミニウム-カドミウム合金などが使用されることができる。また、前記負極集電体は、通常、3~500μmの厚さを有することができ、正極集電体と同様、前記集電体の表面に微細な凹凸を形成して、負極活物質の結合力を強化することもできる。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体など、様々な形態で使用されることができる。
【0089】
前記負極活物質層は、負極活物質とともに、選択的に、バインダーおよび導電材を含む。
【0090】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインターカレーションおよびデインターカレーションが可能な化合物が使用されることができる。具体的な例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質材料;Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金またはAl合金など、リチウムと合金化が可能な金属質化合物;SiOx(0<x<2)、SnO2、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のように、リチウムをドープおよび脱ドープすることができる金属酸化物;またはSi-C複合体またはSn-C複合体のように、前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物などが挙げられ、これらのいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用されることができる。また、前記負極活物質として、金属リチウム薄膜が使用されてもよい。また、炭素材料は、低結晶性炭素および高結晶性炭素などがいずれも使用可能である。低結晶性炭素としては、軟化炭素(soft carbon)および硬化炭素(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、無定形、板状、鱗片状、球状または繊維状の天然黒鉛または人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、液晶ピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、炭素微小球体(meso-carbon microbeads)、液晶ピッチ(Mesophase pitches)および石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
【0091】
また、前記バインダーおよび導電材は、上記で正極において説明したとおりである。
【0092】
前記負極活物質層は、一例として、負極集電体上に、負極活物質、および選択的に、バインダーおよび導電材を溶媒中に分散させて製造した負極形成用組成物を塗布し乾燥するか、または前記負極形成用組成物を別の支持体上にキャストした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネートすることで製造されることもできる。
【0093】
一方、前記リチウム二次電池において、セパレータは、負極と正極を分離し、リチウムイオンの移動通路を提供するものであり、通常、リチウム二次電池においてセパレータとして使用されるものであれば、特に制限なく使用可能であり、特に、電解質のイオン移動に対して低抵抗であるとともに、電解液の含湿能力に優れるものが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体およびエチレン/メタクリレート共重合体などのポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルムまたはこれらの2層以上の積層構造体が使用されることができる。また、通常の多孔性不織布、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布が使用されてもよい。また、耐熱性または機械的強度の確保のために、セラミック成分または高分子物質が含まれたコーティングされたセパレータが使用されてもよく、選択的に、単層または多層構造として使用されることができる。
【0094】
また、本発明で使用される電解質としては、リチウム二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル型高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などが挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0095】
具体的には、前記電解質は、有機溶媒およびリチウム塩を含むことができる。
【0096】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関わるイオンが移動することができる媒質の役割を果たすものであれば、特に制限なく使用可能である。具体的には、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、ε-カプロラクトン(ε-caprolactone)などのエステル系溶媒;ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒;シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒;ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate、MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)などのカーボネート系溶媒;エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;R-CN(Rは、C2~C20の直鎖状、分岐状または環構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含むことができる)などのニトリル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;1,3-ジオキソランなどのジオキソラン類;またはスルホラン(sulfolane)類などが使用されることができる。中でも、カーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度および高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートなど)と、低粘度の直鎖状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはジエチルカーボネートなど)の混合物がより好ましい。この場合、環状カーボネートと直鎖状カーボネートを、約1:1~約1:9の体積比で混合して使用することで、電解液が優れた性能を示すことができる。
【0097】
前記リチウム塩は、リチウム二次電池において使用されるリチウムイオンを提供することができる化合物であれば、特に制限なく使用可能である。具体的には、前記リチウム塩は、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAl04、LiAlCl4、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(C2F5SO3)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)2、LiCl、LiI、またはLiB(C2O4)2などが使用されることができる。前記リチウム塩の濃度は、0.1~2.0Mの範囲内で使用することが好ましい。リチウム塩の濃度が前記範囲に含まれると、電解質が適切な伝導度および粘度を有することから優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動することができる。
【0098】
前記電解質には、前記電解質の構成成分の他にも、電池の寿命特性の向上、電池の容量減少の抑制、電池の放電容量の向上などのために、例えば、ジフルオロエチレンカーボネートなどのハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N-置換オキサゾリジノン、N,N-置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノールまたは三塩化アルミニウムなどの添加剤が1種以上さらに含まれることもできる。この際、前記添加剤は、電解質の全重量に対して0.1~5重量%含まれることができる。
【0099】
前記のように、本発明による正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性および容量維持率を安定的に示すことから、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルカメラなどのポータブル機器、およびハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)などの電気自動車分野などにおいて有用である。
【0100】
したがって、本発明の他の一実施形態によると、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュールおよびこれを含む電池パックが提供される。
【0101】
前記電池モジュールまたは電池パックは、パワーツール(Power Tool);電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、およびプラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気車;または電力貯蔵用システムのいずれか一つ以上の中大型デバイスの電源として用いられることができる。
【0102】
本発明のリチウム二次電池の外形は、特に制限されないが、缶を使用した円筒型、角型、パウチ(pouch)型またはコイン(coin)型などであることができる。
【0103】
本発明によるリチウム二次電池は、小型デバイスの電源として使用される電池セルに使用されるだけでなく、多数の電池セルを含む中大型電池モジュールにおいて単位電池としても好ましく使用されることができる。
【0104】
以下、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が容易に実施することができるように、本発明の実施例について詳細に説明する。しかし、本発明は、様々な相違する形態に実現されることができ、ここで説明する実施例に限定されない。
【実施例】
【0105】
製造例1
正極活物質前駆体[組成:Ni0.95Co0.03Mn0.02(OH)2、平均粒径(D50)3.5μm]とリチウム原料物質としてLiOHを1:1.05のモル比で混合し、酸素雰囲気下、850℃の温度で、9時間一次焼成して、仮焼成品を製造した後、
前記仮焼成品を解砕した後、酸素雰囲気下、750℃の温度で、9時間二次焼成して、単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物を製造した。
【0106】
実施例1
製造例1で製造された単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物およびパウダー状のコバルトソースCo(OH)2(HUAYOU COBALT社製)をそれぞれ98モル%および2モル%の比率で混合した。
【0107】
混合物を700℃の温度で5時間熱処理して、ケーキ(cake)状態の正極活物質を取得し、これを粉砕して、パウダー状の単粒子型の正極活物質を製造した。
【0108】
実施例2
前記実施例1で混合物を740℃の温度で熱処理した以外は、実施例1と同じの方法でパウダー状の単粒子型の正極活物質を製造した。
【0109】
実施例3
前記実施例1で混合物を660℃の温度で熱処理した以外は、実施例1と同じの方法でパウダー状の単粒子型の正極活物質を製造した。
【0110】
比較例1
前記製造例1で製造された単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物を単粒子型の正極活物質として使用した。
【0111】
比較例2
前記実施例1で混合物を400℃の温度で熱処理した以外は、実施例1と同じの方法でパウダー状の単粒子型の正極活物質を製造した。
【0112】
比較例3
前記実施例1で混合物を900℃の温度で熱処理した以外は、実施例1と同じの方法でパウダー状の単粒子型の正極活物質を製造した。
【0113】
比較例4
製造例1で製造された単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物およびパウダー状のコバルトソースCo(OH)2(HUAYOU COBALT社製)を99.98モル%および0.02モル%の比率で混合した。
【0114】
混合物を750℃の温度で5時間熱処理して、ケーキ(cake)状態の正極活物質を取得し、これを粉砕して、パウダー状の単粒子型の正極活物質を製造した。
【0115】
比較例5
製造例1で製造された単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物およびパウダー状のコバルトソースCo(OH)2(HUAYOU COBALT社製)を99.98モル%および0.02モル%の比率で混合した。
【0116】
混合物を700℃の温度で5時間熱処理して、ケーキ(cake)状態の正極活物質を取得し、これを粉砕して、パウダー状の単粒子型の正極活物質を製造した。
【0117】
実験例1
1)EELS測定
正極活物質パウダーをFEI社製のHelios G4 UX FIB装備を用いて、厚さ100~200nmの薄膜試料にした後、FEI社製のTitan G2 80-200 ChemiSTEM装備とGatan Continuum S EELS systemを使用して、試料のNi L3 Energy lossスペクトルを測定し、Ni
2+とNi
3+基準スペクトルを活用した非線形最小二乗法(nonlinear least-square)フィッティングにより、正極活物質の最外側から中心方向に、深さ10nmの表面部のNi平均酸化数を測定した。Ni
2+基準スペクトルの場合、エネルギー損失(energy loss)が低い方にNi L3ピークが形成され、Ni
3+基準スペクトルの場合、エネルギー損失が高い方にNi L3ピークが形成される。その結果を表1および
図1に示した。
【0118】
2)表面部のCo/Ni測定
Thermo fisher社製のK-alpha XPS装備を用いて、Electron Spectroscopy for Chemical Analysis(ESCA)分析により深さ10nmまでの正極活物質パウダーの表面のCo/Ni含量比を測定した後、その結果を表1に示した。
【0119】
【0120】
表1を参照すると、EELS測定の結果、実施例1~3の場合、Niの酸化数が+2.4~3.0の範囲を満たしているが、比較例1~5は、+2の酸化状態を有するNiO形態の劣化層のNiによる影響で、Niの酸化数が+2.4未満であることを確認することができた。また、Co/Ni測定の結果、実施例1~3の場合、0.1~0.8水準のCo/Ni比率を示し、比較例1~3の場合、0.1未満または0.8超のCo/Ni比率を示すことを確認することができた。
【0121】
一方、比較例4および5は、単粒子形態のリチウム遷移金属酸化物およびパウダー状のコバルトソースの熱処理は、それぞれ、実施例2および1と同一であるか類似の水準の温度で行われているが、リチウム遷移金属酸化物に比べて、パウダー状のコバルトソースが少量使用されており、Co/Ni値は、0.1~0.8の範囲を満たしているが、Niの酸化数は、+2.4未満であった。そのため、Niの酸化数が+2.4~3.0の範囲を満たすためには、適正量のコバルトコーティング部が形成される必要があることを確認することができた。また、
図1により、実施例1~3は、エネルギー損失が高い方にNi L3ピークが形成されてNi
3+に近い状態であり、比較例1は、エネルギー損失が低い方にNi L3ピークが形成されてNi
2+に近い状態であることを確認することができた。
【0122】
実験例2
正極の製造
前記実施例1で製造された正極活物質を用いて、導電材としてカーボンブラック(Denka社製、DenkaBlack)およびバインダーとしてPVdF(Kureha社製、KF1300)を95:3:2の重量比(正極活物質:導電材:バインダー)で溶媒(大井化金社製、N-メチルピロリドン(NMP))に添加して、正極活物質層形成用組成物を製造した。
【0123】
前記製造された正極活物質層形成用組成物を厚さ20μmのアルミ箔集電体の一面にコーティングし、135℃で3時間乾燥して、正極活物質層を形成した。次いで、前記正極活物質層に対して、ロールプレス(Roll Perssing)方式で圧延し、圧延の後、正極活物質層の空隙率が20%である正極を製造した。
【0124】
実施例1で製造された正極活物質の代わりに、それぞれ、実施例2および3と比較例1~3の正極活物質を用いて、前記方法と同様に正極を製造した。
【0125】
前記正極とともにリチウム金属を負極として使用して、コイン型のハーフセル(coin half-cell)を製造した。
【0126】
電気化学的特性の評価
前記で製造されたハーフセルを用いて、下記のように、電気化学的特性を評価した。
【0127】
製造されたコインハーフセルを、それぞれ、25℃で、0.2Cの定電流(CC)4.25Vになるまで充電し、その後、4.25Vの定電圧(CV)で充電して、充電電流が0.05mAhになるまで1回目の充電を行って充電容量を測定した。次に、20分間放置した後、0.2Cの定電流で、2.5Vになるまで放電して、1サイクル目の放電容量を測定した。前記1サイクル目の充/放電効率を評価した。
【0128】
同一方法で満充電し、0.2Cの放電電流を10秒間印加して、電流印加直前と10秒後の電圧の差を電流で除して、初期抵抗(DCIR)を測定した。
その結果を表2に示した。
【0129】
【0130】
前記表2を参照すると、実施例1~3の正極活物質は、Niの酸化数が+2.4~3.0の範囲を満たし、これを満たすことができない比較例1~5の正極活物質に比べて、高い放電容量と効率を示し、且つ低い初期抵抗を有することを確認することができる。
【0131】
これにより、表面部の外側に形成されているコバルトコーティングが、NiO劣化層を相対的にコバルト濃度が高いNCM構造になるようにして、層状構造の崩壊などによる陽イオン混合(cation mixing)と、構造的な不安定性を改善することができ、結果、抵抗の増加、容量の低下、出力の低下などの問題を解決することができることを確認することができた。
【国際調査報告】