(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】薬物送達デバイスのための用量設定および駆動機構
(51)【国際特許分類】
A61M 5/315 20060101AFI20240905BHJP
A61M 5/20 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
A61M5/315 550N
A61M5/315 550X
A61M5/20 510
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516802
(86)(22)【出願日】2022-09-14
(85)【翻訳文提出日】2024-04-18
(86)【国際出願番号】 EP2022075467
(87)【国際公開番号】W WO2023041548
(87)【国際公開日】2023-03-23
(32)【優先日】2021-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】ゾーイ・ジョージナ・アードレイ
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク・アレクサンダー・グレアム
(72)【発明者】
【氏名】マシュー・メレディス・ジョーンズ
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム・マーシュ
(72)【発明者】
【氏名】アンソニー・ポール・モリス
【テーマコード(参考)】
4C066
【Fターム(参考)】
4C066AA09
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD08
4C066EE06
4C066FF05
4C066HH02
4C066HH12
4C066HH17
4C066HH22
(57)【要約】
本発明は、いくつかのユーザ可変薬剤用量を選択および投薬するための、用量設定および駆動機構ならびに使い捨て薬物送達デバイスに関する。機構は、静止ハウジング(1)と、ハウジング(1)に軸方向に拘束されるがハウジングに対して回転可能である、ダイヤルスリーブ(5)と、用量設定モードと用量投薬モードとの間で切り替えるために操作可能なボタン(12)であって、ボタン(12)とハウジング(1)とを回転不能に連結し、回転可能にデカップリングするための第1のクラッチインターフェース(12a)、およびボタン(12)とダイヤルスリーブ(5)とを回転不能に連結し、回転可能にデカップリングするための第2のクラッチインターフェース(12b)を含む、ボタン(12)と、ハウジング(1)に対して軸方向に可動に案内される、被駆動部材(13)と、用量投薬方向における駆動部材(15;22)の回転が被駆動部材(13)の軸方向変位に変換されるように、ハウジング(1)に軸方向に拘束され、被駆動部材(13)に連結される、駆動部材(15;22)と、駆動部材(15;22)に対して回転不能に拘束されるが軸方向に可動であるクラッチスリーブ(9;23)とを含む。駆動部材(15)またはクラッチスリーブ(23)は、用量投薬方向の反対方向におけるハウジング(1)に対する駆動部材およびクラッチスリーブの回転を防止するための第3のクラッチインターフェース(15a;23b)を含む。さらに、クラッチスリーブ(9;23)は、クラッチスリーブ(9;23)とダイヤルスリーブ(5)とを回転不能に連結し、回転可能にデカップリングするための、第4のクラッチインターフェース(9a)を含む。用量設定モードにおいて、ボタン(12)は、第1のクラッチインターフェース(12a)によってハウジング(1)から回転可能にデカップリングされており、ボタン(12)は、第2のクラッチインターフェース(12b)によってダイヤルスリーブ(5)に回転不能に連結されており、クラッチスリーブ(9;23)は、第4のクラッチインターフェース(9a)によってダイヤルスリーブ(5)からデカップリングされており、用量投薬モードにおいて、ボタン(12)は、第1のクラッチインターフェース(12a)によってハウジング(1)に回転不能に連結されており、ボタン(12)は、第2のクラッチインターフェース(12b)によってダイヤルスリーブ(5)から回転可能にデカップリングされており、クラッチスリーブ(9;23)は、第4のクラッチインターフェース(9a)によってダイヤルスリーブ(5)に連結されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物送達デバイスのための用量設定および駆動機構であって、
静止ハウジング(1)と、
該ハウジング(1)に軸方向に拘束されるが該ハウジングに対して回転可能である、ダイヤルスリーブ(5)と、
用量設定モードと用量投薬モードとの間で切り替えるために操作可能なボタン(12)であって、該ボタン(12)とハウジング(1)とを回転不能に連結し、回転可能にデカップリングする(rotationally coupling and de-coupling )ための第1のクラッチインターフェース(12a)、およびボタン(12)とダイヤルスリーブ(5)とを回転不能に連結し、回転可能にデカップリングするための第2のクラッチインターフェース(12b)を含む、ボタン(12)と、
ハウジング(1)に対して軸方向に可動に案内される、被駆動部材(13)と、
用量投薬方向における駆動部材(15;22)の回転が被駆動部材(13)の軸方向変位に変換されるように、ハウジング(1)に軸方向に拘束され、被駆動部材(13)に連結される、駆動部材(15;22)と、
該駆動部材(15;22)に対して回転不能に拘束されるが軸方向に可動であるクラッチスリーブ(9;23)と
を含み、
駆動部材(15)またはクラッチスリーブ(23)は、用量投薬方向の反対方向におけるハウジング(1)に対する駆動部材およびクラッチスリーブの回転を防止するための第3のクラッチインターフェース(15a;23b)を含み、
クラッチスリーブ(9;23)は、該クラッチスリーブ(9;23)とダイヤルスリーブ(5)とを回転不能に連結し、回転可能にデカップリングするための、第4のクラッチインターフェース(9a)を含み、
用量設定モードにおいて、ボタン(12)は、第1のクラッチインターフェース(12a)によってハウジング(1)から回転可能にデカップリングされており、ボタン(12)は、第2のクラッチインターフェース(12b)によってダイヤルスリーブ(5)に回転不能に連結されており、クラッチスリーブ(9;23)は、第4のクラッチインターフェース(9a)によってダイヤルスリーブ(5)からデカップリングされており、
用量投薬モードにおいて、ボタン(12)は、第1のクラッチインターフェース(12a)によってハウジング(1)に回転不能に連結されており、ボタン(12)は、第2のクラッチインターフェース(12b)によってダイヤルスリーブ(5)から回転可能にデカップリングされており、クラッチスリーブ(9;23)は、第4のクラッチインターフェース(9a)によってダイヤルスリーブ(5)に連結されている、
前記用量設定および駆動機構。
【請求項2】
駆動部材(15;22)およびクラッチスリーブ(9;23)は、クラッチスリーブを駆動部材に恒久的に回転不能に拘束しならがそれらの間の相対的な軸方向運動を可能にするための、軸方向に延びる溝およびスプライン(15b)を含む、請求項1に記載の用量設定および駆動機構。
【請求項3】
クラッチスリーブが駆動部材に対して近位に付勢されるように駆動部材(15;22)とクラッチスリーブ(9;23)との間に介在されたクラッチばね(16)をさらに含む、請求項1または2に記載の用量設定および駆動機構。
【請求項4】
被駆動部材(13)は、ハウジング(1)に回転不能に拘束されており、ねじ付きインターフェースによって駆動部材(15;22)に連結されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の用量設定および駆動機構。
【請求項5】
ボタン(12)の遠位の動きはクラッチスリーブ(9;23)に伝達され、クラッチスリーブ(9;23)の近位の動きはボタン(12)に伝達される、請求項1~4のいずれか1項に記載の用量設定および駆動機構。
【請求項6】
ハウジング(1、17)とダイヤルスリーブ(5、7)との間に介在された駆動ばね(8)をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の用量設定および駆動機構。
【請求項7】
用量を設定するためにユーザが操作可能なダイヤルグリップ(11)をさらに含み、ボタン(12)は、ダイヤルグリップ(11)に対して回転不能に拘束されているが、軸方向に変位可能であり、ダイヤルグリップ(11)は、ハウジング(1)に軸方向に拘束されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の用量設定および駆動機構。
【請求項8】
ハウジング(1)とダイヤルグリップ(11)とを回転不能に連結するための、緩めることが可能なラチェット要素(19;21)を含む第5のクラッチインターフェースをさらに含み、用量設定モードにおいて、駆動ばね(8)の駆動トルクまたは駆動力は、第5のクラッチインターフェースを介して反応を受ける、請求項6または7に記載の用量設定および駆動機構。
【請求項9】
クラッチスリーブ(9;23)とダイヤルスリーブ(5)とを回転不能に連結し、回転可能にデカップリングするための第4のクラッチインターフェースは、クラッチスリーブ(9;23)上に形成された歯のリングまたはスプライン(9a)と、ダイヤルスリーブ(5)上に形成された対応する歯のリングとを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の用量設定および駆動機構。
【請求項10】
ラチェット要素(19)はデテント押圧体であり、該デテント押圧体は、ハウジング(1)に回転不能に拘束され、ダイヤルグリップ(11)において画成される一連の飛び飛びのデテント位置(11a)に係合する、請求項9に記載の用量設定および駆動機構。
【請求項11】
ハウジング(1)に回転不能に拘束された、一方向ラチェット(18)を有するインサート(17)をさらに含み、一方向ラチェット(18)は、用量投薬方向におけるハウジング(1)に対する駆動部材(15)の回転を可能にするが、用量投薬方向の反対方向におけるハウジング(1)に対する駆動部材(15)の回転を防止する、第3のインターフェースである、請求項1~10のいずれか1項に記載の用量設定および駆動機構。
【請求項12】
ボタン(12)は、クラッチスリーブ(9)に直接的に当接する、請求項1~11のいずれか1項に記載の用量設定および駆動機構。
【請求項13】
ハウジング(1)に回転不能に拘束された歯付きリング(20)をさらに含み、該歯付きリング(20)は、用量設定モードにおいてクラッチスリーブ(23)をハウジング(1)に回転不能に連結し、用量投薬モードにおいてハウジング(1)からクラッチスリーブ(23)を回転可能にデカップリングする、第3のクラッチインターフェース(23b、20)の一部である、請求項1から9のいずれか1項に記載の用量設定および駆動機構。
【請求項14】
クラッチスリーブ(23)とダイヤルスリーブ(5)とを回転不能に連結し、回転可能にデカップリングするための第4のクラッチインターフェースは、ダイヤルスリーブ(5)に回転不能に拘束された別個のリング(21)を含み、クラッチスリーブ上に形成された対応する歯のリング(23a)に係合するための歯のリング(21a)を含む、請求項1から9または13のいずれか1項に記載の用量設定および駆動機構。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の用量設定および駆動機構と、薬剤を収容するカートリッジ(3)とを含む、いくつかのユーザ可変薬剤用量を選択および投薬するための使い捨て薬物送達デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、薬物送達デバイスにおいて使用するのに適切な用量設定および駆動機構を対象としている。
【背景技術】
【0002】
ペン型薬物送達デバイスには、正式な医学的訓練を受けていない人による定期的な注射が行われる用途がある。これは、糖尿病患者の間ではますます一般的になっている可能性があり、自己治療によって、このような患者が自身の疾患の事実上の管理を実行することが可能である。実際には、そのような薬物送達デバイスによって、ユーザがいくつかのユーザ可変薬剤用量を個別に選択および投薬することが可能である。本発明は、設定用量を増加または減少させることができない、所定の用量の投薬だけを可能にする、いわゆる固定用量デバイスを対象としていない。
【0003】
基本的に、2つのタイプの薬物送達デバイス:再設定可能なデバイス(すなわち、再使用可能)および再設定不能なデバイス(すなわち、使い捨て)がある。たとえば、使い捨てペン送達デバイスは、自己完結型のデバイスとして供給される。このような自己完結型のデバイスは、着脱可能な充填済みカートリッジを有しない。そうではなく、デバイス自体を破壊しない限り、充填済みカートリッジをそれらのデバイスから取り外して交換することができない。その結果、このような使い捨てデバイスは、再設定可能な用量設定機構を有する必要がない。
【0004】
それらのタイプのペン送達デバイス(大型の万年筆に似ていることが多いためそのように呼ばれる)は、概して、3つの主要な要素:ハウジングまたはホルダ内に収容されることが多い、カートリッジを含むカートリッジセクションと;カートリッジセクションの一端に連結されたニードルアセンブリと;カートリッジセクションの他端に連結されたドーズセクションとを含む。カートリッジ(アンプルと称されることが多い)は、典型的には、医薬品(たとえば、インスリン)で充填されたリザーバと、カートリッジリザーバの一端に位置する可動のゴムタイプの栓またはストッパと、くびれていることが多い他端に位置する穿孔可能なゴム封止部を有する上部とを含む。ゴム封止部を適位置に保持するために、典型的には、圧着される環状の金属バンドが使用される。カートリッジハウジングは、典型的には、プラスチックから作ることができるが、カートリッジリザーバは従来、ガラスから作られてきた。
【0005】
ニードルアセンブリは、典型的には、交換可能な両頭針アセンブリである。注射の前に、カートリッジアセンブリの一端に、交換可能な両頭針アセンブリが取り付けられ、用量が設定され、次いで、設定された用量が投与される。このような着脱可能なニードルアセンブリは、カートリッジアセンブリの穿孔可能な封止端部にねじ込むかまたは押し込む(すなわち、カチッと留める)ことができる。
【0006】
ドーズセクションまたは用量設定機構は、典型的には、ペンデバイスのうちの、用量を設定(選択)するために使用される部分である。注射中に、用量設定機構内に収容されたスピンドルまたはピストンロッドが、カートリッジの栓またはストッパを押圧する。その力によって、カートリッジ内に収容された医薬品は、取り付けられたニードルアセンブリを通して注射される。ほとんどの薬物送達デバイスおよび/またはニードルアセンブリの製造者および供給者によって一般に推奨されるように、注射後にニードルアセンブリは取り外され、廃棄される。
【0007】
薬物送達デバイスのタイプのさらなる差異は駆動機構にあり:たとえばユーザが注射ボタンに力を加えることによって手動で駆動されるデバイスと、ばねなどによって駆動されるデバイスと、それらの2つの概念を組み合わせたデバイス、すなわち、やはりユーザが注射力をかけることを必要とするばねアシスト式のデバイスとがある。ばねタイプのデバイスは、予め負荷が加えられたばねおよび用量選択中にユーザによって負荷が加えられるばねを含む。いくつかのエネルギーが蓄積されたデバイスは、ばねの予負荷と、ユーザによってたとえば用量設定中に供給される追加的エネルギーとの組合せを使用する。
【0008】
特許文献1では、ねじりばねを含む薬物送達デバイス(注射デバイス)が開示されており、そのねじりばねは、用量設定中には緊張し、用量投薬中にはピストンロッドを回転させるために蓄積されたエネルギーを放出する。そのデバイスの用量設定および駆動機構は、軸方向に変位可能な駆動スリーブを含み、駆動スリーブは、別個の支承部(圧力フット)を備える回転可能なピストンロッドと直接的に係合し、それに回転不能に拘束される。駆動スリーブの軸方向運動は、ボタンの軸方向の作動によって引き起こされ、そうすることで、用量設定モードと用量投薬モードとの間で切り替える。その公知のデバイスの用量設定および駆動機構には、ボタンとクラッチプレートとの間に位置するラチェット機能に軸方向の力を加え、クラッチプレートを駆動スリーブに付勢するクラッチばねが設けられている。
【0009】
さらなるばね駆動の薬物送達デバイスが、特許文献2によって知られている。その公知のデバイスでは、ハウジングに対して軸方向に可動のダイヤルスリーブが設けられている。さらに、用量設定モードと用量投薬モードとの間で切り替えるためのボタンが設けられている。このようなボタンは、ダイヤルスリーブに対して軸方向にロックされているが、自由に回転する。用量投薬中には、ピストンロッドのタイプの被駆動部材が回転可能である。スリーブ形状のクラッチ要素がダイヤルスリーブから軸方向および径方向に離間して設けられている。その公知のデバイスは、クラッチ要素に作用するクラッチばねを含まない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】EP2983755B1
【特許文献2】WO2020/094699A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の一目的は、製造および組み立てを単純化しならびに用量投薬のために必要な力を軽減させる、改善された用量設定および駆動機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
その目的は、請求項1に記載の用量設定および駆動機構ならびに請求項15に記載の薬物送達デバイスによって達成される。
【0013】
本発明の第1の態様によれば、その目的は、静止ハウジングと、そのハウジングに軸方向に拘束されるがハウジングに対して回転可能である、ダイヤルスリーブと、用量設定モードと用量投薬モードとの間で切り替えるために操作可能なボタンと、ハウジングに対して軸方向に可動に案内される、被駆動部材と、用量投薬方向における駆動部材の回転が被駆動部材の軸方向変位に変換されるように、ハウジングに軸方向に拘束され、被駆動部材に連結される、駆動部材と、その駆動部材に対して回転不能に拘束されるが軸方向に可動であるクラッチスリーブとを含む、用量設定および駆動機構によって達成される。第1のクラッチインターフェースは、ボタンとハウジングとの間に設けられてよく、第2のクラッチインターフェースは、ボタンとダイヤルスリーブとの間に設けられてよく、第3のクラッチインターフェースは、駆動部材またはクラッチスリーブとハウジングとの間に設けられてよく、第4のクラッチインターフェースは、クラッチスリーブとダイヤルスリーブとを回転不能に連結し、回転可能にデカップリングするために設けられてよい。本開示のこの態様によれば、用量設定モードにおいて、ボタンは、第1のクラッチインターフェースによってハウジングから回転可能にデカップリングされており、ボタンは、第2のクラッチインターフェースによってダイヤルスリーブに回転不能に連結されており、クラッチスリーブは、第4のクラッチインターフェースによってダイヤルスリーブからデカップリングされている。さらに、用量投薬モードにおいて、ボタンは、第1のクラッチインターフェースによってハウジングに回転不能に連結されており、ボタンは、第2のクラッチインターフェースによってダイヤルスリーブから回転可能にデカップリングされており、クラッチスリーブは、第4のクラッチインターフェースによってダイヤルスリーブに連結されている。
【0014】
静止ハウジングは、たとえば、ダイヤルスリーブ、駆動部材、被駆動部材、およびクラッチスリーブを部分的に受けるおよび/または入れる、外側のハウジングシェルまたはハウジング本体でよい。ハウジングは、たとえば、用量設定および駆動機構の内部構成部分の少なくとも一部分、たとえば、ダイヤルスリーブの一部分を視認可能にする細長い窓または開口部を少なくとも1つ有することができる。
【0015】
機構の、たとえば外側の、ハウジングは、薬物送達デバイスのハウジングでよく、遠位端と近位端との間を延びる中心軸を画成することができる。「遠位」または「下側」は、本明細書において、注射デバイスすなわち薬物送達デバイスもしくはその構成要素において使用されるときに、用量設定および駆動機構の投薬端部の方を向くかもしくは指すように配置されているかもしくは配置予定である、ならびに/または、近位端から離れる方を指す、近位端から離れる方を向くように配置予定である、もしくは近位端から離れる方を向く、方向、端部、または面を特定するために用いられている。一方、「近位」または「上側」は、薬物送達デバイスまたはその構成要素の投薬端部からおよび/または遠位端から離れる方を向くかまたは指すように配置されているかまたは配置予定である、方向、端部、または面を特定するために用いられている。遠位端は、投薬端部に最も近いおよび/または近位端から最も遠い端部でよく、近位端は、投薬端部から最も遠い端部でよい。近位面は、遠位端から離れる方および/または近位端に向かう方を向くことができる。遠位面は、遠位端に向かう方および/または近位端から離れる方を向くことができる。投薬端部は針端部でよく、そこでは、針ユニットが、たとえばデバイスに取り付けられているかまたは取り付け予定である。「軸方向」、「径方向」、または「周方向」という用語は、本明細書で用いられているように、デバイス、カートリッジ、ハウジング、またはカートリッジホルダの主長手方向軸、たとえば、カートリッジ、カートリッジホルダ、または薬物送達デバイスの近位端および遠位端を通って延びる軸に対して用いることができる。
【0016】
ダイヤルスリーブは、たとえばハウジングの窓または開口部を通して視認するときに、選択された用量の量を示すために使用できる、一連の数字または記号を外面上に有する数字スリーブとすることができる。ダイヤルスリーブは、ねじりばねのフック形部分を取り付けるための開口部を備えることができる。ダイヤルスリーブは、少なくとも2つの別々の構成部分、たとえば、下側部分または遠位部分および上側部分または近位部分を含むことができ、それらは、一体構成部品のように一緒に動くように、組み立て中に互いに不動に拘束することができる。たとえば、ダイヤルスリーブの遠位部分は、少なくとも一部分に、たとえばその近位部分に、螺旋の雄ねじ山を有する、実質的に筒状のスリーブとすることができる。ダイヤルスリーブの遠位部分を軸方向に拘束するために、スナップ係合のための円形のビードまたは溝を設けることができる。ダイヤルスリーブの近位部分はリング形状でよい。近位部分は、ダイヤルスリーブをさらなる構成要素に回転不能に連結するための、たとえば、ボタンとダイヤルスリーブとを回転不能に連結し、回転可能にデカップリングするためのクラッチインターフェースを形成するための、歯のリングを少なくとも1つ含むことができる。遠位部分および近位部分は、ダイヤルスリーブを形成するように遠位部分と近位部分とを不動に連結するための、対応する係合機能を備えることができる。ダイヤルスリーブの内側部分は、クラッチスリーブの対応する機能に係合するための、一連の歯または1つもしくはそれ以上のスプラインおよび/もしくは溝を備えることができる。
【0017】
ボタンは、用量設定および駆動機構の近位端に位置することができ、ならびに/またはそのような用量設定および駆動機構を含む薬物送達デバイスの近位端を形成することができる。ボタンは、ユーザが作動させるための近位を向く面と、その面から遠位に延びる、たとえば中央の、ステムとを有することができる。一連の歯は、近位面から遠位に延びることができ、たとえば、ボタンとハウジングとを回転不能に連結し、回転可能にデカップリングするための第1のクラッチインターフェースを形成する、部分的または全体的な歯のリングである。追加的な一連の歯を、ステムの径方向外側に配置することができる。ステムは、ボタンをさらなる構成要素に回転不能に連結して、たとえば第2のクラッチインターフェースを形成するための、さらなる一連の歯を備えることができる。
【0018】
被駆動部材は、少なくとも1つの軸方向に延びる案内機能、たとえばスロットおよび/またはリブを有する、ねじ付きの親ねじとすることができる。被駆動部材は、被駆動部材がハウジングに対して軸方向に変位可能であるがハウジングに回転不能に拘束されるように、組み立てられるときに、ハウジングの対応する案内機能中を、たとえば、ハウジングのインサート中を案内されることが可能である。被駆動部材のねじ付き部分は、対応するねじ山に、たとえば、駆動部材の雌ねじ山に係合する。被駆動部材の遠位端は、カートリッジにおいてゴム栓に当接するための圧力フットを形成する大きい直径を有することができる。言い換えれば、圧力フットは、被駆動部材のうちのそれに不動に連結された一体形成部分である。
【0019】
用量設定および駆動機構はさらに、クラッチスリーブが駆動部材に対して近位に付勢されるように駆動部材とクラッチスリーブとの間に介在されたクラッチばねを含むことができる。たとえば、クラッチばねは、クラッチスリーブの内側に位置決めされ、駆動部材とクラッチスリーブとの間で軸方向に作用することができる。投薬中に被駆動部材によって駆動部材に加えられる軸方向の反応力の一部を、接触スピゴットが小径であるため摩擦損失が低いクラッチスリーブとボタンとの間のインターフェースを通してクラッチばねが迂回させるので、駆動部材とハウジングとの間の摩擦損失は軽減され得る。言い換えれば、本開示による用量設定および駆動機構の例において、用量投薬中にカートリッジ中の栓から被駆動部材に作用する軸方向の力は、被駆動部材からねじ付きインターフェースを介して駆動部材に少なくとも部分的に伝達され、駆動部材からクラッチばねを介してクラッチスリーブに伝達され、スピゴット接触インターフェースを介して反応を受けてボタンに至る。ここで、ボタンとクラッチスリーブとの間のスピゴット接触インターフェースの直径は、駆動部材の外径よりも小さい。
【0020】
駆動部材は、管状の要素、たとえば、細長いスリーブの形態またはナットの形態の要素とすることができる。駆動部材は、ねじ付きの被駆動部材に係合するための雌ねじ山を備える。たとえば、被駆動部材は、ハウジングに回転不能に拘束されており、ねじ付きインターフェースによって駆動部材に連結されることが可能である。駆動部材は、駆動部材をハウジングに軸方向に拘束するための径方向に突出する外側フランジを備えることができる。さらに、駆動部材は、駆動部材をクラッチスリーブに回転不能に連結するための、1つまたはそれ以上の外側スプラインおよび/または溝を含むことができる。より詳細には、駆動部材は、クラッチスリーブに恒久的に回転不能に拘束され得るが、クラッチスリーブに対して軸方向に変位可能とすることができる。圧縮ばね、たとえばクラッチばねは、駆動部材の近位端に当接することができる。さらに、駆動部材またはクラッチスリーブは、用量投薬方向の反対方向におけるハウジングに対する駆動部材およびクラッチスリーブの回転を防止するための、第3のクラッチインターフェースを形成する可撓性アームまたは一連の外側スプラインもしくは歯を含むことができる。さらに、投薬中に本体と相互作用する駆動部材上の可撓性アームによって、投薬クリッカを形成することができる。このインターフェースは、最終用量止め具の負荷の間に、逆方向にも負荷がかけられる。
【0021】
クラッチスリーブは、駆動部材の対応するスプラインおよび/または溝に係合するための、1つもしくはそれ以上の内部スプラインおよび/または溝を、たとえばその遠位に面する端部分に備える管状の要素である。言い換えれば、駆動部材およびクラッチスリーブは、クラッチスリーブを駆動部材に恒久的に回転不能に拘束しながらそれらの間の相対的軸方向運動を可能にするための、軸方向に延びる溝およびスプラインを含むことができる。クラッチスリーブは、圧縮ばね、たとえばクラッチばねを受けてそれに当接する、内部着座部、たとえば凹部を有することができる。さらに、クラッチスリーブは、ダイヤルスリーブに解放可能に回転不能に係合する第4のクラッチインターフェースを形成する、1つもしくはそれ以上の外部の歯または一連のスプラインおよび/もしくは溝を備えることができる。言い換えれば、クラッチスリーブは、ダイヤルスリーブに対するクラッチスリーブの軸方向変位によって、ダイヤルスリーブに対して回転不能に連結され得、回転可能にデカップリングされ得る。
【0022】
用量設定および駆動機構において、ボタンの遠位の動きはクラッチスリーブに伝達され、クラッチスリーブの近位の動きはボタンに伝達される。そのことによって、ダイヤルスリーブを連結しデカップリングするためのクラッチスリーブの運動が可能になる。
【0023】
用量設定および駆動機構はさらに、ハウジングとダイヤルスリーブとの間に介在された駆動ばね、たとえばねじりばねを含むことができる。その点において、駆動ばねは、ダイヤルスリーブに直接的に取り付けられてよい。さらに、駆動ばねは、ハウジングに少なくとも回転不能に恒久的に拘束されるインサートを介してハウジングに取り付けることができる。代替例として、駆動ばねは、ハウジングに直接的に取り付けることができる。言い換えれば、第1の方向におけるハウジングに対するダイヤルスリーブの回転、たとえば設定用量を増やす回転は、ねじりばねを緊張させ、第1の方向の反対の第2の方向におけるハウジングに対するダイヤルスリーブの回転、たとえば設定用量を減らす回転は、ねじりばねを解放する。ねじりばねは、ハウジングに対するダイヤルスリーブのゼロ単位(0U)位置において、すなわち、用量が設定されていないときに、ねじりばねによってダイヤルスリーブにトルクが加えられるように予めストレスをかけられてよい。
【0024】
用量設定および駆動機構は、用量を設定するためにユーザが操作可能な別個のダイヤルグリップを含むことができる。ボタンは、ダイヤルグリップに対して回転不能に拘束されているが、軸方向に変位可能とすることができる。さらに、ダイヤルグリップは、ハウジングに軸方向に拘束され得る。好ましくは、緩めることが可能なラチェット要素を含む第5のクラッチインターフェースが、ハウジングとダイヤルグリップとを回転可能に連結するために設けられており、用量設定モードにおいて、駆動ばねの駆動トルクまたは駆動力は第5のクラッチインターフェースを介して反応を受ける。言い換えれば、この第5のクラッチインターフェースは、用量が設定済みのときに、構成部分の意図しない用量投薬の動きを防止する。それでも、第5のクラッチインターフェースは、両方向(設定用量を増やす方向または減らす方向)において、ユーザが用量設定トルクをダイヤルグリップに加えることによって緩めることができる。
【0025】
本開示のさらなる独立の態様によれば、用量設定および駆動機構はさらに、たとえばハウジングに回転不能に拘束されたハウジング(または本体)インサートの形態の、一方向ラチェットを含むことができ、その一方向ラチェットは、用量投薬方向におけるハウジングに対する駆動部材の回転を可能にするが、用量投薬方向の反対方向におけるハウジングに対する駆動部材の回転を防止する第3のインターフェースである。さらに、クラッチスリーブとダイヤルスリーブとを回転不能に連結し、回転可能にデカップリングするための第4のクラッチインターフェースは、クラッチスリーブ上に形成された歯のリングと、ダイヤルスリーブ上に形成された対応する歯のリングとを含むことができる。
【0026】
さらに、前述の一方向ラチェットに追加的または代替的に、ダイヤル設定デテントを設けることができる。より詳細には、ラチェット要素は、ダイヤルグリップに画成された対応するデテント位置に係合するための1つまたはそれ以上のデテントを有する、ハウジングに回転不能に拘束される、金属押圧体、たとえば曲げられたストリップでよい。
【0027】
この例において、ボタンは、クラッチスリーブに直接的に当接することができる。したがって、先行技術デバイスに存在するようなボタンとクラッチスリーブとの間の別個のクラッチプレートを省略することができる。
【0028】
本開示のさらなる独立の態様によれば、用量設定および駆動機構はさらに、ハウジングに回転不能に拘束された歯付きリングを含むことができ、その歯付きリングは、用量設定モードにおいて駆動部材をハウジングに回転不能に連結し、用量投薬モードにおいてハウジングから駆動部材を回転可能にデカップリングするための第3のインターフェースである。歯付きリングは、ハウジング内に少なくとも回転不能に固定されるインサートでよい。さらに、クラッチスリーブとダイヤルスリーブとを回転不能に連結し、回転可能にデカップリングするための第4のクラッチインターフェースは、別個のリングを含むことができ、その別個のリングは、ダイヤルスリーブに回転不能に拘束され、クラッチスリーブ上に形成された対応する歯のリングに係合するための歯のリングを含む。別個のリングは、クラッチスリーブの近位端に配置されるクラッチプレートとして構成することができる。本例において、ボタンは、別個のリング(クラッチプレート)を介して間接的にクラッチスリーブに当接することができる。
【0029】
本開示のさらなる態様によれば、薬物送達デバイス、たとえば、使い捨て薬物送達デバイスは、上記で定義された用量設定および駆動機構を含む。薬物送達デバイスはさらに、用量設定および駆動機構に恒久的に取り付けられた容器レセプタクルを含むことができる。代替例として、容器レセプタクルは、用量設定および駆動機構に解放可能に取り付けることができる。容器レセプタクルは、薬剤を収容する容器、たとえば、カートリッジを受けるように適用されている。
【0030】
「薬物」または「薬剤」という用語は、本明細書では同義的に用いられ、1つもしくはそれ以上の活性医薬成分またはそれらの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物と、場合により薬学的に許容可能な担体と、を含む医薬製剤を記述する。活性医薬成分(「API」)とは、最広義には、ヒトまたは動物に対して生物学的効果を有する化学構造体のことである。薬理学では、薬剤または医薬は、疾患の治療、治癒、予防、または診断に使用されるか、さもなければ身体的または精神的なウェルビーイングを向上させるために使用される。薬物または薬剤は、限定された継続期間で、または慢性障害では定期的に使用可能である。
【0031】
以下に記載されるように、薬物または薬剤は、1つもしくはそれ以上の疾患の治療のために各種タイプの製剤中に少なくとも1つのAPIまたはその組合せを含み得る。APIの例としては、500Da以下の分子量を有する低分子、ポリペプチド、ペプチド、およびタンパク質(たとえば、ホルモン、成長因子、抗体、抗体フラグメント、および酵素)、炭水化物および多糖、ならびに核酸、二本鎖または一本鎖DNA(ネイキッドおよびcDNAを含む)、RNA、アンチセンス核酸たとえばアンチセンスDNAおよびRNA、低分子干渉RNA(siRNA)、リボザイム、遺伝子、およびオリゴヌクレオチドが挙げられ得る。核酸は、ベクター、プラスミド、またはリポソームなどの分子送達システムに取り込み可能である。1つまたはそれ以上の薬物の混合物も企図される。
【0032】
薬物または薬剤は、薬物送達デバイスでの使用に適合化された一次パッケージまたは「薬物容器」に包含可能である。薬物容器は、たとえば、1つもしくはそれ以上の薬物の収納(たとえば、短期または長期の収納)に好適なチャンバを提供するように構成されたカートリッジ、シリンジ、リザーバ、または他の硬性もしくは可撓性のベッセルであり得る。たとえば、いくつかの場合には、チャンバは、少なくとも1日間(たとえば、1日間~少なくとも30日間)にわたり薬物を収納するように設計可能である。いくつかの場合には、チャンバは、約1カ月~約2年間にわたり薬物を収納するように設計可能である。収納は、室温(たとえば、約20℃)または冷蔵温度(たとえば、約-4℃~約4℃)で行うことが可能である。いくつかの場合には、薬物容器は、投与される医薬製剤の2つ以上の成分(たとえば、APIと希釈剤、または2つの異なる薬物)を各チャンバに1つずつ個別に収納するように構成されたデュアルチャンバカートリッジであり得るか、またはそれを含み得る。かかる場合には、デュアルチャンバカートリッジの2つのチャンバは、人体もしくは動物体への投薬前および/または投薬中に2つ以上の成分間の混合が可能になるように構成可能である。たとえば、2つのチャンバは、互いに流体連通するように(たとえば、2つのチャンバ間の導管を介して)かつ所望により投薬前にユーザによる2つの成分の混合が可能になるように構成可能である。代替的または追加的に、2つのチャンバは、人体または動物体への成分の投薬時に混合が可能になるように構成可能である。
【0033】
本明細書に記載の薬物送達デバイスに含まれる薬物または薬剤は、多くの異なるタイプの医学的障害の治療および/または予防のために使用可能である。障害の例としては、たとえば、糖尿病または糖尿病に伴う合併症たとえば糖尿病性網膜症、血栓塞栓障害たとえば深部静脈血栓塞栓症または肺血栓塞栓症が挙げられる。障害のさらなる例は、急性冠症候群(ACS)、アンギナ、心筋梗塞、癌、黄斑変性、炎症、枯草熱、アテローム硬化症および/または関節リウマチである。APIおよび薬物の例は、ローテリステ2014年(Rote Liste 2014)(たとえば、限定されるものではないがメイングループ12(抗糖尿病薬剤)または86(オンコロジー薬剤))やメルク・インデックス第15版(Merck Index,15th edition)などのハンドブックに記載されているものである。
【0034】
1型もしくは2型糖尿病または1型もしくは2型糖尿病に伴う合併症の治療および/または予防のためのAPIの例としては、インスリン、たとえば、ヒトインスリン、もしくはヒトインスリンアナログもしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)、GLP-1アナログもしくはGLP-1レセプターアゴニスト、はそのアナログもしくは誘導体、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤、またはそれらの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、またはそれらのいずれかの混合物が挙げられる。本明細書で用いられる場合、「アナログ」および「誘導体」という用語は、天然に存在するペプチドに存在する少なくとも1つのアミノ酸残基の欠失および/または交換によりおよび/または少なくとも1つのアミノ酸残基の付加により天然に存在するペプチドの構造たとえばヒトインスリンの構造から形式的に誘導可能な分子構造を有するポリペプチドを指す。付加および/または交換アミノ酸残基は、コード可能アミノ酸残基または他の天然に存在する残基または純合成アミノ酸残基のどれかであり得る。インスリンアナログは、「インスリンレセプターリガンド」とも呼ばれる。特に、「誘導体」という用語は、天然に存在するペプチドの構造から形式的に誘導可能な分子構造、たとえば、1つまたはそれ以上の有機置換基(たとえば脂肪酸)がアミノ酸の1つまたはそれ以上に結合したヒトインスリンの分子構造を有するポリペプチドを指す。場合により、天然に存在するペプチドに存在する1つまたはそれ以上のアミノ酸が、欠失し、および/または非コード可能アミノ酸を含めて他のアミノ酸によって置き換えられ、または天然に存在するペプチドに非コード可能なものを含めてアミノ酸が付加される。
【0035】
インスリンアナログの例は、Gly(A21)、Arg(B31)、Arg(B32)ヒトインスリン(インスリングラルギン);Lys(B3)、Glu(B29)ヒトインスリン(インスリングルリジン);Lys(B28)、Pro(B29)ヒトインスリン(インスリンリスプロ);Asp(B28)ヒトインスリン(インスリンアスパルト);位置B28のプロリンがAsp、Lys、Leu、ValまたはAlaに置き換えられたうえに位置B29のLysがProに置き換えられていてもよいヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28~B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリンおよびDes(B30)ヒトインスリンである。
【0036】
インスリン誘導体の例は、たとえば、B29-N-ミリストイル-des(B30)ヒトインスリン、Lys(B29)(N-テトラデカノイル)-des(B30)ヒトインスリン(インスリンデテミル、レベミル(Levemir)(登録商標));B29-N-パルミトイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ミリストイルヒトインスリン;B29-N-パルミトイルヒトインスリン;B28-N-ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28-N-パルミトイル-LysB28ProB29ヒトインスリン;B30-N-ミリストイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30-N-パルミトイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29-N-(N-パルミトイル-ガンマ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン、B29-N-オメガ-カルボキシペンタデカノイル-ガンマ-L-グルタミル-des(B30)ヒトインスリン(インスリンデグルデク、トレシーバ(Tresiba)(登録商標));B29-N-(N-リトコリル-ガンマ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)-des(B30)ヒトインスリンおよびB29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンである。
【0037】
GLP-1、GLP-1アナログおよびGLP-1レセプターアゴニストの例は、たとえば、リキシセナチド(リキスミア(Lyxumia)(登録商標))、エキセナチド(エキセンジン-4、バイエッタ(Byetta)(登録商標)、ビデュリオン(Bydureon)(登録商標)、ヒラモンスターの唾液腺により産生される39アミノ酸ペプチド)、リラグルチド(ビクトーザ(Victoza)(登録商標))、セマグルチド、タスポグルチド、アルビグルチド(シンクリア(Syncria)(登録商標))、デュラグルチド(トルリシティ(Trulicity)(登録商標))、rエキセンジン-4、CJC-1134-PC、PB-1023、TTP-054、ラングレナチド/HM-11260C(エフペグレナチド)、HM-15211、CM-3、GLP-1エリゲン、ORMD-0901、NN-9423、NN-9709、NN-9924、NN-9926、NN-9927、ノデキセン、ビアドール-GLP-1、CVX-096、ZYOG-1、ZYD-1、GSK-2374697、DA-3091、MAR-701、MAR709、ZP-2929、ZP-3022、ZP-DI-70、TT-401(ペガパモドチド(Pegapamodtide))、BHM-034、MOD-6030、CAM-2036、DA-15864、ARI-2651、ARI-2255、チルゼパチド(LY3298176)、バマドゥチド(Bamadutide)(SAR425899)、エキセナチド-XTENおよびグルカゴン-Xtenである。
【0038】
オリゴヌクレオチドの例は、たとえば、家族性高コレステロール血症の治療のためのコレステロール低下アンチセンス治療剤ミポメルセンナトリウム(キナムロ(Kynamro)(登録商標))、またはアルポート症候群の治療のためのRG012である。
【0039】
DPP4阻害剤の例は、リナグリプチン、ビダグリプチン、シタグリプチン、デナグリプチン、サキサグリプチン、ベルベリンである。
【0040】
ホルモンの例としては、脳下垂体ホルモンもしくは視床下部ホルモンまたはレギュラトリー活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニスト、たとえば、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(Somatropine)(ソマトロピン(Somatropin))、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、リュープロレリン、ブセレリン、ナファレリン、およびゴセレリンが挙げられる。
【0041】
多糖の例としては、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリンもしくは超低分子量ヘパリンもしくはそれらの誘導体、もしくは硫酸化多糖たとえばポリ硫酸化形の上述した多糖、および/またはそれらの薬学的に許容可能な塩が挙げられる。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容可能な塩の例は、エノキサパリンナトリウムである。ヒアルロン酸誘導体の例は、ハイランG-F20(シンビスク(Synvisc)(登録商標))、ヒアルロン酸ナトリウムである。
【0042】
本明細書で用いられる「抗体」という用語は、イムノグロブリン分子またはその抗原結合部分を指す。イムノグロブリン分子の抗原結合部分の例としては、抗原への結合能を保持するF(ab)およびF(ab’)2フラグメントが挙げられる。抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体、キメラ抗体、脱免疫化もしくはヒト化抗体、完全ヒト抗体、非ヒト(たとえばネズミ)抗体、または一本鎖抗体であり得る。いくつかの実施形態では、抗体は、エフェクター機能を有するとともに補体を固定可能である。いくつかの実施形態では、抗体は、Fcレセプターへの結合能が低減されているか、または結合能がない。たとえば、抗体は、Fcレセプターへの結合を支援しない、たとえば、Fcレセプター結合領域の突然変異もしくは欠失を有するアイソタイプもしくはサブタイプ、抗体フラグメントまたは突然変異体であり得る。抗体という用語は、4価二重特異的タンデムイムノグロブリン(TBTI)および/またはクロスオーバー結合領域配向を有する二重可変領域抗体様結合タンパク質(CODV)に基づく抗原結合分子も含む。
【0043】
「フラグメント」または「抗体フラグメント」という用語は、完全長抗体ポリペプチドを含まないが依然として抗原に結合可能な完全長抗体ポリペプチドの少なくとも一部分を含む抗体ポリペプチド分子由来のポリペプチド(たとえば、抗体重鎖および/または軽鎖ポリペプチド)を指す。抗体フラグメントは、完全長抗体ポリペプチドの切断部分を含み得るが、この用語は、かかる切断フラグメントに限定されるものではない。本発明に有用な抗体フラグメントとしては、たとえば、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、scFv(一本鎖Fv)フラグメント、線状抗体、単一特異的または多重特異的な抗体フラグメント、たとえば、二重特異的、三重特異的、四重特異的および多重特異的抗体(たとえば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)、1価または多価抗体フラグメント、たとえば、2価、3価、4価および多価の抗体、ミニボディ、キレート化組換え抗体、トリボディまたはビボディ、イントラボディ、ナノボディ、小モジュール免疫医薬(SMIP)、結合ドメインイムノグロブリン融合タンパク質、ラクダ化抗体、およびVHH含有抗体が挙げられる。抗原結合抗体フラグメントの追加の例は当技術分野で公知である。
【0044】
「相補性決定領域」または「CDR」という用語は、特異的抗原認識を媒介する役割を主に担う、重鎖および軽鎖の両方のポリペプチドの可変領域内の短いポリペプチド配列を指す。「フレームワーク領域」という用語は、CDR配列でないかつ抗原結合が可能になるようにCDR配列の適正配置を維持する役割を主に担う、重鎖および軽鎖の両方のポリペプチドの可変領域内のアミノ酸配列を指す。フレームワーク領域自体は、典型的には抗原結合に直接関与しないが、当技術分野で公知のように、ある特定の抗体のフレームワーク領域内のある特定の残基は、抗原結合に直接関与し得るか、またはCDR内の1つもしくはそれ以上のアミノ酸と抗原との相互作用能に影響を及ぼし得る。
【0045】
抗体の例は、抗PCSK-9 mAb(たとえば、アリロクマブ)、抗IL-6 mAb(たとえば、サリルマブ)、および抗IL-4 mAb(たとえば、デュピルマブ)である。
【0046】
本明細書に記載のいずれのAPIの薬学的に許容可能な塩も、薬物送達デバイスで薬物または薬剤に使用することが企図される。薬学的に許容可能な塩は、たとえば、酸付加塩および塩基性塩である。
【0047】
本明細書に記載されているAPIの各種成分、製剤、装置、方法、システム、および実施形態の修正(追加および/または削除)は、このような修正およびそのあらゆる等価物を包含する本発明の全範囲および精神から逸脱することなく行うことができることを、当業者であれば理解するであろう。
【0048】
例示的な薬物送達デバイスは、ISO11608-1:2014(E)のセクション5.2の表1に記載されているような針ベースの注射システムを含むことができる。ISO11608-1:2014(E)に記載されているように、針ベースの注射システムは、複数回用量の容器システムと単回用量(部分排出または全量排出)の容器システムとに大別することができる。容器は、交換可能な容器でもよく、交換不能な一体型容器でもよい。
【0049】
ISO11608-1:2014(E)にさらに記載されているように、複数回用量の容器システムは、交換可能な容器を有する針ベースの注射デバイスを含むことができる。このようなシステムにおいて、各容器は複数回用量を保持し、そのサイズは、固定でも可変(ユーザによって予め設定される)でもよい。別の複数回用量の容器システムは、交換不能な一体型容器を有する針ベースの注射デバイスを含むことができる。このようなシステムにおいて、各容器は複数回用量を保持し、そのサイズは固定でも可変(ユーザによって予め設定される)でもよい。
【0050】
ISO11608-1:2014(E)にさらに記載されているように、単回用量の容器システムは、交換可能な容器を有する針ベースの注射デバイスを含むことができる。このようなシステムの一例において、各容器は単回用量を保持し、そうすることで、送達可能な体積全体が排出される(全量排出)。さらなる例において、各容器は単回用量を保持し、そうすることで、送達可能な体積の一部分が排出される(部分排出)。やはりISO11608-1:2014(E)に記載されているように、単回用量の容器システムは、交換不能な一体型容器を有する針ベースの注射デバイスを含むことができる。このようなシステムの一例において、各容器は単回用量を保持し、そうすることで、送達可能な体積全体が排出される(全量排出)。さらなる例において、各容器は単回用量を保持し、そうすることで、送達可能な体積の一部分が排出される(部分排出)。
【0051】
ここで、非限定的な本発明の例示的な実施形態を、添付の図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】本発明の第1の実施形態による薬物送達デバイスの斜視図を示す。
【
図4】
図1の薬物送達デバイスのサブアセンブリを示す。
【
図5a】休止状態(
図5a)およびボタン押し下げ状態(
図5b)にある、
図1の薬物送達デバイスの用量設定および駆動機構の断面図を示す。
【
図5b】休止状態(
図5a)およびボタン押し下げ状態(
図5b)にある、
図1の薬物送達デバイスの用量設定および駆動機構の断面図を示す。
【
図6】
図1のデバイスのスプラインインサートおよびハウジングを示す。
【
図7】
図1のデバイスのハウジング、ラチェット要素、およびダイヤルグリップを断面図に示す。
【
図8】
図1のデバイスのボディインサート、駆動部材、およびクラッチスリーブを示す。
【
図10a】休止状態(
図10a)およびボタン押し下げ状態(
図10b)にある、
図1の薬物送達デバイスの一部分の部分断面面を示す。
【
図10b】休止状態(
図10a)およびボタン押し下げ状態(
図10b)にある、
図1の薬物送達デバイスの一部分の部分断面面を示す。
【
図11】本発明の第2の実施形態による薬物送達デバイスの分解図を示す。
【
図13】
図11の薬物送達デバイスのクラッチプレートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
各図において、同一の要素、同一に作用する要素、または同じ種類の要素は、同じ参照番号を有する場合がある。
【0054】
以下では、インスリン注射デバイスを参照しながらいくつかの実施形態を説明する。ただし、本開示はそのような用途に限定されるものではなく、他の薬剤を排出するように構成された注射デバイス、または一般的な薬物送達デバイス、好ましくは、ペン型デバイスおよび/もしくは注射デバイスと共に等しく良好に展開され得る。
【0055】
図1から
図3は、用量設定および駆動機構を含む薬剤送達デバイスまたは薬物送達デバイスの斜視図、分解図、および断面図を示す。
図3から理解できるように、薬物送達デバイスならびにその用量設定および駆動機構のすべての構成部分が、共通の主長手方向軸Iの周りで同心に位置する。以下では、軸方向運動は、軸Iに平行な運動として理解するべきであり、回転は、軸Iを中心にした回転として理解するべきであり、横断方向の運動は、軸Iに垂直な運動として理解するできである。
【0056】
図示の薬物送達デバイスは、静止ハウジング1(本体)と、カートリッジ3を保持するためのカートリッジホルダ2と、ゲージ要素4と、数字スリーブの形態であり下側(遠位)部分6および上側(近位)部分7を含むダイヤルスリーブ5と、ねじりばねの形態の駆動ばね8と、クラッチスリーブ9と、ナット10と、ダイヤルグリップ11と、ボタン12と、親ねじの形態の被駆動部材13と、スプラインインサート14と、駆動部材15と、クラッチばね16と、一方向ラチェット18を含むボディインサート17と、デテント押圧体の形態のラチェット要素19とを含む。さらに、薬物送達デバイスはさらに、カートリッジホルダ2をカバーする着脱可能なキャップ(図示せず)を含むことができる。
【0057】
ボタン12は、ダイヤルグリップ11に恒久的にスプライン連結されている。ボタン12は、ボタンが押圧されていないときに、ダイヤルスリーブ5の上側部分7にもスプライン連結されているが、このようなスプライン連結インターフェースは、ボタン12が押圧されると接続解除される(第2のクラッチインターフェース)。ボタン12が押圧されると、ボタン12上のランプ様のスプライン12aがハウジング1上の対応するランプ様のスプライン1a(
図2)と係合されて、用量投薬中に、ボタン12の、したがって、ダイヤルグリップ11の回転が防止される(第1のクラッチインターフェース)。それらのスプラインは、ボタン12が解放されると係合解除し、用量をダイヤル設定することが可能になる。ボタン12の内側ステム12c上には追加的なセットの歯12bが設けられており、そのセットの歯12bは、ハウジング1に対するボタン12の軸方向位置に応じて、ダイヤルスリーブ5上の、より詳細には、ダイヤルスリーブ5の上側部分7上の歯の対応するリングと係合するかまたは係合解除する(第2のクラッチインターフェース)。ボタン12の近位端面から遠位に中央スピゴット12dが延びている(
図5b)。中央スピゴットは、クラッチスリーブ9の近位端面に形成されたスピゴット接触面9bに接触するように適用されている。
図8の例示的な実施形態において、スピゴット接触面9bは、クラッチスリーブ9の近位端面における中央凹所として形成されている。スピゴット12dおよびスピゴット接触面9bが小径であるため、スピゴット12dとスピゴット接触面9bとの間のインターフェースにおける相対的な回転が比較的低摩擦のトルクを引き起こす。
【0058】
ダイヤルグリップ11は、ハウジング1に軸方向に拘束されているが、ハウジング1に対して回転できるようにされている。ただし、ダイヤルグリップ11とハウジングとの間に介在されるラチェット要素19によって、ダイヤルグリップとハウジングとの間の自由な回転は防止されている。むしろ、このラチェット要素19を緩めるために一定量のトルクを加えなければならない。ダイヤルグリップ11は、ラチェット要素19に係合する歯付き内面11aを有する(
図7)。ダイヤルグリップ11は、スプライン連結インターフェースを介してボタン12に回転不能に拘束されている。
【0059】
ラチェット要素19は、各端部にあるフック機能19a(
図7)によってハウジング1に回転不能に拘束されており、ハウジング1とダイヤルグリップ11との間で軸方向に拘束されている。2つのニブ機能19bが、ダイヤルグリップの内側にあるランプ状表面と係合して、ダイヤル設定クラッチを形成している。ハウジング1において各ニブ19bの裏側に2つの大きいポケット1bがあることで、緩めている間はニブの径方向運動が可能になる。このようなダイヤル設定デテントまたはラチェット(第5のクラッチインターフェース)によって、駆動ばね8のトルクに抗して機構を保持しながら、ユーザが用量を増減させるようにダイヤル設定することが可能になる。
【0060】
ダイヤルスリーブ5の下側部分6は、数字スリーブを形成するように、組み立て中にダイヤルスリーブ5の上側部分7に不動に固定される。これらの構成要素は、専らモールドツーリングおよび組み立てを単純化するために、別々の構成要素になっている。このサブアセンブリは、遠位端に向かう軸方向並進運動ではなく回転を可能にする構成によって、ハウジング1に拘束されている。下側部分6には、薬剤のダイヤル設定された用量を示すために連続する数字が付されており、それらの数字は、ハウジング1においてゲージ構成要素4および窓を通して視認できる。
【0061】
ゲージ構成要素4は、スプライン連結インターフェースを介してハウジング1に対して、軸方向並進運動を可能にするが回転を防止するように拘束されている。ゲージ構成要素4は、その内面上に螺旋の構成を有し、その構成は、ダイヤルスリーブ5の回転がゲージ構成要素4の軸方向並進運動を引き起こすように、ダイヤルスリーブ5の下側部分6に形成されている螺旋のねじ山と係合する。ゲージ構成要素上のこのような螺旋の構成は、設定できる最小用量および最大用量を制限するために、ダイヤルスリーブ5の螺旋のねじ山の端部への当接も生み出す。
【0062】
ナット10は、任意選択の最終用量止め具機能を提供し、ダイヤルスリーブ5とクラッチスリーブ9との間に位置する。スプライン連結インターフェースを介してダイヤルスリーブ5に回転不能に拘束されている。ダイヤル設定中にのみ起きるダイヤルスリーブ5とクラッチスリーブ9との間の相対的な回転が起きるときに、ねじ付きインターフェースを介してクラッチスリーブ9上の螺旋の経路に沿ってクラッチスリーブ9に対して動く。
【0063】
クラッチスリーブ9は、クラッチばね16の近位の作用によって、ボタン12に抗して軸方向に付勢されている。ダイヤルスリーブ5との間のスプライン連結される歯インターフェースは、ダイヤル設定中には係合されていないが、ボタン12が押圧されると係合して、投薬中にクラッチスリーブ9とダイヤルスリーブ5との間の相対的な回転を防止する(第4のクラッチインターフェース)。さらなるスプライン連結インターフェースが、駆動部材15と恒久的に係合されて、クラッチスリーブ9と駆動部材15との間の回転不能な連結を維持しながら、相対的な軸方向の移動を可能にする。
【0064】
駆動部材15は、クラッチスリーブ9に回転不能にスプライン連結され(
図8)、ハウジング1とスプラインインサート14との間で軸方向に拘束される。クラッチばね16は、駆動部材15に対して遠位に作用する。可撓性アームが駆動部材15からボディインサート17上のラチェット歯の間に突出して、最終用量止め具が係合されるときの止め具当接を提供しながら、一方向ラチェット18を形成して投薬中に可聴のフィードバックを生み出す。
【0065】
ボディインサート17は、ハウジング1に不動に固定されており、駆動ばね8の一端のためのアンカを提供する。駆動部材15の可撓性アームと相互作用するラチェット歯も含む(第3のクラッチインターフェース)。
【0066】
駆動ばね8は、一端でボディインサート17に、他端でダイヤルスリーブ5に取り付けられている。駆動ばねは、機構がゼロ単位にダイヤル設定されているときにダイヤルスリーブ5にトルクを加えるように、組み立てられたときに予め巻かれている。用量を設定するためにダイヤルグリップ11を回転させる作用は、ハウジング1に対してダイヤルスリーブ5を回転させ、駆動ばね8をさらにチャージする。
【0067】
スプラインインサート14は、ハウジング1に不動に固定されており、被駆動部材13を回転不能に拘束するスプライン連結インターフェースを有する。たとえば、
図6に示されているように、いくつかの異なる回転位置で組み付けることができる。そのことは、プライミングに対する構成要素およびアセンブリの公差の影響を軽減し、したがって、必要なプライミングドーズの回数を減らす。
【0068】
被駆動部材13は、スプライン連結インターフェースを介してスプラインインサート14に回転不能に拘束されており、駆動部材15にねじ込まれている。駆動部材15が回転されると、ねじ係合が緩んで、被駆動部材13がスプラインインサート14に対して軸方向に動かされる。被駆動部材13が液体薬剤カートリッジ3に対して回転しないため、栓の接触面(圧力フット)は部材13のベースに組み込まれてよい。
【0069】
クラッチスリーブ9およびボタン12の軸方向位置は、近位方向においてクラッチスリーブ9に力を加えるクラッチばね16の作用によって決まる。このばねの力は、クラッチスリーブ9およびボタン12を介して反応を受け、機構の休止位置において、ダイヤルグリップ11を通して反応を受けてハウジング1に至る。そのばねの力は、クラッチスリーブ9の近位端に形成されたスピゴットがボタン12と常に係合されることを保証する。休止位置において、ボタン12のスプラインがダイヤルスリーブ5と係合されることも保証する。
【0070】
ハウジングは、液体薬剤カートリッジ3およびカートリッジホルダ2のための位置と、用量の数字およびゲージ構成要素4を視認するための窓と、ダイヤルグリップ11を保持する外面上の構成とを提供する。図示の実施形態において、薬物送達デバイスは使い捨てデバイスであり、すなわち、カートリッジホルダは、ハウジング1に恒久的に固定されていて、空のカートリッジ3を新たなものに交換できない。
【0071】
被駆動部材13、スプラインインサート14、および駆動部材15は、ハウジング1に組み付けできるサブアセンブリとして
図4に示されている。このサブアセンブリにおいて、被駆動部材13は、駆動部材15に予めねじ込まれており、スプラインインサート14は、被駆動部材13に回転不能に係合されている。構成要素のこのような配置によって、デバイスのプライミング間隙の改善が可能になる。あらゆる公差状況において被駆動部材13によって栓を加圧できないことを保証するために、プライミングギャップが、被駆動部材13の栓接触パッド(圧力フット)とカートリッジ3の栓との間に導入される。デバイスの初回使用時に、カートリッジ3から投薬される薬剤のためのこのプライミング間隙を閉じるために被駆動部材13を前進させなければならない。使いやすさおよびデバイスの信頼性を改善するためには、プライミング間隙が小さい方が望ましい。
【0072】
被駆動部材13と駆動部材15との(回転および軸方向の)相対位置は、組み立て中に慎重に制御される。それらをハウジング1中に前進させるときに、スプラインインサート14は、ハウジング1内で近位にクリップ留めされ、そこでクリップによって軸方向に保持される。スプラインインサート14は、その歯14aのセットを用いて、ハウジング1に形成されている1セットのランプ状の歯1aのうちのそれが提示されている向きに最も近い方のいずれか一方と回転不能に係合する。この組み立て方法によって、接触パッドの軸方向位置が長い回転の公差チェーンを介するのではなく、組み立て設備によって直接的に制御されるので、プライミング間隙を小さくすることが可能になり、スプラインインサートの回転位置のばらつきが、ランプ状の歯の間のピッチに限定される。
【0073】
ユーザは、ダイヤルグリップ11を時計回りに回転させることによって、液体薬剤の可変用量を選択する。ボタン12とハウジング1との間の第1のクラッチインターフェース12aは、それらの構成要素の間の相対的な回転を可能にするようにデカップリングされている。ダイヤルグリップ11はボタン12にスプライン連結されており、ボタン12は、用量選択中は歯12bを介してダイヤルスリーブ5にスプライン連結されている(第2のクラッチインターフェースが連結されている)。したがって、ダイヤルグリップ11が回転すると、ダイヤルスリーブ5が同じく回転する。クラッチスリーブ9のスプライン9aが、ダイヤルスリーブ5の対応するスプラインから軸方向に離間し、係合解除されている(第4のクラッチインターフェースがデカップリングされている)ときには、ダイヤルスリーブ5の回転は、クラッチスリーブ9および駆動部材15に伝達されない。さらに、駆動部材15は、一方向ラチェット18によって投薬方向の反対方向の回転が防止されている(第3のクラッチインターフェース)。
【0074】
ダイヤルスリーブ5の回転は、駆動ばね8のチャージを引き起こして、そこに蓄積されるエネルギーを増やす。ダイヤルスリーブ5が回転すると、ゲージ構成要素4が、そのねじ係合によって軸方向に並進運動し、そうすることで、ダイヤル設定された用量の値が示される。ゲージ構成要素4は、窓領域の両側にフランジを有し、フランジは、ダイヤル設定された用量に隣接する、ダイヤルスリーブ5上に印刷された数字をカバーして、設定された用量の数字だけがユーザにとって視認可能になることを保証する。機構は、ハウジング1に対して直径が大きいダイヤルグリップを利用し、そのことは機構の要件ではないが、ダイヤル設定を助ける。このような構成は、特に有用であるが、用量設定中に電源が充電される自己注射器機構にとって不可欠ではなく、ダイヤルグリップを回すために必要なトルクは、自動でない注射デバイスよりも大きくなる可能性がある。
【0075】
クラッチスリーブ9は、駆動部材15へのスプライン連結係合によって、用量が設定済みでありダイヤルスリーブ5が回転したときには回転が防止されており、駆動部材15は、クラッチばね16からの軸方向の力の作用の下で、ボディインサート17との投薬クリッカ係合(第3のクラッチインターフェースの一方向ラチェット18)およびスプラインインサート14との摩擦インターフェースによって、回転が防止されている。
【0076】
ダイヤルグリップ11とラチェット要素19(デテント押圧体)との間でラチェットインターフェースを介して相対的な回転が起きる。ダイヤルグリップを回転させるために必要なユーザのトルクは、駆動ばね8を巻き上げるために必要なトルクと、ダイヤルグリップ11上でダイヤル設定クラッチ(第5のクラッチインターフェース)を緩めるために必要なトルクとの和である。ダイヤル設定クラッチを緩めるために必要なトルクは、ラチェット要素19によって加えられる径方向の負荷と、ダイヤルグリップ11上のクラッチ歯の時計回りのランプの角度と、嵌合面の間の摩擦係数と、クラッチ機能の平均半径と、ポケット1bおよびハウジング1の表面のサイズおよび向きとに応じて変わる(
図7)。ラチェット要素19(デテント押圧体)は、ラチェット機能を緩めるのに対抗するように作用する接線方向の抵抗力を、ニブを通してダイヤルグリップデテント機能にもたらすように設計されている。ニブ19bの角度は、ダイヤルグリップのランプよりもずっと急勾配であり、ラチェット要素19の製造における公差の偏りの影響を最小限に抑えるため、ラチェット要素19とダイヤルグリップ11との間のカム従動節機構を保証する。これは、ダイヤルグリップ11のランプの角度を大きくまたは小さくする余地があるため、ラチェット要素19を変更することなくトルクを修正することも可能にする。ラチェット要素19を形成する押圧体の曲げ部19cを有するファセット状の設計によって、より均一な曲げ部がもたらされ、その結果、構成要素のばらつきが小さくなる。
【0077】
両方のダイヤル設定方向(駆動ばね8の作用に従う方向および抗う方向の両方)においてより着実なダイヤル設定フィードバックをユーザに提供するために、ダイヤル設定クラッチが、駆動ばね8の作用を相殺するようにダイヤル設定方向ごとに異なるオーバーホールトルクを有することが有益である。これは、ハウジング1におけるポケット1bならびにフック面のサイズおよび向きの修正によって実装することができる。
【0078】
ラチェット要素19は、ダイヤルグリップ11によって加えられるトルクの方向においてハウジング1に付勢されて、ハウジング1のポケット1bの前側縁部において接触を引き起こす。ハウジング1におけるポケットの縁部の位置は、ラチェット要素19の有効長さ、したがって、緩めている間のその剛性を決定する。ポケットの縁部を動かしてニブ19bに近づけることは、ラチェット要素19の剛性の上昇、したがって、オーバーホールトルクの上昇という影響を有する。ポケットの縁部が両方のダイヤル設定方向に関して独立に制御されるため、ダイヤル設定方向ごとに異なるオーバーホールトルクを生み出すために、ニブ19bの周りで非対称に位置するポケット1bを組み込むことが可能である。
【0079】
ダイヤル設定方向ごとに異なるオーバーホールトルクを生み出すさらなる実施形態は、ラチェット要素19への異なる端部の拘束を提供する。これは、引張負荷および圧縮負荷の両方がハウジング1による反応を受け得るようにフックの一方をブラインドポケット内に位置付け、隣接するフックを引張のみのスロットに位置付けることによって実装することができる。ダイヤルアップ方向において、ラチェット要素19は時計回りに付勢されて、単一のフックだけがハウジング1に接触し、そこで、引張負荷による反応を受ける。ラチェット要素19に対する引張負荷は、ばね材料を径方向内向きに引っ張る傾向があり、そうすることで、反応力およびニブの係合を低下させ、したがって、オーバーホールトルクを低下させる。ダイヤルダウン方向において、ラチェット要素19は、反時計回りに付勢され、その結果、両方のフックがハウジング1に接触する。接点を2つ有することは、ラチェット要素19の拘束を助けて、ダイヤルグリップ11へのその反応力を上昇させ、したがって、オーバーホールトルクを上昇させる。追加的に、ラチェット要素19に対して圧縮反応をもたらすことは、ばね材料を外向きにダイヤルグリップ11に付勢する傾向があり、そうすることで、反応力およびニブの係合を上昇させ、したがって、オーバーホールトルクを上昇させる。
【0080】
1インクリメント分だけ機構をインクリメントするのに十分にユーザがダイヤルグリップ11を回転させると、ダイヤルスリーブ5は、ラチェット歯1つ分だけクラッチスリーブ9に対して回転する。この時点で、ラチェット要素19のニブ19bは、次のデテント位置11aに再係合する。ラチェットの再係合によって可聴クリックが生成され、必要とされるトルク入力が変更されることによって触覚フィードバックが与えられる。
【0081】
ラチェット要素19の代替の実施形態は、単一のニブを有し、ハウジング1の角度方向の重なりが小さい。これは、ラチェット要素19とハウジング1との間の公差のばらつきの影響を受けにくくなる可能性があり、ほとんど全体が重なっているラチェット要素19よりも製造が単純にもなる。これもやはり、方向ごとに独立に制御可能なダイヤル設定トルクを提供するために、ハウジング1内の非対称の向きのポケットおよび異なるフックの接触を可能にする。
【0082】
ダイヤルスリーブ5とクラッチスリーブ9との相対的な回転によって、やはり、最終用量ナット10が、そのねじ状経路に沿ってクラッチスリーブ9上の最終用量当接部に向かって移動する。
【0083】
ダイヤルグリップ11に加えられるユーザのトルクがない場合、ダイヤルスリーブ5は、ここで、専ら、ラチェット要素19のデテント押圧体(第5のクラッチインターフェース)を介するダイヤルグリップ11とハウジング1との間のラチェット係合によって、駆動ばね8によって加えられるトルク下で回転して戻ることが防止される。用量のインクリメントごとに追加的なエネルギーが駆動ばね8内に蓄積され、ラチェット歯の再係合によってダイヤル設定されるインクリメントごとに可聴および触覚のフィードバックが提供される。ねじり駆動ばねを巻き上げるのに必要なトルクが上昇するため、ダイヤルグリップ11を回転させるために必要なトルクが上昇する。したがって、反時計回り方向にラチェットを緩めるために必要なトルクは、(駆動ばね8によってその方向にもたらされるトルクとは関係なく)最大用量に達したときに駆動ばね8によってダイヤルスリーブ5に加えられるトルクよりも大きくなければならない。
【0084】
ユーザが最大用量限度に達するまで選択用量を増やし続ける場合、ダイヤルスリーブ5は、ゲージ構成要素4上のその最大用量当接部と係合する。これは、ダイヤルスリーブ5およびダイヤルグリップ11のさらなる回転を防止する。
【0085】
機構によって既に送達されたインクリメント数に応じて、用量の選択中に、最終用量ナット10は、その最終用量当接部をクラッチスリーブ9と接触させることができる。このような当接は、ダイヤルスリーブ5とクラッチスリーブ9との間のさらなる相対的回転を防止し、そうすることで、設定用量を増やす回転を防止する。
【0086】
クラッチスリーブ9は、スプライン15b(
図8)によって駆動部材15にスプライン連結されて、相対的な回転が防止されている。駆動部材15の遠位端に位置する可撓性アーム15aは、ハウジング1にそれ自体が不動に固定されているボディインサート17上のランプ状の歯のラチェットインターフェース(一方向ラチェット18)と係合する。したがって、この第3のクラッチインターフェースは、用量投薬方向の反対方向における駆動部材15の回転を防止する。最終用量止め具の係合状態では、駆動部材15とボディインサート17との間のインターフェースは、用量選択方向に負荷をかけられる。この負荷構成において、駆動部材15上の可撓性アーム15aは、ボディインサート17上の急勾配の面に当接し、したがって、それらの2つの構成要素の間の相対的な回転は防止される。ボディインサート17のランプ状の歯17aの角度方向の幅は、単回用量インクリメントに合わせて選択されて、駆動部材15が常に最終用量当接部におけるダイヤル設定を防止する位置にあることを保証する。図示の実施形態において、可撓性アーム15aは接線方向に向けられてよく、径方向に突出する別々の2つの先端部がランプ状の歯のインターフェース(
図9)に接触しており、一方の先端部は、アームの端部にあり(「末端先端部」)、他方は、その長さに沿ってほぼ半分であり(「中間先端部」)、径方向外向きに関しては突出していない。最終用量止め具の状況で負荷がかかる間は、まず、末端先端部がランプ状のインターフェースに当接し、その後、少量の局所的な偏向によって中間先端部も当接する。中間先端部はアームの付け根に近いため、剛性および故障トルクは、単一の末端先端部を用いた場合よりも大きい。
【0087】
機構が用量の選択された状態にある場合、ユーザは、その用量から任意の数のインクリメントを選択解除することができる。用量の選択解除は、ユーザがダイヤルグリップ11を反時計回りに回転させることによって実現される。ユーザによってダイヤルグリップ11に加えられるトルクは、駆動ばね8によって加えられるトルクと組み合わせると、ラチェット要素19とダイヤルグリップ11との間のラチェットを反時計回り方向に緩めるのに十分である。ラチェットが緩められると、ダイヤルスリーブ5に反時計回りの回転が起き、これは、ダイヤルスリーブ5をゼロ用量位置に戻し、駆動ばね8の巻きが戻る。ダイヤルスリーブ5とクラッチスリーブ9との間の相対的な回転によって、最終用量ナット10が最終用量当接部からその螺旋経路に沿って戻る。
【0088】
機構が用量の選択された状態にある場合、ユーザは機構を起動して、用量の送達を始めることができる。用量の送達は、ユーザがボタン12を軸方向に押圧することによって開始される(
図5a、
図5b、
図10a、
図10b)。ボタン12が押し下げられると、ボタン上のスプライン12aがハウジング1上のスプラインと係合して、投薬中のボタン12の、したがって、ダイヤルグリップ11の回転が防止され、すなわち、第1のクラッチインターフェースが連結される。さらに、クラッチスリーブ9のスプライン9aはダイヤルスリーブ5の対応するスプラインと係合して、ダイヤルスリーブ5からクラッチスリーブ9に、したがって、駆動部材15にトルクを伝達でき、すなわち、第4のクラッチインターフェースが閉じられる。用量投薬方向における駆動部材15の回転は、第3のクラッチインターフェース、すなわち、ボディインサート17の一方向ラチェット18によって可能にされる。
【0089】
最後に、ボタン12とダイヤルスリーブ5との間の歯12bが係合解除され、すなわち、第2のクラッチインターフェースがデカップリングされて、用量投薬に関係する構成要素から、すなわち、ダイヤルスリーブ5、クラッチスリーブ9、駆動部材15、および被駆動部材13を含む駆動機構の構成要素から、ボタン12およびダイヤルグリップ11を回転可能に接続解除する。したがって、クラッチスリーブ9は、ここで、回転することができ、ダイヤルスリーブ5を介して駆動ばね8によって駆動される。クラッチスリーブ9が回転すると、スプライン連結係合によって駆動部材15が回転する。スプラインインサート14は、ハウジング1に被駆動部材13を回転不能に連結し、したがって、そのときに被駆動部材13は、駆動部材15とのねじ係合を緩めることによって前進する。ダイヤルスリーブ5の回転によってさらに、ゲージ要素4が軸方向に横切ってそのゼロ位置に戻り、そうすることで、ゼロ用量当接が機構を止める。
【0090】
投薬方向において、駆動部材15上の可撓性アームの末端先端部は、ボディインサート17のラチェット歯の浅い側面に接触して回転される。このような接触によって、可撓性アームが径方向内向きに偏向して、ラチェットを緩めることが可能になる。このような状態において、中間先端部は、末端先端部と比べると径方向にオフセットしているため、ラチェット表面に接触せず、アームが末端先端部から偏向されることを保証する。機構からのトルク損失を減少させるために、このラチェット面の角度および可撓性アームの構築は、緩めるために必要なトルクを最小限に抑えるように設計されている。この可撓性アーム機構も、用量投薬中にフィードバックを提供する。可撓性アームがラチェット機能によって緩められ、その後、解放されると、用量インクリメント送達ごとに可聴クリックを生み出す。
【0091】
用量の送達は、ユーザがボタン12を押し下げ続ける間は、上記で説明した機械的な相互作用を介して継続される。ユーザがボタン12を解放すると、クラッチばね16はボタン12と一緒にクラッチスリーブ9をその休止位置に戻して、ボタン12とダイヤルスリーブ5との間のスプラインに係合し、したがって、ダイヤル設定クラッチに再係合して、さらなる回転を防止し用量送達を停止する。用量の送達中は、クラッチスリーブ9およびダイヤルスリーブ5は一緒に回転し、そのため、最終用量ナット10には相対運動が起こらない。したがって、最終用量ナット10は、ダイヤル設定中にのみ、クラッチスリーブ9に対して軸方向に移動する。
【0092】
用量の送達が停止されると、ダイヤルスリーブ5がゼロ用量当接に戻ることによって、ユーザはボタン12を解放することができ、そのことは、クラッチばね16の作用の下でクラッチスリーブ9およびボタン12を近位に押し戻す。これは、ボタン12とハウジング1との間の第1のクラッチインターフェース12aをデカップリングさせ、第2のクラッチインターフェースを、すなわち、ボタン12とダイヤルスリーブ5との間のスプライン歯12bを再係合させ、したがって、ダイヤル設定クラッチを再係合させ、ダイヤルスリーブ5とクラッチスリーブ9との間の第4のクラッチインターフェースをデカップリングさせる。機構は、ここで、休止状態に戻る。
【0093】
ボタン12またはダイヤルスリーブ5上のスプライン歯に角度を付けることが可能であり、そのため、ボタン12が解放されるときに、スプライン歯の再係合がダイヤルスリーブ5を部分的に戻し、そうすることで、ゲージ構成要素4上のゼロ用量止め具当接へのダイヤルスリーブの係合が解除される。これにより、ダイヤルスリーブ5のゼロ用量止め具がもはや機構を拘束することがなくなり、その代わりに、拘束がボタン12とダイヤルスリーブ5との間のスプラインに戻ることによって、デバイスが後続の用量のためにダイヤル設定されるときに、被駆動部材13のわずかな前進および薬剤投薬につながる可能性がある機構内の隙間(たとえば公差による)影響が補償される。
【0094】
投薬中に被駆動部材13によって駆動部材15に加えられる軸方向の反応力の一部をクラッチばね16がクラッチスリーブ9を通してボタン12に迂回させるので、駆動部材15とハウジング1との間の摩擦損失は軽減される。ボタン12の中央スピゴット12dとクラッチスリーブ9のスピゴット接触面9bとの間のインターフェースは、接触スピゴットが小径であるため摩擦損失が低い(
図12)。したがって、駆動部材15の外径を介する軸方向の力への反応と比べると、摩擦損失は有意に軽減される。
【0095】
図11から
図14に第2の実施形態が示されている。構成部分の概略的な動作原理ならびに設計および機能は、上記で説明した第1の実施形態と同様または同一である。
【0096】
やはり、被駆動部材13は、(いくつかの先行技術のデバイスの場合と同様に)ハウジング1に対して回転することはなく、被駆動部材の一体型の支承部(圧力フット)が可能であり、したがって、座屈強度が改善される。スプラインインサート14は、ハウジング1に固定されており、被駆動部材13を回転不能に拘束する。第1の実施形態と比べると、駆動部材22は、第1の実施形態の駆動部材15スリーブ様の構成の代わりに、むしろカラーまたはリングの形態を有する。ただし、投薬中に回転する駆動部材22には、やはり、被駆動部材13がねじ込まれ、駆動部材22はハウジング1に軸方向に固定されている。さらに、駆動部材22は、クラッチスリーブ23に回転不能にスプライン連結されており、クラッチスリーブ23は、第1の実施形態と比べると第2の実施形態の方が長い。クラッチばね16は、クラッチスリーブ23の内側に位置決めされており、上記で説明したように、駆動部材22とクラッチスリーブ23との間で軸方向に作用する。投薬中に被駆動部材13によって駆動部材22に加えられる軸方向の反応力の一部を、たとえばリング形状の別個のクラッチプレート21を通してボタン12に、クラッチばね16が迂回させるので、駆動部材22とハウジング1との間の摩擦損失が軽減される。接触スピゴット(
図14a)が小径であるため、ボタン12の中央スピゴット12dと、クラッチプレート21のスピゴット接触面21bとの間のこのインターフェースは、低い摩擦損失を有する。したがって、駆動部材22の外径を介した軸方向の力への反応と比べると、摩擦損失が有意に軽減される。
【0097】
さらに、第2の実施形態は、第3のクラッチインターフェースが(駆動部材の代わりに)クラッチスリーブ23とボディインサート17との間に直接的に設けられている点が第1の実施形態とは異なる。そのために、クラッチスリーブはその遠位端に歯23bを備え、ボディインサート17は歯付きリング20を備え、その歯付きリング20は、クラッチスリーブ23の軸方向位置に応じて、すなわち、ボタン12が押し下げられて投薬モードにある(第3のクラッチインターフェース23b、20をデカップリングする)かまたはボタン12が解放されている(第3のクラッチインターフェース23b、20を連結する)かに応じて歯23bと係合する。
【0098】
クラッチプレート21は、ダイヤルスリーブ5にスプライン連結されている。デテントインターフェースを介してクラッチスリーブ23にも連結されている。このデテントは、ダイヤルスリーブ5とクラッチスリーブ23との間に各用量単位に対応するデテント位置を提供し、時計回りおよび反時計回りの相対的な回転の間に異なるランプ状の歯の角度に係合する。クラッチスリーブ23、クラッチプレート21、およびボタン12の軸方向位置は、近位方向においてクラッチスリーブ23に力を加えるクラッチばね16の作用によって画成される。
【0099】
用量設定中に、クラッチスリーブ23は、ボディインサート17とのスプライン連結された歯の係合によって、ダイヤルスリーブ5が回転するときに、回転が防止されている。したがって、相対的な回転は、ダイヤルスリーブ5によって駆動されるクラッチプレート21と、クラッチスリーブ23との間でラチェットインターフェースを介して起きるはずである。このラチェットインターフェースは、クラッチスリーブ23の近位に面する端部に位置するラチェット歯23aと、クラッチプレート21のフランジの遠位に面する側に位置する、対応するラチェット歯21aと、によって提供することができる(
図13)。
【0100】
図14a、
図14bに示されているように、ボタン12とハウジング1との間の第1のクラッチインターフェースの、ボタン12とダイヤルスリーブ5との間の第2のクラッチインターフェースの、クラッチスリーブ23とハウジング1(またはその歯付きリング20を有するボディインサート17)との間の第3のクラッチインターフェースの、クラッチスリーブ9とダイヤルスリーブ5との間の第4のクラッチインターフェースの、連結およびデカップリングは、ボタン12を作動させた(用量設定モードから用量投薬モードに切り替えた)ときまたはクラッチばね16の作用の下でボタン12を解放して機構を用量投薬モードから用量設定モードに戻すように切り替えたときに、第1の実施形態に関して上記で説明したのと同様にして起きる。
【符号の説明】
【0101】
1 静止ハウジング(本体)
1a 歯
1b ポケット
2 カートリッジホルダ
3 カートリッジ
4 ゲージ構成要素
5 ダイヤルスリーブ
6 ダイヤルスリーブ5の下側部分
7 ダイヤルスリーブ5の上側部分
8 駆動ばね(ねじりばね)
9 クラッチスリーブ
9a スプライン
9b スピゴット接触面
10 ナット
11 ダイヤルグリップ
11a 歯付き面
12 ボタン
12a スプライン
12b 歯
12c ステム
12d スピゴット
13 被駆動部材
14 スプラインインサート
14a 歯
15 駆動部材
15a アーム
15b スプライン
16 クラッチばね
17 ボディインサート
18 一方向ラチェット
19 ラチェット要素(デテント押圧体)
19a フック
19b ニブ
19c 曲げ部
20 歯付きリング
21 別個のリング(クラッチプレート)
21a ラチェット歯
21b スピゴット接触面
22 駆動部材
23 クラッチスリーブ
23a ラチェット歯
23b 歯
I 軸
【国際調査報告】