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特表2024-533618多結晶SiCから作られているキャリア基板に単結晶SiCから作られている薄層を備える複合構造体を製作するためのプロセス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】多結晶SiCから作られているキャリア基板に単結晶SiCから作られている薄層を備える複合構造体を製作するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20240905BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
H01L21/02 C
H01L21/02 B
H01L21/205
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024517439
(86)(22)【出願日】2022-09-13
(85)【翻訳文提出日】2024-05-17
(86)【国際出願番号】 FR2022051717
(87)【国際公開番号】W WO2023052704
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】2110273
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598054968
【氏名又は名称】ソイテック
【氏名又は名称原語表記】Soitec
【住所又は居所原語表記】Parc Technologique des fontaines chemin Des Franques 38190 Bernin, France
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】アリベール, フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】ギオ, エリック
【テーマコード(参考)】
5F045
【Fターム(参考)】
5F045AA03
5F045AB06
5F045AD12
5F045AD14
5F045AD15
5F045AD16
5F045AD17
5F045AD18
5F045DA52
5F045DA59
(57)【要約】
本発明は、多結晶炭化ケイ素(p-SiC)のキャリア基板に配置された、単結晶炭化ケイ素(c-SiC)の薄層を備える複合構造体を製作するためのプロセスに関し、プロセスは、a)c-SiCの初期基板を用意するステップと、b)初期基板の前面にp-SiCの第1の層を形成する第1のステップと、c)初期基板に埋め込み脆性平面を形成するステップと、d)第1の層に非晶質及び/又は多結晶SiCの第2の層を形成するための、900℃より低い温度での堆積の第2のステップであって、第2の層は、10μm以上の厚さ、及び1019/cmより高い、第1の層と同じタイプのドーパントの濃度を有する、ステップと、e)第2の層にp-SiCの第3の層を形成するための、1000℃より高い温度での堆積の第3のステップであって、第1~第3の層がキャリア基板を形成し、埋め込み脆性平面に沿った分離が発生する、ステップとを含む。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶炭化ケイ素から作られているキャリア基板(20)に配置された、単結晶炭化ケイ素から作られている薄層(10)を備える複合構造体(1)を製作するためのプロセスであって、
a)単結晶炭化ケイ素から作られている初期基板(11)を用意するステップと、
b)前記初期基板(11)の前面(11a)に多結晶炭化ケイ素から作られている第1の層(21)を形成するための、1100℃よりも高い温度での堆積の第1のステップであって、前記第1の層(21)は、1μm未満の厚さ、及び1019/cmよりも高いドーパント濃度を有する、堆積の第1のステップと、
c)前記初期基板(11)に埋め込み脆性平面(12)を形成するための、前記第1の層(21)を通した、軽元素種のイオン注入のステップであって、前記埋め込み脆性平面(12)と前記初期基板(11)の前記前面との間に前記薄層(10)を画成する、イオン注入のステップと、
d)前記第1の層(21)に非晶質及び/又は多結晶炭化ケイ素から作られている第2の層(22)を形成するための、900℃よりも低い温度での堆積の第2のステップであって、前記第2の層(22)は、10μm以上の厚さ、及び1019/cmよりも高い、前記第1の層(21)と同じタイプのドーパントの濃度を有する、堆積の第2のステップと、
e)前記第2の層(22)に多結晶炭化ケイ素から作られている第3の層(23)を形成するための、1000℃よりも高い温度での堆積の第3のステップであって、前記第1の層(21)、第2の層(22)、及び第3の層(23)は、前記キャリア基板(20)を形成し、前記第3の堆積ステップで、埋め込み脆性平面(12)に沿った分離が発生する、堆積の第3のステップと、
を含む、プロセス。
【請求項2】
前記第1の堆積ステップ及び前記第3の堆積ステップは、1100℃~1600℃、好ましくは1200℃~1600℃、より好ましくは1200℃~1400℃の温度で化学気相成長によって実行される、請求項1に記載の製作プロセス。
【請求項3】
前記第1の層(21)が、5×1019/cmよりも高いドーパント濃度を有する、請求項1又は2に記載の製作プロセス。
【請求項4】
前記第1の堆積ステップの終わりに、前記第1の層(21)は、50nm~500nm、さらには50nm~200nmの厚さを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の製作プロセス。
【請求項5】
前記第1の堆積ステップの前に、前記初期基板(11)の前面の少なくとも1つの脱酸素を含む、前記初期基板(11)の前処理のステップを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の製作プロセス。
【請求項6】
ステップb)の前に、電気伝導を促進することを目的として、前記初期基板(11)の前記前面への中間層の形成のステップa’)を含み、次いでステップb)で前記第1の層(21)が、前記中間層に形成される、請求項1~5のいずれか一項に記載の製作プロセス。
【請求項7】
前記中間層が、シリコンから作られている、請求項6に記載の製作プロセス。
【請求項8】
ステップe)で形成される前記第3の層(23)が、100μm以上の厚さと、少なくとも前記第3の層(23)の厚さの最初の100ミクロンにおいて、1019/cmよりも高いドーパント濃度とを有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の製作プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロエレクトロニクス構成要素のための半導体の分野に関する。本発明は特に、多結晶炭化ケイ素から作られているキャリア基板に単結晶炭化ケイ素から作られている薄層を備える複合構造体を製作するためのプロセスに関し、複合構造体は、薄層とキャリア基板との間を垂直に電気を導通する。
【背景技術】
【0002】
単結晶炭化ケイ素に基づくパワーデバイス及び集積化電源システムは、それらの従来のシリコンの等価なものと比べて、ずっと高い電力密度を管理することができ、そうするためにより小さなサイズの活性領域を用いる。SiCのパワーデバイスのサイズをさらに制限するために、横方向構成要素ではなく垂直構成要素を製作することが有利となる。そうするために、SiC構造体の前面に配置された電極と、後面に配置された電極との間の、垂直電気伝導が前記構造体によって可能にされなければならない。
【0003】
マイクロエレクトロニクス産業を対象とする単結晶SiC基板は、依然として高価で、大量生産が難しく、より安価なキャリア基板の単結晶SiCから作られている薄層を通常備える、複合構造体を製造するために、薄層移転解決策を使用することが有利である。1つのよく知られている薄層移転解決策は、軽いイオンの注入及び直接ボンディングに基づく、スマートカット(Smart Cut)(商標)プロセスである。このようなプロセスは、例えば、単結晶SiC(c-SiC)から作られている薄層を備えた、複合構造体を製作することを可能にし、単結晶SiC(c-SiC)から作られている薄層は、多結晶SiC(p-SiC)から作られているキャリア基板と直接接触にある、c-SiCから作られているドナー基板から分裂され、垂直電気伝導を可能にする。それでも、2つのc-SiC及びp-SiC基板の間の良好な直接ボンディングを、分子付着によって達成することは依然として難しく、なぜなら前記基板の表面仕上げ及び粗さの管理は複雑であり、及びc-SiC及びp-SiCは異なるポリタイプを有する傾向があるからである。
【0004】
このプロセスに由来する様々な方法も、従来技術において知られている。例えば、F. Muら(ECS Transactions, 86 (5) 3-21, 2018)は、アルゴンによる衝撃によって結合されるようになる、表面の活性化の後の、直接ボンディング(SAB:「表面活性化ボンディング」)を実施しており、ボンディングの前のこのような処理は、非常に高い密度のダングリングボンドを生成し、これは接合部での共有結合の形成、したがって高いボンディングエネルギーを促進する。それでも、この方法は、単結晶SiCから作られているドナー基板の表面に、非晶質層を生成するという欠点を有し、これは、c-SiCから作られている薄層と、p-SiCから作られているキャリア基板との間の、垂直電気伝導に好ましくない影響を与える。
【0005】
この問題を解く解決策が提案されており、特に文献欧州特許第3168862号では、非晶質層の電気的特性を回復するために、前記非晶質層内へのドーパント元素種の注入が用いられる。この手法の欠点は、手法の複雑さ、したがって手法のコストである。
【0006】
さらに、文献国際公開第2021/019137号が知られており、この文献は、多結晶炭化ケイ素から作られているキャリア基板に配置された、単結晶炭化ケイ素から作られている薄層を備える、複合構造体を製作するためのプロセスを述べており、プロセスは、
単結晶炭化ケイ素から作られている初期基板を用意するステップと、
初期基板の、多結晶炭化ケイ素から作られている中間層を形成するための、1000℃よりも高い温度での堆積の第1のステップであって、中間層は、1.5ミクロン以上の厚さを有する、第1のステップと、
初期基板に埋め込み脆性平面を形成するための、中間層を通した、軽元素種のイオン注入のステップであって、前記埋め込み脆性平面と、中間層との間に、薄層を画成する、イオン注入のステップと、
中間層に多結晶炭化ケイ素から作られている追加の層を形成するための、1000℃よりも高い温度での堆積の第2のステップであって、前記中間層と、追加の層は、キャリア基板を形成する、堆積の第2のステップとを含む。第2の堆積ステップで、埋め込み脆性平面に沿った分離が発生し、複合構造体の取得に繋がる。
【0007】
しかし、p-SiCから作られている、厚い中間層を通したイオン注入は、標準とは離れた、注入ドース及びエネルギーが関わるので、比較的複雑で、高価なままとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来技術のものに対する代替的解決策に関し、上述の欠点のすべて又はいくつかを克服することを目標とする。本発明は特に、p-SiCから作られているキャリア基板に配置された、c-SiCから作られている薄層を備える、複合構造体を製作するためのプロセスに関し、複合構造体は、薄層とキャリア基板との間を垂直に、電気を非常に良く導通する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、多結晶炭化ケイ素から作られているキャリア基板に配置された、単結晶炭化ケイ素から作られている薄層を備える、複合構造体を製作するためのプロセスに関し、プロセスは、
a)単結晶炭化ケイ素から作られている初期基板を用意するステップと、
b)初期基板の前面に多結晶炭化ケイ素から作られている第1の層を形成するための、1100℃よりも高い温度での堆積の第1のステップであって、第1の層は、1μm未満の厚さ、及び1019/cmよりも高いドーパント濃度を有する、堆積の第1のステップと、
c)初期基板に埋め込み脆性平面を形成するための、第1の層を通した、軽元素種のイオン注入のステップであって、前記埋め込み脆性平面と、初期基板の前面との間に、薄層を画成する、イオン注入のステップと、
d)第1の層に非晶質及び/又は多結晶炭化ケイ素から作られている第2の層を形成するための、900℃よりも低い温度での堆積の第2のステップであって、第2の層は、10μm以上の厚さ、及び1019/cmよりも高い、第1の層と同じタイプのドーパントの濃度を有する、堆積の第2のステップと、
e)第2の層に多結晶炭化ケイ素から作られている第3の層を形成するための、1000℃よりも高い温度での堆積の第3のステップであって、第1の層、第2の層、及び第3の層は、キャリア基板を形成し、第3の堆積ステップで、埋め込み脆性平面に沿った分離が発生する、堆積の第3のステップと
を含む。
【0010】
個別に又は任意の技術的に可能な組み合わせで適用可能な、本発明の他の有利な及び非限定的な特徴によれば、
第1の堆積ステップ及び第3の堆積ステップは、1100℃~1600℃、好ましくは1200℃~1600℃、より好ましくは1200℃~1400℃の温度で化学気相成長によって実行され、
第1の層は、5×1019/cmよりも高いドーパント濃度を有し、
第1の堆積ステップの終わりに、第1の層は、50nm~500nm、さらには50nm~200nmの厚さを有し、
製作プロセスは、第1の堆積ステップの前に、前記初期基板の前面の少なくとも1つの脱酸素を含む、初期基板の前処理のステップを含み、
製作プロセスは、ステップb)の前に、電気伝導を促進することを目的として、初期基板の前面への中間層の形成のステップa’)を含み、次いでステップb)で第1の層が、前記中間層に形成され、
中間層は、シリコンから作られており、
ステップe)で形成される第3の層は、100μm以上の厚さと、少なくとも第3の層の厚さの最初の100ミクロンにおいて、1019/cmよりも高いドーパント濃度とを有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明のさらなる特徴及び利点は、添付の図を参照して、以下の本発明の詳細な説明を読むことによって明らかになるであろう。
図1】本発明による製作プロセスを用いて製造される複合構造体を示す図である。
図2a】本発明による製作プロセスのステップを示す図である。
図2b】本発明による製作プロセスのステップを示す図である。
図2c】本発明による製作プロセスのステップを示す図である。
図2d】本発明による製作プロセスのステップを示す図である。
図2e図2e及び図2e’は、それぞれ本発明による製作プロセスのステップを示す図である。
図2f】本発明による製作プロセスのステップを示す図である。
【0012】
図は、読みやすさのために、原寸に比例して描かれていない概略表示である。特に、z軸線に沿った層の厚さは、x軸線及びy軸線に沿った横方向寸法に関して、原寸に比例して描かれてなく、互いに対する層の相対厚さは、図では順守されない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、多結晶炭化ケイ素から作られているキャリア基板20に配置された、単結晶炭化ケイ素から作られている薄層10を備える、複合構造体1を製作するためのプロセスに関する(図1)。
【0014】
プロセスは、最初に、単結晶炭化ケイ素(c-SiC)から作られている初期基板11を用意するステップa)を含む(図2a)。
【0015】
初期基板11は、100mm、150mm、200mm、さらには300mmの直径と、通常300~800ミクロンの厚さとを有するウェハの形をとることが好ましい。これは、前面11aと、後面11bとを有する。前面11aの表面粗さは、20μm×20μmのスキャンでの原子間力顕微鏡法(AFM)による測定に従って、1nm Ra(平均粗さ)よりも低くなるように選択されることが有利である。
【0016】
本発明のプロセスの終わりに、初期基板11から、複合構造体1の薄いc-SiC層10が形成されるようになり、したがって、初期基板11の結晶方位、結晶品質、及びドーピングレベルは、薄層10に製造されるようになる垂直構成要素の必要とされる仕様を満たすように選択される。例えば、初期c-SiC基板11は、4H又は6Hポリタイプであり、結晶軸線<11-20>±0.5°に対して、約4.0°のオフカット角度と、5/cm以下、さらには1/cm未満のマイクロパイプ密度とを有する。n型にドープされ(窒素によって)、0.015Ω.cm~0.030Ω.cmの比抵抗を有することが好ましい。低密度の基底面転位(BDP)と、通常1500/cm以下のBPDの密度とを有する、初期基板11が、場合により選択されることが有利になり、これらの欠陥に対する目標とする構成要素の感度に依存する。
【0017】
代替として、初期基板11は、初期基板11の前面11aに表面層を備えることができ、表面層は、例えばエピタキシによって製造され、本発明のプロセスの終わりに前記表面層から形成されるようになる、将来の薄層10のために必要な特性を有する。
【0018】
次いでプロセスは、初期基板11の前面11aに、多結晶炭化ケイ素(p-SiC)から作られている第1の層21を形成するための、第1の堆積ステップと呼ばれるステップb)を含む(図2b)。本説明の関連において、第1の層21は、初期基板11の前面11aに直接形成され得、又は間接的に、すなわち次いで初期基板11と第1の層21との間に挿入されることになる中間層を通じて形成され得ることが留意される。このような中間層が関わる変形形態は、以下で述べられる。
【0019】
第1の層21は、1μm未満の厚さを有する。この第1の層21の厚さは、500nm以下であり、通常50nm~200nmであることが有利である。
【0020】
第1の層21はさらに、1019/cmよりも高いドーパント濃度を有する。通常、ドーパントは、将来の薄層10のドーパントと同じタイプであること、及びしたがって、この場合は初期基板11のドーパントと同じタイプであることが望ましく、電力用途を対象とする複合SiC構造体では、ドーパントは最もしばしば、n型(窒素によるドーピング)であるように選択される。第1の層21のドーピング濃度は、1019/cm~数1021/cmの間で選択される。特に、ドーパント濃度は、5×1019/cm以上、例えば3×1020/cm以上、とりわけ、4×1020/cm~6×1020/cmである。多結晶炭化ケイ素を、このようなレベルまでドーピングすることは、薄層10(これはその後に初期基板11から移転されるようになる)と、キャリア基板20(これは、とりわけ、第1の層21を含む)との間の、良好な電気伝導を得ることを促進するようになる。
【0021】
ステップb)のp-SiC堆積は、1100℃よりも高い温度で実行される。化学気相成長(CVD)技法、例えば塩素含有前駆体に基づくものを用い、1100℃~1600℃の温度で実行されることが有利である。堆積温度は、1200℃~1600℃、とりわけ1200℃~1400℃であることが、より一層有利である。第1の堆積のパラメータは、第1の層21が、高度にドープされることとポリタイプ(3Cが有利である)の観点での均一性とによる良好な導電率は別として、高い熱伝導率(通常、200W.m-1.K-1以上)と、将来の薄層10と同様な熱膨張係数(室温で通常、3.8-6/K~4.2-6/K)を有するように決定される。
【0022】
第1の堆積ステップb)は、高い温度、さらには非常に高い温度で実行されるので、良好な品質で、低い応力レベルを有し、目標とする電気的、熱的、及び機械的特性に適合した構造的特性を有する、SiC多結晶の形成を促進する。
【0023】
例として、場合により、第1の層21は、111方位及び1~10μmの平均サイズの3C SiC粒子を備え、約5×1020/cmのn型ドーパントの濃度(約2mΩ.cmの比抵抗と等価)を有するようになる。
【0024】
製作プロセスは、ステップb)の前に、初期基板11の前面11aの脱酸素の少なくとも1つのシーケンスを含む、前記初期基板11の前処理のステップを含むことが有利である。このシーケンスは、例えば場合により、フッ化水素酸(HF)の浴槽への浸漬、HF蒸気への露出、さらにはp-SiCの第1の堆積の予備段階での水素のもとでのアニールが関わるようになる。前処理ステップはまた、初期基板11の面11a、11bに潜在的に存在する金属又は有機物の、粒子状汚染物質のすべて又は一部を除去するための、クリーニングシーケンスを含み得る。
【0025】
1つの変形形態によれば、プロセスは、ステップb)の前に、電気伝導を促進することを目的として、初期基板11の前面11aへの中間層の形成のステップa’)を含むことができ、次いで第1の層21が、ステップb)で前記中間層に形成される。
【0026】
このような中間層は、例えば、非晶質シリコン又はポリシリコンから作られることができ、任意選択で初期基板11と同じタイプで高度にドープされ得る。第1の層21と初期基板11との間に、良好な電気的接触を形成することができる、チタン、ニッケル、アルミニウム、モリブデン、ニオブ、タンタル、コバルト、又は銅など、他の材料も想定され得る。中間層の厚さは、通常20nm未満、さらには10nm未満に小さく保たれる。
【0027】
全体的な説明に戻ると、本発明による製作プロセスは、第1の層21を通して、初期基板11の所与の深さへの、軽元素種のイオン注入のステップc)をさらに含む。この注入は、初期基板11に、埋め込み脆性平面12を作り出す(図2c)。
【0028】
注入される軽元素種は、水素、ヘリウム、又は同時注入されるこれら2つの元素種であることが好ましい。よく知られているように(スマートカット(商標)プロセスを参照されたい)、これらの軽元素種は、所与の深さの周りに、第1の層21の自由表面に並行な、すなわち図の平面(x,y)に並行な、薄層に分散された微小空洞を形成するようになる。この薄層は、簡略にするために、埋め込み脆性平面と呼ばれる。
【0029】
埋め込み脆性平面12は、初期基板11の前面により、将来の薄層10を画成する。軽元素種の注入のエネルギーは、それらが第1の層21を通過し、初期基板11の所与の深さに到達するように選択され、前記深さは、薄層10に対する目標とされる厚さに対応する。これは、第1の層21の小さな厚さのために、従来の注入エネルギー範囲内に留まる。
【0030】
通常、水素イオンは、50nm~1μmの第1の層21を通過し、約100~1500nmの薄層10を画成するように、50keV~210keVのエネルギーで、及び516/cm~117/cmのドースにおいて、注入されるようになる。
【0031】
場合により保護層が、イオン注入ステップの前に、第1の層21の自由面に堆積され、ステップd)すなわちプロセスの後続のステップの前に、除去されるようになることが留意される。この保護層は、例えば、酸化シリコン又は窒化シリコンなどの材料から作られ得る。
【0032】
次いで製作プロセスは、第1の層21(図2d)に第2の層22を形成するために、第2の堆積ステップと呼ばれるステップd)を含み、この第2の層22は、非晶質炭化ケイ素(a-SiC)、又は多結晶炭化ケイ素(p-SiC)、又はa-SiCとp-SiCとの混合物から形成される。
【0033】
a-SiC又はp-SiCの第2の堆積は、900℃以下、好ましくは800℃以下の温度で実行される。第2の堆積のサーマルバジェットは、埋め込み脆性平面12のレベルでのブリスタリング又は分裂のサーマルバジェット未満に留まるように選択される。言い換えれば、ステップd)の堆積のために使用される温度、及び堆積時間は、埋め込み脆性平面12の空洞及び微小クラックが、層のスタック(薄層10、第1の層21、第2の層22)の局所的変形(ブリスタリング)が生じるポイントまで、又は埋め込み脆性平面12の長さ全体にわたる完全な分裂による部分的な剥離又は分離を引き起こすポイントまで、熱的に成長することを防止する。
【0034】
通常、第2の堆積は、750~800℃で実行され、第2の層22に対して、約10~15μmの厚さが得られることを可能にする。従来の化学気相成長(CVD)技法が、場合により使用されるようになる。
【0035】
第2の層22は、10μm以上の厚さを有する。この最小厚さは、以下で述べられるように、埋め込み脆性平面12の空洞及び微小クラックの熱的成長を引き起こすことを目的として、プロセスの後続のステップにおいて、第2の層22が、より高いサーマルバジェットの用途を可能にする硬化の役割をし得ることを確実にするように規定される。
【0036】
第2の層22は、1019/cmよりも高い、第1の層21ものと同じタイプのドーパントの濃度をさらに有する。第2の層22のドーピング濃度は、5×1019/cmから数1020/cmまで、さらには数1021/cmまでに選択されることが有利である。目的は、第2の層22が第2の層22の比較的低い堆積温度のために、より低い品質のものであっても、第1の層21と第2の層22との間で導電率における一定の連続性を確実にすることである。
【0037】
本発明による製作プロセスは、最後に、第2の層22に、多結晶炭化ケイ素から作られている第3の層23を形成するための、第3の堆積ステップと呼ばれるステップe)を含む(図2e)。
【0038】
第3の堆積は、十分な堆積速度を確実にするために、1000℃よりも高い温度で実行される。第1の堆積(ステップb))でのように、この第3の堆積は、1100℃~1600℃、好ましくは1200℃~1600℃の温度で、化学気相成長(CVD)技法を用いて実行されることが有利である。第3の堆積のパラメータはまた、第3の層23が、良好な導電率と、高い熱伝導率(200W.m-1.K-1以上)と、薄層10と同様な熱膨張係数とを有するように決定される。
【0039】
第3の堆積の温度及び条件は、場合により、ステップb)での第1の堆積のものと同一、又は異なるようになる。
【0040】
第2の堆積ステップ、ステップd)で堆積される第2の層22が、全体的に又は部分的に非晶質炭化ケイ素から作られている場合、高温ステップ、ステップe)は、非晶質炭化ケイ素を多結晶の形に結晶化させることになることが留意される。
【0041】
通常、ステップe)で形成される第3の層23は、100μm以上、さらには200μm以上の厚さを有する。第1の層21と、第2の層22と、第3の層23とから作られる組立体は、複合構造体1のp-SiCキャリア基板20を形成する。これは主に、キャリア基板20にキャリア基板の厚さ、したがってキャリア基板の機械的特性を与える、第3の層23である。したがって、第3の層23の厚さは、キャリア基板20のために必要とされる仕様に対して調整される。
【0042】
第3の層23は、少なくとも第3の層23の厚さの最初の100ミクロンにおいて、1019/cmよりも高いドーパント濃度を有することが有利である。ドーピングは、層の応力を制限するため、及び堆積を簡略化するために、第3の層23の厚さにわたって均一とする、又は徐々に減少させる、又は一定の厚さ(例えば100μm、150μm、200μm、それ以上)の先は突然減少させることができる。
【0043】
ドーパントのタイプは、第1の層21のもの、及び第2の層22のものと同一であるように選択される。
【0044】
第3の堆積ステップ、ステップe)では、初期基板11と、第1及び第2の層21、22と、成長する追加の第3の層23とによって形成される、構造体に適用されるサーマルバジェットのために、埋め込み脆性平面12に沿って分離が発生するようになる(図2e’)。具体的には、埋め込み脆性平面12に存在する微小空洞は、分裂波が開始されるまで成長し、分裂波は、埋め込み脆性平面12の全範囲にわたって伝搬し、薄層10と、第1、第2、及び第3の層21、22、23とから形成された組立体を、初期基板11の残り11’から分離させるようになる。
【0045】
一般に分離は、第3の堆積のサーマルバジェットのために、第3の層23がそれの目標厚さに達する前に発生し、これは、分裂が生じるのに必要なサーマルバジェットよりも非常に高い。分離が発生するとき、前記層23の厚さに関わらず、第2の層22のみが補強効果を保証するのに十分な厚さがあるので、分裂波は、埋め込み脆性平面12の全範囲にわたって伝搬するようになり、したがって空洞は、層を膨れさせない。また第2の層22の厚さのみが、中間複合構造体1’(図e’)の完全性が維持されることを可能にし、第3の層23が完成されるまで、前記構造体の剥離又は劣化を回避する。
【0046】
したがって、第3の堆積は、第3の層23の目標厚さが達成されて、最終複合構造体1が得られるまで続行し得る(図2f)。
【0047】
製作プロセスの堆積ステップb)、d)、及びe)に関連して述べられなかったが、従来の表面前処理ステップは、場合により、第1の層21、第2の層22、及び/又は第3の層23の形成の前に実行されるようになることが有利である。
【0048】
1つの有利な実施形態によれば、製作プロセスは、ステップe)の終わりで得られた最終複合構造体1に適用される仕上げステップを含む。これらの仕上げステップは、特に、薄層10の自由表面(最終複合構造体1の前面)の粗さ、及び任意選択で第3の層23の自由面(最終複合構造体1の後面)の粗さを改善することを目標とする。
【0049】
具体的には、分離の後に、薄層10の自由面は通常、3nm~6nm Ra(AFM - 20μm×20μmスキャン)の粗さを有する。構成要素のその後の製作に関して、目的は、1nm Raよりも低い粗さを得ることである。最終複合構造体1の後面に関しては、第3の堆積の終わりでの粗さは通常、10nm Raよりも高く、さらには100nm Raよりも高く、目標とする目的は、通常、粗さを3nm Ra未満まで低くすることである。
【0050】
仕上げステップは特に、知られている機械的及び/又は化学機械的研磨技法を使用することができ、最終複合構造体1の前面に、それの後面に、又は両側研磨装置を用いて同時に両面に適用される。前面に適用される研磨プロセスは、後面に適用されるものとは、場合により、異なるようになり、通常、c-SiC表面及びp-SiC表面を円滑にするために、異なる消耗品が必要になる。
【0051】
仕上げステップはまた、薄層10の結晶品質及び電気的特性を回復することと、キャリア基板20の様々な層21、22、23の構造的特性の均一性を向上させることとを目的として、高い温度又は非常に高い温度での、及び通常1500℃~1900℃での、熱処理を含み得る。
【0052】
本発明による複合構造体1は、薄層10とキャリア基板20との間で優れて電気を伝導する、及び特に、5×10-5Ω.cmよりも低い、さらには10-5Ω.cm以下の界面抵抗率を有するという利点を有する。
【0053】
(実施例)
実施態様の1つの非限定的な実施例によれば、製作プロセスの第1のステップで用意される初期基板11は、軸線<11-20>±0.5°に対して、4.0°の方位を有し、並びに150mmの直径、350μmの厚さ、及び20mΩ.cmの平均比抵抗を有する、4Hポリタイプのc-SiCウェハである。
【0054】
RCAクリーニング工程(標準クリーニング1+標準クリーニング2)からなる従来のクリーニングシーケンス、続いてカロ酸(硫酸と過酸化水素の混合物)でのクリーニング工程、次いでHF(フッ化水素酸)でのクリーニング工程が、第1の堆積ステップの前に初期基板11に対して実行される。塩素含有前駆体に基づくCVD堆積が、初期基板11の前面11aに、1300℃の温度で実行され、500nmの厚さで、5×1020/cmのn型ドーパント(窒素)の濃度を有する、p-SiC第1の層21を生成する。堆積界面での比抵抗は、10-5Ω.cm程度である。
【0055】
水素イオンの注入は、第1の層21の自由表面を通して、200keVのエネルギー、及び616 H/cmのドースで実行される。したがって埋め込み脆性平面12は、初期基板11の約1.2μmの深さにおいて作り出される。
【0056】
RCA+カロ酸クリーニング工程からなるクリーニングシーケンスが、第1の層21の自由面から潜在的な汚染物質を除去するために、構造体に実行される。
【0057】
第2の層22に対して10μmの厚さを達成するように、800℃の温度で、第1の層21に対して、多結晶SiC又は非晶質SiC又は混合p-SiC/a-SiC構造体の、第2のCVD堆積が行われる。5×1020/cmのn型ドーパント(窒素)の濃度が、堆積の間に第2の層22に組み入れられる。
【0058】
RCA+カロ酸クリーニング工程からなる新たなクリーニングシーケンスが、第2の層22の自由面から潜在的な汚染物質を除去するために、得られた構造体で実行される。
【0059】
第3の層23に対して350μmの厚さを達成するように、第3のCVD堆積が、1300℃の温度で、第2の層22に対して行われる。第3の層23の初期の100μmは、約5×1020/cmの濃度で、nドープされ(窒素でドープされる)、次いで、成長が進行して、350μmの目標とする厚さにおいて、5×1018/cmに到達するのに従って、ドーピングは減少される。
【0060】
第3のCVD堆積のサーマルバジェットは、第2の層22を、多結晶の形に結晶化させる。
【0061】
分離は、第3の堆積の間に、埋め込み脆性平面12のレベルで発生する。第3の堆積の終わりに、薄層10から、及びキャリア基板20から形成された、複合構造体1は、初期基板11の残り11’から分離する。
【0062】
機械的、次いで化学機械的研磨が、キャリア基板20のp-SiC後面(第3の層23の自由面)の表面粗さを回復するために実行され、通常、約数ミクロンから数十ミクロンのp-SiCの厚さが、場合により除去されるようになる。化学機械的研磨が、薄層10の表面粗さを回復するために実行され、ここで約数十から数百ナノメートルが除去される。
【0063】
30分の間の1700℃での熱処理が、薄層10の側面に対して実行される上述の化学機械的研磨の前及び後に、複合構造体1に適用される。
【0064】
もちろん、本発明は、述べられた実施形態及び実施例に限定されず、特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱せずに、変形実施形態が追加され得る。
【0065】
特に、1つの想定可能な変形形態によれば、第2の層22(第2の堆積の間、全体的に又は部分的に非晶質)を、第2の層22の全体において、多結晶の形に結晶化させるためには、第3のCVD堆積のサーマルバジェットは十分に高くない。この場合、第3の堆積の前及び後に、この結晶化を引き起こすために、追加の熱処理が行われる可能性がある。
図1
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e
図2e-1】
図2f
【国際調査報告】