(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】薬物送達装置又は薬物送達付属装置のセンサのチェック
(51)【国際特許分類】
A61M 5/31 20060101AFI20240905BHJP
A61M 5/315 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
A61M5/31 520
A61M5/315 550
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518324
(86)(22)【出願日】2022-09-22
(85)【翻訳文提出日】2024-04-05
(86)【国際出願番号】 EP2022076297
(87)【国際公開番号】W WO2023046802
(87)【国際公開日】2023-03-30
(32)【優先日】2021-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン・ジェイソン・ドレイク
(72)【発明者】
【氏名】ポール・リチャード・ドレイパー
(72)【発明者】
【氏名】アンソニー・ポール・モリス
(72)【発明者】
【氏名】アイダン・マイケル・オヘア
(72)【発明者】
【氏名】ロナルド・アントニー・スミス
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ホワイトハウス
【テーマコード(参考)】
4C066
【Fターム(参考)】
4C066AA07
4C066BB01
4C066CC01
4C066QQ32
4C066QQ52
4C066QQ72
4C066QQ78
4C066QQ82
4C066QQ84
(57)【要約】
薬物送達装置又は薬物送達付属装置のセンサをチェックする方法が開示され、センサは、薬物送達装置により送達されている薬物投与量の排出を検出し、それぞれのセンサ信号を出力するために提供され、そのように構成され、方法は、薬物送達装置により送達される投与量を計算するために得られる読み取り値に追加して、センサ信号の読み取り値を得ることと、追加的に得られた読み取り値を処理して、センサの少なくとも1つの状態を特定することと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物送達装置(1)又は薬物送達付属装置のセンサ(215a、215b)をチェックする方法であって、前記センサ(215a、215b)は、前記薬物送達装置(1)により送達されている薬物投与量の排出を検出し、それぞれのセンサ信号(1000)を出力するために提供され、そのように構成され、前記方法は、
- 前記薬物送達装置(1)により送達される前記投与量を計算するために得られる読み取り値(1012)に追加して、前記センサ信号の読み取り値(1010)を得ることと、
- 前記追加的に得られた読み取り値(1010)を処理して、前記センサの少なくとも1つの状態を特定することと、
を含む方法。
【請求項2】
前記追加的な読み取り値(1010)は、前記薬物送達装置(1)による薬物投与量の前記送達前、その後、その開始時、その終了時、及び/若しくはその最中に得られ、並びに/又は前記追加的な読み取り値(1010)は、前記薬物送達装置(1)による薬物投与量の前記送達の全体、その一部分、又は複数の部分を通じて得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記追加的な読み取り値(1010)は、前記送達投与量を計算するための前記読み取り値(1012)と同じパラメータで得られる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記追加的な読み取り値(1010)は、前記送達投与量を計算するための前記読み取り値(1012)とは異なるパラメータで得られ、特に前記追加的な読み取り値(1010)は、前記送達投与量を計算するための前記読み取り値(1012)を得る場合の時間、周波数、又はレベルより長い、又は短い時間にわたり、より高い又は低いレベル及び/又は周波数で得られる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記送達投与量を計算するための前記読み取り値(1012)を得ることと、前記追加的な読み取り値(1010)を得ることの間に、読み取り値を得ない少なくとも1つの期間が含められる、請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記センサ(215a、215b)の状態を特定するための前記追加的に得られる読み取り値(1010)の前記処理は、前記追加的に得られた読み取り値(1010)を少なくとも1つの閾値(TH1、TH2、TH3)に照らして検査することと、前記センサ(215a、215b)の前記少なくとも1つの状態を、前記検査に基づいて特定することとを含む、請求項1~5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記送達投与量を計算するために得られた前記読み取り値(1012)を前記少なくとも1つの閾値(TH1、TH2、TH3)に照らして検査することと、このさらなる検査を、前記センサ(215a、215b)の前記少なくとも1つの状態を特定するために使用することとをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記センサ(215a、215b)の前記少なくとも1つの特定された状態を、前記計算された送達投与量と共にデータセットに記憶すること、又は前記センサ(215a、215b)の前記少なくとも1つの特定された状態を、前記計算された送達投与量とは別にデータセットに記憶することをさらに含む、請求項1~7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記センサ(215a、215b)の前記少なくとも1つの特定された状態が1つ又は複数の既定の条件を満たさない場合にエラー信号を発生することをさらに含む、請求項1~8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記センサ(215a、215b)の前記少なくとも1つの特定された状態が前記1つ又は複数の既定の条件を満たさないことを知らせる警告を出力することをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記センサ(215a、215b)は、発光器及び受光器を有し、前記薬物送達装置(1)の可動コンポーネントの異なる領域(70a、70b)間の遷移を検出して、前記検出された遷移を含む前記センサ信号(1000)としての信号を出力するために提供され、そのように構成される光センサを含み、前記追加の読み取り値(1010)を得るために、前記光センサは、前記薬物送達装置(1)により送達される前記投与量を計算するための前記読み取り値(1012)を得るための前記パラメータとは異なるパラメータで制御される、請求項1~10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
薬物送達装置(1)又は薬物送達付属装置のセンサ(215a、215b)を制御する装置であって、請求項1~11の何れか1項に記載の方法を実行するように構成され、特に、コントローラ(23)、特にマイクロコントローラを含み、前記コントローラは、請求項1~11の何れか1項に記載の方法を実行するようにプログラムにより構成される装置。
【請求項13】
以下、すなわち計算された送達投与量及び/又は前記センサの少なくとも1つの特定された状態を記憶するための記憶ユニット(24)、外部コンピューティングデバイスと通信するように構成された通信ユニット(27)、前記装置を構成するためのユーザ入力を受け取り、並びに/又は送達投与量及び/若しくは前記センサの少なくとも1つの特定された状態に関する情報を出力するように構成されたユーザインタフェース(31)、送達投与量及び/又は前記センサの少なくとも1つの特定された状態に関する情報を表示するように構成された表示ユニット(30)のうちの1つ又は複数をさらに含む、請求項10に記載の装置。
【請求項14】
薬物送達装置(1)又は薬物送達付属装置のセンサユニットであって、請求項12又は13に記載の装置により制御されるセンサ(215a、215b)を含み、薬物送達装置(1)又は薬物送達付属装置に組み込まれるように提供され、そのように構成されるセンサユニット。
【請求項15】
請求項14に記載のセンサユニットを含む薬物送達装置(1)又は薬物送達付属装置、特に注射ペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、薬物送達装置又は薬物送達付属装置のセンサを、特にセンサのエラー及び/又は不良及び/又は劣化についてチェックすることに関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2016131713A1号パンフレットは、注入装置に取り付けるためのデータ収集装置及びそこからの薬剤投与量情報を収集することに関する。データ収集装置は、注入装置に取り付けるように構成された嵌合機構と、薬剤の送達中に、注入装置の可動投与量プログラミングコンポーネントの、データ収集装置に関する移動を検出するように構成されたセンサ機構と、前記検出された移動に基づいて、注入装置により投与される薬剤投与量を特定するように構成されたプロセッサ機構と、を含み得る。センサ機構は、特に発光ダイオード(LED)等の光源を含む光センサ、例えば光学式エンコーダユニットと、光変換器等の光検出器と、を含み得る。プロセッサ機構は、光学式エンコーダによりパルスが出力されてから経過した時間をモニタし、前記時間が所定の閾値を超えた場合に前記薬剤投与量を特定するように構成され得る。
【0003】
国際公開第2019101962A1号パンフレットは、薬剤注入装置に関する。注入装置は、既定の角度周期性を有するロータリエンコーダシステムを含む可動投与量プログラミングコンポーネントと、センサ機構であって、薬剤の投与中に可動投与量プログラミングコンポーネントの、センサ機構に関する移動を検出するように構成され、また、第一の周波数でのストローブサンプリングモードで動作するように構成された第一の光センサと、第二の光センサであって、ロータリエンコーダシステムの、第二の光センサに関する移動を検出するように構成され、また、第一の周波数より低い第二の周波数でのストローブサンプリングモードで動作するように構成された第二の光センサを含むセンサ機構と、前記検出された移動に基づいて、注入装置により投与される薬剤投与量を特定するように構成されたプロセッサ機構と、を含む。例えば赤外線(IR)反射センサであり、LEDからIR光を放出し、エンコーダシステムのIR反射領域から反射されたIR光を検出する光センサを含むセンサ機構を制御するためにコントローラが提供され得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、薬物送達装置又は薬物送達付属装置のセンサを、特にセンサのエラー及び/又は不良及び/又は劣化についてチェックする方法と装置を説明する。
【0005】
1つの態様において、本開示は薬物送達装置又は薬物送達付属装置のセンサをチェックする方法を提供し、このセンサは、薬物送達装置により送達されている薬物投与量の排出を検出し、それぞれのセンサ信号を出力するために提供され、そのように構成され、方法は、薬物送達装置により送達される投与量を計算するために得られる読み取り値に追加して、センサ信号の読み取り値を得ることと、追加的に得られた読み取り値を処理して、センサの少なくとも1つの状態を特定することと、を含む。特に、追加的に得られる読み取り値は、薬物送達装置により送達される投与量を計算するためには提供も使用もされない読み取り値である。追加的に得られる読み取り値は、投与量送達計算読み取り値とは異なり、専用のセンサ状態特定読み取り値とみなされ得る。したがって、追加的に得られる読み取り値により、センサ信号から得られる全体的読み取り値が増大し得る。追加的に得られる読み取り値により、投与量が薬物送達装置により送達されるときにもセンサをチェックすることが可能となる。それゆえ、センサチェックは、薬物投与量が送達される際に行われ得る。さらに、追加的に得られる読み取り値の提供により、センサの状態の特定に関してより高い柔軟性が提供され、これは、追加的な読み取り値が送達投与量の計算に用いられる読み取り値とは異なり得るからである。それゆえ、追加的に得られる読み取り値により、送達投与量を計算するために得られる読み取り値によるセンサチェックに頼るのではなく、例えばセンサの別のチェックを実行して、その状態を特定することが可能となり得、これは、これらのより後の時点で得られる読み取り値は通常、送達投与量の計算について事前に特定されたパラメータを有するからである。方法は、劣化、不良、及び/又はエラーが起こり得るアナログセンサ、例えば加速度計、光センサ、音響センサ、圧力センサ、温度センサ、近接センサ、赤外線センサ、超音波センサ、色センサ、湿度センサ、傾きセンサ、流量センサ、磁気/ホール効果センサ、放射線センサ、ライダ、電流センサ、光学センサ、力/トルクセンサ、ひずみゲージへの利用に特に適している。方法は、特にセンサが組み込まれる薬物送達装置又は薬物送達付属装置の寿命を通じたセンサの再現可能なパフォーマンスに関するチェックに役立ち得る。追加的に得られる読み取り値により、方法は、薬物送達装置又は薬物送達付属装置の通常の動作中に実行され得る。特に、方法は、何れの標準的センサ動作でも、すなわちセンサが投与量送達検出のための通常の動作中に、特定の間隔、例えばn回(n=1,2,3,...)の動作ごとに、特定の時間、日付等、特定のイベントの発生時に、及び/又は例えば外部機器からの、若しくはユーザ入力による外部コマンドの受信時に行われ得る。
【0006】
「センサの状態」という用語は、本明細書で使用されるかぎり、センサのあらゆる動作条件、例えばセンサ信号の、センサパラメータに関する正確さ、センサ信号のエラー、及び/又はセンサ信号の不良を意味し得る。例えば、「センサの状態」は、センサの故障、すなわちセンサ信号が完全に不良であるとき、センサの劣化、すなわち劣化によってセンサ信号が検知されたパラメータを正確に表さないとき、及び/又はセンサの回路構成の電気的故障等のエラー、例えば抵抗器、コンデンサ、インダクタ、センサに接続された回路構成のトラック、又はセンサ自体における、例えばエラー信号のグリッチ若しくはスパイク、又は短絡回路により持続的に1つのレベルのままであるエラー信号等の完全に誤ったエラー信号の原因となる故障を含み得る。
【0007】
「センサ信号の読み取り値」という用語は、本明細書で使用されるかぎり、特に特定の時点でアナログセンサ信号から得られるサンプルを含む。「読み取り値」は、特定の時間間隔にわたり得られ得て、これは様々であり得る。例えば、長期「読み取り値」は、名目又は短期「読み取り値」より長い時間間隔にわたって得られ得る。「読み取り値」はまた、幾つかの「サブ」読み取り値も含み得て、すなわち読み取り値は1つの読み取り値に限定されない。読み取り値を得るために、サンプルホールド回路が使用され得て、これはサンプリングスイッチと得られたサンプルを記憶するためのコンデンサを含む。得られた読み取り値はデジタル化されて、少なくともセンサの状態の特定等、さらに処理され得る。しかしながら、アナログ処理は、例えば比較器回路構成によって、得られた読み取り値を既定の閾値と比較することによっても可能である。「センサ信号の読み取り値」という用語は、本明細書で使用される限り、読み取り値は依然として同じ場合もあるものの、可変的な長さの時間にわたりセンサの「発光」部分を駆動することも含み得る。光センサを用いる実施形態において、例えば長期「読み取り値」は、センサの検出器側からの読み取り値を得る前に、LED(発光ダイオード)等の発光装置をより長期間にわたり駆動することを意味し得る。短長パルスの何れについても、読み取り値が得られる有効時間は同じ時間であってもよく、すなわちこれは、検出器に、それがより長い光パルスに曝露されていたために、より多くの電荷が蓄積しているというだけでありうる。
【0008】
実施形態において、追加的に得られる読み取り値は、薬物送達装置による薬物投与量の送達前、その後、その開始時、その終了時、及び/若しくはその最中に得られ得て、並びに/又は追加的な読み取り値は、薬物送達装置による薬物投与量の送達の全体、その一部分、又は複数の部分を通じて得られる。例えば、ユーザが薬物送達装置による投与量の選択を始めると、選択された投与量を検出するための電子システムが作動され、投与量選択に対応する出力信号を生成するためのセンサをオンに切り替え得る。出力信号が得られている間、一連の読み取り値が得られ得る。また、例えば、追加的な読み取り値は、薬物送達が終了してもセンサが依然としてセンサ信号を生成しているときにも得られ得る。
【0009】
別の実施形態において、追加的な読み取り値は、送達投与量を計算するための読み取り値と同じパラメータで得られ得る。それゆえ、追加的な読み取り値を得るために読み取り値取得の変更は不要であり、読み取り値取得の何れの制御も、何れの読み取りパラメータ変更するようにも構成されなくてよい。例えば、読み取り値取得持続時間、読み取り値取得の周波数、読み取り値取得のベルは、送達投与量を計算するための読み取り値と追加的な読み取り値に関して変更されないままであり得、これによって読み取り値制御を実行するための労力が軽減され得る。
【0010】
代替的な実施形態において、追加的な読み取り値は、送達投与量を計算するための読み取り値とは異なるパラメータで得られ得て、特に追加的な読み取り値は、送達投与量を計算するための読み取り値を得る場合の時間、周波数、又はレベルより長い、又は短い時間にわたり、より高い又は低いレベル及び/又は周波数で得られ得る。これによって特に、追加的な読み取り値の取得をチェック要件に合わせて調整することができ、例えば追加的な読み取り値は、送達投与量の計算のための通常の読み取り値より高い周波数で得られて、それによってチェックの正確さが増大し得る。
【0011】
また別の実施形態において、送達投与量を計算するための読み取り値を得ることと、追加的な読み取り値を得ることの間に、読み取り値を得ない少なくとも1つの期間が含められ得る。このような「不測定」期間は、デバウンシング又は、センサ回路構成及び/又は制御並びに処理回路構成の電気機器内の電荷放散等のその他の一時的効果に対応し得て、したがって、方法の全体的パフォーマンスを改善するのに役立ち得る。
【0012】
実施形態において、センサの状態を特定するための追加的に得られる読み取り値の処理は、追加的に得られた読み取り値を少なくとも1つの閾値に照らして検査することと、センサの少なくとも1つの状態を、検査結果に基づいて特定することを含み得る。これによって、センサの電位誤差、不良、又は劣化の状態を区別できる。例えば、少なくとも1つのエラー閾値、不良閾値、及び劣化閾値等、異なる状態のために異なる閾値が提供され得る。追加的に得られる読み取り値はその後、少なくとも1つの閾値と比較され得て、比較結果に基づいてセンサの1つ又は複数の状態が特定され得る。
【0013】
ある実施形態において、方法は、送達投与量を計算するために得られた読み取り値を少なくとも1つの閾値に照らして検査することと、このさらなる検査を、センサの少なくとも1つの状態を特定するために使用することをさらに含み得る。送達投与量の計算のために得られる読み取り値に基づくさらなる検査は、追加的に得られた読み取り値に基づく検査からは独立しても、後者と一緒に行われてもよい。これは例えば、追加的に得られた読み取り値に基づいて特定される少なくとも1つのセンサ状態の尤度チェックに使用され得る。
【0014】
実施形態において、方法は、センサの少なくとも1つの特定された状態を、計算された送達投与量と共にデータセットに記憶すること又は、センサの少なくとも1つの特定された状態を、計算された送達された投与量とは別にデータセットに記憶することをさらに含み得る。計算された送達投与量と共に記憶することには、例えば外部機器が使用されて薬物送達装置又は薬物送達付属装置から受け取った後に送達投与量を処理するためにセンサ状態をすぐに見て、例えば計算された送達投与量の正確さを査定し得るという利点がある。特定されたセンサ状態を別々のデータベースに記憶することにより、処理のために外部機器に伝送すべきデータの量が削減される。別々のデータセットは例えば、例えばプロセッサ、特にセンサを制御するために提供され、そのように構成されたコントローラの内蔵メモリの専用メモリ領域内にあり得、例えば薬物送達装置又は薬物送達付属装置が正確な測定結果を依然として送達しているか否かをチェックする役割の目的のためにアクセスされ得る。
【0015】
実施形態において、方法は、センサの少なくとも1つの特定された状態が1つ又は複数の既定の条件を満たさない場合にエラー信号を発生することをさらに含み得る。エラー信号は、例えば薬物送達装置又は付属装置の使用を、センサの劣化、センサのエラー、及び/又はセンサの故障によって、特に送達投与量計算の正確さが既定の程度まで確保できなくなったときに停止するために、直ちに処理され得る。
【0016】
ある実施形態において、方法は、センサの少なくとも1つの特定された状態が1つ又は複数の既定の条件を満たさないことを知らせる警告を出力することをさらに含み得る。警告は例えば、特に例えば薬物送達装置若しくは付属装置、及び/又は薬物送達装置若しくは付属装置に接続されて警告を受け取る外部機器に組み込まれたLED(発光ダイオード)、振動モータ、ブザー、又はスピーカによって生成される視覚的、触覚的、及び/又は聴覚的警告、例えば点滅する光信号、振動、及び/又はブザー音であり得る。
【0017】
実施形態において、センサは、発光器及び受光器を有し、薬物送達装置の可動コンポーネントの異なる領域間の遷移を検出して、検出された遷移を含むセンサ信号としての信号を出力するために提供され、そのように構成される光センサを含み得て、追加の読み取り値を得るために、光センサは、薬物送達装置により送達される投与量を計算するための読み取り値を得るためのパラメータとは異なるパラメータで制御される。例えば、光センサは国際公開第2019101962A1号パンフレットに記載されているような薬物選択排出機構の一部であり得る。方法は例えば、光センサを、追加的な読み取り値を得るために、投与量計算のための読み取り値取得のための光放出より長い光放出を生成するために、他の制御信号で制御し得て、及び又はこれは光センサを、追加的な読み取り値を得る際に光放出をオフにするための制御信号で制御し得る。
【0018】
別の態様において、本開示は薬物送達装置又は薬物送達付属装置のセンサを制御する装置を提供し、この装置は、本願で開示される方法を実行するように構成され、装置は特に、コントローラ、特にマイクロコントローラを含み、コントローラは、本願で開示される方法を実行するようにプログラムにより構成される。プログラムは例えば、投与量送達計算を行うために提供された、薬物送達装置又は付属装置の電子システムのコントローラのファームウェアの一部であり得る。
【0019】
実施形態において、装置は、以下、すなわち計算された送達投与量及び/又はセンサの少なくとも1つの特定された状態を記憶するための記憶ユニット、外部コンピューティングデバイスと通信するように構成された通信ユニット、装置を構成するためのユーザ入力を受け取り、並びに/又は送達投与量及び/若しくはセンサの少なくとも1つの特定された状態に関する情報を出力するように構成されたユーザインタフェース、送達投与量及び/又はセンサの少なくとも1つの特定された状態に関する情報を表示するように構成された表示ユニットのうちの1つ又は複数をさらに含み得る。特に、装置は、前述のデバイスの1つ又は複数を含む電子システムを含み得る。電子システムは例えば、通信ユニットによって薬物送達装置又は付属装置とデータ処理のための外部コンピューティングデバイス、例えばラップトップコンピュータ、デスクトップコンピュータ、クラウドコンピュータ、スマートフォン等のハンドヘルドコンピュータ、タブレットコンピュータ、スマートウォッチ、サーバコンピュータ、医療目的で提供され、構成されたコンピュータとの接続を実行し得る。電子システムはまた、ユーザインタフェース及び表示ユニットをタッチスクリーンによって実装し得る。
【0020】
また別の態様において、本開示は薬物送達装置又は薬物送達付属装置のセンサユニットを提供し、このセンサユニットは、本願で開示される装置によって制御されるセンサを含み、センサユニットは薬物送達装置又は薬物送達付属装置に組み込まれるように提供され、そのように構成される。センサユニットは例えば、コントローラと、コントローラ及び少なくとも1つのセンサの動作に必要なその他の電子コンポーネントを含む電子システムを備えるプリント回路基板(PCB)を含み得て、少なくとも1つのセンサはPCBとワイヤ接続され得る。
【0021】
さらにまた別の態様において、本開示は、本願で開示されるセンサユニットを含む薬物送達装置又は薬物送達付属装置、特に注射ペンを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】第一の種類のエンコーダシステムの側面図を示す。
【
図3】
図2に示されるエンコーダシステムの平面図である。
【
図4】第二の種類のエンコーダシステムの側面図である。
【
図5】
図4に示されるエンコーダシステムの平面図である。
【
図6】装置コントローラのある実施形態の概略ブロック図を示す。
【
図7】センサにより生成されるセンサ信号の例示的波形とこのセンサ信号から得られる読み取り値を示す。
【
図8】このようなセンサにより生成されるセンサ信号の別の波形とこのセンサ信号から得られる読み取り値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本開示の実施形態を、注入装置、特にペン型の注入装置に関して説明する。しかしながら、本開示はこのような用途に限定されず、その他の種類の薬物送達装置でも、特にペン以外の形状のものでも等しく利用され得る。全ての絶対値は本明細書において例として示されているにすぎず、限定的と解釈されるべきではない。
【0024】
注入ボタンとグリップが組み合わせられた注射ペンの例とその機械的構成が、国際特許出願国際公開第2014033195A1号パンフレットに詳しく記載されている。別々の注入ボタン及びグリップコンポーネントがある注入の他の例は、国際公開第2004078239A1号パンフレットに記載されている。
【0025】
以下の記述の中で、「遠位」、「遠位方向に」、及び「遠位端」という用語は、注射ペンの、針が設けられる端を指す。「近位」、「近位方向に」、及び「近位端」は、注入装置の、注入ボタン又は投与量ノブが設けられる反対の端を指す。
【0026】
図1は、注射ペン1の分解図である。
図1の注射ペン1は、プレフィルド型使い捨て注射ペンであり、ハウジング10を含み、インスリン容器14が収容されており、そこに針15を取り付けることができる。針は、内側針キャップ16と、外側針キャップ17又は他のキャップ18の何れかにより保護される。注射ペン1から排出されるべきインスリン投与量は、投与量ノブ12を回すことによってプログラム、又は「ダイアル操作」でき、すると、その時現在プログラムされている投与量が投与量窓13を介して、例えば倍数単位で表示される。例えば、注射ペン1がヒトインスリンを投与するように構成されている場合、投与量はいわゆる国際単位(IU)で表示され得て、1IUは高純度結晶インスリン約45.5マイクログラム(1/22mg)の生物学的等価量である。インスリン類似体又はその他の薬剤を送達するための注入装置においては、他の単位が使用され得る。選択された投与量は、
図1の投与量窓13に示されているものとは異なる方法でも同等に表示され得る点に留意すべきである。
【0027】
投与量窓13はハウジング10の開口の形態であり得、それによってユーザは、投与量ノブ12が回されると動き、現在プログラムされている投与量の視覚的表示を提供するように構成されたダイアルスリーブ70の限定部分を見ることができる。投与量ノブ12は、プログラミング中に回されるとハウジング10に関してらせん経路で回転する。この例において、データ収集装置(薬物送達又は注入付属装置)を取り付けやすくするために、投与量ノブ12は1つ又は複数の形成部71a、71b、71cを含む。
【0028】
注射ペン1は、投与量ノブ12を回すことによって機械的なクリック音を発生し、ユーザに音声フィードバックが提供されるように構成され得る。ダイアルスリーブ70は、インスリン容器14内のピストンと機械的に相互作用する。この実施形態において、投与量ノブ12は注入ボタンとしても機能する。針15が患者の皮膚部分に打ち込まれて投与量ノブ12が軸方向に押されると、表示窓13に表示されたインスリン投与量が注射ペン1から排出される。投与量ノブ12が押されてから注射ペン1の針15が皮膚部分に特定時間とどまると、投与量のうちの高いパーセンテージが実際に患者の体内に注入される。インスリン投与量の排出によっても機械的クリック音が発生し得るが、これは投与量のダイアル操作中に投与量ノブ12を回転させたときに発生する音とは異なる。
【0029】
この実施形態において、インスリン投与量の送達中に、投与量ノブ12は軸方向に移動して回転せずにその当初の位置に戻り、他方でダイアルスリーブ70は回転してその当初位置に戻り、例えばゼロ単位の投与量を表示する。
【0030】
注射ペン1は、インスリン容器14が空になるか、注射ペン1内の薬剤の消費期限(例えば、最初の使用から28日後)に到達するまで、複数回の注射プロセスに使用され得る。
【0031】
さらに、注射ペン1を初めて使用する前にインスリン容器14及び針15から空気を抜くために、例えば針15付きの注射ペン1を上向きにして持ち、インスリン2単位を選択し、投与量ノブ12を押すことによって、いわゆる「プライムショット」を実行する必要があり得る。説明を簡単にするために、以下において、排出量は注入される投与量に実質的に対応し、それによって、例えば注射ペン1から排出される薬剤の量は使用者が受ける投与量と等しいと仮定される。しかしながら、排出量と注入量との差(例えば、損失)は考慮する必要があり得る。
【0032】
前述のように、投与量ノブ12はまた、注入ボタンとしても機能し、それによって同じコンポーネントがダイアル操作及び吐出のために使用される。1つ又は複数の光センサを含むセンサ機構215(
図2及び3)が注入ボタン又は投与量ノブ12の中に取り付けられ得て、これはダイアルスリーブ70の、注入ボタン12に関する相対的回転位置を検知するように構成される。この相対回転は、吐出又は送達される投与量の大きさと同等として、投与歴情報を生成し、保存又は表示するために使用できる。センサ機構215は、第一の(光)センサ215aと第二の(光)センサ215bを含み得る。このセンサ機構は例示的な実施形態にすぎず、他の異なるセンサ機構も使用され得る。簡潔にするために、以下においてはセンサ機構215のみを有する実施形態を詳しく説明するが、他のセンサ機構、例えば1つのセンサ又は3つ以上のセンサを有する機構、すなわち反射エリアの同じ、及び/又は異なる集合に向けられた複数の異なる、及び/又は同じセンサを有する機構も利用可能であることに留意すべきである。また、反射エリアを持たないセンサ機構も、例えば半透明及び不透明エリアを交互に有する回転可能なエンコーダが発光器とセンサ機構のセンサとの間に位置付けられて、エミッタから放出された放射が、半透明エリアだけが発光器とセンサとの間にあるときにのみ回転可能エンコーダを通過できる場合に、使用可能である。センサ機構215は、異なる注入装置1と共に使用するように提供され、センサ機構215により取得されるデータを収集するように構成され得る薬物送達又は注入付属装置にも取り付けられ得る。
【0033】
センサ機構215の光センサ215a、215bは、
図2、3及び4、5にそれぞれ示されるシステム500及び900のようなエンコーダシステムと共に使用され得る。エンコーダシステムは、前述の装置1と共に使用されるように構成される。
【0034】
図2及び
図3に示されるように、第一のセンサ215a及び第二のセンサ215bは、ダイアルスリーブ70の近位端における特に適合された領域を標的とするように構成される。この実施形態では、第一のセンサ215a及び第二のセンサ215bは、IR反射センサである。したがって、ダイアルスリーブ70の特に適合された近位領域は、反射エリア70aと非反射(すなわち吸収)エリア70bとに分けられる。ダイアルスリーブ70の、反射エリア70aと非反射(すなわち吸収)エリア70bを含む部分は、エンコーダリングと呼ばれ得る。
【0035】
生産コストを最小限に抑えるために、これらのエリア70a、70bを射出成形ポリマから形成することが好都合であり得る。ポリマ材料の場合、吸収率と反射率は、例えば吸収率についてはカーボンブラック、反射率については酸化チタン等の添加物を用いて制御することができる。吸収領域は成形ポリマ材料であり、反射領域は金属で製作される(追加的な金属コンポーネントか、又はポリマダイアルスリーブ70のセグメントの選択的金属化)代替的な実装も可能である。
【0036】
2つのセンサを有することにより、後述の電力管理方法が容易となる。第一のセンサ215aは、特定の薬物又は投薬レジームに当てはまる投与歴要件に必要な分解能、例えば1IUに相応の周期で、交互の反射領域70a及び非反射領域70bの連続を標的とするように配置される。第二のセンサ215bは、第一のセンサ215aと比較してより低い周期で、交互の反射領域70a及び非反射領域70bの連続を標的とするように配置される。エンコーダシステム500は、第一のセンサ215aのみと機能して、吐出される投与量を測定することができると理解すべきである。第二のセンサ215bにより、後述の電力管理方法が容易となる。
【0037】
図2及び3では、2セットのエンコード領域70a、70bが、一方が外側、他方が内側の同心円状に示されている。しかしながら、2つのエンコード領域70a、70bの何れの適当な配置も可能である。領域70a、70bはキャスタレート領域として示されているが、その他の形状と構成も可能であることを念頭に置くべきである。
【0038】
図4に示されるように、この実施形態の2つのセンサ215は、ダイアルスリーブ70の特に適合された領域70a、70bを標的とするように構成される。この実施形態では、IR反射センサが使用され、したがって、ダイアルスリーブ70の領域は反射及び吸収セグメント70a、70bに分割される。セグメント70a、70bはまた、本明細書においてはフラッグとも呼ばれ得る。
【0039】
図2及び3に関して上述したエンコーダシステム500とは異なり、
図4及び5に示されるエンコーダシステム900では、両方のIRセンサ215が同じ種類の領域70a、70bを標的とする。換言すれば、センサ215は、これらが同時に、両方が反射領域70aと面するか、又は両方が吸収領域70bと面するように配置される。ある投与量を吐出している間に、ダイアルスリーブ70は、吐出された薬剤単位ごとに注入ボタン210に関して反時計回りに15°回転する。代替的なフラッグ要素は、30°(すなわち2単位)の区画にある。センサ215は相互に位相ずれし、それらの間の角度が
図5に示されるように奇数単位(例えば、15°、45°、75°等)と等しくなるように配置される。
【0040】
図5に示されるエンコーダシステム900は、1回転あたり12単位、例えば12の交互領域70a、70bを有する。一般に、実施形態は1回転あたり4単位の何れの倍数でも動作する。センサ215間の角度又は次式により表現でき、mとnはどちらも何れかの整数であり、1回転あたり4m単位が吐出される。
【数1】
式 - センサ間の角度
【0041】
装置1又は、装置1に取り付けられる付属装置はまた、
図6に概略的に示されるようなセンサユニット700も含み得る。センサユニット700は、2つのセンサ215a、215bを含むセンサ機構215と、センサ機構215を制御するための装置を含み得る。制御機器は、1つ又は複数のプロセッサ、例えばマイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ(DSP)、特定用途集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、その他等を含むプロセッサ機構23、プロセッサ機構23により実行されるソフトウェアを記憶できるプログラムメモリ24及びメインメモリ25を含むメモリユニット24、25、Wi-Fi(商標)又はBluetooth(登録商標)等の無線ネットワークを介して他の機器と通信するための無線通信インタフェース及び/又はユニバーサルシリアルバス(USB)、ミニUSB又はマイクロUSBコネクタを受けるためのソケット等の無線通信リンクのためのインタフェースであり得る通信ユニット又は出力27、例えばLCD(液晶ディスプレイ)、1つ又は複数のLED、及び/又は電子ペーパディスプレイ等の表示ユニット30、例えば1つ又は複数のボタン及び/又はタッチ入力機器等のユーザインタフェース(UI)31、電源スイッチ28、及びバッテリ29を含み得る。
【0042】
制御装置のコンポーネント23、24、25、27、28、29、30、31は、コンポーネントの配線を含むPCBにはんだ付けされ得る。センサ機構215は、PCBに取り付けられても、プロセッサ機構23にワイヤ接続されてもよい。センサユニット700の実装は、それを組み込むべき薬物送達装置又は薬物送達付属装置に依存する。例えば、コンポーネント23、24、25、27、28、29、30、31を備えるPCBは、注入装置1の遠位端に組み込まれ得て、センサ215a、215bは
図2及び3に示されように配置され、PCBにワイヤで接続され得る。コンポーネント23、24、25、27のうちの少なくとも幾つかは、SoC(システムオンチップ)又はマイクロコントローラにも含まれ得る。
【0043】
プログラムメモリ25に記憶されるファームウェアは、プロセッサ機構23を、センサ機構215を制御して、装置1を用いて送達される薬物投与量の排出を検出することができ、センサ215a、215bの各々が、特に
図2及び3に関して上述したように、検出された送達薬物投与量に対応するセンサ信号を出力するように構成し得る。プロセッサ機構23は、センサ215a、215bの各々のセンサ信号を受信して各センサ信号の読み取り値を得、これらが処理されて送達投与量が計算される。読み取り値は、例えばセンサ215a、215bのアナログ電圧信号の1つ又は複数の電圧サンプルを含み得る。読み取り値はまた、特定の時間範囲にわたるセンサ215a、215bのアナログ電圧信号の積分も含み得る。電圧信号の代わりに、センサにより生成される電流、電荷、又はその他の出力信号もまた、読み取り値、例えばセンサ信号の周波数、周波数シフトを得るために使用され得る。読み取り値は、注入装置1の動作中に、装置1により吐出される単位数を測定するために、各センサ215a、215bにより得られ得る。吐出される単位数の測定は、後でより詳しく説明するように、各センサ信号のピークを計数することと、計数されたピークから送達投与量を導き出すことを含み得る。
【0044】
装置1に組み込む必要のあるバッテリ29の大きさを小さくすることができるように、エンコーダシステムの500の電力使用を小さくすることができることが有利である。この実施形態で使用されるセンサ215a、215bには、動作するために特定の量の電力が必要となる。この実施形態は、センサ215a、215bが制御された周期で間欠的にオンオフを切り替えることができるように(すなわち、ストローブサンプリングモードで)配置される。本来的に、エイリアシングが発生する前に、サンプリングされたエンコーダシステムにより計数可能な最大回転速度には限界がある。エイリアシングとは、サンプリングレートが、検知された領域がセンサを通過するレートより低い現象であり、これは、領域の変化が見落とされたときにカウントミスが生じることを意味する。第一の周波数215aと比較して低い周波数の第二のセンサ215bは、それにもエイリアシングが発生する前に、より高い回転速度に耐えることができる。第二のセンサ215bは吐出される投与量を第一のセンサ215aと同じ分解能まで分解できないが、第二のセンサ215bの出力はより高い速度でも信頼できる状態のままである。したがって、両方のセンサ215a、215bが組み合わせて使用されて、第一の閾値回転(吐出)速度まで、送達される投与量を正確に特定することができる。センサ215a、215bはすると、第二の(より高い)閾値投与速度まで、送達される大体の投与量を特定するために使用できる。第二の閾値速度より高い速度では、センサ215a、215bは送達される投与量を正確に、又は概算で特定することができず、したがって、第二の閾値は、注射ペン1では物理的に不可能な速度より高く設定される。
【0045】
第一の速度閾値は、第一のセンサ215aのサンプリングレートと、所期の薬物又は投与レジームにより必要とされる分解能(例えば、1IU当たり1回の遷移)に固定されるエンコーダ領域遷移の周期によって特定される。第二の速度閾値は、第二のセンサ215bのサンプリングレートと、エンコーダ領域遷移の周期によって特定される。第一の閾値は、吐出速度の最大範囲が、吐出される投与量の正確な報告のために、システムによりカバーできるように設定される。
【0046】
図3に示される例示的実施形態は、送達される投与量の1IUあたり1回の遷移の領域遷移を標的とする第一のセンサ215aと、送達される投与量の6IUあたり1回の遷移の領域遷移を標的とする第二のセンサ215bを有する。その他の選択肢も可能であり、これには2IUあたり1回の遷移、4IUあたり1回の遷移、8IUあたり1回の遷移、IU単位あたり1回の遷移が含まれる。これらの選択肢は各々、
図3に示されるエンコーダシステム500に1回転あたり24の別々の領域70a、70bがあるため、可能である。一般に、1回転当たりの別々の領域70a、70bの数がn単位であった場合、m単位あたり1回の領域遷移における選択肢があり、mは、1より大きくnより小さい、nの何れかの整数因数である。
【0047】
両方のセンサ215a、215bのサンプリング周波数が低速であるほど、必要な電力消費量は小さく、したがってバッテリ29の必要な大きさも小さくなる。したがって、設計によりサンプリング周波数をできるだけ小さくすることが最適である。
【0048】
プログラムメモリ25に記憶され、プロセッサ機構23により送達投与量を検出するために実行されるファームウェアは、後でより詳しく説明するように、センサ機構215のセンサ215a、215bをチェックする方法も実行する。チェック方法は、プロセッサ機構23を、送達投与量を計算するために得られる読み取り値に追加して、少なくともセンサ215a、215bの信号の読み取り値を得るように構成する。
【0049】
センサチェックのための追加的な読み取り値は、薬物送達装置による薬物投与量の送達前、後、その開始時、その終了時、及び/又はその最中に得られ得る。例えば、投与量が薬物送達装置により選択されると、読み取り値はセンサ215a、215bの信号から得られ、センサ215a、215bをチェックするために処理され得る。また、薬物送達中、追加的な読み取り値は、センサ215a、215bのチェックのために得られ得る。このような場合、追加の読み取り値は、排出される投与量を計算するために得られる読み取り値とは時間シフトされて得られ得る。さらにまた、追加的な読み取り値は、例えば選択された薬物投与量を排出させるために投与量ノブ12を軸方向に押すことによってトリガされる選択された薬物投与量の排出の開始時及び/又は終了時に得られ得て、センサ215a、215bは、例えば薬物投与量の排出中にエンコーダシステム500が回転したときにセンサ信号を生成した。追加的な読み取り値は、薬物送達装置による薬物投与量の送達の全体、その一部分、又は複数の部分にわたり得られ得る。追加的に得られる読み取り値の数は、チェックの結果に影響を与え得る。例えば、追加的に得られる読み取り値の数が大きいと、より平均的なチェック結果が得られ得る。
【0050】
追加的な読み取り値は、試験、特にセルフチェック試験を行うために、投与量計算のために得られる標準的な読み取り値と同じでも、異なっていてもよい。何れの追加的な読み取り値も、1つ又は複数のセンサによる標準的読み取り値より長い、又は短い時間スパンにわたり得られてよく、センサ技術に応じて、標準的読み取り値より高い、又は低いレベル及び/又は周波数であってよい。センサ215a、215b等の光センサ(
図2、3)の例では、最大輝度での長期読み取りを行い、その後、最小輝度での長期読み取りを行うことができる。デバウンシング、又は電荷放散等の他の一時的効果に対応するために、不測定期間が読み取り前又は読み取りと読み取りの間に含められ得る。
【0051】
追加的に得られる読み取り値を、例えば1つ又は複数の追加的な読み取りの結果を1つ又は複数の閾値に照らして検査することによって処理することにより、そこからその追加的な読み取り値が得られた信号を出力したセンサの電位誤差、不良、又は劣化の状態を区別することができる。追加的に、標準的読み取り値は、単独で、又はセルフチェック読み取り値と一緒に検査され得る。
【0052】
図7は、例えば光センサ215a、215b(
図2、3)等の光センサにより生成される時間tにわたるボルトVを単位とする典型的なセンサ信号1000と標準的読み取り値1012の前に得られた追加的な読み取り値1010の例を示す。追加的な読み取り値1010は標準的読み取り値とは異なるパラメータ、例えば時間スパンT1又はT2、ただしT1<T2で得られ得て、他方で標準的読み取り値は、T1、T2より長いか短いか、又はそれと等しくてよい時間スパンT3にわたり得られ得る。追加的に得られる読み取り値1010はその後、処理されてセンサ状態が特定され得て、特にこれらは1つ又は複数の閾値TH1、TH2、TH3と比較できる。
【0053】
閾値TH1は、例えば読み取り値が高すぎ、おそらくセンサ信号が供給電圧に対して不良となったことを示し得る。閾値TH2は、そのセンサ信号がこの閾値に近すぎる場合に、センサに劣化が生じていることを示し得る。閾値TH3は、読み取り値が小さすぎ、おそらくセンサ信号がアースに対して不良となったことを示し得る。
【0054】
図8は、閾値TH1~TH3と、センサ信号を生成するセンサの劣化を示している可能性のあるセンサ信号1002、1004、1006の例を示す。センサ信号1000、1002、1004、1006のサンプルは、特定の時間スパンT1、T2中の専用のサンプリング時間1008で得ることができ、時間スパンT2>T1である。留意すべき点として、時間1008にサンプルを得ることは、送達投与量を計算するための標準的読み取り値について得られるサンプルとは異なり得る。また、サンプリング周波数は追加的な読み取り値と標準的読み取り値との間で異なっていてもよいだけでなく、サンプルが得られるレベル等、別のパラメータも異なり得る。例えば、追加的な読み取り値は標準的読み取り値より高いレベルで得ることができ、センサ215a、215b等の光センサの場合に、より高い供給電圧及び電流が追加的な読み取り値のために使用され得る。サンプルはサンプリングされた信号電圧であり得、さらに処理するために平均して、時間スパンT1、T2にわたる平均サンプル電圧を得ることができる。また、時間スパンT1、T2中に得られた各単独サンプルを処理することも可能である。複数のサンプルの代わりに、信号は時間スパンT1、T2にわたり積分されてもよく、積分がさらに処理され得る。時間スパンT1、T2内に得られたサンプルも、又は他の何れの値も、センサ信号1000、1002、1004、1006の読み取り値とみなされ得る。
【0055】
センサ信号1000は、送達投与量を正確に計算するのに十分な状態のセンサにより生成される典型的な出力である。信号1002は閾値TH1を上回り、それゆえ、例えばこの信号を出力するセンサのうちの何れかの回路構成が電圧を供給できないかもしれないことを示し得る。信号1004は閾値TH2に近く、センサの劣化、例えばセンサがより高い振幅のセンサ信号を出力できなくなったこと(例えば、光センサのLED又はフォトダイオード若しくはフォトトンジスタが劣化したこと)を示し得る。信号1006は閾値TH3より低く、これは、この信号を出力するセンサの何れかの回路構成がアース電圧(例えば、0ボルト)に対して不良となり得ることの示唆であり得る。閾値TH2及びその他の閾値はまた、センサの特定の状態を示すために、サンプル又はサンプルから得られる何れかの値が含まれるある範囲としても実装され得る。
【0056】
以下に、処理の別の例、特に追加的に得られる読み取り値の検査を挙げる:
- 長期の追加的読み取り値は標準的測定期間の前後に得られ得て、長期の追加的読み取り値の2つの値が近くなければ、センサのパフォーマンスが動作中に低下したことと解釈され得る。
- オフであるセンサから得られた読み取り値が低い閾値を上回ることは、センサが(例えば電圧供給を)ロックされているか、フローティング信号を有することを示し得る。
- 吐出中に得られた読み取り値は、吐出の前に得られた読み取り値によって特定された範囲外にある。
- 最大レベルにあるセンサから得られた読み取り値が事前に特定された閾値より低いことは、センサが劣化したこと、又はフローティング信号を示し得る。
- 吐出中に得られた最大読み取り値は、吐出中に得られた平均読み取り値から離れた特定の数の標準偏差内に含まれない。
- 吐出後に得られた長期読み取り値が許容公差から外れて変化することは、不良、又はシステムが動き続けていることを示し得る。これは、電気回路の状態(例えば、メイク又はブレイクスイッチ)等の何れかの他の既知の値と比較され得る。
- 吐出中に得られた最大読み取り値が閾値より高いことは、電圧供給の故障によるロックを示し得る(例えば、
図8の信号1002と閾値TH1)。
- 吐出中に得られた最小読み取り値が閾値より低いことは、故障によりアースにロックされたことを示し得る(例えば、
図8の信号1006と閾値TH3)。
- 得られた読み取り値が閾値に近すぎることは、センサの劣化を示す(例えば、
図8の信号1004と閾値TH2)。
【0057】
追加的な読み取りの解析結果、特に例えば劣化、不良等のセンサの特定された状態はその後、投与量記録と共に、又は個々の記録そのものとして、
図6に示されるセンサユニット700のメインメモリ24に記憶できる。この情報は、通信ユニット27を介して、スマートフォンを含み得る外部コンピューティングデバイスに、又は表示ユニット30を介してユーザに直接伝えられるか、ユーザ、医療従事者、及び/又は製造者が後で解析するためにメインメモリ24に記憶できる。例えば、センサの不良状態があると特定された場合、ユーザには、その薬物送達装置又は付属装置の使用を停止し、新しい装置と交換するように、例えばユーザに視覚、触覚、及び/又は聴覚警告で警告することによって推奨され得る。警告は例えば、表示ユニット30上に表示する、薬物送達装置若しくは薬物送達(付属)装置に接続された外部コンピューティングデバイスに含まれる振動モータによって生成される薬物送達装置の振動によりユーザに伝える、及び/又は薬物送達装置に組み込まれたブザー若しくは薬物送達(付属)装置に接続された外部コンピューティングデバイスのスピーカを介してブザー音を生成することによって知らせることができる。不十分なセンサの状態が特定されたときに、投与量記録にフラグを立てて、投与量記録に不正確である可能性があるとユーザに伝え得る。
【0058】
次に、接続可能な注入装置の特定の実施形態について説明する。
【0059】
装置はオプトカプラ型の(発光器と検出器を有する)2つの光センサA及びBを有する(
図2、3に示されるシステムと同様に、AとBはセンサ215a及び215bに対応する)。故障の影響を検出するために、投与イベントの終了時に追加的なセンサ読み取り値が得られる。投与の終了時に読み取り値を得ることが選ばれるのは、この状態で、センサはその最低値に近いか、又はその最大値に近い読み取り値を示すはずであり、したがってより予測可能であるからである(これらが黒又は白の反射板に向けられ、白と黒との間のエッジの近くにはないべきであるからである)。
【0060】
これらの特定のチェックは、それらがこれを示すべきではないときに「高い値」を示すか否か、値が変化せず、光の変化に応答しないか否か、それらがこれを示すべきではないときに「低い値」を示すか否か、及び劣化して、それらが閾値に幾分近すぎる値を示しているか否か(閾値が信号をデジタル化するためにソフトウェアが使用される閾値であり得る場合)を確かめることを目指す。
【0061】
特定のチェック方法は以下の通りであり得る:
AnormとBnormは、投与イベントの終了時に、スイッチが再び切られ、デバウンス期間が終わってから読み取られる2つの最新の標準的な読み取り値である。
【0062】
通常の読み取り値の後に2つの追加的な特殊な読み取り値が得られる:
250μsのポーズが設けられ、その後、各センサA及びBからの読み取り値が、長時間センサLEDを作動させて(例えば、通常パルスより4~6倍長い)得られる。これらの特殊な読み取り値をAbright及びBbrightとする。
【0063】
次に、さらに1msのポーズが設けられ(電荷放散のため)、その後、センサLEDを作動させずに各センサA及びBからセンサ読み取り値を得る。これの読み取り値をAoff及びBoffとする。
【0064】
以下の状態の何れかが真であると、エラーコードが生成される(AthresholdとBthresholdは、黒と白の間の所定のカスタム遷移閾値であり、具体的な値は例にすぎず、実際には異なっていてもよい)。
【0065】
【0066】
上記の具体的な値は、本発明の範囲を限定するものと解釈してはならず、本発明を実現するために様々な構成を選択できる。
【0067】
注入装置のセンサをチェックする方法のこの特定の実施形態は、注入装置の利用を改良するのに適し得るが、これは投与量測定が、特に注入装置の寿命にわたり、より高い正確さで行われ得るからである。
【0068】
薬物送達装置又は薬物送達付属装置のセンサの寿命にわたる正確で再現可能なパフォーマンスにより、注入システムの投与量記録等の情報を正確に記録できることが確実となり得る。本願で開示されるセンサのチェックは特に、センサを用いるシステムにおける1つ又は複数の故障、エラー、及び/又は不良を識別するためのセルフチェックとして実行され得る。さらに、セルフチェックは、センサのパフォーマンスをある期間にわたってモニタし、例えば経年又は外部汚染物質、例えば水や塵埃の存在による劣化にまで対処できる。
【0069】
本願で開示されるように、特に単独不良状態は、センサをチェックすることによって検出できる。このような検出可能な単独不良としては、コンポーネントの損傷、トラックの切断、トラックから他のトラックへのショート、経年、又はパフォーマンスを劣化させる水/デブリ/塵埃の存在が含まれるが、これらに限定されない。これらは、センサの読み取り値をアース電圧まで引き下げること、センサ読み取り値を供給電圧まで引き下げること、電気的に「フローティング」状態の読み取り値を生じること、読み取り値をロックすること、すなわち刺激に曝露されても読み取り値が変化しないこと含むがこれらに限定されない不良につながり得る。
【0070】
実施形態は、上述の光センサだけではなく、基本的に薬物送達装置及び薬物送達付属装置の中で利用可能なあらゆる種類のアナログセンサ、例えば加速度計、光センサ、音響センサ、圧力センサ、温度センサ、近接センサ、赤外線センサ、紫外線センサ、色センサ、湿度センサ、傾きセンサ、流量センサ、磁気/ホール効果センサ、放射センサ、ライダ、電流センサ、光学センサ、力/トルクセンサ、ひずみゲージ等をチェックするためにも提供され、そのように構成され得る点に留意されたい。
【0071】
「薬物」又は「薬剤」という用語は本明細書中では同義として使用され、1つ又は複数の活性薬剤成分又は薬学的に許容される塩若しくはその溶媒和化合物と、任意選択的に薬学的に許容されるキャリアを含む医薬製剤を表す。活性薬剤成分(API(active pharmaceutical ingredient))は、最も広い意味において、人又は動物に対する生物学的効果を有する化学構造である。薬理学において、薬物又は薬剤は病気の治療、治癒、予防、若しくは診断で使用されるか、又はそれ以外に身体的若しくは精神的健康を向上させるために使用される。薬物又は薬剤は、限定的期間にわたり、又は慢性疾患のためには定期的に使用され得る。
【0072】
後述のように、薬物又は薬剤は、1つ又は複数の病気の治療のために、少なくとも1つのAPI、又はその組合せを様々な種類の調合で含むことができる。APIの例としては、分子量500Da以下の小分子、ポリペプチド、ペプチド、たんぱく質(例えば、ホルモン、増殖因子、抗体、抗体フラグメント、及び酵素)、炭水化物と多糖類、及び酸、二本鎖又は一本鎖DNA(ネイキッド及びcDNAを含む)、RNA、アンチセンスDNA及びRNA等のアンチセンス核酸、低分子干渉RNA(siRNA)、リボザイム、遺伝子、及びオリゴヌクレオチドが含まれ得る。核酸は、ベクトル、プラスミド、又はリポソーム等の分子送達系に組み込まれ得る。1つ又は複数の薬物の混合物も想定される。
【0073】
薬物又は薬剤は、薬物送達装置と共に使用するようになされた一次包装又は「薬物容器」に収容され得る。薬物容器は、例えばカートリッジ、シリンジ、リザーバ、又はその他の、1つ又は複数の薬物の適当な保存(例えば、短期又は長期保存)のための適当なチャンバを提供するように構成された固形若しくは柔軟な容器であり得る。例えば、幾つかの例において、チャンバは薬物を少なくとも1日(例えば、1~少なくとも30日間)保存するように設計され得る。幾つかの例において、チャンバは薬物を約1カ月~約2年間保存するように設計され得る。保管は、室温(例えば、約20℃)又は低温(例えば、約-4℃~約4℃)で行われ得る。幾つかの例において、薬物容器は投与される薬剤調合物の2つ以上の成分(例えば、APIと希釈剤、又は2種類の薬物)を別々に、各チャンバに1つずつ保管するように構成される2室式カートリッジであり得るか、それを含み得る。このような例において、2室式カートリッジの2つのチャンバは、人又は動物の体内に吐出する前及び/又は吐出中に2つ以上の成分を混合できるように構成され得る。例えば、2つのチャンバは、これらが相互に流体連通して(例えば、2つのチャンバ間の導管による)、吐出前にユーザが希望に応じて2つの成分を混合できるように構成され得る。代替的に、又はそれに加えて、2つのチャンバは、成分が人又は動物の体内に吐出されている間に混合できるように構成され得る。
【0074】
本明細書に記載の薬物送達装置に収容された薬物又は薬剤は、様々な種類の医学的障害の治療及び/又は予防に使用できる。障害の例としては、例えば真正糖尿病又は、糖尿病性網膜症などの真正糖尿病の合併症、深部静脈又は肺血栓等の血栓閉塞症が含まれる。障害のまた別の例は、急性冠動脈症候群(ACS)、狭心症、心筋梗塞、がん、黄斑変性症、炎症、花粉症、アテローム性動脈硬化、及び/又は関節リウマチである。API及び薬物の例は、Rote Liste 2014等のハンドブック、例えば、これらに限定されないが、メイングループ12(抗糖尿病薬)又は86(腫瘍薬)、及びメルクインデックス第15版に記載されているものである。
【0075】
1型若しくは2型真正糖尿病又は1型若しくは2型真正糖尿病の合併症の治療及び/又は予防のためのAPIの例には、インスリン、例えばヒトインスリン、又はインスリン類似体若しくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)、GLP-1類似体若しくはGLP-1受容体作動薬、又はその類似体若しくは誘導体、ジペブチジルペプチターゼ-4(DPP4)阻害薬、又は薬学的に許容される塩若しくはその溶媒和化合物、又はそれらのあらゆる混合物が含まれる。本明細書で使用されるかぎり、「類似体」及び「誘導体」という用語は、形式的に天然に存在するペプチドの構造、例えばヒトインスリンのそれから、天然に存在するペプチド内にある少なくとも1つのアミノ酸残基を削除及び/若しくは置換することによって、並びに/又は少なくとも1つのアミノ酸残基を追加することによって導出できる分子構造を有するポリペプチドを指す。追加及び/又は置換されるアミノ酸残基は、コード化可能なアミノ酸残基又はその他の天然に存在する残基か、又は純粋な合成アミノ酸残基の何れでもあり得る。インスリン類似体は、「インスリン受容体リガンド」とも呼ばれる。特に、「誘導体」という用語は、形式的に天然に存在するペプチドの構造、例えばヒトインスリンのそれから導出可能な、1つ又は複数の有機置換基(例えば、脂肪酸)がアミノ酸のうちの1つ以上と結合する分子構造を有するポリペプチドを指す。任意選択により、天然に存在するペプチドの中にある1つ又は複数のアミノ酸が削除され、及び/若しくはコード化不能なアミノ酸を含むその他のアミノ酸に置換されていてもよく、又はコード化不能のものを含むアミノ酸が天然に存在するペプチドに追加されていている。
【0076】
インスリン類似体の例は、Gly(A21)、Arg(B31)、Arg(B32)ヒトインスリン(インスリングラルギン)、Lys(B3)、Glu(B29)、ヒトインスリン(インスリンリスプロ)、Asp(B28)ヒトインスリン(インスリンアスパルト)、位置B28のプロリンがAsp、Lys、Leu、Val、又はAlaに置換され、位置B29のLysがProに置換され得るヒトインスリン、Ala(B26)ヒトインスリン、Des(B28-B30)ヒトインスリン、Des(B27)ヒトインスリン、及びDes(B30)ヒトインスリンである。
【0077】
インスリン誘導体の例は例えば、B29-N-ミリストイル-des(B30)ヒトインスリン、Lys(B29)(N-テトラデカノイル)-des(B30)ヒトインスリン(インスリンデテミル、Levemir(登録商標))、B29-N-パルミトイル-des(B30)ヒトインスリン、B29-N-ミリストイルヒトインスリン、B29-N-パルミトイルヒトインスリン、B28-N-ミリストイル-LysB28ProB29ヒトインスリン、B28-N-パルミトイル-LysB28ProB29ヒトインスリン、B30-N-ミリストイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン、B30-N-パルミトイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン、B29-N-(N-パルミトイル-ガンマ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン、B29-N-オメガ-カルボキシペンタデカノイル-ガンマ-L-グルカミル-des(B30)ヒトインスリン(インスリンデグルデク、Tresiba(登録商標))、B29-N-(N-リトコリル-ガンマ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン、B29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)-des(B30)ヒトインスリン、及びB29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンである。
【0078】
GLP-1、GLP-1類似体、及びGLP-1受容体作動薬の例は、例えば、リキシセナチド(Lyxumia(登録商標))、エキセナチド(Exendin-4、Byetta(登録商標)、Bydureon(登録商標)、アメリカドクトカゲの唾液腺により生成される39アミノ酸ペプチド)、リラグルチド(Victoza(登録商標))、セモグラチド、タスポグラチド、アルビグラチド(Syncria(登録商標))、デュラグラチド(Trulicity(登録商標))、rエキセンジン-4、CJC-1134-PC、PB-1023、TTP-054、ラングルナチド/HM-11260C(Efpeglenatide)、HM-15211、CM-3、GLP-1エリゲン、ORMD-0901、NN-9423、NN-9709、NN-9924、NN-9926、NN-9927、ノデキセン、ビアドール-GLP-1、゜CVX-096、ZYOG-1、ZYD-1、GSK-2374697、DA-3091、MAR-701、MAR709、ZP-2929、ZP-3022、ZP-DI-70、TT-401(Pegapamodtide)、BHM-034、MOD-6030、CAM-2036、DA-15864、ARI-2651、ARI-2255、チルゼパチド(LY3298176)、バマデュチド(SAR425899)、エキセナチド-XTEN、及びグルカゴン-Xtenである。
【0079】
オリゴヌクレオチドの例は例えば、ミポメルセンナトリウム(Kynamro(登録商標))、家族性高コレステロール血症の治療のためのコレステロール低下アンチセンス治療薬、又はアルポート症候群の治療のためのRG012である。
【0080】
DPP4阻害薬の例は、リナグリプチン、ビルダグリプチン、シタグリプチン、デナグリプチン、サキサグリプチン、ベルベリンである。
【0081】
ホルモンの例としては、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(ソマトロピン)、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、ロイプロレリン、ブセレリン、ナファレリン、及びゴセレリン等の、脳下垂体ホルモン若しくは視床下部ホルモン又は調節性活性ペプチド及びそれらのアンタゴニストが含まれる。
【0082】
多糖類の例としては、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリン若しくは超低分子量ヘパリン、又はそれらの誘導体、又は硫酸化多糖類、例えば上述の多糖類のポリ硫酸化形態、及び/又は、薬学的に許容されるそれらの塩が含まれる。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容される塩の一例は、エノキサパリンナトリウムである。ヒアルロン酸誘導体の例は、ハイランG-F20(Synvisc(登録商標))、ヒアルロン酸ナトリウムである。
【0083】
「抗体」という用語は、本明細書で使用されるかぎり、免疫グロブリン分子又はその抗原結合部分を指す。免疫グロブリン分子の抗原結合部分の例には、抗原を結合する能力を保持するF(ab)及びF(ab’)2フラグメントが含まれる。抗体は、ポリクローナル、モノクローナル、組換え型、キメラ型、非免疫型又はヒト化、完全ヒト型、非ヒト型(例えばネズミ)、又は一本鎖抗体とすることができる。いくつかの実施形態において、抗体はエフェクタ機能を有し、補体を固定することができる。いくつかの実施形態において、抗体は、Fc受容体と結合する能力が低い、又はそれを持たない。例えば、抗体は、アイソタイプ若しくはサブタイプ、抗体フラグメント又は変異体とすることができ、これはFc受容体との結合を支持せず、例えば、突然変異した、又は欠失したFc受容体結合領域を有する。抗体という用語はまた、四価二重特異性タンデム免疫グロブリン(TBTI)及び/又は交差結合領域の配向性を有する二重可変領域抗体様結合タンパク質(CODV)に基づく抗体結合分子も含む。
【0084】
「フラグメント」又は「抗体フラグメント」という用語は、全長抗体ポリペプチドを含まないが、抗原と結合することができる全長抗体ポリペプチドの少なくとも一部を依然として含む、抗体ポリペプチド分子(例えば、抗体重鎖及び/又は軽鎖ポリペプチド)由来のポリペプチドを指す。抗体フラグメントは、全長抗体ポリペプチドの切断された部分を含むことができるが、この用語はそのような切断されたフラグメントに限定されない。本発明に有用である抗体フラグメントとしては、例えば、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、scFv(一本鎖Fv)フラグメント、直鎖抗体、単一特異性、又は二重特異性、三重特異性、四重特異性及び多重特異性抗体(例えば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)等の多重特異性抗体フラグメント、一価、又は二価、三価、四価及び多価抗体等の多価抗体フラグメント、ミニボディ、キレート組換え抗体、トリボディ又はバイボディ、イントラボディ、ナノボディ、小モジュラー免疫薬(SMIP)、結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質、ラクダ化抗体、及びVHH含有抗体が含まれる。抗原結合抗体フラグメントのその他の例は当業界で知られている。
【0085】
「相補性決定領域」すなわち「CDR」は、特異的抗原認識を仲介する役割を主に担う重鎖及び軽鎖両方のポリペプチドの可変領域内の短いポリペプチド配列を指す。「フレームワーク領域」という用語は、CDR配列ではなく、CDR配列の正しい位置決めを維持して抗原結合を可能にする役割を主に担う重鎖及び軽鎖両方のポリペプチドの可変領域内のアミノ酸配列を指す。フレームワーク領域自体は、典型的に、当業界で知られているように、抗原結合に直接関与しないが、特定の抗体のフレームワーク領域内の特定の残基が、抗原結合に直接関与することができ、又はCDR内の1つ又は複数のアミノ酸が抗原と相互作用する能力に影響を与え得る。
【0086】
抗体の例は、アンチPCSK-9mAb(例えば、アリロクマブ)、アンチIL-6mAb(例えば、サリルマブ)、及びアンチIL-4mAb(例えば、デュピルマブ)である。
【0087】
本明細書に記載のあらゆるAPIの薬学的に許容される塩もまた、薬物送達装置における薬物又は薬剤において使用されることが想定される。薬学的に許容される塩は、例えば酸付加塩及び塩基性塩である
【0088】
当業者であれば、本発明の完全な範囲と主旨から逸脱することなく、本明細書に記載のAPI、製剤、装置、方法、システム、及び実施形態の様々な構成要素に修正(追加及び/又は削除)を加えることができ、本発明はそのような修正及びそのあらゆる均等物を包含することがわかるであろう。
【0089】
例示的な薬物送達装置は、ISO11608-1:2014(E)5.2項の表1に記載されている針ベースの注射システムを含み得る。ISO11608-1:2014(E)に記載されているように、針ベースの注射システムは広く、複数回投与容器システムと単回投与(部分又は全量排出)容器システムに分類され得る。容器は、交換可能容器でも、一体化された交換不能容器でもよい。
【0090】
ISO11608-1:2014(E)にさらに記載されているように、複数回投与容器システムは、交換式容器を備える針ベースの注入装置を含み得る。このようなシステムでは、各容器は複数回分の投与量を保持し、その大きさは固定でも可変(ユーザにより事前設定される)でもよい。他の複数回投与容器システムは、一体化された交換不能容器を備える針ベースの注入装置を含み得る。このようなシステムでは、各容器は複数回分の投与量を保持し、その大きさは固定でも可変(ユーザにより事前設定される)でもよい。
【0091】
ISO11608-1:2014(E)にさらに記載されているように、単回投与容器システムは交換式容器を備える針ベースの注入装置を含み得る。このようなシステムの一例において、各容器は1回分の投与量を保持し、送達可能量の全量が排出される(全量排出)。別の例では、各容器は1回分の投与量を保持し、送達可能量の一部が排出される(部分排出)。同じくISO11608-1:2014(E)に記載されているように、単回投与容器システムは、一体化された交換不能容器を備える針ベースの注入装置を含み得る。このようなシステムの一例では、各容器は1回分の投与量を保持し、送達可能量の全量が排出される(全量排出)。別の例では、各容器は1回分の投与量を保持し、送達可能量の一部が排出される(部分排出)。
【国際調査報告】