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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-18
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 45/00 20060101AFI20240910BHJP
   C07F 15/00 20060101ALI20240910BHJP
   C07C 13/42 20060101ALI20240910BHJP
   C07C 211/61 20060101ALI20240910BHJP
   C08K 5/3475 20060101ALI20240910BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20240910BHJP
   C08K 5/56 20060101ALI20240910BHJP
   C08K 5/45 20060101ALI20240910BHJP
   C08F 32/08 20060101ALI20240910BHJP
   C07D 233/02 20060101ALN20240910BHJP
   C07D 335/16 20060101ALN20240910BHJP
【FI】
C08L45/00
C07F15/00 A
C07C13/42
C07C211/61
C08K5/3475
C08K5/3492
C08K5/56
C08K5/45
C08F32/08
C07D233/02
C07D335/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513135
(86)(22)【出願日】2022-08-29
(85)【翻訳文提出日】2024-02-26
(86)【国際出願番号】 EP2022073871
(87)【国際公開番号】W WO2023031073
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】21193975.6
(32)【優先日】2021-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100210675
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 潤
(72)【発明者】
【氏名】パベル、ミシュキェビッチ
(72)【発明者】
【氏名】マヌエル、ハンブルガー
(72)【発明者】
【氏名】ユン、ヒョン-ジン
【テーマコード(参考)】
4H006
4H050
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4H006AA03
4H006AB92
4H050AA03
4H050AB92
4J002BK001
4J002EE026
4J002EH006
4J002EU176
4J002EU186
4J002EV308
4J002EZ007
4J002FD056
4J002FD147
4J002FD208
4J002GH00
4J002GP00
4J002GQ00
4J100AR11P
4J100BB17P
4J100BC43P
4J100BC48P
4J100DA61
4J100FA08
4J100FA18
4J100JA01
4J100JA32
(57)【要約】
本発明は、いくつかの成分を含んでなる組成物、その使用、層の製造、および電子素子の製造に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)式(I)の1つ以上のモノマー;(b)ルテニウム、オスミウムまたはパラジウムからなる群から選択される金属を含んでなる潜在性有機遷移金属触媒;(c)光分解条件下でブレンステッド酸を放出可能な化合物;および(d)280~410nmの範囲に最大吸収波長を有する吸収体化合物を含んでなる組成物であって、ここで、
式(I)は下記の式で表され:
【化1】
mは0、1または2の整数であり;
、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、メチル、エチル、直鎖もしくは分岐のC1-20アルキル、パーフルオロC1-12アルキル、ヒドロキシC1-16アルキル、C3-12シクロアルキル、C6-12ビシクロアルキル、(CH-C6-12ビシクロアルケニル、C7-14トリシクロアルキル、置換されているかもしくはされていないC6-10アリール、置換されているかもしくはされていないC6-10アリールC1-6アルキル、パーフルオロC6-10アリール、パーフルオロC6-10アリールC1-3アルキル、および式(A)の基からなる群から選択され、
-Z-アリール(A)
式中:
Zは、単結合であるか、または(CR、O(CR、(CRO、(CR-O-(CR、(CR-O-(SiR、(CR-(CO)O-(CR(ここで、aおよびbは、それぞれ独立に、1~12の整数である)からなる群から選択される基であり;
およびRは、それぞれ独立に、水素、メチル、エチル、直鎖もしくは分岐のC3-6アルキル、ヒドロキシ、メトキシ、エトキシ、直鎖もしくは分岐のC3-6アルキルオキシ、アセトキシ、C2-6アシル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、直鎖もしくは分岐のヒドロキシC3-6アルキル、置換されているかもしくはされていないフェニル、および置換されているかもしくはされていないフェノキシからなる群から選択され;
アリールは、フェニルであるか、またはメチル、エチル、直鎖もしくは分岐のC3-6アルキル、ヒドロキシ、メトキシ、エトキシ、直鎖もしくは分岐のC3-6アルキルオキシ、アセトキシ、C2-6アシル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、直鎖もしくは分岐のヒドロキシC3-6アルキル、フェニルおよびフェノキシからなる群から選択される1つ以上の基で置換されたフェニルであり;および
任意に、RまたはRのうちの1つが、RまたはRのうちの1つ、およびそれらが結合している炭素原子と一緒になって、1つ以上の二重結合を場合により含むC5-7の炭素環を形成する、
組成物。
【請求項2】
前記組成物が、好適な放射線に曝された際に実質的に透明な層を形成し;
好ましくは、実質的に透明な層が450~800nmの波長光に対して80~99.9%の平均透過率を有し;または
好ましくは、実質的に透明な層が250~450nmの波長光の範囲において5~60%の平均透過率を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記実質的に透明な層が、可視光に対して90~100%の平均透過率を有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
吸収体化合物(d)が、励起状態分子内プロトン移動(ESIPT)機構によってUVを遮蔽するように作用する;および/または
吸収体化合物(d)が、(好ましくは蒸着によって)層形成される際に、電子場によって励起される、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記吸収体化合物(d)は、ヒドロキシルまたはメトキシを有し;好ましくは、吸収体化合物(d)は、下記式(d-1)、(d-2)および(d-3)からなる群から選択される式によって表される、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物:
【化2】
式中、R21およびR22は、それぞれ独立に、水素、直鎖もしくは分岐のC1-5アルキル、またはC6-10アリールであり;任意に、R21およびR22のC1-5アルキルは、互いに結合して、飽和または不飽和の環を形成することができ;任意に、そのような飽和環のメチレンの1つ以上は、それぞれ独立に、-(C=O)-または-NR25-で置き換えられていてもよく;ここで、R25は、それぞれ独立に、水素、直鎖もしくは分岐のC1-5アルキル、またはC6-10アリールであり;
21は、1~3の整数であり;および
23およびR24は、それぞれ独立に、C1-10アルキル、C6-18アリール、C6-12アリールC1-5アルキル、またはC1-5アルキルC6-12アリールであり;ここで、R23およびR24のアルキル部分は、それぞれ独立に、直鎖もしくは分岐であってもよく;および任意に、R23およびR24のアルキル部分のメチレンは、-CO-、-O-または-COO-で置き換えられていてもよく;
【化3】
式中、R32およびR33は、それぞれ独立に、飽和もしくは不飽和の環を任意に形成することができるC1-21の炭化水素基であり、ここで、任意に、式(d-2)で表される化合物中の炭素-炭素単結合の1つ以上の部分(より好ましくは、R32またはR33)は炭素-炭素二重結合で置き換えられていてもよく;任意に、R32のメチレン部分は、-O-または-C(=O)-で置き換えられていてもよく;
31は、任意に飽和もしくは不飽和の環を形成することができるC1-12の炭化水素リンカーであり、ここで、任意に、L31のメチレン部分は、-O-で置き換えられていてもよく;
32は-CO-、-CH-または-CH(CH)-であり;および
式(d-2)で表される化合物中のメチルの少なくとも1つがヒドロキシルまたはメトキシで置き換えられており;
【化4】
式中、R41、R42およびR43は、それぞれ独立に、任意に飽和もしくは不飽和の環を形成することができるC1-20の炭化水素基であり、ここで、任意に、R41、R42またはR43のメチレン部分は、-O-で置き換えられていてもよく:および
式(d-3)で表される化合物中のメチルの少なくとも1つが、ヒドロキシルまたはメトキシで置き換えられている。
【請求項6】
式(I)のモノマー(a)が式(I-a)である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物:
【化5】
式中、aは0または1であり、Rは直鎖もしくは分岐のC1-20アルキル基、または置換されていないC6-10アリールC1-6アルキルである。
【請求項7】
式(I)のモノマー(a)が、下記式(I-a-01)~(I-a-21)からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物:
【化6-1】
【化6-2】
【化6-3】
【請求項8】
前記潜在性触媒が、式(IIA)の化合物、式(IIB)の化合物、式(IIIA)の化合物、式(IIIB)の化合物、式(IIIC)の化合物、および式(IIID)の化合物からなる群から選択される有機ルテニウム化合物である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物:
【化7】
式中、
Xは、それぞれ独立に、塩素、臭素、ヨウ素、-OR、-O(CO)R、-S(R、-OSOおよび-N(Rからなる群から選択され、ここで、Rは、それぞれ独立に、単結合、C1-12アルキル、C3-12シクロアルキル、C6-14アリール、および=CH(R’)からなる群から選択され;
ここで、2つのRの組み合わせの任意の組み合わせは互いに結合でき;R’は、RまたはLに結合する単結合であり;
Yは、O、SおよびNCOCFからなる群から選択され;
Y’は、OR、SRおよび-N=CHC(O)O(C1-6アルキル)からなる群から選択され、ここで、Rは、メチル、エチル、直鎖もしくは分岐のC1-6アルキル、C6-10アリール、メトキシ、エトキシ、直鎖もしくは分岐のC1-6アルコキシ、C6-10アリールオキシ、および-OCH(CH)C(O)N(CH)(OCH)からなる群から選択され;
Lは、ピリジン、PR、O=PR3、および-O-Rからなる群から選択され、ここで、各Rは、独立に、イソプロピル、sec-ブチル、tert-ブチル、シクロヘキシル、ビシクロC5-10アルキル、フェニル、ベンジル、イソプロポキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、シクロヘキシルオキシ、フェノキシおよびベンジルオキシからなる群から選択され;
ここで、XおよびLのうちの1つは、式X-Lのアニオン性リガンドを形成することができ;
は、イソプロピル、sec-ブチル、tert-ブチル、置換されているかもしくはされていないシクロヘキシル、置換されているかもしくはされていないフェニル、置換されているかもしくはされていないビフェニル、および置換されているかもしくはされていないナフチルからなる群から選択され;
は、水素、塩素、メチル、エチル、直鎖もしくは分岐のC1-6アルキル、C6-10アリール、メトキシ、エトキシ、直鎖もしくは分岐のC1-6アルコキシ、C6-10アリールオキシ、-NHCO(C1-6)アルキル、-NHCO-パーフルオロ(C1-6)アルキル、-SON((C1-6)アルキル)、および-NOからなる群から選択され;
Ar、Ar,ArおよびArは、それぞれ独立に、置換されているかもしくはされていないフェニル、置換されているかもしくはされていないビフェニル、および置換されているかもしくはされていないナフチルからなる群から選択され;
ここで、前記置換基は、それぞれ独立に、メチル、エチル、イソプロピル、tert-ブチル、フェニル、およびOSi(SiMeからなる群から選択され;および
mは、1、2または3の整数である。
【請求項9】
光分解条件下でブレンステッド酸を放出可能な化合物(c)が式(V)である、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物:
【化8】
式中、Yはハロゲンであり;
30およびR31は、それぞれ独立に、水素、メチル、エチル、直鎖もしくは分岐のC3-12アルキル、C3-12シクロアルキル、C6-12ビシクロアルキル、C7-14トリシクロアルキル、C6-10アリール、C6-10アリールC1-3アルキル、C1-12アルコキシ、C3-12シクロアルコキシ、C6-12ビシクロアルコキシ、C7-14トリシクロアルコキシ、C6-10アリールオキシC1-3アルキル、およびC6-10アリールオキシからなる群から選択される。
【請求項10】
モノマー(a)の含有量が組成物に対して80~99.99質量%であり;
好ましくは、潜在性有機遷移金属触媒(b)の含有量が、組成物に対して0.0001~1.0質量%であり;
好ましくは、ブレンステッド酸を放出可能な化合物(c)の含有量が、組成物に対して0.0001~1.0質量%であり;または
好ましくは、吸収体化合物(d)の含有量が、組成物に対して0.5~15質量%である、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
組成物の粘度が、40℃で5~20mPassであり;
好ましくは、組成物の25℃における表面張力が10~50mN/mである、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
以下の工程を含んでなるポリシクロオレフィン層の製造方法;
(1)基材を準備すること;
(2)前記基材の上方に、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物を塗布すること;および
(3)前記組成物中のモノマー(a)を重合させること。
【請求項13】
前記ポリシクロオレフィン層の誘電率が3以下である、請求項12に記載のポリシクロオレフィン層の製造方法。
【請求項14】
前記工程(2)で前記組成物を塗布する手段が、蒸着、ディップコーティング、スピンコーティング、インクジェット印刷、ノズル印刷、凸版印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、ドクターブレードコーティング、ローラー印刷、リバースローラー印刷、オフセットリソグラフィ印刷、ドライオフセットリソグラフィ印刷、フレキソ印刷、ウェブ印刷、スプレーコーティング、カーテンコーティング、ブラシコーティング、スロットダイコーティング、およびパッド印刷からなる群から選択され;および
好ましくは、蒸着、インクジェット印刷またはノズル印刷である、請求項12または13に記載のポリシクロオレフィン層の製造方法。
【請求項15】
前記工程(3)が、照射および/または加熱により行なわれる、請求項12~14のいずれか一項に記載のポリシクロオレフィン層の製造方法。
【請求項16】
下記の工程をさらに含んでなる、請求項12~15のいずれか一項に記載のポリシクロオレフィン層の製造方法:
(4)ポリシクロオレフィン層の上方に1つ以上の追加の層を塗布する:
好ましくは、追加の層が、有機層、無機層、およびハイブリッド層からなる群から選択され;
好ましくは、追加の層が、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、窒化チタン、酸化タンタル、窒化タンタル、酸化ハフニウム、窒化ハフニウム、酸化ジルコニウム、窒化ジルコニウム、酸化セリウム、窒化セリウム、酸化スズ、窒化スズおよびこれらのいずれかの任意のブレンドからなる群から選択される金属を含む無機層であり;または
好ましくは、追加の層がタッチパネルを構成する。
【請求項17】
請求項12~16のいずれか一項に記載のポリシクロオレフィン層の製造方法を含んでなる、電子素子の製造方法。
【請求項18】
ポリシクロオレフィン層の製造方法における基材が、電子素子である、請求項17に記載の電子素子の製造方法:
好ましくは、電子素子が発光素子(より好ましくは有機発光素子)であり;
好ましくは、発光素子が、順に、第1の電極(より好ましくは陽極)、発光層および第2の電極(より好ましくは陰極)を含んでなり;または、
好ましくは、有機発光素子が、順に、第1の電極(より好ましくは陽極)、正孔輸送層、発光層、電子輸送層および第2の電極(より好ましくは陰極)を含んでなる。
【請求項19】
請求項17または18に記載の方法により製造された電子素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、(a)モノマー、(b)金属触媒、(c)ブレンステッド酸を放出可能な化合物、および(d)吸収体を含んでなる組成物;その使用;ポリシクロオレフィン層の製造;および電子素子の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
電子素子、特に有機電子素子は、長年にわたってますます薄くなっており、これにより、巻いたりあるいは曲げたりすることのできる素子が可能となっている。この開発は、例えば、有機発光素子技術に基づく折り畳み可能なディスプレイを有するスマートフォンの開発および最近の市場導入をもたらしている。
【0003】
しかしながら、このような素子は、環境の影響、特に酸素および水分に対してセンシティブである。保護されていない場合、それらの性能は、時間の経過と共に、場合によっては、かなり迅速に劣化する。
【0004】
さらに、折り畳みや曲げによって引き起こされる機械的ストレスはまた、折り畳みや曲げに対して直接に、またはその近くにある素子層のいずれかに破損をもたらすこともある。
このような状況下で、下記特許文献のようにいくつかの試行が行われている。
【0005】
特許文献1では、改善された光学特性を得るための層とするために、特定のシクロオレフィンモノマーの検討がなされている。
特許文献2では、3D物体用の好適なインク組成として、特定の潜在性触媒とブレンステッド酸を生成可能な化合物とを有する組成物が検討されている。
特許文献3では、OLED素子製造条件で塊状重合が可能な単一成分組成物が提供されている。また、特定のシクロオレフィンモノマー、触媒およびブレンステッド酸を放出可能な化合物を有する組成物が検討されている。
特許文献4では、安定した単一成分塊状重合性組成物が提供されており、これは、通常の保存条件以下で粘度変化を示さないが、OLED素子が、例えば、放射線および/または熱プロセスの使用によって最終的に製造されるプロセス条件下でのみ、塊状重合する。
特許文献5では、ポリシクロオレフィンポリマーを、低誘電特性を有することのできる有機電子素子に用いることが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2020/002277号
【特許文献2】米国特許出願公開第2020/002466号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2019/0232267号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2019/048130号明細書
【特許文献5】国際公開第2015/135622号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、1つ以上の技術的課題が依然として改善される必要があると考えた。これらは例えば以下が挙げられる:可視波長で透明なポリシクロオレフィン層を得ること;不可視波長を遮断するポリシクロオレフィン層を得ること;吸収体が特定の光を吸収するが、より狭い波長の露光を使用して層を硬化させること;下層膜または下地の基材を損傷から保護するためにポリシクロオレフィン層を得ること;良好な誘電率を有する、または封止層もしくは絶縁層に有用なポリシクロオレフィン層を得ること;柔軟性が良好である、またはフレキシブル表示装置に有用なポリシクロオレフィン層を得ること;溶質の溶解性が良好なクリア組成物を得ること;安定した(例えば、濁りを回避することができる)組成物を得ること;印刷やコーティングによる加工性が良好な組成物を得ること;広い基板上であっても良好な湿潤性を有する組成物を得ること;および/または、平滑な、均質な、クローズな、もしくはピンホールのないポリシクロオレフィン層を得ること。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願は、(a)式(I)の1つ以上のモノマー;(b)ルテニウム、オスミウムまたはパラジウムからなる群から選択される金属を含んでなる潜在性有機遷移金属触媒;(c)光分解条件下でブレンステッド酸を放出可能な化合物;および(d)280~410nmの範囲に最大吸収波長を有する吸収体化合物を含んでなる組成物を提供し、
ここで、式(I)は下記の式で表される。
【化1】
各要素の詳細な説明は以下のとおりである。
【0009】
また、本出願は、以下の工程:(1)基材を準備すること;(2)上記基材の上方に、本発明による組成物を塗布すること;および(3)上記組成物中のモノマー(a)を重合させることを含んでなる、ポリシクロオレフィン層の製造方法を提供する。
【0010】
別の形態として、本出願は、本発明のポリシクロオレフィン層の製造方法を含んでなる、電子素子の製造方法を提供する。本発明の1つの他態様として、本出願はまた、本発明の方法により製造された電子素子を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明による、組成物および/または方法を用いることにより、以下の効果のうちの1つ以上を期待することができる。
可視波長で透明なポリシクロオレフィン層を得ることができる。不可視波長(例えば、より狭い波長の領域;UV波長)を遮断するポリシクロオレフィン層を得ることができる。吸収体(d)はより狭い波長(例えば、UV)に吸収を有するが、層を硬化させるためにこの露光を使用することが可能である。より狭い波長露光(例えば、UV)による損傷から下層膜または下地の基材を保護するためにポリシクロオレフィン層を得ることができる。水、酸素またはダストから下層膜または下地の基材を保護するためにポリシクロオレフィン層を得ることができる。良好な誘電率を示し、封止層や絶縁層に有用なポリシクロオレフィン層を得ることができる。柔軟性が良好であり、フレキシブル表示装置に有用なポリシクロオレフィン層を得ることができる。溶質の溶解性が良好なクリア組成物を得ることができる。濁りを回避することができる安定な組成物を得ることができる。印刷やコーティングによる良好な加工性を発揮することができる組成物を得ることができる。広い基板においても(例えば、表示装置中で)良好な湿潤性を示すことができる組成物を得ることができる。平滑な、均質な、クローズな、もしくはピンホールのないポリシクロオレフィン層を得ることができる。
【具体的な説明】
【0012】
以下、本発明の形態について詳細に説明する。
【0013】
[定義]
本明細書に記載されていない限り、本パラグラフに記載された定義および実施例に従う。
単数形は複数形を含み、「1つの」や「その」は「少なくとも1つ」を意味する。ある概念の要素は複数種によって発現されることが可能であり、その量(例えば、質量%やモル%)が記載された場合、その量はそれら複数種の和を意味する。
「および/または」は、要素の全ての組み合わせを含み、また要素の単体での使用も含む。
「~」または「-」を用いて数値範囲を示した場合、これらは両方の端点を含み、単位は共通する。例えば、5~25モル%は、5モル%以上25モル%以下を意味する。
「Cx-y」、「C-C」および「C」などの記載は、分子または置換基中の炭素の数を意味する。例えば、C1-6アルキルは、1以上6以下の炭素を有するアルキル鎖(メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル等)を意味する。
ポリマーが複数種類の繰り返し単位を有する場合、これらの繰り返し単位は共重合する。これら共重合は、交互共重合、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合、またはこれらの混在のいずれであってもよい。ポリマーや樹脂が構造式で示される際、括弧に併記されるnやm等は繰り返し数を示す。
温度の単位は摂氏を使用する。例えば、20度とは摂氏20度を意味する。
添加剤は、その機能を有する化合物そのものをいう(例えば、塩基発生剤であれば、塩基を発生させる化合物そのもの)。その化合物が、溶媒に溶解または分散されて、組成物に添加される形態もありうる。本発明の一形態として、このような溶媒は、添加剤の溶媒として本発明にかかる組成物に含有されることが好ましい。
概括的に、本出願は、(a)モノマー;(b)金属触媒;(c)ブレンステッド酸を放出可能な化合物;および(d)吸収体を含んでなる組成物に関する。なお、本出願の目的のために、「シクロオレフィン」および「ポリシクロオレフィン」という用語は、好ましくは、それぞれ「ノルボルネン」および「ポリノルボルネン」と表されうることに留意されたい。
【0014】
[組成物]
本発明は、(a)式(I)の1つ以上のモノマー;(b)ルテニウム、オスミウムまたはパラジウムからなる群から選択される金属を含んでなる潜在性有機遷移金属触媒;(c)光分解条件下でブレンステッド酸を放出可能な化合物;および(d)280~410nmの範囲に最大吸収波長を有する吸収体化合物を含んでなる組成物を提供する。この組成物は、ポリシクロオレフィン層形成用組成物(より好ましくは、可視光線透過のポリシクロオレフィン層形成用組成物)であることが好ましい。ポリシクロオレフィン層形成用組成物は、本発明の組成物からなることができる。以下、各成分について詳細に説明する。
本発明の組成物の粘度は、好ましくは5~20mPass(より好ましくは5~15mPass;さらに好ましくは5~12mPass)でありうる。粘度は、既知の方法で測定することができる。本発明の組成物の粘度を測定する温度は、好ましくは20~40℃(より好ましくは25~40℃、さらに好ましくは40℃)でありうる。
本発明の組成物の表面張力は、好ましくは25℃で10~50mN/m(より好ましくは20~40mN/m;さらに好ましくは25~40mN/m)でありうる。表面張力は、既知の方法で測定することができる。理論に拘束されることを望むものではないが、本発明の組成物は基材に適用したときに、印刷およびコーティング技術による良好な加工性、広い範囲の基板材料への良好な湿潤性を示すことができ、および/または平滑な、均質な、クローズな、もしくはピンホールのない膜を得ることを可能にする。
【0015】
[(a)モノマー]
本発明の組成物は、式(I)の1つ以上のモノマー(a)を含んでなり、ここで、式(I)は下記の式で表される:
【化2】
mは0、1または2の整数(好ましくは0または1)である。本発明の好ましい一形態として、mは1である。本発明の他の好ましい形態として、mは0である。
、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、メチル、エチル、直鎖もしくは分岐のC1-20アルキル、パーフルオロC1-12アルキル、ヒドロキシC1-16アルキル、C3-12シクロアルキル、C6-12ビシクロアルキル、(CH-C6-12ビシクロアルケニル、C7-14トリシクロアルキル、置換されているかもしくはされていないC6-10アリール、置換されているかもしくはされていないC6-10アリールC1-6アルキル、パーフルオロC6-10アリール、パーフルオロC6-10アリールC1-3アルキル、および式(A)の基からなる群から選択される。
-Z-アリール(A)
、R、RおよびRは、それぞれ独立に、好ましくは水素、エチル、直鎖もしくは分岐のC3-8アルキル、置換されているかもしくはされていないC6-10アリールC1-6アルキル、および式(A)の基からなる群から選択される;より好ましくは、水素、エチル、直鎖もしくは分岐のC3-8アルキル、および置換されていないC6-10アリールC1-6アルキルからなる群から選択される。
本発明の好ましい一形態として、R、RおよびRは水素である。本発明の好ましい一形態では、Rは水素ではない。
【0016】
Zは、単結合であるか、または(CR、O(CR、(CRO、(CR-O-(CR、(CR-O-(SiR、(CR-(CO)O-(CRからなる群から選択される基である。Zは、好ましくは(CRである。
aおよびbは、それぞれ独立に、1~12(好ましくは1~3;より好ましくは1または2;さらに好ましくは2)の整数である。
およびRは、それぞれ独立に、水素、メチル、エチル、直鎖もしくは分岐のC3-6アルキル、ヒドロキシ、メトキシ、エトキシ、直鎖もしくは分岐のC3-6アルキルオキシ、アセトキシ、C2-6アシル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、直鎖もしくは分岐のヒドロキシC3-6アルキル、置換されているかもしくはされていないフェニル、および置換されているかもしくはされていないフェノキシからなる群から選択される(好ましくは水素、メチル、およびt-ブチルからなる群から選択され;より好ましくは水素)。
【0017】
アリールは、フェニルであるか、またはメチル、エチル、直鎖もしくは分岐のC3-6アルキル、ヒドロキシ、メトキシ、エトキシ、直鎖もしくは分岐のC3-6アルキルオキシ、アセトキシ、C2-6アシル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、直鎖もしくは分岐のヒドロキシC3-6アルキル、フェニルおよびフェノキシからなる群から選択される1つ以上の基で置換されたフェニルであり;好ましくはフェニルである。
【0018】
任意に、RまたはRのうちの1つが、RまたはRのうちの1つ、およびそれらが結合している炭素原子と一緒になって、1つ以上の二重結合を場合により含むC5-7の炭素環を形成する。RまたはRが、RおよびRのいずれかと一緒になってC5-7の炭素環を形成しないことも1つの良好な形態である。
【0019】
本発明の一形態として、式(I)は式(I-a)でありうる:
【化3】
aは0または1である。形態の一つとしてaは0である。他の形態として、aは1である。
は直鎖もしくは分岐のC1-20アルキル基、または置換されていないC6-10アリールC1-6アルキル(好ましくはメチル、エチル、イソプロピル、t-ブチル、n-ブチル、n-ヘキシル、n-オクチルフェニルメチルまたはフェネチル;より好ましくはn-ブチル、n-ヘキシル、n-オクチルまたはフェネチル)である。
【0020】
好ましい形態として、式(I)は、下記式(I-a-01)~(I-a-21)からなる群から選択することができる:
【化4-1】
【化4-2】
【化4-3】
【0021】
より好ましい形態として、式(I)は、上記式(I-a-04)、(I-a-05)、(I-a-07)、(I-a-08)、(I-a-19)、(I-a-20)、(I-a-21)および(I-a-22)からなる群から選択することができる。さらに好ましい形態として、式(I)は、上記式(I-a-04)、(I-a-07)、(I-a-08)、(I-a-20)および(I-a-21)からなる群から選択することができる。
【0022】
本発明の組成物の一形態として、モノマー(a)の含有量は、組成物に対して80~99.99質量%(好ましくは90~99.99質量%;より好ましくは90~99.95質量%)である。
【0023】
本発明においては、それぞれ式(I)で表される異性体の混合物がモノマー(a)として許容される。
【0024】
[(b)金属触媒]
本発明の組成物は、ルテニウム、オスミウム、またはパラジウムからなる群から選択される金属を含んでなる潜在性有機遷移金属触媒(b)を含んでなる。金属は、好ましくはルテニウムまたはオスミウム(より好ましくはルテニウム)である。
上記潜在性有機遷移金属触媒は、式(IIA)の化合物、式(IIB)の化合物、式(IIIA)の化合物、式(IIIB)の化合物、式(IIIC)の化合物、および式(IIID)の化合物からなる群から選択される有機ルテニウム化合物でありうる:
【化5】
【0025】
本発明の好ましい形態として、有機ルテニウム化合物は、式(IIB)の化合物、式(IIIA)の化合物、式(IIIB)の化合物、および式(IIID)の化合物からなる群から選択される。本発明のより好ましい形態として、有機ルテニウム化合物は、式(IIIA)の化合物、または式(IIID)の化合物である。
式(IIA)、式(IIB)、式(IIIA)、式(IIIB)、式(IIIC)、または式(IIID)のルテニウムの金属は、任意にオスミウムまたはパラジウムで置き換えることができる。金属触媒(b)の金属がルテニウムであることは、本発明のさらに好ましい形態である。
【0026】
Xは、それぞれ独立に、塩素、臭素、ヨウ素、-OR、-O(CO)R、-S(R、-OSOおよび-N(Rからなる群から選択される。好ましい一形態として、Xは、それぞれ独立に、塩素、臭素、ヨウ素、-S(R、-OSOおよび-N(Rからなる群から選択される。
より好ましい一形態として、Xは、それぞれ独立に、ヨウ素、-S(R、および-N(Rからなる群から選択される。
【0027】
は、それぞれ独立に、単結合、C1-12アルキル、C3-12シクロアルキル、C6-14アリール、および=CH(R’)からなる群から選択される。好ましい一形態として、Rは、それぞれ独立に、単結合、C1-4アルキル、フェニル、および=CH(R’)からなる群から選択される。より好ましい一形態として、Rは、それぞれ独立に、単結合、フェニル、および=CH(R’)からなる群から選択される。
2つのRの組み合わせの任意の組み合わせは互いに結合できる。
’は、RまたはL(好ましくはL)に結合する単結合である。
【0028】
Yは、O、SおよびNCOCF(好ましくはOおよびS;より好ましくはO)からなる群から選択される。
Y’は、OR、SRおよび-N=CHC(O)O(C1-6アルキル)からなる群から選択される。
は、メチル、エチル、直鎖もしくは分岐のC1-6アルキル、C6-10アリール、メトキシ、エトキシ、直鎖もしくは分岐のC1-6アルコキシ、C6-10アリールオキシ、および-OCH(CH)C(O)N(CH)(OCH)からなる群から選択される。Rの好ましい形態は、メチル、エチル、直鎖もしくは分岐のC3-6アルキル、C6-10アリール、メトキシ、エトキシ、直鎖もしくは分岐のC3-6アルコキシ、C6-10アリールオキシおよび-OCH(CH)C(O)N(CH)(OCH)からなる群から選択される。
【0029】
Lは、ピリジン、PR、O=PR3、および-O-R(好ましくはPRおよび-O-R)からなる群から選択される。
は、独立して、イソプロピル、sec-ブチル、tert-ブチル、シクロヘキシル、ビシクロC5-10アルキル、フェニル、ベンジル、イソプロポキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、シクロヘキシルオキシ、フェノキシおよびベンジルオキシ(好ましくはイソプロピル、sec-ブチル、tert-ブチル、シクロヘキシル、ビシクロC5-10アルキル、フェニル、ベンジル、イソプロポキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、シクロヘキシルオキシ、フェノキシ、およびベンジルオキシ;より好ましくはシクロヘキシル、およびフェニル)からなる群から選択される。
XおよびLのうちの1つは、式X-Lのアニオン性リガンドを形成することができる。
【0030】
は、イソプロピル、sec-ブチル、tert-ブチル、置換されているかもしくはされていないシクロヘキシル、置換されているかもしくはされていないフェニル、置換されているかもしくはされていないビフェニル、および置換されているかもしくはされていないナフチル(好ましくはイソプロピル、sec-ブチル、tert-ブチル、シクロヘキシル、置換されているフェニル、および置換されているナフチル;より好ましくはシクロヘキシル、置換されているフェニル、および置換されているナフチル)からなる群から選択される。
【0031】
は、水素、塩素、メチル、エチル、直鎖もしくは分岐のC1-6アルキル、C6-10アリール、メトキシ、エトキシ、直鎖もしくは分岐のC1-6アルコキシ、C6-10アリールオキシ、-NHCO(C1-6)アルキル、-NHCO-パーフルオロ(C1-6)アルキル、-SON((C1-6)アルキル)、および-NOからなる群から選択される。本発明の好ましい形態では、Rは、水素、塩素、メチル、エチル、フェニル、メトキシ、エトキシ、および-NOからなる群から選択される。より好ましくは、Rは水素である。
【0032】
Ar、Ar,ArおよびArは、それぞれ独立に、置換されているかもしくはされていないフェニル、置換されているかもしくはされていないビフェニル、および置換されているかもしくはされていないナフチル(好ましくは、置換されているかもしくはされていないフェニル;より好ましくは置換されているフェニル)からなる群から選択される。本発明の一形態として、各Ar、Ar、ArおよびArは、独立に、選択された基に、好ましくは1~3つの置換基(より好ましくは1または3つの置換基;さらに好ましくは3つの置換基;あるいは、さらに好ましくは1つの置換基)を有する。
【0033】
上記の基が置換基を有する場合、置換基は、それぞれ独立に、メチル、エチル、イソプロピル、tert-ブチル、フェニル、およびOSi(SiMe(好ましくはメチル、エチル、およびイソプロピル;より好ましくはメチル、およびイソプロピル)からなる群から選択される。ここで、「OSi(SiMe」の「Me」はメチルである。
mは、1、2または3(好ましくは1または2;より好ましくは1)の整数である。本発明の別のさらに好ましい形態において、mは2である。
【0034】
本発明の範囲を限定する意図はないが、潜在性有機遷移金属触媒(b)の例示的な化合物は、以下に記載されうる:
【化6-1】
【化6-2】
【0035】
潜在性有機遷移金属触媒(b)の含有量は、組成物に対して0.0001~1.0質量%(好ましくは0.001~0.5質量%;より好ましくは0.005~0.4質量%;さらに好ましくは0.010~0.10質量%)である。
【0036】
[(c)ブレンステッド酸を放出可能な化合物]
本発明の組成物は、光分解条件下でブレンステッド酸を放出可能な化合物(c)を含んでなる。
本発明の一形態として、化合物(c)は、下記式(V)で表される:
【化7】
Yは、ハロゲン(好ましくは塩素、臭素、またはヨウ素;より好ましくは塩素)である。
30およびR31は、それぞれ独立に、水素、メチル、エチル、直鎖もしくは分岐のC3-12アルキル、C3-12シクロアルキル、C6-12ビシクロアルキル、C7-14トリシクロアルキル、C6-10アリール、C6-10アリールC1-3アルキル、C1-12アルコキシ、C3-12シクロアルコキシ、C6-12ビシクロアルコキシ、C7-14トリシクロアルコキシ、C6-10アリールオキシC1-3アルキル、およびC6-10アリールオキシからなる群から選択される。
30は、好ましくは水素、メチル、エチル、イソプロピル、n-プロピル、フェニル、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、n-プロポキシ、およびフェノキシ(より好ましくは、水素、メチル、エチル、およびt-ブチル;さらに好ましくは、水素、およびt-ブチル;さらにより好ましくは水素)からなる群から選択される。
31は、好ましくは、メチル、エチル、イソプロピル、n-プロピル、フェニル、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、n-プロポキシ、およびフェノキシ(より好ましくはメチル、エチル、n-プロピル、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、およびフェノキシ;さらに好ましくはエトキシ、およびn-プロポキシ;さらにより好ましくはn-プロポキシ)からなる群から選択される。
【0037】
本発明の範囲を限定する意図はないが、光分解条件下でブレンステッド酸を放出可能な化合物(c)の例示的な化合物は、以下に記載されうる:
【化8】
【0038】
ブレンステッド酸を放出可能な化合物(c)の含有量は、組成物に対して0.0001~1.0質量%(好ましくは0.001~0.5質量%;より好ましくは0.01~0.40質量%;さらに好ましくは0.02~0.10質量%)である。
【0039】
[(d)吸収体化合物]
本発明の組成物は、280~410nmの範囲に最大吸収波長を有する吸収体化合物(d)を含んでなる。本発明の一形態では、吸収体化合物(d)は、好ましくは300~410nm(より好ましくは350~410nm)の範囲に最大吸収波長を有する。
【0040】
光吸収特性は、既知の方法により測定することができる。例えば、吸収体化合物(d)を非極性有機溶媒(例えば、1-ヘプチル-2-ノルボルネン)に溶解させ、この溶液を各光源(例えば、UV)について、既知の分光装置を用いて吸収スペクトルを評価する。
【0041】
吸収体化合物(d)は、「励起状態分子内プロトン移動(ESIPT)機構」によってUVを遮蔽するように作用する;および/または吸収体化合物(d)は、(好ましくは蒸着によって)層形成される際に、電子場によって励起される。
本発明の好ましい一形態では、吸収体化合物(d)は、ESIPT機構によってUVを遮蔽するように作用する。
【0042】
吸収体化合物(d)は、ヒドロキシルおよび/またはメトキシ(好ましくはヒドロキシルまたはメトキシ;より好ましくはヒドロキシル)を有することができる。
本発明の一形態として、(d)吸収体化合物は、好ましくは下記式(d-1)、(d-2)および(d-3)(より好ましくは、(d-1)および(d-2);さらに好ましくは(d-1))からなる群から選択される式で表される。このような吸収体化合物(d)は、本発明の組成物によって形成された層中でESIPT機構を作用させることが好ましい。以下、各式を詳細に説明する
【化9】
【0043】
21およびR22は、それぞれ独立に、水素、直鎖もしくは分岐のC1-5アルキル、またはC6-10アリール(好ましくは水素または直鎖のC1-5アルキル)である。
任意に、R21およびR22のC1-5アルキルは、互いに結合して、飽和または不飽和の環を形成することができる。本発明の一形態として、R21およびR22のC1-5アルキルは、好ましくは互いに結合して飽和環(より好ましくはシクロペンタン)を形成する。任意に、そのような飽和環のメチレンのうちの1つ以上は、それぞれ独立に、-(C=O)-または-NR25-で置き換えられていてもよい。本発明の一形態として、そのような飽和環のメチレンのうちの2つまたは3つは、それぞれ独立に、-(C=O)-または-NR25-で置き換えられていることが好ましい。
【0044】
式(d-1)としては、下記式(d-1-1)でありうる。式(d-1)から(d-1-1)を読み取ると、R21およびR22のC1-5アルキルは互いに結合して飽和環(シクロペンタン)を形成している。シクロペンタン中の2つのメチレンは、-(C=O)-リンカーと置き換えられている。シクロペンタン中の1つのメチレンは、-NR25-で置き換えられている。
【化10】
【0045】
25は、それぞれ独立に、水素、直鎖もしくは分岐のC1-5アルキル、またはC6-10アリール(好ましくは水素、メチル、エチル、イソプロピル、n-プロピル、n-ブチル、t-ブチル、またはフェニル;より好ましくは水素、メチル、n-プロピル、n-ブチル、またはフェニル;さらに好ましくはn-ブチル)である。
21は、1~3の整数(好ましくは1または2;より好ましくは1)である。
【0046】
23およびR24は、それぞれ独立に、C1-10アルキル、C6-18アリール、C6-12アリールC1-5アルキル、またはC1-5アルキルC6-12アリール(好ましくはC4-8アルキル、フェニル、およびフェニルC1-3アルキル;より好ましくはC5-8アルキル、およびフェニルC1-3アルキル)である。
23およびR24のアルキル部分は、それぞれ独立に、直鎖もしくは分岐であってもよい(好ましくは、そのようなアルキル部分の全部または一部は分岐状である)。
任意に、R23およびR24のアルキル部分のメチレンは、-CO-、-O-または-COO-(好ましくは-COO-)で置き換えられていてもよい。
【0047】
本発明の範囲を限定する意図はないが、式(d-1)の例示的な化合物は、以下に記載されうる:
【化11】
【0048】
【化12】
32およびR33は、それぞれ独立に、C1-21の炭化水素基(好ましくは直鎖もしくは分岐状のC1-21アルキル;より好ましくは直鎖もしくは分岐状のC1-10アルキル)である。R32およびR33のC1-20の炭化水素基は、任意に飽和もしくは不飽和の環(好ましくはベンゼン環)を形成することができる。
式(d-2)で表される化合物は、炭素-炭素二重結合で置き換えられた炭素-炭素単結合の部分を1つ以上有することができる。好ましくは、R32およびR33は、炭素-炭素二重結合で置き換えられた炭素-炭素単結合の部分を1つ以上有することができる。R32のメチレン部分は、-O-または-CO-で置き換えられていてもよい。
【0049】
31は、C1-12の炭化水素リンカー(好ましくは直鎖もしくは分岐のC1-6アルキレン;より好ましくは直鎖もしくは分岐のC1-4アルキレン;さらに好ましくはメチレン)である。L31は、任意に飽和もしくは不飽和の環(好ましくはフェニレン)を形成することができる。L31のメチレン部分は、任意に、-O-で置き換えられていてもよい。
32は-CO-、-CH-または-CH(CH)-(好ましくは-CO-または-CH(CH)-;より好ましくは-CH(CH)-)である。
式(d-2)で表される化合物中のメチルのうちの少なくとも1つは、ヒドロキシルまたはメトキシで置き換えられている。
【0050】
本発明の範囲を限定する意図はないが、式(d-2)の例示的な化合物は、以下に記載されうる:
【化13】
【0051】
【化14】
41、R42およびR43は、それぞれ独立に、C1-20の炭化水素基である。R41、R42またはR43のC1-20の炭化水素基は、任意に飽和もしくは不飽和の環(好ましくはベンゼン環)を形成することができる。R41、R42またはR43のメチレン部分は、任意に、-O-で置き換えられていてもよい。
式(d-3)で表される化合物中のメチルのうちの少なくとも1つが、ヒドロキシルまたはメトキシで置き換えられている。
【0052】
本発明の範囲を限定する意図はないが、式(d-3)の例示的な化合物は、以下に記載されうる:
【化15】
【0053】
吸収体化合物(d)は市場で入手できる。市販されていて入手可能な吸収体(d)の例は、Tinuvin 328、Tinuvin 477、Tinuvin 900、Tinuvin 928、Tinuvin 970、Tinuvin 384、Eusolex 9020、Oxynex ST、Eusolex S、BL1226、BL1337(Jade New Material)、FDB-009(山田化学工業)、LOTSORB Bシリーズ(Jiangxi Lotchem)、LA-F70(Adeka Fine Chemicals)、およびこれらのいずれかの任意の組み合わせからなる群から選択されうる。
【0054】
本発明の別の好ましい形態として、吸収体化合物(d)は、層形成される際に電子場によって励起される特性を有することができる。例えば、OLEDに用いられる化合物は、そのような特性を有する。このような吸収体化合物(d)の好ましい形態は、OLEDにおいて、発光層(EML、ホストまたはドーパントとして)、正孔輸送層(HTL)、正孔注入層(HIL)、電子輸送層(ETL)、電子注入層(EIL)に使用することができるものである。本明細書では以降、このようなOLED用の特性を示すことができる吸収体化合物(d)を、「OLED特性を有する吸収体化合物(d)」と表記する。このような吸収体化合物(d)のより好ましい形態は、OLEDにおいてHTLまたはHILに使用することができるものである。このような吸収体化合物(d)のさらに好ましい形態は、OLEDにおいてHTLで使用することができるものである。
このような層形成は、コーティングまたは蒸着(好ましくは真空蒸着)によって行うことができる。
【0055】
OLED特性を有する吸収体化合物(d)の好ましい例では、OLEDの層中に形成された際に、正孔注入および/または正孔輸送特性を示すことができる。これらは、例えば、トリアリールアミン類、ベンジジン類、テトラアリールパラ-フェニレンジアミン類、トリアリールホスフィン類、フェノチアジン類、フェノキサジン類、ジヒドロフェナジン類、チアントレン類、ジベンゾ-パラ-ダイオキシン類、フェノキサチイン類(phenoxathiynes)、カルバゾール類、アズレン類、チオフェン類、ピロール類およびフラン類、ならびにそれらの誘導体、およびさらに、高いHOMO(HOMO=最高被占軌道)を有する、O-、S-またはNを含むヘテロ環類が挙げられる。
【0056】
正孔注入および/または正孔輸送特性を有する化合物としては、フェニレンジアミン誘導体(米国特許第3615404号明細書)、アリールアミン誘導体(米国特許第3567450号明細書)、アミノ置換されたカルコン誘導体(米国特許第3526501号明細書)、スチリルアントラセン誘導体(特開昭56-46234号公報)、多環芳香族化合物(欧州特許第1009041号明細書)、ポリアリールアルカン誘導体(米国特許第3615402号明細書)、フルオレノン誘導体(特開昭54-110837号公報)、ヒドラゾン誘導体(米国特許第3717462号明細書)、アシルヒドラゾン類、スチルベン誘導体(特開昭61-210363号公報)、シラザン誘導体(米国特許第4950950号明細書)、ポリシラン類(特開平2-204996号公報)、アニリンコポリマー(特開平2-282263号公報)、チオフェンオリゴマー(特開平1-211399号公報)、ポリチオフェン類、ポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVK)、ポリピロール類、ポリアニリン類およびその他の導電性高分子、ポルフィリン化合物(特開昭63-2956965号公報、米国特許第4720432号明細書)、芳香族ジメチリデン系化合物、カルバゾール化合物、例えばCDBP、CBP、mCP、芳香族第3級アミン、スチリルアミン化合物(米国特許第4127412号)、例えばベンジジン系のトリフェニルアミン類、スチリルアミン系のトリフェニルアミン類およびジアミン系のトリフェニルアミン類が特に挙げられる。アリールアミンデンドリマー類(特開平8-193191号公報)、モノマートリアリールアミン類(米国特許第3180730号明細書)、1つ以上のビニルラジカルおよび/または活性水素を含む少なくとも1つの官能基を含むトリアリールアミン類(米国特許第3567450号明細書および米国特許第3658520号明細書)、またはテトラアリールジアミン類(2つの第3級アミン単位がアリール基を介して結合されている)を使用することも可能である。より多くのトリアリールアミノ基が分子内に存在していてもよい。フタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、ブタジエン誘導体およびキノリン誘導体、例えばジピラジノ[2,3-f:2’,3’-h]キノキサリンヘキサカルボニトリル等もまた好適である。
【0057】
好ましくは、少なくとも2つの第3級アミン単位を含む芳香族第3級アミン(米国特許出願公開第2008/0102311号明細書、米国特許第4720432号明細書、および米国特許第5061569号明細書)、例えば、NPD(α-NPD=4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル)(米国特許第5061569号明細書)等、TPD232(=N,N’-ビス-(N,N’-ジフェニル-4-アミノフェニル)-N,N-ジフェニル-4,4’-ジアミノ-1,1’-ビフェニル)またはMTDATA(MTDATAまたはm-MTDATA=4,4’,4’’-トリス[3-メチルフェニル)フェニルアミノ]トリフェニルアミン)(特開平4-308688号公報)、TBDB(=N,N,N’,N’-テトラ(4-ビフェニル)ジアミノビフェニレン)、TAPC(=1,1-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)シクロヘキサン)、TAPPP(=1,1-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)-3-フェニルプロパン)、BDTAPVB(=1,4-ビス[2-[4-[N,N-ジ(p-トリル)アミノ]フェニル]ビニル]ベンゼン)、TTB(=N,N,N’,N’-テトラ-p-トリル-4,4’-ジアミノビフェニル)、TPD(=4,4’-ビス[N-3-メチルフェニル]-N-フェニルアミノ)-ビフェニル)、N,N,N’,N’-テトラフェニル-4,4’’’-ジアミノ-1、1’,4’,1’’,4’’,1’’’-クォーターフェニル、同様にカルバゾール単位を含む第三級アミン、例えばTCTA(=4-(9H-カルバゾール-9-イル)-N,N-ビス[4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]-ベンゼンアミン)が挙げられる。好ましくは、同様に、米国特許出願公開第2007/0092755号明細書に記載されるヘキサアザトリフェニレン化合物、およびフタロシアニン誘導体(例えば、HPc、CuPc(=銅フタロシアニン)、CoPc、NiPc、ZnPc、PdPc、FePc、MnPc、ClAlPc、ClGaPc、ClInPc、ClSnPc、ClSiPc、(HO)AlPc、(HO)GaPc、VOPc、TiOPc、MoOPc、GaPc-O-GaPc)が挙げられる。
【0058】
OLED特性を有する吸収体化合物(d)のより好ましい例は、以下に記載の式(TA-1)~(TA-16)であり得、これらは欧州特許第1162193号明細書、欧州特許第650955号明細書、Synth.Metals 1997,91(1-3),209、独国特許出願公開第19646119号明細書、国際公開第2006/122630号、欧州特許出願公開第1860097号明細書、欧州特許出願公開第1834945号明細書、特開平8-053397号公報、米国特許第6251531号明細書、米国特許出願公開第2005/0221124号明細書、特開平8-292586号公報、米国特許第7399537号明細書、米国特許出願公開第2006/0061265号明細書、欧州特許第1661888号明細書および国際公開第2009/041635号に記載されている。式(TA-1)~(TA-16)の上記化合物は、置換されていてもよい。
【化16-1】
【化16-2】
【化16-3】
【0059】
OLED特性を有する吸収体化合物(d)として使用できるさらなる化合物は、欧州特許出願公開第0891121号明細書、欧州特許出願公開第1029909号明細書および米国特許出願公開第2004/0174116号明細書に記載されている。
【0060】
OLED特性を有する吸収体化合物(d)として一般的に使用されるこれらのアリールアミン類および複素環類は、それらによって形成された層において、-5.8eV(対真空レベル)より大きい(より好ましくは-5.5eVより大きい)HOMOを好ましくはもたらす。
【0061】
本発明の組成物の一形態として、吸収体化合物(d)の含有量は、組成物に対して0.5~15質量%(好ましくは1~15質量%;より好ましくは2~10質量%;さらに好ましくは2~6質量%)である。明確にするために、組成物が複数種の吸収体化合物(d)を含む場合、当該含有量は、これら吸収体化合物(d)の合計である。
【0062】
[添加剤]
本発明の組成物はさらに添加剤を含んでなることができる。ここで、添加剤は、上述した成分とは異なる。添加剤は、抗酸化剤、相乗剤、粘度調整剤、結合剤、溶媒、他の吸収体、およびこれらのいずれかの任意の組み合わせからなる群から選択することができる。ここで、他の吸収体とは、式(d-1)、(d-2)および(d-3)で表されるいずれの化合物とは異なり、また層形成された際に電子場で励起されうるいずれかの化合物である、光を吸収する化合物を意味する。溶媒としては、例えば有機溶媒が、溶解性の低い特定の化合物を溶解するのに有用である。米国特許出願公開第2020/002466号明細書または国際公開第2020/002277号に記載されている実施形態は、このような添加剤として一般的に使用することができる。
【0063】
本発明の組成物の一形態として、このような添加剤の含有量は、組成物に対して0~15質量%(好ましくは0.01~10質量%;より好ましくは0.1~5質量%;さらに好ましくは0.1~1質量%)である。本発明の組成物が、このような添加物を組成物に対して含まないこと(0.0質量%)は別の好ましい形態である。
【0064】
一形態として、本発明の組成物は、溶媒をさらに含んでなることができる。溶媒は、好ましくは、無機溶媒または有機溶媒(より好ましくは有機溶媒)である。このような溶媒の含有量は、組成物に対して、好ましくは0.0~1.0質量%(より好ましくは0.001~0.5質量%;さらに好ましくは0.001~0.1質量%;よりさらに好ましくは0.001~0.01質量%)である。本発明の組成物が、このような溶媒を組成物に対して含まないこと(0.000質量%)は別の好ましい形態である。
【0065】
[層形成]
本発明は、以下の工程を含んでなるポリシクロオレフィン層の製造方法を提供する:
(1)基材を準備すること;
(2)上記基材の上方に、本発明の組成物を塗布すること;および
(3)上記組成物中のモノマー(a)を重合させること。
【0066】
括弧内の数字は、工程の順序を示す。例えば、工程(1)、(2)および(3)と記載されるとき、この工程の順序は上述したとおりである。以下、特に記載されない限り、以下同様である。
【0067】
ここで、本発明では、「上方に」は、ポリシクロオレフィン層を基材の上に(直接接触させて)形成させる場合と、他の層を介してポリシクロオレフィン層を基材の上方に形成させる場合とを含む。例えば、基材上に平坦化膜を形成し得、この平坦化膜の上に本発明の組成物を塗布することができる。
【0068】
一般的に、本出願は、基材と、ポリシクロオレフィン層とを含んでなる電子素子(好ましくは有機電子素子)に関し、これは本明細書に記載の方法に従って製造することができる。
【0069】
上記基材は、特に限定されず、原則として、ポリシクロオレフィン層が蒸着されうる任意の部材(例えば、以下で記載される基板または素子もしくは素子構成要素)であればよい。理論に拘束されることを望むものではないが、このポリシクロオレフィン層は、下にある基材を、水、酸素、ダスト、または下にある基材に対して有害な任意の他の材料から保護することに寄与すると考えられる。
【0070】
基材は、好ましくは電子素子または電子素子の構成要素であり、より好ましくは有機電子素子または有機電子素子の構成要素である。
このような基材の例は、発光ダイオード、太陽電池、光検出セル、半導体素子、および薄膜トランジスタからなる電子素子の群から選択することができ、そのすべてが有機、無機またはハイブリッドでありうる。
一般に、このような電子素子は、好ましくは順に第1の電極、機能層、および第2の電極を含んでなる。機能層は、例えば、発光層、半導体層、および光活性層からなる群から選択することができる。
得られた電子素子の構造に応じて、ポリシクロオレフィン層は、第1の電極または第2の電極の側にあってもよい(但し、必ずしも直接それに付着されている必要はない)。
【0071】
基板は、基材の一部として、または基材を構成するそれ自体で、特に限定されない。好適な基板は、使用条件下で不活性であることが好ましい。このような基板は、例えば、柔軟性を有することができる。好適な基板材料の好ましい例は、ポリマー、ガラス、金属、およびこれらのいずれかの任意の混合物から選択することができ、例えば、2つ以上のポリマーまたは金属の混合物が挙げられる。好ましいポリマー材料としては、アルキド樹脂、アリルエステル、ベンゾシクロブテン、ブタジエン-スチレン、セルロース、酢酸セルロース、エポキシド、エポキシポリマー、エチレン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、ガラス繊維強化ポリマー、フルオロカーボンポリマー、ヘキサフルオロプロピレンビニリデン-フッ化物コポリマー、高密度ポリエチレン、パリレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアラミド、ポリシロキサン(例えば、ポリジメチルシロキサン)、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリケトン、ポリメタクリル酸メチル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリシクロオレフィン、シリコーンゴム、シリコーン、およびマレイミド系樹脂が挙げられるが、これらに限定されない。これらのうち、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリシクロオレフィン、およびポリエチレンナフタレート材料がより好ましい。さらに、本発明のいくつかの形態では、基板は、任意の好適な材料、例えば、上記列挙された材料のうちの1つ以上でコーティングされたまたは1つ以上の金属(例えばチタン)でコーティングされた、ポリマー材料、金属またはガラス材料でありうる。このような基板を形成する際に、素子製造のための均質な表面を提供するために、押出、延伸、ラビングまたは光化学技術等の方法を用いることができることが理解されるであろう。あるいは、基板は、上記ポリマー材料の1つ以上でコーティングされたポリマー材料、金属またはガラスでありうる。
【0072】
本発明の工程(2)において、組成物を「塗布する」手段は、好ましくは、蒸着、ディップコーティング、スピンコーティング、インクジェット印刷、ノズル印刷、凸版印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、ドクターブレードコーティング、ローラー印刷、リバースローラー印刷、オフセットリソグラフィ印刷、ドライオフセットリソグラフィ印刷、フレキソ印刷、ウェブ印刷、スプレーコーティング、カーテンコーティング、ブラシコーティング、スロットダイコーティング、およびパッド印刷(より好ましくは、蒸着、スピンコーティング、インクジェット印刷またはノズル印刷;さらに好ましくはスピンコーティング、およびインクジェット印刷;さらにより好ましくはインクジェット印刷)からなる群から選択される。
【0073】
本発明の工程(3)では、モノマー(a)を重合してポリシクロオレフィン層とする。工程(3)における「重合させる」手段は、照射および/または熱(好ましくは照射)によって行われる。
上記照射としては、好ましくは260~430nmのピークトップ波長(より好ましくは350~410nmのピークトップ;さらに好ましくは380~400nmのピークトップ)の波長を用いることができる。UV照射は、このような照射の好ましい一形態である。このような照射の雰囲気は、空気雰囲気、窒素、およびこれらの混合物のような既知の条件から選択することができる。温度は、20~27℃(好ましくは25~27℃)のような既知の条件のように制御することができる。
上述したように、基材の上方の組成物に高温を適用して熱処理を行うのは本発明の一形態である。50~150℃(好ましくは70~120℃)は、このような条件の一形態である。10~180分(好ましくは10~60分)は、このような条件の一形態である。このような熱処理の雰囲気は、空気雰囲気、窒素、およびこれらの混合物のような既知の条件から選択することができる。温度は、20~27℃(好ましくは25~27℃)のような既知の条件のように制御することができる。
【0074】
本発明の組成物を用いることにより、好適な放射線に曝された際に実質的に透明な層を形成することができる。本明細書に記載の方法によって製造されるポリシクロオレフィンポリマーは、実質的に透明な層でありうる。好適な放射線源は、自然光であってもよいし、人工光(例えば、LED光)であってもよい。
実質的に透明な層は、波長450~800nmの光に対して、好ましくは80~99.9%(より好ましくは90~99.9%;さらに好ましくは95~99.9%;よりさらに好ましくは97~99.9%)の平均透過率を有することができる。
本発明の好ましい形態は、可視光の大部分が層を透過することである。従って、本発明の一形態として、このような層は、好ましくは90~100%の可視光(より好ましくは90~99.9%;さらに好ましくは95~99.9%の可視光)透過を有することができる。可視光は、好ましくは360~830nm(より好ましくは400~830nm;さらに好ましくは400~760nm)でありうる。
【0075】
実質的に透明な層は、250~450nmの範囲の波長光において5~60%の平均透過率を有することができる。理論に拘束されることを望むものではないが、本発明の組成物中に吸収体化合物(d)を含むことによって、組成物は、化学プロセスの障害(例えば、濁度、未解決の残渣)を回避することができ、および/または実質的に透明な層は、特定の範囲の光を減少させながら可視光の大部分を透過させることができる。理論に拘束されることを望むものではないが、実質的に透明な層を、良好な視認性を示すことができる発光素子に組み込むことができる。
【0076】
実質的に透明な層が、310~360nmの範囲の波長光において5~25%の平均透過率を有することは本発明の好ましい形態である。本発明の好ましい形態では、実質的に透明な層が、370~410nmの範囲の波長光において1~20%の平均透過率を有する。
透過量は、既知の方法により測定および評価することができる。
【0077】
本発明の一形態では、製造されたポリシクロオレフィン層は、好ましくは3以下(より好ましくは2.6以下;さらに好ましくは2.5以下)の誘電率を有することができる。ポリシクロオレフィン層の誘電率は、既知の方法により評価することができる。理論に束縛されることを望むものではないが、上記誘電率を有するポリシクロオレフィン層は、封止層または絶縁層としての特性を示すことができる。
【0078】
本発明の一形態として、本発明のポリシクロオレフィンポリマーは、質量平均分子量(Mw)が5,000~500,000(より好ましくは10,000~400,000;さらに好ましくは20,000~250,000)で形成される。本発明において、MwおよびMnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。この測定では、GPCカラムを40℃で、溶離液テトラヒドロフランを0.6mL/分で、および単分散ポリスチレンを標準として用いることが、好ましい例である。
【0079】
本発明は、上記(1)、(2)、(3)の工程、および(4)ポリシクロオレフィン層の上方に1つ以上の追加の層を塗布する工程を含んでなる、ポリシクロオレフィン層の製造方法を提供する。
【0080】
本発明の一形態では、追加の層は、好ましくは、有機層、無機層、およびハイブリッド層からなる群から選択される(より好ましくは、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、窒化チタン、酸化タンタル、窒化タンタル、酸化ハフニウム、窒化ハフニウム、酸化ジルコニウム、窒化ジルコニウム、酸化セリウム、窒化セリウム、酸化インジウム、酸化スズ、窒化スズおよびこれらのいずれかの任意のブレンドからなる群から選択される材料を含んでなる無機層からなる群から選択される)。さらに好ましくは、このような追加の層はタッチパネルを構成する。
【0081】
[素子の製造]
理論に拘束されることを望むものではないが、上記の本発明によって製造されたポリシクロオレフィン層は、良好な透明性または柔軟性を有することができる。このようなポリシクロオレフィン層を電子素子に含めることは有利である。また、このようなポリシクロオレフィン層を本発明の基材(好ましくは基材は電子素子)上に設けることは有利である。
【0082】
本発明は、上記ポリシクロオレフィン層の製造方法を含んでなる、電子素子の製造方法を提供する。
本発明の一形態では、上記電子素子は、好ましくは発光素子(より好ましくは、有機発光素子)である。
好ましくは、発光素子は、順に、第1の電極(より好ましくは陽極)、発光層、および第2の電極(より好ましくは陰極)を含んでなる。好ましくは、有機発光素子は、順に、第1の電極(より好ましくは陽極)、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、および第2の電極(より好ましくは陰極)を含んでなる。
【0083】
これらのさらなる加工のために、既知の方法を適用することができる。例えば、本発明の基材を形成した後、必要に応じて、基材をチップ状に切断し、リードフレームに接続して樹脂でパッケージする。別の形態として、本発明によるポリシクロオレフィン層は、装置(例えば、照明装置)内の製造層(fabrication layers)の一層を構成することができる。
【0084】
本発明はまた、上記方法により製造された電子素子を提供する。
【0085】
次に、以下の実施例を参照して本発明をより詳細に説明するが、これらは単なる例示であり(area)、本発明の範囲を限定するものではない。
【0086】
比較例1~3
吸収体(d)を有さない比較組成物を以下のように調製する。
ガラス瓶において、Ru-I(0.0046g)およびCPTX(0.0030g)を、溶媒なしでPENB(10g)に溶解させて、クリア組成物を形成する。
【化17】
【0087】
窒素雰囲気下で、各組成物を予め洗浄された石英基板上にスピンコートし、湿潤膜とする。窒素雰囲気下で、湿潤膜に395nmのUV光を照明し、膜を硬化させる。線量は一般に0.5~5J/cmである。比較例に使用した線量を表1に示す。スピンコーティングパラメータを最適化し、8μmの膜厚を得る。膜厚は、膜を硬化させ、メスで引っ掻いて基板表面を参照した後、プロフィロメトリーによって決定される。
試料調製後、透過スペクトルを250~800nmの波長範囲に登録する。
【0088】
実施例1~17
実施例組成物を、以下のように調製する。吸収体(d)を添加する以外は、比較組成物1と同様にして、実施例組成物を調製する。組成物の合計に対する吸収体(d)の量を、表1に記載する。
実施例組成物は、可視域(450~800nm)における良好な透過、およびUV光(250~450nm)における透過低減を示すことが確認される。
【0089】
【表1-1】
【表1-2】
【0090】
【表2】
【0091】
実施例18~36
吸収体(d)の溶解性を、室温で比較例組成物1に溶解した各吸収体(d)によって試験する。この試験を最大4週間実施する。表3は、組成物およびその溶液の目視による安定性を列挙する。
【0092】
【表3-1】
【表3-2】
【国際調査報告】