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特表2024-534546リチウムイオン電池用のカソード活物質の前駆体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用のカソード活物質の前駆体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20240912BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240912BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240912BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024518145
(86)(22)【出願日】2022-09-12
(85)【翻訳文提出日】2024-05-16
(86)【国際出願番号】 EP2022075233
(87)【国際公開番号】W WO2023046508
(87)【国際公開日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】21198053.7
(32)【優先日】2021-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】フリシュート,ザビーネ
(72)【発明者】
【氏名】バイアーリンク,トルシュテン
(72)【発明者】
【氏名】メッツガー,ルーカス カール
(72)【発明者】
【氏名】ラウルス,マッティアス
(72)【発明者】
【氏名】ドゥハルト,マルク
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA10
5H050HA14
(57)【要約】
TMの粒子状(オキシ)水酸化物又は酸化物の製造方法であって、TMが金属を表し、TMが、ニッケルと、コバルト、アルミニウム及びマンガンから選択される少なくとも1種の金属とを含み、前記方法が、以下の工程:
(a)100ppm未満のOを有する雰囲気下、反応容器中で、金属ニッケルと、コバルト、マンガン及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属との水性スラリーを、硝酸塩及び過酸化物から選択される酸化剤と組み合わせ、それによって7.5~12の範囲のpH値を有する粒子含有の水性反応媒体を得る工程と、
(b)固液分離法により、工程(a)からの粒子を液体から取り出し、前記粒子を乾燥させる工程と、
(c)工程(b)で得られた母液を前記反応容器に戻す工程と
を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TMの粒子状(オキシ)水酸化物又は酸化物の製造方法であって、TMが、1種以上の金属を表し、TMが、ニッケル又はコバルトと、任意にアルミニウム及びマンガンから選択される少なくとも1種の金属とを含み、前記方法が、以下の工程:
(a)100ppm未満のOを有する雰囲気下、反応容器中で、金属ニッケル又はコバルトと、任意にマンガン及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属との水性スラリーを、硝酸塩及び過酸化物から選択される酸化剤と組み合わせ、それによって7.5~12の範囲のpH値を有する粒子含有の水性反応媒体を得る工程と、
(b)固液分離法により、工程(a)からの粒子を液体から取り出し、前記粒子を乾燥させる工程と、
(c)工程(b)で得られた母液を前記反応容器に戻す工程と
を含む、方法。
【請求項2】
粒子状(オキシ)水酸化物又は酸化物が、TMの水酸化物及びオキシ水酸化物から選択され、TMが一般式(I)による金属の組み合わせである、
(NiaCobMnc)1-dMd (I)
(式中、aは、0.6~0.95の範囲であり、
bは、0.025~0.2の範囲であり、
cは、0~0.2の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Mg、Al、Ti、Zr、Mo、W、Al、Mg、Nb、及びTaから選択され、
a+b+c=1であり、b+c>0である)
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
粒子状(オキシ)水酸化物又は酸化物が、TMの水酸化物及びオキシ水酸化物から選択され、TMが一般式(Ia)による金属の組み合わせである、
(NiaMnc)1-dMd (I a)
(式中、aは、0.6~0.95の範囲であり、
cは、0超~0.2の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Mg、Al、Ti、Zr、Mo、W、Al、Mg、Nb、及びTaから選択され、
a+c=1であり、c>0である)
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)において、アンモニア、ホウ酸塩、ポリホウ酸塩、グリシン、酒石酸塩、クエン酸塩、及びシュウ酸塩から選択される錯化剤が存在する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
c+d>0である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
工程(a)の間に、工程(a)の反応媒体から金属粒子を濾過、沈降又は磁気分離によって取り出し、反応容器に戻す、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
工程(a)において、マンガンの塩が添加される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
工程(a)の間の温度が5~95℃の範囲である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
工程(a)において、アルカリ金属水酸化物が添加されない、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項10】
工程(a)において、窒素及び希ガスから選択される不活性ガスの流れを水性反応媒体に通してバブリングする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
前記不活性ガスの流れがHO及びNHのうちの少なくとも1つを含有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
TMの(オキシ)水酸化物の粒子が、工程(a)においてシード粒子として導入される、請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TMの粒子状(オキシ)水酸化物又は酸化物の製造方法に関し、ここで、TMが、1種以上の金属を表し、TMが、ニッケル又はコバルトと、任意にアルミニウム及びマンガンから選択される少なくとも1種の金属とを含み、前記方法が、以下の工程:
(a)100ppm未満のOを有する雰囲気下、反応容器中で、金属ニッケル又はコバルトと、任意にマンガン及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属との水性スラリーを、硝酸塩及び過酸化物から選択される酸化剤と組み合わせ、それによって7.5~12の範囲のpH値を有する粒子含有の水性反応媒体を得る工程と、
(b)固液分離法により、工程(a)からの粒子を液体から取り出し、粒子を乾燥させる工程と、
(c)工程(b)で得られた母液を前記反応容器に戻す工程と
を含む。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギーを貯蔵するための最新の装置である。携帯電話及びラップトップコンピュータなどの小型の装置からカーバッテリー及び他のE-モビリティ(e-mobility)用バッテリーまで、多くの応用分野が考えられてきた。電解質、電極材料及びセパレータなどの様々な電池の構成要素は、電池の性能に関して重要な役割を有する。カソード材料は特に注目されている。いくつかの材料、例えばリチウム鉄ホスフェート、リチウムコバルトオキシド、及びリチウムニッケルコバルトマンガンオキシドが提案されてきた。
【0003】
カソード材料は、リチウムイオン電池の特性にとって極めて重要である。リチウム含有の混合遷移金属酸化物、例えばスピネル及び層状構造の混合酸化物、特にニッケル、マンガン及びコバルトのリチウム含有混合酸化物は特に重要となっている(例えば、EP 1 189 296を参照)。このようなニッケル、マンガン及びコバルトのリチウム含有混合酸化物は、一般に2段階のプロセスで調製される。第1段階では、遷移金属(単数又は複数)の難溶性塩、例えば炭酸塩又は水酸化物を溶液から沈殿させることによって調製する。この難溶性化合物は、多くの場合、前駆体とも呼ばれる。第2段階では、前駆体を、リチウム化合物、例えばLiCO、LiOH又はLiOと混合し、高温、例えば600~1100℃で焼成する。
【0004】
前駆体の製造プロセスでは、(共)沈殿法で行う場合、通常、ニッケル、コバルト及びマンガンなどの遷移金属の硫酸塩が出発材料として使用される。しかしながら、これは化学量論的量のアルカリ金属硫酸塩の生成につながる。化学量論的量の硫酸塩は望ましくない副産物であり、廃棄する必要がある。
【0005】
WO 2019/191837では、カソード活物質が、金属の酸化と同時の沈殿によって作られる前駆体から作られる方法が開示されている。しかしながら、この方法は、一般的なアルカリ性条件下では、マンガンが前駆体にうまく取り込まれないMnOとして沈殿する可能性があるため、マンガンが存在する場合に不利をもたらす。さらに、未反応金属を除去するために提案された磁気分離は、アルミニウム及びマンガンに限らず、多くの材料では機能しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】EP 1 189 296
【特許文献2】WO 2019/191837
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、化学量論的量のアルカリ金属硫酸塩の生成を回避し、磁気的に除去できない未反応金属の残留物の生成をさらに低減する前駆体の製造方法を提供することであった。特に、本発明の目的は、マンガンを構成成分として使用できる方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の方法又は(本)発明による方法。本発明の方法は、バッチプロセスとして実施されてもよいし、連続又は半連続プロセスとして実施されてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の方法は、以下でそれぞれ(a)、(b)、又は(c)とも呼ばれる工程(a)~(c)を含む。工程(a)~(c)については、以下でさらに詳しく説明する。
【0010】
本発明の方法は、TMの粒子状(オキシ)水酸化物又は酸化物の製造に適しており、ここで、TMが金属を表し、TMが、ニッケルと、コバルト、アルミニウム及びマンガンから選択される少なくとも1種の金属とを含む。好ましくは、TMは少なくとも50モル%のニッケルを含む。より好ましくは、TMは、少なくとも50モル%のニッケルと、マンガン及びアルミニウムのうちの少なくとも1つとを含む。
【0011】
本発明の一実施態様において、TMの粒子状(オキシ)水酸化物又は酸化物は、TMの水酸化物及びオキシ水酸化物及び酸化物から選択され、ここで、TMが一般式(I)による金属の組み合わせである、
(NiaCobMnc)1-dMd (I)
(式中、aは、0.6~0.95、好ましくは0.80~0.94の範囲であり、
bは、0~0.2、好ましくは0.01~0.12の範囲であり、
cは、0~0.2、好ましくは0.02~0.10の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Mg、Al、Ti、Zr、Mo、W、Al、Mg、Nb、Ta、及び前述の少なくとも2種の組み合わせから選択され、好ましくは、MはMg及びAlから選択され、
a+b+c=1であり、c+d>0である)。
【0012】
例えば、式(I)における変数は以下のように定義することができる:
aは、0.6~0.95、好ましくは0.80~0.94の範囲であり、
bは、0.025~0.2、好ましくは0.01~0.12の範囲であり、
cは、0~0.2の範囲であり、
dは、0~0.1、好ましくは0.02~0.10の範囲であり、
Mは、Mg、Al、Ti、Zr、Mo、W、Al、Mg、Nb、及びTaから選択され、
a+b+c=1であり、b+c>0である。
【0013】
別の実施態様において、TMは、式(Ia)に対応する、
(NiaMnc)1-dMd (I a)
(式中、aは、0.6~0.95、好ましくは0.80~0.94の範囲であり、
cは、0超~0.2の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Mg、Al、Ti、Zr、Mo、W、Al、Mg、Nb、及びTaから選択され、
a+c=1であり、c>0である)。
【0014】
前記TMの粒子状(オキシ)水酸化物又は酸化物は、不純物として、微量のさらなる金属イオン、例えば微量のナトリウム、カルシウム、鉄又は亜鉛などの遍在金属を含有してもよいが、このような微量は本発明の明細書において考慮されない。この文脈における微量とは、TMの全金属含有量に対して0.05モル%以下の量を意味する。
【0015】
TMの粒子状(オキシ)水酸化物又は酸化物は粒子形態である。本発明の一実施態様において、TMの粒子状(オキシ)水酸化物又は酸化物の平均粒径(D50)は、2~20μm、好ましくは3~16μm、より好ましくは7~14μmの範囲である。本発明の文脈における平均粒径(D50)は、例えば光散乱によって決定することができ、体積ベースの粒子直径の中央値を指す。一実施態様において、TMの粒子状(オキシ)水酸化物又は酸化物は、単峰性の粒径分布を有する。他の実施態様において、TMの粒子状(オキシ)水酸化物又は酸化物の粒径分布は、例えば、1~5μmの範囲に1つの最大値、及び7~16μmの範囲にさらなる最大値を有する二峰性であってもよい。単峰性が好ましい。
【0016】
本発明の他の実施態様において、TMの粒子状(オキシ)水酸化物又は酸化物の平均粒径(D50)は、1~7μm、好ましくは2~6μm、より好ましくは3~5μmの範囲である。
【0017】
前記TMの粒子状(オキシ)水酸化物又は酸化物の二次粒子の粒子形状は、好ましくは球状、すなわち球形を有する粒子である。球状とは、正確に球状のものだけでなく、0.7~1の範囲の形状係数(form factor)、及び1.00~1.25の範囲のバウンディングボックスの軸比を有する粒子も含む。特定の粒子のバウンディングボックスの軸比を決定するために、可能な限り小さな矩形のバウンディングボックスを粒子のトップビューSEM画像の周りに設定する。軸比は、2つの辺の長さaとa(a≧a)から、バウンディングボックスの軸比=a/aによって計算される。
【0018】
完全な球体であれば、バウンディングボックスの軸比は1.0となるが、完全な球体からの逸脱はすべて軸比>1.0となる。
【0019】
サンプルの形状係数及び軸比を決定するために、両特性は、まず各サンプルの少なくとも50個の個々の粒子について決定され、次に平均化される。個々の粒子の形状係数は、トップビューのSEM画像から決定される周囲長及び面積から算出する:形状係数=(4π・面積)/(周囲長)。完全な球体であれば、形状係数は1.0であるが、完全な球体から逸脱すると形状係数は1.0より小さくなる。
【0020】
本発明の一実施態様において、前記TMの粒子状(オキシ)水酸化物は、一次粒子の複合体である二次粒子から構成されている。好ましくは、前記前駆体は、一次粒子の凝集体である球状の二次粒子から構成されている。さらにより好ましくは、前記前駆体は、板状、棒状又は針状の一次粒子又はプレートレットの凝集体である球状の二次粒子から構成されている。
【0021】
本発明の一実施態様において、前記TMの粒子状(オキシ)水酸化物又は酸化物は、特定の量、例えばTMに対して0.1~10モル%の酸化状態ゼロの金属、例えばニッケルを含み、前記金属はTMの構成成分である。前記酸化状態ゼロの金属、特にニッケルは、粒子状(オキシ)水酸化物自体の最大サイズの小粒子の形態で組み込まれる。
【0022】
本発明の一実施態様において、前記TMの粒子状(オキシ)水酸化物及び酸化物は、0.5~0.9の範囲の粒径分布スパンを有してもよく、このスパンは、[(D90)-(D10)]を(D50)で除したものとして定義され、全てLASER分析によって決定される。本発明の別の実施態様において、前記前駆体は、1~4の範囲の粒径分布スパンを有することができる。
【0023】
本発明の一実施態様において、前記前駆体の比表面積(BET)は、2~15m/g又は15~100m/gの範囲であり、例えばDIN-ISO 9277:2003-05に従って窒素吸着によって決定される。
【0024】
本発明の方法は、反応容器、例えばタンク反応器、特に攪拌タンク反応器を備える装置で行われる。前記反応器は、ガス入口、及び固液分離のための装置と接続されるパイプを含む。
【0025】
工程(a)では、100ppm未満のOを有する雰囲気下、反応容器中で、金属ニッケルと、コバルト及びマンガン及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属との水性スラリーを、硝酸塩及び過酸化物から選択される酸化剤と組み合わせ、それによって7.5~12の範囲のpH値を有する水性反応媒体を得る。前記水性媒体は、新たに生成するTMの水酸化物の粒子を含有する。
【0026】
好ましくは、このようなニッケル以外の遷移金属は、コバルト、マンガン、及びコバルトとマンガンの組み合わせから選択される。
【0027】
金属ニッケルは、粉末、シート、削りくず、ブリケット、ペレット、丸形、小塊、電極片の形態であってもよい。粉末は、0.01~1mmの範囲の平均粒径を有することができる。シートは、0.1mm~5mmの範囲の厚さ、及び2cm~10mの範囲、特に2cm~10cmの範囲の、同一であっても異なっていてもよい長さ及び幅を有することができる。本発明の目的のための削りくずは、0.1~1mmの厚さ、1mm~5mmの幅及び1cm~20cmの長さを有することができる。小塊は、1mm~5cmの範囲の直径を有することができるが、不規則な形状を有する。電極片は、0.5~7mmの厚さ、及び10~40mmの平均直径を有することができる。
【0028】
丸形は2~3cmの直径及び約0.8~1.5cmの高さを有し;ブリケットは、2~5cmの長さ、1~4cmの幅、1~3cmの高さ、長さが高さより大きい寸法を有する。本発明の目的のために、ペレットは1~2cmの直径を有する。
【0029】
アルミニウム、及びニッケル以外の遷移金属は、粉末、シート、削りくず、又は小塊の形態であってもよく、その寸法はニッケルについて上記で定義したとおりである。
【0030】
ニッケルと、アルミニウム又は場合により遷移金属とのモル比は、好ましくは所望の生成物の化学量論に対応する。他の実施態様において、ニッケルよりも貴な金属がモル過剰で採用される。
【0031】
工程(a)の一実施態様において、水と、ニッケル及びニッケル以外のTMの金属との質量比は、20:1~0.1:1、好ましくは10:1~0.5:1の範囲である。
【0032】
工程(a)では、硝酸塩及び過酸化物から選択される酸化剤が存在する。好ましい硝酸塩は、アルカリ金属硝酸塩、例えば硝酸ナトリウム、硝酸カリウム及びそれらの組み合わせである。有機の水溶性過酸化物も使用可能であるが、好ましい水酸化物はHである。
【0033】
水溶性過酸化物が使用される実施態様では、TMに対して化学量論的量が適用される。
【0034】
工程(a)は、ガスクロマトグラフィー又は熱伝導度検出器(TCD)により決定した、100ppm未満、好ましくは20ppm未満、より好ましくは1~10ppmのOを有する雰囲気下で行われる。単位ppmは、体積の百万分の一を意味する。好適な雰囲気は、例えば、窒素、又はアルゴンのような希ガスである。雰囲気は、窒素及び希ガスから選択される不活性ガスの流れを水性反応媒体に通してバブリングすることによって確立することができる。前記流れは一定であっても時間的に変動してもよく、前記不活性ガスは、HO及びNHのうちの少なくとも1つを含有してもよい。こ文脈における「不活性」とは、TMの酸化に対して不活性であることを意味する。
【0035】
本発明の一実施態様において、工程(a)中の温度は、5~95℃、好ましくは30~70℃の範囲である。
【0036】
本発明の一実施態様において、工程(a)は、本質的に一定の温度で行われ、すなわち、温度は5℃以下、好ましくは3℃以下変化する。
【0037】
本発明の一実施態様において、工程(a)は、0.5バール(abs.)~10バール(abs.)の範囲の圧力で、好ましくは単純化の理由から常圧で、又は常圧よりわずかに高い圧力、例えば常圧より1~20ミリバール高い圧力で行われる。
【0038】
本発明の一実施態様において、工程(a)は、アンモニア、ホウ酸塩、ポリホウ酸塩、グリシン、酒石酸塩、クエン酸塩、及びシュウ酸塩から選択される錯化剤の存在下で行われる。本発明の特定の実施態様において、工程(a)は、アンモニア、及びホウ酸塩、ポリホウ酸塩、グリシン、酒石酸塩、クエン酸塩及びシュウ酸塩から選択される錯化剤の存在下で行われる。そのような実施態様において、アンモニア以外のそのような錯化剤は、ニッケル1モルあたり0.1~10モルの範囲で存在する。
【0039】
好ましくは、アンモニアの存在下で本発明の方法を行う。アンモニアは錯化剤として、またpH調整のために使用することができる。さらに、硝酸塩を酸化剤として使用する場合、工程(a)の間にアンモニアが生成する。
【0040】
工程(a)では、pH値は、7.5~12、好ましくは7.5~9の範囲である。
【0041】
本発明の一実施態様において、少なくとも1種のマンガン又はアルミニウムの化合物が工程(a)で添加される。マンガンの化合物の例としては、MnSO又はMnCl、又は好ましくは酢酸マンガン(II)、又はさらにより好ましくはMn(NOが挙げられ、水和物の水は無視される。アルミニウムの化合物の例としては、Al(SO、KAl(SO、Al(NO、及びNaAl(OH)が挙げられる。
【0042】
工程(a)を行うことにより、固体粒子を含有する水性反応媒体が得られる。したがって、前記水性反応媒体はスラリーの形態である。固体粒子は、TMの水酸化物を含む。前記TMの水酸化物は、未反応の金属ニッケル、及びTMの他の成分を含んでもよい。しかしながら、特に、前記水性反応媒体は、沈殿した二酸化マンガン粒子を含まない。
【0043】
工程(a)を行うことにより、酸化と沈殿が同時に行われる。
【0044】
本発明の一実施態様において、TMの(オキシ)水酸化物の粒子は、シード粒子として工程(a)に導入される。シード粒子の組成は、目的とする前駆体の組成と異なっていても、同じであってもよく、同じであることが好ましい。
【0045】
本発明の一実施態様において、目的とする前駆体の組成に関係なく、Co(OH)又はNi(OH)がシード粒子として使用される。
【0046】
本発明の一実施態様において、シード粒子の平均粒径(d50)は、3~15μmの範囲であるが、いずれにしても前駆体の目標粒径よりも低く、好ましくは5~12μm、より好ましくは8~10μmである。シードの平均粒径は、例えば光散乱によって決定することができる。
【0047】
本発明の一実施態様において、シード粒子と酸化状態がゼロの金属との質量比は、3:2~1:10、好ましくは4:3~1:2の範囲である。
【0048】
特に、シード粒子の割合が比較的高い実施態様では、得られた前駆体の一部を粉砕し、粉砕した部分を新たなバッチのシード粒子として使用するか、又は前駆体のより小さい粒子の部分をふるい分けによって取り出し、それらのより小さい粒子をシード粒子として使用することが好ましい。
【0049】
本発明の一実施態様において、シード粒子は、例えば、強い攪拌によって懸濁液に余分な剪断力を導入することにより、その場で生成される。このような強い攪拌によって、既存の粒子が断片に分割され、同様に摩耗によって追加のシード粒子が生成されてもよい。
【0050】
本発明の一実施態様において、未反応の金属粒子は、濾過又は沈降又は磁気分離によって工程(a)の水性スラリーから取り出され、反応容器に戻される。磁気分離は、コバルト及びニッケルのような強磁性金属に有効である。
【0051】
本発明の一実施態様において、工程(a)でも工程(b)でもアルカリ金属水酸化物の添加は必要ない。
【0052】
工程(b)は、固液分離法によって工程(a)からの粒子を液体から取り出し、このようにして得られた粒子を乾燥することを含む。特に、工程(b)は、工程(b)で形成されたスラリーを取り出し、当該スラリーを固液分離、例えばデカンテーション又は遠心分離又は濾過に供することを含み、濾過が好ましい。固液分離の好ましい実施態様は、フィルタープレス及びベルトフィルターである。
【0053】
工程(b)の好ましい実施態様において、固相として濾過ケーキが形成される。液相として、濾液が得られる。
【0054】
本発明の一実施態様において、濾過ケーキに対して、精製工程、例えば、水又はアンモニア水溶液、アルカリ金属水溶液又はアルカリ炭酸塩水溶液ですすぐことを行ってもよい。未反応のニッケル又はコバルト、又は鉄のような他の強磁性不純物を除去するために、乾燥の前又は後に、磁気分離工程も行うことができる。
【0055】
好ましい実施態様において、前駆体は、例えば、空気下80~140℃の範囲の温度で乾燥される。他の好ましい実施態様において、前駆体は、例えば空気下80~140℃の範囲の温度で、次いで空気下150~600℃の範囲の温度で乾燥される。
【0056】
工程(b)の過程中で、TMの水酸化物は、1つ以上のサブ工程、例えば異なる温度での少なくとも2つのサブ工程、例えばサブ工程1では80~150℃、サブ工程2では165~600℃で乾燥されてもよい。好ましくは、TMの(オキシ)水酸化物の残留水分含有量は、5質量%以下、例えば0.01~0.2質量%である。本発明の文脈において、水分含有量は、TMの(オキシ)水酸化物100gあたりのgのHOとして計算される。この場合、HOは、ヒドロキシル基として化学的に結合されてもよいし、物理吸着によって結合されてもよい。TMの(オシキ)水酸化物又は酸化物中の残留水分含有量は低く、例えば0.1~5質量%であることが好ましい。本発明の文脈において、ヒドロキシル基として化学的に結合した残留水分が、強熱減量(「LOI」)、すなわち例えば500℃まで加熱する時の質量損失を測定することによって決定して200質量ppm未満である場合、前駆体は酸化物と呼ばれる。乾燥が600℃の温度でかなりの時間、例えば4~12時間行われる実施態様では、TMの酸化物が得られる。
【0057】
本発明の一実施態様において、サブ工程1は、好ましくは、スプレードライヤー、流動床ドライヤー、スピンフラッシュドライヤー、又は接触ドライヤー、例えばパドルドライヤー又はパンドライヤーで行われる。サブ工程2は、ロータリーキルン、ローラーヒースキルン、又はボックスキルンで行うことができる。
【0058】
前記乾燥は空気の存在下で行われ、これにより部分的な酸化が起こる可能性がある。特にマンガンは、存在する場合、部分的に(+III)又は(+IV)の酸化段階まで酸化される。
【0059】
本発明の一実施態様において、乾燥の持続時間は30分~24時間の範囲である。
【0060】
工程(c)は、工程(b)で得られた液相の全部又は一部を工程(a)からの反応容器に戻すことを含む。本発明の一実施態様において、80~99体積%の液体を前記反応容器に戻す。
【0061】
本発明の方法を実施することにより、優れた形態の前駆体を得ることができ、NaSOの溶液のような副生成物の生成は極めて少ない。リチウム源、例えばLiOH又はLiCOと組み合わせ、例えばロータリーキルン又はローラーハースキルンで600~1,000℃で熱処理する場合、良好な特性及び形態を有するカソード活物質が得られる。
【0062】
本発明の別の態様は、以下で本発明の前駆体とも呼ばれる粒子状(オキシ)水酸化物又は酸化物に関する。本発明の前駆体は、TMの粒子状(オキシ)水酸化物又は酸化物であり、ここで、TMが、ニッケルと、コバルト、マンガン及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属とを含み、本発明の前駆体がさらに、酸化状態がゼロのTMの少なくとも1種の金属を、例えばTMに対して0.1~10モル%含む。
【0063】
本発明の一実施態様において、本発明の前駆体のXRDスペクトルでは、角度2θ=20.11±0.5°での反射の強度を、MoKα1 X線回折からの角度2θ=8.86±0.5°及び2θ=15.08±0.5°でのピークの強度で除した値が、0.01~0.25の範囲である。
【0064】
本発明の一実施態様において、本発明の前駆体は、TMの水酸化物及びオキシ水酸化物及び酸化物から選択され、ここで、TMが一般式(I)による金属の組み合わせである、
(NiaCobMnc)1-dMd (I)
(式中、aは、0.6~0.95、好ましくは0.80~0.94の範囲であり、
bは、0~0.2、好ましくは0.01~0.12の範囲であり、
cは、0~0.2、好ましくは0.02~0.10の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Mg、Al、Ti、Zr、Mo、W、Al、Mg、Nb、Ta、及び前述の少なくとも2種の組み合わせから選択され、好ましくは、MはMg及びAlから選択され、
a+b+c=1であり、c+d>0である)。
【0065】
例えば、式(I)における変数は以下のように定義することができる:
aは、0.6~0.95、好ましくは0.80~0.94の範囲であり、
bは、0.025~0.2、好ましくは0.01~0.12の範囲であり、
cは、0~0.2の範囲であり、
dは、0~0.1、好ましくは0.02~0.10の範囲であり、
Mは、Mg、Al、Ti、Zr、Mo、W、Al、Mg、Nb、及びTaから選択され、
a+b+c=1であり、b+c>0である。
【0066】
別の実施態様において、TMは、式(Ia)に対応する、
(NiaMnc)1-dMd (I a)
(式中、aは、0.6~0.95、好ましくは0.80~0.94の範囲であり、
cは、0超~0.2の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Mg、Al、Ti、Zr、Mo、W、Al、Mg、Nb、及びTaから選択され、
a+c=1であり、c>0である)。
【0067】
本発明の前駆体は、不純物として、微量のさらなる金属イオン、例えば微量のナトリウム、カルシウム、鉄又は亜鉛などの遍在金属を含有してもよいが、このような微量は本発明の明細書において考慮されない。この文脈における微量とは、TMの全金属含有量に対して0.05モル%以下の量を意味する。
【0068】
TMの粒子状(オキシ)水酸化物は粒子形態である。本発明の一実施態様において、本発明の前駆体の平均粒径(D50)は、2~20μm、好ましくは3~16μm、より好ましくは7~14μmの範囲である。本発明の文脈における平均粒径(D50)は、例えば光散乱によって決定することができ、体積ベースの粒子直径の中央値を指す。一実施態様において、本発明の前駆体は、単峰性の粒径分布を有する。他の実施態様において、本発明の前駆体の粒径分布は、例えば、0.5~5μmの範囲に1つの最大値、及び7~16μmの範囲にさらなる最大値を有する二峰性であってもよい。単峰性が好ましい。
【0069】
本発明の他の実施態様において、本発明の前駆体の平均粒径(D50)は、1~7μm、好ましくは2~6μm、より好ましくは3~5μmの範囲である。
【0070】
本発明の前駆体の二次粒子の粒子形状は、好ましくは球状、すなわち球形を有する粒子である。球状とは、正確に球状のものだけでなく、0.7~1の範囲の形状係数、及び1.00~1.25の範囲のバウンディングボックスの軸比を有する粒子も含む。特定の粒子のバウンディングボックスの軸比を決定するために、可能な限り小さな矩形のバウンディングボックスを粒子のトップビューSEM画像の周りに設定する。軸比は、2つの辺の長さaとa(a≧a)から、バウンディングボックスの軸比=a/aによって計算される。
【0071】
完全な球体であれば、バウンディングボックスの軸比は1.0となるが、完全な球体からの逸脱はすべて軸比>1.0となる。
【0072】
サンプルの形状係数及び軸比を決定するために、両特性は、まず各サンプルの少なくとも50個の個々の粒子について決定され、次に平均化される。個々の粒子の形状係数は、トップビューのSEM画像から決定される周囲長及び面積から算出する:形状係数=(4π・面積)/(周囲長)。完全な球体であれば、形状係数は1.0であるが、完全な球体から逸脱すると形状係数は1.0より小さくなる。
【0073】
本発明の一実施態様において、本発明の前駆体は、一次粒子の複合体である二次粒子から構成されている。好ましくは、前記前駆体は、一次粒子の凝集体である球状の二次粒子から構成されている。さらにより好ましくは、本発明の前駆体は、板状、棒状又は針状の一次粒子又はプレートレットの凝集体である球状の二次粒子から構成されている。
【0074】
本発明の前駆体は、特定の量、例えばTMに対して0.1~10モル%の酸化状態ゼロの金属、例えばニッケルを含み、前記金属はTMの構成成分である。前記酸化状態ゼロの金属、特にニッケルは、粒子状(オキシ)水酸化物自体の最大サイズの小粒子の形態で組み込まれる。
【0075】
本発明の一実施態様において、本発明の前駆体は、0.5~0.9の範囲の粒径分布スパンを有してもよく、このスパンは、[(D90)-(D10)]を(D50)で除したものとして定義され、全てLASER分析によって決定される。本発明の別の実施態様において、前記前駆体は、1.1~1.8の範囲の粒径分布スパンを有することができる。
【0076】
本発明の一実施態様において、本発明の前駆体の比表面積(BET)は、2~10m/g又は15~100m/gの範囲であり、例えばDIN-ISO 9277:2003-05に従って窒素吸着によって決定される。
【0077】
有利には、本発明の前駆体は、本発明の方法によって得られる。
【0078】
本発明の前駆体はカソード活物質の製造に有利な出発材料である。例えば、本発明の前駆体をリチウム化合物、例えばLiCO、LiOH又はLiOと混合し、高温、例えば600~1100℃で焼成する。
【0079】
実施例によって、本発明をさらに説明する。
【実施例
【0080】
一般:RP:毎分回転数
I.前駆体の製造
実施例1:ニッケル/コバルト水酸化物のコア-シェル構造を有する前駆体の製造
工程(a.1):温度調節器を有する加熱マントル、3枚羽根のインペラ及びバッフルを備えた1.6Lの反応容器を、アルゴンでパージした後、600mLの脱イオン水を入れた。硝酸アンモニウム(48g)及び硝酸ナトリウム(25.5g)を容器に移した。75gのNi(OH)シード(Sigma Aldrich社から購入でき、平均粒径(D50)は10.6μm)を混合物に添加した。得られた懸濁液を約600rpmの攪拌速度で攪拌した。攪拌によってシード粒子の一部が破壊されることが観察された。懸濁液を3nl/hのAr流で連続的にパージした。反応混合物を60℃に加熱した。67.0gの25質量%の水性アンモニアを添加して、pHを9に調整した。平均粒径(D50)が9.19μmのコバルト粉末67.5gを一度に添加した。反応中、65%の硝酸の添加によりpHを継続的に9に維持した。2.5時間後、コバルト粉末は溶解し、反応は完了した。
【0081】
工程(b.1):得られたニッケル及びコバルトの水酸化物P-CAM.1を濾過により取り出した。これは9.2μmの平均粒径(D50)を有していた。これはカソード活物質の前駆体として最適である。
【0082】
工程(c.1):工程(b.1)の濾液を工程(a.1)の繰り返しに再使用した。
【0083】
実施例2:ニッケル水酸化物の製造
工程(a.2):温度調節器を有する加熱マントル、3枚羽根のインペラ及びバッフルを備えた1.6Lの反応容器を、アルゴンでパージした後、600mLの脱イオン水を入れた。硝酸アンモニウム(48g)及び硝酸ナトリウム(25.5g)を容器に移した。75gのNi(OH)シード(Sigma Aldrich社から購入でき、平均粒径は10.6μm)を混合物に添加した。懸濁液を約600rpmの攪拌速度で攪拌した。攪拌によってシード粒子の一部が破壊されることが観察された。懸濁液を3nl/hのN流で連続的にパージした。反応混合物を60℃に加熱した。66.0gの25質量%の水性アンモニアを添加して、pHを9に調整した。67gのニッケル粉末(11.1μm)を一度に添加した。反応中、65%の硝酸の添加によりpHを継続的に9に維持した。21時間後、ニッケル粉末は溶解し、反応は完了した。
【0084】
工程(b.2):得られたニッケルの水酸化物P-CAM.2を濾過により取り出した。これは1.86μmの平均粒径(D50)を有していた。これはカソード活物質の前駆体として最適である。
【0085】
工程(c.2):工程(b.2)の濾液を工程(a.2)の繰り返しに再使用した。
【0086】
実施例3:ニッケル/コバルト混合水酸化物の製造
工程(a.3):温度調節器を有する加熱マントル、3枚羽根のインペラ及びバッフルを備えた1.6Lの反応容器を、アルゴンでパージした後、600mLの脱イオン水を入れた。硝酸アンモニウム(48g)及び硝酸ナトリウム(25.5g)を容器に移した。75gのNi(OH)シード(Sigma Aldrich社から購入でき、平均粒径(D50)は10.6μm)を混合物に添加した。懸濁液を約600rpmの攪拌速度で攪拌した。攪拌によってシード粒子の一部が破壊された。懸濁液を3nl/hのAr流で連続的にパージした。反応混合物を60℃に加熱した。70.0gの25質量%の水性アンモニアを添加して、pHを8.5に調整した。その後、60.75gのニッケル粉末及び6.75gのコバルト粉末を一度に添加した。反応中、65%の硝酸の添加によりpHを継続的に8.5に維持した。84時間後、ニッケル及びコバルトの粉末は大幅に溶解し、反応は完了した。
【0087】
工程(b.3):得られたニッケル及びコバルトの水酸化物P-CAM.3を濾過により取り出した。これはカソード活物質の前駆体として最適である。
【0088】
工程(c.3):工程(b.3)の濾液を工程(a.3)の繰り返しに再使用した。
【0089】
比較用前駆体の製造:
硫酸ニッケル水溶液(1.65mol/kg溶液)と25質量%のNaOH水溶液を組み合わせ、錯化剤としてアンモニアを用いることにより、球状のNi(OH)前駆体を得た。pH値を12.6に設定した。新たに沈殿したNi(OH)を水で洗浄し、ふるいにかけ、120℃で12時間乾燥させた。得られたNi(OH)(「C-P-CAM.4」)の平均粒径D50は10μmであった。
【0090】
II.カソード活物質の製造
一般的なプロトコル:
50gの量のそれぞれの前駆体、例えばP-CAM.1を、1.01:1のモル比Li/TMでLiOH-HOと混合した。得られた混合物をアルミナるつぼに流し込み、酸素雰囲気下(10回交換/時間)加熱速度3℃分-1で、600℃まで1時間、次いで700℃まで6時間加熱した。前記熱処理は、実験室炉(Linn High Therm)で行った。カソード活物質が得られ、P-CAM.1の場合はCAM.1が得られた。CAM.1を120℃まで自然冷却させ、さらなる処理のために乾燥室に移した。
【0091】
III.カソード活物質の試験
III.1 カソードの製造、一般的なプロトコル:
電極の製造:電極は、94%のそれぞれのCAM又はC-CAM.1、3%のカーボンブラック(Super C65)、3%のバインダー(ポリビニリデンフルオリド、Solef 5130)を含有した。61%の全固形分を有するスラリーをN-メチル-2-ピロリドンと混合し(遊星遠心ミキサー、24分、2,000rpm)、ボックス型コーターでアルミホイルテープにキャストした。電極テープを真空中120℃で16時間乾燥し、カレンダー処理した後、直径14mmの円形電極を打ち抜き、質量を測定し、真空下120℃で12時間乾燥した後、Arを充填したグローブボックスに入れた。平均担持量:8mg/cm、電極密度:3g/cm
【0092】
III.2 コインセルの製造
アルゴン充填グローブボックス内でコイン型電気化学セルを組み立てた。アノード:0.58mm厚のLiホイルを、ガラス繊維セパレーター(Whatman GF/D)でカソードから分離した。質量比1:1のエチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC)中の1MのLiPF(95μl)を電解質として使用した。組み立て後、自動圧着機でセルを圧着して閉じた。その後、セルを人工気候室に移し、バッテリーサイクラー(Series4000、MACCOR)に接続した。
【0093】
III.3 コインセルの試験
試験はすべて25℃で行った。特定の放電工程で初期放電容量の70%に達するまで、以下のCレートを適用することにより、室温で3.1~4.3Vの間で、Maccor 4000バッテリーサイクラーを用いて、セルを定電流的にサイクルした。
【0094】
試験プロトコルは、C/20での2サイクルから始まる、初期形成及びレート試験部分から構成した。すべてのサイクルにおいて、電圧ウインドウを2.7~4.3Vに設定し、充電と放電の統合後の休止時間は5分間とした。最初の1Cレートとして、200mA g-1を想定した。その後のすべてのサイクルにおいて、充電は、C/10及び4.3Vで30分間、又は電流がC/50を下回るまでCCCVに設定した。セルをC/10で3Vまで放電した。充電と放電をC/3で1サイクル行った後、放電速度を段階的に上げ(C/10、1C、2C)、カットオフ電圧を2.7Vまで下げた。この初期期間の後、セルをC/3で50サイクル充放電させた。
【0095】
【表1】
【0096】
残留のLiCOは、水で抽出し、その後0.2MのHClで4.5のpHまで滴定することにより決定した。
【0097】
本発明の前駆体から作られたカソード活物質は、良好な電気化学的性能を示し、残留の炭酸リチウムの含有量が著しく低いことが観察された。
【国際調査報告】