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▶ メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】電気化学プローブ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/30 20060101AFI20240918BHJP
   G01N 27/414 20060101ALI20240918BHJP
   G01N 27/38 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
G01N27/30 311Z
G01N27/414 301X
G01N27/38 301
G01N27/414 301B
G01N27/414 301A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516962
(86)(22)【出願日】2022-09-15
(85)【翻訳文提出日】2024-05-14
(86)【国際出願番号】 EP2022075629
(87)【国際公開番号】W WO2023041635
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】21197369.8
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レプル-ウィーンヒューズ,アルブレヒト
(57)【要約】
新規のタイプの電気化学プローブは、参照電極アレイを含み、各参照電極は導電性要素を含む。このセットアップは、内部較正を可能にし、乾燥状態での長期保管にも適応する。電極アレイの各導電性要素は、同時にシフト/ドリフトを開始するのではなく、むしろ各導電性要素は逸脱した動作を示す。参照電極アレイの各導電性要素について得られた各電圧の比較的単純な統計分析により、そのような逸脱した導電性要素を識別し、次に、例えば、そのような逸脱した導電性要素によって提供された測定値を無視したり、電圧を印加して再度塩素処理したり、洗浄目的でそのような要素の表面を電気化学的に洗浄したりして、そのような逸脱した導電性要素を再生するなどの修正措置を講じることができ、これは、それぞれのプローブまたは参照電極を所定の位置に残したまま、つまり、例えば電解質を含む接点要素を取り外すことなく行うこともできる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電位差測定用プローブであって、
(i)互いに電気的に分離され、導電性表面を露出させた、少なくとも2の導電性要素(3)を含む電極アレイ(1);
(ii)吸収性材料と電解質とを含み、前記導電性要素(3)の導電性表面を液体に接続する、接点要素(4);
(iii)電極アレイ(1)に含まれる導電性要素間の電圧を測定できる測定デバイス(7);および
(iv)電極アレイ(1)と測定デバイス(7)とを接続する接続手段
を含む、前記プローブ。
【請求項2】
電極アレイ(1)が、少なくとも3、最大で12の導電性要素(3)を含む、請求項1に記載のプローブ。
【請求項3】
導電性要素(3)が、銀、金、白金、水銀、炭素、およびそれらの混合物からなる群から選択される導電性材料を含み、好ましくは導電性材料は、銀である、請求項1または2に記載のプローブ。
【請求項4】
導電性要素(3)が、ペレット形状である、請求項1~3のいずれか一項に記載のプローブ。
【請求項5】
吸収性材料が、多孔質材料、好ましくは濾紙または多孔質ポリマーのいずれかである、請求項1~4のいずれか一項に記載のプローブ。
【請求項6】
電解質が、アルカリ金属塩化物、好ましくは塩化カリウムである、請求項1~5のいずれか一項に記載のプローブ。
【請求項7】
測定デバイス(7)が、導電性要素(3)に接続され、導電性要素間の電圧を測定する電子回路である、請求項1~6のいずれか一項に記載のプローブ。
【請求項8】
電子回路が、任意の1以上の個別の導電性要素(3)を選択的にアドレス指定することができ、および/または任意の1以上の個別の導電性要素(3)に選択的に電流を印加することができる、請求項7に記載のプローブ。
【請求項9】
プローブがさらに、(i)電子回路を制御し、(ii)導電性要素を単独または任意の組み合わせで接続および/またはアドレス指定することができ、(iii)電極アレイ(3)内の不安定な導電性要素を識別して対処することができる、コントローラユニットを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のプローブ。
【請求項10】
コントローラが、電極アレイ(1)内の不安定な導電性要素(3)を、好ましくは脱塩素化および/または塩素化を使用して、電気化学的洗浄およびコーティングのために、選択された極性を有する電流を少なくとも1のそのような逸脱した導電性要素(3)に選択的に印加することによって対処する、請求項9に記載のプローブ。
【請求項11】
電極アレイ(1)を電解質の水溶液に浸漬する、請求項1~10のいずれか一項に記載のプローブ。
【請求項12】
さらに電気化学センサーを備え、電気化学センサーは、好ましくはイオン感応電界効果トランジスタ(ISFET)である、請求項1~11のいずれか一項に記載のプローブ。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のプローブを含む、容器または導管。
【請求項14】
前記システムが、水浄化システム、水溶液調製システムからなる群から選択される、請求項13に記載の導管を含むシステム。
【請求項15】
溶液中のイオン濃度を決定する方法であって、以下のステップ
(a)互いに電気的に分離され、導電性表面を露出させた少なくとも2の導電性要素と、吸収性材料および電解質を含む接点要素と、電極アレイに含まれる導電性要素間の電圧を測定できる測定デバイスと、電極アレイと測定デバイスとを接続する接続手段とを含む、電極アレイを用意するステップ;
(b)(b’)電極アレイおよび接点要素を液体、好ましくは水性媒体に沈め、それを測定デバイスに接続するステップ、または
(b’’)測定デバイスに接続された電極アレイを液体、好ましくは水性媒体に沈めるステップ、
(c)測定デバイスを用いて、電極アレイに含まれる各導電性要素の電圧値を取得するステップ;および
(d)ステップ(c)で取得された電圧値の統計分析を実行して、逸脱した導電性要素を識別し、平均基準電圧を計算するステップを順に含み、
ステップ(a)、(b)、(c)、および(d)は、順に実行される、前記方法。
【請求項16】
前記方法が、さらに以下
(e)請求項12に記載の電気化学センサーを水性イオン溶液中に用意するステップ;
(f)続いて、電気化学センサーから電圧測定を行うステップ;および
(g)計算デバイスを使用して、ステップ(d)で取得された平均基準電圧とステップ(f)との電圧測定に基づいてイオン濃度を決定するステップを含み、
ステップ(a)~(f)は、次の条件
(i)ステップ(a)~(d)は連続して実行される;
(ii)ステップ(f)および(g)は連続して実行される;
(iii)ステップ(g)は、ステップ(a)~(f)のいずれかの後に実行される
を満たす任意の順で実行できる、請求項15に記載の溶液中のイオン濃度を決定する方法。
【請求項17】
さらに以下のステップ
(h)コントローラを使用して、請求項15の(b)で取得された電圧の読み取り値を分析することにより、アレイおよびその個々の要素の安定性を決定する統計を実行するステップ;
(i)少なくとも1の不安定な導電性要素が識別された場合、好ましくは脱塩素化および/または塩素化を使用して、電気化学的洗浄およびコーティングのために、選択された極性を有する電流をそのような少なくとも1の逸脱した導電性要素に選択的に印加するステップ
を含む、請求項15または請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部校正が可能であり、乾燥状態での長期保管にも適応可能な新しいタイプの電気化学プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
pH、他のイオンの濃度、溶質の濃度などの液体の特性の測定は、科学、医療、産業、商業、家庭のさまざまなプロセスや状況で重要である。
【0003】
このような測定用のセンサーは、多くの場合、参照電極(RE)と検知電極を組み込んだ電気化学原理に基づいて動作し、このような検知電極は、電気化学センサー、ボルタンメトリックセンサー、電位差測定センサー、および/または電流測定センサーを含む非限定的な群から選択される。
【0004】
歴史的に、pH測定などの電気化学センサーは、湿式保管、繰り返しの校正、電解質の頻繁な交換、塩素化などの徹底的なメンテナンスを必要とするため、あまりユーザフレンドリーではなかった。このように高いユーザビリティの負担があっても、たとえば基線変動(baseline drift)により短期間で校正がずれることをユーザは受け入れなければならず、頻繁な再校正が必要になる。
【0005】
イオン選択電界効果トランジスタ(ISFET)は、その使いやすさから、従来使用されてきたセンサーの興味深い代替品となっている。しかしながら、測定するパラメータは一般に2の電極、つまり測定電極(たとえばISFET)と参照電極間の電位差に基づいて決定されるため、参照電極との組み合わせが必要である。
【0006】
電気化学の観点から見ると、熱力学的に定義された、古典的な、または従来の参照電極は、可逆的な電極反応と分析対象との安定した電解接触を特徴とする特殊な電極(「ハーフセル」とも呼ばれる)である。このような可逆的な反応により、明確で安定した電極電位が生じる。
【0007】
このような電位差電気化学測定に使用される従来の参照電極は、通常、内部参照充填溶液が電極と接触し、電極が多孔質接点または膜を介して試験溶液と接触し、多孔質接点または膜により、内部参照充填溶液がゆっくりと漏れ、試験対象の液体との必要な電解接触が提供される。
【0008】
検知電極として機能する金属電極または電気化学電極が試験溶液と接触して回路が完成し、検知電極が試験溶液の化学変化に反応する間、参照電極の電位は比較的一定に保たれる。
【0009】
最もよく知られ、最も広く使用されている参照電極は、内部要素を含むもので、通常は銀/塩化銀(I)(Ag/AgCl)または水銀/塩化水銀(I)(Hg/Hg2Cl2)で、後者はしばしばカロメル電極とも呼ばれる。これらのうち、銀/塩化銀(I)参照電極は、環境適合性があるため、一般的に好まれ、広く使用されている。水銀/塩化水銀(I)またはカロメル電極は、電位安定性に関して利点があるが、水銀は深刻な環境災害を引き起こすため、その使用は一般的に制限されている。
【0010】
これらの参照電極は、動作するために必要なコンポーネントとして、一般的に水性電解質の形で「湿式化学」で構成されている。このような水性電解質の好ましい例としては、カリウム陽イオンと塩化物イオンのイオン移動度が同等であるため、液体接点電位をほぼ回避できる塩化カリウムの飽和水溶液が挙げられる。代替品の開発努力にもかかわらず、従来の棒状または円筒状のREが商業的に依然として主流である。
【0011】
厚膜技術、インクジェット印刷、薄膜技術、スプレー、ヒートシール、導電性ポリマー、半透膜、微細加工などに基づく固体参照電極を使用する代替アプローチが、例えば、M. Sophocleous et al., Sensors and Actuators A 267 (2017) 106-120 や I. Shitanda et al., Analyst, 2015, 140, 6481-6484 に開示されているように、数多く報告されており、これらは、従来の水銀/塩化水銀(I)または銀/塩化銀(I)参照電極と同じレベルの信頼性をまだ達成していない。
【0012】
さらに、このような固体REは、一般的に電解質領域と接点から水とイオンが漏れ、電極電位がシフトする問題を抱えている。具体的には、このようなREが小さく設計されるほど、電解質領域からの漏れと希釈がより顕著になる。
【0013】
もう1つの大きな課題は、参照電極の乾燥保管である。現在知られている固体参照電極を含む既知の参照電極技術には電解質セクションが必要なため、従来の水銀/塩化水銀(I)または銀/塩化銀(I)参照電極は常に塩化カリウムの飽和水溶液などの飽和水性電解質溶液に保管する必要がある一方で、固体参照電極の場合、乾燥保管中の水分の蒸発は避けられず、密閉されたコンパートメント設計によって水分の蒸発を減らすことはできるが、完全に除外することはできないため、耐久性と汚染に関する課題が生じる。
【0014】
このような固体参照電極は、乾燥保管後、長時間の再水和を必要とし、従来の参照電極よりも安定性が低いことが一般的にわかっている。
したがって、特に産業および研究においては、上記の欠点のない参照電極を提供することが一般的に求められている。
【0015】
したがって、本出願の目的は、改良された参照電極を提供することである。
本出願の目的は、メンテナンスの容易さ、乾燥保管能力の向上、使用の容易さ、および電位の安定性からなる群から選択される特性のうちの1以上を特徴とする参照電極を提供することでもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明者らは、驚くべきことに、上記の目的は、本発明の、好ましくは電気化学的または電位差測定プローブおよびイオン濃度を決定するそれぞれの方法、ならびにそのようなプローブを含む容器、さらにはそのような容器を含むシステムによって、個別にまたは任意の組み合わせで達成できることを発見した。
【0017】
したがって、本出願は、
互いに電気的に絶縁され、各導電性要素は導電性表面を露出させた、少なくとも2の導電性要素を含む電極アレイ;
吸収性材料と電解質とを含み、前記導電性要素の導電性表面を液体に接続する、接点要素;
電極アレイに含まれる導電性要素間の電圧を測定できるデバイス(測定デバイス);および
電極アレイとデバイスとを電気的に接続する手段
を含む、電位差測定用プローブを提供する。
【0018】
本明細書で定義されるさらなる好ましいプローブは、限定されない方法で、以下の特徴の1以上を含み得る:
-電極アレイは、少なくとも3、例えば4、5、6、7、8、9、10、11、または12の導電性要素を含む。
-電極アレイは、最大で12の導電性要素を含む。
-導電性要素が、銀、金、白金、水銀、炭素、およびこれらの任意の混合物からなる群から選択される導電性材料を含み、好ましくは導電性材料は、銀である。
-導電性要素は、ペレット形状である。
-吸収性材料は、多孔質材料、(好ましくは濾紙)または多孔質ポリマーのいずれかである。
-電解質は、アルカリ金属塩化物、好ましくは塩化カリウムである。
-電圧を測定できるデバイスは、導電性要素に接続され、導電性要素間の電圧を測定する電子回路である。
-電子回路は、任意の1以上の個別の導電性要素を選択的にアドレス指定することができ、および/または任意の1以上の個別の導電性要素に選択的に電流を印加することができる。
-プローブはさらに、以下の特徴(i)電子回路を制御すること、(ii)導電性要素を単独または任意の組み合わせで接続および/またはアドレス指定することができること、(iii)電極アレイ内の不安定な(逸脱する)導電性要素を識別および/または対処することができること、の1以上を含むコントローラユニットを含む。
-コントローラは、たとえば、そのような不安定な導電性要素から得られるそれぞれの電圧値を無視し、および/またはそのような少なくとも1の逸脱した導電性要素に、選択された極性を有する電流を選択的に印加して電気化学的洗浄およびコーティングを行い、好ましくは脱塩素化および/または塩素化を使用して安定性を回復することで、電極アレイ内の不安定な(逸脱した)導電性要素に対処する。
-電極アレイは電解質の水溶液に浸漬される。
-プローブは、さらに電気化学センサーを備え、電気化学センサーは、好ましくはイオン感応電界効果トランジスタ(ISFET)である。
【0019】
さらに、本出願は、このようなプローブを含む容器を提供する。
本出願は、このようなプローブまたはこのような容器を含むシステムも提供し、このようなシステムは、好ましくは水浄化システムまたは水溶液調製システムからなる群から選択されるが、例えば、食品および飲料の用途、例えばサンプルのpHの決定にも使用できる。
【0020】
さらに、本出願は、水性媒体中のイオン濃度を決定する方法を提供し、この方法は、以下のステップを順に含む:
a)前述のいずれかのバージョンの本発明のプローブを水中に沈め、本明細書で定義される測定デバイスに接続するステップ;
b)前記測定デバイスを使用して、電極アレイの各導電性要素の電圧を測定するステップ;
c)データ分析デバイスを使用して、不安定な導電性要素を決定して除外するステップ;および
d)データ分析デバイスを使用して、非逸脱の導電性要素について得られた電圧測定値から平均電圧を計算するステップ。
【0021】
溶液中のイオン濃度を決定する本発明の方法のさらなる好ましい発展は、以下の追加の方法ステップを含む:
(e)水性イオン溶液中に、本明細書で定義される電気化学センサーを提供するステップ;
(f)データ分析デバイスを使用して、平均電圧が計算された導電性要素を参照電極として組み合わせるステップ;および
(g)続いて、ステップ(f)からの参照電極を使用して電気化学センサーから電圧測定を行うステップ;
ここで、ステップ(a)~(f)は、次の条件を満たす限り、任意の順序で実行することができる
(i)ステップ(a)~(d)は、連続して実行される;
(ii)ステップ(f)および(g)は、連続して実行される;および
(iii)ステップ(g)は、ステップ(a)~(f)の後に実行される。
【0022】
このような方法は、好ましくは、さらに以下のステップを含むことができる。
(h)データ分析デバイスを使用して、上記ステップ(b)で得られた電圧の読み取り値を分析することにより、アレイおよびその個々の要素の電位の安定性を決定する統計的評価を実行するステップ、および
(i)少なくとも1の不安定な(「逸脱した」)導電性要素が識別された場合、好ましくは脱塩素化および/または塩素化を使用して、電気化学的洗浄およびコーティングのために、選択された極性を有する電流をそのような少なくとも1の逸脱した導電性要素に選択的に印加するステップ。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1a-b】図1aは、本明細書に記載の2の導電性要素を含む例示的な電極アレイの概略上面図を示している。図1bは、本明細書に記載の8の導電性要素を含む例示的な電極アレイの概略上面図を示している。
図2図2は、図1aの例示的な参照電極の断面の概略図を示している。
図3図3は、本明細書に記載の10の導電性要素を含む例示的な電極アレイの例示的な透視図を示している。
図4図4は、本明細書に記載の例示的なプローブの概略図を示している。
図5a図5aは、例1の作業週のシミュレーションにおける電極アレイのパフォーマンスを示している。
図5b図5bは、例1の作業週のシミュレーションにおける電極アレイのパフォーマンスを示している。
図6a図6aは、例2の電圧曲線を示している。
図6b図6bは、例2の電圧曲線を示している。
図7図7は、例3の結果を示しており、ここでは、本明細書に記載の電極アレイまたは従来の参照電極を参照として使用して、3の異なる水性媒体のpHを決定した。 図では、同じ参照符号が対応する要素/特徴を示している。
【発明の詳細な説明】
【0024】
本明細書で使用されている「実質的に」という用語は、比較した値の最小値に対して±10%、好ましくは±5%、最も好ましくは±1%の偏差または差を示すために使用される。
本明細書で使用されている「分離する」および「絶縁する」という用語、およびそれらのそれぞれの派生語は同義語として使用される。
本明細書で使用されている「分離する」、「絶縁する」、「接続する」という用語、およびそれらのそれぞれの派生語は、特に明記しない限り、「電気的に分離する/絶縁する/接続する」という意味で使用される。たとえば、「導電性要素」という用語は、「電気的導電性要素」を表すために使用される。
【0025】
一般的に言えば、本発明の好ましくは電気化学プローブまたは電位差プローブは、電極アレイ、接点要素、電圧を測定できるデバイス(「測定デバイス」)、および電極アレイと測定デバイスを電気的に接続する手段(「接続手段」)から構成される。
一般に、本発明のプローブは、水性媒体中のpH値を含むイオン濃度を決定するために使用することができる。
【0026】
本発明の電極アレイは、少なくとも2の導電性要素を含む。好ましくは、本発明の電極アレイは、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12の導電性要素を含む。電極アレイに含まれる導電性要素の最大数は特に制限されないが、それでも、本発明の電極アレイは最大12の導電性要素を含むことが好ましい。
【0027】
電極アレイに含まれる導電性要素は互いに電気的に分離されており、導電性表面が露出している。露出した導電性表面は、環境、一般には液体、例えば水性媒体、例えばここで使用される電解質の水溶液と接触する場合がある。
【0028】
導電性要素の形状は特に制限されない。例えば、円形、楕円形、長方形、正方形、五角形、六角形、八角形、ペレット形、円筒形、滴形、またはその他の適切な形状であってもよい。それでもなお、円形、すなわちペレット形または円筒形であることが好ましい。
【0029】
導電性要素のサイズは特に制限されない。好ましくは、その最長寸法は少なくとも0.1mmである。好ましくは、その最長寸法は最大1.0cm(例えば、最大9.0mmまたは8.0mmまたは7.0mmまたは6.0mmまたは5.0mm)であり、さらに好ましくは最大4.0mmまたは3.0mmまたは2.0mm、最も好ましくは最大1.0mmである。理論に縛られないが、サイズに関する柔軟性により、本発明の導電性要素、ひいては本発明の電極アレイは、多数の用途、特に電極アレイのサイズが小さいことが求められる用途(例えば、実験機器)に適していると考えられる。
【0030】
好ましくは、電極アレイに含まれる導電性要素は、実質的に同じ、好ましくは同じサイズを有し、例えば、実質的に同じ露出された導電性表面積を有する。
【0031】
したがって、本発明の導電性要素は、好ましくは電気的導電性材料を含み、最も好ましくは導電性材料からなる。好ましくは、このような電気的導電性材料は、炭素、金属、および金属合金からなる群から選択される。適切な金属は、例えば、銀、金、白金、および水銀からなる群から選択することができる。最も好ましくは、電気的導電性材料は銀である。
【0032】
好ましくは、本発明の導電性要素は、支持基材内または支持基材上に含まれる。このような支持基材は、好ましくは、電気的非導電性、すなわち絶縁性のポリマーからなる。
【0033】
このような電気的非導電性ポリマーの適切な例は、プロピレンポリマー、エチレンポリマー、エチレンとアルファオレフィン(このようなアルファオレフィンは、例えば、プロピレン、ブテン、ヘキセン、およびオクテンからなる群から選択される任意の1以上である)のコポリマーなどのポリオレフィン;シリコーン;例えばスチレンホモポリマー、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)などのスチレン含有ポリマー;例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ(ヘキサフルオロプロピレン)、およびポリフッ化ビニル(PVF)などのフッ素ポリマー;ポリ(アクリル酸)、ポリメタクリレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリベンズイミダゾール、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(乳酸)、ポリエチレンオキシド、ポリアニリン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(アクリルアミド)、ポリカプロラクトン、ポリ(エチレンコビニルアルコール)、ポリスルホン(PSU)、およびポリエーテルスルホン(PES)からなるリストから選択することができる。
【0034】
好ましくは、支持基材は、存在する場合、壁を備え、タブを形成してもよい。理論に縛られず、このようなタブ形状は、本発明の導電性要素を取り囲む環境、例えば水性媒体における対流を減らすのに役立つため、本発明のプローブの信頼性と精度をさらに向上させ、導電性要素の近傍における本発明の電解質の水溶液の濃度の変動を小さくすることができると考えられる。
【0035】
図1aおよび1bは、本明細書で定義される例示的な電極アレイ(1)の概略上面図を示す。前記電極アレイ(1)は、-本発明のプローブの機能に必須ではない-支持基材(2)、ならびに2(図1a)および8(図1b)の導電性要素(3)を含む。
【0036】
本明細書で定義されるプローブに含まれる本発明の接点要素は、吸収性材料と電解質とを含む。接点要素は、本明細書に記載の導電性要素の露出した導電性表面と、一般に水性媒体などの液体である環境との間の液体接続を確立する役割を果たす。接点要素は、電極アレイに含まれる導電性要素の近く、例えば、これらのほぼ真上に配置されることが好ましい。
【0037】
好ましくは、吸収性材料は多孔質材料である。多孔質材料の適切な例は、濾紙および多孔質ポリマーからなる群から選択することができる。好ましい吸収性材料は濾紙である。
【0038】
好ましくは、電解質は金属塩である。好ましい金属塩はハロゲン化物である。より好ましいのはアルカリ金属ハロゲン化物およびアルカリ土類金属ハロゲン化物である。このようなハロゲン化物の適切な例は、リチウムハロゲン化物、ナトリウムハロゲン化物、カリウムハロゲン化物、ルビジウムハロゲン化物、ベリリウムハロゲン化物、マグネシウムハロゲン化物、カルシウムハロゲン化物、およびストロンチウムハロゲン化物からなる群から選択することができる。好ましいハロゲン化物は塩化物である。最も好ましい電解質は塩化カリウムである。
【0039】
明確にするために、乾燥状態のとき、接点要素は金属塩として電解質を含むことに留意する。使用中または使用準備中のとき、接点要素は水に浸漬され、金属塩が少なくとも部分的に溶解し、その結果、接点要素の周囲に飽和金属塩水溶液が生じ、また、接点要素は電極アレイに含まれる導電要素に近接しており、これらの導電要素の周囲にも接点要素が配置されている。
【0040】
電極アレイに含まれる導電性要素間の電圧を測定できるデバイス(このデバイスは、本出願全体を通じて「測定デバイス」または「電圧計」とも呼ばれる)は、好ましくは電子回路であり、これは導電性要素に接続され、その電圧を測定する。好ましくは、前記測定デバイスは各導電性要素に個別に接続される。
【0041】
したがって、本発明のプローブは、電極アレイと測定デバイスとを接続する手段(「接続手段」)も備えている。好ましくは、これらの接続手段は、測定デバイスを電極アレイの各導電性要素に個別に接続する。好ましくは、このような接続手段は、ワイヤ、特に電気的導電性ワイヤである。
【0042】
図1aの例示的な参照電極の断面の概略図が図2に示されており、ここで、側壁(5)を備えた支持基材(2)、導電性要素(3)、および接点要素(4)を含む電極アレイ(1)は、ワイヤなどの接続手段(6)によって測定デバイス(7)に接続されている。
【0043】
本明細書で定義される例示的な電極アレイの概略透視図が図3に示されており、電極アレイは10の導電性要素を含むものとして示されている。
【0044】
電極アレイ、接点要素、測定デバイス、および電極アレイと測定デバイスを接続する手段を合わせると、参照電極を構成するとも考えられる。前記参照電極は、ここで定義されるプローブに含まれる場合がある。したがって、本発明のプローブは参照電極を含むと見なすことができ、参照電極は、電極アレイ、接点要素、電圧を測定できるデバイス、および電極アレイと電圧を測定できるデバイスを接続する手段を含む。
【0045】
したがって、本出願は、1以上の電気化学センサー用に本明細書で定義される参照電極を含むプローブ、ならびに好ましくは水溶液中のイオン濃度を決定するためにそのような参照電極およびプローブを使用する方法を開示する。好ましくは、好ましい例示的な実施形態では、本発明のプローブは、以下の特徴の1以上を含む:
-再利用可能な電極アレイは、少なくとも2の導電性要素を含み、導電性要素はペレットの形態であることが好ましく、および/または銀(Ag)で作られていることが好ましい;
-使い捨て接点要素は、吸収性材料、好ましくは濾紙、および電解質、好ましくは塩化カリウム(KCl)を含む。
-電子回路は、電極アレイに含まれる導電性要素に接続され、それらの間の電圧を測定し、電極アレイに含まれる1以上の個別の導電性要素を選択的にアドレス指定できるようにし、および/または1以上の個別の導電性要素に選択的に電流を印加し、好ましくは銀ペレットを塩化銀(I)(AgCI)で電気コーティングすることを可能にする。
-制御回路は、導電性要素の電圧安定性を監視し、測定で逸脱した導電性要素を識別して無視し、選択的に塩素化することで導電性要素の安定性を回復する。
【0046】
好ましくは、本明細書で定義されるプローブまたは参照電極は、測定デバイスによって取得された電圧の統計分析のための手段(「データ分析手段」)も備える。データ分析手段は、逸脱した導電性要素を識別し、非逸脱の導電性要素の平均基準電圧を計算することができ、そのように適合されている。このような統計分析は、以下に詳細に説明されるように実行される。
【0047】
好ましくは、本明細書で定義されるプローブまたは参照電極は、本明細書で定義される電極アレイに含まれる1以上の個別の導電性要素またはすべての導電性要素に選択的に電流を印加する手段(「参照電極電流コントローラ」または「RE電流コントローラ」)も備えている。このような電流の印加については、以下で詳しく説明する。
【0048】
好ましくは、本発明のプローブは、検知電極も備える。前記検知電極は、液体中のイオン濃度に比例する電流/電圧を提供する能力を有し、または提供するように適合されており、好ましくは、液体は溶解したイオンを含む水性媒体である。
【0049】
このような検知電極は、本出願では「電気化学センサー」とも呼ばれ、好ましくはイオン感応電界効果トランジスタ(「ISFET」)である。ISFETは、溶液、好ましくは水溶液中のイオン濃度を測定するために使用することができる。例えばHなどのイオン濃度が変化すると、トランジスタを流れる電流もそれに応じて変化する。
【0050】
イオン感応電界効果トランジスタの構造は、電界効果トランジスタ(FET)の構造と基本的に同じであるが、ゲートは、
(i)分析対象のイオンを含む溶液、および
(ii)ゲート絶縁体上に堆積され溶液と直接接触するイオン感応膜またはイオン選択膜によって形成される。
【0051】
ソース電極とドレイン電極間の導電性は、FETではゲートの電圧によって決定されるが、ISFETではゲート絶縁体の表面での化学プロセスによって制御される。ゲート絶縁体の材料の例は、SiO2、Si3N4、Al2O3、およびTa2O5からなる群から選択できる。
【0052】
このようなイオン感応電界効果トランジスタは、当業者にはよく知られており、さまざまな供給元から市販されている。市販のイオン感応電界効果トランジスタの例として、スイスのローザンヌにある Microsens SA から入手可能な MSFET-3330 pH センサーが挙げられる。
【0053】
好ましくは、本発明のプローブは、データ分析手段によって提供される平均基準電圧と検知電極によって提供される電圧に基づいてイオン濃度の値を計算することができるデバイスをさらに備え、そのような濃度値は、出力デバイスを介してさらなるコントローラ、レコーダ、ディスプレイ、または他の適切な手段に転送される。
【0054】
本明細書で定義されるプローブまたは参照電極は、液体、好ましくは水性媒体を保持または輸送する、または保持または輸送するように適合された任意の容積内に含まれ得る。そのような容積は、液体を保持または輸送することができれば、特定のタイプまたは形状に限定されない。
【0055】
このような容積は、容器、導管、フローセル、フロースルーセル、フローリアクター、フロースルーリアクター、および類似のものからなる群から選択される。適切な例は、容器、ボトル、箱、サイロ、ディスペンサー、中間バルクコンテナ(IBC)、タンク、ドラム、ボウル、カップ、コンテナ、チューブ、またはパイプからなる非限定的な群から選択することができる。
【0056】
このような容器または導管は、システム内に含まれていてもよい。システムのタイプは特に制限されない。本発明のプローブまたは参照電極は、イオン濃度の決定が必要とされるあらゆるシステムで使用することができる。このようなシステムの非限定的な例は、水浄化システムおよび水溶液調製システムからなる群から選択することができる。
【0057】
測定デバイス、データ分析デバイス、参照電極電流コントローラ、計算デバイス、および出力デバイスのアーキテクチャおよび/またはレイアウトおよび/または構成は特に限定されず、特定の目的および用途に最も適したものに適応させることができることに留意されたい。例えば、測定デバイス、データ分析デバイス、参照電極電流コントローラ、計算デバイス、および出力デバイスはすべて、単一のプローブコントローラに含まれていてもよく、または異なるデバイスに含まれていてもよい。
【0058】
例えば、測定デバイス、データ分析デバイス、および参照電極電流コントローラは、参照電極コントローラに含まれていてもよい。例えば、計算デバイスおよび出力デバイスは、センサコントローラに含まれていてもよい。これらのデバイスおよび/またはコントローラのそれぞれは、電子回路であってもよく、または、例えば、以下で説明する必要なタスクおよびプロセスステップを実行できるコンピュータであってもよい。
【0059】
本明細書で定義される例示的なプローブの概略図を図4に示す。電極アレイ(11)の導電性要素のそれぞれの電位、および結果としての電圧は、測定デバイス(13)によって取得される。次に、データ分析デバイス(14)は、逸脱している導電性要素および/または電極アレイ全体を識別し、電極アレイ(11)の非逸脱の導電性要素の平均基準電圧を計算し、次に、この平均基準電圧は、電流コントローラ(15)によって使用され、必要に応じて、逸脱している導電性要素の1以上についての再較正または回復が開始される。次に、データ分析デバイスによって提供される平均基準電圧と、検知電極(12)から取得される電位/電圧に基づいて、計算デバイス(16)がイオン濃度の値を決定し、その値を出力デバイス(17)に送信する。
【0060】
図4に示すように、測定デバイス(13)、データ分析デバイス(14)、および電流コントローラ(15)は、参照電極コントローラ(18)に含まれてもよい。同様に、計算デバイス(16)および出力デバイス(17)は、検知電極コントローラ(19)に含まれてもよい。参照電極コントローラ(18)および検知電極コントローラ(19)は、両方ともプローブコントローラ(20)に含まれてもよい。代替的に、測定デバイス(13)、データ分析デバイス(14)、計算デバイス(16)、および出力デバイス(17)を単一のデバイスに含め、さらに参照電極コントローラ(15)を含めることも可能であるが、必ずしもそうである必要はない。
【0061】
本発明のプローブおよび/または参照電極は、好ましくは水溶液中のイオン濃度を決定するために使用することができる。好ましくは水溶液中のイオン濃度を決定するこのような方法は、以下のステップ
(a)本明細書で定義される電極アレイ、接点要素、測定デバイス、および接続手段を用意するステップ;
(b)(b’)電極アレイおよび接点要素を液体、好ましくは水性媒体に沈め、それを測定デバイスに接続するステップ、または
(b’’)測定デバイスに接続された電極アレイを液体、好ましくは水性媒体に沈めるステップ、
(c)測定デバイスを用いて、電極アレイに含まれる各導電性要素の電圧値を取得するステップ;および
(d)ステップ(c)で取得された電圧値の統計分析を実行して、逸脱した導電性要素を識別し、平均基準電圧を計算するステップを含み、
ステップ(a)、(b)、(c)、および(d)は、順に実行される。
【0062】
液体、好ましくは水性媒体中のイオン濃度を決定するために、本明細書で定義される電極アレイを液体に沈め、次いで測定デバイスに接続するか、または代替的に、電極アレイを最初に測定デバイスに接続し、次いで、すなわち、測定デバイスに既に接続した状態で、液体、好ましくは水性媒体に沈めてもよい。
【0063】
使いやすさと電極アレイが測定デバイスに適切に接続されていることの保証のため、電極アレイを最初に測定デバイスに接続し、次に液体に浸漬することが好ましい場合がある。好ましくは、このような沈めは、電極アレイ全体を液体内に配置し、液体が電極アレイの導電性要素の露出面をすべて覆うことを意味する。
【0064】
電極アレイが最初に接続されてから沈めるか、またはその逆であるかに関係なく、電極アレイは、本明細書に記載のように接続手段によって接続される。
【0065】
次に、測定デバイスを使用して、電極アレイに含まれる各導電性要素の電圧値を取得する。このために、測定デバイスは、電極アレイ内の各導電性要素から電圧値を受け取る。このような電圧値は、メモリチップなどの非永続的、またはハードドライブなどの永続的のいずれかで保存または記録されるのが望ましい。
【0066】
このようにして得られた電圧値は、次に詳細に説明されるように、統計分析を実行し、逸脱している導電性要素を識別し、および/または電極アレイの平均基準電圧を決定するために使用される。
【0067】
逸脱した導電性要素は、一度識別されると、測定デバイスまたはそうする機能と設定を備えた他のデバイスによってオフにすることができ、逸脱していない導電性要素のみを使用した測定が可能になる。
【0068】
また、逸脱した導電性要素の数が多すぎる(たとえば合計で2未満)場合や、すべての導電性要素の平均偏差が高すぎる場合など、統計分析では平均基準電圧を決定できないこともある。
【0069】
このような場合、統計分析により、電極アレイ全体を意味のある信頼性の高い測定に使用することはできず、全体として逸脱している、つまり使用できないと決定される可能性がある。
【0070】
2の導電性要素のみを含む電極アレイの場合、統計分析は、得られた電圧を比較することから成り、これらが互いに大幅に異なる場合は、両方の導電性要素、つまりこの場合は電極アレイ全体が、測定を行うのに逸脱しているか使用できないものとして示される。
【0071】
少なくとも3の導電性要素を含む電極アレイの場合、このような統計分析は、個々の要素の電圧を残りの要素の平均電圧と比較することによって実行でき、個々の要素の電圧が残りの要素の平均と大幅に異なる場合は、それぞれの個々の導電性要素が逸脱していることを示す。
【0072】
具体的な例として、本明細書に記載の3の導電性要素CE1、CE2、およびCE3を含む電極アレイを取り上げると、このような統計分析は、たとえば、次のものを比較することによって実行できる。
(i)CE1の電圧をCE2とCE3の平均電圧と比較する、
(ii)CE2の電圧をCE1とCE3の平均電圧と比較する、および
(iii)CE3の電圧をCE1とCE2の平均電圧と比較する。
個々の電圧のいずれかが他の2の電圧の平均と大幅に異なる場合、そのような個々の電圧は逸脱していると分類される。
【0073】
3以上の導電性要素を含む電極アレイについても同様に統計分析が行われる。
代替的に、または上記の統計分析に加えて、上記の電極アレイに含まれるすべての導電性要素の電圧の平均を算出し、大きな誤差が検出された場合は、アレイ全体が逸脱していること、つまり、実施する即時の測定には使用できないことが示される。
【0074】
統計分析により電極アレイが使用可能であると結論付けられた場合、残りの、つまり非逸脱の導電性要素から得られた電圧に基づいて平均電圧が計算される。このように計算された平均電圧は、以下で基準電圧として使用される。
【0075】
オプションとして、例えば音、警告灯、ディスプレイに表示されるメッセージ、またはその他の適切な手段によって、電極アレイ全体または電極アレイに含まれる導電性要素が逸脱している、および/または使用できない状態にあることをユーザに警告することができる。
【0076】
電極アレイ全体が逸脱しているか使用できない場合、プローブまたは電極アレイコントローラは、進行中または実行予定のイオン濃度の決定を停止することが好ましい。
【0077】
さらに、統計分析の結果、つまり導電性要素が逸脱しているかどうか、または電極アレイ全体が使用できないかどうかに基づいて、再生プロセスが、オプションで、ユーザによって手動で、または自動的に開始される場合がある。このような回復プロセスは、すぐに開始することも、事前に決定された後の時間、またはユーザが決定した後の時間に開始することもできる。
【0078】
再構成プロセスは、電極アレイの逸脱した導電性要素のみに適用することも、または、逸脱した導電性要素が識別されている場合、または電極アレイ全体が電極アレイのすべての導電性要素に使用できないことが判明した場合に、電極アレイに含まれるすべての導電性要素に適用することも好ましい。
【0079】
再生プロセスは、電気化学的洗浄およびコーティングプロセスである。このようなプロセスは、脱ハロゲン化/ハロゲン化(例:塩化カリウムが電解質である場合の脱塩素化/塩素化)を使用して行うのが望ましく、プローブまたは電極アレイコントローラは、電極アレイの1以上の導電性要素またはすべての導電性要素に選択的に電流を印加することができる。
【0080】
好ましくは、0.1Vから10Vの電圧を印加する。好ましくは、このような電圧は0.5秒から60秒印加する。たとえば、強い塩素化の場合は5Vの電流を30秒間印加し、弱い塩素化の場合は1.3Vの電流を10秒間印加する。
【0081】
1以上の導電性要素に電流を印加する間、例えば銀などの、好ましくはワイヤまたはストリップの形態の任意の適切な電気的導電性材料を陽極として使用することができる。
【0082】
一定時間連続して電流を印加する代わりに、そのような電流をパルスシーケンスで流すことも可能であり、つまり、たとえば、電極アレイのすべての導電性要素の性能が動作レベルに回復するまで、より短い時間で数回流す。
【0083】
場合によっては、電極アレイを水、好ましくは脱イオン水で単純にすすぐだけで、逸脱した導電性要素または電極アレイを再生するのに十分である可能性がある。
【0084】
本明細書で定義される本発明のプローブおよび参照電極は、既存の従来のプローブおよび参照電極に比べて多くの利点を提供する。本明細書で定義される少なくとも2の導電性要素を含む電極アレイを使用すると、外部校正を必要とせずに、プローブおよび/または参照電極が正しく機能しているかどうかを「自己テスト」できる。
【0085】
電極アレイまたは導電性要素の1以上が正常に機能しなくなった場合、電極アレイに含まれる導電性要素の金属表面を簡単に洗浄(掃除)し、きれいな状態に復元することで、本発明の電極アレイまたは導電性要素の1以上を簡単に適切な機能状態に回復できる。
【0086】
さらに、本発明のプローブおよび参照電極は乾燥状態で保管することができ、接点要素とともに水に浸漬するだけで簡単に使用することができ、これにより、金属塩、好ましくは塩化カリウムの安定した再現性のある参照溶液が作られる。
【0087】
一般的に言えば、本発明のプローブと参照電極は、構造が驚くほどシンプルであるにもかかわらず、メンテナンスに必要な時間と労力を大幅に削減し、同時に、従来のプローブと参照電極に期待される精度と信頼性を維持することができる。
【0088】
また、本発明のプローブおよび参照電極は、今日でも広く使用されている従来のプローブおよび参照電極に代わる、低コストで環境に優しい代替品であることも注目される。
【0089】
さらなる利点は、本発明のプローブおよび参照電極の動作を非限定的な方法で説明する以下の例と同様に、説明からも明らかである。
【0090】

約10mmx25mmのサイズを持ち、導電性要素として10の銀ペレットを含む非導電性ポリマーで作られた電極アレイ(図1bに示す)を使用して、本概念の実現可能性をテストおよび証明し、本発明のプローブと参照電極の利点と動作を評価した。
【0091】
例1
10の導電性ペレット状銀要素と塩化カリウムを含浸させた濾紙で構成された電極アレイを水性媒体に浸漬し、一般的な1週間の労働時間をシミュレーションして、市販の従来のマスター参照電極(Ag/AgCl 参照を備えた Mettler Toledo LE438)と比較して測定した。
【0092】
電極アレイの導電性銀要素は、次の表1に示すように、各日の開始時に(再)塩素処理されているか、またはされていないかであった。
【表1】
【0093】
3日目の日中に、2の導電性要素が逸脱していることが判明し、1.3Vの電圧を10秒間印加して再塩素処理することで再生されたことが注目される。
【0094】
毎日の終わりに、接点要素、すなわち塩化カリウムを含浸させた濾紙を取り外して乾燥させ、電極アレイを脱イオン水ですすいだ。その後、電極アレイと接点要素の両方を乾燥した状態で一晩保管した。その後の電極アレイと接点要素の再加湿は、導電性要素と電極アレイ全体の性能に影響を与えなかった。
【0095】
図5は、参照電極に対して測定された電極アレイの10の導電性要素の電圧曲線を示している。本出願で説明されているように、電極アレイに含まれる10の導電性要素のうち、特定の時点で逸脱またはドリフトし始めるのは個々の導電性要素のみであることが明確にわかる。
【0096】
言い換えると、結果は、電極アレイの導電性要素の大部分が、-任意の時点で-安定した動作を示すことを示している。したがって、逸脱した導電性要素から得られる電圧を無視することで、信頼性の高い平均電圧を計算し、それを基準値として使用することができる。
【0097】
例2
さらなる例では、電極アレイの導電性要素間の要素間電圧、すなわち電圧または電位差の安定性が、10の導電性ペレット状銀要素を含む本発明の電極アレイについて評価され、塩化カリウムを含浸させた濾紙を水性媒体に浸漬した。
【0098】
図6の上部は、本明細書に記載の電極アレイに含まれる個々の導電性要素のそれぞれの電圧と、残りの導電性要素の平均電圧とを比較して示している。
図6の下部は、逸脱した導電性要素を無視した場合の本発明の電極アレイの平均電圧を示している。
【0099】
これらの結果から、逸脱している個々の導電性要素は簡単に識別でき、-そのような1以上の逸脱している導電性要素から得られる電圧を無視すれば-残りの(非逸脱の)導電性要素の平均電圧を取得することで、信頼性の高い基準電圧を決定できると結論付けることができる。
【0100】
さらに、図6のグラフは、一般に、逸脱した導電性要素の数が、本発明の電極アレイに含まれる導電性要素の総数の半分を超えるとき、図6からわかるように、それぞれの値が時間とともにランダムに変化することから、計算された平均電圧の信頼性が低くなることを示している。
【0101】
さらに、これらの例により、接点要素、すなわち塩化カリウム含浸パテントストリップの交換が、本発明のプローブおよび電極アレイの性能および安定性に目に見える影響を与えることなく容易に決定可能であることが確認された。
【0102】
また、この例で使用した幅15mmの紙片の電気抵抗は1.8~2.1kΩであり、従来のマスター参照電極の多孔質接点の抵抗と同じ桁であることが確認されている。
【0103】
ISFETの抵抗は少なくとも数GΩであるため、本発明の電極抵抗はISFETと組み合わせてpHなどのイオン濃度を測定するのに適していると考えられる。
【0104】
例1の実験では、一日を通して電極アレイおよびそれぞれの導電性要素に目に見える全体的なドリフトが発生しなかったことも確認され、-理論に縛られず-塩化カリウムを含浸させた紙片から放出された塩化物イオンの数は一日中同じレベルのままであったことを示している。
【0105】
例3
例1および2で使用した電極アレイと、接点要素として塩化カリウムを含浸させた紙片とを含むプローブを、市販のISFET pHセンサーと組み合わせて使用した(MICROSENS MSFET 3330 pHセンサー、MICROSENS S.A.、EPFL Innovation Part、Batiment D、1015 Lausanne、スイスから入手可能)。
【0106】
比較測定は、上記の市販の従来のマスター参照電極と上記の市販のISFET pHセンサーを組み合わせて行った(Mettler Toledo LE438、Ag/AgCl 参照付き)。
【0107】
電極アレイの導電性要素は、本明細書に記載のように測定デバイスに接続され、5Vの電圧を30秒間印加して再度塩素処理された。
次に、ISFETをpH値がそれぞれ7.0、4.0、10.00の水性参照媒体に浸した。
【0108】
結果は図7に示されている。電極アレイのすべての導電性要素と従来の参照電極について、測定の誤差範囲内で同じ値が得られたことがはっきりとわかる。
【0109】
したがって、ここで得られた結果は、本発明のプローブと電極アレイの有用性と利点を明確に示している。本発明のプローブと電極アレイは、驚くべきことに、水性媒体中のイオン濃度の決定に非常にシンプルでコスト効率が高く、同時に非常に信頼性が高く使いやすい参照電極を可能にする。
【0110】
一般的に言えば、本発明のプローブおよび参照電極は、当業者が本明細書および例から容易に決定できるように、従来のプローブおよび参照電極に比べて多くの利点を提供する。
【0111】
本発明者らは、電極アレイの個々の導電性要素が同時にシフト/ドリフトし始めるのではなく、むしろ個々の導電性要素が逸脱した動作を示すことを発見して非常に驚いた。
【0112】
電極アレイの各導電性要素について得られた各電圧の比較的単純な統計分析により、そのような逸脱した導電性要素を識別し、次に、例えば、そのような逸脱した導電性要素によって提供された測定値を無視するか、そのような逸脱した導電性要素の表面を再度塩素化するために電圧を印加することによってそのような逸脱した導電性要素を再生するなどの修正措置を講じることができ、これは、それぞれのプローブまたは参照電極を所定の位置に残したまま、つまり、例えば電解質を含む接点要素を取り外すことなく行うこともできる。
【0113】
これはまた、本発明のプローブおよび参照電極が、信頼性が高く有意義な結果が得られるような状態で保守および維持することが非常に容易であるという特徴を有することも示している。
【0114】
従来使用されている参照電極、例えばカロメル電極と比較して、本発明のプローブおよび参照電極は乾燥状態で保管することができ、その後、電解質を含む接点要素を本発明の電極アレイの導電性要素の近くに配置するだけで、水性媒体中で容易に使用できるようになる。
【0115】
本発明の電極アレイは、本明細書に記載のように電解質の水溶液に沈めて保管する必要がなくなり、長期間にわたって乾燥状態で保管できるという大きな利点がある。
【0116】
本発明のプローブと電極の良好で信頼性の高い機能は電子回路によって簡単に監視できるため、オペレーターの継続的な存在は必要なくなり、自動化の大きな可能性も提供される。
【0117】
したがって、本発明のプローブおよび参照電極は、一般に、以下の好ましい動作モードのいずれか1以上を可能にする:
-好ましくは脱イオン水で洗浄する;
-長期間にわたって乾燥保管する;
-本明細書で定義される導電性要素の近くに、電解質に浸した濾紙などの多孔質材料を含む接点要素を取り付ける;
-要素間の電圧測定による安定性評価を実行する;
-水性媒体中のpH測定を含むイオン濃度の決定に使用し、それによって逸脱した導電性要素を排除できるようにする;
-導電性要素の手動または自動のガルバニック二塩素化および再塩素化によって、逸脱した導電性要素または電極アレイ全体の安定性を回復する。
【0118】
これらすべての利点が、驚くほど単純で製造が容易な設計のプローブおよび参照電極によって達成できることは、本発明者らにとって実に大きな驚きであった。
【0119】
参照符号
1 電極アレイ
2 支持基材
3 導電性要素(単数または複数)
4 接点要素
5 側壁(単数または複数)
6 接続手段
7 測定デバイス
【0120】
11 電極アレイ
12 検知電極
13 測定デバイス
14 データ分析デバイス
15 電流コントローラ
16 計算デバイス
17 出力デバイス
18 参照電極コントローラ
19 検知電極コントローラ
20 プローブコントローラ
図1a-b】
図2
図3
図4
図5a
図5b
図6a
図6b
図7
【国際調査報告】