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  • 特表-多孔質輸送層の製造方法 図1
  • 特表-多孔質輸送層の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-30
(54)【発明の名称】多孔質輸送層の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 7/04 20060101AFI20240920BHJP
   B22F 1/052 20220101ALI20240920BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B22F7/04 E
B22F1/052
B22F3/02 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522499
(86)(22)【出願日】2022-10-07
(85)【翻訳文提出日】2024-06-13
(86)【国際出願番号】 EP2022077923
(87)【国際公開番号】W WO2023061869
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】21203001.9
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】マドクール,シェリフ アリ ハサン アリ
(72)【発明者】
【氏名】マルコ,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】シュミット-ハンスベルク,ベンヤミン
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018BA03
4K018BA17
4K018BB04
4K018CA09
4K018CA32
4K018DA03
4K018DA32
4K018DA33
4K018HA08
4K018JA02
4K018KA22
(57)【要約】
本発明は、多層多孔質輸送層の製造方法に関し、該方法は以下の工程、
(a) 第1の金属粒子と第1のポリマーバインダーとを含む第1のフィードストックを提供し、そして第2の金属粒子と第2のポリマーバインダーとを含む第2のフィードストックを提供する工程であって
第1および第2のフィードストックが、40~70体積%の金属粉末含有量を有し、そして
第1のフィードストックが、第2のフィードストックと比較して
(i) より小さい平均粒子径の金属粒子、
(ii) より高い金属粉末含有量、または
(iii) より小さい平均粒子径の金属粒子およびより高い金属粉末含有量の両方
を有する、工程
(b) 第1および第2のフィードストックを共押出して、第1の層と第2の層とを含むフィルム形状のグリーン体を形成する工程であって、第2の層が、第1のポリマーバインダーおよび第2のポリマーバインダーの溶融温度および/またはガラス転移温度よりも高温で第1の層に物質的に接続される、工程、
(c) 任意に、フィルム形状のグリーン体を圧延またはカレンダー加工により平滑化する工程、
(d) フィルム形状のグリーン体を脱バインダーしてブラウン体を形成する工程、
(e) ブラウン体を非酸化性雰囲気または10-4mbar以下の真空下および700~1100℃の温度で焼結して多孔質輸送層を形成する工程、
を含み、
第1のフィードストックおよび第2のフィードストックは、如何なる溶媒も含まない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層多孔質輸送層の製造方法であって、以下の工程、
(a) 第1の金属粒子と第1のポリマーバインダーとを含む第1のフィードストックを提供し、そして第2の金属粒子と第2のポリマーバインダーとを含む第2のフィードストックを提供する工程であって
前記第1および第2のフィードストックが、40~70体積%の金属粉末含有量を有し、そして
前記第1のフィードストックが、前記第2のフィードストックと比較して
(i) より小さい平均粒子径の金属粒子、
(ii) より高い金属粉末含有量、または
(iii) より小さい平均粒子径の金属粒子およびより高い金属粉末含有量の両方
を有する、工程
(b) 前記第1および前記第2のフィードストックを共押出して、第1の層と第2の層とを含むフィルム形状のグリーン体を形成する工程であって、前記第2の層が、前記第1のポリマーバインダーおよび前記第2のポリマーバインダーの溶融温度および/またはガラス転移温度よりも高い温度で前記第1の層に物質的に接続される、工程、
(c) 任意に、前記フィルム形状のグリーン体を圧延またはカレンダー加工により平滑化する工程、
(d) 前記フィルム形状のグリーン体を脱バインダーしてブラウン体を形成する工程、
(e) 前記ブラウン体を非酸化性雰囲気または10-4mbar以下の真空下および700~1100℃の温度で焼結して多孔質輸送層を形成する工程、
を含み、
前記第1のフィードストックおよび前記第2のフィードストックが如何なる溶媒も含まない、方法。
【請求項2】
第1の平均粒子径が15~35μmであり、そして第2の平均粒子径が25~45μmである、請求項2に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のフィードストック中の第1の金属粉末の量が54~65体積%であり、そして前記第2のフィードストック中の第2の金属粉末の量が48~56体積%である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1および第2の金属粒子がチタンまたはステンレス鋼からなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記第1のフィードストックおよび前記第2のフィードストックが、ISO1133に従い190℃および21.6kgで50~700g/10分のメルトフローレートを有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記第1のポリマーバインダー、前記第2のポリマーバインダー、または前記第1および第2のポリマーバインダーの両方が、ISO1133-1に従い190℃および2.16kgを用いて1~5g/10分のメルトフローレートを有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記第1のポリマーバインダー、前記第2のポリマーバインダー、または前記第1および第2のポリマーバインダーの両方が、
(i) 35~55体積%のポリオキシメチレン、
(ii) 2~10体積%のポリオレフィン、
(iii) 任意に2~20体積%のさらなるポリマー、および
(iv) 任意に0.5~5体積%の分散剤
を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
共押出を175~220℃の溶融温度で行う、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
共押出工程(c)において、第3の層を前記第1または第2の層の上に共押出する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
平滑化を、圧延、カレンダー加工、または圧延およびカレンダー加工の両方によって行う、請求項1または2に記載の方法。
【請求項11】
脱バインダー工程(d)をガス状酸を含む雰囲気中で行う、請求項1または2に記載の方法。
【請求項12】
脱バインダー工程(d)が、100~140℃の温度での触媒による脱バインダーを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項13】
焼結工程(e)を700~1000℃、好ましくは720~920℃の温度で行う、請求項1または2に記載の方法。
【請求項14】
第1のフィードストックと第2のフィードストックとの組み合わせであって、
(a) 前記第1のフィードストックが第1の金属粒子と第1のポリマーバインダーとを含み、
(b) 前記第2のフィードストックが第2の金属粒子と第2のポリマーバインダーとを含み、
前記第1のフィードストックが、前記第2のフィードストックと比較して
(i) より小さい平均粒子径の金属粒子、
(ii) より高い金属粉末含有量、または
(iii) より小さい平均粒子径の金属粒子およびより高い金属粉末含有量の両方
を有し、そして
前記第1および前記第2のポリマーバインダーの、ISO1133-1に従い190℃および2.16kgを用いたメルトフローレートMFRが、1~5g/10分である、
第1のフィードストックと第2のフィードストックとの組み合わせ。
【請求項15】
請求項1または2に記載の方法の工程(a)~(d)を行うことによって得ることができる、フィルム形状のグリーン体。
【請求項16】
請求項1または2に記載の方法によって得ることができる、多孔質輸送層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルのための、特にPEM構造型の電解槽のための、および具体的には特に水を酸素と水素に電解分解するための、多孔質輸送層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトン交換膜(PEM)ベースの電解には、電気化学的に安定で、電子伝導性があり、且つガス透過性のある輸送層が必要である。最も基本的な意味では、電解槽のアノード側にある多孔質輸送層(「PTL」)の機能は、反応水を触媒層に均一に分散させ、触媒/PTL界面で発生する酸素をPTLからバイポーラプレート方向に効率的に除去および拡散させることである。電解槽のアノード側にあるPTLは、触媒の利用率を向上させ、それにより電解性能を向上させるため、電極の触媒層との接触面積が大きくなければならない。同時にPTLは、アノード側でのガスと水の輸送を促進するため、圧力損失が低くなければならない。大きな接触面積と低い圧力損失という2つのパラメータは相反するものであり、最高の全体的な性能を達成するための複雑な最適化テーマである。この課題を克服するために、様々な研究が提案されている。
【0003】
JP2001-279481Aには、チタン粉末の粒子径およびチタン粉末とバインダーとの混合比が異なる複数のシート様物体を形成し、そしてその複数のシート様物体を積層状態で焼結することによって焼結体を製造する方法が開示されている。このような方法によれば、気孔率の異なる粉末焼結部分が積層された粉末焼結体を製造することが可能である。
【0004】
US2006/0201800Aは、電気化学反応膜を含む電気化学反応膜装置で使用する多孔質導電体の製造方法であって、以下の工程:プレート形状を有する金属粉末の焼結体を提供する工程と、前記金属粉末の焼結体の、電解装置を組み立てたときに電気化学反応膜に面する側に、研削プロセスによって研削表面を形成する工程と、前記研削プロセス後にエッチングプロセスによって、前記研削プロセスで形成された前記研削表面の変形部分を除去し、前記電気化学反応膜に面する側の前記多孔質導電体の気孔率を増加させる工程と、を含む方法を開示している。
【0005】
JP2011-099146Aには、金属粉末を焼結して調製され、気孔率10~50体積%の複数の気孔が分散している金属焼結コンパクト製の焼結金属シート材料が開示されている。気孔の平均細孔直径は1~30μmであり、複数の気孔の一部は、焼結金属シート材料の表面で開口している。
【0006】
Adv.Eng.Mater.2019,21,1801201は、テープキャスティングによるポリマー電解質膜電解用の大規模なチタンベースのPTLの製造を開示している。
【0007】
WO2020/20467A1は、金属粉末をバインダーと混合し、その後これを箔に形成することからなる、多孔質輸送層の製造方法を開示している。箔を多孔質金属層上に積層し、その後バインダーを除去し、残りのブラウン下地層を多孔質金属層に焼結し、微小孔金属層が上に塗布された多孔質金属層を有するPTLを製造する。
【0008】
US2010/038809A1は、多層多孔質チューブ状および/またはシート状ろ過膜の製造方法を開示している。この方法は、複数の出口ポートを有するダイヘッドを介して、各ホッパーが異なる混合物を含有する異なるフィードストックを共押出することにより、多層非対称膜の長さを製造する装置および方法を含む。使用される混合物は、溶媒に溶解したバインダーをベースとし、後に粉末と混合する。混合物は、異なる粉末/バインダー比および/または異なる金属粉末粒径を有し、異なる混合物は融点が異なる金属粉末を含む。押出後、押出物はダイヘッドから出ると液体に浸され、そしてさらに炉内での多層押出の焼結を含む処理が行われる。
【0009】
現在の最新技術では2層のPTL製造法が議論されており、この製造法では、押出、プレス、またはあらゆる種類の成形によってグリーン部品を2つの別々の層に成形し、その後、既に完成している金属多孔質層または別のグリーン部品の上に配置する。2つの層を互いの上に配置し、整列させることは、困難であり且つ余分な処理工程を追加するだけでなく、一緒にした2つの層間の界面に内部応力を誘発する可能性もあり、その結果、機械的特性が低下し、最終焼結PTLに欠陥(例えば内部亀裂、隆起または表面の反り)が生じる可能性がある。このような欠陥はMIM産業ではよく知られており、例えばHwang,K.S.Common defects in metal injection molding(MIM),the handbook of metal injection molding,Woodhead,2012,235-250に記載されている。さらに、iScience23,101783,2020年12月18日から、2つの層を互いの上に重ねることにより、PTLの中央部に高多孔質帯が形成され、これによって酸素が合流して周期的な波形が形成され、特に電流密度が高い場合には、PTLの水輸送特性に悪影響を及ぼすことが知られている。
【0010】
International Journal of Refractory Metals&Hard Materials89(2020年)105214によると、バインダー/金属粉末混合物を利用する近隣の技術分野の他の処理方法、例えば膜フィルター処理方法は、バインダー系の溶媒および/熱的脱バインダーに好適な特定のバインダー系に依存している。これらは、高いエネルギー消費と長い脱バインダー時間を必要とするだけでなく、電気化学セル用途における大きな寸法の多孔質輸送層に対して、良好な表面平坦性を支持しない。表面の平坦性は、触媒層との接触を改善し、電気化学セルスタック内の適切な圧力分布を保証するための鍵である。さらに、このような用途にはチタンが好ましく使用されるので、チタンの焼結が、炭素、水和酸化物の痕跡、塩素不純物およびガス、例えば水、一酸化炭素、二酸化炭素、酸素または酸素-塩素錯体のような介在元素に対して極めて敏感であり、最終部品の機械的特性に有害となることに留意する必要がある。
【0011】
よって、これらの欠点を取り除くことは、PTLの性能および品質にとって有益である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】JP2001-279481A
【特許文献2】US2006/0201800A
【特許文献3】JP2011-099146A
【特許文献4】WO2020/20467A1
【特許文献5】US2010/038809A1
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Adv.Eng.Mater.2019,21,1801201
【非特許文献2】Hwang,K.S.Common defects in metal injection molding(MIM),the handbook of metal injection molding,Woodhead,2012,235-250
【非特許文献3】iScience23,101783,2020年12月18日
【非特許文献4】International Journal of Refractory Metals&Hard Materials89(2020年)105214
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の根底にある目的は、より優れた水および酸素輸送特性、機械的特性、および最終焼結PTLにおけるより少ない欠陥を示す多孔質輸送層を提供すること、特に内部亀裂、隆起または表面の反りを低減することである。本発明のさらなる目的は、PTL全体にわたって異なる気孔率を有するPTLを、より安価に製造する方法を提供することである。本発明の目的はまた、2層間の遷移相における高多孔質帯のような如何なる不連続性も示さない少なくとも2つの層を有するPTLを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の態様は、多層多孔質輸送層の製造方法であり、該方法は以下の工程、
(a) 第1の金属粒子と第1のポリマーバインダーとを含む第1のフィードストックを提供し、そして第2の金属粒子と第2のポリマーバインダーとを含む第2のフィードストックを提供する工程であって
第1および第2のフィードストックが、40~70体積%の金属粉末含有量を有し、そして
第1のフィードストックが、第2のフィードストックと比較して
(i) より小さい平均粒子径の金属粒子、
(ii) より高い金属粉末含有量、または
(iii) より小さい平均粒子径の金属粒子およびより高い金属粉末含有量の両方
を有する、工程
(b) 第1および第2のフィードストックを共押出して、第1の層と第2の層とを含むフィルム形状のグリーン体を形成する工程であって、第2の層が、前記第1のポリマーバインダーおよび第2のポリマーバインダーの溶融温度および/またはガラス転移温度よりも高い温度で第1の層に物質的に接続される、工程、
(c) 任意に、フィルム形状のグリーン体を圧延またはカレンダー加工により平滑化する工程、
(d) フィルム形状のグリーン体を触媒により脱バインダーしてブラウン体を形成する工程、
(f) ブラウン体を非酸化性雰囲気または10-4mbar以下の真空下および700~1100℃の温度で焼結して多孔質輸送層を形成する工程、
を含み、
第1のフィードストックおよび第2のフィードストックは、如何なる溶媒も含まない。
【0016】
本発明による方法を用いて製造されたPTLは、最終焼結PTLにおいて、より良好な水および酸素輸送特性、機械的特性、およびより少ない欠陥を示す。特に、内部亀裂、隆起またはPTL表面の反りが減少する。さらに、この方法は、気孔率の異なる2層以上の層を有するPTLをより安価に製造する方法を提供する。より具体的には、本発明は、如何なる不連続性もない、特にPTLの2層間の遷移相における如何なる高多孔質帯もない、異なる気孔率の少なくとも2層を含むPTLを提供する。
【0017】
本発明による方法は、電気化学セル、例えば電池用、燃料セル用、または電解槽用の多孔質輸送層の製造に使用できる。
【0018】
本発明のさらなる実施形態は、第1のフィードストックと第2のフィードストックとの組み合わせであり、
(a) 第1のフィードストックは第1の金属粒子と第1のポリマーバインダーとを含み、
(b) 第2のフィードストックは第2の金属粒子と第2のポリマーバインダーとを含み、
第1のフィードストックが、第2のフィードストックと比較して
(i) より小さい平均粒子径の金属粒子、
(ii) より高い金属粉末含有量、または
(iii) より小さい平均粒子径の金属粒子およびより高い金属粉末含有量の両方
を有し、そして
第1および第2のポリマーバインダーの、ISO1133-1に従い190℃および2.16kgを用いたメルトフローレートMFRが、1~5g/10分である。
【0019】
本発明のさらなる実施形態は、本発明による方法の工程(a)~(d)を実施することによって得ることができるフィルム形状のグリーン体である。
【0020】
本発明のさらなる実施形態は、本発明による方法によって得ることができる多孔質輸送層である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施例2の焼結2層PTLの断面SEM写真を示し、2層間の界面が平滑であることを示す。
図2図2は、実施例2の最終的な焼結2層PTLを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明による方法は、本明細書において「PTL」とも呼ばれる多層多孔質輸送層の製造を目的とする。PTLは、反応物、例えば水を、触媒層に輸送し且つ均一に分配することができ、そして反応物の流れが触媒層に到達するのを妨げることなく、触媒/PTL界面で発生する酸素を効果的に除去することができる。
【0023】
以下に、フィードストック、フィードストックを形成する金属粉末およびバインダー、およびPTL形成について、本発明を制限することなく、より詳細に以下に記載する。
【0024】
押出フィードストック
本発明による方法の第1の工程において、第1の金属粒子と第1のポリマーバインダーとを含む第1のフィードストック、第2の金属粒子と第2のポリマーバインダーとを含む第2のフィードストックが提供される。第1のフィードストックは第2のフィードストックと比較して、より小さい平均粒子径の金属粒子、より高い金属粉末含有量、またはより小さい平均粒子径の金属粒子およびより高い金属粉末含有量の両方を有する。
【0025】
第1および第2のフィードストック(共に「押出フィードストック」または「フィードストック」とも呼ばれる)は、以下でより詳細に記載するように、2つの成分、金属粉末およびバインダーを含む、またはこれらからなる。ここで使用するフィードストックとは、顆粒、ペレットまたは粉末の形態の固体フィードストックを指す。最も好ましくは顆粒である。
【0026】
フィードストックは、混合物の総体積に対して、40~70体積%の本明細書に記載の金属粉末、および30~60体積%のバインダーを含む。
【0027】
好ましくは、フィードストックは、フィードストックの総体積に対して、45~65体積%の金属粉末、および35~55体積%のバインダーを含む、または本質的にこれらからなる。
【0028】
特に好ましくは、フィードストックは、フィードストックの総体積に対して、48~64体積%の金属粉末、および36~52体積%のバインダーを含む。
【0029】
好ましくは、フィードストックは、以下でより詳細に記載する1つ以上の金属粉末、1つ以上のバインダー、および任意に1つ以上の添加剤から本質的になり、金属粉末、バインダー、および添加剤の体積%は、合計で100%となる。
【0030】
好ましい実施形態では、第1および第2のフィードストックは、ISO1133に従い190℃および21.6kgを用いるMFRが、50~700g/10分である。最も好ましくは、第1および第2のフィードストックは、同じまたは少なくとも類似のMFRを有する。ここで類似とは、第1および第2のフィードストックのMFR差が100以下、好ましくは50以下、最も好ましくは10以下であることを意味する。
【0031】
好ましくは、第1のフィードストックおよび第2のフィードストックは、如何なる溶媒も含まない。本明細書において使用する「溶媒」とは、室温で液体である化合物または化合物の混合物、例えば、限定するものではないが、アセトン、n-メチルピロリドン、水またはホルムアミドを意味する。
【0032】
金属粉末
一般に、金属粉末は、PTLとして使用することができる如何なる金属製でもよい。
【0033】
好ましくは、金属粉末は、チタンを含むまたは本質的にチタンからなる粉砕金属材料からなる。
【0034】
本明細書で使用する「本質的に」とは、他の成分、特に合金の化学的、機械的または触媒的特性に大きな影響を与えない不可避な不純物が微量に存在し得ることを意味する。
【0035】
特に、本発明による方法は、チタンまたはチタン合金から形成される多孔質輸送層のために提供されるが、他の材料または金属合金の多孔質輸送層が本発明による方法によって形成できることを理解されたい。
【0036】
一般に、第1および第2のフィードストックは、40~70体積%の金属粉末を含んでよい。
【0037】
共押出における使用に有益なのは、レーザー回折法で測定した平均粒子径が0.1~120μm、好ましくは1~100μm、特に好ましくは1~63μm、最も好ましくは15~63μmである球状粉末である。粉末の平均粒子径(直径)は、好ましくは100μm未満、より好ましくは50μm未満、最も好ましくは35μm未満である。粉末は、所望の粒子径分布に到達するために、霧化後にふるい分けまたは分級してもよい。粉末の真球度を向上させ、汚染物質を除去するために、粉末のプラズマ処理を利用してもよい。
【0038】
最終的なPTLの第1の層および第2の層に異なる細孔径および気孔率を持たせるために、2つのアプローチがある。
【0039】
第1のアプローチでは、異なる平均粒子径を第1および第2のフィードストックに使用してよい。フィードストックの平均粒子径が大きいほど、最終的なPTLの細孔径および気孔率が高くなる。従って、本発明の第1の実施形態では、第1のフィードストックは第2のフィードストックと比較して、より小さい平均粒子径の金属粒子を有する。好ましくは、第1のフィードストックは、10~45μm、より好ましくは15~30μmの平均金属粉末粒子径を有し、これは第2のフィードストックの平均粒子径よりも小さい。
【0040】
好ましくは、第1の平均粒子径は、10~45μm、より好ましくは15~35μm、最も好ましくは15~30μmでよい。
【0041】
好ましくは、第2の平均粒子径は、20~106μm、より好ましくは20~63μm、最も好ましくは20~45μmでよい。
【0042】
第2のアプローチでは、異なる量の金属粉末を第1および第2のフィードストックに使用する。この場合、粒子径は第1および第2のフィードストックで同じでも異なっていてもよく、好ましくは同じである。フィードストック中の金属粒子含有量が高いほど、最終的なPTLの細孔径および気孔率は低くなる。
【0043】
好ましくは、最終的なPTLの第1の層を形成する第1のフィードストックは、金属粉末を54~65体積%、より好ましくは56~65体積%含む。
【0044】
好ましくは、最終的なPTLの第2の層を形成する第2のフィードストックは、48~56体積%、より好ましくは48~54体積%の金属粉末を含む。
【0045】
市販の純粉砕チタン金属粉末の他に、チタン合金、ステンレス鋼(SS)金属粉末のような他の粉砕金属粉末も、電解におけるPTL(アノード側またはカソード側)の製造に利用できる。例えば、高耐食性、高導電性のSSグレード(例えば17-4PH、316L、スーパーデュプレックス)は、PEM電解におけるカソードPTLの良い候補である。
【0046】
好ましくは、金属粉末は本質的に粉砕チタンまたはステンレス鋼からなる。
【0047】
金属粉末の調製のために、無機材料を粉砕する必要がある。無機材料を粉砕するために、当業者に既知の如何なる方法も使用してよい。例えば、無機材料をすりつぶす(ground)ことができる。すりつぶしは、例えば、分級機ミル、ハンマーミルまたはボールミルにおいて行ってよい。
【0048】
共押出プロセスで使用する金属粉末は、ガス、プラズマ、または水霧化または水素化を用いて霧化してもよい。三角形状のチタン粉末を製造する特定の方法は、Powder Metall.2016,59,249に記載のように水素化脱水素(HDH)と呼ばれる。
【0049】
特定の実施形態では、第1の金属粒子は粒子径を有する。
【0050】
バインダー
本発明によれば、フィードストックは30~60体積%のバインダーを含む。好ましい実施形態では、混合物は、フィードストックの総体積に対して、35~55体積%のバインダー、および特に好ましくは36~50体積%のバインダーを含む。
【0051】
好ましくは、バインダーは、各場合にバインダーの総質量に対して、(b1)40~97.5質量%の少なくとも1つのポリオキシメチレン(POM)、(b2)2~35質量%の少なくとも1つのポリオレフィン(PO)、(b3)さらなるポリマー(FP)を含まないか、または0.5~20質量%の少なくとも1つのさらなるポリマー(FP)、および(b4)分散剤を含まないか、または0~5質量%の少なくとも1つの分散剤を含み、またはこれらから本質的になり、(b1)、(b2)、(b3)および(b4)の質量%は、合計で100%となる。
【0052】
好ましい実施形態において、バインダーは、各場合にバインダーの総質量に対して、(b1)62~94.95質量%の少なくとも1つのポリオキシメチレン(POM)、(b2)3~20質量%の少なくとも1つのポリオレフィン(PO)、(b3)さらなるポリマー(FP)を含まないか、または2~15質量%の少なくとも1つのさらなるポリマー(FP)、および(b4)0.05~3質量%の少なくとも1つの分散剤を含み、またはこれらから本質的になり、成分(b1)、(b2)、(b3)および(b4)の質量%は、通常は合計で100%となる。
【0053】
特に好ましくは、バインダーは、各場合にバインダー(B)の総質量に対して、(b1)83~92.9質量%の少なくとも1つのポリオキシメチレン(POM)、(b2)4~15質量%の少なくとも1つのポリオレフィン(PO)、(b3)3~10質量%少なくとも1つのさらなるポリマー(FP)、および(b4)0.1~2質量%の少なくとも1つの分散剤を含み、またはこれらから本質的になり、成分(b1)、(b2)、(b3)および(b4)の質量%は、合計で100%となる。
【0054】
本発明によれば、POMはPOとは異なり、POはFPとは異なり、FPは分散剤とは異なり、そして分散剤はPOMとは異なる。しかしながら、POM、PO、FPおよび分散剤は、同一の構成単位を含んでもよく、例えば、さらなる構成単位が異なってもよく、および/または分子量が異なってもよい。
【0055】
バインダーの成分(b1)POM、(b2)PE、(b3)FP、および(b4)分散剤については、以下でより詳細に記載する。
【0056】
ポリオキシメチレン
本発明によれば、バインダーは、40~97.5質量%のポリオキシメチレン(本明細書では「POM」とも称する)を含む。好ましい実施形態では、バインダーは、バインダーの総量に対して、62~94.95質量%のPOM、および特に好ましくは83~92.9質量%のPOMを含む。
【0057】
少なくとも1つのPOMをバインダーにおいて使用できる。本発明における「少なくとも1つのPOM」とは、正確に1つのPOM、および2つ以上のPOMの混合物も意味する。
【0058】
本発明の目的のために、「ポリオキシメチレン」または「POM」という用語は、POM自体、すなわちポリオキシメチレンホモポリマーと、ポリオキシメチレンコポリマーおよびポリオキシメチレンターポリマーとの両方を包含する。
【0059】
POMホモポリマーは、通常、ホルムアルデヒド源から選択されるモノマーの重合によって調製される。
【0060】
「ホルムアルデヒド源」という用語は、POMの調製の反応条件下でホルムアルデヒドを遊離させることができる物質を指す。
【0061】
ホルムアルデヒド源は、有利には、環状または直鎖状のホルマールの群から選択され、特にホルムアルデヒドおよび1,3,5-トリオキサンからなる群から選択される。1,3,5-トリオキサンが特に好ましい。
【0062】
POMコポリマーはそれ自体知られており、市販されている。それらは、通常、主モノマーとしてのトリオキサンの重合によって調製される。また、コモノマーが付随して使用される。主モノマーは、好ましくは、トリオキサンおよび他の環状または直鎖状のホルマールまたは他のホルムアルデヒド源から選択される。
【0063】
「主モノマー」という表現は、モノマーの総量、すなわち、主モノマーおよびコモノマーの合計におけるこれらのモノマーの割合が、モノマーの総量におけるコモノマーの割合よりも大きいことを示すものと意図されている。
【0064】
極めて一般的に、POMは、本発明によれば、主ポリマー鎖中に少なくとも50モル%の繰り返し単位-CHO-を有する。好適なポリオキシメチレン(POM)コポリマーは、特に、繰り返し単位-CHO-および0.01~20モル%、特に0.1~10モル%、および非常に特に好ましくは0.5~6モル%の式(I)
【化1】
の繰り返し単位を含むものであり、
式中、
~Rは、互いにそれぞれ独立して、H、Cアルキルおよびハロゲン置換Cアルキルからなる群から選択され、
は、化学結合、(-CR5a5b-)基および(-CR5a5bO-)基からなる群から選択され、
5aおよびR5bは、互いにそれぞれ独立して、Hおよび非置換または少なくとも一置換のCアルキルからなる群から選択され、置換基は、F、Cl、Br、OHおよびCアルキルからなる群から選択され、そして
nは、0、1、2または3である。
【0065】
nが0の場合には、Rは隣接炭素原子と酸素原子との間の化学結合である。Rが(-CR5a5bO-)基である場合には、(-CR5a5bO-)基の酸素原子(O)は、式(I)の別の炭素原子(C)に結合し、式(I)の酸素原子(O)に結合していない。換言すれば、式(I)は、過酸化物化合物を含まない。同じことは式(II)についても当てはまる。
【0066】
本発明の文脈において、例えば、式(I)中の基R~Rについて上記で定義したようなCアルキルなどの定義は、この置換基(基)が1~4の炭素原子数を有するアルキル基であることを意味する。アルキル基は、直鎖状または分岐状であってよく、そして任意に環状であってもよい。環状成分および直鎖状成分の両方を有するアルキル基も同様にこの定義に該当する。アルキル基の例は、メチル、エチル、n-プロピル、イソ-プロピル、ブチル、イソブチル、secブチルおよびtertブチルである。
【0067】
本発明の文脈において、例えば、式(I)中の基R~Rについて上記で定義したようなハロゲン置換C~C-アルキルなどの定義は、Cアルキルが少なくとも1つのハロゲンで置換されていることを意味する。ハロゲンは、F(フッ素)、Cl(塩素)、Br(臭素)およびI(ヨウ素)である。
【0068】
式(I)の繰り返し単位は、有利には、第1コモノマーとして環状エーテルの開環によってPOMコポリマー中に導入することができる。一般式(II)
【化2】
(式中、R~Rおよびnは、一般式(I)について上記で定義した意味を有する)
の第1コモノマーが好ましい。
【0069】
第1コモノマーとして、例えば、エチレンオキシド、1,2-プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,3-ジオキソランおよび1,3-ジオキセパンを環状エーテルとして、および直鎖状オリゴホルマールまたはポリホルマール、例えばポリジオキソランまたはポリジオキセパンが挙げられる。1,3ジオキソランおよび1,3ジオキセパンが特に好ましい第1コモノマーであり、1,3ジオキソランが第1コモノマーとして非常に特に好ましい。
【0070】
ホルムアルデヒド源を第1コモノマーおよび第2コモノマーと反応させることによって得ることができるPOMポリマーも同様に好適である。第2コモノマーの添加により、特に、POMターポリマーを調製することが可能となる。
【0071】
第2コモノマーは、好ましくは、式(III)
【化3】
の化合物および式(IV)
【化4】
の化合物からなる群から選択され、
式中、
Zは、化学結合、(-O-)基および(-ORO-)基からなる群から選択され、式中、Rは、非置換のCアルカンジイルおよびCシクロアルカンジイルからなる群から選択される。第2のコモノマーは、例えばさらなる添加剤として、第1のフィードストック、第2のフィードストック、または第1および第2のフィードストックの両方で使用してもよい。
【0072】
アルカンジイルは、2の自由原子価および1~8の炭素原子数を有する炭化水素である。本発明によるCアルカンジイルは、分岐状または非分岐状とすることができる。
【0073】
シクロアルカンジイルは、2の自由原子価および3~8の炭素原子数を有する環状炭化水素である。2の自由原子価、環状および直鎖状成分、および3~8の炭素原子数を有する炭化水素も同様にこの定義に該当する。
【0074】
第2コモノマー(b1c)の好ましい例は、エチレンジグリシジル、ジグリシジルエーテル、およびグリシジル化合物とホルムアルデヒド、ジオキサンまたはトリオキサンとの2:1のモル比から調製されたジエーテル、および同様に2モルのグリシジル化合物と2~8個の炭素原子を有する1モルの脂肪族ジオールとから調製されたジエーテル、例えば、エチレングリコール、1,4ブタンジオール、1,3ブタンジオール、1,3シクロブタンジオール、1,2プロパンジオールおよび1,4シクロヘキサンジオールのジグリシジルエーテルである。
【0075】
好ましい実施形態では、成分(b1)は、少なくとも50モル%のホルムアルデヒド源、0.01~20モル%の少なくとも1つの第1コモノマーおよび0~20モル%の少なくとも1つの第2コモノマー(b1c)の重合によって調製されるポリオキシメチレン(POM)コポリマーである。
【0076】
特に好ましい実施形態では、POMは、80~99.98モル%、好ましくは88~99モル%のホルムアルデヒド源、0.1~10モル%、好ましくは0.5~6モル%の少なくとも1つの第1コモノマー、および0.1~10モル%、好ましくは0.5~6モル%の少なくとも1つの第2コモノマーの重合によって調製されるPOMコポリマーであってよい。
【0077】
さらなる好ましい実施形態では、POMは、少なくとも50モル%のホルムアルデヒド源、0.01~20モル%の一般式(II)の少なくとも1つの第1コモノマー、および0~20モル%の、式(III)の化合物および式(IV)の化合物からなる群から選択される少なくとも1つの第2コモノマーの重合によって調製されるPOMコポリマーであってよい。
【0078】
本発明の好ましい実施形態では、POMのOH末端基の少なくとも一部はキャップされる。OH末端基をキャップする方法は、当業者に知られている。例えば、OH末端基は、エーテル化またはエステル化によってキャップすることができる。
【0079】
共押出に有用な好ましいPOMコポリマーは、少なくとも150℃、好ましくは150~200℃、最も好ましくは160~180℃の融点を有する。POMの融点は、加熱および冷却速度20K/分で、DIN EN ISO11357-3(2013-04)に従って、約8.5mgの試料質量で測定される。
【0080】
好ましいPOMコポリマーは、5000g/モル~300000g/モル、好ましくは10000~240000g/モル、特に好ましくは80000~220000g/モルの範囲の質量平均分子量Mを有する。
【0081】
好ましいPOMコポリマーは、数平均分子量M(以下に記載のように決定する)を、好ましくは8000~85000g/モルの範囲、好ましくは9000~38000g/モルの範囲で有する。
【0082】
共押出に有用な好ましいPOMコポリマーは、メルトフローレート(MFR)をISO1133-1に従って190℃および2.16kgを用いて、10g/10分以下、好ましくは0.5~8g/10分、最も好ましくは1~5g/10分で有する。
【0083】
1.4~14の多分散度(Mw/Mn)を有するPOMコポリマーが特に好ましく、Mw/Mnは、より好ましくは2.1~14の範囲である。
【0084】
ポリマーおよびPOMの分子量は、SEC装置(サイズ排除クロマトグラフィー)でサイズ排除クロマトグラフィーを用いて測定した。このSEC装置は、以下の別個のカラム:長さ5cm、直径8mmの予備カラムと、長さ30cm、直径7.5mmの2本目の直線状カラムの組み合わせで構成されていた。両カラムの分離材料は、Polymer Laboratories社のPLHFIPゲルであった。使用した検出器は、Agilent1100の示差屈折計を備えていた。ヘキサフルオロイソプロパノールに0.05%のカリウムトリフルオロアセテートを加えた混合物を溶離液として使用した。流速は1ml/分、カラム温度は35℃であった。溶離液1リットル当たり検体1.5gの濃度の溶液を60マイクロリットル注入した。この検体溶液は、あらかじめMillipor Millex FG(孔幅0.2マイクロメートル)でろ過してあった。校正には、分子量Mが800~2.220.000g/molのPSS(Mainz,DE)の狭分散PMMA標準試料を使用した。多分散度指数は、質量平均分子量を数平均分子量で割ったものとして定義される。
【0085】
質量平均分子量(M)および数平均分子量(M)の測定は、一般にゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって行われる。GPCはサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)としても知られている。
【0086】
POMの調製方法は、当業者に既知である。
【0087】
ポリオレフィン
バインダーは通常、2~35質量%のポリオレフィン(本明細書では「PE」とも称する)を含む。好ましい実施形態において、バインダーは、バインダーの総量に対して、3~20質量%のポリオレフィン、および特に好ましくは4~15質量%のポリオレフィンを含む。
【0088】
本発明によれば、ポリオレフィンは少なくとも1つのポリオレフィンである。本発明における「少なくとも1つのポリオレフィン」とは、正確に1つのポリオレフィン、および2つ以上のポリオレフィンの混合物も意味する。
【0089】
ポリオレフィンはそれ自体既知であり、市販されている。それらは通常、Cアルケンモノマーの重合によって、好ましくはCアルケンモノマーの重合によって調製される。
【0090】
本発明の文脈において、Cアルケンは、2~8個の炭素原子および少なくとも1つの炭素-炭素二重結合(C=C二重結合)を有する非置換または少なくとも一置換の炭化水素を意味する。「少なくとも1つの炭素-炭素二重結合」は、正確に1つの炭素-炭素二重結合および2つ以上の炭素-炭素二重結合を意味する。
【0091】
言い換えれば、Cアルケンは、2~8個の炭素原子を有する炭化水素が不飽和であることを意味する。炭化水素は、分岐状または非分岐状であってよい。1つのC=C-二重結合を有するCアルケンの例は、エテン、プロペン、1-ブテン、2-ブテン、2-メチル-プロペン(=イソブチレン)、1-ペンテン、2-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、2-ヘキセン、3-ヘキセンおよび4-メチル-1-ペンテンである。2つ以上のC-C-二重結合を有するCアルケンの例は、アレン、1,3-ブタジエン、1,4-ペンタジエン、1,3ペンタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(=イソプレン)である。
【0092】
アルケンが1つのC-C二重結合を有する場合、それらのモノマーから調製されるポリオレフィンは直鎖状である。1つを超える二重結合がC~C-アルケンに存在する場合、それらのモノマーから調製されるポリオレフィンは架橋され得る。直鎖状ポリオレフィンが好ましい。
【0093】
ポリオレフィンの調製中に異なるCアルケンモノマーを使用することによって調製されるポリオレフィンコポリマーを使用することも可能である。
【0094】
好ましくは、ポリオレフィンは、ポリメチルペンテン、ポリ-1-ブテン、ポリイソブチレン、ポリエチレンおよびポリプロピレンからなる群から選択される。当業者に知られており市販されているようなポリエチレンおよびポリプロピレンおよびそれらのコポリマーが特に好ましい。
【0095】
ポリオレフィンは、当業者に既知の如何なる重合プロセスによっても調製してよく、好ましくはフリーラジカル重合によって、例えばエマルション、ビーズ、溶液またはバルク重合によって調製してよい。可能な開始剤は、モノマーおよび重合の種類に応じて、ペルオキシ化合物およびアゾ化合物などのフリーラジカル開始剤であり、開始剤の量は一般にモノマーに対して0.001~0.5質量%の範囲である。
【0096】
さらなるポリマー
バインダーは、1~25質量%のさらなるポリマーをさらに含んでもよい。好ましい実施形態において、バインダーは、バインダーの総量に対して、2~20質量%のさらなるポリマー、および特に好ましくは4~16質量%のさらなるポリマーを含む。
【0097】
本発明によるさらなるポリマーは、少なくとも1つのさらなるポリマーである。本発明における「少なくとも1つのさらなるポリマー」とは、正確に1つのさらなるポリマー、および2つ以上のさらなるポリマーの混合物も意味する。
【0098】
既に上述したように、少なくとも1つのさらなるポリマーは、ポリオキシメチレン、ポリオレフィンおよび以下に記載する分散剤とは異なる。
【0099】
本発明によれば、少なくとも1つのさらなるポリマーは、好ましくは、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリエポキシド、ポリアミド、ビニル芳香族ポリマー、ポリ(ビニルエステル)、ポリ(ビニルエーテル)、ポリ(アルキル(メタ)アクリレート)およびそれらのコポリマーからなる群から選択される。
【0100】
好ましくは、さらなるポリマーは、ポリ(C~C-アルキレンオキシド)、脂肪族ポリウレタン、脂肪族非架橋エポキシド、脂肪族ポリアミド、ビニル芳香族ポリマー、脂肪族C~Cカルボン酸のポリ(ビニルエステル)、C~Cアルキルビニルエーテルのポリ(ビニルエーテル)、Cアルキルのポリ(アルキル(メタ)アクリレート)およびそれらのコポリマーからなる群から選択される。
【0101】
好ましいさらなるポリマーを、以下でより詳細に記載する。
【0102】
ポリエーテルは、式(V)
【化5】
の繰り返し単位を含み、
式中、
11~R14は、互いにそれぞれ独立して、H、Cアルキルおよびハロゲン置換Cアルキルからなる群から選択され、
15は、化学結合、(-CR15a15b-)基および(-CR15a15bO-)基からなる群から選択され、
式中、
15aおよびR15bは、互いにそれぞれ独立して、Hおよび非置換または少なくとも一置換のC1C4アルキルからなる群から選択され、置換基は、F、Cl、Br、OHおよびCアルキルからなる群から選択され、そして
nは、0、1、2または3である。
【0103】
nが0の場合には、R15は隣接炭素原子と酸素原子との間の化学結合である。R15が(-CR15a15bO-)基である場合には、(-CR15a15bO-)基の酸素原子(O)は、式(V)の別の炭素原子(C)に結合し、式(V)の酸素原子(O)に結合していない。換言すれば、式(V)は、過酸化物化合物を含まない。同じことは式(VI)についても当てはまる。
【0104】
典型的なポリエーテルおよびそれらの調製は当業者に知られている。
【0105】
本発明によれば、好ましいポリエーテルは、例えば、ポリ(アルキレンオキシド)としても知られているポリ(アルキレングリコール)である。
【0106】
ポリアルキレンオキシドおよびそれらの調製は当業者に知られている。それらは、通常、水および二価アルコールまたは多価アルコールと環状エーテル、すなわち、一般式(VI)のアルキレンオキシドとの相互作用によって合成される。反応は、酸性または塩基性の触媒によって触媒される。反応は、一般式(VI)
【化6】
の環状エーテルのいわゆる開環重合であり、
式中、
11~R15は、式(V)について上記で定義したのと同じ意味を有する。
【0107】
本発明によれば、好ましいポリ(アルキレンオキシド)は、環内に2~6個の炭素原子を有する一般式(VI)のモノマーに由来する。換言すれば、好ましくは、ポリ(アルキレンオキシド)は、ポリ(C~Cアルキレンオキシド)である。特に好ましくは、1,3ジオキソラン、1,3ジオキセパンおよびテトラヒドロフラン(IUPAC名:オキソラン)からなる群から選択されるモノマーに由来するポリ(アルキレンオキシド)である。換言すれば、特に好ましくは、ポリ(アルキレンオキシド)は、ポリ-1,3ジオキソラン、ポリ-1,3ジオキセパンおよびポリテトラヒドロフランからなる群から選択される。
【0108】
一実施形態では、ポリ(アルキレンオキシド)はOH末端基を含むことができる。別の実施形態では、ポリ(アルキレンオキシド)のOH末端基の少なくとも一部はキャップすることができる。OH末端基をキャップする方法は当業者に知られている。例えば、OH末端基は、エーテル化またはエステル化によってキャップすることができる。
【0109】
ポリ(アルキレンオキシド)の質量平均分子量は、好ましくは、1000~100000g/モル、特に好ましくは1200~80000g/モルの範囲、およびより好ましくは1500~50000g/モルの範囲である。
【0110】
ポリウレタンはカルバメート単位を有するポリマーである。ポリウレタンおよびその調製は当業者に既知である。
【0111】
本発明においては脂肪族ポリウレタンが好ましい。それらは、例えば、脂肪族ポリイソシアネートおよび脂肪族ポリヒドロキシ化合物の重付加によって調製することができる。ポリイソシアネートのうち、一般式(VII)
OCN-R-NCO (VII)
のジイソシアネートが好ましく、
式中、
は、置換または非置換のC~C20アルカンジイルまたはC~C20シクロアルカンジイルであり、置換基は、F、Cl、BrおよびCアルキルからなる群から選択される。
【0112】
好ましくは、Rは、置換または非置換のC12アルカンジイルまたはC15シクロアルカンジイルである。
【0113】
20アルカンジイルは、2の自由原子価および1~20の炭素原子数を有する炭化水素である。本発明によるC20アルカンジイルは、分岐状または非分岐状とすることができる。
【0114】
本発明の文脈において、C~C20シクロアルカンジイルなどの定義は、C20シクロアルカンジイルを意味する。C20シクロアルカンジイルは、2の自由原子価および4~20の炭素原子数を有する環状炭化水素である。2の自由原子価、環状およびさらに直鎖状成分、および4~20の炭素原子数を有する炭化水素も同様にこの定義に該当する。
【0115】
好ましいジイソシアネートは、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,2-ジイソシアナトメチルシクロヘキサン、1,4ジイソシアナトメチルシクロヘキサンおよびイソホロンジイソシアネート(IUPAC名:5-イソシアナト1(イソシアナトメチル)1,3,3トリメチル-シクロヘキサン)からなる群から選択される。
【0116】
ジイソシアネートはオリゴマーで、例えば二量体または三量体形態で使用してもよい。ポリイソシアネートの代わりに、例えば、フェノールまたはカプロラクタムの付加反応により、記載したイソシアネートから得られる従来のブロックポリイソシアネートを使用することも可能である。
【0117】
脂肪族ポリウレタンの調製に好適なポリヒドロキシ化合物は、例えば、ポリエステル、ポリエーテル、ポリエステルアミド、またはポリアセタール、またはそれらの混合物である。
【0118】
ポリウレタンの調製に好適な鎖延長剤は、低分子量ポリオール、特にジオールおよびポリアミン、特にジアミンまたは水である。
【0119】
ポリウレタンは、好ましくは熱可塑性であり、従って好ましくは本質的に未架橋であり、すなわち、それらは分解の有意な徴候を伴わずに繰り返し溶融できる。それらの低減された比粘度は、概して、ジメチルホルムアミド中30℃で測定して、0.5~3dl/g、好ましくは1~2dl/gである。
【0120】
ポリエポキシドは、少なくとも2つのエポキシド基を含む。エポキシド基は、グリシジル基またはオキシラン基としても知られている。「少なくとも2つのエポキシド基」は正確に2つのエポキシド基および3つ以上のエポキシド基も意味する。
【0121】
ポリエポキシドおよびその調製は、当業者に既知である。例えば、ポリエポキシドは、エピクロルヒドリン(IUPAC名:クロルメチルオキシラン)およびジオール、ポリオールまたはジカルボン酸の反応によって調製される。このようにして調製されたポリエポキシドは、エポキシド末端基を有するポリエーテルである。
【0122】
ポリエポキシドを調製する別の可能性は、グリシジル(メタ)アクリレート(IUPAC名:オキシラン-2-イルメチル-2-メチルプロプ-2-エノエート)とポリオレフィンまたはポリアクリレートとの反応である。これにより、エポキシ末端基を有するポリオレフィンまたはポリアクリレートが得られる。
【0123】
好ましくは、脂肪族未架橋ポリエポキシドが使用される。エピクロルヒドリンと2,2ビス(4-ヒドロキシフェニル)-プロパン(ビスフェノールA)とのコポリマーが特に好ましい。
【0124】
成分(b3)(少なくとも1つのさらなるポリマー(FP))は、ポリアミドも含むことができる。脂肪族ポリアミドが好ましい。
【0125】
好適なポリアミドの固有粘度は、一般に150~350ml/g、好ましくは180~275ml/gである。固有粘度は、ここでは、ISO307に従って25℃で96質量%の硫酸中0.5質量%のポリアミドの溶液から決定される。
【0126】
好ましいポリアミドは、半結晶質または非晶質ポリアミドである。
【0127】
成分(b3)として好適なポリアミドの例は、7~13環員を有するラクタムに由来するものである。他の好適なポリアミドは、ジカルボン酸とジアミンとの反応によって得られるものである。
【0128】
ラクタムに由来するポリアミドについて挙げられる例は、ポリカプロラクタム、ポリカプリロラクタム、および/またはポリラウロラクタムに由来するポリアミドである。
【0129】
ジカルボン酸およびジアミンから得ることができるポリアミドが使用される場合、使用できるジカルボン酸は、6~14個の炭素原子、好ましくは6~10個の炭素原子を有するアルカンジカルボン酸である。芳香族ジカルボン酸も好適である。
【0130】
ジカルボン酸としてここで言及し得る例は、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、およびテレフタル酸および/またはイソフタル酸である。
【0131】
好適なジアミンの例は、4~14個の炭素原子を有するアルカンジアミン、特に6~8個の炭素原子を有するアルカンジアミン、および芳香族ジアミン、例えば、m-キシリレンジアミン、ジ(4-アミノフェニル)メタン、ジ(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ジ(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ジ(4-アミノシクロヘキシル)-プロパン、および1,5-ジアミノ-2-メチルペンタンである。
【0132】
他の好適なポリアミドは、上述および後述のモノマーのうち2つ以上の共重合によって得ることができるもの、および複数のポリアミドの任意の所望の混合比の混合物である。
【0133】
好ましいポリアミドは、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレン-セバカミド、およびポリカプロラクタム、およびナイロン6/6,6、特に75~95質量%のカプロラクタム単位の割合を有するものである。
【0134】
ナイロン6と他のポリアミドとの混合物、特にナイロン6/6,6(PA6/66)との混合物が特に好ましく、80~50質量%のPA6と20~50質量%のPA6/66との混合物が特に好ましく、PA6/66は混合物中のPA6/66の総質量に対して75~95質量%のカプロラクタム単位を含む。
【0135】
以下の非限定的なリストは、上記のポリアミド、および他の好適なポリアミド、および含まれるモノマーを含む。
【0136】
ABポリマー:
PA4 ピロリドン
PA6 ε-カプロラクタム
PA7 エタノールラクタム
PA8 カプリロラクタム
PA9 9-アミノペラルゴン酸
PA11 11-アミノウンデカン酸
PA12 ラウロラクタム。
【0137】
AA/BBポリマー:
PA46 テトラメチレンジアミン、アジピン酸
PA66 ヘキサメチレンジアミン、アジピン酸
PA69 ヘキサメチルエンジアミン、アゼライン酸
PA610 ヘキサメチレンジアミン、セバシン酸
PA612 ヘキサメチレンジアミン、デカンジカルボン酸
PA613 ヘキサメチレンジアミン、ウンデカンジカルボン酸
PA1212 1,12-ドデカンジアミン、デカンジカルボン酸
PA1313 1,13-ジアミノトリデカン、ウンデカンジカルボン酸
PA6T ヘキサメチレンジアミン、テレフタル酸
PA MXD6 m-キシリレンジアミン、アジピン酸。
【0138】
PA6I ヘキサメチレンジアミン、イソフタル酸
PA6-3-T トリメチルヘキサメチレンジアミン、テレフタル酸
PA6/6T (PA6およびPA6Tを参照されたい)
PA6/66 (PA6およびPA66を参照されたい)
PA6/12 (PA6およびPA12を参照されたい)
PA66/6/610 (PA66、PA6およびPA610を参照されたい)
PA6I/6T (PA6IおよびPA6Tを参照されたい)
PA PACM6 ジアミノジシクロヘキシルメタン、アジピン酸
PA PACM12 ジアミノジシクロヘキシルメタン、ラウロラクタム
PA6I/6T/PACM PA6I/6T+ジアミノジシクロヘキシルメタンとして
PA12/MACMI ラウロラクタム、ジメチルジアミノジシクロヘキシルメタン、イソフタル酸
PA12/MACMT ラウロラクタム、ジメチルジアミノジシクロヘキシルメタン、テレフタル酸
PA PDA-T フェニレンジアミン、テレフタル酸。
【0139】
好ましいポリアミドは、PA6、PA66およびPA PACM6である。
【0140】
ビニル芳香族ポリマーは、モノマー単位として非置換または少なくとも一置換のスチレンを有するポリオレフィンである。好適な置換基は、例えば、C1C6アルキル、F、Cl、BrおよびOHである。好ましいビニル芳香族ポリマーは、ポリスチレン、ポリ-αメチルスチレン、およびアクリルエステルとアクリロニトリルとメタクリロニトリルとからなる群から選択されるコモノマーを最大30質量%有するそれらのコポリマーからなる群から選択される。
【0141】
ビニル芳香族ポリマーは市販されており、当業者に知られている。これらのポリマーの調製もまた、当業者に知られている。
【0142】
好ましくは、ビニル芳香族ポリマーは、フリーラジカル重合によって、例えばエマルション、ビーズ、溶液またはバルク重合によって調製される。可能な開始剤は、モノマーおよび重合の種類に応じて、過酸化物化合物およびアゾ化合物などのフリーラジカル開始剤であり、開始剤の量は一般にモノマーに対して0.001~0.5質量%の範囲である。
【0143】
ポリ(ビニルエステル)およびその調製は当業者に知られている。ポリ(ビニルエステル)は、ビニルエステルの重合によって好ましくは調製される。本発明の好ましい実施形態において、ビニルエステルは、脂肪族C1C6カルボン酸のビニルエステルである。好ましいモノマーはビニルアセテートおよびビニルプロピオネートである。これらのモノマーは、ポリ(ビニルアセテート)およびポリ(ビニルプロピオネート)ポリマーを形成する。
【0144】
ポリ(ビニルエーテル)は、ビニルエーテルモノマーの重合によって調製される。ポリ(ビニルエーテル)およびその調製は、当業者に知られている。好ましい実施形態では、ビニルエーテルは、脂肪族C1C8アルキルエーテルのビニルエーテルである。好ましいモノマーは、メチルビニルエーテルおよびエチルビニルエーテルであり、重合中にポリ(メチルビニルエーテル)およびポリ(エチルビニルエーテル)を形成する。
【0145】
好ましくは、ポリ(ビニルエーテル)は、フリーラジカル重合によって、例えばエマルション、ビーズ、溶液、懸濁液またはバルク重合によって調製される。可能な開始剤は、モノマーおよび重合の種類に応じて、過酸化物化合物およびアゾ化合物などのフリーラジカル開始剤であり、開始剤の量は一般にモノマーに対して0.001~0.5質量%の範囲である。
【0146】
本発明におけるポリ(アルキル(メタ)アクリレート)は、ポリ(アルキルアクリレート)、ポリ(アルキルメタクリレート)およびそれらのコポリマーを含む。ポリ(アルキル(メタ)アクリレート)は、式(VIII)
【化7】
のモノマーに由来する単位を含み、
式中、
は、HおよびC1C8アルキルからなる群から選択され、そして
は、式(IX)
【化8】
の基であり、
式中、R10は、C14アルキルである。
【0147】
好ましくは、Rは、HおよびC~C-アルキルからなる群から選択され、特に好ましくは、Rは、Hまたはメチルである。好ましくは、R10は、C~C-アルキルであり、特に好ましくは、R10は、メチルまたはエチルである。
【0148】
式(VIII)のRがHであり、Rが式(IX)の基であり、そして式(IX)のR10がメチルである場合には、式(VIII)のモノマーはメチルアクリレートである。
【0149】
式(VIII)のRがHであり、Rが式(IX)の基であり、そして式(IX)のR10がエチルである場合、式(VIII)のモノマーはエチルアクリレートである。
【0150】
式(VIII)のRがメチルであり、Rが式(IX)の基である場合には、式(VI)のモノマーは、メタクリル酸エステルである。
【0151】
ポリ(アルキル(メタ)アクリレート)は、モノマーとして、各場合にポリ(アルキル(メタ)アクリレート)の総量に対して、好ましくは40~100質量%のメタクリル酸エステル、特に好ましくは70~100質量%のメタクリル酸エステル、およびより好ましくは80~100質量%のメタクリル酸エステルを含む。
【0152】
別の好ましい実施形態では、ポリ(アルキル(メタ)アクリレート)は、モノマーとして、各場合にポリ(アルキル(メタ)アクリレート)の総質量に対して、20~100質量%のメチルアクリレート、エチルアクリレートまたはこれらの混合物、好ましくは40~100質量%のメチルアクリレート、エチルアクリレートまたはこれらの混合物、および特に好ましくは50~100質量%のメチルアクリレート、エチルアクリレートまたはこれらの混合物を含む。
【0153】
当業者には、成分(b1)、(b2)および(b3)の調製のための上記のモノマーが、重合反応中にそれらの構造の変化を起こす可能性があることが知られている。結果として、ポリマーの構成単位は、それらが由来するモノマーと同じではない。しかしながら、当業者には、どのモノマーがポリマーのどの構成単位に対応するかが知られている。
【0154】
配合または射出成形による処理の条件下では、成分(b1)、ポリオキシメチレン(POM)、および成分(b3)、少なくとも1つのさらなるポリマー(FP)の間でトランスアセタール化が実質的に起こらない、すなわち、コモノマー単位の交換が実質的に起こらない。
【0155】
融合フィラメント製造プロセスに特に有用である本発明の別の実施形態では、少なくとも1つのさらなるポリマー(FP)は、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリエポキシド、ポリアミド、ビニル芳香族ポリマー、ポリ(ビニルエステル)、ポリ(ビニルエーテル)、ポリ(アルキル(メタ)アクリレート)およびそれらのコポリマーからなる群から選択される。
【0156】
添加剤
本発明の一実施形態において、フィードストックは、0~5体積%の分散剤を含んでよい。好ましい実施形態において、混合物は、各場合に混合物の総体積に対して、0.05~3体積%の分散剤、および特に好ましくは0.1~3体積%の分散剤を含む。
【0157】
分散剤として、1つ以上の分散剤を使用してよい。
【0158】
有用な分散剤は一般に当該技術分野で既知である。例として、200~600g/モルの低分子量を有するオリゴマーポリエチレンオキシド、ステアリン酸、ステアラミド、ヒドロキシステアリン酸、脂肪アルコール、脂肪アルコールスルホネートおよびエチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロックコポリマー、および特に好ましくは脂肪酸エステルが挙げられる。
【0159】
本発明の一実施形態では、フィードストックはポリソルベートのような他の添加剤を含んでもよい。
【0160】
PTL形成
本発明によれば、PTLは以下の工程を実施することによって形成される。
【0161】
第1の工程において、第1の金属粒子と第1のポリマーバインダーとを含む第1のフィードストック、および第2の金属粒子と第2のポリマーバインダーとを含む第2のフィードストックが提供される。ここで、第1および第2のフィードストックは、40~70体積%の金属粉末含有量を有し、そして第1のフィードストックは第2のフィードストック中の粒子と比較して、より小さい平均粒子径の金属粒子またはより高い金属粉末含有量のいずれか、またはより小さい平均粒子径の金属粒子およびより高い金属粉末含有量の両方を有する。
【0162】
第2の工程では、第1および第2のフィードストックを共押出して、第1の層と第2の層とを含むフィルム形状のグリーン体を形成する。この共押出工程において、第2の層は、前記第1および第2のバインダーの溶融温度および/またはガラス転移温度よりも高い温度で第1の層に物質的に接続される。
【0163】
第2の工程の後に、フィルム形状のグリーン体を圧延またはカレンダー加工によりさらに後処理する任意の工程を設けてもよい。
【0164】
最後に、フィルム形状のグリーン体を脱バインダー、好ましくは触媒により脱バインダーしてブラウン体を形成し、次いで、非酸化性雰囲気下または真空下、好ましくは10-4mbar未満で、および700~1300℃の温度でブラウン体を焼結して、多孔質輸送層を形成する。
【0165】
一実施形態は、多層多孔質輸送層の製造方法であり、該方法は、以下の工程、
(a) 第1の金属粒子と第1のポリマーバインダーとを含む第1のフィードストックを提供し、そして第2の金属粒子と第2のポリマーバインダーとを含む第2のフィードストックを提供する工程であって
第1および第2のフィードストックが、40~70体積%の金属粉末含有量を有し、そして
第1のフィードストックが、第2のフィードストックと比較して
(i) より小さい平均粒子径の金属粒子、
(ii) より高い金属粉末含有量、または
(iii) より小さい平均粒子径の金属粒子およびより高い金属粉末含有量の両方
を有する、工程
(b) 第1および第2のフィードストックを共押出して、第1の層と第2の層とを含むフィルム形状のグリーン体を形成する工程であって、第2の層が、第1のポリマーバインダーおよび第2のポリマーバインダーの溶融温度および/またはガラス転移温度よりも高い温度で第1の層に物質的に接続される、工程、
(c) 任意に、フィルム形状のグリーン体を圧延またはカレンダー加工により平滑化する工程、
(d) フィルム形状のグリーン体を脱バインダーしてブラウン体を形成する工程、
(e) ブラウン体を非酸化性雰囲気または真空下および700~1100℃の温度で焼結して多孔質輸送層を形成する工程、
を含む。
【0166】
特に好ましい実施形態は、多層多孔質輸送層の製造方法であり、該方法は、以下の工程、
(a) 第1の金属粒子と第1のポリマーバインダーとを含む第1のフィードストックを提供し、そして第2の金属粒子と第2のポリマーバインダーとを含む第2のフィードストックを提供する工程であって
第1および第2のフィードストックが、40~70体積%の金属粉末含有量を有し、そして
第1のフィードストックが、第2のフィードストックと比較して
(i) より小さい平均粒子径の金属粒子、
(ii) より高い金属粉末含有量、または
(iii) より小さい平均粒子径の金属粒子およびより高い金属粉末含有量の両方
を有する、工程
(b) 第1および第2のフィードストックを共押出して、第1の層と第2の層とを含むフィルム形状のグリーン体を形成する工程であって、第2の層が、前記第1のポリマーバインダーおよび第2のポリマーバインダーの溶融温度および/またはガラス転移温度よりも高い温度で第1の層に物質的に接続される、工程、
(c) 任意に、フィルム形状のグリーン体を圧延またはカレンダー加工により平滑化する工程、
(d) フィルム形状のグリーン体を脱バインダーしてブラウン体を形成する工程、
(e) ブラウン体を非酸化性雰囲気または真空下および700~1100℃の温度で焼結して多孔質輸送層を形成する工程、
を含み、
第1のフィードストックおよび第2のフィードストックは、如何なる溶媒も含まず、
第1のフィードストックおよび第2のフィードストックは、ISO1133に従い190℃および21.6kgで50~700g/10分のメルトフローレートを有し、そして
第1のポリマーバインダー、第2のポリマーバインダー、または第1および第2のポリマーバインダーの両方が、ISO1133-1に従い190℃および2.16kgで1~5g/10分のメルトフローレートを有し、そして
第1のポリマーバインダー、第2のポリマーバインダー、または第1および第2のポリマーバインダーの両方が、
(i) 35~55体積%のポリオキシメチレン、
(ii) 2~10体積%のポリオレフィン、
(iii) 任意に3~10体積%のさらなるポリマー、および
(iv) 任意に0.5~5体積%の分散剤
を含む。
【0167】
フィードストック調製
工程(a)におけるフィードストックは、当業者に既知の任意の方法で調製してよい。好ましくは、フィードストックは、バインダーを溶融し、金属粉末中に混合することによって製造される。例えば、バインダーは二軸押出機で好ましくは150~220℃、特に170~200℃の温度で溶融できる。金属粉末はその後、同じ範囲の温度でバインダーの溶融物流に必要な量で計量供給される。あるいは、バインダーは、シグマニーダー押出機で、好ましくは150~220℃、特に170~200℃の温度で溶融してもよい。金属粉末はその後、同じ範囲の温度でバインダーの溶融物流に必要な量で計量供給される。
【0168】
好ましくは、第1のフィードストックおよび第2のフィードストックは、如何なる溶媒も含まない。
【0169】
さらに、配合ライン全体、すなわちホッパー、投入ユニット、二軸スクリュー押出機、造粒機などは、不活性ケース(inert cases)で洗浄できる閉鎖系として好ましくは設定され、粉砕チタンまたは一般的な粉砕金属粉末の安全な取り扱いを改善する。
【0170】
細孔径分布を決定するバインダーマトリックス内での金属粉末の分配および分散混合は、当業者に既知の方法で設計することができるスクリュー設計を適合させることによって影響を受け得る。
【0171】
配合中、バインダーは溶融し、そしてさらなる混合/均質化が行われる。分配および分散混合は、プロセス設計に基づいて調整することができる。特注のスクリュー設計は、当業者に既知の方法で実施できる。溶融ストランドはダイヘッドから押出され、そこで造粒され、そしてさらに冷却される。
【0172】
フィードストックを溶融し、そしてさらに均質化するために如何なる配合方法も使用することができ、例えば、限定するものではないが、ニーダー、遊星型押出機、二軸押出機などを使用できる。
【0173】
好ましい実施形態では、二軸スクリュー押出機が主な配合方法として使用され、これによって狭い単峰性または二峰性の細孔径分布が得られる。このようにして、PTLの酸素輸送特性が改善され、且つ圧力損失が低減されてPTLを介した水輸送が改善される。
【0174】
共押出
本発明によれば、第1および第2のフィードストックは、工程(b)において共押出されて第1の層および第2の層を含むフィルム形状のグリーン体を形成し、第2の層は、第1のポリマーバインダーおよび第2のポリマーバインダーの溶融温度および/またはガラス転移温度よりも高い温度で第1の層に物質的に接続される。
【0175】
共押出により、加工が簡略化され、1つの工程プロセスで2層以上のPTLを形成することができる。共押出は、2層または多層PTL内の気孔率および細孔径分布の勾配、すなわち、PTLの遷移相における如何なる不連続性または高多孔質領域の形成もなく、第1の層のより小さい気孔率および細孔径から第2の層のより高い気孔率および細孔径への連続的で平滑な遷移がもたらされる。さらに、第1、第2の層および任意のさらなる層の間の界面における内部応力が低減される。これらの結果、酸素-水輸送挙動がより良好になり、機械的特性がより良好になり、そして最終焼結PTLの欠陥(例えば、限定するものではないが、内部亀裂、隆起または表面の反り)が減少する。
【0176】
共押出は、典型的には、それぞれのフィードストックを供給するためのそれぞれの単軸または二軸スクリュー押出機を備えた、当該技術分野で既知の従来のキャストフィルム(共)押出機を使用して行われる。一実施形態では、溶融物は、複数の調節可能な加熱ゾーンを有する0.1~2mmの範囲のギャップを有するフラットダイを通して押出される。押出された溶融物は、ローラーシステムで供給されてさらに形状を低減させ、そして溶融物を冷却し、最終的にフィルム形状のグリーン体の目標最終厚さまで厚さを低減させる。
【0177】
任意に、第3、第4、またはそれ以上の層を共押出しして、グリーン体を得、その後に3、4、またはそれ以上の層を含むPTLを得てもよい。追加の層(複数可)は、第1または第2の層上に共押出してよい。層は、気孔率および平均細孔径が最も高い層がバイポーラプレートと接触し、気孔率および平均細孔径がより低い層が流れ、最終的に気孔率および平均細孔径が最も低い層が触媒層と接触するような順序で構成されるべきである。
【0178】
POMグレードの一部について、バインダー中の最大許容含水量が、バインダー全体に対して0.2質量%未満であることを確実にするのが有用であり得る。必要であれば、含水量を0.2質量%未満に低減するために予備乾燥を行ってよい。例として、予備乾燥は約100℃の温度で約3時間行ってよい。
【0179】
共押出成形について、175℃~220℃の溶融温度が好ましくは用いられる。このプロセスにより、三次元グリーン体が製造される。
【0180】
フィードストックは、全長Lが20~25D、および一定のフライトピッチが約1Dの3ゾーンスクリューで処理するのが特に有利である。しかしながら、短い圧縮スクリューを使用してもよい。
【0181】
溶融物の凝固および冷却の時間的および局所的な差により、特に層厚が低い場合に、応力が発生することがある。これらの応力は、後続の熱処理によって緩和される。高い寸法安定性が必要な場合には、焼戻し工程が必要な場合がある。焼戻しは、空気、液体ワックスまたは油中で、100℃~150℃、好ましくは110℃~130℃の温度で行ってよい。通常、壁厚1mmにつき10分の焼戻し時間が必要である。この工程は、脱バインダーと別にまたは同時に脱バインダーオーブンで行うことができる。
【0182】
材料の使用を最小限に抑え、面貫通抵抗率を低減し、そして多孔質輸送層の厚さを可能な限り小さく保つために、金属粉末およびバインダーから成形されるフィルムを、厚さ0.1mm~1mm、好ましくは厚さ0.1mm~0.5mmに設計するのが有利である。ここで、最小の層厚は、金属粉末画分の最大粒径またはふるいサイズによって決定され、最大粒径が小さいほど、フィルムの層厚も小さくすることができる。
【0183】
例えば、PEM電解槽の場合、微小孔層は、ポリマー電解質膜上に配置された触媒層と接触することが想定される。ここで、良好な導電性表面接触を確実にするために、本発明による方法のさらなる発展によれば、触媒、すなわち微細層の自由表面上に担持されることが想定される多孔質輸送層の側面の表面を、フィルム形状のグリーン体の圧延またはカレンダー加工によって平滑化することが想定される。
【0184】
好ましい実施形態では、フィルム形状のグリーン体の厚さは0.1~1mm、好ましくは0.1~0.5mmである。
【0185】
本発明の一実施形態では、メートル長のフィルム形状のグリーン体は、取り扱い、保管および移送を容易にするため、スプールに巻くのが好ましい。
【0186】
脱バインダー
共押出工程の後、バインダーの少なくとも一部を三次元グリーン体から除去する脱バインダー工程が続く。バインダーは、熱によりまたは触媒により除去する。触媒による脱バインダーが好ましい。
【0187】
バインダーの少なくとも一部を除去するため、三次元グリーン体は、ガス状酸を含む雰囲気で処理されることが好ましい。適切なプロセスは、例えば、US2009/0288739およびUS5145900に記載されている。このプロセス工程は、本発明によれば、好ましくは、バインダーの溶融温度未満の温度で行われる。一般に、脱バインダーは、20~150℃、および特に好ましくは100~140℃の範囲の温度で行われる。好ましくは、脱バインダー工程、0.1~24時間、特に好ましくは0.5~12時間、および最も好ましくは0.5~4時間の期間行う。
【0188】
必要な処理時間は、処理温度および処理雰囲気中の酸の濃度、および三次元物体の寸法および厚さによって異なる。
【0189】
触媒による脱バインダーは、共押出グリーン体に必要な焼戻し効果をもたらし、温度および重力により、大きなグリーンPTLをさらに平坦化する。これは、厚さ1mm未満のフィルム形状のグリーン体にとって特に重要である。さらに、この工程は、例えば輸送、保管などの間に、スプール上で先にロール状に巻かれたフィルム形状のグリーン体を平坦化するのに役立つ。
【0190】
触媒による脱バインダーは、脱バインダー反応速度を遅くする可能性をもたらし、これは、0.1mm~2mmのギャップを有する薄型フラットダイを高充填ポリマーメルトが迂回し、最終膜厚を調整するためのローラーシステム、および/またはその後のカレンダー加工が続く薄型平板共押出成形に起因する、PTL内の避けられない内部応力を緩和するのに好ましい。利用されるフィードストック混合物の熱的性質の違いによる応力に加えて。
【0191】
脱バインダーに好適な酸は、例えば、室温で気体であるか、または処理温度以下で気化することができる無機酸である。例として、ハロゲン化水素および硝酸が挙げられる。ハロゲン化水素は、フッ化水素、塩化水素、臭化水素およびヨウ化水素などである。好適な有機酸は、大気圧で130℃未満の沸点を有するもの、例えば、ギ酸、酢酸またはトリフルオロ酢酸およびそれらの混合物である。130℃を超える沸点を有する酸、例えばメタンスルホン酸は、より低沸点の酸および/または水との混合物として投入される場合、脱バインダー工程において利用することができる。プロセス工程(III)のために好ましい酸は、硝酸、10質量%のシュウ酸水溶液、または水中50体積%のメタンスルホン酸の混合物である。
【0192】
さらに、BFおよびその無機エーテルとの付加物を酸として使用することができる。
【0193】
キャリアガスを用いる場合は、一般に、キャリアガスを酸に通し、予め酸を負荷させておく。このようにして酸を負荷させたキャリアガスは、次に脱バインダーが実施される温度にされる。この温度は、酸の凝縮を避けるために、負荷温度よりも高いことが有利である。好ましくは、脱バインダーが実施される温度は、負荷温度より少なくとも1℃、特に好ましくは少なくとも5℃、および最も好ましくは少なくとも10℃高い。
【0194】
好ましくは、計量装置によって酸をキャリアガスに混合し、酸がもはや凝縮し得ない温度にガス混合物を加熱する。好ましくは、温度は、酸および/またはキャリアガスの昇華および/または気化温度より少なくとも1℃、特に好ましくは少なくとも5℃、および最も好ましくは少なくとも10℃高い。
【0195】
キャリアガスは、一般に、触媒による脱バインダー工程の反応条件下で不活性な任意のガスである。本発明によれば、好ましいキャリアガスは、窒素またはアルゴンであり、最も好ましくは窒素である。バインダーの除去は、減圧下で行ってもよい。
【0196】
触媒による脱バインダーは、好ましくは、バインダーのポリオキシメチレン(POM)が、POMの総質量に対して、少なくとも80質量%、好ましくは少なくとも90質量%、特に好ましくは少なくとも95質量%程度まで除去されるまで継続される。これは、例えば、質量減少の高さで確認できる。
【0197】
触媒による脱バインダー工程の温度で、三次元グリーン体に含まれる金属粉末が化学的および/または物理的反応を起こし得ることは、当業者に知られている。特に、金属粉末の粒子が一緒に融合し、固相遷移、および/または酸性雰囲気またはキャリアガスとの化学反応を起こし得る。
【0198】
バインダーについても同様である。触媒による脱バインダー工程の間に、バインダーの組成が変化し得る。
【0199】
焼結
グリーン体の脱バインダーの後、三次元ブラウン体を焼結する焼結工程(f)が続く。
【0200】
焼結後、三次元物体は三次元焼結体である。三次元焼結体は、初期の金属粉末の凝集体を含み、バインダーを本質的に含まない。
【0201】
本発明による「バインダーを本質的に含まない」とは、三次元焼結体が、5体積%未満、好ましくは2体積%未満、特に好ましくは0.5体積%未満、および最も好ましくは0.01体積%未満のバインダーを含むことを意味する。
【0202】
焼結プロセス中に金属粉末が一緒に焼結されて焼結無機粉末をもたらすことは当業者に知られている。さらに、焼結プロセスの間、金属粉末は、化学的および/または物理的反応を起こし得る。結果的に、三次元ブラウン体に含まれる金属粉末は、通常、三次元焼結体に含まれる焼結無機粉末とは異なる。
【0203】
焼結は、一般に、粒子を焼結させるのに十分な時間、ブラウン体を700~1300℃の温度に加熱することによって行ってよい。
【0204】
純チタン粒子の好ましい実施形態では、700~1100℃、好ましくは800~980℃、最も好ましくは850~950℃の焼結温度が使用される。例えば、PTLを同じ焼結保持時間で940℃の代わりに870℃で焼結することにより、気孔率を約15%増加させることができる。さらに、平均細孔径は2~4μm増加する。PTL全体(2層または3層PTL)は、同じ温度で同じ時間焼結される。
【0205】
本発明の一実施形態では、焼結は以下の温度プロファイルによって行われる:
i. 2~7℃/分の速度で550~650℃の温度に加熱する、
ii. 550~650℃の温度で0.5~1.5時間保持する、
iii. 2~7℃/分の速度で700~1000℃の温度に加熱する、
iv. 700~1000℃の温度で0.5~2時間保持する、および
v. 5~15℃/分の速度で周囲温度まで冷却する。
【0206】
本発明の別の実施形態では、焼結は以下の温度プロファイルによって行われる:
i. 2~7℃/分の速度で550~650℃の温度に加熱する、
ii. 550~650℃の温度で0.5~1.5時間保持する、
iii. 2~7℃/分の速度で650~800℃の温度に加熱する、
iv. 2~7℃/分の速度で800~1100℃の温度に加熱する、
v. 800~1100℃の温度で2~5時間保持する、および
vi. 5~15℃/分の速度で周囲温度まで冷却する。
【0207】
焼結工程は、好ましくは、アルゴン、窒素、水素、分圧バリアントまたはそれらの混合物の雰囲気を使用し、常圧で行う。減圧または真空の使用も可能である。真空中でチタン粉末を焼結する場合、10-4mbar未満の圧力が好ましい。
【0208】
本発明の一実施形態では、脱バインダーの後、且つ焼結の前に、工程(e)で得られた三次元ブラウン体を、好ましくは0.1~12時間、特に好ましくは0.3~6時間、好ましくは250~700℃、特に好ましくは250~600℃の温度で加熱して残留バインダーを完全に除去する。
【0209】
平滑化の代替としてまたは追加的に、この表面を化学的に、好ましくはエッチングによって粗面化することが有利である。特に、表面領域の多孔質と、表面が触媒層に接触する際の親密で導電性の接触は、この方法によって確保される。チタンから形成される多孔質輸送層では、このような酸洗手順は、例えば硫酸による処理によって影響を受ける。
【0210】
代替としてまたは追加的に、最終的なPTLは、Journal of Applied Electrochemistry(2018年)48:713-723に記載のように、例えば塩酸による後処理で表面処理してもよい。この場合、HClはTiO含有量を減少させることができ、これはPTLの電気伝導度を向上させる。これはPTLの効率と耐久性に肯定的に反映される。
【0211】
PTL
本発明による方法は、如何なる不連続性もない、特にPTLの2層間の遷移相における如何なる高多孔質帯もない、異なる気孔率の少なくとも2層を含むPTLを提供する。本発明による方法は、電気化学セル、例えば電池用、燃料セル用または電解槽用の多孔質輸送層の製造に使用できる。
【0212】
最終的なPTLの層(複数可)の気孔率は、金属粉末の負荷度(配合)および/または焼結温度を変えることによって変化させることができる。一般に、焼結温度を高くすると、実施形態が高密度に焼結するので、気孔率および平均細孔径が減少する。気孔率は、体積圧入水銀ポロシメトリー、圧力差法、流体飽和、または光学的方法によって測定することができる。好ましくは、気孔率は、DIN66133に従った体積圧入水銀ポロシメトリーによって測定される。
【0213】
既に上述したように、細孔径は、粉末の粒径および/またはバインダー/粉末の比を変えることによって主に制御される。
【0214】
細孔径および細孔径分布は、DIN66133に従った水銀体積圧入ポロシメトリー、またはISO4003およびASTM E1294に従った気泡点測定によって、好ましくはASTM規格F316に従ったPTLの貫通細孔の細孔直径径およびその径分布を測定するキャピラリーフローポロメトリー技術によって、それぞれ測定することができる。
【0215】
一実施形態では、(第1の)メソポーラス層は、触媒層の側で約5μm~約14μmのより小さい細孔径を有し、そして(第2の)金属多孔質層(基材)は、バイポーラプレートの側で約15μm~約40μmの細孔径を有する。
【0216】
好ましい実施形態では、PTLは30~65体積%の間の全体の気孔率を示す。好ましくは、第1の層で30~50体積%、および第2の層で40~65体積%の比気孔率が達成される。
【0217】
別の好ましい実施形態では、PTLは全体として5~40μmの細孔径を示す。
好ましくは、特定の第1の層5~14μm、第2の層14~40μm)。
【0218】
本発明によれば、2層または多層フィルムを共押出することにより、以下、
・ 少なくとも2つの共押出層間の界面にわたる気孔率の勾配
・ 少なくとも2つの共押出層間の界面にわたる平均細孔径の勾配、および
・ 2つの鋭いピークを有する二峰性分布
を示すPTLが製造される。
【0219】
本発明によるPTL製造の主な利点は、以下:
・ 全体的により良好な水(反応物)の輸送
・ より良好な酸素輸送
・ より良好な触媒との界面接触、ひいてはより良好な触媒利用性
・ より良好な機械的特性
・ より高い効率
・ より低い触媒担持に起因する総資本的支出の低減
である。
【0220】
あらゆるパーセント、ppm、または同等の値は、別段の指示がない限り、それぞれの組成物の総質量に対する質量を指す。あらゆる引用文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0221】
以下の実施例は、本発明の範囲を制限することなく、本発明をさらに説明するものである。
【実施例
【0222】
メルトフローレート(MFR)は、ISO1133-1に従って190℃および2.16kg(バインダーについて)または21.6kg(フィードストックについて)で測定した。
【0223】
金属粉末の粒子径は、Beckman Coulter LS13320で行った静的光散乱測定によって決定した。
【0224】
気孔率は、DIN66133に従った体積圧入水銀ポロシメトリーにより測定した。
【0225】
細孔径直径および細孔径分布は、DIN66133に従った水銀体積圧入ポロシメトリーを用いて測定した。
【0226】
実施例1
粉末粒径D50=33μmの球状Ti金属粉末を調達した。
【0227】
この粉末を共回転二軸押出機を用いて液体添加剤およびバインダーと混合/配合することによってフィードストックに変換した。第1および第2のフィードストックをそれぞれ表1及び2に示す。
【0228】
【表1】
【0229】
【表2】
【0230】
フラットダイ共押出機を使用し、約190℃のノズル温度、および20~40m/分のスクリュー速度でフィードストック1および2を共押出し、厚さ500μmのフィルムグリーン体を製造した。
【0231】
D50=33μmの同じ粉末粒径を有するが、表1および2に示す2つの異なるレシピの2つの異なるフィードストックを共押出し、2層構造のフィルムを製造した。
【0232】
この「グリーン」PTLを圧延およびカレンダー加工によってさらに成形し、最終的なPTLの形状、表面仕上げおよび厚さを得た。
【0233】
製造された2層構造のPTL(グリーン部品)を、直接触媒により脱バインダーし、部品全体として焼結して、強固で欠陥のない構造のブラウン体を得た。
【0234】
これらのグリーン体を、アルゴン、真空または水素雰囲気下、モリブデン炉で焼結した。以下の温度プロファイルを利用した:
i. 2~7℃/分の速度で550~650℃の温度に加熱する、
ii. 550~650℃の温度で0.5~1.5時間保持する、
iii. 2~7℃/分の速度で720~940℃の温度に加熱する、
iv. 720~940℃の温度で0.5~2時間保持する、および
v. 5~15℃/分の速度で周囲温度まで冷却する。
【0235】
結果を表3に示す。
【0236】
【表3】
【0237】
実施例2
粉末粒径D50=33μmおよびD50=70μmのTi金属粉末を、第1および第2のフィードストック用にそれぞれ調達した。
【0238】
この粉末を共回転二軸押出機を用いて液体添加剤およびバインダーと混合/配合することによってフィードストックに変換した。第1および第2のフィードストックをそれぞれ表4および5に示す。
【0239】
【表4】
【0240】
【表5】
【0241】
フィードストック1および2を、フラットダイ共押出機、ノズル温度約210℃、およびスクリュー速度10~40m/分で共押出し、厚さ400μmのフィルムグリーン体を製造した。
【0242】
50=33μmおよびD50=70μmの異なる粉末粒径、および表3および4に示す2つの異なるレシピを有する2つの異なるフィードストックを共押出し、2層構造のフィルムを製造した。
【0243】
これらのグリーン体を圧延およびカレンダー加工によってさらに成形し、最終的なPTLの形状、表面仕上げおよび厚さを得た。
【0244】
製造された2層構造のグリーン体を、直接触媒により脱バインダーし、部品全体として焼結して、強固で欠陥のない構造のブラウン体を得た。
【0245】
これらのグリーン体を、モリブデン炉で真空下10-4mbar以下の圧力で焼結した。以下の温度プロファイルを利用した:
i. 2~7℃/分の速度で550~650℃に加熱する、
ii. 550~650℃の温度で0.5~1.5時間保持する、
iii. 2~7℃/分の速度で875~1000℃の温度に加熱する、
iv. 875~1000℃の温度で1~4時間保持する、および
v. 5~15℃/分の速度で周囲温度まで冷却する。
【0246】
得られたPTLを図1に示す。これは焼結2層PTLの断面SEM写真を示し、2層間の界面が平滑であることを示す。第1の層(触媒層と接触している)は、D50=33μmのチタン粉末と100μmの層厚を有するフィードストックをベースとし、上部の第2の層は、D50=70μmのチタン粉末と380μmの層厚を有するフィードストックをベースとしている。2層PTLの総厚さは480μm±25μmであった。平滑な遷移相を破線で強調する。
【0247】
図2は、平滑な表面及び±25μm未満の厚さの許容差を有し、且つ欠陥のない最終的な焼結2層PTLを示す。
図1
図2
【国際調査報告】