(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-02
(54)【発明の名称】光電子用途のための半導体構造体
(51)【国際特許分類】
H01S 5/183 20060101AFI20240925BHJP
H01S 5/323 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
H01S5/183
H01S5/323
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024507100
(86)(22)【出願日】2022-09-08
(85)【翻訳文提出日】2024-04-01
(86)【国際出願番号】 FR2022051695
(87)【国際公開番号】W WO2023047037
(87)【国際公開日】2023-03-30
(32)【優先日】2021-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598054968
【氏名又は名称】ソイテック
【氏名又は名称原語表記】Soitec
【住所又は居所原語表記】Parc Technologique des fontaines chemin Des Franques 38190 Bernin, France
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】フィグエ, クリフトフ
(72)【発明者】
【氏名】フエット, イザベル
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AC03
5F173AC13
5F173AC26
5F173AH02
5F173AQ03
5F173AR94
(57)【要約】
本発明は、光電子用途のための半導体構造体(150)であって、
-結晶性半導体で作製された第1の層(10)と、
-直接接合界面を含むか、または直接接合界面に隣接する中間層(50)と、
-結晶性半導体で作製された第2の層(40)と、
を備え、
第1の層(10)が、中間層(50)上に配置されており、中間層(50)が、第2の層(40)上に配置されており、
半導体構造体(150)が、中間層(50)が第1および第2の層(10、40)の材料とは異なる材料で構成されており、かつ中間層(50)の減衰係数が100未満であり、中間層(50)の屈折率が
-中間層(50)に隣接する第1の層(10)の少なくとも1つの副層の屈折率および
-中間層(50)に隣接する第2の層(40)の少なくとも1つの副層の屈折率
とは0.3未満の差であることを特徴とする、
半導体構造体(150)に関する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電子用途のための半導体構造体(150)であって、
結晶性半導体で作製された第1の層(10)と、
直接接合界面を含むか、または前記直接接合界面に隣接する中間層(50)と、
結晶性半導体で作製された第2の層(40)と、
を備え、
前記第1の層が、前記中間層(50)上に配置されており、前記中間層が、前記第2の層(40)上に配置されており、
前記半導体構造体(150)が、前記中間層(50)が前記第1および第2の層(10、40)の材料とは異なる材料で構成されており、かつ前記中間層(50)が100未満の減衰係数、ならびに
前記中間層(50)に隣接する前記第1の層(10)の少なくとも1つの副層の屈折率および
前記中間層(50)に隣接する前記第2の層(40)の少なくとも1つの副層の屈折率
とは0.3未満の差の屈折率を有することを特徴とし、
前記第1の層(10)の前記半導体が、ヒ化ガリウムであり、前記第2の層(40)の前記半導体が、ヒ化ガリウムであり、前記中間層(50)の前記材料が、シリコンである、
半導体構造体(150)。
【請求項2】
前記中間層(50)の前記材料が、アモルファスである、請求項1に記載の半導体構造体(150)。
【請求項3】
前記第1の層(10)の前記材料が、エピタキシのためのシードを形成するように高結晶品質の単結晶である、請求項1または2に記載の半導体構造体(150)。
【請求項4】
前記第1の層(10)が、垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL)のすべてまたは一部を形成する、請求項1または2に記載の半導体構造体(150)。
【請求項5】
前記第2の層(40)が、30%よりも高い光透過性を有するキャリア基板である、先行する2つの請求項の1つに記載の半導体構造体(150)。
【請求項6】
前記中間層(50)の前記減衰係数が、1未満である、請求項1~5のいずれか一項に記載の半導体構造体(150)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明の分野は、半導体の分野、特に光電子の分野である。本発明は、中間層を介して第2の層に結合された結晶性半導体で作製された第1の層を備える半導体構造体であって、中間層が、第1および第2の層の屈折率に非常に近い屈折率を有する、半導体構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の技術的背景)
垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL)は、特に携帯電話の分野における顔認識、ならびに自動車産業向けの光検出および測距(lidar)の、新興の大量市場用途に向けてますます開発されている。
【0003】
VCSEL100は、エピタキシャル成長の連続ステップにより、III-V族半導体層の積層体によって製造されている(
図1aおよび
図1b)。各層の組成、ドーピング、および厚さは、一方では、レーザビームが生成されることを可能にする1つ以上の量子井戸からなる活性領域2を形成し、他方では、活性領域2を挟み、かつ高屈折率および低屈折率の層の交互からなる2つのブラッグミラー3a、3bを形成するように精密に制御されている。
【0004】
図1aに示すように、バルク基板1上にVCSEL100の層の積層体を形成することが知られており、例えば、650nm~1300nmのレーザ波長に対してはヒ化ガリウム(GaAs)で作製されたものであるか、または1300nm~2000nmのレーザ波長に対してはリン化インジウム(InP)で作製されたものである。高性能VCSEL100を得るために、前記バルク基板1は、エピタキシャルシードの役割をしっかりと果たし、かつ層の積層体が高品質であることを保証するために、優れた品質を有さなければならない。
【0005】
あるいは、高品質のバルク基板の使用に関連するコストの問題に対処するために、薄い高品質の作業層10が、その特質がより適度であり、かつ/または他の制約、例えばVCSEL100の集積もしくはパッケージングに合わせて調整されたキャリア基板1’に移転させられ得る(
図1b)。このような作業層のキャリア基板への移転は、文献国際公開第2021/125005号に特に提案されている。
【0006】
1つ以上の薄い層の移転は、VCSEL自体の製造の状況においても有用であり得る。例えば、ブラッグミラー3a、3bが、組成およびドーピングに対する制限(エピタキシャル成長技術による)のために非常に多数の層の交互を必要とする場合、薄い層のセット(ブラッグミラー)を、エピタキシによって成長させるのではなく移転させることがより好ましい場合がある。例えば、A.Syrbuらによる「1.5-mW single-mode operation of wafer-fused 1550-nm VCSELs」、IEEE Photonics Technology Letters、第16巻第5号第1230~1232頁、2004年5月の論文が参照され得る。
【0007】
移転が採用されるときはいつでも、薄い作業層10とキャリア基板1’との間の結合部は、前記層10の高品質が維持され、かつVCSEL100の動作に生じる妨害を防止することを可能にしなければならない。両方ともIII-V族半導体で作製された薄い作業層10とキャリア基板1’との間の直接接合は、結合される表面を化学的に調製するために実行される複数のステップを必要とし、これらのステップは複雑であり、したがって高価であることが判明し得るという事実から、問題が生じ得る。
【発明の目的】
【0008】
本発明は、第1の層の第2の層への移転を採用して、VCSELの製作、より一般には光電子部品の製作を簡素化する解決策を提供する。本発明は、特に、中間層を介して第2の層に結合された結晶性半導体で作製された第1の層を備える半導体構造体であって、第2の層もまた結晶性半導体で作製されており、中間層が、第1の層の少なくとも1つの副層の屈折率および第2の層の少なくとも1つの副層の屈折率に非常に近い屈折率を有し、前記副層が、中間層に隣接する、半導体構造体に関する。中間層は、非常に低い減衰係数をさらに有する。
【発明の概要】
【0009】
(発明の簡単な説明)
本発明は、光電子用途のための半導体構造体であって、
-結晶性半導体で作製された第1の層と、
-直接接合界面を含むか、または直接接合界面に隣接する中間層と、
-結晶性半導体で作製された第2の層と、
を備え、
前記第1の層が、中間層上に配置されており、中間層が、第2の層上に配置されている、半導体構造体に関する。
【0010】
半導体構造体は、中間層が第1および第2の層の材料とは異なる材料で構成されており、かつ中間層の屈折率が
-中間層に隣接する第1の層の少なくとも1つの副層の屈折率および
-中間層に隣接する第2の層の少なくとも1つの副層の屈折率
とは0.3未満の差であるという点で注目に値する。
【0011】
中間層は、100未満の減衰係数をさらに有する。
【0012】
単独で、または任意の達成可能な組合せで実装され得る本発明のいくつかの有利な特徴によれば、
・中間層の減衰係数は、10未満か、もしくはさらには1未満か、または実際にはさらに好ましくは可能な限り0に近く、
・中間層の材料は、アモルファスであり、
・第1の層の材料は、エピタキシのためのシードを形成するように高結晶品質の単結晶であり、
・第1の層は、垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL)のすべてまたは一部を形成し、
・第2の層は、30%よりも高い光透過性を有するキャリア基板であり、
・第1の層の半導体は、ヒ化ガリウムであり、第2の層の半導体は、ヒ化ガリウムであり、中間層の材料は、シリコンであり、
・第1の層は、垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL)の活性領域であり、第2の層は、前記レーザの多層ブラッグミラーであり、
・第1の層の半導体は、リン化インジウムであり、中間層に隣接する第2の層の少なくとも1つの副層の半導体は、ヒ化ガリウムであり、中間層の材料は、リン化亜鉛ゲルマニウムまたは炭化ホウ素またはヒ化亜鉛シリコンである。
【0013】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図を参照して、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1a】先行技術による、VCSELを製作するための半導体構造体を示す。
【
図1b】先行技術による、VCSELを製作するための半導体構造体を示す。
【
図3】本発明の第1の実施形態による半導体構造体を示す。
【
図4a】本発明の第1の実施形態による半導体構造体を製作するためのプロセスのステップを示す。
【
図4b】本発明の第1の実施形態による半導体構造体を製作するためのプロセスのステップを示す。
【
図4c】本発明の第1の実施形態による半導体構造体を製作するためのプロセスのステップを示す。
【
図4d】本発明の第1の実施形態による半導体構造体を製作するためのプロセスのステップを示す。
【
図4e】本発明の第1の実施形態による半導体構造体を製作するためのプロセスのステップを示す。
【
図4f】本発明の第1の実施形態による半導体構造体を製作するためのプロセスのステップを示す。
【
図4g】本発明の第1の実施形態による半導体構造体を製作するためのプロセスのステップを示す。
【
図5a】本発明の第1の実施形態の変形例による半導体構造体を製作するためのプロセスのステップを示す。
【
図5f】本発明の第1の実施形態の変形例による半導体構造体を製作するためのプロセスのステップを示す。
【
図6a】本発明の第2の実施形態による半導体構造体を示す。
【
図6b】本発明の第2の実施形態による半導体構造体を示す。
【
図6c】本発明の第2の実施形態による半導体構造体を示す。
【発明の詳細な説明】
【0015】
図は、読みやすさのために縮尺通りに描かれていない概略図である。特に、z軸に沿った層の厚さは、x軸およびy軸に沿った横方向寸法に対して一定の縮尺ではない。
【0016】
図では、同じ性質の要素に対して同じ参照符号が使用されている場合がある。
【0017】
本発明は、光電子用途に合わせて特別に調整された半導体構造体150に関する。
【0018】
半導体構造体150は、結晶性半導体で作製された第1の層10を備え、前記層は、中間層50上に配置されており、中間層50自体は、結晶性半導体で作製された第2の層40上に配置されている。
図2に示すように、これらの層10、40、50は、主平面(x、y)に対して平行に横たわり、z軸に沿った厚さを有する。慣例により、半導体構造体150の前面150aは、第1の層10の側に位置し、半導体構造体150の裏面150bは、第2の層40の側に位置する。
【0019】
半導体構造体150は、ウェハの形態をとり得、ウェハの直径は、例えば50mm~200mmであり、この場合、後に切り離される可能性がある複数の光電子部品に対応することを意図している。あるいは、半導体構造体150は、1つの光電子部品または部品のグループに対応する、より小さいサイズのダイの形態をとり得る。
【0020】
第1の層10および第2の層40を形成する結晶性半導体はそれぞれ、同じ性質のものであってもよいし、異なる性質のものであってもよい。光電子部品の製造を目的として、結晶性半導体は、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム、リン化インジウム、および他の二元、三元、または四元III-V族化合物などのIII-V族半導体化合物から好適に選択される。第1の層10(および/または第2の層40)は、異なるドーピングまたは組成の副層の積層体で構成されているか、または均一な組成を有する場合があることに留意されたい。
【0021】
本発明による半導体構造体150は、直接接合界面51をさらに備え、前記界面51は、中間層50内に含まれるか、または中間層50に隣接する。直接接合とは、接着材料を必要とせず、結合された表面間の分子接着に基づく接合を意味する。直接接合にはいくつかの種類があり、特に温度条件、圧力条件、雰囲気、または表面を接触させる前に実行される処理が異なる。結合される表面の事前のプラズマ活性化、原子拡散接合(ADB)、表面活性化接合(SAB)などを伴うまたは伴わない室温直接接合が挙げられる。
【0022】
半導体構造体150は光電子用途を対象としているため、半導体構造体150の構成層のすべてまたは一部は光信号を通過させることが意図されており、典型的には、構造体150上に製造された光電子部品は、光電子部品の種類および光電子部品の性質に応じて、半導体構造体150の前面150aまたは裏面150bを通して光信号を送信または受信する場合があることとなる。
【0023】
半導体構造体150が一般的な特性となり、多種多様な種類の光電子部品に対応することができるように、中間層50の屈折率は、
-第1の層の少なくとも1つの副層の屈折率であって、前記副層が、中間層50に隣接する、屈折率および
-第2の層40の少なくとも1つの副層の屈折率であって、前記副層が、中間層50に隣接する、屈折率
とは0.3未満、またはさらには0.2未満の差である。
【0024】
換言すれば、第1の層10(第2の層40それぞれ)が積層された副層から形成された場合、中間層50と接触する副層と前記中間層50との間の屈折率の差は、0.3未満か、またはさらには0.2未満である。第1の層10(第2の層40それぞれ)が均一な組成を有する場合、第1の層10(第2の層40それぞれ)と中間層50との間の屈折率の差は、0.3未満か、またはさらには0.2未満である。
【0025】
さらに、中間層50は、前記層50を通過するように意図された光信号の減衰を制限するために、100未満か、もしくはさらには10未満か、または実際にはさらには1未満か、好ましくはまた可能な限り0に近い減衰係数kを有する。これは、中間層50の物理化学的および機械的特質が、低い減衰係数を保証するように選択されることを意味する。
【0026】
材料の屈折率は、複素数(n+ik)であり、実数部n(前述の屈折率)および虚数部k(減衰係数)を有するとみなされ得ることが想起されるであろう。
【0027】
構造体150の中間層50は、さらに、特にこの層が追加の役割、すなわち第1の層10と第2の層40との接合を促進する役割を果たすため、第1および第2の層10、40の材料とは異なる材料で構成されている。
【0028】
例として、第1の層10の屈折率が3に等しい場合、第2の層40の屈折率は、[3+0.3=3.30]~[3-0.3=2.70]であり、中間層50の屈折率もまた同様である。中間層50の減衰係数は、中間層50の部分について、100未満か、10未満か、または1未満である。
【0029】
したがって、半導体構造体150の中間層50は、光信号が前記中間層50を通過しなければならない場合に、光信号を妨害しないか、またはほとんど妨害しない。さらに、中間層50は、第1の層10と第2の層40との間の直接接合を促進し、それにより、第1の層10と第2の層40とが結合される前に実行される表面調製ステップが単純化され、中間層50の材料は、特に、表面調製ステップの調製を容易にするために選択されており、前記材料は、層10と層40との間の応力を制限しながら、結合形成に有利な低温での原子の配列をさらに可能にする。また、減衰係数が低いほど(すなわち、0に近づくほど)、中間層50の厚さの選択の自由度が大きくなることに留意されたく、換言すれば、非常に低い減衰係数で、より厚い中間層50が採用され得、これは、直接接合の品質を高める有利な方法であることを証明し得る。
【0030】
半導体構造体150において、様々な層10、50、40、または副層の間の界面粗さは、好ましくは、前記界面での光信号の散乱を制限するために、約5nmRMS未満(原子間力顕微鏡(AFM)によって10ミクロン×10ミクロンの走査で測定される)に保たれる。
【0031】
好適には、それらの結晶格子が整列していないかつ/またはそれらの格子パラメータが異なる2つの材料の接合に関連する応力場を制限するように、かつ接合界面でのナノバブルの形成を回避するように、中間層50の材料はアモルファスである。
【0032】
本発明の第1の実施形態によれば、半導体構造体150は、レーザ信号が裏面150bを通して放射されるような構成でVCSELに対応するように意図されている。
【0033】
第1の層10の材料は、2つのブラッグミラー3a、3b間に挟まれた活性領域2を備える層の積層体のエピタキシャル成長のためのシードを形成するように意図された高品質の単結晶である。第2の層40は、高い光透過性(潜在的に第1の層10の光透過性よりも良好)を有し、典型的には30%よりも高い、キャリア基板40である。好適には、本質的に経済的な理由から、キャリア基板40は、第1の層10よりも結晶品質が低い(
図3)。
【0034】
典型的には、第1の層10の半導体は、欠陥のない成長を可能にする結晶品質を有するヒ化ガリウム(GaAs)であり、典型的には、対象とする用途に合わせて調整され、500/cm2未満の転位密度を有するn型GaAs(約1018at/cm3)である。第1の層10の厚さは、50~1500nmである。
【0035】
第2の層40の半導体はヒ化ガリウムであり、対象部品の動作長さにおいて、第1の層10の材料よりも低い吸光度(良好な光透過性)を有する。半導体構造体150のキャリア基板40を形成する第2の層40は、本質的に機械的キャリアの役割を果たすという点で、高い結晶品質を必要としない。第2の層40の厚さは、例えば200~2000ミクロンである。VCSELが裏面150bを通して放射するために必要とされるキャリア基板40を通る光信号の通過を考慮して、キャリア基板40のヒ化ガリウムは、光信号の吸収を制限し、したがってVCSELの効率を高めるために、半絶縁性であるようにさらに選択される。
【0036】
約900nmの光信号の波長に対して、第1の層10およびキャリア基板40は、3.52に等しい屈折率を有する。
【0037】
中間層50の材料は、シリコン(Si)、特にアモルファスシリコンである。中間層50の厚さは、1nm~100nmで変動し得る。約900nmの光信号の波長に対して、中間層50は、3.6に等しい屈折率および0に非常に近い減衰係数を有する。
【0038】
この第1の実施形態による半導体構造体150は、接合および薄化によって層を移転させるための既知の先行技術のプロセスを用いて製造され得る。特に、非常に薄い層を移転させるのに特に適したSmart Cut(商標)プロセスが挙げられ得る。
【0039】
第1のステップa)は、第1の層10が取り出されることとなるドナー基板11を提供することから構成されている(
図4a)。ドナー基板11は、第1の層10に期待される特質および特性を有するバルクGaAs基板から構成され得る。あるいは、ドナー基板11は、初期基板11aと、例えば、初期基板11a上にエピタキシによって形成された1つ以上の高品質表面層11bと、を備え得、次いで、第1の層10は、前記1つ以上の表面層11bから取り出されることとなる。
【0040】
第2のステップb)は、半導体構造体150の第2の層40を形成するように意図されたキャリア基板40を提供することから構成されている(
図4b)。GaAsキャリア基板40の品質および特性は、上述のように、対象とする用途に合わせて調整される。
【0041】
次いで、第3のステップc)において、アモルファスSiで作製された接合層5が、ドナー基板11上および/またはキャリア基板40上に蒸着され(
図4c)、2つの基板11、40が結合された後、この(またはこれらの)接合層5は、構造体内に埋め込まれ、中間層50を形成することとなる。Si接合層5は、化学気相成長(CVD)(例えば、プラズマ強化化学気相成長(PECVD)など)、またはエピタキシもしくはさらには物理気相成長(PVD)を採用する既知の技術を用いて形成され得る。堆積は、典型的には、200℃~700℃の温度で実行される。接合層5の典型的な厚さは、1nm~20nmである。
【0042】
第4のステップd)は、ドナー基板11の前面に対して、移転させられることとなる層、すなわち第1の層10を視覚的に示す埋込み弱化平面12を形成するように、軽イオンをドナー基板11に導入することを含む(
図4d)。典型的には、GaAsドナー基板を用いて、ヘリウムもしくは水素またはこれらの両方のイオンを、1
E+16at/cm
2~5
E+17at/cm
2のドーズで、約100keVのエネルギーでイオン注入することにより、ヘリウムイオン(水素イオンそれぞれ)の注入の場合に500nm(700nmそれぞれ)の厚さの第1の層10を移転させることが可能となる、埋込み弱化平面12が形成されることが可能となる。潜在的な有機または金属の粒子汚染を除去するように、表面調製および洗浄が注入の前および/または後に実行される可能性があることに留意されたい。
【0043】
第5のステップe)は、接合界面51に沿って接合されたアセンブリを形成するように、ドナー基板11をキャリア基板40に結合することを含む(
図4e)。この結合ステップは、2つの基板11、40を、1つ以上の接合層5が設けられた基板11、40の前面を介して密接に接触させることから構成されている。上述したように、室温直接接合、または代替的に雰囲気下および制御された温度での直接接合(ADBまたはSAB)が採用され得る。当然ながら、結合される側面が接触する前に実行される表面洗浄または活性化(例えば、プラズマを使用する)が提供されてもよい。これらの表面調製は、シリコンの接合の前に必要とされる洗浄および/または活性化が、半導体産業においてさらによく理解されている従来のステップおよび機器を必要とするため、III-V族材料を伴う調製よりも容易である。
【0044】
例として、ADBは、アモルファスシリコンで作製された接合層5が基板11および40上に堆積された後、超高真空下で実行され得る。
【0045】
接合されたアセンブリは、典型的には150℃~600℃の温度で、数分~数時間、接合界面51を強化するために熱処理を好適に受け得る。
【0046】
図4eは、中間層50内に位置する接合界面51を示しており、前記界面51は、代替的に、接合層5がキャリア基板40上にのみ堆積された場合、第1の層10と中間層50との間に位置してもよく、または接合層5がドナー基板11上にのみ堆積された場合、キャリア基板40と中間層50との間に位置してもよい。ドナーおよびキャリア基板11、40のうちの一方にのみ接合層5が堆積された場合であっても、直接接合が容易となる。
【0047】
第6のステップf)は、埋込み弱化平面12に沿った分離を含み、これは、前記平面内のキャビティおよびマイクロクラックの存在および/または成長の結果として生じる(
図4f)。それ自体が知られているように、そのような分離は、例えば、キャビティを発達させ、圧力下に配置し、かつ埋込み弱化平面12を通る分割波の自発的な伝播をもたらすように設計された熱処理中に生じる。分離熱処理は、典型的には、200℃で120分間のアニールに相当する。熱処理の代わりに、または熱処理と共同して、埋込み弱化平面12に加えられる機械的応力によって分離が誘発されてもよい。
【0048】
ステップf)の終わりに、以下の、一方では、半導体構造体150の、中間層50上に配置された第1の層10を有する半導体構造体150であって、中間層50自体が、キャリア基板40(または第2の層40)上に配置されている、半導体構造体150が、他方では、ドナー基板の残りの部分11’が得られる。
【0049】
次いで、ステップf)は、第1の層10の表面品質を改善する目的で、(洗浄、研磨、エッチング)表面処理または他の平滑化処理を含み得る。
【0050】
本発明による構造体150は、第1の層10および第2の層40が中間層なしで直接接合された構造体に関して有利であり、それは、第1の層10および第2の層40が結合される前に表面を調製するステップを大幅に容易にし、優れた接合品質を保証するためであり、第1の層10の結晶と第2の層40の結晶との間に転位が形成される危険性をさらに排除する。ナノバブルなどの接合欠陥および結晶欠陥(転位など)は、接合界面51を通過する光信号を妨害する可能性があり、これは、半導体構造体150上に製造される可能性がある特定の光電子部品にとって潜在的に有害であることが想起されるであろう。
【0051】
次いで、1つ以上の光電子部品、この場合は1つ以上のVCSELを製造することを目的とした連続エピタキシャル成長ステップg)が半導体基板150に適用され得、第1の層10はエピタキシャルシードとして使用される(
図4g)。先行技術で知られているこれらのステップは、特にVCSELの活性領域2の形成につながり、この領域は、ヒ化ガリウムに基づく2つのブラッグミラー3a、3b間に挟まれている。
【0052】
半導体構造体150の第1の実施形態の一変形例によれば、第1の層10は、VCSELのすべてまたは一部を形成し、また第2の層40は、光学部品の公称動作波長で光透過性が高く、かつ任意選択で結晶品質が低いキャリア基板40である。したがって、この変形例では、第1の層10は複数の副層を備える。
【0053】
ステップa)において、ドナー基板11は、例えば、
図5aに示されるような活性層2および2つのブラッグミラー、またはこの積層体のうちのいくつかを備える。したがって、VCSELのすべてまたは一部は、ステップf)の終わりに第1の層10として移転させられる(
図5f)。
【0054】
第1の実施形態およびその変形例では、中間層50が、非常に低い減衰係数(0に近い)、ならびに第1の層10の屈折率(または中間層50に隣接する第1の層10の副層の屈折率)およびキャリア基板40の屈折率に近い屈折率を有するという事実は、中間層50およびキャリア基板40を通過する結果としての信号の妨害および減衰なしに、VCSELのレーザ信号が半導体構造体150の裏面150bを通して放射されることを可能にする。
【0055】
当然ながら、この第1の実施形態による半導体構造体150は、光信号が前面150aを通して送信もしくは受信されるかまたは裏面150bを通して送信もしくは受信されるかにかかわらず、光信号を送信または受信する他の種類の光電子部品にも適している。
【0056】
本発明の第2の実施形態によれば、半導体構造体150は、やはりVCSELに対応するように意図されている。しかしながら、このとき、第1の層10はVCSELの活性領域2を形成し、第2の層40は多層ブラッグミラー3aを形成する(
図6a)。
【0057】
典型的には、第1の層10の半導体は、5000/cm2未満の転位密度を有するリン化インジウム(InP)の少なくとも1つの層を備える。第1の層10の厚さは、10~1500nmである。約1.55ミクロンの光信号の波長に対して、第1の層10は、3.1に等しい屈折率を有する。
【0058】
第2の層40はヒ化ガリウムを含み、ドープされかつ1.55ミクロンの波長の光信号のためのブラッグミラーを形成するなどのような組成(読者は、導入部で引用されたA.Syrbuによる論文を特に参照する)を有する複数の積層された副層から形成されている。副層は、例えば、GaAs(問題の波長で約3.37の屈折率)、ヒ化アルミニウム(AlAs)(約2.89の屈折率)、および三元AlGaAs化合物から形成されている。第2の層40の厚さは、1~6μmである。
【0059】
中間層50の材料は、リン化亜鉛ゲルマニウム(ZnGeP2)または炭化ホウ素(B4C)またはヒ化亜鉛シリコン(ZnSiAs2)である。約1.55ミクロンの光信号の波長に対して、ZnGeP2、B4C、またはZnSiAs2で作製された中間層50は、それぞれ3.17、3.25、または3.26に等しい屈折率、および10未満の減衰係数を有する。
【0060】
中間層50の厚さは、1nm~100nmで変動し得る。
【0061】
第1の層10の屈折率に最も近い屈折率を有する第2の層40の副層(すなわち、屈折率の差が0.3未満のもの)が、第1の層10に最も近く、すなわち中間層50に隣接して位置決めされるように選択される。
【0062】
第2の実施形態では、半導体構造体150は、第2の層40の下に配置されたキャリア基板41を好適に備える(
図6b)。キャリア基板41は、本質的に機械的キャリアの役割を果たすという点で、高い結晶品質を必要としない。キャリア基板41は、InPまたはGaAsから形成され得る。キャリア基板41の厚さは、例えば、キャリア基板41の直径に応じて250~1000ミクロンである。キャリア基板41が光信号によって通過されなければならない場合、例えば、VCSELが裏面150bを通して放射しなければならない場合、キャリア基板41は、光信号の吸収を制限し、したがってVCSELの効率を促進するために、可能な限り低い光消光k(または減衰係数)および理想的には0に等しい光消光k(または減衰係数)を有するように選択される。
【0063】
中間層50と同じ性質の第2の中間層52が、キャリア基板41と第2の層40との間に挿入されてもよく、この選択肢は、光信号がキャリア基板41を通過しなければならない場合に、第2の中間層52が信号の妨害および減衰を制限するため、特に有利である。第2の接合界面51’は、第2の中間層52内に位置するか、または第2の中間層52に隣接する。
【0064】
この第2の実施形態による半導体構造体150は、接合および薄化によって層を移転させるための既知の先行技術のプロセス、特に第1の実施形態を参照して詳述されたSmart Cut(商標)プロセスを用いて製造され得る。
【0065】
上述したものと同様のステップが実施され、第2の接合界面51’の場合に潜在的に繰り返される。
【0066】
この第2の実施形態では、1つ以上のVCSELを製造することを目的とした連続エピタキシャル成長ステップg)は、第1の層10(VCSELの活性領域2から構成されている)上に第2のブラッグミラー3bを形成することから構成されている。あるいは、エピタキシャル成長ステップは、中間層50と同じ性質の第3の中間層53を介した第2のブラッグミラー3bを形成する層の移転によって置き換えられる(
図6c)。第3の接合界面51’’は、第3の中間層53内に位置するか、または第3の中間層53に隣接する。
【0067】
第2の実施形態による半導体構造体150は、一般的に非常に多数の連続エピタキシャルInP層を必要とするブラッグミラー3a、3bの製作を単純化しながら、約1.55μmの波長で放射するVCSELを製作することを可能にする。低い減衰係数および活性領域2(第1の層10)の屈折率との差が0.3未満である屈折率を有する中間層50を介して、GaAsブラッグミラー(より小さい層の積層体を必要とする)をInP活性領域に移転させることにより、効率的にVCSELを製造することが可能になる。
【0068】
より一般には、この第2の実施形態による半導体構造体150は、第1の層10(または活性領域2)の屈折率との差が0.3未満である屈折率を有しかつ低い減衰係数を有する第2の中間層52またはさらには第3の中間層53を使用するため、前面150aまたは裏面150bを通して放射するVCSELと互換性がある。
【0069】
当然のことながら、本発明は記載された実施形態に限定されず、実施形態の変形例は、特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく実装され得る。
【0070】
特に、本発明による半導体構造体150は、例えば光検出器などの他の光電子用途に合わせて調整され得る。
【国際調査報告】