(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-02
(54)【発明の名称】冷却流路を有する光学素子、及び光学装置
(51)【国際特許分類】
G21K 1/06 20060101AFI20240925BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20240925BHJP
G02B 1/02 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
G21K1/06 C
G03F7/20 503
G03F7/20 521
G02B1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024515858
(86)(22)【出願日】2022-08-16
(85)【翻訳文提出日】2024-05-07
(86)【国際出願番号】 EP2022072843
(87)【国際公開番号】W WO2023036568
(87)【国際公開日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】102021210093.7
(32)【優先日】2021-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100230514
【氏名又は名称】泉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】エリック エヴァ
【テーマコード(参考)】
2H197
【Fターム(参考)】
2H197AA10
2H197BA02
2H197BA21
2H197CA10
2H197CB16
2H197CC16
2H197GA01
2H197GA10
2H197GA13
2H197HA03
(57)【要約】
本発明は、放射線を反射する、特にEUV放射線(16)を反射する光学素子(M2)であって、石英ガラスから、特にチタンドープ石英ガラスから、又はガラスセラミックから形成され、熱接着により接着面(27)に沿って相互に接合された第1部分体(26a)及び第2部分体(26b)を含む基板(31)と、接着面(27)の領域で基板(31)内に延び、ランド(35)により相互に分離された複数の冷却流路(25)と、第1部分体(26a)の表面(32)に施された反射コーティング(33)とを備えた光学素子(M2)に関する。基板において、各冷却流路(25)が、各ランド(35)に隣接する少なくとも1つの位置(PS)で、特に各ランド(35)に隣接する側壁部(36c、36d)全体にわたって、ランド(35)の中央(M)のゼロクロス温度(TZC,M)から3.0K未満、好ましくは2.0K未満、特に1.0K未満逸脱するゼロクロス温度(TZC,S)を有する流路壁(36)を有する。本発明は、上述のように設計された少なくとも1つの光学素子(M2)を有する光学装置、特にEUVリソグラフィシステム(1)にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を反射する、特にEUV放射線(16)を反射する光学素子(M2)であって、
石英ガラスから、特にチタンドープ石英ガラスから、又はガラスセラミックから形成され、熱接着により接着面(27)に沿って相互に接合された第1部分体(26a)及び第2部分体(26b)を含む基板(31)と、
前記接着面(27)の領域で前記基板(31)内に延び、ランド(35)により相互に分離された複数の冷却流路(25)と、
前記第1部分体(26a)の表面(32)に施された反射コーティング(33)と
を備えた光学素子(M2)において、
各冷却流路(25)が、各ランド(35)に隣接する少なくとも1つの位置(P
S)で、特に前記各ランド(35)に隣接する側壁部(36c、36d)全体にわたって、前記ランド(35)の中央(M)のゼロクロス温度(T
ZC,M)から3.0K未満、好ましくは2.0K未満、特に1.0K未満逸脱するゼロクロス温度(T
ZC,S)を有する流路壁(36)を有し、該流路壁(25)は、前記ランド(35)に隣接する前記少なくとも1つの位置(P
S)で、特に前記側壁部(36c、36d)全体にわたって、且つ/又は前記表面(32)に対向する少なくとも1つの位置(P
D)で、特に上壁部(36a)全体にわたって、0重量ppmを超える、好ましくは60重量ppmを超える、特に120重量ppmを超えるOH含有量([OH])を有することを特徴とする光学素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光学素子であって、前記流路壁(36)は、前記反射コーティング(33)を施された前記表面(32)に対向する少なくとも1つの位置(P
D)で、特に前記表面(32)に対向する上壁部(36a)全体にわたって、前記表面(32)のゼロクロス温度(T
ZC,O)から3.0K未満、好ましくは2.0K未満、特に1.0K未満逸脱するゼロクロス温度(T
ZC,D)を有する光学素子。
【請求項3】
請求項1の前文に記載の、特に請求項1又は2に記載の光学素子において、各冷却流路(25)が、各ランド(35)に隣接する少なくとも1つの位置(P
S)で、特に前記各ランド(35)に隣接する側壁部(36c、36d)全体にわたって、前記各ランド(35)の中央(M)のOH含有量([OH])から60重量ppm以下、好ましくは30重量ppm以下、特に20重量ppm以下逸脱するOH含有量([OH])を有する流路壁(36)を有することを特徴とする光学素子。
【請求項4】
請求項3に記載の光学素子において、前記流路壁(36)は、前記反射コーティング(33)を施された前記表面(32)に対向する少なくとも1つの位置(P
D)で、特に前記表面(32)に対向する上壁部(36a)全体にわたって、前記表面(32)のOH含有量([OH])から60重量ppm以下、好ましくは30重量ppm以下、特に20重量ppm以下逸脱するOH含有量([OH])を有する光学素子。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の光学素子において、前記基板(31)のOH含有量([OH])が前記各ランド(35)の前記中央(M)及び/又は前記表面(32)の前記OH含有量([OH])よりも5重量ppm以上少ない前記流路壁(36)に隣接する欠乏領域(30)が、50μm未満、好ましくは30μm未満、特に1μm未満の厚さ(d)を有する光学素子。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の光学素子において、前記流路壁(26)のOH含有量が、前記基板(31)のバルク中の平均OH含有量([OH])から10%未満、好ましくは5%未満、特に1%未満逸脱する光学素子。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の光学素子において、前記流路壁(36)は、好ましくは金属保護コーティング(38)で少なくとも部分的に、特に完全に覆われる光学素子。
【請求項8】
請求項7に記載の光学素子において、前記流路壁(36)は、複数のコーナ領域(39a~39d)を有し、前記流路壁(36)は、前記コーナ領域(39a~39d)の外側のみを前記保護コーティング(38)で覆われる光学素子。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の光学素子において、前記流路壁(36)は、前記冷却流路(25)の長手方向(Y)に延びる、好ましくは該長手方向(Y)に対して斜めに延びるスロット(40)に沿って前記保護コーティング(38)で覆われない光学素子。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の光学素子において、前記第1部分体(26a)、好ましくは前記基板(31)全体は、10重量ppm未満の最大OH含有量を有する光学素子。
【請求項11】
請求項1の前文に記載の、特に請求項1~10のいずれか1項に記載の光学素子において、各冷却流路(25)の前記流路壁(36)は、好ましくは前記欠乏領域(30)の前記厚さ(d)に少なくとも等しい、より好ましくは前記欠乏領域(30)の前記厚さ(d)の2倍以上の深さの、少なくとも1つのスロット状凹部(41a、41b)を有する光学素子。
【請求項12】
請求項11に記載の光学素子において、前記流路壁(36)は、複数のコーナ領域(39a~39d)を有し、前記少なくとも1つのスロット状凹部(41a、41b)は、前記コーナ領域(39a~39d)の1つに形成される光学素子。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の光学素子において、前記第1部分体(26a)、特に前記基板(31)は、1×10
15分子/cm
3以下の、好ましくは1×10
14分子/cm
3以下の最大水素含有量([H
2])を有する光学素子。
【請求項14】
請求項13に記載の光学素子において、前記第2部分体(26b)は、少なくともランド幅(b)に、好ましくは各ランド(25)のランド幅(b)の10倍以下に相当し且つ/又は少なくとも前記第1部分体(26a)の厚さ(D)及び前記流路上壁部(36a)と前記表面(32)との間の前記第1部分体(26a)の厚さ(D)の10倍以下に相当する、前記冷却流路(25)の下壁部(36b)からの距離(A’)で、前記第2部分体(26b)の平均水素含有量([H
2])の50%以下の水素含有量([H
2])を有する光学素子。
【請求項15】
光学装置、特にEUVリソグラフィシステム(1)であって、
請求項1~14のいずれか1項に記載の少なくとも1つの光学素子(M2)と、
冷却流路(25)に冷却液を流すよう設計された冷却装置(37)と
を備えた光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の参照]
本願は、2021年9月13日の独国特許出願第10 2021 210 093.7号の優先権を主張し、その全開示内容を参照により本願に援用する。
【0002】
本発明は、放射線を反射する、特にEUV放射線を反射する光学素子であって、石英ガラスから、特にチタンドープ石英ガラスから、又はガラスセラミックから形成された基板を備え、且つ熱接着により接着面に沿って接合された第1部分体及び第2部分体と、接着面の領域で基板内に延びてランドにより相互に分離される複数の冷却流路と、第1部分体の表面に施された反射コーティングとを備えた、光学素子に関する。本発明は、少なくとも1つの上記反射光学素子を備えた光学装置、特にEUVリソグラフィシステムにも関する。
【背景技術】
【0003】
EUVリソグラフィ装置の形態のEUVリソグラフィシステムでは、ミラーの形態の、特に投影系のミラーの形態の反射光学素子が高い放射パワーを受けることで、ミラー、ひいてはミラー基板が加熱される。基板の加熱は、反射コーティングを施された基板の表面の(すなわち、ミラー表面の)変形につながる。変形は、投影系の結像品質を損なわせる像欠陥につながる。この問題に対処するために、EUVミラーに用いられる基板は、通常は低熱膨張率を有する材料からなる。例えばCorningによりULE(登録商標)という商標で販売されているチタンドープ石英ガラス、及び特定のガラスセラミック、例えばZerodur(登録商標)は、特に熱膨張率が低く、したがってEUVミラーの基板の製造に適している。
【0004】
ミラーの温度を低減する既知の方法は、冷却流体が流れる冷却流路を基板に導入することである。冷却流路の製造では、通常、各ミラーに応じた幾何学的形状を有する通過流路を基板に導入する必要がある。冷却流路の製造のための基板の加工では、ガラス材料に応力が生じる場合があり、これらの応力は、ミラーの最終形成時に、例えばミラー表面のフライス加工又は研磨時に予期せぬ形状変化につながり得るので、ミラー表面の形状にも好ましくない影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
特許文献1は、複数の冷却流路を有するガラス体を製造する方法を記載している。この方法は、ガラス体の第1部分体及び第2部分体を用意するステップと、第1部分体及び/又は第2部分体の表面のガラス材料の加工、特に機械加工により少なくとも1つの冷却流路を形成するステップと、高温接着により加工面で第1部分体を第2部分体に接合することによりガラス体を製造するステップとを含む。
【0006】
特許文献1に記載の高温接着又は熱接着では、2つの部分体が接着面に沿って接合され、概して少なくとも約1000℃以上の温度に加熱される。2つの部分体は、ここでは接合剤を用いずに接着面に沿って接着される。加熱温度がより低い場合、部分体又は被着体の必要な接着強度は得られないのが一般的である。高温接着による接着の場合、2つの部分体は、まずその後できる接着面に沿って相互に圧着された後に、高温接着に必要な温度に加熱される。代替として、2つの部分体を別個に加熱して、高温でのみ接着面に沿って相互に接触させてもよい。
【0007】
例えば、非特許文献1(以下、「Bruckner II」)から知られているように、石英ガラス体を約700℃以上の温度で高温処理した場合に、OH基が石英ガラス体から拡散する。その結果、石英ガラス体の表面から始まって表面近傍の体積領域内に延びる欠乏域における石英ガラスのOH含有量が減る。欠乏域を形成する表面近傍体積は、長期にわたる熱処理で、石英ガラス体の体積内に数ミリメートル又は数センチメートル延びる場合があり、1つの影響として、石英ガラス体の中心に近い体積領域に対して表面近傍の体積領域の屈折率が高くなる。
【0008】
石英ガラス中のOH含有量が少ないほど、概して所与の温度での粘度が高くなることも知られている。結果として、従来の焼戻しプログラムでの低OH含有量の石英ガラス中のガラスマトリクスのアニールは良好とは言えず、したがって仮想温度をOHに富んだ石英ガラスの場合に可能であるほど低いレベルに設定できない。例えば、会社パンフレットである非特許文献2から、OH含有量1ppm未満であるガラスコード7979又は8655の乾燥石英ガラスが、OH含有量のより多いガラスに比べて194nmの波長で約65ppm高い屈折率を有することが知られており、これは、仮想温度が高くOH含有量が少ない結果である。
【0009】
これは、チタンドープ石英ガラスの場合にも当てはまり、結果として、同等のチタン含有量及び同等の焼戻しプログラムでは、石英ガラス材料のゼロクロス温度及び温度の関数としての熱膨張率の傾きが、OHに富んだ石英ガラスに比べてOHが少ない石英ガラスの場合に高いレベルを保つ。さらに、(チタンドープ)石英ガラスのOH含有量と熱膨張率及びゼロクロス温度との間には直接的な依存性があり、この直接的な依存性が通常は支配的である。
【0010】
石英ガラスの特性に対するOH含有量の効果は、特に、非特許文献3及び非特許文献4で調査された。特に石英ガラス中のOH基の拡散に関する拡散定数が、非特許文献5(以下、「Bruckner I」)及び論文「Bruckner II」で報告されている。
【0011】
特許文献2は、統計的分布から逸脱するゼロクロス温度のプロファイルを有するEUVミラー用基板を記載している。ゼロクロス温度のプロファイルは、ミラーの動作温度に適合させられる。基板材料は、スート法で製造されたチタンドープ石英ガラスである。ゼロクロス温度プロファイル及びOH含有量プロファイルは、相互に依存し対応する。一実施例では、OH含有量を200重量ppmから170重量ppmに下げると、ゼロクロス温度は約1Kのオーダで変化する。仮想温度も同様に、OH含有量に応じて変わり、石英ガラスのバルク中のOH含有量が180体積ppmである場合、4K/hの冷却速度の温度プロセスで約970℃である。
【0012】
特許文献3は、二酸化ケイ素-二酸化チタンガラスをアニール又は焼戻しする方法を開示している。焼戻し方法は、ゼロクロス温度と熱膨張率の温度依存曲線の傾きとの独立した調整を可能にするためのものである。特許文献3によれば、石英ガラスのバルク中のOH含有量が約850重量ppmであり、焼戻しプロセスの冷却速度が約3K/hである場合、仮想温度は約950℃未満である。
【0013】
特許文献4は、二酸化ケイ素-二酸化チタンガラス物品にゼロクロス温度勾配を形成する方法であって、ガラス物品の厚さにわたってゼロクロス温度勾配を形成するために、ガラス物品により温度勾配を形成し、ガラス物品を所定の冷却速度で冷却する方法を記載している。
【0014】
上述のように、高温処理又は焼戻しプロセスにおいて、(チタンドープ)石英ガラス体のエッジに形成される欠乏域におけるOH含有量は、直接堆積ガラスでは通常は約850重量ppmのオーダの(最大)OH含有量(特許文献3参照)、又はスート法により製造されたガラスでは約180重量ppmのオーダの(最大)OH含有量(特許文献2参照)が生じるバルク中よりも少ない。石英ガラスのエッジの欠乏域の厚さは、例えば、エッジから又は外面からの、OH含有量が最大OH含有量の特定の割合、例えば50%まで低下した距離、又はOH含有量が最大OH含有量から特定の絶対値だけ逸脱する距離により表すことができる。欠乏域の厚さは、焼戻しプロセスにおける保持温度と、保持時間と、加熱及び冷却ランプとを含む因子、及び焼戻し炉の雰囲気及びワークの組成に応じて変わり、上述のように、数十マミクロミリメートル~数ミリメートルであり得る。
【0015】
基板材料が水素を含有する場合、概して直接堆積の場合及び水素/酸素ガス炎での均質化プロセスの場合のように、水素欠乏がさらに欠乏域で起こり、OH基の欠乏よりも急速に進行する。焼戻しプロセスが還元雰囲気中で行われる場合、これはさらに、酸素欠乏欠陥(=Si又はSi-Ti結合)の形成又はTI4+からTi3+への還元の形で現れる酸素の欠損につながり得る。さらに、処理剤からのナトリウムが石英ガラス中に拡散する場合があり、これが熱膨張率に影響を及ぼし得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開第2020/207741号
【特許文献2】米国特許第10,732,519号明細書
【特許文献3】欧州特許第3 044 174号明細書
【特許文献4】欧州特許第3 110 766号明細書
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】“Properties and Structure of Vitreous Silica. II” by R. Bruckner, Journal of Non-Crystalline Solids 5 (1971) 177-216
【非特許文献2】インターネット<URL: https://www.corning.com/media/worldwide/csm/documents/HPFS_Product_Brochure_All_Grades_2015_07_21.pdf>
【非特許文献3】“Der strukturmodifizierende Einfluss des Hydroxylgehaltes in Kieselglasern" [The Structure Modifying Effect of Hydroxyl Content in Silica Glasses] by Rolf Bruckner, Glastechn. Berichte, page 8ff., 1970
【非特許文献4】“Der Einfluss des Hydroxylgehaltes auf die Dichte und auf den Diffusionsmechanismus in Kieselglasern” [The Effect of Hydroxyl Content on Density and on the Mechanism of Diffusion in Silica Glasses] by Rolf Bruckner, Glastechn. Berichte, page193ff., April 1965
【特許文献5】“Properties and Structure of Vitreous Silica. I” by R. Bruckner, Journal of Non-Crystalline Solids 5 (1970) 123-175
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、熱接着により生じるOH含有量の勾配に起因する光学素子の動作中の像欠陥を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この目的は、前述のタイプの光学素子であって、各冷却流路が流路壁を有し、流路壁は、各ランドに隣接する少なくとも1つの位置で、特に各ランドに隣接する側壁部全体にわたって、ランドの中央のゼロクロス温度から3.0K未満、好ましくは2.0K未満、特に1.0K未満逸脱するゼロクロス温度を有する、光学素子により達成される。
【0020】
各ランドに隣接する流路壁上の位置のゼロクロス温度とランドの中央のゼロクロス温度との比較は、横方向に、すなわち基板の厚さ方向に対して直角に延びる平面で行われる。ランドに隣接する流路側壁部は、各ランドに隣接する単一の位置に限らず、ランドの中央のゼロクロス温度から上記の値未満逸脱したゼロクロス温度を通常は有することが明らかであろう。特に、上記の条件は、側壁部全体に沿って、すなわち側壁部上の全ての位置で満たされ得る。しかしながら、像欠陥の低減のためには、上記条件が側壁部の一部のみに沿って満たされれば十分であり得る。特に、ゼロクロス温度の上記条件が、側壁部が流路壁の上壁部及び下壁部に隣接するコーナ領域で満たされる必要は必ずしもない。
【0021】
一実施形態において、流路壁は、反射コーティングを施された表面に対向する少なくとも1つの位置で、特に表面に対向する上壁部全体にわたって、表面のゼロクロス温度から3.0K未満、好ましくは2.0K未満、特に1.0K未満逸脱するゼロクロス温度を有する。
【0022】
第1部分体の厚さは、通常は冷却流路の上壁部と表面との間で横方向に変わるので、流路壁の上壁部上の各位置のゼロクロス温度と表面のゼロクロス温度との比較は、同一の横方向位置で行われる。
【0023】
流路上壁部は、単一の位置に限らず反射コーティングを施された表面のゼロクロス温度から上記の値未満逸脱するゼロクロス温度を通常は有することが明らかであろう。特に、上記の条件は、上壁部全体に沿って、すなわち上壁部上の全ての位置で満たされ得る。しかしながら、像欠陥の低減のためには、上記条件が上壁部の一部のみに沿って満たされれば十分であり得る。特に、ゼロクロス温度の上記条件が、上壁部が流路壁の各側壁部に隣接するコーナ領域で満たされる必要は必ずしもない。
【0024】
上述のように、熱接着は、熱接着作業で接合されたガラス体の全ての外面近傍で、したがって各冷却流路の流路壁でも、基板のガラス材料のOH欠乏をもたらす。OH基の外方拡散時に発生する流路壁近傍の濃度勾配が、ミラー表面が変形して光学素子の動作時に像欠陥が生じるほどに基板の熱膨張率のゼロクロス温度に影響を及ぼすことを、本発明者は認識した。
【0025】
OH濃度勾配により、基板が発生させるゼロクロス温度がガラス体内で外乱の影響を受けないガラスよりも高いか低いかは、焼戻しプログラムによる影響を受ける可能性があり得る。濃度勾配があるので、外乱の影響を受けないガラス及び生じる全てのOH濃度で熱膨張率及びゼロクロス温度の挙動が同じとなる温度プログラムを選択することは、事実上不可能である。
【0026】
OH欠乏の別の効果として、同じ焼戻しプログラムの場合、仮想温度が高くなり、したがって流路壁又はその近傍における温度に応じて熱膨張率の傾きが大きくなる。したがって、ミラーの領域における局所的な熱負荷によりミラーが加熱される場合、低OH領域の膨張と周囲材料との差は、加熱強度に伴い大きくなる。入熱の関数としてのこの非線形挙動は、特に温度差又は加熱の2乗に比例して増加するので、生じる像欠陥の補償に特別な課題を課し得る。ここで、従来の研磨及び測定方法は室温(22℃)で行われるので、OH欠乏の効果は概して動作温度に伴い増大することに留意されたい。したがって、冷却流路の上方での隆起又は溝は、室温で補正され、室温とは大きく異なる動作温度でしか再発生しない。
【0027】
用いる焼戻しプログラムと基板の平均ゼロクロス温度に対する局所温度とに応じて、OH欠乏は周方向の引張応力又は圧縮応力をもたらす。ここで、圧縮応力が発生すると仮定する。無制約の欠乏域は、周囲材料よりも密度が低くなる。これにより、第1に、ガラス材料が冷却流路内に膨張するが、これに大きな悪影響はなく、第2に、反射コーティングを施された表面が冷却流路の上方で隆起する。この表面の加工は、ミラーのその後の動作温度では概して不可能であり(上記参照)、補正でこれらの隆起を完全に除去することはできないので、これは特に問題となる。強度、接合部のドリフトの少なさ、及びゼロクロス温度の制御性に関しては、接着温度が高く且つ/又は保持時間が長い方が好ましく、OH基の拡散定数は温度に伴い大きくなるので(「Bruckner II」の
図36参照)、接着温度が高いほどこの影響はさらに大きくなる。
【0028】
ここに記載するミラーの基板は、ゼロクロス温度の横勾配が比較的小さく、冷却流路の上方の基板の厚さ方向の勾配が比較的小さいので、反射コーティングを施された上述の表面の隆起が比較的小さい。流路壁の下流路壁部では、表面のゼロクロス温度の勾配の影響は比較的小さいので、そこでは概してゼロクロス温度に対する制約に従う必要はない。
【0029】
しかしながら、原理上は、冷却流路が流路壁全体に沿って基板のバルクの平均ゼロクロス温度から3.0K未満、好ましくは2.0K未満、特に1.0K未満逸脱するゼロクロス温度を有するのが好ましい。この場合、ゼロクロス温度は、反射コーティングを施された表面から1cm未満の距離にある基板のバルク内の全位置で平均化される。横方向では、厚さ方向で反射コーティングの光学利用領域の下且つ反射コーティングの光学利用領域を1cm超えた横方向距離までの基板のバルク内の全位置にわたって、平均化が行われる。光学利用領域は、結像光を反射後にさらに利用可能にする反射コーティングのサブ領域をここでは指す。
【0030】
上述のように、ゼロクロス温度は、基板のOH含有量に大きく影響されるが、他の効果による影響も受け得る。例えば、水素又は酸素欠乏でも同様の濃度プロファイルが生じ、又は金属、例えばナトリウムの内方拡散では逆プロファイルが生じる。特にナトリウムは、特に急速に拡散する。例えば、米国特許第9,382,151号を参照されたい。
【0031】
特に上述の態様と組み合わせることができる本発明のさらに別の態様では、各冷却流路は、各ランドに隣接する少なくとも1つの位置で、特に各ランドに隣接する側壁部全体にわたって、各ランドの中央のOH含有量から60重量ppm以下、好ましくは30重量ppm以下、特に20重量ppm以下逸脱するOH含有量を有する流路壁を有する。
【0032】
本発明のこの態様の一実施形態では、流路壁は、反射コーティングを施された表面に対向する少なくとも1つの位置で、特に表面に対向する上壁部全体にわたって、表面のOH含有量から60重量ppm以下、好ましくは30重量ppm以下、特に20重量ppm以下逸脱するOH含有量を有する。
【0033】
上述のように、ガラスのOH含有量は、ゼロクロス温度に、したがって動作温度でミラーの表面に生じる変形に大きな影響を及ぼす。横方向又は厚さ方向のOH含有量に対するここで述べた条件に従うことにより、横方向及び厚さ方向の基板のゼロクロス温度の上記条件に従うことが通常は可能なので、光学素子の動作時の像欠陥を大幅に低減することができる。
【0034】
石英ガラスのOH含有量の差が例えば30ppmと小さくても、ゼロクロス温度に約1Kの変化が生じ得ること、つまりOH含有量の僅かな変動がゼロクロス温度に及ぼす効果がかなり大きいことが分かっている。したがって、例えば180重量ppm又は850重量ppmの最大値から0重量ppmへのOH含有量の著しい低下は、欠乏域の厚さが僅か数マイクロメートルであってもゼロクロス温度に深刻な影響を及ぼす。
【0035】
2つの部分体が熱接着プロセスで別個に加熱され、高温でのみ結合される場合、2つの部分体が接合される接着面のいずれの側でも、その後できる接着面が延びる2つの部分体の表面が接合前にOH基を失うので、通常は基板材料のOH欠乏がさらにある。しかしながら、接着面に沿ったOH欠乏は、そこでのOH不均一性又は熱膨張率の不均一性が本質的に基板の厚さの横方向に一定の変化につながるのであまり悪影響はない。さらに、接着後のこの不均一性は、基板から欠乏域へのOH基の拡散により概ね補償される。
【0036】
これに対して、2つの部分体を加熱前に圧着する熱接着プロセスでは、水素結合を介して結合されたOH基及びH2Oの濃度上昇が予想され、これはその後の熱間プロセス中に材料に拡散し得る。横方向のOH勾配もあり得る冷却流路に近いエッジを除いて比較的影響が小さい、熱膨張率の異なる層ができることも予想される。
【0037】
一実施形態では、流路壁は、ランドに隣接する少なくとも1つの位置で、特に側壁部全体にわたって、且つ/又は表面に対向する少なくとも1つの位置で、特に上壁部全体にわたって、0重量ppmを超える、好ましくは60重量ppmを超える、特に120重量ppmを超えるOH含有量を有する。
【0038】
熱接着プロセスが通常行われる炉は、真空、空気、又は循環が十分な不活性ガスで運転されるので、炉内で2つの部分体の接合時に形成されるガラス体の環境は、ゼロとなる水蒸気圧にある。したがって、「Bruckner II」によるバリア作用のない上述のOH基の外方拡散により、流路壁のOH含有量は0重量ppmであり、つまり流路壁は無視できるほど少ないOH含有量を有する。流路壁のOH含有量を増加させる、したがって基板のバルク中の平均OH含有量に比べてOH含有量の勾配を低減する様々な方法があり、そのいくつかを以下で説明する。
【0039】
OH勾配を低減するために、例えば、基板材料を冷却流路の流路壁から除去することができる。除去される領域の厚さは、欠乏領域の厚さと、像欠陥に関して基板の材料で許容可能なOH勾配とに応じて変わる。OH含有量の勾配は、基板の最大OH含有量に伴い大きくなるので、除去される領域の厚さは、特に基板の平均又は最大OH含有量の大きさに応じて変わる。
【0040】
材料の除去には様々な選択肢がある。
【0041】
冷却流路は、接着後に例えば研磨乳剤又はエッチ液で処理され得る。乳剤は、いかなる場合も圧力下で濯がなければならない。エッチ液の場合も、各冷却流路の入口及び出口でのオーバーエッチングを回避するために定期的な交換又は段階的な濯ぎが望ましい。しかしながら、いずれの方法でも、流路壁の内側が粗面化され、例えば流路の湾曲領域での除去が不均一になる。厚さが大きく、1mm以上の除去を必要とする欠乏領域の場合、この方法は実用的ではなくなる。
【0042】
標準的なフッ化水素酸ではなく毒性がはるかに低くエッチング速度がより遅い高温のリン酸をエッチ液として用いることも可能である。これには、フランジ接続により取り付けられたホースを有する冷却流路を、労働安全上の理由でフッ化水素酸では不可能であるようなより長い期間にわたりパージできるという利点がある。例えば短パルスレーザを用いた適切な予備損傷により、エッチング効果を空間的に制御することも可能である。予備損傷は、2つの部分体の接合前に開いた冷却流路又は加工された凹部に、又は熱接着前に後の段階で反射コーティングが施される表面に行うことができる。超音波処理により、エッチング動作をその場で制御することも可能である。その後できるミラー表面を通した露光又は音波照射により、好ましくは冷却流路の流路側壁部の上側及び流路側壁部の上領域における除去が改善される。上述のように、これらは、まさに熱膨張率又はゼロクロス温度の不均一性が特に問題となる領域である。ミラーの動作時にミラー表面で除去される熱負荷は、流路の上面又は流路上壁部で最大の温度上昇をもたらし、且つ深さの増加に伴い減り続けるので、流路の底面又は流路下壁部では依然としてほとんど温度上昇が起こらない。
【0043】
特に予備損傷と共に、アルカリをエッチング液として用いることも可能である。石英ガラスでは、超音波を用いた80℃で8モルのKOHの場合の短パルスレーザ予備損傷が、300μm/hのエッチレートを達成することができることが知られている。エッチング選択性は1:1400であり、つまり予備損傷なしでは最悪の場合は0.2μm/hしか達成されない。100μmの材料除去の場合、それは3週間を意味し、特にチタンドープ石英ガラスのエッチレートは僅かに高い可能性があるので材料除去に耐え得る時間である。代替として、特に濃厚アルカリの沸点は100℃を優に上回るはずなので(50%水酸化ナトリウム溶液の沸点は143℃であり、45%水酸化カリウム溶液は136℃である)、アルカリの温度及び濃度を多少上げることが可能となる。沸点を超えると、圧力容器が必要となるが、装置の複雑さが増すだけである。当然ながらエッチング選択性を達成する意図はないので、予備損傷を用いずにエッチングパラメータに関してより積極的に進めることが可能である。
【0044】
さらに、OHがマトリクス停止剤として働く、すなわち、結合角に従った隣接する四面体との四面体頂点での架橋が必要ないことからガラスマトリクスの自由度を高めるので、OH欠乏石英ガラスは、非欠乏石英ガラスよりもエッチレートが高くなる可能性がかなり高い。OHが外方拡散する場合、2つの欠陥が結合して共有結合を形成する可能性は低く、すなわちこれらの欠陥は予備損傷であると考えられ得る。その場合、欠乏域は、略自律的に、すなわちエッチ液での能動的なパージの場合の流動条件に関係なく除去される。この場合、足りないOHをアルカリが補充するので、アルカリよりも酸が効果的である可能性がある。一方、酸はプロトンを供与し、これは同様にマトリクス停止剤として働くことができる。
【0045】
概して、比較的低いエッチレートの場合、極めて低い流量を扱うことも可能であり、したがって高流量の部位でも最大のエッチング除去が生じるという問題が起きないので、材料除去では遅いエッチング液(リン酸又はアルカリ)の使用が有利である。
【0046】
ガス状のエッチング媒体、例えば濃フッ酸からの蒸発ガス又はスートガラスのフッ素ドーピングに用いられるようなフッ素化有機物質を用いることも可能である。
【0047】
熱接着により形成されたガラス体からの基板の製造時に、反射コーティングを施された表面及びガラス体又は第2部分体の底部における反対面でも、通常は欠乏域が除去されることが明らかであろう。反射コーティングが施された第1部分体の表面と第2部分体の底部とは、容易にアクセス可能なので欠乏域のより単純な除去を可能にする。しかしながら、具体的には第1部分体の材料は、均質性及び無気泡性に関して非常に高い品質でなければならない。数ミリメートルあるいは数センチメートルの除去は、コストに関しても、適当な重量の高品質ガラスブロックの生産可能性に関してもすぐに限界に達する。
【0048】
機械的除去法では、研磨乳剤でのパージと同様に、回転ブラシ又はスポンジを冷却流路に導入することも可能である。乾燥研削粒子、又は流体及び粒子の密度の差を最大とした研削液を導入することも可能である。粒子は、超音波又はシェーカによるガラス体全体の振動により攪拌することができる。強磁性粒子及び外部磁場を用いることも可能である。外場は、粒子を振動させるために交番磁場であり得る。代替として、場は準静的な移動磁場とすることができ、その場合、振動がシェーカによりさらに発生する。これには、材料除去の部位及び方向を制御することができる、すなわち例えば、移動速度の大きな領域での望ましくない除去の増加を抑えることができるという利点がある。
【0049】
さらに、例えば液体中のキャビテーション気泡の発生により材料除去を発生させることができ、この場合、気泡は、例えば焦点式超音波、放電、又はレーザパルスにより発生させることができる。液体が同時にエッチング作用を有する場合、局所的に制御可能な材料除去がこのようにして可能である。
【0050】
さらに別の実施形態では、基板のOH含有量が各ランドの中央及び/又は表面のOH含有量よりも少なくとも5重量ppm少ない流路壁に隣接する欠乏領域は、50μm未満、好ましくは30μm未満、特に1μm未満の厚さを有する。上述のように、欠乏領域の厚さは、流路壁からの材料除去により減らすことができる。除去ざれる材料の厚さと欠乏領域の厚さとは、基板のOH含有量の勾配の急峻さを含む因子に応じて変わる。
【0051】
上述のように、概して、ミラーの動作温度と冷却流路の上方の隆起又は溝が補正される研磨温度(通常は22℃)との間の差が大きいほど、問題となるOH欠乏の程度も大きくなると言える。したがって、動作温度が高いほど大きな材料除去が必要である。したがって、欠乏領域のOH含有量の許容可能な残留物は、研磨温度と動作温度との間の差に逆比例する。研磨温度が22℃で動作温度が25℃の場合、基板のバルク中の平均OH含有量の0%~20%だけ欠乏領域を除去すれば十分であり得る。動作温度が35℃の場合、場合によっては基板のバルク中の平均OH含有量の0%~90%の除去が必要となる。したがって、第1の場合では、材料除去後に残る欠乏領域の厚さが第2の場合よりも大きくなる。除去される材料の厚さは、基板内のOH含有量の絶対値に応じても変わる。動作温度25℃で基板の最大OH含有量が約200重量ppmの場合、概して最大OH含有量の0%~20%の範囲内で材料が除去されれば十分である。最大OH含有量が800重量ppmの場合、通常は、最大OH含有量の0重量%~50重量%のOH含有量を有する材料が流路壁で除去される必要があり、すなわち、それに対応してより多くの材料を除去する必要がある。
【0052】
さらに別の実施形態では、流路壁のOH含有量は、基板のバルク中の(すなわち流路壁外の)平均OH含有量から10%未満、好ましくは5%未満、特に1%未満逸脱する。
【0053】
上述の実施形態では、OH欠乏は流路壁に隣接する体積領域で生じ、すなわちOH含有量は基板のバルク中のOH含有量に比べて減少する。代替として、流路壁に隣接する領域における基板の平均OH含有量が基板の平均OH含有量よりも多いことが原理上は可能である。これは、熱接着が適切な周囲条件下で、特に飽和水蒸気中で実行される場合、及び/又は熱接着で形成された基板又はガラス体の後処理が行われる場合であり得る。平均OH含有量を超えるOH含有量の増加は、回避すべき望ましくないOH勾配にもつながることを、ここでは留意すべきである。
【0054】
基板又は基板材料の平均OH含有量は、例えば、FTIR若しくはIR分光法又はラマン分光法により求めることができる。熱接着プロセス又は後処理に理想的なOH含有量は、拡散係数が分かれば計算することができ、水蒸気分圧をそれに応じて調整することができる。装置に関しては、正確な分圧は、水の注入の制限、乾燥空気の追加、又は減圧をもたらす適当な吸引により達成することができる。低温では拡散比が低下するので、通常は、場合によっては事前計算に従って熱接着プロセスの冷却段階で水蒸気分圧を追跡し低下させる必要がある。水蒸気での熱接着又は後処理は、特にスート法で堆積させた(チタンドープ)石英ガラスの場合、流路壁の又は流路壁に隣接する領域のOH含有量が基板のバルク中の平均OH含有量から約10%、5%、又は場合によっては1%しか逸脱しないという効果を奏することができる。
【0055】
水蒸気での熱接着に原理上対立する因子として、水素結合により結合されたSiOH基のSi-O-Siマトリクス結合への変換時に、表面水及び凝縮水の外方拡散が接着面から横方向にも容易に拡散できなくなる。
【0056】
飽和水蒸気又は水での熱処理の形態でOH基を後で補充することによる後処理に対立する因子として、後処理プロセスに元の熱接着と少なくとも同じ時間がかかり、その間に他の材料特性の変化、例えば熱膨張率の変化があり得る。さらに、特にマイクロメートルスケールでの測定による検出が容易にできないので、その際にOH含有量の欠乏プロファイルを直接補償することは概して不可能である。さらなる因子として、論文「Bruckner II」の
図36及び5.1.3.2節によれば、外方拡散は内方拡散よりも大幅に大きな拡散定数を有するので(上記参照)、概して接着よりも低い温度で行われなければならないこのようなプロセスは、非常に時間がかかる。いずれの場合も、溶解度は蒸気圧の2乗に比例して高まるので、水又は水蒸気の最大分圧をいかなる温度でも用いるべきである。
【0057】
時間的に遅れて水蒸気を供給するOH基の補充と熱接着との組み合わせが好ましいことが分かっている。この場合、熱接着が最初に乾燥条件下で開始され、120℃~250℃で数時間又は数日間の保持ステップが表面水の外方拡散のために実施され、場合によっては500℃~600℃で数時間のさらなる保持ステップが濃縮水の外方拡散のために実施された後に、水蒸気が添加される。「Bruckner II」によれば、低温での外方拡散速度は依然として中程度なので、いずれにせよ必要な熱接着の保持ステップ中に、補充を効率的に行うことができる。したがって、特に熱接着で最高温度の焼戻しステップが最大飽和の水蒸気で行われる場合、通常はOH基の外方拡散を著しく低減することができる。
【0058】
これが実用的でない場合、少なくとも酸化雰囲気を熱接着作業で用いるべきである。接着面が形成される部分の表面には、不飽和Si及びTi結合があり、不飽和Si-O及びTi-O結合もあり、飽和形態のSiH及びTiH及びSi-OH及びTi-OHもあり、ここで特にOH基は標準大気中で優勢である。したがって、表面が予め大気に曝されている場合、OH基が優勢となる。OH基が水になることができるのは、基板又はガラス体から拡散するか又は炉から出る水素が供給される場合のみである。酸化雰囲気では、このような水素は直接酸化されて水蒸気になり、したがってOH基に結合できない。還元雰囲気では、残留水が、水素を放出する炉壁又は鋳型(グラファイトからなることが多い)等の補助材料と反応することができる。したがって、酸化雰囲気は、表面のOH基に対して人工的な出口バリアを形成する。結果として、濃度プロファイルは体積拡散係数のみにより求められることがなくなり、表面で非ゼロ濃度が成立する。
【0059】
飽和水蒸気での結合又は後処理にどのパラメータが必要かという問題に関して、OH基の溶解度は重要である。R.H. Doremusによる「Glass Science」(2nd ed., Wiley, New York 1994, pages 198-199)によれば、700℃~1200℃の範囲の石英ガラスの溶解度は、蒸気圧700mmHgでSiO2基あたり3×10-3SiOH基である。これ及び論文 「Water in Silica Glass」(A. J. Moulson and J. P. Roberts, Trans. Faraday Soc., 1961, 57, 1208-1216)にも、溶解度が蒸気圧の2乗に比例して上がると記載されている。質量数(OHは17、SiO2は60)で変換すると、OHの溶解度は850ppmとなり、これは直接堆積石英ガラス又はチタンドープ石英ガラスの典型的なOH含有量に相当する。これらのガラスの製造において、新たなガラスの成長速度はOH基の外方拡散の速度よりも速く、したがってOH基の外方拡散を考慮する必要はない。
【0060】
しかしながら、熱接着作業では、新たなガラスが析出しない。換言すれば、外方拡散を考慮しなければならない。直接堆積ガラスでは100%に近い水蒸気分圧で、OH含有量が200ppmのスートガラスでは約25%の水蒸気分圧で、OH基の補充又は外方拡散の防止が可能である。装置に関しては、適当な蒸気圧は、蒸発皿又は注水を用いて、且つフレッシュガスパージと空気入口対空気出口圧力の比との閉ループ制御により達成することができる。約100%の分圧では、パージをなくすか又はパージレベルを低減し、圧力開放弁を用いることが可能である。実際の接着は、湿潤雰囲気下でも行うことができる。
【0061】
熱接着プロセスの実施において、両方の場合に、すなわち直接堆積石英ガラスの場合でもスート法により堆積させた石英ガラスの場合でも、OH含有量のごく僅かな許容可能な低下が起きるので、流路壁からの材料除去をなくすことが可能である。
【0062】
さらに別の実施形態では、流路壁は、OH基の外方拡散を防止するために、好ましくは金属保護コーティングで少なくとも部分的に、特に完全に覆われる。通常、いかなる種類の金属層又はコーティングもOH基の外方拡散を大幅に抑制する。適切な金属は、熱接着作業の最高プロセス温度を超える融点を有するべきである。特にクロムが適用性及び構造形成性に優れており、十分に高い融点を有する。
【0063】
未接着の部分体に施される1つ又は複数の層の形態の保護コーティングの場合、特に圧着の場合に接合前に洗浄作業が依然として必要であることに留意されたい。したがって、材料及び/又は洗浄ロセスは、保護コーティング又はその層が侵蝕されないように選択されるべきである。
【0064】
理想的には、各冷却流路が流路壁の全範囲にわたって、場合によってはその後できるミラー領域にわたって、あるいは熱接着中に大気に曝される部分又はガラス体の全表面にわたってメタライズされる。不導体をメタライズする方法は十分な数が知られているが、冷却流路の内部コーティングの要件により選択肢が多少限定される。可能な方法として、スパッタリング成膜、気相から又は初期エッチング後の液体からの初期堆積による方法が挙げられる。いわゆるプライマ層が施されるとすぐに、別の金属のより厚い層も電解成膜される。プライマ層が熱接着前に施され、厚い層が熱接着後にのみ施される可能性がある。
【0065】
原理上、保護層は熱接着後に各冷却流路内に残る可能性があるが、保護層は、例えば熱膨張率に対するその影響により、熱接着後にエッチング又は電解により再度除去される可能性もある。
【0066】
上述のように、冷却流路の流路壁全体を保護コーティングで覆うことができるが、冷却流路の上壁部及び側壁部のみが完全に、又は適宜部分的にのみ(下記参照)保護層で覆われる可能性もある。このような保護コーティングは、第1部分体に凹部が加工されており第2部分体には加工されていないことで、冷却流路の断面が完全に第1部分体内にあるようにした場合、特に単純に施すことができる。その場合、第1部分体は、開いたままの冷却流路又は凹部を含めその後できる接着面を形成する表面を完全に被覆されることができる。研削又は研磨ステップにより、その後できる接着面において、三面被覆の開放冷却流路が残るように金属層が除去される。この場合、第2部分体は未被覆のままであり得るか、又は後で冷却流路となる領域のみ被覆される。
【0067】
上述のように、接着前に施された、マスクされ得るか構造が異なり得る層は、非常に薄くすることができ、熱接着後の溶液からの電気めっき又は化学析出のためのプライマとして働き得るにすぎない。これにより、厚さの点で層が成長するが、被覆面(単数又は複数)に沿って横方向にも成長する。冷却流路が設けられていない部分(本例では第2部分体)の領域のメタライゼーションが、流路幅よりも数十マイクロメートル狭いだけである場合、この横方向成長は、ギャップを閉じて流路壁全体に金属保護コーティングを設けるのに十分であり得る。
【0068】
研削され、場合によってはエッチングされた冷却流路の場合、流路壁における表面粗さRaは5μm~10μmと考えられる。具体的には、メタライゼーションが蒸着又はスパッタリングにより施された場合、粗さのある地形の谷が完全に埋まらないと考えることができる。この場合も、後続の電気めっき又は化学析出にこれらのギャップを埋める効果があり得る。
【0069】
シームレスなメタライゼーションの方法は、当然ながら、流路が第2部分体に組み込まれて第1部分体が冷却流路を閉じる蓋として働く場合にも用いることができる。
【0070】
上述のように、熱接着プロセスでは、ナトリウム及び他の金属の内方拡散もあり得る。この望ましくない内方拡散は、ワークの酸性化、特に純度が高いか又はハロゲンフリーの補助材料の使用、適切な炉内ライニング、及び金属表面の冷却等の、波長193nmでの用途の石英ガラスから知られている措置により低減することができる。さらに、上述の金属保護コーティングは、特にクロムの使用、又は上述の熱接着後の材料除去と共に、表面に近い金属の高濃度勾配に対して作用する。
【0071】
金属層はガラスとは異なる熱膨張率を有し、したがって焼戻し中に応力が周囲のガラスに導入されて凍結し、金属層の除去時に部分的にしか緩和されないので、メタライゼーション又は金属保護層が明確な中断部(例えば、スロット)を有すれば有利であり得る。これらの応力は、ミラーの寿命にわたって一定であり、温度による変化がごく僅かだが、数十nm/cm程度の範囲で局所的に複屈折を引き起こす場合、これは例えば選択的材料除去の形態のミラー表面における応力効果につながり得る。
【0072】
一実施形態では、流路壁は複数のコーナ領域を有し、コーナ領域の外側のみが保護コーティングで覆われる。冷却流路は、概して、それぞれがコーナ領域に隣接する流路上部、流路下部、及び2つの流路側部を有する実質的に矩形の断面を有する。しかしながら、原理上は、例えば円形断面を有する冷却流路の場合のように、コーナ部がより多いか又はより少ない、又は場合によってはコーナ部がない、異なる断面形状も可能である。
【0073】
保護コーティングは、コーナ部以外の各流路断面を覆う可能性がある。その場合、コーナ領域で局所的なOH欠乏がある。しかしながら、これらのコーナ領域は断熱されるので、この場合、環状又は管状の欠乏の場合とは異なり、冷却流路の上方のガラスの湾曲につながる温度に依存する力の発生をはるかに小さくすることが可能である。
【0074】
さらに別の発展形態では、流路壁は、冷却流路の長手方向に延びる、好ましくは長手方向に対して斜めに延びるスロットに沿って保護コーティングで覆われない。例えば、冷却流路の流路側部又は側壁が、保護コーティングに斜めスロットを有する可能性がある。これにより、冷却流路の長手方向の保護コーティングによる力が低減される。スロットは、例えば、冷却流路の全ての壁部にわたって螺旋状等の形態で続けることもできる。
【0075】
親水性のガラス表面の圧着後に、その後できる接着面に残る1つ又は複数の水単分子層が、接着作業での望ましい共有結合の形成を妨げる。通常は、水分子が加熱の過程で結合面又は接着面に沿って拡散し得る。しかしながら、接着作業前に、結合面の開放側を含めて結合面の連続的なメタライゼーションが形成されている場合、この外方拡散は抑制され、後に残るのは基板内への水の非常に緩やかな拡散だけである。ギャップから水を追い出すために、まだメタライズされていないか又はまだシームレスにメタライズされていない圧着部分を、100℃~400℃で数時間~数週間焼成することが有利であり得る。その後で初めて、流路の内側をメタライズするか、又は切欠きを閉じることを含めてマスクされた部分的なメタライゼーションを厚くする。
【0076】
さらに別の実施形態では、第1部分体、好ましくは基板全体は、10重量ppm未満の最大OH含有量を有する。OH含有量の絶対値が小さいほど、熱接着後に得られるOH含有量の勾配が小さくなる。したがって、基板中のゼロクロス温度の勾配も低減され、ひいては反射コーティングを有する表面の変形、又は動作温度での光学素子の動作時に発生する像欠陥も低減される。このような低OH含有量を達成するために、石英ガラスのOH含有量は、適切な熱乾燥又は(例えば、ハロゲンによる)化学乾燥により低減することができる。化学乾燥は、スート法で焼結前にのみ実施することができ、熱乾燥は、焼結前又は焼結後に実施することができるが、焼結後の熱乾燥ははるかに時間がかかる。熱乾燥の過程で、2つの部分体は、熱接着による接合前に、1400℃を超える、好ましくは1600℃を超える温度で数日間又は数週間にわたり個別に又はまとめて焼き戻すことができる。後の段階で冷却流路を形成する凹みは、熱乾燥が行われる温度で形状を変えるので、乾燥のためにこれらが各部分に既に導入されている必要はないか、又はあまり好ましくない。上述の化学乾燥又は熱乾燥により、OH含有量が1重量ppm未満の石英ガラスを製造することが可能となる。
【0077】
特に上述の本発明の態様と組み合わせることができる本発明のさらに別の態様では、各冷却流路の流路壁は、好ましくは欠乏領域の厚さに少なくとも等しい、より好ましくは欠乏領域の厚さの2倍以上の深さの、少なくとも1つのスロット状凹部を有する。スロット状凹部(単数又は複数)は、幅が100μm未満であり、熱接着前に部分体の少なくとも一方に導入される。スロット状凹部の深さは、欠乏領域の厚さの1倍、2倍、又は5倍、但し概して5倍以下であるべきであり、ここで欠乏領域は、上述のように、OH含有量が各ランドの中央又は表面のOH含有量よりも少なくとも5重量ppm少ない領域として定義される。熱接着中のOH欠乏は、スロット状凹部に広がるが、(冷却流路の断面に基づく)欠乏領域又は(冷却流路全体に基づく)管により形成されるリングは弱まり、冷却流路の上方の温度に依存する湾曲又は凹みが低減される。スロット状凹部が流れ的に好ましくない場合(「流動励起振動」)、熱接着後に凹部に例えば軟質の有機物質を塗布してもよく、又はミラーの動作前にインライナ(ホース)を各冷却流路に導入してもよい。
【0078】
一発展形態において、流路壁は複数のコーナ領域を有し、少なくとも1つのスロット状凹部はコーナ領域の1つに形成される。上述のように、冷却流路は、流路上壁部及び流路下壁部がコーナ領域で2つの流路側壁部に隣接する、多角形、特に矩形の断面を有する。スロット状凹部は、流路下壁部が2つの流路側壁部に隣接するコーナ領域に形成されることが好ましい。スロット状凹部は、ここでは基板の厚さ方向に又は厚さ方向に対して横方向に延びることが好ましい。スロット状凹部は、コーナ領域に導入する必要はなく、例えば、流路側壁の中央に導入してもよく、流路壁の壁部に螺旋状に又は部分毎に斜めに形成してもよい。
【0079】
さらに別の実施形態では、第1部分体、特に基板全体は、1×1015分子/cm3以下の、好ましくは1×1014分子/cm3以下の最大水素含有量を有する。
【0080】
論文「Bruckner II」でのOH基の拡散定数に関する研究は、スートガラスに匹敵し直接堆積ガラスよりも少ないOH含有量を有する半合成ガラスで行われたものである。おそらくラマン測定が当時は広く用いられていなかったので、上記論文で調べた石英ガラスのH2含有量に関しては何もわかっていない。上記論文に記載の水酸素ガス炎での溶融による生成に基づいて、1×1015分子/cm3~5×1016分子/cm3のOH含有量が仮定され得る。スート法からのチタンドープ石英ガラスは、本来は水素フリーだが、EUVリソグラフィ用の投影系のミラーで使用するガラスは、概して均質化しなければならず、これにより1×1015分子/cm3~5×1015分子/cm3の範囲に入ることになるであろう。直接堆積チタンドープ石英ガラスは、通常は約1×1017分子/cm3のH2含有量を有する。直接堆積石英ガラスは、実際には最大でおよそ1×1020分子/cm3のH2含有量にまで達するので、これは対応するプロセス計画でのチタンドープガラスでも予想されるはずである。
【0081】
論文「Bruckner II」では、OH基の外方拡散と内方拡散との間の非対称性の原因に対処していない。その説明の一部は、H2Oの分解に必要な活性化エネルギーであり得る。しかしながら、これらの研究で用いられたガラスは水素を含有していたと仮定することができる。水素の拡散は、溶解度及び分圧により決まる。高純度石英ガラスでは、約400℃の100%水素中1気圧で、溶存水素の飽和は約5×1017分子/cm3で起こり、より低い温度では溶解度はさらに高くなるが、拡散定数は小さくなる。周囲大気が略水素フリーなので、水素含有石英ガラスは、室温から熱接着時のプロセス温度までの全ての温度で、表面を介してバルクから水素を失うということになる。
【0082】
Si-OHの形態のOH基がガラス体の表面から又は表面近傍領域から脱離して水蒸気の形態で蒸発することができるためには、水素を得なければならない。
【0083】
それを行う最も容易な方法は、式
SiOH+H2→SiH+H2O
に従うことであり、但し水素分子が利用可能であるものとする。
【0084】
水素分子が利用可能でない場合、水素は別のOH基に由来する必要がある。
2 SiOH→H2O+Si+SiO
【0085】
両方の種が、ガラスのバルク(E’又はNBOH中心)では既にエネルギー的に不利である。これらは、表面で再結合しなければならないが、これは1000℃未満の温度では極めて可能性が低く、又は水を再度取り込まなければならないが、これは外方拡散を事実上停止させる。したがって、非常に低水素のガラスの使用により、酸化雰囲気の使用と同様にOH基の出口バリアが形成される。
【0086】
したがって、ここに記載の実施形態では、水素フリー又は低水素ガラスを基板の製造に用いることを提案する。EUVミラー用の標準ガラスは、プロセス関連の理由で水素を含有するので、これを制御下で拡散させることができる。論文「Bruckner II」の
図36が示すように、約400℃の温度での水素の拡散定数は、OHの拡散定数よりも約5桁大きい。したがって、OH分布に大きな影響を及ぼすことなく水素を焼き戻すことが可能である。約800℃の温度では、その差は依然として3桁であり、十分に区別することもできる。
【0087】
この実施形態の一発展形態では、第2部分体は、少なくともランド幅、好ましくは各ランドのランド幅の10倍以下に相当し且つ/又は第1部分体の厚さ及び流路壁の上壁部と反射コーティングを有する表面との間の第1部分体の厚さの10倍以下に相当する、冷却流路の下壁部からの距離で、第2部分体の平均水素含有量の50%以下である水素含有量を有する。
【0088】
ガラスの熱膨張率の不均一性は、特に反射コーティングを施された表面と冷却流路との間で、場合によっては流路高さの半分までで問題となるので、水素の外方拡散に用いられる臨界厚さは、冷却流路の上方のガラスの厚さ又は流路間のランド幅とすべきである。カバーの中央又はランドの中央における水素濃度は、好ましくは1×1014分子/cm3以下であるべきである。
【0089】
下壁部の下方の第2部分体の方向では、概して、カバー厚さ又はランド幅の1倍~10倍の距離における水素含有量が第2部分体の基板内でその最大値の50%に低下すれば十分である。結果として、冷却流路の底部又は下壁部及び側壁部の下領域では依然として僅かなOH欠乏があるが、上記のように、これはもはやさほど重要な因子ではない。
【0090】
水素含有量は、通常はラマン分光法により検出されるが、1mm未満の空間分解能はほとんど達成可能ではなく(顕微ラマン分光法の場合を除く)、OHに富んだ石英ガラスの検出限界は、通常は1~5×1015分子/cm3である。適切な水素分布は、カバー又はランドの中央の測定点及び流路底部からさらに先の基板への一連の測定点、及び/又は対応する拡散計算により検出することができる。
【0091】
本発明のさらに別の態様は、上述のように形成された少なくとも1つの光学素子と、複数の冷却流路に冷却液を流すよう設計された冷却装置とを備えた光学装置、特にEUVリソグラフィシステムに関する。EUVリソグラフィシステムは、ウェハを露光するためのEUVリソグラフィ装置であり得るか、又はEUV放射線を用いる他の何らかの光学装置、例えば、EUVリソグラフィで用いるマスク、ウェハ等を例えば検査するEUV検査システムであり得る。反射光学素子は、特にEUVリソグラフィ装置の投影系のミラーであり得る。冷却装置は、例えば冷却水等の形態の冷却液を少なくとも1つの冷却流路に流すよう設計され得る。この目的で、冷却装置は、ポンプと適切な供給及び排出導管とを有し得る。
【0092】
本発明のさらに他の特徴及び利点は、本発明に必須の詳細を示す図面の図を参照した本発明の以下の例示的な実施例の説明から、また特許請求の範囲から明らかになる。個々の特徴のそれぞれを、単独で又は本発明の一変形形態において複数の任意の組み合わせで実現することができる。
【0093】
例示的な実施形態を概略図に示し、以下の説明で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【
図1】EUV投影リソグラフィ用の投影露光装置の概略子午線断面である
【
図2a】複数の冷却流路の領域で接着面に沿って熱接着により相互に接着された2つの部分体を有するチタンドープ石英ガラスのブランクの概略図である。
【
図2b】複数の冷却流路の領域で接着面に沿って熱接着により相互に接着された2つの部分体を有するチタンドープ石英ガラスのブランクの概略図である。
【
図3a】
図2aからの石英ガラスブランクから製造された光学素子の露光動作時の概略図である。
【
図3b】冷却流路の流路壁から材料が除去された、
図3aに類似の概略図である。
【
図4a】熱接着作業でのOH欠乏域の形成を防止するために流路壁に施された金属保護コーティングの概略図である。
【
図4b】熱接着作業でのOH欠乏域の形成を防止するために流路壁に施された金属保護コーティングの概略図である。
【
図4c】熱接着作業でのOH欠乏域の形成を防止するために流路壁に施された金属保護コーティングの概略図である。
【
図4d】熱接着作業でのOH欠乏域の形成を防止するために流路壁に施された金属保護コーティングの概略図である。
【
図5a】OH欠乏域により生じる応力を低減するためにスロット状凹部が導入された、冷却流路の壁の概略図である。
【
図5b】OH欠乏域により生じる応力を低減するためにスロット状凹部が導入された、冷却流路の壁の概略図である。
【
図5c】OH欠乏域により生じる応力を低減するためにスロット状凹部が導入された、冷却流路の壁の概略図である。
【
図6】焼戻し時のチタンドープ石英ガラスからなるブランクの水素含有量の分布の概略図である。
【
図7a】チタンドープ石英ガラスからなるブランクに対する保持温度1080℃での焼戻しプロセスの温度推移の概略図である。
【
図7b】
図7aの焼戻しプロセス後のチタンドープ石英ガラスからなるブランクのOH含有量の分布の概略図である。
【
図8a】保持温度650℃での焼戻しプロセスの、
図7aに類似の概略図である。
【
図8b】保持温度650℃での焼戻しプロセスの、
図7bに類似の概略図である。
【
図9a】保持温度1200℃での焼戻しプロセスの、
図7aに類似の概略図である。
【
図9b】保持温度1200℃での焼戻しプロセスの、
図7bに類似の概略図である。
【
図10a】飽和水蒸気中での熱接着時の直接堆積石英ガラスからなるブランクのOH含有量の概略図である。
【
図10b】OH含有量を続いて増加させたときの直接堆積石英ガラスからなるブランクのOH含有量の概略図である。
【
図11a】スート法で製造された石英ガラスからなるブランクの、
図10aに類似の概略図である。
【
図11b】スート法で製造された石英ガラスからなるブランクの、
図10bに類似の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0095】
以下の図面の説明では、同じであるか又は同じ機能を有するコンポーネントには同一の参照符号を用いる。
【0096】
マイクロリソグラフィ用の投影露光装置1の形態のEUVリソグラフィ用の光学装置の必須構成要素を、例として
図1を参照して以下で説明する。投影露光装置1及びそのコンポーネントの基本構成の説明は、ここでは限定的なものとみなすべきではない。
【0097】
投影露光装置1の照明系2の一実施形態は、光源又は放射源3に加えて、物体面6の物体視野5を照明する照明光学ユニット4を有する。代替的な実施形態において、光源3は、照明系の残りの部分とは別個のモジュールの形態で設けることもできる。この場合、照明系は、光源3を含まない。
【0098】
物体視野5に配置されたレチクル7が露光される。レチクル7は、レチクルホルダ8により保持される。レチクルホルダ8は、レチクル変位ドライブ9により特に走査方向に変位可能である。
【0099】
説明のために、
図1は、直交xyz座標系を示す。x方向は図の平面に対して垂直に延びる。y方向は水平に延び、z方向は鉛直に延びる。
図1では、走査方向はy方向に延びる。z方向は物体面6に対して垂直に延びる。
【0100】
投影露光装置1は、投影系10を備える。投影系10を用いて、物体視野5が像面12の像視野11に結像される。レチクル7上の構造が、像面12の像視野11の領域に配置されたウェハ13の感光層に結像される。ウェハ13は、ウェハホルダ14により保持される。ウェハホルダ14は、ウェハ変位ドライブ15により特にy方向に変位可能である。第1にレチクル変位ドライブ9によるレチクル7の変位及び第2にウェハ変位ドライブ15によるウェハ13の変位の両方が、相互に同期し得る。
【0101】
放射源3は、EUV放射源である。放射源3は、特に、以下で使用放射線、照明放射線、又は照明光とも称するEUV放射線16を出射する。特に、使用放射線は、5nm~30nmの範囲の波長を有する。放射源3は、プラズマ源、例えばLPP源(レーザ生成プラズマ)又はGDPP源(ガス放電プラズマ)であり得る。これは、シンクロトロンベースの放射源でもあり得る。放射源3は、自由電子レーザ(FEL)であり得る。
【0102】
放射源3から出る照明放射線16は、コレクタミラー17により集束される。コレクタミラー17は、1つ又は複数の楕円反射面及び/又は双曲反射面を有するコレクタミラーであり得る。照明放射線16は、コレクタミラー17の少なくとも1つの反射面に斜入射(GI)で、すなわち45°よりも大きな入射角で、又は垂直入射(NI)で、すなわち45°よりも小さな入射角で入射し得る。コレクタミラー17は、第1に使用放射線に対する反射率を最適化するため及び第2に外来光を抑制するために構造化且つ/又はコーティングされ得る。
【0103】
コレクタミラー17の下流で、照明放射線16は中間焦点面18の中間焦点を伝播する。中間焦点面18は、放射源3及びコレクタミラー17を含む放射源モジュールと照明光学ユニット4との間の分離をなし得る。
【0104】
照明光学ユニット4は、偏向ミラー19と、ビーム経路でその下流に第1ファセットミラー20とを備える。偏向ミラー19は、平面偏向ミラー、あるいは純粋な偏向効果を超えたビーム影響効果を有するミラーであり得る。代替として又は追加として、偏向ミラー19は、照明放射線16の使用光波長を異なる波長の外来光から分離する分光フィルタの形態であり得る。第1ファセットミラー20は、以下で視野ファセットとも称する複数の個別の第1ファセット21を含む。
図1は、当該ファセット21のいくつかのみを例として示す。照明光学ユニット4のビーム経路で、第1ファセットミラー20の下流に第2ファセットミラー22が配置される。第2ファセットミラー22は、複数の第2ファセット23を含む。
【0105】
したがって、照明光学ユニット4は二重ファセットシステムを形成する。この基本原理は、フライアイインテグレータとも称する。第2ファセットミラー22を用いて、個々の第1ファセット21が物体視野5に結像される。第2ファセットミラー22は、物体視野5の上流のビーム経路で最後のビーム整形ミラー又は実際に照明放射線16に対する最終ミラーである。
【0106】
投影系10は、複数のミラーMiを含み、これらには投影露光装置1のビーム経路におけるそれらの配置に従って連続番号を付す。
【0107】
図1に示す例において、投影系10は、6個のミラーM1~M6を含む。4個、8個、10個、12個、又は任意の他の数のミラーMiでの代替も同様に可能である。最後から2番目のミラーM5及び最終ミラーM6はそれぞれ、照明放射線16用の通過開口を有する。投影系10は、二重遮蔽光学ユニットである。投影光学ユニット10は、0.4又は0.5よりも大きく、0.6よりも大きくてもよく、例えば0.7又は0.75であり得る像側開口数を有する。
【0108】
照明光学ユニット4のミラーと同様に、ミラーMiは、照明放射線16に対して高反射コーティングを有することができる。
【0109】
各ミラーMiは、
図2a、
図2bに示すように、複数の冷却流路25を有するチタンドープ石英ガラスからなるガラス体24を用いて製造される。ガラス体24は、図示の例では平面状である接着面27に沿って熱接着により接合される第1上部分体26a及び第2下部分体26bを有する。2つの部分体26a、26bは、図示の例では平面状である分割面に沿って切り開かれることで固体のガラス体(冷却流路なし)から形成される。
【0110】
図2a、
図2bに示すガラス体24の製造のために、下部分体26bが最初に機械加工される。機械加工において、複数の凹部が下部分体26bの石英ガラス材料に加工され、これらは図示のように本質的に正方形又は矩形の断面を有する。代替として凹部を第1部分体26aに加工することができることが明らかであろう。凹部が両方の部分体26a、26bに加工され、これらが接合後に各冷却流路25の断面を形成する可能性もある。
【0111】
図2aに示す例では、第1部分体26aは、その後できる接着面27を形成する加工面において室温で第2部分体26b上に配置されてこれに圧着される。その後、2つの部分体26a、26bがまとめて熱接着プロセスを受け、2つの部分体26a、26bは接着面27に沿って相互に接着される。これに対して、
図2bに示す例では、第1部分体26a及び第2部分体26bは、まず別個に高温に加熱された後に初めて相互に接着されてガラス体24となる。
【0112】
図7aは、2つの部分体26a、26bの接合のために上述の熱接着作業でも原理上用いることができる、特許文献2の実施例に記載のチタンドープ石英ガラスからなるガラス体の焼戻しプロセスの温度推移の例を示す。焼戻しプロセスでは、ガラス体をまず1080℃の保持温度に3時間加熱し、保持温度で8時間保持した後に、4K/hの冷却速度で950℃の温度に制御冷却する。ガラス体を950℃の温度で4時間保持した後に、ガラス体を50K/hの高い冷却速度で300℃の温度に冷却する。
【0113】
図7bは、
図7aの焼戻しプロセスの完了後にガラス体の厚さ方向(z方向)に2mmの厚さを有するガラス体(冷却流路なし)のOH含有量の一次元(シミュレーション)推移を示す。シミュレーションのために、焼戻しプロセスの開始前の厚さ方向のガラス体のOH濃度を一定の180ppmと仮定した。さらに、ガラスが十分な水素を含有する、すなわちOH基の出口バリアがないと仮定した。
図7bで明らかなように、ガラス体の中央(すなわちZ=1mm)のOH含有量(重量ppm)は焼戻しプロセス後でも依然として180重量ppmである。しかしながら、OH含有量は、ガラス体のエッジ(Z=0cm及びZ=2mm)に向かって0重量ppmの値に減少する。ガラス体のエッジにおけるOH含有量の減少は、石英ガラスからのOH基の拡散に起因する。
【0114】
シミュレーションでは、焼戻しプロセスを行う炉は、真空、空気、又は循環が十分な不活性ガスで運転されるので、炉内で2つの部分体の接合時に形成されるガラス体の環境は、ゼロとなる水蒸気圧にあると仮定した。シミュレーションでは、温度の関数として用いられる拡散係数は、前掲論文「Bruckner I」又は前掲論文「Bruckner II」に記載されており、特に後者の論文の
図36を参照されたい。論文「Bruckner II」の
図36でII型と称する石英ガラスは、水酸素ガス炎下で粉末状の二酸化ケイ素を溶融した石英ガラスである。このような石英ガラスのOH含有量は、スート法で製造された石英ガラスのOH含有量に匹敵し、直接堆積石英ガラスのOH含有量よりも幾分少ないので、論文「Bruckner II」に記載の値をシミュレーションに用いることができる。Tiドープ石英ガラスからのOH基の拡散は、ドープしていない石英ガラスの場合と略同じ温度依存性の拡散定数で進むので、ドープしていない溶融石英ガラスの拡散定数をチタンドープ石英ガラスにも用いることができる。
【0115】
OH含有量が最大値の50%に低下するガラス体のエッジからの距離は、
図7aでd
Mとして特定され、石英ガラスの欠乏域又は欠乏領域の厚さのガイド値を形成する。
図7bに示す例では、OH含有量の最大値は180重量ppmであり、厚さd
Mの値は約220μmである。
【0116】
欠乏域の厚さd
Mは、石英ガラスの最大OH含有量だけでなく焼戻しプロセス、特に保持温度及び保持時間の値にも応じて変わる。
図8a、
図8b及び
図9a、
図9bを参照して以下で説明するように、保持温度が高い場合、欠乏域の厚さd
Mが増加する。
【0117】
図8aは、保持温度650℃で保持時間24時間である焼戻しプロセスの温度推移を示す。
図8bは、ガラス体の中央の最大OH含有量850重量ppmからガラス体のエッジの0重量ppmまで低下する、OH含有量のシミュレーション推移を示す。この場合も、OH基の出口バリアの前提条件は存在しないと仮定した。ガラス体の中央のOH含有量は、シミュレーションのために定めた、ガラス体の厚さにわたって一定の初期値に対応する。この例の欠乏域の厚さd
Mは僅か48μmである。
【0118】
図9aは、保持温度1200℃で保持時間24時間の焼戻しプロセスの温度推移を示す。この場合も、OH基の出口バリアの前提条件は存在しないと仮定した。
図9bは、ガラス体の中央の最大OH含有量約800重量ppmからガラス体のエッジの0重量ppmまで低下する、OH含有量のシミュレーション推移を示す。この例の欠乏域の厚さd
Mは290μmである。
図9bに示すOH含有量の推移でも、
図8a、
図8bに示すシミュレーションの例のように、ガラス体の厚さにわたって一定のOH含有量の値850重量ppmを仮定した。したがって、
図9aに示す焼戻しプロセスの実施後に、ガラス体の中央でもOH欠乏が起きた。
【0119】
2つの部分体26a、26bを接着面27に沿って相互に接着した上述の熱接着プロセスでも、石英ガラスのOH欠乏が起こる。
図2aは、例として、ガラス体24の外側又は外縁における空乏領域28を示し、これは特にガラス体24の上面29a及び下面29bに沿って延びる。同様に
図2aで明らかなように、冷却流路25に隣接する欠乏領域30もガラス体24の材料内にある。
図2bに示すガラス体24では、2つの部分体26a、26bが別個に加熱されているので、冷却流路25間で接着面27に沿って延びる欠乏領域30’が存在する。ガラス体24の欠乏領域28、30、30’は、
図2a、
図2bでは誇張した幅又は厚さで示している。
【0120】
図3aは、
図2aに示すガラス体24から製造された基板31を有するミラーM2を示す。基板31の製造では、ガラス体24の上面29a及び下面29bの欠乏領域28を除去するために、ガラス体24を研削加工した。さらに、基板31の製造時にガラス体24のエッジをトリミングした。研削及び後続の研磨ステップにおいて、基板31の上面29aに表面32が形成され、研削及び後続の研磨ステップ後に反射コーティング33がそこに施される。ミラーM2がEUVミラーである図示の例では、反射コーティング33は、約5nm~約30nmのEUV波長域の動作波長のEUV放射線を反射するよう設計され、その目的で、高屈折率材料及び低屈折率材料の複数の交互層を有する。本例では、動作波長13.5nmで、反射コーティング33の交互層の材料はSi及びMoである。EUV放射線は、反射コーティング33の一部の光学利用領域32aとも称する領域にのみ入射し、その外縁を
図3bに点鎖線で示す。光学利用領域32aの面積は、場合によっては反射コーティング33で覆われる面積よりもはるかに小さくてもよい。光学利用領域32aは、投影系10を通過する結像光をミラーM2での反射後にさらに利用可能にする。
【0121】
図3に示す例では、各冷却流路25における欠乏領域30は基板31に残る。各冷却流路25の周囲の欠乏領域30のOH勾配は、チタンドープ石英ガラスの熱膨張率のゼロクロス温度の変化につながる。所与の温度におけるゼロクロス温度の勾配は、冷却流路25に隣接する欠乏領域30における周方向の圧縮応力又は周方向の引張応力につながる。
【0122】
図3aに示す例では、第1に各冷却流路25内に石英ガラス材料のさほど大きな問題とならない(不図示の)膨張を引き起こし、第2に各冷却流路25の上方で反射コーティング33を施された表面32の湾曲を引き起こす圧縮応力があると仮定し、
図3aでは湾曲を誇張した形態で示す。ミラーM2の製造時に、表面32は研磨されるが、平滑化又は研磨は室温で行われ、ミラーの動作温度では行われない。したがって、
図3aに示す隆起の完全な除去は不可能なので、室温以外の動作温度でのミラーM2の動作時にこれが像欠陥につながる。ミラーM2の像欠陥に対する影響の程度は、室温と動作温度との間の差が大きいほど大きくなる。
【0123】
熱接着時の基板31のガラス材料のOH欠乏に起因する
図3aに示すようなミラーM2の表面32における隆起又は全体的な変形を回避するために、基板31が、冷却流路25に隣接する体積領域で、横方向(X方向)及び厚さ方向(Z方向)の両方でOH含有量又はゼロクロス温度の最小勾配を有するのが好ましい。
【0124】
図3a、
図3bで明らかなように、2つの隣接する冷却流路25は、ランド35により相互に分離される。図示の例の各冷却流路25は、4つの部分36a~36dを有する流路壁36を有する矩形断面を有し、4つの部分とは、冷却流路25の屋根を形成し反射コーティング33を施された表面32に隣接して配置された上壁部36a、冷却流路25の底部を形成し反射コーティング33を有する表面32から離れた下壁部36b、及び上壁部36aと下壁部36bとに隣接する2つの側壁部36c、36dである。
【0125】
図3bは、右側壁部36dの(Z方向で)中央の位置P
Sと、上壁部36aの(X方向で)中央の位置P
Dとを示す。
図3bに示す例では、
図3aに示す流路壁36に沿って、欠乏領域30の全厚dにわたる材料を除去した。隣のランド35に隣接する各冷却流路25の側壁部36dの中央位置P
Sにおいて、基板31のゼロクロス温度T
ZC,Sは、材料除去により、ランド35の中央Mのゼロクロス温度T
ZC,Mとの差が1.0K未満である。2つのゼロクロス温度T
ZC,S、T
ZC,M間の比較は、ここでは側壁部36dの中央位置P
Sのレベルで行われる。欠乏領域30全体が除去された
図3bに示す例では、上記条件は、側壁部36dの中央の位置P
Sだけではなく側壁部36d全体に沿って満たされる。
【0126】
図3bに示すものとは異なり、欠乏領域30全体が除去されない場合、側壁部36dのゼロクロス温度T
ZC,Sは、ランド35の中央Mのゼロクロス温度T
ZC,Mとの差がより大きく3.0K未満又は2.0K未満である可能性もある。差T
ZC,M-T
ZC,Sの符号は、温度プログラムに応じて変わるが、概して、OH含有量が少ないほどゼロクロス温度は低くなる。
【0127】
ゼロクロス温度TZC,S、TZC,Mの上記条件を満たすために、概して、側壁部36dの中央の位置PSの又は側壁部36d全体に沿った基板31のOH含有量は、各ランド35の中央MのOH含有量との差が60重量ppm以下、30重量ppm以下、又は20重量ppm以下である必要があり、これも同様に上述の材料除去により達成することができる。
【0128】
OH含有量の横勾配と同様に、基板31の厚さ方向ZのOH含有量の勾配も、ゼロクロス温度、ひいては反射コーティング33を施された表面32の変形に影響を及ぼす。
図3bに示す例では、上壁部36aの中央の位置P
Dにおいて、基板31は、上壁部36aの中央の位置P
Dから距離Aにある表面32上の位置P
Oのゼロクロス温度T
ZC,Oとの差が1.0K未満であるゼロクロス温度T
ZC,Dを有する。距離Aは、ここでは上壁部36aの中央の位置P
Dから厚さ方向Zに測定され、すなわち表面32の位置P
Oは、位置P
DのZ方向真上にある。欠乏領域30の完全除去により、上壁部36aに沿った全ての位置でゼロクロス温度T
ZC,D、T
ZC,Oの上記条件が満たされる。
【0129】
ゼロクロス温度の横勾配に関連して説明したように、欠乏領域30の全体が除去されない場合、上壁部36aのゼロクロス温度TZC,Dは、流路壁36の上方の表面32のゼロクロス温度TZC,Oとの差がより大きく3.0K未満又は2.0K未満ともなり得る。
【0130】
ゼロクロス温度TZC,D、TZC,Oの上記条件を満たすために、概して、上壁部36aの中央の位置PDの又は上壁部36a全体に沿った基板31のOH含有量は、厚さ方向Zで冷却流路25の上壁部36aの中央の位置PDの上方の位置Aにある表面32上の位置POのOH含有量との差が60重量ppm以下、30重量ppm以下、又は20重量ppm以下である必要があり、これは材料除去により達成することができる。
【0131】
流路壁36の下壁部36bは各冷却流路25の内部に湾曲せず、したがって反射コーティング33を施された表面32の変形に直接つながらないので、流路壁36の上壁部36aが満たすゼロクロス温度又はOH含有量の条件は、概して下壁部36bでは従う必要はない。さらに、各冷却流路25の流路壁36の下壁部36bにおける、ミラーM2の表面32の照射時の入熱による温度上昇は比較的小さい。
【0132】
ミラーM2の動作時又はミラーM2の動作温度への加熱時に、上記条件に従う場合、ミラーM2の表面32の変形はあるとしてもごく僅かである。動作中にミラーM2を冷却するために、
図3bに示す冷却装置37を用いて、冷却流体、例えば冷却水が冷却流路25を流れることができる。この目的で、冷却装置37は例えばポンプ等を有し得る。
【0133】
図3aに示す流路壁36からの材料除去により、基板31は、
図3bに示す流路壁36全体に沿ってゼロではないOH含有量を有する。材料除去の深さに応じて、流路壁36のOH含有量は、60重量ppm超、120重量ppm超、又は場合によってははるかに多くなり得る。流路壁36から材料を除去すべき深さは、基板31の最大及び平均OH含有量を含む因子に応じて変わる。ガラスが直接堆積により製造されたものである場合、これは通常は約850重量ppmという比較的多い最大OH含有量を有し、例えば
図8b及び
図9bを参照されたい。OH含有量は外方拡散で0重量ppmまで低下するので、スート法で製造されて最大及び平均OH含有量が約200重量ppmのオーダであるガラスよりも大きな除去が、この場合は概して必要となる。
【0134】
材料除去方法の性質に応じて、除去は比較的長時間かかると共に対応して高コストを招き、除去時の輪郭精度不足の問題があるので、欠乏領域30全体を除去するのは困難であり得る。したがって、基板31のOH含有量が隣接するランド35の中央MのOH含有量及び/又は表面32のOH含有量よりも5重量ppm以上少ない、流路壁36に隣接する領域としてこの場合に定義される欠乏領域30は、最小の厚さdを有するべきである。特に、厚さdは、場合によっては上述の材料譲許後に、50μm未満、30μm未満、又は1μm未満であるべきである。
【0135】
流路壁36からの材料除去には様々な選択肢がある。例えば、流路壁36は、熱接着後に、研磨乳剤又はエッチ液で処理することができる。厚さ1mmを超える欠乏領域30を除去すべき場合、高温のリン酸を除去に用いることが好ましい。エッチング作用は、ガラス材料の予備損傷を用いて、例えば短パルスレーザを用いて又は超音波処理により空間的に制御することもできる。
図3bに示すように、ここでは、上壁部36a及び側壁部36c、36dの上領域の優先的な除去があり得る。特に予備損傷と組み合わせて、アルカリをエッチング液として用いることも可能である。概して、低エッチレート且つ低流量での加工が可能なことで、均一なエッチング除去が可能なので、低速のエッチング液、例えばリン酸又はアルカリを用いるのが好ましい。
【0136】
図4a~
図4dを参照して以下で説明するように、基板31のガラス材料から又は2つの部分体26a、26bからのOH基の拡散、ひいては熱接着中のOH勾配の発生を、流路壁36に保護コーティング38を(場合によっては一時的に)施すことにより防止することができる。この目的で、保護コーティング38は、OH基の外方拡散を防止する少なくとも1つの材料を含有する。この目的で、いかなる種類の金属層も外方OH拡散を大幅に抑制するので、保護コーティング38は通常は少なくとも1つの金属層を含む。適切な金属は、熱接着作業の最高プロセス温度を超える融点を有するべきである。図示の例では、保護コーティング38はクロムコーティングである。クロムは、高い融点だけでなく、適用性及び構造形成性に優れているという利点を有する。
【0137】
冷却流路25の保護コーティング38の金属面は、熱接着プロセスを不活性ガス中又は減圧下で行うことにより熱接着プロセスで保護することができる。代替として、使用温度で十分に安定した酸化物層を有する金属を選択すること、又は金属保護コーティング38を他の酸化物系又は非金属保護層で被覆することが可能である。より高いバリア効果を達成するために、異なる金属、金属及び半金属、又は金属及び酸化物の配列を用いることも可能である。EUV光学系を反射性にするのに用いられる標準的なMoSi多層が、水素に対して事実上無限のバリア作用を有する。しかしながら、モリブデンは、溶融温度が低いので、比較的低温の接着プロセスにのみ適しているか、又はさらなる保護層をMo-Si多層に施す必要がある。
【0138】
理想的には、
図4aに示すように、流路壁36は、流路周囲全体及び場合によってはその後できるミラー領域32にわたって、金属保護コーティング38で覆われる。熱接着中に周囲大気に曝されているガラス体24の又は2つの部分体26a、26bの全表面に保護コーティング38を設けること、又はそれらをメタライズすることも可能である。メタライゼーションとして考えられる方法として、スパッタリング成膜、気相から又は初期エッチング後の液体からの初期堆積による方法が挙げられる。いわゆるプライマ層が施されるとすぐに、別の金属のより厚い層も電解成膜することができる。
【0139】
図4aに示す例では、冷却流路25又は対応する凹部は第1部分体26aに加工されている。第1部分体26aは、この場合、少なくともその後できる接着面27を形成する表面の全域を、開いたままの冷却流路25を含め保護コーティング38で被覆される。研削又は研磨ステップにより、その後できる接着面27において、第1部分体26aに3つの面、すなわち上壁部36a及び2つの側壁部36c、36dが被覆された開放冷却流路25が残るように金属層が除去される。
図4aに示す例では、その後できるミラー面32も金属保護コーティング38’で被覆されるが、これは必ずしも必要ではない。
【0140】
図4aに示すように、第2部分体26bは、原理上は未被覆のままであり得るか、又はその後できる冷却流路25の下壁部36bの領域のみ被覆される。下壁部36bにおける第2部分体26bの被覆は、その後できる接着面27の完全なメタライゼーション及びマスクドエッチングにより、又はマスク及び選択エッチングの適用により行うことができる。特に圧着を用いる熱接着プロセスでは、第2部分体26b上に第1部分体26aを完璧に位置決めするのは不可能なので、この場合のメタライズ領域は、概して冷却流路25よりも多少狭くしなければならない。したがって、各冷却流路25の下壁部26dは、全体が又は側縁に沿って未被覆のままである。その結果生じる欠乏域は、基板31内に延び、したがって冷却流路31の上壁部36aの欠乏領域30よりも温度の関数としてのミラー面32の変形に対する影響がはるかに小さい。
【0141】
熱接着前に施された、マスクされ得るか構造が異なり得る保護コーティング38は、非常に薄くすることができ、熱接着後の溶液からの電気めっき又は化学析出のためのプライマとして働き得るにすぎない。これにより、厚さの点で保護コーティング38が成長するが、被覆面に沿って横方向にも成長する。冷却流路25が設けられていない部分、図示の例では第2部分体26bの領域のメタライゼーションが、冷却流路25の幅よりも数十マイクロメートル狭いだけである場合、この横方向成長は、ギャップを閉じて冷却流路25を流路周囲全体にわたって保護コーティング38で覆うのに十分であり得る。後続の電気めっき又は化学析出は、冷却流路25の流路壁36の残留粗さにより生じ得るメタライゼーションのギャップを閉じるのにも寄与することができる。
【0142】
使用金属、割れの有無、層構造(柱状、非晶質、粒状)、並びにプロセス温度及び持続時間に応じて、外方水素拡散を抑制するには数原子層を有する保護コーティング38で十分であり得る。保護コーティング38の熱膨張率がガラスとは異なることにより、焼戻し中にガラスに不必要に高い応力が導入されることになるので、保護コーティング38は不必要に厚くするべきでない。しかしながら、具体的には、粗いガラス表面又はマスキングプロセスからのスロットの場合、マイクロメートル範囲の保護コーティング38の最終層厚が不浸透性の達成に必要であり得る。しかしながら、全体としてより薄い保護コーティング38を扱うことができるように、高温イオンビームプロセス又はガラスビーズ噴射により、薄い層を制御下で谷又はコーナ/ギャップに押し込むことができる。
【0143】
1200℃を超える接着温度では、特に
図4bに示すようにメタライゼーションの側面が比較的斜めに延びる場合、保護コーティング38のメタライズストリップを第1部分体26の被覆された冷却流路25よりも多少広くすることも可能である。この場合、メタライゼーション又は保護層38の側面は、第1部分体26aと第2部分体26bとの間の残存ギャップをもたらす。高温で、場合によっては接触圧力の追加により補助されて、第1部分体26aはこの場合は第2部分体26b上のメタライゼーション間に適合する。残留している金属残渣は、冷却流路25の3面を囲む基板31のガラス材料とは熱膨張率が大幅に異なるので、熱接着後に、これら冷却流路25のエッジからエッチング除去すべきである。ガラスに残っているノッチは、フレキシブルシャフト上の回転工具での適切な加工、研磨乳剤でのパージ、又はエッチングにより丸みを付けるべきである。流動特性を改善するために、これにさらに恒弾性物質を充填してもよく、又は有機インライナを用いてもよい。シームレスなメタライゼーションの方法は、当然ながら、冷却流路25が第1部分体26aではなく第2部分体26bに加工される場合にも用いることができる。金属保護コーティング38の金属材料はガラスとは異なる熱膨張率を有し、したがって焼戻し中に応力が周囲のガラスに導入されて凍結し、金属保護層38の除去時に部分的にしか緩和されないので、保護コーティング38が明確な中断部(スロット)を有すれば有利であり得る。
図4cは、流路壁36の2つの隣接する壁部36a~36d間にそれぞれ配置された4つのコーナ領域39a~39dにおいて流路壁36が保護コーティング38で覆われない、つまり流路壁36がコーナ領域39a~39dの外側でのみ保護コーティング38で覆われてコーナ領域39a~39dは空洞化されている例を示す。
図4cに示すように、これにより、コーナ領域39a~39dの局所的なOH欠乏が生じる。しかしながら、コーナ領域39a~39dは断熱されるので、
図3aに示す環状又は管状の欠乏領域の場合とは異なり、冷却流路25の上のガラスの隆起につながる温度に依存する力の発生をはるかに小さくすることが可能である。
【0144】
図4dは、冷却流路25の側壁部36dに沿って延びる保護コーティング38のさらに別の例を、冷却流路25の長手方向Yの上面図で示す。
図4dで明らかなように、冷却流路25の長手方向Yに作用する力を低減するために、保護コーティング38は斜めスロット40を有し、そこでは側壁部36dが保護コーティング38で覆われない。スロット40は、冷却流路25の4つの壁部36a~36dの全てにわたって螺旋等の形態で続くこともできる。
【0145】
親水性のガラス表面の圧着後に、接合面に残る1つ又は複数の水単分子層が、接着作業での望ましい共有結合の形成を妨げる。通常は、水分子が加熱中に接着面27に沿って拡散し得る。しかしながら、接着作業前に、接着面27の開放側を含めて連続的なメタライゼーションが形成されている場合、この外方拡散は抑制され、後に残るのはガラス体24内への水の非常に緩やかな拡散だけである。ギャップから水を追い出すために、まだメタライズされていないか又はまだシームレスにメタライズされていない圧着部分体26a、26bを、100℃~400℃で数時間~数週間焼成することが有利であり得る。その後で初めて、流路の内部をメタライズし、金属保護コーティング38の切欠きを閉じることを含めてマスクされた部分的なメタライゼーションを厚くする。
【0146】
上述の例では、冷却流路25又はその断面が第1部分体26a又は第2部分体26bに完全に導入されていると仮定した。冷却流路25を両方の部分体26a、26bに導入することもできることが理解されよう。この場合の冷却流路25の断面が、第1部分体26aにフライス加工された切欠き及び第2部分体26bにフライス加工された切欠きからなる場合、最も単純な方法は、略連続した金属保護コーティング38を第1部分体26a及び第2部分体26bに施してから初めて、2つの部分体26a、26bの表面の接着すべき領域を研磨することである。この場合、金属フリーの接着面27と、接着部位の近くまで全周を被覆された冷却流路25とが残る。接着部位に隣接する流路側面にある最小限の未被覆領域は、エッジの丸み又は面取りの適用の結果として生じるが、局所的に非常に限られるので熱膨張率への影響に関しては通常は問題にならない。さらに、これは具体的にはギャップからの水の拡散を可能にする。
【0147】
保護コーティング38が、例えばガラスの熱膨張率に対するその効果により悪影響がある場合、熱接着プロセス後にエッチング又は電解により再度除去することができる。
【0148】
石英ガラスからのOH基の拡散を防止するさらに別の手段は、熱接着中の基板ガラスと同じかそれ以上のOH含有量を有するガラス粉末を冷却流路に充填することである。冷却流路の充填レベルが10%を超える場合、基板と略同じ濃度を有するTiドープ石英ガラスをこの目的で用いるべきであり、又はガラス粉末が基板よりも低膨張であるようにTi含有量を調整すべきである。
【0149】
材料の除去又は保護コーティング38の成膜を省くことが可能であり得る光学素子M2の像欠陥を低減するさらに別の手段を、接合前の第1部分体26a及び第2部分体26bを示す
図5a~
図5cに関連して以下で説明する。
図5aに示す例では第1部分体26aの流路壁36が、
図5b、
図5cに示す例では第2部分体26bの流路壁36が、2つのスロット状凹部41a、41bを有する。同様に、
図5a~
図5cには流路壁36に隣接する欠乏領域30も示されており、これは2つの部分体26a、26bの熱接着後に形成され、その厚さdは図示の例では約100μmである。
図5a~
図5cで明らかなように、熱接着中に形成された欠乏領域30は、スロット状凹部41a、41bの周りに広がる。各冷却流路25の断面に沿った環状の欠乏領域30は、冷却流路25の上方の表面32の温度に関連した隆起又は凹みを低減させるために、スロット状凹部41a、41bにより減衰され、これが光学素子M2の動作時の像欠陥の低減につながる。
【0150】
これを達成するために、スロット状凹部41a、41bは、欠乏領域30の厚さdに少なくとも対応する深さTを有するべきである。深さTが欠乏領域30の厚さdの2倍以上、すなわち図示の例では約200μmに相当するのが好ましいが、深さTは、概して欠乏領域30の厚さdの5倍を超えるべきではない。各スロット状凹部41a、41bの幅Bは、約100μm以上のオーダとすべきである。
【0151】
図5a~
図5cに示す3つの例全てにおいて、スロット状凹部41a、41bは、各側壁部36c、36dと下壁部36bとの間の2つのコーナ領域39c、39dに形成される。
図5aに示す例では、スロット状凹部41a、41bは、この例では冷却流路25の断面が延びる上部分体26aに研削されている。
図5bに示す例では、2つのスロット状凹部41a、41bは第2下部分体26bの平面に研削されている。
図5cに示す例では、冷却流路25の断面は第2下部分体26bにあり、スロット状凹部41a、41bは下壁部36bから下方(Z方向)に延びる。
図5aに関連して示すように、その後できる接着面27の領域の冷却流路25を横方向に広げることは、
図5cに示す例でも場合によっては同様に可能ではあるが、この場合の不連続部は光学素子M2の表面32に近接して配置される。
【0152】
スロット状凹部41a、41bは、流路壁36に沿った他の場所に、例えば側壁部36c、36dの中央に配置することもできることが明らかであろう。スロット状凹部41a、41bは、
図4a~
図4cに関連して説明したスロット40と同様に、各冷却流路25に螺旋形態で又は部分毎に斜めに導入することも可能である。冷却媒体が冷却流路25を通過する際にスロット状凹部41a、41bが問題となる場合、これらに例えば軟質の有機物質を塗布するか又はこれで閉じてもよく、又はインライナ又はホースを各冷却流路25に導入してもよい。
【0153】
上述の熱接着プロセスの場合にチタンドープ石英ガラスのOH含有量の最小勾配を形成するさらに別の方法は、光学素子M2の基板31の最大OH含有量を少なくすることである。
図3aに示す反射コーティング33で覆われた表面32の変形の影響は、基板31が、但し少なくとも上部分体26aが、10重量ppm未満の最大OH含有量を有する場合に通常は回避することができる。
【0154】
これを達成するために、本体24の石英ガラスのOH含有量は、スート法での本体24の製造時の焼結前に適切な熱乾燥作業又は化学乾燥作業(例えば、ハロゲンによる)により低減することができる。このような乾燥作業により、IR又はDUV波長域の用途で既知のように、1重量ppm未満のOH含有量を有する石英ガラスの製造が可能となる。同様に、EUVミラーM2についてここで説明した基板31に必要とされるような極度に乾燥したチタンドープ石英ガラスを製造することも可能である。乾燥ガラスは形成及び均質化が困難なので、1つの選択肢として、スート粉末の初期段階でTi含有量の均質化を行ってから、均質化された粉末から灰色体をプレスして、そこから焼結により又はHIP(熱間等方圧加圧)法で基板31を形成する。
【0155】
このようにして形成された非常に乾燥した石英ガラスは、仮想温度が高く、したがって石英ガラスの熱膨張率の傾きが大きく20℃で1.8ppb/K2を超えるオーダであるという特徴を有する。こうした理由で、石英ガラス又は基板31の温度データによる直接測定がなくても、10重量ppmという少ないOH含有量を示すことができる。基板31の乾燥石英ガラスは、概して水素フリーだが、OH勾配の上昇を招くことなく水素を充填することもできる。
【0156】
上述の乾燥は、ガラス体24の2つの部分体26a、26bでまとめて行うことができるが、2つの部分体26a、26bのそれぞれで個別に乾燥を行うことも可能である。上部分体26a及びさらに下部分体26bの上部数ミリメートルのみを乾燥させれば十分であり得る。その目的で、各部分体26a、26bを個別に又は2つの部分体26a、26bを一緒に、1400℃を超える、好ましくは1600℃を超える温度で数日間~数週間焼き戻すことができる。1450℃を超える温度では、石英ガラスの著しい変形があるので、上部が開いたるつぼ又は上部が開いた鋳型で乾燥を実施すべきである。
【0157】
高温焼戻しによりガラスのOH勾配を低減するさらに別の手段は、基板31の製造に水素フリー又は低水素ガラスを用いることである。標準的なEUVガラスは、製造の結果として水素を含有するので、熱接着前又は場合によっては熱接着中に制御下でガラスからこれを拡散させることができる。
【0158】
図6は、例として厚さZ
0を有するガラスブロック又はガラスブランクについて、ガラスブロックが最初に1×10
14分子/cm
2の一定値を有すると仮定して、焼戻しの過程で形成されるH
2濃度のいくつかの分布を示す。焼戻しの過程で、欠乏域は、最初にガラスブロックの側縁に形成され、直接表面では濃度が0分子/cm
2であり、内方向に略直線的に上昇して中央領域でプラトーになる。焼戻し中に、プラトーは徐々に縮まり、真の変曲点に達して初めて、ガラスブロックの中央でも濃度が下がることで、中央におけるH
2濃度がかなり低くなる。中央の濃度からエッジの濃度までの濃度勾配は同じままなので、表面を介して拡散する水素の流れは、プラトーのサイズが小さくなるとごく僅かに減少する。したがって、熱接着中に拡散する水素の流れを減らすために、焼戻し中のガラスブロックの中央の水素濃度を例えば初期含有量の1/10に下げることも目的である。
【0159】
水素濃度が例えば400℃で下がる一方で、外方OH拡散の大部分が接着の保持ステップ中に、例えば1050℃で起こるので、H2及びOH拡散の温度依存性の差を利用することもできる。OH基の拡散速度に対して、H2プロファイルはサブクール状態であり、つまりOH基の解離に水素を供給するのに十分なほど急速に内方の高H2濃度に達しない。その場合、数mm又は数cmの幅を有するH2欠乏域が特に冷却流路25の領域に形成され得る場合、ガラス内のH2濃度を下げる必要は必ずしもない。
【0160】
焼戻しは、2つの部分体26a、26bへの分離前の通常は円筒形の未加工ガラス体に、別個のまだ構造化されていない部分体26a、26b(すなわち、凹部が導入されていない)に、構造化された部分体26a、26bに、又は既に圧着状態の2つの部分体26a、26b(
図2bも参照)に行うことができる。論文「Wafer direct bonding: tailoring adhesion between brittle materials」(A. Plosl, G. Krauter, Materials Science and Engineering, R25 (1999) 1-88)によれば、圧着状態で200℃~400℃での焼戻しには、接着面27に沿って水が同時に拡散することで、接着強度が向上し、熱接着のための加熱の過程での移動が減り、接合部に沿った横OH勾配が低減されるという利益がある。
【0161】
上述のように、熱接着中の水素の外方拡散を許すべきである場合、冷却流路25内の水素の蓄積を防止するために、減圧下で又は空気若しくは不活性ガスでの強力なパージ下で焼戻しプロセスを実施しなければならない。
【0162】
ここに記載の例では、少なくともランド幅bに、好ましくは各ランド25のランド幅bの10倍以下に相当し且つ/又は少なくとも第1部分体26aの厚さD及び流路上壁部36aと表面32との間の第1部分体26aの厚さDの10倍以下に相当する、冷却流路25の下壁部36bからの
図3aに示す距離A’で、第2部分体26bが、第2部分体26bの平均水素含有量の50%以下の水素含有量を有するのが好ましいことが分かった。ランド幅bは、通常は数ミリメートルのオーダである。
【0163】
ガラス体24又は基板31のチタンドープ石英ガラスのOH勾配を低減するさらに別の手段は、飽和水蒸気中、水中、又は酸化雰囲気中で熱接着を少なくとも部分的に行うこと、及び/又は熱接着後の焼戻しプロセスでの後処理によりガラス体24のチタンドープ石英ガラス中にOH基が拡散することで、熱接着中のOH基の外方拡散を抑制することである。
【0164】
図10aは、直接堆積により製造された、厚さ方向Zで表面のごく近くにおいて保持温度650℃及び保持時間24時間での熱接着プロセス後に約850重量ppmの平均OH含有量を有する石英ガラスの、OH含有量の推移を例として示す。拡散に関連する理由で最大OH含有量よりもOH含有量が少ない又は多い領域の厚さは非常に小さく、ガラス体の全体積での平均の形成にこの領域は事実上ほとんど寄与しないので、平均OH含有量は、原理上は石英ガラスの最大OH含有量である。実線曲線は、不活性ガスパージ炉内での熱接着時のOH含有量を示し、破線曲線及び点線曲線は、100%をはるかに下回る分圧の水蒸気を収容した炉内での熱接着時のOH含有量を示す。分圧25%を破線曲線とし、50%の比を点線曲線とした。OH含有量の破線及び特に点線の推移は許容可能であり得るので、上述のような流路壁36からの材料除去は不要であるか、又は必要な除去を少なくとも減らすことができる。
【0165】
図10bは、熱接着後の熱処理の形態の後処理により熱接着後のOH含有量が増加する、直接堆積石英ガラスからなるガラス体24のOH含有量を示す。後処理の初期結果は
図10bに示す破線曲線であり、
図10bに示す実線曲線は長期的に達成される。
【0166】
図11a、
図11bは、スート法で堆積させた、約180重量ppmの平均OH含有量を有する石英ガラスからなるガラス体24の
図10a、
図10bに類似の図を示す。
図11aの実線曲線は、熱接着中の完璧に調整された水蒸気分圧の場合を示し、ガラス体24のエッジの、したがって流路壁36のOH含有量が180重量ppmの平均OH含有量から事実上逸脱していない。
図11aにおいて、破線曲線は、選択された水蒸気分圧が大きすぎる場合を表し、点線曲線は、選択された水蒸気分圧が小さすぎる場合を表す。
図11aで明らかなように、ガラス体24のエッジの、したがって流路壁36のOH含有量は、これらの場合も基板31又はガラス体24の平均OH含有量との差が10%未満(±18重量ppmに相当)である。平均OH含有量からの逸脱が場合によっては10%を超える点は、接着温度及び接着時間に応じて変わる。
【0167】
図11bは、後処理の開始直後の完全に乾燥接着された石英ガラス体24のOH含有量を点線曲線として、非常に長い時間が経った後の理想的に調整された水蒸気分圧でのOH含有量を実践曲線として示す。実線曲線から分かるように、この場合の結果も、約180重量ppmの平均OH含有量から事実上逸脱しないOH含有量の分布である。
【0168】
直接堆積石英ガラスからなる石英ガラス体24では、略100%の又は各温度での溶解度に対応する水蒸気分圧が用いられる場合に、OH含有量の分布の曲線は類似したものとなる。
【0169】
図10a及び
図11aに示す熱接着プロセスでは、水蒸気の添加前に表面水及び凝縮水がガラス体から拡散できるようにするために、乾燥条件下で接着プロセスを開始することが概して望ましい。代替として、外方拡散の低減のために、熱接着プロセスを水中又は酸化雰囲気中で行うことができる。
【0170】
上述の例では、出発材料をチタンドープ石英ガラスの形態のガラス体24とした。しかしながら、本明細書に記載の措置又は知見を、他の波長域、例えばUV波長域用の反射光学素子の場合に用いられる非ドープ石英ガラスからなるガラス体24に適用又は転用することもできる。これは、ガラスセラミックからなるガラス体24にも少なくとも部分的に適用可能である。
【国際調査報告】