(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】フォルステライト粒子、及びフォルステライト粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/22 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
C01B33/22
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525009
(86)(22)【出願日】2022-04-28
(85)【翻訳文提出日】2024-04-25
(86)【国際出願番号】 CN2022089848
(87)【国際公開番号】W WO2023206226
(87)【国際公開日】2023-11-02
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【氏名又は名称】成田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】ヤン シャオウェイ
(72)【発明者】
【氏名】田淵 穣
(72)【発明者】
【氏名】矢木 直人
(72)【発明者】
【氏名】袁 建軍
(72)【発明者】
【氏名】スン シャオ
(72)【発明者】
【氏名】ザオ ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】グオ ジェン
【テーマコード(参考)】
4G073
【Fターム(参考)】
4G073BA02
4G073BA04
4G073BA10
4G073BA29
4G073BA63
4G073BA75
4G073BD01
4G073BD21
4G073CC06
4G073FA10
4G073FB05
4G073FB11
4G073FB50
4G073FC09
4G073FD01
4G073FD20
4G073FD24
4G073GA01
4G073GA11
4G073GA12
4G073GB03
(57)【要約】
本発明は、モリブデンを含むフォルステライト粒子に関する。また、本発明は、モリブデン化合物の存在下で、マグネシウム化合物、及び珪素又は珪素化合物を焼成することを含む、前記フォルステライト粒子の製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデンを含むフォルステライト粒子。
【請求項2】
前記フォルステライト粒子におけるモリブデン含有量は、前記フォルステライト粒子をXRF分析することによって求められる、前記フォルステライト粒子100質量%に対するMoO
3換算での含有率(Mo
1)で0.05~35質量%である、請求項1に記載のフォルステライト粒子。
【請求項3】
前記フォルステライト粒子の表層におけるモリブデン含有量は、前記フォルステライト粒子をXPS表面分析することによって求められる、前記フォルステライト粒子の表層100質量%に対するMoO
3換算での含有率(Mo
2)で0.05~25質量%である、請求項1又は2に記載のフォルステライト粒子。
【請求項4】
前記フォルステライト粒子の一次粒子の平均粒子径が0.1~100μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載のフォルステライト粒子。
【請求項5】
BET法で測定される比表面積が0.02~20m
2/gである、請求項1~4のいずれか一項に記載のフォルステライト粒子。
【請求項6】
モリブデン化合物の存在下で、マグネシウム化合物、及び珪素又は珪素化合物を焼成することを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のフォルステライト粒子の製造方法。
【請求項7】
前記モリブデン化合物が、三酸化モリブデン、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である、請求項6に記載のフォルステライト粒子の製造方法。
【請求項8】
前記焼成する焼成温度が800~1600℃である、請求項6又は7に記載のフォルステライト粒子の製造方法。
【請求項9】
前記焼成する原料中のモリブデン原子と、マグネシウムおよびケイ素原子とのモル比(Mo/(Mg+Si))が、0.001~5である、請求項6~8のいずれか一項に記載のフォルステライト粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォルステライト粒子、及びフォルステライト粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォルステライトは強度に優れ、薄肉の断熱材として利用されている。また、フォルステライトは絶縁抵抗も高く、電気絶縁材料として広く用いられている。更には、熱膨張係数が大きいという性質を利用して真空管用の絶縁部品や金属皮膜抵抗用ベース材など、金属との密着性が重視される箇所に使用されている。
【0003】
またフォルステライトは誘電率が6.5であり、誘電正接(Tanδ)が小さくマイクロ波損失も少ないため高周波絶縁材料としても有用であり、これからの5Gの普及にあたり利用が期待される無機材料である。
【0004】
特許文献1には、水溶性マグネシウム塩及びコロイダルシリカをマグネシウム原子とケイ素原子とのモル比(Mg/Si)2で含有する溶液を50℃以上300℃未満の温度雰囲気に噴霧して乾燥し、その後大気中で800乃至1000℃の温度雰囲気で焼成することにより、電子顕微鏡観察による一次粒子径が1乃至200nmの範囲のフォルステライト微粒子を得る、フォルステライト微粒子の製造方法が示されている。
【0005】
特許文献2には、シラン処理フォルステライト微粒子が示され、製造方法として、(a)工程:5~100m2/gの比表面積を有するフォルステライト微粒子を、有機溶媒を含有する分散媒中でビーズミルにより湿式粉砕することにより、有機溶媒分散液を得る工程、及び、(b)工程:前記(a)工程で得られた有機溶媒分散液に、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン及び/又はその加水分解物を、前記フォルステライト微粒子に対する有機珪素化合物の質量比(有機珪素化合物/フォルステライト微粒子)が0.01~0.50となるように添加して、メチルトリメトキシシリル基、フェニルトリメトキシシリル基、メチルトリエトキシシリル基、メタクリロキシプロピルトリメトキシシリル基を、前記フォルステライト微粒子の表面に結合させる工程、を有する、シラン処理フォルステライト微粒子の有機溶媒分散液の製造方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-222517号公報
【特許文献2】特開2020-100561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のフォルステライト粒子とその製造方法についての知見は限られており、未だ検討の余地がある。
【0008】
本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたものであり、優れた特性を有するフォルステライト粒子、及び前記フォルステライト粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、モリブデン化合物をフラックスとして使用することで、フォルステライト粒子を容易に製造可能であること、モリブデンを含むフォルステライト粒子を製造可能であることを見出だし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
【0010】
(1) モリブデンを含むフォルステライト粒子。
(2) 前記フォルステライト粒子におけるモリブデン含有量は、前記フォルステライト粒子をXRF分析することによって求められる、前記フォルステライト粒子100質量%に対するMoO3換算での含有率(Mo1)で0.05~35質量%である、前記(1)に記載のフォルステライト粒子。
(3) 前記フォルステライト粒子の表層におけるモリブデン含有量は、前記フォルステライト粒子をXPS表面分析することによって求められる、前記フォルステライト粒子の表層100質量%に対するMoO3換算での含有率(Mo2)で0.05~25質量%である、前記(1)又は(2)に記載のフォルステライト粒子。
(4) 前記フォルステライト粒子の一次粒子の平均粒子径が0.1~100μmである、前記(1)~(3)のいずれか一つに記載のフォルステライト粒子。
(5) BET法で測定される比表面積が0.02~20m2/gである、前記(1)~(4)のいずれか一つに記載のフォルステライト粒子。
(6) モリブデン化合物の存在下で、マグネシウム化合物、及び珪素又は珪素化合物を焼成することを含む、前記(1)~(5)のいずれか一つに記載のフォルステライト粒子の製造方法。
(7) 前記モリブデン化合物が、三酸化モリブデン、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である、前記(6)に記載のフォルステライト粒子の製造方法。
(8) 前記焼成する焼成温度が800~1600℃である、前記(6)又は(7)に記載のフォルステライト粒子の製造方法。
(9) 前記焼成する原料中のモリブデン原子と、マグネシウムおよびケイ素原子とのモル比(Mo/(Mg+Si))が、0.001~5である、前記(6)~(8)のいずれか一つに記載のフォルステライト粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた特性を有するフォルステライト粒子、及び前記フォルステライト粒子の製造方法をを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1のフォルステライト粒子のSEM画像である。
【
図2】実施例2のフォルステライト粒子のSEM画像である。
【
図3】実施例3のフォルステライト粒子のSEM画像である。
【
図4】実施例4のフォルステライト粒子のSEM画像である。
【
図5】実施例5のフォルステライト粒子のSEM画像である。
【
図6】実施例6のフォルステライト粒子のSEM画像である。
【
図7】実施例7のフォルステライト粒子のSEM画像である。
【
図8】実施例8のフォルステライト粒子のSEM画像である。
【
図9】実施例9のフォルステライト粒子のSEM画像である。
【
図10】比較例1のフォルステライト粒子のSEM画像である。
【
図11】比較例2のフォルステライト粒子のSEM画像である。
【
図12】実施例1~9及び比較例1~2のフォルステライト粒子のX線回折(XRD)パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のフォルステライト粒子、及びフォルステライト粒子の製造方法の実施形態を説明する。
【0014】
≪フォルステライト粒子≫
実施形態のフォルステライト粒子は、モリブデンを含むものである。実施形態のフォルステライト粒子は、モリブデンを含んでおり、モリブデンに由来する触媒活性等の優れた特性を有する。
【0015】
また、実施形態のフォルステライト粒子は、粒子形状が制御されているという優れた特性を有することができる。
【0016】
また、実施形態のフォルステライト粒子は、凝集の程度が少ない又は凝集のないという優れた特性を有することができる。
【0017】
実施形態のフォルステライト粒子は、後述する製造方法において使用されるモリブデン化合物に由来したモリブデンを含むことができる。また、後述する製造方法においてモリブデン化合物を使用することで、製造されるフォルステライト粒子の粒子形状の制御が可能であり、不純物の含有量が低減され、凝集の程度の低いフォルステライト粒子を容易に製造可能である。
【0018】
実施形態のフォルステライト粒子に含まれるモリブデンとしては、その存在状態や量は特に制限されず、モリブデン金属の他、酸化モリブデンや一部が還元されたモリブデン化合物等としてフォルステライト粒子に含まれてよい。モリブデンは、MoO3としてフォルステライト粒子に含まれると考えられるが、MoO3以外にもMoO2やMoO等としてフォルステライト粒子に含まれてもよい。
【0019】
モリブデンの含有形態は、特に制限されず、フォルステライト粒子の表面に付着する形態で含まれていても、フォルステライト粒子の結晶構造の一部に置換された形態で含まれていても、アモルファスの状態で含まれていてもよいし、これらの組み合わせであってもよい。
【0020】
本明細書において、フォルステライト粒子の粒子形状を制御することとは、製造されたフォルステライト粒子の粒子形状が無定形では無いことを意味する。本明細書において、粒子形状の制御されたフォルステライト粒子とは、粒子形状が無定形では無いフォルステライト粒子を意味する。
【0021】
実施形態のフォルステライト粒子は、多角形状を有するものであってもよい。実施形態のフォルステライト粒子は結晶形状が制御され、多角形状の自形を有することができる。結晶形状が制御されたフォルステライト粒子は、後述する実施形態のフォルステライト粒子の製造方法により製造可能である。
【0022】
フォルステライト粒子の集合体(粉体)は、多角形状以外の形状のフォルステライト粒子を、如何なる状態で含んでいても構わない。多角形状のフォルステライト粒子の含有割合は、フォルステライト粒子の集合体(粉体)の総量に対し、質量基準又は個数基準で80%以上が好ましく、より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上である。フォルステライト粒子の形態は、走査型電子顕微鏡(SEM)により確認することができる。
【0023】
実施形態のフォルステライト粒子は、後述する製造方法において、原料のモリブデン化合物の使用量や種類、焼成温度等を制御することにより、得られるフォルステライト粒子の粒子サイズやモリブデン含有量を制御できる。
【0024】
実施形態のフォルステライト粒子の一次粒子の平均粒子径は、0.1~100μmであってもよく、0.2~50μmであってもよく、0.3~40μmであってもよい。
【0025】
フォルステライト粒子の一次粒子の平均粒子径とは、粒子を真球状と仮定し、後述の比表面積に基づく換算粒子径として算出する。換算式は以下を用いる。
一次粒子径Dsa[nm]=6000/(密度[g/cm3]×比表面積[m2/g])
【0026】
実施形態のフォルステライト粒子の、レーザー回折・散乱法により算出されるメディアン径D50は、0.1~100μmであってもよく、0.2~50μmであってもよく、0.3~40μmであってもよい。
【0027】
フォルステライト粒子試料の、レーザー回折・散乱法により算出されるメディアン径D50は、レーザー回折式粒度分布計を用いて乾式で測定された粒子径分布において、体積積算%の割合が50%となる粒子径として求めることができる。
【0028】
実施形態のフォルステライト粒子の、BET法により求められる比表面積は、0.02~20m2/gであってもよく、0.04~18m2/gであってもよく、0.05~15m2/gであってもよい。
【0029】
上記の比表面積は、比表面積計(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製、BELSORP-mini)にて測定し、BET法(Brunauer-Emmett-Teller法)による窒素ガスの吸着量から測定された試料1g当たりの表面積を、比表面積(m2/g)として算出する。
【0030】
実施形態のフォルステライト粒子は、フォルステライトを含むものである。
【0031】
実施形態のフォルステライト粒子は、前記フォルステライト粒子100質量%に対して、Mg2SiO4を65質量%以上含むことが好ましく、65~99.95質量%含むことが好ましく、70~99.5質量%含むことがより好ましく、75~99質量%含むことがさらに好ましい。
【0032】
フォルステライト粒子に含まれるマグネシウム含有量は、XRF分析により測定できる。実施形態のフォルステライト粒子におけるマグネシウム含有量は、前記フォルステライト粒子をXRF分析することによって求められる、前記フォルステライト粒子100質量%に対するMgO換算での含有率(Mg1)で、30~80質量%であることが好ましく、35~70質量%であることがより好ましく、40~66質量%であることがさらに好ましい。
【0033】
フォルステライト粒子に含まれるケイ素含有量は、XRF分析により測定できる。実施形態のフォルステライト粒子におけるケイ素含有量は、前記フォルステライト粒子をXRF分析することによって求められる、前記フォルステライト粒子100質量%に対するSiO2換算での含有率(S1)で、10~60質量%であることが好ましく、15~50質量%であることがより好ましく、20~45質量%であることがさらに好ましい。
【0034】
実施形態のフォルステライト粒子は、モリブデンを含むものである。フォルステライト粒子に含まれるモリブデン含有量は、XRF分析により測定できる。実施形態のフォルステライト粒子におけるモリブデン含有量は、前記フォルステライト粒子をXRF分析することによって求められる、前記フォルステライト粒子100質量%に対するMoO3換算での含有率(Mo1)で、0.05質量%以上であることが好ましく、0.05~35質量%であることが好ましく、0.08~30質量%であることがより好ましく、0.09~25質量%であることがさらに好ましい。
【0035】
実施形態のフォルステライト粒子における、上記で例示した含有率(Mg1)、含有率(S1)、及び含有率(Mo1)の各上限値及び下限値の値は、自由に組み合わせることができる。また、含有率(Mg1)、含有率(S1)、及び含有率(Mo1)の数値同士も、自由に組み合わせることができる。
【0036】
実施形態のフォルステライト粒子の一例としては、前記フォルステライト粒子をXRF分析することによって求められる、前記フォルステライト粒子100質量%に対する、
含有率(Mg1)が30~80質量%であり、含有率(S1)が10~60質量%であり、及び含有率(Mo1)が0.05~35質量%であるフォルステライト粒子であってよく、
含有率(Mg1)が35~70質量%であり、含有率(S1)が15~50質量%であり、及び含有率(Mo1)が0.08~30質量%であるフォルステライト粒子であってよく、
含有率(Mg1)が40~66質量%であり、含有率(S1)が20~45質量%であり、及び含有率(Mo1)が0.09~25質量%であるフォルステライト粒子であってよい。
【0037】
上記の、XRF分析には、蛍光X線分析装置(例えば、株式会社リガク製、PrimusIV)を用いることができる。
【0038】
MgO換算での含有率(Mg1)とは、フォルステライト粒子をXRF分析することによって求められるマグネシウム含有量を、MgO換算の検量線を用いて換算したMgO量から求めた値を云う。
【0039】
SiO2換算での含有率(S1)とは、フォルステライト粒子をXRF分析することによって求められるケイ素含有量を、SiO2換算の検量線を用いて換算したSiO2量から求めた値を云う。
【0040】
MoO3換算での含有率(Mo1)とは、フォルステライト粒子をXRF分析することによって求められるモリブデン含有量を、MoO3換算の検量線を用いて換算したMoO3量から求めた値を云う。
【0041】
フォルステライト粒子の表層に含まれるマグネシウム含有量は、XPS(X線光電子分光)表面分析により測定できる。実施形態のフォルステライト粒子の表層におけるマグネシウム含有量は、前記フォルステライト粒子をXPS表面分析することによって求められる、前記フォルステライト粒子の表層100質量%に対するMgO換算での含有率(Mg2)で、1~70質量%であることが好ましく、3~60質量%であることがより好ましく、5~50質量%であることがさらに好ましい。
【0042】
フォルステライト粒子の表層に含まれるケイ素含有量は、XPS(X線光電子分光)表面分析により測定できる。実施形態のフォルステライト粒子の表層におけるケイ素含有量は、前記フォルステライト粒子をXPS表面分析することによって求められる、前記フォルステライト粒子の表層100質量%に対するSiO2換算での含有率(S2)で、1~70質量%であることが好ましく、3~60質量%であることがより好ましく、5~50質量%であることがさらに好ましい。
【0043】
フォルステライト粒子の表層に含まれるモリブデン含有量は、XPS(X線光電子分光)表面分析により測定できる。実施形態のフォルステライト粒子の表層におけるモリブデン含有量は、前記フォルステライト粒子をXPS表面分析することによって求められる、前記フォルステライト粒子の表層100質量%に対するMoO3換算での含有率(Mo2)で、0.05質量%以上であることが好ましく、0.05~25質量%であることが好ましく、0.08~20質量%であることがより好ましく、0.1~15質量%であることがさらに好ましい。
【0044】
実施形態のフォルステライト粒子における、上記で例示した含有率(Mg2)、含有率(S2)、及び含有率(Mo2)の各上限値及び下限値の値は、自由に組み合わせることができる。また、含有率(Mg2)、含有率(S2)、及び含有率(Mo2)の数値同士も、自由に組み合わせることができる。
【0045】
実施形態のフォルステライト粒子の一例として、前記フォルステライト粒子をXPS分析することによって求められる、前記フォルステライト粒子の表層100質量%に対する、
含有率(Mg2)が1~70質量%であり、含有率(S2)が1~70質量%であり、及び含有率(Mo2)が0.05~25質量%であるフォルステライト粒子であってよく、
含有率(Mg2)が3~60質量%であり、含有率(S2)が3~60質量%であり、及び含有率(Mo2)が0.08~20質量%であるフォルステライト粒子であってよく、
含有率(Mg2)が5~50質量%であり、含有率(S2)が5~50質量%であり、及び含有率(Mo2)が0.1~15質量%であるフォルステライト粒子であってよい。
【0046】
上記の、XPS分析には、走査型X線光電子分光分析装置(例えば、アルバック・ファイ社製QUANTERA SXM)を用いることができる。
【0047】
上記の含有率(Mg2)は、フォルステライト粒子をX線光電子分光法(XPS:XrayPhotoelectron Spectroscopy)により、XPS表面分析することによって、各元素について存在比(atom%)を取得し、マグネシウム含有量を酸化物換算することにより、フォルステライト粒子の表層100質量%に対するMgOの含有率として求めた値を云う。
【0048】
上記の含有率(S2)は、フォルステライト粒子をX線光電子分光法(XPS:XrayPhotoelectron Spectroscopy)により、XPS表面分析することによって、各元素について存在比(atom%)を取得し、ケイ素含有量を酸化物換算することにより、フォルステライト粒子の表層100質量%に対するSiO2の含有率として求めた値を云う。
【0049】
上記の含有率(Mo2)は、フォルステライト粒子をX線光電子分光法(XPS:XrayPhotoelectron Spectroscopy)により、XPS表面分析することによって、各元素について存在比(atom%)を取得し、モリブデン含有量を酸化物換算することにより、フォルステライト粒子の表層100質量%に対するMoO3の含有率として求めた値を云う。
【0050】
実施形態のフォルステライト粒子において、前記モリブデンは、前記フォルステライト粒子の表層に偏在していることが好ましい。
【0051】
ここで、本明細書において「表層」とは、実施形態のフォルステライト粒子の表面から10nm以内のことをいう。この距離は、実施例において計測に用いたXPSの検出深さに対応する。
【0052】
ここで「表層に偏在」するとは、前記表層における単位体積あたりのモリブデン又はモリブデン化合物の質量が、前記表層以外における単位体積あたりのモリブデン又はモリブデン化合物の質量よりも多い状態をいう。
【0053】
本実施形態のフォルステライト粒子において、モリブデンが前記フォルステライト粒子の表層に偏在していることは、後述する実施例において示すように、前記フォルステライト粒子をXPS表面分析することによって求められる前記フォルステライト粒子の表層100質量%に対するMoO3換算でのモリブデンの含有率(Mo2)が、前記フォルステライト粒子をXRF(蛍光X線)分析することによって求められる前記フォルステライト粒子100質量%に対するMoO3換算でのモリブデンの含有率(Mo1)よりも多いことで確認することができる。
【0054】
実施形態のフォルステライト粒子において、モリブデンが前記フォルステライト粒子の表層に偏在していることの指標として、実施形態のフォルステライト粒子は、、前記フォルステライト粒子100質量%に対するMoO3換算での含有率(Mo1)に対する、前記フォルステライト粒子をXPS表面分析することによって求められる、前記フォルステライト粒子の表層100質量%に対するMoO3換算での含有率(Mo2)であるモリブデンの表層偏在比(Mo2/Mo1)が、1.1以上であってもよく、1.1~10であってもよい。
【0055】
モリブデン又はモリブデン化合物をフォルステライト粒子の表層に偏在させることで、表層だけでなく表層以外(内層)にも均一にモリブデン又はモリブデン化合物を存在させる場合に比べて、触媒活性等の優れた特性を効率的に付与することができる。
【0056】
実施形態のフォルステライト粒子は、フォルステライト粒子の集合体として提供可能であり、上記のマグネシウム含有量、ケイ素含有量、及びモリブデン含有量の値は、前記集合体を試料として求められた値を採用することができる。
【0057】
本実施形態のフォルステライト粒子は、モリブデンの他に、さらに、リチウム、カリウム、又はナトリウムを含んでいてもよい。
【0058】
<フォルステライト粒子の製造方法>
実施形態のフォルステライト粒子の製造方法は、モリブデン化合物の存在下で、マグネシウム化合物、及び珪素又は珪素化合物を焼成することを含む。より具体的には、本実施形態の製造方法は、前記フォルステライト粒子の製造方法であって、マグネシウム化合物と、珪素又は珪素化合物と、モリブデン化合物と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することを含むものであってよい。
【0059】
モリブデン化合物の存在下で、マグネシウム化合物、及び珪素又は珪素化合物を焼成することにより、モリブデン化合物を使用しない場合と比べて、フォルステライト粒子の生成反応効率を向上可能である。そのため、不純物の含有量が低減された高品質のフォルステライト粒子を効率よく製造可能であり、更には、凝集の程度の低いフォルステライト粒子を容易に製造可能である。
【0060】
なお、ケイ酸マグネシウムのように珪素とマグネシウムとを含有する化合物を用いる場合も、マグネシウム化合物及び珪素化合物を用いる場合とみなす。ただし、モリブデン化合物を使用することで、フォルステライト(ケイ酸マグネシウム)のような複合酸化物であっても、生成反応が良好に進行させることができるという観点から、原料のマグネシウム化合物及び珪素化合物としては、ケイ酸マグネシウムは含まれないことが好ましい。
【0061】
また、モリブデン酸マグネシウムのように、モリブデンとマグネシウムとを含有する化合物を用いる場合も、モリブデン化合物及びマグネシウム化合物を用いる場合とみなす。
【0062】
また、ケイ化モリブデンのように、珪素とモリブデンとを含有する化合物を用いる場合も、珪素化合物及びモリブデン化合物を用いる場合とみなす。
【0063】
実施形態のフォルステライト粒子の製造方法によれば、上記で説明した実施形態のフォルステライト粒子を製造可能である。
【0064】
フォルステライト粒子の好ましい製造方法は、マグネシウム化合物と、珪素又は珪素化合物と、モリブデン化合物と、を混合して混合物とする工程(混合工程)と、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含む。
【0065】
[混合工程]
混合工程は、マグネシウム化合物と、珪素又は珪素化合物と、モリブデン化合物と、を混合して混合物とする工程である。以下、混合物の内容について説明する。
【0066】
(マグネシウム化合物)
前記マグネシウム化合物の種類は特に制限されない。例えば、前記マグネシウム化合物として、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、モリブデン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム等が挙げられ、反応し易さから水酸化マグネシウム、又は炭酸マグネシウムが好ましく、発生するガスが扱いの容易な水であるという観点から、水酸化マグネシウムがより好ましい。
【0067】
焼成後のフォルステライト粒子の形状は、原料のマグネシウム化合物の形状が殆ど反映されていないため、マグネシウム化合物としては、例えば、球状、無定形、アスペクトのある構造体(ワイヤ、ファイバー、リボン、チューブなど)、シートなども好適に用いることができる。
【0068】
(珪素又は珪素化合物)
珪素又は珪素化合物の種類は特に制限されず、珪素原子のみならず珪素化合物であれば公知のものが使用されうる。これらの具体例としては、シリカ(SiO2)、ケイ酸マグネシウム、ケイ化モリブデン、ケイモリブデン酸、金属シリコン(珪素原子)、有機シラン化合物、シリコーン樹脂、シリカ微粒子、シリカゲル、メソポーラスシリカ、SiC、ムライト等の人工合成シリコン化合物;バイオシリカ等の天然シリコン化合物等が挙げられる。
【0069】
珪素又は珪素元素を含む珪素化合物の形状は、特に制限されず、例えば、球状、無定形、アスペクトのある構造体(ワイヤ、ファイバー、リボン、チューブなど)、シートなども好適に用いることができる。
【0070】
(モリブデン化合物)
前記モリブデン化合物としては、酸化モリブデン、モリブデン酸、硫化モリブデン、ケイ化モリブデン、ケイモリブデン酸、モリブデン酸マグネシウム、モリブデン酸塩化合物等が挙げられ、酸化モリブデン又はモリブデン酸塩化合物が好ましい。
【0071】
前記酸化モリブデンとしては、二酸化モリブデン(MoO2)、三酸化モリブデン(MoO3)等が挙げられ、三酸化モリブデンが好ましい。
【0072】
前記モリブデン酸塩化合物は、MoO4
2-、Mo2O7
2-、Mo3O10
2-、Mo4O13
2-、Mo5O16
2-、Mo6O19
2-、Mo7O24
6-、Mo8O26
4-等のモリブデンオキソアニオンの塩化合物であれば限定されない。モリブデンオキソアニオンのアルカリ金属塩であってもよく、アルカリ土類金属塩であってもよく、アンモニウム塩であってもよい。
【0073】
前記モリブデン酸塩化合物としては、モリブデンオキソアニオンのアルカリ金属塩が好ましく、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム又はモリブデン酸ナトリウムであることがより好ましく、モリブデン酸カリウム又はモリブデン酸ナトリウムであることがさらに好ましく、モリブデン酸ナトリウムであることが特に好ましい。
【0074】
本実施形態のフォルステライト粒子の製造方法において、前記モリブデン酸塩化合物は、水和物であってもよい。
【0075】
モリブデン化合物は、三酸化モリブデン、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム、及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であること好ましく、三酸化モリブデン、モリブデン酸カリウム及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であることがより好ましく、三酸化モリブデン及び/又はモリブデン酸ナトリウムであることがさらに好ましい。
【0076】
実施形態の製造方法において、上記のモリブデン酸塩化合物を用いることで製造されるフォルステライト粒子のモリブデン含有量の割合が低減する傾向にあり、フォルステライトの結晶性を高めるとの観点から好ましい。
【0077】
実施形態のフォルステライト粒子の製造方法は、モリブデン化合物と、ナトリウム化合物及び/又はカリウム化合物との存在下で、マグネシウム化合物及び珪素又は珪素化合物を焼成する工程を含んでもよい。
【0078】
実施形態のフォルステライト粒子の製造方法は、焼成工程に先立ち、マグネシウム化合物、珪素又は珪素化合物、モリブデン化合物、並びにナトリウム化合物及び/又はカリウム化合物を混合して混合物とする工程(混合工程)を含むことができ、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含むことができる。
【0079】
実施形態の製造方法において、ナトリウム化合物及び/又はカリウム化合物を用いることで、製造されるフォルステライト粒子の粒子径の調整が容易であり、凝集の程度の少ない又は凝集のないフォルステライト粒子を容易に製造可能である。
【0080】
ここで、少なくとも一部のモリブデン化合物及びナトリウム化合物に代えて、モリブデン酸ナトリウムのような、モリブデンとナトリウムとを含有する化合物を使用することもできる。同様に、少なくとも一部のモリブデン化合物及びカリウム化合物に代えて、モリブデン酸カリウムのような、モリブデンとカリウムとを含有する化合物を使用することもできる。
【0081】
そのため、マグネシウム化合物と、珪素又は珪素化合物と、モリブデンとカリウム及び/又はナトリウムとを含む化合物と、を混合して混合物とする工程も、マグネシウム化合物と、珪素又は珪素化合物と、モリブデン化合物と、カリウム化合物及び/又はナトリウム化合物と、を混合して混合物とする工程とみなす。
【0082】
また、フラックス剤として好適な、モリブデンとナトリウムとを含有する化合物は、例えば、より安価かつ入手が容易な、モリブデン化合物及びナトリウム化合物を原料として焼成の過程で生じさせることができる。ここでは、モリブデン化合物及びナトリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、モリブデンとナトリウムとを含有する化合物をフラックス剤として用いる場合、の両者を合わせて、モリブデン化合物及びナトリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、即ち、モリブデン化合物及びナトリウム化合物の存在下とみなす。
【0083】
フラックス剤として好適な、モリブデンとカリウムとを含有する化合物は、例えば、より安価かつ入手が容易な、モリブデン化合物及びカリウム化合物を原料として焼成の過程で生じさせることができる。ここでは、モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、モリブデンとカリウムとを含有する化合物をフラックス剤として用いる場合、の両者を合わせて、モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、即ち、モリブデン化合物及びカリウム化合物の存在下とみなす。
【0084】
なお、上述のモリブデン化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
また、モリブデン酸ナトリウム(Na2MonO3n+1、n=1~3)は、ナトリウムを含むため、後述するナトリウム化合物としての機能も有しうる。
【0086】
また、モリブデン酸カリウム(K2MonO3n+1、n=1~3)は、カリウムを含むため、後述するカリウム化合物としての機能も有しうる。
【0087】
(ナトリウム化合物)
ナトリウム化合物としては、特に制限されないが、炭酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム、金属ナトリウム等が挙げられる。これらのうち、工業的に容易入手と取扱いし易さの観点から炭酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、酸化ナトリウム、硫酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0088】
なお、上述のナトリウム化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0089】
また、上記と同様に、モリブデン酸ナトリウムは、モリブデンを含むため、上述のモリブデン化合物としての機能も有しうる。
【0090】
(カリウム化合物)
カリウム化合物としては、特に制限されないが、塩化カリウム、亜塩素酸カリウム、塩素酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酢酸カリウム、酸化カリウム、臭化カリウム、臭素酸カリウム、水酸化カリウム、珪酸カリウム、燐酸カリウム、燐酸水素カリウム、硫化カリウム、硫化水素カリウム、モリブデン酸カリウム、タングステン酸カリウム等が挙げられる。この際、前記カリウム化合物は、モリブデン化合物の場合と同様に、異性体を含む。これらのうち、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酸化カリウム、水酸化カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、モリブデン酸カリウムを用いることが好ましく、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、モリブデン酸カリウムを用いることがより好ましい。
【0091】
なお、上述のカリウム化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0092】
また、上記と同様に、モリブデン酸カリウムは、モリブデンを含むため、上述のモリブデン化合物としての機能も有しうる。
【0093】
実施形態のフォルステライト粒子の製造方法における、好ましい原料の組み合わせとして、水酸化マグネシウムと、二酸化ケイ素と、三酸化モリブデンと、を用いることが挙げられる。
【0094】
同様に実施形態のフォルステライト粒子の製造方法における、好ましい原料の組み合わせとして、水酸化マグネシウムと、二酸化ケイ素と、モリブデン酸ナトリウム又はその水和物と、を用いることがが挙げられる。
【0095】
同様に実施形態のフォルステライト粒子の製造方法における、好ましい原料の組み合わせとして、水酸化マグネシウムと、二酸化ケイ素と、三酸化モリブデンと、モリブデン酸ナトリウム又はその水和物と、を用いることが挙げられる。
【0096】
モリブデン化合物及びナトリウム化合物の存在下、又はモリブデン化合物及びカリウム化合物の存在下で、マグネシウム化合物及び珪素又は珪素化合物を焼成することにより、製造されるフォルステライト粒子の粒子径の調整が容易であり、凝集の程度の少ない又は凝集のないフォルステライト粒子を容易に製造可能である。その理由は明らかではないが、以下の理由が考えられる。例えば、K2MoO4及びNa2MoO4は安定な化合物であって焼成工程にて揮発し難いため、揮発過程での急激な反応を伴いにくく、フォルステライト粒子の成長を制御しやすい。また、溶融したK2MoO4及びNa2MoO4が溶媒のような機能を発揮し、例えば反応時間を長くすることで、粒子径の値を大きくできると考えられる。また、溶融したK2MoO4及びNa2MoO4が溶媒のような機能を発揮するため、フォルステライト粒子が分散されて凝集が生じ難いことが考えられる。
【0097】
本実施形態のフォルステライト粒子の製造方法において、モリブデン化合物はフラックス剤として用いられる。本明細書中では、以下、フラックス剤としてモリブデン化合物を用いたこの製造方法を単に「フラックス法」ということがある。なお、かかる焼成により、マグネシウム化合物と、珪素又は珪素化合物と、モリブデン化合物とが高温で反応し、モリブデン酸マグネシウムおよびケイモリブデン酸を形成した後、このモリブデン酸マグネシウムおよびケイモリブデン酸が、更に高温で酸化マグネシウムと酸化モリブデン、酸化ケイ素と酸化モリブデンに分解する際に一部の酸化モリブデンはフォルステライト粒子内に取り込まれるものと考えられる。大部分の酸化モリブデンは蒸発して系外に取り除かれるが、モリブデン化合物としてモリブデン酸ナトリウムやモリブデン酸カリウムを用いた場合には、アルカリ金属化合物と酸化モリブデンは化合しやすく、再度モリブデン酸塩を形成して系外にはほとんど排出されずに系内に残る。
【0098】
フォルステライト粒子に含まれるモリブデン化合物の生成機構について、より詳しくは、フォルステライト粒子中にMg原子およびSi原子の反応によるMo-O-MgおよびMo-O-Siの形成が起こり、高温焼成によって大部分のMoの脱離が生じるが、一部のモリブデンは上記Mo-O-MgおよびMo-O-Siを形成したまま粒子内に残るものと考えられる。
【0099】
フォルステライト粒子に取り込まれない酸化モリブデンは、昇華させることにより回収して、再利用することもできる。こうすることで、フォルステライト粒子の表面に付着する酸化モリブデン量を低減でき、フォルステライト粒子本来の性質を最大限に付与することができる。
【0100】
一方、モリブデンオキソアニオンのアルカリ金属塩は、焼成温度域でも気化することなく、焼成後に洗浄で、容易に回収できるため、モリブデン化合物が焼成炉外へ放出される量も低減され、生産コストとしても大幅に低減することができる。
【0101】
上記フラックス法において、例えばモリブデン化合物とナトリウム化合物とを併用すると、まず、モリブデン化合物とナトリウム化合物が反応してモリブデン酸ナトリウムが形成されると考えられる。同時に、モリブデン化合物がマグネシウム化合物、およびケイ素化合物と反応してモリブデン酸マグネシウムおよびケイモリブデン酸を形成し、更なる高温焼成にて、これらモリブデン酸マグネシウムおよびケイモリブデン酸が分解した後にフォルステライトを形成すると考えられる。そして、例えば、液相のモリブデン酸ナトリウムの存在下でモリブデン酸マグネシウムおよびケイモリブデン酸が分解し、フォルステライトを形成した後に結晶成長させることで、上述のフラックスの蒸発(MoO3の昇華)を抑制しつつ、凝集の程度の低い又は凝集の無いフォルステライト粒子を容易に得ることができると考えられる。
【0102】
(金属化合物)
金属化合物は所望により焼成時に使用されうる。実施形態のフォルステライト粒子の製造方法は、焼成工程に先立ち、マグネシウム化合物、珪素又は珪素化合物、モリブデン化合物、ナトリウム化合物及び/又はカリウム化合物、並びに金属化合物を混合して混合物とする工程(混合工程)を含むことができ、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含むことができる。
【0103】
金属化合物としては、特に制限されないが、第II族の金属化合物、第III族の金属化合物からなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0104】
前記第II族の金属化合物としては、カルシウム化合物、ストロンチウム化合物、バリウム化合物等が挙げられる。
【0105】
前記第III族の金属化合物としては、スカンジウム化合物、イットリウム化合物、ランタン化合物、セリウム化合物等が挙げられる。
【0106】
なお上述の金属化合物は、金属元素の酸化物、水酸化物、炭酸化物、塩化物を意味する。例えば、イットリウム化合物であれば、酸化イットリウム(Y2O3)、水酸化イットリウム、炭酸化イットリウムが挙げられる。これらのうち、金属化合物は金属元素の酸化物であることが好ましい。なお、これらの金属化合物は異性体を含む。
【0107】
これらのうち、第3周期元素の金属化合物、第4周期元素の金属化合物、第5周期元素の金属化合物、第6周期元素の金属化合物であることが好ましく、第4周期元素の金属化合物、第5周期元素の金属化合物であることがより好ましく、第5周期元素の金属化合物であることがさらに好ましい。具体的には、カルシウム化合物、イットリウム化合物、ランタン化合物を用いることが好ましく、カルシウム化合物、イットリウム化合物を用いることがより好ましく、イットリウム化合物を用いることが特に好ましい。
【0108】
金属化合物は、混合工程で使用されるマグネシウム化合物の総量に対して、例えば、0~1.2質量%(例えば、0~1モル%)の割合で使用することが好ましい。
【0109】
本実施形態のフォルステライト粒子の製造方法において、使用するマグネシウム化合物、珪素又は珪素化合物、及びモリブデン化合物の配合量は、特に限定されるものではないが、原料中、例えば前記混合物中において、マグネシウム化合物および珪素又は珪素化合物の総配合量100質量部に対し、モリブデン化合物を、1~500質量部で配合してもよく、5~200質量部で配合してもよい。
【0110】
本実施形態のフォルステライト粒子の製造方法において、原料中の、例えば前記混合物中のケイ素に対するマグネシウムのモル比(Mg/Si)は2を基本として、余剰に生成され得るMgOは容易に除去可能であることから、前記Mg/Siは2以上であってよく、2~3であってよく、2~2.5であってよい。
【0111】
実施形態のフォルステライト粒子の製造方法において、原料中の、例えば前記混合物中のモリブデン化合物中のモリブデン原子と、マグネシウム化合物およびケイ素化合物中のマグネシウムおよびケイ素原子とのモル比(モリブデン/(マグネシウム+ケイ素))の値は、0.001以上であることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.02以上であることがさらに好ましく、0.04以上であることが特に好ましい。
【0112】
原料中の、例えば前記混合物中のモリブデン化合物中のモリブデン原子と、マグネシウム化合物およびケイ素化合物中のマグネシウムおよびケイ素原子とのモル比の上限値は、適宜定めればよいが、使用するモリブデン化合物の削減と製造効率向上の観点から、例えば、上記モル比(モリブデン/(マグネシウム+ケイ素))の値は、5以下であってもよく、3以下であってもよく、1以下であってもよく、0.5以下であってもよい。
【0113】
原料中の、例えば前記混合物中の上記モル比(モリブデン/(マグネシウム+ケイ素))の数値範囲の一例としては、例えば、モリブデン/(マグネシウム+ケイ素)の値が0.001~5であってもよく、0.01~3であってもよく、0.02~1であってもよく、0.04~0.5であってもよい。
【0114】
なお、マグネシウムおよびケイ素に対するモリブデンの使用量を増やすほど、後述の実施例における表2に示すように、上記粒度分布で示される粒子サイズの大きなフォルステライト粒子が得られる傾向にある。
【0115】
上記の範囲で各種化合物を使用することで、得られるフォルステライト粒子が含むモリブデン化合物の量がより適当となるとともに、粒子形状及び粒子サイズの制御されたフォルステライト粒子が容易に得られる。
【0116】
[焼成工程]
焼成工程は、前記混合物を焼成する工程である。実施形態に係る前記フォルステライト粒子は、前記混合物を焼成することで得られる。上記した通り、この製造方法はフラックス法と呼ばれる。
【0117】
フラックス法は、溶液法に分類される。フラックス法とは、より詳細には、結晶-フラックス2成分系状態図が共晶型を示すことを利用した結晶成長の方法である。フラックス法のメカニズムとしては、以下の通りであると推測される。すなわち、溶質およびフラックスの混合物を加熱していくと、溶質およびフラックスは液相となる。この際、フラックスは融剤であるため、換言すれば、溶質-フラックス2成分系状態図が共晶型を示すため、溶質は、その融点よりも低い温度で溶融し、液相を構成することとなる。この状態で、フラックスを蒸発させると、フラックスの濃度は低下し、換言すれば、フラックスによる前記溶質の融点低下効果が低減し、フラックスの蒸発が駆動力となって溶質の結晶成長が起こる(フラックス蒸発法)。なお、溶質およびフラックスは液相を冷却することによっても溶質の結晶成長を起こすことができる(徐冷法)。
【0118】
フラックス法は、融点よりもはるかに低い温度で結晶成長をさせることができる、結晶構造を精密に制御できる、自形をもつ結晶体を形成できる等のメリットを有する。
【0119】
フラックスとしてモリブデン化合物を用いたフラックス法によるフォルステライト粒子の製造では、そのメカニズムは必ずしも明らかではないが、例えば、以下のようなメカニズムによるものと推測される。すなわち、モリブデン化合物の存在下でマグネシウム化合物およびケイ素化合物を焼成すると、まず、モリブデン酸マグネシウムおよびケイモリブデン酸が形成される。この際、当該モリブデン酸マグネシウムおよびケイモリブデン酸は、上述の説明からも理解されるように、フォルステライトの融点よりも低温でフォルステライト結晶を成長させる。そして、例えば、フラックスを蒸発させることで、モリブデン酸マグネシウムおよびケイモリブデン酸が分解し、結晶成長することでフォルステライト粒子を得ることができる。すなわち、モリブデン化合物がフラックスとして機能し、モリブデン酸マグネシウムおよびケイモリブデン酸という中間体を経由してフォルステライト粒子が製造されるのである。
【0120】
上記フラックス法により、モリブデンを含み、前記モリブデンがフォルステライト粒子の表層に偏在しているフォルステライト粒子を製造することができる。
【0121】
焼成の方法は、特に限定はなく、公知慣用の方法で行うことができる。焼成の過程でマグネシウム化合物と、珪素又は珪素化合物と、モリブデン化合物とが反応して、モリブデン酸マグネシウムおよびケイモリブデン酸を形成すると考えられる。さらに、焼成温度が700℃以上になると、モリブデン酸マグネシウムおよびケイモリブデン酸が分解し、フォルステライト粒子を形成すると考えられる。また、フォルステライト粒子では、モリブデン酸マグネシウムおよびケイモリブデン酸が分解することで、マグネシアとシリカと酸化モリブデンになり、その後フォルステライトが形成される際に、モリブデン化合物がフォルステライト粒子内に取り込まれるものと考えられる。
【0122】
また、焼成する時の、マグネシウム化合物と、珪素又は珪素化合物と、モリブデン化合物の状態は特に限定されず、モリブデン化合物が、マグネシウム化合物と、珪素又は珪素化合物とに作用できる同一の空間に存在すれば良い。具体的には、モリブデン化合物の粉体と、マグネシウム化合物の粉体と、珪素又は珪素化合物の粉体とを混ぜ合わせる簡便な混合、粉砕機等を用いた機械的な混合、乳鉢等を用いた混合であっても良く、乾式状態、湿式状態での混合であっても良い。
【0123】
焼成温度の条件に特に限定は無く、目的とするフォルステライト粒子の粒子サイズ、フォルステライト粒子におけるモリブデン化合物の形成、フォルステライト粒子の形状等を考慮して、適宜、決定される。焼成温度は、モリブデン酸マグネシウムおよびケイモリブデン酸の分解温度に近い700℃以上であってもよく、800℃以上であってもよく、900℃以上であってもよく、950℃以上であってもよく、1000℃以上であってもよい。
【0124】
焼成温度が高いほど、粒子形状が制御され、且つ粒子サイズの大きな、フォルステライト粒子が得られやすい傾向にある。このようなフォルステライト粒子を効率よく製造するとの観点からは、上記焼成温度は、950℃以上が好ましく、1000℃以上がより好ましく、1100℃以上がさらに好ましく、1200℃以上が特に好ましい。
【0125】
一般的に、焼成後に得られるフォルステライト粒子の形状を制御しようとすると、フォルステライトの融点に近い1800℃超の高温焼成を行う必要があるが、焼成炉へ負担や燃料コストの点から、産業上利用する為には大きな課題がある。
【0126】
本発明の一実施形態によれば、例えば、マグネシウム化合物と、珪素又は珪素化合物とを焼成する最高焼成温度が1800℃以下の条件であっても、フォルステライト粒子の形成を低コストで効率的に行うことができ、エネルギーコストの削減及び環境負荷低減に資する。
【0127】
また、実施形態のフォルステライト粒子の製造方法によれば、焼成温度が1600℃以下というフォルステライトの融点よりもはるかに低い温度であっても、前駆体の形状にかかわりなく、自形をもつフォルステライト粒子を形成することができる。また、かかる観点からは、上記焼成温度は、1500℃以下が好ましく、1400℃以下がより好ましく、1300℃以下がさらに好ましい。
【0128】
焼成工程における、マグネシウム化合物と、珪素又は珪素化合物とを焼成する焼成温度の数値範囲は、一例として、800~1600℃であってもよく、900~1500℃であってもよく、950~1400℃、1000~1300℃であってもよい。
【0129】
昇温速度は、製造効率の観点から、20~600℃/hであってもよく、40~500℃/hであってもよく、80~400℃/hであってもよい。
【0130】
焼成の時間については、所定の焼成温度への昇温時間を15分~10時間の範囲で行うことが好ましい。焼成温度における保持時間は、5分以上とすることができ、5分~1000時間の範囲で行うことが好ましく、1~30時間の範囲で行うことがより好ましい。フォルステライト粒子の形成を効率的に行うには、2時間以上の焼成温度保持時間であることがさらに好ましく、2~24時間の焼成温度保持時間であることが特に好ましい。
【0131】
一例として、焼成温度が800~1600℃、且つ2~24時間の焼成温度保持時間の条件を選択することで、モリブデンを含む実施形態のフォルステライト粒子が容易に得られる。
【0132】
焼成の雰囲気としては、本発明の効果が得られるのであれば特に限定されないが、例えば、空気や酸素といった含酸素雰囲気や、窒素やアルゴン、又は二酸化炭素といった不活性雰囲気が好ましく、コストの面を考慮した場合は空気雰囲気がより好ましい。
【0133】
焼成するための装置としても必ずしも限定されず、いわゆる焼成炉を用いることができる。焼成炉は昇華した酸化モリブデンと反応しない材質で構成されていることが好ましく、さらに酸化モリブデンを効率的に利用するように、密閉性の高い焼成炉を用いることが好ましい。
【0134】
[冷却工程]
フォルステライト粒子の製造方法は、冷却工程を含んでいてもよい。当該冷却工程は、焼成工程において結晶成長したフォルステライト粒子を冷却する工程である。
【0135】
冷却速度は、特に制限されないが、1~1000℃/時間であることが好ましく、5~500℃/時間であることがより好ましく、50~100℃/時間であることがさらに好ましい。冷却速度が1℃/時間以上であると、製造時間が短縮されうることから好ましい。一方、冷却速度が1000℃/時間以下であると、焼成容器がヒートショックで割れることが少なく、長く使用できることから好ましい。
【0136】
冷却方法は特に制限されず、自然放冷であっても、冷却装置を使用してもよい。
【0137】
[モリブデン除去工程]
本実施形態のフォルステライト粒子の製造方法は、焼成工程後、必要に応じてモリブデンの少なくとも一部を除去するモリブデン除去工程をさらに含んでいてもよい。
【0138】
方法としては、洗浄および高温処理が挙げられる。これらは組み合わせて行うことができる。
【0139】
なお、上述のように、焼成時においてモリブデンは昇華を伴うことから、焼成時間、焼成温度等を制御することで、フォルステライト粒子の表層に存在するモリブデン含有量を制御することができ、またフォルステライト粒子の表層以外(内層)に存在するモリブデン含有量やその存在状態を制御することができる。
【0140】
モリブデンは、フォルステライト粒子の表面に付着しうる。上記昇華以外の手段として、当該モリブデンは水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液などで洗浄することにより除去することができる。
【0141】
この際、使用する水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液の濃度、使用量、及び洗浄部位、洗浄時間等を適宜変更することで、フォルステライト粒子におけるモリブデン含有量を制御することができる。
【0142】
また、高温処理の方法としては、モリブデン化合物の昇華点または沸点以上に昇温する方法が挙げられる。
【0143】
[粉砕工程]
焼成工程を経て得られる焼成物は、フォルステライト粒子が凝集して、検討される用途における好適な粒子径の範囲を満たさない場合がある。そのため、フォルステライト粒子は、必要に応じて、好適な粒子径の範囲を満たすように粉砕してもよい。
焼成物の粉砕の方法は特に限定されず、ボールミル、ジョークラッシャー、ジェットミル、ディスクミル、スペクトロミル、グラインダー、ミキサーミル等の従来公知の粉砕方法を適用できる。
【0144】
[分級工程]
焼成工程により得られたフォルステライト粒子を含む焼成物は、粒子サイズの範囲の調整のために、適宜、分級処理されてもよい。「分級処理」とは、粒子の大きさによって粒子をグループ分けする操作をいう。
【0145】
分級は湿式、乾式のいずれでも良いが、生産性の観点からは、乾式の分級が好ましい。
乾式の分級には、篩による分級のほか、遠心力と流体抗力の差によって分級する風力分級などがあるが、分級精度の観点からは、風力分級が好ましく、コアンダ効果を利用した気流分級機、旋回気流式分級機、強制渦遠心式分級機、半自由渦遠心式分級機などの分級機を用いて行うことができる。
【0146】
上記した粉砕工程や分級工程は、必要な段階において行うことができる。これら粉砕や分級の有無やそれらの条件選定により、例えば、得られるフォルステライト粒子の平均粒径を調整することができる。
【0147】
実施形態のフォルステライト粒子、或いは実施形態の製造方法で得られるフォルステライト粒子は、凝集の程度が少ない或いは凝集していないものであるので、本来の性質を発揮しやすく、それ自体の取扱性により優れており、また被分散媒体に分散させて用いる場合において、より分散性に優れる観点から、好ましい。
【0148】
なお、上記の実施形態のフォルステライト粒子の製造方法によれば、凝集の程度が少ない又は凝集のないフォルステライト粒子を容易に製造可能であるので、上記の粉砕工程や分級工程は行わなくとも、目的の優れた性質を有するフォルステライト粒子を、生産性高く製造することができるという優れた利点を有する。
【0149】
以上に説明した実施形態のフォルステライト粒子の製造方法によれば、モリブデンを含有し、形状の制御された高品質のフォルステライト粒子を、高効率に製造可能である。
【実施例】
【0150】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0151】
<フォルステライト粒子の製造>
[実施例1]
水酸化マグネシウム(協和化学工業製、キスマ(登録商標)5)5.8gと、二酸化ケイ素(トーソー・シリカ製、VN3)3.0gと、モリブデン酸ナトリウム・二水和物(関東化学製試薬)8.8gと、イオン交換水30gと、5mmφジルコニアビーズ120gとを、100mlポリプロピレン瓶に仕込み、ペイントシェイカーを用いて120分間混合及び粉砕し、混合物を得た。得られた混合物を金属バットに移して120℃のオーブンで乾燥させ、乾燥物をミキサー(大阪ケミカル製)で粉砕した。粉砕した原料を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて1500℃で10時間焼成を行なった。なお、昇温は2℃/分で行った。降温後、坩堝を取り出し、白色粉末を得た。
【0152】
続いて、得られた前記白色粉末をビーカーに移し、イオン交換水200gを加え、3時間撹拌して、モリブデン酸ナトリウムをイオン交換水に溶解させた。次いで、5C濾紙を用いて吸引濾過にて濾別し、得られた粒子を120℃で乾燥させ、実施例1の白色粉末6.8gを得た。
【0153】
[実施例2]
水酸化マグネシウム(協和化学工業製、キスマ5)5.8gと、二酸化ケイ素(トーソー・シリカ製、VN3)3.0gと、三酸化モリブデン(日本無機化学工業製)0.88gと、5mmφジルコニアビーズ100gとを、80mlジルコニアポットに仕込み、遊星ミル(フリッチュ製、P-5)を用いて200rpmで60分間混合及び粉砕し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて1300℃で10時間焼成を行なった。なお、昇温は2℃/分で行った。降温後、坩堝を取り出し、白色粉末を得た。
【0154】
続いて、得られた前記白色粉末をビーカーに移し、0.5%アンモニア水200gを加え、3時間撹拌して残存する三酸化モリブデンをアンモニア水に溶解させた。次いで、5C濾紙を用いて吸引濾過にて濾別し、得られた粒子を120℃で乾燥させ、実施例2の白色粉末6.8を得た。
【0155】
[実施例3]
実施例1において、焼成温度を1000℃とし、昇温速度を5℃/分とした以外は実施例1と同様にして、実施例3の白色粉末を得た。
【0156】
[実施例4]
実施例1において、焼成温度を1300℃とし、昇温速度を5℃/分とした以外は実施例1と同様にして、実施例4の白色粉末を得た。
【0157】
[実施例5]
実施例2において、焼成温度を1100℃とし、昇温速度を5℃/分とした以外は実施例2と同様にして、実施例5の白色粉末を得た。
【0158】
[実施例6]
水酸化マグネシウム(協和化学工業製、キスマ5)8.28gと、二酸化ケイ素(トーソー・シリカ製、VN3)4.29gと、モリブデン酸ナトリウム・二水和物(関東化学製試薬)6.96gと、三酸化モリブデン(日本無機化学工業製)4.11gと、イオン交換水30gと、5mmφジルコニアビーズ120gとを、100mlポリプロピレン瓶に仕込み、ペイントシェイカーを用いて120分間混合及び粉砕し、混合物を得た。得られた混合物を金属バットに移して120℃のオーブンで乾燥させ、乾燥物をミキサー(大阪ケミカル製)で粉砕した。粉砕した原料を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて900℃で10時間焼成を行なった。なお、昇温は5℃/分で行った。降温後、坩堝を取り出し、白色粉末を得た。
【0159】
続いて、得られた前記白色粉末をビーカーに移し、イオン交換水200gを加え、3時間撹拌してモリブデン酸ナトリウムをイオン交換水に溶解させた。次いで5C濾紙を用いて吸引濾過にて濾別し、得られた粒子を120℃で乾燥させ、実施例6白色粉末10.2gを得た。
【0160】
[実施例7]
実施例6において、焼成温度を1100℃とした以外は実施例6と同様にして、実施例7の白色粉末を得た。
【0161】
[実施例8]
実施例6において、焼成温度を1300℃とした以外は実施例6と同様にして、実施例8の白色粉末を得た。
【0162】
[実施例9]
実施例6において、焼成温度を1500℃とし、昇温速度を2℃/分とした以外は実施例6と同様にして、実施例9の白色粉末を得た。
【0163】
[実施例10~13]
実施例4において、モリブデン酸ナトリウム・二水和物の使用量を表2に記載の質量に変更した以外は、実施例4と同様にして、各実施例10~13の白色粉末を得た。
【0164】
[比較例1]
水酸化マグネシウム(協和化学工業製、キスマ5)5.8gと、二酸化ケイ素(トーソー・シリカ製、VN3)3.0gと、5mmφジルコニアビーズ100gとを、80mlジルコニアポットに仕込み、遊星ミル(フリッチュ製、P-5)を用いて60分間混合及び粉砕し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて1100℃で10時間焼成を行なった。なお、昇温は5℃/分で行った。降温後、坩堝を取り出し、比較例1の白色粉末を得た。
【0165】
[比較例2]
比較例1において、焼成温度を1300℃とした以外は比較例1と同様にして、比較例2の白色粉末を得た。
【0166】
<評価>
各実施例及び比較例で得られた粉末を試料粉末として、下記の評価を行った。
【0167】
[結晶構造解析:XRD(X線回折)法]
試料粉末を0.5mm深さの測定試料用ホルダーに充填し、それを広角X線回折(XRD)装置(株式会社リガク製 UltimaIV)にセットし、Cu/Kα線、40kV/40mA、スキャンスピード2°/min、走査範囲10~70°の条件で測定を行った。
【0168】
[フォルステライト粒子の比表面積測定]
フォルステライト粒子の比表面積は、比表面積計(マイクロトラック・ベル株式会社製、BELSORP-mini)にて測定し、BET法による窒素ガスの吸着量から測定された試料1g当たりの表面積を、比表面積(m2/g)として算出した。
【0169】
[一次粒子径]
フォルステライト粒子の一次粒子径は、粒子を真球と仮定し、上記の比表面積に基づく換算粒子径として算出した。換算式は以下を用いた。
一次粒子径Dsa[nm]=6000/(密度[g/cm3]×比表面積[m2/g])
本実施例において、フォルステライト粒子の密度は3.0g/cm3で算出した。
【0170】
[粒度分布測定]
レーザー回折式乾式粒度分布計(株式会社日本レーザー製 HELOS(H3355)&RODOS)を用いて、分散圧3bar、引圧90mbarの条件で、乾式で試料粉末の粒子径分布を測定した。体積積算%の分布曲線が50%の横軸と交差する点の粒子径をD50として求めた。
【0171】
[XRF(蛍光X線)分析]
蛍光X線分析装置PrimusIV(株式会社リガク製)を用い、試料粉末約70mgをろ紙にとり、PPフィルムをかぶせて、次の条件でXRF(蛍光X線)分析を行った。
測定条件
EZスキャンモード
測定元素:F~U
測定時間:標準
測定径:10mm
残分(バランス成分):なし
【0172】
XRF分析により得られたフォルステライト粒子のマグネシウム含有量、ケイ素含有量、及びモリブデン含有量を酸化物換算することにより、フォルステライト粒子100質量%に対するMgO含有率(Mg1)、フォルステライト粒子100質量%に対するSiO2含有率(S1)、及びフォルステライト粒子100質量%に対するMoO3含有率(Mo1)の結果を取得した。
【0173】
[XPS表面分析]
試料粉末に対する表面元素分析は、アルバック・ファイ社製QUANTERA SXMを用い、X線源に単色化Al-Kαを使用し、X線光電子分光法(XPS:XrayPhotoelectron Spectroscopy)の測定を行った。1000μm四方のエリア測定で、n=3測定の平均値を各元素についてatom%で取得した。
【0174】
XPS分析により得られたフォルステライト粒子の表層のマグネシウムおよびケイ素の含有量及び表層のモリブデン含有量を酸化物換算することにより、フォルステライト粒子の表層100質量%に対するMgO含有率(Mg2)(質量%)、フォルステライト粒子の表層100質量%に対するSiO2含有率(S2)(質量%)及びフォルステライト粒子の表層100質量%に対するMoO3含有率(Mo2)(質量%)を求めた。
【0175】
<結果>
上記の評価により得られた各値を表1~2に示す。なお、「N.D.」はnot detectedの略であり、不検出であることを表す。
【0176】
【0177】
【0178】
走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影して得られた、上記の実施例および比較例の粉末のSEMの画像を
図1~11に示す。
実施例1~9の各例の粉末において、美しい多角形状の粒子が多数確認され、製造過程において粒子の結晶形状が制御されていた。
一方、比較例1~2の各例の粉末においては、特定の形状が観察されない無定形の粒子が観察された。
【0179】
XRD分析の結果を
図12に示す。フォルステライト(Mg
2SiO
4)に由来する各ピーク(無印のピーク)が、各実施例及び比較例の試料において認められた。
【0180】
上記のSEM観察およびXRD解析の結果から、実施例及び比較例で得られた粉末は、フォルステライトを含むフォルステライト粒子であることが確認された。
【0181】
実施例1~9の試料粉末においては、不純物に由来するピークはほとんど確認されなかった(
図12、表1中の不純物の検出「-」)。
一方で、比較例1~2の試料粉末においては、エンスタタイト(MgSiO
3)等の不純物に由来するピーク(
図12中の●印のピーク)の検出が顕著であった(表1中の不純物の検出「+」)。このことから、比較例1~2の試料粉末では、フォルステライトの生成反応が完結しておらず、未反応物が残留していることが推察された。
【0182】
このことから、モリブデン化合物の存在下でマグネシウム化合物及びケイ素化合物を焼成した各実施例では、900℃~1500℃という比較的低い焼成温度であっても、フォルステライトの生成反応が良好に進行し、上記不純物の含有量が低減され、形状の制御された高品質のフォルステライト粒子を、高効率に製造可能であることが示された。
【0183】
また、各フォルステライト粒子をエタノールに分散させた後、TEMにて観察し、粒子の凝集の程度を以下の基準にて評価した。
+:粒子同士の凝集が認められる。
-:粒子同士の目立った凝集が認められない。
【0184】
比較例1~2のフォルステライト粒子では、粒子同士の目立った凝集融着が認められるのに対し(凝集の程度+)、実施例1~9のフォルステライト粒子では目立った凝集が認められなかった(凝集の程度-)。
【0185】
このことから、モリブデン化合物の存在下でマグネシウム化合物及びケイ素化合物を焼成した各実施例では、焼結での反応の進行が良好であり、凝集の程度の低い又は凝集のないフォルステライト粒子を、容易に製造可能であることが示された。
【0186】
なお、同焼成温度での実施例2と実施例4とを参照すると、原料にNa2MoO4・2H2Oを使用した実施例4で得られたフォルステライト粒子は、実施例2で得られたフォルステライト粒子よりも凝集の程度が低く抑えられていた。
【0187】
このことから、モリブデン酸ナトリウムの存在下でマグネシウム化合物及びケイ素化合物を焼成することで、凝集の程度の低いフォルステライト粒子が得られ易いことがわかる。
【0188】
また各実施例(例えば、実施例1、3、4同士を参照)において、焼成温度が高いほど、粒子サイズの大きなフォルステライト粒子が得られる傾向にあった。
【0189】
このように、焼成温度を制御することで、フォルステライト粒子の粒子サイズを制御でき、所望の粒子サイズを有するフォルステライト粒子を製造可能であることが分かる。
【0190】
上記のMgO含有率(Mg1)、SiO2含有率(S1)、MoO3含有率(Mo1)、MgO含有率(Mg2)、SiO2含有率(S2)、及びMoO3含有率(Mo2)の値を表1に示す。
【0191】
MoO3含有率(Mo1)の結果より、モリブデンを含むフォルステライト粒子が得られたことが確認された。
【0192】
MoO3含有率(Mo2)の結果より、実施例1~9のフォルステライト粒子は表層にモリブデンを含み、触媒活性など、モリブデンによる種々の作用が発揮されると期待できる。
【0193】
また、MoO3含有率(Mo1)に対する、MoO3含有率(Mo2)の表層偏在比(Mo2/Mo1)の算出結果を表1に示す。
【0194】
表層偏在比(Mo2/Mo1)の結果より、実施例1、4、8のフォルステライト粒子では、XPS表面分析により求められるフォルステライト粒子の表層のモリブデン含有量が、XRF分析により求められるモリブデン含有量よりも多い。このことから、モリブデンがフォルステライト粒子の表層に偏在していることが確認され、モリブデンによる種々の作用が、効果的に発揮されると期待できる。
【0195】
なお、原料にMoO3を使用した実施例2、5で得られたフォルステライト粒子は、原料の(Mg化合物+Si化合物)/Mo化合物の比が10/1であるにも関わらず、その他の実施例よりもMoO3含有率(Mo1)の値が高かった。また、原料にMoO3を併用した実施例6~9でも、MoO3含有率(Mo1)の値が高められる傾向にあった。
【0196】
このように、使用するモリブデン化合物の量や種類を制御することで、フォルステライト粒子に含有されるモリブデン量を制御でき、所望量のモリブデンを含有するフォルステライト粒子を製造可能であった。
【0197】
表2を参照すると、原料中のモリブデン原子と、マグネシウムおよびケイ素原子とのモル比(Mo/(Mg+Si))の値が大きいほど、サイズの大きなフォルステライト粒子が得られる傾向にあった。
【0198】
このように、使用するモリブデン化合物の量を制御することで、フォルステライト粒子の粒子サイズを制御でき、所望の粒子サイズを有するするフォルステライト粒子を製造可能であった。
【0199】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデンを含むフォルステライト粒子
であって、前記フォルステライト粒子100質量%に対して、Mg
2
SiO
4
を65質量%以上含むフォルステライト粒子。
【請求項2】
前記フォルステライト粒子におけるモリブデン含有量は、前記フォルステライト粒子をXRF分析することによって求められる、前記フォルステライト粒子100質量%に対するMoO
3換算での含有率(Mo
1)で0.05~35質量%である、請求項1に記載のフォルステライト粒子。
【請求項3】
前記フォルステライト粒子の表層におけるモリブデン含有量は、前記フォルステライト粒子をXPS表面分析することによって求められる、前記フォルステライト粒子の表層100質量%に対するMoO
3換算での含有率(Mo
2)で0.05~25質量%である、請求項
1に記載のフォルステライト粒子。
【請求項4】
前記フォルステライト粒子の一次粒子の平均粒子径が0.1~100μmである、請求項
1に記載のフォルステライト粒子。
【請求項5】
BET法で測定される比表面積が0.02~20m
2/gである、請求項
1に記載のフォルステライト粒子。
【請求項6】
モリブデン化合物の存在下で、マグネシウム化合物、及び珪素又は珪素化合物を焼成することを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のフォルステライト粒子の製造方法。
【請求項7】
前記モリブデン化合物が、三酸化モリブデン、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である、請求項6に記載のフォルステライト粒子の製造方法。
【請求項8】
前記焼成する焼成温度が800~1600℃である、請求項
6に記載のフォルステライト粒子の製造方法。
【請求項9】
前記焼成する原料中のモリブデン原子と、マグネシウムおよびケイ素原子とのモル比(Mo/(Mg+Si))が、0.001~5である、請求項
6に記載のフォルステライト粒子の製造方法。
【国際調査報告】