(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】新規な化合物およびこれを含む有機発光素子
(51)【国際特許分類】
C07D 403/10 20060101AFI20241003BHJP
C07D 251/24 20060101ALI20241003BHJP
H10K 50/17 20230101ALI20241003BHJP
H10K 50/16 20230101ALI20241003BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20241003BHJP
【FI】
C07D403/10
C07D251/24 CSP
H10K50/17 171
H10K50/16
H10K85/60
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519906
(86)(22)【出願日】2023-09-05
(85)【翻訳文提出日】2024-04-01
(86)【国際出願番号】 KR2023013239
(87)【国際公開番号】W WO2024053991
(87)【国際公開日】2024-03-14
(31)【優先権主張番号】10-2022-0112123
(32)【優先日】2022-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ドン・ウク・ホ
(72)【発明者】
【氏名】ス・ジン・ハン
(72)【発明者】
【氏名】スン・キル・ホン
(72)【発明者】
【氏名】ジェ・タク・イ
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・ミン・ユン
(72)【発明者】
【氏名】ヒキュン・ユン
【テーマコード(参考)】
3K107
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107CC04
3K107CC12
3K107CC21
3K107DD74
3K107DD78
(57)【要約】
本発明は、新規な化合物およびこれを含む有機発光素子を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式1で表される化合物:
【化1】
前記化学式1中、
Xはそれぞれ独立して、N、CH、またはCDでかつ、Xのうち2以上はNであり、
Lは単結合、または置換もしくは非置換のC
6-60アリーレンであり、
Ar
1およびAr
2はそれぞれ独立して、置換もしくは非置換のC
6-60アリールであり、
Ar
3およびAr
4はそれぞれ独立して、非置換であるか、もしくは1個以上の重水素で置換されたフェニルであり、
Ar
1~Ar
4のいずれか1つはシアノで置換され、
HArは非置換であるか、もしくは重水素、置換もしくは非置換のC
1-60アルキル、および置換もしくは非置換のC
6-60アリールから構成される群よりそれぞれ独立して選択される1個~3個の置換基で置換されたピリミジニル;置換もしくは非置換の、2個のC
6-60アリールで置換されたトリアジニル;または置換もしくは非置換の、1個のC
6-60アリールで置換されたキナゾリニルであり、
aおよびbはそれぞれ独立して、0~4の整数であり、
nおよびmはそれぞれ独立して、0または1であり、
ただし、n+mは1であり、
a+nは0~4の整数であり、
b+mは0~4の整数である。
【請求項2】
前記化学式1は、下記の化学式1-1~1-3のいずれか1つで表される、請求項1に記載の化合物:
【化2】
【化3】
前記化学式1-1~1-3中、
X、L、Ar
1、Ar
2、Ar
3、Ar
4、a、b、nおよびmは請求項1で定義した通りであり、
YはNまたはCR’でかつ、Yのうち2以上はNであり、
R’は水素、重水素、置換もしくは非置換のC
1-60アルキル、または置換もしくは非置換のC
6-60アリールであり、
R
1およびR
2はそれぞれ独立して、置換もしくは非置換のC
6-60アリールであり、
cは0~4の整数である。
【請求項3】
前記化学式1は、下記の化学式1-4~1-9のいずれか1つで表される、請求項1に化合物:
【化4】
【化5】
【化6】
前記化学式1-4~1-9中、
X、L、Ar
1、Ar
2、A
3、Ar
4、HAr、a、およびbは請求項1で定義した通りである。
【請求項4】
Lは単結合、フェニレン、またはビフェニルジイルであり、
前記フェニレンおよびビフェニルジイルは非置換であるか、もしくは1個以上の重水素で置換されている、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
Ar
1は非置換であるか、もしくは1個以上の重水素で置換されたフェニルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
Ar
2はフェニル、ビフェニリル、またはナフチルであり、前記Ar
2は非置換であるか、もしくは1個以上の重水素で置換されている、 請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
Lはフェニレン、またはビフェニルジイルであり、ここで、前記Lは非置換であるか、もしくは1個以上の重水素で置換され、
Ar
2はシアノで置換されたフェニル、またはシアノで置換されたナフチルであり、ここで、前記Ar
2は重水素で置換されているか、もしくは非置換である、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
Lは単結合であり、
Ar
2はフェニル、またはビフェニリルであり、ここで、前記Ar
2は非置換であるか、もしくは1個以上の重水素で置換され、
Ar
3はシアノで置換されたフェニルであり、ここで、前記Ar
3は重水素で置換されているか、もしくは非置換である、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
R’は水素、重水素、もしくは非置換であるか、もしくは1個以上の重水素で置換されたメチルである、請求項2に記載の化合物。
【請求項10】
R
1およびR
2はそれぞれ独立して、フェニル、ビフェニリル、またはナフチルであり、
前記R
1およびR
2は非置換であるか、もしくは1個以上の重水素で置換されている、請求項2に記載の化合物。
【請求項11】
前記化学式1で表される化合物は、下記の化合物から構成される群より選択されるいずれか1つである、請求項1に記載の化合物:
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
。
【請求項12】
第1電極;前記第1電極に対向して備えられた第2電極;および前記第1電極と前記第2電極との間に備えられた1層以上の有機物層を含む有機発光素子であって、前記有機物層の1層以上は、請求項1~11のいずれか1項に記載の化合物を含む、有機発光素子。
【請求項13】
前記化合物を含む有機物層は、電子輸送層、電子注入層、または電子輸送および注入層である、請求項12に記載の有機発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2022年9月5日付の韓国特許出願第10-2022-0112123号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、新規な化合物およびこれを含む有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0003】
一般に、有機発光現象とは、有機物質を用いて電気エネルギーを光エネルギーに変換させる現象をいう。有機発光現象を利用する有機発光素子は、広い視野角、優れたコントラスト、速い応答時間を有し、輝度、駆動電圧および応答速度特性に優れ、多くの研究が進められている。
【0004】
有機発光素子は、一般に、陽極と陰極、および前記陽極と陰極との間に有機物層を含む構造を有する。前記有機物層は、有機発光素子の効率と安定性を高めるためにそれぞれ異なる物質で構成された多層の構造からなる場合が多く、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層などからなる。このような有機発光素子の構造において2つの電極の間に電圧をかけると、陽極からは正孔が、陰極からは電子が有機物層に注入され、注入された正孔と電子が出会った時にエキシトン(exciton)が形成され、このエキシトンが再び基底状態に落ちる時、光を発する。
【0005】
このような有機発光素子に使用される有機物について、新たな材料の開発が持続的に要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国特許公開番号第10-2000-0051826号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、新規な化合物およびこれを含む有機発光素子に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の化学式1で表される化合物を提供する:
【化1】
【0009】
前記化学式1中、
Xはそれぞれ独立して、N、CH、またはCDでかつ、Xのうち2以上はNであり、
Lは単結合、または置換もしくは非置換のC6-60アリーレンであり、
Ar1およびAr2はそれぞれ独立して、置換もしくは非置換のC6-60アリールであり、
Ar3およびAr4はそれぞれ独立して、非置換であるか、もしくは1個以上の重水素で置換されたフェニルであり、
Ar1~Ar4のいずれか1つはシアノで置換され、
HArは非置換であるか、もしくは重水素、置換もしくは非置換のC1-60アルキル、および置換もしくは非置換のC6-60アリールから構成される群よりそれぞれ独立して選択される1個~3個の置換基で置換されたピリミジニル;置換もしくは非置換の、2個のC6-60アリールで置換されたトリアジニル;または置換もしくは非置換の、1個のC6-60アリールで置換されたキナゾリニルであり、
aおよびbはそれぞれ独立して、0~4の整数であり、
nおよびmはそれぞれ独立して、0または1であり、
ただし、n+mは1であり、
a+nは0~4の整数であり、
b+mは0~4の整数である。
【0010】
また、本発明は、第1電極;前記第1電極に対向して備えられた第2電極;および前記第1電極と前記第2電極との間に備えられた1層以上の有機物層を含む有機発光素子であって、前記有機物層の1層以上は、前記化学式1で表される化合物を含む、有機発光素子を提供する。
【発明の効果】
【0011】
上述した化学式1で表される化合物は、有機発光素子の有機物層の材料として使用可能であり、有機発光素子において効率の向上、低い駆動電圧および/または寿命特性を向上させることができる。特に、上述した化学式1で表される化合物は、正孔注入材料、正孔輸送材料、正孔注入および輸送材料、発光材料、電子輸送材料、または電子注入材料として使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】基板1、陽極2、発光層3、陰極4からなる有機発光素子の例を示す図である。
【
図2】基板1、陽極2、正孔注入層5、正孔輸送層6、発光層3、電子輸送および注入層7、並びに陰極4からなる有機発光素子の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の理解のためにより詳しく説明する。
【0014】
本明細書において、
【化2】
および
【化3】
は他の置換基に連結される結合を意味し、「D」は重水素を意味する。
【0015】
本明細書において、「置換もしくは非置換の」という用語は、重水素;ハロゲン基;シアノ基;ニトロ基;ヒドロキシ基;カルボニル基;エステル基;イミド基;アミノ基;ホスフィンオキシド基;アルコキシ基;アリールオキシ基;アルキルチオキシ基;アリールチオキシ基;アルキルスルホキシ基;アリールスルホキシ基;シリル基;ホウ素基;アルキル基;シクロアルキル基;アルケニル基;アリール基;アラルキル基;アラルケニル基;アルキルアリール基;アルキルアミン基;アラルキルアミン基;ヘテロアリールアミン基;アリールアミン基;アリールホスフィン基;またはN、OおよびS原子のうちの1個以上を含むヘテロ環基からなる群より選択された1個以上の置換基で置換もしくは非置換であるか、前記例示した置換基のうち2以上の置換基が連結された置換基で置換もしくは非置換であることを意味する。例えば、「2以上の置換基が連結された置換基」は、ビフェニリル基であってもよい。つまり、ビフェニリル基は、アリール基であってもよく、2個のフェニル基が連結された置換基と解釈される。一例として、「置換もしくは非置換の」という用語は、「非置換であるか、もしくは重水素、ハロゲン、シアノ、C1-10アルキル、C1-10アルコキシおよびC6-20アリールから構成される群より選択される1個以上の置換基で置換された」;または「非置換であるか、もしくは重水素、ハロゲン、シアノ、メチル、エチル、フェニルおよびナフチルから構成される群より選択される1個以上の置換基で置換された」という意味で理解される。また、本明細書において、「1個以上の置換基で置換された」という用語は、「1個から置換可能な水素の最大個数で置換された」という意味で理解される。あるいは、本明細書において、「1個以上の置換基で置換された」という用語は、「1個~5個の置換基で置換された」、または「1個または2個の置換基で置換された」という意味で理解される。
【0016】
本明細書において、カルボニル基の炭素数は特に限定されないが、炭素数1~40であることが好ましい。具体的には、下記のような構造の置換基であってもよいが、これに限定されるものではない。
【化4】
【0017】
本明細書において、エステル基は、エステル基の酸素が炭素数1~25の直鎖、分枝鎖もしくは環状アルキル基、または炭素数6~25のアリール基で置換されていてもよい。具体的には、下記の構造式の置換基であってもよいが、これに限定されるものではない。
【化5】
【0018】
本明細書において、イミド基の炭素数は特に限定されないが、炭素数1~25であることが好ましい。具体的には、下記のような構造の置換基であってもよいが、これに限定されるものではない。
【化6】
【0019】
本明細書において、置換もしくは非置換のシリル基は-Si(Z1)(Z2)(Z3)を意味し、ここで、Z1、Z2およびZ3はそれぞれ独立して、水素、重水素、置換もしくは非置換のC1-60アルキル、置換もしくは非置換のC1-60ハロアルキル、置換もしくは非置換のC2-60アルケニル、置換もしくは非置換のC2-60ハロアルケニル、または置換もしくは非置換のC6-60アリールであってもよい。一実施形態によれば、Z1、Z2およびZ3はそれぞれ独立して、水素、重水素、置換もしくは非置換のC1-10アルキル、置換もしくは非置換のC1-10ハロアルキル、置換もしくは非置換のC1-10ハロアルキル、または置換もしくは非置換のC6-20アリールであってもよい。前記シリル基の具体例としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、ビニルジメチルシリル基、プロピルジメチルシリル基、トリフェニルシリル基、ジフェニルシリル基、フェニルシリル基などがあるが、これらに限定されない。
【0020】
本明細書において、ホウ素基は、具体的には、トリメチルホウ素基、トリエチルホウ素基、t-ブチルジメチルホウ素基、トリフェニルホウ素基、フェニルホウ素基などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
本明細書において、ハロゲン基の例としては、フルオロ、クロロ、ブロモ、またはヨードがある。
【0022】
本明細書において、前記アルキル基は、直鎖もしくは分枝鎖であってもよく、炭素数は特に限定されないが、1~40であることが好ましい。一実施形態によれば、前記アルキル基の炭素数は1~20である。もう一つの実施形態によれば、前記アルキル基の炭素数は1~10である。もう一つの実施形態によれば、前記アルキル基の具体例としては、メチル、エチル、プロピル、n-プロピル、イソプロピル、ブチル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、sec-ブチル、1-メチル-ブチル、1-エチルブチル、ペンチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、1-エチル-プロピル、1,1-ジメチルプロピル、ヘキシル、n-ヘキシル、1-メチルペンチル、2-メチルペンチル、4-メチル-2-ペンチル、3,3-ジメチルブチル、2-エチルブチル、ヘプチル、n-ヘプチル、イソヘキシル、1-メチルヘキシル、2-メチルヘキシル、3-メチルヘキシル、4-メチルヘキシル、5-メチルヘキシル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、オクチル、n-オクチル、tert-オクチル、1-メチルヘプチル、2-エチルヘキシル、2,4,4-トリメチル-1-ペンチル、2,4,4-トリメチル-2-ペンチル、2-プロピルペンチル、n-ノニル、2,2-ジメチルヘプチルなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
本明細書において、前記アルケニル基は、直鎖もしくは分枝鎖であってもよく、炭素数は特に限定されないが、2~40であることが好ましい。一実施形態によれば、前記アルケニル基の炭素数は2~20である。もう一つの実施形態によれば、前記アルケニル基の炭素数は2~10である。もう一つの実施形態によれば、前記アルケニル基の炭素数は2~6である。具体例としては、ビニル、1-プロペニル、イソプロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、3-メチル-1-ブテニル、1,3-ブタジエニル、アリル、1-フェニルビニル-1-イル、2-フェニルビニル-1-イル、2,2-ジフェニルビニル-1-イル、2-フェニル-2-(ナフチル-1-イル)ビニル-1-イル、2,2-ビス(ジフェニル-1-イル)ビニル-1-イル、スチルベニル基、スチレニル基などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
本明細書において、前記脂肪族環基(Alicyclic group)は、環形成原子として炭素のみを含みかつ、芳香族性を有しない飽和もしくは不飽和炭化水素環化合物に由来する1価の置換基を意味するもので、単環もしくは縮合多環化合物をすべて包括すると理解される。一実施形態によれば、前記脂肪族環基の炭素数は3~60である。もう一つの実施形態によれば、前記シクロアルキル基の炭素数は3~30である。もう一つの実施形態によれば、前記シクロアルキル基の炭素数は3~20である。このような脂肪族環基の例として、シクロアルキル基のような単環基(monocyclic group)、架橋炭化水素基(bridged hydrocarbon group)、スピロ環炭化水素基(spiro hydrocarbon group)、芳香族炭化水素化合物の水素化された誘導体に由来する置換基などが挙げられる。
【0025】
具体的には、前記シクロアルキル基の例として、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、3-メチルシクロペンチル、2,3-ジメチルシクロペンチル、シクロヘキシル、3-メチルシクロヘキシル、4-メチルシクロヘキシル、2,3-ジメチルシクロヘキシル、3,4,5-トリメチルシクロヘキシル、4-tert-ブチルシクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
また、前記架橋炭化水素基の例として、ビシクロ[1.1.0]ブチル、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル、ビシクロ[4.2.0]オクタ-1,3,5-トリエニル、アダマンチル、デカリニルなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
また、前記スピロ環炭化水素基の例として、スピロ[3.4]オクチル、スピロ[5.5]ウンデカニルなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
また、前記芳香族炭化水素化合物の水素化された誘導体に由来する置換基は、単環もしくは多環の芳香族炭化水素化合物の不飽和結合の一部に水素が添加された化合物に由来する置換基を意味するもので、このような置換基の例として、1H-インデニル、2H-インデニル、4H-インデニル、2,3-ジヒドロ-1H-インデニル、1,4-ジヒドロナフタレニル、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレニル、6,7,8,9-テトラヒドロ-5H-ベンゾ[7]アヌレニル(6,7,8,9-tetrahydro-5H-benzo[7]annulenyl)、6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾシクロヘプテニルなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
本明細書において、アリール基は、環形成原子として炭素のみを含みかつ、芳香族性を有する単環もしくは縮合多環化合物に由来する置換基を意味すると理解され、炭素数は特に限定されないが、炭素数6~60であることが好ましい。一実施形態によれば、前記アリール基の炭素数は6~30である。一実施形態によれば、前記アリール基の炭素数は6~20である。前記アリール基が、単環式アリール基としては、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基などであってもよいが、これらに限定されるものではない。前記多環式アリール基としては、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ピレニル基、ペリレニル基、クリセニル基、フルオレニル基などであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0030】
本明細書において、フルオレニル基は置換されていてもよく、置換基2個が互いに結合してスピロ構造を形成することができる。前記フルオレニル基が置換される場合、
【化7】
などであってもよい。ただし、これらに限定されるものではない。
【0031】
本明細書において、ヘテロ環基(Heterocyclic group)は、環形成原子として、炭素のほか、O、N、SiおよびSの中から選択される1個以上のヘテロ原子をさらに含む単環もしくは縮合多環化合物に由来する1価の置換基を意味するもので、芳香族性を有する置換基または芳香族性を有しない置換基をすべて包括すると理解される。一実施形態によれば、前記ヘテロ環基の炭素数は炭素数2~60である。もう一つの実施形態によれば、前記ヘテロ環基の炭素数は2~30である。もう一つの実施形態によれば、前記ヘテロ環基の炭素数は2~20である。このようなヘテロ環基の例として、ヘテロアリール基、ヘテロ芳香族化合物の水素化された誘導体に由来する置換基などが挙げられる。
【0032】
具体的には、前記ヘテロアリール基は、環形成原子として、炭素のほか、N、OおよびSの中から選択される1個以上のヘテロ原子をさらに含む単環もしくは縮合多環化合物に由来する置換基を意味するもので、芳香族性を有する置換基を意味する。一実施形態によれば、前記ヘテロアリール基の炭素数は炭素数2~60である。もう一つの実施形態によれば、前記ヘテロアリール基の炭素数は2~30である。もう一つの実施形態によれば、前記ヘテロアリール基の炭素数は2~20である。前記ヘテロアリール基の例として、チオフェニル基、フラニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、トリアゾリル基、ピリジニル基、ピピリジニル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、アクリジニル基、ピリダジニル基、ピラジニル基、キノリニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、フタラジニル基、ピリドピリミジニル基、ピリドピラジニル基、イソキノリニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンズオキサゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾカルバゾリル基、ベンゾチオフェニル基、ジベンゾチオフェニル基、ベンゾフラニル基、ジベンゾフラニル基、フェナントロリニル基、イソオキサゾリル基、チアジアゾリル基およびフェノチアジニル基などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
また、前記ヘテロ芳香族化合物の水素化された誘導体に由来する置換基は、単環もしくは多環のヘテロ芳香族化合物の不飽和結合の一部に水素が添加された化合物に由来する置換基を意味するもので、このような置換基の例として、1,3-ジヒドロイソベンゾフラニル(1,3-dihydroisobenzofuranyl)、2,3-ジヒドロベンゾフラニル(2,3-dihydrobenzofuranyl)、1,3-ジヒドロベンゾ[c]チオフェニル(1,3-dihydrobenzo[c]thiophenyl)、2,3-ジヒドロ[b]チオフェニル(2,3-ジヒドロ[b]チオフェニル)などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
本明細書において、アラルキル基、アラルケニル基、アルキルアリール基、アリールアミン基、アリールシリル基中のアリール基は、前述したアリール基の例示の通りである。本明細書において、アラルキル基、アルキルアリール基、アルキルアミン基中のアルキル基は、前述したアルキル基の例示の通りである。本明細書において、ヘテロアリールアミン中のヘテロアリールは、前述したヘテロアリールに関する説明が適用可能である。本明細書において、アラルケニル基中のアルケニル基は、前述したアルケニル基の例示の通りである。本明細書において、アリーレンは、2価の基であることを除けば、前述したアリール基に関する説明が適用可能である。本明細書において、ヘテロアリーレンは、2価の基であることを除けば、前述したヘテロアリールに関する説明が適用可能である。本明細書において、炭化水素基は、1価の基ではなく、2個の置換基が結合して形成したことを除けば、前述したアリール基またはシクロアルキル基に関する説明が適用可能である。本明細書において、ヘテロ環は、1価の基ではなく、2個の置換基が結合して形成したことを除けば、前述したヘテロアリールに関する説明が適用可能である。
【0035】
本明細書において、「重水素化された、または重水素で置換された」という意味は、化合物、2価の連結基または1価の置換基中の置換可能な水素の少なくとも1つが重水素で置換されることを意味する。
【0036】
また、「非置換であるか、もしくは重水素で置換された」または「重水素で置換もしくは非置換の」という意味は、「非置換であるか、もしくは置換可能な水素のうちの1個~最大個数が重水素で置換された」ことを意味する。一例として、「非置換であるか、もしくは重水素で置換されたフェナントリル」という用語は、フェナントリル構造中の重水素で置換可能な水素の最大個数が9個という点を考慮する時、「非置換であるか、もしくは1個~9個の重水素で置換されたフェナントリル」という意味で理解される。
【0037】
また、「重水素化された構造」という意味は、少なくとも1つの水素が重水素で置換されたすべての構造の化合物、2価の連結基または1価の置換基を包括することを意味する。一例として、フェニルの重水素化された構造は、下記のようにフェニル基中の置換可能な少なくとも1つの水素が重水素で置換されたすべての構造の1価の置換基を称すると理解される。
【化8】
【0038】
また、化合物の「重水素置換率」または「重水素化度」は、化合物中に存在できる水素の総数(化合物中の重水素で置換可能な水素の個数および置換された重水素の個数の総和)に対する置換された重水素の個数の比率を百分率で計算したものを意味する。したがって、化合物の「重水素置換率」または「重水素化度」が「K%」であるというのは、化合物中の重水素で置換可能な水素のうちK%が重水素で置換されていることを意味する。
【0039】
この時、前記「重水素置換率」または「重水素化度」は、MALDI-TOF MS(Matrix-Assisted Laser Desorption/Ionization Time-of-Flight Mass Spectrometer)、核磁気共鳴分光法(1H NMR)、TLC/MS(Thin-Layer Chromatography/Mass Spectrometry)、またはGC/MS(Gas Chromatography/Mass Spectrometry)などを用いて、通常知られた方法により測定することができる。より具体的には、MALDI-TOF MSを用いる場合、前記「重水素置換率」または「重水素化度」は、MALDI-TOF MS分析により化合物中に置換された重水素の個数を求めた後、化合物中に存在できる水素の総数に対する置換された重水素の個数の比率を百分率で計算して求められる。
【0040】
(化合物)
本発明は、前記化学式1で表される化合物を提供する。
【0041】
好ましくは、前記化学式1は、下記の化学式1-1~1-3のいずれか1つで表される:
【化9】
【化10】
【0042】
前記化学式1-1~1-3中、
X、L、Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、a、b、nおよびmは先に定義した通りであり、
YはNまたはCR’でかつ、Yのうち2以上はNであり、
R’は水素、重水素、置換もしくは非置換のC1-60アルキル、または置換もしくは非置換のC6-60アリールであり、
R1およびR2はそれぞれ独立して、置換もしくは非置換のC6-60アリールであり、
cは0~4の整数である。
【0043】
好ましくは、前記化学式1は、下記の化学式1-4~1-9のいずれか1つで表される:
【化11】
【化12】
【化13】
【0044】
前記化学式1-4~1-9中、
X、L、Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、HAr、a、およびbは先に定義した通りである。
【0045】
好ましくは、Lは単結合、フェニレン、またはビフェニルジイルであり、
前記フェニレンおよびビフェニルジイルは非置換であるか、もしくは1個以上の重水素で置換されている。
【0046】
好ましくは、Ar1は非置換であるか、もしくは1個以上の重水素で置換されたフェニルである。
【0047】
好ましくは、Ar2はフェニル、ビフェニリル、またはナフチルであり、前記Ar2は非置換であるか、もしくは1個以上の重水素で置換されている。
【0048】
好ましくは、Lはフェニレン、またはビフェニルジイルであり、ここで、前記Lは非置換であるか、もしくは1個以上の重水素で置換されており、
Ar2はシアノで置換されたフェニル、またはシアノで置換されたナフチルであり、ここで、前記Ar2は重水素で置換されているかもしくは非置換である。
【0049】
より好ましくは、Lは非置換であるか、もしくは1個以上の重水素で置換されたフェニレン、もしくは非置換であるか、もしくは1個以上の重水素で置換されたビフェニルジイルであり;Ar2は1個のシアノおよび0~4個の重水素で置換されたフェニル、または1個のシアノおよび0~6個の重水素で置換されたナフチルである。
【0050】
好ましくは、Lは単結合であり;Ar2はフェニル、またはビフェニリルであり、ここで、前記Ar2は非置換であるか、もしくは1個以上の重水素で置換されており、
Ar3はシアノで置換されたフェニルであり、ここで、前記Ar3は重水素で置換されているかもしくは非置換である。
【0051】
より好ましくは、Lは単結合であり;Ar2は非置換であるか、もしくは1個以上の重水素で置換されたフェニル、もしくは非置換であるか、もしくは1個以上の重水素で置換されたビフェニリルであり;Ar3は1個のシアノおよび0~4個の重水素で置換されたフェニルである。
【0052】
好ましくは、R’は水素、重水素、もしくは非置換であるか、もしくは1個以上の重水素で置換されたメチルである。
【0053】
好ましくは、R1およびR2はそれぞれ独立して、フェニル、ビフェニリル、またはナフチルであり、前記R1およびR2は非置換であるか、もしくは1個以上の重水素で置換されている。
【0054】
前記化学式1で表される化合物の代表例は、下記の通りである:
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
。
【0055】
また、本発明は、下記の反応式1などの前記化学式1で表される化合物の製造方法を提供する。
【化21】
前記反応式1中、X、L、Ar
1、Ar
2、Ar
3、Ar
4、HAr、a、b、n、およびmは先に定義した通りであり、Yはハロゲンであり、好ましくは、ブロモまたはクロロである。
【0056】
前記化学式1で表される化合物は、Suzuki-coupling反応によって製造することができる。この時、Suzuki-coupling反応は、パラジウム触媒および塩基下で行われることが好ましく、反応のための反応基は、当該技術分野にて知られた反応基に変更可能である。このような製造方法は、後述する製造例でより具体化される。
【0057】
(有機発光素子)
また、本発明は、前記化学式1で表される化合物を含む有機発光素子を提供する。一例として、本発明は、第1電極;前記第1電極に対向して備えられた第2電極;および前記第1電極と前記第2電極との間に備えられた1層以上の有機物層を含む有機発光素子であって、前記有機物層の1層以上は、前記化学式1で表される化合物を含む、有機発光素子を提供する。
【0058】
本発明の有機発光素子の有機物層は、単層構造からなってもよいが、2層以上の有機物層が積層された多層構造からなってもよい。例えば、本発明の有機発光素子は、有機物層として、正孔注入層、正孔輸送層、電子抑制層、発光層、電子輸送層、電子注入層などを含む構造を有することができる。しかし、有機発光素子の構造はこれに限定されず、より少数の有機層を含むことができる。
【0059】
また、前記有機物層は、発光層を含むことができ、前記発光層は、前記化学式1で表される化合物を含むことができる。特に、本発明による化合物は、発光層のドーパントとして使用することができる。
【0060】
さらに、前記有機物層は、電子輸送層、電子注入層、または電子輸送および電子注入を同時に行う層を含むことができ、前記電子輸送層、電子注入層、または電子輸送および電子注入を同時に行う層は、前記化学式1で表される化合物を含むことができる。
【0061】
さらに、前記有機物層は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送および注入層を含むことができ、この時、前記化合物を含む有機物層は、電子輸送および注入層であってもよい。
【0062】
また、本発明による有機発光素子は、基板上に、陽極、1層以上の有機物層、および陰極が順次に積層された構造(normal type)の有機発光素子であってもよい。なお、本発明による有機発光素子は、基板上に、陰極、1層以上の有機物層、および陽極が順次に積層された逆方向構造(inverted type)の有機発光素子であってもよい。例えば、本発明の一実施例による有機発光素子の構造は、
図1および2に例示されている。
【0063】
図1は、基板1、陽極2、発光層3、陰極4からなる有機発光素子の例を示す図である。
【0064】
このような構造において、前記化学式1で表される化合物は、前記発光層に含まれる。
【0065】
図2は、基板1、陽極2、正孔注入層5、正孔輸送層6、発光層3、電子輸送および注入層7、並びに陰極4からなる有機発光素子の例を示す図である。このような構造において、前記化学式1で表される化合物は、前記電子輸送および注入層に含まれる。
【0066】
本発明による有機発光素子は、前記有機物層の1層以上が前記化学式1で表される化合物を含むことを除けば、当技術分野にて知られている材料と方法で製造することができる。また、前記有機発光素子が複数の有機物層を含む場合、前記有機物層は、同一の物質または異なる物質で形成されてもよい。
【0067】
例えば、本発明による有機発光素子は、基板上に、第1電極、有機物層、および第2電極を順次に積層させて製造することができる。この時、スパッタリング法(sputtering)や電子ビーム蒸発法(e-beam evaporation)などのPVD(Physical Vapor Deposition)方法を用いて、基板上に金属または導電性を有する金属酸化物、またはこれらの合金を蒸着させて陽極を形成し、その上に正孔注入層、正孔輸送層、発光層および電子輸送層を含む有機物層を形成した後、その上に陰極として使用可能な物質を蒸着させて製造することができる。このような方法以外にも、基板上に、陰極物質から有機物層、陽極物質を順次に蒸着させて有機発光素子を作ることができる。
【0068】
また、前記化学式1で表される化合物は、有機発光素子の製造時、真空蒸着法のみならず、溶液塗布法によって有機物層に形成される。ここで、溶液塗布法とは、スピンコーティング、ディップコーティング、ドクターブレーディング、インクジェットプリンティング、スクリーンプリンティング、スプレー法、ロールコーティングなどを意味するが、これらのみに限定されるものではない。
【0069】
このような方法以外にも、基板上に、陰極物質から有機物層、陽極物質を順次に蒸着させて有機発光素子を製造することができる(WO2003/012890)。ただし、製造方法がこれに限定されるものではない。
【0070】
一例として、前記第1電極は陽極であり、前記第2電極は陰極であるか、または前記第1電極は陰極であり、前記第2電極は陽極である。
【0071】
前記陽極物質としては、通常、有機物層への正孔注入が円滑となるように仕事関数の大きい物質が好ましい。前記陽極物質の具体例としては、バナジウム、クロム、銅、亜鉛、金のような金属、またはこれらの合金;亜鉛酸化物、インジウム酸化物、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)のような金属酸化物;ZnO:AlまたはSnO2:Sbのような金属と酸化物との組み合わせ;ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ[3,4-(エチレン-1,2-ジオキシ)チオフェン](PEDOT)、ポリピロールおよびポリアニリンのような導電性高分子などがあるが、これらのみに限定されるものではない。
【0072】
前記陰極物質としては、通常、有機物層への電子注入が容易となるように仕事関数の小さい物質であることが好ましい。前記陰極物質の具体例としては、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、チタン、インジウム、イットリウム、リチウム、ガドリニウム、アルミニウム、銀、スズおよび鉛のような金属、またはこれらの合金;LiF/AlまたはLiO2/Alのような多層構造の物質などがあるが、これらのみに限定されるものではない。
【0073】
前記正孔注入層は、電極から正孔を注入する層であり、正孔注入物質としては、正孔を輸送する能力を有して陽極からの正孔注入効果、発光層または発光材料に対して優れた正孔注入効果を有し、発光層で生成された励起子の電子注入層または電子注入材料への移動を防止し、また、薄膜形成能力に優れた化合物が好ましい。正孔注入物質のHOMO(highest occupied molecular orbital)が陽極物質の仕事関数と周辺の有機物層のHOMOとの間であることが好ましい。正孔注入物質の具体例としては、金属ポルフィリン(porphyrin)、オリゴチオフェン、アリールアミン系の有機物、ヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン系の有機物、キナクリドン(quinacridone)系の有機物、ペリレン(perylene)系の有機物、アントラキノンおよびポリアニリンとポリチオフェン系の導電性高分子などがあるが、これらのみに限定されるものではない。
【0074】
前記正孔輸送層は、正孔注入層から正孔を受け取って発光層まで正孔を輸送する層であり、正孔輸送物質としては、陽極や正孔注入層から正孔が輸送されて発光層に移し得る物質であって、正孔に対する移動性の大きい物質が好適である。具体例としては、アリールアミン系の有機物、導電性高分子、および共役部分と非共役部分が一緒にあるブロック共重合体などがあるが、これらのみに限定されるものではない。
【0075】
前記発光物質としては、正孔輸送層と電子輸送層から正孔と電子がそれぞれ輸送されて結合することによって可視光線領域の光を発し得る物質であって、蛍光や燐光に対する量子効率の良い物質が好ましい。具体例として、8-ヒドロキシ-キノリンアルミニウム錯体(Alq3);カルバゾール系化合物;二量体化スチリル(dimerized styryl)化合物;BAlq;10-ヒドロキシベンゾキノリン-金属化合物;ベンゾキサゾール、ベンズチアゾールおよびベンズイミダゾール系の化合物;ポリ(p-フェニレンビニレン)(PPV)系の高分子;スピロ(spiro)化合物;ポリフルオレン、ルブレンなどがあるが、これらのみに限定されるものではない。
【0076】
前記発光層は、ホスト材料およびドーパント材料を含むことができる。ホスト材料は、縮合芳香族環誘導体またはヘテロ環含有化合物などがある。具体的には、縮合芳香族環誘導体としては、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、ナフタレン誘導体、ペンタセン誘導体、フェナントレン化合物、フルオランテン化合物などがあり、ヘテロ環含有化合物としては、カルバゾール誘導体、ジベンゾフラン誘導体、ラダー型フラン化合物、ピリミジン誘導体などがあるが、これらに限定されない。
【0077】
ドーパント材料としては、芳香族アミン誘導体、スチリルアミン化合物、ホウ素錯体、フルオランテン化合物、金属錯体などがある。具体的には、芳香族アミン誘導体としては、置換もしくは非置換のアリールアミノ基を有する縮合芳香族環誘導体であって、アリールアミノ基を有するピレン、アントラセン、クリセン、ペリフランテンなどがあり、スチリルアミン化合物としては、置換もしくは非置換のアリールアミンに少なくとも1個のアリールビニル基が置換されている化合物で、アリール基、シリル基、アルキル基、シクロアルキル基およびアリールアミノ基からなる群より1または2以上選択される置換基が置換されているかもしくは非置換である。具体的には、スチリルアミン、スチリルジアミン、スチリルトリアミン、スチリルテトラアミンなどがあるが、これらに限定されない。また、金属錯体としては、イリジウム錯体、白金錯体などがあるが、これらに限定されない。
【0078】
前記電子注入および輸送層は、電極から電子を注入し、受け取られた電子を発光層まで輸送する電子輸送層および電子注入層の役割を同時に行う層であり、前記発光層または前記正孔阻止層上に形成される。このような電子注入および輸送物質としては、陰極から電子がよく注入されて発光層に移し得る物質であって、電子に対する移動性の大きい物質が好適である。このような電子注入および輸送層物質として、前記化学式1で表される化合物を使用することができる。追加的な電子注入および輸送物質の例としては、8-ヒドロキシキノリンのAl錯体;Alq3を含む錯体;有機ラジカル化合物;ヒドロキシフラボン-金属錯体;トリアジン誘導体などがあるが、これらに限定されるものではない。あるいは、フルオレノン、アントラキノジメタン、ジフェノキノン、チオピランジオキシド、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、ペリレンテトラカルボン酸、フルオレニリデンメタン、アントロンなどとそれらの誘導体、金属錯体化合物、または含窒素5員環誘導体などと共に使用してもよいが、これに限定されるものではない。
【0079】
前記電子注入および輸送層は、電子注入層および電子輸送層の別個の層にも形成されてもよい。この場合、電子輸送層は、前記発光層または前記正孔阻止層上に形成され、前記電子輸送層に含まれる電子輸送物質としては、上述した電子注入および輸送物質が使用できる。また、電子注入層は、前記電子輸送層上に形成され、前記電子注入層に含まれる電子注入物質としては、LiF、NaCl、CsF、Li2O、BaO、フルオレノン、アントラキノジメタン、ジフェノキノン、チオピランジオキシド、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、ペリレンテトラカルボン酸、フルオレニリデンメタン、アントロンなどとそれらの誘導体、金属錯体化合物および含窒素5員環誘導体などが使用できる。
【0080】
前記金属錯体化合物としては、8-ヒドロキシキノリナトリチウム、ビス(8-ヒドロキシキノリナト)亜鉛、ビス(8-ヒドロキシキノリナト)銅、ビス(8-ヒドロキシキノリナト)マンガン、トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム、トリス(2-メチル-8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム、トリス(8-ヒドロキシキノリナト)ガリウム、ビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリナト)ベリリウム、ビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリナト)亜鉛、ビス(2-メチル-8-ヒドロキシキノリナト)クロロガリウム、ビス(2-メチル-8-ヒドロキシキノリナト)(o-クレゾラート)ガリウム、ビス(2-メチル-8-ヒドロキシキノリナト)(1-ナフトラート)アルミニウム、ビス(2-メチル-8-ヒドロキシキノリナト)(2-ナフトラート)ガリウムなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0081】
一実施形態において、前記有機発光素子の電子輸送層、電子注入層、または電子注入および輸送層は、前記化学式1で表される化合物および前記金属錯体化合物を一緒に含むことができる。この場合、前記電子輸送層、電子注入層、または電子注入および輸送層は、前記化学式1で表される化合物および前記金属錯体化合物を10:90~90:10の重量比、30:70~70:30の重量比、または50:50の重量比で含むことができる。
【0082】
本発明による有機発光素子は、背面発光(bottom emission)素子、前面発光(top emission)素子、または両面発光素子であってもよいし、特に相対的に高い発光効率が要求される背面発光素子であってもよい。
【0083】
また、本発明による化合物は、有機発光素子以外にも、有機太陽電池または有機トランジスタに含まれてもよい。
【0084】
前記化学式1で表される化合物およびこれを含む有機発光素子の製造は、以下の実施例で具体的に説明する。しかし、下記の実施例は本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらによって限定されるものではない。
【実施例】
【0085】
[実施例]
実施例1:化合物E1の製造
【化22】
窒素雰囲気下、E1-A(20g、38.4mmol)とE1-B(16.7g、38.4mmol)を1,4-ジオキサン400mlに入れて、撹拌および還流した。この後、第3リン酸カリウム(24.4g、115.2mmol)を水24mlに溶解して投入し、十分に撹拌した後、ジベンジリデンアセトンパラジウム(0.7g、1.2mmol)およびトリシクロヘキシルホスフィン(0.6g、2.3mmol)を投入した。7時間反応後、常温で冷やした後、生成された固体を濾過した。固体をクロロホルム914mLに投入して溶かし、水で2回洗浄後に有機層を分離して、無水硫酸マグネシウムを入れて撹拌した後、濾過して濾液を減圧蒸留した。濃縮した化合物をクロロホルムとエチルアセテートから再結晶することにより白色の固体化合物E1(4.6g、15%)を製造した。
MS:[M+H]
+=794
【0086】
実施例2:化合物E2の製造
【化23】
各出発物質を前記反応式のように使用することを除けば、実施例1の製造方法と同様の方法で前記化合物E2を製造した。
MS:[M+H]
+=794
【0087】
実施例3:化合物E3の製造
【化24】
各出発物質を前記反応式のように使用することを除けば、前記実施例1の製造方法と同様の方法で前記化合物E3を製造した。
MS:[M+H]
+=794
【0088】
実施例4:化合物E4の製造
【化25】
各出発物質を前記反応式のように使用することを除けば、前記実施例1の製造方法と同様の方法で前記化合物E4を製造した。
MS:[M+H]
+=844
【0089】
実施例5:化合物E5の製造
【化26】
各出発物質を前記反応式のように使用することを除けば、前記実施例1の製造方法と同様の方法で前記化合物E5を製造した。
MS:[M+H]
+=718
【0090】
実施例6:化合物E6の製造
【化27】
各出発物質を前記反応式のように使用することを除けば、前記実施例1の製造方法と同様の方法で前記化合物E6を製造した。
MS:[M+H]
+=718
【0091】
実施例7:化合物E7の製造
【化28】
各出発物質を前記反応式のように使用することを除けば、前記実施例1の製造方法と同様の方法で前記化合物E7を製造した。
MS:[M+H]
+=794
【0092】
実施例8:化合物E8の製造
【化29】
各出発物質を前記反応式のように使用することを除けば、前記実施例1の製造方法と同様の方法で前記化合物E8を製造した。
MS:[M+H]
+=767
【0093】
実施例9:化合物E9の製造
【化30】
各出発物質を前記反応式のように使用することを除けば、前記実施例1の製造方法と同様の方法で前記化合物E9を製造した。
MS:[M+H]
+=767
【0094】
実施例10:化合物E10の製造
【化31】
各出発物質を前記反応式のように使用することを除けば、前記実施例1の製造方法と同様の方法で前記化合物E10を製造した。
MS:[M+H]
+=843
【0095】
実施例11:化合物E11の製造
【化32】
各出発物質を前記反応式のように使用することを除けば、前記実施例1の製造方法と同様の方法で前記化合物E11を製造した。
MS:[M+H]
+=793
【0096】
実施例12:化合物E12の製造
【化33】
各出発物質を前記反応式のように使用することを除けば、前記実施例1の製造方法と同様の方法で前記化合物E12を製造した。
MS:[M+H]
+=767
【0097】
実施例13:化合物E13の製造
【化34】
各出発物質を前記反応式のように使用することを除けば、前記実施例1の製造方法と同様の方法で前記化合物E13を製造した。
MS:[M+H]
+=799
【0098】
[実験例]
実験例1
ITO(indium tin oxide)が1,000Åの厚さに薄膜コーティングされたガラス基板を、洗剤を溶かした蒸留水に入れて超音波洗浄した。この時、洗剤としてはフィッシャー社(Fischer Co.)製品を用い、蒸留水としてはミリポア社(Millipore Co.)製品のフィルタ(Filter)で2次濾過した蒸留水を使用した。ITOを30分間洗浄した後、蒸留水で2回繰り返し超音波洗浄を10分間進行させた。蒸留水洗浄が終わった後、イソプロピルアルコール、アセトン、メタノールの溶剤で超音波洗浄をし、乾燥させた後、プラズマ洗浄機に輸送させた。また、酸素プラズマを用いて前記基板を5分間洗浄した後、真空蒸着機に基板を輸送させた。
【0099】
このように準備されたITO透明電極上に、下記の化合物HI-Aを600Åの厚さに熱真空蒸着して正孔注入層を形成した。前記正孔注入層上に、下記の化学式のヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン(hexaazatriphenylene;HAT、50Å)および下記の化合物HT-A(600Å)を順次に真空蒸着して正孔輸送層を形成した。
【0100】
次に、前記正孔輸送層上に、膜厚さ200Åに下記の化合物BHとBDとを25:1の重量比で真空蒸着して発光層を形成した。前記発光層上に、実施例1で製造した化合物E1と下記の化合物LiQ(リチウムキノレート(Lithiumquinolate))とを1:1の重量比で真空蒸着して360Åの厚さに電子輸送および注入層を形成した。前記電子輸送および注入層上に、順次に、10Åの厚さにリチウムフルオライド(LiF)、および1,000Åの厚さにアルミニウムを蒸着して陰極を形成した。
【0101】
【0102】
前記の過程で、有機物の蒸着速度は0.4~0.9Å/secを維持し、陰極のリチウムフルオライドは0.3Å/sec、アルミニウムは2Å/secの蒸着速度を維持し、蒸着時の真空度は1×10-7~5×10-8torrを維持して、有機発光素子を作製した。
【0103】
実験例2~13
実験例1の化合物E1の代わりに下記表1の化合物を用いたことを除けば、実験例1と同様の方法で有機発光素子を製造した。
【0104】
比較実験例1~13
実験例1の化合物E1の代わりに下記表1の化合物を用いたことを除けば、実験例1と同様の方法で有機発光素子を製造した。下記表1で使用したET-A~ET-Mの化合物は、下記の通りである。
【0105】
【0106】
前記実験例および比較実験例で製造した有機発光素子に対して、10mA/cm2の電流密度で駆動電圧、発光効率および色座標を測定し、20mA/cm2の電流密度で初期輝度対比90%になる時間(T90)を測定した。その結果を下記表1に示した。
【0107】
【0108】
前記表1に記載されているように、本発明の化学式1で表される化合物を用いた有機発光素子の場合、電圧、効率および/または寿命(T90)で優れた特性を示すことを確認した。
【0109】
前記表1の実験例1~13と、比較実験例1、2、4~6、8、12および13とを比較すれば、本発明の化学式1の化合物を含む有機発光素子は、ヘテロ環基間の置換基が異なる化合物を用いた有機発光素子より、効率の面で顕著に優れた特性を示すことを確認することができた。
【0110】
前記表1の実験例1~13と、比較実験例3および10とを比較すれば、本発明の化学式1の化合物を含む有機発光素子は、シアノ基が2個置換された化合物を用いた有機発光素子より、効率の面で顕著に優れた特性を示すことを確認することができた。
【0111】
前記表1の実験例1~13と、比較実験例7および9、11とを比較すれば、本発明の化学式1の化合物を含む有機発光素子は、シアノ基が置換されていない化合物を用いた有機発光素子より、寿命の面で顕著に優れた特性を示すことを確認することができた。
【符号の説明】
【0112】
1:基板
2:陽極
3:発光層
4:陰極
5:正孔注入層
6:正孔輸送層
7:電子輸送および注入層
【国際調査報告】