IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-18
(54)【発明の名称】EUVマルチミラー装置
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20241010BHJP
   G02B 26/08 20060101ALI20241010BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20241010BHJP
   B81B 7/02 20060101ALI20241010BHJP
   B81B 7/04 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
G03F7/20 503
G02B26/08 E
B81B3/00
B81B7/02
B81B7/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522396
(86)(22)【出願日】2022-10-06
(85)【翻訳文提出日】2024-06-06
(86)【国際出願番号】 EP2022077809
(87)【国際公開番号】W WO2023061845
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】102021211626.4
(32)【優先日】2021-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100230514
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ アメリン
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン ハッカー
(72)【発明者】
【氏名】マルクス ホルツ
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス アイゼンメンガー
【テーマコード(参考)】
2H141
2H197
3C081
【Fターム(参考)】
2H141MA12
2H141MA13
2H141MB24
2H141MB63
2H141MC09
2H141MD13
2H141MD20
2H141ME01
2H141ME09
2H141ME11
2H141ME25
2H141MF10
2H141MF26
2H141MG08
2H141MZ12
2H141MZ16
2H197AA10
2H197CA10
2H197CC08
2H197GA11
2H197GA14
2H197GA23
3C081AA04
3C081AA13
3C081BA28
3C081BA43
3C081BA48
3C081BA55
3C081BA72
3C081DA03
3C081DA24
3C081DA29
3C081EA07
(57)【要約】
EUVマルチミラー装置(MMA)は、キャリア構造(TS)上に格子配列で並んで配置された複数のミラーユニット(MU)を備え、各ミラーユニットは、ベース素子(BE)と、ベース素子(BE)に対向する個別に傾斜可能なミラー素子(ME)とを有し、ミラー素子(ME)は、EUV放射線を反射するミラー面(MS)を形成するためにベース素子とは反対側の前面に反射コーティング(REF)を担持するミラー基板(SUB)を有する。各ミラーユニット(MU)において、ミラー素子(ME)をベース素子(BE)上に可動に取り付けるためのサスペンションシステム(SUS)のコンポーネントと、制御信号の受け取りに対する応答としてベース素子(BE)に対するミラー素子(ME)の移動を発生させるためのアクチュエータシステム(AKS)のアクチュエータと、ミラー素子の位置を捕捉するためのセンサシステム(SENS)のセンサとが、ベース素子(BE)とミラー素子(ME)との間に配置される。アクチュエータシステム(AKS)は、圧電アクチュエータ(AKT)を有する。前記センサシステム(SENS)は、静電容量センサ(KPS)を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
EUVマルチミラー装置(MMA)であって、
キャリア構造(TS)上に格子配列で並んで配置された複数のミラーユニット(MU)
を備え、各ミラーユニットは、ベース素子(BE)と、該ベース素子(BE)に対向する個別に傾斜可能なミラー素子(ME)とを有し、該ミラー素子(ME)は、EUV放射線を反射するミラー面(MS)を形成するために前記ベース素子とは反対側の前面に反射コーティング(REF)を担持するミラー基板(SUB)を有し、且つ
各ミラーユニットにおいて、前記ミラー素子(ME)を前記ベース素子(BE)上に可動に取り付けるためのサスペンションシステム(SUS)のコンポーネントと、制御信号の受け取りに対する応答として前記ベース素子(BE)に対する前記ミラー素子(ME)の移動を発生させるためのアクチュエータシステム(AKS)のアクチュエータと、前記ミラー素子の位置を捕捉するためのセンサシステム(SENS)のセンサとが、前記ベース素子(BE)と前記ミラー素子(ME)との間に配置される、EUVマルチミラー装置(MMA)において、
前記アクチュエータシステム(AKS)は、圧電アクチュエータ(AKT)を有し、前記センサシステム(SENS)は、静電容量センサ(KPS)を有することを特徴とするEUVマルチミラー装置。
【請求項2】
請求項1に記載のEUVマルチミラー装置(MMA)において、前記ミラーユニットの前記アクチュエータシステムのアクチュエータ、前記サスペンションシステムのコンポーネント、及び/又は前記センサシステムのセンサのセンサ素子は、MEMS構造の形態で具現され、好ましくは前記サスペンションシステムは、アクチュエータ力がない場合に傾くことなくミラー素子を自動的にゼロ位置にする復元力を提供するように可撓性に設計されることを特徴とするEUVマルチミラー装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のEUVマルチミラー装置(MMA)において、圧電アクチュエータ(AKT)は、少なくとも1つの圧電層(PZS)及び1つの追加層(WS)を有する多層構造を有する多層屈曲ピエゾアクチュエータ(AKT)の形態で具現され、前記圧電層の両側に、該圧電層(PZS)を厚さ方向に貫通する電界を生成する1つの電極層(E1、E2)がそれぞれ配置され、前記圧電層(PZS)は、電圧(UAKT)が前記電極層(E1、E2)に印加されると前記圧電層(PZS)が層広がり方向に収縮して前記多層構造の屈曲をもたらすように設計されることを特徴とするEUVマルチミラー装置。
【請求項4】
請求項3に記載のEUVマルチミラー装置(MMA)において、前記追加層(WS)は、非圧電材料、特にシリコン又はシリコン化合物でできたキャリア層(TSC)であること、又は前記追加層(WS)は、追加の圧電層(PZS)であり、共通の電極層が前記圧電層間に配置されることが好ましいこと、又は前記多層構造は、非圧電材料でできたキャリア層(TSC)を有し、圧電層(PZS)が前記キャリア層(TSC)の両側にそれぞれ配置されることを特徴とするEUVマルチミラー装置。
【請求項5】
請求横1~4のいずれか1項に記載のEUVマルチミラー装置(MMA)において、前記圧電アクチュエータは、2つ、3つ以上、特に4つ、5つ、又は6つの独立して制御可能な圧電層を有することを特徴とするEUVマルチミラー装置。
【請求項6】
請求項3~5のいずれか1項に記載のEUVマルチミラー装置(MMA)において、圧電アクチュエータ(AKT)は、屈曲線に直交して、幅(B)と高さ(H)とのアスペクト比が1よりも大きい好ましくは矩形の断面を有し、前記幅(W)は、前記屈曲線に沿って有効な長さ(L)よりも大きいことを特徴とするEUVマルチミラー装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のEUVマルチミラー装置(MMA)において、前記サスペンションシステム(SUS)は、前記ベース素子(BE)を前記ミラー素子(ME)に機械的に接続するために少なくとも1つの接続素子群(VEG1、VEG2)を有し、該接続素子群は、相互に直交する回転作動軸(AA1、AA2;AA3、AA4)を有する2つの独立して制御可能な圧電アクチュエータ(AKT1、AKT2;AKT3、AKT4)を有することを特徴とするEUVマルチミラー装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のEUVマルチミラー装置(MMA)において、前記サスペンションシステム(SUS)は、相互に直交する回転作動軸(AA1、AA2;AA3、AA4)を有する2つの統合された独立して制御可能な圧電アクチュエータ(AKT1、AKT2;AKT3、AKT4)をそれぞれ含む2つの接続素子群(VEG1、VEG2)を有し、前記接続素子群のそれぞれは、前記ベース素子(BE)に連結固定されたベース連結素子(BA1、BA2)と、一端が該ベース連結素子(BA1、BA2)に取り付けられ反対端が曲げ剛性接続素子(VE1、VE2)に取り付けられた第1圧電アクチュエータ(AKT)と、前記曲げ剛性接続素子(VE1、VE2)と、一端が該曲げ剛性接続素子(VE1、VE2)に取り付けられ反対端が前記ミラー素子(ME)に接続固定されたミラー連結素子(SA1、SA2)に取り付けられた第2圧電アクチュエータ(AKT)とを含むことを特徴とするEUVマルチミラー装置。
【請求項9】
請求項8に記載のEUVマルチミラー装置(MMA)において、前記圧電アクチュエータ(AKT)は、第1回転作動軸(AA)を有し、該第1回転作動軸が相互に同軸に位置合わせされるように具現され且つ配置されること、及び第2圧電アクチュエータ(AKT)は、第2回転作動軸(AA)を有し、該第2回転作動軸が相互に同軸に且つ前記第1回転作動軸に直交して位置合わせされるように具現され且つ配置されることを特徴とするEUVマルチミラー装置。
【請求項10】
請求項3~9のいずれか1項に記載のEUVマルチミラー装置(MMA)において、多層屈曲ピエゾアクチュエータ(AKT)として設計された圧電アクチュエータ(AKT)は、剛体リンクにより前記ミラー素子(ME)に接続されたミラー側端部を有し、前記剛体リンクは、前記圧電アクチュエータの全ての屈曲位置で前記ミラー面(MS)が前記ミラー側端部に対して接線方向に位置合わせされるように設計されることが好ましいことを特徴とするEUVマルチミラー装置。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のEUVマルチミラー装置(MMA)において、前記静電容量センサシステム(SENS)は、相互に離間して並んで配置された複数の電極板を含む櫛形電極(KE)の形態の少なくとも1つのセンサ素子(KPS)を有することを特徴とするEUVマルチミラー装置。
【請求項12】
請求項11に記載のEUVマルチミラー装置(MMA)において、静電容量センサは、交互に噛み合う電極板を有する2つの相互に割り当てられた櫛形電極を有し、対をなす櫛形電極は、動作中に電圧源に電気的に接続され且つ異なる電位にあり、好ましくは、前記櫛形電極の一方は前記ベース素子に配置され、他方は前記ミラー素子に配置されることを特徴とするEUVマルチミラー装置。
【請求項13】
請求項11又は12に記載のEUVマルチミラー装置(MMA)において、静電容量センサは、電圧源に接続され且つ電極板を有する櫛形電極を有し、該櫛形電極は、櫛状に配置され、且つそれぞれ隣り合う電極板が異なる電位に設定可能であるように電気的に接触し、相互に離間して配置され且つ割り当てられた櫛形電極の隣り合う電極板間の中間空間にそれぞれ係合する板を有する櫛歯素子が、相手方として設けられ、好ましくは、前記櫛形電極は前記ベース素子に配置され、前記櫛歯素子は前記ミラー素子に配置されることを特徴とするEUVマルチミラー装置。
【請求項14】
EUV装置の、特にEUVマイクロリソグラフィ用の投影露光装置(1)の照明系(2)であって、前記EUV装置の動作中に、EUV放射源(3)からのEUV放射線を受光し、且つ受光したEUV放射線の少なくとも一部から照明系の出射面(6)の照野に指向された照明放射線を整形するよう構成された、照明系(2)において、照明系(2)は、請求項1~13のいずれか1項に記載の少なくとも1つのEUVマルチミラー装置(MMA)を備えることを特徴とする照明系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の開示は、2021年10月14日に出願された独国特許出願第10 2021 211 626.4号に基づき、これを参照により本願に援用する。
【0002】
本発明は、請求項1の前文に記載のEUVマルチミラー装置、及び少なくとも1つの当該EUVマルチミラー装置を有するEUV装置の照明系に関する。
【背景技術】
【0003】
今日では、マイクロリソグラフィ投影露光方法は、半導体コンポーネント及び他の微細構造コンポーネントの製造に主に用いられている。その際、結像対象の構造のパターン、例えば半導体コンポーネントの層のラインパターンを担持又は形成するマスク(レチクル)又は他のパターン生成デバイスが利用される。パターンは、一次放射源の放射線から照明放射線を形成する照明系を用いて照明され、照明放射線は、パターンに向けられ、特定の照明パラメータを特徴とし、且つ規定の形状及びサイズを有する照野内のパターンに入射する。パターンにより変更された放射線は投影レンズを通過し、投影レンズは、放射線感応層で被覆された被露光基板にパターンを結像する。
【0004】
より微細な構造を製造することができるように、近年、実質的に極端紫外域(EUV)の使用電磁放射線の短波長により高分解能を得る、特に5nm~30nmの範囲の動作波長の光学系が開発されている。短波長は、高波長で透明な既知の光学材料により吸収されるので、EUV放射線は、屈折光学素子を用いて集光も誘導もできない。したがって、例えばEUVリソグラフィ用のEUV装置では、ミラー系が用いられる。
【0005】
結像される構造のタイプに応じて、照明系の瞳面における照明放射線の異なる局所強度分布を特徴とすることができる異なる照明モード(照明設定とも称する)が通常は用いられる。これらを柔軟に設定することができるように、照明系は、一次放射源から放射線を受けて照明系の瞳領域で可変に設定可能な2次元強度分布を生じさせる瞳整形ユニットを有する。
【0006】
一部の概念によれば、少なくとも1つの制御可能なEUVマルチミラー装置(マルチミラーアレイ、MMA)が瞳整形ユニットで用いられ、この制御可能なマルチミラー装置は、複数の個別ミラー素子を備えており、これらは、共通のキャリア構造により担持され、瞳面で所望の空間照明強度分布を達成するようにミラー素子全体に入射する放射線の角度分布を目標通りに変更するために、相互に独立して傾斜させることができる。ミラー面は、実質的に面積を充填するように配置される。このようなマルチミラーアレイは、ファセットミラーとも称することが多く、ミラー素子の反射性の表側がファセットを形成する。
【0007】
制御可能なマルチミラー装置の幾何学的反射特性を目標通りに設定することができるように、マルチミラー装置は概して、ミラー素子毎に、ミラー素子を担持するキャリア構造に対するミラー素子の向きを制御可能に変更するためにミラー素子に結合されたアクチュエータシステムを有する。アクチュエータシステムによる作動運動は、マルチミラー装置に割り当てられた制御ユニットにより制御される。
【0008】
異なる照明設定を設定する場合に最大の柔軟性を得るために、ミラー素子は、できる限り大きな傾斜角範囲を有するべきである。近年、100mrad(ミリラド)以上のオーダの設定可能な最大傾斜角が望ましいと思われる。
【0009】
ミラー素子のそれぞれの現在位置を捕捉するために、信号がコントローラにより処理されて向き又は傾斜の正確な閉ループ制御に用いられるセンサを有するセンサシステムが存在する。簡略化のために、本願の意味の範囲内での用語「位置」は、「姿勢」と称することも多い場所及び向きの組み合わせを指す。傾斜ミラーにおいて、位置の捕捉は、主にベース素子に対する向きの捕捉に重点を置いている。向きは、例えば中立位置(傾斜しない静止位置)に対する傾斜角により定量化することができる。
【0010】
特にEUVリソグラフィ装置の照明系では、ミラー素子は、反射コーティングが入射EUV放射線のエネルギーの大部分を吸収することにより生じる、EUV放射線による高い熱負荷を放散することがさらにできなければならない。さらなる要件は、ミラー素子の高い位置決め精度と、それに関連して、例えば温度変動等の外乱に対する傾斜の感度の低さとに関する。
【0011】
ファセットの通常の横寸法は、数センチメートルのオーダとすることができ、将来のシステムでは、ミリメートル以下の範囲(「マイクロミラー」)とすることもできる。このように、MMAの幾何光学反射特性をより高い局所分解能で設定することができる。製造には、微小電気機械システム(略してMEMS)の製造分野からの技術を用いて、MEMS構造としてアクチュエータ、センサ、及び例えばサスペンションシステムのコンポーネント等の機械素子が製造されることが多い。
【0012】
特許文献1(特許文献2に対応)は、MEMS技術を用いて製造されたミラー素子を2つの旋回自由度で旋回させる変位デバイスを記載している。この変位デバイスは、櫛形電極として具現されたアクチュエータ電極を有する電極構造を含み、これらの電極は、単一平面に配置され、ミラー素子を旋回させるための直接駆動部を形成する。場所及び向きを捕捉するためのセンサシステムは、センサ変換器ミラー電極及びセンサ変換器ステータ電極を含む。
【0013】
特許文献3は、傾斜可能なミラー素子を有するマルチミラー装置を開示しており、アクチュエータシステムは圧電アクチュエータを含む。圧電アクチュエータを用いて引き起こされるミラー素子の変位を捕捉するために、ピエゾ抵抗センサ素子が設けられる。
【0014】
本発明者らが実行した観測によれば、従来のマルチミラー装置の一部は、比較的複雑な製造プロセスを必要とする。さらに、高く且つ変化し得る熱負荷では、性能が損なわれる可能性がある。最後に、大きな利用可能傾斜角範囲を提供することは複雑であり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許出願公開第2017/363861号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10 2015 204 874号明細書
【特許文献3】国際公開第2021/032483号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
このような背景から、本発明の目的は、複数のアレイの作動に必要なアクチュエータシステムを比較的単純且つ少ないプロセスステップで製造することができると同時に、センサシステムが温度変動に比較的影響を受けにくい、EUVマルチミラー装置を提供することである。同時に、高い放熱性を組み合わせた大きなミラー傾斜角を可能にすることが意図される。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この課題を解決するために、本発明は、請求項1の特徴を有するEUVマルチミラー装置及び請求項14の特徴を有するEUV装置の照明系を提供する。有利な発展形態は、従属請求項で指定される。全ての請求項の文言を参照により本明細書の内容に援用する。
【0018】
特許請求の範囲に記載の発明によるEUVマルチミラー装置は、キャリア構造上に行列状に2次元格子配列で並んで配置された複数のミラーユニットを備える。ミラーユニットのそれぞれが、ベース素子と、ベース素子に対して個別に可動に取り付けられたミラー素子とを有する。各ミラーユニットは、隣り合うミラーユニットのベース素子とは別個に存在する各自のベース素子を有する。ミラーユニットのベース素子は、ベース素子とは別個のコンポーネントであり得る共通のキャリア構造に取り付けることができる。隣り合うミラーユニット群のベース素子が一続きのベース基板を形成し、ミラーユニットのベース素子がより大きなベース基板の一部により形成されるようにすることも可能である。ベース基板は、キャリア構造として働くことができる。したがって、キャリア構造及びベース素子は、同じ素子として具現することができる。ベース基板は、例えばマトリックス状に行列で配置された多くのミラー素子を担持することができる。
【0019】
ミラー素子は、EUV放射線を反射するミラー面を形成するためにベース素子とは反対側の前面に反射コーティングを担持するミラー基板を有する。EUVマルチミラー装置のミラー面は、実質的に面積を充填するように並んで配置される。したがって、ミラー面は、個々のミラー面よりも大幅に大きな反射総面積を形成する。隣り合うミラー素子同士の衝突のない相対移動を可能にするために、直接隣り合うミラー素子間には狭いギャップが残る。
【0020】
各ミラーユニットは、ベース素子とミラー基板との間の中間空間に、ミラー素子を関連のベース素子上に可動に取り付けるためのサスペンションシステムのコンポーネントを有する。
【0021】
さらに、制御信号の受け取りに対する応答としてベース素子に対するミラー素子の移動を発生させるために、アクチュエータシステムのアクチュエータがそこに配置される。このようにして、個々のミラー面の異なる向きを目標通りに設定することが可能である。さらに、ベース素子に対するミラー面の各位置又は向きを捕捉するために、センサシステムのセンサが中間空間に配置される。
【0022】
これらの機械的又は電気機械的なコンポーネントを中間空間に配置することにより、MMAの総面積のうちの反射ファセットの面積の割合を大きくすること、すなわち大きなフィルファクタを得ることができる。高い集積密度を得るために、製造プロセスにおいて、アクチュエータ素子(アクチュエータシステムの素子)、機械素子(例えば、サスペンションシステムの素子)、及び/又はセンサ素子等を製造するために微小電気機械システム(略してMEMS)の製造分野からの技術を用いることが可能である。サスペンションシステムは、特にMEMS構造を有するミラーユニットにおいて、アクチュエータ力がない場合に傾くことなくミラー素子を自動的にゼロ位置にする復元力を提供するように可撓性に設計することができる。MEMSプロセスは、近年では、シリコン又はシリコン化合物でできたワークを構造化する構造化プロセスに実質的に基づき、このようにして必要なコンポーネントが設計される。
【0023】
本発明者らの認識では、既知の解決手段、特に静電容量アクチュエータシステム(特許文献1等)に基づく解決手段は、アクチュエータシステムのための比較的大きな設置空間を必要とし、これに対応してセンサシステムの設置空間が小さくなり、したがって感度が低くなる傾向があり得る。さらに、大きな傾斜角を得るのに必要なアクチュエータトルクを提供する可能性があり得る静電容量アクチュエータシステムでは、電極櫛歯を有する複数のレベルがある結果として多くの層からなりそれに対応した数のプロセスステップを必要とする、比較的複雑な構成が必要であると思われる。静電容量アクチュエータシステムを必要とする概念は、例えばEUVリソグラフィ装置での使用に関する通常の要件を満たすために高アスペクト比の構造を製造しなければならない場合に、プロセス技術にも高い要求を課す。
【0024】
特にこれらの理由から、特許請求の範囲に記載の発明によれば、圧電アクチュエータシステム、すなわち本願では略してピエゾアクチュエータとも称する圧電アクチュエータを有するアクチュエータシステムが用いられる。圧電アクチュエータシステムは、小型の全体寸法で製造されることができ、組立サイズに対して比較的大きな力及びモーメントを発生させることができる。したがって、アクチュエータ力がない場合にミラー素子をゼロ位置に移動させるために復元力を生じるようにサスペンションシステムが設計されていても、比較的大きな傾斜角を設定することが可能となる。結局のところ、弾性のサスペンションシステムでは、傾斜角が大きくなるほど復元力が大きくなるので、アクチュエータは、より大きな傾斜角を設定するために、増加する反力に逆らって働かなければならない。
【0025】
ピエゾアクチュエータは、少なくとも1つのピエゾ素子、すなわち電圧の印加により機械的な移動を行うためにピエゾ効果を利用する制御可能な機能素子を有する。ピエゾアクチュエータは、ここではいわゆる逆ピエゾ効果を利用する。ピエゾ素子は、特定の結晶(ピエゾ結晶)又は圧電セラミックス、すなわち多結晶材料とすることができる。
【0026】
これに対して、知見によれば、静電容量方式のセンサシステムは、例えば生産性及び性能の点でセンサシステムにとって有利である。センサシステムは、例えば少なくとも1つの櫛形電極を有する静電容量センサ素子を有することができる。センサ素子は、交互に噛み合う電極板を有する櫛形電極を含むことができる。静電容量センサシステムの電極櫛歯は、例えばミラー素子の下側及びベース素子の上側で実現することができる。したがって、(圧電アクチュエータシステムの空間要件が小さいことにより)センサシステムに利用可能な設置空間を比較的大きくすることができ、且つさらに傾斜時のミラー移動が最大であるミラーの外側領域に位置付けることができるので、比較的高い感度を得ることが可能である。さらに、静電容量センサには、(例えばピエゾ抵抗センサとは異なり)低い感温性しかない。
【0027】
したがって、特許請求の範囲に記載の発明によれば、静電容量方式のセンサシステム、すなわち静電容量方式のセンサを有するセンサシステムが、圧電動作のアクチュエータシステムと組み合わせて用いられる。静電容量センサは、個々のコンデンサ又はコンデンサシステムの電気容量の変化に基づいて動作するセンサである。好ましくは、アクチュエータシステムの全てのアクチュエータがピエゾアクチュエータであり、且つ/又はセンサシステムの全てのセンサが静電容量センサである。
【0028】
サスペンションシステムは、ミラー基板をベース素子に機械的に接続する。サスペンションシステムは、例えば、必要な可動性を与える弾性又は可撓性の部分又はコンポーネントを有することができる。サスペンションシステムは、例えばフレクシャの形態で、そのコンポーネント又は部分を関節式に相互接続する関節を収容し得る。
【0029】
アクチュエータシステムは、サスペンションシステムから独立して構成されたシステムとすることができ、ミラー素子の移動のための力及びトルクを提供する。サスペンションシステムは、受動システムとしてアクチュエータなしで設計することができる。
【0030】
好ましい実施形態では、これに対して、サスペンションシステム及びアクチュエータシステムは統合される。これは、サスペンションシステムの一部がアクチュエータシステムの機能部品として、すなわちアクチュエータとして働く、したがって2つの機能を有することにより達成される。センサシステムのコンポーネントも同様に組み込むことができる。例えば、ばね素子の変形に応じて電気抵抗が変わるピエゾ抵抗センサをばね素子に組み込む可能性がある。しかしながら、ピエゾ抵抗センサは感温性が高い。
【0031】
微小電気機械システム(MEMS)の製造分野からの技術で駆動素子、センサ素子、及び機械素子を実現するために、これらの素子の層状構造が通常は選択される。ミラー素子の場所の変更に十分なリフトを達成するために、圧電アクチュエータは、ピエゾスタックの形態の多層ピエゾアクチュエータとして設計することができ、その場合、電極層が個々の圧電層間にあり、電圧が印加されると圧電層の厚さ、したがって電極間の間隔が変わるように構成された配置である。多くの積層配置の圧電層が選択されれば、より大きなリフトを達成することができる。
【0032】
好ましい実施形態では、圧電アクチュエータは、多層屈曲ピエゾアクチュエータの形態で具現される。これは単に屈曲ピエゾアクチュエータとも称する。屈曲ピエゾアクチュエータは、制御電圧なしで中立形状をとるように、例えば積層配置された全ての層が実質的に平面状であることでピエゾアクチュエータが全体として平面状の構造を形成するように構成されることが好ましい。アクチュエータの長手方向は、アクチュエータの端の連結部位間に延びる。アクチュエータの上側と下側との間には、(仮想)中立層、すなわち屈曲ピエゾアクチュエータの屈曲時に長手方向の大きさが変わらない層が位置付けられる。非作動の中立状態のプロファイルが直線状であることが好ましい屈曲線が、中立層の長手方向に延びる。
【0033】
電圧がピエゾ層の上側と下側との間に印加された場合、屈曲ピエゾアクチュエータは、屈曲線が湾曲するように連結部位間に屈曲部を形成する。その際に、屈曲線に対して垂直に位置付けられたアクチュエータの断面は変わらないことが好ましい。したがって、電圧の印加により、異なる曲率の屈曲線のプロファイルが常に同じ平面(屈曲平面)内にある平面屈曲部が生じる。結果として、連結部位に連結された素子は、相互に対して、具体的には主に屈曲線が位置付けられた屈曲平面に対して垂直に延びる仮想回転作動軸回りに、旋回する。
【0034】
純粋な傾斜運動の場合、作動軸は、傾斜状態とは無関係に空間に固定される。しかしながら、屈曲ピエゾアクチュエータにより可能となる傾斜の場合、概して固定の回転軸回りのミラー素子の「完全な」回転は生じない。通常、ミラー素子の横及び上/下への僅かな寄生的な運動がさらに生じる。しかしながら、本願の目的では、傾斜運動を作動軸回りの回転として表せば十分である。
【0035】
本願の意味の範囲内での多層屈曲ピエゾアクチュエータは、少なくとも1つの圧電層及び1つの追加層を有する多層構造を有し、圧電層の両側に、圧電層を厚さ方向に貫通する電界を生成する1つの電極層がそれぞれ配置され、圧電層は、電圧が電極層に印加されると圧電層が層広がり方向に収縮して多層構造の屈曲をもたらすように設計される。
【0036】
圧電層は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸ナトリウム、PMN-PT、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、石英(=酸化ケイ素)、酸化亜鉛、窒化アルミニウムを含む群から特に選択される圧電セラミックス材料からなることが好ましい。概して好ましいのは、チタン酸ジルコン酸鉛、すなわちPZTセラミックである。
【0037】
追加層は、限られた範囲で弾性変形可能又は屈曲可能であることが意図される。これは、非圧電材料でできたキャリア層とすることができる。キャリア層は、シリコン又はシリコン化合物からなることが好ましく、これは特にSi系のMEMS構造の場合に製造の点で特に容易に達成することができる。単一の圧電活性層を不活性層、例えば非圧電材料からなるキャリア層と組み合わせた多層屈曲アクチュエータは、能動的な屈曲が一方向にのみ生じるので、ここではユニモルフ又はモノモルフとも称する。
【0038】
追加層が追加の圧電層である可能性もあり、その場合、共通の電極層が圧電層間に配置されることが好ましい。圧電層は、このとき2つの逆方向の屈曲を能動的に発生させることができるように相互に独立して制御することができる。このような構造をここではバイモルフと称する。
【0039】
2つの圧電層が、介在する共通の電極層によってのみ分離される可能性がある。しかしながら、多層構造は、シリコン等の非圧電材料でできたキャリア層が設けられるようなものとすることもでき、その場合、圧電層がキャリア層の両側にそれぞれ配置される。双方向の屈曲もここでは可能である。
【0040】
ミラー素子の変位に特に大きな力及びモーメントが要求される場合、圧電アクチュエータが、相互に独立して制御可能な3つ以上の圧電層、特に4つ、5つ、又は6つの圧電層を有することも可能である。このようにして、より大きなアクチュエータ力を実現することができる。
【0041】
圧電アクチュエータは、その長手方向寸法(長手方向で又は屈曲線に沿って測定した寸法)がそれを横切る、すなわち幅方向及び高さ方向の寸法よりも大きいような比率に設計することができる。このように、ピエゾアクチュエータの曲率が小さい場合でも、アクチュエータの連結固定端と可動端との間で比較的大きな移動距離を実現することができる。しかしながら、好ましい実施形態では、これとは異なる比率が選択される。特に、ピエゾアクチュエータが、屈曲線に直交して、幅と高さとのアスペクト比が1よりも大きい好ましくは矩形の断面を有し、幅はさらに屈曲線に沿って有効な長さよりも大きい場合もある。
【0042】
この短い幅広形状により、特にEUVマルチミラー装置に対する熱負荷の増加の問題に対処することができる。高熱負荷に対応するために、最低限の熱抵抗を全体で有するようにアクチュエータ及び連結素子を設計することが有利であると考えられる結果として、MEMS構造を通ってキャリア素子への十分な放熱を確保することができ、それによりミラーユニットの素子の過熱を回避することができる。低熱抵抗の達成に寄与するものとして、接続素子及びアクチュエータ素子の断面積をできる限り大きく選択することがある。さらに、比較的幅広のアクチュエータ素子が、熱抵抗を減らすと同時に最大傾斜角に悪影響を及ぼさないので有利である。
【0043】
既に述べたように、サスペンションシステム及びアクチュエータシステムは、サスペンションシステムの一部がアクチュエータシステムの圧電アクチュエータとして具現されるように統合されることが好ましい。一実施形態によれば、これは、サスペンションシステムがベース素子をミラー基板に機械的に接続するために少なくとも1つの接続素子群を有することにより実施され、接続素子群は、相互に独立して制御可能であり相互に直交する回転作動軸を有する2つの圧電アクチュエータを有する。ピエゾアクチュエータは、上述のタイプの多層屈曲アクチュエータとして設計できることが好ましい。
【0044】
好ましくは、サスペンションシステムは、ベース素子をミラー基板に機械的に接続するために、相互に独立して制御可能であり相互に直交する回転作動軸を有する2つの統合されたピエゾアクチュエータをそれぞれ含む2つの接続素子群を有し、接続群のそれぞれは、(i)ベース素子に連結固定されたベース連結素子と、(ii)一端がベース連結素子に取り付けられ反対端が曲げ剛性接続素子に取り付けられた第1圧電アクチュエータと、(iii)上記曲げ剛性接続素子と、(iv)一端が曲げ剛性接続素子に取り付けられ反対端が(v)ミラー素子に接続固定されたミラー連結素子に取り付けられた第2圧電アクチュエータとを有する。
【0045】
接続素子群の有利な一変形形態では、離間して配置され且つ剛体接続素子を介して相互に接続された2つの圧電アクチュエータが、介在する接続素子と連結されたコンポーネント(ベース素子及びミラー素子)との間にフレクシャをそれぞれ形成する。しかしながら、通常のフレクシャは受動的であり、連結されたコンポーネントの相対的な向きに応じて形状を変えるのに対し、この配置の場合はその逆で、それぞれ連結されたコンポーネントの相対的な位置決めが圧電アクチュエータの制御により能動的に指定又は強制される。
【0046】
曲げ剛性接続素子は、2つの連結された圧電アクチュエータ間に、力の作用下でも形状を変えないという点で剛直である幾何学的に規定された接続をもたらし、圧電アクチュエータは、接続素子とは反対側の端が一方ではベース素子に取り付けられ、他方ではミラー素子に取り付けられる。このような配置の1つの有利な特性は、アクチュエータ素子の端における傾斜角がミラー素子の傾斜角に直接変換されることである。これにより、圧電アクチュエータ素子の屈曲がミラーの傾斜に効果的に変換される。傾斜の大きさは、圧電アクチュエータの制御により正確に指定することができ、制御電圧のみに応じて変わる。ミラー素子の傾斜位置に対する効果は、ここでは直接的であり、レバーを介して行われない。
【0047】
圧電アクチュエータが統合された2つの多重関節接続素子群を有するサスペンションシステムでは、第1圧電アクチュエータは、第1回転作動軸を規定することが好ましく、第1回転作動軸が相互に実質的に同軸に位置合わせされるように具現され且つ配置され、第2圧電アクチュエータは、第2回転作動軸を規定し、第2回転作動軸が相互に実質的に同軸に且つ第1回転作動軸に直交して位置合わせされるように具現され且つ配置される。作動素子のこのような配置は、連結されたミラー素子が2つの軸回りにそれぞれ正及び負の方向に傾斜することを可能にする。複数のアクチュエータを同時に動作させることにより、複数の直交軸回りのミラー傾斜の組み合わせを、2次元傾斜場全体を設定することができるように実現することができる。
【0048】
ジンバルと同様に2つの相互に直交する軸回りの回転を可能にするフレキシブルサスペンションシステムは、専門分野では「カルダン」又はカルダンサスペンションシステムと称する場合がある。
【0049】
簡潔な呼称のために、2つの多重関節接続素子群を有する上述のタイプのサスペンションシステムが、2つの相互に直交する作動軸回りの回転に加えてミラー素子とベース素子との間の寄生的な相対移動も許すことを無視すれば、このサスペンションシステムは、「カルダン」とも表すことができる。しかしながら、(受動的な)カルダンサスペンションとは対照的に、このサスペンションシステムは、作動可能部分の形状、したがってそのコンポーネントの空間的配置を目標通りに変更できるので、統合されたピエゾアクチュエータにより能動的に制御可能である。
【0050】
いくつかの実施形態では、多層屈曲ピエゾアクチュエータとして設計された圧電アクチュエータは、ミラー側端部を有し、これは、直接又は剛体リンクを用いてミラー側端部に剛体接続されたミラー連結素子を介して、ミラー素子の取付面に連結される。剛体リンクは、端部とミラー素子との間に固定の角度関係をもたらす非関節式の連結を意味する。レバー接続又は別のタイプの関節接続の場合とは異なり、角度関係は傾斜角に応じて変わらない。剛体リンクは、圧電アクチュエータの各屈曲位置でミラー面がミラー側端部に対して接線方向に又は平行若しくは略平行に位置合わせされるように設計されることが好ましい。これにより、狭い中間空間内で偏平構造が可能となると同時に、大きな最大傾斜角を達成可能である。
【0051】
改良によれば、センサシステムの静電容量センサは、櫛形電極、すなわち櫛の歯と同様に相互に離間して並んで配置された複数の電極板又は板状の電極指を有する電極の形態の、少なくとも1つのセンサ素子を含む。
【0052】
いくつかの実施形態では、交互に噛み合う電極板を有する相互に割り当てられた櫛形電極対が設けられる。対をなす櫛形電極は、ミラー素子の下側及びベース素子の上側に形成又は配置されることが好ましい。噛み合う櫛形電極は、ミラー素子の傾斜位置が変わると静電容量が変わる電気コンデンサを形成する。静電容量アクチュエータ及び静電容量センサを有するミラーユニットの櫛形電極の位置及び配列の可能な例は、特許文献2(特許文献1に対応)に挙げられている。センサに関する上記出願の開示内容を、参照により本願の内容に援用する。
【0053】
交互に噛み合う電極板を有する2つの相互に割り当てられた櫛形電極を有する静電容量センサでは、対をなす両方の櫛形電極は、電圧源に電気的に接続され且つ異なる電位にある。代替として、電圧源に接続され、且つ櫛状に配置されて相互に電気的に絶縁された電極板を有する櫛形電極を有する、少なくとも1つの静電容量センサが設けられ得る。電気的な相互接続は、それぞれ隣り合う電極板が異なる電位にあるように設計されるので、隣接する電極板間に電界が生じ得る。したがって、このような櫛形電極は、動作中に複数の相互に隣り合うコンデンサ又は静電容量を有する。相互に離間して配置された板を有する電気的な櫛歯素子が、相手方として設けられ、これらの板は、割り当てられた櫛形電極の隣り合う電極板間の中間空間にそれぞれ係合する。隣り合う電極板対により形成される櫛形電極のコンデンサの静電容量は、(電気的に受動的な)板の侵入深さに応じて変わる。櫛歯素子は、電気的に受動的であり得るので、電圧源への接続を省くことができる。しかしながら、遮蔽の役割を果たす櫛歯は、EUV生成プラズマによる帯電を防止するために通常は規定の電位に保たれる。
【0054】
センサシステムの全ての静電容量センサは、これら2つの可能性の一方に従って構成し動作させることができる。両方のタイプを組み合わせることも可能である。
【0055】
静電容量センサのセンサ素子は、ミラーユニットの径方向外側領域に配置されることが好ましい。櫛形電極の電極板及び/又は櫛歯素子の板は、ミラー基板及び/又はベース素子の外周まで延びることができる。
【0056】
櫛形電極及び/又は板は、ベース素子及びミラー素子の矩形の、特に正方形のコーナ領域に配置され得る。これらは、細い脚のある角度のついた形状を有する剛体接続素子により自由に保つことができる。噛み合う板又は指の空間的配置は、実施形態に応じて変わり得る。いくつかの実施形態では、板又は指はミラー素子の中心に対して径方向に位置合わせされる。他の実施形態では、弧状に湾曲した板が中心に対して同心状に配置される。相互作用する板は、相互に等しい横方向距離で直線状又は平面状に延びることもできる。その向きは、径方向と平行又は径方向に対して垂直であり得る。対角をなす櫛歯それぞれの板又は櫛歯は、相互に平行に延びることができ、別の対角では向きがそれに対して垂直である。電極板を角形に設計することも可能である。
【0057】
本発明は、EUV装置の照明系であって、EUV装置の動作中に、EUV放射源からのEUV放射線を受光し、且つ受光したEUV放射線の少なくとも一部から照明系の出射面の照野に指向された照明放射線を整形するよう具現された、照明系にも関する。照明系は、本願に記載のタイプの少なくとも1つのEUVマルチミラー装置を有する。
【0058】
EUV装置は、例えば、EUVマイクロリソグラフィ用の投影露光装置、又はEUVマイクロリソグラフィ用のマスク(レチクル)を検査するためのEUV放射線を用いるマスク検査装置とすることができる。
【0059】
ベース素子と、ミラー素子と、サスペンションシステム、アクチュエータ、及びセンサの介在コンポーネントとを有する個々のミラーユニットは、MMAでの使用とは無関係に、例えば光学回路の電気的に制御可能なスイッチング素子として用いることもできる。この点で、MMAを対象とする請求項の少なくとも1つからの関連の特徴を有する個々のミラーユニットも開示される。
【0060】
本発明のさらなる利点及び態様は、特許請求の範囲と、図を参照して以下で説明する本発明の例示的な実施形態の説明とから明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】例示的な一実施形態による1つ又は複数のEUVマルチミラー装置を収容する照明系を有するEUVマイクロリソグラフィ投影露光装置の光学コンポーネントを概略的に示す。
図2】例示的な一実施形態によるマルチミラーアレイ又はファセットミラーの形態の制御可能なEUVマルチミラー装置の詳細を概略的に示す。
図3図2の領域IIIからの例示的な圧電屈曲アクチュエータの層構造の概略断面を示す。
図4】積層配置された複数の異なる機能の層を有する屈曲ピエゾアクチュエータの変形形態を示し、少なくとも1つの層は圧電層であり、屈曲ピエゾアクチュエータは電圧の印加に対する応答として屈曲することができる。
図5】積層配置された複数の異なる機能の層を有する屈曲ピエゾアクチュエータの変形形態を示し、少なくとも1つの層は圧電層であり、屈曲ピエゾアクチュエータは電圧の印加に対する応答として屈曲することができる。
図6】積層配置された複数の異なる機能の層を有する屈曲ピエゾアクチュエータの変形形態を示し、少なくとも1つの層は圧電層であり、屈曲ピエゾアクチュエータは電圧の印加に対する応答として屈曲することができる。
図7】ピエゾアクチュエータがベース素子とミラー素子との間に配置されたサスペンションシステムに組み込まれた、圧電アクチュエータシステムを有するミラーユニットの上面図を概略的に示す。
図8図7に類似の図で、屈曲ピエゾアクチュエータが組み込まれたサスペンションシステムの一実施形態を示す。
図9】逆方向に屈曲するアクチュエータ素子の概略側面図を示す。
図10図7に類似の図で、屈曲ピエゾアクチュエータが組み込まれたサスペンションシステムの一実施形態を示す。
図11図7に類似の図で、屈曲ピエゾアクチュエータが組み込まれたサスペンションシステムの一実施形態を示す。
図12】接線方向リフトによるミラー素子の傾斜とz方向リフトによるミラー素子の傾斜との差を示す。
図13A】ある設計のサスペンション及びアクチュエータシステムを有するミラーユニットの一変形形態を示す。
図13B】ある設計のサスペンション及びアクチュエータシステムを有するミラーユニットの一変形形態を示す。
図14】ある設計のサスペンション及びアクチュエータシステムを有するミラーユニットの一変形形態を示す。
図15】ある設計のサスペンション及びアクチュエータシステムを有するミラーユニットの一変形形態を示す。
図16A】櫛形電極を有する静電容量センサの例を概略的に示す。
図16B】櫛形電極を有する静電容量センサの例を概略的に示す。
図17A】静電容量センサシステムの櫛形電極の空間的配置の1つの可能性を示す。
図17B】静電容量センサシステムの櫛形電極の空間的配置の1つの可能性を示す。
図17C】静電容量センサシステムの櫛形電極の空間的配置の1つの可能性を示す。
図17D】静電容量センサシステムの櫛形電極の空間的配置の1つの可能性を示す。
図17E】静電容量センサシステムの櫛形電極の空間的配置の1つの可能性を示す。
図17F】静電容量センサシステムの櫛形電極の空間的配置の1つの可能性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0062】
マルチミラー装置の構成の例を、マイクロリソグラフィの分野からのEUV装置で考えられる使用を参照して以下で例として説明する。
【0063】
マイクロリソグラフィ投影露光装置1の必須コンポーネントを、最初に例として図1を参照して以下で説明する。投影露光装置1及びそのコンポーネントの基本構成の説明は、ここでは限定的なものとみなすべきではない。
【0064】
投影露光装置1の照明系2は、放射源3に加えて、物体面6の物体視野5を照明する照明光学ユニット4を有する。ここでは、物体視野5に配置されたレチクル7が露光される。レチクル7は、レチクルホルダ8により保持される。レチクルホルダ8は、レチクル変位ドライブ9により特に走査方向に変位可能である。
【0065】
説明のために、直交xyz座標系を図1に示す。x方向は図の平面に対して垂直に延びる。y方向は水平に延び、z方向は鉛直に延びる。図1では、走査方向はy方向に沿って延びる。z方向は物体面6に対して垂直に延びる。
【0066】
投影露光装置1は、投影光学系10を備える。投影光学系10は、物体視野5を像面12の像視野11に結像する働きをする。像面12は、物体面6と平行に延びる。代替として、物体面6と像面12との間で0°以外の角度も可能である。
【0067】
レチクル7上の構造が、像面12の像視野11の領域に配置されたウェハ13の感光層に結像される。ウェハ13は、ウェハホルダ14により保持される。ウェハホルダ14は、ウェハ変位ドライブ15により特にy方向に沿って変位可能である。一方ではレチクル変位ドライブ9によるレチクル7の変位及び他方ではウェハ変位ドライブ15によるウェハ13の変位を、相互に同期するように行うことができる。
【0068】
放射源3は、EUV放射源である。放射源3は、特に、以下で使用放射線又は照明放射線とも称するEUV放射線16を出射する。特に、使用放射線は、5nm~30nmの範囲の波長を有する。放射源3は、プラズマ源、例えばLPP(レーザ生成プラズマ)源又はGDPP(ガス放電プラズマ)源であり得る。これは、シンクロトロンベースの放射源でもあり得る。放射源3は、自由電子レーザ(FEL)であり得る。
【0069】
放射源3から出る照明放射線16は、コレクタ17により集束される。コレクタ17は、1つ又は複数の楕円反射面及び/又は双曲反射面を有するコレクタであり得る。照明放射線16は、コレクタ17の少なくとも1つの反射面に斜入射(GI)で、すなわち45°よりも大きな入射角で、又は垂直入射(NI)で、すなわち45°よりも小さな入射角で入射し得る。コレクタ17は、使用放射線に対する反射率を最適化するため及び外来光を抑制するために構造化且つ/又はコーティングされ得る。
【0070】
コレクタ17の下流で、照明放射線16は中間焦点面18の中間焦点を伝播する。中間焦点面18は、放射源3及びコレクタ17を有する放射源モジュールと照明光学ユニット4との間の分離を表し得る。
【0071】
照明光学ユニット4は、偏向ミラー19と、ビーム経路でその下流に第1ファセットミラー20とを備える。偏向ミラー19は、平面偏向ミラー、あるいは純粋な偏向効果を超えたビーム影響効果を有するミラーであり得る。代替として又は追加として、偏向ミラー19は、照明放射線16の使用光波長をそれとは異なる波長の外来光から分離する分光フィルタとして具現され得る。第1ファセットミラー20が、視野面として物体面6と光学的に共役な照明光学ユニット4の平面に配置される場合、このファセットミラーを視野ファセットミラーとも称する。第1ファセットミラー20は、以下で視野ファセットとも称する複数の個別の第1ファセット21を含む。図1は、当該ファセット21のいくつかのみを例として示す。
【0072】
第1ファセット21は、巨視的なファセットの形態、特に矩形ファセットの形態、又は弧状の周囲輪郭若しくは部分円として形成された周囲輪郭を有するファセットの形態とすることができる。第1ファセット21は、平面ファセットの形態、あるいは凸状又は凹状に湾曲したファセットの形態であり得る。
【0073】
例えば独国特許出願公開第10 2008 009 600号から既知のように、第1ファセット21自体も、それぞれ複数の個別ミラー、特に複数のマイクロミラーから構成することができる。第1ファセットミラー20は、特に微小電気機械システム(MEMSシステム)の形態であり得る。詳細は独国特許出願公開第10 2008 009 600号を参照されたい。
【0074】
照明放射線16は、コレクタ17と偏向ミラー19との間で水平に、すなわちy方向に沿って進む。
【0075】
照明光学ユニット4のビーム経路で、第1ファセットミラー20の下流に第2ファセットミラー22が配置される。第2ファセットミラー22が照明光学ユニット4の瞳面に配置される場合、これを瞳ファセットミラーとも称する。第2ファセットミラー22は、照明光学ユニット4の瞳面から離れて配置することもできる。この場合、第1ファセットミラー20及び第2ファセットミラー22の組み合わせを鏡面反射器とも称する。鏡面反射器は、米国特許出願公開第2006/0132747号、欧州特許第1 614 008号、及び米国特許第6,573,978号から既知である。
【0076】
第2ファセットミラー22は、複数の第2ファセット23を含む。瞳ファセットミラーの場合、第2ファセット23を瞳ファセットとも称する。
【0077】
第2ファセッ23も同様に、例えば円形、矩形、又は六角形の周囲を有し得る巨視的なファセットであり得るか、あるいはマイクロミラーから構成されたファセットであり得る。この点に関して、独国特許出願公開第10 2008 009 600号を同様に参照されたい。
【0078】
第2ファセット23は、平面反射面、あるいは凸状又は凹状に湾曲した反射面を有し得る。
【0079】
したがって、照明光学ユニット4は二重ファセットシステムを形成する。この基本原理は、フライアイコンデンサ(フライアイインテグレータ)とも称する。
【0080】
第2ファセットミラー22を投影光学ユニット7の瞳面と光学的に共役な平面に正確に配置しないことが有利であり得る。
【0081】
第2ファセットミラー22を用いて、個々の第1ファセット21が物体視野5に結像される。第2ファセットミラー22は、物体視野5の上流のビーム経路で最後のビーム整形ミラー又は実際に照明放射線16に対する最終ミラーである。
【0082】
照明光学ユニット4のさらに別の実施形態(図示せず)において、これは特に物体視野5への第1ファセット21の結像に寄与する転写光学ユニットを、第2ファセットミラー22と物体視野5との間のビーム経路に配置することができる。転写光学ユニットは、厳密に1つのミラー、あるいは照明光学ユニット4のビーム経路に前後に配置された2つ以上のミラーを有することができる。転写光学ユニットは、特に、1つ又は2つの垂直入射ミラー(NIミラー)及び/又は1つ又は2つの斜入射ミラー(GIミラー)を含むことができる。
【0083】
図1に示す設計では、照明光学ユニット4は、コレクタ17の下流に厳密に3つのミラー、具体的には偏向ミラー19、視野ファセットミラー20、及び瞳ファセットミラー22を有する。
【0084】
照明光学ユニッ4のさらに別の実施形態では、偏向ミラー19を省くこともできるので、照明光学ユニット4は、その場合はコレクタ17の下流に厳密に2つのミラー、具体的には第1ファセットミラー20及び第2ファセットミラー22を有することができる。
【0085】
第2ファセット23による、又は第2ファセット23及び転写光学ユニットを用いた、物体面6への第1ファセット21の結像は、概して近似的な結像にすぎない。
【0086】
投影光学ユニット10は、複数のミラーMiを含み、これらには投影露光装置1のビーム経路におけるそれらの配置に従って番号を付す。
【0087】
図1に示す例において、投影光学ユニット10は、6個のミラーM1~M6を含む。4個、8個、10個、12個、又は任意の他の数のミラーMiでの代替も同様に可能である。最後から2番目のミラーM5及び最終ミラーM6はそれぞれ、照明放射線16用の通過開口を有する。投影光学ユニット10は、二重遮蔽光学ユニットである。投影光学ユニット10は、0.5よりも大きく、0.6よりも大きくてもよく、例えば0.7又は0.75であり得る像側開口数を有する。
【0088】
ミラーMiの反射面は、回転対称軸のない自由曲面の形態とすることができる。代替として、ミラーMiの反射面は、反射面形状の回転対称軸が厳密に1つである非球面として設計することができる。照明光学ユニット4のミラーと同様に、ミラーMiは、照明放射線16に対して高反射コーティングを有することができる。これらのコーティングは、特にモリブデン及びシリコンの交互層を有する多層コーティングとして設計され得る。
【0089】
投影光学ユニット10は、物体視野5の中心のy座標と像視野11の中心のy座標との間にy方向の大きな物体-像オフセットを有する。y方向で、この物体-像オフセットは、物体面6と像面12との間のz距離と略同じ大きさを有し得る。
【0090】
特に、投影光学ユニット10は、アナモルフィックな形態を有することができる。特にこれは、x方向及びy方向に異なる結像スケールβx、βyを有する。投影光学ユニット7の2つの結像スケールβx、βyは、好ましくは(βx,βy)=(+/-0.25,+/-0.125)である。正の結像スケールβは、像反転のない結像を意味する。結像スケールβの負の符号は、像反転のある結像を意味する。
【0091】
投影光学ユニット7は、結果として、x方向に、すなわち走査方向に対して垂直な方向に4:1の比でサイズを縮小させる。
【0092】
影光学ユニット10は、y方向に、すなわち走査方向に8:1でサイズを縮小させる。
【0093】
他の結像スケールも同様に可能である。x方向及びy方向で同じ符号及び同じ絶対値の、例えば0.125又は0.25の絶対値の結像スケールも可能である。
【0094】
物体視野5と像視野11との間のビーム経路におけるx方向及びy方向の中間像面の数は、同じであってもよく、又は投影光学ユニット10の設計に応じて異なっていてもよい。x方向及びy方向のこのような中間像の数が異なる投影光学ユニットの例は、米国特許出願公開第2018/0074303号から既知である。
【0095】
瞳ファセット23のそれぞれが、物体視野5を照明する照明チャネルをそれぞれ形成するために視野ファセット21の厳密に1つに割り当てられる。特に、これによりケーラーの原理に従った照明を得ることができる。遠視野は、視野ファセット21を用いて複数の物体視野5に分解される。視野ファセット21は、それぞれに割り当てられた瞳ファセット23に中間焦点の複数の像を生成する。
【0096】
それぞれ割り当てられた瞳ファセット23により、視野ファセット21は、物体視野5を照明するために重なり合ってレチクル7に結像される。物体視野5の照明は、特にできる限り均一である。その均一性誤差は2%未満であることが好ましい。異なる照明チャネルを重ね合わせることにより、視野均一性を得ることができる。
【0097】
投影光学ユニット10の入射瞳の照明は、瞳ファセットの配置により幾何学的に規定することができる。導光する照明チャネル、特に瞳ファセットのサブセットを選択することにより、投影光学ユニット10の入射瞳における強度分布を設定することができる。この強度分布を照明設定とも称する。
【0098】
照明光学ユニット4の照明瞳の規定の照明部分の領域における同様に好ましい瞳均一性を、照明チャネルの再分配により達成することができる。
【0099】
物体視野5の、特に投影光学ユニット10の入射瞳の照明のさらなる態様及び詳細を、以下で説明する。
【0100】
特に、投影光学ユニット10は共心入射瞳を有し得る。これはアクセス可能とすることができる。これはアクセス不可能とすることもできる。
【0101】
投影光学ユニット10の入射瞳は、概して瞳ファセットミラー22を用いて正確に照明することはできない。瞳ファセットミラー22の中心をウェハ13にテレセントリックに結像する投影光学ユニット10の結像の場合、開口光線は一点で交わらないことが多い。しかしながら、開口光線の対で求められた距離が最小になる面を見つけることが可能である。この面は、入射瞳又は実空間におけるそれと共役な面を表す。特に、この面は有限の曲率を示す。
【0102】
投影光学ユニット10は、タンジェンシャルビーム経路とサジタルビーム経路とで入射瞳の位置が異なる場合がある。この場合、結像素子、特に転写光学ユニットの光学コンポーネントを、第2ファセットミラー22とレチクル7との間に設けるべきである。この光学素子を用いて、タンジェンシャル入射瞳及びサジタル入射瞳の位置の相違を考慮することができる。
【0103】
図1に示す照明光学ユニット4のコンポーネントの配置において、瞳ファセットミラー22は、投影光学ユニット10の入射瞳と共役な面に配置される。視野ファセットミラー20は、物体面5に対して傾斜して配置される。第1ファセットミラー20は、偏向ミラー19により画定された配置面に対して傾斜して配置される。
【0104】
第1ファセットミラー20は、第2ファセットミラー22により画定された配置面に対して傾斜して配置される。
【0105】
EUV放射線は、規定の入射角で両方のファセットミラー20、22に入射する。2つのファセットミラーは、ここでは「垂直入射」又は略「垂直入射」で、特に全体的なミラー法線NORに対して垂直に延びる主入射方向HEを中心に例えば±25°の入射角範囲からの入射角で作動される。
【0106】
視野ファセットミラー20及び瞳ファセットミラー22は、マルチミラーアレイ(MMA)の形態の制御可能なEUVマルチミラー装置の例である。図2を参照して、例示的な一実施形態によるこのようなEUVマルチミラー装置(ここでは、視野ファセットミラー)の構成の例をより詳細に説明する。
【0107】
EUVマルチミラー装置MMAは、キャリア構造TS上に行列状にマトリックス型の2次元格子配列で並んで配置される複数のミラーユニットMUを有する。図示の変形形態では、個々のミラーユニットMUは、ベースプレートの形態の寸法安定性のあるキャリア構造TSに配置される。ミラーユニットMUのそれぞれが、キャリア構造上に取り付けられたベース素子BEと、ベース素子BEに対して個別に可動であるようにフレキシブルサスペンションシステムSUSにより取り付けられたミラー素子MEとを有する。
【0108】
図から逸脱して、キャリア構造及びベース素子は、共通構造の形態で同じ初期基板から一体的に具現することができる。その場合、キャリア構造は、構造的に一続きのベース素子により形成され、ベース素子のそれぞれが初期基板の一部に対応する。したがって、ベース素子とは別個のキャリア構造が必要とは限らない。
【0109】
この例の場合、ミラー素子MEは、関連のベース素子BEに対して2つの回転自由度で個別に傾斜させることができる。各ミラー素子MEは、実質的に板状のミラー基板SUBを有し、これは、ベース素子BEとは反対側の前面に、EUV放射線に対して反射性のミラー面MSを形成する反射コーティングREFを有する。反射コーティングは、交互に高屈折率及びそれに対して低屈折率の複数対の層材料(例えば、Mo-Si)を有する多層構造を、場合によっては中間層と共に有する。前面又は対応するミラー面MSは、平面状又は僅かに凹状又は凸状に湾曲させることができる。曲面は、球面又は非球面の曲面とすることができる。
【0110】
ミラーユニットMUは、相互に非常に近接して取り付けられるので、ミラー面MSは、実質的に面積を充填するように並んで配置される。これは特に、ミラーユニットが占めるミラーアレイの総面積に対する個々のミラー素子MEのミラー面の和の比、いわゆる集積密度が、比較的高く、例えば0.7を超えるか又は0.8を超えるか又は0.9を超えることを意味する。隣接するミラー基板SUBの側面SFにより画定されるギャップSPが、直接隣り合うミラー素子ME間に残り、そこを通して隣り合うミラー素子の相互に対する無衝突相対移動が確保されるので、面積の完全な充填は不可能である。ギャップ幅は、例えば、数十マイクロメートルのオーダ、例えば20μm~100μmの範囲とすることができる。
【0111】
各ミラーユニットMUにおいて、ミラー素子MEとベース素子BEとを構造的に接続し、規定の自由度でのベース素子に対するミラー素子の可動支持をもたらし、且つアクチュエータ力がない場合にミラー素子を自動的にゼロ位置にする復元力を提供するフレキシブルサスペンションシステムSUSのコンポーネントが、ミラー素子MEとベース素子BEとの間に配置される(中央のミラー素子を参照)。
【0112】
さらに、制御デバイスからの制御信号の受信に対する応答としてベース素子に対するミラー素子の移動を発生させるための圧電アクチュエータシステムAKSのコンポーネントが、ミラー基板とベース素子との間の中間空間に配置される。この例の場合、これらは、例えば異なる機能を有する複数の層が積層配置された屈曲ピエゾアクチュエータBPZとして設計され且つ制御信号に対する応答として屈曲する部分の形態で、サスペンションシステムSUSの構造に組み込まれる(図3図6の例示的な実施形態を参照)。ピエゾアクチュエータ(全体的な参照符号AKT)は、以下では単に「アクチュエータ」とも称する。
【0113】
さらに、ベース素子BEに対するミラー素子MEの現在の相対位置を感知することができ、且つ対応する信号を制御ユニットに出力することができる静電容量センサシステムSENSの静電容量位置センサKPSのコンポーネント(櫛形電極KE)が、ミラーユニットの外周領域に存在する。こうして、キャリア構造に対するミラー基板の個々の傾斜角の閉ループ制御が確保される。
【0114】
傾斜可能なミラー素子は、例えば±50mrad、特に±100mrad以上の変位範囲でゼロ位置回りに傾斜させることができ、設定精度は、例えば0.2mrad未満、特に0.1mrad未満とすることができる。
【0115】
微小電気機械システム(MEMS)の製造分野からの技術を用いて、マルチミラー装置をある程度製造することができる。図2の例では、少なくともベース素子BE、サスペンションシステムSUS、アクチュエータシステムAKS、及び位置センサシステムSENSが、MEMS構造として形成される。
【0116】
サスペンションシステムSUS及びアクチュエータシステムAKSの様々な態様を以下で説明する。
【0117】
図3は、説明の目的で図2の領域IIIからの例示的な圧電アクチュエータAKTの層構造の概略断面を例として示す。このアクチュエータは、少なくとも1つの圧電層PZS及び弾性に富む材料でできた追加層WSを含む多層構造を有する。いずれの場合も、1つの電極層E1、E2が、圧電層を厚さ方向に(層の広がりに対して垂直に)貫通する電界を生成するために圧電層PZSの両側に配置される。圧電的に活性な結晶材料からなる圧電層PZSは、電圧UAKTが電極層E1、E2に印加されると圧電層が層広がり方向に収縮する(矢印参照)ように設計される。この収縮が、多層の屈曲につながる(破線参照)。
【0118】
追加層WSは、単層により形成することができるか又は多層構成を有することができ、換言すれば、2つ以上の層に再分割することができる。変形形態を図4図6に関連して説明する。
【0119】
圧電層PZSは、例えば、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)でできた多結晶セラミック層とすることができる。無鉛セラミック材料も考えられる。薄膜MEMSには、例えば(K,Na)NbO(ニオブ酸カリウム/ナトリウム)又はAlN(窒化アルミニウム)を用いることができる。
【0120】
ピエゾアクチュエータ自体は、1つ又は複数の圧電層と、場合によっては圧電的に非活性なキャリア層とを有する。図4のユニモルフピエゾアクチュエータAKTでは、個々の圧電層PZSが、例えば単結晶又は多結晶シリコンからなり得るキャリア層TSCの形態の追加層上に位置付けられる。圧電層PZSの上側及び下側にそれぞれ1つの電極層E1、E2、又は層電極が位置付けられる。電圧UAKTが2つの電極層間に印加された場合、図3に関して上述したように、アクチュエータ全体(キャリア層TSC及び圧電層PZS及び電極層も)が一平面(図平面)内で屈曲する。
【0121】
一部のバイモルフピエゾアクチュエータは、(受動)キャリア層TSCと、キャリア層の上側及び下側に位置付けられた2つの圧電層とからなる(図5参照)。両方の圧電層の上側及び下側にそれぞれ1つの電極層が位置付けられる。圧電層の2つの電極間に電圧を印加することにより、圧電層は、層平面と平行な方向に収縮し、これがさらにアクチュエータ全体(キャリア層、両方の圧電層、及び電極層も)の屈曲をもたらす。電圧が上部ピエゾ層PZS1の2つの電極E1-1、E1-2間に印加された場合、アクチュエータBPZ全体が上向きに撓む。電圧が下部ピエゾ層PZS2の2つの電極E2-1、E2-2に印加された場合、アクチュエータAKT全体が下向きに撓む。
【0122】
キャリア層のないアクチュエータを実現し、2つの圧電層を直接重ねることが可能である(図6参照)。上部ピエゾ層PZS1の下部電極及び下部ピエゾ層PZS2の上部電極は、ここでは2つのピエゾ層間の共通の電極EGにより実現される。アクチュエータ力を大きくするために、複数のピエゾ層(例えば4層又は6層)を重ねて設けることもさらに可能である。
【0123】
図7を参照して、作動可能なコンポーネント(アクチュエータ)がサスペンションシステムSUSに組み込まれたアクチュエータシステムAKSを以下で説明する。図7は、z方向のミラーユニットMUの平面図を示す。ベース素子BEと、z方向でその上に離間して配置されたミラー素子ME(破線)とを単に示す。サスペンションシステムSUS及びアクチュエータシステムAKS又は駆動システムのコンポーネントは、z方向でそれらの間に配置される。アクチュエータシステムAKSは、正確に4つの個々のピエゾアクチュエータAKT1、AKT2、AKT3、AKT4を含み、これらは(非作動状態で)全て同じ平面内に位置する。ここでは、いずれの場合も2つのピエゾアクチュエータが、特定の軸回りのミラー傾斜に割り当てられる。例えば、アクチュエータAKT1及びAKT3は、y軸回りのミラーの回転をもたらし、アクチュエータAKT2及びAKT4は、x軸回りのミラーの回転をもたらす。
【0124】
図7の例示的な実施形態では、4つのアクチュエータAKT1、AKT2、AKT3、AKT4、キャリアに固定されたベース素子BE、及びミラー素子MEが以下のように剛体接続素子VE1、VE2を介して相互接続される。アクチュエータAKT1は、一方の側で(ベース連結素子BA1を介して)固定のベース素子BEに接続され、他方の側で(第1接続素子VE1を介して)アクチュエータAKT2に接続される。アクチュエータAKT2は、一方の側で(VE1を介して)アクチュエータAKT1に接続され、他方の側でミラー連結素子SA1を介して傾斜させるミラー素子MEに接続される。
【0125】
連結された素子BA1、AKT1、VE1、AKT2、及びSA1は、第1二重関節接続素子群VEG1を形成する。アクチュエータAKT1、AKT2は、ここでは能動的に屈曲可能なフレクシャであり、他のコンポーネントは剛直又は曲げ剛性である。
【0126】
アクチュエータAKT3は、一方の側で(ベース連結素子BA2を介して)固定のベース素子BEに接続され、他方の側で第2接続素子VE2を介してアクチュエータAKT4に接続される。アクチュエータAKT4は、一方の側で(VE2を介して)アクチュエータAKT3に接続され、他方の側で(ミラー連結素子SA2を介して)傾斜させるミラー素子MEに接続される。
【0127】
連結された素子BA2、AKT3、VE2、AKT4、及びSA2は、対応する第2二重関節接続素子群VEG2を形成する。アクチュエータAKT3、AKT4は、ここでは能動的に屈曲可能なフレクシャであり、他のコンポーネントは剛直である。
【0128】
アクチュエータ素子の位置関係は、アクチュエータAKT1及びAKT3の作動軸AA1、AA3が相互に平行、特に同軸であり、アクチュエータAKT2及びAKT4の作動軸AA2、AA4が相互に平行、特に同軸であるように選択される。さらに、アクチュエータAKT1及びAKT3の作動軸AA1、AA3は、アクチュエータAKT2及びAKT4の作動軸AA2、AA4に直交する。
【0129】
したがって、例示的な実施形態では、相互に直交する回転作動軸を有するそれぞれ2つの統合された独立して制御可能な圧電アクチュエータを含む2つの多重関節接続素子群VEG1、VEG2を有するサスペンションシステムSUSが、ベース素子BEをミラー基板又はミラー素子MEに機械的に接続するために設けられる。接続群のそれぞれが、ベース素子BEに連結固定されたベース連結素子BA1、BA2と、一端がベース連結素子BA1、BA2に取り付けられ又は連結され反対端が曲げ剛性接続素子VE1、VE2に取り付けられ又は連結された第1圧電アクチュエータ、特に多層屈曲ピエゾアクチュエータAKT1、AKT3と、上記曲げ剛性接続素子と、一端が曲げ剛性接続素子に取り付けられ又は連結され反対端がミラー連結素子SA1、SA2に取り付けられ又は連結された第2圧電アクチュエータ(特に、多層屈曲ピエゾアクチュエータ)AKT2、AKT4とを含み、ミラー連結素子SA1、SA2はミラー素子MEに接続固定される。
【0130】
屈曲ピエゾアクチュエータにより生じる傾斜の場合、概して固定の回転軸又は空間的に固定された作動軸回りのミラー素子の「完全な」回転は生じない。多くの場合、ミラー素子の横及び上/下への僅かな寄生的な運動がさらに生じる。したがって、用語「直交」「同軸」等は、その原理を説明するための近似的な情報であると理解されたい。
【0131】
この原理を用いて、素子間の接続の他の配置も考えられ、図8図10、及び図11に示す。図8の配置では、図7の配置よりも複雑な接続素子VE1、VE2(3回曲がる)が必要である。両方の配置には、2つのベース連結素子BA1、BA2がアクチュエータ素子AKT1及びAKT3に異なる側でそれぞれ連結されるという共通点がある。ミラー連結素子SA1、SA2とアクチュエータ素子AKT2及びAKT4にもこれが当てはまる。その結果、ミラーを軸回りに傾斜させるとアクチュエータ素子はそれぞれ曲がり方が異なる(図9参照)。この特性は、ユニモルフアクチュエータに適している。その場合、アクチュエータAKT1は、例えばミラーがy軸回りに傾斜する場合に正の回転方向でのみ有効であり、アクチュエータAKT3は、ミラー素子がy軸周りに傾斜する場合に負の回転方向でのみ有効である。x軸回りのミラー傾斜に関するアクチュエータAKT2及びAKT4にもこれが当てはまる。
【0132】
バイモルフアクチュエータを用いるためには、特に、傾斜軸に割り当てられたアクチュエータ素子がミラーの傾斜時にそれぞれ同じ方向に湾曲すれば、制御の観点から有利である。この目的で、接続素子は、アクチュエータ素子AKT1及びAKT3の同じ側でそれぞれ基板に連結されなければならない。ミラーとの接続素子とアクチュエータ素子AKT2及びAKT4とにもこれが当てはまる。図10及び図11の配置は、この要件を満たす。
【0133】
図9は、2つのアクチュエータ素子の側面図を示す。ミラーが特定の角度で傾斜すると、その傾斜軸のアクチュエータ(例えば、AKT1)は上向きに屈曲するが、他方(例えば、AKT3)は下向きに屈曲する。これは、図9に概略的に示されており、図7及び図8の連結形態に関するものである。これに対して、図10及び図11の連結形態では、軸の両方のアクチュエータ(すなわち、例えばAKT1及びAKT3)が特定のミラー傾斜と同じ方向に屈曲する。
【0134】
アクチュエータ素子の記載の配置では、2つの回転自由度を有する多関節が形成され、これは2つの軸回りのミラー素子MEの正及び負の方向それぞれの傾斜を可能にする。複数のアクチュエータを同時に動作させることにより、x軸及びy軸回りのミラー傾斜の組み合わせを、2次元傾斜場全体を設定することができるように実現することができる。
【0135】
記載の配置の1つの有利な特性は、アクチュエータ素子の端における傾斜角がミラーの傾斜角に直接変換されることである(接線方向リフトによる傾斜)。図12に示すように、これにより、圧電アクチュエータ素子AKTの屈曲をミラー素子の傾斜に効果的に変換することができる。これは、アクチュエータ素子に対するミラー素子の剛体連結及びアクチュエータ素子同士の剛体連結により可能となる。ミラー素子とアクチュエータ素子との間及びアクチュエータ素子間のリンク及び接続素子は、記載の配置でできる限り剛直であるよう適宜設計されるべきである。
【0136】
図12で容易に分かるように、圧電的に活性なアクチュエータ素子AKTは、ミラー側端部SEAがミラー面(破線ME1)と実質的に平行に位置合わせされるように端部SEAがミラー素子ME1に強固に取り付けられる。屈曲線は、そこではミラー面と事実上平行に延びる。この端部に曲率が依然としてある場合、リンクは一般的には接線リンクとも呼ばれる。この点で、本願の意味の範囲内での接線リンクは、ミラー側端部がミラー面と平行に又は極めて鋭角(例えば約1°以下)に位置合わせされるリンクである。リンクはいずれにせよ剛直なので、ミラー側端部SEAの向きによりミラー面の向きが直接決まる。この直接変換は、接線方向リフトとも称する。
【0137】
図12は、z方向リフトによるミラー素子ME2の傾斜に比べた接線方向リフトによるミラー素子ME1の傾斜の利点を示す。アクチュエータ素子は、非作動状態では平面状であり、中心長手方向軸BLが軸AXと平行に延びるものとする。屈曲アクチュエータAKTを作動させると、屈曲が起こり、屈曲線BLが湾曲すると同時に平面(ここでは図平面)内に残る。z方向リフトによる傾斜の場合、アクチュエータ素子AKTの端におけるz方向撓みΔzを用いて軸AXに対するz方向リフト傾斜角WZHだけミラーME2を傾斜させることになる。しかしながら、アクチュエータ素子の既存の屈曲はここでは用いられない。接線方向リフトでの傾斜(ミラーM1参照)は、この屈曲を用いることにより、軸AXに対して接線方向リフト傾斜角WTHを達成し、WTH>WZHである。z方向リフトで接線方向リフトによる傾斜と同様に大きな傾斜角を達成するためには、非常に短いレバーアームが必要となり、これは技術的に実施が困難である。
【0138】
高熱負荷に対応するために、最低限の熱抵抗を全体で有するようにアクチュエータ素子及び接続素子を設計することが有利である。この目的で、接続素子の断面積をできる限り大きく選択すべきである。さらに、幅広のアクチュエータ素子が、熱抵抗を減らすと同時に最大傾斜角に悪影響を及ぼさないので有利である。
【0139】
図7及び図8図11は、連結された端間のアクチュエータの長手方向で測定した有効屈曲長さLが、それに対して垂直に位置合わせされた幅方向で測定した幅Bよりも短いことを既に示している。幅方向は、いずれの場合も関連の作動軸の方向と平行である。長さと幅とのアスペクト比L/Bは、例えば0.5以下又は0.4以下又は0.3以下又は0.2以下又は0.1以下とすることができ、多くの場合、アスペクト比は1:3~1:10の範囲にある。このようにして、低熱抵抗を達成することができ、さらにセンサ素子の設置空間が作られる。
【0140】
個々のコンポーネント素子の相互に対する比率に関して可能な一実施態様に対応する、記載のアクチュエータシステムの3つの例示的な実施形態を以下で説明する(図13A図13B図14、及び図15)。例示的な実施形態は、ここでは図7を参照して説明した接続素子の配置に関するものであり、したがって対応する参照符号を用いる。同様に、さらに記載する配置(図8図10、及び図11)は、異なる配置の接続素子でも実現することができる。
【0141】
アクチュエータ素子AKTとの電気的な接触は、接続素子に通した給電線を用いて確立することができる。ベース素子から離れたアクチュエータ素子AKT2及びAKT4との接触を確立するための給電線は、ここでは特に、ベース素子に近接したアクチュエータ素子AKT1及びAKT3を通過して導かれる。アクチュエータ素子AKT1及びAKT3は、この目的で(作動軸の方向に)短くすることができ、その結果アクチュエータ素子と平行に延びるばね素子をそれぞれ導入することができ、そこを各給電線が通過する。同様の方法で、静電容量センサシステムの給電線を組み込むことができる。
【0142】
現在の傾斜角を検出するために、静電容量センサが構造に組み込まれる。図16A及び図16Bは、異なる測定原理を用いた2つの変形形態を示す。
【0143】
図16Aの例示的な実施形態では、噛み合う電極櫛歯EK1、EK2が、電気コンデンサが形成されるようにベース素子BEの上側及びミラー素子MEの下側の両方に取り付けられる。電圧USENSが電極櫛歯間に印加される。ミラーの傾斜状態が変化した場合(湾曲矢印)、電極の相互に対する位置が変化し、したがってコンデンサの静電容量も変化するが、これは、一定に保たれた電圧では電荷の流出又は流入により、一定に保たれた電流では電圧の変化により検出することができる。
【0144】
図16Bの例示的な実施形態では、静電容量センサは、ベース素子BEに取り付け又は形成された櫛形電極EK3を有する。当該櫛形電極は、ミラー素子MEの下側に取り付け又は形成されて複数の板PLを有する櫛形電極KEと協働し、複数の板PLは、相互に離間して配置され、それぞれがEK3の隣り合う電極板EPL1、EPL2間の中間空間に係合する。櫛形電極EK3の電極板EPL1、EPL2等は、相互に電気的に絶縁され、隣り合う電極板がそれぞれ異なる電位(電位差USENS)にあるように電圧源に接続され、それによりコンデンサを形成する。ミラー素子MEに取り付けられたシールドの櫛歯(櫛形電極KE)は、EUV放射線により生じた周囲雰囲気(低水素分圧の負圧)のプラズマからの堆積物を防止するように規定の電位に保たれる。ミラーが傾斜すると、ミラー素子MEの板PLは電極板間の中間空間に入り込み、そこで侵入深さに応じてシールドよりも多かれ少なかれ強く作用し、それによりベース素子BE上の櫛歯電極のそれぞれ隣り合う板から形成されたコンデンサの静電容量を傾斜角に応じて変える。ベース素子上の電極は、固定櫛歯とも称することができる。同様に、ミラー素子の櫛歯は、可動櫛歯と称することもできる。ミラー素子に取り付けられたシールドの櫛歯は、EUV放射線により生じた周囲雰囲気(低水素分圧の負圧)のプラズマからの堆積物を防止するために規定の電位に保たれる。
【0145】
異なる変形形態は特定の利点を有する。図16Aの配置では、静電容量センサの感度は図16Bの変形形態よりも高い。他方では、図16Bの変形形態は、ここではミラー素子の位置判定のための信号がサスペンションシステムの変形可能な素子を通過するラインを経由しないので、回路技術の点で有利である。
【0146】
電極の位置及び位置決めには異なる可能性があり、そのうちのいくつかを以下の例示的な実施形態で示す(図17A図17F参照)。電極櫛歯の異なる配置は、アクチュエータの他の例示的な実施形態に転用可能である。アクチュエータ構造間又はアクチュエータ構造外の空き領域は、電極の取り付けに適している。プロセス技術の観点から、電極をアクチュエータの接続素子と同じz平面に取り付けることが概して有利である。できる限り大きな測定信号を達成するために、電極をできる限り外側に取り付けた場合には、x軸又はy軸回りにミラーの回転時にミラーの下側の電極櫛歯の並進がz方向で最大になるので、これが有利である。隣り合うミラー素子の干渉を最小化するために、電極の周囲にシールドを配置することが有用であり得る(米国特許第10,514,276号参照)。
【0147】
図17A図17Fは、図13Aに示すミラーユニットの部品の平面図をそれぞれ示す。ここで、接続群の接続素子VE1、VE2は、比較的細い脚間の角度が90°の二等辺山形にそれぞれ設計されるので、正方形のベース素子BEの正方形のミラー素子MEの四隅に実質的に正方形の領域が空いたまま残る。櫛形電極の板又は板状の指がそこに配置される。図中、ベース素子BEに割り当てられた板が黒色で描かれ、ミラー素子MEの下側に取り付けられた板は明色で描かれている。図17Aの例では、板は、それぞれミラーユニットの中心ZMに対して径方向の向きであり、コーナ領域で2つの同心円状セグメントに配置される。図17B図17C、及び図17Dの例では、それぞれ対角をなすコーナ領域に配置された板は相互に平行且つコーナ領域につながる径方向に対して垂直な向きであり、他方の対角では向きがそれに直交する。図17Eの配置では、個々の電極板は、脚の長さが等しい直角としてそれぞれ形成される。図17Fの配置は、ミラーユニットの中心に対して同心状に配置された弧状に湾曲した板を提供する。全ての電極配置が、それぞれ中心ZMに対して4回回転対称性を有する。他の配置も可能である。
【0148】
さらに別の可能性は、ミラーの中心ZMの周りの空き領域に電極を取り付けることである。この場合、ミラーの傾斜移動に対する感度が低下するであろうが、センサは、このようにして外側からの、特に隣り合うミラーからの干渉に対する遮蔽性が高くもなる。
【0149】
図示の例示的な実施形態では、ピエゾアクチュエータが静電容量センサ素子と組み合わせて用いられる。ピエゾアクチュエータは、ここでは圧電アクチュエータにより実現されると同時に、ここではばね継手として働くので、マイクロミラー、すなわちミラー素子は2つの軸回りに傾斜することができる。静電容量センサの櫛歯は、ミラー基板の下側及び基板の上側で実現される。したがって、センサシステムの設置空間が比較的大きく、さらに傾斜時のミラー移動が最大であるミラーの外側に位置付けられるので、比較的高い感度を得ることが可能である。さらに、静電容量センサには(例えば、ピエゾ抵抗センサとは対照的に)低い感温性しかない。
【0150】
例示的な実施形態のいくつかの利点は、例えば以下のように要約することができる。アクチュエータは、高い力密度を有するピエゾ素子の使用と、ミラー傾斜へのピエゾ素子の屈曲の直接変換とにより、大きな傾斜角の実現を可能にする。アクチュエータ素子は、あまり大きな空間を必要とせず、したがってセンサシステムを組み込むための大きな空間を残し、感度を高めることができる。この設計は少数の素子しか含まず、単純な素子を含み、全ての素子が少数の平面のみに位置するので、生産性が単純である。システムは、温度変動に対する感度が比較的低い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16A
図16B
図17A
図17B
図17C
図17D
図17E
図17F
【国際調査報告】