(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】Li含有カソード活物質のための前駆体材料を調製するための方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20241024BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241024BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024524709
(86)(22)【出願日】2022-10-20
(85)【翻訳文提出日】2024-04-24
(86)【国際出願番号】 EP2022079277
(87)【国際公開番号】W WO2023072737
(87)【国際公開日】2023-05-04
(32)【優先日】2021-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】イェンス・マルティン・パウルゼン
(72)【発明者】
【氏名】クリス・ドリーセン
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・ネリス
(72)【発明者】
【氏名】ランディ・デ・パルマ
(72)【発明者】
【氏名】カスペル・ランブライ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン-ウォン・シン
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050DA02
5H050GA02
5H050GA06
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA08
5H050HA14
(57)【要約】
電池用のLi含有カソード活物質のための前駆体材料を調製するための方法であって、本方法は、加熱されたチャンバ内で水溶液の液滴を分解して金属酸化物を生成する噴霧熱分解工程を含み、金属酸化物が、元素Niと、元素Co及びMnの一方若しくは両方とを含む混合金属酸化物であり、水溶液が、Niの塩と、Co及び/若しくはMnの塩との混合溶液である、または金属酸化物がNi酸化物であり、水溶液がNiの塩の溶液である、のいずれかであり、本方法は、当該金属酸化物を含む水性スラリーを噴霧乾燥して当該前駆体材料を形成する噴霧乾燥工程を含むことを特徴とする、方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池用のLi含有カソード活物質のための前駆体材料を調製するための方法であって、
加熱されたチャンバ内で水溶液の液滴を分解して金属酸化物を生成する噴霧熱分解工程を含み、
・前記金属酸化物が、元素Niと、元素Co及びMnの一方若しくは両方とを含む混合金属酸化物であり、前記水溶液が、Niの塩と、Co及び/若しくはMnの塩との混合溶液である、
・又は前記金属酸化物がNi酸化物であり、前記水溶液がNiの塩の溶液である、
・又は前記金属酸化物がMn酸化物であり、前記水溶液がMnの塩の溶液である、のいずれかであり、
前記方法が、前記金属酸化物を含む水性スラリーを乾燥させて前記前駆体材料を形成する乾燥工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記乾燥工程が、前記水性スラリーを噴霧乾燥して前記前駆体材料を形成する噴霧乾燥工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属酸化物が、元素Niと、元素Co及びMnの一方又は両方とを含む混合金属酸化物であり、前記水溶液が、Niの塩と、Co及び/又はMnの塩との混合溶液である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記塩(単数)が塩化物(単数)であるか又は前記塩(複数)が塩化物(複数)であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記前駆体材料が、少なくとも300℃かつ最大で1000℃の温度で加熱されて、熱処理された前駆体材料を生成する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法が、少なくとも0.1の比(水の重量)/(金属酸化物の重量)で前記金属酸化物と水との混合物が調製される洗浄工程を含み、この混合物が、前記金属酸化物を回収するために濾過、遠心分離、又はデカンテーションされ、それによって前記洗浄工程が前記スラリー調製工程の前に行われる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法が、前記金属酸化物が粒径減少を受けるサイズ減少工程を含み、前記サイズ減少工程が前記噴霧乾燥工程の前に行われる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記サイズ減少工程が、水で湿潤された金属酸化物上で行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記水性スラリー中の前記金属酸化物の濃度が少なくとも30重量%である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記水性スラリー中の前記金属酸化物の粒子の中央粒径D50が、レーザー回折によって決定される第1の粒径分布を有し、前記第1の粒径分布が、最大で0.60μmの第1のD50を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記前駆体材料が球状粒子からなり、前記前駆体材料が少なくとも1.0g/cm
3のかさ密度を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記球状粒子が、レーザー回折によって決定される第2の粒径分布を有し、前記第2の粒径分布が、少なくとも2μmの第2のD50を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記球状粒子が、レーザー回折によって決定される第2の粒径分布を有し、前記第2の粒径分布が、最大で25μmの第2のD50を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記金属酸化物が、Mnのモル含有量y、Coのモル含有量z、Niのモル含有量b、Aのモル含有量aを有し、Aが、Li、Ni、Mn、及びCo以外の任意の金属元素であり、
0.20≦b/(y+z+b+a)≦1.00、
0≦y/(y+z+b+a)≦0.80、
0≦z/(y+z+b+a)≦0.60、及び
0≦a/(y+z+b+a)≦0.10である、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記金属酸化物が、Mnのモル含有量y、Coのモル含有量z、Niのモル含有量b、Aのモル含有量aを有し、Aが、Li、Ni、Mn、及びCo以外の任意の金属元素であり、0.30≦b/(y+z+b+a)≦0.95及び0.05≦(y+z+a)/(y+z+b+a)≦0.70である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Li含有カソード活物質、すなわち、正極活物質、のための前駆体材料を調製するための方法、及び当該前駆体からのLi含有カソード活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、Li含有カソード活物質は、最初にCo及び/又はNi及び/又はMn及び/又はAlの前駆体を製造し、次いで、そのような前駆体を炉内でリチウム源と反応させることによって調製される。
【0003】
前駆体は、通常、酸化物、水酸化物、又は炭酸塩などの元素Co及び/又はNi及び/又はMn及び/又はAlの単一元素無機化合物又は単一元素無機化合物若しくは多元素無機化合物の混合物である。前駆体自体は、通常、Liを全く含有しないか、又は非常に少量しか含有しない。
【0004】
工業的状況における良好な前駆体は、良好な品質の最終生成物の調製を可能にする特性を有するだけでなく、製造するのに安価であり、安価な更なる製造工程に役立つ必要もある。
【0005】
混合塩化物溶液からの噴霧熱分解を使用して、Li含有カソード活物質の前駆体として混合Ni-Co-Mn酸化物を調製することが知られている。これに関しては、FrohlichらのNew large-scale production route for synthesis of lithium nickel manganese cobalt oxide、J Solid State Electrochem、21、3403~3410(2017)を参照されたい。
【0006】
国際公開第2019/185349号から、混合Ni-Co-Mn酸化物を調製するために噴霧熱分解を使用することも知られている。
【0007】
しかしながら、そのような既知の混合酸化物は、欠点を有し、特に、それらは、最終的なLi含有カソード活物質において比較的高いCl含有量の原因となり、それらの低い密度に起因して、その後のLi源との反応工程に対しての低い炉容量の原因となる。
【0008】
Li含有カソード活物質として使用可能なLiMn2O4を調製するために、Liを含む混合硝酸塩溶液から噴霧熱分解を使用し、その後に噴霧乾燥が続くことも知られている。これは、TANIGUCHIらの「Synthesis of spherical LiMn2O4 microparticles by a combination of spray pyrolysis and drying method」、POWDER.TECHNOLOGY、第181巻、第3番、2008年1月29日、228~236頁に開示されている。
【0009】
しかしながら、これは分解生成物としてガス状NO及びNO2を生成する。NO及びNO2は大気中で非常に汚染性のガスであり、スモッグ及び酸性雨の両方を引き起こすので、これは望ましくない。したがって、そのような方法は、熱分解から生じるガスからのNO及びNO2の非常に精巧で費用のかかる除去を必要とする。
【0010】
Li含有カソード活物質として直接使用可能なリチウム化金属酸化物を調製するために、Liを含む混合塩化物溶液から噴霧熱分解を使用し、その後に噴霧乾燥が続くことも知られている。これは、CN104934572号に開示されている。しかしながら、そのような方法は、最終生成物中の高Cl含有量を生じ、生成物を電池に使用するのにより適さなくする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2019/185349号
【特許文献2】中国特許出願公開第104934572号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Frohlichら、“New large-scale production route for synthesis of lithium nickel manganese cobalt oxide”、J Solid State Electrochem、21、3403~3410(2017)
【非特許文献2】TANIGUCHIら、“Synthesis of spherical LiMn2O4 microparticles by a combination of spray pyrolysis and drying method”、POWDER.TECHNOLOGY、第181巻、第3番、2008年1月29日、p.228~236
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、これら及び他の欠点を回避及び/又は低減することを目的とし、したがって、電池用のLi含有カソード活物質のための前駆体材料を調製する方法であって、本方法は、加熱されたチャンバ内で水溶液の液滴を分解して金属酸化物を生成する噴霧熱分解工程を含み、本方法は、噴霧熱分解工程から直接、又は1つ以上の中間処理工程の後のいずれかで当該金属酸化物を含む水性スラリーを噴霧乾燥して前駆体材料を形成する、噴霧乾燥工程を含み、金属酸化物は、以下の特徴:
1)金属酸化物が、元素Niと、元素Co及びMnの一方若しくは両方とを含む混合金属酸化物であり、水溶液が、Niの塩と、Co及び/若しくはMnの塩との混合溶液である、
2)金属酸化物がNi酸化物であり、水溶液がNiの塩の溶液である、
3)金属酸化物がMn酸化物であり、水溶液がMnの塩の溶液である、のうちの1つを有する、方法に関する。
【0014】
化学において、混合酸化物は、2つ以上の化学元素のカチオン又は単一元素のカチオンをいくつかの酸化状態で含有する酸化物化合物の名称である。
【0015】
本明細書では、この定義における第1の選択肢が意図される。
【0016】
あるいは、混合金属酸化物は、金属酸化物の各粒子が、金属酸化物中に存在する金属元素の全てを含有する金属酸化物として定義され得る。
【0017】
混合金属酸化物としては、単一金属酸化物の混合物ではなく、2つ以上の異なる金属元素のカチオンを含有する酸化物化合物のみが考慮される。
【0018】
塩の混合溶液とは、明確な混合工程が行われたかどうかにかかわらず、異なる金属元素の塩が同じ溶媒中に存在する溶液を意味する。
【0019】
本発明による様々な実施形態は、特許請求の範囲及び本明細書に開示されている。特許請求の範囲及び本明細書に記載された実施形態及び実施例は、明示的に別段の定めがない限り、互いに自由に組み合わせることができる。本明細書全体を通して、何らかの数値範囲が提供されている場合、明示的に別段の定めがない限り、範囲は端点値も含む。
【0020】
本発明は、以下の好ましい実施形態に関する。
【0021】
噴霧乾燥工程では、金属酸化物のかさ密度が著しく増加するので、前駆体材料とLiとの反応に使用される炉の容量が改善される。
【0022】
好ましい変形では、当該塩(単数)又は塩(複数)は塩化物である。それらは安価に入手でき、高溶解性である。また、リサイクルも容易であり得る。
【0023】
好ましい変形では、本方法は、噴霧熱分解工程から直接、又は1つ以上の中間処理工程の後のいずれかで当該金属酸化物の粒子を水と混合して水性スラリーを調製するスラリー調製工程を含む。
【0024】
好ましい変形では、本方法は、少なくとも0.1、好ましくは少なくとも0.5の比(水の重量)/(金属酸化物の重量)で、噴霧熱分解工程から直接、又は1つ以上の中間処理工程の後のいずれかで金属酸化物と水との混合物が調製される洗浄工程を含み、この混合物は、金属酸化物を回収するために濾過、遠心分離、又はデカンテーションされ、それによって洗浄工程がスラリー調製工程の前に行われる。
【0025】
この洗浄工程において、金属酸化物中の残留アニオン、特に塩化物は、水に可溶性であるので、除去することができる。当業者は、使用される水の量が、洗浄工程後に望まれるアニオン含量に依存することを理解するであろう。
【0026】
好ましい変形では、本方法は、噴霧熱分解工程から直接、又は1つ以上の中間処理工程の後のいずれかで、金属酸化物が粒径減少を受けるサイズ減少工程を含み、サイズ減少工程は、噴霧乾燥工程の前に行われる。
【0027】
これは、生成される前駆体材料の均質性を改善し、噴霧乾燥工程の能力の増加も可能にする。
【0028】
好ましい変形では、サイズ減少工程は、水で湿潤された金属酸化物上で行われる。先行する湿式工程、例えば上述の洗浄工程が存在する場合、これは、金属酸化物の中間乾燥を回避する。それはまた、粉塵の発生を低減する。
【0029】
好ましい変形では、水性スラリー中の当該金属酸化物の粒子の中央粒径D50は、水性スラリー中で得ることができる金属酸化物の含有量が最適であり得るように、10nm~1000nmである。
【0030】
好ましい変形では、前駆体材料は球状粒子を含み、前駆体材料は少なくとも1.0g/cm3、好ましくは少なくとも1.3g/cm3、より好ましくは少なくとも1.4g/cm3のかさ密度を有する。球状粒子は、顕微鏡で断面像を観察したときの真円度の比が少なくとも0.5である。それは、粒子の面積と粒子の最大直径を有するディスクの面積との間の比として計算される。
【0031】
球状粒子は、取り扱いやすさとその後の処理工程におけるLiとの反応速度との良好なバランスを得るために、少なくとも2μmであり、最大で50μmである中央粒径D50を有することが好ましい。
【0032】
金属酸化物は、好ましくは、Mnのモル含有量y、Coのモル含有量z、Niのモル含有量b、Aのモル含有量aを有し、Aが、Li、Ni、Mn、及びCo以外の任意の金属元素であり、
0.20≦b/(y+z+b+a)≦1.00、例えば0.30、0.40、0.50、0.60、0.70、0.80、又は0.90、0≦y/(y+z+b+a)≦0.80、例えば0.10、0.20、0.30、0.40、0.50、0.60、又は0.70、0≦z/(y+z+b+a)≦0.60、例えば0.10、0.20、0.30、0.40、又は0.50、及び0≦a/(y+z+b+a)≦0.10、例えば0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、又は0.09である。
【0033】
より好ましくは0.30≦b/(y+z+b+a)≦1.00、更により好ましくは0.45≦b/(y+z+b+a)≦1.00である。
【0034】
より好ましくは金属酸化物は混合金属酸化物であり、0.30≦b/(y+z+b+a)≦0.95及び0.04≦z/(y+z+b+a)≦0.60、更により好ましくは0.45≦b/(y+z+b+a)≦0.90及び0.04≦z/(y+z+b+a)≦0.35である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下の発明を実施するための形態では、本発明の実施を可能にするために、好ましい実施形態を記載している。本発明は、これらの特定の好ましい実施形態を参照して記載されているが、本発明は、これらの好ましい実施形態に限定されないことが理解されよう。本発明は、以下の詳細な説明及び付随する図面の考察から明らかである多くの代替、改変、及び均等物を含む。
【0037】
A)CS-SEM(断面走査型電子顕微鏡)分析
本明細書に記載する遷移金属酸化物前駆体、すなわち前駆体材料の断面は、イオンビーム断面研磨(CP)機器JEOL(IB-0920CP)によって調製する。この機器は、ビーム源としてアルゴンガスを使用する。
【0038】
試験片を調製するために、少量の遷移金属酸化物前駆体粉末を、樹脂及び硬化剤と混合し、次いで、混合物をホットプレート上で10分間加熱する。加熱後、これを切断用のイオンビーム機器内に置き、3時間の持続時間にわたる6.5kVの電圧という標準的な手順に、設定を調節した。
【0039】
遷移金属酸化物前駆体の形態は、走査型電子顕微鏡(SEM)技術によって分析された。測定は、JEOL JSM 7100F(https://www.jeolbenelux.com/JEOL-BV-News/jsm-7100f-thermal-field-emission-electron-microscope)を用いて、25℃で9.6×10-5Paの高真空環境下で実施した。
【0040】
B)粒径分析
遷移金属酸化物前駆体粉末、すなわち前駆体材料の粒子径分布(particle size distribution)(PSD)は、それぞれの粉末サンプルを水性媒体中に分散させた後、Hydro MV湿式分散付属品を備えたMalvern Mastersizer 3000(https://www.malvernpanalytical.com/en/products/product-range/mastersizer-range/mastersizer-3000#overview)を用いて、レーザー回折粒子径分析によって測定した。粉末の分散を改善するために、十分な超音波照射及び撹拌を適用し、適切な界面活性剤を導入した。中央粒径D50は、Hydro MVを用いるMalvern Mastersizer 3000測定から得られた累積体積%分布の50%における粒径として定義される。
【0041】
C)かさ密度
前駆体材料粉末のかさ密度は、特定の体積を有するメスシリンダーに流入した粉末の質量を測定することによって決定される。前駆体かさ密度は、以下の式に従って計算される。
【0042】
【0043】
D)炭素分析器
正極活物質粉末の炭素含有量は、株式会社堀場製作所製Emia-Expert炭素/硫黄分析装置によって測定する。実施例又は比較例の1gを、高周波誘導電気炉内のセラミック坩堝に入れる。促進剤としての1.5gのタングステン及び0.3gのスズを坩堝の中へ加える。粉末を、燃焼中に生成されたガスが赤外線検出器によって次いで分析されるプログラム可能な温度で加熱する。CO2及びCOの分析により、炭素濃度を決定する。
【0044】
E)ICP分析
前駆体中の金属元素、例えば、Ni、Mn、及びCoの量は、Agillent ICP720-ES(Agilent Technologies)を使用して誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma、ICP)法で測定される。2グラムの粉末サンプルを、三角フラスコ中で10mLの高純度塩酸(溶液の総重量に対して少なくとも37重量%のHCl)に溶解する。前駆体を完全に溶解させるまで、フラスコをガラスでカバーし、380℃のホットプレート上で加熱する。室温まで冷却した後、三角フラスコの溶液を250mLメスフラスコに注ぐ。その後、メスフラスコを250mLの標線まで脱イオン水で充填し、その後、完全な均質化が続く。ピペットで適切な量の溶液を取り出し、2回目の希釈のために250mLメスフラスコに移し、メスフラスコを250mLの標線まで内部標準及び10%塩酸で充填し、その後、均質化させる。最後に、この50mL溶液をICP測定に使用する。
【0045】
本発明を以下の(非限定的な)実施例によって更に説明する。
【0046】
実施例1.1:混合金属酸化物
前駆体生成物は、以下のように行われる噴霧熱分解及び噴霧乾燥プロセスによって得られた。
1)供給溶液の調製:0.6:0.2:0.2のNi:Mn:Co比でNi、Mn、及びCoを有する110グラム/Lの総濃度の水中のNiCl2、MnCl2、及びCoCI2溶液を含む混合供給溶液を調製した。
2)噴霧熱分解:塩を分解して混合金属酸化物粉末を形成するために、この供給溶液を液滴の形態で650℃の加熱されたチャンバ内に噴霧した。チャンバ体積は約8.8m3であり、供給速度は30L/時間であった。
3)洗浄:混合金属酸化物粉末を水で洗浄し(固形分25重量%)、その後に濾過が続き、塩化物含量を低減した。
4)スラリー製剤:水中で70重量%の固形分及び2重量%の分散剤を有するように、工程3)からの洗浄生成物を分散剤(Dolapix CA,Zschimmer&Schwarz,DE)と混合することによってスラリーを調製した。
5)湿式ビーズミル:調製されたスラリーを、1300kWh/Tの比粉砕エネルギーで湿式ビーズ粉砕した。粉砕媒体は、直径1mmのY安定化ZrO2ビーズ(YSZ)であった。粉砕粒子のD50は0.28μmであった。
6)噴霧乾燥:粉砕したスラリーを、170℃の入口温度及び100℃の出口温度を有する2つの流体ノズルによって噴霧乾燥した。この工程の生成物は、EX1.1とラベル付けした前駆体粉末であった。
【0047】
EX1.1粉末は、粉末の総重量に対して1.8g/cm3のかさ密度及び0.7重量%の炭素含有量を有する。
【0048】
工程2後の中間生成物は、0.31g/cm3のかさ密度を有していた。
【0049】
実施例1.2:加熱された混合金属酸化物
EX1.1を酸素雰囲気下、500℃の炉で5時間加熱して、12.6μmのD50を有するEX1.2粉末を生成した。EX1.2粒子のCS-SEM画像を
図1に示す。炭素含有量は、EX1.2の総重量に対して0.012重量%であった。
【0050】
実施例1.3:混合金属含有正極活物質
EX1.3を、以下のように行う、リチウム源と遷移金属系前駆体との間の固相反応によって得た。
1)混合:前駆体粉末EX1.2と、リチウム源としてのLiOHとを、工業用ブレンド装置において1.05のリチウム対金属Me(Li/Me)比で均質に混合し、混合物を得た(Me=Ni、Mn、Co)。
2)加熱:工程1)からの混合物を、酸素雰囲気下で840℃にて15時間加熱した。EX1.3とラベル付けされるリチウム化生成物を得るように加熱した粉末を破砕し、分級し、篩い分けした。
【0051】
実施例2.1:酸化ニッケル
工程1)における供給溶液がNiCl2を含むのみであることを除いてはEX1.1と同じ方法に従ってEX2.1を調製した。粉砕粒子のD50は0.25μmであった。EX2.1は、1.5g/cm3のかさ密度を有するNiO前駆体粉末である。
【0052】
実施例2.2:加熱された酸化ニッケル
EX2.1を酸素雰囲気下、500℃の炉で5時間加熱して、12.0μmのD50を有するEX2.2粉末を生成した。炭素含有量は、EX2.2の総重量に対して0.015重量%であった。
【0053】
実施例2.3:ニッケル含有正極活物質
EX2.3を、以下のように行う、リチウム源と遷移金属系前駆体との間の固相反応によって得た。
1)混合:前駆体粉末EX2.2と、リチウム源としてのLiOHとを、工業用ブレンド装置において1.05のリチウム対金属Me(Li/Me)比で均質に混合し、混合物を得る(Me=Ni、Mn、Co)。
2)加熱:工程1)からの混合物を、酸素雰囲気下で750℃にて15時間加熱した。EX2.3とラベル付けされるリチウム化生成物を得るように加熱した粉末を破砕し、分級し、篩い分けした。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池用のLi含有カソード活物質のための前駆体材料を調製するための方法であって、
加熱されたチャンバ内で水溶液の液滴を分解して金属酸化物を生成する噴霧熱分解工程を含み、
・前記金属酸化物が、元素Niと、元素Co及びMnの一方若しくは両方とを含む混合金属酸化物であり、前記水溶液が、Niの塩と、Co及び/若しくはMnの塩との混合溶液である、
・又は前記金属酸化物がNi酸化物であり、前記水溶液がNiの塩の溶液である、
・又は前記金属酸化物がMn酸化物であり、前記水溶液がMnの塩の溶液である、のいずれかであり、
前記方法が、前記金属酸化物を含む水性スラリーを乾燥させて前記前駆体材料を形成する乾燥工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記乾燥工程が、前記水性スラリーを噴霧乾燥して前記前駆体材料を形成する噴霧乾燥工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属酸化物が、元素Niと、元素Co及びMnの一方又は両方とを含む混合金属酸化物であり、前記水溶液が、Niの塩と、Co及び/又はMnの塩との混合溶液である、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
前記塩(単数)が塩化物(単数)であるか又は前記塩(複数)が塩化物(複数)であることを特徴とする、請求項
1に記載の方法。
【請求項5】
前記前駆体材料が、少なくとも300℃かつ最大で1000℃の温度で加熱されて、熱処理された前駆体材料を生成する、請求項
1に記載の方法。
【請求項6】
前記方法が、少なくとも0.1の比(水の重量)/(金属酸化物の重量)で前記金属酸化物と水との混合物が調製される洗浄工程を含み、この混合物が、前記金属酸化物を回収するために濾過、遠心分離、又はデカンテーションされ、それによって前記洗浄工程
がスラリー調製工程の前に行われる、請求項
1に記載の方法。
【請求項7】
前記方法が、前記金属酸化物が粒径減少を受けるサイズ減少工程を含み、前記サイズ減少工程が前記噴霧乾燥工程の前に行われる、請求項
2に記載の方法。
【請求項8】
前記サイズ減少工程が、水で湿潤された金属酸化物上で行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記水性スラリー中の前記金属酸化物の濃度が少なくとも30重量%である、請求項
1に記載の方法。
【請求項10】
前記水性スラリー中の前記金属酸化物の粒子の中央粒径D50が、レーザー回折によって決定される第1の粒径分布を有し、前記第1の粒径分布が、最大で0.60μmの第1のD50を有する、請求項
1に記載の方法。
【請求項11】
前記前駆体材料が球状粒子からなり、前記前駆体材料が少なくとも1.0g/cm
3のかさ密度を有する、請求項
1に記載の方法。
【請求項12】
前記球状粒子が、レーザー回折によって決定される第2の粒径分布を有し、前記第2の粒径分布が、少なくとも2μmの第2のD50を有する、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記球状粒子が、レーザー回折によって決定される第2の粒径分布を有し、前記第2の粒径分布が、最大で25μmの第2のD50を有する、請求項
11に記載の方法。
【請求項14】
前記金属酸化物が、Mnのモル含有量y、Coのモル含有量z、Niのモル含有量b、Aのモル含有量aを有し、Aが、Li、Ni、Mn、及びCo以外の任意の金属元素であり、
0.20≦b/(y+z+b+a)≦1.00、
0≦y/(y+z+b+a)≦0.80、
0≦z/(y+z+b+a)≦0.60、及び
0≦a/(y+z+b+a)≦0.10である、請求項
1に記載の方法。
【請求項15】
前記金属酸化物が、Mnのモル含有量y、Coのモル含有量z、Niのモル含有量b、Aのモル含有量aを有し、Aが、Li、Ni、Mn、及びCo以外の任意の金属元素であり、0.30≦b/(y+z+b+a)≦0.95及び0.05≦(y+z+a)/(y+z+b+a)≦0.70である、請求項
1に記載の方法。
【国際調査報告】