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▶ ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェンの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】塑性加工用ホウ素フリー水性潤滑剤
(51)【国際特許分類】
   C10M 173/02 20060101AFI20241024BHJP
   C10M 125/22 20060101ALI20241024BHJP
   C10M 125/24 20060101ALI20241024BHJP
   C10M 143/18 20060101ALI20241024BHJP
   C10M 143/02 20060101ALI20241024BHJP
   C10M 143/04 20060101ALI20241024BHJP
   C10M 145/40 20060101ALI20241024BHJP
   C10M 133/04 20060101ALI20241024BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20241024BHJP
   C10N 20/06 20060101ALN20241024BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20241024BHJP
   C10N 10/14 20060101ALN20241024BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20241024BHJP
   C10N 40/24 20060101ALN20241024BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20241024BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20241024BHJP
【FI】
C10M173/02
C10M125/22
C10M125/24
C10M143/18
C10M143/02
C10M143/04
C10M145/40
C10M133/04
C10N10:02
C10N20:06
C10N10:04
C10N10:14
C10N20:04
C10N40:24
C10N30:06
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525164
(86)(22)【出願日】2022-10-06
(85)【翻訳文提出日】2024-04-25
(86)【国際出願番号】 EP2022077762
(87)【国際公開番号】W WO2023072549
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】21204637.9
(32)【優先日】2021-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391008825
【氏名又は名称】ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
【住所又は居所原語表記】Henkelstrasse 67,D-40589 Duesseldorf,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】メオリ,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】シュミット-フライターク,ウルリケ
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104AA18C
4H104AA20C
4H104BE05C
4H104CA02C
4H104CA03C
4H104CA16C
4H104CB19C
4H104EA03C
4H104EA08C
4H104FA01
4H104FA02
4H104FA07
4H104JA13
4H104LA03
4H104LA20
4H104PA28
4H104QA01
(57)【要約】
本開示は、金属基材の冷間加工において有用性を有する水性潤滑組成物を対象とし、前記水性潤滑組成物は、組成物の重量に基づいて、以下:1~20重量%の、a)少なくとも1つの水溶性無機塩、前記無機塩は溶解状態である;b)少なくとも1つの粒子状固体潤滑剤;0.1~5重量%の、c)少なくとも1つのレオロジー制御剤;0.1~5重量%の、d)少なくとも1つの塩基;及び、0.1~5重量%の、e)アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤及び双性イオン性界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1つの界面活性剤を含み、ここで、前記組成物はホウ素及びホウ素化合物を含まず、b)前記少なくとも1つの固体潤滑剤とa)前記少なくとも1つの水溶性無機塩との重量比[(b):(a)]は、0.1:1~1:1であることをさらに特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物の重量に基づいて、以下:
a)少なくとも1つの水溶性無機塩、1~20重量%、前記無機塩は溶解状態である;
b)少なくとも1つの粒子状固体潤滑剤;
c)少なくとも1つのレオロジー制御剤、0.1~5重量%;
d)少なくとも1つの塩基、0.1~5重量%;及び、
e)アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤及び双性イオン性界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1つの界面活性剤、0.1~5重量%
を含む水性潤滑組成物であって、
ここで、前記組成物はホウ素及びホウ素化合物を含まず、b)前記少なくとも1つの固体潤滑剤とa)前記少なくとも1つの水溶性無機塩との重量比[(b):(a)]は、0.1:1~1:1であることをさらに特徴とする水性潤滑組成物。
【請求項2】
組成物の重量に基づいて、以下:
a)前記少なくとも1つの水溶性無機塩、2~20重量%、好ましくは5~20重量%;
b)前記少なくとも1つの粒子状固体潤滑剤;
c)前記少なくとも1つのレオロジー制御剤、0.1~2.5重量%、好ましくは0.1~2重量%;
d)前記少なくとも1つの塩基、0.1~2.5重量%、好ましくは0.1~2重量%;及び
e)アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤及び双性イオン性界面活性剤からなる群から選択される前記少なくとも1つの界面活性剤、0.1~2.5重量%、好ましくは0.1~2重量%
を含む水性潤滑組成物であって、
ここで、前記組成物はホウ素及びホウ素化合物を含まず、b)前記少なくとも1つの固体潤滑剤とa)前記少なくとも1つの水溶性無機塩との重量比[(b):(a)]は、0.1:1~1:1、好ましくは0.2:1~1:1であることをさらに特徴とする請求項1に記載の水性潤滑組成物。
【請求項3】
組成物の重量に基づいて、60~90重量%、好ましくは65~85重量%、より好ましくは65~80重量%の水を含む、請求項1又は2に記載の水性潤滑組成物。
【請求項4】
ブルックフィールド粘度計を用いて25℃で測定した0.005~1Pa・sの粘度を特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の水性潤滑組成物。
【請求項5】
組成物に含まれるレオロジー制御剤(c)の総量は、成分a)及びb)の総重量の1~10重量%、好ましくは2~8重量%である、請求項1~4のいずれかに記載の水性潤滑組成物。
【請求項6】
7~10、好ましくは7~9のpHを有する、請求項1~5のいずれかに記載の水性潤滑組成物。
【請求項7】
成分a)は、硫酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム及びトリポリリン酸ナトリウムの混合物を含む、請求項1~6のいずれかに記載の水性潤滑組成物。
【請求項8】
組成物に含まれる前記又は各粒子状固体潤滑剤は、レーザー回折によって測定される5ミクロン未満のd50粒度を特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載の水性潤滑組成物。
【請求項9】
前記成分b)は、以下:
リン酸亜鉛、リン酸亜鉛カルシウム及びリン酸マンガンからなる群から選択される少なくとも1つのリン酸塩;及び、
ポリエチレンワックス;酸化ポリエチレンワックス;ポリプロピレンワックス;酸化ポリプロピレンワックス;及び、主モノマーとしてエチレン又はプロピレンに基づくコポリマーワックスからなる群から選択される少なくとも1つのワックス
を含み、
さらに、前記少なくとも1つのワックスは、400~30,000g/モル、好ましくは1000~25,000g/モルの数平均分子量(M)を特徴とする、請求項1~8のいずれかに記載の水性潤滑組成物。
【請求項10】
c)前記少なくとも1つのレオロジー制御剤は、セルロース誘導体;及び多糖類からなる群から選択される、請求項1~9のいずれかに記載の水性潤滑組成物。
【請求項11】
成分c)は、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びキサンタンガムを含む、請求項10に記載の水性潤滑組成物。
【請求項12】
d)前記少なくとも1つの塩基は、ビス(2-(N,N’-ジメチルアミノ)エチル)エーテル;ビス-(t-ブチルアミノエチル)エーテル、1,2-ビス-(t-ブチルアミノエトキシ)エタン;1,2-ビス-(t-ブチルアミノエトキシエトキシ)エタン;ビス[2-(イソプロピルアミノ)プロピル]エーテル;1,2-[2-イソプロピルアミノ)-プロポキシ]エタンからなる群から選択される、請求項1~11のいずれかに記載の水性潤滑組成物。
【請求項13】
成分d)は、ビス(2-(N,N’-ジメチルアミノ)エチル)エーテルを含む、又はからなる、請求項12に記載の水性潤滑組成物。
【請求項14】
金属基材の塑性冷間加工における、請求項1~13のいずれかに記載の水性潤滑組成物、又はそれから得られる乾燥膜の使用。
【請求項15】
少なくとも1つの金属加工工具の少なくとも1つの固体表面によって境界付けられる開口を通して固体金属基材を機械的に押し込むことによって固体金属基材の塑性冷間加工するための方法であって、前記方法は以下の工程:
i)請求項1~13のいずれかに記載の水性潤滑組成物を、前記金属基材の少なくとも1つの固体表面に塗布する工程、その表面は、被覆されていない場合、本方法中に固体金属加工工具表面と直接接触する、
ii)塗布された水性潤滑組成物を乾燥させて、前記金属基材の前記少なくとも1つの固体表面上に膜を形成する工程;及び
iii)金属基材が冷間加工されるように、工程ii)で形成された金属基材を、少なくとも1つの金属加工工具表面によって境界付けられた前記開口を通して機械的に押し込む工程
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属基材の冷間加工に使用される水性潤滑組成物(aqueous lubricating composition)を対象とする。より詳細には、本開示は、金属基材の表面上に堆積されるべき粒子状固体潤滑剤が分散された水性潤滑組成物を対象とし、この水性潤滑組成物はホウ素化合物を含まない。
【背景技術】
【0002】
冷間加工の実践とは、再結晶温度未満で行われる金属の塑性変形を指す。ほとんどの製造環境では、この冷間加工は室温で行われるが、室温よりもわずかに高い温度(しかし、それでも再結晶温度未満)の使用は、加工される金属の延性を高め、強度を低下させ得る。
【0003】
大まかに、主要な冷間加工操作は4項目に分類され得る:圧搾(squeezing);曲げ(bending);剪断(shearing);及び引抜き(drawing):引抜きは、チューブ、バー、ワイヤー、及びシェルの引抜き、並びに、スピニング加工及びしごき加工(ironing)も含む。圧搾方法に着目すると、加工製品の最大トン数を占めるため、これらは一般に熱間加工を伴う方法であり、冷間圧延;スウェージング(swaging);冷間鍛造(cold forging);及び押し出し(extrusion)が含まれる。
【0004】
熱間加工と比較すると、これらの冷間加工には多くの利点がある。最も明らかなのは、加熱のエネルギー消費が不要であることであるが、その他の利点としては、加工金属の優れた表面仕上げが得られること;加工金属の優れた寸法制御;加工金属の方向特性の最小化;加工金属の向上した強度;及び冷間加工方法の優れた再現性が挙げられる。
【0005】
しかし、冷間加工方法に伴う欠点があり、それらは、金属を変形させるために大きな力を発生させる必要があること(特に、金属の延性が限られる場合)、より重く且つより強力な加工装置の必要性を促進すること;金属表面が清浄且つスケールフリーでなければならないこと;ひずみ硬化が発生し得ること;及び加工された金属に望ましくない残留応力が存在し得ることが挙げられる。
【0006】
これらの欠点を考慮すると、冷間加工される金属に、前記金属と冷間加工工具との界面で潤滑膜を提供することは、当技術分野ではある程度一般的である。効果的に塗布された潤滑膜(それは欠陥がなく、一貫した十分な厚さを有する)は、この界面における摩擦を低減し、焼付きの発生を抑制する役割を果たし得る。潤滑油は、金属基材上に効果的な膜を提供するように、塗布及び取り扱うことが困難であることは、当該技術分野における経験により実証される。そのため、固体潤滑膜が広く使用されるようになった。これらの膜は、固体潤滑剤が分散された溶剤性又は水性組成物から堆積させることができる。
【0007】
GB2003923A(Foseco Int.)は、(i)水溶性金属石鹸、並びに(ii)アルカリ金属塩化物、アルカリ金属硫酸塩及びアルカリ金属ホウ酸塩を含む金属加工潤滑油組成物を開示する。
【0008】
WO00/63324 A1(Chevron Chemical社)は、潤滑粘度の基油、分散した水和アルカリ金属ホウ酸塩、及びポリアルキレン無水コハク酸又はその非窒素誘導体を有する潤滑油組成物を開示する。
【0009】
EP 917559 A(Henkel社)は、金属の冷間塑性加工用の水性潤滑剤を開示し、前記水性潤滑剤は、水に加えて、以下:(a)水溶性無機塩成分;(b)固体潤滑剤が均一に分散された成分;(c)鉱物油、動植物油脂及び合成油からなる群から選択される少なくとも1つの物質を均一に乳化した成分;並びに(d)界面活性剤を含み、固体潤滑剤と水溶性無機塩との重量比((b)/(a))は0.05:1~2:1であり、油性成分と水溶性無機塩及び固体潤滑剤の合計との重量比((c):(a+b))は0.05:1~1:1である。
【0010】
EP 2450423 A(Henkel AG & Co. KGaA)は、少なくとも無水マレイン酸を含む、エチレン性不飽和結合を有するモノマーのコポリマー又はホモポリマーを含む樹脂成分(a)と、無機成分(b)と、固体潤滑成分(c)とを含む、塑性加工用水性潤滑剤であって、樹脂成分(a)の無水マレイン酸部位は、窒素含有化合物によって10~80%のブロック率でブロックされ、ブロックされていない無水マレイン酸部位はアルカリ成分によって40~100%の中和度で中和される、塑性加工用水性潤滑剤を開示する。
【0011】
JP201246684A(日本パーカライジング社)は、金属材料の塑性加工用水性潤滑剤を開示し、前記潤滑剤は:アルカリ金属ホウ酸塩(a)、ここでアルカリ金属ホウ酸塩(a)はホウ酸リチウムを含み、アルカリ金属ホウ酸塩(a)中の全アルカリ金属に対するリチウムのモル比は、0.1~1.0であり、アルカリ金属ホウ酸塩(a)中のアルカリ金属Mに対するホウ素(b)のモル比(B/M)が1.5~4.0である。
【0012】
CN107805541A(Maanshan Tuori Metal Surface Tech Co. Ltd)は、塑性加工用潤滑剤を提供し、前記潤滑剤は、重量比で、10~50%のステアリン酸;1~10%のホウ酸塩;1~10%の防錆剤;1~10%の無機アルカリ;0.1~0.5%の消泡剤;及び残部を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】英国特許出願公開第2003923号明細書
【特許文献2】国際出願公開00/63324号
【特許文献3】欧州特許出願公開第917559号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第2450423号明細書
【特許文献5】特開201246684号公報
【特許文献6】中国特許出願公開第107805541号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
これらの先行技術の多くは、ホウ素化合物を使用しているという点で共通していることに留意されたい。これは不利であると考えられる。ホウ素化合物はヒト及び動物に対して刺激性であり、特にヒトの鼻、喉、及び目を刺激する。ヒトがホウ素に大量にさらされると、胃、腎臓、及び脳の感染症を引き起こし得る。さらに、工業排水から土壌中に放出されるホウ素化合物は、土壌中の天然ホウ素レベルを、葉茎移動性の植物にとって極めて容易に到達する、毒性のあるレベルまで補足する可能性がある。このような土壌中のホウ素毒性を改善することは困難である。
【0015】
当技術分野では、ホウ素及びホウ素化合物を含まないが、金属基材の冷間加工において有効な有用性を保持する水性潤滑組成物を開発する必要があると考えられている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1態様に従って、組成物の重量に基づいて、以下:
a)少なくとも1つの水溶性無機塩、1~20重量%、前記無機塩は溶解状態である;
b)少なくとも1つの粒子状固体潤滑剤;
c)少なくとも1つのレオロジー制御剤、0.1~5重量%;
d)少なくとも1つの塩基、0.1~5重量%;及び、
e)アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤(amphoteric surfactants)及び双性イオン性界面活性剤(zwitterionic surfactants)からなる群から選択される少なくとも1つの界面活性剤、0.1~5重量%
を含み、
ここで、前記組成物はホウ素及びホウ素化合物を含まず、b)前記少なくとも1つの固体潤滑剤とa)前記少なくとも1つの水溶性無機塩との重量比[(b):(a)]が0.1:1~1:1であることをさらに特徴とする、水性潤滑組成物が提供される。
【0017】
本発明の重要な実施形態において、水性潤滑組成物は組成物の重量に基づいて、以下:
a)前記少なくとも1つの水溶性無機塩、2~20重量%、好ましくは5~20重量%、前記無機塩は溶解状態である;
b)前記少なくとも1つの粒子状固体潤滑剤;
c)前記少なくとも1つのレオロジー制御剤、0.1~2.5重量%、好ましくは0.1~2重量%;
d)前記少なくとも1つの塩基、0.1~2.5重量%、好ましくは0.1~2重量%;及び
e)アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤及び双性イオン性界面活性剤からなる群から選択される前記少なくとも1つの界面活性剤、0.1~2.5重量%、好ましくは0.1~2重量%
を含み、
ここで、前記組成物はホウ素及びホウ素化合物を含まず、b)前記少なくとも1つの固体潤滑剤とa)前記少なくとも1つの水溶性無機塩との重量比[(b):(a)]は、0.1:1~1:1、好ましくは0.2:1~1:1であることをさらに特徴とする。
【0018】
水性潤滑組成物は、任意に、7~10、好ましくは7~9のpHを有してよい。
【0019】
水性潤滑組成物は、通常、組成物の重量に基づいて、60~90重量%、好ましくは65~85重量%、より好ましくは65~80重量%の水を含む。水性潤滑組成物は、水分含量の特徴の代わりに、又はそれに追加して、25℃でブルックフィールド粘度計を使用して測定される0.005~1Pa・sの粘度によって特徴付けられてよい。
【0020】
組成物中に含まれるレオロジー制御剤c)の総量は、成分a)及びb)の総重量の1~10重量%、好ましくは2~8重量%であることが望ましい。組成物に含まれる前記レオロジー制御剤又は各レオロジー制御剤は、チキソトロープ剤であることが好ましい。
【0021】
本発明に従う例示的な水性潤滑組成物は、組成物の重量に基づいて、以下:
成分a)として、5~20重量%の、硫酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム、及びトリポリリン酸ナトリウムの混合物、ここでこの混合物の各又は前記塩は、溶解状態である;
以下を含む、又はからなる固体潤滑剤b):
リン酸亜鉛、リン酸カルシウム亜鉛、及びリン酸マンガンからなる群から選択される少なくとも1つのリン酸塩;及び
ポリエチレンワックス;酸化ポリエチレンワックス;ポリプロピレンワックス;酸化ポリプロピレンワックス;及び、主モノマーとしてエチレン又はプロピレンに基づく共重合体ワックスからなる群から選択される少なくとも1つのワックス、
さらに、前記少なくとも1つのワックスは、400~30,000g/mol、好ましくは1000~25,000g/molの数平均分子量(Mn)を特徴とする;
c)成分として、0.1~2重量%の、セルロース誘導体;及び多糖類からなる群から選択される少なくとも1つのチキソトロープ剤;
d)成分として、0.1~2重量%の、以下からなる群から選択される少なくとも1つの塩基:
ビス(2-(N,N’-ジメチルアミノ)エチル)エーテル;ビス-(t-ブチルアミノエチル)エーテル、1,2-ビス-(t-ブチルアミノエトキシ)エタン;1,2-ビス-(t-ブチルアミノエトキシ)エタン;ビス[2-(イソプロピルアミノ)プロピル]エーテル;1,2-[2-イソプロピルアミノ)-プロポキシ]エタン;並びに
成分e)として、0.1~2重量%の、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤及び双性イオン性界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1つの界面活性剤、を含み、
前記組成物は、ホウ素及びホウ素化合物を含まず、b)前記少なくとも1つの固体潤滑剤と、a)水溶性無機塩の前記混合物との重量比[(b):(a)]が、0.2:1~1:1、好ましくは0.4:1~1:1であることをさらに特徴とする。
【0022】
本発明の第2態様に従って、金属基材の塑性冷間加工における、本明細書において上記及び添付の特許請求の範囲で定義される水性潤滑組成物(aqueous waterborne lubricating composition)、又はそれから得られる乾燥膜の使用が提供される。
【0023】
本発明は更に少なくとも1つの金属加工工具の少なくとも1つの固体表面によって境界付けられる(bounded)開口を通して固体金属基材を機械的に押し込むことによって固体金属基材の塑性冷間加工するための方法を提供し、前記方法は以下の工程:
i)本明細書及び添付の特許請求の範囲で定義される水性潤滑組成物を、前記金属基材の少なくとも1つの固体表面に塗布する工程、その表面は、被覆されていない場合、本方法中に固体金属加工工具表面と直接接触する、
ii)塗布された水性潤滑組成物を乾燥させて、前記金属基材の前記少なくとも1つの固体表面上に膜を形成する工程;及び
iii)金属基材が冷間加工されるように、工程ii)で形成された金属基材を、少なくとも1つの金属加工工具表面によって境界付けられた前記開口を通して機械的に押し込む工程
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<定義>
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。
【0025】
本明細書で用いられる用語「含む」(「comprising」、「comprises」及び「comprised of」)は、「含む」(「including」、「includes」、「containing」又は「contains」)と同義であり、包括的又はオープンエンドであり、追加の、引用されていない部材(members)、要素又は方法工程を除外しない。使用する場合、用語「からなる」(「consisting of」)は閉じられており、全ての追加要素を除外する。さらに、用語「本質的にからなる」(「consisting essentially of」)は、追加の物質的要素を排除し、本発明の性質を実質的に変えない非物質的要素の含有を許容する。
【0026】
量、濃度、寸法及びその他のパラメーターが、範囲、好ましい範囲、上限値、下限値、又は好ましい上限値及び制限値の形で表現されている場合、得られた範囲が文脈上明確に言及されているかどうかにかかわらず、任意の上限値又は好ましい値と任意の下限値又は好ましい値との組み合わせにより得られる任意の範囲も具体的に開示されていると理解されるべきである。
【0027】
用語「好ましい(preferable)」、「好ましい(preferred)」、「好ましくは」、「特に」及び「望ましくは」は、特定の状況下で、特定の利点を与え得る本開示の実施形態を言及するために、本明細書で頻繁に使用されている。しかしながら、1つ以上の好ましい、好ましい、望ましい、又は特定の実施形態の記載は、他の実施形態が有用でないことを意味するものではなく、それらの他の実施形態を本開示の範囲から除外することを意図するものでもない。
【0028】
本出願において、「may」という単語は、義務的な意味ではなく、許容的な意味(つまり、可能性があるという意味)で使われる。
【0029】
本明細書で使用される室温は、23℃±2℃である。
【0030】
本明細書において、数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、DIN 55672-1:2007-08に従って、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって決定される。多分散度(PD)という用語は、Mw及びMnに由来し、(Mw/Mn)として計算される。
【0031】
本明細書において、「平均粒度(d50)」は、粒子の少なくとも50重量%が指定値未満の粒子直径を有するような粒径分布を意味する。特に明記しない限り、粒子サイズはレーザー回折によって決定される。
【0032】
本明細書で使用する「水性潤滑組成物(aqueous lubricating composition)」という用語は、金属基材と実際に接触する組成物を指す。当該技術分野で知られているように、そのような接触は、いわゆる「浴槽(bath)」中で起こり得り、それは、基材の少なくとも一部がその中に浸漬されることを可能にするような形状、大きさ、及び配置になっている。この浴槽は、さらには、搭載された基材の周囲及び全体にわたって、水性潤滑組成物が移動できるような大きさであることが望ましく、この移動は、再循環及び/又は超音波を用いてさらに強化され得る。浴槽内の組成物のpH、浴槽の温度、基材の接触時間は、可能な限り手動又は自動でモニターされることが望ましい結果効果のある変数(result effective variables)である。
【0033】
本明細書において、「合金」という用語は、2種以上の金属、又は金属と非金属から構成され、通常、溶融時に互いに融合し溶解することによって密接に結合した物質を指す。したがって、「X合金」という用語は、金属Xが大部分の構成成分である合金を示し、Xは一般に、金属基準で合金の少なくとも40重量%、より典型的には少なくとも50重量%又は少なくとも60重量%を含む。
【0034】
本明細書で使用される「C-Cアルキル」基は、1~n個の炭素原子を含む一価の基を指す、すなわちアルカンの基であり、直鎖及び分岐有機基を含む。したがって、「C-C18アルキル」基は、1~18個の炭素原子を含む一価の基を指す、すなわちアルカンの基であり、直鎖及び分岐有機基を含む。アルキル基の例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:メチル;エチル;プロピル;イソプロピル;n-ブチル;イソブチル;sec-ブチル;tert-ブチル;n-ペンチル;n-ヘキシル;n-ヘプチル;及び2-エチルヘキシル。本発明において、そのようなアルキル基は、置換されていなくてもよく、又は1以上のハロゲンで置換されていてもよい。所定の部位(R)に適用可能な場合、アルキル基内の1以上の非ハロゲン置換基の許容が明細書に記載される。
【0035】
本明細書で使用される「C-Cヒドロキシアルキル」という用語は、1~n個の炭素原子を有するHO-(アルキル)基を指し、置換基の結合点は酸素原子を介しており、アルキル基は上記で定義した通りである。
【0036】
「アルコキシ基」は、-OAで表される一価の基を指し、Aはアルキル基である:その非限定的な例は、メトキシ基、エトキシ基及びイソ-プロピルオキシ基である。本明細書で使用される「C-C12アルコキシアルキル」という用語は、上で定義したアルコキシ置換基を有するアルキル基を指し、ここで、部分(アルキル-O-アルキル)は、合計で1~12個の炭素原子を含む:このような基には、メトキシメチル(-CHOCH)、2-メトキシエチル(-CHCHOCH)及び2-エトキシエチルが含まれる。
【0037】
本明細書で使用される用語「アルキレン」は、飽和二価炭化水素ラジカルとして定義される。本開示において一般に、このようなアルキレン基は、非置換であってもよいし、1つ以上のハロゲンで置換されてもよい。
【0038】
「C-C30シクロアルキル」という用語は、3~30個の炭素原子を有する、飽和の単環式、多環式炭化水素基を意味すると理解される。本発明において、このようなシクロアルキル基は、非置換であってもよいし、1以上のハロゲンで置換されていてもよい。所与の部分(R)について適用可能な場合、シクロアルキル基内の1以上の非ハロゲン置換基の許容は、本明細書中に記載される。シクロアルキル基の例としては、シクロプロピル;シクロブチル;シクロペンチル;シクロヘキシル;シクロヘプチル;シクロオクチル;アダマンタン;及びノルボルナンが挙げられる。
【0039】
本明細書において、「シクロアルキレン」とは、シクロアルキル基の1つ以上の環から2個の水素原子を除去することによって形成される2価のラジカルを意味する。
【0040】
本明細書で使用される、単独で、又はより大きな部分の一部として(「アラルキル基」のように)使用される「C-C18アリール」基は、単環式環系が芳香族又は二環式又は三環式環系の環の少なくとも1つが芳香族である、単環式、二環式又は三環式環系を指す。二環式及び三環式環系には、ベンゾ縮合2~3員炭素環が含まれる。本発明において、このようなアリール基は非置換であってもよいし、1以上のハロゲンで置換されてもよい。所定の部分(R)について適用可能な場合、アリール基内の1以上の非ハロゲン置換基の許容が、本明細書中に記載される。例示的なアリール基には以下が含まれる:フェニル;(C-C)アルキルフェニル、例えばトリル及びエチルフェニル;インデニル;ナフタレニル、テトラヒドロナフチル、テトラヒドロインデニル;テトラヒドロアントラセニル;及びアントラセニル。また、フェニル基が好ましいことが言及され得る。
【0041】
「アリーレン」は、独立して、又はアルカリレンなどの結合部分に関して使用される場合、上記で定義されるアリール基の1つ以上の環から2つの水素原子が除去されることによって形成される2価の基を意味し、ここで水素原子は同一又は異なる環から除去されてよい。代表的な例としては、フェニレン及びナフチレンが挙げられる。
【0042】
本明細書で使用される場合、「C2-20アルケニル」は、2~20個の炭素原子及び少なくとも1単位のエチレン性不飽和を有するヒドロカルビル基を意味する。アルケニル基は、直鎖、分岐、又は環状であり得、任意に1以上のハロゲンで置換されてよい。所与の部分(R)に適用可能な場合、アルケニル基内の1以上の非ハロゲン置換基に対する許容が、本明細書中に記載される。用語「アルケニル」はまた、当業者に理解されるように、「シス」及び「トランス」構成、又は代替的に、「E」及び「Z」構成を有する基を包含する。前記C2-20アルケニル基の例としては、これらに限定されるものではないが、-CH=CH;-CH=CHCH;-CHCH=CH;-C(=CH)(CH);-CH=CHCHCH;-CHCH=CHCH;-CHCHCH=CH;-CH=C(CH;-CHC(=CH)(CH);-C(=CH)CHCH;-C(CH)=CHCH;-C(CH)CH=CH;-CH=CHCHCHCH;-CHCH=CHCHCH;-CHCHCH=CHCH;-CHCHCHCH=CH;-C(=CH)CHCHCH;-C(CH)=CHCHCH;-CH(CH)CH=CHCH;-CH(CH)CHCH=CH;-CHCH=C(CH;1-シクロペント-1-エニル;1-シクロペント-2-エニル;1-シクロペント-3-エニル;1-シクロヘキス-1-エニル;1-シクロヘキス-2-エニル;及び、1-シクロヘキス-3-エニルが挙げられる。
【0043】
「アルケニレン」という用語は、上記で定義したアルケニル基から2個の水素原子を除去することによって形成される2価の基を意味する。
【0044】
本明細書で使用される場合、「アルキルアリール」は、アルキル置換アリール基を意味し、両基は上記で定義された通りである。更に、本明細書で使用する「アラルキル」とは、上記で定義したアリールラジカルで置換されたアルキル基を意味する。
【0045】
本明細書で用いられる用語「ヘテロ」は、N、O、Si及びSなどの1以上のヘテロ原子を含む基又は部位を指す。したがって、例えば「複素環(ヘテロ環)」は、例えば、N、O、Si又はSを環構造の一部として有する環状基を指す。「ヘテロアルキル」、「ヘテロシクロアルキル」及び「ヘテロアリール」部位は、それぞれ、それら構造の一部としてN、O、Si又はSを含む、本明細書で定義されたアルキル基、シクロアルキル基及びアリール基である。
【0046】
本明細書で使用される用語「塩基」は、極性溶媒又は非極性溶媒のいずれかにおいてプロトンを抽出することができる種、又は水酸化物アニオン(OH-)を供与することができる種を指す。
【0047】
用語「アミン」は、当該技術分野における通常の意味に従って使用され、大まかには、非共有電子対(lone pair)を有する窒素原子を含む化合物を指す。
【0048】
本明細書で使用される場合「C-Cヘテロアリールアミン」は、(単環式又は多環式環系に存在し得る)芳香族環の少なくとも1つの炭素原子が窒素原子で置換されている化合物を指す。好ましくは、C-Cヘテロアリールアミンは、窒素原子で置換された芳香環の1~3個の炭素原子を有する。ヘテロアリールアミンは、非置換であっても、ヘテロアリール環の任意の位置で1つ以上のC-Cアルキル基で置換されていてもよい。窒素原子で置換された炭化水素環の少なくとも1つの炭素原子を有することに加えて、ヘテロアリールアミンは、他のヘテロ原子で置換された1つ以上の炭素原子も有し得る。ヘテロアリールアミンの例としては、限定されるものではないが、ピリジン、ピロール、ピリミジン、イミダゾール、キナゾリン、プリン、ピラゾール、及びトリアゾールが挙げられる。
【0049】
本明細書で使用される場合、用語「C-C複素環アミン」は、単環式又は多環式であってよい脂肪族化合物を指し、所定の炭化水素環の少なくとも1つの炭素原子(好ましくは1又は2つの炭素原子)が窒素原子で置換されている。環炭素原子の数は、全体で1~9である。複素環アミンは、非置換であり得、又は1つ以上の窒素原子を含む複素環の任意の位置で、上記で定義したように1つ以上のC-Cアルキル基で置換され得る。窒素原子で置換された炭化水素環の少なくとも1つの炭素原子を有することに加えて、複素環アミンは、他のヘテロ原子で置換された1つ以上の炭素原子を有してもよい。複素環アミンの例としては、限定されるものではないが、ピペラジン、ピロリジン、モルホリンが挙げられる。
【0050】
「アミノ酸」は、カルボキシル基以外の任意の炭素原子に結合したアミノ、グアニジノ、イミノ又はヒドラジン基などの1つ以上のアルカリ基を有する有機酸である。本明細書において、「塩基性アミノ酸」という用語は、プロトンを受容し得るアルカリ基をさらに有するアミノ酸を指す。塩基性アミノ酸の例としては、限定されるものではないが、アルギニン及びリジンが挙げられ、各L-型及びD-型の両方を含む。
【0051】
本明細書で使用される場合、用語「アミノ糖」は、-NR基で置換された1つ以上のヒドロキシル基を有する単糖単位を指し、ここで各Rは独立してH又はC-Cアルキルから選択される。アミノ糖の例としては、限定されるものではないが、グルコサミン及びN-メチルグルカミンが挙げられる。
【0052】
組成物の粘度は、20℃及び50%相対湿度(RH)の標準条件下で、ブルックフィールド粘度計、モデルRVTを使用して測定されてよい。この粘度計は、5,000cpsから50,000cpsの範囲で変化する既知の粘度のシリコーンオイルを用いて校正される。校正には、粘度計に取り付ける一式のRVスピンドルが使用される。水性潤滑組成物の測定は、No.6スピンドルを使用し、毎分20回転の速度で、粘度計が平衡になるまで1分間行う。その後、平衡測定値に対応する粘度が、校正を使用して計算される。
【0053】
本発明の組成物は、本明細書において、特定の化合物、元素、イオン、又は他の同様の成分を「実質的に含まない」と定義される。用語「実質的に含まない」は、化合物、元素、イオン、又は他の同様の成分が組成物に意図的に添加されず、被膜の所望の特性に影響(悪影響)のない、せいぜい微量しか存在しないことを意味すると意図される。例示的な微量は、組成物の重量で1000ppm未満である。用語「実質的に含まない」は、「含まない」という用語を包含し、後者の用語は、特定の化合物、元素、イオン、又は他の同様の成分が組成物中に完全に存在しない、又は当技術分野で一般的に使用される技術によって測定可能な任意の量で存在しない実施形態を包含する。
【0054】
<発明の詳細な説明>
[a)水溶性無機塩]
本開示の水性潤滑組成物は、組成物の重量に基づいて、1~20重量%のa)少なくとも1つの水溶性無機塩を含む。水性潤滑組成物は、好ましくは2~20重量%、例えば5~20重量%の前記少なくとも1つの水溶性無機塩を含むことが望ましい。含まれる前記又は各水溶性無機塩は、水性潤滑組成物中に溶解した状態である。
【0055】
塩の化学的性質は、ホウ素を含む無機塩(例えばホウ酸塩など)が除外されるという事実を除けば、重要ではない。水溶性無機塩は、冷間加工される金属基材上に被膜を形成することが望ましい。
【0056】
本開示において単独又は組み合わせて使用されてよい適当な水溶性無機塩の非限定的な例としては、以下が挙げられる:リン酸塩、例えばリン酸カルシウム;アルカリ金属ポリリン酸塩を含むポリリン酸塩;アルカリ金属ケイ酸塩、特にケイ酸ナトリウム及びケイ酸カリウム;アルカリ金属タングステン酸塩、特にタングステン酸ナトリウム;モリブデン酸アンモニウム及びモリブデン酸アルカリ金属塩、特にモリブデン酸ナトリウムを含むモリブデン酸塩;硫酸アルカリ金属、特に硫酸ナトリウム及び硫酸カリウムを含む硫酸塩;及び炭酸アルカリ金属塩、特に炭酸ナトリウム又は炭酸カリウムを含む炭酸塩。
【0057】
完全を期すために、用語「ポリリン酸塩(ポリホスフェート)」は、共有酸素原子を介して一緒に連結された少なくとも2個、例えば2~6個の四面体リン酸(PO)単位を含む基を指す:ポリリン酸塩は、直鎖状であっても環状であってもよい。本開示において有用性を有する例示的なアルカリ金属ポリリン酸塩としては、限定されるわけではないが、ピロリン酸四ナトリウム;ピロリン酸四カリウム;トリポリリン酸ナトリウム;トリポリリン酸カリウム;メタリン酸ナトリウム;メタリン酸カリウム;ヘキサメタリン酸ナトリウム;ヘキサメタリン酸カリウム;ヘキサメタリン酸リチウム;及びそれらの混合物が挙げられる。
【0058】
本開示において、成分a)が硫酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム及びトリポリリン酸ナトリウムの混合物を含む場合、良好な結果が得られる。
【0059】
[b)固体潤滑剤]
水性潤滑組成物は、b)少なくとも1つの粒子状固体潤滑剤を含む。潤滑剤の粒子は、通常は、組成物中に分散されている:その組成物が加工される基材の表面に塗布され、その後その上で乾燥され、粒子はその表面に堆積する。固体潤滑剤の性質によっては、乾燥時に堆積した粒子の合体が起こり、基材表面に潤滑膜の発達を導くことがある。
【0060】
水性潤滑剤中のb)前記少なくとも1つの粒子状固体潤滑剤とa)前記少なくとも1つの水溶性無機塩との重量比[(b):(a)]は、0.1:1~1:1の範囲であることが望ましい。好ましくは、前記重量比[(b):(a)]は、0.2:1~1:1、特に0.4:1~1:1又は0.4:1~0.8:1の範囲である。この比の特定の値は、特に、塑性加工に供される金属ストックの特定の形状、加工条件及び加工装置に基づいて選択されることが望ましい。重量比が0.1:1未満であると、得られる被膜の潤滑性が低下し、金属加工物の擦り(scuffing)及び焼き付き(seizure)が発生する。重量比が1:1を超えると、被膜の硬度が低下し、基材と被膜との密着性が低下する:このような状況で金属を工具の開口に導入すると、表面に形成された乾燥被膜が非常に剥離しやすくなり、その結果、潤滑性が損なわれる。
【0061】
本開示を限定する意図はないが、粒子状固体潤滑剤は、従来、以下から選択される:i)タルク、マイカ、グラファイト、硫化亜鉛(ZnS)、硫化カドミウム(CdS)、二硫化モリブデン(MoS)、セレン化モリブデン(MoSe)を含む層状固体(lamellar solids);二硫化タングステン(WS)、二硫化セレン(SeS)、フッ化カルシウム(CaF)及びナトリウム-アルミニウムフッ化物、例えば、米国特許第3,377,279号明細書に開示されるような氷晶石及び改質氷晶石;iii)脂肪酸、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、及びベヘン酸の金属塩を含む金属石鹸、;iii)酸化チタン、酸化カドミウム、酸化コバルト、酸化亜鉛、及びシリカ(SiO)を含む潤滑性酸化物;iv)非層状潤滑性金属化合物(non-lamellar, lubricious metallic compounds)、例えばフッ化セリウム(CeF)、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム亜鉛、及びリン酸マンガン;v)金、銀、鉛、スズ、インジウム、及びバリウムを含む軟質元素金属(soft elemental metals);vi)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、及び超高分子量ポリエチレン(UHWPE)を含む固体高分子潤滑剤;並びにvii)ワックス。このような粒子状潤滑剤は、単独又は組み合わせて使用されてよい。
【0062】
完全を期すために、上記の用語「雲母」は、合成雲母、及びセリサイト及び白雲母のような天然雲母の両方を包含する。さらに、金属石鹸は、従来、構成金属としてカルシウム、アルミニウム、マグネシウム、バリウム、亜鉛、鉛、リチウム又はカリウムを含む;金属石鹸としてステアリン酸カルシウムの使用が好ましいことが、言及されてよい。
【0063】
本発明を限定する意図はないが、水性潤滑組成物において有用性を有する例示的なワックスとしては、以下が挙げられる:パラフィンワックス[CAS No.8002-74-2];ポリエチレンワックス[CAS No.9002-88-4];ポリエチレン-ポリプロピレンワックス;共重合ポリエチレンワックス、例えばエチレンと、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、酢酸ビニル及びビニルアルコールから選択される少なくとも1つのモノマーとのコポリマーが挙げられ、これらのコポリマーは、例えばCAS No.38531-18-9、104912-80-3及び219843-86-4の下、入手可能である;ポリブテンワックス;フィッシャートロプシュワックス;酸化ワックス、例えば酸化ポリエチレンワックス[CAS No.68441-17-8];極性変性ポリプロピレンワックス;マイクロクリスタリンワックス、例えばマイクロクリスタリンパラフィンワックス[CAS No.63231-60-7];モンタンワックス及びモンタンワックスラフィネート;モンタン酸及びその塩及びエステル;脂肪酸アミド、例えばエルカミド[CAS No.112-84-5]、オレアミド[CAS No.301-02-0]及び1,2-エチレンビス(ステアリン酸アミド)[CAS No.110-30-5];並びに、カルナバワックス。
【0064】
本組成物に含まれるワックスは、以下条件の少なくとも1つを満たすことが好ましい:i)200mgKOH/g未満、好ましくは100mgKOH/g未満の酸価;ii)40~200℃、好ましくは60~180℃の融点;及び、iii)少なくとも200g/mol、好ましくは少なくとも400g/molの数平均分子量(Mn)。完全を期すために、これらの条件は相互に排他的であることを意図していない:ワックスは、1つ、2つ、又は望ましくは3つのこれらの条件を満たしてよい。
【0065】
特に好ましいのは、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス、及び、主モノマーとしてエチレン又はプロピレンに基づく共重合体ワックスから選択される少なくとも1つのワックスの使用が言及されてよい。例えば、例示的な実施形態において、固体潤滑剤は、以下を含む、又はからなる:リン酸亜鉛、リン酸カルシウム亜鉛、及びリン酸マンガンからなる群から選択される少なくとも1つのリン酸塩;並びに、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス、及び、主モノマーとしてエチレン又はプロピレンに基づく共重合体ワックスから選択される少なくとも1つのワックス。これらの実施形態において、組成物に含まれる前記又は各ワックスは、400~30,000g/mol、好ましくは1000~25,000g/molの数平均分子量(Mn)によってさらに特徴付けられることが望ましい。
【0066】
本発明の水性組成物へのそれらの包含を容易にするために、前記又は各固体粒子状潤滑剤は、最初に、i)微細に分割された粉末形態、特に、レーザー回折によって測定される5ミクロン未満のd50粒度によって特徴付けられる微粉化形態で;及び/又は、ii)水性分散液として、その分散液の粒子は、望ましくは、動的光散乱によって測定される5ミクロン未満のd50粒度によって特徴付けられてよい、提供されてよい。例示的な実施形態において、水性組成物中に含まれる、前記又は各固体粒子状潤滑剤は、レーザー回折によって測定される、2ミクロン未満、好ましくは1ミクロン未満のd50粒子を有してよい。
【0067】
[c)レオロジー制御剤]
本開示の水性潤滑組成物は、組成物の重量に基づいて、0.1~5重量%の、c)少なくとも1つのレオロジー制御剤を含む。水性組成物は、好ましくは0.1~2.5重量%、例えば0.1~2重量%のc)前記少なくとも1つのレオロジー制御剤を含んでよい。
【0068】
特定の実施形態において、組成物に含まれるレオロジー制御剤c)の総量は、成分a)及びb)の総重量の1~10重量%、例えば2~8重量%であることが望ましい。
【0069】
本明細書で使用される用語「レオロジー制御剤」は、限定されないが、水などの液体を吸収し、物理的に膨潤し、それによって液体の粘度特性及び流動特性を変化させることができる化合物を指す。レオロジー制御剤はまた、増粘剤としても機能し、典型的には連続相マトリックスを形成することによって、組成物の成分(特に固体潤滑剤)を、分散形態に維持する役割を果たし得る。この剤はさらに、組成物の乾燥特性を修正する機能を果たし得る。
【0070】
特に、組成物に含まれる前記又は各レオロジー制御剤は、チキソトロープ剤であることが望ましいことが言及される。その標準的な定義によれば、チキソトロープ剤は、溶媒、本明細書では水に分散させたときに、それ自体で、撹拌したときのような応力を加えたときに減少する粘度を示す物質である。
【0071】
本発明を限定する意図はないが、前記少なくとも1つのレオロジー剤は、以下からなる群から選択されることが望ましい:粘土、例えばスメクタイト粘土、合成ヘクトライト粘土、コロイド状モンモリロナイト、シリコアルミネート粘土及び天然スメクタイト粘土由来のコロイド状マグネシウムアルミニウムシリケート;ヒュームドシリカ(pyrogenic silica);カルボキシルビニルポリマー;ポリビニルピロリドン(PVP)ポリマー及びコポリマー、例えばPVP/酢酸ビニル共重合体;ポリアクリレート;セルロース誘導体、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシヒドロキシメチルセルロース、エトキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロース;天然増粘剤、例えばアルギン酸、グアーガム、デンプン、トラガントガム、及びローカストビーンガム;多糖類、例えばキサンタンガム;並びにタンパク質、例えばカゼイン、コラーゲン、及びアルブミン。
【0072】
粒子状のレオロジー制御剤が組成物中に含まれる場合、これらは、レーザー回折法で測定した5ミクロン未満、特に2ミクロン未満のd50粒度を特徴とする微粉化形態で最初に提供されることが好ましい。例えば、ヒュームドシリカ、天然クレイ及び合成クレイは、組成物中に含有させるために提供される場合、レーザー回折法で測定して、5~100nm、例えば5~40nmのd50粒度を特徴とすることが望ましい。
【0073】
上記はさておき、レオロジー制御剤としてセルロース誘導体及び/又は多糖類の使用が好ましいと考えられる。例えば、水性組成物がカルボキシメチルセルロース(CMC)及びキサンタンガムの少なくとも一方、好ましくは両方を含む場合、水性潤滑組成物の安定性及び貯蔵寿命に関して良好な結果が得られた。
【0074】
[d)塩基]
生体安定性及び耐錆性を提供するために、本開示の水性潤滑組成物は、組成物の重量に基づいて、0.1~5重量%のd)少なくとも1つの塩基を含む。水性潤滑組成物は、好ましくは、0.1~2.5重量%、例えば0.1~2重量%のd)前記少なくとも1つの塩基を含んでよい。
【0075】
上記の好ましい重量範囲と相互に排他的であることを意図するものではない特定の実施形態では、塩基の添加量は、水性潤滑組成物が7~10、例えば7~9のpHを有することが望ましい。
【0076】
典型的には、組成物に含まれる前記又は各塩基は、以下:
アルカリ金属アルコキシド;
アンモニア;
一般式(NR (OH)を有する第4級アンモニウムヒドロキシド化合物、[式中、各Rは独立してC-Cアルキルから選択される];
一般式N(R)(R)(R)を有する、脂肪族、芳香族、又は脂肪族-芳香族混合モノアミン[式中、Rは、C-C12アルキル、C-C12ヒドロキシアルキル、C-C12アルコキシアルキル、C-C18シクロアルキル、C-C12アルケニル、C-C10アリール、C-C18アラルキル、又はC-C18アルキルアリールであり;R及びRは、独立して、水素、C-C12アルキル、C-C12ヒドロキシアルキル、C-C12アルコキシアルキル、C-C18シクロアルキル、C-C12アルケニル、C-C10アリール、C-C18アラルキル又はC-C18アルキルアリールである];
脂肪族、芳香族、又は脂肪族-芳香族混合ポリアミン、ここで2つ以上のアミノ基-N(R)(R)、(これらのアミノ基は同一であっても異なっていてもよく、R及びRは上記で定義したとおりである)が、アルキレン基、ヒドロキシアルキレン基、アルコキシアルキレン基、シクロアルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、アラルキレン基、又はアルキルアリーレン基によって連結されている;
-C複素環アミン;
-Cヘテロアリールアミン;
塩基性アミノ酸、例えばアルギニン及びリジン;並びに
アミノ糖;
からなる群から選択される。
【0077】
適当なアルカリ金属アルコキシドは、通常、リチウム、ナトリウム又はカリウムの脂肪族、芳香族又は芳香族脂肪族(araliphatic)アルコキシドから選択される。その非限定的な例は、リチウム、ナトリウム又はカリウムのメトキシド、エトキシド、n-プロポキシド、イソプロポキシド、n-ブトキシド、sec-ブトキシド、tert-ブトキシド、n-ペントキシド、イソペントキシド、ヘキソキシド、アミルアルコキシド、3,7-ジメチル-3-オクトキシド、フェノキシド、2,4-ジ-tert-ブチルフェノキシド、2,6-ジ-tert-ブチルフェノキシド、3,5-ジ-tert-ブチルフェノキシド、及び2,4-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシドである。脂肪族(C-C)アルコキシド、特にナトリウム、カリウム又はリチウムのメトキシド、エトキシド、n-プロポキシド、イソプロポキシド、n-ブトキシド、sec-ブトキシド及びtert-ブトキシドの使用が好ましい。
【0078】
前述のように、組成物は、独立して、または列挙された塩基のうちの他の塩基と組み合わせて、塩基としてアンモニア(NH)を任意に含んでよい。完全性を期するために、組成物中に含まれるアンモニアの構成重量は、NHを基準として計算される。アンモニアは、水酸化アンモニウム、アンモニア水、アンモニアリカー、アクアアンモニア、水性アンモニア、又は単にアンモニアとして当技術分野で言及されてよい水中のアンモニアの弱塩基性溶液を包含するアンモニア溶液NH(aq)として、本発明の水性組成物中に存在するであろう。「水酸化アンモニウム」という用語は、[NH ][OH]という組成を有する塩基を示唆するが、極端に希薄なアンモニア水溶液の場合を除き、これらのイオンはアンモニア水溶液中のアンモニア総量の重要な部分を構成しないため、NHOHのサンプルを分離することは事実上不可能である。
【0079】
本開示を限定する意図はないが、水性潤滑組成物中に単独で又は組み合わせて含まれてよい適当な塩基性アミンには、次のものが含まれる:メチルアミン;ジメチルアミン;トリメチルアミン;エチルアミン;ジエチルアミン;トリエチルアミン;シクロヘキシルアミン;ジメチルシクロヘキシルアミン;エタノールアミン;2-(ジエチルアミノ)エタノール;N,N-ジメチルエタノールアミン、2,2’-ジヒドロキシジエチルアミン(ジオラミン);N-メチルピペリジン;ピリジン;2,6-ジメチルピリジン;2,4,6-トリメチルピリジン;キノリン;ピペラジン;ピロリドン;1-(2-ヒドロキシルエチル)ピロリジン;モルホリン;N-メチルモルホリン;4-(2-ヒドロキシエチル)モルホリン;ビス(2-(N,N’-ジメチルアミノ)エチル)エーテル;ビス-(t-ブチルアミノエチル)エーテル、1,2-ビス-(t-ブチルアミノエトキシ)エタン;1,2-ビス-(t-ブチルアミノエトキシエトキシ)エタン;ビス[2-(イソプロピルアミノ)プロピル]エーテル;1,2-[2-イソプロピルアミノ)-プロポキシ]エタン;アニリン;N-メチルアニリン;4-メチルアニリン;4-ヒドロキシルアニリン;ピロール;ピリミジン;イミダゾール;キナゾリン;プリン;ピラゾール;及び、トリアゾール。
【0080】
組成物が以下からなる群から選択される少なくとも1つの塩基を含む場合、良好な結果が得られた:ビス(2-(N,N’-ジメチルアミノ)エチル)エーテル;ビス-(t-ブチルアミノエチル)エーテル、1,2-ビス-(t-ブチルアミノエトキシ)エタン;1,2-ビス-(t-ブチルアミノエトキシエトキシ)エタン;ビス[2-(イソプロピルアミノ)プロピル]エーテル;1,2-[2-イソプロピルアミノ)-プロポキシ]エタン。ビス(2-(N,N’-ジメチルアミノ)エチル)エーテルの使用が特に好ましいことが認められ得る。
【0081】
[e)界面活性剤]
水性潤滑組成物は、組成物の重量に基づいて0.1~5重量%の、e)アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤及び双性イオン性界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1つの界面活性剤を含む。組成物は、組成物の重量に基づいて、0.1~2.5重量%、例えば0.1~2重量%のe)前記少なくとも1つの界面活性剤を含んでよい。
【0082】
本開示において有用性を有する適当な非イオン性界面活性剤としては、以下が挙げられる:C-C25脂肪族アルコールと、前記アルコール1モル当たり1~25モルのエチレンオキシドとの縮合生成物、ここで、脂肪族アルコールのアルキレン鎖は、直鎖又は分岐鎖あっても、第1級又は第2級であってもよい;アルキルポリグリコシド;アルキルグリセロールエーテル;ソルビタンエステル;及び、脂肪酸アミド界面活性剤。市販の非イオン性界面活性剤の例としては、以下が挙げられる:Neodol(登録商標)91-5、Neodol(登録商標)91-8、及びNeodol(登録商標)23-5(Shell International Research Maatschappij BV社製);Lutensol A7N、Lutensol XP 50、Lutensol XL150、Lutensol(登録商標)XL70、Lutensol(登録商標)T07及びLutensol(登録商標)ON50(BASF社製);Novel 1412-7、Isalchem(登録商標)、Lial(登録商標)、及びMarlipal(登録商標)O13/70(Sasol社製)。
【0083】
適当な両性及び双性イオン性界面活性剤としては、以下が挙げられる:一般式(RN-O)のアミンオキシド、式中、RはC-C18アルキルであり、R及びRは独立してC-Cアルキル、C-Cヒドロキシアルキル及びC-Cアルコキシアルキルから選択される;及び、ベタイン、例えばアルキルベタイン、カルボベタイン、アルキルアミドベタイン、アミダゾリニウムベタイン、スルホベタイン、及びホスホベタイン。ベタインの例としては、以下が挙げられる:適当なベタインの例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:ベヘナミドプロピルベタイン;カノラミドプロピルベタイン;カプラミドプロピルベタイン;コカミドエチルベタイン;コカミドプロピルベタイン;コカミドプロピルヒドロキシスルタイン;オレインアミドプロピルベタイン;イソステアラミドプロピルベタイン;ラウラミドプロピルベタイン;ラウリルベタイン;ラウリルヒドロキシスルタイン;ラウリルスルタイン;ミリスタミドプロピルベタイン;ミリスチルベタイン;オレインアミドプロピルベタイン;オレインアミドプロピルヒドロキシスルタイン;オレイルベタイン;オレイルアミドプロピルベタイン;パルアミドプロピルベタイン;パルミタミドプロピルベタイン;リシノールアミドプロピルベタイン;ステアラミドプロピルベタイン;及びステアリルベタイン。
【0084】
適当なアニオン性界面活性剤は、硫酸塩、スルホコハク酸塩、スルホ酢酸塩及び/又はスルホン酸塩である。例示的なスルホン酸塩界面活性剤としては、以下が挙げられる:C-C18アルキルスルホネート(パラフィンスルホネート);C-C18アルキルベンゼンスルホネート;C-C18アルキルグリセリルスルホネート;メチルエステルスルホネート(MES);及び、アルファオレフィンスルホネート(AOS)。しかしながら、アニオン性界面活性剤としては、C-C18アルキル硫酸塩、C-C18ヒドロキシアルキル硫酸塩、及び1~5のエトキシル化度のアルキルエトキシ硫酸塩の、水溶性塩を単独で又は組み合わせて使用することが好ましい。
【0085】
適当なカチオン性界面活性剤は、一般に第4級アンモニウム界面活性剤であり、特に、残りのN位置がC-Cアルキル基又はC-Cヒドロキシアルキル基で置換されているモノN-C-C18アルキル又はN-C-C18アルケニルアンモニウム界面活性剤からなる群から選択される第4級アンモニウム界面活性剤である。第4級アンモニウムアルコールのC-C18アルキルエステル又はC-C18アルケニルエステルも挙げられてよい。
【0086】
[副成分]
本開示の水性潤滑組成物は、これらの組成物に改善された特性を与えることができるアジュバント(adjuvants)及び添加剤をさらに含んでよい。アジュバント及び添加剤は、例えば、以下の1以上を与えてよい:境界潤滑性の強化;乾燥時間の短縮;腐食性の低下;安定性の向上;及び組成物の貯蔵寿命の延長。このようなアジュバント及び添加剤は、組成物の性質及び本質的な特性に悪影響を及ぼさない限り、所望の組み合わせ及び割合で使用することができる。場合によっては例外が存在し得るが、これらの補助剤及び添加剤は、全体として水性潤滑組成物の総重量の5重量%を超えて含まないことが望ましい。
【0087】
このようなアジュバント及び添加剤に含まれるものは:耐摩耗添加剤;腐食防止剤;酸化防止剤;境界潤滑のための反応層を形成するように作用してよい、遊離脂肪酸;蛍光増白剤、特に照明下での固体潤滑剤の堆積の確認が必要とされ得る場合;及び、粘着付与剤である。
【0088】
油の添加は、水性組成物の乾燥後に基材表面に油性表面を形成するのに役立ち、固体潤滑剤の不均一な膜堆積を特徴とする加工中製品(workpieces)の領域における潤滑性能の低下を補うことができる。さらに、水性潤滑組成物が高温で塗布される組成物の実施形態では、これは典型的には蒸気管で潤滑剤を加熱することによって達成される。水性潤滑組成物への油の添加は、加熱管への固体粒子潤滑剤の付着を阻害することができる。
【0089】
油は、単独で又は組み合わせて使用されてよく、鉱油、動物油、動物脂肪、植物油及び合成油から選択されてよい。しかしながら、前記又は各添加される油又は、典型的には、以下の少なくとも1つ、好ましくは全てによって特徴付けられることが望ましい:150~300℃の範囲の引火点;-20~20℃の融点、及び40℃で測定した5~100センチストークスストロークの粘度。
【0090】
20℃を超える融点は、水性潤滑剤中の油分による乳化性及び再乳化性の低下をもたらし、従って処理浴安定性が低下する傾向となりうる。-20℃未満の融点を有する油性成分は、通常、通常、引火点が低下する。同様に、5センチストークス未満の粘度は、通常引火点が低いため、作業後の大量のガスの発生をもたらし、発火の危険を生じる。同様に、添加油の粘度が5センチストークス未満の場合には、固体潤滑剤粒子間の滑りが減少し、潤滑性能が低下する傾向がある。逆に、100センチストークスを超える粘度は、通常、水性潤滑剤中の油性成分の乳化性及び再乳化性の低下をもたらす。
【0091】
粘着付与剤は、潤滑剤の移動速度を向上し、塗布され乾燥された潤滑組成物が確実に所定の位置に留まり、必要な潤滑を提供するために利用される。組成物に含まれる前記又は各粘着付与樹脂は、好ましくは以下によって特徴付けられる:70~150℃の軟化点;及び、150℃での2000Pa・s未満の粘度。
【0092】
本発明において単独で又は組み合わせて使用されてよい例示的な粘着付与樹脂には、以下が含まれる:脂肪族及び脂環式石油炭化水素樹脂;芳香族石油炭化水素樹脂及びその水素化誘導体;脂肪族/芳香族石油由来炭化水素樹脂、及びその水素化誘導体;ポリシクロペンタジエン樹脂、水素化ポリシクロペンタジエン樹脂、及び芳香族変性水素化ポリシクロペンタジエン樹脂;テルペン、芳香族テルペン及び水素化テルペン;ポリテルペン、芳香族変性ポリテルペン、及びテルペンフェノール;α-メチルスチレンと更なるビニル芳香族モノマーとのコポリマー;並びに、ガムロジン、ガムロジンエステル、ウッドロジン、ウッドロジンエステル、トール油ロジン、トール油ロジンエステル及び水素化ロジンエステル。
【0093】
<水性組成物の調製>
水性潤滑組成物は、様々な成分並びに補助成分を単に混合することによって配合される。成分の混合順序は限定されるものではないが、まずレオロジー制御剤(c)の水性分散液を形成し、その後、その分散液に無機塩(a)、固体潤滑剤(b)、及びさらなる成分を撹拌の下添加することが賢明であろう。望ましくは、安定で均一な分散液が形成されることを保証するために、固体潤滑剤(b)は、レオロジー制御剤(c)と無機塩の両方の後に添加されることが望ましい。前述したように、微粒子成分およびポリマー成分は、組成物の他の成分との混和を容易にするために、水性分散体として、例えば45~60重量%の固形分含量で、予め調製しておくことが有利な場合がある。無機塩a)は、予め調製した溶液として添加されてもよく、固体形態で添加されてもよいが、最終水性潤滑組成物中で塩が溶解形態であることを保証する混合条件下で添加されてもよい。
【0094】
必要に応じて、水性潤滑組成物は、その適用に先立って十分に調製することができる。しかしながら、興味深い代替実施形態では、まず、濃縮組成物を、適用される組成物中に存在するであろう水のほんの一部と成分を混合することによって得てよい:次いで、濃縮組成物を、適用直前に残りの水で希釈してよい。このような濃縮組成物は、単一包装の濃縮物(水のみで希釈することで変換できる)として、又は、本発明による完全な作用組成物を形成するために2つ以上を組み合わせて希釈しなければならない多包の濃縮物として調製及び貯蔵することができると考えられる。希釈は、混合下で水、特に脱イオン水及び/又は脱塩水を加えるだけで行うことができる。
【0095】
水性潤滑組成物に含まれる水の量を制限する特別な意図はないが、前記組成物は、組成物の重量に基づいて60~90重量%、好ましくは65~85重量%、より好ましくは65~80重量%、の水を含むことが好ましい。代替的な、しかし相互に排他的ではない特徴において、水性潤滑組成物は、25℃でブルックフィールド粘度計を使用して測定される0.005~1Pa・s(50cps~1000cps)の粘度によって定義されてよい。
【0096】
<方法と応用>
組成物を金属基材に塗布する前に、関連する表面を前処理してそこから異物を除去することがしばしば望ましい。適用する場合、この工程は、そこへの組成物のその後の接着を促進し得る。そのような処理は、当技術分野で知られており、例えば、以下の1つ以上の使用により構成される一段階又は多段階の方法で実施できる。基材に適した酸、及び任意選択で酸化剤を用いたエッチング処理;超音波処理;プラズマ処理、例えば、化学プラズマ処理、コロナ処理、大気圧プラズマ処理及び火炎プラズマ処理を含む;水性アルカリ脱脂浴への浸漬;水性洗浄エマルジョンによる処理;アセトン、四塩化炭素又はトリクロロエチレンなどの洗浄溶剤による処理;及び、水、好ましくは脱イオン水又は純水によるすすぎ。これらの例のうち、水性アルカリ脱脂浴を使用する場合、表面に残った脱脂剤を、脱イオン水又は純水で基材表面をすすぐことにより除去することが望ましい。
【0097】
前記洗浄及び/又は脱脂の後、水性潤滑組成物が基材に塗布される。組成物は周囲温度で塗布されてよく、又は適用前に水性組成物の温度を例えば30℃~90℃、例えば30℃~70℃の範囲の温度に上昇させてよい。
【0098】
両面めっきシートを製造するには、前述のような操作浴を準備し、限定されるものではないが、浸漬(immersion)及び浸漬(dipping)によって、水性潤滑組成物を基材に塗布することが商業的に一般的である。水性潤滑組成物の接触時間は重要ではないが、基材の温度が操作浴内の組成物の温度と平衡するのに十分な時間であることが望ましい。例示的な接触時間は1分~15分、例えば2分~10分である。
【0099】
水性潤滑組成物を基材の単一の表面又は複数の表面に塗布するために使用してよい代替技術としては、これらに限定されるものではないが、以下が挙げられる:塗装;ブラッシング;フローコーティング;ロールコーティング;ワイピング;空気原子化スプレー;空気補助スプレー;空気レススプレー;高容量低圧スプレー;及びエアアシストエアレススプレー。
【0100】
塗布工程の最後に、物品は、例えば周囲空気乾燥、循環温風、強制空気乾燥、又は赤外線加熱を使用して乾燥される。基材の表面温度は乾燥中に制御される:ピーク金属温度(PMT)は150℃を超える必要はなく、より具体的には100~125℃、例えば100~120℃の範囲にあることが望ましい。
【0101】
上述の処理により、金属基材上に保護膜が得られ、前記膜は、好ましくは、1~50g/m、好ましくは1~40g/m、又は5~40g/mの膜重量を有する。実施される金属加工の種類、加工の程度、及び基材表面粗さによって、乾燥被膜の最適な厚さが決定される。しかし、一般的に乾燥被膜が薄すぎると加工工具と基材自体との接触が起こり得、焼き付きが発生しやすくなる。乾燥被膜が厚すぎると、被膜の一部が加工工具と基材との間の界面に引き込まれない可能性があり、したがってこの一部分は水性潤滑剤の無駄となる。
【0102】
水性潤滑組成物を塗布してよいベース基材を限定する意図はない。したがって、適当な金属基材としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:鉄:チタン;ニッケル;亜鉛;銅;アルミニウム;錫;コバルト;及びその合金。鋼を含む、又はからなる基材が特に挙げられ、その例としては、ASTM規格A653の要件を満たす亜鉛メッキ(galvanized)鋼及びガルバニール(galvanneal)鋼;GALVALUME(登録商標)、55%Al/43.4%Zn/1.6%Si合金被覆鋼板(Bethlehem Steel Corporation製);及びGALFAN(登録商標)、5%Al/95%Zn合金被覆鋼板(Weirton Steel Corporation製)が挙げられる。
【0103】
水性潤滑組成物が塗布される基材の初期形状も限定される必要はないが、形状(form)は、使用する工具及び冷間加工後に達成すべき目標の形状(shape)又は形状(form)に適することが望ましい。より複雑な形状(shape)が確かに排除されるわけではないが、金属及び合金基材が提供されてよい従来のストック形状(form)には、以下が含まれる:シート;プレート;直方体;球体;環;固体シリンダー;チューブ;及びワイヤー。
【0104】
上記のように、本開示はまた、金属基材の塑性冷間加工における水性潤滑剤組成物又はそれから得られる乾燥膜の使用も提供する。
【0105】
本開示はさらに、少なくとも1つの金属加工工具の少なくとも1つの固体表面によって境界付けられる開口を通して前記固体金属基材を機械的に押し込むことによって固体金属基材を塑性冷間加工するための方法を提供し、前記方法は以下の工程を含む:
i)本明細書で上記に定義した水性潤滑組成物を、前記金属基材の少なくとも1つの固体表面に塗布する工程、その表面は、被覆されていない場合、本方法中に固体金属加工ツール表面と直接接触する;
ii)塗布された水性潤滑組成物を乾燥させて、前記金属基材の前記少なくとも1つの固体表面上に膜を形成する工程;及び
iii)金属基材が冷間加工されるように、工程ii)で形成された金属基材を、少なくとも1つの金属加工工具表面によって境界付けられた前記開口を通して機械的に押し込む工程。
【0106】
金属の塑性冷間加工は、通常、反復方法であることが認識される。したがって、上記の方法には、さらに以下の工程が含まれてよい:
iv)工程iii)で形成された冷間加工された金属基材の前記少なくとも1つの固体表面から残留膜を除去する工程;
v)工程iv)で得られた前記金属基材をアニールする工程;及び
vi)工程i)~iii)を繰り返す工程。
【0107】
一実施形態では、工程iv)は、アルカリ性脱脂剤による残留膜の処理を含む。工程iv)が酸性酸洗液による残留膜の処理を含まないことが特に好ましい。
【0108】
工程iii)の後に得られた残留潤滑膜がアニール前に除去されない場合、潤滑膜の炭素、硫黄、リン及びその他の成分が金属基材に浸透し、その結果、その基材の耐食性及び機械的強度が損なわれ得る。さらに、残留潤滑膜は、上記工程i)の2回目(及び更なる)反復において水性潤滑組成物が付着する表面を示さないであろう。
【0109】
本開示の様々な特徴及び実施形態を以下の実施例で説明するが、これは代表的であることを意図し、限定するものではない。
【実施例
【0110】
本発明による組成物を表す実施例1では、以下の市販製品が使用される:以下に述べる残りの成分は、Sigma Aldrichから入手可能である。
【0111】
【0112】
水性潤滑組成物は、以下の表1に示される成分を混合することによって調製された。無機塩(a)の水溶液を調製し、これにレオロジー制御剤(c)、塩基(d)及び界面活性剤を添加し、続いて固体潤滑剤(b)を添加した。固体潤滑剤(b)は、予め調製した水分散液として添加された。
【0113】
前述の説明及び実施例に鑑みて、当業者には特許請求の範囲から逸脱することなく、それらの同等の修正を行うことができることが明らかであろう。
【0114】
【表1】
【国際調査報告】