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特表2024-540126電池の負極に使用するための粉末、かかる粉末の調製方法及びかかる粉末を含む電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】電池の負極に使用するための粉末、かかる粉末の調製方法及びかかる粉末を含む電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20241024BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241024BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20241024BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
C01B32/05
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525464
(86)(22)【出願日】2022-10-27
(85)【翻訳文提出日】2024-04-26
(86)【国際出願番号】 EP2022080056
(87)【国際公開番号】W WO2023073089
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】21205537.0
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ボアズ・ムーレマンス
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-セバスチャン・ブライデル
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス・マルクス
【テーマコード(参考)】
4G146
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA17
4G146AA19
4G146AB01
4G146AC04A
4G146AC04B
4G146AC07A
4G146AC07B
4G146AC27A
4G146AC27B
4G146AD23
4G146AD25
4G146BA22
4G146BB06
4G146BB10
4G146BC23
4G146BC33B
4G146BC37B
4G146BC41
4G146BC46
4G146BC48
4G146CB09
4G146CB33
5H050AA07
5H050AA08
5H050CB11
5H050CB29
5H050GA02
5H050GA05
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA14
(57)【要約】
電池の負極での使用に好適な粉末であって、粉末が、粒子を含み、粒子が、マトリックス材料と、マトリックス材料に埋め込まれたケイ素系サブ粒子とを含み、マトリックス材料が、炭素質材料を含み、粉末が、硫黄を更に含み、当該粉末中の硫黄の重量含有量が、当該粉末中の炭素質材料の重量含有量の少なくとも0.1%であり、かつ当該粉末中の炭素質材料の重量含有量の最大でも1%である、粉末。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の負極での使用に好適な粉末であって、前記粉末が、粒子を含み、前記粒子が、マトリックス材料と、前記マトリックス材料に埋め込まれたケイ素系サブ粒子とを含み、前記マトリックス材料が、炭素質材料を含み、前記粉末が、硫黄を更に含み、前記粉末中の硫黄の重量含有量が、炭素質材料の重量含有量の少なくとも0.1%であり、かつ炭素質材料の重量含有量の最大でも1%である、粉末。
【請求項2】
前記炭素質材料が、グラファイトドメインを含み、前記グラファイトドメインが、26°~27°の2θCuにおいて最大強度Iを有するC(002)に割り当てられた前記粉末のX線回折ピークに対して適用されるシェラー方程式によって求めた場合に、10nm未満の平均サイズを有する、請求項1に記載の粉末。
【請求項3】
窒素吸着/脱着測定によって求めた場合、0.005cm/gより小さい多孔性の総比容積を有する、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項4】
前記炭素質材料が、ソフトカーボンである、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項5】
前記粉末中に含まれる前記硫黄の少なくとも80重量%が、前記マトリックス材料中に存在する、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項6】
前記ケイ素系サブ粒子が、dNS50を有する個数基準粒径分布を有し、前記dNS50が40nm以上かつ150nm以下である、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項7】
前記ケイ素系サブ粒子が、少なくとも80重量%であるケイ素重量含有量を有する、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項8】
前記粉末が、ケイ素含有量A及び酸素含有量Cを有し、両方とも重量パーセント(wt%)で表され、C≦0.3×Aである、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項9】
最大でも10m/gのBET表面積を有する、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項10】
グラファイト粒子を更に含む、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の粉末を調製するための方法であって、次の工程:
炭素前駆体を含む粉末を提供し、ケイ素系粒子を含む粉末を提供し、そして硫黄を含む粉末を提供する工程Aと、
前記炭素前駆体を含む前記粉末と、硫黄を含む前記粉末とを混合し、さらに混合しながら前記炭素前駆体を含む前記粉末の軟化点より高い温度まで混合物を加熱する工程Bと、
工程Bで得られた前記混合物にケイ素系粒子を含む前記粉末を添加して混合する工程Cと、
室温まで冷却し、続いて工程Cで得られた混合物を粉砕する工程Dと、
工程Dで得られた粉末の熱処理を、無酸素雰囲気下で、少なくとも1000℃に等しい温度で行う工程Eと、を含む、方法。
【請求項12】
工程Bの混合物中の硫黄の重量含有量が、少なくとも0.06重量%に等しく、かつ最大でも0.65重量%に等しい、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工程Eの熱処理時に前記炭素前駆体が、ソフトカーボンに変換する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記炭素前駆体が、石油ピッチである、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
請求項1又は2に記載の粉末を含む電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の負極に使用するための粉末、かかる粉末の調製方法、及びかかる粉末を含む電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン(Liイオン)電池は、現在、最も高性能の電池であり、既に携帯型電子デバイスの標準となっている。加えて、これらの電池は、自動車及び蓄電などの他の産業において既に浸透し、かつ急激に広まっている。かかる電池を実用化する利点は、良好な電力性能と組み合わされた高エネルギー密度である。
【0003】
Liイオン電池は、典型的には、いくつかのいわゆるLiイオンセルを含み、そのセルは、電解質に浸漬されているカソードとも称される正極と、アノードとも称される負極と、セパレータと、を含んでいる。携帯用途に最も頻繁に使用されるLiイオンセルは、正極にリチウムコバルト酸化物又はリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物などの電気化学的活物質を使用し、アノードに天然又は人工のグラファイトを使用して、開発されている。
【0004】
電池の性能、特に、電池のエネルギー密度に影響を与える重要な制限要因のうちの1つは、負極中の活物質であることが知られている。そのため、エネルギー密度を改善するために、負極にケイ素を含む電気化学的活物質を使用することが長年にわたって研究されてきた。
【0005】
当該技術分野では、Si系の電気化学的に活性な粉末を含む電池の性能は、概ね、いわゆるフルセルのサイクル寿命で定量化され、これは、そのような材料を含むセルが初期放電容量の80%に達するまで充放電できる回数又はサイクル数として定義される。そのため、ケイ素系の電気化学的に活性な粉末に関するほとんどの研究が、当該サイクル寿命の改善に焦点を当てている。
【0006】
アノードにケイ素系の電気化学的活物質を使用することの欠点は、充電中のその大きな体積膨張であり、例えば、合金化又は挿入によって、リチウムイオンが、アノードの活物質中に完全に組み込まれる(リチオ化と呼ばれることが多いプロセス)とき、体積膨張は300%にもなる。リチウム組み込み中のケイ素系材料の大きな体積膨張によって、ケイ素系粒子中に応力を誘発することがあり、それにより次第にケイ素系材料の機械的な劣化が生じる場合がある。Liイオン電池の充電及び放電中に周期的に繰り返されることで、ケイ素系電気化学的活物質の繰り返される機械的な劣化により、電池の寿命は、許容できないレベルにまで低下し得る。
【0007】
更に、ケイ素と関連のある悪影響として、厚いSEI、すなわち固体電解質界面が、アノード上に形成され得ることがある。SEIは、電解質とリチウムの複雑な反応生成物であり、それは、電気化学反応のためのリチウムの利用可能性の喪失をもたらすため、不十分なサイクル性能につながり、結果的に充電-放電サイクルごとの容量を喪失する。そのうえ、厚いSEIは、電池の電気抵抗を更に大きくしてしまう可能性があり、それによって、高電流で放電及び充電する能力が制限される。
【0008】
SEI形成は、「不動態化層」がケイ素系材料の表面上に形成されるとすぐに停止するという原理に基づく自己終結プロセスである。しかし、ケイ素系粒子の体積膨張のため、放電(リチオ化)及び再充電(脱リチオ化)の際にケイ素系粒子とSEIの両方が損傷を受ける場合があり、それによって、新しいケイ素表面を解放し、新しいSEI形成が開始する。
【0009】
上記の欠点を解決するために、通常、複合粉末が使用される。これらの複合粉末では、電解質の分解からケイ素系粒子を保護し、体積変化に対応するのに好適な少なくとも1つの成分と、ナノサイズのケイ素系粒子が混合される。このような成分は、炭素系材料であり得、好ましくはマトリックスを形成する。
【0010】
かかる複合粉末は、例えば、米国特許第10964940号に記載されており、複合粒子からなる粒子状材料であって、複合粒子が、多孔性炭素骨格と、その多孔性炭素骨格の細孔内に位置する複数のナノスケールの元素ケイ素ドメインと、を含む、粒子状材料が開示されている。国際公開第2020/129879号には、負極材料と、固体電解質とを含む全固体リチウムイオン電池用負極混合物が開示されており、その負極材料は、ケイ素含有粒子及び炭素質材料を含有する複合材料(A)と、炭素質材料及びグラファイトから選択される1つ以上の種類の成分(B)とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第10964940号
【特許文献2】国際公開第2020/129879号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような複合粉末を使用しているにもかかわらず、Si系の電気化学的に活性な粉末を含む電池の性能にはまだ改善の余地がある。特に、既存の複合粉末では、電気自動車の電池に不可欠な高容量及び長いサイクル寿命の両方を達成することができない。
【0013】
(i)粒子、すなわちマトリックス材料と、マトリックス材料に埋め込まれたケイ素系サブ粒子とを含む粒子、及び(ii)硫黄を含む、安定な電気化学的に活性な粉末、すなわちLiイオン電池の負極において一度使用された、長いサイクル寿命に兼ね備えられた高容量を達成できる点において有利である、粉末を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、実施形態1による粉末を提供することによって達成され、Liイオン電池のアノードにおいて一度使用された当該粉末は、比較例1~5と比較して、実施例1~4で実証されているように、より高い初期クーロン効率(coulombic efficiency、CE)及びより高い平均クーロン効率を達成することができる。
【0015】
本発明は、以下の実施形態に関する。
【0016】
[実施形態1]
第1の態様では、本発明は粉末に関し、粉末は粒子を含み、粒子は、マトリックス材料と、マトリックス材料に埋め込まれたケイ素系サブ粒子とを含み、マトリックス材料は炭素質材料を含み、粉末が硫黄を更に含み、当該粉末中の硫黄の重量含有量は、炭素質材料の重量含有量の少なくとも0.1%であり、かつ炭素質材料の重量含有量の最大でも1%である。
【0017】
好ましくは、粉末中の硫黄の重量含有量は、炭素質材料の重量含有量の最大でも0.8重量%であり、より好ましくは、炭素質材料の重量含有量の最大でも0.6重量%である。
【0018】
好ましくは、マトリックス材料の少なくとも50重量%は炭素質材料であり、より好ましくは、マトリックス材料の少なくとも70重量%は炭素質材料であり、最も好ましくは、マトリックス材料の少なくとも90重量%は炭素質材料である。
【0019】
好ましくは、ケイ素系サブ粒子は、炭素質材料に埋め込まれる。
【0020】
「粒子は、マトリックス材料と、マトリックス材料に埋め込まれたケイ素系サブ粒子とを含む」とは、粉末に含まれる粒子は、ケイ素系サブ粒子を含むため、平均してケイ素系サブ粒子よりもサイズが大きいことを意味している。粒子は、典型的にはマイクロメートルサイズであり、一方ケイ素系サブ粒子は、典型的にはナノメートルサイズである。
【0021】
「マトリックス材料に埋め込まれたケイ素系サブ粒子」とは、ケイ素系サブ粒子がマトリックス材料中に固定され、マトリックス材料によって取り囲まれていることを意味している。ケイ素系サブ粒子は、それらの大部分が、好ましくはそれらの全体がマトリックス材料によって覆われている。したがって、実施形態1による粉末において、ケイ素系サブ粒子は、好ましくは互いに接触しているのみ、及び/又はマトリックス材料と接触しているのみである。
【0022】
ケイ素系サブ粒子は、任意の形状、例えば、実質的に球状であるが、不規則な形状、棒状、板状なども有し得る。ケイ素系サブ粒子では、ケイ素はその大部分がケイ素金属として存在し、それに対して、特性を改善するために少量の他の元素が添加されている場合があり、又は酸素や微量の金属などのいくらかの不純物を含有している場合がある。酸素以外の全ての元素を考慮すると、このようなケイ素系サブ粒子における平均ケイ素含有量は、ケイ素系サブ粒子の総重量に対して、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。
【0023】
理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、粉末中の硫黄の存在が、マトリックス材料中に含まれる炭素質材料の小さなグラファイトドメイン間の架橋の生成を可能にし、それによって炭素質材料の弾性、したがってマトリックス材料の弾性を増加させると考える。その弾性特性のおかげで、マトリックス材料は、電池の充電/放電中のケイ素系サブ粒子の膨張/収縮をより良好に調製することができ、それによって、マトリックス材料の破砕のリスク、すなわち、追加の固体電解質界面(Solid Electrolyte Interface、SEI)の形成につながり、その結果として第1のクーロン効率及び平均のクーロン効率の低下につながる電解質へのケイ素系サブ粒子の曝露のリスクが低減される。
【0024】
硫黄含有量が低過ぎると、マトリックスからの炭素質材料の弾性を増加させる所望の技術的効果に達することができないことから、粉末中の硫黄の重量含有量は、炭素質材料の重量含有量の0.1%以上であるべきである。同様に、粉末中の硫黄の重量含有量は、炭素質材料の重量含有量の1%以下、好ましくは炭素質材料の重量含有量の0.8%以下、より好ましくは炭素質材料の重量含有量の0.6%以下であるべきである。硫黄含有量が高過ぎると、マトリックスからの炭素質材料が弾性的になり過ぎ、したがって、特に電池の充電(すなわち、ケイ素系サブ粒子のリチオ化)中に変形し過ぎることにつながる。これは、負極の許容できない膨張につながる可能性があり、電池ケーシングによって許容される以上にアノードが膨張する場合、サイクル寿命の短縮及び安全性の問題の両方を引き起こす可能性がある。更に、硫黄は電気化学的に不活性であるので、粉末の比容量を可能な限り高く保つために、その含有量を、技術的効果を得るのに必要なレベルに制限することが最良である。
【0025】
粉末のマトリックス材料中に含まれる炭素質材料の含有量は、従来技術によって測定することができ、又は粉末の比容量に基づいて計算することができる。かかる計算の例は、「分析方法」セクションで提供する。
【0026】
好ましくは、粉末はまた、ケイ素含有量A及び炭素含有量Bを有し、両方とも重量パーセント(wt%、重量%)で表され、10重量%≦A≦60重量%及び30重量%≦B≦89重量%である。低過ぎるケイ素含有量及び/又は高過ぎる炭素含有量は、比容量が低過ぎる負極材料をもたらすことになり、これは工業用途に望ましくない。ケイ素含有量が高過ぎると、サイクル中の体積膨張が大きくなり過ぎ、これは主に安全上の理由から望ましくない。低過ぎる炭素含有量は、ケイ素系サブ粒子を完全に被覆するのに不十分であり、ケイ素系サブ粒子の表面と電解質との間の反応を引き起こし、追加のSEI層の形成及び電池性能の低下をもたらす。
【0027】
[実施形態2]
実施形態1による第2の実施形態では、炭素質材料はグラファイトドメインを含み、グラファイトドメインは、26°~27°の2θCuにおいて最大強度Iを有するC(002)に割り当てられた粉末のX線回折ピークに対して適用されるシェラー方程式によって求めると、10nm未満の平均サイズを有する。
【0028】
好ましくは、グラファイトドメインは、5nm未満、より好ましくは3nm未満の平均サイズを有し、最も好ましくは、グラファイトドメインは、2nm未満の平均サイズを有する。10nm未満、好ましくは5nm未満、より好ましくは3nm未満、最も好ましくは2nm未満の平均サイズを有するグラファイトドメインは、10nm以上のサイズを有するグラファイトドメインと比較して、より高い電子伝導性の粉末をもたらし、それゆえ好ましい。更に、既に前述したように、粉末中の硫黄の存在は、マトリックス中に含まれる炭素質材料の小さなグラファイトドメイン間の架橋の生成を引き起こし、それによって炭素質材料の弾性、したがってマトリックス材料の弾性を増加させる。したがって、マトリックス中に含まれる炭素質材料のグラファイトドメインの平均サイズが小さいほど、より多くの架橋が生成され、マトリックス材料はより弾性になり、既に前述したように、第1のクーロン効率及び平均のクーロン効率の増加につながる。換言すれば、硫黄と、10nm未満、好ましくは5nm未満、より好ましくは3nm未満、更により好ましくは2nm未満のサイズを有するグラファイトドメインとの間には相乗効果が存在する。
【0029】
シェラー方程式(P.Scherrer、Gottinger Nachricheten 2,98(1918))は、X線回折データから規則性のある(結晶性)ドメインのサイズを計算するための周知の方程式である。機械同士のバラつきを回避するために、標準化試料が較正に使用され得る。
【0030】
マトリックス材料中のグラファイトドメインの有無及びそれらの平均サイズの決定は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)分析に基づいて評価され得る。かかる分析の例は、「分析方法」セクションで提供する。
【0031】
[実施形態3]
実施形態1又は2に従う第3の実施形態では、粉末は、窒素吸着/脱着測定によって求めると、0.005cm/gより低い多孔性の総比容積(total specific volume of porosity)を有する。好ましくは、粉末は0.003cm/gより低い多孔性を有する。より好ましくは、粉末は0.002cm/gより低い多孔性を有する。理想的には、粉末は、全く多孔性を有さない/多孔性ではない。
【0032】
高い多孔性は、容積容量(mAh/cm又はAh/Iの単位)を低くするであろうし、高い比容量を有する粉末を得るという目的に反するため、低い多孔性を有する又は多孔性でない粉末を有することが有利である。更に、マトリックス中に含まれる炭素質材料の小さなグラファイトドメイン間の架橋の生成は、マトリックス材料が高密度である場合、すなわち、マトリックス材料ひいては粉末が、低い多孔性を有する場合、又は多孔性でない場合に、促進される。
【0033】
粉末の多孔性は、窒素吸着/脱着測定によって測定することができる。粉末が多孔性ではないという事実は、粉末の粒子の1つ又は複数の断面(複数可)の顕微鏡観察(SEM又はTEMを使用する)によって確認することができる。高密度粒子は、それが少量の不規則に分布した孔(50000倍の倍率における断面の画像当たり10個未満)を含んでいる場合であっても、それは単に、マトリックス材料を形成するために使用される炭素前駆体の熱分解の望ましくない結果に過ぎないため、非多孔性であるとみなされるべきである。
【0034】
[実施形態4]
実施形態1又は2に従う第4の実施形態では、炭素質材料はソフトカーボンである。マトリックス材料もソフトカーボンからなっている場合がある。ソフトカーボンは、グラファイト化できないハードカーボンとは対照的に、3000℃の温度で加熱するとグラファイトに変換することができる小さな無秩序なグラファイトドメインの配列に対応する。
【0035】
ソフトカーボンは、ハードカーボンと比較して、より高い電子伝導性を示し、それゆえ望ましい。更に、マトリックス材料中のナノボイドの存在をもたらす小さなグラファイトドメインの無秩序な集合のおかげで、アノードのリチオ化の間、大部分がソフトカーボンを含むマトリックス材料を含む粒子の体積膨張は、大部分がグラファイト又はグラフェンを含むマトリックス材料を含む粒子と比較して、低減される。
【0036】
[実施形態5]
実施形態1~4のいずれか1つに従う第5の実施形態では、粉末中に含まれる硫黄の少なくとも80重量%はマトリックス材料中に存在し、好ましくは、粉末中に含まれる硫黄の少なくとも90重量%はマトリックス材料中に存在する。
【0037】
換言すれば、粉末中に含まれる硫黄の20重量%未満、好ましくは10重量%未満は、マトリックス材料の外側に存在する。粉末中に含まれる硫黄の全てがマトリックス材料中に存在することが好ましいが、硫黄の一部のケイ素粒子への移動を排除することはできない。
【0038】
既に先に説明したように、硫黄の存在から生じる技術的効果は、弾性が増加したマトリックス材料である。たとえ低減された硫黄含有量で技術的効果が依然として達成され得るとしても、硫黄の大部分、少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%がマトリックス材料中に存在することが好ましい。更により具体的には、硫黄が、マトリックス材料中に含まれるソフトカーボン中に含まれる場合、技術的効果は完全に最大化されると予想される。
【0039】
[実施形態6]
実施形態1~5のいずれか1つに従う第6の実施形態では、ケイ素系サブ粒子は、dNS50を有する個数基準粒径分布を有し、当該dNS50が40nm以上かつ150nm以下である。
【0040】
個数基準粒径分布は、粉末中に含まれるケイ素系サブ粒子の最小数に関する、画像分析プログラムの支援を伴う又は伴わない視覚的分析に基づく。ケイ素系サブ粒子のこの最小数は、少なくとも1000個の粒子である。粒子の数基準フラクションの測定例は、「分析方法」セクションで提供する。
【0041】
明確にするために、例えば100nmのdNS50は、少なくとも1000個のケイ素系サブ粒子の数の50%が100nmより小さいサイズを有し、少なくとも1000個のケイ素系サブ粒子の数の50%が100nmより大きいサイズを有することを意味する。
【0042】
40nm未満のdNS50を有する個数基準粒径分布を有するケイ素系サブ粒子は、マトリックス材料中で効率的に分散することが非常に困難であり、これは粉末の電子伝導性を低下させ得る。
【0043】
150nmを超えるdNS50を有する個数基準粒径分布を有するケイ素系サブ粒子は、それらのリチオ化中により破砕しがちであり、かかる粉末を含有する電池のサイクル寿命の劇的な短縮を引き起こす。
【0044】
NS50は、粉末を作製するためのプロセスによって影響を受けないと考えられ、これは、プロセスにおいて前駆体として使用されるケイ素系粉末のdNS50値が、粉末中に含まれるケイ素系サブ粒子のdNS50値と同じであることを意味する。
【0045】
[実施形態7]
実施形態1~6のいずれか1つに従う第7の実施形態では、ケイ素系サブ粒子は、少なくとも80重量%であるケイ素重量含有量を有する。好ましくは、ケイ素系サブ粒子は、少なくとも90重量%であるケイ素重量含有量を有する。好ましくは、ケイ素系サブ粒子は、ケイ素系サブ粒子の比容量が低下しすぎることを回避するために、Si及びO以外の元素を含まない。ケイ素系サブ粒子は、粉末の比容量に主に寄与し、それら自体の容量が可能な限り高いことが好ましく、したがって、ケイ素の含有量が可能な限り高く、この場合、少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%であることが好ましい。
【0046】
[実施形態8]
実施形態1~7のいずれか1つに従う第8の実施形態では、粉末は、ケイ素含有量A及び酸素含有量Cを有し、両方とも重量パーセント(重量%)で表され、C≦0.3×Aであり、好ましくはC≦0.2×Aであり、より好ましくはC≦0.1×Aである。
【0047】
粉末の酸素含有量が高過ぎると、粉末の最初のリチオ化中に酸化リチウム(LiO)が形成されることによって、追加の不可逆的なリチウムの消費から悪い影響を受け、それにり、かかる粉末を含有する電池の初期の不可逆的な容量損失が増加する。
【0048】
[実施形態9]
実施形態1~8のいずれか1つに従う第9の実施形態では、粉末は、最大でも10m/g、好ましくは最大でも5m/gのBET表面積を有する。
【0049】
リチウムを消費する固体電解質界面(Solid Electrolyte Interphase、SEI)の形成を制限して、結果としてかかる粉末を含有する電池の容量の不可逆的な損失を制限するために、粉末にとって低いBET比表面積を有して、電解質と接触する電気化学的に活性な粒子の表面を減少させることが、好ましい。
【0050】
[実施形態10]
実施形態1~9のいずれか1つに従う第10の実施形態では、粉末は、グラファイト粒子を更に含む。
【0051】
特に、グラファイト粒子は、マトリックス材料に埋め込まれていない。これは、粉末の断面の1つ又は複数のSEM画像の分析に基づいて視覚的に確認することができる。グラファイト粒子がマトリックス材料に埋め込まれていないという事実は、少なくとも2つの理由で有益である。(i)ケイ素系サブ粒子のみがマトリックス材料によって被覆される必要があり、したがって、高い不可逆的な容量及び低い比容量を有するマトリックス材料はあまり必要とされない、並びに(ii)その中に埋め込まれたケイ素系サブ粒子を有するマトリックス材料を含む粒子は、マトリックス材料がグラファイト粒子も含む場合よりも小さく、電池のサイクル中において、粒子がリチオ化時に体積膨張することの抑制につながる。
【0052】
しかしながら、それらの外表面に位置する両方の種類の粒子の間にいくらかの接触が存在し得る。これは、粉末の良好な電子伝導率を、したがって粉末を含む電池の高レート能力を、確保するために、更に好ましい。
【0053】
グラファイト粒子は、ケイ素系サブ粒子を中に埋め込んだマトリックス材料を含む粒子間のスペーサーとして作用し、したがって、マトリックス材料を含むこれらの粒子が凝集して凝集粉末に変化することを防止する。かかるスペーサーが存在しない場合、凝集粉末は、電池の負極に使用するためには、粉砕工程などの機械的処理を必要とする場合があり、これはマトリックス材料の完全性の弱化をもたらし、最終的に、かかる凝集粉末を含む電池のより低い性能につながる場合がある。
【0054】
粉末中のグラファイト粒子の存在は、例えば、X線回折分析によって判定することができる。その方法は「分析方法」セクションに記載している。
【0055】
グラフェン粒子は、典型的には、はるかに高い比表面積を有し、したがって、サイクル中にSEI層の形成を有意に増加させ、それによって、特に初期サイクルにおいて、グラフェン粒子を含むかかる粉末を含む電池の性能を低下させることが予想されることから、粉末は、グラファイト粒子を含み、グラフェン粒子を含まないことが好ましい。
【0056】
[実施形態11]
第11の実施形態では、本発明はまた、上記で定義された粉末の変形のいずれかを調製するための方法に関する。その方法は、以下の工程を含む。
【0057】
工程Aでは、炭素前駆体を含む粉末、ケイ素系粒子を含む粉末、及び硫黄を含む粉末が提供される。
【0058】
工程Bでは、炭素前駆体を含む粉末と、硫黄を含む粉末とを混合し、得られた混合物を、混合し混合物を流動させながら、炭素前駆体を含む粉末の軟化点より高い温度まで加熱し、その温度に維持する。これにより、炭素前駆体の流れ内において、硫黄を含む粉末の良好な分散が確保される。
【0059】
工程Cでは、ケイ素系粒子を含む粉末を、工程Bで得られた混合物に、炭素前駆体を含む粉末の軟化点よりも依然として高い温度で、一定な混合下で、添加する。これにより、硫黄を含む粉末を既に含有する流れ内において、ケイ素系粒子を含む粉末の良好な分散が確保される。
【0060】
工程Dでは、工程Cで得られた混合物を、室温まで冷却し、続いて粉砕する。
【0061】
工程Eでは、工程Dで得られた粉末の熱処理が、無酸素雰囲気下で、少なくとも1000℃に等しい温度で行う。無酸素雰囲気の例は、アルゴン流又は窒素流である。
【0062】
追加の工程は、工程Eで得られた粉末を、室温に冷却した後、最終の粉砕及び/又はふるい分けすることを含むことができる。
【0063】
好ましくは、ケイ素系粒子を含む粉末は、dvs50値を有する体積粒径分布を有し、dvs50値は最大でも200nmである。これは、工程Cの間に容易に分散されるケイ素系粒子を含む粉末にとって好ましく、均一に分配されているケイ素系サブ粒子を含む工程Eの終わりに得られる粉末にとって好ましい。
【0064】
[実施形態12]
実施形態11に従う第12の実施形態では、工程Bで得られた混合物は、少なくとも0.06重量%に等しく、かつ最大でも0.65重量%に等しい硫黄の重量含有量を有する。これは、実施形態1による粉末を得るために好ましい。
【0065】
[実施形態13]
実施形態11又は12に従う第13の実施形態では、炭素前駆体は、工程Eの熱処理時にソフトカーボンに変換する。熱処理が行われる温度は、炭素前駆体をソフトカーボンに完全に変換するために、少なくとも1000℃に等しいことが重要である。熱処理が行われる温度は、好ましくは1100℃以下であり、炭化ケイ素の可能性のある形成と、マトリックス中に含まれる10nmより大きい平均サイズを有する炭素質材料のグラファイトドメインの形成を防止する。
【0066】
[実施形態14]
実施形態11~13のいずれか1つに従う第14の実施形態では、炭素前駆体を含む粉末は、石油ピッチである。石油ピッチは、焼成時に約65重量%の比較的高い炭素収率を有する点で有利である。少なくとも1000℃の温度で焼成すると、石油ピッチはソフトカーボンに変換する。
【0067】
[実施形態15]
第15の実施形態では、本発明は、最終的に、実施形態1~10のいずれか1つによる粉末を含む電池に関する。
【発明を実施するための形態】
【0068】
以下の詳細な説明では、本発明の実施を実現するために、好ましい実施形態を詳細に説明している。本発明は、これらの特定の好ましい実施形態を参照して記載されているが、本発明は、これらの好ましい実施形態に限定されないことが理解されよう。それとは対照的に、本発明は、以下の発明を実施するための形態を考慮すれば明らかになるように、多数の代替物、変形物及び均等物を含む。
【0069】
[使用した分析方法]
Si含有量の測定
実施例及び比較例の粉末のSi含有量は、エネルギー分散型分光器を用いた蛍光X線(X-Ray Fluorescence、XRF)によって測定される。この方法は±0.3重量%のSiの確率的実験誤差を有する。
【0070】
Si系サブ粒子を含む特定粒子のSi含有量、又はSi系サブ粒子自体のSi含有量を測定する必要がある場合、XRFによってケイ素含有量を測定するのは困難な場合がある。その場合、エネルギー分散型X線分光法を伴う走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)による分析が好ましい場合がある。これにより、所与の粒子又はサブ粒子におけるケイ素含有量を測定することが可能になる。平均ケイ素含有量値を得るには、10個の粒子又はサブ粒子の分析をすれば十分である。
【0071】
酸素含有量の測定
実施例及び比較例における粉末の酸素含有量は、酸素-窒素分析装置(Leco TC600)を使用する以下の方法によって測定される。分析用の粉末の試料を密閉されたスズ製カプセルに入れ、これをニッケル製バスケットに入れる。そのバスケットをグラファイト製るつぼに入れ、キャリアガスとしてのヘリウム下で、2000℃超まで加熱する。これにより試料は溶融し、酸素がるつぼからのグラファイトとCOガス又はCOガスになるまで反応する。これらのガスを赤外測定セルに導く。観察されたシグナルは酸素含有量へ再計算される。
【0072】
炭素含有量の決定
実施例及び比較例における粉末の炭素含有量は、炭素-硫黄分析装置(Leco CS230)を使用する以下の方法によって測定される。試料を高周波炉内のセラミックるつぼにて、一定酸素流で溶融する。試料中の炭素は酸素ガスと反応し、CO又はCOとしてるつぼから出る。最終的に存在するCOのCOへの変換後、全ての生成されたCOは、赤外線検出器によって検出される。得られたシグナルは最終的に炭素含有量に変換される。
【0073】
硫黄含有量の決定
実施例及び比較例における粉末の硫黄含有量は、炭素-硫黄分析装置(Leco CS230)を使用する以下の方法によって測定される。試料中の硫黄は、酸素ガスと反応し、SOとしてるつぼから出る。全ての生成されたSOは、赤外線検出器によって検出される。得られたシグナルは最終的に硫黄含有量に変換される。
【0074】
比表面積(BET)の決定
粉末の比表面積は、Micromeritics Tristar 3000を使用して、Brunauer-Emmett-Teller(BET)法によって測定される。最初に、分析対象の粉末2gを120℃のオーブン内で2時間乾燥させ、その後に、Nパージが続く。次いで、吸着種を除去するために、測定に先立って、粉末を120℃にて真空下で1時間脱気する。
【0075】
多孔性の総比容積の決定
窒素吸着/脱着分析(Micromeritics Tristar 3020)を使用して、以下の方法によって、実施例及び比較例における粉末の多孔性の総比容積を決定する。粉末を試料管に導入し、調製(加熱、真空又はNガスフラッシング)を行って、粉末表面から及び試料管から全ての外来分子を除去する。
【0076】
次いで、それをN吸着が粉末粒子上で起こる液体N温度まで冷却する。この吸着は、0.10~0.99の相対圧力(P/P)で測定される。その後、相対圧力が落ち、その結果粉末粒子上でN脱着が起こる。これは、0.99~0.10の相対圧力(P/P)で測定される。このようにして、BJH細孔サイズ分布曲線が得られる。最後に、多孔性の総比容積を計算する。
【0077】
電気化学的性能の決定
実施例及び比較例における粉末の電気化学的性能は、以下の方法で測定される。
【0078】
評価する粉末を、45μmのふるいを用いてふるい分けし、カーボンブラック、炭素繊維及び水中のナトリウムカルボメチルセルロースバインダー(2.5重量%)と混合する。使用した比率は、評価対象の粉末89重量部/カーボンブラック(C65)1重量部/カーボンファイバー(VGCF)2重量部及びカルボキシメチルセルロース(CMC)8重量部である。これらの成分を、250rpmで30分間、Pulverisette7遊星ボールミル内で混合する。
【0079】
エタノールで洗浄した銅箔を集電体として使用した。混合成分の厚さ200μmの層を銅箔上にコーティングする。その後、コーティングされた銅箔を70℃の真空中で45分間乾燥させる。乾燥させた、コーティングされた銅箔から1.27cmの円を打ち抜き、対電極としてリチウム金属を使用しているコインセルにおいて、電極として使用した。電解質は、EC/DEC 1/1 + 2%VC + 10%FEC溶媒中に溶解させた1MのLiPFである。
【0080】
全てのコインセルは、高精度電池テスター(Maccor 4000シリーズ)を用いて、以下に示す手順を使用してサイクルを行う。「CC」は「定電流」を表し、「CV」は「定電圧」を表す。
● サイクル1:
○ 休止6時間
○ C/10で10mVまでCCリチオ化、その後C/100までCVリチオ化
○ 休止5分間
○ C/10で1.5VまでCC脱リチオ化
○ 休止5分間
● サイクル2から以降:
○ C/2で10mVまでCCリチオ化、その後C/50までCVリチオ化
○ 休止5分間
○ C/2で1.2VまでCC脱リチオ化
○ 休止5分間
【0081】
コインセルのクーロン効率(CE)は、所与のサイクルにおける脱リチオ化時の容量の、リチオ化時の容量に対する比率であり、初期サイクル及びその後のサイクルについて計算される。SEI形成の反応がCEに大きな影響を与えるため、クーロン効率の観点からは初期サイクルが最も重要である。典型的には、ケイ素系粉末の場合、初期サイクルでのクーロン効率は80%と低く(又はさらに低く)なる場合があり、これは、20%のコインセルの不可逆的な容量損失に相当し、非常に大きい。目標は、初期サイクルで少なくとも90%のCEに達することである。
【0082】
その後のサイクルでは、たとえCEが通常99%超に十分に上昇するとしても、当業者は、サイクル当たりのクーロン効率の小さな差でさえ電池が持続すると予想される数百又は数千の充電-放電サイクルにわたって、顕著に累積的な効果を有することに気付くであろう。一例を挙げると、99.8%の平均CEを有する1Ahの初期容量を有するセルは、100回の充電-放電サイクル後、0.8Ahの残存容量を有するであろうし、これは、99.5%の平均CEを有するセルの場合(0.5Ahの残存容量)よりも60%高い。
【0083】
840±20mAh/gの比容量を有する負極粉末を含むセルの場合、目標は、初期サイクルにおいて少なくとも90%のクーロン効率(CE)に達することであり、そしてサイクル5~サイクル50で少なくとも99.7%の平均CEに達することである。
【0084】
粉末の体積粒径分布の測定
粉末の体積粒径分布は、Laser Diffraction Sympatec(Sympatec-Helos/BFS-Magic 1812)により、ユーザー説明書に従い求める。測定には以下の設定を使用する。
分散(Dispergen)システム:Sympatec-Rodos-M
分散機:Sympatec-Vibri 1227
レンズ:R2(0.45~87.5μmの範囲)
分散:3バールの加圧空気
光学濃度:3~12%
開始/停止:2%
時間軸:100ms
供給率:80%
開口:1.0mm
【0085】
供給率及び開口の設定は、光学濃度の作用によって変化し得ることに留意されたい。
【0086】
次いで、上述の方法を使用して決定される、ケイ素系粒子を含む粉末の体積粒径分布のdVS10、dVS50及びdVS90値を計算する。
【0087】
個数基準粒径分布の決定
ケイ素系サブ粒子の個数基準粒径分布は、画像分析と組み合わせた、粉末の断面の電子顕微鏡分析(SEM又はTEM)によって決定される。
【0088】
これを行うために、マトリックス材料の粒子の複数の断面を含み、それらの各々がケイ素系サブ粒子の複数の断面を含む、粉末の断面を、以下に詳述する手順に従って調製する。
【0089】
分析対象の粉末500mgを、エポキシ樹脂(20-3430-128)4部とエポキシ硬化剤(20-3432-032)1部との混合物からなる樹脂(Buehler EpoxiCure 2)7gに埋め込む。得られた直径1インチの試料を、少なくとも8時間乾燥させる。次いで、それを、最大5mmの厚さに達するまでStruers Tegramin-30を使用して最初に機械的に研磨し、次いで、6kVで約6時間、イオンビーム研磨(Cross Section Polisher Jeol SM-09010)によって更に研磨して、研磨面を得る。最後に、この研磨面上に、12秒間、Cressington 208カーボンコーターを使用してカーボンスパッタリングすることによって、カーボンコーティングを適用して、SEMで分析されるであろう「断面」とも呼ばれる試料を得る。
【0090】
次いで、調製した断面を、BrukerからのEDS検出器Xflash 5030-127(30mm、127eV)を備えたJEOLからのFEG-SEM JSM-7600Fを使用して分析する。この検出器からのシグナルを、BrukerからのQuantax 800 EDSシステムで処理する。
【0091】
15kVの電圧を数ミリメートルの作動距離で印加することにより、拡大画像を生成する。光学顕微鏡の画像に値をつける場合、後方散乱電子の画像を報告する。
【0092】
ケイ素系サブ粒子のサイズは、その粒子の個別の断面の外周上の2点間の最大直線距離に相当すると考えられる。
【0093】
ケイ素系サブ粒子の個数基準粒径分布の測定を非限定的に説明するために、SEMによる手順を以下に示す。
1. ケイ素系サブ粒子が分散したマトリックス材料の粒子を含む粉末の断面の複数のSEM画像を取得する。
2. マトリックス材料の粒子及びケイ素系サブ粒子の断面を容易に視覚化するために、画像のコントラスト及び輝度の設定を調整する。それらの化学組成が異なるため、輝度の違いにより、粒子とサブ粒子とを容易に区別することができる。
3. 好適な画像分析ソフトウェアを使用して、取得したSEM画像(複数可)の1つ又は複数から、ケイ素系サブ粒子の別の断面と重ならない、ケイ素系サブ粒子の少なくとも1000個の個別の断面を選択する。ケイ素系サブ粒子のこれらの個別の断面は、マトリックス材料の粒子と、ケイ素系サブ粒子とを含む粉末の1つ以上の断面から選択することができる。
4. ケイ素系サブ粒子の少なくとも1000個の個別の断面の各々について、好適な画像解析ソフトウェアを使用して、ケイ素系サブ粒子の個別の断面のサイズを測定する。
【0094】
次いで、上記の方法を使用して決定されたケイ素系サブ粒子の個数基準粒径分布のdNS10、dNS50及びdNS90値を計算する。これらの個数基準粒径分布は、周知の数式により重量基準粒径分布又は体積基準粒径分布に容易に変換することができる。
【0095】
グラファイトドメインのサイズの測定
炭素質材料中に含まれるグラファイトドメインのサイズは、前述のように得られた粉末の断面のTEM分析によって決定され得る。
【0096】
しかしながら、好ましい方法は、粉末のX線回折(XRD)分析である。以下の方法を使用する。
【0097】
CuKα1及びCuKα2放射線、λ=0.15418nm、ステップサイズ0.017°の2θ、走査速度34分(2064秒)を用いて、本化合物の識別のために、ICDDデータベース、PDF-4+を使用して、少なくとも約2cmの粉末材料の平面上で5°~90°の2θで測定し、Panalytical’X Pert Proシステム上で粉末のXRD測定を行う。
【0098】
26°と27°との間の2θCuにおいて最大を有するXRDピークは、平面間グラフェン層からのX線の回折から生じるグラファイト炭素の(002)反射に相当するものである。バックグラウンドを最初に生のXRDデータから差し引く。次いで、C(002)ピークの左側及び右側の半値強度(half maximum intensity)における2θCu値を決定する。半値全幅(Full Width at Half Maximum、FWHM)値は、これら2つの2θCu値の差である。FWHM値は、通常は、X線回折計に備えられているプログラムを使用して測定される。手動での計算も使用することができる。
【0099】
グラファイトドメインの平均サイズは、最終的には、まさに測定されたFWHM値、機器のX線波長及びC(002)ピークの位置を使用して、C(002)ピークに対してシェラー方程式を適用することによって、計算する。
【0100】
粉末のマトリックス材料中に含まれる炭素質材料の含有量の決定
周知の物理化学的分析技術を使用して粉末のマトリックス材料に含まれる炭素質材料の含有量を直接測定することが困難である場合、この含有量を計算するために以下の数学的方法を使用することもできる。
【0101】
2つの粉末は、本方法の適用のための例示として使用されるであろう。第1の粉末(Ex1)は、次の含有量:すなわち、20.0重量%のケイ素(Si)、1.6重量%の酸素(O)、0.4重量%の硫黄(S)及び78重量%の炭素Iを有し、前述の方法を使用して3つの同一のコインセルの第1のサイクルにおいて測定された795mAh/gの平均脱リチオ化容量を有する。Si系粒子と、10nm未満の平均サイズを有するグラファイトドメインとを含む炭素質材料は、TEMによって観察され、ドメインの平均サイズは、前述のようにシェラー方程式を適用して決定される。10nmより大きいグラファイトドメインを有するグラファイト粒子又は他の材料は、観察されない。
【0102】
第2の粉末(Ex2)は、次の含有量:すなわち、20.0重量%のSi、1.7重量%のO、0.3重量%のS及び78重量%のCを有し、前述の方法を使用して3つの同一のコインセルの第1のサイクルにおいて測定された820mAh/gの平均脱リチオ化容量を有する。Si系粒子、及び10nm未満の平均サイズを有するグラファイトドメインを含む炭素質材料と、マトリックス材料に埋め込まれていないグラファイト粒子との両方は、TEM分析とXRD分析とを組み合わせることによって観察される。
【0103】
10nm未満のグラファイトドメインを有する炭素質材料、そして特に、ソフトカーボンは、典型的には、負極材料として約250mAh/gの比容量を有することが知られている。また、グラファイト粒子は、負極材料として約350mAh/gの容量を有することも知られている。シリコンについては、第1のサイクル中に生じる不可逆容量損失を考慮して、3000mAh/gの比容量を使用する。
【0104】
次いで、粉末の比容量を以下のように計算する:
比容量粉末(mAh/g)=wt% Si×3000(mAh/g)+
wt% 炭素質材料× 250(mAh/g)+wt% グラファイト×350(mAh/g)(方程式1)
wt% Si+wt% O+wt% S+wt% 炭素質材料+wt% グラファイト=1
⇔wt% グラファイト=1-wt% Si-wt% O-wt% S-wt% 炭素質材料(方程式2)
【0105】
方程式2を方程式1に挿入すると、以下の式1が得られる:
wt% 炭素質材料=(wt% Si×2650+(1-wt% O-wt% S)×350-比容量粉末)/100 (式1)
【0106】
次いで、方程式2を使用してグラファイトの含有量を計算することができる。
【0107】
方程式1及び方程式2を使用して、粉末Ex1及びEx2についてそれぞれの含有量を計算し、表1に報告する。
【0108】
【表1】
【0109】
粉末Ex1及びEx2の両方が本発明による粉末であることに注目することができる。
【0110】
この数学的方法は、異なる成分の周知の含有量を有する20個の試料で評価され、少なくとも10%の精度マージンを有することが証明された。
【0111】
比較例及び実施例の実験的調製
[本発明による実施例1(E1)]
実施例1の粉末を製造するために、60kW高周波(RF)誘導結合プラズマ(ICP)を適用し、プラズマガスとしてアルゴンを使用して、そこにミクロンサイズのケイ素粉末前駆体が約200g/時の速度で注入され、2000Kを超える十分な(すなわち、反応ゾーンにおける)温度をもたらすことによってケイ素系粉末を最初に得る。この第1のプロセス工程において、前駆体は、完全に気化する。第2のプロセス工程において、気体の温度を1600K未満に下げるために、20Nm/時のアルゴン流を、反応ゾーンのすぐ下流でクエンチガスとして使用し、金属性でサブミクロンのケイ素粉末への核生成を起こす。最後に、1モル%の酸素を含有するN/O混合物を100L/時で添加することによって、100℃の温度で5分間、不動態化工程を行う。
【0112】
得られたケイ素粉末の比表面積(BET)を測定すると、81m/gである。得られたケイ素粉末の酸素含有量を測定すると、7.8重量%である。ケイ素粉末の個数基準粒径分布を測定すると、dNS10=59nm、dNS50=114nm及びdNS90=192nmである。
【0113】
次いで、ドライブレンドを、200gの石油系ピッチ粉末及び0.25gの硫黄粉末(Sigma-Aldrich、純度99.98%)から作製する。ここで使用した石油系ピッチ粉末の硫黄含有量は、前述の方法を使用して測定されており、装置の検出限界を下回っていたことは言及すべきことである。したがって、最終粉末中の硫黄含有量に対するピッチ粉末の寄与は無視できる。
【0114】
そのブレンドを、窒素流下、400℃の温度まで加熱し、60分間の待機時間の後、1000rpmで動作するCowles溶解器型ミキサーによって高剪断下で30分間混合する。
【0115】
次いで、100gのケイ素粉末を、依然として400℃において、得られたばかりの混合物に添加する。そのブレンドを、窒素流下、400℃の温度まで加熱し、60分間の待機時間の後、1000rpmで動作するCowles溶解器型ミキサーによって高剪断下で30分間混合する。
【0116】
このようにして得られたピッチ中のケイ素系粉末の混合物を、室温まで冷却し、一旦固化し、粉砕し、400メッシュのふるいでふるい分けて、中間物粉末を製造する。
【0117】
その中間物粉末に次のような熱後処理を更に施す、すなわち、生成物を管状炉内の石英るつぼに入れ、3℃/分の加熱速度で1020℃まで加熱し、その温度で2時間保持した後、冷却する。これらは全てアルゴン雰囲気下で行われる。
【0118】
焼成された生成物を、最後に乳鉢で手粉砕し、325メッシュのふるいでふるいにかけ、最終粉末を形成する。
【0119】
この粉末の総Si含有量は、XRFにより測定すると、40.1重量%である。この粉末の酸素、炭素及び硫黄の含有量を測定すると、それぞれ3.4重量%、56.4重量%及び0.109重量%である。全ての炭素がマトリックス材料中にあり、10nm未満のグラファイトドメインを有するソフトカーボンに相当するので、比「S/マトリックス中の炭素質材料」は0.193%に等しい。
【0120】
得られた粉末の比表面積(BET)を測定すると、4.8m/gである。
【0121】
粉末E1の主な物理化学的特性を表2に報告する。
【0122】
[本発明による実施例2(E2)及び実施例3(E3)]
実施例2(E2)及び実施例3(E3)の粉末を製造するために、実施例1の0.25gの代わりにそれぞれ0.45g及び0.7gの量の硫黄粉末を使用することを除いて、実施例1の粉末に対してと同じ方法を使用する。それによって得られた粉末E2及びE3の主な物理化学的特性を表2に報告する。
【0123】
[本発明によらない比較例1(CE1)]
比較例1(CE1)の粉末を製造するために、硫黄粉末を使用しないことを除いて、実施例1の粉末に対してと同じ方法を使用する。それによって得られた粉末CE1の主な物理化学的特性を表2に報告する。
【0124】
[本発明によらない比較例2(CE2)]
比較例2(CE2)の粉末を製造するために、実施例1の0.25gの代わりに0.1gの量の硫黄粉末を使用することを除いて、実施例1の粉末に対してと同じ方法を使用する。それによって得られた粉末CE2の主な物理化学的特性を表2に報告する。
【0125】
[本発明によらない比較例3(CE3)]
比較例3(CE3)の粉末を製造するために、実施例1の0.25gの代わりに1.7gの量の硫黄粉末を使用することを除いて、実施例1の粉末に対してと同じ方法を使用する。それによって得られた粉末CE3の主な物理化学的特性を表2に報告する。
【0126】
[本発明によらない比較例4(CE4)]
比較例4(CE4)の粉末を製造するために、中間物粉末に更に施される熱後処理が、実施例3の粉末に関する1020℃で2時間の代わりに1200℃で8時間行われることを除いて、実施例3の粉末に対してと同じ方法が使用される。より高い温度でより長い時間行ったこの熱後処理の主な結果は、粉末CE4のマトリックス中に含まれる炭素質材料のグラファイトドメインの平均サイズが14nmであるということだが、1020℃の温度で製造された全ての他の粉末、特に、粉末E3は、10nm未満である。それによって得られた粉末CE4の主な物理化学的特性を表2に報告する。
【0127】
[本発明によらない比較例5(CE5)]
比較例5(CE5)の粉末を製造するために、実施例1で製造されたケイ素系粉末100gと熱硬化性ポリマーからブレンドを作製する。Siに対する熱硬化性ポリマーの重量比は0.2である。使用されるポリマーはフェノール-ホルムアルデヒド樹脂である。ブレンドを更に通気オーブンに入れ、熱硬化性ポリマーを150℃の温度で硬化させる。得られた硬化粉末は、続いて、サブミクロン粒子にビーズミル粉砕する。
【0128】
次に、石油系ピッチ粉末180gと硫黄粉末0.7gからドライブレンドを作製する。そのブレンドを、窒素流下、400℃の温度まで加熱し、60分間の待機時間の後、1000rpmで動作するCowles溶解器型ミキサーによって高剪断下で30分間混合する。次いで、100gの粉砕されたケイ素ポリマー粒子を、依然として400℃において、得られたばかりの混合物に添加する。そのブレンドを、窒素流下、400℃の温度まで加熱し、60分間の待機時間の後、1000rpmで動作するCowles溶解器型ミキサーによって高剪断下で30分間混合する。
【0129】
このようにして得られたピッチ中のケイ素ポリマー粒子の混合物を、室温まで冷却し、一旦固化し、粉砕し、400メッシュのふるいでふるい分けて、中間物粉末を製造する。
【0130】
この中間物粉末に次のような熱後処理を更に施す、すなわち、生成物を管状炉内の石英るつぼに入れ、3℃/分の加熱速度で1020℃まで加熱し、その温度で2時間保持した後、冷却する。これらは全てアルゴン雰囲気下で行われる。混合物中に存在する熱硬化性ポリマーは、実際の溶融工程を経ることなく分解し、その結果、熱処理中に生成された炭素マトリックス内に細孔を残す。熱硬化性ポリマーは、多孔性を作り出すための犠牲材料の役割を果たす。
【0131】
焼成された生成物を、最後に乳鉢で手粉砕し、325メッシュのふるいでふるいにかけ、最終粉末を形成する。
【0132】
この粉末における総Si含有量は、XRFにより測定すると、40.1重量%である。この粉末の酸素、炭素及び硫黄の含有量は、測定すると、それぞれ3.4重量%、56.2重量%及び0.305重量%である。多孔性の総比容積は0.016cm/gに等しいのに対して、全ての粉末E1~E3及びC1~CE4の多孔性の総比容積は0.002cm/g~0.004cm/gから成る。粉末CE5の粒子のいくつかの断面のSEM顕微鏡検査によって観察されたマトリックス材料は、多孔性であるように見えるが、粉末E1~E3及びC1~CE4の粒子のいくつかの断面のSEM顕微鏡検査によって観察されたマトリックス材料は、高密度であり、多孔性を示していない。
【0133】
[本発明による実施例4(E4)]
実施例4(E4)の粉末を製造するために、実施例2で得られた20gの中間物粉末を20gのグラファイトとローラーベンチ上で3時間混合し、その後、得られた混合物をミルに通して解凝集させる。これらの条件では良好な混合が得られるが、グラファイト粒子はピッチ中には埋め込まれない。
【0134】
得られた混合物に次のような熱後処理を更に施す、すなわち、生成物を管状炉内の石英るつぼに入れ、3℃/分の加熱速度で1000℃まで加熱し、その温度で2時間保持した後、冷却する。これらは全てアルゴン雰囲気下で行われる。
【0135】
焼成された生成物は、最後に乳鉢で手粉砕され、325メッシュのふるいでふるいにかけられて、最終的な複合粉末が形成される。それによって得られた粉末E4の主な物理化学的特性を表2に報告する。
【0136】
[本発明によらない比較例6(CE6)]
比較例6(CE6)の粉末を製造するために、比較例2で得られた20gの中間物粉末を20gのグラファイトとローラーベンチ上で3時間混合し、その後、得られた混合物をミルに通して解凝集させる。これらの条件では良好な混合が得られるが、グラファイト粒子はピッチ中には埋め込まれない。
【0137】
得られた混合物に次のような熱後処理を更に施す、すなわち、生成物を管状炉内の石英るつぼに入れ、3℃/分の加熱速度で1000℃まで加熱し、その温度で2時間保持した後、冷却する。これらは全てアルゴン雰囲気下で行われる。
【0138】
焼成された生成物は、最後に乳鉢で手粉砕され、325メッシュのふるいでふるいにかけられて、最終的な複合粉末が形成される。それによって得られた粉末CE6の主な物理化学的特性を表2に報告する。
【0139】
全ての粉末の比表面積(BET値)は3.2~4.8m/gから成る。
【0140】
【表2】
【0141】
粉末の電気化学的評価
粉末E1~E3及びCE1~CE5を、上記指定の手順に従ってコインセルで試験する。電池は、第1のサイクルの終わりに停止し、第1のリチオ化容量及び第1の脱リチオ化容量を計算する。
【0142】
粉末E1~E3及びCE1~CE5を、1:1の質量比でブレンドすることによってグラファイトで更に希釈する。
【0143】
次いで、それによって得られたE1~E3粉末及びCE1~CE5粉末からの希釈粉末、並びに粉末E4及びCE6を、上記指定の手順に従ってコインセルで試験する。
【0144】
結果を表3に報告する。ここで報告した第1のサイクルでのクーロン効率及び平均クーロン効率の値は、同様の容量を有する負極材料を含むセルを比較するために、E1~E3粉末及びCE1~CE5粉末の希釈粉末、並びにE4及びCE6の純粋粉末についてのものである。
【0145】
【表3】
【0146】
結果を比較すると、負極材料として本発明による粉末E1~E4を含むセルは、本発明によらない粉末CE1~CE6を含むセルと比較して、サイクル1でより高いクーロン効率を有し、サイクル5~50でより高い平均クーロン効率を有することは明らかである。
【国際調査報告】