(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】亜鉛表面を有する金属部材の活性化リン酸亜鉛化のための多段階処理
(51)【国際特許分類】
C23C 22/36 20060101AFI20241024BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20241024BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20241024BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20241024BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20241024BHJP
C09D 125/04 20060101ALI20241024BHJP
C09D 123/26 20060101ALI20241024BHJP
C09D 151/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C23C22/36
C23C28/00 C
C09D5/02
C09D201/00
C09D7/61
C09D125/04
C09D123/26
C09D151/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525811
(86)(22)【出願日】2022-10-28
(85)【翻訳文提出日】2024-05-21
(86)【国際出願番号】 EP2022080169
(87)【国際公開番号】W WO2023078791
(87)【国際公開日】2023-05-11
(32)【優先日】2021-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391008825
【氏名又は名称】ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
【住所又は居所原語表記】Henkelstrasse 67,D-40589 Duesseldorf,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】ポスナー,ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】バルツァー,マルク
(72)【発明者】
【氏名】ヴァプナー,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ブラウウェル,ヤン-ウィレム
【テーマコード(参考)】
4J038
4K026
4K044
【Fターム(参考)】
4J038CB141
4J038CC021
4J038CP021
4J038CP031
4J038CP091
4J038HA066
4J038HA386
4J038HA406
4J038JB01
4J038MA08
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4J038NA03
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4J038PA19
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4J038PC02
4K026AA02
4K026AA07
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4K026CA18
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4K026DA03
4K044AA02
4K044AA06
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4K044BA11
4K044BB03
4K044BC02
4K044BC04
4K044CA16
4K044CA53
(57)【要約】
本発明は、一連の複数の部材の防錆前処理方法であって、少なくとも部分的に亜鉛表面を有する一連の部材の各々を、鉄付着およびリン酸亜鉛化のための逐次的な処理工程に付す方法に関する。鉄付着の処理工程において形成される層は、亜鉛表面1m2当たり少なくとも10mgの元素鉄である。この鉄付着に続くリン酸亜鉛化は、亜鉛イオン、リン酸イオンおよび遊離フッ化物に加えて水中に分散され少なくとも部分的にホーパイト、ホスホフィライト、ショルツァイトおよび/またはヒュリューライトからなる粒状成分も含んでなり、少なくとも1種の有機高分子化合物で安定化されたこれらの結晶質固体の水性分散体を用いて提供された、酸性水性組成物を用いて実施する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一連の複数の部材の防錆前処理方法であって、
少なくとも部分的に亜鉛の表面を有する一連の部材の各々を、まず亜鉛表面上に鉄を付着させるための湿式化学的処理工程(i)に付し、次いでリン酸亜鉛化のための処理工程(ii)に付し、
処理工程(i)において、部材の亜鉛表面1m
2当たり少なくとも10mgの元素鉄のコーティング層がもたらされ、
処理工程(ii)において、各部材を、ゼロ超ポイントの遊離酸を有し、
(A)PO
4として計算され、水中に溶解した5~50g/kgのリン酸塩、
(B)0.3~3g/kgの亜鉛イオン、
(C)遊離フッ化物、および
(D)多価金属カチオンリン酸塩を含んでなる水分散粒状成分であって、該リン酸塩が、ホーパイト、ホスホフィライト、ショルツァイトおよび/またはヒュリューライトからの少なくとも部分的に選択される水分散粒状成分
を含有する酸性水性組成物と接触させ、
酸性水性組成物は、成分(A)~(C)を含有する酸性水性組成物に水性分散体を添加することにより得られ、
水性分散体は、
・ホーパイト、ホスホフィライト、ショルツァイトおよび/またはヒュリューライトから少なくとも部分的に選択される多価金属カチオンリン酸塩からなる、少なくとも1種の粒状無機化合物(P1)、および
・少なくとも1種の有機高分子化合物(P2)
を含んでなる水分散粒状成分(P)を含んでなる、方法。
【請求項2】
処理工程(ii)のための酸性水性組成物を供給するための水性分散体を、水性分散体の粒状成分(P)からのリン酸塩の重量割合が酸性水性組成物に基づいて少なくとも0.004g/kg、好ましくは少なくとも0.01g/kg、特に好ましくは少なくとも0.05g/kg、非常に特に好ましくは少なくとも0.08g/kgとなる量で添加することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
処理工程(ii)の選択された条件下、溶融亜鉛メッキ鋼表面(Z)上に5.0g/m
2未満、好ましくは4.5g/m
2未満、特に好ましくは4.0g/m
2未満、非常に特に好ましくは3.5g/m
2未満の層重量を有するリン酸亜鉛層を形成する酸性水性組成物の特性を維持するのに十分な量で水分散形態の粒状成分(P)を含む活性化剤を、リン酸亜鉛化の処理工程(ii)における酸性水性組成物に連続的または不連続的に添加し、粒状成分(P)は、
・ホーパイト、ホスホフィライト、ショルツァイトおよび/またはヒュリューライトから少なくとも部分的に選択される多価金属カチオンリン酸塩からなる、少なくとも1種の粒状無機化合物(P1)、および
・少なくとも1種の有機高分子化合物(P2)
を含んでなることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
処理工程(ii)において、水性分散体または活性化剤の粒状成分(P)における有機高分子化合物(P2)は、スチレンおよび/または炭素数5超のα-オレフィンから少なくとも部分的になり、有機高分子化合物(P2)は、その側鎖にマレイン酸、その無水物および/またはイミドの単位、好ましくは更にポリオキシアルキレン単位、特に好ましくはポリオキシアルキレン単位を更に有し、有機高分子化合物(P2)は好ましくは側鎖にイミダゾール単位を更に有することを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
処理工程(ii)において、リン酸亜鉛化のための酸性水性組成物は、3.6未満、好ましくは3.4未満、特に好ましくは3.2未満のpHを有し、遊離酸は、好ましくは0.5ポイント超、特に好ましくは0.8ポイント超、より特に好ましくは1.0ポイント超であることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
処理工程(ii)において、リン酸亜鉛化のための酸性水性組成物は、遊離フッ化物源、好ましくは少なくとも10mg/kg、特に好ましくは少なくとも40mg/kgであるが好ましくは200mg/kg以下の遊離フッ化物を含有することを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
湿式化学的処理工程(i)において、それぞれの場合に、亜鉛により形成された部材の表面上の部材の亜鉛表面の1m
2当たり少なくとも20mg、好ましくは少なくとも40mg、非常に特に好ましくは少なくとも60mgであるが好ましくは150mg未満、特に好ましくは120mg未満の元素鉄に基づくコーティング層がもたらされることを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
湿式化学的処理工程(i)を、好ましくは、鉄(II)イオンおよび/または鉄(III)イオンを含有する水性組成物に、一連の部材の亜鉛表面を少なくとも接触させることによって実施し、水中に溶解した鉄イオンの割合は少なくとも50mg/Lであり、好ましくは少なくとも100mg/Lであるが好ましくは合計で10mg/L未満の金属銅、ニッケル、コバルト、錫、マンガン、モリブデン、クロムおよび/またはセリウムのイオン化合物、特に1mg/L未満の金属ニッケルおよびコバルトのイオン化合物が、金属元素に対してそれぞれの場合に水性組成物に含まれていることを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
好ましくは8.5以上、特に好ましくは9.5以上、非常に特に好ましくは10.5以上であるが好ましくは13.5以下、特に好ましくは12.5以下、非常に特に好ましくは11.5以下のpH値を有し、
(a)少なくとも50mg/L、好ましくは少なくとも100mg/L、特に好ましくは少なくとも200mg/Lの鉄(III)イオン、および
(b)PO
4として計算された少なくとも100mg/Lの、COOX、OPO
3Xおよび/またはPO
3X[ここで、Xは、H原子、アルカリ金属原子および/またはアルカリ土類金属原子のいずれかである]から選択される少なくとも1個の官能基を有する有機化合物(b1)および/または縮合リン酸塩(b2)から選択される錯化剤
を含有するアルカリ性水性組成物との接触により湿式化学的処理工程(i)を実施し、該組成物は好ましくは、少なくとも1ポイントであるが好ましくは6ポイント未満の遊離アルカリ度を有することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
アルカリ性水性組成物は、少なくとも100mg/L、好ましくは少なくとも200mg/L、特に好ましくは少なくとも500mg/Lであるが10g/L以下のリン酸イオンを更に含有し、アルカリ性水性組成物における鉄(III)イオンとリン酸イオンとの質量比は1:20~1:2の範囲内であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
アルカリ性水性組成物における全成分(B)と鉄(III)イオンとのモル比は、1:1超、好ましくは少なくとも2:1、特に好ましくは少なくとも5であることを特徴とする、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
リン酸亜鉛化の処理工程(ii)における酸性水性組成物との接触の前に、一連の部材を、ホーパイト、ホスホフィライト、ショルツァイトおよび/またはヒュリューライト、好ましくは多価金属カチオンリン酸塩、または粒状成分中の元素Ti難溶性塩を含有するコロイド水溶液と接触させず、好ましくは、処理工程(ii)の酸性水性組成物との接触の前に、リン酸亜鉛化のための部材の表面を活性化するためのコロイド水溶液と接触させず、特に好ましくは、リン酸亜鉛化のための部材の表面を活性化するための活性化段階に付さないことを特徴とする、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
処理工程(i)の前または処理工程(i)と一緒に、特に、好ましくはアルカリ性の水性清浄化剤との接触により、一連の部材を清浄化段階で清浄化して任意に脱脂し、処理工程(i)の直後に、中間濯ぎ工程を伴ってまたは伴わずに、好ましくは中間濯ぎ工程を伴わずに、清浄化段階を行うことを特徴とする、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
一連の部材は、金属アルミニウムの表面、特に好ましくは金属アルミニウムおよび鉄の表面を更に有することを特徴とする、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1.0g/m
2、好ましくは少なくとも1.5g/m
2の層重量を有するリン酸亜鉛層が亜鉛表面上に形成されることを特徴とする、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一連の複数の部材の防錆前処理方法であって、亜鉛の表面を少なくとも部分的に有する一連の部材の各々を、鉄付着およびリン酸亜鉛化の逐次的な処理工程に付す方法に関する。鉄付着の処理工程では、得られるコーティング層は、亜鉛表面1m2当たり少なくとも10mgの元素鉄である。この鉄付着に続くリン酸亜鉛化は、亜鉛イオン、リン酸イオンおよび遊離フッ化物に加えて水中に分散され少なくとも部分的にホーパイト、ホスホフィライト、ショルツァイトおよび/またはヒュリューライトからなる粒状成分も含んでなり、少なくとも1種の有機高分子化合物で安定化されたこれらの結晶質固体の水性分散体を用いて提供された、酸性水性組成物を用いて行う。
【背景技術】
【0002】
層形成リン酸塩化は、金属表面、特に金属鉄、亜鉛およびアルミニウムの材料に結晶質の防食コーティングを施す処理であって、数十年にわたって使用され、徹底的に研究されてきた。腐食防止として特に十分確立されているリン酸亜鉛化は、数マイクロメートルの層厚さで実施され、亜鉛イオンおよびリン酸塩を含む酸性水性組成物中での金属材料の腐食酸洗に基づく。酸洗過程で、金属表面上にアルカリ拡散層が形成され、この層は溶液の内部まで広がり、その中で難溶性の微結晶が形成される。この微結晶は金属材料との界面に直接析出し、そこで成長を続ける。金属アルミニウム材料上の酸洗反応をサポートするため、そして溶解状態で金属材料上の層形成を妨げる浴毒(bath poison)アルミニウムをマスクするため、フッ化物イオン源である水溶性化合物がしばしば添加される。
【0003】
リン酸亜鉛化は、金属鉄、亜鉛およびアルミニウムの表面上に均一で閉じた緻密な結晶質のコーティングが得られるように標準として調整される。そうでなければ、良好な腐食保護と良好なコーティングベースを実現できない。リン酸亜鉛化における均一な閉じたコーティングは、通常、2g/m2の層重量から容易に達成される。リン酸塩化する金属表面に応じて、金属鉄または鋼、亜鉛およびアルミニウムの表面上に相応の高い層重量を確保するために、上記酸洗、およびリン酸亜鉛化段階での活性成分の濃度を調整する必要がある。
【0004】
腐食防止およびコーティング密着性、特に良好な電着塗装特性にとって重要なリン酸亜鉛化のもう1つの特性は、付着工程が自己制限的であること、即ち、リン酸亜鉛化の酸性pH値で起こるリン酸塩層の溶解がリン酸塩微結晶の成長または継続成長と定常平衡状態にあり、そのため層重量が増加しなくなることである。これは、結晶質であるが多孔質であるため緻密な結晶質ではない層コーティングの成長を示すものである。技術的なリン酸亜鉛化処理において、これは、リン酸亜鉛化湿式化学的処理工程において、プラント技術およびコスト効率の観点から合理的である通常約20秒から5分の処理時間の場合に、均一な閉じた結晶質リン酸亜鉛コーティングの形成が完了し、コーティングの自己制限厚さが既に理想的な値に達していなければならないことを意味する。これは、コーティングがリン酸塩微結晶の可能な限り高い数密度で成長し、その結果、層形成が自己制限範囲に達して可能な限り低い層重量で所定の制限層厚さに達することによって、技術的に確保される。
【0005】
そのような高度の緻密さまたは高い数密度を有するリン酸塩微結晶を含む均一な閉じたコーティングを得るために、従来のリン酸亜鉛化は常に、リン酸塩化する部材の金属表面の活性化から開始される。この活性化は通常、リン酸塩のコロイド水溶液との接触により通常行われる湿式化学的処理工程(活性化段階)である。リン酸塩は、金属表面上に固定化されると、後続のリン酸塩化においてアルカリ拡散層内に結晶質コーティングを形成するための成長核として機能するので、成長する微結晶の高い数密度がもたらされ、その結果、優れた耐食性と、高い電荷移動抵抗の故に優れた電着塗装特性とを併せ持つ緻密な結晶質リン酸亜鉛層が形成される。
【0006】
この場合に適した分散体は、形成されるリン酸亜鉛層の種類からの結晶構造の結晶学的偏差が僅かしか存在しない、リン酸塩微結晶に基づくコロイド状でほぼ中性からアルカリ性の水性組成物である。これに関して、WO 98/39498 A1には、特に、金属Zn、Fe、Mn、Ni、Co、CaおよびAlの二価および三価リン酸塩が教示されており、後続のリン酸亜鉛化のための活性化に、金属亜鉛のリン酸塩を使用することが技術的に好ましいことが教示されている。
【0007】
二価および三価のリン酸塩の分散体に基づく活性化段階では、特に一連の金属部材を処理する場合、活性化性能を常に最適なレベルに保つために高度なプロセス制御が要求される。この方法の十分な堅牢性を確保するためには、先の処理浴またはコロイド水溶液中でのエージング処理から持ち込まれた外来イオンが活性化性能を低下することを招いてはならない。低下は、後続のリン酸塩化における層重量の増加でまず目立ち始め、最終的には欠陥のある、不均一な、または緻密性の低いリン酸塩層の形成を招く。従って、全体として、上流の活性化を伴う層形成リン酸亜鉛化は、技術的に制御が難しい多段階法であり、これまでは、処理化合物と消費されるエネルギーとの両方の点で、資源を大量に消費する方法で実施されてきた。
【0008】
本発明に特に関連する自動車製造の分野では、様々な金属材料がますます使用され、複合構造に接合されている。主にその特定の材料特性の故に、車体構造には依然として様々な鋼が使用されているが、特に車体全体の重量を大幅に低減するために、アルミニウム等の軽量金属の使用も増えてきている。とりわけ自動車産業では、しばしば、リン酸亜鉛化において通常5.0g/m2未満のコーティング重量を有する緻密な結晶質リン酸塩層の成長を確保するために、鋼表面と比べて、従来技術で知られているリン酸亜鉛化方法によって亜鉛の表面を特に良好に活性化しなければならないことが課題である。なぜなら、そのようなリン酸塩層重量を超えると、亜鉛表面上に十分な防食効果が存在せず、工程は、リン酸塩の高い消費量にも起因して、資源節約的にも経済的にも実施されないからである。
【0009】
WO 2019/238573 A1は、リン酸亜鉛化のための資源節約法を扱っており、間接的に、特定の方法で分散された二価および三価のリン酸塩に基づく特に効果的な活性化を提供することによる多段階法の困難性の軽減も扱っている。この活性化は、二価および三価のリン酸塩に基づき、沈降に対して非常に安定で、活性化段階での比較的低い粒子含有量を伴った(従って、リン酸亜鉛化における層の形成に起因して材料の要求も低減される)均一な閉じた非常に緻密なリン酸亜鉛コーティングを可能にするコロイド状水溶液を提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO 98/39498 A1
【特許文献2】WO 2019/238573 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、方法全体にわたって資源をあまり消費しないように、理想的には同時に簡素化された手順で実施できるように、活性化段階およびリン酸塩化段階を含むリン酸亜鉛化の予備処理ラインを最適化することに対する要求はなお存在する。しかし、方法全体で資源を節約するためには、リン酸亜鉛化の特性を犠牲にしてはならない。リン酸亜鉛化は、腐食に対する良好な保護と、それに応じた後続の電着塗装におけるコーティングの良好な被覆を可能にするために、高い電荷移動抵抗を備えた均一な閉じた緻密な結晶質コーティングとして提供されなければならない。特に、これは、最も一般的な用途、即ち、部材の一連の処理において常に確保されなければならず、亜鉛の表面を有する部材に対しては、経済的に魅力的で資源を節約する方法も提供されなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
意外なことに、この困難な要求プロファイルは、所定量の粒状リン酸亜鉛分散体をリン酸亜鉛化のための酸性水性組成物に添加し、それにより、リン酸亜鉛化のための組成物が自己活性化する場合に満たすことができる。そして、一連の部材のリン酸亜鉛化のための予備処理ラインの活性化性能は、上述した粒状リン酸亜鉛分散体に基づいた活性化剤の計量添加により維持され得る。これにより、リン酸亜鉛化湿式化学的処理段階の上流の活性化段階を少なくとも部分的にまたは完全に省略することが可能になり、これにより、リン酸亜鉛化の方法全体を、材料およびエネルギーの消費量が少ない方法で実施することが可能になり、従来技術では必ず必要とされた別個の活性化段階という形態での技術的な困難性を軽減することが可能になる。一連の亜鉛表面含有部材の成功裏のリン酸塩化に役立つ、本発明の前処理ラインの経済的かつ資源節約的操作にとって重要なのは、亜鉛表面上に鉄コーティングを付着させるためのリン酸亜鉛化上流の湿式化学的工程である。これは、前記表面上のリン酸塩層重量を顕著に低減する。そのため、一連の亜鉛表面含有部材に低い材料消費で一定の満足のいく防食値をもたらすという本発明の目的は、確実に達成される。
【0013】
従って、本発明は、一連の複数の部材の防錆前処理方法であって、
少なくとも部分的に亜鉛の表面を有する一連の部材の各々を、まず亜鉛表面上に鉄を付着させるための湿式化学的処理工程(i)に付し、次いでリン酸亜鉛化のための処理工程(ii)に付し、
処理工程(i)において、部材の亜鉛表面1m2当たり少なくとも10mgの元素鉄のコーティング層がもたらされ、
処理工程(ii)において、各部材を、ゼロ超ポイントの遊離酸を有し、
(A)PO4として計算され、水中に溶解した5~50g/kgのリン酸塩、
(B)0.3~3g/kgの亜鉛イオン、
(C)遊離フッ化物、および
(D)多価金属カチオンリン酸塩を含んでなる水分散粒状成分であって、該リン酸塩が、ホーパイト、ホスホフィライト、ショルツァイトおよび/またはヒュリューライトから少なくとも部分的に選択される水分散粒状成分
を含有する酸性水性組成物と接触させ、
酸性水性組成物は、成分(A)~(C)を含有する酸性水性組成物に水性分散体を添加することにより得られ、
水性分散体は、
・ホーパイト、ホスホフィライト、ショルツァイトおよび/またはヒュリューライトから少なくとも部分的に選択される多価金属カチオンリン酸塩からなる、少なくとも1種の粒状無機化合物(P1)、および
・少なくとも1種の有機高分子化合物(P2)
を含んでなる水分散粒状成分(P)を含んでなる、方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一連の前処理は、一連の部材のそれぞれを本発明の方法に従ってリン酸亜鉛化のための処理工程に付し、この目的のために系タンク内に供給されたリン酸亜鉛化のための浴液の少なくとも1つと接触させた場合に、各部材を次々と、従って異なる時間に接触させることである。この場合、この系タンクは、湿式化学的前処理によるリン酸亜鉛化の目的のために酸性水性組成物が導入された容器である。系タンク内で、例えば浸漬によって、または系タンク外で、例えば系タンクに貯蔵された浴液上で噴霧することによって、部材を系タンクの浴液と接触させることができる。
【0015】
本発明に従って処理される部材は、製造方法に由来する任意の形状およびデザインの三次元構造であり得、特に、ストリップ、シート、ロッド、パイプ等の半製品および該半製品から組み立てられた複合構造を包含する。半製品は、好ましくは、接着、溶接および/またはフランジ加工等により相互接合され、複合構造を形成している。
【0016】
本発明の方法に関し、部材は、この表面上の金属構造の50at%超が、少なくとも1μmの材料侵入深さまで、亜鉛または鉄またはアルミニウムで構成されている場合、亜鉛、または金属鉄若しくはアルミニウムのいずれかである少なくとも1つの表面を有する。これは一般に、金属材料の50at%超が均一な材料として亜鉛または鉄またはアルミニウムで構成されている場合に限り、対応する金属材料で作られた部材に適用される。しかし、亜鉛の表面を含む部材もまた、例えば電解亜鉛メッキまたは溶融亜鉛メッキ鋼等の金属コーティングが施された鉄材料であり、これらは、鉄(ZF)、アルミニウム(ZA)および/またはマグネシウム(ZM)と合金化することもできる。
【0017】
処理工程(i)-鉄付着:
本発明によれば、部材の亜鉛表面1m2当たり少なくとも10mgの元素鉄に基づくコーティング層の付着が必要である。鉄のコーティング層が多いことは、後続の処理工程(ii)におけるリン酸塩層重量の低減に有利である。従って、本発明の方法の湿式化学的処理工程(i)では、亜鉛により形成された部材の表面上において、少なくとも20mg、特に好ましくは少なくとも40mg、非常に特に好ましくは少なくとも60mgの元素鉄に基づくコーティング層が好ましい。しかし、リン酸亜鉛化との関係で有機トップコートは接着力を低下するので、亜鉛表面上の顕著に高い鉄コーティング層は本発明の方法にとって不利であると判明することがしばしば観察され得る。従って、湿式化学的処理工程(i)では、部材の亜鉛表面1m2当たり各々の場合に150mg未満、特に好ましくは120mg未満に鉄のコーティング層が制限されることが好ましい。
【0018】
処理工程(i)における湿式化学的処理工程は、一連の部材を、溶解または分散形態で水系相に鉄付着のための活性成分を含む水系組成物と接触させる場合に存在する。組成物は、水の割合が組成物全体に基づいて各々の場合に少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%、特に好ましくは少なくとも80重量%の場合に水系である。
【0019】
所望のコーティング層における鉄付着のための適当な湿式化学的方法は、当業者に知られている。付着は典型的には、鉄(II)イオンおよび/または鉄(III)イオンを含有する水性組成物との亜鉛表面の少なくとも接触により起こり、水に溶解した鉄イオンの割合は、少なくとも50mg/L、好ましくは少なくとも100mg/Lである。
【0020】
亜鉛表面上の鉄のコーティング層は、酸洗および光分析により測定される。定量的測定のため、所定の試料体積の5重量%硝酸溶液を、亜鉛メッキシートの所定の表面上に、測定セルリングを用いた処理工程(i)の直後にピペットで移動し、25℃の温度で30秒間暴露した後、25℃の温度において517nmの波長で吸収を測定するために、1.0%チオシアン酸ナトリウム溶液が先に導入されたUV測定キュベットに移動する。2ポイントプロセスの校正は、5重量%硝酸中硝酸鉄(III)の2つの標準溶液の吸収値を測定することによって行う。
【0021】
リン酸亜鉛層形成のための亜鉛表面上の鉄コーティングのプラスの効果を低減する貴元素の金属付着を回避するため、また、環境上の理由から、処理工程(i)における鉄付着のための水性組成物が、水性組成物中の金属元素に基づいて各々の場合に、合計で10mg/L未満の金属銅、ニッケル、コバルトのイオン化合物、特に好ましくは合計で10mg/L未満の金属銅、ニッケル、コバルト、錫、マンガン、モリブデン、クロムおよび/またはセリウムのイオン化合物、特に好ましくは各々の場合に1mg/Lの金属ニッケルおよびコバルトのイオン化合物を含むことが好ましい。
【0022】
同様に、処理工程(i)における鉄付着と競合する層形成を回避するために、鉄付着のための水性組成物が、合計で20mg/L未満の元素Zr、Ti、Hfおよび/またはSiの水溶性化合物、特に好ましくは各々の場合に5mg/L未満の、特に好ましくは各々の場合に1mg/L未満の元素Zr、Ti、HfまたはSiの水溶性化合物を含むことが好ましい。
【0023】
鉄(II)イオン存在下での酸性水性組成物からの亜鉛上の鉄付着は、WO 2008/135478 A1に記載されている。そのような方法も、本発明において適当であり、特に後続の処理工程(ii)におけるリン酸亜鉛化のpH値との適合性の故に有利である。これに関し、2.0~6.0のpH値を有し、少なくとも50mg/Lの鉄(II)イオンおよび好ましくはα-ヒドロキシカルボン酸を好ましくは5:1~1:5の鉄イオンのモル比で含み、特に好ましくはリンまたは窒素のオキソ酸およびそれらの塩(少なくとも1個のリンまたは窒素原子が平均的な酸化状態で存在する)、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、ニトログアニジン、N-メチルモルホリン-N-オキシド、グルコヘプトネート、アスコルビン酸および/または還元糖から選択される少なくとも1つの還元剤を更に含む酸性水性組成物との接触が好ましい。
【0024】
或いは、後続のリン酸亜鉛化の際の亜鉛表面上でのリン酸塩層重量の低減に特に効果的であるため、鉄(II)イオンおよび/または鉄(III)イオンを含むアルカリ性水性組成物のpH値が好ましくは8.5以上、特に好ましくは9.5以上、非常に特に好ましくは10.5以上であるが好ましくは13.5以下、特に好ましくは12.5以下、非常に特に好ましくは11.5以下である、アルカリ性水性組成物からの鉄コーティングの付着が特に有利である。
【0025】
本発明の方法の工程(i)におけるそのようなアルカリ性水性組成物の好ましい実施形態では、
(a)少なくとも50mg/L、好ましくは少なくとも100mg/L、特に好ましくは少なくとも200mg/Lの鉄(III)イオン、および
(b)PO4として計算された少なくとも100mg/Lの、COOX、OPO3Xおよび/またはPO3X[ここで、Xは、H原子、アルカリ金属原子および/またはアルカリ土類金属原子のいずれかである]から選択される少なくとも1個の官能基を有する有機化合物(b1)および/または縮合リン酸塩(b2)から選択される錯化剤
が存在する。ここで、該組成物は、好ましくは、少なくとも1ポイントであるが好ましくは6ポイント未満の遊離アルカリ度を有する。
【0026】
成分(b1)の「縮合リン酸塩」とは、室温で水溶性であるメタリン酸塩(Men[PnO3n])、イソメタリン酸塩および架橋ポリリン酸塩を組み合わせるジ-、トリ-およびポリリン酸塩(Men+2[PnO3n+1]またはMen[H2PnO3n+1])[ここで、Meはアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子のいずれかである]を意味する。もちろん、水溶性塩に代えて、対応するリン酸縮合酸も、記載の遊離アルカリ度に調整されていれば、アルカリ性水性組成物の調製に使用することができる。成分(b1)の「縮合リン酸塩」の質量ベースの割合は常に、対応するPO4の量として計算される。同様に、縮合リン酸塩の量を構成するモル比を決めるとき、縮合リン酸塩のこの量は常に、PO4の当量に基づく。
【0027】
本発明の方法の工程(i)におけるアルカリ性水性組成物が、亜鉛表面上に鉄のコーティング層をもたらすことが見出された。該コーティング層は、後続のリン酸亜鉛化に適しており、遊離アルカリ度が5ポイント未満の場合特に確実に緻密な結晶質リン酸亜鉛層を形成できる。噴霧法でのアルカリ性水性組成物の適用のためには、適当な鉄コーティング層は、特に遊離アルカリ度が4ポイント未満の場合にもたらされる。意外なことに、上述したように、リン酸亜鉛化との関係で有機トップコートに対してより劣った接着性を示すので、150mg/m2を超える亜鉛表面上の高い鉄コーティング層はむしろ本発明の方法に不利であることが見出された。従って、工程(i)におけるアルカリ性水性組成物は、過度に高い遊離アルカリ度を有してはならない。しかし、遊離アルカリ度は、元素鉄に基づいて少なくとも20mg/m2の亜鉛表面上の最適なコーティング層を形成するために、好ましくは少なくとも2ポイントでなければならない。6ポイント超の遊離アルカリ度を有するアルカリ性水性組成物は、亜鉛表面上の高い鉄コーティング層を形成する;しかし、工程(ii)後に任意に適用されてよいコーティング層への接着性は、元素鉄に基づく高いコーティング層により顕著に低下し、従って、腐食保護も効果は低いか不十分である。
【0028】
遊離アルカリ度は、0.1Nの酸(例えば塩酸または硫酸)で、好ましくは50mLに希釈した2mLの浴液を8.5のpH値まで滴定することにより測定される。mL単位での酸溶液の消費が、遊離アルカリ度のポイント数を示す。
【0029】
理想的には、本発明の方法の工程(i)におけるアルカリ性水性組成物は、少なくとも9.5、特に好ましくは少なくとも10.5のpH値を有する。10.5以下のpH値では、もっぱら還元剤の存在下で鉄(II)イオンおよび/または鉄(III)イオンを含む組成物と接触させると、少なくとも20mg/m2の鉄コーティング層が亜鉛表面上に形成される。鉄コーティングを形成するためのこの種の組成物は、WO 2011/098322 A1に開示されている。該組成物はアミノ酸を含み、リンまたは窒素のオキソ酸およびそれらの塩から選択される還元剤を更に含む。少なくとも1つのリン原子または窒素原子は平均的な酸化状態で存在し、本発明において、それ自体も適している。
【0030】
部材の亜鉛表面上の酸洗攻撃を最小化するために、本発明の方法の工程(i)におけるアルカリ性水性組成物のpH値が13.5以下、特に好ましくは12.5以下であることが更に好ましい。部材が亜鉛表面に加えてアルミニウム表面を有する場合、本発明の方法の工程(i)における組成物のpH値が11.5以下であることが有利である。そうでなければ、強まった酸洗攻撃がアルミニウム表面の強い黒変(いわゆるウェル・ブラックネス)を招き、これは、例えば本発明の方法の工程(ii)におけるリン酸亜鉛化に関する、または、工程(ii)においてアルミニウム上に層が形成されないように調整されたリン酸亜鉛化の場合は、本発明の方法に従った元素ジルコニウムおよび/またはチタンの水溶性無機化合物に基づく酸性後不動態化に関する、後続の転換処理の有効性に悪影響を及ぼす。
【0031】
大気中酸素で飽和すると、アルカリ性水性組成物中において好ましくは一般的なpH値で、鉄イオンは、鉄(III)イオンとして主に存在する。本発明の方法の工程(i)において、その割合は、好ましくは2000mg/L以下である。アルカリ性媒体中での鉄(III)イオンの溶解度は、それに応じて高い割合の錯化剤によって維持しなければならないので、より高い割合の鉄(III)イオンは、プロセス制御にとって不利であり、亜鉛表面上の鉄コーティングに関するより好適な特性は達成されない。しかし、一方では、本発明の方法にとって典型的な2分未満の処理時間内に本発明の方法の工程(i)において十分な亜鉛表面上鉄コーティング層を確保するため、他方では、本発明の方法の工程(ii)において亜鉛表面上に優れた層特性のリン酸塩層を得るため、鉄(III)イオンの割合が少なくとも100mg/L、特に好ましくは少なくとも200mg/Lである、そのようなアルカリ性水性組成物が、本発明の方法の工程(i)において好ましい。
【0032】
本発明の方法の工程(i)におけるアルカリ性水性組成物の成分(b)に従う錯化剤は、好ましくは、全成分(b)と鉄(III)イオンとのモル比が1:1超、特に好ましくは少なくとも2:1、とりわけ好ましくは少なくとも5となる量で含まれる。溶液中で長期的に鉄(III)イオンの割合を維持するので、化学量論的に過剰な量で錯化剤を使用することがプロセス制御にとって有利であることが見出された。これにより、不溶性水酸化鉄の析出が完全に抑制されるので、アルカリ性水性組成物は長期的に安定性を維持し、鉄(III)イオンは枯渇しない。それにもかかわらず、同時に、亜鉛表面上に鉄イオン含有無機層の十分な付着が起こる。それにもかかわらず、経済性と錯化剤の資源節約の理由から、組成物(A)における鉄(III)イオンに対する成分(b)のモル比は10以下であることが好ましい。
【0033】
好ましい実施形態では、アルカリ性水性組成物は、本発明の方法の工程(i)において少なくとも100mg/Lのリン酸イオンを更に含んでよい。リン酸イオンのこの割合は、鉄イオンに加えてリン酸イオンも、工程(i)において亜鉛表面上に形成された鉄含有コーティング層の実質的な構成成分であることを必要とする。そのような層は後続のリン酸亜鉛化にとって有利であり、リン酸亜鉛化と相互作用して、後に適用されるコーティング層に良好な接着を提供することが見出された。従って、本発明の方法の工程(i)において、アルカリ性水性組成物が少なくとも200mg/L、特に好ましくは少なくとも500mg/Lのリン酸イオンを含有することが更に好ましい。不動態層の割合は、本発明の方法の工程(i)において部材の亜鉛表面を組成物(A)と接触させたとき、4g/Lのリン酸イオンの割合を超えると更なるプラスの影響を受けないので、経済効率上の理由から、本発明の方法の工程(i)におけるアルカリ性水性組成物におけるリン酸イオンの割合は、好ましくは10g/L以下であるべきである。
【0034】
それにより、リン酸イオンに対する鉄(III)イオンの比は、広い範囲で変化し得る。本発明の方法の工程(i)におけるアルカリ性水性組成物における鉄(III)イオンとリン酸イオンとの質量ベース比は、好ましくは1:20~1:2の範囲、特に好ましくは1:10~1:3の範囲である。鉄(III)イオンとリン酸イオンとのそのような質量比を有するアルカリ性水性組成物は、亜鉛表面との接触後、元素鉄に基づいて20~150mg/m2の範囲の容易に調整可能なコーティング層を有する均一なリン酸イオン含有黒灰色層をもたらす。
【0035】
縮合リン酸塩(b2)は、錯化により、アルカリ性媒体中に溶解して鉄(III)イオンを維持できる。本発明の方法の工程(i)におけるアルカリ性水性組成物に使用できる縮合リン酸塩の種類は、特に限定されるものではないが、特に水溶性が高く非常に入手しやすいことから、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩および/またはポリリン酸塩から、特に好ましくはピロリン酸塩から選択される縮合リン酸塩が好ましい。
【0036】
アルカリ性水性組成物中に錯化剤として同様に存在するか、または縮合リン酸塩(b2)の代替として存在する有機化合物(b1)として、本発明の方法の工程(i)では、酸形態(X=水素原子)で少なくとも250の酸価を有する化合物が好ましい。より低い酸価は有機化合物に表面活性特性をもたらすので、250未満の酸価を有する有機化合物(b1)は、アニオン性界面活性剤として強い乳化作用を有し得る。これに関して、有機化合物が高い分子量を有さず、5000u、特に好ましくは1000uを超えない数平均分子量を有することが更に好ましい。好ましい酸価および任意に好ましい分子量を超えると、有機化合物(b1)の乳化効果が非常に顕著になり得るので、部材を介して清浄化段階から持ち込まれた油および引き抜きグリース形態の不純物は、例えばカチオン性界面活性剤の計量添加による、鉄コーティングの付着のための困難な分離処理を用いて処理段階からもっぱら除去され得る。従って、更なる処理パラメータを制御する必要がある。従って、本発明の方法の工程(i)におけるアルカリ性水性組成物を、浮遊油脂の従来の分離を可能にするためにもっぱら僅かに乳化するように調整することが、より有利である。アニオン性界面活性剤はまた、顕著な泡立ちを引き起こす傾向があり、これは、アルカリ性水性組成物の噴霧適用時に特に不利である。従って、少なくとも250の酸価を有する有機錯化剤(b1)が、本発明の方法の工程(i)における組成物において、好ましくは使用される。酸価は、DIN EN ISO 2114に従って、水100g中の有機化合物(b1)1gを中和するのに必要な、mg単位の水酸化カリウムの量を意味する。
【0037】
本発明の方法の工程(i)においてアルカリ性水性組成物における好ましい有機錯化剤(b1)は、α-、β-および/またはγ-ヒドロキシカルボン酸、ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、[(2-ヒドロキシエチル)(ホスホノメチル)アミノ]-メチルホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタキス(メチレンホスホン酸)および/またはアミノ-トリス-(メチレンホスホン酸)およびそれらの塩、特に好ましくは、ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、[(2-ヒドロキシエチル)(ホスホノメチル)アミノ]-メチルホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタキス(メチレンホスホン酸)および/またはアミノ-トリス-(メチレンホスホン酸)およびそれらの塩から選択される。
【0038】
本発明では、縮合リン酸塩(b2)をもっぱら含むそのようなアルカリ性水性組成物が、有機錯化剤(b1)をもっぱら含む、即ち、その両方の混合物が、本発明の方法の工程(i)において明確に含まれる。しかし、アルカリ性水性組成物における有機錯化剤(b1)の割合は、縮合リン酸塩から選択される錯化剤(b2)が存在する程度に低減できる。本発明の方法の特定の実施形態では、工程(i)におけるアルカリ性水性組成物は、縮合リン酸塩から選択される錯化剤(b2)および有機錯化剤(b1)を含み、全成分(b)と鉄(III)イオンとのモル比は1:1超であり、成分(b1)と鉄(III)イオンとのモル比は1:1未満、特に好ましくは3:4未満であるが、好ましくは少なくとも1:5である。2つの錯化剤(b1)および(b2)の混合物は、アルカリ性媒体中の縮合リン酸塩が高温でアルカリ性水性組成物のリン酸イオンと平衡するので、亜鉛表面上の層形成により消費されるリン酸イオンが縮合リン酸塩からゆっくり補充される点で有利である。しかし、逆に、縮合リン酸塩単独の存在は、亜鉛表面上に鉄およびリン酸塩に基づくコーティング層をもたらすのに不十分であるので、本発明の方法の工程(i)におけるアルカリ性水性組成物中のリン酸イオンの割合が常に好ましい。しかし、縮合リン酸塩の存在下、溶解度の低いリン酸塩、例えばリン酸鉄の沈殿は特に、10.5超の高いpH値でさえ、有機錯化剤(b1)との相互作用により抑制されるので、本発明の方法の工程(i)における錯化剤混合物含有アルカリ性水性組成物が好ましい。このとき、成分(b1)と鉄(III)イオンとのモル比が少なくとも1:5であることを確保することが好ましい。
【0039】
本発明の方法において処理される一連の部材の清浄能力を高めるために、アルカリ性水性組成物は、工程(i)において非イオン性界面活性剤を更に含むことができる。この場合、非イオン性界面活性剤は、好ましくは、合計で2~12個のアルコキシ基、特に好ましくはエトキシおよび/またはプロポキシ基(その一部は、アルキル官能基(特に好ましくは、メチル、エチル、プロピルまたはブチル官能基)により末端キャップされて存在していてよい)を有する、1以上のエトキシル化および/またはプロポキシル化C10~C18脂肪アルコールから選択される。
【0040】
本発明の方法の特定の実施形態では、工程(i)におけるアルカリ性水性組成物は、
a)0.05~2g/Lの鉄(III)イオン、
b)PO4として計算された少なくとも0.1g/Lの、COOX、OPO3Xおよび/またはPO3X[ここで、Xは、H原子、アルカリ金属原子および/またはアルカリ土類金属原子のいずれかである]から選択される少なくとも1個の官能基を有する有機化合物(b1)および/または縮合リン酸塩(b2)から選択される錯化剤、
c)0.1~4g/Lのリン酸イオン、
d)合計で0.01~10g/Lの、合計で2~12個のアルコキシ基、特に好ましくはエトキシおよび/またはプロポキシ基(その一部は、アルキル官能基(特に好ましくは、メチル、エチル、プロピルまたはブチル官能基)により末端キャップされて存在していてよい)を有する、1以上のエトキシル化および/またはプロポキシル化C10~C18脂肪アルコールから好ましくは選択される、非イオン性界面活性剤、
e)各々の場合に金属元素に基づいて、合計で10mg/L未満の、金属銅、ニッケル、コバルト、錫、マンガン、モリブデン、クロムおよび/またはセリウムのイオン化合物、特に各々場合に1mg/L未満の、金属ニッケルおよびコバルトのイオン化合物
を含み、10g/L以下の縮合リン酸塩(b2)がPO4として存在し、成分(b1)および(b2)の和と鉄(III)イオンとのモル比は1:1超であり、遊離アルカリ度は少なくとも1ポイントであるが6ポイント未満であり、pH値は少なくとも10.5である。
【0041】
本発明の方法の好ましい実施形態では、工程(i)における一連の処理の間、部材を、鉄付着のための水性組成物と、特に鉄(II)イオンおよび/または鉄(III)イオン含有アルカリ性水性組成物と、少なくとも30℃、特に好ましくは少なくとも40℃であるが70℃以下、特に好ましくは60℃以下の温度で、少なくとも30秒間であるが4分間以下の時間接触させる。本発明の方法の工程(i)における好ましい処理時間または接触時間は、少なくとも10mg/m2、好ましくは少なくとも20mg/m2の鉄コーティング層が得られるように選択すべきである。この種の最低限のコーティング層を得るための処理時間および接触時間は、適用の種類、特に処理する金属表面に作用する水性流体の流れに応じて変化する。組成物を噴霧により適用する方法では、最低限の鉄コーティング層は、浸漬適用より迅速に発達する。
【0042】
処理工程(ii)-活性化リン酸亜鉛化:
処理工程(ii)において実施される一連の部材のリン酸亜鉛化は、粒状成分として分散された多価金属カチオンリン酸塩を含むリン酸亜鉛化用酸性水性組成物によって影響を受ける。上記リン酸塩は、ホーパイト、ホスホフィライト、ショルツァイトおよび/またはヒュリューライトから少なくとも部分的に選択される。従って、酸性水性リン酸亜鉛化は自己活性化し、事前に別個に活性化する必要はなく、本発明の請求項1に従った成分(A)~(C)を含む酸性水性組成物に所定量の水性分散体を相応に添加することによって得られる。
【0043】
水性分散体は、水分散形態で粒状成分(P)を含み、これは、
・ホーパイト、ホスホフィライト、ショルツァイトおよび/またはヒュリューライトから少なくとも部分的に選択される多価金属カチオンリン酸塩からなる、少なくとも1種の粒状無機化合物(P1)、および
・少なくとも1種の有機高分子化合物(P2)
を含み、
処理工程(ii)のリン酸亜鉛化のための酸性水性組成物を提供するための水性分散体は、好ましくは、水性分散体の粒状成分からのリン酸塩の重量割合が、成分(A)~(C)を含む酸性水性組成物に基づいて、少なくとも0.004g/kg、好ましくは少なくとも0.01g/kg、特に好ましくは少なくとも0.05g/kg、非常に特に好ましくは少なくとも0.08g/kgとなる量で添加される。
【0044】
別のまたは好ましい実施形態では、本発明の方法の工程(ii)において、一連の部材を、
(A)PO4として計算された5~50g/kgの、水に溶解したリン酸塩、
(B)0.3~3g/kgの亜鉛イオン、および
(C)遊離フッ化物
を含み、0ポイント超で遊離酸を含む酸性水性組成物と接触させる。ここで、リン酸亜鉛化のための処理工程(ii)において、活性化剤を、リン酸亜鉛化処理工程(ii)の選択された条件下で溶融亜鉛メッキ鋼表面(Z)上に5.0g/m2未満、好ましくは4.5g/m2未満、特に好ましくは4.0g/m2未満、非常に特に好ましくは3.5g/m2未満の層重量を有するリン酸亜鉛層を形成する酸性水性組成物の特性を維持するのに十分な量で、酸性水性組成物に連続的または不連続的に添加する。ここで、活性化剤は、水分散形態で粒状成分(P)を含み、粒状成分(P)は、
・ホーパイト、ホスホフィライト、ショルツァイトおよび/またはヒュリューライトから少なくとも部分的に選択される多価金属カチオンリン酸塩からなる、少なくとも1種の粒状無機化合物(P1)、および
・少なくとも1種の有機高分子化合物(P2)
を含む。
【0045】
5.0g/m2未満、好ましくは4.5g/m2未満、特に好ましくは4.0g/m2未満、非常に特に好ましくは3.5g/m2未満の総重量を有するリン酸亜鉛層の成長をもたらす溶融亜鉛メッキ鋼表面(Z)上の処理工程(ii)におけるリン酸亜鉛化のための酸性水性組成物の本発明の特徴(以下、「リン酸塩化特性」と称する)は、清浄および脱脂済みの(Z)であり、かつ、工程(ii)における本発明の方法の酸性水性組成物との接触前および工程(i)における亜鉛表面上の鉄付着の後に更なる湿式化学的予備処理工程に付されない基材で確認される。酸性水性組成物のリン酸塩化特性を確認するため、先ず、pH11.0および55℃で脱イオン水(κ<1μScm-1)中2重量%のBonderite(登録商標)C-AK 1565 Aおよび0.2重量%のBonderite(登録商標)C-AD 1270として調製したアルカリ性清浄化剤を用いて溶融亜鉛メッキ鋼(Z)を5分間浸漬することにより清浄化する。このように清浄化および脱脂した基材(Z)を室温にて脱イオン水(κ<1μScm-1)で濯ぎ、次いで、選択された処理条件に従って処理工程(i)および(ii)の処理段階に供される。「選択された処理条件に従って」とは、関連する同じ温度での適用時間および浴循環、並びに本発明に従って規定されたリン酸塩化特性が適用される湿式化学的処理段階を用いること、即ち、結果として得られる溶融亜鉛メッキ鋼(Z)上層重量が5.0g/m2未満、好ましくは4.5g/m2未満、特に好ましくは4.0g/m2未満、非常に特に好ましくは3.5g/m2未満になることを意味する。従って、リン酸塩化特性は、処理工程(i)および(ii)のために一連の部材と一緒に清浄化および脱脂済み溶融亜鉛メッキ鋼シート(Z)を導入すること、および該シート上のリン酸亜鉛の総重量、従って、リン酸亜鉛化のための酸性水性組成物のリン酸塩化特性を処理工程(ii)において決めることにより、本発明の現在の方法において決めることができる。リン酸塩化浴を通して搬送フレームと一緒に部材を搬送する際のフロー状態が試験シートと可能な限り同様に再現されることを確保するため、リン酸塩化特性を決めるための試験シートとしての機能において、清浄化および脱脂済み溶融亜鉛メッキ鋼シート(Z)は、好ましくは、部材または搬送フレームにしっかりと接合される。この目的のために、そのような試験シートを伴わない部材および搬送フレームの搬送と比べて部材および搬送フレームを伴った試験シートの搬送が考えられるフロー条件に影響を受けないように、また、フロー条件がいずれの場合も実質的に同一であり、従って一連の部材の少なくとも一部のフロー条件に実質的に対応するように、試験シートを部材または搬送フレームと理想的に接合しなければならない。これは例えば、試験シートの寸法および/または形状を、いずれの場合も試験シートに隣接して配置される部材および/または搬送フレームの寸法および形状に適合させることによって達成できる。この場合、特に試験シートが部材または搬送フレームの外表面部分に配置される場合、例えば試験部材が表面部分を越えて突出するのを防ぐために、試験部材の寸法をそれに応じて前記表面部分の寸法よりも小さくすることが考えられる。それに代えてまたは加えて、試験部材は、表面部分または搬送フレームの曲率または他の平面偏差に従い得る。部材の適当な外表面の寸法と比べて十分に小さいシート部分を選択することが特に有利であることが見出された。外表面は、部材の曲率が最も低い位置または曲率が特に低い位置に配置されている場合に特に適しており、試験シート金属は、そのような外表面の面法線に沿って離間するように実質的に平行に取り付けられる。リン酸塩化特性は、亜鉛表面として溶融亜鉛メッキ鋼(Z)表面も有するそのような部材の一連の処理の際に直接得られる。方法の好ましい実施形態では、そのような部材が好ましい。
【0046】
リン酸塩化特性について、接触を1分間延長した場合に、溶融亜鉛メッキ鋼(Z)上の総重量が0.2g/m2以下で増加し、従って、選択された条件下での層形成が既に自己制限範囲内であり、そのため、本発明の方法の工程(ii)における緻密な結晶質リン酸亜鉛層を形成するリン酸亜鉛化のための酸性水性組成物の特性が確保されることが更に好ましい。従って、リン酸亜鉛化処理工程において、本発明の方法のリン酸亜鉛化処理工程の選択された条件下で溶融亜鉛メッキ鋼表面(Z)上に5.0g/m2未満、好ましくは4.5g/m2未満、特に好ましくは4.0g/m2未満、非常に特に好ましくは3.5g/m22未満の層重量のリン酸亜鉛層を形成する酸性水性組成物の特性を維持するのに十分な量の活性化剤を添加することが好ましい。ここで、酸性水性組成物との接触時間を60秒間延長したとき、本発明の方法のリン酸亜鉛化処理工程(ii)の選択された条件下で達成される層重量は、0.2g/m2以下で増加する。
【0047】
通常、リン酸塩化特性は、上述したように清浄化および脱脂された溶融亜鉛メッキ鋼(Z)が一連の処理中に一定の間隔でリン酸亜鉛化処理工程に付され、その後、層重量測定に供されることによって、本発明の方法において決められ、モニターされる。上述した通り、リン酸塩化特性は、亜鉛表面として少なくとも1つの溶融亜鉛メッキ鋼(Z)表面も有するそのような部材の一連の処理中に直接得られる。酸性水性組成物のリン酸塩化特性が活性化剤の計量添加によって確保される限り、20秒~5分間の通常の処理時間で、金属亜鉛、鉄およびアルミニウム表面を有する部材の上に、均一な閉じた緻密な結晶質リン酸亜鉛コーティングが形成される。
【0048】
リン酸亜鉛の層重量は、リン酸亜鉛化直後に25℃で5分間、リン酸塩化処理された材料または部材の所定領域に接触させる酸洗溶液としての5重量%CrO3水溶液を用いてリン酸亜鉛層を除去し、脱イオン水(κ<1μScm-1)で濯ぎ、その後、ICP-OESを用いて同じ酸洗溶液中のリン含有量を測定することによって、本発明の範囲内で測定される。リン酸亜鉛の層重量は、表面積に対するリンの量を6.23倍することで求めることができる。
【0049】
本発明の方法では、リン酸亜鉛化のための処理工程(ii)においてリン酸塩化特性を維持する目的で、活性化剤をリン酸亜鉛化のための酸性水性組成物に添加する。一連の処理プロセスにおいてリン酸塩化特性を維持するため、添加は、系タンクへの連続的または不連続的な計量によって行うことができる。連続計量添加は、一連の部材の前処理が互いに直接的に続き、経時的なリン酸塩化特性の低下が測定され得、活性化剤の量が経時的に連続して計量できる場合に好ましい。このプロセスには、前処理ラインの立ち上げ、並びに活性化剤および他の活性成分の計量添加のための材料フローの決定の後、一連の処理が、処理される部材のタイミングと特性、およびリン酸亜鉛化処理工程(ii)の処理パラメータの点で変化しない限り、リン酸塩化特性を更に確認する必要がないという利点がある。しかし、一連の処理において一定の操作モードが確保できないか、またはその系にとって好ましくない場合は、活性化剤の不連続計量が有利であり、好適でもあり得る。この場合、酸性水性組成物のリン酸塩化特性を、好ましくは、工程(ii)において不連続的にまたは所定の間隔でモニターし、そして、溶融亜鉛メッキ鋼(Z)上の総重量が5.0g/m2未満、好ましくは4.5g/m2未満、特に好ましくは4.0g/m2未満、非常に特に好ましくは3.5g/m2未満の値に達したら規定量の活性化剤を計量添加する。所定の時間間隔で行われるリン酸塩化特性の連続的または準連続的な測定は、実際のリン酸亜鉛層の重量と相関するプロキシデータを用いて実施することもできる。例えば渦電流法、またはエリプソメトリー若しくは分光反射率測定等の非接触光学的測定法を用いた、層厚さの非破壊測定は、リン酸亜鉛の層重量の適当なプロキシデータを提供する。このデータは、前処理ラインにおける部材の亜鉛表面で確実に測定することができ、溶融亜鉛メッキ部材鋼(Z)上の実際の層重量と相関させることができる。溶融亜鉛メッキ鋼(Z)上の層重量が高いほど、微結晶の数密度は低くなるが相対的に大きくなるため、粗さは層重量とともに増加するので、微結晶サイズ、従って光学的形状測定法による粗さの測定も、層重量のプロキシデータを提供できる。
【0050】
活性化剤が、一連の部材の前処理中に、好ましくは少なくとも0.001g/kg、特に好ましくは少なくとも0.005g/kg、より特に好ましくは少なくとも0.01g/kgの酸性水性組成物中粒状成分(P)の定常状態量を維持するのに適した量で、連続的または不連続的に計量される場合、リン酸塩化特性は、ほとんどの場合において既に適当であることが見出された。これは、特に、噴霧による酸性水性組成物の接触に適用される一方で、浸漬適用の場合には、好ましくは少なくとも0.002g/kg、特に好ましくは少なくとも0.01g/kg、より特に好ましくは少なくとも0.02g/kgの定常状態量の粒状成分(P)が、リン酸亜鉛化のための酸性水性組成物中に含まれるべきである。
【0051】
従って、本発明は、意外なことに、従来技術において公知であり、例えばWO 98/39498 A1に記載されているような活性化剤を、工程(ii)のリン酸亜鉛化のための酸性水性処理溶液に直接計量添加することによって、金属表面の活性化が起こり、その結果、高い電荷移動抵抗を有する均一な閉じた緻密な結晶質リン酸亜鉛コーティングが金属表面上に成長することを示す。このとき、処理工程(i)で鉄付着が起こることに起因して、亜鉛表面上に、そのような防錆および密着性の高いリン酸塩コーティングが形成される。本発明は、一連の部材処理が、亜鉛イオン、リン酸イオンおよび遊離フッ化物に加えて、水中に分散された粒状成分(P)も含む酸性水性組成物によるリン酸亜鉛化、および/またはリン酸亜鉛化のための酸性水性組成物への活性化剤の計量添加によるリン酸塩化特性の維持に基づくという点で、この効果を利用している。この場合、所望のリン酸塩化特性のために、リン酸亜鉛化処理工程の前に、一連の部材を、例えば水性分散体または活性化剤に基づく、湿式化学的活性化段階に通過させることなく、粒状成分(P)含有水性分散体の単独添加または粒状成分(P)含有活性化剤の計量添加に切り替えることができる。これにより、例えば水溶性縮合リン酸塩を用いた、必要な浴のメンテナンス、循環、温度管理および化学的に付加的なもの(chemical additivation)を含む完全な処理工程を省くことができ、極めて省資源的かつ経済的なリン酸亜鉛化のための前処理ラインの運転が初めて可能になる。
【0052】
分散粒状成分(P)および少なくとも1つの粒状無機化合物(P1)または有機高分子化合物(P2)については、分散粒状成分(P)が、本発明の方法の処理工程(ii)における酸性水性組成物の活性化性能を維持するための活性化剤またはリン酸亜鉛化のための自己活性化酸性水性組成物をもたらす水性分散体の一部であるかにかかわらず、以下に記載する定義および好ましい仕様が適用される。以下では、簡潔さのために、活性化剤についてのみ言及する。従って、活性化剤に関する記載はまた、リン酸亜鉛化のための自己活性化酸性水性組成物を提供するための水性分散体にも適宜適用される。
【0053】
本発明で使用できる、即ち、リン酸亜鉛化の酸性水性組成物への計量添加の際にリン酸塩化特性を維持するか、または、最初に工程(ii)においてリン酸亜鉛化のための酸性水性組成物をもたらす、活性化剤は、水性分散体であり、従って、水分散形態で粒状成分(P)を含む。粒状成分(P)は、ホーパイト、ホスホフィライト、ショルツァイトおよび/またはヒュリューライトから少なくとも部分的に選択される多価金属カチオンリン酸塩からなる少なくとも1つの粒状無機化合物(P1)および少なくとも1種の有機高分子化合物(P2)を含む。
【0054】
リン酸塩形態の多価金属カチオンの使用は、リン酸亜鉛化のための酸性水性組成物のリン酸塩化特性を維持するための活性化剤の良好な活性化性能または好適性の要因になり、従って、前記リン酸塩は、分散粒状成分(P)中に十分高い割合で活性化剤中に含まれるべきである。従って、活性化剤中の分散粒状成分(P)を基準とした、少なくとも1種の粒状無機化合物(P1)に含まれるリン酸塩の割合は、好ましくは少なくとも25重量%、特に好ましくは少なくとも35重量%、より特に好ましくは少なくとも40重量%、非常に特に好ましくは少なくとも45重量%である。活性化剤の分散粒状成分(P)は、公称カットオフ限界10kD(NMWC:公称分子量カットオフ)での活性化剤の規定部分体積の限外濾過の残留物を乾燥した後に残る固形分である。限外濾過は、濾液の導電率が10μScm-1未満になるまで脱イオン水(κ<1μScm-1)を添加することによって実施する。活性化剤中の無機粒状成分は、赤外線センサーが反応炉出口でCO2不含有キャリアガス(ブランク値)と同じ信号を出力するまで触媒またはその他の添加剤の混合を伴わず、CO2不含有酸素流を900℃で供給することによって、限外濾過残留物の乾燥から得られた粒状成分(P)を反応炉内で熱分解したときに残留するものである。無機粒状成分に含まれるリン酸塩は、10重量%HNO3水溶液を用いて25℃で15分間酸分解した後、酸分解から直接、原子発光分析(ICP-OES)を用いてリン含有量として測定される。
【0055】
活性化剤の活性成分は、リン酸亜鉛化のための酸性水性組成物に十分な量で添加されると直ぐに、金属表面上で、特に亜鉛表面で、均一で閉じた緻密な結晶質リン酸塩コーティングの形成を促進し、この意味で金属表面を活性化するが、既に述べたように、ホーパイト、ホスホフィライト、ショルツァイトおよび/またはヒュリューライトから少なくとも部分的に選択される、好ましくはホーパイト、ホスホフィライトおよび/またはショルツァイトから少なくとも部分的に選択される、特に好ましくはホーパイトおよび/またはホスホフィライトから少なくとも部分的に選択される、非常に特に好ましくはホーパイトから少なくとも部分的に選択される、リン酸塩で主に構成されている。従って、酸性水性組成物におけるリン酸塩化特性の維持は、実質的に、活性化剤に含まれる粒状の計量添加されたリン酸塩に基づく。結晶水を考慮しないと、ホーパイトは化学量論的にZn3(PO4)2およびニッケル含有かつマンガン含有変異体Zn2Mn(PO4)3、Zn2Ni(PO4)3を含む一方で、ホスホフィライトはZn2Fe(PO4)3で構成され、ショルツァイトはZn2Ca(PO4)3で構成され、ヒュリューライトはMn3(PO4)2で構成される。活性化剤中の結晶相ホーパイト、ホスホフィライト、ショルツァイトおよび/またはヒュリューライトの存在は、上述したように、公称カットオフ10kD(NMWC:公称分子量カットオフ)で限外濾過を用いて粒状成分(P)を分離し、残留物を105℃で一定質量になるまで乾燥した後、X線回折法(XRD)を用いて証明できる。
【0056】
亜鉛イオンを含み、一定の結晶化度を有するリン酸塩の存在が好ましいため、本発明の方法では、しっかり付着した結晶質リン酸亜鉛コーティングの形成には、活性化剤が、PO4として計算して、無機粒状成分中のリン酸塩含量に基づいて、少なくとも20重量%、特に好ましくは少なくとも30重量%、より特に好ましくは少なくとも40重量%の無機粒状成分中亜鉛を含有することが好ましい。
【0057】
しかし、活性化剤は、リン酸チタンを付加的に含まないことが好ましい。なぜなら、これらは、計量添加される際にリン酸塩化特性にプラスの影響を及ぼさないからである。従って、本発明の方法の好ましい実施形態では、活性化剤の無機粒状成分中のチタンの割合は、活性化剤に基づいて0.01重量%未満、特に好ましくは0.001重量%未満である。特に好ましい実施形態では、活性化剤は、合計で10mg/kg未満、特に好ましくは1mg/kg未満のチタンを含む。
【0058】
粒状成分を安定化する有機高分子化合物(P2)は、活性化剤を介して計量添加される粒状成分(P)の有効性に大きな影響を与える。有機高分子化合物の選択は、工程(ii)のリン酸亜鉛化のための酸性水性組成物中での金属表面の活性化の程度を決定することが見出された。この活性化は、分散多価リン酸塩によってもたらされることが知られており、本発明が示すように、意外なことに、層形成と同時に起こり得る。
【0059】
本発明において、重量平均分子量が500g/molより大きい場合、有機化合物は重合体である。この場合、モル質量は、関連する基準値の試料のモル質量分布曲線を用いて測定される。この曲線は、濃度依存性屈折率検出器を用いたサイズ排除クロマトグラフィーにより30℃で実験的に得られ、ポリエチレングリコール標準に対して校正される。平均モル質量は、三次検量線を用いてストリップ法に従ってコンピュータを利用して評価される。カラム材料としては、水酸化ポリメタクリレートが適しており、溶離液としては、0.2mol/L塩化ナトリウム、0.02mol/L水酸化ナトリウム、および6.5mol/L水酸化アンモニウムの水溶液が適している。
【0060】
粒状無機化合物(P1)を分散させるために使用される有機高分子化合物(P2)が、スチレンおよび/または5個以下の炭素原子を有するα-オレフィンから少なくとも部分的に構成される場合(ここで、有機高分子化合物(P2)は、マレイン酸、その無水物および/またはイミドの単位、好ましくはポリオキシアルキレン単位、特に好ましくはポリオキシアルキレン単位をその側鎖に更に有する)、酸性水性組成物と接触させたときのリン酸塩化特性の維持、即ちリン酸亜鉛化処理工程における金属表面の活性化が特に良好に達成される、即ち比較的少量の活性化剤の活性成分を用いて達成されることが見出された。従って、そのような有機高分子化合物(P2)が、本発明によれば、活性化剤の粒状成分(P)において好ましい。
【0061】
この場合のα-オレフィンは、好ましくは、エテン、1-プロペン、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン、2-メチル-ブト-1-エンおよび/または3-メチル-ブト-1-エンから選択され、特に好ましくは、イソブチレンから選択される。有機高分子化合物(P2)が、これらのモノマーを、互いにまたは他の構造単位に共有結合した不飽和形態の構造単位として含むことは、当業者には明らかである。
【0062】
有機高分子化合物(P2)の好適な市販品の例は、例えば、ポリプロピレングリコールで変性されたマレイン酸-イソブチレンコポリマーであるDispex(登録商標)CX 4320(BASF SE)、ポリエチレングリコールで変性されたマレイン酸-スチレンコポリマーであるTego(登録商標)Dispers 752 W(Evonik Industries AG)、またはEO/POおよびイミダゾール単位で変性されたマレイン酸-スチレンコポリマーであるEdaplan(登録商標)490(Muenzing Chemie GmbH)である。
【0063】
本発明において、少なくとも一部がスチレンからなる有機高分子化合物(P2)が好ましい。
【0064】
活性化剤の粒状成分(P)のコロイド安定化のために使用される有機高分子化合物(P2)は、好ましくはポリオキシアルキレン単位を有し、好ましくは1,2-エタンジオールおよび/または1,2-プロパンジオールから、特に好ましくは1,2-エタンジオールおよび1,2-プロパンジオールの両方から構成されるポリオキシアルキレン単位を有し、ポリオキシアルキレン単位の全体における1,2-プロパンジオールの割合は、ポリオキシアルキレン単位の全体を基準にして、好ましくは少なくとも15重量%であるが、特に好ましくは40重量%以下である。また、ポリオキシアルキレン単位は、好ましくは、有機高分子化合物(P2)の側鎖に含まれる。好ましくは少なくとも40重量%、特に好ましくは少なくとも50重量%であるが好ましくは70重量%以下の有機高分子化合物(P2)全体におけるポリオキシアルキレン単位の割合が、前記化合物の分散性に有利である。
【0065】
有機高分子化合物(P2)を、ホーパイト、ホスホフィライト、ショルツァイトおよび/またはヒュリューライトから選択されるリン酸塩の形態の多価金属カチオンから少なくとも部分的に形成される活性化剤の無機粒状成分(P1)で固定するために、そして、リン酸亜鉛化の酸性水性組成物において活性化するための粒状成分(P)の向上した安定性および能力のために、有機高分子化合物(P2)は、好ましくは側鎖に、特に好ましくは有機高分子化合物(P2)のポリオキシアルキレン単位の構成成分として、イミダゾール単位も有する。
【0066】
好ましい実施形態では、有機高分子化合物(P2)のアミン価は、少なくとも25mgKOH/g、特に好ましくは少なくとも40mgKOH/gであるが、好ましくは125mgKOH/g未満、特に好ましくは80mgKOH/g未満である。従って、好ましい実施形態では、活性化剤の粒状成分(P)中の有機高分子化合物の全体もまた、これらの好ましいアミン価を有する。アミン価は、いずれの場合も、関連する基準値(粒状成分(P)中の有機高分子化合物の全体または有機高分子化合物(P2))約1gをエタノール100mL中で秤量し、20℃のエタノール溶液の温度で色が黄変するまで、指示薬ブロモフェノールブルーに対して0.1規定HCl滴定溶液を用いて滴定することで測定される。使用するHCl滴定溶液の量(mL単位)に係数5.61を乗じて、グラム単位の重量の正確な質量で除した値が、関連する基準値のアミン価(mgKOH/g単位)に相当する。
【0067】
ポリオキシアルキレン単位の十分な数を確保するために、有機高分子化合物(P2)が、好ましくは粒状成分(P)中の有機高分子化合物の全体も、少なくとも25mgKOH/gであるが好ましくは100mgKOH/g未満、特に好ましくは70mgKOH/g未満の(2018年4月の)DGF C-V 2 (06)に従った酸価を有することが有利であることも見出された。有機高分子化合物(P2)が、好ましくは粒状成分(P)中の有機高分子化合物の全体も、15mgKOH/g未満、特に好ましくは12mgKOH/g未満、より特に好ましくは10mgKOH/g未満の、各々の場合に欧州薬局方9.0の01/2008:20503のA法に従って測定されるヒドロキシル価を有することも好ましい。
【0068】
活性化剤中の無機粒状成分の安定な分散には、有機高分子化合物(P2)の、好ましくは粒状成分(P)中の有機高分子化合物の全体の割合が、粒状成分(P)に基づいて、少なくとも3重量%、特に好ましくは少なくとも6重量%であるが、好ましくは15重量%以下であることが十分である。活性化剤の分散粒状成分(P)は、公称カットオフ限界10kD(NMWC:公称分子量カットオフ)での活性化剤の規定部分体積の限外濾過の残留物を乾燥した後に残る固形分である。限外濾過は、濾液の導電率が10μScm-1未満になるまで脱イオン水(κ<1μScm-1)を添加することによって実施する。
【0069】
活性化剤は、好ましくは該剤に基づいて40重量%以下の粒状成分(P)を含む。そうでなければ、定量ポンプによるリン酸亜鉛化の酸性水性組成物への該剤の連続的または不連続的な計量添加のための技術的取り扱い挙動および分散体安定性がもはや確保されないか、または少なくとも困難になるからである。これは特に、リン酸亜鉛化のための基準量の酸性水性組成物のリン酸塩化特性を維持するのに必要とされる粒状成分(P)の低い総量に関して当てはまる。しかし、活性化剤は、可能な限り安定であると同時に可能な限り高濃度である分散体として提供されることが有利である。これは、粒状無機化合物(P1)を分散させるために好ましい有機高分子化合物(P2)を用いた場合に特に達成することができるので、該剤に基づいて少なくとも5重量%であるが好ましくは30重量%以下の粒状成分(P)を含む活性化剤を使用することが好ましい。
【0070】
活性化剤のそのような高濃度の水性分散体、即ち、該剤に基づいて5重量%の粒状成分(P)を含む水性分散体では、本発明の方法において、活性化剤は付加的に、10μm超のそのD50値によって特徴付けられ得、このことは相応して好ましい。分散体に含まれる分散粒子の凝集物は、活性化剤の取り扱い挙動に有利なチキソトロピー流動特性をもたらす。低剪断で凝集物の粘度が高くなる傾向は長期保存に有利である一方で、剪断時の粘度の低下によりポンプ輸送が可能になる。分散体が150μmのD90値を大幅に超えない場合も、良好な流動特性が得られる;従って、本発明では、150μm未満、好ましくは100μmμm未満、特に80μm未満の水性分散体のD90値が好ましい。本発明では、D50値またはD90値は各々、水性分散体に含まれる粒状成分の50体積%または90体積%がその値以下である粒子径を意味する。ISO 13320:2009に従って、D50値またはD90値は、球状粒子と散乱粒子屈折率nD=1.52-i・0.1を用いて、濃厚水性分散体状の活性化剤を20℃で相応量の脱イオン水(κ<1μScm-1)により0.05重量%の分散粒状成分に希釈した直後、ミー理論による散乱光分析により、体積加重累積粒子サイズ分布から測定できる。希釈は、株式会社堀場製作所製粒度分布測定装置LA-950 V2の試料容器にイオン交換水200mLの体積に相当する濃厚分散体を添加し、そこから測定チャンバーに機械的に循環することで実施される(LA-950 V2の循環ポンプの設定:体積流量3.3L/分でレベル5=1167rpm)。粒度分布は、分散体を希釈体積に添加してから120秒以内に測定する。
【0071】
増粘剤の存在は、特に活性化剤が前記濃厚分散体として存在する場合、粒状成分(P)の一次粒子の不可逆的な凝集を防ぐのに有利であり得る。従って、本発明の方法の好ましい実施形態では、活性化剤は、好ましくは、0.001~0.25s-1の剪断速度範囲において、温度25℃で活性化剤に少なくとも1000Pa・sであるが好ましくは5000Pa・s未満の最大動粘度を与える量で、好ましくは、剪断減粘挙動、即ち、最大動粘度で存在する剪断速度を超える剪断速度で25℃で生じる剪断速度の増加に伴う粘度の低下をもたらし、その結果、活性化剤が全体的にチキソトロピックな流動挙動を有するような量で、増粘剤を含む。この場合、既定の剪断速度範囲にわたる粘度は、35mmの円錐直径および0.047mmのギャップ幅を有する円錐および平板粘度計を用いて測定することができる。
【0072】
本発明の意味における増粘剤は、温度25℃での脱イオン水(κ<1μScm-1)中0.5重量%の成分として含まれた場合にサイズ2スピンドルを用いて60rpm(=回転数/分)の剪断速度で少なくとも100mPa・sのブルックフィールド粘度を示す、高分子化合物または所定の化合物混合物である。この増粘剤の特性を測定する場合、対応する量の高分子化合物を25℃で撹拌しながら水相に添加し、超音波浴中で均一化した混合物から気泡を除去し、24時間放置する方法で、混合物を水と混合しなければならない。その後、数2のスピンドルを用いて60rpmの剪断速度を加えた直後、5秒以内に粘度の測定値を読み取る。
【0073】
活性化剤は、好ましくは、合計で少なくとも0.5重量%であるが好ましくは4重量%以下、特に好ましくは3重量%以下の1以上の増粘剤を含み、水性分散体の非粒状成分中の有機高分子化合物の合計割合は、更に好ましくは(分散体に基づいて)4重量%以下である。非粒状成分は、105℃で一定質量になるまで乾燥させた後の、上記限外濾過の透過液中の水性分散体の固形分、即ち、限外濾過により粒状成分を分離した後の固形分である。
【0074】
ある種の高分子化合物が、特に適当な増粘剤であり、容易に市場から入手することもできる。従って、増粘剤は、好ましくは有機高分子化合物から選択され、好ましくは、多糖類、セルロース誘導体、アミノプラスト、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリウレタンおよび/またはウレアウレタン樹脂から選択され、特に好ましくは、ウレアウレタン樹脂、特に、多価イソシアネートとポリオールおよびモノおよび/またはジアミンとの反応から生じる高分子化合物の混合物であるウレアウレタン樹脂から選択される。好ましい実施形態では、ウレアウレタン樹脂は、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2(4),4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,10-デカメチレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネートおよびそれらの混合物、p-およびm-キシリレンジイソシアネート、および4-4’-ジイソシアナトジシクロヘキシルメタンから好ましくは選択される、2,4-トルエンジイソシアネートおよび/またはm-キシリレンジイソシアネートから特に好ましくは選択される、多価イソシアネートから得られる。特に好ましい実施形態では、ウレアウレタン樹脂は、好ましくは少なくとも6、特に好ましくは少なくとも8、より特に好ましくは少なくとも10であるが、好ましくは26未満、特に好ましくは23未満のオキシアルキレン単位で構成される、ポリオキシアルキレンジオールから選択される、ポリオキシエチレングリコールから特に好ましくは選択される、ポリオールから得られる。
【0075】
特に適当な、従って本発明において好ましいウレアウレタン樹脂は、まずジイソシアネート、例えばトルエン-2,4-ジイソシアネートをポリオール、例えばポリエチレングリコールと反応させてNCO末端ウレタンプレポリマーを生成し、次いで第一級モノアミンおよび/または第一級ジアミン、例えばm-キシリレンジアミンと更に反応させることにより得ることができる。遊離イソシアネート基もブロックトイソシアネート基も有さないウレアウレタン樹脂が特に好ましい。活性化剤の成分として、そのようなウレアウレタン樹脂は、一次粒子の緩い凝集物の形成を促進する。これは、更なる凝集から保護され、リン酸亜鉛化のための酸性水性組成物中に計量添加されると、一次粒子に解離する。この特性プロファイルを更に促進するには、遊離イソシアネート基もブロックトイソシアネート基も末端アミン基も有さないウレアウレタン樹脂を増粘剤として使用することが好ましい。従って、好ましい実施形態では、ウレアウレタン樹脂である増粘剤は、8mgKOH/g未満、特に好ましくは5mgKOH/g未満、より特に好ましくは2mgKOH/g未満の、有機高分子化合物(P2)に関し上述した方法に従って各々の場合に測定されるアミン価を有する。増粘剤は活性化剤の水相に実質的に溶解しており、従って、非粒状成分に割り当てることができる一方、成分(P2)は粒状成分(P)中に実質的に結合しているので、非粒状成分中の有機高分子化合物の全体が、好ましくは16mgKOH/g未満、特に好ましくは10mgKOH/g未満、より特に好ましくは4mgKOH/g未満のアミン価を有する活性化剤が好ましい。ウレアウレタン樹脂が、10~100mgKOH/gの範囲、特に好ましくは20~60mgKOH/gの範囲の、欧州薬局方9.0の01/2008:20503のA法に従って測定されるヒドロキシル価を有することが更に好ましい。ウレアウレタン樹脂の分子量に関しては、有機高分子化合物の本発明に従った定義に関連して上述した各々の場合に実験的に測定される重量平均モル質量が、1000~10000g/molの範囲、好ましくは2000~6000g/molの範囲であることが、本発明において有利であり、従って好ましい。
【0076】
活性化剤は、好ましくは6.5~8.0の範囲のpH値を有し、特に好ましくは6未満のpKS値または5未満のpKB値を有するいかなるpH調節水溶性化合物を含まない、水性分散体である。
【0077】
活性化剤はまた、例えば防腐剤、湿潤剤および消泡剤から選択される助剤を含むことができ、これらは関連する機能に必要な量で含まれる。助剤の割合、特に好ましくは増粘剤ではない、非粒状成分中の他の化合物の割合は、好ましくは1重量%未満である。
【0078】
活性化剤は、好ましくは、
i)4~7質量部の水の存在下で、0.5~2質量部の有機高分子化合物(P2)を伴った10質量部の無機粒状化合物(P1)を粉砕し、例えば、Malvern Panalytical GmbH製Zetasizer(登録商標)Nano ZSを用いて、水で1000倍に希釈した後の動的光散乱法によって測定されるD50値が1μm未満に達するまで粉砕することにより顔料ペーストを提供し;
ii)顔料ペーストを、少なくとも5重量%の分散粒状成分(P)、および剪断速度0.001~0.25s-1の範囲において温度25℃で少なくとも1000Pa・sの最大動粘度が設定されるような量の水、好ましくは脱イオン水(κ<1μScm-1)または水道水および増粘剤で希釈する
ことにより、濃厚水性分散体として得ることができる。ここで、活性化剤の好ましい実施形態は、対応する成分(P1)、(P2)および増粘剤を、それぞれの場合に供給または必要とされ得る量で選択することによって、同様の方法で得られる。そのような濃厚水性分散体は、優れた安定性を有し、そのチキソトロピックな流動挙動に起因して良好なポンプ輸送性も備えているため、濃厚分散体を制御された方法でリン酸亜鉛化系タンクに直接計量添加することができる。
【0079】
リン酸亜鉛化のための酸性水性組成物に関し、均一で閉じたリン酸亜鉛層を形成するには、本発明の方法の工程(ii)において、前記組成物が、少なくとも、
(A)PO4として計算して5~50g/kgの、水中に溶解したリン酸塩、
(B)0.3~3g/kgの亜鉛イオン、および
(C)遊離フッ化物
並びに0超ポイントの遊離酸
を含有することが必須である。
【0080】
これに関して、この量のリン酸イオンには、PO4として計算した、オルトリン酸および水に溶解したオルトリン酸塩のアニオンが含まれる。
【0081】
本発明の方法の工程(ii)におけるリン酸亜鉛化の酸性水性組成物中の遊離酸の割合(ポイント単位)は、好ましくは少なくとも0.4であるが、好ましくは3.0以下、特に好ましくは2.0以下である。遊離酸の割合(ポイント単位)は、酸性水性組成物の試料体積10mLを60mLに希釈し、0.1N水酸化ナトリウム溶液でpH値3.6まで滴定することによって測定される。水酸化ナトリウム溶液の消費量(mL)が遊離酸のポイント数を示す。
【0082】
酸性水性組成物の好ましいpH値は、通常2.5超、特に好ましくは2.7超であるが、好ましくは3.5未満、特に好ましくは3.3未満である。本発明で使用する「pH値」は、20℃でのヒドロニウムイオン活性の負の十進対数に相当し、pH感受性ガラス電極を用いて測定できる。
【0083】
ある量の遊離フッ化物または遊離フッ化物イオン源は、層を形成するリン酸亜鉛化処理に必須である。亜鉛表面に加えて鉄またはアルミニウム表面を含む部材が、例えば少なくとも部分的にアルミニウムで形成された自動車車体のリン酸亜鉛化において必要であるように、層形成方式でリン酸亜鉛化される限り、工程(ii)における酸性水性組成物中の遊離フッ化物の量が少なくとも0.5mmol/kg、特に好ましくは少なくとも2mmol/kgであることが有利である。遊離フッ化物の濃度は、リン酸塩コーティングの付着力が弱くて容易に拭き取ることができるようになる値を超えてはならない。なぜなら、この欠陥は、活性化剤の計量添加を増やしたり、リン酸亜鉛化のための酸性水性組成物中の粒状成分(P)の定常状態量を増やしたりしても、多くの場合補うことができないからである。従って、本発明の方法の工程(ii)において、リン酸亜鉛化の酸性水性組成物における遊離フッ化物の濃度が15mmol/kg未満、特に好ましくは10mmol/kg未満、より特に好ましくは8mmol/kgであることが有利であり、従って、好ましい。
【0084】
遊離フッ化物の量は、pH緩衝を伴わずにフッ化物含有緩衝溶液で校正した後、関連する酸性水性組成物中、20℃でフッ化物感受性測定電極を用いて電位差測定により測定される。遊離フッ化物イオンの適当な供給源は、フッ化水素酸およびその水溶性塩、例えばフッ化水素アンモニウムおよびフッ化ナトリウム、並びに元素Zr、Tiおよび/またはSiの複合フッ化物、特に元素Siの複合フッ化物である。従って、本発明のリン酸塩化処理では、遊離フッ化物源は、好ましくは、フッ化水素酸およびその水溶性塩および/または元素Zr、Tiおよび/またはSiの複合フッ化物から選択される。フッ化水素酸の塩は、60℃における脱イオン水(κ<1μScm-1)中溶解度がFとして計算して少なくとも1g/Lである場合、本発明の意味の範囲内での水溶性である。
【0085】
亜鉛からなる金属材料の表面上のいわゆる「ピンホール」を抑制するために、本発明によるそのような処理では、工程(ii)における遊離フッ化物源が、元素Siの複合フッ化物から、特にヘキサフルオロケイ酸およびその塩から少なくとも部分的に選択されることが好ましい。リン酸塩化の当業者には、ピンホールという用語は、処理された亜鉛表面上または処理された亜鉛メッキ鋼若しくは合金亜鉛メッキ鋼表面上で結晶質リン酸塩層に非晶質白色リン酸亜鉛が局所的に堆積する現象を意味すると理解される。
【0086】
より迅速な層形成のために、当技術分野で公知の促進剤を、本発明の方法における酸性水性組成物に添加することができる。これらの促進剤は、好ましくは、2-ヒドロキシメチル-2-ニトロ-1,3-プロパンジオール、ニトログアニジン、N-メチルモルホリン-N-オキシド、亜硝酸塩、ヒドロキシルアミンおよび/または過酸化水素から選択される。ニトログアニジンまたはヒドロキシルアミンを促進剤として使用する場合、工程(ii)におけるリン酸亜鉛化のための酸性水性組成物において、活性化剤の比較的低い計量添加が必要とされるか、または粒状成分(P)のより低い定常状態量が確実に維持されることが見出された。そのため、リン酸塩化特性を維持するための活性化剤の使用量が特に低いという観点から、ニトログアニジンまたはヒドロキシルアミン、特にニトログアニジンが、本発明の方法の工程(ii)における酸性水性組成物中の促進剤として特に好ましい。
【0087】
本発明の方法の工程(ii)におけるリン酸亜鉛化のための酸性水性組成物に合計で10ppm未満のニッケルおよび/またはコバルトイオンが含まれる実施形態が、生態学的観点から特に好ましい。
【0088】
更に、本発明の方法では、リン酸亜鉛化処理において当技術分野で公知の付加的なもの(additivation)も使用できる。
【0089】
任意の処理工程:
従って、本発明の方法の好ましい実施形態では、リン酸亜鉛化処理工程(ii)における酸性水性組成物との接触前、一連の部材を、粒状成分中にホーパイト、ホスホフィライト、ショルツァイトおよび/またはヒュリューライト、好ましくは多価金属カチオンリン酸塩、または元素Tiの難溶性塩を含むコロイド状水性活性化溶液と接触させない。リン酸亜鉛化処理工程(ii)における酸性水性組成物との接触前、一連の部材を、特に好ましくは、リン酸亜鉛化のための部材の表面を活性化するコロイド状水性溶液と接触させず、一連の部材を、非常に特に好ましくは、処理工程(ii)における接触前にリン酸亜鉛化のための部材の表面を活性化する活性化段階に通過させない。
【0090】
しかし、通常は、工程(ii)におけるリン酸亜鉛化および工程(i)における鉄付着の上流で処理工程として清浄化および脱脂工程を実施することはできない。可能な限り均一で再現性のある層コーティングを実現するため、本発明の方法の好ましい実施形態では、処理工程(i)の前に、部材の少なくとも金属表面を、別個の清浄化段階でまたは処理工程(i)と一緒に、清浄化し、必要に応じて脱脂する。清浄化は、好ましくは、好ましくは中性またはアルカリ性の清浄化剤との接触により行う。処理工程(i)は、中間濯ぎ工程を伴ってまたは伴わず、好ましくは中間濯ぎ工程を伴わず、清浄化段階の直後に行う。
【0091】
部材の清浄化および任意の脱脂に関し、アルカリ清浄化は、金属表面、特に材料としてまたは溶融亜鉛メッキ鋼の合金成分として金属アルミニウムを含む表面が酸洗されることを特徴とする。これにより金属表面の更なる標準化が進み、従って、均一なリン酸亜鉛コーティングの成長に有利になる。
【0092】
上述した通り、工程(ii)におけるリン酸亜鉛化の前の金属表面の活性化は本発明の方法で実施され得るので、清浄化段階(または組み合わされた清浄化および鉄付与段階)は、好ましくは、ホーパイト、ホスホフィライト、ショルツァイトおよび/またはヒュリューライトを含む粒状成分または元素Tiの難溶性塩を含む好ましくは中性またはアルカリ性の水性清浄化剤との接触により行わない。清浄化後の濯ぎ工程は、既に述べたように任意であり、本発明では、処理される部材から、先の湿式化学的処理工程(この場合は清浄化および脱脂段階)より部材への付着によって持ち込まれた可溶性残留物、粒子および活性成分を完全にまたは部分的に除去するためにもっぱら採用される。金属元素ベースまたは半金属元素ベースの活性成分は、部材の金属表面と濯ぎ液を接触させるだけで既に消費され、濯ぎ液自体に含まれることはない。例えば、濯ぎ液は、単に市水または脱イオン水であってもよいし、必要に応じて、濯ぎ液によって濡れ性を改善するための界面活性化合物を含む濯ぎ液であってもよい。
【0093】
部材:
溶融亜鉛メッキ鋼に関する本発明の方法におけるリン酸塩化特性は技術的に最適化されるので、本発明によれば、亜鉛表面を少なくとも部分的に有する一連の部材が溶融亜鉛メッキ鋼表面も有する方法も当然好ましい。基本的に、活性化剤の添加により工程(ii)において維持される酸性水性組成物のリン酸塩化特性により、自動車ボディ等の複数の金属構造で製造されている部材も非常に優れた特性でリン酸亜鉛化され得、鉄およびアルミニウム表面上にも非常に均一な閉じた緻密なリン酸亜鉛コーティングを得ることができる。従って、本発明の方法では、一連の部材が金属鉄表面を有すること、または、特に車体製造における軽量構造の場合は追加のアルミニウムを有することも好ましい。特に好ましい実施形態では、特に自動車の車体製造では、部材は、互いに隣接した金属亜鉛、鉄およびアルミニウムの表面を有する。
【0094】
本発明の方法では、亜鉛、鉄またはアルミニウムから選択される部材の全金属表面上に十分均一な閉じたリン酸亜鉛コーティングが形成されることを確保するため、亜鉛表面上に少なくとも1.0g/m2の総重量が付着するのに少なくとも十分な時間、一連の部材を工程(ii)における酸性水性組成物と接触させることが好ましい。従って、少なくとも1.0g/m2、好ましくは少なくとも1.5g/m2の層重量を有するリン酸亜鉛層が亜鉛表面上に形成される、本発明の方法が好ましい。工程(ii)におけるリン酸亜鉛化のための酸性水性組成物のリン酸塩化特性は、好ましくは本発明の方法において制御変数として維持されるか、または、酸性水性組成物は固有の活性化性能を有するので、部材の亜鉛表面が均一な閉じた緻密な結晶質リン酸亜鉛層(その層厚さは自己制限範囲内である)を有することもまた常に確保される。従って、本発明では、物体スペクトルが要求する、部材の亜鉛表面上のリン酸亜鉛層の総重量は、好ましくは5.0g/m2未満、好ましくは4.5g/m2未満、特に好ましくは4.0g/m2未満、非常に特に好ましくは3.5g/m2未満である。
【0095】
本発明の方法では、実質的に有機のカバー層が適用される過程で、後続の浸漬コーティングまたは粉体コーティングのための良好なコーティングベースが調製される。従って、本発明の方法の好ましい実施形態では、中間の濯ぎおよび/または乾燥工程を伴ったまたは伴わない、好ましくは濯ぎ工程は伴うが乾燥工程は伴わない、工程(ii)におけるリン酸亜鉛化に、好ましくはアミン変性ポリエポキシドを含む分散樹脂に加えて好ましくはイットリウムおよび/またはビスマスの水溶性または水分散性塩を含む、浸漬コーティングまたは粉体コーティング、特に好ましくは電着コーティング、より特に好ましくはカソード電着コーティングが続く。
【実施例】
【0096】
例示的実施形態
本発明による方法の利点を説明するために、以下に詳細に説明する方法シーケンスを、様々な金属基材の層形成リン酸塩化に適用し、その、一連のこれらの金属基材で構成される部材の処理に対する適性を説明した。
【0097】
a)0.8%のBonderite(登録商標)M-FE 2020 MU、1.2%のBonderite(登録商標)M-AD ZN-2、0.5%のBonderite(登録商標)M-AD FE-1および0.5%のBonderite(登録商標)C-AD 1561(これらは各々、Henkel AG & Co. KGaAからの処理化合物)並びに完全脱イオン水(κ<1μScm-1)と混合した3.5%のBonderite(登録商標)C-AK 2020-1を用いたアルカリ清浄化を、記載の割合に適用した。pH値を11.8~11.9に、温度を55℃に設定した後、シートをまず、1barの圧力で1分間噴霧脱脂し、次いで、
a1)鉄形成を伴わない変法:撹拌しながら同じ清浄化溶液で3分間浸漬脱脂、または
a2)鉄形成を伴う変法:撹拌しながら、0.8重量%のBonderite(登録商標)M-FE 2020 MU、0.7重量%のBonderite(登録商標)M-AD ZN-2、0.5重量%のBonderite(登録商標)M-AD FE-1および0.5重量%のBonderite(登録商標)C-AD 1561(これらは各々、Henkel AG & Co. KGaAからの処理化合物)並びに完全脱イオン水(κ<1μScm-1)と混合した3.6重量%のBonderite(登録商標)C-AK 2020-1にシートを浸漬することにより2分間浸漬脱脂
を、記載の割合に適用した。pH値を12.0に、温度を60℃に設定した後、処理を行った。
【0098】
b)次いで、基材を約1分間、完全脱イオン水(κ<1μScm-1)で十分洗浄した。これらの条件下、基材上に閉じた水層が少なくとも30秒間残った。これは、基材上に油脂が存在しないことを示す。
【0099】
c)続いて、基材表面を水で濡らし、別の活性化浴での処理を伴わずに、完全脱イオン水(κ<1μScm-1)並びに4.6重量%のBonderite(登録商標)M-Zn 1994 MU-1および1重量%のBonderite(登録商標)M-AD 565(これらは各々、Henkel AG & Co. KGaAからの処理化合物)に基づくヒドロキシルアミン促進リン酸塩化浴に直接浸漬し、撹拌しながら52℃で3分間、記載の割合に脱イオン水(κ<1μScm-1)を適用した(遊離酸:1.1ポイント、総酸:26.5ポイント、亜鉛含有量:0.13重量%、促進剤含有量:0.1重量%)。このため、
c1)WO 2021/104973 A1の例に記載されているように調製した、1g/LのBonderite(登録商標)M-AC 3000(Henkel AG & Co. KGaA)のリン酸亜鉛水性分散体を添加した(これは、リン酸塩化浴に基づいて0.2g/kgの粒状リン酸亜鉛の割合に相当する)か、または
c2)WO 2021/104973 A1の例に記載されているように調製した、3g/LのBonderite(登録商標)M-AC 3000(Henkel AG & Co. KGaA)のリン酸亜鉛水性分散体を添加した(これは、リン酸塩化浴に基づいて0.6g/kgの粒状リン酸亜鉛の割合に相当する)。
【0100】
d)その後、基材を約1分間完全脱イオン水(κ<1μScm-1)下で十分洗浄した。
【0101】
e)室温で圧縮空気を吹き付け、50℃のオーブンで乾燥させた。
【0102】
この方法シーケンスに従ってコーティングした金属基材は、冷間圧延鋼(CRS)、電解亜鉛メッキ鋼(EG)、溶融亜鉛メッキ鋼(HDG)、亜鉛マグネシウム溶融メッキ鋼(ZM)、およびアルミニウム(AA6014)のシートであり、これらを、処理工程a1)またはa2)の後に清浄化し、次いで後続の処理工程b)~e)の後に予備処理した。
【0103】
全ての場合において、閉じた均一なリン酸亜鉛層が形成された。
【0104】
鉄付与段階(a2-b-c1-d-e/a2-b-c2-d-e)を含む方法シーケンスにおいて、鉄の82~105mg/m2の範囲のコーティング層がHDG、EGおよびZMシート上に形成された。5重量%のHNO3での基材の酸洗の後に鉄コーティングを定量的に測定し、その後、着色チオシアン酸錯体の形成に基づく光濃度測定を行った。
【0105】
活性化リン酸亜鉛化の前に鉄付与段階を備える本発明の方法において、全ての亜鉛メッキシート上で、リン酸塩層重量の更なる低減を達成できた(表1参照)。このことは、方法の経済性の点でも、下流の電着塗装とそこで達成できる向上した被覆率の点でも有利である。同時に、アルミニウムおよび冷間圧延鋼シート上に形成される層重量は、ほぼ一定のままか、または僅かに増加しているため、前述の材料混合物から構成される部材のリン酸亜鉛化のための本発明による方法は適している。
【0106】
【国際調査報告】