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▶ カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】マルチミラーアレイ
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20241106BHJP
   G02B 26/08 20060101ALI20241106BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20241106BHJP
   B81B 7/04 20060101ALI20241106BHJP
   B81B 7/02 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
G03F7/20 503
G03F7/20 521
G02B26/08 E
B81B3/00
B81B7/04
B81B7/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522397
(86)(22)【出願日】2022-09-21
(85)【翻訳文提出日】2024-06-04
(86)【国際出願番号】 EP2022076274
(87)【国際公開番号】W WO2023061713
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】102021211619.1
(32)【優先日】2021-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100230514
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】モーリツ ベッカー
(72)【発明者】
【氏名】ヤンコ サロフ
(72)【発明者】
【氏名】ウド ディンガー
(72)【発明者】
【氏名】ダーク エーム
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン ハッカー
(72)【発明者】
【氏名】ステファン ヴォルフガング シュミット
(72)【発明者】
【氏名】アヒム ショル
【テーマコード(参考)】
2H141
2H197
3C081
【Fターム(参考)】
2H141MA12
2H141MA13
2H141MB24
2H141MB63
2H141MD13
2H141MD20
2H141ME01
2H141ME09
2H141ME11
2H141ME25
2H141MF24
2H141MG08
2H141MZ12
2H141MZ16
2H141MZ25
2H197CA10
2H197CB04
2H197DA02
2H197GA11
2H197GA20
2H197GA23
2H197HA03
3C081AA01
3C081BA28
3C081BA43
3C081BA47
3C081BA48
3C081BA55
3C081BA72
3C081DA03
3C081DA22
3C081EA07
(57)【要約】
マルチミラーアレイ(MMA)は、キャリア構造と、キャリア構造上に格子配列で並んで配置された複数のミラーユニット(MU)とを備える。各ミラーユニットは、ベース素子(BE)及びミラー素子(ME)を含み、ミラー素子(ME)は、ベース素子に対して個別に可動に装着され且つミラー基板(SUB)を有し、ミラー基板(SUB)は、EUV放射線を反射するミラー面(MS)を形成するためにベース素子(BE)とは反対側の前面に反射コーティング(REF)を有する。反射コーティングは、例えばEUV放射線又はDUV放射線用に設計することができる。ミラー面は、表面積を実質的に充填するように並んで配置される。隣り合うミラー素子同士の衝突のない相対移動を確保するために、隣接するミラー基板の側面により画定されるギャップ(SP)が、直接隣り合うミラー素子間に残る。各ミラーユニットの場合に、マルチミラーアレイの機能コンポーネントが、ベース素子とミラー素子との間に配置される。ミラー基板(SUB1、SUB2)の側面(SF1、SF2)のそれぞれが、少なくとも部分的に、割り当てられたミラー面(MS)に対して斜めに90°以外の角度に向けられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチミラーアレイ(20、22、MMA)であって、
キャリア構造(TS)と、
該キャリア構造上に格子配列で並んで配置された複数のミラーユニット(MU)と
を備え、各ミラーユニット(MU)が、ベース素子(BE)と、該ベース素子(BE)に対向して個別に可動に装着されたミラー素子(ME)とを含み、該ミラー素子(ME)は、紫外線を反射するミラー面(MS)を形成するために前記ベース素子(BE)とは反対側の前面に反射コーティング(REF)を有するミラー基板(SUB)を含み、該ミラー基板(SUB)は、前記ベース素子に対向する背面及びその周上の側面を含み、
前記ミラー素子のアレイは、該ミラー素子の相互に対する相対移動が該ミラー素子の想定される移動範囲で相互に衝突せずに実施されるように構造的に設計され、
前記ミラー面(MS)は、面積を実質的に充填するように並んで配置され、隣り合うミラー素子同士の衝突のない相対移動を確保するために、隣り合うミラー基板(SUB)の側面(SF1、SF2)により画定されるギャップ(SP)が、直接隣り合うミラー素子間に残り、且つ
各ミラーユニット(MU)の場合に、該ミラーユニットの機能コンポーネントが、前記ベース素子(BE)と前記ミラー素子(ME)との間の中間空間(ZR)に配置される、マルチミラーアレイ(20、22、MMA)において、
前記ミラー基板(SUB1、SUB2)の前記側面(SF1、SF2)のそれぞれの少なくとも一部が、割り当てられたミラー面(MS)に対して90°からずれた角度で斜め向きであることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記ミラー素子(ME)を前記ベース素子(BE)上に可動に装着するためのサスペンションシステム(SUS)のコンポーネントと、制御信号の受け取りに応答して前記ベース素子(BE)に対する前記ミラー素子(ME)の移動を発生させるアクチュエータシステム(AKT)のコンポーネントとが、前記ベース素子(BE)と前記ミラー基板(ME)との間の前記中間空間(ZR)に配置され、好ましくは前記ベース素子(BE)、前記サスペンションシステム(SUS)、及び前記アクチュエータシステム(AKT)は、シリコン(Si)又はシリコン化合物でできたMEMS構造として設計されることを特徴とし、且つ/又は前記反射コーティング(REF)は、EUV放射線及び/又はDUV放射線を反射するミラー面(MS)を形成することを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマルチミラーアレイにおいて、直接隣り合うミラー基板(SUB1、SUB2)のミラー基板(SUB)の前記側面はそれぞれ、直接隣り合うミラー基板間に形成された前記ギャップ(SP)のギャップ幅(SB)が、前記反射コーティング(REF)を設けたミラー素子の前記前面(VF)から前記ベース素子(BE)の方向に大きくなるような設計及び向きであることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記反射コーティング(REF)を設けたミラー素子の前記前面(VF)は、該前面と平行に延びることが好ましい前記背面の外縁により囲まれた面積よりも大きな表面積を有し、前記背面の前記外縁は、前記前面の外縁に対して全ての周方向位置で横方向オフセット(LV)だけ内側に引っ込んでおり、好ましくは前記ミラー基板は、前記前面と前記背面との間で測定された厚さを有し、前記オフセット(LV)は、前記厚さの3%以上、好ましくは5%以上、及び/又は前記厚さの10%以下であることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記前面(VF)と隣の前記側面(SF)との間の移行部の夾角(W)が、80°~89°の範囲、特に84°~88°の範囲にあることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記ミラー基板(SUB1、SUB2)は、対向する側面間を通る断面で前記前面(VF)の側の底が広い実質的に台形の断面形態を有することを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記側面(SF)は、前記反射コーティング(REF)を設けた前記前面(VF)の表面粗さよりも少なくとも1桁大きい表面粗さを有し、前記側面の表面粗さは、好ましくは100nm RMS以上であることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のマルチミラーアレイにおいて、直接隣り合うミラー基板(SU1、SUB2)のミラー基板(SUB)のエッジ領域が、前記割り当てられたミラー面(MS)に対して90°からずれた角度でそれぞれ斜めに向くことで、斜めの側面が前記ミラー面(MS)に対して斜め向きのギャップ(SP)を画定することを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項9】
請求項8に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記ギャップ(SP)は、前記ミラー面(MS1、MS2)の隣の第1ギャップ幅を有する第1ギャップ開口(SO1)と前記ミラー基板の裏側の隣の第2ギャップ幅を有する第2ギャップ開口(SO2)とを有し、前記第1ギャップ開口及び前記第2ギャップ開口が前記ギャップ(SP)の斜めの向きに起因して横方向オフセット(LV)を有することで、直接放射線通過のための実効ギャップ幅が前記第1ギャップ幅及び/又は前記第2ギャップ幅よりも小さく、前記横方向オフセット(LV)は、好ましくは前記第1ギャップ幅(SB1)及び前記第2ギャップ幅(SB2)の最大値と少なくとも同じ大きさであることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記ミラー基板は、対向する側面間を通る断面で実質的に台形の断面形態を有し、連続した一列のミラー素子は、好ましくは交互に逆台形の断面形態を有することで、挟まれた斜めギャップの向きがギャップ毎に交互に変わるマルチミラーアレイ。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のマルチミラーアレイにおいて、制御信号に応答して個々のミラー素子(ME)を隣のミラー素子(ME)に対して可逆的且つ連続的に高さ調整するための制御可能な高さ調整デバイス(HVE)であり、特に前記キャリア素子と前記ベース素子との間の少なくとも1つの厚さ変更可能な圧電層により、前記ベース素子を好ましくは前記キャリア構造に対して個別に高さ調整可能である高さ調整デバイス(HVE)、及び/又は2つの回転自由度及び1つの並進自由度でミラー素子(ME)の移動を発生させるよう設計された前記アクチュエータシステムであり、前記並進自由度は前記回転自由度の回転軸に対して垂直な又は角度をなす並進軸に沿った前記ミラー素子(ME)の移動に対応する前記アクチュエータシステムを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項12】
請求項11に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記高さ調整デバイス(HVE)のコントローラが、隣のミラー素子の傾斜位置に応じてミラー素子の高さ調整が可能であるように構成されることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記ギャップ(SP)の領域で前記ミラー面とは反対側の前記ミラー基板(SUB)の裏側に配置された放射線入射面(AF)を含む、放射線トラップ素子(TRP)であり、該放射線トラップ素子(TRP)の少なくとも前記放射線入射面(AF)の領域を構成する機能性材料(FM)が、以下の特性:
前記機能性材料(FM)は、EUV放射線に対して吸収効果を有する吸収材料である、
前記機能性材料(FM)は、水素イオンと接触すると水素イオンの再結合確率を高める再結合触媒である、
前記機能性材料(FM)は、ルテニウム(Ru)、白金(Pt)、レニウム(Rh)ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、及び鉄(Fe)の群から選択される、
のうち少なくとも1つを有する放射線トラップ素子(TRP)を特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項14】
請求項13に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記放射線トラップ素子(TRP)は、部分的に調整可能であり、各放射線トラップ素子(TRP)の高さ調整が、好ましくは隣り合うミラー素子(ME)の傾斜位置及び/又は高さ位置に応じて可能であることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載のマルチミラーアレイにおいて、少なくとも1つの保護膜(MEM)が設けられ、該保護膜(MEM)は、直接隣り合うミラー基板(SUB1、SUB2)間に形成されたギャップ(SP)に跨り該ギャップを画定する前記ミラー基板と接触するギャップ被覆部(AA)を含み、特に前記ミラー基板(SUB1、SUB2)に固定されることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項16】
請求項15に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記保護膜(MEM3)は、前記ギャップ被覆部(AA)の領域に、EUV放射線に対して吸収効果を有する吸収材料を含み、該吸収材料は、ルテニウム(Ru)、白金(Pt)、レニウム(Rh)ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、及び鉄(Fe)の群から好ましくは選択されることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項17】
請求項15又は16に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記保護膜(MEM)は、前記ミラー基板(SUB1、SUB2)の表側で該ミラー基板(SUB1、SUB2)と前記反射コーティング(REF)との間に多層配列で配置されることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項18】
請求項15、16、又は17に記載のマルチミラーアレイにおいて、以下の特徴:
保護膜(MEM4)が、前記ミラー基板(SUB1、SUB2)の裏側に配置される、
保護膜(MEM5)が、前記ミラー基板(SUB)の裏側と放射線トラップ素子(TRP)の裏側との間に配置される、
前記ミラーユニット(MU)と放射線トラップ素子(TRP)との間の前記保護膜(MEM5)の層応力により、放射線トラップ素子(TRP)の傾斜位置に応じた高さ調整が行われる、
のうち少なくとも1つがあることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか1項に記載のマルチミラーアレイにおいて、腐食攻撃を受けやすい領域でコンポーネント材料からなる前記ミラーユニットのコンポーネントに塗布される、防食層(SS)の形態の防食構造であり、前記防食層は、水素イオンによる腐食攻撃に対して前記コンポーネント材料よりも耐食性が高い少なくとも1つの保護層材料を含む、防食構造を特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1項に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記反射コーティング(REF)がEUV放射線に対して高反射率を有することで、マルチミラーアレイがEUVマルチミラーアレイとして設計されることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項21】
UV装置(1)の照明系(2)であって、前記UV装置の動作中に、UV放射源(3)からのUV放射線を受光し、且つ受光したUV放射線の少なくとも一部から前記照明系の出射面(6)の照野に指向された照明放射線を整形するよう設計された、照明系(2)において、照明系(4)は、請求項1~20のいずれか1項に記載の少なくとも1つのマルチミラーアレイ(MMA、20、22)を備えることを特徴とする照明系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2021年10月14日に出願された独国特許出願整理番号102021211619.1号に基づく。当該独国出願の開示内容を参照により本願の内容に援用する。
【0002】
本発明は、請求項1の前文に記載のマルチミラーアレイと、少なくとも1つの当該マルチミラーアレイを備えた装置の照明系とに関する。好ましい適用分野は、EUV装置、すなわち極端紫外(EUV)域からの動作波長を用いる装置の分野である。
【背景技術】
【0003】
今日では、マイクロリソグラフィ投影露光方法は、半導体コンポーネント及び他の微細構造コンポーネントの製造に主に用いられている。その際、結像対象の構造のパターン、例えば半導体コンポーネントの層のラインパターンを担持又は形成するマスク(レチクル)又は他のパターン生成デバイスが利用される。パターンは、一次放射源の放射線から照明放射線を形成する照明系を用いて照明され、照明放射線は、パターンに向けられ、特定の照明パラメータを特徴とし、且つ規定の形状及びサイズを有する照野内のパターンに入射する。パターンにより変更された放射線は投影レンズを通過し、投影レンズは、放射線感応層で被覆された被露光基板にパターンを結像する。
【0004】
多くの現在のマイクロリソグラフィ投影露光方法及び装置は、紫外域(UV域)の比較的短い波長部分の放射線、特に260nm未満の波長の放射線を利用する。これらは、深紫外(DUV)域の、例えば約248nm又は約193nmの動作波長を用いる、多くのミドルクリティカル構造の作製に用いることができるシステムを特に含む。場合によっては、約200nm以下EUV域までの波長域を真空紫外(VUV)域と称することもある。
【0005】
より微細な構造を製造することができるように、近年、実質的に極端紫外域(EUV)の使用電磁放射線の短波長により高分解能を得る、特に5nm~30nmの範囲の動作波長の光学系が開発されている。短波長は、高波長で透明な既知の光学材料により吸収されるので、EUV放射線は、屈折光学素子を用いて集光も誘導もできない。したがって、例えばEUVリソグラフィ用のEUV装置では、ミラー系が用いられる。
【0006】
結像される構造のタイプに応じて、照明系の瞳面における照明放射線の異なる局所強度分布を特徴とすることができる異なる照明モード(照明設定とも称する)が通常は用いられる。これらを柔軟に設定することができるように、照明系は、一次放射源から放射線を受けて照明系の瞳領域で可変に設定可能な2次元強度分布を生じさせる瞳整形ユニットを有する。
【0007】
概念によっては、瞳整形ユニットの少なくとも1つの制御可能なマルチミラーアレイ(MMA)を用いるものとしており、上記マルチミラーアレイは、複数の個別ミラー素子を備えており、これらは、ジョイントキャリア構造により担持され、瞳面で所望の空間照明強度分布をもたらすようにミラー素子全体に入射する放射線の角度分布を目標通りに変更するために、相互に独立して傾斜させることができる。ミラー面は、実質的に面積を充填するように配置される。ミラー基板側面により画定されてミラー素子の衝突しない相対移動を確保するよう働くギャップが、直接隣り合うミラー素子間に残る。このようなマルチミラーアレイは、ファセットミラーとも称することが多く、ミラー素子の反射性の表側がファセットを形成する。
【0008】
制御可能なマルチミラーアレイの幾何学的反射特性を目標通りに設定することができるように、マルチミラーアレイは概して、ミラー素子毎に、ミラー素子を担持するキャリア構造に対するミラー素子の姿勢を制御可能に変更するためにミラー素子に結合されたアクチュエータシステムを有する。アクチュエータシステムのアクチュエータ移動は、マルチミラーアレイに割り当てられた制御ユニットにより制御される。制御デバイスの制御下で、ミラー素子のミラー面の向きをゼロ位置から目標通りに変更することが可能である。
【0009】
MMAの幾何光学的反射特性を高空間分解能で設定することができるように、個別に設定可能なミラー面のサイズのさらなる縮小が目標となることが多い。そこで、ミラー面とキャリア構造との間の領域にMEMS構造として駆動素子、センサ素子、及び機械素子を形成するために、微小電気機械システム(略してMEMS)の製造分野からの技術が製造目的で繰り返し用いられることが多い。
【0010】
特許文献1(特許文献2に対応)は、MEMS技術を用いて製造されたミラー素子を2つの旋回自由度で旋回させる変位デバイスを記載している。この変位デバイスは、櫛形電極として設計されたアクチュエータ電極を有する電極構造を含み、アクチュエータ電極は、単一平面に配置され、ミラー素子を旋回させるための直接駆動部を形成する。例えば、MEMSミラー素子を有するMMSの他の例は、特許文献3、特許文献4、又は特許文献5に開示されている。
【0011】
高エネルギーEUV放射線でのEUV装置の動作は、その根底にある基本原理により、EUV装置の劣化現象につながり得る。特許文献6(特許文献7に対応)は、EUV放射線の生成にスズ液滴が用いられるEUV光源で例えば汚染物質が生じることを記載している。スズ液滴は、レーザビームによりプラズマ状態に変わり、このためスズ液滴の一部が蒸発してスズ粒子が生じてEUVリソグラフィ装置内に広がり、例えば照明系又は投影系内の光学素子の光学面、及びEUVリソグラフィ装置の機械部品又は電子機械部品にも直接、又はスズ層の形態で堆積する。スズ汚染は、EUVリソグラフィ装置に存在する水素又は水素プラズマにより誘発される、EUVリソグラフィ装置におけるスズ含有成分へのアウトガス効果によっても引き起こされる可能性がある。MEMS技術を用いて製造されたMMAの個別ミラーを保護するために、保護素子が記載されており、これは、グリッド状構造を有するフレームにより担持され、それぞれがMMAの表面の一部、例えば隣接ミラー素子の群を汚染物質から保護する複数の薄膜セグメントにより形成される薄膜を含む。フレームにより担持される膜は、ミラー面の前方に離れて配置される。
【0012】
特許文献8は、マルチミラーアレイを有する光学アセンブリを記載している。EUV放射源に由来するスズ粒子及び他の汚染物質によるミラー素子の汚染を回避するために、光学アセンブリは、少なくとも2つの隣り合う個別ミラーのミラー本体間のギャップを通過するパージガス流を発生させるパージデバイスを備え、パージガス流は、ミラー本体のうちキャリア構造に対向する第2面からミラー本体の放射線入射側の方向に揃えられる。
【0013】
特許文献9は、個別に傾斜可能なミラー素子を有するマルチミラーアレイを開示している。隣り合うミラー素子同士の衝突のない相対移動を可能にするために、隣り合うミラー基板の側面により画定されるギャップが直接隣り合うミラー素子間にそれぞれ位置する。ミラー面の後方に位置付けられたマルチミラーアレイのコンポーネントを放射線関連損傷(加熱、放射線劣化)から保護するために、種々の対策が提案されており、これらの対策は、入射光がギャップを通ってミラー面の後方の領域に達することができないようにするためのものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許出願公開第2017/363861号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10 2015 204 874号明細書
【特許文献3】米国特許第10,261,424号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第10 2013 201 509号明細書
【特許文献5】国際公開第2021/032483号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2017/072195号パンフレット
【特許文献7】独国特許出願公開第10 2015 221 209号明細書
【特許文献8】独国特許出願公開第10 2016 206 202号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2014/0218708号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このような背景から、本発明は、紫外域の比較的短波長の放射線で動作する装置で用いる場合に、短波長のUV放射線の影響下で比較的長期間にわたって機能を維持するマルチミラーアレイを提供するという課題に基づく。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この課題を解決するために、本発明は、請求項1の特徴を有するマルチミラーアレイ及び請求項21の特徴を有する照明系を提供する。有利な発展形態は、従属請求項で指定される。全ての請求項の文言を参照により本明細書の内容に援用する。
【0017】
特許請求の範囲に記載の発明によるマルチミラーアレイは、キャリア構造と、キャリア構造上に格子配列で並んで配置された複数のミラーユニットとを備える。ミラーユニットのそれぞれが、ベース素子と、ベース素子に対して個別に可動に装着されたミラー素子とを含む。ミラー素子は、使用放射線を良好に反射するミラー面を形成するためにベース素子とは反対側の前面に反射コーティングを有するミラー基板を含む。各ミラー基板は、ベース素子に対向する背面及びその周上の側面も含む。ミラー素子のアレイは、ミラー素子の相互に対する相対移動がミラー素子の指定の移動域(範囲)全体で相互に衝突せずに実施されるように構造的に設計されるので、ミラー素子の相互接触が意図的に防止される。
【0018】
マルチミラーアレイのミラー面は、実質的に面積を充填するように並んで配置される。したがって、ミラー面は、個々のミラー面よりも大幅に大きな反射総面積を形成する。しかしながら、総面積は全体が反射するのではない。その代わりに、隣り合うミラー基板の側面により画定されたギャップが、直接隣り合うミラー素子間に位置する。隣り合うミラー素子同士の衝突のない相対移動を可能にすることが機能的に必要である。
【0019】
各ミラーユニットの場合に、ミラーユニットの機能コンポーネントは、ベース素子とミラー素子との間の中間空間に配置される。例えば、ベース素子とミラー基板との間の中間空間において、各ミラーユニットは、ミラー素子をベース素子上に可動に装着するためのサスペンションシステムのコンポーネントと、制御信号の受け取りに応答してベース素子に対するミラー素子の移動を発生させるアクチュエータシステムのコンポーネントとを含み得る。さらに、ベース素子に対するミラー面の各向きを感知するセンサ素子、例えば位置センサ素子も、この中間空間に配置され得る。制御エレクトロニクスのコンポーネントは、ミラー素子に対向するベース素子の上側に配置され得る。
【0020】
サスペンションシステムは、ミラー素子をベース素子に機械的に接続する。サスペンションシステムは、例えば、必要な可動性を与える弾性又は可撓性の部分又はコンポーネントを含むことができる。サスペンションシステムは、例えばフレクシャの形態で、そのコンポーネント又は部分を関節式に接続する関節を収容し得る。アクチュエータシステムは、サスペンションシステムから独立して構成されたシステムとすることができ、ミラー素子の移動のための力及びトルクを提供する。サスペンションシステムの一部がアクチュエータシステムの機能部品としても働くことにより、サスペンションシステム及びアクチュエータシステムを統合することも可能である。センサシステムのコンポーネントも同様に統合することができる。
【0021】
したがって、アクチュエータシステム、センサシステム、及びさらなる機械素子の全体が、ミラー面の下に、すなわちこの設計の場合はミラー面とキャリア構造との間に配置され得る。結果として、マルチミラーアレイの総面積における個別ミラーの反射ミラー面の面積率を非常に大きくすることができる。
【0022】
より高い集積密度を得るために、製造プロセスは、例えば駆動素子(アクチュエータシステムの素子)、機械素子(例えば、サスペンションシステムの素子)、及び/又はセンサ素子等の作製のために微小電気機械システム(略してMEMS)の製造分野からの技術を利用することが多くなっている。今日では、このようなMEMSプロセスは、例えばシリコン又はシリコン化合物のからなる初期基板を構造化して必要なコンポーネントを設計する構造化プロセスに実質的に基づく。
【0023】
本発明者らの認識では、マルチミラーアレイの製造にMEMS技術を適用する利点は、欠点により相殺される。これは特に、EUV放射線を用いる用途に当てはまる。これらの用途では、高エネルギーEUV放射線の作用下での水素含有雰囲気中のイオン化プロセスにより、正に帯電した水素イオン(Hイオン)及び中性のHラジカルを含有するEUV誘起水素プラズマが生じ得ることが特に考慮される。水素イオン及びラジカルは、特にシリコンに対して強い腐食作用を及ぼすので、水素プラズマの作用下でミラーユニットのコンポーネントに腐食によるアブレーション、したがって構造変化及び他の劣化プロセスが生じ得る。
【0024】
個々のミラー基板間にギャップがあることより、ミラー面又はミラー基板とキャリア構造との間でその後方に位置付けられた中間空間に配置された機能的に重要なコンポーネントも攻撃され得る。これは、特にMEMS構造に当てはまる。多くの影響がこれに寄与し得る。最初に、水素イオンを含有する水素プラズマがミラー面の前方の領域で発生し、続いてギャップを通過して中間空間に入り、そこで構造を攻撃し得る。EUV放射線がギャップを通過してミラー基板とキャリア構造との間の中間空間に入り、そこにあるMEMS構造の体積内で水素イオンを発生させる可能性がある場合は、特に危険である。例えば、これは、個々のミラー面の通常の横方向の広がりよりも大きな横方向の広がりを有するMMA上の領域にEUV放射線が照射される場合であり得る。
【0025】
ミラー面の後方に位置付けられたミラーユニットのコンポーネントの腐食によるアブレーション、特にシリコンの腐食は、特に2つの問題を引き起こし得る。第1に、シリコンが光学面に、正確にはマルチミラーアレイの表面だけでなく広がる結果として他の光学面にも堆積し得る。これにより、比較的短期間で著しい透過損失が起こり得る結果として、EUV装置の実際に利用可能な使用期間が、理論的に予想される使用時間よりも大幅に短くなる。さらに、内部及び外部光電効果が誘発され得ると共に、ミラーユニットの機能構造素子の特性、特に電気特性を変える可能性があるので、それ以上は許容不可能な特性の変化、場合によっては完全な故障さえもが比較的短期間で(例えば、1年以内に)生じ得る。
【0026】
腐食攻撃が制御されないことにより生じるこれらの欠陥に加えて、例えばミラー基板とキャリア構造との間の領域にスズ又はスズ化合物からなる汚染粒子が流入する結果として、性能の低下があることが既に知られている。これらは、相互に対して移動可能である構造素子の移動を阻止又は妨害する場合があり、アクチュエータとセンサとの間の相互作用を妨げることにより、制御下の傾斜中のミラーの位置決めにも影響を及ぼす場合がある。さらに、特に入射EUV放射線に直接曝される表面の領域において、放射線による加熱及び劣化プロセスに起因して、且つプラズマ流及び光電効果による電気的外乱に起因して、さらなる問題が生じ得る。
【0027】
腐食の問題がDUV用途で際立ったものでないとしても、放射線による加熱効果及び誘起された光電効果による不具合に起因して、機能性及び耐用寿命がDUV装置でも著しく制限され得る。
【0028】
本発明者らは、このような問題の大幅な軽減又は回避に寄与し得る解決手段を開発した。
【0029】
本発明の1つの文言によれば、特に上記腐食の問題に鑑みて、ミラー基板の側面のそれぞれの少なくとも一部又はその全体を、割り当てられたミラー面に対して又はミラー基板の前面に対して90°からずれた角度で斜め向きにすることにより、大きな改善を達成することができる。これは、反射コーティングを設けた前面又はミラー面に対して側面が実質的に垂直であるようにミラー素子がそれぞれ設計される既知の設計原理からの逸脱を表す。この場合、「実質的に垂直」という文言は、特に、それぞれの製造公差内で、従来のミラー基板の側面がミラー面のエッジ領域において反射性の表側に対して垂直な向きであったことを意味する。換言すれば、本発明者らの知る限り、一般的なマルチミラーアレイには、この従来の設計から逸脱する重点対策が今までのところない。
【0030】
そこから逸脱して、ここで提案するのは、各製造プロセスの製造公差から大幅に外れるミラー面に対する斜め位置となるように、側面全体、又は側面のそれぞれの少なくとも機能的に重要な部分を意図的に製造することである。したがって、本発明のこの態様によれば、直接隣り合うミラー基板のミラー基板側面が、関連するミラー面に対してそれぞれ完全に又は少なくとも部分的に又は平均して90°からずれた角度で斜めに向くことにより、ミラー基板のエッジ領域が保護構造として設計される。
【0031】
これに関して、斜めの側面の異なる構成が可能である。巨視的平面としての側面の全高(前面と背面との間に位置する)は、ミラー面に対して同じ角度で斜めに向くことができる。背面が前面と平行に延びる場合、及び同じミラー素子の対向する側面がそれに対して対称に斜めである場合、ミラー基板は、対向する側面間を通る断面で実質的に台形の断面形態を得る。
【0032】
側面を、完全に又は少なくとも一部で凸状又は凹状に湾曲させることもできる。このような曲面部分は、生産性を理由として且つ/又は機能の点で有利であり得る。側面は、ミラー面に対して実質的に垂直な向きの少なくとも1つの部分を含み得る。しかしながら、このような垂直部分は、面積が小さいことが好ましく、すなわち斜め部分が大部分を占めるべきである。
【0033】
しかしながら、側面は、より小規模の段状形態を有することで当該側面の巨視的な斜めの向きとなることも可能である。
【0034】
斜め向きの側面のこの概念を実現するための様々な選択肢がある。
【0035】
一発展形態によれば、直接隣り合うミラー基板のミラー基板側面は、直接隣り合うミラー基板間に形成されたギャップのギャップ幅(少なくとも非傾斜ミラー素子の場合)が、反射コーティングを設けた前面からベース素子の方向に連続的に又は少なくとも1つ又は複数の部分で平均して増加するような設計及び向きである。ミラー素子の中立位置の場合、ギャップは、結果としてミラー面の側、すなわち放射線入射側の方がベース素子に対向する側(放射線出射側)よりも狭い。
【0036】
好ましくは、設計は、反射コーティングを設けたミラー素子の前面が背面の外縁により囲まれた面積よりも大きな表面積を有するように選択され、背面の外縁は、全ての周方向位置で前面の外縁に対して横方向オフセット分だけ内側に引っ込んでいる。この幾何学的形状は、反射性の表側から裏側の方向又はベース素子の方向へのミラー基板のテーパとしても表すことができる。背面は、前面と実質的に平行に延びることが好ましい。
【0037】
この手法の利点を理解することができるように、本発明者らの知見の一部を以下で簡単に説明する。本発明者らの認識によれば、側面は、特に隣り合うミラー素子が相互に対して傾斜している場合に、隣り合うミラー素子の中間空間への入射放射線の入力結合に大きく寄与し得る。この望まれない役割の一因は、マルチミラーアレイの製造プロセス中に、前面に加えて前面に隣接する側面にも概して反射コーティングが与えられることである。マルチミラーアレイの目的の用途には必要ないが、この状況は、概して何も対策がされなければ自動的に生じる。関連するミラー素子がその非傾斜中立位置(傾斜角=0°)にあり、ベース面の法線に対する放射線の入射角が大きすぎない場合、側面は概して直接放射を受けないか、又は比較的僅かな直接放射しか受けないが、ミラー素子が傾斜した場合、入射放射線の比較的大きな部分が程度の差はあるが大きな入射角(斜入射)で側面に直接入射する場合もある。そうすると、側面において低損失で又は大きな反射率で反射されると共に、大幅に変更されたビーム方向で隣り合うミラーユニットの中間空間に入射結合する可能性がある放射線は、決して少なくない。よって、傾斜したミラー素子の側面に対する入射放射線の1回又は複数回の反射により、非傾斜ミラー素子の場合には「暗所」にあり、すなわちミラー素子の陰にある隣り合うミラー素子の後方の領域に、有害な放射線を到達させる場合もある。したがって、ミラー素子の後方のベース素子と同じ高さには、特に放射線感応性のコンポーネントの取り付けに用いることができる直接照射から保護される領域が、ごく僅かしか残らない場合もある。
【0038】
これに対して、側面がミラー素子の後方で部分的に又は全高にわたって「内側に下がる」ように斜めに配置される場合、この有害な効果を減衰させて、ミラー素子の後方の放射線から保護された領域のサイズを大きくすることができる。これにより、各ミラー素子の後方の放射線から保護された設置空間が大きくなり、有害な放射線に起因して生じ得る劣化プロセス及び電気的外乱(プラズマ流、光電効果)を減速させるか又は完全に抑制することができる。
【0039】
斜め位置の範囲は、使用中の各設置状況に適合させることができる。EUV放射線の局所入射角範囲を特に考慮することができる。概して、斜め位置は特に顕著である必要はない。いくつかの実施形態では、オフセットは、ミラー基板の(前面と背面との間で測定した)厚さ又は高さの10%以下のオーダとすることができる。特に、オフセットは、厚さ/高さの3%以上、好ましくは5%以上、及び/又は厚さ/高さの15%以下であるものとすることができる。
【0040】
代替として又は追加として、前面と隣の側面との間の移行部の夾角が80°~89°の範囲、特に84°~88°の範囲であれば有利であり得る。
【0041】
角度が上限よりも大幅に大きい場合、通常は従来の垂直な側壁に対して改善を得ることはほとんど不可能である。これに対して、角度が下限よりも大幅に小さい場合、特にミラー素子の中立位置では、比較的大きな入射角で斜入射する放射線の場合には保護すべき領域により高い強度が到達し且つ/又は保護(暗)領域が垂直な側壁の従来の解決手段の場合よりも小さくなり得る。
【0042】
さらに別の手法は、反射コーティングを設けた前面の表面粗さよりも1桁以上(すなわち、10倍以上)大きな表面粗さを側面が有するように、製造を制御することにある。例えば、側面の表面粗さは、100nm RMS以上又は1000nm RMS以上とすることができる。比較すると、ここで考慮される用途の場合、研磨された光学面の表面粗さは、1nm RMS未満、又はさらに0.2nm RMS未満の範囲である。この値は、いわゆる二乗平均平方根粗さ(RMS)に関するものである。側面が適切な対策により大きな表面粗さで製造される場合、側面における正反射を大幅に抑制することが可能であり、入射放射線は、大きな立体角範囲に散乱することができるだけである。結果として、粗い側面に入射した放射線は、そのエネルギーが空間に分散され且つ/又は側面の領域で吸収されるので「無害」となる。
【0043】
この対策(表面粗さが大きい側面の設計)は、側面の他の特徴とは関係なく、特にミラー面に対して実質的に垂直な側面の場合にも有利であり得る。
【0044】
斜めの側面の解決手段は、異なる方法で実施することもできる。
【0045】
一発展形態では、直接隣り合うミラー素子のミラー基板側面がそれぞれ、割り当てられたミラー面に対して90°からずれた角度で斜め向きとなって、隣り合うミラー素子の斜めの側面が形成するギャップが、ミラー面に対して斜め且つ/又は入射EUV放射線に対して斜め且つ/又はマルチミラーアレイのベース面に対して斜め向きとなるようにすることにより、ミラー基板のエッジ領域が防食構造として設計されるものとする。ギャップは、少なくともミラー素子がそのゼロ位置にある場合は常に、ギャップを通過する直接放射線が(ベース面に対して)垂直な放射線入射(垂直入射)に対して遮断されるように設計することができる。結果として、中間空間は、ギャップ領域でもミラー基板を用いて透過EUV放射線に対して遮蔽される。遮蔽は完全又は全体であり得る。しかしながら、他の部分的な遮蔽が行われる場合もある。
【0046】
ミラー基板のエッジ領域は、ギャップが、ミラー面の隣の第1ギャップ幅を有する第1(前部)ギャップ開口とミラー基板の裏側の隣の第2ギャップ幅を有する第2(後部)ギャップ開口とを有し、第1ギャップ開口及び第2ギャップ開口がギャップの斜めの向きに起因して横方向オフセットを有することで、(直接)放射線通過に効果的な斜めギャップの実効ギャップ幅が第1ギャップ幅及び/又は第2ギャップ幅よりも小さいように設計され得る。特に、実効ギャップ幅が消滅する、すなわち放射線不透過性のギャップが達成される。所与の絶対ギャップ幅では、放射線透過に対する実効ギャップ幅は、絶対ギャップ幅未満だがゼロよりも大きい場合もある。例えば、エッジ長が1ミリメートル又は数ミリメートルの範囲で厚さが1ミリメートル又は10分の数ミリメートルの範囲であるミラー基板の場合、ギャップ幅は、10μm~100μmの範囲、特に20μm~60μmの範囲とすることができる。
【0047】
第1ギャップ開口と第2ギャップ開口との間の横方向オフセットは、第1ギャップ幅及び第2ギャップ幅の最大値と少なくとも同じ大きさであることが好ましい。設置場所におけるビーム方向は、実効横方向オフセット、すなわちビーム方向に対して垂直な横方向オフセットが決め手となるように、設計段階で考慮すべきである。これにより、ミラー面に入射するEUV放射線が垂直若しくは事実上垂直な入射又は斜めの放射線入射の場合のいずれにおいても、ギャップを通りその後方の中間空間に直接達することができるEUV放射線をなくすことができる。
【0048】
好ましくは、ミラー基板側面は、ミラー素子がそれぞれの中立位置にある場合に実質的に平行平面ギャップが生じるような向きである。この意味で、ギャップを画定する側面が製造公差の範囲内で相互に平行に延びるか又は10°以下の角度を含む場合に、ギャップは「実質的に平行平面」である。特に、これは調整により容易になる。
【0049】
隣り合うミラー素子のミラー基板側面は、上記ミラー素子間に形成されたギャップの一方の側でミラー基板側面とミラー面との間に90°未満の角度(鋭角)が生じ、反対側で90°を超える角度(鈍角)が生じ、両側で90°からずれた絶対値が同じ又は事実上同じ(5°以下のずれ)であるような向きにすることができる。
【0050】
多くの場合、ミラー基板側面の斜めの向きは、ミラー面に対する90°の向きからのずれが10°以上であり、特に20°~30°の範囲とすることができるように選択されれば有利であることが分かった。結果として、比較的小さな絶対ギャップ幅の場合に、ギャップ幅(これは概してできる限り小さくすべきである)と衝突せずに利用可能な旋回領域との間で適切な妥協点を実現することができる。
【0051】
各ミラー基板がそれぞれ両側に斜めのミラー基板側面を有し、当該ミラー基板側面が一方の側でミラー面に対して90°を超える角度又は90°未満の角度を含み、反対側で逆方向ではあるが同じ絶対角度を含む配置が特に好ましい。結果として、ミラー基板は、対向する側面間を通る断面で実質的に台形の断面形態を得る。その場合、連続した一列のミラー素子は、交互に逆台形の断面形態を有することで、挟まれた斜めギャップの向きがギャップ毎に交互に変わる。好ましくは、これはミラー基板が一列に連続する全ての方向に当てはまるので、例えば正方形のミラー面を有する個別ミラーの場合にはミラー基板が正四角錐台の形態を有し得る。
【0052】
したがって、直接隣り合うミラー基板のミラー基板側面を関連するミラー面に対してそれぞれ90°からずれた角度で斜め向きにすることにより、ミラー基板のエッジ領域は、防食構造として設計される場合もある。
【0053】
側面の斜め位置の結果として、ミラー基板のエッジ領域は、その後方のコンポーネントの保護に様々な方法で寄与することができ、したがって防食システム及び/又は電気的外乱に対する保護システムの構成部分としても働くことができる。
【0054】
したがって、本発明のこの態様の1つの文言によれば、マルチミラーアレイは、防食システムを備えており、これは、ミラー面とキャリア構造との間に配置されたミラーユニットのコンポーネントに対するEUV放射線誘起水素プラズマの材料除去及び/又は構造変更をもたらす腐食攻撃を防止するか、又は防食システムのないミラーユニットに比べて低減するよう特に構成される。この場合、防食システムは防食構造を含む。記載のように、防食構造はミラー素子上に形成又は配置され得る。防食構造は、ベース素子及び/又はサスペンションシステムのコンポーネント及び/又はアクチュエータシステムのコンポーネント及び/又は任意に存在するセンサシステムのコンポーネント上にも形成又は配置され得る。
【0055】
本願の意味の範囲内での「防食構造」は、上記腐食の問題に対処するために特に設計され且つこれに有効であるマルチミラーアレイの構造コンポーネントである。従来技術からのマルチミラーアレイに比べて、追加の構造特徴として従来の構造に取り付けることにより防食構造を設けることができる。従来のマルチミラーアレイにあるコンポーネントに、腐食攻撃に対する保護を改善する特定の設計又は構造を与えることにより、防食構造を作製することも可能である。
【0056】
防食システム又は防食構造を用いて上記腐食攻撃の効果を低減又はさらに完全に防止することができる結果として、防食システムがない場合よりも大幅に長い使用期間にわたって生産稼働が可能であるように、腐食による劣化現象をほとんど回避するか又はいずれの場合もその経時的な発生を遅らせることができる。防食システムがミラーユニットの1つ又は複数のコンポーネントに防食構造を含み、当該防食構造が各コンポーネント上に形成されるか又は各コンポーネントに取り付けられる結果として、これらは、マルチミラーアレイの製造中に適宜直ちに作製し且つ/又は取り付けることができ、別個のユニットとして製造される必要はなく、場合によってはマルチミラーアレイに対して別個に設置して調整する必要がない。
【0057】
腐食攻撃により生じる問題は、防食構造を用いて様々な方法で低減又は回避することができる。例えば、防食構造は、例えばEUV放射線がミラー面とキャリア構造との間の中間空間に放射されるか、又は防食構造のない設計よりも入射放射線量が低減されるように設計することができる。これにより、中間空間での腐食性プラズマの発生を回避することができ、結果としてこの領域での腐食速度を低減することができる。代替として又は追加として、ミラー面の前方で発生したプラズマが、ギャップを通って中間空間に侵入して腐食攻撃に寄与するのが防止されるように、防食構造を設計することも可能である。
【0058】
好ましくは、少なくともベース素子、サスペンションシステム、及びアクチュエータシステムは、シリコン(Si)又はシリコン化合物でできたMEMS構造として形成される。その場合、小型構造を製造するための従来のMEMS技術を適切に適合させることができる。しかしながら、構造の少なくともいくつか、特にミラー基板を、腐食攻撃により攻撃できない又はシリコンよりも攻撃の程度が小さい材料、例えば酸化アルミニウム(Al)から設計するものとすることができる。
【0059】
一発展形態によれば、直接隣り合うミラー素子又はそのミラー面は、ミラー面の1つにより規定される第1基準点及びすぐ隣のミラー面により規定される第2基準点が高さ方向に離間して上下に位置付けられるように、恒久的又は一時的に相互に対して高さをオフセットして配置されるものとすることができ、基準点は、ミラー面の幾何中心に対応する。高さオフセットは、ミラー素子間に形成されたギャップの領域にも同じ又は同様のサイズで存在し、ミラー素子の各対向エッジにより形成される干渉輪郭を相互に大きく離すので、衝突せずに利用可能な比較的大きな傾斜範囲を実現することができるようになる。高さオフセットは、事前に規定されて固定された形で存在し得る。例えば、これは、基板の厚さの25%~75%の範囲にあり得る。その結果、隣り合うミラー基板との特に効果的な重なりが実現可能である。
【0060】
マルチミラーアレイは、制御信号に応答して個々のミラー素子を隣のミラー素子に対して可逆的且つ連続的に高さ調整するための制御可能な高さ調整デバイスを備え得る。
【0061】
この目的で、実施形態によっては、ミラー素子の移動を発生させるためのアクチュエータシステムを、2つの回転自由度だけでなく1つの並進自由度がある設計とし、並進自由度は制御可能な高さ調整に用いることができる。並進自由度は、回転自由度の回転軸に対して垂直な又は角度をなす並進軸に沿ったミラー素子の移動に対応し得る。回転自由度の回転軸は、平面内に実質的に相互に直交して位置付けられることが好ましく、並進自由度の並進軸は、その平面に対して垂直に延びる。
【0062】
代替として又は追加として、ベース素子は、個別に高さ調整可能とすることができるので、例えばキャリア構造とベース素子との間の少なくとも1つの厚さ変更可能な圧電層を用いて、ミラーユニット全体を再度昇降させることができる。
【0063】
記載のように、高さオフセットは、特に衝突の理由から有利であり、したがって望ましい場合がある。EUVマルチミラーアレイを収容する光学系全体では、すなわち例えばEUV装置の照明系では、EUVマルチミラーアレイの隣り合うミラー素子の高さが相互に対してオフセットする結果としてミラー素子が入射放射線方向に相互にオフセットした平面又は表面で反射することを考慮するために、対応する許容値が設けられ得る。
【0064】
実施形態によっては、高さ調整デバイスのコントローラが、隣のミラー素子の傾斜位置に応じてミラー素子の高さ調整が可能であるように構成されるものとする。特に、これにより、切替位置に依存した衝突を回避することができ、切替状態に従って照明を最適化することができる。
【0065】
EUVマルチミラーアレイの隣り合うミラー素子の制御可能な相対高さ調整は、本明細書に記載のEUVマルチミラーアレイの他の特徴とは無関係に有利であることもでき、例えばミラー素子がミラー面に対して垂直な向きの側面を含むことで斜めのギャップがないEUVマルチミラーアレイにおいて、それ自体が保護に値する発明であり得る。
【0066】
これまでに記載した対策の代替として又は追加として、実施形態によっては、防食システムは、ミラー面とは反対側のミラー基板の裏側でギャップの領域にそれぞれ配置された放射線入射面を含む、放射線トラップ素子の形態の防食構造を含むものとする。このような放射線入射面は、ギャップのキャリア側の第2ギャップ開口のすぐ近くに配置することができ、角度をなしてギャップを通過するEUV光線でさえも放射線入射面に入射し、したがってその悪影響が緩和され得るように、両側が第2ギャップ開口を越えて突出することができる。放射線トラップ素子は、場合によっては、任意にミラーユニットの製造中に他の構造と一体的にMEMS構造として作製され得る。
【0067】
場合によっては、放射線トラップ素子は、異なる機能機構を個別に又は相互に組み合わせて用いることができる。一実施形態によれば、放射線トラップ素子の少なくとも放射線入射面の領域は、EUV放射線に対して吸収効果を有する吸収材料であり且つ/又は水素イオン及び水素原子と接触するとH分子の形成に関する再結合確率を高める再結合触媒である、機能性材料からなる。現在の知識によれば、特に適切な機能性材料は、ルテニウム(Ru)、白金(Pt)、レニウム(Rh)ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、及び鉄(Fe)の群からの材料である。これらは、吸収特性及び再結合促進特性の両方を有する。
【0068】
放射線トラップ素子は、部分的に高さ調整可能であるものとすることができる。個別の防食をより良好にするために、隣り合うミラー素子の傾斜位置及び/又は高さ位置に応じて、各放射線トラップ素子の高さ設定を任意にもたらすことができる。
【0069】
一発展形態によれば、腐食の問題を軽減するためのさらに別の手法は、少なくとも1つの保護膜を含む防食システムからなり、保護膜は、直接隣り合うミラー基板間に形成されたギャップに跨りギャップを画定するミラー基板と接触するギャップ被覆部を含み、特にミラー基板に固定される。したがって、保護膜及び/又はギャップ被覆部は、隣り合うミラー素子により直接担持されることにより、それらと共に着脱することができる。したがって、別個の要素がない代わりに、ギャップ被覆部を担持する隣り合うミラー素子と共にギャップ被覆部を製造することができる。場合によっては、保護膜又はギャップ被覆部は、ミラー素子に後日固定してもよい。ギャップ被覆部は、ミラー素子の表側に配置されて第1ギャップ開口を覆うことができる。これにより、ギャップの領域は既に保護されている。しかしながら、ギャップ被覆部が第2ギャップ開口の領域に取り付けられ、すなわちギャップの通過後にのみ作用することも可能である。
【0070】
ギャップ被覆部の設計に関しては様々な選択肢がある。いくつかの実施形態では、ギャップ被覆部の全体がEUV透過材料からなる。これにより、EUV放射線がギャップ被覆領域を通って中間空間に到達することができる。しかしながら、水素プラズマがミラー配置の領域から中間空間に到達することは防止されるので、この点で腐食攻撃の低減が得られる。この配置は、粒子汚染に起因する2つの隣り合う照明チャネルの遮断も防止する。
【0071】
他の実施形態では、保護膜は、ミラー被覆部の領域に、EUV放射線に対する吸収効果を有する吸収材料を含み、吸収材料は、例えば、Ru、Pt、Re、Rh、Ir、Mo、Ni、Feの群から選択される可能性がある。これらの変形形態では、ギャップ被覆部は、中間空間に侵入する水素プラズマに対する保護を提供するだけでなく、EUV放射線も遮断するので、この点で、新たな水素プラズマも中間空間で生成されることができない。
【0072】
保護膜がギャップの入射側に、すなわちミラー表側と同じ高さに取り付けられる実施形態では、上記保護膜は、ミラー面のエッジ領域でその外面に取り付けることができる。これがEUV透過保護膜に関する場合、複数の隣り合うミラー面にわたって延びる大面積膜として適用することもでき、その際に介在ギャップにも跨ることができる。膜は、非常に可撓性に富む設計にすることができるので、介在ギャップを被覆するギャップ被覆部に過大な機械荷重をかけることなくミラーを相互に対して傾斜させることもできる。
【0073】
一発展形態では、ミラー基板の表側の保護膜は、ミラー基板と反射コーティングとの間の多層配列の一部として配置されるものとする。反射コーティングの自由表面が保護膜により占められないことにより、多層配列が膜により覆われないので特に高い反射率を可能にすることができる。
【0074】
保護膜をミラー基板の裏側に配置することも可能である。放射線トラップ素子を有する変形形態では、保護膜を、例えばミラー基板の裏側と放射線トラップ素子の表側又は裏側との間に配置することができる。高さ調整式に装着された放射線トラップ素子の場合、放射線トラップ素子は、ミラーユニットと放射線トラップ素子との間の保護膜の層応力の結果として高さ調整方向に動かされ得るので、放射線トラップ素子の傾斜位置に応じた高さ調整を達成することができる。その結果、放射線トラップ素子の高さを調整するための別個のアクチュエータを省くことができる。
【0075】
上記対策の1つ又は複数の代替として又は追加として、防食システムは、腐食攻撃を受けやすい領域でコンポーネント材料からなるミラーユニットのコンポーネントに塗布される、防食層の形態の少なくとも1つの防食構造を含むものとすることができ、防食層は、水素イオンによる腐食攻撃に対してコンポーネント材料よりも耐食性が高い少なくとも1つの保護層材料を含む。シリコン又はシリコン化合物でできたコンポーネントの場合、防食層は、例えば非酸化状態又は酸化状態のアルミニウム、すなわちAlからなり得る。
【0076】
本発明及びその例示的な実施形態の適用は、MEMS製造技術を用いてシリコン又はシリコン化合物に基づきコンポーネントが製造されるミラーユニットに限定されない。したがって、腐食攻撃を受けやすい一部又は全部のコンポーネントを、少なくとも腐食攻撃に曝される可能性のあるコンポーネントの表面領域において、腐食攻撃に特に耐性のある材料から、例えば酸化アルミニウムから製造することが可能である。
【0077】
本発明は、EUV装置の照明系であって、EUV装置の動作中に、EUV放射源からのEUV放射線を受光し、且つ受光したEUV放射線の少なくとも一部から照明系の出射面の照野に指向された照明放射線を整形するよう具現された、照明系にも関する。照明系は、本願に記載のタイプの少なくとも1つのEUVマルチミラーアレイを有する。
【0078】
EUV装置は、例えば、EUVマイクロリソグラフィ用の投影露光装置、又はEUVマイクロリソグラフィ用のマスク(レチクル)を検査するためのEUV放射線を用いるマスク検査装置とすることができる。
【0079】
本発明のさらなる利点及び態様は、特許請求の範囲と、図を参照して以下で説明する本発明の例示的な実施形態の説明とから明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0080】
図1】例示的な一実施形態による1つ又は複数のEUVマルチミラーアレイを収容する照明系を有するEUVマイクロリソグラフィ投影露光装置の光学コンポーネントを概略的に示す。
図2】Hイオンを含有するプラズマ環境中の従来のEUVマルチミラーアレイの概略断面を示す。
図3】EUV放射線を遮断する斜めギャップがミラー基板間に位置付けられた、2つの直接隣り合うミラーユニット間の移行領域の垂直断面を示す。
図4A】従来技術からの垂直方向に延びるギャップに比べた斜めギャップの遮蔽効果を示す。
図4B】従来技術からの垂直方向に延びるギャップに比べた斜めギャップの遮蔽効果を示す。
図4C】従来技術からの垂直方向に延びるギャップに比べた斜めギャップの遮蔽効果を示す。
図4D】従来技術からの垂直方向に延びるギャップに比べた斜めギャップの遮蔽効果を示す。
図5A】直接隣り合うミラー素子が恒久的に又は断続的に高さを相互からオフセットして配置される例を示す。
図5B】直接隣り合うミラー素子が恒久的に又は断続的に高さを相互からオフセットして配置される例を示す。
図5C】直接隣り合うミラー素子が恒久的に又は断続的に高さを相互からオフセットして配置される例を示す。
図6】ギャップの後方に放射線トラップ素子の形態の防食構造を有する例示的な実施形態を示す。
図7A】ミラー素子により担持された、ギャップ被覆部を有する保護膜の形態の防食構造を有する例示的な実施形態を示す。
図7B】ミラー素子により担持された、ギャップ被覆部を有する保護膜の形態の防食構造を有する例示的な実施形態を示す。
図7C】ミラー素子により担持された、ギャップ被覆部を有する保護膜の形態の防食構造を有する例示的な実施形態を示す。
図7D】ミラー素子により担持された、ギャップ被覆部を有する保護膜の形態の防食構造を有する例示的な実施形態を示す。
図7E】ミラー素子により担持された、ギャップ被覆部を有する保護膜の形態の防食構造を有する例示的な実施形態を示す。
図7F】ミラー素子により担持された、ギャップ被覆部を有する保護膜の形態の防食構造を有する例示的な実施形態を示す。
図8A】反射コーティングの領域に保護膜を取り付けるための1つの選択肢を示す。
図8B】反射コーティングの領域に保護膜を取り付けるための1つの選択肢を示す。
図9A】斜めギャップを有するマルチミラーアレイの製造方法の第1変形形態を概略的に示す。
図9B】斜めギャップを有するマルチミラーアレイの製造方法の第1変形形態を概略的に示す。
図9C】斜めギャップを有するマルチミラーアレイの製造方法の第1変形形態を概略的に示す。
図10A】斜めギャップを有するマルチミラーアレイの製造方法の第2変形形態を概略的に示す。
図10B】斜めギャップを有するマルチミラーアレイの製造方法の第2変形形態を概略的に示す。
図10C】斜めギャップを有するマルチミラーアレイの製造方法の第2変形形態を概略的に示す。
図11】ギャップ幅がベース素子の方向に大きくなるように斜めに位置決めされた側面をミラー基板が含む例示的な実施形態を概略的に示す。
図12A】斜めに位置決めされた側面の代替的な設計選択肢を示す。
図12B】斜めに位置決めされた側面の代替的な設計選択肢を示す。
図12C】斜めに位置決めされた側面の代替的な設計選択肢を示す。
図13】ミラー素子の傾斜位置とベース素子の照射との関係を表す例示的なシミュレーション計算を説明する図を示す。
図14A】垂直な側面を有する従来のミラー素子の照射条件の比較を示す。
図14B】斜めの側面を有する例示的な実施形態の照射条件の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0081】
マルチミラーアレイ設計の例を、マイクロリソグラフィの分野からのEUV装置で考えられる使用を参照して以下で例として説明する。EUV放射線に対して反射効果を有する反射層を有するマルチミラーアレイを、ここではEUVマルチミラーアレイと称する。
【0082】
マイクロリソグラフィ投影露光装置1の必須コンポーネントを、最初に例として図1を参照して以下で説明する。投影露光装置1及びそのコンポーネントの基本構成の説明は、ここでは限定的なものとみなすべきではない。
【0083】
投影露光装置1の照明系2は、放射源3に加えて、物体面6の物体視野5を照明する照明光学ユニット4を有する。ここでは、物体視野5に配置されたレチクル7が露光される。レチクル7は、レチクルホルダ8により保持される。レチクルホルダ8は、レチクル変位ドライブ9により特に走査方向に変位可能である。
【0084】
説明のために、図1は、直交xyz座標系を示す。x方向は図の平面に対して垂直に延びる。y方向は水平に延び、z方向は鉛直に延びる。図1では、走査方向はy方向に延びる。z方向は物体面6に対して垂直に延びる。
【0085】
投影露光装置1は、投影光学系10を備える。投影光学系10は、物体視野5を像面12の像視野11に結像する働きをする。像面12は、物体面6と平行に延びる。代替として、物体面6と像面12との間で0°以外の角度も可能である。
【0086】
レチクル7上の構造が、像面12の像視野11の領域に配置されたウェハ13の感光層に結像される。ウェハ13は、ウェハホルダ14により保持される。ウェハホルダ14は、ウェハ変位ドライブ15により特にy方向に沿って変位可能である。一方ではレチクル変位ドライブ9によるレチクル7の変位及び他方ではウェハ変位ドライブ15によるウェハ13の変位の両方が、相互に同期し得る。
【0087】
放射源3は、EUV放射源である。放射源3は、特に、以下で使用放射線又は照明放射線とも称するEUV放射線16を出射する。特に、使用放射線は、5nm~30nmの範囲の波長を有する。放射源3は、プラズマ源、例えばLPP(レーザ生成プラズマ)源又はGDPP(ガス放電プラズマ)源であり得る。これは、シンクロトロンベースの放射源でもあり得る。放射源3は、自由電子レーザ(FEL)であり得る。
【0088】
放射源3から出る照明放射線16は、コレクタ17により集束される。コレクタ17は、1つ又は複数の楕円反射面及び/又は双曲反射面を有するコレクタであり得る。照明放射線16は、コレクタ11の少なくとも1つの反射面に斜入射(GI)で、すなわち45°よりも大きな入射角で、又は垂直入射(NI)で、すなわち45°よりも小さな入射角で入射し得る。コレクタ17は、使用放射線に対する反射率を最適化するため及び外来光を抑制するために構造化且つ/又はコーティングされ得る。
【0089】
コレクタ17の下流で、照明放射線16は中間焦点面18の中間焦点を伝播する。中間焦点面18は、放射源3及びコレクタ17を有する放射源モジュールと照明光学ユニット4との間の分離をなし得る。
【0090】
照明光学ユニット4は、偏向ミラー19と、ビーム経路でその下流に第1ファセットミラー20とを備える。偏向ミラー19は、平面偏向ミラー、あるいは純粋な偏向効果を超えたビーム影響効果を有するミラーであり得る。代替として又は追加として、偏向ミラー19は、照明放射線16の使用光波長を異なる波長の外来光から分離する分光フィルタの形態であり得る。第1ファセットミラー20が、視野面として物体面6と光学的に共役な照明光学ユニット4の平面に配置される場合、このファセットミラーを視野ファセットミラーとも称する。第1ファセットミラー20は、以下で視野ファセットとも称する複数の個別の第1ファセット21を含む。図1は、当該ファセット21のいくつかのみを例として示す。
【0091】
第1ファセット21は、巨視的なファセットの形態、特に矩形ファセットの形態、又は弧状のエッジ輪郭若しくは部分円として形成されたエッジ輪郭を有するファセットの形態とすることができる。第1ファセット21は、平面ファセットの形態、あるいは凸状又は凹状に湾曲したファセットの形態であり得る。
【0092】
例えば独国特許出願公開第10 2008 009 600号から既知のように、第1ファセット21自体も、それぞれ複数の個別ミラー、特に複数のマイクロミラーから構成することができる。第1ファセットミラー20は、特に微小電気機械システム(MEMSシステム)の形態であり得る。詳細は独国特許出願公開第10 2008 009 600号を参照されたい。
【0093】
照明放射線16は、コレクタ17と偏向ミラー19との間で水平に、すなわちy方向に沿って進む。
【0094】
照明光学ユニット4のビーム経路で、第1ファセットミラー20の下流に第2ファセットミラー22が配置される。第2ファセットミラー22が照明光学ユニット4の瞳面に配置される場合、これを瞳ファセットミラーとも称する。第2ファセットミラー22は、照明光学ユニット4の瞳面から離れて配置することもできる。この場合、第1ファセットミラー20及び第2ファセットミラー22の組み合わせを鏡面反射器とも称する。鏡面反射器は、米国特許出願公開第2006/0132747号、欧州特許第1 614 008号、及び米国特許第6,573,978号から既知である。
【0095】
第2ファセットミラー22は、複数の第2ファセット23を含む。瞳ファセットミラーの場合、第2ファセット23を瞳ファセットとも称する。
【0096】
第2ファセッ23も同様に、例えば円形、矩形、又は六角形の周囲を有し得る巨視的なファセットであり得るか、あるいはマイクロミラーから構成されたファセットであり得る。この点に関して、独国特許出願公開第10 2008 009 600号を同様に参照されたい。
【0097】
第2ファセット23は、平面反射面、あるいは凸状又は凹状に湾曲した反射面を有し得る。
【0098】
したがって、照明光学ユニット4は二重ファセットシステムを形成する。この基本原理は、フライアイインテグレータとも称する。
【0099】
第2ファセットミラー22を投影光学ユニット7の瞳面と光学的に共役な平面に正確に配置しないことが有利であり得る。
【0100】
第2ファセットミラー22を用いて、個々の第1ファセット21が物体視野5に結像される。第2ファセットミラー22は、物体視野5の上流のビーム経路で最後のビーム整形ミラー又は実際に照明放射線16に対する最終ミラーである。
【0101】
照明光学ユニット4のさらに別の実施形態(図示せず)において、転写光学ユニットを第2ファセットミラー22と物体視野5との間のビーム経路に配置することができ、これは特に物体視野5への第1ファセット21の結像に寄与する。転写光学ユニットは、厳密に1つのミラー、あるいは照明光学ユニット4のビーム経路に連続して配置された2つ以上のミラーを有することができる。転写光学ユニットは、特に、1つ又は2つの垂直入射ミラー(NIミラー)及び/又は1つ又は2つの斜入射ミラー(GIミラー)を含むことができる。
【0102】
図1に示す設計では、照明光学ユニット4は、コレクタ17の下流に厳密に3つのミラー、具体的には偏向ミラー19、視野ファセットミラー20、及び瞳ファセットミラー22を有する。
【0103】
照明光学ユニッ4のさらに別の実施形態では、偏向ミラー19を省くこともできるので、照明光学ユニット4は、その場合はコレクタ17の下流に厳密に2つのミラー、具体的には第1ファセットミラー20及び第2ファセットミラー22を有することができる。
【0104】
第2ファセット23による、又は第2ファセット23及び転写光学ユニットを用いた、物体面6への第1ファセット21の結像は、通常は近似的な結像にすぎない。
【0105】
投影光学ユニット10は、複数のミラーMiを含み、これらには投影露光装置1のビーム経路におけるそれらの配置に従って番号を付す。
【0106】
図1に示す例において、投影光学ユニット10は、6個のミラーM1~M6を含む。4個、8個、10個、12個、又は任意の他の数のミラーMiでの代替も同様に可能である。最後から2番目のミラーM5及び最終ミラーM6はそれぞれ、照明放射線16用の通過開口を有する。投影光学ユニット10は、二重遮蔽光学ユニットである。投影光学ユニット10は、0.5よりも大きく、0.6よりも大きくてもよく、例えば0.7又は0.75であり得る像側開口数を有する。
【0107】
ミラーMiの反射面は、回転対称軸のない自由曲面の形態とすることができる。代替として、ミラーMiの反射面は、反射面形状の回転対称軸が厳密に1つである非球面として設計することができる。照明光学ユニット4のミラーと同様に、ミラーMiは、照明放射線16に対して高反射コーティングを有することができる。これらのコーティングは、特にモリブデン及びシリコンの交互層を有する多層コーティングの形態であり得る。
【0108】
投影光学ユニット10は、物体視野5の中心のy座標と像視野11の中心のy座標との間にy方向の大きな物体-像オフセットを有する。y方向で、この物体-像オフセットは、物体面6と像面12との間のz距離と略同じ大きさを有し得る。
【0109】
投影光学ユニット10は、特にアナモルフィックな形態を有することができる。特にこれは、x方向及びy方向に異なる結像スケールβx、βyを有する。投影光学ユニット7の2つの結像スケールβx、βyは、好ましくは(βx,βy)=(+/-0.25,+/-0.125)である。正の結像スケールβは、像反転のない結像を意味する。結像スケールβの負の符号は、像反転のある結像を意味する。
【0110】
投影光学ユニット7は、結果として、x方向に、すなわち走査方向に対して垂直な方向に4:1の比でサイズを縮小させる。
【0111】
影光学ユニット10は、y方向に、すなわち走査方向に8:1でサイズを縮小させる。
【0112】
他の結像スケールも同様に可能である。x方向及びy方向で同じ符号及び同じ絶対値の、例えば0.125又は0.25の絶対値の結像スケールも可能である。
【0113】
物体視野5と像視野11との間のビーム経路におけるx方向及びy方向の中間像面の数は、同じであってもよく、又は投影光学ユニット10の設計に応じて異なっていてもよい。x方向及びy方向のこのような中間像の数が異なる投影光学ユニットの例は、米国特許出願公開第2018/0074303号から既知である。
【0114】
瞳ファセット23のそれぞれが、物体視野5を照明する照明チャネルをそれぞれ形成するために視野ファセット21の厳密に1つに割り当てられる。特に、これによりケーラーの原理に従った照明を得ることができる。遠視野は、視野ファセット21を用いて複数の物体視野5に分解される。視野ファセット21は、それぞれに割り当てられた瞳ファセット23に中間焦点の複数の像を生成する。
【0115】
視野ファセット21は、それぞれ割り当てられた瞳ファセット23により、物体視野5を照明するために重なり合ってレチクル7に結像される。物体視野5の照明は、特にできる限り均一である。その均一性誤差は2%未満であることが好ましい。異なる照明チャネルを重ね合わせることにより、視野均一性を得ることができる。
【0116】
投影光学ユニット10の入射瞳の照明は、瞳ファセットの配置により幾何学的に規定することができる。導光する照明チャネル、特に瞳ファセットのサブセットを選択することにより、投影光学ユニット10の入射瞳における強度分布を設定することができる。この強度分布を照明設定とも称する。
【0117】
照明光学ユニット4の照明瞳の規定の照明部分の領域における同様に好ましい瞳均一性を、照明チャネルの再分配により達成することができる。
【0118】
物体視野5の、特に投影光学ユニット10の入射瞳の照明のさらなる態様及び詳細を、以下で説明する。
【0119】
投影光学ユニット10は、特に共心入射瞳を有し得る。これはアクセス可能とすることができる。これはアクセス不可能とすることもできる。
【0120】
投影光学ユニット10の入射瞳は、概して瞳ファセットミラー22を用いて正確に照明することはできない。瞳ファセットミラー22の中心をウェハ13にテレセントリックに結像する投影光学ユニット10の結像の場合、開口光線は一点で交わらないことが多い。しかしながら、開口光線の対で求められた距離が最小になる面を見つけることが可能である。この面は、入射瞳又は実空間におけるそれと共役な面を表す。特に、この面は有限の曲率を示す。
【0121】
投影光学ユニット10は、タンジェンシャルビーム経路とサジタルビーム経路とで入射瞳の位置が異なる場合がある。この場合、結像素子、特に転写光学ユニットの光学コンポーネントを、第2ファセットミラー22とレチクル7との間に設けるべきである。この光学素子を用いて、タンジェンシャル入射瞳及びサジタル入射瞳の位置の相違を考慮することができる。
【0122】
図1に示す照明光学ユニット4のコンポーネントの配置において、瞳ファセットミラー22は、投影光学ユニット10の入射瞳と共役な面に配置される。視野ファセットミラー20は、物体面5に対して傾斜して配置される。第1ファセットミラー20は、偏向ミラー19により画定された配置面に対して傾斜して配置される。
【0123】
第1ファセットミラー20は、第2ファセットミラー22により画定された配置面に対して傾斜して配置される。
【0124】
照明ビーム経路を規定する照明系1のミラーモジュールは、少量の水素(H)を含有する負圧雰囲気で囲まれたハウジングの内部の真空排気可能なチャンバに収容される。チャンバは、遮断弁を収容した流体ラインを介して真空ポンプに連通する。真空排気可能なチャンバ内の作動圧力は数パスカルである。例えば、水素(H)の分圧は2Pa~20Paの範囲であり得る。全ての他の分圧は通常はppm範囲である。
【0125】
第1ファセットミラー(視野ファセットミラー)20及び第2ファセットミラー(瞳ファセットミラー)22は、マルチミラーアレイ(MMA)の形態の制御可能なEUVマルチミラーアレイの例である。
【0126】
図2を用いて、従来技術からのこのようなEUVマルチミラーアレイ(参照符号MMA-REFの基準システム)の例示的な構成を説明する。
【0127】
ベースプレートの形態の寸法安定性のあるキャリア構造TSに、多数のミラーユニットMUが配置され、これらは、キャリア構造TS上に行列状にマトリックス型の2次元格子配列で並んで配置される。
【0128】
ミラーユニットMUのそれぞれが、キャリア構造及びミラー素子MEに固定され、ミラー素子MEは、可撓性のサスペンションシステムSUSによりベース素子BEに対して個別に可動であるように装着される。この例の場合、ミラー素子MEは、関連するベース素子BEに対して2つの回転自由度で個別に傾斜させることができる。各ミラー素子MEは、実質的に板状のミラー基板SUBを有し、これは、ベース素子BEとは反対側の前面に、EUV放射線に対して反射性のミラー面MSを形成する反射コーティングREFを有する。反射コーティングは、交互に高屈折率及びそれに対して低屈折率の複数対の層材料(例えば、Mo-Si)を有する多層構造(多層)を、場合によっては中間層と共に有する。前面又は対応するミラー面MSは、平面状又は僅かに凹状又は凸状に湾曲させることができる。曲面は、球面又は非球面の曲面とすることができる。
【0129】
ミラーユニットMUは、相互に非常に近接して取り付けられるので、ミラー面MSは、実質的に面積を充填するように並んで配置される。これは特に、ミラーユニットが占めるミラーアレイの総面積に対する個々のミラー素子MEのミラー面の和の比、いわゆる集積密度が、比較的高く、例えば0.7を超えるか又は0.8を超えるか又は0.9を超えることを意味する。隣接するミラー基板SUBの側面SFにより画定されるギャップSPが、直接隣り合うミラー素子ME間に残り、そこを通して隣り合うミラー素子の相互に対する無衝突相対移動が確保されるので、面積の完全な充填は不可能である。相互に対向する直接隣り合うミラー基板の側面間のギャップ幅は、例えば、数十マイクロメートルのオーダ、例えば20μm~100μmの範囲とすることができる。
【0130】
各ミラーユニットMUにおいて、ミラー素子MEとベース素子BEとを構造的に接続し、規定の自由度でのベース素子に対するミラー素子の可動支持をもたらし、且つアクチュエータ力なくても傾くことなくミラー素子を自動的にゼロ位置にする復元力を提供する弾性のサスペンションシステムSUSのコンポーネントが、ベース素子BEとミラー素子MEとの間に配置される。さらに、制御デバイスからの制御信号の受信に応答してベース素子に対するミラー素子の移動を発生させるためのアクチュエータシステムのコンポーネント(詳細には図示せず)が、ミラー基板とベース素子との間の中間空間に配置される。これらは、例えば制御信号に応答して長さを変え且つ/又は曲がる部分の形態で、サスペンションシステムの構造に組み込まれ得る。さらに、例えば静電容量型位置センサのコンポーネント(図示せず)が存在し、これにより、ベース素子に対するミラー素子の現在の相対位置を感知することができ、対応する信号を制御ユニットに出力することができる。こうして、キャリア構造に対するミラー基板の個々の傾斜角の閉ループ制御が確保される。傾斜可能なミラー素子は、例えば±50mrad、特に±100mrad以上の変位域(範囲)でゼロ位置回りに傾斜させることができ、設定精度は、例えば0.2mradよりも良好、特に0.1mradよりも良好とすることができる。
【0131】
特に、微小電気機械システム(MEMS)の製造分野からの技術を用いてミラーアレイを製造することにより、高集積密度を達成することができる。図2の例では、少なくともベース素子BE、サスペンションシステムSUS、アクチュエータシステム、及び位置センサシステムが、MEMS構造として形成される。今日では、MEMS構造は、通常はシリコン又はシリコン化合物から製造される。特許文献2(特許文献1に対応)は、シリコン又はシリコン化合物でできたMEMS構造を有するEUVマルチミラーアレイを記載しており、これは、従来のEUVマルチミラーアレイの例となり得るものであり、この点で参照により本明細書の内容に援用される。
【0132】
図2は、EUVマルチミラーアレイの、特にMEMS構造を収容するEUVマルチミラーアレイの機能性の早期劣化につながり得るいくつかの問題を概略的に示す。言及したように、マルチミラーシステムは、概ね真空排気されたチャンバで用いられ、概して水素(H)の分圧は低い。照明ビーム経路の高エネルギーEUV放射線(EUV矢印)は、H分子を正に帯電した水素イオン(H 、H)及び電子にかなりの程度イオン化させる。結果として、放射線が通過する領域で水素イオン含有プラズマが生じる。ミラー面の前方の、すなわちマルチミラーアレイのキャリア構造TSとは反対側の照射領域では、高い水素イオン濃度が発生し得る。しかしながら、EUV放射線は、ギャップSPを通過してミラー基板SUBとキャリア構造TSとの間の中間空間ZRにさえも入り、そこで水素イオンを発生し得る。
【0133】
EUV放射線により誘起される水素イオン含有プラズマは、特にEUVマルチミラーアレイの機械コンポーネントがシリコン又はシリコン化合物からなる場合にこれに腐食作用を及ぼす。結果として、図2の細部により示すように、プラズマに曝された表面は材料除去により攻撃される。腐食攻撃は、シリコン化合物を放出させる場合もあり、これが構造内の別の点に再度堆積する可能性がある。腐食による材料除去及びそれにより生じる堆積物の結果としての構造変化は、MEMSの機能性を損なわせ得る。ミラー面MS上に形成された堆積物は、さらに反射率を低下させ、したがって照明系の透過率を低下させる。
【0134】
この問題に鑑みて、本発明によるEUVマルチミラーアレイの例示的な実施形態は、防食システムの防食構造を備えており、これは、ミラー面とキャリア構造との間に配置されたミラーユニットのコンポーネントに対するEUV放射線誘起水素プラズマの、記載された材料除去及び/又は構造変更をもたらす腐食攻撃を防止するか、又は少なくとも防食システムのないミラーユニットに比べて低減するよう特に設計及び適合される。この場合、防食システムは、EUVマルチミラーアレイの選択されたコンポーネント上に位置するか又はこれらのコンポーネント上に形成された防食構造を含む。腐食攻撃による問題を軽減又は回避するための防食構造の形態のいくつかの好ましい構造対策を、以下で例示的に説明する。
【0135】
概略的な図3は、正確な縮尺ではないが、2つの隣り合うミラー素子ME1、ME2のミラー基板(第1ミラー基板SUB1、第2ミラー基板SUB2)の領域におけるMMAの2つの直接隣り合うミラーユニットMU1、MU2間の移行領域の垂直断面を示す。ミラー基板間には、第1ミラー基板SUB1の側でその第1側面SF1と第2ミラー基板SUB2の側でその最も近い第2側面SF2とにより画定されるギャップSPがある。2つのミラー素子は、中立位置にあり、すなわち相互に対して傾斜していない。入射EUV放射線EUVに面するミラー面MS1、MS2は、他方のミラー素子のミラー面と共に全ミラー面を規定し、当該全ミラー面の全体的な表面法線NORは、入射EUV放射線の主入射方向に対して斜めに延びる。実際の場合には、入射EUV放射線は、主入射方向を中心に例えば±5°又は±10°で延びる入射角範囲から生じる。
【0136】
基本設計に関しては、マルチミラーアレイMMAは、図2からの例に対応することができ、この点でその説明を参照する。しかしながら、図2に示す従来技術から逸脱して、側面SF1、SF2は、ミラー基板SUB1、SUB2のエッジ領域において各ミラー面MS1、MS2に対して垂直ではなく斜めに、90°から大幅にずれた角度で延びる。具体的には、第1側面SF1は、割り当てられたミラー面MS1と90°未満の鋭角W1をなし、W1は、例えば50°~80°の範囲とすることができる。それに正対する第2側面SF2は、割り当てられたミラー面MS2と鈍角W2をなし、当該角度は、例えば100°~130°のオーダであり得る。
【0137】
この例では、90°からのずれ角度の絶対値は両側で同じであり、側面は平面である。側面SF1、SF2は、ギャップSPを画定し、これは、隣り合うミラー面MS1、MS2に対して斜めに延び、したがってEUV放射線の主入射方向HEに対しても斜めに延びる。ギャップSPは、ギャップSPに沿った各位置で全体的なミラー法線NORに対して垂直な平面で測定した側面間の内法幅に対応するギャップ幅SBを有する。
【0138】
ギャップSPは、反射コーティングREFの領域の入射側第1ギャップ開口SO1とその反対側のミラー基板の裏側、したがってベース素子に対向する側の第2ギャップ開口SO2との間に深さ方向に(ミラー法線NORと平行に)延びる。ミラー素子が(図3に示すように)中立位置にある場合、第1ギャップ開口SO1と第2ギャップ開口SO2との間のギャップ幅SBは実質的に一定であり、相対的に傾斜している場合、深さ方向に変わるギャップ幅となる。
【0139】
ギャップSPの斜めの向きに起因して、ギャップ幅SBを測定する方向で第1ギャップ開口SO1と第2ギャップ開口SO2との間に横方向オフセットLVが生じ、これは例えば第1ミラー基板SUB2の側にあるギャップ開口の端間で測定することができる。横方向オフセットLVは、ギャップ幅に対応し得るが、この例示的な場合では、ギャップ幅SBよりも例えば10%以上又は20%以上又は30%以上又はそれ以上大きい。その結果、主入射方向HEでミラー素子に入射したEUV放射線は、ミラー基板SUB1、SUB2により完全に遮断されるので、この入射方向でミラー基板SUBとベース素子BEとの間の中間空間ZRに到達できるEUV放射線はない。より正確には、ギャップSPに入射したEUV放射線は、第2基板の側面SF2の上部にしか入射せず、そこで吸収され得る。
【0140】
この例示的な場合では、横方向オフセットは、主入射方向HEを中心に±20°の入射角範囲からのEUV放射線がギャップを通ってミラー基板の後方の中間空間ZRに直接到達できないような寸法にされる。したがって、ギャップの斜め配置により、ギャップは、EUV放射線がミラー基板の後方の中間空間に直接放射されるのを防止する放射線トラップとなる。
【0141】
高エネルギーのEUV放射線が入射しないことによりこの中間空間で水素イオンが生成されないので、ミラー基板のエッジ領域のこの特定の形状は、ミラー基板に組み込まれる防食構造を形成し、ミラー基板SUB1、SUB2等の後方に位置付けられたコンポーネントの腐食速度の実質的な低減に全体としてつながる。ミラー素子のミラー面MSの前方の領域に生じ、拡散に起因してギャップSPを通って進む水素イオンにより、僅かな腐食攻撃が引き起こされる可能性がある。
【0142】
ちなみに、ギャップの斜め位置は、ミラー基板の後方の領域に直接放射されるEUV放射線の完全な遮断が、それぞれの許容傾斜範囲内の隣り合うミラー基板SUB1、SUB2の全ての傾斜角に対して提供されるような寸法にされる。ギャップの角度W1、W2又は斜め位置は、そこでの入射方向に局所的に適合させることができる。
【0143】
概略的な図4A図4Dは、従来技術からの(斜め位置ではなく)垂直方向に延びるギャップに比べた斜めギャップの遮蔽効果の明確な概観を示す。EUV放射線(矢印)は、放射線入射側(図の上部)から、キャリアに対して固定のミラー座標系のz軸(高さ軸)と平行に延びる主入射方向HEと平行に入射する。図4Aは、隣り合うミラー素子がゼロ位置にある従来のミラー配置を示す。この場合、ミラー面MSは、ミラー座標系のxy平面と平行に並ぶ。EUVで示す矢印の太さは、表側(ミラー面MS)からの比較的多量のEUV放射線が後方に位置付けられた中間空間ZRに到達することを示す。図4Cは、隣り合うミラー素子をゼロ位置から均一に数度傾斜させた従来の配置を示す。これは実効ギャップ幅を僅かに小さくするが、EUV放射線が依然として比較的大きな割合でミラー基板SUBの後方に到達する。
【0144】
図4B及び図4Dは、直接隣り合うミラー基板SUBがそれぞれ台形の断面を有し、その短辺が光入射側と光出射側とに交互に位置付けられることで、ミラー面に対して斜めに延びるギャップSPが直接隣り合うミラー基板間に生じる、例示的な実施形態の類似の構成を示す。放射線矢印EUVの太さの減少は、法線方向(z方向)に入射するEUV放射線の大部分がミラー基板の後方の中間空間ZRへの通過を遮断されていることを示し、完全な遮蔽が場合によっては得られ得る。図4Dに示すように、遮蔽効果は、ミラー素子をゼロ位置に対してそれぞれ均一に僅かに傾斜させた場合にも存在する。結果として、これにより、特定のギャップが不都合なほど大きくなる場合がある。必要であれば、それにより生じる欠点をさらなる対策により補償することができる。
【0145】
概略的な図5A図5Cを用いて、直接隣り合うミラー素子が恒久的に又は断続的に高さを相互からオフセットして配置されることにより、EUV放射線の遮蔽の改善に寄与する、例示的な実施形態を説明する。この場合、高さ方向は、EUV放射線の主入射方向とある程度正確に平行に揃えられたミラー座標系のz方向を指す。図5Aは、相互に直接並んで位置付けられた3つのミラー素子ME1、ME2、及びME3のミラー基板SUB1、SUB2、SUB3を概略的に示し、これらのミラー素子は、それらのミラー面MS1、MS2、MS3の領域で、並んで位置付けられる方向(y方向)でそれぞれ測定して2つの異なる幅、具体的にはB1及びB2を交互に有する。外側のミラー素子ME1及びME3では、相互に対向する斜めの側面は、キャリア構造(底部)に対向する基板裏側がミラー側よりも狭いような向きである。この状況は、介在するミラー素子ME2では逆である。この場合、ミラー面は、基板裏側よりも幅方向に狭い。したがって、ミラー基板は、その幅広側及び幅狭側を交互に異なる向きにして配置される。
【0146】
幅方向でミラー面が基板裏側よりも大きいミラー素子ME1、ME3は、別の向きのミラー基板に対して、高さ方向で光入射側に向かってオフセットした高さを有する。高さオフセットΔzは、ミラー面の幾何中心にある第1ミラー面MS1により規定される基準点RP1と直接隣り合うミラー面MS2により規定される対応する基準点RP2との間で高さ方向に測定された距離として定義することができる。概して、高さオフセットは、高さ方向に測定してミラー基板の厚さよりも小さく、例えばこの厚さの20%~80%とすることができる。高さオフセットは、ミラー素子間にあるギャップSPの領域にも同一又は同様のサイズで存在する。ゼロ位置に位置するミラー素子の場合に法線方向に入射するEUV放射線の完全なブロックが達成されることが、図5Aから明らかである。高さオフセットにより、相互のミラー素子により形成される干渉輪郭がミラー基板を同じレベルに配置した場合よりも大きく離れて位置付けられるので、衝突せずに利用可能な個別ミラーの傾斜角範囲を大きくすることができる(図5B)。
【0147】
前掲の実施形態に比べて、相対高さオフセットは、傾斜角を変えない場合に図示の断面に沿ってより明確な台形も可能にし、それにより実効横方向オフセットが増加する。
【0148】
隣り合うミラー素子の相対高さオフセットは、固定的に定めることができる。その場合、ミラー素子は、2つの異なるレベルに交互に配置されることが好ましく、共通の高さ位置にある2つのミラー基板の間に、他方の高さ位置のミラー基板が位置付けられる。したがって、2つの高さレベルが交互に設けられる。相対高さオフセットは、隣り合うミラー素子の予想傾斜範囲(光学設計により規定される)に適合されて、さらなる高さレベルを含むこともできる。
【0149】
図5Cは、隣り合うミラー基板間の高さオフセットを有する別の例示的な実施形態を示す。図5Cの例示的な実施形態のマルチミラーアレイには、制御信号に応答して隣り合うミラー素子に対して個々のミラー素子を可逆的に連続して高さ調整するための制御可能な高さ調整デバイスHVEが設けられる。これを特に用いて、隣り合うミラー基板の実際の傾斜位置及び高さ位置(高さ方向又はz方向の位置)に応じて高さ位置を設定する概念を実現することができる。この点で、図5Cは、3つのミラー基板SUB1、SUB2、SUB3を図5Bと同じ傾斜位置で示す。しかしながら、図5Bでは異なる傾斜角に起因して第2ミラー基板SUB2と第3ミラー基板SUB3との間に比較的大きなギャップSP+が生じるのに対して、図5Cの変形形態では高さ調整デバイスを用いて(両矢印参照)第3ミラーを後退させて、直接隣り合う第2ミラー素子ME2の高さレベルに近付けている。結果として、介在するギャップSP-は非常に狭くなるので、その後方に位置する中間空間は法線方向に入射するEUV放射線に対して完全に遮断される。
【0150】
傾斜により生じる変位に加えて与えられ得るミラー素子の変位成分は、高さ方向にのみ働き得る。しかしながら、高さ方向及びそれに対して垂直な横方向(y及びx方向)の変位の組み合わせでの変位が可能であるようにアクチュエータを設計することも可能である。
【0151】
例えば、厚さを制御下で変更することができる圧電層をキャリア構造とベース素子との間に位置付けることにより、ミラーユニット全体(ベース素子を含む)が高さ方向に変位する可能性がある。代替として又は追加として、ベース素子とミラー基板との間に位置付けられるMEMS構造の部品のアクチュエータシステムにより、高さ調整を実現することが可能である。
【0152】
概略的な図6は、個々のミラーユニットの防食構造を用いてミラー基板SUBとキャリア構造TSとの間の中間空間ZRに放射されるEUV放射線を低減又は回避するためのさらなる任意の対策を示す。2つの直接隣り合うミラーユニットMU1及びMU2が図示されており、そのミラー基板SUB1、SUB2は、斜めに位置決めされたギャップSPがミラー基板間に生じるような斜めの側面を有する。さらに、放射線トラップ素子TRPとして働くMEMS構造の部分が、各ミラーユニットに形成される。例えば、放射線トラップ素子は、コンポーネントの構造化時にベース素子BEと一体的に作製することができる。
【0153】
概略的にのみ示す放射線トラップ素子TRPはそれぞれ、ギャップSPのキャリア側の第2ギャップ開口のすぐ後方の領域にxy平面と平行に揃えられた放射線入射面AFを有し、上記放射線入射面は、キャリア側のギャップ開口SO2よりも広く、両側でこれを多少越えて突出する。放射線入射面は、ギャップに沿って延び、すなわち図平面に対して垂直に延びる長手方向の方が幅方向よりも数倍長い。放射線入射面AFと基板裏側との間の高さ間隔は、ミラー基板が放射線トラップ素子と衝突せずに最大傾斜角範囲で傾斜可能であるような寸法である。衝突を伴わない実効ギャップを最小化するために、放射線トラップ素子TRPの一部の高さをその上に位置付けられたミラーの現在の傾斜位置に適合させることも可能である。
【0154】
放射線トラップ素子の基本構造は、ベース素子の材料(例えば、シリコン)からなり得るが、放射線入射面は、機能性材料FMでの適当なコーティングの結果として特別な特性を有することができる。第1に、機能性材料は、EUV放射線に対する吸収効果を有するように設計することができるので、放射線トラップ素子はEUV吸収体として働く。代替として又は追加として、機能性材料は、水素イオン及び水素原子に対する再結合触媒として働くようにも設計することができるので、ギャップを通って侵入する可能性がある水素イオンはそこで再結合されて水素原子を形成し、それらが再結合されて水素分子を形成して、腐食のリスクに関して無害となることが好ましい。このような放射線トラップ構造は、ギャップを通って侵入する可能性がある汚染粒子も捕捉することができ、この点で、その後方に位置付けられた構造の保護にも役立つ。
【0155】
放射線トラップ素子は、従来のマルチミラーアレイ(垂直ギャップを有する)と組み合わせて設けられて、そこで防食素子として働くこともできる。
【0156】
図6の両矢印は、放射線トラップ素子が部分的に高さ調整可能である任意の実施形態を示す。各傾斜位置でギャップからの最適距離を設定するために、各放射線トラップ素子の高さ設定は、隣り合うミラー素子の傾斜位置及び/又は高さ位置に応じて作動させることができる。例えば、ピエゾアクチュエータ又は空気圧アクチュエータを高さ調整用に設けることができる。ベース素子上に放射線トラップ素子を配置する代わりに、隣り合うベース素子間の中間空間でキャリア構造に固定することも可能である。
【0157】
図7A図7Fは、被覆されるギャップ毎に各ギャップに跨るか又は各ギャップを被覆するギャップ被覆部AAを含む保護膜MEMの形態の、防食構造を有する防食システムの各部分の異なる例を示す。ギャップは、2つの直接隣り合うミラー基板SUB1、SUB2間に形成される。膜MEM又はギャップ被覆部AAは、ミラー基板SUBにより担持され、この目的で、例えば図7A図7Cの場合には反射コーティングを設けた放射線入射側(図7A図7参照)又はミラー基板の裏側(図7D図7F参照)でそれぞれミラー基板に固定される。
【0158】
保護膜MEMは、可撓性且つ/又は僅かに伸縮性の膜とすることができ、ミラー素子の相互に対する僅かな傾斜移動を辿るか又はギャップの領域で生じ得る寸法変化(図7B参照)を補償することもできる。例えば、保護膜は、薄い金属箔及び/又は薄いポリイミド箔を含み得るか、又はこのような箔により形成され得る。
【0159】
図7Aの例では、保護膜MEM1は、非常に薄く上記材料でできているので、EUV放射線に対する透過率が高い。したがって、EUV放射線は、放射線被覆部AAの領域でもギャップに侵入することができるが、ギャップの斜め位置によりそこでほとんど又は完全に遮断される。とはいえ、ギャップを通ってその後方の中間空間への水素イオン含有プラズマの流入は膜より完全に防止されるので、膜はその後方のMEMS構造を腐食による劣化から保護する。膜MEM1は、大きな面積にわたって同じ透過特性を有することができる。これにより、膜で被覆されたミラー面でも反射率の低下をごく僅かにすることができる。
【0160】
保護膜を横方向に構造化された膜として設計することも可能であり、最も広義には、これは、製造上の理由から所与の構造に従って特性が異なる領域を膜が有することを意味する。図7Cの例では、構造化された膜MEM3がミラー素子の反射側に取り付けられる。これは、全てのミラー面にわたって延び、対応するギャップ被覆部AAを用いて介在ギャップに跨る。保護膜は、膜がミラー面の領域に位置付けられた領域よりもギャップ被覆部AAの領域の方が実質的に低いEUV透過率を有するように構造化される。結果として、ギャップの領域において、ギャップをEUV放射線の侵入に対して少なくとも部分的に遮蔽することができるので、侵入する汚染物質及びプラズマが遮断されるだけでなく、ミラー基板とベース素子との間の中間領域での新たな水素イオンの生成の可能性も低減又は防止される。
【0161】
構造化された保護膜の利点は、膜を担持するミラー素子に膜を塗布した後に反射コーティングの領域から除去するか、又は反射率低減効果がない若しくはごく僅かしかないような程度にまでエッチング等により薄膜化することにより、強化することができる。ギャップ被覆部AAの領域において、膜は、その対向するエッジ領域をギャップの隣の隣り合うミラー基板間のエッジ領域に固定することができるような程度まで残ることができる。
【0162】
図7A図7Cの例では、保護膜がミラー素子の反射側に、すなわちミラー基板の表側に固定される。これは必須ではない。ギャップ被覆部を相互に隣接するミラー基板の裏側に固定して、第2ギャップ開口が覆われるようにすることもできる(図7D参照)。その場合、汚染物質が依然としてギャップの領域に侵入することができるが、その後方の中間空間への侵入は防止される。放射線遮断効果も、ギャップ被覆部の適当な設計の場合に維持することができる。その場合、ミラー素子の反射面には膜部分がなく、これは高反射率を得ることに関して有利である。
【0163】
図7Eの変形形態では、保護膜MEM5がミラー基板の裏側と放射線トラップ素子の裏側との間に配置される。この場合、保護膜は、隣り合うミラー基板SUB1、SUB2の裏側にまず固定され、介在部分により放射線トラップ素子TRPの表側に固定される。放射線トラップ素子TRPは、高さ可動に装着される。隣り合うミラー素子を相互に対して傾斜させた場合、ミラーユニットと放射線トラップ素子との間の保護膜MEM5の層応力により、放射線トラップ素子TRPがz方向に沿って動かされることにより、放射線トラップ素子の傾斜位置に応じた高さ調整を達成することができる。
【0164】
図7Fは、放射線トラップ素子がない図7Eからの配置の変形形態を示す。この場合、保護膜MEM6は、隣り合うミラー基板SUB1、SUSB2の裏側に固定され、ギャップを通過するEUV放射線を吸収する僅かに弛んだ吸収部AAでギャップ領域に跨る。弾性シールのように、保護膜は、固定位置に引張応力をかけることも傾斜を妨げることもなく、ミラー基板の傾斜時に生じ得るギャップサイズの増加を補償することができる。
【0165】
図8A及び図8Bはそれぞれ、反射コーティングREF及び保護膜MEMの領域の介在ギャップSPの領域における隣り合うミラー基板SUBの概略断面を示す。この場合、図8Aは、図7A図7Cの例でも選択された保護膜の配置を拡大して示す。この場合、反射コーティングREFの層配列は、ミラー基板SUBの表側に位置する。続いて、ギャップSPをギャップ被覆部AAで被覆する安定した保護膜MEMが、上記反射コーティングの自由外面側に塗布される。
【0166】
図8Bは、保護膜MEMを有する防食構造の代替例を示す。隣り合うミラー基板SUB1、SUB2は、介在ギャップSPを画定する。保護膜MEMは、最初にミラー基板の自由表面に直接(又は1つ又は複数の機能層を挟んで)塗布される。続いて、多層反射コーティングREFの層配列が保護膜MEMの外側に塗布されるので、ミラー面MSは、反射コーティングREFの自由表面により形成される。保護膜MEMは、この場合もギャップをそのギャップ被覆部AAで被覆するが、反射コーティングの反射効果は保護膜により損なわれない。したがって、保護膜の選択及び設計時に特に低いEUV透過率を考慮する必要がない。その代わりに、EUV透過率は、放射線遮断効果が大きくなるように比較的低くすることができる。反射コーティングの反射率は、このような防食構造により損なわれない。
【0167】
いくつかの実施形態では、防食システムは、上記タイプの防食構造の1つのみを有する。例えば、斜めに位置決めされたギャップが単に設けられれば十分であり得る。しかしながら、上記防食構造の2つ以上を組み合わせる防食システムが有利であることが多い。例えば、個々のミラー基板の高さ調整を、放射線トラップ構造と組み合わせて且つ/又は保護膜と組み合わせて設けることができる。
【0168】
腐食攻撃の結果としての劣化を回避するためのさらなる対策が、ミラーユニットの機能構造に対して提供され得る。例えば、腐食攻撃に曝されることが好ましい表面領域の少なくとも一部又は全部におけるMEMS構造が、MEMS構造に通常用いられるシリコンよりも水素イオンによる腐食攻撃に実質的に耐性がある材料から製造されるものとすることができる。例えば、酸化アルミニウム又はアルミニウムでできた防食層を、例えばミラー基板の裏側又は側壁、ミラー基板を担持し得るプランジャ、及びベース素子の一部に設けることができる。このような防食層SSの例を、図6の右側に概略的に示す。
【0169】
次に、図9A図9C及び図10A図10Cを用いて、隣り合うミラー素子間の斜めに位置決めされたギャップを有するマルチミラーアレイの製造のための2つの選択肢を説明する。図9Aは、シリコン板の形態のキャリア構造TSに取り付けられたミラーユニットの行又は列に沿った完成マルチミラーアレイMMAの概略断面を示す。各ミラーユニットは、ミラー素子MEと、その中央に取り付けられた中実のスタンド又は支柱STDとを有する。概略的にのみ図示するキャリア構造TSは、メカトロニクス部品を含む。これらは特に、可撓性のサスペンション、アクチュエータ、任意にセンサ、例えば方位センサ等を含む。ミラー面MSは、キャリア構造とは反対側に形成される。図示の断面では、ミラー基板は、実質的に台形の断面を有し、台形は、ミラー素子の幅狭側と幅広側とが1つおきに同じ向きであるように向きが交互になっていることで、斜めギャップSPがミラー素子間に存在する。
【0170】
例示的な製造プロセスは、2つの製造ステップを含み、各製造ステップにおいて、同じ向きを有するミラーユニットMUの群が接合によりサスペンションシステムと共にキャリア構造に固定される。図9Bは、第1製造ステップを示す。平面ウェハの形態の保持基板HSの片側に分離層SEPが設けられる。同じ向きの台形の第1ミラー素子MU1の群がそれに取り付けられる。この例示的な場合では、ミラー素子のそれぞれが、ミラーコーティングを塗布すべき表側が支柱STDを取り付けるミラー基板の裏側よりも小さいような向きである。図示の切断方向及びそれに対して斜交いに、個々のミラーユニット間に反対向きの第2ミラー基板SUB2のためのギャップが残る。保持基板により保持されたままのミラー素子は、続いて接合ステップ(例えば、共晶接合又は熱接合)において圧力及び温度の作用下でキャリア構造TSの上側に接続固定されるので、中央支柱STDはキャリア構造に固定される。続いて、分離層は、保持基板を除去することができる程度に加熱又は溶解される。代替として、保持基板を有する保持層を化学的に又はプラズマエッチングによりエッチング除去することができる。
【0171】
続いて、第2ステップ(図9C)において、第2ミラーユニットMU2の第2群が同様にしてキャリア構造に接続される。第2群は、それぞれ幅広側が保持基板HSに取り付けられた第2ミラー基板を含み、サスペンションのある幅狭側がキャリア構造TSに対向する。第1ステップにおいて適用された第1群の第1ミラーユニットMU1が上向きに広がることで、それらの間に配置される反対向きの第2ミラーユニットを1ステップで全て挿入することができるので、第2接合ステップが可能である。
【0172】
図10A図10Cを用いて、付加製造の様式で実施される第2変形形態を説明する。この場合、ミラー基板をそれぞれ形成するために、横方向の広がりが異なる層を積み重ねて連続して作製することにより、側面が段状のミラー基板が生じる。ここでも、図10Aは、個々のミラー素子間で斜めの向きのギャップを有する完成マルチミラーアレイMMAの断面を示す。この場合も、断面が実質的に台形であり幅広側と幅狭側との向きが交互になっているミラー素子が、直接隣り合うミラー素子間で横方向境界が段状のそれぞれ斜めに位置決めされたギャップが生じるように配置される。
【0173】
第1ステップにおいて、ミラー素子は、それに取り付けられたサスペンションと共に、保持基板HS上に作製される(図10B)。保持基板は、最初に分離層SEPで覆われる。その後、全体がミラー基板用の材料、例えばシリコンからなる第1層が塗布される。この第1層は、隣り合うミラーユニット間のギャップが生じる箇所においてリソグラフィプロセスで構造化され、エッチングにより材料が除去される。第1層に生じるギャップは、続いて犠牲材料(例えば、SiO)を充填される。この後に、次の層を塗布するための平面を形成するために平坦化ステップが行われ、上記平面は、一部は第1層の材料により、ギャップの領域は犠牲材料により形成される。
【0174】
続いて、ミラー基板の形成に選択される材料(例えば、シリコン)でできた連続した第2層が塗布される。続いて、ギャップの領域で、第2層の材料をエッチングにより除去することにより、第2層がリソグラフィプロセスで構造化される。左に延びる斜めギャップを形成するか右に延びる斜めギャップを形成するかに応じて、エッチングにより除去する第2層の領域は、第1層の対応する領域の左側又は右側に位置付けられる。エッチングステップ後に空く領域には、犠牲材料が充填され、さらなる平坦化ステップが続く。この構造化プロセスを適当な回数繰り返した後に、ミラー基板は、犠牲材料を充填したままのギャップが交互に配置されて利用可能である。サスペンション構造の適用又は作製の後に、接合ステップが続き(図10B)、これにより、力及び温度の作用下で個々のミラー素子がキャリア構造TSに接続(接合)される。犠牲材料を除去するために、犠牲材料を充填した体積領域が接合ステップ後にエッチングされる。その後、分離層SEPの材料も除去されることで、ミラー基板の前面が露出する。これらは続いて反射コーティングで覆われる。図10Cは、完成したマルチミラーアレイの断面を示す。
【0175】
後続の図11以降を用いて、上述の問題を解決するための手法を例として説明する。明確化のために、構造的且つ/又は機能的観点から同等又は同様である特徴には上記例と同じ参照符号を用いる。特に、これらの解決手段は以下に記載の知見を考慮する。
【0176】
放射線、例えばEUV放射線が反射後に直接又は間接的に到達することができるミラー面の後方の領域の位置及び空間的広がりは、特に、ミラー素子のサイズと、ミラー素子の厚さと、ベース素子の表面BE-Oにより形成されるベース平面からのミラー素子の高さと、個々の傾斜軸の位置からのミラー面の高さと、達成可能な最大傾斜角と、ギャップSPの寸法及び位置と、入射放射線の角度分布とに応じて変わる。中間領域に侵入する放射線に曝される表面領域及び/又は体積領域は、ミラー素子が相互に対して傾斜した場合に大きくなり得る。
【0177】
ミラー基板SUBの前面VF上に反射コーティングREFを作製するためのコーティングプロセス中に、コーティング材料がギャップにも侵入して、側面SFが程度の差はあるがEUV放射線を反射するコーティングを得る可能性があり得る。
【0178】
側縁SFで反射したEUV光線は、入射方向に対する伝播方向を大幅に変える可能性があり、偏向角の範囲は、特にミラー素子の入射角及び傾斜角に応じて変わる。結果として、EUV放射線は、側面反射がなければミラー素子の陰になるベース素子の表面BE-Oの領域にも入射し得る。
【0179】
その結果、直接放射線に曝されない「放射線保護された」表面構成部分及び体積構成部分は、側面反射のない理想的な場合よりも実際には小さい。これは、放射線による加熱、腐食による放射線の影響下での劣化、機能的電気部品の電気的不具合等、及びそれに伴う使用期間の短縮等、冒頭で述べた問題を増幅し得る。
【0180】
図11のEUVマルチミラーアレイMMAの例示的な実施形態では、ミラーユニットMUは、その基本コンポーネント(ベース素子BE、ミラー素子ME、可撓性のサスペンションシステムSUS、反射コーティングREF)が、図2に関して説明した従来技術に概ね対応するので、この点に関しては、それに関する説明を参照されたい。
【0181】
ミラー基板SUBの側面SFの領域におけるミラー素子のエッジ領域では、これに対して大きな相違がみられる。ミラー面のエッジ、すなわち前面VFと側面SFとの間の移行部において、側面は反射前面に対して実質的に垂直に揃えられるのではなく、それぞれが割り当てられたミラー面に対して90°からずれた角度Wで系統的に斜めに向いている。したがって、その際に、反射コーティングREFを設けた前面VFが、ミラー基板の反対側、具体的にはベース素子BEに対向する背面RFよりも大きな表面積を有するといえる。これにより、全体として略板状のミラー基板の場合に、背面の側縁又は外縁RDRが全ての周方向位置で前面VFの外縁RDVに対して横方向オフセットLVだけ内側に引っ込む。結果として、ミラー基板は、図示の断面では反射前面の方の底が広い台形の形態を得る。全ての隣り合う方向で隣り合うミラー基板も同じ形態を有するので、隣り合うミラー基板間に各ギャップSPが生じ、そのギャップ幅SBは、前面の平面に位置付けられた放射線入射側からベース素子に対向する放射線出射側に向かって大きくなる。
【0182】
図11の例示的な場合には、側面はいずれの場合も巨視的平面なので、前面に対して均一な角度Wで角度をなす。斜め位置が部分的にのみ存在することで前面に対して略垂直な向きの部分もある、例示的な実施形態もある(図12A参照)。側面は、少なくとも部分的に凸(図12C参照)又は凹(図12B参照)曲率も有し得る。
【0183】
斜め角度位置Wは、この用途に適合させることができる。概して、90°からのずれは比較的小さく、例えば2°~10°、特に3°~8°である。ミラー基板の厚さ又は高さHSに応じて、これは数マイクロメートルのオーダの、例えば2μm~10μmの横方向オフセットLVにつながり得る。例えば、横方向オフセットは、基板の厚さHSの3%~10%であり得る。これらの例示的な寸法からのずれが可能である。この構成の有利な技術的効果を以下でより詳細に説明する。
【0184】
記載のように側面を斜めに位置決めする技術的効果を、図13及び図14に基づいて以下で説明する。この効果を推定するために、本発明者らは、例示的なモデルシステムでレイトレーシングを実行して、所与の入射角分布でEUV放射線又はDUV放射線が直接又は側面での反射を介して到達することができるミラー基板SUBの後方の領域を確認した。この場合、垂直な側面を有する板状のミラー基板の参照例と、それと比較して斜めに位置決めされた側面を有する例示的な実施形態とをそれぞれ検討した。一般性を失うことなく、対向する側面間の幅Bに対して、厚さHRが75μmの場合、前面では値BV=950μm、背面では値BR=940μmと仮定した。したがって、横方向オフセットLVは各側で5μmとした。ベース平面(ベース素子の表面BE-O)に対するミラー基板の裏側の高さの典型的なサイズとして、値は250μmと仮定した。
【0185】
図13は、非傾斜の中立位置にある基板SUBを平坦な矩形として実線で示す。破線を用いて、左右の傾斜の極値を示す。最大想定傾斜角は、各側に向かって100mradのオーダとした。概して、各側の傾斜角は、例えば50mrad~150mradの範囲にあり得る。傾斜は、ミラー素子とベース平面(図のy軸上の幅座標0)との間で約125μmの高さに位置付けられる傾斜軸又は回転軸ROTを中心に実現される。x=-500及びx=500μmの鉛直破線は、隣り合うミラーユニット間のギャップの中心面MITに、したがって単一のミラーユニットの領域のエッジに対応する。
【0186】
入射(EUV)放射線では、入射角が垂直入射(非傾斜ミラー基板の表面法線に対して0°の入射角)と約10°~20°のオーダの最大入射角との間にある入射角スペクトルを仮定する。
【0187】
種々の代表光線をミラー基板のエッジ領域にプロットする。
【0188】
実線R1は、非傾斜ミラー基板の場合の入射方向スペクトルの最も不利な光線を表す。この光線R1は、側面と背面との間に形成されたミラー基板の下縁と正接し、場所R1-A0でベース平面BE-Oに入射する。ミラー素子を左側に傾斜させた場合、ミラー基板の右後縁は、空間座標xの絶対値が小さい方向に内側に移動する。結果として、光線R1と同じ入射角を有する光線R1-1があるが、これは、傾斜したミラー基板の後縁と正接し、場所R1-A1でベース平面に入射する。ミラーが左側に傾斜するので、この場所はミラー素子の中心(x=0)に近接する。これは、ミラーを傾斜させると、ベースプレートBE-Oで照射されないミラーユニットの中心付近の面積又は体積のサイズが小さくなり得ることを示す。
【0189】
ミラー基板を右側に傾斜させた場合、最も不利な入射角を有する光線R1-2は、非傾斜基板の場合よりも中心から離れて位置付けられる入射場所R1-A2を有する。これは、ミラー基板の後方の非照射領域のサイズが、特に傾斜角及び入射角スペクトルに応じて変わることを示す。
【0190】
シミュレーション又はレイトレーシングは、側面SFでの光線の反射も考慮する。この目的で、この例示的な場合には、この例示的な場合に右側に傾斜したすぐ隣りのミラー基板の側面SF-Nでの反射を考慮する。光線R2は、比較的大きな入射角(程度の差はあるが斜入射)で反射性であると仮定した側面SF-Nに入射し、ベース平面の方向にそこから反射される最も不利な反射光線を表す。この1回反射光線の入射点R2-A2は、ミラー基板内のさらに内側に、すなわちミラー基板の中心に近接して位置付けられ、その結果、EUV放射線が直接当たらない中心付近の領域のサイズが小さくなる。この領域のサイズは、傾斜角とベース平面からのミラー素子の高さとが増加するにつれて小さくなる。対応する条件は、ミラー基板の反対側及び他の側面でも生じる。
【0191】
この幾何学的モデルを基礎として用いて、所与の入射角範囲について、直接照射されないミラー基板の下の領域のサイズに対する側面の斜め位置の影響を調べた。図14A及び図14Bは比較を示す。この場合、図14Aは、側面が前面に対して垂直な従来の基板を表し、図14Bは、側面が数度(約5°)斜めに位置決めされることにより内側に引っ込んでいる基板での計算を示す。
【0192】
所与の入射角分布では、側面が垂直な従来の基板の場合(図14A)、ミラー基板の後方の中央に位置付けられ直接EUV放射線を受けない領域EUV-Nの外縁は、約341μm(x座標X1に対応)に位置決めされる。これに対して、側面が斜め内側に引っ込んでいる場合(図14B)、EUV放射線に直接曝されない内側領域EUV-Nのこの外縁は、外側に変位して約359μm(x座標X2に対応、X2>X1)となる。したがって、非照射領域EUV-Nは、垂直側壁の場合よりも大幅に大きくなる。
【0193】
この結果は、側面の傾斜角を適切に選択し、入射角分布を典型的なものとした多くの例を表す。したがって、ミラーユニットのベース素子上の「確実な」暗所は、斜め内側に位置決めされた側面により大きくなり、直接EUV又はDUV放射線に曝されるギャップSPの下の領域は小さくなる。
【0194】
以下では、従来技術とのさらなる相違点に言及する。反射コーティングREFを施される前面VFは、できる限り低い表面粗さを得るために、例えば研磨により高い光学的品質で準備されなければならない。通常、表面粗さは1nm RMS(二乗平均平方根粗さ)未満の範囲であり、特に、表面粗さは、0.2nm RMS未満の範囲とすることができる。
【0195】
側面SFは、従来はそのような高精度でエッチングされないが、表面粗さは間違いなく比較的低く、例えば数nm RMS又は数十nm RMSの範囲とすることができる。
【0196】
これに対して、例示的な実施形態の側面SFは、適切な表面処理により大幅に粗面化されるので、側面には、前面VFの表面粗さよりも少なくとも1桁、好ましくは2桁以上大きい表面粗さが設けられる。例えば、表面粗さは、100nm RMS以上又はさらには1μm RMSを超える範囲とすることができる。非常に粗い表面では、原理上は反射効果を有するコーティングを担持していても、正反射を起こすことはできない。このような表面は、入射し得るEUV放射線に主に散乱効果を及ぼす。
【0197】
側面を斜めにする幾何学的対策を側面の粗面化と組み合わせた、図11に示すタイプの組み合わせは、ミラー面の平面のすぐ後方にEUV放射線が放射されるのを防止するという点で特に有利である。これはさらに、側面SFとの相互作用の結果としてミラー基板の後方の領域に向けられるEUV放射線の割合を減らす。その際に、放射線エネルギーの一部は側面で吸収される可能性があり、別の部分は散乱により比較的大きな立体角にわたり分散される可能性があるので、局所的に有効な強度は低いままである。したがって、あらゆるタイプのEUV放射線による問題に起因するリスクを低減することができる。
【0198】
微小電気機械システム(MEMS)の製造分野から自体公知の技術を、側面が斜め内側にオフセットしたミラー基板の製造に用いることができる。特に、深掘り反応性イオンエッチング(DRIE、ボッシュプロセスとしても知られる)の変形形態を用いて、ミラー基板として働くことが意図される基板材料(特に、シリコン)の体積領域に斜め側壁を有する適当な深さのトレンチを作製することができる。DRIE法に関しては、例として以下の刊行物を参照されたい: R Li, Y Lamy, W F A Besling, F Roozeboom, P M Sarro, “Continuous deep reactive ion etching of tapered via holes for three-dimensional integration”, J. Micromech. Microeng. 18 (2008) 125023 doi:10.1088/0960-1317/18/12/125023。
【0199】
適切なDRIE法は、パッシベーション及びエッチングでのサイクルを含む。パッシベーションでは、テフロン状のパッシベーション層の堆積により孔を保護することができる。高異方性であり得るエッチングステップにおいて、側壁のパッシベーションを同時に維持しつつトレンチの底からパッシベーション材料を除去するためにイオンを実質的に垂直に加速する。続いて、次のパッシベーションステップが行われる前に、数マイクロメートルの基板材料(例えば、シリコン)をエッチングすることができる。エッチングされたトレンチの深さプロファイルは、ガスフロー、イオンパワー、圧力、パッシベーション時間とエッチング時間との比等の様々なプロセスパラメータにより設定することができる。したがって、特に、深部よりも入口領域が狭い又は広いトレンチを作製することも可能である。このようなプロセスは自体公知なので、製造プロセスの詳細な説明は省略する。
図1
図2
図3
図4A-4D】
図5A-5C】
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図10C
図11
図12A
図12B
図12C
図13
図14A
図14B
【手続補正書】
【提出日】2024-06-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチミラーアレイ(20、22、MMA)であって、
キャリア構造(TS)と、
該キャリア構造上に格子配列で並んで配置された複数のミラーユニット(MU)と
を備え、各ミラーユニット(MU)が、ベース素子(BE)と、該ベース素子(BE)に対向して個別に可動に装着されたミラー素子(ME)とを含み、該ミラー素子(ME)は、紫外線を反射するミラー面(MS)を形成するために前記ベース素子(BE)とは反対側の前面に反射コーティング(REF)を有するミラー基板(SUB)を含み、該ミラー基板(SUB)は、前記ベース素子に対向する背面及びその周上の側面を含み、
前記ミラー素子のアレイは、該ミラー素子の相互に対する相対移動が該ミラー素子の想定される移動範囲で相互に衝突せずに実施されるように構造的に設計され、
前記ミラー面(MS)は、面積を実質的に充填するように並んで配置され、隣り合うミラー素子同士の衝突のない相対移動を確保するために、隣り合うミラー基板(SUB)の側面(SF1、SF2)により画定されるギャップ(SP)が、直接隣り合うミラー素子間に残り、且つ
各ミラーユニット(MU)の場合に、該ミラーユニットの機能コンポーネントが、前記ベース素子(BE)と前記ミラー素子(ME)との間の中間空間(ZR)に配置される、マルチミラーアレイ(20、22、MMA)において、
前記ミラー基板(SUB1、SUB2)の前記側面(SF1、SF2)のそれぞれの少なくとも一部が、割り当てられたミラー面(MS)に対して90°からずれた角度で斜め向きであることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記ミラー素子(ME)を前記ベース素子(BE)上に可動に装着するためのサスペンションシステム(SUS)のコンポーネントと、制御信号の受け取りに応答して前記ベース素子(BE)に対する前記ミラー素子(ME)の移動を発生させるアクチュエータシステム(AKT)のコンポーネントとが、前記ベース素子(BE)と前記ミラー基板(ME)との間の前記中間空間(ZR)に配置され、好ましくは前記ベース素子(BE)、前記サスペンションシステム(SUS)、及び前記アクチュエータシステム(AKT)は、シリコン(Si)又はシリコン化合物でできたMEMS構造として設計されることを特徴とし、且つ/又は前記反射コーティング(REF)は、EUV放射線及び/又はDUV放射線を反射するミラー面(MS)を形成することを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマルチミラーアレイにおいて、直接隣り合うミラー基板(SUB1、SUB2)のミラー基板(SUB)の前記側面はそれぞれ、直接隣り合うミラー基板間に形成された前記ギャップ(SP)のギャップ幅(SB)が、前記反射コーティング(REF)を設けたミラー素子の前記前面(VF)から前記ベース素子(BE)の方向に大きくなるような設計及び向きであることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記反射コーティング(REF)を設けたミラー素子の前記前面(VF)は、該前面と平行に延びることが好ましい前記背面の外縁により囲まれた面積よりも大きな表面積を有し、前記背面の前記外縁は、前記前面の外縁に対して全ての周方向位置で横方向オフセット(LV)だけ内側に引っ込んでおり、好ましくは前記ミラー基板は、前記前面と前記背面との間で測定された厚さを有し、前記オフセット(LV)は、前記厚さの3%以上、好ましくは5%以上、及び/又は前記厚さの10%以下であることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記前面(VF)と隣の前記側面(SF)との間の移行部の夾角(W)が、80°~89°の範囲、特に84°~88°の範囲にあることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記ミラー基板(SUB1、SUB2)は、対向する側面間を通る断面で前記前面(VF)の側の底が広い実質的に台形の断面形態を有することを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記側面(SF)は、前記反射コーティング(REF)を設けた前記前面(VF)の表面粗さよりも少なくとも1桁大きい表面粗さを有し、前記側面の表面粗さは、好ましくは100nm RMS以上であることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のマルチミラーアレイにおいて、直接隣り合うミラー基板(SU1、SUB2)のミラー基板(SUB)のエッジ領域が、前記割り当てられたミラー面(MS)に対して90°からずれた角度でそれぞれ斜めに向くことで、斜めの側面が前記ミラー面(MS)に対して斜め向きのギャップ(SP)を画定することを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項9】
請求項8に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記ギャップ(SP)は、前記ミラー面(MS1、MS2)の隣の第1ギャップ幅を有する第1ギャップ開口(SO1)と前記ミラー基板の裏側の隣の第2ギャップ幅を有する第2ギャップ開口(SO2)とを有し、前記第1ギャップ開口及び前記第2ギャップ開口が前記ギャップ(SP)の斜めの向きに起因して横方向オフセット(LV)を有することで、直接放射線通過のための実効ギャップ幅が前記第1ギャップ幅及び/又は前記第2ギャップ幅よりも小さく、前記横方向オフセット(LV)は、好ましくは前記第1ギャップ幅(SB1)及び前記第2ギャップ幅(SB2)の最大値と少なくとも同じ大きさであることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記ミラー基板は、対向する側面間を通る断面で実質的に台形の断面形態を有し、連続した一列のミラー素子は、好ましくは交互に逆台形の断面形態を有することで、挟まれた斜めギャップの向きがギャップ毎に交互に変わるマルチミラーアレイ。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のマルチミラーアレイにおいて、制御信号に応答して個々のミラー素子(ME)を隣のミラー素子(ME)に対して可逆的且つ連続的に高さ調整するための制御可能な高さ調整デバイス(HVE)であり、特に前記キャリア素子と前記ベース素子との間の少なくとも1つの厚さ変更可能な圧電層により、前記ベース素子を好ましくは前記キャリア構造に対して個別に高さ調整可能である高さ調整デバイス(HVE)、及び/又は2つの回転自由度及び1つの並進自由度でミラー素子(ME)の移動を発生させるよう設計された前記アクチュエータシステムであり、前記並進自由度は前記回転自由度の回転軸に対して垂直な又は角度をなす並進軸に沿った前記ミラー素子(ME)の移動に対応する前記アクチュエータシステムを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項12】
請求項11に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記高さ調整デバイス(HVE)のコントローラが、隣のミラー素子の傾斜位置に応じてミラー素子の高さ調整が可能であるように構成されることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項13】
請求項1又は2に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記ギャップ(SP)の領域で前記ミラー面とは反対側の前記ミラー基板(SUB)の裏側に配置された放射線入射面(AF)を含む、放射線トラップ素子(TRP)であり、該放射線トラップ素子(TRP)の少なくとも前記放射線入射面(AF)の領域を構成する機能性材料(FM)が、以下の特性:
前記機能性材料(FM)は、EUV放射線に対して吸収効果を有する吸収材料である、
前記機能性材料(FM)は、水素イオンと接触すると水素イオンの再結合確率を高める再結合触媒である、
前記機能性材料(FM)は、ルテニウム(Ru)、白金(Pt)、レニウム(Rh)ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、及び鉄(Fe)の群から選択される、
のうち少なくとも1つを有する放射線トラップ素子(TRP)を特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項14】
請求項13に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記放射線トラップ素子(TRP)は、部分的に調整可能であり、各放射線トラップ素子(TRP)の高さ調整が、好ましくは隣り合うミラー素子(ME)の傾斜位置及び/又は高さ位置に応じて可能であることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項15】
請求項1又は2に記載のマルチミラーアレイにおいて、少なくとも1つの保護膜(MEM)が設けられ、該保護膜(MEM)は、直接隣り合うミラー基板(SUB1、SUB2)間に形成されたギャップ(SP)に跨り該ギャップを画定する前記ミラー基板と接触するギャップ被覆部(AA)を含み、特に前記ミラー基板(SUB1、SUB2)に固定されることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項16】
請求項15に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記保護膜(MEM3)は、前記ギャップ被覆部(AA)の領域に、EUV放射線に対して吸収効果を有する吸収材料を含み、該吸収材料は、ルテニウム(Ru)、白金(Pt)、レニウム(Rh)ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、及び鉄(Fe)の群から好ましくは選択されることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項17】
請求項15に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記保護膜(MEM)は、前記ミラー基板(SUB1、SUB2)の表側で該ミラー基板(SUB1、SUB2)と前記反射コーティング(REF)との間に多層配列で配置されることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項18】
請求項15に記載のマルチミラーアレイにおいて、以下の特徴:
保護膜(MEM4)が、前記ミラー基板(SUB1、SUB2)の裏側に配置される、
保護膜(MEM5)が、前記ミラー基板(SUB)の裏側と放射線トラップ素子(TRP)の裏側との間に配置される、
前記ミラーユニット(MU)と放射線トラップ素子(TRP)との間の前記保護膜(MEM5)の層応力により、放射線トラップ素子(TRP)の傾斜位置に応じた高さ調整が行われる、
のうち少なくとも1つがあることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項19】
請求項1又は2に記載のマルチミラーアレイにおいて、腐食攻撃を受けやすい領域でコンポーネント材料からなる前記ミラーユニットのコンポーネントに塗布される、防食層(SS)の形態の防食構造であり、前記防食層は、水素イオンによる腐食攻撃に対して前記コンポーネント材料よりも耐食性が高い少なくとも1つの保護層材料を含む、防食構造を特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項20】
請求項1又は2に記載のマルチミラーアレイにおいて、前記反射コーティング(REF)がEUV放射線に対して高反射率を有することで、マルチミラーアレイがEUVマルチミラーアレイとして設計されることを特徴とするマルチミラーアレイ。
【請求項21】
UV装置(1)の照明系(2)であって、前記UV装置の動作中に、UV放射源(3)からのUV放射線を受光し、且つ受光したUV放射線の少なくとも一部から前記照明系の出射面(6)の照野に指向された照明放射線を整形するよう設計された、照明系(2)において、照明系(4)は、請求項1又は2に記載の少なくとも1つのマルチミラーアレイ(MMA、20、22)を備えることを特徴とする照明系。
【国際調査報告】