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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】選択浸出
(51)【国際特許分類】
   C22B 15/00 20060101AFI20241106BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20241106BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20241106BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20241106BHJP
   C22B 3/10 20060101ALI20241106BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20241106BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241106BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20241106BHJP
【FI】
C22B15/00 105
C22B7/00 C
C22B1/00 101
C22B3/08
C22B3/10
C22B23/00 102
B22F1/00 R
B22F1/05
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024532521
(86)(22)【出願日】2022-11-28
(85)【翻訳文提出日】2024-05-30
(86)【国際出願番号】 EP2022083478
(87)【国際公開番号】W WO2023099401
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】21211405.2
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】バルト・クラーセン
(72)【発明者】
【氏名】ジョス・デニッセン
【テーマコード(参考)】
4K001
4K018
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA19
4K001BA22
4K001CA01
4K001DB03
4K001DB04
4K018BA20
4K018BB04
4K018BD10
(57)【要約】
本発明は、1質量%超のCuを有する合金粉末に含有されるCu並びにNi及びCoの1種又は複数からのFeの分離の方法であって、- 酸化性条件において、合金粉末を、Fe以外の全金属元素の50%を溶解させるのに好適な最低値とFeの50%以外の全金属元素の100%を溶解させるのに好適な最高値の間で選択された化学量論量の酸性溶液と接触させて、それによりCu並びにNi及びCoの1種又は複数の大部分を含有する浸出溶液並びにFeの大部分を含有する残渣を得る工程と、- 浸出溶液を残渣から分離する工程とを含む、方法を記載する。合金粉末からのCu、Ni及び/又はCoは溶解する一方で、Feの大部分は固体残渣へと排除され、固体/液体分離により分離される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1質量%超のCuを有する合金粉末に含有されるCu並びにNi及びCoのうちの1種又は複数からのFeの分離の方法であって
酸化性条件において、前記合金粉末を、Fe以外の全金属元素の50%を溶解させるのに好適な最低値とFeの50%以外の全金属元素の100%を溶解させるのに好適な最高値との間で選択される化学量論量の酸性溶液と接触させて、それによりCuの大部分並びにNi及びCoのうちの1種又は複数の大部分を含有する浸出溶液及びFeの大部分を含有する残渣を得る工程と、
前記浸出溶液を前記残渣から分離する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記合金粉末が、乾式精錬方法を使用して、リチウムイオン電池又はそれらの廃棄物のリサイクリングから生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記合金粉末が粉砕又は噴霧により得られる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記合金粉末が、800μm未満のD90及び/又は300μm未満のD50を有する粒径分布を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記酸性溶液中の酸がHSOまたはHClのいずれかである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
接触工程が、
前記合金粉末を、選択された化学量論量の50%から95%に相当する第1の量の酸性溶液と混合して、それにより液相及び固相を含む懸濁液を得る工程、
前記懸濁液を酸化する工程、並びに
前記懸濁液を第2の量の酸性溶液により酸性化して、それにより前記第1の量及び第2の量の和が、決定された化学量論量の100%に相当する工程
により段階的に実施される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記酸性溶液中の酸がHSOであり、接触工程が、
Fe以外の全金属元素の100%を溶解させるための前記酸性溶液の化学量論量を決定する工程、
前記合金粉末を、決定された化学量論量の50%から100%に相当する量の前記酸性溶液と混合して、それにより液相及び固相を含む懸濁液を得る工程、
前記懸濁液を、50℃を超える温度で、320mV Ag/AgClを超える酸化還元電位に酸化する工程、
但し、前記液相中のFe濃度が0.5g/L未満ならば、前記懸濁液を、50℃を超える温度で、酸化性条件において、前記Fe濃度が0.5g/Lと3g/Lの間になるまで酸性溶液を加えることにより酸性化する工程、並びに
但し、前記液相のpHが3を超えるならば、前記懸濁液を、50℃を超える温度で、酸化性条件において、pHが1.5と3の間になるまで酸性溶液を加えることにより酸性化する工程
により段階的に実施される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記酸性溶液中の酸がHClであり、接触工程が、
請求項1に記載の前記酸性溶液の化学量論量を決定する工程、
前記合金粉末を、決定された化学量論量の50%から95%に相当する量の前記酸性溶液と混合して、それにより液相及び固相を含む懸濁液を得る工程、
前記懸濁液を、50℃を超える温度で、320mV Ag/AgClを超える酸化還元電位に酸化する工程、並びに
但し、前記液相のpHが2を超えるならば、前記懸濁液を、50℃を超える温度で、酸化性条件において、pHが0.5と2の間になるまで酸性溶液を加えることにより酸性化する工程
により段階的に実施される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
接触工程における前記酸化性条件が、H及び/又はO含有ガスの添加により得られる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法が大気圧で実施される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
接触工程における前記酸性溶液が、Ni及び/又はCoを含有する固体出発原料の酸性浸出により得られる、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記合金粉末と前記固体出発原料とが同じ組成を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
混合工程、酸化工程、及び酸性化工程が連続方法として逐次的に操作される、請求項6から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記浸出溶液を前記残渣から分離する工程において得られる前記浸出溶液が、前記溶液に含有される他の金属から、特にNi及び/又はCoからCuを分離する電解採取工程で更に処理される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
製鋼の出発原料としての請求項1に記載の前記残渣の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式冶金の分野に関し、電池のリサイクルに由来する合金から、鉄を排除しながら、銅、ニッケル又はコバルト等の金属を酸性且つ酸化性条件下で選択的に溶解させる方法を記載する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池のライフサイクルの間に、種々の廃材及びスクラップ材が生まれ、それらは環境面での懸念のため、またこれらの電池に含有される有価金属のためリサイクルされる必要がある。
【0003】
廃棄物の形成は、リチウムイオン電池の製造の間に既に始まっている。高い品質基準及びプロセスの低効率のため、リチウムイオン電池の様々な部品が様々なプロセス工程で排除又は廃棄される。製造プロセスの間で、これらの廃棄された材料は、規格外カソード粉末から、電極箔、アノード、セパレーター又はカソード箔の組合せ、電解質のないバッテリーセル、電解質のあるバッテリーセル、充電されたバッテリーセル及びモジュールまで様々であり得る。廃棄物管理及びリサイクリングの観点から、これらの材料の複雑さは、ますます多くの材料が製品に加えられるので、製造プロセスの最後に向けて増加する。廃棄されたバッテリーセルは、周期表中の元素の大部分、例えば、カソード中にNi、Co、Mn、Li、Fe、Al、V、P、F、C、Ti又はMg、アノード中にLi、Ti、Si、C、Al又はCu、電解質中にLi、F、P又はVOC、ケーシング中にAl、Fe、Cu、Ni、Cr又はCl若しくはBr含有プラスチック及びリチウムイオン電池産業における技術開発に応じてより多くのものを含有する。
【0004】
これらのリチウムイオン電池製造廃棄物の全ての他に、消費者段階の最後でも電池は結局廃棄物となる。材料の複雑さの点で、これらの寿命が尽きた電池は製造プロセスの最後の廃棄されたバッテリーセルと同等である。寿命が尽きた電池の収集及び選別は、リチウムイオン電池に対して100%選択的ではないため、それらは更により複雑であり得る。これは、リチウムイオン電池リサイクル業者が、リチウムイオン電池と混合され得る、アルカリ、Ni-Cd、NiMH又はZn電池等の全種類の他の電池のごく一部にも対処しなければならないことを意味する。
【0005】
WO2020212546は、廃棄物分画の乾式精錬操作により開始する、消費された充電式電池又はそれらのスクラップから有価金属を回収するスキームを記載している。精錬操作は、Ni、Co、Mn、Cu及びFeの元素を不純物から分離し、不純物をスラグの中に排除して、フィードからNi、Co、Mn、Cu及びFeの大部分を含有する金属合金を生成させる。次いで、金属合金分画はスラグから分離され、粉末に変換され、湿式冶金操作において更に処理される。酸性条件での完全な合金の溶解後、Cuが、最初にセメンテーションにより除去されるが、それは金属銅としての沈殿である。次いで、Feは、別な工程において、Oによる酸化及び中和剤としてのNaCOの添加によりFe-沈殿物を生じさせることにより除去される。
【0006】
Ni及び/又はCo含有溶液からの逐次的なCu-セメンテーション及びFe-沈殿のそのような手法は一般的な方法である。実際に、ほとんどのFe除去操作は、低遊離酸濃度での不溶性Fe3+化合物の沈殿に依存している。これは、例えば、Monhemius等において説明されている(「The iron elephant: A brief history of hydrometallurgists’struggles with element no. 26」、CIM Journal 8(4): 197~206頁、2017年)。そのようなプロセスは、典型的には、二価鉄から三価鉄への転化を促進する酸化剤と、遊離酸を中和する塩基性試薬の組合せを使用して、低遊離酸濃度での三価鉄化合物の沈殿を促進する。通常の酸化剤は、空気、O、H、及びClである。更に強い酸化剤、例えば次亜塩素酸塩、過硫酸塩又は過マンガン酸塩も適用できる。水酸化物又は炭酸塩、特にNaOH、NaCO、Mg(OH)、Ca(OH)、CaCO、NHOH、又は(NHCOが中和試薬として通常使用される。
【0007】
Feの他に、Cr、Al、As、Sb、Sn、W又はCu等、多くの他の不純物がフィード溶液中に存在し得る。これらの元素は加水分解されてFeと共に沈殿し得る。加水分解操作は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、アンモニア、水酸化カリウム又は水酸化カルシウムを使用する。これらの場合全てにおいて、K、Ca、Na、Li、又はNH等の追加の元素が中和試薬により溶液に導入されるが、高純度操作を目指す場合、それは明らかな不利益である。
【0008】
WO2019090389は、中和用の化合物による追加の混在物の導入を回避する手法を提示している。Ni金属粉末フィードを硫酸ニッケル溶液に変換するフローシートの一部として、加水分解が、中和によるFeを含む不純物の除去のために記載されている。水酸化Niが、より伝統的なアルカリ塩基に代わる中和用の試薬として使用される。特に水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム塩基が典型的にはアルカリ汚染につながるため、これらの塩基が避けられることが言及されている。水酸化Niは、別な操作において、精製された溶液の一部から水酸化ナトリウムを使用してNiを沈殿させることにより調製される。このようにして、ナトリウムは操作の主流に入らないが、水酸化ナトリウムの消費はそのままである。主流中のNi含有金属フィードの使用にも関わらず、水酸化Niを製造するための追加の設備により、これは基本的に2段階プロセスになる。
【0009】
Ni及び/又はCoを、フィード中に共存する不純物から分離する別の手法は、フィードの選択浸出によるものである。選択される不純物はより低い程度溶解されるか、又はこれらの選択された不純物は、優先的に排除されて固体残渣中に入る。これは、例えばWO2019064996に記載されており、電池合金は硫化剤の存在下で浸出操作に付され、このようにしてNi、Co及びFeを優先的に溶解させると同時にCuのほとんどが残渣中に残され、次いで他の元素から固体/液体濾過により分離される。
【0010】
WO2019102765は、電池精錬からの合金(「電池合金」)の電気浸出により、Ni、Co及びFeをこれらの合金から選択的に溶解させると同時に、Cuをカソード上に電着させることに基づく異なる手法を提示する。このようにして、Cuは電池合金の浸出の間に分離されて、フィードからのCuの大部分が最終的に浸出液にあることを回避する。
【0011】
上記で引用された文書は、合金を浸出する異なる方法を強調する。全ては、それらの合金中に含有されるFeが他の金属と共に完全に溶解されることを共通に有する。そのため、フィード中の他の溶解した金属からのFeの大部分の分離には、浸出液の別の下流処理を要する。
【0012】
合金粉末を処理する従来のスキームにおいて、Feは、最初に、浸出操作において溶解され、その後に下流Fe除去において溶液から除去される。例えば、HSOを使用して合金粉末を浸出する場合、Feは、最初にFeSOとして、浸出の間に以下の反応により溶解される:
Fe+HSO+1/2 O→FeSO+HO。
【0013】
その後に、それは、下記により、酸化されて例えばFeOOHとしてFe除去の間に沈殿する:
2 FeSO+HSO+1/2 O→2 Fe(SO+HO及びFe(SO+4 HO→2 FeOOH(s)+3 HSO
【0014】
Feの沈殿の間に放出された酸は、典型的には、例えばCa(OH)又はNaOHを使用して中和され、CaSO又はNaSO塩に変換される:
SO+Ca(OH)→CaSO+2 HO又はHSO+2 NaOH→NaSO+2 HO。
【0015】
そのような従来のスキームにおいて、Feは、最初に、化学量論量の酸を浸出の間に消費する。その後のFe除去操作において、この酸は、Na、K、Mg、Ca、Li、又はアンモニアの炭酸塩又は水酸化物等の苛性化合物により中和される。反応生成物は、多くの場合、アンモニウム塩、アルカリ塩、又はアルカリ土類(earth-alkali)塩である。これらの反応生成物は、最終的に生成物溶液中に残り、Na、K、Mg、Ca、Li、NHのような追加の不純物を導入し得る。或いは、これらの反応生成物は最終的にFe残渣中に残り、追加の不純物を導入し、この残渣の質量を増加させ得るが、それは多くの場合廃棄物と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開第2020/212546号
【特許文献2】国際公開第2019/090389号
【特許文献3】国際公開第2019/064996号
【特許文献4】国際公開第2019/102765号
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Monhemius等、「The iron elephant: A brief history of hydrometallurgists’struggles with element no. 26」、CIM Journal 8(4): 197~206頁、2017年
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、Ni及び/又はCo及びCuを金属電池合金から溶解させると同時に、そのような合金中に含有されるFeも完全に溶解することを防ぐ方法を開示する。代わりに、このFeの一部は固体残渣へと排除され、固体/液体分離により分離される。
【0019】
本方法の肝要は、全て単一操作における、酸化剤の使用と組み合わせた、還元性を有するCu並びにNi及びCoのうちの1種又は複数を含有する合金粉末の使用である。CuとFeは分離される。そのため、提示された方法は、有利に、典型的には使用されないか又は組み合わせては使用されない材料及び反応条件を組み合わせる。本方法への追加の不純物の導入は制限されるか、又は更には完全に回避される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
第一の実施形態は、1質量%超のCuを有する合金粉末中に含有されるCu並びにNi及びCoのうちの1種又は複数からのFeの分離の方法であって、
- 酸化性条件において、合金粉末を、Fe以外の全金属元素の50%を溶解させるのに好適な最低値とFeの50%以外の全金属元素の100%を溶解させるのに好適な最高値の間で選択される化学量論量の酸性溶液と接触させ、それにより、Cuの、並びにNi及びCoのうちの1種又は複数の大部分を含有する浸出溶液並びにFeの大部分を含有する残渣を得る工程と、
- 浸出溶液を残渣から分離する工程と
を含む、方法を記載する。
【0021】
「合金粉末」とは、粉末の形態の金属合金、すなわちゼロ価の金属の混合物を意味する。合金粉末は、好ましくは、90質量%超、より好ましくは95%の、又は更には98%のCu、Co、Ni、Mn及びFeの合計を含むべきである。実際には、合金は、製造プロセスの間に、又はその後周囲との接触により導入された不純物として他の元素を、特に酸素を含有し得る。これは、特に、微細な粉末が不活性雰囲気なしに製造及び/又は取扱いされて、おそらく反応性粉末の相当な酸化をもたらす場合に関連がある。合金粉末は、好ましくは、少なくとも25質量%のCo及びNiの合計を含む。合金粉末は、好ましくは、少なくとも1質量%のFeを含むが、その理由は、浸出の間の前もっての分離がその限界未満では工業的に意味をなさないためである。この合金粉末は、異なる個別の組成を有する粒子の混合物であり得る。この場合、組成に言及する場合、本発明者らは全粒子の平均組成を意味する。
【0022】
酸性溶液の量は、関与する溶解反応の化学量論から導出され得るので「化学量論的」と称される。これは、合金の組成が少なくともほぼ既知であることを前提としており、それは、典型的には工業的実施に当てはまる。
【0023】
本方法は、少なくとも一部溶解し、それにより溶液の価値を高める、元素Ni及び/又はCoを含有する合金粉末を選択することにより最適化され得る。
【0024】
従来のスキームとは異なり、中和試薬は本方法では使用されない。そのため、中和試薬の導入により生成物溶液の希釈が起こされることはない。また、中和試薬として典型的に使用される苛性化合物の使用に関連するコストは回避される。
【0025】
従来のスキームとは異なり、Na、K、Mg、Ca、Li、又はアンモニアの水酸化物等の苛性化合物は本方法では使用されない。そのため、追加の不純物は溶液に導入されない。これにより、Na、K、Mg、Ca、Li、NHのような不純物を、Co及び/又はNiのような有価元素から分離する下流操作の必要がなくなる。
【0026】
従来のスキームとは異なり、Feは浸出操作の間に酸を消費しない。そのため、最適化された方法は、浸出操作からの酸の使用、及び方法で生じた酸の可能な範囲で最良の使用を達成する。そのような酸は、合金粉末中に存在する追加のCu、Ni及び/又はCoの溶解に使用される。
【0027】
従来のスキームとは異なり、現方法において、Feは、最初に浸出の間に溶解されず、その後に別な単位操作において除去される。代わりに、Feの大部分は浸出の間に溶解されない。本発明者らは、これにより浸出溶液中の他の金属の濃度を増加させることが可能であることを見出した。浸出液を取り扱う際に、望まれない沈殿及び固体のスケーリング(scaling)を避けるために、浸出後の溶液中の元素の総濃度は、それらの最大の組み合わせた溶解度以下であるべきである。Feの大部分は溶解されないため、浸出後の溶液中のFe濃度は、ほとんど又は全てのFeが溶解する従来のスキームと比べて、本方法において低い。その結果、他の元素のより高い濃度を、溶液中の全元素の最大の組み合わせた溶解度を超えないで目標とすることができる。これは、浸出操作において、体積あたりの合金粉末の量を増加させることにより達成できる。体積あたりより多くの合金を処理できるので、これにより、合金粉末の所与の容量に対して反応器サイズを減少させることができる。それは、生成物溶液の体積流量も減少させ、それにより、設置面積を減少させるか、又は下流単位操作の能力を増加させることができる。
【0028】
少なくとも最低量のCuの存在が必須である。既に、合金中の少なくとも1%のCuの濃度が、商業的に実現可能な方法を達成するための好適な最低値であることが見出された。Cuが現方法において触媒効果を有することが実際に考えられている。
【0029】
更なる実施形態において、合金粉末はMnも含有する。
【0030】
元素の「大部分」は、プロセスに入るその元素の量の50質量%以上を意味する。
【0031】
第1の実施形態による更なる実施形態において、接触の工程における酸性溶液の化学量論量は、Fe以外の全金属元素を溶解させるように決定される。
【0032】
しかし、この量はやや理論的である。実際には、所望の元素は定量的には溶解せず、Feは必然的に限られた程度で溶解する。下限として定義される酸の量は、Ni、Co、Mn、及びCuの大部分の溶解を確実にしながら、Feの溶解を最低限にすることができる。上限として定義される量は、Feの大部分を残渣中に保ちながら、Ni、Co、Mn、及びCuの溶解収率(dissolution yield)を最適にすることができる。
【0033】
Fe以外の全金属元素の少なくとも50%を溶解させることが許容できるが、少なくとも90%、95%、又は更に98%の有価金属等、より高い量の有価金属を溶解させることが好ましい。
【0034】
他方で、本方法は、Feの50%以下、好ましくはFeの25%以下、更により好ましくはFeの10%以下を溶解させるために酸の量を限定する。
【0035】
このようにして、本方法により、他の有価金属からFeの大部分を、最初にそれを完全に溶解させる必要なしに分離することが可能になる。これは、有利には、方法に必要である酸の量を減少させ、同時に溶解状態のFeを処理する後処理操作を回避する。以下の例は、溶液中のFeの量を最低限にしながら、特にCo及びNiの、またCuの優れた浸出収率を例証する。
【0036】
更なる実施形態において、合金粉末は、乾式精錬プロセスを使用したリチウムイオン電池又はそれらの廃棄物のリサイクリングから生じる。
【0037】
電池合金は、特に乾式精錬により処理されたリチウムイオン電池又はそれらの廃棄物から生じる場合、Cu並びにNi及びCoのうちの1種又は複数を含有すると考えられる。このようにして、要求される最低の濃度のCuが常に存在すると同時に、特にNi及び/又はCoの価値により、本方法が工業的に興味深くなる。
【0038】
リチウムイオン電池又はそれらの廃棄物は、新品又は廃棄リチウムイオン電池、消費された又は寿命が尽きた電池、製造又は電池スクラップ、電極箔、電解質、セパレーター、ケーシング材料及び電極材料等の電池構成要素、又は前処理された電池材料を含み、非常に複雑な廃棄物の流れをもたらす。そのような廃棄物の流れの中の重要な金属は、典型的には銅、ニッケル及び/又はコバルトであり、乾式精錬により処理される場合最終的に合金になる。
【0039】
更なる実施形態において、合金粉末は粉砕又は噴霧により得られる。
【0040】
合金の完全な溶解を目標とする従来のスキームと比較すると、本方法に加えられる酸の量はより限定される。結果として、浸出プロセスの間の平均酸度はより低い。その結果、プロセス条件はより穏やかである。しかしながら、本発明者らは、驚くべきことに、Cu並びにNi及びCoのうちの1種又は複数を含む合金粉末が、これらの穏やかな条件下で溶解するのに充分に反応性があり、Cu、Ni及び/又はCoの溶解収率が高いことを見出した。そのような粉末は、粉砕又は噴霧により、特に粉砕又はスプレー噴霧、例えばウォータージェット噴霧により得られ得る。これは、より低い比表面積により説明される、それらのより低い反応性のために、現方法において効率よく使用可能ではない合金の顆粒又は他の大きい塊のような大きい粒子とは対照的である。
【0041】
合金粉末の使用により、通常の撹拌反応器での処理が可能である。そのような反応器は、粉末の完全又は部分的懸濁により物質及びエネルギー移動を促進することによって良好なプロセス速度を可能にする。また、これらの反応器は、酸素のような気体試薬又は過酸化水素のような液体試薬を使用する場合の両方で、酸化剤の良好な分散を可能にする。
【0042】
更なる実施形態において、合金粉末は、800μm未満のD90及び/又は300μm未満のD50を有する粒径分布を有する。
【0043】
D50及びD90は、数による分布を指す。合金粉末の粒径分布はレーザー回折により測定される。レーザー回折はISO 13320:2020に準じて実施できる。800μm超のD90及び/又は300μm超のD50を有する粒子は、撹拌反応器での懸濁のためにより多くの混合力を必要とする。これは設備のエネルギー消費及び摩耗を増加させるので、そのようなより粗い粉末は本方法において好ましさが低くなる。
【0044】
更なる実施形態において、酸性溶液中の酸はHSOまたはHClのいずれかである。
【0045】
理論的に他の酸によっても可能であるが、HSOかHClかのいずれかの使用が好ましい。多くの湿式冶金のフローシートはこの2種のいずれかに基づいており、本方法を既存の操作に容易に統合することができる。
【0046】
更なる実施形態において、接触工程は、
- 合金粉末を、選択された化学量論量の50%から95%に相当する第1の量の酸性溶液と混合して、それにより液相及び固相を含む懸濁液を得る工程、
- 懸濁液を酸化する工程、並びに
- 懸濁液を第2の量の酸性溶液により酸性化する工程であって、それにより前記第1及び第2の量の和が決定された化学量論量の100%に相当する、工程
により段階的に実施される。
【0047】
第1の量の酸は、時間を節約してかなり速く添加され得るが、その理由は、精密な決定が、決定された酸の総量のうち比較的多量だがそれでも化学量論未満の部分を添加することを確実にするためである。次いで、典型的には第1の量より少ない第2の量の酸はよりゆっくりと添加され、より良好なプロセス制御を達成する。したがって、この実施形態は効率よい多段階プロセスである。
【0048】
第1の量の酸性溶液の添加と第2の量の酸性溶液の添加との間に、酸化性条件が維持される。この中間工程の間に、懸濁液中の金属は酸化し続けて、懸濁液は熱力学的平衡の方に進むだろう。その結果、第2の添加工程中で酸化される必要がある金属はより少ない。第2の添加工程における金属溶解の速度は、典型的には最低の反応速度を有する反応である酸化反応によりあまり制限されない。中間平衡は、第2の添加の間により速いシステム反応を可能にし、酸を添加する際により正確なプロセス制御を可能にする。
【0049】
更なる実施形態は、1質量%超のCuを有する合金粉末に含有されるCu並びにNi及びCoのうちの1種又は複数からのFeの分離の方法であって、
- 酸化性条件で、合金粉末を、Fe以外の全金属元素の少なくとも50%を溶解させ、且つFeの50%以外の全金属元素の多くとも100%を溶解させるのに好適な化学量論量の酸性溶液と接触させ、それにより、Cu並びにNi及びCoの1種又は複数の大部分を含有する浸出溶液及びFeの大部分を含有する残渣を得る、工程であって、酸性溶液中の酸がHSOであり、接触工程を、
- Fe以外の全金属元素の100%を溶解させるための酸性溶液の化学量論量を決定する工程、
- 合金粉末を、決定された化学量論量の50%から100%に相当する量の酸性溶液と混合して、それにより、液相及び固相を含む懸濁液を得る工程、
- 懸濁液を、50℃を超える温度で、320mV Ag/AgClを超える酸化還元電位に酸化する工程、
- 但し、液相中のFe濃度が0.5g/L未満であるならば、懸濁液を、50℃を超える温度で、酸化性条件で、Fe濃度が0.5g/Lと3g/Lの間になるまで酸性溶液を加えることにより酸性化する工程、並びに
- 但し、液相のpHが3を超えるならば、懸濁液を、50℃を超える温度で、酸化性条件において、pHが1.5と3の間になるまで酸性溶液を加えることにより酸性化する工程
により段階的に実施する、工程と、
- 浸出溶液を残渣から分離する工程と
を含む、方法を記載する。
【0050】
酸性溶液の「化学量論量を決定する工程」は
- Fe以外の合金中の全金属元素の少なくとも50%、及び、
- Feの50%以外の合金中の全金属元素の多くとも100%、又は、換言すると、鉄の半分に加えて、合金中の全非鉄金属の多くとも100%
の溶解に必要とされる酸の量を求めるための肉体的又は精神的活動を意味する。
【0051】
肉体的活動は、合金の試料の化学分析を包含し得る。精神的活動は、類似の合金による経験に基づく評価、計算又はおおよその要求される化学量論のあらゆる他の概算であり得る。計算又は概算は、合金中の金属元素が二価カチオンとして溶解するという前提に基づき得る。以下の反応は、硫酸または塩酸のいずれかを使用する場合の化学量論を示す:
M+HSO+1/2 O→MSO+HO、又はM+2 HCl+1/2 O→MCl+HO、式中、Mは、Ni、Co、Mn、Cu及びFeである。
【0052】
この実施形態は、pH及び/又は溶解したFeをモニタリングすることにより、第2の量の酸をより精密に加え得るので好ましい。これは、出発原料の組成が精密には知られていない場合に特に有用である。
【0053】
本方法において、第1の量の酸の添加は50℃を超える温度で実施される。60℃又は70℃等のより高い温度は反応速度のために有益であり、本方法を加速させる。反応器の特性に応じて、温度は、発熱性である溶解反応により生み出された熱の結果として、浸出の間増加し得る。
【0054】
好ましい実施形態において、上記但し書きのいずれかによる第2の量の酸の添加は75℃を超える温度で実施される。この工程においても、より高い温度は、反応速度のために有益であり、本方法を加速させる。
【0055】
第1の但し書きは、有利には、溶液中のFeの濃度が非常に低い状況に対処する。0.5g/L Fe未満の濃度で、本発明者らは、充分でない合金粉末が溶解し、Ni及びCoのような有価元素のより低い溶解収率がもたらされたことを見出した。酸性化により、いくらかのFeが溶解するだろうが、とりわけ、Cu、Co及び/又はNiの浸出収率が増大するだろう。3g/L Feの上限は、酸性化し過ぎることを回避するのを助ける。
【0056】
第2の但し書きは、有利には、溶液のpHが高すぎる状況に対処する。3を超えるpHでは、Cu、Co及び/又はNiの量の増加が残渣中で観察され、これらの有価金属の許容できないほどの損失をもたらす。1.5のより低いpH限度は、多過ぎるか又は全てのFeの溶解をもたらすだろう、酸性化のし過ぎを回避するのを助ける。
【0057】
上記いずれか1つの但し書きによる段階的な添加は、より速く且つより精密なプロセス制御を可能にする。全ての酸を一段階で添加することは、多過ぎる酸を加えて多過ぎるFeを溶解させる危険性を有する。
【0058】
平衡は、第1の量の酸性溶液を合金粉末と混合することにより始まり、全ての連続した添加の間継続する。酸性溶液の連続した添加は、多過ぎる酸を添加するリスクを最低限にするが、より長い時間がかかる。本方法は、多過ぎるFeの溶解をもたらす多過ぎる酸の添加を回避しながら、第1の量の酸性溶液を速く添加し(好ましくは、Fe以外の全金属元素に対する化学量論に近い)、時間を節約することの間のバランスを見つけるようにも設計されている。
【0059】
「酸性溶液中の酸はHSOである」とは、使用される酸性溶液中の酸の大部分がHSOであることを意味する。したがって、これは、HCl又はHNO等の少量の別の酸も溶解状態で存在する場合の操作を排除しない。そのような場合、溶液中に存在するあらゆる他の酸も、化学量論量を決定する場合に考慮に入れなければならない。
【0060】
更なる実施形態において、酸性溶液中の酸はHClであり、接触工程は、
- 第1の実施形態に従って酸性溶液の化学量論量を決定する工程と、
- 合金粉末を、決定された化学量論量の50%から100%に相当する量の酸性溶液と混合し、それにより液相及び固相を含む懸濁液を得る工程と、
- 懸濁液を、50℃を超える温度で、320mV Ag/AgClを超える酸化還元電位に酸化する工程と、
- 但し、液相のpHが2を超えるならば、懸濁液を、50℃を超える温度で、酸化性条件において、pHが0.5と2の間になるまで酸性溶液を加えることにより酸性化する工程と
により段階的に実施する。
【0061】
SOは、おそらく産業においてより頻繁に使用されるが、HClは同じ利点を有し、したがって同等に好ましい選択肢である。本発明者らは、金属を溶解させる選択性が、典型的には、HClを使用する場合いくらかより良好であることを観察した。本方法の条件のもとで、浸出溶液中のFe濃度は非常に低く、Fe濃度に関する但し書きがほとんど無用になることも観察した。したがって、この実施形態では、pHに関する但し書きのみが適用される。
【0062】
HClを使用する際のpH範囲は、HSOの場合よりも低い(すなわち、より酸性)。
【0063】
「酸性溶液中の酸はHClである」とは、使用される酸性溶液中の酸の大部分がHClであることを意味する。したがって、これは、HSO又はHNO等の少量の別の酸も溶解状態で存在する場合の操作を除外しない。そのような場合、溶液中のあらゆる他の酸も、化学量論量を決定する場合に考慮に入れなければならない。
【0064】
HCl又はHSOを使用する選択肢は2つの独立した実施形態をもたらす。
【0065】
更なる実施形態において、接触工程における酸化性条件は、H及び/又はO含有ガスの添加により得られる。空気の使用は可能だが、Oガスの使用に比べて、より低いプロセス速度をもたらすだろう。
【0066】
更なる実施形態において、本方法は大気圧で実施される。高圧下での浸出は必要とされず、より高価なオートクレーブの使用を回避している。
【0067】
更なる実施形態において、接触工程における酸性溶液は、Ni及び/又はCoを含有する固体出発原料の酸性浸出により得られる。これらの元素は、溶解した合金粉末により導入された金属と共に、最終的に浸出溶液中にあるだろう。Feもこの酸性溶液中に存在し得るが、Fe濃度は、好ましくは3g/L未満、好ましくは2g/L未満、より好ましくは1g/L未満である。より少ないFeが出発溶液に存在する場合、合金粉末からのより多くのFe溶解が許容できる。合金粉末からのより多くのFe溶解を可能にすることは、Ni、Co及び/又はCuの溶解収率を最大にするために有益になり得る。
【0068】
更なる実施形態において、合金粉末と固体出発原料は同じ組成を有する。この好ましい設定は、Ni及び/又はCo等の純粋な有価金属の全体的な産出に貢献しながら更なる不純物の導入を回避するのを助ける。これは、固体出発原料が同じ合金粉末である場合の処理スキームを含む。そのようなスキームにおいて、酸性出発溶液は、浸出操作の下流の単位操作からのリサイクル流から生じ得る。任意に、Feは、出発溶液中のFe濃度を制限するために、リサイクル流が酸性出発溶液として浸出操作中で使用される前に、このリサイクル流から除去され得る。
【0069】
更なる実施形態において、混合工程、酸化工程、及び酸性化工程は連続プロセスとして逐次的に操作される。
【0070】
バッチ式プロセスと比べて、そのような連続プロセスは、工業的機構中でプロセス強度を増加させることを可能にする。
【0071】
更なる実施形態において、浸出溶液を残渣から分離する工程で得られる浸出溶液は、前記溶液に含有される他の金属から、特にNi及び/又はCoからCuを分離する電解採取工程で更に処理される。
【0072】
電解採取を、例えば、直接浸出溶液で実施することも(「直接EW」)、溶媒抽出と組み合わせることもできる(「SX-EW」)。
【0073】
更なる実施形態において、浸出溶液を残渣から分離する工程で得られる残渣は、製鋼の出発原料として使用される。
【0074】
以下の実施例は本発明を説明する。
【0075】
(実施例1)
この実施例は、硫酸の2段階添加を使用する実施形態を説明する。第2の添加はpH関連基準により起こされる。
【0076】
CoNiCuFeMn-合金は電池精錬プロセスから生じる。それは、噴霧により粉末に変換される。粒径分布をレーザー回折により測定する:平均粒径は、96μmのD50及び298μmのD90を有する。
【0077】
質量による元素組成は、59%Co、9.5%Ni、0.3%Mn、25%Cu、及び5.1%Feである。
【0078】
252gのこの合金粉末を、1.4Lの脱塩水と共にビーカーに加える。混合すると懸濁液が形成し、それを65℃に加熱する。Oを75L/時で懸濁液にスパージする。
【0079】
Fe以外の全金属元素を溶解させる酸の化学量論量を3.93molのHSOであると決定する。これは、Table 1aから直接導出され得る。これは、500g/LのHSOを含有する酸性水溶液の772mLに相当する。
【0080】
【表1】
【0081】
上記で決定した量の69%を懸濁液に加えることを選択する。これは、530mLの酸性水溶液に相当する。スパージしながら、溶液を3時間の期間にわたりゆっくりと加える。
【0082】
次いで、スパージを続けながら、温度を82℃に高める。酸化還元電位は326mV Ag/AgClに、pHは4.03に上昇する。液体をサンプリングし、Fe濃度を測定すると0.6g/Lである。
【0083】
このFeレベルは0.5g/Lの閾値未満ではない:そのため、更なる酸性化はFe関連基準により起こされない。
【0084】
pHは3の閾値より高い:これは、pH関連基準に従って更なる酸性化の必要性を起こす。1.5と3の間のpHを目標とする。
【0085】
したがって、更なる量の酸性水溶液を、Oを懸濁液に75L/時でスパージしながら、3時間の期間にわたり、80℃の温度でゆっくりと懸濁液に加える。pHが2.7で安定する時点で、方法の工程は終了したものと想定する。次いで、更なる量の250mlの酸性溶液を加えた。
【0086】
合計で、780mLの500g/L HSO溶液を使用した。これは、Fe以外の全金属元素の少なくとも50%を溶解させるのに好適な酸性溶液の量であり、Feの50%以外の全金属元素の98%を溶解させるのに好適な化学量論量に相当する。
【0087】
次に、固体分画と液体分画を濾過により分離する。2.0Lの浸出溶液を得る。残渣の質量は67.2gであり含水量は62%である。両組成を、Table 1bに、液体に含有される元素の質量を濾液及び固体に含有される元素の量の和により割ったものとして計算された浸出収率と共に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
この実施例は、Feの72%が残渣に現れる(report to)一方で、ほぼ全てのCo、Ni、Mn及びCuを高収率で溶解させることができる方法を示す。残渣はごく微量の最も価値のある金属Co及びNiを含有する。
【0090】
(実施例2)
この実施例は、硫酸の単一の添加を使用する実施形態を表す。更なる酸性化は、Fe関連基準によっても、pH関連基準によっても起こされない。
【0091】
CoNiCuFeMn-合金は電池精錬プロセスから生じる。それは噴霧により粉末に変換される。粒径分布をレーザー回折により測定する:平均粒径は、102μmに等しいD50及び274μmに等しいD90を有する。
【0092】
質量による元素組成は、32%Co、12%Ni、2.3%Mn、26%Cu、及び26%Feである。
【0093】
5543gの合金粉末を、38Lの脱塩水と共に60L反応器に加える。混合すると懸濁液が形成し、それを60℃に加熱する。Oを400L/時で懸濁液にスパージする。
【0094】
Fe以外の全金属元素を溶解させるための酸の化学量論量を66.45molのHSOであると決定する。これは、Table 2aから導出できる。これは1330g/L HSOの酸性水溶液の4.90Lに相当する。
【0095】
【表3】
【0096】
上記で決定した量の99%を懸濁液に加えるように選択する。これは4.85リットルの酸性水溶液に相当する。スパージしながら、溶液を4.5時間の期間にわたりゆっくりと加える。
【0097】
酸性水溶液を加えた後、懸濁液中の酸化還元電位を測定すると216mV vs Ag/AgClであり、pHは1.6である。
【0098】
次に、スパージを続けながら、温度を80℃に高める。酸化還元電位は340mV vs Ag/AgClに、pHは2.9に上昇する。液体をサンプリングし、Fe濃度を測定すると1.9g/lである。
【0099】
pHは3.0の閾値を超えず、Feレベルは0.5g/lの閾値未満ではない。これは、更なる酸性化が、Fe関連基準によっても、pH関連基準によっても起こされないことを意味する。そのため、追加の酸性溶液を加えない。これは、全体で、4.85Lの1330g/L HSO溶液が消費されることを意味する。これは、Feの50%以外の全金属元素の83%を溶解させるのに好適な化学量論量に相当する。
【0100】
次に、固体分画と液体分画を濾過により分離する。35Lの浸出溶液を得る。残渣の質量は9387gであり、含水量は69%である。両組成を、液体に含有される元素の質量を濾液及び固体に含有される元素の量の和により割ったものとして計算された浸出収率と共に、Table 2bに示す。
【0101】
【表4】
【0102】
この実施例は、Feの95%が残渣に現れる一方で、ほぼ全てのCo、Ni、Mn及びほとんどのCuを溶解させることができる方法を示す。実施例1と比較すると、酸の第2の添加は必要でなく、その理由は、請求項記載の溶解状態のFeの但し書きもpHの但し書きも起こされないからである。
【0103】
(実施例3)
この実施例は、硫酸の2段階添加を使用する実施形態を表す。第2の添加はFe関連基準により起こされる。
【0104】
CoNiCuFeMn-合金は電池精錬プロセスから生じる。それは噴霧により粉末に変換される。粒径分布をレーザーにより測定する:平均粒径は、143μmに等しいD50及び296μmに等しいD90を有する。
【0105】
質量による元素組成は、19%Co、44%Ni、7.8%Mn、22%Cu、及び5.8%Feである。
【0106】
4638gの合金粉末を、42Lの脱塩水と共に60L反応器に加える。混合すると懸濁液が形成し、それを60℃に加熱する。Oを350L/時で懸濁液にスパージする。
【0107】
Fe以外の全金属元素を溶解させるための酸の化学量論量はHSOの72.37molであると決定する。これはTable 3aから直接導出できる。これは、1330g/LのHSOを含有する酸性水溶液の5.33リットルに相当する。
【0108】
【表5】
【0109】
上記で決定した量の90%を懸濁液に加えることを選択する。これは4800mLの酸性水溶液に相当する。スパージしながら、溶液を5.5時間の期間にわたりゆっくりと加える。
【0110】
酸性水溶液を加えた後、懸濁液中の酸化還元電位を測定すると370mV vs Ag/AgClであり、pHを測定すると0.5である。液体をサンプリングし、この時点の液体中のFe濃度を測定すると5.5g/Lである。
【0111】
次いで、スパージを続けながら、温度を80℃に高める。液体をサンプリングし、Fe濃度を毎時モニターする。10時間後、Fe濃度を測定すると0.42g/Lである。
【0112】
このFeレベルは0.5g/Lの閾値未満である:これは、Fe関連基準に従って更なる酸性化の必要性を起こす。2.5g/lのFe濃度を目標とする。
【0113】
したがって、更なる量の酸性水溶液を、4時間の期間にわたり、80℃の温度で、Oを350L/時で懸濁液にスパージしながら、ゆっくりと懸濁液に加える。方法の工程は、目標とされる2.5g/lのFe濃度に達したときに終了したものと想定する。次いで、570mlの更なる量の酸性溶液を加えた。この時点で、pHを測定すると2.0である。
【0114】
合計で、5370mLの1330g/L HSO溶液を使用した。これは、Fe以外の全金属元素の101%を溶解させるのに好適な化学量論量に相当する。これは、Feの50%以外の全金属元素の97%を溶解させるのに好適な化学量論量にも相当する。
【0115】
次に、固体分画と液体分画を濾過により分離する。42リットルの浸出溶液を得る。残渣の重さは3408gであり、含水量は86%である。両組成を、液体に含有される元素の質量を濾液及び固体に含有される元素の量の和により割ったものとして計算された浸出収率と共に、Table 3bに示す。
【0116】
【表6】
【0117】
この実施例は、Feの61%が残渣に現れる一方で、ほぼ全てのCo、Ni、Mn及びCuを高収率で溶解させることができる方法を示す。残渣は、ごく微量の最も価値のある金属Co及びNiを含有する。
【0118】
(実施例4)
この実施例は、酸性溶液の添加の異なる手法を表す。
【0119】
CoNiCuFeMn-合金は電池精錬プロセスから生じる。それは噴霧により粉末に変換される。粒径分布をレーザー回折により測定する:平均粒径は、162μmのD50及び458μmのD90を有する。
【0120】
質量による元素組成は、38%Co、9%Ni、2.2%Mn、22%Cu、及び27%Feである。
【0121】
250gのこの合金粉末を、1.7Lの脱塩水と共にビーカーに加える。混合すると懸濁液が形成し、それを75℃に加熱する。Oを75L/時で懸濁液にスパージする。
【0122】
Fe以外の全金属元素を溶解させるための酸の化学量論量を前もって決定しない。代わりに、pHを2.0未満に保つ単純なフィードバックループにより酸添加を制御するために、液体中のpH測定を使用する。そのためpHがpH2.0のこの設定値未満に低下する場合、酸添加は中断される。酸の添加は、pHがpH2.0の設定値を超えて再び増加する場合にのみ再開される。このpHの増加は、合金粉末の溶解の間の遊離酸消費により説明される。
【0123】
この手法を使用して、希釈された硫酸溶液(500g/L HSO)を、6時間の期間にわたり、75℃の温度で、Oを懸濁液に75L/時でスパージしながらゆっくりと懸濁液に加える。更なる酸の添加なしにpHが2.0で安定した時点で、方法の工程は終了したものと想定する。
【0124】
この時点で、688mlの500g/L HSO溶液を加えた。懸濁液中の酸化還元電位は396mV vs Ag/AgClである。液体をサンプリングし、Fe濃度を測定すると18g/lである。
【0125】
次いで、スパージを続けながら、温度を85℃に高める。更なる酸は加えられないという事実にもかかわらずpHは減少する。5時間後、液体中のpHは1.4である。
【0126】
この時点で、固体分画と液体分画を濾過により分離する。2.2Lの浸出溶液を得る。残渣の質量は167gであり、含水量は49%である。両組成を、液体に含有される元素の質量を濾液及び固体に含有される元素の量の和により割ったものとして計算された浸出収率と共に、table 4aに示す。
【0127】
【表7】
【0128】
この実施例において、酸を加えるためのpH系コントローラーの使用により688mlの500g/L HSO溶液を加えた。これは3.51molの酸に相当する。これは、Fe以外の全金属元素の少なくとも50%を溶解させるのに好適な酸性溶液の量であり、Feの50%以外の全金属元素の98%を溶解させるのに好適な化学量論量に相当する。これは、Table 4bから直接導出され得る。
【0129】
【表8】
【0130】
この実施例は、pH制御された酸供給を使用して、Fe以外の全金属元素の少なくとも50%及びFeの50%に加えて前記金属元素の多くとも100%を溶解させるための化学量論的である量の酸を添加できることを示す。結果として、ほぼ全てのCo、Ni、Mn及びCuが溶解する一方で、Feの64%が残渣に現れる。残渣は、少量の最も価値のある金属Co及びNiを含有する。
【0131】
実施例1、2及び3と比較すると、この実施例の結果は2つの理由であまり好都合ではない。第1に、生成物溶液のpHは1.4に等しく、それは、1.5と3の間の好ましい範囲より低い。このpHが酸添加の終了の後に更に減少するという事実は、例えば以下の反応に従って、鉄の加水分解の間に酸が溶液中に放出されるという事実により説明され得る。
Fe(SO+4 HO→2 FeOOH(s)+3 HSO
【0132】
第2に、溶液中のFe濃度を測定すると11g/lであるが、それは0.5g/lと3g/lの間の好ましい範囲よりはるかに高い。
【0133】
本発明者らは、このあまり好都合ではない結果を、Fe以外の全金属元素の100%を溶解させる酸性溶液の化学量論量を最初に決定し、第1の酸添加段階でその量の最大100%に酸を制限する代わりに、酸添加のためのpH系コントローラーの使用がより多量の酸の添加をもたらしたという事実に起因すると考える。結果として、システムはあまり好ましくない状態に進んだ。この状態は、もはや追加の酸添加によって修正され得ない。
【0134】
比較例5
CoNiCuFeMn-合金は電池精錬プロセスから生じる。それは噴霧により粉末に変換される。粒径分布をレーザー回折により測定する:平均粒径は、162μmのD50、及び361μmのD90を有する。
【0135】
質量による元素組成は、32%Co、13%Ni、2.4%Mn、27%Cu、及び27%Feである。
【0136】
220gのこの合金粉末を、2Lの脱塩水と共にビーカーに加える。混合すると懸濁液が形成し、それを63℃に加熱する。Oを80L/時で懸濁液にスパージする。
【0137】
830mLの500g/L HSO溶液を、6時間の期間にわたり、スパージしながら、ゆっくりと懸濁液に加える。酸化還元電位を測定すると447mV vs Ag/AgClであり、pHは1.0と測定される。
【0138】
次に、固体分画と液体分画を濾過により分離する。1.9Lの浸出溶液を得る。残渣の質量は35.7gであり、含水量は67%である。両組成は、液体に含有される元素の質量を濾液及び固体に含有される元素の量の和により割ったものとして計算された浸出収率と共に、table 5にある。
【0139】
【表9】
【0140】
この実施例は、多過ぎる酸の添加が、Feを含む全ての金属のほぼ完全な溶解をもたらし、そのためそれらが最終的に浸出溶液中にあることを示す。
【0141】
(実施例6)
この実施例は塩酸を使用する実施形態を表す。
【0142】
CoNiCuFeMn-合金は電池精錬プロセスから生じる。それは噴霧により粉末に変換される。粒径分布をレーザー回折により測定する:平均粒径は、143μmのD50、及び296μmのD90を有する。
【0143】
質量による元素組成は、19%Co、44%Ni、7.8%Mn、22%Cu、及び5.8%Feである。
【0144】
390gのこの合金粉末を、0.85Lの脱塩水と共にビーカーに加える。混合すると懸濁液が形成し、それを60℃に加熱する。Oを75L/時で懸濁液にスパージする。
【0145】
Fe以外の全金属元素を溶解させる塩酸の化学量論量を12.2molのHClであると決定する。これは、Table 6aから直接導出され得る。これは、440g/l HClを含有する酸性水溶液の1010mLに相当する。
【0146】
【表10】
【0147】
上記で決定した量の80%を懸濁液に加えることを選択する。これは810mLの酸性水溶液に相当する。溶液を、3時間の期間にわたり、スパージしながらゆっくりと加える。
【0148】
酸化還元電位を測定すると315mV vs Ag/AgClであり、pHを測定すると2.1である。
【0149】
次いで、スパージを続けながら、温度を80℃に高める。4時間後、酸化還元電位を測定すると559mV Ag/AgClであり、pHは2.3に上昇した。液体をサンプリングし、Fe濃度を測定すると0.01g/Lである。
【0150】
pHは2の閾値を超えている:これは、塩酸を使用する場合、pH関連基準に従って更なる酸性化の必要性を起こす。0.5と2の間のpHを目標とする。
【0151】
したがって、更なる量の酸性水溶液を、4時間の期間にわたり、80℃の温度で、Oを懸濁液に75L/時でスパージしながらゆっくりと懸濁液に加える。pHが1.7で安定した時点で方法の工程が終了したものと想定する。次いで、更なる量の140mlの酸性溶液を加えた。
【0152】
合計で、1010mlの440g/l HCl溶液を使用した。これは、Fe以外の全金属元素の100%を溶解させるのに好適な化学量論量に相当する。これは、Feの50%以外の全金属元素の97%を溶解させるのに好適な化学量論量にも相当する。
【0153】
次に、固体分画と液体分画を濾過により分離する。1.6Lの浸出溶液を得る。残渣の質量は105gであり、含水量は49%である。両組成を、液体に含有される元素の質量を濾液及び固体に含有される元素の量の和により割ったものとして計算された浸出収率と共に、table 6bに示す。
【0154】
【表11】
【0155】
この実施例は、Feの99%超が残渣に現れる一方で、ほぼ全てのCo、Ni、Mn及びCuを高収率で塩酸を使用して溶解させることができる方法を示す。残渣はごく微量の最も価値のある金属Co及びNiを含有している。
【手続補正書】
【提出日】2024-06-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式冶金の分野に関し、電池のリサイクルに由来する合金から、鉄を排除しながら、銅、ニッケル又はコバルト等の金属を酸性且つ酸化性条件下で選択的に溶解させる方法を記載する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池のライフサイクルの間に、種々の廃材及びスクラップ材が生まれ、それらは環境面での懸念のため、またこれらの電池に含有される有価金属のためリサイクルされる必要がある。
【0003】
廃棄物の形成は、リチウムイオン電池の製造の間に既に始まっている。高い品質基準及びプロセスの低効率のため、リチウムイオン電池の様々な部品が様々なプロセス工程で排除又は廃棄される。製造プロセスの間で、これらの廃棄された材料は、規格外カソード粉末から、電極箔、アノード、セパレーター又はカソード箔の組合せ、電解質のないバッテリーセル、電解質のあるバッテリーセル、充電されたバッテリーセル及びモジュールまで様々であり得る。廃棄物管理及びリサイクリングの観点から、これらの材料の複雑さは、ますます多くの材料が製品に加えられるので、製造プロセスの最後に向けて増加する。廃棄されたバッテリーセルは、周期表中の元素の大部分、例えば、カソード中にNi、Co、Mn、Li、Fe、Al、V、P、F、C、Ti又はMg、アノード中にLi、Ti、Si、C、Al又はCu、電解質中にLi、F、P又はVOC、ケーシング中にAl、Fe、Cu、Ni、Cr又はCl若しくはBr含有プラスチック及びリチウムイオン電池産業における技術開発に応じてより多くのものを含有する。
【0004】
これらのリチウムイオン電池製造廃棄物の全ての他に、消費者段階の最後でも電池は結局廃棄物となる。材料の複雑さの点で、これらの寿命が尽きた電池は製造プロセスの最後の廃棄されたバッテリーセルと同等である。寿命が尽きた電池の収集及び選別は、リチウムイオン電池に対して100%選択的ではないため、それらは更により複雑であり得る。これは、リチウムイオン電池リサイクル業者が、リチウムイオン電池と混合され得る、アルカリ、Ni-Cd、NiMH又はZn電池等の全種類の他の電池のごく一部にも対処しなければならないことを意味する。
【0005】
WO2020212546は、廃棄物分画の乾式精錬操作により開始する、消費された充電式電池又はそれらのスクラップから有価金属を回収するスキームを記載している。精錬操作は、Ni、Co、Mn、Cu及びFeの元素を不純物から分離し、不純物をスラグの中に排除して、フィードからNi、Co、Mn、Cu及びFeの大部分を含有する金属合金を生成させる。次いで、金属合金分画はスラグから分離され、粉末に変換され、湿式冶金操作において更に処理される。酸性条件での完全な合金の溶解後、Cuが、最初にセメンテーションにより除去されるが、それは金属銅としての沈殿である。次いで、Feは、別な工程において、Oによる酸化及び中和剤としてのNaCOの添加によりFe-沈殿物を生じさせることにより除去される。
【0006】
Ni及び/又はCo含有溶液からの逐次的なCu-セメンテーション及びFe-沈殿のそのような手法は一般的な方法である。実際に、ほとんどのFe除去操作は、低遊離酸濃度での不溶性Fe3+化合物の沈殿に依存している。これは、例えば、Monhemius等において説明されている(「The iron elephant: A brief history of hydrometallurgists’struggles with element no. 26」、CIM Journal 8(4): 197~206頁、2017年)。そのようなプロセスは、典型的には、二価鉄から三価鉄への転化を促進する酸化剤と、遊離酸を中和する塩基性試薬の組合せを使用して、低遊離酸濃度での三価鉄化合物の沈殿を促進する。通常の酸化剤は、空気、O、H、及びClである。更に強い酸化剤、例えば次亜塩素酸塩、過硫酸塩又は過マンガン酸塩も適用できる。水酸化物又は炭酸塩、特にNaOH、NaCO、Mg(OH)、Ca(OH)、CaCO、NHOH、又は(NHCOが中和試薬として通常使用される。
【0007】
Feの他に、Cr、Al、As、Sb、Sn、W又はCu等、多くの他の不純物がフィード溶液中に存在し得る。これらの元素は加水分解されてFeと共に沈殿し得る。加水分解操作は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、アンモニア、水酸化カリウム又は水酸化カルシウムを使用する。これらの場合全てにおいて、K、Ca、Na、Li、又はNH等の追加の元素が中和試薬により溶液に導入されるが、高純度操作を目指す場合、それは明らかな不利益である。
【0008】
WO2019090389は、中和用の化合物による追加の混在物の導入を回避する手法を提示している。Ni金属粉末フィードを硫酸ニッケル溶液に変換するフローシートの一部として、加水分解が、中和によるFeを含む不純物の除去のために記載されている。水酸化Niが、より伝統的なアルカリ塩基に代わる中和用の試薬として使用される。特に水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム塩基が典型的にはアルカリ汚染につながるため、これらの塩基が避けられることが言及されている。水酸化Niは、別な操作において、精製された溶液の一部から水酸化ナトリウムを使用してNiを沈殿させることにより調製される。このようにして、ナトリウムは操作の主流に入らないが、水酸化ナトリウムの消費はそのままである。主流中のNi含有金属フィードの使用にも関わらず、水酸化Niを製造するための追加の設備により、これは基本的に2段階プロセスになる。
【0009】
Ni及び/又はCoを、フィード中に共存する不純物から分離する別の手法は、フィードの選択浸出によるものである。選択される不純物はより低い程度溶解されるか、又はこれらの選択された不純物は、優先的に排除されて固体残渣中に入る。これは、例えばWO2019064996に記載されており、電池合金は硫化剤の存在下で浸出操作に付され、このようにしてNi、Co及びFeを優先的に溶解させると同時にCuのほとんどが残渣中に残され、次いで他の元素から固体/液体濾過により分離される。
【0010】
WO2019102765は、電池精錬からの合金(「電池合金」)の電気浸出により、Ni、Co及びFeをこれらの合金から選択的に溶解させると同時に、Cuをカソード上に電着させることに基づく異なる手法を提示する。このようにして、Cuは電池合金の浸出の間に分離されて、フィードからのCuの大部分が最終的に浸出液にあることを回避する。
【0011】
上記で引用された文書は、合金を浸出する異なる方法を強調する。全ては、それらの合金中に含有されるFeが他の金属と共に完全に溶解されることを共通に有する。そのため、フィード中の他の溶解した金属からのFeの大部分の分離には、浸出液の別の下流処理を要する。
【0012】
合金粉末を処理する従来のスキームにおいて、Feは、最初に、浸出操作において溶解され、その後に下流Fe除去において溶液から除去される。例えば、HSOを使用して合金粉末を浸出する場合、Feは、最初にFeSOとして、浸出の間に以下の反応により溶解される:
Fe+HSO+1/2 O→FeSO+HO。
【0013】
その後に、それは、下記により、酸化されて例えばFeOOHとしてFe除去の間に沈殿する:
2 FeSO+HSO+1/2 O→2 Fe(SO+HO及びFe(SO+4 HO→2 FeOOH(s)+3 HSO
【0014】
Feの沈殿の間に放出された酸は、典型的には、例えばCa(OH)又はNaOHを使用して中和され、CaSO又はNaSO塩に変換される:
SO+Ca(OH)→CaSO+2 HO又はHSO+2 NaOH→NaSO+2 HO。
【0015】
そのような従来のスキームにおいて、Feは、最初に、化学量論量の酸を浸出の間に消費する。その後のFe除去操作において、この酸は、Na、K、Mg、Ca、Li、又はアンモニアの炭酸塩又は水酸化物等の苛性化合物により中和される。反応生成物は、多くの場合、アンモニウム塩、アルカリ塩、又はアルカリ土類(earth-alkali)塩である。これらの反応生成物は、最終的に生成物溶液中に残り、Na、K、Mg、Ca、Li、NHのような追加の不純物を導入し得る。或いは、これらの反応生成物は最終的にFe残渣中に残り、追加の不純物を導入し、この残渣の質量を増加させ得るが、それは多くの場合廃棄物と考えられる。
【0016】
CN105063349Aは、硫酸アンモニウム、過硫酸アンモニウム、硫酸銅又は硫酸第一鉄等の触媒を使用し、Ni、Co及びCuを溶解させるために化学量論量を超える酸を添加することによって、酸素の存在下でH SO によってCu、Ni及びCoを精錬合金から回収する方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第2020/212546号
【特許文献2】国際公開第2019/090389号
【特許文献3】国際公開第2019/064996号
【特許文献4】国際公開第2019/102765号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Monhemius等、「The iron elephant: A brief history of hydrometallurgists’struggles with element no. 26」、CIM Journal 8(4): 197~206頁、2017年
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、Ni及び/又はCo及びCuを金属電池合金から溶解させると同時に、そのような合金中に含有されるFeも完全に溶解することを防ぐ方法を開示する。代わりに、このFeの一部は固体残渣へと排除され、固体/液体分離により分離される。
【0020】
本方法の肝要は、全て単一操作における、酸化剤の使用と組み合わせた、還元性を有するCu並びにNi及びCoのうちの1種又は複数を含有する合金粉末の使用である。CuとFeは分離される。そのため、提示された方法は、有利に、典型的には使用されないか又は組み合わせては使用されない材料及び反応条件を組み合わせる。本方法への追加の不純物の導入は制限されるか、又は更には完全に回避される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
第一の実施形態は、1質量%超のCuを有する合金粉末中に含有されるCu並びにNi及びCoのうちの1種又は複数からのFeの分離の方法であって、
- 酸化性条件において、合金粉末を、Fe以外の全金属元素の50%を溶解させるのに好適な最低値とFeの50%以外の全金属元素の100%を溶解させるのに好適な最高値の間で選択される化学量論量の酸性溶液と接触させ、それにより、Cuの、並びにNi及びCoのうちの1種又は複数の大部分を含有する浸出溶液並びにFeの大部分を含有する残渣を得る工程と、
- 浸出溶液を残渣から分離する工程と
を含む、方法を記載する。
【0022】
「合金粉末」とは、粉末の形態の金属合金、すなわちゼロ価の金属の混合物を意味する。合金粉末は、好ましくは、90質量%超、より好ましくは95%の、又は更には98%のCu、Co、Ni、Mn及びFeの合計を含むべきである。実際には、合金は、製造プロセスの間に、又はその後周囲との接触により導入された不純物として他の元素を、特に酸素を含有し得る。これは、特に、微細な粉末が不活性雰囲気なしに製造及び/又は取扱いされて、おそらく反応性粉末の相当な酸化をもたらす場合に関連がある。合金粉末は、好ましくは、少なくとも25質量%のCo及びNiの合計を含む。合金粉末は、好ましくは、少なくとも1質量%のFeを含むが、その理由は、浸出の間の前もっての分離がその限界未満では工業的に意味をなさないためである。この合金粉末は、異なる個別の組成を有する粒子の混合物であり得る。この場合、組成に言及する場合、本発明者らは全粒子の平均組成を意味する。
【0023】
酸性溶液の量は、関与する溶解反応の化学量論から導出され得るので「化学量論的」と称される。これは、合金の組成が少なくともほぼ既知であることを前提としており、それは、典型的には工業的実施に当てはまる。
【0024】
本方法は、少なくとも一部溶解し、それにより溶液の価値を高める、元素Ni及び/又はCoを含有する合金粉末を選択することにより最適化され得る。
【0025】
従来のスキームとは異なり、中和試薬は本方法では使用されない。そのため、中和試薬の導入により生成物溶液の希釈が起こされることはない。また、中和試薬として典型的に使用される苛性化合物の使用に関連するコストは回避される。
【0026】
従来のスキームとは異なり、Na、K、Mg、Ca、Li、又はアンモニアの水酸化物等の苛性化合物は本方法では使用されない。そのため、追加の不純物は溶液に導入されない。これにより、Na、K、Mg、Ca、Li、NHのような不純物を、Co及び/又はNiのような有価元素から分離する下流操作の必要がなくなる。
【0027】
従来のスキームとは異なり、Feは浸出操作の間に酸を消費しない。そのため、最適化された方法は、浸出操作からの酸の使用、及び方法で生じた酸の可能な範囲で最良の使用を達成する。そのような酸は、合金粉末中に存在する追加のCu、Ni及び/又はCoの溶解に使用される。
【0028】
従来のスキームとは異なり、現方法において、Feは、最初に浸出の間に溶解されず、その後に別な単位操作において除去される。代わりに、Feの大部分は浸出の間に溶解されない。本発明者らは、これにより浸出溶液中の他の金属の濃度を増加させることが可能であることを見出した。浸出液を取り扱う際に、望まれない沈殿及び固体のスケーリング(scaling)を避けるために、浸出後の溶液中の元素の総濃度は、それらの最大の組み合わせた溶解度以下であるべきである。Feの大部分は溶解されないため、浸出後の溶液中のFe濃度は、ほとんど又は全てのFeが溶解する従来のスキームと比べて、本方法において低い。その結果、他の元素のより高い濃度を、溶液中の全元素の最大の組み合わせた溶解度を超えないで目標とすることができる。これは、浸出操作において、体積あたりの合金粉末の量を増加させることにより達成できる。体積あたりより多くの合金を処理できるので、これにより、合金粉末の所与の容量に対して反応器サイズを減少させることができる。それは、生成物溶液の体積流量も減少させ、それにより、設置面積を減少させるか、又は下流単位操作の能力を増加させることができる。
【0029】
少なくとも最低量のCuの存在が必須である。既に、合金中の少なくとも1%のCuの濃度が、商業的に実現可能な方法を達成するための好適な最低値であることが見出された。Cuが現方法において触媒効果を有することが実際に考えられている。
【0030】
更なる実施形態において、合金粉末はMnも含有する。
【0031】
元素の「大部分」は、プロセスに入るその元素の量の50質量%以上を意味する。
【0032】
第1の実施形態による更なる実施形態において、接触の工程における酸性溶液の化学量論量は、Fe以外の全金属元素を溶解させるように決定される。
【0033】
しかし、この量はやや理論的である。実際には、所望の元素は定量的には溶解せず、Feは必然的に限られた程度で溶解する。下限として定義される酸の量は、Ni、Co、Mn、及びCuの大部分の溶解を確実にしながら、Feの溶解を最低限にすることができる。上限として定義される量は、Feの大部分を残渣中に保ちながら、Ni、Co、Mn、及びCuの溶解収率(dissolution yield)を最適にすることができる。
【0034】
Fe以外の全金属元素の少なくとも50%を溶解させることが許容できるが、少なくとも90%、95%、又は更に98%の有価金属等、より高い量の有価金属を溶解させることが好ましい。
【0035】
他方で、本方法は、Feの50%以下、好ましくはFeの25%以下、更により好ましくはFeの10%以下を溶解させるために酸の量を限定する。
【0036】
このようにして、本方法により、他の有価金属からFeの大部分を、最初にそれを完全に溶解させる必要なしに分離することが可能になる。これは、有利には、方法に必要である酸の量を減少させ、同時に溶解状態のFeを処理する後処理操作を回避する。以下の例は、溶液中のFeの量を最低限にしながら、特にCo及びNiの、またCuの優れた浸出収率を例証する。
【0037】
更なる実施形態において、合金粉末は、乾式精錬プロセスを使用したリチウムイオン電池又はそれらの廃棄物のリサイクリングから生じる。
【0038】
電池合金は、特に乾式精錬により処理されたリチウムイオン電池又はそれらの廃棄物から生じる場合、Cu並びにNi及びCoのうちの1種又は複数を含有すると考えられる。このようにして、要求される最低の濃度のCuが常に存在すると同時に、特にNi及び/又はCoの価値により、本方法が工業的に興味深くなる。
【0039】
リチウムイオン電池又はそれらの廃棄物は、新品又は廃棄リチウムイオン電池、消費された又は寿命が尽きた電池、製造又は電池スクラップ、電極箔、電解質、セパレーター、ケーシング材料及び電極材料等の電池構成要素、又は前処理された電池材料を含み、非常に複雑な廃棄物の流れをもたらす。そのような廃棄物の流れの中の重要な金属は、典型的には銅、ニッケル及び/又はコバルトであり、乾式精錬により処理される場合最終的に合金になる。
【0040】
更なる実施形態において、合金粉末は粉砕又は噴霧により得られる。
【0041】
合金の完全な溶解を目標とする従来のスキームと比較すると、本方法に加えられる酸の量はより限定される。結果として、浸出プロセスの間の平均酸度はより低い。その結果、プロセス条件はより穏やかである。しかしながら、本発明者らは、驚くべきことに、Cu並びにNi及びCoのうちの1種又は複数を含む合金粉末が、これらの穏やかな条件下で溶解するのに充分に反応性があり、Cu、Ni及び/又はCoの溶解収率が高いことを見出した。そのような粉末は、粉砕又は噴霧により、特に粉砕又はスプレー噴霧、例えばウォータージェット噴霧により得られ得る。これは、より低い比表面積により説明される、それらのより低い反応性のために、現方法において効率よく使用可能ではない合金の顆粒又は他の大きい塊のような大きい粒子とは対照的である。
【0042】
合金粉末の使用により、通常の撹拌反応器での処理が可能である。そのような反応器は、粉末の完全又は部分的懸濁により物質及びエネルギー移動を促進することによって良好なプロセス速度を可能にする。また、これらの反応器は、酸素のような気体試薬又は過酸化水素のような液体試薬を使用する場合の両方で、酸化剤の良好な分散を可能にする。
【0043】
更なる実施形態において、合金粉末は、800μm未満のD90及び/又は300μm未満のD50を有する粒径分布を有する。
【0044】
D50及びD90は、数による分布を指す。合金粉末の粒径分布はレーザー回折により測定される。レーザー回折はISO 13320:2020に準じて実施できる。800μm超のD90及び/又は300μm超のD50を有する粒子は、撹拌反応器での懸濁のためにより多くの混合力を必要とする。これは設備のエネルギー消費及び摩耗を増加させるので、そのようなより粗い粉末は本方法において好ましさが低くなる。
【0045】
更なる実施形態において、酸性溶液中の酸はHSOまたはHClのいずれかである。
【0046】
理論的に他の酸によっても可能であるが、HSOかHClかのいずれかの使用が好ましい。多くの湿式冶金のフローシートはこの2種のいずれかに基づいており、本方法を既存の操作に容易に統合することができる。
【0047】
更なる実施形態において、接触工程は、
- 合金粉末を、選択された化学量論量の50%から95%に相当する第1の量の酸性溶液と混合して、それにより液相及び固相を含む懸濁液を得る工程、
- 懸濁液を酸化する工程、並びに
- 懸濁液を第2の量の酸性溶液により酸性化する工程であって、それにより前記第1及び第2の量の和が決定された化学量論量の100%に相当する、工程
により段階的に実施される。
【0048】
第1の量の酸は、時間を節約してかなり速く添加され得るが、その理由は、精密な決定が、決定された酸の総量のうち比較的多量だがそれでも化学量論未満の部分を添加することを確実にするためである。次いで、典型的には第1の量より少ない第2の量の酸はよりゆっくりと添加され、より良好なプロセス制御を達成する。したがって、この実施形態は効率よい多段階プロセスである。
【0049】
第1の量の酸性溶液の添加と第2の量の酸性溶液の添加との間に、酸化性条件が維持される。この中間工程の間に、懸濁液中の金属は酸化し続けて、懸濁液は熱力学的平衡の方に進むだろう。その結果、第2の添加工程中で酸化される必要がある金属はより少ない。第2の添加工程における金属溶解の速度は、典型的には最低の反応速度を有する反応である酸化反応によりあまり制限されない。中間平衡は、第2の添加の間により速いシステム反応を可能にし、酸を添加する際により正確なプロセス制御を可能にする。
【0050】
更なる実施形態は、1質量%超のCuを有する合金粉末に含有されるCu並びにNi及びCoのうちの1種又は複数からのFeの分離の方法であって、
- 酸化性条件で、合金粉末を、Fe以外の全金属元素の少なくとも50%を溶解させ、且つFeの50%以外の全金属元素の多くとも100%を溶解させるのに好適な化学量論量の酸性溶液と接触させ、それにより、Cu並びにNi及びCoの1種又は複数の大部分を含有する浸出溶液及びFeの大部分を含有する残渣を得る、工程であって、酸性溶液中の酸がHSOであり、接触工程を、
- Fe以外の全金属元素の100%を溶解させるための酸性溶液の化学量論量を決定する工程、
- 合金粉末を、決定された化学量論量の50%から100%に相当する量の酸性溶液と混合して、それにより、液相及び固相を含む懸濁液を得る工程、
- 懸濁液を、50℃を超える温度で、320mV Ag/AgClを超える酸化還元電位に酸化する工程、
- 但し、液相中のFe濃度が0.5g/L未満であるならば、懸濁液を、50℃を超える温度で、酸化性条件で、Fe濃度が0.5g/Lと3g/Lの間になるまで酸性溶液を加えることにより酸性化する工程、並びに
- 但し、液相のpHが3を超えるならば、懸濁液を、50℃を超える温度で、酸化性条件において、pHが1.5と3の間になるまで酸性溶液を加えることにより酸性化する工程
により段階的に実施する、工程と、
- 浸出溶液を残渣から分離する工程と
を含む、方法を記載する。
【0051】
酸性溶液の「化学量論量を決定する工程」は
- Fe以外の合金中の全金属元素の少なくとも50%、及び、
- Feの50%以外の合金中の全金属元素の多くとも100%、又は、換言すると、鉄の半分に加えて、合金中の全非鉄金属の多くとも100%
の溶解に必要とされる酸の量を求めるための肉体的又は精神的活動を意味する。
【0052】
肉体的活動は、合金の試料の化学分析を包含し得る。精神的活動は、類似の合金による経験に基づく評価、計算又はおおよその要求される化学量論のあらゆる他の概算であり得る。計算又は概算は、合金中の金属元素が二価カチオンとして溶解するという前提に基づき得る。以下の反応は、硫酸または塩酸のいずれかを使用する場合の化学量論を示す:
M+HSO+1/2 O→MSO+HO、又はM+2 HCl+1/2 O→MCl+HO、式中、Mは、Ni、Co、Mn、Cu及びFeである。
【0053】
この実施形態は、pH及び/又は溶解したFeをモニタリングすることにより、第2の量の酸をより精密に加え得るので好ましい。これは、出発原料の組成が精密には知られていない場合に特に有用である。
【0054】
本方法において、第1の量の酸の添加は50℃を超える温度で実施される。60℃又は70℃等のより高い温度は反応速度のために有益であり、本方法を加速させる。反応器の特性に応じて、温度は、発熱性である溶解反応により生み出された熱の結果として、浸出の間増加し得る。
【0055】
好ましい実施形態において、上記但し書きのいずれかによる第2の量の酸の添加は75℃を超える温度で実施される。この工程においても、より高い温度は、反応速度のために有益であり、本方法を加速させる。
【0056】
第1の但し書きは、有利には、溶液中のFeの濃度が非常に低い状況に対処する。0.5g/L Fe未満の濃度で、本発明者らは、充分でない合金粉末が溶解し、Ni及びCoのような有価元素のより低い溶解収率がもたらされたことを見出した。酸性化により、いくらかのFeが溶解するだろうが、とりわけ、Cu、Co及び/又はNiの浸出収率が増大するだろう。3g/L Feの上限は、酸性化し過ぎることを回避するのを助ける。
【0057】
第2の但し書きは、有利には、溶液のpHが高すぎる状況に対処する。3を超えるpHでは、Cu、Co及び/又はNiの量の増加が残渣中で観察され、これらの有価金属の許容できないほどの損失をもたらす。1.5のより低いpH限度は、多過ぎるか又は全てのFeの溶解をもたらすだろう、酸性化のし過ぎを回避するのを助ける。
【0058】
上記いずれか1つの但し書きによる段階的な添加は、より速く且つより精密なプロセス制御を可能にする。全ての酸を一段階で添加することは、多過ぎる酸を加えて多過ぎるFeを溶解させる危険性を有する。
【0059】
平衡は、第1の量の酸性溶液を合金粉末と混合することにより始まり、全ての連続した添加の間継続する。酸性溶液の連続した添加は、多過ぎる酸を添加するリスクを最低限にするが、より長い時間がかかる。本方法は、多過ぎるFeの溶解をもたらす多過ぎる酸の添加を回避しながら、第1の量の酸性溶液を速く添加し(好ましくは、Fe以外の全金属元素に対する化学量論に近い)、時間を節約することの間のバランスを見つけるようにも設計されている。
【0060】
「酸性溶液中の酸はHSOである」とは、使用される酸性溶液中の酸の大部分がHSOであることを意味する。したがって、これは、HCl又はHNO等の少量の別の酸も溶解状態で存在する場合の操作を排除しない。そのような場合、溶液中に存在するあらゆる他の酸も、化学量論量を決定する場合に考慮に入れなければならない。
【0061】
更なる実施形態において、酸性溶液中の酸はHClであり、接触工程は、
- 第1の実施形態に従って酸性溶液の化学量論量を決定する工程と、
- 合金粉末を、決定された化学量論量の50%から100%に相当する量の酸性溶液と混合し、それにより液相及び固相を含む懸濁液を得る工程と、
- 懸濁液を、50℃を超える温度で、320mV Ag/AgClを超える酸化還元電位に酸化する工程と、
- 但し、液相のpHが2を超えるならば、懸濁液を、50℃を超える温度で、酸化性条件において、pHが0.5と2の間になるまで酸性溶液を加えることにより酸性化する工程と
により段階的に実施する。
【0062】
SOは、おそらく産業においてより頻繁に使用されるが、HClは同じ利点を有し、したがって同等に好ましい選択肢である。本発明者らは、金属を溶解させる選択性が、典型的には、HClを使用する場合いくらかより良好であることを観察した。本方法の条件のもとで、浸出溶液中のFe濃度は非常に低く、Fe濃度に関する但し書きがほとんど無用になることも観察した。したがって、この実施形態では、pHに関する但し書きのみが適用される。
【0063】
HClを使用する際のpH範囲は、HSOの場合よりも低い(すなわち、より酸性)。
【0064】
「酸性溶液中の酸はHClである」とは、使用される酸性溶液中の酸の大部分がHClであることを意味する。したがって、これは、HSO又はHNO等の少量の別の酸も溶解状態で存在する場合の操作を除外しない。そのような場合、溶液中のあらゆる他の酸も、化学量論量を決定する場合に考慮に入れなければならない。
【0065】
HCl又はHSOを使用する選択肢は2つの独立した実施形態をもたらす。
【0066】
更なる実施形態において、接触工程における酸化性条件は、H及び/又はO含有ガスの添加により得られる。空気の使用は可能だが、Oガスの使用に比べて、より低いプロセス速度をもたらすだろう。
【0067】
更なる実施形態において、本方法は大気圧で実施される。高圧下での浸出は必要とされず、より高価なオートクレーブの使用を回避している。
【0068】
更なる実施形態において、接触工程における酸性溶液は、Ni及び/又はCoを含有する固体出発原料の酸性浸出により得られる。これらの元素は、溶解した合金粉末により導入された金属と共に、最終的に浸出溶液中にあるだろう。Feもこの酸性溶液中に存在し得るが、Fe濃度は、好ましくは3g/L未満、好ましくは2g/L未満、より好ましくは1g/L未満である。より少ないFeが出発溶液に存在する場合、合金粉末からのより多くのFe溶解が許容できる。合金粉末からのより多くのFe溶解を可能にすることは、Ni、Co及び/又はCuの溶解収率を最大にするために有益になり得る。
【0069】
更なる実施形態において、合金粉末と固体出発原料は同じ組成を有する。この好ましい設定は、Ni及び/又はCo等の純粋な有価金属の全体的な産出に貢献しながら更なる不純物の導入を回避するのを助ける。これは、固体出発原料が同じ合金粉末である場合の処理スキームを含む。そのようなスキームにおいて、酸性出発溶液は、浸出操作の下流の単位操作からのリサイクル流から生じ得る。任意に、Feは、出発溶液中のFe濃度を制限するために、リサイクル流が酸性出発溶液として浸出操作中で使用される前に、このリサイクル流から除去され得る。
【0070】
更なる実施形態において、混合工程、酸化工程、及び酸性化工程は連続プロセスとして逐次的に操作される。
【0071】
バッチ式プロセスと比べて、そのような連続プロセスは、工業的機構中でプロセス強度を増加させることを可能にする。
【0072】
更なる実施形態において、浸出溶液を残渣から分離する工程で得られる浸出溶液は、前記溶液に含有される他の金属から、特にNi及び/又はCoからCuを分離する電解採取工程で更に処理される。
【0073】
電解採取を、例えば、直接浸出溶液で実施することも(「直接EW」)、溶媒抽出と組み合わせることもできる(「SX-EW」)。
【0074】
更なる実施形態において、浸出溶液を残渣から分離する工程で得られる残渣は、製鋼の出発原料として使用される。
【0075】
以下の実施例は本発明を説明する。
【0076】
(実施例1)
この実施例は、硫酸の2段階添加を使用する実施形態を説明する。第2の添加はpH関連基準により起こされる。
【0077】
CoNiCuFeMn-合金は電池精錬プロセスから生じる。それは、噴霧により粉末に変換される。粒径分布をレーザー回折により測定する:平均粒径は、96μmのD50及び298μmのD90を有する。
【0078】
質量による元素組成は、59%Co、9.5%Ni、0.3%Mn、25%Cu、及び5.1%Feである。
【0079】
252gのこの合金粉末を、1.4Lの脱塩水と共にビーカーに加える。混合すると懸濁液が形成し、それを65℃に加熱する。Oを75L/時で懸濁液にスパージする。
【0080】
Fe以外の全金属元素を溶解させる酸の化学量論量を3.93molのHSOであると決定する。これは、Table 1aから直接導出され得る。これは、500g/LのHSOを含有する酸性水溶液の772mLに相当する。
【0081】
【表1】
【0082】
上記で決定した量の69%を懸濁液に加えることを選択する。これは、530mLの酸性水溶液に相当する。スパージしながら、溶液を3時間の期間にわたりゆっくりと加える。
【0083】
次いで、スパージを続けながら、温度を82℃に高める。酸化還元電位は326mV Ag/AgClに、pHは4.03に上昇する。液体をサンプリングし、Fe濃度を測定すると0.6g/Lである。
【0084】
このFeレベルは0.5g/Lの閾値未満ではない:そのため、更なる酸性化はFe関連基準により起こされない。
【0085】
pHは3の閾値より高い:これは、pH関連基準に従って更なる酸性化の必要性を起こす。1.5と3の間のpHを目標とする。
【0086】
したがって、更なる量の酸性水溶液を、Oを懸濁液に75L/時でスパージしながら、3時間の期間にわたり、80℃の温度でゆっくりと懸濁液に加える。pHが2.7で安定する時点で、方法の工程は終了したものと想定する。次いで、更なる量の250mlの酸性溶液を加えた。
【0087】
合計で、780mLの500g/L HSO溶液を使用した。これは、Fe以外の全金属元素の少なくとも50%を溶解させるのに好適な酸性溶液の量であり、Feの50%以外の全金属元素の98%を溶解させるのに好適な化学量論量に相当する。
【0088】
次に、固体分画と液体分画を濾過により分離する。2.0Lの浸出溶液を得る。残渣の質量は67.2gであり含水量は62%である。両組成を、Table 1bに、液体に含有される元素の質量を濾液及び固体に含有される元素の量の和により割ったものとして計算された浸出収率と共に示す。
【0089】
【表2】
【0090】
この実施例は、Feの72%が残渣に現れる(report to)一方で、ほぼ全てのCo、Ni、Mn及びCuを高収率で溶解させることができる方法を示す。残渣はごく微量の最も価値のある金属Co及びNiを含有する。
【0091】
(実施例2)
この実施例は、硫酸の単一の添加を使用する実施形態を表す。更なる酸性化は、Fe関連基準によっても、pH関連基準によっても起こされない。
【0092】
CoNiCuFeMn-合金は電池精錬プロセスから生じる。それは噴霧により粉末に変換される。粒径分布をレーザー回折により測定する:平均粒径は、102μmに等しいD50及び274μmに等しいD90を有する。
【0093】
質量による元素組成は、32%Co、12%Ni、2.3%Mn、26%Cu、及び26%Feである。
【0094】
5543gの合金粉末を、38Lの脱塩水と共に60L反応器に加える。混合すると懸濁液が形成し、それを60℃に加熱する。Oを400L/時で懸濁液にスパージする。
【0095】
Fe以外の全金属元素を溶解させるための酸の化学量論量を66.45molのHSOであると決定する。これは、Table 2aから導出できる。これは1330g/L HSOの酸性水溶液の4.90Lに相当する。
【0096】
【表3】
【0097】
上記で決定した量の99%を懸濁液に加えるように選択する。これは4.85リットルの酸性水溶液に相当する。スパージしながら、溶液を4.5時間の期間にわたりゆっくりと加える。
【0098】
酸性水溶液を加えた後、懸濁液中の酸化還元電位を測定すると216mV vs Ag/AgClであり、pHは1.6である。
【0099】
次に、スパージを続けながら、温度を80℃に高める。酸化還元電位は340mV vs Ag/AgClに、pHは2.9に上昇する。液体をサンプリングし、Fe濃度を測定すると1.9g/lである。
【0100】
pHは3.0の閾値を超えず、Feレベルは0.5g/lの閾値未満ではない。これは、更なる酸性化が、Fe関連基準によっても、pH関連基準によっても起こされないことを意味する。そのため、追加の酸性溶液を加えない。これは、全体で、4.85Lの1330g/L HSO溶液が消費されることを意味する。これは、Feの50%以外の全金属元素の83%を溶解させるのに好適な化学量論量に相当する。
【0101】
次に、固体分画と液体分画を濾過により分離する。35Lの浸出溶液を得る。残渣の質量は9387gであり、含水量は69%である。両組成を、液体に含有される元素の質量を濾液及び固体に含有される元素の量の和により割ったものとして計算された浸出収率と共に、Table 2bに示す。
【0102】
【表4】
【0103】
この実施例は、Feの95%が残渣に現れる一方で、ほぼ全てのCo、Ni、Mn及びほとんどのCuを溶解させることができる方法を示す。実施例1と比較すると、酸の第2の添加は必要でなく、その理由は、請求項記載の溶解状態のFeの但し書きもpHの但し書きも起こされないからである。
【0104】
(実施例3)
この実施例は、硫酸の2段階添加を使用する実施形態を表す。第2の添加はFe関連基準により起こされる。
【0105】
CoNiCuFeMn-合金は電池精錬プロセスから生じる。それは噴霧により粉末に変換される。粒径分布をレーザーにより測定する:平均粒径は、143μmに等しいD50及び296μmに等しいD90を有する。
【0106】
質量による元素組成は、19%Co、44%Ni、7.8%Mn、22%Cu、及び5.8%Feである。
【0107】
4638gの合金粉末を、42Lの脱塩水と共に60L反応器に加える。混合すると懸濁液が形成し、それを60℃に加熱する。Oを350L/時で懸濁液にスパージする。
【0108】
Fe以外の全金属元素を溶解させるための酸の化学量論量はHSOの72.37molであると決定する。これはTable 3aから直接導出できる。これは、1330g/LのHSOを含有する酸性水溶液の5.33リットルに相当する。
【0109】
【表5】
【0110】
上記で決定した量の90%を懸濁液に加えることを選択する。これは4800mLの酸性水溶液に相当する。スパージしながら、溶液を5.5時間の期間にわたりゆっくりと加える。
【0111】
酸性水溶液を加えた後、懸濁液中の酸化還元電位を測定すると370mV vs Ag/AgClであり、pHを測定すると0.5である。液体をサンプリングし、この時点の液体中のFe濃度を測定すると5.5g/Lである。
【0112】
次いで、スパージを続けながら、温度を80℃に高める。液体をサンプリングし、Fe濃度を毎時モニターする。10時間後、Fe濃度を測定すると0.42g/Lである。
【0113】
このFeレベルは0.5g/Lの閾値未満である:これは、Fe関連基準に従って更なる酸性化の必要性を起こす。2.5g/lのFe濃度を目標とする。
【0114】
したがって、更なる量の酸性水溶液を、4時間の期間にわたり、80℃の温度で、Oを350L/時で懸濁液にスパージしながら、ゆっくりと懸濁液に加える。方法の工程は、目標とされる2.5g/lのFe濃度に達したときに終了したものと想定する。次いで、570mlの更なる量の酸性溶液を加えた。この時点で、pHを測定すると2.0である。
【0115】
合計で、5370mLの1330g/L HSO溶液を使用した。これは、Fe以外の全金属元素の101%を溶解させるのに好適な化学量論量に相当する。これは、Feの50%以外の全金属元素の97%を溶解させるのに好適な化学量論量にも相当する。
【0116】
次に、固体分画と液体分画を濾過により分離する。42リットルの浸出溶液を得る。残渣の重さは3408gであり、含水量は86%である。両組成を、液体に含有される元素の質量を濾液及び固体に含有される元素の量の和により割ったものとして計算された浸出収率と共に、Table 3bに示す。
【0117】
【表6】
【0118】
この実施例は、Feの61%が残渣に現れる一方で、ほぼ全てのCo、Ni、Mn及びCuを高収率で溶解させることができる方法を示す。残渣は、ごく微量の最も価値のある金属Co及びNiを含有する。
【0119】
(実施例4)
この実施例は、酸性溶液の添加の異なる手法を表す。
【0120】
CoNiCuFeMn-合金は電池精錬プロセスから生じる。それは噴霧により粉末に変換される。粒径分布をレーザー回折により測定する:平均粒径は、162μmのD50及び458μmのD90を有する。
【0121】
質量による元素組成は、38%Co、9%Ni、2.2%Mn、22%Cu、及び27%Feである。
【0122】
250gのこの合金粉末を、1.7Lの脱塩水と共にビーカーに加える。混合すると懸濁液が形成し、それを75℃に加熱する。Oを75L/時で懸濁液にスパージする。
【0123】
Fe以外の全金属元素を溶解させるための酸の化学量論量を前もって決定しない。代わりに、pHを2.0未満に保つ単純なフィードバックループにより酸添加を制御するために、液体中のpH測定を使用する。そのためpHがpH2.0のこの設定値未満に低下する場合、酸添加は中断される。酸の添加は、pHがpH2.0の設定値を超えて再び増加する場合にのみ再開される。このpHの増加は、合金粉末の溶解の間の遊離酸消費により説明される。
【0124】
この手法を使用して、希釈された硫酸溶液(500g/L HSO)を、6時間の期間にわたり、75℃の温度で、Oを懸濁液に75L/時でスパージしながらゆっくりと懸濁液に加える。更なる酸の添加なしにpHが2.0で安定した時点で、方法の工程は終了したものと想定する。
【0125】
この時点で、688mlの500g/L HSO溶液を加えた。懸濁液中の酸化還元電位は396mV vs Ag/AgClである。液体をサンプリングし、Fe濃度を測定すると18g/lである。
【0126】
次いで、スパージを続けながら、温度を85℃に高める。更なる酸は加えられないという事実にもかかわらずpHは減少する。5時間後、液体中のpHは1.4である。
【0127】
この時点で、固体分画と液体分画を濾過により分離する。2.2Lの浸出溶液を得る。残渣の質量は167gであり、含水量は49%である。両組成を、液体に含有される元素の質量を濾液及び固体に含有される元素の量の和により割ったものとして計算された浸出収率と共に、table 4aに示す。
【0128】
【表7】
【0129】
この実施例において、酸を加えるためのpH系コントローラーの使用により688mlの500g/L HSO溶液を加えた。これは3.51molの酸に相当する。これは、Fe以外の全金属元素の少なくとも50%を溶解させるのに好適な酸性溶液の量であり、Feの50%以外の全金属元素の98%を溶解させるのに好適な化学量論量に相当する。これは、Table 4bから直接導出され得る。
【0130】
【表8】
【0131】
この実施例は、pH制御された酸供給を使用して、Fe以外の全金属元素の少なくとも50%及びFeの50%に加えて前記金属元素の多くとも100%を溶解させるための化学量論的である量の酸を添加できることを示す。結果として、ほぼ全てのCo、Ni、Mn及びCuが溶解する一方で、Feの64%が残渣に現れる。残渣は、少量の最も価値のある金属Co及びNiを含有する。
【0132】
実施例1、2及び3と比較すると、この実施例の結果は2つの理由であまり好都合ではない。第1に、生成物溶液のpHは1.4に等しく、それは、1.5と3の間の好ましい範囲より低い。このpHが酸添加の終了の後に更に減少するという事実は、例えば以下の反応に従って、鉄の加水分解の間に酸が溶液中に放出されるという事実により説明され得る。
Fe(SO+4 HO→2 FeOOH(s)+3 HSO
【0133】
第2に、溶液中のFe濃度を測定すると11g/lであるが、それは0.5g/lと3g/lの間の好ましい範囲よりはるかに高い。
【0134】
本発明者らは、このあまり好都合ではない結果を、Fe以外の全金属元素の100%を溶解させる酸性溶液の化学量論量を最初に決定し、第1の酸添加段階でその量の最大100%に酸を制限する代わりに、酸添加のためのpH系コントローラーの使用がより多量の酸の添加をもたらしたという事実に起因すると考える。結果として、システムはあまり好ましくない状態に進んだ。この状態は、もはや追加の酸添加によって修正され得ない。
【0135】
比較例5
CoNiCuFeMn-合金は電池精錬プロセスから生じる。それは噴霧により粉末に変換される。粒径分布をレーザー回折により測定する:平均粒径は、162μmのD50、及び361μmのD90を有する。
【0136】
質量による元素組成は、32%Co、13%Ni、2.4%Mn、27%Cu、及び27%Feである。
【0137】
220gのこの合金粉末を、2Lの脱塩水と共にビーカーに加える。混合すると懸濁液が形成し、それを63℃に加熱する。Oを80L/時で懸濁液にスパージする。
【0138】
830mLの500g/L HSO溶液を、6時間の期間にわたり、スパージしながら、ゆっくりと懸濁液に加える。酸化還元電位を測定すると447mV vs Ag/AgClであり、pHは1.0と測定される。
【0139】
次に、固体分画と液体分画を濾過により分離する。1.9Lの浸出溶液を得る。残渣の質量は35.7gであり、含水量は67%である。両組成は、液体に含有される元素の質量を濾液及び固体に含有される元素の量の和により割ったものとして計算された浸出収率と共に、table 5にある。
【0140】
【表9】
【0141】
この実施例は、多過ぎる酸の添加が、Feを含む全ての金属のほぼ完全な溶解をもたらし、そのためそれらが最終的に浸出溶液中にあることを示す。
【0142】
(実施例6)
この実施例は塩酸を使用する実施形態を表す。
【0143】
CoNiCuFeMn-合金は電池精錬プロセスから生じる。それは噴霧により粉末に変換される。粒径分布をレーザー回折により測定する:平均粒径は、143μmのD50、及び296μmのD90を有する。
【0144】
質量による元素組成は、19%Co、44%Ni、7.8%Mn、22%Cu、及び5.8%Feである。
【0145】
390gのこの合金粉末を、0.85Lの脱塩水と共にビーカーに加える。混合すると懸濁液が形成し、それを60℃に加熱する。Oを75L/時で懸濁液にスパージする。
【0146】
Fe以外の全金属元素を溶解させる塩酸の化学量論量を12.2molのHClであると決定する。これは、Table 6aから直接導出され得る。これは、440g/l HClを含有する酸性水溶液の1010mLに相当する。
【0147】
【表10】
【0148】
上記で決定した量の80%を懸濁液に加えることを選択する。これは810mLの酸性水溶液に相当する。溶液を、3時間の期間にわたり、スパージしながらゆっくりと加える。
【0149】
酸化還元電位を測定すると315mV vs Ag/AgClであり、pHを測定すると2.1である。
【0150】
次いで、スパージを続けながら、温度を80℃に高める。4時間後、酸化還元電位を測定すると559mV Ag/AgClであり、pHは2.3に上昇した。液体をサンプリングし、Fe濃度を測定すると0.01g/Lである。
【0151】
pHは2の閾値を超えている:これは、塩酸を使用する場合、pH関連基準に従って更なる酸性化の必要性を起こす。0.5と2の間のpHを目標とする。
【0152】
したがって、更なる量の酸性水溶液を、4時間の期間にわたり、80℃の温度で、Oを懸濁液に75L/時でスパージしながらゆっくりと懸濁液に加える。pHが1.7で安定した時点で方法の工程が終了したものと想定する。次いで、更なる量の140mlの酸性溶液を加えた。
【0153】
合計で、1010mlの440g/l HCl溶液を使用した。これは、Fe以外の全金属元素の100%を溶解させるのに好適な化学量論量に相当する。これは、Feの50%以外の全金属元素の97%を溶解させるのに好適な化学量論量にも相当する。
【0154】
次に、固体分画と液体分画を濾過により分離する。1.6Lの浸出溶液を得る。残渣の質量は105gであり、含水量は49%である。両組成を、液体に含有される元素の質量を濾液及び固体に含有される元素の量の和により割ったものとして計算された浸出収率と共に、table 6bに示す。
【0155】
【表11】
【0156】
この実施例は、Feの99%超が残渣に現れる一方で、ほぼ全てのCo、Ni、Mn及びCuを高収率で塩酸を使用して溶解させることができる方法を示す。残渣はごく微量の最も価値のある金属Co及びNiを含有している。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1質量%超のCuを有する合金粉末に含有されるCu並びにNi及びCoのうちの1種又は複数からのFeの分離の方法であって
酸化性条件において、前記合金粉末を、Fe以外の全金属元素の50%を溶解させるのに好適な最低値とFeの50%以外の全金属元素の100%を溶解させるのに好適な最高値との間で選択される化学量論量の酸性溶液と接触させて、それによりCuの50質量%超並びにNi及びCoのうちの1種又は複数の50質量%超を含有する浸出溶液及びFeの50質量%超を含有する残渣を得る工程と、
前記浸出溶液を前記残渣から分離する工程と
を含
接触工程が段階的に実施される、方法。
【請求項2】
前記合金粉末が、乾式精錬方法を使用して、リチウムイオン電池又はそれらの廃棄物のリサイクリングから生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記合金粉末が粉砕又は噴霧により得られる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記合金粉末が、800μm未満のD90及び/又は300μm未満のD50を有する粒径分布を有前記分布は数により、前記粒径分布はISO 13320:2020に準じたレーザー回折により決定される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記酸性溶液中の酸がHSOまたはHClのいずれかである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
接触工程が、
前記合金粉末を、選択された化学量論量の50%から95%に相当する第1の量の酸性溶液と混合して、それにより液相及び固相を含む懸濁液を得る工程、
前記懸濁液を酸化する工程、並びに
前記懸濁液を第2の量の酸性溶液により酸性化して、それにより前記第1の量及び第2の量の和が、決定された化学量論量の100%に相当する工程
により段階的に実施される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記酸性溶液中の酸がHSOであり、接触工程が、
Fe以外の全金属元素の100%を溶解させるための前記酸性溶液の化学量論量を決定する工程、
前記合金粉末を、決定された化学量論量の50%から100%に相当する量の前記酸性溶液と混合して、それにより液相及び固相を含む懸濁液を得る工程、
前記懸濁液を、50℃を超える温度で、320mV Ag/AgClを超える酸化還元電位に酸化する工程、
但し、前記液相中のFe濃度が0.5g/L未満ならば、前記懸濁液を、50℃を超える温度で、酸化性条件において、前記Fe濃度が0.5g/Lと3g/Lの間になるまで酸性溶液を加えることにより酸性化する工程、並びに
但し、前記液相のpHが3を超えるならば、前記懸濁液を、50℃を超える温度で、酸化性条件において、pHが1.5と3の間になるまで酸性溶液を加えることにより酸性化する工程
により段階的に実施される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記酸性溶液中の酸がHClであり、接触工程が、
請求項1に記載の前記酸性溶液の化学量論量を決定する工程、
前記合金粉末を、決定された化学量論量の50%から95%に相当する量の前記酸性溶液と混合して、それにより液相及び固相を含む懸濁液を得る工程、
前記懸濁液を、50℃を超える温度で、320mV Ag/AgClを超える酸化還元電位に酸化する工程、並びに
但し、前記液相のpHが2を超えるならば、前記懸濁液を、50℃を超える温度で、酸化性条件において、pHが0.5と2の間になるまで酸性溶液を加えることにより酸性化する工程
により段階的に実施される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
接触工程における前記酸化性条件が、H及び/又はO含有ガスの添加により得られる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法が大気圧で実施される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
接触工程における前記酸性溶液が、Ni及び/又はCoを含有する固体出発原料の酸性浸出により得られる、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記合金粉末と前記固体出発原料とが同じ組成を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
混合工程、酸化工程、及び酸性化工程が連続方法として逐次的に操作される、請求項6から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記浸出溶液を前記残渣から分離する工程において得られる前記浸出溶液が、前記溶液に含有される他の金属から、特にNi及び/又はCoからCuを分離する電解採取工程で更に処理される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
製鋼の出発原料としての請求項1に記載の前記残渣の使用。
【国際調査報告】