(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】電気化学セルの電極で使用するためのコーティングされた粒子状物質
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20241108BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241108BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20241108BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241108BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20241108BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241108BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241108BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241108BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/131
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024533042
(86)(22)【出願日】2022-12-01
(85)【翻訳文提出日】2024-07-25
(86)【国際出願番号】 EP2022084000
(87)【国際公開番号】W WO2023099646
(87)【国際公開日】2023-06-08
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(71)【出願人】
【識別番号】516141989
【氏名又は名称】カールスルーエ インスティチュート フューア テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】キチェ,ダフィト
(72)【発明者】
【氏名】シュトラウス,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】ブレツェジンスキー,トルシュテン
(72)【発明者】
【氏名】コンドラコフ,アレクサンドル
【テーマコード(参考)】
4G048
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB04
4G048AB06
4G048AC06
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE05
4G048AE08
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AJ06
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL07
5H029AL12
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5H029EJ07
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5H050AA07
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5H050AA19
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5H050CA09
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5H050GA02
5H050GA10
5H050GA11
5H050GA12
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA14
5H050HA15
(57)【要約】
電気化学セルの電極に使用するためのコーティングされた粒子状物質、及び該コーティングされた粒子状物質の製造方法、電気化学セルに使用するための該コーティングされた粒子状物質を含む電極、該コーティングされた粒子状物質を含む電気化学セル、及び電気化学セルに使用するための電極を製造するための該コーティングされた粒子状物質の使用方法を記載する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分、
C1) 複数のコア粒子であって、各コア粒子が式(I):
Li
1+t[Co
xMn
yNi
zM
u]
1-tO
2 (I)
(式中、
0≦x≦1
0≦y≦1
0≦z≦1
0≦u≦0.15
Mは、存在する場合、Al、Mg、Ba、B、及びNi、Co、Mn以外の遷移金属からなる群から選択される1つ以上の元素であり、
x+y+z>0
x+y+z+u=1
0≦t≦0.2)
の1つ以上の化合物を含む、複数のコア粒子、
及び
C2) コア粒子の表面上に配置されたコーティングであって、
- カーボネートアニオン、
- リチウムカチオン、及び
- 酸化形態のニオブ及び亜鉛であって、ニオブの少なくとも一部が空間群Fm-3mの結晶学的単位セルを有する立方晶Li
3NbO
4として存在する、酸化形態のニオブ及び亜鉛
を含み、
好ましくは、
- Znの割合が、0.07質量%~0.1質量%の範囲であり
- Nbの割合が、0.4質量%~0.6質量%の範囲であり
- 該コーティングが、0.08質量%~1.62質量%の範囲の総量のカーボネートアニオンを含み
これらは各場合とも、前記複数のコア粒子の総質量に対するものであり
- 該コーティング中のLi:Nbのモル比が、0.5~5.0の範囲である、コーティング
を含む、コーティングされた粒子状物質。
【請求項2】
前記コーティングにおいて、亜鉛の少なくとも一部が、親組成物Li
3NbO
4又はLiNbO
3に由来する組成を有する化合物中に存在し、式中のLi及び/又はNbはZnによって部分的に置換されている、請求項1に記載のコーティングされた粒子状物質。
【請求項3】
前記コーティングが、
- 空間群Fm-3mの結晶学的単位セルを有する立方晶Li
3NbO
4を含む少なくとも1つの結晶相
- リチウムカーボネートを含む結晶相及び非晶質相の少なくとも1つ
を含む、請求項1又は2に記載のコーティングされた粒子状物質。
【請求項4】
- モル比Nb:Znが3~5の範囲である、
請求項1又は2に記載のコーティングされた粒子状物質。
【請求項5】
単斜晶相のLi
6ZnNb
4O
14が存在しない、請求項1又は2に記載のコーティングされた粒子状物質。
【請求項6】
前記コーティングがカーボネートアニオンを前記複数のコア粒子の総質量に対して0.122質量%~1.22質量%、好ましくは≧0.162質量%~0.812質量%の範囲の総量で含む、請求項1又は2に記載のコーティングされた粒子状物質。
【請求項7】
- 前記コーティング中に存在するカーボネートイオンの少なくとも一部、好ましくはカーボネートイオンの総量がリチウムカーボネートとして存在する、
請求項1又は2に記載のコーティングされた粒子状物質。
【請求項8】
- 前記コーティングが、リチウムカーボネートを、前記複数のコア粒子の総質量に対して好ましくは0.1質量%~2.0質量%の範囲、より好ましくは≧0.15質量%~1.5質量%の範囲、なおより好ましくは≧0.15質量%~1.0質量%の範囲の総量で含み、
及び/又は
- 前記コーティング中のLi:Nbのモル比が0.75~4.5の範囲、好ましくは1.0~4.0の範囲であり、
及び/又は
- 前記複数のコア粒子1g当たりの前記コーティング中のNbのモル量が、前記複数のコア粒子の総質量に対して6~540μmol/gの範囲、好ましくは6~270μmol/gの範囲、より好ましくは6~108μmol/gの範囲である、
請求項1又は2に記載のコーティングされた粒子状物質。
【請求項9】
固体リチウムイオン電気化学セル及び/又は全固体リチウムイオン電気化学セルで使用するための電極であって、
E1) 該電極の総質量に対して、好ましくは50質量%~99質量%、より好ましくは70質量%~97質量%の総量の、請求項1に定義したコーティングされた粒子状物質、
E2) 該電極の総質量に対して、好ましくは1質量%~50質量%、より好ましくは3質量%~30質量%の総量の、リチウムイオン伝導性固体電解質物質、
E3) 任意に、好ましくはカーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラック、アセチレンブラック、コーク、及びグラフェンオキシドからなる群から選択される電子伝導性炭素、
E4) 任意に1つ以上の結合剤
を含む、電極。
【請求項10】
前記固体電解質E2)が、リチウム含有硫化物、リチウム含有オキシスルフィド、リチウム含有オキシホスフェート、リチウム含有チオホスフェート、リチウムアルジロダイト、リチウム遷移金属ハロゲン化物、及びリチウム含有オキシホスホニトリドからなる群から選択される、請求項9に記載の電極。
【請求項11】
請求項1に定義したコーティングされた粒子状物質を調製するための方法であって、以下の工程、
P1) 請求項1に定義した複数のコア粒子C1)を調製又は提供する工程、
P2) 溶媒と、前記溶媒に少なくとも部分的に溶解したリチウムイオンとを含む液体組成物を調製又は提供する工程、
P3) 溶媒と、前記有機溶媒に少なくとも部分的に溶解した亜鉛イオンとを含む液体組成物、及び有機溶媒と、前記有機溶媒に少なくとも部分的に溶解したニオブイオンとを含む液体組成物、又は有機溶媒と、前記有機溶媒に少なくとも部分的に溶解した亜鉛イオン及びニオブイオンとを含む液体組成物を調製又は提供する工程、
P4) 工程P1)~P3)で調製又は提供された成分を互いに接触させて反応混合物を得る工程、
P5) 工程P4)から得た反応混合物から溶媒を除去して固体残渣を得る工程、
及び
P6) 工程P5)から得た固体残渣を、100℃~600℃の範囲、好ましくは250℃~550℃の範囲の温度で熱処理して、請求項1に定義したコーティングされた粒子状物質を得る工程
を含む方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、
- 工程P2)において、エタノールにリチウム金属を溶解することによって前記液体組成物を調製し
及び/又は
- 工程P3)において、エタノールにニオブエトキシド及び亜鉛アセテートを溶解することによって1つ又は2つの液体組成物を調製し
及び/又は
- 工程P4)の接触が、(i)工程P1)で調製又は提供された粒子及び工程P2)及びP3)で調製又は提供された液体組成物を含む分散液の調製と、(ii)前記分散液の超音波処理を含み
及び/又は
- 工程P5)において、溶媒の除去が、標準圧力101.325kPaに対する減圧の適用を含み
及び/又は
- 工程P6)において、熱処理が酸素流の存在下で実施される、
方法。
【請求項13】
請求項1に定義したコーティングされた粒子状物質又は請求項9に定義した電極を含む、電気化学セル。
【請求項14】
リチウム含有硫化物、リチウム含有オキシスルフィド、リチウム含有オキシホスフェート、リチウム含有チオホスフェート、リチウムアルジロダイト、リチウム遷移金属ハロゲン化物、及びリチウム含有オキシホスホニトリドからなる群から選択される固体電解質を含む、請求項13に記載の電気化学セル。
【請求項15】
請求項1に記載のコーティングされた粒子状物質の、請求項9に定義した電極を調製するための使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電気化学セルの電極で使用するためのコーティングされた粒子状物質、及び前記コーティングされた粒子状物質を調製する方法、前記コーティングされた粒子状物質を含む電極、前記コーティングされた粒子状物質を含む電気化学セル、及び電気化学セルで使用するための電極を調製するための前記コーティングされた粒子状物質の使用方法を記載する。
【背景技術】
【0002】
高エネルギー密度の全固体電池は、4V以上のLi+/Liに対する酸化還元電位を有する電極活物質(「4Vクラス」の正極活物質)を適用することによって実現され、高いセル電圧を得ることができる。しかしながら、このような正極活物質は、正極及び/又はセパレータ層に存在する固体電解質に対して酸化剤として作用し得るので、正極活物質は、全固体電池に使用される典型的なリチウムイオン伝導性固体電解質物質と相容れない可能性がある。
【0003】
この問題を解決するため、正極活物質と固体電解質との間のリチウムイオンの移動を阻害することなく、正極活物質による固体電解質の酸化を防ぐ保護層として機能するコーティングを、正極活物質に適用することが提案された。
【0004】
WO2020/249659A1は、電極及び/又は固体リチウムイオン電気化学セルにおける電極活物質として使用するためのコーティングされた粒子状物質を開示しており、前記コーティングされた粒子状物質は複数のコア粒子を含み、各コア粒子は、少なくとも1つのニッケル含有複合層状酸化物を含み、そしてコア粒子の表面上に配置されたコーティングは、カーボネートイオン、リチウム及び少なくとも1つのさらなる元素を含む。WO2020/249659A1は、固体又はリチウムイオン電気化学セルで使用するための電極、及びそれぞれの電気化学セルも開示しており、前記電極は、前記コーティングされた粒子状物質を含む。前記コーティングは、カーボネートアニオンと、リチウムと、アルミニウム、ホウ素、ニオブ、リン、ケイ素、タンタル、チタン、亜鉛、ジルコニウム及びそれらの混合物からなる群の少なくとも1つの構成員とを含む。アルミニウム、ホウ素、ニオブ、リン、ケイ素、タンタル、チタン、亜鉛、ジルコニウム、及びそれらの混合物からなる群の少なくとも1つの構成員は、LiNbO3、Li2ZrO3、LiTaO3、Li3PO4、Li3BO3、LiAlO2、Li6ZnNb4O14及びZn3(PO4)2からなる群から選択される1つ以上の化合物の一部として存在し得る。Li6ZnNb4O14を含むコーティングの例は提供されていない。さらに、亜鉛及びニオブの両方が存在するコーティングを得る方法は例示されていない。対照的に、WO2020/249659A1に開示されたあらゆる例示的なコーティングはニオブを含有し、アルミニウム、ホウ素、リン、ケイ素、タンタル、チタン、亜鉛、及びジルコニウムからなる群のさらなる構成員は存在しない。
【0005】
関連技術としてUS2020/0388841A1もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2020/249659A1
【特許文献2】US2020/0388841A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Li3NbO4又はLiNbO3を含有するコーティングを正極活物質に適用すると、初期放電容量だけでなくサイクル性能と安定性にも有利な効果があることが見出されたが、さらなる改善、すなわち初期容量の増大及びサイクル中の容量損失の低減が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第一の態様によれば、
C1) 複数のコア粒子であって、各コア粒子が式(I):
Li1+t[CoxMnyNizMu]1-tO2 (I)
(式中、
0≦x≦1
0≦y≦1
0≦z≦1
0≦u≦0.15
Mは、存在する場合、Al、Mg、Ba、B、及びNi、Co、Mn以外の遷移金属からなる群から選択される1つ以上の元素であり、
x+y+z>0
x+y+z+u=1
0≦t≦0.2)
の1つ以上の化合物を含む、又はそれらからなる、複数のコア粒子、
及び
C2) コア粒子の表面上に配置されたコーティングであって、
- カーボネートアニオン、
- リチウムカチオン、及び
- 酸化形態のニオブ及び亜鉛であって、ニオブの少なくとも一部が空間群Fm-3mの結晶学的単位セルを有する立方晶Li3NbO4として存在する、酸化形態のニオブ及び亜鉛
を含み、
好ましくは、
- Znの割合が、0.07質量%~0.1質量%の範囲であり
- Nbの割合が、0.4質量%~0.6質量%の範囲であり
- 該コーティングが、0.08質量%~1.62質量%の範囲の総量のカーボネートアニオンを含み
これらは各場合とも、複数のコア粒子の総質量に対するものであり
- 該コーティング中のLi:Nbのモル比が、0.5~5.0の範囲である、コーティング
を含む、又はこれらからなる、コーティングされた粒子状物質が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、0.1Cレートでの最初のサイクル充電/放電曲線を示す。
【
図2】
図2は、本発明による3つのセル及び3つの比較セルについて、0.1C~1Cの範囲のレートに対する平均比放電容量を示す。
【
図3】
図3は、本発明による3つのセル及び3つの比較セルの平均長期サイクル安定性を示す。
【
図4】
図4は、本発明による3つのセルと3つの比較セルのサイクル数50までの平均クーロン効率を示す。
【
図5】
図5は、放電状態の代表的なセルのEIS測定から得られたナイキストプロットを示す。
【
図6】
図6は、6つの異なる正極活物質を含むセルの平均的な長期サイクル安定性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
式(I)の化合物は、電気化学セルにおいて正極活物質として作用することができる。本開示の文脈において、セルの放電中に正味の正電荷が発生する電気化学セルの電極を正極(カソード)と呼び、そして還元によって前記正味の正電荷が生成される正極の成分を「正極活物質」と呼ぶ。
【0011】
好ましくは、各コア粒子C1)は、式(I)の少なくとも1つの化合物からなる。
【0012】
好ましい正極活物質は、4V以上のLi+/Liに対する酸化還元電位を有するもの(「4Vクラス」の正極活物質)であり、これらは高いセル電圧を得ることを可能にする。多くのこのような正極活物質が当技術分野で知られている。
【0013】
好適な正極活物質として、リチウムと、ニッケル、コバルト及びマンガンからなる群の1つ以上の構成員とを含む酸化物が挙げられる。
【0014】
本発明によれば、コーティングされた粒子状物質のコア中に存在する正極活物質は、一般式(I)
Li1+t[CoxMnyNizMu]1-tO2 (I)
(式中、
0≦x≦1
0≦y≦1
0≦z≦1
0≦u≦0.15
Mは、存在する場合、Al、Mg、Ba、B、及びNi、Co、Mn以外の遷移金属からなる群から選択される1つ以上の元素であり、
x+y+z>0
x+y+z+u=1
0≦t≦0.2)
による組成を有する物質からなる群から選択される。
【0015】
式(I)による或る特定の正極活物質において、Mは、Al、Mg、Ti、Mo、Nb、W及びZrのうちの1つであってよい。例示的な式(I)の正極活物質は、Li1+t[Ni0.88Co0.08Al0.04]1-tO2、Li1+t[Ni0.905Co0.0475Al0.0475]1-tO2、及びLi1+t[Ni0.91Co0.045Al0.045]1-tO2であり、式中、各場合とも0≦t≦0.2である。
【0016】
好適な正極活物質は、例えば、リチウムと、ニッケル、コバルト及びマンガンからなる群の1つ以上の構成員とを含む酸化物である。これらの正極活物質は、一般式(Ia):
Li1+t[CoxMnyNiz]1-tO2 (Ia)
(式中、
0≦x≦1
0≦y≦1
0≦z≦1
x+y+z=1
0≦t≦0.2)
による組成を有する。
【0017】
好ましくは、一般式(Ia)による正極活物質は、リチウムと、ニッケル及びマンガンのうちの少なくとも1つとの混合酸化物である。より好ましくは、正極活物質は、リチウムと、ニッケルと、コバルト及びマンガンからなる群の1つ又は両方の構成員との混合酸化物である。
【0018】
例示的な式(Ia)による正極活物質は、LiCoO2、Li1+t[Ni0.85Co0.10Mn0.05]1-tO2、Li1+t[Ni0.87Co0.05Mn0.08]1-tO2、Li1+t[Ni0.83Co0.12Mn0.05]1-tO2、及びLi1+t[Ni0.6Co0.2Mn0.2]1-tO2であり、式中、各場合とも0≦t≦0.2である。
【0019】
或る特定の好適な正極活物質は、
- リチウム
- ニッケル及び
- コバルト及びマンガンからなる群の1つ又は両方の構成員
を含む混合酸化物である。
【0020】
例示的な好適な正極活物質は、一般式(Ib):
Li1+tA1-tO2 (Ib)
による組成を有し、
式中、
0≦t≦0.2
Aは、ニッケルと、
コバルト及びマンガンからなる群の1つ又は両方の構成員と、
任意に
- ニッケル、コバルト及びマンガンからなる群から選択されない1つ以上のさらなる遷移金属であって、前記さらなる遷移金属が、好ましくはモリブデン、チタン、タングステン、ジルコニウムからなる群から選択される、1つ以上のさらなる遷移金属と、
- アルミニウム、バリウム、ホウ素及びマグネシウムからなる群から選択される1つ以上の元素とを含み、
Aの遷移金属の少なくとも50モル%がニッケルである。
【0021】
式(Ib)による組成を有する好適な正極活物質は、例えばWO2020/249659A1に記載されている。
【0022】
一般式(I)による、特に一般式(Ib)による組成を有する正極活物質は、層状構造又はスピネル構造を有してよい。WO2020/249659A1に記載の層状構造を有する一般式(Ib)による組成を有する正極活物質は、場合により好ましい可能性がある。
【0023】
或る特定の好ましい正極活物質は、一般式(Ic)
Li1+t[Ni1-u-v-wCouMnvMw]1-tO2 (Ic)
による組成を有し、
式中、
Mは、アルミニウム、バリウム、ホウ素、マグネシウム、モリブデン、チタン、タングステン、ジルコニウム、及び前述の元素の少なくとも2つの混合物からなる群の構成員であり、好ましくは、Mはアルミニウムであるか、又はアルミニウムを含み(最も好ましくはvが0の場合)、
tは、0~0.2の範囲の数であり、
uは、0.04~0.2の範囲の数であり、
vは、0~0.2の範囲、好ましくは0.04~0.2の範囲の数であり、
wは、0~0.1の範囲の数であり、
そして(u+v+w)は≦0.4であり、そして好ましくは≦0.3である。
【0024】
式(Ic)において、変数「M」は、上記に定義した元素群の任意の個々の構成員を表すことができ(例えば、「M」はタングステン、すなわち「W」を表すことができる)、又は上記に定義した元素群の2つ以上の構成員を表すことができる(例えば、「M」はタングステン、ジルコニウム及びチタンからなる群を表すことができる)。「M」が上記に定義した元素群の2つ以上の構成員を表す場合、変数「M」に付随するインデックス(数)「w」は、上記に定義した「M」で表される元素の合計に適用される。
【0025】
例示的な式(Ic)の正極活物質として、Li1+t[Ni0.85Co0.10Mn0.05]1-tO2、Li1+t[Ni0.87Co0.05Mn0.08]1-tO2、Li1+t[Ni0.83Co0.12Mn0.05]1-tO2、Li1+t[Ni0.6Co0.2Mn0.2]1-tO2、Li1+t[Ni0.88Co0.08Al0.04]1-tO2、Li1+t[Ni0.905Co0.0475Al0.0475]1-tO2、及びLi1+t[Ni0.91Co0.045Al0.045]1-tO2が挙げられ、式中、各場合とも0≦t≦0である。
【0026】
本明細書に記載のコーティングされた粒子状物質において、コーティングC2)は、
- カーボネートアニオン、
- リチウムカチオン、及び
- 酸化形態のニオブ及び亜鉛であって、ニオブの少なくとも一部が空間群Fm-3mの結晶学的単位セルを有する立方晶Li3NbO4として存在する、酸化形態のニオブ及び亜鉛
を含む。
【0027】
立方晶Li3NbO4は、岩塩構造を有する。
【0028】
コーティングは、ナノビーム電子回折によって決定される空間群Fm-3mの結晶学的単位セルを有する立方晶Li3NbO4を含む少なくとも1つの結晶相を含む。
【0029】
好ましくは、コーティング中に存在するニオブの10%未満がLi6ZnNb4O14の形態で存在し、さらに好ましくは、コーティング中に存在するニオブの5%未満、より好ましくは1%未満が、Li6ZnNb4O14の形態で存在する。最も好ましくは、単斜晶相のLi6ZnNb4O14は、コーティングされた粒子状物質中に存在しない。
【0030】
本明細書に記載のコーティングされた粒子状物質において、モル比Nb:Znは3~5の範囲、好ましくは4.1~5の範囲である。
【0031】
コーティングC2)において、ZnはZn2+カチオンの形態で、又はオキソアニオン又はヒドロキソアニオン(亜鉛酸アニオン)の形態で存在する。
【0032】
コーティングC2)において、亜鉛の少なくとも一部は、親組成物Li3NbO4又はLiNbO3に由来する組成を有する化合物中に存在してもよく、式中のLi及び/又はNbは、Znによって部分的に置換されている。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、現在のところ、Li及び/又はNbがZnによって部分的に置換されている親組成物Li3NbO4に由来する組成を有する化合物は、以下の一般式(II)
Li(3-2a)Zn(a+b)Nb(1-0.4b)O4 (II)
(式中、
0≦a<1.5
0≦b<0.25
0<(a+b)<1.75
によって記載され得ると想定される。
【0033】
式(II)の化合物は、ZnドープされたLi3NbO4とみなされる。
【0034】
本明細書に記載のコーティングされた粒子状物質において、
- Znの割合は、0.07質量%~0.1質量%の範囲でよく、
及び/又は
- Nbの割合は、0.4質量%~0.6質量%の範囲でよく、
これらは各場合とも、複数のコア粒子の総質量に対するものである。
【0035】
好ましくは、本明細書に記載のコーティングされた粒子状物質において、
Znの割合は、0.07質量%~0.2質量%の範囲、好ましくは0.07質量%~0.1質量%であり、
そして
- Nbの割合は、0.35質量%~0.6質量%の範囲、好ましくは0.4質量%~0.6質量%であり、
これらは各場合とも、複数のコア粒子の総質量に対するものである。
【0036】
Li、Zn及びNbの質量割合は、誘導結合プラズマ-発光分光分析法(ICP-OES)により決定してよい。前記分析技術は当該技術分野で知られている。
【0037】
NbがコーティングC2)だけでなくコア粒子C1)にも存在する場合、コーティングC2)中に存在するNbの量は、好ましくは、(i)前記コア粒子C1)のサンプルのコア粒子C1)中のNb量をコーティング前に測定(決定)した結果と、(ii)同じサンプル中に存在するNbの量をコーティング後に測定(決定)した結果とを比較することによって決定される。LiもコアC1)中に存在するので、コーティングC2)中のLi量を決定する場合にも同じアプローチが用いられる。
【0038】
さらに好ましくは、本明細書に記載のコーティングされた粒子状物質において、
- Znの割合は、0.07質量%~0.2質量%の範囲、好ましくは0.07質量%~0.1質量%であり、
そして
- Nbの割合は、0.35質量%~0.6質量%の範囲、好ましくは0.4質量%~0.6質量%であり、
これらは各場合とも、複数のコア粒子の総質量に対するものであり、
そしてモル比Nb:Znは、3~5の範囲、好ましくは4.1~5の範囲である。
【0039】
複数のコア粒子1g当たりのコーティングC2)中のNbのモル量は、複数のコア粒子の総質量に対して、好ましくは6~540μmol/gの範囲、好ましくは6~270μmol/gの範囲、より好ましくは6~108μmol/gの範囲である。
【0040】
本明細書に記載のコーティングされた粒子状物質において、コーティングC2)は、コーティングされた粒子状物質中に存在するコア粒子C1)の少なくとも一部の表面に配置され、好ましくは、コーティングC2)は、コア粒子C1)の総数の>50%の表面に、より好ましくはコア粒子C1)の総数の≧75%の表面に、さらにより好ましくはコア粒子C1)の総数の≧90%の表面に、及びなおさらにより好ましくはコア粒子C1)の総数の≧95%の表面に配置される。本開示の目的のために、表面にコーティングC2)が配置されているコア粒子C1)の部分は、コーティングされた粒子状物質の(代表的な)サンプルに対して行われる電子顕微鏡検査によって決定することができる。
【0041】
本明細書に記載のコーティングされた粒子状物質において、コーティングC2)は、(個々の)コア粒子C1)の表面の少なくとも一部に配置され、好ましくはコーティングC2)は、コア粒子C1)の全表面の>50%に配置され、より好ましくはコア粒子C1)の全表面の≧75%に、及びさらにより好ましくはコア粒子C1)の全表面の≧90%に配置される。本開示の目的のために、コーティングC2)が配置されるコア粒子C1)の表面の部分は、コーティングされた粒子状物質の(個々の)コーティングされた粒子の(代表的な)サンプル又はコーティングされた粒子状物質の(代表的な)サンプルに対して行われる電子顕微鏡検査によって決定することができる。
【0042】
本明細書に記載の第一の態様によるコーティングされた粒子状物質において、コーティングC2)は、カーボネートアニオンを複数の(コーティングされていない)コア粒子C1)の総質量に対して≧0.08質量%の総量で含んでよい。より具体的には、コーティングC2)は、カーボネートアニオンを複数の(コーティングされていない)コア粒子C1)の総質量に対して0.08質量%~1.62質量%の範囲、好ましくは0.122質量%~1.22質量%の範囲、より好ましくは0.162質量%~0.812質量%の範囲の総量で含んでよい。コーティングC2)中のリチウムカーボネートの含有量が多すぎると、リチウムイオン伝導性が低下し得る。
【0043】
いかなる理論にも拘束されることを望まないが、現在のところ、コア粒子C1)の表面に存在するカーボネートは、正極活物質が微量の二酸化炭素及び湿度の存在下で調製又は貯蔵された場合に形成され得る正極活物質の不可避的不純物に起因し、及び/又は、或る特定の場合には、正極活物質の合成のための前駆体としてリチウムカーボネートを使用することに起因し、及び/又は、空気中又は酸素中それぞれでコーティングされた粒子状物質(詳細は下記参照)を調製する際に使用される液体反応混合物の有機溶媒の分解、及び正極活物質の粒子表面の残留リチウムとの反応性に起因する、と想定される。
【0044】
本明細書に記載の第一の態様によるコーティングされた粒子状物質において、コーティングC2)中に存在するカーボネートイオンの少なくとも一部は、イオン性化合物の一部として、例えば、塩の一部として存在し得る。ここで、コーティングC2)中に存在するカーボネートイオンの少なくとも一部、好ましくはコーティングC2)中に存在するカーボネートイオンの総量は、リチウムカーボネートとして存在する。
【0045】
本開示の目的のために、コーティングC2)中に存在するカーボネートイオンの量は、質量分析と組み合わせた酸滴定によって、より好ましくは、コーティングされた粒子状物質の(代表的な)サンプルで行われ、WO2020/249659A1の実施例のセクションで定義される方法に従って決定され得る。
【0046】
コーティングされた粒子状物質において、コーティングC2)中に存在するリチウムは、好ましくは、
- 空間群Fm-3mの結晶学的単位セルを有する立方晶Li3NbO4の一部として
- 親組成物Li3NbO4又はLiNbO3(式中、Li及び/又はNbはZnによって部分的に置換されている)に由来する組成を有する1つ以上の化合物の一部として
-及びリチウムカーボネート(Li2CO3)の一部として
存在する。
【0047】
コーティングC2)におけるLi:Nbのモル比は、好ましくは0.5~5.0の範囲、好ましくは0.75~4.5の範囲、より好ましくは1.0~4.0の範囲、より好ましくは1.1~1.6である。
【0048】
コーティングC2)において、立方晶Li3NbO4のナノ結晶をリチウムカーボネートで形成されたマトリックスに埋め込んでよい。
【0049】
リチウムカーボネートは、結晶相及び非晶質相で存在できる。リチウムカーボネートを含む結晶相及び非晶質相の少なくとも1つは、コーティングされた粒子のコーティングC2)中に存在する。
【0050】
コーティングC2)は、リチウムカーボネートを、複数のコア粒子の総質量に対して0.1質量%~2.0質量%の範囲、より好ましくは0.15質量%~1.5質量%の範囲、なおより好ましくは≧0.15質量%~1.0質量%の範囲の総量で含んでよい。コーティングC2)中のリチウムカーボネートの総質量(又はモル量)は、好ましくは以下のように決定(計算)される:まず、コーティングC2)中に存在するカーボネートアニオンのモル量(又は質量)を、上記で説明したように、質量分析と組み合わせた酸滴定によって決定する。次に、本発明の計算目的のために、コーティングC2)中に見出されるカーボネートイオンの総モル量(又は質量)は、Li2CO3としてのみ存在すると想定する。
【0051】
第二の態様によれば、上記に記載の第一の態様によるコーティングされた粒子状物質を調製するための方法が提供される。前記方法は、以下の工程、
P1) 上記に定義した複数のコア粒子C1)を調製又は提供する工程、
P2) 溶媒と、前記溶媒に少なくとも部分的に溶解したリチウムイオンとを含む液体組成物を調製又は提供する工程、
P3) 有機溶媒と、前記有機溶媒に少なくとも部分的に溶解した亜鉛イオンとを含む液体組成物、及び有機溶媒と、前記有機溶媒に少なくとも部分的に溶解したニオブイオンとを含む液体組成物、又は有機溶媒と、前記有機溶媒に少なくとも部分的に溶解した亜鉛イオン及びニオブイオンとを含む液体組成物を調製又は提供する工程、
P4) 工程P1)~P3)で調製又は提供された成分を互いに接触させて反応混合物を得る工程、
P5) 工程P4)から得た反応混合物から溶媒を除去して固体残渣を得る工程、
P6) 工程P5)から得た固体残渣を、100℃~600℃の範囲、好ましくは250℃~550℃の範囲の温度で熱処理して、上記に定義した第一の態様によるコーティングされた粒子状物質を得る工程
を含む。
【0052】
少なくとも1つの正極活物質を含む、好ましくは少なくとも1つの正極活物質からなるコア粒子C1)の調製方法(工程(P1))は、当該技術分野において既知である。少なくとも1つの正極活物質を含む、又はそれからなるコア粒子C1)は、市販されている。好ましい特定の正極活物質については、第一の態様によるコーティングされた粒子状物質の文脈において上記で提供した開示を参照されたい。残留した表面カーボネートの量を低減するために、工程P1)にコア粒子C1)の熱処理が含まれてよい。コア粒子C1)の熱処理は、700~800℃の範囲の温度で行ってよい。コア粒子C1)の熱処理は、酸素流の存在下で行ってよい。
【0053】
工程P2)及びP3)で提供される液体組成物は、コーティングC2)のための前駆体を含む。
【0054】
工程P2)において、リチウムイオンを含む液体組成物は、水、エタノール、メタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)及びN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)及びそれらの混合物からなる群から選択される溶媒にリチウム金属を溶解することによって調製され得る。好ましい溶媒は無水エタノールである。
【0055】
工程P3)において、
- 以下、
- 有機溶媒と、前記有機溶媒に少なくとも部分的に溶解した亜鉛イオンとを含む第1の液体組成物、
- 及び有機溶媒と、前記有機溶媒に少なくとも部分的に溶解したニオブイオンとを含む第2の液体組成物
か、
- 又は、有機溶媒と、前記有機溶媒に少なくとも部分的に溶解した亜鉛イオン及びニオブイオンとを含む単一液体組成物
のいずれかが提供される。前記液体組成物は、(i)ニオブアルコキシド及びニオブニトレートからなる群から選択されるニオブ前駆体、及び(ii)亜鉛アルコキシド、亜鉛アセテート及び亜鉛ニトレートの群から選択される亜鉛前駆体の1つ又は両方を、エタノール、メタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)及びN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、及びそれらの混合物からなる群から選択される溶媒に溶解することによって、調製される。好ましい溶媒は無水エタノールである。好ましいニオブ前駆体はニオブエトキシドである。好ましい亜鉛前駆体は亜鉛アセテートである。
【0056】
工程P3)で提供されるモル比Nb:Znは、好ましくは3~5の範囲、より好ましくは4.1~5の範囲である。
【0057】
工程P2)で提供されるLiの工程P3)で提供されるNbに対するモル比は、好ましくは0.5~5.0の範囲、好ましくは0.75~4.5の範囲、より好ましくは1.0~4.0の範囲である。
【0058】
本明細書に記載の第二の態様による方法の工程P4)において、工程P1)~P3)で調製又は提供された成分を、任意の好適な技術によって、例えば成分を混合することによって、及び/又は工程P2)及びP3で調製又は提供された液体組成物又はそれらの混合物を、工程P1)で調製又は提供されたコア粒子C1)上に噴霧することによって、互いに接触させることができる。強化された又は完全な接触のために、例えば分散液又はゲルの形態の反応混合物の調製を最終化するために、好ましくは15℃~30℃の範囲の温度で15分~60分の範囲の時間、超音波処理を使用できる。このように、工程P4)において、接触させることは、工程P1)で調製又は提供された粒子と、工程P2)及びP3)で調製又は提供された液体組成物の混合物とを含む分散液の調製と、これに続く前記分散液の超音波処理とを含み得る。工程P1)で調製又は提供されたコア粒子C1)を添加する前に、工程P2)及びP3)で調製又は提供された溶液の混合物を形成してもよい。
【0059】
工程P4)で得られる反応混合物において、工程P3)で提供されるモル比Nb:Znは、好ましくは3~5の範囲、より好ましくは4.1~5の範囲であり、そしてLi:Nbのモル比は、好ましくは0.5~5.0の範囲、好ましくは0.75~4.5の範囲、より好ましくは1.0~4.0の範囲である。
【0060】
好ましくは、工程P1)~P4)は、保護ガス雰囲気下(例えば、アルゴン又は窒素)で実施する。
【0061】
工程P5)において、液体反応混合物(工程(i)で調製したもの)の溶媒の除去は、好ましくは、溶液を0℃~100℃の範囲、好ましくは20℃~40℃の範囲の温度で減圧(標準圧力101.325kPaに対して)に供することによって達成される。
【0062】
工程P6)において、固体残渣を熱処理することは、固体残渣を焼成することを含んでよい。工程P6)における熱処理は、酸素流の存在下で実施できる。最も好ましくは、熱処理は450℃~550℃の範囲の温度で実施する。
【0063】
工程P6)において、固体残渣は、熱処理の前に粉砕してよい。
【0064】
工程P6)において、溶媒の除去後、熱処理を1時間~12時間、好ましくは1時間~6時間、より好ましくは2時間~4時間の間、200℃~600℃以下の範囲、好ましくは250℃~550℃、最も好ましくは450℃~550℃の範囲の温度で実施する。
【0065】
驚くべきことに、モル比Nb:Znが4:1に近いにもかかわらず、単斜晶相Li6ZnNb4O14は、第二の態様による方法では実質的に得られないことが判明した。
【0066】
第三の態様によれば、電気化学セル、特に全固体リチウムイオン電気化学セルで使用するための電極が提供される。前記電極は、以下、
E1) 電極の総質量に対して、好ましくは50質量%~99質量%、より好ましくは70質量%~97質量%の総量の、上記に定義した第一の態様によるコーティングされた粒子状物質、
E2) 電極の総質量に対して、好ましくは1質量%~50質量%、より好ましくは3質量%~30質量%の総量の、リチウムイオン伝導性固体電解質物質、
E3) 任意に電子伝導性炭素、
E4) 任意に1つ以上の結合剤
を含む。
【0067】
第三の態様による電極において、上記に開示した第一の態様による、又は上記に開示した第二の態様による方法によって提供される、コーティングされた粒子状物質E1)と、上記に定義した固体電解質物質E2)と、任意にさらなる構成成分E3)とE4)とを、互いに混和してもよい。
【0068】
第一及び第二の態様の文脈において上記で提供したコーティングされた粒子状物質に関する開示は、第三の態様による電極に準用される。好ましい特定のコーティングされた粒子状物質に関して、第一の態様によるコーティングされた粒子状物質の文脈において上記で提供した開示が参照される。
【0069】
典型的には、本明細書に記載の第三の態様による電極は、正極、すなわち、セルの放電中に正味の正電荷が生じる電気化学セルの電極である。
【0070】
本明細書に記載の第三の態様による電極において、コーティングC2)は、(i)正極活物質(コーティングされた粒子状物質のコアC1)に存在する)と(ii)固体電解質E2)との間のリチウムイオンの移動を促進する目的に役立つ。さらに、正極活物質が4V以上のLi+/Liに対する酸化還元電位(「4Vクラス」の正極活物質)を有し、そして固体電解質が4V以下のLi+/Liに対する電気化学的酸化安定性を有しない場合、コーティングC2)は、正極活物質による酸化から固体電解質E2)を保護する保護層として機能する。
【0071】
リチウムイオンを伝導することができる好適な固体電解質物質は、当該技術分野で既知である。例えば、固体電解質E2)は、リチウム含有硫化物、リチウム含有オキシスルフィド、リチウム含有オキシホスフェート、リチウム含有チオホスフェート、リチウムアルジロダイト、リチウム遷移金属ハロゲン化物、及びリチウム含有オキシホスホニトリドからなる群から選択してよい。ここで、用語「リチウム含有」とは、電解質中にリチウムカチオンが存在するが、固体電解質を形成する化学化合物中にリチウム以外の金属のカチオンも存在してよいことを意味する。
【0072】
このような固体電解質は優れたリチウムイオン伝導性を有するが、場合により、特に4Vクラスの正極活物質の場合には、正極活物質による酸化が起こりやすい。第三の態様による電極では、コーティングC2)が、コーティングされた粒子状物質E1)のコアC1)に存在する正極活物質による酸化から、固体電解質E2)を保護する保護層として役立つ。
【0073】
あるいは、本明細書に記載の第三の態様による電極において、上記に開示した第一の態様によるコーティングされた粒子状物質に混和されるか、又は上記に開示した第二の態様による方法によって提供される固体電解質物質は、電極のコーティングされた粒子状物質のコーティングC2)に存在する組成を有する固体物質であってもよい。コーティングC2)に存在する組成を有する固体物質を電極の固体電解質E2)として適用することにより、電極に存在する物質の多様性が低減され、その結果、電極の複雑さが低減され、そして電極に存在する異なる物質間の望ましくない相互作用が省かれる。さらに、コーティングされた粒子のコーティングC2)及び固体電解質E2)に同じ物質が存在することにより、電極活物質(コーティングされた粒子状物質のコアC1)に存在する)と固体電解質の間のリチウムイオンの移動に有利な条件が作られる。
【0074】
本明細書で定義する第三の態様による電極では、上記に開示した第一の態様による、又は上記に開示した第二の態様による方法によって提供されるコーティングされた粒子状物質E1)及び固体電解質物質E2)は、互いに、そして1つ以上の結合剤E4)及び/又は1つ以上の電子伝導性物質E3)と混和してよい。典型的な電子伝導性物質E3)は、元素状炭素、例えばカーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラック、アセチレンブラック、コーク、及びグラフェンオキシドを含む、又はそれらからなるものである。典型的な結合剤として、ポリ(ビニリデンフルオリド)(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリイソブテン、ポリ(エチレンビニルアセテート)、及びポリ(アクリロニトリルブタジエン)が挙げられる。
【0075】
本明細書で定義する第三の態様による電極は、電極(集電体なし、以下同様)の総質量に対して50%~99%、より好ましくは70%~97%の総量で、上記に開示した第一の態様による、又は上記に開示した第二の態様による方法によって提供されるコーティングされた粒子状物質を含んでよい。
【0076】
本明細書で定義する第三の態様による電極は、電極の総質量に対して1%~50%、より好ましくは3%~30%の総量の固体電解質を含んでよい。
【0077】
任意に、本明細書で定義する第三の態様による電極は、電極の総質量に対して0%~5%、より好ましくは0%~1%の総量の元素状炭素を含む、又は元素状炭素からなる電子伝導性物質を含んでよい。
【0078】
任意に、本明細書で定義する第三の態様による電極は、電極の総質量に対して0.1%~3%の総量の結合剤を含んでよい。
【0079】
本明細書で定義する第三の態様による好ましい電極は、本明細書で開示した特定の好ましい特徴のうちの1つ以上を有するものである。
【0080】
本発明はまた、上記に記載の第三の態様による電極の製造方法にも関する。前記方法は、以下の工程、
M1) 第一の態様による、又は第二の態様による方法によって得られる、少なくとも1つのコーティングされた粒子状物質E1)を提供する工程
M2) 少なくとも1つの固体電解質物質E2)を提供する工程
M3) 任意に、上記に定義したさらなる構成成分E3)及びE4)の1つ又は両方を提供する工程
M4) 工程M1)~M3)で提供された成分を互いに機械的に混合し、任意に溶媒を添加する工程
M5) 工程M4)で得られた混合成分を、大気圧を超える圧力で圧縮する、又は工程M4)で得られた混合物を集電体上に適用し、その後必要に応じて溶媒を除去する工程
を含み、電極が得られる。
【0081】
第一及び第二の態様の文脈において上記で提供したコーティングされた粒子状物質に関する開示、及び第三の態様による電極に関する開示が準用される。好ましい特定のコーティングされた粒子状物質に関しては、第一の態様によるコーティングされた粒子状物質の文脈において上記で提供した開示が参照される。好ましい特定の電極構成成分E2)、E3)及びE4)に関しては、第三の態様による電極の文脈において上記で提供した開示が参照される。
【0082】
工程M4)において、電極構成成分E1)及びE2、及び任意にE3)及びE4)の1つ又は両方、及び任意に溶媒を含む複合体を、機械的混合(例えばプラネタリーミル又はボールミルによる)することによって調製できる。
【0083】
電極の製造方法の工程M5)において、大気圧を超える圧力は、好ましくは1~450MPaの範囲、より好ましくは50~450MPaの範囲、及びなおより好ましくは75~400MPaの範囲の圧力である。
【0084】
本発明はまた、上記に記載の第四の態様による方法によって得られる電極にも関する。
【0085】
本発明はまた、上記に定義した第三の態様による電極を調製するための、第一の態様による又は第二の態様による方法によって調製されたコーティングされた粒子状物質の使用方法にも関する。第一及び第二の態様の文脈において上記で提供したコーティングされた粒子状物質に関する開示、及び第三の態様による電極に関する開示が準用される。好ましい特定のコーティングされた粒子状物質に関しては、第一の態様によるコーティングされた粒子状物質の文脈において上記で提供した開示が参照される。
【0086】
さらなる態様によれば、上記に開示した第一の態様による又は上記に開示した第二の態様による方法によって提供されるコーティングされた粒子状物質を含む、電気化学セルが提供される。
【0087】
前記セルにおいて、好ましくは、コーティングされた粒子状物質は、上記に開示した第三の態様による電極、特に正極中に存在することができる。
【0088】
上記で定義した電気化学セルは、以下の構成成分、
α)少なくとも1つの負極
β)少なくとも1つの正極、
γ)少なくとも1つのセパレータ、
を含む再充電可能な電気化学セルであってよい。
【0089】
本明細書に記載の電気化学セルは、アルカリ金属含有セル、特にリチウムイオン含有セルであってよい。リチウムイオン含有セルでは、電荷移動はLi+イオンによって行われる。セパレータでは、このような電気化学セルは、リチウム含有硫化物、リチウム含有オキシスルフィド、リチウム含有オキシホスフェート、リチウム含有チオホスフェート、リチウムアルジロダイト、リチウム遷移金属ハロゲン化物、及びリチウム含有オキシホスホニトリドからなる群から選択される固体電解質を含んでよい。好ましくは、セパレータの固体電解質は、電極の固体電解質E2)と同じ組成を有するので、セルに存在する物質の多様性が低減され、その結果、セルの複雑さが低減され、セルに存在する異なる物質間の望ましくない相互作用が省かれる。さらに、固体電解質E2)及びセパレータに同じ物質が存在することにより、電極とセパレータの固体電解質の間のリチウムイオンの移動に有利な条件が作られる。
【0090】
好適なセパレータ物質、電気化学的に活性なカソード物質(正極活物質)、及び好適で電気化学的に活性なアノード物質(負極活物質)は、当該技術分野で知られている。例示的な正極活物質は、第一の態様の文脈において上に開示されている。負極活物質は、リチウム金属を可逆的にめっき及び剥離し、リチウムイオンをそれぞれ脱インターカレート及びインターカレートすることができる。本明細書に記載の電気化学セルにおいて、アノードα)は、負極活物質として、グラファイト状カーボン、リチウム金属又はリチウムを含む金属合金を含み得る。
【0091】
電気化学セルは、全固体電気化学セルであってよい。
【0092】
或る特定の態様において、本発明による電気化学セルは、以下、
- 上記に記載の第三の態様による電極であるカソード
- リチウム含有硫化物、リチウム含有オキシスルフィド、リチウム含有オキシホスフェート、リチウム含有チオホスフェート、リチウムアルジロダイト、リチウム遷移金属ハロゲン化物、及びリチウム含有オキシホスホニトリドからなる群から選択される固体電解質を含むセパレータ層
- リチウム金属を可逆的にめっき及び剥離し、リチウムイオンをそれぞれ脱インターカレート及びインターカレートすることができる負極活物質を含むアノード
を含む。
【0093】
前記電気化学セルにおいて、上記で定義した第一の態様による、上記で定義した第二の態様による方法によって得られるそれぞれのコーティングされた粒子状物質に存在するコーティングC2)は、正極活物質をリチウムイオン伝導セパレータ層から分離する。コアC1)中の正極活物質は、上記で定義した第一の態様による、上記で定義した第二の態様による方法によって得られるそれぞれのコーティングC2)でコーティングされているので、正極活物質とリチウムイオン伝導セパレータ層との間の直接接触は防止される。このように、コアC1)中の正極活物質を、上記で定義した第一の態様に記載の、上記で定義した第二の態様による方法によって得られるそれぞれのコーティングC2)でコーティングすることにより、電気化学セル、特に全固体リチウム電池を実現することができ、4V以上のLi+/Liに対する酸化還元電位を有する正極活物質が、固体電解質E2)とセパレータ層とそれぞれ組み合わされる。セパレータ層は、それ自体としては4V以上のLi+/Liに対する酸化還元電位で酸化安定性を示さないリチウムイオン伝導性物質、例えば硫化物ベース、チオホスフェートベース又はオキシスルフィドベースの固体電解質を含むか又はそれらからなる。高い酸化安定性を有しないこのようなリチウムイオン伝導性物質は、多くの場合、リチウム金属又はリチウムを含む金属合金の存在下での安定性、容易な加工性、優れたイオン伝導性及び低コストなどの1つ以上の好ましい特性を示し、固体電解質層、セパレータ層それぞれを形成するのに好適となる。よって、セパレータ層用の固体電解質は、リチウム金属又はリチウムを含む金属合金の存在下での安定性、イオン伝導性、加工性及びコストの基準に従って好適に選択してよく、一方で酸化安定性は問題にならない。
【0094】
このように、正極活物質を第一の態様の文脈における上記に記載のコーティングC2)でコーティングすることにより、電気化学セル、特に全固体リチウム電池を実現することが可能となり、4V以上のLi/Li+に対する酸化還元電位を有する正極活物質が、固体電解質E2)及び/又はセパレータ層と組み合わされ、セパレータ層はリチウムイオン伝導性物質を含むか又はそれからなり、リチウムイオン伝導性物質は、それ自体としては4V以上のLi+/Liに対する酸化還元電位で酸化安定性を示さない(例えば硫化物ベースの固体電解質)が、リチウム金属又はリチウムを含む金属合金の存在下での安定性、優れたイオン伝導性及び容易な加工性などの1つ以上の好ましい特性を示し、固体電解質を、固体電解質層、セパレータ層それぞれを形成するのに好適となる。
【0095】
電気化学セルは、円盤状又は角柱状の形状を有してよい。電気化学セルは、スチール又はアルミニウムで作ることができるハウジングを含むことができる。
【0096】
上記に記載の複数の電気化学セルを組み合わせて、固体電極と固体電解質の両方を有する全固体電池とすることもできる。本開示のさらなる態様は、電池、より具体的にはアルカリ金属イオン電池、特に、上述のような少なくとも1つの電気化学セル、例えば上記に記載の2つ以上の電気化学セルを含むリチウムイオン電池に言及する。上記に記載の電気化学セルは、アルカリ金属イオン電池において、例えば直列接続又は並列接続で互いに組み合わせることができる。直列接続が好ましい。
【0097】
本明細書に記載の電気化学セル又は電池のそれぞれは、自動車、コンピュータ、パーソナルデジタルアシスタント、携帯電話、時計、ビデオカメラ、デジタルカメラ、温度計、電卓、ノートパソコンBIOS、通信機器又はリモートカーロック、及び発電所のエネルギー貯蔵装置などの定置型応用装置を製造又は操作するために使用され得る。本発明のさらなる態様は、少なくとも1つの本発明の電池又は少なくとも1つの本発明の電気化学セルを使用することによって、自動車、コンピュータ、パーソナルデジタルアシスタント、携帯電話、時計、ビデオカメラ、デジタルカメラ、温度計、電卓、ノートパソコンBIOS、通信機器、リモートカーロック、及び発電所用のエネルギー貯蔵装置などの定置型応装置を製造又は操作するための方法である。
【0098】
本開示のさらなる態様は、自動車、電気モータで動作する自転車、ロボット、航空機(例えば、ドローンを含む無人航空機)、船舶又は定置型エネルギー貯蔵装置における、上記に記載の電気化学セルの使用である。
【0099】
本開示は、上記に記載の少なくとも1つの本発明の電気化学セルを含む装置をさらに提供する。好ましいのは、車両、例えば自動車、自転車、航空機、又はボートもしくは船などの水上車両などのモバイル装置である。モバイル装置の他の例は、例えばコンピュータ、特にノートパソコン、電話機、又は電動工具(例えば建設部門のもの)、特にドリル、電池駆動ドライバー又は電池駆動タッカーなど、携帯可能なものである。
【0100】
本発明について、以下の実施例によってさらに説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0101】
1. 材料の調製
工程P1)
正極活物質(CAM)としてLiNi0.85Co0.10Mn0.05O2(NCM-851005;BASF SE社、本明細書ではNCMとも呼ぶ)を含むコア粒子C1)を、O2流中750℃で3時間加熱し、残留した表面カーボネートの量を低減した。加熱及び冷却速度は5℃/分に設定した。
【0102】
コア粒子の一部分はコーティングされないままであり、比較実験に使用した(本明細書中「コーティングされていない」と呼ぶ)。
【0103】
工程P2)
絶対エタノール(Sigma-Aldrich社;99.8%)とLi金属(Albemarle Germany GmbH社)との反応により、1Mリチウムエトキシド溶液を調製した。
【0104】
工程P3)
0.5Mのニオブエトキシド溶液と0.01Mの亜鉛アセテート溶液を調製するため、Nb(OCH2CH3)5(Sigma-Aldrich社;99.95%)及びZn(O2CCH3)2(Sigma-Aldrich社)を絶対エタノールに溶解した。
【0105】
工程P4)-P6)
Ar充填グローブボックス中で、工程P1)で提供したコア粒子5.94gの量を、工程P2)で調製したリチウムエトキシド溶液(512μL)、及び工程P3)で調製したニオブエトキシド溶液(683μL)及び亜鉛アセテート溶液(8500μL)の混合物に添加し、次いで分散液を30分間超音波処理することによって、分散液の形態の反応混合物を得た(工程P4))。その後、反応混合物を真空中で一晩乾燥させた(工程P5))。得られた粉末を乳鉢と乳棒で粉砕し、酸素流中300℃又は500℃で各場合とも2時間加熱した(加熱速度5℃/分)(工程P6))。Nb及びZnの適用量に基づいて、このようにして得られた本発明によるコーティングされた粒子は、単斜晶相Li6ZnNb4O14は存在しないことが判明したが、Li6ZnNb4O14の名目組成を有するものとした(下記参照)。工程P6)において適用された温度を参照し、本発明によるコーティングされた粒子状物質を「コーティングされた-inv300」及び「コーティングされた-inv500」と呼ぶ。
【0106】
比較のため、亜鉛アセテートを含まない反応混合物を用いて、コーティングされた粒子状物質を調製した(本発明によるものではない)。
【0107】
本発明によるものではない第一のコーティングされた粒子状物質(「コーティングされた-非inv1」)を以下のように調製した:
Ar充填グローブボックス中で、工程P1)で提供したNCMコア粒子5.94gの量を、工程P2)で調製したリチウムエトキシド溶液(512μL)、工程P3)で調製したニオブエトキシド溶液(683μL)、及び8500μLの無水エタノールの混合物に添加し、次いで分散液を30分間超音波処理することによって、分散液の形態の反応混合物を得た(工程P4))。その後、反応混合物を真空中で一晩乾燥させた(工程P5))。得られた粉末を乳鉢と乳棒で粉砕し、酸素流中300℃で2時間加熱した(加熱速度5℃/分)(工程P6))。
【0108】
本発明によらない第二のコーティングされた粒子状物質(「コーティングされた-非inv2」)を以下のように調製した:
Ar充填グローブボックス中で、工程P1)で提供したNCMコア粒子5.94gの量を、工程P2)で調製したリチウムエトキシド溶液(1024μL)、工程P3)で調製したニオブエトキシド溶液(683μL)、及び8500μLの無水エタノールの混合物に添加し、次いで分散液を30分間超音波処理することによって、分散液の形態の反応混合物を得た(工程P4))。その後、反応混合物を真空中で一晩乾燥させた(工程P5))。得られた粉末を乳鉢と乳棒で粉砕し、酸素流中300℃で2時間加熱した(加熱速度5℃/分)(工程P6))。前記粒子のコーティングにおけるLi及びNbの適用量に基づいて、モル比Li:Nbは3:1であった。
【0109】
本発明によらない第3のコーティングされた粒子状物質(「コーティングされた-非inv3」)を以下のように調製した:
Ar充填グローブボックス中で、工程P1)で提供したNCMコア粒子5.94gの量を、工程P2)で調製したリチウムエトキシド溶液(406μL)、工程P3)で調製したニオブエトキシド溶液(812μL)、及び1000μLの無水エタノールの混合物に添加し、次いで分散液を30分間超音波処理することによって、分散液の形態の反応混合物を得た(工程P4))。その後、反応混合物を真空中で一晩乾燥させた(工程P5))。得られた粉末を乳鉢と乳棒で粉砕し、酸素流中350℃で2時間加熱した(加熱速度5℃/分)(工程P6))。Li及びNbの適用量に基づいて、前記粒子のコーティングにおけるモル比Li:Nbは1:1であった。
【0110】
2. 本発明によるコーティングされた粒子状物質の構造及び化学組成の調査
走査型電子顕微鏡分析は、電界放出源を備えたLEO-1530電子顕微鏡(Carl Zeiss AG社)を用いて、10kVの加速電圧で行った。工程P1)で調製されたコーティングされていない正極活物質及び工程P6)の後に得られた本発明によるコーティングされた粒子状物質の走査型電子顕微鏡(SEM)画像(図示せず)は、本発明によるコーティングされた粒子状物質のコア粒子上にランダムに分布した凝集したコーティング物質の量を示す。コア粒子の形態は実質的に変化しないままであった。これらの観察の両方は、工程P6)で実施された熱処理の温度に関係なく行った。
【0111】
減衰全反射赤外分光法は、Ge結晶を備えたALPHA FT-IR分光計(Bruker社)を用いて実施した。ATR-IR分光法により、コーティングされていないコア粒子とコーティングされた粒子状物質におけるLi2CO3の存在は、工程P6)で行った熱処理の温度に関係なく、コーティングされていないコア粒子とコーティングされた粒子状物質のスペクトル(図示せず)の間にわずかな違いがあることで確認された。この結果は、合成時の表面不純物が残っており、カーボネートの含有量はコーティング時にあまり変化しなかったことを示している。
【0112】
X線回折(XRD)は、コーティングされていないコア粒子と比較して、コーティングされた粒子状物質の格子構造の変化の可能性を評価するために使用した。XRDデータは、Moアノード(λ=0.70926Å)とMYTHEN 1Kストリップ検出器(Dectris社)を備えたStadi-P回折計(STOE)を用いて、デバイシェラージオメトリで収集した。反射幅拡大に対する装置寄与は、NIST 640f Si標準物質を測定することによって得られた。リートベルト精密化はGSAS-IIを用いて行った。精密化の際、スケールファクター、ゼロシフト、結晶子径のブロードニングパラメータを変化させた。サンプルの吸収は、キャピラリー直径0.3mm、粉末充填密度1.44g/cm3に基づいて計算した。17の項を持つチェビシェフ多項式関数を用いて、固定バックグラウンドをデータに当てはめた。各サイトの単位セルパラメータ、酸素サイト位置、原子変位パラメータ(等方性、uiso)を精緻化した。同じサイトを占める原子は、同じ原子パラメータを持つように制約され、サイト占有率は、各サイトが完全に占有されたままになるように制約された。工程P6)で行った熱処理の温度に関係なく、異なるサンプルのパターン(図示せず)のすべての反射は、コアC1)に存在するNCM物質に予測されるように、R-3m空間群(α-NaFeO2-型構造)内でインデックスを付けることができた。
【0113】
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、コーティングの微細構造を観察した(図示せず)。TEMの特性評価は、加速電圧300kVで、Oneview ISカメラ(Ametek社)を装備した二重収差補正Themis-Z顕微鏡(ThermoFisher Scientific社)、Super-X EDX検出器(ThermoFisher Scientific社)、及び高分解能GIF Continuum970(Ametek社)電子エネルギー損失分光計を用いて行った。4D-STEMデータセットは、OneView ISカメラを用いて、スクリーン電流約10pA、収束半角0.47mrad、カメラ長580mmで収集した。ナノビーム電子回折(NBED)パターンの仮想イメージ化は、DigitalMicrograph(バージョン3.42)を用いて行った。サンプル断面は、Strata400(ThermoFisher Scientific社)のデュアルビーム集束Gaイオンビーム(FIB)を用いて調製した。炭素層はイオンビーム誘起蒸着法により蒸着し、サンプル調製及び処理中のコーティングを保護した。最初の薄膜化は30kVで行った。サンプルの最終的な薄膜化とクリーニングは、5kV/2kVの低電圧で行った。
【0114】
高分解能TEM(HRTEM)像(図示せず)では、NCM-851005粒子の外表面にシェルが認められた。このシェルの厚さは、数ナノメートル~数十ナノメートルの範囲であり、外側に面した粒界で大きくなっているように見えた。コーティングされていない表面の存在も考えられた。
【0115】
高角度環状暗視野走査型TEM(HAADF-STEM)モード(図示せず)では、コアC1)とコーティングC2)の明確な分離が観察された。集束イオンビーム(FIB)で調製した粒子断面の表面領域のエネルギー分散型X線分光法(EDS)で得られたNb及びNiの元素マップは、コアC1)中のNiとコーティングC2)中のNbの予想される位置と一致した。コアC1)へのNbの拡散は見られず、Nbイオンのサイズ及び電荷を考慮した予想と一致した。Znの元素マップは、コーティングC2)とコアC1)の両方にZnが存在することを示唆していた。しかし、Znの含有量が少ないため、EDSの結果は明確ではない。この問題は、NiのL吸収端(1008eV)とZnのL吸収端(1020eV)が重なるので、及び/又はNiに比べてZnの量が少ないので、電子エネルギー損失分光法(EELS)では解決できなかった。従って、コーティングにおけるZnの具体的な役割を解明するには、さらなる研究が必要である。
【0116】
ナノビーム電子回折(NBED)を用いて、コーティングC2)では非晶質マトリックス中の結晶種の存在が確認された(図示せず)。仮想暗視野像(図示せず)では、単斜晶相のLi6ZnNb4O14とは異なり、立方晶の結晶格子を有するナノ粒子が多数観察された。測定された格子間隔は、Li3NbO4などの岩塩型(Fm-3m空間群)リチウムニオブ酸化物及び関連化合物の格子間隔とよく一致した。加えて、Fm-3m空間群では指標とならない低い回折角で観察される広い反射は、ATR-IRで観察された結晶性Li2CO3の存在に起因する可能性が高かった。
【0117】
元素分析のために、コーティングされた粒子状物質のサンプルを、グラファイト炉を使用して酸に溶解した。Zn及びNbの含有量は、Thermo Fisher Scientific iCAP7600DUOを用いた誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)で決定した。炭素含有量はCSアナライザーを用いて測定した。質量割合は、少なくとも3回の独立した測定の平均を表す。Zn及びNbの質量割合はそれぞれ0.077(1)質量%及び0.50(1)質量%と決定され、目標値である0.093質量%及び0.53質量%(化合物Li6ZnNb4O14の1質量%に相当)をわずかに下回った。あらゆる質量割合データは、複数のコア粒子の総質量に対するものである。Nb:Znの4.57にほぼ等しいモル比も、化合物Li6ZnNb4O14のモル比4から逸脱している。
【0118】
3. 電気化学的調査
電極の調製
正極用複合体は、以下
E1) コーティングされた粒子状物質(本発明による又は本発明によるものでない、上記項目1を参照)又はコーティングされていない正極活物質
E2) 固体電解質Li6PS5Cl(LPSCl;NEI Corp.社)
E3) Super C65カーボンブラック(Timcal社)
を、69:30:1の質量比で、プラネタリーミル(Fritsch社)中140rpmで30分間混合することによって、調製した。
【0119】
負極用複合体は、カーボンコーティングしたLi
4Ti
5O
12(LTO;NEI Corp.社)、Li
6PS
5Cl及びSuper C65カーボンブラックを、30:65:5(
図1~5)、30:60:10(
図6)の質量比でそれぞれプラネタリーミル(Fritsch社)中140rpmで30分間混合することによって、調製した。
【0120】
固体セルの組み立て及び試験手順
ポリエーテルエーテルケトンスリーブと2つのステンレス鋼ダイを含むカスタマイズされた設定を用いて、異なる正極を有する全固体セルを試験した。100mgのLi6PS5Clを62MPaの一軸圧力で冷間プレスして作ったセパレータ層から開始して、直径10mmのペレットスタック形態のセルを作製した。セルは、冷間プレスした固体電解質の対向面に65mgの負極複合体(上記参照)と12mgの正極複合体(上記参照、約2.9mAh/cm2、qth=274mAh/gCAM)を加え、437MPaでスタックをプレスすることで完成させた。
【0121】
81MPaの一軸圧力を維持しながら、45℃で2.9~4.3VのLi+/Liに対する電圧範囲で、セルの定電流サイクルを行った。サイクル安定性試験は、1C(1C=190mA/gCAM)のレートで200サイクル行った。レート性能試験は0.1C、0.2C、0.5C、1Cで行い、各Cレートで2サイクル行った。結果は少なくとも3つのセルの平均値である。
【0122】
VMP3インピーダンスアナライザー(Bio-Logic Science Instruments Ltd.社)を用いて、7MHz~100mHzの周波数で、振幅10mVを200サイクル行った後、すべての固体セルについて電気化学インピーダンス分光測定を行った。
【0123】
結果
図1は、0.1Cレートでの最初のサイクル充電/放電曲線である。上方のグラフは、本発明による3つのセル(コーティングされた粒子状物質「コーティングされたinv500」を含む正極を有する)の平均充電/放電曲線である。下方のグラフは、3つの比較セル(コーティングされていない正極活物質(「コーティングされていない」)を含む正極を有する)の平均充電/放電曲線である。
【0124】
本発明によるセルは、比較セルの180mAh/gCAMと比較して、210mAh/gCAM(約2.2mAh/cm2)の可逆的比放電容量を示した。本発明によるセルの優れた可逆的比放電容量は、優れた動力学とクーロン効率によって可能になったと推測される。電圧プロファイルから、コーティングされた正極活物質「コーティングされたinv500」の脱リチウム化が改善され、その結果、コーティングされていない同等品よりも容量が大きくなったことがわかる。クーロン効率の差(本発明によるセルと比較セルでそれぞれ88.6%対78.0%)は、コーティングされていない正極活物質の場合、より厳しい界面副反応(固体電解質物質の酸化)が起こったことを示唆している。このことは、本発明によるセルで観察された過電圧が大きく低下したことを説明し得る。なぜなら当技術分野では、サイクル中に電極構成成分間の有害な反応によって抵抗が上昇することが知られているからである。
【0125】
図2は、本発明による3つのセル(上側の線と点)及び上記に定義した3つの比較セル(下側の線と点)について、0.1C~1Cの範囲のレートに対する平均比放電容量を示す。本発明によるセルのレート能力は、比較セルよりも明らかに良好であった。1Cのレート(約2mA/cm
2)では、本発明によるセルで約150mAh/g
CAMの比放電容量が達成され、0.1Cでの初期容量の71%に相当した。対照的に、比較セルでは約76mAh/g
CAMの比放電容量が得られ、初期容量のわずか42%に相当した。これらの結果は、本発明によるセルにおいて、正極活物質と固体電解質との間の改良された界面を介した電荷移動速度が改善されていることを強調している。
【0126】
図3は、本発明による3つのセル(上方のグラフ)及び上記に定義した3つの比較セル(下方のグラフ)の平均長期サイクル安定性を示す。
図2に示したレート性能データから予想されるように、本発明によるセルはより大きな比容量を示した。比較セルは最初の20サイクルで急速な容量減衰を示したが、本発明によるセルの容量減衰はより緩やかに起こることが判明した。特に、本発明によるセルでは交換された累積充電量がはるかに大きいにもかかわらず、200サイクル後には初期放電容量の81%以上が保持されたが、比較セルでは68%であった。
【0127】
図4は、本発明による3つのセル(上方のグラフ)と上記に定義した3つの比較セル(下方のグラフ)のサイクル数50までの平均クーロン効率を示す。本発明によるセルは全体的に高い値を示し、その差は最初の20サイクルで特に顕著であった。このことは、本発明によるセルにおいて、正極活物質と固体電解質との間に安定した界面がより早く形成されることを示唆している。両方の正極活物質(コーティングされていない及び「コーティングされたinv500」)も、約60サイクル後にη>99.9%のクーロン効率で安定化した。
【0128】
最後に、200サイクル後に、本発明による代表的なセルと上記に定義した代表的な比較セルを、電気化学インピーダンス分光法(EIS)及び走査型電子顕微鏡(SEM)で調べた。
図5は、放電状態の代表的なセルのEIS測定から得られたナイキストプロットを示す。正極界面抵抗を表す窪んだ半円を半定量的に比較すると、本発明によるセルではこの寄与が約2分の1に減少していることが示された(半円が小さい)。この発見は、上述したクーロン効率の違いを裏付けるものである。断面SEM画像(図示せず)からは、本発明によるセルでも比較セルでも、主要な(化学的)機械的劣化(接触損失、粒子破壊など)の兆候は見られなかった。このことは、サイクル性能の違いは主に、正極活物質と固体電解質との界面における(電気)化学分解の程度が異なることに起因していることを示唆している。
【0129】
図6は、6つの異なる正極活物質(調製及び組成物用、詳細は上記セクション1参照)、すなわち
「コーティングされていない」
「コーティングされたinv500」
「コーティングされたinv300」
「コーティングされた非inv1」
「コーティングされた非inv2」
「コーティングされた非inv3」
を含むセルの平均的な長期サイクル安定性を示す。
【0130】
セルを異なる充電/放電レートでサイクルさせた(グラフに示す):1C、0.2C、0.5C、1C(各充電/放電サイクル2回)、9サイクル目以降は0.2C。
【0131】
正極活物質「コーティングされたinv500」を含有する本発明によるセルで最良の結果が得られたが、正極活物質「コーティングされたinv300」を含有する本発明によるセルは比放電容量がわずかに低かった。コーティングされていない正極活物質を有する比較セルが最初の10サイクルで急速な容量低下を示した一方で、本発明によるセルの容量低下はより緩やかに起こることが判明した。3つのコーティングされた粒子状物質「コーティングされた非inv1」、「コーティングされた非inv2」及び「コーティングされた非inv3」のいずれかを含む正極を有する比較セルは、コーティングされていない正極活物質を有する比較セルに対して依然として有利であるが、それにもかかわらず、本発明によるセルよりも低い比放電容量及びより速い容量劣化を示した。
【国際調査報告】