(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-19
(54)【発明の名称】改善された抗原結合受容体
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20241112BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20241112BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20241112BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20241112BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20241112BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241112BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20241112BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20241112BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241112BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20241112BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20241112BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20241112BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241112BHJP
C07K 14/55 20060101ALN20241112BHJP
【FI】
C07K19/00
C07K14/705 ZNA
C07K16/30
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N5/10
C12N5/0783
C12N15/867 Z
A61P35/00
A61P17/00
A61P7/00
A61K35/17
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61K39/395 D
A61K39/395 E
C07K14/55
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531293
(86)(22)【出願日】2022-11-23
(85)【翻訳文提出日】2024-07-16
(86)【国際出願番号】 EP2022082898
(87)【国際公開番号】W WO2023094413
(87)【国際公開日】2023-06-01
(32)【優先日】2021-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514099673
【氏名又は名称】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】チェン, クオチー
(72)【発明者】
【氏名】ダロフスキ, ダイアナ
(72)【発明者】
【氏名】フライモサー-グルントショーバー, アン
(72)【発明者】
【氏名】クライン, クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】メスナー, エッケハルト
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ, ホアフォン
(72)【発明者】
【氏名】シュイ, ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】シュイ, タン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB31
4C085BB42
4C085CC22
4C085CC23
4C085EE01
4C085EE03
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB65
4C087NA07
4C087ZA51
4C087ZA89
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA04
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は一般に、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインに特異的に結合することができるヒト化抗原結合受容体に関する。本発明はまた、治療用抗体の変異Fcドメインに特異的に結合する/それと相互作用することによって動員される抗原結合受容体で形質導入されたT細胞に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号129のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む抗原結合受容体。
【請求項2】
配列番号129のアミノ酸配列を含む抗原結合受容体。
【請求項3】
配列番号129のアミノ酸配列からなる抗原結合受容体。
【請求項4】
配列番号132のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む抗原結合受容体。
【請求項5】
配列番号132のアミノ酸配列を含む抗原結合受容体。
【請求項6】
配列番号132のアミノ酸配列からなる抗原結合受容体。
【請求項7】
配列番号19のアミノ酸配列を含まない、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の抗原結合受容体をコードする単離されたポリヌクレオチド。
【請求項9】
配列番号130の配列を含む単離されたポリヌクレオチド。
【請求項10】
配列番号133の配列を含む単離されたポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか一項に記載の単離されたポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド。
【請求項12】
請求項8~10のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含むベクター、特に発現ベクター。
【請求項13】
請求項8~10のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド又は請求項12に記載のベクターを含む、形質導入T細胞。
【請求項14】
請求項1~7のいずれか一項に記載の抗原結合受容体を発現することができる形質導入T細胞。
【請求項15】
(A)請求項1~7のいずれか一項に記載の抗原結合受容体を発現することができる形質導入T細胞;及び
(B)標的細胞抗原に結合し、且つEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体
を含むキット。
【請求項16】
(A)請求項1~7のいずれか一項に記載の抗原結合受容体をコードする単離されたポリヌクレオチド;及び
(B)標的細胞抗原に結合し、且つEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体
を含むキット。
【請求項17】
(A)請求項8~10のいずれか一項に記載の単離されたポリヌクレオチド、又は請求項12に記載のベクター;及び
(B)標的細胞抗原に結合し、且つEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体
を含むキット。
【請求項18】
前記Fcドメインが、IgG1又はIgG4 Fcドメイン、特にヒトIgG1 Fcドメインである、請求項15~17のいずれか一項に記載のキット。
【請求項19】
前記標的細胞抗原が、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、がん胎児性抗原(CEA)、メソテリン(MSLN)、CD20、葉酸受容体1(FOLR1)及びテネイシン(TNC)からなる群から選択される、請求項15~18のいずれか一項に記載のキット。
【請求項20】
医薬としての使用のための、請求項15~19のいずれか一項に記載のキット。
【請求項21】
前記抗原結合受容体を発現する形質導入T細胞が、標的細胞抗原に、特にがん細胞抗原に結合し、且つEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体の投与の前、投与と同時又は投与の後に投与される、医薬としての使用のための、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗原結合受容体又は請求項13若しくは14に記載の形質導入T細胞。
【請求項22】
疾患の治療における使用のための、特にがんの治療における使用のための、請求項15~19のいずれか一項に記載のキット。
【請求項23】
前記治療が、前記抗原結合受容体を発現する形質導入T細胞を、がん細胞抗原に結合し、且つEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体の投与の前、投与と同時又は投与の後に投与することを含む、がんの治療における使用のための、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗原結合受容体又は請求項13若しくは14に記載の形質導入T細胞。
【請求項24】
前記がんが、上皮、内皮又は中皮由来のがん及び血液のがんから選択される、請求項22又は23に記載の、抗原結合受容体、形質導入T細胞又は使用のためのキット。
【請求項25】
がん抗原が、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、がん胎児性抗原(CEA)、メソテリン(MSLN)、CD20、葉酸受容体1(FOLR1)及びテネイシン(TNC)からなる群から選択される、請求項24に記載の、抗原結合受容体、形質導入T細胞又は使用のためのキット。
【請求項26】
前記形質導入T細胞が、治療される前記対象から単離された細胞に由来する、請求項23~25のいずれか一項に記載の、抗原結合受容体、形質導入T細胞又は使用のためのキット。
【請求項27】
前記形質導入T細胞が、治療される前記対象から単離された細胞に由来しない、請求項23~26のいずれか一項に記載の、抗原結合受容体、形質導入T細胞又は使用のためのキット。
【請求項28】
対象における疾患を治療する方法であって、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗原結合受容体を発現することができる形質導入T細胞を前記対象に投与することと、前記形質導入T細胞の投与の前、投与と同時又は投与の後に、標的細胞抗原に結合し、且つEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体の治療的有効量を投与することとを含む、方法。
【請求項29】
前記対象からT細胞を単離することと、前記単離されたT細胞を請求項8~10のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド又は請求項12に記載のベクターで形質導入することによって前記形質導入T細胞を生成することとを追加的に含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記T細胞が、レトロウイルス若しくはレンチウイルスベクター構築物、又は非ウイルスベクター構築物で形質導入される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記形質導入T細胞が、静脈内注入によって前記対象に投与される、請求項28~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記形質導入T細胞を、前記対象への投与前に、抗CD3抗体及び/又は抗CD28抗体と接触させる、請求項28~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記形質導入T細胞を、前記対象への投与前に少なくとも1つのサイトカインと接触させ、好ましくはインターロイキン-2(IL-2)、インターロイキン-7(IL-7)、インターロイキン-15(IL-15)及び/若しくはインターロイキン-21又はそれらのバリアントと接触させる、請求項28~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記疾患ががんである、請求項28~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記がんが、上皮、内皮又は中皮由来のがん及び血液のがんから選択される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
標的細胞の溶解を誘導する方法であって、標的細胞抗原に結合し、且つEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体の存在下で、前記標的細胞を、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗原結合受容体を発現することができる形質導入T細胞と接触させることを含む、方法。
【請求項37】
前記標的細胞ががん細胞である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記標的細胞が、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、がん胎児性抗原(CEA)、メソテリン(MSLN)、CD20、葉酸受容体1(FOLR1)及びテネイシン(TNC)からなる群から選択される抗原を発現する、請求項36又は37に記載の方法。
【請求項39】
医薬の製造のための、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗原結合受容体、請求項8~10のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド、又は請求項13若しくは14に記載の形質導入T細胞の使用。
【請求項40】
前記医薬ががんの治療のためのものである、請求項39に記載の使用。
【請求項41】
前記がんが、上皮、内皮又は中皮由来のがん及び血液のがんから選択されることを特徴とする、請求項40に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインに特異的に結合することができるヒト化抗原結合受容体に関する。本発明はまた、治療用抗体の変異Fcドメインに特異的に結合する/それと相互作用することによって動員される抗原結合受容体で形質導入されたT細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
養子T細胞療法(ACT)は、がん特異的T細胞を使用する強力な治療手法である(Rosenberg and Restifo,Science 348(6230)(2015),62-68)。ACTは、天然に存在する腫瘍特異的細胞、又はT細胞若しくはキメラ抗原受容体を使用した遺伝子操作によって特異的にされたT細胞を使用し得る(Rosenberg and Restifo,Science 348(6230)(2015),62-68)。ACTは、進行性及び他の治療抵抗性疾患、例えば、急性リンパ性白血病、非ホジキンリンパ腫又は黒色腫に罹患している患者でさえも、治療に成功し、寛解を誘導することができる(Dudley et al.,J Clin Oncol 26(32)(2008),5233-5239;Grupp et al.,N Engl J Med 368(16)(2013),1509-1518;Kochenderfer et al.,J Clin Oncol.(2015)33(6):540-549,doi:10.1200/JCO.2014.56.2025.Epub 2014 Aug 25)。
【0003】
しかし、ACTは、顕著な臨床有効性にもかかわらず、治療関連毒性によって制限される。ACTで使用される操作されたT細胞の特異性並びに結果として生じるオンターゲット及びオフターゲット効果は、主に、抗原結合受容体に実装された腫瘍標的化抗原結合部分によって駆動される。腫瘍抗原の非排他的発現又は発現レベルの時間差は重篤な副作用を引き起こしたり、治療の許容できない毒性のためにACTの中止に至ることさえある。
【0004】
さらに、効率的な腫瘍細胞溶解のための腫瘍特異的T細胞の利用可能性は、操作されたT細胞のin vivoでの長期生存と増殖能力に依存している。一方、T細胞のin vivoでの生存及び増殖はまた、健常組織の損傷をもたらし得る制御されないT細胞応答の持続に起因する望ましくない長期効果をもたらし得る(Grupp et al.2013 N Engl J Med 368(16):1509-18,Maude et al.2014 2014 N Engl J Med 371(16):1507-17)。
【0005】
重篤な治療関連毒性を抑制し、ACTの安全性を向上させるための手法の一つは、免疫シナプスにアダプター分子を導入することによってT細胞の活性化及び増殖を制限することである。そのようなアダプター分子は、例えば最近記載された葉酸-FITCスイッチ(Kim et al.J Am Chem Soc 2015;137:2832-2835)のような小分子二峰性スイッチを含む。さらなる手法には、T細胞の特異性を誘導して腫瘍細胞を標的化するタグを含む人工的に改変された抗体が含まれた(Ma et al.PNAS 2016;113(4):E450-458,Cao et al.Angew Chem 2016;128:1-6,Rogers et al.PNAS 2016;113(4):E459-468,Tamada et al.Clin Cancer Res 2012;18(23):6436-6445)。
【0006】
しかし、既存の手法にはいくつかの限界がある。分子スイッチに依存する免疫シナプスには、免疫応答を誘発したり非特異的なオフターゲット効果をもたらす可能性のあるエレメントを追加的に導入する必要がある。さらに、そのような多成分システムの複雑さは、治療有効性及び忍容性を制限する可能性がある。一方、既存の治療用モノクローナル抗体にタグ構造を導入することで、これらの構築物の有効性及び安全性プロファイルに影響を与える可能性がある。さらに、タグを付加することにより、当該抗体の製造をより複雑にする追加の改変工程及び精製工程が必要となるうえに、追加の安全性試験も必要となる。
【0007】
さらに、非ヒト抗体又は部分的ヒト抗体のin vivo使用は、抗イディオタイプ又はヒト抗マウス抗体(HAMA)を含む抗薬物抗体(ADA)の形成をもたらし得る(Blanco et al Clin Immunol 17,96-106(1997))。これらのADAは、薬物動態特性、投与された抗体の安全性及び機能性に影響を及ぼす可能性があり、ヒト化はこれに取り組むために適用されている(Carter et al PNAS 89,4285-4289(1992))。同様に、ADAがマウスベースのCAR-T細胞について認められている。ヒト抗マウスIgG抗体は、CAR形質導入T細胞と共に発生することが知られているが、有害な臨床結果を有しないと考えられてきた。Mausらは、CARに特異的なIgE抗体を介している可能性が最も高い、CAR改変T細胞に起因するアナフィラキシーを初めて記載した。これらの結果は、マウス抗体に由来する抗原結合受容体の潜在的な免疫原性が、特に断続的な投薬スケジュールを用いて投与される場合、安全性の問題であり得ることを示している(Maus et al Cancer Immunol Res 1,26-31(2013))。したがって、がん患者のニーズを満たすためには、標的腫瘍療法、特に養子T細胞療法を改善する必要がある。したがって、ACTの安全性及び有効性を改善し、上記の欠点を克服する可能性を有する改善された手段を提供することが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、改善された特性を有する抗原結合受容体、特に、形質導入細胞において安定であり高度に発現されるヒト化抗原結合受容体を提供する。
【0009】
本明細書では、配列番号129のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む抗原結合受容体が提供される。一実施態様では、抗原結合受容体は、配列番号129のアミノ酸配列を含む。一実施態様では、抗原結合受容体は、配列番号129のアミノ酸配列からなる。
【0010】
一実施態様では、配列番号132のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む抗原結合受容体が提供される。一実施態様では、抗原結合受容体は、配列番号132のアミノ酸配列を含む。一実施態様では、抗原結合受容体は、配列番号132のアミノ酸配列からなる。
【0011】
一実施態様では、抗原結合受容体は、配列番号19のアミノ酸配列を含まない。
一実施態様では、本明細書で上述したような抗原結合受容体をコードする単離されたポリヌクレオチドが提供される。
【0012】
一実施態様では、単離されたポリヌクレオチドは、配列番号130の配列を含む。
【0013】
一実施態様では、単離されたポリヌクレオチドは、配列番号133の配列を含む。
【0014】
一実施態様では、本明細書で上述したような単離されたポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドが提供される。
【0015】
一実施態様では、本明細書で上述したようなポリヌクレオチドを含むベクター、特に発現ベクターが提供される。
【0016】
一実施態様では、本明細書で上述したようなポリヌクレオチド又はベクターを含む形質導入T細胞が提供される。
【0017】
一実施態様では、本明細書で上述したような抗原結合受容体を発現することができる形質導入T細胞が提供される。
【0018】
一実施態様では、
(A)本明細書で上述したような抗原結合受容体を発現することができる形質導入T細胞;及び
(B)標的細胞抗原に結合し、且つEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体
を含むキットが提供される。
【0019】
一実施態様では、
(A)本明細書で上述したような抗原結合受容体をコードする単離されたポリヌクレオチド;及び
(B)標的細胞抗原に結合し、且つEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体
を含むキットが提供される。
【0020】
一実施態様では、
(A)本明細書で上述したような単離されたポリヌクレオチド又はベクター;及び
(B)標的細胞抗原に結合し、且つEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体
を含むキットが提供される。
【0021】
一実施態様では、該Fcドメインは、IgG1又はIgG4 Fcドメイン、特にヒトIgG1 Fcドメインである。
【0022】
一実施態様では、標的細胞抗原は、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、がん胎児性抗原(CEA)、メソテリン(MSLN)、CD20、葉酸受容体1(FOLR1)及びテネイシン(TNC)からなる群から選択される。
【0023】
一実施態様では、医薬としての使用のための、本明細書で上述したようなキットが提供される。
【0024】
一実施態様では、医薬としての使用のための、本明細書で上述したような抗原結合受容体又は形質導入T細胞が提供され、ここで、抗原結合受容体を発現する形質導入T細胞は、標的細胞抗原に、特にがん細胞抗原に結合し、且つEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体の投与の前、投与と同時又は投与の後に投与される。
【0025】
一実施態様では、疾患の治療における使用のための、特にがんの治療における使用のための、本明細書で上述したようなキットが提供される。
【0026】
一実施態様では、がんの治療における使用のための、本明細書で上述したような抗原結合受容体又は形質導入T細胞が提供され、ここで、該治療は、抗原結合受容体を発現する形質導入T細胞を、がん細胞抗原に結合し、且つEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体の投与の前、投与と同時又は投与の後に投与することを含む。
【0027】
一実施態様では、前記がんは、上皮、内皮又は中皮由来のがん及び血液のがんから選択される。
【0028】
一実施態様では、がん抗原は、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、がん胎児性抗原(CEA)、メソテリン(MSLN)、CD20、葉酸受容体1(FOLR1)及びテネイシン(TNC)からなる群から選択される。
【0029】
一実施態様では、形質導入T細胞は、治療される対象から単離された細胞に由来する。
【0030】
一実施態様では、形質導入T細胞は、治療される対象から単離された細胞に由来しない。
【0031】
一実施態様では、対象における疾患を治療する方法であって、本明細書で上述したような抗原結合受容体を発現することができる形質導入T細胞を対象に投与することと、形質導入T細胞の投与の前、投与と同時又は投与の後に、標的細胞抗原に結合し、且つEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体の治療的有効量を投与することとを含む方法が提供される。
【0032】
一実施態様では、該方法は、対象からT細胞を単離することと、単離されたT細胞を本明細書で上述したようなポリヌクレオチド又はベクターで形質導入することによって形質導入T細胞を生成することを追加的に含む。
【0033】
一実施態様では、該T細胞は、レトロウイルス若しくはレンチウイルスベクター構築物、又は非ウイルスベクター構築物で形質導入される。
【0034】
一実施態様では、該形質導入T細胞は、静脈内注入によって対象に投与される。
【0035】
一実施態様では、該形質導入T細胞を、対象への投与前に、抗CD3抗体及び/又は抗CD28抗体と接触させる。
【0036】
一実施態様では、該形質導入T細胞を、対象への投与前に少なくとも1つのサイトカインと接触させ、好ましくはインターロイキン-2(IL-2)、インターロイキン-7(IL-7)、インターロイキン-15(IL-15)及び/若しくはインターロイキン-21又はそれらのバリアントと接触させる。
【0037】
一実施態様では、疾患はがんである。
【0038】
一実施態様では、がんは、上皮、内皮又は中皮由来のがん及び血液のがんから選択される。
【0039】
一実施態様では、標的細胞の溶解を誘導する方法であって、標的細胞抗原に結合し、且つEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体の存在下で、標的細胞を、本明細書で上述したような抗原結合受容体を発現することができる形質導入T細胞と接触させることを含む方法が提供される。
【0040】
一実施態様では、標的細胞はがん細胞である。
【0041】
一実施態様では、標的細胞は、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、がん胎児性抗原(CEA)、メソテリン(MSLN)、CD20、葉酸受容体1(FOLR1)及びテネイシン(TNC)からなる群から選択される抗原を発現する。
【0042】
一実施態様では、医薬の製造のための、本明細書で上述したような抗原結合受容体、ポリヌクレオチド、又は形質導入T細胞の使用が提供される。
【0043】
一実施態様では、医薬は、がんの治療のためのものである。
【0044】
一実施態様では、前記がんは、上皮、内皮又は中皮由来のがん及び血液のがんから選択される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1A-B】scFvフォーマットの抗P329G結合部分を有する第2世代キメラ抗原結合受容体の概略図。VH×VL scFv(
図1A)配向及びVL×VH(
図1B)配向。
図1C及び
図1Dは、それぞれ
図1A及び
図1Bに示される抗原結合受容体をコードするDNA構築物を示す。
【
図1C-D】scFvフォーマットの抗P329G結合部分を有する第2世代キメラ抗原結合受容体の概略図。VH×VL scFv(
図1A)配向及びVL×VH(
図1B)配向。
図1C及び
図1Dは、それぞれ
図1A及び
図1Bに示される抗原結合受容体をコードするDNA構築物を示す。
【
図2】異なるヒト化scFvバリアントのCAR表面発現(
図2A)及び形質導入対照としての役割を果たす相関するGFP発現(
図2B)を示す。
【
図3A】結合部分としてP329Gバインダーの異なるヒト化バージョンを使用する抗P329G CAR JurkatレポーターT細胞の非特異的シグナル伝達の評価。活性化は、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、異なるFcバリアントを有する抗体の存在下での、又はP329G Fcバリアントを含むが標的細胞がない抗体の存在下での、CD3下流シグナル伝達の強度を定量化することにより評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図3B】結合部分としてP329Gバインダーの異なるヒト化バージョンを使用する抗P329G CAR JurkatレポーターT細胞の非特異的シグナル伝達の評価。活性化は、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、異なるFcバリアントを有する抗体の存在下での、又はP329G Fcバリアントを含むが標的細胞がない抗体の存在下での、CD3下流シグナル伝達の強度を定量化することにより評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図3C】結合部分としてP329Gバインダーの異なるヒト化バージョンを使用する抗P329G CAR JurkatレポーターT細胞の非特異的シグナル伝達の評価。活性化は、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、異なるFcバリアントを有する抗体の存在下での、又はP329G Fcバリアントを含むが標的細胞がない抗体の存在下での、CD3下流シグナル伝達の強度を定量化することにより評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図3D】結合部分としてP329Gバインダーの異なるヒト化バージョンを使用する抗P329G CAR JurkatレポーターT細胞の非特異的シグナル伝達の評価。活性化は、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、異なるFcバリアントを有する抗体の存在下での、又はP329G Fcバリアントを含むが標的細胞がない抗体の存在下での、CD3下流シグナル伝達の強度を定量化することにより評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図3E】結合部分としてP329Gバインダーの異なるヒト化バージョンを使用する抗P329G CAR JurkatレポーターT細胞の非特異的シグナル伝達の評価。活性化は、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、異なるFcバリアントを有する抗体の存在下での、又はP329G Fcバリアントを含むが標的細胞がない抗体の存在下での、CD3下流シグナル伝達の強度を定量化することにより評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図3F】結合部分としてP329Gバインダーの異なるヒト化バージョンを使用する抗P329G CAR JurkatレポーターT細胞の非特異的シグナル伝達の評価。活性化は、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、異なるFcバリアントを有する抗体の存在下での、又はP329G Fcバリアントを含むが標的細胞がない抗体の存在下での、CD3下流シグナル伝達の強度を定量化することにより評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図4A】高い(HeLa-FolR1)、中程度(Skov3)及び低い(HT29)標的発現レベルを有するFolR1
+標的細胞の存在下で、FolR1に対する高い(16D5)、中程度(16D5 W96Y)又は低い(16D5 G49S/K53A)親和性を有する抗体と組み合わせて、異なるヒト化バージョンのP329Gバインダーを使用する抗P329G CAR JurkatレポーターT細胞の活性化。活性化は、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、CD3下流シグナル伝達の強度の定量化によって評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図4B】高い(HeLa-FolR1)、中程度(Skov3)及び低い(HT29)標的発現レベルを有するFolR1
+標的細胞の存在下で、FolR1に対する高い(16D5)、中程度(16D5 W96Y)又は低い(16D5 G49S/K53A)親和性を有する抗体と組み合わせて、異なるヒト化バージョンのP329Gバインダーを使用する抗P329G CAR JurkatレポーターT細胞の活性化。活性化は、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、CD3下流シグナル伝達の強度の定量化によって評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図4C】高い(HeLa-FolR1)、中程度(Skov3)及び低い(HT29)標的発現レベルを有するFolR1
+標的細胞の存在下で、FolR1に対する高い(16D5)、中程度(16D5 W96Y)又は低い(16D5 G49S/K53A)親和性を有する抗体と組み合わせて、異なるヒト化バージョンのP329Gバインダーを使用する抗P329G CAR JurkatレポーターT細胞の活性化。活性化は、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、CD3下流シグナル伝達の強度の定量化によって評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図4D】高い(HeLa-FolR1)、中程度(Skov3)及び低い(HT29)標的発現レベルを有するFolR1
+標的細胞の存在下で、FolR1に対する高い(16D5)、中程度(16D5 W96Y)又は低い(16D5 G49S/K53A)親和性を有する抗体と組み合わせて、異なるヒト化バージョンのP329Gバインダーを使用する抗P329G CAR JurkatレポーターT細胞の活性化。活性化は、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、CD3下流シグナル伝達の強度の定量化によって評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図4E】高い(HeLa-FolR1)、中程度(Skov3)及び低い(HT29)標的発現レベルを有するFolR1
+標的細胞の存在下で、FolR1に対する高い(16D5)、中程度(16D5 W96Y)又は低い(16D5 G49S/K53A)親和性を有する抗体と組み合わせて、異なるヒト化バージョンのP329Gバインダーを使用する抗P329G CAR JurkatレポーターT細胞の活性化。活性化は、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、CD3下流シグナル伝達の強度の定量化によって評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図4F】高い(HeLa-FolR1)、中程度(Skov3)及び低い(HT29)標的発現レベルを有するFolR1
+標的細胞の存在下で、FolR1に対する高い(16D5)、中程度(16D5 W96Y)又は低い(16D5 G49S/K53A)親和性を有する抗体と組み合わせて、異なるヒト化バージョンのP329Gバインダーを使用する抗P329G CAR JurkatレポーターT細胞の活性化。活性化は、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、CD3下流シグナル伝達の強度の定量化によって評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図4G】高い(HeLa-FolR1)、中程度(Skov3)及び低い(HT29)標的発現レベルを有するFolR1
+標的細胞の存在下で、FolR1に対する高い(16D5)、中程度(16D5 W96Y)又は低い(16D5 G49S/K53A)親和性を有する抗体と組み合わせて、異なるヒト化バージョンのP329Gバインダーを使用する抗P329G CAR JurkatレポーターT細胞の活性化。活性化は、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、CD3下流シグナル伝達の強度の定量化によって評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図4H】高い(HeLa-FolR1)、中程度(Skov3)及び低い(HT29)標的発現レベルを有するFolR1
+標的細胞の存在下で、FolR1に対する高い(16D5)、中程度(16D5 W96Y)又は低い(16D5 G49S/K53A)親和性を有する抗体と組み合わせて、異なるヒト化バージョンのP329Gバインダーを使用する抗P329G CAR JurkatレポーターT細胞の活性化。活性化は、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、CD3下流シグナル伝達の強度の定量化によって評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図4I】高い(HeLa-FolR1)、中程度(Skov3)及び低い(HT29)標的発現レベルを有するFolR1
+標的細胞の存在下で、FolR1に対する高い(16D5)、中程度(16D5 W96Y)又は低い(16D5 G49S/K53A)親和性を有する抗体と組み合わせて、異なるヒト化バージョンのP329Gバインダーを使用する抗P329G CAR JurkatレポーターT細胞の活性化。活性化は、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、CD3下流シグナル伝達の強度の定量化によって評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図5】結合部分としてP329Gバインダーの異なるヒト化バージョンを使用する抗P329G CAR Jurkat NFATレポーターT細胞の活性化。レポーター細胞の活性を、IgG及びHeLa(FolR1
+)標的細胞を標的とする抗FolR1(16D5)P329G IgG1の存在下で評価した(
図5A)。抗体の用量依存性活性化を、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用したCD3下流シグナル伝達の強度の定量化によって評価し、曲線下面積を計算した(
図5B)。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図6】結合部分としてP329Gバインダーの異なるヒト化バージョンを使用する抗P329G CAR Jurkat NFATレポーターT細胞の活性化。レポーター細胞の活性を、IgG及びHeLa(HER2
+)標的細胞を標的とする抗HER2(ペルツズマブ)P329G IgG1の存在下で評価した(
図6A)。抗体の用量依存性活性化を、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用したCD3下流シグナル伝達の強度の定量化によって評価し、曲線下面積を計算した(
図6B)。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
【
図7】ジスルフィド安定化VHxVL1 scFvバリアントのCAR表面発現を示す。
【
図8】HuR968B及びHuR9684M CAR構築物の概略図。HuR9684M構築物にはIgG4M-CD28TM-CD28CSD-CD3zを、HuR968BにはG4S-CD8TM-4-1BBCSD-CD3zを用いた。
【
図9】描かれているのは、HEK293T細胞におけるHuR968BとHuR9684Mの発現である。
【
図10A】それぞれのPG CAR構築物HuR968B及びHuR9684M(
図9A)並びに非形質導入対照(
図9A)の発現を示す代表的なフローサイトメトリーデータ。CARの総発現量は18%から36%の範囲にある。
【
図10B】それぞれのPG CAR構築物HuR968B及びHuR9684M(
図9A)並びに非形質導入対照(
図9A)の発現を示す代表的なフローサイトメトリーデータ。CARの総発現量は18%から36%の範囲にある。
【
図11】xCELLigenceによって測定された、HuR968B、HuR9684M構築物、及び従来の8E5 CAR-T細胞を使用したPG CARの死滅効果が実証されている。標的細胞としてクローディン18.2発現DAN-G18.2腫瘍細胞を使用し、HuR9684M又はHuR968B PG CARを発現するドナー(PCH20201100004)T細胞と試験した。E:T比1:2として、IgG濃度として100ng/mlのP329G クローディン18.2 A6抗体を使用した。
【
図12】LDH放出によって測定された、異なる濃度のA6又はZmab PG IgGと組み合わせたHuR968B CAR-T細胞の死滅効果を示す。CLDN18.2を発現するDAN-G18.2を標的細胞として使用し、HuR968B CAR-T細胞をエフェクター細胞として使用した。
【発明を実施するための形態】
【0046】
定義
以下で別途定義されない限り、用語は当技術分野で一般的に使用されるように本明細書で使用される。
【0047】
本明細書の目的では、「アクセプターヒトフレームワーク」とは、以下に定義するように、ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークに由来する軽鎖可変ドメイン(VL)フレームワーク又は重鎖可変ドメイン(VH)フレームワークのアミノ酸配列を含むフレームワークである。ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワーク「由来の」アクセプターヒトフレームワークは、その同じアミノ酸配列を含んでいてもよく、又はアミノ酸配列の変更を含んでいてもよい。いくつかの態様では、アミノ酸変化の数は10個以下、9個以下、8個以下、7個以下、6個以下、5個以下、4個以下、3個以下、又は2個以下である。いくつかの態様では、VLアクセプターヒトフレームワークは、VLヒト免疫グロブリンフレームワーク配列又はヒトコンセンサスフレームワーク配列と配列が同一である。
【0048】
「活性化Fc受容体」は、抗体のFcドメインの結合に続いて、受容体保有細胞を刺激してエフェクター機能を実行するシグナル伝達事象を誘発するFc受容体である。ヒト活性化Fc受容体には、FcγRIIIa(CD16a)、FcγRI(CD64)、FcγRIIa(CD32)及びFcαRI(CD89)が含まれる。
【0049】
「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」(「ADCC」)は、抗体でコートされた標的細胞の免疫エフェクター細胞による溶解につながる免疫機構である。該標的細胞は、通常Fc領域に対するN末端であるタンパク質部分を介してFc領域を含む抗体又はその誘導体が特異的に結合する細胞である。本明細書で使用される場合、「ADCCの低下」という用語は、上で定義したADCCの機構により、標的細胞を取り囲む培地中の所定の抗体濃度で、所定の時間内に溶解される標的細胞の数の減少、及び/又はADCCの機構により、所定の時間内に所定の数の標的細胞の溶解を達成するために必要な、標的細胞を取り囲む培地中の抗体濃度の上昇のいずれかとして定義される。ADCCの低下は、同じ標準的な生産、精製、製剤化及び保存方法(これらは当業者に知られている)を用いて、同じ種類の宿主細胞によって生産された同じ抗体であるが操作されていない抗体によって媒介されるADCCに対するものである。例えば、FcドメインにADCCを低下させるアミノ酸置換を含む抗体によって媒介されるADCCの低下は、Fcドメインにこのアミノ酸置換を含まない同じ抗体によって媒介されるADCCに対するものである。ADCCを測定するための適切なアッセイは、当技術分野で周知である(例えば、PCT公開番号WO2006/082515又はPCT公開番号WO2012/130831を参照)。
【0050】
薬剤、例えば、薬学的組成物の「有効量」は、所望の治療結果又は予防結果を達成するために必要な投薬量及び所要期間で有効な量を指す。
【0051】
「親和性」は、分子(例えば、抗体)の単一の結合部位とその結合パートナー(例えば、抗原)との間の非共有相互作用の総和の強度を指す。別段示されない限り、本明細書で使用される場合、「結合親和性」とは、結合対のメンバー(例えば、抗体と抗原との)間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性のことを指す。分子Xの、そのパートナーYに対する親和性は、一般に解離定数(KD)によって表すことができる。親和性は、本明細書中に記載のものも含め、当技術分野で知られている一般的な方法により測定することができる。結合親和性を測定するための具体的な実例となる例示的な方法を以下に記載する。
【0052】
「アミノ酸」という用語は、天然に存在するアミノ酸及び合成アミノ酸、並びに天然に存在するアミノ酸と同様に機能するアミノ酸アナログ及びアミノ模倣物を指す。天然に存在するアミノ酸とは、遺伝暗号によってコードされているアミノ酸と、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、O-ホスホセリンなど、後に修飾されるアミノ酸のことである。アミノ酸アナログとは、天然に存在するアミノ酸と同じ基本的な化学構造、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基及びR基に結合したα炭素を有する化合物、例えばホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを指す。このようなアナログは、修飾されたR基(例えばノルロイシン)又は修飾されたペプチド骨格を有するが、天然に存在するアミノ酸と同じ基本化学構造を保持している。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を持ちながら、天然に存在するアミノ酸と同様に機能する化合物を指す。アミノ酸は、本明細書では、一般に知られている3文字記号又はIUPAC-IUB生化学命名委員会が推奨する1文字記号のいずれかによって表され得る。
【0053】
本明細書で使用される「アミノ酸変異」という用語は、アミノ酸の置換、欠失、挿入、及び修飾を包含することを意味する。最終構築物が所望の特徴(例えば、Fc受容体への結合の減少又は別のペプチドとの会合の増加)を有することを条件として、置換、欠失、挿入及び修飾の任意の組み合わせを行って最終構築物に到達することができる。アミノ酸配列の欠失及び挿入には、アミノ酸のアミノ末端及び/又はカルボキシ末端の欠失及び挿入が含まれる。特定のアミノ酸変異はアミノ酸置換である。例えばFc領域の結合特性を変化させるためには、非保存的アミノ酸置換、すなわち1つのアミノ酸を異なる構造的及び/又は化学的特性を有する別のアミノ酸で置き換えることが特に好ましい。アミノ酸置換には、天然に存在しないアミノ酸による、又は20種類の標準アミノ酸(例えば、4-ヒドロキシプロリン、3-メチルヒスチジン、オルニチン、ホモセリン、5-ヒドロキシリジン)の天然に存在するアミノ酸誘導体による置き換えが含まれる。アミノ酸変異は、当技術分野で周知の遺伝学的方法又は化学的方法を用いて生成することができる。遺伝学的方法は、部位特異的変異誘発、PCR、遺伝子合成等を含み得る。化学修飾などの遺伝子工学以外の方法によってアミノ酸の側鎖基を改変する方法も有用であり得ることが考えられる。本明細書では、同じアミノ酸変異を示すために様々な名称が使用され得る。例えば、Fcドメインの329位におけるプロリンからグリシンへの置換は、329G、G329、G329、P329G又はPro329Glyと示され得る。
【0054】
「抗体」という用語は、本明細書では最も広い意味で使用され、限定されるものではないが、それらが所望の抗原結合活性を呈する限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び抗体断片を含めた、様々な抗体構造を包含する。
【0055】
「抗体断片」とは、インタクトな抗体が結合する抗原に結合するインタクトな抗体の一部を含む、インタクトな抗体以外の分子を指す。抗体断片の例としては、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2;ダイアボディ;直鎖状抗体;一本鎖抗体分子(例えばscFv、及びscFab);単一ドメイン抗体(dAb)、及び抗体断片から形成された多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。特定の抗体断片の概説については、Holliger and Hudson,Nature Biotechnology 23:1126-1136(2005)を参照されたい。
【0056】
「抗原結合ドメイン」という用語は、抗原の一部又は全部に特異的に結合し、且つ抗原の一部又は全部に相補的な領域を含む抗体の部分を指す。抗原結合ドメインは、例えば、1つ以上の抗体可変ドメイン(抗体可変領域とも呼ばれる)によって提供されてもよい。特に、抗原結合ドメインは、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)及び抗体重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0057】
本明細書で使用される場合、「抗原結合分子」という用語は、その最も広い意味で、抗原決定基に特異的に結合する分子を指す。抗原結合分子の例は、免疫グロブリン及びその誘導体、例えばその断片、並びに抗原結合受容体及びその誘導体である。
【0058】
本明細書で使用される場合、「抗原結合部分」という用語は、抗原決定基に特異的に結合するポリペプチド分子を指す。一実施態様では、抗原結合部分は、それが結合する実体(例えば、該抗原結合部分を含む抗原結合受容体を発現している細胞)を標的部位へ、例えば、抗原決定基を有する特定の型の腫瘍細胞又は腫瘍間質へと誘導することができる。抗原結合部分には、本明細書でさらに定義される抗体及びその断片が含まれる。特定の抗原結合部分は、抗体重鎖可変領域及び抗体軽鎖可変領域を含む、抗体の抗原結合ドメイン(例えば、scFv断片)を含む。特定の実施態様では、該抗原結合部分は、本明細書でさらに定義され、且つ当技術分野で知られている抗体定常領域を含み得る。有用な重鎖定常領域は、α、δ、ε、γ又はμの5種類のアイソタイプのいずれかを含む。有用な軽鎖定常領域には、2つのアイソタイプ:κ及びλのいずれかが含まれる。
【0059】
本発明の文脈において、「抗原結合受容体」という用語は、アンカー膜貫通ドメインと、少なくとも1つの抗原結合部分を含む細胞外ドメインとを含む抗原結合分子に関する。抗原結合受容体は、異なる供給源からのポリペプチド部分から作ることができる。したがって、抗原結合受容体は、「融合タンパク質」及び/又は「キメラタンパク質」としても理解され得る。通常、融合タンパク質は、もともと別々のタンパク質をコードしていた2つ以上の遺伝子(好ましくはcDNA)を結合して作られるタンパク質である。この融合遺伝子(又は融合cDNA)を翻訳すると、好ましくは、元のタンパク質のそれぞれに由来する機能特性を持つ単一のポリペプチドが得られる。組換え融合タンパク質は、生物学的研究又は治療における使用のために、組換えDNA技術によって人工的に作られる。本発明の抗原結合受容体のさらなる詳細は、本明細書において後述する。本発明の文脈において、CAR(キメラ抗原受容体)は、それ自体が細胞内シグナル伝達ドメインに融合しているアンカー膜貫通ドメインにスペーサー配列によって融合された抗原結合部分を含む細胞外部分を含む抗原結合受容体であると理解される。
【0060】
「抗原結合部位」とは、抗原との相互作用を提供する抗原結合分子の部位、すなわち1つ又は複数のアミノ酸残基を指す。例えば、抗体の抗原結合部位は、相補性決定領域(CDR)からのアミノ酸残基を含む。天然の免疫グロブリン分子は、典型的には2つの抗原結合部位を有し、Fab分子は、典型的には単一の抗原結合部位を有する。
【0061】
「抗原結合ドメイン」という用語は、抗原の一部又は全部に特異的に結合し、且つ抗原の一部又は全部に相補的な領域を含む抗体又は抗原結合受容体の部分を指す。抗原結合ドメインは、例えば、1つ又は複数の免疫グロブリン可変ドメイン(可変領域とも呼ばれる)により提供され得る。特に、抗原結合ドメインは、免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL)及び免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0062】
本明細書で使用される場合、「抗原決定基」という用語は、「抗原」及び「エピトープ」と同義であり、抗原結合部分が結合して抗原結合部分-抗原複合体を形成するポリペプチド高分子上の部位(例えばアミノ酸の連続ストレッチ又は非連続アミノ酸の異なる領域から構成される立体構造(conformational configuration)を指す。有用な抗原決定基は、例えば、腫瘍細胞の表面上に、ウイルス感染した細胞の表面上に、他の疾患細胞の表面上に、免疫細胞の表面上に、血清中で遊離して、及び/又は細胞外マトリックス(ECM)中に認めることができる。特に断らない限り、本明細書において抗原と呼ばれるタンパク質は、霊長類(例えばヒト)及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)などの哺乳動物を含む任意の脊椎動物源由来のタンパク質の天然型を指す。特定の実施態様では、抗原は、ヒトタンパク質である。本明細書において特定のタンパク質が言及される場合、その用語は、「完全長」、未処理のタンパク質だけではなく、細胞内でのプロセシングから生じる任意の型のタンパク質を包含する。この用語はまた、天然に存在するタンパク質バリアント、例えば、スプライスバリアント又は対立遺伝子バリアントを包含する。
【0063】
本発明による「変異Fcドメインを含む抗体」、すなわち治療用抗体は、1、2、3又はそれ以上の結合ドメインを有してよく、単一特異性、二重特異性又は多重特異性であってもよい。該抗体は、単一種からの完全長であっても、キメラ化若しくはヒト化されていてもよい。2つを超える抗原結合ドメインを持つ抗体の場合、一部の結合ドメインが同一であり、且つ/又は同じ特異性を有する場合がある。
【0064】
本明細書で使用される「ATD」という用語は、細胞の1つ又は複数の細胞膜に組み込むことができるポリペプチドストレッチを画定する「アンカー膜貫通ドメイン」を指す。ATMは細胞外及び/又は細胞内ポリペプチドドメインに融合することができ、これらの細胞外及び/又は細胞内ポリペプチドドメインは、細胞膜に限局している。本発明の抗原結合受容体の場合、ATMは、本発明の抗原結合受容体の膜付着及び限局を付与する。本発明の抗原結合受容体は、少なくとも1つのATMと、抗原結合部分を含む細胞外ドメインとを含む。また、ATMは細胞内シグナル伝達ドメインに融合している場合もある。
【0065】
「特異的結合」とは、結合が抗原に対して選択的であり、望ましくない相互作用又は非特異的相互作用から区別できることを意味する。抗原結合部分が特定の抗原決定基に結合する能力は、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)又は当業者には知られている他の技術、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)技術(BIAcore機器で分析される)(Liljeblad et al.,Glyco J 17,323-329(2000))、及び従来の結合アッセイ(Heeley,Endocr Res 28,217-229(2002))のいずれかによって測定することができる。一実施態様では、無関係なタンパク質に対する抗原結合部分の結合の程度は、例えばSPRによって測定される抗原に対する抗原結合部分の結合の約10%未満である。特定の実施態様では、抗原に結合する抗原結合部分、又は抗原結合部分を含む抗原結合分子は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、又は≦0.001nM(例えば、10-8M以下、例えば10-8M~10-13M、例えば、10-9M~10-13M)の解離定数(KD)を有する。
【0066】
本明細書で使用される「CDR」という用語は、当技術分野で周知の「相補性決定領域」に関する。CDRは、免疫グロブリン又は抗原結合受容体の一部であり、前記分子の特異性を決定し、特定のリガンドと接触させるものである。CDRは該分子の最も可変的な部分であり、このような分子の抗原結合多様性に寄与している。各Vドメインには、3つのCDR領域CDR1、CDR2及びCDR3が存在する。CDR-Hは可変重鎖のCDR領域を表し、CDR-Lは可変軽鎖のCDR領域を表す。VHは可変重鎖を意味し、VLは可変軽鎖を意味する。Ig由来領域のCDR領域は、「Kabat」(Sequences of Proteins of Immunological Interest”,第5版、NIH Publication no.91-3242 U.S.Department of Health and Human Services(1991)、Chothia J.Mol.Biol.196(1987),901-917)又は「Chothia」(Nature 342(1989),877-883)に記載されるように決定され得る。
【0067】
「CD3z」という用語は、T細胞表面糖タンパク質CD3ゼータ鎖を指し、「T細胞受容体T3ゼータ鎖」及び「CD247」としても知られる。
【0068】
「キメラ抗原受容体」又は「キメラ受容体」又は「CAR」という用語は、スペーサー配列によって細胞内シグナル伝達ドメイン/共シグナル伝達ドメイン(例えば、CD3z及びCD28のもの)に融合された、抗原結合部分の細胞外部分(例えば一本鎖抗体ドメイン)から構成された抗原結合受容体を指す。
【0069】
抗体の「クラス」は、その重鎖によって保有される定常ドメイン又は定常領域のタイプを指す。抗体の5つの主なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMがあり、これらのいくつかは、さらにサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2に分けることができる。ある特定の態様では、抗体はIgG1アイソタイプのものである。特定の態様では、抗体は、Fc領域エフェクター機能を低下させるためのP329G、L234A及びL235A突然変異を有するIgG1アイソタイプのものである。他の態様では、抗体はIgG2アイソタイプのものである。ある特定の態様では、抗体は、IgG4抗体の安定性を改善するためにヒンジ領域にS228P変異を有するIgG4アイソタイプのものである。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ及びμと呼ばれる。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2つのタイプのいずれかに割り当てることができる。
【0070】
本出願で使用される用語「ヒト起源由来の定常領域」又は「ヒト定常領域」は、サブクラスIgG1、IgG2、IgG3若しくはIgG4のヒト抗体の定常重鎖領域、及び/又は定常軽鎖カッパ領域若しくはラムダ領域を示す。そのような定常領域は、ヒト又はヒト化抗体において使用することができ、当技術分野において周知であり、例えば、Kabat,E.A.,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)に記載されている(また、例えばJohnson,G.,and Wu,T.T.,Nucleic Acids Res.28(2000)214-218;Kabat,E.A.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 72(1975)2785-2788も参照)。本明細書で特に明記されない限り、定常領域におけるアミノ酸残基の番号付けは、Kabat,E.A.et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991),NIH Publication 91-3242に記載されるような、EU番号付けシステム(Kabat EUインデックスとも呼ばれる)に従う。
【0071】
「クロスオーバー」Fab分子(「Crossfab」とも称される)とは、Fab重鎖の可変ドメインとFab軽鎖の可変ドメインが交換されている(すなわち互いによって置き換えられている)Fab分子を意味し、すなわちクロスオーバーFab分子は、軽鎖可変ドメインVL及び重鎖定常ドメイン1 CH1(VL-CH1、N末端からC末端の方向に)から構成されるペプチド鎖と、重鎖可変ドメインVH及び軽鎖定常ドメインCL(VH-CL、N末端からC末端の方向に)から構成されるペプチド鎖とを含む。明確にするために本明細書では、Fab軽鎖の可変ドメインとFab重鎖の可変ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子において、重鎖定常ドメイン1 CH1を含むペプチド鎖をクロスオーバーFab分子の「重鎖」と呼ぶ。
【0072】
本明細書で使用される「CSD」という用語は、共刺激シグナル伝達ドメインを指す。
【0073】
「エフェクター機能」は、抗体アイソタイプによって異なる、抗体のFc領域に起因する生物活性を指す。抗体エフェクター機能の例としては:C1q結合及び補体依存性細胞傷害(CDC)、Fc受容体結合、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、食作用、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)のダウンレギュレーション、並びにB細胞活性化が挙げられる。
【0074】
本明細書で使用される場合、「操作する(engineer)、操作された(engineered)、操作(engineering)」という用語は、ペプチド骨格の任意の操作、又は天然に存在するポリペプチド若しくは組換えポリペプチド又はその断片の翻訳後修飾を含むと考えられる。操作には、アミノ酸配列の修飾、グリコシル化パターンの修飾又は個々のアミノ酸の側鎖基の修飾、並びにこれらの手法の組み合わせが含まれる。
【0075】
「発現カセット」という用語は、標的細胞における特定の核酸の転写を可能にする一連の特定の核酸エレメントを有する、組換え的又は合成的に生成されたポリヌクレオチドを指す。組換え発現カセットは、プラスミド、染色体、ミトコンドリアDNA、プラスチドDNA、ウイルス、又は核酸断片に組み込むことができる。典型的には、発現ベクターの組換え発現カセット部分には、他の配列の中でも特に、転写される核酸配列及びプロモーターが含まれる。特定の実施態様では、本発明の発現カセットは、本発明の二重特異性抗原結合分子をコードするポリヌクレオチド配列又はその断片を含む。
【0076】
「Fab分子」は、免疫グロブリンの重鎖のVH及びCH1ドメイン(「Fab重鎖」)と、軽鎖のVL及びCLドメイン(「Fab軽鎖」)とからなるタンパク質を指す。
【0077】
本明細書の「Fcドメイン」又は「Fc領域」という用語は、定常領域の少なくとも一部を含有する免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。この用語には、天然配列Fc領域及びバリアントFc領域が含まれる。IgG重鎖のFc領域の境界は、わずかに変動してもよいが、ヒトIgG重鎖Fc領域は通常、Cys226から、又はPro230から、重鎖のカルボキシ末端まで伸長するよう定義されている。しかし、宿主細胞によって産生される抗体は、重鎖のC末端から1つ以上、特に1つ又は2つのアミノ酸の翻訳後切断を受けることがある。したがって、完全長重鎖をコードする特定の核酸分子の発現により、宿主細胞によって産生される抗体は、完全長重鎖を含むことも、完全長重鎖の切断されたバリアント(本明細書では「切断されたバリアント重鎖」とも呼ぶ)を含むこともある。これは、重鎖の最後の2つのC末端アミノ酸がグリシン(G446)及びリジン(K447、Kabat EUインデックスによる番号付け)である場合に当てはまる。したがって、Fc領域のC末端リジン(Lys447)、又はC末端グリシン(Gly446)及びリジン(K447)が存在してもよく、又は存在していなくてもよい。Fcドメイン(又は本明細書に定義されるFcドメインのサブユニット)を含む重鎖のアミノ酸配列は、特に示されていない場合には、本明細書では、C末端グリシン-リジンジペプチドを含まずに示される。本発明の一実施態様では、本明細書で定義されているFcドメインのサブユニットを含む重鎖は、追加のC末端グリシン-リジンジペプチド(G446及びK447、KabatのEUインデックスによる番号付け)を含んでいる。本発明の一実施態様では、本明細書で定義されているFcドメインのサブユニットを含む重鎖は、追加のC末端グリシン残基(G446、KabatのEUインデックスによる番号付け)を含んでいる。本明細書に記載の薬学的組成物など、本発明の組成物は、本発明の抗原結合分子の集団を含んでいる。抗原結合分子の集団は、完全長重鎖を有する分子と、切断されたバリアント重鎖を有する分子とを含み得る。抗原結合分子の集団は、完全長重鎖を有する分子と切断されたバリアント重鎖を有する分子との混合物から構成されてもよく、抗原結合分子の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%は、切断されたバリアント重鎖を有する。本発明の一実施態様では、本発明の抗原結合分子の集団を含む組成物は、追加的なC末端グリシン-リジンジペプチド(G446及びK447、KabatのEUインデックスによる番号付け)を有する、本明細書に明記されているFcドメインのサブユニットを含む重鎖を含む抗原結合分子を含んでいる。本発明の一実施態様では、本発明の抗原結合分子の集団を含む組成物は、追加的なC末端グリシン残基(G446、KabatのEUインデックスによる番号付け)を有する、本明細書に明記されているFcドメインのサブユニットを含む重鎖を含む免疫活性化Fcドメイン結合分子を含んでいる。本発明の一実施態様では、このような組成物は、本明細書に明記されているFcドメインのサブユニットを含む重鎖を含む分子から構成される抗原結合分子の集団;追加のC末端グリシン残基(G446、KabatのEUインデックスによる番号付け)を有する、本明細書に明記されているFcドメインのサブユニットを含む重鎖を含む分子(G446、KabatのEUインデックスによる番号付け);及び追加のC末端グリシン-リジンジペプチドを有する、本明細書に明記されているFcドメインのサブユニットを含む重鎖を含む分子(G446及びK447、KabatのEUインデックスによる番号付け)を含んでいる。本明細書に別途指定のない限り、Fc領域又は定常領域内のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991(上記も参照)に記載されている、EUインデックスとも呼ばれるEU番号付けシステムに従う。本明細書で使用される場合、Fcドメインの「サブユニット」)は、二量体Fcドメインを形成する2つのポリペプチドのうちの1つ、すなわち、安定な自己会合が可能な免疫グロブリン重鎖のC末端定常領域を含むポリペプチドを指す。例えば、IgG Fcドメインのサブユニットは、IgG CH2及びIgG CH3定常ドメインを含む。
【0078】
「フレームワーク」又は「FR」は、相補性決定領域(CDR)以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、一般に、4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3及びFR4からなる。したがって、CDR及びFR配列は、一般に、VH(又はVL)中で以下の配列で現れる。FR1-CDR-H1(CDR-L1)-FR2-CDR-H2(CDR-L2)-FR3-CDR-H3(CDR-L3)-FR4。
【0079】
「完全長抗体」、「インタクトな抗体」及び「全抗体」という用語は、本明細書で互換的に使用され、天然抗体構造と実質的に類似した構造を有する抗体、又は本明細書で定義されるFc領域を含む重鎖を有する抗体を指す。
【0080】
「融合した」とは、成分同士(例えば、Fab及び膜貫通ドメイン)が、ペプチド結合により、直接的に又は1つ若しくは複数のペプチドリンカーを介して結合されていることを意味する。
【0081】
「宿主細胞」、「宿主細胞株」、及び「宿主細胞培養物」という用語は互換的に使用され、外因性核酸が導入された細胞(そのような細胞の子孫を含む)を指す。宿主細胞には、「形質転換体」及び「形質転換細胞」が含まれ、これらには、初代形質転換細胞と、継代の数に関係なく、それに由来する子孫とが含まれる。子孫は、核酸の含有量が親細胞と完全に同一でなくてもよく、変異を含んでいてもよい。元の形質転換細胞においてスクリーニング又は選択されたのと同じ機能又は生物学的活性を有する変異子孫が本明細書に含まれる。
【0082】
「ヒト抗体」は、ヒト若しくはヒト細胞によって産生される抗体、又はヒト抗体レパートリー若しくは他のヒト抗体コード配列を利用する非ヒト供給源に由来する抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有する抗体である。このヒト抗体の定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を明確に除外する。
【0083】
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVL又はVHフレームワーク配列の選択において最も一般的に存在するアミノ酸残基を表すフレームワークである。一般的に、ヒト免疫グロブリンVL又はVH配列の選択は、可変ドメイン配列のサブグループに由来する。一般的には、配列のサブグループは、Kabatら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版,NIH Publication 91-3242,Bethesda MD(1991),1-3巻におけるようなサブグループである。一態様では、VLについて、該サブグループは上掲のKabatらにあるようなサブグループカッパIである。一態様では、VHについて、該サブグループは上掲のKabatらにあるようなサブグループIIIである。
【0084】
「ヒト化」抗体(例えば、ヒト化scFv断片)とは、非ヒトCDRのアミノ酸残基とヒトFRのアミノ酸残基とを含むキメラ抗体を指す。ある特定の態様では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全部を含み、CDRの全部又は実質的に全部が非ヒト抗体のCDRに対応し、FRの全部又は実質的に全部がヒト抗体のFRに対応する。ヒト化抗体は、任意選択で、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部を含み得る。抗体、例えば、非ヒト抗体の「ヒト化形態」は、ヒト化を受けた抗体を指す。
【0085】
本明細書で使用する場合、用語「超可変領域」又は「HVR」とは、配列が超可変であり、抗原結合特異性を決定する抗体可変ドメインの各領域、例えば「相補性決定領域」(CDR)を指す。
【0086】
一般に、抗体は6つのCDRを含み、3つがVH中にあり(CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3)、3つがVL中にある(CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3)。本明細書における例示的なCDRとしては、以下のものが挙げられる:
(a)アミノ酸残基26~32(L1)、50~52(L2)、91~96(L3)、26~32(H1)、53~55(H2)、及び96~101(H3)に存在する超可変ループ(Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.196:901-917(1987));
(b)アミノ酸残基24-34(L1)、50-56(L2)、89-97(L3)、31-35b(H1)、50-65(H2)及び95-102(H3)に存在するCDR(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991));及び
(c)アミノ酸残基27c~36(L1)、46~55(L2)、89~96(L3)、30~35b(H1)、47~58(H2)、及び93~101(H3)に存在する抗原接触部位(MacCallum et al.J.Mol.Biol.262:732-745(1996))。
【0087】
別途指定されない限り、CDRは、上掲のKabat et al.に従って決定される。当業者であれば、CDRの命名はまた、上掲のChothia、上掲のMcCallum、又は任意の他の科学的に認められた命名法に従って決定され得ることを理解するであろう。
【0088】
「イムノコンジュゲート」とは、細胞傷害性剤を含むがそれに限定されない、1つ以上の異種分子にコンジュゲートされた抗体である。
【0089】
「個体」又は「対象」は、哺乳動物である。哺乳動物には、限定されないが、家畜動物(例えばウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ウマ)、霊長類(例えばヒト、及びサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、及びげっ歯類(例えばマウス及びラット)が含まれる。特定の態様では、個体又は対象は、ヒトである。
【0090】
「単離された」抗体は、その天然環境の成分から分離された抗体である。いくつかの態様では、抗体は、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動法(IEF)、キャピラリー電気泳動)又はクロマトグラフィー(例えば、イオン交換又は逆相HPLC)法によって決定された場合、95%又は99%よりも高い純度まで精製される。抗体純度の評価のための方法の総説については、例えば、Flatman et al.,J.Chromatogr.B 848:79-87(2007)を参照。
【0091】
「免疫グロブリン分子」という用語は、天然に存在する抗体の構造を有するタンパク質を指す。例えば、IgGクラスの免疫グロブリンは、ジスルフィド結合している2つの軽鎖及び2つの重鎖から構成される約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端まで、各重鎖は可変重鎖ドメイン又は重鎖可変領域とも呼ばれる可変ドメイン(VH)を有し、それに続いて重鎖定常領域とも呼ばれる3つの定常ドメイン(CH1、CH2、及びCH3)を有する。同様に、N末端からC末端まで、各軽鎖は可変軽鎖ドメイン又は軽鎖可変領域とも呼ばれる可変ドメイン(VL)を有し、それに続いて軽鎖定常領域とも呼ばれる定常軽鎖(CL)ドメインを有する。免疫グロブリンの重鎖は、α(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)又はμ(IgM)と呼ばれる5種類のうちの1つに割り当てることができ、そのうちのいくつかはサブタイプ、例えばγ1(IgG1)、γ2(IgG2)、γ3(IgG3)、γ4(IgG4)、α1(IgA1)及びα2(IgA2)にさらに分類することできる。免疫グロブリンの軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2種類の1つに割り当てられてもよい。免疫グロブリンは、本質的に、免疫グロブリンのヒンジ領域を介して結合された2つのFab分子とFcドメインからなる。
【0092】
「単離された核酸」分子又はポリヌクレオチドとは、その天然環境から取り出された核酸分子であるDNA又はRNAである。例えば、ベクターに含まれるポリペプチドをコードする組換えポリヌクレオチドは、本発明の目的のために単離されていると考えられる。単離されたポリヌクレオチドのさらなる例には、異種宿主細胞内に維持されている組換えポリヌクレオチド、又は溶液中の(部分的に又は実質的に)精製されたポリヌクレオチドが挙げられる。単離されたポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチド分子を通常含む細胞に含まれるポリヌクレオチド分子を含むが、そのポリヌクレオチド分子は、染色体外に、又は天然の染色体上の位置とは異なる染色体位置に存在している。単離されたRNA分子は、本発明のin vivo又はin vitroRNA転写物と、陽性及び陰性の鎖形態、及び二本鎖形態を含む。さらに、本発明の単離されたポリヌクレオチド又は核酸には、合成により生成されたそのような分子が含まれる。加えて、ポリヌクレオチド又は核酸は、プロモーター、リボソーム結合部位、又は転写ターミネーター等の調節エレメントであってもよく、又は調節エレメントを含んでいてもよい。
【0093】
本発明の参照ヌクレオチド配列と、例えば、少なくとも95%「同一」であるヌクレオチド配列を有する核酸又はポリヌクレオチドとは、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が、参照ヌクレオチド配列の各100ヌクレオチドあたり5つまでの点突然変異を含み得ること以外は、参照配列と同一であることを意味する。言い換えれば、参照ヌクレオチド配列と少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを得るために、参照配列中最大5%のヌクレオチドが欠失しているか又は別のヌクレオチドで置換されていてもよく、あるいは参照配列中の全ヌクレオチドの最大5%の数のヌクレオチドが参照配列に挿入されていてもよい。参照配列のこのような改変は、参照ヌクレオチド配列の5’若しくは3’末端位置で発生しても、これらの末端位置の間の任意の位置で発生してもよく、参照配列内の残基間に個別に散在しているか又は参照配列内に1つ若しくは複数の連続したグループで散在しているかのいずれかである。実際問題として、任意の特定のポリヌクレオチド配列が、本発明のヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるかどうかは、ポリペプチドについて後で考察するもの(例えば、ALIGN-2)のような公知のコンピュータプログラムを用いて、従来通りに決定することができる。
【0094】
「単離された」ポリペプチド又はそのバリアント若しくは誘導体とは、その天然の環境に存在しないポリペプチドを意味する。特定のレベルの精製は必要とされない。例えば、単離されたポリペプチドは、その天然又は自然の環境から取り出すことができる。宿主細胞で発現された組換え生産ポリペプチド及びタンパク質は、任意の適切な技術によって分離、分画、又は部分的若しくは実質的に精製された天然又は組換えポリペプチドと同様に、本発明のために単離されたものと見なされる。
【0095】
「Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促進する修飾」は、Fcドメインサブユニットを含むポリペプチドと同一のポリペプチドとの会合によるホモ二量体の形成を低減又は防止する、ペプチド骨格の操作又はFcドメインサブユニットの翻訳後修飾である。本明細書で使用される会合を促進する修飾は、会合することが望ましい2つのFcドメインサブユニット(すなわちFcドメインの第1及び第2のサブユニット)の各々に対して行われる別々の修飾を特に含み、この修飾は2つのFcドメインサブユニットの会合を促進するために互いに対して相補的である。例えば、会合を促進する修飾は、Fcドメインサブユニットの一方又は両方の構造又は電荷を変化させて、それらの会合をそれぞれ立体的又は静電的に有利にすることができる。したがって、(ヘテロ)二量体化は、第1のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドと第2のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドとの間に起こり、これらは、サブユニットの各々に融合したさらなる構成成分(例えば抗原結合部分)が同じでないという意味で同一ではない可能性がある。いくつかの実施態様では、会合を促進する修飾は、Fcドメイン内のアミノ酸変異、具体的にはアミノ酸置換を含む。特定の実施態様では、会合を促進する修飾は、Fcドメインの2つのサブユニットの各々における別々のアミノ酸変異、具体的にはアミノ酸置換を含む。
【0096】
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、実質的に均一な抗体の集合から得られる抗体を指す。すなわち、例えば、天然に存在する変異又はモノクローナル抗体調製物の製造中に生じる変異を含む、一般的に、少量存在する可能なバリアント抗体を除いて、集合を構成する個々の抗体は同一であり、且つ/又は同じエピトープを結合する。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を通常含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。したがって、修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の製造を必要とするものとして解釈されるべきではない。例えば、本発明によるモノクローナル抗体は、限定するものではないが、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、及びヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部又は一部を含有するトランスジェニック動物を利用する方法を含む様々な手法によって作製され得、このような方法、及びモノクローナル抗体を作製するための他の例示的な方法は、本明細書に記載される。
【0097】
「ネイキッド抗体」とは、異種部分(例えば、細胞傷害性部分)又は放射標識にコンジュゲートされない抗体を指す。ネイキッド抗体は、薬学的組成物で存在してもよい。
【0098】
「天然抗体」は、様々な構造を有する天然に存在する免疫グロブリン分子を指す。例えば、天然IgG抗体は、ジスルフィド結合している2つの同一の軽鎖と2つの同一の重鎖から構成される約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端に向かって、各重鎖は、可変重鎖ドメイン又は重鎖可変領域とも呼ばれる可変ドメイン(VH)、続いて、3つの定常重鎖ドメイン(CH1、CH2及びCH3)を有する。同様に、N末端からC末端に向かって、各軽鎖は、可変軽鎖ドメイン又は軽鎖可変領域とも呼ばれる可変ドメイン(VL)、続いて、定常軽鎖(CL)ドメインを有する。
【0099】
参照ポリペプチド配列に対する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」は、配列をアライメントし、最大の配列同一性パーセントを達成するために必要であればギャップを導入した後の、アライメントのためにいかなる保存的置換も配列同一性の一部として考慮しない場合の、参照ポリペプチド配列内のアミノ酸残基と同一である候補配列内のアミノ酸残基の割合として定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定するためのアライメントは、当分野の技術の範囲内にある様々な方法で、例えば、BLAST、BLAST-2、Clustal W、Megalign(DNASTAR)ソフトウェア又はFASTAプログラムパッケージなどの公的に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用して達成され得る。当業者であれば、比較する配列の全長にわたって最大のアライメントを得るのに必要な任意のアルゴリズムを含めた、配列を整列させるための適切なパラメータを決定することができる。あるいは、同一性パーセントの値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使用して生成され得る。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムは、Genentech,Inc.によって作成されており、ソースコードは、米国著作権局(Washington D.C.,20559)のユーザドキュメンテーションにファイルされており、米国著作権登録番号TXU510087の下に登録されており、国際公開第2001/007611号に記載されている。
【0100】
別途指示がない限り、本明細書における目的のために、アミノ酸配列同一性パーセントの値は、FASTAパッケージバージョン36.3.8cのggsearchプログラム、又はその後のBLOSUM50比較行列を用いて生成される。FASTAプログラムパッケージは、W.R.Pearson及びD.J.Lipman(1988),「Improved Tools for Biological Sequence Analysis」,PNAS 85:2444-2448;W.R.Pearson(1996)「Effective protein sequence comparison」Meth.Enzymol.266:227-258;及びPearson et.al.(1997)Genomics 46:24-36によって記載されており、www.fasta.bioch.virginia.edu/fasta_www2/fasta_down.shtml又はhttp://www.ebi.ac.uk/Tools/sss/fastaから一般に入手可能である。代替的に、fasta.bioch.virginia.edu/fasta_www2/index.cgiでアクセス可能な公的なサーバーを使用して、ggsearch(global protein:protein)プログラム及びデフォルトオプション(BLOSUM50;オープン:-10;ext:-2;Ktup=2)を用い、ローカルではなくグローバルのアラインメントを確実に行い、配列を比較することができる。アミノ酸同一性パーセントは、出力アライメントヘッダーに示される。「核酸分子」という用語は、ポリヌクレオチドが構成するプリン塩基とピリミジン塩基とを含む塩基の配列に関係するものであり、前記塩基は核酸分子の一次構造を表すものである。ここで、核酸分子という用語には、DNA、cDNA、ゲノムDNA、RNA、DNAの合成型、及びこれらの分子を2種以上含む混合ポリマーが含まれる。また、核酸分子という用語には、センス鎖とアンチセンス鎖の両方が含まれる。さらに、本明細書に記載の核酸分子は、当業者には容易に理解されるように、非天然の又は誘導体化されたヌクレオチド塩基を含有していてもよい。
【0101】
「添付文書」という用語は、治療用製品の市販パッケージに通例含まれる説明書であって、そのような治療用製品の使用に関する適応症、用法、用量、投与、併用療法、禁忌及び/又は警告についての情報を含む説明書を指すために使用される。
【0102】
「薬学的組成物」という用語は、その中に含まれる有効成分の生物学的活性を有効にし、製剤が投与される対象に対して受け入れられないほど毒性である付加的な構成要素を含まないような形態での製剤を指す。薬学的組成物は、1つ又は複数の薬学的に許容される担体をさらに含む。
【0103】
「薬学的に許容される担体」は、活性成分以外の、薬学的組成物中の成分であって、対象にとって毒性でない成分を指す。薬学的に許容される担体には、バッファー、添加物、安定剤、又は防腐剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0104】
本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」という用語は、アミド結合(ペプチド結合としても知られる)によって直鎖状に連結された単量体(アミノ酸)からなる分子を指す。
【0105】
「ポリペプチド」という用語は、2つ以上のアミノ酸の任意の鎖を指し、産物の特定の長さを指すものではない。したがって、ペプチド、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」又は2つ以上のアミノ酸の鎖を指す他のいずれの用語も「ポリペプチド」の定義の範囲内に含まれ、「ポリペプチド」という用語は、これら用語の代わりに、又はこれらと互換的に使用され得る。「ポリペプチド」という用語は、ポリペプチドの発現後修飾の産物を指すことも意図されており、このような産物には、限定されないが、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、既知の保護基/ブロッキング基による誘導体化、タンパク質切断、又は天然に存在しないアミノ酸による修飾が含まれる。ポリペプチドは、天然の生物学的供給源から得られるものでも組換え技術により生産されるものでもよいが、必ずしも指定された核酸配列から翻訳されたものであるとは限らない。ポリペプチドは、化学合成を含む任意の方法で生成され得る。本発明のポリペプチドは、約3以上、5以上、10以上、20以上、25以上、50以上、75以上、100以上、200以上、500以上、1000以上又は2000以上のアミノ酸からなる大きさのものであってよい。ポリペプチドは、明確に定義された三次元構造を有する場合もあるが、必ずしもそのような構造を有するとは限らない。明確に定義された三次元構造を有するポリペプチドは、「フォールディングされた」と言われ、明確に定義された三次元構造を有せずに多数の異なるコンフォメーションを採りうるポリペプチドは、「フォールディングされていない」といわれる。
【0106】
「ポリヌクレオチド」という用語は、単離された核酸分子又は構築物、例えばメッセンジャーRNA(mRNA)、ウイルス由来のRNA、又はプラスミドDNA(pDNA)を指す。ポリヌクレオチドは、一般的なホスホジエステル結合又は一般的ではない結合(例えば、ペプチド核酸(PNA)に見られるようなアミド結合)を含み得る。核酸分子という用語は、ポリヌクレオチド中に存在する任意の1つ又は複数の核酸セグメント、例えばDNA又はRNA断片を指す。
【0107】
「結合の減少」、例えばFc受容体への結合の減少は、例えばSPRによって測定される、それぞれの相互作用に対する親和性の減少を指す。明確にするために、この用語には、親和性がゼロ(又は分析法の検出限界未満)に低下すること、つまり相互作用が完全に消失することも含まれる。逆に、「結合の増加」とは、それぞれの相互作用に対する結合親和性の増加を指す。
【0108】
「調節配列」という用語は、連結されるコード配列の発現を効果的にするために必要なDNA配列を指す。このような調節配列の性質は、宿主生物によって異なる。原核生物において、調節配列にはプロモーター、リボソーム結合部位及びターミネーターが通常含まれる。真核生物においては、調節配列にはプロモーター、ターミネーター、場合によってはエンハンサー、トランス活性化因子又は転写因子が通常含まれる。「調節配列」という用語は、発現に必要な全ての構成要素を最低限含むことを意図しており、且つ追加の有利な構成要素も含み得る。
【0109】
本明細書で使用される場合、「一本鎖」という用語は、ペプチド結合により直線状に結合したアミノ酸単量体を含む分子を指す。特定の実施態様では、抗原結合部分の一方は、一本鎖Fab分子、すなわちFab軽鎖とFab重鎖がペプチドリンカーにより連結されて一本のペプチド鎖を形成しているFab分子である。そのような特定の実施態様では、一本鎖Fab分子においてFab軽鎖のC末端がFab重鎖のN末端に連結している。好ましい実施態様では、抗原結合部分はscFv断片である。
【0110】
本明細書で使用される「SSD」という用語は、「共刺激シグナル伝達ドメイン」を指す。
【0111】
本明細書で使用される場合、「治療(treatment)」(及び「治療する(treat)」又は「治療すること(treating)」などのその文法上の変化形)は、治療される個体の疾患の自然な経過を変化させる試みに対する臨床的介入を指し、予防のために又は臨床病理学の過程で行われ得る。治療の望ましい効果には、限定されないが、疾患の発症又は再発を予防すること、症状の緩和、疾患の直接的又は間接的な病理学的帰結の縮小、転移の予防、疾患の進行の速度を遅らせること、疾患状態の改善又は緩和、及び寛解又は予後の改善が含まれる。いくつかの態様では、本発明の抗体は、疾患の発症を遅延させるために、又は疾患の進行を遅らせるために使用される。
【0112】
本明細書で使用する「T細胞活性化」は、Tリンパ球、特に細胞傷害性Tリンパ球の、増殖、分化、サイトカイン分泌、細胞傷害性エフェクター分子の放出、細胞傷害性活性、及び活性化マーカーの発現から選択される1つ又は複数の細胞応答を指す。本発明の免疫活性化Fcドメイン抗原結合分子は、T細胞活性化を誘導することができる。T細胞活性化を測定するための適切なアッセイは、当技術分野で公知であり、本明細書に記載されている。
【0113】
薬剤、例えば薬学的組成物の「治療的有効量」とは、所望の治療的又は予防的結果を得るのに必要な用量及び期間での有効な量を指す。薬剤の治療的有効量は、例えば、疾患の副作用を除去し、低下させ、遅延させ、最小限にし、又は予防する。
【0114】
本明細書で使用される「価」という用語は、特定数の抗原結合部位が抗原結合分子内に存在することを示すものである。したがって、「抗原への一価の結合」という用語は、その抗原に特異的な1つ(且つ1つを超えない)の抗原結合部位が抗原結合分子内に存在することを示すものである。
【0115】
「可変領域」又は「可変ドメイン」という用語は、抗体の抗原への結合に関与する抗体の重鎖又は軽鎖のドメインを指す。天然抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれVH及びVL)は、類似の構造を一般に有し、各ドメインは、4つの保存されたフレームワーク領域(FR)及び3つの相補性決定領域(CDR)を含む。(例えば、Kindt et al.Kuby Immunology,6th ed.,W.H.Freeman and Co.,91頁(2007)を参照)。単一のVH又はVLドメインは、抗原結合特異性を付与するために十分であり得る。さらに、特定の抗原に結合する抗体は、抗原に結合する抗体からVH又はVLドメインを使用して単離し、それぞれ相補的なVL又はVHドメインのライブラリーをスクリーニングしてもよい。例えば、Portolano et al.,J.Immunol.150:880-887(1993);Clarkson et al.,Nature 352:624-628(1991)を参照。
【0116】
本明細書で使用される「ベクター」という用語は、連結している別の核酸を増殖させることができる核酸分子を指す。この用語は、自己複製核酸構造としてのベクター及び導入された宿主細胞のゲノムに組み込まれたベクターを含む。ある種のベクターは、作動可能に連結された核酸の発現を指示することができる。そのようなベクターは、本明細書では「発現ベクター」と呼ばれる。
【0117】
変異Fcドメインに特異的に結合することができる抗原結合受容体
本発明は、抗体、例えばがん細胞を標的とする治療用抗体の変異Fcドメインに特異的に結合することができる抗原結合受容体に関する。好ましい態様では、本発明は、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含む変異Fcドメインに特異的に結合することができる抗原結合受容体に関する。本発明の抗原結合受容体は、変異Fcドメインに特異的に結合することはできるが、親非変異型Fcドメインには特異的に結合することができない少なくとも1つの抗原結合部分を含む細胞外ドメインを含む。好ましい実施態様では、抗原結合受容体の抗原結合部分は、ヒト化又はヒト抗原結合部分、例えばヒト化又はヒトscFvである。好ましい一実施態様では、アミノ酸変異はP329Gであり、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含む変異Fcドメインへの特異的結合は25°CでSPRによって測定される。
【0118】
本発明はさらに、本明細書に記載の抗原結合受容体を用いた、CD8+ T細胞、CD4+ T細胞、CD3+ T細胞、γδT細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞、好ましくはCD8+ T細胞などのT細胞の形質導入、及び変異Fcドメイン(例えば、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメイン)を含む抗体分子、例えば治療用抗体による、例えば腫瘍へのそれらの標的化動員に関する。一実施態様では、抗体は、腫瘍細胞の表面に天然に存在する腫瘍特異的抗原に特異的に結合することができる。
【0119】
添付の実施例に示すように、概念実証として、本発明のアンカー膜貫通ドメイン及びヒト化細胞外ドメイン(配列番号20に示すDNA配列によってコードされる配列番号7)を含む抗原結合受容体が構築され、これは、P329G変異を含む治療用抗体(配列番号102の重鎖及び配列番号103の軽鎖を含む抗CD20抗体によって表される)に特異的に結合することができる。VH3VL1-CD8ATD-CD137CSD-CD3zSSD融合タンパク質(配列番号20に示されるDNA配列によってコードされる配列番号7)を発現する形質導入T細胞(Jurkat NFAT T細胞)は、FcドメインにP329G変異を含む抗CD20抗体とCD20陽性腫瘍細胞との共インキュベーションによって強く活性化することができた。
【0120】
P329G変異を含む腫瘍抗原に対する抗体と、VH3VL1-CD8ATD-CD137CSD-CD3zSSD融合タンパク質(配列番号20に示されるDNA配列によってコードされる配列番号7)を発現する形質導入T細胞との組み合わせによる腫瘍細胞の治療は、驚くべきことに、VL1VH3-CD8ATD-CD137CSD-CD3zSSD(配列番号33に示されるDNA配列によってコードされる配列番号31)を発現する形質導入T細胞と比較して、形質導入T細胞のより強い活性化をもたらす。
【0121】
さらなる概念実証として、本発明による抗原結合受容体(それぞれ配列番号129及び132)、及びそれぞれ配列番号130及び133に示されるDNA配列によってコードされる抗原結合受容体が構築された。抗原結合受容体の発現と機能は、T細胞株とヒトドナーのT細胞で示された。両受容体は、本発明によるVHVL(すなわちVH3VL1)コンフォメーションでヒト化抗原結合部分を構成する。
【0122】
VH3VL1-CD8ATD-CD137CSD-CD3zSSD融合タンパク質において、VHドメイン(VH3)は、そのC末端において、ペプチドリンカーを介してVLドメイン(VL1)のN末端に融合され、scFvを形成する。scFvは、そのC末端(VLドメインのC末端)において、ペプチドリンカーを介してアンカー膜貫通ドメイン(ATD)に融合される。一方、VL1VH3-CD8ATD-CD137CSD-CD3zSSD融合タンパク質において、VLドメイン(VL1)は、そのC末端において、ペプチドリンカーを介してVHドメイン(VH3)のN末端に融合され、scFvを形成する。scFvは、そのC末端(VHドメインのC末端)において、ペプチドリンカーを介してアンカー膜貫通ドメイン(ATD)に融合される。理論に拘束されるものではないが、VH3VL1-CD8ATD-CD137CSD-CD3zSSD融合タンパク質が、VL1VH3-CD28ATD-CD137CSD-CD3zSSDと比較して、形質導入T細胞のより強い活性化をもたらすという観察結果は、VLドメインとアンカードメインとの(ペプチドリンカーを介した)融合が、より強力な抗原結合受容体をもたらすことを示唆している。これは予想外であり、驚くべきことである。
【0123】
VHドメインVH3とVLドメインVL1との組み合わせ(両方とも本発明者らによって同定された)は、これらの可変ドメインがヒト化抗体ドメインであるため、特に好ましい。理論に拘束されるものではないが、ヒト化抗体ドメインは、そのようなヒト化抗体ドメインを含む抗原結合部分をヒト患者に適用する場合、副作用が少ない(例えば、抗薬物抗体(ADA)の形成がより少ない)と予想され得るので好ましい。しかしながら、ヒト化は、抗原結合部分(例えば、非ヒト源に由来するもの)の結合の喪失をもたらし得る。添付の実施例に示すように、ヒト化VH3及びVL1ドメインは、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインへの結合を保持する。この結果は、例えば、他のヒト化VH及びVLドメインが、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインと同等の結合を保持できないことによって示されるように予想外である。
【0124】
したがって、本発明の好ましい一実施態様では、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインに特異的に結合することができるヒト化抗原結合部分を含む抗原結合受容体が提供される。本発明の概念及びその構成要素(ヒト化抗原結合受容体及び治療用抗体)は、本明細書において以下にさらに詳細に記載される。
【0125】
本発明によれば、変異Fcドメインを含む(例えば、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含む)腫瘍特異的抗体、すなわち治療用抗体と、変異Fcドメインに特異的に結合することができる抗原結合部位を含む細胞外ドメインを含む/からなる抗原結合受容体を導入したT細胞のペアリングにより、T細胞の特異的活性化及びその後の腫瘍細胞の溶解が得られる。この手法は、変異Fcドメインを含む抗体の非存在下ではT細胞は不活性であるため、従来のT細胞ベースの手法に比べて安全性に大きな利点がある。したがって、本発明は、IgG型抗体がT細胞の誘導として腫瘍細胞をマーク又は標識するために使用され、IgG型抗体の変異Fcドメインに対する特異性を提供することによって、形質導入されたT細胞が腫瘍細胞に特異的に標的化される、汎用的な治療プラットフォームを提供する。腫瘍細胞の表面上の抗体の変異Fcドメインに結合した後、本明細書に記載の形質導入T細胞は活性化され、腫瘍細胞はその後溶解される。このプラットフォームは、多様な(既存又は新しく開発された)標的抗体の使用、又は抗原特異性は異なるがFcドメインに同じ変異(例えば、P329G変異など)を含む複数の抗体の共投与を可能にすることにより、柔軟且つ特異的である。T細胞活性化の程度は、共投与される治療用抗体の投与量を調整することによって、又は異なる抗体特異性若しくはフォーマットに切り替えることにより、さらに調整することができる。本発明による形質導入T細胞は、変異Fcドメインを含む標的抗体の共投与がなくても不活性である。なぜなら、本明細書に記載のFcドメインに対する変異は、天然免疫グロブリン又は非変異型免疫グロブリンでは生じないからである。したがって、一実施態様では、変異Fcドメインは、(ヒト)免疫グロブリンには天然には存在しない。
【0126】
したがって、本発明は、変異Fcドメインに特異的に結合することができる少なくとも1つの抗原結合部分を含む細胞外ドメインを含む抗原結合受容体であって、少なくとも1つの抗原結合部分が親非変異型Fcドメインに特異的に結合することができない、抗原結合受容体に関する。エフェクター機能は、本明細書で詳述するように、抗体ベースの腫瘍治療の深刻な副作用につながる可能性があるため、がん治療においてエフェクター機能が低下した治療用抗体を用いることが特に望ましい。
【0127】
本発明の文脈において、抗原結合受容体は、T細胞内又はT細胞上に天然には存在しない細胞外ドメインを含む。このように、抗原結合受容体は、本発明による抗原結合受容体を発現する細胞に対して目的に適った結合特異性を付与することができる。本発明の1つ又は複数の抗原結合受容体で形質導入された細胞、例えばT細胞は、変異Fcドメインに特異的に結合できるようになるが、非変異型親Fcドメインには特異結合できるようにならない。特異性は、抗原結合受容体の細胞外ドメインの抗原結合部分によって提供される。本発明の文脈において、本明細書中で説明されるように、変異Fcドメインに特異的に結合することができる抗原結合部分は、変異Fcドメインに結合/と相互作用するが、非変異型親Fcドメインには/とは結合しない。
【0128】
抗原結合部分
本発明の例示的な実施態様では、概念実証として、アミノ酸変異P329Gを含む変異Fcドメインに特異的に結合することができるヒト化抗原結合受容体及び該抗原結合受容体を発現するエフェクター細胞が提供される。P329G変異は、Fcγ受容体への結合とそれに伴うエフェクター機能を低下させる。したがって、P329G変異を含む変異Fcドメインは、非変異型Fcドメインと比較して低下した又は消失した親和性でFcγ受容体に結合する。
【0129】
一実施態様では、抗原結合部分は、安定な会合が可能な第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成される変異Fcドメインに特異的に結合することができる。一実施態様では、該Fcドメインは、IgG、具体的にはIgG1又はIgG4 Fcドメインである。一実施態様では、FcドメインはヒトFcドメインである。一実施態様では、変異Fcドメインは、天然IgG1 Fcドメインと比較して、Fc受容体に対する結合親和性の低下及び/又はエフェクター機能の低下を示す。一実施態様では、該Fcドメインは、Fc受容体への結合及び/又はエフェクター機能を低下させる1つ又は複数のアミノ酸変異を含む。
【0130】
好ましい実施態様では、変異Fcドメインは、P329G変異を含んでいる。したがって、P329G変異を含む変異Fcドメインは、非変異型Fcドメインと比較して低下した又は消失した親和性でFcγ受容体に結合する。
【0131】
一実施態様では、抗原結合受容体は、抗原結合部分を含む細胞外ドメインを含む。一実施態様では、抗原結合部分は、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインに特異的に結合することができる。
【0132】
一実施態様では、抗原結合部分は、
(a)RYWMN(配列番号1)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)EITPDSSTINYAPSLKG(配列番号2)又はEITPDSSTINYTPSLKG(配列番号40)のCDR H2アミノ酸配列;及び
(c)PYDYGAWFASのCDR H3アミノ酸配列(配列番号3)
の少なくとも1つを含む重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0133】
一実施態様では、抗原結合部分は、
(d)RSSTGAVTTSNYAN(配列番号4)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)GTNKRAPのCDR L2アミノ酸配列(配列番号5);及び
(f)ALWYSNHWVのCDR L3アミノ酸配列(配列番号6)
の少なくとも1つを含む軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0134】
好ましい実施態様では、抗原結合部分は、
(a)RYWMN(配列番号1)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)EITPDSSTINYAPSLKG(配列番号2)又はEITPDSSTINYTPSLKG(配列番号40)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)PYDYGAWFASのCDR H3アミノ酸配列(配列番号3);
を含む重鎖可変ドメイン(VH);及び
(d)RSSTGAVTTSNYAN(配列番号4)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)GTNKRAPのCDR L2アミノ酸配列(配列番号5);及び
(f)ALWYSNHWVのCDR L3アミノ酸配列(配列番号6)
を含む軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0135】
特定の一実施態様では、抗原結合部分は、
(a)RYWMN(配列番号1)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)EITPDSSTINYAPSLKG(配列番号2)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)PYDYGAWFASのCDR H3アミノ酸配列(配列番号3);
を含む重鎖可変ドメイン(VH);及び
(d)RSSTGAVTTSNYAN(配列番号4)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)GTNKRAPのCDR L2アミノ酸配列(配列番号5);及び
(f)ALWYSNHWVのCDR L3アミノ酸配列(配列番号6)
を含む軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0136】
別の特定の実施態様では、抗原結合部分は、
(a)RYWMN(配列番号1)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)EITPDSSTINYTPSLKG(配列番号40)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)PYDYGAWFASのCDR H3アミノ酸配列(配列番号3);
を含む重鎖可変ドメイン(VH);及び
(d)RSSTGAVTTSNYAN(配列番号4)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)GTNKRAPのCDR L2アミノ酸配列(配列番号5);及び
(f)ALWYSNHWVのCDR L3アミノ酸配列(配列番号6)
を含む軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0137】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号8、配列番号41及び配列番号44からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0138】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号8のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0139】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号41のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0140】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号44のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0141】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号126のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0142】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号9のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0143】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号127のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0144】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号8のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)と、配列番号9のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む。
【0145】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号41のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)と、配列番号9のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む。
【0146】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号44のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)と、配列番号9のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む。
【0147】
他の実施態様では、抗原結合部分は、配列番号126のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)と、配列番号127のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む。
【0148】
好ましい実施態様では、抗原結合部分は、配列番号8のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)と、配列番号9のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む。
【0149】
別の好ましい実施態様では、抗原結合部分は、配列番号126のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)と、配列番号127のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む。
【0150】
一実施態様では、抗原結合部分はscFv又はscFabである。好ましい実施態様では、抗原結合部分はscFvである。
【0151】
一実施態様では、抗原結合部分は、重鎖可変ドメイン(VH)及び軽鎖可変ドメイン(VL)を含み、VHドメインは、特にペプチドリンカーを介してVLドメインに連結されている。一実施態様では、VLドメインのC末端は、特にペプチドリンカーを介してVHドメインのN末端に連結されている。好ましい実施態様では、VHドメインのC末端は、特にペプチドリンカーを介してVLドメインのN末端に連結されている。一実施態様では、ペプチドリンカーは、アミノ酸配列GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号16)を含む。
【0152】
一実施態様では、抗原結合部分は、重鎖可変ドメイン(VH)、軽鎖可変ドメイン(VL)及びリンカーからなるポリペプチドであるscFvであり、ここで、前記可変ドメイン及び前記リンカーは、N末端からC末端の方向に以下の構成:a)VH-リンカー-VL又はb)VL-リンカー-VHの1つを有する。好ましい実施態様では、scFvは、VH-リンカー-VLの構成を有する。
【0153】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号10、配列番号122及び配列番号124からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0154】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号10のアミノ酸配列を含む。
【0155】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号122のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号122のアミノ酸配列を含む。
【0156】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号124のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号124のアミノ酸配列を含む。
【0157】
重鎖可変ドメイン(VH)及び軽鎖可変ドメイン(VL)を含む抗原結合部分、例えば本明細書に記載のscFv及びscFab断片は、VHドメインとVLドメインとの間に鎖間ジスルフィド架橋を導入することによってさらに安定化され得る。したがって、一実施態様では、本発明による抗原結合受容体に含まれるscFv断片(複数可)及び/又はscFab断片(複数可)は、システイン残基(例えば、Kabatの番号付けによれば、可変重鎖の44位及び可変軽鎖の100位)の挿入を介した鎖間ジスルフィド結合の生成によってさらに安定化される。一実施態様では、システインによるアミノ酸の少なくとも1つの置換(特に、Kabat番号付けによる、可変重鎖の44位及び/又は可変軽鎖の100位における)を含む、上記のVH配列及び/又はVL配列のいずれか1つが提供される。
【0158】
一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号128のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。一実施態様では、抗原結合部分は、配列番号128のアミノ酸配列を含む。
【0159】
アンカー膜貫通ドメイン(ATD)
本発明の文脈において、本発明の抗原結合受容体のアンカー膜貫通ドメインは、哺乳動物プロテアーゼの切断部位を有しないことを特徴としてもよい。本発明の文脈において、プロテアーゼとは、プロテアーゼの切断部位を含む膜貫通ドメインのアミノ酸配列を加水分解できるタンパク質分解酵素のことをいう。プロテアーゼという用語には、エンドペプチダーゼとエキソペプチダーゼの両方が含まれる。本発明の文脈において、CD命名法で特に規定されているような、膜貫通タンパク質の任意のアンカー膜貫通ドメインが本発明の抗原結合受容体を生成するために使用され得る。
【0160】
したがって、本発明の文脈において、アンカー膜貫通ドメインは、マウス(murine/mouse)の膜貫通ドメインの一部、又は好ましくはヒトの膜貫通ドメインの一部を含み得る。このようなアンカー膜貫通ドメインの例は、例えば本明細書において配列番号11に示されるアミノ酸配列(配列番号24に示されるDNA配列によってコードされている)を有するCD8の膜貫通ドメインである。本発明の文脈において、本発明の抗原結合受容体のアンカー膜貫通ドメインは、配列番号11に示されるアミノ酸配列(配列番号24に示されるDNA配列によってコードされている)を含み得る/から構成され得る。
【0161】
別の実施態様では、本明細書で提供される抗原結合受容体は、配列番号61に示されるヒト全長CD28タンパク質のアミノ酸153~179、154~179、155~179、156~179、157~179、158~179、159~179、160~179、161~179、162~179、163~179、164~179、165~179、166~179、167~179、168~179、169~179、170~179、171~179、172~179、173~179、174~179、175~179、176~179、177~179又は178~179(配列番号70に示されるcDNAによってコードされている)に位置するCD28の膜貫通ドメインを含み得る。
【0162】
あるいは、特にCD命名法によって提供される膜貫通ドメインを有する任意のタンパク質を、本発明の抗原結合受容体タンパク質のアンカー膜貫通ドメインとして使用することができる。
【0163】
いくつかの実施態様では、アンカー膜貫通ドメインは、抗原結合受容体を当該膜に固定する能力を保持する、CD27(配列番号58によってコードされる配列番号59)、CD137(配列番号66によってコードされる配列番号67)、OX40(配列番号70によってコードされる配列番号71)、ICOS(配列番号74によってコードされる配列番号75)、DAP10(配列番号79によってコードされる配列番号80)、DAP12(配列番号82によってコードされる配列番号83)、CD3z(配列番号87によってコードされる配列番号88)、FCGR3A(配列番号91によってコードされる配列番号90)、NKG2D(配列番号95によってコードされる配列番号94)、CD8(配列番号120によってコードされる配列番号119)からなる群のうちのいずれか1つの膜貫通ドメイン又はその膜貫通部の断片を含む。
【0164】
ヒト配列は、例えば、アンカー膜貫通ドメイン(の一部)が細胞外空間からアクセス可能であり、したがって患者の免疫系にアクセス可能である可能性があるため、一般的な発明の文脈において有益である可能性がある。好ましい実施態様では、アンカー膜貫通ドメインはヒト配列を含む。そのような実施態様では、アンカー膜貫通ドメインは、抗原結合受容体を当該膜に固定する能力を保持する、ヒトCD27(配列番号56によってコードされる配列番号57)、ヒトCD137(配列番号64によってコードされる配列番号65)、ヒトOX40(配列番号68によってコードされる配列番号69)、ヒトICOS(配列番号72によってコードされる配列番号73)、ヒトDAP10(配列番号77によってコードされる配列番号78)、ヒトDAP12(配列番号80によってコードされる配列番号81)、ヒトCD3z(配列番号85によってコードされる配列番号86)、ヒトFCGR3A(配列番号89によってコードされる配列番号88)、ヒトNKG2D(配列番号93によってコードされる配列番号92)、ヒトCD8(配列番号118によってコードされる配列番号117)からなる群のうちのいずれか1つの膜貫通ドメイン又はその膜貫通部の断片を含む。
【0165】
刺激シグナル伝達ドメイン(SSD)及び共刺激シグナル伝達ドメイン(CSD)
好ましくは、本発明の抗原結合受容体は、少なくとも1つの刺激シグナル伝達ドメイン及び/又は少なくとも1つの共刺激シグナル伝達ドメインを含む。したがって、本明細書で提供される抗原結合受容体は、好ましくは、T細胞活性化をもたらす刺激シグナル伝達ドメインを含む。本明細書で提供される抗原結合受容体は、マウス(murine/mouse)又はヒトCD3z(ヒトCD3zのUniProtエントリーはP20963(バージョン番号177、配列番号2)であり;マウスCD3zのUniProtエントリーはP24161(一次引用可能アクセッション番号)又はQ9D3G3(二次引用可能アクセッション番号)、バージョン番号143、配列番号1)である)、FCGR3A(ヒトFCGR3AのUniProtエントリーはP08637(バージョン番号178、配列番号2)である)、又はNKG2D(ヒトNKG2DのUniProtエントリーはP26718(バージョン番号151、配列番号1)であり;マウスNKG2DのUniProtエントリーはO54709(バージョン番号132、配列番号2)である)の断片/ポリペプチド部分である刺激シグナル伝達ドメインを含み得る。
【0166】
したがって、本明細書において提供される抗原結合受容体において含まれる刺激シグナル伝達ドメインは、CD3z、FCGR3A又はNKG2Dの完全長の断片/ポリペプチド部分であってもよい。マウス(murine/mouse)完全長CD3z又はNKG2Dのアミノ酸配列は、本明細書において配列番号86(CD3z)、90(Fcgr3A)又は94(NKG2D)として示される(マウス(murine/mouse)は、配列番号87(CD3z)、91(FCGR3A)又は95(NKG2D)に示されるDNA配列によってコードされている)。ヒト完全長CD3z、FCGR3A又はNKG2Dのアミノ酸配列は、本明細書において配列番号84(CD3z)、88(FCGR3A)又は92(NKG2D)として示される(ヒトは、配列番号85(CD3z)、89(FCGR3A)又は93(NKG2D)に示されるDNA配列によってコードされている)。本発明の抗原結合受容体は、少なくとも1つのシグナル伝達ドメインを含むことを条件として、刺激ドメインとしてCD3z、Fcgr3A又はNKG2Dの断片を含み得る。特に、CD3z、FCGR3A、又はNKG2Dの任意の部分/断片は、少なくとも1つのシグナル伝達モチーフが含まれる限り、刺激ドメインとして適切である。しかし、より好ましくは、本発明の抗原結合受容体は、ヒト起源から得られるポリペプチドを含む。したがって、本明細書で提供される抗原結合受容体は、本明細書において配列番号84(CD3z)、88(FCGR3A)又は92(NKG2D)として示されるアミノ酸配列を含む(ヒトは配列番号85(CD3z)、89(FCGR3A)又は93(NKG2D)に示されるDNA配列によってコードされている)。一実施態様では、本発明の抗原結合受容体は、配列番号13に示されるアミノ酸配列(配列番号26に示されるDNA配列によってコードされている)を含み得るか、又はそれからなり得る。さらなる実施態様では、抗原結合受容体は、配列番号13に示される配列を含むか、又は配列番号13と比較して最大1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30の置換、欠失若しくは挿入を有し、且つ刺激シグナル伝達活性を有することを特徴とする配列を含む。刺激シグナル伝達ドメイン(SSD)を含む抗原結合受容体の具体的な構成は、本明細書では以下及び実施例と図面に示されている。刺激シグナル伝達活性は、例えば、サイトカイン放出の増強(ELISAで測定)(IL-2、IFNγ、TNFα)、増殖活性の増強(細胞数の増加で測定)又は溶解活性の増強(LDH放出アッセイで測定)によって決定することができる。
【0167】
さらに、本明細書で提供される抗原結合受容体は、好ましくは、T細胞にさらなる活性を提供する少なくとも1つの共刺激シグナル伝達ドメインを含む。本明細書で提供される抗原結合受容体は、マウス(murine/mouse)又はヒトCD28(ヒトCD28のUniProtエントリーはP10747(バージョン番号173、配列番号1であり;マウスCD28のUniProtエントリーはP31041(バージョン番号134、配列番号2)である)、CD137(ヒトCD137のUniProtエントリーはQ07011(バージョン番号145、配列番号1)であり;マウスCD137のUniProtエントリーはP20334(バージョン番号139、配列番号1)である)、OX40(ヒトOX40のUniProtエントリーはP23510(バージョン番号138、配列番号1)であり;マウスOX40のUniProtエントリーはP43488(バージョン番号119、配列番号1)である)、ICOS(ヒトICOSのUniProtエントリーはQ9Y6W8(配列番号1、バージョン番号126)であり;マウスICOSのUniProtエントリーはQ9WV40(一次引用可能アクセッション番号)又はQ9JL17(二次引用可能アクセッション番号)、バージョン番号102、配列番号2)である)、CD27(ヒトCD27のUniProtエントリーはP26842(バージョン番号160、配列番号2)であり;マウスCD27のUniProtエントリーはP41272(バージョン番号137、配列番号1)である)、4-1-BB(マウス4-1-BBのUniProtエントリーはP20334(バージョン番号140、配列番号1)であり;ヒト4-1-BBのUniProtエントリーはQ07011(バージョン番号146、配列番号)である)、DAP10(ヒトDAP10のUniProtエントリーはQ9UBJ5(バージョン番号25、配列番号2)であり;マウスDAP10のUniProtエントリーはQ9QUJ0(一次引用可能アクセッション番号)又はQ9R1E7(二次引用可能アクセッション番号)、バージョン番号101、配列番号1)である)又はDAP12(ヒトDAP12のUniProtエントリーはO43914(バージョン番号146、配列番号1)であり;マウスDAP12のUniProtエントリーはO054885(一次引用可能アクセッション番号)又はQ9R1E7(二次引用可能アクセッション番号)、バージョン番号123、配列番号1)である)の断片/ポリペプチド部分である共刺激シグナル伝達ドメインを含み得る。本発明の特定の実施態様では、本発明の抗原結合受容体は、本明細書に記載の1つ又は複数、すなわち1、2、3、4、5、6又は7つの共刺激シグナル伝達ドメインを含み得る。したがって、本発明の文脈において、本発明の抗原結合受容体は、第1の共刺激シグナル伝達ドメインとして、マウス(murine/mouse)CD137の断片/ポリペプチド部分、又は、好ましくはヒトCD137の断片/ポリペプチド部分を含み得、第2の共刺激シグナル伝達ドメインは、マウス若しくは好ましくはヒトCD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10及びDAP12又はそれらの断片からなる群から選択される。好ましくは、本発明の抗原結合受容体は、ヒト起源から得られる共刺激シグナル伝達ドメインを含む。したがって、より好ましくは、本発明の抗原結合受容体に含まれている1つ又は複数の刺激シグナル伝達ドメインは、配列番号12に示されるアミノ酸配列(配列番号25に示されるDNA配列によってコードされている)を含み得るか又はそれからなり得る。
【0168】
したがって、本明細書で提供される抗原結合受容体に任意選択で含まれる共刺激シグナル伝達ドメインは、完全長CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10又はDAP12の断片/ポリペプチド部分である。マウス(murine/mouse)完全長CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP12、DAP10及びDAP12のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号59(CD3z)、63(CD28)、67(CD137)、71(OX40)、75(ICOS)、79(DAP10)又は83(DAP12)として示される(マウスは、配列番号58(CD27)、62(CD28)、66(CD137)、70(OX40)、74(ICOS)、78(DAP10)又は82(DAP12)に示されるDNA配列によってコードされている)。しかし、本発明の文脈ではヒト配列が最も好ましいため、本明細書で提供される抗原結合受容体タンパク質に任意選択で含まれ得る共刺激シグナル伝達ドメインは、ヒト完全長CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10又はDAP12の断片/ポリペプチド部分である。ヒト完全長CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10又はDAP12のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号57(CD27)、61(CD28)、65(CD137)、69(OX40)、73(ICOS)、77(DAP10)又は81(DAP12)として示される(ヒトは配列番号56(CD27)、60(CD28)、64(CD137)、68(OX40)、72(ICOS)、76(DAP10)又は80(DAP12)に示されるDNA配列によってコードされている)。
【0169】
好ましい一実施態様では、抗原結合受容体は、共刺激シグナル伝達ドメインとしてCD28又はその断片を含む。本明細書で提供される抗原結合受容体は、CD28の少なくとも1つのシグナル伝達ドメインが含まれるという条件で、共刺激シグナル伝達ドメインとしてCD28の断片を含み得る。特に、CD28のシグナル伝達モチーフの少なくとも1つが含まれる限り、CD28の任意の部分/断片が本発明の抗原結合受容体に適している。共刺激シグナル伝達ドメインPYAP(CD28のAA208から211)及びYMNM(CD28のAA191から194)は、CD28ポリペプチドの機能及び上に列挙した機能的効果にとって有益である。YMNMドメインのアミノ酸配列は配列番号96に示されており、PYAPドメインのアミノ酸配列は配列番号97に示されている。したがって、本発明の抗原結合受容体において、CD28ポリペプチドは、好ましくは、配列YMNM(配列番号96)及び/又はPYAP(配列番号97)を有するCD28ポリペプチドの細胞内ドメイン由来の配列を含む。他の実施態様では、本発明の抗原結合受容体において、これらのドメインの一方又は両方が、それぞれFMNM(配列番号98)及び/又はAYAA(配列番号99)に変異している。これらの変異のいずれも、抗原結合受容体を含む形質導入された細胞の、自身の増殖能力に影響を与えずにサイトカインを放出する能力を低下させ、且つ、有利には、形質導入された細胞の生存を延長させ、ひいてはその治療能力を高めるために使用することができる。すなわち、言い換えれば、このような非機能性変異は、好ましくは、本明細書で提供される抗原結合受容体がin vivoで形質導入された細胞の持続性を高めるものである。しかしながら、これらのシグナル伝達モチーフは、本明細書で提供される抗原結合受容体の細胞内ドメイン内の任意の部位に存在し得る。
【0170】
別の好ましい実施態様では、抗原結合受容体は、共刺激シグナル伝達ドメインとしてCD137又はその断片を含む。本明細書で提供される抗原結合受容体は、CD137の少なくとも1つのシグナル伝達ドメインが含まれるという条件で、共刺激シグナル伝達ドメインとしてCD137の断片を含み得る。特に、CD137のシグナル伝達モチーフの少なくとも1つが含まれる限り、CD137の任意の部分/断片が本発明の抗原結合受容体に適している。好ましい実施態様では、本発明の抗原結合受容体タンパク質に含まれるCD137ポリペプチドは、配列番号12に示されるアミノ酸配列(配列番号25に示されるDNA配列によってコードされるもの)を含むか、又はそれからなる。
【0171】
共刺激シグナル伝達ドメイン(CSD)を含む抗原結合受容体の具体的な構成は、本明細書の以下及び実施例及び図面に提供される。共刺激シグナル伝達活性は、例えば、サイトカイン放出の増強(ELISAで測定)(IL-2、IFNγ、TNFα)、増殖活性の増強(細胞数の増加で測定)又は溶解活性の増強(LDH放出アッセイで測定)によって決定することができる。上述のように、本発明の実施態様では、抗原結合受容体の共刺激シグナル伝達ドメインは、形質導入T細胞のような、本明細書に記載の形質導入細胞のサイトカイン産生、増殖及び溶解活性であると定義されるヒトCD28及び/又はCD137遺伝子T細胞活性に由来してもよい。CD28及び/又はCD137の活性は、ELISAによるサイトカインの放出、又はインターフェロンガンマ(IFN-γ)若しくはインターロイキン2(IL-2)などのサイトカインのフローサイトメトリー、例えばki67測定によって測定されるT細胞の増殖、フローサイトメトリーによる細胞定量化、又は標的細胞のリアルタイムインピーダンス測定によって評価される溶解活性によって測定することができる(例えば、Thakur et al.,Biosens Bioelectron.35(1)(2012),503-506;Krutzik et al.,Methods Mol Biol.699(2011),179-202;Ekkens et al.,Infect Immun.75(5)(2007),2291-2296;Ge et al.,Proc Natl Acad Sci USA.99(5)(2002),2983-2988;Duewell et al.,Cell Death Differ.21(12)(2014),1825-1837(正誤表はCell Death Differ.21(12)(2014),161)記載されているICELLligence機器を使用することによって)。
【0172】
リンカー及びシグナルペプチド
さらに、本明細書において提供される抗原結合受容体は、少なくとも1つのリンカー(又は「スペーサー」)を含み得る。リンカーは通常、20アミノ酸までの長さを有するペプチドである。したがって、本発明の文脈において、該リンカーは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20アミノ酸の長さを有し得る。例えば、本明細書で提供される抗原結合受容体は、変異Fcドメインに特異的に結合することができる少なくとも1つの抗原結合部分を含む細胞外ドメイン、アンカー膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達ドメイン及び/又は刺激シグナル伝達ドメイン間にリンカーを含み得る。さらに、本明細書で提供される抗原結合受容体は、抗原結合部分に、特に抗原結合部分の免疫グロブリンドメイン間(例えば、scFvのVHドメインとVLドメインの間)にリンカーを含み得る。このようなリンカーには、抗原結合受容体の異なるポリペプチド(すなわち、少なくとも1つの抗原結合部分を含む細胞外ドメイン、アンカー膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達ドメイン及び/又は刺激シグナル伝達ドメイン)が独立してフォールディングされ、予想通りに機能する確率が高まるという利点がある。したがって、本発明の文脈において、少なくとも1つの抗原結合部分を含む細胞外ドメイン、アンカー膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達ドメイン及び刺激シグナル伝達ドメインは、一本鎖多機能ポリペプチドに含まれ得る。一本鎖融合構築物は、例えば、少なくとも1つの抗原結合部分を含む(1つ又は複数の)細胞外ドメイン、(1つ又は複数の)アンカー膜貫通ドメイン、(1つ又は複数の)共刺激シグナル伝達ドメイン、及び/又は(1つ又は複数の)刺激シグナル伝達ドメインから構成され得る。したがって、抗原結合部分、アンカー膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達ドメイン及び刺激シグナル伝達ドメインは、本明細書に記載されるように、1つ又は複数の同一又は異なるペプチドリンカーによって連結され得る。例えば、本明細書で提供される抗原結合受容体において、少なくとも1つの抗原結合部分を含む細胞外ドメインとアンカー膜貫通ドメインとの間のリンカーは、配列番号17に示されるアミノ酸及びアミノ酸配列を含むか、又はそれらから構成され得る。別の実施態様では、抗原結合部分とアンカー膜貫通ドメインとの間のリンカーは、配列番号19に示されるアミノ酸配列を含むか、又はそれらからなる。したがって、アンカー膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達ドメイン及び/又は刺激ドメインは、ペプチドリンカーによって、あるいはドメインの直接融合によって互いに連結され得る。
【0173】
本発明による好ましい実施態様では、細胞外ドメインに含まれる抗原結合部分は一本鎖可変断片(scFv)であって、これは、抗体の重鎖可変ドメイン(VH)と軽鎖可変ドメイン(VL)を10~約25アミノ酸の短いリンカーペプチドで連結された融合タンパク質である。リンカーは通常、柔軟性を高めるためのグリシンと、溶解性を高めるためのセリン又はスレオニンを豊富に含んでおり、VHのN末端とVLのC末端を連結したり、その逆を連結したりすることができる。好ましい実施態様では、リンカーは、VLドメインのN末端をVHドメインのC末端に連結する。例えば、本明細書で提供される抗原結合受容体において、リンカーは、配列番号16に示されるアミノ酸及びアミノ酸配列を有し得る。scFv抗体は、例えば、Houston,J.S.,Methods in Enzymol.203(1991)46-96)に記載されている。
【0174】
本発明によるいくつかの実施態様では、細胞外ドメインに含まれる抗原結合部分は、重鎖可変ドメイン(VH)、抗体定常ドメイン1(CH1)、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、抗体軽鎖定常ドメイン(CL)及びリンカーからなるポリペプチドである一本鎖Fab断片又はscFabであり、前記抗体ドメイン及び前記リンカーは、N末端からC末端方向に、以下の順序:a)VH-CH1-リンカー-VL-CL、b)VL-CL-リンカー-VH-CH1、c)VH-CL-リンカー-VL-CH1、又はd)VL-CH1-リンカー-VH-CLのうちの1つを有し;ここで前記リンカーは、少なくとも30アミノ酸、好ましくは32~50アミノ酸のポリペプチドである。前記一本鎖Fab断片は、CLドメインとCH1ドメインとの間の天然ジスルフィド結合によって安定化されている。
【0175】
本明細書で提供される抗原結合受容体又はその一部は、シグナルペプチドを含み得る。このようなシグナルペプチドは、タンパク質をT細胞膜の表面に運ぶことになる。例えば、本明細書で提供される抗原結合受容体において、シグナルペプチドは、配列番号100に示されるアミノ酸及びアミノ酸配列(配列番号101に示されるDNA配列によってコードされている)を有し得る。
【0176】
変異Fcドメインに特異的に結合することができるT細胞活性化抗原結合受容体
本明細書に記載の抗原結合受容体の構成要素は、様々な構成で互いに融合して、T細胞活性化抗原結合受容体を生成することができる。
【0177】
いくつかの実施態様では、抗原結合受容体は、アンカー膜貫通ドメインに連結された重鎖可変ドメイン(VH)及び軽鎖可変ドメイン(VL)から構成される細胞外ドメインを含む。好ましい実施態様では、VHドメインは、C末端で該VLドメインのN末端に、任意選択でペプチドリンカーを介して融合される。他の実施態様では、抗原結合受容体は、刺激シグナル伝達ドメイン及び/又は共刺激シグナル伝達ドメインをさらに含む。特定のそのような実施態様では、抗原結合受容体は、本質的に、1つ又は複数のペプチドリンカーによって連結されたVHドメイン及びVLドメイン、アンカー膜貫通ドメイン、及び任意選択で、刺激シグナル伝達ドメインからなり、ここで、VHドメインは、C末端で、VLドメインのN末端に融合しており、VLドメインは、C末端で、アンカー膜貫通ドメインのN末端に融合しており、アンカリー膜貫通ドメインは、C末端で刺激シグナル伝達ドメインのN末端に融合している。任意選択で、抗原結合受容体は、共刺激シグナル伝達ドメインをさらに含む。そのような特定の実施態様の1つでは、抗原結合受容体は、本質的に、1つ又は複数のペプチドリンカーによって連結されたVHドメイン及びVLドメイン、アンカー膜貫通ドメイン、刺激シグナル伝達ドメイン及び共刺激シグナル伝達ドメインからなり、ここで、VHドメインは、C末端で、VLドメインのN末端に融合しており、VLドメインは、C末端で、アンカー膜貫通ドメインのN末端に融合しており、アンカー膜貫通ドメインは、C末端で、刺激シグナル伝達ドメインのN末端に融合しており、刺激シグナル伝達ドメインは、C末端で、共刺激シグナル伝達ドメインのN末端に融合している。別の実施態様では、共刺激シグナル伝達ドメインは、刺激シグナル伝達ドメインの代わりにアンカー膜貫通ドメインに連結される。好ましい実施態様では、抗原結合受容体は、本質的に、1つ又は複数のペプチドリンカーによって連結されたVHドメイン及びVLドメイン、アンカー膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達ドメイン、及び刺激シグナル伝達ドメインからなり、ここで、VHドメインは、C末端で、VLドメインのN末端に融合しており、VLドメインは、C末端で、アンカー膜貫通ドメインのN末端に融合しており、アンカー膜貫通ドメインは、C末端で、共刺激シグナル伝達ドメインのN末端に融合しており、共刺激シグナル伝達ドメインは、C末端で、刺激シグナル伝達ドメインのN末端に融合している。
【0178】
抗原結合部分、アンカー膜貫通ドメイン、並びに刺激シグナル伝達及び/又は共刺激シグナル伝達ドメインは、互いに直接融合されてもよく、又は1つ若しくは複数のアミノ酸、典型的には約2~20アミノ酸を含む1つ又は複数のペプチドリンカーを介して融合していてもよい。ペプチドリンカーは当技術分野において公知であり、本明細書に記載される。適切な非免疫原性ペプチドリンカーには、例えば、(G4S)n、(SG4)n、(G4S)n又はG4(SG4)nペプチドリンカーが含まれ、ここで「n」は通常1~10、典型的には2~4の数である。抗原結合部分とアンカー膜貫通部分を連結するのに好ましいペプチドリンカーは、配列番号17によるGGGGS(G4S)である。抗原結合部分とアンカー膜貫通部分を連結するための別の好ましいペプチドリンカーは、配列番号19によるKPTTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACD(CD8ストーク)である。可変重鎖ドメイン(VH)と可変軽鎖ドメイン(VL)を連結するのに適した例示的なペプチドリンカーは、配列番号16によるGGGSGGGSGGGSGGGS(G4S)4である。
【0179】
さらに、リンカーは、免疫グロブリンヒンジ領域(の一部)を含み得る。特に、抗原結合部分がアンカー膜貫通ドメインのN末端に融合される場合、追加のペプチドリンカーの有無にかかわらず、免疫グロブリンヒンジ領域又はその一部を介して融合され得る。
【0180】
本明細書に記載のとおり、本発明の抗原結合受容体は、少なくとも1つの抗原結合部分を含む細胞外ドメインを含む。標的細胞抗原に特異的に結合することができる単一の抗原結合部分を有する抗原結合受容体は、特に抗原結合受容体の高発現が必要な場合に有用であり、好ましい。そのような場合、標的細胞抗原に特異的な2つ以上の抗原結合部分の存在は、抗原結合受容体の発現効率を制限し得る。しかしながら、他の場合には、例えば、標的部位への標的化を最適化するため、又は標的細胞抗原の架橋を可能にするために、標的細胞抗原に特異的な2つ以上の抗原結合部分を含む抗原結合受容体を有することが有利であろう。
【0181】
特定の一実施態様では、抗原結合受容体は、P329G変異(EU番号付けによる)を含む変異Fcドメイン、特にIgG1 Fcドメインに特異的に結合することができる1つの抗原結合部分を含む。一実施態様では、変異Fcドメインに特異的に結合することができるが、非変異型親Fcドメインに特異的に結合することができない抗原結合部分は、scFvである。
【0182】
一実施態様では、抗原結合部分は、scFv断片のC末端において、アンカー膜貫通ドメインのN末端に、任意にペプチドリンカーを介して融合されている。一実施態様では、ペプチドリンカーは、アミノ酸配列KPTTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACD(配列番号19)を含む。一実施態様では、アンカー膜貫通ドメインは、CD8、CD4、CD3z、FCGR3A、NKG2D、CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10若しくはDAP12膜貫通ドメインからなる群から選択される膜貫通ドメイン又はその断片である。好ましい実施態様では、アンカー膜貫通ドメインは、CD8膜貫通ドメイン又はその断片である。特定の実施態様では、アンカー膜貫通ドメインは、IYIWAPLAGTCGVLLLSLVIT(配列番号11)のアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる。一実施態様では、抗原結合受容体は、共刺激シグナル伝達ドメイン(CSD)をさらに含む。一実施態様では、抗原結合受容体のアンカー膜貫通ドメインは、C末端で、共刺激シグナル伝達ドメインのN末端に融合している。一実施態様では、共刺激シグナル伝達ドメインは、本明細書で前述したような、CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10、及びDAP12の細胞内ドメイン、又はそれらの断片からなる群から個別に選択される。好ましい実施態様では、共刺激シグナル伝達ドメインはCD28の細胞内ドメイン又はその断片である。好ましい一実施態様では、共刺激シグナル伝達ドメインは、CD28の細胞内ドメイン、又はCD28シグナル伝達を保持するその断片を含む。別の好ましい実施態様では、共刺激シグナル伝達ドメインは、CD137の細胞内ドメイン、又はCD137シグナル伝達を保持するその断片を含む。特定の実施態様では、共刺激シグナル伝達ドメインは配列番号12を含むか、又は配列番号12からなる。一実施態様では、抗原結合受容体は、刺激シグナル伝達ドメインをさらに含む。一実施態様では、抗原結合受容体の共刺激シグナル伝達ドメインは、C末端で、刺激シグナル伝達ドメインのN末端に融合している。一実施態様では、少なくとも1つの刺激シグナル伝達ドメインは、CD3z、FCGR3A及びNKG2Dの細胞内ドメイン、又はそれらの断片からなる群から個別に選択される。好ましい実施態様では、共刺激シグナル伝達ドメインは、CD3zの細胞内ドメイン、又はCD3zシグナル伝達を保持するその断片である。特定の実施態様では、共刺激シグナル伝達ドメインは配列番号13を含むか、又は配列番号13からなる。
【0183】
一実施態様では、抗原結合受容体は、レポータータンパク質、特にGFP又はその増強されたアナログに融合している。一実施態様では、抗原結合受容体は、C末端で、eGFP(増強緑色蛍光タンパク質)のN末端に、任意選択で本明細書に記載のペプチドリンカーを介して、融合している。好ましい実施態様では、ペプチドリンカーは、配列番号18によるGEGRGSLLTCGDVEENPGP(T2A)である。
【0184】
特定の実施態様では、抗原結合受容体は、アンカー膜貫通ドメインと、少なくとも1つの抗原結合部分を含む細胞外ドメインとを含み、ここで、少なくとも1つの抗原結合部分は、変異Fcドメインに特異的に結合することができるが、非変異型親Fcドメインに特異的に結合することはできないscFvであり、変異FcドメインはP329G変異を含む(EU番号付けによる)。P329G変異はFcγ受容体の結合を減少させる。一実施態様では、本発明の抗原結合受容体は、アンカー膜貫通ドメイン(ATD)、共刺激シグナル伝達ドメイン(CSD)、及び刺激シグナル伝達ドメイン(SSD)を含む。そのような一実施態様では、抗原結合受容体はscFv-ATD-CSD-SSDという構成を有する。好ましい実施態様では、抗原結合受容体はVH-VL-ATD-CSD-SSDという構成を有する。より具体的なそのような実施態様では、抗原結合受容体は、VH-リンカー-VL-リンカー-ATD-CSD-SSDという構成を有する。
【0185】
特定の実施態様では、抗原結合部分は、P329G変異を含む変異Fcドメインに特異的に結合することができるscFvであり、ここで、抗原結合部分は、配列番号1、配列番号2、及び配列番号3からなる群から選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号4、配列番号5、及び配列番号6からなる群から選択される少なくとも1つの軽鎖CDRを含む。
【0186】
別の特定の実施態様では、抗原結合部分は、P329G変異を含む変異Fcドメインに特異的に結合することができるscFvであり、ここで、抗原結合部分は、配列番号1、配列番号40、及び配列番号3からなる群から選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号4、配列番号5、及び配列番号6からなる群から選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含む。
【0187】
好ましい実施態様では、抗原結合部分は、P329G変異を含む変異Fcドメインに特異的に結合することができるscFvであり、ここで、抗原結合部分は、相補性決定領域(CDR H)1のアミノ酸配列RYWMN(配列番号1)、CDR H2のアミノ酸配列EITPDSSTINYAPSLKG(配列番号2)、CDR H3のアミノ酸配列PYDYGAWFAS(配列番号3)、軽鎖相補決定領域(CDR L)1のアミノ酸配列RSSTGAVTTSNYAN(配列番号4)、CDR L2のアミノ酸配列GTNKRAP(配列番号5)、及びCDR L3のアミノ酸配列ALWYSNHWV(配列番号6)を含む。
【0188】
一実施態様では、本発明は、N末端からC末端まで順に、
(i)配列番号1の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号2の重鎖CDR2、配列番号3の重鎖CDR3を含む重鎖可変ドメイン(VH)、
(ii)ペプチドリンカー、特に配列番号16のペプチドリンカー、
(iii)配列番号4の軽鎖CDR1、配列番号5の軽鎖CDR2、及び配列番号6の軽鎖CDR3を含む軽鎖可変ドメイン(VL)、
(iv)ペプチドリンカー、特に配列番号19のペプチドリンカー、
(v)アンカー膜貫通ドメイン、特に配列番号11のアンカー膜貫通ドメイン、
(vi)共刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号12の共刺激シグナル伝達ドメイン、及び
(vii)刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号13の刺激シグナル伝達ドメイン
を含む抗原結合受容体を提供する。
【0189】
一実施態様では、本発明は、N末端からC末端まで順に、
(i)配列番号1の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号40の重鎖CDR2、配列番号3の重鎖CDR3を含む重鎖可変ドメイン(VH)、
(ii)ペプチドリンカー、特に配列番号16のペプチドリンカー、
(iii)配列番号4の軽鎖CDR1、配列番号5の軽鎖CDR2、及び配列番号6の軽鎖CDR3を含む軽鎖可変ドメイン(VL)、
(iv)ペプチドリンカー、特に配列番号19のペプチドリンカー、
(v)アンカー膜貫通ドメイン、特に配列番号11のアンカー膜貫通ドメイン、
(vi)共刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号12の共刺激シグナル伝達ドメイン、及び
(vii)刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号13の刺激シグナル伝達ドメイン
を含む抗原結合受容体を提供する。
【0190】
一実施態様では、本発明は、N末端からC末端まで順に
(i)重鎖可変ドメイン(VH)、
(ii)ペプチドリンカー、特に配列番号16のペプチドリンカー、
(iii)配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変ドメイン(VL)、
ここで、VH及びVLドメインは、EU番号付けに従って、アミノ酸変異P329Gを含むFcドメインに結合する抗原結合部分を形成することができ、
(iv)ペプチドリンカー、特に配列番号19のペプチドリンカー、
(v)アンカー膜貫通ドメイン、特に配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアンカー膜貫通ドメイン、
(vi)共刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である共刺激シグナル伝達ドメイン、及び
(vii)刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である刺激シグナル伝達ドメイン
を含む抗原結合受容体を提供する。
【0191】
一実施態様では、本発明は、N末端からC末端まで順に
(i)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変ドメイン(VH)、
(ii)ペプチドリンカー、特に配列番号16のペプチドリンカー、
(iii)配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変ドメイン(VL)、
(iv)ペプチドリンカー、特に配列番号19のペプチドリンカー、
(v)アンカー膜貫通ドメイン、特に配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアンカー膜貫通ドメイン、
(vi)共刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である共刺激シグナル伝達ドメイン、及び
(vii)刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である刺激シグナル伝達ドメイン
を含む抗原結合受容体を提供する。
【0192】
一実施態様では、本発明は、N末端からC末端まで順に
(i)配列番号41のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変ドメイン(VH)、
(ii)ペプチドリンカー、特に配列番号16のペプチドリンカー、
(iii)配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変ドメイン(VL)、
(iv)ペプチドリンカー、特に配列番号19のペプチドリンカー、
(v)アンカー膜貫通ドメイン、特に配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアンカー膜貫通ドメイン、
(vi)共刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である共刺激シグナル伝達ドメイン、及び
(vii)刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である刺激シグナル伝達ドメイン
を含む抗原結合受容体を提供する。
【0193】
一実施態様では、本発明は、N末端からC末端まで順に
(i)配列番号44のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変ドメイン(VH)、
(ii)ペプチドリンカー、特に配列番号16のペプチドリンカー、
(iii)配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変ドメイン(VL)、
(iv)ペプチドリンカー、特に配列番号19のペプチドリンカー、
(v)アンカー膜貫通ドメイン、特に配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアンカー膜貫通ドメイン、
(vi)共刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である共刺激シグナル伝達ドメイン、及び
(vii)刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である刺激シグナル伝達ドメイン
を含む抗原結合受容体を提供する。
【0194】
一実施態様では、本発明は、N末端からC末端まで順に
(i)配列番号126のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変ドメイン(VH)、
(ii)ペプチドリンカー、特に配列番号16のペプチドリンカー、
(iii)配列番号127のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変ドメイン(VL)、
(iv)ペプチドリンカー、特に配列番号19のペプチドリンカー、
(v)アンカー膜貫通ドメイン、特に配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアンカー膜貫通ドメイン、
(vi)共刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である共刺激シグナル伝達ドメイン、及び
(vii)刺激シグナル伝達ドメイン、特に配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である刺激シグナル伝達ドメイン
を含む抗原結合受容体を提供する。
【0195】
一実施態様では、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む抗原結合受容体が提供される。一実施態様では、配列番号7のアミノ酸配列を含む抗原結合受容体が提供される。
【0196】
一実施態様では、配列番号121のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む抗原結合受容体が提供される。一実施態様では、配列番号121のアミノ酸配列を含む抗原結合受容体が提供される。
【0197】
一実施態様では、配列番号123のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む抗原結合受容体が提供される。一実施態様では、配列番号123のアミノ酸配列を含む抗原結合受容体が提供される。
【0198】
一実施態様では、配列番号125のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む抗原結合受容体が提供される。一実施態様では、配列番号125のアミノ酸配列を含む抗原結合受容体が提供される。
【0199】
一実施態様では、抗原結合受容体は、レポータータンパク質、特にGFP又はその増強されたアナログに融合している。一実施態様では、抗原結合受容体は、C末端で、eGFP(増強緑色蛍光タンパク質)のN末端に、任意選択で本明細書に記載のペプチドリンカーを介して、融合している。好ましい実施態様では、ペプチドリンカーは配列番号18のGEGRGSLLTCGDVEENPGP(T2A)である。
【0200】
一実施態様では、配列番号129のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む抗原結合受容体が提供される。
【0201】
好ましい実施態様では、配列番号129のアミノ酸配列を含む抗原結合受容体が提供される。そのような一実施態様では、抗原結合受容体は、配列番号129のアミノ酸配列からなる。
【0202】
一実施態様では、配列番号132のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む抗原結合受容体が提供される。
【0203】
一実施態様では、配列番号132のアミノ酸配列を含む抗原結合受容体が提供される。
【0204】
一実施態様では、配列番号132のアミノ酸配列からなる抗原結合受容体が提供される。
【0205】
一実施態様では、配列番号19のアミノ酸配列を含まない、本明細書に記載の抗原結合受容体が提供される。
【0206】
本発明の抗原結合受容体を発現することができる形質導入細胞
本発明のさらなる態様は、本発明の抗原結合受容体を発現することができる形質導入T細胞である。本明細書に記載の抗原結合受容体とは、天然にはT細胞内及び/又はT細胞表面上には含まれず、正常な(非形質導入)T細胞内又は表面上で(内因的に)発現しない分子をいう。このように、T細胞内及び/又は表面上の本発明の抗原結合受容体は、T細胞に人工的に導入される。本発明の文脈において、前記T細胞、好ましくはCD8+T細胞は、本明細書に定義されるように治療される対象から単離/取得され得る。したがって、人工的に導入され、続いて前記T細胞内及び/又は表面上に提示される本明細書に記載の抗原結合受容体は、(Ig由来)免疫グロブリン、好ましくは抗体、特に抗体のFcドメインに(in vitro又はin vivoで)アクセス可能な1つ又は複数の抗原結合部分を含むドメインを含む。本発明の文脈において、これらの人工的に導入された分子は、本明細書において以下に記載されるように(レトロウイルス、レンチウイルス又は非ウイルス)形質導入後に前記T細胞内及び/又は表面上に提示される。したがって、形質導入後、本発明によるT細胞は、免疫グロブリン、好ましくは本明細書に記載のFcドメインに特定の変異を含む(治療用)抗体によって、標的細胞の存在下で活性化され得る。
【0207】
本発明はまた、本発明の抗原結合受容体をコードする核酸分子によってコードされる抗原結合受容体を発現する形質導入T細胞に関する。したがって、本発明の文脈において、形質導入細胞は、本発明の抗原結合受容体をコードする核酸分子、又は本発明の抗原結合受容体を発現する本発明のベクターを含み得る。
【0208】
本発明の文脈において、「形質導入T細胞」という用語は、遺伝子改変されたT細胞(すなわち、核酸分子が意図的に導入されたT細胞)に関する。本明細書で提供される形質導入T細胞は、本発明のベクターを含み得る。好ましくは、本明細書で提供される形質導入T細胞は、本発明の抗原結合受容体をコードする核酸分子及び/又は本発明のベクターを含む。本発明の形質導入T細胞は、外来DNA(すなわち、T細胞に導入された核酸分子)を一過性に又は安定的に発現するT細胞であり得る。特に、本発明の抗原結合受容体をコードする核酸分子は、レトロウイルス又はレンチウイルス形質導入を使用することにより、T細胞のゲノムに安定的に組み込むことができる。mRNAトランスフェクションを使用することにより、本発明の抗原結合受容体をコードする核酸分子を一過性に発現させることができる。好ましくは、本明細書で提供される形質導入T細胞は、ウイルスベクター(例えば、レトロウイルスベクター又はレンチウイルスベクター)を介してT細胞に核酸分子を導入することによって遺伝子改変されている。したがって、抗原結合受容体の発現は構成的である可能性があり、抗原結合受容体の細胞外ドメインが細胞表面上で検出可能である可能性がある。抗原結合受容体のこの細胞外ドメインは、本明細書で定義される抗原結合受容体の完全な細胞外ドメインを含み得るが、その一部も含み得る。抗原結合受容体における抗原結合部分の大きさは、必要最小限の大きさである。
【0209】
抗原結合受容体が誘導性又は抑制性プロモーターの制御下でT細胞に導入される場合、発現は条件的又は誘導性であってもよい。このような誘導性又は抑制性プロモーターの例としては、アルコールデヒドロゲナーゼI(alcA)遺伝子プロモーターとトランス活性化因子タンパク質AlcRとを含む転写系を挙げることができる。alcAプロモーターに結合した目的の遺伝子の発現を制御するために、異なる農業用アルコールベースの製剤が使用される。さらに、テトラサイクリン応答性プロモーター系は、テトラサイクリン存在下で遺伝子発現系を活性化するか又は抑制するかのいずれかの機能を有し得る。これらの系のエレメントとしては、テトラサイクリンリプレッサータンパク質(TetR)、テトラサイクリンオペレーター配列(tetO)、及びTetRと単純ヘルペスウイルスタンパク質16(VP16)活性化配列との融合体であるテトラサイクリントランス活性化因子融合タンパク質(tTA)などがある。さらに、ステロイド応答性プロモーター、金属調節プロモーター又は病原性関連(PR)タンパク質関連プロモーターを使用することができる。
【0210】
この発現は、使用する系によって、恒常的又は構成的であり得る。本発明の抗原結合受容体は、本明細書で提供される形質導入T細胞の表面に発現させることができる。抗原結合受容体の細胞外部分(すなわち抗原結合受容体の細胞外ドメイン)は細胞表面で検出可能であり得るが、一方、細胞内部分(すなわち共刺激シグナル伝達ドメイン(1つ又は複数)及び刺激シグナル伝達ドメイン)は細胞表面で検出不可能である。抗原結合受容体の細胞外ドメインの検出は、この細胞外ドメインに特異的に結合する抗体を使用することによって、又は細胞外ドメインが結合することができる変異Fcドメインによって行うことができる。細胞外ドメインは、これらの抗体又はFcドメインを使用して、フローサイトメトリー又は顕微鏡法によって検出することができる。
【0211】
他の細胞もまた、本発明の抗原結合受容体で形質導入され、それによって標的細胞に対して指向され得る。これらのさらなる細胞には、B細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、自然リンパ球系細胞、マクロファージ、単球、樹状細胞又は好中球が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、前記免疫細胞はリンパ球であろう。白血球の表面上の本発明の抗原結合受容体がトリガーとなり、その細胞が由来する系統に関係なく、変異Fcドメインを含む治療用抗体と併用して、その細胞を標的細胞に対して細胞傷害性にする。細胞傷害性は、抗原結合受容体として選択された刺激シグナル伝達ドメイン又は共刺激シグナル伝達ドメインに関係なく起こり、追加のサイトカインの外因性供給には依存しない。したがって、本発明の形質導入細胞は、例えば、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、γδT細胞、ナチュラルキラー(NK)T細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、ミエロイド細胞又は間葉系幹細胞であってもよい。好ましくは、本明細書で提供される形質導入細胞はT細胞(例えば、自己T細胞)であり、より好ましくは、形質導入細胞はCD8+ T細胞である。したがって、本発明の文脈において、形質導入細胞はCD8+ T細胞である。さらに、本発明の文脈において、形質導入細胞は自己T細胞である。したがって、本発明の文脈において、形質導入細胞は、好ましくは自己CD8+ T細胞である。対象から分離した自己細胞(例えば、T細胞)の使用に加えて、本発明は、同種異系細胞の使用も包含する。したがって、本発明の文脈において、形質導入細胞は、同種異系CD8+ T細胞などの同種異系細胞であってもよい。同種異系という用語は、例えば本明細書に記載の抗原結合受容体発現型の形質導入細胞によって治療される個体/対象とヒト白血球抗原(HLA)が適合する非血縁ドナー個体/対象に由来する細胞を指す。自己細胞とは、本明細書に記載の形質導入細胞で治療される対象から上記のように単離/取得された細胞を指す。
【0212】
本発明の形質導入細胞は、さらなる核酸分子、例えばサイトカインをコードする核酸分子を共形質導入され得る。
【0213】
本発明はまた、本発明の抗原結合受容体を発現する形質導入T細胞の製造方法であって、T細胞を本発明のベクターで形質導入する工程と、前記形質導入細胞の中又は上での抗原結合受容体の発現を可能にする条件下で前記形質導入T細胞を培養する工程と、前記形質導入T細胞を回収する工程とを含む方法に関する。
【0214】
本発明の文脈において、本発明の形質導入細胞は、好ましくは対象(好ましくはヒト患者)から細胞(例えば、T細胞、好ましくはCD8+ T細胞)を単離することによって製造される。患者から又はドナーから細胞(例えばT細胞、好ましくはCD8+ T細胞)を単離/取得する方法は当技術分野において周知であり、患者から又はドナーからの本細胞(例えばT細胞、好ましくはCD8+ T細胞)の文脈では、例えば細胞は採血又は骨髄の除去によって単離され得る。患者の試料として細胞を単離/取得した後、細胞(例えばT細胞)を試料の他の成分から分離する。試料から細胞(例えばT細胞)を分離するいくつかの方法が知られており、限定されないが、例えば、患者又はドナーの末梢血試料から細胞を得るための白血球搬出法、FACS細胞選別装置を使用することにより細胞を単離/取得する方法などが挙げられる。単離/取得された細胞T細胞は、その後、例えば、抗CD3抗体を使用することによって、抗CD3及び抗CD28モノクローナル抗体を使用することによって、且つ/又は抗CD3抗体、抗CD28抗体及びインターロイキン2(IL-2)を使用することによって培養及び増殖される(例えば、Dudley,Immunother.26(2003),332-342又はDudley,Clin.Oncol.26(2008),5233-5239を参照)。
【0215】
その後の工程において、細胞(例えば、T細胞)は、当技術分野で公知の方法(例えば、Lemoine,J Gene Med 6(2004),374-386を参照)によって人工的/遺伝子的に改変/形質導入される。細胞(例えばT細胞)に形質導入する方法は当技術分野で公知であり、限定されないが、核酸又は組換え核酸が形質導入される場合、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、カチオン性脂質法又はリポソーム法などが挙げられる。導入する核酸は、市販のトランスフェクション試薬、例えばリポフェクタミン(Invitrogen社製、カタログ番号:11668027)を使用することにより、従来通りに高効率で形質導入することができる。ベクターを使用する場合、ベクターがプラスミドベクター(すなわち、ウイルスベクターではないベクター)である限り、ベクターは、上記の核酸と同様に形質導入することができる。本発明の文脈において、細胞(例えば、T細胞)に形質導入する方法としては、レトロウイルス又はレンチウイルスT細胞形質導入、非ウイルスベクター(例えば、スリーピングビューティーミニサークルベクター)、並びにmRNAトランスフェクションが挙げられる。「mRNAトランスフェクション」とは、形質導入される細胞内で目的のタンパク質、例えば本発明の抗原結合受容体を一過性に発現させる当業者に周知の方法を指す。簡単に言えば、細胞は、エレクトロポレーションシステム(例えば、Gene Pulser、Bio-Rad)を使用することによって、本発明の抗原結合受容体をコードするmRNAでエレクトロポレーションされ、その後、上記の標準的な細胞(例えば、T細胞)培養プロトコールによって培養され得る(hao et al.,Mol Ther.13(1)(2006),151-159を参照)。本発明の形質導入細胞は、レンチウイルス形質導入、又は最も好ましくはレトロウイルス形質導入によって生成することができる。
【0216】
これに関連して、細胞に形質導入するための適切なレトロウイルスベクターは当技術分野で知られており、例えば、SAMEN CMV/SRa(Clay et al.,J.Immunol.163(1999),507-513),LZRS-id3-IHRES(Heemskerk et al.,J.Exp.Med.186(1997),1597-1602),FeLV(Neil et al.,Nature 308(1984),814-820),SAX(Kantoff et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83(1986),6563-6567),pDOL(Desiderio,J.Exp.Med.167(1988),372-388),N2(Kasid et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87(1990),473-477),LNL6(Tiberghien et al.,Blood 84(1994),1333-1341),pZipNEO(Chen et al.,J.Immunol.153(1994),3630-3638),LASN(Mullen et al.,Hum.Gene Ther.7(1996),1123-1129),pG1XsNa(Taylor et al.,J.Exp.Med.184(1996),2031-2036),LCNX(Sun et al.,Hum.Gene Ther.8(1997),1041-1048),SFG(Gallardo et al.,Blood 90(1997)、及びLXSN(Sun et al.,Hum.Gene Ther.8(1997),1041-1048),SFG(Gallardo et al.,Blood 90(1997),952-957),HMB-Hb-Hu(Vieillard et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94(1997),11595-11600),pMV7(Cochlovius et al.,Cancer Immunol.Immunother.46(1998),61-66),pSTITCH(Weitjens et al.,Gene Ther 5(1998),1195-1203),pLZR(Yang et al.,Hum.Gene Ther.10(1999),123-132),pBAG(Wu et al.,Hum.Gene Ther.10(1999),977-982),rKat.43.267bn(Gilham et al.,J.Immunother.25(2002),139-151),pLGSN(Engels et al.,Hum.Gene Ther.14(2003),1155-1168),pMP71(Engels et al.,Hum.Gene Ther.14(2003),1155-1168),pGCSAM(Morgan et al.,J.Immunol.171(2003),3287-3295),pMSGV(Zhao et al.,J.Immunol.174(2005),4415-4423)、又はpMX(de Witte et al.,J.Immunol.181(2008),5128-5136)などである。本発明の文脈において、細胞(例えばT細胞)に形質導入するための適切なレンチウイルスベクターは、例えば、PL-SINレンチウイルスベクター(Hotta et al.,Nat Methods.6(5)(2009),370-376),p156RRL-sinPPT-CMV-GFP-PRE/NheI(Campeau et al.,PLoS One 4(8)(2009),e6529),pCMVR8.74(Addgeneカタログ番号:22036),FUGW(Lois et al.,Science 295(5556)(2002),868-872,pLVX-EF1(Addgeneカタログ番号:64368),pLVE(Brunger et al.,Proc Natl Acad Sci USA 111(9)(2014),E798-806),pCDH1-MCS1-EF1(Hu et al.,Mol Cancer Res.7(11)(2009),1756-1770),pSLIK(Wang et al.,Nat Cell Biol.16(4)(2014),345-356),pLJM1(Solomon et al.,Nat Genet.45(12)(2013),1428-30),pLX302(Kang et al.,Sci Signal.6(287)(2013),rs13),pHR-IG(Xie et al.,J Cereb Blood Flow Metab.33(12)(2013),1875-85),pRRLSIN(Addgeneカタログ番号:62053),pLS(Miyoshi et al.,J Virol.72(10)(1998),8150-8157),pLL3.7(Lazebnik et al.,J Biol Chem.283(7)(2008),11078-82),FRIG(Raissi et al.,Mol Cell Neurosci.57(2013),23-32),pWPT(Ritz-Laser et al.,Diabetologia.46(6)(2003),810-821),pBOB(Marr et al.,J Mol Neurosci.22(1-2)(2004),5-11)、又はpLEX(Addgeneカタログ番号:27976)である。
【0217】
本発明の形質導入細胞は、好ましくは、それらの自然環境の外で、制御された条件下で増殖される。特に、「培養」という用語は、多細胞真核生物(好ましくはヒト患者由来)に由来する細胞(例えば、本発明の形質導入細胞)をin vitroで増殖させることを意味する。細胞培養は、元の組織源から分離された細胞生存させておくための実験技術である。ここで、本発明の形質導入細胞は、前記形質導入細胞中又は前記形質導入細胞上で本発明の抗原結合受容体の発現を可能にする条件下で培養される。導入遺伝子(すなわち、本発明の抗原結合受容体)の発現を可能にする条件は、当技術分野で一般的に知られており、例えば、アゴニスト抗CD3抗体及び抗CD28抗体、並びにインターロイキン2(IL-2)、インターロイキン7(IL-7)、インターロイキン12(IL-12)及び/又はインターロイキン15(IL-15)などのサイトカインの添加が含まれる。本発明の抗原結合受容体を培養された形質導入細胞(例えば、CD8+ T)内で発現させた後、形質導入細胞を培養物(すなわち、培養培地)から回収(すなわち、再抽出)する。
【0218】
したがって、本発明には、本発明の方法によって得られる本発明の核酸分子によってコードされる抗原結合受容体を発現する形質導入細胞、好ましくはT細胞、特にCD8+ T細胞も含まれる。
【0219】
核酸分子
本発明のさらなる態様は、本発明の1つ又は複数の抗原結合受容体をコードする核酸及びベクターである。本発明の抗原結合受容体をコードする例示的な核酸分子を配列番号20に示す。本発明の核酸分子は、調節配列の制御下にあり得る。例えば、本発明の抗原結合受容体の誘導発現を可能にするプロモーター、転写エンハンサー及び/又は配列が採用され得る。本発明の文脈において、核酸分子は構成的又は誘導性プロモーターの制御下で発現される。適切なプロモーターは、例えば、CMVプロモーター(Qin et al.,PLoS One 5(5)(2010),e10611)、UBCプロモーター(Qin et al.,PLoS One 5(5)(2010),e10611),PGK(Qin et al.,PLoS One 5(5)(2010),e10611)、EF1Aプロモーター(Qin et al.,PLoS One 5(5)(2010),e10611)、CAGGプロモーター(Qin et al.,PLoS One 5(5)(2010),e10611)、SV40プロモーター(Qin et al.,PLoS One 5(5)(2010),e10611)、COPIAプロモーター(Qin et al.,PLoS One 5(5)(2010),e10611)、ACT5Cプロモーター(Qin et al.,PLoS One 5(5)(2010),e10611)、TREプロモーター(Qin et al.,PLoS One.5(5)(2010),e10611)、Oct3/4プロモーター(Chang et al.,Molecular Therapy 9(2004),S367-S367(doi:10.1016/j.ymthe.2004.06.904))、又はNanogプロモーター(Wu et al.,Cell Res.15(5)(2005),317-24)である。したがって、本発明は、本発明に記載の核酸分子を含むベクター(複数可)にも関する。ここでベクターという用語は、それが導入された細胞内で自律的に複製できる環状又は直鎖状の核酸分子を指す。分子生物学の当業者には多くの適切なベクターが知られているが、その選択は所望の機能に依存し、プラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ、及び遺伝子工学で従来から使用されている他のベクターが含まれる。当業者に周知の方法を用いて、種々のプラスミド及びベクターを構築することができる;例えば、Sambrook et al.(loc cit.)及びAusubel,Current Protocols in Molecular Biology,Green Publishing Associates and Wiley Interscience,N.Y.(1989),(1994)に記載された技術を参照のこと。あるいは、本発明のポリヌクレオチド及びベクターは、標的細胞に送達するためにリポソームに再構成することができる。詳細は後述するが、DNAの個々の配列を単離するためにクローニングベクターを使用した。特定のポリペプチドの発現が必要な場合には、関連配列を発現ベクターに導入することができる。典型的なクローニングベクターには、pBluescript SK、pGEM、pUC9、pBR322、pGA18、及びpGBT9が挙げられる。典型的な発現ベクターには、pTRE、pCAL-n-EK、pESP-1、pOP13CATが挙げられる。
【0220】
本発明はまた、本明細書で定義される抗原結合受容体をコードする前記核酸分子(複数可)に作動可能に連結された調節配列である核酸分子(複数可)を含むベクターに関する。本発明の文脈において、ベクターはポリシストロニックであってもよい。このような調節配列(制御エレメント)は、当業者に知られており、プロモーター、スプライスカセット、翻訳開始コドン、ベクターに挿入物を導入するための翻訳及び挿入部位を含み得る。本発明の文脈において、前記核酸分子(複数可)は、真核細胞又は原核細胞での発現を可能にする前記発現制御配列に作動可能に連結される。前記ベクターは、本明細書で定義される抗原結合受容体をコードする核酸分子(複数可)を含む発現ベクター(複数可)であることが想定される。作動可能に連結されるとは、そのように記載された構成要素が、それらが意図された方法で機能することを可能にする関係にある並置を指す。コード配列に作動可能に連結された制御配列は、コード配列の発現が制御配列に適合する条件下で達成されるように連結される。制御配列がプロモーターである場合、二本鎖核酸が好ましく使用されることは当業者にとって明らかである。
【0221】
本発明の文脈において、記載されたベクター(複数可)は発現ベクター(複数可)である。発現ベクターは、選択された細胞を形質転換するために使用することができる構築物であり、選択された細胞内でコード配列の発現を提供する。発現ベクターは、例えばクローニングベクター(複数可)、バイナリベクター(複数可)、又は統合ベクター(複数可)であり得る。発現は、好ましくは翻訳可能なmRNAへの核酸分子の転写を含む。原核生物及び/又は真核細胞における発現を確実にする調節エレメントは、当業者には周知である。真核細胞の場合、それらは通常、転写の開始を確実にするプロモーターと、任意で転写の終止と転写物の安定化を確実にするポリAシグナルを含む。原核宿主細胞での発現を可能にする可能性のある調節エレメントとしては、例えば、大腸菌のPL、lac、trp又はtacプロモーターが挙げられ、真核宿主細胞での発現を可能にする調節エレメントの例としては、酵母のAOX1又はGAL1プロモーター、又は哺乳動物及びその他の動物細胞におけるCMV、SV40、RSVプロモーター(ラウス肉腫ウイルス)、CMVエンハンサー、SV40エンハンサー、又はグロビンイントロンが挙げられる。
【0222】
転写の開始を担うエレメントの他に、そのような調節エレメントには、ポリヌクレオチドの下流にあるSV40-ポリA部位又はtk-ポリA部位などの転写終止シグナルも含まれ得る。さらに、使用される発現システムに応じて、ポリペプチドを細胞区画に誘導するか、又は培地に分泌することができるシグナルペプチドをコードするリーダー配列を、記載された核酸配列のコード配列に追加することができ、これは当技術分野で周知である;例えば、添付の実施例も参照のこと。
【0223】
リーダー配列(複数可)は、翻訳、開始及び終止配列と適切な段階で組み立てられ、好ましくは、翻訳されたタンパク質又はその一部の細胞周辺腔又は細胞外培地への分泌を誘導できるリーダー配列である。任意に、異種配列は、所望の特性、例えば、発現された組換え産物の安定化又は簡便な精製を付与するN末端同定ペプチドを含む抗原結合受容体をコードすることができる;上掲を参照のこと。これに関連して、適切な発現ベクターは、Okayama-Berg cDNA発現ベクターpcDV1(Pharmacia)、pCDM8、pRc/CMV、pcDNA1、pcDNA3(In-vitrogene)、pEF-DHFR、pEF-ADA又はpEF-neo(Raum et al.Cancer Immunol Immunother 50(2001),141-150)又はpSPORT1(GIBCO BRL)など、当技術分野で公知である。
【0224】
本発明の文脈において、発現制御配列は、真核細胞を形質転換又はトランスフェクトすることができるベクター内の真核性プロモーター系であろうが、原核細胞用の制御配列もまた使用され得る。ベクターが適切な細胞に組み込まれると、その細胞はヌクレオチド配列の高レベル発現に適した条件下で、所望に応じて維持される。追加の調節エレメントには、転写エンハンサー並びに翻訳エンハンサーが含まれる場合がある。有利には、本発明の上記のベクターは、選択可能及び/又はスコア付け可能な(scorable)マーカーを含む。形質転換細胞並びに例えば植物組織及び植物の選択に有用な選択可能マーカー遺伝子は、当業者に周知であり、例えば、メトトレキセートに対する耐性を付与するdhfr(Reiss,Plant Physiol.(Life Sci.Adv.)13(1994),143-149)、アミノグリコシドのネオマイシン、カナマイシン、及びパロマイシンに耐性を与えるnpt(Herrera-Estrella,EMBO J.2(1983),987-995)、及びハイグロマイシンに対する耐性を与えるhygro(Marsh,Gene 32(1984),481-485)の選択の基礎としての代謝拮抗剤耐性を含んでいる。追加の選択遺伝子が記載されており、すなわち、細胞がトリプトファンの代わりにインドールを利用できるようにするtrpB;細胞がヒスチジンの代わりにヒスチノールを利用できるようにするhisD(Hartman,Proc.Natl.Acad.Sci.USA85(1988),8047);細胞がマンノースを利用できるようにするマンノース-6-リン酸イソメラーゼ(国際公開第94/20627号)及びオルニチン脱炭酸酵素阻害剤である2-(ジフルオロメチル)-DL-オルニチン、DFMOに対する耐性を付与するODC(オルニチン脱炭酸酵素)McConlogue,1987,In:Current Communications in Molecular Biology,Cold Spring Harbor Laboratory ed.)又はブラストサイジンSに対する耐性を付与するAspergillus terreus由来のデアミナーゼ(Tamura,Biosci.Biotechnol.Biochem.59(1995),2336-2338)である。
【0225】
有用なスコア付け可能な(scorable)マーカーも当業者に知られており、市販されている。有利には、前記マーカーは、ルシフェラーゼ(Giacomin,Pl.Sci.116(1996),59-72;Scikantha,J.Bact.178(1996),121)、緑色蛍光タンパク質(Gerdes,FEBS Lett.389(1996),44-47)、又はβ-グルクロニダーゼをコードする遺伝子である(Jefferson,EMBO J.6(1987),3901-3907)。この実施態様は、記載されたベクターを含む細胞、組織、及び生物の簡単且つ迅速なスクリーニングに特に有用である。
【0226】
上記のように、記載された核酸分子は、例えば養子T細胞療法のためだけでなく、遺伝子治療の目的でも、細胞内で本発明の抗原結合受容体を発現させるために、単独で又はベクター(複数可)の一部として使用することができる。本明細書に記載の抗原結合受容体のいずれか1つをコードするDNA配列(複数可)を含む核酸分子又はベクター(複数可)が細胞に導入され、次いで、目的のポリペプチドが産生される。遺伝子治療は、体外又は体内の技術によって治療遺伝子を細胞に導入することに基づいており、遺伝子導入の最も重要な応用の1つである。in vitro又はin vivo遺伝子治療のための方法又は遺伝子送達システムに適したベクター、方法又は遺伝子送達システムは文献に記載されており、当業者に知られている;例えば、Giordano,Nature Medicine 2(1996),534-539;Schaper,Circ.Res.79(1996),911-919;Anderson,Science 256(1992),808-813;Verma,Nature 389(1994),239;Isner,Lancet 348(1996),370-374;Muhlhauser,Circ.Res.77(1995),1077-1086;Onodera,Blood 91(1998),30-36;Verma,Gene Ther.5(1998),692-699;Nabel,Ann.N.Y.Acad.Sci.811(1997),289-292;Verzeletti,Hum.Gene Ther.9(1998),2243-51;Wang,Nature Medicine 2(1996),714-716;国際公開第94/29469号;国際公開第97/00957号;米国特許第5,580,859号;米国特許第5,589,466号;又はSchaper,Current Opinion in Biotechnology 7(1996),635-640を参照のこと。記載された核酸分子及びベクターは、細胞への直接導入用、又はリポソーム若しくはウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス)を介した導入用に設計することができる。本発明の文脈において、前記細胞は、CD8+ T細胞、CD4+ T細胞、CD3+ T細胞、γδT細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞などのT細胞であり、好ましくはCD8+ T細胞である。
【0227】
上記に従い、本発明は、本明細書において定義される抗原結合受容体のポリペプチド配列をコードする核酸分子を含む、遺伝子工学において従来から使用されているベクター、特にプラスミド、コスミド及びバクテリオファージを誘導する方法に関する。本発明の文脈において、前記ベクターは、発現ベクター及び/又は遺伝子導入ベクター若しくはターゲティングベクターである。レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、又はウシ乳頭腫ウイルスなどのウイルスに由来する発現ベクターは、標的細胞集団への上記のポリヌクレオチド又はベクターの送達に使用することができる。
【0228】
当業者に周知の方法が、組換えベクター(複数可)を構築するために使用され得る;例えば、Sambrook et al.(loc cit.),Ausubel(1989,loc cit.)又は他の標準的な教科書に記載された技術を参照のこと。あるいは、上記の核酸分子及びベクターは、標的細胞に送達するためにリポソームに再構成することができる。本発明の核酸分子を含むベクターは、細胞宿主の種類に応じて異なる周知の方法によって宿主細胞に導入することができる。例えば、塩化カルシウムトランスフェクションは一般的に原核細胞に用いられるが、リン酸カルシウム処理又はエレクトロポレーションは他の細胞宿主に用いられる(Sambrook、前掲を参照)。記載のベクターは、特に、pEF-DHFR、pEF-ADA又はpEF-neoであり得る。ベクターpEF-DHFR、pEF-ADA及びpEF-neoは、当技術分野において、例えば、Mack et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92(1995),7021-7025及びRaum et al.Cancer Immunol Immunother 50(2001),141-150に記載されている。
【0229】
本発明はまた、本明細書に記載のベクターで形質導入されたT細胞も提供する。前記T細胞は、上記ベクターの少なくとも1つ又は上記核酸分子の少なくとも1つをT細胞又はその前駆細胞に導入することによって産生され得る。T細胞における前記少なくとも1つのベクター又は少なくとも1つの核酸分子の存在は、変異Fcドメインに特異的に結合することができる抗原結合部分を含む細胞外ドメインを含む上記の抗原結合受容体をコードする遺伝子の発現を媒介する。本発明のベクターはポリシストロニックであってもよい。
【0230】
T細胞又はその前駆体細胞に導入される記載された核酸分子(複数可)又はベクター(複数可)は、細胞のゲノムに組み込まれるか、又は染色体外に維持され得る。
【0231】
標的細胞抗原
上述したように、変異Fcドメイン、特にアミノ酸変異P329G(EU番号付けによる)を含むFcドメインからなる本明細書に記載の抗体の(Ig由来)ドメインは、標的細胞表面分子、例えば腫瘍細胞表面に天然に存在する腫瘍特異的抗原に対して特異性を有する抗原相互作用部位を含む。本発明の文脈において、このような抗体は、本発明の抗原結合受容体を含む本明細書に記載の形質導入T細胞を標的細胞(例えば腫瘍細胞)と物理的に接触させ、形質導入T細胞が活性化される。本発明の形質導入T細胞の活性化は、本明細書に記載されているように、標的細胞の溶解を優先的にもたらす。
【0232】
標的細胞(腫瘍など)の表面に自然に発生する標的細胞抗原(腫瘍マーカーなど)の例が本明細書で以下に示され、限定されないが、FAP(線維芽細胞活性化タンパク質)、CEA(癌胎児性抗原)、p95(p95HER2)、BCMA(B細胞成熟抗原)、EpCAM(上皮細胞接着分子)、MSLN(メソテリン)、MCSP(黒色腫コンドロイチン硫酸プロテオグリカン)、HER-1(ヒト上皮成長因子1)、HER-2(ヒト上皮成長因子2)、HER-3(ヒト上皮成長因子3)、CD19、CD20、CD22、CD33、CD38、CD52Flt3、葉酸受容体1(FOLR1)、ヒト栄養膜細胞表面抗原2(Trop-2)、がん抗原12-5(CA-12-5)、ヒト白血球抗原-抗原D関連(HLA-DR)、MUC-1(ムチン-1)、A33抗原、PSMA(前立腺特異的膜抗原)、FMS様チロシンキナーゼ3(FLT-3)、PSMA(前立腺特異的膜抗原)、PSCA(前立腺幹細胞抗原)、トランスフェリン受容体、TNC(テネイシン)、炭素脱水酵素IX(CA-IX)、及び/又はヒト主要組織適合性複合体(MHC)の分子に結合したペプチドが挙げられる。
【0233】
したがって、本発明の文脈において、本明細書に記載の抗原結合受容体は、アミノ酸変異P329G(EU番号付けによる)を含むFcドメイン、すなわち、FAP(線維芽細胞活性化タンパク質)、CEA(癌胎児性抗原)、p95(p95HER2)、BCMA(B細胞成熟抗原)、EpCAM(上皮細胞接着分子)、MSLN(メソテリン)、MCSP(黒色腫コンドロイチン硫酸プロテオグリカン)、HER-1(ヒト上皮成長因子1)、HER-2(ヒト上皮成長因子2)、HER-3(ヒト上皮成長因子3)、CD19、CD20、CD22、CD33、CD38、CD52Flt3、葉酸受容体1(FOLR1)、ヒト栄養膜細胞表面抗原2(Trop-2)、がん抗原12-5(CA-12-5)、ヒト白血球抗原-抗原D関連(HLA-DR)、MUC-1(ムチン-1)、A33抗原、PSMA(前立腺特異的膜抗原)、FMS様チロシンキナーゼ3(FLT-3)、PSMA(前立腺特異的膜抗原)、PSCA(前立腺幹細胞抗原)、トランスフェリン受容体、TNC(テネイシン)、炭素脱水酵素IX(CA-IX)、及び/又はヒト主要組織適合性複合体(MHC)の分子に結合したペプチドからなる群から選択される腫瘍細胞の表面上に天然に存在する抗原/マーカーに特異的に結合することができる治療用抗体に結合する。
【0234】
A33抗原、BCMA(B細胞成熟抗原)、がん抗原12-5(CA-12-5)、炭素脱水酵素IX(CA-IX)、CD19、CD20、CD22、CD33、CD38、CEA(癌胎児性抗原)、EpCAM(上皮細胞接着分子)、FAP(線維芽細胞活性化タンパク質)、FMS様チロシンキナーゼ3(FLT-3)、葉酸受容体1(FOLR1)、HER-1(ヒト上皮成長因子1)、HER-2(ヒト上皮成長因子2)、HER-3(ヒト上皮成長因子3)、ヒト白血球抗原-抗原D関連(HLA-DR)、MSLN(メソテリン)、MCSP(黒色腫コンドロイチン硫酸プロテオグリカン)、MUC-1(ムチン-1)、PSMA(前立腺特異膜抗原)、PSMA(前立腺特異膜抗原)、PSCA(前立腺幹細胞抗原)、p95(p95HER2)、トランスフェリン受容体、TNC(テネイシン)、ヒト栄養膜細胞表面抗原2(Trop-2)の(ヒト)メンバーの配列は、UniProtKB/Swiss-Protデータベースにおいて入手可能であり、http://www.uniprot.org/uniprot/?query=reviewed%3Ayesから取得できる。これらの(タンパク質)配列は、注釈付き修飾配列にも関連している。本発明はまた、本明細書で提供される簡潔な配列の相同配列、及び遺伝的対立遺伝子バリアントなどが使用される技術及び方法も提供する。好ましくは、本明細書の簡潔な配列のそのようなバリアントなどが使用される。好ましくは、そのようなバリアントは遺伝子バリアントである。当業者は、これらの(タンパク質)配列の関連するコード領域を、mRNA/DNAだけでなくゲノムDNAのエントリーを含むこれらのデータバンクのエントリーから容易に推測することができる。(ヒト)FAP(線維芽細胞活性化タンパク質)の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーQ12884(エントリーバージョン168、配列バージョン5)から取得できる;(ヒト)CEA(癌胎児性抗原)の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP06731(エントリーバージョン171、配列バージョン3)から取得できる;(ヒト)EpCAM(上皮細胞接着分子)の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP16422(エントリーバージョン117、配列バージョン2)から取得できる;(ヒト)MSLN(メソテリン)の配列は、UniProtエントリー番号Q13421(バージョン番号132、配列バージョン2)から取得できる;(ヒト)FMS様チロシンキナーゼ3(FLT-3)の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP36888(一次引用可能アクセッション番号)又はQ13414(二次アクセッション番号)、バージョン番号165、配列バージョン2から取得できる;(ヒト)MCSP(黒色腫コンドロイチン硫酸プロテオグリカン)の配列は、UniProtエントリー番号Q6UVK1(バージョン番号118、配列バージョン2)から取得できる;(ヒト)葉酸受容体1(FOLR1)の配列は、UniProtエントリー番号P15328(一次引用可能アクセッション番号)又はQ53EW2(二次アクセッション番号)、バージョン番号153及び配列バージョン3から取得できる;(ヒト)栄養芽細胞表面抗原2(Trop-2)の配列は、UniProtエントリー番号P09758(一次引用可能アクセッション番号)又はQ15658(二次アクセッション番号)、バージョン番号172及び配列バージョン3から取得できる;(ヒト)PSCA(前立腺幹細胞抗原)の配列は、UniProtエントリー番号O43653(一次引用可能アクセッション番号)又はQ6UW92(二次アクセッション番号)、バージョン番号134及び配列バージョン1から取得できる;(ヒト)HER-1(上皮成長因子受容体)の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP00533(エントリーバージョン177、配列バージョン2)から取得できる;(ヒト)HER-2(受容体チロシンタンパク質キナーゼerbB-2)の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP04626(エントリーバージョン161、配列バージョン1)から取得できる;(ヒト)HER-3(受容体チロシンタンパク質キナーゼerbB-3)の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP21860(エントリーバージョン140、配列バージョン1)から取得できる;(ヒト)CD20(Bリンパ球抗原CD20)の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP11836(エントリーバージョン117、配列バージョン1)から取得できる;(ヒト)CD22(Bリンパ球抗原CD22)の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP20273(エントリーバージョン135、配列バージョン2)から取得できる;(ヒト)CD33(Bリンパ球抗原CD33)の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP20138(エントリーバージョン129、配列バージョン2)から取得できる;(ヒト)CA-12-5(ムチン16)の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーQ8WXI7(エントリーバージョン66、配列バージョン2)から取得できる;(ヒト)HLA-DRの配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーQ29900(エントリーバージョン59、配列バージョン1)から取得できる;(ヒト)MUC-1(ムチン-1)の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP15941(エントリーバージョン135、配列バージョン3)から取得できる;(ヒト)A33(細胞表面A33抗原)の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーQ99795(エントリーバージョン104、配列バージョン1)から取得できる;(ヒト)PSMA(グルタミン酸カルボキシペプチダーゼ2)の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーQ04609(エントリーバージョン133、配列バージョン1)から取得できる;(ヒト)トランスフェリン受容体の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーQ9UP52(エントリーバージョン99、配列バージョン1)及びP02786(エントリーバージョン152、配列バージョン2)から取得できる;(ヒト)TNC(テネイシン)の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP24821(エントリーバージョン141、配列バージョン3)から取得できる;又は、(ヒト)CA-IX(炭酸脱水酵素IX)の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーQ16790(エントリーバージョン115、配列バージョン2)から取得できる。
【0235】
好ましい実施態様では、標的細胞抗原は、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、がん胎児性抗原(CEA)、メソテリン(MSLN)、CD20、葉酸受容体1(FOLR1)及びテネイシン(TNC)からなる群から選択される。
【0236】
上記の標的細胞抗原のいずれかに特異的に結合できる抗体は、哺乳動物免疫系を免疫化すること、及び/又は組換えライブラリーを用いたファージディスプレイなど、当技術分野で周知の方法を用いて生成することができる。
【0237】
本発明に従って使用される抗体は、P329G変異(EU番号付けによる)を含むFcドメインを含む。P329G変異はFc受容体の結合及び/又はエフェクター機能を低下させ、結合及び/又はエフェクター機能に影響を及ぼすさらなるFc変異と組み合わせて用いることができる。したがって、さらなる実施態様では、抗体の変異Fcドメインは、天然IgG1 Fcドメインと比較して、Fc受容体に対する結合親和性の低下及び/又はエフェクター機能の低下を示す。そのような一実施態様では、変異Fcドメイン(又は前記Fc変異ドメインを含む抗体)は、天然IgG1 Fcドメイン(又は天然IgG1 Fcドメインを含む抗体)と比較して、Fc受容体に対する結合親和性の50%未満、好ましくは20%未満、より好ましくは10%未満、最も好ましくは5%未満を示し、且つ/又は、天然IgG1 Fcドメイン(又は天然IgG1 Fcドメインを含む抗体)と比較して、エフェクター機能の50%未満、好ましくは20%未満、より好ましくは10%未満、最も好ましくは5%未満を示す。一実施態様では、変異Fcドメイン(又は前記変異Fcドメインを含む抗体)は、Fc受容体に実質的に結合せず、且つ/又はエフェクター機能を誘導しない。特定の実施態様では、Fc受容体は、Fcγ受容体である。一実施態様では、Fc受容体は、ヒトFc受容体である。一実施態様では、Fc受容体は、活性化Fc受容体である。特定の実施態様では、Fc受容体は活性化ヒトFcγ受容体、より具体的にはヒトFcγRIIIa、FcγRI又はFcγRIIa、最も具体的にはヒトFcγRIIIaである。一実施態様では、エフェクター機能は、CDC、ADCC、ADCP及びサイトカイン分泌の群から選択される1つ以上である。特定の実施態様では、エフェクター機能は、ADCCである。一実施態様では、変異Fcドメインは、天然IgG1 Fcドメインと比較して、新生児Fc受容体(FcRn)に対して実質的に変化した結合親和性を示す。一実施態様では、変異Fcドメインを含む抗体は、操作されていないFcドメインを含む抗体と比較して、Fc受容体に対する結合親和性の20%未満、具体的には10%未満、より具体的には5%未満を示す。特定の実施態様では、Fc受容体は、Fcγ受容体である。いくつかの実施態様では、Fc受容体は、ヒトFc受容体である。いくつかの実施態様では、Fc受容体は、活性化Fc受容体である。特定の実施態様では、Fc受容体は活性化ヒトFcγ受容体、より具体的にはヒトFcγRIIIa、FcγRI又はFcγRIIa、最も具体的にはヒトFcγRIIIaである。好ましくは、これらの受容体それぞれへの結合が低下する。いくつかの実施態様では、補体成分に対する結合親和性、特にC1qに対する結合親和性も低下する。
【0238】
特定の実施態様では、抗体のFcドメインは、非変異型Fcドメインと比較して、エフェクター機能が低下するように変異している。エフェクター機能の低下には、限定されないが、以下のうちの1つ又は複数を挙げることができる:補体依存性細胞傷害(CDC)の低下、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)の低下、抗体依存性細胞食作用(ADCP)の低下、サイトカイン分泌の低下、抗原提示細胞による免疫複合体媒介性抗原取り込みの低下、NK細胞への結合の低下、マクロファージへの結合の低下、単球への結合の低下、多形核細胞への結合の低下、アポトーシスを誘導する直接的なシグナル伝達の低下、標的結合抗体の架橋の低下、樹状細胞の成熟の低下、又はT細胞のプライミングの低下。一実施態様では、エフェクター機能の低下は、CDCの低下、ADCCの低下、ADCPの低下及びサイトカイン分泌の低下の群から選択される1つ又は複数である。特定の実施態様では、エフェクター機能の低下はADCCの低下である。一実施態様では、ADCCの低下は、操作されていないFcドメイン(又は操作されていないFcドメインを含む抗体)によって誘発されるADCCの20%未満である。
【0239】
一実施態様では、Fc受容体に対するFcドメインの結合親和性及び/又はエフェクター機能を低下させるアミノ酸変異は、アミノ酸置換である。一実施態様では、Fcドメインは、E233、L234、L235、N297、及びP331の群から選択される位置にアミノ酸置換を含む。より具体的な実施態様では、Fcドメインは、L234及び/又はL235の位置にアミノ酸置換を含む。いくつかの実施態様では、Fcドメインは、アミノ酸置換L234A及びL235Aを含む。そのような一実施態様では、Fcドメインは、IgG1 Fcドメイン、特にヒトIgG1 Fcドメインである。より具体的な実施態様では、さらなるアミノ酸置換は、E233P、L234A、L235A、L235E、N297A、N297D又はP331Sである。好ましい実施態様では、Fcドメインは、EU番号付けに従ってアミノ酸変異L234A、L235A、及びP329G(「P329G LALA」)を含む。そのような一実施態様では、Fcドメインは、IgG1 Fcドメイン、特にヒトIgG1 Fcドメインである。アミノ酸置換の「P329G LALA」の組み合わせは、その全体が本明細書に参考として組み込まれるPCT出願公開番号WO2012/130831号に記載されるように、ヒトIgG1 FcドメインのFcγ受容体(及び相補体)の結合をほぼ完全に消失させる。国際公開第2012/130831号は、そのような変異体Fcドメインを調製する方法及びFc受容体の結合又はエフェクター機能などの特性を決定する方法も記載する。
【0240】
特定の実施態様では、FcドメインのN-グリコシル化が除去されている。そのような一実施態様では、Fcドメインは、位置N297のアミノ酸変異、特にアスパラギンをアラニン(N297A)又はアスパラギン酸(N297D)に置き換えるアミノ酸変異を含む。
【0241】
本明細書に記載され、PCT出願公開番号WO2012/130831号に記載されるFcドメインに加え、Fc受容体結合及び/又はエフェクター機能が低下したFcドメインは、Fcドメイン残基238、265、269、270、297、327及び329のうちの1つ以上の置換(米国特許第6,737,056号)も含む。このようなFc変異体としては、アミノ酸位置265、269、270、297及び297のうち2つ以上での置換を有するFc変異体が挙げられ、残基265及び297がアラニンに変異した、いわゆる「DANA」Fc変異体を含む(米国特許第7,332,581号)。
【0242】
変異体Fcドメインは、当技術分野で周知の遺伝的方法又は化学的方法を用い、アミノ酸の欠失、置換、挿入又は修飾によって調製することができる。遺伝学的方法には、コード化DNA配列の部位特異的変異誘発、PCR、遺伝子合成などを含み得る。正確なヌクレオチド変化は、例えば、スクリーニングによって確認することができる。
【0243】
Fc受容体に対する結合は、例えば、ELISAによって、又はBIAcore装置(GE Healthcare)などの標準的な装置と組換え発現によって得られ得るFc受容体を用いた表面プラズモン共鳴(SPR)によって、容易に決定することができる。あるいは、Fc受容体に対するFcドメイン又はFcドメインを含む細胞活性化二重特異性抗原結合分子の結合親和性は、特定のFc受容体を発現することが知られている細胞株(例えば、FcγIIIa受容体を発現するヒトNK細胞)を用いて評価されてもよい。
【0244】
Fcドメイン、又はFcドメインを含む抗体のエフェクター機能は、当技術分野で知られている方法によって測定することができる。目的の分子のADCC活性を評価するためのin vitroアッセイの他の例は、米国特許第5,500,362号、Hellstrom et al.Proc Natl Acad Sci USA 83,7059-7063(1986)及びHellstrom et al.,Proc Natl Acad Sci USA 82,1499-1502(1985)、米国特許第5,821,337号、Bruggemann et al.,J Exp Med 166,1351-1361(1987)に記載される。あるいは、非放射性アッセイ方法を使用してもよい(例えば、フローサイトメトリー(CellTechnology、Inc.Mountain View、CA)のためのACTI(商標)非放射性細胞毒性アッセイ、及びCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞傷害性アッセイ(Promega、Madison、WI))。このようなアッセイに有用なエフェクター細胞としては、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられる。あるいは、又はこれに加えて、目的の分子のADCC活性は、in vivoで、例えば、Clynes et al.,Proc Natl Acad Sci USA 95,652-656(1998)に開示されるような動物モデルにおいて評価されてもよい。
【0245】
いくつかの実施態様では、補体成分、特にC1qに対するFcドメインの結合が減少する。したがって、Fcドメインがエフェクター機能を低下させるように操作されるいくつかの実施態様では、前記低下したエフェクター機能にはCDCの低下が含まれる。C1q結合アッセイを実施して、抗体がC1qと結合できるかどうか、したがってCDC活性を有するかどうかを決定することができる。例えば、国際公開第2006/029879号及び国際公開第2005/100402号のC1q及びC3c結合ELISAを参照。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを行ってもよい(例えば、Gazzano-Santoro et al.,J Immunol Methods 202,163(1996);Cragg et al.,Blood 101、1045-1052(2003);及びCragg and Glennie,Blood 103,2738-2743(2004)を参照)。
【0246】
キット
本発明のさらなる態様は、本発明の抗原結合受容体をコードする核酸、及び/又は細胞、好ましくは本発明の抗原結合受容体による形質導入のためのT細胞/該受容体で形質導入されるT細胞、並びに任意で、変異したFcドメインを含む抗体/抗体(複数)からなるキットであり、ここで抗原結合受容体は変異したFcドメインに特異的に結合することができる。
【0247】
したがって、
(A)本発明の抗原結合受容体を発現することができる形質導入T細胞;及び
(B)標的細胞抗原に結合し、且つEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体
を含むキットが提供される。
【0248】
さらに、
(A)本発明の抗原結合受容体をコードする単離されたポリヌクレオチド及び/又はベクター;並びに
(B)標的細胞抗原に結合し、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体
を含むキットが提供される。
【0249】
本発明のキットは、形質導入T細胞、単離されたポリヌクレオチド及び/又はベクター、並びにEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む1つ又は複数の抗体を含み得る。特定の実施態様では、抗体は治療用抗体、例えば本明細書で上述したような腫瘍特異的抗体である。腫瘍特異的抗原は当技術分野で知られており、本明細書で上述した。本発明の文脈において、抗体は、本発明の抗原結合受容体を発現する形質導入T細胞の投与前、投与と同時、又は投与後に投与される。本発明によるキットは、形質導入T細胞、又は形質導入T細胞を生成するためのポリヌクレオチド/ベクターを含む。この文脈では、形質導入T細胞は、特定の腫瘍に特異的ではなく、変異したFcドメインを含む治療用抗体を使用することで任意の腫瘍を標的とすることができるため、ユニバーサルT細胞である。本明細書では、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体の例(たとえば、配列番号102~115)が提供されるが、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む任意の抗体を本発明に従って使用することができ、本明細書で提供されるキットに含めることができる。
【0250】
特定の実施態様では、変異Fc領域を含む抗体は、CD20に特異的に結合することができ、配列番号102の重鎖配列及び配列番号103の軽鎖配列を含む。一実施態様では、変異Fc領域を含む抗体は、FAPに特異的に結合することができ、配列番号104の重鎖配列及び配列番号105の軽鎖配列を含む。一実施態様では、変異Fc領域を含む抗体はCEAに特異的に結合することができ、配列番号106の重鎖配列及び配列番号107の軽鎖配列、配列番号108の重鎖配列及び配列番号109の軽鎖配列、配列番号110の重鎖配列及び配列番号111の軽鎖配列、又は配列番号112の重鎖配列及び配列番号113の軽鎖配列を含む。さらなる実施態様では、変異Fc領域を含む抗体は、テネイシン(TNC)に特異的に結合することができ、配列番号114の重鎖配列及び配列番号115の軽鎖配列を含む。
【0251】
本発明の一実施態様では、配列番号7のアミノ酸配列(「VH3VL1-CD8ATD-CD137CSD-CD3zSSD」)を発現することができる形質導入T細胞を含むキットが提供され、又は、キットは、配列番号7のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド(例えば、キットは配列番号20の配列を含むポリヌクレオチドを含む)と、配列番号102の重鎖及び配列番号103の軽鎖を含む抗体とを組み合わせて含む。このキットはCD20陽性がんの治療に使用することができる。
【0252】
別の実施態様では、配列番号7のアミノ酸配列(「VH3VL1-CD8ATD-CD137CSD-CD3zSSD」)を発現することができる形質導入T細胞を含むキットが提供され、又は、キットは、配列番号7のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド(例えば、キットは配列番号20の配列を含むポリヌクレオチドを含む)と、配列番号104の重鎖及び配列番号105の軽鎖を含む抗体とを組み合わせて含む。このキットはFAP陽性がんの治療に使用することができる。
【0253】
別の実施態様では、配列番号7のアミノ酸配列(「VH3VL1-CD8ATD-CD137CSD-CD3zSSD」)を発現することができる形質導入T細胞を含むキットが提供され、又は、キットは、配列番号7のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド(例えば、キットは配列番号20の配列を含むポリヌクレオチドを含む)と、配列番号106の重鎖及び配列番号107の軽鎖を含む抗体とを組み合わせて含む。あるいは、配列番号7のアミノ酸配列(「VH3VL1-CD28ATD-CD137CSD-CD3zSSD」)を発現することができる形質導入T細胞を含むキットが提供され、又は、キットは、配列番号7のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド(例えば、キットは配列番号20の配列を含むポリヌクレオチドを含む)と、配列番号108の重鎖及び配列番号109の軽鎖を含む抗体とを組み合わせて含む。このキットはFAP陽性がんの治療に使用することができる。あるいは、配列番号7のアミノ酸配列(「VH3VL1-CD28ATD-CD137CSD-CD3zSSD」)を発現することができる形質導入T細胞を含むキットが提供され、又は、キットは、配列番号7のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド(例えば、キットは配列番号20の配列を含むポリヌクレオチドを含む)と、配列番号110の重鎖及び配列番号111の軽鎖を含む抗体とを組み合わせて含む。別の実施態様では、配列番号7のアミノ酸配列(「VH3VL1-CD8ATD-CD137CSD-CD3zSSD」)を発現することができる形質導入T細胞を含むキットが提供され、又は、キットは、配列番号7のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド(例えば、キットは配列番号20の配列を含むポリヌクレオチドを含む)と、配列番号112の重鎖及び配列番号113の軽鎖を含む抗体とを組み合わせて含む。これらのキットはCEA陽性がんの治療に使用することができる。
【0254】
別の実施態様では、配列番号7のアミノ酸配列(「VH3VL1-CD8ATD-CD137CSD-CD3zSSD」)を発現することができる形質導入T細胞を含むキットが提供され、又は、キットは、配列番号7のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド(例えば、キットは配列番号20の配列を含むポリヌクレオチドを含む)と、配列番号114の重鎖及び配列番号115の軽鎖を含む抗体とを組み合わせて含む。このキットはTNC陽性がんの治療に使用することができる。
【0255】
さらに、本発明のキットの一部は、バイアル又はボトルに個別に包装することができ、あるいは容器又は複数容器ユニットに組み合わせて包装することができる。さらに、本発明のキットは、患者細胞、好ましくは本明細書に記載のT細胞を本発明の抗原結合受容体(複数可)で形質導入することができ、GMP(欧州委員会がhttp://ec.europa.eu/health/documents/eudralex/index_en.htmの下で公表した適正製造規範のためのガイドラインに記載されている適正製造規範)条件下でインキュベートすることができる(密閉式)バッグ細胞インキュベーションシステムを含み得る。さらに、本発明のキットは、単離/取得された患者のT細胞を本発明の抗原結合受容体で形質導入し、GMP下でインキュベートすることができる(密閉式)バッグ細胞インキュベーションシステムを含む。さらに、本発明の文脈において、キットは、本明細書に記載の抗原結合受容体(複数可)をコードするベクターも含み得る。本発明のキットは、特に、本発明の方法を実施するために有利に使用され得、本明細書で言及される様々な用途、例えば、研究ツール又は医療ツールとして採用され得る。キットの製造は、好ましくは当業者に知られている標準的手順に従う。
【0256】
この文脈において、患者由来の細胞、好ましくはT細胞は、上記のようなキットを用いて、本明細書に記載の変異Fcドメインに特異的に結合できる本発明の抗原結合受容体で形質転換することができる。変異Fcドメインに特異的に結合できる抗原結合部分を含む細胞外ドメインは、T細胞内又はT細胞上に天然には存在しない。したがって、本発明のキットで形質導入された患者由来細胞は、抗体、例えば治療用抗体の変異Fcドメインに特異的に結合する能力を獲得し、変異Fcドメインを含む治療用抗体(この治療用抗体は、腫瘍細胞の表面に天然に存在する(つまり、内因的に発現される)腫瘍特異的抗原に結合することができる)との相互作用を介して標的細胞の排除/溶解を誘導することができるようになる。本明細書に記載の抗原結合受容体の細胞外ドメインの結合により、そのT細胞は活性化され、変異Fcドメインを含む治療用抗体を介してそれを腫瘍細胞と物理的に接触させる。非形質導入T細胞又は内在性T細胞(例えば、CD8+ T細胞)は、変異Fcドメインを含む治療用抗体の変異Fcドメインに結合することができない。変異Fcドメインに特異的に結合できる細胞外ドメインを含む抗原結合受容体を発現する形質導入T細胞は、本明細書に記載のFcドメインの変異を含まない治療用抗体の影響を受けない状態である。したがって、本発明の抗原結合受容体分子を発現するT細胞は、本明細書に記載のFcドメインの変異を含む抗体の存在下で、in vivo及び/又はin vitroで標的細胞を溶解する能力を有する。対応する標的細胞は、本明細書に記載の治療用抗体の少なくとも1つ、好ましくは2つの結合ドメインによって認識される表面分子、すなわち腫瘍細胞の表面上に天然に存在する腫瘍特異的抗原を発現する細胞を含む。このような表面分子は、本明細書において以下のように特徴づけられる。
【0257】
標的細胞の溶解は、当技術分野で公知の方法によって検出することができる。したがって、このような方法は、特に生理学的なin vitroアッセイを含む。このような生理学的アッセイは、例えば細胞膜の完全性の喪失による細胞死をモニターすることができる(例えば、FACSベースのヨウ化プロピジウムアッセイ、トリパンブルー流入アッセイ、測光酵素放出定(photometric enzyme release)アッセイ(LDH)、放射性51Cr放出(radiometric 51Cr release)アッセイ、蛍光定量ユーロピウム放出(fluorometric Europium release)アッセイ及びカルセインAM放出アッセイ)。さらなるアッセイは、例えば、測光MTT、XTT、WST-1及びアラマーブルーアッセイ、放射性3H-Thd取り込みアッセイ、細胞分裂活性を測定するクローン形成アッセイ、及びミトコンドリア膜貫通勾配を測定する蛍光ローダミン123アッセイによる細胞生存能力のモニターを含む。さらに、アポトーシスは、例えば、FACSベースのホスファチジルセリン曝露アッセイ、ELISAベースのTUNEL試験、カスパーゼ活性アッセイ(測光、蛍光測定又はELISAベース)によって、又は変化した細胞形態(収縮、膜小疱形成)を分析することによってモニターすることができる。
【0258】
治療用途及び治療の方法
本明細書で提供される分子又は構築物(例えば、抗原結合受容体、形質導入T細胞及びキット)は、特にがんの治療のために医療現場で特に有用である。例えば、腫瘍は、腫瘍細胞上の標的抗原に結合し、且つ変異Fcドメイン(すなわち、EU番号付けによるP329G変異を含むFcドメイン)を含む治療用抗体と併せて、本発明の抗原結合受容体を発現する形質導入T細胞で治療することができる。したがって、特定の実施態様では、抗原結合受容体、形質導入T細胞又はキットは、がん、特に上皮、内皮又は中皮由来のがん及び血液のがんの治療において使用される。
【0259】
該治療の腫瘍特異性は、標的細胞抗原に結合する治療用抗体によってもたらされ、該抗体は、本発明の抗原結合受容体を発現する形質導入T細胞の投与前、投与と同時又は投与後に投与される。この文脈では、該形質導入T細胞は、所定の腫瘍に特異的ではないが、本発明に従って使用される治療用抗体の特異性に応じて任意の腫瘍を標的とすることができるため、ユニバーサルT細胞である。
【0260】
上記がんは、上皮、内皮又は中皮由来のがん/癌であっても、血液のがんであってもよい。一実施態様では、上記がん/癌は、胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、口腔がん、胃がん、子宮頸管がん、B及びT細胞リンパ腫、骨髄性白血病、卵巣がん、白血病、リンパ性白血病、上咽頭癌、結腸がん、前立腺がん、腎細胞がん、頭頚部がん、皮膚がん(メラノーマ)、尿生殖器管のがん、例えば精巣がん、卵巣がん、内皮がん、子宮頸がん、及び腎臓がん、胆管のがん、食道がん、唾液腺のがん、及び甲状腺のがん、又は血液腫瘍、神経膠腫、肉腫若しくは骨肉腫などの他の腫瘍性疾患からなる群から選択される。
【0261】
例えば、腫瘍性疾患及び/又はリンパ腫は、これらの医学的適応症を対象とする特定の構築物を用いて治療され得る。例えば、胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、及び/又は口腔がんは、(腫瘍細胞の表面に天然に存在する腫瘍特異抗原としての)(ヒト)EpCAMに対して向けられる抗体で治療することができる。
【0262】
胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、及び/又は口腔がんは、HER1、好ましくはヒトHER1に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入T細胞で治療することができる。さらに、胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、膠芽細胞腫、及び/又は口腔がんは、MCSP、好ましくはヒトMCSPに対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入T細胞で治療することができる。胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、膠芽細胞腫、及び/又は口腔がんは、FOLR1、好ましくはヒトFOLR1に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入T細胞で治療することができる。胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、膠芽細胞腫、及び/又は口腔がんは、Trop-2、好ましくはヒトTrop-2に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入T細胞で治療することができる。胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、膠芽細胞腫、及び/又は口腔がんは、PSCA、好ましくはヒトPSCAに対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入T細胞で治療することができる。胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、膠芽細胞腫、及び/又は口腔がんは、EGFRvIII、好ましくはヒトEGFRvIIIに対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入T細胞で治療することができる。胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、膠芽細胞腫、及び/又は口腔がんは、MSLN、好ましくはヒトMSLNに対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入T細胞で治療することができる。胃がん、乳がん、及び/又は子宮頸がんは、HER2、好ましくはヒトHER2に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入T細胞で治療することができる。胃がん及び/又は肺がんは、HER3、好ましくはヒトHER3に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入T細胞で治療することができる。B細胞リンパ腫及び/又はT細胞リンパ腫は、CD20、好ましくはヒトCD20に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入T細胞で治療することができる。B細胞リンパ腫及び/又はT細胞リンパ腫は、CD22、好ましくはヒトCD22に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入T細胞で治療することができる。骨髄性白血病は、CD33、好ましくはヒトCD33に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入T細胞で治療することができる。卵巣がん、肺がん、乳がん、及び/又は胃腸がんは、CA12-5、好ましくはヒトCA12-5に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入T細胞で治療することができる。胃腸がん、白血病、及び/又は上咽頭癌は、HLA-DR、好ましくはヒトHLA-DRに対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療することができる。結腸がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、及び/又は膵臓がんは、MUC-1、好ましくはヒトMUC-1に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療することができる。結腸がんは、A33、好ましくはヒトA33に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入T細胞で治療することができる。前立腺がんは、PSMA、好ましくはヒトPSMAに対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入T細胞で治療することができる。胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、及び/又は口腔がんは、トランスフェリン受容体、好ましくはヒトトランスフェリン受容体に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入T細胞で治療することができる。膵臓がん、肺がん、及び/又は乳がんは、トランスフェリン受容体、好ましくはヒト受容体に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入T細胞で治療することができる。腎臓がんは、CA-IX、好ましくはヒトCA-IXに対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入T細胞で治療することができる。
【0263】
また、本発明は、疾患、例えば上皮、内皮若しくは中皮由来のがん及び/又は血液のがんなどの悪性疾患の治療方法に関するものでもある。本発明の文脈において、前記対象はヒトである。
【0264】
本発明の文脈において、疾患の治療のための特定の方法は、
(a)対象からT細胞、好ましくはCD8+ T細胞を単離する工程;
(b)前記単離されたT細胞、好ましくはCD8+ T細胞を、本明細書に記載の抗原結合受容体で形質導入する工程;及び
(c)形質導入T細胞、好ましくはCD8+ T細胞を前記対象に投与する工程
を含む。
【0265】
本発明の文脈において、前記形質導入T細胞、好ましくはCD8+ T細胞、及び/又は1つ若しくは複数の治療用抗体は、静脈内注入によって前記対象に共投与される。
【0266】
さらに、本発明の文脈において、本発明は、
(a)対象からT細胞、好ましくはCD8+ T細胞を単離する工程;
(b)前記単離されたT細胞、好ましくはCD8+ T細胞を、本明細書に記載の抗原結合受容体で形質導入する工程;
(c)任意で、前記単離されたT細胞、好ましくはCD8+ T細胞をT細胞受容体で共形質導入する工程;
(d)抗CD3抗体及び抗CD28抗体によって該T細胞、好ましくはCD8+ T細胞を増殖させる工程;及び
(e)形質導入T細胞、好ましくはCD8+ T細胞を前記対象に投与する工程
を含む疾患の治療方法を提供する。
【0267】
上述の工程(d)(抗CD3抗体及び/又は抗CD28抗体によるTILなどのT細胞の増殖工程を指す)は、インターロイキン2及び/又はインターロイキン15(IL-15)などの(刺激性)サイトカインの存在下で実施することもできる。本発明の文脈において、上述の工程(d)(抗CD3抗体及び/又は抗CD28抗体によるTILなどのT細胞の増殖工程を指す)は、インターロイキン12(IL-12)、インターロイキン7(IL-7)及び/又はインターロイキン21(IL-21)の存在下で実施することもできる。
【0268】
治療方法は、さらに、本発明に従って使用される抗体の投与を含む。前記抗体は、形質導入T細胞の投与前、投与と同時又は投与後に投与され得る。本発明の文脈において、形質導入T細胞の投与は、静脈内注入によって行われるであろう。本発明の文脈において、その形質導入T細胞は、治療対象から単離/取得される。
【0269】
本発明はさらに、他の化合物、例えば、免疫エフェクター細胞、細胞増殖又は細胞刺激のための活性化シグナルを提供することができる分子との同時投与プロトコールを想定している。前記分子は、例えば、T細胞のさらなる一次活性化シグナル(例えば、さらなる共刺激分子:B7ファミリーの分子、Ox40L、4.1BBL、CD40L、抗CTLA-4、抗PD-1)、又はさらなるサイトカインインターロイキン(例えば、IL-2)であってもよい。
【0270】
また、上記のような本発明の組成物は、任意選択で検出のための手段及び方法をさらに含む、診断用組成物であってもよい。
【0271】
組成物
さらに、本発明は、変異Fcドメイン(複数可)を有する抗体分子(複数可)、並びに/又は本発明の抗原結合受容体を含む形質導入T細胞(複数可)、並びに/又は本発明による抗原結合受容体をコードする核酸分子(複数可)及びベクター(複数可)を含む組成物(医薬)を提供する。さらに、本発明は、1つ又は複数の前記組成物を含むキットを提供する。本発明の文脈では、該組成物は、担体、安定剤及び/又は添加物である適切な製剤を任意選択でさらに含む薬学的組成物である。したがって、本発明の文脈において、本明細書に記載の抗原結合受容体を含む形質導入T細胞及び/又は前記形質導入T細胞を含む組成物と組み合わせて投与される、本明細書で定義されている変異Fcドメインを含む抗体分子を含む薬学的組成物(医薬)が提供され、ここで、前記抗体分子は、本発明の抗原結合受容体を含む形質導入T細胞の投与前、投与と同時又は投与後に投与される。
【0272】
用語「組み合わせて」の使用は、治療レジメンの構成要素が対象に投与される順序を制限するものではない。したがって、本明細書に記載の薬学的組成物/医薬は、本発明の抗原結合受容体を含む形質導入T細胞の投与前、投与と同時又は投与後での、本明細書で定義されているような抗体の投与を包含する。本明細書で使用される「組み合わせて」はまた、上で定義したような抗体と、本明細書で定義されているような抗原結合受容体を含む形質導入T細胞の投与のタイミングを制限するものではない。したがって、これら2つの構成要素が同時に/共に投与されない場合、これらの投与は、1分、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間若しくは72時間、又は当業者によって且つ/若しくは本明細書に記載のように容易に決定される任意の適切な時間、間隔が空いてもよい。
【0273】
本発明の文脈では、「組み合わせて」という用語はまた、本明細書で定義した抗体と、本発明による抗原結合受容体を含む形質導入T細胞が、対象への投与前に一緒にプレインキュベートされるという状態も包含する。したがって、これら2つの構成要素を、投与前に、例えば、1分、5分、10分、15分、30分、45分若しくは1時間、又は当業者が容易に決定できる任意の適切な時間、プレインキュベートしてもよい。別の好ましい実施態様では、本発明は、本明細書で定義した抗体と、本明細書で定義した抗原結合受容体を含む形質導入T細胞とが、同時に/共に投与される治療レジメンに関する。本発明の文脈において、本明細書で定義した抗体は、抗原結合受容体を含む形質導入T細胞の投与前に投与されてもよい。
【0274】
さらに、本明細書で使用される「組み合わせて」は、開示の治療レジメンを、本明細書で定義した抗体及び本発明の抗原結合受容体を含む形質導入T細胞(好ましくはCD8+ T細胞)の連続した順序での投与(すなわち、これら2つの構成要素の一方の投与に続いて(一定の時間間隔で)、間にいかなる他の治療プロトコールの投与及び/又は実施なしで、他方を投与する)に限定しない。したがって、本治療レジメンは、本明細書で定義した抗体分子と、本発明による抗原結合受容体を含む形質導入T細胞(好ましくはCD8+ T細胞)の別々の投与をも包含し、これらの投与は、疾患又はその症状の治療又は予防に必要且つ/又は適した1つ又は複数の治療プロトコールによって切り離されている。このような介在する治療プロトコールの例としては、鎮痛剤の投与、化学療法剤の投与、疾患又はその症状の外科的処置などが挙げられるが、これらに限定されない。したがって、本明細書に開示される治療レジメンは、本明細書で定義した抗体と本明細書で定義した抗原結合受容体を含む形質導入T細胞(好ましくはCD8+ T細胞)とを、疾患又はその症状の治療又は予防に適した1つ又は複数の治療プロトコールと一緒に、本明細書に記載のように又は当技術分野で知られているように投与することを含む。
【0275】
特に、前記1つ又は複数の薬学的組成物/医薬は、点滴又は注射を介して患者に投与されることが想定される。本発明の文脈において、本明細書に記載の抗原結合受容体を含む形質導入T細胞は、点滴又は注射を介して患者に投与されることになる。好適な組成物/医薬の投与は、異なる方法、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、局所又は皮内投与によって行われ得る。
【0276】
本発明の薬学的組成物/医薬は、薬学的に許容される担体をさらに含み得る。好適な薬学的担体の例は当技術分野で周知であり、リン酸緩衝生理食塩水、水、水中油型エマルジョンなどのエマルジョン、様々なタイプの湿潤剤、無菌液などがある。このような担体を含む組成物は、周知の従来の方法によって製剤化することができる。これらの薬学的組成物は、適切な用量で対象に投与することができる。投与レジメンは、主治医と臨床的要因によって決定される。医療分野においてよく知られているように、患者1名に対する投与量は、患者の体格、体表面積、年齢、投与される特定の化合物、性別、投与時間及び投与経路、全身状態、並びに同時に投与される他の薬物を含む多くの要因に依存する。通常、本薬学的組成物の定期投与としてのレジメンは、1日当たり1μg~5g単位の範囲であることが望ましい。しかし、持続的注入のより好ましい投与量は、1時間あたり体重1kgあたり0.01μg~2mg、好ましくは0.01μg~1mg、より好ましくは0.01μg~100μg、さらに好ましくは0.01μg~50μg、最も好ましくは0.01μg~10μg単位の範囲であろう。特に好ましい投与量は、本明細書に後述される。定期的な評価により、進捗をモニターすることができる。投与量は様々だが、DNAの静脈内投与に好ましい投与量は、DNA分子のおよそ106から1012コピーである。
【0277】
本発明の該組成物は局所投与でも全身投与でもよい。通常、投与は非経口(例えば、静脈内)であり、形質導入されたT細胞を、例えばカテーテルで、標的部位に直接、動脈内の部位に投与することもできる。非経口投与のための調製物には、滅菌の水性又は非水性溶液、懸濁液、及びエマルジョンが含まれる。非水性の溶媒の例には、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物油、及びオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルがある。水性の担体としては、生理食塩水及び緩衝培地を含む、水、アルコール溶液/水溶液、エマルジョン又は懸濁液が挙げられる。非経口ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液、ブドウ糖リンゲル液、デキストロースと塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液又は不揮発性油が挙げられる。静脈内ビヒクルとしては、補液,及び栄養補給剤、電解質補給剤(例えばブドウ糖リンゲル液ベースのもの)などが挙げられる。防腐剤及びその他の添加剤、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、及び不活性ガスなども存在してよい。さらに、本発明の薬学的組成物は、例えば、血清アルブミン又は免疫グロブリン(好ましくはヒト由来のもの)のような、タンパク質性の担体を含んでもよい。本発明の薬学的組成物は、(本発明に記載の)タンパク質性の抗体構築物若しくはそれをコードする核酸分子若しくはベクター、及び/又は細胞に加えて、薬学的組成物の使用目的に応じてさらなる生物学的に活性な薬剤を含むことが想定される。このような薬剤は、胃腸系に作用する薬物、細胞分裂停止剤(cytostatica)として作用する薬物、高尿酸血症(hyperurikemia)を予防する薬物、免疫反応を阻害する薬物(例えば、コルチコステロイド)、循環器系に作用する薬物、及び/又は当技術分野で知られているT細胞共刺激分子又はサイトカインなどの薬剤であってもよい。
【0278】
これら及びその他の実施態様は、本発明の説明及び実施例によって開示され、包含される。本発明に従って採用される抗体、方法、使用及び化合物のいずれか1つに関するさらなる文献は、例えば電子機器を使用して公共の図書館及びデータベースから検索することができる。例えばhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/PubMed/medline.htmlから、例えばインターネット上で公開されている公共データベース「Medline」を利用することができる。さらなるデータベース及びアドレス、例えばhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/、http://www.infobiogen.fr/、http://www.fmi.ch/biology/research_tools.html、http://www.tigr.org/などが当業者に知られており、例えばhttp://www.lycos.comからアクセス可能である。
【0279】
例示的配列
表2:例示的なVH3VL1 P329G-CARアミノ酸配列:
KabatによるCDR定義
表3:例示的なVH3 x VL1 P329G-CAR DNA配列:
表4:例示的なVL1VH3 P329G-CARアミノ酸配列:
KabatによるCDR定義
表5:例示的なVL1VH3 P329G-CAR DNA配列:
表6:例示的な抗P329G抗体
KabatによるCDR定義
表7:P329G IgG1 Fcバリアント
表8
表9:例示的なVH1VL1 P329G-CARアミノ酸配列:
KabatによるCDR定義
表10:例示的なVH2VL1 P329G-CARアミノ酸配列:
KabatによるCDR定義
表11:例示的なジスルフィド安定化VH3VL1 P329G-CARアミノ酸配列:
KabatによるCDR定義
表12:さらなる例示的なVH3VL1 P329G-CARアミノ酸配列(HuR968B):
KabatによるCDR定義
表13:さらなる例示的なVH3VL1 P329G-CARアミノ酸配列(HuR9684M):
KabatによるCDR定義
表14:さらなる例示的な抗体VH/VLドメイン:
【実施例】
【0280】
実施例
以下は、本発明の方法及び組成物の例である。上に提供された一般的な説明を前提として、他の様々な実施態様が実施され得ることが理解される。
【0281】
組換えDNA技術
標準的な方法を使用して、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A laboratory manual;Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,1989に記載されるように、DNAを操作した。分子生物学的試薬を、製造者の指示書に従って使用した。ヒト免疫グロブリンの軽鎖及び重鎖のヌクレオチド配列に関連する一般的な情報は、Kabat,E.A.et al.,(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,NIH Publication No.91-3242に示される。
【0282】
DNA配列決定
DNA配列は、二本鎖配列決定によって決定した。
【0283】
遺伝子合成
所望の遺伝子セグメントは、必要に応じて、適切なテンプレートを用いてPCRによって生成するか、又は自動化された遺伝子合成による合成オリゴヌクレオチド及びPCR生成物からGeneart AG(Regensburg,Germany)により合成した。正確な遺伝子配列が入手できない場合は、最も近い相同体からの配列に基づいてオリゴヌクレオチドプライマーを設計し、適切な組織に由来するRNAからRT-PCRによって遺伝子を単離した。特異的な制限エンドヌクレアーゼ切断部位に隣接する遺伝子セグメントを、標準的なクローニング/配列決定ベクター中にクローニングした。プラスミドDNAを形質転換細菌から精製し、濃度をUV分光法によって測定した。サブクローニングされた遺伝子断片のDNA配列を、DNA配列決定によって確認した。遺伝子セグメントは、それぞれの発現ベクター中へのサブクローニングを可能にする適切な制限部位を用いて設計された。全ての構築物は、真核細胞における分泌のためのタンパク質を標的とするリーダーペプチドをコードする、5’末端DNA配列を用いて設計された。
【0284】
HEK293 EBNA又はCHO EBNA細胞におけるIgG様タンパク質の製造
抗体及び二重特異性抗体を、HEK293 EBNA細胞又はCHO EBNA細胞への一過性トランスフェクションにより作製した。細胞を遠心分離し、培地を予め温めたCD CHO培地(Thermo Fisher、カタログ番号10743029)に置き換えた。CD CHO培地中で発現ベクターを混合し、PEI(ポリエチレンイミン、Polysciences,Inc,カタログ番号23966-1)を添加し、溶液をボルテックスして室温で10分間インキュベートした。その後、細胞(2Mio/mL)をベクター/PEI溶液と混合して、フラスコに移し、5%CO2雰囲気の振盪インキュベーター内で、3時間37℃でインキュベートした。インキュベーションの後、補充物(総容積の80%)を含むExcell培地を付加した(W.Zhou and A.Kantardjieff,Mammalian Cell Cultures for Biologics Manufacturing,DOI:10.1007/978-3-642-54050-9;2014)。トランスフェクションの1日後に、補充物(Feed、全体積の12%)を加えた。7日後、遠心分離及びその後の濾過(0.2μmフィルター)により細胞上清を回収し、以下に示す標準的な方法により、回収した上清からタンパク質を精製した。
【0285】
CHO K1細胞におけるIgG様タンパク質の製造
代替的に、本明細書に記載の抗体及び二重特異性抗体は、Evitria社により、独自のベクター系と従来の(非PCRベースの)クローニング技術を使用し、懸濁適応CHO K1細胞(もともとATCCから譲り受け、Evitria社で懸濁培養液中での無血清培養に適応させたもの)を用いて調製された。製造のために、Evitria社は、独自の動物成分非含有無血清培地(eviGrow及びeviMake2)と独自のトランスフェクション試薬(eviFect)を使用した。遠心分離及びその後の濾過(0.2μmフィルター)により上清を回収し、標準的な方法により、回収した上清からタンパク質を精製した。
【0286】
IgG様タンパク質の精製
標準的なプロトコールを参照して、濾過された細胞培養上清からタンパク質を精製した。簡潔には、Fc含有タンパク質を、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー(平衡バッファー:20mMクエン酸ナトリウム、20mMリン酸ナトリウム、pH7.5、溶出バッファー:20mMクエン酸ナトリウム、pH3.0)によって細胞培養上清から精製した。溶出はpH3.0で達成され、続いて直ちに試料のpHが中和された。タンパク質を遠心分離(Millipore Amicon(登録商標)ULTRA-15(Art.Nr.:UFC903096))によって濃縮し、20mMヒスチジン、140mM塩化ナトリウム、pH6.0中でのサイズ排除クロマトグラフィーによって、凝集したタンパク質を単量体タンパク質から分離した。
【0287】
IgG様タンパク質の分析
精製タンパク質の濃度は、Pace,et al.,Protein Science,1995,4,2411-1423に従ってアミノ酸配列に基づいて計算された質量吸光係数を使用して280nmでの吸収を測定することによって決定した。タンパク質の純度及び分子量を、LabChipGXII又はLabChip GX Touch(Perkin Elmer)(Perkin Elmer)を使用して、還元剤の存在下及び非存在下でCE-SDSによって分析した。凝集物含有量の決定を、ランニングバッファー(200mM KH2PO4、250mM KCl pH6.2、0.02%NaN3)中で平衡化した分析用サイズ排除カラム(TSKgel G3000 SW XL又はUP-SW3000)を使用して、25℃でHPLCクロマトグラフィーにより実施した。
【0288】
レンチウイルス上清の調製とJurkat-NFAT細胞への形質導入
約80%コンフルエントなHek293T細胞(ATCC CRL3216)及びCARをコードする移入ベクター並びにパッケージングベクターpCAG-VSVG及びpsPAX2を2:2:1のモル比で使用して、リポフェクタミンLTX(商標)に基づくトランスフェクションを行った(Giry-Laterriere M,et al Methods Mol Biol.2011;737:183-209,Myburgh R,et al Mol Ther Nucleic Acids.2014)。66時間後、上清を回収し、350×gで5分間遠心分離し、0.45μmポリエーテルスルホンフィルターで濾過してウイルス粒子を回収し、精製した。ウイルス粒子は直接使用するか、濃縮して(Lenti-x-Concentrator、タカラ)、900×g、2時間、31℃で、Jurkat NFAT T細胞(GloResponse Jurkat NFAT-RE-luc2P,Promega #CS176501)のスピンフェクションに使用した。
【0289】
Jurkat NFAT活性化アッセイ
Jurkat NFAT活性化アッセイは、ヒト急性リンパ性白血病レポーター細胞株(GloResponse Jurkat NFAT-RE-luc2P、Promega #CS176501)のT細胞活性化を測定するものである。この不死化T細胞株は、NFAT応答エレメント(NFAT-RE)により駆動されるルシフェラーゼレポーターを安定的に発現するように遺伝子操作されている。さらに、該細胞株は、CD3zシグナル伝達メインを有するキメラ抗原受容体(CAR)構築物を発現する。CARと固定化されたアダプター分子(腫瘍抗原結合アダプター分子など)との結合により、CARの架橋が起こり、T細胞活性化とルシフェラーゼの発現に至る。基質の添加後、NFAT活性の細胞変化を相対光単位として測定することができる(Darowski et al.Protein Engineering,Design and Selection,Volume 32,Issue 5,May 2019,Pages 207-218,https://doi.org/10.1093/protein/gzz027)。一般に、このアッセイは384プレート(Falcon #353963 白色、透明底)で実施された。標的細胞(CAR-Jurkat-NFAT細胞)とエフェクター細胞を1:5の比率(標的細胞2000個、エフェクター細胞10000個)で10μlずつ、RPMI-1640+10%FCS+1%Glutamax(増殖培地)に3連で播種した。増殖培地でさらに、目的の抗体の段階希釈液を、アッセイプレートで最終濃度が67nMから0.000067nM、最終体積が1ウェルあたり合計30μlとなるように調製した。384ウェルプレートを300g、室温で1分間遠心分離し、37℃、5%CO2で、湿度雰囲気中インキュベートした。7時間のインキュベーション後、最終容量の20%のONE-Glo(商標)LuciferaseAssay(E6120,Promega)を加え、プレートを350×gで1分間遠心分離した。その後、直ちにTecan社製マイクロプレートリーダーを使用して、1秒/ウェルあたりの相対発光単位(RLU)を測定した。GraphPadPrism バージョン7を用いて、濃度反応曲線をフィッティングさせ、EC50値を算出した。p値として、GraphPadPrism 7に記載されているNew England Journal of Medicineスタイルを使用した。*はP≦0,033;**はP≦0,002;***はP≦0,001を意味する。
【0290】
実施例1
ヒト化抗P329G抗体の生成及び特性評価
親抗P329G抗体及びヒト化抗P329G抗体はHEK細胞で産生され、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー及びサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。全ての抗体は、高品質で精製された(表2)。
【0291】
表2-抗P329G抗体の生化学的分析単量体含有量は、分析サイズ排除クロマトグラフィーで測定した。純度は、非還元型SDSキャピラリー電気泳動法で測定した。
【0292】
抗P329GバインダーM-1.7.24の親及び6つのヒト化バリアントのヒトFc(P329G)への結合
機器:Biacore T200
チップ:CM5(#772)
Fc1~4:抗ヒトFab特異的(GE Healthcare 28-9583-25)
捕捉:50nM IgG、60秒
分析物:ヒトFc(P329G)(P1AD9000-004)
ランニングバッファー:HBS-EP
T°:25℃
希釈:HBS-EPで0.59から37.5nMまで2倍希釈
流量:30μl/分
会合240秒
解離:800秒
再生:10mMグリシン pH2.1 2x60秒間
【0293】
SPR実験は、ランニングバッファーとしてHBS-EP+(0.01M HEPES pH7.4、0.15M NaCl、0.005%界面活性剤P20(BR-1006-69、GE Healthcare))を使用して、Biacore T200で実行された。抗ヒトFab特異性抗体(GE Healthcare 28-9583-25)を、CM5チップ(GE Healthcare)上にアミンカップリングにより直接固定化した。IgGを、50nMで60秒間捕捉した。ヒトFc(P329G)の2倍希釈系列を、30μl/分で240秒間リガンド上を通過させ、会合相を記録した。解離相を、800秒間モニターし、試料溶液からHBS-EP+へと切り替えることによってトリガーした。チップ表面は、10mMグリシン、pH2.1を60秒間2回注入することにより、サイクルごとに再生された。バルク屈折率の差は、参照フローセル1で得られた応答を差し引くことによって補正された。親和定数は、Biaevalソフトウェア(GE Healthcare)を使用して1:1ラングミュア結合に適合させることにより、速度定数から導出された。測定は、独立した希釈系列でトリプリケートで行われた。
【0294】
以下の試料について、ヒトFc(P329G)との結合を解析した(表3)。
【0295】
表3:ヒト Fc(P329G)への結合について分析された試料の説明。
【0296】
ヒトFc(P329G)は、ヒトIgG1のプラスミン消化と、続いてプロテインAによるアフィニティー精製及びサイズ排除クロマトグラフィーによって調製された。
【0297】
抗P329GバインダーM-1.7.24の親及び6つのヒト化バリアントのヒトFc(P329G)への結合
解離相を1本の曲線に適合させ、オフレートを特徴づけるのに役立てた。結合と捕捉反応レベルの比率を算出した。(表4)
【0298】
表4:ヒト Fc(P329G)への結合に関する6つのヒト化バリアントの結合評価。
【0299】
抗P329GバインダーM-1.7.24の親及び3つのヒト化バリアントのヒトFc(P329G)に対する親和性
親と同様の結合パターンを持つ3種類のヒト化バリアントを、より詳細に評価した。1:1のラングミュア結合の速度定数を表5にまとめた。
【0300】
表5:速度定数(1:1ラングミュア結合)。独立したトリプリケート(同じ実験内では独立した希釈系列)の平均値と標準偏差(括弧内)。
【0301】
結論
6つのヒト化バリアントが生成された。それらのうちの3つ(VH4VL1、VH1VL2、VH1VL3)は、親M-1.7.24と比較して、ヒトFc(P329G)への結合の減少を示した。他の3つのヒト化バリアント(VH1VL1、VH2VL1、VH3VL1)は、親バインダーと非常に似た結合反応速度を示し、ヒト化によって親和性が失われることはなかった。
【0302】
実施例2
ヒト化抗P329G抗原結合受容体の調製
ヒト化P329Gバリアントの機能性を評価するために、P329G Fc変異に特異的なバインダーをコードする重鎖(VH)と軽鎖(VL)の異なる可変ドメインDNA配列を一本鎖可変断片(scFv)結合部分としてクローニングし、第二世代キメラ抗原受容体(CAR)の抗原結合ドメインとして使用した。
【0303】
P329Gバインダーの異なるヒト化バリアントは、Ig重鎖可変メインドメイン(VL)とIg軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。VHとVLは(G4S)4リンカーを介して連結されている。scFv 抗原結合ドメインは、アンカー膜貫通ドメイン(ATD)CD8a(Uniprot P01732[183-203])に融合され、これが細胞内共刺激シグナル伝達ドメイン(CSD)CD137(Uniprot Q07011AA 214-255)に融合され、さらに刺激シグナル伝達ドメイン(SSD)CD3ζ(Uniprot P20963 AA 52-164)に融合される。抗P329G CARのscFvは、VHxVL(
図1A)又はVLxVH(
図1B)の2つの異なる方向で構築された。VHVL構成についての例示的な発現構築物(GFPレポーターを含む)の図解を
図1Cに示し、VLVH構成について
図1Dに示す。
【0304】
実施例3
Jurkat-NFAT細胞における抗P329G抗原結合受容体の発現
異なるヒト化抗P329G抗原結合受容体をJurkat(GloResponse Jurkat NFAT-RE-luc2P、Promega #CS176501)細胞へウイルス形質導入した。
【0305】
抗P329G抗原結受容体の発現をフローサイトメトリーで評価した。異なるヒト化抗P329G抗原結合受容体を使用するJurkat細胞を収集し、PBSで洗浄し、96ウェル平底プレートにウェル当たり50,000細胞で播種した。異なる濃度(1:5の500nM~0nM段階希釈)のFcドメインにP329G変異を含む抗体で暗所及び冷蔵庫内(4~8°C)で45分間染色した後、試料をFACSバッファー(2%FBS、10%の0.5M EDTA、pH8及び0.5g/L NaN3を含有するPBS)で3回洗浄した。その後、試料を2.5μg/mLポリクローナル抗ヒトIgG Fcγ断片特異的及びPEコンジュゲートAffiniPure F(ab’)2ヤギ断片抗体で、冷蔵庫内の暗所で30分間染色し、フローサイトメトリー(Fortessa BD)で分析した。さらに、抗P329G抗原結合受容体には細胞内GFPレポーターが含まれていた(
図1Cを参照)。
【0306】
P329Gバインダーのヒト化バージョン(VH1VL1、VH2VL1、及びVH3VL1)と比較して、元の非ヒト化バインダーは細胞表面で弱いCAR標識化を示すが(
図2A)、GFP発現は同等である。興味深いことに、VL1VH1構築物(
図1Dを参照)は高いGFP発現を示すが、細胞表面での弱いCAR標識化も示し、これはバインダーの好ましくないコンフォメーション(confirmation)であることを示している。
【0307】
全体として、予想外に、VH3VL1バージョンが最も高いGFP発現とCAR表面発現を示す。さらに、VHVLコンフォメーション(confirmation)の試験された全ての構築物(VH1VL1、VH2VL1、及びVH3VL1)は、Jurkat T細胞に形質導入すると、元の非ヒト化P329G抗原結合受容体、さらには興味深いことにVLVHコンフォメーション(confirmation)の構築物(VL1VH3)と比較して、増強されたGFPシグナルを示す。
【0308】
結論として、VHVLコンフォメーション(confirmation)は、抗原結合受容体の発現レベル及び細胞表面への正確な標的化に有利であると思われる。
【0309】
さらに、ヒト化抗P329G抗原結合受容体の選択性、特異性及び安全性を特徴づけるために、様々な試験を実施した。
【0310】
実施例4
FcドメインにP329G変異を含む標的化抗体の存在下での特異的なT細胞活性化
様々なヒト化抗P329G-scFvバリアントの非特異的結合を除外するために、これらのバリアントを含む抗原結合受容体を発現するJurkat NFAT細胞の活性化を、CD20陽性WSUDLCL2標的細胞及び様々なFcバリアント(Fc野生型、Fc P329G変異、LALA変異、D246A変異又はそれらの組み合わせ)を有する抗CD20(GA101)抗体の存在下で評価した。CAR-Jurkat NFAT活性化アッセイを上記のように行い、抗CD20(GA101)野生型IgG1(
図3A、抗CD20(GA101)P329G LALA IgG1(
図3B)、抗CD20(GA101)LALA IgG1(
図3D)、抗CD20(GA101)D246A P329G IgG1(
図3F)又は非特異的DP-47 P329G LALA IgG1(
図3E)を使用して、非特異的結合の可能性を評価した。抗CD20(GA101)野生型IgG1(
図3A)、抗CD20(GA101)LALA IgG1(
図3D)又は非特異的DP-47 P329G LALA IgG1(
図3E)については、非特異的抗P329G CAR活性化を検出することができなかった。
【0311】
特異的な抗P329G CAR活性化を、抗CD20(GA101)P329G LALA IgG1(
図3B)及び抗CD20(GA101)D246A P329G IgG1(
図3F)の存在下で検出することができた。評価されたEC
50は、全てのヒト化抗P329Gバリアント間で同等であり、元のバインダーのEC
50と異なることはなかった。
【0312】
興味深いことに、VHVLコンフォメーションのscFvバインダーを含む抗原結合受容体は、元の非ヒト化バインダー及びVLVHコンフォメーションのヒト化バインダーと比較して、Jurkat NFAT T細胞の強い活性化をもたらす。より高いプラトー(例えば
図3F参照)は、発現レベルの向上及び/又は抗原結合受容体による細胞表面への輸送の向上により、より強い活性化がもたらされたためと考えられる。さらに、このコンフォメーションはP329G変異への結合に影響を与え得る。
【0313】
T細胞のトニックシグナル伝達又は非特異的な活性化をもたらす抗原結合ドメインクラスター化のリスクを調べるため、Jurkat NFAT活性化アッセイを上記のように実施したが、使用する初期抗体濃度を上げ、段階希釈は100nMのGA101 P329G LALA IgG1で開始し、さらに標的細胞を播種しなかった。
【0314】
図3Cに描かれているように、試験した全てのヒト化P329Gバリアントで活性化は検出されず、標的細胞の非存在下で検出可能な受容体クラスター化又は非特異的活性化を示している。
【0315】
実施例5
異なるレベルの抗原を発現する標的細胞に対するT細胞活性化によって評価される、異なるヒト化P329G抗原結合受容体バリアントの感受性
さらに、ヒト化抗P329G抗原結合受容体の感受性及び選択性を特徴づけるために、上記のようにJurkat NFAT活性化アッセイを実施した。
【0316】
異なるヒト化抗P329G-scFvバリアント抗原結合受容体を発現するJurkat NFATレポーター細胞を、高(HeLa-FolR1)、中程度(Skov3)、低(HT29)FolR1陽性標的細胞を識別する能力について評価した。Jurkat-Reporter細胞株において、抗P329G結合体の様々なバリアントをscFv抗原認識足場として、FolR1に対して高親和性(16D5)(
図4A、D、G)、中程度親和性(16D5 W96Y)(
図4B、E、H)又は低親和性(16D5 G49S/K53A)(
図4C、F、I)を呈する抗体と組み合わせて使用した。高発現標的細胞であるHeLa-FolR1は、高親和性抗FolR1 16D5(
図4A)、中程度親和性抗FolR1 16D5 W96Y(
図4B)及び低親和性アダプター-IgG抗FolR1 G49S K53A(
図4C)と組み合わせて、用量依存的活性化を示した。中程度発現標的細胞であるSkov3は、高親和性抗FolR1 16D5(
図4D)、中程度親和性抗FolR1 16D5 W96Y(
図4E)、低親和性アダプター-IgG抗FolR1 G49S K53A(
図4F)と組み合わせて、用量依存的活性化を示した。低発現標的細胞であるHT29については、異なる親和性バインダー抗FolR1 16D5(
図4G)、抗FolR1 16D5 W96Y(
図4H)又は低親和性アダプター-IgG抗FolR1 G49S K53A(
図4I)と組み合わせて、シグナルは全く検出されなかった。さらに、興味深いことに、VHVLフォーマットの抗原結合受容体は、元の非ヒト化バインダー及びVLVHフォーマットのヒト化バインダーと比較して強いJurkat NFAT T細胞の活性化をもたらす。ヒト化バリアントVH3VL1 scFvバインダーは、全ての構築物の中で最も高いシグナル強度をもたらす(
図4A-F)。
【0317】
さらに、抗FolR1 16D5 P329G LALA IgG1(
図5)又は抗HER2 P329G LALA IgG1(
図6)のいずれかと組み合わせて使用したHeLa(FolR1
+及びHER2
+)細胞について、Jurkat NFAT活性化アッセイを実施した。いずれも、VLVH配向よりもVHVL配向の方が優れているという知見を確かめるものである。ヒト化バリアントVH3VL1が、Jurkat NFAT T細胞の最も強い活性化をもたらす。
【0318】
実施例6
Jurkat-NFAT細胞におけるさらなる抗P329G抗原結合受容体の発現
ジスルフィドヒト化抗P329G抗原結合受容体をJurkat(GloResponse Jurkat NFAT-RE-luc2P、Promega#CS176501)細胞にウイルス形質導入した。抗P329G抗原結合受容体発現をフローサイトメトリーによって評価した。ジスルフィド安定化ヒト化抗P329G抗原結合受容体を使用するJurkat細胞を回収し、PBSで洗浄し、96ウェル平底プレートに50.000細胞/ウェルで播種した。異なる濃度(1:10の600nM~0nM段階希釈)のFcドメインにP329G変異を含む抗体で暗所及び冷蔵庫内(4~8℃)で45分間染色した後、試料をFACSバッファー(2%FBS、10%の0.5M EDTA、pH8及び0.5g/L NaN3を含有するPBS)で3回洗浄した。次いで、試料を2.5μg/mLのポリクローナル抗ヒトIgG Fcγ断片特異的及びPEコンジュゲートAffiniPure F(ab’)2ヤギ断片抗体で、冷蔵庫内の暗所で30分間染色し、フローサイトメトリー(Fortessa BD)で分析した。さらに、抗P329G抗原結合受容体には細胞内GFPレポーターが含まれていた(
図1Cを参照)。CAR発現をGFPシグナルに対して正規化した。
【0319】
ヒト化バージョンVH3VL1及びVL1VH3と比較して、ジスルフィド安定化P329Gバインダーは、細胞表面上で同等のCAR標識を示している(
図7)。
【0320】
実施例7
HEK293-T細胞におけるさらなる抗P329G抗原結合受容体の発現
HuR968B及びHuR9684M CAR構築物の発現を検証するために、1.5x106個のHEK293-T細胞を6ウェルプレートに播種し、8~24時間の接着期間後、2μmのCARコードプラスミドDNA(1μg/μL)を含むPEI(Polyscience、24765)/塩化ナトリウム(Baxter、A6E1307)混合物でトランスフェクトした。48時間の培養期間後、HEK293T培養上清を捨て、フローサイトメトリーを使用してHEK293T細胞のCAR発現を解析した。そのため、1ウェル当たり3*105個のHEK293T細胞を96ウェルプレートに移し、FACSバッファーで2回洗浄した(5分間、300g)。一次抗体としてAlexa Fluor 647-WT IgG又はAlexa Fluor 647-PG IgGをFACSバッファーで希釈し、1:50希釈作業溶液を得た。その抗体溶液にHEK293T細胞を懸濁し、4℃で30分間染色した。FACSバッファーで洗浄(5分、300g)後、3%Fixation solution(Thermo Scientific Cat.:28908)を使用して細胞を20分間固定した。その後、細胞をフローサイトメトリーで分析し、GFPとAPC標識について調べた。HuR968B及びHuR9684M CARはいずれもHEK239 T細胞で発現及び検出された(
図9)。
【0321】
実施例8
T細胞におけるさらなる抗P329G抗原結合受容体の発現
レンチウイルス導入によりCAR T細胞を調製し、フローサイトメトリーによりCARの発現を確認した。CAR検出のために、適切な量の形質導入T細胞をFACSバッファーで1回、300×g、5分間洗浄した。LIVE/DEAD固定可能死細胞及びビオチン-SP(ロングスペーサー)AffiniPure F(ab’)
2断片ヤギ抗ヒトIgG(Jackson ImmunoResearch、109-066-006)を含むFACSバッファーを加え、細胞を4℃で30~45分間染色した。その後、細胞を2回洗浄し、それぞれの抗体を加え:PerCP-Cy5.5-CD3(BD、560835)、BUV805-CD8(BD、749366)、APCストレプトアビジン(Biolegend、405207)、4℃で30~45分間染色した。インキュベーション後、細胞をFACSバッファーで2回洗浄し、再懸濁した後、フローサイトメトリーで評価した。データはGraphPadPrism7を用いて分析された。T細胞集団に類似したCD3
+細胞をゲーティングした後、CAR T陽性細胞の%は、HuR9684Mでは27%、HuR968Bでは18%と検出された(
図10B)。
【0322】
実施例9
HuR968B及びHuR9684M抗P329G抗原結合受容体とP329G変異を含むA6 IgGによって誘導される特異的T細胞死滅
HuR968B又はHuR9684M CARを発現するT細胞を血液ドナー(PCH20201100004)から調製し、標的細胞としてDAN-G18.2を使用し、標的細胞表面のクローディン18.2と結合するA6 PG IgG又はWT A6(VH/VL配列番号136/137及びFcにおけるP329G変異、例えば配列番号55)を使用した死滅アッセイで比較した。標的細胞とエフェクター細胞を、100ng/ml PG IgG又はWT IgGのいずれかとともにE:T=1:2の比率で播種した。標的細胞の死滅を、xCELLigenceを使用して60時間測定した(
図11A及びB)。
【0323】
P329G及びWT A6抗体の存在下でも、非形質導入UNT細胞は死滅効果を生じなかった。HuR968B及びHuR9684M CAR T細胞は、PG IgGとともにインキュベートすると、強力な腫瘍細胞溶解を誘導した(
図11A)。PG変異を欠く対照WT IgGとともにインキュベートした場合、細胞死滅は観察されなかった(
図11B)。
【0324】
実施例10
HuR968B抗P329G抗原結合受容体とP329G変異を含むA6及びZmab IgGによって誘導される特異的T細胞死滅
HuR968B CAR-T細胞を、両方ともクローディン18.2を標的とするA6 PG IgGとZmab PG IgG(VH/VL 配列番号136/137又は138/139、及びFcにおけるP329G変異、例えば配列番号55)の異なる抗体濃度の存在下で24時間共培養した。E:T比は1:1であった。アッセイは96ウェル丸底プレートにおいて行い、24時間後に各ウェルの上清はLDH放出について観察され、製造元の提案に従って細胞傷害性を算出した(CytoTox 96非放射性細胞傷害性アッセイ Promega G1780)。どちらのPG IgGも、高レベルのクローディン18.2を発現するDAN-G18.2標的細胞の強力な標的細胞溶解を示している(
図12)。
【配列表】
【国際調査報告】