(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-20
(54)【発明の名称】ハイブリッドモデルを使用して化学プラントを監視及び/又は制御するための方法
(51)【国際特許分類】
G05B 19/418 20060101AFI20241113BHJP
B01J 8/06 20060101ALN20241113BHJP
【FI】
G05B19/418
B01J8/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024507005
(86)(22)【出願日】2022-07-27
(85)【翻訳文提出日】2024-02-08
(86)【国際出願番号】 EP2022071062
(87)【国際公開番号】W WO2023012007
(87)【国際公開日】2023-02-09
(32)【優先日】2021-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サマル,サティア・スワラップ
(72)【発明者】
【氏名】バルツ,オルガ
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー,ヘイダー
【テーマコード(参考)】
3C100
4G070
【Fターム(参考)】
3C100AA22
3C100AA29
3C100AA57
3C100BB13
3C100BB15
3C100BB33
3C100EE11
4G070AA01
4G070AB06
4G070AB07
4G070BB02
4G070CA30
4G070CB17
4G070CC01
4G070CC06
4G070CC11
4G070DA11
4G070DA21
4G070DA30
(57)【要約】
本発明は、化学プラントを監視及び/又は制御するためのコンピュータ実施方法に関する。具体的には、本発明は、化学プラントにおける物理化学プロセスを監視及び/又は制御するためのコンピュータ実施方法であって、(a)物理化学プロセスに関連するセンサデータを受信することと、(b)センサデータをプラントモデルに提供することにより、少なくとも1つの物理化学パラメータを判定することであって、プラントモデルは、- 物理化学プロセスの一部をそれぞれ表す少なくとも2つの方程式を含む機構モデル、及び- 機構モデルに関連付けられたデータ駆動モデルであって、データ駆動モデルからの出力パラメータとしてのスカラーの総数は、機構モデルの方程式の数よりも少ない、データ駆動モデルを含む、判定することと、(c)プラントモデルによって判定された少なくとも1つの物理化学パラメータを出力することとを含むコンピュータ実施方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学プラントにおける物理化学プロセスを監視及び/又は制御するためのコンピュータ実施方法であって、
(a)前記物理化学プロセスに関連するセンサデータを受信することと、
(b)前記センサデータをプラントモデルに提供することにより、少なくとも1つの物理化学パラメータを判定することであって、前記プラントモデルは、
i.前記物理化学プロセスの一部をそれぞれ表す少なくとも2つの方程式を含む機構モデル、及び
ii.前記機構モデルに関連付けられたデータ駆動モデルであって、化学反応に関連するセンサデータ及び物理化学パラメータを含む履歴データのセットに基づく訓練データセットを用いて訓練されており、前記データ駆動モデルからの出力パラメータとしてのスカラーの総数は、前記機構モデルの方程式の数よりも少ない、データ駆動モデル
を含む、判定することと、
(c)前記プラントモデルによって判定された前記少なくとも1つの物理化学パラメータを出力することと
を含むコンピュータ実施方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの物理化学パラメータは、反応収率、触媒活性又は機器ファウリングの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項3】
前記センサデータは、温度、圧力及び試薬の流量を含む、請求項1又は2に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項4】
前記データ駆動モデルの前記出力は、前記機構モデルの少なくとも1つの方程式のための入力として使用される、請求項1~3のいずれか1項に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項5】
前記データ駆動モデルは、人工ニューラルネットワークである、請求項1~4のいずれか1項に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの物理化学パラメータは、前記物理化学パラメータに基づいて前記物理化学プロセスが行われる、前記化学プラント内の機器の設定を変更することが可能な制御システムに出力される、請求項1~5のいずれか1項に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つのデータ駆動モデルからの前記出力パラメータは、前記出力パラメータの感度に基づいて選択され、感度は、前記データ駆動モデルの前記出力パラメータが変化するときの前記物理化学パラメータの相対差である、請求項1~6のいずれか1項に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項8】
前記データ駆動モデルは、サブセット選択、正則化及び次元削減の1つ又は複数によって判定される前記センサデータの一部を使用する、請求項1~7のいずれか1項に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項9】
先行する請求項のいずれか1項に記載の方法のステップを実行するための命令を含むコンピュータプログラムを記憶する非一時的コンピュータ可読データ媒体。
【請求項10】
化学プラントを監視及び/又は制御するための、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法によって取得された物理化学パラメータの使用。
【請求項11】
化学プラントにおける物理化学プロセスを監視及び/又は制御するための生産監視及び/又は制御システムであって、
(a)前記物理化学プロセスに関連するセンサデータを受信するように構成される入力と、
(b)前記センサデータをプラントモデルに提供することにより、少なくとも1つの物理化学パラメータを判定するように構成されるプロセッサであって、前記プラントモデルは、
i.前記物理化学プロセスの一部をそれぞれ表す少なくとも2つの方程式を含む機構モデル、及び
ii.前記機構モデルに関連付けられた少なくとも1つのデータ駆動モデルであって、化学反応に関連するセンサデータ及び物理化学パラメータを含む履歴データのセットに基づく訓練データセットを用いて訓練されており、前記少なくとも1つのデータ駆動モデルからの出力パラメータとしてのスカラーの総数は、前記機構モデルの方程式の数よりも少ない、少なくとも1つのデータ駆動モデル
を含む、プロセッサと、
(c)前記プラントモデルによって判定された前記少なくとも1つの物理化学パラメータを出力するように構成される出力と
を含む生産監視及び/又は制御システム。
【請求項12】
前記化学プラントの分散制御システムの一部であるか、又は前記化学プラントの分散制御システムと接続されている、請求項11に記載の生産監視及び/又は制御システム。
【請求項13】
前記センサデータは、前記化学プラント内のセンサから受信される、請求項11又は12に記載の生産監視及び/又は制御システム。
【請求項14】
化学プラントにおける物理化学プロセスのセンサデータから少なくとも1つの物理化学パラメータを判定するのに適したプラントモデルを訓練する方法であって、
(a)前記物理化学プロセスに関連するセンサデータ及び物理化学パラメータを含む履歴データのセットに基づく訓練データセットを受信することと、
(b)前記訓練データセットに従ってパラメータ化を調整することにより、プラントモデルを訓練することであって、前記プラントモデルは、
i.前記物理化学プロセスの一部をそれぞれ表す少なくとも2つの方程式を含む機構モデル、及び
ii.前記機構モデルに関連付けられた少なくとも1つのデータ駆動モデルであって、前記少なくとも1つのデータ駆動モデルからの出力パラメータとしてのスカラーの総数は、前記機構モデルの方程式の数よりも少ない、少なくとも1つのデータ駆動モデル
を含む、訓練することと、
(c)前記訓練されたプラントモデルを出力することと
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
説明
本発明は、化学プラントを監視及び/又は制御するためのコンピュータ実施方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の化学プラントは、最大限の出力及び最小限の副生成物を得るように高度に最適化されている。これにより、適正な低価格で化学製品を供給し、及び環境に影響を及ぼし得る最低限の副生成物を発生させることが可能となる。様々な物理化学プロセスが化学プラントで行われる。例えば、化学プラントで使用される特に効率的な方法は、化学反応のための連続反応器である。製品が反応器から連続的に出力される間、反応器内に試薬が連続的に供給される。温度及び圧力のようないくつかの物理化学値並びに製品の品質は、例えば、センサを用いて比較的容易に判定され得るが、触媒劣化のような多くの他の重要な物理化学値は、直接測定することができない。しかしながら、化学プラントの効率性を最大化するために、化学プラントにおける全ての物理化学値に関する可能な限り詳細な情報を有することが重要である。理想的には、そのような情報は、リアルタイムで取得可能である。
【0003】
化学プラントからのそのような「隠れた」物理化学値を取得する非常に有用な方法は、入手可能なセンサデータを使用し、それらを物理モデルに供することである。物理モデルは、物理学又は物理化学の法則を適用することにより、容易に測定可能でない物理化学値を計算し得る。多くのそのようなモデルが開発されている。それにもかかわらず、化学プラントにおける全ての詳細が十分に理解されるわけではないため、モデルには制限がある。これらのモデルを改善するために、データ駆動モデルを追加することが示唆されている。これらは、物理モデルとは対照的に、入力から出力にそれらがどのように到達するかを容易に明らかにしないため、ブラックボックスモデルとも呼ばれている。
【0004】
G.D.Bellosらは、Chemical Engineering and Processing,volume 44(2005),pages 505-515において、ハイブリッドニューラルネットワーク手法を使用した産業水素化脱硫反応器の性能のモデリングを開示している。ニューラルネットワークは、反応の運動学的パラメータ並びに反応エンタルピー及び水素消費定数の判定に適用される。したがって、ニューラルネットワークは、1つの単一反応に対して4つのパラメータを出力する。この手法は、ニューラルネットワークを訓練するのに十分な履歴データが利用可能な場合に良好に機能する。著者は、同じように稼働する3つの異なるプラントのデータを有している。しかしながら、ほとんどの場合、利用可能な多数の履歴データが存在しない。これは、新たなプラント又は特殊製品を作るプラントに対して特に当てはまる。さらに悪いことに、これらの場合、利用可能な十分に適合する物理モデルさえ存在しないことが多いため、データ駆動モデルは、周知のプロセスよりもさらに多くを補償する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、最小限の履歴データを用いて物理化学値の正確な判定を可能にする、化学プラントを監視及び/又は制御する方法を提供することが本発明の目的であった。それらの生産プロセスが機構的にあまりよく理解されない場合でも、異なる化学プラントに容易に適用され得る方法を提供することが目的とされた。方法は、実施すること及び最小限のリソースを使用しながら高精度の結果をもたらすことが容易であるべきである。プラントの動作が、高い製品収率並びに最小限の不要な副生成物及び温室効果ガス排出を可能にするための最適条件から逸脱し始める場合、方法の結果は、プラントの迅速な調整を可能にするために、短期間で利用可能であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的は、化学プラントにおける物理化学プロセスを監視及び/又は制御するためのコンピュータ実施方法であって、
(a)物理化学プロセスに関連するセンサデータを受信することと、
(b)センサデータをプラントモデルに提供することにより、少なくとも1つの物理化学パラメータを判定することであって、プラントモデルは、
- 物理化学プロセスの一部をそれぞれ表す少なくとも2つの方程式を含む機構モデル、及び
- 機構モデルに関連付けられたデータ駆動モデルであって、化学反応に関連するセンサデータ及び物理化学パラメータを含む履歴データのセットに基づく訓練データセットを用いて訓練されており、データ駆動モデルからの出力パラメータとしてのスカラーの総数は、機構モデルの方程式の数よりも少ない、データ駆動モデル
を含む、判定することと、
(c)プラントモデルによって判定された少なくとも1つの物理化学パラメータを出力することと
を含むコンピュータ実施方法によって達成された。
【0007】
本発明は、本発明による方法のステップを実行するための命令を含むコンピュータプログラムを記憶する非一時的コンピュータ可読データ媒体にさらに関する。
【0008】
本発明は、化学プラントを監視及び/又は制御するための、本発明による方法によって取得された物理化学パラメータの使用にさらに関する。
【0009】
本発明は、化学プラントにおける物理化学プロセスを監視及び/又は制御するための生産監視及び/又は制御システムであって、
(a)物理化学プロセスに関連するセンサデータを受信するように構成される入力と、
(b)センサデータをプラントモデルに提供することにより、少なくとも1つの物理化学パラメータを判定するように構成されるプロセッサであって、プラントモデルは、
- 物理化学プロセスの一部をそれぞれ表す少なくとも2つの方程式を含む機構モデル、及び
- 機構モデルに関連付けられた少なくとも1つのデータ駆動モデルであって、化学反応に関連するセンサデータ及び物理化学パラメータを含む履歴データのセットに基づく訓練データセットを用いて訓練されており、少なくとも1つのデータ駆動モデルからの出力パラメータとしてのスカラーの総数は、機構モデルの方程式の数よりも少ない、少なくとも1つのデータ駆動モデル
を含む、プロセッサと、
(c)プラントモデルによって判定された少なくとも1つの物理化学パラメータを出力するように構成される出力と
を含む生産監視及び/又は制御システムにさらに関する。
【0010】
本発明は、化学プラントにおける物理化学プロセスのセンサデータから少なくとも1つの物理化学パラメータを判定するのに適したプラントモデルを訓練する方法であって、
(a)物理化学プロセスに関連するセンサデータ及び物理化学パラメータを含む履歴データのセットに基づく訓練データセットを受信することと、
(b)訓練データセットに従ってパラメータ化を調整することにより、プラントモデルを訓練することであって、プラントモデルは、
- 物理化学プロセスの一部をそれぞれ表す少なくとも2つの方程式を含む機構モデル、及び
- 機構モデルに関連付けられた少なくとも1つのデータ駆動モデルであって、少なくとも1つのデータ駆動モデルからの出力パラメータとしてのスカラーの総数は、機構モデルの方程式の数よりも少ない、少なくとも1つのデータ駆動モデル
を含む、訓練することと、
(c)訓練されたプラントモデルを出力することと
を含む方法にさらに関する。
【0011】
図面のいくつかの図の簡単な説明
任意の特定の要素又は動作の考察を容易に識別するために、参照番号の左端の1つ又は複数の桁は、その要素が最初に紹介された図番を指す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図5】異なるプラントモデル修正のための感度を判定することについての実施例を示す。
【
図6】本発明が使用される生産プロセスの実施例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、化学プラントにおける物理化学プロセスを監視及び/又は制御する方法に関する。
図1は、本発明の可能性のある実装形態を示す。プラント108からのセンサデータが入力102によって受信される。センサデータは、プラントモデルを実行するようにプログラミングされたプロセッサ104に提供される。このプラントモデルは、入力としてセンサデータを使用し、出力として物理化学パラメータを有する。物理化学パラメータは、出力106によって出力される。
【0014】
「監視」は、化学プラントの任意の動作状態の観測及び記録を指す。動作状態は、反応器温度、圧力、電力消費量、入力又は出力材料フロー、攪拌器の回転速度、バルブの状態、プラント内の空気中の蒸気濃度、プラント内部の人の数など、プラント内でのみ関係するそれらのパラメータなどの内部パラメータを含む。動作状態は、化学蒸気、熱、音、振動、光の放射など、プラントの環境との任意の交換に関するパラメータなどの外部パラメータも含む。記録は、永久データ記憶デバイス上に生データを記憶すること又は会社若しくは官庁によって要求されるフォーマットで文書を準備することを意味し得る。
【0015】
「制御」は、化学プラントの動作状態を変更するための任意のアクションをとることを指す。アクションは、直接的であり得、例えばバルブの状態を変更すること、追加の加熱又は冷却の増大により温度を変更することによるものであり得る。アクションは、間接的でもあり得、例えばフィルタを交換すること又はスループットを調整することなどのアクションをとるようにオペレータに促すことによるものであり得る。
【0016】
「物理化学プロセス」は、化合物又は合成物など、少なくとも1つの物質の取り扱い又は修正を伴う任意のプロセスを指す。物理化学プロセスは、化学反応、蒸留、結晶化、濾過、遠心分離、デカンテーション、浮上分離などの精製、混合、噴霧乾燥、共押出、塗布などの形成又は研削、成形、凝集、押し出しなどの形状変更プロセスを含む。
【0017】
「化学反応」は、化学種の1つのセットの、別のセットへの化学変換を伴う物理化学プロセスを指す。化学反応は、原則として1つの素反応を含み得る。しかしながら、実際には、ほとんどの化学反応は、2つ以上の素反応を含む。化学反応は、連続若しくは並行する素反応又はその両方を含み得る。一連の素反応を含む化学反応についての実施例は、最初に第1の素反応として求核種が求電子種に加えられ、その後、第2の素反応として水などの小さい種の除去が続く凝縮反応である。並行するいくつかの素反応を含む化学反応についての実施例は、化学種が酸素と反応して、様々な異なる部分酸化種を形成する燃焼反応である。
【0018】
化学反応は、均一又は不均一に動作され得る。均一化学反応は、例えば、気相又は例えば溶液などの液相の1つの相を伴う。不均一化学反応は、少なくとも2つの相を伴う。少なくとも2つの相は、物質の異なる状態のものであり得、例えば一方の相が固体であり、且つ一方の相が液体であるか、又は一方の相が固体であり、且つ他方の相が気体であるか、又は一方の相が液体であり、且つ他方の相が気体である。少なくとも2つの相は、例えば、2つの不混和性の液相又は2つの不混和性の固体相など、不混和性である物質の同一の状態のものであり得る。
【0019】
化学反応は、連続又は不連続に動作され得、バッチ化学反応とも呼ばれ得る。連続化学反応では、反応が起こる反応器内に試薬が連続的に供給され、同時に製品が反応器から連続的に出力される。不連続化学反応では、反応器に試薬が充填され、次いで反応が起こり、その後、反応器から製品が収集される。反応器が洗浄され得、次いで再び新たな試薬が充填される。
【0020】
「素反応」は、1つ又は複数の化学種が直接的に反応して、観測又はさらに隔離され得る、中間物なしに単一の反応ステップで製品を形成する化学反応を指す。素反応は、通常、単一遷移状態を有する反応として説明され得る。
【0021】
「化学プラント」は、1つ又は複数の化学製品の製造、生産又は処理の、即ち化合物を生産するために化学反応を行うか、化合物を混ぜ合わせることによって調合物を生産するか、化合物の純度を増大させるか、廃棄物をリサイクルすることによって化合物を取得するか、化合物を異なる形態にするか、又は化合物若しくは化合物を含有する調合物を包装する、産業目的で使用される任意の技術インフラストラクチャを指す。
【0022】
化学プラントのインフラストラクチャは、熱交換器、分留塔などのカラム、炉、反応室、分解ユニット、貯蔵タンク、押出機、ペレタイザ、沈殿器、ブレンダ、ミキサ、カッタ、キュアリングチューブ、気化器、フィルタ、ふるい、パイプライン、スタック、フィルタ、バルブ、アクチュエータ、ミル、変圧器、搬送システム、遮断器、機械類、例えば、タービン、発電機、粉砕機、圧縮機、工業用ファン、ポンプなどの大型回転機器、コンベヤシステムなどの輸送要素、モータなどのいずれか1つ又は複数などの機器又はプロセスユニットを含み得る。
【0023】
さらに、化学プラントは、典型的には、複数のセンサと、プラント内のプロセスに関連する少なくとも1つのパラメータ、即ちプロセスパラメータを制御するための少なくとも1つ制御システムとを含む。このような制御機能は、通常、センサの少なくとも1つからの少なくとも1つの測定信号に応じて、制御システム又はコントローラによって実行される。プラントのコントローラ又は制御システムは、分散制御システム(「DCS」)及び/又はプログラマブルロジックコントローラ(「PLC」)として実施され得る。
【0024】
したがって、化学プラントの機器又はプロセスユニットの少なくともいくつかは、工業製品の1つ又は複数を生産するために監視及び/又は制御され得る。監視及び/又は制御は、1つ又は複数の製品の生産を最適化するためにさらに行われ得る。機器又はプロセスユニットは、1つ又は複数のセンサからの1つ又は複数の信号に応じて、DCSなどのコントローラを介して監視及び/又は制御され得る。加えて、プラントは、プロセスのいくつかを制御するための少なくとも1つのPLCをさらに含み得る。化学プラントは、典型的には、監視及び/又は制御の目的で化学プラント内に分散され得る複数のセンサを含み得る。このようなセンサは、大量のデータを生成し得る。センサは、機器の一部とみなされても又はみなされなくてもよい。そのため、化学品及び/又はサービスの生産などの生産は、データ量の多い環境であり得る。したがって、各化学プラントは、大量のプロセス関連データをもたらし得る。
【0025】
当業者であれば、化学プラントが、通常、異なる種類のセンサを含み得る器具類を含むことを理解するであろう。センサは、1つ若しくは複数のプロセスパラメータを測定し、且つ/又は機器若しくはプロセスユニットに関連する機器動作条件若しくはパラメータを測定するために使用され得る。例えば、センサは、パイプライン内の流量、タンク内のレベル、炉の温度、ガスの化学組成などのプロセスパラメータの測定に使用され得、いくつかのセンサは、粉砕機の振動、ファンの速度、バルブの開度、パイプラインの腐食、変圧器の両端での電圧などの測定に使用され得る。これらのセンサの差異は、感知するパラメータに基づき得るだけでなく、さらにそれぞれのセンサが用いる感知原理であり得る。感知するパラメータに基づくセンサのいくつかの実施例は、温度センサ、圧力センサ、光センサなどの放射線センサ、流量センサ、振動センサ、変位センサ及びガスなどの特定物質を検出するものなどの化学センサを含み得る。採用する感知原理が異なるセンサの実施例は、例えば、圧電センサ、圧電抵抗センサ、熱電対、静電容量センサ及び抵抗センサなどのインピーダンスセンサなどであり得る。
【0026】
複数の化学プラントは、より大きい生産ユニットを形成し得る。本明細書で使用される「複数の化学プラント」という用語は、広義の用語であり、当業者にとって通常且つ慣習的な意味が与えられるべきであり、特別な意味又はカスタマイズされた意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定されるものではないが、少なくとも1つの共通の産業目的を有する少なくとも2つの化学プラントの複合体を指し得る。具体的には、複数の化学プラントは、物理的及び/又は化学的に結合された少なくとも2つ、少なくとも5つ、少なくとも10又はさらにより多くの化学プラントを含み得る。複数の化学プラントは、複数の化学プラントを形成する化学プラントがバリューチェーン、抽出物及び/又は製品の1つ又は複数を共有し得るように結合され得る。複数の化学プラントは、複合体、複合体サイト、フェアブント又はフェアブントサイトとも呼ばれ得る。さらに、様々な中間製品を介して最終製品に至る複数の化学プラントのバリューチェーン生産は、様々な化学プラントなど、様々な場所に分散され得るか、又はフェアブントサイト若しくはケミカルパークに統合され得る。そのようなフェアブントサイト又はケミカルパークは、1つ又は複数の化学プラントであり得るか又はそれを含み得、少なくとも1つの化学プラントで製造された製品は、別の化学プラントへのフィードバックとして機能し得る。
【0027】
「センサデータ」は、化学プラントのセンサによって測定される、生産プラント又はその一部の動作状態を表す任意のデータを指す。センサデータは、センサから直接受信され得る。典型的には、センサデータは、化学プラントのデジタル信号コントローラ又はプログラマブルロジックコントローラによって収集され、そこからさらに送信される。センサデータは、送信される前に例えば校正システムによって調整され得る。化学プラントからのセンサデータは、記憶媒体、例えばハードドライブ上又はクラウドシステム内のデータベース上にも記憶され得る。したがって、センサデータは、本発明の目的のためにそのような記憶媒体から取得され得る。
【0028】
センサデータは、温度、圧力、pH、酸素又は水分などの化合物の濃度又は分圧、反応器内の反応混合物又は反応器後の製品の試薬の流量、攪拌器の速度、粘度、濁度などの任意の測定可能な物理化学値を含み得る。通常、センサデータは、特に2つ以上のセンサが機器の異なる位置で測定する場合、センサの位置も含む。典型的な実施例は、反応器の入口における圧力センサ及び反応器の出口における圧力センサである。センサデータは、時間情報、即ちタイムスタンプとも呼ばれ得る、センサが物理化学情報を収集した時間も含み得る。
【0029】
センサデータは、監視及び/又は制御される物理化学プロセスに関連する。「関連する」という用語は、広義に理解されるべきであり、即ち物理化学プロセスに対する影響を有するか又は物理化学プロセスの状態に相関するセンサの任意の情報である。
【0030】
センサデータは、化学プラント内のセンサから直接受信され得るか、又はデータ記憶媒体から受信され得る。データ記憶媒体上のセンサデータは、記録されたセンサデータ又は操作されたセンサデータであり得る。センサデータを操作する理由は、そのような状況が実際に起こる場合に物理化学プロセスを制御することを目的として、偏差をシミュレートし、物理化学パラメータに対する影響を分析するためであり得る。実施例は、熱供給の変化であり得、そのような熱供給が圧力の増大又は流量の変化によって補償され得るかどうかを分析することが望まれる場合がある。
【0031】
しかしながら、化学プラントを制御するために、センサデータは、好ましくは、リアルタイムで、好ましくは化学プラント内のセンサから直接受信される。リアルタイムは、低レイテンシ、即ち10秒未満又はさらに1秒未満であるレイテンシに関する。典型的には、レイテンシが低いほど、化学プラントを制御する精度が高くなる。
【0032】
本発明による方法は、(b)センサデータをプラントモデルに提供することにより、少なくとも1つの物理化学パラメータを判定することを含む。
【0033】
「物理化学パラメータ」は、理論的に測定可能である、物理化学プロセスを特性化する情報を指す。しかしながら、実際には、例えば適当なセンサが存在しない、情報が検出され得る位置にセンサを置くことができない又はそのような測定値が経済的に不利であるという理由のため、これは、通常、センサによって直接的に可能ではない。物理化学パラメータは、化学種、例えば化学組成、濃度、圧力、純度、粘度、濁度を指し得る。物理化学パラメータは、使用する場合、触媒、例えば化学組成、濃度、圧力、純度、活性、年数、表面積も指し得る。物理化学パラメータは、機器、例えば総圧力、温度、ある部品、例えばパイプにおける流量、ある部品に沿った圧力降下、ファウリングとも呼ばれる壁上の不溶性物質の堆積の量及び/又は速度、例えば熱交換器における熱流量も指し得る。
【0034】
通常、それらの物理化学パラメータは、化学反応を監視及び/又は制御することについて、いずれが最も高い関連性を有するかを判定される。監視及び/又は制御することについて特に関連性のある物理化学パラメータは、反応収率、触媒活性及び機器ファウリングである。場合により、1つの物理化学パラメータを判定することで十分である。他の場合、2つ以上、例えば少なくとも2つ、3つ、5つ又は10の反応パラメータを判定することが有益である。このようにして、化学反応のより詳細な見識を得ることができるため、十分に適した測定値が化学反応を制御するために利用され得る。判定は、センサデータをプラントモデルに提供することによって行われる。
【0035】
「プラントモデル」は、化学プラント内の物理化学プロセス又は複数の物理化学プロセスを数学的に記述するモデルを指す。プラントモデルは、入力としてセンサデータを受信し、物理化学パラメータを出力する。プラントモデルは、機構モデル及びデータ駆動モデルを含む。したがって、プラントモデルは、ハイブリッドモデルと呼ばれ得る。
【0036】
「機構モデル」は、自然科学の基本法則、例えば物理学、化学、生化学の原理、熱及び質量の平衡のいずれか1つ又は複数に基づくモデルを指す。したがって、そのようなモデルは、方程式を用いてこれらの原理を表す。機構モデルは、線形若しくは非線形常微分方程式、線形若しくは非線形偏微分方程式、線形若しくは非線形代数方程式又は線形若しくは非線形微分代数方程式を含み得る。そのような方程式は、物理化学プロセスに関連する。
【0037】
機構モデルについての典型的な実施例は、物理化学プロセスをモデル化する化学反応速度モデルである。本質的には、そのようなモデルは、化学反応のセットによって消費又は生産されている化学種の動力学を記述する常微分方程式又は微分代数方程式から構成される。常微分方程式又は微分代数方程式の系は、通常、化学種が反応において消費又は生産される速度を記述する代数方程式である速度法則から構成される。そのような代数方程式は、典型的には、化学種の濃度、所与の反応における温度及び定数に依存し、定数は、通常、温度依存性である。さらに、質量保存の法則などのある不変性もそのような機構モデルにおいて代数方程式として表され得る。
【0038】
いずれの機構モデルがある物理化学プロセスに最もよく適合するかは、既知であり得る。この場合、適当な機構モデルの選択は、単純明快である。しかしながら、いずれの機構モデルが物理化学プロセスによく適合するかが分からない場合、類似の物理化学プロセスのための機構モデルのセットを選択し得る。おそらく基礎となるメカニズムが依然として既知でないか、又は異なる理由で適当な情報が利用可能でないため、ときに利用可能な類似の物理化学プロセスが存在しない場合がある。この場合、既知の物理化学プロセスについての様々な機構モデルを含むモデルライブラリから任意の機構モデルを選び出すことで十分であり得る。明らかに、そのような任意の機構モデルは、所与の物理化学プロセスにあまりよく適合しない。しかしながら、関連するデータ駆動モデルがその偏差の少なくとも一部を補償し得るため、結果は、要求が厳しくない目的には十分であり得る。代替として、異なる機構モデルを任意に選び出し、順々に試し、物理化学プロセスに最もよく適合する機構モデルを選択する。そのような選択は、自動化可能である。したがって、機構モデルは、例えば、コンピュータプログラムにより、いくつかの機構モデルを任意に選択し、物理化学プロセスに順々に適用し、機構モデルがどの程度よく物理化学プロセスに適合するかを判定し、且つ最も適合する機構モデルを選択することによってモデルライブラリから選択され得る。
【0039】
「データ駆動モデル」は、生産プラントの反応速度論などの物理化学プロセスを反映するために訓練データセットに従ってパラメータ化された数理モデルを指す。訓練データセットは、センサデータ及び実験又は以前の生産実行から得られた物理化学パラメータを含み得る。物理化学法則を用いて純粋に導出される機構モデルとは対照的に、データ駆動モデルは、物理化学法則によるモデル化が困難であるか又はさらに不可能である関係を記述することを可能にし得る。データ駆動モデルは、任意の基礎となる自然の物理法則を反映することなくセットアップされる。これらは、データ内の相関関係を使用することによってのみ考慮される。
【0040】
データ駆動モデルは、好ましくは、データ駆動機械学習モデルである。データ駆動モデルは、線形回帰若しくは多項回帰、決定木、ランダムフォレストモデル、ベイジアンネットワーク、サポートベクトルマシン又は好ましくは人工ニューラルネットワークであり得る。
【0041】
本発明によれば、プラントモデルは、物理化学プロセスの一部をそれぞれ表す少なくとも2つの方程式を含む機構モデルを含む。化学反応の場合、各方程式は、化学反応の素反応を表し得るか、又は各方程式は、例えば、1つの仮説的な素反応で近似することによっていくつかの素反応を表す。蒸留の場合、各方程式は、1つの化合物の蒸発及び凝縮を表し得る。プラントモデルは、少なくとも1つの機構モデルに関連付けられた少なくとも1つのデータ駆動モデルをさらに含む。「関連付けられた」という用語は、機構モデルとデータ駆動モデルとの間でデータ交換があることを意味する。例えば、データ駆動モデルの出力は、機構モデルの方程式のための入力として使用され得るか、又は機構モデルの方程式の出力は、データ駆動モデルのための入力として使用され得る。データ駆動モデルの出力が機構モデルの2つ以上の方程式で使用されることが可能である。この場合、データ駆動モデルは、機構モデルの2つ以上、例えば2つ又は3つの方程式における入力として使用される出力パラメータとして1つのスカラーを出力することが可能である。データ駆動モデルの1つの出力パラメータが機構モデルの全ての方程式で使用されることがさらに可能である。機構モデルの出力がデータ駆動モデルのための入力として使用される場合、機構モデルの1つの出力パラメータは、1つのデータ駆動モデル又は2つ以上、例えば2つ、3つのデータ駆動モデルで使用されることが可能である。機構モデルの1つの出力パラメータが全てのデータ駆動モデルで使用されることがさらに可能である。機構モデルが出力パラメータとして2つ以上のスカラーを有することも可能であり、各出力パラメータは、異なるデータ駆動モデルで使用される。機構モデルは、2つ以上の出力パラメータを有することも可能であり、2つ以上のデータ駆動モデルで使用されるものもあれば、1つのデータ駆動モデルのみで使用されるものもある。機構モデルの出力がデータ駆動モデルのための入力として使用され、このデータ駆動モデルの出力が機構モデルのための入力として再び使用され、したがってフィードバックループを形成することも可能である。これは、製品のいくつかが試薬としてそれを再び使用することによってリサイクルされる、物理化学プロセスに有用であり得る。
【0042】
本発明によれば、少なくとも1つのデータ駆動モデルからの出力パラメータとしてのスカラーの総数は、機構モデルの方程式の数よりも少ない。「総数」という用語は、全てのデータ駆動モデルの出力パラメータとしての全てのスカラーの合計を意味する。これに関連して、出力パラメータは、スカラーであり得るため、出力パラメータとしてのスカラーの数は、出力パラメータの数に等しい。出力パラメータは、ベクトル又は行列であり得る。この場合、出力パラメータとしてのスカラーの総数は、そのベクトル又は行列の成分又は元の数を指す。
【0043】
プラントモデルは、少なくとも1つのデータ駆動モデルを含む。プラントモデルは、1つのデータ駆動モデルを含み得るか、又はそれは、2つ以上、例えば2つ若しくは3つのデータ駆動モデルを含み得る。2つ以上のデータ駆動モデルは、互いに全て同一であるか又は異なり得、例えば、プラントモデルは、多項回帰及び人工ニューラルネットワークを含み得る。1つのデータ駆動モデルが使用される場合、出力パラメータとしてのスカラーの総数は、そのデータ駆動モデルの出力物理化学パラメータの数に等しい。2つ以上のデータ駆動モデルが使用される場合、データ駆動モデル毎の出力パラメータとしてのスカラーの数が加算されて、出力パラメータとしてのスカラーの総数に達する。
図2、
図3及び
図4は、物理化学プロセスが3つの方程式を含む機構モデルによって表される場合、プラントモデルがどのように見え得るかのいくつかの実施例を示す。例示のために、丸みを帯びた四角は、出力パラメータを1つのみ有するデータ駆動モデルを表す。2つ以上の出力パラメータを有するデータ駆動モデルの場合、それぞれの数の丸みを帯びた四角が表示されるものとする。
【0044】
図2は、入力としてセンサデータ202を受信するデータ駆動モデル206を含むプラントモデル204を示す。データ駆動モデル206の出力は、追加入力としてセンサデータ202を使用し得る機構モデル208のための入力として使用される。例えば、データ駆動モデル206は、方程式210のための補正定数を出力し得る。方程式212及び214は、入力としてセンサデータ202のみを使用する。プラントモデル204は、物理化学パラメータ216を出力する。
【0045】
図3は、2つのデータ駆動モデル312及び314を含む別のプラントモデル302を示す。これらは、入力として方程式306及び310の出力を受信し、それぞれ物理化学パラメータ316を出力する。例えば、方程式306及び310は、データ駆動モデル312及び314によって補正される物理化学パラメータを出力し得る。方程式308は、データ駆動モデルに関連付けられていない。
【0046】
図4は、別のプラントモデル404を示す。それは、入力としてセンサデータを受信する1つのデータ駆動モデル406を含む。その出力は、全ての方程式410、412及び414において入力として使用される。方程式410、412及び414は、物理化学パラメータ416を出力する。
【0047】
データ駆動モデルは、ときに機構モデルの方程式の出力に加えて、通常、入力としてセンサデータを使用する。大量の履歴データの必要性を低下させ、同時に高精度のプラントモデルを有するために、データ駆動モデルの入力を最小限まで減少させることが有利である。その結果、センサデータの一部のみがデータ駆動モデルのための入力として使用される。データ駆動モデルのための入力として使用されるセンサデータの適当な選択は、以下の選択肢の1つ又は複数を含み得る。
【0048】
i)完全な入力パラメータを用いたデータ駆動モデルの精度に近い精度を有する入力パラメータのサブセットを用いてデータ駆動モデルを識別することによるサブセット選択。そのようなサブセットを効率的に識別するいくつかの技術は、文献において既知である。
【0049】
ii)入力パラメータのいくつかの寄与がゼロに向かって縮小されるか又はゼロに設定される、通常、ニューラルネットワーク及び線形回帰ベースの方法に適用可能な正則化又は縮小手法。これは、通常、データ駆動モデルの損失関数にペナルティを与えることによって達成される。
【0050】
iii)次元削減は、射影法、例えば主成分分析であり、入力パラメータは、その後データ駆動モデルにおいて使用される「導出された入力パラメータ」という結果をもたらす、縮小された次元空間に射影される。これらの手法の導入は、James,Gareth,et al.An introduction to statistical learning.Vol.112.New York:springer,2013に見出され得る。
【0051】
本質的には、全てのこれらの手法は、関連性の低い変数を除外するか、又はより低い次元の「導出された入力パラメータ」空間を見つけることにより、データ駆動モデルに関連付けられる入力パラメータの選択を実行することによってデータ駆動モデルの複雑性を低下させる。
【0052】
本発明において使用されるプラントモデルは、典型的には、機構モデル単体よりも正確であるが、従来のハイブリッドモデルと比較してデータ駆動モデルを訓練するために必要とする履歴データがより少ない。この効果は、最高感度を有するデータ駆動モデルのそれらの出力パラメータが選択される場合に特に現れる。
【0053】
「感度」は、データ駆動モデルの出力パラメータが変化する、即ち増加又は減少するときの、そのような出力パラメータが物理化学パラメータに対して有する影響、即ち物理化学パラメータの相対差を指す。場合により、最高感度を有する出力パラメータのみを選択することで十分である。他の場合、最高感度を有する2つ又は3つの出力物理化学パラメータを使用することが必要であり得る。通常、選択される出力パラメータの数は、利用可能な履歴データと、反応パラメータの必要とされる精度との間のトレードオフである。
【0054】
場合により、反応モデリングにおける専門家は、データ駆動モデルの出力パラメータの直接選択を行うことが可能であり得る。しかしながら、多くの場合、状況が複雑であるため、感度は、適当な出力パラメータを選択することが可能である以前に体系的に判定されなければならない。
図5は、出力パラメータの感度を判定する方法を示す。化学プラント内の物理化学プロセスの詳細を含む物理化学プロセススキーム522から開始して、プラントモデル502が生成される。このプラントモデル502は、物理化学プロセスの各部分(504、506、508)についての方程式を含む機構モデルを含む。プラントモデル502に基づいて、導出されたプラントモデル(510、518、526)は、データ駆動モデルを機構モデルに関連付けることによって生成され、各プラントモデル(510、512、514)において、データ駆動モデルは、異なる方法で機構モデルに関連付けられる。本実施例では、データ駆動モデルの出力は、機構モデルの方程式の1つのための入力として使用される。明らかに、より多くの選択肢、例えば機構モデルの2つ以上の方程式に対してデータ駆動モデルの出力を使用するか、又は機構モデルの1つ若しくは2つ以上の方程式の出力を入力として使用するデータ駆動モデルを使用することが考えられる。プラントモデル(510、512、514)毎に、データ駆動モデルは、履歴データを用いて訓練される。次いで、検証データは、各プラントモデル(510、512、514)について出力(524、526、528)を判定するために使用される。プラントモデル(510、512、514)毎にデータ駆動モデルの出力が変化し、出力の変化が判定される。相対差は、感度を示す。最高感度が見つけられたプラントモデルは、本発明の方法に対して使用され得る。この実施例では、プラントモデル502は、低い感度530を示し、プラントモデル512は、高い感度532を示し、プラントモデル514は、中程度の感度534を示す。
【0055】
プラントモデルは、機構モデル及び/又はデータ駆動モデルの出力を物理化学パラメータに統合する統合モデルをさらに含み得る。これは、一連の反応ステップを含む化学反応に対して特に有用であり、即ち、1つの反応ステップの生成物は、次の反応ステップの試薬である。統合モデルは、通常、自然法則から明白である境界条件に基づく。典型的な境界条件は、物質収支である。化学反応によって質量が生成されることも破壊されることもなく、化学種が互いに変換されるのみである。他の境界条件は、あるパラメータについての最小値又は最大値であり得、例えば、濃度は、負にならず、又は圧力は、オープンに接続された体積において著しく異ならない。
【0056】
プラントモデルは、化学反応に関連するセンサデータ及び物理化学パラメータを含む履歴データのセットに基づく訓練データセットを用いて訓練される。「履歴データ」は、少なくともセンサデータ及び物理化学パラメータを含むデータセットを指し、各データセットが単一の物理化学プロセス実行に関連付けられる。したがって、各データセットは、所定の期間内の物理化学プロセス実行に関連付けられたデータを含む。バッチプロセスの場合、そのような所定の期間は、1つのバッチ実行の開始から終了までであり得る。連続プロセスの場合、固有周期、例えば反応器に触媒を充填してから、それが新たな触媒と置換される必要があるまでの時間が選択され得る。履歴データは、監視又は制御されるべき既存のプラントから取得され得る。しかしながら、履歴データは、実験室、パイロットプラント又は類似のプラントからも生じ得る。これらの1つ以上からの履歴データが利用可能であり得る。
【0057】
プラントモデルを訓練することは、典型的には、訓練データセットに従ってパラメータ化を調整することによって行われる。これに関連して、パラメータ化を調整することは、プラントモデルの出力が訓練セットの反応パラメータに最もよく類似するように、プラントモデルに含まれたデータ駆動モデルにおいてパラメータを変化させることを意味する。データ駆動モデルの種類に応じて、それを行う様々な方法が既知であり、文献に十分に記載されている。
【0058】
本発明による方法は、(c)プラントモデルによって判定された少なくとも1つの物理化学パラメータを出力することをさらに含む。出力することは、非一時的データ記憶媒体上に例えば監視ファイル若しくは制御ファイル内に物理化学パラメータを書き込むこと、ユーザインターフェース上、例えばスクリーン上にそれを表示すること又はその両方を意味し得る。本発明による方法は、センサデータによって表される可観測量からそれらを計算的に導出することによって間接的に物理化学パラメータを測定するソフトセンサ又は仮想センサと呼ばれ得る。
【0059】
インターフェースを通して物理化学パラメータを制御システムに出力することも可能である。そのような制御システムは、物理化学パラメータを受信し、そのような物理化学パラメータに基づいて、物理化学プロセスが行われる化学プラント内の機器の設定を変更し得る。実施例として、プラントモデルは、最大触媒活性と比較してある値の触媒活性の低下を判定している。制御システムは、触媒活性を受信し、入力バルブに反応器を通る試薬の流量を減少させ得る。このようにして、試薬は、触媒付近により長く留まるため、低下した触媒活性が補償される。したがって、触媒が完全に反応して、高い収率及び良好な品質の所望の製品を生じ得る。
【0060】
本発明は、本発明による方法のステップを実行するための命令を含むコンピュータプログラムを記憶する非一時的コンピュータ可読データ媒体にさらに関する。「コンピュータ可読データ媒体」は、本明細書に記載される方法論又は機能のいずれか1つ又は複数を具現化する1つ又は複数の命令セット(例えば、ソフトウェア)が記憶された任意の適当なデータ記憶デバイス又はコンピュータ可読メモリを指す。命令は、コンピュータ、メインメモリ及び処理デバイスによるその実行中に完全に又は少なくとも部分的にメインメモリ内及び/又はプロセッサ内に常駐することもでき、これらは、コンピュータ可読記憶媒体を構成し得る。命令は、ネットワークインターフェースデバイスを介してネットワークを経てさらに送信又は受信され得る。コンピュータ可読データ媒体は、例えば、サーバ上のハードドライブ、USB記憶デバイス、CD、DVD又はブルーレイディスクを含む。コンピュータプログラムは、本発明による方法の実行に必要な全ての機能性及びデータを含み得るか、又はそれは、方法の一部をリモートシステム上、例えばクラウドシステム上で処理させるためのインターフェースを提供し得る。
【0061】
本発明は、化学プラントにおける物理化学プロセスを監視及び/又は制御するための生産監視及び/又は制御システムにさらに関する。そのようなシステムは、本発明による方法を実行するように構成される。したがって、方法について記載された全ての定義、実施例及び好適な実施形態は、システムにも当てはまる。
【0062】
本発明によるシステムは、物理化学プロセスに関連するセンサデータを受信するように構成された入力を含む。そのような入力は、センサデータを受信するためのインターフェースを含み得る。入力は、ローカル又はリモートで、例えばインターネットなどの電気通信システムへのインターフェースを介してセンサデータを受信し得る。入力は、センサから直接又はプログラマブルロジックコントローラ、分散制御システム、しくはクラウドサービスを含む記憶媒体を介してセンサデータを受信し得る。システムが分散制御システムの一部であることがさらに可能である。
【0063】
システムは、少なくとも1つの物理化学パラメータを判定するように構成されたプロセッサをさらに含む。プロセッサは、中央処理装置(CPU)、及び/又はグラフィック処理ユニット(GPU)、及び/又は特定用途向け集積回路(ASIC)、及び/又はテンソル処理ユニット(TPU)、及び/又はフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)を含むローカルプロセッサであり得る。プロセッサは、クラウドサービスなどのリモートコンピュータシステムへのインターフェースでもあり得る。
【実施例】
【0064】
実施例
本発明をさらに例示するために、
図6は、ベンゼン及びプロペンから2段階でフェノール及びアセトンを生産する化学プラントにおける化学反応についての実施例を示す。ベンゼンサプライ602及びプロペンサプライ604からベンゼン及びプロペンが混合され、バルブ618によって制御される管状反応器606内に注入される。管状反応器606は、ベンゼンをクメン608に変換するフリーデルクラフツアルキル化触媒を含む固体床を有する。クメン608は、バルブ620によって制御される管状反応器612内に酸素610と共に供給される。管状反応器612は、クメンをフェノール及びアセトンに変換する酸化触媒を含む固体床も有する。製品フローは、バルブ622によって制御される。フェノール及びアセトンは、収集され、精製される。反応器は、温度センサ624及び圧力センサ626を備え、温度センサ624及び圧力センサ626は、温度及び圧力を測定し、これらの値を分散制御システム628に転送する。バルブ618、620及び622は、気体流量を測定するセンサを備え、したがって各試薬の分圧が判定され得る。対応する値も分散制御システム628に転送される。
【0065】
したがって、分散制御システム628によって収集されるセンサデータは、単位面積当たりの総質量流量(Gz)、プロペンの分圧(ppr)、ベンゼンの分圧(pBz)、酸素の分圧(pO2)、クメンの分圧(pCm)、管状反応器606内の温度(T1)、管状反応器612内の温度(T2)を含む。分散制御システム628は、プラントモデルを実行するプロセッサ630にセンサデータを転送する。プラントモデルは、入力パラメータとしてこれらのセンサデータ及び反応器構成並びに出力としてパラメータfNNを使用するニューラルネットワークを含む。ニューラルネットワークは、1つの隠れ層を有する。パラメータfNNは、以下に記載する2つの方程式を含む機構モデルのための入力として使用される。
【0066】
機構モデルは、各素反応の速度定数についての1つの方程式を含む。ベンゼン及びプロペンのクメンへの反応について、以下の方程式が使用され、k1及びEA1は、この反応についての文献において見出される定数である。
【0067】
【0068】
クメンからフェノール及びアセトンを形成する管状反応器612内の反応について、以下の方程式が使用され、k2及びEA2は、この反応についての文献において見出される定数である。
【0069】
【0070】
物理化学パラメータとしてのフェノール及びアセトンの収量は、反応段階毎に別個に物質収支から得られる統合モデルを使用することによって判定され、yiは、成分iの質量分率であり、ρcatは、触媒の充填密度であり、Mw,iは、成分iの分子質量であり、viは、成分iの化学量論係数である。
【0071】
【0072】
フェノール及びアセトンの収量は、プロセッサ630から分散制御システム628に転送される。収量が低下して触媒活性の低下を示す場合、分散制御システム628は、バルブ618を操作することによってベンゼン及びプロピレンの気体流量を減少させ得る。代替として、分散制御システム628は、バルブ620を操作することにより、クメン及び酸素の気体流量を減少させ得る。このようにして、ベンゼン及びプロピレン又はクメン及び酸素が触媒に接触している時間が増加し、それは、より高い変換率につながって製品収量を回復させ得る。
【国際調査報告】