(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-03
(54)【発明の名称】強誘電体材料の薄膜を準備するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20241126BHJP
C30B 29/30 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
H01L27/12 B
H01L21/02 B
C30B29/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523138
(86)(22)【出願日】2022-09-28
(85)【翻訳文提出日】2024-06-12
(86)【国際出願番号】 FR2022051837
(87)【国際公開番号】W WO2023084164
(87)【国際公開日】2023-05-19
(32)【優先日】2021-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598054968
【氏名又は名称】ソイテック
【氏名又は名称原語表記】Soitec
【住所又は居所原語表記】Parc Technologique des fontaines chemin Des Franques 38190 Bernin, France
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ベルハケミ, ジャメル
(72)【発明者】
【氏名】カウルミローネ, ラファエル
(72)【発明者】
【氏名】フエット, イザベル
(72)【発明者】
【氏名】コノンチュク, オレグ
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077BC32
4G077BC37
4G077FD02
4G077FE02
4G077FE11
4G077FF01
4G077FG11
4G077FG14
4G077HA11
(57)【要約】
本発明は、強誘電体材料の薄膜(3)を準備するための方法であって、方法が、薄膜(3)を提供するステップを含み、薄膜(3)が、第1の自由面(8)を露出させる、方法に関する。方法はまた、イオンエッチングによって薄化し、かつエッチングパラメータによって規定されたステップを含む。本発明によれば、エッチングパラメータは、薄膜(3)の自由面(8)が薄化ステップの終了時に閾値を超えない粗さを有するように選択される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶強誘電体材料の薄膜(3)を準備するための方法であって、前記方法が、以下の、
前記薄膜(3)を提供するステップであって、前記薄膜(3)が、第1の自由面(8)を露出させる、提供するステップ、
エッチングパラメータによって規定されると共にイオンエッチングによって前記薄膜を薄化するステップ、
を含み、
前記方法が、前記提供するステップが脆化平面(2)を備えるドナー基板(1)と支持基板(7)との組付けと、前記脆化平面(2)の高さでの前記薄膜(3)の剥離と、を含み、前記薄膜(3)が前記自由面(8)とは反対側の、前記支持基板(7)上に位置付けされた第2の面を有すること、および前記エッチングパラメータが、前記薄膜(3)の前記自由面(8)が前記薄化ステップの終了時に閾値を超えない粗さを有するように選択されることを特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記提供するステップが、前記ドナー基板(1)内に水素イオンを注入することによる前記脆化平面(2)の形成を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記薄化ステップの後に、前記自由面(8)の化学機械的タッチ研磨が続く、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記提供するステップが、前記薄膜(3)の前記自由面(8)をある特定のガス雰囲気に曝す熱処理ステップを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記熱処理が、300℃~前記薄膜(3)を構成する前記強誘電体材料のキュリー温度の温度で、30分~10時間の期間にわたって実行される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記熱処理ステップが、酸化性または中性のガス雰囲気下で実行される、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記熱処理ステップと前記薄化ステップとの間に、前記自由面(8)を平滑化して、前記自由面(8)の表面粗さを前記粗さ閾値よりも低い値に低減するステップを含む、請求項4~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記平滑化ステップが、前記自由面(8)の化学機械的タッチ研磨を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記粗さ閾値が、3nm~7nmである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
支持体(7)上に配置された単結晶およびモノドメインの強誘電体材料の薄膜(3)を備える基板であって、前記薄膜が、700nm以下の厚さおよび60nm以下の厚さ均一性を有する、基板。
【請求項11】
前記薄膜(3)と前記支持体(7)との間に位置付けされたアモルファス中間層を備える、請求項10に記載の基板。
【請求項12】
前記アモルファス中間層が、酸化シリコン、酸窒化シリコン、または窒化シリコンである、請求項11に記載の基板。
【請求項13】
前記薄膜(3)が、0.5nm未満の粗さを有する自由面(8)を備える、請求項10~12のいずれか一項に記載の基板。
【請求項14】
前記薄膜(3)の前記強誘電体材料が、LiTaO
3またはLiNbO
3である、請求項10~13のいずれか一項に記載の基板。
【請求項15】
前記支持体(7)が、前記薄膜(3)の側に電荷トラップ層を備える、請求項10~14のいずれか一項に記載の基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、強誘電体材料の薄膜を準備するための方法に関する。より詳細には、本発明は、最終製品の薄膜において強誘電体材料のモノドメインの性質を維持することを可能にする準備方法に関する。この準備方法は、例えば、マイクロエレクトロニクス、マイクロメカニクス、フォトニクスなどの分野で用いられる。
【背景技術】
【0002】
(発明の技術的背景)
前文では、強誘電体材料は、自然状態で電気分極を有する材料であり、その分極は、外部電界を印加することによって反転させられ得ることに留意されたい。「強誘電性ドメイン」は、分極が均一である(すべての双極子モーメントが所与の方向に互いに対して平行に整列している)、単一ピースの材料内の各領域を指す。したがって、強誘電体材料は、この材料が分極が均一である単一の領域によって形成されている場合には「モノドメイン」として、または強誘電体材料が異なり得る極性を有する複数の領域を備える場合には「マルチドメイン」として特徴付けられ得る。
【0003】
様々なプロセスが、強誘電体材料の薄膜を形成するための最先端技術から知られている。このプロセスは、例えば、分子線エピタキシー、プラズマスパッタリング、レーザパルス堆積を用いた技法、またはさらには、薄膜が軽い種の注入により固体基板内に形成された脆弱ゾーン(または脆化平面)上で破砕することによって、強誘電体材料の固体基板から除去される、Smart Cut(商標)技術の適用であり得る。
【0004】
本発明は、より詳細には、そのような方法の適用によって得られる強誘電体薄膜の準備に関し、その具体的で例示的な実施形態は、文献欧州特許第3646374号明細書に見られ得る。
【0005】
この方法によれば、膜を除去するステップの後、膜の表面状態もしくは膜の結晶品質を改善すること、または膜の厚さを修正することを目的とした処理を膜に適用する必要があることが多い。しかしながら、本出願人は、これらの準備ステップがシリコン支持体上に転写された強誘電体薄膜に適用された場合、薄膜内に複数の強誘電性ドメインの形成をもたらし、それによってマルチドメインの性質が与えられる可能性があることを観察した。
【0006】
このような特徴は、例えば表面弾性波デバイス(SAW)などの薄膜上/薄膜内に形成されるデバイスの性能に影響を及ぼすため、膜を使用に適さないものにする。
【0007】
文献国際公開第2020200986号は、膜の表面部分における強誘電性ドメインの形成が、熱処理の適用中の薄膜内の水素濃度勾配の存在によって引き起こされることを開示している。この水素は、特に、固体基板内に脆化ゾーンを形成し、そこで薄膜を除去することを可能にするために、固体基板内に注入される軽い種に対応し得る。薄膜のモノドメインの性質を永続的に回復させるために、この文献は、そのような熱処理の適用後に強誘電体薄膜を薄化することを推奨している。
【0008】
この薄化は、特に膜の化学機械研磨によって達成され得るが、研磨によって材料を比較的厚く除去すると、この膜の厚さの均一性が低下する傾向がある。例として、約700nmの目標厚さを達成するために400nm程度の厚さを除去すると、100nm程度の厚さ均一性(すなわち、この厚さ測定が、例えば反射率測定またはエリプソメトリーによって、膜の全範囲にわたる複数の測定点で実行されたときの最大厚さと最小厚さとの差)を有する膜が形成される。この厚さのばらつきは、そのような膜から、すべての必要な特徴を有するデバイスをまとめて製造することを可能にしないため、許容できない。
【0009】
化学機械研磨による薄化の代替形態が存在する。特に、イオンエッチング、例えば反応性イオンによるエッチング(すなわち通常採用される表現によれば「反応性イオンエッチング」のRIEエッチング)によって薄い強誘電体膜を薄化することを想定することが可能である。RIEは、化学反応性イオンプラズマを使用してウェハから表面材料を除去するドライエッチングの一種である。プラズマは、電磁界によって低圧下で生成される。高エネルギープラズマイオンは、膜の表面を攻撃し、膜の表面と反応して膜の表面を粉砕し、それによって膜を徐々に薄化する。
【0010】
したがって、文献米国特許出願公開第2018261756号明細書は、CSD堆積によって約2ミクロンの厚さのPZTを形成してアモルファス圧電膜を形成することを提案している。この膜を温度に曝して多結晶を形成する。次いで、膜の粗さを低減し、膜の誘電圧を改善するために、例えばRIEエッチングによって50nmの厚さがエッチングされる。
【発明の概要】
【0011】
(発明の主題)
本発明は、単結晶強誘電体材料の薄膜を薄化するために、単結晶強誘電体材料の薄膜の自由面にイオンエッチングを適用する条件を決定することを目的とする。本発明の目的は、少なくとも前述の欠点に部分的に対処する強誘電体材料の薄膜を準備するための方法を提案することである。より詳細には、本発明の目的は、脆化平面でドナー基板から剥離することによって得られる単結晶強誘電体材料の薄膜のイオンエッチングのための方法であって、この方法が、薄膜のモノドメインの性質を持続させるまたは回復する、方法を提案することである。本発明の別の目的は、ドナー基板の脆化平面で剥離することによって得られた薄膜を薄化するための方法であって、薄化方法が、モノドメインであり、かつ化学機械研磨を実施する薄化プロセスによって得られ得る厚さよりも均一な厚さを有する単結晶強誘電体材料の薄膜を形成することを可能にする、方法を提案することである。
【0012】
(発明の簡単な説明)
これらの目的の1つを達成するために、本発明の主題は、単結晶強誘電体材料の薄膜を準備するための方法であり、方法は、以下の、
-薄膜を提供するステップであって、薄膜が、第1の自由面を露出させる、提供するステップ、
-イオンエッチングによって薄膜を薄化し、かつエッチングパラメータによって規定されたステップ、
を含む。
【0013】
本発明によれば、提供ステップは、脆化平面を備えるドナー基板と支持基板との組付けと、脆化平面の高さでの薄膜の剥離と、を含み、薄膜は、自由面とは反対側の、支持基板上に位置付けされた第2の面を有する。さらに、エッチングパラメータは、薄膜の自由面が薄化ステップの終了時に閾値を超えない粗さを有するように選択される。
【0014】
本発明の他の好適かつ非限定的な特徴によれば、単独でまたは任意の技術的に実行可能な組合せで、以下が採用される。
・提供ステップが、ドナー基板内への水素イオン注入によって脆化平面を形成することを含む。
・ドナー基板が、固体材料のブロックである。
・ドナー基板が、マニピュレータ基板上に配置された強誘電体材料の厚層を含む。
・薄化ステップの後に、自由面の化学機械的タッチ研磨が続く。
・提供ステップが、薄膜の自由面をある特定のガス雰囲気に曝す熱処理ステップを含む。
・熱処理が、300℃~薄膜を構成する強誘電体材料のキュリー温度の温度で、30分~10時間の期間にわたって実行される。
・熱処理が、酸化性または中性のガス雰囲気下で実行される。
・方法が、熱処理ステップと薄化ステップとの間に、自由面を平滑化して、自由面の表面粗さを粗さ閾値よりも低い値に低減するステップを含む。
・平滑化ステップが、自由面の化学機械的タッチ研磨を含む。
・粗さ閾値が、3nm~7nmである。
【0015】
別の態様によれば、本発明は、支持体上に配設された単結晶およびモノドメインの強誘電体材料の薄膜を備える基板であって、薄膜が、700nm以下の厚さおよび60nm以下の厚さ均一性を有する、基板に関する。
【0016】
本発明の他の好適かつ非限定的な特徴によれば、単独でまたは任意の技術的に実行可能な組合せで、以下が採用される。
【0017】
・基板が、薄膜と支持体との間に位置付けされたアモルファス中間層を備える。
【0018】
・アモルファス中間層が、酸化シリコン、酸窒化シリコン、または窒化シリコンである。
【0019】
・薄膜が、0.5nm未満の粗さを有する自由面を備える。
【0020】
・薄膜の強誘電体材料が、LiTaO3またはLiNbO3である。
【0021】
・薄膜の強誘電体材料が、42°RY結晶方向を有する。
【0022】
・支持体が、薄膜側に電荷トラップ層を備える。
【0023】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図を参照して、本発明の以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、第1の実施形態による薄膜提供ステップを示す。
【
図2】
図2は、第2の実施形態による薄膜提供ステップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(詳細な説明)
以下の説明を簡単にするために、開示される方法の異なる実施形態において、同一の要素または同じ機能を実行する要素には同じ参照符号が使用されている。
【0026】
図は概略図であり、これは、読み易くするために縮尺通りではない。特に、層の厚さは、これらの層の横方向寸法に対して縮尺通りではない。
【0027】
層または基板に関して本明細書の残りの部分で使用される「熱膨張係数」という表現は、この層またはこの基板を画定する主平面内に画定された方向の膨張係数を指す。材料が異方性である場合、係数の保持値は最大振幅を有する値となることとなる。係数の値は、室温で測定した値である。
【0028】
本発明は、ドナー基板1に軽い種を注入することを含む転写技法によって、単結晶ドナー基板1から支持基板7に転写された強誘電体材料で作製された薄膜3を準備する方法に関する。薄膜のこの提供ステップのいくつかの実施形態が存在する。
【0029】
図1Aから
図1Dに示す第1の実施形態によれば、ドナー基板1は、強誘電体材料、例えばLiTaO
3、LiNbO
3、LiAlO
3、BaTiO
3、PbZrTiO
3、KNbO
3、BaZrO
3、CaTiO
3、PbTiO
3、またはKTaO
3の固体の単結晶およびモノドメインのブロックで構成されている。ドナー基板1は、規格化されたサイズ、例えば直径150mmまたは200mmの円形ウェハの形態をとり得る。しかしながら、本発明はこれらの寸法またはこの形状に決して限定されない。ドナー基板は、強誘電体材料のインゴットから除去されていてもよく、この除去は、ドナー基板1が所定の結晶配向を有するように実行されている。配向は、意図される用途に従って選択される。したがって、薄膜の特性を利用してSAWフィルタを形成することを意図する場合、42°RYの配向を選択することが一般的な方法である。しかしながら、本発明は特定の結晶配向に決して限定されない。
【0030】
ドナー基板1の結晶配向にかかわらず、方法は、少なくとも1つの軽い種をドナー基板1内に導入することを含む。この導入は、注入、すなわち、水素イオンおよび/またはヘリウムイオンなどの軽い種によるドナー基板1の平面4のイオン衝撃に対応し得る。
【0031】
それ自体公知の方法で、
図1Bに示すように、注入されるイオンの目的は、平面4の側に位置する転写される強誘電体材料の薄膜3と、基板の残りの部分を形成する別の部分5との境界を定める脆化平面2を形成することである。
【0032】
注入される種の性質、ドーズ量、および注入エネルギーは、転写されることが意図される膜の厚さおよびドナー基板の物理化学的特性に応じて選択される。したがって、LiTaO3から作製されたドナー基板1の場合、30~300keVのエネルギーで1E16~5E17at/cm2の水素ドーズ量を注入することを選択して、200~2000nm程度で薄膜3の境界を定めることが可能となる。
【0033】
次のステップでは、
図1Cに示すように、ドナー基板1の平面4が支持基板7の面6に組み付けられる。支持基板7は、ドナー基板と同じ大きさ、および同じ形状であり得る。可用性およびコストの理由から、支持基板7は、単結晶または多結晶シリコンウェハである。しかしながら、より一般には、支持基板7は、任意の材料、例えばシリコン、サファイア、またはガラスで形成され得、任意の形状であり得る。
【0034】
特定の実施形態では、支持基板は、例えば単結晶シリコンのベース基板7bを備え、ベース基板7b上に電荷トラップ層7aが配置されている。ベース基板7bは、1000オーム.cmを超えるか、またはより従来的には1000オーム.cm未満の高い抵抗率を有し得る。電荷トラップ層7aは、それ自体知られているように、多結晶シリコンの層から形成され得、典型的には500nm~10ミクロンに含まれる厚さを有し得る。
【0035】
組付けステップの前に、洗浄、ブラッシング、乾燥、もしくは研磨ステップを用いて、または例えばプラズマによる活性化を用いて、組み付けられる基板の面を準備することを想定することが可能である。
【0036】
組付けステップは、分子接着および/または静電結合によってドナー基板1を支持基板7に密着させるように位置付けすることに対応し得る。任意選択的に、2つの基板1、7の組付けを容易にするために、特にそれらが直接結合によって組み付けられるときに、少なくとも1つのアモルファス中間層が、組付け前に、ドナー基板1の平面4上に、または支持基板7の組み付けられる平面6上に、またはその両方上に形成されてもよい。この中間層は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコンで作製されている。中間層は、数ナノメートル~数ミクロンに含まれる厚さを有し得る。
【0037】
文献国際公開第2020200986号の教示に従い、低い水素濃度を有するか、または水素拡散に対する障壁を形成する中間層が設けられることが好ましいこととなり、したがって、薄膜と薄膜3の第2の面の側のアモルファス中間層との間の境界面におけるマルチドメインゾーンの形成が回避される。中間層は、熱酸化または窒化処理、化学的堆積(PECVD、LPCVD...)などの最先端技術で知られている様々な技法に従って生成され得る。
【0038】
この組付けステップの終了時に、2つの関連する基板を備える組立体が得られ、支持基板7の平面6はドナー基板1の平面4に接着している。
【0039】
次いで、組立体が処理されて、例えば脆化平面2での劈開によって強誘電体材料の薄膜3がドナー基板1から剥離される。
【0040】
したがって、この剥離ステップは、80℃~300°程度の温度範囲内で組立体に熱処理を適用して、薄膜3が支持基板7上に転写されることを可能にすることを含み得る。熱処理の代わりに、または熱処理に加えて、このステップは、脆化平面2におけるガスまたは液体流体のブレードまたはジェットの適用を含んでもよい。
【0041】
この剥離ステップに続いて、
図1Dに示す構造体9が得られる。この構造体9は、第1の自由面8および支持基板7上に配置された第2の面4を備える単結晶強誘電体材料の薄膜3を備える。
【0042】
図2Aから
図2Dは、異成分の構造体9を生成するのに特に適した第2の実施形態を示しており、ここでは薄膜3は、例えば10%を超える差を有する、支持体7の熱膨張係数とは非常に異なる熱膨張係数を有する。この第2の実施形態は、主に、ドナー基板1の性質が第1の実施形態と異なる。したがって、簡潔にするために、第1の実施形態とは異なるこの第2の実施形態の要素のみがここに提示され、したがって、第1の実施形態のすべての他の特徴が想定され得る。
【0043】
図2Aを参照すると、この場合のドナー基板1は、第1の実施形態に関連して強誘電体材料の固体ブロックについて説明した特性と同じ特性を有する強誘電体材料1aの厚層と、マニピュレータ基板1bと、で構成されている。
【0044】
マニピュレータ基板1bは、好適には、支持基板7を構成する熱膨張係数に近い熱膨張係数をマニピュレータ基板1bに提供する材料(または複数の材料)で形成されている。「近い」とは、マニピュレータ基板1bの熱膨張係数と支持体の熱膨張係数との差が、強誘電体材料の固体ブロックの熱膨張と支持基板7の熱膨張との差よりも絶対値として小さいことを意味する。
【0045】
マニピュレータ基板1bと支持基板とは、同一の熱膨張係数を有することが好ましい。ドナー基板1と支持体7との組付け中に、比較的高温の熱処理に耐えるのに適した構造体が形成される。実施を簡潔にするために、これは、マニピュレータ基板1bが支持基板7の材料と同じ材料で形成されるようにマニピュレータ基板1bを選択することによって得られ得る。
【0046】
この実施形態のドナー基板1を形成するために、強誘電体材料の固体ブロックが、最初に、例えば、上述のような分子接着による結合技法または接着剤層の助けを借りて、マニピュレータ基板1aに組み付けられる。次いで、強誘電体材料1aの膜が、例えば、研削および/または化学機械研磨および/またはエッチングにより薄化することによって形成される。組付け前に、接触する面の一方上および/または他方上に接着層(例えば、酸化シリコンおよび/または窒化シリコンの堆積による、接着剤層、例えばポリマー)を形成するための提供が行われてもよい。組付けは、薄化の次のステップを可能にするために結合エネルギーの十分な強化を可能にする低温熱処理(例えば、50~300℃、典型的には100℃)の適用を含み得る。
【0047】
マニピュレータ基板1bは、支持基板7の厚さと実質的に同等の厚さを有するように選択される。薄化ステップは、厚層1aの厚さが、プロセスの残りの部分で適用される熱処理中に発生する応力がより低い強度になるように十分に小さくなるように実行される。同時に、この厚さは、薄膜3、または複数のそのような膜を除去することができるように十分に大きい。この厚さは、例えば、5~400ミクロンであり得る。
【0048】
この第2の実施形態の方法の以下のステップは、第1の実施形態で説明したステップのものと同等である。
図2Bに示すように、厚層1a内に軽い種を注入して脆化平面2を生成し、これは、ドナー基板1の残りの部分5からの薄膜3の分離を示す。このステップの後、
図2Cに示すように、支持基板7上にドナー基板1を組み付けるステップが続く。次いで、
図2Dに示す構造体9を得るために、薄膜3が基板の残りの部分5から剥離される。
【0049】
この実施形態は、ドナー基板1および支持体7から形成された組立体が、基板のうちの1つの制御されない破砕または薄膜3のドナー基板1の層間剥離のいかなるリスクもなく、第1の実施形態で適用された温度よりもはるかに高い温度に曝され得るという点で好適である。したがって、この組立体の熱膨張係数に関してバランスのとれた構造は、組立体を比較的高い温度、例えば100℃~500℃に曝すことによって薄膜3を剥離するステップを容易にすることを可能にする。
【0050】
選択された実施形態にかかわらず、および本出願の導入部で指定されているように、薄膜3を仕上げる段階は、したがって薄膜3の結晶性および表面品質を改善し、その厚さが目標厚さに一致するかまたは目標厚さに近づく薄膜3を提供するために必要である。これらの仕上げステップは、特に、ドナー基板の残りの部分からの薄膜3の劈開および剥離から生じる加工硬化された粗い表面層を排除することを目的とする。
【0051】
文献国際公開第2020200986号に説明されているように、最初に、転写された薄膜3に熱処理ステップが適用される。この熱処理により、薄膜3に存在する結晶欠陥を修復するか、またはさらには薄膜の自由面の粗さを低減することが可能になる。さらに、この熱処理は、薄膜3と支持体7との間の結合を強固にするのに役立つ。熱処理により、30分~10時間の期間にわたって、構造体を300℃~強誘電体材料のキュリー温度の温度にする。この熱処理は、好ましくは、薄膜3の自由面を酸化性または中性のガス雰囲気に曝すことによって、すなわち、薄膜のこの面を保護層で覆うことなく実行される。
【0052】
曖昧さを避けるために、薄膜3の仕上げ熱処理ステップは、組み付けられた構造体に適用される破砕熱処理とは異なることが強調される。
【0053】
本発明による方法はまた、仕上げ熱処理の後に、薄膜3を薄化するステップを含む。このステップは、特に、前の熱処理ステップ中に作り出された可能性があるマルチドメイン表面層を排除することを目的とする。また、前述のように、その厚さが目標厚さに対応する薄膜3を提供することを目的とする。この薄化は、一般的に、例えば機械的、化学機械的薄化技法による薄膜3の第1の自由面8の研磨に対応し得る。この薄化により、転写された層の厚さ、薄膜3の目標厚さ、仕上げ熱処理から表面上に存在するマルチドメインおよび/または加工硬化層の厚さに応じて、100nm~1ミクロンの厚さを除去することになり得る。しかしながら、本出願の導入部で提示したように、このような化学機械研磨による薄化の手法は、薄膜3の均一性の特質を低下させる傾向があり、許容できない。かくして、本出願人によって実施された追加の実験は、この均一性が100nmの除去に対して約25nm低下することを示した。
【0054】
研磨による薄化の代替的な解決策を模索する中で、本出願人は、イオンエッチングによる薄化のこのステップを実施することを目的とした以下の実験を実施した。
【0055】
実験サンプルは、(仕上げ熱処理を含む、今開示された方法により)シリコン基板上に転写されたタンタル酸リチウムの単結晶薄膜からなり、薄膜は薄化段階を受けていなかった。したがって、この薄膜に適用された準備方法は、熱処理ステップのみからなっていた。したがって、薄膜はマルチドメイン表面厚さを有した。マルチドメイン表面厚さは、680nmの厚さおよび10nmRMS程度の粗さを有した。
【0056】
このサンプル上に、各々がCHF3の反応性ガスに基づく第1のRIE P1型イオンエッチングプロセスおよび第2のRIE P2型イオンエッチングプロセスをそれぞれ適用した。本出願の導入部で想起されるように、RIEエッチングプロセスは、処理される表面(ここでは薄膜3の自由面8)を反応性イオンプラズマに曝すことからなる。このプラズマは、薄膜の自由面を備える材料の表面エッチングをもたらす。
【0057】
膜の粗さに対するイオンエッチング、特にRIE型のイオンエッチングの効果は、エッチングパラメータ、特に反応性イオンのプラズマを作り出すために形成される無線周波数フィールドのパワー、反応性ガスの流量、(基板が上に載置される支持体の温度を制御することによって制御され得る)薄膜の温度、およびRIE機器の処理チャンバ内に広がる圧力に依存する。
【0058】
サンプルに適用された第1のRIE P1プロセスは、特に、チャンバ内に導入される反応性ガスの流量を標準条件に対して65sccm(「標準立方センチメートル毎分」より)、すなわち1.08 10^-6m^3/sに選択することによって、薄膜の粗さを増加させる傾向があるエッチングパラメータを示した。このプロセスがサンプルに適用されて、薄膜の厚さが200nm低減され、したがって480nmの厚さが達成された。
【0059】
サンプルに適用された第2のRIE P2プロセスは、特に、チャンバ内に導入される反応性ガスの流量を標準条件下で20sccm、すなわち0.3 10^-6m^3/sに選択することによって、薄膜の粗さを低減する傾向があるエッチングパラメータを示した。このプロセスがサンプルに適用されて、薄膜の厚さが200nm低減され、したがって480nmの厚さがもたらされた。
【0060】
以下の表は、実施した実験の最後に得られた結果を提示する。粗さは、原子間力による測定により5×5μmのフィールドで測定されたRMS量で表されている。
【0061】
【0062】
第1のプロセスP1(そのエッチングパラメータは薄膜の粗さを増加させる傾向がある)の適用は、高い粗さを有する薄化された膜を得ることにつながることに留意されたい。さらに、予想されたこととは反対に、この薄膜3のモノドメインの性質は回復していない。
【0063】
反対に、第2のプロセスP2(そのエッチングパラメータは薄膜の粗さを低減する傾向がある)の適用は、その粗さがはるかに小さい薄化された膜を得ることにつながるだけでなく、薄膜3のモノドメインの性質を回復させることも可能にする。
【0064】
どちらの場合も、研磨による薄化処理を受けていないサンプルの均一性は良好な品質であることに留意されたい。
【0065】
本発明の準備方法の性能を決して制限しないこれらの結果の可能な解釈によれば、プラズマのイオンは、粗さのピーク内に存在する圧電材料と、前記粗さが過剰であるときに圧電材料の分極特性を変更するために相互作用し、その結果、表面上にマルチドメインの厚さを作り出すかまたは維持する結果になると思われる。
【0066】
したがって、この現象を防ぐために、薄膜の粗さを、分極特性のこの変更がトリガされる閾値未満に低減するエッチングパラメータを選択することが必要であると考えられる。
【0067】
薄膜の初期粗さ、すなわち、薄化ステップの適用直前の薄膜の粗さが大きいほど、特に、初期粗さが粗さ閾値を超える場合、このステップの間および終了時に粗さ閾値を低減および/または超えないようにエッチングパラメータをより多く制御しなければならない。逆に、初期粗さが低いほど、特に、初期粗さが粗さ閾値よりも低い場合、エッチングパラメータはより自由に選択され得るが、薄化ステップの終了時に粗さ閾値を超えることはもたらされない。このようにして、方法は、化学機械研磨によって薄化された膜の均一性よりもはるかに優れた均一性のモノドメインの薄膜を提供することができる。
【0068】
薄膜を構成する強誘電体材料の性質に応じて、粗さ閾値は3nm~7nm、例えば5nmまたは6nmであり得る。
【0069】
したがって、本発明は、これらの結果を利用して、
図3に概略的に示す薄膜3を準備するための方法を提案する。
【0070】
したがって、準備方法は、例えば
図1および
図2に表された方法のうちのいずれかに従って、上記で説明したような単結晶薄膜3の提供ステップを含み、この膜の第1の自由面8は露出させられる。この提供ステップはまた、特に薄膜内に存在する水素を排出し、マルチドメインの表面厚さ(
図3A)の形成をもたらすことを目的とした仕上げ熱処理ステップの適用を含む。このステップの終了時に、薄膜は、原子間力測定(AFM)によって5×5ミクロンのフィールドにわたって測定された典型的には10nmRMS程度の決定された粗さを有する。薄膜は、1000nm以上程度の比較的厚い厚さを有する。
【0071】
この提供ステップの後、本発明による準備方法は、典型的には700nm以下程度の厚さの選択された層、すなわち単結晶およびモノドメインを提供することを目的とした薄化ステップを含む。
【0072】
非常に一般的に、
図3Bに示すように、この薄化ステップは、イオンエッチング、すなわち、薄膜の自由面8をイオン、好適には反応性イオンに曝すことによって実行される。反応性イオンは、特に、アルゴンのイオン、CHF3のイオン、または圧電薄膜を構成する材料と化学的に反応することができる任意の他のイオンであり得る。提供された薄膜3の厚さおよび目標厚さに応じて、薄化ステップは、50nm~900nm程度の厚さを排除し、典型的には100nmを超える、例えば100nm~400nmの厚さを排除することになり得る。すべての場合において、膜の均一性は、膜が化学機械研磨によって薄化された場合よりもはるかに低下されず、この厚さ均一性は、反射率測定またはエリプソメトリーによって測定される際、60nm未満であってもよく、またはさらには30nm未満であってもよく、さらには20nm以下に達してもよい。
【0073】
これを達成するために、本発明によれば、エッチングパラメータは、薄膜3の自由面8が薄化ステップの終了時に閾値を超えない粗さを有するように選択される。排除されるべき比較的大きな厚さを考慮して、粗さよりも除去速度を優先するようにエッチングパラメータを選択することがより自然であり得たことに留意されたい。
【0074】
上記で指定されたように、イオンエッチングによる薄化ステップの「粗化」効果は、以下の、反応性ガスの流れ、反応性イオンプラズマを作り出すために形成される無線フィールド周波数のパワー、薄膜3の温度、およびエッチング機器の処理チャンバ内に広がる圧力のエッチングパラメータのうちの少なくとも1つを低減することによって低減され得る。
【0075】
当業者は、所与の材料および薄膜3の初期表面状態について、粗さ閾値を超えることを回避しながらどのパラメータの組合せがエッチングをもたらすかを決定するために、一連の日常的な実験中にこれらのパラメータを非常に簡単に調整し得る。
【0076】
提供ステップが十分にマスターされておらず、この粗さが薄膜の提供ごとに異なる場合、準備方法は、提供ステップと薄化ステップとの間に、測定された粗さに対してRIEエッチングプロセスのエッチングパラメータを層ごとに調整するために、薄膜の粗さを測定するステップを提供してもよい。
【0077】
特に好適な実施形態によれば、本発明の準備方法は、仕上げ熱処理ステップと薄化ステップとの間に、自由面8を平滑化して自由面8の表面粗さを比較的低い初期値、例えば1nmRMS未満に低減するステップを含む。
【0078】
例えば、平滑化ステップは、自由面8の化学機械的タッチ研磨を含む。この研磨は、薄膜の粗さを、この膜を著しく薄化することなく低減することを目的とする。この非常に表面的な平滑化ステップは、膜の均一性に影響を及ぼさない。
【0079】
薄膜3の自由面8の粗さが低減されると、薄化ステップの終了時に粗さ閾値を超えるリスクが低減されることにより、したがって薄膜のモノドメインの性質が回復されることにより、エッチングパラメータは、この平滑化ステップがない場合よりも自由に選択され得る。
【0080】
この予備の平滑化ステップが実装されるかどうかにかかわらず、薄膜を準備するための方法は、薄化ステップの後に、自由面の化学機械的タッチ研磨が続いてもよい。このステップにより、この膜の均一性に影響を与えることなく、最終的に(薄化ステップの最後にこれが得られなかった場合)5×5μmの原子間力測定(AFM)により例えば0.5nmRMS未満の低い粗さを有するように自由面8を準備することが可能になる。
【0081】
当然のことながら、本発明は記載された実施形態に限定されず、特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく変形実施形態を追加することが可能である。
【国際調査報告】