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特表2024-544635ケイ素含有膜形成組成物、およびそれを用いたケイ素含有膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-03
(54)【発明の名称】ケイ素含有膜形成組成物、およびそれを用いたケイ素含有膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20241126BHJP
   H01L 21/368 20060101ALI20241126BHJP
   C08L 83/16 20060101ALI20241126BHJP
   C08G 77/60 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
H01L21/316 C
H01L21/368 Z
C08L83/16
C08G77/60
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532356
(86)(22)【出願日】2022-11-28
(85)【翻訳文提出日】2024-05-29
(86)【国際出願番号】 EP2022083415
(87)【国際公開番号】W WO2023099378
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2021194812
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】中本 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】高岸 秀行
(72)【発明者】
【氏名】藤原 嵩士
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敦彦
【テーマコード(参考)】
4J002
4J246
5F053
5F058
【Fターム(参考)】
4J002CP011
4J002CP212
4J002EX016
4J002GQ05
4J246AA06
4J246AA09
4J246AA10
4J246AB05
4J246AB15
4J246BB081
4J246BB08X
4J246BB142
4J246BB14X
4J246BB451
4J246BB45X
4J246CA01X
4J246CA34X
4J246FA471
4J246FA571
4J246GA01
4J246GC24
4J246GD08
4J246HA62
5F053AA03
5F053AA06
5F053AA50
5F053BB60
5F053DD01
5F053FF01
5F053GG03
5F053HH01
5F053HH05
5F053LL02
5F053LL05
5F053RR20
5F058BA10
5F058BB06
5F058BC02
5F058BC08
5F058BF46
5F058BH00
5F058BH03
5F058BH04
5F058BH05
(57)【要約】
【課題】基板との親和性が高いケイ素含有膜形成組成物の提供。
【解決手段】(I)特定の繰り返し単位を含んでなるポリシラン骨格を有するポリマー、(II)不飽和炭化水素結合を有するケイ素化合物、および(III)溶媒を含んでなる、ケイ素含有膜形成組成物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)式(ia)で示される繰り返し単位を含んでなるポリシラン骨格を有するポリマー:
【化1】
(ここで、
a1およびRa2は、それぞれ独立に、単結合、水素、ハロゲン、C1-6アルキル、C6-10アリール、または-SiR (ここで、Rは、それぞれ独立に、水素、またはC1-8アルキルである)であり、かつ
pは、5以上の整数である);
(II)不飽和炭化水素結合を有するケイ素化合物;および
(III)溶媒
を含んでなるケイ素含有膜形成組成物。
【請求項2】
(I)ポリシラン骨格を有するポリマーが、式(ib)で示される繰り返し単位をさらに含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【化2】
(ここで、
b1およびRb2は、それぞれ独立に、単結合、水素、ハロゲン、C1-6アルキル、C6-10アリール、または-SiR (ここで、Rは、それぞれ独立に、水素、またはC1-8アルキルである)であり、ただし、Rb1およびRb2の少なくとも1つが単結合であり、かつ
qは、5以上の整数である)
【請求項3】
(IV)ポリシラザンをさらに含んでなる、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
(II)不飽和炭化水素結合を有するケイ素化合物が、式(ii)で表される、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【化3】
(ここで、
iiは、それぞれ独立に、単結合、またはC1-5アルキレンであり、
iiは、それぞれ独立に、水素、またはC1-5アルキルであり、かつ
nは、1、2、3、または4である)
【請求項5】
(II)不飽和炭化水素結合を有するケイ素化合物が、ジビニルシラン、トリビニルシラン、テトラビニルシラン、メチルジビニルシラン、ジメチルジビニルシラン、メチルトリビニルシラン、ジアリルシラン、トリアリルシラン、ジアリルメチルシラン、ジアリルジメチルシラン、トリアリルメチルシラン、およびテトラアリルシランからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
(III)溶媒の比誘電率が3.0以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
(I)ポリシラン骨格を有するポリマーが、ケイ素を5以上含んでなるポリシラン化合物を重合させてなるポリマーである、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記ポリシラン化合物が環状ポリシランを含んでなる、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記環状ポリシランが、式(ib’)で示される、請求項8に記載の組成物。
【化4】
(ここで、
b1’およびRb2’は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C1-6アルキル、C6-10アリール、または-SiRB’ (ここで、RB’は、それぞれ独立に、水素、C1-8アルキルである)であり、かつ
q’は、5以上の整数である)
【請求項10】
前記環状ポリシランが、シリルシクロペンタシラン、シリルシクロヘキサシラン、ジシリルシクロヘキサシラン、シクロペンタシラン、およびシクロヘキサシランからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項8または9に記載の組成物。
【請求項11】
前記ポリシラン化合物が、ネオペンタシラン、ヘキサシラン、3-シリルペンタシラン、2,2-ジシリルテトラシラン、ヘプタシラン、テトラシリルテトラシラン、およびヘキサシリルペンタシランからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項7~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物を基材に塗布して、塗膜を形成すること、および
前記塗膜を加熱すること
を含んでなる、ケイ素含有膜の製造方法。
【請求項13】
前記塗膜を非酸化雰囲気下で加熱することを含んでなる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記塗膜を酸化雰囲気下で加熱することを含んでなる、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記塗膜をアンモニア雰囲気下で加熱することを含んでなる、請求項12または13に記載の方法。
【請求項16】
前記塗膜を形成後、ピーク波長248~436nmの光をさらに照射する、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記塗膜を形成後、塗膜の加熱前に、電子線を照射する、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記加熱を、200~1000℃で行う、請求項12~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
請求項12~18のいずれか一項に記載の方法を含んでなる、電子素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素含有膜形成組成物、およびそれを用いたケイ素含有膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子デバイス、とりわけ半導体デバイスは、半導体膜、絶縁膜、導電膜などの薄膜で構成されている。ケイ素含有膜は、半導体膜として、絶縁膜加工時のエッチングマスクとして、メタルゲートなどの製造時の犠牲膜として用いられる。
【0003】
アモルファスシリコン膜やポリクリスタラインシリコン膜の形成方法としては化学気相成長法(CVD法)、蒸着法、スパッタ法などが用いられている。先端のノードでは、CVDなどの気相法プロセスを用いると、狭いトレンチに対して、過度の成長をさせてしまい、エッチングとCVDを繰り返し行う必要がある。そこで、ケイ素含有ポリマーを含む液体組成物を塗布して焼成することによって成膜することが検討されている。
ケイ素含有ポリマーとしては水素化ポリシラン等のポリシランが知られているが、これを含む液体組成物は基板との親和性が低く、これを用いて膜形成ができるケースは非常に限定されていた。
【0004】
ポリシランに機能性を付与するために、特定の官能基を導入する検討が行われている。例えば、特許文献1では、ハロシラン化合物とビニル化合物とを重合させて、ポリシラン系コポリマーを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-128897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述のような背景技術に基づいてなされたものであり、基板との親和性が高いケイ素含有膜形成組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるケイ素含有膜形成組成物は、
(I)式(ia)で示される繰り返し単位を含んでなるポリシラン骨格を有するポリマー:
【化1】
(ここで、
a1およびRa2は、それぞれ独立に、単結合、水素、ハロゲン、C1-6アルキル、C6-10アリール、または-SiR (ここで、Rは、それぞれ独立に、水素、またはC1-8アルキルである)であり、かつ
pは、5以上の整数である);
(II)不飽和炭化水素結合を有するケイ素化合物;および
(III)溶媒
を含んでなる。
【0008】
本発明によるケイ素含有膜の製造方法は、
前記したケイ素含有膜形成組成物を基材に塗布して塗膜を形成すること、および
前記塗膜を加熱すること
を含んでなる。
【0009】
本発明による電子素子の製造方法は、上記したケイ素含有膜の製造方法を含んでなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるケイ素含有膜形成組成物は、基板との親和性が高く基板に対する塗布性および密着性が良好である。本発明によるケイ素含有膜形成組成物を用いて形成されるケイ素含有膜は、残留応力が低い。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[定義]
本明細書において、特に限定されて言及されない限り、本パラグラフに記載の定義や例に従う。
単数形は複数形を含み、「1つの」や「その」は「少なくとも1つ」を意味する。ある概念の要素は複数種によって発現されることが可能であり、その量(例えば質量%やモル%)が記載された場合、その量はそれら複数種の和を意味する。
「および/または」は、要素の全ての組み合わせを含み、また単体での使用も含む。
「~」または「-」を用いて数値範囲を示した場合、これらは両方の端点を含み、単位は共通する。例えば、5~25モル%は、5モル%以上25モル%以下を意味する。
アルキルとは直鎖状、分岐鎖状または環状飽和炭化水素から任意の水素をひとつ除去した基を意味し、直鎖状アルキル、分岐鎖状アルキルおよび環状アルキルを包含し、必要に応じて環状構造に直鎖状または分岐鎖状アルキルを側鎖として含む。アリールとは、芳香族炭化水素から任意の水素をひとつ除去した基を意味する。
「Cx-y」、「C~C」および「C」などの記載は、分子または置換基中の炭素の数を意味する。例えば、C1-6アルキルは、1以上6以下の炭素を有するアルキル鎖(メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル等)を意味する。
ポリマーが複数種類の繰り返し単位を有する場合、これらの繰り返し単位は共重合する。これら共重合は、交互共重合、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合、またはこれらの混在のいずれであってもよい。ポリマーや樹脂を構造式で示す際、括弧に併記されるnやm等は繰り返し数を示す。
温度の単位は摂氏(Celsius)を使用する。例えば、20度とは摂氏20度を意味する。
添加剤は、その機能を有する化合物そのものをいう(例えば、塩基発生剤であれば、塩基を発生させる化合物そのもの)。その化合物が、溶媒に溶解または分散されて、組成物に添加される形態もあり得る。本発明の一形態として、このような溶媒は溶媒(III)またはその他の成分として本発明にかかる組成物に含有されることが好ましい。
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0013】
<ケイ素含有膜形成組成物>
本発明によるケイ素含有膜形成組成物(以下、組成物ということがある)は、(I)特定の構造を有するポリシラン骨格を有するポリマー、(II)不飽和炭化水素結合を有するケイ素化合物、および(III)溶媒を含んでなるものである。
【0014】
(I)ポリシラン骨格を有するポリマー
本発明による組成物は、式(ia)で示される繰り返し単位を含んでなるポリシラン骨格を有するポリマー(以下、ポリシラン骨格を有するポリマー、ポリマー、または(I)成分ということがある)を含んでなる。
【0015】
式(ia)は以下である。
【化2】
ここで、
a1およびRa2は、それぞれ独立に、単結合、水素、ハロゲン、C1-6アルキル、C6-10アリール、または-SiR であり、好ましくは単結合、水素、または-SiR であり、より好ましくは水素である。Ra1またはRa2が単結合の場合、ポリマー中の別の式(ia)で示される繰り返し単位または式(ib)で示される繰り返し単位中の単結合と結合し、それらが結合するケイ素どうしを直接結合する。それぞれのRa1は、同一であっても異なっていてもよく、またそれぞれのRa2は同一であっても異なっていてもよい。Ra1とRa2とが同一であることが本発明好ましい形態であるが、Ra1とRa2とが異なる形態も、本発明の別の一形態である。
は、それぞれ独立に、水素、またはC1-8アルキルであり、好ましくは水素またはメチルであり、より好ましくは水素である。
pは、5以上の整数であり、好ましくは5~20であり、より好ましくは6~10である。
【0016】
本発明に用いられるポリシラン骨格を有するポリマーは、式(ib)で示される繰り返し単位をさらに含んでなることが好ましい。
式(ib)は以下である。
【化3】
ここで、
b1およびRb2は、それぞれ独立に、単結合、水素、ハロゲン、C1-6アルキル、C6-10アリール、または-SiR であり、好ましくは単結合、水素、または-SiR であり、より好ましくは水素または単結合であり、ただしRb1およびRb2のうちの少なくとも1つが単結合である。Rb1またはRb2が単結合の場合、ポリマー中の別の式(ib)で示される繰り返し単位または式(ia)で示される繰り返し単位中の単結合と結合し、それらが結合するケイ素どうしを直接結合する。
は、それぞれ独立に、水素、またはC1-8アルキルであり、好ましくは水素またはメチルであり、より好ましくは水素である。
qは、5以上の整数であり、好ましくは5~12であり、より好ましくは6である。
【0017】
ポリシラン骨格を有するポリマーの具体例としては、以下が挙げられる。
【化4】
【0018】
ポリシラン骨格を有するポリマーがSi-C結合を有さないことも本発明の好適な一形態である。Si-C結合を有さないことで、成膜化した後に、アルカリ溶液でのエッチングが容易になり、加工性を向上させることができる。
【0019】
ポリシラン骨格を有するポリマーの質量平均分子量は、溶媒への溶解性、形成される膜の平坦性および基板への密着性の理由から、好ましくは500~20,000であり、より好ましくは1,000~15,000である。ここで質量平均分子量とは、ポリスチレン換算質量平均分子量であり、ポリスチレンの基準としてゲル浸透クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0020】
ポリシラン骨格を有するポリマーは、好ましくは、ケイ素を5以上含んでなるポリシラン化合物(以下、ポリシラン化合物ということがある)を重合させてなるポリマーである。好ましい形態において、ポリシラン骨格を有するポリマーは、ポリシラン化合物を光照射および/または加熱により重合させることで形成される。
ポリシラン化合物に含まれるケイ素原子の数は、好ましくは5~8であり、より好ましくは5または6である。ポリシラン化合物は、無機化合物であっても、有機化合物であってもよく、直鎖状、分岐状、または一部に環状構造を有するものであってもよい。
【0021】
ポリシラン化合物は、1種または2種以上の混合物であってもよく、好ましくは環状ポリシランを含んでなり、より好ましくは環状ポリシランからなる。
環状ポリシランは、好ましくは、以下の式(ib’)で示される。
【化5】
ここで、
b1’およびRb2’は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C1-6アルキル、C6-10アリール、または-SiRB’ であり、好ましくは、水素またはシリルであり、より好ましくは水素である。
B’は、それぞれ独立に、水素、またはC1-8アルキルであり、好ましくは、水素またはメチルであり、好ましくは水素である。
q’は、5以上の整数であり、好ましくは5~8であり、より好ましくは5または6である。
【0022】
環状ポリシランは、好ましくは、シリルシクロペンタシラン、シリルシクロヘキサシラン、ジシリルシクロヘキサシラン、シクロペンタシラン、およびシクロヘキサシランからなる群から選択される少なくとも一つであり、より好ましくはシクロヘキサシラン、シクロペンタシランである。
【0023】
ポリシラン化合物は、鎖状または分岐状のポリシランを含んでいてもよく、鎖状または分岐状のポリシランとしては、ネオペンタシラン、ヘキサシラン、3-シリルペンタシラン、2,2-ジシリルテトラシラン、ヘプタシラン、テトラシリルテトラシラン、およびヘキサシリルペンタシランが挙げあれ、これらのうちの少なくとも1つを含むことも本発明の好適な形態である。
【0024】
上記のポリシラン化合物は、光照射および/または加熱により重合させることが好ましく、光照射により重合させることがより好ましい。
光照射の場合に、ピークの波長は好ましくは248~436nm、より好ましくは282~405nmである。照射強度は、好ましくは10~250mW/cmであり、より好ましくは50~150mW/cmであり、照射時間は、好ましくは30~300秒間であり、より好ましくは50~200秒間である。
加熱の場合、40~200℃で、3~300分間行うことが好ましい。
上記の光照射と加熱を組み合わせることも好ましい。この工程の光照射および/または加熱によって、ポリシラン化合物が環状ポリシランを含む場合に、その環状ポリシランの一部または全てが開環すると考えられる。ポリシラン骨格を有するポリマーに、開環していない環状ポリシラン構造が含まれていてもよい。
【0025】
(I)成分は1種または2種以上の混合物であってもよい。
(I)成分の含有量は、組成物の総質量を基準として、好ましくは2.0~30.0質量%であり、より好ましくは5.0~25.0質量%である。
【0026】
(II)不飽和炭化水素結合を有するケイ素化合物
本発明による組成物は、不飽和炭化水素結合を有するケイ素化合物(以下、(II)成分ということがある。他の成分についても同様。)を含んでなる。
本発明による組成物が、(II)成分を含むことで、基板との親和性を高くなり、塗布性や密着性が良好になる。その結果、基板上に均一な塗膜を形成することができる。これは理論に拘束されないが、不飽和炭化水素結合を有するケイ素化合物とポリシラン骨格を有するポリマーが結合を形成し、かつ、結合した不飽和炭化水素結合を有するケイ素化合物が基板表面の水酸基等と結合を形成することによると考えられる。
さらに、形成されるケイ素含有膜の残留応力を低くすることができる。これは理論に拘束されないが、不飽和炭化水素結合を有するケイ素化合物の炭化水素が3次元的に形成されるケイ素含有ネットワークの形成を部分的に阻害するためと考えられる。
また、形成されるケイ素含有膜の屈折率を低くすることもできる。理論には拘束されないが、不飽和炭化水素結合を有するケイ素化合物の炭素によりケイ素含有膜中に局所的な炭化ケイ素や黒鉛が形成されると考えられる。
【0027】
(II)成分は、少なくとも1つの、炭素-炭素二重結合または炭素-炭素三重結合を有するものであり、好ましくは、2以上の炭素-炭素二重結合を有する。不飽和結合は、末端に有することが好ましく、よって、(II)成分は、より好ましくは2以上のビニル基を有し、より好ましくは2~4つのビニル基を有する。
【0028】
好ましい形態において、(II)成分は、式(ii)で表される。
【化6】
ここで、
iiは、それぞれ独立に、単結合、またはC1-5アルキレンであり、好ましくは、単結合、メチレン、またはエチレンであり、より好ましくは単結合である。
iiは、それぞれ独立に、水素、またはC1-5アルキルであり、好ましくは、水素、メチル、またはエチルであり、より好ましくはメチルである。
nは、1、2、3、または4であり、好ましくは2、3または4であり、より好ましくは4である。
【0029】
好ましくは、(II)成分は、ジビニルシラン、トリビニルシラン、テトラビニルシラン、メチルジビニルシラン、ジメチルジビニルシラン、メチルトリビニルシラン、ジアリルシラン、トリアリルシラン、ジアリルメチルシラン、ジアリルジメチルシラン、トリアリルメチルシラン、およびテトラアリルシランからなる群から選択される少なくとも一つである。
【0030】
(II)成分の分子量は、好ましくは50~300であり、より好ましくは80~200である。
(II)成分は、1種または2種以上の混合物であってもよい。
(II)成分の含有量は、組成物の総質量を基準として、好ましくは0.20~10.0質量%であり、より好ましくは0.40~7.0質量%である。
【0031】
(III)溶媒
本発明による組成物は、溶媒を含んでなる。この溶媒は、組成物に含まれる各成分を均一に溶解または分散させるものから選択される。具体的には溶媒としては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどのエチレングリコールモノアルキルエーテル類、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテルなどのジエチレングリコールジアルキルエーテル類、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテートなどのエチレングリコールアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテートなどのプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素類、メチルエチルケトン、アセトン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、イソプロパノール、プロパンジオールなどのアルコール類、シクロオクタン、デカリンなどの脂環式炭化水素類などが挙げられる。好ましくは、シクロオクタン、トルエン、デカリン、メシチレンである。
これらの溶媒は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いられる。
【0032】
溶媒の比誘電率は、ポリシランを均質に溶解させるため、溶剤ハンドブック第1版 講談社サイエンティフィクに記載の値で3.0以下であることが好ましく、より好ましくは2.5以下である。
【0033】
溶媒の配合比は、塗布方法や塗布後の膜厚の要求によって異なるが、溶媒以外の化合物の比率(固形分比)が、1~96質量%、好ましくは2~60質量%である。
【0034】
(IV)ポリシラザン
本発明による組成物は、(IV)ポリシラザンをさらに含むことができる。ポリシラザンをさらに含むことで、塗布性を改善することができる。また、形成されるケイ素含有膜の平滑性を改善することができる。
ポリシラザンは、本発明の効果を損なわない限り任意に選択することができ、無機化合物あるいは有機化合物のいずれでもあってもよく、また直鎖状、分岐鎖状、または一部に環状構造を有するものであってもよい。
【0035】
好ましくは、本発明に用いられるポリシラザンは、以下の式(iv-1)~(iv-6)からなる群から選択される繰り返し単位を20以上、好ましくは20~350、より好ましくは20~130、含んでなるものである。このとき、各繰り返し単位が(iv-1)~(iv-6)以外の繰り返し単位を介さず、直接結合していることが好ましい。
【化7】
ここで、R~Rは、それぞれ独立に、水素、またはC1-4アルキルである。
【0036】
さらに好ましくは、本発明に用いられるポリシラザンは、ペルヒドロポリシラザン(以下、PHPSという)である。PHPSは、Si-N結合を繰り返し単位として含み、かつSi、N、およびHのみからなるケイ素含有ポリマーである。このPHPSは、Si-N結合を除き、SiおよびNに結合する元素がすべてHであり、その他の元素、たとえば炭素や酸素を実質的に含まないものである。ペルヒドロポリシラザンの最も単純な構造は、下記の繰り返し単位を有する鎖状構造である。
【0037】
【化8】
【0038】
本発明では、分子内に鎖状構造と環状構造を有するPHPSを使用してもよく、例えば、分子内に以下の式(iv-a)~(iv-f)で表される繰り返し単位と以下の式(iv-g)で表される末端基とから構成されるPHPSが挙げられる。
【0039】
【化9】
【0040】
このようなPHPSは、分子内に分岐構造や環状構造を有するものであり、そのようなPHPSの具体的な部分構造の例は下記一般式に示されるものである。
【0041】
【化10】
【0042】
また、下記式に示される構造、すなわち複数のSi-N分子鎖が架橋された構造を有していてもよい。
【化11】
【0043】
本発明に用いられるPHPSは、Si-N結合を繰り返し単位として含み、かつSi、N、およびHのみからなるケイ素含有ポリマーであれば、その構造は限定されず、上記に例示したほかの種々の構造を取りえる。たとえば、前記したような直鎖構造、環状構造、架橋構造を組み合わせた構造を有するものであってもよい。なお、本発明用いられるPHPSは、環状構造または架橋構造、特に架橋構造を有するものが好ましい。
【0044】
本発明による製造方法に用いられるポリシラザンの質量平均分子量は、溶媒への溶解性および反応性の観点から、900~15,000であることが好ましく、より好ましくは900~10,000である。ここで質量平均分子量とは、ポリスチレン換算重量平均分子量であり、ポリスチレンの基準としてゲル浸透クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0045】
(IV)成分の含有量は、組成物の総質量を基準として、好ましくは0~5.0質量%であり、より好ましくは0.50~3.0質量%である。
【0046】
本発明に用いられる組成物は、必要に応じて更なる化合物を組み合わせることができる。これらと組み合わせることができる材料について説明すると以下の通りである。なお、組成物全体にしめる(I)~(IV)以外の成分は、全体の質量に対して、10%以下が好ましく、より好ましくは5%以下である。
【0047】
界面活性剤は塗布性を改善するために用いることができる。界面活性剤としては、例えば非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。
【0048】
上記非イオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類やポリオキシエチレン脂肪酸ジエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸モノエステル、ポリオキシエチレンポリオキシピロピレンブロックポリマー、アセチレンアルコール、アセチレングリコール、アセチレンアルコールのポリエトキシレートなどのアセチレンアルコール誘導体、アセチレングリコールのポリエトキシレートなどのアセチレングリコール誘導体、フッ素含有界面活性剤、例えばフロラード(商品名、スリーエム株式会社製)、メガファック(商品名、DIC株式会社製)、スルフロン(商品名、旭硝子株式会社製)、又は有機シロキサン界面活性剤、例えばKP341(商品名、信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。前記アセチレングリコールとしては、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールなどが挙げられる。
【0049】
アニオン系界面活性剤としては、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸のアンモニウム塩又は有機アミン塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸のアンモニウム塩又は有機アミン塩、アルキルベンゼンスルホン酸のアンモニウム塩又は有機アミン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸のアンモニウム塩又は有機アミン塩、アルキル硫酸のアンモニウム塩又は有機アミン塩などが挙げられる。
【0050】
両性界面活性剤としては、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン、ラウリル酸アミドプロピルヒドロキシスルホンベタインなどが挙げられる。
【0051】
これら界面活性剤は、単独で又は2種以上混合して使用することができ、その配合比は、組成物の総質量を基準として、通常50~10,000ppm、好ましくは100~5,000ppmである。
【0052】
<ケイ素含有膜形成組成物の調製方法>
本発明によるケイ素含有膜形成組成物の調製方法は特に限定されない。
ポリシラン骨格を有するポリマーがケイ素を5以上含んでなる環状ポリシランの重合体である場合、例えば、
(A)ケイ素を5以上含んでなる環状ポリシランに光照射する工程、
(B)本発明に用いられる不飽和炭化水素結合を有するケイ素化合物を含んでなる混合物を調製する工程、
(C)混合物に光照射する工程、
を含んでなる方法で、製造される。
以下、製造方法の一例を、工程ごとに説明する。
【0053】
工程(A)の波長は、少なくとも172~405nmのピーク波長を含んでなることが好ましく、より好ましくは、282~405nmである。照射強度は、好ましくは10~250mW/cmであり、より好ましくは50~150mW/cmであり、照射時間は、好ましくは30~300秒間であり、より好ましくは50~200秒間である。
シクロペンタシランまたはシクロヘキサシランは、室温で液体であるので、その液体状態の環状ポリシランに撹拌しながら光照射することができる。なお、環状ポリシランが固体である場合には適当な溶媒に溶解させて、撹拌しながら光照射することができる。
この工程の光照射によって、環状ポリシランの一部または全てが開環すると考えられる。
【0054】
(B)本発明に用いられる不飽和炭化水素結合を有するケイ素化合物を含んでなる混合物を調製する工程
光照射した環状ポリシランが室温で液体状態の場合には、上記した不飽和炭化水素結合を有するケイ素化合物を加え、撹拌して、混合物を調製する。なお、光照射した環状ポリシランが固体である場合には適当な溶媒に溶解させることができる。不飽和炭化水素結合を有するケイ素化合物を適当な溶媒に溶解させてから光照射した環状ポリシランに加え、攪拌して混合物を調整することもできる。
【0055】
(C)混合物に光照射する工程
この工程の光照射によって、ポリシラン同士の縮合が起こり、ポリシラン骨格を有するポリマーが形成されると考えられる。
このときの露光波長は、少なくとも172~405nmのピーク波長を含んでなることが好ましく、より好ましくは、282~405nmである。照射強度は、好ましくは10~250mW/cmであり、より好ましくは50~150mW/cmであり、照射時間は、好ましくは5~100分間であり、より好ましくは5~60分間である。照射エネルギーは、好ましくは3~1,500Jであり、より好ましくは25~500Jである。
なお、(B)工程と(C)工程の順番を逆にしてもよい。すなわち、(A)工程の後、(C)工程に記載の光照射が行われ、その後、不飽和炭化水素結合を有するケイ素化合物を加えて、混合物を調製してもよい。
上記(A)、(B)、および(C)工程は、非酸化雰囲気下で行われることが好ましい。
溶媒は、上記したように(A)、(B)工程で加えられてもよいし、(C)工程後に加えられてもよい。上記した任意の成分は、(C)工程後に加えられることが好ましい。
【0056】
<ケイ素含有膜の製造方法>
本発明によるケイ素含有膜の製造方法は、
上記のケイ素含有膜形成組成物を基材に塗布して塗膜を形成すること、および
塗膜を加熱すること
を含んでなる。
本発明において、「基材に」は、組成物を基材に直接塗布するケースや、組成物を1以上の中間層を介して基材に塗布するケースも含むものとする。
【0057】
塗布方法としては、従来公知の方法、例えば、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、転写法、インクジェット法、ロールコート、バーコート、刷毛塗り、ドクターコート、フローコート、およびスリット塗布等から任意に選択することができる。また組成物を塗布する基材としては、シリコン基板、ガラス基板、樹脂フィルム等の適当な基材を用いることができる。これらの基材には、必要に応じて各種の半導体素子などが形成されていてもよい。基材がフィルムである場合には、グラビア塗布も利用可能である。所望により塗膜後に乾燥工程を別に設けることもできる。また、必要に応じて塗布工程を1回または2回以上繰り返して、形成される塗膜の膜厚を所望のものとすることもできる。
【0058】
本発明による組成物を用いて塗膜を形成した後、その塗膜の乾燥、および溶媒残存量を減少させるため、その塗膜をプリベーク(加熱処理)してもよい。
プリベーク工程は、酸化雰囲気または非酸化雰囲気中で、好ましくは50~400℃の温度で、ホットプレートによる場合には10秒~60分間、クリーンオーブンによる場合には1~120分間実施することができる。
【0059】
本発明による組成物を用いて塗膜を形成した後、硬化のための加熱の前に、塗膜へ電子線照射または光照射を行うことができ、好ましくは電子線照射を行う。電子線照射は、加速電圧が好ましくは20~200kVであり、照射線量は好ましくは5,000~50,000kGyである。光照射は、好ましくはピーク波長が248~436nm、より好ましくは248~405nmの光を照射するものである。照射強度は、好ましくは10~800mW/cmであり、より好ましくは40~600mW/cmであり、照射時間は、好ましくは30~3,500秒間であり、より好ましくは50~3,000秒間である。
【0060】
その後、必要に応じてプリベーク、電子線照射および/または光照射された、塗膜を、非酸化雰囲気下、酸化雰囲気下、および/またはアンモニア雰囲気下で加熱して、硬化させて、ケイ素含有膜を形成させる。加熱温度は、好ましくは200~1000℃であり、より好ましくは300℃以上である。加熱時間は特に限定されず、好ましくは0.001秒~24時間とされる。加熱は、フラッシュアニールを適用してもよい。通常、加熱前の温度からパターン膜が所望の温度に達するまでには数秒から数時間程度要する。
【0061】
非酸化雰囲気とは、酸素濃度1ppm以下、かつ露点-76℃以下である雰囲気のことをいう。好ましくは、N、Ar、He、Ne、H、またはこれらの2種類以上の混合ガス雰囲気である。
【0062】
酸化雰囲気は、全圧が101kPaのときに、酸素分圧が、20~101kPaであることをいい、好ましくは40~101kPaであり、より好ましくは1.5~80kPaの水蒸気分圧を含む。
なお、水蒸気を含む雰囲気において、高温(例えば600℃を超える温度)で加熱すると、同時に加熱処理にさらされる電子デバイス等の他の要素が存在する場合、その他の要素への悪影響が懸念されることがある。このような場合、この加熱工程を2段階以上(より好ましくは3段階以上)に分けることができる。例えば、最初に水蒸気を含む雰囲気において低温(例えば、200~400℃の温度範囲)で加熱し、次に、水蒸気を含む雰囲気において比較的低温(例えば、300~600℃の温度範囲)で加熱し、そして、水蒸気を含まない雰囲気でより高温(例えば、400~800℃)で加熱することができる。
【0063】
水蒸気を含む雰囲気における水蒸気以外の成分(以下、希釈ガスということがある)としては、任意のガスを使用することができ、例えば、空気、酸素、窒素、酸化窒素、オゾン、ヘリウム、アルゴンが挙げられる。ケイ素含有膜の膜質を考慮すると、希釈ガスとして酸素を用いることが好ましい。
【0064】
アンモニア雰囲気とは、全圧が101kPaのときに、アンモニア分圧が、20~101kPaであることをいい、好ましくは25~80kPaである。
【0065】
非酸化雰囲気で加熱により硬化させることにより本発明によるケイ素含有膜を、アモルファスシリコン膜とすることができる。硬化後に、X線回折(XRD)により結晶Siの回折ピークが観測されないことで、アモルファスシリコン膜であることが確認される。
【0066】
酸化雰囲気で加熱により硬化させることにより本発明によるケイ素含有膜を、シリカ質膜とすることができる。本発明において、シリカ質膜とは、ケイ素原子数に対する酸素原子数の比(O/Si)が、1.20~2.50、好ましくは1.40~2.50、より好ましくは1.60~2.45である酸素原子およびケイ素原子を含んでなる膜のことをいう。シリカ質膜は、水素、窒素、炭素などの他の原子を含むことができる。
【0067】
アンモニア雰囲気下で加熱により硬化させることにより本発明によるケイ素含有膜を、窒化ケイ素質膜とすることができる。本発明において、窒化ケイ素質膜とは、ケイ素原子数に対する窒素原子数の比(N/Si)が、0.2~2.0、好ましくは0.4~1.6である膜のことをいう。窒化ケイ素質膜は、水素および酸素などの他の原子を含むことができる。
【0068】
形成されたケイ素含有膜の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは20~500nmであり、より好ましくは20~300nmである。
本発明による組成物を用いることで、平坦性の高いケイ素含有膜を形成することができる。形成されたケイ素含有膜は、残留応力が低いものである。
【0069】
また、本発明による電子素子の製造方法は、上記の製造方法を含んでなるものである。好ましくは、本発明による電子素子は、半導体素子、太陽電池チップ、有機発光ダイオード、無機発光ダイオードである。本発明の電子素子の好ましい一形態は、半導体素子である。
【0070】
以降において本発明を実施例により説明する。これらの実施例は説明のためのものであり、本願発明の範囲を制限することを意図しない。
【0071】
以下の実施例および比較例におけるポリシランの合成および組成物の調製工程は、全て、窒素雰囲気下、酸素濃度0.1ppm以下かつ露点温度-76.0℃以下に管理されたグローブボックス内にて行われる。
【0072】
[実施例1]
9mLのスクリュー管にスターラーチップを入れ、ここに246.4mgのシクロヘキサシランを加え、スターラーを使って撹拌しながら、ここに、LEDランプを光源とする波長365nmの紫外線を0.7J/cm照射する。紫外線照射後、68.1mgのテトラビニルシランと31.4mgのペルヒドロポリシラザンを加え、スターラーを使って攪拌を室温で12時間行なう。攪拌後、2957mgのシクロオクタンを加え、3分間撹拌し、0.2μmPTFEフィルター(Advantec製、DISMIC-13JP)を用いて濾過を行い、実施例1の組成物とする。
なお、ポリシラン骨格を有するポリマーの質量平均分子量は4,800である。質量平均分子量(Mw)は、ポリスチレンを基準としてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される。GPCは、allianceTM e2695型高速GPCシステム(日本ウォーターズ株式会社)および有機溶媒系GPCカラムShodex KF-805L(昭和電工株式会社)を用いて測定を行う。測定は、単分散ポリスチレンを標準試料とし、シクロヘキセンを展開溶媒として、流量0.6ミリリットル/分、カラム温度40℃の測定条件で行った上で、標準試料への相対分子量としてMwを算出する。
【0073】
[実施例2~8、比較例1]
表1に記載の成分および条件とした以外は、実施例1と同様にして、実施例2~8および比較例1の組成物を調製する。
得られたポリシラン骨格を有するポリマーのMwは、上記と同様に測定し、結果を表1に記載する。
【表1】
【0074】
[ケイ素含有膜の形成]
上記で調製された実施例1の組成物をSi基板に、窒素雰囲気中で、スピンコーターを用いて、塗布して、塗膜を形成させる。得られる塗膜を、窒素雰囲気中、ホットプレート上で400℃で15分加熱し、ケイ素含有膜を得る。
上記で調製された実施例2~8および比較例1の組成物を用いて、加熱条件を表2に記載の条件に変更する以外は同様にして加熱を行う。
実施例1~6および比較例1の組成物を用いて、形成されるケイ素含有膜のFT-IRスペクトルを室温でFTIR-6100(JASCO社)を用いて行い、得られるケイ素含有膜がアモルファスシリコン膜であることが確認される。
実施例7の組成物を用いるケースでは、FT-IRスペクトルの測定により、得られるケイ素含有膜がシリカ質膜であることが確認される。
実施例8の組成物を用いるケースでは、FT-IRスペクトルの測定により、得られるケイ素含有膜が窒化ケイ素質膜であることが確認される。
実施例1~8および比較例1の組成物を用いる場合、塗布性は良好で、基板上に均一に塗膜を形成でき、加熱時も基板から剥がれることなく、均一なケイ素含有膜を形成できる。
実施例5の加熱条件では、Si基板の実施例5の塗膜にライン照射型低エネルギー電子線照射装置EES-30L-MPM01(浜松ホトニクス株式会社)を用いて、室温、窒素雰囲気中、加速電圧70kV、管電流7.6mAで32,000kGyの電子線を照射し、窒素雰囲気中、ホットプレート上で400℃で15分加熱してケイ素含有膜を得る。
【0075】
[膜厚]
得られたケイ素含有膜の膜厚を分光エリプソメーターM-2000V(JA ウーラム)を用いて測定する。膜厚は、ウェハ上で、中心部を除く8点で膜厚を測定し、その平均値を用いる。得られた結果を表2に記載する。
【0076】
[屈折率]
得られたケイ素含有膜の屈折率を、分光エリプソメーターM-2000V(JA ウーラム)を用いて、633nmの波長において測定を行う。得られた結果を表2に記載する。
【0077】
[残留応力]
残留応力は、薄膜応力測定装置FLX-3300-T(東朋テクノロジー)を
用いて測定を行う。得られた結果を表2に記載する。
【表2】
【国際調査報告】