(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】炭化ケイ素表面用研磨用組成物及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20241128BHJP
B82B 1/00 20060101ALI20241128BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20241128BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20241128BHJP
【FI】
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550D
B82B1/00 ZNM
H01L21/304 621D
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529918
(86)(22)【出願日】2022-12-08
(85)【翻訳文提出日】2024-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2022045243
(87)【国際公開番号】W WO2023106358
(87)【国際公開日】2023-06-15
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】平野 真也
(72)【発明者】
【氏名】ギャレットソン,ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】山本 祐介
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158AC04
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(57)【要約】
本開示は、多結晶炭化ケイ素含有表面を研磨するための化学的機械的研磨(CMP)用組成物に関する。より詳細には、研磨用組成物は、酸化剤及び砥粒を含むpH8以上のスラリーの形態である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化剤、砥粒及び水を含む研磨用組成物であって、
前記酸化剤は、約1.5重量%~約3.5重量%の量で存在する過マンガン酸塩であり、
前記砥粒は、約1.5重量%~約3.5重量%の量で存在するアルミナであり、前記研磨用組成物が約8より大きいpHを有する、研磨用組成物。
【請求項2】
前記砥粒が、約5~約7の範囲の等電点を有する、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記酸化剤が過マンガン酸カリウムである、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
約0.001重量%未満の量で存在するpH調整剤をさらに含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記pH調整剤が塩基性pH調整剤である、請求項4に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記pH調整剤が水酸化カリウムである、請求項5に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
pHが約9~約10の範囲である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
前記研磨用組成物が、約4μm/時~約7μm/時のポリSiC除去速度を有する、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
多結晶炭化ケイ素を含む基板を研磨する方法であって、
a)請求項1に記載の研磨用組成物を提供する工程、
b)多結晶炭化ケイ素(ポリSiC)含有層を含む基板を提供する工程、及び
c)前記研磨用組成物で前記基板を研磨して、研磨済基板を得る工程、を含む方法。
【請求項10】
前記基板が半導体である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記方法が、約4μm/時~約7μm/時の範囲のポリSiC除去速度をもたらす、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記研磨済基板が、約1.2nm未満の粗さ指数(Ra)を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記研磨済基板が、約13nm未満の特定の平均粗さ深さ(Rz)を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記研磨用組成物が、約5~約7の範囲の等電点を有する砥粒を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記研磨用組成物が、過マンガン酸カリウムである酸化剤を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記研磨用組成物が、約9~約10の範囲のpHを有する、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多結晶炭化ケイ素含有表面を研磨するための化学的機械的研磨(CMP)用組成物に関する。より詳細には、本明細書に開示される研磨用組成物は、酸化剤及び砥粒を含むpH8以上のスラリーの形態である。
【背景技術】
【0002】
化学的機械的研磨(CMP)は、基板(半導体ウェハなど)の表面から材料を除去し、研磨などの物理的プロセスと酸化などの化学的プロセスとを組み合わせて表面を研磨(平坦化)するプロセスである。その最も基本的な形態では、CMPは、基板又は基板を研磨する研磨パッドの表面にスラリーを適用することを含む。このプロセスは、不要な材料の除去及び基板の表面の平坦化の両方を達成する。除去又は研磨プロセスが純粋に物理的又は純粋に化学的であることは望ましくなく、むしろ両方の相乗的な組み合わせを含むことが望ましい。
【0003】
CMPは、例えば、層間又は埋め込み誘電体における二酸化ケイ素(SiO2)、配線層又はそのような配線層に接続するプラグにおけるアルミニウム(Al)、銅(Cu)、タングステン(W)などの金属、タンタル(Ta)、窒化タンタル(TaN)、チタン(Ti)などのバリアメタル層、半導体などの材料における多結晶炭化ケイ素(ポリSiC)など、多種多様な対象物に用いられている。
【0004】
典型的には、シリコン基板は、半導体の製造に使用される。しかしながら、シリコンの固有の特性のために、さらなる開発は制限される。次世代の半導体デバイスの開発は、より高い硬度及び他の独自の特性を有する材料の使用を重視してきた。例えば、炭化ケイ素は、酸化ケイ素と比較して、より高い熱伝導率、より高い放射線耐性、より高い絶縁強度を有し、より高い温度に耐えることができる。しかしながら、炭化ケイ素の使用は、半導体製造技術によって制限されてきた。
【0005】
炭化ケイ素半導体を製造するためには、炭化ケイ素基板の表面を、平滑な表面及び表面の正確な寸法を提供するように研磨しなければならない。今日まで、炭化ケイ素研磨のためのCMP技術の適合はあまり成功していない。コロイダルシリカを含む研磨用組成物は、炭化ケイ素の除去速度が遅いため、50°C前後の温度で数時間かかる長時間の研磨サイクルを必要とし、炭化ケイ素基板にダメージを与えやすい。例えば、Zhouら、J.Electrochemical Soc.、144巻、L161-L163頁(1997)、Neslenら、J.Electronic Materials、30巻、1271-1275頁(2001)を参照されたい。長い研磨サイクルは、プロセスにかなりのコストを加え、半導体産業における炭化ケイ素の広範な使用を妨げる障壁となっている。
【0006】
半導体に使用される炭化ケイ素は、単結晶又は多結晶であり得る。炭化ケイ素は、多くの異なる種類の結晶構造を有し、それぞれが独自の異なる一連の電子特性を有する。しかしながら、これらの結晶多形は、半導体としての使用に許容される形態では少数しか再現することができない。このような結晶多形は、立方体(例えば、3C炭化ケイ素)もしくは非立方体(例えば、4H炭化ケイ素、6H炭化ケイ素)、又は結晶多形の混合物(すなわち、多結晶)のいずれかであり得る。
【0007】
結晶多形間の違いに加えて、単結晶形態と多結晶炭化ケイ素との間に有意な違いがある。例えば、半導体の製造において単結晶炭化ケイ素基板を用いると、単結晶炭化ケイ素基板の製造コストが高くなる。また、基板に対して熱処理等を行うと、結晶のすべり転位が発生し、基板の変形を引き起こす場合がある。
【0008】
単結晶SiC基板を用いる場合と比較して、ポリSiC基板を比較的安価に製造することができる。SiCパワー半導体デバイスを構成するためには、単結晶SiC基板上にエピタキシによりドリフト層を形成し、ドリフト層上にゲートや電極等を形成する必要がある。高価な単結晶基板のみを使用するプロセスコストは、単結晶SiC含有デバイスの普及を制限する大きな問題の1つである。ポリSiCの使用は、i)単結晶SiC基板の表面層のわずか数ミクロンがSiCパワー半導体のバルクエピ接合層として使用され、ii)ポリSiCが、積層基板の支持基板として使用される(https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sapoin/portal/seika/2015/2720403030h.pdfを参照されたい)ので、プロセスコストを削減する。
【0009】
また、ポリSiC基板は、多数の結晶粒界を含んでいるため、転位のすべりが遮断され、熱処理を行った後も基板の変形が抑制される。少なくともこれらの理由から、ポリSiCは半導体の製造においてより普及しつつある。
【0010】
しかしながら、平滑な表面を得るために化学的機械的研磨(CMP)がポリSiC含有基板の表面に適用される場合、低い除去速度及び表面の平滑性の低下が結果として生じることが多い。これは、ポリSiC基板では、極性面と結晶配向面が異なるが、基板表面に混在して露出しており、それぞれの面や平面によって研磨除去速度が異なるためである。簡単に言えば、ポリSiCは異なる結晶面ドメイン又は結晶多形からなるため、CMPプロセス中にそれぞれ異なる除去速度が観察され、高い除去速度と滑らかな表面の両方を達成することが困難になる。
【0011】
ポリSiC含有基板を研磨することを取り巻く課題に照らして、高いポリSiC除去速度を可能にすると同時に低い平均粗さを可能にする研磨用組成物を特定することが重要である。これら及び他の課題は、本明細書に開示される主題によって対処される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Zhouら、J.Electrochemical Soc.、144巻、L161-L163頁(1997)
【非特許文献2】Neslenら、J.Electronic Materials、30巻、1271-1275頁(2001)
【非特許文献3】https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sapoin/portal/seika/2015/2720403030h.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明によって解決される現在開示されている主題又は課題の目的に従って、本明細書で具体化され、広く記載されるように、本発明の目的は、CMPを使用するときに基板を望ましい表面形態(すなわち、表面粗さ)にする、多結晶炭化ケイ素(ポリSiC)を含有する基板などの基板を研磨するための組成物を提供することである。本発明の別の目的は、本明細書に開示される研磨用組成物を使用して、そのようなポリSiC含有基板を研磨するための効率的な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、一態様における本開示の主題は、酸化剤及び砥粒を含む研磨用組成物であって、pHが8以上である、研磨用組成物に関する。いくつかの実施形態では、酸化剤は複合金属酸化物(例えば、過マンガン酸カリウム)であり、砥粒はアルミナである。いくつかの実施形態において、研磨用組成物中に存在する酸化剤の量は、約1.5%~約3.5%(重量基準)の範囲であり、砥粒の量は、約1.5%~約3.5%(重量基準)の範囲である。
【0015】
別の態様では、本明細書に記載の主題は、基板を研磨する方法であって、1)本明細書に記載の研磨用組成物を提供する工程、2)多結晶炭化ケイ素層を含む基板を提供する工程;及び3)前記研磨用組成物を用いて前記基板を研磨して、研磨済基板を得る工程、を含む方法に関する。いくつかの実施形態において、研磨方法は、高い除去速度(RR)を有する。いくつかの実施形態では、研磨方法は、低い粗さ指数(Ra)を有する基板をもたらす。
【0016】
これら及び他の態様は、以下でさらに詳細に開示される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】pHの関数としての表面形態Ra/Rzを示すグラフである。当該グラフは、試験ウェハ1に関するものである。
【
図2】過マンガン酸カリウム(KMnO
4)の濃度の関数としての除去速度と表面形態Raとを示すグラフである。当該グラフは、試験ウェハ1に関するものである。
【
図3】アルミナ粉末の濃度の関数として、除去速度と表面形態Raとを示すグラフである。当該グラフは、試験ウェハ1に関するものである。
【
図4】pHの関数としての表面形態Ra/Rzを示すグラフである。当該グラフは、試験ウェハ2に関するものである。
【
図5】過マンガン酸カリウム(KMnO
4)の濃度の関数としての除去速度と表面形態Raとを示すグラフである。当該グラフは、試験ウェハ2に関するものである。
【
図6】アルミナ粉末の濃度の関数として、除去速度と表面形態Raとを示すグラフである。当該グラフは、試験ウェハ2に関するものである。
【
図7】研磨用組成物のpHに対する酸化還元電位ORPの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、以下の発明の詳細な説明及びそれに含まれる実施例を参照することによって、より容易に理解することができる。
【0019】
本化合物、組成物、物品、システム、装置、及び/又は方法が開示及び記載される前に、それらは、別段の指定がない限り特定の合成方法に限定されず、又は別段の指定がない限り特定の成分に限定されず、したがって、当然ながら変化し得ることが理解されるべきである。本明細書で使用される用語は、特定の態様のみを説明するためのものであり、限定することを意図するものではないことも理解されたい。本明細書に記載の方法及び材料と類似又は同等の任意の方法及び材料を本発明の実施又は試験に使用することができるが、ここで例示的な方法及び材料を説明する。
【0020】
本明細書に記載されるように、実施形態では、酸化剤及び砥粒を含む研磨用組成物であり、組成物のpHは8以上である。これらの研磨用組成物は、ポリSiC含有基板を研磨するためのものである。研磨用組成物は、1)高い除去速度、2)低いRaを有する滑らかな表面、3)高効率及び平坦化能力、4)微細なラッピング及び/又は研削プロセスを使用する必要がないCMPプロセス、5)より低い製造コスト、などの少なくとも1つの利点を示す。
【0021】
本明細書に記載の研磨用組成物は、ポリSiC含有半導体ウェハの化学的機械的研磨などの用途を有するが、これらに限定されない。
【0022】
A.定義
以下に、本発明を説明するために使用される様々な用語の定義を列挙する。これらの定義は、個々に又はより大きな群の一部として、特定の場合に特に限定されない限り、本明細書全体を通して使用される用語に適用される。
【0023】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が明らかにそうでないことを指示しない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「砥粒」又は「pH調整剤」への言及は、2つ以上のそのような砥粒又はpH調整剤の混合物を含む。
【0024】
本明細書では、範囲を、「約」1つの特定の値から、及び/又は「約」もう1つの特定の値までとして表すことができる。そのような範囲が表現される場合、別の態様は、1つの特定の値及び/又は他の特定の値を含む。同様に、先行詞「約」を使用して値が近似値として表される場合、特定の値が別の態様を形成することが理解されよう。各範囲の終点は、他方の終点に関しても、他方の終点とは無関係にも有意であることがさらに理解されよう。また、本明細書に開示されているいくつかの値があり、各値はまた、値自体に加えてその特定の値「約」として本明細書に開示されていることも理解されたい。例えば、値「10」が開示されている場合、「約10」も開示されている。また、例えば、値「約10」が開示されている場合、「10」も開示されている。また、2つの特定のユニット間の各ユニットも開示されていることが理解される。例えば、10及び15が開示されている場合、11、12、13、及び14も開示されている。本明細書で使用される場合、約X(Xは数値)との記載があった場合、約Xは、X±10%である。
【0025】
成分の重量パーセント(重量%)は、特に断らない限り、成分が含まれるビヒクル又は組成物の総重量に基づく。
【0026】
本明細書で使用される場合、「任意選択の(optional)」及び「任意選択的に(optionally)」という用語は、続いて記載される事象又は状況が発生し得ること又は発生し得ないこと、ならびにその説明が、前記事象又は状況が発生する場合及び発生しない場合を含むことを意味する。
【0027】
本明細書で使用される場合、「除去速度」(RR)という用語は、時間当たりに除去される材料の量、例えば1時間当たりのμm(μm/時)を指す。1時間当たりに除去される材料が多いほど、材料除去速度は高くなる。より詳細には、CMP前後の重量損失と結晶密度を用いることでRRを算出することができる。
【0028】
本明細書で使用される場合、「粗さ指数」(Ra)という用語は、表面の粗さの程度、すなわち、滑らかではないが不規則で不均一な表面のテクスチャを特徴付ける計算値である。値が小さいほど、表面が滑らかになる。
【0029】
本明細書で使用される場合、「特定の平均粗さ深さ」(Rz)という用語は、表面に存在するすべての高さ及び深さから計算された平均値であり、それによって表面のテクスチャをさらに特徴付ける。
【0030】
RaおよびRzは、JIS B 0601-2001またはISO 13565-1:1996に従って算出することができる。なお、RaおよびRzの元となる粗さ曲線は、後述の実施例で使用した装置(原子間力顕微鏡(AFM))によって測定できる。
【0031】
B.研磨用組成物
化学的機械的研磨(CMP)の基本的な機構は、化学反応によって表面層を軟化させ、次いで砥粒粒子による機械的力によって軟化した層を除去することである。しかしながら、CMPの役割は、材料除去だけでなく、平坦化、表面平滑化、均一性制御、欠陥低減などである。したがって、半導体歩留まり向上は、CMP処理によって影響を受ける。CMPによって生じ得る表面引っ掻き傷は、半導体製造において極めて有害な欠陥である。したがって、表面に傷を付けることなく適切なCMP性能を達成するために、研磨用組成物の開発が極めて重要である。CMPの要件には、13nm未満の平坦化表面、1.2nm未満の表面粗さを有する粗さのない表面、ウェハあたり0カウントの引っ掻き傷及びピットカウントを有する欠陥のない表面が含まれうる。いくつかの実施形態では、汚染がなく、高い生産性を有し、所望の除去される材料の高い除去速度で平坦化される。ここで、平坦化表面は、Rzの指標で評価でき、粗さのない表面はRaの指標で評価できる。
【0032】
CMPは、ポリSiC含有表面を研磨するための研磨プロセスの一部として使用されることが多い。高レベルの硬度及び顕著な化学的不活性のために、ポリSiC含有表面の研磨は困難であり得る。典型的には、ポリSiCウェハを調製するために、合理的な研磨速度を達成するためにポリSiC自体よりもさらに硬い粒子を必要とする複数の研磨工程を実行しなければならない。しかしながら、そのような硬質粒子を使用することは、一般にウェハの表面及び表面下の両方で発生する引っ掻き傷及び転位などの表面への高度な損傷をもたらすことが多い。したがって、損傷を減少させ、ポリSiC含有材料の研磨速度を増加させることができるCMPスラリー及び/又はポリSiCを研磨する方法が非常に望ましい。
【0033】
したがって、これに関して、本開示は、酸化剤として複合金属酸化物を含み、砥粒としてアルミナを含むpH8以上の研磨用組成物に関する。これらの研磨用組成物は、高い研磨速度及び望ましい表面形態を提供することを見出し、従来の研磨方法で典型的に観察されるものと比較して損傷の減少を示している。これらの研磨用組成物及びその使用方法は、以下により詳細に開示される。
【0034】
1.酸化剤
本明細書に開示される研磨用組成物は、酸化剤を含有する。酸化剤は、研磨対象物の表面と酸化反応を起こし、様々な表面の研磨処理を助けることができる。
【0035】
いくつかの実施形態では、研磨用組成物中に存在する酸化剤としては、例えば、過マンガン酸及び、過マンガン酸ナトリウム及び過マンガン酸カリウムを含むその塩などの過マンガン酸類;過酸化水素などの過酸化物;硝酸及び、硝酸鉄、硝酸銀、硝酸アルミニウムを含むその塩などの硝酸塩化合物、及び、硝酸セリウムアンモニウムを含むその錯体;ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ二硫酸等を含む過硫酸などの過硫酸化合物、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどを含むこれらの塩;塩素酸及びその塩、過塩素酸及び過塩素酸カリウムを含むその塩などの塩素含有化合物;臭素酸及び、臭素酸カリウムを含むその塩などの臭素含有化合物;ヨウ素酸、ヨウ素酸アンモニウムを含むその塩、過ヨウ素酸及び、過ヨウ素酸ナトリウム、過ヨウ素酸カリウムを含むその塩などのヨウ素含有化合物;第二鉄酸及び、第二鉄酸カリウムを含むその塩などの第二鉄酸類;クロム酸及び、クロム酸カリウム及び重クロム酸カリウムを含むその塩などのクロム酸類;バナジン酸及び、バナジン酸アンモニウム、バナジン酸ナトリウム、バナジン酸カリウムを含むその塩などのバナジン酸類;ルテン酸類、例えば過ルテン酸及びその塩;モリブデン酸、ならびにモリブデン酸アンモニウム及びモリブデン酸二ナトリウムを含むその塩などのモリブデン酸類;レニウム酸類、例えば、過レニウム酸及びその塩;及び、タングステン酸及び、タングステン酸二ナトリウムを含むその塩などのタングステン酸類、が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0036】
いくつかの実施形態において、研磨用組成物中に存在する酸化剤は、複合金属酸化物を含む。複合金属酸化物の例には、硝酸塩、鉄酸、過マンガン酸、クロム酸、バナジン酸、ルテニウム酸、モリブデン酸、レニウム酸、及びタングステン酸が含まれるが、これらに限定されない。これらの中でも、鉄酸、過マンガン酸、クロム酸がより好ましく、過マンガン酸がさらに好ましい。
【0037】
いくつかの実施形態では、複合金属酸化物は、遷移金属元素以外の1価又は2価の金属元素を含み、周期表の第4周期の遷移金属元素が複合金属酸化物として使用される。1価又は2価の金属元素としては、Na、K、Mg、Caなどが好ましい。これらの中でも、Na、Kがより好ましい。周期表における第4周期の遷移金属元素の好ましい例としては、Fe、Mn、Cr、V、Ti等が挙げられる。これらの中でも、Fe、Mn、Crがより好ましく、Mnがさらに好ましい。複合金属酸化物は、表面の硬度を効果的に低下させ、ポリSiCのような高硬度の材料の表面に脆化を生じさせることがある。
【0038】
いくつかの実施形態において、酸化剤の量は、RR、Ra及びRzなどの研磨用組成物の特性に影響を及ぼす。研磨用組成物中の酸化剤の量は、約0.01wt%~約5.0wt%、約0.05wt%~約4.5wt%、約0.1wt%~約4.0wt%、約0.5wt%~約3.5wt%、約1.0wt%~約3.5wt%、約1.5wt%~約3.5wt%、約1.5wt%~約3.0wt%、又は約2.0wt%~約3.0wt%の範囲である。代替的又は追加的に、研磨用組成物中に存在する酸化剤の量は、約5.0wt%未満、約4.5wt%未満、約4.0wt%未満、約3.5wt%未満、約3.0wt%未満、約2.5wt%未満、約2.0wt%未満、約1.5wt%未満、又は約1wt%未満である。いくつかの実施形態において、酸化剤の量は、約1.5wt%、約2.0wt%、約2.5wt%、約2.95wt%、約3.0wt%、又は約3.5wt%である。酸化剤の割合は、組成物全体に対して測定される。いくつかの実施形態において、酸化剤の量は、研磨用組成物中、1.5重量%~3.5重量%の範囲であり得る。いくつかの実施形態において、過マンガン酸塩の量は、研磨用組成物中、1.5重量%~3.5重量%の範囲であり得る。
【0039】
一実施形態において、研磨用組成物は、研磨対象物の酸化還元電位ORPyよりも100mV以上高い酸化還元電位ORPxを有する。いくつかの実施形態において、研磨用組成物は、約150mV、200mV、250mV、300mV、350mV、400mV、450mV、500mV、550mV又は約600mV高い酸化還元電位ORPxを有する。いくつかの実施形態において、研磨用組成物は、研磨対象物の酸化還元電位ORPyよりも、約150mV以上、200mV以上、250mV以上、300mV以上、350mV以上、400mV以上、450mV以上、500mV以上、550mV以上又は約600mV以上高い酸化還元電位ORPxを有する。一実施形態において、研磨用組成物は、約100mV~約1500mV、約200mV~約1400mV、約300mV~約1300mV、約400mV~約1200mV、約400mV~約1100mV、約400mV~約1000mV、約400mV~約900mV、約400mV~約800mV、約450mV~約800mV、約500mV~約1200mV、約600mV~約1200mV、約700mV~約1200mV、約800mV~約1100mV、又は約800mV~約1,000mVの範囲の酸化還元電位ORPxを有する。すなわち、ORPx(mV)とORPy(mV)との関係は、以下の式(1)を満たす:ORPx-ORPy≧100mV(1)。一実施形態において、研磨用組成物の酸化還元電位ORPxは、約800mV以下、約750mV以下、約650mV以下、約600mV以下、あるいは、約550mV以下でありうる。一実施形態において、研磨対象物の酸化還元電位ORPyは、pH8.0において約460mV、pH9.0において約400mV、pH10.0において約330mV、pH11.0において約300mV、pH12.0において約220mV、pH13.0において約190mV、pH14.0において約150mVでありうる。
【0040】
ここで言う研磨用組成物及び研磨対象物の酸化還元電位は、液温25°Cで求められる標準水素電極に対する酸化還元電位の値を示す。酸化還元電位は、測定装置の本体としてHoriba Laqua Act PC110を使用し、電極として Horiba Laqua 9300-10Dを使用することによって測定可能である。
【0041】
2.砥粒
本明細書に記載の研磨用組成物は、砥粒を含有する。砥粒は、典型的には、好ましくはシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ゲルマニウム、セリア及びそれらの混合物からなる群から選択される金属酸化物砥粒である。いくつかの実施形態では、砥粒はアルミナである。さらなる実施形態では、砥粒はアルファアルミナを含有する。
【0042】
本明細書に開示される砥粒は、適切な等電点を示す。例えば、適切な等電点は、約3~約8.5、約3.5~約8.0、約4~約7.5、約4.5~約7.0、約5~約7、又は約5.5~約6.5の範囲の等電点である。いくつかの実施形態では、砥粒は、約9.0未満、約8.5未満、約8.0未満、約7.5未満、約7.0未満、約6.5未満、約6未満、又は約5未満の等電点を示す。いくつかの実施形態では、等電点は、約3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、又は8.0である。なお、後述の実施例における砥粒の等電点は約5~7であった。いくつかの実施形態では、等電点はゼータ電位を測定することを有して算出されうる。ゼータ電位[mV]は、例えば、ゼータ電位を測定する対象物を、大塚電子株式会社製ELS-Z2に供し、測定温度25℃でフローセルを用いてレーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)で測定し、得られるデータをSmoluchowskiの式で解析することにより、算出してもよい。
【0043】
砥粒は、任意の適切な粒子径を有することができる。砥粒は、約10nm以上、約25nm以上、50nm以上、約100nm以上、又は約500nm以上の平均二次粒子径を有することができる。いくつかの実施形態では、砥粒は、約100nm以上、約200nm以上、約250nm以上、約300nm以上、約350nm以上、または、約380nm以上の平均二次粒子径を有することができる。代替的又は追加的に、砥粒は、約1,000nm以下、約500nm以下、約200nm以下、約150nm以下、約100nm以下、約50nm以下、又は約25nm以下の平均二次粒子径を有することができる。いくつかの実施形態では、砥粒は、約900nm以下、約800nm以下、約700nm以下、約650nm以下、あるいは、約600nm以下の平均二次粒子径を有することができる。例えば、一部の実施形態では、砥粒は、約10nm~約500nm、約20nm~約100nm、又は約30nm~約50nmの範囲の平均二次粒子径を有することができる。例えば、一部の実施形態では、砥粒は、約100nm~約500nm、約200nm~約500nm、又は約300nm~約500nmの範囲の平均二次粒子径を有することができる。いくつかの実施形態において、平均二次粒子径は、約10nm、約15nm、約20nm、約25nm、約30nm、約35nm、約40nm、約45nm、約50nm、約75nm又は約100nmである。いくつかの実施形態において、平均二次粒子径は、約200nm、約300nm、約400nm、あるいは、約500nmである。砥粒の平均粒子径は、粒子径分析器(HORIBA Particle Size Distribution tool)により測定することができる。ここで、平均粒子径は、平均二次粒子径を意味する。
【0044】
さらに、砥粒は、BET技術を使用して得ることができる比表面積に関してさらに特徴付けることができる。いくつかの実施形態では、砥粒は、約10m2/g~約250m2/g、約25m2/g~約200m2/g、約50m2/g~約175m2/g、約75m2/g~約150m2/g、又は約100m2/g~約150m2/gの範囲の比表面積を含む。いくつかの実施形態では、砥粒は、少なくとも約25m2/g、少なくとも約50m2/g、少なくとも約75m2/g、少なくとも約100m2/g、少なくとも約125m2/g、少なくとも約150m2/g、少なくとも約175m2/g、少なくとも約200m2/g、又は少なくとも約225m2/gの比表面積を含む。
【0045】
さらに、砥粒は、約0.5~約5g/cm3の範囲の平均密度を有することが分かる。いくつかの実施形態では、砥粒は、少なくとも約1g/cm3、少なくとも約1.5g/cm3、少なくとも約2g/cm3、少なくとも約2.5g/cm3、少なくとも約3.0g/cm3、少なくとも約3.5g/cm3、少なくとも約4g/cm3、又は少なくとも約5g/cm3の平均密度を有する。
【0046】
さらに、砥粒は、約1ミクロン以下の平均結晶子サイズを有する結晶を含むことができる。本明細書における結晶子サイズへの言及は、粒子径、又は砥粒粒子材料のグリット内の最小の単結晶構造の平均サイズへの言及と同じであり得る。他の例では、平均結晶子サイズは、約800ナノメートル以下、約500ナノメートル以下、約300ナノメートル以下、又は約200ナノメートル以下など、より小さくすることができる。いくつかの実施形態では、平均結晶子サイズは、約175ナノメートル以下、約160ナノメートル以下、又は約150ナノメートル以下であってもよい。いくつかの実施形態では、砥粒は、少なくとも約0.1ナノメートル、少なくとも約1ナノメートル、少なくとも約5ナノメートル、少なくとも約10ナノメートル、少なくとも約20ナノメートル、少なくとも約30ナノメートル、少なくとも約40ナノメートル、少なくとも約50ナノメートル、又はさらに少なくとも約80ナノメートルの平均結晶子サイズを有するアルミナ結晶の形態である。砥粒は、上記の最小値と最大値のいずれかの間の範囲内の平均結晶子サイズを有するアルミナ結晶で作ることができることが理解されよう。
【0047】
特定の他の例では、砥粒は、例えば、約1.5ミリメートル以下、約1ミリメートル以下、約500ミクロン以下、約300ミクロン以下、約100ミクロン以下、約50ミクロン以下、約10ミクロン以下、約1ミクロン以下、約0.8ミクロン以下、又はさらに約0.6ミクロン以下の平均粒子径を含む、より微細なグリットサイズを有することができる。いくつかの実施形態では、砥粒のより微細なグリットサイズは、約0.5ミクロン~約2ミリメートル、約1ミクロン~約1ミリメートル、又は約1ミクロン~約500ミクロンの範囲である。
【0048】
いくつかの実施形態において、研磨用組成物中の砥粒の量は、約0.01wt%以上、約0.05wt%以上、約0.1wt%以上、約0.2wt%以上、約0.25wt%以上、約0.5wt%以上、約0.75w%以上、約1wt%以上、約2wt%以上、又は約3wt%以上である。代替的又は追加的に、研磨用組成物中の砥粒の量は、約3wt%以下、約2.5wt%以下、約2wt%以下、約1wt%以下、約0.75wt%以下、約0.5wt%以下、又は約0.1wt%以下であり得る。いくつかの実施形態において、研磨用組成物中の砥粒の量は、約0.01wt%~約5wt%、約0.01wt%~約4.5wt%、約0.1wt%~約4.0wt%、約1.0wt%~約3.5wt%、約1.5wt%~約3.0wt%、又は約2.0wt%~約3.0wt%の範囲であり得る。いくつかの実施形態では、砥粒の量は、約0.1重量%、約0.25重量%、約0.5重量%、約0.75重量%、約1重量%、約1.5重量%、約2重量%、約2.5重量%、約3重量%、約3.5重量%、約4重量%、約4.5重量%、又は約5重量%である。いくつかの実施形態において、砥粒の量は、研磨用組成物中、1.5重量%~3.5重量%の範囲であり得る。いくつかの実施形態において、アルミナの量は、研磨用組成物中、1.5重量%~3.5重量%の範囲であり得る。
【0049】
いくつかの実施形態では、アルミナ砥粒はアルファ変換率を有する。本明細書で使用される場合、「アルファ変換」という用語は、アルファアルミニウム前駆体のアルファアルミナへの変換を指す。いくつかの実施形態では、アルファアルミナ変換率は変化し得る。いくつかの実施形態では、アルミナ砥粒は、約50%~約100%、約55%~約95%、約60%~約90%、約65%~約85%、又は約70%~約80%の範囲のアルファアルミナ変換率を有する。いくつかの実施形態では、砥粒のアルファ変換率は、約100%未満、約90%未満、又は約80%未満である。いくつかの実施形態では、砥粒のアルファ変換率は、少なくとも約50%、約55%、約60%、約65%、又は少なくとも約70%である。
【0050】
本明細書において、アルファ変換率はα化率とも称する。該α化率は、X線回折スペクトルにおけるα-アルミナ特有の回折線ピーク(2θ=57.5°)の積分強度から求めた値を採用しうる。より具体的には、アルミナのα化率および結晶子サイズは、下記の測定条件でX線回折測定を行い求めうる;
装置:株式会社リガク製、粉末X線回折装置UltimaIV
X線発生電圧:40kV
放射線:Cu-Kα1線
電流:10mA
スキャン速度:10°/分
測定ステップ:0.01°。
【0051】
α化率は、α-アルミナ特有の回折線ピーク(2θ=57.5°)の積分強度を基に算出しうる。また、結晶子サイズは、粉末X線回折パターン総合解析ソフトJADE(MDI社製、シェラーの式による自動計算)を用いて算出しうる。
【0052】
3.pH調整剤
研磨用組成物は、pHを制御するための少なくとも1つのpH調整剤を含有してもよい。いくつかの実施形態では、pH調整剤は塩基性化合物(塩基性pH調整剤)である。塩基性化合物は、溶解した研磨用組成物のpHを上昇させる機能を有する種々の塩基性化合物から適宜選択することができる。例えば、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、各種炭酸塩、重炭酸塩等の無機塩基性化合物を用いてもよい。これらの塩基性化合物は、単独でも又は2種以上組み合わせても用いることができる。
【0053】
アルカリ金属水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム等が挙げられる。炭酸塩及び炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
【0054】
代替の実施形態では、pH調整剤は、酸性剤と塩基性剤(緩衝剤など)との混合物であり得る。かかる実施形態において、酸の強度が本発明の研磨用組成物のpHを調整するのに十分であれば、酸の選択は特に限定されない。いくつかの実施形態では、酸性剤は無機酸又は有機酸であり得る。例えば、限定されないが、そのような無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸及びリン酸が挙げられる。
【0055】
例えば、限定されないが、そのような有機酸としては、ギ酸、酢酸、クロロ酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、吉草酸、2-メチル酪酸、N-ヘキサン酸、3,3-ジメチルブタン酸、2-エチルブタン酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸塩、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2-フランカルボン酸、3-フランカルボン酸、2-テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸、フェノキシ酢酸が挙げられる。そのような有機酸には、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、及びイセチオン酸などの有機スルホン酸も含まれるが、これらに限定されない。
【0056】
代替の実施形態では、pH調整剤は、リン酸塩、酢酸塩、ホウ酸塩、スルホン酸塩、カルボン酸塩などを含む緩衝液であってもよい。
【0057】
pH調整剤の量は様々であり得、典型的には、研磨用組成物の所望のpHを達成及び/又は維持するのに十分な量であり、例えば、本明細書に記載の範囲内である。
【0058】
一実施形態において、研磨用組成物のpHは、約8.0~約13.0、約8.5~約13.0、約9.0~約13.0、約9.5~約13.0、約10~約13.0、約10.5~約13、約11.0~約13.0、約11.5~約13.0、約12.0~約13.0、又は約12.5~約13.0の範囲に調整される。一実施形態において、研磨用組成物のpHは、9~10の範囲に調整されうる。
【0059】
一実施形態において、研磨用組成物のpHは、約8.0超、約8.5超、約9.0超、約9.5超、約10.0超、約10.5超、約11.0超、約11.5超、約12超、又は約12.5超に調整される。言い換えれば、研磨ビヒクル又は研磨用組成物のpHは、約8以上、約9以上、約10以上、約11以上、約12以上、又は約13以上であり得る。
【0060】
いくつかの実施形態において、研磨用組成物のpHは、約13以下、約12以下、約11以下、約10以下、又は約9以下に調整され、ここで、pHは、約8以上である。いくつかの実施形態において、研磨用組成物のpHは、8より大きいpHを有する。
【0061】
いくつかの実施形態において、研磨用組成物のpHは、約8、約8.5、約9、約9.5、約10、約10.5、約11、約11.5、約12、約12.5又は約13である。
【0062】
pH調整剤は、pHにかかわらず、特定の濃度範囲で存在してもよい。例えば、いくつかの実施形態では、pH調整剤の量は、約0.0001重量%~約1重量%、約0.005重量%~約0.5重量%、又は約0.001重量%~約0.1重量%の範囲である。代替の実施形態では、pH調整剤の量は、約0.0001重量%~約0.0010重量%、約0.0003重量%~約0.0009重量%、又は約0.0005重量%~約0.0008重量%の範囲である。代替の実施形態では、pH調整剤の量は、約0.0009重量%~約0.0040重量%又は約0.0010重量%~約0.0030重量%の範囲である。さらに代替の実施形態では、pH調整剤は、約0.001重量%~約0.01重量%の範囲である。いくつかの実施形態では、pH調整剤の量は、少なくとも約0.0001重量%、少なくとも約0.0005重量%、少なくとも約0.001重量%、少なくとも約0.005重量%、少なくとも約0.01重量%、少なくとも約0.025重量%、少なくとも約0.05重量%、少なくとも約0.075重量%、又は少なくとも約0.1重量%の量で存在する。いくつかの実施形態では、pH調整剤は、約0.01重量%未満、約0.005重量%未満、約0.001重量%未満、又は約0.0005重量%未満の量で存在する。いくつかの実施形態では、pH調整剤は、約0.0001重量%、約0.00025重量%、約0.0005重量%、約0.0006重量%、約0.0007重量%、約0.0008重量%、約0.0009重量%、約0.001重量%、約0.005重量%、約0.0075重量%、約0.01重量%、約0.025重量%、又は約0.05重量%である量で存在する。
【0063】
しかしながら、イオンの量は選択比に悪影響を及ぼすため、研磨用組成物は過度に多くのpH調整剤を使用することはできない。これにより、pH調整剤の種類も制限される。
【0064】
4.水
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される研磨用組成物は、担体、媒体又はビヒクルを含有する。一実施形態では、担体、媒体、又はビヒクルは水である。水としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることができる。水中に存在する不要成分の量を低減するために、イオン交換樹脂による不純物イオンの除去、フィルタによる汚染物質の除去、及び/又は蒸留などの操作によって水の純度を高めることができる。
【0065】
いくつかの実施形態では、水は不純物を比較的含まない。いくつかの実施形態では、水は、水の総重量に基づいて、約10%w/w未満、約9%w/w未満、約8%w/w未満、約7%w/w未満、約6%w/w未満、約5%w/w未満、約4%w/w未満、約3%w/w未満、約2%w/w未満、約1%w/w未満、約0.9%w/w未満、約0.8%w/w未満、約0.7%w/w未満、約0.6%w/w未満、約0.5%w/w未満、約0.4%w/w未満、約0.3%w/w未満又は約0.1%w/w未満の不純物を含有する。
【0066】
研磨用組成物中の水の量は変化し得る。いくつかの実施形態では、水は、少なくとも約50重量%、少なくとも約60重量%、少なくとも約70重量%、少なくとも約80重量%、少なくとも約90重量%、少なくとも約92重量%、少なくとも約94重量%、少なくとも約96重量%、又は少なくとも約98重量%の量で存在する。
【0067】
上述の担体、媒体、又はビヒクルのいずれかを含む研磨用組成物は、スラリー又は分散液の形態である。
【0068】
一実施形態において、研磨用組成物の温度は、5~30℃、6~20℃、あるいは7~13℃に調整されていてもよい。
【0069】
5.追加の成分
一実施形態において、本明細書に開示される研磨用組成物は、腐食防止剤、炭水化物、キレート剤、殺生物剤、界面活性剤又は共溶媒などのさらなる成分を含有してもよい。追加的又は代替的に、本明細書に開示される組成物は、当業者によって理解されるように、他の添加剤を含むことができる。
【0070】
別の実施形態では、追加の成分は、腐食防止剤を含んでもよい。腐食防止剤の非限定的な例としては、2-メチル-3-ブチン-2-オール、3-メチル-2ピラゾリン-5-オン、8-ヒドロキシキノリン及びジシアンジアミド、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、ピラゾール及びその誘導体、イミダゾール及びその誘導体、ベンズイミダゾール及びその誘導体、イソシアヌレート及びその誘導体、ならびにそれらの混合物が挙げられ得る。研磨用組成物中の腐食防止剤の量は、約0.0005wt%~0.25wt%、好ましくは0.0025wt%~0.15wt%、より好ましくは0.05wt%~0.1wt%の範囲であり得る。
【0071】
別の実施形態において、研磨用組成物は、腐食防止剤を含まない。本明細書で使用される「腐食防止剤を含まない」という用語は、研磨用組成物が、腐食防止剤として使用されることが当技術分野で知られている化合物を含まないことを意味する。
【0072】
一実施形態では、追加の成分は炭水化物を含み得る。炭水化物としては、糖質が挙げられ、いくつかの態様において、糖質はプルランとして公知の多糖である。多糖プルランは、3つのα-1,4結合グルコース分子がα-1,6結合によってさらに結合しているマルトトリオース単位から構成される。
【0073】
代替的な実施形態において、研磨用組成物は炭水化物を含まない。本明細書で使用される「炭水化物を含まない」という用語は、研磨用組成物が炭水化物として当技術分野で公知の化合物を含有しないことを意味する。
【0074】
別の実施形態では、追加の成分はキレート剤を含んでもよい。キレート剤という用語は、水溶液の存在下で銅などの金属をキレート化する任意の物質を意味することを意図している。キレート剤の非限定的な例としては、無機酸、有機酸、アミン及びアミノ酸、例えばグリシン、アラニン、クエン酸、酢酸、マレイン酸、シュウ酸、マロン酸、フタル酸、コハク酸、ニトリロ三酢酸、イミノ二酢酸、エチレンジアミン、CDTA及びEDTAが挙げられる。
【0075】
別の実施形態では、研磨用組成物はキレート剤を含まない。本明細書で使用される「キレート剤を含まない」という用語は、研磨用組成物がキレート剤として当技術分野で公知の化合物を含まないことを意味する。キレート剤の非限定的な例としては、グリシン、アラニン、クエン酸、酢酸、マレイン酸、シュウ酸、マロン酸、フタル酸、コハク酸、ニトリロ三酢酸、イミノ二酢酸、エチレンジアミン、CDTA及びEDTAなどの化合物が挙げられる。
【0076】
一実施形態では、追加の成分は殺生物剤であり得る。殺生物剤の非限定的な例としては、過酸化水素、第4級アンモニウム化合物、及び塩素化合物が挙げられる。第4級アンモニウム化合物のより具体的な例としては、メチルイソチアゾリノン、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロリド、及びアルキルベンジルジメチルアンモニウムヒドロキシドが挙げられるが、これらに限定されず、アルキル鎖は1~約20個の炭素原子の範囲である。塩素化合物のより具体的な例は、亜塩素酸ナトリウム及び次亜塩素酸ナトリウムを含むが、これらに限定されない。殺生物剤のさらなる例としては、ビグアニド、アルデヒド、エチレンオキシド、イソチアゾリノン、ヨードホール、Dow Chemicalsから市販されているKATHON(商標)及びNEOLENE(商標)製品ファミリー、ならびにLanxessからのPreventol(商標)ファミリーが挙げられる。研磨用組成物中で使用される殺生物剤の量は、約0.0001wt%~0.10wt%、0.0001wt%~0.005wt%、又は0.0002wt%~0.0025wt%の範囲であり得る。
【0077】
別の実施形態では、追加の成分は界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤は、アニオン性、カチオン性、非イオン性、又は双性イオン性であり得、ビヒクル又は組成物の潤滑性を増加させ得る。界面活性剤の非限定的な例は、ドデシル硫酸塩、ナトリウム塩又はカリウム塩、ラウリル硫酸塩、第二アルカンスルホン酸塩、アルコールエトキシレート、アセチレンジオール界面活性剤、第四級アンモニウム系界面活性剤、ベタイン及びアミノ酸誘導体系界面活性剤などの両性界面活性剤、ならびにそれらの任意の組み合わせである。適切な市販の界面活性剤の例としては、Dow Chemicalsによって製造されたTRITON(商標)、Tergitol(商標)、DOWFAX(商標)ファミリーの界面活性剤、ならびにAir Products and Chemicalsによって製造されたSURFYNOL(商標)、DYNOL(商標)、Zetasperse(商標)、Nonidet(商標)、及びTomadol(商標)界面活性剤ファミリーの様々な界面活性剤が挙げられる。界面活性剤の適切な界面活性剤はまた、エチレンオキシド(EO)及びプロピレンオキシド(PO)基を含むポリマーを含み得る。EO-POポリマーの例は、BASF Chemicals製のTetronic(商標)90R4である。アセチレンジオール界面活性剤の例は、Air Products and Chemicals製のDynol(商標)607である。研磨用組成物中で使用される界面活性剤の量は、約0.0005wt%~0.15wt%、0.001wt%~0.05wt%、又は0.0025wt%~0.025wt%の範囲であり得る。
【0078】
別の実施形態では、追加の成分は、共溶媒と呼ばれる別の溶媒を含んでもよい。共溶媒の非限定的な例には、アルコール(メタノール又はエタノールなど)、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、アルカン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、トルエン、ケトン(アセトンなど)、アルデヒド、及びエステルが含まれるが、これらに限定されない。共溶媒の他の非限定的な例としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ピリジン、アセトニトリル、グリコール及びそれらの混合物が挙げられる。共溶媒は、様々な量で、好ましくは約0.0001、0.001、0.01、0.1、0.5、1、5、又は10(重量%)の下限から約0.001、0.01、0.1、1、5、10、15、20、25、又は35(重量%)の上限まで使用され得る。
【0079】
したがって、本明細書に記載されるように、いくつかの実施形態では、酸化剤及び砥粒を含む研磨用組成物であり、酸化剤は複合金属酸化物を含み、砥粒はアルミナを含み、組成物のpHは約8以上である。
【0080】
上記の任意の実施形態のように、酸化剤が過マンガン酸カリウムを含む研磨用組成物。
【0081】
上記の任意の実施形態のように、砥粒がアルファアルミナを含む研磨用組成物。
【0082】
上記の任意の実施形態のように、砥粒が約5~約7の範囲の等電点を有する研磨用組成物。
【0083】
上記の任意の実施形態のように、酸化剤が過マンガン酸カリウムであり、砥粒がアルミナである研磨用組成物。
【0084】
上記の任意の実施形態のように、pHが水酸化カリウムなどのpH調整剤で調整される研磨用組成物。
【0085】
上記の任意の実施形態のように、酸化剤が約1.5重量%~約3.5重量%の量で存在する研磨用組成物。
【0086】
上記の任意の実施形態のように、砥粒が約1.5重量%~約3.5重量%の量で存在する研磨用組成物。
【0087】
上記の任意の上記実施形態のように、酸化剤が過マンガン酸カリウムであり、約1.5重量%~約3.5重量%の量で存在する研磨用組成物。
【0088】
上記の任意の上記実施形態のように、砥粒がアルミナであり、約1.5重量%~約3.5重量%の量で存在する研磨用組成物。
【0089】
上記の任意の上記実施形態のように、酸化剤が過マンガン酸カリウムであり、約1.5重量%~約3.5重量%の量で存在し、砥粒がアルミナであり、約1.5重量%~約3.5重量%の量で存在する研磨用組成物。
【0090】
上記の任意の上記実施形態のように、pHが少なくとも9である研磨用組成物。
【0091】
上記の任意の上記実施形態のように、pHが10以下である研磨用組成物。
【0092】
上記の任意の上記実施形態のように、担体(例えば、水)をさらに含む研磨用組成物。
【0093】
上記の任意の上記実施形態のように、研磨用組成物はスラリーの形態である。
【0094】
C.研磨用組成物の使用方法
本明細書に記載の研磨用組成物は、ポリSiCを含む任意の適切な基板を研磨するのに有用である。いくつかの実施形態では、基板は、ポリSiCの少なくとも1つの層を含む。いくつかの実施形態では、ポリSiCを含む少なくとも1つの層は、基板の表面、すなわち基板の最上層にある。ポリSiC含有表面は、ウェハの形態であってもよく、薄い(又は厚い)膜の形態であってもよい。
【0095】
半導体に使用される炭化ケイ素は、単結晶又は多結晶であり得、そのような結晶多形の例は、立方晶(例えば、3C炭化ケイ素)又は非立方晶(例えば、4H炭化ケイ素、6H炭化ケイ素)、又は結晶多形の混合物(すなわち、ポリSiC)である。ポリSiCを用いる利点は、基板の低コスト化である。ポリSiCのいくつかの際立った特徴は、典型的には単結晶4H-SiCと同じ極性(Si/C表面)を有さず、黒色であり、不透明であることである。
【0096】
ポリSiCのさらなる特徴は、多くの結晶多形(例えば、4H、3C、及び様々な他の結晶多形結晶)からなるため、粒界に空隙(空孔)が存在し得ることである。ポリSiC中の異なる結晶多形は、ポリSiCの幅広い変動を伴う困難な結晶化度をもたらす。また、ポリSiCの密度は4H-SiCの3.21g/cm3よりも小さい。ポリSiCの密度は3.20g/cm3以下であってもよく、3.19g/cm3以下であってもよく、3.18g/cm3以下であってもよく、3.17g/cm3以下であってもよく、3.16g/cm3以下であってもよい。また、ポリSiCの密度は3.10g/cm3以上であってもよく、3.15g/cm3以上であってもよく、3.16g/cm3以上であってもよく、3.17g/cm3以上であってもよく、3.18g/cm3以上であってもよく、3.19g/cm3以上であってもよく、3.20g/cm3以上であってもよい。これら及び他の特性のために、CMP中にポリSiCの高い除去速度及び所望の平滑性を得ることは困難であり、それは製造時間及び関連コストを増加させる。
【0097】
そこで、本発明は、ポリSiCの除去速度が高く、所望の平滑性を有するポリSiCの研磨方法を提供することを目的とする。
【0098】
ポリSiCを含む材料の研磨は、限定はしないが、フラットパネルディスプレイ、集積回路、メモリ又は剛性ディスク、金属、層間誘電体(ILD)デバイス、半導体、微小電気機械システム、強誘電体、及び磁気バンドなどの様々な用途に有益であり得る。
【0099】
したがって、いくつかの実施形態では、本明細書に開示される主題は、本明細書に開示される研磨用組成物を用いてポリSiC含有基板を研磨する方法に関する。いくつかの実施形態では、ポリSiC含有基板を研磨する方法は、(a)ポリSiC含有基板を提供する工程、(b)本明細書に記載の研磨用組成物を提供する工程、(c)前記研磨用組成物を前記基板の少なくとも一部に適用する工程、及び(d)前記基板の少なくとも一部を前記研磨用組成物で研磨して、前記基板を研磨する工程、を含む。
【0100】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される研磨方法で使用される装置は化学的機械的研磨(CMP)装置であるが、開示される方法はこれに限定されるべきではない。典型的には、装置は、使用時に動いており、軌道、直線、又は円運動から生じる速度を有するプラテンと、プラテンと接触し、動いているときにプラテンと共に移動する研磨パッドと、研磨パッドの表面と接触し、研磨パッドの表面に対して移動することによって研磨される基板を保持するキャリアとを備える。基板の研磨は、基板を研磨するために基板の少なくとも一部を研磨するように、基板が研磨パッド及び研磨用組成物(一般に基板と研磨パッドとの間に配置される)と接触して配置され、研磨パッドが基板に対して移動することによって行われる。次いで、ポリSiC含有基板の重量を監視することによって研磨終点を決定することができ、これを使用して基板から除去されたポリSiCの量を計算する。そのような技術は当技術分野で周知である。
【0101】
ここで用いられる研磨パッドは、特に限定されない。例えば、不織布タイプ、スウェードタイプ、硬質発泡タイプ及び軟質発泡タイプを含むポリウレタンタイプ、砥粒を含むタイプ、砥粒を含まないタイプなどの任意の研磨パッドを使用することができる。
【0102】
研磨とは、表面を研磨するために表面の少なくとも一部を除去することを指す。研磨は、溝、クレート、ピットなどを除去することによって表面粗さが低減された表面を提供するために実施することができるが、平面セグメントの交差を特徴とする表面形状を導入又は復元するために研磨を実施することもできる。
【0103】
ポリSiCは、本明細書に開示される研磨方法において基板の研磨を達成するために任意の適切な速度で除去することができる。いくつかの実施形態において、開示の研磨方法において使用される研磨用組成物は、約1μm/時~約10μm/時、約2μm/時~約8μm/時、約3μm/時~約7μm/時、約4μm/時~約7μm/時、約4.5μm/時~約6.5μm/時、約5.0μm/時~約6.0μm/時の範囲の除去速度(RR)を有する。いくつかの実施形態では、RRは、約6.0μm/時~約7.0μm/時の範囲である。いくつかの実施形態では、RRは、少なくとも約1.0μm/時、約2.0μm/時、約3.0μm/時、約4.0μm/時、約4.5μm/時、約5.0μm/時、約5.5μm/時、約6.0μm/時、又は約7.0μm/時である。いくつかの実施形態では、RRは、約10.0μm/時、約9.0μm/時、約8.0μm/時、約7.0μm/時、約6.5μm/時、約5.0μm/時、約4.5μm/時、約4.0μm/時、約3.0μm/時、約2.0μm/時、又は約1.0μm/時未満である。
【0104】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される研磨方法は、特定の平均粗さ指数(Ra)を有する研磨用組成物を使用する。いくつかの実施形態において、研磨用組成物のRaは、約0.01nm~約1.50nm、約0.01nm~約1.20nm、約0.10nm~約1.2nm、約0.25nm~約1.20nm、約0.50nm~約1.20nm、約0.6nm~約0.90nm、又は約0.70nm~約0.90nmの範囲である。いくつかの実施形態において、開示の研磨方法で使用される研磨用組成物のRaは、約1.20nm未満、約1.10nm未満、約1.0nm未満、約0.90nm未満、約0.80nm未満、約0.70nm未満、約0.60nm未満、約0.50nm未満、約0.40nm未満、又は約0.30nm未満である。
【0105】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される研磨方法は、特定の平均粗さ深さ(Rz)を有する研磨用組成物を使用する。いくつかの実施形態において、研磨用組成物のRzは、約1nm~約20nm、約5nm~約15nm、約6nm~約12nm、約7nm~約10nm、約8nm~約10nm、又は約9nm~約10nmの範囲である。いくつかの実施形態において、研磨用組成物のRzは、約15nm、約14nm、約13nm、約12nm、約11nm、約10nm、約9.75nm、約9.50nm、約9.25nm、約9.00nm、8.75nm、約8.50nm、約8.25nm、約8.0nm、7.75nm、約7.5nm、約7.25nm、約7.00nm又は約6.50nm未満である。
【0106】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される研磨方法は、任意の適切なヘッド圧力を使用する。いくつかの実施形態では、研磨方法のヘッド圧力は、約1.4psi~約22psi、約2.9psi~約14.5psi、約3psi~約12psi、約4psi~約10psi、約5psi~約9psi、又は約6psi~約8psiの範囲である。
【0107】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される研磨方法は、任意の適切なプラテン回転速度を使用する。いくつかの実施形態では、研磨方法のプラテン回転速度は、約60rpm~約180rpm、約70rpm~約170rpm、約80rpm~約160rpm、約90rpm~約150rpm、約100rpm~約140rpm、又は約110rpm~約130rpmの範囲である。
【0108】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される研磨方法は、任意の適切なヘッド回転速度を使用する。いくつかの実施形態では、研磨方法のヘッド回転速度は、約90rpm~約200rpm、約100rpm~約190rpm、約110rpm~約180rpm、約120rpm~約170rpm、約130rpm~約160rpm、又は約140rpm~約150rpmの範囲である。
【0109】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される研磨方法は、任意の適切な圧力速度(PV)を使用する。いくつかの実施形態では、研磨方法のPVは、約300psi*インチ/秒~約900psi*インチ/秒、約350psi*インチ/秒~約850psi*インチ/秒、約400psi*インチ/秒~約800psi*インチ/秒、又は約450psi*インチ/秒~約750psi*インチ/秒の範囲である。
【0110】
したがって、いくつかの実施形態において本明細書に記載されるのは研磨用組成物を使用する方法であって、a)本明細書に開示される研磨用組成物(例えば、請求項1)を提供する工程、b)多結晶炭化ケイ素(ポリSiC)含有層を含む基板を用意する工程、及びc)前記基板を前記研磨用組成物で研磨して、研磨済基板を提供する工程、を含む。
【0111】
上記の任意の実施形態のように、基板は半導体である。
【0112】
上記の任意の実施形態のように、方法は、約4μm/時~約7μm/時の範囲のポリSiC除去速度をもたらす。
【0113】
上記の任意の実施形態のように、研磨済基板は、約1.2nm未満の粗さ指数(Ra)を有する。
【0114】
上記の任意の実施形態のように、研磨済基板は、約10nm未満の特定の平均粗さ深さ(Rz)を有する。
【0115】
上記の任意の実施形態のように、研磨用組成物は、約5~約7の範囲の等電点を有する砥粒を含む。後述の実施例における研磨用組成物の等電点は、約5~約7の範囲であった。
【0116】
上記の任意の実施形態のように、研磨用組成物は、遷移相アルミナを含まない砥粒を含む。
【0117】
上記の任意の実施形態のように、研磨用組成物は、過マンガン酸カリウムである酸化剤を含む。
【0118】
上記のいずれかの実施形態のように、研磨用組成物は、約0.001重量%未満の量で存在するpH調整剤をさらに含む。
【0119】
上記の任意の実施形態のように、研磨用組成物は、約9~約10の範囲のpHを有する。
【0120】
D.[実施例]
以下の調製及び実施例は、当業者が本発明をより明確に理解し、実施することを可能にするために与えられる。それらは、本発明の範囲を限定するものと見なされるべきではなく、単に例示的かつ代表的であると見なされるべきである。
【0121】
1つの態様では、研磨用組成物を製造する方法が開示される。別の態様では、材料を研磨するために研磨用組成物を使用する方法が開示される。
【0122】
[実施例1] 砥粒評価
アルミナ砥粒の平均二次粒子径をレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製LA-950)により測定し、表1に示した。
【0123】
【0124】
実施例2 実験スラリーの除去速度(RR)、粗さ指数(Ra)及び平均粗さ深さ(Rz)の測定
以下の表2は、使用した研磨装置及び研磨パラメータの一般的な設定を示す。
【0125】
【0126】
※冷却器は研磨定盤を冷却する装置である。冷却器温度における温度は放射温度計で研磨中のヘッド/基板付近のパッド表面温度を測定することにより得られた値である。
※ポリSiCは多結晶なので、研磨面には色々な結晶方位、Si面、C面が混在している。それぞれの速度選択性が低下することで、結果的に研磨面のRa(nm)やRz(nm)を低減させることができる。
【0127】
表2の試験条件/パラメータ:
(a)REVSUM6EC2を直径約22インチのプラテンの片面研磨に使用した。
【0128】
(b)硬質ポリウレタン研磨パッドであるRohmandHaasIC1000k溝付きパッドを選択した。
【0129】
(c)パッドのコンディショナーとしてKINIK179Bを使用し、5ポンドで試験研磨する前に約2分間続くコンディショニングシーケンスを採用した。
【0130】
(d)研磨試験中、チラー温度を10°Cに設定した。
【0131】
(e)スラリー流量は50ml/分を使用した。
【0132】
(f)研磨条件は、7.0psiのヘッド圧力、120及び145rpmのプラテン及びヘッド回転速度をそれぞれ用いた。
【0133】
(g)研磨時間は5分であった。
【0134】
【0135】
上記の表3は、ウェハの研磨を評価するために使用される一般的な方法を示す。
【0136】
試験条件/パラメータ:
(a)従来の供給業者から購入することができる6インチのポリSiC試験ウェハを使用した。
【0137】
(b)試験ウェハ1において、一旦研磨された鏡面仕上げの公称値は、Raが7nmより小さく、密度が3.15g/cm3と仮定され、SORIが50μmより小さいことである。試験ウェハ2において、一旦研磨された鏡面仕上げの公称値は、Raが7nmより小さく、密度が3.2g/cm3と仮定され、SORIが50μmより小さいことである。なお、「一旦研磨された」とは、試験ウェハ1、試験ウェハ2は、プロバイダが既にこれらを研磨していることを意味している。
【0138】
(c)ウェハを、1)有機酸及び界面活性剤(すなわち、関東化学株式会社製のCMP-MO2をH2Oで10倍に希釈したものである)でのPVA拭き取り、次いで、2)硫酸及び過酸化水素混合溶液(SPM)などのRCA系洗浄、ならびに3)フッ化水素酸洗浄によって洗浄した。
【0139】
(d)基板洗浄後のCMP前後の重量損失と結晶密度を用いてRRを算出した。このCMPは、実施例3(比較研究)の研磨用組成物を用いて行った。
【0140】
(e)表面粗さの評価は、原子間力顕微鏡(AFM)によりRa及びRzの値を観察した。測定領域は10ミクロン領域であった。
【0141】
ポリSiCには極性がないため、RR及びRa/Rzを試験する際には、両表面を同様の特性を有するものとして処理した。RR及びRa評価は、各側で1セットを使用して行った。まず、重量減少換算によりRRを求めた後、基板を洗浄してAFMを測定した。また、研磨面への残留応力の影響を避けるため、片面評価を交互に行った。
【0142】
実施例3 比較研究
(比較研究1)
研磨用組成物の調製手順:砥粒としてアルミナAを用意し、砥粒(粉末)全体の含有量が表4の1に示す値となるように水中で混合した。次に、酸化剤である過マンガン酸カリウムを表4の1に記載の含有量となるように添加し、室温(25°C)で30分間撹拌して分散液を調製した。分散液のpHをpHメーター(株式会社堀場製作所製)で確認しながら、pH調整剤としてKOH又はHNO3を添加し、pHを表4の1に示す値に調整して研磨用組成物を調製した。
【0143】
比較研究1では試験ウェハ1を使用した。
【0144】
【0145】
本発明の一態様による研磨用組成物によれば、密度の低い試験ウェハ1を研磨した場合、RRを高く維持しつつ、RaやRzを低減することができる。密度の低いウェハはピットやグレインを内在している可能性が高いため、このウェハを研磨した場合、RRが高くなりやすい一方RaやRzが悪化しやすい。このため、RRを高く維持しつつ、RaやRzを低減することができる研磨用組成物は、密度の低いウェハに対して有用である。これに対し、比較1~6、8は、RRは高いが、RaやRzが十分に低減できていない。また、比較7について言えば、RRが低く、RaやRzも十分に低減できていない。
(比較研究2)
研磨用組成物の調製手順:砥粒としてアルミナAを用意し、砥粒(粉末)全体の含有量が表4の2に示す値となるように水中で混合した。次に、酸化剤である過マンガン酸カリウムを表4の2に記載の含有量となるように添加し、室温(25°C)で30分間撹拌して分散液を調製した。分散液のpHをpHメーター(株式会社堀場製作所製)で確認しながら、pH調整剤としてKOH又はHNO3を添加し、pHを表4の2に示す値に調整して研磨用組成物を調製した。
【0146】
比較研究2では試験ウェハ2を使用した。
【0147】
【0148】
本発明の一態様による研磨用組成物によれば、密度の高い試験ウェハ2を研磨した場合、RaやRzの増加を抑えつつ、RRを向上することができる。密度の高いウェハは単結晶ウェハの性能と近いため、このウェハを研磨した場合、RaやRzが低い一方でRRが向上しにくい。このため、このように、RaやRzの増加を抑えつつ、RRを向上することができる研磨用組成物は、密度の高いウェハに対して有用である。これに対し、比較9や、比較10は、RRが高いが、RaやRzが悪化している。また、比較11~14は、RaやRzを低く抑えられているが、RRの値が低い。
【0149】
いくつかの実施形態において、ポリSiCの密度が、3.18g/cm3以上である。いくつかの実施形態において、ポリSiCの密度が、3.18g/cm3未満である。
【0150】
いくつかの実施形態では、研磨用組成物中、酸化剤、砥粒の含有量がいずれも1.5重量%超であることが好ましい。
【0151】
実施例4 研磨用組成物のpHに対する酸化還元電位ORPの関係
本発明1、2、5、6の研磨用組成物をそれぞれ準備し、酸性側に調整するためにはHNO3、アルカリ側に調整するためにはKOHを用いて以下の表に記載のpHに調整した。そして、それぞれのpHにおける酸化還元電位ORPを測定した。
【0152】
【0153】
【0154】
【0155】
【0156】
本発明の範囲又は趣旨から逸脱することなく、本発明に様々な修正及び変形を加えることができることは、当業者には明らかであろう。本発明の他の態様は、本明細書の考察及び本明細書に開示される本発明の実施から当業者には明らかであろう。本明細書及び実施例は、例示としてのみ考慮されることが意図され、本発明の真の範囲及び精神は、以下の特許請求の範囲によって示される。
【0157】
本発明は、下記態様および形態を包含する。
【0158】
1.酸化剤、砥粒及び水を含む研磨用組成物であって、前記酸化剤は、約1.5重量%~約3.5重量%の量で存在する過マンガン酸塩であり、前記砥粒は、約1.5重量%~約3.5重量%の量で存在するアルミナであり、前記研磨用組成物が約8より大きいpHを有する、研磨用組成物。
【0159】
2.前記砥粒が、約5~約7の範囲の等電点を有する、1.に記載の研磨用組成物。
【0160】
3.前記酸化剤が過マンガン酸カリウムである、1.または2.に記載の研磨用組成物。
【0161】
4.約0.001重量%未満の量で存在するpH調整剤をさらに含む、1.~3.のいずれかに記載の研磨用組成物。
【0162】
5.前記pH調整剤が塩基性pH調整剤である、4.に記載の研磨用組成物。
【0163】
6.前記pH調整剤が水酸化カリウムである、5.に記載の研磨用組成物。
【0164】
7.pHが約9~約10の範囲である、1.~6.のいずれかに記載の研磨用組成物。
【0165】
8.前記研磨用組成物が、約4μm/時~約7μm/時のポリSiC除去速度を有する、1.~7.のいずれかに記載の研磨用組成物。
【0166】
9.多結晶炭化ケイ素を含む基板を研磨する方法であって、a)1.~7.のいずれかに記載の研磨用組成物を提供する工程、b)多結晶炭化ケイ素(ポリSiC)含有層を含む基板を提供する工程、及びc)前記研磨用組成物で前記基板を研磨して、研磨済基板を得る工程、を含む方法。
【0167】
10.前記基板が半導体である、9.に記載の方法。
【0168】
11.前記方法が、約4μm/時~約7μm/時の範囲のポリSiC除去速度をもたらす、9.または10.に記載の方法。
【0169】
12.前記研磨済基板が、約1.2nm未満の粗さ指数(Ra)を有する、9.~11.のいずれかに記載の方法。
【0170】
13.前記研磨済基板が、約13nm未満の特定の平均粗さ深さ(Rz)を有する、9.~12.のいずれかに記載の方法。
【0171】
14.前記研磨用組成物が、約5~約7の範囲の等電点を有する砥粒を含む、9.~13.のいずれかに記載の方法。
【0172】
15.前記研磨用組成物が、過マンガン酸カリウムである酸化剤を含む、9.~14.のいずれかに記載の方法。
【0173】
16.前記研磨用組成物が、約9~約10の範囲のpHを有する、9.~15.のいずれかに記載の方法。
【0174】
本出願は、2021年12月10日に出願された米国仮特許出願(出願番号第63-288039号)に基づいており、その開示内容は、その全体が参照により本明細書に組みこまれる。
【国際調査報告】